農業グローバル ・プラクティス 94895 ディスカッション・ペーパー 03 農業における投資契約: 世界銀行 利益の最大化とリスクの最小化のために 世界銀行グループ 世界銀行グループ報告書番号 94895-GLB 2015 年 6 月 農業グローバル・プラクティス ディスカッション・ペーパー 03 農業における投資契約: 利益の最大化とリスクの 最小化のために 世界銀行 世界銀行グループ © 2015 World Bank Group 1818 H Street NW Washington, DC 20433 Telephone: 202-473-1000 Internet: www.worldbank .org Email: feedback@worldbank .org All rights reserved This volume is a product of the staff of the World Bank Group. The findings, interpretations, and conclusions expressed in this volume do not necessarily reflect the views of the Executive Directors of World Bank Group or the governments they represent . The World Bank Group does not guarantee the accuracy of the data included in this work . The boundaries, colors, denominations, and other information shown on any map in this work do not imply any judgment on the part of World Bank Group concerning the legal status of any territory or the endorsement or acceptance of such boundaries. 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Investment Contracts for Agriculture: Maximizing Gains and Minimizing Risks. Washington, D.C.: World Bank Group; New York: United Nations; and Winnipeg: International Institute for Sustainable Development (IISD). 目次 謝辞 v 略語一覧 vii 第 1 章:序説1 第 2 章:責任ある農業投資の促進における契約の役割3 第 3 章:契約プロセスにおける 3 つの主要段階5 第 4 章:農地投資による上位 5 つのプラス効果7 雇用創出(1)7 地元農家のプロジェクトへの組み入れ(2)9 市場における機会の拡大(3)10 コミュニティ開発プログラムの確立(4)11 所得向上による食糧安全保障の改善(5)12 第 5 章:農地投資による上位 5 つの悪影響15 土地喪失とずさんな再定住計画(1)15 地元コミュニティとの率直な関わりの欠如(2)17 不十分な商業的可能性の評価(3)17 粗雑な環境・社会影響管理(4)19 不十分な苦情処理メカニズム(5)20 第 6 章:結論23 参考文献 27 ボックス ボックス 4.1: パーム油農園における訓練・技能育成プログラムの例8 ボックス 4. 2: 契約栽培スキームを契約に盛り込んだゴム園の例10 ボックス 4.3: 中央アフリカの樹木農場を対象としたコミュニティ開発合意書の例12 ボックス 5.1: 協議を通じた用地取得プロセス16 ボックス 5.2: フィージビリティ・スタディに含めるべき項目18 ボックス 5.3: 環境・社会管理計画に含めるべき項目20 図 図 3.1: 契約プロセスの段階と主な課題6 表 表 6.1: 契約プロセスを通じて農業投資の主なプラス効果を最大化するための方策24 表 6.2: 契約プロセスを通じて農業投資の主な負の影響を最小化するための方策25 利益の最大化とリスクの最小化のために iii 謝辞 本 書 は、James Zhan(UNCTAD)、Scott Vaughan(IISD)、 お よび Mark Cackler (世界銀行)の各氏からの全体的な指導の下で、Hafiz Mirza、Nathalie Bernasconi- Osterwalder、Grahame Dixie の協力により、Carin Smaller および William Speller に より執筆された。 また、Richard Bolwijn、Mark A. Constantine、Axèle Giroud、Jonathan Mills Lindsay、 Jorge A . Munoz、Asuka Okumura、Elisabeth Tuerk の各氏からはピアレビューと貴重 な知見をご提供いただいた。 本書は、UNCTAD と世界銀行、ならびに IISD による背景調査に基づいたものである。 これらの調査では、多くのコミュニティ、企業、政府、市民社会団体などに貴重な時間 を割いていただいた。以下に含まれる知見は、こうした貢献がなければ決して実現しな  かったであろう。 世界銀行、UNCTAD、および IISD はまた、本書の作成にあたり資金をご提供いただ いた日本国政府とスイス開発協力庁に対し深い謝意を表する。 利益の最大化とリスクの最小化のために v 略語一覧 CFS 国連世界食糧安全保障委員会 IISD 持続可能な開発に関する国際研究所 ESIA 環境・社会影響評価 OECD 経済協力開発機構 FAO 国連食糧農業機関 PRAI 責任ある農業投資原則 IFAD 国際農業開発基金 UNCTAD 国連貿易開発会議 IFC 国際金融公社 利益の最大化とリスクの最小化のために vii 第1章 序説 途上国の農業に対する内外の民間投資は、ここ 20 年近くの間、増大してきた。本書は、 2008 年の食糧危機をきっかけに、途上国で急増中の農地リース契約を用いた大規模な 農業プロジェクトに重点的に取り組んでいる。このような投資は長期的に持続可能なう え、リスクや負の影響を最小限に抑えた上で短期的にも有益であることが重要といえる。  本書は、これを実現するための一策として、周到に設計された契約を投資家と結ぶこと について検討し、その中で多数の具体的なソリューションを提供している。 本書は、持続可能な開発に資する形で投資契約を作成できることを示すために、2 つの 大掛かりな研究調査を統合したものである。本書はまず、大規模な農業プロジェクトへの 民間セクター投資がもたらす上位 5 つのプラスの成果と 5 つのマイナスの結果を提示し ている。これらの結果は、国連貿易開発会議(UNCTAD)と世界銀行が大規模農業プ ロジェクトを視察した後に収集した経験的証拠から導き出されたものである(UNCTAD and World Bank 2014)。その上で、本書は、投資家と政府の間でより適切な農地リー ス契約 1 を作成できるよう、主なプラスの成果を最大限に取り入れ、マイナスの結果を 最小限に抑えるための法的選択肢を提言している。この作業は、モデル契約を含め、  80 件近くの契約を調査し、農地と水をめぐる契約の交渉についての指針を作成した  」によって進められた(Smaller 2014a) 「持続可能な開発に関する国際研究所(IISD) 。 投資契約は数多くのツールの中の一手段であり、より幅広い意思決定プロセスの一環で ある。それには、投資プロセスの様々な段階が含まれており、適切な手順を踏み、優先 課題を決定し、経済的背景を正しく理解することが肝要となる。これを正しく遂行するこ とは、単に投資の成功だけでなく、政府や地域社会、投資家に対し、契約が持続可能 で前向きな成果をもたらすのにどの程度貢献できるかを決定する決め手となり得る。と 「持続可能な開発に向けた投資政策 りわけ、投資を持続可能な開発に結び付けるには、 この場合、 1 たいていの契約は国家政府と投資家の間で結ばれるが、各国の政治構造や土地保有制度によっては、地方政 府、地域リーダー、慣習的土地所有者といった別の当事者と投資家の間で結ばれることもある。従って、当事者がどのよう な形態をとるかは、各契約の異なる状況に合わせる必要がある。 利益の最大化とリスクの最小化のために 1 枠組み(IPFSD)」などの主要原則に忠実に従う必要があ  会につなげるための手助けを政府や投資家、コミュニティ り、依って契約の各規定はよく熟考した上で作成されなけ に提供しようとしている。例えば、 (FAO) 国連食糧農業機関 ればならない(UNCTAD 2012) 。 と、国際農業開発基金(IFAD)、UNCTAD、世界銀行の 4 機関が作成した「責任ある農業投資原則(PRAI)」は、 同様に、特に大規模な農地リース契約は、とかく農業投 本書中の UNCTAD と世界銀行による政策研究や 4 機関 資の中心に位置づけられてはいるものの、このような投資 によって進められた他の業務の指針となってきた。さらに の唯一の選択 肢ではない。農地投 資に比べ、利潤が高 「農業と食糧システムの責任ある投資のための原 最近では、 く、社会的・政治的にも受け入れ易い農業モデルやビジネ (10 項目)が国連世界食糧安全保障委員会 則」 (CFS)の スモデルは幅広く存在する(IFAD and Technoserve 2011; 採択を受けた。CFS は食糧安全保障に関する政策の審査 UNCTAD 2009)。そうしたモデルは、代案とみなすか、 と追跡に携わる国連有数のフォーラムである。最近の他の あるいは政府と投資家が地域社会と連携しながら農地投 イニシアティブとしては、アフリカ連合の「アフリカにおける 資と併用すべきものである。