54432 2 Eco Cities 2つのエコが融合する環境経済都市 Hiroaki Suzuki Arish Dastur Sebastian Moffatt Nanae Yabuki Hinako Maruyama 井村 秀文[監訳] 横浜市立大学グローバル都市協力研究センター[訳] 千葉 啓恵[共訳] This work was originally published by the World Bank in English as Eco2 Cities : Ecological Cities as Economic Cities in 2010. This Japanese translation was arranged by Ittosha Incorporated. Ittosha Incorporated is responsible for the quality of the translation. In case of any discrepancies, the original language will govern. The findings, interpretations, and conclusions expressed in this work do not necessarily reflect the views of the The World Bank, its Board of Executive Directors, or the governments they represent. The World Bank does not guarantee the accuracy of the data included in this work. The boundaries, colors, denominations, and other information shown on any map in this work do not imply any judgement on the part of The World Bank concerning the legal status of any territory or the endorsement or acceptance of such boundar- ies. 本報告書は 2010 年に世界銀行から Eco2 Cities : Ecological Cities as Economic Cities として出版された.本書の 翻訳は株式会社 一灯舎によりまとめられたものであり,翻訳の正確性については,株式会社 一灯舎が責任を負う.翻 訳と原文の間になんらかの矛盾がある場合は原文に従う. 本書の調査結果や解説,結論は,必ずしも世界銀行の理事会あるいは彼らが代表する国の見解を反映するものでは ない. 世界銀行は,本書中にあるデータの正確性を保証しない.地図にある境界線,色,名称,その他の情報は,いかなる 領土の法的立場,あるいはそのような境界線の容認に関する世界銀行の判断を意味するものではない. Eco2 Cities : Ecological Cities as Economic Cities Copyright © 2010 by International Bank for Reconstruction and Development / The World Bank Eco2 Cities 2つのエコが融合する環境経済都市. The Abridged Editon Copyright © 2014 by International Bank for Reconstruction and Development / The World Bank iii 序  発展途上国の都市化は 21 世紀の方向を決める大きな問題である.世界の都市化の およそ 90 パーセントは発展途上国で起きており,2000 年から 2030 年の間に,発 展途上国の市街地面積は 3 倍に増大すると予測されている.都市化は,世界のあら ゆる地域における経済成長とイノベーションの原動力となっており,現在の全世界の 経済生産の 4 分の 3 が都市で行われている.その一方で,都市化は気候変動,汚染, 過密化,スラムの急拡大など,環境と社会経済の両面において重大な問題を引き起こ している.  世界的な都市拡大は,都市にとっても,国家や国際開発関係者にとっても,大き な問題であるが,その一方で,大きな発展の機会として見ることもできる.それは, 我々に対して,環境的にも経済的にもより持続可能な都市を計画・開発し,建設・管 理するという一生に一度しか巡り会えない絶好の機会を提供してくれている.  この急速に進む都市化の方向に対して,長期的に強い影響を及ぼすことができるよ うな決定を下すには,我々に与えられた時間はあまりに短い.この重大な課題と機会 に直面した歴史的転機に登場したのが,Eco2 Cities イニシアティブである.本書は, Eco2 Cities イニシアティブを開始するにあたって,積極的なメッセージを発しよう とするものである.課題を解決するための知識と経験は存在している.先進国,発展 途上国を問わず,前向きに考える都市は既に,これらの知識を利用することによっ て,この機会を最大限に活かそうとしている.都市の持続可能性を達成するにあた り,コストが重大な障壁になるとは言えないことは多くの都市で証明されている.  Eco2 Cities イニシアティブは,2009 年 11 月にシンガポールで開始された世界銀 行の新都市戦略の核心となる内容の1つである.さらに,Eco2 Cities イニシアティ ブは,世界銀行とその開発パートナーが持続可能な開発と気候変動問題について現在 取り組んでいる作業と相互に補完しあう関係にある.  都市は,現在起きている大きな変化に対処する戦いの最前線に立っており,世界全 iv ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 体の開発アジェンダの主役を担っている.都市を介することなしには,貧困削減,経 済成長,環境の持続可能性,そして気候変動などの諸課題に同時に取り組むことはで きない.持続可能な都市計画・開発・管理によってこれらの諸目標を統合するととも に,これらの諸目標を地域,国,地球の各レベルの活動につなげることができるので ある.我々は,Eco2 Cities イニシアティブによって,都市は与えられた機会を効果 的,創造的かつ総合的に,最大限活用できるものと確信している. v 監訳者による前書き   本 書 は, 世 界 銀 行 に よ る“Eco2 Cities: ECO- に“ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC LOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES”の CITIES”という語が付されている.訳せば「経済 翻訳である.原著は,本文だけで 338 頁の大著で, 都市としての環境都市」あるいは「環境都市即ち経 3 部で構成されている.第1部では,Eco2 とは何 済都市」といった感じであるが,こうした訳語では かという考え方や取り組みの枠組みが記され,第 2 必ずしも原語のニュアンスが伝わってこないので, 部では,都市が Eco2 の理念に基づいて具体的に街 本書では“Eco2”は原語のまま使用し,副題は「2 づくりやインフラ整備の計画を立てたり,デザイン つのエコが融合する環境経済都市」と訳した. を行ったりする場合に役に立つ分析手法や技法を解  現在の世界では,大多数の人が都市に住み,経済 説している.そして,最後の第 3 部では,世界的 活動の舞台となっているのも都市である.都市は, な環境モデル都市として有名な都市の事例と,エネ 人々の生活や仕事の場であり,消費の舞台でもあ ルギー,水,交通及び廃棄物の 4 分野の技術情報 り,エネルギーや水が大量消費され,大量の廃棄物 を整理してまとめている.また,この第 3 部の最 を発生させているのも都市である.都市には,高層 後には,世界銀行グループ及びその他の国際的援助 ビルが林立し,アパートや住宅が立ち並び,道路・ 機関が提供しているさまざま資金援助・技術移転プ 高速道路,鉄道等の交通インフラ,電力・ガス,上 ログラムの情報がまとめられている.全体として分 下水道,通信のネットワークが張り巡らされ,その 量が多いため,本訳書では,第 3 部後半の分野別 建設・維持管理は都市の大きな仕事となっている. の技術情報と資金援助・技術移転プログラムの情報 こうした現代の都市の姿を見れば,2 つのエコの融 を記した部分,原著のうちの合計 114 頁分は割愛 合を具体的に実現するために,都市が先頭に立って せざるを得なかった.このため,本訳書に収録する 取り組まねばならないことの説明には多言は要しな のは,頁数にすると原著の約 3 分の 2 である. いだろう.しかし,都市は,経済のためにも,環境 のためにも,さまざまな取り組みを行っているわけ   本 書 の 主 題 は, エ コ ロ ジ ー( 環 境 ) と エ コ ノ だが,環境と経済を1つの一体的なテーマとして明 ミ ー( 経 済 ) の 2 つ の「 エ コ 」 の 融 合 を 都 市 と 確に認識した上で,両者を融合させるための明確な いう舞台で実現することである.この概念を実に 政策ビジョンや目標を持ち,強いリーダーシップの 簡 潔 に 表 す の が“Eco2” と い う 語 で あ る. 副 題 下に施策を実施しているかどうかを問えば,それは vi ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES まだ不十分だと言えよう.特に,世界銀行がその主 抜きの経済はなく,経済抜きの環境も無い.考えて な仕事の場としている発展途上国においては,加速 見れば当然のことである.過去にしがらみを持たな 度的に進行する急速な都市化が起きたのは比較的最 い若い世代の人々ほど,この考えを素直に受け入 近のことである.眼前の短期的問題への緊急対処に れ,吸収できるのではなかろうか. 忙殺されている発展途上国都市の現状においては,  現在,市民の間には,自分自身の生活,ライフス 環境と経済の融合は迂遠なテーマとして認識されて タイルと環境の関係に目を向けることから出発して も仕方ないだろう. 環境問題を見つめ直そうという空気がある.