建築規制を活用した 防災 災害に強い都市づくり エグゼクティブ・サマリー © 2015 International Bank for Reconstruction and Development / International Development Association or 世界銀行東京防災ハブ 〒100-0011 東京都千代田区内幸町 2-2-2 富国生命ビル 10F ウェブサイト:www.worldbank.org/drmhubtokyo/jp 本報告書は世界銀行の職員により、外部専門家の支援を受け、作成され た著作物です。本書に記載の研究結果、解釈、結論は、世界銀行、世銀 理事会、または加盟国政府の見解を必ずしも反映するものではありません。 また、世界銀行は、本書に掲載されたデータの正確性を保証するもので はありません。本書中の地図に示されている国境、色、名称などの情報は、 それぞれの地域の法的地位に対する世界銀行グループの意見や、こうした 国境線への支持あるいは承認を示すものではありません。本報告に含ま れるいかなる部分も、世界銀行の特権及び免責についての制限または放棄 となるものではなく、そのように解釈されるべきものでもありません。 全ての特権及び免責はここに明確に留保されます。 権利と許可 世界銀行は、その知識の普及を推奨しており、出典として本書が明記さ れることを条件に、非営利目的で本書の全部または一部を複製すること を認めます。本書の内容は著作権の対象です。 複製を含む権利及びライセンスに関する問い合わせ先: The Office of the Publisher, The World Bank, 1818 H Street NW, Washington, DC 20433, USA ファックス:202-522-2422 Eメール:pubrights@worldbank.org 表紙写真 写真提供:Nicholas Kingston © 2010 序文 災 害や異常気象は、貧困層の人々に、より大 ができます。安全で災害に強い都市・コミュニティ・ きな影響を与えます。貧しい人々が暮らす 住宅の構築が優先されるべきことは、疑う余地が インフォーマルな居住地区は、氾濫しやすい川の ありません。 沿岸や、地滑りの起きやすい丘の斜面など、危険 な地域にあり、そこに建てられた彼らの住宅は、 本報告書「建築規制を活用した防災」は、防災 一連の災害リスクに対して非常に脆弱な傾向にあ に資する建築規制能力の強化に関する教訓・経験・ るのが現状です。 課題を示すと共に、成功例・失敗例を紹介してい ます。また、適切な建築規制を防災に役立てるため、 建築規制、および土地利用規制は、人々の安全 7 つの重要優先事項により、施行上の課題解消の 性と建築物の強靭性を高め、彼らが直面するリスク 方向性を示しています。本テーマの下、国際社会 を抑制するための非常に効果的な手段であること は建築規制など制度全体を含む建築行政を防災、 が分かっています。ここで指すリスクには、地震 および持続可能で災害に強い都市づくりに繋げて やサイクロンなど大規模かつ突如発生する災害 いくことが可能です。 事象と、火災や建物損傷など平常時に起こりうる、 致命的な結果を招く事象との二種類があります。 2015 年に採択された仙台防災枠組において、 建築規制が防災に果たす役割の重要性が認識され しかし、建築規制、および土地利用規制を活用して、 た今は、まさに本テーマの取組みを実行する絶好の 人々の安全性・都市の強靭性を高めることは、 機会です。今後、改善された建築規制制度や制度 低・中所得国にとって容易なことではありません。 施行能力は、災害に脆弱な国々のリスクを軽減し、 こうした国々では、規制を有効に活用するための 確実に繁栄を共有するための取組みの一環として 制度や、制度を運営するための人材など、包括的 位置付ける必要があります。 な仕組み全体が未成熟である場合が多くあります。 またこれらの国々は、制度活用のための知見共有 や建築規制遵守に関する支援を受けても、なお施行 上のギャップを抱えています。 フランシス・ゲスキエール 低・中所得国にとっての課題のひとつは、都市化 防災グローバルファシリティ の速度です。これらの国々では、今後 15~20 年 2016 年 3 月 の間に建築ストックが倍増することが見込まれ ます。重要なことは、こうした新しい建築物を適切 な建築規制に則して建設することで、リスク軽減、 および脆弱性の再現・拡大の防止に役立てること です。建築規制を遵守した安全な建築は、初期費用 の増加を招く可能性がありますが、こうした投資に よって、災害時の人命・財産の損失を軽減すること 序文 1 エグゼクティブ・サマリー えほとんど行ってきませんでした。 建築規制の防災への活用 建築規制の実施は、災害リスクの軽減に極めて 過去 20 年間、自然災害は 44 億人に影響を及 重要な役割を果たしますが、最近まで十分に注目 ぼし、130 万人の命を奪い、2 兆ドルの経済損失 されることはありませんでした。本報告書は、自然 を引き起こしました 1。 災害リスク、および常在するリスクの両面から 建築規制が被害低減に果たす役割について検証し 予期せず起こる自然災害は、平常時に起こりう ています。特に、自然災害の管理から潜在的リスク る建物の損傷や火災などの常在するリスクと共に、 の軽減へと着眼点を転換している点が本報告書の 貧困層や社会から取り残された人々により大きな 特徴です。 影響を与えています。過去 30 年間に自然災害に より失われた人命の 80%超 2 は低・中所得国に 先進国における災害リスク軽減と適応策の成功 おけるもので、こうした損失は概して国内総生産 例は、効果的かつ効率的な建築規制制度によると (GDP)の 5~120%に相当する国内経済の後退 ころが大きく、こうした制度は時間をかけて段階 を招きました。