インクルーシブ・ビジネスの軌跡 IN PARTNERSHIP WITH ABOUT IFC IFC, a member of the World Bank Group, is the largest global development institution focused exclusively on leveraging the power of the private sector to create jobs and tackle the world’s most pressing development challenges. Working with private enterprises in more than 100 countries, IFC uses its capital, expertise, and influence to help eliminate extreme poverty and promote shared prosperity. WRITTEN BY The writing team included Piya Baptista, Kathleen Mignano, Madeleine Holland, and Anne Elizabeth Johnson, with guidance from Eriko Ishikawa and Toshiya Masuoka. Groff Creative provided the design and Matthew Benjamin provided copywriting support. ACKNOWLEDGEMENTS The authors extend their deepest appreciation to the five inclusive businesses profiled in this report: bKash, Bridge International Academies, MicroEnsure, Nephroplus, and Probiotech. The authors would also like to extend their thanks to the following IFC colleagues who provided valuable input: Nandini Bhatnagar, Martin Reto Buehler, Alejandro Caballero, Silven Chikengezha, Charles William Dalton, Akira Dhakwa, Nazila Fathi, Carlos Numen Ferro, Alexis Geaneotes, Rena Hinoshita, Sumeet Kaur, Pravan Malhotra, Biju Mohandas, Anupa Pant, Shino Saruta, Karthik Tiruvarur, Harsh Vivek, and Shinya Yoshino. RIGHTS AND PERMISSIONS © International Finance Corporation 2016. All rights reserved. The material in this work is copyrighted. Copying and/or transmitting portions or all of this work without permission may be a violation of applicable law. IFC does not guarantee the accuracy, reliability or completeness of the content included in this work, or for the conclusions or judgments described herein, and accepts no responsibility or liability for any omissions or errors (including, without limitation, typographical errors and technical errors) in the content whatsoever or for reliance thereon. 序文 インクルーシブ・ 貧困の撲滅に向けた戦いに簡単な答えはありません。 しかし、明確なことが1つあります。それは、企業は規模の大きさを問わ ず、地域社会に恩恵をもたらすと同時に利益を増やす革新的なビジネ スモデルを創出することで、自らの責任を果たせるのです。 ビジネスの軌跡 IFCは、 (生活に必要なモノと 経済ピラミッドの下層部で生活する人々 サービスを手に入れることができない人々、あるいは1日8ドル以下で 生活している人々)に関わる企業を対象に、過去10年で140億ドルを超 こうしたインクルーシブ える投資を行ってきました。 ・ビジネスはビジネ スモデルの枠組みの中に低所得層を組み込み、新たな市場を構築する と共に、人々が生活設計をし、生活に必要なモノとサービスを手に入れ る一助になっています。そうした取り組みが世界初の事例となることも 少なくありません。 本レポートでIFCは5つの事例を紹介し、成功を収めたモチベーション の高い起業家との取り組みから得た知識を共有したいと考えていま す。 こうした事例が他の起業家による革新への取り組みを触発 さらに、 し、善行と優れたビジネスの共存モデルを示したいと考えています。 本レポートで紹介する事例はいずれもユニークですが、それぞれの企 業の成功の要因には共通項があります。それは、それぞれの企業が、 1)規模を拡大できるビジネスモデルの創造を追求し、2)コストを最小 限に抑えることに全力を傾け、3)顧客の啓蒙と教育に投資し、4)パー ということです。 トナーシップの価値を理解している、 IFCは60年前に開発効果と収益性を追求するために設立されました。 本レポートで紹介する企業はそうしたコンセプトを具現化しています。 これらの企業は地域社会と全世界に変化をもたらすために設立され、 その目標に向かって一歩ずつ邁進しているのです。 Philippe Le Houérou 長官 目次 インクルーシブ・ビジネスの軌跡 はじめに . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 情報提供に協力いただいた企業の方々 主な教訓 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 IFCは、会社の設立と成長に関する洞察を提供す るために時間を割いて下さった次の方々に謝意 ケーススタディ を表します。 これらの方々からの情報提供がなけ ればこのレポートは発行できませんでした。 bKash . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 Anand Bagaria マネージング・ディレクター 金融サービス、バングラデシュ Probiotech Bridge International Academies . . . . . . . . . . 21 Lucy Bradlow 広報部ディレクター Bridge アフリカ/インド 教育、 International Academies Dr. Dinesh Gautam エグゼクティブ・ディレクター MicroEnsure . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 33 Probiotech アフリカ/アジア 金融サービス、 Peter Gross マーケティング・ディレクター NephroPlus . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 43 MicroEnsure ヘルスケア/インド Steve Knight グローバル・マーケティング& コミュニケーションズ ・マネジャー MicroEnsure Probiotech . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 53 Richard Leftley 最高経営責任者(CEO) アグリビジネス、ネパール MicroEnsure 結び . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 65 Shannon May 共同創業者 兼 チーフ・ ストラテジ スト 兼 開発担当執行役員 Bridge International Academies Kamal Quadir 最高経営責任者(CEO)bKash Philippe Sachs 事務・広報部門担当グローバル 統括責任者 Bridge International Academies Kamal Shah 共同創業者 兼 患者サービス担当 ディレクター NephroPlus Vikram Vuppala 創業者 兼 最高経営責任者 (CEO)NephroPlus はじめに 「何事も、成し遂げられる までは不可能に見える ものだ」 — Nelson Mandela 4 これまでとは別のビジネスを 資金力の乏しい小規模農家から農作物を調達しているインク ルーシブ・ビジネスもあれば、貧弱なインフラでやりくりしている 想像してみてください 流通業者や小売業者と共に事業を行っているインクルーシブ・ビ ジネスもあります。そして多くのインクルーシブ・ビジネスが、個人 ネパール山間部の零細な養鶏農家が市場にアクセスしやすくをす リスク回避志向の強い顧客 として最小限の購買力しか持たない、 また、 るアグリビジネス。 アフリカやアジアの貧しい人々にモバイ を対象としています。 ル・バンキング・サービスや手頃な保険料で加入できる保険を提供 アフリカの最 することに軸足を置いたビジネスモデルを持つ企業。 IFCは今回初めて、過去15年間に設立された企業のインクルー も貧しい家庭でも質の高い私学教育を受けられる学校。本来は治 シブ・ビジネスに関する詳細なケーススタディを公開します。 療が受けられないであろうインドの数千人の患者に良質で手頃な ケーススタディは、各企業の創業者、CEO、上級管理職とのインタ 料金の透析療法を提供する専門医療会社。 ビュー、およびこれらの方々から提供された情報やデータに基づ いて構成されており、それぞれの企業が困難に直面する中で進化 こういったビジネスはすでに存在しており、上記の内容だけでなく、 しながら自社の事業を順応させてきた過程や、新しい事業領域と 「経済ピラミッドの下層部」 さらに多くの事業に取り組んでいます。 市場に進出してきた過程を示しています。 (BOP層)で、生産者、流通業者、小売業者、あるいは消費者として 生活する人々と事業を行う、インクルーシブ・ビジネスと呼ばれる 事業です。 5 はじめに 本レポートで紹介するIFCの5つのクライアントは、アグリビジネ bKash、Bridge、MicroEnsure、NephroPlus、Probiotechはいずれ ス、教育、金融サービス、ヘルスケアの4つの異なるセクターで事 も、社会に良い影響を及ぼすことに熱意を持つビジネス志向の起 業を行っています。その概要は次の通りです。 業家が興した企業です。それぞれの創業者は、業界における自ら の深い経験を踏まえてチャンスを見いだし、ピラミッドの下層部 bKash は2010年にバングラデシュで設立されたモバイ で生活する人々の痛みに対処する実行可能なビジネス・ソリュー ル金融サービス企業です。銀行口座を持たない人々に ションを開発しました。企業リーダーは、自らの構想に強いコミッ これまで現 フォーマルな金融システムを提供することで、 トメントを持ち、それゆえ、複雑で変化の激しい環境を乗り越え、 金しか利用していなかった2,300万人が、携帯電話を使っ 成功するインクルーシブ・ビジネスを構築できたのです。 て送金や貯蓄、商品とサービスの代金を支払えるように なっています。 企業がアイデアを選択して形ある製品やサービスに結実させる 過程は、忍耐と創造的な思考力、学習し適応する能力を必要とす Bridge International Academies は2008年にケニアで設 る旅に例えることができます。以下に掲載する5つのケーススタ 立された教育機関であり、学費の安い学校教育を通じて ディは、各企業が歩んできた道のりの全容です。つまり、課題の発 アフリカとインドの小学生の学力向上に貢献しています。 見と最初のアイデアの着想から、試行、初期の実践、規模の拡大、 約10万人の生徒が同校で学んでいます。 横展開といった、さまざまな開発段階を紹介します。それぞれの 事例では、調達、商品サービス開発、流通、マーケティングと営業、 MicroEnsureは2008年に設立されたマイクロインシュア 顧客サービスといったビジネス・バリュー・チェーンで発生した問 ランス・ソリューションを提供する企業で、低所得層を対 題点を検証しています。 象に手頃な保険料で加入できる生命保険、医療保険およ び事故保険などの保険商品を開発しました。低所得層の ここに紹介するリーダー達とその企業の経験をレポートに IFCは、 市場は、大半の保険会社が参入するのは非常に難しいと まとめることで、世界におけるインクルーシブ・ビジネスに関する 考えられてきました。同社はアフリカとアジアの15カ国で 知識と実例を体系化したいと考えています。継続的な学習と対話 4,000万人を超える顧客に保険を提供しています。 はこの分野の取り組みを加速させる鍵を握っています。IFCの役 割は、今や世界100カ国で500件を超えるインクルーシブ・ビジネ NephroPlus は2010年に設立された医療サービス会社 ス・クライアントの経験を継続的に分析して共有することにあると で、インド15州の十分な医療サービスが受けられない都 考えています。 市で、良質の腎臓透析治療を競合他社より最大40%低い 料金で提供しています。同社を利用する患者数は6,000人 を超え、毎月約5万人が透析治療を受けています。 Probiotech は2000年に設立されたアグリビジネス企業 で、事業の1つとして、ネパールの小規模農家向けに家畜 同社から飼料を購入する1万2,000 飼料を生産しています。 戸の農家に農業経営に関する教育を行ったり、高品質の 飼料を提供するために広範な流通ネットワークを活用した 農家の生産性向上に貢献しています。 りすることで、 6 5つの主な教訓 5つの主な教訓 それぞれ企業の足跡は異なりますが、ケーススタディからは業種や地理的条件に依存し こうした共通の戦略から、 ない共通の戦略が浮き彫りになっています。 将来インクルーシ ブ・ビジネスに取り組む起業家がイノベーションを起こすきっかけとなるような本質的な 知見が得られるでしょう。 これらの企業は、事業開始当 初からビジネスモデルをどの これらの企業は、双方の当事者に具 ように拡大 するかを検討して 体的なメリットのあるパートナーシッ きたため、成長軌道に乗るこ プを構築することで、BOP層に属する とができ、財務的な持続可能 人々に手を差し伸べる新たな方法を 性と長期的な影響力を確保 こうしたウィン-ウィ 模索しています。 できました。 ンの関係であれば、継続できる可能性 はさらに高まります。 1 規模拡大の計画 5 綿密な パートナーシップの 構築 2 低コスト実現に 全力を尽く す これらの企業は、技術を活用しな がらスタッフの人数を絞り込むこ これらの企業は、生活を改善 とで諸経費を最小限に抑え、製品 し得る新しい商品やサービス に 対 するB O P 層 の 人々の 疑 4 とサービスを最大限に利用しや 顧客教育 すいものへと工夫を重ねてきま 念や不信感を解消するため、 認知度と親近感を高め、知識 3 した。 地、 中には、広大な国土、辺境 ときには輸送の困難な土地 と技能を向上する取り組みを 能力向上に投資 に散在する顧客が利用できるよ 行っています。 うにしたケースもあります。 いくつかの企業では、人材・技能不足を補うため、社 員だけでなく、供給や流通など重要な役割を担う社外 の関係者の知識と技能、生産性を高めるトレーニング に積極的に投資しました。 7 5つの主な教訓 1. 規模に関する計画 bKashはバングラデシュの数百万人のユーザーにモバイル金融サービスを提供するため、1社に 限定せず、複数のモバイル通信事業者と提携しました。 Bridgeは、低コストで容易に横展開できる学校経営の仕組みと教育システムを開発すると共に、 ハイテクを活用して経営管理機能を合理化しました。 MicroEnsureは低所得層の顧客に対応できる十分な規模のリスク・プールを構築するため、複数 のパートナーと提携し、少額の保険料しか支払えない人々の保険コストを低減しました。 2. 低コスト実現に全力を尽くす bKashは、既存の民間流通事業者のネットワークを活用することで、流通ネットワークをゼロから 作り上げる費用を抑えました。 Bridgeは、 タブレッ 教師による授業への電子機器の活用を恒常的に浸透させるため、 ト端末を使 用して、教材の制作とその配送にかかる費用を削減しています。 MicroEnsureは、貧しい顧客に保険商品を提供するため、手数料の支払いが生じる保険代理店で はなく携帯電話を使用しています。 NephroPlusは、腎臓透析センターの人件費を削減するため、少人数型の人員配置モデルを採用 これにより、 しています。 同社は院内施設および独立施設としてより多くのセンターを建設できる ようになりました。 Probiotech は、僻地に散在する顧客に効率的に家畜飼料を届けるため、地域の貯蔵施設と ディーラーネットワークを利用しています。 3. 能力向上(キャパシティ・ビルディング)に投資 bKashは、零細企業の起業家を対象に、顧客の登録手続きやサポート方法のトレーニングを行っ ているほか、反マネー・ロンダリング、不正行為への対処など、財務的な問題を未然に防ぐための 知識の教育にも取り組んでいます。 Bridgeは、独自の教師養成機関を通じて地域在住の教師を採用し、また、教師の養成も行ってい ます。都市部で生活する教師を農村部や郊外の学校に招くのが難しい場合があるためです。 NephroPlusは、インド医療業界における腎臓透析の技術認定士不足の解消や、自社の透析セン ターの拡大を目指し、技術認定士を養成する独立訓練施設を創設しました。 Probiotechは、あらゆる農家が同社による農業相談サービス、獣医による電話相談、農業経営ト レーニングを利用して専門知識を蓄えることを歓迎しています。現時点で同社のサプライチェー ンに参加しているかどうかは問いません。 8 5つの主な教訓 4. 顧客教育 bKash は顧客にモバイル金融サービスを知ってもらうための啓蒙活動を行っています。 こうした 活動を通じ、現金の代わりに電子マネーを使用する利点が徐々に知られるようになり、bKashの市 場への電子マネー利用率が高まりつつあります。 