64665 世界開発報告 2012 ジェンダーの平等と開発 World Development Report 2012  ――Gender Equality and Development This work was originally published by the World Bank in English as World Development Report 2012: Gender Equality and Development in 2012. This Japanese translation was arranged by Ittosha Incorporated. Ittosha Incorporated is responsible for the quality of the translation. In case of any discrepancies, the original language will govern. This volume is a product of the staff of The International Bank for Reconstruction and Development/The World Bank. The findings, interpretations, and conclusions expressed herein are those of the author(s) and do not necessarily reflect the views of the Executive Directors of The World Bank or the governments they represent. The World Bank does not guarantee the accuracy of the data included in this work. The boundaries, colors, denominations, and other information shown on any map in this work do not imply any judgement on the part of The World Bank concerning the legal status of any territory or the endorsement or acceptance of such boundaries. 本報告書は 2012 年に世界銀行から World Development Report 2012: Gender Equality and Development として出版され た.本書の翻訳は株式会社 一灯舎によりまとめられたものであり,翻訳の正確性については,株式会社 一灯舎が責任を 負う.翻訳と原文の間になんらかの矛盾がある場合は原文に従う. 本書は,世界銀行スタッフの制作による.本書の調査結果や解説,結論は,必ずしも世界銀行の理事会あるいは彼らが代 表する国の見解を反映するものではない. 世界銀行は,本書中にあるデータの正確性を保証しない.地図にある境界線,色,名称,その他の情報は,いかなる領土 の法的立場,あるいはそのような境界線の容認に関する世界銀行の判断を意味するものではない. World Development Report 2012: Gender Equality and Development Copyright © 2012 by The International Bank for Reconstruction and Development/The World Bank 1818 H Street, N.W., Washington, D.C. 20433, U.S.A. 世界開発報告 2012――ジェンダーの平等と開発 Copyright © 株式会社 一灯舎 iii 序文  少女や成人女性の生活は過去四半世紀の間に激変してきた.今日,識字能力をもった少女や成人女性 の数はかつてない程多くなっており,3 分の 1 の途上国では就学生徒数は女子が男子を上回っている. 今や世界の労働力のうち 40%余りは女性である.加えて,世界のすべての地域で女性は男性よりも寿 命が長い.変化のペースは驚くべきであり,変化は多くの途上国でまさに先進国よりも速かった.女子 就学率についてアメリカで 40 年かかった上昇が,モロッコではわずか 10 年間で実現している.  しかし,一部の分野では,ジェンダー平等への進展は先進国でさえ限定的である.貧しく,遠隔地に 住み,身体に障害があり,あるいは少数グループに属している少女や成人女性は,引き続き後れを取っ ている.あまりに多くの少女や女性が依然として子供の時や出産適齢期に死亡している.女性は所得, 生産性,社会における発言権の大きさでは,依然として後れを取っている.教育など一部の分野では, 今や少年や成人男性が不利な状態にある,という逆のジェンダー格差がみられる.  本年の『世界開発報告 2012:ジェンダーの平等と経済開発』の重要なメッセージは,開発成果と政 策策定の両方にとって,このようなジェンダー平等の進展や執拗さのパターンは重要であるということ だ.それが重要なのは,ジェンダー平等それ自体がコアな開発目的だからである.さらに,ジェンダー 平等の進展はスマートな経済学でもあり,生産性を引き上げ,次世代や社会の政策,制度の質のための 将来展望も含め,他の開発成果を改善することにもつながる.経済開発だけではすべてのジェンダー格 差を縮小するには不十分であり,執拗なジェンダー格差に焦点を当てた是正政策が必須である.  本報告書では政策を推進するために 4 つの優先分野を指摘する.第 1 に,特に女性の死亡率や教育に 取り組むものを中心に,人的資本におけるジェンダー格差を削減する.第 2 に,経済機会へのアクセス, 所得や生産性におけるジェンダー格差を解消する.第 3 に,社会における発言権やジェンダーの格差を 縮小させる.第 4 に,ジェンダー不平等の世代間での再生産を制限する.これらの分野はすべて,所得 の増加そのものではジェンダー格差の削減にほとんど役立たないが,焦点を絞った政策なら真のインパ クトをもたらすことができるのである.  公的措置は各優先分野におけるジェンダー格差の基本的な決定要因に取り組む必要がある.それには サービス提供を改善すること(特に清潔な水,衛生設備,妊産婦ケアについて)や,進展を阻害する市 場や制度の機能に由来する制約(例えば,所得や生産性におけるジェンダー格差を削減することにおい て)に取り組むことが含まれる.  開発パートナーは公的措置を補完することができる.4 つの優先分野の 1 つずつについて,取り組む ためには資金の増加(特に最貧国が女性の死亡率や教育のジェンダー格差に取り組むのを支援するため ,ジェンダー別に分解したデータの改善,実験や体系的な評価の増加,民間部門や開発機関,市民 に) 社会組織を巻き込んだ広範なパートナーシップが必要である.  ジェンダー平等は開発の中心に位置している.それが正しい開発目的であり,スマートな経済政策で もある.この『世界開発報告 2012』は各国と国際パートナーの両方が,ジェンダー平等を重視するこ とについて徹底的に考えて,開発政策の策定や計画立案に統合するのを後押しすることができる. ロバート・B・ゼーリック 世界銀行グループ総裁 iv 謝辞   本 報 告 書 は Ana Revenga と Sudhir Shetty が 率 い る,Luis Benveniste, Aline Coudouel, Jishnu Das, Markus Goldstein, Ana María Muñoz Boudet, 及び Carolina Sánchez-Páramo で構成されるチー ムが作成した.調査補佐は Rabia Ali, María Inés Berniell, Rita Costa, Nina Rosas, 及び Lucía Solbes Castro が提供してくれた.多国間の定性的評価を調整したのは Patti L. Petesch と Carolyn Turk で ある.Andre Croppenstedt, Malcolm Ehrenpreis, Rebekka Grun, Mary Hallward-Driemeier, Tazeen Hasan, Karla Hoff, Ghazala Mansuri, Claudio E. Montenegro, 及び Bob Rijkers が広範囲にわたり貴 重な貢献をしてくれた.  『世界開発報告 2012』は開発経済学副総裁局(DEC)と貧困削減・経済管理副総裁局(PREM) か ら 共 同 で 後 援 を 受 け て い る. 作 業 は DEC の Justin Yifu Lin と PREM の Otaviano Canuto dos Santos Filho の共同指揮下で遂行された.Ann E. Harrison と DEC チーム,および Mayra Buvinic と PREM ジェンダー(PRMGE)チームが,本報告書作成のさまざまな段階で貴重な指針と貢献を 提供してくれた.  次の方々で構成されるアドバイザーのパネルが優れた助言をしてくれた.Bina Agarwal, Ragui Assad, Anne Case, Alison Evans, Raquel Fernández, Naila Kabeer, Ravi Kanbur, Santiago Levy, and Germano Mwabu.また,以下の人々も貴重なコメントの提供や貢献をしてくれた.Kathleen Beegle, Laura Chioda, Louise Cord, Maria Correia, Monica Das Gupta, Shantayanan Devarajan, Marianne Fay, Francisco H. G. Ferreira, Ariel Fiszbein, Indermit Gill, Alejandro Hoyos, Emmanuel Jimenez, Elizabeth King, Andrew Mason, William Maloney, Ambar Narayan, Pierella Paci, Tara Vishwanath, and Michael Walton.その他に世界銀行内外の大勢の方々がコメントと提案をするこ . とで貢献してくれた(その方々の氏名は文献注の箇所に列挙されている)   世 界 銀 行 の Robert B. Zoellick 総 裁 と 3 人 の 専 務 理 事 Sri Mulyani Indrawati, Mahmoud Mohieldin, 及び Ngozi Okonjo-Iweala からも貴重な指針と助言を頂戴した.  チームは世界各地で開催された協議,会合,ワークショップなどから多大な利益を享受した.そ のような議論には以下のような諸国から,政策立案者,市民社会代表者,学者,開発パートナーが 参加してくれた.ベニン,ボリビア,ブルキナファソ,ブルンジ,カリブ諸国,中央アフリカ共和 国,チリ,コロンビア,ドミニカ共和国,グルジア,グアテマラ,インド,インドネシア,ヨルダ ン,ケニア,クウェート,レバノン,マリ,メキシコ,モロッコ,パナマ,パラグアイ,ルワン ダ,セネガル,スロバキア,南アフリカ,スーダン,タンザニア,タイ,トーゴ,トルコ,ウガン ダ、ウルグアイ,ベトナム,ザンビア,ジンバブエ.また,協議は報告書作成のさまざまな段階 で,次の多国間および二国間のパートナーからの代表者とも行われた。オーストラリア国際開発庁 ,カナダ国際開発庁(CIDA) (AUSAID) ,米州機構・米州女性委員会(CIM-OAS),デンマーク国 際開発援助庁(DANIDA),イギリス国際開発省(DFID),食糧農業機関(FAO),日本国際協力機 ,国際労働機関(ILO) 構(JICA) ,ノル ,フィンランド外務省,メノナイト派中央委員会(MCC) ウェー開発協力庁(NORAD),経済協力開発機構・開発援助委員会(OECD-DAC)ジェンダーネッ ト,スイス国際開発協力庁(SDC) ,国連女性機関,国連児 ,スウェーデン国際開発協力庁(SIDA) 童基金(UNICEF) ,国連経済社会理事会(ECOSOC)第 55 回国連 ,アメリカ国際開発庁(USAID) 女性の地位委員会.  チームは以下から惜しみない補助金をいただいたことに謝意を表したい.ノルウェー政府(外務 謝辞 v ,SDC,AUSAID,CIDA,スウェーデン政府(外務省) 省) ,変化のための知識プログラム(KCP: 世界銀行の多国間ドナー・プログラム),ナイキ財団,世界銀行ノルディック信託基金,ファスト トラック教育プログラム開発基金.さらに,JICA,DFID,OECD からの現物支援にも感謝したい.  チームは次の方々で構成される WDR 制作チームの疲れを知らない支援に感謝している.Rebecca Sugui, Cecile Wodon, and Mihaela Stangu.また,Sonia Joseph と Evangeline Santo Domingo のリソー ス管理チームの支援にも感謝したい.Ivar Cederholm, Vivian Hon, Jimmy Olazo, and Irina Sergeyeva か ら い た だ い た 継 続 的 な 支 援 に も 感 謝 を 申 し 上 げ る。 他 に Gytis Kanchas と Nacer Mohamed Megherbi が貴重な支援を提供してくれた.ウェブサイトや通信に関しては Vamsee Krishna Kanchi, Swati P. Mishra, Merrell Tuck-Primdahl, and Roula Yazigi がチームを助けてくれた.  Bruce Ross-Larson が主任編集者を務めた.データの補遺に貢献し,主要世界開発指標を担当 してくれたのは開発データ・グループである.デザインは Design Symphony による.出版・翻 訳・販売に関して素晴らしいサービスを提供してくれたのは出版局と総務部翻訳部(GSDTR)で あり,特に次の方々の貢献に対してお礼を申し上げたい.Mary Fisk, Stephen McGroarty, Nancy Lammers, Santiago Pombo-Bejarano, Denise Bergeron, Rick Ludwick, Cecile Jannotin, Hector Hernaez, and Bouchra Belfqih. vi 略語およびデータ注 略語 AIDS エイズ(後天性免疫不全症候群) I2D2 国際所得分配データベース ALMP 能動的労働市場政策 ICRW 国際女性研究センター ANC アフリカ民族議会 ICT 情報通信技術 APEC アジア太平洋経済協力(会議) IFC 国際金融公社 ART 抗レトロウィルス治療 ILO 国際労働機関 ASEAN 東南アジア諸国連合 ITES IT 関連サービス ATM 現金自動預け払い機 ITU 国際電気通信連合 AUSAID オーストラリア国際開発庁 JICA 日本国際協力機構 BPO 業務プロセス外部委託 KCP 変化のための知識プログラム CARICOM カリブ共同体 LABOSTA ILO 統計局データベース CCT 条件付き現金給付 LAC ラテンアメリカ・カリブ地域 CEDAW 女性差別撤廃条約 LFPR 労働力参加率 CGAP 貧困層支援諮問機関 MCC ミレニアム挑戦公社 CIDA カナダ国際開発庁 MDG ミレニアム開発目標 CIM-OAS 米州機構・米州女性委員会 MNA 中東・北アフリカ地域 CWDI 国際女性経営幹部協会 MHHH 男性世帯主世帯 DANIDA デンマーク国際開発庁 MMR 妊産婦死亡率 DFCU ウガンダ開発金融会社 MTUS 多国間生活時間研究 DFID イギリス国際開発省 NAALC 北米労働協力協定 EAP 東アジア・太平洋地域 NAFTA 北米自由貿易協定 ECA ヨーロッパ・中央アジア地域 NGO 非政府組織 ECD 早期児童開発 NHO ノルウェー経営者連盟 ECOSOC 経済社会理事会(国連) NORAD ノルウェー開発協力庁 EdAttain 世界の学歴・就学データベース NSS 国家統計システム EFM 女性の超過女性死亡率 OECD 経済協力開発機構 EU ヨーロッパ連合 OECD-DAC Gendernet OECD 開発委員会ジェンダー平等 EU-SILC 所得と生活条件に関する EU 統計 ネットワーク FAO 食糧農業機関 PEKKA 女性世帯主世帯エンパワメント・ FDI 外国直接投資 プログラム(インドネシア) FENATRAD 家事労働者全国連合(ブラジル) PETT 特別土地登記プロジェクト(ペ FGC 女性器切除 / 女子割礼 ルー) FHHH 女性世帯主世帯 PISA OECD 国際生徒学習到達度調査 FINCA 国際コミュニティ支援財団 PROBECAT 労働者再訓練奨学金プログラム FLFPR 女性の労働力参加率 (メキシコ) FPE 初等教育無償化 REFLEX 雇用・専門職の弾力性に関する研 GBA 女性のための世界銀行業連合 究データベース GDP 国内総生産 RIGA 農村所得創出活動データベース GEME エジプト型ジェンダー平等モデル ROSCA 回転型貯蓄信用講 HDI 人間開発指標 SADC 南部アフリカ開発共同体 HIV ヒト免疫不全ウィルス SAR 南アジア地域 略語およびデータ注 vii SDC スイス開発協力庁 UN-HABITAT 国連人間居住計画 SERNAM 国家女性省(チリ) UNICEF 国連児童基金 SEWA 自営女性労働者協会(インド) UNIFEM 国連女性開発基金 SIDA スウェーデン開発協力庁 UNRISD 国連社会開発調査研究所 SME 中小企業 UN WOMEN 国連女性機関(ジェンダー平等と SSA サハラ以南アフリカ地域 女性のエンパワメントのための国 UIS ユネスコ統計研究所 連機関) UNAIDS 国連合同エイズ計画 USAID アメリカ国際開発庁 UNDP 国連開発計画 WHO 世界保健機関 UNESCO 国連教育科学文化機関 WINGO 女性の国際的 NGO データ注  本報告書の地域別および所得別のグループに含まれている諸国は,主要世界開発指標の 最後にある「国の分類」に列挙されている.所得別の分類は 1 人当たり国民総所得(GNP) に基づいており,本年度版に使われた所得別分類の水準は主要世界開発指標の序に示され ている.図表中に示されているグループの平均値は特記がない限り,グループ内に属する 諸国の単純平均値である.  経済圏について国という用語を使用しているが,これは世界銀行がその領域の法的ない しそのほかの地位について,何らかの判断をしているということを意味するものではない. 途上国という用語は低所得国と中所得国を含み,したがって,便宜上,中央計画経済から の体制移行国を含むこともある.高所得国を指すのに,便宜上,先進国という用語が使わ れていることもある. 注:ドルの数字は特記がない限り,名目の米ドル表示である.ビリオン(10 億)はミリ オン(100 万)の 1,000 倍,トリリオン(兆)はビリオンの 1,000 倍を意味する. 『世界開発報告 2012』の 主要なメッセージ ジェンダー平等は開発にとって重要である  ジェンダー平等はそれ自体が開発目的の核心である.また,それはスマートな経済 学でもある.ジェンダー平等により,生産性を高め,次世代のために開発成果を改善 し,制度をより重要なものにすることができる. • 生産性の上昇. 女性は今や世界全体の労働力の 40%,世界の農業労働力の 43%,世界の大学生の半分以上を占めている.彼らのスキルや才能がもっと十 分に活用されれば,全体の生産性が上昇するだろう.例えば,仮に女性農民が肥 料やその他の投入物を男性と同じように入手できれば,マラウイやガーナではト ウモロコシの収量が約 6 分の 1 は増加するだろう.特定の分野や職業において も,女性の労働を差別している障壁を取り除けば,労働生産性を 25%も上昇さ せることができる国がなかにはあるだろう. • 次世代のための成果改善.女性が家計資源に対するコントロールを強めれば,子 供たちに利益がもたらされる形で支出パターンが変化することによって,当該国 の経済成長の見通しを高めることができる.また,女性の教育や健康の改善は, ブラジル,ネパール,パキスタン,セネガルなどさまざまな諸国で,子供たちの いろいろな成果の改善に結び付いてきている. • より代表的な意思決定. ジェンダー平等はより一般的に社会にとって重要であ る.経済的・政治的・社会的な主体として女性をエンパワー(強化)すれば,政 策選択が変化して,制度はより広範な声を代表したものになり得よう.インドで は,地方レベルで女性に権限を付与したおかげで,女性にとってより重要な水や 衛生設備など公共財の提供が増加した. 開発によってジェンダー格差は若干縮小してきている  成人女性や少女が直面する不利のなかで,過去四半世紀の間に急速に縮小してきた ものには以下のものが含まれる: • 就学率.初等教育におけるジェンダー格差はほぼすべての諸国で縮小してきてい る.中等教育ではこの格差は急速に縮小しつつある.特にラテンアメリカ,カリ ブ,東アジアなどを中心に,多数の諸国では逆転して,今や不利なのは少年や若 い男性である.途上国においては,45 カ国の中等学校で少女が少年を人数で上 回っており,60 カ国の大学で若い女性が若い男性を人数の上で凌駕している. 『世界開発報告 2012』の主要なメッセージ ix • 余命.1980 年以降,世界のあらゆる地域で女 労働による収入が少ない傾向にある. 性の方が男性よりも長生きするようになってい る.また,低所得国では,現在の女性は 1960 • 家庭や社会における発言権の格差.多数の諸国 年頃に比べて平均的に 20 年長生きするであろ で,女性――特に貧しい女性――の家計の決定 う. に関する発言権や資源に対するコントロールが 弱い.また,ほとんどの諸国で,女性は男性に • 労働力参加率.発展途上世界のほとんどで女性 比べて形式的政治への参加が少なく,政治の上 の有給職参加が増加したのを受けて,過去 30 層部における代表者数も少なすぎる. 年間に 5 億人超の女性が世界の労働力に新た に参加するようになった.バングラデシュ,コ ロンビア,イランなど多種多様な途上国におけ 進展と抵抗を理解する る,出生率の前例のない低下が重要な理由であ 所得の増加それ自体があらゆる面でジェンダー平等 る. 化をもたらすわけではない.それどころか,ジェン ダー格差が速やかに解消した諸国をみると,それは 市場や制度――公式か非公式かを問わず――が機能 …しかし,他の格差は残存している すると同時に進化し,成長が実現し,このようなす  ジェンダー格差は先進国も含めて依然として多く べての要因が世帯の決定を通じて相互作用したおか の地域で残っている.最も執拗でひどいものとして げである.例えば,教育では,所得の増加(予算 は以下のものがある. 制約を緩めることによって),市場(女性向けに新 しい雇用機会を提供することによって),公式制度 • 少女・成人女性の超過死亡率.多数の低・中所 (学校を拡充しコストを低下させることによって) 得国では,男性との相対比でみて,女性は先進 などすべてが一緒になって,広範囲にわたる諸国で 国におけるよりも死亡する確率が高い.このよ 家庭の決定に影響し,少女や若い女性を教育するこ うな死亡は 60 歳未満の少女や成人女性につい とが支持されるようになったのである. て,毎年約 390 万人に達していると推定され ている.その内訳として,約 5 分の 2 が死産, 少女や女性が他の不利に直面している場合にはジェ 6 分の 1 が乳幼児死亡,3 分の 1 強が出産適齢 ンダー格差が存続する.貧しい場所の貧しい女性に 期における死亡となっている.また,この数字 とっては,大きなジェンダー格差が残っている.こ はサハラ以南アフリカでは,特に子供時代や出 のような格差は,貧困が遠隔性,民族性,身体障害 産適齢期の女性と,HIV/ エイズの流行で大打 など他の形の排他性と組み合わさると,さらに大き 撃を受けた諸国を中心に増加傾向にある. くなる.例えば,ベトナムの少数民族の女性の場 合,分娩の 60%以上が産前ケアなしに行われてい • 女子の学校教育における格差.全体的な進展に る.これは多数派であるキン族女性の 2 倍である. もかかわらず,女子の初等及び中等学校就学率 は,多くのサハラ以南アフリカ諸国と南アジア 市場,制度,そして家計は組み合わさって進展を制 の一部諸国では,社会的弱者グループについて 約することもある.例えば,生産性や所得にかかわ 男子よりも大幅に低いままである. るジェンダー格差は一般的である.また,次のこと にかかわる根深いジェンダー差別がその動因となっ • 経済機会へのアクセスが不平等.女性は男性よ ている.すなわち,時間の利用(家事や介護の仕 りも無給の家事労働者として,あるいは非公式 事に関する社会規範を反映),土地や資産にかかわ 部門で働く可能性が高い.女性企業家が活動し る所有権や支配力,市場や公式制度の機能(女性に ているのは中小企業や利益が少ない部門であ とって不利に作用する)などである. る.その結果,女性はどこの国でも男性よりも x 世界開発報告 2012 グローバル化は助けになり得る.現在のグローバル 人女性の超過死亡率を削減するためには,サー 化した世界では,貿易の開放性や安価な情報通信技 ビス(特に清潔な水,衛生設備,妊産婦ケア) 術などといった潮流は,次のことによってジェン の提供を改善する政策措置が最も重要である. ダー格差を削減する潜在性をもっている.すなわ ベトナムは清潔な水と衛生設備の利用を拡大す ち,女性を市場や経済機会に結び付ける,ジェン ることによって,若い女子の超過死亡率を削減 ダー問題に関する男女の態度や規範を見直す,各国 することができた. がジェンダー平等化を奨励するなどである.しか し,その影響は有効な国内政策措置がなければ弱 • 執拗な教育格差を縮小するためには,貧困,民 まってしまうだろう. 族性,地理などの理由で疎外されている場合に は,少女や成人女性のアクセスを改善し,ジェ ンダー格差が逆転している場合には男子に手を 国内政策措置の優先課題 差し伸べる政策が必要であろう.就学や通学を  途上国の政策立案者は,開発に対する成果が潜在 条件とする現金給付は,このようなグループに 的に最大で,所得の増加そのものは格差の削減にほ 支援が行き渡るという点で有効なことが多い. とんど役に立たず,政策の方向転換が最大の利益を パキスタンでは貧困家庭の少女を就学させるた もたらすようなジェンダー格差に焦点を当てる必要 めにそのような給付が使われ,ジャマイカでは があるだろう.その優先課題は次の通りである: リスクにさらされている少年の就学を維持する ために,条件付き現金給付が頼りにされてい • 少女や成人女性の超過死亡率に取り組み,凝り る. 固まったまま残存している教育におけるジェン ダー差別を撲滅する. • 所得や生産性における男女格差を縮小するため • 男女間における経済機会の利用の格差と,それ には,女性の経済機会の利用に不当に影響して に伴う所得や生産性の格差を解消する. いる多種多様な制約要因に取り組む一連の政策 • 家庭や社会における発言権におけるジェンダー が必要である.これには状況に応じて以下のよ 格差を縮小する. うな措置が含まれる: • ジェンダー不平等が世代を超えて再生産するの ΟΟ 女性の時間制約を除去する.そのために,育 を制限する. 児サービスを提供したり(コロンビアにおけ る働いている母親向けの補助金付きデイケ  ジェンダー平等をもたらすためには,焦点を絞っ ,インフラを改善 ア・プログラムのように) た持続的な国内の公的措置が必須である.また,そ したりする(南アフリカにおける農村部の電 れが有効であるためには,このような政策はジェン 化計画のように)必要がある. ダー格差の根本原因を標的にする必要があろう.妊 ΟΟ 特に土地(エチオピアでは夫婦に共同地権を 産婦死亡率など一部の分野については,政府は進展 付与)や信用(バングラデシュ)など生産的 にとって唯一の制約要因(サービス提供制度が弱 な資源に対して,女性のアクセスを改善す い)に取り組む必要があるだろう.経済機会の利用 る. にかかわる格差などの他の分野では,政策は進展を ΟΟ 女性に不利な情報問題や制度的な偏見に取り 制限している市場や制度の機能に由来する複数の制 組む.これには割当制や職業斡旋プログラム 約要因に取り組む必要があるだろう.この場合,政 の利用(ヨルダン),サービス提供制度にお 策立案者はこのような制約要因に優先順位を付け, けるジェンダー偏見の改革(インドのオリッ 同時に,あるいは逐次的にこの問題に取り組む必要 サ州では農業普及指導のために,女性の自助 があろう. グループを通じて実施された)などがある. • 乳児期,幼児期,出産適齢期における少女や成 • 家庭や社会における発言権についてジェンダー 『世界開発報告 2012』の主要なメッセージ xi 格差を縮小するためには,社会の規範と信念を 国際社会の役割 合わせた影響力,経済機会の女性の利用形態,  国内政策措置は決定的に重要ではあるが,このよ 法的枠組み,女性の教育やスキルに取り組む政 うな 4 つの優先分野それぞれにおける取り組みを 策が必要である: 補完したり,より一般的には,データの改善,イン ○○ 家庭内で発言権を平等化するためには,家計 パクトの評価,学習を通じて,実際の証拠に基づく 資産に対する女性のコントロールを高める措 公的措置を支援したりすることにおいて,国際社会 置や,特に女性の財産権を強化することよっ も一定の役割を果たすことができる. て,資産を累積できる能力を 高める法律が とりわけ重要である.モロッコでは最近の家 • 一部の分野については,教育面でのジェンダー 族法の改革がその一例であり,婚姻中に取得 格差の場合と同じく,現在の支援を調整するこ した財産に関して夫婦の財産権は平等である とが必要になるだろう.例えば,万人のための とされた. 教育単刀直入的なイニシアティブが不利な少年 ○○ 社会における女性の発言権を高めるための政 少女に確実に届くようにする,あるいは若い少 策には,政治的代表制にかかわる割当制や 女に焦点を絞ったパートナーシップと同じよう (世界中の多数の諸国で実施されている),将 に既存の努力を維持することが必要であろう. 来の女性指導者を育成及び訓練し,労働組合 • その他の分野では,多方面にわたり新しい,あ や専門職団体などのグループにもっと女性を るいは追加的な措置が必要とされるだろう.そ 関与させる措置が含まれる. れは資金供与の増加,革新や学習を促進するた めの調整に向けた取組み,より有効なパート • 世代を超えたジェンダー格差の再生産を制限す ナーシップなどを組み合わせたものになるだろ るためには,青年や若い成人に政策が行き渡る う. ことが重要である.なぜならば,スキル,将来 ΟΟ 資金供与は特に最貧国が少女や成人女性の超 の健康,経済展望,抱負の取得を決定付けるこ 過死亡率を削減し(清潔な水や衛生,妊産婦 とにつながる意思決定を行うのが,この年代だ 保健サービスに対する投資を通じて),教育 からである.したがって,介入策は次の点に焦 における執拗なジェンダー格差を除去するの 点を当てる必要がある. を支援することに振り向けられるべきであ ΟΟ 人的及び社会的資本を構築し(マラウイにお る. ける現金給付プログラム),教育や保健教育 ΟΟ 特に次のようなことのために支援の増加が必 プログラムの収益率に関する情報を改善する 要とされている.すなわち,ジェンダー別に (ドミニカ共和国ではそのおかげで少年たち 分解されたデータの入手可能性を改善し,市 は就学を継続している). 場やサービス,司法に対する女性のアクセス ΟΟ 職業や生活スキルの訓練プログラムで学校か を改善するためのメカニズムに関する実験や ら仕事への移行を円滑化する(ウガンダ). 体系的な評価を促進する. ΟΟ 支配的な社会規範に挑戦する女性の政治指導 ΟΟ パートナーシップは政府や開発機関を超えて 者など,お手本となる人との接触によって, 拡大し,途上国と先進国両方の民間部門,市 女性の抱負を改善する. 民社会組織,学術機関を含むべきである. xii 目次 序文 iii 謝辞 iv 略語およびデータ注 vi 『世界開発報告 2012』の主要なメッセージ viii 概観 2 ジェンダー平等は開発にとってなぜ重要なのか? 2 本報告書は何を目指しているか?  6 ジェンダー平等に関してどの分野で最大の進展があったか? 9 ジェンダー不平等が執拗なのはどの分野なのか,そしてその理由は何か? 14 何をなすべきか? 23 ジェンダー平等に向けた改革の政治経済学 37 ジェンダー平等化のための世界的なアジェンダ 38 はじめに:本報告書へのガイド 46 ジェンダー平等と開発:結び付きがなぜ重要なのか? 46 本報告書は何をするのか? 48 本報告書をナビゲートする:道路地図 51 PART Ⅰ ジェンダー平等のこれまでの進展を見る 54 1 進展の波 56 時代は変わりつつあるのか? 56 女性の権利にかかわる世界的なコンセンサスの高まり 57 多くの領域で女性にとってより良い成果が生まれている 59 変化が変化を生む 66 2 ジェンダー不平等の執拗さ 72 著しく不利な状況下にある人々 73 経済発展にもかかわらず格差が残存している「執拗な」分野 76 逆戻り 86 「執拗な」は「より執拗な」になる 89 スプレッド 1 女性のエンパワメントへの道:すべての道はローマに通じるのか? 94 PART Ⅱ 進展の原動力となってきたものは何か? 妨げているものは何か? 98 枠組みについて 99 枠組みを適用する 102 目次 xiii 3 教育と健康:ジェンダー差はどこに真の問題があるのか? 104 人的資本形成の重要性 106 教育 106 保健 117 技術的補遺 3.1 出生時に行方不明の女児と出生後の女性の超過死亡の算出 140 章のまとめ:教育や保健でのジェンダー差の縮小について,世帯,市場,制度の いずれかの障壁をひとつ撤廃するだけで十分に良い結果が得られる場合は,飛躍的 に進歩してきた.複数の障壁を同時に撤廃しなければならない,またはたったひと つの入口がネックとなっている場合は,進歩のスピードはもっと遅い 143 4 女性のエージェンシーを促進する 150 女性のエージェンシーは重要である 151 経済成長は女性のエージェンシーを促進するが,その影響は限定的である 153 権利とその効果的な実行によって,女性の選択と発言力が形作られる 159 社会規範は女性のエージェンシーの向上を妨げる,あるいは促進する 170 女性の集団的エージェンシーは,制度,市場,社会規範を形作る 178 章のまとめ:女性がエージェンシー(自律性)を行使する能力は,男性と比べ依然として弱い  184 スプレッド 2 一家の稼ぎ手の減少:21 世紀の男たち 194 5 職務におけるジェンダー差とその重大性 198 生産性と賃金におけるジェンダー差を理解する 201 ジェンダー間職務分離を説明するものは何か? 概観 209 ジェンダー,時間の使途,職務分離 215 生産用投入資源へのアクセスにおけるジェンダー差と職務分離 225 市場と制度の失敗の“集合”が及ぼすジェンダーへの影響 231 生産性の罠から脱出する:どのように,なぜやるのか? 236 章のまとめ:ジェンダー間職務分離が持続しているため,女性は低生産性・ 低賃金の仕事から抜け出せない. 239 6 グローバル化がジェンダー平等に与える影響:何が起き,何が必要なのか 252 世界はますます統合に向かっている――最近のトレンドと事実 253 貿易開放と ICT(情報通信技術)が,女性の経済機会へのアクセスを向上させてきた 254 適応するか,チャンスを逃すか 262 グローバル化は平等主義的な男女の役割と規範の促進もする 265 古い問題,新たなリスク 267 コップの水はまだ半分しかない? それとも,もう半分まで満たされた? 解釈の相違と公的措置の必要性 269 章のまとめ:グローバル化は,ジェンダー平等の拡大に寄与する可能性がある 271 スプレッド 3 年齢が変わり,身体が変わり,時間が変わる――思春期の少年少女 278 PART Ⅲ 公的措置の役割と潜在力 284 適切な政策を選択する 285 有効な政策の実施 285 行動のための世界的なアジェンダ 286 7 ジェンダー平等のための公的措置 288 健康や教育における格差を削減する政策 289 経済機会を改善するための政策 296 女性のエージェンシーを改善するための政策 307 xiv 世界開発報告 2012 思春期の若者や若い成人にとって,世代を超えたジェンダー不平等の再生産を回避する 317 ジェンダー・スマートな政策を策定する: 「ジェンダー主流化」に焦点を当てる 320 求む:より良い証拠 323 8 ジェンダー改革の政治経済学 332 非公式制度――変化の原動力としての社会的ネットワーク 335 包容的な市場 343 公式な制度や政策にジェンダーを持ち込む 348 機会の窓をとらえる 352 変化への経路 354 9 ジェンダー平等化の推進に向けた世界的アジェンダ 364 世界的アジェンダの論拠と焦点 364 何をどうすべきか? 366 参考文献についての注 377 背景論文・メモ 379 主要指標 2012 381 主要世界開発指標 2012 389 索引 412 ― ボックス ― 1 ジェンダー平等の意味? 4 4.2 結婚(及び離婚)における財産 162 2 ミレニアム開発目標はジェンダー平等の本質的な 4.3 寡婦は資産を失うリスクがあるが,ある程度の自由を 価値と手段としての価値を認識している 4 得られるかもしれない 164 3 男女は 21 世紀におけるのジェンダーのあり方を 4.4 多元的法体制とその広がり 166 どのように定義すべきか 8 4.5 「良い妻」 , 「良い夫」とはどういう意味か? 173 4 市場,公式制度,非公式な社会制度はそれぞれ何を 4.6 男らしさと,役割,選好,行動に対するその影響 174 意味するのか? 8 4.7 なぜ社会規範は持続するのか? 175 5 妊産婦死亡率を削減する――そのためには何が 4.8 固定観念はどのように成績や遂行能力に 機能するか? マレーシアとスリランカの事例 27 影響するのか 177 6 ヨルダンでの女性雇用に対する触媒作用を 5.1 縮小しつつあるアクセスの格差――最近の女性の 強化する 31 労働参加の進展 199 7 労働市場での将来の失敗を克服するための早期介入 5.2 役員室の女性 204 ――青年女子イニシアティブ 35 5.3 採用時のジェンダー差別? 採用調査の研究による 0.1 ジェンダー平等が成長に及ぼす効果の推定について 証拠 206 の問題 49 5.4 ジェンダー間職務分離とは? 207 1.1 ジェンダーとミレニアム開発目標(MDG) 58 5.5 良い仕事と悪い仕事:どんな仕事が該当し, 2.1 気候変動には多くの側面がある 87 誰がやっているのか? 211 3.1 成人の死亡リスク:どの国が統計分布から外れて 5.6 分離の種は早くから撒かれている いるのか? 120 ――教育ルートのジェンダー差は,どのように 3.2 4 つのアフリカ 136 職務分離を形成するのか 216 4.1 年金――加入率,金額,遺族給付は,女性の自律に 5.7 時間使途のパターンにおけるジェンダー差の とって重要 156 分析に使用するデータの概要 218 目次 xv 5.8 日中何をしているのか? 異性の時間使途の 8.1 グルジア――新しい社会で変化するジェンダー パターンについての見方 221 別の役割 334 5.9 世帯主の性別か,世帯構成か:政策にとって 8.2 大局的にみたフェミニズム(男女同権) 336 最も重要なのは何か? 225 8.3 競合する利害――カースト・民族性・ 5.10 エジプトにおける家族の形成と公共部門の雇用 233 宗教に基づく政治とジェンダー 337 5.11 ジェンダー平等についての企業の実例 238 8.4 公職における女性の増加――ナミビア 6.1 今日の仕事か,明日のもっと良い仕事か 女性マニフェスト・ネットワーク 338 ――経済機会へのアクセス向上が,女性の 8.5 投票権に関する女性の間での意見の相違 人的資本に与える影響 256 ――スイスの事例 338 6.2 先進国の男性(と女性) に対するグローバル化の 8.6 ブラジルの家事労働者 339 影響 257 8.7 大衆文化はどのようにして社会的態度を 6.3 職業のタスクと要求されるスキル――言葉を 変えることができるか 342 正しく理解する 257 8.8 ジェンダー多様化のための 4 つの善良な 6.4 携帯電話技術と ICT を活用し,サービスへの 慣行 345 アクセス向上に弾みをつける 262 8.9 ペルーにおける土地所有権付与――ジェンダー 6.5 グローバル化と労働条件――前進はしているが, 中立的なプログラム向けにジェンダーの もっとやらなければならないことがある 266 レンズを使う 349 7.1 水供給を改善する:ダカールとプノンペン 292 8.10 ジェンダー機構の実際 350 7.2 妊産婦死亡率を削減する:マレーシアと 8.11 ウガンダの離婚法における法廷と憲法上の スリランカがしたこと 296 挑戦 351 7.3 男女・少年少女を所得ショックから保護 8.12 フィジー:家族法におけるジェンダー平等の する 297 牽引力としての国際規範 353 7.4 ヨルダンで女性雇用に触媒作用を及ぼす 303 8.13 社会規範を徹底的に変える 356 7.5 女性や企業家向けにファイナンスへのアクセスを 8.14 チュニジア――女性の発言と女性の権利 357 拡大するための革新的なアプローチ 305 8.15 スウェーデン:父親の関与を奨励する 358 7.6 平和や紛争後再建のプロセスに女性の声を 含める 310 ―図― 1 ジェンダーの現状は家計・市場・制度が ジェンダーではほとんど説明できない 63 相互作用した結果である 9 1.3 女性は男性よりも長生き 64 2 世界中で女性が産む子供の数は減少 1.4 アメリカで 100 年かかったことが, している 10 インドでは 40 年,イランでは 10 年で 3 初等・中等レベルの就学率ではジェンダー 実現した 64 平等が世界中のほとんどで達成されたが, 1.5 予防型保健サービス利用における不平等は 高等レベルの就学率は非常に低いなか ジェンダーではほとんど説明できない 65 で女性の方がむしろ高い 11 1.6 労働力参加率のジェンダー格差は 1980    008 年に –2 4 教育における進展を説明するために 縮小した 66 枠組みを使う 11 1.7 すべての所得水準において,各国で,女性の 5 女性の労働力としての参加率は時とともに 労働力参加率は 1980  –2  008 年に上昇した 66 全所得水準で増加してきた 12 1.8 「大学教育は女子よりも男子にとって重要」 6 女性の就学率向上の実現で低所得国は後れを という意見に賛成の人? 69 取っている 13 1.9 「仕事が不足している場合,仕事に関して 7 国内における女性の不利な状況は所得が 男性には女性よりも大きな権利が認められる 低いほど顕著である 14 べきである」という意見に賛成の人? 69 8 女性と男性とでは働いている部門が異なる 17 2.1 一部の諸国では女子の就学率が驚くほど 9 執拗な性差別と所得格差の関係を説明する 18 低位にとどまっている 74 10 女性は世界中で男性よりも介護と家事に 2.2 一部の諸国では女性の不利な状況は所得が 多くの時間を割いている 19 低いほど大きくなる 75 11 農業の生産性についてのジェンダー格差は, 2.3 富の水準が低くても,女子の方が男子よりも 生産的な投入物へのアクセスとその利用を 長く就学している国もある 75 考慮に入れると消滅する 20 2.4 所得が低いと出生率は高水準にとどまる B0.1 1 人当たり GDP とジェンダー平等は正の ――さらに,国が貧しいほど,出生率の 相関関係にある 49 富裕層と貧困層の格差は大きい 76 1.1 ジェンダー平等は初等及び中等レベルの 2.5 多くの途上国における妊産婦死亡率は 就学率について世界の多くで達成され, 1900 年以前のスウェーデンに似ている 79 高等レベルの就学率では今や女子優位と 2.6 女性は男性よりも非公式部門で働いている なっている 61 割合が高い 80 1.2 –1 12    5 歳児童の教育参加にかかわる不平等は 2.7 女性と男性とでは働いている部門 xvi 世界開発報告 2012 (および職種)が異なる 81 互いに強化しあうからである 153 2.8 世界中で女性は男性よりも介護と家事に, 4.3 裕福な女性ほど,結婚年齢が高い 154 男性は市場性の活動に毎日多くの時間を 4.4 裕福な家庭ほど,女性のコントロール力が強い 155 割いている 82 4.5 ラテンアメリカ 6 カ国における,男女別の土地取得の 2.9 女性自身の所得はだれがコントロール 形態 155 しているか? 83 4.6 家の外で働くと,男女のネットワークは(ほぼ)同等に 2.10 妻を殴ることは正当化される,というのが 広がる 157 多くの諸国における受け止め方 85 4.7 大半の国では,避妊手段へのアクセスの問題は, 2.11 家庭内暴力の通報割合については国別に 知識の欠如や避妊への反対ほど大きな制約 大きなバラツキがある 86 ではない 158 2.12 男性は政治指導者として女性より優れていると 4.8 相続における進展は,寡婦よりも娘に対しての方が 考えられている 86 早い(平等な相続,不平等な相続,慣習法による P.2.1 ジェンダーの結果は,世帯,市場,制度の 相続を行っている国の割合) 160 相互作用から生じる 101 4.9 家庭内暴力の場合,サービスを求める女性はほとんど 3.1 世界の大半の国々は,初等教育の就学率では いない 169 ジェンダー平等を達成したが,高等教育の 4.10 所得よりも教育が規範の制約を弱める 170 就学率は非常に低く,女性に有利である 108 教育水準および富裕度別の,医療ケアを受けるのに 3.2 教育の成果における不平等度が中程度または 許可が必要な女性の確率 170 大きい国の大半では,不平等の原因として 4.11 結婚した時期は違っても,多くの少女が依然として ジェンダーが占める割合は 20% に満たない 109 18 歳未満で結婚している 171 3.3 何が就学率の上昇の原因となっているのか? 109 4.12 暴力の被害者が助けを求めない理由 172 3.4 初等教育の無償化によって,就学率の 4.13 2010 年時点でも,女性が社会関連の大臣になる ジェンダー格差が縮小した 110 可能性は,経済関連の大臣の 2 倍だった 179 3.5 OECD 国際生徒学習到達度調査(PISA)における 4.14 社会での女性の発言力は,女性の役割と能力についての 2009 年の平均得点によれば,国内のジェンダー 社会規範と公式の制度によって制限される 180 差よりも国家間の差の方が大きい 114 4.15 リーダーシップの手腕についての認識は依然として 3.6 サハラ以南アフリカの成人と子どもの死亡率 118 非常に一般化しており,教育水準の低いコーホートほど 3.7 成人死亡率:期間経過に伴う(性別比の) 偏った見方をしている 181 変化 119 「男の方が政治のリーダーとして優秀だ」に賛同する人 3.8 低・中所得国では 1990 – 2008 年に,所得が の割合 181 増加しても女性の超過死亡は減らなかった 123 4.16 女性は政党に属さない可能性がはるかに高い 181 3.9 なぜそれほど多くの女児が出生時に B4.1.1 中国の年配者にとっての収入源(2005 年) 156 行方不明なのか? 124 B4.3.1 年配の女性はひとりで暮らし,年配の男性は配偶者と 3.10 予防接種率,栄養状態,子どもが病気になった 暮らす 164 ときの医療サービスの利用に関して,ジェンダーに よる不利益はほとんど,または全くない 127 B4.3.2 多くの国で,夫の家族が夫の資産の半分以上を 受け取る 164 小さな差では,さまざまな国における超過死亡数の割合 の違いを説明できない 127 5.1 賃金には体系的なジェンダー差がある 202 3.11 医療施設での男女の扱いは同じ 128 5.2 女性は賃金労働者と無給の家族労働者に多く 存在する 207 3.12 1900 年代初頭の高所得国における女児の超過死亡 の水準は,現在の低・中所得国のものとよく 5.3 農業生産性における男女差は,生産用投入資源への 似ている 129 アクセスとその利用を考慮すると,大幅に 縮小する 208 女性の超過死亡は,子ども全体の死亡率の低下とともに 減少した 129 5.4 男女が経営する企業の生産性のジェンダー差は, 公式部門と非公式部門の生産性の差があまりに 3.13 妊産婦死亡率はこれらの国々で 1930    960 年に急激に –1 大きいため,矮小化する 209 下がった 130 5.5 経済発展は,有給労働者における女性労働者の 3.14 現在の高所得国にも,20 世紀前半に生殖可能年齢期の 割合と正の相関があり,無給労働者,自営業, 女性の超過死亡が存在した 131 企業家における女性の割合と負の相関がある 213 妊産婦死亡の減少に伴い,全所得層で超過死亡が 5.6 男女の雇用パターンは経済成長とともにどう 減っている 131 変化するのか――タンザニアとブラジルの例 214 3.15 女児や生殖可能年齢期の女性の超過死亡を説明するもの 5.7 産業と職業の分離パターンは,経済発展の水準や は何か? 132 部門毎の労働者数の分布が大きく異なる国にも, 3.16 HIV 感染率が高い 4 カ国における,年齢別の女性の 共通して見られる 215 超過死亡 134 5.8 経済機会へのアクセスとその結果生じる 3.17 国によっては,男性の超過死亡が存在する 135 職務分離は,世帯,市場,制度と,それらの 3A.1 年齢別の死亡率性別比(2008 年) 141 相互作用の産物である 217 3A.2 さまざまな比較対照集団を用いた場合の,世界における 5.9 女性は家事労働と家族の世話をまともに背負い, 女性の年齢別超過死亡(2008 年) 142 男性は市場性の仕事に責任をもつことが多い 219 4.1 子どものときに暴力を目撃すると,成人後に暴力を 5.10 男女の時間使途のパターンは,家事労働や 行使する傾向がある 152 家族の世話よりも市場性の仕事でより強く 4.2 女性のエージェンシーの進展が限られているのは, 収斂している 220 市場,公式の制度,非公式の制度における制約が 5.11 メキシコとタイでは,既婚女性は,男性や 目次 xvii 独身女性よりも,無職と非公式の自営業の間を 顕著である 261 行き来する確率が高い 222 6.8 テレワークは,特に女性労働者の間で近年急速に 5.12 女性世帯主世帯は男性世帯主世帯よりも土地の 伸びている 263 所有や利用が少ない傾向がある 226 6.9 女性雇用者の割合は,産業によって顕著に 5.13 過去 12 カ月間に,農村部の女性世帯主世帯は, 異なる 264 男性世帯主世帯よりも信用を供与されていない 227 6.10 CEDAW の批准国はすべての地域で増加し, 5.14 生産用投入資源と市場へのアクセスは,男性 2011 年には 193 カ国中 187 カ国に達した 265 世帯主世帯よりも,女性世帯主世帯の方が 7.1 資質の格差を縮小する 290 少ない 228 7.2 経済機会を改善する 297 5.15 相互に強化しあう市場と制度の制約は, 7.3 女性のエージェンシーを改善する 308 女性が生産性の罠にはまりこむ主因である 237 8.1 社会的主体とその相互作用が,ジェンダー平等 B5.1.1 労働参加率――収斂している 200 推進における市場,公式制度,非公式制度の役割を B5.8.1 伝統的なジェンダー役割にそぐわない活動と余暇に, 規定する 333 異性が費やす時間を過少評価する 221 8.2 社会的ネットワークは世論を関与させ,支持を 6.1 国際貿易は 1990 年以降,急速に伸びている 253 動員し,変化を鼓舞することができる 335 6.2 携帯電話とインターネットへのアクセスは, 8.3 世界中の男性は女性の権利や政策を 先進国,発展途上国ともに急増している 254 支持している 341 6.3 経済機会は変化してきた 255 8.4 経済的・政治経済的な配慮を受けて,企業は 6.3a 製造業およびサービス業における女性(と男性)の ジェンダー平等化の方針を推進している 344 雇用は発展途上国の方が急速に拡大しており, 8.5 国家の措置はジェンダー推進政策の設計・ このことは,世界全体の製造と労働の分布に大きな 採用にとって重要である 349 変化が起きていることを示している 255 8.6 女権増加に向けた進展は主要な国際人権会議の 6.3b そして,1995 年から 2005 年にかけての 時期に集中している 354 (男性ではなく) 女性の雇用水準の上昇は, 国際貿易の増加と相関していた 255 S1.1 梯子を上る主要な要因 95 6.4 アメリカでは 1950  –2   005 年に,頭脳の要求度が S1.2 タンザニアのブコバ(都市部)における現在と 急激に上昇し,筋肉の要求度が減少した 258 10 年前の梯子でのシェア 96 6.5 ブラジル,インド,メキシコ,タイでは過去 15 年に S1.3 イエメンのダマール(農村部)における現在と わたり,男女(特に女性)に対する頭脳の要求度が 10 年前の梯子でのシェア 97 上昇し,筋肉の要求度が低下した 259 S2.1 力の獲得を説明する要因 195 6.6 アフリカでは,女性は男性よりも携帯電話を所有・ S2.2 力の喪失を説明する要因 196 使用する割合が低い 260 S3.1 良い少女と少年,悪い少女と少年の特性 279 6.7 インターネットへのアクセスと使用に関しては, S3.2 女性の役割についての,思春期の少年少女の 先進国と発展途上国の格差は依然として非常に大きく, 意見 282 一部の発展途上国や先進国ではジェンダー格差も ― 地図 ― 1 男女間の所得格差(男性所得 1 ドル当たりの B4.2.1 女性は住む場所によって,資産のコントロール ―― 離 女性の所得) 18 婚や夫が死亡した場合に重要――が 0.1 定性的評価を実施した経済圏 50 異なる 162 3.1 中国とインドでは,出生時に行方不明の 5.1 個人の特性を考慮した後のジェンダー格差の 女児数が依然として多く,アフリカの 大部分は,職業と産業におけるジェンダー差で 一部では 1990  –2  008 年に女性の超過死亡が 説明できる 210 大幅に増加した 122 B5.1.1 女性の労働参加率――高いところも低いところも 4.1 サハラ以南アフリカでは,慣習法が多くの国で ある 199 正式に認められており,それが差別的な 場合がある 167 ―表― 1 約 400 万人もの女性が毎年行方不明に 3.2 歪んだ出生時性別比と女性の超過死亡は世界中で なっている 16 存続しており,出生時に行方不明の女児と, 2 世界的な措置のためのアジェンダ一覧表 39 乳幼児期・生殖可能年齢期の女性の超過死亡に つながっている. 121 2.1 –2 1990    008 年にインドと中国では出生時における 少女の行方不明者が増加し,サハラ以南アフリカでは 5.1 女性農業者は,男性農業者より平均生産性が 女性の超過死亡も増加した 78 低い 202 3.1 専攻分野のジェンダー間分離:大半の国では, 9.1 世界的な措置のためのアジェンダ一覧表 365 保健・教育分野で女子が多く,工学・科学分野で男子が 多い 115 1 世界開発報告 2012 ジェンダーの平等と開発 概観  バルアニはタンザニアのイジュハニョンドという村で,過去 10 年間に女性と男性の生 「10 年前はひどい状況だった」と彼女 活がどのように変化してきたかを振り返っている. 「女は非常に後れていた.家事をしながら家にいただけだ.しかし,今や女も は振り返る. .他の人々も同じような意見だ. 事業をしたり,政治に参加したりしている」 「私たちはか 「自分のお金が少し つてのように男たちに大きく依存してはいない」とアグネッタは言う. あるので,男から自由でいることができる.そしてこれは,ある程度は自分の人生をコン .事業経営に加えて,女たちは今や村の運営を担当 トロールしたりすることの助けになる」 している街頭委員会の会員の半数を構成している.  このような肯定的な変化にもかかわらず,女性の日常生活にとっては多くの挑戦が引き 続き重荷になっている.村の家屋で水道があるのは半数以下である.更に難しいことに, 「男たちは ツンギスを初めとする村の女たちは依然としてパートナーの暴力を恐れている. .法的には 酔っ払っていると,家のなかで女や子供を殴る.最悪の連中は性交を強要する」 女性も土地や家を相続できるが, 「確かに女も財産を相続できる」 伝統の方が支配的である. 「実際には,父親は遺言のなかで息子や娘 と街頭委員会の事務局長であるフローラは言う. の一人一人に何かしら残すことになっているが,今や法律は厳格で,それは平等でなけれ ばならない.しかし依然として,男たちは息子に遺贈する.そして女は結婚した先の財産 . がもらえると主張している」 「21 世紀のジェンダーを定義する:世界中の男女との対話:ジェ (World Bank ンダーと経済選択に関する多国間定性的研究」 2011)のドドマ農村コミュニティについてのレポートより ジェンダー平等は開発にとってなぜ重要なのか?  タンザニアのイジュハニョンド村の話は,過去四半世紀にわたって世界中でみられ たジェンダー平等化の進展を映している.多くの女性は日常生活のなかで引き続き ジェンダーに基づく不利と格闘しているが,状況は改善してきている.しかも,わず か 20 年前には考えられなかったペースで変化してきている.女性は権利,教育や保 健,仕事や生計手段の利用といった点において,前例のない進展を達成している.か つてないほど多くの諸国が,財産所有権,遺産相続,婚姻などの分野で法の下におけ る男女同権を保証している.合計すると,今や 136 カ国が憲法のなかですべての市 民の平等と男女の不当差別禁止を明示的に保証している.  これらの進歩は容易だったわけではない.また,すべての諸国やすべての女性に とって,さらには,ジェンダーのすべての側面にわたって,均等に進展してきたわけ ではない.サハラ以南アフリカや一部の南アジアでは,女性が分娩の際に死亡する確 率は依然として 19 世紀当時の北ヨーロッパに匹敵している.ナイジェリアの豊かな 都市部の子供は――男女を問わず――平均すると約 10 年間の学校教育を享受してい るが,貧しい農村部のハウサ族の少女の場合は 6 カ月以下である.男性との対比で みた女性の死亡率は,低・中所得国では高所得国よりも高い.特に乳児期,幼児期, 出産適齢期といった重要な時期における死亡率がそうなっている.多くの女性は離婚 した時や寡婦になった時を契機に,土地を初めとする財産を失っている.女性の労働 の多くが低賃金の「女性的」とされる部門や職業に引き続き集中している.また,女 概観 3 性は家庭では暴力の被害者として重傷を負っている マートな経済学である.経済効率を高め,他の開発 可能性が高い.さらに,ほとんどすべての諸国で 成果を次の 3 つの方法で改善する.第 1 に,女性 は,政治やビジネスの上級管理職における女性の割 が教育や経済機会,生産的投入物に対して男性と同 合は男性よりもはるかに低い. じ利用条件をもつことを妨げている障壁を除去すれ  このようなジェンダーの不平等にかかわるパター ば,広範な生産性の向上――競争的でグローバル化 ン――与えられている人的資本や物的資本,経済機 した世界ではいよいよ重要になっている――を生み 会,望ましい成果を達成するために選択を行う能 出すことができる.第 2 に,女性の絶対的及び相対 力(エージェンシー)などにおける――は,特に開 的な地位を改善すれば,子供たちに関するものも含 発プロセスが進展していても執拗に残存している めて,その他の多くの開発成果にも好影響がある. 場合は重要なのだろうか? 本年度の『開発報告』 第 3 に,競争条件を平準化すれば――社会的・政治 (WDR)では次の 2 つの理由から,それは確かに重 的に活動的になり,意思決定を行い,政策を策定す 要であると主張している.第 1 に,ジェンダー平 ることに関して,男女に平等なチャンスがあれば― 等は本質的に重要である.というのは,自分自身が ―,時とともにより代表的で包容的な制度や政策の 選んだ生活を送り,絶対的な収奪を免れる能力は基 選択,したがってより良い開発軌道につながる可能 本的な人権であり,男女の区別なく万人にとって平 性が高い.以下,順番に1つずつ検討してみよう. 等でなければならないからだ.第 2 に,ジェンダー 平等は手段として重要である.なぜならば,ジェン 女性のスキルや才能の誤った配分は高価で経済コスト ダーの平等化が高まれば,それは経済効率や他の重 の増加を伴う 要な開発成果の実現に貢献するからだ.  ジェンダー平等は生産性に大きなインパクトを及 ぼすことがある.女性は今や世界全体の労働力の ジェンダー平等はそれ自体が重要である 40%強,農業労働力の 43%,世界の大学生の半分  われわれはアマーティア・センにならって,開発 以上を占めている.経済が潜在力に沿って機能する を万人にとって自由が平等に拡大していくプロセス ためには,女性のスキルと才能はそれが最大限に活 として考えることができる 1.開発をこのようにみ 用される活動に従事しているべきである.しかし, ると,ジェンダー平等はそれ自体が中心的な目的と 大勢の女性による発言が例証しているように,現実 いえる(ボックス 1).したがって,開発がちょう は必ずしもそうではない.女性の労働力が十分に使 ど所得面での貧困の減少や司法へのアクセス改善 われていない,あるいは不適切に使われている場合 を意味するように,それは男女間の福祉格差の縮小 には経済的損失という結果が生じる.不適切な使用 も意味しているべきである.この見方は国際開発 は,市場や社会制度のなかで差別が行われ,教育の 社会の次のような認識においても明白となってい 修了,特定の職業への従事,男性と同じ所得の獲得 る.すなわち,女性のエンパワメントとジェンダー などが阻害される原因となる.女性農民が特にアフ 平等は,それはミレニアム開発目標の 3 と 5 でも リカを中心に多くの諸国でみられるように,土地所 指摘されているように,それ自体が開発目的である 有権について確実性を欠いていると,信用クレジッ (ボックス 2).それは女性差別撤廃条約(CEDAW) トや投入物へのアクセスの低下や,土地利用の非効 の採択と広範な批准にもみられる.1979 年に国連 率化,収量の減少という結果が生まれる.信用市場 総会で採択された同条約は,女性の発展のための包 における差別や生産的投入物の利用におけるその他 括的な枠組みを確立したもので,これまでのところ のジェンダー不平等も,女性がトップの企業では男 187 カ国が批准している. 性がトップの企業と同じような生産性や収益を確保 するのがむずかしくなる原因となっている.さら ジェンダー平等は開発にとって重要である――そ に,女性を経営陣から排除すると,マネジャーたち れはスマートな経済学だ の平均的なスキルが劣り,革新や新技術採用のペー  ジェンダー平等は開発の手段としても重要であ スが遅れる 2. る.本レポートが示すように,ジェンダー平等はス  このような欠陥――多くは市場や制度がどう機能 4 世界開発報告 2012 ボックス 1 ジェンダー平等の意味?  ジェンダーとは女であること,あるいは男であることに できない事情から生じる不平等と,個々人の選好や選択の 関連した社会や行動,文化の面における属性や期待,規範 相違に由来する不平等を区別することが可能になる.研 を言う.ジェンダー平等とはこのような側面において,男 究資料のかなりのものが,リスク回避性,社会的選好,競 女が互いにどう関係し,その結果として男女間の力の差異 争に関する態度などにについての男女の差異を記載してい がどう決定されるのかを指す. る.したがって,態度,選好,選択に関して,平均的に,  本レポートでは研究者だけでなく,アフガニスタン・ 男女間で相違があるとすれば,結果について観察されるす ポーランド・南アフリカなど世界の多種多様な諸国の男女 べての相違を機会の相違に帰することはできない. が特定した,ジェンダー平等にかかわる次の 3 つの重要な  結果の平等を主張する人たちは次のように述べている. 側面に焦点を絞る.すなわち,1:資質(教育,健康,実 すなわち,選好や態度は主として「学習された」もので 物資産など)の蓄積,2:その資質を利用して経済機会を あってもって生まれるものではない.つまり,それは社会 とらえて所得を生み出すこと,3:そのような資質を適用 規範や期待を男女に植え付けるように導く文化や環境の結 して行動を起こし,又はエージェンシー(自律)により, 果である.権力や地位に関する男女間の執拗な相違は,不 個人や家庭の福祉に影響を及ぼす.これが平等の諸側面で 平等を永続化させる抱負や言動,選好として体にしみこま あり,そこでの選択の不足は福祉の不足に反映されている. せ得る.したがって,現実の結果がどのように分布してい それはそれ自体で重要である.しかし,相互に密接に関係 るかを考慮しないと,機会の平等を定義するのは困難であ している. る.結果を平等にするよう試みることによってのみ,低い  ジェンダー不平等は人種や民族性など他の属性に基づく 抱負と低い機会の悪循環を打破することができる. 不平等と比べて,類似している面と違っている面の両方が  このような議論にもかかわらず,現実には結果と切り離 ある.ジェンダー平等の分析にとっては次の 3 つの相違が して機会を測定するのは困難である.まさに,機会の平等 特に適切であろう.第 1 に,同じ家計に住んでいる男女の と結果の平等は理論と測定の両面で密接に連動している. 福祉は別々に測定するのが困難である.この問題は家計で このような理由のため,本レポートでは現実的なアプロー の状況に関するデータが少ないためいっそう面倒になって チをとって,資質,エージェンシー,経済活動へのアクセ いる.第 2 に,選好,ニーズ,制約は生物学的な要因と スとの関係で,結果と機会の両方に焦点を当てている.セ 「学習した」社会的な言動の両方を反映して,男女間では系 ンにならって,人々は何が正義で公正なのかについては意 統的に違うことがある.第 3 に,ジェンダーは所得や階級 「法外に不正義な取決め」を 見が異なるかもしれないが, の区別を超越する.このような特性を考えると,ジェンダー 排除することには同意するだろう,というのがわれわれの 平等というのは結果の平等,それとも機会の平等のいずれ 信じるところである.換言すれば,ジェンダー平等は結果 として測定されるべきかについては疑問が生じる.この問 なのか,それとも機会にかかわることなのかを定義するの 題に関する経済や哲学の文献では意見が分かれている. はむずかしいかもしれないが,ほとんどの人はジェンダー  ジェンダーの平等を機会の平等として考えることを擁護 不平等の甚だしい現実は排除されるべきであることに同意 する人たちは次のように主張する.個々人でコントロール するであろう. 出所:Booth and Nolen 2009; Croson and Gneezy 2009; Gneezy, Leonard, and List 2009; Kabeer 1996; Sen 1999; World Bank 2011. ボックス 2 ミレニアム開発目標はジェンダー平等の本質的な価値と手段としての価値を認識している  2010 年のミレニアム開発目標(MDG)サミットは, メントはそれ自体が開発目標(MDG の 3 と 5)である 2015 年までに 8 つの目標を達成するために,世界的 ばかりか,他の MDG を達成し,所得や所得以外の面 な行動計画を採択して終わった.サミットでは,開発 での貧困を削減するための重要な経路として役に立っ 政策の策定におけるジェンダーの主流化を通じて,教 ている.ジェンダー平等と女性のエンパワメントは普 育,保健,経済機会におけるジェンダー平等を確保す ,5 歳未満児の死亡 遍的な初等教育を促進し(MDG 2) るための措置を求めた決議も採択された.決議と行動 ,妊産婦の健康を改善し(MDG 率を削減し(MDG 4) 計画は国際開発社会の次のような信念を反映したもの ,HIV/ エイズ感染の機会を削減する(MDG 6)の 5) である.すなわち,ジェンダー平等と女性のエンパワ に役立っている. 出所:WDR 2012 チーム . 概観 5 するかに根差している――の是正に伴う直接的な成 ・機会が次世 女性の資質・エージェンシー(自律性) 果には大きなものがある.肥料を初めとする農業用 代のそれらを形成する 投入物に対して,女性農民に男性と同じアクセス  家計の資源について女性のコントロールが強まれ を保証すれば,トウモロコシの収量がマラウイで ば,子供の人的資本に対する投資の増加につなが 3 は 11–16%,ガーナでは 17%増加する .ブルキ り,経済成長に対してダイナミックなプラスの効果 ナファソでは女性の財産権を改善すると,資源(肥 が期待できる.多種多様な諸国(バングラデシュ, 料と労働力)を男性から女性に単に再配分するだけ ブラジル,コートジボワール,メキシコ,南アフリ で追加的な資源はなくても,世帯の農業総生産は約 カ,イギリスなど)からの証拠が示すところでは, 4 6%増加する .国連食糧農業機関(FAO)の推計 家計所得のうち女性が支配するシェアが自分自身の では,生産的資源へのアクセスを男女間で平等化 所得あるいは現金給付を通じて上昇すると,子供た するだけで,途上国の農業産出量は 2.5–  4 %増加 ちの利益になる形で支出が変化する 10.ガーナで する 5.女性が特定の職業や部門で働くことを阻害 は,女性が支配する資産のシェアや土地のシェアは している障壁を除去するだけでも同じようなプラス 食料支出の増加と正の相関関係にある 11.ブラジ 効果があり,男女労働者間の生産性格差が 3 分の ルでは,母親自身の非労働所得は娘の身長に対して 1 から 2 分の 1 削減され(第 5 章),広範囲にわた プラスのインパクトがある 12.中国では,成人女 –  る諸国で労働者 1 人当たりの産出量が 3  25%増加 性の所得を平均的な世帯所得の 10%相当分だけ増 する 6.しかし,このような利益は各国が豊かにな 加させると,少女の生存率が 1%ポイント上昇し, るのに伴って自動的に発生するものではない.複数 少年少女の学校教育年数が長くなる.それとは対照 の,時には相互に補強し合う障壁がジェンダー平等 的に,男性の所得が同じだけ増加すると,少女の生 を阻害していることが多いためである. 存率と教育達成度は低下し,少年には何の影響もな  このような生産性の上昇は,資源利用の効率性が い 13.インドでは,女性の勤労所得が増加すると 国の競争力と成長にとって必須となるもっと統合 子供たちの学校教育年数が増える 14. 化された世界では,さらに大きくなる可能性があ  母親自身の教育や健康を改善すると,子供たちの る.まさに最近の研究が示すところによれば,自由 それを初めとするその他の成果にもプラスの影響が 貿易の世界にあるほとんどの諸国にとっては,ジェ ある.母親の栄養状態が良好であれば,子供たちの 7 ンダー不平等はいっそうコスト高になる .ジェン 健康や生存の改善につながる 15.また,母親の教 ダー不平等は一国が国際的に競争する能力を減少さ 育は子供たちの健康にかかわる一連の利益――予防 せる.特にその国が,男女の労働者がともに適合し 接種率の上昇から栄養の改善や児童死亡率の低下に ている財やサービスの輸出に特化している場合に 至るまで――と正の相関関係にある.母親(および は,競争力の低下が生じる.女性労働者への依存度 父親)の学校教育は広範囲にわたる諸国において, が高い産業では,女性が平等な諸国の方が拡大して 子供たちの教育達成度と正の相関関係にある.パ 8 いる .逆の関係も成り立っている.すなわち,女 キスタンでは,母親が 1 年でも学校教育を受けて 性労働力への依存度が高い製品の生産に優位性を いる子供たちにおいては,家庭学習の時間が 1 時 もっている諸国では,ジェンダー平等性も高くなっ 間長くなり試験の得点も高くなる 16.家庭内暴力 9 ている .中国やヨーロッパ,中央アジアなど人口 でみられるように,女性のエージェンシーの欠如 の高齢化が急進している国や地域では,女性を労働 は,子供たちが成人した時の認知行動や健康に影響 力に参加させて,そこにとどまることを奨励すれば, を及ぼす.先進国における医療研究では,子供時代 それは生産年齢人口の減少に伴う悪影響を抑えるの における家庭内暴力に晒されることと,大人になっ に役立てることができる.したがって,グローバル てからの健康問題の間には結び付きがあることが証 化した世界では,ジェンダーに基づく不平等――特 明されている.子供時代に家庭で暴力を経験した少 に中等及び高等教育や経済的参加に関して――を削 年少女は,癌や脳卒中,心臓疾患に悩む確率が,そ 減した諸国は,その措置が遅れている諸国に対して –  の経験がない人々の 2  3 倍と高く,アルコールや 明白な優位性をもつことになるだろう(第 6 章) . –  違法薬物を使用する確率となると 5  10 倍の高さに 6 世界開発報告 2012 なっている 17.子供時代に両親間の暴力を受けた とがある.多数の富裕国では,経済活動に対する女 りすることが,女性が大人になった時に自分のパー 性の参加率上昇が政治的な指導力における女性の割 トナーから暴力を経験したり,男性が自分のパート 合増加と相まって,一般的に仕事と家庭生活のバラ ナーに対して暴力を振るったりするリスクの要因 ンスに関する社会の意見を修正させ,家庭により優 に,どのようにしてなっていくかについては多数の しい労働法制の制定につながっている. 裏付け研究が存在する 18.  逆に,社会的及び政治的に活動し,法律や政治, 及び政策策定に影響を与えることにおいて,男女の 女性の個人的・集団的なエージェンシーを高めれば, 機会が平等でないと,制度や政策はより大きな影響 より良い成果や制度,政策選択につながる 力をもっている人々の利害を体系的に優遇する可能  エージェンシーとは自主的に選択を行う,そして 性が大きい.ジェンダー不平等を煽っている制度的 それを望ましい行為や成果に転換する能力のことで な制約や市場の失敗は,対処や是正が行われる可能 ある.このような選択を行う男女の能力には国と文 性が低く,持続することにつながってしまうだろ 化によって格差があり,通常は女性の方が不利に う.したがって,『世界開発報告 2006:経済開発 なっている.このようなジェンダー別の相違は女性 と成長における公平性の役割』で強調したように, の福祉だけでなく,女性の家族や社会一般の多種多 「不平等の罠」が出現する可能性があり,幾世代に 様な成果にとっても重要である.女性のエージェン もわたって女性が男性と同じ教育を受け,経済機会 シーは人的資本を構築したり,経済機会を確保した を享受することが阻害され,情報に基づいた選択を りする能力に影響する.バングラデシュでは,保健 行い,個人としての潜在力を実現する能力が削減さ ケアや世帯の購入に関して大きなコントロール力を れかねない 23. もっている女性は,栄養状態も優れている.母親の エージェンシーは子供の福祉にとっても重要であ る.メキシコでは,家計の決定に関してコントロー 本報告書は何を目指しているか?  ル力を有する女性の娘(息子ではない)は,家事に  本報告書はジェンダー平等と開発の経済学に焦点 費やす時間が短い. を当てている.経済理論を使って,福祉の重要な側  女性の集団的なエージェンシーは社会を変える力 面――教育や健康,経済機会や生産資源に対するア になり得る.それは個々人のエージェンシーや機会 クセス,有効な選択をして措置を取る能力など―― を制約する制度,市場,社会規範を変えることがで における男女間の相違をもたらしているものは何 きる.政治的・社会的主体として女性をエンパワー か,を理解しようとしている.また,同じ経済のレ すれば,政策選択を変化させ,制度をもっと広範な ンズを使って,一般的にこのようなジェンダー格差 声を代表するものにすることができる.アメリカで を削減し,開発の成果を改善するためには,どのよ は,婦人参政権を受けて政策立案者が子供や妊産婦 うな政策介入を行い,幅広い社会的措置を採用した の健康に関心を向けるようになり,このことは幼児 らいいかを探求している.本報告書は経済的な成果 –  19 死亡率を 8  15%低下させるのに役立った .イン に限定してはいない.それどころか,人間の資質, ドでは,地方レベルで(政治的割当制を通じて)女 経済機会,女性のエージェンシーにもほぼ同量の関 性に権限を付与したおかげで,公共財の提供(水や 心を払っている.これは人間福祉に関しては相互に 衛生設備など女性が好むものと,灌漑や学校など男 関係している 3 つすべての側面が重要であること 性が好むものの両方とも)が増加する一方,腐敗が を考慮してのことである.また,ジェンダーの成果 削減された 20.女性村長の村の人々が支払った賄 を決定するのに,公式か非公式かを問わず社会的・ –  賂は男性村長の村に比べて 2.7  3.2%ポイント少な 政治的な制度が果たしている中心的な役割も見逃し 21 かった .インドとネパールでは,森林管理に関 てはいない.しかし,問題の設定やジェンダー平等 して女性に大きな発言権を与えたところ,保全の成 支持論に向けて取り上げる証拠という点において 果が著しく改善した 22.女性の世論が強くなると, は,ジェンダーに関する経済学の文献に大きく依拠 女性と子供だけでなく男性にとっても利益になるこ している. 概観 7  このようなアプローチを採用したのは次の 4 つの 新しい定性的な現地調査にも依拠している.これは 理由からである.第 1 に,この方が開発プロセス ジェンダーが人々の日常生活,抱負,教育,職業選 が展開するのに伴って,ジェンダー面での重要な結 択,意思決定,福祉についての他の側面に,どう影 果がどのように出現し,進展していくのか,政策の 響しているかを探求しようとしたものである(ボッ 役割と有効性がこの結果にどのように影響していく クス 3)25. かなどに関して,貴重な洞察が得られる.第 2 に,  このような世界的な報告書では個別の国々の状況 ジェンダーの経済学に関する世界銀行の研究におけ に関して深い分析を提示することはできない.ジェ る伝統(とりわけ Engendering Development と題す ンダー平等に関連するあらゆる側面をカバーするこ 24 るレポート )や,専門知識や専門性という面で とも不可能である.そうではなく,本書はジェン 同行は最も強い分野に依拠することができる.第 3 ダー不平等を説明するための概念的な枠組みを提示 に,この分野に関してはデータや知識について顕著 し,必要に応じて,個別の国や問題,部門に適合さ なギャップがあるが,われわれはそれを埋めるのを せることが可能な公的措置を勧告する.そして,次 手助けすることができる.第 4 に,本報告書も他の のような分野におけるジェンダー平等の諸側面に焦 アプローチと同じような診断にしばしば到達してい 点を当てることによって,この枠組みの利用方法を るが,政策手段に関しては違った洞察が得られ,こ 例示する.すなわち,世界的に大きな進展のあった れをジェンダー平等の支援に使うことができる. 分野(教育,出生率,余命,労働力参加,法的権利  本報告書は主として、再生産され次世代に継承さ の拡張など)と,進展がほとんどない,あるいは れていく可能性の高いものを中心に,女性に影響す まったくない分野(女性の超過死亡率,経済活動に る不平等に焦点を当てる.しかし,男性に影響する おける差別,賃金格差,家事・介護の責任,資産の 不平等にも焦点を当てる.ただし,このような男性 所有,私事,及び公事における女性のエージェン の不平等のほとんどは影響する福祉の領域が少ない . シーなど) といえる.  世界銀行や他の機関によるジェンダーや開発に関  われわれは実証的なアプローチを採用し,厳格で する過去および最近の研究に依拠して 26,本報告 証拠に基づく分析を重視し,可能な場合には因果関 書ではジェンダーの成果は,公式か非公式かを問わ 係を強調する.そのために,定量的なジェンダー研 ず,市場や制度の機能や構造に対する家計の反応を 究にかかわる膨大で増勢を続けている文献に依拠し 通じて理解することができる,と主張している.家 ながらも,特に生活時間,家庭内暴力,死亡リス 庭は子供を何人もつか,娘や息子の教育や健康のた ク,農業投入物,企業家精神などに関する新たな分 (家庭内外の)さ めに,いつ,いくら支出するか, 析で補完している.また,発展途上 19 カ国の 98 まざまな課題やジェンダーの成果に影響するその他 コミュニティにおける 4,000 人強の男女に関する の事柄をどう分担するかを決定する. 「私は,女性は社会の中で自分の役割を証明することが大切で,より良い母親になるためには進んで教育 . を受け,働かなければいけないと思います」 ヨルダン川西岸・ガザのラファ市の若い女性 「女性は働くべきです.外で働けるのになぜ家にいなければならないのでしょうか? 私は稼がなければ ならないし,そのお金で家族を楽しませることができる.母親が下着などの簡単な物を買うために父親 にいつもお金を下さいと頼む,という時代はもう過ぎ去ったのです.女性には自分自身のお金が必要で, . それは女性も働かなければならないということを意味します」 タンザニアのブコバ市の若い女性 8 世界開発報告 2012 ボックス 3 男女は 21 世紀におけるジェンダーのあり方をどのように定義すべきか  本報告書に生気を与えるべく,世界銀行は人々が日常生 決定に関係している.しかし,世代を超える相違は明らか 活でジェンダーをどのように経験しているかについて直接 に次のことを示している.すなわち,このような役割は男 体験を得るために,19 か国すべての地域にわたる新しい 女双方に新しい機会や新しい要求を提供する世界が,再定 現地調査を実施した. 義されつつある.  すべての年齢層,所得,場所からの男女は,教育,資産  この発見は新たな挑戦が出現してきているのに,古い問 の所有,経済機会の利用,所得を稼ぐ機会を,自分や家族 題が新たな環境のなかでも継続しているということも示し の福祉を改善するための鍵であるとみている.500 もの ている.多くのグループが幅広く不利な状況に直面してい フォーカス・グループで,研究者は私的及び公的な領域に る――そういう人々にとっては,変化は相変わらず将来世 おける男女の役割を識別特定した.女性の役割は主として 代のための抱負のままであり,自分たちの日常生活におけ 家族のケアと家政にあるが,男性のそれは所得創出と意思 る現実は変わっていない. 出所:World Bank 2011. 注:この調査は 98 のコミュニティ(総計約 4,000 人)におけるさまざまな年齢層の男女について実施された.対象地域(国)は次の通りである. ラテンアメリカ(ドミニカ共和国,ペルー) ,ヨーロッパ・中央アジア(モルドバ,ポーランド,セルビア) ,アフリカ(ブルキナファソ,リベリア, スーダン,南アフリカ,タンザニア) ,南アジア(アフガニスタン,ブータン,インド) ,中東(ヨルダン川西岸・ガザ,イエメン),東アジア(イン ドネシア,ベトナム) ,太平洋諸島(フィジー,パプアニューギニア) . ボックス 4 市場,公式制度,非公式な社会制度はそれぞれ何を意味するのか? 市場――売り手や買い手が一連のルールに基づいて,どの ンダー別の役割は一定の社会的状況のなかで各々の性に対 ような種類の財やサービス(にかかわる権利)でも交換す して,標準的な言動の指針を提供する.この役割は社会化 ることができる多種多様な取り決め.市場は交換されたど を通じて学習され,文化的な製品に仕上げられ,日々の生 んな品物でも評価され価格付けされることを許容する.こ 活で演じられるのに伴って力を得ていく.ジェンダー別の のように市場は公式・非公式な制度によって影響され形成 役割を演じるという反復的な経験は,男女の属性や自分の されている. 同一性意識に関する広く共有されている信念に影響を与え る.社会規範というのは社会的に共有されている信念に由 公式制度――法律,規制の枠組み,国家が供与するサービ 来し,それは非公式な社会的制裁によって執行されている ス(司法サービス,警察サービス,基礎インフラ,保健, 言動のパターンを指す.これは家計の交渉力にいろいろな 教育など)の提供にかかわるメカニズムを含め,国家の機 方法で影響を及ぼすことができる.何について交渉できる 能にかかわるすべての側面である. かについて限度を設定する.交渉力の決定要因にも,ある いは制約にもなり得る.交渉の実施方法に影響する.それ 非公式な社会制度――社会の相互作用を形作るものである 自体が交渉にさらされ,変化し得る.社会的ネットワーク が,国家の機能には直接関係しないメカニズムやルール, というのは社会的な関係のシステムや,人々の機会,情報, 手続きで,本レポートでは,ジェンダー別の役割,信念, 社会規範,感覚を形作る相互利益のための協力の絆を指す 社会規範,社会ネットワークに焦点をあてている.ジェ ものである. 出所:Agarwal 1994, 1997; Fehr, Fischbacher, and Gätcher 2002; Kabeer 1999; Sen 1990.  各家族員の選好,インセンティブ,制約に基づ 反映する(ボックス 4).家族員の発言権や交渉力 き,また,その相対的な発言権や交渉力との関係 は,資源にかかわる所有権や支配力,家計を去る能 で,このようなことに関して選択が行われる.選 力(脱出の選択権),社会規範を含め,広範な要因 好はジェンダー別の役割,社会規範,社会的ネッ によって定義される.このようにして,家計の意思 トワーク(非公式制度というラベルの下に分類し 決定,市場,公式制度,非公式制度は組み合わさっ た)によって形成される.インセンティブは主に市 て相互作用し,ジェンダー関連の成果を決定するこ 場(労働・信用・土地・財などの各市場を含む)に とになる(図 1). 影響されるが,それが家計の意思決定や投資にかか  経済開発(所得増加とサービス提供制度改善の組 わる収益率を決定する.制約は公式制度(国家の機 み合わせ)がジェンダーの成果に及ぼす利益は,こ 能に関係するすべてのもので構成される)と市場の の枠組みを通じてみると,家計や市場,制度の機能 相互作用から発生するが,非公式制度からの影響も とそれらの相互作用から生まれてくるものであるこ 概観 9 図 1 ジェンダーの現状は家計・市場・制度が相互作用した結果である ンダー平等 政 策 ジェ * 制度 非公式 経済機会 家計 市場 (世帯) エージェ 資質 ンシー ** 公式 制度 成 長 * 促進させるもの ** 自律性 出所:WDR 2012 チーム. とが明確に理解できるだろう.このようなインパク –  20  25 年延びて),全体として 2007 年には 71 年 トは図 1 で,歯車をジェンダー平等化に向けて回 (男性は 67 年)に達し,今や世界の各地域で女性 転させている「成長」という矢印で示されている. は男性よりも長生きである.変化は現在の先進国が ジェンダー平等化が成長に及ぼすインパクトは,今 貧しかった時よりもずっと速い.アメリカの女性が 度は,さらに高い成長に戻っていく「ジェンダー平 出産する子供の数が 6 人から 3 人に減少するのに 等」という矢印によって把握されている. 100 年以上かかったが,同じ減少がインドでは 35 年余り,イランでは 20 年弱で生じている(図 2). 初等教育でも同じパターンがみられる.アメリカで ジェンダー平等に関してどの分野で最大の進 –  は 6  12 歳の少女の就学率が 57%から 88%に到達 展があったか? するのに(1870 年から 1910 年までの)40 年か  途上国の老若女性にとって,過去四半世紀の間に かったが,モロッコはこの年齢層について(1997 多くのことが良い方向に変わってきている.女性の 年の 58%から 2008 年の 88%へと),同じような 出生時における平均余命をみてみよう.途上国で 上昇をわずか 10 年余りで達成した. は激増しており(過去 50 年間にほとんどの地域で 「私の考えでは女も外に出て仕事を探すべきです.というのは,男が仕事を見付けられないでいるからで . す.女なら簡単に就職できます.選択肢がたくさんあるからです」 南アフリカのウンゴニャメニ村の若い男性 10 世界開発報告 2012 率が非常に低かった諸国(主としてラテンアメリ 図 2 世界中で女性が産む子供の数は減少している カ・カリブと,それほどでもないが中東・北アフ 出生率の低下スピードは? リカ)における大幅な上昇と,非常に高かった諸 イラン 国(主として東ヨーロッパ・中央アジア)における バングラデシュ 小幅な低下が組み合わさったということは,著しい モロッコ 相違は残っているものの,労働力参加率が地域を超 ジンバブエ えて収斂したということを意味する.女性の労働力 コロンビア 参加率が最低の地域は中東及び北アフリカ(26%) インド と南アジア(35%),最高の地域は東アジアと太平 アメリカ 洋(64%)とサハラ以南アフリカ(61%)である. 0 20 40 60 80 100 合計特殊出生率が子供 6 人以 進展の背景 上から 3 人未満に低下するの に要した年数  格差が速やかに解消した地域でこのことが起こっ 出所:www.gapminder.org たのは,市場や制度が機能して進化したことや,成 長が後押ししたこと,そしてこのような要因が家計 の決定を通じて相互作用したことの結果である.教 女子の教育 育について,1 つずつ検討しよう.所得の増加を受  教育におけるジェンダー格差の解消の進展は,す けて,従来なら息子だけを学校に通わせていた世帯 べてのレベル――初等,中等,高等――で着実かつ は,今や娘も学校に行かせることができるように 持続的である.多くの諸国で,特に高等教育では, なっている.国が豊かになるのに伴って経済構造が このような格差は今や逆転しつつあり,老若の男性 変化し,男にもはや優位性のない活動が増えてきて が相対的に不利になっている.初等教育の就学率で いる.このような変化が女性の雇用にとって新たな は 3 分の 2 の諸国がジェンダー平等を達成し,中 機会を開き,家計はこのようなシグナルに対して娘 等教育に関しては 3 分の 1 の諸国で女子が男子を を教育するという形で反応している.裕福な国は学 大幅に上回っている(図 3).最大のジェンダー格 校を建設して教員を雇用することによって,もっと 差が残存している地域でさえ――南アジアとサハラ アクセスしやすい教育システムに投資することがで 以南アフリカ(なかでも西アフリカ)――,著しい きる.インセンティブと説明責任システムの改善を 進展がみられる.また,歴史的なパターンの驚くべ 組み合わせれば,このような投入はより良くより安 き逆転として,1970 年以降においては全世界で女 価なサービスを提供するのに役立ち,家計にとって 子の高等教育就学者は 7 倍(男子は 4 倍)に上昇 コストが低下するので,その利用が増加するだろう. し,大学在籍者数については今や女子が男子を上 このようなすべての要因がまとまって機能すると, 回っている.にもかかわらず,男子の不利が一部の モロッコにおけるように格差は急速に解消する. 地域では徐々に出現しつつあるものの,女子の不利  しかし,たとえこのような経路のどれか 1 つに はそれが存在している地域では人生の早い段階で出 隘路――家計内における男子選好,教育提供の不十 現し,より根深い傾向がある. 分さ,低成長,女性の雇用機会に対する制限など― ―が生じても,他の経路が女子教育にかかわる進展 女性の市場での職業 を依然として許容してきた.世界中の 30 カ国以上  女性の労働力参加は過去 30 年間に上昇してきて で使われている条件付き現金給付(バングラデシュ いる.これは経済機会の増加が大勢の女性労働者を やカンボジアにおけるように,多くは女子を明示的 市場に引き付けたからである.1980 – 2008 年に に対象にしている)など子供の就学を狙った政策も 参加率のジェンダー格差は 32%ポイントから 26% 有益である.このような力は図 4 では,家計,公 ポイントに縮小した.2008 年でみると,女性は世 式制度,市場を表す(緑色の)歯車で例示されてい 界の労働力の 40%余りを占めている.労働力参加 る.これらすべてが教育におけるジェンダー格差を 概観 11 図 3 初等・中等レベルの就学率ではジェンダー平等が世界中のほとんどで達成されたが,高等レベルの就学率は非常に低 いなかで女性の方がむしろ高い 初等教育 中等教育 高等教育 100 100 100 一部のアフリカ諸国は 就学率格差はジェンダー 男性不利 後れを取っている 格差を大きく上回る 80 80 80 女子就学率(ネット、%) 女子就学率(ネット、%) 女性就学率(グロス、%) 60 60 60 40 40 40     20 20 20 就学率は女性 女子不利 女子不利 の方が男性より高い 0 0 0 0 20 40 60 80 100 0 20 40 60 80 100 0 20 40 60 80 100 男子就学率(ネット,%) 男子就学率(ネット,%) 男性就学率(グロス,%) 東アジア・太平洋   ヨーロッパ・中央アジア ラテンアメリカ・カリブ 中東・北アフリカ 南アジア サハラ以南アフリカ 高所得国 出所:World Development Indicators に基づく WDR 2012 チームの試算. 注:各上図の 45 度線は就学率に関してジェンダー平等を示す.45 度線の上部にある点は女性の方が男性よりも就学率が高いことを示す. 図 4 教育における進展を説明するために枠組みを使う ンダー平等 政 策 ジェ 制度 非公式 経済機会 世帯 ) 市場 の上昇 (所得の 率 エージェ 益 安定化) 資質 育収 ンシー (教 (直 公式制 機会 接・間 度 費用 接・ の低 下) 成 長 出所:WDR 2012 チーム. 12 世界開発報告 2012 加ペースが速かった.1950 年以降につい 図 5 女性の労働力としての参加率は時とともに全所得水準で増加してきた てみると,途上国のなかで 13 カ国が平均 80 で年率 7%以上の成長率を 25 年間以上に わたって維持している.20 世紀後半以前 2008 女性の労働力参加率(%) 70 には前例がなかった速いペースである 28. 第 2 に,さまざまな分野におけるジェン 60 ダー面での成果は相互に関係している.し たがって,ある分野での改善は他の分野で 50 の進展に拍車をかける.所得の増加に伴う 1980 40 出生率の低下は妊産婦関連の死亡率の低下 の一因となる.また,出生率の低下を受け 4 6 8 10 12 1 人当たり GDP(不変 2000 年ドル価格) て女性は人的資本に投資したり,経済に参 加したりする時間が増えている.進取的な 出所:International Labour Organization 2010 (130 カ国 ) に基づく WDR チーム試算. 親は雇用機会の拡大に対して,娘たちへの 教育投資を増やすという反応を示してい 縮小するように動いている(支持的政策,つまり る.このような教育水準が改善した少女たちはもっ 「油を差す」ことによって). と大きくなった時,仕事に就く,子供の数が少な  家計,市場,制度の間の相互作用でも,女性労働 い,そして家庭でもっと発言する可能性が大きく, 力参加のパターンとペースを説明することができ 変化のサイクルを速めるだろう.したがって,出産 る.女性が家庭外で働くことを決定するのは,自分 面における進展,教育面での改善,女性のエージェ 自身の賃金にかかわる変化と,自分の世帯の所得に ンシーの改善,女性の市場性職業へのシフトなど かかわる変化の両方に反応したものである.低所得 は,単に関係があるというにとどまらず,むしろ相 国が豊かになるのに伴い,女性の市場性職業への参 互に強め合っている.公的政策そのものも一定の役 加はむしろ減少する.というのは,世帯所得も増加 割を果たしている.過去 10 年間における義務教育 するからだ.時とともに,教育水準も公式制度が反 の推進がすべての児童の就学に貢献したことを考え 応するのに伴って高まる.所得の増加は結婚と子育 れば,それは明白であろう. ての先送りや出生率の低下にもつながる.このよう  重要な教訓は次の通りである.市場のシグナル, な要因すべてが女性を労働力に復帰させる.ラテン 正式な制度,所得の増加のすべてが一緒になって女 アメリカの 10 カ国では,過去 20 年間における女 性への投資を支持する場合,ジェンダー平等はたち 性の労働力参加率上昇のほぼ 3 分の 2 は,教育水 まち改善し得るし,実際にもそうなっている.ま 準の上昇と家族形成にかかわる変化(晩婚化と出生 た,少年少女,あるいは男女にとって何が「適切 率低下)に原因がある 27.所得増加や女性の賃金 な」ことなのかに関する社会規範など,非公式な制 上昇がもたらすさまざまな影響は,各国で共通して 度そのものが適合するのに時間を要する場合でも, 女性の労働力参加が U 字型のパターンを示すこと そのような改善は起こり得る.だからといって,こ につながっている(図 5).しかし,特に 1980 年 のような結果を確定するのに社会規範が重要ではな 以降,各所得水準における女性の参加率は時ととも いということではない.教育到達度におけるジェン に急上昇している.したがって,すべての 1 人当 ダー格差と女性の労働力参加率の両方にかかわる各 たり所得水準で,女性が家庭外で経済活動に従事し 国間や国内各地域間の相違をみれば,社会規範の影 ている割合はかつてない高さに達している. 響が明瞭であろう.しかし,教育や労働力参加率が  多くの途上国で一部の分野におけるジェンダー平 ほとんど至るところで速いペースで変化していると 等化が,現在の先進国が同じような所得水準にあっ いうことは,女子教育や女性労働の経済的収益率が た時代よりも,速やかに進展したのは主に次の 2 つ 明白になるのに伴って,このような規範も極めて素 の理由による.第 1 に,多くの途上国では所得の増 早く適合しているということを示唆している.バン 概観 13 グラデシュとコロンビアと 図 6 女性の就学率向上の実現で低所得国は後れを取っている いう非常に相異なる 2 カ国 100 におけるジェンダー平等に かかわる顕著な進展を検討 90 バングラデシュ エジプト してみよう. 80 タジキスタン モザンビーク • バ ン グ ラ デ シ ュ が 独 70 ニジェール ナイジェリア 立してからの 40 年間 コートジボワール 女性就学率(5 – で,女性が生涯に出産 60 エチオピア する子供の数は平均し 50 ブルキナファソ て約 7 人から 2 人余 19 マリ りに減少した.女子の 40 歳、%) パキスタン 就学率は 1991 年の約 30 3 分の 1 から 2005 年 20 1900 年の の 56%へと上昇した. アメリカ さ ら に,1990 年 代 後 10 半には,若い女性の労 0 働力参加率は 2 倍以上 17 0 17 0 18 0 18 0 18 0 18 0 18 0 18 0 18 0 18 0 18 0 19 0 19 0 19 0 19 0 19 0 19 0 19 0 19 0 19 0 19 0 20 0 00 05 7 8 9 0 2 3 4 5 6 7 8 9 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 の上昇を示した. 17 20 年 • コロンビアでは女性が アメリカ 出産する子供の平均数 –2 傾向線(アメリカ,1850    000 年) は,1980 年 代 半 ば の 出所:U.S. Census and the International Income Distribution Database (I2D2) に基づく WDR 2012 の試算. 3.2 人 か ら 2005 年 の –1 注:1760  –2   840 年の値は 1850    000 年における女性就学率のトレンドに基づく. 2.4 人に減少した.女 性は教育格差も逆転さ 種,身体障害,性的趣向など――と組み合わさると せ,今や初等教育や中等教育はもちろん高等教 さらに悪化する.ほとんどの諸国で格差が縮小した 育でさえ,男子よりも高い修了率を達成してい 教育についてさえ,初等及び中等学校にかかわる女 る.また,同国はラテンアメリカでは女性の労 子就学率は,サハラ以南アフリカの多くの諸国や南 働力参加率について最も急激な上昇を示してお アジアの一部諸国ではほとんど改善がみられない. り,同地域では最高水準の国の 1 つになって マリの女子就学率は 1810 年のアメリカに相当し, いる.コロンビアでは経営陣や金融の分野―― エチオピアやパキスタンの状況もそれと大差がない 多くの先進国でさえ悪名が高いほど突破のむず (図 6).さらに,多くの諸国で,大きなジェンダー かしいいわばガラスの天井が存在するとされる 格差が残存しているのは,貧しい人々についてだけ 分野――に,大勢の女性が進出している. という状況が見られる.インドとパキスタンでは, 所得面で最上位 20%層出身者の教育年数に男女格 ひどく不利な状況下に置かれた人々の問題 差はほとんどないものの,最下位 20%層では教育  市場,サービス提供制度,そして所得の増加を合 . 年数に男女間で約 5 年間の格差がある(図 7) わせた力が,大勢の女性にとって,教育や出生率,  貧困層以外で特に大きなジェンダー格差が残って 労働力参加にかかわるジェンダー格差の解消の一因 いるのは,民族性,地理的な距離,その他の要因 になってきた.しかし,それが万人にとってうまく (身体障害や性的趣向など)であり,これらのグルー 機能したわけではない.貧しい女性や既に非常に貧 プではジェンダー不平等が複雑になっている.世界 しい場所にいる女性にとっては,大きなジェンダー の未就学女子のほぼ 3 分の 2 は自国内の少数民族グ 格差が残っている.このような格差は貧困がその他 ループに属している 29.グアテマラの先住民女性の の疎外要因――民族性,カースト制,遠隔性,人 非識字率は 60%と,先住民男性を 20%ポイント上 14 世界開発報告 2012 図 7 国内における女性の不利な状況は所得が低いほど顕著である ベニン コンゴ民主共和国 ガンビア 10 10 10 平均学力到達度( 平均学力到達度( 平均学力到達度( 5 5 5 15 15 15 – – – 19 19 19 歳) 歳) 歳) 0 0 0 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 所得の 5 分位層 所得の 5 分位層 所得の 5 分位層 インド パキスタン トーゴ 10 10 10 平均学力到達度( 平均学力到達度( 平均学力到達度( 5 5 5 15 15 15 – – – 19 19 19 歳) 歳) 歳) 0 0 0 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 所得の 5 分位層 所得の 5 分位層 所得の 5 分位層 女子 男子 出所:EdAttain に基づく WDR 2012 チームの試算. 回り,非先住民女性の 2 倍になっている 30. ど)を確実に整備するために努力を倍加する必要が  著しく不利なグループ――不利の罠に陥っている あるということを意味する.また,このような取り グループ,あるいは国や地域のなかの一帯のうちの 組みには,ジェンダー不平等を複雑化している具体 全体をカバーするグループ――にとって,少女や若 的な不利に取り組むために,補完的な介入策を組み い女性の教育を支持する力は何 1 つ機能していな . 合わせる必要があるだろう(第 7 章) い.したがって,総所得の増加は,貧困家計に利益 をもたらすほど十分には広範囲にわたっていない可 能性があろう.市場のシグナルは無言である.経済 ジェンダー不平等が執拗なのはどの分野なの 機会が女性にとって大して拡大していないか,あ か,そしてその理由は何か? るいはそのような機会の利用に他の障壁――民族  十分な進展がみられた分野とは対照的に,ジェ 性・人種・カーストなどを理由とする疎外など―― ンダー平等にかかわるその他の多くの側面では, が立ちはだかっていることが原因かもしれない.さ 多くの少女や成人女性にとって進展は遅いか,あ らに,サービスの提供は往々にして多くの問題を るいはまったく進展がないかのいずれかとなって 伴っている.貧困や距離,差別を背景に,これらの いる.少女や成人女性の相対的な超過死亡率にみ グループは学校や教員の増加を目の当たりにしてい られる健康面での不利はこのカテゴリーに入る. ないからである.しかしこれは,他のグループで女 経済活動における隔離,所得のジェンダー別格差, 子教育を支持した経路はこのグループでは機能しな 家事や介護における責任の男女別相違,資産所有 いだろう,ということを意味するものではない.進 の格差,公私両分野における女性のエージェンシー 展のために必須の構築資源(広範囲にわたる所得の に対する制約などを含め,その他の執拗なジェン 増加,女性の雇用機会拡大,有効なサービス提供な ダー格差も同様である.世界の多くの地域は大き 概観 15 な繁栄を謳歌しているにもかかわらず,このよう –  1990  2008 年の間に,出生時点で行方不明になっ な領域における男女平等は進展がむずかしい.そ た少女と出生後に超過死亡した成人女性の数に大き れどころか,このようなジェンダー格差の多くは な変化はない.サハラ以南アフリカでは,幼年時代 先進国でも顕著なまま残っているのである. や子供時代における減少は出産適齢期における激増  ジェンダー格差がこのような「粘り強い」分野で によって帳消しになっている.この増加の一因は人 執拗なのは,主に次の 3 つの要因による.第 1 に, 口の増加そのものにある.しかし,人口で調整した 制度的ないし政策的な「解決策」はただ 1 つしか 行方不明の女性はすべての諸国で減少している(バ ない可能性があり,それは実施がむずかしく,容易 ングラデシュ,インドネシア,ベトナムでは激減し に阻止され得る.女性の超過死亡率でこの問題を例 ている)アジアとは異なり,サハラ以南アフリカの 証する.第 2 に,複数の相互に強化し合う制約が ほとんどの諸国では 21 世紀になってもほとんど変 組み合わさって進展を阻害すれば,格差は持続する 化していない.HIV/ エイズ感染症に襲われた諸国 ことになる.この問題を例証するために,経済分 では状況はむしろ悪化している. 野(ジェンダー別の所得格差と雇用におけるジェン  本報告書の分析はこのようなパターンを説明する ダー隔離の持続)とエージェンシー(社会的発言権 のに役立つ.ライフ・サイクル上の時期によって, や家庭での意思)における格差を使ってみたい.第 少女や成人女性が行方不明になる理由は異なる.出 3 に,ジェンダー格差は深く定着しているジェン 生時に女子が行方不明になるのは,家庭における露 ダー別の役割や社会規範――家庭における介護や家 骨な差別を反映したものであり,強い男子選好が出 事にはだれが責任を負うのか,あるいは男女が勉強 生率低下や両親が出生前に性別がわかる技術の普及 や行動をしたり抱負をもつことについて,何が「容 と組み合わさった結果である 32.これは中国と北 認される」かに関するもの――に根差している場 インド(今やインドの他の地域にも広がっている) 合,特に執拗となる.また,このような格差は世代 に特殊な問題であるが,コーカサスや西バルカンの を超えて再生産される傾向にある.これらを1つず 一部でも見受けられる. つ順番に検討してみよう.  乳児期や幼児期における女子の行方不明は男子選 好だけでは説明できない.ただし,女子差別が寄与 少女や成人女性の死亡率が高い している可能性はある.それは差別というよりも,  少女や成人女性の死亡率は男性との対比でみる 貧弱な制度の結果であろう.その制度は,特に水や と,低・中所得国では高所得国におけるよりも高 衛生に関する多くの悪い選択肢のなかから選択する 「行方不明 くなっている.この女性の超過死亡率( ことを家庭に対して強要している.市場や家計はそ の」少女や成人女性)を定量化し,発生時点の年齢 のような貧弱なサービスを補填することはできない を特定するために,本報告書は 1990 年,2000 年, のだ. 2008 年について,すべての諸国のすべての年齢に  出産適齢期における女性の行方不明は主に 2 つ 31 おける女性の超過死亡者数を推計した .ある年に の要因を反映している.第 1 に,特にサハラ以南 おける女性の超過死亡者数とは,自分が住んでいる アフリカの多くと南アジアの一部の諸国では,頑固 国の健康環境全体を考慮に入れると,もし高所得国 な高水準の妊産婦死亡率が持続している.出産適齢 に生活していたら前年に死亡しなかったと予想され 期における女性の超過死亡率には高水準の妊産婦死 る女性の数のことである.全世界で出生後の女性の 亡率が大きく寄与している.アフガニスタン,チャ 超過死亡と出生時点で「行方不明の」少女は合計で, ド,ギニアビサウ,リベリア,マリ,ニジェール, 60 歳未満の女性について 390 万人と推定される. シエラレオネ,ソマリアでは,女性 25 人当たり少 その約 5 分の 2 はそもそも誕生していない,5 分の なくとも 1 人は分娩ないし妊娠の合併症で死亡し 1 は幼年時代や子供時代から行方不明であり,残り ている.また,分娩のせいで長期にわたる健康問題 –  の 5 分の 2 は 15  59 歳の間に行方不明になってい を患っている女性の割合は更に高い 33. . る(表 1)  妊産婦死亡率削減の進展は所得の増加とは比例し  経済成長があってもこの問題はなくならない. ていない.インドでは,近年における素晴らしい経 16 世界開発報告 2012 表 1 約 400 万人もの女性が毎年行方不明になっている 世界における女性の年齢別・地域別超過死亡率(1990 年と 2008 年,単位:1,000 人) 女性総計 5 歳未満 –  5  14 歳 –  15  49 歳 –  50  59 歳 新生女子 女子 女子 女性 女性 60 歳未満 1990 2008 1990 2008 1990 2008 1990 2008 1990 2008 1990 2008 中国 890 1,092 259 71 21 5 208 56 92 30 1,470 1,254 インド 265 257 428 251 94 45 388 228 81 75 1,255 856 サハラ以南アフリカ 42 53 183 203 61 77 302 751 50 99 639 1,182 HIV 感染率が高い国 0 0 6 39 5 18 38 328 4 31 53 416 HIV 感染率が低い国 42 53 177 163 57 59 264 423 46 68 586 766 南アジア(インドを除く) 0 1 99 72 32 20 176 161 37 51 346 305 東アジア・太平洋(中国 3 4 14 7 14 9 137 113 48 46 216 179 を除く) 中東・北アフリカ 5 6 13 7 4 1 43 24 15 15 80 52 ヨーロッパ・中央アジア 7 14 3 1 0 0 12 4 4 3 27 23 ラテンアメリカ・カリブ 0 0 11 5 3 1 20 10 17 17 51 33 合計 1,212 1,427 1,010 617 230 158 1,286 1,347 343 334 4,082 3,882 出所:World Health Organization 2010 と United Nations Department of Economic and Social Affairs 2009 に基づく WDR チームの試算 . 注:合計は四捨五入のため必ずしも一致しない. 済成長にもかかわらず,妊産婦死亡率はスリランカ い男性よりも HIV 保菌者である可能性が高いこと のほぼ 6 倍の高水準にある.過去 20 年間に妊産婦 にある.さらに,(コンゴ民主共和国のように)内 死亡率が 40%以上低下したのはわずか 90 カ国に 戦が燻っている諸国でも「行方不明の」女性の増加 すぎず,23 カ国では上昇さえしている.主な問題 がみられる.これは全面的な戦争になっている他の はやはり,家計が悪い選択肢――サービス提供につ 諸国とは対照的である.一例として,エリトリアで いて多数の欠陥が存在している結果である――のな は,戦争の時期に増加した「行方不明者」は男性で かから多くの決定を迫られている点にある.世界の あった. さまざまな場所では,この状況が家計行動に影響し  北ヨーロッパや西ヨーロッパの諸国とアメリカ ている.また,女性が妊産婦ケアを,それが利用可 における歴史的経験を検討してみると,次のこと 能な場合でも十分速やかに享受することをむずかし がわかる.幼児期と出産適齢期の女性の超過死亡 くしている社会規範によってこの状況がさらに悪化 率に関して同じようなパターンが存在していたが, している.また,サハラ以南アフリカの一部諸国で –  1900  1950 年の間に消滅した.このような削減の主 は,低所得を一因とする高出生率が問題を複雑にし 因は制度――清潔な水,衛生設備,妊産婦ケアの提 ている. 供にかかわる――の質が改善したことにある.女性  第 2 に,HIV/ エイズの蔓延が多くの東部および の死亡率に取り組むには単一の参入点――制度の改 南部アフリカ諸国の女性死亡率に与えた影響には劇 善を通じること――があるだけなので,問題解決は 的なものがあった.男性よりも女性の間で HIV/ エ 容易ではない.それは女子を就学させるよりもずっ イズの罹患率が高い理由は,男性の罹病率が高く, と困難である.しかし,人間の正義という基礎理念 女性の性的パートナーが年長者であるため相手が若 に基づいて,世界の開発社会はこの問題への取り組 概観 17 みを優先課題にしなければならない. 図 8 女性と男性とでは働いている部門が異なる 女性 / 男性の部門間雇用分布 経済活動におけるジェンダー間の職務 31% 広報サービス 16% 分離と所得格差  過去四半期の間に発展途上世界の多く 21% 小売・ホテル・レストラン 17% では大勢の女性が労働力に参加したが, 13% 製造業 12% この参加率上昇は雇用機会や所得の男女 4% 金融・ビジネス 4% 平等につながっていない.男女は「経済 界」のなかでは非常に異なる部分で働く 0.5 % 電気・ガス・蒸気・水 1% 傾向にあり,それは高所得国でも時とと 0.5 % 鉱業 2% もにほとんど変わっていない.ほとんど 2% ,輸送・通信 7% すべての諸国において,女性は男性に比 べて生産性の低い活動に従事する可能性 27% 農業・狩猟等 29% が高い.また,有給あるいは無給で家族 1% ,建設業 11% 事業に従業したり,非公式の賃金雇用部 100% 全部門 / 全職業 100% 門で働いていたりすることが多い.特に アフリカの農業では,女性は小さな土地 区画で作業し,あまり儲からない作物を 出所:International Labour Organization 2010 (77 カ国 ) に基づく WDR チームの試算. 栽培している.企業家としては,女性は 注:合計は四捨五入のため必ずしも一致しない. 中小企業を経営し,あまり儲からない部 門に集中している傾向がみられる.公式雇用では,  それでは,経済活動における執拗なジェンダー間 女性は「女性らしい」職業や部門に集中している の分離とその結果としての所得格差はなぜ生じるの (図 8).経済活動におけるこのようなジェンダー職 だろうか? 本レポートは次のように主張する.生 務分離のパターンは,経済開発に伴って変化する 活時間,資産や信用へのアクセス,市場や公式制度 が,消えてなくなるわけではない. (法規制上の枠組みを含む)による処遇などにおけ  男女が働いている場所が違う結果として,所得や るジェンダー格差のすべてが,女性の機会の制約に 生産性におけるジェンダー別の格差があらゆる形の 一定の役割を果たしている.このような制約は図 9 経済活動――農業,賃金雇用,自営業者など――を でジェンダー平等化への進展を阻害する楔として示 通じて持続している(地図 1).ほとんどすべての されている.所得の増加はこのようなパターンのシ 諸国において,製造業に関しては,女性は男性より フトに若干の影響力をもつが,それを除去するもの も稼ぎが少ない.農業では,女性が運営している農 ではない.このような各種要因間における互いに補 場は平均すると,男性が運営している農場よりも収 強し合う相互作用を受けて,問題を打破することが 量が少ない.これは同じ家計の男女間でも,また, とりわけむずかしくなっている.それらを 1 つず 34 同じ作物を耕作している男女間にも当てはまる . つ検討してみよう. 女性企業家も男性企業家に比べて生産性が劣って  男女が介護や関連した家事に配分している時間数 35 いる .東ヨーロッパ・中央アジア,ラテンアメ の違いが,差別と結果としての所得格差をもたらす リカ,サハラ以南アフリカの都市部では,労働者 1 1 つの要因である.ほとんどの諸国では,所得水準 人当たりの付加価値をみると,女性経営者の企業で とは無関係に,女性が家事や介護に不釣り合いに大 36 は男性経営者の企業よりも低くなっている .バ きな責任を負っているのに対して,男性は主として ングラデシュ,エチオピア,インドネシア,スリラ 市場性の職業に責任を負っている(図 10).すべて ンカの農村部で運営されている企業についてみる の活動を合計してみると,典型的には女性の方が男 と,その企業のオーナーが女性か男性かで収益性に 性よりも長時間働いており,余暇や福祉が重大な影 37 顕著な相違がある . 響を受けている.また,どこの国でも女性は男性 18 世界開発報告 2012 地図 1 男女間の所得格差(男性所得 1 ドル当たりの女性の所得) ドイツ 62¢ アイスランド 69¢ グルジア 60¢ インド 64¢ エジプト 82¢ バングラデシュ 12¢ メキシコ 80¢ ベニン 80¢ ナイジェリア 60¢ エチオピア 50¢ スリランカ 50¢ マラウイ 90¢ 給与労働者 農民 企業家 出所:データはベニンに関して Kinkingninhoun-Mêdagbé 他 2010; マラウイに関して Gilbert, Sakala, and Benson 2002; ナイジェリアに関して Oladeebo and Fajuyigbe 2007; バングラデシュ・エチオピア・スリランカに関しては Costa and Rijkers 2011; エジプト・グルジア・ドイツ・アイ スランド・インド・メキシコに関しては LABORSTA, International Labour Organization からそれぞれ入手した. 図 9 執拗な性差別と所得格差の関係を説明する 制度 非公式 性職業 / 市場 ) (介護 る社会規範 に関 す 経済機会 の 市場 / 土地 家計 信用 ークへ (時間 / 資源 働/ トワ の配分 (労 やネッ セスが 場 ク 市 のア る)  が異なる) エージェ 資質 異な ンシー (偏 公式 制 限定 向的な 度 的な 法規 イン 制・ フラ ) 成 長 出所:WDR 2012 チーム. 概観 19 図 10 女性は世界中で男性よりも介護と家事に多くの時間を割いている 市場的な活動 家事 育児 パキスタン 0.6 4.7 5.5 2.5 1.2 0.2 カンボジア 2.7 3.8 4.4 3.3 0.9 0.1 南アフリカ 2.1 3.8 4.2 1.8 0.5 0.0 ブルガリア 2.9 3.9 4.7 2.6 0.4 0.1 スウェーデン 3.2 4.6 3.2 2.3 0.6 0.3 イタリア 2.1 4.8 4.9 1.4 0.6 0.2 女性 12 時間の中での割合を示す 男性 出所:Berniell and Sanchez-Páramo 2011. パートナーとの比較で,より多くの時間を毎日介護 た後は一層強まる傾向にある. と家事に費やしている.男女差の幅は,家事につい  雇用における職務分離と所得格差をもたらす第 2 –  て 1  3 時間,介護(子供,高齢者,病人など)に の要因は,人的・物的な資質(資産と信用へのアク –  ついて 2  –  10 倍,市場性の活動について 1  4 時間 セスを含む)の相違にある.女性教育の増加にもか などとなっている.女性は市場性職業で大きなシェ かわらず,男女間では依然として人的資本に違いが アを担当するようになっているにもかかわらず,介 ある.これには高齢層における学校教育年数の格差 護や家事について依然として主たる責任を負ってい に加えて,若年層における勉強科目の相違――特に る.さらに,このようなパターンは結婚して妊娠し ほとんどの若者が大学に進学する諸国では雇用の職 20 世界開発報告 2012 の 16 カ国に関するデータは,世帯主 図 11 農業の生産性についてのジェンダー格差は,生産的な投入物へのアクセス が女性の世帯は土地を所有したり,土 とその利用を考慮に入れると消滅する 地を農耕したりしている可能性が低い マラウイでは女性の農業生産性は 男性よりも 13.5%低い ことを示している 38.より一般的に 平等であれば消滅する この格差は男女の投入物へのアクセスが ‒13.5% は,すべての農民に関してデータが入 マラウイ(全国) 0.6% 手可能なところでは,女性は自分が農 ‒40% ナイジリア(オスン州) 0% 耕している土地を所有していることは ‒21% ほとんどない.例えば,ブラジルでは, ベニン(中央部) 0% 女性が所有している土地は全体のわず ‒17% ガーナ(全国) 0% か 11%にすぎない.また,女性が所 ‒26% 有している土地は一貫して男性所有の エヒオピア(中央高地) ‒25% ものよりも狭い.ケニアでは,女性は ‒7.7% ケニア(地方) 12.5% 全国的にみて登記している土地所有 ‒19% 者の 5%を占めるにすぎない 39.ま ケニア(西部州 2008 年) 0% た,ガーナでは,男性が所有してい ‒4% ケニア(西部州 1976 年) 6.6% る土地の平均額は女性の 3 倍となっ ー60 ー50 ー40 ー30 ー20 ー10 0 10 20 ている 40.同様に,農業では肥料や % 改良種子の利用,また企業家の間では 平均的なジェンダー格差 信用クレジットの利用について,大き 投入物へのアクセスが平等な場合のジェンダー格差 な格差が見られる.  第 3 に,市場の失敗と制度的な制約 出 所:Alene 他 2008; Gilbert, Sakala, and Benson 2002; Kinkingninhoun-Mêdagbé 他 2010; Moock 1976; Oladeebo and Fajuyigbe 2007; Saito, Mekonnen, and Spurling 1994; も一定の役割を果たしている.労働市 Vargas Hill and Vigneri 2009. 場は女性にとってうまく機能していな いことが多い.特に女性の進出が一部 務分離に影響する――が含まれる.農業や自営業に の部門や職種に限定されている場合にはそうである. ついては,投入物(土地や信用を含む)へのアクセ 女性の雇用が少ないと,雇用主は女性の生産性や労 スや資産所有にかかわる大きく顕著なジェンダー別 働者としての適合性に関して差別的な考えを抱く可 の格差が,ジェンダー別の生産性格差の根本原因で 能性があるが,それを是正するメカニズムが整って ある.生産的な投入物への平等なアクセスがある いなければ持続することがある.仕事,昇進や昇格 と,男女農民の間にみられる収量格差はまさに完 の支援などに関する情報は,通常はジェンダー別の 全に消滅する(図 11).投入物へのアクセスの相違 ネットワークで開示されるため,男性中心の分野に は,上述した「市場性のある仕事への時間」の入手 参入しようと考えている女性には(介護など女性中 可能性にかかわる相違によっていっそう複雑化して 心の分野に参入しようと考えている男性にとっても いる.つまり,同じ投資をしても女性の場合は男性 同じく)不利になる.また,時として,保護措置と の場合よりも生産性の向上につながらないのであ して導入された法的障壁のせいで,一部の部門ない る.総合すると,女性の企業家や農民はこのような し職種への女性による参入が阻害されていることが 制約の下で,結局のところ,あまり儲からず,拡大 ある. の可能性が低い事業や活動に限定されている,とい  要約すると,女性は農民,企業家,あるいは労働 うことを意味している. 者のいずれであろうと,多くは生産性の罠に捕らえ  資産(とりわけ土地),信用,その他の投入物に られている.すなわち,競争条件が平準でないとこ 対するアクセスに関して,ジェンダー別の格差はど ろで,生産的な投入物へのアクセスが不平等な状況 の程度大きいのだろうか? 各種データ源はそれが 下で一生懸命に働いている.この罠が今日,女性の 確かに大きいことを示唆している.5 つの途上地域 福祉と経済機会に顕著なコストとなり,将来の女性 概観 21 に投資する面で深刻なマイナスのインセンティブを (クスコ)では,約 50%もの女性が一生涯のうちに 与えている. 深刻な肉体的暴力の犠牲者になっており,エチオピ ア(ブタジラ)では,54%の女性が過去 12 カ月間 社会や家庭での意思決定における発言権が小さい に親しいパートナーによる肉体的・性的な暴行にさ  世界中の多くの地域で,家庭やコミュニティ,社 らされたと報告している 44. 会における意思決定に関して,女性は男性に比べて  女性の発言にかかわるこのような大きな格差の 意見を言うことが少ない.特に上層部を中心に,政 背景には,複数の要因が作用している.社会では 治の形式面において女性の代表者が少ないこと考え 存在感の低さが無制限に継続していて,女性は指 てみよう.すべの閣僚ポストのうち女性は 5 分の 導力をもっているということを伝達することがで 1 以下にとどまっている.さらに,女性代表者の少 きない.したがって政治では,有権者は女性指導 なさは司法や労働組合にまで及んでいる.このよう 者の能力を正確に判断することができない.また, なパターンは国が豊かになっても大きくは変わって 女性の社会進出は次のような社会通念によって制 –  いない.女性国会議員のシェアは 1995  2009 年に 限されている可能性があろう.すなわち,政治参 10%から 17%に上昇したにすぎない. 加は男性的な活動である,あるいは女性は有効な  子供向けの支出を含めて,支出パターンに関する 指導者としては男性よりも劣っている,などの通 家庭の決定に女性が発言権をもつかどうかや,それ 年である.このような通念は女性の政治的指導者 がどれくらい強いのかは,女性のエージェンシーを の数が臨海的な数に達するまでは打破がむずかし 知る重要なポイントとなる.マラウイでは既婚女性 い.家庭における介護の仕事に対する責任が男性 の 3 分の 1,インドでは同じく 5 分の 1 が,自分が とは異なっているため,女性は政治制度への参加 稼いだ所得についてさえ,支出の決定に関与してい において男性と同じように大規模に投資する柔軟 ない.トルコのような上位中所得国においてさえ, 性や時間がない.女性向けのネットワークの欠如 所得が最低の 20%層では,既婚女性の 4 分の 1 が自 も,政党や労働組合で権限のある地位に昇進する 41 分の勤労所得に対する支配力をもっていない .財 のがむずかしい一因かもしれない. 産を所有や支配,そして処分する女性の能力は,依  女性の家庭での発言権についての 2 つの重要な 然として男性とは異なっている.時には法的に違っ 要因は,女性の所得と家計資産に対する支配力の差 ていることもあるが,通常は実際面で異なっている. である.経済成長があれば女性はエージェンシーを そして,この場合でも,このようなパターンの変化 行使する物質的な条件を改善して,豊かな家庭では は国が豊かになっても改善は遅々としている. 総じて大きな発言権をもつことができる.しかし,  エージェンシー欠如の明白な表れは家庭内暴力で 世帯所得が高いだけでは,エージェンシーを行使す ある.暴力は自由の対極にある.定義からして強制 る女性の能力の低さを払拭するのに十分ではない. 的にエージェンシーを否定する極端な形態である. 重要なことは家を出ていく女性の能力に加えて自分 女性は赤の他人の暴力よりも,親しいパートナーや 自身の所得と資産が重要であり,すべてが女性の交 知人の暴力に対してずっと大きなリスクにさらされ 渉力と家計の選択に影響を及ぼす能力を高める.イ ている.また,女性は親しいパートナーによって, ンドでは,女性が財産をもっていると,さまざまな 殺される,重傷を負わされる,性的暴力の犠牲者に ことに関して家庭内で発言権が著しく高まる一方, 42 なる可能性が男性よりも大きい .家庭内暴力の 家庭内暴力のリスクは削減される 45.同様に,コ 広がりは国によって大きく異なり,所得水準とは明 ロンビアと南アフリカでは,世帯所得に占める女性 確な関係がない.社会経済的な収奪に伴って増加す のシェアが上昇すると,世帯の重要な決定にかかわ る傾向はあるものの,暴力には限界がない.ブラジ る支配も増大する.女性の資産や所得,世帯所得に ル(サンパウロやペルナンブコ州)やセルビア(ベ 占めるシェアと,家庭内暴力発生との間には相関関 オグラード)のような一部の中所得国では,親しい 係があることを示す証拠がある 46. パートナーによる肉体的な暴力事件を報告する女  しかし,仮に女性の所得が市場の機能不全や,経 43 性の割合は 25%もの高さに達している .ペルー 済機会と資産所有にかかわるその他のジェンダー別 22 世界開発報告 2012 の障壁によって制限されているとすると,家庭にお ある 51.また,自分の両親の間における暴力を目撃 ける女性の発言権は抑圧されたままとなるだろう. したと回答した南アフリカの男性は,自分自身が大 このような市場や法律の影響力を強めているのは, 人になって肉体的な暴力を犯したことがあると回答 家庭では女性ではなく男性が重要な決定を下すよう する可能性が非常に高い 52. にしている社会規範(一般化された通念)である.  規範は家庭内で学べるかもしれないが,多くの面 でジェンダーに関して偏りがある市場からのシグナ 世代を超えてジェンダー格差を再生産 ルや制度によって補強されている.例えば,家事や  ジェンダー格差に関して「最も執拗な」側面はお 介護の仕事にかかわるジェンダー別の責任の違い そらく,ジェンダー不平等のパターンが時とともに は,前述の通り,ジェンダー別の役割に根差してい 再生産されるその仕方であろう.この執拗さは社会 るばかりか,労働市場における差別や育児サービス 規範の変化が遅々として進まないことと,それが家 の欠如によって強化されている.勉強科目のジェン 庭にどう影響するかに根差している.男も女も社会 ダー別相違の根源にあるのは,家庭の決定に影響す 規範や期待を,自分自身の抱負,行動,選好だけで る要因(男や女にとって何が適切なのかに関する規 なく,自分の子供たちのそれに影響するような形で 範) ,市場(ジェ ,制度(ジェンダー別の教育制度) 「若者の生態」と銘打った研 家庭内に止まっている. ンダー別のネットワークや職業区分)の組み合わせ 究プロジェクトは,エチオピア,インド(アンドラ・ である.家庭内暴力に関する実証分析から次のよう ,ペルー,ベトナムの 8 歳,12 歳, プラデシュ州) なことがわかる.すなわち,個人や家庭,コミュニ 15 歳の合計 1 万 2,000 人の少年少女について,教 ティのレベルでの影響が重要であり,それが社会の 47 育上の抱負と非認知スキルを検討したものである . 受け止め方や制度的な失敗(保護的な法律やサービ 子供の教育に関する親の抱負は,エチオピアとイン スの欠如,あるいはその執行や提供が貧弱なことが ドでは 12 歳までに男子に偏り,ペルーとベトナム 含まれる)によって強化されている 53. では女子に偏っていた.このような偏りは 15 歳ま でに子供たちに伝染し,エチオピアとインドでは男 このようなすべてのジェンダー格差の執拗さから 子の間ではより高い教育を享受したいとの抱負に, 何を学ぶことができるか? ベトナムではそれが女子の間に広まった.さらに,  市場も制度(公式か非公式かを問わず)も――相 15 歳までに,エージェンシーないし有効性の措置 互に強め合いながら――,ジェンダー平等化に反す はインドとエチオピアでは強い男子重視の偏りを示 る方向に機能することがある.分娩の際に少女や成 したが,ペルーとベトナムではそうではかった. 人女性にとって,サービス提供制度が時として不調  増大を続けている研究文献は,家庭や職場におけ に陥ることがある.その他の時でも市場がうまく機 る女性に関する態度は世代を超えて伝染しているこ 能しないと,労働や信用の市場における差別の証拠 とを示している.女性が家庭外で働いていない場合, でみられるように,結果は女性にとってもっと悪く その娘も大人になってからそうする可能性が高く, なる.しかし,このような市場の不備からの失敗を その息子は家庭外で働く女性と結婚する可能性が低 しばしば強化しているのは,男女の処遇が異なって 48 い .若い男女は非常に異なる分野を勉強する傾 いる公式制度である.法律や規則は女性のエージェ 向にあり,女子が教育学や人文科学を好むのに対し ンシーや機会を,男性向けよりも制限的にすること て,男子は工学や農業,科学を好む.これは本人の ができる.男女の所有権が異なっている場合や,労 能力とは無関係ではあるが,幾世代にもわたって繰り 働の時間や部門において女性には制限が設定される 返され,所得が増加しても変わらない.子供の時に目 が男性にはそれがない場合がそうである.信用や労 撃した家庭内暴力は,彼らが大人になった時に反復さ 働の市場がすでに差別的であれば,そのような不平 49 れる,ということを示唆する証拠もある .家庭内 等な法律や規則は問題をいっそう大きくする.農業 暴力を目撃したことのあるハイチの女性は,自分自 指導普及サービスの場合におけるように,不平等な 身も肉体的・性的な暴力の犠牲者になる可能性が高 処遇は偏ったサービス提供を通じて,より間接的に 50 い .カンボジアとメキシコでもパターンは同じで おのずと表面化することもある.この場合,制度的 概観 23 な偏りと市場構造(往々にして農業指導普及サービ の経済機会へのアクセスを高めて,経済的なエンパ スの対象になっている非食用作物では女性の割合が ワメントに貢献している.第 2 に,都市化と情報 少ない)が強め合って,不平等がさらに深刻化する へのアクセスの増加を受けて,途上国では大勢の ことがある. 人々が世界の他の地域の生活や習慣を学ぶことがで  あらゆる制度(公式か非公式かを問わず)には相 きるようになっている.これには女性の役割も含ま 当な惰性がある.それはより大きな権限と影響力を れ,途上国の態度や行動に影響を与えている可能性 振るっている人々の利害を反映する傾向があり,何 がある.第 3 に,ジェンダー平等のための公的措 らかの形の集団的なエージェンシーないし発言権が 置を求めるインセンティブがかつてなく強くなって 54 なければ,これらを変更することはむずかしい . いることだ.女性の経済的・社会的・政治的なエン 社会規範はとりわけ変化が遅いことがある.ある時 パワメントの本質的な重要性に関して,世界的なコ 点で一定の目的に適っていたがもはや有用でない規 ンセンサスが強まっているということは,ジェン 範が,次のような理由から単にもちこたえられるか ダー不平等はその国の国際的な地位に傷が付くこと もしれない.例えば,習慣,規範を最初に破ったこ を意味する.しかし,グローバル化がもっているこ とに対しては社会的なペナルティが課される,規範 の潜在力は,資質,エージェンシー,経済機会への は社会で支配的なグループ(この場合は男性)を利 アクセスに関して残存するジェンダー格差を解消す するなどである.つまり,規範の持続性はその本来 るための,有効な国内的な公的措置なくしては実現 の論理的根拠がとっくに無くなった後でも,ジェン しないだろう. ダー不平等を永続化させることがあるということだ.  それでは,途上国の政府としてはジェンダー平等  要するに,ジェンダー別にみた市場の失敗,制度 を促進するために何をなすべきか? どの分野の 的な制約,執拗な社会規範がしばしば一緒になっ ジェンダー不平等に焦点を当てるべきか? 教育と て,ジェンダー不平等を強め,ジェンダー平等の改 保健への介入策で始めるべきか,それとも経済機会 善をより複雑で難しいものにしている.したがって へのアクセスあるいはエージェンシーに焦点を当て 複数の制約があるなら,そのすべてに取り組む必要 るべきか? どのような組み合わせの政策をどのよ がある. うな順序で実施すべきか? 一見では,このような 疑問には圧倒されるような感じを受ける.優先分野 が多様なのに,利用可能な政策手段の数が限られて 何をなすべきか? いるからである.本報告書では,分析が良ければ,  あらゆる分野でジェンダー平等の改善を実現する 政策選択の複雑さが削減されて,幾通りかの設計を 成長や開発のプロセスについては,自動的なものは する助けになることを示したい. 一つもない.その一因は所得が増加し,国家による  政策を推進するに当たって,ジェンダー不平等 サービスの提供が改善しても,ジェンダー格差の削 のどの側面が最優先かを決定することが出発点に 減に役立つのは一部の領域に限定される点にある. なる.この点に関しては次の 3 つの基準が重要で また,そのような領域でも改善がすべての女性に届 ある. くわけではない.職業上の区別や女性のエージェン シーの多くの表われなどジェンダー平等について他 • 第 1 に,福祉を高め開発を持続するためには の領域では,所得の増加とサービス提供の改善は, どのジェンダー格差が最も有意義か? つま 執拗なジェンダー格差の背後にあって,しばしば相 り,ジェンダー格差に取り組むことによる開発 互に強め合っている複数の制約を解消するには,有 利益はどの分野が最大になりそうか? 効性が大幅に劣っている. • 第 2 に,国が豊かになってもどの格差が執拗に  グローバル化の新しい潮流はこのような格差の多 持続するか? つまり,所得の増加そのものが格 くを削減することができる.第 1 に,貿易の開放 差の削減にほとんど役立たないのはどの分野か? や新しい情報通信技術の普及は,女性にとって雇用 • 第 3 に,このような優先分野のうち,関心が の増加や市場との結び付きの強化につながり,女性 不十分だった,ないし見当違いだったのはどれ 24 世界開発報告 2012 か? つまり,政策の方向転換が最大の利益を 時期における女性の超過死亡率と教育面でジェン もたらしそうなのはどの分野か? ダー的に不利な分野――についてのジェンダー格差 に取り組むためには,公共サービスを提供する制度  このような基準を適用して,われわれは次の 4 を是正する必要がある.妊産婦にタイムリーに基本 つが政策立案者にとって最優先分野であると結論付 的なサービスを供与し,家計における清潔な水や衛 けたい. 生設備を入手可能にすれば,超過死亡率にかかわる ジェンダー格差を解消するのに大いに資するだろ • 人的資本の資質におけるジェンダー格差を削減 う.教育サービスは,貧困や民族性,カースト,人 する(女性の超過死亡率に取り組み,教育面で 種,地理によって現在不利な状況下にある大勢の人 ジェンダー的に不利な部分を除去する) 口グループの,アクセスを改善することに焦点を当 • 男女間の所得や生産性の格差を解消する てる必要がある.そのような点に焦点を絞ることは • 発言権におけるジェンダー格差を縮小する 貧困層や社会的な弱者層に影響している「ジェン • ジェンダー不平等の長期にわたる再生産を制限 ダー不平等の罠」への取り組みに有益であろう. する(資質,経済機会,エージェンシーのどれ  このような解決策は需要サイドか供給サイドのい を通じるかは問わない) ずれかから出てくるが,ジェンダーに対して盲目で あることはできない.それどころか,それは設計と  当然ながら,このような優先課題のすべてがすべ 実施の両方について,健康と教育の成果について ての諸国に当てはまるわけではない.また,各国の ジェンダー格差を持続させる原因となっているジェ 固有な特性によって是正策をどう適合させる必要が ンダー不平等の牽引力を明示的に考慮に入れなけれ あるかを規定するだろう. ばならない.さらに,政策が手を差し延べようとし  われわれの分析は次の点も強調している.すなわ ている人々――疎外されている少女や女性とそれと ち,政策を選択し設計するに際しては,懸念されて 同居している少年や男性――の声を,政策の設計や いるジェンダー格差の結果ではなく,決定要因を標 実施のプロセスに組み込まなければならない. 的にすることが必要である.本書のパートⅡにおけ る枠組みはそのような基本的な原因に光を当てるの 女性の超過死亡率を削減する に役立ち,市場や制度の機能,その相互作用や家計  ライフ・サイクル上のさまざまな時期における女 との作用から,それがどのように出現してくるかを 性の超過死亡率の重要な決定要因は,当該国がどの 示す.換言すれば,枠組みが,どの問題を解決する 程度高い成長をするかとはほとんど無関係である. 必要があるかや,介入策が標的にすべきは市場や公 それは世帯の選好と市場や制度の機能における失敗 式制度,非公式制度,あるいはその 3 つの何らか から帰結している.政策の入り口となる点はこのよ の組み合わせのいずれであるかを特定してくれる. うな要因のうち,各時点においてどれが最も束縛的  懸念すべきジェンダー格差の基本的な原因を特定 かによって規定される. してから,本レポートは多種多様な状況下で機能す  出生時における性別比率の歪みが世界の一部地域 る具体的な介入策に関して指針を提供すべく,広範 では問題になっている.それには中国,インドの一 囲にわたる諸国における政策介入の経験を検討して 部,コーカサスの一部,西バルカンが含まれる.基 いる.さらに,改革の政治経済学を検討して,政策 本的な原因は家庭における息子に関する強い選好に の設計と実施は国の制度的・社会的・政治的・文化 あるが,それがこれらの一部地域では所得の急成長 的な環境や関与している社会的主体に適合していな によっていっそう悪化している.所得の増加を受け ければならない,ということを強調している. て,男女の産み分けを助ける超音波技術の利用が増 大している.したがって,政策は 2 つの面で機能 人的資本の資質(健康と教育)におけるジェン する必要がある. ダー格差を削減する政策  第 1 に,中国やインドで実施されているように,  人的資本の資質――ライフ・サイクル上の特定の 産み分け技術の悪用に対処するための法律を制定し 概観 25 て執行する必要がある.しかし,経験が示すところ て,問題は清潔な水へのアクセスを効率的に拡大 によれば,ほとんどの社会では実施が不可能で,他 するとともに,同サービスが貧困層にも利用可能 の倫理的な懸念をもたらすような過酷な制限を課さ かつ負担可能であることを確保する制度的な枠組 ない限り,執行は不可能ではないものの極めて困難 みを設計することである. である.  解決策は状況次第ではあるが,次のように決定的  第 2 のもっと有望なアプローチは,娘の価値に に重要な要素が 2 つ 3 つある. 対する家庭の考え方を高めることである.労働市 場にいる人々も含めて,若い女性の経済機会の拡 • 政府介入の論理的根拠を認識した適切な規則. 大はその 1 つの方法であり,開発のプロセスと結 • サービス提供者にとって十分なインセンティブ び付いて機能し,息子に関する選好を逆転させる を整備して,政策立案者に対して説明責任を負 だろう.出生時における女性の超過死亡率が短期 わせる. 間で逆転した稀な事例の 1 つとしては韓国をみれ • サービス提供者と政策立案者の両方について, ばよい 55.また,そのプロセスは娘をもつ親に対 サービス利用者に対する説明責任を強化するた する金銭的インセンティブの供与(インドの一部 めの措置. の州における「私の娘,私の自尊心」というプロ グラム)や,ジェンダー平等に関する社会通念を  都市部で清潔な水を供給するためには,契約体系 変えるメディア・キャンペーンの支援によって補 の改善を強調することや,場合によっては,民間部 完することができる 門の関与の増大を必要とするだろう.マニラでは,  乳幼児期については,少女の超過死亡率は家庭や そのような改革が大きなインパクトをもたらした. 市場に根差したものではない.ただし,その両者は 水供給の適用範囲が 1997 年の 67%から 2009 年 悪化要因になることはある.それは清潔な水,衛生 の 99%に上昇し,漏水と運営費の低下を通じて効 設備,ごみ処理,排水のサービスを提供する制度の 率化の利益がもたらされた.ファイナンスの選択肢 失敗に根差している.乳児期における女子死亡率が や公的機関の能力がもっと限定的とみられる低所 高い諸国は,感染症の負荷がまだ高いところであ 得の状況下では,ずっと小さい都市部においても, る.現在の先進国は幼い女子の超過死亡を 20 世紀 サービスに対して少額を徴収する,独立的な提供者 初めに,清潔な水と衛生設備に対するアクセスを改 を活用する,提供者の対利用者説明責任を強化する 善することによって撲滅した.また,バングラデ 方法を見出す,などが有効である.それはカンボジ シュ,中国,ベトナムなど,過去 20 年間に少女の アが採用した方法である.農村部なら地方政府がコ 超過死亡について大幅な減少を経験した途上国も, ミュニティのシステムを改善することができる.ウ やはり同じことをしている.したがって,サハラ以 ガンダでは追加的に少額の徴税を行って,それを重 南アフリカで「行方不明の」少女が「再び見付か 要な水道修理を賄うために,地区評議会が管理する る」ためには,各国は同じようなシステムに投資し 基金を創設した. て,十分な水,衛生,ごみ処理のサービスを単に富  都市部における衛生設備については,施設への投 裕層だけでなく,人口全体に提供しなければならな 資に関する利点を個人やコミュニティが理解さえす い.このようなサービスはすべての幼い子供にとっ れば,通常は改善の十分な需要がある.したがっ て利益をもたらすものではあるが,感染症が削減さ て,解決策は財産権を強化して,非公式な居住地を れるため特に幼い女子に大きな利益がある. 承認する,すなわち,需要を刺激すると同時に,コ  各国は正確にはこれをどうやって行うべきか? ミュニティが独立的な提供者へのアクセスがもてる  現在の先進国の経験が指針になるなら,解決策 ようにしておくことである.農村部や人口密度が高 の一部は清潔な水を水道管による配給を通じて利 くない都市部では,衛生改善にかかわる優先課題 用地点で供給することだ.源泉における水処理な は,コミュニティの仲間同士の圧力や情報キャン ど他の解決策は再汚染の懸念があるため,下痢罹 ペーンを通じて――カンボジア,インドネシア,ベ 56 患率の削減にはあまり有効ではない .したがっ トナムの一部コミュニティでは,コミュニティの責 26 世界開発報告 2012 任に関する人々の考えにアピールした――,行動を るというものだ.次に,政治家はサービス提供者に 変え,意識を高め,需要を高めることである. 対してもっと有効なコントロール力を発揮する必要  水道水や衛生設備の適用範囲を増やすのは高価で がある.このメカニズムの有効性はペルーにおいて あり,貧困国では大規模な資金調達――外部からの 明白であった.同国では妊産婦保健を改善するため ものになる可能性が大きい――が必要になるだろ には,適用範囲を拡大すること,サービス提供者に う.サハラ以南アフリカにおけるインフラ整備のた 対して適正なインセンティブを付与すること,市 めの資金調達の必要性についての最近の分析の結論 民の声が政策立案者に聞こえるように十分大きく は次のことを示している.清潔な水と衛生設備に対 なること,などが必要であった 59.このようにし するアクセスを大幅に改善するためには,追加的な て専門的介助者による分娩は 2000 年の 58%から 支出は現行水準の 1.5 倍程度――年間 110 億ドル 2004 年の 71%に増加した. 57 強――になる必要があろう .しかし,第 3 章で  第 3 に,貧しい女性が妊産婦保健ケアにアクセ 示したように,死亡率の低下を考慮に入れると,こ スする際に直面する金銭上の制約には,特別な配慮 のような投資の収益率は非常に高い. が必要である.1 つの支援方法は妊産婦ケアを受け  出産適齢期には,サハラ以南アフリカとアジアの ることを条件に,貧しい女性に現金給付を供与する 一部では妊産婦死亡率が特に高いままである.主因 ことである.その実例はインドの「母の保護企画」 は妊産婦に対する医療のケアやサービスを提供する (Janani Suraksha Yojana)と呼ばれるプログラムで 制度の失敗にある.女性が分娩の際に迅速な医療手 あり,このおかげで専門的介助者立会による分娩が 当てを求めることを遅らせている規範や,出生率が 約 36%増加した 60. 高いことが要因になっているところもなかにはある  第 4 に,妊産婦死亡率を削減する努力は,保健 が,問題を解決するためには,清潔な水と衛生設備 システムや各部門のサービスや業務を改善すること を提供するのと同じく,このようなサービスを提供 を超えて広がる必要がある.マレーシアやスリラン する制度そのものの修正が必要である. カでは,開発の早期段階で妊産婦死亡への取り組み  この修正には前線にいるサービス提供者向けの財 に成功したが,それがこのことの重要性を例証して 源を増やし,妊産婦ケアのシステム全体を確実にう いる(ボックス 5).インフラ(農村道路)や女性 まく機能させることが必要とされる. 教育に対するかなり少額の投資が,妊産婦保健ケア  第 1 に,一連のサービスを提供する人々の質を 提供者の訓練や病院の建設が組み合わさって,妊産 格上げする必要がある.特に専門的な分娩介助者な 婦の死亡が激減したのである 61. ど,医療従事者の追加は引き続き必要であるもの  第 5 に,問題に対する政治的な注目度を引き上 の,サービス不足の地域ではコミュニティ・レベル げることが必須である.この点で何が可能であっ の提供者や民間部門を巻き込むことによって,その たかをトルコは例示している.トルコの 2000 年に 適用範囲を高めることができる. おける妊産婦死亡率は出生 10 万人当たり 70 人で  第 2 に,妊産婦保健サービスの提供者は妊産婦 あった.新しい政府は政権の座を獲得した政治的 の意見を聞いてそれに応える必要がある.1 つの方 な支持を後ろ盾に,2003 年に保健転換プログラム 法としては妊産婦に対するサービス提供者の説明責 を実施した.これは制度的な改革,患者への対応, 任を大きくすることである.利用者に情報――例え サービス不足地域の重視を強調するものであった. ば,サービス基準,サービスの質,それを改善する サービス不足地域における一次保健ケアと予防に対 ための方針など――を提供するのは助けになるが, する予算配分が 58%増加され,遠隔地向けには緊 利用者がその情報に基づいて行動できような何らか 急輸送機のサービスが投入され,貧困地域で適用範 の方法と組み合わせる必要がある.ウガンダでは, 囲の改善のために保健従事者の配置換えが行われ コミュニティ・ベースのモニタリングで,一次保健 た.さらに,条件付き現金給付に後押しされて,妊 58 ケア・サービスの質と量の両方が改善した .説 産婦は産前ホステルを利用したり,公立病院で分娩 明責任を負わせるもう 1 つの方法は,市民が失敗 したりするようになった.2009 年までに妊産婦死 について政治的代表者の責任を問えることを保証す 亡率は 19.8 人に低下した 62. 概観 27 著しく不利な人々に教育を提供 ボックス 5 妊産婦死亡率を削減する――そのためには何が  就学率のジェンダー格差は全国的には縮小して 機能するか? マレーシアとスリランカの事例 も,貧困層やその他の要因――遠隔性,民族性,  妊産婦ケアの提供を改善するのはむずかしいが――スリ カースト,人種,身体障害など――で不利な状況に ランカやマレーシアでみるように,比較的低所得でも可能 ある人々にとっては依然として残っている.このよ ではある.1930 年代には 10 万人当たり 2,000 人以上で あったスリランカの妊産婦死亡率は,47 年までに約 1,000 うな人々に手を差し延べるためには,政策立案者は 人に低下し,その後の 3 年間では 500 人未満へと半減した. カンボジア,コロンビア,ホンジュラス,メキシ さらに,1996 年までに 24 人へと減少した.マレーシアで コ,ニカラグア,パキスタン,トルコなどの経験や –  は 1950  1957 年の 7 年間で 534 人から半減した.それ以 証拠を基盤にすることができる.一連の選択肢に 降は,10 年ごとに半減を繰り返して,1997 年までに 19 は,供給サイド(遠隔地における学校建設を増や 人に減少した.  保健制度の有効な機能を阻害している広範な制度的障害 す,地元の教員を採用するなど)と需要サイド(女 を克服するため,スリランカとマレーシアは一貫した段階 子の就学を条件とした現金給付など)の両方の是正 的なアプローチを採用した.しかも,保健向けの公共支出 策が含まれる.費用効果的な介入策を設計する際 が 1950 年代以降の平均でみて GDP の 1.8%と少額にと の鍵は,地方の特性や状況に関する情報の入手可能 どまるなかで実施した.両国の保健プログラムでは,保健 ケアの基礎教育,水・衛生,マラリアの抑制,統合的農村 性とその収集コストにある.相対的にほとんど知ら 開発――出産にかかわる緊急事態への対処にも有益な農村 れていない地域については,娘の就学を条件とする 道路の建設を含む――との相乗的な相互作用が活用された. 現金給付など,地方向けにさほど調整されていない 妊産婦ケアにかかわる金融や地理的及び文化的な面での障 政策が,ジェンダー格差の削減には有効であろう. 害に対する取り組みは,農村部で広く利用可能な有能で専 門的な助産婦の最前線に対して,医薬品や機器の着実な供 低・中所得という環境下で,特に出発点の就学率が 給を確保し,後方支援サービスに結び付け,連絡と輸送を 低いグループ(非常に不利な状況にある人々のグ 改善することによって行われた.同時に,産婦人科のケア ループのように)の就学率を押し上げることについ を提供し,合併症に対処すべく施設が強化された.組織の ては,現金給付は就学率にプラスの効果を及ぼした 管理を改善することによって提供者の監督と説明責任を改 63 善した.地域別の死亡率データがモニタリング・システム という実績がある .そのような政策は有効性の を通じて提供されたおかげで,権利が強化されたコミュニ ゆえに幅広く政治的に受容され,30 カ国以上で実 ティは政治指導者の説明責任を問うことができ,全国・地 施されている. 方の主体はすべての妊産婦死亡は容認されないと認識する ことを余儀なくされた.最後に,両国とも昔から女性の地 女性の経済機会を改善するための政策 位向上を強く公約していた.女性は国家独立の以前に,あ るいは直後には投票権を獲得し,女子教育に対しては特別  世界中で男女は根本的に違う形で,経済機会に― な配慮を享受していた. ―賃金雇用や農業で,あるいは企業家として――ア 出所:Pathmanathan 他 2003. クセスしている.女性は経済空間のなかで男性とは 非常に異なる分野に就職する傾向にあり,生産性の 低い活動,自営業,非公式部門などに不釣り合いに ている.第 3 に,このような相互に強め合う制約 集中している.公式の賃金雇用部門においてさえ, は「女性的な生産性の罠」を生み出すことがある. 女性は通常は給与の低い特定の職種や産業に群がっ したがって,政策はこのような基本的な要因を標的 ている.このような相違は国が豊かになっても残存 にする必要がある.たいていは複数の要因が作用し している. ているため,有効な政策介入はそのいくつかを――  これについては 3 つの要因がこのようなパター 同時に,あるいは順番に――標的にする必要がある ンを牽引している.第 1 に,男性と女性とでは介 だろう. 護や家事に関する責任が非常に異なり,その結果と して,生活時間のパターンが非常に異なり,それ 女性の時間を解放する が雇用や経済活動の選択を直接阻害している.第 2  経済機会へのアクセスについてのジェンダー格差 に,男女では生産用の投入物に対するアクセスが異 は,介護と家事の責任分担に関する根深い習慣と規 なり,しばしば市場や制度によって差別待遇を受け 範に由来する生活時間の相違が一因となっている. 28 世界開発報告 2012 このような束縛的な規範に取り組んで女性の時間を 的ではなくなる.父親と母親の両方に育児休暇を付 解放するためには,次の 3 種類の政策にもっと関 与し,前者を義務化する政策には(アイスランド, 心を払わなければならない.育児ケアと育児休暇の ノルウェー,スウェーデンにおけるように)女性に 政策,インフラ・サービスの改善,市場アクセスに 対して差別的ではないと同時に,育児ケアに関する 関連した取引コストを削減する政策である. 基本的な規範のシフトに役立つという利点がある.  育児にかかわる補助金ないし公的面からの供給な  インフラ・サービスの改善――特に水と電気―― どの政策は,市場性の仕事に従事することに伴って は,家事や介護に費やされていた女性の時間を設け 女性が家庭内でこうむるコストを補償することがで るのに役立つ.例えば,南アフリカの農村部では, きる.育児は国家が直接的に提供する,あるいは 電気の普及によって女性の労働力参加率が約 9%上 おそらく公的な補助金や規則を伴いながら民間部 昇した.バングラデシュでは,女性の余暇時間が増 門を通じて提供することができる.途上国のなか えることにつながった.パキスタンでは,水源が自 では一部の中所得のラテンアメリカ諸国で育児政 宅の近くになったことで,市場性の仕事に振り向け 策が実施されている.実例としては,メキシコの る時間が増えた.他の研究が示すところによれば, 保育園(Estancia Infantil),コロンビアの公共託児 市場性職業に影響はなかったが,余暇時間には顕著 所(Hogar Comunitario),アルゼンチンやブラジル な影響があり,それも女性の福祉を増大させている における同様のプログラムがある.このような諸国 (第 7 章). に加えて,同じような制度をもっている先進国(主  介入策は(時間的な)取引コストの削減に焦点を として北ヨーロッパと西ヨーロッパ)からの実例に 当てることもできる――市場アクセスに関連して― よれば,女性の労働時間だけでなく,公式雇用部門 ―.より良いもっと有効な交通手段の選択肢があれ における労働も増えている.低所得国では,非公式 ば,自宅外での労働における時間的コストを削減で 部門で雇用されている女性や農村部の女性にとって き,家事や介護ケア,及び市場性の職業など複数の は,育児ケアの解決策が特に必要とされている.イ 負担を管理することが容易になる.また,情報通信 ンドでは「移動託児所」という NGO が,農村部非 技術は,女性が市場にアクセスして市場性の仕事に 公式部門や公共事業プログラムで雇用されている女 参加する際に直面する時間と移動性という両方の制 性向けに育児サービスを提供するために,多種多様 約を削減するのに貢献する.ケニアの M-PESA な なモデルを実験している.類似の取り組みがインド どのモバイル・バンキングを背景に,女性でも小口 のグジャラート州では,女性自営業者協会によって の金融ないし銀行の取引をもっと効果的に処理した 実施されている(会員の 6 歳以下の子供向けにデ り,貯蓄に励んだりすることができるようになって イケア・センターを設立している).デイケアを公 いるが,それは小規模な女性企業家にとっては特 的に提供する他の選択肢としては,授業時間を長く に有益である.インドでは,職業開発財団という したり(特に在校時間が半日だけの学年では),あ NGO が運営するプログラムがマーケティングに焦 るいは児童が学校制度に入る年齢を引き下げたりす 点を絞るべく女性グループを組織化して,携帯電話 る方法がある. やインターネットへのアクセスを提供している.そ  育児休暇政策は主として先進国で試みられてお れによって,女性たちが自分で作った製品を直接販 り,典型的には出産休暇という形をとっている.こ 売することによって利益率を拡大するのを支援して のような諸国ではこの政策のおかげで女性の労働力 いる 64. 参加率が上昇しているものの,途上国における適用 はもっと限定的とみられる.第 1 に,これが活用 資産や投入物へのアクセスにおける格差を解消する できるのは公式部門だけであり,それは典型的には  女性の農民や企業家は男性よりも土地へのアクセ 新興国や低所得国では雇用のほんの一部を構成する スが少ない.同じく,女性の農民や企業家の間では にとどまっている.第 2 に,育児休暇が公的にファ 金融面の信用の需要と利用の両方が男性よりも少な イナンスされていない限り,実際には雇用主にとっ い.このような相違は市場や制度の失敗と家計の反 ては出産適齢期の女性を採用することがむしろ魅力 応との相互作用に根差している.例えば,信用にア 概観 29 クセスするためにはしばしば担保――できれば土地 く,政府としては再配分した土地に関しては強制的 など固定資産――が必要とされる.したがって,女 な共同所有権を導入すると同時に,ジェンダーに配 性は不利である.というのは,女性は土地へのアク 慮した政策や地方土地委員会における女性委員の増 セスが少ないか,あるいはアクセスの確実性が劣っ 加を組み合わせるとよい.第 2 に,サービス提供 ているからだ.また,資本金が少なく,産出がしば 組織のなかで女性は優先課題の設定を含めてもっと しば無形のサービス部門に雇用されている割合が 権限を与えられるべきである.例えば,農業指導の 極めて高い.このような傾向は家計におけるジェ 普及に関して,女性を農業省における意思決定ポジ ンダーに基づく選好――男女別にみて不平等な資 ションに据えるべきである.第 3 に,ケニアで農 源(例えば土地など)の配分につながり得る――に 業の指導普及についてコール・センターを通じて実 よって,いっそう強化されている可能性があろう. 施されたように,サービスの届く範囲を広げるため  政策としてはアクセスの相違にかかわるこのよう には技術を活用すべきである.第 4 に,モニタリ な基本的な決定要因に焦点を当てて,女性の所有権 ングを改善すれば問題の可視化を図ることができ を強化することによって制度的な競争条件を平等に る.最後に,女性のサービス利用者に受領できる し,サービス提供制度におけるバイアスを是正し, サービス水準についての情報を提供すべきである. 信用市場の機能を改善する必要がある. この手続きは要求について集団的な要素を形成する  女性の地権や所有権を強化すれば農民女性や企業 ――例えば,女性農民組織を支援する――ことに 家を助けることができる.取り組みの必要がある主 よって後押しすることができる. 要な制約は,資産を所有して相続し,資源をコント  女性の借り手が経験不足で引き起こす情報問題に ロールする女性の能力に対する制限である.インド 取り組むことによって信用市場の機能を改善する とメキシコの経験が示すところによれば,相続法の と,農業や自営業における男女間の生産性格差に対 規定を男女間で平等化すれば女性による資産所有が 処するのに有益であろう.このような問題に対処す 増える.差別的な土地法――多くの諸国ではそれが る際に最も一般的な方法は零細金融制度であり,女 農業生産性格差の根源にある――も,少なくとも婚 性が少額の信用にアクセスして,借り手としての実 姻においては共同所有を認めるべく改革する必要が 績の形成に役立つ.典型的には,これらはバングラ ある.そうすれば,経済機会の利用において土地を デシュのグラミン銀行やペルーにおける国際コミュ 使う女性の能力が高まるだろう.既婚女性の地権を ニティ支援財団(FINCA)のように,グループ貸付 確実なものにする(特に離婚や配偶者が死亡した場 制度という形をとる.零細金融は今やグループ貸付 合)という点でさらによい方法は,強制的な共同土 を超越して,ボリビアのバンコ・ソルやバンク・ラ 地権利付与である.土地登記の際に両配偶者に共同 クヤット・インドネシアに進化し,より多額の個人 権利書が発行されるエチオピアの 2 つの地域では, ローンを提供している.そしてこれは,仲間の間の 女性の名前がすべての権利書の 80%に明記されてい モニタリングではなく返済インセンティブに依存し る.証明書が世帯主の名前だけで発行されている地 ている.公式信用へのアクセスの欠如は金融革新を 域では,女性の名前は 20%を占めるにすぎないの 通じたり,中小企業のニーズに取り組んだ信用モデ 65 で,その 4 倍に達しているということになる . ルを適合化したりすることによっても克服できる.  政府の土地分配と登記制度や農業指導普及機関の ナイジェリアのアクセス銀行,ウガンダ開発金融会 機能など,サービス提供制度におけるバイアスを是 社(DFCU),タンザニアのセロ・リース・アンド・ 正すると,多くの諸国では女性の経済機会へのアク ファイナンスがその実例である.女性は男性に比べ セスを改善することにつながる.このようなバイア て信用実績が少なく,借入の担保にできる資産ベー スを是正するにはさまざまな面で各種の措置が必要 スが低いということを認識した上で,このような になる.第 1 に,サービス提供者は明示的かつ追 大手商業銀行は国際金融公社(IFC)と手を組んで, 加的に女性を対象とする必要がある.例えば,世帯 女性所有企業や女性企業家に対する信用サービスを 主を対象とする土地再配分プログラムは,女性に 支援・供与するために,新しい手段を開発してい とってはあまりありがたくないだろう.そうではな る.そのような介入策には,機械を担保としたロー 30 世界開発報告 2012 ンやキャッシュ・フローに基づくローンなどといっ が必須である 66.そのようなプログラムが実施され た新商品の開発,および銀行の女性顧客数増加を後 ている地域では,賃金雇用を男性から女性に再配分す 押しするための銀行員研修や戦略的な支援などが含 る効果が明瞭となっている.また,そのような政策の まれる.このような介入策の初期経験が示すところ 経済的な効率性については依然として議論があるもの によれば,金融サービスを利用したり,より多額の の,最も包括的な証拠(アメリカにおける長年の経験 ローンを借り入れたり(平均以上の返済実績を伴っ に基づく)は,効率性の低下はまったくないか,ある ている)する女性顧客のシェアが上昇している(第 いはほとんどないということを示している 67.アメ 7 章). リカを初めとするこのような経験は次のようなこと も示唆している.すなわち,潜在的に効率性低下の 労働市場における差別に取り組む 影響は,積極的差別是正措置プログラムは一時的で  賃金雇用では,特定の部門や職種で女性の割合が あり,女性の割合が必要とされている臨界質量に到 低いと,雇用主の間では女性は労働者として適して 達すれば廃止される,ということを確保することに いない,あるいは雇用にとって良い候補者ではな よって対処できる.明示的な是正措置政策がない場 い,という差別的な信念を扇動する(あるいは既存 合でも,公共部門の女性雇用が相当な数であれば, の信念を強化する)ことがある.求職や職業上の昇 デモンストレーション効果をもつことができる.先 進にかかわる(しばしばジェンダー別の)ネット 進国では女性を労働市場に統合するのに公共部門の ワークの重要性が,特定の職業や地位,部門,職種 伸びが重要であった 68. からの女性の排除をいっそう強化する.このような  女性ネットワークの形成に対する支援は,ジェン 情報問題の打破とネットワークの拡張は,能動的労 ダー別のネットワークが女性の労働者や農民,企業 働市場政策,積極的差別是正措置プログラム,グ 家にとって障害になっている場合には有効であり得 ループ形成及び助言指導の介入策という 3 種類の る.そのような介入策は社会資本やネットワークの 主要政策を通じて取り組むことができる. 構築を,訓練や情報,指導助言の提供と組み合わせ  能動的労働市場政策は女性が労働力に参入ないし た場合に最もうまく機能する.その一例はボックス 再参入できるように,訓練,就職斡旋,その他の支 6 で説明されているヨルダンの NOW というプログ 援策を組み合わせたものである.このような政策は ラムである.もう 1 つのもっと確立している事例は 典型的にはジェンダー間の賃金格差縮小を動機とし インドの女性自営労働者協会(SEWA)である.同 たものではないが,アルゼンチン,コロンビア,ペ 協会は大勢の非公式部門労働者や企業家の利害を代 ルーからの証拠が示唆するところによれば,女性が 表し,会員に対して広範な情報や支援,訓練サービ 自分の能力を雇用主にうまく伝達できるようになっ スを提供するのに有効な団体に進化してきている. たおかげで,公式部門では女性の雇用と賃金を増加  労働法制における差別的な処遇を除去すれば女 させることができた.ヨルダンで現在実施され,評 性の経済機会を促進することができる.このよう 価中である類似のプログラムは,成功に向けた有望 な法制のなかで,優先課題は多くの諸国における な兆候を示している(ボックス 6). パートタイム職に関する制限(完全な禁止を含む)  積極的な差別是正措置は情報の失敗を克服するも を見直すことであろう.というのは,家事と介護 う 1 つの方法である.目標は女性の賃金雇用への の仕事の大部分は女性が担当しているため,その (約 30%と主張されることが多 参加を「臨界閾値」 ような制限は男性よりも女性の仕事の選択肢を限 い)――情報の失敗やネットワークがもはや束縛性 定することにつながるからだ.このような制限を を失う水準――にまで押し上げることにある.(主 緩和すれば,女性は有給雇用の機会を拡大するこ として先進国の)経験が示すところによれば,積 とができるだろう.アルゼンチンでは,公式部門 極的是正措置は義務的な場合に最善の機能を果た におけるパートタイム契約の禁止を撤廃したとこ す.是正措置は公共部門の雇用や請負契約を通じて ろ,子持ちの女性が非公式部門のパートタイム職 も実施できるが,明確なルール,インパクトの慎重 から公式部門の同じ職業に大量にシフトするとい なモニタリング,非順守に対する信頼性のある制裁 う事態の発生につながった 69. 概観 31 ボックス 6 ヨルダンでの女性雇用に対する触媒作用を強化する  教育水準の向上にもかかわらず,中東・北アフリカで 執筆,顧客に対するサービス,履歴書の作成,面接,ポジ は女性の労働力参加率は非常に低い水準にとどまってい ティブ思考などについて,45 時間の授業を受ける. –  る.ヨルダンでは 20  45 歳のうち働いているのは,男性  このような政策に対しては旺盛な需要があるようだ.雇 の 77%に対して女性はわずか 17%にとどまっている.こ 用比率が低いにもかかわらず,最近の女子卒業者の大半は の労働力参加率の格差は教育水準が高い人々の間でも当て 働きたいと考えている.93%は卒業後は働く予定である, はまる.短期大学の卒業者の間では,これは卒業と同時に 91%は結婚後も自宅外で働きたいと言っている.訓練コー 始まる.雇用率がこのように低いと,新卒者は労働市場へ スへの出席を促された人々のうち,修了したのは 62%に の参入がむずかしくなる.雇用されている女性が少ないた とどまったが,未婚女性の出席率が最良であった.コース め,若い女性は就職に役立つネットワークによるコネだけ を始めた人々は肯定的な評価をしており,コースのおかげ でなく,模倣して就職につながるような手本が不足してい で求職活動の開始について,大きな自信がもてるように る.女性と一緒に働いた経験のない雇用者は,仮に女性は なったと主張している.賃金補助プログラムの開始から 4 就業継続の意思が弱いものだと信じこんでいれば,女性採 カ月後,引換券を利用した人の約 3 分の 1 は就職した. 用を躊躇する可能性があるだろう.  中間評価に基づく早期結果は,仕事引換券には著しい効   「ヨルダン女性向けの新しい機会」 (ヨルダン NOW)プ 果があることを示している.引換券だけ,あるいは引換 ログラムは,短期賃金補助金と雇用可能スキル訓練という 券と訓練の両方を受領した卒業者の間では,雇用比率は 2 つの政策の有効性を厳格に評価するための実験プログラ –  55  57%となった.これに対して,訓練だけ,あるいは訓 ムである. –  練も引換券も受けなかった人々の間の同比率は 17  19%  短期賃金補助金制度は若い女性卒業者を採用したり,若 にとどまった.すべてのグループについて,雇用効果は未 い女性の仕事振りを直接観察したりすることによって,固 婚女性で大きかった.引換券か訓練のどちらか,あるいは 定観念を克服するインセンティブを企業に付与するもので 両方をもらったすべての女性については,財政的なエンパ ある.補助金は求職や雇用者へのアプローチについて,若 ワメント(自分のお金をもっていて,どう使うかを決定で い女性の側にも自信を与えることができる.実験のなかで きる女性の割合で測定)も著しく増大した.追跡調査を行 は,引換券は 6 カ月分の最低賃金と等価とされた. えば,仕事引換券のこのような雇用効果が長期にわたり維  雇用可能スキル訓練は新卒者が短期大学で学んだ技術的 持されているかどうかがわかり,他のエンパワメント措置 スキルを,就職して成功する実際的なスキルで増強するも や態度の変化に焦点を当てることになるだろう.また,同 のである.多くの雇用者が指摘するところによれば,近頃 調査では結婚と仕事の関係にかかわる一層の探究が可能に の新卒者はこのような対人スキルやその他の基本的な職務 なるだろう.従来の調査では,既婚女性は訓練に参加し, スキルが不足している.実験では,学生はチーム作り,コ 引換券を利用し,雇用される可能性が低かった. ミュニケーション,プレゼンテーション,ビジネス文書の 出所:WDR 2012 チーム. 発言権の格差を縮小する政策 似している.割当制やその他の種類の是正措置はさ 女性の社会的な発言権を増やす まざまな水準における政治で女性の政治的な代表を  女性は一般的に社会でも家庭でも男性よりも発言 促進してきている.そのような措置には自分たちの 権が小さい.社会では,所得の伸びはこの格差の縮 議員リストに女性候補者を含めるという政党の自主 小にほとんど役に立たない.政治を支配している次 的な公約から,女性向けに留保された議席シェアを のような規範は男性のためのものである.すなわ 指定することまでが含まれる.ある国にとってどの ち,女性は悪い指導者になるという信念(女性の政 選択肢が最善かはその政治制度に依存する.例え 治参加率が低いことが一因),介護や家事にかかわ ば,比例代表制では女性議席を留保しておくという る規範(女性が形式的政治制度に参加するのに利用 ことは機能しない.一方,政党の自主割当制はその 可能な時間を制限している),政治のなかのジェン 政党に強力な指導力と対内的な規律があれば機能す ダー別ネットワーク(所得の伸びよりも何よりも女 るかもしれない.制度がどうであれ,その設計と執 性にとっても最も不利に作用する)などである. 行が決定的に重要である.スペインでは上院への選  このような制約は労働市場で女性の将来展望を制 出はアルファベット順なので,政党は女性を順位が 限する制約に類似しているため,解決する政策も類 下になる姓名で選択する傾向があり,したがって女 32 世界開発報告 2012 性は議席を獲得する可能性が低かった 70. 要な要因といえば,経済機会アクセスと法的枠組み  女性の政治的な代表を増やすために仮に割当制を ――特に財産権や資産アクセスの決定権――であ 使うのであれば,より広範な緊張関係も認識した上 る.家庭内暴力にとっては,社会規範,法律の内容 で考慮に入れる必要がある.義務的な割当制は国家 と執行が重要である.妊娠や出産に関しては,規 が民主的な手続きの一部を制限することを含むの 範,交渉力,サービス提供が決定的に重要である. で,この歪みは執拗な不平等を是正する必要性との バランスを取らなければならない.インドの地方政 家計資源に対するコントロールを高める 府が採用している 1 つの選択肢は,割当制を回転  家庭で女性の発言権を高めるのに最も有望な政策 ベースで実施することである.長期的にさまざまな は,家計資産をコントロールし,経済機会を広げる 選挙で留保しておく議席を色々と変えている.ま のに,女性が不利にならないよう法的枠組みを改革 た,あらゆる是正措置と同じく,事前に明確な目標 することが中心となる.法的枠組みとしては,土地 ないし期限を明示しておくことが有益である.留保 法と家族法における結婚や離婚,財産処分などにか の構造も重要である.女性向けに特定の議席を指定 かわる部分が特に重要である.複数の法体系が存在 するというのは,「名ばかり」の女性議席を作るリ している多数の諸国では,それが横断的な課題とな スクを犯すことになりかねない. る.慣習法や宗教法を含む可能性があるこのような  割当制によって女性議員は増えている.メキシコ 法制を調整することが,特にすべての法律が当該国 では,候補者の割当制によって議会に占める女性の の憲法と整合することを確保するためには優先課題 シェアが 16%から 22%強に上昇した.モロッコで となる.ケニアは最近の憲法改正でそのような改訂 は議席を留保したおかげで,議会における女性の割 を行った. 合が 1%未満から約 11%上昇した.インドの地方  このような分野の改革は政治的・社会的に複雑 政府での割当制は次のこと示している.そのよう で,各国の状況に依存する部分が多いが,これまで な措置はたとえ短期間でも,女性政治家の有効性に の経験は変化が可能だということを示している.エ 関する有権者の基本的な信念を変え,割当制がなく チオピアは 2000 年に家族法を改正して,家庭の外 なった後でもそのような地位に選出される女性の割 で働きたいという妻の許可申請を拒否できる夫の権 71 合を押し上げることができる . 利を廃止し,家庭財産の管理については両配偶者の  政治領域における積極的差別是正措置は,労働組 同意を義務化した.このような変化の第 1 局面と 合・企業・司法・専門職団体など,他の社会制度にお して,女性の経済活動は自宅外での仕事,フルタ ける女性の発言権を高める措置によって補完する必要 イム職,高いスキルを必要とする職などにシフト がある.これは割当制だけでなく,指導助言制度,女 した 72.モロッコも 1990 年代に家族法を改正し, 性のネットワーク,このような分野の女性に対象を 2004 年の新しい家族法典では夫が世帯主であると 絞ったスキル開発などを通じても実施することができ の規定が完全に削除された. る.これについてはインドの女性自営労働者協会にみ  このような権利をもっと有効にし,司法システム るように,女性グループによる集団的措置は特に有効 を女性のニーズにより対応できるようにするには, である.より一般的には,それほど公式でない組織に よりいっそうの努力も必要とされている.供給と需 おいては女性の存在感はもっと大きい傾向にあるの 要の両サイドで介入策が必要である.法律を適用す で,そのような組織については法規制によって競争条 る制度の能力増強,法律に沿って予測可能な成果を 件の平等化を確保しておくべきである. 促進すべく司法制度における説明責任の強化,女性 の司法アクセスと司法制度における女性代表を促進 家庭内で女性の発言権を増やす する手続きなどが,供給サイドでは決定的に重要で  家庭内で女性の発言権が小さいのは,経済機会へ ある.また,同じく重要なことは法律施行のメカニ のアクセスの限定性,社会規範の性格,法的枠組 ズムである.エチオピアにおける証拠が例証してい み,法の執行など複合的な影響を反映したものであ るところによると,義務的な土地の共同所有権を巡 る.家計の資源に対するコントロールを決定する重 る手続きが,土地にかかわる女性の権利を促進する 概観 33 のに役立った.女性の権利執行に関する要求は,識 る.多くの場合,サービスを個人(需要サイド)の 字能力を普及させ,法的助言サービスへのアクセス できるだけ近いところまで届けることには,ジェン を高め,法的手続きのコスト削減することによって ダー問題に関して特にサービス提供組織のマネジメ 促進できる.さらに,女性の司法アクセスにかかわ ント(供給サイド)の意識を高めることを組み合わ る問題をもっと目立つようにするためには,データ せることができる.インドネシアの PEKKA(女性 を収集し公表しなければならない. 世帯法的エンパワメント・プログラム)は,家庭内 暴力や家族法に焦点を当てて,村の法律事務職員を 家庭内暴力を削減する 訓練している.女性の司法アクセスを改善するもう  家庭内暴力を削減するためには複数面での措置が 1 つの方法は,司法や警察のなかで家庭内暴力への 必要となる.暴力が発生する前に防止することが目 取り組み担当者について,女性のシェアを引き上げ 標である.第 1 ステップは,女性に対する多種多 ることである.インドのタミール・ナドゥ州は農村 様な暴力を定義し,取り締まりや捜査のための使命 部や都市部の両方をカバーすべく,女性に対する犯 と義務を処方し,社会の意識を高め,政府の公約を 罪に焦点を絞った 188 名全員が女性である警察部 示す法律を制定することにある.このような法律は 隊を導入した.このような部隊のおかげで,女性は 特に中東・北アフリカ,南アジア,サハラ以南アフ 警察へのアプローチ――家庭内暴力の通報が含まれ リカを中心に,それが欠如している諸国では整備さ る――が気楽にできるようになった 73. れなければならない.また,そのような法律が制定 されている諸国はもっと具体化して起訴できるよう 妊娠・出産に対するコントロールを高める にしなければならない.  妊娠・出産に対する女性のコントロールを高める  第 2 のステップは防止を強調するために,家庭 ためには,いくつかの分野において措置が必要とな 内暴力を巡る規範や言動をシフトさせることであ る.世界の一部では家族計画サービスの入手可能性 る.南アフリカの「ソウル・シティ」などの教育・ は依然として限定的である.場合によっては国全体 啓蒙プログラムは,人々が抱いている家庭内暴力に にわたって人々にサービスが行き届いていないこと 関する規範を変えることができる.家庭における女 もあるが,もっとよくあるのはそういった人々が, 性の交渉力を高めることも――女性の経済機会を改 国内の地理的に特定の地域――通常は農村部――に 善し,資源に対するコントロールや結婚に終止符を 住んでいるか,または貧しいことである.このよう 打つ能力を高めることによって――,言動を変える なグループにとっては,家族計画サービスの提供改 ことができる.しかし,女性の交渉力の増大は短期 善が優先課題である. 的には暴力の可能性をかえって高めるリスクがあろ  受胎決定――人数と間隔――にかかわるコント う.したがって,具体的な緩和措置が必要かもしれ ロールは,生殖保健サービスの提供に関する問題を ない. 超越しているので,他の 2 つの政策分野に取り組  第 3 に,暴力が発生した時には,被害者はタイ む必要がある.第 1 は,子どの数と間隔に関する ムリーで有効な援助を必要とする.それはマレーシ 自分の選好について女性が家庭内で発言する能力を アの政府病院におけるワンストップの危機センター 高めることである.先に検討したように,経済機会 で統合されている支援のように,警察や司法から医 アクセス,資産コントロール,適切な法律などが有 療や社会サービスにまで広がっている.サービス提 益である.避妊器具の利益や使用法に関して男性を 供者――警察,司法,医療,社会サービスなど―― 教育することも同様である.避妊器具の採用は,バ は,明示的に,また追加的に女性を対象とする必要 ングラデシュ 74 やエチオピア 75 の例で示されたよ がある.女性に対象を絞るためには,時間や移動性 うに,夫が家族計画教育に関与している場合の方が の制約に対処すべく,女性の近くまでサービスを届 高くなっている. けることが必要となる.例えば,女性が司法制度を  第 2 は,家族計画サービスの質を高めることで 利用できるように,コミュニティの法律事務職員や ある.この点での改善は次の 3 つの分野に焦点を 移動性法律補助クリニックを提供している事例があ 当てる必要がある.1 つ目は,十分な幅のある避妊 34 世界開発報告 2012 オプションが利用可能である必要がある.2 つ目は, を高める必要がある.リスキーな言動に影響を与え 利用可能なオプション,副作用,各種手法の長所と て,それを削減する努力も重要である. 短所などに関する十分な情報が提供されて,女性が  奨学金や条件付き現金給付は特に女子を中心に, 情報に基づいた決定ができるようになっている必要 若者の就学率を引き上げ,退学率を削減することが がある.3 つ目は,サービスは個人ないしカップル できる.このようなプラス効果はラテンアメリカで のプライバシーを保護する形で提供される必要があ は,コロンビア,エクアドル,メキシコ,ニカラグ る.ザンビアにおける最近の経験が示すところで アなどの諸国で,十分な証拠によって裏付けられて は,妊娠や避妊に関する結果は,女性が個々に内々 いる 76.もっと最近では,アフリカからの証拠が でアプローチを受けたのか,それともパートナーと 類似の成果を示し始めている.マラウイでは,女子 一緒にアプローチされたのかに応じて,非常に異 を対象にしたごく少額の現金給付の効果として,就 なってくる. 学率が上昇し退学率が低下した 77.加えて,この ような給付金は教育を対象にしたものであったが, 世代を超えたジェンダー不平等の再生産を防止す HIV 感染を削減するなど他の分野でも利益をもたら る政策 した.女子の就学を維持するのに役立てるべく,他  世代を超えた固有のジェンダー不平等の再生産 の手段も活用された.女子に学校教育の収益率に 「ジェンダー不平等の罠」を発生させるが,そ は, 関する情報を提供することは,そういった手段の 1 れが最も影響を与える可能性があるのは貧困層と社 つである.例えば,マダガスカルでは,初等教育修 会のなかで疎外された人々であろう.女性には政治 了者の賃金に関する情報を,女子生徒だけでなく両 的な発言権が欠如しているため,ジェンダー不平等 親にも提供したところ出席率が 3.5%上昇した 78. を煽っている市場や制度の失敗が是正される可能性 ドミニカ共和国では,教育にかかわる実際の収益率 は低いであろう.所得の増加だけでは,このような に関する正確な情報を男子に提供するという同様の 執拗な格差の根底にあるプロセスに取り組むことは 取り組みにもプラスの効果があった 79.他の証拠 ほとんどできない.これまでのセクションでは,世 も次のようなことを示唆している.すなわち,イン 代を超えて再生産されるこのような 3 つの格差に センティブ(成績について奨学金ないし直接的な報 取り組む政策――教育に関して不利な格差が残存す 奨金が得られるという展望)は,自分の能力に関す る部分に手を差し延べる,社会の制度において女性 る子供たち自身の評価に影響して,テストの点数を の発言権と参加を高める,家庭内で女性の発言権を 改善することができる 80. 高める――を検討した.以下では,人生の初期に設  特に若者を対象にした職業訓練はコロンビアとペ 定される,人的資本,機会,抱負におけるジェン ルーでは,若い女性の雇用の可能性と賃金の両方を ダー不平等に取り組むための措置を検討する. 押し上げた 81.ケニアでは,男性あるいは女性ど  思春期における決定が,スキル修得,健康の成 ちらかが支配的な産業における職業訓練の相対的な 果,経済機会などを形成する.思春期というのは各 収益率に関する情報を若い女性に提供したところ, 人の生涯にわたる抱負が形作られる時期であり,社 収益率が高い典型的には男性が支配的な業界への就 会の規範や考え方が少年少女を拘束し始める時期で 職に備える職業学校のコースへの女子の就学が増加 ある.少女の視野は往々にして狭くなる.特に貧し した 82.青年女子イニシアティブは多数の低・中 い少女や,距離や移動性の規範が著しい制約になり 所得国における多種多様な介入策――スキル訓練や 得る農村部の少女にとってはそういえる.若者が自 指導助言を含む――の評価を目的としている(ボッ 分のためにより良い選択をするようエンパワーすれ . クス 7) ば,自分の人生,家族,コミュニティに対して,ま  保健教育プログラムはリスキーな言動を削減する た,将来的には,労働者や市民として社会に対し のに有効であることが判明している.タンザニアの て,大きな違いをもたらすことができる.介入策と 農村部ではプログラムのおかげで,男女ともに知 しては,人的・社会的資本を構築し,学校から社会 識,態度,コンドームの使い方,男子の性行動に関 への移行を円滑化し,若者の抱負とエージェンシー する報告が大幅に改善した 83.若者にとって,避 概観 35 ボックス 7 労働市場での将来の失敗を克服するための早期介入――青年女子イニシアティブ   「青年女子イニシアティブ」という官民パートナーシッ 切型ではなく魅力的な職種を発見することに置かれ,一部 プは,テストしてみて,成功すれば規模拡大ないし模倣が の女性は電気工,石工,携帯電話修理技術者になる訓練を 予定されている革新的な介入策を通じて,思春期の少女が 受けた. a 学校から生産的な雇用に移行するのを促進する .これは  実施からの教訓として強調できるのは,少女たちには アフガニスタン,ヨルダン,ラオス,リベリア,ネパール, はっきりと社会資本のニーズがあるということである.そ 南スーダンにおいて進展中であり, (間もなくルワンダで れは特に脆弱で孤立している若い女性の間では,経済機会 –  もスタートする)イニシアティブは,年齢 16  24 歳の思 の獲得を円滑にする取り組みが必要である.リベリアの実 春期の少女と若い女性の合計 2 万人を対象にしている. –  験では訓練者が少女たちを 3  4 人のチームにして,訓練  介入策としては,需要の多いスキルを中心としながら, の全期間を通じて,教室の内外で互いに助け合うという公 ビジネス開発スキルの訓練・サービスから技術や職業訓練 約をさせた.前向きな仲間の間での圧力が出席率を高水準 までと広範囲にわたっている.すべてのプロジェクトで, に維持して,ほぼ 95%が訓練を修了するのに役立ち,参 女子は経済的な独立にとって最も重要な障壁に取り組むた 加者の間の教育水準の相違への取り組みを後押しした. めの生活スキル訓練を受ける.各国の介入策は各国の状況  リベリアにおける実験から出てきたもう 1 つの有望な革 と思春期の少女の個別ニーズに適合化されている.何がう 新は,参加した女子は全員が地元の銀行に 5 ドルの初期資 まく機能するかに関する証拠は少ないので,厳格なインパ 金で公式貯蓄口座を開設したことである.女子たちは貯蓄 クト評価がイニシアティブの一部となっている. 口座のおかげで金融情報スキルを教室を超越する形で練習  スキルの訓練は地方の労働市場で要求されることがわ できただけでなく,公式金融機関との間で信頼を構築する かっている技術的なスキルを,少女たちに身に付けさせる こともできた.少女たちはこのようにして近代的な経済と ことを目指している.すべての実験において,訓練提供 初めて結び付いたことに満足を表明した. 者は訓練が開発され提供される業種を選定する前に,市場  少女たちをインターンシップに参加させる,あるいは採 評価を実施するよう要請されている.焦点はスキルを市場 用することに関心をもつ潜在的な雇用者向けに,プログラ にマッチさせることに置かれているが,その結果はジェン ムを売り込むべく就職フェアが企画された.民間部門の人 ダー別に適切な職種別の規範に挑戦する場合が多い. 材やキャリヤの開発に携わっている専門家が,研修生 1 人  リベリアでは,参加した若い女性は,家のペンキ塗り, 1 人と面接して業界に関する知識を披歴し,職場における 専門的な運転技術,警備保障サービスなどの仕事に関して プロ意識について指導し,表明されたスキルに対して建設 6 カ月間の訓練を受ける.ネパールでは,3 カ月間の職務 的な反応を提供した.このような 1 対 1 の面接は少女に スキル訓練とスキルに関する義務的テストを受けた後,3 ネットワークを構築し,新しい職業人にとって極めて重要 カ月間にわたる職業斡旋を受ける.焦点は女性にとって紋 な業界固有の情報を入手するための機会を提供した. a.「青年女子イニシアティブ」に対する現在のドナーには,同イニシアティブの主要パートナーであるナイキ財団に加えて,オーストラリア,デン マーク,ノルウェー,スウェーデン,イギリスの各政府が含まれる.世界銀行の「ジェンダー行動計画」もこのようなイニシアティブの国別プロジェ クトを支援している.イニシアティブに対する寄付金の公約は 2,200 万ドルに達している. 妊の促進は教育的な介入策やスキル構築と組み合わ ていると,ジェンダー規範の世代間伝達を削減する せて,文化的・社会的な環境について適切に対象を ことができる.インドにおける女性向けの政治的な 絞れば,意図しない妊娠を削減するのに有効であり 留保に関する研究が示すところによれば,女性指導 84 得る .ウガンダでは若い女子向けのそのような 者に繰り返し触れたことのある十代の少女は,結婚 プログラムは,参加者の間でコンドーム使用の著増 を遅くしたい,子供は少なくしたい,高等教育を必 85 と子供の人数減少をもたらした .経済的なエン 要とする職に就きたいといった希望など,伝統的な パワメントだけでも顕著なインパクトをもち得るこ 規範に挑戦する抱負を表明する可能性が高くなる 87. とがある.ドミニカ共和国における若者の職業訓練 若い女子にとって経済機会が増加することも,若い プログラム――生活スキル訓練プラス徒弟制度を含 女子にとってジェンダー別の役割に関する自分やコ む――は,参加者の間で妊娠の大幅な削減をもたら ミュニティの考え方を変えることができる.コミュ 86 した . ニティと電話の高級職の採用担当者を結び付けたプ  女性の役割に関する固定観念と矛盾するような, ログラムに関する研究の結果によると,このような 指導力や権限をもった地位にある女性の模範に触れ コミュニティでは結婚持参金の期待値が低く,女性 36 世界開発報告 2012 が結婚前に一人暮らしをしたり,結婚や出産の前後 一方,女は地面に落下した果実を収集する.ところ に働いたりすることは許容可能であると考えられて –  が,アブラヤシ産業は地面の果実の 60  70%が収 88 いる可能性が大きい . 集されていないことに気付いた.女性が直面してい た制約に対処すべく,いくつものイニシヤティブが 他の政策を「ジェンダー・スマート」にする 試された.それには特殊な網を女性に配布すること  ジェンダー平等が主目的でない場合でさえ,ジェ や,女性の介護義務を考慮して収集時期を調整する ンダーの要因が家計,市場,制度の機能にどう関係 ことなどが含まれた.しかしこれらのどれ 1 つと するのかを理解しておくことが重要である.なぜな して機能しなかった.最終的には,「ママ・ルス・ らば,ジェンダーを区別する市場の失敗,制度にお (変化に向けた協働)制度が導入されて, フルット」 けるジェンダーのバイアス,家庭においてジェン 女性は個人用の収穫記録カードを受け取り,支払い ダー関係がどう展開しているか,などすべてが男女 が自分の銀行口座に直接振り込まれることになっ 両方の言動に影響している(時には制約している) た.これを受けて,収量とともに女性のアブラヤシ からである.このような言動の変化は人々が政策に 収穫への参加が著しく増加した. どう反応するかに影響を与えることができる.した  第 2 に,多くの特にジェンダーに焦点を絞って がって,それを考慮に入れていないと,政策が意図 いない政策やプログラムは,市場や部門,職業にお せざる結果をもたらしたり,まったく機能しなかっ ける女性の過少代表――女性だけでなく,女性を雇 たりすることになりかねない. 用し,貸付をし,サービスを提供することを考えて  家庭内の関係を考えてみよう.家庭が政策にどう いる人々にとっても情報問題を引き起こす状況―― 反応するかについて家庭内の関係が影響しているこ を考慮に入れることによって,利益を享受すること とは明らかであり,時には意図せざる結末をもたら ができる.女性の過少代表を考慮に入れる方法の一 すことがある.例えば,多くの条件付き現金給付プ 例として,信用調査所のデータベースを拡充して零 ログラムは当初は女性を対象にしていた.これは, 細金融を含める,というエクアドルのプログラムが 女性が男性とは違った形でどのようにお金を支出す 指摘できる.この介入策は零細金融機関にとって, るかを認識していたので,給付金についてより多く 貸出相手とは無関係に貸出決定を改善するのに有益 の部分を子供の資質向けに支出させるのに良い方法 である.また,零細金融の顧客は圧倒的に女性であ だと思われたからである.しかし,給付金は家庭内 るため,彼らが幅広い金融サービスにアクセスする で交渉力を変化させ,メキシコなどでは短期的に家 助けになるだろう. 庭内暴力の増加につながる事例も発生した.この効  第 3 に,政策設計は男女の競争条件の平準化を 果は長期的には消滅したり,性格が変わったりする 指向すべきである.名目的には平等でも,法規制が であろうが,後の給付金プログラムの多くには,家 男女を別々に取扱い,システムが法規制を男女別々 庭内暴力を思い止まらせる条件(ブラジル),この に執行している場合には,特にそういえる.法規制 ような問題に関する母親や家族向けの訓練と啓蒙 や執行メカニズムを修正する際に,この種の差別を (コロンビア,ペルー),さらには献身的なソーシャ 探して是正すれば,二次的な利益としてジェンダー ル・ワーカー向けの訓練と啓蒙(チリ)さえ盛り込 の平等を改善する機会を提供することができる.税 まれた. 金の例を考えてみよう.女性が男性と同じ所得なの  それでは,ジェンダー不平等やその基本的な決定 に異なる税率に直面する場合,税金は明らかに女性 要因の配慮は,より広範な政策やプログラムの設計 を差別していることになる.例えば,モロッコで にどのように統合することができるだろうか? 本 は,子供の税控除は男性に認められているので,男 レポートにおける分析上の枠組みが指針になるだろ 性の税負担は軽減される.この控除を認めてもらう う.第 1 に,家庭内で起こっていることが政策の ためには,女性は夫と子供を財政的に扶養している インパクトを形作る.パプアニューギニアの例を考 ことを証明しなければならない.このような設計は えてみよう.アブラヤシの収穫にかかわるジェン 効率的でもジェンダー面で公平でもない. ダー別の役割では,男が木に登って果実を収穫する  このような考慮を一般的な政策設計に組み込む 概観 37 と,政策は意図した目的を達成できる可能性が高ま ループは女性に発言権を付与し,改革に対する抵抗 り,そのプロセスでジェンダー平等を改善するため に対抗する公的措置の余地を生み出している. に政策立案者が微調整するのが容易になるだろう.  ジェンダー平等を改善することにおいて男女は パートナーである.ジェンダー平等の支援を男性 に呼びかけるイニシアティブのほとんどはまだ小 ジェンダー平等に向けた改革の政治経済学 さいが,多数の途上国では女性の権利に関して,  個別市場の失敗や制度的ないし規範的な制約に取 多くの分野で広範な関与や男性の支持が増大する り組むための設計に関する優れた公的政策があれ 兆候が出てきている.例えば,ルワンダの男性資 ば,ジェンダー平等の著しい進展を支えることがで 源センターはジェンダーに基づく暴力との戦いに きる.しかし,政策の選択やその実施は何もない状 男性や少年を巻き込んでいる.ブラジル,チリ, 況のなかで行われるわけではない.