世界銀行 世界銀行グループ 年次報告 2017 極度の貧困の撲滅・繁栄の共有の促進 経済成長の促進 人的資本の構築 強靱性の強化 目次 2 世界銀行グループ総裁兼理事会議長からのメッセージ 4 世界銀行グループ 2017 年度の成果概要 8 理事会からのメッセージ 12 世界銀行 最高経営責任者からのメッセージ 15 途上国の開発課題への取組みを支援 30 より優れた組織を目指して:業務と政策の強化 32 開発知識の拡大:世界銀行のデータと研究 35 地域別展望 60 世界銀行が進めるグローバルな協力・協調 63 環境への配慮と社会的責任を備えた組織として 68 説明責任の確保と業務の改善 70 世界銀行の役割と原資 80 成果重視 主な囲み 19 特に困難な環境への民間セクター資金の動員 主な図表 76 IBRD の年度別財務・貸出データ 78 IDA の年度別財務・融資データ 本年次報告は、2016 年 7 月 1 日から 2017 年 6 月 30 日までの活動を対象に、国際復 興開発銀行(IBRD)と国際開発協会(IDA) (世界銀行と総称される)の理事により、 それぞれの機関の規定に従い作成されたものです。世界銀行グループ総裁及び理事会 議長を兼務するジム・ヨン・キム博士は、本年次報告、運営予算、及び監査済み財務 諸表を総務会に提出しました。 国際金融公社(IFC) 、 、 多数国間投資保証機関(MIGA) 及び投資紛争解決国際センター (ICSID)の年次報告は別途刊行されます。 本年次報告において、 「世界銀行」及びその略称である「世銀」は、IBRD と IDA のみ を指しています。また、 「世界銀行グループ」及びその略称の「世銀グループ」は IBRD、IDA、IFC、MIGA の総体としての取組みを指しています。本年次報告中の ドル表記は全て、特に断りがない限り、米ドルの現在価額を示しています。複数の地域 にまたがるプロジェクトに配分された資金は、図表及び本文中では国レベルで集計さ れています。 また、 四捨五入の結果、 表中の数字の合計値が総計と異なる場合や、 図中の パーセンテージの合計値が 100 にならない場合があります。 持続可能な開発に向けた世界銀行グループのアプローチ 2 大目標 3 つの重点分野 1. 2030 年までに極度の貧困を撲滅 2. 繁栄の共有を促進 ハリケーン・マシューが襲った ハイチに対し、1億 7 千万ドル 以上を迅速に提供 (詳細は p.50 を参照) 災害発生直後の迅速な資金提 供により、被災者のためのイン フラやサービスの復旧を支援。 経済成長の促進 シリア難民の受入国である ヨルダン及びレバノンに対し、 強靱性の強化 ベラルーシの幹線道路の管理と地域の 譲許的資金 10 億ドルを調達 主要な交通回廊における貨物輸送状況 (詳細は p.54 を参照) 改善を、最新技術を駆使して支援 (詳細は p.46 を参照) 革新的な資金調達により基礎 的な公衆衛生サービス拡大と 整備の行き届いた道路は、単なるイン 基幹インフラ強化を支援し、 フラを超え、人、市場、仕事、機会を 難民と受入国の国民両方の 連結。 ニーズに対応。 人的資本の構築 コンゴ民主共和国の国境業務環境の改善 によりアフリカ東南部の近隣諸国との マダガスカルで深刻な干ばつ 貿易を促進(詳細は p.20 を参照) に 直 面 す る 35 万 人 に 現 金 給付や栄養サービスを提供 バングラデシュの僻地の農 国境通過に要するコストや時間の削減に (詳細は p.38 を参照) 村部に住む約 69 万人の子供 より、市場の統合、貿易振興(小規模貿 に教育を受ける第2のチャンス 易者、特に女性の障害解消)、経済成長 質の高い基礎的サービスや を提供 を促進。 社会的保護を提供する事で、 人々の潜在能力発揮や、国 (詳細はp.58を参照) 家の経済的繁栄に貢献。 教育は開発の大きな推進力 と し て、 安 定 し た 所 得 を 各分野における世界銀行グループの取組みやその他のプロジェクトに関 もたらし、格差拡大を抑制。 する詳細は、以下のリンクをご参照ください。 worldbank.org/annualreport 世界銀行グループの使命達成に向けた、 意欲的で実現可能な 2 大目標: 2030 年までに極度の貧困を撲滅 1 日 1.90 ドル未満で生活する人の割合を減少 繁栄の共有を促進 途上国における所得下位 40%の人々の収入を増大 この 2 大目標を達成するには、官民両セクターのパートナーとの協力、市民社会 や各国政府との協調、現場での受益者や関係者の参加を促す事で、誰もが潜在能 力を発揮できる機会を確保する事が欠かせません。 目標追求に当たり世界銀行グループは、次の 3 つの重点分野に注力していきます。 持続可能かつ包摂的な経済成長の促進 ― 貧困削減のための最も確実な 方法 人への投資による人的資本構築 ― 21 世紀に向けて誰もが潜在能力を 発揮し成功できるよう環境を整備 世界規模のショックや脅威に対する強靱性の強化 ― 貧困削減の進捗を 脅かす課題への備え 世界銀行グループは、全ての人に影響をもたらしかねない世界規模の課題に対し、 資金動員、市場の創出、革新的ソリューションの規模拡大などを通じて取り組ん でいます。全ての人が極度の貧困状態から脱け出し、より良い暮らしを手に入れ る機会を確保できる、誰もが望むそうした世界が手の届くところまで来ていると 世界銀行グループは確信しています。 詳細は、以下のリンク及び本年次報告書の本文中に記載のリンクをご参照ください。 ・年次報告 2017:www.worldbank.org/annualreport ・世界銀行の成果:www.worldbank.org/results ・世界銀行オープン・データ:data.worldbank.org ・コーポレート・スコアカード:scorecard.worldbank.org ・企業の責任:www.worldbank.org/corporateresponsibility ・情報公開:www.worldbank.org/en/access-to-information 世界銀行グループ総裁兼理事会議長 からのメッセージ 私は常々、世界がいかに小さくなったかを各地を訪れる度に実感します。今日、  インターネットや携帯電話、ソーシャルメディアといったテクノロジーのおかげで、 誰もが他人の暮らしぶりについて知る事ができるようになりました。そして、先進 国の生活水準など知る由もなかった世界の貧困層もまた、その暮らしぶりを垣間見 るようになったのです。 これがきっかけで、彼らは自らの生活についてこれまでと違った捉え方をするよ うになり、様々な可能性に期待を膨らませるようになりました。かつて人は、自ら が暮らす地域で見聞きした事に応じてそれぞれ異なる望みを抱いていたものですが、 今では世界中の人々が同じような願望を抱くようになりました。そして、人々の 願望が大きくなるにつれ、教育、雇用、更には医療や運輸といった各種のサービス に対する需要も膨らんでいきます。なぜならこうしたサービスは、自分や家族によ り良い暮らしを実現するための機会を与えてくれるからです。ところが、このよう に世界が実質的に縮小する一方で、人々の格差は広がりつつあります。この格差を 埋める事こそが世界銀行グループの役割であり、大いなる願いでもあるのです。 世界銀行グループが有するエネルギー、知識、創造性、資金力を総動員し、途上国 が国民の願望をかなえられるよう支援していかなければなりません。 そのためには、2030 年までに極度の貧困を撲滅し、低・中所得国における所得 の下位 40%の人々の繁栄を促進するという 2 大目標に向けた取組みを加速する必 要があります。この目標の達成に向けて世界銀行グループは、途上国において持続 可能かつ包摂的な経済成長の基盤を構築し、個人、ひいては国家がその潜在能力を いかんなく発揮して明るい未来を思い描く事ができるよう支援しています。具体的 には、若者を中心に人への投資を進める一方、パンデミック、気候変動、難民、飢 饉など、多くの人々に影響を与える地球規模のショックに対する強靱性の強化にも 取り組んでいます。 ただし、世界が小さくなったと感じられる一方で、課題は急増しています。そう した課題に対応していくためには、絶えず進化し、適応する必要があります。現在、 世界銀行グループは、開発資金動員のアプローチについて根本的な見直しを進めて いるところです。世界銀行グループが扱う資金は数十億ドルであるのに対し、世界 全体で必要とされる開発資金は年間数兆ドルに上ります。従って、限られた資金を これまで以上に有効活用し、民間投資のクラウドイン効果を高めながら、世界銀行 グループの専門知識と共に途上国への投資に回さなければなりません。 これほど大規模な資金動員を促すには、援助受入国、中でも最貧国や脆弱国にお いて市場を創出し、民間セクターならではの活力とイノベーションを取り入れてい く必要があります。まず最初にすべき事は、そのプロジェクトが政府資金やドナー 援助ではなく、民間資本による資金提供に適しているかどうかを見極める事です。 もし民間投資に適さない場合は、パートナーと協力してプロジェクト、セクター、 国の各レベルでリスクを軽減する必要があります。そのためには、対話と知識移転 を通じて政府による法令改正や経済慣行の改善を支援し、更には開発資金調達のた 世界銀行グループ  めの新しくより効率的な方法を浸透させる事も効果的です。容易ではありませんが、 それが時代の求めに合う形で途上国支援を進める唯一の方法なのです。 2017 年度、世界銀行グループは加盟国の政府や民間セクターに対して、総額 610 億ドルを上回る融資、グラント、直接投資、保証をコミットしました。国際 復興開発銀行(IBRD)は、援助受入国からの貸出需要が続く中、総額 226 億ドルを コミットしました。最貧困層を支援する組織である国際開発協会(IDA)は、特に 困窮している国が困難な課題に立ち向かえるよう195 億ドルをコミットしました。 世界銀行グループは、革新的な資金調達を用いて IDA の開発支援を大幅に拡大 する事を約束しました。具体的には、資本金のレバレッジを活用した債券市場での 資金調達を行い、この資金と内部資金、そしてドナー国からの拠出金を併せたブレ ンド型資金モデルを提供します。こうした取組みとパートナーからの多大な継続支 援の結果、IDA 第 18 次増資(IDA18)のコミットメントは過去最高の 750 億ドルに 達しました。2018 年度に向けて我々は、25 億ドルの民間セクター・ウィンドウ など新たなツールを活用した最貧国向けの民間資本の動員を図っていきます。 世界銀行グループで民間セクターを支援する国際金融公社(IFC)と多数国間投 資保証機関(MIGA)の 2 機関は、途上国における市場創出と民間投資の動員を 主導しています。 IFC が民間セクター開発のために提供した投融資総額は、他の投資家から動員し た約 75 億ドルを含め約 193 億ドルに達しました。この内 46 億ドル近くが IDA 対 象国向けで、9 億ドル以上が脆弱・紛争地域向けでした。 MIGA は、民間の投資家や貸手を途上国に誘致するために、48 億ドルに上る政 治的リスク保険や信用補完を提供しました。2017 年度は、プロジェクトの 45% が IDA 対象国向け、21%が脆弱・紛争国向けでした。  世界銀行グループは、急速な変化に効果的かつ迅速に対応するために、知識、資源、 新たなツールの活用を図っています。途上国が開発課題を克服し平等な機会を創出 できるよう、そして全ての人の願いをかなえる機会が提供されるよう、これからも 支援を拡大・強化していく所存です。 ジム・ヨン・キム博士 世界銀行グループ総裁兼理事会議長 総裁メッセージ 3 世界各地での活動 2017 年度、世界銀行グループは引き続き、迅速に成果を収め、援助受入国やパートナー との関係強化に加え、各地の課題解決にグローバルなソリューションを用いて途上国への 支援を提供する事ができました。 ラテンアメリカ・カリブ海地域 97 億 ドル 618 億 ドル 加盟国の政府・民間企業に対する融資、 グラント、直接投資、保証などの支援総額。 複数の地域にまたがるプロジェクトやグローバル なプロジェクトを含む。地域別内訳は世界銀行 の分類による。 世界銀行グループ ヨーロッパ・中央アジア地域 95 億 ドル 東アジア・大洋州地域 97 億 ドル 71 億 ドル 96 億 ドル 中東・北アフリカ地域 南アジア地域 162 億 ドル サブサハラ・アフリカ地域 2017年度の成果概要 5 世界銀行グループによる支援 年度別 単位:100 万ドル 2013 2014 2015 2016 2017 世界銀行グループ 承認額 a 50,232 58,190 59,776 64,185 61,783 実行額 b 40,570 44,398 44,582 49,039 43,853 IBRD 承認額 15,249 18,604 23,528 29,729 22,611 実行額 16,030 18,761 19,012 22,532 17,861 IDA 承認額 16,298 22,239 18,966 16,171 19,513c 実行額 11,228 13,432 12,905 13,191 12,718c IFC 承認額 d 11,008 9,967 10,539 11,117 11,854 実行額 9,971 8,904 9,264 9,953 10,355 MIGA 総引受額 2,781 3,155 2,828 4,258 4,842 援助受入国実施信託基金 承認額 4,897 4,225 3,914 2,910 2,962 実行額 3,341 3,301 3,401 3,363 2,919 IBRD、IDA、IFC、援助受入国実施信託基金(RETF)のコミットメント、ならびに MIGA の引受総額 a. を含む。RETF コミットメントは援助受入国実施グラントの全てを含んでおり、信託基金による活動の 一部のみを反映する世界銀行グループのコーポレート・スコアカード記載のコミットメント総額とは異 なる。 IBRD、IDA、IFC、RETF の支援実行額を含む。 b. パンデミック緊急ファシリティ(PEF)のグラント 5 千万ドルの承認額及び実行額を含む。 c. IFC 自己勘定の長期コミットメント。短期融資や他の投資家を通じて動員した資金を除く。 d. 世界銀行グループ 世界銀行グループの各機関 世界銀行グループは、途上国に資金や知識を提供する世界有数の機関であり、 貧困の撲滅、繁栄の共有の促進、持続可能な開発の推進という共通の目的を 持つ 5 つの機関で構成されています。 国際復興開発銀行(IBRD) 中所得国及び信用力のある低所得国の政府を対象に貸出を提供 国際開発協会(IDA) 最貧国の政府を対象にクレジットと呼ばれる無利子の融資やグラントを提供 国際金融公社(IFC) 途上国の民間セクター向け投資を促進するための融資、直接投資、アドバイザ リー・サービスを提供 多数国間投資保証機関(MIGA) 新興国への対外直接投資(FDI)を促進するために投資家や貸手に政治的リスク保 険や信用補完を提供 投資紛争解決国際センター(ICSID) 国際投資紛争の調停と仲裁を行う場を提供 2017年度の成果概要 7 理事会からのメッセージ 2016 年 11 月から新たな任期が始まった理事会は、2017 年度も引き続き、世界 銀行グループの戦略的方向性について話し合いました。具体的には、世界銀行 グループの役割に関する2030年までの中長期的ビジョンを示したフォワード・ルック の実行、世界銀行グループの資金的ニーズについての検討、更に加盟国の議決権 比率見直しのために前年度に合意されたダイナミックな投票権配分フォーミュラ (Dynamic Formula)に基づく出資比率見直しの手法を策定しました。いずれの テーマも、来年度も重要課題として継続して議論されます。 2017 年度の理事会の主な活動 フォワード・ルックを軸とする世界銀行マネジメントと理事会との協力は、世界 銀行グループが 2 大目標の達成と 2030 開発アジェンダの支援をいかにして進めて いくかについて、出資国間の共通認識の形成に役立っています。 フォワード・ルックの進捗に関する議論、及び世界銀行グループの目標達成に関 する世界銀行マネジメントへの指針は、国際開発協会第 18 次増資(IDA18)、国 際金融公社(IFC)の長期戦略 3.0、民間資金動員を目指すカスケード・アプローチ、 IDA の危機対応融資制度と民間セクター・ウィンドウ(PSW)、機動的でシンプル な世界銀行プログラム、人事戦略、世界銀行グループの 2018~20 年度戦略及び 事業見通しなどの取組みが土台となっています。 そうした取組みを支援するため理事会はまた、国際復興開発銀行(IBRD)から の卒業、成果と業績、コーポレート・スコアカード、ジェンダー戦略、気候変動行 動計画、知識管理行動計画、スケールアップ・ファシリティ、国内資金動員と不正 な資金の流れ、低所得国の債務の持続可能性枠組み、小国への支援、太陽エネル ギーの規模拡大、公的債務管理戦略、移民と開発といった重要課題についての指針 を示しました。更に理事会は、「貧困と繁栄の共有 2016:格差の解消に向けて」、 8 世界銀行 年次報告 2017 起立(左から右へ) :Andrei Lushin、ロシア連邦;Hervé de Villeroché、フランス; Omar Bougara、アルジェリア;Frank Heemskerk、オランダ;Subhash Chandra Garg、インド; Daniel Pierini、アルゼンチン(代理) ;Otaviano Canuto、ブラジル; Jean-Claude Tchatchouang、カメルーン(代理) ;Andin Hadiyanto、インドネシア; Werner Gruber、スイス;Fernando Jiménez Latorre、スペイン;Juergen Zattler、ドイツ; David Kinder、英国(代理) ;Christine Hogan、カナダ;Patrizio Pagano、イタリア 着席(左から右へ) :Bongi Kunene、南アフリカ;Jason Allford、オーストラリア; Andrew N. Bvumbe、ジンバブエ;Khalid Alkhudairy、サウジアラビア; Merza Hasan、クウェート(筆頭理事) ;Susan Ulbaek、デンマーク;小口一彦、日本; Yingming Yang、中国;Karen Mathiasen、米国;Franciscus Godts、ベルギー 「世界開発報告 2017:ガバナンスと法」、「世界経済見通し(Global Economic Prospects:GEP)」、「ビジネス環境の現状 2017:全ての人に平等な機会を」の 4 編の主要報告書について議論しました。 各委員会の主な活動 監査委員会は、IBRD、IDA、及び多数国間投資保証機関(MIGA)の財務基盤 「IDA のハイブリッド型財務 の強化について議論しました。そうした提案には、 」 モデル(仮題)、「IDA18 IFC-MIGA 民間セクター・ウィンドウ(PSW)の運用(仮 題)」、「IBRD IFL(IBRD フレキシブル・ローン)可変スプレッドのリセット頻度 の増加(仮題)」、「IBRD 及び IDA の一般投資承認の改訂(仮題)」、「MIGA の保証 キャパシティ及びポートフォリオ再保険限度の改訂案(仮題)」、「改訂版自己資本 管理枠組み(仮題)」などの文書が含まれています。同委員会はまた、世界銀行 グループのリスク管理、内部統制、組織倫理を強化する提案策定にも取り組みました。 予算委員会は、資金配分が戦略的整合性、予算の持続可能性、継続的な効率重視 の原則に基づいて行われるよう、年間予算編成プロセスの円滑な実施を支援しま した。また、世界銀行グループの財務の持続可能性、支出の見直し、費用対効果向上 のための助言も行いました。 開発効果委員会は、世界銀行グループの戦略的方向性について重点的に取り組み ました。また、世界銀行プロジェクトの質、及び世界銀行の新しい環境・社会 フレームワークの設置と実施、成果連動型プログラムと国別パートナーシップ枠組み 理事会からのメッセージ 9 の早期評価、簡素化イニシアティブなどについても議論しました。 ガバナンス・運営委員会は、2016 年年次総会時の合意を踏まえ、投票権配分の ためのダイナミック・フォーミュラに基づき出資比率の見直しに注力しました。 人事委員会は、キャリア枠組み、脆弱性・紛争・暴力の影響下にある地域での就労、 報酬、倫理と内部公正、人員計画、多様性と包摂性、職員満足度調査など、世界銀行 グループの人事戦略に関連した様々な事項を検討しました。 重点分野における業務 理事会は、アフガニスタン、チャド、エチオピア、ギニア、ケニア、リベリア、 シエラレオネ、南スーダン、イエメン共和国向けなどの緊急事態に対応するプロ ジェクトやファシリティ、ならびにアフリカ及び中東における飢饉や危機への対応、 グローバル危機対応プラットフォームやパンデミック緊急ファシリティ(PEF)を 通じた支援を承認しました。 理事達は、定期的に加盟国を訪問し、各国の経済的・社会的課題を直に感じ取る と共に、IBRD や IDA が支援するプロジェクトの視察や、政府関係者と世界銀行 グループとの協調について意見交換を行います。2017 年度には、アルバニア、 アルジェリア、ヨルダン、コソボ、モロッコ、セルビア、ヨルダン川西岸・ガザ地区を 訪問しました。 理事会はまた、独立評価グループによる報告「世界銀行グループの成果と業績 2016」及びケニア、コソボ、ウガンダに関する査閲パネルの報告についても議論 しました。 理事会は 2017 年度、383 件のプロジェクトで総額 421 億ドルの支援を承認し ました。この内 226 億ドルが IBRD の貸出、195 億ドルが IDA による支援でした。 また、51 件の国別支援が理事会で議論され、世界銀行の 2018 年度運営予算 26 億 ドルが承認されました。 理事会の規定 世界銀行の加盟 189 カ国を代表する理事 25 名は、世界銀行の業務全般に責任を 負い、総務会から委任された権限に従い職務を遂行しています。総裁は理事会が選 任し、理事会議長を兼任します。現在の理事会の任期は 2016 年 11 月から 2018 年 10 月までです。 世界銀行を主導 理事会は、世界銀行グループの業務全般、及び戦略的方向性を導く上で重要な役 割を果たし、世界銀行の役割についての加盟国の見解を代弁します。また、総裁が 提出する IBRD 及び IDA の貸出・融資・グラント・保証、新規政策、運営予算、そ の他の業務上や財務上の問題について決定を下します。更に、世界銀行グループと 援助受入国との関係や開発プログラムの支柱である国別パートナーシップ枠組みに ついても、世界銀行マネジメントや理事会が協議します。また、財務諸表、運営予算、 及び世界銀行年次報告を総務会に提出する責任を負っています。 10 世界銀行 年次報告 2017 理事会の構成 理事会には5つの常任委員会と1つの特別委員会があります。これらの委員会は、 政策や実務についての綿密な検討を通じ、理事会の監督責任の履行を補佐しており、 各理事は 1 つ又は複数の委員会に属しています。全理事が所属する理事会運営委員 会は隔月で開催され、理事会の戦略的作業計画に関する協議を行います。 理事会は、委員会を通じて、理事会直属の独立した組織である査閲パネル及び独 立評価グループに協力を仰ぎながら、IBRD 及び IDA の活動の有効性を定期的に検 証しています。 図 1 理事会の委員会 世界銀行理事会 委員会(IBRD 及び IDA) 監査委員会 予算委員会 開発効果委員会 財務、会計、 予算承認において 開発効果の評価、 リスク管理、内部統制、 理事会を補佐 戦略的方向性への指針、 組織倫理を監督 プロジェクトの質・ 成果の監視 ガバナンス・運営委員会 人事委員会 倫理委員会 ガバナンス、理事会の 人事関係の戦略・政策と 理事の行動規範の 有効性、理事会の 実務を総括し、 解釈や適用の検討を 任務に適用する 世界銀行の業務上の 目的として 運営政策の主導 ニーズを満たしたものと 2003 年に設置 なるよう確認 理事会の詳細は、以下のリンクをご参照ください。 www.worldbank.org/boards 理事会からのメッセージ 11 世界銀行 最高経営責任者(CEO)からの メッセージ 私は今年、7 年ぶりに世界銀行に戻って参りましたが、世界はその間に大きく変 化しました。まず、新たなテクノロジーにより、開発の促進や環境保全のための情 報やサービスへのアクセスが可能になりました。他方で、経済、環境、政治を取り 巻く世界的なショックは、頻度と規模が大きくなっています。その上、変化の スピードに追い付くのは容易ではありません。こうした状況の中、世界銀行には、 より機敏に対応できる組織となり、援助受入国が強靭性を備えて変化に適応できる よう支援する責任が、以前にも増して求められています。また、世界銀行に対しては、 「持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」の目標に沿いつつ、世界の金融構造 の中で中心的な役割を維持していく事が関係者から期待されています。世界 銀行は 2017 年度も、こうしたビジョンの実現に向け、引き続き取組みを進めてき ました。 第一に、世界銀行は、その専門知識と資金に期待しているあらゆる所得水準の援 助受入国に対し、開発を効果的に実行しています。また世界銀行は、世界各地で活 動し、各国において豊富な経験を兼ね備えている事から、信頼できるパートナーと して評価されています。2017 年度、世界銀行は総額 421 億ドルの支援をコミット しました。その内訳は国際復興開発銀行(IBRD)が 226 億ドル、最貧国のための 組織である国際開発協会(IDA)が 195 億ドルでした。IBRD は、援助受入国の喫 緊の開発課題に対応する一方で、健全な財務状況を維持しています。IDA 第 17 次 増資(IDA17)の資金は全額がコミットされ、IDA18 では、ドナー国からの力強 い貢献のおかげで増資額が大幅に増大しました。 しかし、今後に目を移すと、我々の支援に対する需要が高まる一方で、世界銀行 は原資の制約に直面しています。そうした中でも活動を続けて行けるよう、世界銀行 は援助受入国に最大の恩恵をもたらす活動に戦略的に資金を充てるため、最大限の 努力を払っていきます。 第二に、世界銀行は、飢餓への対応から強制移動やパンデミックへの備えに至る まで、世界規模で主要課題への取組みを主導しています。現在世界銀行は、脆弱地 域への支援を強化するため新たな分野へと活動の幅を拡大しており、飢餓危機への 対応として 18 億ドルを動員しました。更に、脆弱性への対策を進めている中所得 国に対して、グローバル譲許的資金ファシリティを通じて 10 億ドルを提供し、 IDA18 では脆弱性・紛争・暴力対策に 140 億ドル、難民とその受入れコミュニ ティへの支援に 20 億ドルをそれぞれ充てる予定です。また、特に困難な開発課題 に対しては、革新的な資金ソリューションを提供すべく尽力しています。低所得国 におけるパンデミックの予防と対応への備えを図るため、大規模なパンデミックに 繋がりかねない流行病の発生に対する初の試みとして、総額 5 億ドルを提供する パンデミック緊急ファシリティ(PEF)を立ち上げました。 第三に、総裁も説明している通り、我々は、民間資金の動員拡大に向けてグループ 全体で取り組んでいます。この取組みは、財政・環境・社会のそれぞれに責任を 伴った最大限の開発資金動員に役立つでしょう。経済成長の促進と雇用創出は重要 12 世界銀行 年次報告 2017 な優先課題であり、女性が率いる企業の可能性を開花させる事も有効です。世界銀行 がパートナーと連携して立ち上げた女性起業家資金イニシアティブ(We-Fi)は、 女性の資本アクセスの拡大や女性が経営する企業への技術協力の提供等に充てるため、 10 億ドル以上が動員される見込みです。 この勢いを維持していくには、世界銀行自身が、ビジネス・モデルを継続的に見 直し、より機敏かつ適応性に富んだ組織になる事が求められます。環境が変化する 中で成果を上げ、なおかつ世界銀行の掲げる高い水準と品質を維持していくためには、 柔軟性と創造性が必要であり、これまで以上に革新性、エンパワメント、説明責任 を備えた文化を育んでいるところです。世界銀行の機敏性向上を目指した方針で ある「アジャイル・バンク」は、我々がより良い成果を収め、維持していくために 有効な業務改善を検証し、その規模拡大を図ろうというものです。具体的には、事 務作業や煩雑な手続きの解消、リスクベースのモデルへの移行、革新的なプロダクト やサービスを通じた援助受入国のニーズへの対応があります。こうした取組みを 支持する前向きな反応や関わりが、世界銀行全体で見られるのは喜ばしい兆しです。 世界銀行の献身的な職員は、切迫した状況下で、あるいは複雑で、時として危険 も伴う環境で、日々素晴らしい仕事をしています。