Bridge は、地域の指導者と親、教師に公開授業に参加してもらい、地域社会における学校への 要望を聞いています。この活動は、Bridgeが新しい地域に進出する前に地元の理解を得るうえ で役立っています。 NephroPlusは地域で開催される催しを通じて慢性的な腎臓疾患とその治療方法を知ってもらお こうした取り組みで新たな患者を招き入れることができています。 うと努めています。 Probiotechは養鶏農家を対象に農業経営の教育を行っています。 これは、生産コストの引き下げ、 生活の改善、同社の製品に対するブランド・ロイヤリティの確立に役立っています。 5. 綿密なパートナーシップの構築 bKashは、BRAC Bankと提携して設立されました。そのため、BRACが貧困層向けの事業で得てい た確固たる評価を、モバイル金融サービスを導入する際にも活用することができました。 Bridgeは、生徒の学習成果の継続的な向上を目的に、同校の教育・管理手法の公立学校への導入 に向けた各国政府との提携に取り組み始めています。 MicroEnsureは、すでに、貧困層を顧客としている通信会社をはじめとするさまざまな企業と提携 しており、提携先の商品と保険をセット販売した場合にMicroEnsureが通話時間などの付加価値 を提供する取り組みを行っています。 NephroPlusは、公共病院や私立病院と提携し、それまで腎臓透析サービスを受けることができな かった地域にサービスを導入しています。さらに同社は、病院における既存の透析サービスを改 善するため、その管理責任を引き受ける事業も行っています。 9 10 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | bKash 国名:バングラデシュ 分野:金融サービス IFCの投融資額:1,000万ドル bKash 成人の40%しか正規の金融機関に銀行口座を持っていないバングラデシュでは、金融機関の利用は容 易でありません1。 このことは、働く貧困層(ワーキングプア) ワーキン にとって大きな問題となっています。 グプアの多くが仕事を求めて村から町、都市部、さらには海外にまで移住しており、故郷への送金をイン フォーマルな手段に頼らざるを得ない状況にあるからです。ある人は、帰省する知人を探して故郷に現 またある人は高額な手数料を請求する仲介人と取引をしています。 金を運んでもらい、 ところが今日では、約2,300万人の人々が携帯電話を利用して安 えば、個人営業の人力車夫が家族に送金したり、小規模事業主が 全に送金でき、預金や商品とサービスの代金支払いにもモバイ 仲介機関や業者を通さずに労働者の賃金を直接支払ったり、家 ル金融サービス大手のbKashを利用しています。bKashの金融取 族経営の商店は仕入れ先に出向かずに遠隔地への代金を支払う フォーマルな金融システムの一部とみ 引は安全かつシンプルで、 ことができています。平均取引額は16ドルです。 なされています。bKashは2人のバングラデシュ系米国人IT起業家 とバングラデシュ国内銀行によって設立されました。その目的は、 bKashは、金融包摂(基本的金融サービスにアクセスしようとす バングラデシュで普及している携帯電話を活用し、農村部の人々 これらのサービスを受けられるよう る際に起こる問題を解消し、 など、銀行口座を持たない数百万のバングラデシュ人に幅広い金 にすること)に取り組む新興企業に投資する米国企業Money in 融サービスを提供することでした。 Motion LLCと、中小企業を専門とするバングラデシュの商業銀行 BRAC Bankのジョイント・ベンチャーとして2010年に設立されま bKashは現在、あらゆる種類のビジネスで活用されています。たと した。bKashは、ゼロの状態からバングラデシュのモバイル金融 11 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | bKash 起業家の歴史 サービス業界を作り上げる上で大きな役割を果たし、現在ではこ の市場の75%を占め、国内最大の事業者となっています2。bKash Quadir兄弟はバングラデシュで育ち、1970年代に米国 はBRAC Bankの子会社であり、現在は少数株主として国際金融公 に移住しました。bKashを設立する以前は、いくつかのテ 社 とBill & Melinda Gates Foundationも出資しています。 (IFC) クノロジー関連ベンチャー企業を立ち上げていました。 現在bKashの最高経営責任者(C E O)を務 めている Kamal Quadirは、2005年にバングラデシュで買い手と bKashを通して毎月 売り手を携帯電話で結びつけるオンライン求人広告会 社CellBazaarを設立しました。CellBazaarはこの分野で 1億1,000万件の取引が は初めての広告会社であり、わずか数年で400万人の 行われている ユーザーを獲得し、 に買収されました。 その後、世界的な通信会社Telenor Kamarの兄であるIqbalは、投資銀行に勤務した後に、 力を合わせる 1990年代にTelenorおよびGrameen Bankと共同で携 帯電話会社Grameenphoneを設立しました。Iqbalはそ bKashはKamal QuadirとIqbal Quadirの2人の兄弟によって設立 の後、近隣の小規模工場の発電を支援するEmergence されました。2人がバングラデシュでモバイル金融サービスを立 Energyを設立しました。 ち上げようと決断した当時、フィリピン、ケニア、その他の新興市 場にはすでに同様のサービスがスタートしていました。 2009年、IqbalとKamalはMoney in Motionを創業しま した。共同創業者には、ケニアでアフリカ初の大型モバ 国内のパートナーを必要としていたQuadir兄弟は、2008年に イル金融サービス・ベンチャーM-PESAの設立を主導 BRACの創業者であるFazle Hasan Abedに接触しました。Abed したNick Hughesと、ベンチャー・キャピタル会社Grey には、世界最大級の非政府組織(NGO)であるBRACで40年間に Ghost Capitalのマネージング・ディレクターArun Gore わたって貧しい人々を支えてきた実績がありました。BRACはバン も名を連ねています。 グラデシュで強い存在感を放っており、知名度が高く信頼される ブランドであったため、将来のパートナーとしては魅力的でした。 Quadir兄弟とAbedの協議は2年におよび、2010年にMoney in MotionとBRAC Bankによるジョイント・ベンチャーの設立に合意 しました。 12 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | bKash bKashのバリューチェーン 課題と解決策の概要 商品開発 流通 マーティング・ 顧客サービス 営業 バリューチェーン • 顧客が新しいサー • 流通ネットワーク • 人々に新しいテク • 取 引 の 最 中 に 操 ビスを試したがら の構築は必要不 ノロジーを使う自 作を誤ってお金を ない 可欠だが費用が 信がない 失うことを心配し かかる ている • 昔からの習慣を変 モバイル金融 • 顧 客 が 地 理 的 に えることは難しい • 現 金 の 預 け 入 れ サービスを提供する 分散している • 読 み 書 き の 能 力 ができなかった場 上での課題 が低い 合、顧客に信用さ れなくなる • 購買力が限られて いる • モバイル金融サー • サービス対象者を • 現在直面している • 代 理 店 で 取 引 方 ビスの導入をシン むらなくカバーす 問題に対処し、 顧 法を対面で教える プルなものからよ るため、複数の流 客にモバイル金融 • 携帯電話を通して り複雑なものへと 通業者と提携する サービスの価値を 簡易版の取引明 bKashの解決策 段階的に進める • 既存の流通インフ 認識してもらう 細を提供する • 低 所 得 層 の 顧 客 ラを使う • bKashに口座を開 • 取引終了後、電子 が最も使うと見込 設するプロセスを 的な領収書を送る まれるサービスを 簡素化する 提供する • システム内の流動 • モバイル金融サー 性を確保するため ビスについて顧客 流通パートナーと を教育する 協業する • 取引手数料を低く 抑える 13 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | bKash Money in Motionの設立はまさにグッドタイミングでした。当時、 支援のために1,000万ドルをコンサルティング会社Shore Bank 貧困層がわずか0.12ドルで銀行口座を開設できるようにするバ この助成金は、 Internationalに供与しました。 戦略策定と業務計 ングラデシュ政府の取り組みは、従来の銀行業務のコストや、貧 画、流通、マーケティングに充てられました。 困層の居住地域では銀行を利用しにくいこと、銀行での手続き が面倒なことが理由で、頓挫しかけていたからです。政府は金融 bKashがビジネスモデルを改良しながら急速に拡大するなか、さ サービスを低所得層に拡大するための代替策を探しており、モバ らなる成長を支えるための増資も実施しました。2013年、IFCは イル金融サービスが実現可能な選択肢として浮上しました。 1,000万ドルの資本注入を行い、同社の少数持ち分を取得しまし た。IFCの目的は、成長の可能性と優秀な経営陣を持つ企業に投 2010年、バングラデシュ政府はモバイル金融サービス業界の指 資することで、バングラデシュの金融包摂を促進することでした。 「中央銀行監督のもとで銀行が 針となる規制の立案に着手し、 IFCが投資を決断した主な要因は次の通りです。 モバイル金融サービスのベンチャーの中心的な存在になる必 要がある」ことを決定しました。同国の中央銀行であるバングラ • テクノロジー分野におけるQuadir兄弟の起業家としての豊富 デシュ銀行は、この規定に従い、BRAC Bankに対して、子会社と な経験と実行力 してbKashを設立するよう勧告しました。これによりモバイル金 融サービスの免許を取得できるからです。bKashはモバイル金 • BRAC Bankとのパートナーシップ 融の規制である (KYC 「顧客確認」 :Know Your Customer)」およ び「マネー・ (AML/CFT ロンダリング対策とテロ資金供与対策」 : • バングラデシュがモバイル金融サービスの規制ガイドラインを Anti-Money Laundering and Combating the Financing of 定めたこと Terrorism)を順守し、順守状況はBRAC BankとbKashが共同で管 理することになりました。 IFCはbKashへの出資だけでなく、将来民間セクターの投資家を 引きつける上で必要不可欠な企業統治の面でも同社を支援しま 多様な投資家 した。IFCは、bKashでの支払いを受け付けてくれる加盟店ネット (家族経営の小売店を含むさまざまなサービス拠点や店 ワーク bKashの事業立ち上げにあたり、Money in Motionは創業資金 舗)の拡大にも協力しました。翌年の2014年には、Bill & Melinda として500万ドルを拠出しました。さらにKamal QuadirがCEOに Gates財団もbKashの株式を取得しています。 就任し、ビジネスをゼロの状態から構築することになりました。 同社は助成金による恩恵も受けました。Bill & Melinda Gates 財団は2010年、金融包摂イニシアティブのもと、bKashの開発 14 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | bKash bKashを通じた金融取引 図1:bKashに口座を開設する手順 新しい顧客がbKashに口座を開設する際に必要なのは、bKashの 代理店に行って身分証明書の確認を受け、電子財布(eウォレット) (図1)を設定してもらうことだけです 3。 この口座は、固有の識別番 号として顧客の携帯電話番号に紐づけられた仮想の口座です。顧 1 1 n 顧客がbKashの代理店に行く 客が送金や給与を受け取ると自分のeウォレットに電子マネー(eマ ネー)が追加されます4。また、bKashの代理店に「物理的な」現金を 顧客はバングラデシュ中央銀行に規定さ 渡し、 ( それをeマネーに交換してもらう「キャッシュイン」)ことも可 れた「顧客確認」用紙に記入し、写真付 能です。銀行口座を持たない人々にとって、送金受取とキャッシュイ 2 きの身分証明書とパスポート写真を提出 ンはeウォレットに資金を入れるための最も一般的な方法です。 する bKashは当初、規制に従って、顧客のeウォレット残高の全額を中 央銀行の監視下にあるBRAC Bankの口座に預け入れていまし 3 代理店が顧客を登録する た。しかし、現金の管理には、銀行が膨大な手助けをしなくては ならず、顧客の預金を分散化する必要もあったため、中央銀行は bKashに2015年以降は顧客のお金を複数の銀行に分けて預け入 れるよう要求しました。顧客がbKashの口座にアクセスするには、 顧客に口座開設情報を確認した旨のテキ 4 携帯電話で特定のコードを入力し、テキスト・メニューを表示させ スト・メッセージが送られる ます。次に、固有の個人識別番号(PIN)を入力し、eウォレットにア クセスして取引を行います。また、bKashの代理店に行けば、いつ でも物理的現金を引き出す(eウォレットの「キャッシュアウト」)こ 顧客が*247#に電話をかけて口座を立ち 5 上げ、さらに4桁または5桁の固有のPIN とができます。 を入力してeウォレッ トにアクセスする 多くの顧客にとって、bKashの代理店は地元の食料品店のオー ナーなど顔なじみの人々です。バングラデッシュは現金主義の社 顧客はeウォレットへの入金または現金の 会であり、必要に応じてeウォレットから現金を引き出せないとモ 6 払い出しを受けられる バイル金融サービスに対する信用を失うため、代理店が現金の入 出金( と 「キャッシュイン」「キャッシュアウト」)の役割を担うことは 当初から避けられませんでした。代理店は段階的に顧客に取引方 3~5日後、bKashの全サービスを使う準備 法を教えます。その代わり、小規模な起業家がbKashの代理店にな 7 ができたことを伝えるテキスト・メッセー ると追加収入を得ることができ、来店者数を増やすチャンスにもな ジが顧客に届く ります。 「顧客確認」 bKashはモバイル金融サービスの規制に従い、 やマ ネー・ロンダリング対策、テロ資金供与対策、詐欺対策といった このことは、 テーマについて定期的に代理店を教育しています。 代 理店が常に金融保護の最新情報を得るのに役立っています。 15 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | bKash 規模拡大への道 ダーを合わせると、バングラデシュの1億人に上る携帯電話加入 者の98%以上がサービスの対象になりました。bKashは2016年 bKashは設立当初から急速な規模拡大を目指していました。同社 までにバングラデシュのすべてのモバイル・プロバイダーとパー は2011年7月に営業を開始し、顧客数は2012年の200万人から トナーシップを築きました7。 2013年末には1,000万人へと急速に伸びました。同社は設立当初 $ から急成長を可能にする4つの戦略を立てていました。 取引の手数料を低く抑える。bKashのビジネスモ デルは低い手数料で大量の取引を処理するた 金融サービスを通話用携帯電話(携帯電話として め、手数料を非常に低く抑えながら少額の送金を 必要最低限の機能だけを搭載しているもの)で提 数十億件規模で取り扱うことで収益につなげました。手頃な手 供する。bKashが対象とする低所得層は通話用の携 数料のおかげで低所得層の顧客もモバイル金融サービスに加 帯電話を所有していたため、働く貧困層に幅広く使われていた15 入しやすくなりました(表1)。他の一部のプロバイダーと異なり、 ドルの携帯電話を含むあらゆる機種で動作するユーザー・インタ bKashではeウォレットへのお金の補充の際に手数料を徴収しま 5 フェースを構築しました 。 せんでした。さらにeウォレットから現金を引き出す際の最低手数 料も設定しませんでした。その代わり、送金サービスでお金を受 モバイル通信事業者と提携する。bKashは短期間 け取った顧客には引き出した額に対して一律の手数料を課しま で多数の顧客にサービスを提供するため、モバイ した。企業や加盟店といった組織に課す取引手数料も同社の収 ル通信事業者との提携を模索しました。また、複数 入源でした8。 のパートナーと提携すれば、顧客間でネットワークに依存しない シームレスな取引を促進できます。そこでbKashは、2010年から3 民間流通事業者を活用する。bKashは、都市部、準 年間にわたり、Robi、Grameen Phone、Banglalink、Airtelの4社の 都市部、農村部に分散していた顧客にサービスを 6 これらのプロバイ プロバイダーと収益分配契約を締結しました 。 提供するため、大規模な代理店ネットワークを構築 しました(図2)。同社の代理店はほとんどが家族経営の店舗など 小規模な小売店です。代理店は顧客を登録し、モバイル金融サー 表1:bKashの手数料 ビスについて教育し、顧客の求めに応じて現金の支払いやその 他の方法で入金された金額をeマネーに交換したり、その逆の取 取引手数料の種類 FEE 引を行ったりします。 口座開設 無料 同社は2011年にBRACとShore Bank Internationalの支援を受け 代理店でのキャッシュイン 無料 て代理店ネットワークを構築に着手しました。ネットワーク構築に あたり、それまでBRACのマイクロファイナンスの顧客だった小規 代理店からのキャッシュアウト 1.85%定率 模な小売店の中からbKashの代理店として5,400店舗を選びまし 二者間での送金 5バングラデシュ ところがこの試験的な取り組みを経て、 た。 bKashは、代理店ネッ タカ(BDT) (0.06ドル) トワークを拡大するには他のパートナーシップ形態を模索する必 要があることに気がつきました。 請求書とマーチャントへの支払い 無料 (顧客負担) bKashは同社の代理店になる可能性のある数千の小規模店舗に マーチャントへの支払い 1.3~1.8% 消費財、携帯電話の通話時間、家庭用品を供給する民間流通事業 (加盟店負担) 者との提携に着手しました。 