政策は当該国の クロアチア,メキシコでジェンダー平等に関して 制度的・社会的・政治的な環境や関係する社会的主 男性の態度を調査した結果では,「女性の権利が促 体の考え方に適合していなければならない.改革が 進されても男性は損することはない」という意見 実際にはどのように行われるかや,どのような要因 を表明する成人男性が圧倒的に多かった 89.この が変化をもたらすべく維持されるのかを理解するこ 調査では,男性がジェンダー平等に全体としてあ とが重要である. まり賛成していなかったインドでさえ,女性に関  ジェンダー改革プロセスの 2 つの特性が注目に する大学の割当制や政府のポスト配分などといっ 値する.第 1 に,あらゆる改革と同じく,それは た政策に対する支持は強かった. 男女間を含め,社会のグループ相互間で資源や力を  第 2 に,企業は――大小を問わず――ジェンダー 再配分する.ジェンダー平等を推進する政策がうま 平等について,企業としてのやむにやまれぬ論拠を く選択されて,経済効率が高まる場合でさえ.その 明確にすることができる.動きの速い世界経済のな 結果として損失をこうむるグループがあるかもしれ かで,スキルに対する需要は増加しており,企業と ない.第 2 に,そのような改革はしばしばジェン しては才能の蓄積を積極的に拡大している.企業は ダー別の役割に関する強力な社会的規範や信念と対 女性の才能を引き付け・採用するだけでなく,仕事 峙することになる.このような特性はどちらも次の と生活の両立を円滑化する措置を通じて,女性社員 ことを意味する.すなわち,反対が起こる可能性が を維持しようとしてきている.企業としては,意見 大きく,この押し戻しを管理することが改革成功の の多様性が意思決定を豊かにし,進取の精神を刺激 鍵となる. する,ということがわかっている.企業の社会的責  先進国と途上国の広範な諸国の事例では,改革の 任は,企業が製品の差別化を通じて競争力を高め, 政治経済学のいくつかの側面が,ジェンダー平等 増大している女性の市場支配力についてその忠誠心 にとって特に適切であることが示されている.第 1 を確保できる. に,改革はそれに対する支持が広範囲にわたる時に  第 3 に,ショックや外生的な変化は政策立案者 成功する可能性が最も高くなる.したがって,改革 にとって,ジェンダーの成果を改善できる改革を打 を巡って支持を動員するために協力関係を構築する ち出す機会の窓口を提供してくれる.そのような窓 ことが必須である.このような協力関係には,政 口は時として自然災害など予測不可能な状況から生 党,労働組合,市民の組織や団体,民間部門など非 まれてくることがある.1998 年にニカラグアでは 国家的な主体を含むことができる.労働法制や家族 ハリケーン・ミッチに伴う大惨事を受けて,家庭内 法におけるジェンダー平等の増大にとっては,特に 暴力に関する対話が進展した.全国的なキャンペー 女性グループが牽引力となっている.例えば,非公 ンと法律の制定が引き続いた.他の窓口は政治的あ 式部門の女性労働者は,インドの女性自営労働者協 るいは経済的な情景のシフトから発生する.1970 会やバングラデシュのニジェラ・コリ(「自分たち 年代後半のスペインにおける民主主義への移行期に でする」の意)という NGO などを通じて,雇用者 みられた変化は,家族法や,性及び生殖に関する権 や時として国家に挑戦してきている.このようなグ 利について特に劇的なものがあった.また,それ以 38 世界開発報告 2012 外では国際機関のキャンペーンや世界的なアジェン 野に焦点を絞るべきである.換言すれば,国際的な ダにおける模範的な行動からも生まれてくる.例え 措置は以下のような本報告書によって発見された 4 ば,女性差別撤廃委員会(CEDAW)のコロンビア つの優先分野に沿って,各国の努力を補完すること 支部によるモニタリングやキャンペーンは,1990 に焦点を絞るべきである. 年に採択されたコロンビア憲法のなかで生殖保健の 保証を拡張することにつながり,避妊手段へのアク • 女性の超過死亡率を削減し,まだ残っている教 セス増加を促進した. 育面での格差を解消する  最後に,改革にはいくつもの道がある.政府は改 • 女性のために経済機会へのアクセスを改善する 革のペース設定と推進に当たってはしばしば社会的 • 家庭や社会のなかで女性の発言権やエージェン な順番に従っている.政策の策定と実施が市場や社 シーを増大させる 会規範における継続的な変化からの順序に従ってい • 世代を超えたジェンダー不平等の再生産を制限 る場合,その収斂や調整を図れば持続可能な変化を する 促進することができる.しかし,執拗なジェンダー 不平等に帰結している従来の経路への依存的体質や  追加的に,横断的な優先課題が 1 つある.それ 制度的硬直性を克服するには,そのような「漸進的 は,データの改善,より良い知識の創造と共有,よ な」改革では十分でない懸念があろう.社会の力学 り良い学習を通じて,現実の証拠に基づいた公的措 を変え,より公平な均衡に漸進するためには,「転 置を支援することである. 換力のある」改革によって政府が大胆な措置をとる  世界的な措置へのアジェンダを提案する動機は 3 ことが必要かもしれない.ジェンダー改革の一環と つある.第 1 に,一部の側面であってもジェンダー して漸進的な政策と転換力のある政策の選択に当 平等を進展させるため(例えば,人間の資質をもっ たって,政策立案者にとっての挑戦は変化のペース と平等にしたり,世界中の女性の超過死亡率の根本 と逆転のリスクのバランスを図ることにある.漸進 原因に取り組んだりするため)には,先進国から途 的な政策はゆっくりと変化をもたらすだけであろ 上国に流れる資源をもっと増やす必要がある.第 2 う.しかし,逆に転換力のある政策には反動のリス に,有効な措置は時に新しい(世界的な)情報や知 クがある.前進するための最善の方法は,転換力の 識の創出など公共財の生産に依存する.そして,第 ある政策の実施は選別的にしながら,その実施に十 3 に,特定の政策のインパクトが国境をまたぐ場合, 分な注意を確実に払うことであろう. 多数の諸国や諸機関の間における調整があれば,国 内レベルでの措置に対して少なからず勢いと圧力も たらすことによって,その有効性を高めることがで ジェンダー平等化のための世界的なアジェンダ きる.  不平等削減には国内の措置が中心的になる.世界  このような基準に基づいて,世界的な措置として 的な措置――先進国や途上国の政府や人々,組織, 提案したアジェンダに含まれるイニシアティブは, また,国際機関などによる――は,公平で効率的な 次の 3 種類の活動にグループ分けすることができる. 国内の政策や制度に代替することはできない.しか し,国内政策の範囲やインパクトを引き上げること  金融支援を供与する.発展途上世界における少女 はできる.さらに,それがもたらす世界的な統合や や母親の超過死亡率を引き下げるのに必要とされる 機会が――情報,移動性,技術を通じて――,ジェ ような,清潔な水や衛生設備の提供についての改善 ンダー平等の改善や,すべての女性にとって,ある や保健サービスの改善には,相当な資源が必要にな いは単に一部の人々にとって,より良い生活につな るだろう.それは特に貧困国では個別政府の資力を がるのかどうかに影響を与えることができる. 超過することがしばしばである.最大限のインパク  世界的な措置は,本質的に,また,開発面で潜在 トを確保し重複を最小化するために,個別のイニシ 的な成果という点の両方で,ジェンダー格差が最も アティブや資金調達ファシリティを通じて,協調し 顕著な――成長だけでは問題を解決できない――分 た形でそのような改革を実施する意欲と能力のある 概観 39 表 2 世界的な措置のためのアジェンダ一覧表 国際開発社会の方向性 支援が必要な新しい / 金融支援を 革新・学習を パートナーシップ 政策分野 追加的なイニシアティブ 供与する 促進する を利用する 人的資質におけるジェン 弱者グループの間で教育アク ダー格差を埋める セスを増やす √ √ 清潔な水の利用を増やす √ √ 専門的妊産婦サービスを利用 できる機会を増やす √ √ √ HIV/ エイズの予防・治療向け に支援を強化する √ √ 経済機会に対する女性のア 育児・早期児童開発サービス クセスを促進する へのアクセスを増やす √ √ 農村女性に投資する √ √ 発言権・エージェンシーに 女性の司法制度アクセスを増 おける格差を埋める やす √ 女性に対する暴力に関する規 範を改善する √ √ ジェンダー不平等の世代間 思春期の少年少女に投資する での再生産を防止する √ 証拠に基づいたの公的措置 新しい情報を生み出す √ √ を支援する  知識共有と学習を促進する √ 諸国を,国際開発期間等のグループは財政的に支援 となる.また,そして,経済機会へのアクセスを促進 することができる. するためには,もっと一般的に民間部門が協力するこ とができる.総合すれば,このようなパートナーシッ  イノベーションと学習を促進する.ジェンダー平 プは各国が現在のグローバル化した世界のなかで, 等化の促進となると,何が機能して何が機能しない ジェンダー平等を成功裡に促進するために必要な資源 かについて多くのことを学んできてはいるものの, や情報を利用するのを後押しすることができる. 最も「執拗な」問題に関するデータや十分な解決策 の欠如によって進展がしばしば阻害されている,と  このような活動の相対的な重要性は明らかに国ごと いう真実が残ったままになっている.例えば,生活 に異なるだろう.表 2 は世界的措置のアジェンダ案に 利用のパターンに関する男女別相違や,その違いが ついて鳥瞰図を示したものである(第 9 章で詳述す 出てくる介護を巡る規範がまさにそれである.国際 .チェック印が付いているのは新しいまたは追加 る) 開発グループは実験や結果とプロセスだけでなく, 的な措置が必要な分野,あるいは既存イニシアティブ 状況にも注意を払う形の評価を通じて,革新や学習 の焦点の見直しが要請される分野である.もちろん, を促進し,成功した経験の規模拡大を円滑化するこ チェック印のない分野でも重要な継続的な努力が行わ とができる. れている――HIV/ エイズ予防策の提供モデルについ ての革新や,若者に焦点を絞ったパートナーシップな  有効なパートナーシップを利用する.第 8 章で明 どがその実例である.後者の分野では,継続的な努力 確に指摘しているように,改革が成功するためには, やパートナーシップを維持することと従来の公約を達 国内と国境を越えて機能する協力関係ないしパート 成することに,焦点を当てるべきである. ナーシップが必要となる.そのようなパートナーシッ  最後に,本報告書で示した枠組みと分析は,政策と プは資金調達問題を巡って,国際開発グループのなか プログラム設計に関して,すべての優先分野をまたい のパートナーシップを中心に形成することができるだ で世界的な措置のインパクトと有効性を高めることが ろう.実験や学習のためには学者やシンクタンクが力 できる 4 つの一般原則を示している.その原則は次の 40 世界開発報告 2012 通りである. が必要である.このような制約は複数あった り,結果が観察される直接的な領域の外にあっ • 政策・プログラム設計の前提条件としての包括 たりする可能性がある. 的なジェンダー診断.ジェンダー格差は多種多 • 「上流化」と戦略的な主流化.ジェンダー格差 様な理由で持続している:単一の制度的,ある はしばしば相互に強め合う多くの制約の結果で いは政策的な「解決策」があるかもしれない あるため,有効な措置としては協調した多部門 が,それは困難で阻止も容易である;市場や公 的介入策ないし逐次介入策が必要かもしれな 式制度,家計に多種多様な相互に強め合う制約 い.また,多くの場合,そのような介入策は設 があって,一緒になってその進展を阻害してい 計と実施にジェンダー関係の問題を組み込むこ る;ゆっくりとしか変化しないジェンダー別の 「ジェンダー・スマート」な一般 とによって, 役割や社会規範に深く根差しているかもしれな 政策の形をとることができる.したがって,イ い.有効な政策設計のためには,このような状 ンパクトを最大化するためには,ジェンダー問 況のうちのどれが特定の状況では支配的になっ 題を個別部門の製品やプロジェクトから,国や ているのか,どのような拘束力のある制約がど 部門のプログラムにいわば上流に遡ることが必 こにあるのかについての十分な理解が必要とさ 要である.そうすれば,より戦略的なジェン れる.この診断が有用であるためには,家庭や ダーの主流化が可能になるだろう. 市場,公式制度,及びそれらの相互作用で何が • 1 つのサイズですべてに合うことはない.市場 起こっているのかと,それが社会規範によって や制度の性格,構造,機能は国ごとに大きく異 どのように形成されているのかについて掘り下 なり,規範や文化も同様である.その結果,家 げなければならない. 計や個人の行動も異なる.これは次のことを示 • 決定要因を標的にするか,それとも結果を標的 唆する.すなわち,政策は同じでも文脈によっ にするか.政策の選択・設計に際して,結果そ て結果はまったく異なってくるかもしれない. のものではなく,既存のジェンダー格差を生み あるいは,第 8 章における検討で明らかにな 出している市場や制度の制約を標的にすること るように,改革にはいくつもの道がある. 概観 41 注 1. Sen 1999. 42. Reed 他 2010. 2. Esteve-Volart and Bagues 2010. 43. WHO 2005. 3. Gilbert, Sakala, and Benson 2002; Vargas Hill and 44. United Nations Department of Economic and Social Vigneri 2009. Affairs 2010. 4. Udry 1996. 45. Agarwal and Panda 2007. 5. FAO, IFAD, and ILO 2010. 46. Pronyk 他 2006; ICRW 2006; Swaminathan, Walker, 6. Cuberes and Teignier Baqué 2011; Hurst 他 2011. and Rugadya 2008. 7. Do, Levchenko, and Raddatz 2011. 47. Dercon and Singh 2011. 8. Do, Levchenko, and Raddatz 2011. 48. Fernández and Fogli 2009; Fogli and Veldkamp, 近刊. Farré and Vella 2007. 9. Do, Levchenko, and Raddatz 2011. 49. Agarwal and Panda 2007. 10. Haddad , Hodd i not t , a nd A lder ma n 1997; K at z and Chamorro 2003; Duf lo 2003; Thomas 1990; 50. Gage 2005. Hoddinott and Haddad 1995; Lundberg, Pollak, 51. Yount and Carrera 2006; Castro, Casique, and Brindis and Wales 1997; Quisumbing and Maluccio 2000; 2008. Attanasio and Lechene 2002; Rubalcava, Teruel, and 52. Abrahams 他 2009. 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Baris, Mollahaliloglu, and Sabahattin 2011. 23. World Bank 2005. 63. Fiszbein 他 2009. 24. World Bank 2001. 64. FAO 2003. 25. World Bank 2011. 65. Deininger, Ali, and Zevenbergen 2008. 26. World Bank (2001) 参 照. 概 念 の 枠 組 み を援 用した 66. Leonard 1989, Holzer and Neumark 2000. World Bank (2011b) も参照. 67. Holzer and Neumark 2000. 27. Chioda, Garcia-Verdú, and Muñoz Boudet 2011. 68. Gornick and Jacobs 1998; OECD 1993; Schmidt 1993. 28. World Bank 2008. 69. Bosch and Maloney 2010. 29. Lewis and Lockheed 2006. 70. Esteve-Volart and Bagues 2010. 30. Chioda, Garcia-Verdú, and Muñoz Boudet 2011. 71. 割当制は各地で順番に実施されている. 31. 方 法 論 の 詳し い 説 明 に 関しては Anderson and Ray 72. Gajigo and Hallward-Driemeier 2011. (2010), chapter 3 を参照. 73. Natarajan 2005. 32. 大勢の行方不明になっている少女の問題を最初に裏付 74. Barker and Ricardo 2005. けたのは次の研 究である. Sen (1992), Coale (1984), 75. Terefe and Larson 1993. Das Gupta (1987). 76. メキシ コとニカラグ アに 関して Rawlings and Rubio 33. WHO, UNICEF, UNFPA, and World Bank 2010. (2003), コロンビアに関して Barrera-Osorio and Linden 34. FAO 2011. (2009), エクアドルに関して Schady and Araujo (2006) 35. 本章の議論の目的では 「 , 企業家」という用語は自営業 をそれぞれ参照. 者で , 自己勘定の従業員はおらず, 従業員は雇用者自身 77. Baird 他 2009. だけの個人を指す. 78. Nguyen 2008. 36. Sabarwal, Terrell, and Bardasi 2009; Bruhn 2009; 79. Jensen 2010. Hallward-Driemeier 2011. 80. A ng r i st a nd L av y 20 0 9; K r emer, M ig uel , a nd 37. Costa and Rijkers 2011. Thornton 2009. 38. FAO 2011. 81. Attanasio, Kugler, and Meghir 2008; Ñopo, Robles, 39. Nyamu-Musembi 2002. and Saavedra 2007; Hjort 他 2010. 40. Deere and Doss 2006. 82. Hjort 他 2010. 41. ICF Macro 2010 に基づく WDR チームの推定値. 83. Ross 他 2007. 42 世界開発報告 2012 84. Gilliam 2010; Bearinger 他 2007. 87. Beaman 他 2009. 85. Bandiera 他 2011. 88. Jensen 2010. 86. Martinez 他 2011. 89. Barker 他 2011. 参考文献 「処理済み」(processed)という用語は,非公式に複製されていることを意味しており,図書館では一般には入 手できない可能性がある. Abrahams, Naeemah, Rachel Jewkes, Lorna J. 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に貢献する.それが過去四半世紀に世界的な繁栄のおかげで,労働市場の機会だけで なく,教育や健康にかかわる多くの成果でジェンダー格差が空前の規模で縮小をみた 理由である.世界中で今や大学に通っているのは女子の方が男子よりも多くなってい る.また,世界の労働力の 40%は女性である.  しかし,すべてのジェンダー格差が所得の増加に伴って縮小したわけでも,縮小し つつあるわけでもない.貧しい女子や,遠隔地に住んでいるか,または疎外されたグ ループに属している女子は,同じ境遇の男子と比べて初等及び中等学校に通っている 公算がずっと低い.低・中所得国の女性は男性との比較で,高所得国の女性たちより も高い比率で死亡している.特に乳児期や幼児期という重要な時期と出産適齢期につ いてはそういえる.女性は「女らしい」と特徴付けられている部門や職業に引き続き 集中しており,その多くは低給である.女性は家庭内暴力の被害者になったり,大け がを負ったりする可能性が高い.さらに,政治や企業の上級管理職の地位に占める女 性の割合は,ほとんどすべてのところで男性よりもはるかに低い.  このような格差のうちどれが経済開発に反応し,なぜそうなのかを理解することが 政策立案にとって意味がある.というのは,注意を必要とするジェンダー格差に光を 当てるのに役立つからだ.国が豊かになるのに伴って,例えば教育へのアクセスなど はじめに:本報告書のガイド 47 における男女間で縮小する格差は,賃金や農業の生 女性が生産的な投入物や信用にアクセスすること, 産性,社会的発言権の格差などもっと執拗な格差と 特定の職業に就くこと,男性と同じ所得を稼ぐこ 比べて,ジェンダーのレンズを通した政策上の注意 と,などを妨害する市場や社会制度上の差別に直面 をあまり必要としない. しているからだ.その結果,経済的な損失が発生し  逆の関係――ジェンダー平等が開発に及ぼす影響 ている. ――も次の 2 つの理由から政策にとって重要であ  国連食糧農業機関(FAO)の推定によると,生産 る.第 1 に,ジェンダー平等はそれ自体が重要で 的な資源へのアクセスに関して男女間の平等化を図 ある.というのは,自分が選択した人生を送り,絶 –  ると,途上国の農業生産性は 2.5  4 %増加する 1. 対的な収奪から免れることは基本的な人権であり, 女性が特定の部門や職業に就くことを阻害している 男女の区別なくだれもが享受できるべきだからであ 障壁を撤廃すれば,やはり同じようなプラスの効果 る.開発とは万人にとって自由を平等に拡大するプ –  があり,労働者 1 人当たりの産出は 13  25%増加 ロセスのことであるため,ジェンダー平等はそれ自 する 2. 体が中心的な目的となる.所得面での貧困が減少す  このような利益は 21 世紀のようなより統合され ることや司法へのアクセスが拡大することとちょう た競争的な世界では大きい.資源利用の効率性がわ ど同じように,男女間の福祉格差の縮小も開発の一 ずかでも改善すれば,成長に対して著しい影響が及 側面なのである. ぶ.貿易が開放されている世界では,ジェンダー不  第 2 に,ジェンダー平等の達成度が高いと経済 平等はよりコスト高となる.なぜならば,国際的な 効率が高まり,他の開発成果が改善する.(徐々に) 競争力が低下するからだ.特に財やサービス――男 増加しているミクロ経済学的な研究に基づく証拠に 女の労働者が等しく生産に適している分野――の輸 よれば,ジェンダー平等化が成長を促進する主要な 出に特化している国についてはそういえる 3.女性 経路として次の 3 つが指摘されている. 労働への依存度が高い産業は,女性がより平等な国 の方が伸びが高くなる 4.したがって,グローバル • 女性のスキルや才能のより効率的な配分にかか 化した世界では,特に中等及び高等教育や経済的参 わる障壁を削減すれば,大きな(かつ増大す 加率に関してジェンダーに基づく不平等を削減した る)生産性の利益を生み出すことができる. 諸国は,その措置が遅れている諸国に比べて明確な • 女性の資質,機会,エージェンシー(自主・自 優位に立てるだろう. 律性)を改善すれば,次世代のためにより前向  世界の人口の急速な高齢化は次のことを示唆して きな成果を形作ることができる. いる.すなわち,現在女性を中心として労働力参加 • 女性の個人的・集団的なエージェンシーを増大 率が主として低いグループで大幅に上昇しない限 すれば,より良い成果,制度,政策選択がもた り,今後はより少ない労働者で増加を続ける高齢者 らされる. を扶養することになるだろう.例えば,ヨーロッパ では,2040 年までに予想されている 2,400 万人の 女性のスキル・才能の誤った配分は大きな(かつ 労働者不足は,もし女性の労働力参加率が男性と同 増大する)経済コストをもたらす じ水準まで上昇すれば労働者の不足は 300 万人に  ジェンダー平等は生産性に大きなインパクトをも まで削減することができる 5.これは先進国に限っ たらし得る.特に今や世界の労働力や大学卒業者の た問題ではない.中国や東ヨーロッパのように人口 なかで,女性が大きなシェアを占めていることを考 構造の急速な高齢化が進展している発展途上国や地 えると,そういえる.各国が潜在力に見合ったパ 域では,女性の労働市場への参入と残留を奨励すれ フォーマンスを示すためには,そのような女性のス ば,縮小する生産年齢人口のインパクトを大きく緩 キルや才能はそれを最もうまく利用される活動に適 和することができる. 用されるべきである.しかし,現実は必ずしもそう ではない.女性の労働はあまりにもしばしば過少利 用ないし誤った配分に陥っている――なぜならば, 48 世界開発報告 2012 女性の資質,機会,エージェンシーが次世代のそ は低くなり,ジェンダー不平等は世代を超えて永続 れを形作る 化する.  女性が経済的にエンパワーされ,資源に対するコ  女性の集団的なエージェンシーは社会全体にとっ ントロールを強めれば,子供の健康や教育,栄養 て転換的になり得る.政治的・社会的主体として女 に対する投資が増えて,将来の経済成長を高める. 性をエンパワーすると,政策選択を変え,制度に 広範な諸国(とりわけバングラデシュ,ブラジル, もっと広範な声を代表させることができる.アメリ コートジボワール,南アフリカ,イギリス)からの カでは婦人参政権を受けて,政策立案者は母子の健 証拠が示すところによれば,女性が自分の所得や現 康問題に関心を向け,幼児死亡率の 8  – 15%の低下 金給付金を通じてコントロールする家計所得のシェ を後押しした 10.インドでは,地方レベルで(政 アが増えれば,子供たちの利益になるように支出が 治的割当制を通じて)女性に権限を付与したおかげ 6 変化するだろう . で,公共財(水や衛生など女性が好む財と,灌漑や  女性の健康や教育の改善も次世代の利益になる. 学校など男性が好む財の両方)の供給が増加した. 母親の栄養状態や教育水準についての改善と,子供 また,腐敗が減少し,女性に対する犯罪について通 の健康改善――予防接種率から子供の栄養や死亡 報と逮捕が増加した 11. 率に至るまで――との間には相関関係がある 7.ま  各国を横断するデータを使って,ジェンダー平等 た,母親の学校教育は,子供の教育達成度とプラス と経済成長との関係を集計値レベルで検証した研究 の相関関係にあり,これは広範囲にわたる諸国に共 もいくつかある.成長とジェンダー平等は双方向通 通している.パキスタンでは,1 年間でも教育を受 行であるため,この作業の結果はミクロ経済的な研 けている母親の子供たちは,宿題をする時間が毎日 究の結果よりも解釈がむずかしい(ボックス 0.1). 8 1 時間長く,テストでも高い点数を獲得している . しかし,2 種類の研究は合わせると次の点について  女性にエージェンシーが欠如していると――それ 強力な証拠を提示している.すなわち,ジェンダー は家庭内暴力で明らか――,子供たちが大人になっ 平等と成長は相関関係にあり,ジェンダー平等は成 た時の認知行動や健康に悪影響をもたらす.先進国 長の諸側面にとって重要である.にもかかわらず, における医療研究では,子供時代における家庭内暴 ボックスで主張しているように,もっと慎重な研究 力の経験と,大人になってからの健康問題との間に が必要である.特にジェンダー平等と成長の間の因 は因果関係があることが立証されている.また,多 果関係を立証でき,そうすることによって,ジェン 数の研究の裏付けによれば,子供の頃に両親間の暴 ダー格差を削減し経済成長を高めるための政策経路 力に出会うと,大人になった女性は自分のパート を強調できるミクロ経済分析が必要であろう. ナーから暴力を受け,大人になった男性はパート ナーに対して暴力を振るう可能性が高くなる 9. 本報告書は何を目的とするのか? 女性の個人的・集団的なエージェンシーを増大す  本書はジェンダー平等と開発の経済学に焦点を当 れば,より良い成果,制度,政策選択がもたらさ てる.経済のレンズを使って,福祉の重要な決定要 れる 因――教育や健康など人的資本の資質,経済機会や  国や文化を超えて,男と女ではエージェンシー― 生産的資源へのアクセス,選択を行い行動を起こす ―言い換えると,望ましい結末につながる選択を行 能力,すなわちエージェンシーなどにおける――に う能力自律性――が異なり,女性は通常不利な立場 かかわる男女格差の背後にあって,それを牽引する にある.社会的・政治的に活動的になる――そし ものを理解しようとしている.同じアプローチを て,法律,政治,政策策定に影響を与える――チャ 使って,どの政策介入やどのより広範な社会的措置 ンスが男女間で平等でなければ,制度や政策は影響 がこのようなジェンダー格差を削減し,結末を改善 力の大きな人々の利害を体系的に優遇する可能性が できるかを探求する.しかし,本報告書は経済的な 高くなる.したがって,ジェンダー不平等を煽る制 成果だけに限定されていない.それどころか,人的 度的な制約や市場の失敗に対処して是正される公算 資本の資質,経済機会,エージェンシーのそれぞれ はじめに:本報告書のガイド 49 ボックス 0.1 ジェンダー平等が成長に及ぼす効果の推定についての問題  明確なことが 1 つある.所得とジェンダー平等が正の相 することができる. 関関係にあるということだ.ボックス図 0.1 はこの関係を 2. ジェンダー平等と成長の両方における変化を推進でき 世界フォーラムの経済的参加・機会指数という 1 つの指標 る他のことが進展している.健康を改善するための投 について示したものである.同指数は労働力参加率,所得, 資を考えてみよう.駆虫や栄養にかかわる介入策の研 政治的参加,技術労働者の数について男女の差異を測定し 究が示すところによると,それは男子よりも女子に利 たものである. 益がある.各介入策がジェンダー平等と人的資本の両 方を改善するが,それが互いに独立的に成長にとって ボックス図 0.1 1 人当たり GDP とジェンダー平等は正 重要である.さて,制度的な変化を考えてみよう.制 の相関関係にある 度は成長を押し上げることができるし,一部の種類の 制度はジェンダー平等を改善することができる.ある 12 国が裁判所と警察の管轄範囲と効率性を拡大すること 1人当たりGDP(2009年、対数) によって,法律制度を改善しつつあると仮定しよう. 10 その拡大は(例えば契約の執行が良くなるので)成長 (女性が司法制度を利用するのを容易にす に寄与し, ることによって)ジェンダー平等に貢献することがで 8 きるだろう.われわれはデータでジェンダー平等と成 長の間に相関関係の存在を観察するが,この関係は因 6 果関係ではない――基本的な原因は制度の変化にあ る.したがって,ジェンダー平等と成長の間の相関関 係は,実際には,ジェンダー平等と成長の両方にかか 4 わる変化の原因となっている第 3 の要因との関係を捕 0.2 0.4 0.6 0.8 1 捉している可能性がある. 経済的参加・機会指数 3. 関係は頑健ではない.実証分析の示すところでは, 出所:World Development Indicators and World Economic Forum 2010. ジェンダー平等と成長の相関関係は時期と国について 極めて敏感である.例えば,女性の教育と成長の関係 に関する研究は,分析方法に非常に敏感だということ  明確でないのは,この相関関係が,成長がジェンダー平 を示している.まさに,この関係の測定方法を変更す 等に与える影響,あるいはジェンダー平等が成長に与える ると,女性教育が成長に及ぼす影響はマイナスからプ 影響のいずれをとらえたものかということである.実際に ラスに変化する. は,おそらくその両方の一部をとらえたものであろうが, 国別データからはどちらの関係がより重要なのかはわから  要約すれば,ジェンダー平等と成長の関係は複雑なだけ ない a. でなく,明らかに両方通行である.大づかみな国別比較研 究では,この関係の大きさはわからないし,この関係の牽 1. 関係が双方通行であるとする十分な理由がある.第 1 引力に関する洞察を得ることはできない.慎重なミクロ に, (経済開発に伴って変化する)技術が変化するの , 経済的な研究があれば(若干はあるがもっと必要である) に伴って,マニュアル・スキルの相対的な収益率は低 これは,成長にとってジェンダー平等が重要であるという 下してきているが,認知スキルのそれは上昇してきて こと,及び政策介入が必要な分野についてもっと確定的な いる.第 2 に,経済開発に伴ってサービスの提供が改 証拠を提示することができるだろう. 善すれば,教育におけるようにジェンダー平等を改善 出 所:Alesina, Giuliano, and Nunn 近 刊 ; Kremer, Miguel, and Thornton 2004; Maluccio 他 2009; Munshi and Natraj 2011; Cuberes and Teignier 2011. a. このような理由の詳細な議論に関しては , Bandiera and Natraj 2011 と Cuberes and Teignier 2011 を参照. 50 世界開発報告 2012 地図 0.1 定性的評価を実施した経済圏 ポーランド モルドバ セルビア アフガニスタン ヨルダン川 西岸・ガザ ブータン ドミニカ ベトナム 共和国 ブルキナ ファソ スーダン インド (北スー イエメン (オリッサ州, ダン) アンドラ リベリア プラデシ州)) パプア ニューギニア インドネシア タンザニア(ジャカルタ,バンテン州, ペルー 西スマトラ州) フィジー 南アフリカ (クワズール・ナタール州) WDR の定性的評価を実施した場所 出所:WDR 2012 チーム . にほぼ同量の関心を払っている――これら 3 つす ることもできない.その代わりに,本書ではジェ べてが福祉の決定にとって重要で相互に関連してい ンダー不平等を説明し,必要に応じて個別の国の るからだ. また,ジェンダーの成果にかかわる決 問題や部門に適合化できる公的政策を勧告するた 定において,公式か非公式かを問わず,社会的・政 めに,概念的な枠組みを提示する.同枠組みはジェ 治的な制度の中心的な役割も無視していない. ンダーと開発に関する世界銀行の従来の研究(特  ジェンダー格差とその国別・時期別のパターンを に Engendering Development) を 土 台 と し て, 次 検証するに当たって,われわれは極めて実証的なア のようにとらえている.すなわち,ジェンダーの プローチを採用した.厳格で証拠に基づいた分析を 成果というのは,公式か非公式かは問わず,市場 重視し,可能な場合には因果関係を強調した.その や制度の機能や構造に対する家計の反応を介して ため,われわれは膨大で増加を続けている定量的な 理解することができる.それから,世界的に最も ジェンダー研究の文献に依拠しながら,それを新し 進展があったジェンダー平等の側面(教育,余命, い分析――特に生活時間,家庭内暴力,死亡リス 労働力参加率,法的権利の女性への拡張など)と, ク,労働市場や農業や企業家における所得や生産性 ほとんど進展がないか,変化が極めて遅い側面(女 など――で補完した.また,われわれは新しい定性 性の超過死亡率,経済活動における隔離,所得格 的な現地調査を活用している.それは発展途上 19 差,家事や介護の責任,資産保有,公私両領域に カ国における 98 のコミュニティ(地図 0.1)に属 おける女性のエージェンシーなど)に焦点を当て する男女 4,000 人強を対象に,日常生活だけでな ることによって,本報告書はこの枠組みの使い方 く,抱負・教育・職業選択・意思決定・福祉などの を例示している. その他の側面に,ジェンダーがどう影響している  この実証的アプローチは分析と政策選択の結び付 かを探求したものである(詳細は概観のボックス 3 きを確立するのに役立つ.次の点が強調されてい 12 参照) . る.すなわち,個別のジェンダー格差削減を対象に  本書のようなグローバルな報告書では個別国の する政策の設計は,市場や公式・非公式の制度の機 状況について深い分析を提示することはできない. 能や構造だけでなく,家計で起こることも,また, ジェンダー平等に関してすべての側面をカバーす それらすべての間の相互作用も考慮に入れる必要が はじめに:本報告書のガイド 51 ある.代替的な政策の分析を通じて,次のことが示 ジェンダー格差に焦点を当てながら――,このよう される.すなわち,このような側面が考慮されない な 3 つの領域における成果を決定するに当たって, 場合,政策介入の意図した結果が弱まるか,あるい 経済成長,家計,市場,制度などが果たす役割を検 は予想外のことが発生する,ということだ. 討する.パートⅡは新たな経済的・社会的なトレン ドによって生み出された機会と挑戦に注意を払いな がら(第 6 章),グローバル化がジェンダー不平等 本報告書をナビゲートする:道路地図 に及ぼすインパクトに関する議論で結びとしてい  本報告書は 3 部 9 章の構成になっている.「ジェ る.このような 4 つの章における分析は,行動の ンダー平等を概観する」と題するパートⅠでは,報 ための次の 4 つの優先分野の発見につながる.人 告書の基盤を成す事実を提示する.既存と新規の 的資本の資質におけるジェンダー格差を削減する, データを組み合わせて,各地域や国での過去四分の 女性の間で経済機会へのアクセス増加を促進する, 一世紀にわたるジェンダー平等の重要な側面におけ 家庭や社会における発言権に関してジェンダー格差 る変化を跡付ける.その主要なメッセージは次の通 を解消する,ジェンダー不平等の世代間での再生産 りである.すなわち,ジェンダー平等の一部の側面 を制限する. においては,非常に急速で,場合によっては,前例  「公的措置の役割と潜在力」と題するパートⅢは, のない進展が実現しているが(第 1 章),それがす 政策勧告を提示し,ジェンダー平等のための改革に べての女性に届いているわけでもないし,ジェン かかわる政治経済学を検討し,行動のための世界的 ダー平等のすべての側面について一律に進展してい アジェンダを提案する.4 つの優先分野に取り組む るわけでもない(第 2 章). ための政策の選択肢に関する説明で始まった議論  本報告書の最初の 2 つの章で説明したパターン は,多種多様な状況における介入策の成功事例の具 やトレンドの対照性をみると,進展ないしその欠 体的な例示で補完される(第 7 章).ジェンダー改 如はなぜ生じるのかという疑問を抱かざるを得な 革の政治経済学の検討がその後に続くが,ジェン い.「何が進展を牽引し,何が阻害するのか?」と ダー分野の改革と再分配ないし平等性向上のための 題するパートⅡは,分析面で本報告書の核心を成し 他の種類の改革とを区別する問題が強調されている ている.概念的枠組みを提示し,それを使って変化 .ジェンダー平等に関する世界的な措置 (第 8 章) を促進する要因と進展を遅らせる制約を検討する. は,本報告書で特定された 4 つの優先分野に対す 分析は教育と健康(第 3 章),エージェンシー(第 る各国の取り組みを補完することに焦点を絞るべき 4 章),経済機会へのアクセス(第 5 章)における . である(第 9 章) 52 世界開発報告 2012 注 1. FAO, IFAD, and ILO 2010. 7. Thomas, Strauss, and Henriques 1990; Allendorf 2. Cuberes and Teignier Baqué 2011; Hurst and others 2007. 2011. 8. Andrabi, Das, and Khwaja 2008; Dumas and Lambert 3. Do, Levchenko, and Raddatz 2011. 2010. 4. 同上. 9. Kishor and Johnson 2004; Jeyaseelan 他 2007; Hindin, Kishor, and Ansara 2008; Koenig 他 2006; 5. McKinsey & Company Inc. 2007. Martin 他 2002. 6. Haddad , Hodd i not t , a nd A lder ma n 1997; K at z 10. Miller 2008. and Chamorro 2003; Duf lo 2003; Thomas 1990; Hoddinott and Haddad 1995; Lundberg, Pollak, 11. Beaman 他 ( 近 刊.; Chattopadhyay and Duflo 2004; and Wales 1997; Quisumbing and Maluccio 2000; Iyer 他 2010. Attanasio and Lechene 2002; Rubalcava, Teruel, and 12.  World Bank 2011. Thomas 2009; Doss 2006; Schady and Rosero 2008. 参考文献 「処理済み」(processed)という用語は,非公式に複製されていることを意味しており,図書館では一般には入 手できない可能性がある. 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PART Ⅰ ジェンダー平等の これまでの進展を見る PART Ⅰ ジェンダー平等のこれまでの進展を見る 55  女性の生活は過去数十年間で大幅に改善した.女性は などに関する決定は家庭で行われる.その決定は家庭の かつてない高水準の教育を享受しながら,生活上での選 福祉に対して他の家族員との関係で女性が行う貢献に付 択に対するコントロールを強めてきている.そのような 与される価値や,ジェンダー別の役割,女性の選好やニー 選択権を行使して,労働力への参加を増やし,子供の数 ズに関する意見に依存する. を減らし,余った時間を家事や育児以外にも多様化し,  エージェンシーとは男女が選択をし,それを望む結果 コミュニティや経済,社会を形成している.また,発展 に翻訳するプロセスである.それには多くの次元がある. 途上世界の多くの女性にとって,変化のペースは加速化 本報告書では,選択を行う女性の能力に密接な繋がりの している. ある次の 5 つの成果に焦点を当てる.すなわち,資源  しかし,このような進展は一律ではない.大きな割れ に対するコントロール,家族形成に関する意思決定,移 目が様々な形で執拗に持続している.依然として生活が 動にかかわるコントロール,暴力からの自由,社会で発 ほとんど変化していない女性が世界中の各地に存在して 言権をもつ能力である. いる.それらの女性は今も前の世代の女性が直面しなけ  このような 3 つの領域については,選択の欠如が福 ればならなかった問題と戦い続けている.なかには男子 祉の欠如に反映されている.このような 3 つの領域は と同じようには学校に行けない女子がまだ沢山いる.女 それ自体で重要である.しかし,それらは互いに密接に 性は親から資産を相続していない公算が大きい.法的及 結び付いている.エージェンシーは女性が自分の資質を び社会的な地位が低い.スウェーデンやアメリカにおい 構築することを許容する.資質は経済機会や所得へのア てさえ,生活や経済のなかで変化を実現することが困難 クセスを形作る.経済機会にアクセスして所得を稼ぐ女 な側面がいまだに多く残っている.女性は給与が低く, 性の能力は,女性のエージェンシーに影響を与えること 例えば,看護や教育における雇用では割合が高いのに対 ができる,といった具合である. して,エンジニアリングや建設では男性が支配的となっ  第 1 章では,女性が権利,人的資本の資質,経済機 ている.フォーチュン誌 1000 社のなかで,女性が経営 会へのアクセスについて実現してきた未曾有の進展を跡 最高責任者(CEO)になっているのはわずか 28 社にすぎ 付けている.現在のほとんどの諸国は,憲法のなかです ない. べての市民の平等と男女間の差別禁止を明示的に保証し  大きな進展があった分野とそうでない分野があるのは ている.状況が良い方向に変化しているだけでなく,そ なぜなのだろうか? パートⅠでは,既存のデータと新 の変化のペースが現在の先進国がずっと貧しかった時と しいデータの両方を収集して,長期的に,また地域や国 比べて非常に速くなっている. 別に,ジェンダー平等の詳細なパターンやトレンドを取  第 2 章では,それとは対照的に,ジェンダーの平等 り上げることによって,本報告の事実にかかわる土台を がすべての女性のために,あるいはすべての側面に関 提示する.すなわち, 過去数十年間に世界中で生じたジェ して,変化しているわけではないことを示す.第 1 に, ンダー平等にかかわる変化を概観する.このような変化 貧しい女性や貧しい地域の女性にとっては大きなジェン の多くは,発展途上世界を広く席巻した世界的な繁栄の ダー格差が残存している.世界的には進展が顕著な就学 波に後押しされて発生した.にもかかわらず,その繁栄 率や出生率などといった分野についてさえそういえる. は世界中のすべての女性のために機能したわけではない 各国の最富裕層にとっては,ジェンダー上の不利はほと し,まったく機能しなかった分野さえなかにはある. んどないが,所得分布の底辺にいる人々にとっては大き  ここでの焦点はジェンダー平等にかかわる次の 3 つ な不利が残っている.なかでも民族性,距離,身体障害, の重要な分野に置かれている.すなわち,①資質を蓄積 性的嗜好などといった他の要因が,ジェンダー不平等を すること,②そのような資質を使って経済機会をつかみ いっそう複雑にしている.第 2 に,ジェンダー平等にか 取り所得を生み出すこと,③そのような資質を適用して かわるその他の分野では,国が豊かになってもほとんど 措置を取り(エージェンシー) ,個人や家計の福祉に影 変化がなかった――あるいは変化が非常に遅かった.こ 響を与えること. のような「執拗な」分野には,ライフ・サイクルの重要  資質とは教育,健康,土地,男女が生涯に蓄積する金 な時期における女性の超過死亡や,経済領域における職 融資源などその他の資産を包摂する.教育などその多く 業上の格差が含まれる.政治的な発言権や代表権を含め, は,親の決定を反映して人生の早期の段階で蓄積される. 女性のエージェンシーにかかわる多くの分野では,男女 物質的な資産などのその他は,生産的な労働や相続権な 格差が根深く残存している.それは先進国においてさえ, どといったメカニズムを通じて後に獲得される. ほぼ 1 世紀に及ぶ女性の積極的な行動にもかかわらず,  経済機会へのアクセスが,資質や時間が所得や消費― 当てはまる.第 3 に,旱魃や景気後退などのシステミッ ―福祉の重要な側面――をどのように生み出すかを決定 クなショックは男女に影響するが,その正確な影響は具 する.家庭と職場の間の時間配分,生産的な活動,余暇 体的な事情や受ける衝撃の度合いに依存する. 56 1 世界開発報告 2012 CHAPTER 進展の波  女性は日常生活でさまざまな困難に耐えているが,状況は改善方向に向かっている ――しかも,20 年前には予測もできなかった速さで変化している.4 つの重要な分 野――女性の権利,教育,健康,労働力にかかわる成果――で,20 世紀後半の改善 には世界中の多くの地域で大幅で迅速なものがあった.先進国で 100 年かかった改 善が,わずか 40 年で実現した低・中所得国もなかにはある.また,変化は加速化し ており,ジェンダー平等は 10 年ごとにその前の 10 年間における進展をベースに改 善を続けている. 時代は変わりつつあるのか?  本章では,ジェンダー平等に関して,どこでどのような進展があったのかを跡付け る.女性の権利にかかわる推移と法の下における平等に向けた戦いで始めたい.権利 の平等は重要である.なぜならば,権利が欠如していると,生活の多くの場面で女性 に入手可能な選択が制約されるからだ.現在の先進国ではその達成に非常に長い時間 がかかった.それとは対照的に,途上国では法の下における平等の進展はずっと早く 実現した.これは形式的な権利と女性に対する平等の保証を支持する世界的なコンセ ンサスの高まりに助けられたものであるからだ.  低・中所得国では,形式的権利に関するこのような進展とともに,女性にとっては 結果に関して,絶対的にも男性との対比でも未曾有の改善がみられた.女性の識字能 力と教育水準がこれまでになく改善して,男性との教育格差が激減した.若年層では 初等教育就学率のジェンダー格差は実質的に消滅し,中等及び高等教育における格差 縮小にも大幅なものがあった.女性は世界中の多くで,長生きし,健康な生活を送り つつある.出生率の低下で分娩時のリスクが低下したことが一因である.また,女 性はこれまでになく市場性のある職業に参加している.経済成長が家計所得の上昇, サービス提供の改善,女性向けの新しい労働市場機会創出などを通じて,その主たる 牽引力となっている.しかし,それが唯一の要因だったわけではない.経済成長と女 性にとっての結果改善の関係は,自動的でも,各国一律でもない.  ジェンダー平等にかかわるある 1 つの領域における変化は他の領域の変化を促進 し,次世代に影響を与え,プロセス全体を強化する.例えば,バングラデシュやイン ドでは,サービス産業における女性向けの経済機会が拡大したことが,女子の就学率 を押し上げ,それが労働参加率の上昇と次世代の教育成果の改善につながっている 1. CHAPTER1 進展の波 57 ニターが義務付けられている. 「娘たちには学校に行って良い仕事について欲  1980 年代には語句の曖昧さやモニタリング及び しい.考え方や所得の点で男たちから独立す 制裁の甘さが理由で「シンデレラ条約」と言われて れば,その瞬間に非常に良い生活が送れるよ いたにもかかわらず,CEDAW は法律と行政にかか . うになるでしょう」 わる変更を推進してきた 2.1998 年にはトルコの タンザニアの成人女性 家庭内暴力法(法律 4320 号・家族保護法)に影響 を与えた.トルコの憲法裁判所は,広範囲にわたり CEDAW を参照しつつ,妻の職業活動に関して夫の  これはすべての問題が解決したとか,進展が容易 許可を必要とするとした要件を破棄した 3.オース であったとかいうことではない.それどころか,第 トラリアの 1984 年性差別法は CEDAW に依拠して, 2 章ではジェンダー格差が継続している国や人口グ 性別,婚姻状況,妊娠ないし妊娠の可能性をベース ループに加えて,ジェンダー不均衡が深刻なまま残 として,公的生活における差別を禁止している. 存している,あるいは有害でさえある生活の多くの  2003 年にアフリカ連合は「人権と女性の権利に 側面を検討する.変化があった分野のことを詳述す 関するアフリカ憲章への追加議定書」を採択した. ることが,ジェンダー平等にかかわる制約――特に マプト議定書としてよく知られているこの議定書 それが広く深く残っている場合――を理解するため は,政治プロセスに参加し,男性との社会的及び政 の土台になるだろう.また,その理解が政策や公的 治的な平等を享受し,自分の生殖保健をコントロー 措置の優先課題を策定するのに役立つだろう. ルする女性の権利を主張している.同 5 条は一夫 多妻制や女子割礼の廃止を含め「有害な慣行の排 除」を規定している.アフリカ 53 カ国中 46 カ国 女性の権利にかかわる世界的なコンセンサス が議定書に調印し,2011 年 2 月現在,30 カ国が の高まり 批准している 4.  女性の正式な権利と男女平等の憲法上の保証を確  米州機構(OAS)の傘下で,すべてのラテンアメ 保することにおいては,過去 30 年間に大きな進展 リカ諸国は 1994 年にブラジルのベレン・ド・パラ があった.国連総会が 1979 年に採択した女性差別 において,「女性に対する暴力の防止,処罰の根絶 撤廃条約(CEDAW)は,女性の進展に向けて包括 に関する米州条約」に調印した.その後,28 カ国 的な枠組みを確立した.10 年後,全大陸にまたが が家庭内暴力に対する制裁を盛り込んだ法律を施行 り約 100 カ国がこの女性のための権利の章典を批 している. 准した.そして,今日,調印国は 187 カ国へとほ  このような多種多様な国際的な法的枠組みは,男 ぼ倍増している. 女同権に関する世界的なコンセンサスの高まりを反  CEDAW は制定されてから 30 年以上が経過して 映したものである.そのコンセンサスは一夜にして おり,最も広く支持されている国際的な人権条約で 成ったものではなく,女性のために平等の権利を求 あり,ジェンダー平等をモニターし,唱導するため める長い,遅々とした戦いのなかから進化してきた の第一義的な国際的手段となっている.何が女性に ものである.その戦いは先進国では早くも 18 世紀 対する差別になるのかを定義し,各国が措置を取る に始まり,20 世紀後半には途上国で継続し,ミレ ための課題を設定するに当たって,CEDAW は人権, 女性の法的地位,生殖の役割や権利,文化的な要因 がジェンダー関係や女性の進歩に対する障壁に及ぼ す影響に特に関心をもっている.それは家族計画や (女性が)多くの権利をもっていることはわ 「 かっている.教育の権利,女性割礼の禁止, 家族形成に関する決定に明示的に取り組んでいる唯 . 強制婚姻の禁止などを覚えている」 一の人権条約である.CEDAW を批准する国は,国 内法がそれを順守することを保証し,進展について ブルキナファソの成人女性 女性差別撤廃委員会(CEDAW)による独立的なモ 58 世界開発報告 2012 ている.ウィリアム・ブラックストーン卿は 1765 ボックス 1.1 ジェンダーとミレニアム開発目標(MDG) 年に,『イギリス法釈義』という自著のなかで次の  2010 年の MDG サミットでは,2015 年までに 8 つの ように要約している. MDG を達成するための世界的な行動計画が採択された.ま た,開発政策の策定・実施においてジェンダーを主流化す 婚姻により夫婦は法的に 1 人になる.つまり, ることによって,あらゆるレベルの教育・健康,経済機会, 意思決定におけるジェンダー平等を確保するための行動を 女性は存在そのもの,ないし法的な存在が婚姻 呼びかける決議も採択された.決議と行動計画は国際開発 中は停止される,あるいは少なくとも夫の存在 社会の次のような信念を反映したものである.すなわち, に組み込まれ融合される.彼女は彼の庇護や保 ジェンダー平等と女性のエンパワメントはそれ自体が開発 護,支援の下ですべてのことを行うので,法律 目的である(MDG 3)ばかりか,他の MDG を達成するた めの重要な経路になっている.ジェンダー平等と女性のエ で用いられるフランス語では「庇護された女」 ,5 歳 ンパワメントは普遍的な初等教育を促進し(MDG 5) と言われる.この理由から,夫は妻に何も譲渡 ,妊産婦死亡率を改善し 未満児死亡率を削減し(MDG 4) することができないし,妻と契約関係に入るこ ,そして HIV/ エイズに感染する可能性を削減す (MDG 5) ともできない.譲渡は彼女を別な存在とみなす る(MDG 6)のに役立つ.  また,2010 年の決議は次の点も強調している.すなわ ことになるからだ. ち,MDG を達成するためには,女性やその他の弱者グルー プを部門を超越して対象とする,以下のような協調介入策  平等な財産や参政権への行進は遅くて長かった. が必要であろう. イギリス議会が婚姻事件法を制定したのはようや • 地方の意思決定機構における女性の指導力に投資する く 1857 年になってからのことで,既婚女性は財産 ことや,政治や政府の制度で男女について競争条件を を相続し,自分自身のために訴訟を起こすことが認 平準化することを含め,あらゆる政治的・経済的な意 められた.既婚女性財産法によって夫婦が 2 人の 思決定プロセスにおける女性の人数と積極的な参加を 改善するための措置を取る. 別個の法的主体であると認められ,妻に財産を別個 • 特に女性を中心に貧困層向けに金融サービスへのアク に購入,所有,及び売却する権利が授与されたの セスを拡大する. は,漸く 1882 年のことである.参政権が普遍的に • 特に農村部において家事の負担を削減することによっ なったのは 1928 年で,人民代表法に基づいて 21 て,女性や少女の利益になるようなインフラや省力技 術に投資する. 歳以上の女性は男性と等しい条件で投票権が付与さ • 相続権を含め,住居・財産・土地に対する女性の平等 れた.スカンジナビアでもストーリーは似通ってい なアクセスを促進・保護する. る.例えば,ノルウェーは女性に完全な経済的権利 出所:WDR 2012 チーム. を 1888 年に,参政権は 1913 年に授与している.  アメリカでは,既婚女性財産法を 1848 年に最初 に制定したのはニューヨーク州であった.所得や財 ニアム開発目標(MDG)におけるジェンダー平等 産にかかわる妻の権利はその後の半世紀にわたり他 の強調によって補強されている(ボックス 1.1). 州にも徐々に広がった.政治的な発言権の実現には もっと長い時間がかかった.女性に投票権を保証す 先進国における平等の権利―実現には長い時間が る憲法修正案がアメリカの上院に上程されたのは かかった 1878 年であったが,正式な投票は 1887 年まで行  18 世紀における女性の状況は今日とは非常に異 われず,結局は否決された.普通参政権を保証した なっていた.1789 年にフランス革命は人は普遍的 憲法修正 19 条が批准されたのは 1920 年と,それ に,「生まれながらにして自由で平等の権利を有し から 30 年以上も経過してからのことであった. ている」と主張したが,「人間と市民の権利の宣言」  労働法や家族法など他の領域における差別に対す は女性を含んでおらず,1 年後,国民議会は市民権 る闘争は,20 世紀後半になると勢いを増した. と政治的権利を女性には付与しないことにした.イ  アメリカでは 1964 年に公民権法第 7 編が成立 ギリス植民地の法律制度はイギリスの慣習法に基づ するまで,職場で女性を昇進させなくても合法的で いており,女性の状況を示すもう 1 つの事例となっ あった.既婚女性はローンを受けるのに夫の同意を CHAPTER1 進展の波 59 必要とした.また,婚姻内強姦は犯罪行為とは認め 年代から 90 年代にかけて法律が刷新されて,広範 5 られていなかった .1980 年代まで女性の客室乗 囲にわたる領域においてジェンダー平等が認められ 務員は採用の際に独身であることが要請され,結婚 た.1987 年の憲法はジェンダー平等の概念を追加 すると解雇されることがあった. 的に強調することによって,従来の憲法を補強し  1950 年代初めのドイツでは,女性公務員は結婚 た.1988 年の包括的農地改革法は土地所有に関し すると解雇された.また,1977 年まで女性は働く て権利の平等を保証した.さらに,1989 年の法律 のに夫の正式同意を必要とした.1990 年の東西ド で労働法規が改訂され,女性は採用や給与に関する イツ再統一まで,未婚の母の子供たちには法的後見 差別から保護されることとなった.同様に,モロッ 6 人が指定された . コは 2004 年に家族法規を大改訂して,数多くの分  日本の 1985 年雇用機会均等法は,採用や配属, 野で男女平等を推進した. 昇進においては男女を平等に処遇するよう,雇用  CEDAW を初めとする国際条約の批准を受けて, 者に対して単に努力義務を課したものにすぎなかっ 女性のために平等を推進する包括的な枠組みが確立 た.処遇の平等にかかわる義務化は 1997 年のこ された.このような条約は,女性の生活のその他の とである.家庭内暴力にかかわる初めての法律は 分野における正式な権利の確保に向けて,いっそう 2001 年に制定された. の進展に拍車をかけた.新たな法律の制定,あるい は差別的な法律規定削除の推進が,そのための主た 低・中所得国では進展がもっと速かった る方法である.2005 年,ケニアの控訴裁判所は相  進展が著しかったのは政治的な権利についてで, 続の決定において,息子と娘を区別する合理的な根 それは市民権の概念にかかわる変化に連動したもの 拠がないとの判断を示した.2001 年,タンザニア であった.20 世紀前半の国民参政権運動によって, の高等裁判所は寡婦は子供に代わって,遺産を管理 国民国家ではより包容的なパラダイムに形が与えら する権利があるとの判決を下した.両方とも平等と れることになった.それまで市民権は長らく「男性 差別禁止の原則が認められたといえる. のもの」と解釈されていた.すでに確立していた国 民国家では,参政権の拡大には地方の社会運動や国 内政治勢力による長い交渉を経て,ようやく市民権 多くの領域で女性にとってより良い成果が生 を再定義する社会ネットワークが含まれた.これと まれている は対照的に,新しい国家が台頭して「新しい世界秩  女性の権利拡大へ向かう動きは大勢の女性にとっ 序」が生まれた.そのような各国の内外の団体は市 て,より良い成果を伴いながら――絶対的にも男性 民権に関してジェンダー中立的なモデルを採用し, との比較でも――継続している.過去四半期に,多 女性は自律的な決定を下す能力のある人として完全 数の諸国では持続的な成長のおかげで,ジェンダー に受け入れられた 7.1900 年代に独立した諸国の 平等にかかわるいくつかの次元で格差が縮小してい うち,女性より先に男性に参政権を付与したのはわ る.また,このような成果にかかわる変化のペース ずか 3 カ国(オーストリア,アイルランド,リビ は,現在の低・中所得国の方が高所得国よりもずっ ア)だけであった.しかし,スイスは伝統を破らず と速くなっている.それは出生率,教育や識字能 に,1971 年まで女性には参政権を拡張しなかった. 力,労働力参加など多種多様な指標でみられる.広 女性参政権を最近認めた諸国のなかでブータンは, 範囲にわたる所得増加が,女性向けのサービス提供 1 世帯当たり 1 票という慣行を変更して,2008 年 制度の改善や経済機会の増加と相まってきたほとん に女性の完全な参政権を認めた.現在,参政権を男 どの諸国では,このような指標の改善には劇的なも 性に限定しているのはサウジアラビアだけである のがあり,前例のないペースでの改善になっている が,地方選挙についてこの制限を撤廃することが検 事例もある. 討されている.  加えて,社会的な混乱ないし顕著な制度的な挑戦  女性の権利に関しては普通参政権以外でも同じよ に陥っている事例もみられるが,そのような状況下 うな進展が実現している.フィリピンでは,1980 でも,一部の側面ではジェンダー平等化は継続して 60 世界開発報告 2012 いる.バングラデシュ,コロンビア,イランを検討 に改善していることである. してみよう.  バングラデシュ経済は低いベースからではあった –  • 1986  2005 年に特殊合計出生率は 3.2 人から が,1980 年以降にほぼ 3 倍になった.1972 年に 2.4 人に低下した. 採択されたバングラデシュ憲法は,ジェンダー・宗 • 女子は教育格差を逆転させ,今や初等,中等, 教・その他の社会的な区別にかかわらず,すべての さらには高等教育についてさえ,男子よりも高 市民に対して権利の平等を保証し,国会では女性向 い修了率を達成している.1984 年に男子の大 けに 15 議席――後に 30 議席に増加――を留保し 学卒業者は女子のほぼ 2 倍だったことを考え た.1975 年に政府は公務員職の 10%を女性向け ると,最後の点は特に驚くべきことである. に留保し,特別な女性省を設立した.女性にとって • 1980 年にコロンビアの 13 大都市における女 の成果も次のような多種多様な面で劇的な改善をみ 性の労働力参加率は,この地域で 2 番目に低 せている. かったが(コスタリカが最低),2004 年には ウルグアイに次いで 2 番目に高くなった.驚 –  • 1971  2009 年に合計特殊出生率――女性が出 –  いたことに,最大の上昇率は 0  6 歳の子供を 産適齢期を通じて産むと期待される子供の数― もつ女性――どこの国でも働く可能性が最も低 ―は 6.9 人から 2.3 人に低下した. い女性――の間でみられた.また,管理職や金 –  • 1991  2005 年に女子就学者数は 110 万人か 融――多くの先進国でも悪名が高いほど打破が ら 400 万人に増加した.就学率でみると 33% 困難とされるガラスの天井がある分野――でも から 56%への上昇であるが,下から 2 つの最 女性の割合が高くなっている. 貧 20%層出身者については就学率の上昇はこ れよりも若干小幅にとどまった.  イラン経済は 1980 年以降ほぼ倍になっている. –  • 若い成人女性(20  24 歳)の労働力参加率は また,イラン女性の人間開発の成果はイスラム革命 –  1995  2000 年にほぼ倍増した.労働力参加率 を経て,次のような一部の重要な側面では一貫して は全体としてまだ低いものの,若い女性にとっ 改善を続けている. て雇用機会が拡大したことを受けて(衣服産 業,保健サービス,社会福祉関連事業の拡大と –  • 1979  2009 年にイランは出生率に関して 6.9 ,女子の就学率が上昇し,女性の移 連動して) 人から 1.8 人(補充水準未満)へと世界最速の 動性にかかわる社会的な制限が撤廃され,公共 低下を示した. の場における目に見える女性化が可能となって • 初等学校における女子対男子比率は,就学者 8 いる(第 6 章) . ベースで男子 1 人当たり女子 1.2 人と世界最 高である.中等学校における女子就学者数が該  ラテンアメリカの上位中所得国であるコロンビア 当年齢層に占める割合は,30%から 81%へと の経済は,1980 年以降に 1.5 倍に拡大している. 倍以上に上昇し,2009 年にはイランの大学生 1999 年の激変と不況を経て 2002 年以降は安定を については半分以上,科学専攻で 68%,工学 取り戻している.コロンビアは長らく暴力と違法な で 28%が女子となっている. 麻薬貿易に悩まされている.ところが,驚くべき特 • 女性は現在イランの労働力の 30%を占め,経 徴の 1 つは,女性の地位が過去 25 年間に次のよう 済 的 に 活 動 的 な 女 性 の 割 合 は,1986 年 の 「児童婚姻は止まった.少女は学校に行かされている.われわれのような最貧層でさえ娘を学校に行かせ . ている」 インドの成人男性 CHAPTER1 進展の波 61 図 1.1 ジェンダー平等は初等及び中等レベルの就学率について世界の多くで達成され,高等レベルの就学率では今や女子 優位となっている 初等教育 中等教育 高等教育 100 100 100 一部のアフリカ諸国は 就学率格差はジェンダー 男性不利 後れを取っている 格差を大きく上回る 80 80 80 女子就学率(ネット、%) 女子就学率(ネット、%) 女性就学率(グロス,%) 60 60 60 40 40 40     20 20 20 就学率は女性 女子不利 女子不利 の方が男性より高い 0 0 0 0 20 40 60 80 100 0 20 40 60 80 100 0 20 40 60 80 100 男子就学率(ネット,%) 男子就学率(ネット,%) 男性就学率(グロス,%) 東アジア・太平洋   ヨーロッパ・中央アジア ラテンアメリカ・カリブ 中東・北アフリカ 南アジア サハラ以南アフリカ 高所得国 出所:World Development Indicators に基づく WDR 2012 チームの試算. 注:各上図の 45 度線は就学率に関してジェンダー平等を示す.45 度線の上部にある点は女性の方が男性よりも就学率が高いことを示唆する. 20%から 2008 年の 31%へと上昇している. 間で成し遂げている.  このような若年層は世界のすべての地域で,初等  以上の 3 カ国はそれぞれ,通常はジェンダー平 教育に関してはジェンダー平等化に向けて着実で 等を制約するとみられる状況に直面してきた.にも 持続的な改善を経験している.過去 10 年間に,中 かかわらず,それぞれにおいて,所得の増加,サー 東・北アフリカ,南アジア,サハラ以南アフリカで ビス提供の制度改善,女性向けの新しい市場機会の は,女子の就学者の方が男子よりも大幅に増加し 出現が組み合わさったことが,これら諸国の女性は ている.ジェンダー平等はデータのある 173 カ国 生活の他の側面では引き続き大きな挑戦に直面して 中の 117 カ国で達成されている(図 1.1).ジェン はいるものの,健康,教育,労働市場の成果という ダー格差が最大の地域――南アジアとサハラ以南ア 面ではジェンダー平等化に貢献してきた. フリカ(特に西アフリカ)――においてさえ,改善 は顕著である.2008 年にサハラ以南アフリカの小 女子就学者の増加 学校では,男子 100 名に対して女子は約 91 名と  識字能力のある女性がかつてないほど増えてい なっていた(これは 1999 年の女子 85 名との比較 –  る.1950  2010 年に低所得国の 15 歳以上の女性 では増加である).南アジアでは,この比率は男子 にかかわる平均学校教育年数は,1.5 年から 6.5 年 100 人当たり女子 95 人であった. に増加した.これは男性の 2.6 年から 7.6 年への  中等教育についても,1 つの顕著な相違を除けば, 増加や,高所得国の成人人口における現在の女性 パターンは同様である.途上国の約 3 分の 1(45 9 10.9 年,男性 11.2 年と比較すべきものである . カ国)では,2008 年に中等教育では女子が男子を 成人人口には教育年数が増えない高齢者を含むた 人数的に凌駕した(図 1.1 参照).貧困国では女子 め,このような平均年数の増加は若年層における の割合は低くなる傾向があるが,バングラデシュ, もっと大きな変化を反映したものである.アメリカ ブラジル,ホンジュラス,レソト,マレーシア,モ –  では 6  12 歳の女子の就学率が 57%から 88%にま ンゴル,南アフリカを含む広範囲にわたる諸国にお –  で上昇するのに,1870  1910 年と 40 年間を要し いて,男子は少数派となっている. –  た.モロッコは同じことを 1997  2008 年の 11 年  高等教育就学者の増加は世界中で女性の方が男性 62 世界開発報告 2012 よりも高い.高等教育を受けている男子学生数は な反応があった.その初年度に就学者はマラウイと –  1970  2008 年に,1,770 万人から 7,780 万人へと ウガンダで 68%,ケニアで 22%上昇した 13. 4 倍以上になっているが,女子学生は 1,080 万人か  国家は義務教育法を通じて,学校教育への参加を ら 8,090 万人へと 7 倍に増加して男子を凌駕した. 義務化している.大衆教育制度は第 2 次世界大戦 高等教育について 2008 年に女子の就学率が男子 後速やかに拡大し,ほぼすべての国に義務教育法が を下回っていたのは,データのある 96 カ国中わず ある 14.そのような法律は,通常はサービス提供 か 36 カ国だけである(図 1.1).チュニジアでは, を高めるためのインフラと人的資源に対する大規模 2008 年に大学に就学していた 35 万 1,000 人の学 な投資と組み合わさって,世界中で就学者を増加さ 生のうち 59%は女子であった.第 6 章で示すよう せた.1997 年にトルコは義務教育を 5 年から 8 年 に,このような女子就学者の増加はグローバル化し に延長することによって,特に農村部の女子を中心 ている世界では,「肉体(ブローン = brawn)」労働 –  に 11  13 歳の子供向けの教育機会を拡大しようと よりも「頭脳(ブレーン)」労働に対する需要の増 した.基礎教育プログラムが打ち出されたことに 加と整合性がある. 伴い,就学者が 150 万人も跳ね上がった.正味の  小学校の就学率は男子の方が女子よりも高いかも –  就学率は 1991  1997 年に低下した後,1997 年の しれないが,すべての途上国で女子の方が男子より 86%から 2002 年には 96%にまで上昇した.農村 10 も進捗に優れている――落第や退学の比率が低い . 部女子の増加は特に顕著で,ジェンダー格差が最大 生徒の学習到達度に関する国際標準テストによる であった 9 つの県(合計で 81 県ある)では初年度 と,女子は語学スキルで男子を凌駕する一方,男子 だけで 160%の著増をみせた 15. の女子に対する数学での優位性は小さいという傾向  就学に関して残存している不平等は今やジェン がみられる.2009 年の生徒の学習到達度調査が示 ダーでは多くを説明できない(図 1.2).多数の諸 すところによると,読みのテストではすべての参加 国について就学率を分解してみると,次のことが示 国において 15 歳の女子が男子を上回った. 唆される.ほとんどの場合,富が制約要因となって  経済成長のおかげで世界中の何百万人という少年 おり,(貧困ではなく)ジェンダーに狭い焦点を置 少女にとって,特に各国が低所得国から中所得国や くことで不平等をさらに縮小できるのは,非常に少 高所得国に移行していくにつれて,就学の障壁が低 数の事例に限定される(第 3 章)16. 下し,学校教育におけるジェンダー不平等が縮小し ている 11.第 1 に,国が経済的に繁栄するにつれ 健康な生活 て,政府ないしその他のサービス提供者によるサー  20 世紀後半には男女の健康にも大きな改善がみ ビスの供給が増加する.第 2 に,所得の増加に伴っ られた.出生時余命は世界中の人々の健康改善を最 て予算に余裕ができるため,子供に対する教育投資 も明確に反映している.女性の平均余命は 1960 年 を性別,出生順序,その他の理由に基づいて差別し の 54 年( 男 性 51 年 ) か ら 2008 年 の 71 年( 男 12 なければならない必要性が低下する .これまで 性 67 年)へと増加した.この時期には世界で最速 非就学者は男子よりも女子の方が多かったため,就 の出生率低下――1960 年の女性 1 人当たり約 5 人 学率全体の改善はジェンダー格差を縮小させる傾向 から 2008 年の 2.5 人へ――もみられた.これに にある.第 3 に,軽工業やサービス産業など一定 伴って妊産婦死亡数も減少した.さらに少子化に 水準のスキルを要求する部門で,成長のおかげで女 よって,女性には人的資本の獲得に投資し,市場性 性にとって新たな雇用機会が生まれてくるので,親 の仕事に参加する時間的余裕ができた. にとっては娘の教育に投資しようというインセン  世界のほとんどの地域で,男女双方の余命は一貫 ティブが高まる.なぜならば,その教育は今や高い して上昇しており,女性は平均的に男性よりも長生 収益を生むからである. きする.余命の男女格差は一部の地域ではまだ拡大  授業料の廃止も就学を増やし,ジェンダー格差を しているが,それ以外では安定化してきている.平 削減するのに同様の効果をもつ.サハラ以南アフリ 均すれば,低所得国の女性の出生時余命は 1960 年 カ全域にわたる無償初等教育プログラムには圧倒的 の 48 年から 2008 年の 69 年,男性については 46 CHAPTER1 進展の波 63 –1 図 1.2 12    5 歳児童の教育参加にかかわる不平等はジェンダーではほとんど説明できない 不平等小  不平等中程度  不平等大 不平等全体に対する寄与率(%) ケニア(2008ー09年) ウガンダ(2009ー10年) ドミニカ共和国(2007年) スワジランド(2006ー07年) アルバニア(2008ー09年) ガイアナ(2005年) ヨルダン(2009年) ウクライナ(2007年) アルメニア(2005年) ナミビア(2006ー07年) モルディブ(2009年) ザンビア(2007年) モルドバ(2005年) アゼルバイジャン(2006年) タンザニア(2007ー08年) ハイチ(2005ー06年) ベトナム(2002年) ジンバブエ(2005ー06年) マラウイ(2004年) ガーナ(2008年) ペルー(2004ー08年) ボリビア(2008年) コロンビア(2005年) モザンビーク(2003年) カメルーン(2004年) エジプト(2008年) カンボジア(2005年) コンゴ民主共和国(2007年) レソト(2009ー10年) ネパール(2006年) マダガスカル(2008ー09年) リベリア(2009年) ナイジェリア(2008年) ブルキナファソ(2003年) エチオピア(2005年) モロッコ(2003ー04年) セネガル(2008ー09年) シエラレオネ(2009年) ギニア(2005年) マリ(2006年) インド(2005ー06年) ニジェール(2006年) チャド(2004年) ベニン(2006年) トルコ(2003年) コートジボワール(2005年) コンゴ共和国(ブラザビル2009年) ジェンダー 富 その他の要因 出所:人口保健調査に基づく WDR 2012 チームの試算. 注:不平等の指標はあらゆる状況のグループの平均カバー率が,確実に同じになるように再配分されるべきすべての機会の割合を指す.不平等小は –2 0.3  –6   .1%,不平等中程度は 2.3  –2   .4%,不平等大は 6.5    6.7%である.結果は不平等全体に対するジェンダー寄与率の大きさでまとめられている. 年から 65 年に上昇している.余命の世界的な増加 で(59%),東アジア・太平洋(56%)と南アジア を反映して,サハラ以南アフリカを除くすべての (53%)がそれに続いている.第 2 に,死亡リスク –  地域で,1960 年から現在までの間に余命が 20  25 に晒される機会が減った理由としては,世界中で出 年延びている(図 1.3).また,1980 年以降でみる 生率が激減したことが指摘できる.女性が少子化を と,すべての地域において女性は余命に関して優位 選択するのに伴って,分娩 1 回当たりの死亡リス に立っている. クはほとんど変わっていなくても,妊産婦死亡にか  しかし,際立った後戻りがある.東ヨーロッパ・ かわる生涯に経験するリスクが低下している. 中央アジアでは,余命に関して女性の優位性が増大  ほとんどの途上国では,出生率はかなり短期間 した一因は男性の死亡率急増にあり,この格差は時 のうちに急低下した.このような低下は現在の先 とともに明らかに拡大している(ウクライナについ 進国におけるかつての低下よりもずっと速かった. .一部のサハラ以南アフリカの諸 て図 1.3 を参照) アメリカでは,出生率は 1800 年代から 1940 年 国では,特に女性を中心にエイズの猛威が明らかで まで漸減し,ベビー・ブームの時期に上昇してか ある.1990 年以降,男性との対比で獲得した女性 ら,補充水準を若干上回るところで横ばいになっ の余命の改善幅は縮小している(ボツワナに関して ている.インドでは出生率は 1960 年まで高水準 図 1.3 を参照). で安定していたが,それ以降,女性 1 人当たり 6   女 性 の 余 命 増 加 の 牽 引 力 の 1 つ は, 女 性 の 人 人から 2009 年までに 2.3 人へと急低下した.ア 生 の な か で 最 も 危 険 な 時 期 の 1 つ ―― 妊 娠 初 期 メリカでは 100 年以上かかったことが,インドで と分娩時――における死亡リスクの著しい減少に はわずか 40 年で起こっている(図 1.4).同じく, ある.第 1 に,分娩時の死亡リスクは低下してい –  モロッコでは,出生率は 1992  2004 年に 4 人か –  る.1990  2008 年に,147 カ国は妊産婦死亡率の ら 2.5 人に低下した. 低下を経験しており,うち 90 カ国は 40%強の低  健康状態や保健ケアの他のさまざまな側面に関し 17 下をみている .中東・北アフリカの低下が最大 ては,性別による格差は小さい.多くの低所得国で 64 世界開発報告 2012 図 1.3 女性は男性よりも長生き 東アジア・太平洋 ヨーロッパ・中央アジア ラテンアメリカ・カリブ 80 80 80 ウクライナ女 70 70 70 出生時余命 出生時余命 出生時余命 60 60 60 ウクライナ男 50 50 50 40 40 40 1960 1970 1980 1990 2000 2010 1960 1970 1980 1990 2000 2010 1960 1970 1980 1990 2000 2010 年 年 年 女性 男性 女性 男性 女性 男性 中東・北アフリカ 南アジア サハラ以南アフリカ 80 80 80 70 70 70 ボツワナ女 出生時余命 出生時余命 出生時余命 60 60 60 ボツワナ男 50 50 50 40 40 40 1960 1970 1980 1990 2000 2010 1960 1970 1980 1990 2000 2010 1960 1970 1980 1990 2000 2010 年 年 年 女性 男性 女性 男性 女性 男性 出所:World Development Indicators に基づく WDR チーム試算 . は発育障害の子供,衰弱した子供,体重不足の子供 データが示すところによれば,男子がやや不利であ の割合が高いままであるが,女子が男子よりも悪い る 18.ブラジル,コートジボワール,ベトナムで ということではない.事実,人口保健調査に基づく は,男女の身長はほぼ同じテンポで増加している が,ガーナでは女性の方が男性よりも身長の伸びが 大きい 19.多数の諸国では,子供や大人の人体測 定学的な結果をみると,潜在力がフルに発揮される 図 1.4 アメリカで 100 年かかったことが,インドで は 40 年,イランでは 10 年で実現した ことはありそうもないように思えるが,個々人の性 別が主因ではない.北部インド諸州は際立った例外 出生率の低下スピードは? である.女子の身長の伸びは男子よりもずっと遅 イラン く,女子の人体測定学的な成果は男子よりも悪い― バングラデシュ ―水準と一定期間における変化の両面で――状態が モロッコ 続いている 20. ジンバブエ  同様に,保健サービスの利用や保健支出に関し コロンビア て,系統的なジェンダー差別があるという証拠は インド ほとんどない.1990 年代における保健向けの現金 アメリカ 支出は,ブラジル,ドミニカ共和国,パラグアイ, 0 20 40 60 80 100 ペルーでは,女性向けの方が男性向けよりも多かっ 合計特殊出生率が子供 6 人以 上から 3 人未満に低下するの た 21.南アフリカからの証拠も同じようなパター に要した年数 ンを示しており 22,他の低所得国についても同様 出所:www.gapminder.org である.エジプトでは,外来患者サービスに対す CHAPTER1 進展の波 65 図 1.5 予防型保健サービス利用における不平等はジェンダーではほとんど説明できない 不平等小 不平等中程度 不平等大 100 不平等全体に対する寄与率(%) 80 60 40 20 0 セネガル(2008ー09年) バングラデシュ(2007年) エジプト(2008年) モルディブ(2009年) ボリビア(2008年) ルワンダ(2007年) シェラレオネ(2008年) ウガンダ(2009ー10年) モロッコ(2003ー04年) ザンビア(2007年) ガーナ(2008年) ヨルダン(2009年) カンボジア(2005年) アルバニア(2008ー09年) インドネシア(2007年) マラウイ(2004年) フィリピン(2008年) コロンビア(2005年) カメルーン(2004年) ナミビア(2006ー07年) ケニア(2008ー09年) ペルー(2004ー08年) レソト(2009ー10年) ドミニカ共和国(2007年) モルドバ(2005年) ブルキナファソ(2003年) ネパール(2006年) マリ(2006年) ナイジェリア(2008年) アルメニア(2005年) コンゴ民主共和国(2007年) ニジェール(2006年) ギニア(2005年) トルコ(2003年) エチオピア(2005年) モザンビーク(2003年) ベニン(2006年) リベリア(2009年) マダガスカル(2008ー09年) ジンバブエ(2005ー06年) インド(2005ー06年) アゼルバイジャン(2005年) ハイチ(2005ー06年) ホンジュラス(2005ー06年) スワジランド(2006ー07年) コンゴ共和国(ブラザビル2009年) ジェンダー 富 その他の要因 出所:人口保健調査に基づく WDR 2012 チームの試算. 注:不平等の指標はあらゆる状況のグループの平均カバー率が,確実に同じになるように再配分されるべきすべての機会の割合を指す.不平等小は –2 0.3  –6   .1%,不平等中程度は 2.3  –2   .4%,不平等大は 6.5    6.7%である.結果は不平等全体に対するジェンダー寄与率の大きさでまとめられている. る 1 人当たり支出は女性向け(年間 68 エジプト・ 一方で,男性の同率は 82.0%から 77.7%に低下し ポンド)の方が男性向け(同 58 ポンド)よりも多 ている.したがって,ジェンダー格差は 1980 年の かった 23.入院患者サービスに対する支出額のジェ 32%ポイントから 2008 年の 26%ポイントに縮小 ンダー別格差も女性優位ではあるが僅差にとどまっ した(図 1.6)26. た.ガーナでは,保健補助金のうち女性が利用した  国を超えて収斂を牽引しているのは,率が非常に 割合(1992 年の保健支出総額のうち 56%)は男 低かった諸国(主としてラテンアメリカ・カリブと 性を上回った.インド,インドネシア,ケニアなど 中東・北アフリカ)における参加率の急上昇であ 24 からの証拠も同じような結果を示している . る.ただし,率が非常に高かった諸国(主として東  ワクチンなど予防型保健サービスに関しては, ヨーロッパ・中央アジア)では小幅の低下があっ ジェンダーよりも貧困が重要な制約要因になってい た.サハラ以南アフリカ,東アジア・太平洋,ヨー 25 るようである(図 1.5) .就学率の場合と同じく, ロッパ・中央アジア,ラテンアメリカ・カリブで 要因分解は,麻疹の予防接種における不平等が大き は,今や女性の参加率は 50%を超えているが,南 くて(他の予防接種はもっと普遍的),かつジェン アジアと中東・北アフリカでは女性の 60%強が経 ダーが重要な寄与要因となっている諸国はほんの一 済的に不活動にとどまっている. 握りであることを示している.  世界中で女性の労働参加率は教育水準が高い人ほ –  ど高まっているが,15  24 歳の女性については低 市場性のある職業に参加する女性の増加 下している.これは就学期間が延びていることを反  女性の労働力参加は 1960 年以降増加しており, 映したもので,1990 年以降,労働力参加率全体の なかには著増した地域もある.経済機会の拡大を 伸びを鈍化させている. 受けて,大勢の新規女性労働者が市場に引き寄せ  世界を見渡すと,非常に貧しい諸国では,女性の –  られたからである.1980  2008 年に女性の労働力 労働力参加率が高くなっている.これは労働集約的 参加率は世界全体で 50.2%から 51.8%に上昇する な農業部門が大きいことと貧困家計が多いことを反 66 世界開発報告 2012 は典型的には女性が労働市場から退出すると –2 図 1.6 労働力参加率のジェンダー格差は 1980    008 年に縮小した いうことと相関関係にある.女性が有給の労 0 女性にとって 働力に参入することに対する社会的障壁も顕 プラスの変化 著さを回復して,女性の参加率は低下する. 女性ー男性の参加格差(2008年、%) ‒20 しかし,各国が開発を持続していると,女性 の教育と賃金のいっそうの上昇が女性を労働 市場に呼び戻す. ‒40  経済開発と女性の労働力参加との関係を, 1980 年と 2008 年について 130 カ国のデー タに基づいて推定してみると,次の 2 つの ‒60 特徴が浮かび上がってくる(図 1.7).第 1 に,両方の時期についてはさまざまな所得 の諸国に共通して,明確な U 字型の関係が ‒80 ある.第 2 に,各開発段階の参加率が時と ‒80 ‒60 ‒40 ‒20 0 ともに上昇する(U 字型曲線が時間の経過に 女性 - 男性の参加格差(1980 年,%) 伴って上方に移動する).したがって,各所 東アジア・太平洋 南アジア ヨーロッパ・中央アジア サハラ以南アフリカ 得水準で市場に参加している女性は 2008 年 ラテンアメリカ・カリブ 高所得国 の方が 1980 年よりも多かったということで 中東・北アフリカ ある. 出所:International Labour Organization 2010 に基づく WDR 2012 チームの試算.  教育や家族構造の変化も長期的には女性 注:図の 45 度線は縦軸と横軸の値が等しいことを示す. の雇用を牽引している.結婚と出産の 先送りだけでなく出生率の低下も受け て,女性の労働市場参加が増加してお 図 1.7 す べ て の 所 得 水 準 に お い て, 各 国 で, 女 性 の 労 働 力 参 加 率 は –2 1980    008 年に上昇した り――寄与率はボリビアのわずか 7%か らアルゼンチンやコロンビアの約 30% 80 までとバラツキがあるが――,それが 2008 女性の労働力参加率(%) ラテンアメリカ 10 カ国における女性の 70 労働力参加の増加のうち平均 21%に寄 60 与している.ラテンアメリカにおける 女性の労働力参加の増加のうち 42%は 50 教育水準の向上による――パナマでは 1980 教育の寄与率が 81%にも達している. 40 都市化,家庭における技術進歩,経済 4 6 8 10 12 の部門別構造などは,女性を労働力に 1 人当たり GDP(不変 2000 年ドル価格) 転化するのにあまり重要ではないよう 出所:International Labour Organization 2010 (130 カ国 ) に基づく WDR チーム試算. である 28. 映したものである 27.このような状況下で,不労 変化が変化を生む 所得も少ないため,女性はたとえ非常に低賃金で  世界中で顕著な転換が生じて,女性の権利,教育 あっても労働力参加に積極的である.1 人当たり所 到達度,健康状態,労働力参加などでは素晴らしい 得の増加に伴って不労所得も増加するが(男性の賃 改善がみられる.このようなさまざまな分野におけ 金・所得の増加を通じて),このような所得の増加 る改善相互間のプラスのフィードバック・ループ CHAPTER1 進展の波 67 が,発展途上世界では変化がどうしてこれほど速く よって現状を変えようとしている.この結果は代 なったのかを説明する要因になっている. 替的なルートを提示するものである――すなわち,  1 つの分野における改善(教育の向上)は,他の 経済機会を増加する,そうすれば女子に対する人 分野における変化(出生率の低下や労働力参加の増 的資本投資は増加する.たとえ社会規範の動きは 加)を牽引することができる.同様に,今度は労働 遅くても,市場は民間家計の決定に影響を与える 機会の改善が,教育や次世代のための女性の健康に ことができる. 対する投資増加を誘発する一方,権利の平等はすべ ての分野で進展を下支えすることができる.逆に, 将来に投資する 例えば,権利に関して改善が欠如していれば,女性  同様の考慮――親の教育投資とそれにかかわる将 の市場性のある職業へのアクセスが阻害され,ジェ 来的な収益率の結び付き――が,健康と学校教育と ンダー格差是正が失敗していれば,女性にとってあ の関係も下支えしている.露骨な言い方をすれば, りとあらゆる健康の成果が害されるかもしれない. 死亡リスクが低下すれば,子供時代に人的資本蓄積 このようなフィードバック・ループの理解は政策設 の増加につながるはずだ.簡単に言えば,投資から 計にとって重要である.進展に対する制約や,それ の収益が長く続けば続くほど,その投資の実行が魅 が家庭の事情に,市場機能の在り方に,あるいは制 力的となる.もし分娩に伴う死亡リスクが高いので 度(公式と非公式の両方)など,どこに根差してい あれば,親はこのリスクを考慮に入れて娘に対する るのかを理解することも同様である. 投資を削減する.  おそらく結び付きの最も明確な証明は妊産婦死亡 新しい労働市場機会は女子の教育や健康への投資 率の低下から得られる.スリランカでは,妊産婦死 に拍車をかけ得る 亡率が出産 1,000 人当たり 180 人から 50 人に低  親が子供の教育にいくら投資するかについては, –  下した結果として,余命が 1946  1953 年に急上昇 その教育の収益率も決定要因の 1 つになる.初期 した.女性が平均すると 5 人の子供を産んでいた の研究が示すところによると,女性の生産に好都 ことを考えると,このような低下の前には 10 人に 合な新しい農業技術は女子の就学を後押しした 29. 1 人の女性は死んでいたことになる――大きなリス 新世代の研究ではこのような洞察がグローバル化す クである.国内の地域によって低下の時期にバラツ る経済のなかで拡張されている. キがあることを利用して,ある研究は次のような主  例えば,インドにおける外部委託の増加は賃金部 張をしている.すなわち,妊産婦死亡率の全体的な 門で女性向けに新しい機会を提供し,女子の教育に 低下は女性の余命を 1.5 年,女性の識字率を 1%ポ 30 対する親の投資を増加させている .インドの女 イント,女性の教育を 0.17 年押し上げている 32. 性向けの新しい雇用機会に関して,家庭に情報を  妊産婦死亡率の削減が妊産婦罹病率の削減にもつ –  提供するサービスのおかげで,5  15 歳女子の就学 ながることを考えると,それは女性が労働力に参 –  率は 3  5 %ポイント上昇したが,男子には何の効 加する能力を増加させる.アメリカの証拠が示す 31 果もなかった .女子は体格指数(BMI,健康指標 ところによると,1920 年には 6 人中 1 人の女性は の一種)も高く,賃金雇用に就く可能性が 10%高 分娩の際にかかった長期的な疾患に苦しんでいた. かった.就職の可能性が主観的に改善したことを受 1936 年におけるサルファ薬の発見(およびその速 けて,貧困,コスト,学校までの距離などその他の やかで広範な利用)を受けた妊産婦死亡の急減は, 潜在的な制約要因に変化がなくても,女子の人的資 分娩後の女性の健康にかかわる著しい改善と並行的 本向けの投資が急増した.収益率上昇の証拠が人的 –  に進展した.アメリカでは 1920  1950 年に既婚女 資本蓄積を刺激するのに十分だったのである. 性の労働力参加が増加したが,その背後にあった最  文化的・社会的な規範(あるいは本報告書の枠 大の潮流は分娩条件の改善である 33. 組みでは「非公式な制度」)が,人的資本投資を  20 世紀初頭のアメリカで,女性の労働力参加を 「阻害している」としばしばいわれている.そこで, 増やす最速の方法が妊産婦死亡率の削減である,と 多くの政策面での取り組みは規範を動かすことに いうことをよくぞ思い付いたものである.家計,市 68 世界開発報告 2012 場,社会規範,公式制度などが複雑に絡み合ってい るので,鍵はすべての領域において進展を刺激する  公共支出の増加は集中的な戸別訪問による衛生 方法を発見することにある.妊産婦死亡を削減する –  キャンペーンと,児童死亡の 8  15%という大幅な ためには,第 3 章が示すところによれば,所得や 減少につながった.女性が投票権を獲得したおかげ 家計の措置は有効な制度よりも力が弱く,公共投資 で,毎年約 2 万人の子供の死亡が回避された.こ が決定的に重要である. のような幅広い成果の変種がスイスでも跡付けられ ており,女性は時とともに保健や福祉向けの支出を 違う選択をする 男性よりも支持するようになっている 35.ヨーロッ  最近の研究が示唆するところによれば,女性の権 パ全体についても結果をみると,女性参政権は長期 利やエージェンシーは,このような公共投資が実施 的には保健や教育,福祉向けの支出増加につながっ されるよう監視する役割を果たしている.女性が男 ている 36. 性とは違うことに関心をもっている(女性は男性よ りも子供のことに確かに関心をもっているようであ 世代間サイクル る)世界では,女性にもっと発言権があれば,女性  部門をまたぐ連動も時とともに生じることがあ は子供にとって良いような形で制度的な投資を推進 る.最近の研究が示すところでは,イギリスとアメ できるかもしれない.それでは,女性が政治の領域 リカでは,母親の教育年数が増加すると,子供に でもっと権利をもっていれば,公共投資の性格は変 とって多くのより良い結果――教育や健康の改善― わるだろうか? 変わる,というのがその答えだ. –  ―につながる.7  8 歳の子供をみると,母親の学  アメリカでは女性は 19 世紀に州ごとに投票権を 校教育年数が 1 年延びるごとに,子供の数学標準 獲得し,1920 年には憲法修正によって連邦ベース テストの成績が上がり,行動障害の発生が減少して で義務化された,ということを想起しておこう.女 いる 37.低所得国でも同じような結果から,母親 性が投票権を獲得したことを受けて,保健向けの公 の教育と子供の教育の連動が裏付けられている.低 共投資が激増した.1921 年シェパード = タウナー 所得国では母親の教育年数が 1 年違うだけで大き 母子保護法に基づいて,母子のケアに関して連邦 な違いが生じ得る.パキスタンでは 1 年でも教育 ベースの資金供与が行われるようになった.ある識 のある母親の子供は,自宅で毎日 1 時間余計に勉 者は次のように述べている. 強するので,テストで高得点を記録している 38.  女性教育の世代間インパクトは何も家庭に限定さ  まさに,選挙で女性に罰せられるだろうとい れていない.パキスタンで 1990 年以降激増した私 う恐怖が,法案の必要性ではなく,議会がそれ 立学校教育では,同時期内と異時点間の結び付きが に賛成票を投ずる動機付けになったようである. 合わせて窺える 39.私立教育台頭にかかわる興味 ある上院議員が『婦人ホーム・ジャーナル』誌 深い特徴は次の点にある.すなわち,このような私 の記者に認めたように,仮に議員たちがこの措 立学校はほとんどが 10 年前に公立の女子中等学校 置について控え室で投票することが認められて が存在していた村に位置していた.農村部に女子向 いたとすれば,断固として廃案に追い込んだで けの中等学校を創設することによって,政府は次世 あろう 34. 代の初等水準で子供たちに教えることができる教員 「あなたは自分の娘の将来についてどのような希望をもっていますか? 明晰かつ知的で教育があり,こ のコミュニティの世話をしなければいけません.息子たちに関しては,教育を受けて,土地の所有権を . 獲得し,耐久性のある家を建て,このコミュニティを発展させなければなりません」 パプアニューギニアの成人女性 CHAPTER1 進展の波 69 図 1.8 「大学教育は女子よりも男子にとって重要」とい 図 1.9 「仕事が不足している場合,仕事に関して男性に う意見に賛成の人? は女性よりも大きな権利が認められるべきであ る」という意見に賛成の人? 50 80 50 80 女性にとって 女性にとって プラスの変化 賛成の割合(1994ー99年、%) プラスの変化 トルコ 賛成の割合(1994ー99年、%) 40 40 グルジア ポーランド グルジア ウクライナ 60 ウクライナ 60 ポーランド グルジア トルコ 日本 ロシア トルコ 日本 ロシア インド 30 ルーマニア メキシコ インド 30 ポーランド ロシアメキシコ ルーマニア ペルー インド ペルー 中国 ブラジル 中国 40 ルーマニア ブラジル 中国 スロベニア チリ ウクライナ 南アフリカ チリ 40 ブラジル ブルガリア スロベニア 20 ブルガリア アルゼンチン 20 ブルガリア スロベニア ウルグアイ チリ アルゼンチン フィンランド フィンランド スロベニ スペイン 南アフリカ オーストラリア スイススペイン日本南アフリカ ウルグアイ アメリカ オーストラリ イギリス ウルグアイ アメリカ イギ ノルウェー コロンビア ドイツ 20 アメリカ スペイン ドイツ ノルウェー ペルー コロンビア アルゼンチン 20 アメリカ スペ 10 オーストラリア 10 フィンランド メキシコドイツ ノルウェー オーストラリア ノルウェー ユージーランド ニュージーランド ユージーランド ニュージ スウェーデン スウェーデン スウェーデ スウェーデン 0 0 0 0 0 10 20 30 40 50 0 0 20 1040 20 3060 40 80 50 0 –0 賛成の割合(2005    7 年,%) –0 賛成の割合(2005    7 年,%) –9 出 所:World Values Surveys (1994  –0   9 and 2005    7 waves) に –9 出 所:World Values Surveys (1994  –0   9 and 2005    7 waves) に 基づく WDR 2012 チームの試算. 基づく WDR 2012 チームの試算. 注:図の 45 度線は縦軸と横軸の値が等しいことを示す. 注:図の 45 度線は縦軸と横軸の値が等しいことを示す. の一団を育成した.今日の生徒が明日の教員になっ ているものの,データのある多数の諸国において, たのである.制度的な改善(女子向けの公立中等学 女性をもっと社会的主体として受容する方向に漸進 校)のおかげで,家庭は反応を示すことが可能にな 的にシフトしつつあるように思われる. り(中等教育を受けた女子の増加),それが 1 世代  女性は高等教育へのアクセスや労働力への参加に の後に市場の変化(私立学校と女性の雇用機会の増 関して,男性と平等な地位をもっているとますます 加)をもたらした. 考えられるようになってきている.データのあるほ とんどの諸国では,「大学は女性にとってよりも, 態度の変化 男性にとってより重要である」,あるいは「仕事が  権利を維持していると社会的な慣行や態度にも波 少ない時に男性は仕事に関して,女性よりも大きな 及効果がある.世界価値観調査は社会の感覚がどの 権利をもっているべきである」などと信じている人 ように変化してきているかに関する窓口を提示して の割合は,大幅に減少してきている(図 1.8,1.9). いる.女性に対する伝統的な社会的態度としては, トルコでは,高等教育は男性にとっては好ましい, 母親や主婦としての家庭的な役割が重視されてい ということに同意する人々のシェアは,10 年間で た.社会規範は,国によって著しいバラツキが残っ 34%から 20%に低下している. 70 世界開発報告 2012 注 1. Kingdon and Theopold 2008; Pitt, Rosenzweig, and 23. Egypt Ministry of Health Department of Planning and Hassan 2010. Harvard School of Public Health–Data for Decision 2. Chinkin 2010. Making 1998. 3. Acar 2000. 24. Sen, Asha, and Östlin 2002; Lee 2009; Demery and Gaddis 2009. 4. http://www.au.int/en/sites/default/files/999Rights_of_ Women.pdf. 25. Hoyos and Narayan 2011. 5. Zaher 2002. 26. International Labor Organization 2010. 6. Bennhold 2010. 27. Goldin 1995; Mammen and Paxson 2000. 7. Ramirez, Soysal, and Shanahan 1997. 28. Chioda, Garcia-Verdú, and Muñoz Boudet 2011. 8. Hossain 2011. 29. Bardhan 1974; Rosenzweig and Schultz 1982; Foster and Rosenzweig 1999. 9. Barro and Lee 2010. 30. Oster and Millet 2010. 10. Grant and Behrman 2010. 31. Jensen 2010. 11. Dollar and Gatti 1999. 32. Jayachandran and Lleras-Muney 2009. 12. Filmer 1999. 33. Albanesi and Olivetti 2009; Albanesi and Olivetti 13. Avenstrup, Liang, and Nelleman 2004. 2010. 14. Meyer, Ramirez, and Soysal 1992. 34. 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のような事実もある.女性は家計の資源や資産に対するコントロールという面で,非 常に不利なままである.男女間の所得格差はあまり変わっていない.政策策定におけ る女性の参加は男性を大きく下回っている.家庭内暴力は世界中の女性に引き続き甚 大な犠牲を強いている――個人や国の所得水準とは無関係に,女性は家庭では暴力の 主たる犠牲者であり,重傷を負い続けている.  このように進展がないのはどこか? • 著しく不利な状況下にある人々.国際的にも国内的にもジェンダー格差は所得が 低いほど大きく,したがって,最貧国ではジェンダー格差が相対的に大きい.経 「このコミュニティには男女平等なんてない.おそらく町や都市部なら平等かも 」 しれないが,ここでは違う! いつでも男が女よりも上だ. 南アフリカ農村部の成人男性 「女たちが社会進出を始めたばかりだったので、男たちはコントロールの維持に 」 努めている. ヨルダン川西岸・ガザの成人男性 CHAPTER2 ジェンダー不平等の執拗さ 73 くの地域で縮小しているが,女性の状況があまり改 「私たちには教育がありません.何もわかりま 善していない低所得国もなかにはある.南アジアや せんし,どうやったら生活を変えて,力や自 サハラ以南アフリカの諸国の多くでは,女子の初 」 由を手にできるかもわかりません. 等・中等教育の就学率にほとんど進展がない.エリ アフガニスタン農村部の成人女性 トリアでは,女子の小学校就学率(正味)は 1990 年の 16%という非常に低い水準から,2008 年に はちょうど 36%にまで上昇した.アフガニスタン, チャド,中央アフリカ共和国では,小学校の女子児 済成長の恩恵は社会の一部ではすべての男女に 童は男子 100 人に対して 70 人未満と少ない.イ 平等にもたらされたわけではない.家計が貧し エメンは正味の就学率でみてジェンダー格差が世界 ければ,国家開発のインパクトが帳消しにな で一番大きく,縮小を持続させることが困難であっ り,格差は往々にして地理や民族性などその他 た 2.マリにおける 5  – 19 歳女子の就学率は 1810 の社会的疎外の手段によって倍加されている. 年頃のアメリカに相当する(図 2.1). • 「執拗な」領域.一部の領域――職業の相違や  国内で成長の恩恵を享受していないグループで 政策策定への参加に関連したものなど――にお も,ジェンダー格差は残存している.所得貧困が けるジェンダー平等の改善は,経済の成長や開 ジェンダー格差を拡大させるのである.富裕層であ 発とともには変化しない制約要因によって束縛 れば教育到達度は男女とも非常に似通っているが, されている.20 世紀中には女性の人権や経済 貧困層ではジェンダー不平等が大きくなっている. 的権利が大幅に増大したにもかかわらず,ジェ –  インドでは,人口の最富裕 20%に属する 15  19 歳 ンダー格差は高所得国においてさえ残存してい の平均的な男子と女子は 10 年生にまで到達してい る.このような結末は動きの遅い制度的なダイ るが,最貧困 20%に属する平均的な男子は 6 年生, ナミクスと,成長だけでは取り組みが不可能な 同女子はわずか 1 年生に何とか到達するにとどまっ 根深い構造的な要因の結果である. ている.どこの国でも最富裕層の間ではジェンダー • 逆戻り.対外ショック――経済・政治・制度な 別の不利はない.最上位 20%層に属する家計では, どにかかわるもの――は苦労して獲得した進展 教育に関して完全なジェンダー平等が達成される傾 を拭い去ってしまうことがある.場合によって 向にある. は,ジェンダー平等の改善は予想外のショック  アフリカや南アジアの多くでは,貧しい女子は学 ――制度ないし市場の失敗を暴露する,または 校教育に関して大きな不利に直面している.その不 悪化させるような――に直面して逆戻りする. 利はベニン,コンゴ民主共和国,ガンビア,トーゴ ショックは男女の両方に影響するが,さまざま でみるように,所得が低いほど大きくなっている な要因がジェンダー格差に対してもインパクト (図 2.2).しかしながら,他の諸国では逆の状況が をもたらす.それには特にショックの出所や種 観察できることもある――バングラデシュ,ブラジ 類,経済的・制度的な構造,社会規範が含まれ ル,ドミニカ共和国,フィリピン,ベネズエラで る.たとえショックにジェンダー別に異なるイ は,女子は富の水準が低くても男子よりも長く学校 ンパクトがない場合でさえ,男性(少年)と女 にとどまる傾向にある(図 2.3).世帯所得が低い 性(少女)の両方にとって福祉上の絶対的な損 場合にジェンダー格差が男子と女子のどちらに有利 失は著しいものになり得る.特に極めて重要な になっているかは別として,貧富の格差が小さい諸 生後 3 年間のように,人生の初期における逆 国では――ウズベキスタンやベトナムにおけるよう 境は不可逆的な長期的影響をもつ. に――ジェンダー格差も小さい傾向にある.  女子の不利は男子の場合よりも顕著で,早い段 階で現れてくるようだ.コンゴ民主共和国で最貧 著しく不利な状況下にある人々 20%層に属する女子は,貧しい男子よりも就学年  健康と教育にかかわるジェンダー格差は世界の多 数が 3 年短い.さらに,女子にかかわるジェンダー 74 世界開発報告 2012 図 2.1 一部の諸国では女子の就学率が驚くほど低位にとどまっている 100 90 バングラデシュ エジプト 80 タジキスタン モザンビーク 70 ニジェール ナイジェリア コートジボワール 女性就学率(5ー 歳、%) 60 エチオピア 50 ブルキナファソ 19 マリ 40 パキスタン 30 20 1900 年の アメリカ 10 0 17 0 17 0 18 0 18 0 18 0 18 0 18 0 18 0 18 0 18 0 18 0 19 0 19 0 19 0 19 0 19 0 19 0 19 0 19 0 19 0 19 0 20 0 00 05 9 7 8 9 0 2 3 4 5 6 7 8 9 0 1 2 3 4 5 6 7 8 17 20 年 アメリカ –2 傾向線(アメリカ,1850    000 年) 出所:U.S. Census and the International Income Distribution Database (I2D2) に基づく WDR 2012 の試算. –1 注:1760  –2   840 年の値は 1850    000 年における女性就学率のトレンドに基づく. 上の偏向は教育のライフ・サイクル全体を通じて累 たらしている.すべての諸国で,貧困層の出生率 積する.2008 年現在で高等教育についてみると, .しかし, は富裕層よりも高くなっている(図 2.4) サハラ以南アフリカでは男子学生 100 人に対して 出生率が低いところ(典型的には先進国)では,最 女子学生はわずか 66 人,南アジアでは同じく 76 –  貧 20%層と最富裕 20%層の格差は 0.5  1 人程度 3 人にとどまっている .サハラ以南アフリカは,特 と小さい.出生率が高いところ(通常は途上国)で に博士号を中心に高等教育就学者の伸びに関して, は格差は大きくなる傾向がある.ザンビアでは,最 男子が女子を凌駕している世界で唯一の地域となっ 貧 20%層に属する女性の平均出生率は 8.5 人(世 ている. 界最高)であるが,最富裕 20%層はわずか 3 人強  貧富の格差は健康に関しても同じである.出生率 である. の低下は次のことを示唆している.分娩リスクにさ  ジェンダー不平等の理解と取り組みにとっては, らされる女性が少なくなっており,出産経歴(女性 家計の富に加えて民族性と地理が重要である.急成 が出産する回数)の削減と分娩の年齢構成が,一生 長を遂げた国でも,貧しい少数民族の女性は豊かな 涯における妊産婦の死亡リスクの大幅な低下の主因 多数民族に比べると利益を享受することが少なかっ となっている 4.1960 年以降,出生率はすべての た.したがって,大きなジェンダー格差が残存して 地域で大幅に低下しているが,多くのサハラ以南ア いる.多くの少数民族は一般の人々よりも貧しく, フリカ諸国では上昇している.ナイジェリアでは, しかもあまり都市化していない.世界全体として, 合計特殊出生率は 1999 年の 4.7 人から 2008 年に 就学していない女子の 3 分の 2 は国内の少数民族 は 5.7 人にまで上昇している 5. に属しているものと推定される 6.グアテマラで  教育の場合と同じく,家計の富は大きな違いをも は,原住民女性の非識字率は 60%と,同男性より CHAPTER2 ジェンダー不平等の執拗さ 75 図 2.2 一部の諸国では女性の不利な状況は所得が低いほど大きくなる ベニン コンゴ民主共和国 ガンビア 10 10 10 平均学年到達度( 平均学年到達度( 平均学年到達度( 5 5 5 15 15 15 – – – 19 19 19 歳) 歳) 歳) 0 0 0 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 所得の 5 分位層 所得の 5 分位層 所得の 5 分位層 インド パキスタン トーゴ 10 10 10 平均学年到達度( 平均学年到達度( 平均学年到達度( 5 5 5 15 15 15 – – – 19 19 19 歳) 歳) 歳) 0 0 0 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 所得の 5 分位層 所得の 5 分位層 所得の 5 分位層 女子 男子 出所:EdAttain に基づく WDR 2012 チームの試算. 図 2.3 富の水準が低くても,女子の方が男子よりも長く就学している国もある バングラデシュ ブラジル ドミニカ共和国 10 10 10 平均学年到達度( 平均学年到達度( 平均学年到達度( 8 8 8 6 6 6 15 4 15 4 15 4 – – – 19 19 19 2 2 2 歳) 歳) 歳) 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 所得の 5 分位層 所得の 5 分位層 所得の 5 分位層 フィリピン ベネズエラ 10 10 平均学年到達度( 平均学年到達度( 8 8 6 6 15 4 15 4 – – 19 19 2 2 歳) 歳) 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 所得の 5 分位層 所得の 5 分位層 女子 男子 出所:EdAttain に基づく WDR 2012 チームの試算. 76 世界開発報告 2012 学率と健康保険の格差は都市部で 図 2.4 所得が低いと出生率は高水準にとどまる――さらに,国が貧しいほど, 出生率の富裕層と貧困層の格差は大きい は縮小している 8.  カースト,身体障害,性的嗜好 ニジェール ザンビア:最貧 マリ など他の疎外要因も,開発成果に 20%層の女性 コンゴ民主共和国 は平均 8 人の 影響するような形で不利な状況を チャド 子供を産むのに ザンビア 倍加する傾向にある.このような マラウイ 対して,最富裕 リベリア 20%層では同 結び付きに関して理解を深めるた アンゴラ 平均は 3.5 人に ギニア 減少している. めにはもっと研究が必要である. タンザニア ナイジェリア ルワンダ エチオピア シエラレオネ 経済発展にもかかわらず格差が カメルーン セネガル 残存している「執拗な」分野 マダガスカル コンゴ共和国(ブラザビル)  女性の死亡率と経済機会へのア ケニア パキスタン クセスという 2 つの分野に関し ガーナ ては,ほとんどの途上国で,ジェ ハイチ スワジランド ンダー平等に向けた進展は,所得 ジンバブエ ヨルダン が増加したにもかかわらず,ごく ナミビア レソト 控え目で漸進的なものにとどまっ カンボジア フィリピン ている.さらに,資源に対するコ ホンジュラス ントロール,政治的な発言権,家 ネパール エジプト 庭内暴力の発生にかかわるジェン バングラデシュ インド ダー格差も縮小していない. インドネシア コロンビア  場合によっては,個人的な選 ドミニカ共和国 アゼルバイジャン 好,市場の失敗,制度的な制約, アメリカ 社会規範などが,経済的な進歩 オーストラリア アルメニア にもかかわらず,ジェンダー格 モルドバ ウクライナ 差を引き続き補強している.所 0 1 2 3 4 5 6 7 8 得の増加そのものも新たなジェ 子供の平均数 ンダー別の選好を通じて,ジェ ンダー平等に対して予想外に悪 最富裕 20% 平均出生率 最貧 20% 層の出生率 層の出生率 い影響を及ぼした可能性がある. 出所:人口保健調査に基づく WDR 2012 チームの試算. また,別の事例では,開発成果 は権利の平等確保という広範囲 にわたる正式な利益を必ずしも も 20%ポイント高く,非原住民女性との比較では 反映していない.男女を問わず法的保証の拡大と 2 倍に達している 7.ベトナムの少数民族をみると, いうことでは著しい改善があったにもかかわらず, 分娩の 60%以上が産前ケアなしで行われている. 遅々とした実施がジェンダー平等を阻害している. これは多数派であるキン族の 2 倍の率である.もっ 社会規範が程度はさまざまであるが,どの国でも と都市化した少数グループや貧困地域に集中してい 引き続き束縛力をもっているため,理論と現実の ないグループでは,大多数の人々との格差は小さい 間には乖離が残存している. 傾向にある.中国では,農村部の少数民族はもっと  経済成長は一部の諸国ではジェンダー格差を一時 都市化している民族(漢族,回族,満州人など)に 的に悪化させることさえあり得る.中国の農村部で 比べて,教育や保健へのアクセスが低かったが,就 は,工業における賃金雇用の新たな機会の出現を受 CHAPTER2 ジェンダー不平等の執拗さ 77 けて,多くの家庭が最初は男子に関して中学校教育 ると,低・中所得国における女性の死亡率は多くの を重視したため,1980 年代にはジェンダー格差が 地域で男性と比べて高くなっている 13.全体とし 9 著しく拡大した .しかし,経済成長の持続を反映 て,出生時に行方不明の女子と 60 歳未満女性の超 して,女子も 1990 年代に入るとたちまち男子に追 過死亡率は,2008 年でみて合計で 390 万人の女 い付いた.サハラ以南アフリカは中等教育の顕著な 性が過少になっているものと推定される――その 普及の真っただ中にある.中国の場合と同じく,ア 85%は中国,インド,サハラ以南アフリカで発生 –  フリカでは 1999  2008 年に中学校に進学する生 していた.特に体制移行後の諸国を中心にその他の 徒の増加は男子の方が女子を上回ったため,ジェ 国々では,男性の超過死亡率が深刻になっている. ンダー格差が拡大した.男子 100 人当たりで女子  過去 30 年間に,ほとんど変わっていない問題も 生徒数をみると,1999 年には 83 人だったものが あれば,劇的に変化した問題もある.出生時の歪 2008 年には 79 人に相対的に減少している.なる んだ性別比率は 1990 年代初めに発見されたが 14, ほど,女子は中学校進学に関して大きな障壁に直面 出生前性別判定が一般化し,出生率が低下するのに しているが,就学率は全体的にも低い傾向にある. 伴って,問題はいっそう悪化している.女性の超過  このような格差が男子にとって不利に作用する場 死は南アジアにおける早期児童期の問題から,サハ 合もある.世界中のどこでも,落第や,やや程度は ラ以南アフリカにおける成人期の問題に徐々にシフ 落ちるが退学の率は,男子の方が女子よりも高い. トしつつある.それはすべての低所得国で減少して 一部の上位中所得国や先進国では,男子の学業不振 いるのに,サハラ以南アフリカだけが例外となって ――女子は学業面で男子を凌駕している――が懸念 いる(第 3 章参照). されている.アメリカやイスラエルでは,女子の方  このようなパターンの理由は何であろうか?  が数学や科学を含め,すべての主要な授業科目で好 第 3 章ではもっと深く検討するが,ここでは妊産 成績を収めている 10.フランスでは,エリートの 婦死亡と男子選好という 2 つの問題を強調してお 高等商業学校(ビジネス・スクールに相当)では女 きたい.出産適齢期における死亡という女性が不 11 子学生が過半数を占めている .高等教育におけ 利なっている 1 つの要因として,妊娠や分娩によ る男子の学業不振は通常は社会的疎外に根差したも る死亡および関連する長期的な身体障害のリスク のではないが,男子も学業到達度を軽視する文化的 がある 15.妊産婦死亡率は 1990 年以降 34%低下 規範に支配されることがあり得る.教育を主として しているものの,世界の多くの地域で依然として 「女性的な」努力であるという見方から,ドミニカ 高水準にとどまっている.サハラ以南アフリカは やジャマイカなどカリブの数カ国では,若い男子が 2008 年でみて,妊産婦死亡率が出生 10 万人当た 12 退学している . り 640 人と世界最高であった.その後には,南ア ジア(同 280 人),オセアニア(230 人),東南ア 出生時に行方不明の女子と女性の超過死亡率 ジア(160 人)が続いている 16.バングラデシュ,  1990 年,2000 年,2008 年 の 各 国 に お け る 出 カンボジア,インド,インドネシアの妊産婦死亡率 生と死亡の性別比率をみると,多くの低・中所得国 はスウェーデンでいえば 1900 年頃,アフガニスタ では女性にとって不利な状況(一部の地域では固有 . ンのそれは 17 世紀にほぼ相当する(図 2.5) な理由から男子にとっても不利な状況)が継続して  このような高い妊産婦死亡率は,特に出生率がま いることがわかる.第 1 に,中国とインド(およ だ高いところでは,妊産婦死亡者の絶対数が多いと びコーカサスと西バルカンの一部諸国)の出生時に いうことにつながる.2008 年をみると,インドでは おける歪んだ性別比率の問題は依然として未解決で 6 万 3,000 人,サハラ以南アフリカでは 20 万 3,000 ある(表 2.1).人口推計が示唆するところによれ 人の妊産婦が死亡したが,これは死亡者数がわずか ば,仮にこれら諸国の出生時の性別比率が世界的に 1,900 人の先進国とは極めて対照的である 17.アフ みられるものに類似しているとすれば,140 万人 ガニスタンでは 10 人に 1 人,ソマリアやチャド の女子が追加的に出生している(ほとんどが中国と では 14 人に 1 人の割合で妊産婦が死亡し,もっ インドで)はずである.第 2 に,先進国と比較す と大きな割合の女性が妊娠および出産後の合併 78 世界開発報告 2012 表 2.1 –2 1990    008 年にインドと中国では出生時における少女の行方不明者が増加し,サハラ以南アフリカでは女性の超過死亡 も増加した 世界における女性の年齢別・地域別超過死亡率(1990 年と 2008 年,単位:1,000 人) 女性総計 5 歳未満 –  5  14 歳 –  15  49 歳 –  50  59 歳 新生女子 女子 女子 女性 女性 60 歳未満 1990 2008 1990 2008 1990 2008 1990 2008 1990 2008 1990 2008 中国 890 1,092 259 71 21 5 208 56 92 30 1,470 1,254 インド 265 257 428 251 94 45 388 228 81 75 1,255 856 サハラ以南アフリカ 42 53 183 203 61 77 302 751 50 99 639 1,182 HIV 感染率が高い国 0 0 6 39 5 18 38 328 4 31 53 416 HIV 感染率が低い国 42 53 177 163 57 59 264 423 46 68 586 766 南アジア(インドを除く) 0 1 99 72 32 20 176 161 37 51 346 305 東アジア・太平洋(中国 3 4 14 7 14 9 137 113 48 46 216 179 を除く) 中東・北アフリカ 5 6 13 7 4 1 43 24 15 15 80 52 ヨーロッパ・中央アジア 7 14 3 1 0 0 12 4 4 3 27 23 ラテンアメリカ・カリブ 0 0 11 5 3 1 20 10 17 17 51 33 合計 1,212 1,427 1,010 617 230 158 1,286 1,347 343 334 4,082 3,882 出所:World Health Organization 2010 と United Nations Department of Economic and Social Affairs 2009 に基づく WDR チームの試算 . 注:合計は四捨五入のため必ずしも一致しない. 症が原因で長期にわたる健康問題を患っている. 軌道はまったく異なっていた――赤道ギニアはわ  妊産婦死亡の改善は GDP の伸びに追い付いてい ずか年率 3%の成長であったが,インドは同 8%と –  ない.チャドとタンザニアの経済は 2000  08 年に, もっと堅調であった.多数の諸国で妊産婦死亡率が それぞれ年率 9.4%と 7%という目覚ましい拡大を 高い原因は,産婦人科の保健サービスが貧弱なこと 示したが,妊産婦死亡率はチャドでわずか 8%(10 と出生率が高いことにある.所得の伸びと家計行動 万 人 当 た り 1,200 人 へ ), タ ン ザ ニ ア で は 14 % の変化だけでは,妊産婦死亡率を削減するには不十 (790 人へ)減少しただけである.同時期に南アフ 分なようである.妊産婦保健ケア・サービスを改善 リカは年率 4%ともっと控え目な成長にとどまると する鍵は公共投資にある. 同時に,妊産婦死亡率は――HIV/ エイズ感染症を  お腹のなかの女の子に対する不利益はアジアの多 反映して――出生 10 万人に当たり 410 人へと 8% くとコーカサス(アルメリアやアゼルバイジャンな も増加した.1990 年以降,インドと赤道ギニアで ど)の一部諸国では一般的である.そこは男子選 は妊産婦死亡率が 41%減少して,2008 年には同 好,出生率低下,新技術の交差点であり,それが出 じような水準にまで低下した.しかし,両国の成長 産時における女子の行方不明者増加につながってい る.中国やインドでは出生時における性別比率は, 男子を選好する著しく歪んだパターンを示唆してい る.女子よりも男子を選好するパターンが続いてい . 「私の姉は 14 歳の時に分娩で死亡しました」 るところでは,性選別的な中絶,女子嬰児殺し,怠 イエメンの若い女性 慢などにみられるジェンダー偏向が,出生時におけ る何百万人という行方不明の少女の原因とみられて CHAPTER2 ジェンダー不平等の執拗さ 79 図 2.5 多くの途上国における妊産婦死亡率は 1900 年以前のスウェーデンに似ている 1,600 アフガニスタン 1,400 チャド 1,200 妊産婦死亡率(出生1000人当たり) 1,000 リベリア 1930 年代にサ ルファ薬が導入 タンザニア 800 され,広い範囲 サハラ以南アフリカ で出生が制度化 された. バングラデシュ 600 カメルーン カンボジア ブルキナファソ インドネシア マラウイ ブ リ 400 ・ カ カ ア リ ジ メ ア ア 央 200 インド テ ン パ ・中 ッ ラ ロ ッパ ド ー ドミニカ共和国 ヨ ーロ ラン ヨ 中国 東 ポー 0 17 0 17 0 17 0 17 0 17 0 17 0 50 17 0 17 0 17 0 18 0 18 0 18 0 20 18 0 18 0 18 0 18 0 18 0 18 0 90 19 0 19 0 19 0 19 0 19 0 19 0 19 0 19 0 80 20 0 00 9 0 1 2 3 4 6 7 8 9 0 1 3 4 5 6 7 8 0 1 2 3 4 5 6 7 9 16 17 18 19 19 年 スウェーデン –1 傾向線(スウェーデン,1750    850 年) 出所:World Health Organization 他 2010 に基づく WDR 2012 チームの試算. いる.2008 年に関するだけでも,中国では 100 万 なシフトとの連動を示唆するものである 22. 人,インドでは 25 万人の女子が出生時点で行方不  もっと少数の一連の諸国には行方不明の男性も 18 明になっているものと推定されている . いる.1990 年代のエリトリアでは,紛争のため多  インドや中国など多くの諸国では,慣行を禁止す 数の若い男性が行方不明になった.ラテンアメリ る法律にもかかわらず,性選別的な中絶のための新 カ・カリブでは,暴力が若い男子の超過死亡の一因 技術――安価な移動型の超音波診療所など――の乱 になった公算がある.東ヨーロッパ・中央アジアで 用が,この不足の大部分を説明する原因となってい は,もっと大勢の男性が中年になってから行方不明 る 19.経済的な繁栄を受けて発展途上世界を通じ になっているが,このような男性の超過死亡はアル て,羊水穿刺や超音波サービスは増え続けて,おそ コール利用やその他の危険を伴う言動など,もっと らく男子選好が存在しているところへ性選別的な中 社会的に許容されている種類の行為の広がりと結び 20 絶の普及が可能になるだろう . 付いている.  そのような選好は簡単には変わらないようであ る.カナダ,イギリス,アメリカに居住している南 職種は異なっており,給与は低い アジアや東南アジアからの移民の子孫の間でさえ,  先進国でも途上国でも男女は働いている産業や業 男子出生のシェアはいまだに異常に高い 21.これ 種が異なる.しかし,第 1 章で示したように,ほ は変化が不可能だということを示唆するものではな とんどすべの諸国において自宅外で働いている女性 い.韓国の 5 歳未満における男子対女子比率はか が増えているが,先進国においてさえ,時の推移に つてアジアで最高だったことがあるが,1990 年代 伴ってほとんど変化しない「経済空間」の選別的な 半ばにピークを打って逆転した――これは工業化と 分野に集中している.隔離された職場については 都市化に伴って,標準的な価値観にかかわる社会的 特に次の 3 つの点が際立っている.第 1 に,女性 80 世界開発報告 2012 業に集中している――従業員数,売上,コスト,実 「男女の日給は違う.男が日給 200 ニュルタ 物資本価額などが小さい.また,男性オーナーの企 ムなら,女は同じ仕事なのにわずか 150 ニュ 業よりも利益が小さい.ラテンアメリカでは,女性 ルタムしかもらえない.それは公正でもない オーナーの企業では平均利益が男性オーナーの企業 し,正当でもない.」 –  に比べて,標準偏差の 15  20%相当分だけ低い 25. ブータンの成人女性  第 3 に,公式部門や非公式部門のなかでさえ, 男女は非常に違った仕事を選択している(図 2.7). 女性はコミュニティ・サービスや公共サービス,小 は男性よりも生産性の低い活動に従事していたり, 売サービス,貿易に従事していることが多い.男性 非公式部門で働いていたりする可能性が高い(図 は危険な職業――鉱業,建設,輸送,重工業など― 2.6).女性は男性と比べて賃金労働者や無給の家族 ―の割合が高く,途上国と先進国の双方でも労働災 労働者になっていたりする可能性が高く,公式部門 害率が高くなっている.国防と公共秩序維持の負担 と非公式部門の間の移動は少なく,非公式部門にい も男性に重くのしかかっている.このようなパター ることと労働力外にとどまることとの間の移動は頻 ンはすべての国や地域に共通しており,強いて言え 23 繁である . ば,所得が高いところほどよりはっきりしている.  第 2 に,自営業においては,女性は農業以外で  このようなジェンダー別に異なるパターンが,所 は,しばしば自宅で,小規模で非公式な事業を運営 得における大きなジェンダー格差の持続の一因に する傾向にある.チリやタイなど一部の途上国で なっている.ジェンダー別の平均賃金格差はモザン 24 は,家内工業労働者の 80%は女性である .この ビークやパキスタンの 20%から,コートジボワー ような事業の性格からして,女性オーナーは零細企 ル,ヨルダン,ラトビア,スロバキアの 80%強と 値は様々である.格差は次のような理由から徐々に 縮小している.すなわち,男子との対比で女子の教 育が改善している,一部の産業・職業における女性 図 2.6 女性は男性よりも非公式部門で働いている割 合が高い の集中が変化している,妊娠・出産のコントロール 強化に連動して,職務経験やキャリア中断のパター エチオピア ネパール ンが変化しているなど 26. ボリビア エジプト ペルー 家事と介護は依然として女性の領域 インドネシア  ジェンダー格差が特に執拗にみえる 1 つの領域 ブラジル コロンビア は,家事と介護向けの時間配分である.長期的にも アルゼンチン どこの国でも,所得にかかわらず,女性は家事と介 インド 南アフリカ 護に関する不当に大きな責任を負っているが,男性 メキシコ はほとんどが市場性の仕事を担当している.このよ ロシア タイ うな相違はジェンダー別の役割に深く根差してお ウクライナ トルコ り,女性の余暇,福祉,安心できる時間を削減す マカオ る.このような家庭内の責任が違っていることの直 キルギスタン ケニア 接的な結果として,生活時間のパターンや余暇の時 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90100 間数が男女で非常に異なっている.このようなパ 総雇用に占める非公式雇用 ターンは女性の教育投資能力(第 3 章),エージェ のシェア(%) ンシー(第 4 章),経済機会を取り上げる能力(第 女性 男性 アメリカ 5 章),経済的・政治的・社会的な生活にもっと広 出 所:International Labour Organization 2010 に 基 づ く WDR 2012 チームの試算. く参加する能力(第 4 章と 6 章)に影響を及ぼす. –2 注:1999    006 年で入手可能な最新年.  所得,経済構造,社会規範が大きく異なってい CHAPTER2 ジェンダー不平等の執拗さ 81 女性にとっては著増するが,男性 図 2.7 女性と男性とでは働いている部門(および職種)が異なる にとってはそうではない.子供が 女性 / 男性の部門間雇用分布 いると男女とも介護に費やす時間 31% 広報サービス 16% が増えるが,特に女性にとっては それが顕著である. 21% 小売・ホテル・レストラン 17%  男女の生活時間は所得や教育の 13% 製造業 12% 増加に伴って収斂する.その主因 4% 金融・ビジネス 4% は女性が男性のようになる(市場 性の職業に割く時間を増やす一方, 0.5 % 電気・ガス・蒸気・水 1% 家事や介護の時間を削減する)か 0.5 % 鉱業 2% らであって,男性が家事や介護を 2% ,輸送・通信 7% もっとするようになるからではな . い(第 5 章) 27% 農業・狩猟等 29% 1% ,建設業 11% 発言権と権限が小さい 100% 全部門 / 全職業 100%  進展が最も遅いジェンダー平等 にかかわる側面の一部は,女性の エージェンシーという領域にある. 出所:LABORSTA Labor Statistics Database, International Labour Organization に基づ 次 の 3 つ の 側 面 を 考 え て み よ う. く WDR チームの試算. 第 1 に,勤労所得や家計支出に関 して女性が決定を行う能力は,自 る 6 カ国について,このようなパターンは驚くほ 分の生活と身近な環境に対する自分のコントロール ど類似している(図 2.8).どこの国でも,女性が 力を反映している.第 2 に,家庭内暴力に関する 家事に割いている時間は男性との比較で 1 日当た トレンドは,家庭内のジェンダー力学と男女間の非 –  り 1  3 時間多い,(子供,年寄,病人の)介護に 対称的な力関係を表している.第 3 に,政治的な –  割いている 1 日当たりの時間は 2  10 倍に達して 発言にかかわるパターンをみれば,意思決定,指導 いる,市場性の活動に割いている時間は 1 日当た 力の行使,権限へのアクセスにおける包容性を測定 –  り 1  4 時間少ない.これはすべての男女の平均で することができる. あって,格差は家族形成によって大きくなる.第 5 章で説明するが,結婚すると家事に割く時間が 「女性にはもっと自由時間が必要です,女性は男性よりも疲れていいます.…家や子供たちの面倒をみ ています.ところが,男性は終日職場にいて,家の面倒はみません.さらに,仮に女性が仕事ももって 」 いれば,ますます疲れてしまいます. モルドバの成人女性 「最近,女性が『良妻』と評価されるためにはスーパー・ウーマンでなければなりません.家庭でも職 場でも一生懸命働いて,まるで楽しむ権利がないかのように,他の家族員のあらゆる要求に応えなけれ 」 ばなりません. 成人女性,ブータン 82 世界開発報告 2012 図 2.8 世界中で女性は男性よりも介護と家事に,男性は市場性の活動に毎日多くの時間を割いている 市場性活動 家事 育児 パキスタン 0.6 4.7 5.5 2.5 1.2 0.2 カンボジア 2.7 3.8 4.4 3.3 0.9 0.1 南アフリカ 2.1 3.8 4.2 1.8 0.5 0.0 ブルガリア 2.9 3.9 4.7 2.6 0.4 0.1 スウェーデン 3.2 4.6 3.2 2.3 0.6 0.3 イタリア 2.1 4.8 4.9 1.4 0.6 0.2 女性 12 時間 男性 出所:Berniell and Sanchez-Páramo 2011. 資源に対するコントロール力が小さい の支出にかかわる決定に関与していない.また,イ  多くの女性は自分の所得も含めて,家計の財政 ンドとネパールでは既婚女性のそれぞれ 18%と ファイナンスに関して何の発言権ももっていない. 14%は,自分が稼いだお金がどう使われるかに関 人口保健調査が示すところによると,特にサハラ以 してほとんど沈黙を守っている 27. 南アフリカとアジアを中心に一部の途上国の女性  夫は妻の低所得に対してより大きなコントロール は,自分が稼いだ所得の支出にかかわる家計の決定 をもっている.トルコでは最富裕 20%層に属する に関与していない.マラウイでは既婚女性の 34%, 既婚女性のうち,自分が稼いだ現金所得に関して コンゴ民主共和国では女性の 28%が,自分の所得 何のコントロールももたない人はわずか 2%にとど CHAPTER2 ジェンダー不平等の執拗さ 83 まっているが,この割合は最貧 図 2.9 女性自身の所得はだれがコントロールしているか? 20%層になると 28%に膨らん ウクライナ でいる.マラウイでは,コント コロンビア ロールがない既婚者の割合をみ ホンジュラス モルドバ ると,最富裕 20%層の 13%に ペルー ハイチ 対して最貧 20%層では 46%と ニジェール インドネシア なっている(図 2.9). ボリビア ベニン  資源や支出に関するコント モロッコ マダガスカル ロール力が小さいのは,男女が フィリピン スワジランド 所有している資産の大きな格差 カンボジア コンゴ共和国(ブラザビル) を反映しているからだ.資産は ドミニカ共和国 エジプト 典型的には相続される,結婚の ブルキナファソ エチオピア 際に取得される,あるいは所得 ジンバブエ アルメニア や貯蓄によって生涯にわたって ガーナ 蓄積される.しかし,上述した チャド アゼルバイジャン よ う に, ま た, 第 5 章 で さ ら マリ ギニア に探究するように,女性は特に ケニア カメルーン ライフ・サイクルにわたって合 レソト トルコ 計すると男性に比べて所得が少 ナミビア バングラデシュ ない.貯蓄行動にかかわる男女 ネパール ウガンダ 間の相違とは関係なく,この格 ナイジェリア インド 差が女性の貯蓄能力に直接影響 モザンビーク ザンビア す る. ま た, 第 4 章 で 検 討 す ルワンダ リベリア るように,相続権や財産権はし シエラレオネ コンゴ民主共和国 ばしば男女では適用が異なるの マラウイ で,実物資本や資産へのアクセ 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 スにかかわるジェンダー格差は 自分の所得に関する決定に関与している女性の割合(%) 大きく著しいものにとどまって 最富裕 20%層の女性 いる.特に農村部の最貧家計で 最貧 20%層の女性 は,土地が家計資産のうち最大 全女性の平均 のシェアを占めている 28.女 出所:人口・保健調査に基づく WDR 2012 チームの試算. 性が所有している土地はブラジ ルでは 11%,パラグアイでは 27%とシェアは低い.また,女性の所有は男性よ の 3 倍に達している 30. りも小さい.ケニアでは,登記されている土地所有  多くの諸国で,土地所有は伝統と法律の両方に 29 者のうち女性はわずか 5%にすぎない .ガーナ よって男性に限定されたままとなっている.ほとん では,男性の土地所有規模は平均(中位数)で女性 どのアフリカ諸国とアジア諸国の約半数では,慣習 「一部の女性労働者は自分が仕事でいくらもらっているかさえ知らない.夫が代わりに現金化しているか 」 らだ. ヨルダン川西岸・ガザの成人男性 84 世界開発報告 2012 法と成文法では土地所有に関して女性は不利になっ に増加していた.この多くは高所得国で,親しい ている.アフリカの一部地域における慣習法による パートナーの暴力に関する法律がある途上国はほと と,女性は夫の許可がないと土地の権利を取得する んどが東南アジアとラテンアメリカの諸国である. 31 ことができない .女性が土地アクセスを取得す  にもかかわらず,多くの諸国では,女性に対する るのに最も一般的な方法は婚姻である.しかし,通 暴力は許容できる,あるいは正当化できると考えら 常は夫が土地を所有しており,妻はその使用権を れている.平均すると,データのある諸国の女性 もっているだけである.女性の財産権がようやく改 で,妻が殴られるのは仕方がないと考えられてい 善し始めた諸国もなかにはあるが,法律を制定する る割合は,夫に反抗した場合 29%,性交渉を拒否 だけでは観察される慣行を変えるには不十分である した場合 25%,食べ物を焦がした場合 21%などと ことが判明している. なっている.ギニアでは,女性の 60%は配偶者と の性交の拒否で殴られるのは仕方がないとしてい 家庭内暴力に弱い る.エチオピアでは,81%の女性が人口保健調査  女性に対する肉体的・性的・心理的な暴力は世界 で列挙されている理由で,夫が妻を殴るのは正当化 中に蔓延している.基本的人権や根本的な自由の甚 されると答えている.61%は食べ物を焦がしたこ だしい侵害となる暴力は,いろいろな形を取り得る. と,59%は夫に反抗したことについて,夫が暴力 国際的な統計は必ずしも比較可能ではないものの, . を振るのは適切であるとしている(図 2.10) 議論の余地がない証拠が示すところによると,女性  家庭内暴力の広がりは先進国か途上国かを問わず 32 に対する暴力は世界的な懸念事項となっている . 大きな相違がある.過去 12 カ月間における親しい  赤の他人ではなく,親しいパートナーや知人によ パートナーによる肉体的あるいは性的な暴行は,エ る暴力を受けるリスクについては,女性の場合は男 チオピア(ブタジュラ地区)とペルー(クスコ市) 性よりもずっと高い.例えば,南アフリカのデータ では最も蔓延しており,それぞれ 54%,34%の女 によると,15 歳未満の女子に対する強姦について 性が巻き込まれている.その反対の極には日本(横 最も一般的な犯罪者は教師である(全体の 3 分の 浜市)とセルビア(ベオグラード市)があり,4% 1)33.南アフリカでは女性の殺人事件の約半分は の水準を下回っている(図 2.11).多くの場合,暴 親しいパートナーが犯人である.親しいパートナー 力は重大なものになっている.ペルー(クスコ市) の暴力に伴う死亡率は女性 10 万人当たり 8.8 人と では,女性のほぼ 50%は一生涯に重大な肉体的な 34 なっている .全体として,女性は男性と比べて, 暴力の被害者になっている 36.また,たとえ発生 親しいパートナーによって殺される,重傷を負わさ 率は低くても,発生件数そのものは許しがたいほど れる,そして性的暴行の犠牲者にされる可能性が高 多い.ポーランドでは家庭内暴力の発生率は 3%に 35 いといえる . すぎなくても,それは年に 53 万 4,000 人,すなわ  親しいパートナーによる暴力を規制する法律を制 ち 1 日当たり 1,463 人の女性が新たな被害者になっ 定した国の数が増加している.2006 年現在で家庭 ているということを意味している 37. 内暴力に対処する固有の法制が整備されている国は  家庭内暴力はとどまるところを知らないが,発生 60 カ国で――何らかの法的規制がある国は 89 カ 率は社会経済的な収奪とともに上昇する傾向があ 国に達している――,03 年の 45 カ国からは大幅 る.すべての経済グループにまたがって報告されて 「女は今や問題の1つとなっていると思う.お金をもっていて,もうわれわれの言うことを聞かない.そ こで,引き続き家庭の主人でいたいのなら懲らしめが必要だ.女は殴るに限る,子供が邪魔するような 」 ら,奴らも殴るべきだ.そうすれば男は家族全員が恐れて尊敬されるようになるだろう. タンザニアの成人男性 CHAPTER2 ジェンダー不平等の執拗さ 85 はいるが,最も一般的なのは経済 図 2.10 妻を殴ることは正当化される,というのが多くの諸国における受け止め方 的に恵まれない女性である.女性 ウクライナ の社会的・経済的な地位が低いこ ペルー ドミニカ共和国 とが,家庭内暴力の原因でもあり フィリピン ホンジュラス 結果でもある.暴力的な行動を倍 ボリビア モルドバ 加する多数の要因には,低教育水 アルメニア スワジランド 準,経済的強迫,薬物乱用などが ネパール マラウイ インドネシア 含まれる. バングラデシュ ハイチ  男性が被害者になることもあ マダガスカル ナミビア る.男性に対する家庭内暴力は, ガーナ トルコ 発生件数,性格,深刻さなどの点 ナイジェリア ベニン で,女性に対するものよりも限定 インド ジンバブエ 的である.アメリカの全国犯罪被 ルワンダ レソト 害調査によると,2009 年につい アゼルバイジャン エジプト て親しいパートナーの暴力は女性 ケニア モザンビーク 1,000 人当たり 4.1 人――絶対数 カメルーン リベリア では 50 万人強――,男性につい ザンビア モロッコ て は 同 0.9 人 ―― 同 11 万 7,000 シエラレオネ コンゴ共和国(ブラザビル) ニジェール 人――に影響していた.したがっ ウガンダ ブルキナファソ て,男性が家庭内暴力の被害者 マリ コンゴ民主共和国 になる確率は女性の 5 分 1 とい エチオピア ギニア うことである.イギリスのイン 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 グランド・ウェールズ地方では, 同意している女性の割合(%) –  2004  2009 年における家庭内暴 殴打の論拠 力では 5 件のうち約 2 件が男性 夫に逆らう 食べ物を焦がす 性交を拒否する 1 つ以上につき同意した回答者 の被害者であった.イギリス犯罪 調査のデータに基づくと,男性の 出所:人口・保健調査に基づく WDR 2012 チームの試算. 4.0%(女性は 4.8%)が過去 12 カ月間にパートナーによる虐待を報告しており,男 ダ,スウェーデンに加えて,サハラ以南アフリカの 38 性被害者は 60 万人に達するものと推定される . 7 カ国が含まれる.ルワンダの国会は 56%が女性 で,これは 1995 年の 17%からは大幅な上昇であ 政治職に就く可能性が低い る.東アジアは進展が最も小さく,特に太平洋島嶼  女性が政治職に立候補することを法的に制限して 国では女性議員が少ない. いる国はほとんどないものの,議席をもっている  政治的な発言権は男女とも投票によって行使する 女性の数は非常に少なく,過去 15 年間における進 可能性が同じくらい高いが,男性の方が政治力を発 展も遅い.1995 年について国会の下院(あるいは 揮することに優れているとしばしば考えられてい 単一の議院)に占める女性議員のシェアは約 10% る.過去数年間にわたる世界価値観調査における回 であったが,2009 年になっても 17%にとどまっ 答が示唆しているところによれば,政治における 39 ている .アフリカとほとんどのアジアでは,女 ジェンダー平等に関しては過去 10 年間に総じて肯 性議員数は 2 倍以上になった.また,過去 15 年 定的な進展があった(図 2.12).しかし,人々は男 間に女性議員が 30%以上を占める国の数が 5 カ国 性の方が女性よりも「良い」政治的・経済的な指導 から 23 カ国に増加した.これにはアルゼンチン, 者であると引き続き考えている. キューバ,フィンランド,アイスランド,オラン  また,男の方が女よりも選挙に勝利する公算が大 86 世界開発報告 2012 図 2.11 家庭内暴力の通報割合については国別に大きなバラツ 図 2.12 男性は政治指導者として女性より優れていると キがある 考えられている ブラジル(ペルナンブコ) グルジア タイ(ナーコンサワン) インド タンザニア(ウンベヤ) ロシア 農村部 バングラデシュ(マトラブ) トルコ ペルー(クスコ) ルーマニア エチオピア(ブタジラ) ウクライナ サモア 中国 日本(横浜) 南アフリカ セルビア(ベオグラード) チリ ブラジル(サンパウロ) ブルガリア 都市部 ナミビア(ウィントフーク) 日本 タイ(バンコク) ポーランド タンザニア(ダル・エス・サラーム) ブラジル ペルー(リマ) スロベニア バングラデシュ(ダッカ) メキシコ 0 10 20 30 40 50 60 70 ウルグアイ 肉体的あるいは性的な暴力の ペルー 被害にあった女性の割合(%) スウェーデン 生涯 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90100 過去 12 カ月間 男性の方が女性よりも良い 政治指導者になると考えている 出所:World Health Organization 2005. 人々の割合(%) 最高の値は過去,最低の値は現在 最高の値は現在,最低の値は過去 きい.女性候補が男性候補に勝って議席を獲得する 確率は 0.87(1 は選挙に勝利する男女の確率が同 出所:World Values Surveys, waves 1994–97 and 2005–07 に基 等であることを意味する)と推定されているが,国 づく WDR 2012 チームの試算 別に大きな相違がある.アフリカでは女性が男性に 勝つ可能性が高い.それとは対照的に,アジアや高 所得国では女性の勝機は大幅に低下する.女性が選 上昇は,特に西ヨーロッパ,南部アフリカ,ラテン 挙で勝利する確率が最低なのは,太平洋諸島やラテ アメリカ・カリブを中心に,世界中どの地域でも見 ンアメリカ・カリブである 40. 受けられる.大臣職に占める女性の割合が 20%を  割当制や留保制は国会における女性の代表を増や 超えていた国は 1998 年に 13 カ国にすぎなかった すのに役立っている.国会における代表に関して が,10 年後には 63 カ国に増加した.チリ,フィ は 90 カ国に何らかの割当の仕組みがあり,それに ンランド,フランス,グレナダ,ノルウェー,南ア は議席の留保,候補者割当にかかわる法制,政党 フリカ,スペイン,スウェーデン,スイスでは,閣 による自主的な割当などがある.16 カ国――すべ 僚の 40%以上が女性である 41. てアフリカとアジア――が女性向けに議席を明示的 に留保している.フィンランドなど他の諸国では 長い期間にわたってほとんど変化がない.例えば, 逆戻り 1991 年にフィンランドの選挙で選ばれた新人議員  本章で検討したジェンダー不平等は,本報告書の の 38.5%は女性であったが,このシェアは 2011 これからの分析とそれを緩和するために提案してい 年までに 42.5%へとわずかに上昇しただけである. る政策の背骨を形成する.分析のために通常は明確  女性の内閣――構造や規模は問わない――への な経路があるジェンダー関係のこのような側面とは 参加も遅れている.大臣職に占める女性の割合は 対照的に,対外ショックのジェンダー別のインパク 2008 年に平均 17%であったが,これは 1998 年 ト――福祉と安寧に大きな損失をもたらす――は, からは 8%ポイントの上昇である.女性閣僚の割合 多くの固有な状況に依存する.最悪の影響を受ける CHAPTER2 ジェンダー不平等の執拗さ 87 ボックス 2.1 気候変動には多くの側面がある  気候変動の結果として,旱魃や洪水がより頻繁になり, 女性や子供は災害の最中に死亡する確率が高い.アジア津 降雨も変動性が大きくなる.世界人口のなかで気候ショッ 波による最大の死亡者数は女性と 15 歳未満の子供であっ クや自然災害の影響を受ける人々の割合が上昇している. た.それとは対照的に,1998 年のハリケーン・ミッチに これはそのような事象が頻繁になっていることと,災害警 よる直接的な結果として,ニカラグアで亡くなった人々の 戒区域に住む人が増加していることが原因である.寒い日 54%は男性であった. や夜,霜が少なくなる一方で,熱波の頻度と強度が増加し  不規則な気象は農業生産性にも悪影響を及ぼし,家計の ている.洪水と旱魃はともに頻発するようになっている. 所得や食料を削減することがある.食料の入手可能性の減 大陸の内部は総降水量の増加にもかかわらず,完全に乾き 少は家族全員に等しく影響するとは限らない.また,気温 切ってしまう傾向にある.地球全体でみると,降水は増え や降水の変動は熱性ストレスや寒冷ストレスを決定付ける ているが,気温の上昇によって水循環が速まっており,サ だけでなく,病原体媒介疾病,水媒介疾病,あるいは水洗 ヘルや地中海の地域はより厳しい旱魃をより頻繁に経験す で防除可能な疾病の蔓延に影響する可能性があろう. るようになっている.大雨や洪水はより一般的になってお  男性と女性とでは気候変動の影響が異なるかもしれな り,嵐や熱帯性低気圧の強度が増大しているとの証拠もあ い.インド農村部とメキシコの家計に基づくデータはまさ る. にそれを示唆しているが,インパクトとその方向は気候  女性は自然災害に対してより脆弱なようであるが,これ ショックと環境の状況に依存する.メキシコのある場所で はインパクトが貧困と強く結び付いているからだ.141 カ は,農村部の女子はプラスの降水ショックあるいはマイナ 国に関する最近の研究は,自然災害の死亡者は女性の方が スの気温ショックを受けて,年齢の割に身長が低いという 男性よりも多いことを示している.女性の社会経済的な地 割合が男子よりも増えている.しかし,標高が高い地域の 位が高い地域では,自然災害の最中とその後で死亡する男 女子は温暖な気候の結果として,年齢の割に身長が高いと 女はほぼ同数であるが,それが低いところでは,死亡者数 いう割合が男子よりも高くなっている. . は男性よりも女性の方が多い(あるいは若死にしている) 出所:Jacoby, Safir, and Skoufias 2011; Neumayer and Plümper 2007; Skoufias, Vinha, and Conroy 2011; World Bank 2009. のが男性や少年の場合もあれば,女性や少女の場合 高かったのは,窮屈な衣服と幼児のケアを原因に移 もある.ショックのインパクトが一時的なものにと 動性が限定されていたことと関係がある 43.第 2 どまり,ショックに伴って福祉の大きな損失が生じ に,そのような失敗,制約,規範はショックに対す ても,その後にはキャッチアップが引き続くことが る脆弱性に関して,ジェンダー格差を増幅すること 42 ある .しかし,一部のショックは,特に(重要 もあれば弱めることもある.例えば,女性が所有し な生後 3 年間のように)人生の初期に襲った場合 コントロールしている資産が男性よりも少ない傾向 には,不可逆的な結果をもたらすことがある.ここ にあるという事実を考えると,女性は予想される所 で概略を示したのは対外ショックとそのインパクト 得ショックに脆弱であろう. にかかわる多面的な性格である.メッセージは次の  ショックが大幅な逆戻りをもたらし得る 2 つの 通りである.ショックに対する保護策がどんな開発 分野は,教育・健康の成果と経済機会へのアクセス 政策においても重要な一部になっているべきであ であろう. り,ジェンダー別のレンズが適切かどうかは状況次 第である. 教育と健康における逆戻り  原因が金融,政治,あるいは自然のどれであるか  幼い女子の健康は負の所得ショックの結果として悪 にかかわらず(ボックス 2.1),ショックや災害は くなる傾向にある.懐胎期あるいは乳幼児期における 男性と女性とでは影響の仕方が異なる.それはそれ 栄養不足や受療行動の低下は,後の生活で死亡率や罹 ぞれの社会的な役割や地位によって決まる.第1 病率の上昇につながる.インドでは,マクロ経済危機 に,市場の失敗,制度的な制約,社会規範がショッ の結果として女子の死亡率は大幅に上昇しているが, クのインパクトについて,ジェンダー格差を増幅す 男子はうまく保護されているようである 44.発展途 ることもあれば弱めることもある.このような結 上 59 カ国の研究でも同様の結果が示唆されている. 末をもたらすメカニズムは複合的である.例えば, 経済的な下降期における幼児死亡率の平均上昇幅 2004 年のインド洋の津波における女性の死亡率が は,女子については出生 1,000 人当たり 7.4 人と, 88 世界開発報告 2012 男子の 1.5 人の 5 倍に達している 45.栄養が適切 応して就学率は男女とも低下したが,男子の低下率 であれば,もっと年長の子供や成人はショック期の . の方が大きかった(第 3 章) 栄養不足を通常は補うことができる.  所得ショックが資質蓄積に及ぼす影響はまちまち  これとは対照的に,経済危機がそれに関連した危 , である.場合によっては(主として中・高所得国) 険な行動,罹病率,死亡率などに及ぼすインパクト 所得ショックは実際に少年少女を学校に連れ戻すこ は,男子の方がずっと大きいという傾向がみられ とがある.危機の時期には賃金削減や労働市場の状 る.東ヨーロッパにおける突然の政治的・経済的な 況悪化を受けて学校教育の機会費用が低下するため, 転換は,男性の余命に関して急激かつ予想外の低下 家計としては子供たちの就学を継続させようとする を誘発した.特にロシアを中心とするこの地域の多 意欲が湧く.特に将来的に賃金労働に従事する公算 数の諸国では,健康悪化という負荷のうち大きな が高い男子にはこれが当てはまる.ニカラグアでは, シェアを占めたのは男性である.男性の若年死亡率 –  2000  02 年にコーヒー価格が突然下落した際,農村 は圧倒的に未婚者に集中している.女性は平均的に 部の男子就学率は 15%ポイント上昇した 53.アル 男性よりも 9 年間は長生きする――この格差は他 –  ゼンチンでは,1998  2002 年の深刻な金融危機の の地域よりも大きい.男性の死亡率上昇は喫煙や 際,雇用率の悪化を受けて,やはり男子の就学率が 46 飲酒を含め,危険な行動の増加にも一因がある . 上昇した 54. ロシアでは,最近の調査が示すところによると,女 性はわずか 1%なのに男性は 19%強が「問題飲酒 経済機会アクセスの逆戻り 47 者」に分類されていた .経済活動の欠如(一家  ショックは男女両方にとって経済機会の逆戻りを の大黒柱という男としての伝統的な役割に対して挑 もたらすことがある.女性は男性よりも不安定な職 戦的な状態)に伴うストレスや,家庭ないし社会の に就き,小規模で資本金の少ない企業を運営し,脆 支援ネットワークが弱体なことが男性の早死に関係 弱な経済活動に従事する傾向が強く,経済ショック 48 がある . から影響を受ける可能性が高いことを示唆してい  家庭が所得ショックを経験すると,女子の教育が る.しかし,証拠はこの通念を支持していない. 男子よりも犠牲になる国もあれば,そうでない国も  最近の金融危機では,ジェンダー別に共通する ある.トルコの女子は男子に比べて,家計予算の減 パターンはなく,女性が男性よりも大きな影響を 49 少に応じて退学率が上昇した .また,インドネ 受けたという証拠はみられない 55.中所得 41 カ シアでは,収穫減少に対応して女子は退学させられ 国の証拠が示すところでは,主たるインパクトは る割合が高くなった 50.対外ショックに対する脆 仕事の数ではなく,雇用の質(労働時間や賃金な 弱性は特に重要である.というのは,学校教育の中 ど)にかかわるものであった 56.ジェンダー別の 断は退学のリスクを高め,学業の遅れは総合的な学 インパクトは国別に著しく異なり,単純な一般化 習到達度に恒久的なインパクトを及ぼすからであ は許されない 57. –  る.エチオピアでは,前期に就学していた 7  14 歳  危機の時期には労働市場への参入(労働者の追 の生徒が当期にも就学を継続する確率は,女子の場 加)と退出(労働者の勤労意欲喪失)が同時に機能 合は 69%ポイント,男子の場合は 21%ポイント高 している可能性があり,さまざまな女性グループに くなっている 51. 対する影響はそれぞれ異なる.低所得世帯の女性は  しかし,男子も経済ショックの時期には,通常は 典型的には労働力に加わるが,富裕層出身の若い教 家庭の財政を助けるために退学させられることがあ 育水準の高い女性は,経済危機に対応して労働市場 る.低スキル職の機会が入手可能な場合,男子は女 から退出する.女性の労働力参加に対するインパク 子よりも減少した家計の所得を補完すべく活用され トは,経済のなかで非公式,あるいは無規制な部門 る可能性が大きい.エチオピアの男子は学校教育に で最も大きく,小規模な商売や家事サービスを中心 関して総じて十分なアクセスを享受はしているが, に追加的な女性を容易に吸収する 58. 経済危機の際には働くために最初に退学させられて  労働市場に対するインパクトとそのジェンダー別 52 いる .また,コートジボワールでは,旱魃に対 格差の方向性は,マクロ経済ショックの性格に依存 CHAPTER2 ジェンダー不平等の執拗さ 89 が低いが,それは保健サービスの利用度が低いこ 「モルドバの金融情勢は非常に悪い.私の考え とや子供の栄養不良の明確な預言となっている 60. では,女は家庭にとどまって,家族の面倒を また,発育不全の子供――生後 24 カ月未満―― 」 みるべきだ. は,精神運動能力が劣り,認知成績が低い.栄養 モルドバの成人男性 不良の子供たちは男女とも就学する,ないし遅れ てでも就学する可能性が低く,収奪サイクルを繰 り返すことになる 61. する.最近の金融危機で最初の犠牲者は軽工業など  少女・女性の不健康は次世代に波及する.母親の 輸出指向型産業であった.この分野では女性の参加 現在および子供時代の健康は次世代の健康にとって 率が高かったため,マイナスの第 1 次雇用効果は 重要である.妊産婦の健康――身長の低さ,体格指 女性にとって強力なものがあった.しかし,建設業 数の低さ,貧血症でなどで測定――は,子供の出生 など危機の時期に縮小した部門や,観光業など対外 時の大きさ,生存,発育に影響する.したがって, 需要に依存する産業などでは,女性の参加率が低 少女・女性の健康に対する過少投資は,児童死亡率 かったので,第 2 次効果を考慮に入れると,女性 や生存者の不健康という世代間サイクルの一因とな に対する総合的な雇用効果は男性と比べて緩和され る 62.未熟児として生まれ成長が遅れている女子 た.ラトビア,モルドバ,モンテネグロ,ウクライ は,遺伝的な潜在力で予想される身長に達しないだ ナでは,男性は女性よりも失職する傾向が強かっ ろう.子宮と卵巣が小さいことを考えると,彼らの た.それら諸国において危機で最も影響を受けた部 子孫の出生体重は少なく,収奪の新たな世代間サイ 門――建設業や製造業など――は,男性支配の傾向 クルを引き起こす可能性を示唆している 63. にあったからである.  財産所有権やコントロールの欠如は女性のエー  同様に,1997 年のアジア危機の際,最大の被害 ジェンシーにとって重要である.家計の意思決定, を受けたのは女性ではなかった.東アジア諸国の女 資本へのアクセス,経済的な独立性全体にかかわ 性は,危機に対してより強靭な企業に雇用されてい る発言権と交渉力を高めるのに,資産は重要な要 る割合が極めて高かった 59.しかし,ジェンダー 素である.土地を所有していないネパールの女性 別の所得格差は特に大企業では拡大した.換言する は,それを所有している人との比較で,家計の意 と,女性の雇用に対する正味のインパクトは小さ 思決定において発言権が弱い 64.コロンビアでは, かったが,それは所得の大幅な削減という犠牲を 財産ないし社会資産が欠如している女性は,働く 伴っていたということである. 権利について交渉し,自分の所得をコントロール し,自由に移動し,家庭内暴力に抗議することが 制約を受ける 65.インドのケララ州では,不動産 「執拗な」は「より執拗な」になる に関して女性が独立的な所有権をもったことが,  第 1 章で変化は相互に結び付いているというこ 他の要因の影響を超えて,長期にわたる肉体的・ とを指摘した.ジェンダー平等のある側面における 心理的な家庭内暴力に関して明確な先行指標と 進展は,他の側面に対する影響を増幅する.同じこ なった.女性が家と土地の両方を所有している場 とは変化の欠如に関しても当てはまる.ある側面に 合,殴られる確率はどちらも所有していない場合 おける進展の欠如は他の側面におけるマイナス効果 に比べて 20 分の 1 となったのである 66. を倍加する.したがって,ジェンダー格差は,互い  現金雇用は女性のエンパワメントと強い関係があ に強め合っている多数の層にわたる制約により束縛 る.現金所得の稼ぎがないというのは,意思決定― されて持続する.このような行き詰まりを打開する ―自分の健康ケア,家計にとって大規模な支出,日 ためには,執拗な不平等の多種多様な網に対して措 常的なニーズのための購入,家族や友人の訪問など 置を取ることが必要になる. に関する――をしなくていい既婚女性と最も一般的  途上国では母親の教育水準は幼児死亡率と逆相 に相関関係にある.家計の富の増加自体は,ほとん 関関係にある.モザンビークでは母親の教育水準 どの諸国では女性が独りで,あるいは共同で意思決 90 世界開発報告 2012 定を行う可能性を必ずしも一貫して引き上げるもの そも男子の方が多い.OECD 諸国のなかで,高等教 67 ではない . 育の学問分野でジェンダー格差が最小なのはトルコ  男女がさまざまな職業や部門に集中するのは,教 であり,逆にそれが最大なのはクロアチア,フィン 育システムのなかで早期に始まっている.女性の参 ランド,日本,リトアニアである.ノルウェーと 加は高等教育への進学が増加するのに伴って,あら デンマークでは,高等教育機関の就学者の 3 分の ゆる研究分野にまたがって増えているが,専門分野 2 は女子であるが,科学では女子学生はわずか 3 分 別の格差は残っている.男子中心が最も顕著なの の 1 にとどまっている 68. は,工学,製造,建築である.世界のおよそ 3 分  これらはジェンダー平等のある側面にかかわる制 の 2 の諸国では男子は科学で女性を凌駕している. 約が,どのように他の側面おける進展を阻害して, しかし,世界の 10 分の 9 においては,教育,人文 ジェンダー不平等を持続可能なものにしてしまうか 科学・芸術,社会科学,経営,法律,保健・福祉で を示す多数の事例のうち,ほんのいくつかにすぎな は,女子が男子を上回っている. い.このような執拗さは大きな経済的・社会的・政  専門別の教育格差は経済開発に伴って解消するも 治的なコストをもたらしている.本報告書のパート のではない――それどころか拡大しているようであ Ⅱでは,このような執拗なジェンダー不平等の基盤 る.カンボジア,ラオス,モロッコ,ナミビアは, を分析し,それを家計,市場,公式・非公式な制度 学問分野でジェンダー別の隔離が最も小さい諸国で の間の相互作用のなかに位置付けてみたい. ある.ただし,高等教育の学位を取得するのはそも 注 1. UNESCO 2010. 28. Banerjee and Duflo 2007. 2. Yuki 他 2011. 29. Nyamu-Musembi 2002. 3. UNESCO Institute for Statistics 2010. 30. Deere and Doss 2006. 4. Berry 1977; Högberg and Wall 1986. 31. Katz and Chamorro 2003. 5. USAID 2006. 32. 加えて,長期的なデータが欠如しているため,トレン 6. Lewis and Lockheed 2006. ドが時とともにどのように変化したかの分析が阻害さ れる. 7. Chioda, Garcia-Verdú, and Muñoz Boudet 2011. 33. Jewkes 他 2002. 8. Hannum and Wang 2010. 34. Abrahams 他 2009. 9. Hannum 2005. 35. Reed 他 2010. 10. Perkins 他 2004. 36. United Nations Department of Economic and 11. Vincent-Lancrin 2008. Social Affairs 2010. 12. Jha and Kelleher 2006. 37. UN DESA 2010. 13. 第 3 章の技術的補遺を参照. 38. Home Office British Government 2009. 14. Sen 1999. 39. UN DESA 2010. 15. AbouZahr 2003. 40. 同上. 16. WHO 他 2010. 41. 同上. 17. 同上. 42. Dercon 2011. 18. 女子の出生が報告されていないと推定は影響を受け 43. Nishikiori 他 2006. るだろう . 44. Bhalotra 2010. 19. Jha 他 2006. 45. Baird, Friedman, and Schady 2007. 20. Guilmoto 2009. 46. World Bank 2007. 21. Abrevaya 2009; Almond, Edlund, and Milligan 2009; Dubuc and Coleman 2007. 47. Bobrova 他 2010. 22. Chung and Das Gupta 2007. 48. Doyal 2000. 23. Bosch and Maloney 2010; Gong and van Soest 49. Tansel 2002. 2002. 50. Cameron and Worswick 2001. 24. Beneria 2001. 51. Mani, Hoddinott, and Strauss 2010. 25. Bruhn 2009; Mead and Liedholm 1998. 52. Rose and Al-Samarrai 2001. 26. Chioda, Garcia-Verdú, and Muñoz Boudet 2011. 53. Maluccio 2005. 27. UN DESA 2010. 54. López Bóo 2010. CHAPTER2 ジェンダー不平等の執拗さ 91 55. Habib 他 2010. 62. Bhalotra and Rawlings 2011. 56. Khanna, Newhouse, and Paci 2010. 63. Ibañez 他 2000. 57. Cho and Newhouse 2011; Turk and Mason 2009. 64. Allendorf 2007. 58. Sabarwal, Sinha, and Buvinic 2010. 65. Friedemann-Sánchez 2006. 59. Hallward-Driemeier, Rijkers, and Waxman 2010. 66. Agarwal and Panda 2007. 60. Lindelow 2008. 67. Kishor and Subaiya 2008. 61. Naudeau 他 2011; Victora 他 2008. 68. UNESCO 2009. 参考文献 「処理済み」(processed)という用語は,非公式に複製されていることを意味しており,図書館では一般には入 手できない可能性がある. 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Vincent-Lancrin, Stéphan. 2008. “The Reversal of Gen- der Inequalities in Higher Education: An On-going 94 スプレッド 1 女性のエンパワメントへの道:すべての道はローマに通じるのか?  何が女性に力を与えるのか? 19 カ国の女性約 あるいは両親の支持を失えば,倒れる(力を失う) 2,000 人との面談が示すところによれば,それはエ ことがある」(ブルキナファソ).「もしも子供が 3 ンパワーされたと感じる複合的な諸要因に依存して 人いるのに夫が亡くなれば,単独の所得では不十分 1 いる .インドのブバネーシュワル市で,力があっ だろう」(ペルー).「夫が妻と別れる形での離婚は て自由であるということの意味を,説明するように (ポーランド) 妻にとっては夫の死よりも悪い」 . 求められた女性の主な答えは次の通りであった.す  女性のエンパワメントへの道は要因のさまざまな 「家を独立的に管理する自信の増加」 なわち, ,「隣 組み合わせによって決定される.そのような道を追 人やコミュニティの人々とのコミュニケーションの 跡するために,各国の女性に対して自分のコミュニ 増加」,「外出して,買う物の調査,購入,電気代や ティから 100 人の代表的な女性を,仮説的な「力 水道代の支払いなど,家庭の他の仕事ができる能 と自由の梯子」のさまざまな段の上に置くように要 力」,「家の内外における金融取引に関するコント 請した.最大の力をもつ女性を最上段に,それが ロール力の増加」,「外出について夫の支持や許可が 最小の人を最下段に置いてもらった.さらに,こ 得られる」など.同様に,ブータンのパロ県農村部 れらの女性たちが 10 年前には梯子のどこにいたか の女性は力の増加を,教育,配偶者や家族の支持, を反映するランキング付けを繰り返してもらった. 勤勉などに関連付けた.また,学校に行かなかった 79%の場合,女性は過去 10 年間で劇的な上方移動 女性のための教育プログラムや,選挙で選ばれた女 を感じていた(同じ時期における力の増大に関す 性のコミュニティ指導者――「女性が深く考えるの る男性の考え方をほぼ 20%ポイントも上回ってい を手助けしてくれた」――や,女性の中小企業オー た).しかし,必ずしもすべての場合にそうだった ナー――繁栄し,コミュニティで女性の自信を盛り わけではない.南アフリカ農村部のあるコミュニ 上げてくれた――などのお手本も指摘した. ティでは,1 人の女性が, 女性の 80%は梯子の最  最も頻繁に取り上げられる女性の特性は,所得を 下段にとどまっていると説明してくれた.すなわ 生み出して管理することに関係していた.次いで教 ち,「ここでは私たち全員が苦闘していて,ほとん 育を修得することが僅差で続き,その後には,個人 ど力をもっていない.また,お金がないので,自分 的な特徴や社会的ネットワークへのアクセスが続い . たちがしたいことを自由にできるわけではない」 ている(スプレッド図 1.1). 貯金がなく,基本的な物資を買うのさえ困難だと  1 つの要因だけではエンパワメントの変化を説明 語った.ある女性は次のように述べていた.「女性 できないことも明確であろう.力の水準がさまざま が一体いくら貯金できるというのか? わずかでも に異なる多くの女性に何かある 1 つの要因が存在 お金があれば食べ物に使ってしまっている.ほとん していて,女性の人生で作用している他の要因に依 どお金がなく,いつもお腹を空かしていたら,貯蓄 存しながら,力の得失を決定さえしている可能性が のことなど考えるだけでも大変だ.というのは,少 ある.例えば,婚姻や家族にかかわる条件の変化 しでもお金があれば,それで少なくともその日は 「夫が妻を支持する」場合(パプアニューギニ は, 子供たちを幸せにしたいからだ」.また,女性たち ア),あるいは「妻が事業を経営し教育活動に従事 は HIV/ エイズで苦しんでいる驚くほど大勢の人々 するのを許容する,善良で理解のある夫」がいれば にも言及した.ある力のない女性は(エイズのせい (タンザニア),一部の女性にとってはチャンスをも で)「しばしば気分がすぐれず,体調は不安定で, たらす.また,離婚でさえ肯定的であり得る.ヨル 医療施設を利用することさえできない.というの ダン川西岸・ガザの女性たちは「離婚は女性を多数 , は,診療所は非常に遠くて,交通費もないし」「夫 の束縛から解放するので,より重要なものとなるだ . も罹病の公算が大きい」 ろう」と考えている.しかし,同じプロセスが逆の  ドミニカ共和国の首都サント・ドミンゴでは,女 効果をもつ場合もある.「女性は夫や子供を失えば, 性たちは「今日,よく勉強してよく働く」という 2 スプレッド 1 女性のエンパワメントへの道:すべての道はローマに通じるのか? 95 つの要因のおかげで,梯子を上に向かって素早く上 スプレッド図 1.1 梯子を上る主要な要因 ることができると答えている.アフガニスタンの ジャバル・サラージでは,女性は 100 人中 60 人 職業や経済面での変化 を最上段の梯子に置いた.これは 10 年前の倍の人 財政管理 数であるが,多種多様な条件の組み合わせが指摘さ 教育及び訓練 れた.「過去には女性は家庭で料理することやかま どを温めることなど,家事だけをしていた.しか 社会的ネットワーク し,今ではガスや電気がある」.「自宅外で仕事を 個人の特性 / 行動 もっている女性もなかにはいるし,ほとんどの女子 婚姻ないし家族の地位の変化 .さらに,女性は「地方の議会な は就学している」 心理的な特徴 どに立候補することで,選挙に参加している」.  それぞれのコミュニティには女性の力の変化を説 婚姻関係 明する独自の物語があったが,多くの要素がどのコ 社会的扶助 ミュニティにも共通していた.女性のエンパワメン 指導力 トを牽引している要因の主な特徴と組み合わせを理 法的活動 解するために,エージェンシーの次元をコミュニ ティの機会構造や全国的人間開発水準と組み合わせ 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90100 2 コミュニティが言及した割合(%) た定性的な比較分析を実施した .変数には以下が 含まれている. 都市部の女性 農村部の女性 • エージェンシーの次元.女性の資産に対するコ 出所:“Defining Gender in the 21st Century: A Multi-Country Assessment” (dataset) に基づく WDR 2012 チームの試算 . ントロール,家族形成に関するコントロール, 家庭内暴力からの自由,物理的な移動性の自 由,社会資本――コミュニティ・ネットワーク 及度が低いことはそれ自体で,すべての諸国の半分 から家族支援や友人まで――の橋渡し. のコミュニティで女性のエンパワメント増加を説明 • コミュニティ環境あるいは機会構造にかかわる するのに十分であった.どちらの要因もそれ自体 固有な特性.非公式制度(ジェンダー規範を順 が,移動性の制限や仕事の欠如などマイナス条件に 守せよという圧力の水準やジェンダー規範にか 対抗できる. かわる賛否両論),公式制度(輸送・学校・保  農村部の女性にとって,社会的ネットワーク―― 健・電気・水などのサービスがコミュニティ コミュニティにおける女性向けの組織やネットワー に存在すること),女性や市場向けの経済機会 ク,コミュニティにおけるそれらの関与,女性指導 (職の入手可能性や当該コミュニティで働いて 者の存在――への参加が重要な要因であった.社 いる女性のシェア). 会的な資本やネットワークの存在感が大きければ, • 人間開発にかかわる一般的な国家的状況.国連 25%のコミュニティでは家庭内暴力に対抗できた. 開発計画の人間開発指数(HDI)の得点で測定. 自分のコミュニティで高水準の家庭内暴力に直面し ても,女性がエンパワーされたと感じることができ  このような要因のさまざまな組み合わせをテスト る唯一の要因は社会資本である.それがなければ, して,各事例において女性のエンパワメントの必要 女性としては家庭内暴力がもっている無力化させる 条件,国や文化を超越した共通の説明要因,女性が 力に対抗するのに,多くの側面でエージェンシー― 直面してきた他の制約や障壁との関係で,力や自由 ―移動の自由,家族形成にかかわるコントロール, の増加を説明するのにそれ自体で十分であった要因 資産のコントロールなど――を増加させなければな を識別した. らない.家庭内暴力の発生率が低ければ,他のエー  国の HDI が高いこと,あるいは家庭内暴力の普 ジェンシー条件のどれかに対する制限も束縛力が小 96 世界開発報告 2012 る女だと思う」と,タンザニアのブコバ市のジョイ スプレッド図 1.2 タンザニアのブコバ(都市部)における 現在と 10 年前の梯子でのシェア スは自分のコミュニティでは女性の生活が繁栄して 100 いることを認めた.さらに次のようの述べている. 90 「確かに,女は常に上に移動している.私は結婚し 80 ていたが,夫には本当に苦労した.彼と別れてか 70 ら,私は自分のことができるようになり,今では非 60 常に元気です.私は自分が欲しいものを手に入れる 50 ことができ,したいことをすることができる.子供 % 40 たちは私が学校に連れて行っている」(スプレッド 30 図 1.2). 20  ブコバの女性にとっては,社会資本が鍵を握る要 10 素であった.同コミュニティには女性を支援する 0 各種団体があり,地方議会の 33%は女性議員であ 現在の女性 10 年前の 現在の男性 10 年前の 女性 男性 る.女性はこのようなネットワークの価値を次のよ うに評価している.「私たちにはこのような自助グ 最上段 中段 最下段 ループがあり,そこに集まって,生活のなかで発生 出所:“Defining Gender in the 21st Century: A Multi-Country Assessment” するたくさんのことについて話をする.家庭のなか (dataset) に基づく WDR 2012 チームの試算 . で自分の邪魔をする男たちにどう対処するか,ある いはどうやって事業運営をするかについて,仲間の さくなるだろう. 女性から助言をもらう」.「適切なグループが見つか  都市部の女性は社会資本と同じくらい,コミュ れば,彼らの言うことを聞いて,立ち上がることが ニティにおける機会の構造――女性にとって仕事 .友人も重要な役割を果たす. できる」 「これは女と の入手可能性とダイナミックな労働市場――に大 して頼りにできる人たちである.アドバイスをくれ きく依存している.事実,両者が組み合わさると, る.自分が属しているグループの一部を形成してい 家族形成に対するコントロール欠如や家庭内暴力 る.夫と喧嘩をした時に,最初にやってきて助けて の頻発は,それほど大きな障害ではなくなる.社 くれるのは彼女たちだ.小さな子供がいれば,いつ 会資本が強固でない場合,地域における機会の構 . でも子供たちの面倒を見てくれる」 造の適切性が高まるが,女性が力の梯子を上って  しかし,社会資本だけでは女性のエンパワメント いけるためには,資産に対するコントロールの増 を増加させるには不十分である.それは機会やサー 加,移動の自由,暴力の脅威からの自由など,他 ビスにかかわる良い構造と組み合わさっている必要 のエージェンシーのプラスの増加とペアになって がある.ブコバの女性はそれにも恵まれていたよう いる必要がある. 「工場に行って掃除,皿洗い,庭掃除など である.  このような多種多様な組み合わせは次のことを示 さまざま仕事をやらせてほしいと頼むこともできる している.すなわち,道はそれぞれ違うかもしれな し,代理で魚を買って工場に運び込むことさえでき いが,なかには女性の利益をより速く,よりうまく .好意的な法律も整備されている. る」 「法律が明確 牽引する組み合わせがある.どの要因であれ,その なので簡単だ.だれも敗北することがない.離婚し 効果は他の要因との並びに依存している――経済機 たければ,財産を分割して,それぞれが別々の道を 会の役割は資産の所有権や社会資本に加えて,各女 . 行くだけである」 性の自由に移動できる能力に依存するだろう.  ブコバの女性はコミュニティの他の女性が力と自  このような道はどのように見えるのだろうか?  由を獲得しようとしているのに,それを阻害してい 2 つのコミュニティから 2 つの事例を紹介しよう. る障壁があることも認識している.「自分で物事が  「力のある女性は『オムカジ』(力のある女)と呼 でき,男性に依存する必要がないことに気付いた瞬 ばれている.ここにいる私たちのほとんどは力のあ 間に,女性は上に向かって動き始める.毎日夫に殴 スプレッド 1 女性のエンパワメントへの道:すべての道はローマに通じるのか? 97 るということである.しかし,ほとんどの女 スプレッド図 1.3 イエメンのダマール(農村部)における 現在と 10 年前の梯子でのシェア 性は適切な同伴者がいないと村の外に出るこ とはできない.「女性はマハラム(男性の法 100 的後見人)と一緒でなければ,村の外へは働 90 .移動性が獲得で きに出ることができない」 80 きれば教育を修了することができるし,中途 70 退学した人も復学することができるだろう. 60 「もし交通手段があれば,私は学習を続けて 50 % 先生になることができる」とは若い女子の意 40 30 見だ.職業面での抱負は移動性の制限と関係 20 「仕事の機会は教員と農業におけ している. 10 る男性の採用を除けば村のなかに限定されて 0 .このようなイエメンの女性は多くの いる」 現在の女性 10 年前の 現在の男性 10 年前の 女性 男性 困難に直面しながらも,それまでの世代との 最上段 中段 最下段 比較では力と自由については改善を感じてい る. 出所:“Defining Gender in the 21st Century: A Multi-Country Assessment” (dataset) に基づく WDR 2012 チームの試算 . られているのに,まだそこにとどまっている女性を 注 何人か知っている.話をしてみると,結婚していて 1. この研究には以下の 19 カ国が含まれている.アフガ ニスタン,ブータン,ブルキナファソ,ドミニカ共和 別れられないと彼女たちは言う.このような女性た 国,フィジー,インド,インドネシア ,リベリア,モル ちは決して梯子を上ることはできない.いつまでも ドバ,北スーダン,ペルー,パプアニューギニア ,ポー ランド,セルビア ,南アフリカ,タンザニア ,ベトナム, 最下段に止まっているだろう」. ヨルダン川西岸・ ガザ,イエメン.フォーカス ・グルー プには成人男性,成人女性,若年男性,若年女性,  イエメンの農村部ダマル州でも,女性はコミュニ 思春期男子,思春期女子が含まれる.思春期グルー ティのなかで経済への参加率や教育水準が低いにも プの調査は 8 カ国での実施にとどまった.詳細な情 報 や評 価方法に関しては,http://www.worldbank. かかわらず,自分たちは梯子を上っていると感じて org/wdr2012 を参照. いる(スプレッド図 1.3).ブコバの女性と同じく, 2. ファジー質的比較分析.参考文献としては,Ragin (2008) と Ragin (2000) を参照.この手法を使うと, ダマルの女性の道には教育にかかわる若干の向上に ある目的を達成するためのさまざまな方法に関する 加えて,社会資本が――この場合は非公式ネット モデルをテストすることができる. この場合の目的は, 多種多様なコミュニティ・グループの女性が報告して ワークという形で――含まれている.すべては機会 いるエンパワメントの水準である.定性的なデータ の性格――個人の発言,考え方,経験などにかかわ があまりに少なく,移動性に関して何らかの制限が る原文や代表例など――を考えて,国やコミュニティ あるという環境でのことになる.自分たちの幸福を にまたがる比較は,各モデルに適合する事例の程度 (メンバーシップ度)を測定することによって行われ 男たちと比較したファティマとガルヤは「男は教育 ている. を修了することができる.男は外出して学ぶことが できるが,女は暇な時にお互いを訪ねておしゃべり 参考文献 するだけだ」と述べている.彼らのコミュニティで Ragin, Charles. 2000. Fuzzy Set Social Sci- は,力の強い女性には大勢の知人や友人がいるが, ence. Chicago: Chicago University Press. 力がほとんどない女性というのは「ダマールの女性 ———. 2008. Redesigning Social Inquiry: Fuzzy Sets and Beyond. Chicago: Chicago University Press. たちに対してほとんど影響力をもっていない」.  教育を受けることともっと自由に移動できるこ と,という要因が最も切実であるとダマールの女性 は考えている.自由というのは村のなかを動き回れ PART Ⅱ 進展の原動力となってきたものは何か? 妨げているものは何か? PART Ⅱ 進展の原動力となってきたものは何か? 妨げているものは何か? 99  『世界開発報告 2012』の Part Ⅱでは,なぜジェン 用と,最終的にはジェンダーの結果に影響を与えるの ダー平等が進展してきた分野とそうでない分野がある かが把握できる. のかを明らかにしていく.この目的のため,世帯,市 場,(公式・非公式の)制度およびそれらの相互作用 世帯がどのように意思決定しているのかを理解する が,経済発展とジェンダー平等の関係を具現化し,最  家庭は,子どもをいつ何人産むか,娘と息子の教育 終的にジェンダーの結果を決定することを示す概念的 と保健にいくらかけるか,(家の内外の)さまざまな 枠組みを用いる(概観ボックス 4 を参照).この枠組 仕事をどう配分するかなど,ジェンダーの結果を決め みは,世界銀行などでこれまでに行われた研究に基づ る事柄について意思決定を行う.これらの選択は,選 くものである. 好,意思決定力(または交渉力),家庭内のメンバー  具体的には人的資本の形成(第 3 章),エージェン のインセンティブと制約に基づいて行われる. シー(第 4 章),経済機会へのアクセス(第 5 章)に  選好は生得的なものもあれば,性役割,社会規範, おけるジェンダー差の漸進的変化と,グローバル化が 社会的ネットワーク(“ 非公式の制度 ” のなかに分類) ジェンダー平等に与える影響(第 6 章)について分析 によって形成されるものもある.世帯内で皆が共有す を行うため,この枠組みを適用する. る選好もあれば,各自で異なるものもあるかもしれな  この経験的アプローチは,分析と政策選択の関連 い.例えば,年金や条件付き現金給付などの移転プロ 性を確立するのに役立つ.それによって具体的なジェ グラムに関する評価によれば,世帯内の男女どちらに ンダー格差を縮小するための政策設計には,世帯で, 給付するかで支出の決定が変わる.このことは男女で 市場の機能と構造で,公式・非公式の制度で,また 選好が異なることを示唆している 1. それらの相互作用で一体何が起きているのかを考慮  交渉力を左右するのは,2 種類の――経済的および する必要があることが浮き彫りになる.これらの側 社会的な――個人の力の源である.経済的交渉力は, 面が考慮されないと,政策介入しても意図した成果 主にその人がコントロールしている財産や資産と,家 が表れないばかりか,予想に反した結果を招く可能 計全体への経済的寄与度によって決まり,社会的交渉 性さえあるのだ. 力は主に公式・非公式の制度に起因する.例えば,女 性が自分の時間を家の内外のさまざまな活動にどう割 枠組みについて り振るかを決定する能力は,資産の所有権がなければ  この枠組みは 3 つの前提に基づいている.第 1 の前 (経済的交渉力が低ければ),または女性が家の外で働 提は,世帯は構成員全員が共通の選好と目的をもつ単 くことを社会が厳しく禁じていれば(社会的交渉力が 一の塊ではなく,構成員それぞれが独自の選好,ニー ,弱まる可能性がある. 低ければ) ズ,目的をもち,家庭内の意思決定への影響力も異な  さらに経済的交渉力も社会的交渉力も,その人が家 るということである.第 2 の前提は,市場と制度は経 庭の外にある機会を利用する能力や,家庭を去る(“ 離 済発展とジェンダー平等の関係に,直接的にも間接的 婚 ”)コストを負担する能力に影響される.例えば離 (家庭での意思決定に影響を及ぼすことを通して)に 婚の際の子どもの保護権が主に子どもの面倒を見る も影響を与えるということである.第 3 は,市場と制 ための経済力に基づく場合には,女性は交渉手段とし 度は静態的なものではなく,社会(社会は,個人と世 て離婚を口にしたくても,その能力(と意欲)は自ら 帯の総計であると考えられる)によって形作られ,条 の所得と資産によって限られたものとなるかもしれな 件づけられているということだ.政策介入や,例えば い. グローバル化による外生的変化に呼応して,市場と制  最後に,インセンティブと制約は市場と制度から大 度(社会規範と価値観を含む)を漸進的に変化させて きな影響を受ける.市場は,世帯の意思決定と投資の いるのは,まさにこのプロセスなのである. 収益率を決定することから,限られた資源を相反する  上記 3 つの前提に基づいたこの枠組みによって,世 目的に割り振るインセンティブを与える.例えば,労 帯はどのように意思決定を行うのか,それらは市場や 働市場における教育の収益率――雇用機会の増加と賃 制度とどのように作用し合ってジェンダーの結果を決 金上昇のどちらにおいても――は,娘または息子の就 定するのか,そして政策はどのようにこれらの相互作 学の決定に影響を与えるだろう.同様に女性の賃金水 100 世界開発報告 2012 準も,女性が家事労働と家族の世話を犠牲にしても市  所得の増加,人的資本投資の収益率の上昇,サービ 場の仕事にさらに時間を費やすかどうか,という決定 スへのアクセスの改善が組み合わさると,女児や女性 に影響を与えるだろう. の人的資本に投資しようというインセンティブが強ま  制約は,市場と制度およびそれらの相互作用から生 り,投資への制約が減る.すると教育到達度と保健の じる.例えば労働市場で女性差別があれば,女性が就 結果(平均余命など)でのジェンダー格差の縮小につ ける仕事の数や種類は制限される.また,経済領域に ながりやすくなる. 女性の役割に関する伝統的規範があると,差別が強化  しかし市場と制度は,経済成長が多くのジェンダー されるかもしれない.同様に,適当な学校が近所にあ の結果に与える影響を弱める可能性もある.つまり, れば,このことは娘(と息子)を就学させる決定に影 経済が発展しても一部のジェンダーバイアス(偏向) 響を与えることだろう. はなくならない――part Ⅰで論じた “ 執拗な領域 ”― ―のである.男女の従事する仕事にしつこく差が持続 経済発展とジェンダー平等の関係を理解する しているのが,分かりやすい例である.こうした差異  ジェンダー平等と経済発展の関係(所得増加とサー は,市場と制度が作用し男女を経済空間内の異なる領 ビス提供の改善の組み合わせ)は,双方向の関係であ 域に導く,世間一般のしきたりに深く根づいている. る.いくつかの例(前述)の枠組みでは,世帯,市場, 市場と制度の障壁(性役割と規範に関連する障壁を含 制度とそれらの相互作用がこの関係を具現化し,最終 む)が互いに強化しあい,女性が経済機会へアクセス 的にジェンダーの結果を決定している. するインセンティブと制約に対し,経済発展が及ぼす  まず,経済発展がジェンダー平等に与える影響から 影響力を弱めてしまうのである. 見ていこう.所得が増加しサービス提供が改善する  ジェンダー平等が経済発展に与える影響とは何だろ と,市場と制度を介して家庭の意思決定に影響を与え, うか? 本報告書で議論するように,ジェンダー平等 ジェンダー平等が強まると考えられる.教育と保健が が進むと主に 3 つのルートを通して経済効率が強化さ 良い例である. れ,経済効率以外の経済発展の結果も向上する.3 つ のルートとは,既存の資源の有効活用に伴う生産性の • 第 1 に,全体の経済成長が家計所得の増加に転化 向上,次世代のための結果の改善,代表をより反映し されると,それに応じて教育と一部の保健サービ た制度と政策立案である.これらの足並みが揃うと, スへのアクセスに関する制約が弱まる.そのため, 世帯,市場,制度はこうした好ましいつながりを支持 これらのサービスの提供やアクセスに対して,息 し強化する.例えば,教育や保健のシステムがうまく 子と娘,男女のどちらかを選択しなければならな 機能し手頃な値段で利用できると――特に,距離と移 い家庭は減るだろう. 動性が要因となっている場合と,民間部門が公共部門 • 第 2 に,市場構造の変化と,成長に通常伴う兆候 のサービス提供の格差を埋めるために介入できる場合 (製造やサービス活動の拡大など)や賃金労働市 は――女性の人的資本へのアクセスに対する制約が緩 場への女性の参加を促す兆候は,こうした格差を 和される.同様に,もし労働市場がうまく機能すれば, 縮小するように働く.女子教育の価値が上がり, 教育水準の高い女性は労働力に加わりその才能とスキ 女性が家庭の意思決定で力をもつようになるから ルを提供するだろう. である.  