そのた  世界銀行の立場からは,本書の主念頭にあるの めには,多くの人が居住する都市に目を向けるこ は発展途上国の都市であるが,本書の内容の大部 と,自分がどれだけの食料,電力・ガス・水を消費 分は日本を含めた先進国の都市にもそのまま当て しているか,それらはどのような仕組みで供給され はまる.ここで,本書が強く主張しているのは,こ ているのか,毎日発生させているごみや下水・生活 れから都市化が急速に進む発展途上国の都市にとっ 排水はどう処理されているのかといった問題に目を ては,今がチャンスだということである.地球環境 向ければ,都市における 2 つの「エコ」の関係は は,先進国,発展途上国を問わず,全人類の共有財 理解しやすいものになるだろう.そして,こうした 産である.この地球環境をまもるために,世界銀行 問題に深く踏み込むにつれ,1 つの都市の問題が地 はさまざまな支援プログラムを用意している.先進 球環境や世界経済と深く結びついており,その中で 国と発展途上国との国同士の協力も重要であり,実 自分がどのような位置を占めるかが理解できるだろ 際,日本の政府や自治体,NGO 等は発展途上国の う. 都市を対象としたさまざまな協力プログラムを推進 している.現在,積極的な取り組みを開始しようと  本書では,環境経済都市の実現には,①都市ベー する都市に対しては,さまざまな支援が用意されて スでの取り組み,②あらゆる関係者が協力しあう いるので,これらの都市にとっては今がチャンスな ,③「都市の形 ための土台(プラットフォーム) のである.一方,支援する側においても,従来通り (Form)」と「都市の資源フロー(Flow)」を一体 のプログラムを継続するのではなく,より高い理念 として扱うワンシステムアプローチ,及び④目的を に基づきながら,かつ,より一層具体的で総合的な 実現するのに適した投資枠組み,の 4 つが不可欠 アプローチが必要である.その意味で,本書の内容 だとして,それらを「4 つの原則」と呼んでいる. は,発展途上国向けのさまざまな支援・協力プログ そして,第 1 部では,まず第 1 章及び第 2 章にお ラムを推進する立場の人々にとっても有用である. いて,2 つの「エコ」が融合・統合された環境経済 都市とは何か,何故そのような理念に基づく取り組  2 つの「エコ」は相互に独立なものではなく,ま みが必要なのかを述べ,第 3 章から第 6 章までの してや反発しあうものではなく,互いに渾然一体と 各章では,上記 4 原則の必要性と内容が順次に説 して融合しあうべきものである.環境と経済は互い 明されている. にトレードオフ関係にあって,どちらかを重視すれ  都市における 2 つの「エコ」の融合・統合は, ば他方が犠牲にならざるをえないという考えが長く 古い伝統を持つ都市計画という専門分野にとっても 支配的であったが,今日ではこのような考えはむし 新しい挑戦だと言えよう.例えば,街区や建物の美 ろ少数派になりつつある.日本のような先進国で環 観や機能性,居住性に焦点を当てた都市デザイン 境問題,特に大気や水の汚染・公害問題が深刻化し と,環境資源管理に深く関わるエネルギー・水・交 た 20 世紀後半の歴史を記憶している世代の人間に 通・廃棄物のシステム的な計画・管理は,それぞれ とっては,2 つのエコをめぐるこのような基本的な 別の専門家群によって扱われることが多く,両方を 思潮の変化はまことに驚くべき大変化である.環境 統合するようなアプローチは決して十分とは言えな 監訳者による前書き vii い.これは,市役所内部の分野別縦割り行政の壁 国都市の実情を考えると,こうした優れた能力を持 のせいでもある.ここで,本書が強く提案してい つリーダーの育成が不可欠であること,こうした人 るのが,「ワンシステムアプローチ」(第 5 章)で 物がいなければ,世界銀行が唱道する施策の実施も 「都市の形(Form) あり, 」と「都市の資源フロー 難しいことを感じる.逆に,優れたリーダーの登場 (Flow)」を 1 つに統合する取り組みである.「都 によって大きな発展も期待できるに違いない. 市の形(Form)」は,都市の地形条件等に適合し た都市機能の空間配置,施設の立地,土地利用な  本書第 2 部は,意思決定支援システム(DSS) ど,伝統的な都市計画の問題領域である.これに対 と呼ぶ技術的手法のかなり詳しい紹介に当てられて 「都市の資源フロー(Flow) して, 」は,都市内に いる.その内容は,大きくは,①関係者の協力を導 おけるさまざまな機能・施設の配置や土地利用にと くための合意形成の手法,②ワンシステムアプロー もなって,エネルギーや水の消費がどうなり,どれ チを支援するための地図情報システム,及び③プロ だけの廃棄物が発生するか,交通需要がどうなる ジェクトやプログラムのライフサイクル全体での費 か,その結果どれだけの環境負荷が発生するかとい 用対効果を分析するためのライフサイクルコスト分 う問題を扱う領域である.都市環境に関する施策と 析システムである.合意形成の重要性とその難しさ しては,緑地や水辺の保全・創造,景観,交通管理 は,都市計画等のさまざまな問題で経験してきたと といった施策は前者に深く関連し,エネルギー・水 おりであるが,第 8 章では,合意形成のための有 資源・廃棄物といった施策は後者に属する.この両 効なステップとなるワークショップ等の運営のあり 者は深く結びついているが,両者を一体的,総合的 方を詳しく述べている.ここでは,関係者の持つ専 に扱おうという取り組みは比較的新しい.これらの 門知識や知恵を持ち寄って設計・デザインを行うた 問題相互の関係が非常に複雑であり,こういう施策 めの集まり(シャレットと呼ばれる)に大きな期待 を推進するのに必要な情報基盤が不十分なため,問 を寄せている.第 9 章で紹介しているのは,都市 題の理解が容易でないという事情もある. 内の施設配置,土地利用,資源フローなどに関する あらゆる情報を地図化し,それらの重ね合わせに  都市の行政はさまざまな施策に細分化され,縦割 よって合理的な計画デザインを進めるための手法で りになりがちであるが,それでも市長,あるいは強 ある.これは,地図情報システム(GIS)として, 力な指導力を発揮する人物の登場によって,組織の 近年急速に進歩している専門分野である.第 10 章 壁を越えた強力な取り組みが可能になる.環境都市 は,ライフサイクルコスト分析の手法を紹介して として世界的に有名な都市,例えばブラジルのクリ いる.ライフサイクルコスト分析は,明示的には 4 ティバ市を見ても,強いリーダーシップが成功の鍵 つの原則の中には挙げられていないが,4 番目の原 となっている.本書では,都市を舞台に,強いリー 則「目的を実現するのに適した投資枠組み」を具体 ダーシップを発揮する個人の統率の下に,さまざま 的に遂行するために不可欠な道具である.具体的な な関係者(ステークホルダー)が参加・協力しあう コストの算定には詳細なデータが必要であり,資源 ことによってワンシステムアプローチを推進するこ フローに関するデータと併せて分析する手法はライ と,その際には施設等の建設だけでなく,維持・管 フサイクルアセスメント(LCA)と呼ばれて,近 理も含めた長期的なライフサイクルを考慮した資金 年やはり急速に発展しつつある専門分野である.本 計画を立てる必要があることが述べられている.こ 書全体を通じた主張として重要なポイントは,施設 れが,本書第1部が提示する 4 つの原則のエッセ の建設費だけでなく,運営・維持・管理費,さらに ンスであると言えよう.特に,本書では,都市での は老朽化した場合の建て替えや廃棄の費用を考慮し 取り組みのリーダーとなる個人をチャンピオンと呼 ておくのが不可欠だということである.実際,建設 び,その役割に大きな期待を寄せている.発展途上 はしたが,維持・管理費の不足によって施設が稼働 viii ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES していないという例は各処に見られるので,注意す として訳語が確立していない語や概念がある.例 べき課題である.ここで,地図情報システム(GIS) “resiliency”については,片仮名でレジリエ えば, にしても,ライフサイクルコスト分析にしても,専 ンシー(形容詞ではレジリエント)と訳されること 門的な知識を現場が十分に使いこなせていないとい も多いが,本書では「復元力(形容詞では復元力の う問題が指摘できるだろう.特に,これらの専門的 ある)」と訳した.これと対で使われることの多い なツールを政策づくりに具体的に活かすことは,途 “sustainability”については「持続可能性(形容詞 上国都市のみならず,我が国の都市にとっても重要 では持続可能な)」が定着しているようなので,こ な課題である. れを用いた.“collaboration”の訳は,「協働」と した.この他,インテグレーション(総合,統合  最後に,本書の第 3 部では,都市ごとの優良事 ,フレームワーク(枠組み,体系) 化,融合) ,イン 例(グッドプラクティス)の紹介と,エネルギー, フラ(基盤施設),ステークホルダー(関係者,利 水,交通及び廃棄物の 4 分野において計画をつく ,プラットフォーム(土台,舞台) 害関係者) ,アプ る場合に役に立つ情報の整理が行われている.優良 ローチ(取り組み,施策),ベネフィット(便益, 事例としては,①クリティバ市(ブラジル),②ス 利益) ,デザイン(計 ,ソリューション(解決策) トックホルム市(スウェーデン),③シンガポール, 画),プロセス(手順),パフォーマンス(成績,実 ,⑤ブリスベン市(オーストラリ ④横浜市(日本) ,ステッピングストーン(踏み石, 績,実施状況) ア),⑥オークランド市(ニュージーランド)が紹 手順)など,片仮名のままでもよいが,そうすると 介されている.これらの具体的内容のコメントは割 1つのページが片仮名だらけになって日本語らしく 愛するが,読者には,読み物として楽しんでいただ なくなるという問題もある.そのため,これらの語 けるだろう.なお,その内容の一部は,ワンシステ については,特に定訳は決めず,登場した箇所ごと ムアプローチの具体例として第 5 章にも随所で触 に読みやすくなるように留意しつつ訳出した. れられており,興味深い図がたくさん提示されてい る.紙数の関係で訳出を省略せざるを得なかったエ  本書の翻訳作業は,第 1 部及び第3部について ネルギー,水,交通及び廃棄物の 4 分野に関する は横浜市立大学グローバル都市協力研究センター関 技術情報は,専門家にとっては有用な内容をたくさ 係者(原洋一,向野能里子,児玉光也の各氏及び多 ん含んでいる.