合弁事業、農民所有の共同組 「農業サプ 大規模土地投資に関する指導原則」をはじめ、 2 「契約栽培スキーム 」 と呼 合やビジネス、運用管理契約、 ライチェーンにおける責任ある企業行動規範」に関する指 ばれる契約農業、収益共有取決めなどは、どれも農民が  導を民間セクターに行うために経済協力開発機構(OECD) 土地や水資源の所有権を堅持しながら収入を確保できるも と FAO が展開した業務など多数が挙げられる(Smaller のだ。 2014b)。 地元コミュニティは、投資プロセスの全段階、つまり交渉前、 本書は、実務的指導を通じて責任ある農業投資慣行を業務 交渉中、そしてプロジェクトの実施期間を通じて決定的な の中に組み入れることを目指す「機関間ワーキンググループ 役割を果たす。投資プロジェクトの長期的な成功はひとえ (IAWG)(UNCTAD、世界銀行、 」 FAO、IFAD で構成) に地元コミュニティが取引条件を受諾しているかどうかにか によって推進されているプログラム的アプローチの一要素と かっている。その成功は、契約の交渉だけでなく、地元住 なっている。IAWG は、責任ある企業原則と慣行を投資の 民の利益が終始、慎重に配慮されているという住民の感情 開始当初から業務に取り入れるため、アフリカで投資を始 と密接に結びついている。コミュニティの要望・利益が受 めたばかりの 12 ~ 16 社を対象に、実地調査の新段階に着 入国政府や投資家のそれと必ずしも一致しない点を踏まえ 手した。これには、責任ある企業慣行を農業で徹底させる ると、このことは特に重要となる。 ためのグッドプラクティスの確立、他の投資家に対するデモ ンストレーション効果の提供、将来、他の投資家が投資の 本書は、責任ある農業投資をめぐる行動の国際基準や指針 初期段階から利用できるような具体的ツールの開拓などが 作りに貢献して、投資家の関心を農村開発や貧困削減の機 含まれる。 2  契約栽培スキーム(別称「契約栽培農業」:Outgrower scheme) 「農家 とは、 または土地所有者と、商業用農産物の生産に携わる企業とのパートナーシップ契 約」を指す(Mead 2001, 7)。 2 農業における投資契約 第2章 責任ある農業投資の促進における契約の役割 農業の海外投資にかかる重要な法規としては、国内法、契約、投資協定の 3 分野が挙 げられる。そのうち海外投資がプラスの成果を達成できることを何よりも確約してくれる のは、適切に執行されている国内法の堅固な基盤だといえよう。例えば、土地や水など の自然資源に対する権利が国内法の中に明示され認識されている場所では、これらの資 源を投資家に配分する方法をめぐり、権利保有者に発言権が与えられている。国内法は また、設備の輸入や完成品の輸出に関する税関手続き、税金、化学品・肥料の使用許可、 雇用など投資に関連した他の諸課題についても規定している。 とはいえ、多数の途上国では、投資に必要な国内法が確立されていないか、十分に整備 されていない上、たとえ確立されていても実施・執行されていないのが現状である。例え ば、環境・社会影響評価(ESIA)に関する国内法は、ほとんどの国に存在するものの、 未実施であるか、形式だけにとらわれて実質がおろそかになっているかのいずれかである (Deininger and Byerlee 2011; UNCTAD and World Bank 2014)。理想的には、国内 法は、農業投資で発生し得るすべての課題に対処できるようになるべきだが、現在のとこ ろ、多数の国では、契約が重要な法的ツールであると期待して、農地リース契約の交渉 を政府が投資家と行っている場合が多い。 二つ目の法律分野は、政府と投資家の間で交わされる契約である。これは、別名「受入 国政府契約(HGA)」とも呼ばれる。契約は、含めるべき評価内容など一段と詳しい指 針を提供したり、国際基準やベストプラクティスを参照したりするなど、国内法で規定さ れていない部分を埋めるのに役立つ。とはいえ、契約は、利益を最大化しリスクを緩和 するために周到に作成されなければならない。これには、権利と義務の明確な定義、利 益共有取決め、不測の事態に備えた対応計画、当事者の義務不履行に対する措置など が含まれる。投資契約の草案作成における重要な課題の一つは、現行国内法との調和を 図ることだ。契約は、国内法を回避したり、ないがしろにしたり、あるいは新法律策定 の妨げとなったりする手段となるべきではない。しかし、いかに周到に作成された契約で 利益の最大化とリスクの最小化のために 3 も、取決めが究極的に成功するかどうかは、特に信頼など (UNCTAD 2014, UNCTAD IIA Database)。条約に定 全当事者間の人間関係にかかっている点を認識する必要が められた権利は、国内法と契約の両方に優先する。ここで ある。 重要なのは、それらが国際仲裁裁判所で訴訟を起こすプロ セスを提供し、それを通じて、投資家の権利を執行できる 主に途上国との投資契約に多く見られる「安定化」条項は 大きな論点となっている。この規定は、契約締結の時点で ことだ。今日にいたるまで、投資家が当該国政府を相手取っ 国内法を凍結するもので、投資家は、それ以降に制定され て訴訟を起こした件数は 600 件近くに達する(UNCTAD た新法律の適用を免れるか、あるいは新法律がコスト増大 2014)。ただし、契約下で発生した争いを訴える場所は、 や利益低下を招く場合にはその補償を要求できるものだ。 国際仲裁裁判所よりも国内裁判所の方が望ましい。投資協 これには、例えば、農薬・肥料の流出から環境を保護す 定は、国内の法律や法廷を回避するための手段となるべき るための新対策の策定、化学品の使用禁止、最低賃金の ではない。かかる協定は、投資プロセスにおいては最低限 引き上げなどが含まれることがある。また安定化条項があ  の役割を果たすだけにとどめ、基本的には、例えば、適正 るために、国際仲裁裁判所を通じて訴訟を起こされる懸念 から、受入国政府が新立法の制定を思いとどまる可能性も な報酬を支払わずに政府が投資家の土地を収用するような ある。 法外な違反に対処すべきものである。 そのため、あらゆる分野の政府規制を網羅した広域な安定 適切な契約の設計や交渉は、受入国政府、投資家、コミュ 化条項は現在、概ね不適切とみなされている。ただし、受 ニティの間で円滑な関係を築く際の出発点に過ぎない。こ 入国政府による任意の行動や差別的行動から投資家を守 の中で交わされた約束を、投資家が必ず履行し、政府が必 るため、主に税金など特定の財務上の課題については、安 ず執行するという保証はどこにもない。さらに、国内法の 定化条項の限定的適用がなおも支持されている場合がある 執行力が微弱な場合と同様、とかく途上国のように能力に (International Bar Association 2011) 。 限りがある場合は、契約中の約束や義務を遂行させること は非常に難しく、長期的には至難の業といってよい。従って、 農 業 投 資に重要な第 3 の法 律分 野は投 資 協定 である。 各国政府は、農業投資の監視や約束の遂行に要する時間と これは、一国が 他国に投 資する際に、国際法下で投 資 コストを過小評価すべきではない。また、コミュニティや市 家 を 保 護 するた め の 二 国 間 協 定 を 指 す(Bernasconi- 「監視役」 民社会団体は として重要な役割を果たしうるため、 Osterwalder and others 2011)。 現 在、 こうした 二 国 間 政府や投資家は、情報公開やオープンな意思伝達路を通 投 資 協定や自由 貿協定中の投 資 条項は 3000 件を超す じてそれらを支援する必要がある。 4 農業における投資契約 第3章 契約プロセスにおける 3 つの主要段階 (2)契約の交渉、 (1)契約の交渉準備、 契約プロセスには、 (3)契約の監視と執行とい う 3 つの主な段階がある。図 3.1 には、各段階で対応すべき主な課題の概略が掲載され ている。これらの課題は本書の第 4 章と第 5 章の各項でさらに詳しく検討されている。 交渉の準備段階では、土地・土壌・水の利用可能性と持続可能性の適正な評価、予定 地内や周辺にあるコミュニティの有意義な形での参加配慮、フィージビリティ・スタディ と事業計画の策定準備、受入国政府による投資企業の予備選定や事前審査が必要と  なる。 契約の交渉には、投資家と政府の権利および義務の定義、国内法の適用性に関する記 述(これには、失敗・不履行が生じたときの譲渡規定や契約終了規定も含まれる)、契約 条件と規定の作成時における地元住民との話合い、公開する投資情報の定義などが含ま れる。 契約の監視と執行は、受入国の資源や能力が限られているため、政府にとって最も困難 な段階だといえる。UNCTAD/世界銀行の調査によると、受入国政府の監視能力は脆 弱で、特に土地配分が急速に進められた場合はなおさらだと述べている。政府関係者に よる視察と報告は、社会経済的影響や環境への影響の監視よりも生産性の課題に重点 が置かれているきらいがある。 契約中に報告上の要件や指標を明記しておくと、投資家が地元コミュニティに対する義 務や約束を果たしているかどうかを政府とコミュニティが定期的に追跡することができ る。プロジェクトの収益の何パーセントかを実施時の問題への対応向けとして確保してお けば、政府がプロジェクトの監視と評価を効果的に進めるのに有用となる。透明性は、 契約当事者に課された義務の履行・監視プロセスの重要な一部となっている。プロジェ クトが透明であれば、現地での実際の投資状況や契約中の約束の遵守状況を地元コミュ ニティや市民社会団体が監視することが可能となる。 