自然災害が GDP に及ぼす影響は、 的に改善されてきました。過去 10 年にわたり、 途上国では先進国の 20 倍にも上るということが 先進的な建築規制制度を持つ高所得国は、全世界 証明されています。こうした影響は、貧困を根絶し、 で起きた自然災害の 47%を経験したにもかかわ 繁栄の共有を促進するという世界銀行グループの らず、災害犠牲者の割合は 7%にとどまりました 4。 目標達成に重大な脅威をもたらしています。 カリフォルニア州パソロブレスとイランのバム 自然災害の規模・頻度・深刻さが増大し続ける で 2003 年に起きた地震を比較すると、こうした のにつれ、建築都市環境において見込まれる損失も 傾向が如実に表れています。これら二つの地震は 増え続けると予測されます。地震、津波、サイクロン、 同程度のマグニチュードで、ほぼ同時期に発生し 洪水などの自然災害による年間損失額は、2030 年 ました。しかし、パソロブレスでの死者数が 2 人 までに約 3000 億~4150 億ドルに増えると予測 だったのに対し、バムでの死者数は、市の人口の されています 3。 半分近くに相当する 4 万人超に達しました 5。 国際社会は、自然災害への備え・対応・早期警報 システムの整備において著しい進歩を遂げてきま した。しかし、特に低・中所得国において、災害発生 前の状況での潜在的リスクを効果的に軽減すること は十分に達成されていません。また、常在するリスク への対応も十分ではなく、実のところ、こうした 国々では、建物の損傷や火災による損失の補償は もちろんのこと、そうした事象を記録することさ エグゼクティブ・サマリー 3 4 エグゼクティブ・サマリー リスクの発生を阻止し、既存のリスクを軽減する 仙台防災枠組 2015–2030 ことにより、人的・経済的損失の軽減に資するこ とです。 2015 年 3 月、第 3 回国連防災世界会議は仙台 防災枠組を採択しました。これは 2015 年を目標 建築規制はなぜ、低・中所得国 としたミレニアム開発目標及び、兵庫行動枠組に 続く重要な開発アジェンダに関する合意となりま の災害・常在するリスクを十分 した。仙台行動枠組の行動優先事項では、建築・ に軽減できていないのか 土地利用規制の改善について幅広く言及しており、 そうした規制の実施が災害リスク軽減に繋がる重要 ここ数十年間の途上国における農村から都会へ 要素であるとの見方を示しています。仙台防災 の人口流入は、効果的な建築規制または土地利用 枠組で本アジェンダが取り上げられたことは、効果 規制がほぼ欠落した中で進んできました。適切な 的な建築規制がリスク軽減に果たす役割が国際的 規制による指導が行われないまま、都市開発は危険 コンセンサスを得た証しと見なすことができるで な地域にも拡大され、リスクを伴う脆弱な居住地が しょう。本報告書は、建築都市環境におけるリスク 建設されることになりました。こうした無秩序な 軽減に向けた国際的協調を通じて、仙台行動枠組 都市化のプロセスは、世界の自然災害リスクを大幅 の実施に資するものです。 に拡大しました。 報告書の対象範囲と想定する読者 低・中所得国での規制政策やその実施の失敗には、 本報告書は、政策立案者、政府、民間セクター、 いくつかの根本的原因があります。貧困は、都市 および開発ドナーの実務者を対象に、効果的な建築 への人口流入を招く主な要因であると共に、自治体 規制の実施や制度の改革を通じて、各国の災害 のサービス能力及び規制能力の発展を妨げてきま リスク・常在するリスクの軽減に繋げることを支援 した。この失敗はさらに、次のような他の要因に するものです。また本報告書は、実践的な提言や よって増幅されてきました。 革新的な制度改革のアプローチを紹介します。 報告書で取り上げる内容は、建築規制が途上国に - 非効果的な土地利用システム:非効率的な土地 おける災害リスク・常在するリスク軽減のための 利用システムは、危険地域における居住地開発の 有効な手段として十分に機能できなかった事例の 制限に失敗し、都市人口の大部分を合法の土地・ 分析に基づいています。 住宅供給市場から締め出すことを助長しました。 これらの要因は、都市における自然災害リスクを 本報告書では、建築規制と土地利用計画の相互 著しく高めています。さらに、効果的な土地利用 依存的関係を踏まえた上で、建築規制と規制の実施 システムがない中で、低・中所得国の都市は、公的 に焦点を当てています。一方で、土地利用計画と な土地所有権や必要不可欠なインフラのない危険 効果的な建築規制との密接な関係についても強調 な地域にまで急速に拡大しています。 しています。 - 建築行政及び実施能力の低さ:低・中所得国に 実際の行動に移すため、本報告書は「建築規制 おける根本的問題のひとつは、地方自治体におけ を活用した防災プログラム」案を提示しています。 る建築規制のための予算及び支援が欠落している このプログラムは、包括的な建築規制制度を構築 ことです。この問題はたいてい、自治体の所得水準 するため、特定の強みと経験を持つ幅広いパートナー や課税をめぐる権限、さらには立憲的・行政的構造 が協力できる仕組みを提供します。このプログラム に関連した、より根深い課題と関係しています。 の戦略的目標は、建築都市環境において新しい また多くの自治体では、新規建設を適切に監視す エグゼクティブ・ サマリー るのに必要な知識・技術を有する職員が不足して した革新的取組みの発展が妨げられてきました。 います。 - 広く行われている建築習慣に対する不十分な認識: - 脆弱な法的基盤:国レベルでの法的基盤が不完全 低・中所得国で多く見られる段階的な建築プロセス なために、建築規制実施の原則を確立できず、 は時間をかけて資金や資材を調達します。