都市計画や環境システム分析を専門 数の学生諸氏(青正澄ゼミ所属))が協力し,第 2 とする大学院生などにとっては,教科書としても使 部は千葉啓恵氏に分担していただき,全体を監訳者 える内容である.本書に盛り込めなかったことは残 が調整しました.本書の出版にこぎつけるまで,一 念であるが,その重要性を決して看過しているわけ 灯舎の平野皓正,野崎洋の両氏には,世界銀行との ではないことを特に記しておきたい. 連絡調整や編集作業などで多大なご尽力をいただき ました.これらの方々のご協力に深く感謝申しあげ  本書の翻訳にあたっては,当初は直訳を基本と ます. した.しかし,1つひとつの文章が長いことなど から意味が理解し難い箇所については,直訳に拘 2014 年 3 月 らずにかなり書き換えた.それでも,読みづらい箇 井村秀文 所があるとすれば,原文の言い回しを尊重すること と日本語としての読みやすさのバランスをとるこ との困難によるものである旨を記して,お詫びし たい.ここで,本書で頻出するいくつかの訳語に ついてコメントしておきたい.原文には,日本語 ix はじめに  本書は,世界銀行の Eco2 Cities イニシアティブ 「経済都市」とは何を意味するのか? ――2つのエコが融合する環境経済都市――の概要 を提供するものである.Eco2 Cities イニシアティ  経済都市とは,都市が持つ有形・無形のさまざま ブの目的は,発展途上国の都市が環境と経済の両面 な資産を効率的に利用することによって,市民,企 での持続可能性を高めるための取り組みを行うのを 業及び社会にとって有用な価値と機会を創造し,生 支援することである. 産的で,包括的かつ持続可能な経済活動を可能にす るものである.人々が経済都市について話す場合, その念頭にあるのは生産型都市であり,それに当て 「環境都市」とは何を意味するのか? はまる狭い定義,つまり,GDP ばかりを強調した  環境都市とは,都市の総合的な計画・管理によっ 指標を目標にしていることが多い.生産性は確かに て,生態系から得られる恩恵を享受し,将来世代の 経済都市の属性の1つとして重要であるが,経済都 ために環境資産を保護・育成し,市民と社会の福祉 市の特性はそれだけで表されるわけではないし,短 を向上させるものである.環境都市は,その機能を 期的視点から生産性だけを過剰に追い求めれば,社 自然環境システムと調和させ,自分自身が有する環 会や文化の面で歪が生じ,長期的に見た場合の経済 境資源のみならず,我々全員が恩恵を受けている地 の復元力が損なわれることが多い.ある場合には, 域及び地球の生態系の価値を評価しようと熱心に取 生産性を強調し過ぎれば,我々の基本的な価値体系 り組んでいる.環境都市のリーダーシップと,計 に曇りが生じ,我々は重大なシステム的リスクに直 画・政策・規制・制度の整備,戦略的な協働作業, 面することになってしまう.これは,現在生じてい 都市計画,総合的な長期投資戦略によって,地域及 る世界的経済危機の原因と結果が証明しているとお び地球の環境が受ける正味の被害は減少し,これら りである.我々は,もっとバランスの取れた経済都 都市に住む人々の生活水準と地域経済には全体とし 市の考えを提案することによって,文化や価値観に て大きな改善がもたらされている.環境都市は,生 関係したもっと大きなシステムの中で,持続可能 態系が持つ効率的かつ自己組織的な戦略から生み出 性,革新性,包括性及び復元力を兼ね備えた経済活 された管理・設計の方法から多くを学びとり,その 動に重点を置こうとしている. 方法を総合的に取りまとめようとしている. x ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 運用の枠組みの開発という目的の完了を示すもので それでは,環境経済都市とは何を意味する ある.発展途上国の都市は,この枠組みを利用して のか? 体系的な取り組みを実行することができる.その成  名前が意味するとおり,Eco2 都市は,環境面で 果の概要は既に述べたとおりであるが,その詳しい の持続可能性と経済面での持続可能性の両者の複合 全容は本書全体を通して紹介する.しかし,本書で 的効果と相互依存関係の上に,すなわち,都市のさ 示すのは,あくまでも枠組みに過ぎない.それは, まざまな問題の中で,両者は互いに相乗的に作用し 出発点を提供するだけであり,各都市はそれぞれの あい,強化しあうことができる大きな可能性を持っ 事情に合わせて内容を変更する必要がある.こうし ているという基本的条件の上に成立するのである. た取り組みによって既に大きな恩恵を受けている都 革新的都市の実例が示すところによれば,適切な戦 市の事例を注意深く分析し,また,その他の多くの 略的アプローチの支援を受けることによって,都市 都市で同じような取り組みが何故実行されなかった は資源効率性を大幅に向上させ,量的にずっと少な のかを詳しく調査した結果,長く続く成功を導くた い資源投入と再生可能資源の利用で,有害な汚染と めに不可欠な要素として,この枠組みを構成する4 不要な廃棄物の発生を減少させた上で,これまでと つの重要な原則が発見された.これらの原則の上 変わらぬ価値を生産することができる.これらの都 に,このイニシアティブは構築されている.その4 市は,これを成し遂げることによって,住民の生 原則とは,以下に示すとおりである. 活の質を向上させ,経済的競争力や復元力を強化 し,財政力を高め,貧困に苦しむ人達に多大な恩恵 (1) 地方政府に開発の主導権を持たせることによ を与え,持続可能性をめぐる恒久的な文化を創り出 り,生態系などの地域特有の条件を考慮するこ している.都市におけるこうした種類の持続可能性 とを可能にする,都市ベースのアプローチ. は,さまざまな複合的利益をもたらす強力で長続き (2) 協力しながら設計し,意思決定を行うことに する投資に他ならない.急速に変化し不確実性に満 よって,重要な利害関係者の行動を調整し統一 ちた世界経済の中にあって,こうした都市はいかな することを可能にする,拡大プラットフォー るショックの中でも生き残り,ビジネスを惹きつ ム. け,コストをうまく管理し,繁栄を続けるだろう. (3) 都市システムの全体を統合的に計画・設計・管 Eco2 Cities イニシアティブを展開してきたのは, 理することによって得られる効果を実際に実現 発展途上国の都市において持続可能な成長進路が採 できる,ワンシステムアプローチ. 用されることによって,こうした価値を実現し,利 (4) ライフサイクル分析,すべての資本(人工,自 益をもたらすためである. 然,人間,社会)の価値評価,及び,広い視野 からのリスク評価によって持続可能性と復元力 を定量的に分析し,その結果を意思決定の中に Eco2 Cities イニシアティブはどのように 組み込むことができる,投資戦略の枠組み. 機能するのか?  世界銀行の Eco2 Cities イ二シアティブは,発展  さらに,これらの原則を構成するいくつかの重要 途上国の都市に対して,現実的,かつ,計測可能で な要素が導かれる.それぞれの都市は,地域の状況 運用しやすい支援を提供するための幅広いプラット を考慮し,論理的な順序に従ってこれらの要素を検 フォームであり,都市はこれを利用することによっ 討することによって,一連の具体的な行動項目を導 て環境と経済の両面での持続可能性がもたらす恩恵 き出し,行動のための足掛かりとすることができ を享受することができるだろう.本書の出版は,イ る.それと一緒に,これらの足掛かりによって,都 ニシアティブがその第一段階で目指していた分析と 市は独自色のある行動計画をつくり,持続可能な発 はじめに xi 展経路を検討することができる.こういう意味で, 過去の資産の上に築く もし都市が4つの原則を採用し,その都市の状況に 適合した分析・運営枠組みを採用し,さらに,そう  Eco2 Cities イニシアティブは,これまでに築か することによって,自分自身の持続可能な発展経路 れた豊富かつ多様な資産の上に構築しようとするも を開発し,それを実施し始めることになれば,理想 ので,世界各地の都市の建設・管理において成功し 的な状況が実現される.都市は,まず能力向上と た考えをさらに強固にしようとしている.アジア, データ管理を徐々に開始した上で,最も重要と思わ アフリカ,ヨーロッパ,中東,南アメリカなどの古 れる課題を対象にした触媒的なプロジェクトを実施 代の都市や集落には,自然を深く理解しそれに敬意 してみるのがよいだろう.ここでいう触媒的プロ を払っていたことを示す特徴がある ジェクトとは,資源効率だけを扱う単独プロジェク  19 世紀の産業革命は,都市域の拡大と,信じら トとは異なり,変革のプロセスに刺激を与えること れないほどの物質的豊かさを可能にした.しかし, によって持続可能な発展に向けて都市を前進させる 環境と生活の質の面では,マイナスの影響もたくさ という明確な目的と能力を有するもので,その目標 ん発生した.産業革命を契機に,現代の都市計画が はプロジェクトの短期的な視野や目的を越えたもの 誕生した.多くの人々が,成長を続ける都市におい である. て,周辺地域の生態系との調和拡大と社会状態の改 善の2つを同時に達成するのにどれほどの時間が必 要かを明らかにしようとした.1890 年代のエベネ 克服すべき課題 ザー・ハワード(Ebenezer Howard)とパトリッ  よりうまく統合された長期的な取り組みを採用し ク・ゲッズ(Patrick Geddes)の思想はその代表 ようとすると,都市はさまざまな課題に遭遇するこ 的なものである.ハワードの唱えた田園都市という とになるので,それを理解することが重要である. 解決策は,おそらく,20 世紀の都市計画を指導す そこには,技術,行政及び財政の面での能力的制約 る諸概念の中にあって,一番根強い力を持ってい があり,それらの制約は都市を管理するにあたって る.それ以来,多くの先駆者達が,このテーマに関 常に直面する慢性的な問題と深くつながっている. 連したさまざまな運動を担ってきた.それらには, まず,関係機関における責任と権限が細切れに分散 地域計画,ニュータウン,自然と調和した設計,エ されているという問題から始まり,短期的な視点で コロジカルプランニング,新しい都市化,緑のイン 行われがちな意思決定とその会計的な仕組みの問題 フラといった流れがあり,つい最近では,ローカル まで,さまざまな制度的障害がある.