企業から個人への支払い 0.5%(交渉可) (企業負担) 16 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | bKash bKashは、流通業者が小規模店の経営者と代理店契約し、代理店 段階的なサービスを投入 の管理で委託手数料の形で利益を得る仕組みをつくり、やがて 140の流通業者と一緒に仕事をするようになりました。同社は代 bKashはバングラデシュ初の大手モバイル金融サービス・プロバ 理店のネットワークを拡大するため、バングラデシュに5,000の イダーとして、低所得層の顧客へのモバイル金融サービスの普及 サービス拠点を有する同国最大の宅配便業者などの他のパート に大きな役割を果たしました。成功の要因としては、サービスを ナーとも連携しました。 段階的に投入した点が挙げられます。ほとんどのバングラデシュ このやり方は重要で 人はモバイル金融に馴染みがなかったため、 した。人々を現金からeマネーに移行させるには、サービスを1つ ずつ投入して大衆の信頼を築いていく必要がありました。 bKashのサービスへの 新たな市場にモバイル金融サービスを導入する確実な手法は存 信頼が高まるにつれ、 在しないため、bKashは人々がどういうサービスを必要としている かを把握したうえでサービスの展開順序を決めなければなりま 同社は低所得層の顧客を せんでした。 まず最も基本的なサービスと考えられ そこで同社は、 対象としたより多彩な このサービスは、 る個人間の送金から始めました。 バングラデシュ の都市や町の出稼ぎ労働者が故郷の村に住む家族に送金するの サービスを投入しました に役立ちました。同社は、顧客がeウォレットにお金を預け入れる 預金商品も投入し、口座残高に応じて1.5~4%の預金金利を支払 図2:bKashの流通ネットワーク 民間流通事業者* 外交員 代理店 (主代理店/アグリゲーター) (流通業者の社員) (小規模店のオーナー) 広がり:bKashの流通ネットワークに140社 広がり :流通企業1社あたり最大 広がり :bKashの代理店ネットワークは 役割: 30人 12万人の担当者で構成 • 各社の管轄地域でbKashに適した代理 役割: 役割: 店を探す • 代理店を訪問してeフロート • 顧客を登録する /現金を提供 (手持ち金) • フロート **を維持することで • eウォレットを開設する 代理店の流動性を管理する • 代理店から現金を回収し流通 • 顧客を教育する 企業に戻す • 代理店から受け取った現金を銀行口座 • 顧客との間で現金をやり取りする*** (BRACまたは他の銀行)に預ける 収入源:流通企業からの給与 収入源:委託手数料の獲得 収入源:委託手数料の獲得 (顧客の取引額の%) (顧客の取引額の%) *日用品と通信業界の複数の会社にサービスを提供 ** フロートの定義については脚注の項番8を参照 代理店のeフロートが不足した場合、 ***  顧客から現金の預け入れを受け付けることはできない。同様に、代理店は顧客がeウォレットから引き出せるよう手元に現金を確保 しておく必要がある。 17 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | bKash このことは、 いました。 銀行口座を持たない低所得層の顧客にとっ 瞬時に送金できるようになったのです。 て特に魅力的であることが分かりました。そうした顧客の多くは、 初めて、預金して金利を得る機会を得たのです。その後、同社はさ bKashのサービスに対する信頼感がますます高まるにつれ、同社 らに高度なサービスを展開しました(図3)。 は低所得層の顧客を対象にさらに多様なサービスを投入しまし た。新たに投入されたサービスは、マイクロファイナンス機関の 低所得層の顧客がbKashの送金サービスを信頼するようになる 貯蓄口座に預け入れた貯金の集約、マイクロローンの支払い、援 と、同社は顧客が通話時間カードを買いに店舗まで出向かずに 助機関から支援金の支払いなどでした。 9 このサービスを投入 済む通話時間購入サービスを始めました 。 して1年も経たないうちに、バングラデシュにおける携帯電話の bKashは、2014年までにモバイル決済をバングラデシュにおける 通話時間購入の10%以上がbKashのeウォレットを通して行われ 商品やサービス購入の一般的な手段にするという目標を立てて るようになりました。 いました。 レストランやスーパーマーケット、 そのためには、 ホテ ル、病院、さらには家族経営の小売店にいたるまで、さまざまな加 bKashは、営業開始から3年目には英国とアラブ首長国連邦にあ 盟店で現金やクレジットカードの代わりにbKashでの支払いを受 るBRAC Bankの提携先銀行を通じて国際送金サービスを始めま け付けるようにしておく必要がありました。2016年現在、bKashは これらの国々で暮らすバングラデシュ人の出稼ぎ労働者は した。 主要都市の3万の加盟店で利用可能となっており、その数は同国 銀行から母国の家族や友人に送金でき、母国の家族・友人は自 でクレジットカードを使える店舗数の約3倍です。小規模な店舗が 身のbKashのeウォレットでお金を受け取れるようになりました。 bKashを便利だと考える理由は、大量の現金を持たずに済むため 翌年にはMasterCardおよび世界200カ国に拠点を持つWestern 強盗に遭うリスクを避けられるからでした。bKashは、今後は小さ これにより国際送金サービスの対象国がさら Unionとも提携し、 な町や村でもbKashでの支払いを受け付ける加盟店が増えていく に広がりました。世界で推定1,000万人といわれる巨大な海外バ と考えています。 ングラデシュ人居住者市場が、母国に暮らす家族のbKash口座に 図3:bKashの沿革 アイデアを発展 eウォレットで 3万の加盟店で させてbKashを 預金 支払い可能に 立ち上げる 顧客数 顧客数が 200万人 1,000万人を突破 顧客数 2,300万人 2008~ 2011~ 2013~ 2014~ 2010年 2012年 2014年 2015年 国内送金、加盟 通話時間の購入、 国際送金 店での支払い 給与、賃金、ソーシャル・ ペイメント 18 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | bKash ソーシャル・ペイメント 顧客の信頼を得る bKashでは、NGO等の団体の代行業務として、受取人 バングラデシュで銀行口座を持たない人々にモバイル金融サー へのさまざまな種類の助成金を容易に支払えます。こ ビスを使ってもらうには、サービスを徐々に投入することや、手 れにより助成金の支払いから受け取りまでの時間が 頃な手数料であることが重要でした。また、銀行口座を持たない 短縮され、緊急時や自然災害が発生したときに特に有 人々が携帯電話で安心して金融取引を行えるようにすることも重 用です。たとえばNPO団体のHelp Age International 要な点であったため、新たな習慣を身に着けてもらうようサポー Bangladeshは、同団体の医療/緊急対応/金融サー トする必要もありました。口座を持たない人々がお金を自宅に保 ビスを利用した高齢者にbKashを使って送金しました。 管したり、送金のために仲介業者に高い手数料を払ったりするの Plan BangladeshというNGO団体も、bKashを使って1 をやめ、代わりに安全なデジタル・システムにeマネーを預けて使 万5,000近くの世帯に と生活支援金 「働くためのお金」 用することを覚えてもらう必要がありました。 を送金しました。同様に、Oxfamは洪水後の人道支援と してダッカの3,300以上の世帯にbKashを通して義援 bKashは、新たな習慣の定着には時間がかかるものの、教育と 金を送りました。DFIDとAusAID出資のChar Livelihood サポート体制によって達成できると確信していました。そこで同 ProgramはbKashを使い、離島で極貧に苦しむ2万 社は、モバイル金融サービスについて大規模な認知度向上キャ 6,000人の住民に毎月6ドルの給付金を4年間にわたっ ンペーンを展開しました。マスメディア広告に加え、路上実演、 て送り続けました。 短編ドキュメンタリー、インタラクティブ・ゲームを通して、潜在 顧客にモバイル金融サービスの利点と取引方法を伝えました。 こうした広範囲にわたる取り組みのほか、bKashの代理店ネット ワークの12万人の担当者が顧客と対面して段階的に取引手順 を教えました。 口座を持たない人々は取引の最中に操作を誤ってお金を失うこ とを心配していました。そのため、同社は電子取引の手続きをで きるだけ簡単で安心感の高いものにするため、ユーザー・イン タフェースに機能を追加しました。文字ではなく数字を入力して サービスを選択できるようになったため、あまり文字を読めない 人や、bKashのユーザー・インタフェースに使われている英語を ほとんど理解できない人たちの不安が緩和されました。多くの顧 客は紙のレシートのような証書を望んだため、bKashは取引完了 後にテキスト・メッセージのレシートを提供しました。また、顧客 がいつでもeウォレットの残高を確認できるよう、メインメニュー こ から口座の内容を見られる簡易な口座明細書も用意しました。 うした取り組みが顧客を安心させ、同時に、顧客がモバイル金融 サービスを活用できるようになりました。 19 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | bKash さらなる繁栄に向けて 今日、bKashはバングラデシュのモバイル金融サービスの代名詞 になっています。bKashは銀行口座を持たない人々が金融サー ビスを利用できるようにするという目標の達成に近づいており、 目標の達成に向けた取り組みを継続しています。bKashのeマ ネーの取扱高は2015年に160億ドルを超え、国内総生産(GDP) が少なくとも2,000億ドルであるバングラデシュの経済効率を高 めています。最も重要な点は、bKashによって銀行口座を持た ない人々が金融包摂への階段を上がることができ、最終的には (ベンガル語で繁栄を意味し、 「bikash」 bKashはこの言葉から啓 発された)に向かっていることです。 IFCにおけるインクルーシブ ・ ビジネスの詳細は www.ifc.org/inclusivebusiness をご参照く ださい。 注 1 Jaheed Parvez、Ariful Islam、Josh Woodard、2015年、Mobile Financial Services in Bangladesh: A Survey of Current Services, Regulations, and Usage in Select USAID Projects、USAID、 mSTARとFHI360 2 bKash調べ。 3 bKashのeウォレットはVISAの子会社FUNDAMOのテクノロジー・プラットフォーム上で運用されており、安全取引を実現するためすべての情報を暗号化している。 4 eマネーはユーザーや代理店、 モバイル ・ マネー ・ サービスのプロバイダーの口座で保管される通貨である。 一般に、eマネーの総額は銀行口座に反映されており、 モバイル・マネー・サービスのプロバイダーが破綻した場合でも、 ユーザーは口座に蓄えられた価額を100%取り戻すことができる。 銀行口座には金利が付くがeマ ネーには付かない。 出典: GSMA Mobile Money for the Unbanked. 2010. “Mobile Money Definitions.” 5 このインタフェースはUnstructured Supplementary Service Data (USSD)というグローバルなメッセージ交換技術を使用している。 USSDはどんな種類の携帯電 話とも互換性があるため、 モバイル金融サービスに幅広く使用されている。 USSDはGlobal System for Mobile(GSM) ネッ トワーク上のメッセージ交換技術であり、 顧客は携帯電話のSMS (ショート ・メッセージ ・サービス) メニューフォームから、 文字列ではなく 、テキスト文を受け取る。 USSDは携帯電話とネッ トワークの間でシ ョート ・メッセージを伝送し、 さらにユーザーと特定のアプリケーション群の間で双方向のメッセージ交換を提供する。 出典 :FinMark Trust. 2007. “Mobile Banking Technology Options.” http://www.gsma.com/mobilefordevelopment/wp-content/uploads/2012/06/finmark_mbt_aug_07.pdf. 6 bKashは取引手数料から得る収益の7%を移動体通信事業者と分配している。 (GSM) 7 bKashはGlobal System for Mobile ネットワークを採用しているすべての移動体通信事業と提携している。 8 bKashは、代理店が顧客からの電子マネーの購入 または売却 (キャッシュイン) (キャッシュアウト) の要求に応じる際に、 即座にアクセスできるフロート口座 (eマネー、 現金、 または銀行口座の預金の残高)への利息からも収益を得ている。出典: GSMA Mobile Money for the Unbanked. 2010. “Mobile Money Definitions.” 9 図3のように、 しかし、 一部の都市では2011年から特定の小売店で購入代金をbKashで支払えるようになった。 小売店での支払いは同社の2014年の中心的な取り組 み課題となった。 20 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | Bridge International Academies 地域:アフリカ、南アジア Bridge International 分野:教育 IFC投融資:1,000万ドル Academies 2000年の「国連ミレニアム開発目標」の設定から2015年の までの間、 「持続可能な開発目標」 極めて重要 これまでの一連の目標では、 な教育問題の焦点は大きく変化しました。 入学者数を増やすことに重点が 置かれていました。今日では、インクルーシブ(包括的)で質の高い教育を提供することが重視されてい ます。 こうした変化には正当な理由があります。 「入学者数を増 それは、 ありません。多くの地域で親と起業家が小規模な学校を開設し、 加させるのであれば教育の質も向上させなければならないが、 地域の子どもたちの教育需要にこたえてきました。ナイロビの非 向上していないケースが多い。たとえばサブサハラ・アフリカで 正規居住区域では、60%の子どもが個人経営の学校に通ってい は、実質的な就学率が2000年から2015年までの間に20%上昇 ると推定されています4。 こうした学校は費用がかかりますが、公 したが、学校に通う子どもが増えるにつれ、学業の進歩がみられ これ 立学校の費用と同等かそれより安い場合が多くありました。 ない子どもがあまりにも目立つようになった¹」 というものです。 らの学校は教育の質の改善に向けた対策を講じていましたが、 2011年のデータによると、ケニアの第3学年の生徒で第2学年の 大半の学校では、新しい教材や指導方法、学校経営に多くの投資 2 しかも 課題をこなせるのは10人のうち3人にすぎませんでした 。 を行うための資金力が不足していました。 公立学校では、机、宿題、その他の費用などといった非公式の支 払いをする必要がありました3。 Bridge International Academiesは、教育環境が不十分な低所 得地域に住む子どもが受けることのできる教育の質を変える目 これでは、公立小学校の教育の質と費用に対する親の不満が高 的で設立されました。同校は教育の質の問題に大規模に取り組 まり、多くの家庭が他の選択肢を探すようになっても不思議では む初めての教育組織であり、研究やテクノロジーに重点的に投 21 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | Bridge International Academies 資し、教育に集中することが可能になりました。 「低所得 Bridgeは、 地域の子どもの学習成果を、親やドナー、政府の費用負担を非常 という基 に低く抑えつつ大幅に改善するにはどうすればよいか」 本的な疑問を提示し、その答えを自ら見い出そうとしました。 Bridgeは、2009年にケニアで生徒数300人の2つの学校から出 発し、現在はケニア、ウガンダ、ナイジェリア、インドで470を超え る学校を運営する合計生徒数約10万人の学校組織に発展しまし た。同校はリベリア政府と共同で最大50校を運営するパイロット・ プログラムも立ち上げています。 同校は教育上の最も困難な問題の解決を図るユニークなシステ これまでのところ計画は順調に進んでいるよう ムを開発しており、 コンピューター科学と電子工学の経歴を持つKimmelmanは、 です。ケニアで最初に卒業したクラスでは、国の小学校卒業試験 Edusoftという米国の教育ソフトウェア会社を共同で設立、運営し に合格する率が全国平均より40%高かったのです。 ています。同社は300万人の学生にソフトウェアを提供するまで 同校の独自の調査によると、同校の生徒の基礎的な読み書きの に規模を拡大しました。KimmelmanとMayはサブサハラ・アフリ 成績は公立学校の生徒を上回っています。現在、独立機関が学習 カの都市部非正規居住区域や農村部で実施した調査に基づき、 成果に関するより詳しい調査を進めています。 Bridgeのビジネスモデルを作り出しました。さらにKimmelman はかつてのルームメイトだったPhil Freiをチームに招き入れまし アイデアを発展させる た。Freiは新技術の商業化の分野でコンサルタントを務めた経験 を持ち、小規模農家を対象とした社会的影響プロジェクトに自分 Shannon Mayは2005年から2006年まで、中国の開発計画におけ の経験を提供するためマラウイに移住していました6。 る人類学者および地域の村立学校の英語教師として同国に滞在 しました。Bridge International Academiesの共同設立への参加 データに基づいて決断すると決めていた3人の友人たちは、その を考えていたMayは、生徒が登校しても授業に参加しないのは資 アイデアを最初に適用できそうな国を検討した結果、ケニアが最 金不足と教師の無断欠勤の多さが原因だということを目の当た もふさわしいと判断しました。評価にあたっての主な検討項目は りにしました。中等学校への進学に必要な試験に合格する生徒 次のようなものです。 これらの地域の親たち は2~4%にすぎないことも分かりました5。 は、学校に通わせても子どもの将来は見通しのよいものにならな • 貧困率:人口の50%以上が貧困層に属する国は、学費を安く抑 い、 という具合に経済的に合理的な判断を だから職に就かせよう、 えることと、教育を多様化させる必要性がより強いことが明らか することがよくありました。