確保で また官・民の責任も規定できていない国が多くあ きた資金・資材を基に、住民自身が建物を増改築 ります。また建築規制が依然として民法・商法・ するアプローチで、低・中所得国において広く普及 刑法などを含むより大きな法体系に適切に組み込 している建築習慣です。しかし、公的な建築規制 まれていないことも多々あります。 制度ではこの種の建築を規制の対象としておらず、 構造性能が担保されることは非常にまれです。 こうした状況は公的な規制制度の対象となりうる 写真提供:国際移住機構 - 貧困層が負担しきれない規制遵守のための費用: 大規模建築物と規制対象外として放置されるイン 建築基準を設計・採用するプロセスは、利害関係者 フォーマルな小規模建築物のギャップを拡大して (民間の建築業者や現地コミュニティなど)との います。このことを顕著に示す事例があります。 十分な協議を経ずに行われるトップダウンの指示 災害復興プロジェクトは、低所得者層の住民らが であることが多いと言えます。このことは、低・ 伝統的な建築習慣にリスク軽減策を組み入れるこ 中所得国が遵守しきれない基準を高所得国から形 とが可能であると証明してきましたし、その成果 式上導入するという結果を招いてきました。その はリスク軽減の効果的な手法として認められるべ ため、低・中所得国の建築基準は遵守のための きです。例えば、パキスタン北部の伝統的な建築 ハードルが高すぎる場合が多く、輸入建築資材へ 様式であるジ・デワリは、地元文化・気候に根差 の依存を招くだけでなく、現地の伝統や環境に即 した経済的な建築様式です。この建築様式は耐震 エグゼクティブ・サマリー 5 6 エグゼクティブ・サマリー 補強を行うことで、十分に地震力に耐えることが しかしながら、こうした中核となる構成要素は、 できますが、2005 年に起きた地震後の復興過程 単独で機能するものではありません。先進国では、 では、この建築様式が建築基準に定められていな 建築規制能力は規制実施のための制度など一連の かったために、ジ・デワリを利用した住宅再建には、 法体系の中で、複数の要素と複雑に絡み合いなが 政府の公的資金援助がなされませんでした。 ら進化を遂げてきました。これらの制度整備は、 法的・財政的な仕組みの形成、さらには規制遵守 - 機能不全の建築規制体制:低・中所得国におけ のために必要な技術的能力の育成にも貢献してき る建築許可及び現場での検査はたいてい、高額な費 ました。この一連の規制実施のための要素には、 用を必要とするだけでなく、手続きも過度に複雑で、 法の支配、土地・不動産保有権の保証、および融 非効率的です。また、建築基準の遵守は建築費用 資・保険の仕組みを機能させることが含まれます。 の増大を招くことがあり、こうした費用が建築基準 の遵守を妨げることがあります。例えばインドの その他、建築セクター特有の重要な制度としては、 ムンバイでは、建築基準を遵守するに当たり、 専門職能教育及び資格制度、職能団体の形成と業界 27 段階にも及ぶ建築計画・許可手続きを通過す の実務指針、建築労働者のための訓練制度、および る必要があり、そのために必要となるコストは、 建築資材の品質管理プロセスが挙げられます。 建築費用総額の 46%に相当します。一方、経済 協力開発機構(OECD)加盟国では、同様の手 仙台防災枠組を支える 続きは 11 段階程度にとどまり、その費用が建築 強力な建築規制改革アジェンダ 費用総額に占める割合も平均 1.7%程度となって います 6。 今後、2015 年から 2030 年にかけての新しい 都市開発は、歴史上類を見ない規模のものとなる とりこ - 汚職と規制の虜:建築基準の施行に際した汚職は、 ことが見込まれます。2030 年までに都市化され 災害による大規模な建物倒壊や人命損失に深く関 ると予想される地域のうち、60%にはまだ何も 係してきました。最近の統計によると、過去 30 建設されていません(主に南アジアとサブサハ 年間の地震による死者の 83%は、トランスペア ラ・アフリカ)8。 レンシー・インターナショナルが最も汚職の多い 国と見なしている国々で発生しています 7。また、 本報告書の提言では、次の 2 つの重要優先事項 建築規制の虜になると、規制を受ける業界が有利 を掲げています。 になるよう安全基準を引き下げてしまい、結果を (i)新しい居住環境開発に伴う自然災害・常在す 著しく歪めることがあります。逆に、規制の虜は、 るリスクの拡大を阻止すること 建築基準を人々が遵守できないレベルにまで引き (ii)既存の脆弱な居住地における自然災害リスク 上げてしまい、一般住民や施工者の遵守を妨げる を軽減すること 結果を招くこともあります。 適切な設計による新規建築は、わずかな費用の 建築規制枠組における 追加(5~10%程度)で、災害に強い建物とする 必須構成要素 ことができます 9。既存の脆弱な建物の改修は、 費用がかさむ傾向にあり、建築価格の 10~50% 本報告書は、あらゆる建築規制制度の中核を成す の出費を伴う可能性があります 10。新規建築の検 3 つの基本的構成要素を特定しました。それは、 査に必要な基準、および実施の仕組みを確立する 国レベルの法的・行政的枠組、建築基準法の策定・ ことにより、堅実な制度的・技術的基盤を築くこ 継続的改正プロセス、そして、地方自治体レベル とができ、既存の脆弱な居住地が抱える重大な自 での規制実施のための一連の仕組みです。 然災害リスクを低減することが可能です。 エグゼクティブ・ サマリー 本報告書が提案する改革アジェンダは、さまざま 全ての利害関係者グループの代表が自由に な開発段階の国の規制能力強化を目的とした戦略 参加できる開かれた構築プロセスが必要です。 