さらに,政治 アジェンダ 21,トリプルボトムライン,フルコス 経済的な課題,個々の政策課題の予定,政府と民間 トアカウンティング,低炭素都市に向けた転換と の硬直的な関係,遅れた技術とその運営方式,正確 いった動きがある. で完全な長期的な費用効果の意味に関する理解の誤  1990 年に設立された ICLEI(持続可能性をめざ りや間違った情報,変化に抵抗してなかなか重い腰 す自治体協議会)が,この分野における国際的な をあげようとしない人間の一般的特性といった問題 動きを担う重要な団体として登場した.1970 年代 がある.あまりに多くの問題があって嫌になってし 初頭から使用されている「エコシティ」という語 まうが,だからこそ,Eco2 のような体系的な取り には厳密な定義はなく,いろいろな先進的な環境 組みが必要なのである.これらすべての問題に一度 施策の組み合わせ,例えば,住民が利用できる緑 に取り組むのが困難なことは,ほとんどの都市に 地の比率を増やしたり,歩行者や通行者にやさし とって明白なので,漸進的かつ段階的な取り組みを い交通システムを建設したり,建物のエネルギー 採用する必要がある. 効率改善を求めるといった取り組みを実行してい る都市を漠然とそう呼んでいる.「エコシティ」の xii ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 意味をもっと明確に定義する試みとしては,中国 略的に開始することによって変化の動きを起こす などの幾つの国でグリーンビルディングと環境都 ことができるだろう.取り組みの内容が深く総合 市に関する基準を既に定めている例があげられる. 的であるほど,起きる変化は広く深いものになる.  エコロジカルな都市に対して関心を示す多くの波 このようなイニシアティブを成功裡に適用するこ が生じたおかげで,エコシティの概念は成熟・進化 とは,都市における変革の起爆剤となろう.この してきた.この立場から見ると,Eco2 Cities とい ような変革は既に起きており,読者は本書に収録 う言葉は便利であり,個別の環境施策ではなく,長 された事例から多くの刺激を受けるだろう.そこ 期的なフルコスト会計に立脚したシステム的な視野 で,Eco2 Cities イニシアティブは,都市が自分自 に重点を置く新世代のエコシティを認識する上で役 身の変革を成し遂げるために必要な支援を提供す に立つ.都市を理解するには,その全体を1つのも ることを目指している. のとして認識する必要があり,都市のデザインにお  この枠組みを適用する際,最初の実験都市の中 いては,自然環境が持つ複雑性と多機能性という特 に,条件や背景の異なるさまざまな都市が含まれて 徴を考慮した提案が求められている.Eco2 は,経 いることが役立つであろう.このことは,広範で豊 済と環境の融合を意味するだけでなく,持続可能な 富なプラットフォームを提供し,状況の異なる色々 開発を達成するための複雑かつ長期的なアプローチ な都市にこの枠組みを適用する場合に,その意味や の第一歩を意味する.Eco2 の概念は進化しつつあ 効果を評価するのに役立つだろう.また,我々は, る.我々は,この概念の改善・深化をめぐる考えや 得られた経験をフィードバックすることによって 展望について,世界中の都市と協働していきたいと 我々のアプローチを継続的に改善することができる 考えている. だろう.  Eco2 をテストし,個々の事例の現場的経験から 学ぶ上で,都市をベースとしたアプローチが重要 Eco2 Cities イニシアティブはどのように なことは明らかである.現在我々は,多くの可能 進化するであろうか 性を視野に入れつつ,グローバルな効果をあげる  Eco2 Cities イニシアティブは,本書の出版に ことを目指している.しかし,都市化の規模と速 よって,その実施段階を開始することになった. 度を考えると,個々の都市ごとのアプローチに限 このイニシアティブは,個々の実験都市にこの枠 定したのでは,期待した効果を達成することはで 組みを適用することと,都市や国のレベルで,ま きないだろう.したがって,我々は,国ごとの計 た,国際的あるいは全世界的なレベルで,実践的 画的アプローチによって,Eco2 Cities イニシア に取り組む人々が互いに学びあうことができるグ ティブを大きな流れとし,その規模を拡大しよう ループを生み出すことを重視している.また,国 としている. 家的なプログラムと人材育成を通して取組を拡大  プロジェクトを作り出すことだけが,大きな流 し,大きな流れをつくり出すことを目指している. れを生み出す有効な方法というわけではない.流 現実の世界に適用するには,まず,努力と実行に れを生み出すために不可欠なのは,それぞれの国 向けた明確な意思表示が必要である.そのために 内でそれぞれの事情にあった施策をつくり,それ は,政治的な強い意志,リーダーシップ,能力育 を自分自身のものとしていくことであり,そのた 成,協働,制度改革が必要であり,創造的なデザ めには,国による支援政策と能力形成が必要であ インと意思決定を可能にするような新しいプロセ る.このために,地域計画に関する世界中の研究 スも必要である.理想的には,改革の意欲のある 機関,例えば,ブラジルのクリティバ市都市計画 都市の指導者達は,総合的な取り組みを行おうと 研究所(The Institute for Research and Urban するだろう.その他の都市も,萌芽的な活動を戦 Planning of Curitiba)などを含めた取り組みが はじめに xiii ある. 業を行うにつれ,新しい可能性や斬新なアイデア  我々が共通に抱いている目的に向けて作業を続 が出てくるだろう.Eco2 Cities イニシアティブ けるとともに,新しい知識・方法・ツール,人材・ は活動を続けながら,さまざまな考えを取り込み, 資金が利用できるようになり,Eco2 Cities イニシ 反復を繰り返しながら,提案を行っていくであろ アティブはさらに進化・成長するであろう.新し う. い協力関係を形成し,より多くの都市との共同作 xv 謝 辞   世 界 銀 行 の Eco2 Cities イ ニ シ ア テ ィ ブ 受けた. は,Hiroaki Suzuki( チ ー ム リ ー ダ ー),Arish  Geoffrey Payne, Örjan Svane, Richard Stren Dastur(同チームリーダー)を中心に,Sebastian は,初期の Eco2 構想において貴重な提案を行った. Moffatt,Nanae Yabuki,Hinako Maruyama と そして,Yuko Otsuki は,Eco2 チームに対する強 ともに考案され発展してきており,この本は彼らに 力なサポートを提供した. よって編集された.  この本は,世界銀行東アジア・太平洋州局のため   そ の 他 に, 寄 稿 者 と し て Feng Liu, Jas Singh, に,都市開発部門の専門家である Keshav Varma George Darido, Khairy AI Jamal, Charles W. の指導を受けたものである.また,John Roome, Peterson, Alain Bertano, Nobue Amanuma, Christian Delvoie, Abha Joshi-Ghani, Eleoterio Malin Olsson, Karolina Blick, Maria Lennartsson, Codato, Ede Jorge Ijjasz-Vaquez, Amarquaye Claire Mortimer, and Bernd Kalkum がいる. Armar からも強力な助けを受けている.  同分野の専門家は,Stephen Karam, Ronert    Elisabeth Mealey は, 私 た ち に コ ミ ュ ニ ケ ー Taylor, Neeraj Prasad, Josef Leitmann, Sam ション戦略についての助言をしてくれた.Claudia Zimmerman である. Gabarain は,ウェブデザインとオンライン戦略に  AusAID( 旧 オ ー ス ト ラ リ ア 国 際 開 発 庁 ) の 貢献した.Inneke Herawati, Iris David, Bobbie Alan Counlthart, Tim Suljada, Brian Dawson, Brown, Vellet Fernandes, Sandra Walston は, Carly Price,スウェーデン国際開発公社(SIDA) 重要な後方支援をしてくれた. の Thomas Melin, 国 際 金 融 公 社 の Sumter Lee  Dean Thompson はこの本の旧バージョンの編 Travers and Fang Chen, 及 び 世 界 銀 行 の Jas 集のサポートをしてくれた.出版社の職員である Singh, Victor Vergara, Shomik Mehndiratta, Patricia Katayama and Mark Ingebretsen は, William Kingdom, Jan Bojo, Paul Kriss, Rohit 出版についてチームを指導し,最終の編集処理を担 Khanna, Peter Ellis, Habiba Gitay, Mir Altaf, 当した.Naylor Design.Inc は,表紙デザインと Rama Chandra Reddy, Monali Ranade, Axel レイアウトを行った.