利益の最大化とリスクの最小化のために 5 図 3.1:契約プロセスの段階と主な課題 • 優先するビジネスモデル、投資家の種類、農産物などの検討 • 対象となる投資家の、受入国における国家計画や農業開発計画への適合性の検討 • 現在の土地利用者と水利用者の詳細にわたる判別と確認 • 地元コミュニティとの十分かつ透明な形での話合い • 事業のフィージビリティ・スタディの実施とその結果に基づいた事業計画の策定 契約の • 投資家の技術力と財務力に基づく選定 • 環境・社会影響評価の実施とその結果の管理計画への組み入れ 交渉準備 • 土地へのアクセスと投資実施のプロセスにおける透明性の確保 • 労働、保健、安全性、環境などの国内法の適用性の明示 • 地図などを用いたプロジェクト予定地の利用とアクセスに関する投資家の権利の定義 • フィージビリティ・スタディ、事業計画、影響評価、管理計画の実施にかかる法的拘束力の     ある約束と各作業における節目設定を契約の中に含める • 必要に応じ、雇用創出、トレーニング、契約栽培スキーム、技術移転、加工施設、現地財・     サービスの購入、農産物の販売先などに関する目標・要件を盛り込む 契約の作成 • 当事者間で合意に達した地域開発プログラムの実施の約束を盛り込む • 苦情処理メカニズムや、争いが起きた場合の決済に関する規定を盛り込む • 契約不履行に対処するための譲渡規定や契約終了規定を盛り込む • 公開する情報の定義 • 国内法の遵守状況の監視 • 契約に従って投資家が土地・水などの資源を利用しているかどうかの監視 • 事業計画、環境社会管理計画の報告と監視、ならびに重要な変更に関する同意 • 他の約束や目標の遵守状況に関する報告と監視 • 地元住民、投資家、政府の間の継続的対話と住民による苦情の申し出先の確保 監視と執行 • 国内法違反や重大な契約違反に対する制裁の実施 • 契約不履行・失敗など不測事態が生じた場合の対応計画の適用 出処:Smaller 2014a 6 農業における投資契約 第4章 農地投資による上位 5 つのプラス効果 UNCTAD と世界銀行は、サブサハラ・アフリカと東南アジアで進められた 39 件の 成熟期にある大型アグリビジネス投資についての実地調査を行った(UNCTAD and World Bank 2014) 。その調査結果によると、一部の投資は、受入国と地元コミュニティ に対し雇用創出を中心としたプラスの成果をもたらしたことが判明した。ただし、こうし た成果は自動的に達成されたわけでも、保証されていたわけでもない。いくつかの投資  は、特に土地をめぐる権利の面で、多大な悪影響を及ぼした。ちなみに、投資の大半は、 プラスとマイナスの結果が混在したものだった。 本項では、UNCTAD/世界銀行の調査で明らかとなった主なプラスの成果について概説 し、契約の規定を用いてそれらをさらに強化するための方法、言うなれば、投資家の約 束を現実のものとする方法を示している。ここに掲載された法的選択肢は、契約のブルー プリントを示すのではなく、むしろ政府や投資家、コミュニティの「希望項目リスト」を 作成して、交渉の際に合意を得るための項目だといえる。このリストの内容は、プロジェ クトごとに異なり、プロジェクトの規模や性質、当該国内の司法制度、各国のニーズや現 実などによって左右される。地域住民との協議は、現地のニーズや優先課題と合致した リストの策定にあたり、住民の発言に耳をかす上で不可欠となる。 雇用創出(1) 良い成果 1:雇用創出 • 雇用創出は非常に重要な利点であり、従業員とその家族に対し、住宅、教育、医療手当 の提供が可能になる。 • 労働環境の整備、女性の労働市場への組み入れ、労働者の技能構築、上級職への現地 人の登用促進などについては、さらなる対応が必要。 法的選択肢: • 契約の交渉準備を進める際に、女性の雇用を重視するプロジェクトを優先させる。 • 保健・安全性、児童労働・強制労働に関する条約など、労働に関わる国内法と国際法を 参照する。 • 現地採用、上級職に就く現地人の割合、労働者の訓練など、具体的な目標や要件を含 めた雇用規定を盛り込む。 利益の最大化とリスクの最小化のために 7 UNCTAD/世界銀行の調査結果では、雇用がプラス成果  ーム油農園における訓練・ ボックス 4.1:パ のトップに挙げられた。39 件のプロジェクトは、ともすれば 技能育成プログラムの例 他の正規雇用の機会がほとんどない受入国の農村部で合 IISD が審査したパーム油農園の契約では、職務を通じた 計約 3 万 9000 人の雇用を直接生み出した(間接的雇用は  トレーニング (OJT)の詳細にわたる計画やプログラムの策 定が投資家に義務づけられている。トレーニングの予定表 15 万人)。例えば、紛争後のアフリカのある国では、ゴム が契約中に記載され、職業訓練や成人に読み書きを教える 栽培プロジェクトが 1500 人以上の正規雇用を生み、遠隔コ プログラムは全従業員と地元住民が利用できる。投資家は、 ミュニティで 2000 人の季節労働者を雇った。さらに、現地 職業訓練プログラム向けとして年間最低 2 万ドルを、また  地元住民が近くの技術大学に通うための奨学金として年間  雇用を行っている場所では、投資家との関係が改善された 4 万ドルを備える必要がある。また、職務訓練や新技術の  ため、経営が商業的に成功するチャンスが高まった。 研修も義務づけられており、それにより従業員は社内で高度 な技能を要する一段と高レベルの職に昇進することが可能に インタビューに応じた従業員の大半は、収入増加や自給農 なる。 出処:Smaller 2014a 業からの脱却のほか、食糧、住宅、教育、医療サービスへ のアクセスといった副次的な恩恵に感謝していた。こうした 外資系企業では、現地企業での雇用に比べると、賃金が高 住民の多くが必要な技能を有していない農村部では、地元 く、労働環境も整備されている場合が多い。住宅、教育、 医療などの手当が事業計画の一部として盛り込まれている 住民の雇用は困難となり得る。場合によっては、ことに紛 場合は、建築・サービス基準の規定、受給資格、予定表、 争後の地域では、現地労働者に必要な技能がないとか、正 予算などを含め、それらを契約の義務項目として掲げるべ 社員として働いた経験がないという理由で、周辺国や受入 きである。 国内の他の地域の季節労働者を優先させるケースもあった。 その結果、地元コミュニティと季節労働者の間で緊張が高 ただし、雇用に伴う福利厚生は、調査対象となった全ての まった。この問題に取り組むため、地元住民の職場復帰だ 投資で保証されていたわけでも、また実現したわけでもな けを支援する訓練プログラムを契約中に盛り込むことも可能 い。また投資拠点のすぐ近くに住む住民が常に雇用されて だ。ボックス 4.1 には、パーム油農園を対象とする契約の中 いたわけではなく、そうした住民は比較的低スキルの仕事 や臨時職に限られていた。また管理・監督職は、本国から に訓練・技能育成の項目を盛り込んだ例を挙げている。 派遣された出向員によって占められる傾向が強かった。 男女間の雇用格差も、調査対象となった投資のほとんどで こうした状況下では、契 約が重要な役 割を果たし得る。 明白に見られた。全体で、従業員の約 35% が女性だった。 フィージビリティ・スタディや事業計画の結果に基づいて(第 女性は、臨時職や低スキルの職に就くことが多く、より高レ 5章「不十分な商業的可能性の評価」の項参照)、具体的 ベルの管理職には概ね存在しなかった。男性と比べると女 な雇用目標や、不可能でない場合は現地雇用の必要数など 性の賃金は低く、女性の雇用促進のための政策やプログラ を契約中に盛り込むことができる。また、管理職に起用す ムも皆無に等しかった。女性の優先的採用を契約中に規定 る現地人数の目標を契約に含めることも可能だ。西アフリ することは可能だが、IISD の調査対象となった契約にはそ カでは、審査対象となった投資の多くに、単純職は受入国 のような規定は見当たらなかった。この課題は、投資家の の国民だけを採用し、全ての熟練職や管理職については現 地の国民を優先させなければならないという雇用条件が掲 選定時や交渉の準備段階で対応する方が適切であろう。各 載されていた。ある国では、5 年以内に 10 件のトップ管理 国政府は、女性の雇用に適した作物への投資を優先させた 職のうち最低 50% を、また 10 年以内に最低 75% を現地 り、女性の技能の方が高く、女性労働者数が多い場所を選 国民に委ねるという具体的な目標を掲げた契約も見られた。 んだりすることができる。 8 農業における投資契約 賃金や労働条件が適切な生活水準の維持に不十分である 最も成功を収めた土地投資は、周辺の小規模農家と契約を 投資の例はほとんど見当たらなかった。反面、創出された 結び、当該農家がその農産物を農園か加工工場に販売する 雇用の約半数は臨時職であったため、安定性に欠け、労働 形をとっていた。これは「契約栽培スキーム」または「契約 条件も一般に正規職より劣っていた。こうした問題に取り組 栽培農業」として知られる。UNCTAD/世界銀行の調査  むには、国内の労働法や労働安全衛生法の適用が可能であ では、対象となったプロジェクトの 3 分の 1 は、投資家の る旨を契約に明記する必要がある。基準をさらに高めるに ビジネスモデルの一部として契約栽培農業が含まれており、 「職業上の安全及び健康に関する条約 は、 (1981 年)」「農 、 請負農家の件数は 15 万近くに上った。このような投資は、 業の安全及び健康に関する条約(2001 年)」、国際労働機関 地元農家の作物販売先の確保と農村の収入向上に貢献す (ILO)の「農業セクター実務規範」といった国際基準を参 るため、好感をもって受け入れられた。契約栽培農家は  照することもできる。投資家はまた、安全・衛生に関連した 一般に、高めの農産物価格を享受し、投資家から有益なト 出来事を監視し報告する有効なシステムの確立と維持、さ レーニングや技術支援を受けていると答えている。 らに、このような出来事の適正な政府当局への通知も盛り 込むべきである。IISD が調査した契約のうち、労働基準と 契約栽培農業を伴うプロジェクトは、栽培慣行や病害抑止、 衛生・安全に関する具体的規定が含まれていたものは 1 件 作地準備、デモンストレーション用区画の設定、灌漑方法 だけだった。ちなみに、この契約では、強制労働や児童労 や高収量の品種など関する技術的助言など、技術やノウハ 働の防止に重点が置かれていた。 ウの移転においても最良のビジネスモデルとなった。