本年次報告では、学校新設によ りバングラデシュの 69 万人の子供に教育を受ける第 2 のチャンスをもたらした プログラムから、マダガスカルで 35 万人以上を対象に干ばつと食糧不足への対応 を図ったセーフティネット・プロジェクト、インドネシアの 1 万 1,500 以上の農 村での給水設備と衛生設備の整備に至るまで、世界銀行による途上国開発支援の最 新の事例を紹介しています。 私は、2017 年度に世界銀行の職員が達成した目覚ましい成果を大変誇りに思い ます。また、素晴らしい成果を収めた世界銀行マネジメントについても誇らしく 思っています。しかし、世界各地で起きている変化は次々と複雑な課題をもたらし ています。世界銀行はそうした課題に、気を緩める事なく立ち向かっていかなけれ ばなりません。皆様と共に、そうした取組みを進めていけるものと信じています。 クリスタリナ・ゲオルギエヴァ 世界銀行 最高経営責任者(CEO) 世界銀行 最高経営責任者からのメッセージ 13 14 世界銀行 年次報告 2017 途上国の開発課題への 取組みを支援 極度の貧困の撲滅と繁栄の共有の促進という目標を達成するため世界銀行は、 途上国と協力しながら開発課題への取組みを進めています。しかし、そのた めには、言うまでもなく財源が必要となります。同時に、財源を最大限に活 用して開発を促進するためにはデータやエビデンス、知識も求められます。 更には、着想から完了まで投資を実行する長期的なコミットメントも必要です。 世界銀行は、経済成長と更なる機会を求める途上国に対して、資金、知識、 経験、コミットメントの全てを提供しています。189 加盟国を擁する世界銀行は、 他に類を見ない規模で、国や大陸の境界を越えて活動を展開しています。 また、その動員力を駆使して、国際レベル、国家レベル、地方レベルでリー ダーや関係者を集めて途上国のニーズを伝え、知識の共有、協力関係の構築、 連携した解決策の探求を図っています。そして、豊富な金融商品、技術協力、 支援を提供し、途上国が直面する課題に世界中の知識を生かすと共に、途上 国と協力して長期にわたり開発プロジェクトの実施に関わる事で、達成可能 で持続的な成長の実現を後押ししています。 世界銀行の途上国支援の指針となっているのが、持続可能で包摂的な経済 成長の促進、人への投資による人的資本構築、ショックや脅威に対する強靱 性の強化という 3 つの重点項目です。相互に関連し合う複数のセクターで多 様なパートナーと協力する事により、世界中の国及び人々の経済的発展を目 指していきます。 持続可能で包摂的な 経済成長の促進 持続可能な経済成長は、貧困からの脱却への最短ルートです。世界銀行は、 途上国の長期的な成長の支えとなり、市民のニーズを満たすための投資を支 援しています。また、政策担当者と連携し、安定的で公平かつ効率的な市場、 組織・制度、経済の開発を進めています。更に基幹インフラについては、持 続可能性を維持した形でニーズを満たせるよう途上国を後押しすると共に、 分析、助言、金融商品、動員力、そして何より重要である確かな客観的根拠 を通じて、援助受入国が十分な情報に基づいた判断を行い永続的な効果を得 られるよう取り組んでいます。 低炭素エネルギーの確保 近代的で安定的かつ安価なエネルギーへのアクセスは、途上国が開発ニーズを満 たす上で不可欠です。ただしそれは、持続可能な形で確保されなければなりません。 世界銀行は、援助受入国の政府と協力し、太陽光をはじめとする再生可能エネル ギーなど各国の状況に合った低炭素型エネルギーへのアクセスを目指しています。 例えばインドでは、太陽光発電プロジェクト向けに 10 億ドル以上を提供しており、 屋根置き型の太陽光発電プロジェクトを通じて数百万人に電力が供給される予定 です。エチオピアでは、オフグリッド型で 100 万世帯以上がエネルギーへのアク セスを得ていますが、その大半はソーラー・ランタンと家庭用太陽光発電システム です。トルコ、ウクライナ、ベトナムでは、スマートグリッド(次世代送電網)による 再生可能エネルギーの導入が促進されています。各国政府が、民間セクターから 投資を呼び込む政策を策定し、万人のためのエネルギー・アクセスの進捗をモニター する際には、持続可能エネルギーの規制指標(RISE)のような総合的分析ツール が役立てられています。 安全な水と衛生設備の提供 世界銀行は、途上国の水の確保に最大規模の資金提供を行う国際機関として、 「世界の水の安全保障(Water-Secure World for All)」というビジョンに向けて パートナーと緊密に協力しています。同ビジョン達成のために世界銀行は、水分野 の投資の持続可能性を優先し、全ての人々への安全な水と衛生設備の確保に向けて、 民間資本の動員を含む資金提供を進めています。その一環として、安全な水への包 摂的なアクセス、公平な水管理制度に加え、水不足を引き起こす外的要因に対処す るための各国の強靱性強化を促進しています。例えばバングラデシュでは、農村部 での給水・衛生プロジェクトにより約 120 万人が整備された水源と衛生的なトイレ を使用できるようになりました。水と衛生サービスの提供は、持続可能で安全な管 理と切り離す事はできません。世界銀行は、水資源の開発に取り組む「水に関する ハイレベル・パネル」を国連と共催し、2016 年 9 月には、万人のための水と衛生 設備の普及、ならびに持続可能な管理に向けた行動計画を発表しました。 デジタル技術の恩恵 デジタル技術は、人、企業、政府によるコミュニケーション、取引、サービスや 情報へのアクセスの方法を急速に変化させています。情報通信技術は、経済成長、 投資、雇用創出にとって重要な推進要因となりつつあり、伝統的産業でもデジタル 技術の採用が生産性向上や新市場開拓に大きな役割を担っています。世界銀行は、 例えば 40 億人を上回るインターネット環境にない人々への安価なインターネット・ アクセスの提供、デジタル・インフラの開発、デジタル経済への参加に必要なデジ タル・スキルや制度の構築など、途上国とその国民がそうした機会を享受できるよ う 支 援 し て い ま す。2016 年 10 月、 世 界 銀 行 は「 世 界 開 発 報 告(World Development Report:WDR)2016:デジタル化がもたらす恩恵」の教訓を生 かし、官民両セクターの関係者と共に、「デジタル開発パートナーシップ(DDP)」 を新たに立ち上げました。DDP は、世界のデジタル・ディバイドを解消し、イン ターネット接続による経済的・社会的恩恵を誰もが享受できるようにするものです。 IDA が資金を提供した「地域通信インフラ・プログラム」は、アフリカ東部及び 南部の 9 カ国を対象に、市場競争改革及び全長数千キロメートルのネットワーク・ インフラ整備のための投資を実行し、アクセスの大幅拡大、質の向上、国際的接続 費用の 90%削減を実現しました。 2017年度の概観 17 運輸の接続性向上を通じた成長 運輸は、人、物、アイディアの世界的な移動を可能にし、雇用などの経済的機会 へのアクセス向上をもたらします。また、社会的包摂においても、運輸は重要な役 割を果たします。農村部に道路が造設されれば孤立していたコミュニティに各種の 機会への扉が開かれますし、都市部の交通が整備されれば安価な通勤手段が提供さ れて低所得層にも恩恵をもたらします。そうした成果を持続可能なものにするには、 世界のエネルギー関連の CO2 排出量で 23%を占める運輸部門において、低炭素型の 効率的な運輸システムの開発を進め、気候変動の影響を緩和しなければなりません。 例えば、タンザニアのダルエスサラームでは、2 億 2,500 万ドルの IDA 融資と IDA スケールアップ・ファシリティの 2 億ドルの融資が、市内のバス高速輸送システム の拡大に充てられ、通勤時間の短縮(最大で 1 日 90 分)とコスト削減が実現され ました。 インフラ分野での民間セクターとの連携 世界銀行は、各国政府が、良質で持続可能なインフラ・サービスへのアクセス実 現に向けた判断を十分な情報に基づいて行えるよう支援すると共に、必要に応じて 官民パートナーシップも活用しています。2017 年度、インフラ・プロジェクト担 当者の的確な意思決定を支援するためのイニシアティブが、他の国際開発金融機関 (MDBs)や開発パートナーとの連携により進められました。2017 年 4 月、第 2 回グローバル・インフラストラクチャー・フォーラムが「包摂的で持続可能なイン フラの提供」をテーマに開催され、MDBs や主要 20 カ国・地域(G20)のリー ダー、援助受入国、市民社会組織、民間セクターの参加者が、インフラ・プロジェ クトの市場創出のために MDBs がいかに貢献できるかを議論しました。 また、同じく優先課題として位置付けられる知識の拡大について、世界銀行は、 国際開発コミュニティのパートナーと共に「官民パートナーシップ:リファレンス・ ガイド」の更新版をオンライン上で発表しました。同ガイドには、新たな参加者が 紹介されている他、環境問題や社会問題からリスク軽減、信用補完に至るまで各種 の追加テーマが掲載されています。更に、新興市場のインフラへの民間資金の市場 拡大を図るパートナーシップ「グローバル・インフラストラクチャー・ファシリ ティ(GIF)」が支援する投資プロジェクトが 20 件に達しており、潜在的には総額 で 130 億ドル以上の民間資本の動員が可能です。 農業促進による雇用の創出 世界の極度の貧困層の約 80%は農村部に住み、その生計は大きく農業に依存し ています。現在ほとんどの国では、食糧関連セクターが、他のどのセクターよりも 多くの雇用を提供している事から、農業の促進は貧困対策としても強力なツールと なります。インドでは、10 年近くにわたり世界銀行が支援してきたビハール農村 生計プロジェクト「JEEViKA」により、ビハール州に暮らす 180 万人以上の女性 の生活が向上しました。同プロジェクトは、農業のための「ワンストップ・ショップ」 を創設し、農民に対して、融資、種子や肥料、農業研修、農業指導を提供して います。庭先養鶏、酪農研修、製品取引支援といった生計向上策により、年間所得 が 30%増加し、職業技能研修により農村部に住む 2 万 9 千人以上の若者の雇用見 通しが改善しました。同プロジェクトは、女性や、社会から取り残されている人々 へのエンパワメントのために、政府機関や金融サービスへのアクセスを通じて 9,800 万ドルの融資を提供し、2,250 万ドル以上の家計貯蓄を可能にしました。 18 世界銀行 年次報告 2017 特に困難な環境への民間セクター資金の動員 開発を目的とした公的資金としては政府開発援助(ODA)がありますが、世界の開発 資金ニーズを満たすには十分でなくなってきており、根本的な見直しを迫られています。 世界銀行は、限られた ODA の使途を見直し、民間資金動員で最大限の効果を上げるため に各種の施策を進めています。具体的には、 プロジェクト組成段階での公共セクター改革、 民間セクター単独で資金提供が可能となる領域の特定、譲許的融資の新ツールの活用など があります。 譲許的融資の新ツールとしては、国際開発協会第 18 次増資(IDA18)で新設された国 際金融公社(IFC) ・多数国間投資保証機関(MIGA)による民間セクター・ウィンドウ (PSW)があります。PSW は、今後 3 年間、IDA の 25 億ドルを活用して最貧困・最脆弱 市場への民間セクター投融資として少なくとも 60~80 億ドルが更に増加すると見込まれ ています。貧困の撲滅と繁栄の共有の促進のためには、IDA 対象国、とりわけ脆弱性が高 く紛争や暴力の影響下にある国々への民間投資の拡大は不可欠です。PSW を通じた譲許 的融資の活用により、厳しい環境下の市場に投資の道を拓き、プロジェクトの規模拡大に 必要な支援を新たな民間資金で確保できる可能性があります。 IDA 対象国への投資には、新たなパートナーシップの活用も重要です。世界銀行グループ が毎年開催する「開発資金フォーラム」は、2017 年度はアフリカへの民間投資の動員を テーマにガーナのアクラで開かれました。同フォーラムでは、民間資金の促進を阻む課題 に対処するため、 PSW をはじめとする様々な手法について集中的に議論が行われると共に、 起業家、投資家、政府閣僚、非政府組織、国際開発金融機関(MDBs)やその他の開発実 務者が、特に困難な環境に民間投資の道を拓くアプローチを共同で策定しました。 天然資源保護の強化 自然資本としての天然資源は急激に涸渇しつつあります。希少性の高まりは、極 めて大きなコストをもたらします。世界銀行は、途上国の資産の約 36%を占める 天然資源の管理向上のため、自然資本の経済価値の国民経済計算への組み込みを通 じて援助受入国を支援しています。環境の持続可能性確保に向けては、持続可能な 漁業と養殖の支援、沿岸及び海洋の保護区域確立、海洋汚染の減少により、海洋・ 沿岸資源に関するガバナンス強化を促進しています。例えばペルーでは、一連の政策 融資により漁獲量割当制が導入され、イワシの資源量の持続可能性が向上しました。 その結果、水揚げしたイワシの価格が上昇し、漁業関連の企業は持続可能性をもた らす活動に再び投資できるようになりました。 投資の促進に向けたリスク緩和のための改革 マクロ経済、ビジネス、融資における現実的リスクや知覚リスクの低下は、機会創 出に必要な投資を惹きつけるための市場づくりにとって必須条件です。世界銀行は、 例えばエジプト・アラブ共和国に対して一連の開発政策融資を提供し、投資の落ち 込みからの回復を図る改革プログラムを支援してきました。この改革プログラム によりエジプト経済への信頼が回復し外国投資家の関心が高まった結果、2017 年 1月時点での同国への資金流入は、数カ月前に比べ10 倍の12 億ドルに急増しました。 2017年度の概観 19 ま た ハ イ チ 政 府 は、 世 界 銀 行 グ ル ー プ の 支 援 を 基 に、 国 内 衣 料 産 業 向 け の 投資 2 億 300 万ドルと 1 万 5,800 人分の新規直接雇用の創出に成功しました。 世界銀行・国際金融公社(IFC)共同ハイチ投資促進プログラムでは、公務員、民間 セクター、外国投資家が連携して促進戦略と経済特区の立上げに取り組み、困難な 環境を乗り越え、衣料産業への新規投資家の誘致に役立ちました。 新たな資金源の開拓 包摂的で持続可能な成長には、多様で安定した金融市場もまた、欠かせない要素 です。民間金融機関による長期融資が減少を続ける中、各国は、開発ニーズを満た すための新たな資金源を開拓する必要があります。2017 年度、世界銀行は、IFC と共に共同資本市場イニシアティブを立ち上げました。同イニシアティブは、流動 的かつ多様な長期融資と規制環境の整った資本市場を支援する事で、新興国におけ る資本市場開発を促進しようというものです。これにより援助受入国は、市場開発 に向けて、徹底した分析、助言、資金面での支援を受ける事ができます。 効果的なサービスのための国内資源の動員 サービスを効果的に提供できる国は、成長が速く、革新性に富み、内外のショック にも迅速に対応できます。しかし、十分な収益基盤がなければ、道路建設、保健 医療、治安維持といった国の基本的なサービスの資金調達は困難です。税収が GDP の 15%に満たない国は、サービスの提供ばかりでなく、経済成長においても 不利になるとする調査結果も報告されています。世界銀行のグローバル税務担当 チームは、グループ内の調整及び国別の介入策など、国際的な税に関する活動を強 化しています。例えばアルメニアでは、政府が金融危機に伴う影響を克服できるよう、 税徴収の強化を支援しています。これまでに約 3 万 5 千人の税務調査官に対して 研修が行われ、税務サービスの約 96%が電子的に提供されるようになりました。 その結果、徴税額は 38%上昇しています。 貿易の統合 この数十年間で貿易の統合が進んだ事により、途上国の経済成長が推進され、数 百万人が貧困状態から脱却しました。世界銀行は、各国政府と協力し、財とサービス の貿易の競争力最大化に向けた政策の立案・実施を図っています。太湖地域貿易促 進プロジェクトでは、コスト、時間の浪費、ハラスメントの削減など貿易業者が直 面する国境業務環境を改善する事により、コンゴ民主共和国とアフリカ東南部の近 隣諸国との貿易の円滑化を図っています。同プロジェクトは、小規模な貿易業者、 特に女性に対する障害解消に取り組んでいます。具体的には、陸上や湖における国 境設備の整備や、農民の地域市場へのアクセス強化を目指しています。 詳細は以下のリンクをご参照ください。www.worldbank.org/topics 20 世界銀行 年次報告 2017 人への投資を通じた人的資本構築 人的資本とは、人々の集合的な技能と能力であり、経済成長と貧困削減を 左右する要因です。良質な保健医療といった基礎的サービスの他、社会的保護、 教育・雇用・金融サービスの機会等に誰もがアクセスできるよう支援する事 により、個人が潜在能力を発揮でき、国家は一層の経済的成功を遂げる基盤を 築く事ができるのです。事実、国家間の所得格差の大部分は人的資本が要因 だとする最近の調査結果もあります。世界銀行は各国と緊密に協力し、人々 が重要な節目において確実に成長し生産性を高められるよう人的資本投資の 活用を図っています。 成果に基づいた融資:効果的なアプローチ 世界銀行が人的資本への投資に注力するのは、最貧困層をはじめ誰もが、教育、 保健、社会的保護といった良質な社会サービスへのアクセスを享受できるようにす るためです。現在、人間開発に関する世界銀行プロジェクトの 3 分の 1 以上が成果 連動型であり、事前に合意された成果が達成された時点で資金が支払われる仕組み となっています。保健セクターでは、多くの国で成果連動型プログラムが主流にな りつつあり、例えばカメルーンでは、幼児期のワクチン接種、妊婦への破傷風予防 接種、近代的な家族計画などで成果連動型が浸透しています。 教育セクターでは、2015 年の世界教育フォーラムでキム総裁が向こう 5 年間で 50億ドルの成果連動型融資を表明し、この内既に38億ドル以上が実行されています。 世界銀行が支援するプロジェクトは、学業成績の向上に役立っています。例えば タンザニアでは、成果連動型教育プロジェクトにより小学生の学力が目に見えて向上し、 2 年生の児童が 1 分間に読めるスワヒリ語の語数が 2013 年の 18 語から約 24 語に 増加しました。こうした進歩は、世界銀行の支援が、途上国における万人のための 良質な教育アクセスの実現に特に注力している事を表しています。 子供、青年期女子、女性への支援 乳幼児期の経験が脳の発達に大きな影響を与え、学習、健康、成人になってから の生産性、そして究極的には国家の経済的競争力にも影響を及ぼすというエビデンス があります。ところが現在、1 億 5,600 万人の幼児が慢性的な栄養不良状態にあり、 保育所や幼稚園に通う 3~6 歳児は全体の半数にすぎません。世界銀行は、乳幼児 期への投資を経済の中心課題として位置付け、パートナーと協力して 20 カ国以上 で投資拡大を図っています。2016 年 10 月、世界銀行グループが開催した「人的 資本サミット:成長と生産性のための乳幼児期への投資」の場では、9 カ国が具体 的なコミットメントを表明しました。 青年期女子にはまた、社会や経済に変化をもたらす媒介としての力がある事も検 証されています。そのため世界銀行は 2016 年、青年期女子を直接支援する教育 プロジェクトに 5 年間で 25 億ドルの投資を表明し、内 18 億ドルが、ナイジェリア 北東部やパキスタンのパンジャブ州のプロジェクト等に承認されました。パキスタン では、第 3 次パンジャブ州教育セクター・プロジェクト(3 億ドル)を通じて、 2020 年までに新たに脆弱層の青年期女子 20 万人に対して授業料バウチャーが支 給される予定です。また、労働市場への女性の参加率が低い地域では、女子の中等 教育修了を促進するために 45 万人の少女を対象とする奨学金の給付も計画されて います。 グローバル・ファイナンシング・ファシリティ(GFF)は、国連の「女性、子 供及び青少年の健康のための世界戦略(Every Woman Every Child)」の資金部 門及び実施プラットフォームとして世界銀行グループに設置され、各国のオーナー シップの下に専門性やリソースを幅広く活用しています。同ファシリティは、内外 の官民セクターからの資金を用いて各国が定めた優先課題に迅速に取り組むと共に、 持続的な資金確保に向けたプラットフォームを構築しています。GFF は、性と生 殖に関する健康、新生児の生存率、青年期の健康と発達など十分な投資が行われて いない分野で、質と公平性を重視した支援を行っています。また、脆弱な状況への 投資を優先しており、支援を受ける 16 カ国の内 4 カ国は脆弱国で、1 カ国はエボラ 危機を脱したばかりの国、3 カ国では国内の特に脆弱な地域が同ファシリティの重 点対象です。 22 世界銀行 年次報告 2017 女性への経済的エンパワメントの促進 女性の経済的機会の拡大は、世界経済の成長に向けた強力な方法の 1 つです。 世界銀行グループのジェンダー戦略は、教育アクセスと妊産婦の健康をめぐる格差 が根強い国において、格差解消を重点課題に位置付けています。また、女性のための、 質が高くより多様な雇用へのアクセス拡大、資産(土地や住宅など)の所有、技術・ 資金・保険サービスへのアクセスの改善にも取り組んでいます。その目的は、女性が 家庭、コミュニティ、様々な行政レベルで発言・行動できるようになるだけでなく、 男性や男子がジェンダー平等のソリューション策定に参加するよう促す事です。女 性の経済的機会の向上には、金融サービスへのアクセスから資産の所有に至るまで、 様々な課題への集中的な取組みが必要となります。世界銀行グループが運営する新 たな資金供給ツール「女性起業家資金イニシアティブ(We-Fi)」は、女性起業家や 女性所有の中小企業が直面する経済的障壁の解消に注力しています。 世界銀行は、こうした分野における系統的なデータ収集とエビデンス構築、なら びに援助受入国への知識の提供を進めています。例えば、アフリカ・ジェンダー・ イノベーション・ラボが考案する効果の高い支援策は、その数が増えつつあります。 トーゴで行われた非認知技術開発プログラムに関する最近のインパクト評価では、 女性が経営する企業は利益が 40%増加する事が立証されました。この評価結果を 受け、モーリタニア、メキシコ、モザンビーク、エチオピアでも同様のアプローチ が採用される方向です。世界銀行は更に、課題の深刻さを把握し、進捗の度合いを 測定するために不可欠な男女別データの可用性と品質の向上にも取り組んでいます。 国際開発協会第 18 次増資(IDA18)では、雇用、資産、起業に関するデータ収集 パイロット・プログラムが、少なくとも 6 カ国の IDA 対象国で開始される予定です。 IDA18 のもう 1 つのコミットメントは、「ジェンダーに基づく暴力に関する グローバル・タスク・フォース」の提言の実行です。同タスク・フォースは、世界 銀行グループが支援するインフラ・プロジェクトにおける、ジェンダーに基づく暴 力の防止、報告、削減策の策定と監督強化を目指してキム総裁により 2017 年度に 立ち上げられました。世界銀行グループは、低・中所得国のジェンダーに基づく暴 力の防止・対応を目指す取組みに、ディベロップメント・マーケットプレイスを通 じて 5 年間で 350 万ドル以上を提供しています。更に世界銀行グループは 2016 年 11 月、世界銀行プロジェクト全体への LGBTI(性的少数者)の人々の包摂を監 督し、対外的な調整窓口も担う初の性的志向・性同一性担当アドバイザーの就任を 発表しました。 普遍的社会的保護の促進 2016 年 9 月、世界銀行グループ総裁と国際労働機関(ILO)事務局長は、社会 的保護の完全普及に向けた歴史的一歩を踏み出しました。多くの途上国では社会的 保護制度が整備されつつありますが、低所得国では今もなお、何らかの社会的保護 「誰一人として取り残さない」 を受けている貧困層の割合は5人に1人にすぎません。 事を目標に掲げるプログラムの一例としては、最貧困層約2,200 万人を対象に定期的 な現金給付を行うパキスタンのベナジル所得支援プログラムがあります。世界銀行は この取組みを、成果連動型パキスタン国家社会的保護プログラムを通じ、最先端の手 法による受益者特定などで支援しています。 保健医療、教育、雇用、金融サービス、社会保障といった基礎的サービスを受け、 各種の機会を手にするためには、正式な身分証明書が欠かせません。しかし、身分 証明書を持たない人は全世界で約 15 億人に上り、その大半は最貧困層・最脆弱層 2017年度の概観 23 です。世界銀行の「開発のための身分証明イニシアティブ」は、信頼できる効率的 な身分証明システム構築を通じて、包摂的な開発を目指しています。同イニシア ティブは 2017 年度、ビル&メリンダ・ゲイツ財団とのマルチドナー信託基金の設 立という大きな進展を見ました。これにより、世界的な知識の集積や活動の前進が 期待できると共に、援助受入国の関与の促進や、試験的アプローチ検証の機会が開 かれます。 ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の実現に向けた援助 世界銀行は、途上国におけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の段階 的実現を使命としており、効果的な保健サービスの提供、金融リスクからの保護、 他のセクターを活用した保健・栄養面での成果向上という 3 点を軸に、援助受入国 を支援しています。世界銀行は 2015 年以降、世界保健機関(WHO)と共同で、 「UHC グローバル・モニタリング・レポート」を、隔年で作成しています。同 レポートは今日、UHC 達成に向けた進捗測定のグローバル・スタンダードと見な されており、良質な保健医療を享受している人の数や医療費の負担から貧困に陥る 人の数など、最新のデータを提供しています。更に世界銀行は、新規に IDA の支 援を受ける全ての国においてパンデミック対策を支援している他、発生時には短期 間で確実に資金提供ができるよう、パンデミック緊急ファシリティ(PEF)を設立 しました。 金融サービスを通じた所得格差の解消 世界中の国々が、長年かけて築いてきたものが脅かされるような新たな課題に直 面しています。例えば所得格差は、貧困削減実現のための取組みを妨げかねません。 所得格差の解消と経済的機会の提供の一つの方法として、「銀行口座を持たない」 人々に対する正規の金融システムへのアクセス提供が挙げられます。これにより、 事業の立上げや拡大、教育への投資、リスクの管理に加え、金融ショックを切り抜 ける事も可能となります。例えばナイジェリアでは、新たなオンライン登録シス テムにより、零細企業や中小企業が、従来の土地建物資産の代わりに機械、家畜、 在庫品などを担保に融資を受ける事が可能となりました。またアフガニスタンでは、 IDA のプロジェクトにより、貧困世帯が生活向上のための基本的ニーズを満たす所 得を得られるよう、研修や家畜の提供が進められています。更に同プロジェクトは、 セーフティネット・プログラムの受給者が同プログラム修了後に所得に繋がる職業 に従事できるようマイクロ・ファイナンスの提供も行っています。 24 世界銀行 年次報告 2017 持続可能な都市を目指して 現在、スラムの人口は 10 億人に上ります。更に、GDP の 80%が生み出される 都市部では、社会的疎外、格差、貧困が急速に拡大しています。世界銀行は、包摂 的で強靱、かつ生産性が高く生活に適した都市化プロセスにより持続可能な都市と コミュニティの構築を目指しています。そのために世界銀行は、都市空間開発と住 宅供給、都市環境と都市拡大との関係性に関する研究を進めています。都市化に関 する国別レビューは、国や都市レベルの政策担当者が、都市化のもたらす機会と課 題を戦略的に検討する際の参考になります。更に、地域別の研究からは、都市化の 問題に関する広範で相対的な視点が開ける可能性があります。例えば 2017 年 2 月 に発表された報告書「アフリカの都市:世界に門戸を開く」は、アフリカの都市に ついて、十分な管理が行われれば、技術革新を促進し海外からの投資を惹きつける 生産的な環境の構築と、都市コストを抑制できる住みやすい環境の創出が可能だと 指摘しています。 詳細は以下のリンクをご参照ください。worldbank.org/topics 2017年度の概観 25 世界規模のショックや脅威に対する 強靱性の強化 世界は今、難民危機から気候変動の影響拡大に至る多くの課題に直面して おり、不安定さをもたらす原因に対処しつつ強靱性を構築する幅広いアプローチ が必要とされています。世界銀行は、知識、財源、そして援助受入国やパー トナーとの強力で長期的な関係により、課題の予測、対応、取組みの強化を 進めています。