しかし場合によっては,市場と制度の制約が家庭の • 第 3 に,経済が発展すると保健や教育など公共 内外での非効率なジェンダーの結果につながり,経済 サービスの提供が向上する.またこうした制度の 発展が妨げられることもある.例えば,アフリカの女 改善により,世帯が負担する公共サービスのコス 性農業者は土地所有権が不安定であることから,化学 トが減る.それによって,世帯――男性も女性も 肥料や他の生産用投入資源の使用が最適な水準まで届 ――はサービスをもっと利用できるようになり, かず,休耕期間も最適な期間より短いため,農業の生 それに付随してジェンダーの結果も改善する. 産性が減ってしまう.また,職務分離によって女性が 経営的地位から締め出されると,経営陣の平均能力が 下がり,技術の採用や革新が十分に進まない. PART Ⅱ 進展の原動力となってきたものは何か? 妨げているものは何か? 101 図 P.2.1 ジェンダーの結果は,世帯,市場,制度の相互作用から生じる 政 ェンダー平等 策  ジ 制度 非公式 経済機会 世帯 市場 (家計) エージェ 人的資本の ンシー 形成 公式 制度 成 長 出所:世界開発報告 2012 チーム  われわれはこうした状況を,市場の失敗と制度の制 することもできる.この場合,市場と制度の制約は, くさび 約と呼ぶ.市場の失敗は,差別,情報の問題,締結で ひとつまたは複数の歯車を回転させないようにする楔 きる契約の種類や性質の制限などから生じる 2.一方, と考えることができ,その結果,経済成長とジェン 制度の制約は,法的規制,慣習法による慣例,社会規 ダー平等との双方向の関係を,どちらの向きも弱めて 範,また,権利の決定と行使を阻止する公式・非公式 しまう.本報告書全体を通して,市場,公式及び非公 の制度の取り決めから生じる.これらの市場の失敗と 式の制度が,経済発展とジェンダー平等の関係を強化 制度の制約を是正すると,生産性が相当向上し,広範 するよう働く場合は「緑色」で,両者の関係を制約す な経済的利益を生む可能性がある.また,競争が激化 る場合には「赤色」で表現する. し統合が進む世界では,効率的な資源の活用を適度に  この枠組みはある時点の状況を表す図であるが,経 改善するだけでも国家の競争力と成長に多大な影響を 時的変化を見るのに使うこともできる.世帯における 与えることだろう. 配分の決定とエージェンシーの形成は,現在の結果が  こうした考え方を,連動する歯車の枠組み図で示し 将来の意思決定と収益率に影響を与えるという動態的 た.歯車は,市場,公式・非公式の制度,世帯を表し 状況で行われる.例えば,個人が働いて収入を得ると ている(図 P2.1).経済が成長すると市場と制度を表 資産を蓄積でき,それが交渉力に影響を与え,将来の す歯車が回転し,世帯の歯車を動かす.これらの歯車 世帯での配分の決定に影響を与える.その上,資産へ の連動によって,最終的にジェンダーの結果を表す歯 のアクセスが向上すれば,世帯や世帯内の個人は高い 車の回転が引き起こされ,ジェンダー平等が強化され 収益率を求めたり生産性を上げたりできる――最終的 るのである.また,逆向きの動き――つまり,ジェン に所得の増加につながる――かもしれない. ダー平等の歯車が,世帯,市場,制度を表す歯車を動  個人や世帯には市場や社会制度の機能を変える力は かし,最終的に経済成長を生むという動き――を想定 ほとんどないが,社会(個人と世帯の総計)にはある. 102 世界開発報告 2012 集団行動や政策介入の結果として,またグローバル化 取り払ってきた.しかし,既存の制約から特に大きな による他の社会の規範や価値観,慣行への接触に起因 影響を受けている女性たちは,公的措置なしでは置き する外生的変化の結果として,市場と制度を漸進的に 去りにされてしまう恐れがある(第 6 章). 変化させているのは,まさにこの力なのである.  第 3 章から第 6 章までの分析をもとに,公的措置 が必要な 4 つの優先分野が明らかになっている.①人 的資本のジェンダー格差縮小,②経済機会への女性の 枠組みを適用する アクセスの推進,③発言力とエージェンシーにおける  Part Ⅱの 4 つの章はこの枠組みを用いて,「人的資 ジェンダー格差縮小,④ジェンダー不平等の世代間再 本形成,エージェンシー,経済機会へのアクセスにお 生産の制限の 4 つである.これらの分野では進展が遅 けるジェンダー格差が,縮小しているところとそうで く,経済発展だけでは反応が鈍いことが多い. ないところがあるのはなぜなのか?」「グローバル化  したがって,これらの分野での政策の役割は 2 つあ はジェンダー平等にどんな影響を与えてきたのか?」 る.ジェンダー平等と経済成長の関係を強化すること というふたつの疑問に取り組む.その答えから,政策 と,進展を止めてしまう市場の失敗と制度の制約に対 の役割とそれによって起こりうる影響が示される. 処することである.先の枠組み図では,前者は市場と  この枠組みを適用することで,重要な洞察が得られ 制度の歯車の回転をスムーズにするよう潤滑油を差す る.進展は,市場と制度の力が世帯と社会に向かって, ことに,後者は一部の歯車の動きを止めている楔を取 男女に等しく投資する――女児や女性がこれまでおそ り除くことに該当する.公的措置の論理的根拠と役割 らく被っていた不利益をなくそうとする――強いイン についてのより詳細な議論は,Part Ⅲで行う. センティブを与える方向へと足並みを揃えた分野で, 最も速く起こるのである.このような場合,複数の介 入点――市場,公式の制度,非公式の制度――を通し 注 て力が作用を及ぼし,進展が促されてきた.このプロ 1. Duflo 2003; Lundberg, Pollak, and Wales 1997. 2. 情報の問題には情報の非対称性と外部性がある.情報の セスはジェンダー格差が急速に縮小してきた教育で見 非対称性があると,市場参加者は必要な情報を集められ られるように(第 3 章),経済成長が広範に持続して ないか,情報へのアクセスがあっても差別的である.外 部性は,一部の市場参加者の行動が同じ (または別の) いる場所で起きている. 市場参加者の結果に影響を与えるという意味である.  対照的に,市場と制度の制約が人的資本形成,エー ジェンシー,経済機会へのアクセスにおける男女間の 参考文献 不平等を強化する場合には,たとえ経済が成長してい Duflo, Esther. 2003. “Grandmothers and Granddaughters: ても,進展は止まる.3 つの領域――市場,公式の制 Old-Age Pensions and Intrahousehold Allocation in South Africa.” World Bank Economic Review 17 (1): 1–25. 度,非公式の制度――(経済発展の影響は,これらを Lundberg, Shelly J., Robert A. Pollak, and Terence J. Wales. 通して世帯に伝わる)のうちのひとつで特に強力な制 1997. “Do Husbands and Wives Pool Their Resources? Evidence from the United Kingdom Child Ben- 約があったり,3 つの領域の制約が強化しあったりし efit.” Journal of Human Resources 32 (3): 463–80. ていると,こうした状況が起こりうる.前者の場合, 政策措置への介入点はひとつしかなく,ジェンダーの 結果を改善させるには最も拘束力のある制約を排除し なければならない(第 3 章で,女性の超過死亡に関す .後者の場合は,ジェンダー平等にお る議論で示す) ける改善には,複数の領域への協調した介入が必要だ ろう(第 4 章と第 5 章で,女性のエージェンシーと経 済機会へのアクセスに関する議論で示す).  こうした背景のもとで,グローバル化は市場と制度 を介して,人的資本,エージェンシー,経済機会への アクセスにおけるジェンダー平等を阻む一部の制約を 104 3 世界開発報告 2012 CHAPTER 教育と健康:ジェンダー差はどこに 真の問題があるのか?  健康と教育への投資――人的資本の資質――は,男女の能力を形作り,その潜在能 力を社会でフルに発揮できるようにするものである.そのような投資をうまく組み合 わせれば,人はもっと長寿で健康的で生産的な人生を送ることができる.男性と女性 の体系的な投資の差は,その根本原因とは関係なく,幼児期や成人期,また次世代の 個人の結果に悪影響を及ぼす.こうした差異を是正しないと社会にとって大きなコス トとなる.  ジェンダー格差は人的資本の資質のどこで発生するのだろうか? それらはどのよ うに減り,どんなときに存続するのだろうか? 「教育参加」と「男性と女性の死亡 リスク」を世界規模で比較すると,ひとつの障壁を撤廃すれば済むところでは――世 帯でも市場でも制度でも――飛躍的な進展がみられる.  全教育レベルで,女性の参加が増えていることを考えてみよう.初等教育レベルの 就学率では格差が縮まり,中等及び高等教育レベルでは新たな格差が――男子に対 して――出現しつつある.大学就学率は過去 30 年間で,女子が 7 倍,男子が 4 倍に なった.世帯,市場,制度のいずれかに的を絞った介入が,どれも就学率を上昇さ せたからである.これら 3 つで促進要因が揃うと変化は加速した.反対に,これら 3 つにいずれも変化がなければ,進展は見られなかった.教育参加における女子の不 利益をさらに減らすには,進歩の促進要因がすべて欠けている「極めて不利な人々」 に,正確に焦点を合わせることが必要である.  概して,世帯,市場,制度にある複合的な障壁を一気に撤廃する必要がある場合, または進歩への効果的な入口がひとつしかない場合は,進展が遅れる.それぞれ順番 に考えてみよう.  女子は,全教育レベルで男子と同等(または,それ以上)に教育に参加している が,女子が選択するコースは男子とは著しく異なり,国の貧富による差はない.男子 は今も工学を勉強し,女子は教師になる方法を学んでいるのだ.これは教育制度の問 題でもあるが,こうしたパターンを強化しているのは,世帯や市場でのジェンダー規 範である.ジェンダー規範のなかには,家庭での家族の世話(圧倒的に女性が提供) や,女性が選択する職種と関係するものもある.また,世帯形成や出産に対する雇用 主の姿勢が“執拗に”継続していることとも関係しているにちがいない.さまざまな 学習分野に男女を等しく参加させるには,世帯,市場,制度で同時に変化が起きる必 要がある.だが今のところそうしたことは起きていない.  入口が世帯,市場,制度のいずれかひとつしかない場合も,事態は行き詰る可能性 CHAPTER3 教育と健康:ジェンダー差はどこに真の問題があるのか? 105 がある.  女性が保健面で不利な状況にあることが,このカ 「……息子が欲しいわ.みんなそう思っているわよ. テゴリーに入る.出生時に行方不明の女児(男児と 息子は働いて稼いでくれるけど,娘は結婚させな 」 きゃならないもの.  比べ,数が足りない女児)と出生後の女性の超過死 亡(居住国の全死亡率を考慮した上で,高所得国に インド農村部の思春期の少女たち 住んでいれば前年に死亡しなかったであろう女性・ 少女)について考えてみよう. 「義理の両親が子どもの数を決めます.第 1 子が女  出生時に行方不明の女児および出生後の女性の超 なら,男が生まれるまでもっと産めと言われるで .  しょう」 過死亡を合わせると,世界全体で年間 600 万人に 上り,そのうち 390 万人は 60 歳未満である.600 インド都市部の若い女性 万人のうち,1 / 5 は誕生に至らず,1 / 10 は幼児 期に,1 / 5 は生殖可能年齢期に,2 / 5 はそれ以上 の年齢で死亡する.若くして亡くなる人ほど,命を 以南アフリカの一部では,HIV /エイズのリスクが 落とさなければ生存期間が長かったと考えられるこ 問題に輪をかけている.しかし,公衆衛生や出産支 とから,彼女たちは世界全体で失われた女性の生存 援に関する基本的な制度が改善した国では,女性の 年数の大部分を占める. 超過死亡は減少してきた.歴史研究により昔から女  この問題はほとんど改善していない.1990 年 児への差別があった国(バングラデシュ等)でさ 代,行方不明の女児と 60 歳未満の女性の超過死亡 え,公衆衛生策の改善によって男児も女児も生存の は,年間 400 万人だった.2008 年でもその数は 可能性が増し,その効果は女児の方が大きかった 1. 390 万人であり,主な要因はサハラ以南アフリカ  もちろん,女性の超過死亡がすべての国で問題に でほぼ倍増したことである.人口調整後の女性の超 なっているわけではない.ロシア連邦などの体制移 過死亡がいずれの国でも減少しているアジア(バン 行国では,男女双方――特に男性――の死亡リスク グラデシュ,インドネシア,ベトナムでは劇的に減 が上昇している.こうした状況で,これらの国々で 少)とは異なり,サハラ以南アフリカの大半の国 は現在の高所得国に比べ男性の超過死亡が見られ では,21 世紀になってもほとんど変化が見られな る.貧弱な制度に起因する女性の死亡リスクとは異 かった.そして HIV /エイズの蔓延が極めて深刻 なり,男性の超過死亡は喫煙,大量の飲酒,危険な な国々では,事態はさらに悪化した.南アフリカで 活動への従事といった,男性には社会的にある程度 –  は,1990 年には 10  50 歳で(実質)ゼロだった 許容されている行為と結びついていることが多い. 女性の超過死亡数が,2008 年には年間 74,000 人  これらの死亡リスクとその対処法を理解するこ になったのだ. とは,いかなる人間の正義の概念に照らしても極  20 世紀初頭には女性の超過死亡が見られたもの めて重要なことである.女性の超過死亡を解消す の,1950 年までに消滅したヨーロッパと比較する るには,制度の変化が必要である.出生時に行方 と,今日のパターンには,出生前の露骨なジェン 不明の女児と男性の超過死亡を解消するには,社 ダー差別と,出生後の HIV /エイズの負担を抱え 会規範や世帯のふるまい――どちらも理解するこ た貧弱な制度が結合しているとみられる.中国とイ とや対処方法が非常に難しい――を深く掘り下げ ンドでは,露骨な差別がある上,超音波技術の普及 によって家族が胎児の性別を決められるようになっ たため,年間 130 万人の女児が誕生に至っていな い.男児の選好を引き起こす非公式の制度が主要な 「教育を受けた女性は,ただおとなしく男の人に養っ てもらうのを待ったりしません.自分の買いたいも ネックとなっているのである. . のを買うのに男性を必要としないのです」  誕生後は,露骨な差別が及ぼす影響は小さくな る.そのかわり,公衆衛生や出産支援の制度が貧弱 南アフリカ都市部の若い女性 で,女児や女性は多大な負担を強いられる.サハラ 106 世界開発報告 2012 ることになる. ウェーデンでは 11,400 人に 1 人である.本章で示 すとおり,妊産婦死亡と生殖可能年齢期の女性の超 過死亡は密接に関連している.しかし,高い妊産婦 人的資本形成の重要性 死亡率は,教育投資と女性の社会参加力にも影響を  教育と保健への投資は,個人――男性であれ女性 及ぼしている.分娩時の死亡リスクが減ると,教育 であれ――の能力に多大な影響を及ぼし,彼らが社 投資が増える(女子に対してより多く増える)ので 会のなかできちんと機能し,持てる力を発揮できる ある 9.スリランカでは妊産婦死亡率の減少によっ ようにするものである.男児にとっても女児にとっ て,女性の識字率が 1%上昇した 10.また,妊産 ても,幼少期の保健への投資は一生を通じて結果に 婦死亡率が減ると妊産婦罹病率も減る(1920 年代 影響を及ぼす.出生時の低体重や幼少期の罹患は, のアメリカでは,6 人に 1 人の女性が長期間,出産 認知発達や学業成績,思春期の学習と関連がある. に伴う疾病や障害を患っていた)ことから,出産の 不健康な子どもほど,不健康な大人になるリスクが 状況が改善すると,既婚女性の労働参加率が上昇す 上昇する 2.成人期に健康状態が良くないと,今度 るのである 11. はそれが経済状態に影響する.健康上の理由から労  第 3 に,男子に偏った出生時性別比を招いてい 働力に加われず,労働時間が短くなって収入が下が る露骨な差別は,社会に長期にわたる影響を及ぼす 3 るからである . 可能性がある,ということが挙げられる.女児より  同様に,第 5 章で示すとおり,教育への投資は, も男児の出生数が多ければ,いずれ多くの男性は伴 女性がより多くの賃金を稼いだり,生産性の高い農 侶を見つけられない事態になる.最近の研究によれ 場や企業を所有し,経営したりする力を決定する. ば,そうした「結婚難」が中国とインドでは実際に 教育の差は,成人期の賃金や収入の差の原因として 既に起きている 12. かなりの割合を占めることが多いのだ.高所得国で  こうした基本テーマ――女子教育,幼児期の健康 も低所得国でも,教育のジェンダーでの差は,生産 状態の改善,出産リスクの低減,歪んだ出生時性別 性や賃金のジェンダー格差を生む大きな要因となっ 比への対処(最後のふたつは,女性の超過死亡と出 ている. 生時に行方不明の女児につながる)――は,本章内  女性に対する保健と教育の投資は,3 つの意味 でこの後,一貫して登場する.全体としての焦点は で特別でもある.第 1 に,教育水準の高い女性は, ふたつあり,ひとつは収入増に伴い解消されるとみ 母親の役割のなかでレベルの高い教育から受けた恩 られる問題と,今後も“執拗に”残るであろう問題 恵を子どもへ伝える.母親の教育水準が高い子ども とを区分すること,もうひとつは本報告書の枠組み ほど,乳児期に死亡する可能性が低く,出生時の体 ――世帯,市場,制度の相互作用――を通して,ど 4 重が重く,予防接種を受ける可能性が高い .アメ こでどうすれば政策が功を奏するのかを理解するこ リカでは,母親の教育が子どもの健康につながる とである. 道筋として,出生児数の減少,産前ケアの利用の 増加,喫煙率の減少などがあることが証拠から伺 える 5.台湾では,1968 年の教育改革に関連した 教育 学校教育の拡大によって,生産児 1,000 人につき  21 世紀に入って 10 年余りが経過した今,世界 ほぼ1人の命が救われ,乳児死亡率はおよそ 11% 中の女子教育の状況を楽観視する理由はたくさんあ 6 減少した .パキスタンでは,母親の教育年数が 1 る.進歩は目覚ましく,20 世紀に見られた著しい 年伸びただけで,子どもの家庭での勉強時間が 1 格差の多くは縮小してきた.現在,世界中の少年少 7 時間増え,試験の成績が向上した . 女が初等及び中等教育に等しく参加している.高等  第 2 に,女性は妊娠と出産期間に特有のリスク 教育では,女子に有利なはっきりしたバイアスが出 にさらされるということである.例えばアフガニ 現しつつある――男子に比べ女子の就学率が急速に スタンでは 11 人に 1 人,アンゴラでは 29 人に 1 伸びているのである. 8 人の女性が,分娩時に命を落とす .しかし,ス  こうした前進が可能だったのは,就学率に関して CHAPTER3 教育と健康:ジェンダー差はどこに真の問題があるのか? 107 る.現在,小学校へ通学していない子どものうち 「学校に行くのはよいことよ.女も教育があれ 53%が女子で,ジェンダー不平等は,ベニン,チャ ば男に利用されないでしょ.だから学校に行 ド,ニジェール,トーゴなど,一部のアフリカ諸国 . くのは大事なのよ」 に集中している.しかし,これらの国々でさえかな リベリア都市部の若い女性 りの前進がみられる.サハラ以南アフリカで小学校 に通学する女子の数は,男子 100 人に対し,1999 年の 85 人から 2008 年の 91 人に増えた.  初等~高等教育の就学率の動向から,3 つのパ .第 1 に,初等教育 ターンが読み取れる(図 3.1) は,世帯,市場,制度のどこで発生したものであ には大半の子どもが参加しているが,中等教育の就 れ,「ひとつの障壁」を撤廃するだけで十分だった 学率は非常に低い国から高い国まで大きなばらつき からである.政策はこれら複数の入口のおかげで, がある.ここでもサハラ以南アフリカの一部諸国 男児選好,女子教育の低収益率,貧弱な体制に起因 は,就学率が突出して低い.また高等教育に関して する障害を回避できたのである. は,発展途上国では就学率が低いのが普通である.  しかし楽観論も,以下の 3 つの理由から控え目 したがって中等(および高等)教育の就学率を,国 にしておこう.第 1 に,国によっては,また同じ によっては男女とも上げる必要がある.第 2 に, 国内でも集団によっては,困難な状況に陥ると,今 中等教育では全体の就学率が低い場合,女子が通学 も女子が最後に就学し最初に退学する.こうした深 していないことが多いが,全体の就学率が高くなる 刻な不利益を被る子どもたちは様々な問題に何度も と,逆に「男子」に不利なバイアスが表れる.中等 直面し,その「最善の」解決策も問題ごとに異な 教育では,女子が不利な国と男子が不利な国はほぼ る.第 2 に,低所得国の子どもは,高所得国の子 同数である.第 3 に,高等教育では男子よりも女 どもと比べてはるかに学習が足りない.この“貧弱 子の就学率が高く,全体の就学率が上昇するにつれ な学習”は男女を問わず悪影響を及ぼしジェンダー その差は開く.1970 年から 2008 年の間に,高等 の差は小さい.グローバル化が進行する世界では, 教育の女子学生数は 1,080 万人から 8,090 万人へ スキルの乏しさはすべての子どもの将来の結果に甚 と 7 倍に増えたが,男子は 4 倍増だった. だしい悪影響を及ぼす.  これらの結果は好ましいものだが,それらはジェ  第 3 に,女子と男子は中等及び高等教育で,今 ンダーによる格差しか示していない.他にもこん でも非常に異なる学習分野を選択し続けている.こ な疑問がわく.こうした不平等には,ジェンダー うした教育コースの分岐パターンは国の貧富にかか 以外の側面もあるのだろうか.もしそうだとすれ わらず似ている.このことは,その後の人生での活 ば,就学における不平等の発生に,ジェンダーは, 動の場を平等にするためには,就学率と学習の改善 (例えば)貧困に対してどのくらいの比重を占めて も必要だが,それだけでは不十分であることを示唆 いるのだろうか? 教育システムでの全体の不平 している.男女が選択する学習分野によって,職業 等を 4 つの要素――居住地,親の教育水準,富, の選択肢が決まり,それが生涯賃金に影響を及ぼ ジェンダー――に分解すると,この問いに答えや す.学習コースの分岐に対する取り組みがあまりう すくなる 13. まくいっていないのは,「多くの障壁」を同時に撤  世帯数が同数の富裕層と貧困層が存在し,それぞ 廃する――多様な面に影響を与える複合的な政策を れに男児と女児がいる2つの国があると仮定する. 通して,世帯,市場,制度を同時に変える――必要 A 国では,富裕層の男児と女児の全員と,貧困層の があるからである. 男児と女児が半数ずつ就学している.B 国では,富 裕層および貧困層の男児の全員と,富裕層と貧困層 良い話 の女児が半数ずつ就学している.両国とも教育シス  世界の大半の国では,初等教育でのジェンダー平 テムにおける不平等度は同じだが,そのパターンは 等は達成されており,男女が等しく学校に通ってい 非常に異なっている.両国の不平等の原因を分解し 108 世界開発報告 2012 図 3.1 世界の大半の国々は,初等教育の就学率ではジェンダー平等を達成したが,高等教育の就学率は非常に低く,女性 に有利である 初等教育 中等教育 高等教育 100 100 100 一部のアフリカ諸国は 就学率格差はジェンダー 男性不利 後れを取っている 格差を大きく上回る 80 80 80 女子就学率(ネット、%) 女子就学率(ネット、%) 女性就学率(グロス、%) 60 60 60 40 40 40     20 20 20 就学率は女性 女子不利 女子不利 の方が男性より高い 0 0 0 0 20 40 60 80 100 0 20 40 60 80 100 0 20 40 60 80 100 男子就学率(ネット,%) 男子就学率(ネット,%) 男性就学率(グロス,%) 東アジア・太平洋   ヨーロッパ・中央アジア ラテンアメリカ・カリブ 中東・北アフリカ 南アジア サハラ以南アフリカ 高所得国 出所:World Development Indicators に基づく WDR 2012 チームの試算. 注:上図の 45 度線は就学率に関してジェンダー平等を示す.45 度線の上部にある点は女性の方が男性よりも就学率が高いことを示唆する. てみると,A 国では不平等は貧富の差からのみ生じ, うことになるだろう. B 国ではジェンダーからのみ生じているのである.  「人口保健調査(Demographic and Health Surveys) 」 進展の原因は何か? にでてくる多くの国でこの作業を繰り返すと,大半  本報告書の主要なメッセージは,進展は,ひとつ の国の状況は,B 国ではなく A 国――教育における の障壁の撤廃で事足りる分野で起こっているという 不平等の大半が,貧富の差から生じている国――に ことである.このメッセージに合致し,女子の教育 近いことが分かる(図 3.2).世界の大半では,ジェ 参加を増やすには,①女子に対する教育投資の収益 ンダーよりも貧困が全体的な教育の不平等の原因と 率を向上させるか,②制度の制約をなくすか,③世 なっているのだ.実際,不平等の総計が高い国(恵 帯収入を増やせばよいことが研究から実際に分かっ まれた集団と恵まれない集団で就学率に大きな開き ている(図 3.3).この 3 点が同時に起きたときは がある国)でも,全体の不平等の原因としてジェ 変化が加速した.これを順番に見ていこう. ンダーが占める割合はせいぜい 38%である.一 方,貧困が占める割合は 50%を超えることが多い. ①収益率を変える:1980 年代初頭以降の経験的証 ジェンダー不平等が問題となっており,かつ不平等 拠から,「女子教育の収益率が増えると,女子の学 の総計が高い国はほぼすべてがアフリカにあり,例 校教育への親の投資も増える」ことが明らかになっ 外はインドとトルコだけである. た.これら初期の研究は,女子教育の収益率を増や  教育面での進歩に関するこうした基本的な状況か すような農業技術の変化も,親が娘の学校教育への ら,変化はどの国や地域でも起きていること,また 投資を増やす結果となったことを明らかにした.技 大半の国では,今も残る不平等にはジェンダーより 術の変化を受けて,新しい世代の労働がグローバル も貧困や他の要因(特に居住地が都市部か農村部か 化と教育の収益率とを結びつけたのだ. など)が密接にかかわっていること,が分かる.し  インドではアウトソーシングの増加により,特に たがって,不平等に対して世界が注力すべきは,た 女性に対して新たな労働機会が提供されている.例 いていの状況では,貧困層に向けた富の再配分とい えばある IT 関連サービス(ITES)センターが開設 109   6.7%.上図では,不平等度の原因にジェンダーが占める割合の順で 注:不平等の指標は,状況のどのような組み合わせにおいても同じ平均就学率を確保するために再配分されなければならない全機会の割合を意味す 図 3.2 教育の成果における不平等度が中程度または大きい国の大半では,不平等の原因としてジェンダーが占める割合は コートジボワール(2005年) トルコ(2003年) ベニン(2006年) CHAPTER3 教育と健康:ジェンダー差はどこに真の問題があるのか? チャド(2004年) 人的資本の ニジェール(2006年) 形成 ェンダー平等 インド(2005ー06年) 不平等大 マリ(2006年) 経済機会 ギニア(2005年) シエラレオネ(2009年) セネガル(2008ー09年) エージェ モロッコ(2003ー04年) ンシー  ジ エチオピア(2005年) ブルキナファソ(2003年) ナイジェリア(2008年) リベリア(2009年) マダガスカル(2008ー09年) ネパール(2006年) レソト(2009ー10年) より安定した コンゴ民主共和国(2007年) 世帯: カンボジア(2005年) 所得 エジプト(2008年)  不平等中程度  カメルーン(2004年) モザンビーク(2003年) –2 「大」は 6.5  コロンビア(2005年) ボリビア(2008年) ペルー(2004ー08年) 機会 ・間 : ガーナ(2008年) 費用 接・ 少 直接 の制度 制度 マラウイ(2004年)   .4%, の減 図 3.3 何が就学率の上昇の原因となっているのか? ジンバブエ(2005ー06年) その他の要因 非公式 ベトナム(2002年) 公式 –6 ハイチ(2005ー06年) 「中程度」は 2.3  タンザニア(2007ー08年) アゼルバイジャン(2006年) モルドバ(2005年) ザンビア(2007年) モルディブ(2009年)   .1%, 加 ナミビア(2006ー07年) 市場 率の増 不平等が小さい アルメニア(2005年) 富 20% に満たない. –2 る.不平等度が「小さい」は 0.3  出所:世界開発報告 2012 チーム ウクライナ(2007年) : 益 ヨルダン(2009年) 長 収 ガイアナ(2005年) 成 の アルバニア(2008ー09年) ジェンダー 教育 スワジランド(2006ー07年) コンゴ共和国(ブラザビル2009年) 並び替えている. 策 ドミニカ共和国(2007年) 政 ウガンダ(2009ー10年) ケニア(2008ー09年) 100 80 60 40 20 0 不平等全体に対する寄与率(%) 110 世界開発報告 2012 図 3.4 初等教育の無償化によって,就学率のジェンダー格差が縮小した a. マラウイでは,女の子の就学が増えた b. レソトでは,男の子の就学が増えた 105 210 190 100 小学1年生の就学者数 ジェンダー格差指標 170 95 150 90 130 85 110 初等教育無償化 初等教育無償化 80 90 1990 1993 1996 1999 2002 2005 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 女子 男子 出所:Edstats に基づき世界開発報告 2012 チームが作成. されたことにより,主に英語学校での就学率上昇が だが収益率が低くても,公式の制度の構造を変える 原因となって,初等学校の就学児童数が 5.7%増加 と教育到達度が上昇した.これらの道筋について した 14.この就学率の上昇は男女とも等しく大き は,学校教育の代価――直接的コスト(学費や制服 なもので,非常に局地的な情報市場の変化が教育の ,間接的コスト(通学距離) 代) ,逸失機会による結 収益率に現れたのである. 果(子どもが学校外で稼ぎえた賃金)――の変化を  また,業務プロセス外部委託(BPO)の機会も女 見ることで,おそらく一番うまく説明できる. 15 子教育に影響を及ぼしている .インドでは無作  学費が減ると,家族は子どもによって教育投資 為に選出した複数の村で,主に雇用機会への関心を を差別化する必要がなくなる.例えば,サハラ以 高め情報を増やすことを目的として,女性向けに 南アフリカ全体で導入された初等教育無償化プロ BPO の募集サービスを 3 年間実施した.この介入 グラムによって,初年度,マラウイとウガンダで が村レベルで行われたことを考えると,その効果は は就学率が 68%,ケニアでは 22%上昇した.マ 大きかったことが研究で明らかになった.介入が行 ラウイでは授業料の廃止によって,男子に比べ女 –  われた村では,3 年後,5  15 歳の女子が就学する 子の就学が増え,初等教育に残っていたジェンダー –  確率が 3  5 %上昇し,健康の指標である体格指数 格差が縮小する一因となった(図 3.4).レソトで (BMI)の値も上昇し,賃金労働に就く確率が 10% は,政府が小学 1 年生から順次同様のプログラム 増えたのだ.男子の人的資本投資には変化はなかっ を導入し始め,就学率は,75%跳ね上がった(図 た.この介入によって,世帯の体系(例えば,母親 3.4 を参照)16.マラウイとは対照的に,レソトで の交渉力)や学校の機能・役割も変わらなかった. は従来,女子より男子の方が初等教育を,特に学 市場の収益率に関する情報だけで十分に女子の就学 年が上がるにつれて受けない傾向があった.初等 率が上昇し,結果が改善したのである. 教育の無償化によって,学齢を過ぎた大勢の男子 が教育制度に流れ込んだ. ②制度の制約を変える:もし女子の就学率が収益率  通学距離を減らすのも有効である.パキスタンで の上昇のみに反応するとしたら,進展はもっと遅 は,7 歳になるまでに学校ができていた村で育った かっただろう.収益率は動きが遅いことで知られて 成人女性は,7 歳以降に学校ができた村や,学校が おり,その上昇には長い時間がかかりうるからだ. 一度もできなかった村で育った成人女性よりも,初 CHAPTER3 教育と健康:ジェンダー差はどこに真の問題があるのか? 111 等教育の就学率が高かった 17.無作為の選出によっ 源の安定が,女子の就学を後押ししてきた.世帯収 て学校が作られたアフガニスタンのコミュニティで 入は,子ども――特に女子―の就学率の上昇と関連 は,就学率は男子より女子の方が 15%多く増加し, があり,父親の収入増よりも母親の収入増の方が, 18 男女どちらも 50%を超えた .6 か月後,そのよ 女子の就学への影響が大きい 27.不作などで世帯 うな学校のある村に住む女子のテストの得点は急上 収入が急に下がると,学校教育への投資はすぐに減 昇した. らされる.こうした投資の削減が女子よりも男子に “逸失”児童労働――公式の労  学校教育の代価は, 影響するかどうかは,労働市場の基本的な状況に 働市場で働くにせよ,家庭で雑用をするにせよ―― よって変わってくる. から生じる機会費用を表してもいる.児童の雇用率  コートジボアールでは,1986 年と 1987 年に干 の上昇と就学率の低下には関係があることが多い 19. ばつに襲われた村では,就学率が男子で 14%,女 –  ブラジルの都市部における 14  16 歳の男女の雇用 子で 11%下がった 28.同じ期間,干ばつに襲わ 率は,労働市場の改善とともに上昇し,生徒たちは れなかった村では,就学率は男子で 5%,女子で 地元の労働市況の好転に伴い退学する傾向が強まっ 10%上がった.トルコでは,家計が苦しくなると, 20 た .エチオピアでは,成人の雇用率が 10%上昇 初等・中等教育では男子よりも女子の方が退学する –  すると,10  24 歳の若者が雇用先を見つける可能 可能性が高かった 29.同様の結果は,エチオピア –  性が 10  25%増えた 21.この影響は,就学経験の (1996 年 -2000 年)からインドネシア(1993 年) ない若者の方が強く表れた.概して,男子は農業ま に至る諸国で見られる 30.一方,もっと所得の高 たは他の有給・無給の生産的な仕事に携わる確率が い国では,景気後退によって学齢期の子どもの雇用 高い.つまり,教育の機会費用はたいてい女子より 機会が減少すると,子どもの雇用機会がなくなり, 男子の方が高いため,教育から離脱し家庭外での児 学校教育への投資が後押しされる可能性がある 31. 童労働に従事するのは男子の方が多いという結果に ラテンアメリカ――特にアルゼンチン,メキシコ, 22 つながっているのである . ニカラグア――に特有な結果はすべて,労働市場で  男子の方が公式の労働市場に多く関与していると の雇用機会が減少すると,女子よりも男子の就学率 いうのは,裏を返せば,女子は家庭内労働をより多 が上昇することを示している 32. く負担しているということである.食糧の採集や家  意外でもないだろうが,世帯の収入を増やし景気 族の世話などに関して,家庭は子ども,特に女子に 低迷を乗り切れるようにするプログラムがあれば, 大きく頼っている.マラウイでは,6 歳 -14 歳女子 子どもたちは学校にとどまり続けられる.ひょっと の週当たりの家庭内労働時間は 21 時間だが,男子 すると,この点に関するもっとも説得力のある証拠 のそれは 13.5 時間である.ベニンの農村部で水汲 は,条件付き現金給付――子どもが規定日数以上学 みに費やす時間は,女子は 1 日当たり 1 時間,男 校に出席すれば,家庭に現金が給付される――の研 子は 25 分間である 23.エジプト・アラブ共和国で 究から得られるかもしれない.経済的に苦しい時 は,家庭内労働の確率――上水道,下水道,ゴミ収 に,子どもへの教育投資を守る力を家庭に与えるの 集に世帯がどのくらいアクセスできるかで評価― が,まさにこうした給付プログラムに期待された役 ―が 10%増えると,女子の学校教育の周辺確率が 割のひとつであり,実際の証拠によってこれらに効 6%減る 24.ペルーでは,家庭内への水の供給は女 果があることが分かっている 33. 子の進級に多大な影響を与えるが,男子には無関係 である 25.そしてケニアでは,シミュレーション 悪い話 モデルによって,水源までの距離が 2km 短くなる  大きな進展にもかかわらず,教育でのジェンダー と,全体的な就学率と教育到達度が,女子は男子の 格差は完全には解消していない.世界の多くの地域 26 2 倍増えることが示唆されている . で,女子は初等・中等教育の就学率の点で今もひど く不利であり,低所得国の子どもたちはおしなべ ③世帯の制約を変える:たとえ収益率や制度上の顕 て,学校でほとんど学んでいない.国が豊かになる 著な特徴が変わらなくても,世帯収入の増加や収入 につれて,就学と学習の問題は目につかなくなる 112 世界開発報告 2012 が,男女は今も非常に異なる学習分野を選択してい 人のうち,初等教育修了者はわずか 5 人).学校は る.これらの選択は,彼らが選択する職業,ひいて ほとんどなく,小学 5 年修了率は低く,非就学児 は賃金へと跳ね返ってくる.それぞれを順番に考え 童の方が就学児童の数より多いこともよくあった. ていこう. 就学率は村によって異なり,女児の場合は 10%か ら 60%まで幅があった.通学していない女児の多 初等・中等教育の就学における極めて不利な集団 くは,弟妹の世話や野良仕事をしていた.こうした  特定の地域においては,女性教育の経済的推進要 コミュニティでは多くの人が飢えと栄養不良に苦し 因の欠如が,地域特有の生活環境――例えば治安の んでおり,そのしわ寄せを特に被っていたのが女児 悪さ,まばらな人口,言語の違い――と相まって, だった.食事の順番は最後で,肉などの栄養価の高 ジェンダー格差を引き起こしている.それらは必ず い食物は与えられていなかった 36. しもすべてではないが,多くは女性に不利なもので  トルコでは 2006 年,全く学校に通っていない ある.こうした生活環境はたいてい非常に多様であ –  6  14 歳 の 945,000 人 の う ち,194,000 人 が 学 校 り,土地特有の問題にきめ細かく的を絞ると,政策 に行くお金がないと答え,22,000 人は働かざるを は不利益を被っている集団ごとに異なるものになる えないので勉強をすることができないと答えた.こ だろう.6つの例によって,集団が抱える問題がそ うした子どものなかには季節労働者が数千人いる. れぞれ明らかになる. –  14  15 歳という年齢層――初等教育から中等教育  アフガニスタンとパキスタンは,初等教育レベル へと移行する極めて重要な時期――での就学率は, でさえも女子の就学率が低迷し続けている数少ない 恵まれた集団(都市部の裕福な地域に住む,子ども 2 つの国である.これは家庭が子どもの就学につい の数が少ない家庭)の子どもは 100%なのに,恵 て決定する際に,女児を差別するからだと一般に考 まれない集団(貧困地域に住む,子どもの数が多い えられている.しかし新たな証拠によれば,家庭 家庭)の子どもは 10%だった. は,学校が近所にあれば娘も息子同様に学校に行か  最近,ジャマイカの男子たちは学校の成績が期 せたいと望むが,家から遠いと就学に消極的になる 待される水準に達せず,就学時期を早めたり,中 ようだ.パキスタンでは,通学距離が 0.5km 延び 等・高等教育を増強したりしている.男子の中等 34 ると,女子の就学率が 20%低下した .アフガニ 教育の就学率は低下し,2008 年の中等教育にお スタンでもパキスタンでも,学校の隣に住む家庭で ける男女比率は 1.04 で女子の方が多く,留年の は,女子が通学する可能性は男子と同じである.女 確率は男子が女子の倍に上った.技術・職業関連 子に対する「距離の不利益」のなかには,同じ村内 科目と物理を除くと,カリブ地域中等教育検定試 にある集落の境界をまたぐことに対する安全上の懸 験(Caribbean Secondary Education Certificate 35 念が反映されているものもある .この極めて不 examinations)の成績で女子は男子を上回り,5 科 利な集団については,世帯レベルの本質的な差別に 目以上合格した生徒は女子の 30%に対し男子はわ 取り組むよりも,少女の通学距離の問題を解決する ずか 16%だった 37.最近のプログラムでは,男子 ことの方が,女子の就学にとって大きな見返りがあ の成長・発達における 4 つの重要課題が明確化さ るだろう. れている 38.少年の間に見られる自尊心の低さ,  カンボジア北東部の高地の人々は,遠くて小さな 暴力および規律の欠如,成績向上の足を引っ張る男 村々に分散して生活している.土地へのアクセスの 性特有のアイデンティティ,卒業後の限られた就業 欠如,宗教の抑圧,クメール語(カンボジアの国 機会の 4 つである. 語)の学習と使用の制限がすべて,これらのコミュ  地域別で見ると,サハラ以南アフリカが女子の就 ニティを社会の周辺へと追いやり,事実上,教育へ 学率の低さで突出している.この格差は,男子に対 のアクセスを制限している.先住民のクルン族とタ する女子の初等教育修了比率が 1990 年から 2008 ンプアン族のコミュニティでは 2001 年の段階で, 年の間に 0.78 から 0.91 となって劇的に縮小して 子どもの死亡率が高く(5 歳未満の死亡率は国平均 きているとはいえ,中央および西アフリカでは,女 の 2 倍),識字率は低かった(調査対象の成人 1,970 子は今も極めて不利な状態にあり,男子 10 人に対 CHAPTER3 教育と健康:ジェンダー差はどこに真の問題があるのか? 113 して女子は 8 人しか初等教育を修了していない 39. に進む女子が 30%から 43%に増え,ジャマイカで ブルキナファソを例に取ってみよう.人口の 3/5 は出席日数がひと月当たり 0.5 日増えた 43.ブルキ が 1 日 1 ドル以下で生活し,人口の 4/5 以上が農 ナファソで試験的に実施されている資金転送プログ 村部に住み,多くの人々が野良仕事で最低限の生活 ラムの暫定結果も似たような結果を示している 44. の糧を得て生活しているとみられる.また,新生児 同様に,ブルキナファソやアフガニスタンといった 1,000 人につき 207 人が 5 歳になる前に死亡する. 国での学校建設(ブルキナファソではサテライト 子どもの死亡率は世界第 9 位の高さである.学校 学校,アフガニスタンではコミュニティスクール) 教育については,正味の就学率は男子が 42%,女 は,通学コストの低減に寄与し,やはり女子が学 子が 29%と世界最低水準である.学校が遠く通学 校に通うようになった 45.サハラ以南アフリカで, が困難なだけでなく,通学できるのに学校側に受け 就学児童と非就学児童の特性を比較すると,11 カ いれる余裕がないことも若干あり,自己負担の費用 国でほとんど差は見られない.過去に就学率上昇に 40 が高いことも就学意欲を一層削いでいる . 効果があった政策を行えば,こうした子どもたちを  これら 6 地域の不利な集団が抱える問題は,非 学校に来させることができるだろう 46. 常に異なる.パキスタンとアフガニスタンでは距離  実施する政策がどのくらい的確なものになるか が問題であるし,カンボジアでは経済機会の乏しさ は,その状況や,状況の理解度によって変わる.例 が問題である.さらにトルコでは高コストと低収入 えば,就学を条件に世帯に資金を転送すれば,少女 が,ジャマイカでは暴力と男性特有のアイデンティ たちは学校へ行く.しかしその資金転送の目的が, ティが,ブルキナファソでは物理的なアクセスの悪 単に就学率を上げることだけだとしたら(資金転送 さと国全体を覆う貧困が問題となっている.前進の は,貧困家庭に直接利益を与える),それは非常に ためのひとつの方法は,固有の問題に取り組み,状 コストのかかる手段である.なぜなら,このような 況に則した戦略を立てることだ.アフガニスタンで 追加のインセンティブがなくても子どもを就学させ はコミュニティスクールのおかげで女子の通学距離 ていたであろう家庭にも,資金が転送されるからで が短くなり,これらの学校が作られた村では女子に ある.こうした国の大半では,就学児童が 1 人増 不利だった就学率の格差が解消した 41.トルコで えるごとにかかる資金転送のコストは,その国の 1 は,女子の就学を促す大々的なキャンペーンが実施 人当たりの GDP にほぼ匹敵する.しかし,多くの され,なかには「お父さん,私を学校に行かせて 条件付き現金給付プログラムがどの国でも結果を出 (Father, send me to school)」「少女たちよ,学校へ しているということは,独自の政策設計が困難な場 行け(Girls, off to school)」といった不利な地域に 合には,画一的な“次善”策――家庭への条件付き ターゲットを絞ったキャンペーンもあった.また, 資金転送――が,コストはかかるものの,同じよう ジャマイカでは学校教育に父親を巻き込んで,カリ に奏功する可能性があることを示唆している.教育 キュラムをもっと男子向きに変更し,ブルキナファ 面で極めて不利な集団の問題は,世帯に資金を給付 ソでは学校給食プログラムによって,就学率が男女 すればある程度解決できるだろう――適当な教育施 –  42 とも 5  6%上昇した . 設があれば,の話だが.  しかしこれらの各地域で,学校をもっと建設して 供給を増やしたり,家庭の財政的制約を緩めて就学 少年少女に対する貧弱な学習 需要を増やしたりして,制度や世帯の制約を緩和す  非常に不利な集団の問題以外にも,第 2 の問題 ることも有効である.パキスタン,トルコ,カンボ として,多くの低所得国に共通している貧弱な学習 ジア,ジャマイカには,子ども(女子限定の場合も の問題がある.低所得国の子どもは高所得国の子ど ある)の就学を条件に家庭に現金を給付するプログ もと比べ,学習が足りず学習速度も遅い.ジェン ラムがあり,対象児童の就学率が上昇している.こ ダー差は小さいが(差がある場合は,男子は数学 の上昇幅はかなり大きい.パキスタンでは初等教育 が,女子は読解が得意な傾向がある),ジェンダー の女子で 10%,トルコでは中等教育の女子で 11% . 差よりも国の差の方がはるかに大きい(図 3.5) 上昇したし,カンボジアでは初等教育から中等教育  これらの差がどのくらいあるのか確認するため, 114 世界開発報告 2012 図 3.5 OECD 国際生徒学習到達度調査(PISA)における 2009 年の平均得点によれば,国内のジェンダー差よりも国家 間の差の方が大きい a. 数学的リテラシー b. 読解力 キルギス キルギス パナマ アゼルバイジャン ペルー ペルー カタール パナマ インドネシア カタール チュニジア アルバニア アルバニア カザフスタン コロンビア アルゼンチン ブラジル インドネシア ヨルダン チュニジア アルゼンチン ヨルダン モンテネグロ モンテネグロ カザフスタン ブラジル トリニダード コロンビア メキシコ トリニダード タイ タイ チリ ルーマニア ウルグアイ メキシコ ルーマニア ウルグアイ ブルガリア ブルガリア アゼルバイジャン セルビア セルビア チリ トルコ ロシア イスラエル トルコ クロアチア リトアニア ギリシャ オーストリア ロシア ルクセンブルク リトアニア イスラエル ラトビア クロアチア イタリア スロバキア スペイン チェコ共和国 ポルトガル スペイン アイルランド ギリシャ アメリカ スロベニア ルクセンブルク ラトビア ハンガリー イタリア イギリス マカオ チェコ共和国 ポルトガル スウェーデン ハンガリー ポーランド イギリス オーストリア デンマーク スロバキア フランス フランス アイスランド ノルウェー ドイツ スロベニア スウェーデン デンマーク リヒテンシュタイン アイスランド アメリカ エストニア アイスランド ドイツ ポーランド オーストラリア スイス ベルギー エストニア ニュージーランド ノルウェー マカオ ベルギー オランダ オランダ カナダ オーストラリア 日本 日本 スイス ニュージーランド ヒリテンシュタイン カナダ フィンランド シンガポール 韓国 香港 香港 フィンランド シンガポール 韓国 300 300 400 350 350 450 400 500 450 550 500 550 300 350 300 350 400 400 450 500 450 500 550 550 レベル 1 レベル 2 レベル 3 レベル 4 レベル 1 レベル 2 レベル 3 レベル 4 平均得点 平均得点 300 350 400 450 500 550 男子 300 350 400 450 500 550 女子 出所:Edstats に基づき世界開発報告 2012 チームが作成. 注:最高はレベル6.数学的リテラシーでは,レベル1:身近な状況のなかで明示された問題に答えられる,レベル3:明示された手順を実行でき る,レベル5:複雑な状況を表すモデルを構築して使える.読解力では,レベル1:ごく簡単な文章を読める,レベル4:内容や形式になじみがな くても,長文や複雑な文章を正確に理解することができる,レベル6:多重推論,比較,対照をいずれも詳細かつ正確に行うことができる. CHAPTER3 教育と健康:ジェンダー差はどこに真の問題があるのか? 115 表 3.1 専攻分野のジェンダー間分離:大半の国では,保健・教育分野で女子が多く,工学・科学分野 で男子が多い 国の割合 国の数 専攻分野 女子多数(%) 男子多数(%) ほぼ同数(%) 農業 3 74 22 89 教育 84 6 10 97 工学,製造,建築 0 100 0 97 保健,福祉 82 4 13 97 芸術,人文 55 6 39 96 科学 13 68 20 96 サービス 21 59 21 87 社会科学,ビジネス,法律 23 16 61 97 出所:UNESCO Institute for Statistics のデータに基づく,世界開発報告 2012 チームの試算. –  生の数値を見てみよう.インドでは,10  11 歳の ては生産性と賃金のジェンダー差に変わるからであ 子どものわずか 27%しか,簡単な一節を読んだり, る.職業と職務部門のジェンダー差が,33 カ国の 単純な割り算をしたり,時間を言ったり,金銭を 低・中所得国(データがある 53 カ国中)で観察さ 扱ったりできない.この貧弱な学習の問題はインド –  れる賃金格差の 10  50%を占める.国が豊かにな だけのものではない.ほぼすべての低・中所得国 るにつれて,ジェンダー格差は就学率と学習の格差 で見られる.発展途上国全体では,OECD 国際生徒 から学習分野の分離へと移行していくのかもしれな 学習到達度調査(PISA)が行われた 15 歳の生徒の い.したがって,政策もそれに応じて焦点を移して 21.3%が,数学がレベル1――もっとも基本的な いかなければならないだろう. スキル――に達していなかった.この数値はアルゼ  こうした教育ルートのジェンダー差は早期に表 ンチンでは 64%,ブラジルでは 72.5%,インドネ れ,男女の教育水準が上がるほど大きくなる.中等 シアでは 65%,タイでは 53%だった.グローバル 教育レベルでは,女子は男子よりも一般教育を選 化が進む世界では,成績上位者も重要である.先進 択し,職業教育を選択しない確率が高い.63%の 国ではレベル 5 以上の生徒が 13%強いるが,アル 国(172 カ国中 109 カ国)では,職業教育より一 ゼンチン,ブラジル,インドネシアでは 1%以下で 般教育を受けている女性の割合の方が高い 47.高 ある.貧弱な学習の解決は,男女どちらにとっても 等教育レベルでは,この差が拡大する.世界中どこ 喫緊の課題であることは明らかである. でも,教育と保健では男子よりも女子の方が多く, 社会科学やビジネス,法律ではほぼ男女同数で,工 コース分岐の問題 . 学,製造,建築,科学では女子が少ない(表 3.1)  国が豊かになり,サービス提供のシステムが向上  雇用及び専門職の弾力性に関する研究(REFLEX) していくと,極めて不利な集団の低就学率の問題 でも,よく似たパターンが明らかになっている. と,包括的な影響を及ぼす貧弱な学習の問題は,な 例えばイタリアでは,およそ半数の専攻分野では くなっていくかもしれない.それでもなお女子と男 男女同数だが,残りの半数ではジェンダー差が大 子の土俵は対等ではないだろう.公式の学校教育の きい 48.女子は教育学と人文学の学位を,男子は 一環として男女が選択する学習分野には,大きな埋 工学,建築学,農学,獣医学の学位を取得する傾 めがたい隔たりが今も残っており,その選択のパ 向がある.社会科学,ビジネス,法律,科学,数 ターンは国の貧富を問わず非常によく似ているので 学,保健,社会サービスの卒業生のジェンダー分 ある. 布は,高等教育の卒業生全体のジェンダー分布と  低就学率と貧弱な学習の問題と同様に,こうした 同じである. 選択の問題も重要である.なぜなら第 5 章で示す  学習分野が明確に分岐していくのは,様々な科 とおり,この選択は就職の際のジェンダー差,ひい 目で男女に能力差があるからではない.中等教育レ 116 世界開発報告 2012 ベルでは,平均的な能力や科目関連の能力に大きな ピアでは男子に強いバイアスが見られたが,ペルー ジェンダー差があるという体系的な証拠はないの やベトナムではそうではなかった.「20 歳の頃に, だ.インドネシアの中学校卒業統一テストの得点は, どんな仕事をしていたいか」という質問には,イ 男女ほぼ等しいが,大学教育レベルではインドネシ ンドでは女子の 31%と男子の 11%が「教師」と答 49 アとイタリアでは女性の方が若干上回っている . え,男子の 35%と女子の 9%が「大学生」と答え むしろ問題なのは,姿勢における顕著なジェンダー た.ペルーでは男子の 21%(女子の 5%)が「エ 差と相まった,男性の間に見られる能力による差で ンジニア」と答え,ベトナムでは目立った差はな ある.REFLEX の研究によれば,中学校卒業統一テ かった 51. ストの成績上位者の男子は,他の男子と比べ,男性  問題の一端は,市場と企業にもある.市場と企業 優位の分野を選択する確率が 10%高かったが,テ は,世帯形成や出産をサポートするような新しい柔 ストの得点が選択に与えるこうした影響は,女性優 軟な生産と雇用形態を,他の分野でのジェンダー差 位の分野やジェンダー差がない分野,また女子の が特に小さい国ででさえ,試そうとしてこなかっ 成績上位者の間ではほとんどみられなかった.さ た.もし十分な育児休暇がなく,ガーナのように らに,高校で“要求度の高い(demanding)または (第 5 章の図 5.10 を参照)女性が全家計所得を稼 世評の高い(prestigious)学習プログラムを選択す いでいる場合でも家事の 90%をやらなければなら る”と,男子は男性優位の分野を学ぶ確率が大幅に ないとすれば,教育における固定観念はある程度ま 増えたが,女子はそうならず,また男女どちらも女 でしか減らすことはできない.もし,学校教育が, 性優位の分野を学ぶ可能性が減った.このように, 女子が学ぶべき内容についてのジェンダー規範を強 教育と能力のミスマッチによって各分野で平均の質 化したり,親の野心が子どもの学習量や“大人に が下がると,国家は重いツケを払うことになる. なったら”なりたいものを煽ったりすれば,家族の  コース分岐への的確な対処が困難なのは,世帯, 世話に充当する時間はある程度までしか減らせない 市場,制度に同時に働きかける政策が必要だからで だろう.そして,もし企業が男性優位の職業で女性 ある. の雇用を(または女性優位の職業で男性の雇用を)  問題の一端は,教育システムにある.教育システ 積極的に試そうとしなければ,家事の配分を変えた ムは,少年少女が何を学ぶよう“期待されている” り学習分野を変更したりしても意味がない(それど のかを示している.例えば,オーストラリア,香港 ころか,むしろ害になるかもしれない).学校制度 特別行政区,中国で現在使われている英語の教科書 は,男性が看護師になっても,女性がエンジニアに のなかには,女性の社会的役割を限定して描き,男 なっても構わないのだと伝える必要がある.企業は 性よりも弱く,主に家庭の領域で活動する固定概念 男性看護師や女性のエンジニアを進んで雇用する必 50 的なイメージを示すものがある . 要がある.そして家事は,ジェンダー規範によって  問題の一端は,非公式の制度にもある.非公式の ではなく個人の時間的制約と能力に応じて配分され 制度は,世帯の願望や野心に影響を与える.「若者 る必要がある.これら 3 つが同時に起こらない限 の生態」と銘打った研究プロジェクトでは,エチオ り,変化はなかなか起きないだろう. ピア,インドのアンドラプラデシュ州,ペルー,ベ トナムで,8 歳,12 歳,15 歳の 12,000 人の男女 教育から保健へ を対象に,彼らの教育的野心と非認知スキルを調べ  就学率が劇的に改善しているにもかかわらず,世 た.子どもの教育に対する親の野心は,エチオピア 界中の極めて不利な集団のためにやらなければなら とインドでは 12 歳までは男子に偏り,ペルーとベ ないことがまだたくさん残っている.貧弱な学習は トナムでは女子に偏った.こうした親のバイアスは 男子にも女子にも悪影響を及ぼし,グローバル化す 15 歳までに子どもたちに伝わり,エチオピアとイ る世界への参加に必要な,未来の若者の力を阻害し ンドでは男子に,ベトナムでは女子に明らかに高い ている.グローバル世界では第 6 章で示すように 教育的野心が見られた.またエージェンシーと効力 仕事は「肉体」労働から「頭脳」労働へと変化して 感を評価したところ,15 歳までにインドとエチオ いくのだから.そして世界のどの国でも,女子と男 CHAPTER3 教育と健康:ジェンダー差はどこに真の問題があるのか? 117 子は一貫して異なる学習分野を選択しており,その 物学的にかかりやすいとしたら,一方がもう一方よ 選択が後の人生の職業の選択,ひいては賃金を決定 り深刻な病だと,どう判断できるのだろうか? こ する.実例の枠組みが示すのは,世帯,市場,制度 うした概念的問題に答えを出そうにも,データが乏 のなかの 1 か所での改善が,他の 2 か所のいずれ しい.多くの国では罹病率についての情報は乏し かにある潜在的な障害を回避するのに役立つと進歩 く,質も一様ではないのである.もっと厄介なの が速く,3 つすべてが同時に変わる必要があると, は,情報が十分にある地域はジェンダー差が比較的 進歩が遅かったということである. 小さい地域とぴったり一致しているため,政策の優  一方,保健の問題は教育とは異なる.第 1 に, 先順位付けを誤りかねないということである. 生物学的差異の影響が比較的小さいとみられる教育  本章では世界の状況を示すために,出生時性別比 と違い,男女は本質的に,身体も違えば直面する健 と出生後の死亡率だけに焦点を絞った還元主義的ア 康リスクも異なる.教育の場合,インプットが同じ プローチを採用している.仮にその結果明らかに なら男女ともに同じような成果を上げる可能性があ なったジェンダー格差が小さくても,「保健におけ るが,保健の場合は,男女は生物学的に異なるた るジェンダー格差は小さい」と主張するのは間違い め,インプットが同じでも結果は大きく異なる可能 だろう.それらは罹病率の比較に十分に表れる可能 性がある.保健の問題ではいかなる分析も,こう 性がある.とはいえ,以下の 4 つの所見が死亡率 した基本的な差異を考慮する必要がある.第 2 に, の格差が小さくないことを窺わせている. 保健の結果は,教育の結果とは異なり,一種の不可  第 1 に,歪んだ出生時性別比という一部の国で 逆性を示す.確かに,幼少期における保健と教育へ 見られる有名な問題は,まだ解消されていない. の投資とそのタイミングは,生涯にわたる認知発達 第 2 に,多くの低・中所得国では,男性に対する と学習成果に不可逆的な影響を及ぼす.しかし,あ 女性の死亡率が,先進国と比べて一貫して高い. る日,教師が学校を休んだとしても,それがもたら 第 3 に,先進国ではすべての年齢で女性より男性 す悪影響は,陣痛開始時――妊婦が数分で命にかか の死亡率が高いが,サハラ以南の多くのアフリカ わる事態になりかねないとき――に,医療施設にた 諸国ではパターンが逆で,男女ともに成人全体の またま不在だった医師がもたらす悪影響とは比較に 死亡リスクが増加していることからその差は拡大 ならない.つまり,「公的」サービスを提供する制 しつつある.女性の死亡率の悪化は,HIV /エイ 度が果たす役割は,当然,保健分野ではより大きな ズ感染国で特に顕著だが,HIV /エイズ感染率が ものとなり,保健の問題のなかにはそれらが主要な 低い中央および西アフリカでさえも,死亡リスク ネックとなっているものもある. は悪化しつつある.サハラ以南アフリカは,女性 の相対死亡リスクが悪化している世界で唯一の地 域である.第 4 に,男性の死亡リスクが多くの体 保健 制移行国で上昇しており,それは過去 30 年間にわ  保健におけるジェンダー格差は,病気でも死でも たり悪化してきたとみられる特定の種類の行動と 発生しうる.しかし男女が生物学的に異なるとはい 健康リスクを反映している. え,死亡率と罹病率のジェンダー差を男女の生物学  これらの所見――世帯,市場,制度の枠組みで解 的差異のせいにするのは,概念的危険を伴う.女性 釈される――から,政策的結論が明確に示される. が男性よりも長生きするとしたら(確かに大半の国 ライフサイクルのどこにいるかで,女性と男性が直 52 ではそうである ,それは女性が生物学的に男性 ) 面する不利益の理由が異なる.出生時に行方不明の より強いからだろうか? それとも男性が差別さ 女児の原因は家庭での差別である.この問題に対し れているからだろうか? また,生物学的差異は柔 ては,どんな解決策も家庭での意思決定プロセスを 軟なものかもしれない.つまり生物学的性質は,例 避けては通れない.家庭の意思決定プロセスは,市 えば遺伝による視力の弱さが眼鏡で調整できるよう 場と制度を介して操作することも可能だが,それだ に,簡単に修正できるものなのかもしれない.しか けではうまくいかないだろう.出生後の死亡率が高 し,男女が異なる病気(乳がんや前立腺がん)に生 いのは,あからさまな差別が残る国もあるが,多く 118 世界開発報告 2012 リスクを時系列で比較するとはっき 図 3.6 サハラ以南アフリカの成人と子どもの死亡率 りする. 6,000 –   富裕国では 15  60 歳の 1,000 人 5歳未満の死亡率(生産児1000人当たりの死亡数) のうち,概ね 56 人(アイスランド) 200 成人死亡率(成人 万人当たりの死亡数) 5,000 から 107 人(アメリカ合衆国)の 男女が毎年亡くなっている 53.イ 4,000 150 ンドでは,その数は 213 人に上る 10 (中国は 113 人).中央および西ア 3,000 100 フリカでは,成人の死亡率はさらに 2,000 高く,常に 300 人を超え,400 人 を超える国も多い.ちなみにこの数 50 1,000 字は,紛争国,例えばイラクでは 285 人,アフガニスタンでは 479 0 0 人である.また,HIV /エイズ感染 1975‒70 1980‒84 1985‒89 1990‒94 1995‒99 2000‒04 期間 国では,その数は 481 人(マラウ イ)から 772 人(ジンバブエ)に サハラ以南のアフリカ以外,5 歳未満 サハラ以南のアフリカ以外,成人 達する.死亡リスクの点では,これ サハラ以南のアフリカ,HIV 感染率が低い国,5 歳未満 らの諸国はアフガニスタンよりも悲 サハラ以南のアフリカ,HIV 感染率が低い国,成人 サハラ以南のアフリカ,HIV 感染率が高い国,5 歳未満 惨である(イラクやパキスタンより サハラ以南のアフリカ,HIV 感染率が高い国,成人 もはるかに深刻である). 出所:de Walque and Filmer(2011) .成人死亡率は,46 カ国から経時的に得られた 83 の人  時系列で比較すると,サハラ以南 口保健調査の兄弟姉妹名簿をもとにしており,1975 年から最近(多くの場合,2000 年)まで アフリカと世界の他の地域との劇的 推定.5 年区切りで死亡率を示している. . な違いが浮き彫りになる(図 3.6) の国では制度によるサービス提供がうまく機能して 以下がそのパターンである 54. いないためである.制度の改善が,女性の死亡率を 減らす鍵なのだ.集団内に差別があっても,よりよ • 乳幼児死亡率(5 歳未満の死亡率)は,サハラ い制度があれば差別的な扱いが生む悪影響を減らす 以南アフリカでもそれ以外の国々でも減少して 一助となる.男性の死亡率の高さは,通常,社会的 いるが,減少のペースは前者の方が遅い. に男性には割合許容されている種類の行為を反映し • 成 人 死 亡 率 は サ ハ ラ 以 南 ア フ リ カ で は たものである.これらの問題にはそれぞれ入口がひ –  1980  2000 年の間に倍増したが,それ以外の とつしかないため,解決するのは難しいだろう.し 国々では過去 25 年間ほぼ横ばいである. かし,いかなる人間の正義に照らしても,これらは • サハラ以南アフリカでのこの増分の大半は, 必ず解決しなければならない. HIV /エイズが原因であり,HIV 感染率の高い 国での成人死亡率は,ルワンダとカンボジアで 低所得国での死亡の現実 大量虐殺が発生した期間の死亡率の半分を超  本章が取り上げている問題のなかには,比較的知 え,しかも上昇し続けている. られたものもある.例えば,北インドと中国の出生 • 特に驚くのは,サハラ以南アフリカ――特に中 時性別比の歪み,南アジアにおける女性の乳幼児の 央および西アフリカ――の HIV /エイズ感染 高い死亡率,一部の体制移行国での男性死亡率の上 率が低い一部の国では,成人死亡率が減るどこ 昇などは,どれも過去 10 年間に注目を集めた.そ ろかむしろ増えたという事実である. れほど有名ではないが,サハラ以南アフリカでは, 乳幼児期以降も女性の超過死亡という現象が継続  図 3.7 は世界保健機関(WHO)が概算したもの し,ますます大きな問題となっている.男女の死亡 –  で,すべての国について 1990  2008 年に成人死亡 CHAPTER3 教育と健康:ジェンダー差はどこに真の問題があるのか? 119 率の性別比がどう変化したかを示 図 3.7 成人死亡率:期間経過に伴う(性別比の)変化 している.栗色の実線より下にあ 2 特に女性の成人 死亡率の性別比,1990年に対する2008年の値 るのは女性の相対死亡リスクが悪 死亡率が減少 化した国,黒い破線より右にある モルジブ のは成人死亡率が悪化した国であ 1.5 インド ジャマイカ 中国 イラク る(したがって,例えば右下の領 バングラデシュ イラン 域にある国は,両方とも悪化した 1 レソト 国ということになる).これらの数 ケニア スイス モザンビーク ボツワナ 値を図 3.6 の数値と厳密に比較す エリトリア 南アフリカ ジンバブエ .5 リベリア ることはできないが(期間も成人 死亡率の基準も異なるのが一因), トンガ 女性の死亡率が過度に上昇 読みとれる内容は概ね同じである 0 し,成人死亡率が増加 (ボックス 3.1 も参照のこと). 0 1 2 3  大半の国では,成人の死亡リス 成人死亡率,1990 年に対する 2008 年の値 クは減少した.サハラ以南アフリ 東アジア・太平洋 ヨーロッパ・中央アジア ラテンアメリカ・カリブ諸国 中東・北アフリカ カの HIV 感染国(2008 年の感染率 OECD 諸国 南アジア サハラ以南アフリカ,HIV 感染率が低い国 サハラ以南アフリカ,HIV 感染率が高い国 が 5%超)では,死亡リスクは悪化 しつつあり,相対的に男性より女 出所:World Health Organization 2010 –6 注:成人死亡率とは 15    0 歳の成人が死亡する確率.死亡率性別比とは,男性の成人死亡率を 性の方が亡くなっている.驚くこ 女性の成人死亡率で割ったもの. とに多くのアフリカ諸国では,死 亡率がごくわずかしか改善しておらず,改善が見ら のアプローチが明確になる.女性の死亡率の焦点は れるのは女性より男性である.この期間にアフリカ 乳幼児から成人へ,南アジアからサハラ以南アフリ で女性の死亡リスクが相対的に減少した国は,ほぼ カへと徐々に移っていること,また出生時に行方不 ゼロである.対照的に世界の大半の国では,成人死 明の女児の問題はインドと中国に根深く残っている 亡率は減少し,相対的に女性の方が改善した.それ ことを,われわれは示していくつもりだ.そのため ほど驚きもしないが,図 3.7 ではよく目立つ集団が に,各国を時系列で観察し,現在の富裕国の歴史 もうひとつあり,それは東ヨーロッパと中央アジア 的背景を精査し,(本章で示す)事実と解釈が別の の一部諸国である.そこでも死亡リスクは悪化して 情報源に対しても堅固であることを確認すること 55 いるが,悪化の度合いは男性の方が大きい . によって,議論を複数の面から検証する.最後に,  2008 年,成人女性の死亡リスクが最も高い 14 “ストレステスト”によって,抜本的な制度改革, カ国は(リスクが高い順に),ジンバブエ,レソト, 清潔な水や衛生設備などの公共財の提供の改善,そ スワジランド,ザンビア,南アフリカ,マラウイ, して HIV /エイズとの闘いの継続の必要性を指摘 中央アフリカ共和国,モザンビーク,タンザニア, する力強い結論が導かれる. チャド,ウガンダ,カメルーン,ブルンジ,ナイ ジェリアだった.アフガニスタンが 15 番目,パキ 出生時に行方不明の女児と出生後の女性の超過死亡 スタンは 64 番目だった.女児の乳幼児死亡率(5  性別・年齢別の死亡リスクの分析は,男性と女性 歳未満,出産 1,000 人当たり)については,高い の相対的な年齢別死亡率分布を各国で時系列で見て 順にアフガニスタン,アンゴラ,チャド,ソマリ いくのが理想である.しかしそれは難しい.そうす ア,マリ,コンゴ民主共和国,ナイジェリア,シエ るには,年齢・死亡の相関関係のさまざまなデータ ラレオネ,ギニアビサウ,中央アフリカ共和国,ブ を比較する必要があるからだ.特に,対照群の死亡 ルキナファソ,ニジェール,ブルンジ,赤道ギニ リスクが異なる年齢で(もしかすると複数回)重複 ア,リベリアだった. すると,なお困難になる.この複雑なデータを簡単  こうした基本的な説明によって,本章でのこの後 に理解できるよう要約するため,本章ではふたつの 120 世界開発報告 2012 ボックス 3.1 成人の死亡リスク:どの国が統計分布から外れているのか?  図 3.7 に登場する国のなかには独特の事情を抱えた国が して,本章の議論で取り上げる. いくつかあり,本章の残りの部分での分析に興味を抱かせ –   1990  2008 年にモルディブでは全体的な死亡リスクが てくれるとともに,データの要約にはどんなものであれ問 劇減した.国が妊産婦死亡率や安全な母性に注力したおか 題が発生しうることから,国別の分析が必要なことを教え げで,特に女性のリスクが大幅に下がった.本章では,妊 てくれる. 産婦死亡率と保健の問題が,成人人口における女性の死亡  エリトリアとリベリアでは,1990 年代の紛争の停止に 率に及ぼす影響に光を当てる.  よって男性の死亡リスクが減少した(女子の死亡リスク  トンガでは,女性の相対死亡リスクが大きく上昇した. もいくぶん減った) .だが男性の死亡率が低下したために, 本章が取り上げる問題はトンガにはない.トンガは子ども 女性の “ 相対 ” 死亡リスクが悪化してしまった.ただ,男 の予防接種率が高く,乳児死亡がほとんどなく,2008 年 女ともに良かったのは,これにより,国内で時系列で死亡 には妊産婦死亡もなかった.だが非伝染性の病気で深刻な 率を比較するのではなく,ひとつの参照集団を使ってすべ 問題を抱えており,糖尿病率は世界屈指の水準で,肥満の ての国の死亡率を比較すれば,誤った解釈を回避できるこ 割合は男性の 56%に対し,女性は 75%である.心臓発作 とが示されたことだ. は 2006 年の死因の 48%を占めた.本章では,非伝染性  イラクとジャマイカでは,男性の相対死亡リスクが大幅 疾患による罹病率と死亡率についてはわずかに触れるのみ に上昇した.両国とも犯罪と暴力によって男性の命が奪わ だが,トンガは,今日の問題は明日には大きく変わる可能 れており,それが全体的な死亡リスクを押し上げている. 性があること,そしてどの地域にも世界的な報告書が適切 紛争や暴力的犯罪と男性の死亡率との関連については,サ に扱えない特殊な事情があるだろうということに気づかせ ハラ以南アフリカにおける男性死亡率とその特殊な事情と てくれる a. a. Somanathan and Hafez 2010. 指標を計算する. に至らず,10%は乳幼児期(5 歳未満)に,21%  「出生時に行方不明の女児」は,世界各国の出生 –  は生殖可能年齢期(15  49 歳)に,38%は 60 歳 時性別比を性差別のない比較対照集団と比べて推定 以上で消失する.これらは出生後の女性の人生にお する 56.また,「女性(男性)の超過死亡」は,各 ける 3 大危険期間である.しかし 60 歳未満の女性 国の各年齢における死亡リスクの性別比を今日の先 は,本来なら生きられたはずである年数が長いた 進国――“対照集団”――における死亡リスクの性 め,世界全体で 1 年間に失われる超過死亡年数の 57 別比と比較して算出する . 81%を占めている.男性の超過死亡は年間 100 万  この超過死亡という指標は,世界のすべての国に 人で,主に体制移行国(半数以上)やラテンアメリ ついて,3 時点――1990 年,2000 年,2008 年― カ諸国に集中している.60 歳未満で死亡すると失 ―で計算されている.これらの死亡リスクの決定 われた生存年数が長くなること,高齢になるほど対 要因を把握するため,先進 13 カ国については同基 照集団の選択によって結果に大きな影響が出る(技 準を過去に――場合によっては 1800 年まで――さ 術的補遺を参照のこと)ことから,本章では 60 歳 かのぼって計算する.先進国の年齢別の相対死亡率 未満の死亡リスク,特に女性にとって極めて重要な 分布の変化は,「他」の国の超過死亡の計算結果に 3 大危険期間――出生時,乳幼児期,生殖可能年齢 影響を与える.よって,死亡率のパターンの国によ 期――に焦点を当てる. る違いや時系列的な変化をよりよく解釈できるよう  出生時に行方不明の女児は実際にはインドと中国 に,本章ではすべての計算において常に同じ“対照 に集中しており,先の議論と合致する一方,出生後 集団”を用いている.この死亡率データの要約に組 の女性の超過死亡はサハラ以南アフリカで最も高 み込まれている前提については,本章の技術的補遺 く,この地域はその数が一貫して伸び続けている唯 で論じる. 一の地域である(表 3.2 および地図 3.1).これら  これらのふたつの計算結果によれば,出生時に行 の 3 つの人口集団――中国(人口 13 億人),イン 方不明の女児と出生後の女性の超過死亡の合計は, ド(人口 11.5 億人),サハラ以南アフリカ(人口 8 年間最大 600 万人超に上る.そのうち 23%は出生 億人)――だけで,世界全体の行方不明の女児と女 CHAPTER3 教育と健康:ジェンダー差はどこに真の問題があるのか? 121 表 3.2 歪んだ出生時性別比と女性の超過死亡は世界中で存続しており,出生時に行方不明の女児と,乳幼児期・生殖可能年齢期 の女性の超過死亡につながっている. 出生時に行方不明の女児および女性の超過死亡数(単位:1000 人) 女性総計 5 歳未満 –  5  14 歳 –  15  49 歳 –  50  59 歳 新生女子 女子 女子 女性 女性 60 歳未満 1990 2008 1990 2008 1990 2008 1990 2008 1990 2008 1990 2008 中国 890 1,092 259 71 21 5 208 56 92 30 1,470 1,254 インド 265 257 428 251 94 45 388 228 81 75 1,255 856 サハラ以南アフリカ 42 53 183 203 61 77 302 751 50 99 639 1,182 HIV 感染率が高い国 0 0 6 39 5 18 38 328 4 31 53 416 HIV 感染率が低い国 42 53 177 163 57 59 264 423 46 68 586 766 南アジア(インドを除く) 0 1 99 72 32 20 176 161 37 51 346 305 東アジア・太平洋(中国 3 4 14 7 14 9 137 113 48 46 216 179 を除く) 中東・北アフリカ 5 6 13 7 4 1 43 24 15 15 80 52 ヨーロッパ・中央アジア 7 14 3 1 0 0 12 4 4 3 27 23 ラテンアメリカ・カリブ 0 0 11 5 3 1 20 10 17 17 51 33 合計 1,212 1,427 1,010 617 230 158 1,286 1,347 343 334 4,082 3,882 出所:World Health Organization 2010 と United Nations Department of Economic and Social Affairs 2009 に基づく WDR チームの試算 . 注:合計は四捨五入のため必ずしも一致しない. 性の超過死亡の 87%を占める. もない.経済成長を経験した国のなかには(アンゴ  しかし年齢分布は非常に異なる.中国では,女性 ラや南アフリカ),女性の超過死亡がほとんど変化 の超過死亡の大半は出生時に発生する.インドで しなかったか,むしろ悪化したところもある.それ は,出生時に行方不明の女児,乳幼児期の超過死 ほど成長しなかった国々(ネパール)では,女性の 亡,生殖可能年齢期の超過死亡は,それぞれおよそ 超過死亡が劇的に減った.死亡率のジェンダー格差 1/3 ずつの割合である.サハラ以南アフリカでは, と所得増は関係がないということは,同じ結論に至 生殖可能年齢期の女性の超過死亡は,HIV /エイ る大規模な研究論文とも合致する 58. ズ感染国で 78%,HIV 感染率が低い国では 55%を  出生時に行方不明の女児や女性や男性の超過死 –  占める.サハラ以南アフリカは,1990  2008 年に 亡がなぜ存在するのか,また,それに対して何が 数値が上昇した――絶対数でも(年間 60 万人から できるのかを検討するには,所得とは別の説明が 110 万人へ),女性人口に対する割合でも――世界 必要である.出生時,乳幼児期,生殖可能年齢期 で「唯一の」地域である. という不利な年齢層を考えると,それぞれ異なる  最初にわれわれは,女性の超過死亡と出生時に行 方不明の女児には,所得が関係しているという解釈 を排除したい(図 3.8).所得と女性の超過死亡の 「第 1 子は絶対に男でないといけない.その 間には,強い関係がある――スウェーデンは驚くこ 後は男でも女でも同じだ」 . とではないが,カメルーンよりも女性の超過死亡が –  少ない.しかし 1990  2008 年の女性の超過死亡の セルビア農村部の若い男性 変化と,同期間の経済成長との間にはほぼ何の関係 122 世界開発報告 2012 –2 地図 3.1 中国とインドでは,出生時に行方不明の女児数が依然として多く,アフリカの一部では 1990    008 年に女性の超過死亡 が大幅に増加した 出生時に行方不明の女児 2008 年に 出生に至らなかった女児 0 5,000 10,00 (女児出産 10 万人当たり) –1 0    ,000 1,000  –2   ,000 2,000  –5   ,000 5,000  –1   5,000 データ無し 調査対象国 インド 2008 年に出生に至らなかっ た女児の割合が多い国 0 5,000 10, セルビア グルジア アゼルバイジャン アルメニア 中国 0 5,000 10,000 15,000 出生に至らなかった女児(女児出産 10 万人当たり)   出生後の女性の超過死亡 0 5,000 10,000 15,000 500 550 600   500 550 600     2008 年の女性の 超過死亡数 (女性人口 10 万人当たり) –1 0    00 100  –3   00 300  –6   50 データ無し 500 550 600 650 調査対象国   年に行方不明の女性の   2008 割合が多い国 中央アフリカ共和国 スワジランド ジンバブエ 500 550 600 650 女性の超過死亡数(女性人口 10 万人当たり) ‑200 0 200 500 550 6 CHAPTER3 教育と健康:ジェンダー差はどこに真の問題があるのか? 123     –2 地図 3.1 中国とインドでは,出生時に行方不明の女児数が依然として多く,アフリカの一部では 1990    008 年に女性の超過死亡 が大幅に増加した(続き) 女性の超過死亡数の変化 500 550 600 650 –2 1990    008 年の女性の 超過死亡数の変化 (女性人口 10 万人当たり) -300 - 0 ‑200 0 20 0 - 300 300 - 600 データ無し 調査対象国 減少が 増加が 大きい国 大きい国 バングラデシュ 南アフリカ ボリビア スイス ネパール ジンバブエ ‑200 0 200 400 女性の超過死亡数の変化(女性人口 10 万人当たり) 出所:World Health Organization 2010 および United Nations Department of Social and Economic Affairs 2009 のデータに基づく,世界開発報告 2012 チームの試算. 図 3.8 低・中所得国では 1990 – 2008 年に,所得が増加しても女性の超過死亡は減らなかった どちらの年齢層でも, 400 南アフリカとアンゴラでは 4,000 300 所得増加と超過死亡と 所得が増加――そして女性 の間には何の関係もな の超過死亡数も増加 200 い (女性人口 万人当たり) (女性人口 万人当たり) 300 3,000 女性の超過死亡数の変化 1人当たりのGDP 女性の超過死亡数 100 ネパールでは所得 10 はそれほど増えな 10 200 かったが,超過死 2,000 0 亡数は減少 ‒100 1,000 100 ‒200 0 0 ‒.2 0 .2 .4 .6 .8 1990 2000 2008 所得の増加,対数値 凡例:左軸 凡例:右軸 –4 女性の超過死亡,0    歳 女性の超過死亡, 所得,アンゴラ 女性の超過死亡,15 –4  9歳 –5 0    9 歳,アンゴラ 女性の超過死亡, 所得,ネパール –5 0    9 歳,ネパール 女性の超過死亡, 所得,南アフリカ –5 0    9 歳,南アフリカ 出 所:World Development Indicators 2009,World Health Organization 2010,United Nations, Department of Economic and Social Affairs, Population Division 2009 のデータに基づく,スタッフの試算. –2 注:収入の伸びは,1990    008 年の 1 人当たり GDP(対数)の変化とする.行方不明の女性の数は,対応する年齢層の女性人口に対する割合で表す. 124 世界開発報告 2012 図 3.9 なぜそれほど多くの女児が出生時に行方不明なのか? の制度 非公式 選好 息子の 経済機会 世帯: 出生前の性 市場 選択と出生 人的資本 率の低下 エージェ の形成 : ンシー 出生に至ら ない女児 公式 の制 度 出所:世界開発報告 2012 チーム 原因があるのかもしれない.本章では順番に議論  これらの要因がどう作用するかを理解するため を展開していく. に,各家庭に概ね 4 人の子どもがいた過去の時代 を思い浮かべてみよう.この場合,第 1 子が女児 出生時に行方不明の女児――インドと中国の問題 でも,それ以外の子の少なくとも 1 人が男児であ  行方不明の女児が多数存在するという問題につい る可能性はかなり高い.しかし,もし家庭に子ど ては,Coale,Das Gupta,Sen が個別の研究で初め もが 2 人しかおらず,第 1 子が女児だとすると, て裏づけた 59.その後の研究によって,インドと 第 2 子に女児――彼らが望む男児ではなく――が 中国の国内での地理的変化――インドでは主に北の 生まれる確率は 1/2 になる.超音波診断が行える 地域にみられたが次第に南へ拡大,中国では東海岸 ようになるにつれ,胎児が女だったら堕胎して再 から内陸へと徐々に拡大――が確認されている 60. び子どもを作るという“解決策”が打てるように  20 世紀後半に 3 つの要因が組み合わさり,出生 なった. に至らない女児の増加という悲惨な結果につながっ  残念だが,これがデータが明示する現実である. た(図 3.9).第 1 の要因は,女性の教育水準が上 性選択目的の堕胎が行われない場合,第 2 子が男 昇し労働市場からの収益率が増加するにしたがっ になるか女になるかという確率は,第 1 子の性別 て,出生率が下がり始めたことである.中国では一 とは関係なく等しい.しかしデータによれば,第 1 人っ子政策が出生率を押し下げた.第 2 の要因は, 子が男の場合は,第 2 子が男または女である確率 超音波診断が広く実践されるようになり(出生前に は等しいが,第 1 子が女の場合には,第 2 子が男 性別を決められる),大都市から小さな町や農村へ になる確率がはるかに高い.この現象は中国,韓 と広がったことだ.そして第 3 の要因は,息子の 国,インドで実際に見られる.インドでは,インド 選好が変わらなかったことである.世帯が望む子ど 北部の教育水準の高いヒンドゥー教徒の女性で特に もの数は現在 2 人だが,少なくとも 1 人は息子が この傾向が強い 61.それに加え,破傷風の予防接 欲しいのである. 種[訳注:新生児破傷風を予防するため,妊婦に接 CHAPTER3 教育と健康:ジェンダー差はどこに真の問題があるのか? 125 種する]などの出生前の投資は,女の胎児よりも男 られるのだ.ひとたび出生率の動きをコントロール の胎児の時の方が多く,第 1 子が女であればなお できれば,胎児のジェンダー不平等――出生率の動 多かった 62. きに表れる――が,すでに生まれている子どもの栄  この結果はインド北部だけでなく,バングラデ 養状態にまで影響を与えることはないのである. シュや中国,パキスタンにも該当することから,女  同様に,家族は男児よりも女児を出産した後の方 の胎児を差別する習慣は,東南アジア全体に広がっ が,早く第 2 子を欲しがる可能性がある.娘の誕 63 ているのかもしれない .それらを変えるのは非 生後に息子を欲するというのは,もし母親が受胎能 常に困難かもしれない.アメリカ在住の中国人やイ 力を高め早期に妊娠しようとして先に生まれた娘へ ンド人でも,第 1 子と第 2 子の性選択で非常によ の授乳を減らせば,生まれたばかりの娘への不利益 く似たパターンを示すからだ 64. になるかもしれない 67.これらの結果から,出生  息子に対する選好は出生時性別比にだけでなく, 前の子どもの選好はジェンダー格差の決定要因とな 既に誕生している子どもの扱いにも影響を及ぼす可 り,すでに生まれている子どもにも潜在的に表れる 能性がある.息子に対する選好と生まれている子ど という基本的な洞察が得られる. もに対するジェンダー不平等との間には,微妙な関  息子に対する選好と出生率の減少,そして新しい 65 連性があることを,ある議論が示している . 技術が結びついて,出生時に行方不明の女児が増え  息子に対する選好という単純な枠組みを再び取り てきただけでなく,すでに生まれている子どもたち 上げ,子どもの数を固定せずに,それ自体を選択可 にも,きょうだいの数と出生のタイミングを介して 能としてみよう.ある家族に第 1 子が生まれると 不利益を与えている可能性が十分にある.非公式の する.息子が生まれたら“子どもを生むのを止め 制度の変化や,非公式の制度を介した世帯の行動の る”というのが彼らのルールだとすると,その家庭 変化が,この問題を解決する鍵であり,解決は可能 の子どもは息子が 1 人だけになる.もし第 1 子が である.出生時の男児の比率が急上昇した後,下 女だったらもう 1 人子どもを生み,その子が男だっ がった韓国は,産業化と都市化がもたらした社会全 たらそれ以上生むのを止めるが,女だった場合は再 体の規範の変化によって,出生時性別比が最終的に 度子どもを生むことになる.するとどうなるだろう は正常の範囲に戻りうることを示唆している 68. か? 女児は男児よりも多くのきょうだいをもつこ とになるのである 66. 幼児期の女児の超過死亡  息子に対する選好によるひとつの結果が,男児よ  乳幼児期の女児の超過死亡は,何が原因なのだろ り女児が栄養不足になっているインド北部で起きて うか? 非常に注目されているひとつの考えられる いる問題である(が,栄養学的調査が示すように世 解釈は,親による女児への差別である.確かに世界 界全体で起きているわけではない).息子を選好す には,例えばアフガニスタンや中国,インド北部, ると男児と女児できょうだいの数が変わるという影 パキスタンなど,そのような差別が深刻な問題に 響が出ることを考えると,女児が被る不利益の何割 なっている地域がある.女児に対しては医療ケアを かは,露骨な差別よりもきょうだいの数が原因なの 受けさせるのが遅れたり治療費を安く済ませたりす ではないだろうか? 結局のところ,家族の人数を ることや,1990 年代における経済成長の著しい時 適切に抑えれば,栄養面で女児が不利益を被ること 期でも男児の体格の方が女児より早く改善したこと はない.つまり,男児と女児の間に見られる栄養の が,研究から分かっている 69.そのような差別に 差は,ひとえにきょうだいの数の違いに原因を求め 対する経済的根拠は,収益率の構造と関連がある. . 「息子は家系の存続を確かなものとし,年取った親の世話をし,親が死んだら葬式をあげてくれます」 インド農村部,若い女性 126 世界開発報告 2012 を観察し,診察時間,問診内容,実施した検査な 「次もまた娘を産んだらきっぱり離縁する,と ど,医療ケアの総合的な質にかかわるあらゆる指標 妻は夫から言われたそうよ.そして彼女はま について記録をとった研究がある.驚くべきこと もなく 3 人目の子どもを身ごもりました.彼 に,最大の発見は,いったん医療施設に連れて行か 女は夫によく殴られていたけど,それでも彼 に息子を与えることに賭けたのは,そうすれ れたら,男児も女児もほぼ同じ対応をされていると ばまた普通の生活に戻れると思ったからよ」 . いうことだった.男児と女児(または男性と女性) の間に差はなかったのだ(図 3.11).7 カ国すべて ブータン,成人女性 で,医師は患者の性別に関係なく,同じ時間を費 やし,同じ質問をし,同じ数の検査を行っていた のである 75.  もし家庭も医療提供者も女児を差別していないと 例えばインドの場合,女性労働力を多く使うのに適 すれば,幼児期の女児の超過死亡は何が原因なのだ した農地が広がる地域では,女性の超過死亡がイン ろうか? 科学の視点で歴史を見るとこの謎を解く 70 ドの平均より少ない .女性の賃金上昇は,女性 鍵が手に入る.20 世紀初頭,ヨーロッパ諸国は同 の移動性および権限の拡大と関連があるが,男性の じパターンを示していた――出生時に行方不明の女 71 賃金上昇は逆の影響をもたらす .経済面以外で 児はいなかったが,幼い女児の超過死亡が多かった は,超過死亡がある社会とない社会が存在する理由 –  のだ.1900  1930 年に,この超過死亡はほぼすべ を説明する有力な仮説として,女児に課せられる価 ての国で解消した(図 3.12).19 世紀全体を通し 値観に血縁構造が影響を及ぼしているのではない て実質的に全く変化がなかった後に起きたこの急激 72 か,と言われてきた . な減少は,公衆衛生,特に清潔な水と衛生設備(広  女児に対するそのような差別は一般的なパター 義には,ごみ処理,排水設備,トイレ,病原媒介生 ンで,幼児期の女児の超過死亡と関連があるのだ 物の蔓延防止を含む)への多額の投資が行われ,多 ろうか? 1970 年代初頭にはバングラデシュで, くの家庭の衛生状態が改善した時期と一致する.ア 1980 年代にはインドで明らかになったように,女 メリカでのこの期間の乳児死亡率の減少すべてと, 児は予防接種や医療ケアを受けたり,家庭で十分 女性乳児の超過死亡の消失は,清潔な水と衛生設備 栄養を与えられたりする可能性が少ないのかもし のおかげである 76. れない 73.しかし世界各国を比較すると,ふたつ  こうした公衆衛生への投資がもたらした疫学的変 のことが明らかになる.ひとつは,こうした格差 化は,乳児死亡率の減少と,乳幼児期の女児超過死 は小さいか,そもそも存在しないということ(例 亡の消失の両方を説明してくれる.1900 年代初頭 えばサハラ以南アフリカでは,栄養失調に苦しん -1930 年には,感染症が死因に占める割合が減り, でいるのは男児である),もうひとつは,女児の超 周産期や先天性の要因の割合が増えた 77.昔も(今 過死亡と,予防接種や医療ケアの利用の男女差, も)女児は男児より感染症や周産期疾患に強く,特 または身長・体重で判断した子どもの栄養状態の に周産期疾患に対して強い.男児は死亡率の点で常 男女差との間にはほとんど関連がないということ に女児より分が悪かったが,感染症が減少したこと である(図 3.10).もちりん女性の労働参加と関 から男児はますます不利になった.今日,公衆衛生 連はない.こうしたパターンもまた,先の文献で の結果とよく似ている 74.  たとえ,「世帯」が男児と女児を等しく扱うとし ても,医療提供者が女児を差別するということもあ 「今は男女平等です.でも伝統に従って,家系 を守っていくためにやはり息子が欲しいので りうる.この可能性を評価するため,世界 7 カ国 . す」 ――アフガニスタン,ブルキナファソ,インド,モ ザンビーク,パラグアイ,ルワンダ,ウガンダ― ベトナム農村部,若い男性 ――で,30,000 件以上の医師と患者とのやりとり CHAPTER3 教育と健康:ジェンダー差はどこに真の問題があるのか? 127 システムが劣悪で,清潔な水や衛生 図 3.10 予防接種率,栄養状態,子どもが病気になったときの医療サービスの利用 設備,廃棄物処理,排水設備などが に関して,ジェンダーによる不利益はほとんど,または全くない 提供できない国では,幼児期の女児 呼吸器疾患: の相対死亡リスクが富裕国に比べて ポリオワクチン接種の割合 保健施設に連れて行かれた割合 100  男児に不利 100  男児に不利 高い理由のひとつとして,感染症の 80  80  女児(%) 女児(%) 負担が大きいことが挙げられる. 60  60  40  40   もし制度と生物学に基づくこの仮 20  20  女児に不利 女児に不利 説が今の現実だとすれば,乳児死亡 0  0  0  20  40  60  80  100  0  20  40  60  80  100  率が低い国では女子の超過死亡も低 男児(%) 男児(%) いと予想される.そして実際そのと おりである.2000 年の女児の超過 発育阻害の割合 麻疹ワクチン接種の割合 死亡と乳児全体の死亡率との関係 男児に不利 100  男児に不利 80  80  女児(%) は,1900 年のヨーロッパ諸国のも 女児(%) 60  60  のとぴったりと一致する(図 3.12 40  40  20  20  参照).清潔な水と衛生設備によっ 女児に不利 女児に不利 0  0  て乳児全体の死亡率をなんとか下げ 0  20  40  60  80  100  0  20  40  60  80  100  男児(%) 男児(%) たバングラデシュ,中国,ベトナム では,女児の超過死亡も減ったので ある.しかし西アフリカの大半の国 では,清潔な水と衛生設備はあまり 小さな差では,さまざまな国における超過死亡数の割合の違いを説明できない 重視されてこなかった.現にアフリ 60 回帰式(超過死亡数= b1X + b2)にお –  カ の 32 カ 国 で は,1990  2005 年 ける説明変数の係数 b1 はゼロに近く, ほとんどの場合,問題にならない. 発育阻害 に,水道が通っている都市部の世帯 40 (女性人口 万人当たり) 女性の超過死亡数の変化 の割合が 50%から 39%に下がって しまった.驚くことではないが,ブ ポリオ 呼吸器疾患 麻疹 ワクチン 10 20 の際に保健 ワクチン接種 接種 ルキナファソやナイジェリアなどで 施設を利用 は,女児の超過死亡の減り方はずっ と遅い. 0 女性の  今日の低所得国で男児と女児の 労働参加 死亡リスクを下げられるかどうか ‒20 は,多くのヨーロッパ諸国で 20 世 説明変数 X の回帰係数推定値 95%信頼区間 紀初頭に政府が提供した,基本的 出 所:World Health Organization 2010,United Nations, Department of Economic and な公衆衛生サービスを提供できる Social Affairs, Population Division 2009,World Development Indicators 2009,Demographic Health Surveys 1985–2008 のデータに基づく,スタッフの試算. かどうかにかかっていると言える. –2 注:ワクチン接種率と保健サービス利用に関するデータは,1990    008 年に集められた. 感染症の負担を減らせば,子ども ――特に男児より女児の――死亡率を減らすこと になるだろう. 「汚染される前は,川の水を料理に使ったり 飲んだりできました.今はアブラヤシの汚染 成人の超過死亡――女性 で川がダメになってしまった.でも私たちに –  は,あの川の水を飲む以外に選択肢はないの  女性の超過死亡は,15  60 歳の,特に低・中所 です」. –  得国の生殖可能年齢(15  49 歳)の女性にも影響 を及ぼす.この年齢集団では,女性の超過死亡は絶 パプアニューギニア農村部の成人女性 対数が減少し,サハラ以南アフリカを除く世界各地 128 世界開発報告 2012 図 3.11 医療施設での男女の扱いは同じ 医療提供者の平均診察時間,問診内容,実施した検査 医療提供者が尋ねた 医療提供者が実施した a. 子ども 平均診察時間(分) 治療に不可欠な質問の割合(%) 治療に不可欠な検査の割合(%) アフガニスタン 7 59 データなし 6 58 17 29 47 ブルキナファソ 18 28 50 7 モザンビーク データなし データなし 9 19 20 ルワンダ データなし 25 27 7 71 48 タンザニア 6 69 45 83 ウガンダ データなし データなし 85 医療提供者が尋ねた 医療提供者が実施した b. 成人 平均診察時間(分) 治療に不可欠な質問の割合(%) 治療に不可欠な検査の割合(%) 7 88 86 アフガニスタン 6 80 87 17 33 55 ブルキナファソ 16.5 37 61 17 57 モザンビーク データなし 15 61 13 14 ルワンダ データなし 14 13 9 77 49 タンザニア 79 53 8 17 85 43 ウガンダ 42 14 86 女性 男性 出所:Ali 他(2011) 注:病気によっても,男女で違いはほとんどなかった. では人口比でも減少してきた.サハラ以南アフリカ 本質的に異なるものであり,それを減らすには,社 については,女性の超過死亡が人口比でも上昇して 会が女性特有の疾患を重視し,妊産婦向けの医療シ いる“HIV /エイズ 感染国”と,HIV /エイズが ステムの改善に特に注力することが不可欠である. それほど深刻ではなく女性の超過死亡が緩やかに減 本報告書においては,“妊産婦死亡”とは,分娩中 少している“中央および西アフリカ諸国”とに分割 の死亡だけでなく,妊娠及び出産経験により併発す する.生殖可能年齢期の超過死亡の決定要因となっ る罹病をも意味する.これらのなかには,重度の貧 ているのは,①妊産婦死亡と出産関連の罹病,② 血(およびそれのマラリアとの関係)と産科瘻孔 HIV /エイズ,というふたつのメカニズムである. (フィスチュラ)も含まれる 78. 妊産婦死亡は,他の年齢集団の女性の超過死亡とは  世界では,一部の人口集団の成人女性が幼児期 CHAPTER3 教育と健康:ジェンダー差はどこに真の問題があるのか? 129 と同様に,医療費や保健サー 図 3.12 1900 年代初頭の高所得国における女児の超過死亡の水準は,現在の ビスの利用で深刻な差別を受 1,500 低・中所得国のものとよく似ている けている.しかし幼児期と同 1,500 じく,この差別は体系的なも 女児の超過死亡(1ー4歳の女児 万人当たり) のではなさそうだ.インドか 1,000 ヨーロッパでは,女児の らエジプト,さらに南アフリ –1 超過死亡は 1900    930 年 カへと至る諸国では,全体的な 1,000 に解消した 医療費や,場合によっては医 500 療システムの利用に,僅かに 女性に有利なバイアスが見ら 500 10 れる(第 1 章).6 カ国で実施 0 した,診察の臨床的観察でも, 医療提供者の対応に患者の性 1900 1920 1940 1960 1980 2000 0 別による差は認められなかっ 1900 1920 1940 1960 1980 2000 た( 図 3.11 参 照 ).男女の生 ベルギー スペイン イタリア 物学的差異や医療ニーズの違 イングランド・ウェルズ スイス オランダ いから,これらの結果によっ フランス デンマーク ポルトガル て差別がないとはまだ断言で 日本 フィンランド スウェーデン ノルウェー きないが,そうした差別の証 拠を見つけるのは困難だと考 女性の超過死亡は,子ども全体の死亡率の低下とともに減少した えられることをこれらは示唆 1,500 してもいる.それとは対照的 に,次に議論するふたつの問 1,500 超過死亡(女性人口 万人当たり) 題――妊産婦死亡とHIV/ 1,000 エ イ ズ ―― に は, 女 性 の 健 康 状態,とくに死につながる明 1,000 500 確な道筋が存在する. 10 500 ふたつの線は重 妊産婦死亡 複している 0   高 所 得 国 で は 2008 年 に, 女性の超過死亡数と子ども全体 の死亡率との関係は,1900 年 合 計 1,900 人 の 妊 産 婦 が 死 0 代初頭も現在も同じである 亡 し た. イ ン ド で は 63,000 ‒500 人, サ ハ ラ 以 南 ア フ リ カ で 0 5 10 15 20 子どもの死亡率 ‒500 は 203,000 人( 世 界 全 体 の 0 5 10 - 30) 高所得国(1900 15 20 56.7 %) で あ っ た. ソ マ リ ア 低・中所得国(2008) とチャドでは,女性の 14 人に 出 所:World Health Organization 2010,United Nations Department of Economic and Social 1 人が出産関連の原因で命を落 Affairs 2009,Human Mortality Database 2011, Max Planck Institute for Demographic Research, University of California, Berkeley のデータに基づく,世界開発報告 2012 チームの試算. とす.全出産に対する割合で 見ると,現在のインドの方が 1900 年代初頭のスウェーデンよりも出産で亡くな 先進国で激減した(図 3.13) 死亡するリスク――は, . る女性が多く,現在のリビアの方が 17 世紀のス 妊産婦死亡率は 1930 年代後半から大半の国で急激 ウェーデンよりも多い 79. に下がり始めたが,それは 1936 年のサルファ剤の –   1930  1960 年に,妊産婦死亡率――1 回の出産で 登場や医療機関での出産数が増加し,より適切なケ 130 世界開発報告 2012 婦へのサービスが同時に改善された –1 図 3.13 妊産婦死亡率はこれらの国々で 1930    960 年に急激に下がった こと,また出産場所が自宅から病院 800 –1 1930    960 年に 妊産婦死亡率が へと移行していったことが大きな原 大幅に低下 因である 81. 妊産婦死亡数(出産 万当たり) 500  このパターンは,各国の生殖可 能年齢期の女性の超過死亡の変化 によく表れている(図 3.14).これ 400 らの国々では,成人女性の超過死亡 10 は 1930 年まではかなり高い状態が 200 続いていた(第一次世界大戦時に急 落し,1918 年のスペイン風邪流行 0 時にピークとなった)が,その後 1900 1920 1940 1960 1980 2000 –  1930  1960 年に急降下してゼロに 年 なった 82.超過死亡の減少が遅れ ベルギー スペイン イタリア たのは,まさに妊産婦死亡率の減少 イングランド・ウェルズ スイス オランダ が最後に起きた国――イタリア,日 フランス デンマーク ポルトガル 日本 フィンランド スウェーデン 本,ポルトガル――だった. ノルウェー –   1990  2008 年についてはのすべ 出所:Albanesi and Olivetti 2010. ての国と,過去のデータがある高所 得国に関しては,妊産婦死亡率が高 いと,成人女性の超過死亡も高いと 80 アが受けられるようになったためである .その後, いう基本的なパターンは同じである.したがって, 各国の妊産婦死亡率は 1940 年代から 50 年代に急 成人女性の超過死亡を減らすためには,妊産婦死亡 速に収斂していき,大半の国は 1960 年代に現在の 率を減らすことが不可欠である.それには 2 通り 水準に到達した.イタリア,日本,ポルトガルは の方法がある――ひとつは出生率を下げて,女性が 1970 年代半ばにその水準に達した.1935 年にすで 死のリスク(危険な堕胎のリスクも含む)にさらさ に妊産婦死亡率が低水準に達していた北欧諸国より れるのを減らすこと,もうひとつは妊産婦死亡率 も,アングロ・サクソン諸国の方が,減少スピード (1 回の出産で死亡するリスク)を減らすことであ が速かった. る. –   アメリカは,1900  1930 年に妊産婦死亡率が突  それぞれ順にみていこう.出生率が高いときは, 出して高かったが,他国同様 1930 年代半ば頃から それを下げれば出産に関連する原因で死亡するリ 急激に下がり始め,1960 年代までには現在の水準 スクは減るだろう.妊産婦の死亡リスクを左右す に達した.この低下は,分娩時の医療システムと妊 るのは,母体年齢(若いときは,年齢集団全体の 「この村には飲料水へアクセスできる人は誰もいません.みんな村から 100 メートルも 1,000 メートル も離れた泉や池から水を運んでくるのです.それらが干上がってしまう季節には,子どもたち,特に少 女たちが毎日 5 時間以上かけて水を運ぶのです…. 隣村との間では,飲み水や住む場所をめぐって暴力沙汰になることもあります.十分な水もシェルター . もありません.だから砂漠に自力で家を作るのですが,それをめぐって争いが起こることもあります」 アフガニスタン農村部,成人男性 CHAPTER3 教育と健康:ジェンダー差はどこに真の問題があるのか? 131 平均よりも若干リスクが高く,そ 図 3.14 現在の高所得国にも,20 世紀前半に生殖可能年齢期の女性の超過死 の後下がるが,年齢が上がると再 亡が存在した びリスクが上昇して,J の字形を –2 ヨーロッパ 13 カ国における女性の超過死亡,1900    000 年 描く), 出 生 児 数(1 人 の 女 性 が 1,000 生む子どもの数で,初産時と出生 生殖可能年齢期 の女性の超過死 超過死亡( 児数が多いほど母親の死亡リスク 亡 は, ヨ ー ロ ッ 800 –1 パでは 1930    960 が上がる),独自のグループの影 年に消失した 響(例えば喫煙率の高いグループ 15 ー 49 600 で生まれた母親は,リスクが高い 歳の女性人口 万人当たり) と考えられる),及び時間の影響 (最近になるほど,よりよい医療ケ 400 10 アが受けられると考えられる)で ある.富裕国では,母体年齢の変 200 化と出生児数分布の変化が妊産婦 死亡減少の 18%を占めている 83. 第一次 0 大戦 限られた数の低所得国(の概ね地 1900 1920 1940 1960 1980 2000 「出生児数 方)での研究によれば, ベルギー スペイン イタリア 6 人以上」と「最も安全な出産年齢 イングランド・ウェルズ スイス オランダ –  (20  39 歳)以外」を除いたモデル フランス デンマーク ポルトガル 日本 フィンランド スウェーデン を用いたところ,およそ 25%減と ノルウェー いうよく似た概算結果が出た 84. つまり,出生率が高い場合,出産 妊産婦死亡の減少に伴い,全所得層で超過死亡が減っている 年齢と出産児数分布が変われば, 1,000 15 – 49 歳の女性の超過死亡と妊産 超過死亡数( 妊産婦死亡は 20%程度下がる可能 婦死亡の関係は,時間を経てもあ まり変わっていない 性があるということだ. 800  低所得国でのこうした研究は, 15 合計特殊出生率(TFR)が高い― ー 49 600 歳の女性人口 万人当たり) ―例えばバングラデシュで,1 人 の女性が 6 回以上出産していた― 400 ―時期に関するものだった.今日, 10 出生率がそれほどの高さなのは, 200 アフガニスタン,チャド,ニジェー ル,ソマリア,東ティモール,ウ 0 ガンダの 6 カ国だけである.出生 0 200 400 600 率が 4 を超えているのは 40 カ国 で,アフガニスタン,グアテマラ, 妊産婦死亡数(生児出産 10 万人当たり) パプアニューギニア,東ティモー 出 所:World Health Organization 2010,United Nations Department of Economic and Social ル,イエメン共和国以外はサハラ Affairs 2009,Human Mortality Database 2011, Max Planck Institute for Demographic Research,University of California, Berkeley,Albanesi and Olivetti 2010 のデータに基づく,世 以南アフリカ諸国である.しかし 界開発報告 2012 チームの試算. 多くの場合,出生率は最近 30 年の 間に大半の低・中所得国で劇的に低 下してきた.出生率が 3 以下の国 では,出産年齢と出生児数分布が 132 世界開発報告 2012 図 3.15 女児や生殖可能年齢期の女性の超過死亡を説明するものは何か? の制度 非公式 経済機会 世帯 市場 人的資本 エージェ の形成 : ンシー 女性の超過 死亡 公 イン 式の制 フ 度 資本 ラと人 の改 的 善 出所:世界開発報告 2012 チーム もっと変わっても,妊産婦死亡率に大きな影響はな 同じになる 88. いかもしれない.家族計画政策は,出生率が高いと  女性の HIV 感染率の上昇――“エイズの女性化” –  ころから始まった場合には減少幅の 10  15%を占 と言われる――には,生物学的要因と行動的要因が めるため,国によっては継続的に役立つかもしれな かかわっている 89.女性の体は男性の体よりも感 いが,この政策によって毎年出産で亡くなる女性の 染にさらされているため,女性は生物学的に男性の 85 数が大幅に減るとは考えにくい .低所得国では 1.2 倍ウィルスを取り込んでしまう.性的に活発な 毎年,看過できないほど大勢の女性が出産(および 若い女性はまだ成長過程にあり,特に感染しやすい 出産に関連する理由)で命を落とすが,その数を減 可能性がある.男女に異なる影響を及ぼす性感染症 らす最善の方法は地域特有のものになるだろうし, (単純ヘルペスウィルス 2 型など)も女性を HIV に 出生率の低下によって,また妊産婦死亡率を減少さ 感染させやすくする 90.行動的要因として女性は せる特定の政策によって変わってくるだろう(図 やや年上の男性と交際や結婚することも,男女で 3.15). HIV 感染率の年齢勾配が異なる理由となる.  治療せずにいると,HIV 感染からエイズが発症 HIV /エイズ し 7 年から 10 年で死に至る.しかし,HIV /エイ  妊産婦死亡に加え,HIV /エイズの蔓延がアフ ズとアフリカの女性の超過死亡との間に関連がある リ カ の 女 性 の 超 過 死 亡 の 一 因 と な っ て い る( 図 と考えるのは,アフリカ諸国,特に中央および西ア 3.16).サハラ以南アフリカでは,成人の全 HIV 感 フリカ諸国については的外れである.感染率の高い 86 染者の 60%が女性で ,感染率のジェンダー格差 国はアフリカ南部および東部の一部に集中してお –  は若年の成人で最大である.15  24 歳では,女性 り,これらの国々が世界のなかでもアフリカ大陸の の感染率の対男性比は,サハラ以南アフリカ全体 なかでもエイズの負担を過剰に抱えているのである で 2.4 に上る 87.また,年齢別の感染率を男女で . (ボックス 3.2) 比べると,34 歳以降の HIV 感染率は男女ともほぼ  HIV /エイズは男性よりも女性に非常に深刻な打 CHAPTER3 教育と健康:ジェンダー差はどこに真の問題があるのか? 133 撃を与えてきただけでなく,この危機への対処は, 3.17 は,戦争の最後の 1 年間(1990 年)に,男 保健サービスの提供に関してシステム全体にわたる 性の超過死亡が極めて多かったことを示している. 影響を及ぼしてきた.出産前や分娩中のケア,子ど  戦争以外の状況でも,暴力はやはりジェンダー もの予防接種率といった問題が,サハラ以南アフリ を 反 映 す る. オ ー ス ト ラ リ ア, ヨ ー ロ ッ パ, ア カの特に HIV 感染率の高い地域で放置されてきた メリカで起きた全暴力犯罪における容疑者の のだ 91. –  80  90%は男性であり,男性による犯罪行為の発  うれしいことにこれらのパターンは現在変わり 生率の増加は,男性の投獄率の増加につながって つつあり,女性の超過死亡も変わっていくだろう. いる 94.また男性は,武力紛争よりも殺人で命を 延命のための治療が受けられるようになり,それ 落とすことが多い.2000 年に世界全体で暴力に によって発症率も変わるからである.2009 年末時 よって亡くなった人のうち,1/3 弱が殺人の犠牲 点で,低・中所得国の約 520 万人が抗レトロウィ 者で,大半は男性だった.殺人率が最も高いのは ルス療法(ART)を受けており,サハラ以南アフリ ラテンアメリカ(10 万人当たり 27.5 人)で,他 カでは治療を必要とする人の 37%近くがこうした の地域で報告される率の 3 倍以上である.特にメ 92 救命医療を受けることができた .感染率が最悪 キシコでは,ラテンアメリカの麻薬がらみの暴力 の水準にある国々での ART の普及率はまちまちで, 沙汰の大半が起きている 95. ボツワナは 83%,マラウイは 48%,南アフリカ  ラテンアメリカでの殺人の犠牲者の大半は,低い は 36%,ウガンダは 43%,ザンビアは 68%,ジ 社会経済的背景をもつ若い男性であり,犠牲者の割 ンバブエは 34%である.アフリカで ART が受けら –  合が最も多いのは 15  24 歳の男性である 96.ラテ れたのは,つい 2003 年でも一握りの特権的な HIV ンアメリカの暴力には,麻薬や競合グループ間の縄 /エイズ患者だけだったことを考えると,これら 張り争いと関係しているだけでなくえ,売られたケ は目覚ましい成果である.これにより HIV /エイ ンカは買わざるを得ない男らしさの理想形とも関連 ズの死亡者数は減少するだろうし,成人女性の死 がある.例えば,ベネズエラ・ボリバル共和国(通 亡率も減るだろう.ボツワナ,ケニア,ウガンダ 称ベネズエラ)の若者の暴力に関する複数の研究に –  ――ART の普及率が高い国――では,2000  2008 よれば,他者の前で尊敬を“勝ち取る”ことが男性 年に女性の超過死亡が実際に減少した(とはいえ, 間では重要であり,暴力はこの地位を得るひとつの 1990 年の水準よりもまだかなり高い).対照的に, 手段なのである 97.ラテンアメリカ諸国における HIV 感染率が高く,人口が多く,ART がなかなか 男性の超過死亡は,まさにそのような行動が目立つ –  広まらない南アフリカでは,1990  2000 年に女性 –  20  40 歳の年齢集団に見られるのだ. の超過死亡が増加の一途をたどり,2008 年にはさ  第 2 に,かつての社会主義国では,男性が健康 らに増えてしまった. 面で著しく不利な状況に置かれている.これらの国 の多くでは,人々が経済的・社会的大変革を耐え忍 成人の超過死亡――男性 んだことに加え,死亡率が急上昇した.そのよう  一部の国では,分析から男性の超過死亡のパター な場所は,ここ 30 年ではサハラ以南アフリカ以外 ンが明らかになっている.かつての社会主義国,暴 にはない.ロシアでは,男性の出生時平均余命が 力犯罪率が高いか武力紛争中の国や地域,一部の男 –  1989  1994 年に 64.2 歳から 57.6 歳へと 6.6 年縮 性の間で HIV が局所的に蔓延している国や地域の まり,最も深刻な影響を受けたのは働き盛りの男性 男性は,居住国の全体的な死亡状況を考慮しても, だった.男性の死亡率急増の主因として,アルコー 高所得国の男性と比べて死亡率が極めて高い. ル消費量と心理的ストレスの増加が研究で明らかに  第 1 に,男性は武力衝突の際には直接的な犠牲 なったが,それらは経済環境の変化と社会のセーフ –  者 と な る.1955  2002 年 に 発 生 し た 13 カ 国 の ティーネットの弱体化によって引き起こされた可能 紛争に関する研究によれば,戦死者の 81%が男 性が高い 98.ざっくり言えば,アルコールや薬物 93 性だった .例えば,30 年にわたる独立戦争が の乱用に関連した死亡率と障害率は,世界的には女 1991 年に終結したエリトリアを見てみよう.図 性より男性の方が高いのである 99. 134 世界開発報告 2012 図 3.16 HIV 感染率が高い 4 カ国における,年齢別の女性の超過死亡 a. ボツワナ b. ケニア 女性の超過死亡数 女性の超過死亡数(単位1000人) .8 10 .6 5 .4 (単位1000人) 0 .2 0 ‒5 0 20 40 60 0 20 40 60 年齢,年 年齢,年 c. ウガンダ d. 南アフリカ 女性の超過死亡数 女性の超過死亡数 10 20 15 5 10 (単位1000人) (単位1000人) 0 5 0 ‒5 ‒5 0 20 40 60 0 20 40 60 年齢,年 年齢,年 1990 2000 2008 出所:World Health Organization 2010 and United Nations, Department of Economic and Social Affairs 2009 のデータに基づく,世界開発報告 2012 チームの試算.  タイでは 1980 年代後半に,HIV 流行の第一波 はない.こうした行動は,女性の寿命が男性より平 が静脈注射による薬物常用者(大半が男性)を襲 –  均 5  10 年長い先進諸国でも,男性の間に広く見ら い,男性の死亡率が上昇した.この波は性産業従事 れる.寿命の点で女性に分があるのは,純粋に遺伝 者から客へ,そしてその配偶者へと,ずいぶん後に 的要因が関係しているだけではない(遺伝因子が関 なって一般の異性愛者間に広がったため,男性の死 係していても,絶対的なものではない).研究から, 亡率のピークは女性よりも早くやってきた上,高い 死亡率は環境要因に影響されやすいことが分かって 100 水準に達した .加えて,抗レトロウィルス療法 いる.男性は女性よりも喫煙し,食事内容もいい加 (ART)を受ける割合は,女性(53%)の方が男性 減で,ストレスのため方も違う.こうした側面のど ――たいてい女性より症状が進んでいる――よりも れかひとつでも改善されれば,平均余命の男女差は 高かった 101.複数の研究が,リスクの高い男性の性 縮まるだろう. 行動を黙認する社会規範の役割に言及している.男性  この結果から,より的確な問題提起がなされる. は結婚の前後を問わず,たいてい会社の同僚とともに それは,男性の危険な行動や薬物使用,健康リスク 性産業を利用することが広く許容されていた 102.そ の増加をもたらす要因は何か,ということだ.社会 れとは対照的に,女性には結婚前は禁欲が,結婚後 は男性のこうした行動を,“男性性”の根源的理想 103 は貞節を守ることが求められていた . の表れだからと,少なくともある程度までは黙認す  女性より男性の死亡率が高いのは,原因が薬物 るのだろうか? 実際にその可能性があるというこ 使用であれ,暴力犯罪であれ,ハイリスクな性行 と,また少なくとも高所得国では医療システムが 動であれ,低・中所得という状況に限った特徴で “行動”の変化と制度の改善の両方を重視し始めて CHAPTER3 教育と健康:ジェンダー差はどこに真の問題があるのか? 135 図 3.17 国によっては,男性の超過死亡が存在する a. エリトリア b. メキシコ 女性の超過死亡数 女性の超過死亡数 0 4 2 ‒2 (単位1000人) (単位1000人) 0 ‒4 ‒2 ‒6 0 20 40 60 0 20 40 60 年齢,年 年齢,年 c. ロシア d. タイ 0 5 女性の超過死亡数 女性の超過死亡数 ‒20 0 (単位1000人) (単位1000人) ‒40 ‒5 ‒60 ‒10 0 20 40 60 0 20 40 60 年齢,年 年齢,年 1990 2000 2008 出所:World Health Organization 2010 and United Nations, Department of Economic and Social Affairs 2009 のデータに基づく,世界開発報告 2012 チームの試算. 注:y 軸がゼロ未満の値は男性の超過死亡を表す.例えば,1990 年にエリトリアでは,男性の超過死亡数が 20 歳でおよそ 5,000 人という意味. いること,を示唆する文献が相次いで出ている.行 ケアの改善,HIV /エイズの削減,生殖可能年齢層 動の変化を起こさせる政策手段は,多面的で狙い撃 向けに一部の国で行われている家族計画サービスの ちが難しいが(要は,人間の体を理解するより,思 向上など,概ね制度にかかわるものである. 考を理解する必要があるため),西欧諸国での禁煙  懐疑的な人は,なぜ 1 世紀にわたり医学知識が キャンペーンの成功がきっかけとなって,世界中で 増え医療ケアが向上してきたのに,制度が提供する 104 現在この取り組みが実施されている . 清潔な水や衛生設備,また妊産婦医療の問題点を減 らせないのか,と疑問に思うかもしれない.清潔な 貧弱な制度と,標準的な選択肢の劣悪さ 水がなくても,今の親は子どもに水を与える前に沸  繰り返すと,こういうことになる.出生時に行方 かすことを知っているし,子どもが下痢をしてもた 不明の女児と 60 歳未満の女性の超過死亡は,年間 いていの親は対処の仕方を知っている.また家庭 390 万人近くにのぼる.男性の超過死亡は紛争や は,妊娠した母親をいつでも病院に連れていくこと 危険な行動が主因で,これも無用な死につながる. ができる.だが,こうした個人的な解決策はふたつ 過去 30 年間,超過死亡数はほとんど変化がなく, の問題にぶつかる.第 1 の問題は,個人は,病気 サハラ以南アフリカ諸国のなかには死亡リスクが悪 の子が他の子にとっては感染源になるという事実を 化しているところもある.出生後の女性の死亡リス 考えずに行動するということである.感染症のこう クを減らす解決策は,乳幼児のための清潔な水や衛 した“思わぬ影響”が,個人的な行動への対策不足 生設備の提供,出産を控えた女性を対象とした医療 につながっていることはよく知られている. 136 世界開発報告 2012 ボックス 3.2  4 つのアフリカ –   1980  2000 年にサハラ以南の大半のアフリカ諸国で 性に多くの死傷者が出続けている.最近の研究によれば, は就学率が上昇し,幼児死亡率は減少した(とはいえ他 –  コンゴ共和国では 2006  2007 年に強姦が女性 1,000 人 の低所得国よりも減少スピードは遅かった)が,成人の 当たり 29 人――アメリカで年間発生する割合の 58 倍― 死亡リスクは “ 上昇した ”.人口保健調査のデータによれ ―発生したと見られる b.女性の超過死亡は 1980  – 2008 ば,死亡率は男女ともに,また初等教育への就学の有無 年に増加した.合計特殊出生率は概ね 5  – 6 で,5 歳未満 を問わず上昇したが,上昇幅が最大だったのは,初等教 –  の死亡率は生産児 1,000 人当たり 150  200 人である. 育を受けていない男性だった a.それから 10 年,多く 就学率は近年上昇してきたものの,低い水準にとどまっ のアフリカ諸国が急速な成長を経た今,死亡リスクはど ている. こに見られるのだろうか? またサハラ以南アフリカは, 一般に深刻なジェンダー差別が存在すると考えられてい HIV /エイズのアフリカ:第 3 のアフリカは,HIV /エ る南アジア諸国(アフガニスタン,インド,パキスタン イズ感染率の高い国々である.2009 年末,ボツワナ, など)とどう違うのだろうか? アフリカは今 4 つに区 レソト,スワジランド,南アフリカ,ザンビア,ジンバ 分され,それぞれが,女性が健康的な生活を享受する能 –  ブエなどでは,15  –  49 歳のおよそ 6  4 人に 1 人が HIV 力に異なる影響を及ぼしている.その 4 区分とは,①教 /エイズを患っていた.幼児期の死亡リスク,就学率, 育水準が高く死亡リスクが低い,アフリカのなかでも発 出生率については,現在のインドとよく似ている.1990 展している国,②主に南部の HIV /エイズ感染国,③エ 年には,ボツワナと南アフリカの男女の死亡率の特徴は, リトリアやリベリアなどの紛争国,そして不思議なこと 今日の高所得国とよく似ていた.しかし 2000 年までに, に④西部および中央アフリカである. 成人の死亡リスクは上昇し,上昇の度合いは男性よりも 女性の方が大きくなった.1980 年には,死亡リスクは 発展するアフリカ:エチオピア,ガーナ,マダガスカル, 男性では教育水準が高いほど大きかったが,女性は教育 トーゴなどは,HIV /エイズの蔓延を概ね免れてきた. 水準が高い方が,また男女とも都市部の方が小さかった. 5 歳未満の幼児死亡率は,生産児 1,000 人当たりおよそ –  2000  2004 年までに,教育水準が低い男女の方が高い 100 人である(ガーナでは 76 人未満) .出生後の女性の 男女よりも死亡リスクが大きくなり,農村部の男女の死 超過死亡は低く,就学率は比較的高い.出生率の低下に 亡率は都市部の男女と同じになった. よって出産関連の死亡リスクも減った.合計特殊出生率 –  は現在 4  5 である.保健と教育についてはパキスタンに 似ているが,初等教育の就学率はやや高い.出生率はイ 「今起きている最悪の虐待は,男が女に HIV / ンド(2.7)やパキスタン(3.9)よりまだ高く,5 歳未 エイズを感染させること….無防備な性交渉 満の死亡率も両国よりも高い. をめぐって男女の間でけんかになるの.女は コンドームを使ってもらいたいけど,男は嫌 紛争のアフリカ:サハラ以南アフリカは,過去 30 年に . がるからです」 わたり 2 種類の紛争を経てきた.1980 年代及び 1990 年代には,エリトリアやリベリアなどで起きた全面戦争 南アフリカ,成人女性 によって,多くの若い男性の命が失われた.周期的な勃 発を除けば,こうした紛争は次第に減りつつある.しか し,その影響は続いている.リベリアのバーグブロータ ウンでは,電気,水道水,公共の給水塔,下水システム 中央および西アフリカ:サハラ以南アフリカで本当によ に全くアクセスできない.公共交通手段はなく,一番近 く分からないのは,中央および西アフリカ諸国,なかで い病院へは徒歩で 3 時間半かかる.女性たちによれば, もブルキナファソ,チャド,マリ,ニジェール,ナイジェ 緊急時には病院へ走るか歩いていかなければならない. リアである(アフリカ東部のソマリアも,これらの国々 また,病院で死んだ子どもは,自宅のある村まで運んで .ガーナとセネガルを除くこれら と非常によく似ている) 土に埋める.他の国々では広範囲に及ぶ内戦により,女 の国々の多くでは,この期間,全体的な死亡リスクは不 変または悪化した.これらの国での女性の死亡リスクの 上昇は体系的なものである.リスクの上昇が最大だった のは,初等教育以上の教育を受けた女性だった――2000 「男も女も同じ.みんなでこの地獄を耐え忍ん 年の時点ででさえ,都市部の教育水準の高い女性は他集 . でいます」 団よりも死亡率は低かったが.今日,ブルキナファソ, 中央アフリカ共和国,チャド,マリ,ニジェール,ナイ リベリア,成人女性 ジェリアは,死亡リスク,出生率,女子就学率の点で, アフガニスタンと極めてよく似ているようだ.これらの CHAPTER3 教育と健康:ジェンダー差はどこに真の問題があるのか? 137 ボックス 3.2  4 つのアフリカ(続き) –  国では,5 歳未満の死亡率は,170  220 で(アフガニス 争による顕著な影響はもちろん,制度やサービス提供が劣 ,合計特殊出生率は 4.5 – 7 以上 タンはさらに高く 257) 悪だと,露骨なジェンダー差別と同等かそれ以上の害を女 (アフガニスタンは 6.6) ,成人の死亡リスクはアフガニス 性に与えかねないという事実である.国際社会が注力すべ タンと実質的に等しい.初等・中等教育の就学率もほぼ同 き問題を決定するにあたり,アフリカ大陸の特に中央およ じである. び西アフリカについてわれわれがいかに無知であるかを指  こうした結果には困惑させられる.このグループの国々 –  摘する価値はある.1985  2004 年にトップ 202 誌の経 には共通項がほとんどないからだ.内陸国もあれば,海 済ジャーナルで発表された全論文中,パキスタンについて に接した国もある.公用語が英語の国もあれば,フラン は 149,インドについては 1,093 の論文が書かれていた ス語の国もある.成長のスピードもバラバラである.紛 ――が,アフリカ諸国についての論文数は,中央アフリカ 争の有無も一様ではない.唯一の確かな共通項は,ただ 共和国はゼロで,チャドは 1,ベニンは 14,ギニアビサ でさえ脆弱な女性の生計手段が損なわれつつあるという ウは 1,ニジェールは 20 だった.ブルキナファソ(47) ことである. とナイジェリア(148)についての論文数だけは増加し始 めている.国際社会はなすべきことを決める前に,現状の 4 つのアフリカが浮き彫りにするのは,HIV /エイズと紛 理解に努めるべきである c. a:de Walque and Filmer 2011 b:Peterman, Palermo, and Bredenkamp 2011; Shannon 2010 c:Das 他 2009 「重要な」選択をほとんどしなく  第 2 の問題は,  背の高い男が,赤ん坊に乳を飲ませている若 てよい場合には個人的な行動もうまくいくが,現実 「どうか,あそこを い女性を指さして言った. は大きく異なる可能性があるということだ.世界中 見てください――赤ん坊が真っ赤になって,熱 の貧しい人々は,子どもが病気になるたびに,非常 を出しているんです.私は昨日,徒歩で隣町ま に多くの選択――たいていはひどい選択――を迫ら で行き,町で稼いだ金を全部使って薬を手に入 れる.水を沸かすための薪をどこで手に入れるか? れました.そして夜遅くようやく戻ったのに, 砂糖はどこで入手すべきか? 片道 5 時間かかる その薬は全く効かないのです」.赤ん坊の額に 医者へ子どもを連れて行くべきか? 治療費はいく 触れてみると燃えるように熱かった.その子は ら請求されるだろうか? 子どもを運ぶ必要がある 懸命におっぱいを吸っていたが,あまりお乳は としたら,母親は夫を待つべきだろうか? どの選 出ていないようだった.私は母親に,ちゃんと 択も,もしうまくいかなければ取り返しのつかない 食べているのかと尋ねた.他の人たちも会話に 結果を招きかねないのである. 加わってきて,家の男たちが戻ってくるのを  世界中どこでも,貧しい人々は裕福な人なら当 待っているのだと言った.家には全く食べ物が 然と考えるような事柄について,日々多くの選択 なかったのだ.彼らがいくばくかの米や雑穀を を迫られ,決定を下さなければならない.制度が 何とか入手して帰ったら,食事を作るつもりな お粗末だと人々が選べる標準的な選択肢も劣悪に のである.私は赤ん坊の症状が心配になり,経 なり,「選択の自由」は「選択の強制」になってし 口補水液について知っているか尋ねたが,彼ら まう.このような状況下では,多くの病気や命を は何も知らなかった――准看護助産師(ANM) 左右する選択が,女児の超過死亡を発生させてし は,この村に一度も来ていなかったのである まうのである. …….  こうしたポイントを示すため,貧しい村で病気の  私に同行していたサルパンチ(首長)は,次 子どもに経口補水液を与えるという,以下の事例を 第に弁解がましくなった.そして「われわれの 見てみよう. ところにやってこない,何に困っているのか 言ってこないような村人を,どうやって助け 138 世界開発報告 2012 ろと言うんだ?」と言った.私はサルパンチ 女を叱り理由を尋ねてみたところ,同じ町出 に,赤ん坊にとって水分の摂取がどれほど大切 身の女性が出産中に病院で亡くなったとのこ なことなのかを,この若い母親と隣にいる年長 とだった.その人にとって 5 度目の出産だっ の女性に説明してほしいと頼んだ.彼は土地の た.妊婦は何も遠くの村からやってきたわけで 言葉で説明を始めた.「塩は家にあるね? な はなく,ソコトにいたのだ.そこは病院のある らば,このくらいの量の水にこのくらいの量の 都市である.出発が遅れたわけでもなく,むし 砂糖を入れて沸騰させ,それからひとつまみの ろちょうどよい時間だった.だが,病院に行く 塩を加えて,レモン汁を数滴絞りなさい.家に 車を見つけ,彼らがなんとか入院許可証を手に 砂糖がない? それなら村の誰かの家に行きな 入れ,彼女の入院が認められ,彼女の書類の準 さい.自分のために使うのならくれないかもし 備ができ,助産師が呼ばれ,助産師が食事を終 れないが,赤ん坊の命を救うのに必要なのだと え,助産師がやって来て,夫が手袋を買いに行 言えば,必ずや一握りの砂糖を分けてくれるは き,手袋を買って病院に戻り,助産師が再び呼 ずだ」.女性はうなずいた.私が水はどこから ばれ,助産師が妊婦の状態を確認し,出血が始 汲んでくるのか尋ねると,また新たな問題が持 まり……,医師を探し,医師が見つかり,救急 ち上がった.一番近くにある水汲み用ポンプが 車が医師を拾いに行き,医師がやって来て,夫 壊れていたのである.淀み濁った近くの小川の が薬と点滴装置と点滴薬とエーテルを買いに行 水が,飲み水のすべてだった.サルパンチは赤 き,夫が血液バッグを求めて街中を探し回り, ん坊の祖父に,水は必ず沸騰させてから冷ます やっとそれを見つけ,綿棒や包帯や薬や点滴薬 ようにと言った.私は状況がいかに絶望的であ に有り金を使い切ってしまったから血液バッグ るかを理解し始めた.砂糖もない,清潔な飲み の値段をまけてくれと薬剤師に頼みこみ……, 水を手に入れるところもない,燃料も足りない 血液専門医が呼ばれ,血液専門医がやって来 のだ.だが酔っていたその男は「お前が何と言 て,疲労困憊した哀れな夫から採血し……,日 おうと,わしらは誰かの家に行って物乞いなん 勤と夜勤の看護師が交代し,日勤と夜勤の医師 てやらんぞ」と再び語気を荒げた.しかし女性 が交代し,助産師が再びやってきて,医師が たちはなお熱心に耳を傾けていたため,そうす やってきて,書類の所定の位置に×印や点を記 るつもりなのだと私は思った.「でも一度に飲 入し,夫が同意書にサインをしているうちに, ませないこと.少しずつ,すすらせなさい」と 女性は死んでしまったのだ.今日,夫は使われ 私は伝えた(それをどうやって示せばいいだろ ることがなかった薬や医療品を売って,妻を村 う?) すると女性が 1 枚の葉を匙のように折 に連れて帰ろうとしたが,彼は妻の遺体を二度 り, 「こんな具合にですか?」と尋ねてきた. と病院で見つけることはできなかった 106. サルパンチは,経口補水液を手に入れて,彼ら を助けることを約束した 105.  “危険な兆候の察知”から始まる,安全な出産に 至るすべての段階に,問題が山積している 107.た  これは何も特殊な話ではない.妊産婦死亡につい とえ危険な兆候が察知できても,訓練を積んだ医師 ても見てみよう.理論的には,処置が迅速かつ適切 や看護助産師がいないとしたら,血液不足が常態化 であれば,多くの妊産婦死亡はなくすことができ しているとしたら,機器が頻繁に壊れているとした る.しかしこれは口で言うほど簡単ではない.ガー ら,医療施設が妊産婦に対してできることはあまり ナ,ナイジェリア,シエラレオネでの先駆的な研究 ないことは家族も分かっている.病院に行ってもお によれば,たとえ妊婦が病院に連れてこられても, そらく治らない,あるいはむしろ病院で死んでしま 治療が遅れれば取り返しのつかない結果につながる うかもしれない,と思っているときに,人はわざわ のである. ざ治療を受けようとは思わない 108.最初の段階― ―危険な兆候の察知――でさえ,医療施設では難し  今日,女中のメアリーが仕事に遅刻した.彼 いのかもしれない.例えば,子癇前症(妊娠中毒症 CHAPTER3 教育と健康:ジェンダー差はどこに真の問題があるのか? 139 の一時期に血圧が上昇し,妊婦の命にかかわる症 れない理由である).それに加え,可能性が小さく 状)の医療提供者の知識について調べた研究によれ 利益が莫大なとき,個人が合理的な計算を行うのは ば,そうした教科書的症例の患者を病院に紹介す 困難である. ると答えたのは,調査対象の医療提供者の 25%に  その代りに歴史的に行われてきたのは,水道管を 109 満たなかった .こうした問題は,妊産婦死亡に 通して清潔な水を使用場所まで送りこむという方法 限ったことではない.例えばマラリアによる死亡に である.これだと,貧弱な学習しかしていない世帯 関する研究によれば,死亡者の 75%が医療提供者 が不確かな状況で,難しい評価モデルを使い,特定 のケアを受けており,なかには複数の医療提供者か の選択――どのように男女の扱いを変えるか,どの 110 らケアを受けていた人もいた . 水源を使うべきか――を行うことは無意味になる.  これらの問題解決による収益率は大きい.アフリ 水道管を通すという解決法は,たいてい高価“過ぎ カの最貧 40%層は,安全な水へのアクセスが限ら る”ものにならざるを得ないが,その費用が何に対 れ,汚染された水源を使っている可能性が最も高い して高価なのかは全く明白ではない.アメリカで 人々である 111.使用場所での水の浄化には,手洗 は,死亡率のコストを考慮し,清潔な水の提供につ いや衛生設備に匹敵するほど大きな,下痢を減らす いての社会的収益率を算定したところ,23:1 と 効果がある(水源で浄化を行うことは再汚染の可能 なった 116.清潔な水は,感染症の負担を劇的に減 性があるため,あまり有効ではない).アルゼンチ らすことが,つまりここでの議論で言えば,女の乳 ンの都市部では,上下水道の普及に伴って不衛生 幼児の超過死亡を劇的に減らす可能性のあることが な水に関連する疾患が減り,幼児死亡率が 8%低下 分かっているのだ. 112 した .同様に,20 世紀初頭にアメリカでは清  同様に,妊産婦死亡を減らすためには,システム 潔な水にアクセスできるようになり,死亡率はほ 全体が機能する必要がある.女性には,妊娠前の葉 ぼ 1/2 に激減,乳児死亡率は 3/4 減,幼児死亡率 酸,妊産婦検診,潜在的に危険な疾患の特定,医療 113 は 2/3 減となった .その収益率は女児の方が高 機関での出産,適正に機能している病院が必要であ かった.水源での水の浄化に関するランダム評価に る.繰り返すが,今のシステムが家庭に強いている よれば,下痢の発生率が下がったのは 3 歳未満の 無数の選択(どの病院に行き,どこで採血し,どこ 114 女児だけだった . で薬をもらい,どうやって医師のところに行けばい  これらの研究結果は,様々な水処理法の相対的利 いのか等)は,現状からなくす必要がある.こうし 益と,世帯が清潔な水に出費する意欲についての議 た制度面での問題が解決すると,人々の選択回数が 論を呼んだ.清潔な水の微妙な差などに関心のない 減って,選択を迫られる状況から自由に選択できる 部外者から見ると,この議論は今日の富裕国がかつ 状況へと移行できる. て行った選択とはかけ離れている.  もちろん,南アジアの一部のような差別が公然と  ケニアでの水の浄化に関するランダム評価によれ 行われている地域でも,制度面の改善だけで違いが ば,同国の世帯には清潔な水を手に入れるために 生じるかどうかは疑問である.制度面の改善だけで 115 3.5 分余計に歩こうという意欲はなかった .ひ すべてが解決しなくても,それは絶対に役に立つだ とつの理由として考えられるのは,清潔な水がもた ろう.例えばきれいな水を使える家庭で,息子が病 らす恩恵を理解するのは単純に難しいということで 気になったときと娘が病気になったときのどちらの ある.家庭が下痢性疾患の原因について十分に理解 ときに水を沸かすかという問題など起きようがない していても,全体としては病気の負担が少し減るだ のだから.しかしそれ以外にも,差別と死亡率とが けで栄養状態が改善するわけではない.そのため, 関係しているのは,必ずしも世帯内で息子と娘がと 清潔な水がよりよい健康につながることを個々の家 んでもなく違う扱いを受けているからではない.男 庭が推し量るのは極めて難しいのだ(研究者からす 児と女児の扱い方のわずかな違いが,最終的には死 ると,これはまさに,膨大な――一世帯で集められ 亡率の大きな格差につながるのだ――それはまさ るよりも,当然はるかに多い数の――サンプルがな に,ときには致命的で不可逆的な状況もあるからで ければ,死亡率へのいかなる介入の影響をも推し量 ある.インドのような国では,子どもは誕生から 5 140 世界開発報告 2012 –  歳までの間に 50  70 回病気になることを考えると, wt.h[g(mena), q(womena)] のような指標である.ま 病気になったときに男児を 99.997%生存させ,女 ず,h[g(mena), q(womena)]=mena/womena と い う 児を 99.992%生存させる行動が,全体の死亡率で 関数形式を用いてデータを処理する.次に,各年齢 は男児は 11%,女児が 13%という差となりうるの における重みを用いてデータを処理する.しかし重 である.こうした小さな違いに差別が関与している み,つまり wi は,高所得国の女性に対する男性の 状況では,大半の問題は制度によって解決できるだ 死亡率比である. ろう――差別そのものを減らすのではなく,差別を  図 3A.1 は,5 つの国々・地域――“対照”とす 無意味なものにすればいいのである. る高所得国,サハラ以南アフリカ,インド,中国,  制度には清潔な水,衛生設備,妊産婦ケアによっ ロシア連邦――の各年齢における男女間の相対死亡 て公衆衛生を向上させる責任があるが,それはどの リスクを示している.対照の高所得国では,男女の ように改善できるのだろうか,またどのように改 死亡率は幼児期にはほぼ同じだが,その後,女性 善してきたのだろうか.これについてはさらに第 7 に対する男性の死亡率比は急激に上昇して 20 歳で 章で検討する. ピークに達し,それから減少して横ばい状態になっ たのちに 60 歳付近でやや上昇する.なお高所得国 –  では,15  60 歳の全体的な死亡率はきわめて低い. 技術的補遺 3.1 中国は高所得国とよく似たパターンを示す.インド 出生時に行方不明の女児と出生後の女性の超過死 では,幼児期での女性に対する男性の死亡率比は高 亡の算出 所得国に比べて著しく低いが,50 歳まで高所得国  本報告書では,出生時に行方不明の女児と,出生 のそれに近づいていき,それ以降,再び高所得国と 後の女性の超過死亡という,ふたつの指標を用いて の差が広がる.サハラ以南アフリカでは,幼児期に いる.出生時に行方不明の女児は,出生時性別比を おける女性に対する男性の死亡率比はインドに近い 性差別のない比較対照集団――一般に高所得国―― が,10 歳以降は女性の相対死亡リスクが悪化して と比べて算出する.サハラ以南のアフリカについて いき,その後ずっとインドよりも低いままである. は,アメリカ合衆国の黒人集団と比較する 117.女 ロシアでは,20 歳になるまでは,男性の相対死亡 性の超過死亡は,各国の各年齢での死亡率性別比 リスクは対照国よりはるかに高く,80 歳までその を,高所得国の 2000 年における同年齢での死亡率 傾向は変わらない. 118 性別比と比較して算出する .これによって,ど  女性の超過死亡について言えば,対照集団を用い の年齢の女性の超過死亡も求められる.次に,各年 て重み付けするということは,もしある国で男女の 齢の超過死亡を年齢層ないし生涯にわたって足し合 死亡率が同じだとしても,10 ~ 30 歳では“重み” わせると,女性の超過死亡に関連する推定値が得ら が大きいことを意味する――なぜなら,対照国では れる.この指標によって示されるサハラ以南アフリ 10 ~ 30 歳で死亡率の男女差が最も大きいからだ. カの女性の超過死亡問題は,諸文献で論じられてい このような重み付けは,全体の死亡率が低い年齢層 119 る .本項では,この方法を用いるにあたって必 ではあまり重要ではないが,全体的な死亡率が高い 要な前提を論じ,生じ得る問題を検討する. 年齢層では大きな影響を及ぼす.男性の超過死亡に  女性の超過死亡に関するそうした算出結果を自然 ついては,逆のことがあてはまる.その結果,以下 に解釈すれば,“対照”の国々との比較ということ のことが言える. になる.だがそれとは別に,われわれが(a)各年 齢における男女間の相対死亡リスクを要約する関数 1. 対照集団の死亡率分布が変化すれば,女性の超 形式を想定し,(b)各年齢でこれらの相対死亡リ 過死亡の算出結果が変化する.そのため,この スクに重み付けをすることによって,男女の死亡率 分析全体を通じ,われわれはすべての比較で同 の年齢別分布をひとつの数値に要約している,と じ対照集団を用いている. いう解釈もある.すなわち,われわれが関心をも つのは,死亡率の全年齢にわたる総和を求めたΣ 2. 成人の死亡率の男女差は,各年齢で死亡率の差 CHAPTER3 教育と健康:ジェンダー差はどこに真の問題があるのか? 141 が変化したり(例えば,各年齢で 図 3A.1 年齢別の死亡率性別比(2008 年) 死亡の相対リスクを変化させるよ 4 うな行動変化による),「性別比」 基準曲線 (比較対照集団) 女性の死亡率に対する男性の死亡率 基準曲線より上にある は同じでも全体的な死亡率分布が 死亡率性別比は,男性 3 の死亡が女性を上回る 変化したりすると(例えば,死に ことを意味する さらされる危険性が若年層からよ り年齢の高い層へ移行することに 2 よる),拡大する可能性がある. 1 3. 死亡率の高い国や地域では特に, 基準曲線より下にある死亡率 性別比は,女性の死亡が男性 選択効果によって年齢別の死亡率 を上回ることを意味する 0 分布に偏りが生じる可能性があ 0 20 40 60 80 100 る.ある年齢まで生きる人々は, 年齢 それより若くして死亡する人々と 高収益国 中国 サハラ以南アフリカ ロシア はまったく異なるかもしれないか インド らだ.そのような選択効果は,生 出所:世界保健機関 2010,国連経済社会局人口部 2009 のデータに基づく,スタッフの試算. き残っている集団の生存率が,そ れより早く死亡した人々が仮に生 きていて生存集団に含まれている場合の生存率 象徴している(男女別の喫煙率に最大の開きがあっ と異なるかもしれず,それが超過死亡の推定値 たのは 1900 年で,喫煙は 60 歳以降に超過死亡を に影響を与える選択バイアスにつながり得るこ もたらす)120.女性の超過死亡は,異なる対照集 とをほのめかしている. 団を用いても 60 歳未満では似たような値となるが, 60 歳以降ではかなり大きな差が出る. 4. 要約として比率を用いることは,男性の死亡率  この堅固性の問題に加え,重み付けとして高所得 が減少すると女性の超過死亡が増加することを 国の死亡率分布を選択したことにより,対照集団の 意味する(例:エリトリアやリベリア).本章 死亡リスクは十分に明らかであるということが保証 では具体的な死亡リスクを調べ,本章で取り上 される.したがって,この重み付け手法に伴って生 げた問題がこの部類に入らないことを確認して じる問題が明白になる.一方,高所得国ほど研究の いる.なお,もしもこの部類に入るときには, 進んでいない国・地域の死亡率分布を重み付けとし 読者に注意を喚起している. て選択した場合,今回の重み付け手法によって得ら れる結果の解釈が難しくなる可能性がある.  死亡関数をどのように要約するとしても,いくつ  重み付けの手法としては,ほかにたとえば富裕国 かの前提が必要になるだろうが,本報告書で用いた における過去の死亡率分布を用いるものがある.参 重み付けは,世界の多くの国における死亡率分布に 考文献として挙げた“行方不明の女性たち”に関す 近く,60 歳までならば,異なる“対照”集団を用 る論文では,性差別のみに起因する女性の死亡率の いた比較でもかなり堅固である.図 3A.2 は,2000 特定に焦点を当てている 121.それらの論文では, 年のアメリカ,日本,オランダ,そして 1960 年の 現在と過去の死亡率分布を比較することにより,全 イギリスを高所得国に代わる対照集団とし,女性の 体的な制度的環境と死亡リスクの補正を試みてい 超過死亡を算出して比較したものである.日本は女 る.一方,本章では,制度の違いに関しては除外す 性の平均寿命が非常に長く,オランダは交通事故 るのではなく,考慮の対象に入れようとしている. (交通事故によって若い男性が多く死亡する)の比 もし過去の死亡率パターンが,現在の死亡率分布に 率が特に低い国である.1960 年のイギリスは,喫 妊産婦死亡による死亡率を上乗せしたものを表して 煙による男性の死亡が増加する以前の死亡率分布を いるならば,性差別の指標としては,高い妊産婦死 142 世界開発報告 2012 中の女性にとって特に危険な大陸 図 3A.2 さまざまな比較対照集団を用いた場合の,世界における女性の年 齢別超過死亡(2008 年) となっている.第二に,制度やサー ビス提供を改善することや世界の 1,000 健康問題に取り組むことは,国際 女性の超過死亡数(単位:1000人) 800 60 歳以降は,女性の超過死亡 社会にとって基本的な目標だから 数の推定値は,対照集団をどの ように選択するかの影響を 60 である. 600 歳未満に比べて大きく受ける  本章のデータについて最後にひ とつ述べておく.本章では,世界保 400 健機関(WHO)の 1990 年,2000 200 年および 2008 年における加盟国の 生命表と,国連経済社会局(DESA) 0 による人口予測を用いている.本 0 20 40 60 80 100 章で示した具体的な数字は,生命 年齢 高収益国,2008 年 オランダ,2008 年 表の改訂や 2011 年の新しい国勢調 日本,2008 年 イギリス,1960 年 査によって変わるだろう.データ アメリカ,2008 年 の改善にもかかわらず,多くの国 出所:世界保健機関 2010,国連経済社会局人口部 2009 のデータに基づく,スタッフの試算. において,これらのデータは調査 や外挿に基づいて推測されている. 亡率を「補正」するものもあろう.それとは異な だが,他の情報源からのデータを用いた複数の方法 り,われわれは,妊産婦死亡の問題に重点的に取り で考察を行うことによって,本報告書の結果は特定 組むことで死を避けられる女性(および男性)の割 の方法のみに基づくものではないということを確認 合に関心がある.理由はふたつある.第一に,本章 している.本章はひとつのグローバルな状況を示し ではあらゆる死亡を平等に扱っているからだ.過去 た.光(すなわちデータ)が当たったところだけに の死亡率を用いれば,サハラ以南のアフリカには何 着目すると,暗闇にあるより大きな問題を見過ごす の問題もないことが示されるだろうが,この解釈は 可能性がある.大切なのは,今存在するデータを確 重大な誤りだろう.サハラ以南アフリカには,差別 固たるものとして扱うことではなく,死亡リスクの による死亡はないのかもしれないが,劣悪な制度に 地理的・年齢的分布を際立たせ,さらなる分析や今 HIV/ エイズの影響も重なり,アフリカ大陸は世界 後のよりよいデータにつなげていくことである. CHAPTER3 教育と健康:ジェンダー差はどこに真の問題があるのか? 143 章のまとめ 教育や保健でのジェンダー差の縮小について,世帯,市場,制度のいずれかの障壁をひとつ撤廃するだけ で十分に良い結果が得られる場合は,飛躍的に進歩してきた.複数の障壁を同時に撤廃しなければならな い,またはたったひとつの入口がネックとなっている場合は,進歩のスピードはもっと遅い. 注目点 保健  就学のジェンダー差は全教育レベルで劇的に縮小した  男性に偏った出生時性別比は,多くの場合,男児の選好 が,極めて不利な集団では格差が残っている.加えて,学 にみられる露骨な性差別,出生前診断による性選択の増加, 習分野は依然として男女で異なっており,貧困国も富裕国 出生率の減少の相互作用によるものである.だが出生後は, も同様の分岐パターンを示している.また多くの低所得国 公衆衛生とサービス提供の制度が貧弱なために,幼児期と では,男女とも学校でほとんど学習していない. 生殖可能年齢期の女性の死亡超過を招いている.サハラ以  男性に偏った出生時性別比は,中国とインドの一部, 南アフリカの一部では,生殖可能年齢期の超過死亡の問題 コーカサスおよび西バルカン諸国の一部で存続している. に,HIV /エイズのリスクが輪をかけている. 多くの低・中所得国では,女児・女性の死亡リスク(対男 児・男性)が高所得国よりも高い.この“女性の超過死亡” はいまだ広範に存在するものの,世界の多くの地域で減少 政策にとっての意味 してきた.明らかな例外はサハラ以南アフリカであり,む  第 1 に,教育分野では,個々の状況に則した戦略の立案, しろ増加している. ,世帯における 制度上のネックの軽減(学校の建設など) 制約の緩和(条件付き現金給付など)など,極めて不利な 集団のためにやるべきことがまだたくさんある.第 2 に, 注目の理由 学習結果の向上は,グローバル化が進行する世界に加わる 教育 上で男女とも不可欠である.第 3 に,学習分野――この選  教育におけるジェンダー差は縮小しており,このような 択によって,男女とも希望の職業に就くのに必要なスキル 進歩は,学校教育に対するひとつの障壁を,世帯,市場, を身につける――の分離をなくしていくには,世帯,市場, 公式の制度のいずれかで排除した結果である(世帯なら収 制度が「同時に」変わる必要があるだろう. 入を安定させた,市場なら教育の収益率を増やした,公式  韓国で産業化と都市化によって世帯の行動が変化したよ の制度なら学校教育コストを減らした) .極めて不利な集 うに,非公式の制度が変わると世帯の行動が変わり,出生 団で女子が不利益を被りつづけるのは,他の形態の社会的 時に行方不明になる女児の問題が解決していくだろう.最 疎外と相まった経済的駆動要因の欠如が原因である. 後になるが,出生後の女性の超過死亡を減らすには,公式  一方,男女の教育コースが分岐していくのは,複数の障 の制度を整備する――幼児期には清潔な水と衛生設備を提 壁が同時に作用して選択に影響を及ぼすからである.これ 供し,生殖可能年齢にはサハラ以南アフリカでの HIV /エ らの障壁とは,教育システム内の固定概念,女性の職業選 イズを減らしつつ,妊産婦ケアを向上させる――ことが必 択を抑制する世帯内の性別の役割の規範,世帯形成と出産 要である. に対する雇用主の姿勢である. 144 世界開発報告 2012 注 1. Chen, Huq, and D’Souza 1981. 53. WHO 2010. 2. Case, Ferting, and Paxson 2005. 54. de Walque and Filmer 2011. 当該データは,サハラ以 3. Case and Deaton 2003; Cawley 2004; Case, Ferting, 南アフリカの人口の 88%と,サハラ以南アフリカ以外の and Paxson 2005. 発展途上国の人口の 14%をカバー. 4. Strauss and Duncan 1995. 55. Rajaratnam 他 2010. 5. Currie and Moretti 2003. 56. Chahnazarian 1988. 6. Chou 他 2007. 57. Anderson and Ray 2010. 7. Andrabi, Das, and Khwaja 2009. 58. See for instance, Filmer, King, and Pritchett 1998. 8. WHO 2010. 59. Coale 1984; Das Gupta 1987; Sen 1992. 9. Albanesi and Olivetti 2010. 60. Jha 他 2006; Das Gupta 他 2003. 10. Jayachandran and Lleras-Muney 2009. 61. Bhalotra and Cochrane 2010; Yi 他 1993; Park and Cho 1995. 11. Albanesi and Olivetti 2010. 62. Bharadwaj and Nelson 2010. 12. Bhaskar 2011a; Bhaskar 2011b. 63. 同上. 13. Hoyos and Narayan 2011. 64. Abrevaya 2009. 14. Oster and Millet 2010. 65.Yamaguchi 1989, Jensen 2005 が拡充. 15. Jensen 2010. 66. Filmer, Friedman, and Schady 2008. 16. 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CHAPTER4 女性のエージェンシーを促進する 151 以下の 4 点が明らかとなる 1.1 点目は,経済が成 女性のエージェンシーは重要である 長すると,賃金が上昇し,サービスへのアクセスが  女性のエージェンシーは 3 つのレベルで重要で 向上し,インフラが拡大するため,母親がエージェ ある.まず,女性のエージェンシーには,女性個人 ンシーを行使する条件が向上するということであ の福利と生活の質にとって本質的妥当性がある.ま る.しかし,総所得の増加が女性のエージェンシー た,女性と家族の福利を向上させる行動にとって, に与える影響力は,女性が「自分の」所得を得る力 手段として妥当性がある.そして,もし女性が自ら によってある程度変わる.その力があると,家庭内 のコミュニティの制度,社会規範,福利を具体化す での交渉力が強まり自分自身の資産が増えるから る積極的な役割を果たすことになれば,それが必要 だ.経済成長だけではエージェンシーのジェンダー となるということだ 2. 差はなくならないだろう.  2 点目は,女性の権利の拡大によって,エージェ • 女性が自らの生活に影響を与える能力は,本来 ンシーが促進される領域があるということだ.しか それ自体,重要なものである. 有効な選択を し家族の形成にかかわる権利や世帯の資源をコント し,自分の生活を自分でコントロールする個人 ロールする権利については,拡大が制限されてき の能力は福利の要である.男女は,ともにより た.また権利の拡大が,変化をもたらす上でどのく よい結果を望み,有効な選択をし,生活を改善 らいの効果を発揮するかは,権利の適用範囲――多 するための行動をとる場合に限り,自分たちの 元的法体制と関連することが多い――と行使によっ 状況に異を唱え,それを変えることができる. て変わってくる. • 女性が自らの生活に影響を与える能力は,福  3 点目は,社会規範が女性のエージェンシーを形 利の別の面でも重要である. エージェンシー 作るということである.市場と制度に加え社会規範 は,女性が人的資本を形成し経済機会へアク も,女性の人的資本形成と機会だけでなく,それら セスする能力を決定する.家族の形成――特 を使う選択を女性ができるかどうかを決定する.規 に結婚・出産のタイミングと子どもの数―― 範があるために,法律やサービスや所得の恩恵を男 に関する決定は,女性の教育投資にとって極 女が等しく得られない場合,規範は女性のエージェ めて重要なものだ.実際のところ,結婚を遅 ンシーを抑制するのである.女性のエージェンシー らせることと,教育水準と賃金の上昇および が増大して家庭や社会のパワーバランスを直接変え 健康を求める行動の増加との間には強い関連 るようなときに,社会規範はとりわけ拘束力をも がある 3.バングラデシュでは,保健ケア,家 つ.サービス提供の改善,情報の提供,ネットワー 族の買い物,親戚や友人への訪問をコントロー クの構築といった市場や制度における改革は,コン ルできる女性ほど,栄養状態が押し並べて優 プライアンス(法令遵守)の費用対効果に影響を与 良である(所得水準が同じ場合でも)4.身体 え,社会規範の拘束力を弱める. 的移動性も,少女や女性がサービス――教育,  4 点目は,女性の集団的エージェンシーは社会を 保健,水,司法など――にアクセスしたり,社 変革するということである.女性の集団的エージェ 会的なネットワークを築いたりする上で非常に ンシーは,個人のエージェンシーによって決まると 重要である.ザンビアでは医療機関から 2 時 ともに,個人のエージェンシーを決定する.女性が 間以内に住む女性が医療機関で出産する確率 もつ周囲に影響を与える能力は,公式の政治ルート はそれより遠方に住む女性の 2 倍である 5.パ ――性別の役割と制度構造についての社会規範や社 キスタンでは,身体的移動性の向上と避妊手 会通念によって,女性には閉ざされている場合があ 段の利用や医療へのアクセスの増加には関連 る――を飛び越える.女性は非公式の組合・団体へ がみられる 6.アメリカでは避妊手段の利用 の参加や集団行動を通じて周囲の環境に影響を与え によって結婚年齢と所得が上昇し,ヨーロッ られるが,それがうまくいくかどうかは,個人が有 パでは産児制限に関する権利が認められた後, 効な選択を行えるかどうかにある程度かかっている. 女性の労働参加率と所得が上昇した 7. • 女性がエージェンシーを行使すると,子どもの 152 世界開発報告 2012 図 4.1 子どものときに暴力を目撃すると,成人後に暴力を行使する傾向がある 60 50 成人男性,暴力の行使、% 40 30 20 10 0 メキシコ ブラジル チリ インド クロアチア ルワンダ 父親の暴力を目撃していない男性 父親の暴力を目撃した男性 出所:Banker 他 2011 福利が向上する.選好のジェンダー差は,女性 カでは,母親が働いていた女性,及び母親が働 の方が子どもの人的資本への投資に積極的だと いていた男性と結婚した女性のどちらも,働く いう,世帯の支出と消費のパターンの差になっ 可能性が極めて高い 13.したがって,暴力か て表れる.女性による所得や資産のコントロー ら安全でいられる能力や経済的エージェンシー ルは,ひとつの手段として子どもの福利にとっ を行使する能力を女性がもっていると,暴力の て重要なのだ.ブラジル,コートジボワール, 世代間伝達が抑えられ,ジェンダー的役割に関 イギリスでは,女性が所得をコントロールする して好ましい規範が強化される. 力が大きくなると,子どもに利する出費が増え • 女性の集団的エージェンシーには変革をもたら る 8.ガーナの農村部では,女性が家庭の資産 す力があり,社会や政策の変化を促す.ひとり や土地を所有する割合と食費との間には,正の ひとりの女性の発言力は限られたものかもしれ 9 関連がある .ネパールでは,土地を多く所有 ないが,集団になればはるかに大きな圧力をか している母親ほど,著しい低体重に陥る子ども けることができる.共に行動することで,個人 が少ない 10.そしてメキシコでは,家庭内の に立ちはだかる制約を克服できることもある. 意思決定力が大きい女性の娘ほど,家事をする 女性個人のエージェンシーが強まれば,その人 11 時間が短い(息子には該当しない) . は自分の環境や制約内で好ましい結果を得られ • 女性のエージェンシーは,子どもの未来の行動 るかもしれないが,それだけで他の女性の環境 を形作る.子どもが家庭で見たり経験したりし を変える構造的変化を起こすことにはめったに たものが,生涯にわたる信念や行動に影響を及 ならない.だが,女性が集団で声をあげれば, ぼすことがある.家庭内暴力を見たり受けたり それは法律,政策,サービス,制度,社会規範 した子どもは,成人してから家庭内暴力の加害 に変化をもたらす一因となり,やがてひとりひ 者や被害者になる可能性が高い.家庭内暴力 とりの女性のエージェンシーを向上させるだろ を幼少期に目撃した男性が暴力をふるう確率 う.高所得国では女性の代表が増えるにつれ, は,そうではない男性の 2 – 3 倍に上るのであ 乳幼児死亡,出産休暇,育児,女性に対する暴 12 る(図 4.1) .男性や女性の好ましい活動や 力など,女性の生活により関連のある問題が 行動について,子ども――男女とも――が抱く ますます注目されるようになった 14.70 カ国 認識はたいてい家庭内で形成される.日本で におけるジェンダー政策の変化を分析すると, は,フルタイムで働く母親に育てられた男性は 1975 年以降の女性の集団的な運動が,平等主 性別役割分担を支持しない傾向があり,アメリ 義的な家族法の推進や女性に対する暴力への取 CHAPTER4 女性のエージェンシーを促進する 153 図 4.2 女性のエージェンシーの進展が限られているのは,市場,公式の制度,非公式の制度における制約が互いに強化しあう からである 制度: 非公式 ,力関係, 規範 / 役割の ,男らしさ 移動性 ク ワー ネット 経済機会 世帯: 資源の配分, 市場: 家族の世話 / エージェ 女性の自律した所得 家事労働 ンシー: 人的資本の 世帯内の 形成 コントロー ル 所有 公式の 制 法律 と結婚 度: ,権 に対 サー 利の行 する ビ 使 情報 ス, , 出所:世界開発報告 2012 チーム り組みで重要な役割を果たしてきたことは明ら 経済成長は女性のエージェンシーを促進する かである 15 .インドでは,パンチャーヤト(議 が,その影響は限定的である 会)など,村の政治組織に女性の代表が増えた  経済が成長すると,財政的制約が取り除かれ,女 結果,女性や子どものニーズに応えるインフラ 性の経済機会や自律した所得が増え,サービスやイ やサービスへ資金の配分が増えたケースが見ら ンフラが充実することから,女性はエージェンシー れ,また村の会合に参加する女性が増えたり, を行使しやすくなる.しかしその全般的な影響は, 女性に対する犯罪の通報や逮捕が増えたりもし 女性自身の所得や経済機会へのアクセスが増えるか 16 た . どうかによる.  概して,女性のエージェンシーにかかわる結果に 世帯所得が増えると,女性のエージェンシーに対 おいては,進展は限定的である.依然として女性は する財政的制約がいくらか取り除かれる コントロールする資産も,自律した所得も,家庭内  世帯所得や資産が増えると,財やサービスを男 の意思決定力も男性より少ない.どの国でも家庭内 女(または男児と女児)の間で分ける必要性が減 暴力の水準は相変わらず高く,政府や議会での女性 る.例えば,コロンビア,ケニア,マラウイでは, の発言力には限りがある.分析的枠組みに続く次の 現金給付プログラムや学費への補助金提供プログ 3 つのセクションでは,経済成長と市場,公式の制 ラムによって,女子の結婚年齢が上がり若年妊娠 度(法律とサービス),社会規範が女性のエージェ が減った 17.家計が潤うと,財政的負担を減らす ンシーに影響を及ぼす際に果たす役割を,系統立て ために娘を早く結婚させる必要性が減るのだ.世界 て分析していく(図 4.2).それにより,これらの 中どこでも,裕福な家庭の女性の結婚年齢は平均よ 決定要因が女性のエージェンシーを規定する上でど りも高い(地域やコミュニティによっては例外もあ んな役割を果たすのか――そしてそれぞれに存在す (図 4.3) る) . る制約がどう強化しあうのかが分かる.  世帯所得や資産が増えると,身体的流動性に対す 154 世界開発報告 2012  裕福な家庭の女性ほど,意思決定をコ 図 4.3 裕福な女性ほど,結婚年齢が高い ントロールする力が強い.裕福な家庭に ルワンダ は,基本的な支出を十分賄える裁量所得 ウクライナ アルメニア があるからだ.南アジアの場合,親戚 アゼルバイジャン ナミビア への訪問を決める際に何らかの役割を スイス 担う女性は,富で測った 5 分位層のう モルドバ カンボジア ち最下位層では 57%だが,最上位層で ケニア は 71%と増加し,自らの稼ぎに対して ガーナ ハイチ 何らかの決定ができる女性はそれぞれ コロンビア 80%と 92%である(図 4.4).他の地域 フィリピン モロッコ でも同様のパターンが見られる. ボリビア コンゴ共和国   レソト 女性の所得機会と自らの資産が,交渉 ザンビア 力を向上させる ペルー ウガンダ  経済成長(と国民所得の増加)が女性 ジンバブエ リベリア のエージェンシーに影響を与えるように エチオピア するには,所得機会を増やすという方法 コンゴ民主共和国 ホンジュラス もある.経済が成長すると,多くの場 ベニン 合,女性にも新たな所得機会が広がり, インド チャド 彼女たちが労働力に加わる新たなインセ ネパール ンティブが生まれて,雇用構造が変わ マラウイ ブルキナファソ る.主に男性の所得増によって世帯所得 ドミニカ共和国 カメルーン が増える場合は,女性のエージェンシー マダガスカル に与える影響は弱いか,むしろマイナス シエラレオネ ギニア である.しかし,女性自身の稼ぎによっ マリ て世帯所得が増える場合は,彼女たちの モザンビーク ナイジェリア 発言力と交渉力はいろいろな意味で強く ニジェール なる. 0 10 20 30 40 50 60  また,女性の資産,収入,世帯所得の 18 歳未満の既婚少女の割合(%) 所有率と,家庭内暴力の発生率との関連 最富裕 20%層 最貧 40%層 を示す証拠もある.コロンビア,インド, –  出所:Demographic and Health Surveys(人口保健調査)2003  2009 に基づく,世界開 南アフリカ,ウガンダでは,資産を所有 発報告 2012 チームの試算. する女性は家庭内暴力を受けるリスクが –  注:サンプルは 15  17 歳の少女.富裕度は 5 分位層で判定. 少ない(少なくとも中期的には)20.ア メリカでは,観察された家庭内暴力の減 る財政的制約もなくなる.移動のコストは,サービ 少のおよそ 1/10 は,男女の賃金格差の縮小で説明 スや情報だけでなく雇用機会や市場へのアクセスに することができる 21.しかし女性の経済的地位の おいても障壁となる(第 5 章では,後者について 向上は,家庭や社会における女性の役割に関する社 詳しく検討する).ブラジルとブルキナファソでは, 会規範に異を唱えることにもなるため,短期的には 病院で医療サービスを受けるのにかかるコストの 何らかの形の家庭内暴力やそうした暴力の脅威が増 18 1/4 は,移動に関連したものである .また 36 カ える可能性がある.介入策を検討する際には,この 国のデータによれば,資産が増えるとインフラ関連 ことを考慮する必要がある 22. の移動の制約が弱まる 19.  女性の所得は,有形資産,人的資産,金融資産 CHAPTER4 女性のエージェンシーを促進する 155 左右されるのである.大半の政治体制には,亡く 「自分のお金で何かを作ったり買ったりするっ なった夫が保有していた年金の一部を残された妻が . て,幸せだわ」 確実に受け取れるようにする何らかのメカニズムが あるが,その規定が大きく変わり女性のエージェ ベトナムの成人女性 ンシーに影響を及ぼすこともありうる(ボックス . 4.1)  公式の貯蓄商品にアクセスできれば,資産を守 (年金や保険など)の蓄積に影響を与える.相続や るのに役立つ.金融サービスへの女性のアクセス 土地の再分配プログラムと並び, 女性自身の所得は個人資産を蓄積 図 4.4 裕福な家庭ほど,女性のコントロール力が強い する極めて重要なメカニズムのひ 家族 / 親戚 自分の稼ぎの とつである.個人資産は,女性が 高価な買い物 への訪問 使い道 100 結婚を終わらせることや,突発的 コントロールをもつ女性の割合(%) な出来事への対処,投資,自分の 90 意思決定に対しなんらかの 所得や経済機会を増やす能力など 80 にとって,大きな意味をもつ. 70  ふたつの重要な資産は土地と年 金である.ラテンアメリカの 6 カ 60 国では,市場は女性にとって土地 50 取得の 2 番目に重要なルートだが, 40 男性と比べるとその利用ははるか Q1 Q2 Q3 Q4 Q5 Q1 Q2 Q3 Q4 Q5 Q1 Q2 Q3 Q4 Q5 に少ない(図 4.5).また,国やコ 5 分位層 ミュニティからかなり広い土地が 東アジア・太平洋 ヨーロッパ・中央アジア ラテンアメリカ・カリブ 中東・北アフリカ 移転される国では,男性が受益者 南アジア サハラ以南アフリカ となることが多い.こうした違い –  出所:40 カ国の Demographic and Health Surveys(人口保健調査)2003  2009 に基づく,世 の背後にある要因を分析すると, 界開発報告 2012 チームの試算. 土地市場における差別と,収入と 注:高価な買い物および親戚への訪問についての既婚女性のコントロールと,賃金労働をする既婚 女性の自分の稼ぎに対するコントロールを調べたサンプル調査. 信用へのアクセスの差が明らかと なる 23. 図 4.5 ラテンアメリカ 6 カ国における,男女別の土地取得の形態  年金の貯蓄パターンは,労働市 100 4 4 1 8 1 6 7 8 9 10 7 6 1 2 3 16 7 16 場の所得に見られるパターンを 8 5 8 16 19 80 25 7 そっくり反映しており,女性は世 37 34 33 界中どこでも年金システムへの加 45 27 60 73 43 52 入率も貯蓄額も概して少ない.イ 12 % 84 ギリスとアメリカでは,年金制度 40 81 75 65 54 57 への男女の加入率がほぼ同じ場合 49 43 45 20 35 32 でも,男性の年金資産の総額は女 22 性のそれよりもかなり多いことが 0 ブラジル チリ エクアドル メキシコ ニカラグア ペルー 明らかとなっている.したがっ 女性 て,多くの年配女性の福利は,夫 相続 市場 国やコミュニティーからの移転 その他 が貯蓄や年金へアクセスできるか 男性 どうかと,年金保有者たる夫の死 相続 市場 国やコミュニティーからの移転 その他 後に適用される妻への給付規定に 出所:Deere and León 2003 156 世界開発報告 2012 ボックス 4.1 年金――加入率,金額,遺族給付は,女性の自律にとって重要  公式の年金制度で女性が所有する資産は,男性よりも少 ボックス図 4.1.1 中国の年配者にとっての収入源(2005 年) ない.女性はたとえ働いていても,男性よりも賃金が低 男性 女性 く,労働時間が短く,公式部門で働くことが少ないため, 5% 4% 加入率が低いのである.ヨーロッパ 25 カ国のデータによ れば,年金を受給している女性の割合(定年後の女性全体 に占める割合)が男性より多いのは 6 カ国のみだった.他 都市部 57% 21% 35% 52% の国ではその割合がわずか 40%のところ(ルクセンブル グ)もあれば,60%のところ(オーストリア,ギリシャ, マルタ)もある.現在アメリカでは,加入率は男女ほぼ同 18% 8% じ(およそ 65%)だが,女性の個人口座の預金額は概ね 4% 2% 男性の半分である.中国では,都市部に住む退職した男性 の 57%にとって,年金は主な収入源だが,女性の場合は 8% 39% わずか 35%で,家族の支援に頼る傾向がある(ボックス 1% 69% 農村部 .  図 4.1.1)  配偶者の年金の受給権の相続については,世界全域の 24 カ国のデータによれば,大半の国では,妻が子と並び 49% 28% 第一の受取人である.ボリビア,フィリピン,トーゴでは, 妻は再婚と同時に受給資格を失い,娘も結婚と同時に資格 労働 年金 家族の支援 その他 .規定 を失う(息子は通常,一定の年齢まで資格がある) 出所:Deere and León 2003 にそうした条件がついているのは,夫を亡くした妻に対す る年金が,妻が家族に対して行った非金銭的貢献に対して 妻本人がもつ資格ではなく,別の男性と再婚するまでの間, 制度における再配分的要素が削られ,女性の平均余命が男 夫の代わりに妻を扶養する仕組みであると考えられている 性よりも長いことを反映した男女別の年金生命表が採用さ からである. れるようになってきた.これらの改革によって,年配女性  最近では,多くの年金制度で個人口座が導入され,この の経済的自律性は一層低下している. 出所:ILO 2010; International Social Security Association. Social Security Country Profiles, http://www.issa.int/Observatory/Country-Profiles; Johnson 1999. る.(主に就労に伴って)身体的移動性が向上する 「今や女性は決めることができ,家族計画もあ と,女性は職場などさまざまな場所で新しい人々 る.かつて妻は,夫から一方的に子どもを何 と出会うことになる.フルタイムで働くと,女性 . 人作るか言われたものです」 は男性とほぼ同じ割合で組合や職能団体に積極的 ブルキナファソの成人女性 にかかわる(図 4.6).ヨーロッパ 30 カ国におけ る労働組合員(およそ 5,000 万人)の 44%は女性 である 25.多くの国では,思春期の少女は無償の は,男性と比べて限られている.例えばラテンアメ 家庭内労働に相当な時間を取られる傾向があるが, リカ・カリブ諸国では,貯蓄口座をもっている男性 少年は賃金労働や娯楽にもっと注力する.その結 は 28%であるのに対して,女性は 22%である(デ 果,少女の社会的ネットワークは少年のネットワー ビットカードもしくは ATM カードをもっているの クより脆弱になる 26. は,男性 23%,女性 16%である)し,サハラ以 南アフリカでは,銀行口座をもっているのは男性 18%に対して女性 13%である 24. 「もし彼らが家族計画について知っていれば, それが役に立つとわかった上で,(何人子供を  女性や少女の経済機会が拡大すると,概ね親族 . もつか)ふたりで決められる」 内にとどまっていた彼女たちのネットワークが親 族の外へと広がって情報や支援を受けやすくなり, パプアニューギニアの若い男性 女性のエージェンシーの行使が促されることもあ CHAPTER4 女性のエージェンシーを促進する 157 経済成長によるインフラやサービ 図 4.6 家の外で働くと,男女のネットワークは(ほぼ)同等に広がる ス提供の拡充によっても,エー 80 ジェンシーは促進される 男性・女性会員または積極的な会員の割合 70  国の所得水準と女性のエージェン 60 シーの関連には,インフラの拡充に かかわるものもある.実際,女性や 50 少女には家族の世話をすることが要 40 求されるため,時間や身体的移動性 30 の面で大きな制約を受けがちだが, 20 それらは電気や水,道路,交通と 10 いったサービスへの投資で軽減でき 0 る.南アフリカの農村部では配電網 中東・ 東アジア・ ラテン ヨー OECD サハラ以南 南アジア 北アフリカ 太平洋 アメリカ・ ロッパ・ 諸国 アフリカ (インド) への投資によって,女性の雇用が 5 カリブ 中央アジア 年間で 10%近く上昇した.電気の 職能団体の男性会員 積極的な男性会員 おかげで女性は家事の時間を節約で 職能団体の女性会員 積極的な女性会員 き,女性向けの市場活動(例えば, –  出所:38 カ国の Demographic and Health Surveys(人口保健調査)2004  2009 に基づく,世 マンパワーが必要なサービス関係の 界開発報告 2012 チームの試算. 注:サンプルはフルタイム労働の男女. 仕事)が広がったが,男性の雇用に は顕著な影響はなかった 27.農村 部の道路網の拡大と都市部の公共交通機関の整備も の女性が指摘したように,健康への懸念と避妊手段 また,女性や少女の結果を向上させる.グアテマラ の使用への反対である(図 4.7).だがアクセスの とパキスタンの農村部では,道路網の拡大が女性の 向上を反映し,避妊手段を使用しない主な理由とし 28 移動性と学校教育に強い影響を与えた .都市部, てアクセスの欠如とコストの問題を挙げたのは,調 特に都市の周辺部では,公共交通サービスの利用可 査した女性の 8%にすぎなかった.受胎調節に対す 能性,交通システムの効率性,運賃によって差が生 る家庭内の交渉力の役割については,ザンビアの例 じる.通勤距離が長いと家事と仕事とを両立できな に表れている.妻が夫に避妊手段の使用を隠せると いため,女性は正規の仕事や高賃金の仕事に就きづ きに,その使用頻度がより高かったのである 32. らくなる.南アフリカのダーバンでは,交通システ  しかし国や集団によっては,供給の問題が依然 ムが貧弱なため,周辺部に住む女性は中核的な仕事 と し て 大 き い ―― ブ ル キ ナ フ ァ ソ, モ ザ ン ビ ー 29 や生活の便益へのアクセスが非常に困難である . ク,フィリピンでは,必要としている女性のおよそ  国の所得水準が上がると,たいてい公共サービス 20%にアクセスがなかった.貧困もアクセスを妨 の提供の質も改善する.すると女性は,エージェン げている.例えばベニンとインドネシアでは,避妊 シーをさらに行使できるようになる.例えば生殖保 手段へのアクセスがないのは,最貧 20%層におい 健サービスは,女性(と男性)が自らの出産につい ては必要としている女性の間では 18%近くに上っ て決定するのに役立つ 30.実際,本報告書のため たのに対し,最富裕 20%層の女性ではわずか 3% に行われた「世界開発報告 2012 ジェンダーと経済 だった.また,思春期の少女は生殖保健や避妊につ 的選択に関する定性的研究」で調査対象となった多 いての知識が限られがちで,性的成熟の過程をしっ くの男女が,「家族計画サービスが,子どもの数を かり進んでいくのは難しい.交渉力にも限界があ 男(夫)だけでなくふたりで決めるきっかけとなっ り,多くの少女が望まない性的経験をしている 33. た」と話した 31.過去数十年間に大半の国では, そうした性的活動を非難する社会規範があるため, 収入増に伴って現代的な避妊手段が大幅に使えるよ 彼女たちは生殖保健サービスを求めづらいのかもし うになり,家族計画サービスは広く利用できるよ れない.少女がそのようなサービスを受けるため うになったが,制約は残っている.主な制約は 2/3 には,親の同意を得なければならない国もある 34. 158 世界開発報告 2012 図 4.7 大半の国では,避妊手段へのアクセスの問題は,知識の欠如や避妊への反対ほど大きな制約ではない フィリピン ブルキナファソ モザンビーク ペルー コンゴ共和国 コロンビア ウガンダ ナミビア ベニン レソト インドネシア ボリビア ニジェール コンゴ民主共和国 ジンバブエ パキスタン ネパール ザンビア ギニア シエラレオネ インド ケニア カメルーン マラウイ ガーナ モルドバ モロッコ バングラデシュ マダガスカル ドミニカ共和国 アゼルバイジャン ホンジュラス エチオピア アルメニア ルワンダ ハイチ マリ ナイジェリア チャド ヨルダン スイス ウクライナ エジプト カンボジア 0 10 20 30 40 50 60 70 80 避妊手段を使わない理由として挙げた女性の割合(%) アクセス,距離,コストの問題 健康への懸念,副作用の恐れ,使用が不便 方法や入手先についての知識の欠如 女性自身 / パートナーまたは宗教による反対 –  出所:Demographic and Health Surveys(人口保健調査)2003  2009 に基づく,世界開発報告 2012 チームの試算. 注:サンプルは,今後 2 年間子どもを作る予定がなく,出生能力があり,避妊手段を使っていない女性. その結果,サハラ以南アフリカでは,危険な中絶 変わる.つまりエージェンシーの多くの面は,他の のおよそ 60%が 15 – 24 歳の女性で行われている. 要因で決まるということである.公式の制度――法 世界全体では,危険な中絶の 25%が 15 – 19 歳の 律およびサービス――は,エージェンシーの行使に 35 少女で行われていると考えられている . 対し,制約を課したり緩めたりする.また,支配的  国の所得水準と女性のエージェンシーに関連があ な社会規範とそれに関連する通念は,エージェン るときでも,その関連性は国や結果によって大きく シーの発現を促したり妨げたりするのである. CHAPTER4 女性のエージェンシーを促進する 159 権利とその効果的な実行によって,女性の選 産歴のある少女の割合が 36%減少した 36.最終的 択と発言力が形作られる に結婚する女性の割合や産む子どもの数には影響は  公式の制度のなかでも法律は,女性の権利を正式 なかったが,結婚・出産のタイミングは重要であ に認め,エージェンシーを行使する環境を規定する る.早婚や早産は教育水準を下げるため,成人後の 枠組みを示す.多くの法律が,男女に対するかつて 賃金やエージェンシーも下がってしまうからだ. の差別的な扱いを反映したり,不平等な社会規範や  法律によって所得や資産をもっとコントロールで 慣行を公に認めたりしている.したがって,男女を きるようになると,女性が結婚を終わらせる力や交 平等に扱う法律の確保が現状を覆す手段となる.多 渉力が強まり(“離婚の選択肢”ができる),家庭で くの国で,女性の発言力,選択力,蓄財力の後ろ盾 の女性の地位が向上する可能性がある.少女の法的 として,権利の承認が不可欠な力となってきた. 地位を高めることも,彼女たちの価値が上がって別  しかし 4 つの要因により,女性のエージェンシー の変化――女子教育への投資が増え,結婚年齢が上 を向上させる法律の力が制限される場合がある.第 がり,出産が遅くなるなどの変化――を引き起こす 1 の要因は,制定法による多くの法体系では,特に だろう.例えばインドでは,相続法の改革によって 結婚や資源のコントロールに関してまだ差別が残っ 少女の結婚が遅くなり,教育水準が向上し(学校教 ていることである.第 2 は,多くの国では特に家 育を受ける年数が,平均で 11 – 25%増加),結婚 族法とのからみで慣習法が幅を利かせていることが 持参金が減った 37. 挙げられる.そして第 3 に,女性のエージェンシー  離婚を認めるまたは容易にする法律も,女性の選 の行使に影響を与えるような権利については,その 択能力を強める.例えば,女性から離婚を要求でき 権利の実行――と,是正を求めたり権利の行使を要 る法律と公平な財産分与を定める法律は,家庭内で 求したりする女性の能力――が極めて重要であると の配偶者間の労働や所得の移転に影響を与える.離 いうことだ.第 4 の要因は,市場と社会規範は法 婚の際,妻が夫の財産の半分を受け取る国では,妻 律と作用しあい,互いの影響を制限または強化して は夫婦財産を平等に受け取る見込みがあるため保護 いることである. されていると感じ,労働時間が比較的短い可能性が ある 38.アメリカではこれらの法律によって,配 権利は女性のエージェンシーにとって重要である 偶者の教育への投資など結婚特有の資本への投資が  女性の投票権は,ほぼすべての国や地域で認めら 減った(ただし自宅の所有には影響なかった)が, れている.ナポレオン法典における世帯主の規定 それは離婚と同時に資産を失うリスクが増えるから や,コモンロー的法律におけるクーベルチュール主 である.また家庭内暴力も 30%ほど減少した 39. 義[訳注:女性は結婚すると,法的に夫と合わせて 一人の人間とされ,個人としての財産のコントロー 家庭内の人間関係を規定する分野では,進展が限 ルや法的権利を失うという考え],既婚女性の法的 られてきた 行為能力や働く権利を制限する宗教法や慣習法は,  法律の改正は,家庭内の人間関係を規定する分野 わずかに例外は残るものの,多くの国で改正されて で最も遅れている.多くのプログラムや政策が玄関 きた. 先で立ち止まり,家のなかに立ち入らないようにし  他の法律における変化が,女性のエージェンシー 「女性に対する ているかのようだ.この抵抗感は, を促進することもある.実際,多くの法律が女性の あらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」への署名 自律性を向上させる――たとえそれが意図した目的 の際に,一部の国が留保した部分に表れている.締 ではなかったとしても.例えば,義務教育を命じる 約国 187 カ国のうち 29 カ国は,結婚と家族関係に 法律は,結婚や出産を遅らせ,女性のエージェン 関するあらゆる事柄(例えば,結婚する権利,配偶 シーを向上させてきた.トルコでは婚外出産は社会 者を自由に選ぶ権利,結婚および離婚における平等 的に受け入れられていないが,1997 年に義務教育 の権利,親権および子どもに対する平等の権利,配 を 3 年間延長して 14 歳までにした結果,16 歳の 偶者として平等の人的権利,財産の所有・取得・管 少女の既婚率が 45%減少し,17 歳になるまでに出 理・処分における平等の権利)における差別の撤廃 160 世界開発報告 2012 図 4.8 相続における進展は,寡婦よりも娘に対しての方が早い. (平等な相続,不平等な相続,慣習法による相続を行っている国の割合) 娘 寡婦 100 中東・北アフリカ 100 50 50 南アジア 50 50 59 34 7 サハラ以南アフリカ 44 46 10 75 25 東アジア・太平洋 75 25 OECD 諸国,ラテン 100 アメリカ・カリブ, 100 ヨーロッパ・中央アジア 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 平等な相続,不平等な相続,慣習法による 平等な相続,不平等な相続,慣習法による 相続を行っている国の割合 相続を行っている国の割合 平等な相続 不平等な相続 慣習法による相続 出所:Htun and Weldon 2011b,Women Africa database,World Bank’s Gender Law Library に基づく,世界開発報告 2012 チームの試算 注:地域別割合の算定の際,各国に均等に加重. を求めている第 16 条を,完全には認めていない 40. .これ 思を示さない場合)不平等である(図 4.8)  女性は現在,大半の国で,法的に自分の財産を所 はとりわけ,サハラ以南のアフリカ諸国に当てはま 有できる能力をもつが,少なくとも 9 カ国では男 り,そこでは亡き夫の財産をいくらかでも受け取っ 41 女の所有権は依然として異なる .女性は,財産 ていると答えたのは,残された妻(または子ども) の取得・販売・譲渡・遺贈の際に制限を受ける可能 の半数以下だった(16 カ国のデータ.ボックス 4.6 性があり,資産を購入・販売・譲渡する前に男性後 を参照).経済協力開発機構(OECD)諸国,旧ソ 見人か夫の同意を必要とする.場合によっては,自 ビエト連邦,ラテンアメリカのすべての国が,50 分の個人財産の一部しかコントロールできないかも 年以上前に相続法を改正した.古めかしいコモン しれない.こうした制限に違反(いかなるもので ローが残る,または慣習法や宗教法を認めている非 も)すると,妻の個人財産を夫がコントロールする OECD 諸国では,息子と娘に与えられる権利が不平 権利が発動されることもある.また財産の登録にさ 等になりがちである.イスラム教国の多くは国に え,男性後見人の同意が必要な場合もある.国籍法 よって教義上の重要な違いがあり,男子よりも女子 によって,妻は自分の国籍を夫や子に与えられない に多くの相続分を与える国もある.トルコでは長い こともある.これが大きな問題なのは,国籍がない 間,男女の相続権は法的にだけでなく実際にも平等 と無償教育など国が提供する便益へのアクセスが制 だった.イラン・イスラム共和国では,女子が相続 限され,国内法の適用範囲が狭められることもある する割合は男子とほぼ同じである.バングラデシュ からだ. など他の国では,法的には相続権は不平等だが,家  相続は,資産を蓄える主要なメカニズムのひとつ 族が望めばもっと公平な分配に合意するメカニズム である.多くの国では,女性は男性に比べて依然 がある.またブータンなど数カ国では,娘が親の財 として相続権が少ない.過去 40 年以上のデータが 産の大半を相続するため,財産の名義はたいてい女 ある 63 カ国中 21 カ国では,女性の相続権は(意 性の名前である 42. CHAPTER4 女性のエージェンシーを促進する 161  男女をより平等に扱う方向へと国が法律を改正し ても,大きな格差が残ることもある.インドでは複 「彼女たち(離婚した女性)は離婚後に実家へ戻り 数の州で相続法が見直され,家族の共有財産に対し ますが,夫側からは離婚手当も財産分与もありませ んし,親の財産も一切分けてもらえません.場合に て息子と娘に平等の権利を与えたことから,娘が土 よっては,年配男性との結婚を強要されます.そう 地を相続する可能性が大幅に増えたが,そうした法 . すれば,夫の畑で働いて生計を立てられますから」 改正だけでは,女性の根本的な不利益を完全に埋め 合わせることはできなかった 43.法律は,ときに インドの成人女性 は無視され,強力に施行されず,また意思(娘より 「あなたが死んだら,その財産はあなたの親戚に分 も息子に多く与えることを家族が明確に選択した, 配され,あなたの妻や娘には与えられません.息子 など)を示すことで,巧みに回避されてしまう.宗 . がいれば,全財産が息子のものとなります」 教法にもとづく法体系の国のなかには,相続人を指 アフガニスタンの若い女性 名する際の個人の自由裁量を制限し(もしくは遺言 に異議を申し立てる場を提供し),相続で女性が確 「家族法)は,私たちを助けてくれます.離婚して 夫の家を出るときは,財産を分け,それを携えて新 実に取り分を確保できるようにしているところもあ . しい生活を始められるのです」 る.同じ方法が,非宗教的な法体系の国でもときお り見られる.ブラジルでは,遺言によって,財産の タンザニアの成人女性 少なくとも半分は残された子どもか妻へ渡さなけれ ばならず,息子と娘の相続は平等でなければならな い.この要件は,残り半分の財産の配分については する資産より少ない 45――や自ら取得した資産を, 自由裁量を認めており,それを息子のみに渡すとい 自分でコントロールする力を制限する制度であれ う選択もできるが,これにより娘や妻にはある程度 ば,交渉力は限られたものとなる. 44 の保護が与えられる .   かつてフランス,ベルギー,ドイツ,オランダ, ポルトガル,スペインの植民地だったラテンアメリ 結婚と離婚の権利は,女性のエージェンシーに カおよびアフリカ諸国では,受け継がれた古い法体 とって不可欠である 系によって国の体制が作られており,一般に財産の  多くの国では,女性の平等な権利が生涯のすべて 共同所有がデフォルト(標準)になっている(ボッ の段階で法体系によって守られているわけではな クス 4.2).かつてのソビエト連邦圏の国々も通常, い.結婚という節目で法的権利や財産権が弱まるこ 財産の共同所有体制がデフォルトである.コモン ともある.女性が結婚前にもっていた法的行為能力 ローまたはイスラム法にもとづく国と,一夫多妻が と法的責任が,結婚と同時に夫に移行するケースも 正式に認められている国では,概して財産の個別所 あるのだ.パスポートの申請や契約の締結,法廷へ 有がデフォルトである(トルコは財産の共同所有が の出頭が夫の許可なしでできなくなるなど,結婚す デフォルトで,イスラム諸国が過半数を占める国の ると女性のもつ市民としての行為能力が弱まる国も なかでは例外である). ある.  「世界開発報告 2012 ジェンダーと経済的選択に  結婚の影響は,婚姻中および離婚時に女性がコ ントロールできる資産を規定する財産制度にも及 ぶ.したがって財産制度の種類によって,家庭内 での女性の交渉力が変わってくるのだ.離婚時に 「今では個人の権利を明記した法律があり,以 妻が世帯資産を相当な割合で受け取れる財産制度 前よりも賠償金が高くなりました.そして 人々は法律を意識するようになっているので, であれば,家を出るコストが下がり離婚はより現 . 訴訟が非常に起こりやすくなるでしょう」 実味を帯びるため,妻の交渉力は仮に一度も行使 しなくても強まるかもしれない.逆に,女性が結 ブータンの成人男性 婚する際に持参した資産――たいてい男性が持参 162 世界開発報告 2012 ボックス 4.2 結婚(及び離婚)における財産 財産の共同所有:これは通常,離婚の際に妻を保護し,夫 国もいくつかある(しかし,これらの貢献は男性の貢献よ 婦財産を配偶者間で平等に分けるというものである.婚姻 . りもたいてい少ないとされる) 中に取得したすべての財産は夫婦が等しく所有する(結婚  財産の個別所有に関する法律がある 35 カ国を調べたと 前に所有していた個人的な財産や,配偶者から相続または ころ,非金銭的貢献を認めていたのはわずか 7 カ国(バ 贈与された財産は,受け取った側の個人財産とされること ングラデシュ,マレーシア,モロッコ,タンザニアなど) もある) .一般的な共同所有体制では,配偶者が結婚前に だった.サハラ以南アフリカでは,伝統的に非金銭的貢献 得た財産も夫婦の共有財産である.この体制は,家庭に対 は慣習法でも宗教法でも認められてこなかった.イスラム する非金銭的な貢献(家族の世話,育児,家事,自給のた 教徒が過半数を占める国では,マフル(結婚の際,花婿か めの農業)を暗に認めるものであり,貢献の証拠を示す必 ら花嫁へ送られる金品)の習わしがあり,それが離婚した 要はない.