契約 栽培農業のおかげで、農夫は各自の土地管理を続ける一方、 さらに、雇用目標の達成状況やトレーニング・プログラムの 土地投資一本やりの場合に比べ多くの雇用を創出できる。 実施状況の年次報告を投資家に義務づけることも重要であ 例えば、契約栽培農業を伴う投資は土地 3 ヘクタールにつ る。これにより、結果の監視や約束の遵守状況の追跡に役 き 1 人の雇用を生むが、土地投資一本やりの場合は、土地 立つであろう。 19 ヘクタールにつき 1 人の雇用しか生み出していない。 地元農家のプロジェクトへの 反面、契約栽培農業は男女間の格差是正にさして影響を与 組み入れ(2) えていない。契約栽培農夫のうち女性の占める割合はわず か 1.5% に過ぎない。もう一つの問題は、すでに富裕な農 良い成果 2:地元農家のプロジェクトへの組み入れ 夫ではなく貧困農夫を含めるための方法だ。その一策とし • 周辺農家のプロジェクトへの組み入れ(契約栽培スキー て、コミュニティ開発契約の一部として女性農夫や貧困農 ムを通じて)を伴った土地投資は、最も成功を収めたビ ジネスモデルであり、大幅な技術移転が可能となる唯一 (詳 夫を優先させる契約栽培農業を含めることが挙げられる の投資だった。 細情報は第 4 章「コミュニティ開発プログラムの確立」の 法的選択肢: 項を参照)。 • 土地投資と並行して、地元農家との契約栽培スキームを 義務づける規定を契約に盛り込む。 契約栽培スキームを導入するには通常、投資家と農家の間 • 投資家と契約栽培農家との間で別途の契約書を作成し、 で別途契約を結ぶ必要があるが、この契約が必ずしも本契 それを主要リース契約と連結させる。 約と連結されているとは限らない。しかし、契約栽培スキー • 含めるべき農家、提供する支援と援助、公正価格の設定 メカニズムの確立方法などを指定する。 ムに効力を持たせるには、同スキームの導入を義務づける • 女性農夫や貧困農家に主眼をおく契約栽培スキームを 内容が本契約の中に含まれていなければならない。東南ア 優先させる。 ジアのパーム油農園から得られた教訓を見ると、政府が契 利益の最大化とリスクの最小化のために 9 約栽培農家をプロジェクトに含めるよう強く主張すれば、こ  約栽培スキームを契約に ボックス 4.2:契 のような農家を含めることは可能だが、そうでない場合、 盛り込んだゴム園の例 企業が事業計画中でこの選択肢を率先して追及する可能性 IISD の調査対象となったゴム園の契約では、投資家が 3 年 は低い。 以内に契約栽培スキームを導入するよう義務づけている。政 府側は、契約栽培用の土地の提供、契約栽培農家の選定、 契約栽培農家を含める時期も肝要となる。新規投資に伴う 資金確保、生じ得る全ての環境・社会問題への対応に合意 する。一方、投資家側は、土地の管理・開発、資金確保の 高リスクを鑑みると、生産モデルや市場を十分にテストする 際の政府への支援、設備や肥料の購入のための支援、技術 前に、契約栽培農家を組み入れるのは賢明ではない。契約 的知識や運営スキルの契約栽培農家への移転、生産した全 栽培農家の組み入れが早過ぎると、当該農家が乗り越えが 農産物の購入に合意する。政府はまた、契約栽培農家によ たい財務リスクにさらされかねない。大型民間投資家が担え る農協加盟、特定の手数料の支払い、トレーニング・プログ ラムへの参加、さらに投資家が指定した栽培法や基準の受 る重要な役割の一つとして、こうした企業には初期の投資リ 諾を投資家に保証する。 スクを背負えるだけの手段と財力があることが挙げられる。 出処:Smaller 2014a だからといって、リスクを踏むべきではないわけではない。 期待をはるかに上回る恩恵をもたらした触媒的影響力をも 設定方法に理解を示さず、作物の測量方法と質の評価方法 つ先駆的農業投資の例はいくつかある。例えば、英連邦開 について懸念があると発言したことが判明した。そのため、 発公社(CDC)は、小自作農による紅茶生産をケニアで、 契約には、契約栽培農家と投資家の間で、包摂的かつ適 またパーム油を東アジアで導入する際に重要な役割を果た 切で透明な公正価格設定メカニズムを確立するための枠組 みを盛り込むとよい。例えば、インドネシアでは、パーム油 した。だが、ここで特に重要なのは、こうした例においては、 の価格は毎月、投資家と政府、契約栽培農家の間で設定さ 新しい農業慣行や作物の導入につきもののリスクを投資家 れる。毎月 3 者の間で合意価格が決まると、当事者全員が が負い、契約栽培農家を取り入れる前に自社のビジネスモ この価格を受諾する旨の正式通知書に署名をする。適切で デルを調整していたことだ(Tyler and Dixie 2012) 。 あれば、交渉時に当事者同士の力関係を除去するために価 契約の規定には、契約栽培農業を司る規則、権利、責任 格算出方式を盛り込むことも重要となる。また、契約栽培 の基本的枠組みが定義されていなければならない。例えば、 スキームの実施状況を政府に毎年報告するよう投資家に義 地元地域の契約栽培農家(特に女性)を優先させる規定を 務づけることで、実施状況の監視や生じた問題の対応に役 盛り込んだり、投資家に対し、設備、機械、種子、肥料、 立つであろう。 改良型生産方式のトレーニングなどの形で契約栽培農家に 支援や援助を提供するよう義務づけたりすることも可能だ。 市場における機会の拡大(3) さらに、契約栽培農家を過剰なリスクから守るため、別途 良い成果 3:市場における機会の拡大 契約を結ぶ適切な時期を契約中に定義することもできる。 • 加工施設を建設した投資家はいちだんと好意的に受け止 められた。 IISD の調査対象となった契約のうち、契約栽培スキームの • 多数の投資により、地元の請負業者や燃料、肥料、設 導入を投資家に義務づけた契約は 5 件あった。そのうち 2 備のサプライヤーに新たな市場がもたらされた。 件には、投資家が同スキームに投入する金額が指定されて 法的選択肢: いた。ボックス 4.2 には、アフリカのゴム農園で契約栽培ス • 加工施設の建設を掲げた投資を優先させる。契約には、 加工施設の設立についての詳細を盛り込むことができる。 キームがどのように契約に組み込まれたかが示されている。 • 現地の請負業者やサプライヤーの活用を促進するため、 現地事業育成計画の設定を投資家に義務づける。現地 UNCTAD/世界銀行の調査では、投資家側で透明性を期 財・サービスの利用を最優先させる必要がある。 • 加工施設や現地事業育成計画の実施状況を毎年報告する。 する努力がなされたものの、多数の契約栽培農家は、価格 10 農業における投資契約 契約栽培スキームと密接に関連するものとして、加工施設 だし、財・サービスが技術的に満足できるものであり、利用 の建設と、農産物生産に付加価値をもたらす可能性を高め 可能であることが条件となる。投資家は、現地サプライヤー ることが挙げられる。UNCTAD/世界銀行の調査対象と のリストを事務所に用意しておき、政府は、現地サプライヤー なった 39 件のプロジェクトのうち、7 件は、加工施設の運 と請負業者の選定に手を貸すことができる。その後、投資 営のみに携わり、総計 2665 人を直接雇用した。このような 「現地事業育成計画」の実施状況を毎年報告し、政 家は、 投資は、主に用地取得に伴う悪影響がないことから、他の 府は状況の監視に当たる。 ビジネスモデルよりも好意的に受け止められた。 コミュニティ開発プログラムの 農産物の生産に付加価値をもたらす投資や、加工施設の 確立(4) 建設が含まれている投資は優先させるべきである。これは、 有望な投資家の審査・選定段階で行うことができる。さら  良い成果 4:コミュニティ開発プログラムの確立 • 投資家が地元コミュニティと良い関係を築き、社会・経 に、こうした施 設の建設規定を契約に盛り込むことも可 済開発プログラムを提供している場所では、投資家の財 能である。IISD の調査対象となった 80 件の契約のうち、  政的成功の可能性が高まる。 ゴム、パーム油、コメなどの加工施設の建設を投資家に 法的選択肢: 義務づけた契約は 6 件あった。そのうち 3 件には、深刻 • コミュニティとの執行可能な合意書を契約中に組み入れ る必要がある。契約には、投資家とコミュニティ間の別 な抜け穴が含まれていた(例えば、投資家が加工施設の建  途合意書のパラメータを定義し、同合意書を契約の付属 設の「可能性を探る」ことだけしか義務付けていないもの 書類とすることができる。 が 2 件、商業的に実現可能とみられる場合に限り加工施設 • コミュニティと合意書を交わした後に合意書の条件に従 わなかった場合は、重大な契約違反とみなされる。 の建設が投資家に義務づけられていたものが 1 件)。他の 2 件は、特定の期間内に加工施設の建設を投資家に義務 UNCTAD/世界銀行の調査によると、財政・経営面で成 づけ、1 時間当たりの加工トン数まで規定していた。6 番目  功を収めている投資家は、受入国の経済と周辺コミュニティ の契約には、加工施設に投資する金額と雇用数が具体的に に最大の成果をもたらす傾向にあると述べている。同様に、 示されていた。 受入国や周辺コミュニティに溶け込んでいる投資は、財政 より広域な経済に及ぼす副次的影響も、海外投資が当該国 的に成功を収める可能性が高い。こうした好循環の確立は、 にもたらすもう一つの重要な貢献といえる。UNCTAD/世 本書中に記述された知見の中でも最も重要なものの一つだ 界銀行の調査では、燃料、肥料、設備の現地サプライヤー といえよう。ある例では、投資家が、財政上包摂的なビジ は良好な市場波及効果を享受できると指摘している。もっ ネスモデルに基づいて、プロジェクトの収益をコミュニティ とも、こうした波及効果は、適切な現地サプライヤーが不 と共有するという規定の下で運営していた。例えば、ガー 在の地域では期待できない。事実、大半の投資家は、安 ナの稲作農場では、毎月の売上の 2.5% をコミュニティ信 価な資材の現地購入が不可能なため、資材の輸入に頼って 託基金に積み立て、コミュニティが任意の開発プロジェクト いた。 に資金を利用できるようにしていた。 