残念なことに、国が提供する教育以外に ランクが高い。 であり、 選択肢はなく、親たちは子どもが自分たちほど機会に恵まれない まま成長するであろうという悲痛な思いを抱えていたのです。 Mayと将来その夫になるJay Kimmelmanは、社会の片隅で暮ら す最低所得層に属する家庭の子どもにどうすれば初等教育を受 けさせ、中等教育や生きるために必要な読み書きと計算などの能 力を身に着けさせることができるのか、知恵を絞りました。2人は、 子どもの教育に関しては親が自分で判断できるようになるべきだ という考えを重視していました。 22 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | Bridge International Academies Bridgeのバリューチェーン 課題と解決策の概要 商品開発 流通 マーティング・ 顧客サービス 営業 バリューチェーン • 教 師 の 数 が 限られ • すべての地域で一貫 • 家庭が学校に払え • 教師の無断欠勤 ている した質の確保 る金額は限られて • 親を関与させるた いる • 国が定めたカリキュ • 職員との効率的なコ めのフィードバック ラムを別途実行しな ミュニケーション • 学校は地域社会の ループの欠如 学費の安い教育を ければならない 一部になる必要が • 遠隔地への対応 提供するうえでの ある • 伝統的な学習方法 課題 • 迅速かつ費用効率の • 規 模 拡 大 時 の 言 語 高い形で規模を拡大 の壁 する必要がある • 生徒中心の授業を • 教室での授業をモニ • 親や地域社会と連 • モ バ イル・プラット 行えるように 教 師 タリングするためテク 携して、教育に対 フォームを通じて授 を養成し、サポート ノロジーを使用する しより高 い 関 心 を 業料の支払いを透 する 持ってもらう 明化する • 指導計画の作成と修 Bridgeの解決策 • 教師の参考資料と 正 にタブレット端 末 • 地域社会から教師 • 親との 関 係 強 化 を 教材の開発(教師 を使用する を採用する 重視する(たとえば の指導手引書など) 親の満足度調査の • 本部からの強力なサ • 授業料を公立学校 実施) • すでに英語が教育 ポートにより学校経営 の学費と同等にする 言 語となっている の分権化を推進する • 学校管理職による教 国を優先させる 師の監督とタブレット • 学校経営構造に品質 端末を通じたフィー 管理機能を設ける ドバックの提供 • 学校を新設する際の プロセスを標準化する 23 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | Bridge International Academies • 人口:適度な需要と学級規模を確保するためには、人口密度が モデルを構築する 1平方キロメートルあたり125人以上、総人口が3,000万人以上 でなければならない。 3人の共同創業者は、Bridge International Academiesの成功 と維持は、貧困な生活を送る親でも費用の負担が可能な保育園 • 言語:英語が国の公用語の1つでなければならない。それによ と初等教育の運営を実現できる点にかかっていることを理解し り、設立チームは教育機関、テクノロジー、ビジネスモデルをあ ていました。実現には、調査、カリキュラム開発、テクノロジーへ らゆる面から発展させることに専念できる。 の巨額の投資が必要であり、投資に見合う成果を得るには教育 モデルを大規模に展開していく必要がありました。自己資金で • 試験の合格率:共同創業者たちは、小学校を卒業しても国や国 調査と開発に着手した3人が取り組んだ課題は次のようなもの 際的な試験に合格できない貧困家庭の子どもが大半を占める でした。 国に着目した。 教師は授業をより良くするためどのような支援を必要としてい •  るのか。 • 私立学校での経験:すでに親が子どもを小規模で地域が運営 生徒の授業への参加意欲を高めるためには何が必要か。 •  する学費の安い私立学校に通学させることを選択している場 どうすれば運営コストを下げられるのか。 • より良質で費用のかからない教育への需要があり、 合は、 その 「国の生徒1人あたりの支出と同程度かそれを下回る Bridgeは、 市場が存在することは明らかである。 費用で、より高い成果を出し、制度全体でイノベーションを推進 という目標を設定しました。 する」 3人の友人は2008年にナイロビに移住し、Bridge International Academiesを立ち上げました。 「子どもの学習を保 その目標は、 証しながらも学費が安く、だれでも通うことのできる学校や学校 という、 制度をどのように創設するか」 単純ですが非常に難しい 問題に対処することでした。 24 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | Bridge International Academies Brigeに子どもを通わせる典型的なファ ミリー (Bridge ファミリー) SabbirとTabanは部屋が1つしかない泥づくりの家で 4人の子どもたちと暮らしています。Sabbirは揚げパ ンを売り、Tabanは自宅の庭で栽培した植物を販売 する小さな会社を経営しています。Bridgeに子どもを 通わせる家庭(Bridgeファミリー)の大黒柱の約62% がTabanや他の多くのBridgeファミリーと同様にイン フォーマル・ビジネスを営んでおり、自分と子どもたち の生活をより良くするために懸命に働いています。 S a b b i rとT a b a n は 2 年 前 に 年 少 の 2 人 の 子どもを Bridgeに入学させることにしました。Tabbangaはそ 「私は十分な教 の理由を次のように説明しています。 育を受けることができませんでしたが、いくつかの職 を得るのに役立ちました。子どもたちが私より多くの 教育を受けることができれば、子どもたちの人生と家 族の生活は大きく変わると思います。 1世帯あたり 4.3人 1日あたり所得 Bridge 1.60ドル 「私たちは充分な教 62% ファ ミ リー の親がインフォー マル・セクターの 育を受けませんで 自営業者 したが、子どもたち 小学校卒業を 目標とする には違う道を歩ん 最初の世代 でもらい た いと思 います。」 25 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | Bridge International Academies 図4:Bridge International Academiesの沿革 教師に専用タブレット端末 を配布 生徒数が10万人に達する 最初の学校を ウガンダとナイジェリアに 開設 学校を開設 2009~ 2013~ 2016年 2012年 2015年 Bridgeの学校数がケニア国内 学校数が213校に インドに学校を開設し、 で37校となり、 同校はアフリカ 達し、生徒数が5万 リベリアと官 民 パート 最大規模の教育機関となる 人を超える ナーシップを締結 最初のBridge International Academyは2009年にナイロビ市内 めに問いかけたりするよう仕向ける目的がありました。 のムクルというスラムで開校し、幼稚園と2年制の小学校が併設 されました。Bridgeは、1人あたり所得が1日2ドル以下の近隣住 Bridgeはケニアの国定カリキュラムと政府の基準に基づいた教 民だけを対象にしました。同校は当初から地域社会の有力者と 育課程を開発しました。また、読解と批判的思考能力に重点を の緊密な連携が必要不可欠であることを理解しており、そうした これによりBridgeの生徒の 置いています。 「課題にかける時間」 有力者と協力して家庭にBridgeの啓蒙活動を行い、地域の人々 が増えました。具体的には、月曜日から金曜日までに合計47.5時 を学校に招待しました。学校は借地に低コストの資材を用いて標 間が充てられ、さらに土曜日に5時間を選択できるようになって 準的な設計で建設されたため、大量調達による費用効果や厳格 います。 な品質管理が可能になりました。 Bridgeは幼児期の発育を促進する取り組みの一環として極めて 伝統的な教育手法を超えて 低コストでありながら効果的な学習ツールを取り入れています。 Bridgeは米国の教育手法に倣い、教師が、全科目 再利用された鶏卵箱、彩色されたプラスチック製リング、小型黒 そして全学習期間で使用する段階的な指導要領 こうして、 板などです。 色彩や数の数え方、基礎的な計算に関す を詳しく説明した指導手引書を作成しました。 (特注の教育玩具やワーク る能力を伸ばす授業を行っています。 生徒への関与および理解に十分集中できるよう教師に権限を与 ブックは生徒の運動技能を発達させ、授業用教材の充実にもつ えることが狙いであると同時に、正確で生徒の関心をひく授業を ながっています。 適度なペースで進められ、教師が授業内容について悩む必要が 小学校では、読み方や読解、問題解決を学べるワークブック、計 なくなるからです。 算練習用のジオボード、発見的学習用の科学実験キット、地域社 会と世界について学べる地図が利用されています。 Bridgeのアプローチは、教員指導手引書を使用して生徒の学習 レベルに応じた授業をすることで、教師が黒板から離れて教室を これらの教材は、すべて、子どもが従来の暗記を主体とした学習 歩き回ったり、生徒の作品を見て理解を深めたり、質問を促すた 方法よりも建設的に学べることを目的に開発されました。また、 26 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | Bridge International Academies BRIDGE INTERNATIONAL TRAINING INSTITUTE Bridgeは生徒に国家試験の準備をさせています。そのため試験 を毎月実施し、生徒の到達度を確認すると共に、教育方法の効果 (BITI) Bridge International Training Institute の目標 を評価しています。 は、地域の人材を発掘し、Bridgeの教師になる可能性 のある人を見つけ、教育スキルを開発することです。 手の届くプライス・ポイントを設定する BITIの235時間の集中トレーニング・コースでは、学級 Bridgeが対象とする生徒の家庭の平均的な所得 運営の方法、個々の生徒の学習レベルの確認方法、 7 は2016年時点で1日1人あたり約1.60ドルでした 。 指導手引書の使い方の指導に力を入れています。 この所得水準はBridgeの学費のプライス・ポイント を左右する極めて重要な要素です。Bridgeは授業料を決定する Bridgeは、低所得層の家庭でも手の届く範囲の学費 にあたり、ナイロビの非正規居住区域に住む親にどの程度の収 を維持するために教師と生徒の人数比率45対1を目 入があって子どもの教育費に毎月いくら使っているのかを把握 指しており、 リーダーシップ、 そのため学級運営、 テク するため、公立学校と私立学校に通う子どもを対象とした大規模 ノロジーを大変重視しています。 な調査を実施しました。 Bridgeは、家計が教育費に充てる限度額を収入の20%と想定し、 親にとってコスト競争力のある学校にするため、学費が既存の 教育機関と同等になるよう調整しました。所得と教育費は地域に よって異なるため、Bridgeの学費は生徒の学年や学校の場所に よっても異なります。東アフリカ地域のBridgeの生徒の支払い額 これには教科書代、 は1月あたり平均6.60ドル、 宿題用の本代な これに加え、 どすべての教材が含まれています。 1回限りの登録 費用が別途必要です。 人材の発掘と育成 Bridgeは将来教師になる人材を発掘するため、 地域社会の有力者との交流を深めたり、オープン ハウスを開設したりしました。同校は創立当初から 教師を地域社会で採用する方針を掲げています。それには主に 次の3つの理由があります。 Bridgeは、 •  傘下の学校が、地域社会のメンバーによって運営さ Bridgeは、 •  同校の教師に生徒の状況を理解するよう求め、生徒 れ、 「地域の学校」 強い要望のある地域雇用を創出する になるこ には教師に親近感を持つことを期待しています。 とが重要であることを理解しています。 B ridgeは、 •  社会から取り残された教育環境が不十分な地域社 Bridgeは教師を育成するためBITIを設立しました。この養成機 会で学校を運営しています。多くの場合、地域外の出身者の教 関への応募資格は政府の教員養成大学と同じです。Bridgeはそ 師はこうした地域への転居に消極的です。一方、地元の教師を れ以外にも、教会や他の地域組織でのリーダーシップ経験、優れ 採用すれば、Bridgeの学校ではいつでも教員が対応できる開 たコミュニケーション能力、教育と子どもへの情熱を備えた人材 かれた体制を取ることができます。 を求めています。同校の教員の多くは、以前は主に非公式のセク ターで社会保障や社会給付を受けずに働いていた人たちです。 27 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | Bridge International Academies 教育の質と効率性を確保する テクノロジーと分析 2011年、Bridgeは、管理職が本部のクラウド・ Bridgeは、すべての学級で一貫したサポートと教育の質を提供 ベース・サーバーにアクセスできるようにするた すると同時に、地域レベルで意思決定のできる経営構造が必要 め、専用開発のアプリケーションを搭載したスマー であると考えました。同校は地域、地区、学区の3つの地理的レベ このアプリは生徒の入学手続きや請求 トフォンを導入しました。 ル(図2)で運営する仕組みをつくりだし、物流から取引関係管理 をリアルタイムで追跡し、学費の支払い、支出管理、給与情報な に至るまで、あらゆることに対処できるようにしました。 ど学校全体の財務管理ツールとして機能します。さらにその2年 後にはタブレット端末を教師に配布し、指導手引書を臨機応変 Bridgeは教師が学習指導の面で学校からサポートを得ているこ に発行したり、学級のデータをリアルタイムで収集したりできる とを確認するため、学校調査チームを派遣し、教師との意見交換 ようにしました(図3)。Bridgeはモバイルをはじめとするテクノロ や授業参観を行っています。本部組織の学習指導研究開発チー ジーを利用し、次のようなことを実現しました。 ムが教師と学校調査チームからのフィードバックに基づいて授 業を改善し、同時に最新の指導方法の導入にも取り組んでいま 運営の簡素化。学校の管理職は、事務作業ではなく、教師のサ す。他にも改善を目的としたチームが組織され、授業のビデオ撮 ポートと親の関与に集中できるようになりました。たとえば、現金 影や、新しい学習方法やプログラムの調査とテスト、教育の質に を集める際に起きやすい不正や安全に関するリスクをなくすた 関する監査などを行っています。 め、ケニアで普及している携帯電話アプリのM-PESAを使用し、 キャッシュレス化を進めることにしました。親は学費を携帯電話 または銀行預金口座経由で支払えるほか、支払い状況をリアル タイムで確認することができます。 Bridgeの運営する学校は他の国でも、携帯電話決済または銀行 ベンダーを経由した同様のキャッシュレス支払いシステムを採 用しています。 教師へのエンゲージメントを高める。Bridgeは教師同様に学校自 図2:現場レベルの管理構造 体も堅実であるべきと考えており、その意味で教師がきちんと出 勤することは重要でした。同校の本部チームは、2013年に利用が 地域マネジャー 始まったタブレット端末で、教師の出勤時刻と教師が授業をどの 100校を統括 こ 程度のペースで進めているかを確認できるようになりました。 利害関係者と国レベルの関係を維持する •  れは、教師が1日を通じて学級で活動的でいられるようにするの 採用と物流を監督 •  に役立っています。教師が出勤できない場合はBridgeが代わり 本部との調整 •  の教師を派遣し、授業が行われない時間を最小限にとどめること 地区マネジャー ができます。 10~15校を統括 運営上の問題に対処 •  地域社会、 •  地方自治体と交流する アカデミー・マネジャー 1つの学校を管理 学校全体の学業成績の責任者 •  28 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | Bridge International Academies 図3:Bridgeのテクノロジー・サイクル Bridge本部チーム 開発、更新、授業の検証、 新しいアプローチ 教師 試験結果、出欠席、その他の 指標をタブレッ トに入力し てアップロードし、それを 本部チームが分析する 教師 アカデミー ・マネジャーの 電話をホッ トスポットとし タブレッ て使用し、 ト端末に 授業内容に関する情報を ダウンロード 生徒 紙と鉛筆を使った伝統的な 試験で評価 学習成果を改善する。 このシステムによりBridge本部の学習指導 ケニア以外の国に拡大中 専門家と現場の教員とが直接つながりを持つようになりました。 授業の都度アップロードされるデータと生徒の理解の進み具合 新たな投資家の参加を仰ぐ によって指導手引書と指導方法が継続的に改善されます。たとえ Bridgeはケニアで2013年までに213校を開設し ば、管轄下の生徒の大半が授業を理解できていない場合は、本 ました。生徒数は5万7,000人、採用・養成した人 部の学習指導チームが教材を変更して、今後のカリキュラムに追 材は2,000人に達しました。また、投資家のOmidyar 加できます。 Network、Learn Capital、NEAからも出資を受けました。同校は、 カリキュラム進行の遅れている学級が在るとデータに示された 継続して学習成果を改善させ、そしてケニア以外の国に学校を 場合、学校調査チームが学校を訪問し、困難に直面している教師 展開するには、追加的な資本投入と投資家が必要になると考え に追加的な指導を行う場合があります。反対に、成績の優秀な学 ていました。そこでBridgeの経営チームは、同校の目的を共有し 級が在る場合は、その学級を担当する教師の優れた点をネット てくれる投資家を探しました。 ワーク経由で分析することがあります。 29 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | Bridge International Academies 学習研究室 Bridgeは出資者募集活動の一環として世界銀行グループの一員 であるIFCにアプローチし、IFCは1,000万ドルを出資してBridge Bridgeは、学校組織の拡大に伴って増え続ける学校 の株主となりました。