開発の成果を台無しにしてしまうような甚大なショックから これまでの貧困削減の努力を死守しなければ、貧しい人々や最も脆弱な人々 を貧困状態から救い出す機会を逸してしまう事になります。 高まる脆弱性・紛争・暴力のリスクへの取組み 世界の貧困層は、2030 年までにその 60%以上を脆弱・紛争国の国民が占める ようになるとする予測があります。このため、脆弱性・紛争・暴力(FCV)への 取組みはますます重要な開発課題となっています。近年の暴力的紛争の急増、今な お続く難民危機、気候変動などのリスクが一層の不安定さを招き、その影響は国境 を越えて広がる恐れがあります。 こうした中、必要とされているのが革新的な資金調達です。IDA18 では、FCV の影響下にある国に向けられる資金は倍増し、総額 140 億ドルを超える見込みです。 この内、新たな資金調達メカニズムには、難民と受入れコミュニティに対する支援 20 億ドル、民間企業への支援 25 億ドル、更に脆弱性リスクへの対処のための支援 が含まれています。その他、国家・平和構築信託基金など、飢饉をはじめとする あらゆる危機的状況への迅速かつ柔軟な対応を目的とした支援が用意されています。 例えば、干ばつに見舞われたソマリアでは、政府の対応とコミュニティの強靱性強 化に対し、同基金から 500 万ドルが充てられました。 人道援助と開発を繋ぐパートナーシップ FCV における安定性と強靱性の構築に向けて、世界銀行は防止と早期対応を中 心とするアプローチを進めています。また、成果を出すために不可欠なパートナー との協力強化のために、様々なイニシアティブが行われています。例えば、国連 (UN)と共同で人道・開発・平和構築イニシアティブを立ち上げ、カメルーン、 ナイジェリア北東部、ソマリア、スーダン、イエメンなど FCV の影響下にある国々 や地域において協力を進めています。更に、世界銀行グループが国連難民高等弁務 官事務所(UNHCR)と共に作成し 2016 年 9 月に発表した報告書「強制移動 – 難民、 国内避難民、受入れ国支援のための開発アプローチに向けて」は、難民と受入れ コミュニティ双方の長期的な社会経済的ソリューションを提示しており、政策対話 の参考として役立っています。国連と世界銀行グループによる暴力的紛争の防止に 関する新たな共同研究も進められており、開発プロセスと安全保障、外交、人道、 その他の側面との関連についての考察が政策策定に貢献しています。 危機的状況にある地域における人間開発への投資 世界銀行は、脆弱・紛争国の内 70%以上の国々で人間開発への投資を進めてい ます。こうした状況下での人間開発の軽視は、将来の人的資本の土台構築の機会の 損失に繋がり、ひいてはその国が貧困と暴力の悪循環に陥る事態を招きます。例えば、 イエメン内戦による人道危機では、子供達数千人が死亡した上、それ以上の数の 子供達が病気や栄養不良の危険に晒されました。その後も紛争が再燃し、医療イン フラが深刻な被害を受けたため医療用品の供給が途絶え、外国人医療従事者も引き 揚げてしまいました。世界銀行プロジェクトは中断していますが、IDA の支援は、 世界保健機関(WHO)及び国連児童基金(UNICEF)とのパートナーシップにより 継続しており、ポリオ撲滅キャンペーン、子供 500 万人へのワクチン接種、15 万人 以上のコレラ患者治療の他、50 万人以上を対象とした母子保健及び栄養サービス に役立てられています。 世界銀行グループは、エチオピア、ケニア、ナイジェリア、ソマリア、南スーダン、 イエメンで起きた未曽有の食糧危機の際にも緊急支援を動員し、社会的保護制度 の構築、コミュニティの強靱性強化、最脆弱層へのサービス提供に18 億ドルを投じ ています。こうした資金は、緊急食糧安全保障プロジェクト、セーフティネット・ プログラム、農業・水プログラムに役立てられます。また、既存プロジェクトの資 金も、飢饉に直面するコミュニティの支援に回され、当該国の政府や人道支援パー トナーの活動を補完します。 2017年度の概観 27 気候変動対策がもたらす機会 気候変動の影響は世界中の国やコミュニティに及んでいますが、特に深刻なのが 最貧困層・最脆弱層です。気候変動の影響を緩和するには、迅速かつ協調的な行動 が鍵となります。各国が、雇用の創出、経済成長の促進、大気の改善、都市部の混 雑緩和といった気候変動対策がもたらすメリットに着目する中、世界中で低炭素型 開発へのシフトが始まっています。140 カ国を上回る世界銀行の援助受入国が気 候変動に関するパリ協定の一環として、国別の気候変動対策目標である約束草案を 提出しました。世界銀行はその達成に向けて様々な分野で支援を行っています。 世界銀行グループは、2020 年までに気候変動対策資金をポートフォリオ全体の 28%まで引き上げると約束しています。そのため、気候変動行動計画を作成し、 クリーンエネルギー、気候変動に迅速かつ適切に対応する農業、防災、持続可能な 都市化などの分野で 2020 年を期限とする意欲的な目標を掲げ、その達成に向けて 迅速に取組みを進めています。2016 年と 2017 年には、合計 10 ギガワットの再 生可能エネルギー発電プロジェクト(総額 65 億ドル)が承認済みや承認間近の段 階にあります。また、同期間に承認された 10 件の新規プロジェクトは、5 千万人 以上に気候変動への強靱性強化をもたらす事が期待されています。 災害や危機に対する強靱性の構築 自然災害は年間 5,200 億ドルの損失をもたらし、約 2,600 万人を貧困状態に陥 れます。防災は、世界銀行による強靱性構築の取組みの根幹を成すものであり、防 災関連の資金は 2012~16 年度の 5 年間で 37 億ドルから 54 億ドルへと 50%近く 増加しました。世界銀行は現在 70 カ国以上において、融資、技術協力、キャパシ ティ・ビルディング、知識共有を組み合わせた防災の主流化を図っています。また、 援助受入国の国家予算保護のために革新的なリスク特定ツールや金融商品の提供を 行っている他、早期警報システム、急成長する都市の強靱性構築、学校の安全性強 化といった主要な分野においてパートナーシップを形成しています。更に、現地の 防災対策策定にコミュニティや女性の参加を促すなど、包摂的な強靱性の構築に取 り組んでいます。 IDA は、災害に対する強靱性構築と持続可能な開発の促進を通じて最貧国の脆弱 性を可能な限り削減するために、気候変動への適応を支援しています。2017 年 7 月 1 日以降、全ての世界銀行プロジェクトを対象に、コンセプト・ノートの段階か ら IDA の経験を生かした気候変動・災害リスクのスクリーニングが実施され、強靱 性構築と備えへの取組みが一段と進む事が期待されています。パンデミック、洪水、 地震への対応で一時的に資金が涸渇していた危機対応融資制度(CRW)は、 IDA18 では大幅に増強されています。IDA17 で財源が補填された CRW は、2017 年初めに起きたアフリカとイエメンの干ばつ及び食糧危機にそれぞれ迅速に対応し ました。パンデミック緊急ファシリティ(PEF)は、世界銀行初の感染症債と保険 デリバティブ取引、ならびに現金枠で構成されており、これに加え、将来的には ドナー国からのコミットメントを得て追加原資とするという他に類を見ない資金調達 構造を通じて、IDA 対象国が感染症大流行のリスクに対応できるよう、保険枠等を 用いて今後 5 年間に 5 億ドル以上を提供します。 グリーンボンド及び SDG 連動債券の発行 世界銀行は、金融セクターにおける環境配慮を促進し、気候変動対策に必要とさ れる数兆ドルに上る資金を調達する努力を進めています。2008 年以降 IBRD は、 米国ドル、ユーロ、オーストラリア・ドルの大型公募債、その他の通貨建ての私募債、 28 世界銀行 年次報告 2017 及びストラクチャード債など、様々なグリーンボンドを18 の通貨建てで100 億ドル 相当額以上発行してきました。世界銀行のグリーンボンドは、環境保護及び気候変 動対策を支援する金融メカニズムとして 24 カ国で 84 件の気候変動関連プロジェ クトファイナンスの貸出原資となっており、エネルギー効率の向上や再生可能エネ ルギーの開発などに貢献してきました。トリプル A の格付けを有する世界銀行の グリーンボンドには、もうひとつの重要な役割があります。社会に貢献したいと考 える一方で、安心できる投資商品、リスクとリターン、発行体を選択したいという 投資家にとって、サステナブル投資への最初の入口になりやすいという点です。 世界銀行は、2008 年にグリーンボンドをいち早く発行した機関であり、機関投 資家と個人投資家に向けて様々な通貨建てや構造でグリーンボンドを発行し、市場 の開発をけん引してきました。また、資金の使途報告に関して市場でのベスト・ プラクティスを構築した他、投資家が環境や社会面に配慮した資産運用を考えられ るよう、グリーンボンドがもたらす成果の取りまとめを主導してきました。 世界銀行はまた、初の試みとして、持続可能な開発目標(SDGs)の実現を推進 する企業の株価にリターンが直接連動する新たな世銀債を発行し、フランス及び イタリアの機関投資家から総額 1 億 6,300 万ユーロが調達されました。SDGs 連動 世銀債により調達された資金が IBRD による開発への取組みを支える一方で、投資 家へのリターンは、事業を通じて SDGs を支援する Solactive SDG 世界株価指数 (Solactive Sustainable Development Goals World Index)を構成する企業の 株価と連動しています。SDGs 連動債券は、SDGs を金融市場と結び付けるという 世界銀行の大きな目標の一部です。この新たな世銀債は、人々の貯蓄を開発の優先 課題と結び付けるために資本市場が果たせる役割を示すと共に、世界銀行が自らの 目標と持続可能な開発という世界的アジェンダを達成するための取組みの一環でも あるのです。 詳細は以下のリンクをご参照ください。worldbank.org/topics 世界銀行のグリーンボンド及び SDG 連動債券に関する詳細は以下のリンクをご参 照ください。treasury.worldbank.org 2017年度の概観 29 より優れた組織を目指して: 業務と政策の強化 世界銀行グループは、極度の貧困の撲滅と持続可能な形での繁栄の共有の促進と いう 2 大目標の達成に向けて取組みを進めています。また、フォワード・ルックの ビジョンに則り、理事会と世界銀行マネジメントが協調し、加盟国にこれまで以上 の貢献ができる、より機敏で効率的かつ効果的な組織を目指しています。一連の プロセスを通じて出資国は、2 大目標の達成と2030 開発アジェンダの支援に向けた 世界銀行グループのあり方について共通認識を形成する事ができました。2017年度、 世界銀行は、様々な形で業務の改善に取り組むと共に、援助受入国への支援をより 一層高めるための新政策に着手しました。 業務改善に向けた取組み 2017 年度、世界銀行は業務改善に向けた取組みを拡大し、その対象を構造や システムから活動にまで広げて、効率化とサービス内容の向上に努めました。 ・業務の簡素化を目指し、新たな調達ガイドラインの導入など、政策レベルの重点 課題に引き続き注力しました。また、合理性に基づいたプロジェクト再編、援助 受入国による開発目標達成を支援するプログラム的アプローチの策定、プロジェ クト文書の簡略化による内容の精緻化と教訓の活用も進めています。 ・質や成果を損なう事なくスピード化と効率化を実現し、援助受入国にとっての価 値を向上するため業務の進め方を検証する機敏性プログラム「アジャイル・バンク」 を導入しました。世界銀行の各部署から集められた多様な職員で構成される 3 つ のアジャイル・パイロットチームが、プロジェクトの開発と実施を改善する 20 以上の革新的なアイディアを検証した結果、いずれもその機能性が確認されました。 来年度は、そうしたアイディアの一部を世界銀行全体で展開すると共に、新たな 職員がこのプログラムに参加し、アイディアの検証と開発を行う予定です。 ・世界銀行は、事務手続きやシステムの簡素化と近代化に取り組んでいます。具体 的には、人員や財源の管理、及び情報公開といった総務分野で、質が高くタイム リーで費用効果の高い事業の統括を目指し、いくつかのイニシアティブを実施中 です。例えば、管理機能向上のために最新の予算情報へのアクセスを可能にする 会計管理ポータルの立上げ、職員によるシステム・アクセスの迅速化、モバイル・ アプリを使った内部のサービスや情報へのアクセスと管理などが挙げられます。 ・世界銀行は、向上心にあふれた職場環境と適切な組織行動の原則を軸として職員 を一つにまとめるため、「価値観の刷新」イニシアティブを実施しています。よ り良い組織を目指し、あらゆるレベルの職員に求められる規範や行動を明示した 基本的価値観の策定が進められており、その過程で、職員が世界各地で話し合い に参加して意見を提供しています。この価値観を示したステートメントは、世界 銀行マネジメントが職員に組織のビジョンや働き方を伝える際の効果的なツール となるでしょう。 30 世界銀行 年次報告 2017 環境・社会フレームワーク 2016 年 8 月、世界銀行は新たな環境・社会フレームワークを承認しました。同 フレームワークは、これまでで最も広範なコンサルテーションを経て策定され、 2018 年に発効の予定です。同フレームワークとセーフガード政策は今後約 7 年間 は併用され、その後現行のセーフガード政策は同フレームワークへと段階的に置き 換えられていきます。新フレームワークは、環境リスクと社会的リスクをより広範 かつ系統的に網羅しており、対象となる社会面の問題の範囲が拡大され、職場の安全 衛生、労働と労働条件、コミュニティの保健といった項目も含まれています。更に、 透明性、キャパシティ・ビルディング、関係者の参加も促進し、不利な立場や脆弱 な状況にある個人やグループに対する非差別規定が含まれている他、プロジェクト における温室効果ガス排出量の推定、生物資源の持続可能な管理、水の管理など、 これまで取り上げられていなかった環境問題にも着目しています。現在は準備と研 修が集中的に進められており、準備状況を把握する指標を設けて進捗状況とその後 の運用開始をモニターしています。 詳細は以下のリンクをご参照ください。worldbank.org/esf 調達フレームワーク 公共調達、すなわち公的機関による企業からの工事、財、サービス購入が、途上国 ではGDP の少なくとも15%を占めています。世界銀行の投資プロジェクトは毎年、 136 カ国で年間 10 万件近い契約を通じて世界の調達市場で最大 200 億ドルを生み 出しています。このように金額が大きい事から、わずかなパフォーマンスの向上が 年間ではかなりの額の節約に繋がり、他の重点分野に投資を振り向ける事が可能と なります。世界銀行は、こうした機会と自らの責任を踏まえ、新たな調達フレーム ワークを定めました。同フレームワークは、援助受入国が公共支出を最大限活用で きるよう支援し、開発効果向上に向けた調達の戦略的役割の強化を図るもので、 世界中の関係者との広範なコンサルテーションを経て、2016 年 7 月 1 日から運用 が開始されました。 同フレームワークは、単にルールに基づいたコンプライアンス志向型のシステム ではありません。キャパシティの限られた国々を対象に、調達制度の構築を支援し つつ国内政策の強化を進める事により、世界銀行のより適応性の高い業務アプローチ への転換を補完しています。同フレームワークは、適切な調達アプローチの特定、 調達慣行と選択肢の範囲拡大、脆弱・紛争国の状況に合わせたアプローチ提供など、 これまで以上にプロジェクトにおける柔軟性が認められており、援助受入国の キャパシティ・ビルディングと制度強化に向けてより実践的な支援を提供できます。 運用開始 1 年目に当たり世界銀行は、業務モデルの変更、職員の技術の向上、援助 受入国のキャパシティ・ビルディングを進める事により、調達アプローチのあり方 を大きく変える事に力を注ぎました。 詳細は以下のリンクをご参照ください。worldbank.org/procurement 業務と政策の強化 31 開発知識の拡大: 世界銀行のデータと研究 世界銀行は、援助受入国とそのパートナーが開発目標を達成できるよう革新的か つ実証的な研究を実施しています。こうした研究は、プロジェクトやプログラムの 成功を阻む深刻な経済的・社会的問題を浮き彫りにし、援助受入国間の政策対話を 促し、世界の開発政策や一般的な考え方にも影響を及ぼします。世界銀行は、助言 サービス・分析、主要報告書、出版物、更には広範囲な知識活動を通じて、データ 収集・分析及び研究活動を進めています。 世界銀行の業務が扱うテーマや地域は多岐にわたっている事から、援助受入国、 世界銀行、より幅広い開発コミュニティの戦略的重点課題を反映したセクター横断 的で総合的な研究が可能となります。優先度の高い研究分野は、サービスの提供、 リスク管理、雇用創出と競争力、繁栄の共有と包摂、地球規模の公共財など多様です。 こうしたテーマの下で、極度の貧困撲滅と繁栄の共有促進という世界銀行の最も重 要な目標の達成に向け、包摂的な成長の促進、人への投資、生活や健康を脅かす危 機や脅威への家庭とコミュニティの強靱性構築が進められています。 助言サービスと分析の活用: 個別の課題に対する専門的助言 世界銀行が提供する融資以外のサービスである助言サービス・分析(ASA)は、 世界銀行の開発への貢献において重要な役割を果たしています。加盟国は、長期に わたり開発を持続させるため、世界銀行の専門的助言と分析を活用して、より良い 政策、プログラム、改革を策定・実施しています。こうした活動は、ドナー信託基金、 世界銀行自らの予算、又は援助受入国の負担により賄われています。 2017 年度、世界銀行は 150 カ国以上で 1,423 件の ASA を提供しましたが、そ の内容は、経済・社会面の主要課題に関する報告書から、知識共有ワークショップ、 政策ノート、実施行動計画まで多岐にわたりました。分析は、援助戦略、政府によ る投資プログラム、世界銀行の融資や保証を受けたプロジェクトの基礎として頻繁 に役立てられています。例えば中東・北アフリカ地域では、世界銀行が行う分析作 業により難民と受入れコミュニティの直面する問題への理解が深まり、対応策を練 る事ができました。 ASA の約 10%は有償助言サービス(RAS)が占めています。RAS は、その国の 状況に柔軟に対応した助言サービスであり、その国の要請に基づき当該国の費用負 担を前提に提供されます。現在、世界銀行は、6 地域全てにおいて約 50 カ国を対 象に 200 件余りの有償助言サービスを進めており、2017 年度は、34 カ国で 140 件 に上る有償助言サービスを提供しました。通常の ASA に加え、RAS もまた、当該国 自らが出資するプロジェクトの準備・実施面を支援します。このように世界銀行は、 RAS を通じて非借入国を含めた全ての加盟国を支援しており、中央政府などの政 府機関、地方自治体、国有企業、市民社会組織、国際機関、援助機関などもその対 象となります。 RASは、地域によりそれぞれ異なる目的に活用されています。例えば、クウェート とアラブ首長国連邦では財政管理システムの強化、ポーランドでは保健医療の質 向上、カザフスタンでは内部監査の強化、パラグアイでは説明責任・透明性改革の 支援に役立てられています。クウェートに対する RAS プログラムは、国際的な 32 世界銀行 年次報告 2017 ベスト・プラクティスを活用しつつ、クウェート固有のニーズに合わせたシステム 全般を改革するアプローチを用いて、教育の質的向上に重点的に取り組んでいます。 詳細は以下のリンクをご参照ください。 worldbank.org/en/projects-operations/products-and-services#3 主要な開発課題に関する報告書の作成 世界銀行は、主要な開発課題に的を絞って報告書を作成しています。こうした報 告書は、世界銀行の情報公開政策に則り、無料ダウンロードが可能です。2017 年度、 世界銀行は次に挙げる 4 編の報告書を発表しました。 ・「貧困と繁栄の共有 2016:格差解消に向けて」 :「貧困と繁栄の共有」シリーズは、 貧困と繁栄の共有の動向に関する正確かつ最新の推定値をまとめると共に、最貧 困層の生活向上に繋がる政策や支援策に関する詳細な研究結果を示しています。 シリーズ第1弾は、過去 30 年間に世界で貧困との闘いが大きく前進し、その結果 極度の貧困層が対人口比 35%から2013 年には10.7%にまで減少した事を指摘し ています。更に世界規模の金融危機を経てもなお、調査対象となった 83 カ国の内 60 カ国では、2008 年から2013 年の間に下位 40%の平均所得が上昇しています。 しかし、全体的な成長率は横ばい傾向にある事から、2030 年を期限とする極度 の貧困撲滅と繁栄の共有の達成には格差への取組みが不可欠です。 ・「世界開発報告 2017:ガバナンスと法」:1978 年以降毎年発表されている 「世界開発報告」は、今日の世界で経済、社会、環境がどのような状況にあるか を示す重要な分析を提供しています。2017 年版は、ガバナンスと法をテーマと して取り上げ、途上国における公平な成長を確保するにはガバナンスの向上が鍵 であると指摘しています。更に同報告書は、国別の事例を検証し、効果的な政策 実現のための要素として、信頼性の高いコミットメント、連携の強化、政策関係 者間の協調の促進の 3 つを挙げています。 ・「世界経済見通し」:年 2 回発表され、特に新興市場と途上国に重点を置きながら 「世界経済見通し 2017 年 6 月版:脆 世界の経済情勢と見通しを分析しています。 弱な回復」は、製造業と貿易の好転、市場の信頼回復、一次産品価格の安定により、 2017 年の世界経済の成長率は 2.7%と堅調であると予測しています。しかし、経 済や政治の不確実性などのリスクが景気回復に影を落とす恐れもあるとし、生産 性と投資の低迷が長引けば、新興国・途上国の長期的成長の可能性が損なわれ、 貧困削減が失速しかねないと警告しています。 ・「ビジネス環境の現状 2017:全ての人に平等な機会を」 :毎年発表される「ビジ ネス環境の現状」は、民間セクターに影響する事業規制の状況に関する報告書で、 事業規制制度、手続きの有効性、企業統治について詳細に分析しています。これ らの要素は、経済成長に長期的に影響を及ぼす事から、同シリーズはこれまで数 十年間にわたり貧困削減に貢献してきたと言えるでしょう。また、2003 年の発 刊以来、報告書が対象とする分野で各国政府により実施された改革を 2,600 件 以上紹介しており、それ自体が大きな価値を生み出しています。 「世界開発指標」や「持続可能な開発目標アト 報告書や研究に加え世界銀行は、 ラス」を基に援助受入国や開発実務者が活用できる様々なデータを提供しています。 世界銀行のデータと研究 33 2017 年度、世界銀行のデータを複数言語で無償で提供するウェブサイト「オープン・ データ」が改良され、より高速になった上、モバイル端末でも使いやすくなりま した。 詳細は以下のリンクをご参照ください。worldbank.org/publications アイディアの創出と知識の格差の縮小: 信託基金による支援 地球規模の公共財の保護や、規模拡大を想定した革新的施策の試行には、しばし ば信託基金が活用されます。世界銀行の知識活動の多くは信託基金の支援を受けて いますが、その好例が「変革のための学術研究推進プログラム(KCP)」です。こ のプログラムは、知識の創出、新たなアイディアの試行、開発における知識格差の 解消を目的として知見と財源をプールするために設置されたマルチドナー信託基金 により資金が提供されています。2002 年に設置された同基金は、これまでに 6 千 万ドル以上を調達し、300 件以上の研究・データ収集プロジェクトに資金を提供 して、途上国における効果的な政策やプログラムの策定に貢献してきました。 ドナー国は、オーストラリア、カナダ、中国、デンマーク、エストニア、フィンランド、 フランス、日本、韓国、ノルウェー、シンガポール、スウェーデン、スイス、英国 です。 KCP は革新的なデータ収集を支援し、時間がかかり高コストであった従来型の 手法からの切り替えを後押ししています。例えば、ある KCP プロジェクトは、迅 速で適切かつ安価なデータ収集のためのタブレット用無償ソフトウェア「コン ピュータ支援型面接調査(Computer-Assisted Personal Interviewing)」の開 発を支援しました。同ソフトウェアはこれまでに 85 カ国で使われています。また、 別の KCP プロジェクトは、世帯数の推定や標本抽出に衛星画像と機械学習機能を 利用する事で、コンゴ民主共和国の人口調査データの不足部分を補完しました。現在、 この取組みは、「戦略的研究プログラム」のグラントを受けて規模拡大が進められ ており、人口調査以外のデータを使用したサンプリング方法のガイドラインに取り 入れられる予定です。 同プログラムはまた、政策担当者や研究者が独自の分析を踏まえて行うエビデンス に基づいた分析ツールの開発にも力を注いでいます。例えば、異なる貧困ラインを 設定し、貧困を分析する事が可能な PovcalNet は、世界銀行の研究者が全世界、国、 地域別の絶対的貧困の範囲推定で行った計算をユーザーが再現できるようになって います。また、一連のシミュレーションの他、貧困削減の達成に必要な経済成長率 の計算も可能です。2017 年度、世界中のユーザーが PovcalNet を使用して行った 計算は、3,380 万回に上りました。 詳細は以下のリンクをご参照ください。data.worldbank.org 34 世界銀行 年次報告 2017 地域別展望 世界銀行は現在、140 カ国以上に置く現地事務所を通じて業務を展開しています。 現場に権限を委譲する事により、援助受入国に対する理解を深め、協力や連携を密 にし、これまで以上に迅速にパートナーにサービスを提供する事ができます。現在、 国別担当局長・マネージャーの 97%、職員の 42%が、6 地域の国々で活躍してい ます。本セクションでは、2017 年度に達成された主な目標、実施されたプロジェ クト、改訂が行われた戦略、発表された報告書等についてご紹介します。 表 1:2017 年度の融資承認額 単位:100 万ドル IBRD IDA IBRD/IDA 合計 IBRD/IDA 合計 地域 (単位:100万ドル)(単位:100万ドル) (単位:100万ドル) での割合(%) アフリカ地域 1,163 10,679 11,842 28 東アジア・大洋州地域 4,404 2,703 7,107 17 ヨーロッパ・中央アジア地域 4,569 739 5,308 13 ラテンアメリカ・カリブ海地域 5,373 503 5,876 14 中東・北アフリカ地域 4,869 1,011 5,880 14 南アジア地域 2,233 3,828 6,061 14 合計 22,611 19,463 42,074 100 注:IDA 承認総額には、パンデミック緊急ファシリティ(PEF)へのグラント5 千万ドルは含まれない。 表 2:2017 年度の融資実行額 単位:100 万ドル IBRD IDA IBRD/IDA 合計 IBRD/IDA 合計 地域 (単位:100万ドル)(単位:100万ドル) (単位:100万ドル) での割合(%) アフリカ地域 427 6,623 7,050 23 東アジア・大洋州地域 3,961 1,145 5,106 17 ヨーロッパ・中央アジア地域 2,799 310 3,109 10 ラテンアメリカ・カリブ海地域 3,885 229 4,114 13 中東・北アフリカ地域 5,335 391 5,726 19 南アジア地域 1,454 3,970 5,424 18 合計 17,861 12,668 30,529 100 注:IDA 実行総額には、パンデミック緊急ファシリティ(PEF)へのグラント5 千万ドルは含まれない。 表 3:融資実行中プロジェクト総額(純承認額) 単位:10 億ドル、2017 年 6 月 30 日現在 地域 IBRD IDA 合計 アフリカ地域 6.2 54.7 60.9 東アジア・大洋州地域 22.1 12.7 34.8 ヨーロッパ・中央アジア地域 21.9 3.3 25.2 ラテンアメリカ・カリブ海地域 26.2 2.2 28.4 中東・北アフリカ地域 14.1 1.1 15.2 南アジア地域 16.2 31.6 47.8 合計 106.7 105.7 212.4 注:四捨五入のため、合計値が総計と異なる場合がある。 アフリカ地域 アフリカ地域は、ここ 10 年間で経済成長と貧困削減に進捗があったものの、依 然として深刻な課題に直面しています。サブサハラ・アフリカ地域の成長率は、 2016 年度に 1.3%へと大幅に落ち込みましたが、2017 年度は 2.6%、2018 年度 は 3.2%へと徐々に回復する見込みです。