「現地事業育成計画」の作成は、投資家が、地元の請負業 コミュニティ開発プログラムを導入している投資家は数多く 者やサプライヤーをプロジェクトに有効に組み入れるための いる。これには通常、医療センター、学校、住宅、給水ポ 一つの方法である。契約には、受入国で生産された財や、 ンプ、町役場や穀物保管施設といったコミュニティのインフ 受入国の市民やビジネスが提供するサービスを最優先する ラ建設が含まれる。特に道路の建設は、市場へのアクセス よう投資家に義務づける規定を盛り込むことができる。た を改善する重要な利点とみなされていた。 利益の最大化とリスクの最小化のために 11 しかし、地元コミュニティが各自の開発プログラムに関する  央アフリカの樹木農場を対象と ボックス 4.3:中 協議にどの程度参加し、投資家が法的拘束力をもつ約束を したコミュニティ開発合意書の例 どの程度行っているかについては、重大な格差がみられる。 IISD の調査対象となった中央アフリカでのある契約には、 最も成功したプログラムは、地元住民が話合いに参加し、 所要項目の予定表が 5 年間隔で掲げられている。同合意書 プロジェクトの選択と資金の利用法についての発言権を有 には、建設する学校の数、住宅数、事務所数、手洗い所の し、投資家とコミュニティが合意書に署名しているものであ 数、さらに水探索用穴の試掘数が規定されている。毎年小 学校に支給するサッカーボールやバレーボールの数まで指定 る。ただし、ジェンダー課題が含まれたものは、残念ながら、 されている。また、これを果たす責任は主に投資家側にある プログラムの設計と選択の両面で一つも見当たらなかった。 道路など農村のインフラ整備に手を貸すなどコミュニティ が、 にも責任が課されている。 こうした結果は、効果的な投資成果を期待する上でも、本 出処:Smaller 2014a 契約の一部として、コミュニティと執行可能な合意書を結 ぶ必要があることを示唆している。このような合意書は 一 般に「コミュニティ開発 合意書」と呼ばれ、鉱 業セク 所得向上による食糧安全保障の ターでは標準的慣行となっている。契約の本体には、投 改善(5) 資家が地元コミュニティと「コミュニティ開発合意書」を 良い成果 5:所得向上による食糧安全保障の改善 結ぶという規定が盛り込まれるべきである。この規定に • プロジェクトの被雇用者や請負業者の所得が増大したた は、 誰を 含め、 誰 が協 議 に参 加し、 どのような活 動 が めに、いくつかの投資は食糧安全保障によい成果をもた らした。 対 象となるかに加え、 意 思決 定 方法、 積 立 額、 適 切な • 一方、受入国の市場向けに作物を生産している投資は全 苦 情処 理メカニズム、合意書の実 施 状 況に関する年次 体のわずか 3 分の 1 に過ぎなかったほか、食糧安全保 報 告の義 務づけといった合 意 書の 作成プロセスとパラ 障に悪影響を及ぼしている投資もあった。 メータを定義することができる。また、女性が意思決定 法的選択肢: に参画し、平等な発言権をもち、様々な活動の受益者と • 食糧安全保障の促進は主に契約の準備段階で行われる べきである。アクセスできる土地が変わるなど、悪影響 なるよう、ジェンダー面の配慮を一貫して取り入れること を及ぼし得る事項についても予め見極め、対応しておく もできる。例えば、ある投 資家は、コミュニティ連 絡 委 べきである。 員会を設置し、その中に若者や女性を交えるよう強調し • 食糧安全保障の国家目標と戦略の達成に役立つ投資家 を優先させて選択する。その決定に際しては、栽培する 「コミュニティ開発合意書」を結ばない場合  た。さらに、 作物の種類、ビジネスモデル、投資予定地などを基にす や、合意書の条件を遵守しない場合は、重大な契約違反と ることができる。契約栽培スキームの導入、現地の雇用・ 所得拡大を盛り込んだビジネスモデルを優先させる。 みなされ、違反が是正されない場合は契約停止につながる 可能性があるという規定を契約書に盛り込むこともできる。 農業投資は、受入国の食糧安全保障に様々な形で影響を IISD の調査対象となった多くの契約には、コミュニティ開 与える。最も直接的なのは、受入国の市場に向けた食糧 発に関する規定が含まれてはいるものの、内容は曖昧で概 の生産によるものだ。調査の対象となった投資家の 3 分の  ね執行不可能なものばかりだった。それでも、アフリカの  1 はこの類に属する。また、直接的な雇用や契約栽培農業 2 カ国では、活動、測定可能な指標、完了までの期間、予 により農村の収入が向上し、人々の購買力が高まったため 算など具体的な項目を詳細に掲げた規定も見られた。ある に、現地の食糧安全保障によい影響を与えた投資もいくつ 「コミュニティ開発合意書」が本契約の付属書類 契約では、 かあった。 となり、全体的契約の一部とされていた。ボックス 4.3 には、 中央アフリカの樹木農場を対象とした「コミュニティ開発合 食糧安全保障に関連した課題の多くは、契約交渉の準備段 意書」が記述されている。 階で対応すべきである。国家の食糧安全保障戦略は極めて 12 農業における投資契約 重要であり、政府の交渉担当者が、食糧安全保障の強化を が、投資により、その一部がアクセス不能になることに起 目指して、目標となる地域、人々、作物を特定し、促進し、 因する。地域住民の女性の一人は、以前、村の女性と一緒 優先させる際に役立つ。現地の食糧安全保障に与え得る影 に野生のほうれん草などの食用植物を集めていた土地は、 響を交渉前に判別しておくことは、現行の食糧安全保障に 投資家が電気柵をめぐらしてしまったために、もはや立ち入 有害となる可能性を回避し、最小限に抑えるためにも、非 ることができなくなったと説明した。こうした問題は、投資 常に重要である。 家と政府が、適切で利用可能な土地を選別し、影響評価を 実施し、投資の対象となる土地に誰が住み、誰が利用して 一方、食糧安全保障に負の影響を及ぼす場合もある。これ いるのかを判断しているとき、すなわち交渉の準備段階で は主に、以前、作物の栽培や牛の放牧が行われていた土地 特定し対応すべきものである。 利益の最大化とリスクの最小化のために 13 第5章 農地投資による上位 5 つの悪影響 UNCTAD/世界銀行の調査では、多数の悪影響が指摘された。その中には、契約交渉 前の準備作業の改善、契約書の規定内容の向上、監視と執行の改善を図れば、回避で きたものや最小限に抑止できたものがいくつかある。この項では、UNCTAD/世界銀行 の調査で明らかとなった上位 5 つの負の影響を検証し、契約プロセスを通じて、いかに 対応できるかを示している。 土地喪失とずさんな再定住計画(1) 悪影響 1:土地喪失とずさんな再定住計画 • 地元コミュニティへの負の影響として顕著だったのは、アクセスできる土地の縮小と再定 住計画の不備が挙げられる。 法的選択肢: • 社会影響評価の結果を参照しながら、契約に署名する前に、土地をめぐる正式な権利と 非公式な権利を詳しく調べ見極める。 • コミュニティとの協議を通じて、業務を開始する前に、土地争いが残っていないことを確 認する。 • すでに再定住を済ませた者との話合いを経て、適切な再定住計画を設計した上で、それ を契約の付属書類とし、当事者間で法的拘束力をもたせる。 地元コミュニティへの負の影響として顕著だったのは、アクセスできる土地が減少したこ とだ。最も一般的な争いは、土地の正式な権利が政府によって付与された投資家と、そ の土地の測量 / 区分、権利登録がなされないまま長年にわたって住み耕作を続けてきた 地元の人々との間で生じるものだ。また、放牧者の権利もめったに認識されておらず、こ れも争いの原因となっている。投資家の多くは、土地争いへの対応に多大な時間と費用 を費やしてきたが、こうした争いは、適切な準備プロセスの中で早期に判別できたはず であり、そうされるべきだった。土地をめぐる争いは、他の悪影響や、コミュニティとの 協議、社会への影響、苦情処理メカニズムなどと密接かつ直接的に関係していた。 利益の最大化とリスクの最小化のために 15 いかなる土地投資でも、明確な土地保有権の取決めは、契  議を通じた用地取得プロセス ボックス 5.1:協 約の諸条件を決定する上で不可欠となる。現地の土地保有 以下は、ザンビアの国内投資家が協議プロセスを通じて用 者と土地使用者の権利は、契約の交渉を始める前に明確に 地取得を行った道筋をまとめたものである。話合いは多数の 見極める必要がある。土地保有制度が十分に確立され、現 ステークホルダーを交え、3 年間にわたって行われた。 地の所有者・使用者の権利や既得権が確定している場所で 1. 投資家が土地を求めて地方政府である「地区協議会」に は、土地と水資源を投資家に配分する際に、所有者と使用 接触。 2. 同協議会は、現在十分に活用されていないが農地として 者に対し発言権が与えられている。彼らは、投資家と直接 の潜在性をもつ地域に投資家を案内し、さらに同地の部 掛け合うか、または投資家と政府との交渉の一員として契 族長らとの会合を求めた。 約プロセスに参加することができる。 3. 部族長は、住民を代表する副長や村長と協議を行った。 4. 農園の開拓用地として配分することで当初の一般的合意 が得られた後、地元コミュニティとその指導者で構成され 土地に対する権利の調査や登録が明確でなく不適切である る「コミュニティ開発信託基金」が設立された。 場所では、契約に署名する前に、地元コミュニティとの綿密 5. コミュニティ開発信託基金、投資家、地区協議会は共同  な協議を通じて、正当な土地保有者を判別し、認識し、詳 で、再定住が必要な人々の資産と農産物の価値を設定  した。 細を記録することが不可欠となる。これには、当地の住民 6. 樹木と農産物の評価は農務省が行い、住宅、小屋などの だけでなく、家畜の放牧者、交替で耕作する者、さらに、 建物の評価は、建物・建設方面の政府専門家が行った。 水、薪、他の林製品にアクセスするためのルートとして利用 7. 資産と農産物に対する報酬に関し、投資家と各個人の間 で合意書が締結された。 している者も含まれる。