この体制のもとで,夫に婚姻中の夫婦共有財産 女性の生活を支えるが,場合によってはその価値が低すぎ を管理する権限を与え,妻には与えない国もいまだにある て女性が対等な立場に立てないこともある.マフルの金額 (植民地時代の法体系の名残り) .この体制は,過去 50 年 ,インフ を引き上げようとしたり(例:バングラデシュ) 以上にわたり財産の共同所有がデフォルト(標準)となっ レに連動させようとしたり(例:イラン・イスラム共和国) ている,調査を実施した 43 カ国中 10 カ国――サハラ以 した国もある.これらの国では,女性が優先債権者として 南アフリカの 8 カ国と,チリ(この条項が残っている,南 位置づけられ,彼女たちのマフルに対する権利は他の全債 米唯一の国)とフィリピン(家族法は改正されたが,この 権者の請求に優先する.モロッコやチュニジアなどの一部 条項が残っている)――で採られている(ボックス地図 のイスラム教国では,財産の共同所有という結婚体制を選 4.2.1) .フランスは,この規定を 1985 年に撤廃した. 択できるようになっており,トルコではこれがデフォルト になっている. 財産の個別所有:配偶者それぞれが,婚姻中に取得した財 産に対して所有権をもつ.この体制は起業家の女性を保護 慣習法にもとづく体制:この体制はアフリカの 4 カ国―― する.離婚しても生産用資産をコントロールし続けられる ボツワナ,ブルンジ,ナイジェリア,スワジランド――の からだ.しかし,法律に定めがない限り,離婚の際に非 みでデフォルトである.概ね女性には不利な体制で,伝統 金銭的貢献は認められないため(また通常女性は男性より 的に夫が夫婦財産を管理し,非金銭的貢献は認めていない. も金銭的貢献が少なく,婚姻中に取得する資産が少ないた 婚姻中,資産は夫がコントロールするのがふつうである. め) ,大半の女性は窮地に追いこまれてしまう.結婚に関 離婚すると妻は結婚のときに持参した財産さえ失うことも する法律に女性の非金銭的貢献を認める規定を加えている ある. ボックス地図 4.2.1  女性は住む場所によって,資産のコントロール――離婚や夫が死亡した場合に重要――が異なる 財産の共同所有 財産の共同所有(夫がコントロール) 財産の個別所有および非金銭的貢献の承認 財産の個別所有,非金銭的貢献の否認 財産の個別所有,非金銭的貢献の否認(夫がコントロール) 慣習法および夫がコントロール データなし CHAPTER4 女性のエージェンシーを促進する 163 とチュニジアでは,家族法の改正によって,財産の個別所 複合的な体制:複数の体制が用意され,各夫婦(カップル) 有か共同所有かを選べるようになったが,実際にそうした がそのなかから選択できる国もある.理論的には,女性は 選択の自由を利用する夫婦は限られている.したがって, 自分を一番保護してくれる体制を選択できるが,選ばれる どの結婚体制をデフォルトにするかは,国の重要な政策決 のはたいていデフォルトの体制である.例えば,モロッコ 定となる. 出所:Htun and Weldon 2011b、Women LEED Africa database、World Bank Gender Law Library に基づく,世界開発報告 2012 チームの試算. 関する定性的研究」に参加した成人の 60%が離婚 ずしも実行されるわけではない.娘の相続権の改正 は難しいと答え,比較的若い世代の成人もそれより から学んだ知恵を,寡婦の相続権の改正にも生かす 46 わずかに積極的な見方を示しているだけである . ことはできる.相続法および無遺言相続法によって 離婚の障害となるものはさまざまだが,資産の分 寡婦が 50%の分け前を得られない場合でも,財産 割と子どもの監護権の不公平さ(女性にとっての) の共同所有体制があれば助かるかもしれない.ま が,調査を実施した男女双方から聞かれた障害のひ た,国籍法も改革の焦点とするべきである.国籍法 とつだった.家族やコミュニティの反対,社会的孤 も,さまざまな便益や自分と家族の財産へのアクセ 立,恥辱も,離婚の主な障害として挙がった. スに影響する権利を女性に与えられるし,属人法よ  世界各地の大勢の女性にとって寡婦になるという りも改正が容易とみられるからだ. ことは,資産の使用やコントロールの決定的な喪失  離婚後の子どもの監護権に対する取り決めによっ と関連がある.夫の財産は夫の家族に戻され,寡婦 て女性が離婚を躊躇し,それが家庭内での女性の は土地や家に対するコントロール力や,ときには エージェンシーを弱める場合もある.多くの国で 使用する権利をも失うからである(ボックス 4.3). は,子どもの監護権はある年齢に達するまでたいて 財産の共同所有体制の国では寡婦は保護されるが, い母親がもち,その後は父親がもつ(または子ども 個別所有体制のもとでは寡婦の置かれる立場はもっ が選択する).しかし,母親が国民ではない場合, と弱い.実際のところ,デフォルトの相続権で寡 監護権を保持する権利は弱まるのがふつうである. 婦がもらえるのはたいてい財産の半分に満たない. また,女性が再婚したり,監護権をもちながら後見 サハラ以南アフリカの場合,その割合は通常 0 ~ されている身だったりすると,国によっては父親が 30%で,慣習法にもとづく土地は相続可能な財産 監護権をもつこともある.後見法はたいてい,女性 から除外されることもある(母系社会は例外). を守り,監護権をもたない父親にも確実に子どもを  多くの国では,寡婦の権利を強化する改革は,娘 経済面で支えさせるのが目的だと考えられている の権利を強化する改革よりも遅れている(図 4.8 (例:モロッコ)が,こうした法律は,実際には子 参照).女性に影響を与える大規模な改革は,家族 どもに対する母親の意思決定力を弱めてしまうかも 法の他の分野と,ケニア,モロッコ,タンザニア, しれない.父親が自らの役割と責任を果たさない場 チュニジアの土地法で実施されてきたが,寡婦に影 合には,国によっては自分の子――婚外子でも―― 響を及ぼす不平等は残ったままである.この欠陥 は,身内の男性が女性を扶養する義務を負うという 暗黙の前提と多少関係がある.しかしこの義務は必 「医師の通報はいつも遅いのです.女性は警察 に知らせることができません.夫に殺される でしょうから.警察は誰かが死んだら連絡し て,と言います.裁判所は私が毎日恐ろしい 「夫が子どもたちを連れ去ってしまうのではな ほど殴られていると言っても,信じてくれな . いかと恐れる女性もいます」 . いでしょう」 セルビアの成人女性 セルビア農村部の女性 164 世界開発報告 2012 ボックス 4.3 寡婦は資産を失うリスクがあるが,ある程度の自由を得られるかもしれない  配偶者が死亡すると,自律性の転倒というリスクが表れ ボックス図 4.3.2 多くの国で,夫の家族が夫の資産の半分 る――配偶者と死別する確率が,男性の 3 倍近くに上る 以上を受け取る 年配の女性に偏った影響が及ぶ恐れがあるのだ.女性は平 シエラレオネ 16 7 69 9 均余命が長く,夫の方がたいてい年長であることを考える コンゴ共和国 18 1 75 6 オートジボワール 21 1 73 4 と,人生のある時点で配偶者の死に遭遇するのは,男性よ コンゴ民主共和国 24 3 63 11 り女性の方がはるかに多いのである.マリでは,多くの若 ベニン 26 3 68 3 い女性がほぼ何の権利ももたないまま寡婦になってしま ニジェール 29 4 64 3 ナイジェリア 30 5 61 5 い,その子どもたちは栄養失調に陥り,学校に通えなくな ギニア 30 7 61 2 る確率が高い.これは,寡婦になったことを発端とする貧 ナミビア 31 2 64 2 困が次世代へと伝わることを示している.また世界的に見 マリ 33 3 58 5 ザンビア 35 1 63 2 ると,拡大家族で暮らしていない高齢者のうち,一人暮ら タンザニア 38 2 57 3 しは女性の方が,配偶者と暮らしているのは男性の方が多 ウガンダ 39 7 52 2 .また,男性は女性よりも再婚の可 い(ボックス図 4.3.1) ジンバブエ 40 2 55 4 スイス 52 10 38 能性が高い. 53 8 16 23 ハイチ ルワンダ 66 5 7 21 ボックス図 4.3.1 年配の女性はひとりで暮らし,年配の男 ガイアナ 67 32 性は配偶者と暮らす ベトナム 77 23 カンボジア 92 6 アメリカ 0 20 40 60 80 100 亡くなった夫の資産の半分以上を受け取る者(%) ラテンアメリカ・ カリブ諸国 妻 / 子ども 他の妻 ヨーロッパ 夫の家族 その他 出所:Peterman(2010) ,Demographic and Health Surveys(人口 アジア 保健調査)2005  –  2008 に基づく,世界開発報告 2012 チームの試算. 注:サンプルは夫に財産があり寡婦になった女性 アフリカ 0 20 40 60 80 100 済水準の高さには関連がある.要するに,社会経済的地位 が高い女性ほど,資産相続についてより有利な交渉ができ 配偶者と暮らす女性 配偶者と暮らす男性 るのだろう.このパターンは,寡婦のもつ土地や家畜の所 一人暮らしの女性 一人暮らしの男性 有権についても見られる.データが入手できる国の 7 割で 出所:United Nations Department of Economic and Social Affairs は,寡婦が世帯主となっている世帯(生産年齢の男性がい (国連経済社会局)2005 の表 II.7 に基づく, 世界開発報告 2012 チー ムの試算. ない世帯)は,男性世帯主の世帯よりも土地を所有する可 注:拡大家族で暮らす年配者はサンプルに含まない 能性が低い.  夫の村にある結婚生活を送った家や土地へのアクセスを  寡婦になるということと,女性の人生における重大な変 失うと,女性は実親のコミュニティに戻るか,再婚相手を 「世界開発報告 2012 ジェ 化とはたいてい結びついており, 探さなければならない.しかし男性は若い女性と結婚する ンダーと経済的選択に関する定性的研究」の参加者は,権 ことが多いため,年のいった寡婦にとって再婚という選択 力と権利の尺度で寡婦を一貫して極めて低く位置づけてい 肢は限られている.実際マリでは,寡婦は地位の低い妻と るが,妻を亡くした夫はこれに該当しない. して一夫多妻家庭に入ることが多い.そのため彼女たちの  女性が資産を蓄積する過程は,その社会で浸透している エージェンシーと福利はますます低下してしまう. 相続に関する法や慣例――多くの地域では女性に対して著  良い面に目を向けると,寡婦になることは,重要な利得, しく脆弱――の影響を受ける a.コロンビア,ガイアナ, 「世界開発報告 つまり自由の拡大と結びつく場合がある. ハイチ,ベトナムでの証拠によれば,亡くなった夫の資産 2012 ジェンダーと経済的選択に関する定性的研究」によ の大部分は,妻(または子)が相続する.対照的に,サハ れば,結婚制度が社会的・経済的・物理的束縛と結びつい ラ以南アフリカの 16 カ国では,半数以上の寡婦は配偶者 ている場所では,特に当てはまる.アフガニスタンでは, の財産をまったく相続せず,資産の半分以上を相続すると 権力と権利の尺度で寡婦は高く位置づけられたが,それ 答えたのは寡婦の 1/3 だけだった.これらのうち 14 カ国 は「男性がいないため,寡婦が家のなかで権力をもち,す では,資産の半分以上を相続するのは,夫の子と夫の家族 「寡婦は裕福ではな べての意思決定を行う」からであり, だった(ボックス図 4.3.2)――例外は,ルワンダとスワ いが,家庭内で権力と自由をもっている」からである.要 ジランドの 2 カ国である.一般に,相続の多さと教育や経 するに寡婦は,羊の飼育などの独立した経済活動ができる CHAPTER4 女性のエージェンシーを促進する 165 ボックス 4.3 寡婦は資産を失うリスクがあるが,ある程度の自由を得られるかもしれない ( 続き ) 唯一の女性なのだ.インドネシアでは女性たちが,寡婦は では,家族を養うために働く必要がある寡婦は,結婚して 自分の活動に対しもはや夫の許しを得なくてよいというメ いる女性よりもはるかに大きな移動の自由があり,外で働 リットを享受している,と強調していた.イエメン共和国 く寡婦が白い目で見られることはなかった. 出所:Catell 1997,van de Walle 2011,Velkoff and Kinsella 1993,World Bank 2011. 注 a: RIGA Survey の農村部のデータに基づく,世界開発報告 2012 チームの試算.アルバニア,バングラデシュ,ブルガリア,ガーナ,グアテ マラ,インドネシア,ナイジェリア,パキスタン,パナマ,タジキスタン,ベトナムでは差が認められたが,ボリビア,ケニア,マラウイ,ネパー ル,ニカラグアではなかった. の養育を強制する法律もある.ブラジルとコスタリ 国の 1/3 にすぎない.女性への暴力を禁じる法律 カでは,法的に結婚していたかどうかに関係なく, についての進展は地域によってまちまちであり,ラ 親の権利と義務に加えて父権を決める仕組みが法的 テンアメリカ・カリブ諸国,ヨーロッパ・中央アジ に定められ,父親が婚外子を確実に支えるようにし ア,OECD 諸国では大きな進展があったが,中東・ ている.そのような法律によって,ブラジルでは女 北アフリカ,サハラ以南アフリカ,東アジア・太平 47 性の交渉力が強くなった . 洋,南アジアではより限定的である 50.  家庭内暴力については,多くの国で強力な法令が  多くの国では,妻が働きに出る権力を,夫の同を 成立しており,「世界開発報告 2012 ジェンダーと 義務付けるか,家族の利益に反する場合に夫の反対 経済的選択に関する定性的研究」に参加した多くの を認めるかして,制限している.これが,過去 50 女性が,家庭内暴力を禁止する法律のことを知って 年間の情報がある 117 カ国中 23 カ国で見られた 48 いた .しかし依然として多くの刑法や民法では, 状況である.制約の多くは,植民地時代の民法と慣 ある種の身体的,性的,感情的な暴力を罪とするこ 習法または宗教法にもとづいた法体系の国に見られ とができない――セクシャルハラスメントについて る(コモンローの流れをくむ国では通常見られな 49 特定の法律がある国は半分強に過ぎない ――か, .ドイツ,ギリシャ,スペイン,スイスは最後 い) 有罪判決が出にくい規定が含まれている.また,配 まで残っていたそのような規定を,1970 年代後半 偶者以外の家族のメンバー(父母,継父母,兄弟, から 1980 年代初頭にかけてようやく撤廃した.し おじおば,祖父母)による女児や女性への暴力は, かし実際には,これらの法律は多くの国では制約に 必ずしも対象とはならない.国によっては,女性の はなっていないらしく,女性の労働参加率の低さと 不貞が立証された場合には加害者の罪を軽減した 強い関連性はない(制約があり労働参加率も低い中 り,強姦犯が被害者との結婚に同意すれば,刑事罰 東と北アフリカは除く).女性の労働参加率が高い が免除されたりする法律がある.世界の多くの地域 イラン・イスラム共和国では,女性は家庭外で働く で,夫婦間の強姦については今も合意には程遠く, 権利がもらえる雛型の婚姻契約書を使って制約を回 これが法律で禁じられているのは世界のすべての 避してきた. 「女性は差別に関する法律は知っていますが,現実にはそうした法律は守られていません.仕事の面接 . で結婚する意志はあるかと尋ねられるし,妊娠すれば解雇されます」 セルビアの女性 「夫を亡くしたら,夫の家族が何もかも集めて持って行ってしまいます.法律が家庭内にも確実に適用 . されるようにすることはできないのです」 ブルキナファソの女性 166 世界開発報告 2012 ボックス 4.4 多元的法体制とその広がり  多元的法体制とは何だろうか? 多元的法体制とは,法 法が憲法や法律で正式に認められ,公式の法体系に統合さ および紛争解決の場所――国内,超国家,国際レベルの法 れることもある.63 カ国について,過去 50 年にわたり および機関,紛争解決の代替機構,宗教法や慣習法に基づ もっとも一般的な法体系を徹底的に調べたところ,半数以 く権力機関――が複数存在する体制である.法制度は,国 上の国が慣習法または宗教法を正式に認めていることが分 家のシステムに組み込まれた公式のものもあれば,ブラ かった.それがもっとも見られたのはサハラ以南アフリカ ジルのストリート・コミッティ,中国の農村のアミニズム .調査した国のなか である(分析した 47 カ国中 27 カ国) やキリスト教の機関,アフガニスタンやパキスタンの部族 には,ごく最近,慣習法を憲法で正式に認めたところもあ のジルガのように,非公式な――国家のシステムから独立 る(フィリピンは 1987 年,モザンビークは 2004 年に承 した――ものもある.また,国家と非国家の両方の要素を . 認) もった制度もある.非国家の制度を国が作ったり認可した  多元的法体制下の多くの場面で,慣習法と宗教法は,公 りして,公式の司法制度に組み込む場合もある(例:イン 式に認められているかどうかは別として,大集団での生 ドのロク・アダラト)が,それらは別の法基準を適用する 活のなかで役割を果たしている.例えばガーナのおよそ ことが可能である. 80%の女性は,他の方法もあるのに,慣習法に則って結  多元的法体制はどのくらい広がっているのだろうか?  婚式を挙げる.また,マラウイでは土地のおよそ 72%が, すべての法体系は多元的である.例えばイギリスでは,イ モザンビークでは 80%が,スワジランドでは 60%が,ザ スラム教のシャリーアに基づく司法機関が,国の裁判所の ンビアでは 80%が,慣習法の下で所有されている.その 範囲内で共存し機能しているし,ケニアでは公式の裁判所 ため,女性の権利を守る正式な法律があっても,それが必 が,制定法だけでなく慣習法をも解釈して適用することが ずしも一律に適用されるわけではない.概して,国のシス できる.しかし,多元的法体制は大半の社会に存在するも テムが脆弱もしくはアクセス不能な場合,地域の伝統的ま のの,低所得層,農村部,紛争後で脆弱な国家には特に大 たは宗教的な紛争解決機関が,より顕著な役割を果たしう きな影響を及ぼす.多元的法体制の状況で,慣習法や宗教 るのである.  出所:Chiongson 他 2011; Fenrich 2001; Hallward-Driemeier 2011.  婚姻関係が“夫の家族と同居する”慣習に左右さ ると,多元的法体制とは国民(またはその一部)が れる地域では,法律は優勢な社会規範を反映してい 複数の法源があると認識している状態のことである るかもしれない.ナイジェリアでは,女性の労働は (ボックス 4.4).これらの国の内部(国外のことも 制定法では特に制限されていないが,慣習法と宗教 ある)では,個人が訴訟を起こす裁判地も判事が適 法が人口の大多数に浸透している.2000 年に家族 用する法の種類もさまざまである. 法が改正され,夫の家族と暮らす女性が減っている  多元的法体制は,女性のエージェンシーの行使に エチオピアの農村部(アムハラ州およびハディヤ) とって重要である.多元的法体制と規範の相互作用 では,働きに出るのに夫の許可がいると感じる女性 は,家族の形成,離婚,資産や土地の所有,相続な は 48%だった.この数字は,インド北部(ウッタ ど,極めて重要な分野に影響を及ぼすことが多いか ルプラデシュ州)とナイジェリア(マグザワおよび らだ. ハウサ)の 90%以上,インド南部(タミルナドゥ  多元的法体制は本来,女性のエージェンシーの行 州)の 75%と比べて,はるかに少ない.エチオピ 使,つまりもっと一般的に言えばジェンダー平等に アの首都では,これが 28%まで下がった.このこ とって,良いものでも悪いものでもない.実際のと とは,都市化と家族構成の変化が規範に影響を与え ころ,すべての法体系が男女を差別せず,ジェン ることを示している 51. ダーに敏感であれば,それらは女性のエージェン シーを妨げることなく共存できる.一方,根本にあ 多元的法体制が,女性の自律性と平等に影響を及 る不平等な社会規範や力関係を反映するのであれ ぼすことがある ば,どの法体系も女性の利益に資するには等しく不  世界の大半の国では異なる法体系が共存してお 適当,ということになるかもしれない 52. り,これを「多元的法体制」と呼ぶ.簡単に定義す  とはいえ,共存するそれぞれの法体系によって付 CHAPTER4 女性のエージェンシーを促進する 167 与される権利が異なるこ 地図 4.1 サハラ以南アフリカでは,慣習法が多くの国で正式に認められており,そ ともありうる.制定法に れが差別的な場合がある よる体制はたいていの場 合,慣習法よりも多くの 権利を女性に与える.法 体系が共存する場合,制 定法で規定された権利が 慣習法によって弱められ, ケープ モーリタニア 制定法が定める体制とは ベルデ ニジェール マリI スーダン エリトリア セネガル チャド 非常に異なる状況が生ま ガンビア ブルキナファソ ギネアビサウ ギニア ベニン れることもある.例えば ナイジェリア エチオピア コート ガーナ 中央アフリカ シエラレオネ ジボアール 南スーダン 共和国 ソマリア 憲法で慣習法を認める国 リベリア トーゴ カメルーン 赤道ギニア ウガンダ ケニア では,そうした慣習法を サントメピリンシペ ガボン コンゴ ルワンダ コンゴ民主 男女平等の原則から外す 共和国 ブルンジI タンザニア ところもある(特にサハ セイシェル コモロ初等 ラ以南アフリカ)(地図 アンゴラ マラウイ マヨット ザンビア (仏領) 4.1).だからといって慣 マダガスカル ジンバブエ モザンビーク モーリシャス 習法が必ずしも差別的と ナミビア ボツワナ レユニオン (仏領) いうわけではないが,国 サハラ以南アフリカでは,過半 スワジランド 公認の差別へとつながる 数の国で慣習法が正式に認めら れており,差別が許される場合 レソト 可能性があるのだ.また もある. 南アフリカ それにより,慣習法が差 憲法が慣習法を認めているが,差別は禁止している 別的な場合に(それらは 憲法が慣習法を認めているが,慣習法には非差別の義務付けはない. 憲法違反だと訴える選択 憲法に慣習法についての記述がない. 肢を奪うことによって), 慣習法に異議を唱えるメ 出所:Hallward-Driemeier 2011. カニズムが制限されてし まう.  しかし慣習法による慣例の方が,制定法より女性 進している人々は,ふたつのことを考慮しなければ に利益をもたらす場合もある.例えば一部の国で ならない.ひとつは,差別には公式・非公式のどち は,正式に土地の所有権を付与するプロセス(制定 らの法でも取り組まなければならないということで 法)によって,女性が慣習法に基づいて所有してい ある.制定法は,慣習法を代表する人々に対する女 た土地のアクセス権や使用権が取り上げられてし 性の交渉力を強めることができるし,慣習法を男女 53 まった .ケニアでは,土地へのアクセス権は女 平等の方向へ引き寄せる磁石の役割を担うこともで 性を含む共同利用の制度で管理されていたが,土地 きる 55.もうひとつは,女性の権利を強化する有 所有に関する制定法が導入されると,土地の共同権 益な要素の特定は,公式・非公式の両システムの対 は男性に付与され,女性は蚊帳の外に置かれた.女 立をとりなし,女性がどちらのシステムにも歩める 性の土地使用権は正式な共同利用の制度に組み込ま よう設計された,別のシステムとメカニズムで行わ れなかったからだ.よく似た例がモザンビークやソ れなければならない,ということである. 54 ロモン諸島でも見られる .一部の伝統的な母系 社会でも,慣習法による慣例は女性に有益なものと 権利に実効性をもたせることが,女性のエージェ みられる.  ンシーにとって不可欠である  そのため,多元的法体制の状況で女性の権利を推  女性が規定の権利をエージェンシーの行使につな 168 世界開発報告 2012 げる際に大きな制約となるもののひとつが,司法へ に敏感な手続きが確立されれば,権利はより強力に のアクセスの欠如である.このアクセスを制限する 行使できるはずだ.そのような手続きとしては,例 「供給側」――法制度や国の行為主 多くの要因は, えば家庭内暴力であれば,被害者による個人的な証 体が機能を適切に果たさない状態――と「需要側」 言や当事者が関与しない紛争解決プロセスを認める ――個人や集団が是正を要求しない状態――の双方 規定などが考えられるだろう. にあるとみられる.司法へのアクセスを制限する要  一般的に,説明責任の欠如と過失が施行の妨げと 因のなかには,司法の利用費用が払えないとか権利 なることが多い.警察官や判事の姿勢には,往々に を知らないといった男女共通のものもある.他の要 して世間一般の社会規範がそのまま投影され,法を 因は本質的にもっとジェンダー特有なものである. 施行するシステムの能力が制限されてしまう.例え ばある調査によれば,インドで面談したほぼすべて 国の制度の能力が低いか制度にバイアスがある の警察官が夫は妻を強姦してよいと答え,判事の半 と,法律の施行が制限される 数は夫に虐待されている妻にも責任の一端があると  供給側に該当するのは,法律を確実に施行する 考え,判事の 68%は挑発的な服装が強姦を誘発し 役割を担うさまざまな意思決定機関や管理機関で ていると考えていた 56. ある.それらは国の裁判所,警察,法的支援セン  実際,社会の姿勢のせいで法が消極的にしか施行 ター,執行吏,徴税機関などの司法機関から,土地 されない状況は多い.アメリカでは,判事や陪審員 委員会や移民裁判所などの準司法機関,また,土地 は見知らぬ相手からの強姦に比べ,デート相手や 登記所,出生および結婚の登記所などの行政機関に 配偶者による強姦に対し有罪の宣告をためらう 57. まで及ぶ.またそれらに替わる民間の紛争解決機構 概して,司法制度は特に財産の所有,結婚に関する や,昔ながらの長老や宗教のリーダーといった慣習 事柄,家庭内暴力について,女性の権利促進に二の 法にもとづく宗教的で共同体的なシステム,慣習法 足を踏んできた 58.この消極的な姿勢は,一部に に則った地域コミュニティの協議会もここに含まれ は,多くの司法制度で男性が優位に立っていること る. と関係があるのだろう.調査した 2/3 以上の国で,  これらの行為主体が権利の行使を保証する能力 最高裁判所の女性判事の数は 1/4 に満たず,下級 は,多くの国では限定的である.制度側の法律知識 裁判所でも女性判事は限られた存在である(一部の や法を施行する行政能力が不十分だったり,手続き 東ヨーロッパ諸国は除く)59.裁判所によっては, の設計がお粗末だったりするからだ.例えば,法律 女性判事の権限や責任が男性判事と対等ではないこ は夫婦平等の土地所有を推進しているのに,土地所 ともある.例えばバヌアツ島裁判所では,社会規範 有権を付与する手続きが女性への付与を阻んでいる により女性判事は土地の境界をめぐる訴訟などの こともあるだろう.ある法律が採択されたら,司法 際に実地検分に加われない 60.またデータのある 制度には,それによって与えられる権利,権利の行 13 カ国中 11 カ国で,女性が警察に占める割合は 使にあたっての各機関の責任,法律の施行プロセス 20%に満たない 61.  について,明確に規定する役割がある.ジェンダー  制度の力不足,消極的な姿勢,ジェンダーに対す . 「情報にアクセスする方法がまったくありませんし,今のところ,規定について何も知りません」 アフガニスタンの女性 「自分たちの権利について知りません.法律のことはあまり分からないのです.妻を殴ってはいけないと . いう法律があるのですか?」 ブルキナファソの女性 CHAPTER4 女性のエージェンシーを促進する 169 る敏感さの欠如は,特に家庭内とい 図 4.9 家庭内暴力の場合,サービスを求める女性はほとんどいない う私的な空間では,権利の行使につ 都市部 いての監視や評価が困難なことか 日本(横浜) 1 13 ら,いっそうひどくなることが多 セルビア(ベオグラード) 3 23 い.多くの女性の家庭内の権利の現 タイ(バンコク) 1 23 ブラジル(サンパウロ) 4 27 状は見えづらく,したがって評価も ナミビア(ウィントフーク) 5 31 対処も簡単ではない. タンザニア(ダルエスサラーム) 8 33 バングラデシュ(ダッカ) 1 40 ペルー(リマ) 4 49 認識の欠如,社会規範,偏った サービスのために,女性は司法を 農村部 求めづらい ブラジル(ペルナンブコ) 1 34 タイ(ナコンサワン) 1 34  多くの状況で,女性は権利の行使 サモア 2 41 を求めることができない.自分たち バングラデシュ(マトラブ) 2 42 タンザニア(ムベヤ) 16 47 の権利を認識していないか,申し立 エチオピア(ブタジラ) 5 49 てには直接お金がかかるからであ ペルー(クスコ) 11 61 る.このアクセスの欠如は男女どち 0 10 20 30 40 50 60 女性の割合(%) らにも関係するが,男性よりも識字 能力が低く,収入が低く,移動性が 身体的虐待を受けた そのうちサービスを求め ことがある たことがある 低く,社会的ネットワークが狭い女 出所:WHO(世界保健機関)2010 性は,より大きな影響を受ける.農 村部の女性向けに法律の情報を広め たり支援を行ったりしようと,弁護士補助員を配置 ら,身体的虐待を受けた女性の 10%程度しかサー してきた国もある.インドネシアでは,離婚証明書 ビスを求めていなかったことが分かった(図 4.9). (社会支援プログラムへアクセスするのに必要)の その主な理由は,女性の申し立てに同情を示さない 入手に法廷費用が障害になっていることを女性たち 強力な社会規範と,サービスへの信頼の欠如(サー が突き止め,最高裁判所の予算が引き上げられて費 ビスの質の低さ,暴力を容認する制度,守秘義務の 用の徴収が廃止されたところ,女性や貧困者,社会 欠如)だった 63.実際のところ,質が高ければ多 62 の周辺にいる人々のアクセスが向上した . くの女性はサービスを利用する.それは,法律扶助  多くの女性は,法制度への関与に必要な移動性も や医療サービスやカウンセリングを提供するナミビ 時間もない.家族の世話や家事労働はたいてい女性 ア都市部の専門チームの成功例や,ブラジルとペ の責務だとする性別役割の社会規範があるため,法 ルーでの女性が率いる警察署や専門サービスの成功 律サービスを利用する時間がとれないのだ.サービ 例からも明らかである 64. スへのアクセスに長距離の移動が必要な場合はなお  他にも,女性だけに偏った影響を及ぼす制約があ さらである.許容される行動に関する規範や身の安 るかもしれない.コンゴ共和国では,女性が訴訟手 全によっても,女性の移動性や,法律サービスへア 続きを開始するには夫または後見人の許可が必要で クセスする能力は抑制される. ある.慣習法に基づいた法廷では,女性は不当な扱  女性に特有の要因には,他にも,申し立てを行う いに対する不平や不満を直接訴えられないかもしれ ことに伴う社会的恥辱や心理的トラウマがある.結 ないため,似たような制約に直面する可能性があ 果が予測できなかったり,法制度に女性への偏見が る.また,その不平や不満を長老たちの目にさらす あったり,法の行為主体自体が訴えた側を見せしめ かどうかは,男性世帯主次第なのである 65. に処罰し,その結果二重被害が発生するような場合 には,女性は司法を求めることを躊躇することが多 い.9 カ国から選んだ地域や都市についての研究か 170 世界開発報告 2012 ついての社会規範――家族の世話 図 4.10 所得よりも教育が規範の制約を弱める 係としての役割についての規範 教育水準および富裕度別の,医療ケアを受けるのに許可が必要な女 性の確率 や,慎みや体面の規準――や,公 共の場所での女性の身の安全に関 中東・北アフリカ 南アジア 教育水準 教育水準 する通念によっても決まるのであ 1 2 3 4 1 2 3 4 る.南アジアと中東・北アフリカ 25 25 許可が必要な女性の割合(%) 許可が必要な女性の割合(%) では,規範の制約によって女性は 20 20 許可なく医療アドバイスを求めら 15 15 れなかったが,世帯の資源の上昇 10 10 によって制約が一部緩和されてき 5 5 た.だが,教育はこの制約をさら 0 0 . に緩める(図 4.10)「世界開発 1 2 3 4 5 1 2 3 4 5 報告 2012 ジェンダーと経済的選 富で測った 5 分位層 富で測った 5 分位層 教育 富 択に関する定性的研究」を実施し た 19 カ国すべてで,身体的移動 –  出所:40 カ国での Demographic and Health Surveys(人口保健調査)2003  2009 に基づく, 性に対する制約としてもっとも頻 世界開発報告 2012 チームの試算. 注:青線は平均の富と管理特性をもつ女性が医療ケアを受けるのに許可が必要な確率.黄線は平均 繁に挙げられるのが社会規範で, の教育水準と管理特性をもつ女性が医療ケアを受けるのに許可が必要な確率. その次は治安である(インフラに 対する指摘はめったにない)66. 社会規範は女性のエージェンシーの向上を妨  女性の移動性に影響を与える規範には,公共交通 げる,あるいは促進する 機関の利用や自転車の運転,車の運転免許の取得が  社会規範は,期待や価値観や行動に影響を及ぼ 適当かどうかを決める規範などがある.マラウイで す.そのため,法律,サービスの改善,所得の上昇 は,社会規範のせいで,救急産科医療の向上のため によってエージェンシーに対する制約が取り除かれ に導入した救急搬送用自転車の利用を,妊産婦が思 るのを,阻む可能性がある.そのような場合,政策 いとどまってしまう 67.都市部では,規範自体に 立案者は,規範自体を変えることによってジェン 関連する問題よりも,安全への懸念の方が影響が大 ダーの結果を改善できるかどうか考えてみる必要が きい.モロッコとイエメン共和国では,都市部の女 ある.社会規範を変える試みは,それらが非効率ま 性(特に若い女性)の 25 – 30%が,街路で性的嫌 たは有害だったり,規範を生む力がもはや適当なも がらせを受けたと報告するが,その数字は農村部で のでなかったりする場合はとりわけ意味がある.し はずっと低く,およそ 5%である.イエメンでの女 かしときには社会規範が,法やサービスでの制約に 児の就学への制約は,社会規範よりも身の安全と関 逆らうように変化し,女性のエージェンシーを促進 係があった 68.女子の安全に対する懸念が増す思 させることもある――たとえばバングラデシュなど 春期には,彼女たちの移動性は大幅に減少し,そう では,女性労働力への需要が急増し,女性の身体的 なると経済機会を追求したり社会的ネットワーク 移動性にまつわる規範が急速に変化した. を築いたりする力が限られてしまう.「世界開発報 告 2012 ジェンダーと経済的選択に関する定性的研 社会規範によって,政策やサービスが機能しなく 究」によれば,農村部のコミュニティよりも大半の なることもある 都市部のコミュニティのほうが,男女を問わず安全  規範を逸脱したり実行しなかったりする女性に制 に対する懸念が大きい.農村部では男性よりも女性 裁を科すことによって,社会規範は女性がエージェ の方が不安を抱いているが,都市部では男女差はほ ンシーを行使できる空間を規定し,制限する.例え とんどない.おそらく都心部の街角で発生する暴力 ば,移動性に関して法的規制がある国はごくわずか 行為の多さが反映されているのだろう 69. であるが,移動性は,女性として許容される行動に  女性自身の所得の上昇が家庭内での交渉力の向 CHAPTER4 女性のエージェンシーを促進する 171 上につながるかどうかを,社会規範が決すること 図 4.11 結婚した時期は違っても,多くの少女が依然として 18 もある.インドでは,自分の稼ぎが家庭の意思決 歳未満で結婚している 定に影響を与えるかどうかは,その女性の社会的 100 背景による.先祖代々のコミュニティとのつなが 90 りが弱い女性ほど,社会規範に立ち向かい,自律 18 80 ー 23 バングラデシュ 70 ニジェール した所得の恩恵を得ることができる .「世界開 70 結婚した人の割合(%) マリ 歳の女性のうち, ー 歳で チャド 発報告 2012 ジェンダーと経済的選択に関する定 60 パキスタン ギニア モザンビーク ドミニカ共和国 50 マダガスカル ブルキナファソ 性的研究」の参加者のおよそ 20%が,妻の自律し トルコ シエラレオネ 40 エジプト た所得を夫が完全にコントロールしていると答え 12 ヨルダン ナイジェリア 30 ハイチ た(その割合は,農村部でわずかに多かった).ま 17 20 た参加者たちは,女性が自分の稼ぎをコントロー モロッコ 10 ルし続けられない場合には,自律した所得がもつ, 0 女性をエンパワーする潜在的な役割は限られたも 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 71 –  44  49 歳の女性のうち,12  –  17 歳で のとなると答えた . 結婚した人の割合(%)  社会規範は,家族の形成などの領域でとりわけ (少なくとも)10 歳以上年上の夫と結婚した幼な妻が 30%未満の国 拘束力がある.非常に若くして結婚する男子はほ (少なくとも)10 歳以上年上の夫と結婚した幼な妻が 30%以上の国 とんどいないが,女子の場合は幼児婚が依然とし –  出所:Demographic and Health Surveys(人口保健調査)2003  2009 に 基づく,世界開発報告 2012 チームの試算. て多くの国で広く行われている.多くの国――サ 注:上の各図の 45° 線は,縦軸と横軸の値が等しいことを示す. ハラ以南アフリカの南アフリカとタンザニアから, ラテンアメリカのボリビアとベネズエラ,また中 東のクウェートまで――では,幼女の結婚が法的 に認められている(通常,女子は男子より結婚最低 ソ,エチオピア,ギニア,マリ,モロッコ,シエラ 72 年齢が低い) .多くの幼妻がはるかに年上の男性 レオネでは,半数以上の女性が,夫は妻と口論に と結婚させられている.結婚年齢が若いほど,また なったら殴ってよいと考えている.そうした通念は 夫との年齢差が大きいほど,女性の交渉力は弱く 農村部の方が浸透している――その通念を支持する 暴力のリスクは高くなるという関連性がある(ま 女性は平均で 10%多い――が,若い女性も年配の た HIV が流行している場合は,感染リスクも高く 女性と,調べた限りではあらゆる面で驚くほど似 なる)73.分析が行われた 46 カ国中 29 カ国で, 通った考えをもっている(例外は,もし妻が性交を 18 – 23 歳の女子の 30%以上が 12 – 17 歳で結婚し 拒んだら夫は殴ってもよいと考える人が,やや少な ていた.またそのうち 11 カ国では,早婚の女子の いことくらいである)75.暴力の容認性に関する社 30%以上が 10 歳以上年長の男性と結婚していた 会規範は,家庭内暴力がなぜ喧嘩や強盗,銃による (図 4.11). 暴力といったより広範な社会的暴力と符合すること  国民所得と個人所得が増加しているときでさえ, が多いのかを説明するのにも役立つ.6 カ国から選 家庭内暴力が一向に減らない理由については,家庭 出した都市について調べたところ,妻に身体的暴力 内の人間関係についての社会規範によってある程度 をふるったことがある男性が家の外で暴力に関与す 74 は説明できる .家庭内暴力に対する姿勢は,ア る確率は,そうでない男性の 2 – 5 倍に上った 76. ルメニア,マラウイ,ルワンダのデータが示す通  暴力の被害者が,公共または民間のサービスに助 り,過去 10 年間に変化してきた国もある.しかし, けを求めることはほとんどない.家庭内暴力を通報 こうした変化はまだかなり限定的で,依然として多 しない主な理由として女性が挙げるのは,恥や罪の 数の男女がさまざまな形態の身体的,感情的,性的 意識,暴力をふるわれたのは当然で正しいことだと な虐待を容認している.ギニア,マリ,ニジェール いう認識,サービスを求めた結果起きる事態への恐 などでは,およそ 60%の女性が,夫はセックスを れ, . 家族や友人からの支援の欠如である(図 4.12) 拒んだ妻を殴ってよいと考えており,ブルキナファ こうした感覚は,暴力を容認する社会規範,被害者 172 世界開発報告 2012 報告 2012 ジェンダーと経済的選択 図 4.12 暴力の被害者が助けを求めない理由 に関する定性的研究」では,「よい男 農村部 タンザニア(ムベヤ) 性」の定義は過去 10 年間でやや進展 タイ(ナコンサワン) し,家族の世話にかかわる要素がい サモア くつか含まれるようになったが,「よ ペルー(クスコ) い女性」の定義はあいかわらず家庭 エチオピア(ブタジラ) ブラジル(ペルナンブコ) 内の役割に概ね固定されていること バングラデシュ(マトラブ) がわかった(ボックス 4.5).こうし た認識は,少女たちの抱負や,娘の 都市部 タンザニア(ダルエスサラーム) 人的資本に投資する親の意欲をおそ タイ(バンコク) らく左右するだろう. セルビア(ベオグラード)  社会規範のなかには,社会における ペルー(リマ) ナミビア(ウィントフーク) 男としての地位を明確に規定するもの 日本(横浜) があり,それらは男性に対して強い拘 ブラジル(サンパウロ) 束力をもつ――また,それらが女性に バングラデシュ(ダッカ) 影響を及ぼす規範を強化することもあ 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 公の機関に助けを求めない具体的な理由を挙げた る(ボックス 4.6).男性は,役割や 女性の割合(%) 行動を命じる社会規範や,選択したり 恥ずかしいから その後の結果が怖いから 目標を達成したり人生をコントロール 暴力は当たり前で深刻なことではないから したりする彼らの能力を規定する社会 出所:WHO(世界保健機関)2010 規範からも制約を受けている.性別役 割に関しては,女性は家の外で生産的 自身に暴力を招いた責任があるという見方,家族や 活動にかかわるようになってきたものの,男性の家 友人が被害者を認め支えてはくれないだろうという 庭内での貢献はほとんど増えていない(第 5 章参 恐怖,規範を逸脱した者に科せられる制裁への恐れ 照).つまり男性のアイデンティティは,家族を扶 77 によって引き起こされることが多い .多くの状 養する能力に深く根ざしているのである 78.「世界 況で,女性は家の外――街角や職場,学校など―― 開発報告 2012 ジェンダーと経済的選択に関する定 で受ける暴力の責任を負わされるのである. 性的研究」を実施した 19 カ国では,稼ぎのよい妻  たいていの国では,家事労働や育児,病人や老 は,世帯の経済状態を上昇させるというよりも,男 人の介護にかかわる仕事は,女性が単独かつ第一 性の地位を脅かす存在だと概ね考えられていた―― に責任を負うと考えられている一方,男性は家計 とはいえ,サンプルとなったのは妻の経済的役割を の稼ぎ手というのが第一の役割である.「世界開発 容認する例外的な男性であった.参加者たちが強調 「特に女が成功すると,男の虚栄心はそれに耐えられません.女が男よりも稼いだり,男に金を与えた り,男に指図するのは難しいし,男が自分を恥ずかしいと思わずにそのような状況に耐えることも困難 . なのです」 セルビア都市部の成人男性 (仕事を失ったら) 「 . ,男はものすごくイライラして,狼狽して,酒を飲んで,妻を殴るだろうね」 パプアニューギニアの成人男性 CHAPTER4 女性のエージェンシーを促進する 173 ボックス 4.5 「良い妻」,「良い夫」とはどういう意味か?  良い妻とは,あるいは良い夫とはどういうことだろう なり,まるで女中のようだった.でもありがたいことに今 か? 世界中どこでも,都市部でも農村部でも,貧しい共 は違う.今も女性は他の人や家族のことを考えるが,自分 同体でも豊かな共同体でも,良い妻の条件についての社会 のやりたいことも忘れない」のである.収入を得る能力も 規範は,驚くほどよく似ている. また,良い妻の条件の上位に見られるようになってきた.  何よりもまず良い妻には,家庭内の責務を見事にこなし,  男性と女性による「良い夫の定義」から,男らしさ(男 家族を気遣って理解することが求められる.パプアニュー 性性)に関する多くの固定観念が改めて確認された.ほぼ ギニアの女性によれば,良い妻は「家を切り盛りでき」 , どんな状況でも,良い夫を定義するものは,何よりもまず ポーランドの女性によれば「料理が上手でなければならな 家族を扶養する能力だった.タンザニアの男性は「家族を い」 .ガザでは,良い妻は「大半の時間を家事と子どもの 養わない男なんて,男じゃない」と言い,ベトナムの男性 教育に費やす」 .外での仕事の有無や教育水準はほとんど によれば「良い夫とは,良い稼ぎ手だ.主な責任は家にお 問われなかった. 「たくさん働 金を入れること」だった.ポーランドでは, あるじ  家の外で働く女性が多い地域でも,良い妻にまつわる規 いて家族を養い,世帯の真の主となって,家族を大事にす 範はほとんど同じである.インドのオリッサ州のグループ るのが良い夫」だった. によれば,良い妻は「朝早く起きて,雑用をすべてこなし,  しかし,そうした男たちも,夫や父としての役割のなか 子どもや老人の世話をし,もし機会があれば村のなかで賃 で,ジェンダー平等の規範を受け入れていくのが時代の要 金労働をし,森の産物を採集して市場で売り,世帯収入に 請であることは認めていた.同じタンザニアの村でも,本 貢献する」とのことだ.同様にブータンでは,村の女性が 当に力のある男は「子どもを学校へ連れて行き,妻と良い 「男女は畑で働く時間が同じでも,家に帰ったら,女が料 関係を保ち,家族と一緒に物事を決めるのだろう」との発 理や洗濯をし,動物の世話をし,子どもの面倒をみるもの 言があった.非常に多くの場合,フォーカスグループは, と思われている」と話した. 良い夫についての規範の変化は,良き扶養者になろうとす  良い妻には夫に敬意を払う――誠実で,理解があり,尊 る今の男性の奮闘ぶりと,稼ぎ手としての女性の役割の拡 敬し,従順である――ことが一貫して求められる.南アフ 大との間で起きる混乱と関連があると考えていた.ベトナ リカでは,良い妻は「夫を尊敬し,彼のために料理を作 ムの男性らによれば,女性が働いて収入を得るにつれて る」し,ペルーでは「性格が良く,夫を愛し,夫を助け, 「男の力は制限され」 ,今では「夫婦間での話し合いと合意 .ジェンダー規範によ 家を切り盛りしなければならない」 形成」は当然のこととなった.フィジーの男性たちは,良 り,女性が外に働きに出ることを禁じているコミュニティ 「厳格」な人の い夫とはかつては「家族に道徳を教える」 では,家の外で仕事をしないことも良い妻の条件である. ことだったが,今ではまだ「家族の結束と道徳を維持する」 「良い妻は,家の中でせっせと働き, アフガニスタンでは, 「妻の話 人であるものの,じきに「家族と時間を過ごし」 子どもの世話をし,他の仕事をもたない」のだ. に耳を傾ける」人になるだろう,と話した.最近の 10 年  現代の良い妻と,前の世代の良い妻とを比較してみると, 間で,権威を備えた主たる意思決定者としての良い夫は必 多くの女性が好ましい変化に気づく.彼女たちは,母親た 要とされなくなっていき,今ではこうした特性は,家族を ちが献身的で働き者の主婦で,現代の良い妻よりも夫に従 気遣う――例えば家事を手伝う――といった特質ほど重視 属的で依存していたと考えている.ポーランドの女性によ されていない. 「女性に対する見方が今と異 れば,彼女の母親の時代は, 出所:World Bank 2011. したのは,経済的ストレスが家庭内暴力の根本原因 やすく,インドでは経済的ストレスを受けている になることが多いということで,おそらくそれは, 男性が日常的にアルコールを乱用する確率は,そ 男性が一家の稼ぎ手としての役目を果たす能力があ うでない男性の 2.5 倍である.アルコール依存は るかどうかが問われているからである.そして議 健康リスクであるだけでなく,家庭内暴力のリス 論から見えてきたのは,女性が男性を言葉である ク要因でもあるのだ 80. いは精神的に侮辱すると,無職による無力感(男  市場と制度が機能する状況を形作っているのは社 性性の喪失感)が一層悪化してしまう,というこ 会規範であることから,社会規範は政策や公的サー とだった.ブラジル,チリ,クロアチア,インド ビスが女性の選択に与える影響をも左右する.例え では,経済的ストレスを受けている男性は,受け ばジンバブエでは,生殖保健サービスの拡張によっ ていない男性よりも身近なパートナーに暴力をふ て望まない出産が減ったが,そうなったのは女性が 79 るうことが多かった .彼らは抑鬱状態にも陥り 自律的に避妊手段を使ったときだけだった.このこ 174 世界開発報告 2012 ボックス 4.6 男らしさと,役割,選好,行動に対するその影響  男らしさ(男性性)についての支配的概念は社会文化的 る.それはおそらく教育が規範を変え,固定観念を弱めた 文脈に固有のものだが,特性によってはほとんどの文化に ためだろうし,教育水準の高い男性ほど収入が高く,それ わたって共通するものもある.男らしさの規範は,女性や が彼らの能力や規範に立ち向かいたいという気持ちに影響 子どもや他の男性に対する男性(少年)の人間関係に影響 を与えるからだろう. を与える.男の理想の姿――強くたくましくあるべきで,  ジャマイカなど一部の国では,学校などでの成績不振が, リスクを取らなければならず,男であることを主張するに たとえ将来の雇用や所得機会を減らすにせよ,男らしさの は痛みに耐えなければならないといった考え――は,ほぼ 定義とされることがよくある.自分は「真の」男であるこ 普遍的なものらしい.こうした通念は,男性の行動や健康 とを顕示しなければならないプレッシャーから,少年たち を危険にさらす結果となる. は危険な行動や性体験を通して,自らの男らしさを誇示す  男らしさに欠かせない特徴は,家族を養う能力である. るようになる.そうした性体験は,愛情ではなく性体験の 男は家族を扶養するものだという社会規範は,仕事や収入 有無や性的能力に関心が向けられたものであり,性的虐待 が十分になく男性が規範に応じることができない場合に, や婦女暴行に結びつく可能性がある.紛争下では,男らし 非常に強いストレスや精神衛生上の問題をもたらすことが さの規範が女性に対する性的・身体的暴力を強める(紛争 ある(抑鬱状態,逮捕,暴力,アルコール依存の発生率が .紛 時には,少年も性的暴行の被害者となることが多い) 高くなる) .家族の扶養以外の男らしさの必要条件は,夫 争時の戦場では,家族を養い守る者としての男性の役割を や父となって家族をコントロールすることである.独身男 果たす能力も試される. 性が変な眼で見られたり,ふつうとは違う扱いを受けたり  ジェンダー平等の議論では男性はほとんど目に見えない する地域では,こうした期待が男性に多くのプレッシャー 存在である.ジェンダー平等のプログラムや政策は概ね女 をかける. 性のために設計されており,そこに男性をいれると,たい  家庭内の役割は女性と密接に関連しており,かなりの割 ていの場合,彼らの行動は制約や制限を受ける.まれに, 合の男性が,おむつの取り替えや服の洗濯は極めて女性的 男らしさの構造を好ましい方向に変える機会を提供する政 なことだと考えている.その結果,女性の方が家の外で長 策が作られることがある――有名な例は北欧諸国の父親の 時間働いているときでさえ,男性は家事労働や無報酬の家 育児休業で,そこでは男性の役割を変えることが社会福祉 族の世話などをあまり引き受けようとはせず,家族と多く 政策の明白な目標となっている.しかし,男性にとっての かかわることで得られる心理面,健康面での恩恵を受け損 性的アイデンティティの形成は,女性の場合と同じく,時 ねてしまう.調査によれば,教育水準の高い男性ほど,家 間をかけて変化していく動態的プロセスなのである. 庭内の役割や家族の世話に多くの時間をかける傾向があ 出 所:Alesina, Giuliano, and Nunn 2011; Bannon and Correia 2006; Barker 他 2011; Barker and Ricardo 2005; Barker, Ricardo, and Nascimento 2007; Connell 2003; Connell and Messerschmidt 2005; Emslie 他 2005; Greene and Levack 2010; Kimmel 2010; Möller- Leimkühler 2003; Ousgane and Morrell 2005; Pollack 1995; WHO 2000. とは,家庭内には受胎調整に対して拘束力のある社 し,力を得ることになる人々はたいてい弱腰で,変 81 会規範が存在することを示している .トルコで 化を強要できないからだ.機能不全の社会規範が復 は,先に論じた例では,家族の形成に対する義務教 活してしまう原因は,変化によって力を得る側が力 育の影響は,教育,結婚,出産を順序づける社会規 を失う側に対し,変化が起きた後に被る損失分を埋 範次第だった.そして場合によっては,社会規範に め合わせる確約ができないことにもあるかもしれな 強く対抗する法律が予想に反する結果をもたらすこ い. ともある.例えばアメリカでは,家庭内暴力の加害  ジェンダー規範のなかには非常に持続性のあるも 者を,たとえ訴状が取り下げられても逮捕して起訴 のがある――サティー(夫の火葬の薪の上で妻が焼 てんそく することを警察に義務付けた厳格な法律によって, 身自殺するヒンドゥー教の慣行)や纏足といった, かえって通報率が下がってしまった 82. もう行われていない風習もそうだったし,現在行わ れている女性器切除や女性の身体的移動性の制限, 社会規範はしつこく持続する可能性がある また職業や家庭内の役割分担におけるジェンダー規  社会規範は,力やコントロールに直接影響を及ぼ 範など,平凡だが有害なものもそうした例である. す領域でもっとも元に戻りやすい.社会規範の変化 ボックス 4.7 では,ジェンダー規範が存続する理由 によって力を失うであろう人々は変化に強く抵抗 の一端を探り,その規範を支持しているほぼ全員 CHAPTER4 女性のエージェンシーを促進する 175 ボックス 4.7 なぜ社会規範は持続するのか? 文化的通念は,ものの見方を形作る:人が注意を向ける対 れに代わるやり方など単純に想像できないかもしれない. 象とその解釈は,その個人の信念(正しいと信じている考 例えば女性器切除の場合,切除した女性と切除していない え)によって決まることが心理学や社会科学の証拠から分 女性の性道徳を比較させないことによって,普遍性自体が かっている.人には認知バイアスがあるため,もともと信 (性道徳の確保が,女性器切除を 通念を作りあげている. じていたことを強化するように,新しい情報を誤って解釈 . 正当化する一般的な理由のひとつである) するのである.このバイアスにより,たとえ根拠がなくて も信念を覆すのは困難である.実際,異なる考え(通念) 力が,ものの見方を形作る:社会規範が特定の集団に利益 をもつふたつの集団があるとすると,同じ新しい情報に を与える場合,その集団はさまざまなメカニズムを用いて よって,どちらの集団も自分たちの通念が正しいという確 意見の相違を抑え込み,現状を維持しようとするだろう. 信を強めるかもしれない. 例えば,その規範は神から与えられたのだとか自然界の秩  個人がもつ多くの前提は,その人の父母や祖父母が暮ら 序なのだと示してみせたり,不利益を被っている集団に別 した社会によって定められたものであるため,社会のなか の方法があることを悟らせないよう,情報を差し控えたり の一連の通念は,無意識に適用されるフィルターとして, するのだ.実際のところ,文化は作られたものであり,男 行動に対する認識と解釈をいたるところでふるいわけてい 性がより大きなコントロール力を確保するよう意図的に形 る.文化が認識を,認識が行動を形作るのである.例えば, 作られている場合もある. 分野によっては男性の方が女性よりも生まれつき能力が優 れているという通念は,本当は能力の点でも機会の点でも 多数の無知が,ものの見方を形作る:社会規範に従う利益 ジェンダー差はないのに,個人の自己概念と認識,そして は,他にどのくらい多くの人がそれに従っているのかに 行動を,その通念を裏付けるような能力的な違いを生むよ よって,たいてい左右される.多数の無知とは,実際には うに形作ってしまうのである. 集団の大半の人々が個人的には規範を拒んでいるのに,自 分以外のほとんどの人はそれを受け入れていると(誤って) (ほぼ) 広くいきわたった慣習が,ものの見方を形作る: 想定している状況のことである.つまり「誰も信じていな すべての家庭が社会規範を固守しているとき,またその規 いのに,自分以外の人は皆そう思っていると全員が思って 範から離れると重大な結果を招くときは,慣習への自発的 いる」わけだ.したがってこの場合,社会規範から離れる てんそく な追従がほぼ普遍化する.例えば中国では,纏足は婚姻関 ことは難しい.さらに,ひとりひとりが「皆が規範を破っ 係が結ばれる集団内のすべての階層(最貧困層を除く)で た者を村八分にする」とか「自分にも村八分のリスクがあ 行われていた――そのため,この慣習をやめた特定の個人 る」と信じている場合も,規範から離れることは難しくな や家族は,その集団内で結婚する機会および体面や地位を るだろう.すると村八分を避けるため,誰ひとりとして利 失うという制裁を受けた.この慣習はコミュニティのメン 益を得ず,誰ひとりとして個人的には認めていない規範を, バーが,娘の足を縛らない,または息子を纏足の女性と結 すべての人が固守することになるのである. 婚させないと誓うことで,終わらせることを集団で決め, ようやく廃止された.慣習がほぼ普遍的な場合,個人はそ 出所:Akerlof 1976; Benhabib 2002; Bruner and Potter 1964; Douglas 1986; Hoff and Stiglitz 2010, 2011; North 2005; Powell and DiMaggio 1991; Rabin and Schrag 1999. が,それがない方が幸せになれる,あるいは反対し てさらに強まる.実際に,自分の能力や成功の可能 たいと思っているときでさえ,規範がいかに存続す 性をどう見るかが,その人の実際のパフォーマン るかについて解説している.また,女性自身がどの ス(成績や遂行能力)にとって重要であるという科 ように自らを傷つける社会規範を広めたり強化した 学的証拠がある.「女性は特定の役割(政治やビジ りしてしまうのかについても明らかにしている.最 ネスのリーダーになる,科学の道で成功を収めるな 近の研究では,ものの受け止め方や見方が世代を超 ど)の遂行能力が,男性より劣る」という社会規範 えて伝達することが重要視されている.例えばアメ は少女や女性によって内在化されやすく,すると自 リカでは,子どもを養育する重要性に関する信念 己効力感を欠いた彼女たちは男性ほどうまくやれな を,女性が次世代に伝えているという証拠が研究で かったり,こういう役割に憧れを抱いたりしなくな 示されている 83. る.こうして社会規範はさらに裏付けられ,維持さ  社会規範の持続性は,自信や自己の効力感によっ れていくのだ.何の根拠もない規範がいかにして持 176 世界開発報告 2012 続するのかは,人がもつ自信と,その自信を裏付け 申し立てたり集団行動をとったりするために個人の るように人は証拠を読み違える傾向があるというこ 連携を促すことである(これについては本章でこの とから,説明できる 84. 後述べる).ガールズクラブのような介入策は両方  実験的証拠から,多くの国ではたとえ能力が同じ の要素をもっており,少女たちが仲間や社会的支 でも,女性は男性より競争を嫌うことが分かってい 援,情報,集団行動の価値やメカニズムを知る方法 る.これは男性の方が自信をもっていることと関連 にアクセスできるようにしている. があり,女性が経験を積めばこの差は縮小できる.  場合によっては,情報も社会規範を変えられる. それはまた,育った環境と社会化からも影響を受け 女性の政治指導者を見たことがないために政治指導 ている.実際,そのような差は幼い男女の間にはな 者としての女性の能力を知らないと,女性は“女は いのだが,ジェンダーについての社会規範がかか 政治家にふさわしくない”と認識し,政治家になろ わってくる思春期になると表れてくるのである.女 うという抱負をもちづらくなる.こうした制約を緩 性上位社会では,このパターンは逆転する.女性上 和するのが,割当制度のような政策である.インド 位社会(インド北東部のカシ族)と発展水準が同程 では,これまで一度も女性のリーダーがいたことの 度の男性上位社会(タンザニアのマサイ族)の男女 ない村の人々は男性リーダーを好み,仮に男女の に,賞金が自分の成績だけで決まるゲームと,他者 リーダーがいたとしたら,たとえ両者の能力や成果 との競争の結果によって決まるゲームのどちらかを が同じであっても女性は男性ほど優秀ではないと考 選んでもらった.父系社会(マサイ族)では,女性 えていた.女性がリーダーに就いても,男性リー の倍の男性が競争するゲームを選んだ.しかし女系 ダーを選好する村人たちの気持ちに変わりはなかっ 社会(カシ族)では,競争するゲームを選んだのは たが,公共や家庭の領域での性役割についての固定 男性より女性のほうが多かった.こうしたパターン 観念は確実に弱まり,男性の村人の間にあった女性 は,教育,収入,年齢の差を考慮しても変わらな リーダーの能力に対する否定的な認識は払拭され かった.この研究が示しているのは,競争への選好 た.こうした姿勢の変化は,選挙で大きな意味が は育った環境と社会化によるものであり,競争にお あった.割当制度の導入から 10 年後,それまで継 けるジェンダー差は先天的性質だけでは説明できな 続的に女性が議長をつとめるよう決められていた村 85 いということである . の議会には,より多くの女性が立候補し,割当枠以 外の議席を獲得するようになったのである.87. 市場のインセンティブ,情報,ネットワークが社  多くの新しい民主国家では,政治参加の代償が高 会規範を変える すぎるのか,女性は最初,男性ほど投票に行かな  社会規範からの逸脱に対する制裁を市場の力で埋 い.社会規範のために自分の選好を表しづらいのか め合わせれば,社会規範を弱める一助となる.例え もれないし,女性の身体的移動性(安全への懸念も ば,労働市場での女性の所得や,女子の就学を条件 含む)についての規範が,投票を抑制しているのか とした現金給付が十分であれば,社会規範が真っ向 もしれない.また,女性は自分たちの投票の意義や から反対していても,それらは女性に労働市場への 権利,選挙プロセスについての情報をもっていない 参入を促したり,親に娘の就学を促したりする強い のかもしれない.そのような場合は,情報を提供す インセンティブとなるだろう.社会規範が市場から れば政治への参加が増える可能性がある.パキスタ の強いインセンティブを受けて,急速に進化した ンでは,情報の欠如によって社会規範が強まり,女 ケースもある.バングラデシュでは,主に衣料産業 性はますます公的な生活から離れてしまったが,選 での女性の経済機会の急増によって,女性の身体的 挙への参加を促すキャンペーンを実施したところ, 86 移動性に関する社会規範が急変した . 投票率が 12%上昇し,候補者を選ぶ際の女性の独  社会規範に影響を及ぼすためには,2 種類の介入 立心も増した 88. 策が実施可能である.ひとつは,他にとりうる方法  ロールモデルからも情報は伝わる.他の女性―― についての知識を増やすこと(選択肢を知るコスト 選挙で選ばれた役職者,成功した企業家,著名人― を下げるため),もうひとつは,社会規範に異議を ―が支配的な規範に屈していないのを見ると,女性 CHAPTER4 女性のエージェンシーを促進する 177 ボックス 4.8 固定観念はどのように成績や遂行能力に影響するのか  社会的差異が長く続くと,固定観念――ある集団の人々 中立的なアンケートをそれぞれやってもらった後,テスト は他の集団の人々とは本質的に違うという広く信じられて を受けてもらった.最初のグループはもっとも成績が良く, いる通念――が生まれる.そして固定観念は,そういった 二番目のグループがもっとも悪かった.この研究から,自 差異を持続させるような形で,成績や遂行能力に影響を及 己不信を促す明確なパターンと成績を下げる集団のアイデ ぼす. 「君にはほとんど ンティティが明らかになった.同様に,  実験によれば,人は自分の特性のひとつが否定的な固定 力がない」という気持ちにさせると,その人の複雑な課題 観念と関連があることに気づかされると,出来が悪くな 「力がある」という気持ちに を遂行する能力が損なわれ, る.例えば,テストの前に自分の人種を明言するよう言わ させると成績が上がることもわかってきた. れたとき,否定的な固定観念と結びつけられている人種の  否定的な固定観念と無力感は,どちらも遂行能力や成績 人は,テスト後に人種を言うよう求められたときより成績 を下げる.このことは,改革が進んでいるにもかかわらず, が悪かったのだ. 歴史的な不平等が数多く存続する理由を説明する一助とな  また,アジア系の学生は他の民族系の学生よりも成績が るし,このパターンを覆す方法も示してくれる.実際,最 よいという固定観念と,女性は男性よりも成績が悪いとい 近の研究では,男女の知能には生まれつき差があるという う固定観念を扱った実験も行われた.アジア系アメリカ人 通念を変え,ひとりひとりに「君には成績を上げる力があ の女性を 3 つに分け,アジア系についての質問を多く含む る」と教えれば,ここに述べた影響を減らしたりなくした アンケートと,ジェンダーに関連する多様な質問を含むア りできることが明らかになっている. ンケートと,アジア系にもジェンダーにも一切言及しない 出所:Ambady 他 2001; Hoff and Pandey 2011a; Hoff and Pandey 2011b; Krendl 他 2008; Shih, Pittinsky, and Ambady 1999; Smith 他 2008; Steele 2010; Steele and Aronson 1995. はより安心してそうした規範に疑問をもてるように するようになるため,情報共有のスピードが加速す なる.実際,能力の伸び方についての情報を与える る.集団の移動――特に生まれ故郷のコミュニティ と,成績にジェンダー差がなくなることが実験で示 へ戻る人の移動――も,情報の移動と規範の進化を 89 されている .ロールモデルも個人の自己概念に 促すメカニズムを生む.中国では,農村部に戻った 影響を与えるのだ.またジェンダーの固定観念は, 人々によって息子選好の規範が弱まり,出身地のコ 女子の知的パフォーマンス(成績や遂行能力)を低 ミュニティで家族計画の利用が進んだ 92. 下させる.メディアへの接触や教育は少女や女性が  労働市場への参加の拡大や身体的移動性の向上に 行う選択に影響を及ぼすが,それは選択肢について よって女性のネットワークが広がっていくと,女性 の知識が増え,新しい情報を発見するコストが減る にとっての発見のコスト――新たな情報を得るコス からである(ボックス 4.8).第 6 章で検討するよ ト――が減ると考えられる.女性の情報源が家族 うに,グローバル化に伴って,ロールモデルがひと (たいてい夫の家族)や仲間以外に広がると,こう つの文化の枠を超え別の文化へと広がると,このパ したネットワークによって他にとりうる方法や選択 ターンが後押しされる. 肢の幅が広がる.労働参加はネットワークを拡大し  ときには,異なるロールモデルや情報への個人レ 深化させる重要なメカニズムなのである(図 4.6 参 ベルでの接触が,社会規範を変えることもある.ブ 照). ラジルでは,少人数家族が登場する連続メロドラマ  思春期は,社会的なネットワークが希薄になり世 がテレビで放映されたことが一因となって,人々が 界が狭まって,特に危険な時期になる可能性があ 望む子どもの数と実際の子どもの数が減少したが, る.安全への懸念と社会的に許容される行動につい その影響力は 2 年分の教育に匹敵した 90.インド ての規範によって,少女の身体的移動性が下がった の農村部では,ケーブルテレビの影響でジェンダー り,家庭内の世話係としての役割が一層求められた への姿勢が変化し,その結果,出生数が減り(主 りするからだ.これは貧しい農村部の少女に特に当 に出産間隔が開いた),農村部のジェンダーへの姿 てはまる.グアテマラでは思春期の少年も少女も, 勢が都市部のそれにぐっと近づいた 91.情報通信 学校に行かないのは主にお金も興味もないからだと 技術が拡充すると,特に若い世代が情報へアクセス 言っていた.しかし 13 – 24 歳の女子の 33%が家 178 世界開発報告 2012 の雑用を,男子の 56%が家の外での労働を主要な あうと少なくとも短期間,社会規範がさらに保守化 理由に挙げている(家の外での労働については,女 することもある.中東諸国のなかには,女性が家の 子の 18%も理由に挙げた).そのため,こうした少 外で働くことについて,若い男性の方が年配の男性 女たちの多くが学校でのネットワークを失ってしま よりも保守的な態度を示すところもある.女子教育 い,仕事場にはそれに代わる新しいネットワークが が進展したにもかかわらず,アンマンでは 15 – 44 ない 93.エチオピアでは,思春期の少女は少年よ 歳の男性のおよそ 40%が女性は外で働くべきでは りもネットワークが貧弱で,少年と比べて友達が少 ないと考えており,この数字は 45 歳以上の男性の なく,必要なときに泊まったり同性の仲間と安全 29%よりも多いのである 98. に会えたりする場所も少ない 94.バングラデシュ, ブルキナファソ,ガーナ,インド,マラウイ,南ア フリカ,ウガンダでは,若い女性の友人のネット 女性の集団的エージェンシーは,制度,市場, ワークは男性のものほど強固でないことが明らかに 社会規範を形作る なっている 95.  現状に異を唱える能力も,ひとりひとりの女性の  社会構造――個人または家族とコミュニティとの エージェンシーを向上させる能力も,女性が集団で 結びつき――の弱体化も社会規範を弱める.例え 発言する能力によって変わってくる.既存の制度や ば,農村部から都市部または別の農村部への人の移 社会規範に立ち向かうには,女性たちの発言など, 動は,家族や集団の結びつきを弱め,集団は社会規 一層のジェンダー平等を求める声が必要である.女 範を強要する力を徐々に失っていく.同様に,女性 性は,平等化政策を推進できる唯一の存在ではな は労働参加の増加によって,仲間や家族によるコン い(また,すべての女性がそうした政策を推進して トロールを弱めるメカニズムを得る.夫による家族 いるわけではない).男性は多くの状況で,そうし へのコントロールに関連する社会規範のなかには, た政策の原動力となってきたのであり,改革の推進 都市部では農村部ほど拘束力がないものもある.お には欠かせない協力者なのである(第 8 章).しか そらく,労働参加率が高く,時間使途のパターンが し,さらなるジェンダー平等社会へと移行していく 異なることの表れだろう.医療ケアを受けるのに許 には,女性が意思決定プロセスに参加することが重 可がいると話す女性の割合は,許可を得ることが制 要である. 約となっている国のすべてで,農村部より都市部の  女性が改革を推進し,女性の声が社会を変革する 96 方が大幅に少ない . 力となるには,意思決定が行われる場所――国会,  しかし場合によっては,都市への人口移動は社 法的機関,正式な職能団体,政府,合法的な労働運 会的なネットワークの喪失や,移住者の孤立を深 動,土地委員会,土地区分計画委員会など――で女 める結果となりうる.また移住者たちのコミュニ 性の声を聞いてもらう必要がある.この声を届ける ティが,出身地よりも強力な社会規範をもつ場合 には,これらの意思決定機関に参加する――国会議 97 もある .グローバル化が進行して情報がますま 員,判事,委員会のメンバー,警察官になるなど― す行き交うようになると,集団に対して国際的な社 ―か,又は(男性が)決定を下す状況を女性が作り 会規範を用いるよう圧力がかかり,それらが抵抗に だすか,のいずれかである. 女性が政治的意思決定に与える影響は,限定的で ある 「今は候補者名簿に女性を載せなければなりま せん.昔と違って今は女性も地方議会議員にな  女性は確かに投票には行くが,公式の政治制度へ れます.今は女性判事さえもいて,私は司法を 男性ほど入っていかない.国レベル,もっと顕著に もっと信頼するようになりました.彼女はよい は地方レベルで,議員になったり指名されて役職に . アドバイスをくれますよ」 就いたりする人は増えているにもかかわらず,進 ペルー都市部の成人女性 歩は押し並べて遅く,発言力を確保するのに十分 と一般に考えられている水準(およそ 30%とされ CHAPTER4 女性のエージェンシーを促進する 179 図 4.13 2010 年時点でも,女性が社会関連の大臣になる可能性は,経済関連の大臣の 2 倍だった 35% 19% 12% 10% 7% 5% 5% 3% 3% 1% 社会問題・ 経済,流通, 内務・ 文化・ 環境・ 外交・ 人権・ 交通・通信 科学・技術・ 無任所大臣 福祉 財務 地方政府 スポーツ・ 天然資源・ 防衛 法務 研究 慣行 エネルギー 出所:UNIFEM 2010 の Inter-Parliamentary Union 2010 のデータ る)を依然として下回っている 99.実際のところ, 地方レベルでは女性リーダーはかなりいるが,高い ヨーロッパ(北欧諸国は除く)および北アメリカの 地位でリーダーシップを発揮する女性となると激減 国々は,アジア,ラテンアメリカ,サハラ以南アフ する.ヨーロッパの組合をまとめてみると(加入数 リカ諸国よりも進展が遅い.中東・北アフリカの状 5,000 万人),女性が占める割合は全体では 44%だ 況は,最近は改善してきたものの特に際立ってお が,女性の委員長は 10%未満,書記長は 20%,副 り,女性議員は国会議員 10 人につきわずか 1 人で 委員長は 33% である 102. ある(2000 年には,その割合は 25 人に 1 人だっ  その結果,女性に影響を及ぼす多くの問題が検討 た)100. 課題から外されてしまう.例えば労働運動は,同一  女性が政治の世界に入ると,彼女たちは低い地位 職務分類内での同一労働同一賃金を効果的に訴えて にとどまったり,「女性的」な部門に集まったりす きたが,女性が多い仕事に対しては同等の熱心さで る傾向がある.女性の代表が増えているところで 賃上げを求めてこなかった 103.組合はむしろ女性 も,変化をもたらすことができるのは,女性が重要 の足を引っ張ることもある.例えば第一次世界大戦 な意思決定機関にアクセスできるときだけだ.例え 後,イギリス最大の公務員労働組合は,結婚退職制 ば,旧ソビエト連邦の立法機関には多くの女性がい の維持を求めた(それによって,女性は結婚する たが,彼女たちは中枢の委員会や大臣など,実権を と仕事をやめなければならなかった)し,イギリ 伴うポストからは締め出されていた.女性はまた, スの労働組合会議は,男女同一賃金への法的介入 経済や財政関連の大臣職よりも,保健や教育,社会 を 1963 年まで引き延ばした.一方で組合が,たと 101 福祉関連の省を率いることが多い(図 4.13) . え首脳部の構成が男性優位であっても,女性の利益 女性が国家元首になることが憲法で制限されている を擁護することもある.第二次世界大戦後のアメリ 国もまだいくつか存在しており,女性が最高指導者 カで,教員組合が中心的役割を果たした事例がそう の地位に決して就くことがないようにしているので で,女性に結婚退職を強制していた法律と戦い勝利 ある. したのだ 104.カナダ,日本,メキシコ,マレーシ  司法制度への女性の参加でも,同じパターンが繰 アでは,女性の賃金に対する組合の影響力は,男性 り返される.上級よりも下級の裁判所のほうが一般 の賃金に対する影響力より大きい(アメリカは該当 に女性判事が多い.準司法機関でも通常は女性より しない)105.男女平等を推進する以外にも,組合 男性の方が多い. には女性の社会的ネットワークを広げ,エージェン  組合での女性の役割におけるジェンダー格差は, シーを行使する能力を高めるという役目もある. たいていの場合,政治で見られる格差をそっくり反  大企業の役員になる女性も少数である(ヨーロッ 映している.フルタイム勤務の女性の労働組合への パで 12%,アメリカで 10%,アジア・太平洋で 参加率は,男性とほぼ同じ(先進国でおよそ 30%, 7%,中東・北アフリカで 3%)106.そのパターン サハラ以南アフリカ,南アジア,ヨーロッパ・中央 は大学でも繰り返される.2000 年にプリンストン アジアで 20%,東アジア・太平洋で 10%)ため, 大学の学部生で,リーダー的地位に就いていた 70 全体として女性の参加人数が少ないのは単純に女性 人のうち,女性はわずか 12 人だった(その数は の労働参加が少ないことの表れである.それゆえ, 1970 年代の 6 人からは増えたが,1980 年代の 18 180 世界開発報告 2012 図 4.14 社会での女性の発言力は,女性の役割と能力についての社会規範と公式の制度によって制限される 制度: 非公式 能力につ 役 と 割 的 女性の 規範,社会 いて の ーク ワ ネット 経済機会 世帯: 資源の配分, 家族の世話 / エージェ 市場 家事労働 人的資本の ンシー: 社会での 形成 発言力 協会 公式の ・団 制度 体と : 政党 選挙法 ; 出所:世界開発報告 2012 チーム 人,1990 年代の 22 人からは減った).女性が代表 選挙で女性の議席を確保したりしたところ,人々の となるのは,下層部の目立たないポストに偏ってい 認識が変わり,割当制度をやめてもその効果が持続 107 る . した 109.  概念的枠組みで示すとおり,社会における女性の  女性はまた,男性ほど政治に関与しない傾向があ 限られた発言力から見てとれるのは,一連の複合し る.女性の平均政党加入率は,男性のおよそ半分で た制約である(図 4.14).とりわけ,女性の役割と ある(図 4.16).女性の役割についての強力な社会 能力についての社会規範,限定的なネットワーク, 規範があるために,女性は男性が指導的立場に就く 公式の制度における女性の代表の少なさが大きく影 のが好ましいと考え,自らの性を差別している.男 響している. 性の手腕を過大評価し,女性の手腕は過小評価して いるのだ.スペインでは,裁判官の選出過程で,女 女性の能力や性役割に関する社会規範や通念に 性は男性候補者の資質を過大に評価する傾向があ よって,公式の政治での女性の発言力が制限される る.女性が過半数を占める審査員団と面接すると,  多くの国で,男性は(女性も)“女より男の方が 女性の候補者が選ばれる可能性が 17%減り(男性 政治指導者として優れている”といまだに思ってい のみの審査員団との面接で選出される可能性との比 る.若者や教育水準の高い集団や,ラテンアメリカ 較),男性候補者が選ばれる可能性が 34%増すので のような地域では,ここ最近,そうした見方は弱 ある 110. まってきた 108.しかし 2005 – 2008 年には,デー  子どもの養育や家事の担い手という性別役割の社 タのある国の半数で男性の 50%以上がまだそう 会規範があるために,女性は時間的制約を受けやす 思っていた(図 4.15).こうした認識が残っている く,公式の制度へのアクセスが妨げられている.結 のは,女性リーダーを見たことがないために,大半 局,女性が仕事がらみで政治に参加しないのは,職 の男女が女性リーダーの有能さを知らないからでも 業上のネットワークがないことも原因の一端であ ある(情報不足).実際,政党(や労働組合)が候 る.先進国では,女性は政界に入るための政治的な 補者リストに女性の割当枠を設けたり,国が一部の ネットワークや社会資本を作るような仕事にはあま CHAPTER4 女性のエージェンシーを促進する 181 図 4.15 リーダーシップの手腕についての認識は依然として非常に一般化しており,教育水準の低いコーホートほど 偏った見方をしている 「男の方が政治のリーダーとして優秀だ」に賛同する人の割合 男性 女性 100 100 90 90 80 80 教育水準の高い男性の 教育水準の高い女性の 70 70 間での割合(%) 間での割合(%) 60 60 50 50 40 40 30 30 20 20 10 10 0 0 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 教育水準の低い男性の間での割合(%) 教育水準の低い女性の間での割合(%) サハラ以南アフリカ ラテンアメリカ・カリブ OECD 東アジア・太平洋 中東・北アフリカ 南アジア ヨーロッパ・中央アジア –  出所:World Value Survey(世界価値観調査)2005  2008 に基づく,世界開発報告 2012 チームの試算. 注:各図の 45° の線は,縦軸と横軸の数値が同じことを示す. 図 4.16 女性は政党に属さない可能性がはるかに高い 30 25 政党の党員の割合(%) 26 20 15 17 10 11 11 5 10 10 7 7 7 5 5 5 0 2 2 中東・ ラテンア OECD 東アジア・ ヨーロッ サハラ以 南アジア 北アフ メリカ・ 太平洋 パ・中央 南アフ リカ カリブ アジア リカ 女性 女性 –  出所:World Value Survey(世界価値観調査)1994  –  1999 および 2005  2007 に基づく,世界 開発報告 2012 チームの試算. り雇われず,一方で発展途上国では,家庭での役割 もっと高いレベルの地位につながるネットワークは によって女性は広範で強力なネットワークを作れな 得られない 112.南アフリカからイギリスに至るま い.アジアの中・低所得国で女性の政治参加が少な で,多くの国の女性議員は,国会内の慣行――家庭 いのは,時間の制約と,リーダーとしての女性の見 と両立できない夜遅い時間に一度に予定が組まれる 方に関する社会規範が主な要因である 111. 会合から,不適切な言葉や態度に至るまで――に苦  こうした制約があるため,女性はたいてい「女性 慮していると訴える 113. にやさしく」,時間の制約に配慮してくれる活動― ―子どもの学校や宗教関連の活動――に集中するこ 選挙法,政党,公的な政治資金の調達により,女性 とになる.女性はこうした下位集団内では前進でき は公式の政治で周辺的役割にとどまり続けている るが,通常これらの集団からでは,意思決定を行う  女性の代表権を決定するのも,代表権を変えるた 182 世界開発報告 2012 めに設計された政策の影響力を決定するのも,政治 いるのかを説明するのに役立つ.この議論に沿っ と選挙のシステムやプロセスである.比例代表制は て,ジェンダー平等をめざす改革について分析す 女性を国会に送りこむのに有効であるし,定員の割 れば,選挙制度の重要性,政党内部の民主主義, 当枠の設定は拘束名簿式比例代表制で最も効果を発 女性の投票パターン,規定違反に対する罰則,割 揮する.しかし,そのようなシステムにいる女性に 当制にかかわる法律を実行する国家の能力,が浮 は,党の方針に従って行動せよという圧力が強くな き彫りになる 118. 114 る .  女性は政党や組合のなかで,制度の主流に存在す  女性が公認候補者名簿に載ってはじめて有権者は るガラスの天井を回避するため,女性限定の代替の より多くの女性議員を選出することができる.政党 集団を結成することがある.国の執行委員会に代表 は政治システムに参入するための窓口であることか 権がないことに嫌気がさしたカナダの女性組合員た ら,政党には女性議員を増やすための働きかけが多 ちは,検討課題全体に影響を与えリーダーシップを くなされ,候補者名簿の男女の数をよりバランスの 発揮する地位に女性を就かせるために,女性のみの とれたものにすることが求められてきた.しかし多 委員会を作った.1980 年代初頭には,女性たちが くの現職議員は,女性と権力を分け合うことに抵抗 アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措 している. 置)運動を展開し,中央の労働団体の執行委員会に 複数のポストを獲得した 119.同じ頃アイスランド • スペインでは政党による自発的割当制が導入さ では,政治における女性の存在感を増し,女性に れており,政党は名簿の上位に載せる女性の数 とっての重要課題に重点的に取り組む――女性の代 を増やすというガイドラインに従うものの,そ 表を増やす――ために,政党「女性連合」が結成さ れは名簿の順序が結果と相応しない選挙区だけ れた. のこともある.候補者名簿の順序が重要な選挙  意思決定機関に女性がいたとしても,制度的背景 区では,政党は女性候補者を名簿の下位にする によって,その場で実際の変化を起こすに至らない 115 傾向もなかには見られた . 場合もある.政党が所属議員に対して強い統制を行 • フランスでは,政党が女性候補者をもっとも厳 い,選出された女性議員が現状に異を唱えたり,別 しい選挙区に配置したり,規定を守らず罰金を の事柄を優先させたりするのを阻止するかもしれな 払ったり,男性候補者のためにその時だけの選 い――ひとたび選挙を通ったら,女性議員も女性の 挙人名簿を作ることまでして(そうしないと女 ための方針より,党の方針に従わざるを得ないこと 性候補者に議席を奪われそうだったため),割 もあるだろう.南アフリカでは,土地の所有と管理 116 当てを回避するケースもみられた . に関する完全な権利が女性に付与されないにもかか • ノルウェーでは労働党が割当制度を導入した わらず,アフリカ民族会議(ANC)の女性議員たち が,その規定を 2009 年の国会議員選挙の際に が党の方針に従い,共有土地権利法が承認された. 緩和した.第一候補と第二候補は異性でなけれ 女性の利益に強硬に反対する有権者から,ANC が ばならないという公認候補者名簿の要件を,候 政治的脅迫を受けたためである 120. 補者全体で男女同数にしなければならないが名  政党への忠誠は国政レベルではとくに重要で,政 簿の並び順は問わない,という要件に変えたの 党は所属議員に対して大きな影響力をもつだろう である.他にも政党が,男性の立場を代弁す が,地方政治レベルではもっと限定的なものかもし る,つまり従来のやり方に異議を唱えられない れない.地方では,選挙で選ばれた議員が有権者に 無力な女性候補を推薦したと疑われているケー 対してより大きな説明責任をもつとみられるから 117 スもある . だ.選出議員や有権者の政策への影響力は,当然, 所属または投票する政党の総合力で決まる 121.ウ  このような実例は,名簿上の女性の位置につい ガンダでは,土地委員会の委員の 30%は女性でな ての追加条件(名簿の第一,第二候補は異性でな ければならないが,土地法は明確な土地の権利を女 ければならないなど)を,なぜ一部の国が設けて 性に付与しておらず,女性に配慮した明瞭な行政手 CHAPTER4 女性のエージェンシーを促進する 183 続きも整えていないため,女性委員の影響力は制限 してより有効なのかは,政治的背景によって変わ 122 されてしまっている . る.フランスやアメリカなど,女性運動が盛んで  政治システムそのものが――政治的決裂や対立, ジェンダーに敏感な団体が数多く存在する国では, 衝撃的な大事件などが起きるなどして――広範に変 政界に女性議員があまりいなくても,ジェンダーの 化しない限り,女性議員が大幅かつ急激に増えるこ 問題は取り組むべき課題の上位にくる.一方,旧ソ とはまずない.こうした変化は,現職の男性議員の ビエト連邦諸国などでは,多くの女性が政界にい 議席を奪ったり,一党優勢の政治の現状に異論を唱 るにもかかわらず,女性運動の影響は限定的であ えたりすることなく,女性が政治過程に参入する無 る 129.また,市民運動と公式の集団の利益が一致 二の機会を与えてくれる 123.そうした移行がない することもある.ラテンアメリカでは,正規の代表 と,進展はもっと遅くなる.一般的に,民主主義へ 者をより多く議会へ送りこむという女性運動の利益 の移行時は,ブラジル,チリ,ギリシャ,南アフリ と,国際的正当性を求める,または選挙で女性票を カ,スペイン,トルコでそうだったように,改革を 増やそうとする政党の利益とが一致した結果,女性 行う絶好の機会なのである(とはいえ,改革は自然 の割当枠設置に向け取り組むことになった 130. 124 に起きるわけではない) .  どのルートが一番効果的なのかについては,取り 組む問題によっても,規範や通念や社会制度にどの 女性は非公式の集団でより大きな役割を果たす 程度異議を唱えるのかによっても変わってくる.第  女性はどちらかというと非公式の集団――経済 8 章で論じるように,すべての女性の地位にかかわ 活動や非公式の労働組合などにからんで組織され る問題もあれば,特定の下位集団にかかわる問題も 125 る女性の集団――を頼りにすることが多い .非 ある.同様に,特定の宗教的,伝統的集団の通念や 公式の集団が成功するかどうかは,公式の領域で 規範に疑問を呈する問題もあれば,たいして論争に の女性の意思決定を阻む障壁を撤廃したり,公式 なりそうもない問題もある.女性運動はすべての女 部門で女性に付与されていない便宜を獲得したり, 性にかかわる問題に対して,政党と政治指導者は女 政策検討課題全体に影響を及ぼしたりする能力が 性の下位集団に関連する問題に対して,より大きな こうした集団にあるかどうかにかかわってくる. 役割を果たす.女性がいかに多様性に富んでいるか 非公式の団体であれば,女性はよりフレキシブル は,運動の種類だけでなく立場や主義(特定の下位 な環境――時間の制約に配慮し,自らの自己効力 集団の利益と対立することもあれば,それらを反映 感に合った無理のない空間を提供し,政党や民族 することもある)が多岐にわたることからも分か の方針によって分断されにくい特定の問題に対し る. て,より実際的な解決策に集中できる環境――で  要するに,女性の集団的発言力が(意思決定機関 126 集うことができる .例えばバングラデシュで に直接参加するか,決定させる状況を作り出すこと は,衣服産業の女性労働者が,自分たちの利益を によって)反映された政治,政策,法律は,女性の もっと代表するために,男性主導の組合に加入せ 声が反映されずに作られたものとは相当異なるもの 127 ず,非公式の女性の組合を設立した .情報通信 となるだろう.したがって,多くの女性の声が集団 技術とソーシャルメディアの拡大は,時間や身体 的発言力へと融合していく環境作りが,女性のエー 的移動性の制約をよそに,非公式の集団へと女性 ジェンシーと一層のジェンダー平等を促進させるの の参加を促す役目を果たす.一般に,女性が社会 である. で団体活動にかかわっても,男性に対する直接的 な脅威にはほとんどならない.なぜなら女性の集 団が重視するのは,戦略上重要な利益というより もジェンダーにからむ実際的な利益であり,また それらは教育や保健など,たいてい女性の領域と される範囲にとどまっているからである 128.  公式と非公式のどちらのルートが変化の推進役と 184 世界開発報告 2012 章のまとめ 女性がエージェンシー(自律性)を行使する能力は,男性と比べ依然として弱い 注目点 規範の力 エージェンシー――有効な選択をする力――を行使する男 社会規範は,法律,サービス,所得がもたらす効果を制限 女の能力には,家庭でも社会でも歴然とした差がある.女 し,ジェンダー平等を侵害する.規範は,女性のエージェ 性のエージェンシーが向上すると,女性とその子どもの福 ンシーが向上し家庭内のパワーバランスが崩れそうなとき 利向上につながる.しかし,エージェンシーを変えるのは に,特に拘束力をもつ.社会規範は女性の集団的エージェ 概して困難であることが分かってきた.例えば政治的発言 ンシーをも妨げる――例えば,女性が就ける政治的役職を 力や代表権など,エージェンシーのある一面においては, 制約したり,ビジネスの世界で権力のあるポストに女性が 1 世紀におよぶ女性たちの積極行動主義や他の領域での変 就けないようにしたりする.規範の変化によって,女性の 化にもかかわらず,富裕国でさえ格差が存続している. エージェンシーが促進される場合もある. 政策にとっての意味 注目の理由 法律,サービス,社会規範,市場の相互作用により,制約 経済が発展すると女性のエージェンシーも促進されうる が互いに強化しあうことがあるため,これらを政策の選択 が,それは所得が上昇し,サービスへのアクセスが向上し, と順序に反映させる必要がある.性別役割や女性の能力に インフラが充実するなどして,エージェンシーを行使でき 関する社会規範の変化は,女性のエージェンシー促進のた る条件が改善されるからである.しかしこの潜在的影響の めには極めて重要である.この過程は複雑でなかなか進ま 一端は,女性が自分の所得を得られるようになり家庭内で ないかもしれない.しかし,社会に浸透した規範に疑問を の交渉力が増すためである.また,経済発展がもたらす影 呈する個人や集団に対し,政策によって必要なインセン 響は国によって異なり,エージェンシーに関連する結果に ティブや情報を提供すれば,規範の遵守に関する費用対効 よっては限定的である. 果を変えられるだろう.こうした規範――および制度構造 ――のために,女性が公式の政治ルートで政策に影響を与 法の効果的な適用の重要性 えるには限界もあるだろうが,やや非公式のルートであ 女性の権利拡大によってエージェンシーが向上してきた領 れば女性の集団的エージェンシーが効果的に働くこともあ 域もあるが,法の影響をもっとも受けにくいのは,特に資 る.それがひいては,政策論争や政策の選択,そしてひと 源のコントロールと家族の事情が絡む,家庭内の人間関係 りひとりの女性のエージェンシーを具体化する要素に影響 を規定する分野である.法改正という形での進展は,必ず を与えることになる. しもエージェンシーの向上にはつながらない.こうした法 律の効果は,それを完全に適用し確実に施行する政府の能 力と意欲によって決定的に変わるからである. CHAPTER4 女性のエージェンシーを促進する 185 注 1. 本章で示す証拠のなかには,エージェンシーとその決定 27. Dinkelman 2010. 要因の関連性については確立しているものの,因果関係 28. Babinard and Scott 2011. が確立していないものがある.その場合,因果関係の向 29. Venter, Vokolkova, and Michalek 2007. きはどちらか一方向または両方向のこともあれば,第 3 の要因によって決まることもある. 30. Joshi and Schultz 2007; Gertler and Molyneaux 1994. 2. Alkire 2009; Drèze, Sen, and Hussain 1995; Kabeer 31. World Bank 2011. 1999; Sen 1985. 32. Ashraf, Field, and Lee 2010. 3. Field and Ambrus 2008; Goldin and Katz 2002; 33. Jejeebhoy, Shah, and Thapa 2005. Pezzini 2005. 34. Singh 他 (2009) によれば,中絶には 32 カ国――デン 4. Begum and Sen 2005. マーク,ギリシャ,イタリア ,スロバキア共和国,アメリ 5. Stekelenburg 他 2004. カなど,多くの富裕国を含む――でそのような親の同意 が必要である. 6. Mumtaz and Salway 2005. 35. Lule, Singh, and Chowdhury 2007; World Bank 2007. 7. Goldin and Katz 2002; Pezzini 2005. 36. Kirdar, Dayioglu Tayfur, and Koç 2010. 8. Attanasio and Lechene 2002; Doss 2006; Duflo 2003; Haddad, Hoddinott, and Alderman 1997; Hoddinott 37. Roy 2011. a nd H add ad 1995; K at z a nd Ch a m or r o 20 03; 38. Chiappori, Fortin, and Lacroix 2002. Lundberg, Pollak, and Wales 1997; Quisumbing and 39. Stevenson 2007; Stevenson and Wolfers 2006. ア イ Maluccio 2000; Rubalcava, Teruel, and Thomas 2009; ルランドでの証拠については,Bargain 他 (2010) and Schady and Rosero 2008; Thomas 1990. González and Özcan (2008) を参照. 9. Doss 2006. 40. Byrnes and Freeman 2011. 10. Allendorf 2007. 41. Gender Business Law Library, World Bank. 11. Akinbami, Schoendorf, and Kiely 2000; Reggio 2010; 42. World Bank 2011. Smith and Pell 2001. 43. Deininger, Goyal, and Nagarajan 2010. 12. 年 齢,教育,経済 的ストレス,ジェンダー への 姿 勢, 44. Deere and Doss 2006a; Deere and Doss 2006b. アルコール依 存の影 響を考慮した後,算出した確率 ; 45. Quisumbing and Hallman 2005. Contreras 他 2011. Barker 他 (2011); Hindin, Kishor, and Ansara (2008); Johnson and Cares (2004); and 46. World Bank 2011. Kishor and Johnson (2004) も参照. 47. Rangel 2006. 13. Farré and Vella 2007; Fernández, Fogli, and Olivetti 48. World Bank 2011. 2004; Kawaguchi and Miyazaki 2005. 49. UNIFEM 2003. 14. Caiazza 2002; Kittilson 2008; Miller 2008. 50. UNIFEM 2010. 15. Htun and Weldon 2008; Htun and Weldon 2011a. 51. Tarazona and Munro 2011. 16. B a n a nd R ao 2008; B e a ma n 他, ( 近 刊.; 52. Harrington and Chopra 2010. Chattopadhyay and Duf lo 2004; Iyer 他 2010; 53. Lastarria-Cornhiel 1997. Rajaraman and Gupta 2011. 54. Ayuko and Chopra 2008; Monson 2010. 17. Baird 他 2009; DNP 他 2008; Duflo 他 2006. 55. Aldashev 他, (近刊.. 18. Babinard and Roberts 2006. 56. Kapur 1996; Khan, Bhuiya, and Bhattacharya 2010. 19. Demographic and Health Surveys (人口保健調査)に 57. Kahan 2010; UNIFEM 2009. 基づく世界開発報告 2012 チームの試算. 58. UNIFEM 2010. 20. P r onyk 他 20 0 6; Pa nd a a nd A g a r w a l 20 05; International Center for the Research on Women 59. UNIFEM 2008 の図 5.4 参照. ICRW 2006; Swaminathan, Walker, and Rugadya 60. World Bank 2011a. 2008. 61. Denham 2008. 21. Aizer 2010. 62. Sumner, Zurstrassen, and Lister 2011. 22. Hjort and Villanger 2011; Panda and Agarwal 2005. 63. Contreras 他 2010; WHO 2010. 23. Deere and León 2001. 64. Jubb and Pasinato Izumino 2003. 24. 2008,2009,2010 年のギャラップ調査のデータに基 65. Ayuko and Chopra 2008. づく世界開発報告 2012 チームの試算.対象国は以下の 66. World Bank 2011b. 通り.サハラ以南アフリカ:ブルキナファソ,ブルンジ, カメルーン,中央アフリカ共和国,チャド,コンゴ民主 67. Lungu 他 2001. 共和国,コートジボワール,ガーナ,ケニア ,リベリア , 68. World Bank 2010. マラウイ,マリ,ニジェール,ナイジェリア ,ルワンダ, 69. World Bank 2011b. セネガル,シエラレオネ,南アフリカ,タンザニア ,ウガ 70. Luke and Munshi 2011. ンダ,ザンビア ,ジンバブエ.ラテンアメリカ・カリブ諸 71. World Bank 2011b. 国 : アルゼンチン,ボリビア ,ブラジル,チリ,コロンビア , コスタリカ, ドミニカ共和国, エクアドル, エルサルバドル, 72. 結婚最低年齢は,ボリビアとベネズエラ・ボリバル共和 グアテマラ, ハイチ, ホンジュラス, メキシコ, ニカラグア , 国では女子 14 歳,男子 16 歳,クウェート,南アフリカ, パナマ,パラグアイ,ペルー,トリニダード・トバゴ,ウ タンザニアでは女子 15 歳, 男子 18 歳である.ボリビア , ルグアイ,ベネズエラ・ボリバル共和国. クウェート, 南アフリカ, ベネズエラ ・ボリバル共和国では, この年齢での少女の結婚には親の同意が必要である. 25. ETUC 2010. 73. Jensen and Thornton 2003. 26. Erulkar 他 2004. 74. インドにおける家庭内暴力の発生率および家庭内暴力 186 世界開発報告 2012 に対する姿勢の動向に関する議論は,Iversen and Rao Women’s Campaign Fund 2002 .Tinker 2004 から引 (2011) を参照. 用) .インドの森林管理のケースでは,女性が村の会合 75. WDR 2012 team estimates based on Demographic に出席したり,発言したり,役職に就いたりする確率は, and Health Surveys. Demographic and Health Surveys 女性が集団の 25 ~ 33%になると増えることがわかった. (人口保健調査)に基づく世界開発報告 2012 チームの Agarwal 2010a; Agarwal 2010b. 試算. 100. Inter Parliamentary Union http://www.ipu.org. 76. Contreras 他 2011. 101. Zetterberg 2008. 77. WHO (2010) and references within. 102. ETUC 2010. 78. Osawa (2011) によれば,日本の場合,この規範が市場 103. Kaminski and Yakura 2008. に浸透し,男性の扶養者を中心とした昇進および社会保 104. Donahue 2002. 障・社会給付モデルができた. 105. Tzannatos 1986; Tzannatos 2008. 79. World Bank 2011b.The International Men and 106. CWDI and IFC 2010. Gender Equality Survey が,ブラジル (リオデジャネイ ロ都市圏) ,チリ (バルバライソ,コンセプシオン,サン 107. Steering Committee on Undergraduate Women’s ティアゴの各都市圏) ,クロアチア (ザグレブ都市圏およ Leadership 2011. び東部の農村部) ,インド (デリとヴィジャヤワーダの各 108. Buvinic and Roza 2004. 都市圏) ,メキシコ (モンテレイ,ケレタロ,ハラパの各 109. Krook 2006; Inter Parliamentary Union http://www. 都市圏) ,ルワンダ (全土)で実施された. ipu.org; Bhavnani 2009. 80. Abramsky 他 2011; Contreras 他 2011. 110. Bagués and Esteve-Volart 2010. 81. Ashraf, Field, and Lee 2010. 111. UNDP 2010. 82. Iyengar 2009. 112. Burns, Schlozman, and Verba 2001; Jayaweera 1997. 83. Fogli and Veldkamp (近刊. 113. Tinker (2004) およびその内部の参考文献を参照.イギ 84. Hoff and Mansuri 2011. リスではこれを重大な問題と認定し,議会運営の手続き 85. Croson and Gneezy 2009; Gneezy, Leonard, and List を担当する委員会が労働条件の再検討を行っている. 2009; Gneezy, Niederle, and Rustichini 2003. 114. Krook 2006. 86. Hossain 2011. 115. Bagués and Esteve-Volart 2010. 87. Beaman 他, (近刊.; Bhavnani 2009. 116. Dahlerup and Freidenvall 2005; Murray, Krook, and 88. Giné and Mansuri 2011. Opello 2009. 89. Good, Aronson, and Inzlicht 2003. 117. See, for instance, Ballington and Karam (2005), Dahlerup (2002), and Vyasulu and Vyasulu (1999). 90. La Ferrara, Chong, and Duryea 2008. 118. Goetz 2009. 91. 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銭的に賄える人」(ブルキナファソ)であり,「人並 スピードほど速くはない.女性は力や自由を拡大し みの所得を稼ぎ,家族にゆとりのある暮らしをさ つつあるが,男性は変化に抵抗しているからだ.多 せ,そのために必要なら長時間働く人」(インド) くの男性はさまざまな場面で,彼らの男性としての 「男は朝早くから仕事に行き,子ど である.また, 権威や優位性に疑問が投げかけられていると感じて ものためにお金を稼ぐべき」(北スーダン)とされ いる.農村部の男性は,都市部の男性よりも不快 る.男性がこうした役割を免除されるのは,特定の 感をあらわにする.「最近 20 年で何もかも変わり, 条件のときのみである.「良い夫とは,深刻な病気 逆行してしまった.まるで 200 年も経ったかのよ を患うなど働けないときを除き,良い稼ぎ手でなけ うだ.かつては異常だったことが,今はまともなこ ればならない.まともな稼ぎのない夫は,家のなか とになっている.何もかもが一変した.価値体系全 で何の力もない」(ベトナム)のである. 体が消えてしまった」と述べたのは,セルビア農村  稼ぎ手としての役割は,自らの社会的地位と権力 部の男性のグループだった.パプアニューギニアの に対する男性自身の見方にも影響を与える.「(男に 男性たちもこれと全く同じ不快感を示し,その原因 は)責任があり,仕事がある.安心感を与えなけれ は女性のために設けられた新しい法律や権利にある ばならないというのは,いくぶんプレッシャーを感 として,こう述べた.「女の権利に関連する法律が (ポーランド) じる」 ,「家庭円満のためには,夫の あることはもちろん知っているが,ほとんどの人は 収入が何より重要だ.それによって夫は自尊心を得 それをまともに受け取っちゃいない.われわれは男 られる」(セルビア),「多くの男が家で尊敬されな であり家長なのだ.昔は女も男もこういう法律を知 い理由のひとつは,収入がないか少なすぎて女が家 らなかったし,妻は夫を尊敬していた.ところが今 計を支えるようになってきたからだ.そういう夫は は法律のせいで妻が夫をコントロールしようとす 家族をコントロールしていないのがわかる」(タン る.まったくけしからん.女,特に教育を受けた女 ザニア)という声が聞かれた.稼ぐ力は男性に,家 は,夫をダメにしている.妻は夫に従わなければな スプレッド 2 一家の稼ぎ手の減少:21 世紀の男たち 195 らないし,従うべきだ」.南アフリカと スプレッド図 2.1 力の獲得を説明する要因 北スーダンの男性たちがこの発言に賛 同した. 違法行為  この 10 年間,男性たちは社会のなか 指導力 での男の力が低迷していたと感じてい 結婚条件 る.規範や法律が変化したことや,国・ 社会的扶助 コミュニティレベルともに経済的進歩 がなかったことから,ほとんど力を獲 婚姻ないし家族の地位の変化 得できなかったと思っているのだ.自 性格的特徴 分のコミュニティの男性 100 人につい 財政管理 て,彼らが有する力の度合いを,今と 社会的ネットワーク 10 年前とでそれぞれランクづけしても らったところ,およそ 60%の男性が, 教育・訓練 ランクが上がった(力が増した)男性 行動・態度 の割合はほとんどもしくはまったく増 職業・経済面での変化 えていないと答え,残りの 40%はある 程度変化はあったが,それは女性ほど 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 コミュニティが言及した割合(%) 大きな変化ではなかったと答えた. 都市部の女性 農村部の女性  男性の力の向上は,所属する国やコ ミュニティの経済状態,とくに経済成 出所:“Defining Gender in the 21st Century: A Multi-Country Assessment” (dataset) に基づく世界開発報告 2012 チームの試算. 長と国や地域レベルの労働市場の機能 に大きく左右される.自分の力の変化 を男性がどう解釈しているか調べてみると,複数 て,39%のコミュニティでの力の変化を説明 の要素が組み合わさっているのが分かる.第 1 に, できる. 女性のエンパワメント拡大を後押しする力を示す説 明モデルを男性に当てはめても,何の説明にもなら  このモデルは,“力の梯子”の最上位と最下層に ない(スプレッド1を参照).事実,男性と女性が いる人々に対する男性の見方とよく合致する.セル たどる経路はまったく異なるのだ.女性のエンパワ ビアの男性は「男は力がなければならない.だが村 メント拡大への道筋には広範な要素がかかわってお が危機的状況にあるとき,どうやって力をもてとい り,それらは意思決定力,暴力を受けない力,社会 うのだ.力とは経済的安定という意味だ」と述べ 的ネットワークに参加する力に大きく依存してい た.これは,男性にとって力をもつとはどういう意 る.男性の道筋はそれよりもずっと狭く,経済状況 味かを定義する際,彼らが経済状況や仕事をいかに および仕事の有無と仕事へのアクセスに大きく左右 重視しているかを示している.男性性を発揮する仕 される.要素の組み合わせで堅固なのは 2 つだけ 事をする人は,仕事に基づく地位と力によって梯子 で,どちらにも国の開発度(人間開発指数[HDI] を上っていき,ときには尊大で力を誇示する地位ま のスコアで評価)が含まれていた. で到達する.「梯子の一番上にいる男は,大きな家 と農業に適した広い水辺の土地を所有する.多くの • 民間部門で仕事を得られる可能性と,HDI の高 牛を飼い,料理用のバターやお茶を買うこともでき スコアの組み合わせによって,56%のコミュ るだろう.農場は機械化が進み,大勢の人が彼のた ニティでの力の変化が説明できる. めに働く.そういう男は高慢で自己中心的だ」とは • HDI の高スコア,地域市場の活性度(コミュニ ブータン農村部の男性の発言である.リベリアでは ティの男性の判断による)の高スコア,国レベ こうした男性は世間に認められる.なぜなら「彼ら ルの高い男性労働参加率の組み合わせによっ は階層の最上位と最下層の人々がともに必要とする 196 世界開発報告 2012 ココアなどの大農園を親から受け継いだ スプレッド図 2.2 力の喪失を説明する要因 人々であり,収入を得るためオートバイを 買うことができ,最上位の人間にふさわし 物理的移動性の欠如 い信用力を得られる資源をもっている」か 社会的ネットワーク らである.男性たちは,梯子を上下する主 突発的出来事 な要因は職業と経済状態だと言う(スプ レッド図 2.1 と図 2.2). 結婚条件  労働市場で自尊心を喪失した男性は,教 性格的特徴 育へ投資するとか,暴力で家庭を支配する とか,危険な行為に及ぶなどして,生活の 違法行為 他の面でなんとか自信を取り戻そうとする 婚姻ないし家族の地位の変化 かもしれない.仕事を失ったり妻に一家の 稼ぎ頭の地位を奪われたりすると,男性の 職業・経済面での変化 自尊心は大きく傷つき,その影響は今の世 財政管理 の中ではごく当たり前の高失業率や不安定 行動・態度 な雇用によって,さらに悪化していく.若 い男性は,自らの人的資本にあまり投資を 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 コミュニティが言及した割合(%) しない.特に労働市場が能力主義に基づい 都市部の男性 農村部の男性 ていない場合,彼らは教育の価値を低く, または疑いの眼で見るからだ.モルドバ, 出所:“Defining Gender in the 21st Century: A Multi-Country Assessment” (dataset) ポーランド,セルビアの若年男性は極めて に基づく世界開発報告 2012 チームの試算. 懐疑的で,仕事を見つけられるかどうかは 教育よりも縁故が重要だと述べた.「教育 はその意義を失ってしまった.今は何でも政治的な 自分の力に対する男性の認識が最も下降したコミュ コネがものをいう」(ポーランド),あるいは「コネ ニティのひとつである.今ここでは,金を稼ぐには がすべてで,機転のきくやつが成功している.ここ ドラッグの販売などの違法行為に手を染めるかしか かね に矛盾がある.教育を受けないほうが金 を得られ ない,と男たちは考えている.世界中どこでも男性 る」(セルビア)といった発言もあったし,失業率 は仕事によって自分のアイデンティティや自尊心を が高くて,教育水準の高い男性には仕事がないかス 評価するため,彼らは景気の変動に対して脆弱であ キルに見合わない仕事しかないため,「私はふたつ 「 る.(失業で)男は女よりも大きな影響を受け,そ の大学の他に職業学校も卒業したのに,いい仕事 れがフラストレーションや家族の問題につながり, がない」(モルドバ)という声も聞かれた.場合に 場合によっては女性や子どもに対する暴力となって よってはかなりの幻滅感も見られた.「やる気も意 表れたり病気を発症したりする」(ヨルダン川西岸 思もたいしてなかったから学校は中退したよ.教育 地区およびガザ)のである.仕事を失ったらどうす を続けようと思わなかった.教育を受けても受けな るか,とパプアニューギニアの男性たちに尋ねたと くても自分にとっては同じことで,どのみちふつう ころ,彼らは「ものすごくイライラして,狼狽し の生活を送れるような仕事には就けないんだ」(セ て,酒を飲んで,妻を殴るだろうね」と答えた. ルビア)との発言もあった.  ドミニカ共和国のシエンフエーゴスは,経済危機 後に自由交易圏が廃止されたことが主因となって, スプレッド 2 一家の稼ぎ手の減少:21 世紀の男たち 197 注 1. 研究を実施したのは,アフガニスタン,ブータン,ブル キナファソ,ドミニカ共和国,フィジー,インド,インド ネシア ,リベリア ,モルドバ,北スーダン,ペルー,パプ アニューギニア ,ポーランド,セルビア ,南アフリカ,タ ンザニア ,ベトナム,ヨルダン川西岸地区およびガザ,イ エメン共和国の 19 の国と地域である.フォーカスグルー プは,成人男性,成人女性,若年男性,若年女性,思 春期男性,思春期女性である.思春期のグループにつ いては 8 カ国のみで実施した. 詳 細 な 情 報 や 評 価 方 法 に つ い て は http://www. worldbank.org/wdr2012 を参照のこと. 198 5 世界開発報告 2012 CHAPTER 職務におけるジェンダー差と その重大性  経済機会へのアクセスのジェンダー差は,労働市場参加率のジェンダー差との関連 でよく論じられる.本章では,労働市場参加率からさらに踏み込んで,生産性と賃金 に焦点を当てる.理由はふたつある.第 1 に,労働参加率に注目するだけでは,女 性と男性の労働市場における経験の一端しか見えないからだ.市場性の仕事への参加 は,労働力に加わるか加わらないかといった単純な決定ではなく,さまざまな活動に 時間をどう再配分するかという決断を伴う.これは特に女性にとって,困難で代償の 大きいプロセスとなりうる.また,労働参加率だけに焦点を当てると,労働の本質お よび動態におけるジェンダー差が覆い隠されてしまうのである.  第 2 の理由は,最近の 25 年間で女性の労働参加率は大きく前進したにもかかわら ず(第 1 章およびボックス 5.1 参照),生産性と賃金には,部門や職を問わず,ジェ ンダー差が広範かつ執拗に残っているためである.実際,世界の多くの女性が“生産 (productivity trap)にはまっているように見える.この罠が,現在の女性の 性の罠” 福利と経済的エンパワメントに大きな代償を負わせ,将来の女性への投資に対するイ ンセンティブをむしばんでいるのである.  賃金と生産性が低いとはいえ,女性は農業者,企業家,労働者として,男性より劣 るわけではない.そうではなく,われわれが主張したいのは,労働生産性と賃金にお けるジェンダー差は,主に男女の経済活動の違いから生じるということである――と はいえ,人的資本におけるジェンダー差や,労働者と仕事の特性に対する収益率の ジェンダー差もその要因となっている.  実際,男性と女性の仕事は,どんな部門,産業,職業でも,どんな種類の仕事や企 業でも,大きく異なる.これらの差異は経済発展とともに表れるが,その結果起こる 雇用構造の変化は,ジェンダー間の仕事の分離をなくすに足るものではない.そのた め,世界中で女性は低生産性の仕事に集中しているように見える.彼女たちは小規模 の農場で働き,小規模の企業を経営する.無給の家族労働者や非公式部門の労働者に は,女性が過度に多い.また,女性が労働市場で権力をもつ地位に就くことはめった にない.  主に 3 つの要因が,農業者,企業家,賃金労働者の間に存在する経済機会へのア クセスにおけるジェンダー間分離につながっている.3 つの要因とは,時間の使途に おけるジェンダー差(主に家族の世話に対する責務の差から発生),生産用投入資源 (特に土地と信用)へのアクセスにおけるジェンダー差,そして市場と制度の失敗か ら生じるジェンダー差である.分離を生むこれらの要因はどの経済活動部門でもよく CHAPTER5 職務におけるジェンダー差とその重大性 199 ボックス 5.1 縮小しつつあるアクセスの格差――最近の女性の労働参加の進展  最近 25 年間,労働市場に加わる女性の数は増加の一途 が著しく成長し,衣服産業や軽工業などの部門ではここ数 をたどり,労働参加のジェンダー格差はある程度,縮小し .どち 十年の間に大勢の女性が雇用された(第 6 章参照) てきた(第 1 章参照) –  .1980  2009 年に,世界全体の女 らの進展も,女性労働への需要増大という形で,また場合 性の労働参加率は 50.2%から 51.8%に上昇し,男性の労 によっては賃金の絶対的または相対的上昇という形で,女 働参加率は 82.0%から 77.7%に下がった.その結果,両 性の労働市場への参加を促す強力なインセンティブとなっ 者の差は 1980 年の 32%から 2009 年の 26%まで縮小 てきた. した a.  また,経済成長によって,電気や水,道路,輸送などの  女性の労働参加率は,中東・北アフリカ(26%)と南 インフラが向上すると,時間の制約が緩和され,市場性の アジア(35%)で低く,東アジア・太平洋(64%)とサ 仕事に関連する取引コストが特に女性の間で減少する. ハラ以南アフリカ(61%)で高い(ボックス地図 5.1.1) .  教育における変化も,労働市場への女性の統合を促して 地域差が大きいとはいえ,その差は次第に収斂しつつある. きた.従来から教育水準の高い女性ほど労働参加率は高 当初,極めて参加率が低かった国や地域(主にラテンアメ かったことから,世界各地で教育水準が上昇するにつれ, リカ,中東・北アフリカ)で大幅に上昇し,高かった国や ますます多くの女性が有給職へ進出するようになった.ラ 地域(主にヨーロッパ・中央アジア,東アジア・太平洋) テンアメリカでは,1975 年以降に観察される女性の労働 でやや減少してきたからである(ボックス図 5.1.1) . 参加率の増加の 42%は,人的資本における教育水準の上  最近 25 年間の女性の参加率の変化は,経済成長,女性 昇によって説明することができる b. の教育水準の上昇,出生率の低下による複合的な影響によ  同様に,家族形成における変化は,若い女性および幼い るものである.世界的に,経済が発展すると女性の経済機 子どものいる女性の労働市場への参加率を上昇させてき 会が(特に製造業およびサービス業で)増加した.また貿 た.結婚は従来,女性の労働参加率の減少と関連があり, 易解放と経済の統合が進むと,多くの国では輸出指向部門 第 1 子が誕生すると参加率はさらに減少していた.エジ ボックス地図 5.1.1 女性の労働参加率――高いところも低いところもある 70 + 60 - <70 50 - <60 40 - <50 0 - <40 データ無し 出所:International Labor Organization (2010a) ブルンジ 92% 女性の労働 タンザニア 89% 参加率が ルワンダ 88% 最高水準の国 マダガスカル 86% モザンビーク 86% パキスタン 22% 女性の労働 サウジアラビア 22% 参加率が シリア 22% 最低水準の国 イエメン 21% イラク 15% 0 50 100 女性の労働参加率(%) 200 世界開発報告 2012 ボックス 5.1 縮小しつつあるアクセスの格差――最近の女性の労働参加の進展(続き) ボックス図 5.1.1 労働参加率――収斂している 52 78 世界全体 世界全体 50 82 64 80 東アジア・太平洋 東アジア・太平洋 67 86 51 69 ヨーロッパ・中央アジア ヨーロッパ・中央アジア 58 77 61 81 サハラ以南アフリカ サハラ以南アフリカ 57 83 52 70 高所得国 高所得国 45 75 52 80 ラテンアメリカ・カリブ ラテンアメリカ・カリブ 36 81 35 82 南アジア 南アジア 33 86 26 75 中東・北アフリカ 中東・北アフリカ 21 76 0 50 100 0 50 100 女性の労働参加率(%) 男性の労働参加率(%) 2009 2009 1980 1980 出所:World Development Indicators 2011 プト・アラブ共和国では,1997 年には,結婚直後の女性 令ではなくなり,働く母親への支援体制(保育など)も削 は,調査後 1 年以内に結婚する予定の女性と比べ,労働市 減されたからである. 場への参加率が 4 割少なかった(それぞれ 19%と 29%) .  概して,公式・非公式のどちらの制度構造も,女性の労 ところが 10 年後,両グループの差は大幅に縮小した(そ .地域を問わず多くの国 働参加を妨げる(または支える) れぞれ 32%と 27%) .つまり,結婚後しばらく経つと労 では,市場性の仕事を規制する法律(労働時間や働ける産 働力に再び加わる女性がいるということだ c.したがって, 業の制限など)は,男女の扱いが異なる.こうした規制を 結婚年齢の上昇と出生率の減少は,大半の国や地域で,労 女性に課す国では,女性の労働参加率は平均で 45%と低 働参加率の上昇に寄与してきた可能性が高い. ,男女の参加率の差は 45% く(規制のない国では 60%)  とは言っても,経済発展や,教育と家族形成における変 . と大きい(規制のない国では 25%) 化が,女性の労働参加率に与える影響は,個人,国,地域  さらに養育手当や退職に関する規定も,女性の労働参加 によってさまざまで,根本的には(公式・非公式の)制度 率に影響を及ぼす.大半の国ではなんらかの出産休暇が与 や個人の選好しだいである.市場と制度における変化がそ えられるが,日数や有給の割合,誰がその給与を負担する ろって参加へのインセンティブを強化する方向を向き,制 かなど,手当については国によって大きく異なる.父親 約が取り除かれたところでは,大勢の女性が労働力に加 に育児休暇を認める国はもっと少なく,条件はたいていさ わってきた.反対に,他の制約が存在していたり(特に非 らに厳しい.育児休暇に男女差があると,女性の雇用に対 公式の制度で) ,市場と制度における変化の方向が逆向き する主観的なコストが上昇し,女性の雇用機会が減ってし だったりしたところでは,その影響力ははるかに弱かった. まう.また,女性労働者が若いうちに退職するのは,多く  例えば南アジアでは,経済成長は持続してきたものの労 の場合,子どもを守る本能が動機となってきたが,それに 働参加率は伸びず,中東・北アフリカでは,教育では大幅 よって生涯賃金,年金手当,出世のチャンスで格差が生じ な改善がみられたが,労働参加率への影響は限定的だっ てしまい,女性は市場性の仕事に就く意欲を失ってきた. た.どちらのケースも,経済領域における女性の役割に対  近年,非公式の制度,特に文化的・社会的規範が女性の する社会規範のせいで,市場性の仕事へのインセンティブ 労働参加に与える影響が注目されてきている.この研究が が強まっても,実際の結果には結びつきにくかったのだろ 示唆しているのは,伝統的なものの見方と女性の雇用率 う.同様に,共産主義からの移行後,東ヨーロッパでの女 (および賃金の男女差)との間には,負の相関(場合によっ 性の労働参加率は, (比較的高い)56%から 2008 年には ては,強力な負の相関)があるということである d.その 50%へと減少した.この減少は体制の変化により制度が ようなものの見方がもつ影響は,思春期と結婚後という, 変わったことが反映しているとみられる.制度が変わり, 全く異なるが関連のあるふたつの時点で女性を特に束縛し 市場性の仕事に従事することが大半の女性にとって国の命 ているようである(エジプトにおける家族の形成と女性の CHAPTER5 職務におけるジェンダー差とその重大性 201 ボックス 5.1 縮小しつつあるアクセスの格差――最近の女性の労働参加の進展(続き) 労働参加について述べた,ボックス 5.10 も参照) .どちら 国内で労働参加率が異なる理由を説明するものである.国 の場合も,家族の世話と家事に関する男女の役割の規範と, 内や集団内の文化的・社会的規範が個人の選好に影響を与 移動性の規範が, (若い)女性の市場性の仕事への参加を えているのは間違いないが,それらは家庭内の意思決定プ 制限しているとみられる(第 4 章および「世界開発報告 ロセスに影響を及ぼしながら独特の役割を演じているので 2012 ジェンダーと経済的選択にかんする定性的研究」に ある.社会規範と同じように,個人の姿勢と選好は伝統的 ついてのスプレッドを参照) . であればあるほど,市場性の仕事への参加と負の相関があ  最後に,市場性の仕事に対する個人の選好も,国家間や る e. a. World Bank 2011. b. Chioda, García-Verdú, and Muñoz Boudet, 近刊 . c. World Bank 2010a. d. Antecol 2000; Fernández and Fogli 2006; Fortin 2005; Goldin 2006. e. Berniell and Sánchez-Páramo 2011b; Fortin 2005. 見られるため,農業,企業家,賃金労働の各部門の て裏づけられており,徐々に減ってきてはいるもの 分析は共通の枠組みにまとめることができる. の(主に教育格差縮小の結果),依然として顕著で  経済機会へのアクセスにおけるジェンダー間の分 ある 1. 離は,時間の使途や投入資源へのアクセスにおける  女性農業者は男性農業者より概して生産性が低 ジェンダー差を強化し,市場と制度の失敗を存続さ い.世帯毎の男女の比較に基づいた推定収穫高の差 せる.例えば女性は,仕事と家族の世話に対する責 –  には大きな幅がある(表 5.1)が,多くは 20  30% 務を両立するため,男性よりも労働条件が柔軟な仕 程度である 2.世帯内の男女の収穫高を比較し,市 事(パートタイムや非公式の仕事など)をすること 場の状況によって起こりうる差異と制度の制約を考 が多い.しかし,パートタイムの仕事や非公式の仕 慮した研究結果も,それを裏づけている.例えばブ 事の賃金(時間給)は,フルタイムの仕事や公式部 ルキナファソのある地域では,同一世帯内で女性の 門の仕事よりもたいてい低いため,こうした低賃金 収穫高は男性より 18%低かった 3. の仕事に女性が集中すると,市場性の仕事への参加  同様に,女性企業家は男性企業家より生産性が低 意欲が弱まり,非市場性の仕事(家族の世話など) い 4.女性が経営する企業の労働者 1 人当たり付加 でも市場性の仕事でも,家庭内の男女のあり方に 価値は,男性が経営する企業と比べると,ヨーロッ 沿った専門化(分化)が強まるのである. パ・中央アジアの都市部で 34%,ラテンアメリカ  女性を低賃金・低生産性の仕事に陥らせているの –  で 35%,サハラ以南アフリカで 6  8 %低い 5.ま は,まさに,時間の使途,投入資源へのアクセス, た,バングラデシュ農村部,エチオピア,インドネ 市場と制度の失敗におけるジェンダー間分離の相互 シア,スリランカでは,男性の経営する企業と女性 作用なのである.したがって,この生産性の罠を打 の経営する企業とでは,収益性に顕著な差がある. 破するには,時間の制約を撤廃し,生産用投入資源 この差が最大だったのはバングラデシュで,労働者 への女性のアクセスを向上させ,市場と制度の失敗 1 人当たりの平均生産高は,男性経営者の企業が女 を是正する介入が必要となる. 性経営者の企業の 8 倍に上り,最小はインドネシ アで,女性が経営する企業の方が 6%低かった 6.  女性が経営する企業は,他の面でも,男性の経営 生産性と賃金におけるジェンダー差を理解する する企業よりもうまくいっていない.概ね収益性は  生産性と賃金におけるジェンダー差は,体系的か 低く 7 売上高も少ない 8.企業が存続する確率も, つ持続的である.農業労働者だろうと非農業労働者 女性経営者の企業の方が低い.とはいえ,証拠は必 であろうと,自営業者だろうと賃金雇用者だろう ずしも一定しているわけではない 9. と,女性は男性より平均生産性も賃金も低い.先進  給与労働者の平均賃金の男女差については,先進 国でも発展途上国でも,こうした格差は証拠によっ 国と発展途上国の双方で,広範な裏づけがなされて 202 世界開発報告 2012 表 5.1 女性農業者は,男性農業者より平均生産性が低い 生産性におけるジェン 国名 年 / 年度 比較対象 農産物 生産性の尺度 ダー差の平均(%) ナイジェリア(オシュン州) –  2002  2003 農業者の男女 米 収穫高 40 ベニン(中部) –  2003  2004 農業者の男女 米 収穫高 21 ガーナ 2002, 2004 農業者の男女 ココア 収穫高 17 マラウイ(全国) –  1998  1999 農業者の男女 トウモロコシ 収穫高 –  11  17 ケニア(西部) 1971 農業者の男女 トウモロコシ 収穫高 4 ケニア(西部) –  2004  2005 世帯主の男女 トウモロコシ 収穫高 19 トウモロコシ,豆, 1 ヘクタール当た ケニア(地方) –  1989  1990 農業者の男女 ササゲ りの総生産額 7.7 エチオピア(中央高地) 1997 世帯主の男女 全農作物 収穫高 26 出 所: Alene 他 2008; Gilbert, Sakala, and Benson 2002; Kinkingninhoun-Mêdagbé 他 2010; Moock 1976; Oladeebo and Fajuyigbe 2007; Saito, Mekonnen, and Spurling 1994; Tiruneh 他 2001; Vargas Hill and Vigneri 2009. きた 10 (第 2 章の図 2.8 参照).格差は徐々に減っ 金におけるジェンダー差の原因は,主に仕事の差で てきたとはいえ,公式・非公式部門を問わず依然と あることを論証する. して顕著で,女性は不定期の出来高払いの仕事をす ることが多い 11.公共部門では,格差が小さい傾 教育と労働経験における男女差 向にある(図 5.1).  女性は(一部の国では)依然として教育水準が低  生産性と賃金におけるこうした体系的なジェン く,キャリアが中断されやすい(主因は出産)が, ダー差の背景には,何があるのだろうか? それに 男女差は縮小しつつある.教育水準の差が年長の ついては 3 つの説明――男性労働者と女性労働者 労働者の間で今も顕著な国もあるが,若年労働者 の特性の差,男女が行う活動や仕事の種類の差,労 の間ではほぼどの地域でも解消した(第 1 章,第 3 働者と仕事の特性に対する収益率の差――が考えら 章参照).一方,雇用年数は,データのある 19 カ れる.われわれはここで,労働者の特性(特に人的 国中 15 カ国で女性よりも男性の方が長く,その差 資本)と収益率の差は重要ではあるが,生産性と賃 はリトアニアの 0.3 年からアイルランドの 5.4 年 図 5.1 賃金には体系的なジェンダー差がある a. ジェンダー賃金格差は,民間部門より b. ジェンダー賃金格差は縮小している 公共部門の方が小さい ものの,依然として存在する 30 40 ジェンダー賃金格差、1995ー1998年(%) ジェンダー賃金格差は 公共部門におけるジェンダー賃金格差(%) 縮小している アイスランド ブルガリア チェコ共和国 インドネシア フィンランド オーストリア 30 20 ブルがアリア イギリス リトアニア イギリス シンガポール デンマーク リトアニア オランダ オランダ ウクライナ スロバキア ラトビア メキシコ カザフスタン スウェーデン ドイツ ラトビアスイス ノルウェー 20 パラグアイ ハンガリー ベラルーシ ルーマニア エジプト ルクセンブルク スペイン 10 スロベニア フランス ポルトガル キプリス コスタリカ スウェーデン ヨルダン川西岸・ガザ イタリア 10 ポーランド フィリピン スリランカ 0 ジェンダー賃 0 パナマ マルタ 金格差は公共 部門の方が小 ベルギー さい ‒10 ‒10 ‒10 0 10 20 30 ‒10 0 10 20 30 40 民間部門におけるジェンダー賃金格差(%) ジェンダー賃金格差 2007 –2   008 年(%) 出所:LABORSTA, International Labour Organization に基づく世界開発報告 2012 チームの試算. 上の各図の 45° の線は,縦軸と横軸の値が等しいことを示す. CHAPTER5 職務におけるジェンダー差とその重大性 203 まで幅がある 12.労働経験のジェンダー差は,若 間違いないとみられる.しかし,教育格差の縮小で –  い労働者(18  25 歳)の間ではほとんど見られず, 目覚ましい進展があったにもかかわらず,賃金格差 –  26  39 歳で最も顕著になることから,この差が主 がいまだ顕著に残っていることを考えると,ジェン に出産年齢期に生じていることが見て取れる. ダー差が収益率や,特に仕事と家族の世話の責務で  教育と労働経験は生産への重要な投入資源である 存続する限り,人的資本だけをさらに改善しても不 ことから,これらのジェンダー差は,生産性および 十分だろう. 賃金の格差の一因となる.教育水準が高く労働経験 が豊かな人物が経営する農場ほど,比較可能な農場 人的資本と他の生産用投入資源の収益率における と比べて生産性が高い.つまり人的資本における ジェンダー差 ジェンダー差は,農業生産性の違いとなって現れる  もし生産や賃金の決定で,男女個人と仕事の特性 13 のだ .同様に,女性企業家の間で見られる教育 における体系的差異よりもジェンダーが重要であれ 水準の低さと実業訓練へのアクセスの少なさが,彼 ば,生産性と賃金のジェンダー差は収益率の差で説 女たちの生産性を下げている可能性もある 14.先 明できる. 進国でも発展途上国でも,従来,人的資本における 差が賃金のジェンダー差の主因となってきた 15. 女性は農業者や企業家として,男性より劣ってはいない  ジェンダー間の賃金格差の縮小には,近年の教育  農業では,土地と生産用投入資源へのアクセス 格差の縮小が寄与しているが,今なお残る賃金格 を考慮すると,生産性のジェンダー差はほぼ確実 差については,教育格差では次第に説明がつかな に消える.同様に,女性が経営する企業と男性が くなっている.個人の特性と居住地を調整すると, 経営する企業の生産性の差は,生産資源へのアク 低・中所得国の 5 カ国(53 カ国中)で観察される セスと利用の差で概ね説明できる.これらの差は, –  賃金格差の 10  50%が,また,それらを除く低・ ジェンダーに特有な要因よりも,主に事業規模や 中所得国 5 カ国とデータのある高所得国 3 カ国(17 事業を行っている部門によって決まる 18.アフリ –  カ国中)で観察される賃金格差の 0  10%が,男女 カ都市部の企業でみてみよう.公式部門で女性が の教育格差で説明できる.これらの低・中所得国 経営する企業(中央値)の開業資金は,男性が経 は,教育水準のジェンダー差が今も顕著な国が大半 営する企業(中央値)の 2.5 分の 1 だが,非公式 を占める.残りの国々では,教育におけるジェン 部門で女性が経営する企業(中央値)と比べると ダー差は小さいか,逆転して女性の方が教育水準が 5 倍になる.企業内の有給従業員数についても, 高い.この場合,教育では観察される賃金格差を説 同じことが言える 19 明できないどころか,教育を考慮すると,説明のつ  この証拠が示唆しているのは,男性と同じ投入 16 かない格差が広がるのである . 資源にアクセスできれば,女性は男性と同等の力  一方,現実には労働経験におけるジェンダー差は を発揮し,同じ量の資源が与えられれば,女性の あまり縮まっておらず,大きく隔たったままだ.そ 農業者や企業家は男性に匹敵する生産性を上げら のため,教育のジェンダー差はごくわずかだが女性 れるということである.ガーナでは,農業のやり が今も子育ての責務を負っている先進国で,労働経 方が男女で異なるという事実が示され,当初,女 験が賃金に及ぼす影響が特に注目されてきた.アメ 性農業者は男性農業者より劣っているとされたが, リカとイギリスでは,出産など家庭の事情に関連し さらに詳しい調査によってそうした女性のやり方 てキャリアを中断すると,子どものいる女性の賃金 は,土地の保有権が不安定な状況では最適である は,子どものいない女性より低くなる.出産後,賃 ことが分かった 20. 金の伸びは大幅に遅れるうえ,スキルの高い女性ほ   しかし経営や企業業績のジェンダー差は,人事 ど高くつくこの賃金の不利益は,出産以降,時間が 管理や企業組織に対する姿勢はもちろん,リスクや 17 たつほどに増大する . 競争に対する男女の姿勢の違い――生得的なものか  教育と労働経験の差がもっと縮まれば,それが生 もしれないし,後天的なものかもしれない――を反 産性と賃金のジェンダー格差の縮小に寄与するのは 映していると主張する研究者もいる.21.この文献 204 世界開発報告 2012 ボックス 5.2 役員室の女性  世界中どこでも,取締役会には限られた数の女性しかい 方の既存の文献のように,女性取締役が多い企業ほど業績 ない.女性取締役の割合は,政府が割当枠を設定したノル がよいことを示すだけでは不十分である.成功している企 ウェーの 40%からスウェーデンの 21%,さらにはバー 業ほど所有する資源が多いことから高い多様性が確保され レーン,日本,ヨルダン,韓国,カタール,サウジアラ ているのかもしれず,その場合,多様性は成功によって生 ビア,アラブ首長国連邦の 2%未満まで幅がある a.興味 じたのであって,その逆ではない.要するに,女性取締役 深いことに,女性の取締役がひとり以上いる会社の割合は が存在するがゆえに企業の業績が向上したと言えることが もっと多い.つまり多くの企業が“名ばかりのジェンダー 重要なのである. 平等主義”と呼べるものを導入しているということである.   因 果 関 係 を 示 す 証 拠 は, 結 論 の 一 致 を 見 て い な い. 例えばフランスでは,全取締役のなかで女性は 14%を占 『フォーチュン』誌が発表する全米上位 500 Carter らは, めるにすぎないのに,女性の取締役がひとり以上いる企業 社の間では,女性取締役の存在が,主に取締役会の監査機 の割合は 90%に上るのである. 能に影響を与え,業績向上につながっていることを示して  ジェンダーの多様性が低いと,多くの人は公平性を疑問 いる e.サンプルとなったアメリカ企業に関する情報も, 視するだけでなく,企業の潜在価値や成長がむしばまれる 同様の結果を示しているが,ガバナンスの弱い企業ではプ と考える.多様性が高いほど,監視の能力が上がり,潜在 ラスの影響は限定的である f.主な手段は,出席率の上昇 的顧客層に関する情報へのアクセスが拡大し,視点が多角 と取締役会の監査の改善である.また別の研究者は,取締 的になって独創性が強まるため,取締役会の機能が向上す 役会のジェンダー多様性が,経営陣のジェンダー多様性の ると考えられることが多い b.多様性を高めるというのは, 向上につながっている証拠を見つけた g .一方,デンマー 幅広い人材のなかから取締役会のメンバーを選出するとい クの約 2,500 社について調べた研究によれば,社員から う意味でもある c.だがそれは,より多くの対立を生み, 選出された女性取締役は業績にプラスの影響をもたらす 決定力を弱める可能性もある d. が,それ以外の女性取締役はマイナスの影響を及ぼす h.  しかしその影響がどの程度かを評価するのは困難だ.大 a. Directors and Boards magazine 2010 に引用されている CWDI and IFC (2010). b. Carter 他 2007. c. Adams and Ferreira 2009. d. Hambrick, Cho, and Chen 1996. e. Carter 他 2007. f. Adams and Ferreira 2009. g. Bilimoria 2006. h. Smith, Smith, and Verner 2005. は,先進国における企業の姿勢や業績に対し,ジェ 主張する人もいる.伝統的な女性の役割と女性像 ンダーが及ぼす影響に注目している.女性役員が企 が,自らの能力についての自己認識に影響を及ぼ 業業績に与える(プラスの)影響に着目し,企業の し,事業を成長させるのに必要な自己効力感と潜 生産性を向上させる上で経営におけるジェンダー差 在力をむしばんでいるのかもしれないからだ(第 4 が果たす役割を分析した研究も複数ある(ボックス 章参照)22.実験的研究の証拠からは,個人の特性 5.2). は,企業家としての行動には男女で異なる影響を及  また,なぜ女性は企業家になりにくいのか,仮に ぼさないが,自分のスキル,失敗の可能性,チャン なったとしても,企業の投資や成長という点で,な スの存在に関する個人的な認識には異なる影響を及 ぜ男性の方が優れていることが多いのかは,ビジネ ぼしているようにみえる 23. スに関連する姿勢のジェンダー差から説明できると  しかしながら,経営におけるジェンダー差の全般 [女性は]男性と同じ仕事をしていても,給与の面で差別されています.例えば地元のプラスチック工 「 場では,女性の月給は 900 新シェケル(247 ドル)なのに,男性は 1,800 新シェケル(495 ドル)なの . です」 ヨルダン川西岸地区およびガザ都市部の若い女性 CHAPTER5 職務におけるジェンダー差とその重大性 205 的な影響に関する証拠や,生産性におけるジェン なるはずだという経済予測を検証するものである 28 ダー差の通念に関する証拠は,依然として限定的で .この推論に従い,複数の研究者が,市場の力の 一定したものではない.したがってわれわれは,既 変化,規制緩和,貿易による競争激化が賃金のジェ 存の証拠は概ね,女性は農業者としても企業家とし ンダー格差に与える影響について分析している 29. ても男性に劣ってはいないことを示しているとの結 すべてのケースで,賃金におけるなんらかのジェン 論に至る. ダー差別を示唆する結果が出ている.第 3 の補足 的手法は,潜在的雇用主に対して同等の特性をもつ なぜ女性の仕事は賃金が低いのか? 求職者を示すことによって,賃金よりも採用時の差  女性の仕事は,実際に男性の仕事よりも賃金が低 別に焦点を当てるものだ.その結果は一定していな い.第 1 に,労働者と仕事の特性における観察可 . い(ボックス 5.3) 能な差異を考慮しても,賃金のジェンダー格差の大  労働市場でのジェンダー差別の証拠の大半は,先 24 部分は説明がつかない .第 2 に,女性優位の部 進国のものであるため,発展途上国にはあまり参考 門や職業の賃金は,男性優位の部門や職業の賃金よ にならないかもしれない.実際,差別を禁止する法 りも低い.この現象はこれまでも多くの注目を集め 令の適用範囲と,特にその実施能力については,国 ており,職業の性別構成によって個人の賃金が体系 の所得に応じて向上する傾向がある.つまり,差別 的に変化することを示す証拠は,枚挙にいとまがな の根深さや広がりは発展途上国の方が深刻な可能性 い 25. が高いということだ.パキスタンでは,農村部の私  これら定型化された事実に対し,2 種類の説明 立学校の女性教師は,男性教師よりも給与が 30% がなされてきた.ひとつは労働市場におけるジェ 少なく,個人や学校の特性を考慮しても,格差が残 ンダー差別が原因であるという説明,もうひとつ る 30.だが,もっと体系的な情報が必要である. は,主に家族の世話に対する責務の違いから,男  男女が異なる部門や職業を自発的に選択していると 女が異なる部門や職業を(自発的に)選択してい いう仮説は,家族の世話などの責務から,女性は男性 るという説明である.つまり女性は,少ない代償 に比べ,融通がききやすく,ひとつの企業や企業集団 で,労働時間を調整できたり,労働市場に頻繁に に固有なスキルに多大な投資や継続的な投資を求めら 出入りできたりする仕事を選ぶ傾向があるという れない仕事――または,キャリアの中断によって,ス ことだ.どちらも証拠によって(完全ではないが) キルの価値が大幅に低下しない仕事――を選択する傾 裏づけられている. 向がある,という見解に基づいている 31.こうした   賃金における未解明のジェンダー差は,労働市 仕事は,賃金などと同じく,スキルや経験に対する 場での差別の証拠であると解釈されることが多い 収益率も低くなりがちである. が,これらの結果の解釈には注意が必要である.と  女性優位の職業が男性優位の職業に比べて低賃金 いうのも,これらは労働者と仕事の特性における, なのは,こうした仕事に女性が集中しているからで 観察されない(測定されない)さらなる男女差を反 ある.アメリカでの証拠によれば,女性が圧倒的に 26 映している可能性があるからである . 多い仕事では,女性“だけでなく”これらの仕事に   賃金のジェンダー差と差別に関する最近の研究 従事する男性の賃金も低く,その主な理由は彼らの では,新たな手法がとられている.第 1 の手法は, (測定されない)スキル関連の特性と嗜好である. 適性や能力に関する広範な情報を使って,測定され これを裏づけるように,スキル関連の仕事の特性を ない特性のジェンダー差が及ぼす影響を最小限にし 考慮すると,女性の構成比が賃金に及ぼすマイナス た特に同質的な集団で,男女を比較するというもの の影響は,女性に対して 25%,男性に対して 50% 27 である. .こうした研究から,もっと異質性の高 減少する 32. い労働者集団を比べた時よりは小さいながらも,未  発展途上国で仕事の柔軟性が高いのは,通常,非 –  解明の賃金格差(12  20%)がいまも見つかってい 公式部門の仕事である.非公式部門で,どの程度の る.第 2 の研究手法は,製品市場での競争力によっ 雇用が自発的なものなのかについてはまだ結論に て労働市場などの要素市場での差別が減るか,なく 至ってないが,スキルに対する収益率は概ね低いの 206 世界開発報告 2012 ボックス 5.3 採用時のジェンダー差別? 採用調査の研究による証拠  採用調査の研究は,性別以外は完全に同等の求職者を雇 求職者を実際に使うかわりに,応募書類を使った研究もあ 用側に示し,採用を決める要因のなかからジェンダー(ま る b.その研究ではジェンダー差別の体系的証拠は見つか たは別の種類の)差別の影響だけを取り出すことを目指し らなかったが,なんらかのジェンダーの固定観念化や統計 ている.おそらく状況や研究の意図の違いによるのだろう 的差別らしきものは確かに見受けられた.同様の手法で, が,結果はまちまちである. 子どもの有無によって被る採用時の不利益も評価された.  ある研究では,フィラデルフィアの高級レストランでの Correll,Benard,Paik は,独身女性は独身男性よりも面 女性差別に関して,有意な証拠が見つかった a.女性の求 接を要求される可能性が高く,子どものいない女性は,同 職者は,男性の求職者と比べ,面接を受ける確率が 0.4% 等の適性や能力をもつ母親よりも 2.1 倍多く求められるこ 少なく,採用の決定に至る確率が 0.35%少なかったので とを明らかにした c.第 3 の補足的手法によって,実際の ある.しかし,これらの結果の解釈には注意を要する.性 求職者を求職活動中ずっと追い続け,男女の採用率の違い 格や容姿などの個人の特性が,採用の決定に影響したかも を調べたものもある.証拠は決定的なものではなかった d. しれないからだ. Goldin と Rouse は関連の研究で,応募者の性別を伏せた  面接という個人的なやり取りでは個別の違いが生じ,比 まま行った交響楽団のオーディションの影響を検証し,差 較可能性が低下するという問題に対処するため, “偽の” 別の証拠を見つけた e. a. Hellerstein, Neumark, and Troske 1997. b. Bravo, Sanhueza, and Urzua 2008; Riach and Rich 2006. c. Correll, Benard, and Paik 2007. d. Moreno and others 2004. e. Goldin and Rouse 2000. が現実である.エジプト・アラブ共和国,タンザニ では 58%,賃金労働者では 44%,非公式部門では ア,一部のヨーロッパ諸国での証拠によれば,教育 50%を占めている(図 5.2)35. と経験に対する収益率は企業規模の拡大とともに増  こうした差異はまた,同一部門内の男女――農業 33 加し,公式部門の方が高い .非公式部門の労働 者や企業家の男女,賃金労働者の男女――を比較す 者には女性が多いことを考えると,このことが,男 ると,いたるところに存在する.女性は男性よりも 性よりも女性の賃金の方が低いことにつながってい 小規模な農場を所有・経営し,自給作物を育てる傾 るのかもしれない. 向がある.農村部での土地の所有は,分析を行った   16 カ国中 15 カ国で,男性が世帯主である世帯よ 男の仕事と女の仕事:ジェンダー間職務分離 りも女性が世帯主である世帯の方が小さく,両者の  どんな部門,産業,職業でも,どんな種類の仕事 差は 6 カ国の平均で 1.5 ヘクタール以上(平均の や企業でも,男性と女性の仕事には顕著で体系的な 農地面積の 50%以上)ある 36.さらに,男性は商 差異がある(このような差異を「ジェンダー間職務 品作物の大半を扱い,女性の助け(たいてい無給) (ボックス 5.4) 分離」という) .女性は男性よりも, がなくもない.女性も商業的農業を行うが,仕事の 農業(全女性雇用者数の 37%,全男性雇用者数の 分業がかなり硬直的で助けを得にくい. 33%)とサービス業(全女性雇用者数の 47%,全  同様に,大半の零細・中小企業は女性が経営し 男性雇用者数の 40%)に従事する傾向がある.そ ており,その割合は企業規模の拡大とともに減少 34 の反対は製造業である .女性はまた,無給労働 する 37.“共同所有者がいる場合は実際の決定権 者,賃金労働者,非公式部門に多く見られる.世 を有することを所有とする”という厳格な定義を 界全体の労働力の約 40%が女性だが,無給労働者 当てはめると,この割合の減り方はさらに急にな . 「衣服工場では男性をほとんど募集しません.裁縫が必要とされる仕事ですから」 インドネシア都市部の若い女性 CHAPTER5 職務におけるジェンダー差とその重大性 207 る 38.また,女性経営者は男性経営者と比べると, ボックス 5.4 ジェンダー間職務分離とは? 自宅を基盤とした家内事業を行うことが多い 39.  本報告書では,男女が行う仕事の種類の違いを表現する メキシコでは,女性経営者の事業全体の 30%が自 「ジェンダー間職務(または労働市場)分離」という ため, 宅で事業を行っているが,男性ではその割合はわ 用語を使用する.この用語は,様々な産業や職業における ずか 11%である.ボリビアでは,それぞれ 23% 賃金・給与労働者の男女の分布の違いについて述べる際に と 10%である 40. 頻繁に使われるが,本報告書では,農業者と企業家が行う  女性企業家はまた,男性と比べると,「必要に迫 仕事や活動には類似のジェンダー差があることを論証する. そして,そのような差異を取り上げながら,分離に関する られて」起業した(起業は最後の手段と考えてい 議論を広げていく.そうすることで,ジェンダー間職務分 た)人が多く,「チャンスを掴もうとして」起業し 離の根本原因についての洞察が得られるからである. た人は少ない.アメリカでは,高成長企業――企  農業者と企業家の活動は,さまざまな意味で賃金雇用と 業家が自発的に起業したのか,起業せざるを得ず 「分離」という言葉がそれぞれの領域で は異なることから, もつ意味を明確にすることが重要である.例えば農業の場 起業したのかによって,企業の成長指向を評価― 合は,農地面積(土地面積で評価)や生産の市場指向にお ―には,女性が過度に少ない 41.発展途上国では けるジェンダー差に注目する.企業家活動の場合には,企 起業の主な理由として,女性は家計所得を補う必 業規模(従業員数で評価)や事業を行っている部門に注目 要性に言及することが多いが,男性は市場機会を して議論する.企業家を目指す動機や企業の成長志向にお けるジェンダー差についても,いくつかの証拠が示されて 活かしたいからと答える 42.とはいえ,経済発展 いる.賃金雇用に関しては,雇用される産業と職業に焦点 とともに,より多くの経済機会が女性に開かれる を当てて議論する.よって,職務分離という言葉は,これ ため,「必要に迫られて」起業する女性企業家の割 らのどの領域にも存在する体系的な差異を指すのである. 合は減っていく 43 .  分離は,特定の経済機会へのアクセス(差別を含む)に おけるジェンダー差別的な制約と,ジェンダーに基づく選  前述のとおり,女性と男性は働く産業や職業が異 好による選別が組み合わさって起こることに注目したい. なる.世界的には,公共サービス(行政,教育,保 健などの社会サービス)と,専門職 ,事務員,販売 (教師,看護師など) ・ サービス業での雇用で,女性の割合 図 5.2 女性は賃金労働者と無給の家族労働者に多く存在する が 50%を超える.また,小売業,飲 100 食業,農業でも 40%――全労働者で 90 44 女性が占める割合――を超える . 80  労働者ではなく企業に目を向け 70 全体に占める割合 ても,産業の分離のパターンはよく 60 似ている.先進国でも発展途上国で 50 も,女性が経営する企業が事業を行 40 うことが多いのは,比較的小規模な 30 企業が集まった,低付加価値で成長 20 の可能性が低い限られた部門であ 10 る 45.女性企業家はサービス部門 0 リ ・ ジ ・ フ 南 ア カ 洋 国 や,女性の役割に合致した事業(美 カ カ ア パ ア ラ以 ジ リ 平 得 カ ブ ア リ 央 ッ ア フ 太 所 リ メ 中 ロ ハ 南 ア ・ 高 容院,食品販売,縫製など)に著し ア ー サ 北 ア ン ヨ ・ ジ テ 東 ア く集中している 46. ラ 中 東 女性  生産性と賃金におけるジェン 無給の家族労働者 有給の被雇用者 自営業員 雇用主 ダー格差の大半は,こうしたジェン 男性 無給の家族労働者 有給の被雇用者 自営業員 雇用主員 ダーによる職務の差――女性は男 性よりも,平均(労働)生産性の低 出所:WDR 2012 team estimates based on International Labour Organization. –2 注:2003    008 年の期間においては,56 の国において最新のデータが利用可能. い部門,産業,職業,仕事で働く可 208 世界開発報告 2012 利用の少なさによって,完全に説明がつ 図 5.3 農業生産性における男女差は,生産用投入資源へのアクセスとその 利用を考慮すると,大幅に縮小する いた 48.  女性が経営する企業と男性が経営する マラウイでは女性の農業生産性は 男性よりも 13.5%低い 企業とで平均生産性に差が出る大きな 平等であれば消滅する この格差は男女の投入物へのアクセスが ‒13.5% 要因となっているのは,事業分野や企業 マラウイ(全国) 0.6% 規模の違いである(生産性は,労働者 1 ‒40% ナイジリア(オスン州) 0% 人当たりの付加価値または収益で評価). ‒21% 例えば,自営業者の所得におけるジェン ベニン(中央部) 0% –  ダー差の 9  14%は,事業分野の観点か ‒17% ガーナ(全国) 0% ら説明できる 49.アフリカ都市部の公 ‒26% 式部門の企業の場合,事業分野の違いに エヒオピア(中央高地) ‒25% よって生産性のジェンダー差の 20%以 ケニア(地方) ‒7.7% 12.5% 上が説明でき,企業規模の差によってさ ‒19% らに 30%が説明できる 50.バングラデ ケニア(西部州 2008 年) 0% シュ,エチオピア,インドネシア,スリ ケニア(西部州 1976 年) ‒4% 6.6% ランカの農村部でも同様の影響が見ら ー60 ー50 ー40 ー30 ー20 ー10 0 10 20 れ,事業分野と企業規模で,生産性にお % –  けるジェンダー差の 30  90%が説明で 平均的なジェンダー格差 きる 51.公式部門と非公式部門とを分 投入物へのアクセスが平等な場合のジェンダー格差 けると,生産性のジェンダー差は大幅に 減る.公式部門でも非公式部門でも,男 出所:Alene 他 2008; Gilbert, Sakala, and Benson 2002; Kinkingninhoun-Mêdagbé 他 2010; Moock 1976; Oladeebo and Fajuyigbe 2007; Saito, Mekonnen, and Spurling 女が経営する企業の生産性には差がある 1994; Tiruneh 他 2001; Vargas Hill and Vigneri 2009. が,両部門間の差があまりに大きく,そ . の差は矮小化されるからだ(図 5.4) 能性が高い――で説明できるのである.  ジェンダー賃金格差の大半は,産業や職業におけ  農業生産性におけるジェンダー差は,事業規模 る男女の分布の違いによって説明できる.個人の特 (土地面積と技術の利用によって評価)のジェン 性(人的資本など)と居住地を調整すると,デー ダー差を調整すると,大幅に減少するか,完全に消 タのある低・中所得国 53 カ国中 33 カ国および高 47 える .表 5.1 を使って,土地面積,化学肥料へ 所得国 17 カ国中 14 カ国で観察される賃金格差 のアクセス,機械化の度合い,他の生産用投入資源 –  の 10  50%は,従事する職業と部門のジェンダー の差を調整すると,ひとつを除くすべての例で生 差によって説明できる.また,それら以外の 9 つ 産性におけるジェンダー格差はほぼなくなる(図 の低・中所得国および 3 つの高所得国の賃金格差 5.3).世帯内の比較による証拠でも,同様の結果と –  の 0  10%も,同じ理由によって説明できる(地図 なる.ブルキナファソの女性農業者の生産高の少な .つまり,未解明の賃金格差の大部分を占めて 5.1) さは,女性の農地の労働集約度の低さと化学肥料の いるのは,教育格差よりも職業と産業における差だ という国の方が多いのである.  さらにこれらの国々の賃金労働者の男女を比較す 「銀行や教師の仕事は,女性にとって安心できる立 ると,かなり多くの人が,一方の性のみが従事して 派な仕事であり,経営や技術系の仕事は,男性に いる仕事で働いている.要するに,多くの労働者に とって社会的地位のある高給の仕事だと考えられて とって比較対象となる男性または女性がいないとい . います」 うことである.一部の国では比較対象となる女性が インドネシア都市部の若い女性 いない男性は平均よりも所得が高く,比較対象とな る男性がいない女性は,平均よりも所得が低い.こ CHAPTER5 職務におけるジェンダー差とその重大性 209 れは,観察されるジェンダー間の賃金 図 5.4 男女が経営する企業の生産性のジェンダー差は,公式部門と非公式 格差の背後には,従事する職業と産業 部門の生産性の差があまりに大きいため,矮小化する におけるジェンダー差が存在するとい 労働者 1 人当たりの収益は,非公式部門の男 う前提を裏づける結果である.52. 女性が経営する 性の経営する企業よりも,公式部門の女性が 企業,非公式部門 経営する企業の方が,約 600US ドル多い.   こ こ で「 良 い 仕 事 」 か「 悪 い 仕 事 」 かを決定する主な特性として生産性と 男性が経営する 企業,非公式部門 賃金に注目し,好ましい仕事とは,男 女が生産性を上げより多くの賃金を稼 女性が経営する 企業,公式部門 ぐことができる仕事であると仮定する. 男性が経営する 人によっては仕事の好ましさを判断す 企業,公式部門 る際,別の面を考慮することもあるが, 定性的証拠によれば,この仮定は現実か 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 労働者 1 人当たりの収益(単位:US ドル) らそれほど乖離したものではない(ボッ $=約 20US ドル クス 5.5).  ここで論じる証拠が示すのは,次の 3 出所:Hallward-Driemeier 2011b. 点である.1 点目は,人的資本における ジェンダー差は,生産性と賃金のジェ ンダー差の一因となっているが,世界中で教育格差 金雇用や給与雇用の割合が上がり,非公式の仕事は が縮小していることから,その相対的重要性は低下 減っていく.そして,別の部門で新たな経済機会が しつつあるということである.2 点目は,生産用投 開けると,市場価格や賃金が変化し,どこで労働生 入資源へのアクセスのジェンダー差を考慮すると, 産性が最も高く労働者が最も必要とされているかが 女性の農業者と企業家の能力や手腕は,男性の農業 示される可能性がある. 者や企業家と変わらないということだ.3 点目は,  しかし,経済活動と雇用構造におけるこれらの変 労働市場のジェンダー差別についてはある程度の証 化が,雇用の結果や,究極的にはジェンダー間職務 拠はあるものの,観察される賃金格差のかなりの部 分離にどのくらい影響を及ぼすのかは,定かではな 分は,男女が異なる職業へ分化することによって説 い.1 人当たりの国内総生産(GDP)が高いほど, 明がつくということである. 特にサービス部門での雇用と賃金雇用が増えるほ  よって,労働者の特性(特に人的資本)と収益率 ど,労働市場への女性の参加が促される(ボックス の差は重要ではあるが,生産性と賃金のジェンダー 5.1 参照).そして,女性労働者数が増えるにつれ 差を説明するものは,主に職務の差ということにな て,従来男性が従事していた仕事に女性が就くよう る.職務におけるジェンダー差は,女性は小規模の になる.しかし,男性優位の仕事に女性を就かせる 農場や企業,低賃金の産業や職業で働くという“直 経済的インセンティブの影響が強まっても,別の制 接的”な意味でも,収益率(特に人的資本に対する 約がそれを弱めてしまうかもしれない(逆の場合も 収益率)への影響を介した“間接的”な意味でも重 同じ). 要である.本章ではここから,ジェンダー間職務分  経済発展によって引き起こされる兆候に,世帯や 離の原因を特定し,理解を進めていくことにする. 個人がどの程度対応できるか――または進んで対応 するか――は,彼らの選好と,新しい市場と制度の 力がインセンティブと制約をどう変えるか次第であ ジェンダー間職務分離を説明するものは何 る.選好,インセンティブ,制約は,男女に異なっ か? 概観 た影響を及ぼすことから,経済発展が職務分離に与  国が豊かになると経済の生産構造が変わり,それ える影響には実証的な評価が必要である.国が豊か に伴って仕事の数や性質が変わる.農場の仕事は農 になるにつれて,職務分離の性質や程度がどう変化 地外の仕事に取って代わられ,雇用全体に占める賃 するのかに焦点を当てながら,経済発展(1 人当た 210 世界開発報告 2012 地図 5.1 個人の特性を考慮した後のジェンダー格差の大部分は,職業と産業におけるジェンダー差で説明できる a. 世界中で,女性は男性よりも賃金が低い 6% ~ー 10% ー 10% ~ー 20% ー 20% ~ー 30% ー 30% ~ー 50% データ無し ボ リ ビ ア で は, ジェンダー賃金格 差は 22%で… b. 教育ではこれらの差を説明できない 50%以上の減少 10 ~ 50%未満の減少 10%未満の減少 10%未満の増加 10 ~ 50%以下の増加 50%よりも増加 データ無し この格差は,教育水準 が同じ男女を比べると, 18%増加する c. 従事する職業と産業のジェンダー差によって,大半が説明できる 50%以上の減少 10 ~ 50%未満の減少 10%未満の減少 10%未満の増加 10 ~ 50%以下の増加 50%よりも増加 データ無し 男女の職業と産業の 違いをなくすと,格 差は 39% 減少する. 出所:the International Income Distribution Database (I2D2) および the European Union Statistics on Income and Living Conditions (EU-SILC) のデータを用いた世界開発報告 2012 チームの試算. CHAPTER5 職務におけるジェンダー差とその重大性 211 ボックス 5.5 良い仕事と悪い仕事:どんな仕事が該当し,誰がやっているのか?  発展途上国の都市部と農村部の 88 のコミュニティの男 街路の清掃など「汚い」仕事は悪い. 女が,良い仕事と悪い仕事について,どんな仕事が該当し,  どの国やコミュニティでも,ジェンダー間職務分離は顕 誰がやっているのかについて語ってもらった. 著である――仕事全体のおよそ 50%は男性または女性の  良い仕事とは,以下に引用するとおり,稼ぎのよい仕事 仕事であると考えられている.そして一方の性に特有なこ である. れらの仕事は,数字が示すように,女性の仕事よりも男性 の仕事の方が多い. 「良い仕事というのは,お給料がいい仕事」  大半の国では,ある仕事が男性の仕事であるか,女性の セルビアの若い女性 仕事であるか,両性の仕事であるかの判断には,伝統的な 男女の役割と認識が反映されている.例えば,男性の仕事 「看護が良い仕事なのは,所得が高いからです」 とされる仕事は,通常,技術的(電気技師,機械工)な仕 南アフリカ都市部の若い女性 事や体力が要求される仕事である.多くの国では,スキル の高い仕事も男性の仕事とみなされている.対照的に女性 「生計を立てるのに最もよいのは,海外の建設業での労 の仕事とされる仕事は,小売りや個人的なサービス,家事 働,ハウスキーピングの仕事,ジャガイモやトウモロ 「主婦」も女 などである.多くのコミュニティではまた, コシの栽培,起業などです.これらが最高の仕事と考 性の仕事――無報酬であっても――に挙げられた. えられているのは,稼ぎが良いからです」  ジェンダー間の職務分離が見られるのは悪い仕事の方が モルドバ農村部の成人男性 多く,悪い仕事での方が女性の仕事とされる仕事の割合が 高い.悪い仕事全体のうち 60%以上が一方の性に特有で,  女性も男性も,年齢や居住地にかかわりなく,大方の仕 –  そのうちの 25  35%が女性に特有な仕事である(良い仕 事(フォーカスグループが認定した全仕事の 60%)を良 –  事の場合,その割合は 15  .最後に,性別特有の仕 30%) い仕事だと考えている.また,国によって,また都市部か 事のうち女性の仕事とされる良い仕事と悪い仕事の割合の 農村部かで仕事の性質に違いはあっても,良い仕事,悪い 差は,ほぼ男性の認識で決まる.言い変えると,男性は, 仕事とみなされるものには,いくつかの驚くべき類似点が 女性の仕事とされる性別特有の仕事の割合は,良い仕事よ ある.公務員またはスキルの高い仕事(医師,弁護士,判 りも悪い仕事の方が大きいと考えているが,女性の見方は 事など)に従事することは概ね良く,例えばごみの収集や 仕事の質によってあまり変わらないのである. 良い仕事 悪い仕事 33% 男性のみの仕事 38% 43% 女性のみの仕事 50% 女性も男性もできる仕事 17% 19% 出所:“Defining Gender in the 21st Century: A Multi-Country Assessment” (dataset) に基づく世界開発報告 2012 チームの試算. 注:アフガニスタン,ブータン,ブルキナファソ,ドミニカ共和国,フィジー,インド,インドネシア,リベリア,モルドバ,パプアニューギニア,ペ ルー,ポーランド,セルビア,南アフリカ,タンザニア,ベトナム,ヨルダン川西岸地区およびガザ,イエメン共和国の都市部と農村部の,88 のコミュ ニティの男女のフォーカスグループの議論から得られたデータ.フォーカスグループは,成人男性,成人女性,若年男性,若年女性に分けて実施.デー タは平均値. りの GDP で把握)と全体的な職務分離との関係を ス業は 49%から 63.5%へと増加した 53.加えて, 見ることから始めよう. 世界全体で賃金・給与労働者が占める割合は 73% か ら 76 % へ と 増 加 し た が, 自 営 業 は 17 % か ら バングラデシュはスウェーデンに似ている? 16%へ,無給労働者は 8%から 6%へと減少した.  世界の就業構造は,各国が豊かになるにつれて変 企業家が占める割合は,2.5%でほぼ一定だった.こ わってきた.過去 30 年の間に,世界全体の労働人 れらの変化の結果,世界全体で非公式部門の労働者 口に占める割合は,農業は 19.6%から 13%へ,製 が占める割合は 25%から 21%へと減少した 54.こ 造業は 31%から 23.5%へと減少した一方,サービ うした傾向は,仕事の種類による相対的重要度の違 212 世界開発報告 2012 いや,変化の度合いの違いはあるものの,どの地域 例証されている(図 5.6). でも共通している.  経済発展が産業と職業の分離に及ぼす影響は,さ  しかし,経済発展によってもたらされる就業構造 らに弱まる.これらのパターンは,経済発展の水準 の変化が,必ずしも労働市場の分離をなくしたり減 や部門毎の労働者数の分布が大きく異なる国にも, らしたりするわけではない.そのため,バングラデ 共通して見られる.例えば,経済活動における主要 シュで見られる職務分離は,スウェーデンでの職務 産業 9 部門における女性の賃金労働の割合は,バ 分離と,所得は大きく異なるものの非常によく似て ングラデシュ,メキシコ,スウェーデンで驚くほど –  いる.われわれは,1993  2009 年の 100 カ国の よく似ている.最も差が見られたのは共同体のサー 発展途上国のデータを使って次のような算定を行っ ビスと小売・飲食業関連で,バングラデシュでは女 た.農業労働者および非農業労働者の割合(集計 性の割合が非常に少ない.同じことが,7 つの主要 値)と,無給労働者と有給労働者,および企業家 な職業分類における女性労働者の割合にもあらわ (自営業と雇用主に分ける)の割合を,1 人当たり れ,最大の違いは事務労働者とサービス労働者の間 の GDP の関数として推定し,これを男女別に行っ で見られた(図 5.7).また,異なる国をセットに て,各カテゴリーにおける女性労働者の割合を算出 したデータを使って,同様の証拠を提示した研究者 した. もいる 55.  国が豊かになるにつれ,男女ともに農業から非農  横断的比較においても時系列的比較においても, 業へと移行する傾向がある(図 5.5).非農業に関 所得の増加が産業や職業の分離の減少に必ずしもつ しては,経済発展とともに有給労働者の割合が増 ながるわけではない.第 2 章で述べたように,産 え,それより少ないが雇用主の割合も増える.こう 業と職業の分離は国によって大きく異なるものの, したパターンは男女に共通するが,無給労働者と自 1 人当たりの GDP と(水平的)分離の標準尺度の 営業の発生率のジェンダー差が示唆しているのは, 間には,ほとんど関連はない.事実,研究者のなか 経済発展が低水準の場合,女性は無給労働から有給 には,経済発展が産業と職業の分離を増大させる可 労働へと移行しやすく,男性は自営業から有給労働 能性があると主張する人もいる.女性を賃金労働へ へと移行しやすい,ということである. と統合させる要因(サービス部門の拡大と,賃金部  これらの傾向を組み合わせると,経済発展は, 門での雇用機会の増加)によって,一部の部門や職 ジェンダー間職務分離を解消するというより,そ 業が女性化し,労働市場でのジェンダーが制度化 のような分離の性質を変える,ということが読み (慣例化)してしまうというのだ 56. 取れる.1 人当たりの GDP の低水準から中水準へ  サービス部門が拡大するにつれ,子どもの世話や の移行と,有給労働者における女性労働者の割合 食品の提供など,多くの「女性の」仕事が市場経済 との間には正の相関があり,無給労働者,自営業, に組み込まれる.これら新しいサービス部門の仕事 企業家における女性労働者の割合との間には負の の多くが,女性の伝統的な家庭内の役割と相性が良 相関がある.要するに,1 人当たりの GDP が低い いため,ジェンダーによる分業が部門や職業へと広 ときには,女性は農業労働者と無給労働者に多く, がっていく.同様に,大きな賃金部門の存在によ 1 人当たりの GDP が中水準のときは,無給労働者 り,部門や職業の区分が際立っていく可能性が増 と有給労働者に多く見られるのである.このよう す.その結果,スキル,家族の義務,選好,ジェン な傾向は,1 人当たりの GDP が中水準から高水準 ダーに基づく文化規範は,ジェンダーが家庭か市場 になっても変わらず,異なるのは無給労働の女性 かを軸に層化する単純な経済のときよりも,部門や の割合が上昇するという点だ.しかし,気をつけ 職業の区分にはっきり表れやすくなる 57.この推 なければならないのは,1 人当たりの GDP が高水 論は,高所得国および賃金労働者の間に見られる高 準の場合,無給労働者の全体的な発生率は男女と 度な分離に関する証拠とも一致している 58. もに非常に低いということである.分離のパター ンのこのような変化は,低所得国であるタンザニ もし経済発展でないとしたら,一体何が? アと中所得国であるブラジルとの比較によって,  ジェンダー間職務分離が長期にわたって持続し, CHAPTER5 職務におけるジェンダー差とその重大性 213 どの国にも一貫して見られる,と 図 5.5 経済発展は,有給労働者における女性労働者の割合と正の相関があり, いうことは,そこに(公式・非公 無給労働者,自営業,企業家における女性の割合と負の相関がある 式の)経済や制度のシステムに深 –6 18    5 歳の農業人口と 非農業人口 非農業の雇用形態 く根づいた構造的な要因があるこ 女性 女性 とを示している.発展の水準や社 100 100 会状況が異なる国の間にも,多く 女性の割合(%) 非農業の女性の割合(%) 80 80 の共通点が見られる.  われわれが述べたいのは,市場 60 60 性のある仕事へ参加するかしない 40 40 、 ー 歳 か,特定の経済活動や仕事の選択 18 をどうするか,に関する男女の決 65 20 20 定を左右するのは,3 つの要素― 0 0 4 5 6 7 8 9 10 4 5 6 7 8 9 10 ―時間使途のパターン,生産用投 低 中高 低 中高 入資源へのアクセス,市場と制度 1 人当たりの GDP の対数値 1 人当たりの GDP の対数値 の失敗におけるジェンダー差―― 男性 男性 100 100 である,ということだ. 男性の割合(%) 非農業の男性の割合(%)  特に高等教育を受けた男女がか 80 80 なりの割合を占める国では,教育 60 60 ルートのジェンダー差も,職務を 40 40 、 ー 歳 分離させる(第 3 章とボックス 18 5.6 参照). 65 20 20  市場と制度は,時間などの生産 0 0 資源の配分に関する世帯の決定を 4 5 6 7 8 9 10 4 5 6 7 8 9 10 低 中高 低 中高 方向づけ,そうすることで男女の 1 人当たりの GDP の対数値 1 人当たりの GDP の対数値 雇用の結果とそれらの経済発展へ 女性 女性 の反応を決定する.市場と制度の 100 100 各カテゴリーにおける女性の割合 各カテゴリーにおける女性の割合 両方が,変化に向かって矛盾のな 80 80 い兆候を発している場合には,世 60 60 帯はこれらの兆候に応え,ジェ ンダー不平等は減少していく.例 40 40 えば女性は,保育サービスがあっ 20 20 たり,市場労働への参加が社会か (%) (%) 0 0 ら白い眼で見られなかったりすれ 4 5 6 7 8 9 10 4 5 6 7 8 9 10 ば,貿易開放による経済機会の増 低 中高 低 中高 1 人当たりの GDP の対数値 1 人当たりの GDP の対数値 加や賃金の上昇に対し,男性より 非農業 自営業 も反応する確率が高い.一方,重 農業 雇用主 有給労働者 大な障壁が残っている場合には, 無給労働者 兆候はもっと弱くなるかむしろ相 出所:the International Income Distribution Database (I2D2) に基づく世界開発報告 2012 チームの 反し,進展は限られたものとなる. 試算.  しかし,市場と制度が及ぼす影 –2 注:発展途上国 100 カ国のデータ.1996    008 年で入手可能な最新データ. 響は,個人や世帯に対するインセ ンティブや制約への影響に限った ものではない.むしろ市場と制 214 世界開発報告 2012 図 5.6 男女の雇用パターンは経済成長とともにどう変化するのか――タンザニアとブラジルの例 タンザニア(低所得国, ブラジル(高位中所得国, 1 人当たりの GDP = 439 ドル) 1 人当たりの GDP = 4,399 ドル) 女性の分布 女性の分布 4% 雇用主 農業 3% 雇用主 5% 3% 自営業 22% 自営業 26% 有給労働者 非農業 77% 有給労働者 農業 労働力から 22% 71% 離脱 42% 非農業 48% 無給労働者 53% 17% 無給労働者 労働力から離脱 7% 100 100 90 90 80 44 80 70 70 55 男女の割合(%) 男女の割合(%) 57 78 60 60 50 50 40 40 30 56 30 45 20 43 20 10 10 22 0 0 農業 非農業 農業 非農業 女性 男性 女性 男性 100 100 90 20 90 28 80 80 52 53 70 70 70 62 70 男女の割合(%) 70 男女の割合(%) 60 60 50 50 40 80 40 30 30 72 48 47 38 20 20 30 30 30 10 10 0 0 無給労働者 有給労働者 自営業 雇用主 無給労働者 有給労働者 自営業 雇用主 女性 男性 女性 男性 出所:International Income Distribution Database (I2D2): Tanzania 2006 and Brazil 2005 に基づく,世界開発報告 2012 チームの試算. 注:2009 年の 1 人当たりの GDP,2000 年の US ドル実質値 CHAPTER5 職務におけるジェンダー差とその重大性 215 図 5.7 産業と職業の分離パターンは,経済発展の水準や部門毎の労働者数の分布が大きく異なる国にも,共通して見られる a.産業の分離パターン b.職業の分離パターン バングラデシュ バングラデシュ 農業,狩猟など メキシコ 農業労働者 メキシコ スウェーデン スウェーデン バングラデシュ 共同体のサービス メキシコ バングラデシュ スウェーデン メキシコ 軍人 バングラデシュ スウェーデン 建設業 メキシコ スウェーデン バングラデシュ バングラデシュ 事務労働者 メキシコ 金融・ メキシコ 事業サービス スウェーデン スウェーデン バングラデシュ バングラデシュ 製造業 メキシコ 経営・管理者 メキシコ スウェーデン スウェーデン バングラデシュ バングラデシュ 鉱業 メキシコ スウェーデン 製造関連労働者 メキシコ バングラデシュ スウェーデン 公共サービス メキシコ バングラデシュ スウェーデン 専門職 メキシコ バングラデシュ 小売・ホテル メキシコ スウェーデン スウェーデン バングラデシュ バングラデシュ サービス労働者 メキシコ 輸送・通信 メキシコ スウェーデン スウェーデン 0 20 40 60 80 100 0 20 40 60 80 100 % % 男性 女性 男性 女性 出所:International Labour Organization ( バングラデシュ 2005, メキシコ 2008, スウェーデン 2008). 度,とりわけ市場と制度の失敗は,経済領域――消 障壁が互いに強め合う可能性がある(図 5.8).そ 費者や生産者,従業員や雇用主という立場で――に こでわれわれは,世帯,市場,制度が,時間の使 おける個人と世帯の“相互作用”に,意図に関係な 途のパターンと生産用投入資源へのアクセスをど く,ジェンダー差別的な結果を生みだす形で影響を のように決定しているのかを詳しく調べ,潜在的 与えるのである.例えば,価格などの情報が,女性 な制約の証拠を検証し,政策的措置の分野に焦点 がほとんどいないネットワークを通じて伝わったり を当てることによって,これらの考えを詳述して 共有されたりすれば,女性農業者は男性農業者より いくことにする.さらに詳細な政策についての議 も市場へのアクセスが困難になるかもしれない. 論は,本報告書のパートⅢで行う.  われわれが提示する枠組みでは,経済機会への アクセスにおけるジェンダー差とその結果生じる 職務の分離は,世帯,市場,制度とそれらの相互 ジェンダー,時間の使途,職務分離 作用であることを浮き彫りにし,これらの影響を  時間は資源である.市場性の仕事や,家庭での 把握している.このうちのどれかひとつの領域に (無給)労働,子どもの世話などの生産活動に充て 制約や障壁があると,アクセス向上と分離減少へ ることもできるし,個人的な活動(飲食や睡眠な の前進が阻害されるばかりか,別の領域の制約や ど)や余暇に使うこともできる 59.このセクショ 216 世界開発報告 2012 たね ボックス 5.6 分離の種は早くから撒かれている――教育ルートのジェンダー差は,どのように職務分離を形成するのか  教育格差は縮小しているが,正式な教育の一環としても, 7% である c. 労働市場へ参入した後も,女性と男性は非常に異なるスキ  専攻が同じ男女を比較しても,職業の分離が見られるこ ルを学び続けるため,両者の間には顕著な格差が持続する とから,教育ルートのジェンダー差は,全体のなかの一部 .限られた証拠が示唆するところでは,教育 (第 3 章参照) の要因にすぎないことが伺える.理工系の学位取得者のう ルートのジェンダー差は,雇用のジェンダー差へ,最終的 ち,物理,数学,工学に関連する職業に従事しているのは, には生産性と賃金のジェンダー差へと移行していく a. 男性が 55%,女性は 33%である.一方,理工系の学位を  限られた人しか大学教育を受けない発展途上国では,雇 もつ女性の 22%が教師になっているが,男性の場合はわ 用の結果に大きな影響を及ぼすのは,主に教育水準――― ずか 13%である.同様の差異は他の学習分野でも見られ 高等教育のなかでは,学位の種類――である.インドネシ る d. アの場合,普通中等教育を修め,高い学力があれば,男女  生来の能力や学業成績のジェンダー差では,高等教育へ とも大学を卒業する可能性が高くなるが,労働市場での結 のアクセスや教育ルートの選択の違いは説明できない.し 果に対する影響は男女で異なる.ディプロマでも学士号で かし厳格な能力区分と学習分野の選好におけるジェンダー も大学の学位があれば,男性も女性も雇用の可能性は大幅 差でなら,説明することができる.関連する個人的特性を に増える.大学の学位があれば,女性は基本的に公式部門 調整すると,先進国の成績最上位集団の男子が男性優位の での賃金労働への入口に立てる.しかし男性の場合,雇用 学習分野を選択する確率は他の男子より 10%高かった. の可能性はさらに広がると見られる. しかし,女子の成績最上位集団や,女性優位の分野とジェ  教育水準も高等教育の就学率も男女ともに高い先進国で ンダー中立的な分野では,テストの得点が選択に与えた影 は,学習分野(専攻)のジェンダー差が,労働市場の結果 “要求度の高 響は有意なものではなかった.また高校で, を決める上で重要になりつつある.男性と女性が異なる専 ” ま た は“ 世 評 の 高 い(prestigious) い(demanding) ” 攻に集中していると,そのパターンは職業におけるジェ という特性に区分された学習プログラムを選択すると,男 ンダー差に直結する.例えば,14 の先進国における高等 子は大学で男性優位の分野を専攻する可能性が大幅に増え 教育の卒業生に関する情報によれば,経営幹部の地位に就 るが,女子はそうはならず,女性優位の分野を専攻する可 いているのは,男性の 6%に対し女性は 3.8%で,事務的 能性は男女ともに減るのである e. な仕事に雇用されているのは,女性の 11%に対し男性は a. Clifford 1996; Goldin and Katz 2008; Morris 他 2006; Stevenson 1986; 及び,本報告書のために新たに委託された研究である Flabbi 2011; Giles and Kartaadipoetra 2011. b. Giles and Kartaadipoetra 2011; World Bank 2010b. c. Flabbi 2011. d. 同上 e. 同上 ンでは,時間の使途におけるジェンダー差と,ジェ  第 2 の見解は,時間があって初めて生産用投入 ンダー間職務分離との関係に焦点を当てる.時間使 資源が活かされる場合がある,つまり十分な生産性 途のパターンが,他の多様な(ジェンダーの)結果 を上げるためには,最低限の時間確保が必要となる や個人や世帯の福利に与える影響については,他章 活動もあるということである.例えば,市場で販売 で論ずる. するための農産物の生産は,家と市場を往復する時  世帯内の時間配分に関するこの議論を形作ってい 間が十分確保できて初めて利益が出せるだろう.同 るのは,時間と時間使途についてのふたつの基本 様に(公式部門の)賃金雇用では,特定の活動を遂 的見解である.第 1 に,世帯は「生存に関連する」 行するために,固定の勤務時間や 1 日または 1 週 個人的な活動――調理,睡眠,水の入手,最低限の 間当たりの最低労働時間が求められるかもしれな 生活物資の確保――に,最低限の時間を割り当てる い.その意味で,自由裁量時間がとれるかどうか 必要があるということである.これらの仕事に手が と,自由裁量時間がいつどのくらいとれるかが予想 回って初めて,他の活動に時間を充てられる(すな 可能であることの両方が,特定の種類の活動を引き 60 わち自由裁量時間) .自由裁量時間の使い方につ 受けられるかどうか,という個人の能力に影響を与 いてのジェンダー差は,市場指向の活動(賃金雇用 えると考えられる. など)をはじめとする,生存のためではない全ての  この議論では,生産活動の主な 3 つのカテゴリー 活動に従事する男女間の能力差となる. ――家事労働,家族の世話(子どもおよび老人), CHAPTER5 職務におけるジェンダー差とその重大性 217 図 5.8 経済機会へのアクセスとその結果生じる職務分離は,世帯,市場,制度と,それらの相互作用の産物である 制度 非公式 経済機会 市場 世帯 エージェ 人的資本の ンシー 形成 公式 の制 度 成 長 出所:世界開発報告 2012 チーム 市場性の仕事または有給労働――に割り振られる時  第 2 の事実は,女性は家事労働と家族の世話を 間におけるジェンダー差に焦点を当てる.家事労働 まともに背負い,男性は市場性の仕事に責任をもつ に含まれるのは,代替市場が潜在的に存在しうる再 ことが多いが,国によってこうした分化の度合いは 生産活動(調理,水の入手)で,市場性の仕事に含 異なるということである.サンプルとなった全ての まれるのは,市場で販売される商品の生産を行う有 先進国と発展途上国で,女性は男性よりも家事労働 給・無給の労働である.第 4 のカテゴリー(飲食, と子どもの世話に多くの時間を充当しており,男 自分のケア,睡眠,教育,余暇,コミュニティへの 女の時間差は,カンボジアとスウェーデンの 1.5 倍 参加,社会的活動など,生存に関連する個人的活 から,イタリアの 3 倍,イラクの 6 倍までさまざ 動)についての情報はデータで入手可能であるが, まである 63.しかし市場性の仕事に,女性が男性 これらの活動への時間配分にはジェンダーや国家に と同等に時間を費やしている国はひとつもなかっ よって大差はないと考え,議論から除外する(ボッ た 64.スウェーデンでは,女性が市場活動にかけ クス 5.7). る時間は男性の 7 割程度で,パキスタンではおよ .他の低・中所得国につい そ 1/8 である(図 5.9) 最初は愛情,次に結婚,そして赤ちゃんが生まれる ても,アメリカについても,別の研究者が同様のパ  顕著で体系的な時間使途のジェンダー差を特徴づ ターンを証拠で裏づけている 65. けるのは,3 つの定型化された事実である.第 1 の  第 3 の事実は,時間使途のパターンにおけるジェ 事実は,全生産活動(家事労働,家族の世話,市場 ンダー差は,主に家族の形成が決定要因となってい 性の仕事)を考慮すると,男性より女性の方が働い るということである.結婚すると,女性は家事労働 ているということだ 61.この結果は,各国の調査 に費やす時間が大幅に増えるが,男性はそうではな 62 データによって完全に裏づけられている . い.調査に関連する個人と世帯の特性を調整する 218 世界開発報告 2012 ボックス 5.7 時間使途のパターンにおけるジェンダー差の分析に使用するデータの概要  時間の使途のデータは,ある期間――通常,1 日(24 限定されている国もある. 時間)または 1 週間――での様々な活動や仕事に充てた時  大半の調査では,個人と世帯の特性に関するデータも提 間を詳述したものである.そのような情報を収集するには, 供されているが,すべての調査に同じ特性が含まれている 調査対象者に,その期間に行った数々の活動に充当した時 わけではない(Berniell と Sánchez-Páramo は,分析に 間を記録してもらう必要がある.活動の数や性質,情報を 使われた主な変数とその入手先に関する情報を提供してい 記録する手段は,国や調査によってまちまちなので,国家 .例えば,家計所得についての情報は,23 カ国中 18 る) 間比較を行うには,たいていなんらかの標準化が必要とな カ国でしか得られない.必要な情報がない場合,サンプル る. はデータのある国だけに限られる.加えて,6 カ国では時 –   本報告書では,1998  2009 年に集められた 23 カ国の 間の使途に関する情報は,1 世帯につきひとりの情報しか データを使用している.11 カ国についての情報は,多国 手に入らないので,分析は個人レベルでしか行えない. 間生活時間研究(MTUS)のものである.どの地域もまん  時間の使途についての集計データは,アルゼンチン,ア べんなくカバーするため,そこにさらに 12 カ国(主に発 ルメニア,オーストラリア,オーストリア,ベルギー,ブ 展途上国)のデータを加えている.12 カ国のデータは国 ルガリア,エストニア,フィンランド,インド,イスラエ レベルで実施した調査からのもので,MTUS のデータと比 ル,日本,リトアニア,ポーランド,スウェーデン,トル 較できるように標準化してある.活動は 4 つの集計カテゴ コ,ヨルダン川西岸地区およびガザについても入手できる. リー(家事労働,子どもや病人や老人の世話,市場性の仕 この情報を上述の生活時間調査の情報と組み合わせ,国別 事,生存にかかわる活動や個人的活動)に分けられ,活動 平均を出したり,集計データの国家間比較を行ったりして に配分した時間は 1 日当たりの時間で表している.データ いる. –  は 15 歳以上の個人のものだが,対象年齢が 18  65 歳に 出所:Berniell and Sánchez-Páramo 2011b. と,大半の国では既婚女性が家事労働に充てる時間 女にとっても異なる.家事労働における収斂と,家 は,独身女性よりも 1 日当たり少なくとも 1 時間 族の世話における収斂の多くは,男性の充当時間の (30%)多い.同様に子ども,特に幼い子どもがい 増加によるものというより,主に女性の充当時間の ると,男女ともに世話の時間が大幅に増えるが,増 減少によるものだ.さらに収斂は,家事労働や家族 え方は女性の方が多い.5 歳未満の子どもがいると, の世話よりも市場性の仕事での方が強力である(図 –  世話の時間が 1 日当たり 1.0  2.8 時間(国によっ 5.10).女性は市場性の仕事で相当な割合を担って て異なる)増加するという関係があり,年長の子ど いるときでも(横軸),家事労働や家族の世話にか –  も(5  –  17 歳)がいると,1 日あたり 0.1  1.0 時間 .また, なり大きな責務を背負い続けている(縦軸) 増加する.これに対応する男性の変化は,幼い子ど 家事労働と家族の世話への男性の貢献度は,ガーナ –  もがいる場合は 0.1  1.0 時間の増加,年長の子ども よりフランスの方が概して大きい(所得に応じて増 –  がいる場合は 0.1  0.5 時間の増加である.参考まで 加)が,どちらの国でも大半の妻は就業状況に関係 に,独身女性が世話に費やす時間は 1 日当たり平 なく,これらの活動の 40%以上(家族の世話につ 66 均で 30 分,独身男性は 6 分である . いては 50%以上)の時間を負担している 68. かね  結局,ジェンダーは金 より強力なのである.例 教育水準の高い富裕層の,小さいけれど顕著な差異 えばアメリカの場合,女性の家計所得全体に対する  夫婦(カップル)の時間使途は,所得と教育水準 相対的貢献度が上昇するとともに,女性が担う家事 が上昇するにつれて収斂(同一化)していく.とは 労働は夫婦の貢献度が等しくなるまで減少していく いえ教育水準の高い富裕層の間でも,総じて差異は が,その後は増加に転じるのだ 69.要するに,規範 残っている.家事労働への充当時間のジェンダー差 に基づく所得のあり方(男性が女性よりも収入が高 の平均値は,夫婦が裕福になり教育水準が上がるに い)から逸脱している夫婦やカップルは,より伝統 つれて減っていくが,差異の 1/2 から 2/3(国に 的な家事分業を行うことで埋め合わせしているらし よって異なる)は,未解明のままである 67. い.女性が男らしい行動(収入を得るために働くな  この収斂が意味することは,活動によっても,男 ど)をとる方が,男性が女らしい行動(家事や家族 CHAPTER5 職務におけるジェンダー差とその重大性 219 の世話をするなど)をとるよりも 図 5.9 女性は家事労働と家族の世話をまともに背負い,男性は市場性の仕事に 受容しやすいのかもしれない 70. 責任をもつことが多い そのため,市場性の仕事により多 10% イラク 86% くの時間を配分すると,たいてい 11% パキスタン 71% 女性が総仕事量の増加という犠牲 25% アルメニア 84% 26% を払うことになってしまうのであ ティモール 72% 26% コスタリカ 81% る 71. 28% グアテマラ 86%   興 味 深 い こ と だ が, 男 女 の 31% イタリア 77% フォーカスグループへの面接で得 31% イスラエル 75% 31% られた定性的情報が,家族の世 メキシコ 74% 32% 話,家事労働,主たる稼ぎ手の責 オーストリア 74% 33% スペイン 75% 務に関する男女の役割が世界中で 35% 南アフリカ 71% 深く根を下ろしていることを裏 ドイツ 36% 64% づけている.「あなたやあなたの 36% インド 81% 36% パートナーは,日中何をしていま ポーランド 67% オランダ 36% すか」との質問に,女性は「夫は 64% 36% ウルグアイ 74% 主に家の外で仕事をしている」, 37% イギリス 65% 男性は「妻は主に家族の世話と家 38% フランス 65% 38% 事に専念している」とそれぞれ正 ベルギー 63% 39% しく答える.