しかし、これではまだ安定的な回復とは 言えません。予想以上に逼迫した資金調達環境、一次産品価格の回復の遅れ、保護 主義的感情の高まりなど世界を取り巻く環境は、同地域の経済見通しに依然として 下方リスクの影を落としています。国内リスクとしては、改革の遅れや、安全保障 上の脅威が高まっており、選挙を控えた一部の国の政情不安からの影響も懸念され ます。 アフリカ地域では、1 日 1.90 ドル未満で暮らす人の割合が、2012 年の 43%近 くから 2013 年には 41%に下がったものの、依然として 3 億 8,900 万人が極度の 貧困状態にあり、その他の地域の総数を上回っています。 世界銀行の支援 2017 年度、世界銀行は、アフリカ地域の 145 件のプロジェクト向けに 118 億 ドルの融資を承認しました。その内訳は、IBRD の貸出承認額が 12 億ドル、IDA 支援承認額が 107 億ドル(内 23 億ドルは IDA スケールアップ・ファシリティから) でした。加えて、ガバナンス、貿易と競争力、金融と市場といった問題に関する 専門的助言を提供する有償助言サービス 7 件(総額 1,230 万ドル)の協定を 6 カ国 と締結しました。 「アフリカ また、アフリカ地域におけるデータ収集作業にも大きく貢献しました。 の生活実態調査」は、各国の統計局や非政府組織との協力により、生活状況に関す る情報を定期的に収集するイニシアティブで、対面での調査に加え、試験的に携帯 電話を使った追跡調査も行っています。対象は現在 6カ国(マダガスカル、マラウイ、 マリ、セネガル、タンザニア、トーゴ)で、いずれも、データへの需要が特に高く、 実施能力と十分な通信網を備えた国々です。 世界銀行の支援は、農業生産性の向上、気候変動への強靱性強化、安価で安定的 なエネルギーへのアクセス拡大、質の高い教育の促進、脆弱・紛争地域の安定化な どに重点を置いています。 農業生産性の向上と気候変動に強い農業の促進 アフリカ地域の農業生産性が向上すると、アフリカ大陸全体で食糧安全保障が確 保されると同時に、安定した雇用の提供が可能になります。世界銀行が支援する 西アフリカ農業生産性プログラムと東アフリカ農業生産性プログラムは、数百万人 を対象に所得拡大と食糧安全保障の向上を実現しており、受益者の大半が女性です。 例えば西アフリカ農業生産性プログラムによる直接の受益者は 13 カ国において 4 年間で 450 万人以上に上り、作物生産高は 30~150%増加しました。同プログラム はまた、自作農に対し、新品種の作物や食品加工ツールなど、技術革新による恩恵 をもたらしています。この他にも世界銀行は、気候変動に対する強靱性強化に向けて、 気候変動に強い農業を促進しています。例えば、世界銀行が管理するマルチドナー 信託基金「国際農業研究協議グループ(CGIAR)基金」は、CGIAR グローバル・ パートナーシップによる農業研究に資金を提供しています。ウガンダでは、コーヒー 栽培を手掛ける自作農が農業技術を学び、気候変動に強いコーヒー品種を導入した 結果、より品質の高い豆を収穫できるようになり所得増加に繋がりました。 36 世界銀行 年次報告 2017 安価で安定的なエネルギーへのアクセス拡大 アフリカでは、電力供給不足が今なおインフラへの阻害要因となっており、持続 可能なエネルギーの発電・配電の促進は世界銀行の取組みの最重要課題です。 モザンビークでは、エネルギー開発導入プロジェクト(8 千万ドル)により新たに 4 万 2,500 人がエネルギー供給網に接続されました。同プロジェクトは、急成長を 遂げている地域に全長 400km 以上の送配電線を新設するなど、既存配電網の拡張 に資金を提供した他、農村部ではソーラー・パネルなどオフグリッド型の再生可能 エネルギー設備によりアクセスを拡大しました。その結果、500 カ所以上の保健 施設と学校 300 校に、初めて電力が供給されました。世界銀行はまた、包括的な 政策研究を支援すると共に、主な政策障壁の見極めと、そうした障壁の緩和戦略策 定のため、政府を交えた体系的な議論を行いました。 教育への投資による業務スキルの向上 アフリカ地域では、今後10 年間に毎年1,100 万人の若者が労働市場に参入する見 通しですが、こうした若者は、雇用者が求める技能を身に付け、そのための訓練を 受けていなければなりません。そこで世界銀行は、アフリカ地域全体で科学・技術・ 工学・数学(STEM)教育を促進する活動を立ち上げました。アフリカ東部・南部では、 (Center of Excellence) IDA融資を受けた1億4千万ドルの高等教育COE プロジェ クトにより、産業、農業、保健、教育、応用統計学といった付加価値の高い分野に 役立つ技能強化が推進されています。同プロジェクトは、このように若者の技能・ 知識の習得を支援する一方で、限られた資源の有効活用と各国間の協力を促進する など、高等教育におけるシナジー効果を生み出しています。 女性と若者の経済的エンパワメントの促進 女性の起業及び若者の雇用において、本人達が問題点を理解し、決定権を持ち、 自信を育むようエンパワメントを進める事は、その国の経済成長を促進します。 エチオピアの女性起業家育成プロジェクトは、登録した 1 万 4 千人以上の女性起業 家に資金調達や事業企画サービスを提供しており、現在、新たなドナーや地元の金 融機関の自己資金によるプログラムの拡大を模索しています。また中央アフリカ 共和国では、現金給付(CFW)プログラムの LONDO プロジェクトが、労働者 3 万 5 千人に短期雇用を生み出しており、紛争後の同国の脆弱性削減と安定化に役 立つ事が期待されています。 アフリカ地域における世界銀行の取組みの詳細は以下のリンクをご参照ください。 worldbank.org/afr 表 4:アフリカ地域 2015~2017 年度の地域への融資承認額と融資実行額 融資承認額(単位:100 万ドル) 融資実行額(単位:100 万ドル) 2015 年度 2016 年度 2017 年度 2015 年度 2016 年度 2017 年度 IBRD 1,209 669 1,163 816 874 427 IDA 10,360 8,677 10,679 6,595 6,813 6,623 実行中プロジェクトのポートフォリオ:609 億ドル(2017 年 6 月 30 日現在) 地域別展望 37 プロジェクト紹介 気候変動に対する強靱性強化と食糧安全保障の促進 2016 年 9 月、マダガスカル政府は、数年間にわたり不作が続いていた南部地域 に人道的緊急事態を宣言しました。同地域では、エルニーニョ現象により干ばつが 深刻化し、降水量がそれまで 20 年間の平均を約 75%下回り、収穫高が最大で 95%も減少しました。それにより、100 万人以上が食糧不足に陥り、内 5 歳未満 児 3 万 5 千人が中度の急性栄養不良に、幼児 1 万 2 千人が重度の急性栄養不良に 陥ったとみられています。 国民の大半が被害を受けるというこの危機的状況に対し世界銀行は、2016 年 2 月、 社会的セーフティネット・プロジェクト(3,500 万ドル)に着手し、現金給付と コミュニティ栄養サービスの徹底を図りました。同プロジェクトは、極度の貧困世 帯によるセーフティネット・サービスへのアクセス向上と、社会的保護システムの 基盤構築を目指すもので、限界に近い状態にあった 6 万 8 千世帯の 35 万人以上 (2017 年の年初の時点)に、現金給付、生活再建グラント、栄養サービスを提供 しています。 図 2:アフリカ地域 IBRD・IDA のセクター別融資 –2017 年度 総額 118 億ドルに占める割合 水・衛生・廃棄物処理 14% 11% 農業・漁業・林業 8% 教育 運輸 18% 14% エネルギー・採取産業 社会的保護 7% 1% 金融セクター 行政 12% 5% 保健 情報通信技術 2% 8% 産業・貿易・サービス 38 世界銀行 年次報告 2017 表 5:アフリカ地域 地域概要 指標 2000 年 2010 年 現状 a 傾向 総人口(100 万人) 670 877 1,033 人口増加率(年率、%) 2.7 2.8 2.7 1 人当たり国民総所得(GNI) 503 1,282 1,504 (アトラス方式、現在の米ドル) 1 人当たり国内総生産(GDP)成長率(年率、%) 0.9 2.6 –1.5 1 日 1.90 ドル未満で生活している人口(100 万人) 391b 399 389 平均寿命、女性(歳) 51 57 60 平均寿命、男性(歳) 49 55 58 青年層の識字率、女性(15-24 歳、%) 62 66 66 青年層の識字率、男性(15-24 歳、%) 75 77 77 二酸化炭素排出量(100 万トン) 566 747 784 持続可能な開発目標(SDGs)のモニタリング SDG 1.1 極度の貧困 (1 日 1.90 ドル未満で生活する人口の割合、2011 55.6b 45.7 41.0 年 PPP、%) SDG 2.2 発育不良率 43 38 35 (年齢に見合う身長で測定、5 歳未満児、%) SDG 3.1 妊産婦死亡率 846 625 547 (モデルに基づく推定、出生児 10 万人当たり)の削減 SDG 3.2 5 歳未満児死亡率 154 101 83 (出生児千人当たり)の削減 SDG 4.1 普遍的な初等教育の達成 54 68 69 (修了者が当該年齢層に占める割合、%) SDG 5 女性就業率の男性就業率に対する比率 81 84 84 (モデルに基づく ILO 推定、%) SDG 5.5 女性国会議員の割合 12 19 24 (全議席数に占める割合、%) SDG 6.1 安全な飲料水を利用できない人々の割合 55 63 68 を削減(利用できる人の割合、%) SDG 6.2 基本的な衛生施設を利用できない人々の 25 28 30 割合を削減(利用できる人の割合、%) SDG 7.1 電力を利用できる人々の割合 27 32 37 (人口に占める割合、%) SDG 7.2 再生可能エネルギーの消費量 73 72 70 (最終エネルギー総消費量に占める割合、%) SDG 17.8 個人のインターネット普及率 0.5 9.8 22.4 (人口に占める割合、%) 注:ILO =国際労働機関;PPP =購買力平価 2013~2016 年までの最新データ。それ以降のデータについては http://data.worldbank.org をご参照くだ a. さい。 b.2002 年のデータ 同地域の世界銀行融資適格国一覧及び詳細データは以下のリンクをご参照ください。 data.worldbank.org/country 地域別展望 39 東アジア・大洋州地域 国内需要の高まりと世界経済の緩やかな回復を背景に、東アジア・大洋州地域の 途上国は 2016 年に 6.3%の成長を記録し、2017 年は 6.2%、2018 年は 6.1%と、 引き続き堅調な成長率が見込まれています。中国は、緩やかで持続可能な成長へと 段階的に移行しており、それに伴い 2017 年の成長率は 6.5%、2018 年は 6.3% へと鈍化する見通しです。 1990 年以降、域内でほぼ 10 億人が極度の貧困状態から脱却しており、2013 年現在、1 日 1.90 ドル未満で暮らしている人の割合は 3.5%、1 日 3.20 ドル未満で 暮らしている人の割合は 17.1%と推定されています。とは言え、ラオス人民民主 共和国やミャンマーといった国では、かなりの割合の人々が今なお極度の貧困状態 にあります。またモンゴルやパプアニューギニアなど一次産品価格下落の影響を受 けている国では、これまでの貧困削減の成果が損なわれる恐れがあります。 世界銀行の支援 2017 年度、世界銀行は、東アジア・大洋州地域の 65 件のプロジェクトに対し 71 億ドルの融資を承認しました。その内訳は、IBRD の貸出承認額が 44 億ドル、 IDA 支援承認額が 27 億ドルでした。また、3 カ国と有償助言サービス 7 件(総額 140 万ドル)の協定を締結しました。世界銀行の東アジア・大洋州地域戦略は、 民間セクター主導の成長、包摂性、気候変動、ガバナンスの 4 点を優先分野に掲げ ています。また、ジェンダーや脆弱性といった分野横断的なテーマも、同地域にお ける世界銀行の取組みの中心となっています。 インフラの不備解消 同地域は、経済的な強靭性が比較的備わっているとは言え、生産性の伸び率鈍化 の兆候が全域で見られます。その背景にあるのがインフラ・ギャップの拡大です。 中国を除いた域内の投資ニーズが年間推定 870 億ドルであるのに対して、実際の 支出額はわずか 350 億ドルにとどまっています。同地域では、今なお 5 億人近く が衛生設備を利用できず、1 億 1,100 万人が電気のない暮らしをしており、1 億 2,200 万人が水へのアクセスがありません。 世界銀行は、こうした基礎的サービスへのアクセス拡大に支援を行っています。 例えばインドネシアでは、都市部住民エンパワメント国家プログラム(PNPM)に より 3 千万人以上を対象に道路や水施設を建設・修復した他、コミュニティ主導型 の開発アプローチを用いて小口融資サービスや財務管理の研修を実施しました。 パプアニューギニアでは、農村部通信プロジェクトが、基礎的サービス提供や基幹 インフラ整備が困難で高いコストのかかる農村部において、50 万人に電気通信サー ビスを提供しました。 気候変動対策 東アジア・大洋州地域では、気候変動の影響が特に顕著です。同地域は、世界全 体の炭素排出量の約 3 分の 1 を占め、域内の多くの国が、頻発する洪水や暴風雨、 海面上昇など気候変動の影響を受けています。世界銀行による同地域へのこれまで 3 年間の支援の内、気候変動対策への融資は 27%に上りました。中国における 世界銀行の気候変動対策投資プログラムは最大級で、全プロジェクトの内 70%が 環境関連の目標を掲げています。例えば、中国のエネルギー効率化融資プログラムは、 40 世界銀行 年次報告 2017 同国の銀行融資にエネルギー効率向上の観点を浸透させるもので、世界銀行が提供 する 3 億 5 千万ドルを活用して、効率的な再生エネルギーのために 26 億ドルの 貸出を動員しました。同プロジェクトにより年間 1 千万トンの炭素排出量(3 ギガ ワットの石炭火力発電に相当)が削減された他、中国の金融機関による環境配慮型 融資の主流化を促しました。 人的資本への投資 同地域が競争力と包摂性を維持していくためには、基礎的な技能習得と幼児教育 の推進が不可欠ですが、多くの国では 5 歳未満児の慢性栄養不良がこれを阻んでい ます。慢性栄養不良の割合が域内でも特に際立つ東ティモールでは、コミュニティ 主導型栄養改善プロジェクトを通じて、1 千世帯以上を対象に栄養価の高い作物の 栽培法を指導した他、種苗を提供するなど、栄養に富んだ食生活の実現を支援して います。ベトナムでは、就学準備促進プロジェクトにより、全日制の就学前教育を 受けている 5 歳児の割合が、2011 年の 66%から 2016 年は 84%まで上昇し、幼 児教育の教員及び管理者の教員養成研修の修了率は 90%以上に達しました。 開発推進に向けたパートナーシップ重視の継続 世界銀行は、最大限の開発効果を確保するため、アジア太平洋経済協力閣僚会議 、アジア開発銀行 (APEC) 、東南アジア諸国連合 (ADB) 、オーストラリア (ASEAN) 外務貿易省、国際協力機構(JICA)、太平洋諸島フォーラムなど、数多くの機関と のパートナーシップを継続しています。世界銀行グループはまた、アジアインフラ 投資銀行(AIIB)など、新たな開発金融機関とも密接に協力しています。2016 年 7 月、世界銀行理事会は、AIIBとの初の協調融資プロジェクトとなる、インドネシア のスラム地区のインフラを改善して都市部の貧困層 970 万人以上に恩恵をもたら す全国スラム改善プログラムを承認しました。 世界銀行は、援助受入国とも協力を続け、知識パートナーシップ促進を図ってい 」 ます。一例として、ビジョンペーパー「太平洋島嶼国の可能性(Pacific Possible) シリーズを作成し、太平洋島嶼国における今後 25 年間の機会と課題に関し、当該 国政府や開発パートナー、市民社会と議論を重ねています。中国では、3 つの政府 機関及び世界保健機関(WHO)と協力し、共同報告書「中国医療改革:良質で価 値あるサービスを」を完成しました。 東アジア・大洋州地域における世界銀行の取組みの詳細は以下のリンクをご参照 ください。worldbank.org/eap 表 6:東アジア・大洋州地域 2015~2017 年度の地域への融資承認額と融資実行額 融資承認額(単位:100 万ドル) 融資実行額(単位:100 万ドル) 2015 年度 2016 年度 2017 年度 2015 年度 2016 年度 2017 年度 IBRD 4,539 5,176 4,404 3,596 5,205 3,961 IDA 1,803 2,324 2,703 1,499 1,204 1,145 実行中プロジェクトのポートフォリオ:348 億ドル(2017 年 6 月 30 日現在) 地域別展望 41 プロジェクト紹介 コミュニティによるコミュニティのための水・衛生サービス 2019年までに農村部における水・衛生施設の完全普及を実現する事は、インドネシア の開発戦略の重要課題です。2006 年以降、政府はコミュニティ主導の PAMSIMAS プログラムを通じてこの目標の達成と正しい衛生習慣の促進に取り組み、大きな効 果を上げてきました。同プログラムはこれまでに、32 州 219 地区の 1 万 1,500 以 上の村落で 1 千万人に恩恵をもたらし、今後はプログラム拡大により 2020 年まで に 33 州 365 地区の合計 2 万 7 千の村落(全村落のほぼ 35%)が対象に含まれる 予定です。 同プログラムにより、これまでに対象コミュニティの 56%で屋外排泄が一掃され、 約 72%で手洗い普及プログラムが採用され、対象となった学校の 84%以上で衛生 設備と衛生管理プログラムが改善されています。同プログラムは、腸チフスなど、 水の確保や衛生設備の不備、不適切な衛生管理と関連して発生する疾病への対策と、 国内の 5 歳未満児の 3 分の 1 以上に影響を及ぼす慢性栄養不良への対策を進めてい ます。慢性栄養不良は、認知力や運動能力の発達を阻み、学業成績を下げ、成人後 の生産性低下を招きます。 PAMSIMAS プログラムは、コミュニティ主導型のアプローチを用いて、コミュニ ティを地方・全国レベルの機関や融資と結び付けています。その結果、コミュニ ティは個々の状況に合わせた独自の水・衛生対策を計画し、自らのニーズに最もよ く合ったシステムを自主性をもって運用する事ができます。同プログラムは、世界 銀行及びオーストラリア外務貿易省からの支援を受けています。 図 3:東アジア・大洋州地域 IBRD・IDA のセクター別融資 –2017 年度 総額 71 億ドルに占める割合 水・衛生・廃棄物処理 16% 7% 農業・漁業・林業 5% 教育 3% エネルギー・採取産業 2% 金融セクター 運輸 20% 10% 保健 社会的保護 6% 17% 産業・貿易・サービス 行政 10% 3% 情報通信技術 42 世界銀行 年次報告 2017 表 7:東アジア・大洋州地域 地域概要 指標 2000 年 2010 年 現状 a 傾向 総人口(100 万人) 1,813 1,965 2,051 人口増加率(年率、%) 1.0 0.7 0.7 1 人当たり国民総所得(GNI) 915 3,780 6,680 (アトラス方式、現在の米ドル) 1 人当たり国内総生産(GDP)成長率(年率、%) 6.4 9.0 5.6 1 日 1.90 ドル未満で生活している人口(100 万人) 535b 218 71 平均寿命、女性(歳) 72 75 76 平均寿命、男性(歳) 68 71 72 青年層の識字率、女性(15-24 歳、%) 98 99 99 青年層の識字率、男性(15-24 歳、%) 98 99 99 二酸化炭素排出量(100 万トン) 4,197 10,054 11,641 持続可能な開発目標(SDGs)のモニタリング SDG 1.1 極度の貧困 (1 日 1.90 ドル未満で生活する人口の割合、2011 29.0b 11.1 3.5 年 PPP、%) SDG 2.2 発育不良率 27 18 15 (年齢に見合う身長で測定、5 歳未満児、%) SDG 3.1 妊産婦死亡率 120 79 63 (モデルに基づく推定、出生児10 万人当たり)の削減 SDG 3.2 5 歳未満児死亡率 42 23 18 (出生児千人当たり)の削減 SDG 4.1 普遍的な初等教育の達成 92 104 98 (修了者が当該年齢層に占める割合、%) SDG 5 女性就業率の男性就業率に対する比率 82 80 79 (モデルに基づく ILO 推定、%) SDG 5.5 女性国会議員の割合 17 18 20 (全議席数に占める割合、%) SDG 6.1 安全な飲料水を利用できない人々の割合 80 90 94 を削減(利用できる人の割合、%) SDG 6.2 基本的な衛生施設を利用できない人々の 59 70 75 割合を削減(利用できる人の割合、%) SDG 7.1 電力を利用できる人々の割合 89 95 96 (人口に占める割合、%) SDG 7.2 再生可能エネルギーの消費量 32 20 20 (最終エネルギー総消費量に占める割合、%) SDG 17.8 個人のインターネット普及率 2 29 45 (人口に占める割合、%) 注:ILO =国際労働機関;PPP =購買力平価 2013~2016 年までの最新データ。それ以降のデータについては http://data.worldbank.org をご参照くだ a. さい。 2002 年のデータ b. 同地域の世界銀行融資適格国一覧及び詳細データは以下のリンクをご参照ください。 data.worldbank.org/country 地域別展望 43 ヨーロッパ・ 中央アジア地域 混乱が続いたヨーロッパ・中央アジア地域の経済成長率は、2016 年の 1.5%か ら 2017 年は 2.5%に上昇し、その後も上昇傾向が続いて 2018 年は 2.7%に達す ると予測されています。同地域の東部では、原油価格が 1 バレル当たり 50 ドル前 後で落ち着いた事により、原油価格下落に対応するために政策の変更を余儀なく されていた各国政府にも若干の余裕が生まれました。また欧州連合では、緩やかなが らも持続的な景気回復により失業率が下がり始め、インフレ率がプラスに転じました。 同地域では、世界経済の構造変化に伴い深刻な課題が生じています。専門性の高 い業務と機械化されにくい単純労働という二極化が進むと同時に、新技術の登場が 生産方法に変化をもたらし、従来型の労働市場関係を一変させています。域内の大 半の国では必要に迫られて生産現場での国際競争力が高まりつつある中、どの国も 今後、こうした新たな現実に向き合う必要に迫られると考えられます。 2013 年の時点で域内人口のおよそ 6.8%に相当する 3,280 万人以上が貧困状態 にあり、その内、1 日 1.90 ドル未満(2011 年の購買力平価換算)で暮らす人は 1,030 万人近くに上ります。 世界銀行の支援 2017 年度、世界銀行はヨーロッパ・中央アジア地域の 41 件のプロジェクトに 対し53 億ドルの支援を承認しました。その内訳は、IBRD の貸出承認額が 46 億ドル、 IDA 支援承認額が 7 億 3,900 万ドルでした。世界銀行はまた、域内 10 カ国と有償 助言サービス 33 件(総額 2,750 万ドル)の協定を締結しました。その内容は、教 育制度改革、公共セクターガバナンスと制度面のキャパシティ・ビルディング、 インフラ投資の計画・管理といった課題に特化した専門的助言です。 ヨーロッパ・中央アジア地域における世界銀行の戦略は、持続可能で包摂的な成 長の促進、人的資本の開発、強靱性構築の支援という 3 つの重点分野を軸に援助受 入国を支援する事により、貧困の撲滅と繁栄の共有の促進を目指すというものです。 持続可能で包摂的な成長の支援 世界銀行は、政府の効率化、民間セクターの参入できる市場創成、エネルギー・ セクターの開発、成長に向けた域内の統合促進といった分野で援助受入国を支援し ています。2017 年度、世界銀行は農業セクター(コソボ、キルギス共和国、 モルドバ、モンテネグロ)及び道路整備プロジェクト(ボスニア・ヘルツェゴビナ、 クロアチア)を支援しました。 その他、ガバナンスと競争力(キルギス共和国)、地方自治体・公共サービス (マケドニア旧ユーゴスラビア共和国、セルビア)、法務サービス(ルーマニア)、 観光・地方経済・競争力(アルバニア)、財政改革(ボスニア・ヘルツェゴビナ)、 エネルギー・セクター(トルコ、ウクライナ、ウズベキスタン)などの幅広いセク ターに資金を提供しています。 更に世界銀行は、マクロ経済分析と政策提言を示した経済報告を発表するなど、 「リスクとリターン:ヨーロッパ・ 知識の分野でも大きく貢献しています。例えば、 中央アジア地域の包摂的成長のための金融トレードオフの管理」は、包摂的成長の 達成と持続のためには、安定性、効率性、包摂性、GDP に占める金融セクターの 割合といった金融発展の全ての側面が適正なバランスを保つ事が必須であると指摘 しています。 44 世界銀行 年次報告 2017 制度改革による人への支援 世界銀行は、援助受入国と協力し、年金、社会的保護、教育、保健医療などの各 制度の効率性向上と財務の持続可能性拡大を図る改革の策定・実施を進めています。 2017 年度、世界銀行はブルガリア、カザフスタン、ウズベキスタンの教育セクター、 ボスニア・ヘルツェゴビナの労働環境と雇用創出、ベラルーシの保健医療を支援し ました。 また、現代社会の潮流がもたらす機会と課題に関する2つの報告書を作成しました。 「デジタル化の恩恵:ヨーロッパ・中央アジア地域の開発におけるインターネットの 活用」は、インターネットが個人や企業にもたらす新たな機会を検証し、社会全体でい 「ヨーロッパ・ かにして市民に均等に恩恵をもたらす事ができるかを探っています。 中央アジア地域経済報告 2016 年 11 月版:格差の広がりとポピュリズム」は、成 長と繁栄に伴い同地域が直面する構造上の課題を概説し、域内のどういった展開が 社会不安や政治不安をもたらしてきたかを分析しています。 気候変動対策と強靱性構築への優先的取組み 同地域の重点課題には、気候変動対策と自然災害への強靱性構築、難民問題への 対応、公正で効率的かつ持続可能な社会の実現などがあります。 「ロシア経済報告」の第 37 号「景気後退から回復へ」は、ロシア経済が 2014 年 に始まった景気後退を脱するであろうとの明るい見通しを示しています。また、 「西バルカン定期経済報告:成長の加速と雇用の拡大(2017 年 4 月号)」は、雇用 状況の改善と貧困削減の進捗を指摘すると共に、西バルカン諸国で続く成長につい て概説しています。「EU 定期経済報告」の最新版「成長・雇用・統合:救済に向 けて」は、EU の成長率が低水準で推移し、高齢化と投資低迷を背景に生産性向上 への依存度が高まると予測しています。 ヨーロッパ・中央アジア地域における世界銀行の取組みの詳細は以下のリンクを ご参照ください。worldbank.org/eca 表 8:ヨーロッパ・中央アジア地域 2015~2017 年度の地域への融資承認額と融資実行額 融資承認額(単位:100 万ドル) 融資実行額(単位:100 万ドル) 2015 年度 2016 年度 2017 年度 2015 年度 2016 年度 2017 年度 IBRD 6,679 7,039 4,569 5,829 5,167 2,799 IDA 527 233 739 314 365 310 実行中プロジェクトのポートフォリオ:252 億ドル(2017 年 6 月 30 日現在) 地域別展望 45 プロジェクト紹介 ベラルーシ運輸セクターの革新的ソリューション ベラルーシは、ヨーロッパ・中央アジア地域において重要な交通回廊の役割を果 たしており、世界銀行と共同で、安全で効率的な道路網の維持と運用向上を掲げた 交通回廊改善プロジェクトを最新技術を駆使して進めています。その一環として、 ベラルーシ道路工学技術センターは、世界銀行と連携してスマートフォン専用アプリ 」を開発しました。同アプリを使うと、走行した舗装 「ロード・ラボ(Roadlab) 道路の路面状況に関するデータが、道路整備当局に自動的に送信されます。 また、世界銀行の道路改善・近代化プロジェクトは、ベラルーシ国内の幹線道路で のトラックの過積載を防ぐシステムを開発しました。同プロジェクトにより政府は、有 料道路の自動料金収受システム及び走行中計量(WIM)システムを導入して既存 システムを強化し、道路網を走行する国内外の多数のトラックの管理を向上させました。 新システムで設けられた12 の WIM は、4 つが大型車両点検センターに設置され、 残り8 つは道路網内にあり移動が可能です。