また、正式に登記されているか否 8. 投資家、信託基金、地元コミュニティの間で、了解覚書 かを問わず、土地の正式な権利と非公式な権利をもつ者の (MOU)が署名された。 両方が含まれるべきである。コミュニティとの協議プロセス は、業務が始まる前に、解決すべき土地争いが存在するか 出処:UNCTAD and World Bank 2014 どうかを確認するのに役立つ。政府、投資家、地元コミュ ニティの全員によって確認済みの、土地境界線を示す地図 こにまだ住民が住んでいることを発見した。そこで投資家 は、契約の付属書類として添付されるべきである。地元の は、住民を再定住させるのではなく、協調的に解決すること 権利を再確認し、土地保有権制度の促進に貢献するプロセ にしたのである。とはいえ、大半の場合は、再定住後の生 スに従っている投資家の好例が実地調査の中でいくつか見 活環境が以前より悪化したと感ずる人々が多く、再定住後  られた(ボックス 5.1 参照)。 5 年経ってもいまだに報酬を受け取っていないという例すら  あった。 悪影響を避けようとする投資交渉担当者に有益な指針を提 再定住はできる限り回避するか最低限に抑えるべきである。 供するために多数の国際的イニシアティブが立ち上げられて 再定住がどうしても必要な場合は、国際原則・基準に則っ 「国家の食料安全保障の いる。中でも注目に値するのは、 文脈における土地所有、漁業、森林に関する責任あるガバ て計画を立案する規定を盛り込むべきである。また、再定 ナンスのための任意ガイドライン」と、アフリカ連合の「ア 住の対象となる人々の同意を得る必要があり、そのために フリカの土地政策に関する枠組みと指針」である。 必要な情報を提供しなければならない。再定住後の生活の 糧は、適切な住宅と土地保有権を含め、最低でも以前の生 土地争いに関連したもう一つの課題は再定住にからむもの 活の糧に匹敵する水準またはそれ以上の水準を取り戻す必 で、十分な協議を経て実施されていない場合やその過程 要がある。さらに、公正かつ適正な報酬を支払う必要もある。 が不透明である場合が挙げられる。ただし、好例もいくつ 再定住計画は契約の付属書類として添付され、当事者間で かある。投資家数名が現地に到着したとき、意外にも、そ 拘束力をもつものでなければならない。 16 農業における投資契約 地元コミュニティとの率直な コミュニティ開発合意書には、特に争いや苦情が出たとき に、地元住民との継続的な関わり、対話、話合いの枠組み 関わりの欠如(2) を設定することができる上、プロジェクトや、それがコミュ ニティと周囲の環境に及ぼす影響を定期的に審査する内容 悪影響 2:地元コミュニティとの率直な関わりの欠如 • 土地取引が不透明な環境で進められ、地元コミュニティ も盛り込むことができる。 との協議が十分行われなかったため、恐怖心、不信感、 敵対意識が培われ、投資家の経営や財務状況が困難に 「土地収奪」をめぐる論議とか、メディア 投資家の中には、 陥った。 や市民団体が情報を巧みに操って悪いニュースだけを集中 法的選択肢: 報道する傾向に踊らされ、透明性を維持することは難しい • 交渉前と交渉中はコミュニティと透明な形で率直に関  わる。 と述べる者もいた。反面、投資に関する誤った憶測に対処 • コミュニティ開発合意書を策定する。 するためには、透明性を高めることが良策だという投資家 • 契約の中に情報公開規定を入れて、契約を一般に公開  もいる。リベリアのあるゴム生産者は、深刻な人権侵害を する。 申し立てる第三者の批判的報告に対処するため、業務内容 を幅広く一般に公開する方法を選んだ。 地元コミュニティとの協議や関わりが不十分な例は多数あっ た。特に投資家は、現地に到着しないうちに、受入国政府 契約の中に情報公開規定を含めることは重要である。それ が地元コミュニティとの協議を済ませ、全ての問題が解決 により、契約のみならず、その関連書類(例:環境・社会 済みであると思いこむのは危険である。その結果、プロジェ 影響評価や管理計画)が一般に公開され、政府当局や投 資家による検査やウェブ上での検査が自由に行えるようにな クトの遅延、コスト増大、地元コミュニティとの関係悪化に る。ただし、真の企業秘密・極秘情報は許容できる範囲に つながり、業務能力と財務能力に影響をきたすことになる。 手直しすべきである。 ある投資家の場合、協議と「土地の下準備」が終了したと 地元政府から伝えられたので現地に到着したところ、仕事 開放性を高めるために重要な措置を講じる政府もある。リ 口を約束されて強制移住させられた地元住民が、約束を ベリアはその先導的存在である。同国の公式ウェブサイト 守っていない投資家に激怒していることが分かったという。 には、支払い、投資家と結んだライセンスや契約がすべて 公表されている。エチオピアの農務省は、オンラインの「エ 住民との真の関わりは交渉前と交渉中の両方で重要となる。 チオピア農業ポータル」で多数の農業契約を発表している。 真の関わりは、取引とそれに至るまでのプロセスが透明で 政府が情報公開の促進を率先して進めている国では、ある なければ実現しない。投資に関する情報が一般に公開され 投資家だけがやり玉に挙がるような状況が生じにくくなる。 なかったために、投資家の真意や活動に対する不信感や、 ただし情報は、信頼でき、正確で、最新のものでなければ ならない。 恐怖心、敵対意識が地元住民の間で生まれ、投資家と地 元コミュニティの協力関係が悪化する。とりわけ、用地取 得の条件やプロセス、海外投資家への奨励策といった情報 不十分な商業的可能性の評価(3) は皆無に等しい。あるコミュニティのステークホルダーとの インタビューでは、小自作農が、投資家は自分の土地を取 悪影響 3:不十分な商業的可能性の評価 • 多くのプロジェクトは、投資の事前審査、フィージビリ り上げる計画なのかと調査員に質問した。これは、投資家 ティ・スタディ、デューデリジェンスの改善を図れば判  とコミュニティの間で意思疎通が全くないことを如実に示す 別できたはずの要因により、失敗したり苦戦したりして  いる。 例である。 利益の最大化とリスクの最小化のために 17 法的選択肢:  ィージビリティ・スタディに ボックス 5.2:フ • プロジェクトの商業的可能性を試すためにフィージビリ 含めるべき項目 ティ・スタディを実施し、その結果に基づいて事業計画 を作成する。 • 対象となる製品の需要があるかどうかを判断するため • フィージビリティ・スタディや事業計画は独立した第三者 の市場調査または市場分析 の認証を受け、受入国政府の承認を得る必要がある。 • 対象となる土地と選別した作物が環境、水利、気候の • プロジェクトが失敗したり、始動に大きな遅れがでたりし 条件に適しているかを判断するための技術的可能性 た場合に備えて、未使用の土地の返還、譲渡(権利の移 • 所要資本、費用、予想収入、所要要員を把握し、不 譲)、契約終了の規定を盛り込む。 測の事態に備えた対応計画を立てるための財務上の可 能性 • 土地争いが起こる可能性、環境リスクなど、プロジェク トを脅かしかねない要因を判断するための社会・環境 農業投資が失敗する例は非常に多く、特に新規投資では多 面の可能性 発している。UNCTAD/世界銀行の調査によると、調査の • 特定のプロジェクトに最も適したビジネスモデルを判断 実施時点で、赤字経営であり、業務スケジュールに遅れを するための組織面の可能性 出していた投資家は約半数に上る。世界銀行の別の調査で 出処:Smaller November 2014a も、プロジェクトの半数は、財政的に「失敗」または「中程 の失敗」と分類されていた(Tyler and Dixie 2012)。 こうした失敗例や失敗の原因のほとんどは、受入国政府が プロジェクトの大半が失敗した理由は、例えば、立地や栽 投資家の選定過程を改善し、投資家はデューデリジェンス 培作物が不適切であったり、あまりに楽観的な仮定に基づ や立案過程を改善すれば、プロジェクトの開始時に判断で いた計画であったりするなど、コンセプト自体の欠陥に起因 きたはずのものである。 している。バヌアツのコーヒー農場が失敗したのはサイクロ ンに襲われたためだった。ガンビアで生産した卵を英国に フィージビリティ・スタディもまた欠かせない存在だ。それ 供給する事業は、英国の消費者がガンビア産の卵を買いた らは、主にプロジェクト案の商業化の可能性や技術的可能 がらないことを予測しなかったために失敗した。カンボジア 性に取り組むほか、サイクロンの多発地帯であるとか、不 のゴム農園は、土壌がゴムの栽培より、キャッサバなどの 適切な土壌であるといった、商業化を阻む主な社会・環境 栽培に適していると周辺コミュニティからいち早く指摘され 面の要因も調査する。ボックス 5.2 は、フィージビリティ・ たにも拘らず、不適切な土壌でゴムを栽培したために苦闘し スタディに含めるべき重要な項目の例を挙げたものだ。この ている。 調査は投資家が実施し、契約の締結前に独立した第三者が 認証すべきである。また同調査の結果は事業計画の策定に 投資家の約 4 分の 1 は、配分された土地の 10% 未満しか 利用すべきである。フィージビリティ・スタディと事業計画は、 活用していなかった。これは、土地争いが起きていたとか、 契約交渉が終了する前に政府により承認されるべきである。 期待に反した環境だったなど事業計画が粗雑であったため フィージビリティ・スタディを参照した例は、IISD が調査  に経営難を招いた例だが、このほかにも、少額で土地を取 した砂糖農園の契約の中に一つだけ見られた。それは、技 得した結果、事業を発展させるための資金が不十分だった 術的調査の資金は投資家が負担するというものだったが、 例も見られた。最悪の例としては、投機的な目的で土地を 調査の条件には触れていないため、執行することは困難で 取得したか、受入国政府との合意通りの目的に土地を利用 ある。 していない(例えば、作物栽培ではなく森林の伐採)など、 合意に基づいて土地を開発する意志が全くないように見受 国内法規の中にはフィージビリティ・スタディと事業計画を けられるものがあった。 