この本の多くのグラフィッ Baeumler, Nat Pinnoi, Masato Sawaki, and クは Sebastian Moffatt と the Sheltair Group に Johhannes Heister からは,重要な意見・提案を よって作成された. xvi ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES  チームは,エネルギー分野での発展途上国向けの Toderian, Director of Planning;(4)the City 信託基金(ESMAP, 世界銀行と国連開発計画が共 of Yokohama, especially Toru Hashimoto, 同で打ち出したもの),世界銀行の経営・経済・都 Senior Project manager, Co-Governance and 市開発省など,Sheltair Group の価値ある貢献に Creation Taskforce, and Yoshihiro Kodama, 対して感謝を表明する. Co-governance and Creation Taskforce; and  チームは,以下の都市の重要な意思決定者からの (5) the City of Brisbane, espscially David ご指導に深い感謝の意を表明する. Jackson, Manager, Economic Development;  (1)the City of Curitiba;Clever Ubiratan John Cowie, senior Project Officer, Economic Teixeira de Almeida, President, Institute for Development; and Lex Drennan, City Smart Research and Urban Planning of Curitiba, Project Director. and Priscila Tiboni, Foreign Affairs Advisor,  本書の出版は,世界銀行東アジア・アジア太平洋 Institute for Research and Urban Planning 地域局による予算増額とオーストラリア国際開発庁 of Curitiba;(2) the city of Stockholm, からの協調支援予算によって可能となったものであ especially Malin Olsson, Head of Section, る. City Planning; and Klas Groth, City Planning; (3)the city of Vancouver, especially Brent xvii 本書の構成  本書は3部で構成されている. する.また,この第2部では,物質フロー分析と地 図の重ね合わせの方法を検討することによって,都 第1部では,Eco2 Cities イニシアティブの枠組み 市インフラと空間計画に対する統合的なアプローチ を述べる.そこでは,背景と必要性の説明から出発 を実行しやすくする.また,ライフサイクルコスト して,このアプローチを説明する.取り組むべき主 の評価手法を説明するとともに,そのためのいくつ 要課題を説明し,これらの課題を克服することに かの具体的なツールを紹介する.第2部の最後で よって新しい可能性を切り拓くことに成功した都市 は,将来予測のためのワークショップ開催や都市に からの教訓をまとめる.ここで,4つの重要な原則 復元力を持たせるための計画づくりに有用な方法を が導入される.これらの4原則を中心に,プログラ 紹介する.Eco2 イニシアティブが成長するにつれ, ムの説明が行われる.原則は1つずつ別々の章で説 より深い情報が得られ,都市ごとの意思決定の支援 明され,それぞれの章では,プログラムの柱となる システムの内容も豊富になるだろう. 要素と,都市が Eco2 の実現に向けた行路を開拓す る際に歩むべきステップを提示する.第1部の締め 第3部は事例分析のための手引きである.この手引 くくりでは,都市が独自の行路を歩み始める際に, きには,発展途上国の都市を支援するために企図さ 開発問題に携わるさまざまなパートナーから支援を れた参考文献が収録されており,2つのレベルか 得るための方法について概観する. ら,問題をより深くかつ円滑に洞察することができ る.そこでは,都市のさまざまなインフラを,都市 第2部は,都市ごとの意思決定を支援するためのシ ごとに見るレンズと,分野ごとに見るレンズの2つ ステムを提示しており,都市が,第1部で示された が提供される.その最初の章では,世界中の都市の 重要な要素とステップのいくつかを具体的に適用す 中から非常に優れた事例を選んで検討する.各都市 る場合に参考となる重要な方法とツールを紹介す は,Eco2 アプローチを構成するさまざまな要素が る.ここでは,協働によるデザインと意思決定の方 具体的にどのように適用されるかの個別的事例を提 法を取り上げ,関係者の政策や行動を体系的に整 供してくれる.次の章では,分野ごとの注意事項が 理・動員するために,効果のある長期的な実施枠組 シリーズで示され,都市開発における分野ごとの問 みを創り上げるにはどうしたらよいかを詳しく分析 題点を個別に明らかにする.取り上げる分野は,電 xviii ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 力,水,交通,都市廃棄物の4つである.この章で 身の行路を進むのに必要な土地と針路に関する調査 は,都市の空間構造を管理するための注意事項も示 情報を得ることができる.本書は Eco2 が意味する される.全体として,これらの分野別注意事項は, ものの範囲と概要を示しているが,その内容はまだ 各分野がどのように機能しているのか,また,分野 確定しておらず,絶えず変化している.特に,第 同士の関係が現在どうなっているのかの実態を理解 2部と第3部がそうである.より詳細かつ更新さ するのに役立つ.これらの問題を都市別,分野別の れた情報は,Eco2 イニシアティブのウェブサイト レンズを通して眺めることによって,我々はより大 (http://www.worldbank.org/eco2)で入手でき きな視野でものを見始めることになる.また,この る. 第3部の最後の章では,世界銀行が提供する資金支 援の方法について述べる. [監訳者註:上述のとおり,第3部は,都市ごとの  第1部と第2部は,Eco2 Cities イニシアティブ 事例紹介(Eco2 Case Studies)と分野別の注意事 そのものを扱っている.これに対して,第3部の事 項(Eco2 Sector Notes)で構成されるが,本訳書 例分析の手引きでは,現在高い評価を受けている事 では,紙数の関係で分野別の注意事項は省略してい 例が実現した背景や,考慮すべき政策,個別施策, る.] 制度関連施策の全貌について,情報を提供する.第   1部,2部,3部の全体を通して,都市は,自分自 xix 用語集 ASF Auckland Sustainability Framework(New Zealand) BRT bus rapid transit CBD central business district CDM clean development mechanism CO2 carbon dioxide CPF Carbon Partnership Facility CTF Clean Technology Fund CY current year DAC Development Assistance Committee(OECD ) DPL development policy lending DSM demand-side management DSS decision support system ELP environmental load profile ER emission reduction FAR floor area ratio FY fiscal year GDP gross domestic product GEF Global Environment Facility GHG greenhouse gas GIS geographic information system IBRD International Bank for Reconstruction and Development(World Bank) IDA International Development Association(World Bank) IFC International Finance Corporation(World Bank) IPPUC Institute for Research and Urban Planning of Curitiba(Brazil) LCC life-cycle costing LFG landfill gas LIBOR London interbank offered rate xx MDB Multilateral Development Bank MIGA Multilateral Investment Guarantee Agency(World Bank) O2 oxygen OECD Organisation for Economic Co-operation and Development PUB Public Utilities Board(Singapore) RGS regional growth strategy SCF Strategic Climate Fund SIP Small Investment Program SO2 sulfur dioxide UNDP United Nations Development Programme UNFCCC United Nations Framework Convention on Climate Change xxi 目 次 序 iii 監訳者による前書き v はじめに ix 謝 辞 xv 本書の構成 xvii 用語集 xix 総 括 1 第1部 枠組み 11 第1章 環境都市と経済都市 13 挑戦と機会 13 都市の持続性におけるイノベーションとその利益 19 優良事例都市から得られた強力な教訓 23 投資還元の機会 26 第2章 Eco2 Cities イニシアティブ:その原理と道筋 29 都市が直面する多くの課題 30 原則に立脚したアプローチで課題を克服 32 原則から重点施策の実施と独自の Eco2 経路へ 38 第3章 都市ベースのアプローチ 43 都市ベースのアプローチの重点項目 43 都市ベースのアプローチのための手順 46 第4章 協働によるデザインと意思決定のための拡大プラットフォーム 51 協働プラットフォームの重要要素 52 拡大協働プラットフォームのためのステップ 59 xxii 第5章 ワンシステムアプローチ 63 ワンシステムアプローチの柱 64 ワンシステムアプローチのための手順 88 第6章 持続可能性と復元力に重きを置く投資枠組み 93 持続可能性と復元力に投資するに当たっての重要事項 93 持続可能性と復元力に向けた投資の手順 105 第7章 共に前進しよう 107 知識共有・技術援助・能力形成 107 資金源 108 第2部 都市ベースの意思決定支援システム 111 第8章 協働によるデザインと意思決定の方法 115 協働ワーキンググループの組織と運営 115 