ところがどちらのグ キルギス 77% 39% ノルウェー 61% ループも,パートナーが行ってい 40% カナダ 62% るあまり伝統的ではない活動に関 アメリカ 40% 61% しては,かなり偏った見方をして 41% フィンランド 63% 41% いるのである(ボックス 5.8). ラトビア 67% 41% スウェーデン 59% 41% エストニア 65% 家庭内の事情が,家庭内で収ま 41% スロベニア 64% らない カンボジア 42% 60%  時間の使途におけるジェン 0 50 100 男女が費やす合計時間のうち,女性が費やす割合 ダー差が意味しているのは,女 市場性の活動 家事労働と家族の世話 ジェンダー平等 性は市場性の仕事に関連する重 大な固定コストに直面している ため,より柔軟な労働条件を重 市場性の活動 家事労働 子どもの世話 んじ,男性よりも市場性の仕事 に充てる時間が減る傾向にある スウェーデン ということである.市場性の仕 3.2 4.6 3.2 2.3 0.6 0.3 事にかかわる高い固定コストは, 特に(公式部門の)賃金労働に パキスタン おける固定の勤務時間や最低労 0.6 4.7 5.5 2.5 1.2 0.2 働時間の要件と,女性が主要な 女性 = 12 時間 責務を負っている他の活動の編 男性 成を,その要件に合わせて調整 出所:時間使途に関する調査に基づく,世界開発報告 2012 チームの試算. する必要性から生じている.そ れらはまた,女性には,市場性 220 世界開発報告 2012 図 5.10 男女の時間使途のパターンは,家事労働や家族の世話よりも市場性の仕事でより強く収斂している ガーナ メキシコ フランス 100 100 100 のうち妻が費やす時間の割合(%) のうち妻が費やす時間の割合(%) のうち妻が費やす時間の割合(%) 家庭における夫婦の合計労働時間 家庭における夫婦の合計労働時間 家庭における夫婦の合計労働時間 50 50 50 ガーナでは,妻がすべての 家計収入を稼いでいても, フランスでは,妻がすべ 妻が家事労働の 80%以上 ての家計収入を稼いでい をやっている ても,妻が家族の世話の 50%をやっている 0 0 0 0 50 100 0 50 100 0 50 100 市場における夫婦の合計労働時間 市場における夫婦の合計労働時間 市場における夫婦の合計労働時間 のうち妻が費やす時間の割合(%) のうち妻が費やす時間の割合(%) のうち妻が費やす時間の割合(%) 家事労働 家族の世話 出所:France time use survey 1998, Ghana LSMS 2005, Mexico time use survey 2009 に基づく世界開発報告 2012 チームの試算. の仕事の増加に伴って増える総仕事量を抑制する としても,パートタイムの仕事を足がかりにフル 力に限界があることを示している. タイムの仕事に戻る女性は少ないため,パートタ  実際,有給の賃金雇用者として働く女性は,無給 イムでの経験が往々にしてフルタイムの仕事に戻 労働者や自営業の女性と比べ,家事労働の時間の変 る可能性を減らしてしまう,という証拠がある 75. 化に対する調整コストが高い.男性はそうではな 加えて大半の先進国では,一時的にパートタイム い.さらに,夫が家事労働に充当する時間は,妻が の仕事をすると,かえって不利益を被る.不利益 無給労働者や自営業の場合よりも,妻が有給の賃金 の度合いは国によってまちまちだが,フルタイム 労働者として働いている方が際立って多い.それゆ の仕事に戻った女性が,同様の仕事に対して低い え,女性が有給の賃金労働に従事するためには,家 時給レートを適用されたり,長期で働いても昇給 72 庭内の時間配分の調整がさらに必要となる 率が低かったりするのである 76.  家事労働や家族の世話を継続する必要性があるた  幼い子どもの世話のためにキャリアを一時中断す め,市場性の仕事に就きたい女性にとっては,労働 るというのは,稼ぎ手と母親の役割を両立させるた 条件が柔軟な仕事や労働市場への出入りが容易な仕 めに女性が選択してきた第 2 の方法である.先に 事は特に魅力的であろう.しかしこのような選択に 論じたとおり,中断すると女性たちの実際の労働経 は,女性が次第に質の悪い仕事に従事するように 験は減り,フルタイムに戻った後も結局は低賃金・ なったり,女性の労働市場への参加率が減少したり 低昇給につながる 77.この“ママの罠”(mommy- する潜在的なリスクがからむ場合もある. trap)によって,労働者と母親というふたつの役割  高所得国で柔軟な労働条件と言えば,通常,公 をもつ女性は,男性とは異なるキャリアパスを進ま 式のパートタイムの仕事である.オーストリア, ざるを得ないことは明らかである. ドイツ,スウェーデン,イギリスでは,家族に対 する責務からパートタイムで働く女性の割合はか なり高く,40%を超える 73.しかし,パートタイ 「果物,野菜,それに穀物の繁殖や栽培が,生 ムの仕事のおかげで女性は仕事と家族の世話を両 計を立てるのに一番よい方法です.家からそ れほど離れてないところでできて,ある程度 立できるかもしれないが,それによって質の低い . のお金も稼げますから」 仕事から抜け出せなくなる可能性がある 74.ヨー ロッパとアメリカでは,子どもをもつことによっ モルドバ都市部の若い女性 て一時的に女性がパートタイムで働くことになる CHAPTER5 職務におけるジェンダー差とその重大性 221 ボックス 5.8 日中何をしているのか? 異性の時間使途のパターンについての見方 「世界開発報告 2012 ジェンダーと経済的選択にかんする質的研究」の一環  18 カ国の発展途上国の若い男性と女性に, として,自分と異性の時間使途のパターンについて回答してもらった.  18 カ国すべてで,男女ともに,女性は家族の世話と家事労働を多くやり,男性は市場性の仕事により多くの時間を充 当していると答えた.すべての労働活動を合わせると,男性よりも女性の負担の方が大きい.このことは,時間使途の調 査データに一貫している.  しかし,両性の報告に一致が見られるのはここまでである.異性について尋ねられると,女性は,男性が行う“女性的 な”活動(家族の世話や家事労働)の時間を大幅に過小評価しており,これらの活動に男性が充当する時間(1 日当たり) は,平均で女性は 0.96 時間と考え,男性自身は 2.04 時間と答えることから,両者には 113%の差がある.また,男性 は女性が行う“男性的な”活動の時間を大幅に過小評価しており,女性が市場性の仕事にかける時間(1 日当たり)は平 均で,男性は 1.65 時間と考えるが,女性自身は 2.24 時間と答え,47%の差がある.両性とも,異性が余暇を楽しむ時 . 間については過大に考えがちで,男性の余暇についての方が差が大きい(ボックス図 5.8.1)  このような見方の差は,国によって程度の差はあっても,ほとんどの国に存在し,都市部でも農村部でも見られる. ボックス図 5.8.1 伝統的なジェンダー役割にそぐわない活動と余暇に,異性が費やす時間を過少評価する 家事労働と家族の世話 市場性の仕事 余暇を楽しむ 10 9.53 8 7.11 7.34 6.44 1日あたりの時間 6 5.07 4.96 4.65 4.04 4 2.04 2.42 2 1.65 0.96 0 女性の 男性の 女性の 男性の 女性の 男性の 女性の 男性の 女性の 男性の 女性の 男性の 回答 見解 見解 回答 回答 見解 見解 回答 回答 見解 見解 回答 女性が費やす時間 男性が費やす時間 女性が費やす時間 男性が費やす時間 女性が費やす時間 男性が費やす時間 出所:“Defining Gender in the 21st Century: A Multi-Country Assessment” (dataset) に基づく世界開発報告 2012 チームの試算. 注:調査したのは,アフガニスタン,ブータン,ブルキナファソ,ドミニカ共和国,フィジー,インド,インドネシア,リベリア,モルドバ,パプ アニューギニア,ペルー,ポーランド,セルビア,南アフリカ,タンザニア,ベトナム,ヨルダン川西岸地区およびガザ,イエメン共和国のフォー カスグループ.  発展途上国では,全労働に占める公式の賃金労働 は男性よりも,労働力から離脱している時間が相当 の割合が少なく,一般に労働条件の柔軟性は特に自 長く,公式部門の雇用への移動が少なく,無職と非 営業および非公式の仕事という別の形をとる.就業 公式の自営業の間を行き来する確率が高い 79.こ 状況についてのデータがある 8 カ国では,家事労 うしたジェンダー差の主因は世帯の形成である.一 働の負担が重い女性ほど,より柔軟な労働条件の仕 般に,結婚し子どもをもつことと,公式部門での雇 事,自営業,無給の家族労働に従事する傾向が強 用の減少および自営業の増加との間には関連があ い.家族の世話についても同じことが言える.一部 る.対照的に,独身女性(子どもがいる人も含む) の国では男性が同様の行動をとるが,結果はそれほ は,男性の移動パターンとはるかによく似ており, 78 ど一定したものではない . 子どものいない独身女性は,通常,公式部門に多く  時間の使途と家族の世話におけるジェンダー差 . 存在している(図 5.11) は,労働市場での移動や労働市場への参加における  仮に女性に時間があっても,その時間を市場性の ジェンダー差に変化しうる.アルゼンチン,ブラジ 仕事に充てるかどうかという女性の決断(とおそら ル,ガーナ,メキシコ,セルビア,タイでは,女性 く能力)は,多くの場合,夫や家族のメンバーが経 222 世界開発報告 2012 部門で女性の生産性を上げる要因や,市 図 5.11 メキシコとタイでは,既婚女性は,男性や独身女性よりも,無 職と非公式の自営業の間を行き来する確率が高い 場性の仕事への移動コストを減らす要因 があれば,女性は他の活動から市場性の a. タイ 仕事へと時間を配分しやすくなる.同時 16% 18% に,女性が市場性の活動への時間の再配 27% 労働力から離脱 24% 分をどの程度やれるか,または進んでや 5% 自営業 7% 3% ろうとするかは,既存の制度の制約,例 11% えば柔軟な(公式の)労働条件が使える 10% 12% かどうかなどと,経済主体としての女性 の役割に関する社会規範,そして個人の b. メキシコ 選好によって決まる. 29% ) 20% 40% 労働力から離脱 44% 時間と市場:市場性の仕事への復帰と子 " 9% 自営業 5% どもの世話がもたらす影響 6%  様々な市場指向的活動に参加するた 13% 15% め,女性がより強力な経済的インセン 11% ティブに反応できるかどうかは,労働 女性,独身,子どもなし 市場に左右される.労働市場がうまく機 女性,独身,子どもあり 能していれば,家庭で必要となる労働力 女性,既婚,子どもなし 女性,既婚,子どもあり は,家庭内の資源を再編するのではな 男性 く,不足している労働力を雇って補え 出所:Bosch and Maloney 2010. る.例えば,収穫期に多くの人手を要す る農村部の世帯の場合,地元の労働市場 営する(家族)会社が労働力を必要としているかど から追加の労働者を雇用できれば,家族の他のメン うか次第である.インドネシアでは,自営業の夫を バーは,生産性や所得が収穫の仕事よりもおそらく もつ妻は,賃金労働者の夫をもつ妻と比べ,無給労 高い,家族会社や賃金部門の仕事で働き続けること 80 働者の可能性が著しく高い .家族会社の無給労 ができる 81.世帯が市場から労働者を十分に雇用 働者が自律した所得を受け取る可能性が低い以上, できないときには,逆のことが起こる.バングラデ 女性が世帯の資源に対するコントロール力,つま シュ,エチオピア,インドネシアの農村部の非農業 りエージェンシーをもつ可能性も低いだろう(第 4 の家族会社では,世帯内の労働力への依存度が高い 章参照). ため,家族のメンバーへの労働の配分に関する決定  要するに女性は労働市場への参加率が低く,働い は,家族会社で家族の労働力がどのくらい必要とさ ている期間でも資源に対するコントロールが弱いこ れているかによって決まる 82. とから,経済的に不安定で,経済的自立が難しく,  女性の反応もまた,家事労働,特に家族の世話に 年金などのセーフティーネットへのアクセスも少な 充当する時間を――市場を通じてその責務を外部に いのである(第 4 章ボックス 4.1 参照). 委託するか,家庭内で再配置するかして――女性が 減らす力をもっているかどうかによるだろう. 時間の制約を取り除く:市場,公式の制度,社会規範, (補助金による)子どもの保育(や高齢者の介護)   及び選好 サービスへのアクセスは,労働時間の増加と,発展  夫婦(カップル)や世帯における時間使途のジェ 途上国では女性の公式部門での雇用と関連がある. ンダー差は,家庭,家族の世話,市場性の仕事にお つまり,公式の保育サービスへのアクセスが向上す ける生産性と,家庭の時間を市場性の仕事の時間へ れば,女性はもっと柔軟な働き方ができ,潜在的に と置換する男女の能力の差から生じる.家事や有給 は公式部門での雇用を追求できるようになる,とい CHAPTER5 職務におけるジェンダー差とその重大性 223 うことを示唆している 83.だが,保育サービスと されるようだ 92.電気へのアクセスが,市場性の いう選択肢がなければ,逆のことが起こる.ボツワ 仕事に費やす時間に与える影響に関しては,もう少 ナ,グアテマラ,メキシコ,ベトナムでは,保育 し確実な証拠がある.もしかすると電気によって家 サービスがないために,母親たちは公式部門から非 事の時間が減り,市場指向的活動への時間が補われ 84 公式部門の雇用へと移動せざるを得ない . たのかもしれない 93.  しかし,子どもの保育(や高齢者の介護)サービ  対照的に,交通インフラへの投資は,通勤時間を スの利用料が高ければ,その影響力は弱まる.例え 短縮し移動性を向上させて,経済機会への女性のア ば,アメリカの特に教育水準の低い女性の間やグア クセスを増やす(第 4 章参照)94.女性は自分が テマラでは,高い保育料によって,労働意欲がそが 抱える数々の責務を考え,通勤距離と通勤しやすさ れてしまっている 85. をもとに仕事を選ぶことが多く,選択肢は地元の仕  手頃な料金の保育サービスは,貧困国や貧困世帯 事に限られてしまう.このような制約は,中心部か にとって重要である.そのような場所にこうした ら離れた周辺地域に住む貧しい女性にとって特に深 サービスがないと,女性は子どもを仕事に連れてい 刻である.そうした地域でもっとも見つけやすいの くか,他の家族のメンバーの世話に任せることにな は,非公式の生産性の低い仕事だからだ. る.パキスタン,ペルーおよび 10 カ国のアフリカ  したがって,交通インフラには投資するだけの 諸国では,働く母親の 40%が仕事に子どもを連れ 価値が十分にある.ペルーの農村部では,調査対 て行く.または,年長の特に娘が,母親が外で働い 象の女性の 77%が,再建された道路や鉄道が利用 86 ている間の世話を受けもつ . できれば,「もっと遠くまで移動できると思う」と 答え,67%が「もっと安全に移動できると思う」, 時間と公式の制度:基本的なサービスの提供と柔軟な 43%が「より多くの収入が得られると思う」と答 労働条件 えた 95.バングラデシュの農村部では,道路が改  制度もまた時間の使途に影響を与える.無給・有 善した結果,労働力の供給が男性で 49%,女性で 給の仕事に従事する男女の相対的な生産性を変えた 51%増えた 96. り,市場性の仕事に関連する取引コストを減らした  制度の変更によってパートタイムの仕事を可能に りするためだ. することでも,市場性の仕事に対する女性の取引コ  20 世紀に先進国で電気や水道が使えるようにな ストを下げられる.そうすれば,市場部門での女性 ると,家庭では家事労働を低コストでできるように の生産性が上昇したり,有給労働に配分する時間が なった 87.しかし家庭における生産性の向上が時 増加したりするだろう.しかし多くの国では,パー 間の使途に与えた影響は少なく,そのため市場性の トタイム労働は法的に認められていない.また,認 仕事への女性の進出にもたいして影響しなかった められている国でさえ,公式部門での求人の大半は 88 .時間の節約に役立つこうした技術革新によっ フルタイムの職である.男女が担う家事の責務は不 て,家事の時間が減るというよりも,食事の支度に 均衡なため,女性は他の活動にかけられる時間が少 かかる時間が減り,買い物の時間と家庭の仕事をや ない.そのため短時間勤務の仕事が限られていたり りくりする時間が増えて,仕事の構成が変わったの まったくなかったりすると,公式部門へ加わる女性 だ 89.20 世紀の半ば以降,市場性の仕事に女性の の能力は削がれ,非公式部門で働く可能性が増え 参加が増えたのには,家電製品の所有率の上昇との る.パートタイムの仕事の有無と公式部門への女性 90 関連があった が,女性の家事労働の減少は,他 の労働参加との間にみられるこの関連性は,託児所 の家族のメンバーが行う家事労働の増加で相殺さ やデイケアセンターの利用可能性の増加が,雇用の 91 れ,合計の家事労働時間は微増した . 結果に与える影響について調べた研究によって,裏  発展途上国で女性が市場性の仕事に配分する時間 づけられている. に,水と電気が総じてどのくらいの影響を与えてい  先進国では,世帯の形成とパートタイムの仕事の るかもまた不明確である.水に関しては研究数が少 間には強い関連性がある 97.イギリスでは,子ど なく,結果もその時々の介入策や状況によって左右 ものいない独身女性がパートタイムの仕事に就く 224 世界開発報告 2012 可能性は,子どものいない独身男性と比べ 6%多い 人の選好も,市場性の仕事にどのくらいの時間を割 が,子どものいない既婚女性では 24%,幼い子ど り振るかという女性の決断に影響を及ぼす.特に, ものいる既婚女性の場合は 50%多い.発展途上国 母親や家族の世話係としての女性の役割に関する伝 では証拠はもっと限られているが,その主な理由は 統的な個人的見解(「仕事をしている母親は,仕事 非公式の仕事の割合が高いためである.しかし,イ をしていない母親と同等の,温かく安定した関係を ンドと南アフリカでも多国籍企業の場合,柔軟な勤 子どもと築くことができる」という意見に対する 務時間に対する従業員の要求は,スペイン,イギリ “不一致度”で評価)は,有給労働に配分する時間 98 ス,アメリカ並みに高い .企業がこの要求に応 に,極めて大きなマイナスの影響を及ぼす 103. えているのか否か,またどう応えているのかについ  主に富裕国に該当することではあるが,選好は短 ては,あまり分かっていない. 時間(パートタイム)労働で働くという選択にも影  アルゼンチンでは,パートタイムの契約増ととも 響を及ぼす.オーストラリア,オランダ,イギリス に女性の労働参加と公式部門での雇用がともに増加 では,夫やパートナーのいるパートタイム労働の女 し,公式部門における女性の雇用は,パートタイム 性は,仕事の満足度が高く,労働時間を変えたいと 労働者が多い部門ほど増えた.子どものいる既婚女 はあまり思わず,家庭での性別役割分担の度合いが 性は,子どものいない既婚女性と比べ,公式部門で 高い 104.対照的に,ホンジュラスでは労働需要が の雇用が 9%増え,自営業が 7%減った.これは, 少ないことから,多くの女性はパートタイムよりも –  非公式部門における女性の雇用が 4  5 %減少した フルタイムの仕事をしたいと考えている 105. のに匹敵する 99.  ものの見方と姿勢の世代間伝達に関する最近の研  そうはいっても,パートタイムの仕事や労働条件 究によって,家庭内での母親の地位と経済参加の決 が柔軟な仕事には,低賃金,低昇級,パートタイム 定能力が,社会規範の動態に重要な役割を果たして 期間の終了後フルタイム雇用の可能性が低い,とい いることが分かった 106. う不利益を伴うことが多い.よって,パートタイム  規範と選好における変化というのは,最初はた の仕事や労働条件が柔軟な仕事を用意すべきではあ いてい緩慢だが,デモンストレーション効果が強 るが,既存の職務分離を強めるような,究極的には まるにつれて加速する傾向がある 107.オランダの 家族の世話の責務に関する性別役割を強めるような 男性雇用者のパートタイム労働を取り上げてみよ やり方で,パートタイムの仕事を利用すべきではな う.パートタイム労働者は,高度な専門職の男性 い.従業員はもちろん経営幹部や役員にも女性が増 「パパの金曜日(daddy Fridays) 数人がごく最近, 」 加している会社が,職務分離を避ける方法について を試行し始めるまで,圧倒的に女性が多かった. の識見を示してくれる . (ボックス 8.8 と第 8 章参照) この新しい方法は,最初はなかなか受け入れられ   なかったが,ひとたび前例が出来上がると,男性 時間と非公式の制度:選好と社会規範 のパートタイム労働者の割合は急上昇し,25%近  経済的領域における性別役割についての社会規 くになったのである.この変化は,この柔軟な勤 範もまた,女性の雇用の結果に影響を与える.女 務時間を 1 人以上の管理職の男性が早期に実践し 性が市場性の仕事へ参加することについての伝統 た企業でより速く進み,そのデモンストレーショ 的な見方や価値観は,世界中で女性の雇用が少な ン効果が浮き彫りになった 108.問題は,この比較 いこと(と男女の賃金格差が大きいこと)と関係 的自然に広がった学習プロセスが,政策介入で促 100 がある .しかしその影響は,家族内の個人の地 進できるかどうかである.それには,市場性・非 位――父,母,娘,嫁など――と世帯構造によって 市場性の活動への男女の時間配分に影響を与える 左右される.インドでは,娘よりも嫁のほうが仕 既存の制約を克服するようなやり方で,「自分もこ 101 事の負担が大きい .メキシコでは,シングルマ の働き方を試したい」というインセンティブを生 ザーの時間使途と市場性の仕事への時間配分は,男 む政策介入が必要である. 性世帯主のものとよく似ている 102.  妻,母,経済主体としての女性の役割に対する個 CHAPTER5 職務におけるジェンダー差とその重大性 225 ボックス 5.9 世帯主の性別か,世帯構成か:政策にとって最も重要なのは何か?  資産の所有と使用に関する評価は,個人より世帯を単位 し,われわれは労働年齢の男性がひとり以上いる女性世帯 として行われることが多い.その結果,土地へのアクセス 主世帯と,労働年齢の男性がひとりもいない女性世帯主世 と土地利用におけるジェンダー差の分析は,たいていの場 帯とを分けている. 合,農業者の男女個人の比較ではなく,女性世帯主世帯と  おそらく当然のことだが,男性のいる女性世帯主世帯は, 男性世帯主世帯の比較にならざるをえない. 男性のいない世帯よりもたいてい暮らし向きが良く,男性  だが,女性世帯主世帯と男性世帯主世帯を比較すると, 世帯主世帯と同等にやっている場合もある.この結果が示 ジェンダー差が誇張される可能性がある.世帯内にいる労 唆しているのは,政策設計とターゲット設定にあたっては, –  働年齢(15  59 歳)の人数と被扶養者数を考慮しないた より細かな差異によって農村部の世帯を分類することが妥 めだ.労働年齢の人数に対し被扶養者の割合が低い世帯は, 当かもしれないということである. 高い世帯よりも,多くの収入を得られる.この事実を考慮 出所:WDR2012 チーム. 生産用投入資源へのアクセスにおけるジェン 帯では 64%である.労働年齢の男性がいる女性が ダー差と職務分離 世帯主の世帯の場合は 61%である.女性が世帯主  生産,投資,成長の規模を決めるのは,生産用投 の世帯は男性が世帯主の世帯よりも土地の使用も少 入資源である.農業者は,土地,労働力,水,種 ない.これら 16 カ国の平均で,土地を使用してい 子,肥料,殺虫剤,機械類など,作物を生産するた るのは女性が世帯主である世帯の 83%(労働年齢 109 めの投入資源に依存している .企業家には労働 の男性がいる女性が世帯主の世帯は 86%)に対し, 力と,事業規模と事業を行っている部門によっては 男性が世帯主の世帯では 89%である(図 5.12). 資本が必要である.信用へのアクセスは,農業者に 概して,全農業者についてのデータがあるところで も企業家にも不可欠である.ここでは,土地と信用 は,女性が自ら使っている土地を所有しているケー は他の投入資源へのアクセスだけでなく,生産規模 スはあまりない.ラテンアメリカでは,国によって と生産様式をも決定づけるという見解に基づき,土 –  割合は異なるが,農地の正式な所有者の 70  90% 地と信用へのアクセスにおけるジェンダー差に焦点 は男性である 110. を当てる.そのためには個々の農業者や企業家を比  女性が世帯主である世帯が所有・使用する土地の 較するのが一番だろうが,データの制約により,農 面積は,男性が世帯主である世帯と比べて小さい. 業に従事する女性が世帯主の世帯と男性が世帯主の 特に図 5.13 が示すデータでは,女性が世帯主の世 世帯の比較や,企業家の男女の比較には限界がある 帯が所有する土地は,男性が世帯主の世帯が所有す ことが多い(ボックス 5.9). る土地より 22%小さい.男性のいる女性が世帯主 の世帯との差は,土地の所有に関しては 21%,土 土地と信用へのアクセスとそれらの利用における 地の使用に関しては 26%である 111.ベニンでは, ジェンダー差 女性が所有する土地面積の平均は 1 ヘクタールだ  女性農業者と企業家は,男性農業者と企業家と比 が,男性は 2 ヘクタールである 112.ブルキナファ べ,土地と信用にアクセスできていない.土地への ソでは,男性が所有する土地は,女性のおよそ 8 アクセスを,土地の所有権で評価しても,土地の利 倍である 113.また両国を除くアフリカの 4 カ国で 用能力で評価しても,ジェンダー差は残る.同様 は,女性が耕作する土地の平均面積は,男性のそれ に,信用の要求も使用も,男性農業者や企業家より の 1/3 から 2/3 である 114.同様の証拠はラテンア も女性の農業者や企業家の方が少ない. メリカでも見られる 115.  概して,女性が世帯主である世帯は男性が世帯主  たとえ土地へアクセスできても,女性の土地保有 である世帯よりも土地の所有も使用も少ない傾向が 権は男性よりも不安定である.ほとんどの発展途上 ある.5 つの開発途上地域にある 16 カ国について 国では,女性の土地の権利は,制度としてはそう 見てみると,土地を所有しているのは女性が世帯主 なっていなくても,現実には厳しく制限されている である世帯の 55%に対し,男性が世帯主である世 (第 4 章参照)116. 226 世界開発報告 2012 図 5.12 女性世帯主世帯は男性世帯主世帯よりも土地の所有や利用が少ない傾向がある 農村部世帯における 農村部世帯における 土地の所有 土地の使用 アルバニア バングラデシュ ボリビア ブルガリア ガーナ グアテマラ インドネシア ケニア マラウイ ネパール ニカラグア ナイジェリア パキスタン パナマ タジキスタン ベトナム 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 土地を所有している世帯の割合(%) 土地を使用している世帯の割合(%) 女性世帯主世帯(15 –5   9 歳の 女性世帯主世帯(男性なし) 男性世帯主世帯 労働年齢の男性が 1 人以上いる) 出所:World Bank/Food and Agriculture Organization database の入手可能な直近のデータ  顕著なジェンダー差は,信用(特に公式の信用) 19%と 9.8%となり,従業員が 5 人以上の企業にな 117 へのアクセスとその使用にも見られる .世界銀 ると,それぞれ 18%と 16.5%となる 120.アフリ 行(World Bank)および国連食糧農業機関(FAO) カの公式部門の企業間では,女性企業家の信用への のデータによれば,過去 12 カ月の間,女性が世帯 アクセスは,男性企業家と同等である 121. 主の世帯は男性が世帯主の世帯よりも信用を供与さ  しかしながら,アクセスに関するデータは解釈に れなかった(男性 28% に対し,女性 24%)が,1 注意を要する.信用の要求におけるジェンダー差 人以上の労働年齢の男性がいる女性が世帯主の世帯 と,金融機関へのアクセスおよび金融機関の対応に (26%)はその差がやや少ない(図 5.13)118. おけるジェンダー差の両方が反映されうるからだ.  加えて,女性が経営する企業は男性が経営する企 女性企業家は,男性企業家に比べ,融資を一度も申 業よりも融資を受けにくい.とはいえ,その差は企 し込んだことがない確率が高い 122.また申し込む 業規模の拡大とともに減少し,公式部門の企業間で にしても,頼母子講やマイクロファイナンス機関か あればもっと小さい 119.グアテマラでは,自営業 ら借金することが多く 123,男性よりも信用が制約 の男性の 14%に信用へのアクセスがあるが,自営 されがちである 124. –  業の女性の場合は 7%である.従業員が 2  4 人い  マイクロファイナンスの急速な伸びが,女性の る企業家の男性と女性の場合,その数値はそれぞれ 信用制約を緩和してきたのは間違いない.2007 年 . 「女性には融資を求めようにも頼る資源がありませんし,どんな形の支援も援助もありません」 アフガニスタン農村部の成人女性 CHAPTER5 職務におけるジェンダー差とその重大性 227 にはマイクロファイナンス機関の顧客は 1 億 5480 図 5.13 過去 12 カ月間に,農村部の女性世帯主世帯 万人に達したが,そのうち 1 億 660 万人は最初に は,男性世帯主世帯よりも信用を供与されて 融資を受けたときに最貧困層に属しており,その いない 83.4%は女性だった 125.しかし,マイクロファイ 農村部世帯の信用へのアクセス ナンスが公式の金融サービスへのアクセスをどの インドネシア くらい向上させたのか(個人が信用記録を蓄積す ベトナム る一助となるなどして)や,融資が少額であるこ ネパール とを考えると,もう少し大きな額を借りたいと思っ マラウイ ている女性への制約が,マイクロファイナンスの ブルガリア おかげでなくなったのかどうかについては定かで グアテマラ はない 126. パナマ ガーナ 土地と信用へのアクセスにおけるジェンダー差 は,農業者と企業家におけるジェンダー分離にど 0 10 20 30 40 50 60 70 80 過去 12 カ月間に,信用を んな影響を及ぼすのか  供与された割合  土地と信用へのアクセスにおけるジェンダー差 女性世帯主世帯 男性世帯主世帯 は,生産におけるジェンダー差へつながりやすい. (男性なし) 第 1 に,生産用投入資源をもっと使おうとする意 女性世帯主世帯(15 –5   9 歳の 欲と能力は,土地と信用の影響を受けるためだ.第 労働年齢の男性が 1 人以上いる) 2 に,市場へのアクセス,投資の決定,成長潜在力 は,農業者や企業経営者に対する既存の制約と,そ 出所:World Bank/Food and Agriculture Organization database の入手可能な直近のデータ. れらを克服する彼らの能力を,ある程度反映するか らである.つまり,土地と信用へのアクセスにおけ るジェンダー差は,投資を行い,規模拡大を目指し が,投入資源の利用と機械化を決定づける 129.投 て経営し,新たな経済機会から利益を得ようとする 入資源の利用と機械化は不可分であり,その不利益 農業者や企業家の男女の相対的な能力に影響を与え を受けているのは主に女性であるが,それは女性が るのである. 耕す土地面積が男性に比べて小さく,単位当たりの  狭い土地,不安定な土地の権利,厳しい信用制約 生産コストが高いからである.信用(とお金)の制 が組み合わさり,女性農業者が投入資源や農業技術 約も大きな問題である.化学肥料の利用を阻む最も を利用する能力は限られている.女性は男性より 顕著な障壁のひとつは,資本である.また,証拠は も,化学肥料,殺虫剤,改良品種の種子などの農業 少ないものの,機械化には多額の出費が必要なこと 127 用投入資源へのアクセスが少ない .われわれの を考えると,一部のジェンダー差は信用制約によっ データベースにあるすべての国では,女性が世帯主 て説明がつくとみられる.女性は男性と比べ換金作 である世帯は男性が世帯主である世帯よりも化学肥 物の栽培が少ないが,それは農業用投入資源や機械 料を使う確率が低く,その差はパキスタンの 25% に投資しても採算がとれないということかもしれな 128 からニカラグアの 2%まで幅がある .機械化― い 130. ―トラクターや送水ポンプなどの農業機械の利用―  土地,信用,労働力へのアクセスにおけるジェン ―についても同じことが言える.女性が世帯主の世 ダー差も,市場へアクセスしたり,新たな経済機会 帯と男性が世帯主の世帯の機械類の使用率の差は, を活用したりする女性の能力に影響を与える.わ グアテマラとニカラグアのおよそ 20%からインド れわれのデータベースにある 16 カ国中 14 カ国で ネシアとタジキスタンの 1%未満まで幅があるが, は,女性が世帯主の世帯は男性が世帯主の世帯に 大半の国では差は 5%以上ある(図 5.14). 比べて,農業生産高のうち市販へ回す割合が少な  土地面積,より一般的には単位当たりの生産能力 い(例外はバングラデシュとニカラグア).市場へ 228 世界開発報告 2012 図 5.14 生産用投入資源と市場へのアクセスは,男性世帯主世帯よりも,女性世帯主世帯の方が少ない a. 農村部における化学肥料の使用 b. 農村部における機械化 バングラデシュ ニカラグア パキスタン グアテマラ アルバニア ブルガリア ベトナム グアテマラ アルバニア ブルガリア パナマ ナイジェリア ナイジェリア パナマ ネパール ガーナ バングラデシュ マラウイ マラウイ ガーナ ネパール タジキスタン ニカラグア インドネシア 00 10 1020 3040 2030 4050 5060 6070 8090 7080 90 00 5510 1015 1520 2025 2530 3035 3540 4045 4550 50 00 55 10 10 15 20 25 15 20 25 30 3 化学肥料を使用する割合(%) 機械類を使用する割合(%) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 c. 農村部における市場へのアクセス パキスタン ベトナム インドネシア アルバニア 女性世帯主世帯(男性なし) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 0 5 10 15 20 25 30 ネパール グアテマラ ケニア バングラデシュ –5 女性世帯主世帯(15    9 歳の労働 マラウイ 0 70 80 90 ニカラグア0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 0 10 15 20 5 年齢の男性が 25 30 35 1 人以上いる) ボリビア タジキスタン ブルガリア ガーナ 男性世帯主世帯 パナマ ナイジェリア 0 35 40 45 50 0 5 10 15 20 25 30 35 市場指向の生産者の割合(%) 出所:World Bank/Food and Agriculture Organization database の入手可能な直近のデータ. のアクセスにおけるジェンダー差は,パキスタン 女性農業者は男性農業者よりも農地が狭く投資が少 が最大(25%)で,ガーナとタジキスタンが最少 ないことも,女性農業者が輸出部門に参入する際の –  (2  3 %)であり,この 2 国は全体の市場浸透率も 障壁となっている 135.ナイジェリア北部では,単 最低である(図 5.14 参照).市場へのアクセスに 位当たりのコストの高さと厳しい信用制約のため おける男女差は,輸出向けの農業ではさらに顕著で に,女性のオオムギ農家(請負で販売用の作物を育 131 ある .グアテマラの中央高地では,サヤエンド てる農家)は男性に比べ,灌漑農業を実施すること ウとブロッコリー(この地域で輸出用に栽培される が難しい 136. 最重要 2 種)についての契約のうち,女性が結ん  土地と信用へのアクセスにおけるジェンダー差 だ契約はわずか 3%である 132. も,事業を開始し,投資し,成長する女性農業者の  南アフリカ,セネガル,中国では,加工会社の経 能力を弱める.土地保有の安定性が確保されるほ 営者は男性と輸出契約を結びたがる.女性は生産用 ど,農業への投資と生産性が増す 137.ニカラグア 資産へのアクセスが限られ,土地に対する制定法上 では登録証書(公共の不動産譲渡証書であれ,農地 の権利がなく,家族(つまり,潜在的な農業労働 改革の権利証書であれ)を所持していると,土地に 133 力)に対する支配力が弱いためだ .グアテマラ 付随した投資を行う可能性が 35%高まるが,信用 では,女性が単独の――共同ではない――土地の所 へのアクセスにはまったく影響がない.このことが 有権をもっていると,輸出向けの非伝統的な農作物 示唆しているのは,土地の保有が安定すると,公式 134 の生産に非常に参入しやすいことが分かった . の土地所有につながり,投資に影響を与えるという CHAPTER5 職務におけるジェンダー差とその重大性 229 ことである 138. つながる可能性もある.対照的に,生産用投入資源  信用制約はまた,女性の起業,投資の決定,事業 へのアクセスにおけるジェンダー差の多くは,経済 の成長にとって深刻な障害となる.欧州委員会の最 発展や特定の市場の密度や範囲の影響はあまり受け 近の研究によれば,起業を目指す女性にとって主な ない 144. 障害となっているのは,資金調達へのアクセスの難 しさである 139.発展途上国の新興企業に注目した 市場:土地市場と信用市場における男女差別と差 研究は少ないが,入手できた証拠が示す内容は概ね 別価格設定 同じである 140.インドでは,マイクロクレジット  土地市場と(公式の)信用市場は,女性農業者や へアクセスしている人々のなかで,既に事業を行っ 企業家が土地と信用へのアクセスを向上させる上 ている女性は耐久財の消費が増えた.今後,事業主 で,あまり役立つ手段にはなってこなかった 145. となる可能性が高い女性も同じだったが,同時に, また,一方の市場での不平等が,もう一方の市場で 非耐久財の消費が減った.これは起業のため固定費 の不平等を強めることもよくある――土地はよく信 を払う必要があることと矛盾しない 141. 用の担保とされ,土地の取得にはたいてい信用が必  信用と貯蓄機構へのアクセスもまた,企業家の投 要である. 資の決定に影響を与える.ケニアでは,頼母子講な  男女差別と差別価格設定が組み合わさると,市場 どの非公式の貯蓄手段が利用できるにもかかわら へのアクセスは減る.世界には,女性が土地市場と ず,貯蓄口座へのアクセスが,男性ではなく女性の 信用市場で差別を受ける地域がある 146.ヨーロッ 零細企業家が行う生産的な投資や支出に多大なプラ パ・中央アジアでは,女性が経営する企業は,男性 142 スの影響を与えた .資金調達へのアクセスが制 が経営する企業よりも高い金利を払い(平均 0.6% 限されていると,特に零細・小企業の事業は伸び悩 高い),この地域で金融面の発展が最も遅れている む.このような企業は担保を入れられない可能性が 国々では,金利差はさらに大きい 147.イタリアで 高い上,彼らを対象にした金融商品は数が限られて は,借り手の特性と事業および信用市場の市場構造 143 いるからである . を考慮しても,女性が経営する零細企業が払う金利 は,男性が経営する零細企業が払う金利よりもおよ 土地と信用へのアクセスに対する制約を撤廃する そ 0.3%高い 148.  生産用投入資源へのアクセスのジェンダー差は,  女性に対する高い金利は,信用度という観察可能 経済発展よりも,市場,制度,世帯とそれらの相互 な指標における男女差を反映している可能性もある 作用によって説明できる.投入資源(特に信用)へ し,借り手としての女性の返済実績に関する客観的 の女性のアクセスは,市場価格によって男性よりも な情報がないなかで,女性に金を貸すリスクに対す 制限されうる.同様に,公式・非公式の制度上の制 る貸し手の見方を反映している可能性もある.女性 約も,たとえ意図がなくても,男女のアクセスに異 は男性よりも(公式の)金融システムに関わる可能 なる影響を及ぼす可能性がある.また,世帯の選好 性が少なく,借り手としての女性の潜在的な返済実 (と根底にあるジェンダー規範)が,女性よりも男 績に関する情報が欠けているため,女性だけに高い 性に有利な資源配分(たとえ非効率であっても)に 金利が適用されがちなのである. 「融資を受けたいのなら,あらゆることを慎重に考えるべきだと思います.1,000 万ドンの融資を受ける としたら,それで何をやるか考えないと.私なら収入を得るために,最初の数カ月で家畜を飼うと思い ます.ブタとかニワトリの繁殖のために,多少お金を使い,そして繁殖で得たお金で借金を返すのです. こうして自分には借金を返す手段ができます.融資は私の家族に仕事を作ってくれるだけでなく,経済 . 状態を改善してくれるのです」 成人女性,ベトナム 230 世界開発報告 2012  とはいえ,公式の信用へのアクセスに対する市場  信用に関して言えば,公式の,場合によっては非 と制度の制約(この後,論じる)は,金融革新を通 公式の制度によって適用される法規や規定によっ して,また小企業のニーズに応えるための信用モデ て,女性が多くを占める小規模の農業者や生産者の ルを作り変えることで,克服できる(第 7 章ボッ アクセスが制限されている.信用を得るにはたいて クス 7.5 参照). い担保(土地や不動産が望ましい)が必要なため, 女性は不利な立場に置かれる.女性は男性よりも, 公式の制度:土地の権利,土地分配プログラム, 土地へのアクセスが少なく不安定であり,資本基盤 金融規制 が脆弱で仕事の成果に実体がないサービス業で多く  土地市場と信用市場の制度構造は,たいてい女性 働いているからである.インドでは,女性農業者は に不利なものである.相続や結婚の体制や土地所有 土地の名義がないために,制度における信用へのア 権の付与は固定化され,土地の所有と蓄積における クセスが大幅に制限されている 155.中東では,女 ジェンダー差が拡大することもある(第 4 章参照) 性が経営する中小企業はたいていサービス業で,融 149 .夫婦の財産制度は,結婚時に持参した資産や 資の査定のベースとなる機械類などの有形資産がな 婚姻中に獲得した資産の所有とコントロールを左右 いため,銀行は事業の成果を数量化しづらい 156. するだけでなく,寡婦になったり離婚したりした場 加えて,申請手続きには夫や父親の署名が必要で, 150 合の女性の生活を決定する .女性が夫の後見下 女性はお金を借りたくても思いとどまってしまう 157 にあるとされている場合,夫婦財産のコントロール .同様の要件は,非公式の金融機関やマイクロ とたいていは所有権も,夫とその家族のもとに置か ファイナンス機関でも見られることもある 158. れる――そのため多くの女性は,結婚の破たんや夫  非公式の制度を通して信用を得る場合は,その組 の死亡の際,財産を奪われがちである.同様に,一 織体系と会員構成,支配的な規範によって,女性の 族の男性だけに財産が受け渡される慣習法に基づく アクセスが制限される.例えばマラウイでは,農民 父系の相続システムでは,女性は家族経営の農地で クラブ(小規模農業者にとって,信用と農業改良普 働く無給の労働者の地位へ追いやられるか,最近増 及事業のサービスを受けられる主要な窓口のひと えているほとんど土地をもっていない世帯の場合 つ)の会員規定によって,既婚女性は正会員の資格 151 は,農業賃金労働者の地位へと追いやられる . を剥奪され,独身女性や一夫多妻婚の女性は恥辱を エチオピアとフィリピンでの証拠によれば,結婚と 受けるため,彼女たちはクラブが提供できるサービ 相続によって,男性にはより大きくより質の良い資 スの恩恵をなかなか受けられない 159. 152 産(土地など)が受け渡される .  女性はまた,国家が後押しする土地再分配プログ 非公式の制度:ジェンダーに基づく選好と世帯内 ラムから,利益を得られる可能性が低い.ラテンア での生産資源の配分 メリカ 13 カ国の土地改革プログラムでは,女性の  ジェンダーに基づく選好によって,同一世帯内の –  153 受益者の割合は 11  12%だった .大半のケース 男女への資源配分が不平等になる可能性がある.例 では,アクセスのジェンダー不均衡は,これらのプ えばラテンアメリカでは相続法上の男女の扱いは平 ログラムの制度構造に原因がある.こうしたプログ 等だが,自らの死後の遺産の分配についての個人の ラムの対象となるのはたいてい世帯主(かつては男 選好には,土地などの資産へのアクセスに関して, 性しか認められなかった)で,受益者は 1 人に制 ジェンダー不均衡が存続していくかもしれない.メ 限されることもあるため(おそらく不正防止のた キシコで遺書を詳しく調べたところ,土地の相続 ,男性が利益を得る確率の方がはるかに高かっ め) 人に選ばれていたのは,配偶者と息子がそれぞれ た.このことは,ジェンダー差が政策改革で緩和で 39%で,娘は 9%だった 160. きることを示唆している.コロンビアでは実際,土  ジェンダーに基づく選好は非常に強力なため,生 地の共有名義の義務化を実施したところ,農地改革 産資源の非効率な配分と家庭内の資源の不完全な蓄 による受益者の女性の割合は 11%から 45%へと上 積につながるだけでなく,男女のアクセスにマイナ 154 昇した . スの影響を与えつつ,それらを支える要因となる. CHAPTER5 職務におけるジェンダー差とその重大性 231 ブルキナファソでは,生産用投入資源の配分で男性 在的雇用主が彼女の仕事の能力の可能性についてほ がコントロールする区画への選好が起こることに とんど情報をもっていないからである.同様に,村 より,家計所得合計で推計 6%の損失が生じる 161. の女性企業家が資本をニワトリの購入に充てるの パラグアイでは,信用へのアクセス向上によって受 は,その収益率が最も良いからではなく,村の他の ける恩恵は,男性より女性(信用に制約のない世帯 女性が皆やっているからかもしれない.つまり彼女 の女性を含む)の方が多く,このことは,同一世帯 は,利益を生む他の方法についての情報がないた 内の男女間で金融資源が効率的に蓄積されていない め,自分のネットワーク内の他者の行動を真似てい 162 ことを示唆している . るのである.  しかし,人々の行動は経済機会に確実に反応し,順  異なる制度の構造や規定も,主体者たる人々の制 応し,それが新たなチャンスを広げていく.カメルー 度へのかかわり方や,人々の相互作用に影響を与え ン南部とガーナ西部では,非常に労働集約的な昔から る.また,制度の構造や規定が,たとえジェンダー の輸出作物であるココア栽培で労働需要が高まるにつ に中立的だと思われていても,ジェンダー差別的な れ,女性の交渉力が向上したことから,多くの夫がコ 行動や影響につながる場合もある.このような「制 コアの植え付けと栽培と手伝った妻への報酬という形 度の失敗」は,職務分離の一因となりうる.例え の“間接的手段”によって,妻が土地を相続できるよ ば,エチオピア農村部の女性農業者は,地域の農業 163 うにし,昔からの慣例を回避した .その結果,個 改良普及事業のサービスの利用が限られてきたらし 人の土地所有が増加し,土地に関する女性の権利が いが,それはこれらのサービスがターゲットとして 強まったのである. いるのは男性が栽培する作物だからである.同様 に,育児休暇中の給与を,税金で賄うのではなく雇 用主が支払う場合,生殖可能年齢期の女性が公式部 市場と制度の失敗の “ 集合 ” が及ぼすジェン 門で仕事を見つけるのは難しくなるかもしれない. ダーへの影響 そういう女性の雇用は同等の男性の雇用より潜在的  市場と制度――その設計と作用――はそれ自体 に高コストだと雇用主はみなすからである. が,そこに生きる主体者たる人々の産物であると同 時に,人々の相互作用の産物である.市場の参加者 何を知っているか,誰を知っているかが重要だ: がどの程度情報を共有し伝達するかによって,彼ら 情報とネットワークへのアクセスが及ぼすジェン の行動と,究極的には市場の結果が決まる.情報に ダーへの影響 おける「市場の失敗」は,情報が欠如していると  一部の市場では女性の数が少なく,女性の仕事の き,または一部の参加者が他者よりも多くの情報を 能力についての情報が欠如していることから,特に もっているときに起こる.これらの失敗は男女の雇 “試行”と“学習”を促す代償措置がない場合には, 用の結果に影響を与えることから,ジェンダー間職 情報の欠如によって女性の労働参加はさらに低下す 務分離の一因となる. るかもしれない.多くの国では,公式の民間部門で  例えば,生産工学を専攻し最近卒業した女子学生 女性の労働参加が少なく,雇用主は女性労働者の生 は,民間企業に就職できないかもしれない.彼女を 産性を適切に予期することが難しい.そのため彼ら 採用しない限り全員が男性である会社に,女性の労 は女性労働者の雇用を控え続け,その結果,女性の 働者がうまくフィットするか,雇用側は確信がもて 雇用へのバイアスが持続する(このような行動を通 ないからだ.つまり彼女が仕事に就けないのは,潜 常,統計的差別と言う).  こうした話は信用市場でも同様に見られる.女性 のアクセスが制限されているため,女性の潜在的な 「企業で男性向けの仕事の空きがあれば,採用 返済能力を知ることができないからだ.主観的なコ . されるのは男性でしょうね」 ストなどに男女差があり,社会規範が強まると,こ 成人女性,セルビア都市部 の問題は悪化する.例えば民間金融機関の間で,十 分に返済実績のある借り手への選好が起こると,女 232 世界開発報告 2012  マイクロファイナンスの拡大は,信用市場で似た 「皆,[仕事を]ネットワークやコネで見つけ ようなデモンストレーション効果を生んできたのか ます.働いている人を知っていれば,その人 もしれない.女性にターゲットを絞り,借り手の好 . たちが仕事の空きを教えてくれます」 調な実績と高い返済率を促す融資提供のメカニズム 南アフリカ都市部の若い女性 を設計することによって,マイクロファイナンス機 関は女性の返済実績に関する莫大な情報を生みだし た.今では女性に融資すると概ね高い収益が見込め るということで,従来の信用提供者をも引きつけて 性が圧倒的に多い小規模の農業・非農業企業に対す いる(第 7 章ボックス 7.5 参照). る信用が下がる可能性がある 164.  働く女性の割合が少ない一部の職業や専門職で  アメリカをはじめとする先進国では,アファーマ は,特に情報収集にコストがかかったり性別による ティブ・アクション(積極的差別是正措置)の政策 ネットワークが力をもっていたりすると,その職に によって,女性や少数民族などマイノリティの雇用 就こうとする女性に影響を与えるだけでなく,既に が後押しされ,彼らの仕事の能力についての雇用主 その職に従事している女性のパフォーマンスにも悪 の“学習”が進んだ.アメリカではこれらの政策に 影響を与える可能性がある.どちら側の女性たちに よって,多大な効率費用をかけずに雇用が白人男性 も,もっと多くの女性が加わることがメリットとな から女性や少数民族へと再分配された 165. る.アメリカで過去 100 年間に起きた女性の労働  アファーマティブ・アクションがない場合には, 参加の進展は,このように説明できる.働く女性の 公共部門における大勢の女性の雇用が,同様のデモ 割合が少なかったとき,人々の“学習”は極めて遅 ンストレーション効果を発揮する.富裕国では,公 く,女性の労働参加率の変化も小さかったが,働く 共部門の成長が女性を労働市場へ統合させる上で重 女性の割合が全労働者の半分に近づくと,学習が急 166 要だった .15 カ国の先進国のデータは,女性 速に進み,労働参加率も急激に変化した 168.投資 の労働参加率と女性の公共部門での雇用との間に非 と参加の決定は,実際の収益率ではなく主観的な収 常に強い相関があることを示しているが,男性の場 益率に基づいてなされることがよくあるため,ひと 合はその相関ははるかに弱い.さらに重要なのは, つの市場にある一定の割合以上の女性が存在しない 公共部門の規模が大きい国や公共部門の雇用が大き と,不完全な情報によって学習がさらに遅れてしま く伸びている国の女性の労働参加率の上昇は,公共 うのである 169. 部門と民間部門双方の雇用の増加によって強く促さ  女性の加入率が低いとか,もっとあからさまな性 れている,ということである.データのあるそのよ 別に基づく会員規定があるなどで,ネットワークへ うな 12 カ国のうち,男性よりも女性の方が公共部 の加入を妨げる障害があると,女性が情報を収集・ 門で働く確率が高かったのは 5 カ国だけで,可能 共有する能力――潜在的には市場へアクセスする能 性が低かったのは 4 カ国だった.残りの 3 カ国で 力――が制限され,女性の生産性が減ると考えられ は,関連する労働者の特性を調整したところ,ジェ る.女性は男性と比べ,非排他的な女性のネット ンダーは公共部門での雇用の可能性を説明する上 ワークに加わったり,大きな非公式の集団内の仲間 で,重要ではなかった 167. とつながったりする可能性が低い.「国際的起業家  発展途上国では,特に女性が既婚で教育水準が高 調査」(Global Entrepreneurship Monitor) の デ ー かったり,市場性の仕事への女性の参加が限られて タは,高・中所得国では,女性企業家は男性企業家 いたりするときには,公共部門の雇用の増加が公式 よりも,この調査による面接から過去 2 年以内に 部門の賃金雇用の主な,または唯一の機会となるこ 起業した企業家を知っている確率が大幅に少ないこ とが多い.エジプトでは,女性は公共部門の仕事に とを示している 170.同様にメキシコでは,男性企 集中しているが,その理由は,政府系の仕事は結婚 業家のネットワークに女性企業家が加わる難しさ 生活に適合しやすいと考えられていることからある が,事業の成長に向けて最も大きな制約のひとつに 程度説明できる(ボックス 5.10). なっている 171. CHAPTER5 職務におけるジェンダー差とその重大性 233 ボックス 5.10 エジプトにおける家族の形成と公共部門の雇用  2006 年,エジプトの都市部では,女性の雇用のうち民 は,結婚と離職の関連性が他の部門に比べて非常に弱い. 間企業が占める割合は 1/4 未満だった.農村部でのその割 1998 年から 2006 年の間に結婚した女性は,その間ずっ 合はさらに低く,8%程度だった.都市部では,働く女性 と独身だった女性と比べ,2006 年までに仕事を辞める確 の大多数は政府系(公共部門)の仕事に就いており,農村 .さらに,1998 年に 率がかなり高かった(約 14%の差) 部では政府系と家内企業の仕事が 70%以上を占めていた. 民間部門で働いていた 20 歳の女性が,2006 年までに結  公共部門の仕事は,女性の“生殖の役割”と両立しやす 婚しなかった場合,その間に離職する確率は 26%だが, いと言われてきた. “短時間勤務が利用でき,保育サービ 結婚した場合は 54%となる.これを公共部門で働く女性 スへアクセスしやすく,出産休暇に非常に寛容”だからで に当てはめると,それぞれ 16%と 22%になる.つまり結 ある.2006 年の調査では,直近の妊娠中も仕事を継続し 婚によって離職率は,民間部門では 28%,公共部門では たと述べた労働者の割合は,公共部門で著しく高かった. 6%上昇することになる.結婚が離職に与える影響は,公 仕事を続けながら出産した公共部門の労働者の 86%もが, 共部門の雇用者よりも非公式部門の雇用者で大幅に高い. 有給の出産休暇を少なくとも 6 週間与えられていたが,そ  公共部門と非公式部門の雇用者の間で,結婚後の女性の の割合は公式の民間部門ではわずか 47%だった.また, 離職率に差が出るのは,主に都市部の現象である.農村部 –  15  29 歳の働く女性で長時間労働に不満をもっている人 では,その差は統計的に有意ではなかった.それは,主に の割合は,公共部門(32%)よりも民間部門(50%)で 畜産と乳製品の加工の仕事からなる農村部の非公式部門の 非常に高い. 仕事が,公共部門の仕事と同等に,結婚と両立可能である  公共部門は離職も少ない.1998 年に働いていた女性が ことを示している.農村部では女性の生産的役割と再生産 2006 年までに仕事を辞める確率が一番低かったのは,政 的役割(生殖)を隔てる線が,はるかに不明瞭なのである. 府・公共部門の雇用者だった.具体的には,女性労働者の  都市部では,結婚後の仕事への定着率は家内企業で働く 民間企業からの離職率は,公共部門の女性労働者よりも 女性の間で最も高く,公共部門の雇用者よりも高いという 約 12% 高く,この差は統計的に有意だった.非公式部門 証拠もいくつかある.家内企業では勤務時間が非常に柔軟 の企業や家内企業で働く女性または自営業の女性の離職率 であると思われることから,この結果はまた,既婚女性は は,公共部門の女性労働者より約 35%高かった.この差 勤務時間と結婚生活が両立できれば,働き続ける可能性が は個人の特性を考慮しても残った. 高いことを裏づけている.  離職率に拍車をかけるのは主に結婚だが,公共部門で 出所:World Bank 2010a.  価値ある情報がこうしたネットワークを通してや ることはめったにない.空間的・社会的移動性に必 りとりされるほど,女性の経済的実績はアクセスの 要な,小売の取引先を増やし,輸送手段を自由に使 ジェンダー差によるダメージを被る.サハラ以南 い,加工施設を所有するための経済資源とコネは, アフリカ都市部にある,公式部門の企業について 通常,男性の手の内にある 174.こうした状況のな の投資環境調査(Investment Climate Surveys)の かで今,新しい情報通信技術(ICT)が,女性が直 データは,企業家の父親がいることと家業に加わる 面する時間と移動性の制約をいくらか取り除く大き ことが,会社の生産性を向上させることを示して な可能性を秘めている(第 6 章). 172 いる .要するに,ネットワークへのアクセスが  特定の職業への高い参加率と重要な(または“濃 増えると生産性が向上するとみられるのだ.しか 密な”)ネットワークも,マイナスの影響を及ぼす し,その影響は男性にのみ顕著であることから,女 可能性がある 175.新たな市場参入者は,既に参入 性はこの潜在的な強みがもたらすプラスの影響を弱 している同グループ出身者のところに群れがちで める,もっと大きな制約にぶつかっているものと考 あるため,分離が続いていくのである.この論理 えられる.女性は農村部の組織や協同組合への加入 は,学習分野によるジェンダー間分離と,教職の女 についても壁があり,そのため市場へのアクセスを 性過多を説明するために,教育文献で用いられてき 促すルートがさらに妨げられているのかもしれな た 176.適切な情報が欠如している限り,この現象 い 173.“市場の女王”として名高く,他の地域と は悪化していくだけだろう.例えば採用調査では, 比べて女性の移動性が大きい西アフリカ農村部の市 雇用主は“伝統的に女性の”仕事(看護)に対して 場でさえも,女性が上向きの経済的移動性を獲得す 男性を差別し,“伝統的に男性の”仕事に対して女 234 世界開発報告 2012 [仕事を得るどころか]見習いの機会を得ることさえすごく難しいの.見習いの仕事を紹介できるのは 「 . “内輪の人”だけだから,見習いになるのも大変なんです」 インドネシア都市部の若い女性 性を差別することがわかっている 177 が,これは部 畜産改良普及事業の場合は,女性が世帯主の世帯の 門によって雇用の選好が違うことが原因というより 79%が職員と接触していたが,男性が世帯主の世 も,不完全な情報から生じる差別を映し出している 帯ではその割合は 72%だった 180. 可能性が高い.  改良普及事業へのアクセスの男女差は,世帯内で さえも生じる.ガーナでは,男性が世帯主である ゲームのルールが重要だ:公式の(経済)制度が 世帯の 12%が改良普及事業の訪問を受けていたが, 及ぼすジェンダーへの影響 女性が世帯主である世帯は 2%だった.また男性が  男女に等しく役立つと思われる制度が,ジェン 世帯主である世帯で職員の訪問を受けた妻はわずか ダーの結果に目論見とは異なる差別的な影響を与 2%だった.ガーナは改良普及事業の女性職員数が えることもありうる.制度の設計や機能が既存の アフリカで最多水準の国のひとつであることを考え 不平等の産物である場合,制度が不平等を緩和する ると,この数字はとりわけ衝撃的である 181. ことはまずない.農業改良普及事業はこの点を例示  男性に偏ったサービスの提供が,改良普及事業へ する.他にも,ある特定の制度が直接取り扱うとこ のアクセスのジェンダー差の原因となっていること ろとは別の側面でのジェンダー不平等が,差別的な “意思 が判明している.このバイアス(偏り)は, ジェンダーの結果につながるような形で,その影響 決定を行うのは男性なのだから,男性により積極的 を及ぼしてくる場合がある.“ジェンダー中立的な” に働きかけるべきだ”という通念から発しているこ 労働法と人員採用の慣例は,この例である.どちら とが多い 182.そこには,教育水準の高い男性なら の場合も,個別の制度が及ぼす影響範囲でのジェン 家庭内の他のメンバーにも知識を伝えているはず ダー差を考慮しないために,さらなるジェンダー不 だ,という憶測もからんでいる 183.この推論は, 平等を生んでいる. 特に男女が従事している仕事や栽培する作物が異な るなど,世帯がひとつの単位として機能していない 農業改良普及事業はみんなのため? それとも男性だ 場合には,現状と合わないだろう.この男性に有利 けのため? なバイアスは,制度内の差別的な規範や慣行によっ  農業改良普及事業――相談サービス,情報,研 ても生じる.アメリカ農務省は,信用サービスへの 修,また種子や化学肥料などの生産用投入資源へ アクセスにおけるジェンダー差別に対し,訴訟を起 のアクセス――は,農業・畜産活動の生産性を向 こした女性農業者グループと最近和解した. 上させる.しかし多くの地域では,農業改良普及事  サービス提供に見られるバイアスは,改良普及事 業は概ね女性農業者を相手にしてこなかった 178. 業の職員の大半が男性であることからも生じる.世 ベトナムでは,女性は全労働人口のうち農業自営 界全体で女性職員の割合はわずか 15%であり 184, 業が 30%(男性の場合は 20%)を占めるが,畜 アフリカではたった 7%である 185.その結果,女 産 研 修 プ ロ グ ラ ム に参加した女性の割合はわず 性が出歩く(つまり職員を訪ねる)ことや,夫がい か 25%,作物栽培の研修プログラムではわずか ないところで男性と話をすることを妨げる社会規範 179 10%だった .インドのカルナタカ州では,土地 によって,改良普及事業への女性のアクセスが制限 を所有する男性が世帯主である世帯の 29%が,農 されている.加えて,男性職員は男性農業者をサ 業改良普及事業の訪問を受けていたが,女性が世 ポートしがちである 186.改良普及事業の資源は, 帯主の世帯ではその割合は 18%だった.対照的に, 女性の少ない,商業指向の大きな農場に配分されが CHAPTER5 職務におけるジェンダー差とその重大性 235 ちなことも,観察されるアクセスのジェンダー差の  育児休暇と退職に関する差別的な規定も,女性の 一因となっている. 労働参加に影響を及ぼす.大半の国では,女性には 何らかの出産休暇が与えられるが,日数や有給の割 労働法と採用・人事の慣例は,どのように女性を傷つ 合,誰がその給与を負担するのかなど,手当の中身 けるのか はかなり異なる.父親の育児休暇を認める国はもっ  労働市場の機能を調整している労働法や慣例は, と少なく,たいてい条件はもっと厳しい.また育児 ジェンダーに対して多大な影響をもちうる.労働時 休暇に男女差があると,女性の雇用に対する主観的 間の制限,雇用が可能な産業,育児休暇など,法律 なコストが上昇し,その結果,女性の雇用機会が減 そのものがジェンダーに焦点をあてている場合もあ る(第 7 章参照).また,退職年齢の差は多くの場 る.また雇用保護法などジェンダーに中立なはずの 合,子どもに対する保護本能によるものであるが, ものでも,その影響はジェンダーに中立とはならな これらの差が,生涯賃金,年金給付,出世のチャン い.採用と人事管理の慣例も女性にとって害となり スの格差を生み,女性は市場性の仕事に就く意欲を うる. 失うのである(第 4 章参照). ジェンダーに基づく法律が,女性の雇用の結果に与え “ ジェンダーに中立的な ” 法律と人事の慣例が,女性 る影響 の雇用の結果に及ぼす影響 インサイダー  多くの国では,市場性の仕事への女性のアクセス  公式部門の労働者(内 部の者)の職務保障を目 や女性が就ける仕事の種類に,制限が設けられてい 的とした雇用保護に関する法規は,これらの仕事 アウトサイダー る.アフリカでは,家の外で働くことについて,女 へのアクセスがない人や失業者(外 部の者)の犠 性は父親か夫から許可をもらうことが法律で決まっ 牲の上に成り立っている.失業率や臨時雇用契約 ている国が多く,女性が自分の銀行口座を開設・利 の発生率は,男性よりも女性と若者の間で著しく 187 用することができない国もある .加えて,労働 高く,またこれらの差は,雇用保護が限定的であ 時間と就業可能な産業の制限は,妊産婦や保育期間 るほど,また終身雇用と臨時雇用の差が大きいほ 中の母親,また潜在的に危険な仕事に従事している ど,顕著になる 189. 女性の健康に配慮した保護措置として導入されるこ  家内労働者に対する社会保障の規定も,ジェン とが多い.産業の制限は労働時間の制限より一般的 ダーへ大きな影響を及ぼす法律の明らかな例であ だが,両方が併存することもよくある.今はもう廃 る.世界中ほぼどこでも,家内労働者はたとえ公 止されたが,これらはスペインなど一部の先進国で 式の雇用であっても,雇用保険や退職手当,医療手 も,それほど遠くない過去に普通にあった. 当などの労働報酬へのアクセスが非常に限られてい  こうした制限は,女性の労働参加率の低さや労働 る.家内労働者の大半は女性のため,男性より女性 市場の分離の度合いの高さと関連があるとみられ 労働者の社会保障へのアクセスが大幅に減るのであ る.労働時間や就業可能な産業に何らかの制限を課 る 190. している国は,女性の労働参加率が 45%と概ね低  ジェンダー間職務分離は,企業内の仕事の割当て く(制限のない国は 60%),参加率のジェンダー格 や昇進の慣行に左右される.仕事の配分を行う人の 差は 45%と高い(制限のない国は 25%).女性の なかには,特定の仕事に対して意図的に一方の性を 就業を,昼間の時間帯や産業内の一部に限る措置 差別したり(ボックス 5.3 参照),性別で個人の生 も,女性の雇用機会を制限している可能性がある. 産性を判断し統計的に差別したりする人もいる.統 それによって雇用主は,女性が就ける仕事にも男性 計的差別は,たいていジェンダーの固定観念に基づ のみを採用しようとするからである.しかし,その いており,男性は合理的で女性は感情的だという固 全体的な影響を左右するのは,仕事に対する女性の 定観念から,管理職には男性が好ましいとされる 選好である――たとえ制約がなくても,鉱山労働や ことが多い 191.仕事と企業のジェンダー構成は, 過酷な肉体労働が要求される仕事を選ぶ女性はほと 応募者と採用者のジェンダー構成に影響を与える. 188 んどいないだろう . これは,仕事にはジェンダーのレッテルが貼られ 236 世界開発報告 2012 ていること,雇用主は従業員の個人的ネットワー ク・ループがある.これまで示したとおり,女性農 クを通して採用する傾向があることを示すものだ 業者,企業家,賃金労働者の間に見られる経済機会 ろう 192.要するに,人員採用のプロセスにかか へのアクセスにおけるジェンダー間分離は,3 つの わっている人々が,その仕事を特定の性にふさわし 要素が主な原因となっている.それらは,時間使途 いと考えるかどうかが,ジェンダーと職務(や職 におけるジェンダー差(主に家族の世話への責務の 域)との関連づけを強める――つまり,ジェンダー 差に起因),生産用投入資源(特に土地と信用)へ 間職務分離を強化する――のである. のアクセスにおけるジェンダー差,そして市場と制  産業と職業の分離は,昇進と権力のジェンダー差 度の失敗によるジェンダー差別的な影響である. 193 や,労働者の態度や行動の差になっていく .第  同時に,経済機会へのアクセスにおけるジェン 1 に,男性優位の仕事と女性優位の仕事の梯子(job ダー間分離は,時間の使途,投入資源へのアクセ ladder)は,1 段の間隔と梯子全体の長さが異なっ ス,市場と制度の失敗におけるジェンダー差を強 ており,それが移動性の性差を生む.男性優位の 化する.時間使途におけるジェンダー差を見てみよ 仕事の梯子(低い地位から高い地位へとつながる う.女性は低生産性・低賃金の仕事に雇用される傾 出世の道筋)は,女性優位の仕事の梯子よりも長 向があり,家事については男性よりも比較優位性が 194 い .また,女性優位の仕事の梯子は 1 段の間隔 ある.そのため,有給・無給労働における生産性の が狭く,そのため女性は昇進しても男性ほど高くは ジェンダー差は,家事労働と家族の世話の専門化 上れないのである 195.第 2 に,女性は,女性が多 (分化)に向かう既存のインセンティブを強め,時 い産業で管理職になりやすい 196.そのため男性も 間使途におけるジェンダー差を強化するのだ. 197 女性もたいてい同性の上司をもつ .第 3 に,男  同じことが生産資源のアクセスにおけるジェン 性と女性は異なる仕事や企業に集中し,企業内の ダー差についても言える.例えば,女性農業者の商 “チャンス体系”も性別で異なるため,労働力化へ 業化の度合いが低いと,女性の農地の生産性を高め の執着,出世欲,仕事への姿勢に差が生まれるので 市場へのアクセスを潜在的に向上させうる投資(生 ある.『フォーチュン』誌が発表する全米上位 500 産用投入資源を補充するといった直接的なものであ 社のデータによれば,昇進のチャンスのない事務労 れ,時間の節約につながる投資など間接的なもので 働者の大半は女性で,そのような仕事に就いている あれ)がなかなか行われないだろう.また,信用機 人は皆,仕事に専念するより同僚との社交を好むこ 関の間では,女性の事業は男性の事業に比べて成長 198 とが分かった .また,昇進の梯子上にある仕事 力に限界があるという認識が一般的なため,女性企 をやるのは大半が男性で,そのような仕事に従事し 業家の信用へのアクセスが制限されており,それが ている人は,男女問わずその専門的な仕事に専念し 成長の足を引っ張っている. 199 出世を望んでいた .  加えて,市場と制度の制約は互いに強め合う可 能性があるため,一方で前進があっても,もう一 方で前進がないと,経済機会へのアクセスにおけ 生産性の罠から脱出する:どのように,なぜ る男女平等にはつながらない.例えば,労働市場 やるのか? における教育の収益率が増えれば,女性の有給労  ジェンダー間職務分離とその原因,またそれら 働への参加にとって強力なインセンティブとなる が政策に与える影響を分析するため,本報告書の が,もし市場に,市場性の仕事への女性の参加を 枠組みを適用するとともに,分離を弱めるための 阻む伝統的な規範があれば,もっと多くの女性を 政策的措置の根拠について論じてきたわけだが, 引きつけることはできないだろう.また,制度が そこから生じた主な洞察を手短にふりかえって結 変わってより柔軟な仕事(パートタイム労働など) 論としたい. が認められれば,既存の時間的制約は弱まるだろ うが,(保育)ケアサービスの拡充などの補足的な 弱まるフィードバック・ループ,強め合う制約 措置がなければ,女性の雇用の結果に与える影響  職務分離とその原因との間には,フィードバッ は限定的かもしれない. CHAPTER5 職務におけるジェンダー差とその重大性 237 図 5.15 相互に強化しあう市場と制度の制約は,女性が生産性の罠にはまりこむ主因である 制度: 非公式 / 市場性 世話 家族の についての の仕事 規範 社会 経済機会 市場: 世帯: 労働力 / 信用 / 土地, 時間 / 資源の 市場,ネットワークへ 差別的配分 のアクセスの格差 エージェ 人的資本の ンシー 形成 バイ 公式の 法律 アス 制度: / 規 がかか 定 っ イン ,限ら た フラ れた 成 長 出所:世界開発報告 2012 チーム  ジェンダー間職務分離とその主な要因との間の の農業者のアクセスを男女平等にすると,発展途 フィードバック・ループが,互いに強化しあう市 –  上国の農業生産高が 2.5  4%増加する見込みである 200 場と制度の制約と一緒になって,女性を生産性の .特定の国々に関する踏み込んだ研究でも,同 罠に落とし入れているように見える(図 5.15).し 様の増加が指摘されている.例えば,女性農業者が たがって,この罠から脱出するには,時間の制約を 化学肥料などの農業用投入資源へ男性農業者と同等 撤廃し,生産用投入資源への女性のアクセスを向上 にアクセスできるようになれば,トウモロコシの収 させ,市場と制度の失敗を是正する介入が必要であ –  穫高が,マラウイで 11  16%,ガーナで 17%増え る.介入を成功させる鍵は,政策を順序づけるなど るだろう.ブルキナファソでは,女性の所有権を強 して多様な制約の問題を認識しながら,各文脈で最 化すれば,資源を追加しなくても――化学肥料と労 も拘束力の強い制約を適切に見極め,それらに的を 働力を男性から女性へ再配分するだけで――,世帯 絞りこむことである(第 7 章,第 8 章参照). 合計の農業生産高がおよそ 6%増えるとみられる.  女性労働者や経営者に対する差別を根絶すると, 生産性の罠からの脱出によって得られる利益 –  労働者 1 人当たりの生産性が 25  40%(労働力や  生産性の罠からの脱出によって得られる利益は, 経営陣からの排除のされ方や程度によって異なる) 数々の重要な側面で明らかになるだろう.経済機会 向上すると考えられる 201.また,特定の職業や雇 でジェンダー平等が進むと,生産性に大きな影響を 用部門への女性の参入を阻んでいる障壁を撤廃する 与えると考えられる.現在,世界全体の労働人口に と,同様のプラスの効果があり,男女の生産性の格 占める女性の割合は 40%を超え,農業では 43%を 差が減少するとみられる.例えばアメリカの場合, 占める.国連食糧農業機関によれば,生産資源へ –  1960  1980 年に南部と北部の間で収斂した賃金格 238 世界開発報告 2012 ボックス 5.11 ジェンダー平等についての企業の実例  女性の経済的エンパワメントを促進させると,事業にも 場を牽引してきたヒンドゥスタン・ユニリーバ社は,石鹸, 女性にもメリットのある状況が生まれることを自覚する企 洗剤,シャンプーなどの分野で 60%近くの市場シェアを 業が増えている. もつ.しかし,インド経済の自由化と P&G(ザ・プロク ター・アンド・ギャンブル・カンパニー)などの多国籍企 ベルコープ社:化粧品業界で 40 年以上の経験をもつこの 業への市場開放によって,収入や収益を上げる必要に迫ら 老舗企業は,高品質の製品で高い評価を受けている.北ア れた.1990 年代後半まで,ヒンドゥスタン・ユニリーバ メリカおよびラテンアメリカの 15 カ国での直販により, 社は次の大きなチャンスを探していた.それが,従来の流 9,000 人の従業員が生み出す年間収益は 13 億ドルに上る. 通網に入っていない小村への販路拡大である.  女性はベルコープ社のビジネスモデルと成功にとって不  インドの農村部にターゲットを絞るという事業の立ち位 可欠である.ベルコープ社の従業員の 80%,上級幹部の 置は明確だった.インドは中国に次いで世界第 2 位の人口 77%は女性である.この会社は,女性のエンパワメントを を抱える国であり,12 億人の国民の 7 割以上が農村部に 促進することが健全なビジネス戦略であることを早くから 住んでいるのだ.理屈は明快だが,インドの辺鄙な場所ま 認識していた.事業を通して,65 万人の美容部員(大半 で届く流通チャネルを構築するのは,それほど単純なこと は低所得世帯出身者)ひとりひとりに企業家になるチャン ではなかった.この会社はワゴン車で巡回するなどして, スを与えるとともに,ビジネス訓練や社会的ネットワーク 一部の農村ではすでに販売を行っていたが,大半の農村部 の形成やグループ活動から利益を得るチャンスを与え,本 は手つかずのままだった.そして魅力的な解決策を思いつ 人だけでなくその家族やコミュニティも教育しエンパワー いた.それは,女性の零細企業家のネットワークを通して, させている. 消費者に直接製品を届けるという流通システムである.  ベルコープ社のビジネスモデルには,3 本の軸がある.  こうして,消費者への直販流通ネットワークであるシャ 経済的支援(ビジネスチャンスと適切な訓練をセットで クティが作られた.45,000 人の女性の零細起業家を頼っ 提供) ,精神的支援(インセンティブ,認知,信頼の構築, て,人里離れた農村部にある 13 万 5,000 村 300 万世帯 また栄養や健康や子どもの養育などの問題の認識) ,社会 の市場を開拓したのである.この事業によって会社は新た 的支援(美容部員のネットワークに加わる機会の提供)で な競争力を獲得して利益を増やし,同時に女性たちの所得 ある. も増加した.また,商品を少量の容器に分けて農村部の貧 しい人々にも買える値段で販売することで,インド農村部 ヒンドゥスタン・ユニリーバ社:インドで長年にわたり市 の衛生と福利も向上させている. –  差の約 40%と,1960  2008 年に上昇した賃金総 未開発の資源なのである. –  額の 15  20%は,労働市場でのジェンダー差別と  経済機会へのアクセスにおけるジェンダー不平 202 人種差別の減少に起因していた . 等は,大半の国にとって,コストのかかるものに  こうした前進はさらに広範な利益をもたらすだろ なりつつもある.世界的に高齢化が進行している う.経済機会へのアクセスが増えるほど,家計所得 ことを考えると,現在,労働参加率が低いグルー などの資源に対する女性のコントロールは大きくな プ――要するに女性たち――の参加率を大幅に引 り,女性のエージェンシーが強まって,家族のメ き上げない限り,今後数年,数 10 年にわたって ンバー,特に子どもの利益につながっていく(第 3 増え続ける高齢者を,今よりも少ない労働者で支 章,第 4 章参照).民間部門は,市場性の仕事に参 えることになる.女性の参加率が現状のままであ 加する女性の増加と職務分離の減少を後押しするこ れば,ヨーロッパでは 2040 年までに 2,400 万人 とで,そこから利益を得られる.女性のスキルと の労働者が不足するとみられるが,もし参加率が 才能が,最大限活用される仕事で使われるからだ 男性並みまで引き上がれば,予想される不足分は (ボックス 5.11).このチャンスを生かすことが特 300 万人にまで減少する 203.また経済統合が進 に重要である.急速なテクノロジーの変化や情報通 んだ世界では,資源の利用効率を多少改善するだ 信技術(ICT)の普及によって,世界中で熟練労働 けでも顕著な効果があり,差別が少なく平等な国 者への需要が高まり,才能とスキルが求められてい ほど競争力を獲得できるのである(第 6 章参照). るなかで,女性――特に教育水準の高い女性――は CHAPTER5 職務におけるジェンダー差とその重大性 239 章のまとめ ジェンダー間職務分離が持続しているため,女性は低生産性・低賃金の仕事から抜け出せない. 注目点 産用投入資源へのアクセスにおけるジェンダー差は,市場 男性と女性の仕事は大きく異なっており,経済発展がもた へのアクセスを阻む障壁(土地市場と信用市場における差 らす就業構造の変化だけでは,ジェンダー間職務分離はな 別や差別価格設定など)と,制度上の制約(土地の権利, くすことができない.世界中どこでも,女性は低生産性・ 金融の規定や規制など)とが組み合わさって生じる.それ 低所得の仕事に集中している.女性は小農場で働き,小企 はまた,世帯内に,生産資源を男性に有利に配分する差別 業を経営し,無給労働者や非公式部門に偏在しており,権 的選好があることも示している.こうした差は,生産規模 力をもつ立場に就くことはめったにない. や生産性,投資と成長の能力におけるジェンダー差につな がりやすい. 注目の理由 市場と制度の失敗 家族の世話の責務と時間使途 女性の存在が限られた市場では,女性の能力や実績につい 女性は,家事と家族の世話の責務を過大に負担しており, ての理解や学習が進まず,これらの市場への女性のアクセ その結果,市場性の仕事に関連する重大な固定コストに直 スはますます減っていく.また,制度の設計と機能には, 面している.特に(公式の)賃金労働における固定の勤務 (意図があってもなくても)既存の不平等を持続させるよ 時間と最低労働時間の要件,また家庭での責務を調整する うな形で女性に対するバイアスがかかっているかもしれな 難しさが,市場性の仕事への女性の参加を阻む障壁となっ い. ている.家庭と社会における女性の役割に関する社会規範 も,家庭と仕事の折り合いに影響を及ぼす.そのため,女 政策にとっての意味 性はより柔軟な労働条件を重視し,市場性の仕事に充てる 職務分離が,時間使途と投入資源へのアクセスのジェン 時間が短くなりがちで,質の悪い仕事へ陥っていくリスク ダー差や,市場と制度の失敗と相互作用を起こすことに を負うのである. よって,女性は低賃金の仕事や,低生産性の事業にはまり こんでしまう.したがって,この生産性の罠から脱出する 土地と信用 には,時間の制約を撤廃し,女性の生産用投入資源へのア 女性の農業者や企業家は,男性の農業者や企業家と比べて, クセスを増やし,市場と制度の失敗を是正する介入が必要 どの国でも土地と信用へのアクセスが少ない.これらの生 となる. 240 世界開発報告 2012 注 1. Blau and Kahn 2000; Terrell 1992; Hertz 他 2009. 共同による RIGA データベースを使用.RIGA データベー 2. 全 文 献 に つ い て は FAO(2011) を 参 照 の こと. ま た スには,アルバニア ,バングラデシュ,ボリビア ,ブルガ Jamison and Lau (1982); Tiruneh 他 (2001); Horrell リア ,ガーナ,グアテマラ,インドネシア ,ケニア ,マラ and Krishnan (2007) も参照のこと. ウイ,ネパール,ニカラグア ,ナイジェリア ,パキスタン, パナマ,タジキスタン,ベトナムのデータが入っている. 3. Udry 他 1995; Udry 1996; Akresh 2008. サンプルは農村部を代表する国家. 4. 本章では,企業家 (entrepreneur) という単語は,従業 37. Bruhn 2009; Hallward-Driemeier 2011a; Sabarwal, 員のいない自営業者 (従業員なし)および雇用主 (従業 Terrell, and Bardasi 2009; Costa and Rijkers 2011. 員あり)のことを指す. 38. Hallward-Driemeier 2011a. 5. Sabarwal, Terrell, and Bardasi 2009; Bruhn 2009; Ha llwa rd-Driemeier 2011a; Ha llwa rd-Driemeier 39. Mead and Liedholm 1998; Bruhn 2009. 2011b. 40. World Bank 2010d. 6. Costa and Rijkers 2011. 41. Morris 他 2006. 7. Robb and Wolken 2002. 42. Aidis 他 2007; Bardasi and Gornick 2008; World Bank 8. Chaganti and Parasuraman 1996; Loscocco 他 1991. 2008. 9. Bosma 他 2004; Lohmann and Luber 2004; Kalleberg 43. Allen 他 2008. and Leicht 1991; Kepler and Shane 2007. 44. ILO 2010b; Anker, Melkas, and Korten 2003. 10. アメリカについては Blau and Kahn (2000); EU につい 45. Mayoux 1995. ては ILO (2009). 46. Bates 1995; Hallward-Driemeier 2011b; Verheul, van 11. Das and Dutta 2008; Whitehead 2009. Stel, and Thurik 2006; World Bank 2010d, World 12. オーストリア ,ベルギー,ブルガリア ,キプロス,チェコ Bank 2007, World Bank 2010a. 共和国,エストニア ,ドイツ,アイルランド,イタリア ,ラ 47. Horrell and Krishnan 2007; Tiruneh 他 2001; トビア ,リ ト アニア , ルクセンブルグ, オランダ, ポーランド, Alene 他 2008; Gilbert, Sakala, and Benson 2002; ポルトガル,ルーマニア ,スロバキア共和国,スロベニア , Kinkingninhoun-Mêdagbé 他 2010; Moock 1976; スペイン. Oladeebo and Fajuyigbe 2007; Saito, Mekonnen, and 13. Alene 他 2008; Kumar 1994; Moock 1976; Saito, Spurling 1994; Vargas Hill and Vigneri 2009; Aly and Mekonnen, and Spurling 1994. Shields 2010; Hasnah and Coelli 2004; Udry 他 1995; Bindlish, Evenson, and Gbetibouo 1993; Akresh 2008; 14. Aterido and Hallward-Driemeier 2009; Brush 1992; Goldstein and Udry 2008; Rahman 2010. Costa and Rijkers 2011; Morris 他 2006; Watkins and Watkins 1984. 48. Udry 他 1995. 15. Blau and Kahn 2000 and Terrell 1992. 49. Hundley 2001. 16. Ñopo, Daza, and Ramos 2011. 50. Hallward-Driemeier 2011b. 17. Bertrand, Goldin, and Katz 2010; Goldin and Katz 51. Costa and Rijkers 2011. 2008; Josh i, Paci, a nd Wa ld fogel 1999; Wi lde, 52. Ñopo, Daza, and Ramos 2011. Batchelder, and Ellwood 2010. 53. 小数点以下は近似値 ; ILO 2010b. 18. Sabar wal, Terrell, and Bardasi 2009; Hallward- 54. ILO 2010b. Driemeier 2011b. 55. Anker 1998; Anker, Melkas, and Korten 2003; ILO 19. Gajigo and Hallward-Driemeier 2011. 2010b. 20. Goldstein and Udry 2008. 56. Charles 1992. 21. Croson and Gneezy 2009. 57. Charles 1992. 22. Brush 他 2004; Bird and Brush 2002. 58. Tzannatos 2006. 23. Minniti 2010; Welter and Smallbone 2003. 59. Becker 1965; Gronau 1977. 24. Blau and Kahn 2000; Goldin and Katz 2008; Wood, 60. Goodin 他 2008. Corcoran, and Courant 1993. 61. Berniell and Sánchez-Páramo 2011b. 25. Dolado, Felgueroso, and Jimeno 2003; Killingsworth 62. 例えば Ilahi (1999),Haddad 他 (1995) を参照. 1990; Macpherson and Hirsch 1995; Pitts 2003. 63. Berniell and Sánchez-Páramo 2011b. 26. Blau and Kahn 2000. 64. Ilahi 2000; ILO 2010b; Blackden and Wodon 2006; 27. Goldin and Katz 2008; Weinberger 1998; Wood, United Nations 2010. Corcoran, and Courant 1993. 65. Ilahi 2000; ILO 2010b; Blackden and Wodon 2006; 28. Becker 1957. United Nations 2010; World Bank 2010a; Apps 2004; 29. Black and Brainerd 2004; Black and Strahan 2001; Bianchi 2000; Fisher 他 2007; Lachance-Grzela and Hellerstein, Neumark, and Troske 1997. Bouchard 2010. 30. Andrabi 他 2007. 66. Berniell and Sánchez-Páramo 2011b. 31. Görlich and de Grip 2009. 67. Berniell and Sánchez-Páramo 2011b. 32. Macpherson and Hirsch 1995; Pitts 2003. 68. Berniell and Sánchez-Páramo 2011b. 33. Lallemand and Rycx 2006; Kahyarara and Teal 2008; 69. Bittman 他 2003. Herrera and Badr 2011. 70. Badgett and Folbre 1999; Elson 1994; Folbre 2006. 34. ILO 2010b. 71. Hochschild and Machung 1989; Hochschild 1997. 35. ILO 2010b. 72. Berniell and Sánchez-Páramo 2011b. 36. 生活戦略と収入源について調べる全国的な調査をまとめ 73. European Labor Force Survey 2001. た,国連食糧農業機関,世界銀行,アメリカン大学の CHAPTER5 職務におけるジェンダー差とその重大性 241 74. OECD 2007; Ronde 2008. 105. López Bóo, Madrigal, and Pagés 2009. 75. 対照的に,Blank (1989) と Farber (2001) は,アメリカ 106. Fer ná ndez, Fogl i, a nd Ol ivet t i 2004; Fogl i a nd での労働市場の移行における証拠から,パートタイムと Veldkamp, (近刊.. 臨時雇用は失業から脱出する足がかりとなって,将来の 107. Fernández 2007b. 常勤フルタイム雇用につながることが多いと結論づけて 108. Bennhold 2010. いる.Miller and Mulvey (1997); O’Reilly and Bothfeld (2002) も参照. 109. こ の セ ク シ ョ ン の 議 論 は,Bardasi (2011) and Croppenstedt, Goldstein, and Rosas (2011) による洞察 76. Bardasi and Gornick 2008; Manning and Petrongolo から多くを得ている. 2008. 110. Deere and León 2003. 77. Bertrand, Goldin, and Katz 2010; Goldin and Katz 2008; Wilde, Batchelder, and Ellwood 2010. 111. For list of included countries, see note 36. 含まれてい る国については,注 36 を参照. 78. Berniell and Sánchez-Páramo 2011b. 112. FAO 2011. 79. Bosch and Maloney 2010. 113. Udry 1996. 80. Posadas and Smitz 2011. 114. Quisumbing, Estudillo, and Otsuka 2004. 81. Ilahi and Jafarey 1999; Ilahi and Grimard 2000; Katz 1995; Kennedy and Cogill 1988; Khandker 1988; 115. Deere 2003. Skoufias 1993. 82. Rijkers 2011. 116. Agarwal 1994; Deere 2003; Kevane and Gray 1999. 83. コロンビアについては Attanasio and Vera-Hernandez 117. Brush 1992; Carter and Cannon 1992; Carter 2000. (2004),カナダについては Baker, Gruber, and Milligan 118. これらの国は,ブルガリア ,ガーナ,グアテマラ,インド (2008),アルゼンチンについては Berlinski and Galiani ネシア ,マラウイ,ネパール,パナマ,ベトナムである. (2007), OECD については Jeaumotte (2003), ノルウェー 119. Aidis 他 2007; Muravyevy, Talavera, and Schäfer については Havnes and Mogstad (2009),グアテマラ 2009. については Quisumbing, Hallman, and Ruel (2007). 120. World Bank 2010d. 84. Heymann, Earle, and Hanchate 2004. 121. Hallward-Driemeier 2011b. 85. Anderson and Levine 2000; Blau and Currie 2006; 122. Buvinic and Berger 1994. Hallman 他 2005; Quisumbing, Hallman, and Ruel 2007. 123. Akoten, Sawada, and Otsuka 2006. 86. Hein 2005.証拠によれば,女性が外で働くと男性は 124. Diagne, Zeller, and Sharma 2000; Fletschner 2008. 家 にいるようになる (Bloemen and Stancanelli 2008; 125. Daley-Harris 2009. Fisher 他 2007; Newman 2002; Newman and Gertler 126. Banerjee 他 2010. 1994; Skoufias 1993)が,家 事と家 族の世 話の責務 127. Gilbert, Sakala, and Benson 2002; Moock 1976; はたいてい年長の兄弟へと移行する (Heymann, Earle, Peterman 2010. and Hanchate 2004; Kamerman 2002) . 128. FAO 2011. 87. Jacobsen 2011; Oropesa 1993. 129. Due and Gladwin 1991; SOAS 他 2008. 88. Greenwood, Seshadri, and Yorukoglu 2005; Jones, 130. Dolan 2001; Due and Gladwin 1991. Manuelli, and McGrattan 2003. 131. von Bülow and Sørensen 1993; Dolan 2001; Katz 89. Manning 1964; Schwartz Cowan 1983; Robinson and 1995; Maer tens and Swinnen 2009; Por ter and Milkie 1997; Vanek 1973. Phillips-Howard 1997; Raynolds 2001. 90. Cavalcanti and Tavares 2008; Coen-Pirani, León, and 132. Katz 1995. Lugauer 2010; Connelly and Kimmel 2010. 133. Eaton and Shepherd 2001; Maertens and Swinnen 91. Ramey 2009. 2009; Porter and Phillips-Howard 1997. 92. プラスの 影 響 の 証 拠 については,Ilahi and Grimard 134. Hamilton and Fischer 2003. (2000) を 参 照. 影 響 がないという証 拠 については, Costa 他 (2009),Koolwal and van de Walle (2010), 135. Fa fcha mps 1992; Fa fcha mps 2003; Por ter a nd Lokshin and Yemtsov (2005) を参照. Phillips-Howard 1997. 93. Costa 他 2009; Dinkelma n 2011; Groga n a nd 136. Porter and Phillips-Howard 1997. Sadanand 2009; Jacobsen 2011. 137. 特に都市部では,それは労働参加率と住宅の質への投 94. Duchène 2011; Peters 2001. 資にもプラスの影 響を与えている.ガーナについては Besley (1995) and Goldstein and Udry (2008),インド 95. World Bank 2005. については Banerjee, Gertler, and Ghatak (2002),ベト 96. Khandker, Bakht, and Koolwal 2006. ナムについては Do and Iyer (2008),アルゼンチンにつ 97. Boeri Del Boca, and Pissarides 2005; O’Reilly and いては Galiani and Schargrodsky (2010),ペルーにつ Fagan 1998; OECD 2007. いては Field (2007) and Antle 他 (2003),ニカラグア 98. Corporate Leadership Council 2008. については De Laiglesia (2005). 99. Bosch and Maloney 2010. 138. De Laiglesia 2005. 100. Contreras and Plaza 2010; Fernández 2007a ; Fortin 139. European Commision 2008. 2005; Burda, Hamermesh, and Weil 2007; Nicodemo 140. Demirgüc-Kunt, Klapper, and Panos 2010; Hallward- and Waldmann 2009. Driemeier 2011b; Gajigo and Hallward-Driemeier 101. Fafchamps and Quisumbing 1999. 2011. 102. Cunningham 2001. 141. Banerjee 他 2010. 103. Berniell and Sánchez-Páramo 2011a; Fortin 2005. 142. Dupas and Robinson 2009. 104. Booth and van Ours 2008, Booth and van Ours 2009; 143. Bardasi 2011. Booth and van Ours 2010. 144. Croppenstedt, Goldstein, and Rosas 2011. 242 世界開発報告 2012 145. Un Millennium Project 2005. 175. Schelling 1971. 146. Alesina, Lotti, and Mistrulli 2008; Deere and León 176. England 他 2007. 2001; Muravyevy, Talavera, and Schäfer 2009. 177. Booth and Leigh 2010. 147. Muravyevy, Talavera, and Schäfer 2009. 178. FAO 2008; FAO 2011. 148. 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Washington, DC: World Bank. rant. 1993. “Pay Differences among the Highly Paid: The Male-Female Earnings Gap in Lawyers’ Sala- ries.” Journal of Labor Economics 11 (3): 417–41. 252 6 世界開発報告 2012 CHAPTER グローバル化がジェンダー平等に与 える影響:何が起き,何が必要な のか  世界はますます統合へと向かっている.人と資本の国境を越えた移動が加速し,か つてなく情報にアクセスできるようになるにつれ,貿易開放の拡大は,地球規模の経 済統合と相互依存へと変貌しつつある.テクノロジーの発展が人々の学習,労働,コ ミュニケーションの方法を急速に変え,世界の人口は中~大規模都市へ集中しつつあ る.  グローバル化――経済統合,技術の普及,情報へのアクセス向上として解釈される ――に関連する新たな力が,市場や公式・非公式の制度を介していくつかの制約を取 り払い,ジェンダー平等を向上させてきた.  第 1 に,貿易開放と新しい情報通信技術(ICT)の普及によって多くの仕事が生ま れ,大勢の女性と市場との結びつきが強まったことから,経済機会への女性のアクセ スが増えた.国や部門によっては,男性の賃金に比べ,女性の賃金が増えたところも ある.  第 2 に,統合された世界ではジェンダー不平等は高くつく.ジェンダー不平等は, 国――特に,女性が多く雇用されている財とサービスで輸出潜在力をもつ国――の国 際競争力を弱める可能性がある.また,女性の権利に対する世界的な関心の高まりを 考えると,ジェンダー不平等を放置しておくのはその国の国際的地位を傷つけること にもなりうる.こうした要因から,世界各地でジェンダー平等を目指す政策措置への インセンティブが強まっている.  第 3 に,情報へのアクセス向上により,発展途上国の多くの人々が,海外の人々 の生活や慣行――特に女性の役割に関連する生活や慣行など――を知ることができる ようになり,おそらくそれが人々の姿勢や行動に影響を与えている.平等主義的な男 女の役割と規範への移行は,女性の経済的エンパワメントによって促され,場合に よっては強化されてきた.  だが,公共政策なしにグローバル化だけで男女不平等を減らすことはできないし, また減っていくこともないだろう.多くの国で,大勢の女性のエージェンシーと経済 機会へのアクセスが大幅に向上しているが,皆がその上げ潮に乗っているわけではな い.置き去りにされがちなのは,既存の制約にもっとも束縛されている女性たちであ る.ゆえに,発展と一層のジェンダー平等への原動力として,グローバル化の潜在力 CHAPTER6 グローバル化がジェンダー平等に与える影響:何が起き、何が必要なのか 253 をフルに生かそうとする国々には, 図 6.1 国際貿易は 1990 年以降,急速に伸びている 人的資本の形成,エージェンシー, 商品貿易 経済機会へのアクセスにおける既存 60 のジェンダー格差の縮小を目指す公 50 的措置が必要なのである. GDPに占める割合(%)  本章では,経済統合,技術の変 40 化,情報へのアクセスが,ジェン 30 ダー不平等に与える影響に関する 証拠について論じる.それらの文献 20 を精査し,情報がない部分について 10 は,本報告書用に委託した新しい研 究を用いる.この新たな研究は,貿 0 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2009 易 1,技術の進歩と普及 2,情報へ 高所得国 低所得国 のアクセス 3 におけるジェンダー平 中所得国 世界全体 等に焦点を当てている.既存の証拠 は,貿易と技術が労働市場の結果に 出所:World Development Indicators 与える影響について最も説得力があ り,新しいトレンドが男女の役割と規範に与える影 と知識は“グローバル商品”となった.技術の進 響について根拠が乏しい(少なくとも経済の文献に 歩は,貿易財に内包されて国境を越え,その導入と おいては).そのため議論はやや暫定的で推測の域 適応が国を超えて加速する.また技術の移転は最初 を超えるものではない. に輸出入の分野で起きることが多いが,企業の相互 作用や労働者の転職などにより,すぐにその枠を超 えて広がっていく 5.同様に,海外移住者のなかの 世界はますます統合に向かっている――最近 熟練労働者の割合が,1990 年の約 25%から 2000 のトレンドと事実 年の 36%へと上昇するとともに,アイデアやスキ  世界では最近 30 年間,財,サービス,技術,情 ルも国境を越えて移動している. 報の地球規模のフローの増大に促され,途方もない  携帯電話とインターネットの普及により,国際, 経済的変容が起きた.これらの変化は,国内・国際 国内,地域の情報にアクセスできる人数は,男女 市場と制度の働きを一変させ,個人,世帯,企業, ともに以前より増加している.1998 年には先進 政府の経済的展望を変えてきた.いくつか数字を見 国でも人口のわずか 20%,発展途上国では 1%し るだけでもそれらがいかに大きな変化であるかがわ か携帯電話に加入していなかったが,2009 年に かる. は,その割合はそれぞれ 100%と 57%へと急伸し  低・中所得国では,南北貿易と南南貿易がとも た.インターネットへのアクセスと利用も増えた. に増加したことから,1993 年に GDP の 31%だっ –  1998  2009 年にインターネットの利用者数は,高 た 商 品 貿 易 が 2008 年 に は 57 % に 拡 大 し た( 図 所得国で人口の 12%から 64%に,発展途上国では 4 6.1) .あらゆる地域で貿易開放が大幅に進み,特 ほぼ 0%から 17.5%になった(図 6.2)6. に南アジアでは商品貿易が GDP の 16%から 41%  これらの変化は,少し前に食料,燃料,金融の危 へ,東アジアでは 35%から 52%へと増加した.海 機があったものの,特に一部の発展途上国をはじ 外直接投資の変化も顕著で,フロー(対 GDP 比) めとする世界の大半の地域で,経済成長を背景に は 1980 年の 0.5%から 2007 年には 4%になり, (またおそらく経済成長に寄与しつつ)起きてきた. その後発生した金融危機の間は減少に転じた. 20 世紀半ばまでは,1 人当たりの年間所得の伸び  財やサービス,資本,人の流れがかつてないス を平均 5%以上,15 年を超えて維持できた国はひ ピードで国境を越えて往来するようになり,情報 とつもなかったが,20 世紀半ば以降にその偉業を 254 世界開発報告 2012  同時に,ICT の進歩に 図 6.2 携帯電話とインターネットへのアクセスは,先進国,発展途上国ともに急増している よって情報の垣根が低く a. 携帯電話の加入者数(対全人口比,%) b. インターネット利用者数(対全人口比,%) 発展途上諸国 発展途上諸国 なり,市場性の仕事に関 連する取引コストが下 1998 2009 がったため,世界中でま すます多くの女性(と男 1998 2009 性)が市場にアクセスで 1% 57% 1% 17.5% きるようになった.女性 は男性よりも時間と移動 先進諸国 先進諸国 性の制約が厳しいことか 1998 2009 ら,これらの発展による 利益は必然的に女性の方 1998 2009 が多く得ることになる 20% 100% 12% 64% . (第 4 章,第 5 章)  経済機会へのアクセス 出所:International Telecommunications Union 2010 の拡大と,場合によって は経済活動の収益率の増 達成した国は 36 カ国以上あり,うち 3/4 は発展途 加も,特に女性の人的資本の蓄積へのインセンティ 7 上国である . ブを強めると同時に,少女や若い女性――明日の労 働者――のスキルへの投資を増やす可能性が高い (ボックス 6.1). 貿易開放と ICT(情報通信技術)が,女性の経 済機会へのアクセスを向上させてきた 女性労働者を求む  過去 25 年にわたり,貿易開放と ICT の普及に  貿易開放初期の主な特徴は,先進国から発展途 よって経済機会が拡大してきた. 上国への繊維および情報技術の製造分野の移動  輸出部門や ICT 活用部門では,女性労働者に対す だった 9.製造業での新たな雇用は,労働集約的な る需要が伸びてきた.そしてこうした仕事への女性 組み立てラインの仕事が多く,当初,その雇用が最 の参入に伴い,どの部門や国でも雇用のジェンダー も増えたのは,未熟練労働力が豊富にあり,基本的 分布が変化してきた.女性は農業から製造業,特に な製品の生産で比較優位をもつ国々だった. サービス業へと移行していった.このような変化は  生産地のこの地理的移行は女性の労働参加を促 すべての国で起きているが,製造業とサービス業で し,発展途上国――特にアジアと中央アメリカ―― の女性(と男性)の雇用は,先進国よりも発展途上 で,製造業における雇用の女性化が進んだ 10.韓 国で急増しており,このことは,世界全体の製造と 国では,製造業での女性の雇用割合は 1970 年の 労働の分布に大きな変化が起きていることを示して 6%から 1980 年代および 1990 年代初頭には 30% いる.世界全体の女性の雇用のうち,製造業とサー に達した.それ以降は,女性労働者の雇用主体とし ビス業の割合を見てみると,発展途上国では 1987 ての製造業の重要性は減少している(2007 年には 年に製造業で 6%,サービス業で 17%だったのが, 14%になった)が,それでもこの部門には,今で 2007 年にはそれぞれ 7%と 24%へと増加した.一 も 1960 年代の 10 倍の女性が雇用されている.同 方,先進国では,製造業の割合は 1987 年の 12% 様にメキシコでは,製造業での女性の雇用は 1960 から 2007 年には 6%へと減少したが,サービス業 年の 12%から 2008 年には 17%に増え,2008 年 8 では同期間に 44%から 46%に増えた(図 6.3) . の女性労働者数は 1960 年の 10 倍に達した 11. 男性も定性的にほぼ同様の変化をしてきたが,これ  ここ 15 年間,ICT の普及によってサービス貿易 ほど急激ではない. が拡大し,それほどではないものの発展途上国の CHAPTER6 グローバル化がジェンダー平等に与える影響:何が起き、何が必要なのか 255 図 6.3 経済機会は変化してきた 図 6.3a 製造業およびサービス業における女性(と男性)の雇用は発展途上国の方が急速に拡大しており,このことは,世界全体の 製造と労働の分布に大きな変化が起きていることを示している 女性 男性 100 100 90 17 90 18 24 24 発展 80 6 80 10 全女性雇用に占める割合 全男性雇用に占める割合 途上国 発展 70 7 70 途上国 13 18 60 15 60 23 50 19 50 40 44 40 27 30 先進国 46 30 27 先進国 20 20 18 10 12 6 10 15 4 1 0 4 2 0 1987 2007 1987 2007 サービス業,発展途上国 サービス業,先進国 製造業,発展途上国 製造業,先進国 農業,発展途上国 農業,先進国 出所:LABORSTA International Labor Organization に基づく,世界開発報告 2012 チームの試算 図 6.3b そして,1995 年から 2005 年にかけての(男性ではなく)女性の雇用水準の上昇は,国際貿易の増加と相関していた 200 雇用 – 人口比指数、2005年 (1995年=100) 150 100 50 0 100 200 300 400 輸出量指数,2005 年(1995 年= 100) 女性,適合値 男性,適合値 女性 男性 出所:World Development Indicators に基づく,世界開発報告 2012 チームの試算. ICT 部門の成長も促された.その結果,雇用は全自 をたどっている 12.ラテンアメリカでも,軽工業, 動化が可能な製造業から,サービス業へとシフトし 特に電子工学分野で,低スキルの女性労働者は仕事 た.その過程で,製造ラインでは敏捷な指先より を失った.製造にかかわる多くの部分が自動化され もコンピュータの操作能力が求められるようになっ たからである 13. た.業務が高度になり,取引先や顧客と直接やりと  サービス業における ICT を活用した新しい仕事 りすることが一般的になっていったからだ. ――特に銀行,保健,印刷,出版分野の情報処理―  技術の進歩とともに,軽工業の低スキルの女性は ―の担い手は主に女性だったが,彼女たちは製造業 多くの場合,男性に取って代わられた.マレーシ で失業した女性たちではなかった.その新しい仕事 アでは,グローバル化の初期の段階では,女性は では,キーボード操作,英語,場合によってはフラ 製造業の労働者の 80%近くを占めていたが,1987 ンス語など,複数の異なるスキルが要求されたから 年にはその割合は 67%まで落ち,以来減少の一途 だ.データ入力やデータ処理での女性の雇用が当初 256 世界開発報告 2012 ボックス 6.1 今日の仕事か,明日のもっと良い仕事か――経済機会へのアクセス向上が,女性の人的資本に与える影響  グローバル化の影響が及ぶのは,現在働いている女性だ よって,就学児童数が 5.7%増加した.この変化の原因す けではない.スキルを蓄積しようとする経済的インセン べてを説明するのが英語学校である.これは,新しい仕事 ティブの強まりによって,数年内に若い女性の労働参加率 のチャンスは英語を話せるなどの特定のスキルに関連する が上昇する可能性がある.期待される経済的収益率が,特 という認識と合致する b.南アフリカにも同様の証拠があ に発展途上国――義務教育法がないかあってもまともに施 る c. 行されていない,または若者の多くが就学していない国々  貿易開放と技術進歩によってもたらされる変化から,女 ――で,就学の決定に影響を与えるか,また与えるとした 性労働者は男性労働者よりも多くのメリットを享受してき らどのくらいの影響なのかが,過去数十年にわたり文献等 たことから,就学へのインセンティブは,若い男性よりも で大いに注目されてきた.だが家族や個人は,教育への投 若い女性の方が強いはずである.例えばインド農村部では, 資増加による経済的収益率の増加に確かに反応しており a , 業務プロセス外部委託(BPO)の就職斡旋サービスの実施 期待される収益率の上昇は,特に女性にとって重要なもの によって,若い女性の雇用が増えたが,年長の女性や全世 となっている(第 3 章) . 代の男性には全く影響がなかった.その就職斡旋サービス  この場合,輸出指向部門と ICT 関連の仕事での雇用機 –  を受けた村の 5  15 歳の女子は,他の村の女子と比べて, 会の増大が,教育への投資に向かう既存のインセンティブ –  学校へ行く確率が 3  5%高かったが,男子には全く変化が を強化すると考えられる.インドでは,IT を活用したサー なかった d. ビスセンター(主にコールセンター)関連の仕事の出現に a. Foster and Rosenzweig 1996; Jensen 2010b. b. Oster and Millet 2010. c. Levinsohn 2004. d. Jensen 2010a 最も高かったのは,バルバドス,ジャマイカ,フィ が少なく,従来,主に女性が栽培してきた作物が 14 リピンだった .その後,ICT 関連の仕事は,ソ 商品になると,女性はその栽培から締め出される フトウエア,コールセンター,地理情報システム からである 17.対照的に,非伝統的な高付加価値 (GIS)に集中し,マレーシアとインド,特にデリー 商品の輸出は,国や商品によってその影響は異なる とムンバイに集まった.そこのコールセンターでは ものの,輸出向け生産での女性の雇用を増やしてき 15 今,女性を中心に 100 万人超が働いている . た 18.チリと南アフリカでは,新たに増えたのは  製造とサービス輸出の部門では,女性の雇用の増 主に臨時雇用や季節雇用だったが 19,コロンビア か き 加はこれまでにないスピードで,他部門よりも速く とケニアでは,女性は花卉産業の常勤者として雇用 進んだ.多くの国々では当初,女性の雇用全体で輸 されることが多くなった 20. 出が占める割合はわずかだったが,雇用が急増した  輸出部門での女性の雇用増には,たいてい(常 結果,徐々にその重要性は増していった. にではないが)賃金の増加が伴ってきた.多国籍  世界の農業も変化した.伝統的な作物の輸出割合 企業や輸出企業は,地域主体の企業や国内市場向 が減る一方,非伝統的な高付加価値商品――園芸品 け商品を作っている企業よりも,高い賃金を払っ (樹木,切り花など),たんぱく質を多く含む肉,加 たり,景気変動から従業員を守ったりできると考 工食品など――の輸出が急伸した.冷蔵技術の進 えられるし,従業員は労働法で保護され,労働組 歩,輸送コストの低下,世界規模の価値連鎖で圧倒 合に加入して手当を受ける確率が高いだろう 21. 的な購買力をもつスーパーマーケットの成長に強力 ゆえに,輸出部門では女性の賃金は高いことが多 に後押しされた,そのような輸出の拡大によって, く 22,労働者の特性を調整しても,他の部門より 16 多種多様な仕事が生まれてきた . ジェンダー賃金格差が小さい.中国では,従来の  しかし農業国では,輸出による雇用の女性化は 国営産業よりも新たな輸出指向産業の方が,女性 それほど起きていないように見える.伝統的な農 労働者の賃金が高いという証拠がある 23.メキシ 産物の輸出の増加は,従来,女性よりも男性の利 コでは 1990 年から 1995 年にかけて,輸出指向 益となってきた.女性は商品作物を栽培すること が高いほどジェンダー賃金格差が縮小するという CHAPTER6 グローバル化がジェンダー平等に与える影響:何が起き、何が必要なのか 257 ボックス 6.2 先進国の男性(と女性)に対するグローバル化の影響  経済統合の進行は,先進国の労働者にも影響を及ぼして える影響の証拠については,もう少しばらつきがある c. きた.ときには未熟練労働者を犠牲にしつつ,熟練労働者  貿易開放と海外直接投資によって,中~高度なスキルの (スキルのある労働者)に利益をもたらしてきた.経済統 仕事は海外へ外部委託されるようになり,雇用保障も不安 合の進行によって,未熟練労働者よりも熟練労働者への需 定になってきたかもしれない.イギリスでは,多国籍企業 要が増えたのだ.こうした移行は,アメリカでは賃金不平 による海外投資の多い部門の労働者ほど,経済面での不安 等の拡大という形で,また労働市場の規定により未熟練労 定さを訴える傾向が高い d.またアメリカでは,潜在的に 働者の賃金を下げられないヨーロッパでは,未熟練労働者 海外への外部委託が可能なサービス関連の活動や職業に就 の失業増加という形で表れた a. いている労働者は,雇用の不安定さを訴えるとともに政府  影響は女性よりも男性の方が大きかった.海外との競争 による強固なセーフティネットを強く求めている e. や発展途上国への生産移転に大きく左右される産業や職業  こうした変化がもたらす影響は,経済領域にとどまらな に集中していたのは男性だったからだ.貿易開放の拡大は, い場合もある.女性の経済機会の増加と男性優位部門での 1980 年代 -1990 年代のアメリカにおける製造業での雇用 “男性は主な稼ぎ手である”という概 雇用破壊によって, 喪失の 12 –  33%を,またスキルプレミアムの増加のおよそ 念に疑問が投げかけられてきた.多くの場合,こうした変 20%を説明する b.技術の進歩も,スキルプレミアムの増 化は家庭内のパワーバランスの調整につながってきた. 分のかなりの割合を占める.貿易が女性の賃金と雇用に与 a. Freeman 1994; Wood 1995. b. Baily and Lawrence 2004; Bivens 2004; Bivens 2006; Harrison, McLaren, and McMillan 2010; Lawrence 2008. c. Black and Brainerd 2004; Wood 1991. d. Scheve and Slaughter 2004. e. Anderson and Gascon 2007. 関連性がみられた 24.そしてバングラデシュとモ 医師数の増加や生産ラインオペレータ数の減少など ロッコでは,グローバル化初期に輸出向け繊維産 ――が,この移行を強力に推し進めた.特定の職業 業の賃金格差は他の製造業よりも小さく,格差は での変化(生産ラインオペレータの代わりにロボッ 時間とともにさらに縮小した 25. トの利用を増やす等)も,この移行の一因である.  しかしながら,貿易開放の拡大が,ジェンダー賃 金格差にほとんど影響を与えなかったり,前進がみ ボックス 6.3 職業のタスクと要求されるスキル――言葉 られても一時的なものだったりした分野もある 26. を正しく理解する 韓国では,貿易開放の拡大はほぼ何の影響ももたら さず,むしろ男女格差を広げてしまった.そしてメ  ある職業で遂行される仕事は,タスク(職務)に分解で キシコとホンジュラスのデータによれば,最近でき きる.各タスクの特徴は,頭脳または筋肉の要求度と,標 準化の度合いによって表される.この議論では,あるタス た輸出加工区での賃金は,地元の賃金よりも高い傾 「認 クが主に頭を使うのか体を使うのかを把握するため, 向があるが,その差は徐々に縮まっている 27.貿 」 識(cognitive)/ 手仕事(manual)「頭脳(brain)/ 筋肉 易開放の拡大が先進諸国の男女に及ぼす影響につい 」といった対の言葉を用いる.同様に,標準化し (brawn) ては,広範な議論がなされている(ボックス 6.2). やすいタスクは定型(routine)業務,標準化しにくいタス クは非定型(nonroutine)業務と称される.技術進歩が職 業のスキル要件に与える影響に関する文献では,これらの 頭脳か筋肉か?  語を組み合わせた語が専門用語として用いられる.  過去 4 半世紀にわたって,ICT は経済活動の構  手仕事業務と定型認識業務については,どちらも簡単に 造を変容させ,筋肉(手仕事)・定型のスキルより プログラム化が可能で,経済的に成り立つコストでコン ピュータに代替可能なものであると明確に定義できる―― も頭脳(認識)・非定型のスキルに対する需要とそ つまり,コンピュータ資本へと容易に置き換えられるのが の収益率を増やしてきた(ボックス 6.3)28.例え 特徴である a.一方,非定型業務と認識業務は明確な定義や ばアメリカでは,1950 年から 2005 年の間に,頭 プログラム化が難しく,今のところコンピュータが簡単に 脳のタスクは増加し,筋肉のタスクは減少した 29. 取って代わることはできない. 国の職業構造の変化――労働者 100 人当たりの, a. Levy and Murnane 1992. 258 世界開発報告 2012 は下や右へ移動している.他の先進国 –2 図 6.4 アメリカでは 1950    005 年に,頭脳の要求度が急激に上昇し, 筋肉の要求度が減少した についても,ICT とコンピュータが頭 脳または筋肉への需要に及ぼす影響に 50kg a. 仕事には筋肉が必要だった(1950 年) ついて,同様の証拠が見られる 30. 100  従来,男性は女性よりも筋肉の要 90 求度が高い部門や職業に雇用される 80 傾向があった(男性は体力面で女性 70 筋肉の要求度 60 より優位性がある).そのため,筋肉 50 的なスキルを重視しないコンピュー 40 タは,コンピュータ操作やコンピュー 30 タスキルの獲得の点で女性に男性よ 20 10 り優位性がなくても,女性に有利な 0 のである.アメリカとドイツで得ら 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 頭脳の要求度 れた証拠もこの考えを裏づけている. 両国で過去数十年にわたり観察され b. 仕事には頭脳が必要である(2005 年) た,女性労働者,女性の労働参加率, 100 女性の雇用に対する需要の増加の大 90 半は,ICT と職場のコンピュータ化に 80 70 伴い,筋肉よりも頭脳に対する需要 筋肉の要求度 60 が持続的に増加していることによっ 50 て説明できるのだ 31.また,1970 年 40 30 代,1980 年代以降の両国でのジェン 20 ダー賃金格差の減少の大部分も,筋 10 肉より頭脳の収益率が増加したこと 0 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 によって説明できる 32. 頭脳の要求度  経済統合と特に海外直接投資に 船員,甲板員 洗濯・ドライクリーニング業者 労働者 よって,先進国から発展途上国へと 所有者・経営者,役人 弁護士,判事 農業者 技術移転が進み,その導入と適応が 促される限り,頭脳に対する相対的 出所:Rendall 2010 需要――と収益率――は発展途上国 でも同様に増加するはずである. 財とサービスの貿易の増加同様,これらの移行も女  この問いに関するデータは非常に限られている 33 性労働者に対する需要を押し上げてきた. が,本報告書のために行われた新たな研究によっ  このような変化は,図 6.4 で把握できる.円は –  て,1990  2005 年のブラジル,インド,メキシコ, それぞれ異なる職業を表している.1950 年から 2005 年の間に,それぞれの円は大きくなったり小 さくなったりしているが,それはその職業の就業人 数が増加(弁護士と判事)または減少(農業者)し 「世の中にはどんどんコンピュータが導入さ たことを表している.同様に,横軸の動きは職業に れ,コンピュータの知識がないと取り残され てしまいます.だから,私もコンピュータの おける頭脳の要求度――尺度は 0 から 100――の変 . 使い方を習い始めたのです」 化を表しており,縦軸の動きは筋肉の要求度の変化 を示している.1950 年から 2005 年の間に頭脳の ブータンの若い女性 要求度が増え筋肉の要求度が減ったため,大半の円 CHAPTER6 グローバル化がジェンダー平等に与える影響:何が起き、何が必要なのか 259 図 6.5 ブラジル,インド,メキシコ,タイでは過去 15 年にわたり,男女(特に女性)に対する頭脳の要求 度が上昇し,筋肉の要求度が低下した a. 頭脳の要求度 50kg b. 筋肉の要求度 アメリカ アメリカ ブラジル ブラジル 女性 女性 インド インド メキシコ メキシコ タイ タイ アメリカ アメリカ ブラジル ブラジル 男性 男性 インド インド メキシコ メキシコ タイ タイ 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 頭脳の要求度 筋肉の要求度 1990 2005 1990 2005 出所:Rendall 2011 タイでこれを裏づける証拠が示された 34.1950 年 やや拡大したメキシコでは,頭脳の収益率の上昇に のアメリカと比べ,1990 年のこの 4 カ国はすべて, よって格差の拡大が緩和された.タイでは,頭脳と 筋肉の要求度が大幅に高く,頭脳の要求度は低かっ 筋肉の供給と収益率の変化では,ジェンダー賃金格 た.しかし,その後男女ともに頭脳の要求度が上が 差の変化を説明することができない.どの部門や職 り,筋肉の要求度は下がったため,差が縮小したの 業にも男女がかなり均等に分布しているのが,その だ.農業雇用の相対的重要性の減少と,それにから 主な理由である 36. む国の職業構造の変化が,その主因だった.  ブラジル,メキシコ,タイでは,当初,女性は男 接続が進み,より多くの情報を得る――ICT は女 性よりも筋肉の要求度が低い職業に就いていたが, 性の市場へのアクセスを向上させてきた インドでは女性が農業に多く従事していたため,筋  ICT は,時間と移動性の制約に関連する取引コス 肉の要求度は男女ともほぼ等しかった.ブラジル, トを減らして,市場へのアクセスを向上させ,市場 インド,タイでは,頭脳がいち早く求められたのは 性の仕事への参加を増やす.ICT によって,価格な 男性よりも女性だった.一方メキシコでは,マキ どの情報の収集や伝達が促され,経済活動が場所 訳注 1 ラドーラ で低スキルの女性の雇用が増加したた や時間を問わず発生しやすくなる.女性は男性よ め,女性に対する頭脳の要求度が減り筋肉の要求度 りも,移動性や使える時間に制約が多い(第 4 章, がやや増えた(図 6.5)35. 第 5 章)ため,女性の方がこれらの発展の恩恵を  頭脳と筋肉の供給と収益率における変化も,これ 多く受ける立場にある. らの国々でのジェンダー賃金格差を縮小させてきた  ここで注目するのは,携帯電話とインターネット ――とはいえ,その影響は国によっていくぶん異な である.これらは仕事場以外で利用できるもっとも –  る.ブラジルとインドでは,1990  2005 年のジェ 手に入れやすい ICT であり,利用可能なエリアが ンダー賃金格差に観察される縮小の大部分がこれら 急拡大していくとみられるからだ. の変化によって説明できる.ジェンダー賃金格差が  携帯電話へのアクセスは先進国では極めて高い が,最近では発展途上国でも大幅に増えており,両 1 [訳注]安い労働力を利用して輸入部品を輸出用商品に組 み立てるために外国企業が設立した工場. 者の格差は急速に縮小しつつある.携帯電話へのア 260 世界開発報告 2012  したがってこれまでのところ, 図 6.6 アフリカでは,女性は男性よりも携帯電話を所有・使用する割合が低い 発展途上国ではインターネットよ 100 りも携帯電話のほうが変化を起こ 90 携帯電話を所有または使用する人の割合 す力がはるかに大きかったはずだ. 80 しかし,アフリカと南アジアを中 70 心に行われたケーススタディによ 60 れば,携帯電話が発展途上国で, 50 労働市場参加率と経済機会へのア 40 クセスに及ぼす影響は,総計でも 30 ジェンダー別でも驚くほど弱いの 20 である. 10  携帯電話のアクセスと使用は, 0 ベニン ケニア モザン セネガル 南 タンザニア ウガンダ 女性の抱える時間と移動性の制約 ビーク アフリカ を緩和することができる.家庭と 16 歳以上の男性 16 歳以上の女性 仕事を両立させる能力を向上させ, 出所:www.ResearchICTafrica.net. 送金のコストを削減し,情報を探 すのに必要な物理的労力や移動を 軽減(必需品の入手や顧客との面 クセスと使用におけるジェンダー差は,高・中所得 会にからむ無駄足の回避など)するからである 38. 国では特に若者を中心にほとんど見られないが,低 セネガルの魚屋の女性は「携帯電話にアクセスでき 所得国では依然として大きく,女性が携帯電話を るおかげで,顧客と仕入れ先とのやりとりがスムー 所有する割合は男性より 21%程度少ない.この数 ズになって移動の時間と費用が減ったし,家を留 字はアフリカでは 23%(図 6.6),中東では 24%, 守にしている間,家族と連絡もとれる」と話す 39. 37 南アジアでは 37%に拡大する . 同様に,ボリビア,エジプト・アラブ共和国,イン  一方,インターネットへのアクセスと使用に関し ド,ケニアで面接を行った女性の 41%は,携帯電 ては,先進国と発展途上国の格差は依然として非常 話の所有によって,所得と経済機会へのアクセスが に大きく,一部の国ではジェンダー格差も顕著であ 増えたと明言した.その影響力は,女性企業家の間 る.データのある国で見てみると,インターネット で著しく高かった.女性事業主が,収入を得るため の使用率はアイスランドでは人口の 90%だが,ホ に携帯電話を使う確率は,事業主以外の女性の 2.5 ンジュラスとニカラグアでは 10%と大きな幅があ 倍に上り,彼女たちは他の女性たちより,携帯電話 る.またジェンダー格差は,一部の先進国や発展途 で送金の知らせを受信するサービスなどにはるかに 上国でも相当あり,国全体のアクセス水準とは相関 関心を寄せていた(女性事業主 63%,それ以外の していないように見える.ルクセンブルグ,セルビ 女性 41%)40.また,ここでは経済機会へのアク ア,スイス,トルコでは,インターネットへのア セスについて焦点を当てているが,携帯電話の影響 クセスのジェンダー差は,10%を超えている(図 . はそれにとどまらない(ボックス 6.4 と第 7 章) 6.7).  多くの場合,女性,特に農村部の女性は携帯電話 へのアクセスを確保するために,他の出費を積極的 に減らしていた.このことは,調査対象者において 「みんな携帯電話を使っているわ.市場で働く女の は,携帯電話に対して認識できる知覚便益(消費者 人でさえもね.商品がいつ入ってくるか知りたけれ がその財に対して払ってよいと考える最大額)の方 . ば,ただ電話すればいいんですもの」 が家計所得の平均 3.5%を占めるその費用を上回っ リベリアの若い女性 ていたことを示唆している.ボリビア,エジプト, インド,ケニアの女性の 34%が,他に使っていた CHAPTER6 グローバル化がジェンダー平等に与える影響:何が起き、何が必要なのか 261 お金を携帯電話の使用料の支払いに再配分し 図 6.7 インターネットへのアクセスと使用に関しては,先進国と発展 ていたが,そのような女性の割合は,調査対 途上国の格差は依然として非常に大きく,一部の発展途上国や 象の全女性では 20%,有給労働者の女性で 先進国ではジェンダー格差も顕著である は 12%だった. オーストリア ベルギー  携帯電話へのアクセスにおけるジェンダー カナダ クロアチア 格差が縮小すると,低・中所得国に住むさら キプリス チェコ共和国 に 3 億人の女性が携帯電話の恩恵を受ける デンマーク とみられる.今後開発される携帯電話市場の エストニア フィンランド 2/3 が女性であることを考えると,それに ドイツ ギリシャ よって携帯電話事業者には最大 130 億ドル 香港 ハンガリー の収益増が見込まれる 41. アイスランド  インターネットの場合,状況はかなり異 アイルランド イタリア なっている.発展途上国の特に農村部では, 高所得国 日本 韓国 個人レベルのアクセスが少ないことから,イ ラトビア ルクセンブルグ ンターネットが経済機会へのアクセスに与 マカオ える影響は,先に論じた,ICT が外部委託や マルタ オランダ サービス輸出部門の雇用に及ぼす影響を除け ニュージーランド ノルウェー ば,非常に限定的だ.政府や開発局は,十分 オマーン ポーランド にサービスを受けられない人々が基本的な ポルトガル ICT のサービスへアクセスできるようにする スロバキア スロベニア ため,通常有料でサービスを利用できる「テ スペイン スウェーデン レセンター」を村に設置してきた.これらの スイス アゼルバイジャン センターにはたいていインターネットに接続 ブルガリア リトアニア したコンピュータがあり,ワープロや画像処 ヨーロッパ・ マケドニア 理ソフト,ファックス,メール,コピー,電 中央アジア ルーマニア セルビア 話回線などが利用できる.こうした機器を トルコ ウクライナ 使ったトレーニングを呼び物にしたり,ラジ 東アジア・太平洋 タイ ブラジル オ放送や動画の配信を組み込んだりするセン チリ ターもあるかもしれない. コスタリカ エクアドル ラテンアメリカ・  ここでも体系的な評価がないことから,テ エルサルバドル カリブ ホンジュラス レセンターが特に地域のコミュニティの女性 メキシコ ニカラグア 企業家の事業に大きく寄与しているのかどう パラグアイ か評価が難しいが,いくつかのプラスの影響 中東・北アフリカ エジプト サハラ以南アフリカ モーリシャス を示す事例証拠はある 42.カメルーンでは, 0 20 40 60 80 100 繊維産業の女性企業家の 50%が,テレセン インターネット利用者の割合(%) ターを公私にわたり利用していると話し,仕 男性 女性 事上のやりとりでこれらが大いに役立ってい 出所:World Telecommunication/ICT Indicators database. ると絶賛した 43.しかしテレセンターの設 置や維持にかかるコストの高さを考えると, それらが(女性の)労働参加や経済機会へのアクセ ターネットを利用してきたところもある.モロッコ スに与える影響について,もっと決定的な証拠が必 では,家内織工の女性たちが,敷物などの製品を販 要である.他にも女性企業家のグループが,国内・ 売するため,また従来の仲買人システムを介すより 国際市場へより直接的にアクセスするため,イン も多くの利益配分を確保するために,インターネッ 262 世界開発報告 2012 ボックス 6.4 携帯電話技術と ICT を活用し,サービスへのアクセス向上に弾みをつける  携帯電話,インターネット,またラジオなどの従来の通信 が可能なものもある.また,保健サービスのなかには,他 技術によって,人里離れた場所に住む人や十分なサービスを のツールと組み合わせて,妊婦検診や出産の費用を賄うた 受けていない人,また移動性の低い人々の間に情報を広め, めの貯蓄を促すものもある(M-PESA と連携したケニア サービスへのアクセスを向上させる新たなプラットフォーム .携帯電話とインターネットも識字能力を の Mamabika) が誕生している.こうした人々のなかに女性は多く含まれる 向上させたり(パキスタンの携帯電話会社 Mobilink とユ ため,このような取り組みはたとえ女性をターゲットにした ,特に高等教育と職業教育で遠隔教育の利用を促 ネスコ) ものでなくても,特に女性に利するものとなる. 進したり(ケニアの Community Nurses)している.  大半の試みは,銀行,保健,教育の分野で行われてきた.  女性はサービスを利用する以外にも,携帯電話とイン いくつかの例を見ていこう.携帯電話技術によって,送金 ターネットを使って他の女性やコミュニティとのつながり や少額の支払いなどの金融サービスが利用できるようにな を広げたり(メキシコの Project Zumbido,セネガルの り,貯蓄が促されている(ケニアのモバイル送金サービス ,社会的・政治的発言力を強めたり Tostan とユニセフ) M-PESA) .女性と医療保健従事者に,携帯メールで出産 (コソボの Mobili-ise)できる. 前後のケアと栄養に関する有益な情報を送ったり(アメリ  こうした取り組みの多くは始まってから日が浅く,まだ カとロシアの Text4Baby,ルワンダの Rapid SMS) ,継 評価はなされていない.前進させるには,各状況で何が機 続中の治療についての情報を送信したりするものもある. 能し何が機能しないのかをもっとよく理解することと,新 プロジェクトによっては,カスタマイズしたサービスを提 しい技術の潜在力をフルに生かすための試行を続けること 供する(ペルーの Wawanet)など,利用者とのやりとり が重要だろう. 出所:Franklin 他 2006; GSMA Development Fund 2010; Kanwar and Taplin 2001; Lester 他 2010; Melhem, Morrell, and Tandon 2009. トを使っている 44. し,データのあるほぼすべてのヨーロッパ諸国で近  一方,高所得国では,ICT によって人々は別々の 年急増しているのは女性であり,これは,女性の方 場所や勤務時間で働けるようになり,働き方が柔軟 が柔軟な勤務条件を利用したいという意思や要求が になって市場性の仕事の取引コストが下がってい 強いことを示唆している(図 6.8). る.テレワーク(在宅勤務)は,家庭用コンピュー  在宅でのテレワークは発展途上地域でははるかに タシステム,高機能の通信機器,装置やブロードバ 限定的である.ムンバイやクアラルンプールなどの ンドサービスの値下がりによって導入コストが下 ダイナミックな都市でさえ,在宅テレワークの発生 がったことからアクセスが向上し,一気に広がって –  率は ICT を活用した仕事の 0.4  1.0%に過ぎない. いる.アメリカでは 2009 年に,労働者の 26%が この低水準は,女性が組織内でのテレワークを好む テレワークをフルにまたは定期的に利用していた. ことと経営サイドの懸念の両方を示しているのかも –  EU では,2000  2005 年にテレワークはほぼ倍増 しれない.マレーシアでは,ICT 企業の経営者は従 し,全労働者の 9%に達した.こうした傾向は,テ 業員との対面でのコミュニケーションが極めて重要 レワークが広く実施されていることを示すものだろ だと答え,インドでも経営者は労働者を直接監視・ う.オランダのデータからは,テレワーカーを雇用 監督したいと考えていた 46. –  する企業の割合が 2003  2007 年に倍増したことが 伺える 45.  時間の制約が,女性,特に子どものいる家庭の 適応するか,チャンスを逃すか 女性に対して拘束力をもつ(第 5 章)限りにおい  貿易開放,技術の普及,情報へのアクセスは,グ て,テレワークはジェンダーに大きな影響を与え ローバル経済における国家間のかかわり合いや競争 る.ヨーロッパでは女性労働者の 7%が定期的にテ の仕方を根本的に変えてきた.グローバル化した世 レワークしているが,男性でのその割合は 12%で 界では,ジェンダー(や他の)不平等はコストのか ある.この差は,テレワークは男性雇用者が多い部 かるものとなるため,こうした変化は,企業と政府 門でよく見られるという事実を反映している.しか の双方をジェンダー平等へと向かわせる強力なイン CHAPTER6 グローバル化がジェンダー平等に与える影響:何が起き、何が必要なのか 263 センティブとなりうる.特に,女性集約 図 6.8 テレワークは,特に女性労働者の間で近年急速に伸びている 的な財で比較優位をもつ国では,市場性 ブルガリア の仕事へのアクセスにおけるジェンダー クロアチア 差と,ジェンダー間職務分離の継続が, キプリス チェコ共和国 ヨーロッパ・中央アジア 国際社会における国の競争力に深刻なダ エストニア メージを与え,究極的には経済成長を妨 ハンガリー ラトビア げる可能性がある. リトアニア  この経済面での現実に加わるのが,女 マルタ ポーランド 性に公式の権利を付与し施行せよという ルーマニア 国際的圧力である.この分野での国際的 スロバキア スロベニア 行動は,主に ILO や国連などの国際組 トルコ 織が後ろ盾となった協定へと結実してき オーストリア ベルギー た.そして締結国には,より包括的な貿 デンマーク 易などの経済協定の一環として,それら フィンランド フランス を公式に遵守せよという強い国際的圧力 ドイツ が,直接的・間接的にかけられてきた. ギリシャ 西ヨーロッパ アイルランド  この後のセクションで論ずる証拠(限 イタリア 定的ではあるが)は,グローバル化に促 ルクセンブルク オランダ された,ジェンダー平等を求める国内外 ノルウェー の圧力がこのように組み合わさり,ここ ポルトガル スペイン 数 10 年の前進に寄与してきたことを示 スウェーデン している. スイス イギリス 0 5 10 15 20 25 グローバル世界における(ジェンダー) 労働時間の少なくとも 1/4 以上を 差別のコスト上昇 テレワークしている人の割合(%)  経済理論によれば,製品市場での競争 女性 男性 2000‒01 2000‒01 が激化すると,要素(労働,資本,土 2005 2005 地)市場における差別が減る 47.要す 出所 European Working Conditions Survey 2000, 2001, 2005 に基づく世界開発報 告 2012 チームの試算. るに,経済統合が進んで競争圧力が強ま –2 注:2000    001 年のノルウェー,スイス,トルコ,イギリスのデータはない. ると,雇用主はコストが高くつくジェン ダー(や他の)差別を減らさざるをえな いというのである 48.この考えは,1980 年代のア 行われた新しい研究によれば,女性集約的または頭 メリカでのデータによって裏づけられている.貿易 脳集約的な産業(図 6.9)――女性労働者の割合が による競争激化によって,集中が進んだ産業での女 高い産業――で比較優位にある国は,貿易を開放す 性の賃金が相対的に向上したのである.これは,貿 るとジェンダー差別によるコストが上昇する.その 易によって企業が女性を差別する力が削がれ,女性 ような財の生産で劣位にある国には,逆のことが当 の利益となったことを示している――とはいえ,こ てはまる.また女性の地位は,貿易量のみならず, の力の低下が,(低熟練女性労働者を犠牲にして) 短期的には貿易のパターンにも影響を与えるはずで 熟練女性労働者を優遇する雇用構成の変化を反映し ある 51. ているという懸念もある 49.  実際,女性集約的な部門での財の輸出割合が大き  貿易開放がジェンダー平等に与える影響で重要な い国ほど,ジェンダー平等度が高いようだ.女性の のは,全体的な貿易水準だけではなく,国の比較優 労働参加率が高く,出生率が低く,教育水準が高 50 位性も同じくらい重要である .本報告書のため い国ほど,女性集約的な部門の輸出割合が大きい 264 世界開発報告 2012 上国の輸出企業の賃金が先進国の企業が 図 6.9 女性雇用者の割合は,産業によって顕著に異なる 支払う賃金よりもたいてい低いのは事実 女性雇用者の割合が低い産業と高い産業 とはいえ,その地域の労働市場における他 木材の伐採搬出 5.4 の雇用機会から得られる賃金よりは高い 石炭採掘 5.7 セメント・コンクリート・ ことが多い(最終セクションの議論を参照 10.3 石灰・石膏 製材・木材保存 11.3 のこと). 非金属鉱物採掘・採石 11.5  貿易開放がジェンダー平等に及ぼす影 非製造 25.8 響を理解する上で,比較優位の性質が重要 製造 29.7 であるということは,政策にとって意味 その他の衣料・服飾品 56.3 をもつ.1970 年以降,発展途上国の輸出 革なめし・仕上げ加工 56.3 部門に参入した女性労働者の割合はおよ パン小売 58.0 そ 10%増えた.多くの国では ICT がさら 専門デザインサービス 58.0 に普及していくことから,この割合はもっ カットソー衣料 66.1       と増えるはずだ.さらに,女性の雇用割合 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 が多い産業ほど労働集約的で,輸出関連雇 % 用の大半を占める傾向がある.そのため, 出所:Do, Levchenko, and Raddatz 2011. 市場へのアクセスを阻む既存の障壁を取 り除く措置がなければ,女性集約的な商品 のである.具体的には,平等度が“低”(前述した で比較優位をもつ国は,世界市場で競合国に負けて 3 つの指標のいずれかで下位 25%まで)から“高” しまうだろう. (上位 25%まで)へと移行すると,女性の雇用割合 が高い部門(女性集約的部門)の世界の輸出に占 諸外国からの圧力と国際社会の飴とむち める割合が,女性の雇用割合の低い部門に比べて  1960 年代以降,ジェンダー平等および体系的な –  1  2 %増える 52.この効果は,ジェンダー平等お 女性差別への関心が国際社会で盛り上がりを見せ, よび双方向関係としての貿易を考慮しても保持され 複数の個別の国際条約や国際協定が起草されたり, る. 広範な目的をもつ経済条約に差別禁止条項が盛り込  さらに,女性集約的な財の生産で比較優位にあ まれたりするようになった.これらの条約や協定 る国は,出生率が低く,また女性の労働参加率と は,世界各地で一層の男女平等を目指す法律の制定 教育水準も比較的高い.例えば,輸出における女 を促してきた. 性集約度が“低”(下位 25%まで)から“高”(上  国際条約のなかでもっとも有名なのが,1979 年 位 25%まで)へ移行すると,その国の出生率は低 に国連総会で採択された「女子に対するあらゆる形 下し,1 人の女性が産む子どもの数が平均で 0.21 態の差別の撤廃に関する条約」(CEDAW)である. 人――世界全体の合計特殊出生率のほぼ 1 割に相 2011 年 8 月現在,(国連加盟国 193 カ国中,締約 53 当――も減る .前述同様,この効果は,ジェン 国は 187 カ国[うち国連加盟国は 186 カ国]であ ダー平等と貿易との間の逆の因果関係を調整して る .その時点で締約していなかったのは, (図 6.10) も保持される. イラン・イスラム共和国,パラオ,ソマリア,南  本報告書のために行われたこの新しい研究は,貿 スーダン,北スーダン,トンガ,アメリカだった. 易と労働参加の関係に特に注目したものだが,他の ILO の条約第 100 号(同一価値労働同一報酬)と 研究者のなかには,低い生産コストをベースとした 第 111 号(雇用と職業についての差別待遇の撤廃) 比較優位の源として,賃金が果たす役割について詳 も,世界の多くの国が批准してきた. しく調べ,一部の部門や国では,低賃金(特に女性  これらの条約や協定は,差別禁止を監視・唱道す の低賃金)によって輸出指向産業の競争力が維持さ るための主な国際的手段となり,その批准によっ 54 れてきたと主張する人もいる .しかし,発展途 て,女性の生活や人生にかかわる複数の分野で公式 CHAPTER6 グローバル化がジェンダー平等に与える影響:何が起き、何が必要なのか 265  また先進国のマスメディアや消費者からの圧力 図 6.10 CEDAW の批准国はすべての地域で増加し, 2011 年には 193 カ国中 187 カ国に達した を受け,多国籍企業が発展途上国で働く自社の従 200 業員によりよい労働条件を提供することもあるだ ろう.例えば,カンボジア,エルサルバドル,イ 175 ンドネシアの輸出向け繊維・衣料産業では,公式 150 の労働者(大半は女性)の賃金および賃金以外の 125 労働条件(労働時間,労災,契約内容,労働環境, 批准国の数 100 手当など)は,他の産業の平均と同等かそれ以上 75 の水準である 58.同様に,インドネシアにおける 最 初 の 10 年 間 労働搾取反対キャンペーンは,外資系企業や輸出企 50 に 100 カ国以上 が CEDAW に批 業での大幅な賃金増につながった.企業はそれに伴 25 准した い,投資の削減,利益の減少,小規模工場の閉鎖の 0 可能性の上昇というある程度の犠牲を払ったもの 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 の,雇用に大きな影響は出なかった 59. 出所:CEDAW  公式雇用の外にいる人々の労働条件については, 重要な難題が残っている(ボックス 6.5).結局の の権利を付与する動きに拍車がかかった.その中心 ところ,異なる戦略――例えば,貿易協定内の社 となったのが,これまで法律がなかった分野や,既 会条項,企業の行動規範,ILO の“ディーセント・ 存の差別的な法律を撤廃する必要がある分野での法 ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)”への働 55 律制定の推進だった .CEDAW の締結によって, きかけ――を組み合わせることが必要である.社 女性の識字レベルや労働参加率が上昇したり,女性 会条項は,労働者の権利に対する責任を,国境を 議員数が増えたり,場合によっては絶対的なジェン 越えた生産体制を握る企業にではなく,輸出国の 56 ダー不平等が減ったことを示す証拠もある .し 政府に課すものである.行動規範は企業が責務を かし,女性に対して完全な平等を確保することがど 負うが,それらは通常自発的なものであり,輸出 れほど必要だとしても,法が適切に実行されなけれ 財の生産に携わる下請け企業など他企業の行動ま ば,法改正ではたいてい不十分である(第 4 章). で行き届かない可能性がある.最後の ILO は,政 よって,事実上の改正を確実に行う努力が続けられ 府,企業,労働者とともに取り組むことを目指し るべきだ. ているが,その唯一の手段は対話と説得である 60.  貿易や経済の協定は第 2 の手段として,国際的圧 そのため,これら 3 つをすべて組み合わせること 力をかけることで国内のジェンダー平等への行動を が最も望ましい. 起こしてきた.こうした協定の文書には,たいてい 反差別条項や社会条項が含まれており,締結国の経 済的利益へのアクセスと,最低水準の遵守とがセッ グローバル化は平等主義的な男女の役割と規 トになっているのだ.北米自由貿易協定(NAFTA) 範の促進もする における北米労働共同協定などの貿易協定や,EU  グローバル化が放った変化――特に,女性の経 などの経済圏への加盟を統制する協定では,こうし 済機会の拡大と情報へのアクセス向上――は,既 たやり方をしている.これらの協定は,施行に関し 存の男女の役割と規範にも影響を与え,究極的に て国際条約よりも強みがある.経済的動機と,場合 は,もっと平等主義的な見方を広める可能性があ によっては潜在的な制裁に対する恐れから,協定が る.この影響についての証拠は,これまでのセク なければ消極的な国も,最小限の水準を受け入れて ションで見てきた証拠と比べ限定的かつ暫定的で 実行しようと思うかもしれないからだ.実際,貿易 はあるが,ここで多少の議論をするに値する十分 を開放している国ほど,女性が有する経済的権利は に示唆に富んだものであり(とわれわれは考えて 57 多く,強制労働の発生率が低いのである . いる),この問題に関する研究に一層弾みをつけた 266 世界開発報告 2012 ボックス 6.5 グローバル化と労働条件――前進はしているが,もっとやらなければならないことがある  一般の人は,グローバル経済への進行と発展途上国への 件は,国の平均かそれを上回っていた a.貿易開放の拡大 生産の移行は,低賃金,長時間労働,劣悪な労働条件と関 は,女性に対する経済的権利の向上と強制労働の発生率の 係があると考えている.先進国の世論は,児童労働が当た 低下とも相関しているとみられる b. り前で労働者の基本的権利の多くが無視される労働搾取工  しかし低賃金と劣悪な労働条件が,低コスト維持のため 場と,グローバル化とを結びつけることが多い.女性はこ の戦略の一部となっているケースもある.これは,労働条 のプロセスで特に痛手を負っているとよく言われる.労働 件の規制が野放しになっている地場の企業との下請け契約 者がこの手の仕事を進んで引き受けているという事実に対 の元で働いている労働者に特に該当し,このような非公式 しては,より良い選択肢がなく,グローバル化によって彼 部門には女性が特に多いことから,特に女性の不利益に らの伝統的な生活様式が破壊されているためだという説明 なっているかもしれない c.インド,パキスタン,フィリ が通常なされる. ピン,スリランカ,タイでは,下請けの仕事に従事する労  現実には,貿易開放が労働条件に与える影響は,企業, 働者は,雇用保障が不安定で,手当はないに等しく,権利 部門,国によってさまざまだ.貿易開放と経済統合によっ 獲得を目指す労働組合の結成や闘争はほぼ不可能,という て,特に公式部門の労働者に対し,より高水準の労働条件 状況に苦しんでいた.しかし多くの場合,女性にとって下 が導入されたケースもある.例えばカンボジア,エルサル 請けの仕事は,家族への責務と社会規範とがかみ合う唯一 バドル,インドネシアの輸出向け繊維・衣料産業では,公 可能な有給の仕事だった d. 式の労働者(大半は女性)の賃金および賃金以外の労働条 a. Robertson 他 2009. b. Neumayer and De Soysa 2007. c. Carr and Chen 2004. d. Balakrishnan 2002. いとも思っている. ターネット利用の拡大による情報へのアクセス向  所得の稼ぎ手となった女性は,家族のメンバー間 上によって,発展途上国の多くの人々が海外の女 の時間や資源の配分に影響を及ぼしたり,家庭内の 性たちが担う役割に接するようになり,それが性別 相対的なパワーバランスを変えたり,さらにはより 役割やジェンダーの結果に影響を与えているよう 強力なエージェンシーを行使するようになり,その だ(第 4 章).例えば連続メロドラマが社会階層を 新たな地位によって家庭内の男女の役割を変えられ 問わず広く視聴されているブラジルでは,グローボ る可能性がある.実際,女性は輸出指向部門で働く (Globo;人気のメロドラマを多数放映しているテ と,所得に対するコントロールが強くなるようだ –  レビチャンネル)の放送が,出生率(15  49 歳の が,それが福利とエージェンシーに及ぼす影響は, 女性が産む生産児数で評価)の低下につながってき 農業労働者の女性よりも,製造業で働く女性や夫の た 65.この効果は,結婚が出生率に及ぼす影響の 親戚から離れて暮らす女性への方が大きい.工場で 1/10 程度――人口 1,000 人当たり 1 人の医師また 働く女性たちは,自分たちの地位が向上したと感じ は看護師の増加,もしくは 2 年間分の教育――に 61 ている .彼女たちは,同等の社会経済的地位に 匹敵する.要するに,相当な影響なのだ. ある他の女性たちよりも,結婚および第 1 子の出  同様に,インド農村部での証拠によれば,村人の 産が遅く,質の良い住宅に住み,インフラへアクセ 間でのジェンダーへの姿勢が,ケーブルテレビの視 62 スできる確率が高く ,自尊心と意思決定力があ 聴によって変化した 66.ケーブルテレビへアクセ り,そのことが家族の他のメンバーのためにもなっ スできる女性は,そうでない女性と比べ,男児の選 ていると述べている 63.対照的に,農業労働者の 好を口にしたり,夫は妻を殴ってもよいと述べたり 女性は,典型的な“女性向け作物”が奨励される する確率が低かった.伝統的に女性の地位と結び ときでさえ,商業化や輸出指向の強化による意思 ついている行動も変化した――女性たちは,自律 決定力やエージェンシーの顕著な変化は経験して 性(許可なく外出できる,家庭の意思決定に参加で いない 64. きる)が向上し,出生率が下がったと答えたので  経済の領域以外では,主にテレビの視聴とイン ある.ブラジルの研究と同じく,その影響力はか CHAPTER6 グローバル化がジェンダー平等に与える影響:何が起き、何が必要なのか 267 アメリカでの活動家のネットワークは,インター [母よりも]よい人生を送りたいわ.母の時 「 ネットを使って,ジェンダー不平等の問題に対する 代には教育がなくて,周りの世界のことは分 人々の関心を高めてきた 70.しかし,そのネット かりませんでした.今の私たちはインター ワークの仕組みのおかげで,女性は周囲の状況や家 ネットなどの媒体を使えます.生活を改善す ることも,もっと素晴らしいこともできま 庭での役割を抜本的に変えることなく能動者にな . す」 り,制約に立ち向かうのではなく制約を飛び越えら れるようになっている.つまり,技術には社会を変 スーダンの若い女性 革する力があることは,もうひとつの世界では明ら かなのだ 71.動かすことのできない個人をとりま く状況と,大きくなっていく問題意識と公共での存 なり大きなものだ.例えばケーブルテレビによっ 在感との間にある緊張関係が,この先の変化へと向 て,姿勢と行動における都市部と農村部との差は かう豊かな土壌となるのかもしれない.しかし,そ –  45  70%減った.その効果は,ケーブルテレビの のような変化が起こるには,インターネットなどの 導入 1 年目に観察できる影響となって,すぐに表 情報源へのアクセスできる女性がある水準まで増え れた. る必要があるだろう 72  興味深いことに,また,家庭内の男女の役割と女 性のエージェンシーに関する標準的な概念にいくぶ ん反するのだが,これらの証拠は,条件によっては 古い問題,新たなリスク 情報への接触が大きく急速な変化を引き起こしうる  すべての人がグローバル化の上げ潮に乗っている ことを示唆している.これは,メディアとの接触に わけではない.人的資本の形成,時間使途のパター よる広範な影響について行われた研究結果とも一致 ン,生産用投入資源へのアクセス,エージェンシー する.通常,それらの研究では,メディアとの接触 におけるジェンダー差が,一部の人に対するプラス によって,避妊手段の利用,妊娠,簡易便所の設置 の影響を弱め,男女間や女性の間の不平等を強化す などの行動と,自分の村の状況に対する見方が,顕 る場合もある. 67 著かつ急激に変わることが明らかとなる .  経済機会へのアクセスの向上による恩恵を得てい  経済機会へのアクセスは,公共の領域にも変化 る人々の間でさえも,古いパターンのジェンダー間 をもたらしている.バングラデシュでは,既製服 職務分離が現れることがある.一部の国,産業,職 産業に数十万人の女性が雇用されたため,都市部 業での(公式部門の)仕事にみられる非女性化(男 の公共空間に多くの女性が姿を見せるようになり, 性化)の兆候は,非公式化の拡大とあいまって,前 女性の公共空間での移動性と公共機関や施設への 進のなかには持続可能ではないものもあることを示 アクセスに関して,よりジェンダー公正な規範が 唆している. 68 生まれた .その過程でバングラデシュの女性た  したがって,発展とさらなるジェンダー平等への 「女性は公共空間に姿を見せてはならず,地 ちは, 原動力として,グローバル化の潜在力をフルに生か 味な服装をし,静かにふるまうこと」という慣習に そうとする国には,エージェンシー,人的資本の形 基づく“プルダ(世間からの隔離)”の条件を,心 成,経済機会へのアクセスにおけるジェンダー差を の状態で表現すればよいと解釈を改めるなどして規 縮小させる公的措置が必要となる. 69 定し直し,この問題を切り抜けた .  ICT と情報へのアクセスが,ジェンダー規範と, “ 古い ” 格差が新たなトレンドと出会うと,不利 さらに公共領域でのジェンダーに与える影響には, な状況に置かれた女性はさらに取り残される ややばらつきがある.ICT の普及によりネットワー  “古い”ジェンダー差(人的資本の形成,使える クへのアクセスが向上していることから,女性の社 時間,生産資源へのアクセス,エージェンシーにお 会的・政治的エンパワメントが進んでいる(ボック けるジェンダー差)と,グローバル化によって解き ス 6.4 および第 8 章).例えば,アフリカとラテン 放たれた新しい力の交差にいる女性は,貿易開放や 268 世界開発報告 2012 マレーシアの農村部と都市部の関連性に関する 「服の仕立てや刺繍の仕事はありますが,コン 研究はどれも家庭内に他の女性のメンバーがい ピュータのスキルを習得すれば素晴らしい仕 るかどうかが,女性が貿易によって生じた新た 事を見つけられるでしょう.でもその仕事は な機会に加われるかどうかの決定要因だと指摘 . まだ女性にはさせてもらえないのです」 している 77.外に働きに出る女性が担えない家 アフガニスタンの成人女性 庭の責務を引き受ける女性は,母親か年長の娘か もしれない.彼女たちを取り巻く状況や,家事・ 家族の世話を負担することによる代償について は,ほとんど分かっていない 78. 技術の進歩,情報へのアクセスの恩恵をかろうじて  第 3 に,土地に対する権利が弱く,生産用投入 得ている男女から取り残される危険がある. 資源へのアクセスが限られていることも,女性が貿  第 1 に,教育におけるジェンダー差が,新しい 易開放の恩恵を十分受けられない理由である.これ 雇用機会への女性のアクセスを制限している.教育 は特に,天然資源と農業生産物が輸出の大半を占め は,農業では生産性にプラスの影響を与える(第 5 るアフリカで厄介な問題となっている 79.セネガ 章)だけでなく,改良品種の種子や化学肥料を採用 ルでは,インゲンマメ(輸出作物)の農家に女性は 73 する能力 や,生産高の基準などの重要な要件― 59 人に 1 人しかおらず 80,ケニアのメルーでは, ―非伝統的な高付加価値品目を扱う輸出部門にアク 輸出契約書の 90%以上が世帯内の男性に向けて発 セスする決定要因――に応じる農業者の能力に影響 行されていた 81. を与える.モザンビークなどのサハラ以南アフリカ  第 4 に,移動性と経済領域での女性の役割に関 諸国やサモアでは,女性生産者は教育水準が低いた する保守的なジェンダー規範が,技術(ICT を含む) めに,国際市場へアクセスで男性生産者よりも多く と情報への女性のアクセスに過度の悪影響を及ぼす 74 の制約を受けている .不十分な教育とスキルは, 可能性がある.家庭では,男性が一家のラジオ,携 輸出やサービス部門における ICT を活用した仕事 帯電話,テレビを牛耳っていることが多く,家族が へのアクセスも妨げている. いつどのようにそれらを使うかコントロールしてい  男女で分岐する教育も,コンピュータプログラ る 82.職場では男性が,耕うん機の使い方やコン マー,エンジニア,システムアナリスト,デザイ ピュータの操作など女が習うべきものではないと決 ナーなど ICT に直接関連する職業への女性の就業を めつけているかもしれない.女性をターゲットとし 制限してきた(第 3 章)75.OECD 諸国のデータか た技術プログラムでさえ,ひとたびその有用性や収 らは,ICT 関連の全雇用で女性の割合が少なく,ま 益性が確立されれば,男性が横取りしてしまうかも た部門内でも,経営や科学関係の職務や専門職では しれない――そのためそうした技術にアクセスでき 女性が少なく,事務職と秘書では多いことが見て取 ても,女性はそこに経済的恩恵を見いだせないので 76 れる .こうした差異は重要である.ICT のスキル ある 83. は技術発展への原動力であり,これらの分野で経済  インターネットの個人加入者数が発展途上国では 成長と雇用の増加が今後期待されるからだ. 依然として少ないことを考えると,ICT と情報への  第 2 に,家族の世話の責務にジェンダー差があ 女性のアクセスは,公共のインターネットセンター ると,その責務を引き受けてくれる家族のメンバー の地理的な位置にも影響される.インターネットセ がいない場合,女性は輸出部門での農業や賃金雇用 ンターが住んでいるコミュニティから離れた場所 の新たな機会を得られなくなるかもしれない.これ や,治安の悪い地区にあれば,女性がそこに足しげ が特に当てはまるのは,そうした新たな機会が,長 く通う可能性は減る.安全面以外であれば,女性が 時間労働や固定の勤務時間に対して割増金や賞与が 行きそうもない状況や施設でサービスが提供された つく,大規模農場や公式部門で発生する場合であ り,男女が同じ空間を共有するよう求められたり か き る.エクアドルの花 卉産業,グアテマラの輸出加 するときも,女性のアクセスは妨げられるだろう. 工区,ケニアの非伝統的な高付加価値品目の輸出, 2000 年の研究によれば,インターネットを利用し CHAPTER6 グローバル化がジェンダー平等に与える影響:何が起き、何が必要なのか 269 ているアラブ諸国の女性の 72%が,自宅からのア 女性は仕事と家庭の責務のバランスをもっとうまく 84 クセスを望んでいた . とれるようになるだろうが,そのような労働条件の 女性のための前進は持続可能だろうか? 新しい 利点を評価する際には,それらが賃金や他の便益に 産業と職業における男女分離 対して及ぼしうるマイナスの影響も考慮する必要が ある 89.  輸出指向部門の女性労働者の間で非公式化が進行  柔軟性の拡大によって,転職率の増加や不安定 しているとともに,一部の部門と職業で非女性化 な雇用につながるケースも起きている.トルコで (男性化)の兆候が見られることから,非輸出部門 は,女性の方が輸出部門における雇用創出の恩恵 で見られるそのような分離が新しい産業と職業でも を受けてきたが,女性は男性よりも雇用が不安定 発生しつつあるのではないかという懸念が生まれて だった 90.同様にコロンビアでは,保護が手薄な部 いる. 門の雇用者は,雇用期間が短く,公式部門での仕事  過去数十年の間,輸出部門での生産は 2 通りの を見つける確率が低いのだが,こうした差異は単に 変化をしてきた.ひとつは,企業が資本構成を改 一時的なもので,ジェンダーの影響はなかった 91. め,特殊な設備から一般的な設備をベースにした生  このようなトレンドに関しておそらく最も厄介な 産システムを採用して,輸出指向の製造での比較優 のは,古いパターンのジェンダー間職務分離が,こ 位を労働集約的技術から資本集約的技術へと移行し れらの新しい産業や職業で瞬く間に出現するという てきたという変化である.もうひとつは,企業がコ 可能性が現実のものとなることである.当初は労働 ストを下げ,リードタイムを短縮し,製品ラインを 市場における既存の性役割を断ち切るように見えた 差別化することによって,より柔軟性をもたせるよ ものが,結局は,つかの間の現象に過ぎなかったと 85 う生産を再編してきたという変化である .競争 わかる場合もある.また,資本と労働者の再編―― 圧力の激化と ICT の普及に促されたこれらの変化 どちらも通常,生産性と賃金の向上に関連がある― が,輸出指向部門の雇用を非女性化,非公式化して ―を通して(輸出)企業が価値連鎖を上っていくに きたのだ. つれて,女性の分離が発生するようにみえる.  多くの場合,資本の再構成は,未熟練の主に女性 の労働者の雇用機会を減らしてきた.男性は新たに 一般化した技術を扱うだけの教育とスキルがあるも コップの水はまだ半分しかない?それとも, のと理解されるが,女性は,より小規模な下請け企 もう半分まで満たされた? 解釈の相違と公 業へと追いやられる.しかし,多くの国で教育の 的措置の必要性 ジェンダー差が急速に縮小しているのに,女性が,  さて,本章の議論からどんな結論が導けるだろう 技術集約的な財の生産へのグレードアップと移行か か? 証拠から伺えるのは,輸出部門の雇用が発展 ら恩恵を得られないのはなぜなのかは,はっきりし 途上国の多くの女性にとって,魅力的な選択肢を提 ない.ひとつ考えられるのは,いまだに男女の間に 示しているということである 92.これらの仕事に は,教育内容や公式ではないスキル(部門固有の経 よって,女性は,家計所得への寄与,家庭内での経 験や OJT へのアクセスなど)に,顕著な差がある 済的エンパワメントの強化,一層の社会参加が可能 からだという解釈である 86. となる.またこれらの仕事をしているからこそ,政  生産の柔軟性を高める闘いによって非公式の労働 府やコミュニティが支援するプログラムへアクセス 条件が一般的になっていき,それが特に女性に影響 できることもある 93.そのため,たとえマイナス を与えてきた 87.インドでは,輸出の高い伸びに の属性があったとしても,そこには多くのプラスの もかかわらず,産業関連雇用における女性の割合 属性もあることから,女性は他の仕事よりもこの仕 –  は 1989  –  1990 年 の 21.3 % か ら 1994  1995 年 に 事に就きたいと思うかもしれない. は 17.5%へと減少したが,それは出来高払いの在  例えばインドネシアの女性は,大規模な輸出指向 宅労働者や小規模製造業者への下請けの増加と関連 の工場で働くことを一流だと考えるが,それは国内 88 があった .より柔軟な労働の選択肢ができれば, の非輸出部門や地元のサービス業での雇用よりも, 270 世界開発報告 2012 賃金が高く労働条件がよいからである.教育水準の るわけではないことを意味している.また,恩恵を 高い女性は,手仕事業務ではないサービス業(教職 十分享受している女性の間でも主に賃金と労働条件 や観光業など)の仕事に就きたがるが,輸出指向の に依然として差が残っており,縮小することが必要 大規模工場での雇用は短期の雇用としては最善の である. 94 代替策だろう .同様に,女性農業労働者(特に,  これらの格差が存続する限り,グローバル化だけ 柔軟性の高い非公式の仕事をする女性農業労働者) ではジェンダー不平等をなくすことはできないし, は,グローバル世界における生産活動で直面する問 なくなりもしないだろう.したがって,グローバル 題にもかかわらず,多くの人が依然として,他の仕 化の潜在力を,発展とさらなるジェンダー平等への 95 事よりもこの手の仕事がやりたいと話す . 原動力としてフルに生かそうとする国には,ジェン  しかし,人的資本の形成,使える時間,生産用投 ダー格差を縮小するための公的措置が不可欠であ 入資源へのアクセス,エージェンシーにジェンダー る.グローバル化した世界では,ジェンダー不平等 差が存在し続け,ジェンダー間職務分離が蔓延して のコストが上がるという観点からも,そのような公 いるという事実は,すべての女性がグローバル化に 的措置は急務なのである. よってもたらされる経済機会の恩恵を十分に得てい CHAPTER6 グローバル化がジェンダー平等に与える影響:何が起き、何が必要なのか 271 章のまとめ グローバル化は,ジェンダー平等の拡大に寄与する可能性がある 注目点 アへの接触の増加と労働者の処遇改善を求める消費者の声 貿易開放,技術の進歩と普及によって放たれた力と,情報 を受けて,女性に対する賃金の公正化と労働条件の改善を へのアクセスの向上が,平等の拡大を阻む制約の一部を取 余儀なくされている. り払った.しかし,全ての人がその恩恵を受けているので はなく,取り残されているのはたいてい,既存の制約に強 男女の役割と規範の変化 く拘束されている女性たちである. 主にテレビとインターネットを通して情報へのアクセスが 向上し,他国の人々の生活や社会的道徳観――人々のもの 注目の理由 の見方を変え,究極的にはより平等主義的な姿勢の受容を 経済機会へのアクセスの向上 促す知識――に触れられるようになった.また,女性の 貿易開放と ICT の普及によって,経済機会への女性のア 経済的エンパワメントが強まると,このプロセスは強化さ クセスが向上し,男性の賃金に比べ,女性の賃金が増えた れる可能性がある.性別役割の変化を促すだけでなく,新 ケースもある.輸出部門と ICT 活用部門の成長は,体力の たにエンパワーされた女性たちが時間配分に影響を与えた 重要性の低下と認識スキルの重要性の上昇と相まって,女 り,世帯内の相対的なパワーバランスを変えたり,もっと 性労働力の需要を押し上げてきた.ICT のおかげで時間と 広範にエージェンシーを行使するようになるからである. 移動性の制約が緩和され,女性の農業者や企業家の間で市 場へのアクセスも向上してきた. 政策にとっての意味 公共政策抜きで,グローバル化だけでジェンダー不平等を 行動へのより強力なインセンティブ なくすことはできないし,なくなることもないだろう.多 グローバル化が進行する世界に関連する複数の要素が, くの国の多くの女性にとって,エージェンシーと経済機会 ジェンダー平等の向上を目指す行動へのインセンティブを へのアクセスは大幅に向上したが,今なお大きな格差が 強める.統合した世界では,ジェンダー不平等は,特に女 残っている分野もある.したがって,発展とさらなるジェ 性集約的な財とサービスに強い国の場合,国際競争力を弱 ンダー平等への原動力として,グローバル化の潜在力をフ めてしまうため,コストがかかるものとなる.諸外国から ルに生かそうとする国々には,人的資本の形成,エージェ の圧力によりかつてなく多くの国が差別禁止をうたう条約 ンシー,経済機会へのアクセスにおける既存のジェンダー に批准するようになり,また多国籍企業は,人々のメディ 格差の縮小を目指す公的措置が必要である. 272 世界開発報告 2012 注 1. Aguayo-Téllez 2011; Do, Levchenko, and Raddatz ルの種類が変化してきたという意味では, 相補的である. 2011. 31. Black and Spitz-Oener 2010; Rendall 2010; Weinberg 2. Jacobsen 2011; Rendall 2011. 2000. 3. Sassen 2011. 32. Bacolod and Blum 2010; Black and Spitz-Oener 2010. 4. World Bank 2010. 33. Liu, Tsou, and Hammit 2004; Ng 2006. 5. Aguayo-Téllez, Muendler, and Poole 2010. 34. Rendall 2011. 6. ITU 2010. 35. 同上. 7. Stern, Dethier, and Rogers 2005. 36. 同上. 8. この算定には 51 カ国のデータを使用.先進国に含まれ 37. GSMA Development Fund 2010. るのは,オーストラリア ,オーストリア ,バハマ,バルバ 38. Comfort and Dada 2009; Kyomuhendo 2009; Munyua ドス,ベルギー,カナダ,キプロス,デンマーク,フィ 2009; GSMA Development Fund 2010. ンランド,フランス,ギリシャ,香港特別行政区,中国, 39. Sane and Traore 2009. ハンガリー,アイルランド,イスラエル,イタリア ,日本, 韓国,ルクセンブルグ,オランダ,ニュージーランド,ノ 40. GSMA Development Fund 2010. ルウェー,ポルトガル,プエルトリコ,サンマリノ ,シン 41. 同上. ガポール, スペイン, スウェーデン, スイス, トリニダード ・ 42. Melhem, Morrell, and Tandon 2009; Ng and Mitter トバゴ, イギリス, アメリカ.発展途上国に含まれるのは, 2005. バングラデシュ,ボツワナ,ブラジル,チリ,コスタリカ, 43. Yitamben and Tchinda 2009. エジプト・アラブ共和国,エルサルバドル,グアテマラ, 44. Schaefer Davis 2005. インドネシア ,マレーシア ,パキスタン, パナマ, ペルー, フィ リピン,ルーマニア ,スリランカ,タイ,トルコ,ベネズ 45. Statistics Netherlands 2009 か ら の デ ー タ.http:// エラ・ボリバル共和国. www.cbs.nl/en-GB/menu/home/default.htm. 9. Fontana 2009. 46. Mitter 2000; Ng 2001. 10. Baden and Joekes 1993; Pearson 1999; Standing 47. Becker 1957. 1999; Wood 1991. 48. Bhagwati 2004. 11. Wood and Mayer 2001. 49. Black and Brainerd 2004; Kongar 2007. 12. Mitter 2000. 50. Do, Levchenko, and Raddatz 2011; van Stavaren 他 13. Nanda 2000. 2007. 14. Mitter 2000; Pearson 1998. 51. Do, Levchenko, and Raddatz 2011. 15. Mitter 2000. 52. 同上. 16. Barrientos, Kabeer, and Hossain 2004. 53. 同上. 17. von Braun, Johm, and Puetz 1994; Wold 1997. 54. Seguino 1997; Seguino 2000. 18. Arizpe and Aranda 1981; Barndt 1999; Barrientos 他 55. Byrnes and Freeman 2011. 1999; Barrón 1994; Collins 1993; Dolan and Sorby 56. Gray, Kittilson, and Sandholtz 2006. 2003; Thrupp, Bergeron, and Waters 1995. 57. 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Washington, DC: World Bank. 278 スプレッド 3 年齢が変わり,身体が変わり,時間が変わる――思春期の少年少女  8 カ国の都市部と農村部のコミュニティで暮らす う親の見解は,以下に北スーダン紅海沿岸地域の女 –  11  17 歳の少年少女 800 人が,日常生活,時間の 性が語ったとおり,特に娘に対して徐々に変化して 使途,将来の抱負と希望,そして今の時代に少年 / きた. 少女であることの意味について語った 1.男女とも 今の世の中の需要とチャンスを意識しており,教育  私は 1963 年にベガ族の中所得世帯に生まれ を重視し良い仕事に就きたいと願っている.彼らの ました.当時は今とはずいぶん違っていまし 答えや会話からは,ジェンダー差が人生のいかに早 た.7 歳になると,私は家の農作業や家事で母 い時期から表れ,期待される男女の役割と行動が日 を手伝い始めました.その地域の女性は畑で 常生活のあらゆる面――親との関係から互いの評価 は働きませんが,種まきと収穫を手伝うので まで――にいかに浸透しているかも浮き彫りにな す.村には学校はなく,学校へは行きませんで る.そのなかには,適切な行動を構成する要素―― した.また女子教育も行われておらず,教育を 良い / 悪い少年,良い / 悪い少女の意味――を彼ら 受けた女子は地域には 1 人もいませんでした. がどう定義しているかも含まれる(スプレッド図 女が教育を受けるなど恥だと思われていまし 3.1). た.17 歳になると,両親は何の相談もなく私  一生懸命勉強することと学校で良い成績を取る といとこを結婚させました.子どもは 7 人で, ことは,良い少年 / 少女の決定的な特性であり,彼 娘が 3 人,息子が 4 人です.娘は全員学校に らの主要な責務のひとつである.少女にとって学校 行かせましたが,4 年生に進級して勉強を続け の次に重要なのは,家の手伝いである.他にも良い ているのは 1 人だけです.できれば彼女がこ 少女の要素には,個人の性格特性――従順・素直 のまま勉強を続け,この村の少女のなかで一番 とか,敬意を表するなど――がある.対照的に服装 高いレベルの教育を受けてほしいと思っていま が派手,目的なくうろつく,深夜まで外出するなど す.そう,今では教育,特に女子教育に対する は,少女にとって不適切な行動とみなされる.少年 私の考えは変わったのです. については,リスキーな行動――喫煙,飲酒,薬物 使用――が悪い少年の定義の中核的要素であり,こ  少年も少女も教育を受ければ親よりも良い未来が うした行動をしない少年が良い少年とされる. 待っていて,自分の願望を達成できると思ってい  思春期の若者もその親も,教育を非常に重視し る.「学校はとても大事です.私には公務員の兄た ている.インドで参加した少年少女の 1/4 を除け ちがおり,私も彼らのようになりたいのです」(ブ ば,調査を行った少年少女の大半がその時点で学校 , ルキナファソの若年男性)「教育を受ければ現代社 に通っていた.このインドの少年少女たちが学校を 会に参入できるし,良い仕事にも就けます.かつて 辞めた時の学年は 1 年生から 10 年生までさまざま 教育が重要ではなかったのは,皆農民で将来を考え だったが,多くは 5 年生か 6 年生だった.少女た たり今を変えようと思ったりしていなかったからで ちは家事や農作業を手伝うために,少年たちは塗装 す」(北スーダンの若年男性),「明るい未来,農業 工,大工,都市部での機械工,農村部コミュニティ よりも楽な仕事,より豊かな経済生活」(ベトナム での農業労働者として働くために学校を辞めてい , の若年男性)「大学まで勉強して卒業したら仕事を た. して,それから学識のある母になるわ」(北スーダ  すべてのケースで,思春期の若者の就学と退学の ンの若年女性)などの発言があった. 決断は親の教育への見解に左右されていた.そうい  しかし彼らは,望む教育水準には到達できないか スプレッド 3 年齢が変わり、身体が変わり、時間が変わる――思春期の少年少女 279 スプレッド図 3.1 良い少女と少年,悪い少女と少年の特性 a. 良い少女 b. 良い少年 14 14 12 12 参加者が言及した割合 参加者が言及した割合 フォーカスグループ フォーカスグループ 10 10 8 8 6 6 4 4 2 2 0 0 友 ない る い 直 (喫 伝い る )に る 敬 ない す る い が 勉 い る を する 従 する 家 敬意 直 い す 勉 る る 非行 の手 奉す い し 素 飲酒 す 表 す し 勤 な い 素 手 を表 す す 良 ドがい 走ら が 正 ・ を を 強 宗 装を 正 い 応 家に 奉 ・ を 強 家 を信 達 儀 順 意 勉 儀 信 順 レン 礼 従 服 礼 達 伝 教 い い ルフ 友 教 宗 し 煙・ 男 の ガー 相 c. 悪い少女 d. 悪い少年 14 14 12 12 参加者が言及した割合 参加者が言及した割合 フォーカスグループ フォーカスグループ 10 10 8 8 6 6 4 4 2 2 0 0 を で ) ) 嘩 う ド 春 非 とを いる 煙 い の 奉 い 敬 いを い 表 い が い ま 強 切 う い く く レ 喧嘩 従 いる い い く を表 盗 い 非 勉強 く 煙 い 宗 従 飲酒 酒 喫 な を な つ 喧 言 ン 売 家 信 な 伝 な 装 な く 勉 適 外 な つ な つ な 窃 で さな ( しな 飲 ( か 意 し ろ が ろ し こ が 手 し 服 さ 不 で し を で ・ ・ 行 聞 ド う 奉 教 順 嘘 順 を ン を 信 喫 外 を 親 フレ 意 フ 教 敬 ル ま 行 宗 イ ー ー の 遅 ガ 遅 夜 ボ の 夜 勢 大 男性回答者 女性回答者 出所:“Defining Gender in the 21st Century: A Multi-Country Assessment” (dataset) に基づく世界開発報告 2012 チームの試算. もしれないとも感じている.自分の希望と現実とを 実にはのどの程度のレベルまで教育を受けられると 比べてもらったところ,ブータン,ブルキナファ 思うかと尋ねると,答えはバラバラで,中等教育の ソ,イエメン共和国で参加した女子全員が少なくと 修了が精いっぱいと答える子もいれば,医師や弁護 も大学の学位が欲しいと答えたが,農村部の少女た 士やエンジニアになる夢は無理だろうと思っている ちは,たとえ運が良くても,中等教育以上の学校教 子もいる.少年たちもまた大学や専門職の学位を欲 育は受けられないだろうと感じていた.フィジーと しいと思っているが,ブルキナファソとフィジー農 ヨルダン川西岸地区およびガザの少女たちは,大学 村部の少年らは,大勢の子が初等教育を修了できな の学位を得る夢は叶うと思っている.インドでは圧 いだろうと感じている.そしてガザの一部の少年た 倒的多数の女子が大学学位を欲しがっていたが,現 ちは皆,高等教育進学の夢を抱いているが,中等教 280 世界開発報告 2012 育レベルで終わる可能性が高いことを分かってい 妹の面倒をみなきゃならないし,とにかくやらな る.ブルキナファソの少年のなかには,初等教育以 きゃならないことがたくさんあるの!!」とこぼ 上の教育を受けたいと思わない子もいる.ドミニカ していた.パプアニューギニア農村部のアルマは, 共和国の少年たちは,勉強はより良い未来への最善 「男子は何の手伝いもせず,話し相手を探したり, の道ではないという認識を共有している. 一日中通りでぶらぶらしたり,ガムをかんだり,音  彼らの希望と現実の間のギャップを説明する理由 楽を聴いたり,寝たり休んだりしているわ.女子は は,物理的距離から経済的困窮,さらに性役割まで どんな家事もやるし,薪を集めたり,水を汲みに 多岐にわたる.距離の問題とインフラの欠如は男女 行ったりしてる.家事をやるのは息子ではなく娘 ともに悪影響を及ぼすが,村に学校がなかったり, と決まっていて,自由時間なんてないの」と話す. 一緒に通学していた友達が退学したりすると,少女 ブータンの少年サンゲイは,「女子はほとんどの時 の方が困難な状況に陥る.あらゆる場所で,少女は 間,家で働きあまり遊ばない.僕らの年代の男子は 少年より移動性の制約を多く受ける.少年少女は家 女子より遊んでいて働いてないよ」と同意する. 族の経済状況にも影響を受ける.少年は世帯所得に  少年たちも手伝いを期待されるが,彼らへの要求 寄与するために,少女は家の手伝いをするために学 はもっと控えめで,それほど時間をとるものではな 校を辞める.このような場合,きょうだいの数や生 い.「男子には決まった仕事はないですね.必要な まれた順序が親の決断に影響を及ぼす.インドの少 ときは近所に買い物に行ったりするけど,1 日に 1 年は「ふつうなら子どもは全員学校へ行くけど,経 時間もかかりません」「頼まれれば家の手伝いをし 済的に厳しくなると下のきょうだいは学校へ,上の ようと思うけれど,誰も僕に頼まないんです」と述 きょうだいは働きに出されるんだ」と指摘した.イ べたのは,北スーダンの若年男性である.彼らは自 ンドの他のコミュニティの少女たちも同様の説明を 由時間の一部を勉強にあてる一方で,家計所得の稼 行った. ぎ手という将来の役割に関する社会規範に応える意  ジェンダー差は退学の決断にも影響を及ぼす. 味もあって,もっと生産的なやり方で自分の時間 ブータン,ブルキナファソ,インド,北スーダン, を使う方法をもちたいと話す.「もっとたくさん働 イエメン共和国では,少女は花嫁修業のため,危険 き,コンピュータゲームで遊んでいる時間は減らし から身を守るため,または望まない妊娠を避けるた たい」(ドミニカ共和国の若年男性),「家で勉強し めに学校をやめる.「6 年生の時にボーイフレンド たり,何もしないでいるより,お金を得て小さな が私の教育の妨げになったの.私は妊娠してしまっ 事業を始められたらいいな」(南アフリカ),「仕事 たから」(リベリアの若年女性)とか,「あれは私の や,自由時間を有意義に使うことが,ぜひやりた 責任.まだ学校に通っていたときに,私にはボーイ い」(ヨルダン川西岸地区およびガザ),「収入が得 フレンドがいて妊娠してしまった.私は退学して家 られる活動に携わりたい」(アフガニスタン)など にいなければならなくなりました」(パプアニュー の声が挙がった. ギニアの若年女性)といった話が聞かれた.  成人への移行期にあたる思春期は,多くの人に  性役割についての世間一般の見解と拘束力のある とって世帯を形成し子どもをもつ時期でもある.調 社会規範が,思春期の若者の日常生活を形作ってい 査に参加した 19 カ国の 2/5 のコミュニティでは, る.そこに期待されているのは,女子は家の手伝い 若年女性たちが「女子はたいてい 17 歳になる前に をするということだ.特定の家事に責任を負うのだ 結婚して出産する」と言っていた.また全 19 カ国 から,女子の自由時間は男子よりもたいてい短く 中 11 カ国では,若年女性たちが「少女が 15 歳未 なる.ブルキナファソの 4 つのコミュニティでは, 満で結婚,出産するのは当たり前で,その傾向は都 「男子は女子より長時間楽しく過ごしている.彼ら 市部よりも農村部に見られる」と語った.性的活動 の自由時間は女子より長く,洗濯や炊事をする必要 が低年齢で始まるのは,早婚に伴うものもあるが, もないからだ」ということが,何の異論もなく受け 必ずしもそうではない.「私は 10 歳で結婚して, 入れられていた.ドミニカ共和国の少女のグループ 15 歳で子どもを産みました…これは適切な年齢で 「私たちは床を掃除したり,洗濯したり,弟や は, はありません.出産は 18 歳以降でするべきだと思 スプレッド 3 年齢が変わり、身体が変わり、時間が変わる――思春期の少年少女 281 います.物事の是非がわかるようになってから子ど ザの思春期の少年).「男子はギャングに入り,大型 もを産むのが女性のためです」(インドの若年女性) ナイフや石や銃で闘うんだ」(ドミニカ共和国の思 という意見が出た.ドミニカ共和国の少女たちによ 春期の少年)といった発言が出た. れば,大勢の少女が 13 歳で性交を始め――母親に  女子のいる場所は家庭の空間にもっと限られてい なるそうだ.実際,サントドミンゴの少女が「私の る.少年も少女も,女子は家にいたり友達と時間 友達は 11 歳なんだけど,妊娠してるの」と話して を過ごしたりするのが楽しいのだと言う.「私たち いた.タンザニアでは,初回妊娠の平均年齢は 15 は友達と一緒にいたり遊んだりするときが幸せで 歳とみられている.「でも 12 歳で最初の子を産む す.一緒にいるという感覚がうれしいの」(インド 子もいますよ」と若年女性が言っていた.リベリア の若年女性)である.しかし,こうした認識のなか の少女は「こんな年で出産するから,死んじゃうこ には,自由に動き回ったり自由な時間を得たりする ともある」と話した. 少女の力に対する制約と結びついているものもあ  何より驚いたのは,どのディスカッショングルー る.ドミニカ共和国の少年少女は「男子は外出の自 プの思春期の少年少女も,それほど低年齢で出産す 由が比較的あるけど,女子は制限されている」,「外 ることを望ましいとも受容できるとも思っていな 出したら,自分の身に何かが起きるのではないかと かったことだ.事実,家族をもつのに理想的で望ま か,レイプされるのではないかと女子は怖がってい しい年齢を尋ねたところ,彼らの多くが結婚も出産 ます」と述べた.他国の少年少女もこのように言っ も 18 歳以上がよいと答えた.15 歳未満で父親に 「男子は好きなだけ自由でいられるし, て同意する. なった男子の報告はまったくなく,少年たちは自分 それでいいとされる.女子は暗くなると外出できな たちの性的活動の開始が女子より遅いことを認めて い.男子は行きたいところにどこでも行けるのに」 いる.男子に関する報告で,一番早い性交の年齢が (インドネシア),「男子はコミュニティをあちこち 16 歳だったペルーでは,性的関係の早期の開始が 動ける.どこに行こうが心配ないし,誰もそれを変 早期の世帯形成の決定要因となっている.カップル に思わない」(イエメン共和国),「女子は楽しみを は正式には結婚しないが,少女が妊娠するとふたり 家の中で見つけなければならない.男子みたいに外 は同棲を始め,妊娠が“ふたりのミス”(男子がそ 出させてもらえないから(ヨルダン川西岸地区およ う呼んでいる)であることを認めるのである. , びガザ)「女性は家にいるべきだ……家の外や通り  低年齢でボーイフレンドやガールフレンドがいる (北スーダン) に出ていかない方がよい」 . というのは,フォーカスグループが悪い行動と定義  だが少女たちは,自らを家庭の領域に閉じ込めて した要素のひとつである.少年の悪い行動は,悪い いる規範に対し,積極的に異を唱えている.家庭内 習慣や悪い仲間へと発展する.暴力と喫煙や飲酒 の女性の役割について若い男性が伝統的な見方をす は,通りで少年に威嚇や少女に嫌がらせする少年 る一方で,少女たちは母親たちとは違う生き方を強 グループやギャングへの参加と同様によく挙がっ く求めており,仕事と家庭(出産)を両立させたい た(スプレッド図 3.1 参照).こうした悪い仲間は, .自分の母親た と思っている(スプレッド図 3.2) 頻繁に夜遊びする少年たちと関連があった.薬物, ちの勤勉さや献身,家族の世話に敬服する一方で, 酒,その他の悪い習慣との接触が増えていき,勉強 主婦の母親をもつ少女の多くが将来母のようになり への興味を失っていくのである.女子は家の中へ たくないのである.多くの少年も,自分の姉妹や未 引っ張り込まれ,男子は家の外へと追い出される. 来の妻には母親とは違う生き方をしてもらいたいと 少年は自由に動き回れるため,少女よりも危険にさ 思っている.「母は家で仕事をして経済的に家族を らされる.「男は自由でいるときに幸せで,女は家 支え,家庭内のことに大きな責任を担っている.父 にいるのが幸せなのさ」と北スーダンの少年は述べ は酔って帰宅すると暴言を吐いたり暴力を振るった た.「少年ってのはバイクを走らせ,村のあちこち りすることもあるが,母はいつも僕たちに夢をもて (フィジーの若年男性) をうろつくもんだ」 ,「男子 と励ましてきた.僕らはそんな多くの困難に向き合 は互いに影響し合い暴力的になっていく.女子は全 えないし,そんな生活はしたくない」(インドの少 く暴力的ではない」(ヨルダン川西岸地区およびガ 年)のだ.フィジーの少女のグループではこんな意 282 世界開発報告 2012 スプレッド図 3.2 女性の役割についての,思春期の少年少女の意見 女性の役割についての見方 80 73 70 60 55 50 45 回答率  (%) 40 30 27 20 10 5 少年の意見 少女の意見 女性は家庭と仕事を両立させるべきだ 女性は家庭内の仕事だけをやるべきだ 出所:“Defining Gender in the 21st Century: A Multi-Country Assessment” (dataset) に基づく世界開発報告 2012 チームの試算. 見が続いた.「母たちの生活は困難なものでした」, 「母親は家にいてたくさんの責務を負います.子ど もの世話,家事,料理,洗濯,農作業などです」, 「良い教育を受け進歩的な仕事がしたい……まず教 育を受けて,次に仕事をし,結婚は[母のように若 くしてではなく]最後にするの」. 注 1. 「世界開発報告 2012 ジェンダーと経済的選択に関す る定性的研究」には 19 の国と地域 (スプレッド1の 注1に記載)が参加した.思春期の若者のフォーカ スグループは,ブータン,ブルキナファソ,ドミニカ 共和国,フィジー,インド,北スーダン,ヨルダン川 西岸地区およびガザ,イエメン共和国の 8 つの国と 地域のサブサンプルで実施.他の多くの国では,思 春期の若者は若年女性と一緒に面接に参加した. スプレッド 3 年齢が変わり、身体が変わり、時間が変わる――思春期の少年少女 283 PART Ⅲ 公的措置の役割と潜在力 PART Ⅲ 公的措置の役割と潜在力 285  パートⅡの分析で,公的措置の対象として次の 4 つ 置への潜在的な入口点に関して指針を提供してくれる. の優先分野を指摘した.