的な取組みアプローチを示しています。以下は、 またこうしたアプローチに合わせて、土地・ 本報告書の提言が示す、主な開発優先事項です。 不動産保有権を保証し、合法な土地・建築市場 への参入コストを下げることも必要です。 1. 取り締まりではなく、規制遵守を支援するた めの改革方針: 災害復興事業の事例は、建築 4. 効果的な建築規制に向けた革新的取組みの促進: 規制遵守のためのアドバイザリーサービスの 過去 20 年間の経験から、建築行政の簡素化や 有効性を示したと言えるでしょう。2005 年 類似の対策によって規制遵守にかかる費用を のパキスタン地震や、2006 年インドネシア 削減できることが分かっています。高い災害・ 中部ジャワ地震の事例で見られるように、こ 常在するリスクを抱える政府や自治体では、 うしたサービスを通じて、建築検査官が建築 民間セクターの技術的資源を活用し、規制実施 業者に指導することで、建築基準を遵守した 能力を拡充できるはずです。このアプローチは 安全な建設行為が広まるでしょう。こうした また、地方自治体での建築許可手続きの負担 支援体制は、災害後だけでなく、平常時にお を軽減する可能性も含んでいます。こうした いても、建築検査制度と共に制度化されるべ プロセスを効率化させ、規制の遵守を促進 きです。 するための現代的な手段としては、リスク管理 のための最新の情報通信システム、建築業者の 2. 国・地方自治体の制度施行能力の強化: 建築 認可制度、建築許可・検査における民間セクター 規制・土地利用規制を地方自治体レベルで実 の活用、および建築規制率を向上させるため 施するのに必要な財源・職員の配置・その他 の建物保険の導入などが挙げられます。さらに、 必要な事項は、防災に向けた包括的な取組み 制度の透明性と手続きの公正性が規制遵守と の中で対処するべきです。これは、規制施行 効率化の向上に効果的であることは、過去の に必要な専門的職員の研修、および適切な資金 多くの経験が物語っています。こうした透明性 的補償を確保するための一定の支援を必要と や公正性に基づく制度、およびプロセスは、 します。これと並行して、建築・建築計画の 小さな努力を通じて、緩やかに向上させてい 教育、リスク管理のための資金調達・保険の けることが証明されています。こうした取組 仕組み、および安全な用地利用と建築習慣の みは、建築許可・検査担当者による恣意的対応 重要性に対する理解の醸成など、建築規制 を減らすことに役立ちます。またこうした対応は、 制度を取り巻くその他の取組みも必要とします。 建築規制遵守に必要な技術的・行政的要件に 関する情報の開示拡大にも役立ちます。 3. 貧困層・脆弱層にも遵守できる建築基準の整備: 低・中所得国が災害による損失に対処する能力 は非常に限定的です。低・中所得国のように、 規制がそもそも一般に知られておらず、施行 できる状況になく、または一般の遵守能力を 超えているような国では、大多数の人々、特に 貧困層がそうした規制を無視する傾向にあり ます。しかし、安全な建築都市環境がもたらす 利益は貧困層にも手が届くものでなければな りません。多様なステークホルダーが文化的・ 財政的に遵守できる規制制度を構築するには、 エグゼクティブ・サマリー 7 8 エグゼクティブ・サマリー 改定は、特に重視されます。建築資材検査施設の 建築規制能力強化への投資を 整備や職員の訓練、現地に即した安全な建築手法 の研究、および建築資材検査機関の認定プログラム 促進するためのプログラムア への支援も検討されています。さらに、このコン プローチ ポーネントでは、建築規制遵守に関する啓蒙や必要 情報のアウトリーチ、教育・研修プログラムの提供 仙台防災枠組が定める優先事項 3は、建築基準・ など、建築規制遵守に必要となるあらゆる要素に 標準の改定を中心とした協調的取組みを求めてい 関する支援を行う用意があります。 ます。これは、所得区分に関係なく、どんな国で あっても、脆弱な居住地に配慮した、現地の状況 コンポーネント 3 地方自治体による建築規制の に適した取組みの必要性を訴えています。 実施支援:本コンポーネントでは、地方自治体の 建築行政部門による建築規制実施に必要な一連の 最も脆弱な地域でのリスク軽減の成功は、関連す 支援を行います。これには、建築基準遵守の促進 る開発事業が貧困層に対して、いかに安全な住宅、 を目的として、建築計画の審査、用地検査、建築 および基礎的インフラの整備を支援するかに大きく 許可、建築規制の施行などが含まれます。特に、 依存しています。本報告書の最終章で概要を示す アドバイザリー支援では、インフォーマルな建築 「建築規制を活用した防災プログラム」は、関連す セクターの施工者らへの働きかけを優先することで、 るプログラムとの相乗効果を創出するものです。関 これまで建築規制の恩恵を受けていなかった地域 連するプログラムには、インフォーマルな居住地区 や人々へ利益の享受を拡大します。地方自治体の の居住環境改善、低コスト住宅開発、住宅融資制 建築行政部門への支援では、職員・検査官への研修、 度整備、土地開発・土地利用政策、法整備支援、 建築計画の審査・現場検査のためのツール提供、 および災害復興事業が含まれます。 データ管理、施主とのコミュニケーションの効率 化を促進する情報通信技術(ICT)の活用、および このプログラム案は、以下の 4 要素で構成され 建築業者の訓練などを予定しています。 ています。 コンポーネント 4 知見の共有と効果の測定:本 コンポーネント 1 国レベルの法・制度整備:本 コンポーネントでは、建築規制制度施行に関係する コンポーネントでは、安全な建築と効率的建設プ 各国の経験や革新的取組みを紹介するための国際 ロセスを保証する、国の法的枠組を、整備または 的プラットフォームを提供します。