ビジョンと行動を一致させる共有枠組みの開発 118 地域システム設計シャレットの実施 122 第9章 資源フローと都市の形の分析方法 127 メタ図とマテリアルフロー分析 127 オ ー バ ー レ イ・マ ッ ピ ン グ 効果的な地図の重ね合わせ 137 第 10 章 投資計画の立案方法 147 ライフサイクルコスティング 148 環境会計 162 予測ワークショップと復元力強化の計画 164 第3部 事例調査ガイド:世界の Eco2 Cities 169 事例1 クリティバ市,ブラジル 171 事例2 ストックホルム市,スウェーデン 185 事例3 シンガポール 197 事例4 横浜市,日本 207 事例5 ブリスベン市,オーストラリア 215 事例6 オークランド地方,ニュージーランド 221 索引 228 xxiii ― Box ― Box1.1 都市をベース とした取り 組みはボ トムアップである 45 Box1.2 将来予測とバ ックキャスト の組み合わせに よって 持続可能性と回復力を強化する 56 Box1.3 資源フ ロー と都市の形の組み合わせに よる専門横断的なプラットフォーム 65 Box1.4 都市の形と資源フ ロー 76 Box1.5 都市における土地プール化と土地区画整理 87 Box3.1 ストックホルム市の開発戦略 187 Box3.2 ブリスベン市のシテ ィスマー ト・プロ グラム内容 216 Box3.3 ブリスベン市が支援する補助・割戻し制度の事例 (環境的に持続可能な家庭での取組みに対する支援) 216 Box3.4 オーク ランド持続可能性枠組み(ASF)を方向づける 8つの目標 224 ―図― 図 1.1 ストックホルム市のハンマル ビー・モデル :計画と管理が一体化した事例 20 図 1.2 ストックホルム市ハンマル ビー・シ ョ ース タ ッドにおける 環境負荷ラ イフサイ クルアナ リ シス(LCA)を用いた最初の事前調査結果 21 図 1.3 クリティ バ市の総合交通システム(1974 ~ 95 年及び 2009 年) 22 図 1.4 2 中央政府が果たせる役割:国家 Eco 基金の運営と参加都市に対する支援 49 図 1.5 都市における 3 階層の協働ワーキン グ・ グループ: 事業単位, 市, 広域自治体 53 図 1.6 オールボー憲章 58 図 1.7 地域暖房システムの負荷曲線 67 図 1.8 水のカ スケー ド的利用 68 図 1.9 シンガポールにおける水のカ スケー ドと循環の輪 69 図 1.10 資源循環の輪 69 図 1.11 廃棄物のク ラス ター・マネジメ ント 70 図 1.12 分散型システム 71 図 1.13 歩行者用道路の利用 73 図 1.14 分散型排水処理システム 74 図 1.15 物質と廃棄物の統合的管理 74 図 1.16 革新的なエネルギーイ ンフラ 74 図 1.17 統合的な雨水管理 75 図 1.18 住宅向けの従来型供給システム 75 図 1.19 インフ ラシステムのための共同溝 75 図 1.20 米国ヒ ュース トン市中心部の航空写真 77 図 1.21 都市の人口密度と交通関連エネルギー消費 78 図 1.22 都市デザイ ンのための別のパラ ダイ ム 78 図 1.23 コミュニテ ィ内の自然システムから得られる恩恵 79 図 1.24 公立学校の多目的利用 80 図 1.25 時間の輪 82 図 1.26 土地区画整理事業前のシ ャ ンテ ィ グラム町, インドのグジャラート州 88 図 1.27 シャンテ ィグラム市:供用開始後の土地区画, インドのグジャラート州 89 図 1.28 ロンドンの資源フ ロー(2000 年) 97 図 1.29 市職員の レベルに対応した指標の類型 101 図 1.30 柔軟性のないエネルギー・システム 104 図 1.31 適応性のあるエネルギー・システム 104 図 1.32 金融商品 109 図 2.1 協働モデル 116 図 2.2 協働ワーキン ググループ 117 xxiv 図 2.3 コアチーム と各セク ターの助言者 118 図 2.4 長期計画の枠組み 119 図 2.5 触媒プロ ジェ クト 122 図 2.6 設計ワーク シ ョップ: システム設計シ ャレッ ト 124 図 2.7 地域設計シ ャレ ット 125 図 2.8 サンキー図 128 図 2.9 メ タ図の一例 129 図 2.10 カ リフォ ルニア州アーバイ ン市の基本的な水のフ ロー 130 図 2.11 全国的なメ タ図の一例 131 図 2.12 メ タ図のパターン :物理的フ ロー 131 図 2.13 金澤(上海)のメ タ図:現在のエネルギーシステム 132 図 2.14 金澤(上海)のメ タ図:高度なシステム 132 図 2.15 下町の概略図 133 図 2.16 提案されているニュー タ ウ ンのエネルギーに関する メ タ図 134 図 2.17 ス コー ミッシュ(カナダ)の指標の 1つ と しての年間エネルギー使用量 135 図 2.18 メ タ図の作成アプローチ 135 図 2.19 参照建築の監査に よ る メタ図の作成 136 図 2.20 水フ ローの一般的なマ トリ ック スのサン プル 139 図 2.21 デー タの レイ ヤリン グ 140 図 2.22 地図の重ね合わせ 141 図 2.23 リ スク ・アセス メント用の地図の重ね合わせの一例 142 図 2.24 再生可能エネルギー源に関する地図の重ね合わせの一例 143 図 2.25 CommunityViz 144 図 2.26 建物のラ イフサイ ク ル 148 図 2.27 マス ク法で作られた基本的な低密度シナ リオ 151 図 2.28 基本シナ リオ :初期資本コス ト 152 図 2.29 基本シナ リオ :1戸当た りの年間運用コス ト 153 図 2.30 基本シナ リオ :1戸当た りの初期資本コス ト と年間運用コス トのグラフ 153 図 2.31 基本シナ リオ :真のラ イ フサイ ク ルコストの代表例, 取替原価を含む. 153 図 2.32 基本シナ リオ :真のラ イ フサイ ク ルコストのグラ フ 154 図 2.33 基本シナ リオ :税金, 利用者料金, 初期開発コス ト負担金の評価 154 図 2.34 持続可能な近隣住区シナ リオ : 1戸当た りの初期資本コス ト 155 図 2.35 持続可能な近隣住区シナ リオ : 1戸当た りの年間運用コス ト 155 図 2.36 持続可能な近隣住区シナ リオ : 1戸当た りの初期資本コス トと 年間運用コス ト のグラ フ 155 図 2.37 持続可能な近隣住区シナ リオ :真のラ イ フサイ クルコス トの代表例, 取替原価を含む. 156 図 2.38 持続可能な近隣地区シナ リオ :真のラ イ フサイ クルコス トの代表例 156 図 2.39 持続可能な近隣地区シナ リオ :税金, 利用者料金, 初期開発コス ト負担金の評価 156 図 2.40 基本シナ リオ と持続可能な近隣地区シナ リ オの比較:初期資本コス ト 157 図 2.41 基本シナ リオ と持続可能な近隣地区シナ リ オの比較:年間運用コス ト 157 図 2.42 基本シナ リオ と持続可能な近隣地区シナ リ オの比較:75 年にわたる 自治体の年間コス ト と必要な収入 157 図 2.43 基本シナ リオ と持続可能な近隣地区シナ リ オの比較: 1 世帯当た りの年間ラ イフサイ ク ルコスト 158 図 2.44 RETScreen ソ フトウ ェア 159 図 2.45 RETScreen 財務サマ リーの一例 160 図 2.46 RETScreen 財務サマ リー(視覚化) 161 図 2.47 環境負荷プロ ファ イ ル 162 xxv 図 2.48 ハンマル ビー・シ ョース タッドでの ELP 関連の成果 163 図 2.49 環境への影響を削減するチャ ンス 164 図 2.50 影響図のテン プレー ト 167 図 3.1 クリテ ィバ市の景観 171 図 3.2 クリテ ィバ市における政策統合 172 図 3.3 クリテ ィバ市における都市の成長の軸 173 図 3.4 クリテ ィバ市の人口密度 173 図 3.5 クリテ ィバ市のゾーニン グ(2000 年) 173 図 3.6 クリテ ィバ市における統合バス路線網の発達 (1974 年~ 95 年, 及び 2009 年) 174 図 3.7 クリテ ィバ市における三重構造の道路システム 174 図 3.8 クリテ ィバ市の 3 両連結式バスお よびバス停留所 176 図 3.9 クリテ ィバ市のカ ラーコー ド化されたバス 176 図 3.10 バリグイ公園(ク リテ ィ バ市) 177 図 3.11 洪水の被害を受けていた頃のス ラム街の様子 177 図 3.12 クリテ ィバ市における環境保全のための開発権の移転 178 図 3.13 クリテ ィバ市の廃棄物処理プロ グラム 178 図 3.14 クリテ ィバ市の不法居住の様子 180 図 3.15 クリテ ィバ市のソーシ ャルハウ ジン グ 181 図 3.16 クリテ ィバ市における ソーシ ャルハウ ジ ン グのための開発権の移転 181 図 3.17 クリテ ィバ市中心街の歩道 181 図 3.18 クリテ ィバ市における文化遺産保全のための開発権の移転 182 図 3.19 クリテ ィバ市のグ リ ーン ラ イン 182 図 3.20 ストック ホルム市の景観 185 図 3.21 ハンマル ビー・モデル 190 図 3.22 環境負荷低減の主要項目モニ タ リン グ (スト ックホルム市ハンマル ビー・シ ョ ース タッド地区) 192 図 3.23 スウ ェーデンの地方投資助成プロ グラム(事業タ イプ別) 193 図 3.24 ストック ホルム ・ローヤル・シーポー ト:新市区の概観 194 図 3.25 シンガポールの景観 197 図 3.26 シンガポールの緑地 199 図 3.27 シンガポールの閉じ られた水の回路 200 図 3.28 横浜市のウ ォー ターフ ロ ント 207 図 3.29 横浜市における廃棄物削減・分別のための市民向けキ ャ ンペーン活動 209 図 3.30 横浜市における廃棄物削減 210 図 3.31 横浜市における廃棄物のフ ロー(2007 会計年度) 210 図 3.32 東方から眺めたオーク ラ ンド港 221 図 3.33 オーク ラ ンド地方の START のロ ゴ 222 図 3.34 多数のステーク ホルダーに よ る戦略策定 (3 日間のシ ャレ ットワーク ショ ップの様子) 223 図 3.35 オーク ラ ンド持続可能性枠組み 225 xxvi ― 地図 ― 地図 3.1 クリティ バ市の位置 172 地図 3.2 ストックホルム市の位置 186 地図 3.3 ストックホルムのインナーシテ ィと周辺の開発地域 188 地図 3.4 ストックホルム市ハンマル ビーシ ョースタッド地区のマスタープラン 189 地図 3.5 シンガポールの位置 198 地図 3.6 横浜市の位置 208 地図 3.7 ブリスベン市の位置 216 地図 3.8 オーク ランドの位置 222 ―表― 表 1.1 Eco2 Cities:原則と道筋 39 表 1.2 政府の取 り 組みが土地市場, イ ン フォーマルセク ターの規模及び 都市の空間構造に及ぼす影響 85 表 1.3 デザイ ン評価マ トリ ックス 98 表 1.4 4 つの資本に基づ くアプローチにおける指標の例 101 表 2.1 政策マ ト リ ック スの一例 123 表 2.2 標準化された水の流れに関するデー タの例 138 表 2.3 フ ォート ・セン ト ジョ ン市における 2 つのシナ リオに よる統計値の比較 151 表 3.1 渋滞に起因する時間的ロス及び燃料ロス 175 表 3.2 シ ンガポールの水道料金 202 表 3.3 シ ンガポールにおける家庭単位の水消費量と水道料金 (1995 年, 2000 年, 2004 年) 203 表 3.4 横浜市におけるステーク ホルダー関与に よる環境面での成果 (2001 ~ 2007 会計年度) 208 表 3.5 横浜市の廃棄物, 2001 – 2007 年度 209 表 3.6 廃棄物の減量に よ る二酸化炭素の削減(2001 ~ 2007 会計年度) 211 表 3.7 ブ リスベン市議会に よる温室効果ガス排出量お よ び 電力使用量の一覧(2005 ~ 2008 会計年度) 217 1 総括 は,国内総生産に占める都市の割合は既に 60%を 挑戦と機会 超えている.世界のほとんどの地域において,住民  発展途上国の都市化は,人口統計上の転換として の多くが,都市化によってもたらされた機会のおか おそらく今世紀最大のものであり,各国経済に大き げで貧困から抜け出すことができた. な構造変化をもたらし,何十億人もの人々の生活  しかし,都市化のこの速度と規模が,前例のない 形態を大きく変えようとしている.発展途上国に 消費と自然資源の損失と同時に生じていることは間 おける市街化地域の総面積は,2000 年から 2030 違いない.計算が示すところによれば,もし発展途 年の間に,20 万平方キロメートルから 60 万平方 上国が都市化してこれまでの先進国と同じように資 キロメートルへと,3 倍に増えると予想されてい 源を消費すれば,彼らの成長を支えるために地球 4 る.30 年間というほんの短い期間に新たに形成さ 個分の環境資源が必要になるだろう.だが,私たち れるこの 40 万平方キロメートルの市街化地域は, の所有する地球はただ1つである.このような転換 2000 年時点で全世界に存在する市街化地域の総面 を可能にするのに必要な資源基盤は存在しないのだ 積に匹敵する.我々は,深刻な資源の制約(天然資 から,発展途上国と先進国の都市は共に,人々の 源,財政,行政,技術の面で)を抱えている国々 ニーズを満たすためのもっと効率的な方法を見つけ において,これまでの通常速度の 10 倍の勢いで全 なければならない. く新しい都市世界を建設しつつあると言ってよい.  既に建設された現存ストックの管理を続けなが 我々は,常に変動し,相互に関連しあい,制御の難 ら,この強力な都市化の波を吸収し,それに耐え続 しい多くの新しい要因によって特徴づけられるグ けるには,パラダイムの転換が必要なことは明らか ローバル化という状況の中で,これを行っている. である.ここで,次のような基本的な質問が発せら  何がこの大規模で急速な都市化を引き起こしてい れるに違いない.すなわち,都市はどうしたら,悪 るのだろうか.歴史的に見て,世界中ほとんど何処 影響を軽減しながら,都市化によってもたらされる でも,都市化は国家経済の成長を促進してきた.平 経済成長や貧困削減の機会を効果的に利用し続ける 均すると,世界全体の経済生産の約 75%は都市で ことができるだろうか.都市化のすさまじい進行速 行われており,発展途上国におけるその割合は現在 度と規模の下で,また,自身の対応能力に限界があ 急速に増加している.多くの発展途上国において る中で,都市はいかにしてこのパラダイム転換を達 2 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 成できるであろうか.環境と経済の両者への配慮を 決定を行うための方法の効果も実証されている.都 接合しあうことによって,都市にもたらす良い効果 市レベルで成功することが国レベルで成功するため を累積し続けていくためには,どうしたらよいであ の基本であることが多いという事実に気づくにつ ろうか.我々は,いかにして環境と経済が対立しあ れ,国や州などの上位政府が,都市がイニシアティ う都市から環境と経済が調和する都市へと転換しよ ブを取るに際しての重要なパートナーになりつつあ うとするのだろうか. る.  革新的な都市の事例によれば,適切な戦略的アプ  また,都市を支援し,都市における長期的な投資 ローチを採用することによって,資源効率を大いに を資金面で支援しようとする国際的なコミットメン 高めることは可能であり,そこでは,有害な汚染や トも高まっている.持続可能な都市開発を達成する 不必要なごみを減らし,もっと小規模で再生可能な ために行動を起こしたいと考える発展途上国の都市 資源基盤に依拠しながらも従来と同じ価値を実現し のための新たな資金調達の機会が次々と登場してお ている.これらの都市では,これを達成することに り,それは特に,温室効果ガスの排出量削減につな よって,市民生活の質を改善し,経済面での競争力 がるエネルギー・資源の効率化対策について当ては と復元力を高め,財政能力を強化し,貧しい人々に まる. 生きる力を与え,持続性を求め実現しようとする文  さまざまな政策・計画・投資の選択について,費 化を創りあげた.持続可能性追求において成功して 用・便益のすべてを評価するための新たな会計分析 いるこれらの都市では,強力かつ持続的な投資に 手法も使用されるようになっている(例えば,ライ よってさまざまな利益を生み出そうとしている.世 フサイクルコスト分析法).同時に,すべての資本 界経済は急激な変化と不確実性に満ちているが,こ (人工資本,自然資本,社会資本及び人間資本)の ういった都市はショックに直面しても生き残り,企 量とそれらが提供するサービスの価値を評価するこ 業を惹きつけ,うまくコスト管理を行い,繁栄を続 とによって,都市が何かを実施する場合のインセン けていくだろう. ティブをより包括的かつ完全に理解する枠組みも示  これらの革新的な都市が行った努力で最も勇気づ されている. けられるのは,解決策の多くが少ない予算でも実施  これらの機会を大きくつないでまとめ,都市開 可能で,しかも,それによって利益が生み出され, 発の速度を高めることによって,好い影響をもた 直接的,間接的に貧しい人々に恩恵をもたらしてい らす大きな可能性が生み出されつつある.Eco2 るという事実である.同時に,成功の多くは従来か Cities イニシアティブは,発展途上国の都市が, らの十分に経験を積んだ方法と技術を使い,その地 このような機会が利用できるうちに,より大きな 域で育成された固有の解決策に着目することによっ 報酬が得られる持続可能な成長軌道という明るい て可能になっている. 展望からの恩恵を受けられるようにするために展  次の課題は,急速な変化や技術革新の成功によっ 開されているのである. て生み出された多くの機会を最大限に活用すること である.制度面の構造的欠陥と既成概念にとらわれ 分析と運用の枠組み た思考が,このような機会を活用しようとする場合 に都市が直面する唯一最大の課題である.長期計画  Eco2 の分析・運用枠組みは,4 つの重要な原則 と地域成長管理についての成功事例はたくさん存在 に由来している.都市は新しいアプローチを採用し しており,システム分析と地図化のための新しい ようとするとき,大きな難問に直面する.この枠組 ツールが出現したおかげで,より総合的,実用的 みにおいては,こうした難問が発生することを注意 で,しかもより厳密な分析と計画が可能となってい 深く予想している.これは,成功実績を持つ都市の る.重要な関係者が互いに協力しながら,設計し, 貴重な現場的経験をあわせることによって,戦略的 総括 3 にどのような対策をとるべきかを検討する上で大き の枠組みを定義する重要な構成要素が,これら 4 な参考になる.これが,Eco2 Cities イニシアティ つの主要な原則から1つのセットとして導き出され ブを定義する重要な原則に他ならない.1つひとつ ている.都市は,地域の条件を考慮しながら,一連 の経験に原則という高次の位置づけを与える理由 の合理的な実施手順に従って,具体的な施策を実施 は,それが広範な適用可能性を持ち,成功のために し,ステップを踏んでいくことによって,核となる 不可欠であるにもかかわらず,無視あるいは軽視さ 重要な目標を達成しなければならない.同時に,こ れることが多いからである. れらのステップのための踏み台のおかげで,都市は  これら 4 つの原則とは,以下の通りである. 独自の行動計画と持続可能性に向けた経路を開発す ることができる. (1) 地 方政府に開発の主導権を持たせることによ  また,Eco2 Cities イニシアティブは,都市に対 り,生態系などの地域特有の条件を考慮するこ していろいろなツールや手法を紹介し,強力な診断 とを可能にするような,都市ベースのアプロー プログラムとシナリオプランニングを通じて,より チ. 効果的な意思決定を行えるようにする.これらの方 (2)協 力しながら設計し,意思決定を行うことに 法およびツールは,重要な目標を実現し,ステッ よって,重要な利害関係者の行動を調整し統一 プを踏みながら施策を実施するためにも利用でき することを可能にするような,拡大プラット る.このような状況の中で,もし都市が 4 つの重 フォーム. 