これら 4 分野では経済開発に 相互に補強し合う制約が存在する場合,介入策に順番を もかかわらずジェンダー格差が持続しており,公的措置 付けたり,組み合わせたりする必要性を明らかにしてく を必要とする強力な論拠があるといえる.すなわち,① れる. 特に幼児期や幼年期および出産適齢期における女性の超  第 7 章では,優先分野の1つずつについて,さまざ 過死亡率を削減する,②所得や生産性の男女間格差を解 まな政策の経験を多様な諸国――先進国と途上国の両方 消する,③家庭や社会における発言権のジェンダー格差 ――にわたって検討する.政策の評価や勧告に際して を縮小する,④ジェンダー不平等の時の流れに伴う再生 は,われわれは存在している場合にはインパクト評価も 産(相続,経済機会,エージェンシーのいずれを介して 含め,できる限り厳格な証拠に依拠したい.したがっ 伝達されるかは問わない)を制限する. て,より多くのより良い証拠がある政策(教育アクセス  パートⅢでは次の 3 つの問題を検討する.すなわち, を改善するための条件付き現金給付や,賃金雇用を促進 ①適切な政策をどのようにして選択するか,②どのよう するための職業斡旋プログラムなど)と,あまりわかっ にすればその政策をうまく実施できるか,③国際開発社 ていない問題にかかわるその他の介入策(女性の司法ア 会はジェンダー平等化のための政策をどのように支援す クセスを改善するための措置や,思春期の少女の予定外 ることができるか.まず行動のために 4 つの優先分野 妊娠を削減する方法など)を区別することができる. に取り組む政策選択肢の詳細な記述で議論を始める.そ  執拗なジェンダー不平等の基本的な原因を対象とする れを各国さまざまな状況下で,どのように活用されてい 政策以外の事項について,第 7 章では枠組みがジェン るかという具体的な実例で補完する(第 7 章).この後 ダーの主流化にとって,どのようにして有効で戦略的な にジェンダー改革の政治経済学の検討が続く.そして, 情報を提供することができるかも例示されている.多く ジェンダー分野における改革と再分配や平等化推進とい の政策はジェンダーに直接かかわっているわけではない う他の種類の改革を識別する問題を強調する(第 8 章). が,家庭や社会におけるジェンダー関係に影響を及ぼし 行動のための世界的なアジェンダを提案して終わりとし ている.このような結び付きを無視すると,介入策は目 たい. 標達成にとって有効性が低下しかねない.また,場合に よっては,ジェンダー別のインパクトを考慮に入れる と,政策をジェンダー平等を高める方法として使うこと 適切な政策を選択する が可能になるだろう.  政策立案者は市場や公式及び非公式の制度を通じて作 用する介入策を選択することができる.政策は取り組も うとしている問題によっても変わり得る.市場に関し 有効な政策の実施 て,価格というのは一連の税金や補助金を通じて変更す  適切な政策の設計はジェンダー平等化に向けた第一歩 ることが可能である.公式な制度について,法律は改正 にすぎない.それを有効に実施することも等しく重要で したり執行を改善したりすることができるし,サービス ある.第 8 章では,ジェンダー改革の政治経済学にか 提供の水準と質は引き上げることができる.特に社会規 かわる主要な側面に光を当てるために,広範な諸国の経 範など非公式な制度を対象にする場合,政策はより間接 験を検討する. 的になる.例えば,情報の提供やグループ形成の促進な  ジェンダー改革がもっている 2 つの特徴が反対を誘発 どがある. する可能性があり,前向きな変化を確保するためには,  第 7 章では,パートⅡで示した枠組みが,政策の選択 それを管理する必要がある.第 1 は,すべての改革と同 や設計の複雑さを 3 つの方法で削減するのに,どのよう じく,改革は社会のなかで,男女間を含めグループ間で に役立つかが例示されている.第 1 に,政策の焦点を 資源や力を再配分することになる.したがって,改革で 最大の懸念事項であるジェンダー格差に集中できる.第 経済効率が高まる場合でさえ,損をするグループがある 2 に,その枠組みは焦点を症状から決定要因にシフトす だろう.第 2 に,ジェンダー改革はしばしばジェンダー るので,政策は最も明らかな表明ではなく根本原因を標 別の役割に関する強力な社会的な規範や信念に挑戦する 的にできる.第 3 に,最も束縛力の強い制約や政策措 ことになる. 286  第 8 章では,ジェンダー平等に特に適切な 4 つの政 削減するには国内の公的措置が重要である.しかしなが 治経済学上の問題に光を当てる.第 1 に,改革の周りに ら,世界的な行動――政府,市民社会組織,協調行動を 集まって幅広い基盤の支持に触媒作用を及ぼす連合を構 取っている国際機関などによる――は,国内政策の範囲 築することが必須である.ジェンダー政策改革の中心に とインパクトを増大させることができる.第 9 章では, は国家の措置がくるものの,政党,労働組合,市民組織, 国レベルの努力を補完するものとして国際社会による措 民間部門など非国家主体を含む連合は,変化に向けて強 置の動機付けや,そのような措置が焦点を当てるべき分 力な力になり得る.特に女性グループは労働法制や家族 野を検討する. 法におけるジェンダー平等化に向けて努力することにお  ジェンダー平等のための世界的な措置は次の 3 つの理 いて,今後ともこれまでと同じく重要であろう.また, 由から正当化される.第 1 に,女性の超過死亡にかかわ 男性はジェンダー平等の推進にまだ積極的ではないもの る根本原因への取り組みなど一部の分野における進展の の,多くの分野ではより広範な男性の関与があり,多く ためには,特に最貧国や最脆弱国を中心とする途上国に の途上国では女性の権利に対する男性の支持が増大して 向けて,先進国からもっと資源を供与する必要がある. いる. 第 2 に,効果的な措置は時として新しい知識の創造や普  第 2 に,企業――大小とも――にはジェンダー平等の 及など公共財の生産を必要とする.第 3 に,多数の諸国 支持者になる,という強いビジネス上の理由がある.グ や諸機関の間の国際協調は,例えば,国内措置に向けた ローバル化した経済のなかでは人材を巡る競争は熾烈で 弾みや圧力を生み出すことによって,政策の採用を促進 ある.会社としてはもはや有能な女性を見過ごす,ない し,その総合的な有効性を高めることができる. し無視する余裕はない.ジェンダー平等の公約は,特に  第 9 章では次のように結論付けられている.この世界 大企業の場合,顧客や投資家からの要請も強まっている. 的なアジェンダは,われわれの分析が最大かつ本質的な さらに,女性の市場支配力が高まっていることを受けて, ジェンダー格差があると指摘した分野に焦点を当てるべ 企業はこのような公約を行動で裏付けようとしている. きである.それは潜在的な開発成果が最も大きく,所得  第 3 に,自然災害や政治的・経済的な変化などに伴う の伸びにもかかわらず格差が持続している分野である. 混乱は,政策立案者にとってはジェンダーの成果を改善 つまり,本報告書で特定された 4 つの優先分野――①女 する改革を打ち出す千載一遇のチャンスとなる.国際機 性の超過死亡を削減し,まだ残存しているところでは教 関による唱導や世界的なアジェンダが示すお手本も,同 育格差を解消する,②経済機会に対する女性のアクセス じような役割を果たすことができる. を改善する,③家庭や社会において女性の発言権やエー  最後に,改革には多くの道がある.往々にして政府は ジェンシーを増大させる,④ジェンダー不平等の世代を 改革のペースと推進に関して,社会的な合図に従ってい またぐ再生産を制限する――における各国の措置を補完 る.政策の策定と実施が市場や社会規範における継続 することに,国際社会は努力の焦点を絞るべきである. 的なシフトに由来している場合,収斂や調整を図れば持 また,われわれは追加的な共通の優先課題にも光を当て 続的な変化を誘導することができる.しかし,そのよう ている.すなわち,データの改善,知識の創造・共有の な「漸進的な」改革では,執拗なジェンダー不平等に帰 改善,学習の改善を通じて,証拠に基づく公的措置を支 結している経路依存や制度的硬直性を克服するのに十分 援することが重要である. ではない可能性がある.社会的な力学を変更して,より  このような分野については,国際社会からの支援は 公平な均衡に向かうためには,政府が「転換的な」改革 ファイナンス供与,革新と学習の促進,パートナーシッ で行動することが必要である.ジェンダー改革の一環と プ(学界,市民社会,民間部門との間のものを含む)の して漸進的な政策と転換的な政策のどちらかを選択する 強化を盛り込んでいるべきだ.第 9 章で指摘するよう 際,政策立案者にとっての挑戦は,変化のペースと逆戻 に,詳細は国や優先分野によって異なり,持続的な支援 りのリスクに関してバランスを取ることであろう. を要する分野もあれば,支援の規模拡大を要する分野も あるだろう. 行動のための世界的なアジェンダ  第 7 章と第 8 章で示すように,ジェンダー不平等を PART Ⅲ 公的措置の役割と潜在力 287 288 7 世界開発報告 2012 CHAPTER ジェンダー平等のための公的措置  パートⅠとⅡで示したトレンドと分析に引き続いて,本章では最も深刻なジェン ダー格差に取り組むための公的政策の選択を検討する.実際問題として,ジェンダー 平等化のための政策は多種多様な形を取っており,市場(税金や補助金),公式制度 (法律ないし規制上の変更や公共サービスの提供),あるいは非公式制度(社会規範を 変える取り組み)を通じて機能する.可能な介入策にかかわるこのような多様性を考 えると,政策の選択や設計というのは圧倒されるような問題のように思える.  この問題をもっと扱いやすくするためのわれわれのアプローチは 3 重になってお り,われわれの枠組みに基づくより良い分析がどのように有益かを例証している.第 1 にわれわれは,これまでの各章における分析が最大の懸念があるジェンダー格差と して光を当てたことに焦点を絞る.これらは社会の福祉や国の開発展望にとって重要 な格差であるにもかかわらず,国が豊かになるのに伴って自動的に解消する格差では ない.このような優先分野は次の通りである.すなわち,特に幼児期,幼年期,出産 適齢期における女性の超過死亡率を削減すること,所得と生産性の男女間格差を解 消すること,社会と家庭における発言権にかかわるジェンダー格差を縮小すること, ジェンダー不平等の時を超えた再生性を制限すること――この不平等の伝達が相続, 経済機会,エージェンシーのいずれによるかは問わない――の 4 つである.当然な がら,このような優先課題がすべての所得水準に共通してすべての諸国に該当するわ けではないであろう.また,各国の特性が是正政策をどのように調整する必要がある のかを規定することになるだろう.  第 2 に,われわれとしては次のことを強調したい.すなわち,政策を選択し,設 計するに当たって,懸念されているジェンダー格差の症状ではなく,その決定要因― ―基本的な原因――を標的にする必要がある.本報告書のパートⅡを通じて維持した 分析の枠組みは,このような原因に光を当てて,それが市場や制度の機能や,そのお 互いおよび家計との相互作用からどのように出現するかを解明するのに役立った.  第 3 に,枠組みからは所得の伸びにもかかわらず,次の 2 つのうちの 1 つを主因と 「執拗さ」を維持する傾向にあるジェンダー格差がなかにはある,と して,持続し, いう洞察が得られる.すなわち,多くの低・中所得国における乳児や幼児,妊産婦の 死亡率を削減するには制度的な改善が必要であるように,進展に向けてある 1 つの弾 みが阻害されている可能性がある.または,市場や制度の機能や,そのお互いおよび 家計との相互作用は,進展にかかわる多数の制約がいくつかの複数分野における同時 的な変化を必要とする,ということを意味している.したがって,職場や生産性にか CHAPTER7 ジェンダー平等のための公的措置 289 かわるジェンダー格差に取り組むためには,市場機 によらず,所得や生産性の男女格差を削減するとい 能の在り方,仕事に適用される法規制,男女の仕事 うことを意味する.この努力のためには,家事や介 に適用される信念や規範などにおける変化を必要と 護の負担からくる女性の時間的な制約を軽くし,労 する可能性があろう.したがって,実際には,ある 働や信用の市場機能と,特に法律や経済サービス提 特定の問題に関して,ある単一の制約が最も際立っ 供を中心とする公式制度の構造を改善するために, ているのかどうか,あるいは複数の制約が作用して 対象を絞った政策を必要となるだろう. いるのかどうか,また,それには同時的な取り組み  社会か家庭内かを問わず,発言権にかかわるジェ がよいのか,あるいは順序を追った取り組みがよい ンダー格差を削減するには,典型的にはやはり複数 のか,について政策立案者は理解する必要がある. の領域における政策が必要となる.女性の教育を改  本章のほとんどは,資質,経済機会,エージェン 善する政策は有益である.社会的な発言権について シーという 3 つの次元で,優先的なジェンダー格 は,情報を提供し,リーダーシップを男性の仕事だ 差を対象とする政策を検討することに当てられてい と考える規範を変えることに加えて,政治や企業の る.教育における不利という分野など時を超えた 指導者としての女性の能力に関する信念を変える措 ジェンダー不平等再生産の一部の側面も,ここでは 置が必要である.家庭内の発言権については,最も 対象になっている.しかし,思春期や早期成人期に 重要なのは,女性の経済機会を拡大し,法律制度, 生じるジェンダー別の不利に対処する方法について 法律の執行,司法へのアクセスにおける偏見を削減 は別途検討する.というのは,このような格差が する政策と,場合によっては,規範に影響を与える 「ジェンダー不平等の罠」を生むのに重要であり, 措置である. 是正措置には資質,経済機会,エージェンシーが,  思春期と早期成人期に発生するジェンダー不平等 どのようにしてこの年齢層により密接に結び付いて に有効な取り組みをするには,早期に,しかも介入 いるかに関する認識がなければならない,という 2 策がさまざまな結果にどのようなインパクトをもた つの理由による. らすかが認識できる方法で,介入することが必要で  人的資本の資質におけるジェンダー格差――ライ ある.例えば,思春期の少女向けの職業訓練は雇用 フ・サイクルの特定の時期における女性の超過死亡 アクセスを改善するだけでなく,妊娠を遅らせるこ や,教育における一部のジェンダー別不利など―― とができる,それを受けて少女たちはスキルの修得 に取り組むためには,公共サービス提供の改善を強 により多くの時間を割くことができるだろう. 調する必要がある.家庭向けに清潔な水と衛生設備  本章の最後の部分はジェンダー不平等の削減を目 の入手可能性を改善し,妊産婦にタイムリーな基礎 指した政策の選択や設計から離れて,他の目標をも サービスを提供することが,超過死亡率のジェン つ政策のジェンダー別のインパクトをどのように, ダー別格差の解消に向けて大きな前進となるだろ またなぜ考慮に入れるべきかを検討する.ジェン う.教育サービスは,貧困,民族性,カースト,人 ダー問題を無視すると,他の目標の達成にかかわる 種,地理によって現在不利な状態にある大きな人口 政策の有効性がどのようにして低下するかを示した グループのために,アクセスを改善することに焦点 い.また,ジェンダー平等に関係のない政策でも, を当てるべきだ.そのような強調は貧困層や疎外さ しばしばジェンダーの成果を改善するような形で設 れている人々に影響する「ジェンダー不平等の罠」 計することが可能である.したがって,ジェンダー に取り組むことにつながり,その解決策は需要ない 平等が政策目的として掲げられていない場合でも, し供給いずれかのサイドから出てくることになるだ ジェンダーは政策設計にとって重要であり,ジェン ろう.幅広いベースのセーフティ・ネットは所得 ダーの主流化をどのようにしたら戦略的な形で実施 ショック――ショックの性格や基本的なジェンダー できるかを例示したい. 関係を反映して,影響が男女によって異なり得る― ―の悪影響を緩和することができる.  経済機会へのアクセスに関して男女格差を埋める 健康や教育における格差を削減する政策 ということは,賃金雇用,農業,自営業のいずれか  教育における多くのジェンダー格差――および健 290 世界開発報告 2012 図 7.1 資質の格差を縮小する 政 ンダー平等 策 ジェ 制度 非公式 経済機会 家計 市場 エージェ 資質 ンシー 公式 制度 成 長 出所:WDR 2012 チーム. 康におけるいくつかのジェンダー格差――は,国が 化することが必要になる(図 7.1 の緑色部分). 豊かになるのに伴って縮小する.家計にとって,基 礎教育,保健,栄養向けに支出する際,所得が高け 女性の超過死亡率は制度是正の問題である れば,息子か娘かのいずれかを選択しなければなら  『世界開発報告 2004』などで指摘したように, ない必要性は緩む.国の立場からみて,所得が高け 公共サービス提供の改善は小さな課題でも簡単な れば,この分野におけるサービスの供給を増やす― 課題でもない 1.あらゆる政府にとっての重要な挑 ―学校や診療所の数を増やすだけでなく,アクセス 戦は,拡大した適用範囲をファイナンスすると同時 の便利さも改善する――ことが可能になる.また, に,サービスを貧困層にとって効率的に提供し,ア 典型的には成長に伴って,女性の賃金労働市場への クセスの容易さを持続的に確保することにある. 参加増大を奨励する市場シグナルも,女子教育の価 値を引き上げることによって,ジェンダー格差を削 清潔な水と衛生設備を提供する 減する方向に機能する.  第 3 章で示したように,現在の先進国は乳児期  しかし,われわれの分析では,所得が増加して や幼児期における女子の超過死亡率を,清潔な水や も,健康と教育において次の 2 つのジェンダー格 改善された衛生施設へのアクセスを改善することに 差が執拗に持続することが示されている.ライフ・ –  よって,1900  1930 年の間に解決した.一般的に言 サイクルの特定の時期における女性の超過死亡と, えば,利用地点での水処理の方が再汚染の公算があ 教育における一部のジェンダー上の不利である.各 る源泉での水処理よりも下痢削減の効果が大きい 2. ジェンダー格差に対処するには,特に貧困層や疎外 例えば,エチオピアの家庭で容器に貯めてあった水 層向けにサービス提供を改善することが必要であ をテストしたところ,半分以上が源泉後の汚染を示 り,したがって,サービス提供を担当する制度を強 していた 3.したがって,先進国の政府は都市部の CHAPTER7 ジェンダー平等のための公的措置 291 衛生状態を改善すると同時に,水道管による供給を (提供者によるサービス利用者に対す 「短いルート」 通じて利用点で清潔な水を提供することを選択し るもの)と,説明責任の「長いルート」(政策立案 た.また,途上国で水供給が改善されたところで 者や政治家によるサービス利用者に対するものと提 は,死亡率に大きな相違が生じた.アルゼンチンで 供者による政策立案者に対するもの)の両方を強化 は,水供給が改善したおかげで,子供の死亡率は平 する努力が必要である.貧困層にとって水を負担可 –  均では 5  7 %ポイントの低下がみられたが,最貧 能に維持する方法も発見しなければならない(ボッ 4 地域ではもっと大きな低下があった . . クス 7.1)  国連児童基金(UNICEF)と世界保健機関(WHO)  サービス提供者にかかわる契約の構造を改善し, の共同監視プログラムは次のように指摘している. 適正な規則を設計・執行することが,提供者を政 改善された水へのアクセスは 1990 年の 71%から 「長いルート」 策立案者から分離することによって, 2008 年の 84%へと改善したものの,水道水への の説明責任を改善するのに決定的に重要である. アクセスは同期間に 39%から 49%へともっと緩や 場合によっては,最適なアプローチには民間参加 かな上昇にとどまっている.特に都市部におけるア が含まれる可能性があろう.例えば,マニラでは クセス比率は人口急増のため停滞している.アフリ 水供給の適用範囲を 1997 年の 67%から 2009 年 カでは最貧 40%層をみると,安全な水(水道ない の 99%に拡大し,漏水と操業費の削減を通じて効 し水栓)にアクセスできるのは 5 分の 1 未満にと 率性向上を実現するのに,民間提供者が重要な役 どまっている 5.このような状況下で,家計(限定 割を演じた. されるわけではないが特に貧困家計)は,水の浄化  「短いルート」の説明責任を利用者による提供者 に関してしなければならない各選択のリスクと利益 に対する影響力を増大することによって補強するの を正確に評価するのが困難になっている.問題はこ は,サービスの基準が明確であることを確保しなが のような家計にとって標準的な選択肢は一般的に悪 らベンチマーク化し,サービスを有料化することに いことで,水供給や衛生設備の制度がもっとうまく よって達成できる.カンボジアはこの形の説明責任 機能しない限り改善しないだろう. を,顧客が苦情を申し立てるメカニズムを導入する  清潔な水を供給したり衛生設備を改善したりする ことに加えて,有料化の明確なメカニズムを創設す 方式が都市部と農村部では異なるのとちょうど同じ るために――接続ごとにメーターを設置し,請求シ く,このような環境下ではサービスの提供方法を改 ステムをコンピュータ化し,未払い者に対しては水 善することができる方法も異なる.ほとんどの低・ 供給を停止するなど――,大手の公益事業者と小規 中所得国については,あらゆる環境下でアクセスを 模提供者(中小都市)の両方に働きかけることに 増加するにはもっと多額の財源が必要になるだろ よって強化した. う.例えば,サハラ以南アフリカのインフラ向けの  水サービスについて料金を賦課するのは重要であ 資金調達の必要性に関する包括的な分析の結論によ るが,それと同時に,サービスは特に貧困層にとっ れば,清潔な水と衛生の必要性に対しては約 110 て負担可能なレベルにとどまっていなければならな 億ドルを毎年支出する必要がある.これは現行水準 い.したがって,一部の利用者に対する補助金は, 6 の約 1.5 倍に相当する .同じ研究は次のことも示 サービスのコストがカバーできるようにする必要が している.すなわち,資本支出のボトルネックに取 あろう.しかし,補助金の供与に関しては 2 つの り組み,操業非効率を削減し,コスト回収を改善す 問題がある.第 1 は,補助金が貧困層に届いても, れば,必要なファイナンス額の 3 分の 1 強を生み それが過度な水利用の奨励につながらないようにす 出すことができる. るために,どのように対象を絞るかということであ  水と衛生サービスを提供している制度の効率性を る.いくつかの選択肢が存在するが,それぞれに賛 高めるためには,政府介入の論拠を認めると同時 否両論がある.最も一般的に用いられているのは量 に,サービス利用者に対する説明責任を改善する適 ベースの補助金である(一定量までについて補助金 切な規則が必要である.都市部では水はネットワー を適用する).しかし,貧富の差があっても水の消 クを通じて供給される.したがって,説明責任の 費量に大差があるわけではないので,この補助金は 292 世界開発報告 2012 ボックス 7.1 水供給を改善する:ダカールとプノンペン  水サービス供給の改善は困難ではあるが達成可能な目標 に,2006 年以降,セネガル都市部の水部門は直接的な政 であり,児童死亡率の顕著な削減につながり得る.セネガ 府補助金なしで,運営・維持費が賄えるようになっている. ルやカンボジアの事例でみられるように,それは低所得の  1990 年代後半,カンボジアの水部門では大改革が実施 環境下でも可能である.両国とも主要な都市部と都市周辺 され,人口の約 20%が居住するプノンペンでの水アクセ 部では,水サービス供給の改善に大成功を収めている.そ スが転換された.1997 年に水道水アクセスがあったのは, の成功は次の 2 つの主要経路からもたらされている.すな 首都人口の約半分にすぎず,しかも接続時間は平均すると わち,効率性を向上するための投資や補完措置を増加する –  1 日 12 時間に限定されていた.1997  2003 年に水生産 ことと,貧困層の十分な負担可能性を維持することである. は倍増し,配水ネットワークは約 150%拡大し,ほとんど  1990 年代半ば以降,セネガルの人口の半分以上が集中 が都市周辺部に居住している低所得層向けには,補助金付 するダカールでは,水へのアクセスと質が大幅に改善して きの接続が導入された.2010 年までに,3,800 戸の貧困 いる.約 9 万 7,000 戸の新しい社会的接続(貧困層のた 世帯を含め人口の 90%以上に,1 日 24 時間の水アクセス めの補助金付きのアクセス)の建設を含め,生産能力の増 が行き渡った. 強や既存ネットワークの拡大によって,水サービスへのア  セネガルの経験と同じように,水損失と料金未徴収分を クセスのある人口比率は 1996 年の 79%から 2006 年の 削減し,貧困層にとって負担可能であると同時に長期的な 98%――サハラ以南アフリカでは最高のカバー率――に 持続可能性を脅かさない料金体系を提示することが,首都 上昇した.加えて,水利用者は中断の減少を経験している. の苦しんでいる水部門の転換には極めて重要であった.し  並行して,セネガル政府は長期的な財政の持続可能性を かし,カンボジアは効率性向上を達成するのに違ったルー 犠牲にすることなく,サービスを負担可能な料金で提供で トを選択した.公共部門の参加に焦点を絞る代わりに,公 きることを確保するために,いくつかの措置を講じてい 共部門投資の増加と新技術の採用を組み合わせた.完全に る.水サービスの料金体系は特にこのトレードオフを念頭 コンピュータ化されたモニタリング・システムを取得した に設計されている.家庭用と非家庭用とでは相異なる価格 おかげで,プノンペンの水事業会社は使途不明の水損失を 設定が可能となっており,一定割当を超過した利用者(例 1998 年の 57%――アジア諸国のなかで最高率の 1 つ― えば,ガーデニング用に水を利用する富裕層)に対しては ―から,2003 年の 17%にまで低下させることができた. 高料率を賦課している.このような料金体系は財務的な自 料金体系では極貧層の利用者に対して,料金の 30  –  100% 律性に向けての進捗度をモニターするために,企画と実施 について補助金を供与した.それ以外の料金は長期にわた 後の段階で財務モデルに組み込まれていた.操業コストを る財務的な存続性が確保できるように設定されており,必 削減するために,日常の水供給運営は民間会社に譲渡され 要な値上げを決定するために毎年見直しが行われている た.上下水道両方のサービスにかかわる料金請求・徴収も (ただし,水損失の大幅削減を受けて値上げは小幅にとど 同社の担当であった.提供者の努力を奨励するために,報 .財務データの管理を改善するためにも情報 まるだろう) 酬は使途不明水の削減量や請求・徴収の効率性改善などパ 技術が活用されている.おかげで料金徴収は 1997 年の フォーマンス指標に直接連動させた.料金徴収率は 1996 89%から 2003 年には 100%に上昇した.セネガルと同 年の 80%に対して 2006 年に 98%に上昇し,水損失は同 じように,プノンペンの水供給当局は財政的に自律性を達 じ期間中に 32%から 20%に低下した――約 100 万人の 成し,2010 年には優れた水管理でストックホルム産業水 利用者が必要とする水にほぼ等しい節約に相当する.さら 大賞を受賞した. 出所:世界銀行水部門プロジェクトの書類. 通常は結局のところ逆進的となり,貧困層よりも富 栓に対しては補助金を供与するが,屋内ないし庭で 裕層に利益をもたらす.地理的なターゲット(コロ 接続している家計に対しては供与しない.最も適切 ンビアにおけるように)や資産ベースのターゲット な対象絞り込みのメカニズムは一般には状況に依存 (チリにおけるように)の方が,貧困層を対象にす しており,それには現在はサービスを受けていない るのにより良い方法になる可能性があるが,それが 人々,その社会経済的な輪郭,公益事業の顧客基盤 効果的に機能するには追加的なデータや行政能力が の構造などが含まれる. 必要になるだろう.その結果,チリでは対象の絞り  第 2 の問題は,補助金をどのようにして負担す 込みは水道局以外の機関が実施している.最後に, るかということである.(例えば,非居住者から居 対象の絞り込みはレベルの劣るサービスに対して補 住者への)相互補助は 1 つの選択肢である.政府 助金を供与する形を取ることがある――例えば,水 の一般歳入を使うのも別の選択肢になる.究極のと CHAPTER7 ジェンダー平等のための公的措置 293 ころ,最良の資金調達メカニズムは各地の状況に依 た.ベトナムの農村コミュニティのなかには,衛生 存するだろう. 慣行の改善(施設の構築や廃棄物の処理など)に向  農村部では,水のネットワーク的な供給は,東ア けた目標を設定し,地方政府が順守をモニタリング ジアや南アジアの一部,及びコミュニティ管理によ し,コミュニティのラジオ放送で結果を公表するこ るシステムが一般的な地域におけるように,人口密 とに合意する地域もあった.インドネシアの一部の 度が高いところでは実現可能である.アジアの農村 コミュニティでは学校別の競争を開始し,それを受 部とサハラ以南アフリカの多くを含めそれ以外の地 けた「勝てる」行動の採用を求める児童からの圧力 域では,家計は地下水や地表水源を通じて自給自足 が,衛生慣行を変化させる主要な牽引力となった. している.コミュニティ・システムに関しては,地 方政府が改善することができる.ウガンダは所得税 妊産婦死亡率を削減する 徴収のための広範な地方のネットワークを利用し  妊産婦死亡率の削減に関しては過去 20 年間に著 て,追加的な少額の税金を徴収している――それを しい進展があったものの,世界全体における進展の 重要な水道修理の負担専用に,地方議会が管理する ペースは妊産婦死亡率を 4 分 1 に削減する,とい 基金に積み立てている. うミレニアム開発目標を達成するのに必要な速度を  農村部の供給システムがアクセスを提供している 大幅に下回っている.特に特定の地域は後れを取っ 場合でも,供給は往々にして非常に薄く広がってい ている.サハラ以南アフリカでは,女性が妊娠や分 る.貧困家計は典型的には排除されており,多くの 娩の合併症で死亡する確率は 31 人に 1 人に達して 家計は他の無防備な源泉を引き続き使っている.ボ いる.このリスクは先進国では 4,300 人に 1 人で リビア,ガーナ,ペルーの多くの村には水アクセス ある 7.同一国内でも大きな格差が存在している. があるが,代替的な無防備な源泉の利用が依然とし アフガニスタンでは,出生数 10 万人当たり 1,400 て高く,それぞれ 21%,23%,38%にとどまって 人という国全体の妊産婦死亡率は著しいバラツキ いる. を覆い隠している――同率はカブールでは約 400  衛生設備は水とは異なる.個人や家計はみずから 人だが,遠隔の農村部では出生数 10 万人当たり の選択だけでなく,コミュニティ内の他人の行動に 6,500 人超となっているところもなかにはある 8. よっても影響されるという点が違う.農村部や都市  妊産婦死亡率低下の鍵は妊産婦に対して,迅速か 部という両方の環境下で衛生を改善するに当たって つ十分な処置を提供することにある.第 3 章で指 は,このような「外部性」を考慮に入れる必要性が 摘したように,サービスの繋がりのなかで接合部分 ある.それは適正なサービスを負担しようという個 が多数ある――死亡率が低下するためにはシステム 人の積極性が,通常はコストを下回っている廃棄物 全体が機能する必要がある――ため,それは「言う の処理と安全な処分には特に当てはまる.したがっ は易く行うは難し」である.女性は分娩の前,分娩 て,政府は基準を設定し,供給を管理し,おそらく の最中,分娩の後に処置を必要とする.そうしてい は補助金を供与するのに,明確な役割を担ってい れば,生命を脅かす可能性のあるような病状は,必 る.都市部では非公式な合意の承認を含め財産権を 要に応じて特定機能病院で緩和ないし処置すること 強化すれば,需要を,したがって,衛生サービスに ができる.制度の改善が決定的に重要である.そう 対する個人の積極性を刺激するのに役立つであろ すれば,妊産婦とその家族はどのような医学的処置 う.供給サイドについては,コミュニティに独立的 をいつどこで求めるべきかに関して,一連の困難な な提供者に対するアクセスを確保しておくことが, サービス改善を後押しすることになる.  農村部や人口密度が高くない環境下における優先 「私たちは近くに診療所が必要です.それは毎 課題は,衛生問題の意識を高め,行動を変え,需要 . 日開業していなければなりません」 を高めることにある.カンボジア,インドネシア, ベトナムでは,コミュニティの集団的な責任感に対 南アフリカの農村部女性 するアピールが,衛生面で持続可能な行動に貢献し 294 世界開発報告 2012 判断をしなくてすむであろう.妊産婦ケアの提供を で,より上級の医療スタッフから直接的なアドバイ 担当する制度を改善するためには,多くの面で措置 スをもらう方法を分娩介助者に提供している 11. を取る必要がある.  民間提供者からのサービス購入も,妊産婦保健  第 1 に,妊産婦死亡率を削減できるサービスの サービスの公的提供との比較で費用効果的な代替策 繋がり――特に最前線のサービス提供者――に対す になり得る.カンボジアでは,非政府組織が妊産婦 るアクセスを拡大するためには,財源をもっと増加 保健サービスを提供するために政府資金を享受して することが必要である.その必要性を認識している いる地区は,政府がサービスを直接提供している地 国際社会は 2009 年に,妊産婦と幼児向けの保健ケ 区と比較して,出産前ケアと施設ベースの分娩につ アを改善するために,53 億ドルを追加的に公約し いて大きな改善を示した 12. た.また,2011 年初め,二国間および多国間援助  第 2 に,妊産婦保健サービス提供者は妊産婦の 機関や民間財団のグループが,妊産婦や新生児の死 必要性に応じてもっと受容的にならなければならな 亡を削減するために,補助金ファシリティ――「開 い.そのための 1 つの方法はサービス提供者の妊 発における大きな挑戦」――を立ち上げた. 産婦に対する説明責任を強化することであろう.説  しかし,マレーシアやスリランカが例証している 明責任が機能するためには,利用者はサービスの基 ように,資金の増加は必ずしも決定的な要因ではな 準,質,それを改善する政策に関する情報だけでな い――両国ともかなり控え目な支出の増加で妊産婦 く,その情報に基づいて措置を取る何らかの方法も 死亡率を激減させた.両国では妊産婦や新生児ケア 必要となる.ウガンダでは,コミュニティ・ベース 向けの年間支出は,1950 年代以降,対 GDP 比で のモニタリングによって,第 1 次保健ケア・サー 0.4%を超過したことがない.その代わりに,両国 ビスの質と量の両方が改善した 13.コミュニティ は連鎖的なサービスを提供する人々の質を引き上げ はサービス提供者のモニタリングに関与を強め,そ たのである. れを受けてサービス提供者のより質の高い妊産婦保  特に熟練の助産師など医療従事者を増加させる必 健サービスの提供を増加させた.すなわち,待ち時 要は引き続きあるだろうが,コミュニティ・レベル 間が減少し,より専門的なケアが提供され,施設 の提供者や民間部門を巻き込むことによって,特に ベースの分娩が増加したのである. サービスが行き届いていなかった地域では適用範囲  妊産婦保健サービスに関しては,長いルートの説 を拡大させることができるだろう.これを実現する 明責任がもっとうまく機能するのを確保することが 1 つの方法は,多くの臨床処置を高レベルの医療提 よりいっそう重要である.市民はサービス提供の失 供者から中・低レベルの提供者に委譲することであ 敗に関して政治的な代表者の説明責任を問うことが ろう.インドの農村部では,典型的には医師が行っ できる必要があり,次に政治家はサービス提供者に ている敗血症の管理が,事前に調合された抗生物 対してもっと有効なコントロール力を行使する必要 質パッケージを使って,訓練されたコミュニティ・ がある.ペルーの事例を考えてみよう.妊産婦保健 9 ベースの医療従事者によって行われている .アク を改善するためには,適用範囲の拡大だけでなく, セスのない人々の近くに熟練の医療従事者を配置 サービス提供者向けの適切なインセンティブと,政 することも有益である.その実例はインドネシア 策立案者に聞こえるように大規模で有効なサービ の「村の助産婦」プログラムである.これによって スを要求する市民の声も必要とした 14.分娩時に 5 万人以上の助産婦が訓練を受けて,国中の農村部 専門的な処置を受けた割合が 2000 年の 58%から に配置された.介助分娩の割合が特に農村部の最 2004 年には 71%へと上昇した.貧困層向けの新 貧層の間で著増した 10.技術というものは,この しい医療保険プログラムでは,分配するために追加 ような最前線のサービス提供者が必要とする援助を 的な予算財源を保健省に配分するのではなく,実際 提供するのに役立つことができる.ウガンダの「究 にサービスを提供した最前線の提供者に直接支払い 極的緊急救助のための農村部拡大サービス・介護」 をすることになった.また,政策設計に影響を与え (RESCUER)プログラムは,無線やウォーキートー るのに市民の参加が増えたおかげで,患者の要求に キーを用いて,医療施設,救急車,助産師を結ん 対する対応性が高まった. CHAPTER7 ジェンダー平等のための公的措置 295  第 3 に,妊産婦保健サービスにアクセスするに  第 5 に,妊産婦死亡率を削減する努力は部門を 当たって,貧しい女性が直面する財政的な制約は特 またいで作用し,保健システムやサービスの改善だ 別な配慮を必要とする.1 つの方法は,妊産婦死亡 けの焦点を超越しなければならない.マレーシアと 率の削減につながることがわかっている保健ケア・ スリランカが開発の相対的に早期の段階で妊産婦死 サービスを受けることを条件に,貧しい女性に現金 亡の取り組みに成功したのは,この意見を支持し 給付を行うことであろう.その実例はインドの「婦 .インフラ(農村道路など) ている(ボックス 7.2) 人保護スキーム」である.これによって,熟練介助 への投資,女性教育への関心,妊産婦保健提供者の 者の同伴の下で分娩する女性の割合が約 36%上昇 訓練を増加する努力,病院への投資などすべてが組 15 した .バングラデシュやカンボジアにおけるよ み合わさって,妊産婦死亡率が劇的かつ一貫して減 うな引換券――出産前後のケアや施設での分娩に使 少したのである 19. える――を提供するスキームも,介助分娩や出産前 後の通院の割合を押し上げる効果があった 16. 疎外者に手を差し伸べる――極めて不利な状況に  第 4 に,このような制度を改善するには政治的 置かれている人々に教育を提供する な意思が必要である.というのは,妊産婦保健サー  教育サービスを提供する制度はジェンダー平等に ビスは政治的な課題としてはしばしば優先度が低い とっても重要である.第 3 章で示したように,経 (例えば教育とは対照的に)からである.ホンジュ 済成長やサービス提供の改善に伴う教育へのアクセ ラスとトルコの事例が一定の可能性を示唆してい ス増大が,あらゆるレベルの就学率における男女格 る.ホンジュラスでは 1990 年に妊産婦死亡率が出 差の削減に大きく貢献している.また,多くの諸国 生数 10 万人当たり 182 人と,その削減を目指す では学業成績の不振が執拗に続いていて,教育制度 20 年間にわたるドナー支援による改革にもかかわ の運営法について改善が必要になるであろうが,そ らず,執拗に高水準が続いていた.政府(保健省) れ自体にはほとんどジェンダー格差がない.しか はこの高水準の死亡率を公表するとともに,その削 し,多数の低・中所得国における多くのグループに 減を国家的な優先課題とした.新しいプログラムで は,いまだに教育サービスが十分に行き届いていな は,保健システムの改革が強調され,伝統的な医療 い.このような不利な人々が就学率について最大の 従事者と正式な医療従事者の双方が訓練され,高リ 最も執拗なジェンダー格差を示していることから, スク妊産婦向けの施設が創設され,官民パートナー 彼らに手を差し延べることが教育政策の明確な優先 シップが形成された.ドナーは訓練と保健インフラ 課題である. に対して資金援助を行った.こうして 1997 年まで  このような著しく不利な状況下に置かれている 17 に,妊産婦死亡率は 108 人へと半減した . 人々は大規模なことがあり,時には各国内で下位地  同じく,トルコでは 2000 年の妊産婦死亡率が出 域全体や人口の多い地帯全体(西アフリカやアフガ 生数 10 万人当たり 70 人であった.新しい政府は ニスタンでは広範な農村部など)を構成したり,各 政権の座に後押ししてくれた政治的支持を味方にし 国内で独立的なコミュニティ(東ヨーロッパにおけ て,2003 年に保健転換プログラムを打ち出した. るロマ人など)を形成したりしていることがある. これは制度改革,患者への応答性,サービスの行き それらすべてに共通した特徴は,極貧,遠隔性,民 届かない地域に焦点をあてることを強調したもので 族性・人種・その他の特性に基づく社会的疎外など ある.サービスの行き届かない地域における一次医 の組み合わせである.また,このようなグループ内 療ケア・予防向けの予算が 58%増加し,遠隔地向 では教育アクセスに関してジェンダー格差が持続 けに航空救急サービスが稼働し,貧困地域における し,時とともに悪化しているため,それへの取り組 適用範囲を改善するために医療従事者が配置転換さ みに失敗すると永続化し,貧しくて疎外された少女 れた.条件付きの現金給付を受けて,妊産婦向けの や女性は「ジェンダー不平等の罠」に閉じ込められ 産前ホステルでの介助や公立病院での分娩が奨励さ てしまう懸念がある. れた.2009 年までに妊産婦死亡率は 19.8 人にま  必要なのはジェンダー不平等を増幅する個別の不 18 で低下した . 利に取り組む解決策である.ある極端な例として 296 世界開発報告 2012 う.そのような個別に適合化させた供給サイドの措 ボックス 7.2 妊産婦死亡率を削減する:マレーシアとス リランカがしたこと 置には,基本的に問題を直接標的にするという利点 があるものの,コストが高く,時間がかかる可能性  妊産婦ケア・サービス供給の改善はむずかしいが可能で があろう.パキスタンに関する最近の研究では,複 はある.スリランカとマレーシアの経験が示すように,そ 雑な状況が明らかになっている.すなわち,地位の れは所得水準が比較的低くても可能である.スリランカで は,妊産婦死亡率が 1930 年代には(出生数 10 万人当た 高い女子にとっては,定住地の境界を越えなければ りで)死亡者が 2,000 人以上と高かったが,47 年には約 ならないということが就学の制約要因になってい 1,000 人に,その後の 3 年間で 500 人未満と半分に減少し る.一方,社会的にもっと低い階層出身の女子に た.1996 年までに 24 人へとさらに低下した.マレーシア とっては,主要な障壁は高い階層出身の児童と一緒 では,1950 –  57 年の 7 年間に 534 人から半減した.それ 以降,ほぼ 10 年ごとに半減して,1997 年には 19 人にま に就学することである 21.そこで,地位の高い階 で低下した. 層の女子のために政策で取り組む必要のある制約は  保健システムの有効な機能を阻害している多種多様な制 距離となるが,地位が低い階層のために取り組むべ 度的障害を克服するため,スリランカとマレーシアは統合 きは疎外ということになる.各問題の詳細に適合し 的で段階的なアプローチを採用した.しかも,両国はそれ を 1950 年代以降,わずかな保健向け公共支出――公共 た解決策の設計は,要求が厳しく複雑なものになる 支出に占めるシェアは平均で 1.8%,対 GDP 比では 4% 可能性があろう. 未満――で実施した.両国の保健プログラムは保健ケアと  十分な学校が存在しているところでは,需要を増 基礎教育,水・衛生,マラリア対策,統合的農村開発との やすのに,両親に娘を就学させることを条件に現 相乗的な相互作用を活用した.それには農村道路の建設が 金を給付する,という単純な措置が機能するだろ 含まれ,それは分娩にかかわる緊急事態への対処に役立っ た.妊産婦ケアにかかわる財政的・地理的・文化的な障壁 う.このような給付は必ずしも基本的な問題に対処 は,有能で専門的な助産師の最前線部隊を農村部で広く利 していないかもしれないが,パキスタンやトルコで 用可能にし,彼らに医薬品・機器の信頼できる在庫を供給 は,第 3 章で検討したように,プログラムが有効 し,後方サービスと連動させ,交信・輸送を改善すること であり得ることが示されている.また,それは短期 によって取り組んだ.同時に,分娩ケアを提供し,合併症 に対処するために施設が強化された.組織管理の改良を通 間で設計するのが容易である.また,パキスタンの じて,提供者の監督と説明責任が改善された.特定地域の プログラムは,そのような現金給付がどのように機 死亡率データがモニタリング制度を通じて提供されたため, 能して,ジェンダー不平等を倍加している所得貧困 エンパワーされたコミュニティは政治的指導者の説明責任 以外の不利を削減しているのかも示唆している.移 を問うことができ,国家や地域の主体はあらゆる妊産婦の 死亡が許容不可能であるとの認識を余儀なくされた.最後 動性の制約がある女子について学習達成度の格差を に,両国とも女性の地位の改善を強く公約していた.国家 削減したのである.どのようにしてグループの対象 独立と相前後して女性は投票権を獲得し,女子教育は特別 を絞るかが,格差の解消というプログラムの効率性 な関心を享受した. にとっては決定的に重要である.家計にかかわる貧 出所:Pathmanathan 他 2003. 困指標やコミュニティ・ベースのメカニズムなど, 国内におけるさまざまな対象絞り込みのメカニズム を使うことが役に立つだろう.同じような原則が は,具体的な状況のなかで不利を増幅している源泉 ショックのジェンダー別インパクトに対処するセー にまで達する地方的な供給サイドの解決策があろ フティネットの設計にも適用できるだろう(ボック う.例えば,特に女子が通学する場合に距離が重大 . ス 7.3) な問題となっているのであれば(アフガニスタン農 村部におけるように),遠隔地にもっと学校を建設 すればジェンダー格差を削減することができる 20. 経済機会を改善するための政策 あるいは,もし民族性が重要な問題であれば,方言  第 5 章で示したように,所得や生産性における を話すことができる教員を採用するのが費用効果的 執拗なジェンダー格差は,経済機会へのアクセス― であろう.他の事例では,学校における女子に対す ―賃金雇用,農業,あるいは自営業の区別は問わな る性的虐待など特殊な要因への配慮が必要であろ い――に関する男女間では根本的に異なる事情に由 CHAPTER7 ジェンダー平等のための公的措置 297 ボックス 7.3 男女・少年少女を所得ショックから保護する  ショックの影響はジェンダー別に異なる.被害が大き は現金給付,食料切符,基本的欲求(食料,ライフライ いのが男か女か,少年か少女かは,ショックの性格と, ,暫定雇用(おそらく後述する能動的な ン,健康,教育) 第 2,3,5 の各章でみたように,当該経済の基本的な 労働市場政策と組み合わせた)などが含まれる.加えて, 構造に依存する.したがって,このようなショックへの –  ショックは特に低所得国の幼児(0  3 歳)に対しては, 政策対応は,適切なジェンダーに関する次元を特定する 永続的で非可逆的な効果を及ぼしかねないので,介入策 強固な診断に依拠した上で,そのようなジェンダー格差 はこのグループを対象にすべきである.それには,例え を対象にした有効なセーフティネット措置を設計するこ ば,給食プログラムや親に対する現金給付が含まれるだ とにあった.介入策はさまざまな形を取り得る.それに ろう. 出所:WDR 2012 チーム. 図 7.2 経済機会を改善する ンダー平等 政 策 ジェ 制度 非公式 経済機会 家計 市場 エージェ 資質 ンシー 公式 制度 成 長 出所:WDR 2012 チーム. 来している. . 緑色の部分)  経済活動のパターンは男女間では異なるが,それ  本節では,所得水準がさまざまな諸国の経験か は市場や公式・非公式な制度の機能の在り方と家計 ら,広範な政策選択肢とその有効性に関してわかっ がどう反応するかによって決まってくる.したがっ ていることを例示するために,賃金雇用,農業,自 て,政策としては経済機会へのアクセスの基本的 営業におけるジェンダー格差の決定要因を検討す な決定要因を標的にする必要がある.第 5 章では, る.政策の議論はわれわれの枠組みにしたがって, 介入の優先課題として,時間的な制約,投入物への 非公式な制度,市場の機能,公式な制度から生じて アクセス,市場及び制度の失敗を強調した.また, いる制約を通じて,連続的になされる. 複数の要因が作用している可能性があるため,介入 策のパッケージが典型的には必要になる(図 7.2 で 298 世界開発報告 2012 非公式な制度:女性の時間に対する制約を撤廃する 立の学校施設が拡張されたのを受けて,労働力参加  女性の時間的な制約が,女性の所得や生産性が低 と労働時間の両方が増えた.ただし,その規模は研 い主因である(第 5 章).このような政策は主に非 究によって異なる 24.ブラジル都市部の低所得地域 公式制度――家庭のなかで家事をして介護を提供す では,公共育児サービスへのアクセスを受けて母親 るのはだれか,ということに関する規範や信念―― の雇用比率が大幅に上昇したが,プログラム導入以 に由来する.このような制約に取り組む政策は主と 前からすでに雇用されていた母親の労働時間には影 して,このような規範を変えようとするのではなく 響がなかった 25.他の環境下では,育児サービスへ 迂回する.主要なアプローチには次の 4 つがある. のアクセス増加やその価格低下が女性の雇用比率に 育児サービスへのアクセスを増加する,育児休暇政 及ぼす効果は最小限にとどまっていた.ノルウェー 策を改善する,インフラ投資を通じて女性の自由時 では,補助金付きの普遍的にアクセス可能な育児 間を増やす,技術と輸送を通じて女性が容易に市場 サービスは,同サービスの利用や女性の労働力参加 にアクセスできるようにする. に対して無視できる程度の効果しかなかった 26.チ リでは,公共のデイケア・センターの拡張は,女性 育児サービスへのアクセスを増やす の労働力参加に何のインパクトもなかった 27.ま  女性は男性よりも多くの時間を育児に費やして た,アメリカでは,無償の公共デイケアの利用可能 おり,その男女格差はスウェーデンの 2 倍から, 性に対する女性雇用の反応は,グループごとにバラ ガーナの 4.6 倍やパキスタンの 6 倍までと範囲が ツキがあった.例えば,5 歳児はいるが,それより 22 広い .このように時間の要求が厳しいことから, 小さい子供のいない既婚の母親の場合はまったく影 女性の経済機会は制約を受ける.育児に割かなけれ 響がなかったのに対して,子供については同じ条件 ばならない時間が実際に量的に多いことと,市場性 でも未婚の母にとっては大きな影響があった 28. 職業への参加について連続性が制限されることがそ  このような経験の多様性は次の点を強調してい の理由である.育児サービスは女性の時間に関する る.すなわち,育児サービスが欠如しているため労 制約を緩和する方法を提供してくれる.このサービ 働市場参加の障壁に直面している女性グループを発 スは国家(地方政府を含む)が直接提供できるか, 見し,このような制約の性格をより良く理解できる あるいは民間部門ないし非政府組織がおそらく公的 ように政策設計を行う必要がある 29.労働市場に な補助金や規則に基づいて提供できるかのいずれか 参加しないことを選択する母親は多種多様な理由で になるであろう. そうしているため,就学前プログラムに対する彼女  このような多種多様な育児サービス政策の効果に らの労働面での反応はさまざまであろう.育児サー 関する証拠は,主にヨーロッパや北アメリカの高所 ビスについては代替的な選択肢の利用可能性と負担 得国とラテンアメリカの中所得国から得られる.女 可能性も重要である.例えば,仮にかなり安価な代 性の労働時間と労働力参加率についてはインパクト 替策が存在しているとすれば,新たな育児サービ 「公共託児所」 がまちまちである.コロンビアでは, ス・プログラムに対する補助金はそれを締め出す懸 プログラム――コミュニティの育児センターに転換 念があり,労働供給には影響が生じないことになっ された指定家庭に対して補助金を提供する――が, てしまう.ノルウェーではまさにそうなった.同国 母親の労働時間に加えて労働市場への参加を大幅に では公的プログラムが非公式な取り決めをほとんど 23 増やした .アルゼンチンでは,義務教育である公 締め出してしまい,大きなコストをもたらす一方 「私たちがなぜ仕事を見つけないのかといえば,それは子供が大勢いるのに,面倒をみる人がだれもいな . いからなのです」 インドネシアの若い女性 CHAPTER7 ジェンダー平等のための公的措置 299 で,育児サービス全体や女性の労働力参加に関して 員の訓練・選定などに関して,雇用者だけでなくよ 30 有意義な増加をもたらすことに失敗した .ブラ り広範なコミュニティに依存している. ジルからの証拠も,同じように既存の非公式取り決  類似の努力がインドのグジャラート州では,女性 めの締め出しを示唆している. 自営労働者協会(SEWA)――非公式部門の貧しい  あまりよくわかっていないのは,非公式部門や 自営業労働者の組合――によって実践されている. もっと一般的に農村部で働いている女性の育児サー SEWA は会員の子供たち(6 歳以下)のためにデイ ビスに対する要求への取り組み方である.NGO が ケア・センターを設立している.このサービスは子 運営しているものも含めたプログラムのなかには, 供に教育と栄養を提供するだけでなく,子供の世話 育児サービスがこのようなグループ向けに拡張でき をするために女性が休まなければならない労働日を る方法に関して手本を示しているものもある.第 9 削減する――給与労働者はほとんどいないため特に 章で強調するように,これはさらなる革新と学習を 重要である 32. 必要とする重要な分野である.  雇用者もデイケアを提供することができる.農村  インドではモバイル・クレイシュ(「移動託児所」 部では雇用者が提供するデイケアが最もうまく機能 の意)という NGO が,農村部の非公式部門や公共 する可能性がある.プランテーション農業における 事業プログラムで雇用されている女性向けの育児 ように,大勢の従業員が一カ所に集中しているから サービス提供に対して,違ったモデルを実験してい だ.ケニアでは,大手の輸出向けコーヒー栽培業者 る 31.デイケア施設がニュー・デリー周辺の公共 が正規労働者と季節労働者の両方向けに,各プラン 建設現場に設置されている.これは請負業者との テーションに託児所や保育所を設置している――こ パートナーシップによるもので,彼らが他のコスト れは 1950 年代にまで遡る慣行である 33. の分担に加えて育児施設を提供している.このよう  非公式な女性労働者向けの公共デイケアとして, なセンターは,女性が公共事業プログラムに応募す 1 つの選択肢は授業時間を延ばすか(特に出席がわ る人々の大きな割合を占めるだろうとの見通し―― ずか半日にとどまっている学年について),あるい 例えばこの数字が 80%に達した現場もあった―― は子供の就学年齢を引き下げるかのいずれかであろ に対応したものであった.デイケア・プログラムに う.ベトナムは前者を実施したが,後者のアプロー は総合的な保健サービス(例えば,予防接種,医師 チもさまざまな状況で試行されている.イスラエル による定期健診など)だけでなく,栄養にかかわる –  では,政府は 3  4 歳児向けに無償の公共就学前保 部分も含まれている.これは日中の食事提供や子 育園を提供していた.これを受けて,従来デイケア 供の健康状態の長期間にわたる追跡などが含まれ に入れる公算が低かった子供をもつアラブ人の母親 る.デリーの再定住コロニーで働いている女性に育 が,労働供給を大幅に増加させた 34.ケニアでは, 児サービスへのアクセスを提供するために,モバイ –  政府は全国のすべての 4  5 歳児にアクセスを提供 ル・クレイシュはこのようなサービスを提供できる するという目標に向けて,早期児童教育や就学前教 地元女性を発見して訓練することによって,自宅 育のプログラムを拡充しつつある 35. ベースのセンターとコミュニティ・ベースのプログ ラムの両方の立ち上げも後押しした.もう 1 つの 育児休暇政策を改善する インドの NGO である「開発活動への専門的援助」  女性向けに追加的な労働市場の選択肢を開拓する (PRADAN)と共同して,モバイル・クレイシュは に当たって,育児休暇の有効性を決定するのは次 ジャールカンド州とビハール州の農村部に育児セン の 3 つの要因である.第 1 はだれが支払いを負担 ター群も建設した.これは地元の女性との議論で, するのかという問題である.母親の出産休暇しか認 コミュニティで所得創出活動(具体的には紡績)に めておらず,コストが雇用者負担となっている諸国 アクセスしようとして,育児サービスの制約に直面 では,女性の採用を増やすというインセンティブが したという指摘があったことを受けた動きであっ 低下する.これは公的補助金の役割,あるいは,母 た.このようなセンターはコミュニティ・ベースの 親と父親に同等の育児休暇付与を企業に義務付ける モデルに従ったものであり,管理,食材の寄付,教 ことを示唆するものである.第 2 の問題は,正規 300 世界開発報告 2012 賃金の何%を休暇中に補填すべきかということであ ことに,男性よりも長い時間を費やしている.例え る.補填率が高いほど従業員は多くの休暇を取るだ ば,ギニアの農村部では,女性は薪拾いに男性の少 ろう.さらに,男性は女性よりも休暇中の所得補填 なくとも 3 倍の時間を費やしている 37.このよう 率に対する応答性が高いようなので,男性の育児休 な職務は他の家庭の雑用と合わせて,女性の時間を 暇取得を奨励する 1 つの方法は,所得補填率を高 著しく奪い,市場性の仕事や余暇に利用可能な時間 く設定することであろう.最後に,親の育児休暇の を削減する. 長さは重要である.もしあまりにも短ければ,女性  電化はしばしば女性の時間に対する要求を緩和す は休暇を取る代わりに労働力から退出する可能性が る 1 つの方法だといわれる 38.南アフリカの農村 大きいであろう.また,もしあまりにも長ければ, 部では,そのおかげで家事に割く時間が削減され, 従業員はスキルや経験を失うリスクを犯すことにな 女性の労働参加が約 9%増加した.また,ニカラグ る.後者にかかわる 1 つの解決策は,ドイツで実 アでは,農村部の若い女性が自宅外で働く可能性の 施されているように,休暇中に何らかのパートタイ 大幅な上昇につながった 39.電化はブータンでは ム職を認めることであろう. 薪拾いに費やす時間を削減する一方,バングラデ  女性が労働力になる機会の改善に対するインパク シュでは夕方の自由時間を増加させた 40.女性の トは別として,代替的な育児休暇政策は育児に関す 自由時間の増加は,場合によっては,少なくとも部 る社会規範を強化するのか,それとも変えようとす 分的には男性が家事に費やす時間の増加と見合って るのかでも違ってくるだろう.母親には育児休暇を いることがあった.例えば,スリランカでは,男性 付与するのに父親にはそうしないと,女性が経済活 は電気が通じて以降,アイロンかけを含め家庭の雑 動機会に参加する展望を明るくすることができる 用にもっと従事するようになった 41. が,女性が家庭では主たる介護提供者であるという  家庭に近いところで水が利用できるように改善さ 規範を強めるリスクがあろう.そのような政策は社 れれば,それも女性の時間に対する要求を緩和す 会規範を所与として受け止めて,それを迂回して作 る.例えば,パキスタンの研究が示すところによれ 用するという意味で「漸進的」である.それとは対 ば,水源が家に近いと,市場性の仕事に振り向け 照的に,母親と父親の両方に育児休暇を付与し後者 る時間が増加する 42.しかし,他の証拠は,節約 を義務化すれば,それは「転換的」といえるだろ された時間は必ずしも市場性の職業に使われている う.男性に介護の義務をもっと引き受けるインセン わけではないことを示している.時には余暇が増え ティブを与えることによって,介護にかかわる規範 て,女性の福祉が改善する.例えば,広範囲にわた を変更しようと試みている.この後者のアプローチ る国別研究によると,水源の近接性と市場性の仕事 は一部の北ヨーロッパ諸国で試されている.ノル の増加との間には相関関係が見出せなかったが,一 ウェーとスウェーデンでは,譲渡不可能な父親の 部の国では非市場性の仕事との間にマイナスの相関 育児休暇を提供したところ,取得率が上昇してい 関係がみられた――つまり,これは余暇時間の増加 る.アイスランドのアプローチは両親に合計 9 カ を示唆している 43.モロッコ都市部における最近 月の育児休暇パッケージを付与する(賃金置換率 の無作為研究からも同じような結果が得られてい 80%).母親と父親はそれぞれ 3 カ月取得し,残り る.これは水の屋内供給と水栓による供給の相違を の 3 カ月の配分は話し合いで決定しなければなら 調査したものであり,増加した自由時間は余暇に割 ない.この追加的な休暇のほとんどは女性が取得し かれていた 44.水供給の改善が女性の自宅外の仕 ているが,この政策は全体として男性の間で父親と 事にもたらす影響を理解するためには――特に水源 して育児休暇取得率が上昇するという結果をもたら がいっそう遠いところにある遠隔の農村部において しており,家庭や職場でジェンダー関係に若干の有 は――,さらなる研究が必要である. 36 望な変化が生じつつある . 女性を市場の近くに,そして市場を女性の近くに インフラ投資を通じて女性の自由な時間を増やす 動かす  女性は水を汲みに行ったり薪を拾い集めたりする  女性の時間に対しては多数の要求があることを考 CHAPTER7 ジェンダー平等のための公的措置 301 「私たちは労働法のことを知っています.妊娠の保護や解雇についてもです.現在の女性の暮らしはこの . ような法律のおかげで良くなっています」 ドミニカ共和国の女性 「女性は妊娠していると差別に直面します.民間会社のオーナーは必ず男性を雇おうとします.男には出 . 産休暇がないからです」 セルビアの女性 えると,女性の市場アクセスを容易にすることも彼 市場の機能を改善する 女たちの経済機会の増加に有益であろう.道路や交  第 5 章で検討したように,市場は情報問題のた 通手段の改善もこの実現に役立つ.しかし,男女で めに男性と女性とでは異なった働きをする(「ジェ は交通手段の使い方が異なり,例えば,女性は歩く ) ンダー別の市場の失敗」.次の 2 つの方法で女性 可能性が大きい.この相違を念頭に,ペルーのある にとって不利になる.第 1 に,潜在的な雇用者の プロジェクトでは,3,000 キロメートル強に及ぶ農 考えでは,女性労働者は一部の職種や部門ではあま 村部の歩行者用道路の補修と改修を優先した.女性 り生産的ではない.そこで働いている女性がほとん の受益者を調査した結果,女性の 77%はより遠く どいないということがその証拠である.このような まで行けるようになった,67%はより安全に往復 考えが女性採用の消極性を補強し,このような仕事 できるようになったと述べ,43%は所得を増やす で女性の参加率が低い状態を永続化させている―― 45 ことができたと回答した .バングラデシュでは, それが雇用者による実際の差別によって強化されて 農村道路の改修と拡張は男女両方の労働供給増加に いる可能性もあろう.女性の農民や自営業者も,信 つながり,家計所得を押し上げた 46. 用市場では同じような情報問題に直面している.ほ  市場も技術利用を通じて女性の近くにもってくる とんどの諸国において,女性は男性よりも信用利用 ことができる.インターネット・アクセスや携帯電 の頻度が低いため,貸し手は彼女らの返済能力に関 話の使用は,女性にとっては価格の情報を入手した して情報をほとんど,あるいはまったく保有してお り買い手とつながったりする助けになる.インドで らず,たとえ信用力があっても,信用供与に消極的 は,職業開発財団という NGO が運営するあるプロ である.また,世界のほとんどの地域で女性の資産 グラムは女性グループを組織化して,携帯電話やイ 所有は少ないため,担保能力が限定されている. ンターネットへのアクセスを提供することによっ  第 2 に,仕事や職種内における昇進の見込みに て,自分たちの製品を直接販売して利益率を引き上 関する情報は典型的には,ジェンダー別になってい 47 げている .また,インドでは,SEWA 貿易円滑 るネットワーク内に存在している.この状況は女性 化センターが品質を改善し,配送時間を短縮するた の割合が少ない職種や部門における女性の参加や進 めの供給チェーンに沿った努力を補完すべく,繊維 展を制約すると同時に,すでにこの比率が高い看護 製品や手工芸品を販売するために女性向けのオンラ などといった職種にいっそう集中することを奨励す イン販路を創設した.もちろん,第 6 章で強調し る(男性も同じようなパターンにしたがって,エン たように,女性のこのような技術へのアクセスには ジニアリングなどすでに集中している職種で働こう 格差が残っており,第 9 章で指摘されているよう とする).したがって,女性がほとんど働いていな に,それを解消する方法の探求を優先課題にして, いところでは,その人数は臨界的な量に到達して初 女性が技術進歩の利益を享受できるようにすべきで めて増加するだろう.同様に,ネットワークがジェ ある. ンダー別であることによって,女性がオーナーの企 業は拡大し,多様化する機会が制約されている可能 302 世界開発報告 2012 性があろう. 公共部門は財布の力を使って請負業者に対して,一 定水準の女性雇用や経営陣を公共契約締結の資格要 労働市場における情報問題を克服する 件にすることによって,積極的差別是正措置を要求  能動的な労働市場政策は,特にスキル訓練や賃 することができる. 金補助金によって,情報問題に取り組むことがで  積極的差別是正措置に関する明確な教訓は,自発 きる 48.この種のいくつかの措置では訓練を提供 的プログラムには効果があるにしても限定的だとい している.通常は暫定ベースではあるが,新しい仕 うことである.有効であるためには,プログラムは 事が斡旋されている場合もある.その参加者は雇用 義務的で,進展を追跡し,非順守を制裁する必要が 者に自分の能力を示すことによって,情報問題を克 ある 51.アメリカにおけるように,義務的なプロ 服することができる.賃金補助金があると,雇用者 グラムが実施されているところでは,賃金雇用を男 は女性労働者採用を安価に実験することができる. 性から女性に再配分するという明確な効果がみられ  このような政策の多くは女性の経済機会を改善す ている.しかし,そのような政策の経済効率インパ るという明確な目標ではなく,経済不況に対応して クトに関しては議論が継続している.理論的にはこ 導入されたものである.しかしながら,労働市場へ のトレードオフは明らかである.労働市場における の参入(あるいは再参入)を目指す女性が直面する ジェンダー・ベースの割当制は,差別を削減し,女 情報問題への取り組みと整合的で顕著なメリットを 性の従業員としての潜在力に関する信条を是正する 生み出している. ことによって,効率性を引き上げることができる.  若干の早期の証拠がアルゼンチンの「プロ雇用」 また,それはお手本を提供し,否定的な固定観念を という賃金引換券プログラムから得られる.これは 克服し,女性にとって教育を初めとする投資向けの 所得ではなく雇用に大きなインパクトを及ぼして インセンティブを高めることによって,長期的には いる.女性は男性よりも大きな利益を享受した 49. 女性の雇用を促進することができる.しかし,その メキシコでは PROBECAT というプログラムが短期 ような措置はもし実施の過程で,能力の劣る女性が の職業訓練を提供したことがある.職業経験のある 選択され昇進すると,効率性を削減することがある 女性研修生は訓練修了後 1 年以内に雇用される可 だろう.長期的には,割当制はもし資格が低くても 能性が高まったものの,このプログラムによる月給 雇用されるだろうと考えるようになれば,女性が教 50. の引き上げは男性だけが対象であった 育や訓練に投資するインセンティブは低下するだろ  多様な低・中所得の環境下で,代替的な能動的労 う.最後に,割当制は時とともに次のような信条を 働市場政策のインパクトに関しては,もっと信頼で 生み出すことがあるだろう.すなわち,女性従業員 きる証拠が必要である.ヨルダンで継続中の取り組 は資格不足であり,成功しているのは積極的差別是 みでは,賃金補助金やスキル訓練が女性の大学卒業 正策のおかげである. 者の雇用増加に及ぼす有効性を体系的に評価してお  このようなインパクトの 1 つ 1 つについては何 り(ボックス 7.4),その早期成果は有望である. らかの証拠が存在してはいるものの,最も包括的  2 つ目の政策群は,女性の賃金雇用への参加と雇 な証拠はアメリカから得られる 52.全体としては, 用後の昇進を増加させるために,積極的差別是正プ 労働市場における積極的差別是正措置には悪い効率 ログラムを活用しており,それには自発的なものと 性効果はほとんどない,あるいはまったくないとい 強制的なものの両方がある.公共部門は積極的差別 うことが示されている.アメリカを初めとする諸 是正措置では――人材にかかわる慣行と公共契約の 外国における経験は,一部のマイナス効果は次の 2 両面で――リードを取ることができる.公共部門が つの方法で対処可能であることを示唆している.第 女性の採用を増やし,公共機関(や公企業)で女性 1 は,積極的差別是正政策は権利としてみられるこ が昇進するにしたがって,公共部門のマネジャーが とがないように一時的なものとすべきである.第 2 採用の決定に使う情報は変化し始める.また,女性 は,雇用者に対して割当制の活用と並行して,実地 が特定の部門や職種では成功し得るということを, 訓練に投資するだけでなく,採用や選別のプロセス 民間部門の潜在的な雇用者に例証することになる. を改善するよう奨励する必要がある. CHAPTER7 ジェンダー平等のための公的措置 303 ボックス 7.4 ヨルダンで女性雇用に触媒作用を及ぼす  教育面での達成度が上昇しているにもかかわらず,中 面接法,積極的思考法などに関して,45 時間の授業を受 東・北アフリカにおける女性の労働力参加率は非常に低 ける. –  いままにとどまっている.ヨルダンでは,20  45 歳の女  この種の政策に対する需要は強いようである.雇用比 性のうち働いているのはわずか 17%であるが,男性の場 率が低いにもかかわらず,最近の女子卒業生の大半は仕 合は 77%となっている.この格差は教育程度の高い人々 事をしたいと思っている.93%は仕事をするつもりであ の間でも同じである.短期大学卒業生の場合,格差は卒 る,91%は結婚後も自宅外で働きたいと言っている.訓 業と同時に発生し,それ以降も徐々に拡大している. 練コースへの参加に招待された人々のうち修了者の比率  このように参加率が低いため,新卒者が労働市場に参 は 62%で,参加者のなかでは未婚の女性の割合が高かっ 入するのが困難になっている.就職している女性が相対 た.コースを始めたばかりの人は肯定的な評価をしてお 的に少ないため,若い女性には就職するために模倣すべ り,コースのおかげで求職活動開始により大きな自信が きお手本だけでなく,就職先の発見を助けてくれるネッ もてるようになったとコメントしている.賃金補助金プ トワークもない.女性と一緒に働いた経験のない雇用主 ログラム開始から 4 カ月経過すると,引換券を利用して は,女性は就職に対するコミットが弱いと信じているな いた人の約 3 分の 1 が就職先を発見した. ら,女性の採用を躊躇する可能性があろう. 「ヨルダン・  中間評価からの早期結果が示唆するところによれば, 女性向け仕事の機会」 (ヨルダン NOW)という実験プロ 雇用引換券には顕著な雇用効果がある.引換券だけ,あ グラムは,短期的な賃金補助金と就業力スキル訓練とい るいは引換券と訓練を受領した卒業者の雇用比率は う 2 つの政策案の有効性を厳格に評価するものである. –  55  57%となった.これに対して,訓練だけを受けた人,  短期賃金補助金は企業に若い女性卒業者の採用という あるいは訓練も引換券も受領しなかった人の間では,同 賭けに出るインセンティブと,若い女性が自社で働いて –  比率は 17  19%にとどまった.すべてのグループのなか いるのを直接観察することを通じて,固定観念を克服す で,雇用効果は未婚女性が最大であった.財政的なエン る機会を提供するものである.また,就職先を探して雇 パワメントも(自分のお金をもち,それをどう使うかを 用主にアプローチする,という自信を若い女性に与える ,引換券あるいは訓練, 決められる女性の割合で測定する) こともできる.実験では,引換券 1 枚当たり 6 カ月分の またはその両方を受領したすべての人々について大幅に 最低賃金に相当する価値があるとされた. 増加した.追跡調査をすれば,雇用引換券のこのような  就業力スキル訓練は卒業生が短期大学で学習した技術 雇用効果が長期的に維持されるかどうかがわかるだろう. 的スキルを,雇用を発見し成功するための実際的なスキ また同調査は,エンパワメントに関する他の措置や態度 ルで高めることである.雇用主によれば、最近の卒業生 の変化にも焦点を当てることになっている.また,既婚 には対人スキルを初めとする基礎的な職業スキルに欠け 女性が訓練に参加する可能性,引換券を使う可能性,雇 ていることが多い.そこで,実験プログラムに参加した 用される可能性がそれぞれ低いという早期の結果を考え 生徒は,チーム作り,コミュニケーション,プレゼンテー ると,結婚と仕事の結び付きをさらに探求することが可 ション,ビジネス文書作成,顧客サービス,履歴書作成, 能になるだろう. 出所:WDR 2012 チーム.  このような労働市場政策が個別の部門や職業に焦 である.このプログラムはグラミン銀行などによる 点を絞っている場合,ジェンダー別のネットワーク グループ貸付――個人(典型的には担保が欠如して から発生してくる情報問題に対処することができ いる)がローンを取得するために団結する――に由 る.このような措置には次のような情報提供も含ま 来している.ローンは個々人向けであるが,返済義 れるだろう.すなわち,一定の職種や職業における 務はグループ全体にある.グループの規模はさまざ 賃金や資格,ある職種内での昇進などに関するもの まである(バングラデシュのグラミンでは借り手 5 で,(割合が少ない)同一性別の若手労働者に対す 人のグループが,ペルーの国際共同体支援財団―― る助言者として経験豊かな女性ないし男性の労働者 –  FINCA――では 10  50 人のグループが典型的であ を巻き込んだ情報である. る).共通する特徴はグループ・メンバーの連帯債 務と定期的なグループ・ミーティングであり,それ 農民や自営業者の情報問題に対処する で貸し手は情報問題を克服することができる.  多種多様な形態の零細金融スキームは,農民や自  零細金融スキームは情報問題に対処する新たな方 営業者の情報問題に取り組むのに最も一般的な方法 法を発見しながら,グループ貸付を超越して発展し 304 世界開発報告 2012 . 「女性が家庭で作ることができる製品に対して市場の支援や信用があれば、生活は大きく変わるでしょう」 インドの都市部の女性 た.ボリビアのバンコ・ソルやバンク・ラクヤッ 1 つの状況下では,金融と企業研修を組み合わせ ト・インドネシアは,グループ貸付のなかで創業し た方がそれぞれ 1 つだけの場合よりも大きな効果 確立した(典型的には裕福な)顧客向けには,もっ があった 54.農業では,類似の政策には製品市場, と大きな個人ローンを供与している.そのような個 投入物,金融へのアクセス支援に加えて,指導助言 人ローンは(グループ貸付の場合と同じく)仲間同 サービスが含まれるだろう. 士のモニタリングや社会的制裁だけでなく,債務不 履行を起こした借り手を将来的なローン供与の対象 公式制度をもっと公平にする 外にするという脅かしによる返済に対するインセン  公式制度――法律,規則,サービス提供制度など ティブにも依存している. ――は,女性の経済機会へのアクセスを阻害する形  政策発展の次の段階は,借り手が零細金融を脱却 で機能することがある.このような障害に取り組む して(ないし飛び越えて),大規模な正式な信用機 ために次の 2 組の政策を検討してみよう.すなわ 関に行くのを後援することにある.国際金融公社 ち,差別的な法規制を是正する政策,サービス提供 (IFC)の女性企業家プログラムは,どうしたらこの におけるジェンダー偏向――それが従業員,企業 ステップが取れるかを示している.女性は男性より 家,農民としての女性に影響する場合――を是正す も信用履歴が少なく,担保として依拠できる資産基 る政策の 2 種類があり得る. 盤が低いことを認識して,IFC はアフリカの大手商 業銀行と協働して,女性所有の企業に対して信用を 差別的な法律を是正する 供与している.介入策には機器を担保とするローン  女性にとって経済機会を阻害する法律にみられる やキャッシュ・フローに基づくローンなど新商品を 主要な偏向は,労働にかかわる法規制と,特に土地 開発することに加えて,銀行が女性顧客の人数を増 にかかわるものを中心に財産権を付与している法律 やすのを助けるために,金融機関のスタッフに訓練 に由来している. や戦略的援助を供与することが含まれる.初期の経 験が示すところでは,金融サービスを利用したり, 労働法 より大口のローンを借りたりする女性企業家が増え  雇用慣行としてジェンダーに基づく差別禁止を法 ており,しかも平均を上回る返済実績を維持してい 制化するという基本的なステップ以外で,多数の諸 る(ボックス 7.5). 国における政策の優先課題はパートタイム職にかか  ジェンダー別のネットワークが女性の企業オー わる制限(完全な禁止を含む)の再検討であるべき ナーや農民にとって障害になっているところでは, だ.そのような制限はフルタイム職を考慮すること もっと広範囲にわたる一連の政策が必要である.企 ができない――家事や介護の仕事について不当に大 業オーナーにとっては,金融と訓練の両方が企業の きな割合を負担しているため――女性労働者を差別 発展のために極めて重要である.訓練の価値に関す することになる.このような制限を緩和すれば,女 る一例がペルーにある.そこでは信用は事業戦略全 性にとって有給雇用の機会が増加するだろう.例え 体と企業経営に関する企業研修と一体化されてい ば,アルゼンチンでは,公式部門でパートタイム契 た.研修を受けた女性は企業と家計の勘定を分離 約の禁止を撤廃したところ,子供のいる女性の多く し,時とともに売上を増やし,変動性を削減するよ が非公式部門のパートタイム職から公式部門のパー うになった 53.他の研究では訓練の効果がもっと トタイム契約へシフトした 55.したがって,女性 限定的であることを示しているが,少なくともある 雇用の非公式性が高かったのは公式部門における差 CHAPTER7 ジェンダー平等のための公的措置 305 ボックス 7.5 女性や企業家向けにファイナンスへのアクセスを拡大するための革新的なアプローチ  金融機関は次のような認識に至りつつある.すなわち, おり,グループ・アプローチを通じる借入を選好してい 全企業家の半分を占めている女性というのは,大規模で, る人々を会員とする登録済みの協会やグループを対象に サービスが行き届いていない市場を代表している.以下 している. の 3 つの事例は,革新的な思考方法や柔軟な事業モデル –   2006  2009 年に,アクセス銀行と DFCU は女性企業 が,どのようにして女性の信用アクセスに対する既存の 家向けに,それぞれ 3,550 万ドル,1,610 万ドルのロー 障壁を克服し,金融機関が女性のもっと大きな顧客層を ンを実施すると同時に,不良貸出比率を 1.5%未満に維 開拓するのを手助けできるかを示している.3 つの事例 持した.両行のポートフォリオも著増も示した(アクセ はすべて,訓練,ファイナンスの知識,女性のニーズに ス銀行では預金勘定と小切手勘定の新規開設がそれぞれ 直接取り組む新しい商品やプロセスを強調している. 1,300 件,1,700 件,DFCU では預金勘定の新規開設が .事業や経営のスキルに関する女性 1,800 件強に達した) 訓練や金融革新の力を利用して公式金融部門へのアクセ 企業家向けの研修は,アクセス銀行で 650 人,DFCU で スを促進する――アクセス銀行と DFCU の「働く女性」 368 人に上った. というプログラム  アクセス銀行はこのモデルを 2011 年にガンビアとル  ナイジェリアのアクセス銀行とウガンダの開発金融会 ワンダにも移植した.また,ナイジェリアとウガンダの 社(DFCU)は,それぞれの国では大手銀行の 1 つであ 「女性のための 他の商業銀行も類似のモデルを採用した. –  る.2006  07 年にかけて両行は,魅力的で拡大していた 世界銀行連合」に初めて入会が認められた西アフリカの 市場分野に進出することによって,市場シェアを改善す 銀行として,アクセス銀行は 2007 年にアフリカ銀行家 る方法を検討していた.ナイジェリアとウガンダには非 として最も革新的な銀行,2008 年にはその年に最も革 常にダイナミックで成長著しい女性所有の中小企業があ 新的な銀行としての賞を受賞した.DFCU も後に続き, り,両行はこの市場の獲得を熱望していたが,どうすべ 2009 年に連合の大賞を獲得した. きかこれまで経験がなかった.  アクセス銀行と DFCU は国際金融公社(IFC)とパー アクセスにかかわる既存の障壁を克服し,公式金融部門 トナーを組んで,2 国で「働く女性」というプログラム への卒業を促進するために,リースを使う――タンザニ を設計し,創設した.IFC が女性企業家向け貸出にかかわ アのセロ・リース・アンド・ファイナンス る初期の信用枠と実施にかかわる助言サービスを提供し  タンザニア(およびその他の多くの諸国)では,女性 た.このプログラムを受けて,アクセス銀行と DFCU の は慣習法によって大体において土地の所有が認められて スタッフは女性企業家に対してより良い事業アドバイス いない.担保ベースが支配的な銀行制度の下で,女性は を提供できるようになった.銀行は事業スキルに関して ローンから実質的に締め出されているといえる.女性向 女性顧客向けに研修も実施した.さらに,女性顧客は自 けのリースと金融の会社であるセロ・リース・アンド・ 信を深めて信用サービスを求めて銀行に申し出を行った. ファイナンス株式会社(Selfina)は 1997 年に零細リー  ナイジェリアでは,アクセス銀行のスタッフが代替的 ス業を開始し,女性は頭金支払いと金融リース契約によっ な担保制度を設計した.それには宝石や機器の抵当入れ て,即時使用が可能な機器を取得できるようになった. や,資産・債務証書・売渡証などを使ったキャッシュフ 同社は中小企業 3,000 社を対象に,デフォルト率ゼロ, ロー・ベースの貸出が含まれる. 完済率 99%,平均ローン規模 500 ドルを誇っている.  ウガンダでは,DFCU も貯蓄信用協同組合ローンなど,  IFC はタンザニアの輸出入銀行から Selfina に対して 女性企業家のニーズによりうまく合致した新商品を開発 100 万ドルのローンを仲介し,女性顧客向けに金融知識, した.事業の立ち上げ局面を克服したものの,個別の事 事業計画,経営に関する研修を支援した.2007 年 10 月 業ローンを確保するのに必要な伝統的な担保が欠如して 現在,Selfina 顧客 150 社が貯蓄口座を開設している. 出所:International Finance Corporation. 別ではなく,同部門におけるパートタイム契約禁止 れが女性の労働力参加を押し上げている 56.また, の結果だったのである. それは職業別隔離を強化するリスクを削減してい  パートタイム職を制限するどころか,雇用取り決 る.途上国では女性のパートタイム職が高水準に達 めに関して大きな柔軟性を規定している諸国もなか しており,そのような取り決めの要請があることを にはある.スウェーデンは 8 歳未満の子供がいる 示唆している. 親に対して,労働時間を短縮して同じ仕事を同じ給 与をもらいながら続ける権利を付与しており,そ 306 世界開発報告 2012 財産法 配方法,登記制度や農業の指導助言機関の在り方に  財産権と婚姻における資産のコントロールを規定 由来している.このような偏向は次のようなさまざ している法律――土地法に加えて家族法(結婚・離 まな形で取り組むことが可能である. 婚・相続などを規定)のさまざまな側面を含む――  第 1 に,サービス提供者に対して女性を明確か は,女性の企業家や農民にとって極めて重要であ つ追加的に対象にすることを要請する.インドの る.多くの途上国における家族法の改正は,男女の 農業技術管理機関はオリッサ州の女性を対象に, 取り扱いにかかわる相違の排除を目指している.過 農業指導助言を提供するためにコミュニティ組織 去 15 年間に,レソト,ナミビア,南アフリカは夫 と協働して自助グループを設立した.このような を民事的婚姻における世帯主として認識した規定を グループのおかげで女性は農業所得の源泉を多様 廃止し,契約の締結,自己名義での財産登記,共 化することができた 62.女性に焦点を当てるとい 57 同財産の管理における女性の能力を引き上げた . う原則は国家が土地などの資源を(再)分配する エチオピアは 2000 年に家族法を改正して,女子が 際にも当てはまる.世帯主を対象とする再分配プ 結婚する最低年齢を引き上げ,配偶者が自宅外で働 ログラムは女性にとっては有益ではない.ほとん くことについて許可を拒否できる他の配偶者の能力 どの世帯主は男性だからだ(第 4 章参照).そう 58 を廃止し ,婚姻中の財産管理については両配偶 ではなく,政府は国家が分配した土地については 者の合意を義務化した. 共同の土地権利書を発行することができるだろう.  このような改革の影響には大きなものがある.エ それは配分時点でもよいし(ボリビア,メキシコ, チオピアでは家族法改正の第 1 局面を受けて,女 ニカラグア,パラグアイの法律におけるように), 性の経済活動はより高スキルを必要とするフルタイ あるいは後日,所有権が登記されて権利書が発行 59 ムの職業で,しかも自宅外での仕事に変化した . される時でもいい(例えば,ボリビアの経験のよ 一部のインド南部州では娘に平等な権利を付与した うに)63.あるいは,そのようなプログラムでは 相続法改正を受けて,女性が土地を相続する可能性 男女 1 人 1 人に別個に,等しいシェアで分配され 60 が増大した . た土地を付与することができよう.しかし,法律  婚姻中の土地にかかわる共同所有権の規定を受け だけでは十分ではない可能性があり,女性が土地 て,経済機会にアクセスするのに土地を使う女性の を確実に受領できるように政府は積極的に関与し 能力が高まった.しかし,婚姻中の共同所有権にも なければならないかもしれない.南アフリカでは かかわらず,離婚の際に自分がシェアする土地を取 そうであった.土地再分配のある 1 つの局面では, 得するのはコスト高であるため,女性の地権を保証 受益者の 47%が女性だったのである 64.女性の土 するのにより良い方法は義務的な共同土地権利付与 地市場アクセスを増やすべく――関係が少ない― である(夫が死亡した場合に妻の権利を保護できる ―,多くの NGO が土地区画をリースないし購入す という追加的な利点もある).土地登記で共同所有 るために,女性グループを組織化している.それ 権の証明書が発行されたエチオピアの 2 つの地域 がバングラデシュ農村向上委員会(BRAC)やイン では,全権利書の 80%強において女性の氏名が表 ドのデカン開発協会の事例である 65. 示されていた.これに対して,証明書が世帯主の名  第 2 に,女性の力はサービス提供組織のなかで, 義でしか発行されない地域では,その比率が 20% 優先順位の設定も含めて,高めることができる.農 61 と 4 分の 1 にとどまっていた (以下のエージェ 業の指導助言に関しては,女性は農業省の意思決定 ンシーにかかわるセクションでは,財産権の変化が の地位に据えればいいだろう.エチオピアでは,地 どのようにして家庭内での女性の発言権も増加させ 方土地委員会は少なくとも 1 人の女性委員が義務 ることができるのかを検討したい). 付けられており,その結果として女性の土地登記へ の参加がもたらされている 66. 偏向したサービス提供に取り組む  第 3 に,女性向けのサービスが届く範囲は技術  多数の諸国における女性の経済機会アクセスにか を活用すれば拡張できる.その 1 例としてはケニ かわるサービス提供上の主な偏向は,政府の土地分 アの農民ヘルプラインがある.これは 2009 年にケ CHAPTER7 ジェンダー平等のための公的措置 307 ニア最大のコールセンターであるケンコールが,小 定的なままであり,それは特に家計資源や家族形成 規模農家に無料で助言を提供するために導入したも にかかわるコントロールの欠如と家庭内暴力の頻発 のである.コールセンターのオペレーターが広範囲 において明らかである. にわたる農業慣行――害虫のコントロール,家畜・  社会レベルでは,女性の発言権に対する制約は複 家禽の飼育,産物の収穫・販売,地方市場への接 合的な要因に基づいている.リーダーシップを男性 続,資本調達など――に関して,さまざまな方言で 的な活動と結び付ける社会規範が,女性は有効な 専門的な助言を提供している.このモデルは需要牽 リードができないとか,女性はそもそもリードなど 引型モデルに従っており,電話の内容と電話をかけ すべきではない,といった広くもたれている信念の てきた人のプロフィールが保存され,オペレーター 一因となっている可能性がある.女性の指導者とし はそのデータベースを利用して,遭遇したなかで最 ての能力に関する情報の欠如や女性指導者の不在 も頻繁な問題,あるいは緊急を要する問題について も,彼らのパフォーマンスに関する信念を歪めてい 専門知識を確実に開発している.収量に対するイン るかもしれない.政治やその他の専門分野における パクトはまだ評価されていないが,プログラムがカ ジェンダー別ネットワークも,女性が指導者になる バーしているケニア農民 3 万人のうちほぼ半数は という展望を制約している.また,経済機会の場合 女性である.標準的な農業指導助言サービスを通じ と同じく,介護や家事を巡る規範を背景に,女性は て支援が行われる場合よりも,女性の割合がずっと このような指導者の地位を求めることに投資すべく 高くなっている. 利用可能な時間が制約されている.  第 4 に,モニタリングを改善すると,政策にとっ  家庭内における女性の発言権の欠如は,経済機 て有益な情報を提供することができる.数字があれ 会へのアクセス,社会規範の性格,法的枠組み, ば全容を把握するのに役立つ.例えば,農業指導助 法の執行などからの複合的な影響力を反映してい 言の官吏が担当している女性顧客数が全女性農民に る.家計資源にかかわるコントロールに関して, 占める割合など. 重要な決定要因は経済機会と法的枠組み――特に  最後に,サービスの女性利用者は期待できるサー 家族・土地・相続にかかわる法律に反映されてい ビス水準に関して,情報を与えられるべきである. る財産を巡る権利――へのアクセスである.家庭 このステップは需要に関して集団的な要素を構築す 内暴力に関しては,社会規範と法律の中身や執行 ることによって後押しができる.例えば,女性農民 が重要な役割を果たす.また,妊娠・出産に関し の団体や女性企業の団体を支援すればいいだろう. ては,規範と交渉力,それにサービス提供が決定  このような施策 1 つ 1 つの有効性や,それを実 的に重要な要因である. 施する最善の方法に関する確固たる証拠がまばら  したがって,女性の社会や家庭での発言権にかか であるため,多種多様な状況で機能することが判 わる制限は,公式・非公式な制度がどう構成され, 明しているプログラムに関して,もっと広範なレ どう相互作用しているかを反映している.したがっ パートリーを開発するためにはさらなる研究が必 て,政策としてはこのような決定要因を標的にする 67 要である . 必要がある.経済活動の場合と同じく,どのような 個別の文脈でも介入策の組み合わせが必要になる可 能性があろう(図 7.3 の緑色の部分). 女性のエージェンシーを改善するための政策  以下では,このような制約のいくつかに直接取り  第 4 章では,国が豊かになっても,女性のエー 組む政策が,社会や家庭で女性の発言権をどのよう ジェンシー(自主・自律性)は社会でも家庭のなか にして増やすことができるかを検討する.このよう でも制約されたままである,ということを示した. な政策は本章で先にみたものの一部を次の 2 つの また,最も顕著な不足は女性の発言権に関係してい 面で補完するものである.第 1 に,女性の教育を る.政治と司法・企業社会・労働組合など社会的・ 改善する政策はエージェンシー――人々が自分の権 経済的な領域の両方で,女性の代表者は少ない.ま 利を理解するのに役立つ識字能力から,政治生活に た,家庭における女性の発言権は多くの状況下で限 参加する能力を増加させる高等教育までと範囲が広 308 世界開発報告 2012 図 7.3 女性のエージェンシーを改善する 政 ンダー平等 策 ジェ * 制度 非公式 経済機会 市場 家計 エージェ 資質 ンシー 公式 制度 成 長 *[訳注]促進のための潤滑油. 出所:WDR 2012 チーム. い――を行使するのに重要である.第 2 に,介護 ことが判明している. や家事を巡る規範の影響に取り組むことも含め,女 性の経済機会を拡張する政策も,特に家計資源に 政治面での代表 対する女性のコントロールを強めることによって,  公式の政治において女性の代表を増やすための最 エージェンシーを涵養することができる. も一般的な方法である割当制にはさまざまな形態が ある.政党は選挙リストに一定数の女性候補者を含 女性の社会的発言権を増加させる めることを自発的に公約することができる(政党の  女性の社会的制度への参加を増加させることを目 自主的な割当制),候補者の一定割合を女性のため 的とした政策では,情報問題や女性は指導者として に留保しておくことができる(候補者リストに掲載 男性よりも劣っているという基本的な信念に取り組 されている女性のポジションを条件として;候補者 むことになる.規範との決別を強制し,(例えば, 割当制),あるいは投票権の一定割合を女性のため 有権者や株主に対する)情報を改善することが,最 に留保しておくことができる(女性候補者だけが競 も実現性の高い選択肢であろう.実際には,政治や 争できる;議席留保制).ジェンダー割当制を採用 取締役会に関して割当制を導入するのが有益である している諸国のうち 61%は政党の自主的な割当制 (圧倒的に西ヨーロッパ諸国),38%は候補者割当 制(主としてラテンアメリカ),20%は議席留保制 (ほとんどが南アジアとアフリカの一部)を採用し . 「女性にも町長になる権利がある」 ている 68. リベリアの成人男性  当該国にとって最良の形は政治制度次第である. 例えば,比例代表制では女性のために個々の議席 CHAPTER7 ジェンダー平等のための公的措置 309 を留保することは不可能であるが,政党に強力な が,ジェンダー平等を増大するために他の政策を遂 リーダーシップと内部規律があるなら政党ベース 行している諸国は,女性の政治参加のためにも割当 の自主割当制が機能するだろう.加えて,割当制 制を導入している可能性が高いので,割当制だけの 設計の詳細とその執行が鍵を握っている.スペイ インパクトを評価するのは困難であろう.インドの ンでは,上院選挙の投票用紙上の場所はアルファ 地方政府は留保議席が無作為に指定されているため ベット順であるため,女性を苗字で並べる政党は 例外になっている.数名の女性議員が存在してお 投票用紙上では女性を下の方に置く傾向にあるた り,政治における女性の発言権に関して明らかに無 め,女性が議席を獲得する可能性が低下する.こ 視できない影響を与えている.第 1 に,この割当 れは投票用紙上で女性の名前をどこに表示するか 制は女性が公職に就くことを義務付けているため, に関して,もっと慎重な設計が必要であることを 選出される女性が増加した.第 2 に,ローテーショ 69 例証するものである .フランスでは,国政選挙 ンの結果として留保が除かれた後でも,女性は留保 においては割当制を順守するくらいなら喜んで罰 のなかったコミュニティにおけるよりも大きな比率 金を払うという政党がなかにはあり,非順守に対 で選出され続けていた 70.また,男性は女性の指 する強い制裁を規定する執行メカニズムの重要性 導者としての潜在力に関する見方を好意的な方向に を強調する結果となっている.それには次の 2 つ 変更した 71.つまり,初期における女性代議員の の組み合わせが必要である.すなわち,多額の制 強制的な推進を受けて,特に男性を中心に有権者は 裁金と,コスタリカやフランスの地方選挙におけ 最新の情報を取り入れ,女性代議員が少ない根本原 るように,割当制を順守していないリストを拒否 因の 1 つとみられる情報問題を克服している.し するメカニズムの両方を実施するのである. かしパキスタンでは,強力な社会規範を侵害する割  加えて,政治的な代議員について割当制を設計す 当制は女性に対する差別どころか,迫害の増加にさ るに当たっては,もっと大きな状況を念頭に置かな えつながっている 72. ければならない.義務的な割当制は一部の民主的な  多くの場所では,このような政治的な留保はもっ プロセスを制限するので,この介入策は執拗な不平 と広範囲にわたって肯定的な効果をもたらしてい 等を是正する必要性とのバランスを取らなければな る.女性向けに議席が留保されたところでは,女性 らない.インドの地方政府で使われている 1 つの 市民が村会に参加し,権力の座にある人々から建設 選択肢は,回転ベースで割当制を実施することであ 的な反応を享受する公算が高まった 73.女性が地 る――選挙ごとに留保される議席の組み合わせを時 方政府の首長に選出された場合,そこの公共投資の とともにさまざまに変更するのである.また,積極 決定は女性の選好との整合性が高まった 74.さら 的差別是正政策の場合と同じく,明確な目標ないし に,女性のエージェンシーの他の側面も改善を示し 時間枠をあらかじめ明示しておくと良い.最後に配 た.例えば,女性向けの議席が留保されている地域 慮すべきは,留保の構造に関して慎重に考えておか では,女性に対する犯罪に関する通報件数が大幅に なければならないということである.特定の議席を 増加し,それに伴って逮捕件数も増加した 75.割 女性向けに指定するのは(特定の選挙区を指定せず 当制や他の類似のメカニズムは,平和や紛争後復興 に),「名ばかりの」女性議席――著しく有効性が劣 プロセスにおける女性の発言権と,それに付随する る――を作るリスクを犯すことになりかねない. . 利益を高めるのにも有効である(ボックス 7.6)  割当制は女性代議員を大幅に増やすことができ  もっと一般的には,女性代表がすべてのレベルで る.立候補者割当制の導入を受けて,議会におけ ――割当制を通じてであろうとなかろうと――増加 る女性議員の比率がメキシコでは 16%から 22.6% して初めて,持続的な変化が生じるだろう.また, に,マケドニアでは 6.7%から 17.5%へと著増し この代表を維持するのに決定的に重要な構成要素に た.留保議席制の実施を受けて,国家の女性議員比 は,女性政治家の間におけるネットワーク(国内の 率がモロッコでは 0.6%から 10.8%に,ヨルダンで ものと国際的なものの両方)の構築に加えて,女性 は 1.3%から 5.5%に上昇した. 党員に対する能力開発や助言の提供,候補者の台  割当制は他の側面にも効果をもたらすことがある 頭,新たに選出された女性議員が含まれるだろう. 310 世界開発報告 2012 ボックス 7.6 平和や紛争後再建のプロセスに女性の声を含める  平和や再建のプロセスにおける女性代表者の割合は極 ビアなど)では,女性の積極的な参加を受けて,公共支 –  めて低い.1992  2010 年に発生した 24 件の平和プロセ 出が社会的・経済的なプログラム向けにシフトした.紛 スのレビューが指摘しているところによると,女性代表 争下における女性の経験(および典型的には大きな脆弱 者の比率は調印段階では 2.5%,交渉段階でも 7.6%にと 性)も,再建課題の優先順位の決定に影響を及ぼすであ どまっていた.和平交渉プロセスに関するもう 1 つのレ ろう.紛争終結後の移行期にあったリベリアやルワンダ, ビューが示しているところでは,政府代表団のうち女性 およびアパルトヘイト廃止後の南アフリカで行われたよ のシェアはわずか約 7%にすぎなかった. うに,市民社会を関与させ,それと政治指導者との関係  和平や再建への女性参加がもたらすインパクトに関し を強化したことが,政策の優先課題を女性のニーズ・関 て,体系的な証拠は限定的ではあるが,国連女性開発基 心事と整合的にするのに役立った. 金(UNIFEM)が記録した多数の紛争後の状況における  和平・紛争後のプロセスにおける女性の発言権を増大 最近の経験が示すところによると,女性にプロセスへの するさまざまな方法の有効性を検討するには,さらなる 発言権を付与することは有益である.ブルンジ,グアテ 研究が必要ではあるが,次の 2 つのメカニズムが考慮に マラ,スーダン(ダルフール) ,ウガンダでは,プロセス 値することを経験が示唆している.第 1 に,政治面での に参加する女性が増加し,彼らの意見が意思決定に取り 代表と同じく,女性向けに割当制を使えば,特にプロセ 入れられるにつれて,紛争中の性的暴力の犠牲者に対す ス開始の時点で代表者を増やすのに有益であろう.第 2 る支援,寡婦・退避家計向けサービス,保健・教育サー に,コロンビアの補償・和解のための国家委員会で行わ ビスなどジェンダー関連の問題が,政策課題のリストに れたように,ジェンダー問題に対処するためにテーマ別 上る可能性が高まった.アパルトヘイト撤廃後の南アフ の作業部会を設置すれば,このような懸念事項が正当な リカや一部のラテンアメリカ諸国(グアテマラやコロン 関心を享受することを確保できるだろう. 出所:Anderlini 2007, 2010; Fisas 2008; UNIFEM 2010; World Bank 2011.  第 4 章では,女性生産者組織や非公式労働組合 とができる. などあまり組織化されていない制度では,女性は大  ノルウェーは,法制化された企業の割当制が完全 勢の代表者を確保することに成功している,という 施行されている唯一の国であり,役員会における女 ことも強調した.結社の自由をさらに促進し,その 性代表は増加している 77.アメリカにおける一部の ようなグループの意思決定への参加を円滑化する政 示唆的な分析が示すところによると,この種の増加 策は,このような形の発言権に拍車をかけることが は社内における他の高水準の地位で女性比率の上昇 できる(第 8 章で詳しく議論する).法律の執行を につながる.ある研究では,前年に女性役員のシェ 担当するその他の行政機関や司法を含め,他のレベ アが増えることと,翌年に他の高い役職で女性の ルの政府で女性の参加を増やすことも,本章の別の シェアが上昇することとの間には相関関係があり, ところで検討するように極めて重要である.この種 インパクトが役員からマネジャーに及んでいるので の政策の実例はコロンビアでみられる.閣僚を含 あって,その逆ではないことが示唆されている 78. め,すべての政治任用職の 30%が女性でなければ 類似の研究は,女性役員のシェアと上級役員や高所 ならないことが義務付けられている. 得者に占める女性の存在感との間には強いプラスの 相関関係があることを示している 79. 経済面での代表  女性役員のシェアを増やすと企業のパフォーマン  民間部門について,一部の政府は企業の役員会に スも改善する.役員会におけるジェンダー多様性が ついて割当制を義務化している 76.政治的な割当 大きいほど,会社の優秀さを測定する指標が改善し 制と同じく,企業の割当制は女性の代表を増やすこ ている 80.さらに,役員会の多様性と企業の財務 とを企図したものである.そうすれば,リーダーと 的な成果との間には正の相関関係がある 81.しか しての女性のパフォーマンスに関する考えを変え, し,このような研究はどれ 1 つとして,役員会の 権力の座にある女性に関する固定観念を打破するこ 多様性が会社の業績に及ぼすインパクトを正確に特 とによって,社会的な態度や規範をシフトさせるこ 定できる手法を用いてない.加えて,最も厳格な証 CHAPTER7 ジェンダー平等のための公的措置 311 拠を提示している 2 つの研究では逆の結果が発見 えば,ケニアは最近,慣習法である家族法と相続法 されている.すなわち,ノルウェーでは企業の役員 に対してそれまで憲法が付与していた差別禁止の適 会における割当制は短期的には財務業績の悪化につ 用除外を撤廃した. 82 ながっていた .にもかかわらず,あるノルウェー  すべての法律が差別禁止条項を順守することを確 の研究は,このような業績悪化は新しい役員のジェ 保すれば,法律が憲法違反であることに挑戦する市 ンダーが原因ではなく,彼らが若年で高水準の経験 民の能力も高まるだろう.ネパールやタンザニアで 83 を欠いていたためであったことを見出している . は,女性グループやその他の利害関係者の連合が提 総合すると,このような結果は,役員会における女 訴した挑戦を受けて,男性相続人を優遇する制定法 性代表の増加と企業業績の関係を十分理解するため が撤廃された.法制度に「憲法違反の主張」に関す にはさらなる研究が必要であるということを示唆す る規定があり,女性の司法制度アクセスも増加させ るものである. ることを確保することが鍵である.  多数の法体系を調整するに当たって慣習法は無視 家庭内で女性の発言権を高める すべきではない.多くの男女にとってそれは日常的  家庭内で女性の発言権が弱いのは,経済機会への な現実であり,そのインパクトや変化の潜在性を認 アクセス,社会規範の性格,法的枠組み,法の執行 識することが,実際的であると同時に建設的でもあ などの複合的な影響力を反映しているためだ.女性 る.慣習法はより親しみやすくアクセスが容易であ の経済機会を増やすことを目指した政策の一部はす る.敵対的なモデルよりも調停を利用する.また, でに検討したので,本セクションでは家計に影響す 特に正式なシステムが存在しないか全滅させられ る社会規範に加えて法律(およびその執行)にもっ た,脆弱な紛争後の諸国では,大きな正当性を示す と焦点を当ててみよう.この 2 つのうち,法律と ことができる.ボツワナでは,慣習法と慣習法廷が その執行は公的措置にただちになじむため,それが 正式に認められており,女性が種族の酋長になって ここでの主たる焦点となる.そのような法律の変化 決定を下して,長年の伝統を打破した.啓蒙運動を それ自体は社会規範を変更するものではないが,経 通じて女性の参加増大を奨励し,女性の保護などに 験が示すところによれば,差別的な法律の廃止ない おけるシステムの価値観を促進することによって, し修正は長期的にはそのプロセスにとって必須の部 このような慣習法におけるジェンダー偏向の除去が 分となるだろう.また,法律の改正はそれを有効に 奨励されるべきである.また,非公式制度と公式制 するために他の介入策を伴わなければならない. 度の連動を形成することが,法制度全体を通じてよ り大きな平等をもたらすのに役立つことができる. 多数の法体系を調整する  個別の法律を検討する前に,多くの諸国における 家計資源のコントロール ように多数の法体系が存在する場合でも,体系全体  経済機会が増えると,それは女性が資産や資源を がうまく機能することが重要である.慣習法と宗教 増大させ,その資源に対するコントロールを増やす 法は国家が裁可した正式な法的枠組みの一部になっ ための手段となるが,法律はさらなるコントロール ていることがある.たとえ正式には認められていな を確保するための直接的な方法である.結婚や離婚 い場合でさえ,それらは女性の資産へのアクセスや を規定する家族法の側面と,差別的な土地法の規定 コントロールにかかわる能力を決定するのに引き続 を修正することが優先課題でなければならない. き重要である.したがって,憲法上に差別禁止条項 がある(世界の大多数の憲法ではそうなっている) 婚姻中の財産に関する法律 場合には,第 1 歩はすべての法律の源がそれによっ  この領域における主要な不平等は,婚姻中の財 て統治されていることを確認することだ.差別禁止 産の使用と処分を決定する夫婦の権利に関するも がすべての法律――特に家計や家族のなかで資産や のである.最近の改革にもかかわらず,特にサハ 資源のコトロールを決定する法律――の正当性に ラ以南アフリカや中東・北アフリカを中心とする各 とって,ベンチマークになっている必要がある.例 国では,不平等な法律が依然として残っている.例 312 世界開発報告 2012 離婚の法律 「この法律が私たちを助けてくれました.…男の家を  離婚時に,婚姻中の財産の処分に対して適用され 去る時には財産を分割するので,新たな生活を始め る法律や,離婚を求める男女の能力を決定する法律 . るために若干のものをもって行けます」 は,婚姻中の資源に加えて婚姻が終焉した際の福祉 タンザニアの成人女性 に対する女性のコントロールを形成する(交渉力を 通じて)のに役立つ.婚姻中の財産の分割に関し て,婚姻中に支配的な標準的共有財産制度は資産を 蓄積する女性の能力にとって重要である.それに対 えば,サハラ以南アフリカの 47 カ国中 15 国には, 関して選択肢があるということも同様である.第 4 婚姻中の資産に関して夫により大きなコントロール 章で示したように,共有財産制度は一般的に女性に を付与している法律がいまだにある.婚姻中の財産 対してより大きな保護を提供している.というの に対するコントロールを夫の手に授ける法律は,チ は,婚姻中の財産は離婚の際には平等に分割される リでも施行されている. からだ 85.特に民法国を中心とする多くの国には,  しかし,進展は可能である.エチオピアは 2000 すでに標準的な共有財産制度がある.モロッコや 年に家族法を改正して,妻が自宅外で働く許可を拒 チュニジアでは,最近の家族法の改正によって,女 否できるという夫の権限を排除し,家族財産の管理 性は初めて共有財産制度を選択することが認められ は両配偶者の合意に基づくことを義務化した.この た.また,トルコが 2001 年に実施したように共有 ような変更の第 1 局面は,女性の経済活動が自宅 財産制度を標準的なものにすれば,カップルが共有 外での仕事,フルタイム職,高スキルを必要とする を選択しなければならない時よりも高い取り分に帰 84 職種にシフトするのに貢献した .モロッコでは 結するだろう. そのような法律が 1990 年代に改正され,2004 年  別個の財産制度が標準的なものにとどまっている には新しいモロッコ家族法典によって夫を世帯主と 地域では,離婚法制では家計の富に対する配偶者の する規定が削除された. 非金銭的な貢献度を認めることが極めて重要であ る.仮に離婚に際して婚姻中の財産を分割するベー 婚姻登記 スラインが等分割ということであれば,子供の世話  登記され法的に認知された結婚をしていない多く をし,無給の家事をこなし,他の形で家族の福祉に の女性はどうなのだろうか? より多くの女性を有 貢献するのに時間を費やしていた女性は,離婚と同 益な制定法体制の保護下に置くために,民事登記手 時に補償される.仮に非金銭的な貢献の承認が執行 続きはルワンダのように,簡素で地方的に低コスト されるとすれば,別個の財産制度は女性の財産保護 でアクセス可能なものにしておくべきである.その という点では標準的な共有財産制度と同じように有 代替策は南アフリカ――一夫一婦制による慣習的な 効である.この実施の重要な鍵はこの補償がどうあ 婚姻下にある女性は,民事的婚姻と同じ標準的な共 るべきかを明記した明確な法制にある.公平な出発 有財産制度によって規制されている――におけるよ 点の解釈を法廷に委ねるべきではない.ケニアの経 うに,慣習的な婚姻ないし合意による結婚を法的に 験が示しているように,互いに矛盾する判例法はバ 認知し,このような関係にある女性に権利を授与す ラバラの結果につながりかねない 86.また,家族 ることである.この鍵は関係を確立するのに広範囲 の住居がしばしば最も高価な婚姻中の資産なので, にわたる状況を考慮に入れて,証拠要件を最小限度 共同所有権の付与を義務付けている,ないし想定し にとどめることにある.出発点はカップルが同居し ている法律は,離婚に際して女性を資産の喪失から ていれば慣習的な婚姻にあるという前提であろう. 保護することができる. それは異論を唱えたい配偶者に異論を唱えさせてお くことが前提である.このような登記は,女性の司 相続法と寡婦 法制度へのアクセスに重要な一歩を提供するだろう  多くの諸国で,相続法制が不十分ないし差別的な (下記を参照). ため,寡婦は資産所有権について特に脆弱な立場に CHAPTER7 ジェンダー平等のための公的措置 313 置かれている.例えば,サハラ以南アフリカの 22 カ 家庭内暴力を削減する 国は寡婦に遺産を等分する権利を付与していない.  家庭内暴力というのは,主として家庭内における また,遺言書の作成は低所得国では一般的ではない 女性の交渉力が限定的であることと,家庭内の権力 ため,無遺言相続法(遺言書がない場合の死亡に伴 を巡る強力な社会規範の組み合わせから生じてい う財産分与を規定)が遺産の分割を決定する.した る.法的枠組みの強化や暴力被害者向けサービスの がって,寡婦の財産へのアクセスは往々にして削減 改善に加えて,このような決定要因そのものに取り され,男性親族や姻族の善意に委ねられてしまい, 組む必要がある. 支援の保証はほとんどない.もう 1 つの問題は寡婦 の相続,特に土地には,複数の法体系が適用される 情報と交渉力を通じて規範や行動を変える ということだ.ボツワナ,ナイジェリア,スワジラ  厳格な評価は少ないものの,家庭内暴力に関する ンド,タンザニア,トーゴでは,慣習法の方が制定 規範や言動を変化させることを目指した一部のプロ 法よりも優位にある.また,ザンビアでは,全体の グラムは有望である.これらは主に次の 2 つの種 土地の約 90%は慣習法の下で保有されており,同法 類のいずれかに入る.第 1 は,若い男女を対象と は遺産の土地を除外しており,男性相続人にだけ譲 した教育・啓蒙キャンペーンである.一例は南アフ 渡される. リカの「ソウル・シティ」というマルチメディア・  したがって,もし可能なら,差別的な無遺言相続 プログラムで,個人やコミュニティの規範や信念を 法は改正されるべきであり,個人が遺言書の作成を 変化させることを目指している.親しいパートナー 選択する場合には,法律は寡婦の利益が保護される による暴力は私的な問題であるとしていた意見な よう確保すべきである.しかし,財産をだれに遺贈 ど,一部の社会規範はキャンペーンを受けて変化し するかを決定する裁量は,必ずしも寡婦や娘にとっ た 88.やはり南アフリカにおける別の事例は「飛 て有利に機能するとは限らない.この落とし穴は遺 び石」というプログラムで,男女別々の訓練でコ 言が存在する場合でも,寡婦や娘を法の下で必要な ミュニケーションや男女のリレーションのスキルを 相続人として指定することによって回避することが 促進するものである.厳格なインパクト評価は,親 できる.ブラジルではそうなっている.寡婦と息 しい男性による家庭内暴力の犯行が大幅に減少した 子や娘の両方が亡くなった夫の遺産の半分につい ことを示している 89.しかし,他のプログラムの て,等分のシェアを受領する法的な権利がある.ア 評価は情報提供による効果は限定的か,あるいは ルゼンチン,ボリビア,ベネズエラでは,寡婦を遺 まったくないということを示しており,このような 言から法的に除外することはできない 87.寡婦を プログラムを効果的にする方法に関してはさらなる 土地から退去させる人々を訴追することによって寡 研究が必要だということが示唆される 90. 婦の資産を保護する法律も有益であり,それがガー  教育や情報は,ジェンダーにかかわる規範,権 ナ,マラウイ,ウガンダ,ザンビアでは施行されて 利,法的手段,利用可能な情報源などに関する教育 いる.しかし,その執行は障害としてとどまってい を通じて,思春期の若者を――例えば学校で――対 る.配偶者が亡くなった時に女性の資産保護に役立 象にすべきである.特にいくつかの部分から構成さ つもう 1 つの方法は,標準的な夫婦共有財産制度 れている学校ベースのプログラムは,虐待に対する を採用することである.そうすると,寡婦は婚姻中 知識や保護行動を強化できるが,それが虐待発生に の共同財産の半分に対する所有権を自動的に獲得す 対して及ぼす効果についての証拠は入手可能となっ ることができ,夫の遺産は半分を残すだけとなる. ていない 91.アメリカとカナダにおけるデート中 全体として,婚姻法改正の進展は多くの諸国で相続 の暴力を削減するためのプログラムの厳格な評価が 法改正よりも速く,前者が改革プロセスの早い段階 示すところでは,暴力の防止ないし削減にプラスの で寡婦の権利を確立するための,重要な入口点にな 効果があり,その効果は主として規範や役割の変 り得るということを示唆している. 化,コミュニティ・サービスに関する意識の高まり によるものである 92.第 2 に,家庭内での女性の 交渉力を増やせば家庭内暴力を削減できるが,経験 314 世界開発報告 2012 が示すところでは慎重なアプローチが必要である. 家庭内暴力に対して有効な対応策を提供する 女性にとって経済機会が増大したり,移転所得(例  被害者に対する支援は迅速かつ総合的でなければ えば条件付きの給付を通じて)が大きくなったりす ならない.電話ホットライン,緊急シェルター,法 ると,女性の交渉力は大きくなる可能性があるもの 的支援,心理的介護,支援グループ,所得創出プ の,家庭内暴力をかえって増加させることもある ログラム,児童福祉サービスなどを総動員する 95. (少なくとも短期的には).このような暴力の原因を このようなサービスを統合すると対応策がより有効 直接対象とする補完的なプログラムがあれば,その になる.というのは,事実を確立するとともに被害 削減に役立つだろう.女性が頼りにできる制度を発 者を保護するには,タイムリーな対応策が重要だか 展させることは,交渉力の改善や家庭内暴力の削減 らである.例えば,マレーシアでは国立病院にはワ において,より耐久性のある方法を提供することに ンストップ危機センターがある.家庭内暴力で怪我 なるかもしれない.ある 1 つの選択肢は,特に住 をした女性が緊急病棟に到着すると,医療スタッフ 居(行く場所の確保になる)と土地を中心に,女性 がただちに診察して治療し,ソーシャル・ワーカー の資産の基盤を増やすことであろう.インドのケ に連絡する.それから,女性団体から派遣されてき ララ州に関する研究は,女性の財産所有権が増加 たボランティアが,もし必要ならカウンセリングが すると家庭内暴力は大幅に減少することを示して 受けられるよう手配し,さらなる援助を調整する. 93 いる .第 2 の選択肢は結婚の解消に関する女性 同じような一貫した対応策がシステム内の他のとこ の能力を改善することである.アメリカにおける一 ろでも整備されるべきである.特に被害者にとって 方的離婚法は家庭内暴力を 30%削減したといわれ 最初の接点になる可能性が大きい警察署については 94 ている .離婚後の子供の後見や子供に付与され そういえる. る資産にも注意を払う必要がある.  サービスが統合されていないところでも,警察, 病院スタッフ,その他の提供者は,被害者の支援方 家庭内暴力を取り締まる法律を整備する 法,利用可能なサービス,関連法規などに関して訓  中東及び北アフリカ,南アジア,サハラ以南アフ 練を受けている必要がある.スペインでは,ジェン リカの多くの諸国では,家庭内暴力にかかわる法律 ダー・ベースの暴力に対する包括的な保護措置に関 を制定する継続的な努力が必要である.そのような する法律の一環として,そのような訓練が義務化さ 法律は多数の目的に資するであろう.それには女性 れている.法律の施行には,啓蒙及び広報のキャン に対する各種暴力を定義することや,法の執行と告 ペーン,被害者用のホットライン,男性向けの助言 発の捜査・社会的な意識の引き上げ・政府公約の示 サービス,判事やその他の司法関係者に対する(家 唆などに関するさまざまな主体の権限と義務を規定 庭内暴力への関心,被害者の治療,法律の特徴など することが含まれる.法律がすでに制定されている にかかわる)訓練が含まれる.警察官や医療スタッ 国では,それが具体的で起訴可能であることを確保 フ――後者は国民健康保険制度下で暴力被害者の処 するために見直すべきである.追加的な改革として 置方法に関する特殊な保健指針についても――も訓 は,刑事手続きと被害者への対応(差し止め命令, 練を受けている. 法医学手続き,被害者支援,医療指針など)を規定  しかし暴力を体系的に犯罪化すると裏目に出るこ する法律の制定と実施が含まれるだろう. とがある.すべての女性がパートナーが有罪になる ことを望んでいるわけではないし(特に彼が家計の 主要な稼ぎ手である場合),多くは懲罰的なやり方 を強要するシステムを拒否する 96.多くの女性は 「男たちは私たちをしばしば殴ったのに,すべてが正 保護命令の方がもっと有益だと感じている.例え 常であるかのごとく時が経過しました.しかし,今 ば,アメリカのデータは,そのような命令は暴力の . では私たちは警察に通報することができます」 反復を削減し,女性は命令の違反がしばしばあるに 南アフリカの成人女性 もかかわらず,より安全だと感じると報告されてい る 97.ブルガリアなど多くの諸国は一時的保護命 CHAPTER7 ジェンダー平等のための公的措置 315 ループを含む市民社会が参加したおかげで,このよ 「彼らは盛んに隠れ家の話をしているが,それ うな政策の精緻化に役立っただけでなく,個々人に は煙幕です.それが私たちに本当に意味する も自分たちの権利を意識させることになった.ま ところはこうです.ベオグラードには 2 つの た,パキスタンでは,女性の法律事務職員が協議を 隠れ家がありますが,わたしたち農村部の女 性は全員が殺されてしまうということでしょ 実施して,女性の懸念事項を政策レポートにまとめ う?」 上げることによって,対話を形成し,政策立案者に 影響を与えている 102. セルビアの若い女性  女性が司法制度にアクセスするのを助けることに 加えて,法律政策の策定に当たって女性の意見を代 表するような技術面での配慮は一定の役割を果たす 98 令や一時的児童預かり制度を提供している .危 ことができる.コソボでは,2008 年に独立したの 機的な状況により素早く対応するために,一時的な を受けて,同国の憲法を起草する委員会は農村部女 拘束命令を発行する手続き(地方レベル)を緩和し 性の参加容認を決定した.ただし,起草作業が行わ たところもなかにはある.フィリピンでは「村の役 れていた都市に 48 時間以内に到着できることが条 人」に保護命令を発布する権限があり,それは 15 件であった.「女性のための女性インターナショナ 日間有効で,女性と子供に裁判所の命令を請求する ル」は携帯電話を使って,農村部女性 250 人がこ ための通行時間を与えるべく,有効期間が 15 日間 の時間枠内で都市にやってきて,委員会で意見を述 に設定されている.警察も一時的拘束命令を発行す べるように働きかけた.その結果として,政治制度 99 ることができる . への女性参加にかかわる条項や,ジェンダー平等に かかわるその他の保証を盛り込んだ憲法が起草され 権利を有効にする――女性の司法アクセスを増加させる た 103.  法律の内容を改善することに加えて,自分たちの  第 2 に,司法制度のさまざまな部分を女性の具 権利が有効であることを要求するよう女性をエンパ 体的な要求にもっと応答的にする,あるいは女性顧 ワーするだけでなく,司法制度が女性の要求にもっ 客をもっと明示的に対象にすれば,女性の権利は と対応するための措置も取る必要がある.次の 3 もっと有効になることができる.家庭内暴力事件に つの分野で措置が必要である. かかわる裁判の遅れが長期になり得る一部の諸国で  第 1 に,このような法律の策定・実施・執行を は,政府が特別法廷を設置している.リベリアは強 担当する組織内に,女性の代表者が大勢いる必要が 姦事件に対してそうしているし,ネパールは女性と あり,女性の顧客や利害関係者の発言が司法制度の 子供を巻き込んだ事件については早期結審裁判所を なかにもっと良く反映されていなければならない. 設置している.サービス提供者も該当する法律を熟 判事,警官,財産にかかわる法規制を実施する女性 知していなければならないだろう.インドネシアの の官吏について,女性代表者の増加を割当の設定に PEKKA(女性世帯主を支援する団体)の女性の法 よって実現した諸国もなかにはあるが,このような 的エンパワメントのプログラムは,家庭内暴力と家 変化のインパクトに関する証拠は未だ限定的であ 族法に焦点を絞った訓練を村の法律事務職員に提供 る.パプアニューギニアの男性の判事の間では,自 している.また,同プログラムは地区フォーラムを 分たちが担当する事件に対してはジェンダーに配慮 開催して,判事,検事,警察,NGO,政府官吏を したアプローチを採用する必要がある,という意識 一堂に会して,ジェンダー問題に対する関心を高め が女性判事の存在によって高まった 100.エチオピ ている 104.スペインでは,判事,裁判官,その他 アでは,地方の土地委員会には女性委員が少なくと の法執行関係者は,ジェンダー平等,非差別,女性 も 1 人はいる必要があるため,そのおかげで女性 に対する暴力にかかわる特定の法廷には出席が義務 の間では土地問題に関する知識と土地登記プロセス 付けられている.訓練を受けた判事は暴力問題に関 への参加が増加した 101.ルワンダでは,土地法の する考えが変わった,仲間にとって良い訓練になる 改正に関して政府が後援した政策議論は,女性グ と報告している.女性の限定的な識字能力が制約と 316 世界開発報告 2012 なっているところでは,ボツワナにおけるように、 可能性があろう.このようなグループにとっては, 法律をもっと平易な言葉に,あるいは方言に翻訳す 家族計画サービスの提供の改善が優先課題である. れば有益であろう.  しかし,出産するかどうか――子供の数と間隔  女性を対象にするためには,時間と移動性の制約 ――にかかわるコントロールは,生殖医療サービ に対処すべく,このようなサービスを女性の近くに スの提供を超越している.したがって,出産につ もっていくことが必要になる.例えば,女性が司法 いて女性がコントロールを強めるためには,次の 制度にアクセスできるように,コミュニティの法律 2 つの追加的な政策分野が決定的に重要である. 事務職員や移動性法律支援クリニックを提供するな 第 1 は,家庭内で交渉力を発揮する女性の能力を どである.インドのタミル・ナードゥ州では,全員 押し上げ,子供の人数に関する夫婦の選好に基づ 女性で構成される 188 の警察部隊が創設され,農 いて措置を取ることを女性に許容し,このような 村部と都市部の両方をカバーし,女性に対する犯罪 選好を決定する一因となっている社会規範を長期 に焦点を絞っている.このおかげで,家庭内暴力の 的に変更することである.第 2 の政策焦点は,疎 通報を含め,警察にアプローチすることに関して女 外されているグループ向けに家族計画サービスの 性は気安さを感じるようになっている 105.女性が 質を改善することである. 運営する警察署と女性向けの特殊サービスが初めて  家庭内での男女の相対的な交渉力は,出産の結果 106 導入されたのはブラジルとペルーである .対象 を決定するのに重要な役割を果たす.例えば,男性 の絞り込みにはコストへの配慮も含まれるかもしれ が相続する土地の方が多い場合,夫婦がもつことに ない.というのは,女性が法律制度にアクセスする なる子供の数は女性よりも男性の選好に近くなる可 のに必要な資金をもっている可能性は低い.特に貧 能性が大きいであろう 108.女性の交渉力を増やす 困がジェンダー不平等を倍加しているところではそ 政策選択肢の一部はすでに検討済みである.これに ういえるだろう.インドネシアでは,貧困層や弱者 は女性の資産蓄積,所得の増加,女性が終了する際 層について法廷費用を免除したところ,女性が法廷 の選択肢の増加,女性の教育や妊産婦ケアへのアク 107 に行く能力が高まった . セス増加などが含まれる.  第 3 に,女性の司法アクセスの問題がもっと目  避妊具の役割と使い方を男性に教育すれば,女 に見えるようにするためには,データを収集して・ 性が自分の出産にかかわる発言権を高めるのに役 公表しなければならない.女性にとって利用可能な 立つだろう.避妊具の採用は,バングラデシュや 司法サービスの種類と質を巡る問題や,女性が司法 エチオピアの事例でみるように,男性が家族計画 制度に関与した際に直面する障壁に対しては,多く 教育に含まれている方が高くなる 109.その結果, の諸国では依然として包括的なデータが欠如してい 出生する子供の数が減少する.例えば,中国では, る.公的部門にもっと情報があれは,行動の緊急性 家族計画プログラムの一環として妻とともに夫が が高まり,ボトルネックを発見して,司法制度内に 教育を受けた場合には,妻だけが教育を受けた場 おける説明責任を改善し,行動のための優先分野を 合と比べて,妊娠率と中絶率が低下した 110.しか 確定し,介入策を設計するのに役立つだろう. し,状況を知ることが重要である.夫を完全に排 除すると顕著なインパクトをもたらすこともある. 出産の決定における発言権を高める ザンビアの証拠が示すところによると,無償の避  家族計画サービスの利用可能性が制約されたまま となっている地域が,世界のなかにはある.サービ スが行き届かない人口が国全体に及んでいる場合も あるが,サービス不足の人々が国内の地理的に特定 「男女が家族計画サービスをもっと利用するに は,教育と啓蒙がおそらく適切な手段であろ の地域に居住している場合がより一般的である.例 . う」 えば,利用可能性は農村部の方が都市部よりも問題 となる可能性が大きい.加えて,貧困層など人口の ブータンの若い女性 下位グループもやはりアクセスのが限定されている CHAPTER7 ジェンダー平等のための公的措置 317 妊サービス引換券の対象を夫婦ではなく女性だけ 思春期の若者や若い成人にとって,世代を超 に絞ると,避妊具利用の顕著な上昇と望まない出 えたジェンダー不平等の再生産を回避する 産の大幅な削減につながった.対象となったカッ  世代を超えた具体的なジェンダー不平等の再生産 プルも避妊具の使用を増やしたが,望まない出産 はジェンダー不平等の罠を生み出し,それは社会の 111 の減少にはつながらなかった . なかで貧しく疎外された人々に最も影響する公算が  より一般的には,家族の規模に関する模範を変 大きい.このうちの一部は前節までですでに検討済 更して,その結果として選好が変化すれば,出産 みである.例えば,教育分野で残存するごく一部の は大幅に減少するだろう.例えば,ブラジルでは, 不利に手を差し延べる,社会制度のなかで女性の発 小家族を描いた連続メロドラマのテレビ放送が人 言権や参加を増やす,家庭内における女性の発言権 気を博し,それが特に社会経済的に低い階層の女 を高める,などである.ここでは,思春期や早期成 112 性にとって出産率の低下につながった .どの個 人期にみられるジェンダー不平等に取り組む措置を 別の政府政策がこのような形で規範を変えること 検討したい.それはスキル,健康,経済機会,発言 ができるか,についての証拠はまだ限定的である. 権などに関する結末を決定付ける決断や選択が行わ 一例として,タンザニアで政府がスポンサーになっ れる極めて重要な時期である.このような政策の効 ているラジオの連続メロドラマの評価は,家庭や 果は早期介入の重要性だけでなく,資質,経済機 コミュニティのなかで避妊具についての議論を増 会,エージェンシーといった領域がどのように相互 やすことにつながり,避妊具の使用が増えたこと に関係しているかを例証している.例えば,職業訓 113 を示している . 練プログラムは雇用の展望を改善するだけでなく,  家族計画サービスの改善は次の 3 つの分野に焦 妊娠を遅らせることもできる――という具合に,女 点を絞るべきである.第 1 に,十分な範囲にわた 性の将来的な人的資産や発言権を形成する. る避妊具の選択肢が速やかに提供・登録・事前承認 されている必要がある.しかし,政策立案者は適切 教育と健康の成果を改善する な避妊具を在庫として抱えておく提供者の能力を考  所得水準の異なる幅広い範囲の諸国にまたがる 慮しておかなければならない.供給チェーンの効率 慎重なインパクト評価からの証拠は,条件付き現 性改善も必要であろう.というのは,大量の予備保 金給付は思春期の少女を学校にとどめておくのに 有は高くつくことがあるからだ(例えば,仮に避妊 有効であることを示している.少女の中等学校就 具が売れない場合,あるいは売れる前に期限切れに 学に対するプラスのインパクトは,コロンビア, なってしまう場合である). エクアドル,メキシコ,ニカラグアなどラテンア  第 2 に,情報に基づいた決定を行うためには, メリカ諸国について十分な裏付けがある 115.もっ 顧客は利用可能な選択肢,副作用,各種方法の長所 と最近では,アフリカからの証拠も同じような結果 や短所などについて,十分な情報をもっている必要 を示している.マラウイでは,ごく少額の現金給付 がある.例えば,エジプト,ホンジュラアス,モル で女子の就学率が上昇し退学率が低下した 116.加 ディブ,ニジェールでは,避妊具の潜在的な副作用 えて,このような給付は教育を目的としたもので や問題に関する情報に通じていたのは顧客の約半分 はあるが,次のように他の分野でも利益があった. にとどまった 114.第 3 に,サービスの提供は個人 すなわち,給付金受領者は非受領者と比較すると, ないしカップルのプライバシーを保護する形で行う HIV 感染率が 3 分の 1 にとどまり 117,精神的な健 必要がある.それには家族計画のために特別に設計 康も優れていた 118. された指針について医療ケア提供者を訓練する必要  他の措置も思春期の女子を学校にとどまらせるの がある.ザンビアについて前述したように,女性が に有益なようである.学校教育の収益率に関する情 個別にかつ密かにアプローチされた場合と,夫婦と 報提供がその一例である.マダガスカルでは,小学 してアプローチを受けた場合とでは,結果が非常に 校修了者の所得に関する情報を両親に加えて男女の 異なり得る. 生徒に提供したところ,出席率が 3.5%ポイント上 昇した 119.ドミニカ共和国では,教育の収益率に 318 世界開発報告 2012 「就学はとても重要なことです.読み書きを習いますが,それは将来に大きな影響を与えることになる でしょう.学校で勉強しなかったら,私たちは結局のところ落胆するだけでしょう.良い職に就くこと . もできません」 アフガニスタンの若い女性 関する正確な情報を男子に提供しようという類似の ラムのどれ 1 つとして厳格な評価は受けていない. 取り組みがなされ,やはりプラスのインパクトが 有望な介入策には次が含まれる.退学した十代の 120 あった .また,奨学金獲得の見通しや成績に対 子供たちが自分のニーズに最も適した訓練を受け する直接的な報奨金も自己の効力感にプラスに影響 られるようにするため,教科のなかで選択を許容 して,テストの点数を改善することができる 121. するメキシコの同等資格認証プログラムや,時間  就学を続けるための奨励以外では,思春期の女 割と学習ペースについて大きな柔軟性を許容して 子がもっと早い段階で,もっと通常のルートを通 いるコロンビアの同じようなプログラムである. じて,人的資本を蓄積する機会を奪われていた場 他の介入策は,退学した思春期の生徒向けに実生 合には――自分であろうと他人であろうと,まず 活的な経験を増やすために,生活スキルや職業訓 い意思決定を通じて――,追い付くのを後押しす 練を識字能力や数的思考能力のプログラムとの統 る政策が必要である.そのような「セカンド・チャ 合を試みている.例えば,セネガルの女性識字能 ンスの」プログラムは,人生の初期における教育 力実験プログラムは,識字能力訓練を地方のニー 成果の不振の結果として,ライフ・サイクルの後 ズに応じて,健康,小規模な商売,果物や野菜の 期において他の悪い結果に陥るリスクを緩和する 加工に関する講義など,さまざまな生活スキル・ 122 ことができる .母親の健康や教育の成果は子供 プログラムと組み合わせている 124. のそれとプラスの相関関係があるため,このような  女子に対する現金給付など就学率を引き上げるプ プログラムはジェンダー不平等の世代間伝達を削減 ログラム(ただし典型的にはセカンド・チャンス・ することもできる. プログラムとはみなされない)は,退学率削減に加  教育におけるセカンド・チャンスには,現在は在 えて,未就学女子に勉学を始めるインセンティブを 学中であるが後れを取りつつある生徒を対象にする 付与するのに特に有効である.マラウイでは,少額 ことを意図したプログラムや,主流システムへの移 の現金給付が再就学に及ぼす効果は大きく,プログ 行や再参入を円滑化することを企図したプログラム ラム導入以前に退学していた女子の再就学率が 2.5 (同等資格認証プログラムや識字能力プログラムな 倍に上昇した 125.加えて,プログラム導入から 1 ど)が含まれる.このようなプログラムが十代の女 年後,給付金を受領している女子が結婚する確率は 子に届くように設計するに当たって,政策立案者は 40%強,妊娠の確率は 30%低下した 126.このよ 後れを取るリスクが最も高い――資金不足,家事の うな結果は,少額のインセンティブでも最大のリス 負担,早期の婚姻と妊娠など,典型的には社会経済 クにさらされている女子に著しい改善をもたらすこ 的な地位が低いことに関連したすべてのことを原因 とができる,ということを示唆している.にもかか とする――少女を対象にすべきである. わらず,証拠は次のことも示している.すなわち,  若者に関する『世界開発報告 2007』の広範な このような移転プログラムの設計は,思春期の女子 分析では,このようなプログラムについては(高 の学校教育の実績を間接的に悪化させることがない 価であるため),対象をこのようなグループに明確 ように,家計内での資源配分を考慮に入れる必要が に絞り込むよう調整する必要性が指摘されていた ある.コンロンビアでは,男子と女子双方の中等学 123 .教科を適正にして柔軟性を盛り込むことが特 校にかかわる就学率と出席率を改善するための現金 に重要であった.ただし,ここで検討したプログ 給付プログラムを受けて,同プログラムに参加して CHAPTER7 ジェンダー平等のための公的措置 319 いない,特に姉妹の出席率が低下し,労働時間が増 性が公式部門に就職できる確率も上昇した.さら 127 加した . に,分析によれば,訓練は実地訓練の集中度が高い ほど有効であった 131. 経済機会へのアクセスを増やす  これらの実例は中所得国におけるこのようなプロ  若い女性の雇用への移行はジェンダー不平等の世 グラムの潜在性を示すものではあるが,もっと低所 代間再生産に取り組むための鍵となる時期であり, 得の環境下における適切なプログラムに関してはさ この時点で何が機能するかについて若干の証拠があ らなる証拠が必要である.ケニアに関する最近の研 る.先に検討した能動的な労働市場政策がこの移行 究によると,女性に比べて相対的に男性が支配的な を後押しすることができ,最近のインパクト評価で 産業にかかわる職業訓練の方が収益率が高いという は,このようなプログラムをもっと有効にするた 情報を若い女子に提供したところ,男性が支配的な めに,次の 2 つの方法が指摘されている.第 1 に, 職業向けの準備をする職業学校のコースへの女子の 若い母親の労働力参加を奨励する追加的な補助金 就学が増加した 132.もっと広範囲にわたる状況下 は,育児コストを援助するのに有益である.その一 でも有効であるような証拠の必要性を考えて,思春 例はアルゼンチンの「若者プログラム」であり,そ 期少女イニシアティブという官民パートナーシップ れは 35 歳未満の低所得層(男女)を対象としてい が,低・中所得国や紛争後の数カ国における多数の る.母親に対する追加的な補助金に加えて,このプ 介入策を評価する課程の途上にある.これには職業 ログラムは訓練,書籍,教材,仕事着,交通費など 訓練のような「ハードなスキスル」と,生活スキル –  を対象としている.この利益は 21  35 歳の女性に 訓練や助言など「ソフトなスキル」の両方が含まれ とって特に大きく,所得が大幅に増加し,雇用比率 る(概観のボックス 7 参照). –  も 9  12%ポイント上昇した.因みに,21 歳未満 の男性にも大きな利益があった 128. 思春期の若者の生殖に関するスマートな意思決定  第 2 に,このようなプログラムは若い女性の労 を後押しする 働力参加を阻害している可能性がある,労働市場に  思春期というのは多くの少年少女にとって性的な おける基本的な情報問題を対象にすることもでき デビューの時期でもある.少女は性生活を年上の少 る.ペルーでは,「プロ若者」プログラムが若者向 年や男性との関係で始める傾向がある.この年齢差 けの訓練を提供しており,これには教室での研修と と(しばしば)経験豊かなパートナーが,避妊具の 手当が支給されるインターンシップが含まれる.ま 使用に関して決定を下す際に,少女の発言権と交渉 た,伝統的には男性のものとされていた職業で女性 力を弱める.少女には生殖医療サービスが行き届い を訓練することによって,労働市場の分離を明示的 ていなかったり,自分たちの権利に関する十分な情 に標的にしていることから,ジェンダー別の役割を 報が欠如していたりする場合が多い.その結果とし 変えることについて潜在的には「転換的」でもあ て生じる意図せざる妊娠は,健康と経済の両面で長 る.さまざまな措置について女性は男性よりも優秀 期的にさまざまな影響を及ぼす.それには教育資格 で,18 カ月後には,男性の労働所得は 11%弱の増 の低下や就職の遅延などが含まれる. 加にとどまったのに対して,女性は 92%強と大幅  若者がこのようなリスクを削減するのを助けるの な上昇を示した.また,プログラム受益者の間では は容易ではない.避妊具の宣伝を単独で行っても, 129 職業隔離は小さかった .コロンビアでは,「活 それは意図せざる若者の妊娠を削減するのに有効な 動中の若者」プログラムが情報問題を克服するもう 手段でないことが判明している.同様に,教育面だ 1 つの方法を例示している.教室での研修が終わる けの介入策は一般的に有効であるということはまだ と,研修生を追加的な実地訓練のためにインター 証明されていない.しかし,このような措置をスキ ンシップに派遣する(このプログラムには母親向 ル構築など他の介入策と組み合わせた介入策は,厳 130 けの追加的な手当も含まれる) .貧しい失業中 格な評価によると,さまざまな条件下で若者の間で –  の 18  25 歳を対象にしたこのプログラムを受けて, 意図せざる妊娠を削減するのに有効であることが示 女性の所得は男性よりも大幅に増加した.また,女 唆されている.ただし,依然としてプログラムを文 320 世界開発報告 2012 化的・社会的な状況に合わせて適切に調整する必要 高めることができる.カンボジア,コロンビア,ル 133 があるだろう .例えば,ウガンダでは,生殖教 ワンダでは,無遺言相続法は親の土地の一定割合を 育,生活スキル訓練,生計訓練を組み合わせた思春 (男子に加えて)女子が受領するよう指定している. 期女子向けのプログラムを受けて,参加した女子の 遺言書の作成は資産を娘に向かわせる助けになるも 間ではコンドームの使用が大幅に増加する一方,子 のの,一般的な規範によって形成されている親の選 供の人数が減少した 134.経済的なエンパワメント 好は,往々にして女子にとって不利な差別をする可 だけでも顕著なインパクトをもたらすことがある. 能性がある.メキシコでは,妻はしばしばほぼ息子 ドミニカ共和国で若者の職業訓練プログラム――生 と並んで財産を相続するよう選定され,女性は自分 活スキル訓練と年季奉公を含む――に関する最近の の娘を男性よりもしばしば単独相続人に選んでいた 評価によると,参加者の間では妊娠の大幅な減少が ものの,女性はそれでも女子に等分のシェアを遺贈 135 みられた . する選択はしなかった.夫婦とも単独相続人として は息子を選好したのである 138. 抱負  1 つの政策対応としては,遺言作成者がコント  思春期というのは生涯にわたる抱負が形成され, ロールできる財産の部分に制限を設定して,残余部 社会的な規範や通念が少年少女を本当に束縛し始め 分を配偶者と子供による相続に留保しておくことで る時期でもある.国や文化を超えて,思春期という あろう.ルワンダでは,土地権利の登記を通じて執 のは,しばしば少年の視野が広がる一方,少女―― 行されたこのような政策変更を受けて,(男子に加 特に貧しい少女や,距離や移動性を巡る規範が顕著 えて)女子の名義で登記された相続土地が大幅に増 な制約となっている農村部の少女――の視野は収縮 加した 139.インドでは,このような法改正は女子 する時期でもある.したがって,この分野における が相続した土地の増加だけでなく,結婚年齢や教育 介入策は若い女子向けに生活スキル――社会資本を 水準の上昇にもつながった 140.インドにおけるこ 含む――の構築や,彼女たちの抱負とエージェン のような改革は相続パターンにかかわる男性偏重を シーの改善,リスキーな行動の削減に焦点を当てる 完全に払拭するには十分ではなかったものの,次世 必要がある. 代のためにジェンダー格差に取り組む努力に強力な  指導力や権力を有する地位が女性の役割に関する 推進力を提供した. 固定観念と矛盾するような女性のお手本を目の当た りにすると,ジェンダーに関する規範の世代間伝達 を削減することがきる.インドにおける女性の政治 ジェンダー・スマートな政策を策定する: 的な遠慮に関する研究が示すところによると,女性 「ジェンダー主流化」に焦点を当てる 指導者に反復的にさらされた十代の女性は,結婚を  これまでの議論では,ジェンダー不平等の多種多 遅らせ,子供を少なくし,高等教育を必要とする仕 様な側面に取り組むための対象を絞った介入策に焦 事に就職にしたいという希望――すべてが伝統的な 点を当ててきた.本節では議論をもっと一般的な政 規範に挑戦する抱負といえる――を表明する割合が 策に広げて,ジェンダー別のインパクトがどのよう 136 高かった .若い女子は経済機会が増大すれば, に,また,なぜ体系的に考慮されるべきかを問題に ジェンダーやコミュニティの役割に関する自分の考 したい.このようなインパクトを検討する理由は 2 え方を変えるだろう.コミュニティと高給な電話の つある.第 1 は,ジェンダー問題に対する関心の 仕事向けの採用係を結び付けたデリーのあるプログ 欠如は,その目的がジェンダー平等とは何の関係も ラムは,このようなコミュニティの人々は自分の息 ない政策の有効性さえ足を引っ張りかねないこと 子について多額の持参金を期待し,女性が結婚前に だ.第 2 に,このような影響が重要なのは,多く 単身生活をしたり,結婚ないし出産の前や後に仕事 の政策がジェンダー平等も改善する形で実施され得 をしたりするのはかまわないと考える傾向が強かっ るからだ.この議論は「ジェンダー主流化」にもっ たことを見出した 137. と戦略的な形で焦点を当てるのに役立つであろう.  娘の相続を保護すれば彼女らのエージェンシーも  ジェンダー問題が政策の有効性の足を引っ張るこ CHAPTER7 ジェンダー平等のための公的措置 321 とはどのようにして可能になるのか? 本報告書で し,どうしたら政策をもっと有効にできるかを工夫 はずっと,ジェンダー不平等が執拗な分野について する必要があるかを示している.この種の分析は政 議論している.このような執拗さの背景には,市場 策立案者がジェンダー平等を同時に改善するには何 や公式・非公式制度の機能と家計の反応との相互作 をすべきかを考えるのに役立つ.それが以下で検討 用がある.このような要因が,今度は,男女がさま する問題である. ざまな政策にどう反応するかに影響する.このよう な要因を考慮に入れないということは,政策がジェ ジェンダー別の市場の失敗に対処する ンダーとはまったく関係なくても,意図せざる結末 自分が知らないことが他人を傷付けることがある:情 をもたらしかねない――あるいは要するに機能しな 報の問題 い――ということを意味する.  第 5 章で示したように,雇用者や債権者の側に  家庭内の関係を考えてみよう.男女の相対的な は良い情報が欠如しているため,女性が新しい部門 交渉力は家庭がどのように政策に反応するかに影 に進出して,必要なファイナンスを入手することは 響する.そして,その交渉プロセスは家庭外では 困難である.本章ですでに検討した政策は,このよ どのような選択肢があるか(例えば離婚にかかわ うな情報の流れを円滑化するのにある程度の方法を る法律や労働市場にかかわる機会など)だけでな 提供することができるだけでなく,他の分野の介入 く,どれだけの情報を互いに共有しているかにま 策にも有効性を付加することができる.銀行監督 で広がる.フィリピンで行われた夫婦についての の事例を考えてみよう.政策介入の重要な目標の 1 実験が例証になる.男が 1 日の賃金に等しい金額 つは,銀行のリスク管理を改善することにある.リ を与えられた時,彼らの反応は要するに妻が知っ スク管理手段の1つに信用興信所がある.ここは銀 ていることに応じて異なったのである.妻が知ら 行が貸出決定のために使えるよう個人の信用力に関 なければ男はお金を貯蓄し,彼女が知っていれば する情報を収集している.しかし,このようなデー 彼はお金を使った.そして,夫婦でどうすべきか タベースでは,非公式借入や零細金融に集中してい を話し合うことができた場合には,男たちはお金 る女性についての情報量が少ない.したがって,公 を妻の口座に入金した 141. 式部門の潜在的な貸し手は情報問題に直面する.仮  家庭内の関係がどのように重要なのかに関する に女性の零細金融取引の信用履歴がこのようなデー もう 1 つの例が,パプアニューギニアから得られ タベースに含まれていれば,情報の問題を緩和する ている.アブラヤシの収穫におけるジェンダー別 ことができるだろう.銀行監督政策のこのような形 の役割として,男は木に登って果実を収穫する一 での改善はジェンダー平等も改善できる可能性が大 方,女は地面に落ちた果実を拾い集める.地面に きい. –  落ちた果実の 60  70%は収集されていないことに  エクアドルの「プロジェクト・サービス」では, 気付いたアブラヤシ産業は,女性が直面していた 幅広く政府主体,国際機関,零細金融機関,民間信 制約に対処しようとした――特殊なネットを提供 用興信所が一堂に会して,信用興信所のデータベー したり,収集のタイミングを家族の世話をしなけ スに零細金融のデータを組み込んだ.当初の目標は ればならない時間を避ける形で調整したりした. 2 つの地理的地域と 27 の零細金融機関のデータで 「変化に向けての協働」というスキームが導入され あったが,需要があまりに多かったため,最終的に るまで,何 1 つうまく機能しなかった.このスキー は全国的に 180 以上の機関のデータがデータベー ムの下で,女性は独自の収穫記録カードをもって, スに保存された.この介入策は零細金融機関の貸出 個人の銀行勘定に直接支払いを受けることになっ 決定に役立つだけでなく,ほとんどが女性である同 た.アブラヤシ収穫に女性の参加が増加するのに 金融機関の顧客が公式部門で信用を享受するのに有 142 伴って収量も著増した . 用であろう.  このような事例は,すべての政策立案者がなぜ ジェンダー不平等の執拗さの基本的な原因を検討 し,どれが当面の政策にとって重要なのかを理解 322 世界開発報告 2012 だれを知っているかだけでなく,何人知っているかが 既存の法規制を女性向けにうまく機能させる:執行を 重要である:女性ネットワークを構築する 改善する  1 つの性別に関して臨界的な数の個人で構成され  女性は是正メカニズム――企業内の苦情申し立て るネットワークがあれば,新しいメンバーが,ある メカニズムであれ,警察や法的サービスへのアクセ 部門や職業に参加するかどうかを決定するのを助け スであれ――へのアクセスが往々にして限定されて たり,成功する方法などに関する情報を提供したり いる.したがって,執行メカニズムに対する女性の することができる.そのようなネットワークはそう アクセスを改善すれば,企業,国有企業,政府など いう形で異性メンバーを排除して,ジェンダー不平 を巻き込んだ広範な介入策において,ジェンダー平 等を永続化することもできる.ペルーの農村道路プ 等を改善することができる.コンゴ民主共和国で ロジェクトではこの問題を克服しようとした.同プ は,輸送部門を再編する大規模な取り組みの一環と ロジェクトの主要な目的は経済統合のために農村部 して,国有鉄道会社が労働組合と共同で,退職給付 の輸送を改善することにあったが,この目的の追求 を受領する予定であった従業員の遺族(寡婦・子 に当たってはジェンダー平等も考慮され,道路の維 供)を補償するために,特定用途資金を積み立てて 持に関して女性の関与の増加にも焦点が当てられ いる.同資金は受益者に直接支給されるが,ただち た.プロジェクトでは,道路維持事業を行っている に見付からない場合には,将来の請求に備えて専用 零細企業のなかから女性企業家が明示的に採用され 基金で保管される.このようなアプローチがわざわ た.女性の参加率を 10%にするという当初の割当 ざ採用されたのは,遺族は被雇用者であった配偶者 は,女性の関与を 4%のベースラインから引き上げ ないし親が亡くなった際の請求権について,それを るのに有効で,最終的には零細企業家の 24%の女 知らない,あるいは主張しない,という可能性が強 性が参加した.このように女性のグループ活動への かったからである. 参加が増え,道路維持の仕事は女性にとって社会的 に許容される職業になっている. サービスへのアクセスを改善する  女性は男性とはサービスの利用方法が異なる.女 競争条件を平等にする 性は移動性が制約されているということからサービ 法規制における差別に取り組む ス提供者の女性顧客に対する態度に至るまで,幅広  他の理由で規則を改訂する際に差別を探し出して い範囲の理由が指摘されている.政策対応として 是正すると,ジェンダー平等を改善することができ は,顧客志向の変更とより根本的な構造変化の両方 る.税政策の事例を考えてみよう.女性が男性と同 が必要である.この種の問題の一例は電気料金にみ じ所得ないし稼ぎについて違う税率に直面していれ られる.ある研究の調査結果によると,ラテンアメ ば,その税政策は女性を明らかに差別しているとい –  リカの 14  15 の電力会社は,商業向け利用者より える.モロッコでは,夫と子供が財政的に妻に扶養 も住宅向け利用者に高料金を賦課していた 145.女 されていることを妻が証明しない限り,子供控除は 性は男性よりも自宅で事業運営を行っている可能性 143 男性に割り当てられている .したがって,男性 が高かったため,この価格設定政策は中小企業を所 の税負担は女性よりも低くなっている.効率性を目 有している女性にとってコストの増大につながって 的とした税改革は,この税率を平準化して,女性が いた. 市場性の仕事で罰せられないようにする.このよう な改革はジェンダー平等を高めることになる.ウガ 規範に注意する ンダでは,事業に使われない相続財産について,財 女性の介護義務を認識する 産所得ないし雇用所得は課税免除となる.効率性改  女性は家庭や家族のなかで,不当に大きな介護義 善のための税改革では,このような税免除は削減な 務を負担している.すでにみたように,幅広い政策 いし廃止される.また,男性は女性よりも相続が大 にはこれ――インフラ改善から労働法規に至るまで きいため,そのような改革はジェンダー平等も促進 さまざまなもの――に影響を与える潜在力がある. 144 するだろう . 他の政策も,それほど明白な形ではないかもしれな CHAPTER7 ジェンダー平等のための公的措置 323 いが,違いをもたらすことができる.その一例はベ 的な増加に帰結した 149.この効果は長期的には消 トナムで採用されたアプローチにみられる.それは 滅したり,変化したりする可能性があろうが,多く 公企業を再編する一環として解雇手当をどう計算す のこのような給付プログラムは家庭内暴力を阻止す るかにかかわるものである.公共部門が提供してい るための条件(ブラジル)や,母親,家族(コロ た付加給付(より一層適切な出産休暇や柔軟な勤務 ンビア,ペルー),さらには献身的なソーシャル・ 取り決め)を民間部門と比較すると,平均的な女性 ワーカー(チリ)向けに,このような問題に関する は男性の同僚と比べてリストラで失うものが大きく 訓練や啓蒙を含めることによって,家庭内暴力や家 なっていた.したがって,年功だけに基づく補償は 庭関係にかかわる広範な問題に対処する積極的な措 146 女性にとって実質的に不利である .政府は年功 置をとっているのである 150. ベースの支払いに相当な一時金支払いを組み合わせ ることによって,この点を考慮に入れた.この政策 は女性の介護義務を明示的に配慮し,それを失職に 求む:より良い証拠 ついて労働者を補償する際の計算の一部として織り  ジェンダー不平等に取り組むための政策が機能し 147 込んだといえる .解雇から 1 年後,女性は自分 ているのかどうかについて,理解を深めるためには の福祉について同じか,むしろ改善したと評価する 次の 2 つの措置が必要である.第 1 に,プログラ 148 可能性が男性よりも高いであろう . ムやプロジェクトは,取り組んでいる問題のジェン ダーの側面やその活動の効果を把握できるように, 家庭内における資源配分を考慮する 有効なモニタリング・システムを整備する必要があ  本報告書で先にみたように,カップルは必ずしも る.このステップはなかでも基本調査に基づく明確 常に(あるいはしばしば)1 つの単位として行動す な性別のデータだけでなく,そのような調査におい るとは限らない.選好が異なり,所得を完全に共有 てプロジェクト設計にとって重要なジェンダー不平 しているわけではない可能性がある.そして,結局 等の原因(例えば,プロジェクトが提供するサービ は,相異なる交渉力が家庭における決定結果の牽引 スへのアクセスにかかわる障壁など)に対して関心 力となるだろう.家庭内の交渉力を変えれば,広範 を向けることも必要になる.プロジェクトの進展に な政策を直接的な給付金から所得獲得機会にまで変 伴って,受益者に関する性別データがあれば,進捗 更することにつながるだろう.交渉力はどのように をモニターし,途中段階での修正の必要性を発見す 変化するのだろうか,また,それはプログラム設計 るのに役立つ. にどう影響するのだろうか? ブルンジの国際救済  第 2 に,個別の介入策が機能するかどうかの理 委員会(IRC)による女性を対象にした村の貯蓄貸 解に注目することが必要である.この問題に答える 付プログラムでは,家計にもたらされる資源に対す 唯一の方法は評価である.問題に応じてさまざまな る女性のコントロールの増大が指向された.女性参 種類の評価が答えを出してくれるだろう.設計の良 加者とその配偶者向けに 6 回にわたるコースで実 いインパクト評価は特に有益であろう.というの 験を行い,家計の意思決定を分析した.このコース は,プログラム受益者に対する効果を測定するため に参加した女性はこの追加的なコースを受講しな に,定義が明確な比較グループを使うからである. かった零細金融プログラム参加者と比べて,意思決 この点ではやるべきことがたくさん残っている.例 定について自律性が高まり,家庭内暴力が減少した えば,経済機会の領域では,能動的な労働市場政策 と報告している. の効果はインパクト評価の対象になってきている.  この種の政策にかかわる考え方は変化し得るであ しかし,女性のネットワークを改善するための政策 ろう.当初は,多くの条件付き現金給付プログラム に関してわかっていることは非常に少ない.一方, が女性を対象にしていた.女性は給付金のうち子供 条件付き現金給付がさまざまな結果に及ぼす効果に の資質に支出する割合が高いと考えられたからだ. ついては,インパクト評価から多くのことがわかっ しかし,このような給付金そのものが家庭内での交 ているものの,妊産婦死亡率に取り組む同様のプロ 渉力を変え,メキシコなどでは,家庭内暴力の短期 グラムがもつ効果についての入手可能な証拠は厳格 324 世界開発報告 2012 さがやや劣っている.最後に,インドの地方政府に 換的な介入策(ジェンダー別の役割の転換を追求 おける政治的な留保の効果は十分研究されているも するもの)のインパクトを比較することに,取り のの,留保が議会に及ぼす効果や女性の司法アクセ 組みの焦点を絞るべきである.特に職業訓練にお スに与えるインパクトに関しては証拠が少ない. けるように同じ政策分野に焦点がある場合にはそ  良いニュースとして,この種の証拠については うすべきである.第 2 に,多くの「執拗な」ジェ 10 年前と比較すれば,はるかに多くが利用可能と ンダー格差の背景には多種多様な制約が存在して なっている.しかし,さらに必要である.評価は いるため,どの制約がさまざまな状況下で束縛的 プロジェクトを設計する段階で組み込んでおくこ なのか,また,どのパッケージが最も有効なのか とが必要であり,それはプロジェクトのために企 を理解するために,介入策の組み合わせ(企業家 画するということを意味する.また追加的な財源 向けの信用と訓練の提供)と個々の介入策を比較 も必要になるだろう.個別分野における知識の格 した評価を強調すべきである.このような証拠が 差は明白であるものの,2 つの最重要なテーマが あれば,政策立案者は,機能し,ジェンダー不平 特別な注意に値する.第 1 に,漸進的な介入策(既 等の削減努力への投資が収益を生むことが立証さ 存のジェンダー規範のなかで機能するもの)と転 れている介入策に焦点を絞ることができる. 注 1. World Bank 2003b. McEwan 2009. 2. Waddington 他 2009. 25. Paes de Barros 他, 近刊. 3. Tadesse 他 2010. 26. Havnes and Mogstad 2009. 4. Galiani, Gertler, and Schargrodsky 2005. 27. Medrano 2009. 5. Foster and Briceño-Garmendia 2010. 28. Cascio 2006. 6. Foster and Briceño-Garmendia 2010. 29. 同上. 7. United Nations 2011. 30. Havnes and Mogstad, 近刊. 8. Bartlett 他 2005. 31. http://www.mobilecreches.org. 9. Bang 他 1999. 32. SEWA Academy 2007. 10. Ensor 他 2008. 33. Cassirer and Addati 2007. 11. World Bank 2005a. 34. Schlosser 2007. 12. Bhushan, Keller, and Schwartz 2002. 35. Cassirer and Addati 2007. 13. Björkman and Svensson 2009. 36. Gornick and Hegewisch 2010. 14. Cotlear 2006. 37. 生活時間調査 (さまざまな諸国と年). 15. Lim 他 2010.JSY プログラムは産前産後および新生 38. この節は Clancy 他 (2011) が作成した背景論文と, 児の死亡率にも大きな影響があり,死亡率が妊産婦 Köhlin 他 (2011) が世界銀行の環境戦略向けに作成 1,000 人当たり 3.7 人,新生児 1,000 人当たり 2.5 人 した論文に依拠している.証拠に関する最初の議論 にそれぞれ低下した.研究では妊産婦死亡率に対す は Köhlin 他 (2011) に負うところが大きい. る効果は検知できなかったが,それは妊産婦死亡は 39. Dinkelman 2010; Grogan and Sadanand 2011. 比較的稀な事例であり,おそらく研究用の標本が大 40. Asian Development Bank 2010; Barkat 他 2002. きな効果だけしか検知できないサイズだったためであ ろう. 41. Massé 2003. 16. Witter 2011. JSY プログラムの研究と同じく,このよ 42. Ilahi and Grimard 2000. うな分析では妊産婦死亡率へのインパクトは発見で 43. Koolwal and van de Walle 2010. きなかった. 44. Zwane 他 2011. 17. Prata 他 2010. 45. World Bank 2005b. 18. Prata 他 2010. 46. Khandker, Bakht, and Koolwal 2006. 19. 同上 ; WHO 他 2010. 47. FAO 2003. 20. Burde and Linden 2010. 48. このレビューは Todd (2010) に依拠している. 21. Jacoby and Mansuri 2011. 49. Galasso, Ravallion, and Salvia 2001. 22. これはさまざまな諸国の生活時間調査に基づいて, 50. Revenga, Riboud, and Tan 1994. 18-65 歳のすべての既婚者と 17 歳未満の子供を比 51. Holzer and Neumark 2000; Leonard 1989. 較したものである. 52. Holzer and Neumark 2000. 23. Attanasio and Vera-Hernandez 2004. 53. Frisancho, Karlan, and Valdivia 2008. 24. Berlinski and Galiani 2007; Berlinski, Galiani, and CHAPTER7 ジェンダー平等のための公的措置 325 54. de Mel, McKenzie, and Woodruff 2011. 2009. 55. Bosch and Maloney 2010. 92. プ ロ グ ラ ム は “Safe dates,” “The Fourth R: skills for 56. Bardasi and Gornick 2008. youth relationships,” “Youth Relationship Project” であ る.Foshee 他 1998; Foshee 他 2000; Foshee 他 2004; 57. サハラ以南アフリカ諸国における女性の経済機会に影響 Foshee 他 2005; Wolfe 他 2003; Wolfe 他 2009. する,これらやその他の法改正に関する詳細や分析につ いては,Hallward-Driemeier (2011) を参照. 93. Agarwal and Panda 2007. 58. この改革で,夫が自宅外で働く許可を妻ができる権限も 94. Stevenson and Wolfers 2006. 廃止された. 95. Morrison, Ellsberg, and Bott 2007. 59. Gajigo and Hallward-Driemeier 2011. 96. 例 え ば 以 下 を 参 照.Guedes, Bott, and Cuca 2002; 60. Deininger, Goyal, and Nagarajan 2010. Larraín 1999; Bott, Morrison, and Ellsberg 2005 に引 用されている Parenzee 2001. 61. Deininger, Ali, and Zevenbergen 2008. 97. Carlson, Harris, and Holden 1999; Holt 他 2003; 62. Swanson and Rajalahti 2010. L og a n a nd Wa l ker 2010; Mc Fa rl a ne 他 20 04; 63. Cotula 2002. Spitzberg 2002. 64. 同上. 98. Protection Against Domestic Violence Act, State 65. Agarwal 2003. Gazette, No. 27, §1 2005. 66. Kumar and Quisumbing 2010. 99. Lawyers Collective Women’s Rights Initiative 2009. 67. 例えば,Meinzen-Dick 他 (2010) で証拠の欠如に関す 100. パプアニューギニアの地方裁判官に関する研究 (未公 る議論を参照. 表) . 68. Quota Project (http://www.quotaproject.org) か ら の 101. Kumar and Quisumbing 2010. データ. 102. Warraich 2010; UNIFEM 2010. 69. Esteve-Volart and Bagues 2010. 103. GSMA Development Fund 2010. 70. Beaman 他, 近刊. Bhavnani 2009. 104. Sumner, Zurstrassen, and Lister 2011. 71. Beaman 他, 近刊. 105. Natarajan 2005. 72. Krook 2009, 78–79; Rudman and Fairchild 2004. 106. Jubb and Pasinato Izumino 2003. 73. Ban and Rao 2009; Beaman 他, 近刊. 107. Sumner, Zurstrassen, and Lister 2011. 74. Chattopadhyay and Duflo 2004. 108. Rasul 2008. 75. Iyer 他 2010. 109. Becker 1996; Green 他 1972; Terefe and Larson 1993. 76. このような割当法が採用されている組織の種類 (例えば, 110. Wang, Vittinghoff, and Rong 1996. 公開有限会社,国有企業,地方政府など)は国ごとに 111. Ashraf, Field, and Lee 2010. 異なる.例えば, デンマーク, フィンランド, アイスランド, アイルランド,イスラエル,南アフリカ,スイスは国有企 112. La Ferrara, Chong, and Duryea 2008. 業について割当制を導入しているが,ノルウェーは公開 113. Rogers 他 1999. 有限会社,国有企業,市町村間会社に対して,40%の 114. Demographic and Health Survey Data (各年). 割当制を義務化している.企業の割当制を採用している 115. メキシコとニカラグアに関しては Rawlings and Rubio 国のリスト――種類別や割当目標・期限別――に関して (2003), コ ロ ン ビ ア に 関 して は Barrera-Osorio 他 は,Pande and Ford (2011) を参照. (2008), エ ク アド ル に 関 して は Schady and Araujo 77. Pande and Ford 2011. (2006) を参照. 78. Matsa and Miller, 近刊. 116. Baird 他 2009. 79. Bilimoria 2006. 117. Baird, McIntosh, and Özler 2010. 80. McKinsey & Company Inc. 2007. 118. Baird, de Hoop, and Özler 2011. 81. このような 相 関 関 係 の 研 究 のレビュー に 関しては, 119. Nguyen 2008. Pande and Ford (2011) を参照. 120. Jensen 2010b. 82. Ahern and Dittmar 2011; Matsa and Miller 2011. アメ 121. A ng r i st a nd L av y 20 0 9; K r emer, M ig uel , a nd リカに関する厳格さがやや劣る証拠が示すところによれ Thornton 2009. ば,役員会のジェンダーが多様な企業ほど,平均すると, 財務パフォーマンスが悪い. 122. World Bank 2006. 83. Ahern and Dittmar 2011. 123. 同上. 84. Gajigo and Hallward-Driemeier 2011. 124. World Bank 2004. 85. ここでわれわれは部分的な共有財産制度を指している. 125. Baird, McIntosh, and Özler 2011. 同制度の下では婚姻中に蓄積された資産は平等に分割さ 126. Baird 他 2009. れ,婚姻以前に蓄積されたものは結婚時にそれを所有し 127. Barrera-Osorio 他 2008. ていた人に戻る. 128. Aedo and Nuñez 2004. 86. 以下を 参 照:Echaria v Echaria 事 件 (2007) KECA 1 ; 129. Ñopo, Robles, and Saavedra 2007. もっと古い of Kivuitu v Kivuitu 事件 (1991) Karanja v 130. このような特徴は多数の他のプログラムにも見出せる. Karanja 事件 (1976) 1 KLR 389. 131. Attanasio, Kugler, and Meghir 2008. 87. Deere and León 2005. 132. Hjort 他 2010. 88. Usdin 他 2005. 133. Bearinger 他 2007; Gilliam 2010. 89. Jewkes 他 2008. 134. Bandiera 他 2011. 90. 例えば,Rodríguez 他 (2006) を参照. 135. Martinez 他 2011. 91. Adi 他 2007; Finkelhor 2009; Mikton and Butchart 136. Beaman 他 2009. 326 世界開発報告 2012 137. Jensen 2010a. 145. Komives 他 2005. 138. Deere and León 2003. 146. Rama 2002. 139. Ali, Deininger, and Goldstein 2011. 147. これは著しいリストラの時期に使われたが,この支払い 140. Deininger, Goyal, and Nagarajan 2010; Roy 2011. の一時金部分は最終的には政府によって廃止された. 141. Ashraf, Field, and Lee 2009. 148. World Bank 2003a, page 90. 142. この事例は FAO 2011, 47 から借用 . 149. Bobonis and Castro 2010. 143. Grown and Valodia 2010. この本は明示的な税差別と 150. Lindert and others 2007. 暗黙的な税差別の両方にかかわる包括的な議論と,8 カ国の分析を提示している. 144. Ssewanyana 他 2010. 参考文献 「処理済み」(processed)という用語は,非公式に複製されていることを意味しており,図書館では一般には入 手できない可能性がある. Adi, Yaser, Amanda Killoran, Kulsum Janmohamed, and Sarah from a Randomized Trial.” Working Paper Series 13931, Stewart-Brown. 2007. “Systematic Review of the Effectiveness National Bureau of Economic Research, Cambridge, MA. of Interventions to Promote Mental Wellbeing in Children Attanasio, Orazio, and Marcos Vera-Hernandez. 2004. “Medium- in Primary Education. Report 1: Universal Approaches and Long-Run Effects of Nutrition and Child Care: Evalua- Which Do Not Focus on Violence or Bullying.” National tion of a Community Nursery Programme in Rural Colombia.” Institute of Health and Clinical Excellence, London. 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Rong. 1996. “Effects of Parameter Estimates.” Proceedings of the National Academies Family Planning with Husband Participation on Pregnancy and of Sciences of the United States (PNAS) 108 (5): 1821–26. 8 332 世界開発報告 2012 CHAPTER ジェンダー改革の政治経済学  ジェンダー平等に向けた真の進展とは,女性がその資質を増加し,経済機会が増加 し,更にエージェンシーを行使する方法が拡大してそれへのアクセスを有し,そのよ うな状況が支配的になった新たな均衡への変化を遂げることである.女子向けの学校 教育や婦人の参政権は,現在ではほとんどの諸国で広く受け入れられているが,かつ てはそうではなかった.変化は家計,市場,公式制度,非公式制度の相互作用によっ てもたらされた.また,このような相互作用の1つ1つが連続的なフィードバック・ ループのなかで,逆に市場,公式制度,非公式制度に影響したのである.  第 7 章では,ジェンダー格差の背景を成している具体的な市場の失敗(情報の不 足などよる)や,制度ないし規範上の制約を是正するための政策介入を検討した.し かし,このような政策が導入されるかどうかや,それが機能するかどうかも,政治経 済的な状況に依存している.ある国で成功した政策は必ずしも他の国に移転可能では ないかもしれない.ある国における発見が他の国にどのくらい当てはまる,あるいは 模倣できるのかは,それぞれの状況によって決まる 1.  したがって,政策を策定して実施することは,それぞれの社会的主体や政策環境に 適合していなければならない.ある一国で成功した介入策や教訓はよく検討され,他 国の社会状況に適合化されなければならない.われわれがこれまでに検討した概念上 の枠組みにしたがって,本章では以下の項目に対する社会的主体の役割と介入策を説 明する. • 非公式制度――集団的行動を通じて • 市場――企業活動を通じて • 公式制度――国家的措置やジェンダー平等の政策や法律を評価,唱導,設計,実 施,及び執行する構造を通じて(図 8.1)  社会的ネットワークや市民社会グループを通じた集団的行動は,ジェンダー平等を 推進するのに当たって非常に強い勢力であった.政策改革というものは,国家と非国 家の社会的主体が,自分たちの環境を形作ろうと競い合う政治的プロセスのなかから 生まれてくる.それらの関心事と影響力の範囲がパワー・ダイナミクスを決定し,そ れが短期的及び長期的観点か取拾選択を行い,更にコストとの関係で政策改革を形成 する.政策は一定の予算制約と財政的・政治的なコストのなかで,競合する優先課題 に資源をどう配分するかについて,取捨選択を余儀なくされる.例えば,遠隔地に CHAPTER8 ジェンダー改革の政治経済学 333 図 8.1 社会的主体とその相互作用が,ジェンダー平等推進における市場,公式制度,非公式制度の役割を規定する ンダー平等 政 策 ジェ 制度 非公式 ワーク, ッ ト 社会ネ 的な行動 集団 経済機会 市場 家計 企業 エージェ 資質 ンシー 公 ジェ 式制 ンダ 度 ー機 構 成 長 出所:WDR 2012 チーム. おける妊産婦ケア・サービスやその提供の改善は, 明示している.変化の速い世界経済のなかでスキル もっと広範囲にわたる人々に向けた病院サービスの の需要は膨れ上がっているため,企業は人材プール 拡充と矛盾する懸念があろう.どのような改革であ を拡大しようとしている.多様な意見は意思決定を れ,それに関連するコストの負担を嫌う(負担がで 豊かにし,創意工夫を刺激する可能性がある.ま ,あるいは競合的な別の課題の方を好む社 きない) た,ジェンダー平等というのは顧客や投資家が是認 会的主体からそれに対する反対が出てくる可能性が する望ましい特性となっている.企業の社会的責任 ある. というのは,企業にとっては製品の差別化と共に拡  社会的主体が大勢いて多種多様であることを考え 大している女性の市場シェアの忠誠心を獲得するこ ると,支持を形成し,有力な利害グループの反対に とが,重要な競争力を強化する方法となる. 対抗するためには,連合が必要不可欠である.アウ  女性の人材と顧客としての忠誠心を引き付け・維 グスト・ピノチェト将軍の体制が崩壊して以降,チ 持するためには組織面での変化が必要である.企業 リの中道派と中道左派の政府は約 15 年間もの長き 文化は職場や家庭から出てくる数多くの要求に配慮 にわたり,大衆の大きな支持にもかかわらず離婚の しなければならない.キャリアに関する助言指導や 合法化を実施しなかった.カトリック教会が家族法 昇進も,ジェンダー多様性の利点を気付かせるのに 自由化に対して最も声高な反対者の1つであった. 重要である.このような分野ではすべきことがたく 議会ではこれまで上程された 18 本の法案が否決さ さん残されている.例えば,アメリカでは,法科大 れていたが,2004 年にようやく離婚法が多くの政 学院卒業生の半分は女性で,90%の法律事務所に 党の連合によって支持されて成立した. は多様性プログラムがあるにもかかわらず,法律事  市場にも果たすべき役割がある.大小の企業は 務所の女性パートナー――事務所の持ち分権をもっ ジェンダー平等に対して,ビジネス上のメリットを ている人――はわずか 15%にとどまっている 2. 334 世界開発報告 2012 ボックス 8.1 グルジア――新しい社会で変化するジェンダー別の役割  1991 年に独立したグルジアは深刻な経済不況に落ち込  雇用の水平的なジェンダー分離も女性の経済的独立性の んだ.家計は所得を稼ぐための新たな方法を発見しなけれ 「女性部門」――教員,看護師,医師な 増大に貢献した. ばならなかった.新しい政治的・経済的な現実への適応は, ど――はあまり乱されていないのに,伝統的に男性が支配 ジェンダー別の役割にとっては転換的であることが判明し 的であった職業に対する需要は減退していた.2007 年現 た. 在,大学の学術スタッフの 89%,医者の 69%は女性が占  ソ連崩壊後,企業や産業が相次いで閉鎖したため,何千 めるようになっていた. 人ものグルジア人が失業した.多くの女性が家計にとって  仕事不足を受けて大勢の男女が移住している.グルジア 大黒柱や唯一の扶養者になった.女性は男性よりもずっと 人の 10 人に 1 人は移住者からの送金を受領している.ま 早く,保証された国家雇用に戻ることはないということを た,女性移住者からの送金は平均すると,男性移住者から 認識していた.また,女性は職業変化への調整についてよ の送金額を 40 ドル上回っている. り柔軟であることも証明した.自分の資格を下回る仕事に  公式・非公式な経済活動に女性が関与することが多く 就くこともしばしばで,露天商,トルコへの折返し輸送す なっているが,それは世代を超越した価値観の変化に伴っ るサービス,子守り,家の掃除など非公式活動にかかわる ている.現在,男性は家庭生活,育児,家事に以前よりも 未熟練労働者になることも選択した.小規模な商売が女性 関与している.逸話的な証拠が示唆するところによれば, の自営業にとって最大の分野であり,女性は家族を養うた 育児休暇を取得する男性が増加している.このようなジェ めなら自分の仕事を格下げする用意があった.一方,夫や ンダー別の役割や規範の変化は政策介入ではなく,経済環 他の男たちは家にとどまって,自分の地位や教育程度に合 境の劇的な悪化に扇動されて生じた.それが伝統的な労働 致しない仕事を引き受けることは拒否した. 分布に挑戦したのである. 出所:Sumbadze 2011.  最後に,ジェンダー平等を推進する政策の策定や 司法制度など――も社会変化の件動力として極めて 実施の源は国家の措置である.社会契約が市場,公 重要である. 式制度,社会規範にかかわる国家の規則や介入策の  このような主体をまたがって,経済成長,技術的 形式,時期,及び正当性を決定する.スカンジナビ 発展,グローバル化,自然災害や紛争後の再建など ア諸国では,いわば「ジェンダー契約」のなかで, のすべてが,家計が新しい現実に適合化するのに 女性の社会における立場を強化する政策を明示的に 伴って,政策変化の波に拍車をかける(ボックス 追求している.フィリピンでは,2009 年の「女性 8.1).社会的主体は出現してくるこのような機会の のマグナカルタ」が国家の役割として次のように主 現れをとらえて,触媒作用を及ぼし,ジェンダー平 張している.すなわち,「女性の権利の実現を執行 等にかかわる利益を実現することができる. して保証するのに必要なメカニズムを提供するだけ  改革の経路も重要である.政府は改革に向けた社 でなく,一時的な特別措置を含めるための手続きを 会の指示に従うことが多い.政策の変更は社会的主 採用及び実施する.それには政治・経済・社会・文 体の集団的な抱負や意思をとらえて,新たな機会を 化・市政など多様な分野において,女性の平等な参 提供する.政策の策定と実施が市場や社会規範で継 加を加速化することを目的とした,広範な種類の法 続している変化からの合図に従っている時には,収 律・行政・経営・その他の法規等の手段が含まれ 斂と整合によって持続的な変化を誘導することがで 3 る」 . きる.しかし,そのような「漸進的な」改革は,執  政治家や政策立案者は国家政策の策定,承認,実 拗なジェンダー不平等に帰結している経路依存や制 施を巡って交渉する.「ジェンダー機構」は具体的 度的な硬直性を克服するには,十分でない可能性が なジェンダー平等という目標を実現することに専門 ある.「転換的な」改革による大胆な政府の措置な 化した国家の組織である.男女の社会的状況をモニ ら,社会力学を変化させて,国や社会をもっと公平 ターし,知識を生み出し,ジェンダー改革に向けた な均衡へ動かすことができる.このような環境下 運営上の支援を提供し,あるいはその執行を保証す で,政策の実施と執行は持続可能な言動の変化を生 る制度を巻き込むことができる.他の国家組織―― み出すべく継続しなければならない. CHAPTER8 ジェンダー改革の政治経済学 335 図 8.2 社会的ネットワークは世論を関与させ,支持を動員し,変化を鼓舞することができる ンダー平等 政 策 ジェ 制度 非公式 ワーク, ッ ト 社会ネ 的な行動 集団 経済機会 家計 市場 エージェ 資質 ンシー 公式 制度 成 長 出所:WDR 2012 チーム.  男女はジェンダー平等の実現においてパートナー 団的に組織化することもできる.集団的なエージェ である.政府の措置が有効であるためには,改革を ンシーはコミュニティや個人の成果を形成すること 唱導・実現するために,地方的,国家的,及び国際 ができる.また,社会的な組織や協同組合は,コ 的な主体と広範なベースの連合を構築することが必 ミュニティ主導型開発,零細金融,育児,より大き 要である.また,成果と意義を評価するためには, な利益を実現するための他のプログラムにかかわる 横断的なジェンダーのレンズのメガネをかけ,実施 リスクや投資をプールすることができる.このよう と執行のために健全な制度体系を構築し,変化を生 な社会的なネットワークや組織は,農業生産性向上 み出すための機会の徴候をとらえ,変化のペースと のための技術革新にかかわる知識の共有など,情報 反動のリスクの調整を図ることが必要になる. を普及させることもできる 4.  社会的なネットワークやグループへの参加は,能 力を開発して,他の分野での集団的措置――地方政 非公式制度――変化の原動力としての社会的 府で政治的な発言権を行使するなど――のための踏 ネットワーク み台として機能することができる.社会運動はその  社会的な主体は政策を唱導し,介入策を設計し, 意見を採用する支持者が増加するのに伴って大きく プログラムを実施することによって,政策や制度 なることがある.グループは調整メカニズムとし 的な環境の形成に直接関与している.個人は投票 て,個人に行動を起こすように促して,受動的な利 や世論を通じて政府の政策に影響を与えることが 害関係者を社会的な主体に転換することができる できる. (図 8.2)5.女性労働者は,インドの女性自営労働  個人は共通の政治的・社会的な目標を実現するた 者協会や「女性の地位向上運動」,バングラデシュ めに,社会的ネットワークや市民社会グループを集 の「女性労働者」や「自分たちでする」などといっ 336 世界開発報告 2012 ボックス 8.2 大局的にみたフェミニズム(男女同権)  女性運動は長らく社会変化の牽引車であった.ジェン ル,給与平等の主張,家庭内暴力などが含まれる.従属や格 ダー平等の大儀に発言権を与え,公開討論の余地を生み出 「セクショナリズムの間の関係」と性別・人種・ 差の強調は, し,変化や改革に向けてお膳立てをしてきた. 階級抑圧の相互関係を巡って規定されている.  女性は政治的主体や社会的行為者として幅広い――社会  第 3 波である脱フェミニズムは関心を法的権利やグルー 的・政治的・経済的・環境的な――大儀のために動員され プの同一性から,男女の根本的な相違を無視する平等の新 る.例えば,アルゼンチンの「5 月広場の母」――軍事独 しい概念を強調する(それに基づいて行動する)ことに変 裁制の時期に行方不明になった子供たちの安全な帰宅を要 化している.女性を 1 つの階級ないしグループとして統一 求した団体――は,ジェンダー平等ではない問題を巡って することが可能な要因をすべて拒否するとともに,定義を 組織化されている. 均質化・一般化する脱フェミニズムは代わりに,文化的・  フェミニズム(およびそれに関連した女性運動)は, 個人的な権利に焦点を当てている. ジェンダーに由来する女性の不平等や不利を巡って組織さ  公的措置の視点や要点は時とともにシフトしてきたが, れた団体を指す.フェミニスト運動は社会的条件の変更に 女性運動は国内的・国際的に団結化が進んでいる.国際 関心をもつ政治運動である.不利の意識と一般的な社会秩 的ないし世界的な女性運動は,国連による 1975 年の宣 序の拒否が,その政治の重要な柱である.フェミニスト運 言「婦人の十年」とその 4 つの国際会議――メキシコ・シ 動は関心事――社会における女性の地位――は共通してい ,コペンハーゲン(1980 年) ティ(1975 年) ,ナイロビ るが,優先課題・アイデンティティ・行動の戦略は異なる ,北京(1995 年)――の下に結集した各国の (1985 年) いくつかの団体や要素で構成されている.したがって,他 団体に源があるといえる.このような会議は先進国や途上 の一部の社会運動とは違って,運動として一連の固定的な 国から女性が初めて一堂に会して,世界中で行動を起こす 共通の目的,連続性,統一性,調整をもっていない ことに向けて,共通の関心と戦略を作り出す機会となった.  社会運動としてのフェミニズム――欧米での第 1 波――  女性の国際的な非政府組織(WINGO)の数は膨れ上がっ は 1920 年代に始まり,女性を従属的な立場に置くと考え ており,世界全体として 300 を超える新しい団体が毎年 られる個別の法律の改正を求めた.それは参政権や財産権, 輩出している.多種多様な目標を支持しているが,社会の 司法制度へのアクセスに焦点を当てながら,女性を政治的 なかで女性の関心事を推進するという公約は共有してい に関与させ,女性の法的承認を獲得し,ジェンダー平等の る.それらの焦点,優先課題,行動の手段も,過去の成功 法的障壁に挑戦した. に基づくと同時に,新しい社会的現実に対応して,10 年  第 2 波である過激なフェミニズムは,社会における女性の ごとにシフトしてきている. 従属性を変えるには法的な平等では十分ではない,という認  論争と連合という 2 つの潮流が作用している.連合はそ 識を示すものである. 「個人的なことは政治的である」とい れが共通の話題を巡って女性を何とか一堂に会した際,国 うスローガンを掲げて組織化され,新しいアジェンダは女性 際的・国内的な領域で運動に強さをもたらしている.論争 の社会的・経済的な地位の転換を目指した.焦点となる分野 ――運動のなかの相違を認識すること――は,運動に生気 には,女性自身の身体――特に生殖――に対するコントロー を与えている. 出所:Andreasen 他 1991; Antrobus 2004; Basu 1995; Hooks 2000; Marx Ferree and Hess 2000; Paxton and Hughes 2007; Whelehan 1995. た組織を通じて,雇用者や国家に対する挑戦ではこ を受けて,意識を高め,ネットワークを構築し,議 6 れまでよりも積極的であった . 論を起こし,不平等に反対する利害関係者を動員す るための,新しい機会が生み出されている. 集団的行動:数字に力がある  改革は勝者と敗者を生み出すのが普通であるた  過去 250 年間にわたり,女権グループ,政党, め,プログラムないし政策の重要な利害関係者向け 労働組合,信仰に基づく団体,国家が後援する大衆 にインセンティブを形成する政治的な現実とトレー 組織,市民社会グループなどすべてが,ジェンダー ドオフの理解が,連合を構築しコンセンサスを確保 平等の大儀を擁護してきた.女権団体はジェンダー するのに極めて重大である.社会の主体は自分の利 不平等に反対し,変化に向けた勢力として行動する 害と動機に合わせて,政策改革を牽引したり,ある ことの中心にいる.出産の権利,労働法制における いは阻止・無視・逆転したりすることができる.彼 機会均等,家族法などといった問題に関して,国 らの相対的な力を形作るのは,政策の立場や改革成 際的・国家的・地方的な場所で変化を求めてきた 果の重要性を擁護(あるいは反対)するために配分 7 (ボックス 8.2) .グローバル化と新しい通信技術 できる資源である.その可視性,正当性,支持層, CHAPTER8 ジェンダー改革の政治経済学 337 が大きいであろう.彼らは他の利害関係者向けに取 「10 年前,女性は関与していませんでした. 引コストを増やして,改革イニシアティブにアクセ しかし,女性は今や権限のある地位について スしにくくする,あるいは遠ざけることができる. います.人々はコミュニティの会議に出席す コストがあまりにも高いと考えられる場合,潜在的 るようになっており,女性も積極的に関与し ています.10 年前なら,女は男に服従して な敗者は政策プロセスを危うくする,ないしはその いました.私たちの発展段階は女性の参加に 実施を妨害する可能性があろう.例えば,一部の よって引き上げられています」. 人々は政策変更によって脅威を感じて――経済的・ 社会的な役割において――,激しく非難して,「古 リベリアの成人女性 いやり方」に戻る道を模索する.インドでは,女性 の地位と福祉を保護する法律に対する一部の男性の 反応は,伝統的な均衡への復帰を呼びかけることで 社会的地位,社会的ネットワーク,情報経路にアク あった 8.女性を家庭内暴力から保護する 2005 年 セスできる能力が,彼らの影響力の範囲と彼らの行 の法律は「インドの家族救済」といった団体に強く 動の有効性を決定する. 反対されたし,1986 年の持参金禁止法は「持参金  政治経済的な構造やダイナミクスに応じて,支持 法の誤用に反対する男たち」という組織の抵抗に出 を動員できる設計の良い持続可能な介入策と,重要 会った 9. な支持層を離反させてしまう設計の悪いイニシア  にもかかわらず,政治的な積極行動主義と社会組 ティブという相違が生じることがある.例えば,議 織は共同して重要な社会的な利益を確保している. 会の割当制を通じて政治力を女性に再配分すれば, 政治の領域では,憲法改正が最近の女性動員にとっ 女性の発言権は増加するだろうが,自分たちの限定 て焦点となる関心事であった.女性団体は公民権や 的な影響力の一部を失うことになるカースト,少数 政治的権利におけるあらゆる偏向を撤廃しようとし 民族,宗教的な利害グループによって,それは脅威 た(ボックス 8.4).女性運動の世界的な盛り上が であるとみなされる懸念があろう(ボックス 8.3). り――女性団体や女性問題専門の国際条約の数で測  現状維持から利益を享受する人々は,自分の収益 定――と,151 カ国における女性の政治参加にお 率を低下させると考えられる変化に抵抗する可能性 ける里程標の達成との間には,大きなプラスの相関 ボックス 8.3 競合する利害――カースト・民族性・宗教に基づく政治とジェンダー  インドでは,議席の 33%を女性のために留保しておく  これとは対照的に,サダム・フセイン政権が崩壊して以 という憲法改正が,1996 年以降議論されている.多数の 降,イラク統治評議会は民族的・宗教的なグループ―― 女性団体から支持されているのにいまだに成立していな シーア派,スンニー派,クルド族,トルクメイン族,アッ い.