建築規制制度 改善する活動を行います。これらの活動は、各国 の施行能力や効率性を評価するフレームワークを の状況に応じた優先事項に基づき実施されます。 作成し、実際に、規制制度の施行能力の診断・リスク さらに、活動の一環として、ハザードマップ作成 監査を行います。こうした各国の規制能力の評価 や中央政府の能力強化に関する支援も行います。 を踏まえ、国・自治体レベルでの進捗を継続的に 把握していきます。こうした各国での評価の取組 コンポーネント2 建築基準の策定と継続的な改定: みは、適切な支援内容の特定や優良事例の取りま 本コンポーネントでは、地方自治体で遵守可能な とめに役立つことが見込まれます。概して、本コン 建築基準の導入(国の基準の適合を含む)を支援 ポーネントの活動は、建築規制・土地利用規制を します。これは、国レベルの透明かつ開かれた参加 通じた災害・常在するリスクの軽減に関する世界 型のプロセスを通じて、地方自治体が適切な建築 中の事例を取りまとめる活動に役立つでしょう。 基準を策定・改定するための基本となる制度施行 能力の確立に役立つことが見込まれます。既存の 脆弱な建物を評価・改修するための基準の策定・ エグゼクティブ・ サマリー 建築規制を活用した防災プログラム 建築規制を活用した防災プログラム コンポーネント 1 コンポーネント 2 コンポーネント 3 コンポーネント 4 国レベルの法・制度整備 建築基準の策定と 地方自治体による 知見の共有と効果の測定 継続的な改定 建築規制の実施支援 国レベルでの取り組み できる都市づくりに向けたものに繋げていくこと 行動の呼びかけ ができます。各国の状況に合った建築規制を実施し、 積極的な遵守を支援することにより、「建築規制 世界では、2050 年までに約 10 億戸の住宅が を活用した防災プログラム」は、現在の科学的・ 新築されると見込まれています。こうした住戸の 工学的知識を生かした、より安全な建築都市環境 増加の多くは、リスクに配慮した都市開発能力が の構築を促進することができるのです。 乏しい都市で起きるとみられています。国際社会 は今まさに、建築規制、および土地利用管理に対 先進国では、建築規制、および土地利用規制は する、より効果的なアプローチを追求せねばなり 最も効果的なリスク軽減手段の一つであることが ません。 既に証明されています。しかしながら、多くの 低・中所得国は、これまで挙げてきた一連の理由 高いリスクを抱える国・自治体において建築規制 により、こうした手段を有効に利用できていません。 能力を構築することにより、将来の建築活動と都 仙台防災枠組の開始と共に、各国の多様な経験と 市の拡大を、人々の健康と安全に配慮したものに 革新的なアプローチを伴った行動の機会が、今まさ することができます。建築規制の効果的な実施は、 に訪れようとしているのです。 建築、およびインフラへの投資を、より安全で安心 エグゼクティブ・サマリー 9 10 エグゼクティブ・ エグゼクティブ・サマリー サマリー 提言の概要 1  4  国レベルで 健全な法的・行政的基盤を確立する。 建築基準を形式的に施行するだけでなく、基準遵守を支援するためのアドバイザリーサービスを提供する。 1.1 国民の健康と安全を守り、災害リスクを軽減す 1.2 地方自治体レベルでの建築規制の効果的な施行 1.3 建築規制遵守促進関連の重要な法律を適用する。 4.1 取り締まりの視点に立った施行ではなく、建築基準遵守を促進するための 4.2 建設技術を向上させ、建築基準遵守を促進するため、建設業者、建築家、 るため、建築規制および土地利用規制をつか を支援するために必要な法的枠組を適用する。 支援を強化する。 エンジニア、建設労働者、個人建設活動従事者に対し、制度に基づく研修 さどる法的基盤を確立できる環境を整備する。 の機会を提供する。 2  5  現地の社会・経済状況に合った建築基準を策定する。 建築規制介入の機会を活用する。 これにより、現地で広く利用されている建築資材や建築習慣の安全な適用を促進する。 5.1 建物用途と災害リスクの曝露情報をもとに規制 5.2 公共施設建設事業を対象とした建築規制を、 5.3 建築規制制度の推進に、災害経験を役立てる。 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5 2.6 介入の優先順位を決定する。 幅広い建築規制実施の第一歩として活用する。 参加型の多様な 現地の状況に即 全ての建築様式・ 主要な建設用地 建築基準の内容 コミュニティや 利害関係者に開か した建築基準を 建築習慣を考慮 からアクセスし の周知を徹底し、 住民、 イ ンフォーマル コ れた、 ンセンサス 適用する。 この際、 した包括的な建築 やすい場所に、 基準遵守に必要 な建設従事者に に基づく建築基 既に確立された 基準を策定する。 建築資材の検査・ な研修を建築業者・ よる安全な建設 準策定プロセス モデル建築基準 認可を行う施設 建築主に対して を行うための基本 を確立する。 を参考にする一方で、 を設置する。 行う。 原則について、 6  現地特有の状況 社会の認識を を反映する。 醸成し、高める。 特に災害に脆弱な地域を事前に特定し、曝露情報に応じて都市開発の対象地域を制限する。 6.1 無秩序な開発が 6.2 建築基準の中で 6.3 既存の都市地域 6.4 安 全 な 地 域 に 6.5 曝露情報と土地 6.6 災害危険地域の 行われる前に、 災害危険区域に のハザードマップ インフラを整備 利用方針、および 代替的利用計画 将来の都市拡張 言及し、追加的な を作成し、脆弱 することにより、 その根拠について、 を策定する。 