WIM 管理局は、送られてくる生データ をその場で処理し、計量した車両の情報を中央システム・ユニット又は移動可能な WIM と交通状況パトロールに送信します。これにより軸重の連続的な監視が可能に なり、重量制限内のトラックは通過させ、過積載トラックのみに停車を求め検査する 事が容易になります。データは政府による交通量や時間別・場所別のパターン分析 にも活用されており、今後、対象を絞った取り締まりも可能になります。 図 4:ヨーロッパ・中央アジア地域 IBRD・IDA のセクター別融資 –2017 年度 総額 53 億ドルに占める割合 水・衛生・廃棄物処理 2% 7% 農業・漁業・林業 運輸 11% 2% 教育 社会的保護 3% 行政 12% 情報通信技術 <1% 産業・貿易・サービス 3% 保健 4% 金融セクター 14% 41% エネルギー・採取産業 46 世界銀行 年次報告 2017 表 9:ヨーロッパ・中央アジア地域 地域概要 指標 2000 年 2010 年 現状 a 傾向 総人口(100 万人) 397 403 417 人口増加率(年率、%) 0.0 0.5 0.6 1 人当たり国民総所得(GNI) 1,788 7,492 7,676 (アトラス方式、現在の米ドル) 1 人当たり国内総生産(GDP)成長率(年率、%) 7.9 4.6 0.8 1 日 1.90 ドル未満で生活している人口(100 万人) 29b 14 10 平均寿命、女性(歳) 73 75 77 平均寿命、男性(歳) 63 66 68 青年層の識字率、女性(15-24 歳、%) 98 100 100 青年層の識字率、男性(15-24 歳、%) 99 100 100 二酸化炭素排出量(100 万トン) 2,712 3,036 3,164 持続可能な開発目標(SDGs)のモニタリング SDG 1.1 極度の貧困 (1 日 1.90 ドル未満で生活する人口の割合、2011 6.3b 2.9 2.2 年 PPP、%) SDG 2.2 発育不良率 19 12 10 (年齢に見合う身長で測定、5 歳未満児、%) SDG 3.1 妊産婦死亡率 56 29 25 (モデルに基づく推定、出生児10 万人当たり)の削減 SDG 3.2 5 歳未満児死亡率 37 22 17 (出生児千人当たり)の削減 SDG 4.1 普遍的な初等教育の達成 94 98 101 (修了者が当該年齢層に占める割合、%) SDG 5 女性就業率の男性就業率に対する比率 73 73 72 (モデルに基づく ILO 推定、%) SDG 5.5 女性国会議員の割合 8 15 18 (全議席数に占める割合、%) SDG 6.1 安全な飲料水を利用できない人々の割合 93 95 97 を削減(利用できる人の割合、%) SDG 6.2 基本的な衛生施設を利用できない人々の 83 85 86 割合を削減(利用できる人の割合、%) SDG 7.1 電力を利用できる人々の割合 98 100 100 (人口に占める割合、%) SDG 7.2 再生可能エネルギーの消費量 6 6 6 (最終エネルギー総消費量に占める割合、%) SDG 17.8 個人のインターネット普及率 2 36 59 (人口に占める割合、%) 注:ILO =国際労働機関;PPP =購買力平価 2013~2016 年までの最新データ。それ以降のデータについては http://data.worldbank.org をご参照くだ a. さい。 2002 年のデータ b. 同地域の世界銀行融資適格国一覧及び詳細データは以下のリンクをご参照ください。 data.worldbank.org/country 地域別展望 47 ラテンアメリカ・ カリブ海地域 ラテンアメリカ・カリブ海地域の経済は、2 年連続のマイナス成長を含む 6 年間 の景気減速を抜け出し、ようやく成長基調を取り戻しています。2016 年の平均成 長率はマイナス 1.4%でしたが、2017 年は 0.8%前後、2018 年には 2.1%になる 見通しです。しかし、長期にわたる景気低迷により域内の財政収支が悪化している ため、多くの国にとってマクロ経済政策や公共政策には限られた選択肢しか残され ていません。 21 世紀初め、社会面の改革の成果がようやく表れ始めましたが、長期の景気低 迷が足かせとなり安定した実績を上げるには至っていません。ミクロデータの揃っ ている域内 17 カ国を見ると、同地域の極度の貧困の基準である1日 3.20ドル未満 で生活する人の割合は、2003 年の 24.7%から 2013 年には 11.6%に低下しました。 これを人数に換算すると、計 6,330 万人が貧困状態を脱した事になります。しか しこの 2 年間は貧困削減のペースが横ばいで、なおも人口の 5 分の 2 が貧困ライン を割り込む可能性があり、中産階級も伸び悩んでいます。 景気回復へのテコ入れは、民間セクターとの協力によるインフラ・サービスの強化、 人的資本への投資、貧困層の保護と並び不可欠です。 世界銀行の支援 2017 年度、世界銀行はラテンアメリカ・カリブ海地域の 56 件のプロジェクト に対し 59 億ドルの支援を承認しました。その内訳は、IBRD の貸出承認額が 54 億 ドル、IDA 支援承認額が 5 億 300 万ドルでした。また、域内 8 カ国と有償助言サー ビス 13 件(総額 520 万ドル)の協定を締結しました。 成長、生産性、起業の促進 2017 年度、世界銀行は、援助受入国と協力して、成長の加速、生産性向上、事 業環境の改善を図りました。例えばコロンビアでは、第一次財政持続可能性・競争 力強化政策(6 億ドル)を通じて進行中の和平プロセスを進める一方で、貿易円滑化、 投資、競争、事業規制、イノベーションの向上を支援しています。 インフラ・サービスと持続可能性の強化 持続可能で質の高いインフラを構築するには、官民両セクターから資金を動員す る必要があります。世界銀行は、炭素排出量が少なく質の高いインフラ構築のため の技術協力や資金を提供するなど、触媒的な役割を果たしています。 アルゼンチンでは、ブエノスアイレス都市圏再生プロジェクト(2 億ドル)を通 じて、都市部にあるスラム街の住宅事情改善に同国と共同で取り組んだ他、再生可 能エネルギーへの民間投資リスクの管理に 4 億 8 千万ドルの保証を提供しました。 ブラジルでは、自然生態系パンパの保護を目的に、生物多様性保全を国の規制枠組 みに組み込むためのグラントを提供しました。メキシコでは、世界銀行の森林・気 候変動プロジェクトにより 180 万ヘクタールの森林がコミュニティによる持続可 能な管理下に置かれ、女性を中心とした数多くの農村住民に生計手段が提供されま した。カリブ海では、電力供給系統の近代化を支援する他、企業による再生可能エ ネルギーの導入を促進しています。 48 世界銀行 年次報告 2017 人的資本への投資と貧困層の保護 人的資本構築への支援を通じて全ての国民に機会を提供する事は、同地域におけ る世界銀行の重点課題の1つです。エルサルバドルでは、教育の質向上プロジェクト により新たな施設や学習教材が提供され全日制の教育普及が進んだ結果、1 万 6 千 人の学生が恩恵を享受しました。ドミニカ共和国では、貧困層を対象とした制度改 正の結果、新たに 25 万人以上が社会的扶助プログラムを受けられるようになりま した。 グアテマラやボリビアでは、早期幼児開発プログラムや栄養プログラムが、妊婦、 乳幼児とその家族に恩恵をもたらしました。ボリビアでは、70 カ所以上の早期幼 児開発センターがサービス改善のための行動計画を実施し、認定基準を達成できる よう支援しました。 助言サービス、技術協力、動員力 同地域における世界銀行の役割は、この数十年間で変化し、支援の方法も単なる 直接融資にとどまらず、有償助言サービス(RAS)や技術協力へと拡大されました。 メキシコでは、RAS 協定により、投資が誘致され国内市場・グローバル市場との 結び付きが推進された結果、南部の貧困地域にある経済特区が拡充されました。 パラグアイでは、中央銀行の説明責任を高める透明性改革を支援しています。 世界銀行はこの他にも、アイディアやベスト・プラクティスを提供し動員力を発 揮するなど、同地域で重要な役割を果たしています。世界銀行が取りまとめた報告 書や会議は、数多くの関係者の動員を実現し、活発な議論の推進力となりました。 主なものとしては、「良き隣人として:ラテンアメリカの経済統合刷新に向けて」、 「再考:ラテンアメリカ・カリブ海地域のインフラ:効果的な支出で成果を上げる ために」、「ラテンアメリカの暴力対策:乳児から成人まで」といった時宜を得た研 究の他、カリブ海での持続可能な経済開発に対し海洋が果たす役割をまとめた 「ブルー・エコノミーに向けて」があります。 ラテンアメリカ・カリブ海地域における世界銀行の取組みの詳細は以下のリンク をご参照ください。worldbank.org/lac 表 10:ラテンアメリカ・カリブ海地域 2015~2017 年度の地域への融資承認額と融資実行額 融資承認額(単位:100 万ドル) 融資実行額(単位:100 万ドル) 2015 年度 2016 年度 2017 年度 2015 年度 2016 年度 2017 年度 IBRD 5,709 8,035 5,373 5,726 5,236 3,885 IDA 315 183 503 383 303 229 実行中プロジェクトのポートフォリオ:284 億ドル(2017 年 6 月 30 日現在) 地域別展望 49 プロジェクト紹介 ハリケーンの壊滅的被害に対するハイチの迅速な対応 2016 年 10 月 4 日、カテゴリー4 のハリケーン・マシューがハイチを直撃し、 2010 年のハイチ大地震以降で最悪の被害をもたらしました。暴風、豪雨、壊滅的な 高潮により洪水や地滑りが発生し、広範囲にわたりインフラや人々の生活が大きな打 撃を被りました。特に被害が甚大だったのは、南部に位置する貧しいグランダンス県、 ニップ県、南県です。このハリケーンによる被害・損失は、ハイチ政府が世界銀行 及び米州開発銀行の支援を受けて実施した暫定調査によると、同国の GDP の 22% に相当する 19 億ドル近くにまで及びました。 世界銀行の対応は迅速でした。世界銀行が設置したカリブ海災害リスク保険ファシ リティ(CCRIF)から 2 週間以内に、当面の必要資金となる 2,300 万ドルが政府に 対して支払われました。更に世界銀行は、道路や橋の修復、学校の修繕と給食、水 道復旧と緊急衛生設備の設置、迅速かつ広範なコレラ対策の実施、冬の播種期に向 けた種子や肥料の配布、用水路修理用の現金給付といった緊急対応に充てるため、 既存の財源から 4,900 万ドル以上を動員しました。加えて、最も大きな被害を受 けた南県の住民を援助するため、農業、保健、水・衛生、運輸の各セクターの支援に、 IDA の危機対応融資制度から 1 億ドルが提供されました。 図 5:ラテンアメリカ・カリブ海地域 IBRD・IDA のセクター別融資 –2017 年度 総額 59 億ドルに占める割合 水・衛生・廃棄物処理 11% 6% 農業・漁業・林業 10% 教育 運輸 10% 社会的保護 3% 9% エネルギー・採取産業 4% 金融セクター 4% 保健 11% 産業・貿易・サービス 行政 32% 2% 情報通信技術 50 世界銀行 年次報告 2017 表 11:ラテンアメリカ・カリブ海地域 地域概要 指標 2000 年 2010 年 現状 a 傾向 総人口(100 万人) 500 570 610 人口増加率(年率、%) 1.5 1.2 1.1 1 人当たり国民総所得(GNI) 3,919 7,765 8,010 (アトラス方式、現在の米ドル) 1 人当たり国内総生産(GDP)成長率(年率、%) 2.3 4.7 –1.8 1 日 1.90 ドル未満で生活している人口(100 万人) 71b 39 34 平均寿命、女性(歳) 75 77 78 平均寿命、男性(歳) 68 71 72 青年層の識字率、女性(15-24 歳、%) 97 98 98 青年層の識字率、男性(15-24 歳、%) 96 98 98 二酸化炭素排出量(100 万トン) 1,226 1,557 1,711 持続可能な開発目標(SDGs)のモニタリング SDG 1.1 極度の貧困 (1 日 1.90 ドル未満で生活する人口の割合、2011 13.0b 6.5 5.4 年 PPP、%) SDG 2.2 発育不良率 17 13 11 (年齢に見合う身長で測定、5 歳未満児、%) SDG 3.1 妊産婦死亡率 101 83 69 (モデルに基づく推定、出生児10 万人当たり)の削減 SDG 3.2 5 歳未満児死亡率 33 24 18 (出生児千人当たり)の削減 SDG 4.1 普遍的な初等教育の達成 98 99 100 (修了者が当該年齢層に占める割合、%) SDG 5 女性就業率の男性就業率に対する比率 60 66 67 (モデルに基づく ILO 推定、%) SDG 5.5 女性国会議員の割合 16 24 30 (全議席数に占める割合、%) SDG 6.1 安全な飲料水を利用できない人々の割合 89 93 94 を削減(利用できる人の割合、%) SDG 6.2 基本的な衛生施設を利用できない人々の 74 80 82 割合を削減(利用できる人の割合、%) SDG 7.1 電力を利用できる人々の割合 91 96 97 (人口に占める割合、%) SDG 7.2 再生可能エネルギーの消費量 28 29 27 (最終エネルギー総消費量に占める割合、%) SDG 17.8 個人のインターネット普及率 3 34 54 (人口に占める割合、%) 注:ILO =国際労働機関;PPP =購買力平価 2013~2016 年までの最新データ。それ以降のデータについては http://data.worldbank.org をご参照くだ a. さい。 b.2002 年のデータ 同地域の世界銀行融資適格国一覧及び詳細データは以下のリンクをご参照ください。 data.worldbank.org/country 地域別展望 51 中東・北アフリカ地域 中東・北アフリカ地域のほぼ全ての国は、今なお移行期にあります。多くの国に 暴力や戦争の影響が依然として根強く残る中、同地域や近隣地域の経済成長の遅れ により改革の必要性が高まっています。湾岸協力会議加盟国は依然として原油価格 の低迷に直面していますが、経済の多様化も図っており、意欲的に近代化の取組み を進めている国もあります。 域内の経済成長は、2016 年の 3.2%から 2017 年には 2.1%に失速するものの、 2018 年には再び上昇に転じて 2.9%になると予測されています。 世界銀行の支援 2017 年度、世界銀行は、中東・北アフリカ地域の 25 件のプロジェクトに対し 59 億ドルの支援を承認しました。その内訳は、IBRD の貸出承認額が 49 億ドル、 IDA 支援承認額が 10 億ドルでした。2017 年度、同地域には約 4 千万ドルの有償 助言サービスが提供されましたが、その対象は、教育、ガバナンス、経済活動の多角化、 中小企業といった従来の重点分野以外の分野にも拡大しました。更に世界銀行は、 インフラへの民間資金動員について見直し、アルジェリア、エジプト・アラブ共和国、 ヨルダン、モロッコ、チュニジアでは、法律、規制、金融の各側面から環境整備を 検討するインフラ・アセスメントを実施しました。アセスメントは 2018 年度初め に完了の予定です。 平和と社会的安定の推進を中心に据えた世界銀行の中東・北アフリカ地域戦略は、 引き続き支援の指針となっています。同戦略には、新たな社会的盟約の構築、域内 協力の強化、難民問題も含めた強靱性の構築、経済の回復と再建の支援の 4 つの Pillar(テーマ)があります。 社会的盟約の一新 同地域における世界銀行の支援の重点課題は、包摂的で説明責任を備えたガバナ ンス構造の強化と民間セクター主導型経済の支援による機会拡大です。2017年度、 エジプトでは 10 億ドルの融資が提供され、エネルギー・セクターの財政安定化と改 革に向けて民間セクター参入を促す補助金と参入拡大施策の実施に充てられました。 ヨルダンでは、2 億 5 千万ドルが、主に水・エネルギー分野の補助金に充てられ た他、民間企業による水・エネルギー供給を支援しました。イラクでは、14 億ドル の融資が、財政支援と、公共セクター及びエネルギー改革の強化に充てられました。 金融市場と民間セクターの支援もまた、極めて重要です。エジプトでは、5 億ドル の融資が、重点対象である上エジプトの貧困コミュニティのための、民間セクター 主導による成長の促進に充てられました。モロッコでは、3 億 5 千万ドルの融資が、 国内の資本市場及び金融包摂の強化に役立てられ、これとは別に 5 千万ドルの融資 が起業を促進するベンチャー生態系の醸成を支援しました。チュニジアでは、5 億 ドルの融資により、事業環境及び起業支援制度の強化が予定されています。中東・ 北アフリカ地域では、協調プロセスによる汚職対策が進められており、公的機関の 裁量による決定を極力減らす事で国家による資源独占を防止するための分析が 2017 年中に完了する予定です。 52 世界銀行 年次報告 2017 域内協力の強化 世界銀行の同地域向け戦略は、域内の経済統合が他よりも遅れている事を念頭に 置きつつ、平和と安定に向けた協力の強化を重点課題としています。前述のエジプト、 イラク、ヨルダンのエネルギー・セクターを支援する融資は、エネルギーという重 要性の高いセクターにおける協力、効率性向上、ウィンウィンの関係に道を拓くも のです。更に、レバノン道路・雇用創出プロジェクト(2 億ドル)は、シリア・ アラブ共和国以東への陸上輸送の拡充をもたらすものと期待されています。 強制移動に対する強靱性の構築 同地域は引き続き、国内及び近隣諸国から強制移動を強いられた数百万人に上る 人々への対応に直面しています。レバノンに対しては、難民危機対応の一環として、 例外的に 1 億ドルの IDA 融資が成果連動型の「全ての子どもに教育を(RACE 2)」 プロジェクトに提供され、受入れコミュニティと難民の双方の子供の教育支援が拡 大されました。また、ヨルダンの成果連動型プロジェクト(3 億ドル)は、雇用機 会を提供すると共に、ヨルダンの輸出先として欧州市場への優先的アクセスを認め る事により、受入れコミュニティとシリア難民にとっての経済的機会の強化を図り ます。そのための財源としてヨルダンには、例外的な IDA 資金の配分 1 億ドル、 IBRD 貸出 1 億 4,900 万ドル、グローバル譲許的資金ファシリティ(GCFF)から 5,100 万ドルが提供されます。加えて、レバノンに対する保健強靱性強化プロジェ クト(9,600 万ドル)により受入れコミュニティと難民の双方への保健医療が強 化されます。また、ヨルダンに対しても同様の緊急保健融資 3,600 万ドルが充て られます。GCFF は、こうしたプロジェクトも譲許的融資を提供しています。 経済の回復と再建の支援 世界銀行は、紛争下の脆弱コミュニティに対する支援を拡大しました。これは、 紛争による域内の荒廃ぶりを考えれば当然と言えます。特にイエメン共和国には、 2017 年度、複数のセクターに支援が提供され、3 件のグラント(総額 5 億ドル) が貧困コミュニティへの所得支援に役立てられた他、2 億ドルの追加融資も行われ ました。イエメンに対してはこの他にも、一次・二次医療と栄養を支援する2 億ドル の緊急グラントの他、8,300 万ドルの追加グラントも準備されています。 中東・北アフリカ地域における世界銀行の取組みの詳細は以下のリンクをご参照 ください。 worldbank.org/mena 表 12:中東・北アフリカ地域 2015~2017 年度の地域への融資承認額と融資実行額 融資承認額(単位:100 万ドル) 融資実行額(単位:100 万ドル) 2015 年度 2016 年度 2017 年度 2015 年度 2016 年度 2017 年度 IBRD 3,294 5,170 4,869 1,779 4,427 5,335 IDA 198 31 1,011 194 44 391 実行中プロジェクトのポートフォリオ:152 億ドル(2017 年 6 月 30 日現在) 地域別展望 53 プロジェクト紹介 難民受入国への支援確保 現在、中所得国が受け入れている難民の数はおよそ 600 万人に上りますが、譲許 的条件での資金調達が難しく、難民の流入に伴う費用を賄う事が困難になってきてい ます。開発資金の大幅な不足は、シリア危機がヨルダン及びレバノンにもたらした影 響に伴い、より鮮明になりました。グローバル譲許的資金ファシリティ(GCFF)は、 中東・北アフリカ地域などにおけるこうした資金不足の解消を目指しており、ヨルダン 及びレバノンがシリア難民の問題に対処できる事を重点課題としています。GCFF の設立は 2016 年春に発表され、7 カ国及び欧州委員会が初期拠出として 1億 4 千万 ドル以上をプレッジしました。ヨルダンとレバノンに対しては、5 年間で 10 億ドル の調達が目標として掲げられました。 2017年4月、GCFFは3件の新規プロジェクトへの資金提供を発表しました。その 結果、ヨルダンとレバノンのシリア難民及び受入れコミュニティに対するGCFFの譲 許的融資総額が、当初予定されていた5年間よりはるかに短期間で10億ドルに達しま した。新規プロジェクトの内容は、ヨルダンとレバノンの両国における基礎的な公衆衛 生サービスの拡大、ヨルダンの基幹廃水インフラ強化によりシリア難民と受入れコミュ ニティ双方の生活を改善するというものです。GCFFが国際開発金融機関からの譲許 的融資を可能にするための追加グラントは、英国のプレッジ(一部はGCFF経由)と スウェーデンによる1千万ドルのプレッジを受けて、間もなく確保される見込みです。 図 6:中東・北アフリカ地域 IBRD・IDA のセクター別融資 –2017 年度 総額 59 億ドルに占める割合 水・衛生・廃棄物管理 4% 1% 農業・漁業・林業 運輸 4% 2% 教育 社会的保護 13% 15% エネルギー・採取産業 15% 金融セクター 行政 23% 7% 保健 情報通信技術 3% 13% 産業・貿易・サービス 54 世界銀行 年次報告 2017 表 13:中東・北アフリカ地域 地域概要 指標 2000 年 2010 年 現状 a 傾向 総人口(100 万人) 281 336 374 人口増加率(年率、%) 1.9 1.8 1.7 1 人当たり国民総所得(GNI) 1,568 3,914 4,565 (アトラス方式、現在の米ドル) 1 人当たり国内総生産(GDP)成長率(年率、%) 2.3 3.6 –0.4 1 日 1.90 ドル未満で生活している人口(100 万人) 9b 7c — — 平均寿命、女性(歳) 71 74 75 平均寿命、男性(歳) 67 69 71 青年層の識字率、女性(15-24 歳、%) 81 90 90 青年層の識字率、男性(15-24 歳、%) 91 94 94 二酸化炭素排出量(100 万トン) 873 1,313 1,381 持続可能な開発目標(SDGs)のモニタリング SDG 1.1 極度の貧困 (1 日 1.90 ドル未満で生活する人口の割合、2011 3.0b 2.1c — — 年 PPP、%) SDG 2.2 発育不良率 24 19 17 (年齢に見合う身長で測定、5 歳未満児、%) SDG 3.1 妊産婦死亡率 125 99 90 (モデルに基づく推定、出生児10 万人当たり)の削減 SDG 3.2 5 歳未満児死亡率 45 29 25 (出生児千人当たり)の削減 SDG 4.1 普遍的な初等教育の達成 81 92 92 (修了者が当該年齢層に占める割合、%) SDG 5 女性就業率の男性就業率に対する比率 25 27 27 (モデルに基づく ILO 推定、%) SDG 5.5 女性国会議員の割合 4 11 18 (全議席数に占める割合、%) SDG 6.1 安全な飲料水を利用できない人々の割合 88 90 93 を削減(利用できる人の割合、%) SDG 6.2 基本的な衛生施設を利用できない人々の 78 86 90 割合を削減(利用できる人の割合、%) SDG 7.1 電力を利用できる人々の割合 91 95 96 (人口に占める割合、%) SDG 7.2 再生可能エネルギーの消費量 3 3 3 (最終エネルギー総消費量に占める割合、%) SDG 17.8 個人のインターネット普及率 1 21 39 (人口に占める割合、%) 注:ILO =国際労働機関;PPP =購買力平価 2013~2016 年までの最新データ。それ以降のデータについては http://data.worldbank.org をご参照くだ a. さい。 2005 年のデータ b. 2008 年のデータ c. 同地域の世界銀行融資適格国一覧及び詳細データは以下のリンクをご参照ください。 data.worldbank.org/country 地域別展望 55 南アジア地域 南アジア地域は、引き続き世界で最も急成長を遂げており、地域全体の経済成長 率は 2016 年の 6.7%から 2017 年は 6.8%、2018 年は 7.1%に上昇すると予測さ れています。域内のインフレ率は、食糧・一次産品価格の下落により減速し、送金 フローは大半の国で安定しており、外貨準備高も概ね十分な水準にあります。他方、 財政統合の進捗にはばらつきがあり、金融セクターには依然としてリスクが存在し ています。 同地域の貧困は、力強い成長に伴い減少し、人間開発の面でも大きな進歩が見ら れます。にもかかわらず、1 日 1.90 ドル未満で生活している人の割合は、2013 年 には 15.1%、人数にすると約 2 億 5,600 万人に上りますが、これは実に世界の貧 困層の 3 分の 1 に相当します。貧困ラインをかろうじて割り込まないレベルで生活 している人口も数億人に上り、2 億人以上がスラムに住み、約 5 億人が電気のない 生活を送っています。多くの国で極端な社会的排除や深刻なインフラ・ギャップが 存在し、域内の大国では格差が広がりつつあります。 世界銀行の支援 2017 年度、世界銀行は南アジア地域の 51件のプロジェクトに対し総額 61億ドル の支援を承認しました。その内訳は、IBRD の貸出承認額が 22 億ドル、IDA 支援 承認額が 38 億ドルで、その内 7 億 9,500 万ドルが IDA スケールアップ・ファシリ ティを通じた支援でした。また、122 件の助言・分析サービスを通じて、競争力 強化、エネルギー・セクター改革、脆弱性削減といった分野で専門的助言を提供し ました。 世界銀行の同地域に対する戦略は、高水準の包摂的成長の持続が引き続き重点課 題であり、気候変動に強い投資、社会的包摂・金融包摂の拡大、ガバナンスの強化、 脆弱性への対処などを通じた民間セクターの発展を支援しています。 持続可能な成長の推進に向けて 同地域の経済成長は主に消費が牽引しており、投資と輸出双方の伸びなしには大 幅な経済成長の維持は見込めません。今後 20 年間にわたり毎月 100 万人から 120 万人が労働市場に参入する見通しであるため、雇用の創出は不可欠です。そこで 世界銀行は、インドでの技能開発制度の強化と、良質で市場に適した職業訓練の提 供を目的とした技能開発プロジェクト(2 億 5 千万ドル)を進めています。 気候変動への強靱性強化の支援 南アジア地域は、気候に起因する自然災害や海面上昇など、気候変動の影響に対 し極めて脆弱であり、同地域の今後は、炭素排出量の削減、エネルギー構成比の見 直し、気候変動の影響の軽減にかかっているといっても過言ではありません。世界 銀行は、南アジア気候変動支援計画を通じて、域内各国の約束草案及び気候変動に 対する強靱性強化の取組みを支援しています。 域内ジェンダー行動計画の実施 世界銀行は、南アジア地域で域内ジェンダー行動計画を実施しています。同計画は、 南アジア地域の 4 大開発ニーズである人的資本、経済的エンパワメント、発言権・ 行動力、域内のキャパシティ・ビルディングとコミュニケーションで構成されてい 56 世界銀行 年次報告 2017 ます。インドのジャールカンド州における青年期女子・若年女性社会経済的エン パワメント・プロジェクト(6,300 万ドル)は、中等教育の修了と労働市場で活かせ る技能の習得を支援します。その他にも、交通機関を利用する際の、安全面、照明、 男女別のトイレや待合所など、女性特有の問題に対応するプロジェクトがあります。 域内統合の推進 域内統合と経済協力は、貧困削減と成長の共有の促進に不可欠ですが、南アジア 地域は域内統合が最も遅れている地域の 1 つです。そこで、ブータン、インド、 ネパールの各国とバングラデシュとの間の貿易条件整備を目的とする域内連携プロ ジェクト(1 億 5 千万ドル)により、各国間の繋がり強化、物流ボトルネックの解消、 国境管理と貿易円滑化のための近代的アプローチ採用が進められています。 政策改革の支援 世界銀行は各国の改革政策を支援しており、特に市場の創出と国や地方レベルで の公共セクターの効率化に注力しています。