Bridgeは出資を受けるだけでなく、国境を リアルタイムでのデータ収集能力が組み合わ の数と、 超えた学校展開で直面する規制の問題に対処するためのアドバ さることで、学内に「学習研究室」ができていることに イスも受けたいと考えていました。BridgeはIFC以外にも、英国の 気づきました。 CDC、Novastar、PanAfrican Investment、Rethink Educationな ど主要な投資家に加え、Bill GatesやMark Zuckerbergといった 本部チームは、学習の役に立つと考えられる新たな 著名な個人からも出資を受けました8。 手法や教材を見つけると、学校全体に展開する前に、 さらに B r i d g e は 米 国 の O v e r s e a s P r i v a t e I n v e s t m e n t いくつかの学校からなる成る小規模なグループで試 Corporationからの融資も受けています。 すことができます。Bridgeではこうした方法で、生徒 の理解度向上につながる授業のペース配分や構成、 地域への適合 具体的な事例を決めることができています。この点 Bridgeがケニア以外の国への進出を検討するに は、Bridgeにとって重要であるだけでなく、教育学的 あたって着目した要素は、人口密度、教育言語と な見地からも重要です。 しての英語、政府支援など、ケニア進出当初とほぼ 同じです。Bridgeは論理的に判断した結果、次の進出国をウガン ダに決めました。ケニアとの共通項が多く、国境を接していたた めです。 ウガンダのブソガ地方にBridgeの最初の学 2015年2月、 校を開校しました。 新たな環境は、ケニアとの共通項が多いにもかかわらず、Bridge に次のような課題をもたらしました。 • 学習水準:ウガンダの読み書き・計算の基礎学力はケニアよ り低く、中でもブソガ地方は最も低い地域の1つでした。これ は、生徒と教師の候補者にも同様の影響を及ぼしていました。 Bridgeは、Bridgeの学校に通うために必要な英語を理解でき る能力を短期間で生徒に身に着けさせるために年齢を超えて これを打 同一の英語学習プログラムを毎日2時間行うことで、 開しました。 Bridgeの次のステップは • 支払いシステム:M-PESAを利用したモバイル支払いシステム は時間の経過と共にケニアで広く普及していたため、Birdge 教育対象地域を拡大し、 が携帯電話での支払いに関して親を教育する必要はなくなっ ていました。一方ウガンダでは、親にモバイル支払いシステム 子どもたちの学習機会を の使用方法を教育する必要がありました。 広げることです。 さらにBridgeはFenixと提携し、   Fenixの太陽光発電システムを 使用するウガンダのBridgeに通う児童の親を対象とする学費 ローンを開始しました。 30 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | Bridge International Academies パートナーシップを構築する 成果を測定する Bridgeは、すでに確立したモデルを水平展開する だけでなく、新たな方法を取り入れて教育対象地 Bridgeは児童の学習成果を定量化するため、外部の 域を拡大しています。ナイジェリアのラゴスに2015 評価機関と共同で、一般的に使用されている低学年 年9月に開設した2つの保育園併設小学校では1週間で入学・入 向けの読解力と算数の評価を行いました。その結果、 園の定員に達し、順番待ちをする希望者もでてきました。2016年 Bridgeの学校に通う児童の成績は、主要な読解力で 初めにはラゴス州で新たに4つの学校が開校し、年内にはさらに 32%以上、主要な計算能力で13%改善していること 20校が開校する見通しです。 が分かりました。 B r i d g e がナイジェリアに 進 出 する際 は、英国の国際開発省 2015年、ケニアのBridgeの卒業生が初めて全国的な (DFID)の助成金による支援を受けました。革新的なビジネスモ 試験を受けました。試験に臨んだ2,900人の児童の約 デルを対象としたDFIDのイノベーション基金とそのDeveloping 60%が合格し、試験の合格率は全国平均よりも40% (ナイジェリアにおける効果 Effective Private Education Nigeria 高いことが示されました。Bridgeの在籍期間が長い 的私学教育プロジェクト)による助成金は総額で約345万ポンド ほど成績が良いことも分かりました。また、Bridgeの に上り、それによってラゴスの教育市場への進出に伴うリスクが 児童はケニアの国立中等学校の入学を認められる確 9 共有されました 。 率が65%高く、100人を超える児童が中等学校で4年 間の奨学金を全期間にわたって受けられることにな Bridgeはさらに2015年にインドのアンドラプラデシ州政府と契 りました。 約を締結しました。老朽化により閉鎖された学校を近代的なコ ミュニティー・スクールに模様替えし、現地ニーズに応える同校 現在、世界銀行の調査専門家と独立機関の主導で、 のモデルを適用することで合意しました。最初の保育園併設型 大規模なBridgeの開発効果の評価が行われていま 小学校が2016年6月に開校し、日課としてヨガなど地域色の強い す。学費の安い私立学校の背景にも着目して評価 活動を取り入れています。 データを報告する予定です。 リベリア政府との合意に基づいて2016年に公立学校 Bridgeは、 運営組織としての活動を始めました。Bridgeとリベリア政府の合 意内容は、運営がうまくいっていない50の保育園併設型公立小 このプログ 学校を2016~2017年度に再建するというものです。 ラムは、西アフリカの国で民間の学校組織が政府と提携し、教育 をどのように改善できるかを検証するパイロット的な取り組みの 一環です。Bridgeは既存の学校で既存の教師と生徒と一緒に活 動することになりますが、独自の教育・授業モデルを使用する予 定です。対象の学校は最終的に政府の管理下に置かれ、授業料 は無料のままです。政府が引き続き学校職員の給与を支払う一 方、 (ム パートナーシップに関連する費用はMulago Foundation ラゴ基金)などの外部慈善団体が拠出しています。 31 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | Bridge International Academies さらなる前進 今日のBridge International Academiesは必ずしも未来の IFCにおけるインクルーシブ・ビジネスに関する Bridgeではないかもしれません。同校は革新をもたらしながら拡 詳しい情報は 大を続け、世界の数百万人の子どもに教育を提供するという目 www.ifc.org/inclusivebusiness 標に向かって前進します。たとえば他の学校への教材の販売や、 をご参照く ださい。 教員養成手法を他の組織や政府のために使用すること、新たな 官民パートナーシップへの参加を検討しています。また、児童を 中等学校に進学させることにも力を入れています。Bridgeは自ら を「変化がない教育を認めない数多くの組織の1つであり、指導 と考えています。 や学習の限界を押し広げている組織である」 同 校は、すべての子どもたちにふさわしい教育環境を整え教育の 質を高めるため、引き続き革新的でありながらも、根本的な変革 を推し進める考えです。 注 1 国連、2015年MDGレポート http://www.un.org/millenniumgoals/2015_MDG_Report/pdf/MDG%202015%20rev%20(July%201).pdf 2 UWEZO、 2011年、 “Are Our Children Learning? Annual Learning Assessment Report”、http://www.uwezo.net/wpcontent/uploads/2012/08/KE_2011_Annu- alAssessmentReport.pdfで入手可能 3 The Economist、Classroom Divisions、 2014年2月22日付、http://www.economist.com/news/middle-east-and-africa/21596981-paid-private-schoolsare- bet- ter-value-money-free-sort-classroom 4 African Population and Health Research Center、Quality and Access to Education in Urban Informal Settlements in Kenya、2013年10月、http://aphrc. org/ wp-content/uploads/2013/11/ERP-III-Report.pdf 5 企業データ 6 ハーバード ・ ビジネススクール ・ケーススタディ、 2010年、 “Bridge International Academies: A School in a Box”、http://www.bridgeinternationalacademies. com/ wp-content/uploads/2013/01/2010-Harvard-Business-School.pdfで入手可能。 7 世界銀行の手法を用い、 Bridgeの学校に通う子どもを持つケニアの1万7,986万世帯 (Bridgeファミリー)のデータに基づいて算定した。 1カ月あたりの所得の中央 値は1万2,000ケニアシリングで、 これは計算の時点で1ヵ月あたり136ドルまたは1日あたり4.53ドルに相当する。 同じ期間のデータによると、 平均的なBridgeファミ リーは1世帯あたり大人2.01人と子ども2.26人で構成される。 OECDの規模の経済性に関する等価尺度=1 + 0.7× (大人N人-1)+ 0.5×子どもN人=世帯人数の 調整計数は2.837。 家計の1日あたり所得/規模の経済性=4.53ドル/2.837となり、 Bridgeファミリーの生活費は1日あたり1.60ドルと推定される。http://www.oecd. org/statistics/OECD-ICWFramework- Chapter8.pdfを参照。 ただし、 ニューキャッスル大学のJames Tooleyが使用した簡単な計算式によると、 1人1日あたりの家計所得は1.25ドルとみられる。 8 IFC、New Horizons in African Finance、2016年、http://www.ifc.org/wps/wcm/connect/6c338c804c128a5e989abed8bd2c3114/New+Horizons- English-Web. pdf?MOD=AJPERESで入手可能。 9 DFID、Developing Effective Private Education Nigeria Annual Review 2014、https://devtracker.dfid.gov.uk/projects/GB-1-202678/documents 32 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | MicroEnsure 地域:アフリカとアジア 分野:保険 IFCの投融資額:220万ドル MicroEnsure 保険業界は長い間、世界の貧困層に保険を提供することが経済的な理由から困難である現実に悩まさ れてきました。貧困層向けの保険は全体で400億ドルの市場規模ですが1、貧困層は一般の保険加入者と 比べてリスクが高く、払える保険料はごく少額にすぎません。 この40億人の貧困層を顧客へと変え では、 るにはどうすればよいのでしょうか。いち企業であるMicroEnsureがその解決策を見いだしました。 MicroEnsureは、1日4ドル未満で生活しているアフリカとアジア MicroEnsureはマイクロローンや携帯電話の通話時間など、潜在 の低所得層を対象に、画期的な保険商品を開発しました。同社 顧客がすでに利用している商品と保険をセットにして販売してい はマイクロインシュアランス・ソリューションのプロバイダーであ ます。 り、一部の国々では代理店または仲介業者として潜在顧客が適 切な保険を選びたいと願うニーズに応え、また、保険契約毎に保 同社は現在、アフリカの10カ国を含む15カ国で事業を行ってい 2 険会社から手数料を受け取っています 。 ます。2008年に200万人だった顧客基盤は現在4,000万人以上に これまで支払った保険金は2,000万ドル以上に上 増加しており、 MicroEnsureはこれまで、生命保険、医療保険、傷害保険など、 ります。同社の販売ネットワークは、17社のモバイル通信事業者 200種類以上の保険を投入してきました(表1)。一般に低所得層 と90社のマイクロファイナンス機関に加え、農業関連のサプライ は保険に馴染みがないため、同社はモバイル通信事業者やマイ ヤー、診療所、非政府機関(NGO)、宗教団体、各種協会など、多種 クロファイナンス機関、そして低所得層から信頼されているその 多様なパートナーで構成されています。MicroEnsureには国際金 他の組織を通して保険を販売しています。 融公社(IFC)、世界的な保険会社AXA Group、インパクト投資家 のOmidyar Networkが資金提供しています。同社は英国に本社 33 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | MicroEnsure を置き、9カ国にオフィスを構えています。 第1に、ある国のマイクロインシュアランス市場の分析を行いま す。次に保険会社と再保険会社をリストアップし、顧客に保険を提 MicroEnsureは、2 0 0 2 年 に マ イクロファイナンス 機 関 の 供するリスクを共同で分担する仕組みをつくります。 Opportunity Internationalのプロジェクトの1つとして誕生しまし このプロジェク た。 トが順調に成長して2005年にMicro Insurance 第2に、顧客に保険商品を販売するため、流通パートナー(貧困層 (MIA) Agency という独立した非営利組織となり、さらに2008年に からの信頼が厚い企業や団体)を動員します。 営利目的の企業MicroEnsureとして再スタートを切りました。 第3に、保険会社と流通パートナーに対し、商品設計からマーケ 貧困層に保険を提供するための リスク選択、 ティング、 引受、保険料の設定にいたるまでの総合的 3つの重要な役割 な事務管理サービスを提供します。多くの場合、顧客からの保険 料徴収と保険金の支払いもMicroEnsureが保険会社の代わりに MicroEnsureは手頃な保険商品を開発/販売するため、保険業 行います。同社は顧客データの収集と分析も行って、新たな保険 界のバリューチェーン全体でパートナーシップを築いています。 商品の開発に役立てます。 同社はパートナーのニーズに柔軟に対応していますが、おおむね 3つの重要な役割を果たしています。 表1:MicroEnsureの保険商品 保険の種類 基本契約にセットされる保証オプション • 借り主のローン残高と利息を支払う • 借り主/銀行顧客とその家族に対し、一定額の葬儀費用を支払う 生命保険 • 基本保証については顧客に直接的な費用は発生しないが、 各月の携帯電話通話時間の購入額、または銀 行やマイクロファイナンス機関の貯蓄口座に預け入れている金額と連動する 医療保険 • 入院後、借り主のローン残高を全額または一部を保証する • 携帯電話の月々の通話時間の購入額に応じて、入院費用の一定額と入院1日あたりの費用の両方または 入院保険 一方を支払う 障害保険 • 病気や事故で身体障害者となったときに単純明快な基準に基づいて給付金を支給する • 雇用主の事業縮小等で余剰人員の解雇が実施された場合に、失業者のローン残高と金利または銀行預金 解雇保険 残高の一定倍率を支払う 政治的テロ・暴動保険 • 借り主の事業が大規模な被害を受けた場合にローン残高と金利を支払う 財産保険 • 火災や洪水、その他の大惨事による被害が発生した場合に、借り主のローン残高を支払う3 注: 保険料はさまざまな当事者によって支払われる。 保険料をローンに組み込み、借り主が先払い金として支払うことも可能。基本保証の場合、顧客の保険加入を後押しす るため、マイクロファイナンス機関や銀行、モバイル通信事業者が保険料を肩代わりすることもある。たとえば、基本保証額を携帯電話の通話時間購入額や貯蓄口座の 預金残高に連動させる。 34 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | MicroEnsure MicroEnsureのバリューチェーン 課題と解決策の概要 商品開発 販売 マーケティング・ 顧客サービス 営業 バリューチェーン • 主 流 の 保 険 商 品 は • 販 売 代 理 店 は 販 • 保険への理解が十 • 保険金の請求に膨 重 要 な ニ ーズ に 応 売コストを押し上 分でない 大な書類が必要で えていない げる ある • 保険会社に対して • 複 雑 な 契 約 条 件 は • 販 売 コ スト が 高 悪いイメージがある • 保険金の請求に長 低所得層の顧客に 理解しにくい いと保険料も高く い時間がかかる 保険を販売する なる • 貧困層に対する差 上での課題 別がある • 商品設計を民衆の • すでに大規模な流 • 口コミによるマ ー • 保険 金 請 求に必 要 ニーズと現地の実 通 ネットワークを ケティングと顧 客 な書類を簡素化する 情生活状況に合わ 持っているパ ート の体験談を通じて • 顧 客 に請 求 手 続き せる ナーと提携する 信用を築く の進め方を案内する MicroEnsureの • 契約条件を簡素化 • すでに信用と信頼 • 保険に対する理解 • 携 帯 電 話 の アプリ 解決策 する を築き上げた販売 を促すため、 誰に 経由で の 保 険 請 求 パートナーを選ぶ で も起こり得る出 • 革新的なアプロー を受け付ける 来事を保証する チで新たな商品を • 顧客の獲得に携帯 • 保 険 請 求 の 審 査を 設計する 電話を利用する • 顧客が通話時間の 迅速に処理する 購入や銀行預金と 連動した基本保証 • 携帯電話のeウォレッ を試せるようにする トを利用し、 銀行口 座を持 たない 顧 客 による支払いを促進 する 35 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | MicroEnsure 図2:MicroEnsureの沿革 Opportunity International 営利企業としてMicroEnsureを立ち上げる でマイクロインシュアランス を立ち上げる 移動体通信事業者を通じて規模を 拡大 IFCによる投融資 2002~ 2005~ 2008~ 2013~ 2004年 2007年 2012年 2016年 Gates財団の助成金 AXA Groupをはじめと する民間セクターによ 複数のMFI* パートナー る投融資 独立した非営利組織に移行 顧客数が4,000万人を超える *マイクロファイナンス機関 アイデアを事業に 後にMicroEnsureの最高経営責任者(CEO)となるLeftleyは、 2002年にはブローカーの仕事を辞め、マイクロレンダーである MicroEnsureのアイデアは、2001年にRichard Leftleyがにザンビ Opportunity Internationalに入社しました。