が見込まれる地域 構造要件の重要 な建物の改修、 安全な地域での 包括的な情報を 3  におけるハザード 性を強調する。 および建物の移転 都市拡張と土地 一般に公開する。 マップを作成し、 の優先順位を確定 利用を促進する。 建築計画の審査、用地検査、建築許可のプロセスを通じ、自治体レベルでの建築基準の実施を強化する。 安 全 な 地 域 で する。 新しい都市開発 3.1 3.2 3.3 3.4 3.5 を行う。 公正な手続きと透明性 自治体ごとの建築規制 遵守違反における紛争 自治体の建築規制担 建築許可・検査手続き の 確 保 を 基 本 と し、 制度改革に伴う変更の 解 決と控 訴 の 仕 組 み 当部局を技術的かつ を簡素化・再設計する。 建築規制の遵守を強化 周知を徹底する。 を確立する。 財 政 的 に 支 援 す る。 する。 こ れ に よ り、 自 治 体 の担当職員が技術的 に必要な能力を備え、 7  適切な報酬を受けら れる体制をつくる。 制度実施に必要な組織体への支援を加速させる。 7.1 土 地・ 不 動 産 権 利 の 7.2 保険制度によって保証 7.3 品質管理制度を通じて、 7.4 住宅融資メカニズム 7.5 市場がより安全な建物 管理体制を改善する された法的責任追及 建築規制実施機関の を活用し、安全な住宅 を求めるよう、社会の こ と で、 建 築 規 制 の 制度を整備すること 能力と説明責任を向上 整備への投資を促進 意識を高める。 3.6 効率性・透明性のある 3.7 建築許可・検査において、 3.8 建築規制適用に伴う 3.9 より効率的かつ効果的 3.10 建築基準遵守の検査 遵守を奨励する。 に よ り、 建 築 専 門 職 させる。 する。 建 築 規 制制度の 構 築 リスク管理の視点を適用 費用に基づいた適切 な建築規制遵守検査の に関 官民パー して、 トナー の説明責任を明確化 のため、情報通信技術 する。 な手数料水準を適用 仕組みを構築するため、 シップを活用した強固 する。 を活用する。 する。 民間セクターを活用する。 な説明責任の仕組み を構築する。 エグゼクティブ・サマリー 11 12 日本の経験 日本の経験①:日本の建築基準法の歴史的発展 日本は度重なる壊滅的な地震被害を経て、災害の度に従前よ - 国土交通省(当時は建設省) り安全な都市の実現を目的とし、地震リスクを加味した強固 - 日本建築学会 な建築基準法を整備してきました。これにより、日本は今や、 - 日本コンクリート工学会の指針・仕様・マニュアル 世界有数の地震に強い国として知られています。 1971 年 1919 年 1971 年には、建築基準法が改正され、耐震設計基準が強化 1800 年代に建設された近代的建築物が 1891 年の濃尾地震 されるという、さらなる重要な法的発展が見られました。 により深刻な被害に遭ったことを受け、被害の科学的・工学的 分析が行われ、1919 年市街地建築物法が日本国内の 6 つの 1981 年 主要都市において公布されました。 1972~1977 年の建設省総合技術開発プロジェクトの研究成 果を基盤として、日本の建築基準は大幅に更新されました。こ 1920 年 れにより、改正された基準(基本部分は現在も使用)は、概ね これに続いて、2 つの革新的な内容を伴った 1920 年市街地 500 年周期で発生する巨大地震に対して、倒壊などの建物使 建築物法施行令が公布されました。この法律は日本初の建築 用者に危害が及ぶような深刻な被害を受けずに耐えられるこ 許可制度を定め、制度の運用は各県の警察が行うものとしま とを追加して義務付けました。具体的には、従来から行われて した。また、この法律には、建物用途や高さ、土地利用・建築 いた、建物が構造部材を損傷させることなく全重量の 20%の 基準に関連した安全仕様に関する技術的要件、および木造・ 水平力に耐えられることに加えて、建物が自重の100%に相当 組積造・鉄筋コンクリート造・鉄骨造など構造種別ごとの構造 する水平力に対して、構造的な粘りの効果も合わせることによ 設計要件も含められました。 りこれに耐える強靭さを持つことを追加して義務付けました。 これらの 1920 年の規制には、許容応力設計、資材品質、お よび荷重計算も含まれましたが、耐震構造計算規定は含まれ 1995 年 ませんでした。 1995 年に起きた阪神・淡路大震災では、1981 年の建築基準 法改正前に建設された建築物に損傷が多く見られたことから、 1923–1924 年 建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)が マグニチュード 7.9 を記録した 1923 年の関東大震災は、一般 制定され、1981年に定められた新耐震基準に沿った耐震改修 の木造建築物だけでなく、レンガ造や石造による近代的な建物 が促進されるきっかけとなりました。 にも甚大な被害を与えました。この経験とその後の分析により、 1924 年、市街地建築物法に重要な修正が加えられ、地震力 1998 年 の考慮、およびそれに基づく耐震設計の考え方が導入されま 日本の建築基準法は、1998 年に再度改正され、部分的に構造 した。 性能に基づく設計規制が導入されました。同法はまた、建築 確認検査業務を民間に開放し、それまで所轄官庁として唯一 1949 年 この手続きを行っていた地方自治体の役割を民間企業が補う 第二次世界大戦後の復興は、以下の法律の施行によって、建 ことになりました。 築規制を著しく発展させました。 - 建設業法(1949 年) 2006 年 2005 年の建築基準法違反事件を受け、構造計算確認の手続き - 建築基準法(1950 年) が大幅に強化されました。 - 建築士法(1950 年) これらの新法は、建物の用地・構造・設備・用途に関する 効果的な建築規制による被害の大幅な軽減 最低限の基準を設けることにより国民の生命・健康・財産を 日本の建築基準法の継続的でダイナミックな改善は、建築の 守ること、建築物の設計、および建築工事の監理を行うこと 工学的研究と建築規制制度の改善を組み合わせて、災害リスク ができる技術者の資格制度を整備すること、建築業に携わる者 の軽減を実現した顕著な例と言えるでしょう。建築基準法の の能力を向上させること、および公正な建築契約を促進する 継続的な改正や、災害経験から得られた教訓の速やかな取り ことを目的としていました。 込み、規制制度の徹底した実施は、日本の建築物の耐震性能 を劇的に向上させ、災害に強い都市づくりの実現を支えてき こうした法的文書に加え、当時の日本の建築規制システムは、 ました。 以下を含む政府・非政府組織が策定した基準を参照していま した。 情報提供:亀村幸泰(国土交通省)、楢府龍雄(JICA)、金田 (迫田)恵子(世界銀行)、小谷俊介(千葉大学) 日本の経験 日本の経験②:インドネシア中部ジャワ地震後の復興 長期的な災害リスク軽減に繋げる復興支援 復興事業における成果とその後の展開 2006 年 5 月27日、マグニチュード 6.3 の地震がジャワ島南岸 最終的に、33 万軒近い住宅が復興基金により再建され、従前 で発生しました。この地震では、主に建物の倒壊により 5,000 ノンエンジニアド住宅であった一般住宅は、改善された品質 人超の犠牲者が出ました。また、15 万 4000 軒の家屋が破壊 管理メカニズムの恩恵を受けました。 され、26 万軒が構造的損傷を受けました。ほかの途上国と同様、 中部ジャワ州の被災村落の家屋は、専門職ではない住民らに この成功を踏まえ、公共事業省は、再建プログラムの恩恵を よって建てられるのが一般的でした。伝統的な木造建築物が より広範囲に拡大し、ノンエンジニアド住宅の構造性能を向上 受けた被害は限定的だった一方、工業建築資材を利用し、 させるべく、同様の取組みを導入するよう奨励しました。 エンジニアド建築を模倣した無補強組積造やコンクリート枠 JICAは、その後6年間にわたり、西スマトラ州、北スラウェシ州、 組組積造は、深刻な被害を受けました。 および北スマトラ州のほかの行政区(県)と都市(市町)で 同様の取組みを展開する支援を行いました。 災害発生からまもなく、現地政府は被災地域の住宅再建に向 けた主な方針を明らかにしました。これらの方針に基づき、 また国レベルでは、JICA は要求事項を基に州政府の法令の 住宅再建の際の構造性能要件を条件とした現金給付プログラム 標準モデルを策定するなど、公共事業省の取組みにも協力し が開始されました。この現金給付は、建築工程を3つのフェーズ ました。こうした規制制度の改善による恩恵を拡大・維持する に分け、フェーズごとの検査に合格することを条件として、 ため、JICA は自治体の公務員やコミュニティを対象に、建築 3 回の分割払いの形で行われました。受益者は、自分自身で 規制遵守に関する研修なども行いました。 再建する、もしくは、建築業者を雇うことが認められました。 中部ジャワ州での復興支援事業例は、既存の建築規制制度が 地震後の復興支援事業の一環として、国際協力機構(JICA) ノンエンジニアド住宅などの小規模建築物の構造性能改善に は自治体の建築行政能力強化を通じた支援を行いました。 も役立てることを示しています。この復興支援事業では、公式 JICA の主な貢献の1つは、ガジャマダ大学らと協力して、平屋 な建築許可制度が、ノンエンジニアド住宅の構造性能向上に 建て一般住宅向けの構造性能要件となる「キー・リクワイア 資する工学的知識の導入に役立ちました。またこの取組みは、 メント(安全な住宅建設のための要求事項)」を策定したこと 伝統的に脆弱な建築様式のリスク軽減にも繋がりました。この でした。この要求事項設定の目的は、特に重要な構造要素に 経験はまた、既存の建築行政機関が、もっぱら強制的な法令 関して一定の技術的指針を明示することで、伝統的なノン 実施に頼るのではなく、教育・指導・遵守支援を通じてノン エンジニアド建築の構造性能を向上させることでした。要求 エンジニアド建築の構造性能と強靭性を向上させることがで 事項策定後まもなく、これを遵守することが政府の現金給付 きることも示しています。 プログラムの要件として取り入れられました。 今後の災害による損失を軽減するために最も重要な事項は、 JICA は、また要求事項の遵守、および検査に関する能力強化 建築規制制度実施のための支援と検査のプロセスが、時間を 支援を通じ、17 地区の建築行政機関の職員育成を行い、州政府 かけて組織的に定着し、継続的に行われる体制が構築される の取組みを支援しました。この取組みは、既存の建築行政に ことです。これは短期的な災害復興事業に留まらず、長期的 基づく建築認可制度、および手続きを利用し、伝統的なノン かつ包括的災害リスク軽減戦略の一環と位置付けられるべき エンジニアド住宅の構造性能と強靭性の改善を図りました。 事項であり、継続的な取組みを必要とするでしょう。この 本取組みは、中部ジャワ地震後の復興支援事業の一部として プロセスは、持続可能な財源の確保と人的能力の向上に対する 限定的に行われましたが、本取組みの制度化により、この地域 コミットメントを必要とします。また政府・自治体、コミュニティ の住宅の構造性能の恒久的向上に資する基盤を築きました。 組織、大学、建設業界を含む民間セクターなどのさまざまな 当事者の関与が重要となります。 