例えばパキスタンでは、一連の電力 セクター改革開発融資、投資プロジェクト、技術協力を通じて、発電コストの削減 及び電力セクターの財務の持続可能性の向上を目指す政府のエネルギー政策を支援 しています。 脆弱性への対処 世界銀行は国連と連携しながら、強制移動の問題に取り組んでいます。例えば、 アフガニスタン及びパキスタンで、難民、国内避難民、帰還者、受入れコミュニ ティを支援するプログラムを拡大しています。また、脆弱層支援を目指したプロ ジェクトも承認されました。コミュニティ開発協議会の強化により貧困削減と生活 水準向上を目指すアフガニスタン市民憲章プロジェクト(2 億 2,800 万ドル)、国 の社会的セーフティネット制度の強化と貧困層による社会サービスへのアクセス改 善を図るパキスタン全国社会的保護プログラム(1 億ドル)です。 知識構築による競争力強化 「南アジア 2017 年度、世界銀行は同地域に関する主要報告書を複数発表しました。 のコンテナ港の競争力:実績、推進力、コストの総合的評価」は、南アジア地域の 港湾の現状に関して斬新な分析を行い、改善に必要な施策として、民間セクターの 参入拡大、港湾当局のガバナンス改善、港湾内・港湾間での競争の促進などを挙げ ています。「南アジアの時代:競争力向上と次なる輸出大国づくりの政策」は、域 内企業の生産性と競争力の強化の可能性を分析し、改革と投資を進めるよう提言し ています。 表 14:南アジア地域 2015~2017 年度の地域への融資承認額と融資実行額 融資承認額(単位:100 万ドル) 融資実行額(単位:100 万ドル) 2015 年度 2016 年度 2017 年度 2015 年度 2016 年度 2017 年度 IBRD 2,098 3,640 2,233 1,266 1,623 1,454 IDA 5,762 4,723 3,828 3,919 4,462 3,970 実行中プロジェクトのポートフォリオ:478 億ドル(2017 年 6 月 30 日現在) 地域別展望 57 プロジェクト紹介 バングラデシュの子供達に教育のチャンスを 教育は子供達やその家族にチャンスをもたらし、誇りを育みます。バングラデシュ では、最も厳しい環境にある 148 地区に 2 万 400 カ所の学習センターが新設され、 僻地の農村部で学校に通っていない児童 69 万人に対して教育を受ける第 2 のチャ ンスが提供されました。世界銀行は、第 2 次未就学児童対策(ROSC II)プロジェ クト(1 億 3 千万ドル)を通じてこの取組みを支援しています。 バングラデシュは、教育アクセス、特に初等学校レベルの児童と女子の教育アク セスにおいて、この 20 年間に目覚ましい前進を遂げています。初等教育の就学率 は 2000 年の 80%から 2015 年は 98%に伸び、中等学校就学率も 2000 年の 45% から現在は 54%まで上昇しています。しかし、バングラデシュ国内で学校に通っ ていない 6 歳から 13 歳児は今なお 500 万人にも上り、その大半は貧困世帯、都市 部のスラム、又は辺鄙な地区に住む子供達です。 実施 5 年目を迎えたROSC IIは、2004~13 年に実施されたROSC(8,600 万ドル) の後継プロジェクトです。ROSC は、84 万人の子供の再就学、ベンガル語と数学 の学力水準向上、学年修了率上昇という成果を残しました。バングラデシュ政府は 国家モデルとして ROSC を採用し、更に改良したアプローチをサービスの行き届 かない都市部スラムにも拡大した他、危機的状況にある農村部の子供達をも支援し た結果、5 万人を超える子供達が教育を受ける第 2 のチャンスを得られました。 バングラデシュにおけるこの取組みは、親が子供の将来について自信を抱く事がで きるようになるという副次的な効果ももたらしました。 図 7:南アジア地域 IBRD・IDA のセクター別融資 –2017 年度 総額 61 億ドルに占める割合 水・衛生・廃棄物管理 6% 2% 農業・漁業・林業 12% 教育 運輸 13% 社会的保護 7% 14% エネルギー・採取産業 行政 12% 17% 金融セクター 情報通信技術 4% 産業・貿易・サービス 8% 5% 保健 58 世界銀行 年次報告 2017 表 15:南アジア地域 地域概要 指標 2000 年 2010 年 現状 a 傾向 総人口(100 万人) 1,387 1,631 1,766 人口増加率(年率、%) 1.9 1.4 1.3 1 人当たり国民総所得(GNI) 441 1,160 1,616 (アトラス方式、現在の米ドル) 1 人当たり国内総生産(GDP)成長率(年率、%) 2.2 7.5 5.5 1 日 1.90 ドル未満で生活している人口(100 万人) 552b 400 256 平均寿命、女性(歳) 64 68 70 平均寿命、男性(歳) 62 66 67 青年層の識字率、女性(15-24 歳、%) 64 79 79 青年層の識字率、男性(15-24 歳、%) 81 87 87 二酸化炭素排出量(100 万トン) 1,181 1,970 2,303 持続可能な開発目標(SDGs)のモニタリング SDG 1.1 極度の貧困 (1 日 1.90 ドル未満で生活する人口の割合、2011 38.5b 24.6 15.1 年 PPP、%) SDG 2.2 発育不良率 51 41 36 (年齢に見合う身長で測定、5 歳未満児、%) SDG 3.1 妊産婦死亡率 388 228 182 (モデルに基づく推定、出生児10 万人当たり)の削減 SDG 3.2 5 歳未満児死亡率 94 64 53 (出生児千人当たり)の削減 SDG 4.1 普遍的な初等教育の達成 70 88 91 (修了者が当該年齢層に占める割合、%) SDG 5 女性就業率の男性就業率に対する比率 43 38 37 (モデルに基づく ILO 推定、%) SDG 5.5 女性国会議員の割合 8 20 19 (全議席数に占める割合、%) SDG 6.1 安全な飲料水を利用できない人々の割合 80 89 92 を削減(利用できる人の割合、%) SDG 6.2 基本的な衛生施設を利用できない人々の 29 40 45 割合を削減(利用できる人の割合、%) SDG 7.1 電力を利用できる人々の割合 57 75 80 (人口に占める割合、%) SDG 7.2 再生可能エネルギーの消費量 53 42 39 (最終エネルギー総消費量に占める割合、%) SDG 17.8 個人のインターネット普及率 0.5 7 24 (人口に占める割合、%) 注:ILO =国際労働機関;PPP =購買力平価 2013~2016 年までの最新データ。それ以降のデータについては http://data.worldbank.org をご参照くだ a. さい。 2002 年のデータ b. 同地域の世界銀行融資適格国一覧及び詳細データは以下のリンクをご参照ください。 data.worldbank.org/country 南アジア地域における世界銀行の取組みの詳細は以下のリンクをご参照ください。 worldbank.org/sar 地域別展望 59 世界銀行が進める グローバルな協力・協調 2017 年度、国際社会は引き続き、世界的に政情不安が高まる中にあっても開発 への取組みを進めました。世界銀行もまた、パートナーや関係者との連携を一段と 強めています。それは、極度の貧困撲滅と繁栄の共有促進という 2 大目標の達成の ためには、これまで以上に協調して、世界が抱える複雑な問題に対応する必要があ るとの認識からです。 開発効果のための連携 厳しい環境下にあっても世界銀行は、主要課題の解決に向けて国際社会に呼びか けを続けると共に、貧困層への支援のための連携を強化しています。その結果、 IDA 第 18 次増資では大きな成果が見られました。過去最高の 750 億ドルという コミットメントは、数百に及ぶドナー国・借入国政府、市民社会組織、宗教組織、 更には影響力の大きな関係者らと協力を進めた結果です。 世界銀行と民間セクターの協調関係にもまた、注目が集まりました。持続可能な 開発目標(SDGs)の達成に向け、開発援助を数十億ドル規模から数兆ドル規模へ と拡大するには、あらゆる種類の投資が必要だからです。そのためのアプローチと して、開発パートナーとの連携による民間資金のクラウドイン効果の促進、そして 開発をめぐる議論における民間セクターの発言力向上が、20 カ国財務大臣・中央 銀行総裁会議(G20)、世界経済フォーラム、世界銀行グループ・国際通貨基金 (IMF)の年次総会及び春季会合などの国際会議の場で明示されました。開発資金 の調達と民間セクターの参加を推進するこのアプローチは幅広い支持を集め、 G20 において正式に承認されました。ただし、民間資金はあくまで追加資金と見 なす事が、国際金融機関(IFI)の協調に関する 7 カ国財務大臣・中央銀行総裁 会議(G7)の原則の 1 つとなっています。世界銀行は、国際開発金融機関(MDBs) がこのアプローチに沿った取組みを進める上で、重要な役割を果たしていく事にな ります。 一般市民もまた、公共機関の透明性、説明責任、有効性の向上、そして開発成果 の拡大に大きな役割を担っています。そのため、受益者、つまり世界銀行による開 発プロジェクトから直接的な恩恵を受ける市民との協調は重要です。キム総裁は、 2018 年度末までに、受益者が明確に特定されたプロジェクトについては受益者か らのフィードバックを募る事を明言しており、世界銀行はこの目標達成に向けて順 調に取り組んでいます。2017 年度半ば時点では、承認済みプロジェクトの 99% が受益者重視で設計されており、89%に受益者フィードバックの指標が盛り込ま れています。2019 年度以降は、市民参加のメカニズムと指標の各分野における対 応もモニタリングの対象になります。 重点課題への取組み:気候変動、人的資本の開発、脆弱性 世界銀行は、低・中所得の途上国が取り組む気候変動への対応を支援するため、 国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第 22 回締約国会議(COP22)、世界経済 60 世界銀行 年次報告 2017 フォーラム、世界銀行グループ・IMF 年次総会及び春季会合、G7 環境大臣会合な どの場において、グローバルな協調の一層の加速を呼びかけました。COP22 で 世界銀行は、 「中東・北アフリカ地域の新たな気候 最脆弱国への対応策を取り上げ、 変動対策行動計画」の他、自然災害に対する途上国の強靱性構築を分析した報告書 を発表しました。また春季会合では、政府、民間セクター、慈善団体を代表する気 候変動対策の指導者が集まり、気候変動対策資金の活用、大規模な支援により最大 の効果を得るための対象の絞り込みについて、新たな方法を議論しました。 人的資本への投資については、世界銀行は「乳幼児期の保育・教育」というパー トナーシップを立ち上げ、各種のプラットフォームを活用して、早期幼児開発に対 する世界的、及び国内の支援拡大を図りました。こうした取組みは、各国の経済成 長と競争力強化において、優先度の高い重要な投資と言えます。世界銀行は、春季 会合のハイレベル会合に、「乳幼児期の保育・教育」の議論に参加する主要パート ナーを招きました。参加者からは具体的なコミットメントが表明され、国レベルで の協力の必要性にも注目が集まりました。また、早期幼児開発の支援には財団も大 きな役割を果たしており、パラレル・ファンド方式による資金提供からアドボカ シー活動に至るまで幅広く取り組んでいます。 脆弱性・紛争・暴力の分野では、強靱性と安定性の構築を重視する世界銀行に とって、厳しい環境下で活動する市民社会組織など、人道、開発及び平和・安全の 3つの分野のパートナーとの連携が不可欠です。春季会合では、サブサハラ・アフリカ 及びイエメンでの飢餓危機対策を話し合うハイレベル会合が招集され、キム総裁と アントニオ・グテーレス国連事務総長が議長を務めました。同会合には、各国政府、 開発パートナー、市民社会が参加し、飢餓への対策に徹底して取り組む事で合意し ました。また、様々な脆弱性を抱えた国に対して革新的な資金調達アプローチを 活用するための、世界銀行、国連、欧州委員会によるハイレベル委員会が設置され ました。 国際開発金融機関(MDBs)、市民社会、国会議員、 民間セクター、財団との連携 様々な連携や会議を通じた議論は、途上国の発言権を拡大し、主要課題への国際 レベルでの取組みを推進します。世界銀行は、脆弱・紛争地域、難民、飢餓、パン デミックといった重点課題への取組みにおいて、国連との連携を強化してきました。 持続可能な開発や気候変動の分野では、教育、保健、貿易、統計など、既に幅広い テーマで連携しています。ドイツが議長国を務めた G20 サミットでは、世界銀行は、 アフリカにおける持続可能で包摂的な経済開発の促進、民間セクターの資金動員に 関する一連の原則の発表、女性への経済的エンパワメント拡大を主導しました。更に、 イタリアが議長国を務めた G7 サミットの場でも、国際開発金融機関(MDBs)が 協働して価格に見合った価値などの概念について共通の枠組みを策定するなど、国 際金融機関間(IFI)が一段と効果的な協調を図るために大きく貢献しました。 スイスのダボスで開催された世界経済フォーラムでは、民間セクターが開発に果た す役割について MDBs パートナーとの議論を主導した他、パンデミックの発生に 備えたシミュレーションの実施や、気候変動対策資金についての企業の最高経営責 任者らとの話し合いを進めました。いずれの話し合いの場においても世界銀行は、 「持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」に民間セクターの貢献を促すインセ ンティブづくりに向けて、資金調達、各種のデータ、実施方法についての議論を主 導しています。 市民社会が、開発や、説明責任と透明性の促進に果たす役割は、これまで以上に 大きくなっています。2017 年度、市民社会と宗教組織は IDA 増資プロセスに加 わった他、環境・社会フレームワークの策定・実施に向けたコンサルテーションへ の参加や幅広い政策議論を通じて、世界銀行と新たな業務提携分野について話し合 いました。春季会合と年次総会で毎年開催される市民社会フォーラムは、市民参加、 金融仲介、教育、エネルギー、気候変動などの問題に関して市民社会が世界銀行と 世界銀行が進めるグローバルな協力・協調 61 連携する機会を提供します。国レベルでは、サブサハラ・アフリカ地域 48 カ国中 35 カ国の市民社会及び宗教組織と、ワークショップ開催を通じて連携を図りました。 財政や政策に関する意思決定で大きな役割を果たす国会議員は、世界銀行にとっ て重要なステークホルダーです。現在、対話、情報共有、開発アドボカシーを通じ た国会議員との連携プログラムが進められています。世界銀行が春季会合期間中に 世界銀行・IMF 国会議員ネットワーク(PN)と共同で開催した年次会合には、67 カ国 から 212 人が参加し、世界銀行及び IMF のトップと地球規模の開発アジェンダに ついて話し合いました。また、早期幼児開発に関する国会議員の議論促進、世界銀行 プロジェクトの現地訪問に加え、中東・北アフリカ地域を担当する PN 中東・ 北アフリカ支部が設置されました。 世界銀行は現在、世界の全地域で合計 100 近い財団との連携を進めています。 世界銀行への資金供与額が最も多いビル & メリンダ・ゲイツ財団のプログラムは、 農業、保健・栄養、水と衛生、金融包摂、ジェンダー平等など多岐にわたってい ます。この他にも、国連財団、マスターカード財団、ザ・チルドレンズ・インベスト メント・ファンド財団、ロックフェラー財団、ウィリアム&フローラ・ヒューレット 財団、アガ・カーン開発ネットワーク、ブルームバーグ・フィランソロピーズ、 オープン・ソサエティ財団などと連携を行っています。 「貧困撲滅のための国際デー」のアピール 世界銀行は、毎年「貧困撲滅のための国際デー」(10 月 17 日)に、世界のあら ゆるレベルのパートナーと連携し、貧困撲滅に向けた進捗や今後の課題について啓 発を図ります。今年の「国際デー」を前に世界銀行は、2 大目標達成の前提となる 格差是正を呼びかける新たな報告書「貧困と繁栄の共有 2016:格差解消に向けて」 を発表しました。また、キム総裁のバングラデシュ訪問の機会に、同国の貧困削減 の現状分析が、他の関係者との協力により行われました。更に国際デーには、世界 各地の世界銀行の現地事務所でイベントや議論の場が設けられ、貧困との闘いにお ける国内外の進捗状況が紹介されました。 関係者の意見の分析 世界銀行では、世界各地でアウトリーチ活動を展開している他、国別意識調査を 実施し、援助受入国において影響力を有する人や主要関係者など数千人の意見を 集め、系統的な分析を行っています。こうした人々の認識や考え方はその後もモニ ターし、各国や世界銀行グループ全体の戦略を策定する際の参考としています。 2016 年度の調査では、ガバナンス改革や政府の有効性が開発の最優先課題として 浮き彫りになった他、IDA 対象国を中心に、食糧安全保障を優先課題に挙げた意見 が大幅に増えました。世界銀行については、スピードと柔軟性が依然として課題で あると指摘された一方で、長期的パートナーとしての役割、政府との協調態勢、関 係者との良好な関係は今回も最高の評価を受けました。世界銀行は、今後もこうし た強みを生かし、改善点に取り組みながら、開発効果拡大に向けてパートナーシップ を強化していきます。 62 世界銀行 年次報告 2017 環境への配慮と 社会的責任を備えた組織として 世界銀行は、持続可能で責任ある機関として事業を進める事を基本理念としてい ます。世界銀行の開発目標達成を可能にするためには、環境への影響を最小限に抑 えつつ、持続可能な社会を促進する形で内部業務を管理する必要があります。 2017 年 度、 世 界 銀 行 は 専 務 理 事・ 最 高 総 務 責 任 者(Chief Administrative Officer)の了承を得て、環境への影響に体系的に取り組む組織責任戦略計画を承 認しました。同計画は、環境面で影響を及ぼす主な分野を特定し、世界銀行独自の 「持続可能性レビュー2017(Sustainability 環境目標を設定するものです。詳細は、 Review 2017)」ならびにグローバル・リポーティング・イニシアティブ指標をご 参照ください。 世界銀行の気候変動対策: 環境に配慮した組織であり続けるために 気候変動への対応には、地球規模、国、地方の各レベルにおける総合的な行動が 求められています。例えば、世界銀行は、自らの施設運営、大規模な会議、出張に 伴う温室効果ガス(GHG)排出量の測定、削減、オフセット、報告を他の機関に 先駆けて実施しています。 測定:2006 年以降、ワシントン DC 本部の建物及び職員の出張により発生する 炭素排出量の測定とオフセットを行っており、2009 年からはこれを全世界に拡大 しています。炭素インベントリの境界と範囲の詳細は、世界銀行グループ・インベ ントリ管理計画をご参照ください。 削減:2012 年に設定した排出量目標(施設からの排出量を 2010 年水準から 10%削減)の達成を目指しています。2016 年、本部及び現地事務所の両方で エネルギー効率が改善されたため、施設からの排出量は前年比で 5%減少しました。 空路による出張に伴う排出量は、2015~16 年度の期間中わずか 5%の増加にとど まりました。2010 年度以降も、全体的には上昇傾向にありますが、これは援助受 入国の要求に応えるために出張が増加しているためです。 オフセット:事業を進める上で排出を皆無とする事は難しいものの、直接排出・ 間接排出された炭素量をオフセットする事は可能です。そのため、2016 年度、 ルワンダのゴールドスタンダード認証型効率的調理オーブン・プロジェクトや 表 16:世界銀行の温室効果ガス排出量、2015~17 年度 指標 2015 年度 2016 年度 2017 年度 関連指標 GHG 排出絶対量 SDG13, GRI 305, 160,484 162,043 — (CO2 換算トン)a CDP CC7–10, 14 注: —=入手不能;CDP =カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト;CDP CC = CDP の気候 変動指標;GHG =温室効果ガス;GRI =グローバル・リポーティング・イニシアティブ;SDG =持続可能な開発目標 世界中の世界銀行事務所全てのデータであり、スコープ 1・2・3 排出量を含む。GHG 排出量の a. データは 1 年遅れ。 環境への配慮と社会的責任を備えた組織として 63 コンゴ民主共和国のコミュニティ・環境保全・生物多様性認定森林プロジェクトな ど一連のプロジェクトから、総額 28 万 5 千ドルのクレジットを購入し償却しました。 更に、ワシントン DC 本部での消費電力量に相当するグリーン電力証書(REC)を 購入し、米国北部での風力プロジェクトから 10 万 5,287REC を購入しました。 報告:自らの GHG 排出量を国連の「気候ニュートラル・ナウ」イニシアティブ に報告している他、国際開発金融機関(MDBs)の中で唯一、カーボン・ディス クロージャー・プロジェクトに呼応し、世界銀行による融資のリスク、政策、影響 に加えて、世界銀行自身による排出量を報告しています。 世界銀行の職場での影響管理 世界銀行は、自らの内部業務や決定が環境、社会、経済の各方面にもたらす影響 を管理し、現地事務所を開く際には、その国の生態系、コミュニティ、経済に対す る負荷と恩恵を比較し、恩恵の方が大きくなるよう尽力しています。 持続可能な建物設計:ラオス人民民主共和国にある世界銀行の新事務所は、ソー ラー・エネルギー、雨水貯留、人工光センサー、汚水処理、管理の行き届いたゴミ 処理など、グリーンマーク認証の「持続可能性」の項目でプラチナ認証を受けました。 またインドのロディ・エステートにあるニューデリー事務所も、建物の改良及び インド・エネルギー取引所を通じたグリーンエネルギー証書の購入により、 グリーンビルディング認証の「テナント専用部の内装」の項目である LEED-CI で ゴールド認証を取得しました。現在、世界銀行が所有する建物の内 9 棟が、持続可 能な建築物として認証を受けています。 エネルギー効率:エネルギー効率向上の例として、ワシントン本部のデータセン ター3 カ所の閉鎖、ワシントン DC、ダッカ、パリ、チェンナイ、モスクワの各事 務所での LED 階段照明及び調光器の設置、チェンナイ、アディスアベバ、ダッカ、 パリ事務所での光センサーの設置があります。エネルギー使用量は全体で 7%節減 されました。アディスアベバ、ナイロビ、ジュバの事務所にも太陽光発電による照 明システムが設置されています。 無駄のない水利用:ワシントン DC 本部では、冷水器とボトル用給水機の設置を 標準化しました。給水機は、鉛などの不純物を除去したきれいな水を提供すると 共に、使わずに済んだペットボトルの本数を把握する上で役立っています。また ナイロビ事務所では、雨水を集めて造園や建物外観の清掃に利用しています。 廃棄物ゼロ:ワシントン DC 本部は、新たな廃棄物管理プログラムを立ち上げ、 共用部分への分別ステーション(コンポスト設備も含む)の設置を標準化しました。 2016 年 10 月から試行された結果、廃棄物のリサイクル率は平均 59%から 75% 表 17:世界銀行が環境面に与える影響のまとめ、2015~17 年度 指標 2015 年度 2016 年度 2017 年度 関連指標 全世界のエネルギー使用量 538,966 495,645 — SDG7, GRI 302 (GJ) a 全世界のエネルギー使用度 0.90 0.81 — CDP CC10–11 (GJ/m2)a 廃棄物リサイクルの割合 56 57 61 SDG12, GRI 306 (%) b PCW 再生紙の総使用量(コ ピー紙及び印刷所の両 60 62 68 SDG12, GRI 301 方、%)b 注: —=入手不能;CDP =カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト;CDP CC = CDP の気候 変動指標;GJ =ギガジュール;GJ/㎡=平方メートル当たりギガジュール;GRI =グローバル・ リポーティング・イニシアティブ;PCW =消費財廃棄物;SDG =持続可能な開発目標 a.世界中の世界銀行事務所全てのデータ。 b.ワシントン DC 本部のみのデータ。 64 世界銀行 年次報告 2017 に上昇し、コンポストの回収量は 500%近く増加しました。また、本部の職員用 カフェテリアで使用されているテイクアウト用の容器は現在、100%コンポスト 可能なものに限定されています。更にテイクアウト用の容器の必要性そのものを減 らすため、再利用可能な食器の使用を促すキャンペーンも実施されています。 持続可能な調達:世界銀行の内部調達部門は、調達プログラムを再編し、各上級 調達専門官が、調達プロセス全般における持続可能性の確保を一元管理する事にな りました。新たな調達フレームワークには、環境、社会、多様性という 3 つの柱が 設けられており、いずれも調達カテゴリーやサプライ・チェーン全体に適用されます。 こうした運用により、全品目共通及び個別品目別の分野を特定、又はベンチマーク 化する事が可能となりました。また、集められたデータは、同フレームワークの実 行状況を測定・管理する指標の設定に役立てられます。更に、ベンダーや組織内で の情報共有と研修のためのキットも導入されました。 職員による寄付:2017 年度、ワシントン DC 地区及び世界各地で実施された 「地元コミュニティとの繋がり」キャンペーンを通じた世界銀行職員による寄付総額は、 過去最高の330 万ドルに上りました。これに、マッチングギフト制度により世界銀行 から同額の寄付が加えられ、総額 660 万ドルの寄付が集まりました。25 の現地事 務所によるキャンペーンもそれぞれ記録を更新し、職員による寄付に世界銀行から 同額の寄付が加えられた総額 21 万 1 千ドルが非政府組織に寄付されました。また、 ハリケーンの直撃を受けたハイチに対する支援は、マッチング寄付を合わせると 総額 2 万 5 千ドルに上りました。 世界銀行の人材:職員の国籍は 170 カ国以上。 共通の使命の下、140 カ国で活動 世界銀行グループでは170カ国以上の国籍で構成される職員が、世界銀行グループ の目標達成に向けて、140 カ国で業務に当たっています。世界銀行は、途上国の 長期的開発パートナーとして高い評価を受けていますが、その原動力となっている のがこうした職員です。中でも、職員の知識、技能、多様性、モチベーションは、 世界銀行の比較優位を支える要素です。最新の職員満足度調査によると、職員の 92%が世界銀行グループで働く事に誇りを持っており、過半数が、開発に関わる 仕事の場として最高であると評価しています。 倫理的文化の促進:世界銀行グループでは、職員の間で明確な価値観が共有され ています。グループの取組みが成果を上げているのは、こうした倫理的文化の影響 が戦略や政策にまで浸透しているからです。倫理・業務遂行局は、世界銀行グループ 職員の倫理義務遵守について、基準の設定、研修の実施、情報の共有を進めてい ます。また、職員に対し利益相反リスクに関する助言を行い、違反行為の疑いがあ る場合は必要に応じて調査を実施します。同局はまた、世界各地の現地事務所が 世界銀行グループの目標と戦略に合致した揺るぎない倫理文化を遵守し、事業規範 となる倫理に対し前向きなアプローチを図る事に注力しています。 世界銀行グループの人事戦略:2017 年度、世界銀行グループは向こう 3 年間の 新たな人事戦略を職員及びマネジメントの意見を幅広く取り入れながら策定し、理 事会の承認を受けました。この人事戦略は、職員の活動と世界銀行グループの事業 戦略との整合性を図る一連の人材管理イニシアティブをまとめています。同戦略の 5 つの重点分野は、世界銀行グループが擁する多様なグローバル人材の活用、リー ダーシップと管理能力の育成・強化、パフォーマンス向上とそれに見合った報酬、 職員の健康・安全・福祉の促進、世界銀行グループの組織としての有効性向上です。 これに加え、多様性と包括性の促進、脆弱性・紛争・暴力(FCV)の影響下におけ る世界銀行グループの事業拡大、人事の基本原則重視という3 つのテーマが、5 つの 重点分野全てに反映されています。以下は、その中の 2 つのテーマです。 多様性と包括性の促進: 世界銀行グループの職員の多様性は、国際金融機関 (IFI)の中でも群を抜いて高く、「雇用がもたらす価値」の中で重要な要素です。 2017 年度、サブサハラ・アフリカ地域及びカリブ海地域出身の職員の割合が、 環境への配慮と社会的責任を備えた組織として 65 1998 年以降初めて目標に達しました。また、ジェンダーの平等についても、実現 に向け一層の努力が続けられています。