Leftleyは1日数ドル アにボランティア旅行に出かけたときに生まれました。彼は当時 で生活する人々を対象とする保険の設計と、そうした保険商品の 29才で、ロンドンの再保険会社Benfield Greigでブローカー業務 訴求、大規模な販売に向けた費用対効果の高いモデルの追及に に携わっていました。 また、 着手しました。 商品化のために初年度10万ドルの事業予算 でマイクロインシュアランス・イニシアティブを立ち上げました。 Leftleyは、ザンビアで3ドルの入院費が払えずに我が子を失った 若い母親や家族の1人が死亡したことで貧困に陥った女性に出 会いました。また、マイクロローンは多くの女性による起業に貢 献していましたが、借り手の中には家族の死亡や病気、自然災害 MicroEnsureの事業は などの出来事が原因でローンを返済できず、結果的に債務と貧 困に追い込まれかねない人もいました。Leftleyは、保険がこうし 4年でザンビアから た多くの人々にセーフティネッ えました。 トを提供できるかもしれないと考 すでに保険市場に少数のマイクロインシュアランス商 フィ リピン、 ウガンダ、 ウガンダからヒントを得て 品が出回っていたインドやフィリピン、 マラウイ、 ガーナに いたのです。Leftleyは、 のギャップが、 これらの貧しい国々の保険の需要と供給 未開拓の巨大なビジネスチャンスだと考えました。 拡大し、 顧客数は 30万人に達している。 36 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | MicroEnsure Opportunity Internationalが保険商品をパイロット展開する ナンス(新株発行による自己資本調達)を利用して柔軟に事業 国としてザンビアを選んだ理由は、同国国民の健康状態が切迫 運営をしていく必要があります。人道支援団体は具体的な成果 した状況にあったからです。2002年当時、ザンビアでは4人に1 に結びつく明解なプロジェクトの支援を好むため、依存すべき 人がHIV/AIDSに感染し、平均余命は36歳でした。Opportunity ではありません。選択結果は言うまでもありません。同社は2008 Internationalは、ザンビアの保険会社ZSICと共同でマイクロロー 年にMIAの取締役会は同社の事業を継承する営利企業として ンとセットで販売できるCredit Lifeという保険商品を発売しまし MicroEnsure Holdings, Inc.の設立を決定しました。 これは、 た。 借り手がローン総額の1%に相当する額を先払いす れば、死亡した場合のローン残額を保険で賄えるという商品で MicroEnsureは2009年までに7カ国で合計30社を超えるマイク この保険は債務不履行に伴うOpportunity Internationalのリ す。 ロファイナンス機関や農村部の銀行、貯蓄貸付組合と提携し、顧 スクを抑制すると共に、借り手にとっては万一死亡した場合に家 この画期的な成功は保 客基盤を400万人に拡大していきました。 族に莫大な借金を背負わせなくて済むという安心感を与えまし 険市場全体に影響を与えました。たとえば、保険会社や保険市場 た。Opportunity Internationalは、1年以内にCredit Lifeに葬儀 に新規参入した他の保険仲介業者と提携するマイクロレンダー 費用(世帯所得の3~6カ月分に相当)を賄うための保険を追加し が増加したのです。 ました。 MicroEnsureが最初にターゲットとした潜在顧客層は、世界中の ザンビアでのパイロットプログラムは成功しました。Opportunity 約1億3,000万人のマイクロファイナンスの借り手 4でした。 しか Internationalは自らの顧客基盤を活用し、保険会社に代わって し、同社が長期にわたって手頃な保険商品を提供し続けるには、 このように比較的利幅の薄い市場で事 保険料を徴収することで、 そうした潜在顧客層だけでなく、1日4ドル未満で生活する40億 業を行う保険会社の業務負荷とコストを軽減しました。同社のマ 人の保険未加入者まで対象を広げることが必須である点にも気 イクロインシュアランス・イニシアティブは4年以内にザンビアか 付いていました 5。十分な規模のリスク・プールがないと、同社が らフィリピン、ウガンダ、マラウイ、ガーナに拡大し、顧客数は30 財務健全性を維持するために重要な条件である保険商品コスト 万人に達しました。同時に、Opportunity Internationalは障害や が下げ止まってしまいます。また、保険引受業務を行う上では堅 火災・自然災害による損害を保証する保険を追加しました。 実な規律が求められますが、保険に未加入で借金のない個人を 取り込むにはそれだけでは不十分であり、適切な販売チャネルを Opportunity Internationalは、さらなる拡大に向けて、2005年に 見つけることも欠かせませんでした。 (MIA) 非営利の子会社Micro Insurance Agency を設立し、Lefley がCEOに就任しました。MIAは、市場評価と商品設計から流通 MicroEnsureには、広い営業地域を持つ販売パートナー、低所得 チャネルの選択、バックオフィスのサポートにいたる包括的なプ 層の顧客が信頼する強力なブランド、アクセスしやすい販売拠 ロセスで保険会社を支援する商品を開発し、2007年までに11カ 点、必要なときに現金取引と支払いを簡単に行うための仕組み 国で20以上のマイクロファイナンス機関と提携しました。同年に も必要でした。さらに、保険を利用して事業拡大を狙う業務パー Bill & Melinda Gates財団から2,425万ドルの助成金を得たこと トナーも重要でした。そうしたパートナーはMicroEnsureと目的 が同社の急成長へとつながりました。 を共有し、双方にメリットのある関係を築けるからです。 目標設定:いかに40億人の人々に保険を 提供するか MIAは2008年に経営戦略の選択を迫られました。それは、小規 模な会社のままでいるのか、規模を拡大して数百万の潜在顧客 に保険を提供するのかという選択です。後者を選んだ場合、デッ ト・ファイナンス(債務による資金調達)およびエクイティ・ファイ 37 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | MicroEnsure マスマーケットに保険を提供 には、携帯電話を通じて頻繁にアクセスすることができます。費 用対効果も高く、保険商品のマーケティング、顧客の登録、保険 いくつかの理由から、MicroEnsureの有望なパートナーとして携 料の徴収、保険金の支払いに伴うコストを低減することができ 帯電話事業者が浮上しました。低所得層の顧客が公共料金の支 ます。モバイル通信事業者は、顧客と対面でやりとりするための 払いや家族への送金、通話時間の再充てんモバイル金融サービ 大規模な代理店ネットワークもあります。貧困層にはモバイル・ スを利用する頻度は増えており、携帯電話で提供される商品のリ サービス・プロバイダーを最も信頼する傾向があることが最も ストに保険商品が加わるのは自然な成り行きでした。 重要な点です。 MicroEnsureはさらに、携帯電話事業者が加入者のロイヤリティ 2009年、MicroEnsureは携帯電話加入者に、一定額の生命保険 を高める1つの手段として保険を利用できると確信しました。多く または医療保険を無償提供する革新的な「フリーミアム」商品を の新興国の携帯電話加入者はさまざまなプロバイダーが発行す 開発しました。加入者が各月に購入した総通話時間に基づいて る加入者識別モジュール(SIM)カードを複数枚(2~4枚)保有し、 保険料を決定し、顧客にテキスト・メッセージで通知するという 通話料/メッセージ送信料の違いを利用してお金を節約してい ものです。保障対象は加入者本人と加入者が指定した家族1人 ます。移動体通信事業者は通話時間に基本的な保険をセット販 です。携帯電話事業者は、基本保障を提供してもらう代わりに、 売することで競合他社との差別化を図ることができます。 MicroEnsureと現地の引受業者に手数料を支払います。加入後 顧客はわずか月額1ドルで有料保障にアップグレード 6カ月経つと、 発展途上国では携帯電話が広く普及しており、モバイル通信事 することができます。 業者にとっては、遠く離れた農村部の数多くの顧客を含めて数 百万人の契約顧客にアクセスできるという利点があります。顧客 現地の実情に即して設計する シンプルな契約内容にする 低所得層の顧客は多様であるため、個々のニー 保険契約で何が保証され何が保証されないかを ズに合わせて保険商品を設計しなくてはなりま 明確にし、免責事項を最小限に抑え、契約条件を せん。顧客がリスクに対処するため必要として 理解しやすくすることが重要です。また、免責 いるのは何かを理解するには、保険商品 期間、年齢制限、保険請求書類の種類と を役員室で設計するのではなく、潜在 数に関する制限も撤廃すべきです。 的な顧客と直接会って話を聞くこと 商品設計における が大切です。 MicroEnsureの 常識にとらわれない発想 原則 低所得層の顧客が直面する広範な 可能性の高い出来事をカバー リスクに対応するためには、創造性 する 豊かなソリューションが必要です(p.41 低所得層の人々は、 保険なしで済むのなら、 それ のモバイル保険「Three for Free 」を参照)。 と考えます。 に越したことはない、 保険会 このため、 つまり事故保険 社は顧客のニーズに沿った商品、 のように実際に請求が発生する可能性が高い商 品の設計に重点的に取り組む必要があります。 38 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | MicroEnsure 医療保険と預金にフリーミアム商品を付帯 M i c r o E n s u r eと世 界 的 な 通 信 会 社 M i l l i c o m の 子 会 社 T i g o Ghanaは2010年に最初の「フリーミアム」保険商品を立ち上げ、 医療フリーミアム:MicroEnsureはケニアでAirtelおよび MicroEnsureはその商品化で中心的な役割を果たしました。 Pan Africa Life Assuranceと協力し、Airtelの顧客に入院 MicroEnsureは有料保険の選択肢についてもテストを行い、顧客 保証を提供しています。月々の通話料金が約2.40ドルの が保障内容の拡充に月額0.5~1.5ドルまでなら支払う意欲があ 場合、顧客は入院保険金として9.60ドル、生命保険/傷 ることに気づきました。Tigoとのパートナーシップはすぐにタン 害保険金として96ドルを受け取ります。通話料が多いほ ザニアとセネガルに拡大され、顧客数は14カ月で100万人に達し ど保険金が増額され、通話利用時間に応じて、入院保険 ました。 金の最高額は48ドル、生命保険と傷害保険金の最高額 は960ドルです。 民間投資家の参画を募る 貯蓄フリーミアム:MicroEnsureは、お金を絨毯の下に隠 MicroEnsureは、成長の課程で重大な局面に直面するたびに、強 す代わりに貯蓄口座を開設するよう顧客に奨励するた 力で多彩な顔ぶれの複数の投資家グループから入れ替わり立ち め、Barclaysなどの銀行やWomen’s World Bankingなど 替わり支援を受けてきました。MIAが短期間で10カ国に進出し、 のマイクロファイナンス機関と提携しました。金融機関が 加入者数を2008~2012年の間に200万人から1,500万人に増や 顧客の保険料の支払いを肩代わりし、それにより顧客が した背景には、 この助成 Gates財団からの助成金がありました。 貯蓄口座の残高に応じた保険金額の生命保険に加入で 金により、同社は、民間投資家の興味を引くに十分な規模に到達 きるようにするというものです。ガーナで食料品を売る しました。 Mary Nkenshenの場合、死亡した夫が114ドルを預金し ていたため、329ドルが支払われました。他には、顧客の MicroEnsureは2012年半ばまでに、より柔軟に短期間でさまざ 死亡や障害時に貯蓄口座残高の5倍の定額保険金が支 まな販売アプローチを試し商品を開発するため、エクイティ・ 払われる商品もあります。 ファイナンスの実施を決断しました。同社の設立当初からの大 株主であるOpportunity Internationalはその必要性を認め、 これによ 株式を売却して少数株主にとどまることを決めました。 り、MicroEnsureは新たな投資家の参画を募ることが可能にな り、2013年にはIFC、Omidyar Network、MicroEnsureの経営者 の一部が株主になりました。IFCは220万ドルの投資を実行し、 MicroEnsureがよりビジネス志向の投資家の参画を募り、財務的 に持続可能な営利法人に移行するのに寄与しました。IFCが保険 仲介業者に直接投資したのはこれが初めてであり、マイクロイン シュアランス市場における革新的アプローチの支援が有望な投 資の機会であることを示す事例となりました。 39 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | MicroEnsure MicroEnsureは、投資家として金融機関だけでなく、膨大な顧客 シンプルであることに価値がある を抱えるモバイル通信事業者も呼び込みたいと考えていました。 2013年にはノルウェーの多国籍通信企業Telenor Groupが戦略 MicroEnsureは、低所得層の顧客は日常生活でリスクを 的パートナーとなり、300万人以上の携帯電話加入者に保険を提 経験しているものの、保険の潜在的なメリットについて ジョイント 供するため、 ・ベンチャーとしてMicroEnsure Asiaを設立 こうした状況を は馴染みがないことに気がつきました。 しました。資本注入を得たMicroEnsureは15カ国に拡大しました。 改善するため、同社は口コミを利用して潜在顧客に周 知させようとしました。さらに、商品への認知度向上を 流通コストを引き下げる 目的とした公共のイベントで保険金支払いの実演をし たり、顧客の体験談をまとめた冊子を発行したり、保険 保険料が安いため、すべての当事者が十分な収益を得るには流 金の迅速な支払いを行うことで、保険に対する一般的 通コストを最小限に抑える必要がありました。MicroEnsureはモ な不安や疑念を和らげる取り組みを行いました。 バイル通信事業者とのパートナーシップの拡大に伴い、代理店 を必要とする高コストな事業モデルでなく、顧客自身が自分で保 同社は携帯電話による加入手続きを簡素化するため、 険加入手続きを行うことができ、携帯電話で保険料を支払える低 登録手順を数ステップに絞りました。携帯電話事業者の コストの事業モデルを選択しました。前者のモデルを選択した場 顧客は通話時間を再充てんすることで自動的に保障を 合、通信事業者が代理店に登録手数料を支払うことになり、代理 受けることができますが、電話機のドロップダウン・メ 店はコスト効率を高めるために大量の顧客を短期間で登録する ニューの操作、音声応答システムやコールセンターで申 必要が生じます。 し込んで保険金額を上乗せすることも可能です。 さらには、Tigo Ghanaでのケースから、顧客はまず保険商品その ものの価値と通信業者のブランド価値を購入の基準としており、 商品を説明する店員がいるかどうかは関係がないことが分かり ました。さらに、貧困層はリスクが生活を破綻させるおそれがあ る点にも十分理解していることも分かりました。そこで同社は、代 理店による顧客教育と加入登録の仕組みにコストをかけるので はなく、保障内容を充実させて幅広いリスクをカバーすることを この戦略には、 選択しました。 生命保険、傷害保険、入院保険を組 み合わせたもう1つの「フリーミアム」 「Three for Free」 商品である (3つの保険を無料で提供)が含まれ、モバイル通信事業者の加 入者獲得とそのつなぎとめに役立ちました。 40 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | MicroEnsure 危機を乗り越え未来を見据える モバイル保険 (3つの保険を無料で 「THREE FOR FREE」 提供) 危機的状況に陥った貧困層の顧客は、差し迫ったニーズに対 応するため、すぐにお金が入用になる場合があります。そこで ガーナでは葬儀に多額の費用がかかります。Cornelius MicroEnsureは、72時間のターンアラウンド・タイム(受付から支 その葬儀には国中から Tettehの父親は牧師だったため、 払いまでの時間)で保険金を請求処理できるようにしました。保 数百人が弔問に訪れることが予想されました。Tettehに 険金の請求で否定的なクレームをした顧客は保険契約をすべて は葬儀に支払うお金をほとんど持ち合わせていませんで 解約する傾向が強いことが分かり、そうしたことが起きないよう、 したが、幸いにも父親がMicroEnsureのパートナーであ いくつかの対策を講じました。 (アフリカとアジアで事業を展開する通信サービ るAirtel を通じて、 ス大手) 携帯電話とセット販売された生命保険 • 顧客サポート:保険金請求者が請求に必要な書類をすぐに見 に加入していました。 つけられないことが理由で処理が遅れることがありました。 こうした請求者をサポートすることで同社商品 MicroEnsureは、 Airtelの加入者は、MicroEnsureが設計した生命保険や への理解度をぐっと高められると考え、請求書類を提出した顧 傷害保険、入院保険に加入する資格を月々の通話時間に 客に連絡を取るためのコールセンターを設立しました。並行し 応じて得ることができます。 保険に対する顧客の意識を高め、 て、 不正行為を減らしました。 Tettehは、父親の携帯電話に送られてきたテキスト・メッ • 簡単な書類でも受理する:新興国の多くの遠隔地域では、保険 この保険を知りました。 