プロジェクトの条件とするものもあるが、ほとんどの場合、 18 農業における投資契約 このような法規は存在しないか、また存在したとしても、ず 法的選択肢: さんな監視・実施状況に妨げられてしまうことが多い。 • 影響評価と管理計画は、評価すべき対象や、管理計画 に含めるべき項目など具体的な指示やガイドラインと共 投資家は、市場情勢など環境面の変化に応じて、引き続き に、契約中に組み入れる。 • 独 立した第三者の認証と受入国政 府の承認を必ず受  受入国政府に対し、定期的に事業計画を提出すべきであ  ける。 る。また、市場、価格、農耕条件の変化に伴って投資家が • 影響評価の実施と管理計画の策定が行われなかった場 合は、重大な契約違反とみなし、契約終了の根拠とすべ 計画を素早く変更できるよう、契約にある程度の柔軟性を きである。 もたせることも肝要である。ただし、投資家が事業計画を 大幅に変更しなければならないときは、受入国政府のさら 幸 いなことに、 投 資 家 の 70% は 環 境・社 会 影 響 評 価  なる承認を受ける必要がある。 (ESIA)を実施し、また 50% 近くは環境管理計画を策定 アフリカやアジアの多くの国では現在、あまりに急速に大量 しているが、残念ながら、その大半は、チェック項目を満 の土地を手放してしまったことが問題化している。東アフリ たす形式的なものに過ぎず、契約の中にも組み込まれてい カと東南アジアでは、それぞれ少なくとも 1 カ国が、初回 ない。また、環境管理計画の質は劣り、そのほとんどは事 の契約で投資家に配分できる土地の広さに制限を設ける案 業計画にも業務にも情報を提供していない。 を考慮中である。両国ともに、大量の土地を配分する前に、 まず小区画の土地でプロジェクトの成功を実証するよう投 その結果、投資家は重要な勧告を見逃すことが多く、投資 資家に求めている。 にそのツケが回っている。例えば、エチオピアの稲作農場で はコメが何度も鳥に食い荒らされ、鳥を追い払うのに 500 譲渡規定(一企業から他企業への権利の移譲)や契約終了 名を急きょ雇わなければならなかった。この地域に固有種 規定は、プロジェクトが失敗した時、あるいは財政難に陥っ の鳥が多く生息していることはコンサルタントの実施した影 た時に、政府と投資家に「出口戦略」を与える上で不可欠 響評価で明らかになっていたが、この報告は首都アジスア な存在である。契約には、投資家が系列会社や第三の企 ベバの本社に眠ったまま農場の管理担当者の目に留まるこ 業に権利を譲渡する可能性を盛り込むことができる。ただ 「たいていの場合、 とはなかった。世界銀行の別の調査でも、 し、被譲渡企業が契約上の責任を全て負担し、受入国政 環境・社会影響評価は不十分で、法律で義務づけられてい 府の承認を事前に受けることが前提となる。 る場合すら、実施されていないことが頻繁にあった」と記 契約には、指定期日までに商業的操業が開始されない場合 述されている(Deininger & Byerlee 2011, 57)。 や、賃貸料が支払われない場合、当該企業が破産した場 合に、契約終了が認められる規定を盛り込むことができる。 インタビューを受けたステークホルダーは、環境に悪影響 また、政府や投資家が同意書の主な規定に対し重大な違反 を与えている様々な要因のうち最も一般的なのは、化学物 を犯した場合にも、契約終了が可能な条項を含めることも 質の流入に伴う水質汚染と、農業投資を可能にするための できる。 保護地域の転換だと答えている。調査によると、投資の約 半数は、投資家の水利用に全く制限が設けられていなかっ 粗雑な環境・社会影響管理(4) た。ある地元コミュニティは、投資家の水利用率が現在の まま続くと数カ月以内に現地の水資源が枯渇すると苦情を 悪影響 4:粗雑な環境・社会影響管理 申し立てていた。水利用率や化学汚染といった水をめぐる • 影響評価は、チェック項目を満たす形式だけのもので、 実際の管理計画に活かされているわけでも、監視されて 課題は影響評価報告書と管理計画の中で検討される必要が いるわけでもない。 ある。 利益の最大化とリスクの最小化のために 19 こうした弱点にプロジェクトの失敗率を加味すると、影響評  境・社会管理計画に ボックス 5.3:環 価と管理計画の投資契約への組み入れにもっと注目する必 含めるべき項目 要性が浮き彫りになっている。UNCTAD/世界銀行の調査 環境計画に含めることが可能な項目: によると、最も効果的な影響評価は、投資家によって実施 • 環境をめぐる関心事の主要分野 され、受入国政府と独立した第三者によって監視され確認 • 生物多様性、地上及び地下の水資源、土壌に対する影 されているものだと述べている。 響の管理計画 • 温暖化ガスの排出抑止と気候変動適合に関する計画 • 化学物質、殺虫・除草剤、肥料、燃料の取扱いと貯蔵 環境・社会影響評価は、原則として、契約が調印され実施 に関する計画 される前に行う必要があり、過度の遅延を避けるためにも • 投資終了後の地域復興計画 いくつかの段階に分けて進めることができる。当初の高次 • 監視・評価メカニズムの要約 元での選定においては、正式な評価が果たして必要かどう 社会計画に含めることが可能な項目: かを決定したり、もっと厳格な評価に含めるべき課題の範 • 現在の土地保有者・使用者、及びこれらの者が自給の 疇を定義したりできる。さらに契約の交渉内容は、ESIA ために引き続き土地を利用する権利があることに対す の結果に合わせることができる。ESIA の結果によっては、  る認識 • 難民や強制的再定住者を回避または最小限に抑止する プロジェクトが廃棄される可能性を排除すべきではない。投 ための計画 資家は、ESIA の結果を用いて、環境面と社会面の 2 つの • プロジェクトの対象地内と周辺に住む人々の生活環境 を不当に損なう行動の回避または最小限に抑止するた 課題に分けて管理計画を策定すべきである。ボックス 5.3 めの計画 には、環境・社会管理計画に含めるべき主な項目がまとめ • 住民との協議、情報公開、これまでの生活の糧の取り られている。 戻し方、それに代わる糧の提供方法、公正かつ適正な 報酬の支払いなどを含めた再定住計画。 ところが実際には、影響評価は、契約が調印された後に、 出処:Smaller 2014a . しかも投資家が建設や業務を開始する前に実施されるこ とが多い。この状況は理想的とは言い難いが、少なくとも ESIA と管理計画が完了し、独立した第三者が認証し、適用 法に基づいて受入国政府が承認するまでは、投資家に対し、 不十分な苦情処理メカニズム(5) ライセンス契約や生産開始の認可を付与すべきではない。 悪影響 5:不十分な苦情処理メカニズム • 地元コミュニティが苦情を訴え、是正を求めるためのメ さらに、これらの条件を遵守しない場合は、重大な契約違 カニズムが不十分である。 反とみなされる必要がある。また契約には、2 つの計画の 法的選択肢: 実施状況についての年次報告書の作成が義務づけられ、地 • 国際金融公社(IFC)のパフォーマンス基準に基づいて 元コミュニティに公開され、同コミュニティが自由にアクセ 苦情を企業に訴えるメカニズムを設定する規定を契約に 盛り込む。 スできるようにすべきである。 20 農業における投資契約 ほとんどの場合、投資の悪影響を受けた人々が苦情を投資 れに迅速に取り組めるよう、投資家と地元コミュニティの 家や政府に訴え、是正を求めるための手段が十分に整って 間で継続的でオープンな意思伝達路が開かれている必要 いなかった。これは、地元コミュニティや他のステークホル がある。しかし、苦情処理メカニズムの範疇を超えた事 ダーが各自の意見を述べるための重要な手段にほかならな 象も発生する可能性がある。そのため、苦情処理メカニ い。インタビューで苦情を述べたステークホルダーの多くは、 ズムが、調停や仲裁といった法的・行政的救済へのアク それを訴える方法が全くなかったと回答した。反面、前向 セスを阻んではならないことも重要である。また、従業員 きな例もいくつかある。例えば、コートジボワールのパーム にとっても苦情処理メカニズムは重要なツールであるため、 油農園では「コミュニティ連絡委員会」が設置された。 従業員の苦情に対処するメカニズムを別途に設定すべきで ある。 投資家が設置する苦情処理メカニズムは、投資家が社会・ 環境面の課題についての懸念や苦情を地元コミュニティ 国際金融公社(IFC)のパフォーマンス基準 1、2、および  から受け取り、解決するための重要なツールである。それ 5 は、適切な苦情処理メカニズムの設定方法についてのガ は、コミュニティとの協議を経て設計されるべきである上、 イドラインとなっている。これらのガイドラインは、契約の 分かりやすく、誰もがアクセスでき、透明で、文化的に適 規定として取り入れられ、投資家は、どのような苦情が生  切でなければならない。また、問題が深刻化する前にそ じ、それらにどう対応したかを年に一度報告すべきである。 利益の最大化とリスクの最小化のために 21 第6章 結論 農地への投資は、適切な法的・政策枠組みが設定されていれば、地元コミュニティ、受 入国、投資家に恩恵をもたらし、リスクを最小限に抑えることができる。適切な法的枠 組みは、こうした恩恵を現実のものとし、起こりうる負の影響から守るための壁として機 能することができる。投資契約は、利用可能な様々な法的・政策手段の一つに過ぎない。 表 6.1 と 6.2 は、実地調査によって判明した恩恵を最大限に活かし、リスクを最小限に 抑えるために、契約プロセスの各段階をいかに利用すべきかという本書の内容を要約し たものである。その重要な狙いは、意思決定は、成功例と失敗例に関する健全な証拠と 調査に基づいて行われるべきだという点だ。この知識の基盤を礎に、契約の中で、また は投資に適用される他の法的枠組み・メカニズムを通して、具体的で詳細にわたる規定 を設定する必要がある。交渉前に必要となる準備作業はかなりの量に上る。また投資が 始まった後も、当事者同士が互いの約束を履行しているかを確認するために、さらに多 くの作業が必要となる。