なぜか? シリア人キリスト教徒など――からの十分な代表を確保す  インドの細分化された政治的風景のなかでは,各州にお るために構成されており,暫定政府における女性の政治参 ける小規模な民族とカーストに基づく政党が,政権を構成 加は大体において重要性が棚上げ状態にされている.アメ する連合を構築するのに重要である.このような政党のな リカの高官は「女性割当制の計画はなかった」と強調して かには,低カーストの男性が高カーストの女性によって追 いる.しかし,イラク憲法が起草されてみると,民族的・ い出されてしまうという論拠で,改正案に反対していると 宗教的なグループによる権力分担概念は放棄されて,分権 ころがある.現行の留保案では,33%の割当のなかで低 化・連邦制・多数決主義の規定で置き換えられた.対照的 カーストの女性(あるいはおそらくイスラム教の女性)向 に,女性主体や女性グループの声は,女性向けの議席割当 けに特別配分の規定がない,というのが彼らの主張である. 制を支持する方向で大きくなっていた.47 条では国会に ところが,既存の法律を支持している政党や女性団体は おける女性議員の割合について 25%という期待値が規定 「割当のなかの割当制」には反対である.この分野ではジェ されている.後日,新しい選挙法には,投票リストで最初 ンダーの政治とカーストの政治がずっと膠着状態に陥って の候補者 3 名のうち 1 人は女性でなければならない,と いる. の規定が盛り込まれた. 出所:Krook and O’Brien 2010; Menon 2009; UNRISD 2005. 338 世界開発報告 2012 たのである.「女性にあまりに多くの自由と権利を ボックス 8.4 公職における女性の増加――ナミビア女性 マニフェスト・ネットワーク 付与している.それを受けて,女性は自由がうれし くて,古くからのカンボジアの習慣を尊重しなくな  ナミビア女性マニフェスト・ネットワーク――1999 年 るだろう.…ケーキはケーキ焼き器より大きくては に 30 以上の団体の連合体として発足――は,女性の政治的 いけない」12.32 の NGO が連合したカンボジア女 な代表者の増加を目指している.50/50 キャンペーンでは, 主要目的は女性向けに 50%の割当を行う政党の候補者リス 性委員会は政府と女性問題省に対して法案成立の確 ト――男女が交互にくる「しま馬」方式――を推進するこ 保を陳情した. とであった.南西アフリカ人民機構(SWAPO:多数政党) は同年,政党リストの 28%に女性候補者を掲載し,国民議 女性は異質的なグループ 会では女性議員が 26%にまで飛躍した.  今日,ナミビアは女性議員が国会に占める割合で世界 42  女性というのは資質や機会アクセスだけでなく, 位となっている.78 名中 19 名が女性である.ネットワー 価値観やイデオロギーの点でも異なる.彼女らは クは引き続き政治におけるジェンダー平等を推進している. 性,家族,望ましい国家介入について,典型的には 地域や地方のまとめ役が各地でワークショップを開催して 違った定義をもっている 13.一部の女性の利益は いる.また,ジェンダー担当者の指名や企画についてはジェ ンダー予算アプローチを推進している. 他の女性の利益と直接衝突するかもしれない.スイ スの女性は普通選挙権に反対した(ボックス 8.5). 出所:Geisler 2004; Mensah-Williams 2010. アメリカの女性は中絶の権利,出産休暇,積極的 差別是正策といった問題に関して意見が分かれて 関係がある.実例としては以下が指摘できる.婦人 いる 14.フランスではベールの使用を禁止するた 参政権の達成,初の女性議員の選出,各国立法府に めに戦っている女性もいれば,着用する権利を求め おける女性の議席シェアが 10%,20%,30%と漸 ている女性もいる.女子割礼は肉体的・心理的に大 増していること,などである 10. きな影響を及ぼすものの,それを巡る信条や伝統は  集団的な行動は「私的生活」を公共の場に引き 極めて根強く,アフリカの多くの女性はその継続を ずり出して,制定法,宗教法,慣習的な家族法に 強く唱導している 15. おけるジェンダーの偏向の発見と対処を推進して  人種,宗教,性別,民族性,階級意識などはジェ 11 いる .また,ジェンダー平等を阻害している社 ンダーと共存している(あるいは,ジェンダーと 会規範の束縛も削減している.カンボジアでは, 「交差」して,それらの相互作用が固有な効果を生 2005 年の家庭内暴力防止及び被害者保護法につな み出している).その結果,女性はグループが異な がった議論のなかで,法案はクメール文化に敵対的 れば,ニーズ,経験,社会・経済・政治の現実に関 であるとの非難を受けた.議員は次のように批判し する感じ方が異なる.今度は,そのような相違が政 ボックス 8.5 投票権に関する女性の間での意見の相違――スイスの事例  スイスの女性は 1971 年の国民投票を受けて,連邦選 「女性の参政権が他の諸国でもたらしたことを べている. 挙で投票し,政治職に立候補する権利を獲得した.11 人 ご覧なさい.至るところで,いわゆる男女平等で,女性は の女性(5.5%)が実際に国会議員に選出された.しかし, 当然の特権を失い,男性と彼らの得意な問題で競争しなけ それまでの国民投票においては,一部の女性がそのような ればならないということで損をしている.女性の場所は政 権利の成立を阻止する重要な要因となっていた. 「女性の 治的な場ではなく家庭にある.政治的な決定をするには新 投票権に反対するスイス女性の同盟」――1959 年に創設 聞を読まなければならないが,家事をし,子供の面倒を見 ――は,女性の義務は家庭にあると主張して女性の参政権 . ている女性には新聞を読む時間などない」 に反対した.ドイツ語系諸州は社会における女性の役割に  1959 年の国民投票は圧倒的にノーであった.有権者の 関する次のような文化的な概念を順守したということであ 67%が女性の投票権に反対したのである.アッペンツェ る.すなわち, 「子供,教会,台所に縛り付けられている」 . ル・インナーローデン州では,95%が参政権の拡大に反 男性は公的な空間で,女性は私的な領域で活動する. 対した.  同盟の会長ガートルード・ハルディマンは次のように述 出所:The Spokesman-Review, October 25, 1959, p. 12. CHAPTER8 ジェンダー改革の政治経済学 339 ボックス 8.6 ブラジルの家事労働者  ブラジル女性家事労働者の団体は一般化している家事労 く,このような権利の執行を改善するために,1997 年に 働者としての女性についての考え方に挑戦している.家事 創設された家事労働者全国連合(FENATRAD)に支持さ 労働者は労働力の 7%を占め,黒人女性が全家事労働者の れた憲法改正案が目下審議中である.しかし同提案は雇用 60%を占めている.家事労働者は圧倒的に中流・上流階級 者から大きな抵抗に遭遇している.サンパウロ州の雇用者 である白人女性の雇用主――低コストで家事手伝いのサー 同盟の警告では,連邦議会で家事労働者の権利が承認され ビスを享受している――との対比で,社会階級と人種の相 ると労働コストは維持不可能になる. 違に直面している.  政府は 2003 年に FENATRAD と恒久的な交渉テーブ  家事労働者にかかわる法的規定には,最低給与,有給休 ルを設置し,それが家事労働者の発言権を強化するために 暇, (母親あるいは父親としての)育児休暇,失業手当の 「市民としての家事労働者」というプログラムにつながっ 受給権などが含まれている.にもかかわらず,家事労働者 た.同プログラムはブラジル全土の 7 都市で家事労働者の の 28%は最低給与の半分,41%は最低給与とその半分の 労働組合を結成することに関する助言に加えて,女性に対 間の水準しかもらっていない. する暴力,児童家事労働の撲滅,住居・保健・職業・社会  家事労働者の権利と労働者の権利一般――家族手当,残 保障の権利などに関する教育や啓蒙運動を提供している. 業代,傷害保険などを含む――との平準化を図るだけでな 出所:Gonçalves 2010; Moreira Gomes and Martins Bertolin 2011. 治的な選好や政策選択肢の解釈に影響する.ブラジ 進展がなかった.女性の唱道者たちは優先課題や改 ルやイギリスでは,黒人女性はジェンダー平等の主 善方法を巡って大いに意見を異にした.ジェンダー 張について,自分たちの固有なニーズがわかってい に基づく暴力に反対する世界的な運動がようやく転 ないと苦情を述べている 16.他のグループは自分 換点を迎えたのは,相違を認めて包容性を促進する たち固有の主張を聞いてもらうために,独自のアイ 明示的な規範を策定して以降のことである.ジェン デンティティ・グループやアイデンティティ政治を ダーに関係する暴力に対処するための枠組みについ 創設している(ボックス 8.6). てのコンセンサスは,社会的に弱者であるグループ  このような関係が認識されていない,あるいは目 を取り込み,異論を唱える機会を設けるという公約 に見えなくなっている場合,有効な協力と唱導の間 を通じて浮かび上がってきた 17. や,女性の福祉に向けた共通の目標を実現する課程 で,その異質性が立ちはだかることがある.「女性 ジェンダー平等に向けた同盟者としての男性 に対する暴力」という言葉が国際的なアリーナに登  より平等な社会に向けて移行するには男性行為者 場したのは 1970 年代であった.しかし,この分野 の貢献と公約を必要とする.国家元首や政府大臣と における初めての国際的な声明である「女性に対す して,宗教や信条をベースとした組織の指導者とし る暴力の撤廃に関する宣言」が 1993 年に現実のも て,判事・軍隊の長・雇用主・企業のマネジャー・ のとなるまでに,20 年間以上を要した.メキシコ 村長・まさに夫や父親として,男性は女性の生活の (1975 年)とナイロビ(1985 年)における国連世 さまざまな側面に対して,重要な力をもってきた 界女性会議では,ジェンダー暴力と戦うための最重 し,これからももち続けるであろう.ジェンダー関 要な枠組みを明確に策定することについてほとんど 係の政策の議論や設計においては,男性の態度や言 動が極めて重要である 18.  19 世紀のイギリスやアメリカでは,女性に政治 的な権利を付与することに先行して,児童保護法や 「未来が良くなるためには,男が変わらなけれ 夫婦財産法の改正が行われた.初期におけるこのよ . ばならない」 うな女性の権利の拡大は,全員が男性の有権者だけ ペルーの成人男性 に説明責任を負うやはり全員が男性である立法府 で制定された 19.どうしてそうなったかといえば, 340 世界開発報告 2012 開発が進展するなかで,資本蓄積の増加,出生率の そして疑問視されなければならない.少女・女 低下,人的資本に対する需要の増大を受けて,父親 性は男性らしさということについて,伝統的で にも自分の娘には権利を付与しようというインセン 有害な考え方の改善に貢献できる.それはちょ 20 ティブが作用したのである . うど,少年・男性が女性らしさについて,伝統  アメリカにおける女性への選挙権拡張は,最終的 的で制限的な考え方の改善に貢献できるのと同 には,女性団体の精力的な唱導によるところが大き じである.ジェンダー規範にかかわる本当の永 かった.しかし,初期の段階では,強力な婦人参政 続的な変化は,次のことが広く認識されて初め 権運動が可能性を大きくしたのは婦人参政権法案の て達成されるだろう.すなわち,ジェンダーと 上程であって,その通過ではなかった.例えば,ワ いうのは関係を示すものであり,男性を関与さ イオミングは 1890 年に普通選挙権を法制化した最 せることなく女性をエンパワーしようとするの 初の州であったが,女性の選挙権を求める組織化さ は近視眼的であり,男らしさの意味するところ れた強力な運動はなかった.西部諸州における早期 をやはり若い女性を関与させることなく変えよ の採択は,教育のある専門職や進歩的な中流階級の うとするのは,不可能ではないかもしれないが 男性の増加が一因であった.他の貢献要因には,隣 非常にむずかしい 23. 接州における参政権の実施に加えて,政治面におけ る共和党と民主党の熾烈な競争,すなわち自党の政  男性・少年を取り込んだ公的政策はこれまで例 策を支持してくれる有権者層を拡大したいという欲 外であった.性・生殖保健イニシアティブは次の 21 求があった . ように考えるべきだろう.すなわち,避妊具に関  1995 年の北京における国連女性会議は,教育, する女性の知識やアクセスは,男性が豊富な知識 子供の社会化,育児・家事,性的健康,女性に対す をもっているほど増えるだろう 24.零細金融プロ る暴力などについて,「男性がジェンダー平等に向 グラムは,ジェンダーや家計にかかわる男女向け けてすべての行動に全面的に参加するよう奨励す の規範にどのように挑戦するかを無視することは る」ことを求めた.男性の団体もジェンダー平等を できない.バングラデシュ農村部の家計調査では 支持して結集した.一例はルワンダの「男性向け情 78%の女性はある時点でお金を夫に渡すことを強 報センター」である.これは 2006 年 10 月に設立 制された,56%は自宅外での仕事を夫に禁止され された NGO で,ジェンダーに基づく暴力に対する たと述べている 25. 戦いに男性や少年を関与させようとしたものであ  男性にジェンダー平等を支持するよう求めていな る.「男性関与連合」は,ジェンダー平等を改善す い政策イニシアティブのほとんどは小規模であり, る取り組みに男性や少年を関与させるべく,活動し 規模を拡大し,広範な社会変化を奨励するための戦 ている NGO や国連パートナーで構成される世界的 略的ビジョンが欠如していることがしばしばであ なネットワークである.NGO に属する 400 人を超 る.顕著な例外はスカンジナビアで,父親の育児休 える会員が 70 以上の諸国で働いている.それには 暇規定はジェンダー規範の変化を促進し,男性が子 小規模なプログラムからもっと大きな唱導を行う取 育てに参加するよう奨励している.育児の責任は依 り組みまで広範囲のものが含まれる.ほとんどの会 然として主に女性にあるものの,政策の受容率はか 員は女権団体と協調して,あるいは連携して仕事を なり高くなっている.2003 年現在,スウェーデン 22 している . の父親は育児休暇日数の 18%を消化していた 26.  有害なジェンダー規範を打破するには男女両方と  ブラジル,チリ,クロアチア,メキシコでは, 協働することが必要である,というコンセンサスが 「女性の権利が大きくなっても男性は損しない」と 強まりつつある.2 人の研究者は次のように述べて いうのが成人男性の圧倒的な意見である(インド いる. は例外.図 8.3).役員の地位,大学入学,公職に おける女性の割当制に対する支持も比較的高い.  ジェンダー別の役割は男性と女性の両方に インドでさえ,調査データの示唆によれば,男性 よって構築され,そして再構築されている―― はジェンダー平等全般に関してあまり支持的でな CHAPTER8 ジェンダー改革の政治経済学 341 いにもかかわらず,一部の個別 図 8.3 世界中の男性は女性の権利や政策を支持している 政策に対する支持の基盤には幅 100 広いものがある 27. 90 90 90 88 87  男性を巻き込むと,ジェンダー 80 80 77 74 72 平等というのはすべての人の利益 71 71 70 64 66 65 になる公共財である,という考え 60 支持率(%) を伝えることができる.地方の 50 47 43 41 39 39 40 38 データ,研究,マスメディアにお 35 30 ける発言,啓蒙キャンペーンを使 20 えば,政策対話を円滑化し,ジェ 10 ンダー平等を――関係,家庭,コ 0 ブラジル チリ クロアチア インド メキシコ ミュニティにおいて――みんなの ための公共財として描くことがで 「男性は損しない」 女性の権利を支持する: 割当制を支持する:政府の役職について一定の割合 きる.若者を関与させれば,ジェ 割当制を支持する:大学就学について一定の割合 割当制を支持する:役員の地位について一定の割合 ンダー別の役割やジェンダー別の 司法に向けて,永続的な社会的態 出所:Barker 他 2011. 度を形成することができる 28. 連合を広げる の男女は,国家ないし民間が補助金を出す出産休暇  社会の主体は変化への要求を強めるための連合を や育児休暇には反対する可能性があるだろう.とい 構築することによって,改革に向けた政治的な余地 うのは,税金が高くなったり,労働者の雇用コスト を作り出すことができる.社会的な動員や意識高揚 が増大したりするからだ.中絶法は保守的な宗教団 に向けた取り組みは,支持基盤や政策選択肢の幅を 体から反対されるだろう. 広げることができる.連合は一定の代替政策につい  どちら側が最終的に「勝つ」のかは政治的な連合 てネットの政治的な収益率を変えることができる. 次第である.スウェーデンの左寄り政府は,労働組  分裂をもたらすような政策変更を取り巻く支持勢 合と女性団体に支持されて,1970 年代に母子ケア 力と反対勢力の強さは,国の政治的な状況や国際的 法制の闘士となった.しかし,マリの既存勢力の連 な影響力に対する開放性に左右される.民主主義が 合は,家族法典を改正して,婚姻を世俗的な制度と 機能するに際して,政治家,市民社会,女性団体, して定義し,結婚の最低年齢を引き上げ,女性に相 労働組合,宗教集団は,政策変更の利点や結末を公 続権を拡大することができなかった.宗教団体が 然と議論する.当然ながら,当面の具体的な問題が このような努力に直接異議を唱え続けたからであ 重要である.支持主体と反対主体の幅は,主題が る.2009 年 8 月に議会で承認されたにもかかわら ジェンダーに基づく暴力,政治的な割当制,育児に ず,アマドゥ・トゥーレ大統領は最近次のように発 関連する労働法,生殖保健などのうちどれなのかに 「多種多様な国家機関,市民社会,宗教界, 表した. 応じて異なる.ジェンダーと人種,社会階級,教条 法曹界との広範な協議を経て,私は家族法典を第 2 的な信条が交差することによって,断層線が形成さ 読会に送付するというこの決定を下した.これは平 れている. 穏で平和的な社会を確保し,わが国民の支持と理解  ジェンダーに基づく暴力は一般に,このような問 を獲得するためである」29. 題のなかで最も対立が少ない.経済的・イデオロ  ジェンダー平等を目指したある政策改革が社会秩 ギー的な背景がまったく異なる男女であっても,家 序や政治連合にとって,利益か脅威かのいずれとし 庭内暴力やジェンダーに基づく暴力は本質的に間 て受け止められるのかも,各国固有の要因によって 違っているとみなす傾向にある.しかし,各領域で 決定される.ラテンアメリカでは,政府と宗教団体 は支持層ごとに共鳴度がさまざまである.高所得層 の連合が中絶法の制定を阻害している.したがっ 342 世界開発報告 2012 ボックス 8.7 大衆文化はどのようにして社会的態度を変えることができるか  18 世紀から 19 世紀にかけて,奴隷制を終わらせよう か? それとも罪のためにお金を出す男か?」――の偽善 と運動していた人々は次のことを認識していた.すなわち, を明らかにした 持続的な成功のためには,特に影響力のあるエリート層を  1740 年代から 60 年代にかけて,男性による若い女性 中心に人々がこの慣行をどう理解しているかにおいて,幅 に関する 3 つの有名な小説――ジャン = ジャック・ルソー 広い社会的な変化をもたらすことが必要である.今日では ,サミュエル・リチャードソンの『クラリッサ』 の『リサ』 常識となっている公的説得の方法を創始した廃止論者は, と『パメラ』――も,ジェンダー関係の理解にかかわる全 シンボル・バッジ,最近の「転向者」からの証言,同情的 面的な変更を体現し宣言した.その当時,小説はマスコミ な公人や著名人からの推薦,ポスターの大量生産,コミュ の新しい形態であって,読者を感情や想像の新たな世界に ニティ・ドラマを発明した. 運び,女性の経験や圧倒的な社会的な因習に対する反応の  女性運動はそれ以降このような手法の多くを採用して, 代替的ではあるが露骨な表現を示すものであった. 選挙権,給与の平等,生殖保健の権利,家庭内暴力への反  小説はヨーロッパ中でベストセラーとなり熱心に翻訳さ 対などのキャンペーンを実施した.フェミスト原則の主流 れた.18 世紀半ばの読者にとって,社会規範の拘束力を 化には次のようなことが必要であるとの認識があった.す 通じて,愛情のない関係という罠に捕らえられ,自分の欲 なわち,世界中の男女がこのような問題に関する理解の仕 求,才能,抱負を追求することができない活発な若い女性 方を変え,それが今度はさまざまな社会的なグループに親 の窮状について,男性が感動的かつ同情的に書くことがで しみのあるコミュニケーション方法――詩,小説,エリー きるということは,意外な新事実であった.しかし,この ト層向けの劇や街頭劇場,一般市民向けの流行歌など―― ような女性が期待や法律を拒み,不幸な状況を後にして, を活用することが必要である. 独り立ちする勇気を奮い起したのは,もっと大きな驚きで  その事例は今やメキシコ領となっているニュー・メキシ あった.イプセンの『人形の家』はこのテーマを 1 世紀後 コの副王領にいる詩人ソル・ファナ・イネス・デ・ラ・ク に再び扱っている.ジョージ・エリオットやブロンテ姉妹 ルスの作品である.この「10 年目の詩神」と呼ばれてい の小説も同様であった.ジェンダー政策の変更を明確に規 た彼女の 17 世紀の著作は,米州だけでなくスペインのエ 定し,キャンペーンを行い,法制化する前に,そのような リート層(文字が読めて本を買うことができた人々)にも 可能性そのものがまずもって明らかにされなければならな 広く読まれた.彼女の作品はニュー・スペイン最初の印刷 い.もっと一般的にいえば,多くの場合,言うことができ, 機によって出版された.女性の自由に対する制約を詩的に することができることを変えることの先に,まず考えるこ 謳って,男女を相異なる基準に拘束する一般的な社会規範 とを変えることがくる. ――「どちらがより罪深いか? お金のために罪を犯す女 出所:Hunt 2007; Hochschild 2005; Smith and Carroll 2000. て,中絶というのはチリでは教条的な問題かもしれ アウトリーチが,どのように「男らしさ」に挑戦し ないが,中国では何の論議も引き起こしていない. ているかを検討してみよう.「エクアドルの反応」 一人っ子政策を強化するものとして受け入れられて といういくつかの政府機関の支援を受けたテレビの いるからだ. 啓蒙運動は,「男らしさ」を一種の暴力と連動させ ながら,男らしさと女らしさの伝統的な概念に異議 情報の力を解放する を唱えている 30.「俺は洗濯し,アイロンをかけ,  政治的な支持は情報,利害,感じ方に由来する. 料理もする,…だからどうした?」と,1 人の男が 透明性と戦略的なコミュニケーションがあれば,情 幼児の面倒を見ながら,テレビ・カメラを睨み付け 報の非対称性(不十分さ,不公平さ)を削減し, ている. もっと有効な公開討論を促進し,公的政策問題の多  メディア・アウトリーチはもっと広範な教育目的 方面からの探究を可能にすることができる. にも資する.南アフリカのソウル・シティ研究所は  メディアへの露出は利害関係者を直接関与させ, ラジオ,テレビ,新聞を使って,健康や社会の緊 個人的な信念に影響を与えることができる.大衆文 急問題に関する情報や意見の普及・促進を図って 化や情報キャンペーンは社会の規範,価値観,選 いる.「HIV・エイズ時代の愛情物語」というのは, 好の変化に貢献することができる(ボックス 8.7). アフリカ南部の 10 カ国で制作されたテレビ向けの ラテンアメリカにおける横断的な新しいメディア・ 短編映画 10 本のシリーズである.人々に挑戦して CHAPTER8 ジェンダー改革の政治経済学 343 性生活についての考え方を変えさせたり,自分たち き出していない 33. をリスクにさらす文化的・社会的な規範を検討及び  21 世紀の通信革命のなかで,ソーシャル・メ 「結婚式」 議論させたりするものである. (Umtshtho) ディア――ブログやフェイスブックなどソーシャ は南アフリカの東ケープのある村で行われる.ノマ ル・ネットワーキング・サイトなど――は,社会 ンドラ(女主人公)はコーサ族の伝統的な結婚式当 的・政治的な参加に向けて新しく人気が高まってい 日に,婚約者が浮気をしているのを発見し,非常に るチャンネルを開拓した.他のメディア・チャンネ むずかしい選択を迫られる…というようなストー ルとは違って,ソーシャル・メディアは双方向かつ 31 リーである .ベトナムでは,人口メディア・セ 対話型であるため,人々は今や協調して,情報を新 ンターが汚名や差別に取り組む手段としてラジオを 鮮な方法で共有することができる(第 6 章).ソー 活用している.「生への渇望」というラジオの連続 シャル・ネットワーキング・ウェブサイトは普及啓 ドラマでは,スーと長女モーが主役である.スーは 発,社会的動員,政治的議論,資金集めのためのプ 夫トゥアット――村のある部族の長――に暴言・暴 ラットフォームになっている.ソーシャル・ネット 行で虐待を受けている.娘が 3 人もいるので,ど ワーキング・サイトのディスカッション掲示板に 32 うしても息子が欲しいからだ . 参加するように他人を「招待する」機会は,草の  情報は意識を高め,世論を形成し,支持層を構築 根の積極活動主義の潜在力を高めている 34.例え し,行動の呼びかけとして作用する.アメリカでは ば,ハラス・マップという NGO がエジプトにあり, 教育におけるジェンダー不平等が,全米大学女性協 個々の女性が報告してきた性的暴行事件の情報を, 会による『学校がいかに女子をごまかしているか』 ウェブ・ベースの地図作成プラットフォームを使っ と題する 1992 年の報告書でスポットライトを浴び て編集している 35. た.同報告書や関連するメディアの報道が,学校教 育が科学や数学で女子をいかに冷遇してきたかを暴 露した.教師がどのようにして男子に優遇的に関心 包容的な市場 を向けるかを示す一方で,女子の成績と自尊心が遅  第 2 次世界大戦前,アメリカの特に防衛産業の れをとってきたかを指摘した.その国家政策と世論 多くの企業は女性の採用に消極的であった.しかし に対するインパクトは迅速かつ顕著であった.アメ 必要がそのすべてを変えた.その一例はメリーラン リカの 1994 年ジェンダー平等教育法は女子を弱者 ド州ヘーガーズタウンにある,従業員 1,000 人を グループとして認定し,科学・工学・数学における 擁するフェチャイルド・エアクラフトの工場であ 女子の自信と参加を引き上げることを目的とした, る.労働力の内訳をみると,女性のシェアは開戦時 広範囲にわたる介入策に対して連邦の資金供与を規 の 20%から 1945 年にはほぼ 70%に飛躍していた. 定している.その介入策には,女子向けの科学キャ 全体として,メリーランド州の防衛産業職では,5 ンプ,授業の平等に関する教員研修プログラム, 人中 4 人は女性となっていたのである 36.途上国 ジェンダー平等な教材,大学進学適性検査に新たに では,総雇用のなかで公式賃金雇用が占める割合は 書き込み方式の設問――女子が優れている領域であ ずっと小さいのが普通であるが,ここでも必要性は り,この一か八かの重要なテストで得点を引き上げ 役割を果たすことができる.ネパールでは,毛沢東 るため――などが含まれる. 派の暴動を受けて男性たちが解雇されたため,女性  アメリカでは今や振り子は逆方向に振れている. の労働力参加の大幅な上昇につながった 37. 多くの学者が主張するところでは,学校は特にアフ  現在,労働力の多様化は違った状況に牽引されて リカ系アメリカ人を中心とする男子をないがしろに いる.職場におけるジェンダー平等を民間部門が容 している.男子の識字能力,学業成績,出席率は低 認したのは,次の 4 つのトレンドの出現に対応し い一方,退学率,落第率,特殊教育の設置率,停 .第 1 に,グローバル化が たものである(図 8.4) 学・除籍率は高く,さらに,中等後教育への就学・ 進展した経済のなかで,スキルに対しては強い需要 終了率が低くなっている.しかし,これまでのとこ がある(第 6 章).満杯になっている人材プールを ろ,男子の成績不振は連邦政府から同等の反応を引 活用すれば,大きな経済的報酬を獲得できる.第 2 344 世界開発報告 2012 図 8.4 経済的・政治経済的な配慮を受けて,企業はジェンダー平等化の方針を推進している ンダー平等 政 策 ジェ 制度 非公式 経済機会 市場 家計 企業 エージェ 資質 ンシー 公式 制度 成 長 出所:WDR 2012 チーム. に,多様性は企業のより良い意思決定や革新につな 野――教員や公務員など――に集中している.ま がる道であると考えられる.第 3 に,女性は拡大 た,女性は離職率や転職率が男性よりも高い傾向に する市場を代表しており,そのニーズに製品やサー ある 39. ビスを適合させたいという欲求がある.第 4 に,  社員の転職率が高いとコストがかかるため,企業 ジェンダー平等というのは――雇用者,投資家,顧 は女性の人材を引き付け,採用し,保持する努力を 客にとって――市場では価値のある属性である. .一部のアナリストの 強めている(ボックス 8.8) 指摘によれば,スタッフを雇い直す費用は転職者給 人材を引き付け保持する –  与の 0.25  2.0 倍に達する(全コストが認識されて  官民の企業は可能な限り最高の人材を引き付けよ いるかどうかに依存する)40.例えば,新しい看護 うとしている.女性は人口の半分を占めており,大 師を採用して訓練するコストは,転職看護師の給与 多数の諸国ではその大半は大学卒業者である(第 1 の 1.3 倍かかると推計されている 41. . 章)  仕事と生活を調和させる制度はスタッフの忠誠心  女性の労働力参加率は過去数十年間に急上昇した と在職を奨励すべく,仕事と育児という二重の要 ものの,依然として制約を受けている(第 5 章). 求に配慮しようとしている.第 7 章でみたように, 女性は世界中でいまだに育児の大半を担っている. パートタイム雇用,拡大家族休暇制度,育児補助金 また,介護の責任は多くの女性にとって労働市場に などは働く親にとって,新たな雇用機会を開放し 参入して,そこにとどまるのに著しい負担になって てくれた.イギリスのセインズベリーズというスー いる.彼女らの抱負は必ずしもガラスの天井ではな パーマーケット・チェーンは,仕事と生活の調和を く,むしろ「母親としての壁」によって実現には 高める方針を打ち出している.それには以下のもの 38 至っていない .したがって,女性は経済のなか が含まれる.パートタイム職,柔軟な契約,ジョ で仕事と家庭の責任が両立できるような選別的な分 ブ・シェアリング,拡大された出産休暇・給与,父 CHAPTER8 ジェンダー改革の政治経済学 345 ボックス 8.8 ジェンダー多様化のための 4 つの善良な慣行  マッキンゼー社は,労働力,経営陣,役員会で女性の参 ンパクトを防止するためには,考慮に入れておく必要があ 加を増やしていることで著名な会社十数社にインタビュー る.出産休暇の管理がうまい会社はこの時期を通じてコン を実施した.次の 4 つの慣行がジェンダー多様性を推進す タクトを維持し,復帰の前と後の両方で 1 対 1 の面接を るのに際立っている. 実施している.これは従業員が適切に再融合していること を確保し,平等な処遇を確実にすべく,復帰してからの数 ジェンダー多様性,知識,パフォーマンス指標を通じて透 年間にわたり,昇給や賞与に注目しておくためである. 明性を生み出す.主要な指標には以下が含まれる.会社の 各種事業部門,各レベルの経営陣,新規採用者などにおけ 人材管理プロセスを適合化させる.会社としては,採用・ る女性の割合,類似機能を果たしている男女の給与水準と 評価・キャリア管理のプログラムが,女性の職業上の発展 損耗率,昇進資格のある女性に対する昇進した女性の比率 を阻害しないよう確保すべきである.また,できるだけ, など.このような指標をモニタリングしていると,社内で 会社として最高の人材が維持できるような個人的なキャリ 解消すべき格差の大きさに対する意識が高まるだろう. ア経路を提示すべきである. 仕事と生活のバランスを円滑化するための措置を実施す 女性が支配的な交際法をマスターして野心を涵養するのを る.ここでは 2 つの要因が重要である.第 1 は職場の柔 支援する.コーチ,ネットワーク構築,指導助言などのプ 軟性である(在宅勤務,パートタイム職,フレックス勤務 ログラムが,女性の意識を高め,男性中心の企業環境に対 時間など) .柔軟性というのは女性だけのための政策では 応するのを阻害しないことを確保しなければならない.社 ない.会社の事業モデルにおいて一般的な発展の一環であ 内で女性のネットワークを確立すれば,より幅広い分野の るべきで,組織と文化の適合化を必要とする.第 2 はキャ 仕事に出会う機会を得ることができると同時に,組織内で リアの柔軟性と休職中の支援である.女性は休職する傾向 女性指導者の立場を押し上げることになるだろう. があるということは,キャリア経路や給与に対する悪いイ 出所:McKinsey & Company Inc. 2007. 親休暇,育児休暇,育児のための休職(5 年以内), 合を容易にしようと努力している.女性教授の人数 自己啓発ないし介護責任のための特別休暇(1 年以 を増やす取り組みとして,クィーンズ大学ベルファ 42 内)など . ストは出産休暇から戻って来る女性に対して,半年  通信技術のおかげで遠距離の通信や仕事が可能 間は典型的な授業や事務ではなく研究の仕事を与え になり,男女の在宅勤務が容易になっている(第 6 ている 45.働いている母親の出産前後の医療の必 章).マレーシアの公式・非公式部門では,遠距離 要性は,ケニアに本社を置く通信業者サファリコム 通信を活用した在宅勤務が,女性の労働力参加を 社では保険で完全に満たされている.同社の人材政 拡大するための中核的な戦略になっている.女性・ 策には 3 カ月間の有給出産休暇が含まれる.シフ 家族・コミュニティ開発省と科学・技術・環境省 ト勤務は母乳養育の母親の便宜を図るために 7 カ は 2001 年に,自宅で作られた商品のオンライン販 月間にわたって調整が実施される.また,授乳室や 売を促進するために,「e ホームメーカーズ・ネッ 育児施設が職場に整備されている 46. 43 トワーク」を資金援助した .T- センターという  ドイツの代表的な企業 1,001 社の調査から,家 のが在宅勤務者が自分たちのサービスを提供した 族に優しい企業はそうでない企業と比べて,求職申 り,雇用者がオンライン職の機会を宣伝したりする し込みが 31%多く,社員の在職期間が 14%長い. ためのインターネット上のポータルサイトである. 育児休暇後に復帰してくる社員が 22%多く,同休 2002 年に国立情報技術委員会の後援を受けて設立 暇が 8%短いことがわかった 47. 「女性,若者,年金生活者を, された T- センターは,  しかし,家族に優しい仕事の取り決めには一定の 家庭・コミュニティ・国家のなかで,重要な経済要 障害が伴う可能性がある.第 1 に,企業にとって 因としてエンパワーする」ことを企図している 44. コストの上昇につながりかねない.したがって,職  雇用主は新しく母親になった人々の職場への再統 場における育児要件や手厚い出産休暇政策は女性 346 世界開発報告 2012 採用のインセンティブを削減しかねない.第 2 に,  多様性と業績の関係は組織文化を反映する.その そのような取り決めは生産や生殖の活動における 文化を変えるには,「名ばかりの差別撤廃」を超越 ジェンダー別の役割について,既存の社会規範を強 して,組織のさまざまなレベルで社員の多様性につ 化することもある.デロイト・トウシュ(会計法 いて臨界的な人数を達成する必要がある.企業が多 人)の推定によれば,同社の柔軟な仕事の取り決め 様化するにしたがって,女性にとって不親切な根深 は 1997 年に離職率の削減を通じて 1,300 万ドル い組織の事情と戦わなければならない場合もあるだ の節約をもたらした.しかし,この取り決めの恩恵 ろう.マネジャーと社員はともに多様性を高く評価 を行使した従業員は献身や信頼に欠けているとみな しなければならない.意思疎通と問題解決の道は, され,キャリア面での昇給昇進のチャンスが減少し 異論がコンセンサス形成に譲歩できるように柔軟で ている.男性の会計士の考えによれば,献身は長時 なければならない.好業績が生まれるための環境を 間労働と同じであり,柔軟な働き方をしている人は 作り出すためには,態度を変え,陰に陽にジェン 48 あまり献身的ではない .育児の責任についてもっ ダー偏見を映した言動を排除することが必要かもし と積極的になるべく,家族に優しい付加給付を活用 れない. したいと思っている父親としては,育児の役割が文  「ジェンダー平等モデル・エジプト」(GEME)は 化的にもっと受容されている母親の場合よりも高い 民間企業において,ジェンダー平等を涵養し,雇 障壁に直面する,ということであろう. 用・機会にかかわる女性アクセス平等を改善する 労働慣行を促進するための認証プログラムである. より良い意思決定のための多様性 GEME の目標の 1 つは,組織としての効率性と競  ジェンダー多様性の慣行は,組織の効率性改善を 争力を引き上げるために,人材を最適化することに 達成するための手段として支持されている.まさ ある.第 2 は,職場において前向きな対人関係を に,社員の多様性は企業の意思決定をさまざまな観 促進して,さまざまなスキル,視点,勤務スタイ 点から豊かにすることによって,創造性と革新性に ルをもった男女が,組織としての目標や社員の専 拍車をかけることができる.アメリカの営利目的事 門的なニーズの達成に貢献できるようにすること 業組織の全国的な標本からのデータによると,ジェ である.第 3 は,社員からさらなる献身と忠誠を ンダー多様性が大きいほど,売上高,顧客数,収益 引き出すことである.第 4 は,一般大衆が企業の 49 が大きくなっている .しかし,多様性は対立の 製品やサービスを「ジェンダー平等シール」を通じ 増加や一体感の低下とも結び付いている.多様なグ て,職場におけるジェンダー平等の公約を連想でき ループないし事業単位は必ずしもうまく機能してい るようにすることである.企業は自己診断手法を る,あるいは高水準の満足感を経験しているとはい 使って,ジェンダー平等にかかわる自社の方針や慣 50 えないのである . 行を分析し,あり得る偏見を発見する.能力開発の  同様に,役員会におけるジェンダー多様性がもた 機会には以下が含まれる.すなわち,ジェンダー平 らす効果――企業業績に関する各種指標で測定― 等が企業にとって実際上重要であること,スタッフ ―についての国際的な証拠はまちまちである(第 5 採用,研修・キャリア開発,セクハラ防止などに関 .結果のバラツキは,経済環境,企業形態,財 章) する研修.独立機関が実施する監査によって,ある 務実績などがまちまちであることを反映したもので 企業は,設定したジェンダー平等の目標に到達した ある.多様性は役員会のさまざまな機能に対して固 かどうかが決定される.成功した企業は人材管理で 有な形で影響する可能性があり,役員会の構成と企 ジェンダー平等を公約していることが認められて, 業業績全体との結び付きを一般化することには無理 「ジェンダー平等シール」を受領する. があろう 51.スペインの企業 68 社については,役  アラファ・ホールディングは GEME に参加して 員会の男女比率は企業価値に顕著な影響があるもの いる繊維・アパレル会社であり,女性を貴重な従 52 の ,デンマークの企業 443 社についてみると, 業員として維持するためにインセンティブを付与 役員会における女性の比率と組織としての業績の間 している.既婚女性は家庭の責任を果たすために, 53 には何の関係もなかった . 長時間労働から免除される場合がある.同社で働 CHAPTER8 ジェンダー改革の政治経済学 347 いている既婚夫婦には住居も提供される.遠隔地 て,長足の進歩を遂げている.東アジアでは SME に住んでいる従業員向けには,会社の交通手段が の 35%が女性所有であり,インドネシアだけでも 無料で利用可能である.デイケア・センターにい 50 万社に達する.ケニアではすべての零細および る自分の幼い子供を訪問する母親に対しては臨時 中小企業のうち 48%が女性所有であり,GDP の約 54 手当が支給される . 20%を生み出している.ベトナムでは,女性がトッ  「女性の未来」というのは,ノルウェー経営者連 –  プの SME 数は 2000  2004 年に年 43%のペースで 盟(NHO)――経営者の全国組織であり,主導的 –  増加した.モロッコでは,同ペースは 2000  2007 な企業ロビイストである――が 2003 年 3 月に打 年について 8%であった 58. ち出したジェンダー平等イニシアティブである.こ  一部の民間銀行は女性の信用やローン返済の記録 の主目標は,NHO メンバーが指導的な地位にふさ が良好なことに反応して,伝統的な信用制約を緩 わしい女性の人材を発見するのを支援して,経営 和し始めている(ボックス 7.5).2000 年に創設さ に新たな視点を持ち込むことにある.企業は役員 れた「女性のための世界銀行連合」には 25 行がメ 候補者を発見して,2 年以内にジェンダー多様性を ンバーとして加盟しており,マラウイの NBS 銀行, 増加させるという拘束力のある合意書に署名する. ナイジェリアのアクセス銀行,南アフリカのファー 「女性の未来」は経営者の地位に就く候補者向けに, スト・ナショナル・バンク・オブ・サウスアフリ リーダーシップとネットワーク作りに関するプロ カ,タンザニアの Selfina などが含まれる.この団 グラムを運営する.1,000 人以上の女性がこのプロ 体の目標は女性向けに金融サービスを促進すること グラムに参加し,その約 62%が昇進を果たした. によって,事業を営んでいる女性の増加を加速化す オーストリア,日本,ウガンダにも同じようなイニ るとともに,メンバーである金融機関のために好業 55 シアティブがある . 績が達成できるように支援することである.最善慣 行や研究を交換するための協調的なネットワークを 顧客や従業員としての女性 通じて,メンバーは女性の事業の成功確率を高める  女性は拡大中の市場セグメントでり,世界中のほ ために,資本・市場・教育・研修へのアクセスを提 ぼ至る所で買い物客のうち非常に大きなシェアを占 供している 59. めている――消費者の購入総額のうち,アメリカで は 83%,ヨーロッパでは 70%を占めているものと 企業イメージと収益に利益をもたらすジェンダー 推定される 56 .この基盤を理解し対象とすること 平等 が,ビジネスの成功にとって決定的に重要であろ  ジェンダー平等は今や,ある企業が(株主にとっ う. て価値を最大化すると同時に)社会的責任に献身  多くの民間企業は女性の労働力と経営陣を拡大し 的かどうかを評価するのに使われている.つまり, て,女性顧客にとってより優しい環境を作り出して ジェンダー平等は企業のイメージを高めることがで いる.ベスト・バイというのはアメリカに本拠を きるのである.また,機会均等ないし家族に優しい 置く,年商 120 億ドルの家電製品販売会社である. 政策は企業の評判を高めることができ,その利益は 「当社は女性が買い物に向かう場所としては知られ スタッフの採用,メディアの興味,世論の関心,顧 ていない」とスポークスマンは証言していた.「そ 客忠誠心として表れてくる. れを変える必要がある.また,市場シェアを引き上  ジェンダーの認知や多様性の目標に向けた財政 げようと思うなら,女性が働くのに当社は確かに素 的なインセンティブは重大であり得る.投資ファ 晴らしいところだと思われるようにする必要がある ンドのなかには投資基準の中にジェンダー平等を 57 だろう」 .近年,同社は女性の販売マネジャーを 含めているところ(アメリカのカリフォルニア州 追加し,女性社員の転職率を削減し,より多くの女 公務員退職年金基金[CalPERS]やヨーロッパのア 性顧客を引き付けている. マゾーヌなど),格付け機関のなかにはジェンダー  女性は中小企業(SME)を育成し,地方の開発に 多様性を測定するための手段を開発しているとこ 拍車をかけ,新たな雇用機会を創出することにおい ろ(コア・レーティング,イノベスト,ヴィジオ 348 世界開発報告 2012 など)もある 60. 女性従業員に平等な処遇をしなかったという主張の 「より良い工場・カンボジア」は,カンボジアの   集団訴訟を解決するために,910 万ドルの支払い 300 強の衣料工場(労働力は主として女性)にお に同意した 66.これに対応して,企業は自社の多 ける労働条件をモニターして報告するために,国内 様性や包容性の慣行を見直し,企業の方針,行動計 的・国際的な基準を使っている.貿易協定の下でア 画,進展をレビューするために世界多様性評議会を メリカはカンボジアに対して,衣料部門における労 設置した 67. 働条件の改善の見返りに,アメリカ市場についてよ り良いアクセスを提供している.カンボジアでは参 加することが輸出許可を得る条件になっており,こ 公式な制度や政策にジェンダーを持ち込む のことは,衣料産業,国際的なバイヤー, 搾取を  集団行動や社会運動はしばしば国家措置に触媒作 行っていない工場の製品に対する欧米消費者の期待 用を及ぼすものの,ジェンダー不平等を直接的に削 などの共通利害が収斂したことを示している.「よ 減ないし排除する政策を打ち出して,それを推進す り良い工場・カンボジア」は国際労働機関(ILO) . るのは典型的には政府である(図 8.5) によって管理され,アメリカ労働省,アメリカ国際  ジェンダーを政策プロセスに持ち込む第一歩は, 開発庁,フランス開発庁,カンボジア衣料品メー 政策の設計と執行についてジェンダーの次元を理解 カー協会,カンボジア政府,国際的なバイヤーに することである.つまり,すべての国家機関がジェ よって資金援助が行われている 61. ンダーのレンズを持つべきである.例えば,そのよ  スリランカのアパレル協会フォーラム――35 億 うなレンズがあれば,女性の司法アクセスを制限し ドルの衣料品業界を代表する上部団体――は,「良 ている法廷手続きや,政府政策が及ぼすインパクト 心と思いやりのある衣服」を作るために,2006 年 の男女別評価を許さない統計データ収集システムの に「罪のない衣服」プログラムを打ち出した 62. 存在を暴露することができるだろう(第 9 章).政 カンボジアの場合と同じく,メディア・キャンペー 府は特に女権を促進するために,しばしばジェン ンはスリランカのアパレル工場――主として女性を ダー機構と呼ばれる特殊機関を設立こともできる. 雇用――を倫理的な事業であるため,その製品は競  ジェンダー平等の進展は必ずしも大規模な措置 争的な国際市場において傑出するだろう,という形 を必要としない.ジェンダーに中立的な介入策も で描こうとしている.例えば,MAS ホールディン ジェンダーへの関心が配慮されていると,より戦 グズはトゥルヒリヤに最先端の工場を建設して,同 略的で効果的になり得る.例えば,ペルーにおけ 国の社会的責任の実績を誇示している 63.しかし, る土地権利付与プログラムでは,女性が直面して 労働条件はさまざまである.残業の義務を伴う週 6 いた制約を撤廃する規定を含めることによって, 日間の労働と途切れなく連続的なシフトで働くこと 共同所有の割合を引き上げた(ボックス 8.9).ま を要求している工場もあれば,遅刻・私語・トイレ た,母親の労働市場参加率が上昇する一方で出生 休憩に関して労働者を罰する工場もなかにはある. 率が低下した 68. このような工場は古く,小規模で,高所得国で法人 化された企業の所有にかかわるものではない可能性 ジェンダー平等を促進する国家組織 が大きい 64.したがって,外部の基準はそれが地 –   過去 20  30 年間にジェンダー機構――ジェン 元の環境に社会的に根付いていない場合,有効性に ダー平等を推進し,女性の地位と権利を改善するた 限度がある.また,高度に競争的な商業環境下で, めの公式的な政府組織――が輩出している.これは 順守させるためのコストとの相対比で収益率が不確 女性団体からの要求や,ジェンダー平等に向けて政 65 実であるため,倫理的な懸念は脆弱になる . 府に指導力と決然とした措置を求める,という国際  にもかかわらず,不祥事,差別,セクハラなどに 的コンセンサスに対応したものである 69.それら 関して企業に苦情があれば,消費者や投資家にとっ はジェンダー別の政策分析を提供し,国家制度が てその会社の魅力は減じるだろう.2009 年 7 月, ジェンダーに敏感な政策の設計や実施を行うのを支 デル・コンピュータは研修,給与,昇進に関して, 援する.提案された政策措置が女性と男性にもたら CHAPTER8 ジェンダー改革の政治経済学 349 図 8.5 国家の措置はジェンダー推進政策の設計・採用にとって重要である ンダー平等 政 策 ジェ 制度 非公式 経済機会 家計 市場 エージェ 資質 ンシー 公 ジェ 式制 ン 度 その ダー機: エー 他 の 構 ジェ 公的 、 ンシ ー 成 長 出所:WDR 2012 チーム. ボックス 8.9 ペルーにおける土地所有権付与――ジェンダー中立的なプログラム向けにジェンダーのレンズを使う  ペルー政府は 1992 年に,土地保有権の確実性を高めて 権を支援する全国的な啓蒙運動を指揮して政府の努力を補 農業の生産性と生産高を引き上げるべく,特別土地所有権 強した.同ネットワークは 1998 年に PETT 高官に対し 付与・地籍プロジェクト(スペイン語の略号 PETT)を打 て,合意婚における女性の地権に関して明確化を求めて陳 ち出した.同プロジェクトはジェンダー中立的であると分 情し,そのような女性は共同所有者として認識されるべき 類されている.というのは,実施のためにジェンダー固有 であると主張した.広く流布することになった行政指針を の規則は何も採用されていなかったからだ.女性に対する ジェンダーの視点から起草したのは同 NGO であった.ま あからさまな差別はないので追加的な措置は必要ない,と た,PETT 官吏向けにジェンダー認知研修を実施した. いうのが政府の論拠であった.  PETT のおかげで土地所有権の分布は改善した.男性が  しかし,農村部の女性は非識字率が高く,1 つの言語し 世帯主の家計の区画については,その 56%が 2004 年に か知らない可能性が男性よりも高い.合意婚している女性 は共同所有となっていたが,これは PETT で権利を取得 は排除に対しても弱かった.身元証明書類の欠如も問題で しなかった対象グループ家計における 49%との比較では あった.というのは,土地の登記には身元証明が必要なた 大幅な上昇であった.さらに驚いたことに,共同所有比 めだ. 率が 2000 年の全世帯の 13%から 2004 年には 43%に  ペルーの女性センターであるフロラ・トリスタンによっ 急騰した. て組織化された NGO の農村女性全国ネットワークは,女 出所:Deere and León 2003; Orge Fuentes and Wiig 2009. す意義を評価すれば,格差を削減しながら,すべて 行政命令,官僚的なルールによって設置されている の人々に利益をもたらすことができる. 場合もなかにはある.新しい形態としては,一部の  ジェンダー機構は公式の省庁から,行政府・立法 サハラ以南アフリカ諸国とポーランドの全権代表省 府における各種委員会,諮問委員会,研究所,市民 にみられる「担当者」や「窓口」がある. の行政監察事務所などまでを含む.正式な制定法,  ジェンダー機構はさまざま使命を帯びることが 350 世界開発報告 2012 ボックス 8.10 ジェンダー機構の実際 フィンランド.1970 年代以降フィンランドでは,男女平 –  るだけでなく,1988  2006 年に実施された 4 つの国家的 等評議会――さまざまな政党からの政治的候補者で構成さ なジェンダー平等計画を設計して推進し,更に評価する権 れる行政委員会――には財源がほとんどなく,スタッフが 限があった.しかし,政策提案を行う法的な権限の欠如と –  5  8 人という小さな世帯にすぎない.1970 年代にそれは 政治力の中枢からの距離によって,このような役割の遂行 主に象徴的な存在として,職業訓練に関する議論に限定さ が阻害された.有効性を高めるために,2004 年に労働社 れていた.1980 年代になると,首相府から社会保健省に 会省のなかのより広範な平等政策事務総局の一部となり, 移動した.中央権力からは離れたものの,社会問題に関す 2008 年には平等省が創設されるとその一部となった.研 る政策策定のための重要な領域の1つの内部に入り込むこ 究所がジェンダー問題を主流化するのに最も成功したの とになった.また,ジェンダー平等に関して改革を提案す は,1986 年に中絶法案に関する議論の際である.より最 るという法的な責任を負うことになった.新しい配置の下 近では,ジェンダーに基づく暴力を取り締まる法律や男女 で,評議会は売春,職業訓練,政治的な代表などに関する 平等に関する法律の審議が指摘できる. 審議の面で,より大きな成功をおさめた.1995 年には新 しいリーダーシップの下で,議会におけるジェンダー別の チリ.国家女性事業局(SERNAM)はプロジェクト実施 割当制を推進した.その成功は次のことに由来している. に向けて限定的な負託しか享受していない部門別省庁にお すなわち,ジェンダー問題に関する法的な責任,提案権, いて,ジェンダーを主流化することに焦点を置いている. 社会政策のシステムに対する近接性,意見のはっきりした そのトップは今や大臣の地位にあって閣僚のメンバーであ リーダーシップ,議会における同盟者の存在など. る.その地位を得たことで,担当大臣との部門間政策対話 に影響を及ぼす能力が著しく改善した.独立した予算もあ スペイン.さまざまな政党からの政治的候補者で構成され る.しかし,人材の構造――総員 270 名中正規雇用はわ る行政委員会である女性研究所が 1983 年に文化省の行政 ずか 10%――と専門要員の不足が組織としての能力を制 局として設置され,後に社会問題省に移動した.同研究所 約している.政権の変更に伴う再編で制度がさらに弱体化 には最初から差別の苦情に対処する措置を勧告及び執行す して,重要な仕事の停止につながってしまった. 出所:McBride and Mazur 2011; World Bank, IADB, and SERNAM 2007. できる.国連の北京行動綱領に概要が示されてい がって,その場合には,スタッフがほとんどいな るような,具体的なジェンダー平等政策に焦点を い,資源が乏しい,政策決定に影響を与えるのに限 当てているものもなかにはある.「ジェンダーの主 定的な手段しかもっていない弱い機関にとどまるだ 流化」を通じて統治のあらゆる分野に,ジェンダー . ろう(ボックス 8.10) の視点を挿入しようとしているものもある.その  ジェンダー平等のための国家機関が成功するため アプローチには,政策の採用・実施の促進,評価 に決定的に重要なのは,次の 6 つの組織面での特 の実施,サービスの提供,啓蒙,NGO の支援など 徴である 70. が含まれる.  ある 1 つの組織形態が他の形態よりも一貫して • 使命の明瞭性と期待される機能についての明示 成功しているということはない――法定機関か,中 的な理解が必須である. 央集権型か,十分な資金があるかなどは関係ない. • 組織構造は期待される機能と整合的でなければ 中央執行委員会がある国もあれば,省庁ないし官僚 ならない.例えば,アメリカは労働(労働省の の担当部署がある国もある.3 つすべてを備えてい 女性局)や保健(保健・社会福祉省の母子保健 る国もあれば,単一の問題――労働・保健・教育な 局)など具体的な政策分野に深く焦点を当てる どに関して――を担当する一連の諸機関を擁する国 ために,単一問題担当部局を複数設置するとい もある.機構は中央レベルよりも地域や地方の政府 うモデルを採用している レベルで活動的なこともある. • 政策提案にかかわる法定権限と行政府ないし中  しかし,ジェンダー機構はジェンダー平等のため 央執行部との近接性が,政策採用の可能性を高 の権威をもった国家内の経路というよりも,「近代 める. 的な」ごまかしであることも時としてある.した • ジェンダー平等の目標を公約し,意思決定者や CHAPTER8 ジェンダー改革の政治経済学 351 潜在的な同盟者との関係で政治的な名声を有し ボックス 8.11 ウガンダの離婚法における法廷と憲法上 ている機略縦横の指導力. の挑戦 • 機能するためには財政的な資源にかかわる裁量  2003 年にウガンダの憲法裁判所において,ウガンダ女 が必須である(政策決定によっても手の届かな 性弁護士協会は差別的な離婚法は憲法違反であると主張し, い分野の NGO を支援するための予算を含む). 認められた.イギリスの 1857 年版婚姻法――イギリスで • 市 民 社 会 グ ル ー プ と の 戦 略 的 な パ ー ト ナ ー はかなり以前に改正されていたがウガンダでは依然として シップは協調的な行動と唱導を涵養できる. 適用されていた――の下で,夫は姦通に基づいて離婚の獲 得が認められていた.しかし,妻は離婚を獲得するのに加 さらに,このようなパートナーシップがあれ 重姦通(姦通に加えて,近親相姦,重婚,残酷,遺棄など ば,女性問題のために話す正当性を高めるこ もう 1 つの罪)を証明しなければならなかった.判事は次 とができる. のように裁定した.この処置の違いは男は女よりも優れて いる,という 20 世紀以前のイギリスの考え方を反映したも 法律適用におけるジェンダー推進 のであって,1995 年のウガンダ憲法に根付いている男女 間の平等と非差別という近代的な概念とは到底相容れない.  司法の役割は執拗な紛争に対して,公平で,最終 出 所:Uganda Association of Women Lawyers v Attorney General 的な,執行の可能性が高い形で,権威ある決定を下 (Constitutional Petition No. 2 of 2003) UGCC1. すことにある.したがって,誠実に運営されている 裁判所は,ジェンダーの偏向やその他のあらゆる偏 見なしに機能している場合,社会的変化の強力な動 における不平等な相続権など,ジェンダーに基づい 因となり得る. て差別している法規定や国家措置を無効にする力に  なぜ司法は重要なのか? どの国でも法廷を直 なっている 72.バーレーンでは,女性が国籍を自 接利用する人の割合はごく小さいものの,司法の 分の子供たちに伝承させられないことに取り組んだ 影響力はそれに直接接触した人を超越する.みず 裁判事件が係争中である.以前の裁定に基づいて政 からの決定を通じて法を一貫して信頼できる形で 府は,外国人と結婚したバーレーン人の母親の子供 執行している法廷は,ほとんどの市民や機関の将 たちに対する政府サービスに関して,政府の手数料 来的な言動に影響を与えるだろう.法定が首尾一 を免除することにしていた 73. 貫した予測可能な決定を下しているコミュニティ  一部の諸国では,法律が欠如している場合,法 では,コミュニティのメンバーは通常は法廷が罰 廷が指令や指針を制定する.インドの最高裁判所 したり,無効にしたりする可能性がある言動は回 は,性的虐待は憲法および国際条約の下で違法で 避しようとするだろう. あると宣言しただけでなく,すべての職場や他の  司法自体はジェンダーに関して漸進的な変化の牽 機関で――官民を問わず――順守すべき指針を制 引力,あるいは変化をもたらす国家の手段になり得 定して,議会が法律を成立させるまで適用可能と る.当該国の動きと特異性が,法廷が変化にどのよ した 74.別の事例で,同裁判所は妊産婦・幼児の うに,また,どの程度貢献できるかに影響する―― 死亡にかかわる多種多様な政府制度を改善するよ 司法の他の国家機関との関係者,法廷の権威の正当 う指示を与えた 75. 性,法廷自身の独立性,ジェンダー平等を執行可能  特別法廷(家庭裁判所や強姦・性犯罪裁判所な な権利として認識している明示的な法律の存在など ど)や特別制度(宗教ないし慣習法の法廷に留保 すべてが,行動に向けて司法が影響力を発揮できる されている家族問題)は,結果に影響を与え,権 範囲を左右するだろう. 利の内容を形作ることができる.このような代替  法廷には典型的には憲法や法律を解釈するという 的なメカニズムは,司法のなかのジェンダー担当 独占権がある(ボックス 8.11).例えば,ボツワナ 部署とともに,法の適用に関してジェンダーに敏 の高等裁判所と控訴裁判所は自国憲法は性差別を禁 感な環境を支援することができる.例えば,第 4 止しているものと解釈した.そのような差別が憲法 章で指摘したように,女性が司法にアクセスでき 違反であると明示的に規定されていなかったにもか る場合でも,司法制度を利用する能力はジェンダー 71 かわらずにそうしたのである .法廷はネパール の規範や感受性によって害されている可能性があ 352 世界開発報告 2012 ろう.性的暴行を受けた女性は公に証言すること ア・チェコスロバキア・ハンガリー・ポーランド には消極的であろうから,非公開の部屋での証言 では,90%の女性が雇用されていた.女性は無料 を認めれば,もっと多くの性的暴行事件が法廷で の医療ケア,長い出産休暇,国家後援の育児などを 円滑に裁かれるだろう. 享受していた.議会では割当制のおかげで,政治 制度のなかである程度の発言権をもつことができ た.しかし,女性の代議員はロシアでは 1987 年の 機会の窓をとらえる 35%から 99 年の 10%へ,スロバキアでは 30%か  ジェンダー政策に向けた機会の窓は,自然災害な ら 13%に低下した.公式雇用部門における採用は ど思わぬ状況に起因する場合がある.あるいは政治 男性に大きく傾斜した.リトアニアやポーランドで 的,又は経済的な状況の変化からも生まれる.さら –  は,デイケア・センターの半分が 1992  1994 年に には,国際機関の唱導や世界的領域での手本を契機 閉鎖された.また,ブルガリアでは,出生率を引き に開かれることもある. 上げるためのスローガンは,女性に「家と家族のと ころに戻る」ようせき立てた 78.つまり,東ヨー 地元の混乱に対応する ロッパにおける資本主義の台頭と新しい政治秩序  一度限りの事象が変化を生み出す触媒になること は,資質,エージェンシー,経済機会の一部の側面 がある.ニカラグアでは 1998 年に,ハリケーン・ について,女性を後戻りさせたのである. ミッチが家庭内暴力に関して国民的な対話の条件  社会的・政治的・経済的な変化がなくても,多種 をもたらした.「遭遇地点」という NGO は,ハリ 多様な主体の相対的な政治力が変化すれば,改革の ケーン・ミッチが後に残した絆の必要性をベースに 余地を開けることができる.モロッコでは,女性団 して,「女性に対する暴力は男性が防止できる災害 体による 10 年以上に及ぶ努力によって,新しい家 である」というスローガンを掲げてキャンペーンを 族法典が大衆の支持を背景に,2000 年には国王に 76 行った . よって,議会では全員一致で承認された 79.法律  政治的な移行は幅広い転換的な改革に向けた余地 は女性の最低結婚年齢を 18 歳に引き上げ,一夫多 を提供することができる.1975 年のフランコ将軍 妻制を抑制し,離婚手続きの開始を女性に認め,女 の死は,スペインで社会的風景が劇的に変化するド 性が子供の保護権を保持できるようにし,相続権を アを開けた.フランコ時代には避妊は禁止され,既 改善した 80. 婚女性は経済機会に関与し,財産を所有し,旅行を するのに夫の許可を必要とした.民主主義を受け 移行努力に乗じる て,普及していた法典が速やかに転換し,社会的な  国際的ネットワークが,国際的なお手本と同じよ 期待に追い付くことが可能になった.配偶者の許可 うに,世界中にジェンダー問題を普及させる牽引力 を必要とする制度は 1975 年に廃止され,姦通関連 となっている(第 6 章).改革指向型の政策立案者 法や避妊具販売禁止は 1978 年に撤廃された.離婚 は,世界中の諸国における成功や失敗に合わせて調 も 1981 年に合法化され,特定の場合――強姦,奇 整している.国境を越えて政策シフトを行えば,自 形胎児,母親の生命救助のためなど――における中 国における受容性と正当性を高めることができる. 絶の合法化が 1985 年に続いた.世論は大体におい というのは,マスメディアと通信がめまいを起こす て要求次第の中絶には反対のままであった.これ以 ほどのスピードで深く浸透しており,このことが新 降,特に既婚者を中心に女性が労働力に参加するよ しいアイディアの普及を円滑化するからだ. うになったことを受けて,雇用におけるジェンダー –   1930  1990 年の間に,約 20 カ国が政治職につ 77 格差は大幅に縮小した . いて女性代表者を増やすために割当制を採用した.  しかし,移行には逆戻りのリスクが伴う.鉄の 1990 年代になるとジェンダー割当制は 50 カ国以 カーテンの崩壊は,東ヨーロッパの女性が共産主義 上に拡大し,2000 年代に入ってから追加的に 50 の下で享受したジェンダー平等という利益の一部を カ国が割当制は承認した 81.1997 年 11 月,南部 失うということを意味した.1980 年代のブルガリ アフリカ開発共同体(SADC)に加盟する諸国の首 CHAPTER8 ジェンダー改革の政治経済学 353 長は「ジェンダーと開発に関する宣言」を採択し ボックス 8.12 フィジー:家族法におけるジェンダー平 て,2005 年までに意思決定の地位について女性代 等の牽引力としての国際規範 表者を 30%にすることを公約した.2005 年には  フィジーの CEDAW 批准と同条約順守にかかわる憲法上 2015 年の目標を 50%に引き上げた 82. の公約が,2003 年の新しい平等な家族法の成立にとって  国際的なネットワークの力の多くは,国際的な女 決定的に重要であった. 性団体,国連,国際的な開発協力機関から出てく  パートナーシップの平等と財産に対する未払い拠出の原 る.米州におけるジェンダー平等政策を議論・策定 則は認められておらず,離婚は取得が困難で,女性は家か ら追放されることが可能で,離婚後の生計費は限定的で執 するために,公的なフォーラムとして 1928 年に創 行が当てにならなかった.家族法の改革はフィジーが条約 設された米州女性委員会(CIM)は,女性の人権に に加盟した 1995 年に始まったが,2000 年には市民の暴 対する認識を確保するための初めての政府間機関で 動で頓挫した.静寂が戻ると,改革に対する抵抗が熾烈に あった. なった.1990 年代半ばに家族法改正委員長イムラナ・ジャ  国際的な NGO や女性団体のネットワークは,改 ナールは,CEDAW の批准と 2002 年の CEDAW レビュー が反対を克服するのに効果があったと述べている.支持者 革に拍車をかけ,それをモニターすることについて はその当時有効であった憲法によって勇気付けられた.特 同盟者になり得る.地元や地域,国で活動し,現地 にジェンダーに基づく差別を禁止していたからだ. で大きな存在感を有し,地元の状況に関する深い知  新しい家族法は次の特定の規定は CEDAW の規範を充足 識をもっているこのような団体は,さまざまな政策 するものであると指摘している.財産分与においては金銭 的・非金銭的な貢献度を考慮に入れる,貢献度の平等を前 対応がもつジェンダー別のインパクトを政府が評価 提とする,状況にもよるが,いずれかの配偶者からの執行 するのを支援し,優先分野における政策変更を陳情 可能な離婚後の生計費など.さらに,結婚年齢が 2009 年 することができる.国際的な開発パートナーも,長 に男女ともに 18 歳に引き上げられた. 続きする経済的・社会的な変化をもたらす政策革新  2010 年のレビューで女性差別撤廃委員会は,条約を順 守して家族法を改正したことについて国家を賞賛する一方, に向けたアイディアの宝庫となっている.彼らは 相続の慣行が問題として残っているとの指摘を行った. ジェンダー不平等に取り組むのに有望なアプローチ 出所:Byrnes and Freeman 2011. について,強硬な唱道者であると同時に後援者でも あり,個別部門におけるジェンダー問題を主流化す るための手段を提供し,ジェンダーと開発に関する 意識を高めるための研修を実施している(第 9 章). 会議は各国政府や社会的主体が,懸念を表明し,意  女性差別撤廃条約(CEDAW)を初めとする国際 識を高め,国際的な経験を学び,弾みを付け,国内 条約が,ジェンダー平等に向けた国際規範を明確化 的にジェンダー平等の課題を推進する圧力をかける する包括的な枠組み――国際的な行動規範――を提 政治的な余地を開けてくれた 83.CEDAW など女権 供している.CEDAW は協議の便宜を図り,良い慣 にかかわる条約の批准は,このような主要な国際的 行の模範を提示し,技術援助に関する協力を刺激し 人権会議の時期に集中している(図 8.6)84. ている.多くの諸国におけるジェンダー改革にとっ  各国政府,非国家主体,国際開発社会の相互間の てチャンネルとなってきている(ボックス 8.12). 相乗作用には強力なものがある.第 1 に,CEDAW ただし,公約を維持しない国もなかにはある.女性 とミレニアム開発目標は具体的な標的や期限に結び 差別撤廃委員会(CEDAW)による監視と規則的な 付けたジェンダー平等の目標を明確に規定すること モニタリングが,各国政府にみずからの実績につい によって,相互の説明責任の枠組みを提示してい て反省し,委員会の勧告案のなかから可能な行動の る.ともに正確な目的を達成するために時限性のあ 選択肢を引き出す機会を提供している. る行動を取るよう,各国政府と国際的利害関係者を 1975 年,1980 年,1985 年,1995 年に開催され 結集している.第 2 に,NGO と国際的パートナー た国連の世界女性会議も――特に 1994 年にカイロ は国際的な女権体制の有効性にとって枢要であり, で開催された国連人口会議と同じく――,女性の政 相互に説明責任の枠組みを補強してきた。例えば, 治的・経済的・社会的な地位を改善するための各国 コロンビアで CEDAW の傘下にあった現地の女性団 および国際的な支援を活性化した.このような国際 体によるモニタリングや唱導が,1990 年に制定さ 354 世界開発報告 2012 主義を経て,事件は法廷外で解決 図 8.6 女権増加に向けた進展は主要な国際人権会議の時期に集中している された 87. 25 1980 年第 2 回世界女性会議(コペンハーゲン) 20 1985 年第 3 回世界女性会議(ナイロビ) CEDAW批准国数 1993 年世界人権会議(ウィーン) 変化への経路 15 1994 年国際人口開発国  ジェンダー平等の改善に向かう 際会議(カイロ)および 10 ための経路は 1 つだけではない. 1995 年第 4 回世界女性 会議(北京) というのは,政策の変更というの 5 は,適合的で複雑なプロセスだか らだ.先進国と途上国とでは進展 0 は違ったルートをたどっており, 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 批准年 公的措置も異なっている.政府は 家族法や財産権の変更,労働市場 出所:Byrnes and Freeman 2011. における差別禁止法制,より対象 を絞った介入策などを通じて,幅 れた憲法にある生殖保健の保証の拡充に向けて情報 広い範囲のジェンダー平等化政策を採用してきた. 提供を行い,避妊具へのアクセスの増加を円滑化す 女子の教育や女性の賃金雇用に補助金を供与した国 85 ることになった . もあれば,育児向けの現金給付や新しい父親向けの  差別禁止条項と最低基準を通じた貿易及び経済 育児休暇を実験した国もある.改革の順序も国ごと 協力協定は,ジェンダー改革を広げるためのもう 1 に異なるし,それがジェンダーの成果や機会に及ぼ つの経路である.例えば,1999 年 9 月,アジア太 したインパクトのペースと深さも同様である.先進 平洋経済協力会議の加盟国大臣は「女性統合のため 国においてさえ,ジェンダー平等の目標は――数十 の枠組み」を承認して,その効果的な実施を確保す 年にわたるキャンペーンと改革にもかかわらずに― るためにジェンダー統合に関する特別諮問グループ ―仕掛品にとどまっている. 86 を創設した .  このような一連の経験は,国内的にも国際的に  多くのこのような協定の下では,非順守は経済的 も,政策措置に対する継続的な要請を映すものであ 利益の削減,あるいは制裁の適用に帰結する可能性 る.家庭内暴力など特に一見では変化に抵抗のある がある.北米労働協力協定に付随する合意にある労 領域について,ジェンダー平等の改善を支持し促進 働基準の違反があったため,国境を越えた法的措置 するためには,指導力,市民の積極的な行動,政策 と社会的動員につながった.メキシコに所在するア 交渉,有効な実施管理が必要不可欠である. メリカ系の自動車部品メーカーの女性従業員が,セ  以下で検討するのは第 7 章ですでに紹介した, クハラの苦情をメキシコ当局に申し立てたのであ 政策改革に至ることが可能な 2 つの経路である. る.捜査期間中に,親会社――アメリカン・ユナイ ジェンダー政策は支配的な社会規範のなかで機能 テッド・グローバル社――は工場を閉鎖して当該女 し,台頭してくる社会的な要請に対応し,幅広い制 性を解雇した.すると,セクハラ訴訟がロサンゼル 度的・規範的な環境の変化を反映しながら,「漸進 スの上位裁判所に対して起こされ,メキシコ法に基 的」になることがある.代替的には,政府の措置は づけば女性に対する解雇手当が未払いになっている 「転換的」で,既存のジェンダー力学に変化をもた との申し立てがなされた.カリフォルニアに本拠を らそうとすることがある.実際には,漸進的な政策 置くマキラドーラ労働者支援委員会の援助を得て, が性格として転換的になることがある.一方,転換 全米自動車労働組合は不公正な労働条件下で作られ 的な政策はもっと控え目な結果の達成に失敗したり た部品を使わないようにと,クライスラーやフォー 成功したりすることがある. ド,GM に対して契約にある条項の執行を追求した. 8 カ月に及ぶ法的闘争とコミュニティの積極的行動 CHAPTER8 ジェンダー改革の政治経済学 355 漸進的な変化――台頭してくる社会的な要請に対 たアジアで唯一の国である.高度経済成長,女性の 応する 労働力参加の増大,女性の教育水準向上などにもか  多くの政策改革は既存の経済的・社会的な環境の かわらず,1990 年代半ばまで息子選好が継続した. 変化に追随する.社会規範というのは驚くほど安定 それまでの政策介入は儒教の伝統を強化し,迅速な 的で,その長寿がその強靭性をさらに補強する.し 開発に財源を振り向けた.1990 年の家族法改正で かし,社会規範は不変ではない.言動のシフトは極 は父系相続と並んで男性世帯主が維持された.子供 めて素早く起こって,一度限りの,あるいは個別の は離婚後は父系親族に所属した.しかし,工業化と 言動が臨界質量的なアピールを集めた時には,文字 都市化が社会における規範の変化をもたらし,ただ 88 通り転換点に達することがある . ちに態度の転換につながった.市民社会は家庭生活  政策変更というのは,市場や公式制度,及び非公 や公的生活のなかで女性の弱者扱いを支持している 式制度相互間の内部的な緊張を解消するための手段 法律を改正するよう,政府に対して圧力をかけ始め として生じる.換言すれば,政府の措置というの た.2005 年に最高裁判所は次のように裁定した. は,台頭してきている,あるいは確立している社会 すなわち,女性は結婚後も実家のメンバーにとどま 的要請に対応したものである.そのような変化を起 ることができ,子孫のケアにかかわる男女の権利と こす――政府に明示的な要求をすることを通じて直 責任は平等である 90.このような価値観や娘の地 接的に,あるいは,広範囲にわたる社会的理解を変 位の変化を受けて,今度は息子の選好が漸進的に弱 えようとすることによって間接的に――ことこそ くなっている. が,まさに,ほとんどの社会運動や国際的なキャン  ジェンダー政策が社会的な合図やヒントに従う場 ペーンの目的である(ボックス 8.13). 合,社会的な期待と政策設計との間にある整合性の  政策の策定と実施は,もしコンセンサスのベース おかげで,通常は政策の意図と成果の収斂が容易に がすでに存在しているのであれば,異議や政治的な なる.チュニジアでは波状的な政策改革を受けて, 抵抗に遭遇する可能性は低い.1906 年に『イギリ 家族法の自由化を求める社会的な圧力とコンセンサ ス婦人レビュー』はフィンランドにおける選挙権拡 スが強まった.後の改革は先の努力の成功や主観的 大を次のように報じていた. . な利益をベースにしていた(ボックス 8.14)  しかし,ジェンダー改革は生気のある抵抗を刺激 奇跡が起こった.…われわれの勝利はすべて して世論を動かそうとすることもある.アイルラ の場合に偉大であるが,提案がほとんど反対 ンドでは 1995 年 5 月に,国民投票を通じて憲法 なしに採択されたことからして,なおさらそ による離婚禁止の撤廃が発表されると,有権者の うだと言える.われわれ女性が感じる感謝に 69%は支持を表明した.しかし,11 月の投票日ま は,われわれはこの偉大な成功に値する価値 でに,離婚反対の協調キャンペーンが世論の支持を がイギリスやアメリカの女性に比べると,ずっ 49%にまで低下させた.最終的には,「賛成」票が と低いという思いが入り混じっている.彼ら 0.6%ポイントの僅差で勝利した 91. はあれほど長いこと,あれほど誠実に,われ  政策の意図や措置も意図せざる波及効果をもたら われよりもずっと多くのエネルギーと忍耐力 して,新しい社会力学や変化のプロセスを発生させ をもって戦ったのだ 89. 「女子割礼は悪いことだと何度も言われてきま  同様に,植民地独立後のアフリカにおける婦人へ したが(私もそれに賛成です),それは良い の投票権付与についてはほとんど異論がなかった. ことだと信じている人もまだいます.だから 普通参政権は独立闘争と一体化されていた.ジェン こそ,こっそりと子供を割礼に連れて行った り,子供がまだ非常に小さい時に自分でして ダー別の市民権という概念は広く否定されたことで . しまったりする女性がいるのです」 あろう.というのは,発言権の平等という一般的な 信条と矛盾したからだ. タンザニアの成人女性  韓国は出生時における男女比率の上昇を逆転させ 356 世界開発報告 2012 ボックス 8.13 社会規範を徹底的に変える  中国で千年間続いていた痛みを伴う危険な慣習である クスルー」の意味)という NGO は,セネガルの一部地域 てんそく 女性の纏足は,20 世紀初頭にわずか一世代で終わりを迎 における女子割礼を撲滅するために,1990 年代に以下 えた.女子割礼は紀元前 2 世紀(紅海周辺部族の風習) のような類似のモデルを採用した. にまで遡ることができるが,セネガルの一部では一世代 の内に破棄された. • 教育.コミュニティ・エンパワメント・プログラム  このような慣習の執拗さは,結婚するグループのメン という革新的な 30 カ月に及ぶ教育プログラムには, バーがもっている信条に原因があるだろう.家計は支配 人権,衛生・保健,識字能力,プロジェクト管理な 的な社会規範を順守する.社会の除け者になりたくない どに関するモジュールが含まれていた. し,婚姻市場でひどい不利に陥るのは困るからだ.もう • 公開討論.次にこのようなモジュールが小グループ 1 つの貢献要因として,唯一の可能な代替策として現状 という環境下で議論された.そのような会合では, 維持が一般的に受容されていることが指摘できる.タン 男女は自分自身,家族,コミュニティの抱負を話し ザニアの女性との面談が示唆しているところによると, 合った.個人や社会のニーズに関する検討を受けて, 多くは割礼しないことが選択肢であるとは考えもしな 個々人は既存の文化的慣行に対する信条を修正する かった.同様に, 「最初に接触した外国人が中国人に,な ことになる. ぜ女性の足を縛るのかと尋ねた際,世界中のすべての人 • 公式の宣言と組織的な普及.新しく確立された理想 がこの慣習に従事しているわけではない,という驚きが に基づいて行動を起こし,コミュニティは公式の宣 彼らの反応であった」 .纏足や女子割礼という慣習は婚姻 言や誓約,近隣コミュニティに同じようにするよう へのアクセスを規制するため,非順守の世帯が増殖する 説得することなどを通じて,女性性器切除の破棄を 可能性は低い.このため,コミュニティのなかでこの慣 調整する. 習の変化が定着するのはむずかしい.  このような慣行が順守の長い歴史の後,速やかな破棄  最初,トスタンは女子割礼の善悪は述べなかった.慣 に至った理由は何であろうか? 行の拒否は女性の決定であった.マリクンダ・バンバラ  近代化はこれとはほぼ無関係のように思われる.そう (人口 3,000 人)の女性は,この慣行の有害な健康被害に ではなく,草の根運動によって信条に社会的な再編が起 ついて仲間の村人たちを啓蒙するため動員を図った.そ こったのである.中国では,19 世紀後半に一連の積極行 れから,この女性たちは主張を広めるためにウンゲリン・ 動主義グループ(反纏足協会や自然足協会など)が台頭 バンバラにまで出張した.彼らの努力は拡大を続けて, した.彼らの戦略にはコミュニティのメンバーが自分の 最終的にはディアブグ宣言につながった.ティエスやファ 娘に纏足させない,自分の息子に纏足の女性とは結婚さ ティックといった地域の 13 のコミュニティからの村人 せないと誓約させることが盛り込まれた.これらの団体 8,000 人の代表者が女子割礼を廃止することを公式に宣 は中国文化としての纏足の短所を宣伝し,誓約の運動を 言した.1999 年 1 月に成立した法律によって,セネガ 推進し,この慣行が国際的に非難されていることをそれ ルでは犯罪行為として,禁固 1  –  5 年の刑罰に処せられる となく伝えた.この慣習の廃止について世論の支持が高 こととなった. まったのを受けて,20 世紀初めに政治的な禁止が制定さ  このような物語は類似しており,コミュニティの行動 れ,それまでの大衆の動員や教育の努力が結実した. が広範な個人の自己実現につながって,それが社会規範  セネガルに本拠を置くトスタン(部族の言葉で「ブレー を変化させたということを示唆している. 出所:Mackie and LeJeune 2009; U.S. Department of State 2001; http://www.tostan.org. ることがある.例えば,離婚法は解消された婚姻の 駕した 92.離婚の合法化は既婚者の貯蓄も増やし 各当事者の利害をそれぞれに保護するもので,財産 た 93.チリでは,離婚法制を受けて既婚夫婦の子 分与,子供の保護,手当の権利などを明記してい 供たちのために学校投資が増加した 94. る.しかし,離婚法は夫婦間の交渉ポジションを変  改革を徐々に段階的に導入すると,あまり抵抗を 化させることによって,既婚カップルの言動に影響 誘発しない形で変化をもたらすことができ,波及効 を与える. 果もうまく管理できる可能性が大きいであろう.政  アイルランドでは,離婚の合法化――それに伴う 策措置は大衆の社会的態度が足場を提供してくれる 婚姻解消のリスク――を受けて,女性の労働力参加 ようなところで始めるとよいだろう.バングラデ が増加した.非宗教的な既婚女性の参加率は 25% シュにおける最近の調査が示唆するところでは,世 上昇して,宗教的な既婚女性を約 10%ポイント凌 帯主(ほとんどが男性)の 3 分の 2 は,娘の相続 CHAPTER8 ジェンダー改革の政治経済学 357 ボックス 8.14 チュニジア――女性の発言と女性の権利  チュニジアでは 1956 年の独立以来,男女平等を推進 女性団体――クラブ・ターヘル・アル・ハッダード,研 するために数回にわたり法改革の波が訪れた.チュニジ 究開発のためのチュニジア人女性協会,チュニジア人女 アの個人身分法は,婚姻(一夫多妻制の禁止を含む) ,離 性全国同盟など――が台頭し,フェミニスト談義が公開 婚,後見,そして,部分的ながら相続などに関する法律 討論の前面に出てきて,女性の権利や問題に光を当てた. の改正を図ったものである.1960 年代におけるいっそ  1993 年には,女性にとって市民権(チュニジア人の うの改革で,賃金の平等,学校教育の義務化,避妊具の 女性は初めて,子供の父親の国籍にかかわらず,海外で 幅広い入手可能性が導入された.このような改革はトッ 生まれたわが子に自分の国籍を継承させることができる プ・ダウン型というレッテルを貼ることができ,急ピッ ようになった)など追加的な権利が保証され,家庭内暴 チで近代化を推進していた国家が主導した. 力や職場の差別に対する保護が導入された.1997 年に  1970 年代に始まって 80 年代に加速したのは女性運動 政府は低所得の勤労女性や離婚女性・子供を支援するた の発展であり,上記のような第 1 波の進展で勢いを得た. め,新しい社会政策を法制化した. 出所:Baliamount-Lutz 2011; Moghadam 2007. 額は息子の半分にとどまるという既存の法規定にも 8.15).ドイツも最近,同じような非譲渡型の 2 カ かかわらず,娘と息子の財産相続権は平等であるべ 月間の育児休暇を導入した.育児休暇を取得する父 きだと考えている 95. 親の割合は 2006 年の 3.5%から 09 年には 16%に 上昇している.さらに,父親の 3 分の 1 以上が付 転換的な変化――もっと大幅なジェンダー平等化 与されている 2 カ月間の育児休暇を超過する休み を引き起こす を取っている.  場合によっては,政府がもっとジェンダー平等  新しい法律の制定などの条件を整備しないで転 的な均衡を誘導するための,社会政策のプログラ 換的な変化を導入すると,政策の意図と成果が分 ムないしアジェンダを提案することがある.この 裂して,改革の持続可能性について疑問が生じる. ような取り組みは社会的コンセンサスに先行する, 言動を変化させるためには強力な執行メカニズム または支配的な社会規範に挑戦するという意味で, が必要かもしれない.逆戻りのリスク――特に執 転換的になり得る.国家政策は適切な言動を合図 行が緩んだ場合――がこの新たな均衡にとって脅 することができるので,言動変化のインセンティ 威となろう. ブを提供し,したがって,報酬と費用の体系に影  例えば,中国の 1950 年婚姻法は見合い結婚を禁 響する.そのような政策が出てくるのは,野心的 止し,離婚を許可し,女性が財産を相続し,自分の な社会政策のビジョンがあり,改革について強力 子供をコントロールする権利の確立を目指したもの な 政 治 意 思 が あ る 場 合 で あ ろ う. あ る い は, ほ である.婦人連合に配属されている女性幹部が,こ とんどの人々にとってあまり重要でない側面をカ の政策の村や家庭における実施を担当した.しか バーする場合であろう. し,同法は男性と年配女性からの根強い抵抗に遭遇  転換的な変化というのは通常は,「執拗な」領域 した.ともに若い娘や義理の娘に対するコントロー における進展に触媒作用を及ぼすことを目指すもの ルを失うことになったからだ 97.婚姻法は見合い である.例えば,スカンジナビア諸国は公的な児 結婚の割合を削減し,初婚の年齢を引き上げ,離婚 童養護を提供したり,父親に気前の良い育児休暇 の選択肢を家族法に盛り込んだものの,同法が家族 を授与したりすることについて最前線を走ってい 制度に対して脅威となり,政治的な不満を生み出し る.1995 年,スウェーデンは父親向けに1カ月の 始めると,その執行は次第に尻すぼみとなった 98. 有給育児休暇を供与した.母親の方が幼い子供の世  政策変更の執行は国家機構の完遂能力と,広範な 話については,父親よりも長い時間を費やしている 社会が改革を受容する度合いによって形作られる. にもかかわらず 96,それは母親には譲渡不可能な 新しい法律は支配的な伝統や社会規範を反映してい 「パパへの割当」といわれるものである(ボックス るかもしれない.しかし,仮にそれが現地の態度や 358 世界開発報告 2012 ボックス 8.15 スウェーデン:父親の関与を奨励する  スウェーデンのオロフ・パルメ首相が 1970 年にアメ  1995 年に父親の育児休暇取得を奨励しジェンダー平 リカの女性団体でスピーチをした際,女性ではなく男性 等を刺激するため,1 カ月の「ダディ割当制」が採用さ について話をしたことで聴衆を驚かせた.講演の題目は れた.つまり,1 カ月分の育児休暇はもはや別の片親に 「男の解放」であり,彼は次のように主張した.すなわち, 譲渡することができなくなったのである.2002 年には 男女がともに二重の役割――家庭と職場で――を分担し 「ダディ割当制」はさらにもう 1 カ月増加された. て初めて,大きな変化が生じ得る.つまり,父親として  2007 年の育児休暇申請者のうち父親は 44%を占めた. の立場では男性にも女性と同じ権利と義務が授与される 1993 年――父親の割当制が導入される前――に生まれ べきである. た子供の父親の約 49%は,育児休暇を 1 日も使わなかっ  母親休暇の父親休暇への転換を受けて,スウェーデン た.2 年後になると,育児休暇を取得しなかった父親は の男性は子育てに積極的に参加するようになった.この わずか 19%に減少した.一方,30 日以上取得した割合 ような変化が起こったのは 1974 年のことで,子供の誕 が 33%から 53%に上昇した. 生に伴う休暇はもはや母親だけに留保されるわけではな  しかし,まだ先は長い.2007 年についてみると,父 く,父親も利用できることになった.時の流れにしたがっ 親と母親の育児休暇取得日数(40 –  60%)が同じであっ て,育児休暇は 1974 年の 6 カ月から現在の 16 カ月に た夫婦の割合はわずか 5%にとどまっていた.2008 年 まで延長された. 7 月に育児休暇のより公平な分割を促すためのインセン  育児休暇を取得する父親の割合はゆっくりと,少しずつ ティブとして,ジェンダー平等ボーナス制度が導入され しか上昇しなかった.両親の間で権利の強制的な分割を主 た.所得が低い方の片親(通常は母親)がフルタイム職 張する意見もなかにはある.親の「選択の自由」に関する に戻って最高 300 ユーロの税控除を享受する一方,別の 白熱した論戦が継続した.それ以降,多くの政府や非政府 片親(通常は父親)は育児休暇を取得するというもので のキャンペーンが父親に育児休暇取得を奨励した. ある. 出所:Nyberg 2011. 慣習と矛盾していれば,単に無視されるか,広く行 女性向け割当制には限定的なインパクトしかなかっ き渡らない可能性があろう.したがって,政策変更 た 101.アフガニスタンでは,国会の議席が女性向 を単に法制化するだけでは十分ではない.ファイナ けに留保されたおかげで,より大勢の女性が政治に ンス,実施,啓蒙運動,執行などすべてが,意図し 参加することが可能になった 102.女性の割当制を た政策変更を支援する必要がある.ノルウェー政府 受けて,政党も新しい世代の女性幹部の訓練に投資 は 2003 年に,会社の役員会について女性の割合を するようになった――遅くではなく速やかに.女性 増やすべく自主割当制を導入した.企業が行動を は政策の領域に新たな視点や新たな優先課題を持ち 起こさなかったため,強制的な割当制が設定され 込むことができる.アルゼンチン,コロンビア,コ た.2006 年にノルウェーでは,株式公開会社の役 スタリカの女性議員は,まさに,女性・家族・子供 員会は 2 年以内に 40%以上を女性にすることが義 の問題に関しては,男性議員よりも多くの法案を上 務化された.2009 年現在,対象となる企業の役員 程している 103. 会に占める女性のシェアは平均でほぼ 3 倍に増加  次のような主張があった.すなわち,社会の 5% 99 した .この成功は厳しい制裁に大きく依存する の革新者が新しいアイディアを受け入れると,それ ことになった.それには非順守企業の強制的な解散 は「根付く」.また,そのアイディアを採用する人 も含まれていた.しかし,ジェンダー別の代表制 が 5%に到達するためには,通常,人口の半分がそ ルールを回避するために,法形態を公開企業から非 のアイディアを「認識」していなければならない. 公開企業に変更した会社もなかにはあった 100. 20%が早期採用者としてそのアイディアを採用し  転換的な変化は経済的・社会的な関係に新たなダ た時,その新しいアイディアは「止められない」と イナミズムを開拓することもできる.政府は新たな いうことになる.転換的な変化というのは体系的に 権利を法制化したり,新しい政策――執行可能なも 革新者と早期採用者を見出すことから生じる 104. のと象徴的なものとがあるだろう――を立法化した りすることができる.ブラジルでは,選挙リストの CHAPTER8 ジェンダー改革の政治経済学 359 注 1. 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CHAPTER9 ジェンダー平等化の推進に向けた世界的アジェンダ 367 ➡ ベトナムでは,15 歳以上の少数民族女性のう 情報フローを強化するための改革――学校と ち約 30%は学校に通ったことがない――これ 教員が学習を引き上げ,子供たちを学校にと は多数民族の女性や少数民族の男性と比べて, どめておくのに,できる限り有効であること それぞれ 3 倍および 2 倍の高い比率である. を確保するため――も支援すべきである.供 ➡ インドでは,人口の最貧 20%層の平均的な男 給がすでに十分な場所では,子供たちの非就 子は 6 年生まで進級するが,女子の場合は 1 学理由は,家計所得が低いことや教育の収益 年生に就学するだけである. 率が低水準なことにあるのかもしれない―― ➡ 2008 年のサハラ以南アフリカ諸国(ベニン, それが男子か女子なのかは,そこでは子供向 チャド,中央アフリカ共和国,コンゴ民主共和 けに他にどのような機会があるかに依存する. 国,ニジェール,トーゴ)では,女子の初等教 そのような状況下では,需要サイドの施策― 育修了率は 75%と男子よりも低かった. ―条件付き現金給付など,経済状況が悪い時 ➡ レソトでは,教育のジェンダー格差は逆転して に子供たちを学校にとどめておくインセン –  いる.15  19 歳の生徒の 7 学年修了率をみる ティブを家計に付与するもの――が,世界中 と,男子はわずか 40%にとどまっているのに の多くの諸国で就学率の引き上げに成功して 対して女性は 70%に達している. いる. • パートナーシップを利用する.万人のための教 なぜ心配するのか?――要約(第 3 章) 育の近道となるイニシアティブは――国際的な • 世界中で教育格差の縮小には著しい進展がみら パートナーや市民社会と一緒になって――,強 れている.同時に,貧しい社会的に疎外された 力なパートナーシップに基づく行動のための枠 人々の間や,経済機会に乏しい諸国において 組みを提供している.教育のミレニアム開発目 は,学校教育水準の低さが依然として問題であ 標(MDG)達成に向けて外部資源を動員する る.教育は男女の経済機会へのアクセスや生産 努力は,緊急の注目を浴びるべきである.未就 性を増加させることができるし,発言権やエー 学女子の窮状は国際的な優先課題ではあるが, ジェンシーを強化することができる.初等及び 多くの途上国では中等学校参加の面では徐々に 中等教育における競争条件を平準化する努力 後れを取っているのは今や男子であり,このト は,グローバル化した世界で決して置いてきぼ レンドを逆転させる国際行動の欠如は著しいリ りを食うことがないように,男女を問わず,ひ スクを提起している.退学や成績不振は危険な どく不利な条件下にある人々に焦点を当てなけ 言動,犯罪,暴力,安全でない性行動に従事す ればならない. る可能性の増大としばしば連動している(後述 . の優先課題 4 参照) 何をすべきか? • 金融資源を供与する. 現在学校に行っていな ●公衆衛生を改善する:清潔な水,衛生設備,廃棄 い女子を就学させるためには,既存の資金供 物の除去,媒介体の駆除 与コミットメントを維持し,拡大する必要が ある.場所によって,このような非就学女子 事実 ――――――――――――――――――――― は就学者と類似しているようであり,供給サ ➡ 5 歳未満の子供が急性下痢に罹る症例が毎年 イドのイニシアティブによって就学率や修了 15 万件発生し,200 万人が死亡している. 率を引き上げることができるだろう.供給サ ➡ 感染症を削減すれば特に女子を中心に幼児死亡 イドでは学校建設が第 1 歩ではあるが,それ –  率を削減することができる.1900  1930 年に だけでは十分でない.十分な教員を確保する 実施された公衆衛生や清潔な水,衛生設備に関 ためには,教えることを期待される水準を超 する大規模なキャンペーンのおかげで,現在の える教育を受けた集団を構築しておくことが 先進国では女性の超過死亡率の歴史的なパター 重要である.ファイナンスは統治や説明責任, ンが払拭された.アメリカでは,この時期にお 368 世界開発報告 2012 ける幼児死亡率の低下は,ほぼすべてがこの し,政策のインパクトをモニターするのに役立 キャンペーンのおかげであった. つだろう.第 2 に,水質に関するフィードバッ ➡ 最大のインパクトは使用地点における清潔な水 クを家庭向けに即時に提供できる製薬革新があ から生じている.水の水源と使用地点の間で相 れば,情報に基づく決定が行えるだろう.例え 当な汚染が発生しているためだ.改善された ば,汚染水は通常はきれいそうに見えるが,汚 水の標本について汚染が発生した地点をみる 染している場合に水の色が変わる丸薬があれ と,源泉 12%,家庭貯水槽 41%,飲料コップ ば,塩素丸薬のような使用点での処理と合わせ 51%となっている. て,より良い供給システムがまだ開発過程に あっても,ただちに改善につながるだろう. なぜ心配するのか?――要約(第 3 章) • 私的な解決策は感染症の苦しみを削減するだけ ●専門的な妊産婦サービスへのアクセスを増やす にとどまる.「外部性」――感染症に罹った人 は他の人に感染させる――と措置から結果まで 事実 ――――――――――――――――――――― の因果経路を学ぶことの困難性の両方のゆえ ➡スウェーデンで分娩中に死亡する女性が 1 人い に,公共投資が必要とされる. るのであれば,アフガニスタンでは 1,000 人, • このような投資は特に女子を中心としながら ソマリアでは 815 人,ナイジェリアでは 495 も,男女双方に利益をもたらす.清潔な水,衛 人,パキスタンでは 122 人の女性が亡くなっ 生設備,媒介体駆除,廃棄物処理の提供はかつ ている. ては,ほとんどの諸国で公衆衛生の標準的な一 ➡ 低所得国における女性の超過死亡率は,先進国 環であったが,保健予算に占める重要度は過去 でも歴史的にはそうであったように,妊産婦 30 年間に低下してきている.そのトレンドを 死亡率と連動している.アフガニスタンでは, 逆転させる時期が来ている. 11 人に 1 人の割合で女性は分娩で死亡し,さ ろうこう らに多くの女性が瘻孔や虚血などの関連リスク 何をすべきか? のせいで重症の機能障害に陥っている. • 金融資源を供与する.単純な目標――「すべて の家庭に清潔な水を,子供が成長するのに清潔 なぜ心配するのか?――要約(第 3 章) な環境を」――を採択する必要がある.この目 • 妊産婦死亡率の削減は女性の教育を増加させる 標を達成するためには,システムを建設及び維 ことができる.というのは,家庭は成人期に生 持するのに膨大な資金調達が必要になる.イン 存の確率が高い女子については投資するから フラの改善用だけでなく,このようなサービス だ. の継続性と持続可能性を確保することができる • 妊産婦死亡率の削減は妊産婦罹病率の削減にも ような説明責任制度用にも,資金調達が必要で つながって,女性はより生産的で健康的な生活 ある.サハラ以南アフリカだけに限っても,清 を送ることが可能になる.分娩に関連した生涯 潔な水の推定コストは年 110 億ドルに達する. にわたる障害が減少するので,女性の労働力参 資金調達の絶対額は大きいものの利益との対 加率も上昇するだろう.データが入手可能な諸 比では小さい.アメリカでは,20 世紀初めの –  国における 1920  1950 年の既婚女性の労働力 清潔な水にかかわる便益費用比率は 23 対 1 で 参加率の上昇は,ほぼすべてが妊産婦罹病率の あった. 削減によっている. • 革新と学習を促進する.次の 2 つの分野が緊急 • そして,削減は可能である.本気になった諸国 の注目を必要としている.第 1 に,水汚染に では,妊産婦死亡率は驚くような短期間で低下 関しては体系的な情報がほとんどなく,衛生設 している. 備となるとなおさらである.そのような情報の 収集と広報活動は国際社会が問題の規模を理解 CHAPTER9 ジェンダー平等化の推進に向けた世界的アジェンダ 369 何をすべきか? ● HIV/ エイズの予防と治療に対する支援を強化する • 金融支援を提供する.多くの妊産婦死亡はもし その妊産婦が病院で出産していれば回避するこ 事実 ――――――――――――――――――――― とができた.ただし,病院には訓練されたス ➡サハラ以南アフリカで HIV/ エイズ感染率が高 タッフと医師がいて,定期的な備品の補給が必 い 諸 国 で は,60 歳 未 満 女 性 の 超 過 死 亡 率 は 要である.提供者は地方コミュニティに説明責 –  1990  2008 年に約 10 倍に上昇した. 任を負っている――重要な保健提供者は「戦闘 –  ➡ 南部アフリカ諸国のなかには 1980  2008 年に 中行方不明者」であることがあまりにもしばし 成人死亡率が 5 倍になって,大虐殺時代のル ばである.もっと資金調達ができれば,妊産婦 ワンダやカンボジアでみられた水準に接近した や乳幼児ケア専用施設のネットワークを確立す ところがある. る助けになるだろう.そのような施設は妊産婦 ➡ 莫大な世界的努力の甲斐があって,治療方法と に産前ケアを提供する貴重な手段を提供するこ その利用可能性の改善につながっている.数知 とができるだろう 1. れない命が毎日世界中で助かっている. • 革新・学習を促進する.多くの諸国では,妊産 婦死亡に関してほとんど知られていないし,妊 なぜ心配するのか?――要約(第 3 章) 産婦罹病となるともっとわかっていない.ま • HIV/ エイズ感染症は特にサハラ以南アフリカ た,データ・システムの不備と不健康は連動す の女性への打撃が大きい.治療の入手可能性が るため,それらの諸国では問題は一層悪くなっ 改善したおかげで,世界中の HIV 感染者の生 ている.したがって人口動態データの改善に投 命が助かっている.しかし,すべきことはまだ 資することが重要な第 1 歩となる.新しい技 たくさん残っている. 術が新しい機会を広げている.例えば,携帯電 話のおかげで,利用者は世界のどこであれ,妊 何をすべきか? 産婦死亡を中央の世界的な開かれたデータベー • 金融支援を提供する.資金供与を増やし,既存 スに報告することができるだろう.このような の努力を維持すれば,HIV の予防や治療,ケ 報告は「妊産婦監査」の引き金を引いて,すべ ア,支援に対する広範なアクセスを,2015 年 ての妊産婦死亡が記録され,公表される.すべ までに確保することができる.新しい戦略的投 ての 1 つ 1 つの死亡を強調したことが,トル 資の枠組みが示唆するところによると,投資 コやホンジュラスといった諸国で,妊産婦死亡 額は現在の年 160 億ドルから 2015 年までに 率を低下させるキャンペーンが成功するための 220 億ドルに増やす必要がある.2015 年以降 重要な部分であった. になると,財源のニーズは低下し始めるだろ • パートナーシップを利用する.妊産婦死亡に対 う.適用範囲が目標に到達し,規模拡大に伴う する関心の高まりを受けて,二国間や多国間機 効率性の利益が実現し,新規の感染が減少し始 関および民間の財団の間で,「開発における大 めるからだ. きな挑戦」というパートナーシップの創設につ • パートナーシップを利用する.世界エイズ結核 ながった.このパートナーシップは説明責任の マラリア基金とアメリカ大統領エイズ救済緊 モニタリングと構築,そして知識の共有にとっ 急計画(PEPFAR)を通じた既存のパートナー て重要である.さらなるパートナーシップには シップは国際協調の輝かしいお手本であり,そ 南から南への知識交換プログラムが含まれる. の維持と規模拡大が必要である 2. これはマレーシア,スリランカ,モルディブ, トルコ,ホンジュラスなどといった諸国――短 期間で妊産婦死亡率を大幅に低下させた諸国― ―が,自国の経験を共有するために世界的なプ ラットフォームに参加したものである. 370 世界開発報告 2012 優先課題 2:女性の経済機会へのアクセスを促進 何をすべきか? する • 金融支援を提供する.現在アクセスのない人や 非公式な取り決めに依存している人向けに,良 ●育児や早期児童開発のプログラムへのアクセスを 質な育児サービスへのアクセスを増やすために 増やす は,往々にして当該政府の資力を超過するた め,追加的な資源が必要であろう.このような 事実 ――――――――――――――――――――― 資源はサービス提供を直接ファイナンスするた めに,あるいは,供給よりも負担の可能性が大 ➡ 6 歳未満児をもつ既婚女性は非余暇時間の きな制約となっているような既存のサービスの –  14  42%を育児に割いている.これに対して, 利用への補助金として使うことができる. –  既婚男性の同水準は 1  20%にとどまってい • 革新と学習を促進する.育児サービス提供につ る. いて成功しているモデルのほとんどは,都市部 ➡ デ ー タ の あ る 113 カ 国 の う ち 62 カ 国 で は, (しかも中所得の)でテストや評価が行われて 育児サービス――公式及び非公式の両方――の いる.しかし,農村部で,あるいは移動性のあ 利用可能性は,コストが高いことや供給が不十 る人たちに機能することと,しないことについ 分であること,あるいはその両方のため,限定 ては,わかっていることは大幅に少ない.国際 的であるか,または非常に限定的である.ま 開発社会はこの分野について,貧困層のニーズ た,同サービスが利用可能な諸国でも,ほとん に取り組むモデルに焦点を絞った実験を支援す どの場合,それは拡大された家族関係のメン ることができるだろう.現状では,彼らは非公 バーによって非公式に提供されている. 式な育児取り決めを使っており,子供当人と世 話をしている人々――姉であることが多い―― なぜ心配するのか?――要約(第 5 章) にとって悪い影響をもたらす懸念があろう.育 • 介護(と家事)の責任におけるジェンダー格差 児サービスの提供には,世話人向けの十分な訓 は,市場性の職業に関係のある重要な固定費に 練を確保すると同時に,地元で雇用を創出する 女性が直面している,ということを示してい 機会として活用できる可能性にも注意を払うべ る.また,女性は柔軟な勤務取り決めを評価 きであろう.そうすれば成功事例は資金調達の し,供給する労働時間が男性よりも短い可能性 窓を経由して規模拡大を図ることができよう. が大きく,質と給与が低い職業に押し込められ る潜在的なリスクを抱えている. ●農村女性に投資する • (補助金付きの)育児サービスへのアクセスと, 市場性の仕事に費やせる時間数の増加,また, 事実 ――――――――――――――――――――― 途上国では公式雇用へのアクセスとの間には相 ➡ 女性は農村労働力の 43%を占めている. 関関係がある.育児サービスの選択肢がない地 ➡ データが入手可能な途上国について,女性は土 域では逆のことが当てはまる――例えば,ボス –  地所有者のわずか 10  20%を占めているにす ニア,グアテマラ,メキシコ,ベトナムでは, ぎない.また,女性が世帯主の世帯が運営して 育児サービスが欠如しているため,母親たちは いる農場は,ほぼすべての諸国で小規模であ 非公式雇用に押しやられている. る.女性の農民や農村部企業家――とりわけ小 • (補助金付きの)育児サービスは,特に低所得 規模企業を経営している人――は,男性の同職 の環境下や貧しい世帯の間では,幼い子供向け 者と比べて,(公式の)信用を享受できる可能 の開発と栄養面での介入策を実施するに当たっ 性が低い. て,有効なプラットフォームを提供することが ➡ 女性は農民として男性より劣っているわけでは できる. ないのに,生産的な投入物や技術へのアクセス が低いため,女性農民の平均的な農業生産は男 CHAPTER9 ジェンダー平等化の推進に向けた世界的アジェンダ 371 –  性よりも 20  30%低くなっている. 電話――へのアクセス,という 3 つの重要な ➡ 女性が携帯電話を所有している割合は男性より 分野における実験を支援することができる.地 も依然として 21%低い.この格差はアフリカ 方的な事情のなかで,女性のニーズに有効に対 では 23%,中東 24%,南アジア 37%となっ 応する新しい事業や提供のモデルを,テスト・ ている.発展途上世界ではほぼ 5 億人の女性 評価することに焦点を置くべきである. は借用によってしか携帯電話を利用することが • パートナーシップを利用する.国際開発社会は できない. 次のことを確保すべくパートナーを組むことが できる.すなわち,成功した革新が農村部の女 なぜ心配するのか?――要約(第 5,6 章) 性向けの新規サービスに確実に成長していくた • 国連食糧農業機関(FAO)によると,女性農民 めには民間部門と,このようなモデルのインパ と男性農民の間で生産的な資源へのアクセスを クトを十分評価するためには学術機関や市民社 –  平準化すれば,途上国の農業生産性は 2.5  4% 会,シンクタンクとパートナーを組めばいい. 上昇する. • 携帯電話へのアクセスや使用は女性――特に農 優先課題 3:発言権やエージェンシーにおける 村部の女性――にとって,時間や移動性の制約 ジェンダー格差を解消する を緩和することができる.それは情報を入手す るのに必要な肉体労働や交通を削減し,資金振 ●女性の司法アクセスを増やす 替のコストを削減し,家庭と職業生活をバラン スさせる女性の能力を引き上げることができる 事実 ――――――――――――――――――――― からである.ボリビア,エジプト,インド,ケ ➡女性差別撤廃条約には 187 カ国が批准している ニアでは,農村部の女性の 40%強が次のよう が,そのような権利は必ずしも有効になってい に断言している.すなわち,携帯電話をもって ない.というのは,女性自身が自分の権利の執 いたおかげで,経済機会と所得に対するアクセ 行を要求し是正を求めるためのメカニズムが, スが増加した.特に女性企業家の間ではそのイ 限定的でしかないからだ. ンパクトが大きかった. ➡多くの場合,権利意識の欠如,直接費用の高さ, • 農村部の女性の手にお金を握らせると,家庭の 移動性の制約などから,女性は積極的に執行を 内外で女性をエンパワーし,他の家族員にも利 要求することが妨げられている. 益をもたらすだろう. ➡さまざまな地域の 9 カ国についてみると,肉体 的に虐待を受けた女性のうち事件を通報した, 何をすべきか? あるいは支援サービスを求めた人の割合はわず • 革新と学習を促進する.女性の農民や企業家の か 10%にとどまっていた. 要求に対応した商品を提供している金融機関は ➡インドネシアでは,離婚訴訟の平均コストは ほとんどない.指導助言サービスや農民野外学 220 ドルと,貧しい女性の月間所得の約 10 倍 校へのアクセスは依然として非常に少なく,そ であった.費用免除が要因となってアクセスが れが提供する情報や資源は女性農民にとっては 増加している. 必ずしも適切ではない.携帯電話は農村に暮ら す人たちに対する情報やサービスの提供という なぜ心配するのか?――要約(第 4 章) 点で,有効なプラットフォームを提供すること • 権利の有効化は女性にとって重要である.女子 ができる.しかし,アクセスに既存のジェン の法的地位が改善すれば,その価値を増やすこ ダー格差があるため,女性にとっては利益が限 とによって,次のように他の変化も誘導する. 定的であるということを意味している.国際開 女子の教育に対する投資が増え,結婚年齢が上 発社会は公式信用へのアクセス,農業の技術や 昇し,妊娠が先送りされる可能性があろう.所 知識へのアクセス,情報通信技術――特に携帯 得や資産に対するコントロールを増やす法律 372 世界開発報告 2012 は,世帯内で女性の立場を改善し,離婚を許容 は女性に対する暴力も多い. する,あるいは円滑化する法律は女性の選択能 ➡ 女性の教育が高まると,人々の態度は暴力を許 力を高めるだろう. 容しない方向へ警戒的になるため,保護的な影 • 法律が有効であるためには,執行が改善され, 響力をもつ.また,カンボジア,インド,南ア 女性の司法アクセスが増える必要がある. フリカ,ウガンダでは,女性の資産所有権と暴 力発生率の低下との間には相関関係がある. 何をすべきか? • 革新と学習を促進する.女性の司法アクセスを なぜ心配するのか?――要約(第 4 章) 改善するためには,アクセスと利用に関する • 暴力は自由の反対である.定義からしてエー ジェンダー別データの収集や公表,法律の起草 ジェンシーを否定する強制力の極端な形であ や施行,及び執行を担当する部署における女性 る.女性はまったくの他人よりも,親しいパー 代表の増加,司法制度における差別的な要素に トナーや知人からの暴力に対して,ずっと大き 対する関心を喚起して,女性の要求にもっと対 なリスクを抱えている.女性は男性よりも親し 応することなどが必要である.国際開発社会は いパートナーによって殺される,重傷を負う, 有望な継続中のイニシアティブの評価に加え 性的暴行の犠牲者になる可能性が高い. て,このような 3 つの分野における革新的な • 暴力の脅威は自由に選択し,資質や機会を活用 アプローチを実施して評価を行い,支援をする する女性の能力に悪い影響を及ぼす. ことができる.そうするに当たっては,法的機 • 家庭内暴力は長期的な健康状態,虐待された女 関の説明責任を高めることに加えて,データや 性の子供に対するマイナスの影響,暴力受容の その他の情報の普及を促進することにおいて, 世代間再生産(次の世代に伝わる)などとも関 特に携帯電話を中心とする技術が果たすことが 係がある. できる役割に関心を払うべきである. 何をすべきか? ●家庭内暴力に関する規範を変える • 革新と学習を促進する.国際開発社会は 3 つの 違った方法で革新や学習を支援することができ 事実 ――――――――――――――――――――― る.第 1 に,継続的なイニシアティブを厳格 ➡ 家庭内暴力に関する世界中の統計を見るとぞっ に評価し,既存データの質を改善することに投 とさせられる: 資する.第 2 に,機能した革新の規模拡大を パートナーのいる女性 10 人当たり少なくと • 支援する.第 3 に,女性に対する暴力に関す も 1 人は,親しいパートナーや人生のある る規範の変化を目指した新しいアプローチをテ 時点で知っていた人によって,肉体的に,あ ストするのを後押しする.新しいプログラムの るいは性的に暴行を受けた経験がある. テストについては,次の 2 種類のプログラム • ポ ーランドでは家庭内虐待事件の発生率は が有望である.すなわち,(カップルを対象と 3%と一見では低いものの,件数では毎日 した)教育と啓蒙運動,及び家庭内で女性の交 1,465 人もの女性が虐待されているというこ 渉力を高める介入策である.両方とも,所得創 とを意味する. 出や資産の所有やコントロールに関する規範, • –  15  49 歳のエチオピア人女性の 81%,1,400 婚姻や離婚,子供の後見に関する法的枠組みな 万人は,夫に異を唱えたり,食べ物を焦がし ど,一部の高水準の決定要因を説明するために たり,あるいは性交渉を拒否したりすれば, は,広い範囲に焦点をあてる必要がある.最後 夫に殴られて当然だと考えている. に,時間や移動性の制約に対処できるように, ➡ 家庭内暴力の発生率は国ごとに大きなバラツキ サービス――警察や司法,保健,社会サービス があり,所得水準との明確な関係もみられな など――の提供者を女性の近くに配置すれば, い.しかし,ジェンダー不平等の大きな社会で 犠牲者を助けるだけでなく,コミュニティの規 CHAPTER9 ジェンダー平等化の推進に向けた世界的アジェンダ 373 範を変化させることにも役立つ.女性が司法制 ムや労働市場を含め,既存の制度によるサービ 度を使えるように,法律事務職員や法律扶助移 スが十分行き渡っておらず,資産に対するコン 動クリニックへのアクセスに焦点を当てた実験 トロールは限定的であると同時に,ネットワー を行うことができるだろう. クへのアクセスは低い. • パートナーシップを利用する.国連の女性に対 • 教育やスキルがますます重要になっている世界 する暴力撤廃信託基金などといったイニシア では,若い男女を学校にとどめておく(トラブ ティブを,国際開発社会は引き続き支援すべき ルに陥らないようにしておく)と同時に,労働 である.同基金は女性――遠隔地の人や疎外さ 市場にスムースに移行していくのを支援すれ れた人口を含む――に対する暴力防止に献身的 ば,ジェンダーの成果と経済効率の両方の改善 な草の根団体に資金を提供している. という面で大きな利益が享受できる. 優先課題 4:ジェンダー不平等の世代間再生産を 何をすべきか? 防止する • 革新と学習を促進する.若い男女は共通する価 値観や抱負をもつ仲間のネットワークにアク ●思春期の少年少女に投資する セスすることで,大きな利益を享受すること ができる.他人から学んだり,鼓舞されたり 事実 ――――――――――――――――――――― するためだ.更に,国際開発社会は「避難所」 ➡ 思春期の非就学者数は初等学校の非就学者数と の創造――共通の目的や期待を有する若者の ほぼ同じである(7,000 万人対 6,900 万人). ネットワークに対する支援を通じて――やお にもかかわらず,この問題は限定的な注目しか 手本の促進に焦点を置くプログラムを中心に, 享受していない.初等学校を修了していない者 実験を支援することができる.労働市場へ移 もなかにはいるが,要するに中等学校を退学し 行しつつある若者も,新規の市場参入者にとっ た者が大半である.十代での妊娠,危険な言 ては特に束縛的になっている可能性のある, 動,働かなければならない(自宅か市場のいず 情報やその他の面での制約要因を克服するの れかで)必要性が,退学理由の大きな割合を占 を助けてくれる介入策から利益を享受するこ めている. とができる.この点で,職業の斡旋や見習い –  ➡ 年齢 15  19 歳の少女約 1,600 万人が毎年母親 のプログラムを含め,若者に対象を絞った能 になっているが,その 95%は途上国で起こっ 動的労働市場政策の実験は,セカンド・チャ ている.これは世界全体の出産の 11%を占め ンス・プログラムの実験と同じく,著しく有 ている. 望なものである.このような 3 つの分野にお ➡ 粗暴犯の加害者であると同時に被害者でもある ける革新的なアプローチは,「思春期の女子イ のは,圧倒的に若い男性である.南アフリカで ニシアティブ」の下で実験と評価が行われて –  は,1982  –  1990 年における 16  30 歳の若い いる場合もあり,さまざまな状況下で規模の 男性の死因は,ほぼ半分が殺人であった――こ 調整と適合化が可能であろう. の年齢層ではこれが第 1 位の死因であった. 優先課題 5:証拠に基づく公的措置を支援する なぜ心配するのか?――要約(第 3,4,5 章) • ジェンダーの成果で「最も執拗な」側面は, ●新たな情報を生み出す ジェンダー不平等のパターンが再生産されてい ることにあり,その点で思春期は特に重要な時 事実 ――――――――――――――――――――― 期である.ジェンダー別の規範や役割がより束 ➡ 検討した 65 調査のうち(各国の家計調査や労 縛的になる一方,危険な社会的及び性的言動の 働力調査,および農村部をカバーする特別調 傾向が増加する.さらに,若者には保健システ 査を含む),土地所有に関する個人レベルの情 374 世界開発報告 2012 報を含んでいるのはわずか 8 調査にとどまり, (例えば死因に関するもの)を埋めるのに必要 耐久消費財や耐久生産財,家畜,その他資産の 不可欠である. 所有に関する情報となるともっと限定的である (ほとんどの場合,65 調査中 1 調査のみ).ま 何をすべきか? た,家計内での意思決定に関する情報も稀少で • 金融支援を提供する.国際開発社会は既存の調 ある.質問の実施そのものが特別調査(人口動 査や各国の情報システムを改善するために資金 態保健調査など)に限定され,しかもしばしば や資源を提供することができる.資産(所有 相手が女性だけとなっている. 権,使用,適切であれば登記の状態,蓄積の経 ➡ 出産や結婚,離婚,死亡(とその原因),及び 路など),家族企業(所有権,意思決定能力, その他の重要な生命事象に関する人口動態統計 ,生活時間の利用,個人的 家族員の雇用など) は,世界中のほとんどの諸国ではいまだに挑戦 な消費などに関する質問を含む,新しい調査モ 課題である.土地や不動産を含め財産権の登記 ジュールが開発できるだろう.明らかな入口点 についても同じことがいえる. は生活水準指標調査,人口動態保健調査,その 他の国際比較調査のプラットフォームであろ なぜ心配するのか?――要約(第 3,4,7 章) う.既存の記録の適用範囲と正確さを引き上げ • ジェンダー平等の進展にとっての重要な課題は, るべく,事務や登記の手続きを簡素化し,デー ジェンダーに関するデータの入手可能性にある. タベースの管理をコンピュータ化することに • 社会的条件や貧困率のジェンダー別分析は,世 よって,各国の情報システムを強化するために 帯主の性別でみて男性世帯と女性世帯の比較に もお金を含む資源が必要である.長期的なトレ 依存しているのが普通である.しかし,世帯主 ンド分析の機会を提供し,信頼できる高質の情 の特性に基づくジェンダー格差の測定は次のよ 報の稀少性を克服するためには,ジェンダー関 うな基本的な前提に基づいている.すなわち, 連データの収集について一度限りの努力から, その前提は家計が同質的な単位である,資源が 持続的な措置に移行することが強調されるべき 平等に共有されている,家計内では不平等が一 である. 切存在しない.これは事実に反する前提となっ • パートナーシップを利用する.国連女性機関― ている. ―ジェンダー平等と女性のエンパワメントを専 • 家計内で何が起こっているかに関する知識は引 門とする国連機関――は,この分野で指導的な き続き,良く言っても不十分であり,悪く言え 役割を果たすことができる.国際開発社会は世 ば存在していない.しかし,本報告書で見てき 界銀行の統計能力構築プログラムなど,この分 たジェンダー格差の多くにかかわる理解と取り 野における既存のイニシアティブを引き続き支 組みにとっては,この知識が鍵となる.次のよ 援し,情報や知識,経験の共有を促進すべく有 うなことに関する情報があれば,個別の格差の 効なパートナーシップを結成するのを後押しす 背後にある最も束縛的な制約要因を特定し,し べきである. たがって,公的政策の設計と実施に情報を提供 するのに役立つであろう.すなわち,多種多様 ●知識共有と学習を円滑化する な資源に関してだれがコントロールしアクセス しているのか,だれが意思決定を行い,その決 事実 ――――――――――――――――――――― 定が同一家計内の他の人々の意見や利害をどの ように考慮しているのか,ないし反映している ➡ 低所得国に関する研究は限定的であり,この知 のか,どのような要因が利用可能な選択肢を形 識は発見及びアクセスすることがむずかしい. 成するのか,などに関する情報が望まれる. –  ➡ 1985  2004 年における 202 件の一流経済誌 • 生命事象と財産権の正確な記録は,既存の法律 を調べたところ,アフガニスタンに関する論 の十分な執行を確保し,重大な知識ギャップ 文が 7 本,チャドについて 1 本,コンゴ民主 CHAPTER9 ジェンダー平等化の推進に向けた世界的アジェンダ 375 共和国 2 本,エリトリア 4 本が見つかった. 体系化される.このインデックス化されて検 すべてが話題になっていたテーマに関するも 索可能なデータベースは,利害関係者や個人 のであった. がジェンダー問題に関して詳細な情報を入手 ➡ ジェンダーに関する情報を検索する,高質の研 するための「ワンストップ・ショップ」にな 究を解析する,機能している地方的なイニシア る.ユーザーのフィードバックやレビューを受 ティブに関する情報を入手するための,体系的 けて双方向サイトが可能になるので,高質な知 な方法がない. 識が濾過され,われわれの理解において世界的 なギャップが存在していることを指摘してくれ なぜ心配するのか?――要約(第 7 章) る. • 情報や知識は既存の問題を十分に診断し,該当  世界的な貯蔵所の第 2 の部分では,新しい する制約要因を特定し,有効な政策対応を設計 技術を利用して,ジェンダー問題に関する知識 するのに極めて重要である. を開放的な登録システムにすれば民主化され • 知識は毎年失われている.というのは,プログ る.インターネットと携帯電話を使って,新し ラムの設計や実施の最前線で活動している企業 いイニシアティブに関する情報を非常に小規模 家や団体は,その知識を世界的なチェーンに でも「クラウド・ソース」にすることができ 沿って「上にあげる」のに体系的な方法をもっ る.これはウシャヒディというオープンソー ていないからである. ス・プロジェクトにおけるシステムに似てい る.同プロジェクトでは,ユーザーは危機情報 何をすべきか? をクラウド・ソースに携帯電話経由で送信す • 革新と学習を促進する.ジェンダー問題に関す ることができる.最前線にいる人々がジェン る知識については,世界的な貯蔵所がない.そ ダー・イニシアティブに関する情報やフィード れがあればジェンダー問題の知識や情報に関す バックを提供できれば,世界中のジェンダー活 る単一の源泉として機能することができるだろ 動に関する知識と認識を増やすことができ,今 うが,それだけでは十分ではなかろう.新しい 度はその情報は何が機能し何が機能しないかに 技術進歩を使ってより民主的で開放的なデー 関する国際社会の理解にフィードバックするこ タ・システムを創設することができる.それが とができる.世界的な貯蔵所は世界銀行のオー あれば,われわれは世界中の最善の実例から学 プン・データ・イニシアティブなど継続的なイ ぶことができる.そのような世界的な貯蔵所の ニシアティブを頼りにすることができるが,そ 第 1 の部分では,レポート,研究,プログラ れでも創設・維持には資金供与の公約が必要で ム評価から,ジェンダーに関する既存の情報が あろう. 注 参考文献 1. High Level Taskforce on International Innovative High Level Taskforce on International Innovative Financing for Health Systems 2009.同タスクフォー Financing for Health Systems. 2009. “Constraints to スの Technical Working Group 1 は,保健システム Scaling Up and Costs.” International Health Partnership, の強化が妊産婦死亡の削減にとっての鍵であると主 Working Group 1, World Health 張している.彼らの原価計算の示唆によると,保健 Organization, Geneva. にかかわる MDG は 2015 年までに年間 360-450 億 Schwartländer, Bernhard, John Stover, Timothy Hallett, Rifat ドルの追加費用で達成可能である. Atun, Carlos Avila, Eleanor Gouws, 2. Schwartländer 他 2011. Michael Bartos, Peter D. Ghys, Marjorie Opuni, David Barr, Ramzi Alsallaq, Lori Bollinger, Marcelo de Freitas, Geoffrey Garnett, Charles Holmes, Ken Legins, Yogan Pillay, Anderson Eduardo Stanciole, Craig McClure, Gottfried Hirnschall, Marie Laga, and Nancy Pedian. 2011. “Towards an Improved Investment Approach for an Effective Response to HIV/AIDS.” Lancet 377 (9782): 2031–41. 377 参考文献についての注  本報告書は世界銀行の各種文献と多数の外部資料に 意見は,世界銀行あるいは本報告書の見解とは必ずし 基づいてまとめられている.背景論文や背景メモを作 も一致しない. 成したのは以下の各氏である.Ernesto Aguayo-Téllez, 「世界中の男女との対話により 21 世紀のジェンダー   Richard Akresh, Stefania Albanesi, Rabia Ali, Diego Ama- を定義する――ジェンダー・経済選択に関する定性的 dor, Brindusa Anghel, Mina Baliamoune, Oriana Bandiera, (“Defining Gender in the 21st Century な国際比較研究」 Sushenjit Bandyopadhyay, Gary Barker, Kathleen Beegle, Talking with Women and Men around the World, A Julia A. Behrman, Cory Belden, Raquel Bernal, María Inés Multi-Country Qualitative Study of Gender and Economic Berniell, Eric Bettinger, Mariano Bosch, Lynn Brown, Choice”)には,以下の方々をリーダーとする世界中 Maurizio Bussolo, Andrew Byrnes, Laura Chioda, Rea Chi- の 各 国 チ ー ム が 含 ま れ た.Chona Echavez and Pierre ongson, Joy Clancy, Manuel Contreras, Maria Correia, Rita Fallavier (Afghanistan); Ugyen Lhamo (Bhutan); Jean- Costa, Andre Croppenstedt, David Cuberes, Jishnu Das, François Kobiané (Burkina Faso); Magaly Pineda and Nancy Daza, Alan de Brauw, Sara de la Rica, Damien de Sergia Galvan (the Dominican Republic); Priya Chattier Walque, Stefan Dercon, Deval Desai, Quy-Toan Do, Juan (Fiji); Sanjeev Sasmal (India); Rizki Fillaili (Indonesia); J. Dolado, Cheryl Doss, Lídia Farré, Luca Flabbi, Deanna Gwendolyn Heaner (Liberia); Dumitru Slonovschi Ford, Marsha Freeman, Samuel Freije, Kate Frieson, John (Moldova); Patricia Zárate (Peru); Samia M. Al-Botmeh Giles, Markus Goldstein, Margaret E. Greene, Nezih Guner, (West Bank and Gaza); Marjorie Andrew and Almah Brian Heilman, Lori Heise, Karla Hoff, Naomi Therese Tararia (Papua New Guinea); Greta Gober (Poland); Hana Hossain, Alejandro Hoyos, Mala Htun, Jikun Huang, Baronijan and Sasa Jovancevic (Serbia); Imraan Valodia Gulnara Ibraeva, Vegard Iversen, Joyce Jacobsen, Riva and Kruschen Govender (South Africa); Mohamed Braima Kantowitz, Harounan Kazianga, Gunnar Köhlin, Michael (North Sudan); Adalbertus Kamanzi (Tanzania); Hhuat Tha Kremer, Maurice Kugler, Neha Kumar, Gunnar Larson, Hong (Vietnam); and Ramzia Aleryani, Sabria Al-Thwar, Kenneth L. Leonard, Andrei Levchenko, Mattias Lundberg, and Mai Abdulmalik (the Republic of Yemen).Paula William F. Maloney, Ghazala Mansuri, Teresa Marchiori, Barros と Rudy Herrera Marmol,および Jane Henrici と Margaret N. Matinga, Amy Mazur, Dorothy McBride, Allison Helmuth が率いた女性政策研究機関(IWPR)の Keiko Mizuno, Anara Moldosheva, Urvashi Narain, Ambar チームが分析を支援した.Amanda Lubold と Charles Narayan, Ashwini Natraj, Anara Niyazova, Anita Nyberg, Ragin が定性的な比較研究に貢献した. Hugo Ñopo, Keiichi Ogawa, Sheila Oparaocha, Mari  本報告書作成チームは世界銀行内外の多数の方々か Osawa, Caglar Ozden, Robert Palacios, Rohini Pande, らコメントをいただいた.貴重なコメント,指導,貢 Subhrendu K. Pattanayak, Piotr Pawlak, Eija Pehu, Ximena 献を提供して下さったのは以下の各氏である.James Peña, David Peters, Josefina Posadas, Agnes Quisumbing, Adams, Theodore Ahlers, Nilufar Ahmad, Ahmad Ahsan, Claudio Raddatz, Johanna Ramos, Nitya Rao, Michelle Shamshad Akhtar, Aysegul Akin-Karasapan, Harold Rendall, Bob Rijkers, Omar Robles, Nina Rosas, Scott Alderman, Inger Andersen, Caroline Anstey, Tamar Rozelle, Mihoko Sakai, Virginia Sánchez Marcos, Carolina Manuelyan Atinc, Julie Babinard, Reena Badiani, Shaida Sánchez-Páramo, Saskia Sassen, Mine Sato, Manisha Shah, Badiee, Cristian Baeza, Svetlana Bagaudinova, Radu Ban, Erin O. Sills, Emmanuel Skoufias, Marc-François Smitz, Elena Bardasi, Julie Barmeier, Antonella Bassani, Kathleen Nana Sumbadze, Marc Teignier-Baqué, Inge Tevden, Beegle, Isabel Beltran, Rui Benfica, Bhuvan Bhatnagar, Zafiris Tzannatos, Tanu Priya Uteng, Limin Wang, Laurel Nina Bhatt, Benu Bidani, Christina Biebesheimer, Dan Weldon, Henrik Wiig, Christopher Wilfong, Tanja Win- Biller, Regina Birner, Gustavo Bobonis, Vica Rosario ther, Firman Witoelar Kartaadipoetra, Michael Woolcock, Bogaerts, Eduard Bos, Maya Brahman, Milan Brahmbhatt, Kohei Yoshida, Takako Yuki, and Linxiu Zhang. Mathieu Brossard, Judith Bruce, Helle Buchhave, Eduardo  背景論文は世界銀行のウェブサイト(http://www. Bustillo, Mark Cackler, Shubha Chakravarty, Nadereh worldbank.org/wdr2012)あるいは世界銀行開発報告事 Chamlou, Meera Chatterjee, Laura Chioda, Yoonyoung 務局を通じて入手可能である.そこで述べられている Cho, Sadia Chowdhury, Luc Christiaensen, Shelley Clark, 378 世界開発報告 2012 Rui Coutinho, Pamela Cox, Jose Cuesta Leiva, Facundo Staritz, Mattea Stein, Zoe Stephenson, Paula Suarez, Sonia Cuevas, Maitreyi Das, Monica Das Gupta, Marieme Esther Sultan, Kazushige Taniguchi, Marcela Tarazona, David Dassanou, Ximena del Carpio, Gustavo Demarco, Asli Theis, Harsha Thirumurthy, Keiichi Tsunekawa, Zafiris Demirguc-Kunt, Jacqueline Devine, Quy-Toan Do, Doerte Tzannatos, Caroline van den Berg, Anna van der Wouden, Doemeland, Jane Doogan, Nora Dudwick, Rosamund Dominique Van De Walle, Linda Van Gelder, Axel van Ebdon, Adriana Eftimie, Cho Eiichiro, Koffi Ekouevi, Mary Trotsenburg, Marilou Uy, Paolo Verne, Joachim von Ellsberg, Kene Ezemanari, Shahrokh Fardoust, Juan Feng, Amsberg, Wendy Wakeman, Jan Walliser, Jill Watkins, Patricia Fernandes, Deon Filmer, Nancy Folbre, Vivien Monica Weber-Fahr, Laurel Weldon, Debbie Wetzel, Foster, Samuel Freije-Rodriguez, Caroline Freund, Jed Alys Willman, Michael Woolcock, Tevfik Yaprak, Zouera Friedman, Elisa Gamberoni, John Garrison, Roberta Gatti, Youssoufou, and Hassan Zaman. Varun Gauri, Hope Gerochi, Sudeshna Ghosh Banerjee,  本報告書の起草段階で実施した協議や検討ワーク Marcelo Giugale, Anne-Marie Goetz, Pablo Gottret, Duncan ショップでも,参加者から有益な提案や感想をいただ Greene, Caren Grown, Rebekka E. Grun, Hans Jurgen いた.特にこのような行事の手配を手伝ってくれた以 Gruss, Kelly Hallman, Trina S. Haque, Lori Heise, Katherine 下の方々に感謝したい. (InWent) 国際向上教育開発協会 Heller, Cesar Hidalgo, Karla Hoff, Vivian Hon, Fabrice - ド イ ツ 技 術 協 力 公 社(GTZ) の Ansohn Albrecht と Houdart, Alejandro Hoyos, Mala Htun, Elisabeth Huybens, Sebastian Herold ,財政研究所の Orazio Attanassio,米 Vegard Iversen, Diane Jacovella, Willem Janssen, 州機構米州女性委員会の Belkys Mones,LSE ジェンダー Emmanuel Jimenez, Johannes Jutting, Abdalwahab 研究所の Sylvia Chant,ノルウェー開発協力局(NORAD) Khatib, Stuti Khemani, Florian Kitt, Leora Klapper, Stephan の Hege Sorreime と Per Bastoe,イギリス国際開発省 Klasen, Renate Kloppinger-Todd, Jeni Klugman, Kalpana (DFID)) の Liz Fabjer,アメリカ国際開発庁(USAID) Kochhar, Florence Kondylis, Kees Kostermans, Apichoke の Caren Grown.協議を実施するのに当たって,世界銀 Kotikula, Nandini Krishnan, Stephanie Kutner, Rachel Kyte, 行の以下の現地事務所のスタッフが提供してくれた支 Somik Lall, Pete Lanjouw, Gunar Larson, Philippe H. Le 援にもお礼を申し上げたい.ブルキナファソ,コロン Houerou, Marcus Lee, Xavier Legrain, Anne-Marie Leroy, ビア,グルジア,インドネシア,インド,日本,レバ Maureen Lewis, Audrey Liounis, Vanessa Almeida Lopes, ノン,モロッコ,メキシコ,タンザニア,タイ,トル Gladys Lopez-Acevedo, Thomas Losse-Muller, Inessa Love, ,ベトナム. コ,国連(ニューヨーク) Laszlo Lovei, John Mackedon, Megumi Makisaka, Hazel  データ開発グループの Johan Mistiaen, Masako Hiraga, Jean Malapit, Alexandre Marc, Michel Matera, Robin Sulekha Patel が,Camilo José Pecha Garzón と Melissa Mearns, Samia Melhm, Taye Mengistae, Nicholas Menzies, Rodriguez と一緒になって,情報の提供とデータの調 E. Richard Mills, Maxine Molyneaux, Andrew Morrison, 和を助けてきれた.特殊なデータはジェンダー法図 Janine Moussa, Masud Mozammel, Mamta Murthi, Raj 書 館 の Nayda Almodovar Reteguis, Yasmin Klaudia Bin Nallari, Kumari Navaratne, Reema Nayar, Vikram Nehru, Humam, Sarah Iqbal, Thibault Meilland, Rita Ramalho, David Newhouse, Trang Nguyen, Carmen Niethammer, and Paula Tavare で構成されるチームが提供してくれ Akihiko Nishio, Sina Odugbemi, Waafas Ofosu-Amaah, た.本報告書用に地図を作成してくれたのは Jeffrey Maria Beatriz Orlando, Julie Oyegun, Juan Caglar Ozden, Lecksell である.追加的な情報源を利用させてくれたの Berk Ozler, Vincent Palmade, Kiran Pandey, Sheoli Pargal, 「電子システムのための国際財団」 は IWPR, (中 (IFES) Carlos Parra Osorio, Katherine Patrick, Eija Pehu, Josefina 東・北アフリカにおける女性の地位:SWMENA のデー Posadas, Carlos Felipe Prada, Giovanna Prennushi, ,FAO,ギャラップ調査である. タベース) Lant Pritchett, Monika Queisser, Agnes Quisumbing,  完璧なリストの作成に努めたつもりではあるが,ご Mohammad Zia M. Qureshi, Ismail Radwan, Martin Rama, 協力いただいた方々のお名前がうっかり漏れているか Rita Ramalho, Aruna Rao, Biju Rao, Martin Ravallion, もしれない.その場合にはお詫びするとともに,本報 Hilde Refstie, Ritva Reinikka, Jose Guilherme Reis, Doug 告書作成に貢献してくれたすべての人々に対して,改 Rendall, David Rosenblatt, Jaime Saavedra, Sebastián めてお礼を申し上げたい. Sáez, Amparita Santamaria, Cristina Santos, Paromita Sanyal, Jeea Saraswati, Sarosh Sattar, Claudia Sepulveda, Carlos Silva-Jauregui, Sevi Simavi, Nistha Sinha, Ines Smyth, Sari Söderström, Jennifer Solotaroff, Cornelia 379 背景論文・メモ Aguayo-Téllez, Ernesto. 2011. “The Impact of Trade Chioda, Laura. 2011. “Key Factors Explaining Female Labor Liberalization Policies and FDI on Gender Inequality: A Force Participation Dynamics.” Literature Review.” Chiongson, Rea Abada, Deval Desai, Teresa Marchiori, and Akresh, Richard, Damien de Walque, and Harounan Kazianga. 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Ozden, Caglar. 2011. “Migration: An International Overview of Migrant Stocks and Flows.” Pande, Rohini, and Deanna Ford. 2011. “Gender Quotas and Female Leadership.” 381 主要指標 2012 表 A1  教育への参加 表 A2  健康 表 A3  経済活動別雇用と政治参加 主要世界開発指標 序 国の地域別・所得別分類 表 1 主要開発指標 表 2 貧困 表 3 ミレニアム開発指標:貧困の撲滅と生活の改善 表 4 経済活動 表 5 貿易・援助・ファイナンス 表 5 その他諸国の主要指標 技術的な注 382 世界開発報告 2012 表 A1 教育への参加 グロス就学率(該当年齢層に占める比率,%) 初等  中等 高等 男子 女子 男子 女子 男子 女子 1991 年 2009 年 1991 年 2009 年 1991 年 2009 年 1991 年 2009 年 1991 年 2009 年 1991 年 2009 年 アフガニスタン 37 123 20 83 21 58 11 28 3 6 1 1 アルバニア 101 121 103 117 92 72 85 73 7 .. 7 .. アルジェリア 103 111 88 104 67 96 53 97 .. 25 .. 36 アンゴラ 79 141 72 114 .. .. .. .. 1 .. 0 .. アルゼンチン .. 117 .. 116 .. 80 .. 91 .. 55 .. 84 アルメニア .. 97 .. 100 .. 92 .. 94 .. 44 .. 57 オーストラリア 107 107 107 106 132 135 132 130 35 71 42 94 オーストリア 101 99 101 98 106 103 97 98 37 54 32 64 アゼルバイジャン 111 96 110 95 87 98 88 101 28 19 19 19 バングラデシュ 78 93 66 97 24 40 12 45 7 10 1 6 ベラルーシ 96 98a 96 100a 96 89a 100 91a .. 63 .. 91 ベルギー 99 104 101 103 101 109 102 106 40 59 39 74 ベニン 80 129 41 114 .. .. .. .. 4 .. 1 .. ボリビア 110 108 102 107 .. 82 .. 80 .. 42 .. 35 ボスニアヘルツェゴビナ .. 108 .. 110 .. 90 .. 92 .. 32 .. 42 ブラジル 130 132 129 123 .. 96 .. 106 11 30 12 39 ブルガリア 95 102 93 101 98 89 98 86 30 46 33 61 ブルキナファソ 41 83a 26 75a .. 24a .. 19a 1 5 0 2 ブルンジ 78 149 65 144 7 25 4 18 1 .. 0 .. カンボジア 119 120 96 113 .. 44 .. 36 2 9 0 5 カメルーン 101 122 87 106 31 45 22 38 .. 10 .. 8 カナダ 105 99 103 98 101 103 101 101 85 .. 105 .. 中央アフリカ共和国 80 107a 51 76a 16 16a 7 9a 3 3 0 1 チャド 70 105 31 74 11 34 2 14 .. 3 .. 1 チリ 105 109 103 104 96 89 98 92 29 54 25 56 中国 132 111 121 115 46 76 35 81 .. 24 .. 25 香港 .. 103 .. 105 .. 81 .. 83 23 56 16 58 コロンビア 105 120 107 120 48 90 57 99 14 36 15 38 コンゴ民主共和国 83 98 62 83 29 47 14 26 .. 8 .. 3 コンゴ共和国 125 123 115 116 54 .. 41 .. 8 11 2 2 コスタリカ 103 110 102 109 43 93 46 99 .. .. .. .. コートジボワール 77 81 55 66 .. .. .. .. .. 11 .. 6 クロアチア 82 95 82 95 81 94 84 97 26 43 25 55 チェコ共和国 96 104 97 103 93 94 90 96 18 51 14 71 デンマーク 98 98 98 99 109 117 110 120 34 63 39 92 ドミニカ共和国 .. 114 .. 98 .. 72 .. 82 .. .. .. .. エクアドル 123 117 122 118 54 74 56 77 .. 39 .. 45 エジプト 96 103 80 99 77 68 61 66 15 .. 9 .. エルサルバドル 97 117 96 113 36 63 40 64 .. 23 .. 26 エリトリア 20 53 19 44 12 37 11 26 .. 3a .. 1a エチオピア 39 107 26 98 16 39 12 30 1 5 0 2 フィンランド 99 98 99 97 106 106 127 112 46 82 52 101 フランス 109 109 108 108 98 113 103 113 37 49 43 62 グルジア 97 108 97 108 96 92 94 88 38 23 35 28 ドイツ 98 104 99 103 101 104 99 99 40 .. 30 .. ガーナ 84 106 72 105 42 61 28 54 1 11 0 7 ギリシャ 99 101 98 101 95 104 93 99 25 87 26 95 グアテマラ 86 117 75 110 26 58 23 55 .. 18 .. 18 ギニア 48 97 23 83 16 46 5 27 2 14 0 5 ハイチ 47 .. 45 .. .. .. .. .. .. .. .. .. ホンジュラス 106 116 107 116 30 57 36 72 10 15 8 22 ハンガリー 90 100 90 99 86 99 87 98 14 53 15 72 インド 105 115 80 111 47 64 27 56 8 16 4 11 インドネシア 119 123 116 119 50 80 42 79 12 24 8 23 イラン 114 103 103 102 61 85 46 81 8 35 3 38 イラク 115 111 97 94 54 59 35 44 14 .. 9 .. アイルランド 102 104 103 105 96 115 105 121 31 55 28 66 イスラエル 96 110 99 112 90 88 95 90 34 54 35 71 イタリア 99 104 99 103 80 101 79 100 33 56 31 79 日本 100 102 100 102 96 101 98 101 36 62 23 55 ヨルダン 107 97 106 97 80 87 83 90 22 39 24 43 カザフスタン .. 109a .. 109a 94 100a 96 97a .. 32 .. 47a ケニア 100 114 97 111 .. 62 .. 56 .. 5 .. 3 韓国 108 105 109 103 93 99 90 95 51 117 25 82 キルギス 109 95 111 95 99 84 101 85 20 44 26 58 ラオス 111 117 88 106 28 48 19 39 2 15 1 12 レバノン 98 104 95 102 59 78 63 87 29 48 27 57 リベリア .. 96 .. 86 .. .. .. .. .. .. .. .. リビア .. .. .. .. .. .. .. .. 17 .. 14 .. リトアニア 95 98 89 96 86 99 83 99 39 63 27 96 マダガスカル 105 162 102 158 19 32 18 31 4 4 3 3 マラウイ 78 118 69 121 21 31 13 28 1 1 0 0 マレーシア 93 95 93 94 56 66 58 71 .. 32 .. 41 マリ 36 105a 21 89a 10 49a 5 34a 1 9 0 3 モーリタニア 56 101 43 108 18 26 9 23 5 5 1 2 主要指標 383 表 A1 教育への参加(続き) グロス就学率(該当年齢層に占める比率,%) 初等  中等 高等 男子 女子 男子 女子 男子 女子 1991 年 2009 年 1991 年 2009 年 1991 年 2009 年 1991 年 2009 年 1991 年 2009 年 1991 年 2009 年 メキシコ 115 117 112 116 54 87 53 93 15 28 12 28 モルドバ 93 94 93 93 87 88 94 90 .. 32 .. 45 モロッコ 76 112 52 103 41 60 30 51 14 14 8 12 モザンビーク 69 122a 51 110a 9 28a 5 23a 1 .. 0 .. ミャンマー 108 117 103 115 23 53 22 54 4 9 5 12 ネパール 135 .. 85 .. 46 .. 21 .. 8 .. 3 .. オランダ 101 108 104 106 124 122 115 120 43 58 36 65 ニュージーランド 104 101 102 102 92 124 93 129 43 68 48 99 ニカラグア 88 118 93 116 25 64 41 72 8 .. 7 .. ニジェール 33 73a 20 60a 10 16a 4 11a 2 2a 0 1a ナイジェリア 93 95 73 84 28 34 21 27 .. .. .. .. ノルウェー 100 99 100 99 101 112 105 109 39 56 46 92 パキスタン 62 92 32 77 31 37 15 29 4 6 2 5 パナマ 109 111 104 107 59 70 63 76 .. 36 .. 55 パプアニューギニア 70 .. 60 .. 14 .. 9 .. .. .. .. .. パラグアイ 107 101 104 98 30 65 32 68 9 30 8 43 ペルー 119 109 116 109 69 89 65 89 .. .. .. .. フィリピン 109 111 108 109 70 79 72 86 21 26 30 32 ポーランド 99 97 97 97 86 99 89 99 19 59 25 84 ポルトガル 122 114 116 111 62 105 71 109 20 56 26 67 ルーマニア 88 100 89 99 93 94 92 93 10 58 9 77 ロシア 109 97 109 97 94 86 96 84 47 66 58 89 ルワンダ 79 150 78 151 20 27 16 26 1 6 0 4 サウジアラビア .. 101 .. 97 .. 104 .. 90 11 29 10 36 セネガル 64 82 47 85 20 34 10 27 .. 10 .. 6 セルビア .. 98 .. 97 .. 90 .. 93 .. 44 .. 56 シエラレオネ 57 .. 38 .. 21 .. 12 .. .. .. .. .. シンガポール .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. スロバキア 101 102 100 102 86 92 90 92 16 43 16 69 ソマリア .. 42 .. 23 .. 11 .. 5 .. .. .. .. 南アフリカ 110 103 108 99 64 92 75 96 14 .. 11 .. スペイン 107 108 106 107 102 118 108 124 36 66 39 82 スリランカ 115 97 111 97 69 .. 75 .. 4 .. 2 .. スーダン 53 78 41 70 22 40 18 36 3 .. 2 .. スウェーデン 100 97 100 96 88 103 92 102 29 56 35 88 スイス 90 104 91 103 101 98 95 94 35 51 19 52 シリア 106 125 96 120 56 75 41 74 22 .. 14 .. タジキスタン 92 104 90 100 .. 90 .. 78 .. 28 .. 12 タンザニア 71 105 69 105 6 31 5 24 1 .. 0 .. タイ 102 92 100 90 31 74a 31 80a 18 39a 21 51a トーゴ 115 119 75 111 30 54 10 28 4 .. 1 .. チュニジア 120 109 107 107 50 87 39 94 10 27 7 42 トルコ 102 101 95 98 59 87 37 77 17 43 9 34 トルクメニスタン .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. ウガンダ 75 121 64 122 14 30 8 25 2 5 1 4 ウクライナ 107 97 107 98 92 95 96 93 .. 72 .. 91 アラブ首長国連邦 116 106 113 105 63 95 73 96 4 22 14 41 イギリス 105 106 105 106 85 98 88 100 30 50 29 69 アメリカ 105 98 103 99 91 93 92 94 66 72 82 101 ウルグアイ 108 115 107 112 .. 82 .. 94 .. 48 .. 83 ウズベキスタン 112 93 110 91 .. 104 .. 103 .. 11 .. 8 ベネズエラ 109 105 108 102 50 79 62 86 28 59 25 99 ベトナム .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. ヨルダン川西岸・ガザ .. 79 .. 79 .. 84 .. 90 .. 40 .. 52 イエメン .. 94 .. 76 .. .. .. .. 7 14 2 6 ザンビア .. 113 .. 112 .. 53 .. 44 3 .. 1 .. ジンバブエ 108 .. 104 .. 54 .. 43 .. 8 4 4 3 世界全体 105 w 109 w 93 w 105 w 54 w 69 w 低所得国 81 108 67 101 30 42 22 36 .. 8 .. 5 中所得国 110 110 97 107 52 70 42 68 .. 24 .. 25  下位中所得国 110 110 94 104 48 61 35 55 .. 17 .. 14  上位中所得国 112 111 109 111 68 81 67 86 .. 30 .. 36 低・中所得国 105 110 91 106 49 65 38 63 .. 21 .. 22  東アジア・太平洋 123 111 115 112 46 74 37 78 .. 24 .. 26  ヨーロッパ・中央アジア 99 99 97 98 86 91 84 87 .. 50 .. 61  ラテンアメリカ・カリブ 114 119 113 115 56 86 57 93 .. 33 .. 41  中東・北アフリカ 106 106 87 98 61 75 46 69 16 28 9 27  南アジア 98 113 74 107 47 58 27 51 .. 13 .. 9  サハラ以南アフリカ 78 104 65 95 25 40 19 32 .. 8 .. 5 高所得国 103 102 102 101 91 100 92 100 .. 63 .. 77 a. 2010 年のデータ. 384 世界開発報告 2012 表 A2 健康 出生時余命(年数) 幼児死亡率(1,000 人当たり) 妊産婦死亡率(出生 10 万人当たり) 男子 女子 男子 女子 各国推計値 モデル推計値 1990 年 2009 年 1990 年 2009 年 1990 年 2004-09 年 a 1990 年 2004-09 年 a 2004-09 年 a 1990 年 2008 年 アフガニスタン 41 44 41 44 .. .. .. .. .. 1,700 1,400 アルバニア 69 74 75 80 .. 3 .. 1 21 48 31 アルジェリア 66 71 68 74 .. .. .. .. .. 250 120 アンゴラ 40 46 44 50 .. .. .. .. .. 1,000 610 アルゼンチン 68 72 75 79 .. .. .. .. 40 72 70 アルメニア 65 71 71 77 .. 8 .. 3 27 51 29 オーストラリア 74 79 80 84 .. .. .. .. .. 10 8 オーストリア 72 77 79 83 .. .. .. .. .. 10 5 アゼルバイジャン 61 68 70 73 .. 9 .. 5 26 64 38 バングラデシュ 53 66 55 68 .. 16 .. 20 348 870 340 ベラルーシ 66 65 76 76 .. .. .. .. 3 37 15 ベルギー 73 78 79 84 .. .. .. .. .. 7 5 ベニン 53 61 55 63 .. 64 .. 65 397 790 410 ボリビア 57 64 61 68 51 18 51 20 310 510 180 ボスニアヘルツェゴビナ 62 73 74 78 .. .. .. .. 3 18 9 ブラジル 63 69 70 76 17 .. 20 .. 75 120 58 ブルガリア 68 70 75 77 .. .. .. .. 6 24 13 ブルキナファソ 47 52 48 55 .. .. .. .. 307 770 560 ブルンジ 45 49 48 52 .. 65 .. 65 615 1,200 970 カンボジア 53 60 57 63 .. 20 .. 20 461 690 290 カメルーン 53 51 57 52 64 73 75 72 669 680 600 カナダ 74 79 81 84 .. .. .. .. .. 6 12 中央アフリカ共和国 47 46 52 49 .. 74 .. 82 543 880 850 チャド 49 48 53 50 .. 96 .. 101 1,099 1,300 1,200 チリ 71 76 77 82 .. .. .. .. 18 56 26 中国 67 72 70 75 .. .. .. .. 34 110 38 香港 75 80 80 86 .. .. .. .. .. .. .. コロンビア 64 70 72 77 11 4 6 3 76 140 85 コンゴ民主共和国 46 46 50 49 .. 70 .. 64 549 900 670 コンゴ共和国 57 53 61 55 .. 49 .. 43 781 460 580 コスタリカ 73 77 78 82 .. .. .. .. 27 35 44 コートジボワール 56 57 60 59 .. .. .. .. 543 690 470 クロアチア 69 73 76 80 .. 1 .. 1 13b 8 14 チェコ共和国 68 74 75 80 .. .. .. .. 6 15 8 デンマーク 72 77 78 81 .. .. .. .. .. 7 5 ドミニカ共和国 65 70 70 76 18 6 20 4 159 220 100 エクアドル 66 72 71 78 .. 5 .. 5 60 230 140 エジプト 62 69 64 72 38 5 46 5 55 220 82 エルサルバドル 61 67 71 76 .. .. .. .. 59 200 110 エリトリア 46 58 50 62 .. .. .. .. .. 930 280 エチオピア 45 54 48 57 .. 56 .. 56 673 990 470 フィンランド 71 77 79 83 .. .. .. .. .. 7 8 フランス 73 78 81 85 .. .. .. .. .. 13 8 グルジア 67 68 74 75 .. 5 .. 4 14 58 48 ドイツ 72 77 79 83 .. .. .. .. .. 13 7 ガーナ 56 56 58 58 78 38 79 28 451 630 350 ギリシャ 75 78 80 83 .. .. .. .. .. 6 2 グアテマラ 59 67 65 74 .. .. .. .. 133 140 110 ギニア 47 56 50 60 122 89 112 86 980 1,200 680 ハイチ 54 60 56 63 .. 33 .. 36 630 670 300 ホンジュラス 64 70 69 75 .. 8 .. 9 .. 210 110 ハンガリー 65 70 74 78 .. .. .. .. 17 23 13 インド 58 63 58 66 .. 9 .. 12 254 570 230 インドネシア 60 69 63 73 36 13 35 12 228 620 240 イラン 64 70 66 73 .. .. .. .. 25 150 30 イラク 58 65 72 72 .. 6 .. 7 84 93 75 アイルランド 72 77 77 82 .. .. .. .. .. 6 3 イスラエル 75 80 78 84 .. .. .. .. .. 12 7 イタリア 74 79 80 84 .. .. .. .. .. 10 5 日本 76 80 82 86 .. .. .. .. .. 12 6 ヨルダン 65 71 69 75 6 3 6 7 19 110 59 カザフスタン 64 64 73 74 .. 5 .. 4 37 78 45 ケニア 58 54 62 55 35 27 33 25 488 380 530 韓国 67 77 76 84 .. .. .. .. .. 18 18 キルギス 64 62 73 72 .. 8 .. 4 55 77 81 ラオス 53 64 56 67 .. .. .. .. 405 1,200 580 レバノン 66 70 71 74 .. .. .. .. .. 52 26 リベリア 47 57 50 60 .. 62 .. 64 994 1,100 990 リビア 66 72 70 77 .. .. .. .. .. 100 64 リトアニア 66 68 76 79 .. .. .. .. 9 34 13 マダガスカル 50 59 52 62 85 30 82 31 498 710 440 マラウイ 48 53 50 55 126 52 114 54 807 910 510 マレーシア 68 72 72 77 .. .. .. .. 29 56 31 マリ 43 48 43 50 .. 117 .. 114 464 1,200 830 モーリタニア 54 55 57 59 .. 53 .. 44 686 780 550 主要指標 385 表 A2 健康(続き) 出生時余命(年数) 幼児死亡率(1,000 人当たり) 妊産婦死亡率(出生 10 万人当たり) 男子 女子 男子 女子 各国推計値 モデル推計値 1990 年 2009 年 1990 年 2009 年 1990 年 2004-09 年 a 1990 年 2004-09 年 a 2004-09 年 a 1990 年 2008 年 メキシコ 68 73 74 78 .. .. .. .. 63 93 85 モルドバ 64 65 71 72 .. 7 .. 4 38 62 32 モロッコ 62 69 66 74 21 9 24 11 132 270 110 モザンビーク 42 47 45 49 .. .. .. .. .. 1,000 550 ミャンマー 57 60 61 64 .. .. .. .. 316 420 240 ネパール 54 66 54 68 .. 21 .. 18 281 870 380 オランダ 74 79 80 83 .. .. .. .. .. 10 9 ニュージーランド 73 78 78 82 .. .. .. .. .. 18 14 ニカラグア 61 70 67 77 .. .. .. .. 77 190 100 ニジェール 41 51 42 53 212 138 232 135 648 1,400 820 ナイジェリア 43 48 46 49 118 91 102 93 545 1,100 840 ノルウェー 73 79 80 83 .. .. .. .. .. 9 7 パキスタン 60 67 61 67 22 14 37 22 276 490 260 パナマ 70 73 75 79 .. .. .. .. 60 86 71 パプアニューギニア 52 59 58 64 .. .. .. .. 733 340 250 パラグアイ 66 70 70 74 10 .. 12 .. 118 130 95 ペルー 63 71 68 76 29 13 31 4 .. 250 98 フィリピン 63 70 68 74 .. 10 .. 9 162 180 94 ポーランド 67 72 76 80 .. .. .. .. 5 17 6 ポルトガル 70 76 77 82 .. .. .. .. .. 15 7 ルーマニア 67 70 73 77 .. .. .. .. 14 170 27 ロシア 64 63 74 75 .. .. .. .. 32b 74 39 ルワンダ 31 49 35 52 87 69 73 55 750 1,100 540 サウジアラビア 66 73 70 74 .. 3 .. 4 14 41 24 セネガル 51 54 53 57 .. 43 .. 39 401 750 410 セルビア 69 71 74 76 .. 4 .. 3 6 13 8 シエラレオネ 38 47 42 49 .. 67 .. 61 857 1,300 970 シンガポール 72 79 77 84 .. .. .. .. .. 6 9 スロバキア 67 71 75 79 .. .. .. .. 4 15 6 ソマリア 43 49 46 52 .. 53 .. 54 1,044 1,100 1,200 南アフリカ 58 50 65 53 .. .. .. .. .. 230 410 スペイン 73 79 81 85 .. .. .. .. .. 7 6 スリランカ 66 71 73 78 .. .. .. .. 39 91 39 スーダン 51 57 54 60 62 38 63 30 1,107 830 750 スウェーデン 75 79 80 83 .. .. .. .. .. 7 5 スイス 74 80 81 84 .. .. .. .. .. 8 10 シリア 66 73 70 76 .. 5 .. 3 .. 120 46 タジキスタン 60 64 66 70 .. 18 .. 13 38 120 64 タンザニア 49 56 53 57 63 56 57 52 578 880 790 タイ 66 66 73 72 .. .. .. .. 12 50 48 トーゴ 56 61 60 65 75 55 90 43 .. 650 350 チュニジア 69 73 72 77 19 .. 19 .. .. 130 60 トルコ 62 70 67 75 .. 6 .. 6 29 68 23 トルクメニスタン 59 61 66 69 .. .. .. .. 15 91 77 ウガンダ 46 53 50 54 97 75 86 62 435 670 430 ウクライナ 66 64 75 75 .. 4 .. 1 16 49 26 アラブ首長国連邦 71 77 75 79 .. .. .. .. .. 28 10 イギリス 73 78 79 82 .. .. .. .. .. 10 12 アメリカ 72 76 79 81 .. .. .. .. 13 12 24 ウルグアイ 69 73 76 80 .. .. .. .. 34 39 27 ウズベキスタン 64 65 70 71 .. 11 .. 7 21 53 30 ベネズエラ 68 71 74 77 .. .. .. .. 61 84 68 ベトナム 64 73 67 77 .. 5 .. 4 75 170 56 ヨルダン川西岸・ガザ 67 72 70 75 .. 3 .. 3 .. .. .. イエメン 54 62 55 65 41 10 47 11 .. 540 210 ザンビア 49 46 53 47 30 66 33 55 591 390 470 ジンバブエ 57 45 64 46 .. 21 .. 21 555 390 790 世界全体 63 w 67 w 67 w 71 w .. w .. 低所得国 51 56 53 59 .. .. .. .. 860 590 中所得国 62 67 66 71 .. .. .. .. 350 210  下位中所得国 58 63 61 67 .. .. .. .. 540 300  上位中所得国 66 70 70 75 .. .. .. .. 110 60 低・中所得国 61 65 64 69 .. .. .. .. 440 290  東アジア・太平洋 65 71 68 74 .. .. .. .. 200 89  ヨーロッパ・中央アジア 64 66 73 75 .. .. .. .. 69 34  ラテンアメリカ・カリブ 65 71 72 77 .. .. .. .. 140 86  中東・北アフリカ 63 69 66 73 .. .. .. .. 210 88  南アジア 58 63 58 66 .. 9 .. 13 610 290  サハラ以南アフリカ 48 51 52 54 .. .. .. .. 870 650 高所得国 72 77 79 83 .. .. .. .. 15 15 a.入手可能な最新年のデータ.b.2010 年のデータ. 386 世界開発報告 2012 表 A3 経済活動別雇用と政治参加 経済活動別雇用 農業 工業 サービス業 男性 女性 男性 女性 男性 女性 女性議員 対男雇用比% 対女雇用比% 対男雇用比% 対女雇用比% 対男雇用比% 対女雇用比% 対総議席数比% 2006-09 年 a 2006-09 年 a 2006-09 年 a 2006-09 年 a 2006-09 年 a 2006-09 年 a  1990 年 2010 年 アフガニスタン .. .. .. .. .. .. 4 28 アルバニア .. .. .. .. .. .. 29 16 アルジェリア .. .. .. .. .. .. 2 8 アンゴラ .. .. .. .. .. .. 15 39 アルゼンチン 2c 0b,c 33c 10c 65c 89c 6 39 アルメニア 39 49 25 8 35 43 36 9 オーストラリア 4 2 32 9 64 88 6 25 オーストリア 5 5 37 11 58 83 12 28 アゼルバイジャン 37 40 18 7 45 53 .. 11 バングラデシュ .. .. .. .. .. .. 10 19 ベラルーシ 15 9 33 24 37 64 .. 35 ベルギー 2 1 35 10 63 88 9 39 ベニン .. .. .. .. .. .. 3 11 ボリビア 34 38 28 9 38 52 9 25 ボスニアヘルツェゴビナ .. .. .. .. .. .. .. 19 ブラジル 21 12 29 13 50 75 5 9 ブルガリア 9 5 43 27 49 67 21 21 ブルキナファソ .. .. .. .. .. .. .. 15 ブルンジ .. .. .. .. .. .. .. 32 カンボジア .. .. .. .. .. .. .. 21 カメルーン .. .. .. .. .. .. 14 14 カナダ 3c 1c 32c 10c 65c 89c 13 22 中央アフリカ共和国 .. .. .. .. .. .. 4 10 チャド .. .. .. .. .. .. .. 5 チリ 15 6 31 11 54 83 .. 14 中国 .. .. .. .. .. .. 21 21 香港 0b,c 0b,c 19c 4c 80c 96c .. .. コロンビア 27 6 22 16 51 78 5 8 コンゴ民主共和国 .. .. .. .. .. .. 5 8 コンゴ共和国 .. .. .. .. .. .. 14 7 コスタリカ 17 4 27 13 56 82 11 39 コートジボワール .. .. .. .. .. .. 6 9 クロアチア 13 15 39 16 47 68 .. 24 チェコ共和国 4 2 49 24 47 74 .. 22 デンマーク 4 1 29 10 66 89 31 38 ドミニカ共和国 21 2 26 14 53 84 8 21 エクアドル 34 23 24 11 43 66 5 32 エジプト 28 46 27 6 44 49 4 2 エルサルバドル 28 4 26 20 46 76 12 19 エリトリア .. .. .. .. .. .. .. 22 エチオピア 9c 10c 25c 20c 76c 64c .. 28 フィンランド 6 3 37 10 56 87 32 40 フランス 4 2 34 10 62 87 7 19 グルジア 51 57 17 4 33 39 .. 7 ドイツ 2 1 41 15 57 84 .. 33 ガーナ .. .. .. .. .. .. .. 8 ギリシャ 12 12 30 9 59 79 7 17 グアテマラ 44 16 24 21 32 63 7 12 ギニア .. .. .. .. .. .. .. 19 ハイチ .. .. .. .. .. .. .. 4 ホンジュラス 48 10 22 22 30 68 10 18 ハンガリー 6 3 41 19 52 78 21 9 インド .. .. .. .. .. .. 5 11 インドネシア 40 39 21 15 39 46 12 18 イラン 19 31 33 27 47 42 2 3 イラク 17 51 22 4 61 46 11 25 アイルランド 8 1 31 9 60 89 8 14 イスラエル 3 1 30 10 67 89 7 18 イタリア 4 3 39 15 57 82 13 21 日本 4 4 35 17 60 78 1 11 ヨルダン 3 2 21 10 75 88 0 6 カザフスタン 31 29 26 12 43 59 .. 18 ケニア .. .. .. .. .. .. 1 10 韓国 7 8 32 15 61 77 2 15 キルギス 37 35 26 11 37 54 .. 26 ラオス .. .. .. .. .. .. 6 25 レバノン .. .. .. .. .. .. 0 3 リベリア 47 49 4 1 17 13 .. 13 リビア .. .. .. .. .. .. .. 8 リトアニア 12 7 37 18 51 75 .. 19 マダガスカル .. .. .. .. .. .. 7 8 マラウイ .. .. .. .. .. .. 10 21 マレーシア 17 9 32 23 51 68 5 10 マリ 68 64 8 3 24 33 .. 10 モーリタニア .. .. .. .. .. .. .. 22 主要指標 387 表 A3 経済活動別雇用と政治参加(続き) 経済活動別雇用 農業 工業 サービス業 男性 女性 男性 女性 男性 女性 女性議員 対男雇用比% 対女雇用比% 対男雇用比% 対女雇用比% 対男雇用比% 対女雇用比% 対総議席数比% 2006-09 年 a 2006-09 年 a 2006-09 年 a 2006-09 年 a 2006-09 年 a 2006-09 年 a  1990 年 2010 年 メキシコ 19 4 30 18 50 77 12 26 モルドバ 34 28 26 14 41 58 .. 24 モロッコ 34 59 24 15 42 25 0 11 モザンビーク .. .. .. .. .. .. 16 39 ミャンマー .. .. .. .. .. .. .. .. ネパール .. .. .. .. .. .. 6 33 オランダ 3 2 25 7 63 85 21 41 ニュージーランド 9 4 31 10 61 86 14 34 ニカラグア 42 8 21 19 37 72 15 21 ニジェール .. .. .. .. .. .. 5 12 ナイジェリア .. .. .. .. .. .. .. 7 ノルウェー 4 1 32 7 64 92 36 40 パキスタン 37 75 22 12 41 13 10 22 パナマ 20 4 26 9 55 87 8 9 パプアニューギニア .. .. .. .. .. .. 0 1 パラグアイ 31 19 25 10 44 71 6 13 ペルー 10c 6c 28c 13c 62c 82 6 28 フィリピン 42 24 18 10 40 66 9 21 ポーランド 13 13 43 17 44 70 14 20 ポルトガル 11 12 39 16 50 72 8 27 ルーマニア 28 31 37 22 36 47 34 11 ロシア 11 7 38 19 51 74 .. 14 ルワンダ .. .. .. .. .. .. 17 56 サウジアラビア 5 0b 23 2 72 98 .. 0 セネガル 34 33 20 5 33 42 13 23 セルビア 25 23 32 16 43 61 .. 22 シエラレオネ .. .. .. .. .. .. .. 13 シンガポール 2 1 26 17 73 83 5 23 スロバキア 5 2 50 22 45 76 .. 15 ソマリア .. .. .. .. .. .. 4 7 南アフリカ 6 4 35 13 59 83 3 45 スペイン 6 3 36 10 59 88 15 37 スリランカ 30c 37c 25c 25c 27c 27c 5 5 スーダン .. .. .. .. .. .. .. 26 スウェーデン 3 1 31 8 65 91 38 45 スイス 4 2 30 10 61 81 14 29 シリア 18 26 32 8 50 66 9 12 タジキスタン .. .. .. .. .. .. .. 19 タンザニア 71 78 7 3 22 19 .. 31 タイ 44 39 21 18 35 43 3 13 トーゴ 61 48 10 4 29 46 5 11 チュニジア .. .. .. .. .. .. 4 28 トルコ 17 38 29 15 54 47 1 9 トルクメニスタン .. .. .. .. .. .. 26 17 ウガンダ .. .. .. .. .. .. 12 32 ウクライナ .. .. .. .. .. .. .. 8 アラブ首長国連邦 5 0b 28 7 66 92 0 23 イギリス 2 1 30 8 68 91 6 22 アメリカ 2 1 30 9 68 90 7 17 ウルグアイ 16c 5c 29c 13c 56c 83c 6 15 ウズベキスタン .. .. .. .. .. .. .. 22 ベネズエラ 13 2 31 11 57 87 10 19 ベトナム 50 54 24 16 26 30 18 26 ヨルダン川西岸・ガザ 10 28 29 11 60 60 .. .. イエメン .. .. .. .. .. .. 4 0 ザンビア .. .. .. .. .. .. 7 14 ジンバブエ .. .. .. .. .. .. 11 15 世界全体 .. w .. w .. w .. w 低所得国 .. .. .. .. .. .. .. 20 中所得国 .. .. .. .. .. .. 13 17  下位中所得国 .. .. .. .. .. .. 11 15  上位中所得国 .. .. .. .. .. .. 14 20 低・中所得国 .. .. .. .. .. .. 13 18  東アジア・太平洋 .. .. .. .. .. .. 17 19  ヨーロッパ・中央アジア 16 15 35 18 49 66 .. 15  ラテンアメリカ・カリブ 18 9 29 14 52 77 12 24  中東・北アフリカ 25 42 28 17 47 42 4 9  南アジア .. .. .. .. .. .. 6 19  サハラ以南アフリカ .. .. .. .. .. .. .. 20 高所得国 4 3 34 12 62 85 12 23 注:経済活動別雇用のデータは部門別に分類されていない労働者が存在するため,合計が 100%にならない可能性がある. a.入手可能な最新年のデータ.b.0.5%未満.c.カバレッジが限定的. 388 世界開発報告 2012 表 A1. 教育への参加 率にしたがうものとする(出所:Macro International グロス就学率は,就学者総数が年齢とは無関係に,表 and World Bank). 示されている教育水準に公式に対応する年齢層の人口 に占める比率(出所:UNESCO 統計研究所). 妊産婦死亡率は妊娠中や分娩時に妊娠関連の原因で死 亡する女性の人数(出生数 10 万人当たり)を指す. 初等教育(国際標準教育分類〔ISCED〕1)は通常は 各国推計値は各国の調査,人口統計,監視データに 次のようなプログラムを指す.すなわち,生徒に対し 基づいて報告されているか,またはコミュニティや て読み・書き・計算に関する堅実な基礎教育を中心 病院の記録から抽出されている(出所:UNICEF).モ に,歴史・地理・自然科学・社会科学・芸術・音楽な デル推計値は世界保健機関(WHO),国連児童基金 ど他の科目に関して,初歩的な理解を提供すること ,国連人口基金(UNPF) (UNICEF) ,世界銀行による が企図されている.宗教教育が含まれてもよい.第 1 作業に基づいて算出されている.死因の属性が明確な 次教育と呼ばれることもある(出所:UNESCO 統計 諸国については,データを使って妊産婦死亡率を直接 研究所). 推計しているが,登録データは完璧ではないもののそ の他の種類のデータがある諸国と,実証的なデータが 中 等 教 育 は 下 位(ISCED 2) お よ び 上 位(ISCED 3) まったくない諸国については,妊産婦死亡率を推計し の中等教育プログラムを指す.下位中等教育は初等水 た.入手可能な国レベルの妊産婦死亡率のデータと, 準の基礎プログラムを継続するが,授業は典型的には 出生率,分娩介助者,GDP などを含む社会経済的な より科目に焦点が置かれ,各科目の分野により専門的 情報をベースに,利用可能な国レベルのモデルを使っ な教員が必要になる.上位中等教育では授業はさらに た重回帰モデルで推計した(出所:WHO,UNICEF, 科目に沿って体系化されており,教員には典型的には UNFPA,世界銀行) より高次の,あるいはより科目固有の資格が必要とさ れる(出所:UNESCO 統計研究所). 表 A3. 経済活動別雇用と政治参加 高等教育はより高度な教育内容をもった広範囲にわた 農業雇用 は第 1 部(国際標準産業分類 ISIC 第 2 次改 るプログラムを指す.高等教育の第 1 段階(ISCED 5) 訂版),あるいは分類表の A および B(ISIC 第 3 次改 は高度な研究プログラム,ないし高度な研究プログラ 訂版)に対応し,狩猟・林業・漁業を含む(出所: ムに進むための職業,あるいは高度スキルの要件と実 . ILO) 際的・技術的・職業として固有のプログラムを必要と する職業などに参加するための十分な資格を提供する 工業雇用は第 2-5 部(ISIC 第 2 次改訂版),あるいは ことを企図した理論的なベースのプログラムを指す. 分類表 C-F(ISIC 第 3 次改訂版)に対応し,鉱業・採 第 2 段階(ISCED 6)は高度で独創的な研究で,高度 石業(石油生産を含む),製造業,建設業,公益事業 な研究資格の取得につながることにまい進するプログ (電気・ガス・水道)を含む(出所:ILO). ラムを指す(出所:UNESCO 統計研究所). サービス業雇用は第 6-9 部(ISIC 第 2 次改訂版) ,あ る い は 分 類 表 G-P(ISIC 第 3 次 改 訂 版 ) に 対 応 し, 表 A2. 健康 卸・小売業,レストラン・ホテル,輸送,倉庫,通 出生時余命は出生時の死亡パターンが生涯を通じて不 信,金融・保険・不動産,ビジネス・サービス,コ 変にとどまるとした場合に,新生児が生存すると考え ミュニティ向け・社会的・人的サービスを含む(出 られる年数のことである. . 所:ILO) 幼児死亡率 は年齢が 1-5 歳の間に死亡する 1,000 人 女性議員は一院制議会ないし下院で女性が占める議席 当たりの確率,つまり 1 歳児が 5 歳に達する前に死 の割合である(出所:列国議会同盟 IPU). 亡する確率である――ただし,現在の年齢固有の死亡 389 主要世界開発指標 2012  本年度版の主要世界開発指標では比較可能な社会経済 ないし更新されている.時系列の修正や方法の変更が理 データを示す 6 つの表によって,132 カ国にかかわる 由で,相違が生じていることもある.したがって,世界 開発データを示した.データは可能な限り最新年のもの 銀行の刊行物でも版が違えば,データそのものの年代が であるが,前年分を示した指標もなかにはある.データ 異なる.異なる刊行物,あるいは同一刊行物の版が異な が乏しい,あるいは人口が 300 万人未満の 78 カ国に るものから,時系列データを取り出すことは避けてい ついては,基礎データだけを追加表に示した. ただきたい.一貫性のある時系列データは,オープン・   こ こ に 示 し た 指 標 は World Development Indicators データのウェブサイト(http://data.worldbank.org)で 2011 に掲載されている 800 以上の指標から選択した 入手可能である. ものである.毎年刊行されている World Development  特記がない限り,すべてのドル表示は現在の米ドルに Indicators(WDI)は開発プロセスを包括的にみるため よる.各国通貨の数値を換算する際に使用した各種方法 のものである.WDI の 6 つのセクションでは,ミレニ については,表の後のテクニカル・ノートで説明してあ アム開発目標(MDG)の進捗状況と人的資本の開発, る. 環境の持続可能性,マクロ経済パフォーマンス,民間部  世界銀行の主要業務は低および中所得国に対して融資 門の開発と投資環境,および開発の外部環境に影響する や政策助言を提供することにあるため,表が対象として グローバルな結び付きなど,さまざまな要因の役割が検 いる問題は主としてこのような諸国に焦点を当ててい 討されている. る.高所得国に関する情報も,それが入手可能なときに  これとは別に公表されているデータベースでは,240 は比較のために掲載してある.これら高所得国に関して の国や地域に関して 1,000 以上の時系列指標にアクセ さらに詳しい情報を知りたい方は,各国の統計刊行物, ス可能である.このデータベースはオープン・データの および OECD や EU の出版物を参照していただきたい. ウェブサイト(http://data.worldbank.org)で入手可能 である. 国の分類と総括値  各表の末尾にある総括値には,上部に掲載されている データの出典と方法 諸国が 1 人当たり所得や地域ごとに分類されて含まれ  ここに示した社会経済データや環境データは,世界銀 ている.2010 年の 1 人当たり国民総所得(GNI)に基 行が収集した一次データ,加盟国の統計出版物,研究機 づいて,1,005 ドル以下が低所得国,1,006-12,275 ド 関,国連とその専門機関,IMF,および OECD などの国 ルが中所得国,12,276 ドル以上が高所得国という分類 際機関に依拠している(完璧なリストに関しては表の後 がなされている.1 人当たり GNI が 3,975 ドルの水準 のテクニカル・ノートのなかのデータの出典を参照). で,さらに低位中所得国と上位中所得国の区別がなされ 各国や国際機関の統計のほとんどは,対象,定義,分類 ている.1 人当たり所得に基づく国の分類は毎年行われ に関して国際基準を適用しているものの,基礎データの ているので,各所得グループに含まれる国の構成も毎年 収集と編集に割くことができる能力と資源には相違があ 変化している可能性がある.このような分類の変更が最 るため,適時性や信頼性にはどうしても格差ができる. 新の推計値に基づいて行われた場合には,新しい所得分 テーマによっては,より信頼できるデータを掲載するた 類に基づく集計値は過去に遡及して再計算してあるの めに,世界銀行スタッフが出典の異なる競合するデータ で,時系列データの一貫性は確保されている.本報告書 を吟味する必要がある.利用可能なデータが水準や傾 の各グループに含まれる諸国(人口 300 万人未満の諸 向について,信頼できる測定値とするには根拠薄弱な 国を含む)のリストについては,次ページの分類表を参 場合,あるいは国際基準への準拠が不十分な場合には, 照されたい. データを掲載しなかった.  総括値は各グループごとの合計値(データがない場合  掲載データは WDI 2011 にほぼ一致している.しか や報告されていない諸国に関する推定値が含まれてい し,新しいデータが入手できた場合には,データは修正 れば t,入手データの単純合計ならば s で区別),加重 390 世界開発報告 2012 平均値(w) ,あるいは中央値(m)のいずれかである. 記号 主要表から除外されている諸国(表 6 に掲載されてい .. はデータが入手不可能であること,あるいは当該年 る諸国)のデータも,入手可能であればそのデータが, のデータが欠けているため合計が算出できないこと あるいは入手可能な諸国と同じ傾向をたどるとの前提に を意味する. 立った推定値が含まれている.そうすれば,各期間につ 0 または 0.0 はゼロまたは表示単位の半分未満である いて対象国の範囲が標準化され,より一貫性のある集計 ことを意味する. 値が得られる.ただし,欠けている情報が集計値全体の / は 2003/04 年におけるように,通常は12 カ月間 3 分の 1 以上を占めている場合には,グループの総括値 に及ぶ時期が 2 つの暦年にまたがっていることを は入手不能と表示されている.集計方法の詳細について 意味し,収穫年度,調査年度,あるいは財政年度な は,テクニカル・ノートのなかの統計手法のところに説 どをさす. 明がある.集計値を算出するために用いられたウェイト $ は特記なき限り現行の米ドルを意味する. は,各表の脚注に示されている. > は「超(より大きい)」を意味する. < は「未満(より小さい)」を意味する. 