セージを見て、 最近親者である 金請求に必要な公的書類を入手するのが困難か、不可能なこ Tettehは、父親の死を弔うには十分な額である725ドル こうした場合、 とさえあります。 MicroEnsureは請求者の身元を 「葬儀費用が非常に高 相当の保険金を受け取りました。 確認する代替手段を構築しました。たとえばケニアでは通常、 とTettehは述 いガーナでAirtelの保険が役に立ちます」 生命保険の請求に政府が発行する死亡証明書が必要でした。 べました。 遠隔地ではこの書類を入手が困難であったため、MicroEnsure 出典 :MicroEnsure、 “Cornelius Tetteh’s Story”、http://www. microensure. は葬儀を司る導師や牧師が書いた死亡通知書でも受付できる com/clientimpact-stories.asp?id=309&start=0 ようにしました。 • 携帯電話のeウォレットで保険金を簡単に支払えるようにする: モバイル決済により、銀行口座を持たない顧客や銀行が近く にない顧客が保険金の支払いを携帯電話で受けられるように なりました。支払われた保険金は、地元のモバイル・マネー代 スのグループ企業Sanlam Emerging Marketsも投資しました。両 理店を通してすぐに現金化できます。 社は重要な保険引受能力とスキルを提供し、MicroEnsureの持 続的な事業拡大をサポートしました。 MicroEnsure以外の保険仲介業者が携帯電話事業者との提携を 進めるにつれて「フリーミアム」商品の当初の伸びが鈍化したの 2016年初め、MicroEnsureはIFCを含む既存の投資家から追加で に伴い、MicroEnsureには新たな成長機会を追求するための追 これに伴い、 1,500万ドルの資金を集めました。 AXA Groupが筆 加資金が必要となりました。2014年には既存の投資家が1,040万 頭株主になりました。 ドルの資金を提供したほか、59カ国で事業展開しているフラン スの大手保険会社AXA Groupも株主になり、さらに金融サービ 41 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | MicroEnsure 学び続ける IFCにおけるインクルーシブ・ビジネスに関する MicroEnsureは10年足らずの間にマイクロファイナンス機関内部 詳しい情報は のイニシアチブから数百万人の顧客を抱える営利企業に成長し www.ifc.org/inclusivebusiness 「失敗は早いうちに」 ました。 、つまり、 うまくいかな 継続的に学び、 をご参照く ださい。 い戦略を素早く修正することで、同社が対象とした低所得層の顧 客ニーズに敏感に対応し、適応し続けることができました。 貧困層の多くが保険を重要視しておらず、保険料を払おうとしな かったため、MicroEnsureは貧困層にとってより受け入れやすく 魅力的な保険にしようと、さまざまな方法を考案しました。 この取り組みにはパートナーが必要不可欠でした。マイクロファ イナンス機関は、ローンの借り主に対する保険を低い手数料で 組み込むことにより、ローン破産で債務不履行となるリスクを低 下させました。携帯電話事業者は集客と顧客ロイヤルティ強化の インセンティブとして、基本的な保険の保険料を支払いました。 MicroEnsureは、ひとたび貧困層がコストのほとんど(あるいは まったく)かからない保険のメリットを経験すれば、保障範囲を拡 大するために喜んで少額の保険料を支払ってくれることを見いだ しました。 MicroEnsureは貧困層への保険の提供で大きな実績を上げまし たが、今でも保険の概念を覆すための努力を続けています。同社 これまでと同様のアプローチ が次のステージに到達する際には、 でビジネスモデルにいっそう磨きをかけていくことでしょう。 注 1 数字は保険料に基づいている。Swiss Re、2010年、“Microinsurance—Risk Protection for 4 Billion People”、2010年. 2 他の収入源はバックオフィスのサポートとコンサルティング料。 3 MicroEnsureは、マイクロファイナンス機関と小規模企業の借り主を対象に、事業所に対する財産保険を提供している。借り主は、市場で露店やキオスクを経営する 小売業者と露天商、 さまざまな商品を売る家族経営の店舗、小規模な自動車修理店などのサービス業者である。 4 IFC、2015年Microfinance、http://www.ifc.org/wps/wcm/connect/Industry_EXT_Content/IFC_External_Corporate_Site/Industries/Financial+Markets/ MSME+Finance/Microfinance/。 5 世界銀行の統計によると、1日4ドル未満で生活している人々は40億人存在し、 そのうち1日2ドル未満で生活している人は26億人とされている (ドル換算値は2005 年の国際購買力平価に基づく )。出典:Swiss Re、2010年、“Microinsurance—Risk Protection for 4 Billion People.” 2010。 42 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | NephroPlus 国:インド 分野:ヘルスケア NephroPlus IFCの投融資額:1,000万ドル 慢性腎臓病(CKD)は腎臓の機能が徐々に失われる病気で、1,200万人近くのインド人が罹患 し (りかん) ています¹。腎不全を発症すると、患者は生きるために腎臓移植を受けるか透析治療を毎週受けなければ なりません。治療を受けなければ、長くても数カ月しか生きることができません。 透析需要の伸びは、 インドでは31%に達し 全世界では8%ですが、 ら生きる人々にとって透析が重要な選択肢となっています。 ています2。インドでCKDとその治療法への認識が高まっているこ とに加え、糖尿病や高血圧の罹患率が高いことが、透析需要が急 ところが透析プロバイダーはサービスの拡大に消極的です。業界 速に伸びている理由です。 の利益率が低く、診療所ではなかなか収益を上げられないからで 透析が重要であるにも関わらず、毎年新たにCKDと診断される23 す。設備の配備や組織構造に起因することの多い業界全体の運営 万人のインド人の90%以上が治療を受けられずに1カ月以内に死 コストを高止まりさせています。 の効率性の低さが、 訓練を受けた 亡しています3。透析サービスを受けられる地域は限られており、ほ 腎臓専門医や看護師、技術スタッフの不足も、透析サービスの拡 とんど大都市に集中しています。 大の足かせとなっています。厳しい利益率のせいで業者が値下げ また、料金が高く頻繁な治療が必要であることから、透析は多くの に消極的であることから、低所得層の患者に透析サービスを提供 患者にとって金銭的な負担が重く、手が届かない患者もいます。腎 これらのすべてが透析市場への新規参 するのはさらに困難です。 臓移植すれば完全に解決しますが、厳しい規制、低い腎臓提供率、 入を妨げる要因となって、透析サービスの需要と供給の格差を拡 貧弱な国内インフラのせいで利用できる機会はごく限られていま 大しています。 す。さらに腎臓移植は失敗の可能性もあるため、CKDを患いなが 43 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | NephroPlus 透析の仕組み 透 析 サービスをネットワーク展 開 するN e p h r o C a r e H e a l t h (NephroPlus) Services Private Limited は、業界全体を変革する 腎臓には不要物や余分な水分を体内 という目標を掲げ、2010年にインドの透析市場に参入しました。 から取り除くという重要な役割があります。 同社は血液透析、腹膜透析、腎臓移植サービスなど、腎不全の患 透析は、透析装置と呼ばれる外部フィルターを使って血 者が豊かな人生を送るために必要なすべての医療サービスを提 液を患者の体外で循環させ、人工的な腎臓として働き 供しています。同社はこれらのサービスを提供するため、高品質 ます。NephroPlusの患者のほとんどは、長時間を要す で安価な透析サービスを提供する低コストのセンターの設計、建 る血液透析を受けています。 設、運営を行っています。センターは病院との提携によって設立さ 血液透析の患者は週2~3回診療所に通い、1回に4時間 れる場合と、独立した施設として設立される場合とがあります。 程度の治療を受けます。移植を受ける機会がない腎不 全患者は一生を通じて透析が必要です。 同社の1回の治療料金は約25ドルで、インドの大病院より30~ 40%安価で、中には最大50%安い場合もあります。同社は現在 インド最大の透析サービス提供ネットワークであり、国内15州の 50都市で75のセンターを有しています。センターは大都市だけ でなく、透析サービスが不十分な小都市にもあります。同社の小 都市の透析センターがなければ、患者は、透析を受けるために最 大100キロメートルの距離を通院しなければなりません。同社は 2015年に6,000人を超える患者にサービスを提供し、現在は毎月 クノロジー企業やソーシャル企業の起業家としての経験を持つ 約5万件の透析治療を行っています。 Gudibandaはチームの貴重な人材となりました。 3人はNephroPlusを2010年に設立しました。 会社設立に至る個人的経緯 3人の共同設立者は、腎臓専門医や透析スタッフと多くの患者へ 1997年、当時21歳だったKamal Shahは腎臓病と診断され、透析 のヒアリングを通じ、NephroPlusがヘルスケアセクターに大きな を受けました。Shahはソフトウェア開発者であり、Apple向けアプ 影響を与え、根本的な変革をもたらすことのできる分野としてい リ開発企業の共同創立者でもあります。 くつかの領域を見いだしました。それには、1)腎臓透析の質を改 1年半後、Shahが受けた腎臓移植手術は失敗し、再び透析を受け 善する、2)特にサービスの不十分な地域における透析への需要 るようになりました。Shahは長年にわたって腹膜透析を受けてお と供給の格差を縮小する、3)他の透析プロバイダーが直面して 4 り、 とこ そのおかげで仕事への支障は最小限で済んでいました 。 いる運営・財務上の課題を克服するセンター・モデルを構築する ろが2004年に津波に巻き込まれて重い感染症を患ってしまい、毎 ことが含まれていました。 晩自宅で血液透析を受ける治療に切り替えざるを得なくなりまし た。Shahはそれから数年後、腎臓病を抱える人が充実した人生を 送ることができるよう励ますためブログを始めました。 米国のMcKinsey & Companyでヘルスケアサービス戦略コン サルタントとして勤務していたVikram Vuppalaは、インドのヘ ルスケアセクターを改善する機会を探っていた頃にShahのブロ グを見つけました。VuppalaはShahに連絡を取り、透析サービス を提供する新会社のアイデアを提案しました。その後まもなく、 VuppalaはSandeep Gudibandaを取締役に迎えました。新興テ 44 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | NephroPlus NephroPlusのバリューチェーン 課題と解決策の概要 調達 商品とサービス 流通 マーケティング の開発 と営業 バリューチェーン • 高価な機器と消耗品 • 透析の価格 • サービス拡大を抑 • 腎臓病とその治療 制する人材不足 における選択肢の • 公立病院における機 • 低 品 質 な サ ー ビ 認知度不足 器の非効率な配置 スの提供 • 看護師の非効率な 利用 透析業界の課題 • 大都市以外での透 析サービスの不足 • センターにおける • 運営コスト削減に • 透析業界に資する • 予防治療に注力 機器の配置に需要 よる料金引き下げ 高度なスキルを持 • 腎臓病とその治療 ベースのアプロー つ人材を育成 • 公的保険の活用 の認知度を高める チを使用 • 拡大を可能にする ための地域イベン • 厳格な治療手順の NephroPlusの • 大量調達 実行 合理的な人員構成 トを開催 解決策 • 患 者 中 心 の ア プ を実現 • 小都市でセンター ローチを使用 を設立 45 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | NephroPlus 治療の質と患者の体験に変革をもたらす インドの透析業界は、患者の精神的な健康への配慮などの患者 NephroPlusが最初のセンターを設立した当時、インドの透析 ケアについても遅れていました。 うつ、 偏見、 透析が患者の職業生 サービスの質は、主に不十分な規制や非効率な運営のせいで、全 活に及ぼす影響などの課題に対処するため、多くの国でカウンセ 体的に低い状況にありました。診察手順や感染症の治療手順が リングや食事支援サービスが利用されています。一方、インドの ずさんであったため、交差感染(患者間の感染)の発生率が高く、 透析プロバイダーの大半は、治療の責務範囲にこうした点を考慮 透析を受けた患者の3分の1以上がC型肝炎、B型肝炎、HIVなどの していません。 5 慢性ウイルス性疾患にかかるリスクにさらされていました 。交差 感染は、感染者の血液が非感染者の血液に接触したときに発生し Shahは長期にわたる治療を経て、透析患者がより普通に生活で ます。 きるようにするためには、透析サービスを段階的に変えていくこ とが有効だと考えていました。NephroPlusは、すべての患者は客 NephroPlusは、透析産業に望ましい改善をもたらすためには、自 人(ゲスト) として扱われるべきだという治療理念(「ゲストケア」) らがロールモデルになる必要があると考えていました。そこで、最 を確立しました。 終的にすべての透析プロバイダーの品質基準を引き上げるよう この理念の実践は、安全で痛みを伴わない快適な透析の実現に なプロセスを見いだし、同社のセンターで実施することに注力し つながりました。家族に依存しなくてもよいように送迎サービス ました。たとえば、きわめて衛生的な診察を行なえば、交差感染の を追加し、食事カウンセリング・グループと患者支援グループがメ しかし、 リスクを大きく減らせる可能性があります。 通常は透析プ ンタルヘルスの推進役となりました。 ロバイダーが必要な予防措置を取ることはなく、さらに業界規制 がないため、過失があっても責任を問われることはありませんで した。NephroPlusは交差感染を撲滅するため、国際的な腎臓専 門医と協力し、同社のすべてのセンターに標準化された診察手順 を導入しました。 56段階のプロセス NephroPlus透析指標 透析中に感染源と考えられる要素を特定 この指標を用いることにより、毎月記録し し除去する。 た患者の転帰(アウトカム)を患者間 このプロセス(特許出願中)は同社 交差感染の やセンター間で比較することが可能 のすべてのセンターのスタッフに 減少に向けた この指標は透析成果の測定 になる。 よって実行される。 NephroPlusの 手段として多くの国で使用されてい 施策 「良好透析指標」 る をモデルとしてお 感染のない採血キット り、インドの透析市場に合わせてカス 交差感染リスクを減らすため、患者ごとに異 タマイズされている。 なる透析器具の使用を徹底する。 46 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | NephroPlus 低コストを維持 NephroPlusのもう1つの優先事項は、損益を黒字にしてそれを維 これは運営の非効率性に悩むインドの透析プ 持することでした。 ロバイダーの長年の課題でした。NephroPlusは設立当初からいく つかの手段を用いて運営コストを低く抑えてきました。 必要最小限の人員配置  インドの多くの病院では 通常、データ入力や機械操作などの技能レベルの 低い非医療業務を含め、すべての業務に看護師を 使っていました。NephroPlusは、付加価値が中程度 の業務を担当する透析セラピストや、付加価値の低い業務を担当 する透析アシスタントなど、新たな職務分類を設けることにしまし これにより、 た。 看護師を治療や合併症関連業務などの付加価値 が非常に高い業務に従事させ、1カ所の診療所の運営に必要な職 員の数を減らすことができました。同時に、同社は技能・訓練レベ ルに応じて細分化された賃金表を適用することで、全体的な人件 費を削減しました。 バーチャル・モニタリング NephroPlusは中央管理 方式の患者モニタリング・システムを導入し、本社 の医療スタッフがサービスセンターの患者を専用 モニターの画面で観察できるようにしました。さらに 以上の方策はNephroPlusの低コスト・サービスセンター・モデル 同社は、オンライン・ポータルサイトを開設して、患者のデータを の重要な構成要素となりました。NephroPlusはこのモデルをイン 収集してバーチャルなモニタリングをサポートできる体制を整え ド全域で展開しました。 ました。治療を受けるたびに、患者の病歴や体重、血圧といった治 療データがポータルサイトに入力されます。たとえば、ヘモグロビ NephroPlusは創業に際し、Vuppalaの個人預金とエンジェル投資 ンの数値が低い患者に投薬するかどうか判断が必要な場合、現 家から20万ドルを調達し、当初2年間で3カ所のセンターを設立し 場の職員が専門家に連絡を取ることができます。専門家はすぐに ました。最初の診療所はベッド5床、従業員10人の小規模な施設 ポータルサイト上の患者データにアクセスし、医療に関する助言 で、2010年に南インドのTelangana州のHyderabadで開業しまし を行うことができます。 た。同じ年、投資家から40万ドルの追加出資を受けてHyderabad で2つ目の診療所を開業しました。翌年には、Hyderabadから約 需要ベースの大量調達  NephroPlusは消耗品や 100キロメートル離れた小都市の医科大学に3つ目の診療所を設 機器を大量購入することにより、大規模民間病院 立しました。 よりも15~20%低い価格での交渉が可能になりま した。また、経営情報システムによって、各センター の職員が消耗品や機器を共同で使用し、使用状況を確認すること が可能になりました。これにより資源の配分が最適化され、無駄 がなくなりました。 47 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | NephroPlus 透析をより手の届きやすいものに パートナーの利害を一致させる NephroPlusはより多くの低所得層の人々にサービスを提供する NephroPlusは民間病院との間で、病院 ため、サービスセンターの数を増やすと共に、透析サービスの利 専用のセンターを対象とした収益分配契 用料金を引き下げる必要がありました。