世界銀行グループは国際開発金融機関とし て初めて UN Women によるジェンダー平等のためのキャンペーン「HeForShe」に 参加し、ジェンダーの平等に向けて更なる目標の達成を約束しました。その内容は、 2020 年までに世界銀行マネジメント(副総裁以上)のジェンダー平等の達成と、 同じく 2020 年までの「ジェンダー平等の経済的配当(EDGE)」のレベル 2 の認 証取得、そして 2022 年までの専門職の完全なジェンダー平等の達成です。 FCV 影響下での業務拡大:世界銀行グループの人事戦略は、貧困を取り巻く情 勢の変化に対応し、最貧国や FCV 国での取組み拡大を目指しています。世界銀行 グループは、危機的な状況で貢献している職員のために、「雇用の魅力」の向上に 力を注いでいます。具体的には、学習機会やキャリア・チャンスの拡大、職員の責 務に見合う補償や報酬の確保、FCV 影響下での職員と家族の安全、安心、福祉な どがあります。 職員の知識習得:世界銀行は、援助受入国へのソリューション提供、最先端の知 識の共有、優れた人材の維持を目指し、職員に研修を促進しています。開発分野に 関する研修は優先課題であり、オンライン上のオープン・ラーニング・キャンパス が拡充を続けています。同キャンパスには現在 9,523 のコースがあり、2017 年度 末現在、1 コース以上履修した職員は 87%に上ります。2017 年度、世界銀行は、 肩書きに「Knowledge(知識)」や「Learning(学習)」が含まれる知識・学習担 当の実務者をまとめた専門性職種グループをラーニング・ストリームとして新設し ました。これにより、更なるイノベーション実現に向けた教訓やベスト・プラク ティスの共有が可能となります。 表 18:世界銀行職員のデータ、2015~17 年度 指標 2015 年度 2016 年度 2017 年度 関連指標 正規職員総数(世界銀行) 11,933 11,421 11,897 SDG8, GRI 401 米国以外の配属(%) 39.6 41.0 42.0 短期コンサルタント / 臨時職員 4,295 4,757 4,948 (FTE) 職員の参加(世界銀行、%) 70 73 80 多様性指数(世界銀行) 0.86 0.89 0.91 SDG8, GRI 405 女性管理職(%) 37.8 37.5 39.0 パート II 管理職(%) 41.4 43.5 43.3 女性 GF+ テクニカル(%) 43.1 43.9 44.2 サブサハラ地域 / カリブ海地域 11.6 12.2 12.9 GF+(%) 本部での職員 1 人当たり研修日数 3.2 3.3 3.7 SDG8, GRI 404 現地事務所での職員 1 人当たり研 3.6 3.5 4.2 修日数 注: — = 入 手 不 能;FTE = の べ 人 数( 職 員 );GF+ = 給 与 等 級 GF 以 上、 す な わ ち 専 門 職; GRI =グローバル・リポーティング・イニシアティブ;SDG =持続可能な開発目標 66 世界銀行 年次報告 2017 職場内での衝突の解消:世界銀行は前向きで互いを尊重する職場の構築に努めて います。しかし、それでも解消されない状況が生じた場合には、内部公正制度 (IJS)の非公式及び公式部門による対応を行っています。 2017 年度、IJS は、人事考課・勤務評定と、職員の「パフォーマンス改善機会」 計画の 2 段階から成る新たなプロセスを導入しました。同プロセスの第 1 段階であ る不服審査(AR)は人事部が担当し、第 2 段階のパフォーマンス管理審査(PMR) はピア・レビュー部門が担当します。PMR では、中立な立場の審査官が申し立て のあったケースを検証し、管理職が自らの裁量の範囲内で下した決定か否かを確認 した上で、裁量範囲を逸脱している場合には、管理職が、申し立てを行った職員に 対して他の責務を果たしているか否かを確認します。2017 年度、AR を利用した 職員の内、3 分の 2 は PMR に進む前に申し立てを取り下げ、残りの 3 分の 1 は調停 により解決されました。AR とPMR によるこの新プロセスは職員と管理職の双方に効 果をもたらし、人事考課に対する職員の不服解消までの時間を大幅に短縮しました。 職員の権利の保護:職員の権利や利益は、世界銀行グループ・スタッフ・アソシ エーション(SA)が代弁しています。世界各地の現地事務所 90カ所にあるスタッフ・ アソシエーション(COSA)を含めると、1 万 1 千人以上の職員が SA に加入して いる事になります。2017 年度、SA は、世界銀行マネジメント及び理事会と共同で、 現地事務所の報酬の見直し、職員用医療給付の改善、パフォーマンス管理制度の刷 新を行いました。SA は COSA ネットワークを通じて現地事務所職員のための活動 を続けた他、プロジェクト現場のスタッフを対象に、SA の役割や労働者としての 職員の権利に関する研修を行いました。 組織としての持続可能性の詳細は以下のリンクをご参照ください。 worldbank.org/corporateresponsibility 環境への配慮と社会的責任を備えた組織として 67 説明責任の確保と業務の改善 世界銀行では、査閲パネル、独立評価グループ、組織公正総局、内部監査局とい う 4 つの部局が、援助受入国及び出資国に対する説明責任、開発効果の実現に向け た最高レベルのパフォーマンス維持、世界銀行プロジェクトの高潔性確保、内部業 務の有効性の継続的改善を図っています。 査閲パネル 査閲パネルは、IBRD 又は IDA が出資したプロジェクトにより自分達が被害を受 けた、又は受ける可能性があるとする人やコミュニティからの申し立てに対処する 独立したメカニズムとして、理事会により設立されました。査閲パネルは、国際的 な開発の専門知識を基に選ばれた異なる国出身の委員 3 名と、少人数から成る事務 局で構成されています。 2017 年度、査閲パネルは 9 件の申し立てを受理し、ウガンダ及びコソボの案件に 関する調査報告書を理事会に提出しました。更に理事会は、ケニアのマサイ族コミュ ニティの再定住に関し、査閲パネルの調査を基に行われた調停プロセスで合意した 「ジェンダーに基づく暴力に 行動計画を承認しました。ウガンダの案件に関しては、 関するグローバル・タスクフォース」を設置し、世界銀行プロジェクトにおける ジェンダーに基づく暴力の防止・対処法に関する提言を取りまとめています。この他に、 組織としての学習の促進及び世界銀行プロジェクトの開発効果の向上を目指して、 過去 23 年間の案件から得た教訓を生かし、先住民族及び環境アセスメントに関する 報告書を発表しました。査閲パネルの年次報告は以下のリンクをご参照ください。 worldbank.org/inspectionpanel 独立評価グループ 独立評価グループ(IEG)は、理事会直属の独立組織です。IEG による評価は、 世界銀行グループ各機関の開発効果向上を使命とし、戦略策定や今後の活動の参考 に役立てられています。 IEG は、世界銀行プロジェクトの結果を評価し、改善の手段等について提案を行 う他、世界銀行グループの業務に関する新たな方向性、政策、手続きや国別・セク ター別の戦略策定について提案を行うなど、組織の学習と改善にも貢献しています。 IEG が世界銀行グループの成果と実績に関して実施した前回の年次審査では、開発 成果の動向を、組織全体、地域別、セクター別に評価しました。IEG の報告書は以 下のリンクをご参照ください。 ieg.worldbankgroup.org 組織公正総局 組織公正総局(INT)は、世界銀行グループの融資を受けたプロジェクトにおけ る不正・汚職の防止、阻止、調査、及び制裁申し立てを責務としています。世界銀行 68 世界銀行 年次報告 2017 グループは 2017 年度、INT による調査に基づき 60 の事業体に対して制裁を科し ました。また、INT は制裁対象となる違反行為に関わった個人や組織と 22 件の 「交渉に基づいた解決のための合意」を締結し、当該企業のコンプライアンス基準の 改善に積極的に関わっています。2017 年度、不正調査部門が実施した監査は合計13 件で、対象となった事業体は19、契約は31件(総額 5 億1,800 万ドル以上)でした。 取引資格停止協定に参加する国際開発金融機関(MDBs)と共同で発動した制裁 の数は 84 件に上りました。複数の管轄区域にまたがる複雑なケースが増える中、 INT による調査は、世界銀行が特定のセクターや高額契約に伴うリスクや、IDA 対 象国、又は脆弱国におけるリスクに取り組む際に役立っています。 INT はまた、リスク軽減と監視のためのツールの設計・実施に助言を提供してい ます。2017 年度は、各地域の国家当局と共に各種の会合やワークショップを開催 しました。取り上げられたテーマは、調査・防止・不正摘発監査の機能強化、情報 共有ツール、現場でのプロジェクト関連リスクへの積極的取組みなどでした。INT は、 2016 年 5 月に英国で開催された腐敗対策サミットでのコミットメントを踏まえ、 排除、取引資格停止、制裁に関するデータをパートナー間で共有するため、「汚職 対策としての行政上の救済手段のグローバルな情報共有メカニズム」の構築を進め ています。INT の年次報告は以下のリンクをご参照ください。 worldbank.org/integrity 内部監査局 内部監査局(IAD)は、世界銀行グループの業務向上のため、独立した客観的な見地 からグループ内のプロセスを検証しています。IADは世界銀行グループのリスク管理 能力に関して助言を提供し、内部統制の不備や弱点を指摘します。また、新たに生じ つつあるリスクや新規のイニシアティブに関して早い段階から審査を開始している他、 実施後の審査も適時に行っています。更に、世界銀行マネジメントと共同で是正措置 の行動計画を策定し、合意した期日までに計画が実施されるよう確認しています。 2017 年度、IAD は、開発プロジェクト、業務プロセス、情報技術・データ管理に ついて、監査(アシュアランス)とアドバイザリー(コンサルティング)の 2 種類の レビューを実施しました。テーマは、世界銀行グループの制裁プロセス、世界銀行 (ならびにIFC 及び MIGA)の気候変動関連業務の管理、国別支援の予算配分、人員 計画、世界の安全保障、通信ネットワークのセキュリティとリモート・アクセスの安 全性などです。IAD の年次報告及び四半期報告は以下のリンクをご参照ください。 worldbank.org/internalaudit 世界銀行の情報公開政策 情報公開(AI)政策は、導入から 7 年を経て、世界銀行の「オープンな開発」 アジェンダの中核に位置付けられています。AI 政策は、それまでの、公開可能 な文書のみの開示から、例外項目を除いた世界銀行保有の全ての情報を公開す るという、極めて斬新な発想の転換によるもので、世界銀行はこれを契機に情 報化時代へと一気に歩みを進めました。 透明性向上に向けたこの抜本的な移行は、 世界銀行と援助受入国との協力、開発コミュニティ内での連携、そして新たな パートナーや影響力を有する人との関係拡大に貢献しています。 AI 政策は、オープン・データ、オープンファイナンス、オープン・ナレッジ・ リポジトリ、オープン・アーカイブ、コンサルテーションなど、政策に付随す る様々な情報公開の基礎となっており、いずれも世界銀行の活動の透明性、情 報アクセス、説明責任を高めています。世界銀行の情報をオンラインで入手す るための主なエントリー・ポイントとしては、融資プロジェクトに関する詳細 情報を提供している「プロジェクト・業務」と、20 万件以上の文書に自由に アクセスできる「報告書・出版物」などがあります。 世界銀行のセクター別の取組みの詳細は以下のリンクをご参照ください。 worldbank.org/en/access-to-information 世界銀行の役割と原資 グループ内の連携 国際復興開発銀行(IBRD)と国際開発協会(IDA)で構成される世界銀行は、 世界銀行グループの総力を結集してパートナーに一層の恩恵をもたらすため、国際 金融公社(IFC)及び多数国間投資保証機関(MIGA)とこれまで以上に緊密に連 携しています。世界銀行グループの比較優位は、様々な関係者と協働できる点にあ ります。なぜならそれは、グループが、国ごとの深い関わりと世界的な広がり、官 民両セクターとの協力関係、セクター横断的な知識、資金を動員し活用する能力な どを効果的に組み合わせ、駆使しているからです。 世界銀行グループでは、援助受入国との新たなパートナーシップ戦略を構築す る際、事前に体系的国別診断を行い、その国の極度の貧困撲滅及び繁栄の共有促進 を阻んでいる要因を明確にします。グローバル・プラクティス(14 の主要開発専 門分野)及びクロス・カッティング・ソリューションズ・エリア(ジェンダー、雇用、 脆弱性などグローバルな課題)の専門家がチームの枠を超え、資金、分析、助言、 動員力を用いた支援プログラムの重点分野を決定します。世界銀行グループの比較 優位と援助受入国の優先課題に基づくこのプロセスには、各国の現地職員、IFC、 MIGA、パートナー国も参加します。世界銀行グループの活動は、パートナー国と 共に取り組む戦略的支援策である国別パートナーシップ枠組みに沿って行われます。 2014 年 7 月から開始されたこのプロセスにより、2017 年度末までに 62 カ国で 体系的国別診断が完了し、46 カ国で新たな国別パートナーシップ枠組みが策定さ れました。戦略策定の一連の作業からは、この新モデルによる世界銀行グループ内 の連携と協調の強化が確認されています。体系的国別診断は、世界銀行グループが、 これまで培ってきた経験と分析に基づいた支援策を提案できるという点で、国別支 援に大きな付加価値をもたらしています。 IBRD、IDA、IFC、MIGA 間の連携は年々強化されており、地域、国、セクター、 テーマ毎に、あらゆるレベルで多岐にわたる活動が対象となっています。具体的 には、国別パートナーシップ枠組み、投資プロジェクト(特にインフラ及び金融 セクター)、助言サービス及び投資環境への取組みなどの共同実施です。例えば ガーナでは、環境に優しく安価なエネルギーの供給拡大を支援するサンコファ・ガス プロジェクトに、2 億ドルの IBRD 貸出と 5 億ドルの IDA 支払い保証を提供してい ます。更に、IFC はプロジェクト・スポンサー向けに 3 億ドルを、MIGA はプロ ジェクト・スポンサーが必要とする商業借入の支援に 2 億 1,700 万ドルのリスク 保証を提供しています。同プロジェクトにより、ガーナ国内の発電容量の最大 40%が賄われる他、環境に優しく安価な国内産の天然ガスへの転換が行われる予 定です。 世界銀行は、コーポレート・スコアカード、IDA 成果測定システム、プロジェクト の進捗に関する理事会との定期的な協議など、一連のフィードバックや説明責任を 確保する制度を通じて、出資国やその国民への報告を行う責任を負っています。 70 世界銀行 年次報告 2017 IBRD の貸出承認額 IBRD は、加盟 189 カ国が共同出資する国際開発金融機関です。世界最大の国際 開発金融機関として、中所得国及び信用力のある低所得国に貸出、保証、リスク管 理商品、各種助言サービスを提供する他、地域や地球規模の課題への対応の調整を 行って世界銀行グループの使命を支えています。2017 年度の IBRD の新規貸出承 認額は、133 件のプロジェクト(内 11件は IBRD と IDA のブレンド・プロジェクト) に対する226 億ドルでした(地域別の内訳は 35 ページの表、セクター別及びテーマ 別の内訳は 77 ページの表を参照)。 IBRD の原資と金融モデル 加盟国の開発プロジェクトに資金を提供するため、IBRD は自己資本の他、資本 市場で世銀債発行により調達した資金を原資として貸出を行っています。IBRD は、 ムーディーズから Aaa、スタンダード&プアーズから AAA の格付けを受けており、 世銀債は投資家から信頼性の高い債券と評価されています。IBRD は、長期的に最 大の価値を、借入国にとり最も安定した持続可能な形でもたらす資金調達戦略を 採っており、国際資本市場で調達した資金を途上国へと導く事で組織の目標達成を 図っています。 全ての IBRD 債は持続可能な開発を支援するもので、IBRD は、世界各国の多数 の投資家を対象とした大型公募債に加え、特定の市場や投資家のニーズに合わせた 私募債も発行しています。IBRD 債は、資産管理会社、保険会社、年金基金、中央 銀行、企業、銀行など世界中の機関投資家を通じて、官民両セクターと世界銀行の 開発目標の結び付きを仲介しています。IBRD は、固定金利、変動金利、そして、 様々な通貨建てや償還期間の世銀債を世界中の投資家の需要に応えて発行します。 新興市場通貨建ての新たな金融手法や世銀債は、国際的な機関投資家に新たな市場 を開くケースも多くあります。IBRD の資金調達額は、年により変動します。 こうした戦略により、IBRD は相対的に低い金利で資金を調達し、その結果借入 国も IBRD から低金利で資金を借り入れる事ができます。また、直ちに貸出に回さ れない資金は、必要な時にすぐに現金化できる形で、IBRD の投資ポートフォリオ で運用されています。 2017 年度、IBRD は 24 の通貨建ての世銀債を発行し、560 億ドル相当の資金を 調達しました。IBRD の資本は主に払込資本と準備金で構成されています。2011 年 3 月 16 日に総務会が承認した一般増資及び選択増資の決議の条件に基づき、授 権資本は 870 億ドル増加すると見込まれていますが、その内 51 億ドルは新たに払 い込まれる予定です。選択増資及び一般増資の応募期間は、出資国からの延長請求 に対する理事会の承認を経て、それぞれ 2017 年 3 月、2018 年 3 月に終了する予 定です。2017 年 6 月 30 日現在、授権資本の累積増加分は合計 787 億ドルで、増 図 8 IBRD のビジネスモデル 自己資本 IDA及び信託基金 貸出 借入 収入 投資 他の開発業務 世界銀行の役割と原資 71 資に関連した払込額は 46 億ドルでした。 IBRD はその加盟国に対してサービスを提供する組織であり、営利を目的とはし ていませんが、健全な財務体質を確保し、開発活動を継続するために十分な利益を 確保できるよう努めています。理事会は、2017 年度の当期未処分利益の内、IDA への 1 億 2,300 万ドルの移転と一般準備金への 6 億 7,200 万ドルの振替(IBRD 内 部留保)を総務会に提言しました。貸出、借入、投資といった活動に伴い IBRD は、 市場リスク、金融取引を行う相手方の信用リスク、援助受入国の信用リスク、運営 上のリスクに晒されています。世界銀行グループでは、最高リスク管理責任者が、 リスク監視業務の主導、理事会への継続的で独立した報告、専任のリスク委員会を 通じた世界銀行グループの意思決定プロセスの支援を担当しています。更に、 IBRD は、世界銀行マネジメントによる監督機能を支える強力なリスク管理枠組み を設けています。この枠組みは、IBRD が財政的に持続可能な形でその目標を達成 する事を可能にしたものです。こうした様々なリスクを総合的に管理する上で最も 重視している財務指標が「資本貸出比率」で、IBRD の財務・リスク見通しに基づ いて厳密に管理されています。2017 年 6 月 30 日現在、同比率は 22.8%でした。 詳細は以下のリンクをご参照ください。worldbank.org/ibrd IDA の融資承認額 最貧国向けの譲許的資金を提供する世界最大の国際機関である IDA は、受益国 自身が取り組む経済成長の促進、貧困削減、貧困層の生活の改善を支援する譲許的 な開発融資、グラント、保証を提供しています。2017 年度の IDA 対象国は 78 カ国 でした。この他に、インドは 2014 年度に IDA を卒業しましたが、例外的に経過措 置 と し て IDA17 期 間 中(2015~17 年 度 ) に も 継 続 し て 支 援 を 行 い ま し た。 2017 年度の IDA 新規承認額は 261 件のプロジェクト(この内、11 件は IBRD/ IDA ブレンド・プロジェクト)に対する 195 億ドルでした。内訳は、融資が 162 億 ドル、グラントが 32 億ドル、保証が 5 千万ドルでした(地域別の内訳は 35 ページ の表、セクター別及びテーマ別の内訳は 79 ページの表を参照)。 IDA の原資と金融モデル IDA の活動資金は、従来から主に先進国又は中所得国であるドナー国からの貢献 で支えられてきました。その他、IBRD からの純益移転、IFC からのグラント、過 去のIDA融資に対する借入国からの返済金などによっても賄われています。しかし、 IDA第18次増資で導入された革新的手法によりこのアプローチに変化がもたらされ、 IDA18 からは、ドナー国からの拠出金と債券市場での資金調達を併せたブレンド 型資金モデルが導入される事になりました。IDA は、2016 年に初の格付けとして トリプル A を取得しました。IDA の増資は、3 年毎に開発パートナーが一堂に会し、 増資交渉や政策のレビューが行われます。管理費は主に、援助受入国が支払う手数 料で賄われます。 IDA 利用可能資金の単位は「特別引出権(SDR)」です。ここに示すドル換算額は、 IDA17 の基準為替レートを基に算定したもので、参考として表示しています。 IDA17 の支援総額は 387 億 SDR(579 億ドル相当)に上りました(総額は増資交 渉後の調整を反映)。 計 48 カ国のドナー(内 4 カ国は新規ドナー)により 169 億 SDR(255 億ドル) がグラントとして提供されましたが、その内 7 億 SDR(11 億ドル)は、譲許的 ローンのグラント・エレメント部分を計上したものです。ドナー国はまた、33 億 SDR(49 億ドル)を譲許的ローンとして提供しましたが、これはグラント・エレ 72 世界銀行 年次報告 2017 図 9 IDA のビジネスモデル 借入 非譲許的ローン 返済及び利息等 投資 自己資本 譲許的ローン及びグラント メントを除くと 25 億 SDR(38 億ドル)となります。ドナー国にはまた、多国間 債務救済イニシアティブ(MDRI)の下での債務削減として 28 億 SDR(42 億ドル) を提供しました。IDA 受益国からの返済資金(元利返済)は 111 億 SDR(168 億 ドル)でしたが、これには、IDA 卒業国による融資残高の加速返済及び自発的な期 限前返済による 19 億 SDR(28 億ドル)ならびに過去の増資からの繰越し 17 億 SDR(26 億ドル)が含まれます。関連投資収益を含む、IBRD 及び IFC からの資金 移転は、17 億 SDR(26 億ドル相当)でした。それぞれの移転は毎年 1 回、IBRD 総務会と IFC 理事会が、各機関のその年の成果と資金余力の評価を踏まえて承認し ます。 2016 年度、IDA17 の利用可能資金は 50 億ドル引き上げられました。この内 39 億ドルは IDA17 の残りの対象期間に適用されるスケールアップ・ファシリティ の設置に、9 億ドルは危機対応融資制度の財源補充に、そして 2 億ドルは中東・ 北アフリカ地域の難民支援に、それぞれ利用されました。この 1 度限りの措置には、 IDA の流動性管理枠組みの調整により確保された資金が充てられました。 IDA 第 17 次増資と IDA 第 18 次増資 世界銀行グループ戦略に沿った IDA17 の政策パッケージには、様々な政策 コミットメント及び IDA の成果測定システムの指標が含まれています。全体テーマ の「開発効果の最大化」は、IDA 対象国による民間資金、公的資金、知識の動員を 支援する事に主眼を置き、成果と費用有効性をこれまで以上に重要視したもので した。IDA17では、気候変動、脆弱・紛争国(FCS)支援、ジェンダーの平等、包摂 的な成長という4 つの特別テーマを設け、グローバルレベル、地域レベル、国レベル での最前線の問題に対する IDA の取組みの強化を目指しました。 IDA 第 18 次増資は 2016 年 12 月に交渉が妥結し、2017 年 7 月 1 日から 2020 年 6 月 30 日を対象期間とする増資額は過去最高となる 750 億ドルに上りました。 IDA17 の特別テーマであった気候変動、ジェンダーと開発、脆弱性・紛争・暴力 の 3 つが IDA18 でも引き継がれた他、ガバナンスと組織・制度の構築、雇用と経 済変革という 2 つのテーマが新たに加わりました。いずれも「2030 年に向けて: 成長、強靭性、そして機会への投資」という包括的コミットメントに沿ったテーマ です。 詳細は以下のリンクをご参照ください。ida.worldbank.org 世界銀行の役割と原資 73 図 10 IDA 増資 単位:10 億ドル 26.4 26.1 23.1 21.2 22.1 14.6 14.9 5.3 3.0 3.2 4.5 3.5 4.1 3.9 n.a. n.a. n.a. 0.6 IDA16 2012~14年度 IDA17 2015~17年度 IDA18 2018~20年度 IDA自己資金 ドナーからの拠出 a b 債券(予定) IBRDとIFCからの移転資金 譲許的ローン MDRI債務免除に対するドナーからの補償 注:n.a. =該当なし。このデータは、最終増資報告、ならびに増資交渉で使用された為替レートを反映。 a. IDAの自己資金は、元本返済金、投資収益など。 b.構造的資金ギャップ控除後。HIPCへの拠出を含む。 IBRD と IDA のリスク管理取引 IBRD は、援助受入国が開発プログラムの資金を効率的に調達しながら、通貨・ 金利・一次産品価格の変動や災害などの様々なリスクを管理できる金融商品を提供 しています。2017 年度、世界銀行財務局は 17 億ドル相当の金融取引を実行しま した。この内 6 億 3,300 万ドル相当は通貨スワップ取引(主にドルの貸出を現地 通貨建貸出に変換する取引)、11 億ドル相当は金利スワップ取引(主に長短金利の 交換取引)で、IBRD 貸出期間満了まで借入国が通貨及び金利リスクを回避できる よう、それぞれ支援しました。危機への備えに関連した取引では、パンデミック緊 急ファシリティ(PEF)を資金面で支える感染症債と保険デリバティブ取引が総額 4 億 2,500 万ドルに上りました。世界銀行財務局は、IBRD のバランスシートの リスク管理の観点から 1,090 億ドル相当のスワップ取引を実行しました。 IDA はバランスシート上の為替リスク及び金利リスクを管理しつつ、金融市場で の取引を通じて加盟国による災害関連リスクの管理を支援しています。2017年度、 世界銀行財務局は、IDA バランスシートのリスク管理の観点から 157 億ドル相当 のスワップ取引を実行した他、クック諸島、マーシャル諸島、サモア、トンガ、 バヌアツを対象に地震やサイクロンのリスクを補償する太平洋自然災害リスク保険 プログラムのために 3,400 万ドル相当の取引を実行しました。 複雑な開発問題に対応する効果的な予算編成 世界銀行グループは、戦略計画の立案、予算編成、実績レビューに際し、大きく 5 つの「W」に分かれたプロセスを用いて資源の調整を図っています。各「W」 のプロセスでは、それぞれ以下のように決定が下されます。 W1: 世界銀行グループのマネジメントによるグループの戦略計画の重点課題の設定 W2: 副総裁(VPU)レベルでの重点課題の検証・対応 W3: シ ニア・マネジメントによるグループ各機関の重点課題の見直しと詳細な ガイダンスの作成 W4: 重点課題及び予算枠計画の決定を受けた副総裁レベルでの活動・人員配置計 画の策定 W5: 世界銀行グループのマネジメントによる副総裁レベルでの予算全体の審査。 理事会による副総裁レベルの次年度予算枠の審査と承認 「W」プロセスは、組織の重点課題の明確化と設定、選択性と効率的な支援の 強化、世界銀行グループ内の協調についての援助受入国の要求や期待を反映してい 74 世界銀行 年次報告 2017 ます。世界銀行グループでは同プロセスにより、過去数年にわたる収支の調整、組 織の重点課題に沿った予算編成など大きな進展がありました。 経済が不安定化し地球規模の課題が山積する中、世界銀行グループが対応を求め られる複雑な開発問題は増加の一途をたどっています。世界銀行グループは、 2018~20 年度の期間、極度の貧困の撲滅と繁栄の共有促進という 2 大目標に基づ く優先課題、グループの中長期的なあり方を示したフォワード・ルックの策定、 IDA 対象国(特に脆弱・紛争地域)におけるプロジェクトの規模拡大、IDA18 の 政策コミットメントなどに特に注力していく予定です。その一環として、資金拡大 に向けて民間資本を呼び込むため、新たに IDA 民間セクター・ウィンドウ(PSW) が設置されました。