それらを正しく遂行することは、政府、コミュニティ、投資家に 持続可能で前向きな成果をもたらすための重要な一歩となる。 利益の最大化とリスクの最小化のために 23 表 6.1: 契約プロセスを通じて農業投資の主なプラス効果を最大化するための方策 契約の交渉準備 契約の草案作成 監視と執行 雇用創出 • 雇用を最大限に創出できるビジネ • 地元コミュニティの住民、当該国国民、 • 国内の労働法、保健・安全法  スモデルを優先させる。 あるいはその両方からの雇用目標を含  の遵守状況を監視する。 • 従業員と仕事の構成について考慮 める。 • 雇用創出、訓練、従業員手当  する(例:地元コミュニティの住  • 国内の労働法、保健・安全法の適用を についてのコミットメントの  民・当該国の国民、ジェンダー、  掲げる。 遵守状況を監視する。 正規職・臨時職など) • 地元スタッフの訓練プログラムを義務  • 雇用目標や訓練プログラムの  • 訓練、従業員手当に関する投資家 づける。 年次報告を義務づける。 の計画を考慮する。 • 従業員手当(住宅、教育、医療手当など) の提供についてのコミットメントを含  める。 地元農家の • 契約栽培スキームを導入する投資 • 契約栽培スキームの導入を義務づける  • 契約栽培スキームと提供する  プロジェクトへの 家を優先させる。 規定を盛り込む。 支援を監視する。 組み入れ • 契約栽培スキームを導入する前に  • 契約栽培農家への投入財の規定や  • 契約栽培スキームの実績に  ビジネスモデルの調整を図る。 技術支援の要件を設定する。 関する年次報告を義務づける。 • 新しい作物、新技術、新ビジネス • 公正で透明な価格設定メカニズムの  • 価格設定メカニズムに参加し、 モデルの導入は慎重に行う必要が 導入のための枠組みを設定する。 監視する。 あるが、全てを除外すべきでは  ない。 市場の機会拡大 • 商業的可能性がある場合、加工  • 加工施設の建設を約束する。 • 現地事業育成計画の遵守状  施設を現地に建設する投資家を  • 適切な場合、地元サプライヤーを優先  況を監視する。 優先させる。 的に利用するよう投資家に義務づける。 • 加工施設の建設状況を監視  • 投資家が投入資材の輸入または  • 現地事業育成計画の策定を投資家に  する。 現地調達のどちらを計画している 義務づける。 • 現地事業育成計画と加工施設  のかを考慮する。 の実施状況の年次報告を義務  づける。 コミュニティ • コミュニティ開発プログラムが  • 契約の付属書類となるコミュニティ開発 • コミュニティ開発合意書と財務 開発プログラムの 盛り込まれた投資家の計画を  合意書の作成を投資家に義務づける。 上包摂的なビジネスモデルの遵 確立 考慮する。 • コミュニティ開発合意書または財務上包 守状況を監視する。 • 財務上包摂的なビジネスモデルを 摂的なビジネスモデルの諸条件と設定の • コミュニティ開発合意書を設定 優先させる。 プロセスを確立する。 しない場合、遵守規定に従わな • 地元コミュニティと適切な協議を  い場合は、重大な契約違反とみ 行い、関わり合い、情報に自由に  なす。 アクセスできるようにする。 • コミュニティ開発合意書の実施 状況の年次報告を義務づける。 所得向上による • 投資が食糧安全保障に及ぼす全  • 現地のコミュニティ食糧プログラムにつ • 現地コミュニティ食糧プログラ  食糧安全保障の ての影響を考慮する。 いての規定を含める。 ムの約束の遵守状況を監視  改善 • 地元と国家の食糧安全保障戦略を • 適切な場合、農作物の特定の割合を  する。 業務面で支援する投資家を優先さ 国内市場で販売することを義務づける。 • 現地の食糧安全保障に及ぼし  せる。 ている投資の影響を監視する。 24 農業における投資契約 表 6.2: 契約プロセスを通じて農業投資の主な負の影響を最小化するための方策 契約の交渉準備 契約の草案作成 監視と執行 土地喪失と • 正式な権利と非公式な権利を含 • プロジェクト対象地の利用とアク • 投資家が、配分された土地の敷地内に  ずさんな再定住 め、現行の全土地利用者を詳しく セスに関する投資家の権利を定 留まり、合意した目的のために土地を  計画 調べ判別する。 義する。 利用しているかを監視する。 • コミュニティとの協議を通じて土地 • 境界線と手をつけずに残しておく • 地元コミュニティが土地問題について  争いが全く残っていないことを確認 べき特別項目を記した地図を契 の苦情を訴えることのできるメカニズム する。 約の付属書類として添付する。 を確立する。 • 再定住計画、現行土地利用者との • 必要に応じ、再定住者の同意を • 発生した土地争いについて報告する  協力計画、またはその両方を掲げ 取り付けた再定住計画を作成  よう投資家に義務づける。 る投資家を考慮する。 する。 地元コミュニティ • 交渉前にコミュニティと透明な  • プロジェクトの企画と契約条件 • 企業秘密や極秘の事業情報を除き、   との率直な 形で十分に協議する。 の草案設定に際し、地元コミュ 契約と他の関連書類を一般公開する。 関わりの欠如 • 投資家による土地アクセスと投資 ニティと積極的に関わる。 • コミュニティとの協議において行った  にかかるプロセスの透明性を確約 • 一般に公開する文書の一覧を  約束は必ず守る。 する。 情報公開規定に含める。 不十分な • 技術力と財務力のある投資家を  • フィージビリティ・スタディに含 • フィージビリティ・スタディと事業計画を 商業的可能性の 選定する。 めるべき項目を明記する。 作成しなかった場合は重大な契約違反 評価 • 経済面・運営面で最も成功しそう • 事業計画の里程標を取り入れる。 とみなし、契約終了の根拠とする。  なビジネスモデルを優先させる。 • 事業計画の大幅な変更は報告す • プロジェクトの財務・業務パフォーマン • 事業のフィージビリティ・スタディ るよう義務づける。 スを監視する。 を実施して、その結果に基づいて • 失敗に備えて譲渡規定や契約終 • 事業計画の変更を報告する。 事業計画を作成する。 了規定を含める。 • 未使用の土地の返還、第三者への  • フィージビリティ・スタディと事業 権利譲渡、契約の終了など、投資家の 計画は受入国政府によって承認さ 失敗に備えた対応計画を立案する。 れ、独立した第三者による認証を 受ける。 粗雑な環境・ • 環境・社会影響評価を実施し、   • 評価や計画に含めるべき項目の • 影響評価の実施と管理計画の作成を 社会影響管理 その結果を管理計画や幅広い  具体的ガイドラインにより当該国 怠った場合は、重大な契約違反とみ  事業計画に取り入れる。 の法律を補足する。 なし、契約終了の根拠とする。 • 管理計画や評価は必ず政府の  • 影響評価の結果を管理計画に  • 社会・環境計画の実施状況に関する年 承認と、独立した第三者の認証を 取り入れる。 次報告を義務づける。 受ける。 • 環境・社会影響評価を拘束力の • 水量と水質、土壌、気候変動状況を  ある義務項目として含める。 監視する。 不十分な苦情 • コミュニティとの協議結果に  •  IFC のパフォーマンス基準に  • 苦情とその対応措置を年に一度報告  処理メカニズム 沿った苦情と是正の申し立て  基づいて、苦情と是正の申し  する。 メカニズムを設計する。 立てメカニズムを設定する  • 投資家とコミュニティの間で  規定を盛り込む。 継続的な意思伝達路を確立する。 利益の最大化とリスクの最小化のために 25 参考文献 African Union, UN Economic Commission for Africa, and African Development Bank. 2010. Framework and Guidelines on Land Policy in Africa. Addis Ababa, Ethiopia: AUC-ECA-AfDB Consortium. Arias P., D. Hallam, S. Koroma, and P. Liu, eds. 2013. Trends and Impacts of Foreign Investment in Developing Country Agriculture: Evidence from Case Studies. Rome: FAO. Bernasconi-Osterwalder, N., A. Cosbey, L. Johnson, and D. Vis-Dunbar. 2011. Invest- ment Treaties and Why They Matter to Sustainable Development: Questions and Answers. Win- nipeg, MB, Canada: IISD. Committee on World Food Security. 2012. Voluntary Guidelines for Responsible Tenure of Land, Fisheries and Forests. Rome: FAO. Deininger K., and D. Byerlee, with J. Lindsay, A. Norton, H. Selod, and M. Stickler. 2011, September. Rising Global Interest in Farmland: Can It Yield Equitable and ­Sustainable Benefits? Washington, DC: World Bank. IFAD and TechnoServe. 2011. Outgrower Schemes—Enhancing Profitability. Technical Brief, Rome, IFAD. ILO (International Labour Organisation). 2011. 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