透析の市場価格は平均で 約を締結しました。これは、同社が患者に請求し、提携 1カ月あたり2万インドルピー と貧困層には高額でし (約310ドル) 先の病院と収益を分け合うというものです。同社はさら た。同社の低コスト・モデルにより、市場価格より30~40%低い料 に、各センターの指導的立場にある腎臓専門医と協力 ところが大幅 金でサービスを提供することが可能になりました。 関係を構築し、先行投資の一部を出資してもらうことに な料金引き下げにも関わらず、貧困層の人々は、治療費を支払う しました。これらの取り決めは、各センターのステーク のは難しいと考えていました。 ホルダーのの利害を一致させ、ステークホルダーのの 多様化を伴う拡大戦略を一貫して推進する役割を果た NephroPlusは透析サービスを貧困層にとって利用しやすいもの しました。 にするため、別の方法を考えなければなりませんでした。そこで 同社はセンターの政府登録を開始し、患者が公的保険を利用して 支払えるようにしました。インド政府による公的保険は2種類あり、 1つは1カ月あたりの所得が230ドル以下の労働者を対象とする (ESI) Employees’ State Insurance 、もう1つは所得が貧困ライン を下回る個人を対象とするホワイトカード保険プランです6。ホワ イトカード保険プランの利用者は治療費の自己負担が不要となる ため、NephroPlusは低い価格帯の支払いさえできない人にも透 析を提供できるようになりました。2015年の時点では、同社の患 者の約25%が治療費の支払いに公的保険を利用しています7。 それでも多くの貧しいインド人は、治療費の自己負担がなくても、 通院に伴う交通費や機会費用を理由に治療を受けようとしませ んでした。そこでNephroPlusは、公的保険を利用する患者がさら に治療を受けやすくするため、交通費の補助をはじめとする別の 施策を導入しました。 病院内設置型センターへの移行 NephroPlusの初期のセンターは独立した施設として設立され、 患者にとっての透析を「病気」から日常生活の一部に変化させて NephroPlusのセンターは2011年末までに5カ所に増え、年間 きました。一方、腎臓専門医と患者は、治療中に問題が発生した 約1万件の腎臓透析治療を提供するようになりました。さらに、 場合に備えて、センターと病院の距離が近い方が望ましいと考え Bessemer Venture Partnersから425万ドルの投資を確保しまし ていました。同社はこの要望に対応するため、センターの展開戦 た。同社は世界の企業/消費者/ヘルスケアセクターのテクノロ 略を転換し、民間病院の中に と呼ばれる診療所 「専用センター」 ジー開発を手掛ける新興企業に投資するベンチャー・キャピタル を設置することにしました。それには、同社が既存の透析病棟の です。 管理を引き受けるか、透析サービスの拡大を図る病院の中に新 たなセンターを建設するか、いずれかの方法が選ばれました。 48 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | NephroPlus NephroPlusは低所得層のより多くの患者に透析サービスを提供 するため、公立病院への透析センター設置を目的とした政府契 約の入札にも参加しました。2015年当時、同社は南インドで4カ NephroPlusは市場価格 所の公立病院内透析センターを運営しており、 これらのセンター より30~40%低い料金 では約500人の患者が自己負担をすることなく治療を受けていま した。2016年に実施された調査では、NephroPlusの患者の67% でサービスを提供。 同社 が経済ピラミッドの下層部に属すると考えられることが分かりま した。同社は独立型のセンターの設立も継続しましたが、 これは の患者の3分の2は経済 補助的な戦略にとどまっています。 ピラミッドの下層部に属 専門技能不足に対処 している。 2012年、NephroPlusは技師や看護師向けの透析訓練機関であ Enpidiaは、透析に関する実務能力の訓練、患者ケアを行う上で この訓練機関は、 るEnpidiaをHyderabadに設立しました。 治療 のエチケット、英会話を教える2年間のプログラムを提供してお 手順や技術的なノウハウ、同社固有の理念である「ゲストケア」 り、米国の透析従事者認証機関であるBONENTに登録された などにおけるNephroPlusのベストプラクティスに則して標準化 インドで唯一の訓練機関となっています。Enpidiaの卒業生は された訓練を行っています。NephroPlusが買収した病院内セン NephroPlusのセンターとその他の施設で勤務することができま ターの従業員も訓練の対象となったため、すべての職員の間で す。2015年時点では、BONENTの認定を受けたインドにおける透 ベストプラクティスを実践する準備が整いました。Enpidiaを設立 析従事者の60~70%がNephroPlusで勤務しています。 した目的は、同社が拡大に着手する以前に、インド透析業界の専 門技能者不足に対処しておくことにありました。 図2:NephroPlusの主な沿革 NephroPlus設立 5カ所のセンターで 23カ所のセンターで 1万件の透析を実施 9万件の透析を実施 2013~ 2015~ 2010年 2011年 2012年 2014年 2016年 初めての公立病院内 センターを設置 Hyderabadで 75カ所のセンターで 最初のセンターが開業 Enpidiaを設立 30万件の透析を実施 49 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | NephroPlus 治療の質と患者ケアへのコミットメント 全国展開 NephroPlusは進化する国際的なベストプラクティスに NephroPlusは南インドで開業しましたが、インド国内の他の地 立ち遅れないように、同社の手法を適合させることに力 域にも業務を徐々に拡大したいと考えていました。それが現実に を注いでいます。たとえば最近導入された監査メカニ なったのは2013年で、インドの北部と西部で初となるセンターを ズムにより、すべての施設で品質基準が満たされるよう 開設し2013年に23カ所だった施設数は2014年に40カ所に増え になる見込みです。 ました。同社の成功は他の複数透析企業の設立につながり、健全 なエコシステムの形成が促進されました。 テクノロジー:最先端のテクノロジーと設 備 へ の 投 資 は 患 者 モ ニタリング 能 力 NephroPlusの業務拡大は新たな投資家の関心を引き、同社は の改善を可能にし、高い医療水準を維 2014年に1,000万ドルの資金を調達しました。内訳は国際金融公 持しています。たとえば同社のセンター 社(IFC)からの700万ドル、Bessemer Venture Partnersからの追 は、透析中に水質の監視を強化するReverse Osmosis 加資金300万ドルです。IFCにとって、南アジアのヘルスケアセク (逆浸透膜遠隔監視システ Remote Monitoring System ターへのベンチャー・キャピタル投資は初めてであり、2億5,000 ム) またセンターは、 を使用しています。 患者が透析をう (アーリー 万ドルを有するIFCのEarly Stage Investment Program けるたびに同じ位置に透析用注射針を刺す「ボタン穴」 ステージ投資プログラム)からの最初の投資となりました。IFCは このテクニックは治療 のテクニックを使用しています。 長期投資家であり、将来の成長段階を通じてNephroPlusを支援 中の痛みを90~95%減少すると推定されています。 することが可能です。同社への投資は、世界全体とインドにおけ このIFCの戦略は、 る広範なヘルスケアセクター戦略の一環です。 患 者 調 査:サ ー ビス の 質 に 関 するもう アクセスしやすく手ごろな料金で利用できるヘルスケア施設の開 1 つ の 管 理 の 対 象 はゲストケアで す。 発への障害を乗り越えることが目的です。 NephroPlusはゲストケアを卓越したも 「苦痛点」 のとするため、 を抽出する調査を NephroPlusは成長を遂げるにつれて、全国展開に向けた都市選 行い、患者から定期的なフィードバックを得ようとして 定アプローチを見直しました。同社はまず、さまざまな地域で透 います。たとえば、治療中は退屈だという患者の不満に 析の需要と供給を調査し、必要性のレベルを評価し、さらに選択 こたえ、センターにテレビとインターネット接続を導入 した都市で提携のアプローチ先となる主要な病院と腎臓専門医 しました。職業を持つ患者はインターネット接続を利用 を特定しました。 して治療中に仕事をすることもできます。また、夜間に 透析を受けるか仕事の前後に毎日短時間の透析を受け NephroPlusの全国展開では提携先の病院が重要な役割を果た どのセンターで透析を受けるかも患者 るかを選択でき、 しました。病院との提携を通じて設立されたセンターは2015年時 が選ぶことができます。 点で52カ所に上り、 こうし 同社は効率化と使命の達成に向けて、 た提携関係の活用に力を入れました。たとえば同社は2015年末、 病院内のサービスに腹膜透析や腎臓移植を加えました。 よ また、 り多くの人々と潜在的な患者層の認知度を高めるため、提携病院 と共同で地域イベントを開催しました。 50 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | NephroPlus 市民の認知度を向上 業界における変革を主導 「ゲストケア」 患者同士の明るいコミュニティーの形成は、 に向け 「インドの透析のあり方を変える」 NephroPlusの使命は、 という たNephroPlusの包括的アプローチの基本です。郊外や農村部の 熱意によって、自社の治療センターの壁を越えています。標準化 人々の間で慢性的な腎臓病や治療の選択肢に対する認知度が された固有のプロセス、交差感染を防ぐ特許出願中の技術革 低いことから、教育プログラムを開発したり、地域イベントを継続 新、スタッフの認証と専門技術は、透析業界の規範となっており、 的に開催したりしています。いくつかのイベントでは実務的なサ Enpidiaは高度な技術を備えた認定専門職を養成することで業 ポートを行っています。たとえばNephroPlus Kidney Campsで 界全体に貢献しています。 は、スタッフが腎臓を検査し、経過観察のための診察を予約する このイベントは、 よう促します。 腎臓病を発見し、診断の前段階で NephroPlusはアドボカシー活動への取り組みを通じて、インド 認識を高めてもらい、スクリーニング検査を奨励することを目的 の透析サービスの質的な基準だけでなく、透析業界への規制を に企画されました。 改善したいと考えています。たとえば、診療の品質の必要条件を その他のイベントは、楽しんでもらうこと、そして透析を日常生 満たさない透析センターが場当たり的に設立されるのを防ぐた 活の一部にできるという考え方を広めることに焦点を当ててい め、インド腎臓学会と共同で、標準化、認定プロセス、認定手続き ます。 の導入に取り組んでいます。 たとえば、世界初となる競技大会Dialysis Olympiadを主催しまし これには、 た。 インド全土から500人の患者が参加しました。重要 こうしたイベントが、 なのは、 積極的な参加を促すために無料で 提供されたということです。 51 IFC インクルーシブ・ビジネス ケーススタディ | NephroPlus 将来を見据える ビスを十分に受けられない人々による利用の拡大を目指してお り、ニーズが最も大きく、透析を手頃な料金で提供できる国に重 NephroPlusは今後5年間で4万人以上の患者に透析サービスを 点を置いています。 広げ、医師、看護師、透析技師などの専門技能職1万人分の雇用 こうした雇用の3分の1は女 を創出することを目標にしています。 性が対象となるとみられます。 NephroPlusはインド国内で引き続き成長する見通しです。同社 は2018年までに、インド国内のすべての県に1カ所の診療所を設 また、 立することを計画しています。 低所得層にとって透析サービ IFCにおけるインクルーシブ・ビジネスに関する スをさらに利用しやすいものとするため、今後のセンターの半数 詳しい情報は を小都市に設置する予定です。診療所としては引き続き病院内設 www.ifc.org/inclusivebusiness 置型と独立型を混在させる予定で、公立病院内に設置するセン をご参照く ださい。 ターの数を増やすことも重視しています。公的保険に加入する患 者に透析サービスを継続することが、低所得層に透析サービスが いきわたるために鍵となります。 NephroPlusは海外展開も視野に入れています。同社は2020年 までにインドに加えて5カ国に拡大するという目標を設定し、イン ド以外のアジアやアフリカで診療所を開く計画です。同社のモデ ルが国際的に適用できるかどうかを評価するに際しては、政策提 言、人材獲得、サプライチェーン構築、公的保険プログラムの利用 可能性といった他の要素についても考慮しなければなりません。 これらはいずれも、同社がインドにおいて手頃で質の高い透析 サービスの提供を可能にしてきた要素です。NephroPlusは、サー 注 1 Pacific Bridge Medical、2013年、 “India’s Dialysis Market.” http://www.pacificbridgemedical.com/publication/high-rates-of-chronic-kidney-disease-lead- tomedtech- opportunities-in-india. 2 同上 3 Narayan, Adi、 Bloomberg Businessweek、2012年 “The Big Market for Dialysis in India、” http://www.bloomberg.com/news/articles/2012-01-05/the-bigmarket- for-dialysis-in-india. 4 腹膜透析では、手術でプラスチック管を腹部に通します。このカテーテルを通じて洗浄液が体内を出入り ろ過プロセスを開始します。 し、 こうした持続的透析方法で、患 者は余分な水分をより容易に管理できるようになり、食事や日常的な行動、仕事の能力の面での制約が少なくなります。 5 NephroPlus、2014年、“Cross Infections in Dialysis Units” 、http://www.nephroplus.com/cross-infections-in-dialysis-units. 6 「貧困ライン未満」 の指標はさまざまな要素を用いて決定され、 これらの要素はインドでは州によって異なります。 Andra Pradesh州では、 ホワイトカードは月収1万 1,000インドルピー(166ドル)以下の個人に発行されます。詳細はhttp://www.archive.india.gov.in/howdo/ service_detail.php?service=7をご覧ください。公立病院は 両方の保険を受け入れていますが、 民間の透析プロバイダーがどちらかの公的保険を受け入れるためには政府の承認を取得しなければなりません。 7 この割合は2020年までに30%まで伸びる見込みです。 52 結び インクルーシブ・ビジネスの軌跡 結び IFCは、10年間で140億ドルを超える投融資を行ってきた世界最 NephroPlusがインドの患者に透析サービスを低いコストで提供 大のインクルーシブ・ビジネス投資家として、インクルーシブ・ビ しています。 ジネスの成長を支援し、経済ピラミッドの下層部で生活する人々 にプラスの影響をもたらし続けることをお約束します。IFCはイン これら5つの企業のビジネスモデルと経験は互いに大きく異なり クルーシブ・ビジネスを展開するクライアント企業との10年にわ ますが、いずれのケーススタディにも際立った要素が1つありま たるパートナーシップを経て、 こうしたクライアントがIFCのポート す。 「状況に応じて会社を変化させ、 それは、 状況に合わせて的確 フォリオ全体とほぼ同等の財務利益を生み出し、さまざまな分野 な選択ができる柔軟性をもつ」 ということです。変化に素早く適応 と地域で既成概念の枠を超えようとしていることを学んできまし することが、それぞれの企業の成功の欠かせない要素となってい た。インクルーシブ・ビジネスのリーダーの知識をまとめ、世界の ます。 企業や開発コミュニティーを展開するリーダーと共有することは、 より多くの企業が彼らのビジネスモデルを模倣し、自らの基礎と 本レポートの最終的な目的は、5社の経験とケーススタディを利 するよう勇気づけるうえで、極めて重要です。 用し、世界のビジネス・リーダーに、ピラミッドの下層部に属する 個人をサプライヤーや顧客、社員としてビジネスモデルに組み込 このレポートで詳しくご紹介しているIFCのクライアントのケース み、さらに事業の成長に結びつけるには何が必要かをより深く理 スタディは、インクルーシブ・ビジネスの世界に共通する忍耐力と 解してもらうことです。 イノベーションの在り方を示しています。このレポートでご紹介 した5つの企業はそれぞれの分野で新しいソリューションを生 IFCは将来、インクルーシブ・ビジネスの創業者の示唆に富んだ み出しました。農業分野ではProbiotechがサプライヤーと顧客 物語、直面した困難とさまざまな成長過程を通じて見いだした解 の両方の立場にある小規模農家と協業し、教育分野ではBridge 決策、規模の拡大における重要な決断と転換点、そして彼らが学 Academiesが安い学費で良質のカリキュラムを提供しています。 んだ教訓のほとんどすべての経験を共有してくれるより多くのイ 金融サービスの分野では、bKashが銀行口座を持たない層にモ ンクルーシブ・ビジネスを必要とするはずです。総じて言えること バイル・バンキング・サービスを拡大し、MicroEnsureはそうした は、そうした経験が、他の企業が恩恵を受けることのできる強固 人々に保険を提供する方法を見いだしました。医療分野では、 な知識基盤を提供してくれるであろうということです。 65 Inclusive Business Models International Finance Corporation 2121 Pennsylvania Ave, NW Washington, DC 20433 inclusivebusiness@ifc.org ifc.org/inclusivebusiness September 2016