用語と対象国  国という用語は政治的な独立性を示唆するものではな  WDI 2011 には詳しい情報が掲載されており,この購 く,当局が社会ないし経済について別の統計を作成して 入については,オンライン,電話,またはファックスで いる領域をいう.掲載されたデータは 2010 年現在で成 下記を照会してほしい. 立している経済圏に関するものであり,過去のデータに ついても現在の政治的な取り決めを反映するよう修正さ さらに詳しい情報およびオンライン購入について: れている.すべての表について,例外があれば注記され http://data.worldbank.org/data-catalog/world- ている.特記なき限り,中国のデータには香港(中国), development-indicators. マカオ(中国),および台湾(中国)は含まれていない. インドネシアのデータには特記なき限り,1999 年まで 購入について: は東ティモールが含まれている.モンテネグロは 2006 電話:1-800-645-7247 年 6 月 3 日にセルビア・モンテンネグロからの独立を ファックス:1-703-661-1501 宣言している.入手可能なものについては,各国別々の データが掲載されている.しかし,セルビアにかかわる 郵便による購入について: 一部の指標は 2005 年までは引き続きモンテネグロの分 The World Bank, P.O. Box 960, Herndon, VA 20172- を含んでいる.そのようなデータには脚注を付けてあ 0960, U.S.A. る.さらに,1999 年以降のデータは,ほとんどの指標 についてセルビアのなかにあるコソボを除外してある. 世界銀行東京事務所: これは 1999 年の国連安全保障理事会決議 1244 号に基 〒 100-0011 東京都千代田区内幸町 2-2-2 づいて,コソボが国際管理下に置かれたためである.こ 富国生命ビル 10 階 れについて例外があれば注記されている.なお,コソボ 電話:03-3597-6650(代表) は 2009 年 6 月 29 日に世界銀行の加盟国となり,その ファックス:03-3597-6695 データは入手可能な限り表のなかで示されている. テクニカル・ノート  データの質や各国間比較にはしばしば問題があるた め,テクニカル・ノート,地域・所得による国の分類, および各表の脚注をなるべく参考されたい.さらに詳し い説明については,WDI 2011 を参照. 主要世界開発指標 2012 391 地域・所得による国の分類(2012 年度) 東アジア・太平洋 ラテンアメリカ・カリブ 南アジア 高所得 OECD 加盟諸国 米領サモア UMC アンティグア・バーブーダ UMC アフガニスタン LIC オーストラリア カンボジア LIC アルゼンチン UMC バングラデシュ LIC オーストリア 中国 UMC ベリーズ LMC ブータン LMC ベルギー フィジー LMC ボリビア LMC インド LMC カナダ インドネシア LMC ブラジル UMC モルディブ UMC チェコ キリバス LMC チリ UMC ネパール LIC デンマーク 北朝鮮 LIC コロンビア UMC パキスタン LMC エストニア ラオス LMC コスタリカ UMC スリランカ LMC フィンランド マレーシア UMC キューバ UMC フランス マーシャル諸島 LMC ドミニカ UMC サハラ以南アフリカ ドイツ ミクロネシア連邦 LMC ドミニカ共和国 UMC アンゴラ LMC ギリシア モンゴル LMC エクアドル UMC ベニン LIC ハンガリー ミャンマー LIC エルサルバドル LMC ボツワナ UMC アイスランド パラオ UMC グレナダ UMC ブルキナファソ LIC アイルランド パプアニューギニア LMC グアテマラ LMC ブルンジ LIC イスラエル フィリピン LMC ガイアナ LMC カメルーン LMC イタリア サモア LMC ハイチ LIC カーボベルデ LMC 日本 ソロモン諸島 LMC ホンジュラス LMC 中央アフリカ共和国 LIC 韓国 タイ UMC ジャマイカ UMC チャド LIC ルクセンブルク 東ティモール LMC メキシコ UMC コモロ LIC オランダ トンガ LMC ニカラグア LMC コンゴ民主共和国 LIC ニュージーランド ツバル LMC パナマ UMC コンゴ共和国 LMC ノルウェー バヌアツ LMC パラグアイ LMC コートジボワール LMC ポーランド ベトナム LMC ペルー UMC エリトリア LIC ポルトガル セントクリストファー・ネイビス UMC エチオピア LIC スロバキア ヨーロッパ・中央アジア セントルシア UMC ガボン UMC スロベニア アルバニア UMC セントビンセント・グレナディーン諸島 UMC ガンビア LIC スペイン アルメニア LMC スリナム UMC ガーナ LMC スウェーデン アゼルバイジャン UMC ウルグアイ UMC ギニア LIC スイス ベラルーシ UMC ベネズエラ UMC ギニアビサウ LIC イギリス ボスニア・ヘルツェゴビナ UMC ケニア LIC アメリカ ブルガリア UMC 中東・北アフリカ レソト LMC グルジア LMC アルジェリア UMC リベリア LIC その他の高所得国 カザフスタン UMC ジブチ LMC マダガスカル LIC アンドラ コソボ LMC エジプト LMC マラウイ LIC アルーバ キルギスタン LIC イラン UMC マリ LIC バハマ ラトビア UMC イラク LMC モーリタニア LMC バーレーン リトアニア UMC ヨルダン UMC モーリシャス UMC バルバドス マケドニア UMC レバノン UMC マヨット UMC バミューダ モルドバ LMC リビア UMC モザンビーク LIC ブルネイ モンテネグロ UMC モロッコ LMC ナミビア UMC ケイマン諸島 ルーマニア UMC シリア LMC ニジェール LIC チャネル諸島 ロシア UMC チュニジア UMC ナイジェリア LMC クロアチア セルビア UMC ヨルダン川西岸・ガザ LMC ルワンダ LIC キュラソー タジキスタン LIC イエメン LMC サントメ・プリンシペ LMC キプロス トルコ UMC セネガル LMC 赤道ギニア トルクメニスタン LMC セーシェル UMC フェロー諸島 ウクライナ LMC シエラレオネ LIC 仏領ポリネシア ウズベキスタン LMC ソマリア LIC ジブラルタル 南アフリカ UMC グリーンランド スーダン LMC グアム スワジランド LMC 香港(中国) タンザニア LIC マン島 トーゴ LIC クウェート ウガンダ LIC リヒテンシュタイン ザンビア LMC マカオ(中国) ジンバブエ LIC マルタ モナコ ニューカレドニア 北マリアナ諸島 オマーン プエルトリコ カタール サンマリノ サウジアラビア シンガポール セントマールテン島(蘭領) サンマルタン島(仏領) 台湾(中国) トリニダード・トバゴ タークス・カーコス諸島 アラブ首長国連邦 バージン諸島(米領) 出所:World Bank データ. 本表は世界銀行の全加盟国 / 地域と人口が 3 万人を超える非加盟国 / 地域を分類したものである.各国 / 地域は世界銀行アトラス方式を用いて算出された 2010 年の 1 人当たり GNI に基づき,次の各所得グループに分類されている.すなわち,1,005 ドル以下は低所得国(LIC),1,006-3,975 ドルは低位中所得国(LMC),3,976-12,275 ドルは上位中所得国(UMC), 12,276 ドル以上は高所得国とされている. 392 世界開発報告 2012 表 1 主要開発指標 1 人当たり 人口の年 PPP 表示の国民総 国内 総生 a 人口 齢別構成 国民総所得(GNI) 所得(GNI) 産(GDP) 出生時余命 成人識字率 (㎢当た (対 15 歳 (100 ( 年平均 り人口密 0-14 歳の (10 億ド (1 人当た (10 億ド (1 人当た (増加 以上人口 万人) 増加率% ) 度) 割合% ル) りドル) ル) りドル) 率%) 男(年数) 女(年数) 比%) 2010 年 2000-10 年  2009 年 2010 年  2010 年  2010 年 2010 年  2010 年 2009-10 年 2009 年 2009 年 2005-09 年 アフガニスタン 31 2.6 46 46 .. ..c .. .. .. 44 44 .. アルバニア 3 0.3 115 23 12.7 4,000 28.0 8,840 3.0 74 80 96 アルジェリア 35 1.5 15 27 157.9 4,460 288.0d 8,130d 1.5 71 74 73 アンゴラ 19 2.9 15 45 75.2 3,960 103.1 5,430 –0.4 46 50 70 アルゼンチン 41 1.0 15 25 343.6 8,450 616.1 15,150 8.1 72 79 98 アルメニア 3 0.0 108 20 9.6 3,090 16.8 5,450 0.7 71 77 100 オーストラリア 22 1.5 3 19 956.9 43,740 842.4 38,510 .. 79 84 .. オーストリア 8 0.5 101 15 391.5 46,710 330.3 39,410 1.7 77 83 .. アゼルバイジャン 9 1.0 106 24 46.0 5,180 81.9 9,220 3.8 68 73 100 バングラデシュ 164 1.6 1,246 31 104.5 640 267.2 1,620 4.4 66 68 56 ベラルーシ 10 –0.4 48 15 58.2 6,030 135.2 14,020 7.8 65 76 100 ベルギー 11 0.6 356 17 493.5 45,420 411.2 37,840 1.4 78 84 .. ベニン 9 3.2 81 43 6.9 750 13.9 1,510 –0.1 61 63 42 ボリビア 10 1.9 9 36 18.0 1,790 45.7 4,560 2.5 64 68 91 ボスニアヘルツェゴビナ 4 0.2 74 15 18.0 4,790 33.7 8,970 1.0 73 78 98 ブラジル 195 1.1 23 25 1,830.4 9,390 2,129.0 10,920 6.8 69 76 90 ブルガリア 8 –0.6 70 14 47.2 6,240 99.9 13,210 0.5 70 77 98 ブルキナファソ 16 3.3 58 46 9.0 550 20.5 1,260 5.7 52 55 29 ブルンジ 9 2.7 323 38 1.4 160 3.4 390 1.3 49 52 67 カンボジア 14 1.3 79 33 10.7 760 28.9 2,040 5.5 60 63 78 カメルーン 20 2.3 41 41 23.2 1,160 43.7 2,190 0.4 51 52 71 カナダ 34 1.0 4 16 1,415.4 41,950 1,257.7 37,280 1.8 79 84 .. 中央アフリカ共和国 5 1.8 7 40 2.1 460 3.4 760 1.4 46 49 55 チャド 12 3.1 9 46 6.9 600 13.6 1,180 1.6 48 50 34 チリ 17 1.1 23 22 170.3 9,940 238.0 13,890 4.2 76 82 99 中国 1,338 0.6 143 20 5,700.0 4,260 10,132.3 7,570 9.7 72 75 94 香港 7 0.5 6,721 12 231.7 32,900 333.1 47,300 6.4 80 86 .. コロンビア 46 1.5 41 29 255.3 5,510 416.5 9,000 2.9 70 77 93 コンゴ民主共和国 68 2.9 29 46 12.0 180 21.2 310 4.4 46 49 67 コンゴ共和国 4 2.1 11 40 8.7 2,310 12.3 3,280 6.6 53 55 .. コスタリカ 5 1.7 90 25 30.5 6,580 50.5d 10,880d 2.1 77 82 96 コートジボワール 22 2.2 66 40 23.0 1,070 35.5 1,650 0.6 57 59 55 クロアチア 4 0.0 79 15 61.0 13,760 82.9 18,710 –1.1 73 80 99 チェコ共和国 11 0.3 136 14 188.3 17,870 248.8 23,620 1.9 74 80 .. デンマーク 6 0.4 130 18 328.3 58,980 223.4 40,140 1.4 77 81 .. ドミニカ共和国 10 1.5 209 31 49.7 4,860 88.9d 8,700d 6.3 70 76 88 エクアドル 14 1.1 55 31 62.1 4,510 127.8 9,270 2.5 72 78 84 エジプト 84 1.9 83 32 197.9 2,340 499.3 5,910 3.3 69 72 66 エルサルバドル 6 0.4 297 32 20.8 3,360 39.6d 6,390d 0.5 67 76 84 エリトリア 5 3.6 50 42 1.8 340 2.8d 540d –0.7 58 62 67 エチオピア 85 2.6 83 43 32.4 380 85.4 1,010 7.3 54 57 30 フィンランド 5 0.4 18 17 253.0 47,170 199.4 37,180 2.7 77 83 .. フランス 65 0.7 118 18 2,749.8 42,390 2,234.2 34,440 1.0 78 85 .. グルジア 4e 0.1e 77e 17 12.0e 2,690e 22.1e 4,960e 5.4e 68 75 100 ドイツ 82 –0.1 235 13 3,537.2 43,330 3,116.1 38,170 3.9 77 83 .. ガーナ 24 2.2 105 38 30.1 1,240 39.0 1,600 4.4 56 58 67 ギリシャ 11 0.4 88 14 308.6 27,240 309.9 27,360 –4.9 78 83 97 グアテマラ 14 2.5 131 42 39.3 2,740 66.2d 4,610d 0.1 67 74 74 ギニア 10 2.1 41 43 4.0 380 10.1 980 –0.6 56 60 39 ハイチ 10 1.4 364 36 6.5 650 11.1d 1,110d –4.3 60 63 49 ホンジュラス 8 2.0 67 37 14.3 1,880 28.4d 3,730d 0.6 70 75 84 ハンガリー 10 –0.2 112 15 129.9 12,990 192.8 19,280 1.3 70 78 99 インド 1,171 1.4 389 31 1,566.6 1,340 4,170.9 3,560 8.3 63 66 63 インドネシア 233 1.2 127 27 599.1 2,580 1,000.7 4,300 4.9 69 73 92 イラン 74 1.4 45 24 330.4 4,530 832.6 11,420 .. 70 73 85 イラク 32 2.5 72 41 74.9 2,320 107.3 3,320 –1.7 65 72 78 アイルランド 4 1.6 65 21 182.5 40,990 145.7 32,740 –1.1 77 82 .. イスラエル 8 1.9 344 28 207.2 27,340 210.7 27,800 2.8 80 84 .. イタリア 61 0.6 205 14 2,125.8 35,090 1,883.0 31,090 0.7 79 84 99 日本 127 0.0 350 13 5,369.1 42,150 4,432.1 34,790 5.3 80 86 .. ヨルダン 6 2.4 67 34 26.5 4,350 35.1 5,770 0.7 71 75 92 カザフスタン 16 0.9 6 24 121.4 7,440 173.1 10,610 4.4 64 74 100 ケニア 41 2.6 70 43 31.8 780 65.9 1,610 2.6 54 55 87 韓国 49 0.4 503 16 972.3 19,890 1,417.9 29,010 5.9 77 84 .. キルギス 5 0.9 28 29 4.7 880 11.7 2,180 –2.2 62 72 99 ラオス 6 1.7 27 37 6.5 1,010 14.8 2,300 6.5 64 67 73 レバノン 4 1.2 413 25 38.4 9,020 60.3 14,170 6.2 70 74 90 リベリア 4 3.7 41 42 0.8 190 1.4 330 1.7 57 60 59 リビア 7 2.0 4 30 77.1 12,020 104.8 d 16,330 d .. 72 77 89 リトアニア 3 –0.5 53 15 37.8 11,400 59.4 17,880 2.0 68 79 100 マダガスカル 20 2.8 34 43 8.8 440 19.7 980 –1.1 59 62 64 マラウイ 15 2.8 154 46 4.9 330 12.7 850 3.8 53 55 74 マレーシア 28 1.8 84 29 220.4 7,900 400.7 14,360 5.4 72 77 92 マリ 15 3.1 12 44 9.1 600 15.6 1,020 1.4 48 50 26 モーリタニア 3 2.6 3 39 3.6 1,060 6.7 2,000 2.7 55 59 57 主要世界開発指標 2012 393 表 1 主要開発指標(続き) 1 人当たり 人口の年 PPP 表示の国民総 国内 総生 a 人口 齢別構成 国民総所得(GNI) 所得(GNI) 産(GDP) 出生時余命 成人識字率 (㎢当た (対 15 歳 (100 ( 年平均 り人口密 0-14 歳の (10 億ド (1 人当た (10 億ド (1 人当た (増加 以上人口 万人) 増加率% ) 度) 割合% ル) りドル) ル) りドル) 率%) 男(年数) 女(年数) 比%) 2010 年 2000-10 年  2009 年 2010 年  2010 年  2010 年 2010 年  2010 年 2009-10 年 2009 年 2009 年 2005-09 年 メキシコ 109 1.0 55 28 1,012.3 9,330 1,629.2 15,010 4.4 73 78 93 モルドバ 4f –0.2f 124f 17 6.5f 1,810f 11.9f 3,340f 7.0f 65 72 98 モロッコ 32 1.2 72 28 94.1g 2,850g 150.1g 4,560g 2.0g 69 74 56 モザンビーク 23 2.5 29 44 10.3 440 21.5 920 4.9 47 49 55 ミャンマー 50 0.8 77 27 .. ..c .. .. .. 60 64 92 ネパール 30 2.0 205 36 14.5 490 35.9 1,200 2.7 66 68 59 オランダ 17 0.4 490 18 826.5 49,720 707.9 42,590 1.2 79 83 .. ニュージーランド 4 1.2 16 20 125.4 29,050 121.0 28,050 1.2 78 82 .. ニカラグア 6 1.3 48 35 6.3 1,080 15.2d 2,610d 3.1 70 77 78 ニジェール 16 3.7 12 50 5.7 360 11.1 700 4.7 51 53 29 ナイジェリア 158 2.4 170 42 186.4 1,180 341.7 2,160 5.4 48 49 61 ノルウェー 5 0.8 16 19 416.9 85,380 279.0 57,130 –0.7 79 83 .. パキスタン 173 2.3 220 37 182.5 1,050 482.3 2,780 2.1 67 67 56 パナマ 4 1.7 46 29 24.5 6,990 45.4d 12,940d 5.8 73 79 94 パプアニューギニア 7 2.5 15 39 8.9 1,300 16.4d 2,390d 5.6 59 64 60 パラグアイ 6 1.9 16 34 19.0 2,940 35.1 5,430 13.3 70 74 95 ペルー 29 1.3 23 30 139.0 4,710 263.7 8,940 7.6 71 76 90 フィリピン 94 1.9 308 33 192.2 2,050 368.0 3,930 5.8 70 74 95 ポーランド 38 –0.1 125 15 474.0 12,420 726.1 19,020 3.7 72 80 100 ポルトガル 11 0.4 116 15 232.6 21,860 262.9 24,710 1.2 76 82 95 ルーマニア 21 –0.5 93 15 168.2 7,840 301.4 14,050 1.1 70 77 98 ロシア 142 –0.3 9 15 1,404.2 9,910 2,720.5 19,190 4.1 63 75 100 ルワンダ 10 2.6 405 42 5.5 540 12.2 1,180 4.6 49 52 71 サウジアラビア 26 2.3 13 32 436.6 17,200 607.0 23,900 .. 73 74 86 セネガル 13 2.6 65 43 13.5 1,050 23.7 1,850 1.5 54 57 50 セルビア 7 –0.3 83 18 42.4 5,820 81.9 11,230 2.2 71 76 .. シエラレオネ 6 3.2 80 43 2.0 340 4.8 830 2.4 47 49 41 シンガポール 5 2.4 7,125 16 210.3 40,920 281.1 54,700 11.1 79 84 95 スロバキア 5 0.1 113 15 88.1 16,220 125.6 23,140 0.3 71 79 .. ソマリア 9 2.4 15 45 .. ..c .. .. .. 49 52 .. 南アフリカ 50 1.3 41 30 304.6 6,100 513.8 10,280 1.5 50 53 89 スペイン 46 1.4 92 15 1,462.9 31,650 1,458.2 31,550 –0.7 79 85 98 スリランカ 20 0.9 324 24 46.7 2,290 103.8 5,070 7.2 71 78 91 スーダン 44 2.4 18 39 55.3 1,270 87.9 2,020 1.9 57 60 70 スウェーデン 9 0.6 23 16 469.0 49,930 372.0 39,600 4.5 79 83 .. スイス 8 0.8 193 15 548.0 70,350 383.1 49,180 1.8 80 84 .. シリア 22 2.7 115 35 57.0 2,640 105.3 4,870 0.7 73 76 84 タジキスタン 7 1.4 50 36 5.5 780 14.6 2,060 2.0 64 70 100 タンザニア 45 2.8 49 45 23.4h 530h 62.1h 1,420h 3.9h 56 57 73 タイ 68 0.9 133 21 286.7 4,210 561.5 8,240 7.2 66 72 94 トーゴ 7 2.6 122 40 3.0 440 5.4 790 0.9 61 65 57 チュニジア 11 1.0 67 23 42.8 4,070 85.8 8,140 2.7 73 77 78 トルコ 76 1.3 97 26 719.4 9,500 1,104.1 14,580 7.7 70 75 91 トルクメニスタン 5 1.4 11 29 19.2 3,700 37.1d 7,160d 6.7 61 69 100 ウガンダ 34 3.2 166 49 16.6 490 41.5 1,230 1.8 53 54 73 ウクライナ 46 –0.7 79 14 137.9 3,010 301.1 6,580 4.8 64 75 100 アラブ首長国連邦 5 3.7 55 19 .. ..i .. .. .. 77 79 90 イギリス 62 0.6 256 17 2,399.3 38,540 2,276.9 36,580 0.6 78 82 .. アメリカ 310 0.9 34 20 14,600.8 47,140 14,561.7 47,020 2.0 76 81 .. ウルグアイ 3 0.2 19 23 35.6 10,590 46.6 13,890 8.1 73 80 98 ウズベキスタン 28 1.3 65 29 36.1 1,280 87.1d 3,090d 7.0 65 71 99 ベネズエラ 29 1.7 32 29 334.1 11,59 0 344.5 11,950 –3.4 71 77 95 ベトナム 88 1.3 281 25 96.9 1,100 257.2 2,910 5.5 73 77 93 ヨルダン川西岸・ガザ 4 3.2 672 44 .. ..j .. .. .. 72 75 95 イエメン 24 2.9 45 43 25.0 1,060 54.7 2,320 .. 62 65 62 ザンビア 13 2.4 17 46 13.8 1,070 17.7 1,370 5.9 46 47 71 ジンバブエ 13 0.2 32 39 5.8 460 .. .. 8.0 45 46 92 世界全体 6,855s 1.2w 52w 27w 62,364.1t 9,097w 75,803.5t 11,058w 3.0w 67w 71w 84w 低所得国 817 2.2 53 39 416.8 510 1,018.1 1,246 3.6 56 59 61 中所得国 4,915 1.2 60 27 18,503.1 3,764 33,326.1 6,780 6.5 67 71 83  下位中所得国 2,467 1.6 107 32 4,090.2 1,658 9,128.1 3,701 5.7 63 67 71  上位中所得国 2,449 0.7 42 22 14,410.0 5,884 24,254.3 9,904 7.0 70 75 93 低・中所得国 5,732 1.3 59 29 18,939.8 3,304 34,344.5 5,991 6.3 65 69 80  東アジア・太平洋 1,957 0.8 123 22 7,223.3 3,691 12,961.6 6,623 8.8 71 74 94  ヨーロッパ・中央アジア 408 0.2 18 19 2,944.8 7,214 5,388.5 13,200 5.2 66 75 98  ラテンアメリカ・カリブ 578 1.2 28 28 4,509.7 7,802 6,329.6 10,951 5.1 71 77 91  中東・北アフリカ 337 1.8 38 31 1,293.0 3,839 2,598.0 7,851 .. 69 73  南アジア 1,591 1.5 329 32 1,929.8 1,213 5,103.4 3,208 7.3 63 66 61  サハラ以南アフリカ 862 2.5 36 42 1,003.6 1,165 1,816.6 2,108 2.3 51 54 62 高所得国 1,123 0.7 33 17 43,412.3 38,658 41,755.9 37,183 2.5 77 83 98 a.世界銀行アトラス方式を用いて算出. b.PPP は購買力平価.テクニカル・ノートを参照. c.低所得国(1,005 ドル以下)と推定される. d.回帰分析による推定値.その他の推定 値は 2005 年の「国際比較プログラム」に基づくベンチマーク推定値からの外挿による. e.データはアブハーズと南オセティアを除く. f.トランスニストリアのデータを除く.g.旧ス ペイン領サハラを含む. h.タンザニア本土だけのデータ. i.高所得国(12,276 ドル以上)と推定される. j.低位中所得国(1,006-3,975 ドル)と推定される. 394 世界開発報告 2012 表 2 貧困 各国の貧困線 国際的貧困線 a a 1 日 1.25 ド 1 日 1.25 ド 1 日 1.25 ド ル未満での 1 日 2 ドル 1 日 1.25 ド ル未満での 1 日 2 ドル ル未満の人 貧困格差 未満の人口 ル未満の人 貧困格差 未満の人口 調査年 割合(%) 調査年 割合(%) 調査年 口(%) (%) (%) 調査年 口(%) (%) (%) c c c c アフガニスタン .. 2008d 36.0e .. .. .. .. .. .. アルバニア 2005 18.5e 2008 12.4e 2005 <2 <0.5 7.9 2008 <2 <0.5 4.3 アルジェリア .. .. 1988 6.6 1.8 23.8 1995 6.8 1.4 23.6 アンゴラ .. .. .. .. .. 2000f 54.3 29.9 70.2 アルゼンチン .. .. 2006f,h 2.8 0.6 8.0 2009f,h <2 <0.5 <2 アルメニア 2008 23.5e 2009 26.5e 2003 10.6 1.9 43.5 2008 <2 <0.5 12.4 オーストラリア .. .. .. .. .. .. .. .. オーストリア .. .. .. .. .. .. .. .. アゼルバイジャン 2001 49.6e 2008 15.8e 2005 <2 <0.5 <2 2008 <2 <0.5 7.8 バングラデシュ 2000 48.9 2005 40.0 2000i 57.8 17.3 85.4 2005i 49.6 13.1 81.3 ベラルーシ 2008 6.1 2009 5.4 2005 <2 <0.5 <2 2008 <2 <0.5 <2 ベルギー .. .. .. .. .. .. .. .. ベニン .. 2003d 39.0 .. .. .. 2003 47.3 15.7 75.3 ボリビア 2006g 59.9 2007g 60.1 2005h 19.6 9.7 30.4 2007h 14.0 5.8 24.7 ボスニアヘルツェゴビナ 2004 17.7e 2007 14.0e 2004 <2 <0.5 <2 2007 <2 <0.5 <2 ブラジル 2008g 22.6 2009g 21.4 2008h 4.3 1.4 10.4 2009h 3.8 1.1 9.9 ブルガリア 1997 36.0e 2001 12.8e 2003 <2 <0.5 2.4 2007 <2 <0.5 7.3 ブルキナファソ .. 2003d 46.4 1998 70.0 30.2 87.6 2003 56.5 20.3 81.2 ブルンジ .. 2006d 66.9 1998 86.4 47.3 95.4 2006 81.3 36.4 93.5 カンボジア 2004 34.7e 2007 30.1e 2004 40.2 11.3 68.2 2007 28.3 6.1 56.5 カメルーン .. 2007d 39.9 2001 32.8 10.2 57.7 2007 9.6 1.2 30.8 カナダ .. .. .. .. .. .. .. .. 中央アフリカ共和国 .. 2008d 62.0 1993 82.8 57.0 90.8 2003 62.4 28.3 81.9 チャド .. 2003d 55.0 .. .. .. 2003 61.9 25.6 83.3 チリ 2006 g 13.7 2009g 15.1 2006 h <2 <0.5 2.4 2009h <2 <0.5 <2 中国 .. .. 2002j 28.4 8.7 51.1 2005j 15.9 4.0 36.3 香港 .. .. .. .. .. .. .. .. コロンビア 2008g 46.0 2009g 45.5 2003h 15.4 6.1 26.3 2006h 16.0 5.7 27.9 コンゴ民主共和国 .. 2005 71.3 .. .. .. 2006 59.2 25.3 79.6 コンゴ共和国 .. 2005 50.1 .. .. .. 2005 54.1 22.8 74.4 コスタリカ 2008g 20.7 2009g 21.7 2005h 2.4 <0.5 8.6 2009h <2 <0.5 4.8 コートジボワール .. .. .. .. .. .. .. .. クロアチア 2002 11.2 2004 11.1 2005 <2 <0.5 <2 2008 <2 <0.5 <2 チェコ共和国 .. .. 1993h <2 <0.5 <2 1996h <2 <0.5 <2 デンマーク .. .. .. .. .. .. .. .. ドミニカ共和国 2005g 53.5 2006g 49.4 2006h 4.0 0.7 13.5 2007h 4.3 0.9 13.6 エクアドル 2008g 35.1 2009g 36.0 2007h 4.7 1.2 12.8 2009h 5.1 1.6 13.4 エジプト 2005 19.6 2008 22.0 2000 <2 <0.5 19.4 2005 <2 <0.5 18.5 エルサルバドル 2007g,k 34.6 2008g,k 40.0 2005h 11.0 4.8 20.5 2008h 5.1 1.1 15.2 エリトリア .. .. .. .. .. .. .. .. エチオピア 2000 44.2 2005 38.9 2000 55.6 16.2 86.4 2005 39.0 9.6 77.6 フィンランド .. .. .. .. .. .. .. .. フランス .. .. .. .. .. .. .. .. グルジア .. 2007 23.6e 2005 13.4 4.4 30.4 2008 14.7 4.6 32.6 ドイツ .. .. .. .. .. .. .. .. ガーナ 1998 39.5 2006 28.5 1998 39.1 14.4 63.3 2006 30.0 10.5 53.6 ギリシャ .. .. .. .. .. .. .. .. グアテマラ 2000 g 56.2 2006 g 51.0 2002 h 16.9 6.5 29.8 2006h 12.7 3.8 25.7 ギニア .. 2007d 53.0 2003 70.1 32.2 87.2 2007 43.8 15.2 70.0 ハイチ .. 2001g 77.0 .. .. .. 2001h 54.9 28.2 72.2 ホンジュラス 2008g,k 59.6 2009g,k 58.8 2006h 18.2 8.2 29.7 2007h 23.2 11.3 35.6 ハンガリー .. .. 2004 <2 <0.5 <2 2007 <2 <0.5 <2 インド 1994 36.0 2005 27.5 1994j 49.4 13.6 81.7 2005j 41.6 10.5 75.6 インドネシア 2009 14.2 2010 13.3 2005j 21.4 4.6 53.8 2009j 18.7 3.6 50.7 イラン .. .. .. .. .. .. .. .. イラク .. 2007 22.9 .. .. .. 2007 4.0 0.6 25.3 アイルランド .. .. .. .. .. .. .. .. イスラエル .. .. .. .. .. .. .. .. イタリア .. .. .. .. .. .. .. .. 日本 .. .. .. .. .. .. .. .. ヨルダン 2002 14.2 2006 13.0 2003 <2 <0.5 11.0 2006 <2 <0.5 3.5 カザフスタン 2001 17.6e 2002 15.4e 2003 3.1 <0.5 17.2 2007 <2 <0.5 <2 ケニア .. 2005d 45.9 1997 19.6 4.6 42.7 2005 19.7 6.1 39.9 韓国 .. .. .. .. .. .. .. .. キルギス 2003 49.9e 2005 43.1e 2004 21.8 4.4 51.9 2007 <2 <0.5 29.4 ラオス 2002 33.5e 2008 27.6e 2002 44.0 12.1 76.9 2008 33.9 9.0 66.0 レバノン .. .. .. .. .. .. .. .. リベリア .. 2007 63.8e .. .. .. 2007 83.7 40.8 94.8 リビア .. .. .. .. .. .. .. .. リトアニア .. .. 2004 <2 <0.5 <2 2008 <2 <0.5 <2 マダガスカル 2004 72.1 2005 68.7 2001 76.3 41.4 88.8 2005 67.8 26.5 89.6 マラウイ 1998 54.1 2004 52.4 1998 83.1 46.0 93.5 2004 73.9 32.3 90.5 マレーシア 2007 3.6e 2009 3.8e 2004h <2 <0.5 7.8 2009h <2 <0.5 <2 マリ .. 2006d 47.4 2001 61.2 25.8 82.0 2006 51.4 18.8 77.1 モーリタニア .. 2000d 46.3 1996 23.4 7.1 48.3 2000 21.2 5.7 44.1 主要世界開発指標 2012 395 表 2 貧困 ( 続き ) 各国の貧困線 国際的貧困線 a a 1 日 1.25 ド 1 日 1.25 ド 1 日 1.25 ド ル未満での 1 日 2 ドル 1 日 1.25 ド ル未満での 1 日 2 ドル ル未満の人 貧困格差 未満の人口 ル未満の人 貧困格差 未満の人口 調査年 割合(%) 調査年 割合(%) 調査年 口(%) (%) (%) 調査年 口(%) (%) (%) c c c c メキシコ 2006g 42.6 2008g 47.4 2006 <2 <0.5 4.8 2008 <2 <0.5 8.6 モルドバ 2004 26.5e 2005 29.0e 2004 8.1 1.7 29.0 2008 <2 <0.5 12.5 モロッコ .. 2001 15.3 2001 6.3 0.9 24.3 2007 2.5 0.5 14.0 モザンビーク 2003 54.1 2008 54.7 2003 74.7 35.4 90.0 2008 60.0 25.2 81.6 ミャンマー .. .. .. .. .. .. .. .. ネパール 1996 41.8 2004 30.9 1996 68.4 26.7 88.1 2004 55.1 19.7 77.6 オランダ .. .. .. .. .. .. .. .. ニュージーランド ..   .. .. .. .. .. .. .. ニカラグア 2001g 45.8 2005g 46.2 2001h 19.4 6.7 37.5 2005h 15.8 5.2 31.9 ニジェール .. 2007d 59.5 2005 65.9 28.1 85.6 2007 43.1 11.9 75.9 ナイジェリア .. 2004d 54.7 1996 68.5 32.1 86.4 2004 64.4 29.6 83.9 ノルウェー ..    .. .. .. .. .. .. .. パキスタン 2005 23.9 2006 22.3 2005 22.6 4.4 60.3 2006 22.6 4.1 61.0 パナマ 2003 36.8 2008 32.7 2006h 9.5 3.1 17.9 2009h 2.4 <0.5 9.5 パプアニューギニア ..   .. .. .. .. 1996 35.8 12.3 57.4 パラグアイ 2008g 37.9 2009g 35.1 2007h 6.5 2.7 14.2 2008h 5.1 1.5 13.2 ペルー 2008 36.2 2009 34.8 2006h 7.9 1.9 18.5 2009h 5.9 1.4 14.7 フィリピン 2006 26.4 2009 26.5 2003 22.0 5.5 43.8 2006 22.6 5.5 45.0 ポーランド 2001 15.6e 2002 16.6e 2005 <2 <0.5 <2 2008 <2 <0.5 <2 ポルトガル .. .. .. .. .. .. .. .. ルーマニア 2005 15.1e 2006 13.8e 2005 <2 <0.5 3.4 2008 <2 <0.5 <2 ロシア 2005 11.9e 2006 11.1e 2005 <2 <0.5 <2 2008 <2 <0.5 <2 ルワンダ .. 2006d 58.5 2000 76.6 38.2 90.3 2006 76.8 40.9 89.6 サウジアラビア .. .. .. .. .. .. .. .. セネガル .. 2005d 50.8e 2001 44.2 14.3 71.3 2005 33.5 10.8 60.4 セルビア 2006 9.0e 2007 6.6e .. .. .. 2008 <2 <0.5 <2 シエラレオネ .. 2003d 66.4 1990 62.8 44.8 75.0 2003 53.4 20.3 76.1 シンガポール ..   .. .. .. .. .. .. .. スロバキア .. .. 1992h <2 <0.5 <2 1996h <2 <0.5 <2 ソマリア .. .. .. .. .. .. .. .. 南アフリカ 2000 38.0 2005 23.0 1995 21.4 5.2 39.9 2000 26.2 8.2 42.9 スペイン .. .. .. .. .. .. .. .. スリランカ 2002 22.7 2007 15.2 2002 14.0 2.6 39.7 2007 7.0 1.0 29.1 スーダン .. .. .. .. .. .. .. .. スウェーデン .. .. .. .. .. .. .. .. スイス .. .. .. .. .. .. .. .. シリア .. .. .. .. .. 2004 <2 <0.5 16.9 タジキスタン 2007 53.1e 2009 47.2e 2003 36.3 10.3 68.8 2004 21.5 5.1 50.9 タンザニア 2000 35.6 2007 33.4 2000 88.5 46.8 96.6 2007 67.9 28.1 87.9 タイ 2008 9.0 2009 8.1 2004 <2 <0.5 11.5 2009 12.8 2.4 26.5 トーゴ .. 2006 61.7 .. .. .. 2006 38.7 11.4 69.3 チュニジア .. .. 1995 6.5 1.3 20.4 2000 2.6 <0.5 12.8 トルコ 2008 17.1 2009 18.1 .. .. .. .. .. .. トルクメニスタン .. .. 1993h 63.5 25.8 85.7 1998 24.8 7.0 49.7 ウガンダ 2005 31.1 2009 24.5 2005 51.5 19.1 75.6 2009 37.7 12.1 64.5 ウクライナ 2004 14.0e 2005 7.9e 2005 <2 <0.5 <2 2008 <2 <0.5 <2 アラブ首長国連邦 .. .. .. .. .. .. .. .. イギリス .. .. .. .. .. .. .. .. アメリカ .. .. .. .. .. .. .. .. ウルグアイ 2007g 26.0 2008g 20.5 2006h <2 <0.5 4.2 2009h <2 <0.5 <2 ウズベキスタン .. .. 2002 42.3 12.4 75.6 2003 46.3 15.0 76.7 ベネズエラ 2008g 32.6 2009g 29.0 2005h 10.0 4.5 19.8 2006h 3.5 1.1 10.2 ベトナム 2006 16.0 2008 14.5 2006 21.5 4.6 48.4 2008 13.1 2.3 38.4 ヨルダン川西岸・ガザ 2007 31.2 2009 21.9 .. .. .. .. .. .. イエメン 1998 40.1 2005 34.8 1998 12.9 3.0 36.4 2005 17.5 4.2 46.6 ザンビア 2004 58.4 2006 59.3 2003 64.6 27.1 85.2 2004 64.3 32.8 81.5 ジンバブエ .. 2003d 72.0 .. .. .. .. .. .. a.特記なき限り家計調査データから推計された 1 人当たり消費に基づく. b.特記なき限り家計調査データから推計された名目の 1 人当たり消費の平均と分布に基づく. c.基本的な家 計調査データが収集された年と,データ収集が 2 暦年にわたる場合にはより多くのデータが収集された方の年を指す. d.以前の年から入手可能ではあるが,ここで掲載されている最新年 とは比較不可能な調査データに基づく推計値. e.世界銀行の推計値. f.都市部のみカバー. g.家計調査データから推計された 1 人当たり所得に基づく. h.計調査データから推 計された 1 人当たり消費の平均と分布に基づく. i.空間的な消費者物価指数データで調整済み. j.都市部と農村部の推計値の人口による加重平均値. k.家計のシェアで測定. 396 世界開発報告 2012 表 3 ミレニアム開発目標:貧困の撲滅と生活の向上 開発のための世 普遍的初等 男女平等の 幼児死亡の 妊産婦保健 HIV/ エイズ・その他疾 界的なパート 極貧と飢餓の撲滅 教育の達成 促進 削減 の改善 病との戦い 持続可能な環境の確保 ナーシップ形成 最貧 20% 改善された が消費 / 所 5 歳未満児 1 人当たり 衛生設備へ 得に占める の栄養失調 小中学校就 1,000 人当 10 万人当 HIV 感染率 10 万人当 二酸化炭素 のアクセス 100 人当たり 割合(%) 脆弱な雇用 の割合 (%) 初等教育修 学者の男女 たり 5 歳未 たり出産時 (%,15-49 たり結核罹 排出量 がある人口 インターネッ 1995-2009 の割合 (%) 2004-09 了率(%) 比率(%) 満児死亡率 死亡者率 歳人口) 患率 (トン) の割合 (%) ト利用率 a 年b 2009 年 年b 2009 年 2009 年 2009 年 2008 年 2009 年 2009 年 2007 年 2008 年 2009 年 アフガニスタン 9.0c .. 32.9 .. 62 199 1,400 .. 189 0.0 37 3.4 アルバニア 8.1c .. 6.6 90 100 15 31 .. 15 1.4 98 41.2 アルジェリア 6.9c .. 3.7 91 98 32 120 0.1 59 4.1 95 13.5 アンゴラ 2.0c,d .. .. .. .. 161 610 2.0 298 1.4 57 3.3 アルゼンチン 4.1d,e 20f 2.3 105 105 14 70 0.5 28 4.6 90 30.4 アルメニア 8.8c 38 4.2 98 103 22 29 0.1 73 1.6 90 6.8 オーストラリア .. 9 .. .. 98 5 8 0.1 6 17.7 100 72.0 オーストリア 8.6e 9 .. 97 97 4 5 0.3 11 8.3 100 73.5 アゼルバイジャン 8.0c 55 8.4 92 102 34 38 0.1 110 3.7 45 42.0 バングラデシュ 9.4c . 41.3 61 108 52 340 <0.1 225 0.3 53 0.4 ベラルーシ 9.2c .. 1.3 96 102h 12 15 0.3 39 6.9 93 45.9 ベルギー 8.5e 10 .. 87 98 5 5 0.2 9 9.7 100 75.2 ベニン 6.9c .. 20.2 62 .. 118 410 1.2 93 0.5 12 2.2 ボリビア 2.8e 57 4.5 99 99 51 180 0.2 140 1.4 25 11.2 ボスニアヘルツェゴビナ 6.7c .. 1.6 .. 102 14 9 .. 50 7.7 95 37.7 ブラジル 3.3e 25 2.2 .. 103 21 58 .. 45 1.9 80 39.2 ブルガリア 5.0c 9 1.6 94 97 10 13 0.1 41 6.8 100 44.8 ブルキナファソ 7.0c .. 26.0 47h 88h 166 560 1.2 215 0.1 11 1.1 ブルンジ 9.0c .. .. 52 93 166 970 3.3 348 0.0 46 0.8 カンボジア 6.6c .. 28.8 79 90 88 290 0.5 442 0.3 29 0.5 カメルーン 5.6c .. 16.6 73 86 154 600 5.3 182 0.3 47 3.8 カナダ 7.2e .. .. .. 99 6 12 0.2 5 16.9 100 77.7 中央アフリカ共和国 5.2c .. .. 40h 69h 171 850 4.7 327 0.1 34 0.5 チャド 6.3c .. 33.9 33 64 209 1,200 3.4 283 0.0 9 1.7 チリ 4.1e 25 0.5 95 99 9 26 0.4 11 4.3 96 34.0 中国 5.7e .. 4.5 .. 105 19 38 0.1g 96 5.0 55 28.8 香港 5.3e 7f .. 93 102 .. .. .. 82 5.8 .. 61.4 コロンビア 2.5e 48 5.1 115 105 19 85 0.5 35 1.4 74 45.5 コンゴ民主共和国 5.5c .. 28.2 56 77 199 670 .. 372 0.0 23 0.6 コンゴ共和国 5.0c .. 11.8 74 .. 128 580 3.4 382 0.4 30 6.7 コスタリカ 4.2e 20 .. 96 102 11 44 0.3 10 1.8 95 34.5 コートジボワール 5.6c .. 16.7 46 .. 119 470 3.4 399 0.3 23 4.6 クロアチア 8.1c 17 1.0 97 102 5 14 <0.1 25 5.6 99 50.4 チェコ共和国 10.2e 13 .. 99 101 4 8 <0.1 9 12.1 98 63.7 デンマーク 8.3e 5 .. 97 102 4 5 0.2 7 9.1 100 85.9 ドミニカ共和国 4.4e 42 3.4 90 97 32 100 0.9 70 2.1 83 26.8 エクアドル 4.2e 42f 6.2 106 102 24 140 0.4 68 2.2 92 15.1 エジプト 9.0c 27 6.8 96 96 21 82 <0.1 19 2.3 94 20.0 エルサルバドル 4.3e 37 .. 89 98 17 110 0.8 30 1.1 87 14.4 エリトリア .. .. .. 48 77 55 280 0.8 99 0.1 14 4.9 エチオピア 9.3c .. 34.6 55 88 104 470 .. 359 0.1 12 0.5 フィンランド 9.6e 10 .. 97 102 3 8 0.1 9 12.1 100 83.9 フランス 7.2e 7 .. .. 100 4 8 0.4 6 6.0 100 71.3 グルジア 5.3c 63 2.3 107 96 29 48 0.1 107 1.4 95 30.5 ドイツ 8.5e 7 1.1 104 96 4 7 0.1 5 9.6 100 79.5 ガーナ 5.2c .. 14.3 83 95 69 350 1.8 201 0.4 13 5.4 ギリシャ 6.7e 27 .. 101 97 3 2 0.1 5 8.8 98 44.1 グアテマラ 3.4e .. .. 80 94 40 110 0.8 62 1.0 81 16.3 ギニア 6.4c .. 20.8 62 77 142 680 1.3 318 0.1 19 0.9 ハイチ 2.5e .. 18.9 .. .. 87 300 1.9 238 0.2 17 10.0 ホンジュラス 2.0e 50 8.6 90 107 30 110 0.8 58 1.2 71 9.8 ハンガリー 8.4c 7 .. 95 99 6 13 <0.1 16 5.6 100 61.6 インド 8.1c .. 43.5 95 92 66 230 0.3 168 1.4 31 5.3 インドネシア 7.6c 64 17.5h 109 98 39 240 0.2 189 1.8 52 8.7 イラン 6.4c 42 .. 101 97 31 30 0.2 19 7.0 .. 38.3 イラク .. .. 7.1 64 81 44 75 .. 64 3.3 73 1.0 アイルランド 7.4e 12 .. .. 103 4 3 0.2 9 10.2 99 68.4 イスラエル 5.7e 7 .. 102 102 4 7 0.2 5 9.3 100 49.7 イタリア 6.5e 18 .. 104 99 4 5 0.3 6 7.7 .. 48.5 日本 .. 10 .. 102 100 3 6 <0.1 21 9.8 100 77.7 ヨルダン 7.2c 10 1.9 99 102 25 59 .. 6 3.8 98 29.3 カザフスタン 8.7c 32 4.9 108h 99h 29 45 0.1 163 14.7 97 33.4 ケニア 4.7c .. 16.4 .. 95 84 530 6.3 305 0.3 31 10.0 韓国 7.9e 24 .. 101 97 5 18 <0.1 90 10.4 100 80.9 キルギス 8.8c .. 2.7 94 101 37 81 0.3 159 1.2 93 41.2 ラオス 7.6c .. 31.6 75 87 59 580 0.2 89 0.3 53 4.7 レバノン .. 28 4.2 85 104 12 26 0.1 15 3.2 .. 23.7 リベリア 6.4c 80 20.4 58 .. 112 990 1.5 288 0.2 17 0.5 リビア .. .. 5.6 .. .. 19 64 .. 40 9.3 97 5.5 リトアニア 6.6c 10 .. 96 99 6 13 0.1 71 4.5 .. 58.8 マダガスカル 6.2c .. 36.8 79 97 58 440 0.2 261 0.1 11 1.6 マラウイ 7.0c .. 15.5 59 100 110 510 11.0 304 0.1 56 4.7 マレーシア 4.5e 22 .. 97 103 6 31 0.5 83 7.3 96 57.6 マリ 6.5c .. 27.9 64h 80h 191 830 1.0 324 0.0 36 1.9 モーリタニア 6.2c .. 16.7 64 103 117 550 0.7 330 0.6 26 2.3 主要世界開発指標 2012 397 表 3 ミレニアム開発目標:貧困の撲滅と生活の向上 ( 続き ) 開発のための世 普遍的初等 男女平等の 幼児死亡の 妊産婦保健 HIV/ エイズ・その他疾 界的なパート 極貧と飢餓の撲滅 教育の達成 促進 削減 の改善 病との戦い 持続可能な環境の確保 ナーシップ形成 最貧 20% 改善された が消費 / 所 5 歳未満児 1 人当たり 衛生設備へ 得に占める の栄養失調 小中学校就 1,000 人当 10 万人当 HIV 感染率 10 万人当 二酸化炭素 のアクセス 100 人当たり 割合(%) 脆弱な雇用 の割合 (%) 初等教育修 学者の男女 たり 5 歳未 たり出産時 (%,15-49 たり結核罹 排出量 がある人口 インターネッ 1995-2009 の割合 (%) 2004-09 了率(%) 比率(%) 満児死亡率 死亡者率 歳人口) 患率 (トン) の割合 (%) ト利用率 a 年b 2009 年 年b 2009 年 2009 年 2009 年 2008 年 2009 年 2009 年 2007 年 2008 年 2009 年 メキシコ 3.9e 30 3.4 104 102 17 85 0.3 17 4.5 85 26.5 モルドバ 6.8c 29 3.2 93 101 17 32 0.4 178 1.3 79 35.9 モロッコ 6.5c 51 9.9 80 88 38 110 0.1 92 1.5 69 32.2 モザンビーク 5.2c .. .. 61h 89h 142 550 11.5 409 0.1 17 2.7 ミャンマー .. .. .. 99 100 71 240 0.6 404 0.3 81 0.2 ネパール 6.1c .. 38.8 .. .. 48 380 0.4 163 0.1 31 2.1 オランダ 7.6e 10 .. .. 99 4 9 0.2 8 10.6 100 90.0 ニュージーランド 6.4e 11 .. .. 102 6 14 0.1 8 7.7 .. 83.4 ニカラグア 3.8e 45 4.3 75 102 26 100 0.2 44 0.8 52 3.5 ニジェール 8.3c .. 39.9 41h 78h 160 820 0.8 181 0.1 9 0.8 ナイジェリア 5.1c .. 26.7 79 85 138 840 3.6 295 0.6 32 28.4 ノルウェー 9.6e 6 .. 100 99 3 7 0.1 6 9.1 100 91.8 パキスタン 9.0c 63 .. 61 82 87 260 0.1 231 1.0 45 12.0 パナマ 3.6e 27 .. 102 101 23 71 0.9 48 2.2 69 27.8 パプアニューギニア 4.5c .. 18.1 .. .. 68 250 0.9 250 0.5 45 1.9 パラグアイ 3.8e 45 .. 93 100 23 95 0.3 47 0.7 70 15.8 ペルー 3.9e 40 f 5.4 101 99 21 98 0.4 113 1.5 68 27.7 フィリピン 5.6c 44 f .. 94 102 33 94 <0.1 280 0.8 76 6.5 ポーランド 7.6c 19 .. 95 100 7 6 0.1 24 8.3 90 58.8 ポルトガル 5.8e 18 .. .. 101 4 7 0.6 30 5.5 100 48.6 ルーマニア 8.1c 31 .. 96 99 12 27 0.1 125 4.4 72 36.2 ロシア 6.0c 6 .. 95 98 12 39 1.0 106 10.8 87 42.1 ルワンダ 4.2c .. 18.0 54 100 111 540 2.9 376 0.1 54 4.5 サウジアラビア .. .. 5.3 88 91 21 24 .. 18 16.6 .. 38.6 セネガル 6.2c .. 14.5 57 95 93 410 0.9 282 0.5 51 7.4 セルビア 9.1c 28 1.8 96 101 7 8 0.1 21 .. 92 56.1 シエラレオネ 6.1c .. 21.3 88 .. 192 970 1.6 644 0.2 13 0.3 シンガポール 5.0e 10 .. .. .. 3 9 0.1 36 11.8 100 73.3 スロバキア 8.8e 12 .. 97 101 7 6 <0.1 9 6.8 100 75.0 ソマリア .. .. 32.8 .. 53 180 1,200 0.7 285 0.1 23 1.2 南アフリカ 3.1c 10 .. 93 99 62 410 17.8 971 9.0 77 9.0 スペイン 7.0e 11 .. 103 102 4 6 0.4 17 8.0 100 61.2 スリランカ 6.9c 40f 21.6 97 .. 15 39 <0.1 66 0.6 91 8.7 スーダン .. .. 31.7 57 89 108 750 1.1 119 0.3 34 9.9 スウェーデン 9.1e 7 .. 95 99 3 5 0.1 6 5.4 100 90.3 スイス 7.6e 9 .. 96 98 4 10 0.4 5 5.0 100 70.9 シリア 7.7c 38 10.0 112 97 16 46 .. 21 3.5 96 18.7 タジキスタン 9.3c .. 14.9 98 91 61 64 0.2 202 1.1 94 10.1 タンザニア 6.8c .. 16.7 102 96 108 790 5.6 183 0.1 24 1.5 タイ 3.9c 53 7.0 .. 103 14 48 1.3 137 4.1 96 25.8 トーゴ 5.4c .. 22.3 61 75 98 350 3.2 446 0.2 12 5.4 チュニジア 5.9c .. 3.3 90 103 21 60 <0.1 24 2.3 85 33.5 トルコ 5.7c 34 3.5 93 93 20 23 <0.1 29 4.0 90 35.3 トルクメニスタン 6.0c .. .. .. .. 45 77 .. 67 9.2 98 1.6 ウガンダ 5.8c .. 16.4 73 99 128 430 6.5 293 0.1 48 9.8 ウクライナ 9.4c .. .. 95 99 15 26 1.1 101 6.8 95 33.3 アラブ首長国連邦 .. 1 .. 99 100 7 10 .. 4 31.0 97 82.2 イギリス 6.1e 11 .. .. 101 6 12 0.2 12 8.8 100 83.2 アメリカ 5.4e .. 1.3 96 101 8 24 0.6 4 19.3 100 78.1 ウルグアイ 5.6e 25 f 6.0 106 104 13 27 0.5 22 1.9 100 55.5 ウズベキスタン 7.1c .. 4.4 92 99 36 30 0.1 128 4.3 100 16.9 ベネズエラ 4.9e 31 3.7 95 102 18 68 .. 33 6.0 .. 31.2 ベトナム 7.3c .. 20.2 .. .. 24 56 0.4 200 1.3 75 27.5 ヨルダン川西岸・ガザ .. 27 2.2 82 104 30 .. .. 19 0.6 89 8.8 イエメン 7.2c .. .. 61 .. 66 210 .. 54 1.0 52 1.8 ザンビア 3.6c .. 14.9 87 96 141 470 13.5 433 0.2 49 6.3 ジンバブエ 4.6c .. 14.0 .. .. 90 790 14.3 742 0.8 44 11.4 世界全体 ..w 21.3w 88w 96w 61w 260w 0.8w 137w 4.6w,i 61w 27.1 低所得国 .. 27.7 65 91 119 590 2.6 296 0.3 36 2.6 中所得国 .. 20.8 92 97 52 210 0.7 139 3.3 56 20.7  下位中所得国 .. 24.0 88 93 71 300 0.7 179 1.5 46 10.3  上位中所得国 .. .. 98 103 21 60 0.7 99 5.0 68 31.1 低・中所得国 .. 22.4 87 96 66 290 0.9 161 2.9 54 18.2  東アジア・太平洋 .. 8.8 97 103 26 89 0.2 136 4.0 59 24.1  ヨーロッパ・中央アジア 18 .. 95 97 21 34 0.6 89 7.2 89 36.6  ラテンアメリカ・カリブ 30 3.8 102 102 23 86 0.5 45 2.7 79 31.5  中東・北アフリカ 37 6.8 88 93 33 88 0.1 39 3.7 84 21.5  南アジア .. 42.5 86 92 71 290 0.3 180 1.2 36 5.5  サハラ以南アフリカ .. 24.7 67 89 130 650 5.5 342 0.8 31 8.8 高所得国 .. .. 97 100 7 15 0.3 14 12.5 100 72.3 a.国際電気通信連合 (ITU)の Telecommunication Development Report データベースに基づく.このデータの第三者利用に関しては ITU 出所と明記してほしい. b.入手可能な最新年のデー タ. c.1 人当たり支出でランク付けした人口 10%層の支出シェアをさす. d.都市部のデータ. e.1 人当たり所得でランク付けした人口の 10%層の所得シェアをさす. f.カバレッ ジは限定的. g.香港を含む. h.2010 年のデータ. i.特定国に割り当てられていない排出を含む. 398 世界開発報告 2012 表 4 経済活動 国内総生産(GDP) 農業生産性,農民 家計最終消 財サービス GDP インプリ 一人当たり付加価値 費支出 一般政府消 総固定資本 対外収支 シット・デフ 年平均増加 2000 年米ドル 付加価値(対 GDP 比 %) (対 GDP 比 費支出(対 形成(対 (対 GDP レーター(年 100 万ドル 率% 農業 工業 サービス業 %) GDP 比 %) GDP 比 %) 比 %) 平均上昇率 %) 2010 年 2000-10 年 1990-92 年 2005-07 2009 年 2009 年 2009 年 2009 年 2009 年 2009 年 2009 年 2000-10 年 アフガニスタン 11,757 .. .. .. 29 26 45 88 9 25 –32 8.3 アルバニア 11,786 5.4 837 1,663 21 20 60 87 10 29 –26 3.3 アルジェリア 159,426 3.8 1,823 2,232 12 55 34 41 14 41 4 8.3 アンゴラ 84,391 12.9 176 222 10 59 31 .. .. 15 6 36.1 アルゼンチン 368,712 5.6 6,919 11,192 8 32 61 59 15 21 5 13.0 アルメニア 9,265 9.1 1,607a 4,510 21 35 45 82 11 32 –25 0.5 オーストラリア 924,843 3.3 20,676 30,830 3 29 68 57 17 28 –2 4.0 オーストリア 376,162 1.9 13,607 20,508 2 29 69 54 20 21 5 1.7 アゼルバイジャン 51,092 17.1 1,000a 1,198 8 60 32 37 14 22 28 9.5 バングラデシュ 100,076 5.9 255 387 19 29 53 77 5 24 –7 5.4 ベラルーシ 54,713 8.2 2,042a 4,007 10 42 48 57 17 38 –11 21.4 ベルギー 467,472 1.6 .. 38,913 1 22 78 52 25 20 3 2.1 ベニン 6,633 4.0 429 661 .. .. .. .. .. 25 –14 3.3 ボリビア 19,786 4.1 703 732 14 36 50 66 15 17 3 6.9 ボスニアヘルツェゴビナ 16,888 4.6 .. 10,352 8 28 64 80 23 22 –25 3.9 ブラジル 2,087,890 3.7 1,611 3,310 6 25 69 62 22 17 0 8.0 ブルガリア 47,714 4.8 4,396 8,204 6 30 64 66 16 26 –8 5.9 ブルキナファソ 8,820 5.5 126 182 33 22 44 75 22 18 –15 2.7 ブルンジ 1,611 3.2 117 70 .. .. .. 91 29 16 –36 10.7 カンボジア 11,343 8.5 .. 366 35 23 42 74 8 21 –3 5.1 カメルーン 22,394 3.2 409 703 19 31 50 72 9 18 –4 2.1 カナダ 1,574,052 2.0 28,542 46,233 2 32 67 59 22 21 –2 2.5 中央アフリカ共和国 2,013 1.0 322 404 56 15 29 93 5 11 –8 2.8 チャド 7,588 9.0 209 .. 14 49 38 79 16 34 –28 5.4 チリ 203,443 4.0 3,618 6,145 3 43 54 59 14 19 8 6.2 中国 5,878,629 10.8 269 459 10 46 43 35 13 48 4 4.4 香港 224,458 4.6 .. .. 0 7 93 62 9 21 7 –1.1 コロンビア 288,189 4.5 3,123 2,781 7 34 58 64 16 22 –2 5.9 コンゴ民主共和国 13,145 5.3 209 162 43 24 33 75 8 29 –12 26.6 コンゴ共和国 11,898 4.3 .. .. 5 71 24 42 12 25 21 7.4 コスタリカ 34,564 4.8 3,158 5,132 7 27 66 62 17 20 1 9.9 コートジボワール 22,780 1.1 652 875 25 25 50 72 9 11 8 3.2 クロアチア 60,852 3.2 5,546a 11,701 7 27 66 57 20 27 –3 3.9 チェコ共和国 192,152 3.8 .. 5,945 2 37 60 51 22 22 6 2.0 デンマーク 310,405 0.9 15,190 36,627 1 23 77 49 30 17 4 2.3 ドミニカ共和国 51,577 5.6 2,055 3,829 6 32 61 85 8 15 –8 12.6 エクアドル 58,910 4.8 1,801 1,879 7 26 67 66 11 35 –12 8.0 エジプト 218,912 5.3 1,826 2,758 14 37 49 76 11 19 –7 8.5 エルサルバドル 21,796 2.3 1,774 2,389 12 27 60 92 10 13 –15 3.5 エリトリア 2,117 0.2 .. 118 15 22 63 86 33 11 –16 16.7 エチオピア 29,717 8.8 .. 187 51 11 38 88 8 22 –18 11.5 フィンランド 238,801 2.2 17,520 34,349 3 28 69 54 25 18 2 1.2 フランス 2,560,002 1.3 22,126 47,910 2 19 79 58 25 19 –2 1.9 グルジア 11,667 6.9 2,359a 1,871 10 21 69 83 24 12 –19 6.9 ドイツ 3,309,669 1.0 13,863 27,598 1 26 73 59 20 16 5 1.0 ガーナ 31,306 5.9 .. 388 32 19 49 82 10 20 –11 26.2 ギリシャ 304,865 2.9 7,668 8,980 3 18 79 75 19 16 –11 3.0 グアテマラ 41,190 3.6 2,304 2,736 12 28 59 87 10 13 –10 5.5 ギニア 4,511 2.9 156 311 17 52 31 76 8 21 –5 16.2 ハイチ 6,710 0.6 .. .. .. .. .. 92 9 27 –30 14.2 ホンジュラス 15,400 4.6 1,227 1,841 12 27 60 80 19 20 –19 6.3 ハンガリー 130,419 1.9 3,943 8,136 4 29 66 67 9 22 1 5.2 インド 1,729,010 8.0 359 459 18 27 55 56 12 36 –4 5.9 インドネシア 706,558 5.3 519 657 15 48 33 57 10 31 3 11.1 イラン 331,015 5.4 2,042 2,931 10 44 45 45 11 33 11 16.4 イラク 82,150 0.4 .. .. .. .. .. .. .. .. .. 11.1 アイルランド 203,892 3.0 .. 12,247 1 32 67 51 19 14 15 1.5 イスラエル 217,334 3.6 .. .. .. .. .. 57 24 16 2 1.4 イタリア 2,051,412 0.3 11,714 26,843 2 25 73 60 22 19 0 2.4 日本 5,497,813 0.9 20,350 41,492 1 28 71 59 20 21 0 –1.1 ヨルダン 27,574 6.7 2,348 2,443 3 32 65 83 24 15 –21 6.5 カザフスタン 142,987 8.3 1,781a 1,730 6 40 53 50 12 30 8 14.9 ケニア 31,409 4.3 379 367 23 15 62 76 16 21 –13 6.1 韓国 1,014,483 4.1 5,804 14,501 3 36 61 54 16 26 4 2.3 キルギス 4,616 4.4 684a 1,018 29 19 51 86 22 22 –30 8.6 ラオス 7,491 7.1 382 495 34 27 39 43 5 28 –13 8.7 レバノン 39,155 4.9 .. 31,477 5 17 78 79 15 30 –24 3.1 リベリア 986 0.9 .. .. 61 17 22 202 19 20 –142 10.3 リビア 62,360 5.4 .. .. 2 78 20 23 9 28 40 17.9 リトアニア 36,306 5.3 .. 4,683 3 27 70 69 22 11 –1 3.9 マダガスカル 8,721 3.4 210 182 29 16 55 79 12 33 –24 10.9 マラウイ 5,106 5.2 86 133 31 16 53 62 21 25 –8 15.8 マレーシア 237,804 5.0 3,984 5,807 10 44 46 50 14 14 22 3.8 マリ 9,251 5.2 405 515 37 24 39 77 10 22 –9 4.5 モーリタニア 3,636 4.4 671 392 21 35 45 72 21 25 –18 10.7 主要世界開発指標 2012 399 表 4 経済活動 国内総生産(GDP) 農業生産性,農民 家計最終消 財サービス GDP インプリ 一人当たり付加価値 費支出 一般政府消 総固定資本 対外収支 シット・デフ 年平均増加 2000 年米ドル 付加価値(対 GDP 比 %) (対 GDP 比 費支出(対 形成(対 (対 GDP レーター(年 100 万ドル 率% 農業 工業 サービス業 %) GDP 比 %) GDP 比 %) 比 %) 平均上昇率 %) 2010 年 2000-10 年 1990-92 年 2005-07 2009 年 2009 年 2009 年 2009 年 2009 年 2009 年 2009 年 2000-10 年 メキシコ 1,039,662 2.2 2,274 3,025 4 34 61 68 12 22 –1 7.4 モルドバ 5,809 5.2 1,349a 1,301 10 13 77 87 22 27 –36 10.7 モロッコ 91,196 4.9 1,788 2,306 16 29 55 57 18 36 –11 2.1 モザンビーク 9,586 7.8 117 174 31 24 45 85 13 20 –18 8.2 ミャンマー .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. ネパール 15,701 3.8 245 241 33 15 52 81 11 29 –21 7.2 オランダ 783,413 1.6 24,752 40,365 2 24 74 46 28 18 7 2.0 ニュージーランド 126,679 2.6 19,148 26,315 6 25 69 60 20 18 2 2.7 ニカラグア 6,551 3.1 .. 2,334 19 29 52 91 12 23 –26 8.2 ニジェール 5,549 4.2 242 .. .. .. .. .. .. .. .. 3.3 ナイジェリア 193,669 6.7 .. .. 33 41 27 .. .. .. 9 13.7 ノルウェー 414,462 1.8 19,077 37,855 1 40 58 43 22 20 15 4.5 パキスタン 174,799 5.1 765 890 22 24 54 80 8 19 –8 9.2 パナマ 26,777 7.0 2,341 3,996 6 18 76 47 11 25 16 2.3 パプアニューギニア 9,480 3.8 555 643 36 45 20 69 11 20 1 6.2 パラグアイ 18,475 3.8 1,648 2,136 19 21 59 78 12 16 –5 9.6 ペルー 153,845 6.1 879 1,390 8 35 57 63 10 23 4 3.3 フィリピン 199,589 4.9 839 1,078 13 32 55 75 10 17 –1 4.7 ポーランド 468,585 4.3 1,605 2,629 4 30 66 61 19 20 0 2.7 ポルトガル 228,538 0.7 4,789 6,203 2 23 75 67 21 20 –8 2.5 ルーマニア 161,624 5.0 2,129 6,179 7 26 67 61 15 31 –7 14.7 ロシア 1,479,819 5.4 1,917a 2,607 5 33 62 53 20 19 7 15.1 ルワンダ 5,628 7.6 193 .. 34 14 52 81 15 22 –17 10.4 サウジアラビア 375,766 3.8 8,476 17,419 3 60 37 38 25 26 11 7.6 セネガル 12,954 4.2 251 223 17 22 62 83 9 28 –20 2.7 セルビア 39,128 4.6 .. .. 13 28 59 73 20 25 –17 15.1 シエラレオネ 1,905 8.8 .. .. 52 23 25 84 14 15 –13 9.6 シンガポール 222,699 6.6 22,695 50,828 .. 26 74 43 10 29 18 1.1 スロバキア 89,034 5.2 .. 8,149 3 35 63 47 20 38 –4 3.3 ソマリア .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. 南アフリカ 363,704 3.9 2,149 3,149 3 31 66 60 21 20 –1 7.2 スペイン 1,407,405 2.4 9,583 18,603 3 26 71 57 21 24 –2 3.4 スリランカ 49,552 5.6 697 823 13 30 58 64 18 24 –6 10.6 スーダン 62,046 6.7 526 844 30 26 44 67 14 25 –6 10.6 スウェーデン 458,004 2.2 23,318 43,543 2 25 73 48 28 17 7 1.7 スイス 523,772 1.9 19,369 23,373 1 27 72 58 11 20 11 1.1 シリア 59,103 4.9 2,778 4,479 21 34 45 73 13 16 –2 7.4 タジキスタン 5,640 8.6 370a 501 22 24 54 93 28 22 –43 19.7 タンザニア 23,057 7.1 219 271 29 24 47 62 20 30 –12 7.4 タイ 318,847 4.5 480 653 11 43 45 55 13 21 11 3.2 トーゴ 3,153 2.7 345 394 .. .. .. .. 9 .. –20 2.4 チュニジア 44,291 4.8 2,975 3,424 7 27 66 67 12 24 –3 4.2 トルコ 735,264 4.7 2,198 3,223 9 26 65 72 15 15 –1 14.1 トルクメニスタン 21,074 13.1 1,272a 2,087 12 54 34 53 11 12 32 13.0 ウガンダ 17,011 7.7 186 210 25 26 50 76 12 24 –11 5.9 ウクライナ 137,929 4.8 1,232a 2,010 8 29 62 65 19 17 –2 16.7 アラブ首長国連邦 230,252 7.0 10,414 29,465 2 61 38 46 10 20 23 10.2 イギリス 2,246,079 1.6 23,020 27,715 1 21 78 65 23 14 –2 2.7 アメリカ 14,582,400 1.9 19,714 44,041 1 21 77 71 17 14 –3 2.5 ウルグアイ 40,265 3.9 5,720 8,535 10 26 64 68 13 18 1 8.1 ウズベキスタン 38,982 7.1 1,427a 2,231 20 33 47 56 18 26 0 24.0 ベネズエラ 387,852 4.5 4,584 7,386 .. .. .. 64 13 25 –2 25.2 ベトナム 103,572 7.5 229 335 21 40 39 66 6 38 –10 8.7 ヨルダン川西岸・ガザ .. –0.9 .. .. .. .. .. .. .. .. .. 3.4 イエメン 26,365 3.9 412 .. .. .. .. .. .. .. .. 13.0 ザンビア 16,193 5.6 189 227 22 34 44 61 13 22 3 15.9 ジンバブエ 7,474 –6.0 245 202 18 29 53 113 13 2 –28 5.1 世界全体 63,048,802t 2.8w 809w 1,029w 3w 27w 70w 62w 19w 19w 0w 低所得国 413,913 5.5 233 269 26 24 50 79 10 24 –13 中所得国 19,561,744 6.4 501 730 10 35 55 57 15 28 1  下位中所得国 4,312,196 6.3 485 637 17 31 51 64 12 28 –4  上位中所得国 15,246,704 6.5 512 797 7 36 57 55 15 28 2 低・中所得国 19,997,455 6.4 471 664 10 35 55 57 15 28 1  東アジア・太平洋 7,579,386 9.4 318 504 11 45 43 42 13 40 5  ヨーロッパ・中央アジア 3,055,026 5.4 2,061 2,738 7 30 62 62 18 19 1  ラテンアメリカ・カリブ 4,969,416 3.8 2,216 3,246 6 31 63 64 16 20 0  中東・北アフリカ 1,068,481 4.7 1,846 2,824 11 43 46 55 13 28 5  南アジア 2,088,236 7.4 372 479 18 27 55 61 11 33 –5  サハラ以南アフリカ 1,097,899 5.0 299 316 13 30 57 67 18 21 –4 高所得国 43,002,153 1.8 13,796 23,626 1 25 73 63 20 17 0 a.3 年間すべてについてデータ入手不可能. b.アブハーズと南オセティアを除く. c.トランスニストリアを除く.d.旧スペイン領サハラを含む. e.タンザニア本土のみカバー.   400 世界開発報告 2012 表 5 貿易・援助・金融 商品貿易 政府開発 対外総債務 工業輸出品 ハイテク輸出 外国対内 援助 a 現在価値 銀行部門国 輸出 輸入 (対商品総輸 (対工業品輸 経常収支 直接投資 1 人当たり 合計 (対 GNIb 内信用 純移住 100 万ドル 100 万ドル 出比 %) 出比 %) 100 万ドル 100 万ドル ドル 100 万ドル 比 %) (対 GDP 比 %) (1000 人) 2009 年 2009 年 2009 年 2009 年 2009 年 2009 年 2009 年 2009 年 2009 年 2009 年 2005-10 年 c アフガニスタン 560 3,970 18 .. .. 185 204 2,328 5 2 1,000 アルバニア 1,088 4,548 70 1 –1,875 978 113 4,719 31 68 –75 アルジェリア 45,194 39,294 2 1 .. 2,847 9 5,345 3 –9 –140 アンゴラ 40,080 17,000 .. .. –7,572 2,205 13 16,715 24 29 80 アルゼンチン 55,668 38,780 33 9 8,632 3,902 3 120,183 41 28 30 アルメニア 698 3,304 33 4 –1,369 777 171 4,935 36 20 –75 オーストラリア 154,234 165,471 19 13 –47,786 22,572 .. .. .. 144 500 オーストリア 137,672 143,382 81 11 10,995 8,714 .. .. .. 141 160 アゼルバイジャン 21,097 6,514 3 1 10,178 473 26 4,865 10 23 –50 バングラデシュ 15,084 21,833 88 1 3,345 674 8 23,820 17 60 –570 ベラルーシ 21,283 28,563 48 3 –6,389 1,884 10 17,158 30 34 0 ベルギー 369,854 351,945 77d 10 3,522 –38,860 .. .. .. 119 200 ベニン 1,000 2,040 .. .. –536 93 76 1,073 12e 19 50 ボリビア 4,848 4,410 6 5 813 423 74 5,745 16e 50 –100 ボスニアヘルツェゴビナ 3,929 8,773 61 3 –1,175 235 110 9,583 45 58 –10 ブラジル 152,995 133,669 39 14 –24,302 25,949 2 276,932 17 97 –229 ブルガリア 16,455 23,330 53 8 –4,751 4,595 .. 40,582 85 70 –50 ブルキナファソ 850 2,083 12 1 –1,709 171 69 1,835 17e 15 –65 ブルンジ 64 402 21 12 –164 0 66 518 13e 36 323 カンボジア 4,200 6,200 96 0 –866 530 49 4,364 38 19 –5 カメルーン 3,000 4,250 .. .. –1,137 340 33 2,941 4e 7 –19 カナダ 316,713 329,904 50 18 –38,380 19,898 .. .. .. 178 1,050 中央アフリカ共和国 120 300 .. .. .. 42 54 396 12e 17 5 チャド 2,800 1,950 .. .. .. 462 50 1,743 22e 8 –75 チリ 53,735 42,427 11 4 4,217 12,7022 5 71,646 43 100 30 中国 1,201,534 1,005,688 94 31 297,142 78,193 1 428,442 9 145 –1,731f 香港 329,422g 352,241 79g 31 17,418 52,395 .. .. .. 168 113 コロンビア 32,853 32,898 28 5 –5,001 7,207 23 52,223 20 37 –120 コンゴ民主共和国 3,100 3,600 .. .. .. 951 36 12,183 24e 7 –100 コンゴ共和国 5,600 2,900 .. .. –2,181 2,083 77 5,041 20e –16 –50 コスタリカ 8,788 11,395 47 41 –537 1,347 24 8,070 27 54 30 コートジボワール 8,900 6,050 15 12 1,670 381 112 11,701 46e 23 –145 クロアチア 10,474 21,203 66 11 –3,314 2,951 38 .. .. 76 10 チェコ共和国 113,437 105,179 87 16 –2,147 2,666 .. .. .. 62 226 デンマーク 93,344 82,947 65 18 11,222 2,905 .. .. .. 223 30 ドミニカ共和国 5,463 12,283 70 5 –2,159 2,067 12 11,003 22 41 –140 エクアドル 13,799 15,093 9 4 –268 316 15 12,930 23 21 –350 エジプト 23,062 44,946 37 1 –3,349 6,712 11 33,257 16 75 –340 エルサルバドル 3,797 7,255 72 5 –373 431 45 11,384 49 45 –280 エリトリア 15 540 .. .. .. 0 29 1,019 34e 113 55 エチオピア 1,596 7,963 9 4 –2,191 221 46 5,025 12e 37 –300 フィンランド 62,798 60,753 77 18 6,814 60 .. .. .. 99 55 フランス 484,725 559,817 79 23 –51,857 59,989 .. .. .. 130 500 グルジア 1,135 4,378 55 3 –1,210 658 213 4,231 28 33 –250 ドイツ 1,126,383 938,295 82 16 165,471 39,153 .. .. .. 132 550 ガーナ 5,500 8,140 19 1 –1,198 1,685 66 5,720 27e 28 –51 ギリシャ 20,093 59,858 54 11 –35,913 2,419 .. .. .. 114 150 グアテマラ 7,214 11,531 43 5 8 600 27 13,801 33 37 –200 ギニア 1,010 1,400 32 0 –403 50 21 2,926 44e .. –300 ハイチ 576 2,050 .. .. –232 38 112 1,244 15e 26 –140 ホンジュラス 5,196 7,788 35 1 –449 500 61 3,675 13e 54 –100 ハンガリー 83,778 78,175 82 26 –699 2,783 .. .. .. 80 75 インド 162,613 249,590 67 9 –26,626 34,577 2 237,692 17 69 –1,000 インドネシア 119,481 91,749 41 13 10,743 4,877 5 157,517 30 37 –730 イラン 78,113 50,375 .. .. .. 3,016 1 13,435 4 37 –500 イラク 39,500 37,000 0 0 27,133 1,070 89 .. .. –16 –577 アイルランド 114,587 62,507 86 25 –6,488 25,233 .. .. .. 225 200 イスラエル 47,935 49,278 94 23 7,592 3,894 .. .. .. 78 85 イタリア 405,777 412,721 83 8 –66,199 28,976 .. .. .. 142 1,650 日本 580,719 551,960 88 20 142,194 11,834 .. .. .. 323 150 ヨルダン 6,366 14,075 73 1 –1,251 2,382 128 6,615 27 99 250 カザフスタン 43,196 28,409 14 30 –4,248 13,619 19 109,873 96 55 –100 ケニア 4,421 10,207 37 5 –1,661 141 45 8,005 19 45 –189 韓国 363,534 323,085 90 32 42,668 1,506 .. .. .. 112 –30 キルギス 1,439 3,037 34 5 –102 189 59 2,900 36e 14 –75 ラオス 940 1,260 .. .. 9 319 66 5,539 78 10 –75 レバノン 4,187 16,574 72 7 –7,555 4,804 152 24,864 80 163 –13 リベリア 150 552 .. .. –277 218 128 1,660 316e 149 248 リビア 35,600 10,150 .. .. 9,381 1,711 6 .. .. –66 20 リトアニア 16,452 18,234 55 10 1,646 230 .. 31,717 72 70 –100 マダガスカル 1,140 3,250 57 2 .. 543 23 2,213 17e 12 –5 マラウイ 920 1,700 9 3 .. 60 51 1,093 16e 32 –20 マレーシア 157,433 123,832 70 47 31,801 1,387 5 66,390 31 137 130 マリ 2,100 2,644 22 3 –1,066 109 76 2,667 14e 11 –202 モーリタニア 1,370 1,430 0 .. .. –38 87 2,029 83e .. 10 主要世界開発指標 2012 401 表 5 貿易・援助・金融(続き) 商品貿易 政府開発 対外総債務 工業輸出品 ハイテク輸出 外国対内 援助 a 現在価値 銀行部門国 輸出 輸入 (対商品総輸 (対工業品輸 経常収支 直接投資 1 人当たり 合計 (対 GNIb 内信用 純移住 100 万ドル 100 万ドル 出比 %) 出比 %) 100 万ドル 100 万ドル ドル 100 万ドル 比 %) (対 GDP 比 %) (1000 人) 2009 年 2009 年 2009 年 2009 年 2009 年 2009 年 2009 年 2009 年 2009 年 2009 年 2005-10 年 c メキシコ 229,637 241,515 76 22 –6,228 14,462 2 192,008 18 44 –2,430 モルドバ 1,288 3,278 23 5 –465 128 68 3,457 55 41 –172 モロッコ 13,863 32,892 65 7 –4,971 1,970 28 23,752 23 100 –425 モザンビーク 2,147 3,764 12 10 –1,171 881 88 4,168 18e 22 –20 ミャンマー 6,710 4,316 .. .. .. 323 7 8,186 .. .. –500 ネパール 813 4,392 67 0 –10 38 29 3,683 23 68 –100 オランダ 498,330 445,496 56 24 36,581 33,287 .. .. .. 224 100 ニュージーランド 24,932 25,545 23 10 –3,624 –1,259 .. .. .. 154 50 ニカラグア 1,391 3,477 10 6 –841 434 135 4,420 36e 67 –200 ニジェール 900 1,500 7 8 –651 739 31 991 13e 13 –28 ナイジェリア 52,500 39,000 4 3 21,659 5,787 11 7,846 4 37 –300 ノルウェー 120,880 69,292 20 20 50,122 11,271 .. .. .. .. 135 パキスタン 17,680 31,710 76 2 –3,583 2,387 16 53,710 24 48 –1,416 パナマ 948 7,801 10 0 –44 1,773 19 12,418 54 84 11 パプアニューギニア 4,328 3,200 .. .. –672 423 61 1,555 18 39 0 パラグアイ 3,167 6,940 11 11 86 205 23 4,323 26 25 –40 ペルー 26,885 21,706 16 3 247 4,760 15 29,593 23 19 –625 フィリピン 38,436 45,878 86 66 8,552 1,948 3 62,911 35 47 –900 ポーランド 134,466 146,626 80 5 –9,598 13,796 .. .. .. 61 –120 ポルトガル 43,358 69,844 72 4 –23,952 2,808 .. .. .. 195 200 ルーマニア 40,633 54,247 79 10 –7,298 6,310 .. 117,511 53 53 –200 ロシア 303,388 191,803 17 9 49,365 36,751 .. 381,339 26 34 250 ルワンダ 193 1,227 19 31 –379 119 93 747 8e .. 15 サウジアラビア 192,296 95,567 8 0 22,765 10,499 –5 .. .. 1 150 セネガル 2,180 4,713 41 14 –1,884 208 81 3,503 20e 27 –100 セルビア 8,345 15,582 66 .. –2,412 1,921 83 33,402 71 46 0 シエラレオネ 231 520 .. .. –193 74 77 444 20e 11 60 シンガポール 269,832g 245,785 74g 49 32,628 16,809 .. .. .. 91 500 スロバキア 55,980 55,301 87 5 –2,810 –31 .. .. .. 54 20 ソマリア .. .. .. .. .. 108 72 2,973 .. .. –250 南アフリカ 62,603 73,172 47h 6 –11,327 5,354 22 42,101 15 184 700 スペイン 218,511 287,567 73 5 –80,375 6,451 .. .. .. 228 1,750 スリランカ 7,345 10,207 67 1 –215 404 35 17,208 35 40 –300 スーダン 7,834 9,691 0 34 –3,908 2,682 54 20,139 73e 20 135 スウェーデン 131,243 119,839 76 17 31,460 11,538 .. .. .. 145 150 スイス 172,850 155,706 90 25 38,972 27,588 .. .. .. 191 100 シリア 10,400 16,300 33 2 66 1,434 12 5,236 9 44 800 タジキスタン 1,009 2,569 .. .. –180 16 59 2,514 39 27 –200 タンザニア 3,096 6,347 25 4 –1,816 415 67 7,325 13e 18 –300 タイ 152,498 133,801 75 26 21,861 4,976 –1 58,755 22 137 300 トーゴ 800 1,500 62 0 –222 50 75 1,640 50e 27 –5 チュニジア 14,445 19,096 75 6 –1,234 1,595 45 21,709 54 68 –20 トルコ 102,129 140,921 80 2 –14,410 8,403 18 251,372 35 63 –44 トルクメニスタン 6,595 6,750 .. .. .. 1,355 8 576 3 .. –25 ウガンダ 2,478 4,310 27 1 –451 604 55 2,490 8e 11 –135 ウクライナ 39,703 45,436 63 3 –1,732 4,816 15 93,153 62 89 –80 アラブ首長国連邦 175,000 140,000 4 3 .. .. .. .. .. 115 343 イギリス 352,491 481,707 72 23 –37,050 72,924 .. .. .. 229 948 アメリカ 1,056,043 1,605,296 67 23 –378,435 134,710 .. .. .. 232 5,052 ウルグアイ 5,386 6,907 26 5 215 1,262 15 12,159 37 28 –50 ウズベキスタン 10,735 9,023 .. .. .. 750 7 4,109 12 .. –400 ベネズエラ 57,595 40,597 3 4 8,561 –3,105 2 54,503 19 20 40 ベトナム 57,096 69,949 55 5 –6,274 7,600 43 28,674 27 123 –200 ヨルダン川西岸・ガザ .. .. .. .. 535 52 748 .. .. .. –10 イエメン 5,594 8,500 2 0 –2,565 129 21 6,356 17 19 –135 ザンビア 4,312 3,793 8 2 –406 699 98 3,049 10e 19 –85 ジンバブエ 2,269 2,900 34 1 .. 60 59 5,015 .. .. –700 世界全体 12,491,383t 12,592,947t 70w 20w 1,163,758s 19w ..s .. 169w .. is 低所得国 63,864 112,493 56 3 8,168 45 119,100 .. 38 –2,536 中所得国 3,740,618 3,544,565 59 20 351,327 11 3,426,014 .. 89 –13,415  下位中所得国 724,117 865,722 48 13 92,846 17 904,779 .. 57 –7,916  上位中所得国 3,016,877 2,678,489 61 21 258,481 5 2,521,235 .. 98 –5,499 低・中所得国 3,804,486 3,656,996 59 20 359,495 22 3,545,114 .. 89 –15,951  東アジア・太平洋 1,747,540 1,493,538 80 32 101,428 5 825,602 .. 134 –3,781  ヨーロッパ・中央アジア 657,956 636,419 37 9 86,161 20 1,126,252 .. 48 –1,681  ラテンアメリカ・カリブ 677,205 668,496 51 13 76,629 16 912,980 .. 67 –5,214  中東・北アフリカ 276,399 289,612 .. 2 27,766 41 141,321 .. 41 –1,089  南アジア 204,760 323,199 68 8 38,414 9 339,983 .. 66 –2,376  サハラ以南アフリカ 242,566 253,161 31 6 29,096 53 198,976 .. 79 –1,810 高所得国 8,689,059 8,942,776 73 19 804,263 0 .. .. 203 15,895 a.地域別の総括値には表中に特記されていない国/地域も含まれている. 世界および所得別グループの合計には, 国別あるいは地域別に割り振られていない援助も含まれている.b. 分子は 2009 年,分母は 2007-09 年の 3 年間の平均. c.5 年間の合計. d.ルクセンブルクを含む. e.低所得国の債務の維持可能性にかかわる分析からのデータ.f.台湾を含む. g.再輸出を含む. h.輸出入全体のデータは南アフリカだけのもの.輸出品目の割合に関するデータは南アフリカ関税同盟(ボツワナ,レソト,ナミビア,南アフリカ)のもの. i.国連が算出した世界合計はゼロになっているが,本表に示した計数は世界銀行の定義によっているため,地域別および所得別グループの合計はゼロにはならない. 402 世界開発報告 2012 表 6 その他諸国の主要指標 人口の年齢 PPP 表示国民総所得 1 人当たり 成人識字率 人口 国民総所得(GNI) a (GNI)b 出生時余命 別構成 国内総生産 (対 15 歳 (年平均増 (km2 当たり 0-14 歳の (100 万ド (1 人当た (100 万ド (1 人当た (GDP) 以上人口比 (1000 人) 加率 %) 人口密度) 割合 ル) りドル ル) りドル) (増加率 %) 男(年数) 女(年数) %) 2010 年 2000-10 年 2009 年 2010 年 2010 年 2010 年) 2010 年 2010 年 2009-10 年 2009 年 2009 年 2005-09 年 米領サモア 68 1.7 336 .. .. ..c .. .. .. .. .. .. アンドラ 87 2.2d 181 .. 3,447 41,130 .. .. 1.6 .. .. .. アンティグア・バーブーダ 89 1.4 199 .. 939 10,610 1,362e 15,380e –10.4 .. .. 99 アルバ 107 1.7 592 19 .. ..f .. .. .. 72 78 98 バハマ 346 1.3 34 25 6,973 20,410 8,318 e 24,340 e –0.3 71 77 .. バーレーン 807 2.2 1,041 26 19,714 25,420 26,005 33,530 4.1 75 78 91 バルバドス 257 0.2 595 17 3,454 13,500  5,137 e 20,080 e –5.5 75 80 .. ベリーズ 345 3.2 15 35 1,288 3,740 2,059e 5,970e –1.4 75 79 .. バミューダ 65 0.4 1,288 .. .. ..f .. .. –8.4 76 82 .. ブータン 708 2.3 18 30 1,361 1,920 3,596 5,070 5.8 65 68 53 ボツワナ 1,978 1.4 3 33 13,633 6,890 27,508 13,910 5.7 55 55 84 ブルネイ 407 2.0 76 26 12,461 31,180 19,488 48,760 –3.6 75 80 95 カーボベルデ 513 1.6 125 35 1,620 3,160 1,879 3,670 4.0 69 74 85 ケイマン諸島 56 3.3 229 .. .. ..f .. .. .. .. .. 99 チャンネル諸島 150 0.2 789 15 10,241 68,600 .. .. 5.7 77 82 .. コモロ 675 2.2 354 38 550 820 796 1,180 –0.3 64 68 74 キューバ 11,204 0.1 105 17 62,204 5,550 .. .. 4.3 77 81 100 キュラソー 143 0.6 321 .. .. ..f .. .. .. .. .. .. キプロス 880 1.1 94 17 24,383g 30,460 g 24,142 g 30,160 g –1.9 g 77 82 98 ジブチ 879 1.9 37 36 1,105 1,280 2,130 2,460 3.2 54 57 .. ドミニカ 74 0.4 98 .. 367 4,960 635e 8,580e 1.1 .. .. .. 赤道ギニア 693 2.7 24 41 10,182 14,680 16,511 23,810 –1.5 49 52 93 エストニア 1,340 –0.2 32 15 19,247 14,360 26,136 19,500 1.8 70 80 100 フェロー諸島 49 0.6 35 .. .. ..f .. .. .. 77 82 .. フィジー 854 0.6 46 31 3,085 3,610 3,833 4,490 –0.5 67 71 .. 仏領ポリネシア 272 1.4 74 26 .. ..f .. .. .. 72 77 .. ガボン 1,501 2.0 6 36 11,655 7,760 19,804 13,190 3.8 60 62 88 ガンビア 1,751 3.0 171 42 770 440 2,229 1,270 2.3 55 58 46 ジブラルタル 31 0.7 3,105 .. .. ..f .. .. .. .. .. .. グリーンランド 56 –0.1 0h .. 1,466 26,150 .. .. –5.0 66 70 .. グレナダ 104 0.3 306 27 580 5,560 789e 7,560e –1.5 74 77 .. グアム 180 1.5 329 27 .. ..f .. .. .. 73 78 .. ギニアビサウ 1,647 2.3 57 43 890 540 1,782 1,080 1.2 47 50 52 ガイアナ 761 0.1 4 29 2,491 3,270 2,689e 3,530e 4.5 65 71 .. アイスランド 318 1.3 3 20 10,787 33,870 9,116 28,630 –3.3 80 83 .. マン島 80 0.5 141 .. 3,972 49,300 .. .. 7.4 .. .. .. ジャマイカ 2,712 0.5 249 29 12,892 4,750 20,139e 7,430e –1.0 69 75 86 キリバス 100 1.7 121 .. 200 2,010 349e 3,510e 0.3 .. .. .. 朝鮮民主主義共和国 23,991 0.5 199 21 .. ..i .. .. .. 65 70 100 コソボ 1,815 0.7 166 .. 5,981 3,300 .. .. 3.4 68 72 .. クウェート 2,863 2.7 157 23 116,970 43,920 142,827 53,630 1.9 76 80 94 ラトビア 2,243 –0.6 36 14 26,056 11,620 36,682 16,360 0.2 68 78 100 レソト 2,084 1.0 68 39 2,248 1,080 3,986 1,910 2.4 45 46 90 リヒテンシュタイン 36 1.0 224 .. 4,903 136,540 .. .. –1.9 81 85 .. ルクセンブルク 507 1.5 192 18 40,281 79,510 32,346 63,850 1.7 78 83 .. マカオ(中国) 548 2.2 19,213 12 21,261 39,520 30,729 57,120 –0.9 79 83 93 マケドニア 2,061 0.3 82 18 9,319 4,520 22,320 10,830 0.5 72 77 97 モルディブ 314 1.4 1,031 27 1,340 4,270 1,721 5,480 3.3 70 74 98 マルタ 418 0.7 1,297 15 7,616 18,350 9,573 23,070 –2.8 78 82 92 マーシャル諸島 62 2.0 339 .. 187 2,990 .. .. –1.7 .. .. .. モーリシャス 1,282 0.8 628 22 9,925 7,740 17,519 13,670 3.5 69 76 88 マヨット 202 2.3j 531 38 .. ..c .. .. .. 72 80 .. ミクロネシア連邦 111 0.4 158 37 300 2,700 380e 3,420e 0.1 68 70 .. モナコ 33 0.3 16,406 .. 6,479 197,460 .. .. –2.9 .. .. .. モンゴル 2,701 1.2 2 26 5,106 1,890 10,001 3,700 5.0 64 70 97 モンテネグロ 626 –0.5 46 19 4,183 6,690 7,950 12,710 0.9 72 77 .. ナミビア 2,212 1.9 3 36 10,286 4,650 14,559 6,580 2.9 61 62 89 ニューカレドニア 254 1.7 14 25 .. ..f .. .. .. 72 81 96 北マリアナ諸島 88 2.5 189 .. .. ..f .. .. .. .. .. .. オマーン 2,905 1.9 9 31 49,840 17,890 67,992 24,410 10.4 75 78 87 パラオ 21 0.7 44 .. 133 6,460 221e 10,760e 0.4 .. .. .. プエルトリコ 3,980 0.4 447 20 .. ..f .. .. .. 75 83 90 カタール 1,508 8.9 122 16 .. ..f .. .. –1.3 75 77 95 サモア 179 0.1 63 39 524 2,930 769e 4,300e 0.9 69 75 99 サンマリノ 32 0.8d 524 .. 1,572 50,670 .. .. 0.4 80 86 .. 主要世界開発指標 2012 403 表 6 その他諸国の主要指標(続き) 人口の年齢 PPP 表示国民総所得 1 人当たり 成人識字率 人口 国民総所得(GNI) a (GNI)b 出生時余命 別構成 国内総生産 (対 15 歳 (年平均増 (km2 当たり 0-14 歳の (100 万ド (1 人当た (100 万ド (1 人当た (GDP) 以上人口比 (1000 人) 加率 %) 人口密度) 割合 ル) りドル ル) りドル) (増加率 %) 男(年数) 女(年数) %) 2010 年 2000-10 年 2009 年 2010 年 2010 年 2010 年) 2010 年 2010 年 2009-10 年 2009 年 2009 年 2005-09 年 サントメプリンシペ 165 1.7 170 40 199 1,200 315 1,910 2.8 64 68 89 セーシェル 89 0.9 191 .. 845 9,490 1,821e 20,470e 5.0 68 79 92 セントマールテン島(蘭領) 38 2.2 1,113 .. .. ..f .. .. .. .. .. .. スロベニア 2,065 0.4 101 14 49,276 23,860 55,704 26,970 0.1 76 82 100 ソロモン諸島 536 2.5 19 39 552 1,030 1,183e 2,210e 4.5 66 68 .. セントクリストファー・ネ 50 1.2 191 .. 499 9,980 658e 13,170e –3.2 .. .. .. イビス セントルシア 174 1.1 282 26 865 4,970 1,482e 8,520e –3.3 .. .. .. サンマルタン島(仏領) 30 0.6 556 .. .. ..f .. .. .. .. .. .. セントビンセント・グレナ 109 0.1 280 27 530 4,850 903e 8,260e –6.8 70 74 .. ディーン諸島 スリナム 524 1.2 3 29 3,076 5,920 3,955e 7,610 e 2.2 66 73 95 スワジランド 1,202 1.1 69 39 3,119 2,600 5,872 4,890 –0.3 47 46 87 東ティモール 1,124 3.0 74 45 2,493 2,220 4,016e 3,570e 5.1 61 63 51 トンガ 104 0.6 144 37 353 3,380 483e 4,630e –0.6 69 75 99 トリニダード・トバゴ 1,344 0.4 261 21 20,664 15,380 32,243e 24,000e –0.3 66 73 99 タークス・カイコス諸島 33 5.6 35 .. .. ..f .. .. .. .. .. .. ツバル 10 0.4 327 .. 36 3,700 .. .. 0.0 .. .. .. バヌアツ 240 2.6 19 38 662 2,760 1,066e 4,450e 0.5 69 73 82 ヴァージン諸島 110 0.1 314 21 .. ..f .. .. .. 76 83 .. a.世界銀行アトラス方式を用いて算出. b.PPP は購買力平価.テクニカル・ノートを参照. c.上位中所得国(3,976-12,275 ドル)と推定される. d.2004-10 年のデータ. e.回帰分析による推定値.その他の推定値は 2005 年の国際比較プログラムに基づくベンチマーク推定値からの外挿による. f.高所得国 (12,276 ドル以上)と推定される. g. キプロス政府がコントロールしている地域だけのデータ. h.0.5 未満. i.低所得国(1,005 ドル以下)と推定される. j.2002-10 年のデータ. 404 世界開発報告 2012 テクニカル・ノート があったり,紛争などに起因する問題に直面している  このテクニカル・ノートでは,本年度版の主要世界 国の場合は,データの収集と報告が影響を受けたりす 開発指標に盛り込まれている指標を作成するために利 るためである.このような理由から,データは最も権 用した出典と方法について説明する.ノートは各指標 威がある情報源に依拠しているとはいえ,各国間の相 が表に掲載されている順に従う. 違を正確に数値化したというよりも,傾向を示唆し, おもな相違の特徴を示したものにすぎないと解釈すべ 出典 きである.異なる版に掲載されているデータ間の相違  主要世界開発指標に示されているデータは World は,各国による修正や,時系列データの修正および統 Development Indicators 2011 に依拠している.しかし, 計手法の変更などを反映したものである.したがって, 同書の締め切り後に発表された修正値はできる限り織 世界銀行の刊行物でも,異なる刊行物,あるいは同一 り込まれている.また,表 1 と表 6 には 2010 年の人 刊行物でも異なる版から,時系列データを取り出すこ 口と 1 人当たり GNI に関する最新の推定値が掲載され とは避けていただきたい.一貫性のある時系列デー ている. タ は オ ー プ ン・ デ ー タ の ウ ェ ブ サ イ ト(http://data.  World Development Indicators に掲載されている統計 worldbank.org)で入手可能である. に関して,世界銀行はさまざまな情報源に依拠してい る.ただし,対外債務に関するデータは債務者報告制 比率と増加率 度を通じて,加盟途上国から世界銀行に直接報告され  参照の便宜をはかるため,各表には通常は単なる原 たものである.それ以外のデータはおもに国連とその 数値そのものではなく,比率や増加率が示されている. 専門機関,IMF,各国から世界銀行に提出された報告 原 数 値 は オ ー プ ン・ デ ー タ の ウ ェ ブ サ イ ト(http:// 書などに基づく.データの鮮度と一貫性を改善するた data.worldbank.org)で入手可能である.増加率は特記 めに,世界銀行スタッフによる推計値を用いることも がない限り,最小二乗法により算出されている(後述 ある.国民所得勘定に関する推計データはほとんどの の統計手法の項を参照).この方法では当該期間中の入 国について,世界銀行の経済使節団を介して,各国政 手可能な観察値すべてを考慮に入れるため,算出され 府から入手している.場合によっては,国際的な定義 た増加率は例外的な数値の影響をあまり受けないです や概念との整合性をはかるため,世界銀行スタッフが む.インフレの影響を排除するため,増加率の算出に 調整することもある.各国出典の社会的データのほと は不変価格による経済指標を用いている.イタリック んどは,通常の行政ファイル,特別調査,あるいは定 体のデータは当該欄の見出しに指定されている年ない 期的な国勢調査に依拠している. し期間のものではないことを示す.経済指標に関して  さらに詳しいデータに関する注釈については,世界 最大で前後 2 年,データ収集がそれほど定期的ではな 銀行の World Development Indicators 2011 を参照され く,さほど劇的な変化もない社会指標に関しては最大 たい. の前後 3 年のずれがあり得る. データの一貫性と信頼性 不変価格シリーズ  データの標準化には多大な努力を払っているが,完  経済の成長は,その経済のなかで働いている個人や 璧な比較可能性は確保できていないので,指標の解釈 企業が生み出す付加価値の増加によって測定する.つ については注意を要する.データの入手可能性,比較 まり,実質成長率を測定するためには,不変価格で評 可能性,および信頼性には,多くの要因が影響を与え 価した GDP とその構成要素の推定値が必要になる.世 る.途上国では統計システムがまだ不備であるため, 界銀行は国内通貨建ての不変価格による国民所得勘定 統計手法,対象範囲,慣行,および定義などに大きな 系列を収集しているが,これは各国それぞれの基準年 バラツキがある.各国間および異時点間の比較につい で作成されている.これを比較可能な不変価格データ ては,確定的には解決できない複雑な技術的ないし概 系列にするため,世界銀行は GDP および産業別付加価 念的な問題が含まれていることもある.データの対象 値を最新版の WDI では 2000 年という共通の基準年に 範囲が狭くなっていることもあるが,それは特殊事情 再計算している.このプロセスで,再計算した GDP と 主要世界開発指標 2012 405 再計算した構成要素の合計の間には誤差が発生する. 生産(GDP)に海外からの一次所得の純受取を加えた 誤差を配分すると成長率に歪みが生じるので,誤差は ものとなる.データは世界銀行アトラス方式を用いて, 未配分のままにしてある. 各国通貨から現行の米ドルに換算されている.一時的 な為替相場変動の影響をならすため,3 年間の平均為 総括値 替相場を使用している(アトラス方式の詳細について  ほとんどの表の末尾に示されている地域別や所得別 は,後述の統計手法の項を参照). グループの総括値は,水準表示の場合は単純な加算で 1 人当たり GNI は,GNI を年央の人口で除したもので 算出されている.総括値の増加率や比率は,通常は加 ある.米ドル表示の 1 人当たり GNI は世界銀行アトラ 重平均によって算出される.社会指標の総括値は出生 ス方式を使って換算したものである.世界銀行は米ド 数によって加重されている幼児死亡率を除き,人口数 ル表示の 1 人当たり GNI を用いて,分析上の目的で各 あるいは下位分類の人口関連数によって加重されてい 国を分類したり,借り入れ資格を規定したりしている. る.さらに詳しい情報は個別指標に関する注を参照さ PPP 表示の国民総所得(GNI)は,購買力平価(PPP) れたい. を換算係数に用いて国際的なドルに換算した GNI で  多年度にわたる総括値は時期によって集計値の構成 ある.それをここに掲載したのは,名目相場は相対価 が変化しないように,含まれている国が同一であると 格の国際的な格差を必ずしも反映しないためである. 想定したグループに基づいて算出されている.当該年 PPP 相場を使えば,国際的な 1 ドルは自国の GNI に対 のグループ値は,基準年である 2000 年にグループ内 して,米ドルがアメリカの GNI に対してもつのと同等 の 3 分の 2 以上の諸国について,データが入手可能な の購買力をもつことになる.PPP 相場を用いることに 場合にのみ算出されている.この基準が満たされてい よって,普通の物価指数について異時点間で実質価値 れば,データがない国についても,それがある国と同 の比較が可能であるように,各国間でも実質物価水準 じように動くとの前提がおかれている.総括値はテー について標準的な比較が可能となる.ここで使われた マごとに典型的な集計値を示すものであって,グルー PPP 換算係数は,国際比較プログラムが 146 カ国を対 プ値と国レベルの数値を比較しても,有意義な情報は 象に 2005 年に実施した物価調査に基づく.OECD 加 得られないことに留意されたい.さらに,推定のプロ 盟国については 2005 年に終了した最新の調査のデー セスで,下位グループの合計と全体との間に誤差が発 タに基づく.調査対象に含まれていない国の推定値は, 生することもある. 入手可能なデータを使って統計モデルで求めたもので ある.2005 年の国際比較プログラムに関する詳細な 表 1. 主要開発指標 情報については www.worldbank.org/data/icp を参照. 人口は,事実上の定義に基づいており,法的地位や市 PPP 表示の 1 人当たり GNI は,PPP 表示の GNI を年央 民権にはかかわりなく,すべての住民を含む.ただし, の人口で除したものである. 一般には出身国の人口に含まれ,保護を受けている国 1 人当たり国内総生産(GDP)増加率は,不変価格で測 に永住しているわけではない難民は除く.数値は年央 定した GDP に基づく.GDP の増加率は経済成長を幅広 推定値. く測定する尺度であると考えられている.不変価格の 人口増加率は,該当期間における指数関数的な増加率 GDP は,一定期間に生産された財・サービスの量を基 である(後述の統計手法の項を参照). 準年価格で測定し,やはり不変価格で評価した中間投 人口密度は,年央の人口を国土面積(平方キロメート 入コストを控除することによって推定できる.最小二 ル)で除したものである.国土面積は総面積から内陸 乗法による増加率の詳細については,後述の統計手法 水域を控除したものである. の項を参照. 人口の年齢構成(0-14 歳)は,0-14 歳の人口が総人口 出生時余命は,出生時における死亡率パターンが生涯 に占める割合を示す. を通じて不変であるとした場合に,新生児が何歳まで 国民総所得(GNI)は,国民所得に関するもっとも幅広 生きるかを示す数値である. い測定値であり,居住者に請求権がある国内外の源泉 成人識字率は,日常生活に関する短い表現を理解しな から生み出された付加価値を測定する.GNI は国民総 がら,読み書きできる 15 歳以上人口の割合である. 406 世界開発報告 2012 実際には,識字率の測定は困難である.このような定 問題が伴う.国により貧困の定義が異なるので,整合 義を使って識字率を推定するためには,国勢調査ある 性のある各国比較は困難である.また,富裕国では貧 いは制御された状況下での測定値が必要となる.自己 困国よりも貧困の基準が緩やかなため,貧困線におけ 申告データで識字能力のある人の数を推定している国 る購買力は前者の方が後者よりも大きくなっている傾 が多い.学習到達度を代理変数としながらも,異なる 向がみられる.国際貧困線は国の平均所得とは無関係 就学期間や修了水準を適用している国もある.データ に,長期的な比較を行う場合と同じように,貧困線の 収集の定義や手法が各国で違っているので,取り扱い 実質価値を各国間で不変に維持しようとしたものであ には注意が必要である. る.  World Development Report 1990 以降,世界銀行は世 表 2.貧困 界の極貧国における貧困水準をベースとした極貧を推  世界銀行は各国の担当機関,他の開発機関,貧困層 定するために共通の基準を適用している.さまざまな の団体を含む市民社会組織と密接に協力しながら,み 諸国で生活している人々の福祉は,各国通貨の購買力 ずからが積極的なプログラムを運営している諸国の貧 の格差を調整することによって,共通の尺度で測定す 困評価報告書を定期的に作成している.貧困評価報告 ることができる.World Development Report 1990 用に 書では貧困の程度と原因が報告されるととともに,そ は 1 日 1 ドルという共通基準がされた.それが 1985 れを削減するための戦略が提案されている.1992 年 年の国際価格で測定され,購買力平価を用いて各国通 以降,世界銀行は累計で約 200 本の貧困報告書を作成 貨に換算されたのである.その当時はそれが低所得国 しており,それが本表に掲載されている各国の貧困線 では典型的な貧困線だったからである.その後,1 日 を用いた貧困推計値の主な出典となっている.各国も 1 ドルの線は 1993 年の国際価格で測定して 1.08 ド 自国に関する貧困削減戦略の一環として同じような評 ルに修正された.さらに最近,国際貧困線は国際比較 価を公表している. プログラムの 2005 年実施に基づく PPP にかかわる新  世界銀行は貧困削減の進展をモニターするため データや,拡充された家計所得・支出調査からのデー に,国際貧困線を用いた貧困の推計値も作成してい タを使って,再度修正された.新しい極貧線は 2005 る.途上国について最初に作成された国際的な貧困 年の PPP ベースで 1 日 1.25 ドルに設定されている. の推計値は World Development Report 1990: Poverty これは 1 人当たり消費で最貧 15 カ国の貧困線の中位 Using Household Survey Data for 22 Countries である 数に相当する.新しい貧困線は世界の最貧国で典型的 (Ravallion, Datt, and van de Walle 1991).それ以降, な貧困線という極貧にかかわる同じ基準を維持してお 家計所得・支出調査を実施する諸国の数は著しく増加 り,途上国における生計費にかかわる最新の情報に基 している. づいて更新したものであるといえる. 各国の貧困線と国際貧困線 データの質と入手可能性  各国の貧困線は各国固有の経済的・社会的な状況に  貧困の推計値は家計のサンプルから特に所得 / 消費 整合的な貧困を推計するために設定されており、貧困 に関する情報を収集するために実施された調査をベー 率の国際比較を目的としたものではない.各国の貧困 スに導出されている.貧困の推計値が有用であるため 線の設定は非貧困のために必要な消費ないし所得の水 には,調査が全国的に代表的で,すべての家計の消費 準にかかわる当該国の主観を反映している.貧困と非 / 所得(自家生産による消費 / 所得を含む)の包括的 貧困の主観的な境界は当該国の平均所得とともに上昇 な推計値を計算するのに十分な情報を含んでいなけれ するので,各国の貧困率を比較するための統一的な尺 ばならない.また,1 人当たりの消費 / 所得について, 度にはならない.しかしながら,貧困にかかわる各国 正しいウェイトを付けた分布を作成することができな の推計値は貧困削減にかかわる国家政策を策定して, ければならない.過去 20 年間に調査を実施する国の その成果をモニターするのに適切な尺度であることは 数と調査の頻度に関しては,著しい増加があった.そ 明らかである. のデータの質も同じく大幅に改善している.世界銀行  貧困データの国際比較には概念上と実際上の両方の 主要世界開発指標 2012 407 の貧困モニタリング用のデータベースには途上国 115 カ 1 日 1.25 ドル未満の人口と 1 日 2.00 ドル未満の人口は, 国における累計 600 件もの調査が含まれている.このよ 2005 年の国際価格で 1 日 1.25 ドル未満および同 2.00 うな調査を通じて,途上国の人口の 96% を代表する 120 ドル未満で生活をしている人口の割合.PPP 為替相場 万世帯が無作為抽出されてインタビューを受けている. が修正されたため,この貧困率はこれまでの版に掲載 されていた個々の国の貧困率との比較が不可能になっ 調査データの使用に伴う測定問題 ている.  世帯の生活水準を測定しようとすると,調査データ 貧困格差は,貧困線以下で,貧困線までの差額(非貧 については頻度と適時性という以外にもいくつかの 困はゼロ)にかかわる中央値の貧困線に対する比率で データ問題にぶつかる.その 1 つは福祉指標としては ある.この指標は貧困の発生率とともに深刻度を示す. 所得と消費のどちらを選択すべきなのかという問題で ある.所得は総じて正確な測定が困難であり,消費の 表 3. ミレニアム開発目標:貧困の撲滅と生活の向上 ほうが所得よりも生活水準の概念に適している.たと 最貧 20%層が消費 / 所得に占める割合は,人口の最貧 え生活水準が変化しなくても,所得は時とともに変化 20%層が消費,あるいは場合によっては所得に占める し得るからである.しかし,消費データはいつも入手 シェアである.これは分配にかかわる指標である.消 可能とは限らず,その場合には所得データを使うしか 費(あるいは所得)の分配が不平等な国ほど,一定の ない(最新の消費データを用いているのは本表の約 3 平均所得の下で貧困率が高くなる.データは各国の代 分の 2 の諸国にとどまる).もう 1 つの問題は,家計 表的な家計調査に基づく.ベースとなる家計調査がデー 調査は同じようにみえても厳密には比較不可能だとい タ収集の手法と種類の点で各国ごとに異なっているた うことである.消費財の数,回答者が支出を記憶して め,分配のデータは厳密には国別比較が不可能である. おかなければならない期間,調査員の質や訓練などが 世界銀行スタッフはできる限り比較可能性を確保すべ 異なるためである.一部の調査における選別的な無回 く努力を払っている.可能な限り,所得ではなく消費 答も懸念事項である. を使っている.  開発段階が異なる各国間比較でも,非市場財の相対 脆弱な雇用は,無給の家族従業者と自営業者の合計が 的重要度が異なるため問題が生じる可能性がある.総 総雇用に占める割合.これは雇用の地位に関する情報 消費支出の尺度には,物理的に消費される財すべて(開 から導出される.地位グループごとに直面する経済リ 発の遅れた農村経済では特に重要な自家生産による消 スクが異なり,無給の家族従業者と自営業者は最も脆 費を含む)にかかわる市場価値を含めるべきであるが, 弱であり,貧困に陥る可能性が最も高い.両者は正式 そうなっていない可能性がある.同様に,非市場財の な雇用取り決めを交わし,経済ショックに対して防衛 生産に伴う利益は所得に含めなければならない.最近 する社会的保護やセーフティネットをもっている可能 ではほとんどの調査データに,自家生産に伴う消費 / 性が最も低く,往々にしてそのようなショックを相殺 所得にかかわる帰属価値が含まれている.非市場財の するための十分な貯蓄を生み出す能力がない. 生産に伴う帰属利益は所得に含まれてしかるべきであ 幼児栄養失調の割合は,5 歳未満の子供で,生後 0-59 るが,必ずしもそうなっていない(そのような遺漏は カ月の国際的な参考母集団の年齢別体重の中央値を, 1980 年代以前の調査では大問題であった).最近では 標準偏差の 2 倍以上下回っている割合である.表は世 ほとんどの調査データに自家生産に伴う消費 / 所得に 界保健機関(WHO)が 2006 年に発表した新しい子供 かかわる価値評価が含まれているが,評価方法がまち の成長基準にかかわるデータを示したものである. まちである. 初等教育修了率は,初等学校の最終学年を修了した児 童の割合.初等学校の最終学年にいる総児童数から同 定義 学年の留年児童数を控除した人数を,人口のなかで正 調査年は,基本的なデータが収集された年. 式な卒業年齢にある児童総数で除したものである.初 各国の貧困線を下回る人口は,各国の貧困線を下回る 等教育の年限は国際教育標準分類(ISCED)の定義に基 生活をしている人口の割合.国全体の推計値は家計調 づき,最終年に退学した生徒を除外している.したがっ 査に基づく下位グループの人口加重推計値に基づく. て,この比率は実際の初等教育修了率の上限推定値と 408 世界開発報告 2012 して受け止められるべき代理変数となっている. 排出量は CO2 排出量を年央の人口で除したものである. 小中学校就学者の男女比率は,小中学校に就学(グロ ,世界銀行) (二酸化炭素情報分析センター[CDIAC] . スベース)している女子生徒数の同男子生徒数に対す 改善された衛生設備アクセスは,人間,動物,および昆 る比率である. 虫が排泄物に接触するのを有効に防ぐ排泄物処理設備 5 歳未満児死亡率は,現在の年齢別死亡率にしたがえ (私設ないし共有のものは含むが,公設のものは含まな ば,新生児が 5 歳に到達する以前に死亡する確率であ い)に対して,少なくとも適切なアクセスがある人口 る.この確率は 1,000 人当たりで表示されている.死 の割合をいう.設備としては,単純な穴を保護しただ 亡率データの主な出典としては,出生・死亡の届け出 けのトイレから,下水道につながっている水洗トイレ 制度や,サンプル調査または国勢調査に基づく直接な までさまざまなものを含む.有効であるためには,設 いし間接の推定値がある.5 歳未満児死亡率を国際的 備は正確に建設され,適切に維持されていなければな にかつ時期的に比較可能にし,多種多様な機関による らない. 推計値の間で整合性をとるため,UNICEF,国連人口局, インターネット利用者は,世界的なネットワークにア WHO,世界銀行,その他の大学や研究機関で構成され クセスできる人々のこと. る「幼児死亡率推定のための機関間グループ」は,入 手可能なあらゆる情報を使って相違を調整する統計手 表 4. 経済活動 法を開発した.それは死亡率と死亡時期との関係に加 国内総生産は,国内の全生産者による購入者価格での 重最小二乗法による回帰線を当てはめる方法である. 総付加価値に,製品価格に含まれていない税金を加え 妊産婦死亡率は,妊娠している時期に妊娠に関連した て,補助金を控除したものである.構造物の減価償却 原因で死亡した女性の数で,出生 10 万人当たりで表示 と天然資源の消耗や劣化などは控除せずに計算されて されている.値はモデルによる推定値.これは WHO, いる.付加価値は産業の総産出額を合計した上で,中 国 連 児 童 基 金(UNESCO), 国 連 人 口 基 金(UNFPA), 間投入額を差し引いた純産出額である.付加価値の産 世界銀行の共同作業による.死亡原因を明記した出生・ 業分類は国際標準産業分類(ISIC)第 3 版に基づく. 死亡の届け出制度の完備した諸国については,データ 世界銀行では通常米ドルを使い,IMF が発表している はそのまま利用されている.出生・死亡の届け出制度 公定為替相場の平均値を各年に適用している.外国為 は完備していないが他の種類の情報がある諸国や,実 替や貿易商品の取引に実際に適用されている相場から, 証的なデータがまったくない諸国については,妊産婦 公定相場があまりにも大幅に乖離していると判断され 死亡率は利用可能な各国の妊産婦死亡関連のデータや る場合には,それに代わる換算係数を適用している. 社会経済的な情報(出生率,分娩介助者,GDP などを 国内総生産の年平均増加率は,各国通貨建ての不変価 含む)を使った重回帰モデルによって推計されている. 格 GDP に基づいて算出している. HIV 感染率は,15-49 歳人口のうち HIV に感染してい 農業生産性は,2000 年の不変米ドルで測定した農業付 る人の割合である.成人の HIV 感染率は各国人口の 加価値の農業労働者数に対する比率である.農業生産 HIV 感染率を反映したものである.しかし,感染率が 性は投入 1 単位当たりの付加価値で測定されている. 全体的に低くても非常にミスリーディングなことがあ 農業付加価値には林業と漁業のそれも含まれている. る.最初は特定の地域あるいは人口グループに集中し したがって,土地の生産性という解釈は慎重に行うべ ているが,もっと人口全体に波及しようとしている重 きである. 大な流行病を隠蔽していることが多い.多くの途上国 付加価値は,ある産業の総産出額を合計した上で,中 では特に女性を中心に若い成人が新たに感染している. 間投入額を控除した純産出額である.付加価値の産業 結核の罹患率は,10 万人当たりでみた新規および再発 分類は国際標準産業分類(ISIC)第 3 版に基づく. の結核患者数(全種類). 農業付加価値,は ISIC 分類 1-5 に対応し,林業と漁業 二酸化炭素(CO2)排出量は,化石燃料の燃焼やセメン を含む. ト製造から発生する排出量で,固体・液体・気体とい 工業付加価値は,鉱業,製造業,建設業,電気,水道, う形態での燃料の消費と,ガスのフレアリングの際に およびガスで構成される(ISIC 分類 10-45). 生み出される二酸化炭素が含まれる.1 人当たり CO2 サービス業付加価値は,ISIC 分類 50-99 に対応する. 主要世界開発指標 2012 409 家計最終消費支出は,家計が購入するあらゆる財・サー ビスの市場価額であり,耐久財(自動車,洗濯機,家 表 5. 貿易・援助・金融 庭用コンピュータなど)も含まれる.住宅の購入は含 商品輸出は,海外に供給した FOB 建て財価額を米ドル まないが,持ち家にかかわる帰属家賃は含まれる.免 で表示したものである. 許や許可を取得するために政府に対して支払う手数料 商品輸入は,海外から購入した CIF 建て財価額(保険 なども含まれる.この家計消費支出には,たとえ当該 と運送費を含む財価額)を米ドルで表示したものであ 国では家計とは区別されている場合でも,家計にサー る.(商品貿易に関するデータは WTO の年報に基づ ビスを提供する非営利機関の支出も含まれている.実 く). 際には,家計消費支出には資源の使用と供給との間で 工業品輸出は,標準国際貿易分類(SITC)の大分類 5 生じている統計上の誤差も含まれる. (化学品),6(製造業品),7(機械・輸送機器),およ 一般政府最終支出は,財とサービスの購入(公務員給 び 8(雑製造業品)で構成されるが,中分類 68 は除 与も含む)にかかわる政府のあらゆる経常支出が含ま く. れる.国防や安全保障にかかわる支出のほとんどが含 ハイテク輸出は,R&D 集約度が高い製品の輸出である. まれるが,政府による固定資本形成の一部をなす軍事 航空機,コンピュータ,科学器具,および電気機械な 支出は除かれる. どが含まれる. 総固定資本形成は,国内の固定資本の増加にかかわる 経常収支は,純財サービス収支,純所得収支,および 支出と在庫品や貴重品の水準にかかわる変化で構成さ 純経常移転収支の合計である. れる.固定資産には土地の改善(柵,溝,排水路など), 外国対内直接投資(FDI)は,投資家の所在国以外で事 工場,機械,および設備などの購入,商工業用建物, 業を営んでいる企業に対して,永続的な経営権(議決 事務所,学校,病院,および民間住宅を初めとする建 権株式の 10%以上)を取得するための投資にかかわる 物,道路,鉄道などの建設が含まれる.在庫は生産や 純流入である.国際収支に示されているように,これ 販売における一時的または予期せぬ変動に備えて,ま には株式資本,収益の再投資,そのほかの長期・短期 た,「仕掛品」として,企業が保有している財貨の蓄え の資本を合計したものである.FDI に関するデータは, である.1993 年の国民所得勘定(SNA)では,貴重品 IMF の国際収支統計に基づき,国連貿易開発会議のデー の純取得も固定資本形成に算入されることになってい タや各国の公的情報源を使った世界銀行スタッフの推 る. 計で補完されている. 財・サービス対外収支は,財とサービスの輸出から同 政 府 開 発 援 助(ODA) は,OECD の 開 発 援 助 委 員 会 輸入を差し引いたものである.財・サービスの貿易は (DAC)による ODA の定義を満たし,被援助者に関す 一国の居住者とそのほかの全世界との間で,所有権の る DAC リストに掲載されている国・領域に対して,供 移転を伴う一般商品,加工や修理のために送られた財 与される贈与やローン(返済は控除)で構成される. 貨,非貨幣用金,およびサービスなどにかかわるすべ DAC は ODA について,公的部門が供与するものであ ての取引が含まれている. ること,主要目的が経済開発ないし福祉の増進にある GDP インプリシット・デフレーターは,主たる構成要 こと,および譲許的な条件で供与すること(グラント・ 素である民間最終消費に加えて,政府消費,資本形成, エレメントが割引率 10%で計算して 25%以上である および国際貿易など,全最終需要項目にかかわる価格 ,という 3 つの基準を定めている. こと) の変化を示す.これは名目価格 GDP の不変価格 GDP  途上国の公的対外ファイナンスにとっては OECD 加 に対する比率として算出される.GDP デフレーターは 盟の高所得国からのものが中心となっているが,OECD 現時点の産出額をウェイトとするパーシェ式価格指数 の DAC のメンバーでない諸国のなかにも,ODA を供与 として,明示的に算出することもできる. している重要な援助国がある. ほとんどの途上国について,国民所得勘定に関する指 対外総債務は,当該国の官民機関による非居住者に対 標は訪問したり,駐在している世界銀行の使節団を通 する債務で,外貨,財貨,あるいはサービスでの返済 じたりして,各国の統計機関や中央銀行から収集して を要するものである.これは対外的な長期・短期の債 いる.高所得国のデータは OECD に依拠している. 務と IMF 信用の使用分の合計である.短期債務には当 410 世界開発報告 2012 初満期が 1 年以下の全債務と長期債務や IMF 信用利用 タがある場合には,必ず最小二乗法による増加率を使って 分にかかわる延滞利息が含まれる. いる.期間中の観察値が半分以上欠落している場合には, 対外債務の現在価値は,短期対外債務の合計と,公的 この方法による増加率は算出しない. 長期債務,公的保証付き長期債務,および非保証民間  最小二乗法による増加率 r は,当該期間の年次変数の対数 長期債務にかかわる償還期限までの元利返済金の流れ 値に線形回帰による傾向線を当てはめて算出する.回帰方 の合計を現在価値に割り引いたものの総計である. 程式は次の形となる.  対外債務に関する主要データ源は,世界銀行融資あ ln Xt = a + bt るいは国際開発協会(IDA)信用を享受している加盟  この式は以下の複利による増加式の対数をとったものに 国が債務国報告制度を通じて提出する報告である.世 等しい. 界 銀 行,IMF, ア フ リ カ 開 発 銀 行・ ア フ リ カ 開 発 基 Xt = X0 ( 1 + r )t 金,アジア開発銀行・アジア開発基金,米州開発銀行  ここで,X は変数,t は時間,a = log X0 と b = ln (1 + r ) は のファイルからの追加的な情報も使用されている.途 推定すべきパラメーターである.b* を b の最小二乗法によ 上国に対外債務に関する総括表は,世界銀行の Global る推定値とすれば,年平均増加率 r は [exp (b*)–1] で求める Development Finance に毎年発表されている. ことができ,これを 100 倍すれば%表示になる. 銀行部門国内信用 は,各部門に対するあらゆるグロ  このようにして算出された増加率は,当該期間における ス・ベースの信用を含んでいるが,中央政府に対する 入手可能な観察値を代表する平均増加率である.しかし, 信用だけは例外的にネット・ベースとなっている.銀 それは同期間内のある 2 時点間の実際の増加率とは必ずし 行部門には通貨当局,預金通貨銀行,およびデータが も一致しない. 入手可能なそのほかの銀行(当座預金の受け入れは行 なっていないものの,定期預金や普通預金といった債 指数関数的な増加率 務は負っている金融機関を含む)が含まれる.その他  特に労働力や人口など一定の人口動態にかかわるデータ の銀行としては貯蓄住宅抵当貸付機関や建築貸付組合 について,2 時点間の増加率は次の式で算出される. な ど が あ る. デ ー タ は IMF の International Financial r = ln (pn / p1) / n Statistics に依拠している.  ここで,pn と p1 は当該期間の最後と最初の観察値,n は 純移住は,当該期における純移住者の総数,すなわち 同期間の年数,ln は自然対数である.この増加率は 2 時点 移入者数から移出者数を控除したもので,移入国の国 間における連続的な指数関数モデルに基づいている.時系 籍を有する者とそうでない者の双方が含まれる.表の 列中の個々の数値は考慮されない.また,指数関数的な増 数字は 5 年間の推定値である.データは国連人口局の 加率は次の式で求められる毎年の変化率にも一致しない. World Population Prospects: The 2008 Revision に依拠し (pn – pn-1 )/ pn-1 ている. 世界銀行アトラス方式 表 6. その他諸国の主要指標  特定業務上の目的で米ドル表示の GNI および 1 人当たり  表 1 に関するテクニカル・ノートを参照. GNI を算出する際,世界銀行はアトラス換算係数を使用して いる.アトラス換算係数の目的は,国民所得を各国比較す 統計手法 る際に為替相場変動の影響を減らすことにある.ある年の  この項では,最小二乗法による増加率,指数関数的な(エ アトラス換算係数は,当該国の当該年とその前の 2 年間に ンドポイント方式の)増加率,米ドル表示の GNI および 1 おける平均為替相場(あるいは代替的な換算係数)につい 人当たり GNI の推定に使われる換算係数を算出するための, て,同国のインフレ率と日本,イギリス,アメリカ,およ 世界銀行アトラス方式について説明する. びユーロ圏のインフレ率格差を調整したものである.当該 国のインフレ率は GDP デフレーターの変化率で測定する. 最小二乗法による増加率  国際的なインフレ率を代表する日本,イギリス,アメリ  信頼できる計算が可能なくらい長期にわたる時系列デー カ,およびユーロ圏のインフレ率は,SDR デフレーターの 変化率で測定する(SDR,すなわち特別引出権は IMF の計 主要世界開発指標 2012 411 算単位).SDR デフレーターはこれら諸国の SDR 表示による GDP デフレーターを加重平均したもので,その際のウェイ トは 1 単位に含まれている各国通貨の量による.このウェ イトは SDR の構成と各国通貨相互間の為替相場が変化する ため,時期によって異なってくる.SDR デフレーターは最 初に SDR 建てで算出し,次にアトラスの SDR 対米ドル換算 係数を使って米ドル建てに換算される.さらに各国の GNI に対してアトラス換算係数を適用する.その結果として得 られる米ドル表示の GNI を年央の人口で除して,1 人当た り GNI が算出される.  公定為替相場が信頼性に欠ける,あるいは当該期間の実 際の為替相場を代表していないと思われる場合,アトラス 方式では代替的な為替相場の推定値が使用される(下式参 照).  ある t 年のアトラス換算係数の算出は以下のように定式化 できる.  また,その t 年の米ドル表示による 1 人当たり GNI は次 の式で算出される. ここで,et は t 年のアトラス換算係数(各国通貨対米ドル), et は t 年の平均為替相場(各国通貨対米ドル),pt は t 年の GDP デフレーター,pt は t 年の米ドル表示の SDR デフレー ター,Yt は t 年のアトラス方式による米ドル表示の 1 人当 たり GNI,Yt は t 年の名目 GNI(各国通貨建て),Nt は t 年 の年央の人口である. 代替的な換算係数  世界銀行は公定為替相場の換算係数としての妥当性を体 系的に評価している.公定為替相場が外国為替の国内取引 や貿易財に実質的に適用されている相場から大きく乖離し ていると判断される場合には,代替的な換算係数が使用さ れる.このケースに該当する国の数は,World Development Indicators 2010 の 1 次データ出典表にみるように少ない. 代替的な換算係数はアトラス方式や主要世界開発指標では, 単年度だけの換算係数として用いられている. 412 索引 ■欧文先頭 育児サービス 298 ART(抗レトロウィルス療法)133 育児サービス提供 370 BPO(業務プロセス外部委託)110 イタリック体のデータ 404 CEDAW(女性差別撤廃条約)3 1 日 1.25 ドル未満の人口と 1 日 2.00 ドル未満の人口 407 GDP インプリシット・デフレーター 409 一貫性のある時系列データ 404 GDP の増加率 405 一般政府最終支出 409 GNI(国民総所得)405 意図せざる妊娠 319 HIV/ エイズ 118, 132 イラン 9, 60 蔓延 16 イラン・イスラム共和国 160, 165 予防・治療に対する支援 369 インターネット 253 HIV/ エイズのアフリカ 134 アクセスと使用 261 HIV 感染 16, 78 個人加入者数 268 行動的要因 132 使用率 260 生物学的要因 132 利用者 408 HIV 感染率 118, 408 利用者数 253 ジェンダー格差 132 インド viii, 6, 30 ILO の条約 264 教育のジェンダー格差 73 ICT と情報へのアクセスがジェンダーに与える影響 267 就学率の上昇 110 出生時に行方不明の女児 124 NOW 30 男女の死亡率 140 ODA(政府開発援助)409 インドネシア 88, 116, 169, 201, 216, 222, 269, 293, 294, 371 OECD 国際生徒学習到達度調査(PISA)115 PEKKA(女性世帯法的エンパワメント・プログラム) PEKKA(女性世帯主を支援する団体)315 33, 315 PPP 換算係数 405 データ 390 PPP 相場 405 インフラ投資 298, 300 PPP 表示の国民総所得(GNI)405 インフラの拡充 157 PPP 表示の 1 人当たり GNI 405 インフレ率 410 PROBECAT 302 SDR デフレーター 410, 411 ウガンダ 25, 26 T- センター 345 ウガンダ開発金融会社(DFCU) World Development Indicators 389, 404 ウガンダ女性弁護士協会 351 産み分け 25 和文先頭 ■あ行 エージェンシー(→「女性のエージェンシー」も参照)3, 6, アイルランド 355 48, 55, 95, 150, 307 アクセス銀行 29, 305 欠如 5, 21, 48 行使する能力 184 アジア危機 89 向上への法律の効果 184 アトラス換算係数 410, 411 次元 95 アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)の政 集団的な 335 策 232 女性の―― 151 アフリカ 女性の集団的な―― 6, 48, 151, 178 HIV /エイズ 134 発現 150 発展する―― 134 エージェンシーという領域 81 紛争の―― 134 エイズ 63 4つの区分 134 エイズの女性化 132 アフリカ民族会議(ANC)182 エクアドル 36 アフリカ連合 57 反応 342 アメリカ 6 「プロジェクト・サービス」321 1994 年ジェンダー平等教育法 343 エジプト アルコール依存 173 家族の形成と公共部門の雇用 233 アルコールや薬物の乱用に関連した死亡率と障害率 135 ジェンダー平等モデル 346 アルゼンチン 30 女性の公式部門での仕事 232 ハラス・マップ 343 保健サービス 64 『イギリス法釈義』58 エチオピア x, 166, 178 育児休暇 200, 235 家族法 32, 306, 312 取得する父親の割合 357 家庭内暴力 21, 84 政策 28 雇用 111 育児休暇政策の改善 299 就学率 88 索引 413 土地登記 29 家庭内での男女の相対的な交渉力 316 農村部 231, 315 家庭内における資源配分 323 家庭内における女性の発言権 32 オーストラリア 家庭内の関係 321 1984 年性差別法 57 家庭内暴力 21, 84, 152, 171, 307 オープン・データ・イニシアティブ 375 規範 372 男らしさ 174 削減 33, 313 男らしさの理想形 135 男性に対する 85 オムカジ 96 発生率 154 法律(法令)59, 165, 314 親のバイアス 116 有効な対応策 314 家庭内労働 ■か行 時間 156, 111 ガーナ 5, 20, 152 社会保障 235 改良普及事業 234 家庭における生産性の向上 223 身長の伸び 64 家庭や社会における発言権 ix 習慣法による結婚 166 男性の土地所有規模 83 寡婦 164, 312 男女による農業の違い 203 カリブ地域中等教育検定試験 112 海外直接投資 253 韓国 25, 125, 143, 355 回帰方程式 410 製造業での女性の雇用割合 254 幼児の男女比率 79, 355 介護義務 322 慣習法による慣例の方が,制定法より女性に利益をもたらす 外国対内直接投資(FDI)409 場合 167 介護にあてる時間 81 感染症 25, 126 改善された衛生設備アクセス 408 思わぬ影響 137 改善された水へのアクセス 291 削減 367 下位中等教育 388 清潔な水 139 開発 3, 47 カンボジア 10, 25, 112, 113, 291, 294, 348 開発金融会社(DFCU)305 家庭内暴力・被害者保護 338 開発における大きな挑戦 369 水部門での大改革 292 改良普及事業へのアクセスのジェンダー差 234 化学肥料の利用 227 企業イメージと収益に利益をもたらすジェンダー平等 347 学習到達度に関する国際標準テスト 62 企業の社会的責任 333 学習分野の分岐 115 記号 390 家計最終消費支出 409 気候変動 87 家計資源に対するコントロールを高める 32 既婚女性 222 地位を確実なものにする 29 家計調査 407 マラウイ 21 家計のファイナンス 82 既婚女性財産法 58 過激なフェミニズム 336 議席留保制 308 家事と介護 80 義務教育 12, 159, 174, 298 家事にあてる時間 81 義務教育法 62 家事労働 169, 217 教育 充当時間のジェンダー差 218 アクセスに関してジェンダー格差が持続しているグ 男性 174 ループ 295 ブラジル 339 参加 388 家族計画サービス 157, 316 ジェンダー差 viii, x, 143, 268 改善 317 ジェンダー差の解消 10, 62, 203 家族計画政策 132 女子が選択するコース 104 家族の世話の責務のジェンダー差 268 セカンド・チャンス 318 家族法 163, 306, 311, 355 投資 106, 117, 256 途上国における改正 306 能力とのミスマッチ 116 『学校がいかに女子をごまかしているか』343 不平等の原因 108 ルートのジェンダー差 115, 213 学校教育 2, 5, 34, 106, 108, 279 ジェンダー不平等 ix, 62, 73 教育格差 56, 203 ジェンダー問題 366 縮小 x, 209, 216, 367 収益率 317 専門別 90 代価 111 教育サービス 24, 289 中断 88 提供 295 道路網の整備 157 教育システム 116 母親の―― 48, 68 教育政策の優先課題 295 各国の貧困線 406 教育と健康における逆戻り 87 各国の貧困線を下回る人口 407 教育と保健への投資 106 家計資源のコントロール viii, 32, 307, 311 教育と労働経験における男女差 202 家庭での差別 117 教育のミレニアム開発目標(MDG)367 家庭内で女性の発言権を高める 311 競争におけるジェンダー差 176 414 世界開発報告 2012 業務プロセス外部委託(BPO)110, 256 家族法と相続法 311 銀行監督政策 321 経済機会へのアクセス 319 銀行のリスク管理 321 携帯電話の利用 260, 262 女性の土地所有 20, 83 銀行部門国内信用 410 職業訓練 34 金融危機 88 水道の利用 111, 139 金融支援 365 農業生産性 208 金融支援の供与 38 農民ヘルプライン 306 モバイル・バンキング 28 国 , 390 コーヒーの栽培 299 国の分類 391 現金給付 x, 26, 34, 295, 296 女子に対する 318 国の分類と総括値 389 健康 388 組合での女性の役割におけるジェンダー格差 179 健康と教育ジェンダー格差 73, 289 グラミン銀行 29, 303 ケンコール 307 グルジア ジェンダー別の役割の変化 334 原数値 404 グローバル化 x, 23, 178, 252, 271 権利の平等 56 影響 256 グロス就学率 388 工業雇用 388 「公共託児所」プログラム 298 経営におけるジェンダー差 204 工業品輸出 409 経営や企業業績のジェンダー差 203 工業付加価値 408 経済開発と女性の労働力参加との関係 66 合計特殊出生率(TFR)131 経済活動 408 後見法 163 ジェンダー格差 17 公式雇用 17 経済活動別雇用と政治参加 388 女性 28, 80 経済機会へのアクセス ix 外にいる人の労働条件 265 ジェンダー差 27, 198, 215, 236, 238 公式制度 8, 304 増やす 271, 319 公式の(経済)制度が及ぼすジェンダーへの影響 234 経済機会を改善するための政策 296 公式のパートタイムの仕事 220 経済圏 公衆衛生 105 経済成長 21 改善 140, 367 教育におけるジェンダー不平等への影響 62, 76, 101, 投資 126 102 高所得国 , 389 ジェンダー平等との関係 48 ジェンダー間職務分離 17 女性のエージェンシーへの影響 153, 157, 199 就学 61 男女の雇用パターン 214 情報通信技術 262 超過死亡者数 15, 125 女性のエージェンシー 136 男女の死亡率 140 経済的交渉力 99 超過死亡 131 経済的な下降期における幼児死亡率 87 妊産婦死亡 129 労働条件 220 経済発展 産業と職業の分離に及ぼす影響 212 公定為替相場 411 ジェンダー間職務分離に与える影響 209 公定為替相場の換算係数 411 ジェンダー平等の関係 100 公的政策 12 職業構造の変化 212 ジェンダー平等 37, 50 経常収支 409 男性・少年を取り込んだ 340 携帯電話 253 公的措置 アクセス 259 支援 373 アクセスと使用におけるジェンダー差 259 ジェンダー格差を縮小するための 270 知覚便益 260 ジェンダー平等のための 288 ケーブルテレビ 266 優先分野 285 結核の罹患率 408 高等教育 107, 216, 388 格差 10, 69, 115 結婚 33, 97, 136, 153, 159, 171, 217, 230, 233, 318 就学者の増加 61 HIV 感染 132 男子の学業不振 77 解雇 59 トルコ 90 家事 19, 31, 81, 303 財産 162 高等教育の第 1 段階(ISCED 5)388 登記をしない 312 高等教育の第 2 段階 388 労働市場への参加 200 高等教育の第 2 段階(ISCED 6)388 結婚と離婚の権利 161 候補者割当制 308 結婚難 106 高齢化 5, 47, 238 結婚年齢 154, 353 抗レトロウィルス療法(ART)133, 136 アメリカ 151 コーカサス 78 女性の交渉力 171 5 月広場の母 336 裕福な家庭の女性 153, 154 国際生徒学習到達度調査(PISA)114, 115 ケニア 20, 166, 202 国際救済委員会(IRC)323 索引 415 国際金融公社(IFC)29, 304, 305 男女の死亡率 140 国際社会の役割 xi 妊産婦死亡率 77 国際的起業家調査 232 差別(→「ジェンダー格差」 , 「ジェンダー差別」 ,「性差別」 国際的な措置の優先分野 38 も参照)105, 140 医療サービス 126 国際貧困線 406 家庭での 15, 117 国籍法 160, 163 グローバル世界における 263 国土面積 405 市場における―― 3, 22, 30, 100, 155, 205, 229, 301 国内総生産 408 慣習法 167 国内総生産の年平均増加率 408 出生 105, 106, 120, 125 国民所得勘定に関する推計データ 404 撤廃 159 土地法 29 国民総所得(GNI)405 名ばかりの撤廃 346 国連経済社会局(DESA)142 法規制における 166, 304, 322, 354 国連児童基金(UNICEF)388 南アジア 139 国連食糧農業機関(FAO)47, 371 労働法や家族法 58 国連女性会議 339 採用や給与 59 北京 340 差別的な法律の是正 304 国連女性開発基金(UNIFEM)310 産業や業種ジェンダー格差 79 国連女性機関 374 参政権を男性に限定 59 国連人口基金(UNPF)388 国連食糧農業機関(FAO)の推計 5, 47, 226, 237, 371 司法の役割 351 5 歳未満児死亡率 408 シェパード = タウナー母子保護法 68 国家女性事業局(SERNAM)350 ジェンダー 4, 46, 340 固定資産 409 ジェンダー改革プロセス 37 子どもの監護権 163 ジェンダー(格)差 278 好ましい仕事 209 HIV 感染 132 雇用機会均等法 59 改良普及事業へのアクセス 234 格差の改善 23 雇用のジェンダー分布 254 家事労働への充当時間 218 雇用パターン 214 家族の世話の責務 268 コールセンター 256 急速に縮小 viii コロンビア x, 13, 60, 89, 230, 269 教育 143, 268 育児サービス 298 教育における解消 10 経済機会へのアクセス 319 教育ルート 213 女性差別撤廃委員会の支援 38 経営における―― 204 婚姻中の財産に関する法律 311 経営や企業業績の 203 婚姻登記 312 経済活動 17 経済機会の利用 コンゴ共和国 経済機会へのアクセス(利用)における―― 27, 198, 女性の超過死亡 134 215, 259 訴訟手続き 169 健康と教育 73, 289 公式の(経済)制度が及ぼす影響 234 ■さ行 個人の特性を考慮 210 サービス業雇用 388 再生産 22 サービス業付加価値 408 再生産を制限する xi 在庫 409 最大の地域 61 最貧国 72 財・サービス対外収支 409 採用時の―ー 206 財産制度 230 産業や業種 79 財産の共同所有 161, 162 残存 ix, 55 財産の個別所有 162 時間使途 216, 217, 236 財産法 306 時間の使途と家族の世話における―― 221 最小二乗法による増加率 , 410 資源や支出に関するコントロール力 83 資産(とりわけ土地) ,信用,その他の投入物 20 在宅勤務(テレワーク)262 資産や投入物へのアクセス 28 最貧国 xi, 286 市場へのアクセス 227 ジェンダー格差 72 実物資本や資産へのアクセス 83 最貧 20%層が消費 / 所得に占める割合 407 執拗 15 再分配プログラム 306 就学 143 最優先分野 24 就学率 viii 採用時のジェンダー差別 206 自由裁量時間 216 縮小するための公的措置 270 サウジアラビア 59 初等教育 viii サハラ以南アフリカ ix, 2, 134 職務における―― 209 HIV 感染 132 ショックの影響 297 死亡率 142 人的資本 203, 209, 366 就学率 107 人的資本の資質 24 女性の相対死亡リスク 117 成果 50 女性の超過死亡 120 生産資源へのアクセス 236 416 世界開発報告 2012 生産性と賃金における―― 201 成長に及ぼす効果 49 生産性における 203, 205, 208 達成度が高い 47 生産用投入資源へのアクセスの 229 貿易開放がに与える影響 263 製造業 17 ボーナス制度 358 選好の―― 152 3 つの重要な側面 4 専攻分野 115 促進する国家組織 348 退学の決断 280 ジェンダー平等化に向けた世界的アジェンダ 38, 364 賃金における―― 203, 205 ジェンダー平等と開発 46 賃金における未解明の―― 205 ジェンダー平等と成長 48 特に執拗にみえる 1 つの領域 80 土地と信用へのアクセス 225, 227 ジェンダー平等モデル・エジプト(GEME)346 土地へのアクセスと土地利用 225 ジェンダー平等を結果の平等として考える 4 農業 17 ジェンダー不平等 農業生産性における―― 208 学校教育 62 発言権やエージェンシー 371 取り組むための政策が機能しているのか 323 夫婦(カップル)や世帯における時間使途 222 再生産を回避 317 不平等にかかわるパターン 3 再生産を防止 34 古い 267 世代間再生産の防止 373 保健 117 ジェンダー不平等の罠 24, 34, 289, 295, 317 最も執拗 ix ジェンダー別の市場の失敗 301, 321 優先課題 x ジェンダー平等教育法 343 労働経験 203 労働参加 199 ジェンダー問題 33, 40, 350, 352, 366 労働市場 20, 30 インドネシア 315 労働生産性と賃金における―― 198 学校教育における―― 366 労働市場における制度化 212 関心の欠如 320 労働力参加率 66 対処 310 ジェンダー間職務分離 207, 235, 263, 270 ジェンダー割当制 352 主な要因との間のフィードバック・ループ 237 時間使途におけるジェンダー差 , 236 経済機会へのアクセスにおける―― 236 資金供与 xi, 68, 343, 369 経済発展が与える影響 209 時系列データ 389 説明するもの 209 一貫性のある 404 古いパターン 269 資源や支出に関するコントロール力 83 ジェンダー機構 334, 348 仕事 ジェンダー規範 104, 174 女性優位 236 ジェンダー契約 334 男性優位 236 ジェンダー公正初等教育での―― 107 資産保護 313 ジェンダー主流化 320 資産や投入物へのアクセスにおけるジェンダー格差 28 ジェンダー・スマートな政策 320 資質 4, 55 ジェンダー政策 354 思春期 34 機会の窓 352 若者 278 中心 286 若者の生殖に関するスマートな意思決定 319 変化 152 市場 8 ジェンダー多様化 345 機能の改善 301 慣行 346 市場性のある時間 20 ジェンダー賃金格差 256, 259 市場と制度 99 ジェンダーと開発に関する宣言 353 市場の失敗 231 ジェンダーに中立的な法律 235 ジェンダー別の 321 ジェンダーに基づく選好 230 制度の制約 101 ジェンダーに基づく暴力 339, 341 市場の役割 333 ジェンダーによる職務の差 207 市場へのアクセスにおけるジェンダー差 227 ジェンダーによる分業 212 指数関数的な増加率 410 ジェンダーの平等を機会の平等として考える 4 親しいパートナーによる暴力 84 ジェンダー平等 4 実質成長率 404 意味 4 実物資本や資産へのアクセス 83 改革の政治経済学 37 児童労働 111 改善に向かうための経路 354 死亡関数 141 開発に及ぼす影響 47 重み付け 141 企業イメージと収益に利益をもたらす 347 司法制度への女性の参加 179 企業の実例 238 経済発展との関係 100 司法へのアクセスの欠如 168 公的措置 288 死亡率 15 進展がほとんどない,あるいはまったくない 7 アルコールや薬物の乱用 135 進展にとっての重要な課題 374 成人の男女差 140 進展のあった分野 7 選択効果 141 生産性 3 男性との対比でみた女性の 2 生産性への影響 47 死亡率データ 408 政治における―― 85 社会運動としてのフェミニズム 336 索引 417 社会規範 151, 170, 184 少年の悪い行動 281 介入策 176 商品貿易 253 経済的領域における性役割 224 商品輸出 409 持続 174 商品輸入 409 持続性 175 情報通信技術 28 社会指標の総括値 405 拡充 177 社会資本 97 情報における「市場の失敗」231 社会主義国 135 情報の力 342 社会的交渉力 99 情報問題 29, 36, 308 社会的なネットワークやグループへの参加 95, 335 市場 , 319 社会や家庭での意思決定における発言権 21 女性に不利 x シャクティ 238 農民や自営業者 303 若年女性 280 職業訓練 34, 35, 302, 319, 350 ジャマイカ x 思春期の女性 289 学校の成績 112, 174 就業構造 就学生徒数 iii 経済発展による変化 211 就学のジェンダー差 143 変化 211 就学率 viii, 9, 104 職務におけるジェンダー差 209 インドにおける上昇 110 職務分離 212 変化の外的要因 111 証拠に基づく公的措置の支援 373 低所得国 111 女子 通学距離との関係 112 学校教育にかかわる格差 ix 動向 107 教育 10 慣習法 167 女子割礼 338 慣習法にもとづく体制 162 女子就学者の増加 61 就業構造 211 女子就学率 iii 宗教法にもとづく法体系の国 161 女性 自由裁量時間のジェンダー差 216 異質性 338 集団的措置 332 エンパワーされたと感じる要因 95 集団的なエージェンシー 335 エンパワメントへの道 94 家庭での発言権 21 集団的な行動 338 既婚 222 10 年目の詩神 342 経営する企業 201 重要なメッセージ iii 経済機会アクセスの促進 370 出産休暇 200 経済的地位の向上 154 出産する子供の数 9 雇用の増加 256 出生後の死亡率 117 時間に対する制約を撤廃 298 資産保護 313 出生時性比 106, 140, 143 市場性職業 10 男性に偏った 143 司法アクセスを増加させる 315 出生時に行方不明の女児 105, 119, 120, 124, 137 社会進出 21 増加 78 社会的発言権の増加 308 出生時における性別比率 78 集団的エージェンシー 48, 151, 178 歪み 24 自由な時間を増やす 300 出生時余命 62, 388, 405 所得をコントロールする力 152 出生前の子どもの選好 125 自律 156 出生率 政治職に就く可能性 85 途上国 63 政治的な代表を増やす 31 低下 74 成人の超過死亡 127 貧困層 74 相続権 160 主要世界開発指標 389, 404 投票権 159 投票権に反対するスイス女性の同盟 338 主要なメッセージ 108 独身 221 純移住 410 土地保有権 225 女性差別撤廃条約(CEDAW)57 妊娠や分娩の合併症で死亡する確率 293 女性に対する暴力 84 発言力 180 女性の超過死亡(→「超過死亡」も参照)137 マグナカルタ 334 上位中所得国 389 未来 347 役割に関する保守的なジェンダー規範 268 上位中等教育 388 役割についての,思春期の少年少女の意見 282 奨学金 318 余命増加の牽引力 63 上下水道の普及 139 労働参加率 199 条件付き現金給付 10, 34, 36, 111, 317, 323 労働力参加率 65 少女・女性の不健康 89 女性議員 388 少女・成人女性の超過死亡率 ix, x, 14 女性企業家 ix, 17, 207 少女における良い / 悪い 278 女性教育の世代間インパクト 68 小中学校就学者の男女比率 408 女性差別撤廃委員会(CEDAW)38, 353 少年における良い / 悪い 278 女性差別撤廃条約(CEDAW)3, 353, 371 418 世界開発報告 2012 女性自営労働者協会(SEWA)30, 299 身体的移動性に対する制約 170 女性代表者 21, 315, 352 人的資本 平和や再建のプロセスにおけるの割合 310 経済機会へのアクセス向上が与える影響 256 女性的な生産性の罠 27 形成 104, 151 女性統合のための枠組み 354 形成の重要性 106 資質 104 女性取締役 204 ジェンダー格差 198, 203, 209, 289 女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約 ジェンダー格差を解消 366 (CEDAW)159, 264 資質におけるジェンダーの格差 24 女性に対する現金給付 318 投資 67, 100 女性に対する暴力 339 シンデレラ条約 57 女性に対する暴力撤廃信託基金 373 信用制約 228 女性に対する暴力の防止・処罰・根絶に関する米州条約 57 信用へのアクセス 226 女性乳児の超過死亡の消失 126 女性ネットワークの形成 30, 322 推定収穫高の男女差 201 女性農業労働者 270 スペイン 女性のエージェンシー 6, 151 裁判官の選出 180 インフラの拡充 157 ジェンダー機構の実際 350 改善するための政策 307 女性議員 31, 309 家計所得のコントロール 238 女性研究所 350 家庭内 163 政党による自発的割当制 182 国の所得水準との関係 157 暴力に対する保護措置 314 経済機会へのアクセス 55 スマートな経済学 3 欠如 5 スリランカ 27 権利 159 アパレル協会フォーラム 348 向上させる法律 159 妊産婦死亡率 27, 67, 296 財産所有権やコントロールの欠如 89 農村部の企業 17 社会規範 170 所得水準との関係 158 知る重要なポイント 21 清潔な水の提供についての社会的収益率 139 進展が遅い 81, 153 政策 制約 14 経済機会を改善する 296 総所得の増加が与える影響 151 設計や実施 332 促進 150, 153 政策改革 332 多元的法体制 166 生産活動の主な 3 つのカテゴリー 216 「女性の」仕事 212 生産資源のアクセスにおけるジェンダー差 236 女性のための世界銀行連合 305, 347 生産性 208 女性の超過死亡 120, 122, 140 ジェンダー差 203, 205, 208 HIV 感染率が高い 4 カ国 133 ジェンダー平等 3 コンゴ共和国 134 上昇 viii, 5 今日のパターン 105 生産性と賃金におけるジェンダー差 201 所得との関係 121 生産性の罠 20, 201 算出 140 女性的な 27 推定値 140 脱出 236 女性の超過死亡率 24, 290 生産地の地理的移行 254 女性判事の数 168 生産用投入資源へのアクセスのジェンダー差 229 女性役員のシェアを増やす 310 政策改革 332 女性優位の仕事 236 政治経済学 女性を低賃金・低生産性の仕事に陥らせている 201 ジェンダー改革 332 初等教育 388 ジェンダー平等に向けた改革の―― 37 アフリカ 134 政治職における割当制 352 ジェンダー公正(平等)9, 61, 107, 110 政治におけるジェンダー平等 85 ジェンダー格差 viii, 56 脆弱な雇用 407 ミレニアム開発目標 58 生殖可能年齢期の超過死亡の決定要因 128 初等教育修了率 407 生殖医療サービス 319 初等教育無償化プログラム 110 生殖可能年齢期の女性の超過死亡の変化 130 所得水準と女性のエージェンシーの関連 158 成人識字率 405 所得別の分類 成人死亡率 118 所得や生産性における男女格差を縮小 x 性比の変化 118 所得を女性がコントロールする力 152 成人女性の超過死亡 130 自律性の転倒 164 成人の死亡リスク 120 人口 405 成人の超過死亡 127 人口増加率 405 男性 133 人口の年齢構成(0-14 歳)405 税政策 322 人口保健調査 64, 108, 134 性選択のパターン 125 人口密度 405 性選別的な中絶 78 人口予測 142 索引 419 製造業 17 相続法 163 女性の雇用割合 254 相続法制 312 政党の自主的な割当制 308 相続法と寡婦 312 制度(→「公式制度」 「非公式制度」なども参照) ソウル・シティ 33, 313 公式 ix, 8, 9 ソーシャル・メディア 183, 343 失敗 26, 231 測定問題 407 制約 101 惰性 23 属人法 163 非公式 8, 298 制度構造 200 ■た行 土地市場と信用市場の 230 第 1 次教育 388 青年女子イニシアティブ 35 対外債務に関する主要データ源 410 政府開発援助(ODA)409 対外債務に関するデータ 404 生物学的差異 117 対外債務の現在価値 410 性別比率 78 対外ショックに対する脆弱性 88 性役割についての世間一般の見解 280 対外ショックのジェンダー別のインパクト 86 セーフティーネットへのアクセス 222 対外総債務 409 世界銀行アトラス方式 410 大学就学率 104 世界女性会議 353 大局的にみたフェミニズム 336 世界的な措置に向けたアジェンダ 364 対照集団を用いて重み付けする 140 世界保健機関(WHO)118, 142, 388 大臣職に占める女性の割合 86 セカンド・チャンス 代替的な換算係数 411 教育における 318 ダカール プログラム 318 水へのアクセスと質の改善 292 セクシャルハラスメント 165 多元的法体制 166 世帯 99 規範の相互作用 166 世代間サイクル 89 脱フェミニズム 336 世代を超えたジェンダー不平等の再生産を回避 317 ダディ割当制 358 積極的差別是正措置 30, 302 短期賃金補助金 303 セロ・リース・アンド・ファイナンス株式会社(Selfina)29, タンザニア 2, 173 305 男女の雇用パターン 214 セン,アマーティア 3 土地の所有 305 1994 年ジェンダー平等教育法 343 保健教育プログラム 34 ラジオ放送の影響 317 選好 99 ジェンダー差 152 男子選好 79 専攻分野のジェンダー間分離 115 男児と女児の間に見られる栄養の差 125 先進国における平等の権利 58 男女の雇用パターン 214 選択効果死亡率 141 男女の相対的な交渉力 321 選択の強制 137 男女の賃金格差 154 選択の自由 137 男女平等の憲法上の保証 57 専門別の教育格差 90 男性関与連合 340 男性・少年を取り込んだ公的政策 340 総括値 389, 405 男性との対比でみた女性の死亡率 2 社会指標の―― 405 男性に対する家庭内暴力 85 増加率 , 410 男性にとって望ましい特性 194 最小二乗法による―― 410 男性の仕事 211 指数関数的な―― 410 男性の死亡率の高さ 118 算出 404 男性の出生時平均余命 135 相関関係 男性の超過死亡 105, 135, 137 親の栄養状態や教育と子供の健康 48 企業における女性の進出 310 男性向け情報センター 340 ジェンダー平等と成長 49 男性優位の仕事 236 所得と家庭内暴力 21 土地のシェアと食料への支出 5 地権 遭遇地点 352 既婚女性において確実にする 29 総固定資本形成 409 女性 306, 349 総消費支出 407 父親の育児休暇規定 340 総所得の増加が女性のエージェンシーに与える影響力 151 中国 5 相続 160 家族計画プログラム 316 土地 313 結婚難 106 保護 320 出生時における歪んだ性別比率 77 出生時行方不明 79, 119, 124 相続権 163, 341 女性の超過死亡 121 改善 352 女性労働者の賃金 256 女性の―― 160 成人女性の所得増加 5 相続パターンにかかわる男性偏重 320 1950 年婚姻法 357 420 世界開発報告 2012 男女の死亡率 140 纏足 175, 356 統計手法 410 年金 156 統合された世界 252 農村部の少数民族 76 同等資格認証プログラム 318 息子選好 177 投票権 159 中国のデータ 390 独身女性 221 中所得国 389 特別制度 351 中絶 危険 158 特別土地所有権付与・地籍プロジェクト 349 合法化 352 特別引出権 410 性選別的 78 特別法廷 351 中絶法 341, 350 都市への人口移動 178 中東・北アフリカ 途上国 医療アドバイス 170 育児休暇政策 28 婚姻中の財産に関する法律 311 インターネットの利用 260, 268 女性議員 179 家族法の改正 306 女性の労働力参加 31, 199, 200, 303 起業の理由 207 妊産婦死亡率 63 携帯電話の利用 253, 259 中等教育 viii, ix, 1, 61, 77, 107, 388 公式雇用の割合 343 超過死亡 105, 119, 120 国際生徒学習到達度調査 115 アフリカの女性 132 ジェンダー平等化の進展 12, 76 生殖可能年齢期 128, 143 市場性の仕事への参加 232 成人女性 130 就学率 viii 男性 105, 135 就業構造の変化 212 幼児期の女児の 125 出生時平均余命 9 出生率の低下 63 調査データの使用に伴う測定問題 407 女性の土地の権利 225 調査年 407 生産性と賃金の格差 201 チリ 製造業・サービス業での雇用 254 家内工業労働者 80 政府によるジェンダー平等の促進 23 結婚における財産 162, 312 中等教育 61 国家女性事業局(SERNAM)350 妊産婦死亡率 79 ジェンダー機構の実際 350 平等化による農業産出量の増加 5, 47 デイケア・センター 298 水供給の改善 291 水の供給 292 輸出企業 264 離婚の合法化 333, 356 労働条件 221 賃金格差 115 トスタン 356 賃金における未解明のジェンダー差 205 土地再分配プログラム 230 賃金のジェンダー格差 203, 205 土地市場と信用市場の制度構造 230 土地市場における差別 155 通学距離 112 土地と信用へのアクセスにおけるジェンダー差 225, 227 土地の相続 313 ディアブグ宣言 356 土地へのアクセスと土地利用におけるジェンダー差 225 低位中所得国 389 土地法 163, 311 定型認識業務 257 飛び石 313 低所得国 389 ドル 育児ケア 28 トルコ 携帯電話の利用 260 家庭内暴力法(法律 4320 号・家族保護法)57 健康状態 63 義務教育 62 死亡の現実 118 妊産婦死亡率 26 就学率 111 労働所得に対する支配力 21, 82 女性の就学向上 13 退学率 88 女性の出生時余命 62 妊産婦死亡率 26, 295 女性の政治参加 181 家庭内暴力法 57 女性の超過死亡 77, 368 高等教育 69, 90 妊産婦死亡 131 就学率 111 母親の教育 68 婚外出産 159 貧弱な学習 113 財産所有 162, 312 平均学校教育年数 61 低年齢での出産 281 ■な行 データの一貫性と信頼性 404 ナイジェリア 2 データの標準化 404 アクセスバンク 29, 305, 347 手仕事業務 257 就学率の格差 72 デフォルトの相続権 163 女性の労働 166 テレセンター 261 農村部 305 テレワーク(在宅勤務)262 「名ばかりの」女性議席 309 転換的な変化 357 ナミビア女性マニフェスト・ネットワーク 338 纏足 356 南部アフリカ開発共同体(SADC)352 索引 421 ■は行 二酸化炭素(CO2)排出量 408 パートタイム 220, 223, 304 2 時点間の増加率 410 制限 30, 304 日本 パートナーシップ xi 家庭内暴力 84, 169 バイアスの是正 29 雇用機会均等法 59 ハイテク輸出 409 女性の超過死亡 141 パキスタン x, 5 男女の好ましい活動 152 教育格差の縮小 x 乳幼児死亡率 118 教育達成度 5, 68 人形の家 342 市場性の活動 219 人間開発指数(HDI)95, 195 市場へのアクセス 228 妊産婦監査 369 司法へのアクセス 315 就学率 112, 296 妊産婦サービスへのアクセスを増やす 368 情報の欠如 176 妊産婦死亡 106, 128, 129 女児の超過死亡 125 妊産婦死亡率 15, 26, 62, 63, 388, 408 土地利用 227 削減 27, 139, 293, 368 水の供給 28, 300 サハラ以南アフリカ 77 「働く女性」というプログラム 305 低下 67, 129 発言権 x, 307, 317 低下の鍵 293 格差 ix トルコ 26 格差を縮小する政策 31, 289 妊産婦保健サービス 294, 295 家計 89 認識業務 257 家庭における女性の―― 32, 311 妊娠・出産に対するコントロールを高める 33 財政に対する―― 82 出産の決定 316 年間所得の伸び 253 社会や家庭 21 年金 156 政治的な―― 58 増加 308 年金制度への男女の加入率 155 平和や紛争後再建 310 年金の貯蓄パターン 155 発言権と権限が小さい 81 発言権やエージェンシーにおけるジェンダー格差を解消 371 農業 17 発展するアフリカ 134 農業生産性におけるジェンダー差 208 母親自身の教育や健康を改善 5 農業改良普及事業 234 母親としての壁 344 農業雇用 259, 388 母親の教育水準 89 農業指導助言 306 パパの割当 357 農業生産性 408 バングラデシュ 6, 13, 60 農業の変化 256 憲法 60 農業付加価値 408 農村道路プロジェクト 322 比較対照集団 140 農村部 非公式制度 8, 116, 298, 335 育児サービス 299 非公式部門の仕事 205 インド 238 インフラサービスの改善 28 非定型業務 257 衛生の改善 293 1 人当たり GNI 405 エジプトにおける雇用 233 1 人当たり国内総生産(GDP)増加率 405 家庭内暴力 169 1 人当たり CO2 排出量 408 企業の収益率 17 避妊器具の採用 33 基礎教育プログラム 62 避妊具 316, 340 携帯電話の利用 260 避妊手段 157 交通インフラの整備 223 司法制度へのアクセス 315 非輸出部門 269 社会的ネットワークへの参加 95 比率 404 収入源 156 比例代表制 308 情報通信 177, 266 貧困 406 生産性のジェンダー差 208 貧困格差 407 性的いやがらせ 170 貧困線 406 中国 76 力の獲得 195 貧困層の出生率 74 電力の普及 157 貧困データの国際比較 406 土地の所有 206, 226, 349 貧困の推計値 406 土地の利用 226 貧困評価報告書 406 保健教育プログラム 34 貧弱な学習の問題 113 水の供給 293 ヒンドゥスタン・ユニリーバ社 238 能動的な労働市場政策 30, 302, 323, 373 農民や自営業者の情報問題 303 フィードバック・ループ 66 ノルウェー会社の役員会における割当制 358 ジェンダー間職務分離とその主な要因 236, 237 フィジーの CEDAW 批准 353 422 世界開発報告 2012 フィリピン 「プロ若者」プログラム 319 家庭内の交渉力に関する調査 321 水供給 111 家庭内暴力の対応 315 ベルコープ社 238 財産管理 162 勉強科目のジェンダー別相違 22 ジェンダー平等に関する法律 59 「女性のマグナカルタ」334 土地の権利 230 保育サービス 213, 223 夫婦(カップル)の時間使途 218 貿易開放 ジェンダー差 222 拡大 257, 266 ジェンダー平等に与える影響 263 フェミニスト運動 336 労働条件に与える影響 266 フェミニズム(男女同権)336 法規制における差別 322 過激な 336 法廷 351 付加価値 408 法的枠組み 福祉指標 407 家庭内における女性の権利 307, 311 福祉の重要な決定要因 48 経済機会を広げる 32 婦人の十年 336 国際的な―― 57 婦人保護スキーム 295 法律 159 不平等の罠 6 婚姻中の財産に関する 311 不変価格シリーズ 404 女性のエージェンシーの向上 159, 184 ブラジル 5, 20 離婚 312 家事労働 339 離婚を認めるまたは容易にする―― 159 公共育児サービス 298 暴力犯罪 133 財産相続 161 保健教育プログラム xi, 34 女性家事労働者 339 保健と教育への投資 104 女性の土地所有 20 保健におけるジェンダー格差 117 男女の雇用パターン 214 保健の問題 117 テレビドラマの少子化への影響 177, 266, 317 都市部における 14-16 歳の雇用 111 保守的なジェンダー規範 268 父権 165 ホンジュラス 古いジェンダー差 267 仕事の選好 224 妊産婦死亡率削減 295 ブルキナファソ 女子の就学率 112, 113 女児の超過死亡 127 ■ま行 女性の財産権の改善 5 マイクロクレジット 229 土地所有 225 マイクロファイナンス 226, 232 農村における格差 201, 208, 237 マニラ プロ雇用 302 水供給 25, 291 プロ若者 319 マプト議定書 57 紛争のアフリカ 134 マフル 162 分娩の際に死亡する確率 2 ママの罠 220 分離 207 ママ・ルス・フルット 36 マレーシア 平均学校教育年数 61 家庭内暴力 33 平均政党加入率 180 在宅勤務 345 平均余命 9 製造業のグローバル化 255 妊産婦死亡率の低下 27, 296 平均余命の男女差 136 農村部と都市部の関係 268 米州機構(OAS)57 ワンストップ危機センター 314 平和や再建のプロセスにおける女性代表者の割合 310 ベスト・バイ 347 未解明の賃金格差 208 ベトナム 水供給の改善 25, 291 介護義務への対応 323 ミレニアム開発目標(MDG)3, 4, 58, 353, 407 教育に対する親のバイアス 116 子供の教育 22 産前ケア 76 無遺言相続法 163 少数民族 ix 無償初等教育プログラム 62 農村コミュニティ 293 息子の選好 124, 355 若い女子の超過死亡 x 息子の選好と生まれている子どもに対するジェンダー不平等 ラジオドラマの影響 343 125 ペルー 304 無遺言相続法 313, 320 企業研修 304 「村の助産婦」プログラム 294 グループ貸付制度 29 交通インフラ 223, 301 国際共同体支援財団 303 メキシコ 女性に対する暴力 21, 84 家計に関する決定権 6 土地保有権利付与プログラム 348, 349 家庭内暴力 36 妊産婦保健 294 ジェンダー平等に対する男性の態度 37 農村道路プロジェクト 322 時間使途 224 索引 423 女性議員の割当制 32, 309 「男らしさ」342 女性経営者 207, 222 「女性に対する暴力の防止,処罰の根絶に対する米州条 女性の解雇 354 約」57 製造業での女性の雇用割合 254 女性の政権参加 86, 183 ジェンダー賃金格差 256 女性の労働参加率 12, 66, 199 頭脳の要求 259 相続法 160, 230 同等資格認証プログラム 318 男女別の土地取得 155 名目相場 405 男性の超過死亡 79, 135 メディアとの接触の影響 267 土地利用 225 暴力による死亡 135 離婚の法律 312 モデル推計値 388 離婚を認めるまたは容易にする法律 159 モバイル・クレイシュ(移動託児所)299 リベリア モロッコ xi 青年女子イニシアティブ 35 家族法 59, 163, 312, 352 紛争停止 120 家内工業 261 議席の保留 32 子供の税控除 36 零細金融機関 321 雇用における格差の解消 10 零細金融スキーム 303 女子就学者の増加 61 零細金融制度 29 零細金融プログラム 340 ■や行 連合 341 薬物の乱用 135 労働組合員 156 優先分野 iii 労働経験におけるジェンダー差 203 行方不明 15, 77 労働参加のジェンダー格差 199 出生時 105 労働参加率 200 行方不明の女児 労働市場 20 地理的変化 124 ジェンダー格差 30 要因 124 能動的な政策 302 輸出指向部門 269 ジェンダー制度化 212 情報問題 302 良い夫 労働者不足 47 現在の―― 194 労働生産性と賃金におけるジェンダー差 198 定義 173 労働法 235, 304 良い仕事 211 労働力参加率 ix, 31 「よい女性」の定義 172 女性 65 「よい男性」の定義 172 ジェンダー格差 66 良い妻の条件 173 ロールモデル 176 良い/悪い少女 278 ロシア男性の出生時平均余命 135 良い/悪い少年 278 ロバスト性の問題 141 幼児栄養失調の割合 407 幼児期の女児の超過死亡 125 ■わ行 幼児婚 171 ワイオミング 340 幼児死亡率 388 「若者の生態」116 経済的な下降期 87 割当制 幼児死亡率推定のための機関間グループ 408 会社の役員会 358 良き夫の定義 194 企業の役員会における 311 ジェンダー 352 予防型保健サービス 65 政治的な代議員 309 余命 ix 政治や取締役会 308 ヨルダン 30, 31 政党の自主的な 308 民間部門 310 ■ら行 割当制度 176 ラテンアメリカ 悪い仕事 211 育児政策 28 ワンストップ危機センター 314 インターネットによるジェンダー問題への対応 267 ■編著者 世界銀行 ■訳者 田村 勝省(たむら かつよし) 1949 年生まれ.東京外国語大学および東京都立大学卒業.旧東京銀行で調査部, ロンドン支店,ニューヨーク支店などを経て,現在は関東学園大学教授,翻訳家. 訳書 『アメリカ大恐慌(上下) (NTT 出版,2008 年) 』 『アメリカ連邦準備制度の内幕』 (一灯舎,2010 年) 『シュンペーター伝 革新による経済発展の預言者の生涯』 (一灯舎,2010 年) 『ユーロ  統一通貨誕生への道のり、その歴史的・政治的背景と展望』 (一灯舎,2011 年) 『世界開発報告 2011 紛争,安全保障と開発 』 (一灯舎,2012 年) 『世界雇用情勢 2012 雇用危機の深刻化を予防 』 (一灯舎,2012 年) 『ユーロの崩壊 ヨーロッパの金融失敗からの脱出ルート』 (一灯舎,2012 年) 『世界労働レポート 2012 より良い経済のためのより良い仕事』 (一灯舎,2012 年) 穴水 由紀子(あなみず ゆきこ) 東京女子大学文理学部社会学科卒業,エネルギー関連企業勤務を経て, 英国バース大学通訳翻訳修士課程修了.現在は翻訳業に専念. 翻訳協力 そ ら 『宇宙から恐怖がやってくる! 地球滅亡9つのシナリオ』 (NHK 出版,2010 年) 『生命の跳躍 進化の 10 大発明』(みすず書房,2010 年) 『ビジュアル版 科学の世界』 (東洋書林,2011 年) 『パンドラの種 農耕文明が開け放った災いの箱』 (化学同人,2012 年) 世界開発報告 2012 ジェンダーの平等と開発 発 行 2012 年 9 月 25 日 編著者 世界銀行 訳 者 田村 勝省 / 穴水 由紀子 発行者 平野 智政 発行所 株式会社 一灯舎 〒 170-0003 東京都豊島区駒込 3-25-1 Tel : 03-6686-7456 / Fax : 03-6693-1830 発売元 株式会社 オーム社 〒 101-8460 東京都千代田区神田錦町 3-1 Tel : 03-3233-0641(代表)/ Fax : 03-3233-3440 印刷所 シナノ書籍印刷株式会社 <検印省略>許可なしに転載,複製することを禁じます. 乱丁本,落丁本はお取り替えします. ISBN978-4-903532-87-5 C3033 http://www.ittosha.co.jp/ © 株式会社一灯舎 Printed in Japan