PSW の資金は、機能面に制約がある脆弱な環境下での民間投 資の促進や、世界銀行グループがより迅速かつ効率的で革新的な組織となるための 取組みに充てられます。 世界的な政情不安・経済政策の不確実性への対処 政治・経済をめぐる世界的な状況は、世界銀行グループの財務基盤に影響を及ぼ しかねない規模となっています。世界銀行グループでは、最高リスク管理責任者が こうした状況を監視し、財務面と業務面のリスクについてその概要を把握してい ます。2017 年度、世界経済は若干の回復が見られるものの極めて不安定な局面へ と進みました。先進国で続く経済の低迷、一次産品価格の下落による途上国への打撃、 新興の経済大国で進む企業のレバレッジ比率上昇と対外債務拡大などが重なり、 世界銀行の借入国における経済の基本要件は低下しています。 政治の不確実性は重要なリスクの 1 つとなっており、グローバルな経済活動は 徐々に回復するであろうとの前提が覆される可能性が大きくなっています。保護主 義の圧力が高まった場合も、同様に重大なリスクとなります。しかし、そうした圧 力が、いつ、どの程度、どのような形で具体的な施策に影響を及ぼすかは依然とし て不透明です。そして、実際にそうなった場合に最も深刻な打撃を受けるのは、数 多くの低所得国を含め、貿易依存度が高い国です。保護主義の高まりは、途上国に 対する外国直接投資の流れにも影響を与えかねません。 主要国の中央銀行が、ペースの差はあれ一様に金融正常化に向かう動きも不確実 性を招いています。インフレ率上昇や財政政策の展開に伴い市場金利予測が唐突に 修正されかねず、その結果、金利とリスク選好度の両方に影響が及ぶ恐れがあり ます。その影響は、経常収支不均衡の解消を間接投資に依存する国々にとって特に 深刻です。想定外の金融政策がとられた場合には、為替相場に一層の変動が生じか ねません。防衛手段を講じないまま多額の外貨建て借入れを抱えている企業部門 には、為替レートの急変動が大きな負担となる恐れがあります。また、一部の国で は多額の偶発債務がリスクや混乱の原因になると考えられます。 世界銀行の役割と原資 75 IBRD の年度別財務・貸出データ 表 19:IBRD の主要財務指標、2013~17 年度 単位:100 万ドル、ただし比率は% 指標 2013 年度 2014 年度 2015 年度 2016 年度 2017 年度 貸出の概要 承認額 a 15,249 18,604 23,528 29,729 22,611 実行総額 b 16,030 18,761 19,012 22,532 17,861 実行純額 b 6,552 8,948 9,999 13,197 8,731 報告ベース 損益計算書 総務会承認済みの移転・ その他の移転 (663) (676) (715) (705) (497) 純益/(純損) 218 (978) (786) 495 (237) 貸借対照表 総資産額 325,601 358,883 343,225 371,260 405,898 純投資ポートフォリオ 33,391 42,708 45,105 51,760 71,667 純貸出残高 141,692 151,978 155,040 167,643 177,422 借入ポートフォリオ 134,997 152,643 158,853 178,231 207,144 配分可能な利益 配分可能な利益 968 769 686 593 795 配分の内訳 : 一般準備金 c 147 0 36 96 672 国際開発協会 d 621 635 650 497 123 剰余金 200 134 0 0 0 自己資本 利用可能資本 e 39,711 40,467 40,195 39,424 41,720 資本貸出比率(%)f 26.8 25.7 25.1 22.7 22.8 注:年度別の全てのデータは、worldbank.org/financialresults に掲載の財務諸表を参照。 a.承認額は、保証承認額及び世界銀行理事会の承認した保証ファシリティを含む。 b.国際金融公社との取引及び融資手数料を含む。 2017 年 6 月 30 日の金額は 2017 年 8 月 3 日に理事会承認を受けた、2017 年度純利益から一般 c. 準備金への振替案を示している。 2017 年 8 月 3 日、理事会は国際復興開発銀行(IBRD)総務会に国際開発協会への 1 億 2,300 d. 万ドルの移転を提言した。 e.利用可能資本は利用可能払込資本と留保利益及び準備金で構成される。 貸出資本比率は自己資本比率を評価するために IBRD の利用可能資本を当期エクスポージャーと f. 比較したもの。現在の最小閾値は 20%。 表 20:IBRD の貸出総額、2013~17 年度 単位:100 万ドル 貸出 2013 年度 2014 年度 2015 年度 2016 年度 2017 年度 承認総額 15,249 18,604 23,528 29,729 22,611 76 世界銀行 年次報告 2017 表 21:IBRD のセクター別貸出、2013~17 年度 単位:100 万ドル セクター 2013 年度 2014 年度 2015 年度 2016 年度 2017 年度 農業・漁業・林業 886 829 843 561 754 教育 1,100 1,192 1,496 1,788 1,074 エネルギー・採掘産業 1,207 2,359 3,361 4,599 4,434 金融セクター 1,613 1,360 3,433 2,657 1,879 保健 698 793 893 1,181 1,189 産業・貿易・サービス 750 1,106 1,684 3,483 2,694 情報通信技術 102 262 90 194 503 行政 3,670 4,162 3,175 5,111 4,754 社会的保護 1,772 1,006 2,687 1,393 778 運輸 2,675 4,089 3,202 4,569 2,551 水・衛生・廃棄物処理 777 1,447 2,664 4,192 2,000 合計 15,249 18,604 23,528 29,729 22,611 注: 四捨五入のため、合計値が総計と異なる場合がある。世界銀行グループ内のデータ再編の一環 として、2017 年度から従来の分類法に代わる新たなセクター・カテゴリーが使われている。過 去の各年度のデータも新分類を反映して修正されており、過去の年次報告に記載の数値と合致 しない場合もある。変更に関する詳細は、projects.worldbank.org/sector を参照のこと。 表 22:IBRD のテーマ別貸出、2017 年度 単位:100 万ドル テーマ 2017 年度 経済政策 1,677 環境・天然資源管理 7,237 金融 3,330 人間開発・ジェンダー 2,687 民間セクター開発 5,741 公共セクター管理 3,516 社会開発・社会的保護 939 都市・農村開発 5,937 注: 世 界銀行グループ内のデータ再編の一環として、2017 年度から従来の分類法に代わる新たな テーマ・カテゴリーが使用されている。個々のプロジェクトへの貸出承認額が複数のテーマに わたる場合、テーマ別の数値の合計が当該年度の承認総額と一致しない事から合計値は出して いない。過去の各年度のテーマ別データは新たに集計されているが、新分類法に沿った修正は 加えられていない。直接比較する事はできないため、過去のデータはこの表に記載していない。 変更に関する詳細は、projects.worldbank.org/theme を参照のこと。 表 23:借入国上位 10 カ国、IBRD:2017 年度 単位:100 万ドル 国 承認額 国 承認額 中国 2,420 エジプト・アラブ共和国 1,500 インド 1,776 イラク 1,485 インドネシア 1,692 トルコ 1,083 コロンビア 1,687 ウクライナ 650 アルゼンチン 1,525 ルーマニア 625 注:複数の国を対象としたプロジェクトは、それぞれの当該国に計上。 IBRDの主要財務・貸出データ 77 IDA の年度別財務・融資データ 表 24:IDA の主要財務指標、2013~17 年度 単位:100 万ドル 指標 2013 年度 2014 年度 2015 年度 2016 年度 2017 年度 開発プロジェクト 融資・グラント・保証の 承認額 16,298 22,239 18,966 16,171 19,513a 融資・グラントの実行総額 11,228 13,432 12,905 13,191 12,718a 融資・グラントの実行純額 7,371 9,878 8,820 8,806 8,154 貸借対照表 総資産額 165,806 183,445 178,685 180,475 197,041 純投資額 27,487 28,300 28,418 29,908 29,673 純融資残高 121,157 132,010 126,760 132,825 138,351 借入金 0 0 2,150 2,906 3,660 未払グラント (「未実行グラント」) 6,436 6,983 6,637 6,099 6,583 純資本額 143,462 153,749 147,149 154,700 158,476 損益計算書 融資に係る受取利息 1,019 1,012 1,065 1,149 1,232 投資収益、純額 472 459 419 384 391 関連組織等からの資金移転 964 881 993 990 599 グラント(「開発グラント」) (2,380) (2,645) (2,319) (1,232) (2,577) 純益/(純損) (1,752) (1,612) (731) 371 (2,296) 活動報告書 資金源合計 13,590 12,812 15,469 13,834 13,171 資金使用合計 (11,215) (13,441) (12,941) (13,260) (12,800) 業務活動の結果 2,296 (741) 2,471 623 154 注:年度全体のデータは、worldbank.org/financialresults に掲載の財務諸表を参照のこと。 a.パンデミック緊急ファシリティ(PEF)のグラント 5 千万ドルの承認額・実行額を含む。 表 25:IDA の融資総額、2013~17 年度 単位:100 万ドル 融資 2013 年度 2014 年度 2015 年度 2016 年度 2017 年度 承認総額 16,298 22,239 18,966 16,171 19,513a a.パンデミック緊急ファシリティ(PEF)のグラント 5 千万ドルを含む。 78 世界銀行 年次報告 2017 表 26:IDA のセクター別融資、2013~17 年度 単位:100 万ドル セクター 2013 年度 2014 年度 2015 年度 2016 年度 2017 年度 a 農業・漁業・林業 1,358 2,382 2,525 1,849 2,025 教育 1,788 2,426 2,124 1,431 1,773 エネルギー・採掘産業 2,231 4,438 1,461 2,814 1,891 金融セクター 485 669 661 443 1,227 保健 1,710 758 2,197 1,191 1,246 産業・貿易・サービス 732 850 687 841 1,541 情報通信技術 209 266 265 78 519 行政 2,075 2,624 2,744 1,500 1,954 社会的保護 1,504 1,515 1,928 2,475 1,913 運輸 2,843 3,187 2,191 2,277 3,271 水・衛生・廃棄物処理 1,363 3,125 2,183 1,271 2,102 合計 16,298 22,239 18,966 16,171 19,463 注: 四捨五入のため、合計値が総計と異なる場合がある。世界銀行グループ内のデータ再編の一環 として、2017 年度から従来の分類法に代わる新たなセクター・カテゴリーが使われている。過 去の各年度のデータも新分類を反映して修正されており、過去の年次報告に記載の数値と合致 しない場合もある。変更に関する詳細は、projects.worldbank.org/sector を参照のこと。 2017 年度の IDA のセクター別内訳は、パンデミック緊急ファシリティ(PEF)のグラント 5 千 a. 万ドルを含まない。 表 27:IDA のテーマ別融資、2017 年度 単位:100 万ドル テーマ 2017 年度 a 経済政策 1,791 環境・天然資源管理 5,776 金融 1,507 人間開発・ジェンダー 6,471 民間セクター開発 4,837 公共セクター管理 1,936 社会開発・社会的保護 2,544 都市・農村開発 8,352 注: 世 界銀行グループ内のデータ再編の一環として、2017 年度から従来の分類法に代わる新たな テーマ・カテゴリーが使用されている。個々のプロジェクトへの融資承認額が複数のテーマに わたる場合、テーマ別の数値の合計が当該年度の承認総額と一致しない事から合計値は出して いない。過去の各年度のテーマ別データは新たに集計されているが、新分類法に沿った修正は 加えられていない。直接比較する事はできないため、過去のデータはこの表に記載していない。 変更に関する詳細は、projects.worldbank.org/theme を参照のこと。 2017 年度の IDA のテーマ別内訳は、パンデミック緊急ファシリティ(PEF)のグラント 5 千万 a. ドルを含まない。 表 28:借入国上位 10 カ国、IDA:2017 年度 単位:100 万ドル 国 承認額 国 承認額 ナイジェリア 1,601 ケニア 900 ベトナム 1,512 イエメン共和国 783 タンザニア 1,205 パキスタン 736 バングラデシュ 1,152 コートジボワール 710 エチオピア 903 ネパール 640 注:複数の国を対象としたプロジェクトは、それぞれの当該国に計上。 IDAの主要財務・融資データ 79 成果重視 世界銀行は、官民両セクターと協力し、融資や知識共有を通じて援助受入国における持 続可能な開発を促進しています。各国の開発課題への取組みを総合的な解決策を用いて支 援するためには、成果の重視が不可欠です。近年、世界銀行は、援助受入国における開発 成果に様々な形で大きく貢献しています。地図には各加盟国の現在の融資適格性を示して います。詳細は以下のリンクをご参照ください。worldbank.org/results 1 アフガニスタン:2010 年以降、694 の 9 中国:2008~14 年、47 万世帯の台所、 村の貧困層6 万 700 人(内、52%が女性) トイレ、豚小屋の改善とバイオ浄化槽の が加入する約 5,500 の貯蓄グループで 新設により、住民の健康と生活の質を 加入者貯蓄 470 万ドル超の達成を支援。 向上。 2 アルゼンチン:2005~15 年、ブエノス 10 コートジボワール:2012~15 年、青少 アイレス州の最貧困地区で 8 万 5,700 人 年がより良い機会を得られるようにする に 上 水 道、22 万 9 千 人 に 下 水 道 へ の 雇用創出・技能研修プログラムに約 2 万 アクセスを提供。 7,500 人が参加。 3 アルメニア:税務行政の効率化により、 11 コンゴ民主共和国:2008~16 年、総延 税 金 徴 収 額 の 対 GDP 比 が 2012 年 の 長 1,600km 超の主要道路を修復し、20 16.3%から現在は 20%に上昇。 年以上孤立していた町やコミュニティへ のアクセスを確保。 4 バングラデシュ:2012~16 年、僻地に ある合計 390 万世帯及び農村部の商店 12 ドミニカ共和国:極度の貧困世帯の内、 を対象に家庭用太陽光発電システムを 世帯主が身分証明書類を持たない世帯の 整備。 割 合 が 2005 年 の 28% か ら 2016 年 は 7%に低下。 5 ボ ス ニ ア・ ヘ ル ツ ェ ゴ ビ ナ:2014 年 以降、洪水被災地の 51 万人に緊急物資 13 エジプト・アラブ共和国:2015 年以降、 を提供し地域・地方レベルでインフラを 現金給付プログラム「タカフル」及び 復旧。 「カラマ」により150 万以上の世帯を支援 (プログラム登録者の 90%は女性)。 6 ブラジル:特に貧しいバイア州で、虐待 や暴力の被害女性を支援する相談セン 14 エチオピア:2008~13 年、45 地区で ターを備えた自治体数が 2011 年の 13 農業生産性が平均 10%上昇し、主要作 から 2015 年は 27 に倍増。 物の収量が増加。 7 カメルーン:4 地域の医療施設での介助 15 ハイチ:2009~15 年、緊急措置として 分娩の比率が 2012 年の 43%から 2015 10 カ所に橋を設置、破損した橋と道路 年は 63%に上昇。 20 カ所を修繕する事で、200 万人に年 間を通じ安定した道路アクセスを確保。 8 中央アフリカ共和国:2014~16 年、緊 急食糧危機支援により 72 万人以上に生 活支援を提供すると共に農家 14 万戸の 作物生産量が増加。 80 世界銀行 年次報告 2017 IBRD/IDAプロジェクト実行中の国 ロシア連邦 IBRD/IDAプロジェクト実行中の国、 支援対象でない国、データの未整備 ロシア連邦 ベラルーシ ポーランド ウクラ 21 イナ カザフスタン な国 モルドバ モンゴル ルーマニアジョー 3 注:2017年6月30日現在のIBRD/IDA 5 ブルガリア ジア ウズベキスタン キルギス共和国 アルメニア アゼルバイジャンタジキスタン 9 の実行中プロジェク トのデータ トルコ シリア・ 27 中国 22 チュニジア アフガニスタン レバノン アラブ共和国 モロッコ ヨルダン川西岸 ・ガザ地区 ヨルダン 1 ブータン イラク エジプト ・ パキスタン ネパール 15 アラブ 13 16 20 共和国 バングラデシュ 18 メキシコ ハイチ 12 ミャンマー ジャマイカ カーボ モーリタニア インド 29 ベリーズ ヴェルデ チャド 4 23 グアテマラ ホンジュラス マリ ニジェール イエメン セネガル 共和国 ラオス人民民主共和国 ベトナム エルサルバドル ニカラグア ガンビア ブルキナ 8 マーシャル諸島 カンボジア フィリピン ミクロネシア連邦 コスタリカ ギニアビサウ ファソ ナイジェ 7 14 ジブチ 24 ガイアナ コート 中央 シエラレオネ ジボワール リア 南 スリランカ パナマ アフリカ スーダン エチオピア コロンビア リベリア カメルーン 共和国 ガーナ 17 28 モルディブ ウガンダ 10 トーゴ ガボン キリバス エクアドル べナン ルワンダ ケニア 25 コンゴ セーシェル サントメ ・プリンシペ 共和国 コンゴ ブルンジ パプア ソロモン キリバス 民主共和国 インドネシア 6 タンザニア コモロ ニュー 諸島 ペルー 11 ギニア ツバル ブラジル 東ティモール アンゴラ 26 ザンビア マラウイ サモア 30 19 ボリビア マダガスカル バヌアツ フィジー トンガ ボツワナ モザンビーク パラグアイ ウクライナ ルーマニア ブルガリア ドミニカ共和国 スワジランド ポーランド アンティグア・ レソト バーブーダ 南 アフリカ チリ 2 ウルグアイ 12 アルゼンチン ドミニカ国 クロアチア 5 セルビア ボスニア・ セントビンセントおよび ヘルツェゴビナ コソボ グレナディーン諸島 モンテネグロ グレナダ アルバニア マケドニア 旧ユーゴスラビア共和国 16 ヨルダン:2012~16 年、民間の中小零細 20 メキシコ:2012 年、約 800 万世帯が白熱 24 ニカラグア:自治体による保健ネットワーク 28 タンザニア: タンザニア国内へのインター 企業に 7,600 人以上の雇用を創出。 電灯を省エネ型の小型蛍光灯 4,580 万個に で5価ワクチン接種を受けた1歳未満児 ネット帯域幅が 2008 年から 1,300 倍以上 交換。 の割合が、2009 年の 88%から 2016 年は に拡大。インターネット普及率は 2008 年 17 ケニア:2015年現在、国家セーフティネット・ 100%に上昇。 の 1%未満から現在は 34%に到達。 プログラムによる現金給付の受給者数が 21 モルドバ:2011~16 年、約 3 千ヘクタール 2013 年の 170 万人から 260 万人に増加。 の圃場灌漑施設を修復し、農民 3 万 8 千人 25 パプアニューギニア:2011 年以降、短期 29 ベトナム: 全日制の就学前教育を受けた 5 に灌漑に関する教育を実施。 雇用・技能研修プログラムに 1 万 5 千人以 歳児の割合が 2011 年の 66%から 2016 年 18 ラオス人民民主共和国:2011~15 年、農 上の若者(内、40%が女性)が参加。 は 84%に上昇。 村部の貧困層約 78 万人に保健・栄養・人 22 モロッコ: 総延長 1 万 3,500km 以上の農 口の基礎的サービスを提供。 村部道路が整備され、取り残された地域の 26 ペルー: 全国の無料法律扶助センターの数 30 ザ ン ビ ア:2006~14 年、 合 計 12 万 8 千 農 村 部 ア ク セ ス が 2005 年 の 54% か ら が 2011年の 25 カ所から 2016 年は 49 カ所 の自作農家(内、48%は女性が世帯主)で 19 マダガスカル:2012~16 年、学齢期の児 2015 年は 79%に上昇。 に増加した結果、司法アクセスが拡大。 農業所得が 300%以上増加。 童約 180 万人を対象に、「顧みられない熱 帯病」の対策として駆虫・予防治療を実施 23 ミャンマー: 学生給付金プログラムの受給 27 タジキスタン:2013 年以降、障害児のため した結果、出席率の上昇を教師が確認。 者が 2014~15 年の 3 万 7 千人から 2016~ のアクセス向上を含む、40 校以上の建設・ 17 年は 15 万人以上に増加。 改修の結果、整備された教室で 1 万人以上 の児童が学習。 世界銀行年次報告 2017 財務諸表 IBRD と IDA のマネジメントによる議論及び分析、ならびに監査済 み財務諸表(以下、 「財務諸表」 )は、本年次報告の一部を成すと見なされます。 財務諸表は以下のリンクをご参照ください。 worldbank.org/financialresults IBRD とIDA の財務、融資、組織に関する詳細情報は、以下の世界銀行年次報告 2017 のリンクをご参照ください。 worldbank.org/annualreport 「世界銀行年次報告 2017」は Jeremy Hillman 以下、広報部門対外関係担当が製作し、Daniel Nikolits が編集 を調整し、Marjorie Bennington、Denise Bergeron、Nicole Frost、Susan Graham、Paul McClure、 Christine Montgomery、Peggy Nasir、Flora Rezaei Mood、Janet Sasser、Maria Velez らも重要な貢献 をしました。Web デザイン:Chuck Rose、印刷デザイン:Naylor Design, Inc.、組版:BMWW 表 紙:Sarah Farhat/ 世 界 銀 行、p.3:Dominic Chavez/ 世 界 銀 行、pp.8-9:Grant Ellis/ 世 界 銀 行、 p.13:Grant Ellis/ 世 界 銀 行、pp.14-15:Resolution Studios/ 世 界 銀 行、p.16:Chhor Sokunthea/ 世 界 銀 行、p.21:Drik/ 世 界 銀 行、p.26:Nico Muñoz/ 世 界 銀 行、p.38:Diana Styvanley/ 世 界 銀 行、 p.42:Chris Stowers(Matahati)/ 世界銀行、p.46:Sergei Torbik/ 世界銀行、p.50:Matiere/Eccomar/ 世界銀行、p.54:Dominic Chavez/ 世界銀行、p.58:Dominic Chavez/ 世界銀行 © 2017 International Bank for Reconstruction 表示— 本書は次のように表示してください。World and Development / The World Bank Bank. 2017. World Bank Annual Report 2017. 1818 H Street NW, Washington, DC 20433 Washington, DC: World Bank. doi: 10.1596/978- Telephone: 202-473-1000 1-4648-1128-9. License: Creative Commons Internet: www.worldbank.org Attribution–NonCommercial– NoDerivatives 3.0 IGO(CC BY-NC-ND 3.0 IGO) . 一部不許複製 非営利—本書を営利目的で利用する事はできません。 1 2 3 4 20 19 18 17 改変禁止—本書を変更・改変・増補する事はできません。 本報告は世界銀行職員により作成されたものです。 本書中の地図に示されている国境、色、名称などは、 第三者のコンテンツ—世界銀行は必ずしも本書のコン それぞれの地域の法的地位に対する世界銀行の意見や、 テンツの各要素に対する所有権を保有してはいない こうした国境線への支持或いは承認を示すものではあ ため、本書の内容の内、第三者が所有する個々の要素 りません。 又は部分を使用しても第三者の権利を侵害する事には 本報告に含まれるいかなる部分も、世界銀行の特権 ならないと保証するものではありません。もしそうし 及び免責についての制限又は放棄となるものではなく、 た侵害に対して申し立てが起きた場合、全責任を負う そのように解釈されるべきものでもありません。全て のは使用者となります。本書の要素の再利用を希望す の特権及び免責はここに明確に留保されます。 る場合、そうした再利用に対する許可取得の必要性の 有無の判断、及び著作権者からの許可取得は、再利用 権利と許可 者の責任において行うものとします。要素の例として 本書は、クリエイティブ・コモンズ は図表や画像が挙げられますが、これに限定されるも 表示 - 非営利 - 改変禁止 3.0 政府間組 のではありません。 織向けライセンス(CC BY-NC-ND 権利及びライセンスに関するお問い合わせは下記にお送 3.0 IGO)http://creativecommons.org/licenses/ りください。The Publishing and Knowledge Division, by-nc-nd/3.0/igo/deed.ja でご利用いただけます。 The World Bank, 1818 H Street NW, Washington, クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止ライ DC 20433, USA; Eメールpubrights@worldbank.org センスに基づき、利用者は本書を下記の条件にて、非 営利目的でのみ複製・配布・伝送する事ができます。 ISBN: 978-1-4648-1128-9 eISBN: 978-1-4648-1135-7 doi: 10.1596/978-1-4648-1128-9 近年の世界銀行プロジェクトによる支援 包摂的で持続可能な経済成長の加速 1,100 万の個人及び中小零細企業に金融サービスへのアクセスを提供 300 万ヘクタールの土地で灌漑サービスを整備 9 万 500km の道路を建設・修復 5 千メガワットの従来型発電設備と 2,400 メガワットの再生可能エネルギー発電設備を建設・修復 人への投資による人的資本構築を通じた生産性向上 900 万人の教員の雇用創出と研修の実施 3 億 1 千万人への基礎的な保健・栄養・人口サービスの提供 4,900 万人によりきれいな水を提供 1,700 万人に改善された衛生設備を提供 グローバルなショックや脅威に対する強靱性の強化 3,900 万人に社会的セーフティネットを提供 CO2 換算で年間 4,400 万トンの排出量を気候変動対策の強化により削減 35 カ国に防災の制度化を国の重点課題とするための支援を提供 世界銀行は、国際復興開発銀行(IBRD)及び国際開発協会(IDA)で構成され ており、極度の貧困の撲滅及び繁栄の共有の促進を持続可能な形で実現する事 を使命としています。他に類を見ない世界的な規模での活動、 そしてパートナー との連携による長期的な取組みを通じて、資金、知識、動員力を提供する事で、 援助受入国が開発の重点課題に取り組めるよう支援しています。上記は、援助受 入国が 2014~16 年に世界銀行プロジェクトを通じて達成した成果の一部です。 worldbank.org/annualreport 世界銀行 SKU 211128 世界銀行グループ