情報提供:楢府龍雄(JICA)、金田(迫田)恵子(世界銀行) 日本の経験 13 14 今後に向けて 結論 東京防災ハブの活動 先 進国では、建築規制および土地利用規制が 本レポートに基づき、世界銀行東京防災ハブが 災害、および常在するリスクの軽減に最も 実施する「建築規制を活用した防災プログラム」は、 有効な手段の一つであることが明らかになってい 建築規制の実施支援および遵守能力の強化を通じ、 ます。しかしながら、第 1 章で論じた一連の事情 現在の科学的・工学的知識を生かした、安全な建築 により、低・中所得国ではこうした手段を十分に活 都市環境および災害に強い都市づくりを促進します。 用できていません。仙台行動枠組採択は、低・中 本プログラムでは、日本の防災経験に基づき、以下 所得国の災害リスクの軽減という課題に再び取り組 の 5 つの取組みを行います。 む機会をもたらしました。災害リスクを抱える国・ ・日本の歴史的な建築規制制度実施の取組みと、 自治体の建築規制・土地利用規制能力の改善は、 その成果、途上国への教訓を取りまとめたナレッジ 確実に前向きな成果を生むでしょう。例えば、改善 ノートの作成 された建築規制・土地利用規制は、将来の建築物 ・作成されたナレッジノートのオンラインプラット や都市拡大をより安全にし、災害リスク軽減に フォーム上や国際会議での拡散 繋がるでしょう。また建築規制は、より安全・安心 ・建築規制制度の評価ツール作成に際した日本人 で災害に強い都市づくりの実現に向け、強靭性の 専門家の派遣 ある建物・インフラへの投資を促進するでしょう。 ・建築規制制度の評価ツールテスト(東京防災 ハブの国別プログラムとの連携) 「建築規制を活用した防災」 ・日本の経験に基づき、 の実施を促進するための広報活動支援 今後に向けて 建築規制を 活用した防災 引用文献 UNISDR 2012, http://www.unisdr.org/archive/27162 1 2 Global Assessment Report (GAR) on Disaster Risk Reduction, UNISDR, 2015 3 GAR, UNISDR, 2015 4 Munich Re. 2013, http://www.munichre.com/en/reinsurance/ business/non-life/georisks/natcatservice/default.aspx 5 Why do People Die in Earthquakes? The Costs, Benefits and Institutions of Disaster Risk Reduction in Developing Countries, Kenny, 2009 6 Doing Business Report, World Bank Group, 2015 7 Corruption Kills, Bilham, Ambraseys, 2011 8 GAR, UNISDR, 2015 9 It is Not Too Late: Preparing for Asia’s Next Big Earthquake, Yanev, GFDRR, 2010 10 Building Resilience, WB, GFDRR, 2013 引用文献 15 建築規制を活用した防災 過 去 2 世紀にわたり、効果的な建築規制・土地利用規制は、世界の都市における大火災や流行性の病気の 件数を劇的に減らしてきました。先進国では、このような規制の適用が、災害のリスク低減や緊急対応 において成果を上げてきています。しかしながら、多くの低・中所得国の災害リスク管理戦略では、建築規制・ 土地利用規制は軽視されてきました。また、先進国の建築基準を単純に開発途上国に適用することは、逆効果 をもたらしかねないことも分かってきました。しかし、世界中の規制適用の経験を見直し、分析することは、開発 途上国における規制適用能力の強化に繋がるでしょう。必要とされる知見が、現地の状況に即して正しく適用 され、持続可能な法体系実施の一部として位置付けられることが重要です。 本報告書は建築規制の実施における効率性を高める実務的な対応策を特定するため、世界中の参考となる事例 を分析したものです。低・中所得国に焦点を当て、著者グループは、建築規制制度、および行政システムを活用 した防災への投資促進を呼びかけています。 防災グローバル・ファシリティ(GFDRR)は、低所得国の自然災害への脆弱性の理解と、災害リスクの低減、 および気候変動への適応の支援を行っています。各国の政府機関、市民社会団体、専門機関を中心に 300 以上 のパートナーと協力し、災害緩和政策を国レベルの戦略や様々な研修・知識共有活動を通じて主流化するため、 贈与や現地での技術協力による支援を行っています。GFDRR は、世界銀行が運営し、日本を含む 21 のドナー・ パートナーが資金を提供しています。 http://www.gfdrr.org 世界銀行東京防災ハブは、 「日本-世界銀行防災共同プログラム」を通して日本と世界各国の専門知識を結ぶネッ トワークを構築し、開発途上国が国家開発計画や投資プログラムにおいて防災を主流化できるよう支援します。 日本と世界銀行は、日本が持つ防災分野の知識と経験を世界と共有するための協力を進めてきました。こうした 協力関係は、2011 年の東日本大震災の後、さらに強化され、2013 年 4 月、日本と世界銀行は、途上国における 防災の主流化のためのプログラムへの支援を発表し、2014 年 2 月 3 日に「日本-世界銀行防災共同プログラム」 を立ち上げ、実施主体である世界銀行東京防災ハブを開設しました。世界銀行東京防災ハブの活動内容につ いては、ホームページをご覧ください。 http://www.worldbank.org/drmhubtokyo/jp