要原則を採用し,自らが置かれた状況に対してこの (3)都市システムの全体を統合的に計画・設計・管 分析・実施の枠組みを適用し,そうすることによっ 理することによって得られる効果を現実に実現 て,独自の持続可能な発展経路を開発・開始すると できるような,ワンシステムアプローチ. すれば,理想的な状況が実現される. (4)ライフサイクル分析,すべての資本(人工,自 然,人間,社会)の価値評価,及び,広い視野 からのリスク評価によって持続可能性と復元力 原則1  都市ベースのアプローチ を定量的に分析し,その結果を意思決定の中に 組み込むことができるような,投資戦略の枠組  都市ベースのアプローチが,原則の第一であり, み. そこには互いに補いあう 2 つのメッセージが込めら れている.まず認識すべきは,変化に適応しつつ,  これら4つの原則は,互いに関連しあい,支援し 総合的なアプローチを主導するという仕事の先頭に あう関係にある.例えば,都市ベースのアプローチ 立っているのは都市だということである.都市は, がなければ,協力しながら意志決定を行うための拡 経済活動の原動力であり,市民が生活する家である 大プラットフォームに関係者に参加してもらうこと だけでなく,資源・エネルギーの消費や有害物質の は困難である.また,この拡大プラットフォームが 排出についての大部分の責任を負っている.個々の なければ,総合的なシステムを設計することも,ワ 場所に関する幾層もの情報を1つにまとめ,多くの ンシステムアプローチを実施する政策を調整するた 利害関係者との緊密かつ迅速な共同作業を実行する めの創造的なアプローチを新たに開発することも困 のは都市レベルでなければ不可能であり,利害関係 難である.都市が1つのシステムとして認識され, 者からのインプットが持続可能な発展の効果を左右 協力のための幅広いプラットフォームが用意されて し,また,その実施の成否を決定する.さらに,行 いるとき,持続可能性と復元力に向けて施策の優先 財政の地方分権化によって,意思決定と統治に関す 順位を決め,それらを順次に実施することによっ る大きな責任が地方政府に付与されることとなっ て,投資の効果は大いに向上するであろう.Eco2 た.都市は積極的かつ前向きなリーダーシップを発 4 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 揮できるわけであり,そうすることによって転換の 進行している今の情況においては,そうである.都 プロセスを開始する引き金をひくことができる. 市は,拡大プラットフォームにおいて,少なくとも  次に,都市ベースのアプローチは,場所による 3つの段階で協力のプロセスをリードしなければな 特性,特に生態系の重要性について特別な考慮を らない. 払うのに役立つ.この意味で,都市ベースのアプ  第一段階は,都市が自ら実施するプロジェクト ローチは,地域生態系が持つ可能性と限界に対応 である.プロジェクトの多くは,都市行政によっ するものと言える.それでは,地域の地形にうま て完全にコントロールできる範囲内にある.これ く適合した開発によって,高所から低所への流れ は,都市は自分自身の家を秩序立てて作らないと だけを利用した水の供給や,自然のシステムを利 いけないことを意味する.このためには,市自身 用した排水によって,インフラへの投資や維持管 が所有する全ての建物のエネルギー効率の改善, 理のための費用を低減するには,どうしたらよい 市職員の自動車相乗りプログラムの推進,勤務時 であろうか.水の量と質を維持できるように水源 間調整によるエネルギーや交通機関のピーク負荷 地や湿地を保護するために,都市はどうしたらよ 管理を支援するといった取り組みが考えられる. いだろうか.地域エネルギー(風力,森林,太陽) 第二段階は,都市が持つさまざまな権能について によって基本的な需要を充たすことができるよう である.都市はさまざまなサービスの供給者とし に人口の配置や都市のデザインを決めるにはどう ての役割を果たしており,公的な計画づくり,規 したらよいであろうか.この種の問題提起によっ 制の実施,意思決定においても強い力を持ってい て都市の専門家たちは大いにやる気を起こし,新 るので,その参加が必要である.このレベルでは, しい刺激的な都市デザインに向けた取り組みを行 プロジェクトの結果に影響を与える人,逆にその うだろう.これは,どうしたら,地形・地理条件 影響を受ける人も含めた協働の輪を広げることが に合わせて都市をつくり,その地に存在する自然 できる.拡大プラットフォームの第三段階は,市 資源を大切にし,また,その不足を補い,現在及 域や地域の全体に協働の範囲を拡大することであ び将来のいずれの世代もが環境サービスを享受す る.これは,新たな土地開発や都市域の管理といっ ることを可能にするかという挑戦である. た課題に関連することになり,政府の高官や,重  都市ベースのアプローチとは,このように,その 要な民間セクターのパートナー,そして市民社会 場所によって異なるものであり,地域の主体性,地 を巻き込むことになるだろう. 域の環境条件,地域が持つ幅広い特性を積極的に活  この3つの段階で構成されたプラットフォームの かそうとするものである.実際,都市が行う最初の 核心となるのが長期的な計画の枠組みであり,それ ステップの1つは,地域特性を考慮しながら Eco2 によって,市当局と鍵を握る関係者の間で政策を1 の枠組みをレビューし,適用することである. つの方向にまとめて強化し,今後のプロジェクトに 関する仕事を指導していくことができる.このよう に,3段階の協働を通して,全員が元気を出して同 原則2 協働で行うデザインと意思決定のため じ方向に向かって櫂を漕ぐことができるだろう. の拡大プラットフォーム  都市のインフラに関する責任はどんどん細分化さ 原則3 ワンシステムアプローチ れ,所掌事務の重複や交錯が増え,重要な設備の民 間保有が増大しつつある.都市開発のプロセスにお  ワンシステムアプローチとは,都市開発と環境に いて主導権を発揮するには,現在起きている変化を 関する展望を1つの完結したシステムとして推進す 先取りする必要がある.とりわけ,急速な都市化が ることによって,あらゆる可能性を1つに総合化 総括 5 し,それによって得られる利点を最大限に活かすこ  統合の対象となる要素は,1つのセクターの構成 とである.都市と都市環境の全体を1つのシステム 要素だけの場合もあれば,幾つものセクターにまた として理解することによって,全体としてうまく動 がる場合もある.これは,政策の実行,さまざまな くように構成要素を設計する作業がやり易くなる. 関係者同士の協働と彼らの持つ計画,資金メカニズ これは,インフラシステムの総合的な設計・管理に ムの時間的順序の調整といった個々の問題に当ては よって,資源フローの効率性を高めることを意味す まるとともに,これらすべての組み合わせにも当て る.例えば,多段階的な利用によって,エネルギー はまる.いずれのケースにおいても,要素を統合す や水の循環利用やカスケード利用を行えば,同じ供 ることで,同じ投資額からより大きな効率,複合的 給量で需要側の多くの要求を満たすことができる. 効果,効用の増大がもたらされる可能性が大きくな  ワンシステムアプローチには,空間の開発(土地 ることが示されており,それに応じて環境と経済の 利用,都市デザイン,人口密度)とインフラシステ 両面の成績も向上する. ムの計画を調整することによって,都市の空間的な  ワンシステムアプローチを適用することによっ 形と資源フローを1つにまとめるという仕事が含ま て,都市とその周辺の自然地域や田園地域は合体 れる.例えば,新たな開発は,水やエネルギー,交 して,新たな統一体として有効に作用する1つの 通の面で余裕のある地域を対象に行うのがよいだろ 機能的システムをつくりあげるべく努力すること う.都市の空間的な形と空間開発によって,活動や ができる. 施設の位置,密度,分布,需要が集中する地点の特 性などが決まり,それがインフラシステム網の設計 に影響を与える. 原則4 持続可能性と復元力を重視した投資枠  この効果により,インフラシステム設計に課され 組み た物理的・経済的な制約条件や設計変数,容量の限 界値,利用できる技術,様々な選択肢についての経  都市の持続可能性と復元力を改善するには投資を 済的実行可能性などが定まる.これは,資源利用効 行いさえすればよいという考えは単純過ぎて,実行 率に対して大きな影響を持つことになる.資源フ に移すのは非常に難しい.政策も,計画も,事業 ローと都市の形に関する計画を1つにまとめ,実施 も,単一の主体あるいは事業目的から見た短期的な 可能な事業にしていくことは,どの都市にとっても 収益とか,視野の狭い費用効果分析に基づく経済的 大きな挑戦であり,また大きな機会でもある. 評価によって分析されがちだからである.投資は金  また,ワンシステムアプローチは,プロジェクト 銭的価値で評価され,お金にならないものは無視さ の実施手順をよりうまく統合化するにはどう改善し れるか,経済の外部にあるものとして扱われてしま たらよいかという問題にも焦点をあてている.これ う.決定を大きく左右しているのは直ちに必要な施 は,まず長期的,横断的な問題に取り組むことで正 設建設費用の額であるが,実際には,典型的なイン しい基礎固めができるように,逐次的・継続的な投 フラ施設のライフサイクルコストの 90%以上は維 資を行うことを意味する.これは,また,統一的ア 持管理と改修のために使われているのである. プローチが実行できるような政策環境をつくり出す  世界中を見渡しても,ほとんどの都市は,新規の ために,あらゆる種類の政策手段を調整し,鍵とな 開発が自らの長期的財政状況にどんな影響をもたら る政策を1つにまとめるために関係者と協働し,新 すかについての現実的な知識を有していない.ライ たに都市化する地域については条件の違いが反映で フサイクル全体にわたるコストの評価は後回しにさ きるように,また,既に都市化してしまった地域に れることが多く,将来世代は,前もっての予算措置 ついては現状を改善できるように,新しい政策を検 が全く取られていないのに,インフラの補修や建て 討することを意味する. 替えの必要に迫られ,インフラに関する巨額の負債 6 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES を背負うことになってしまう. 各都市は,自身のニーズ,優先順位や能力を考慮し  同時に,環境資産の価値,それらが提供するサー ながら,持続可能な道筋を設計すればよいのであ ビスの価値,それらの損耗や破壊がもたらす経済 る. 的・社会的な影響の価値といったものは,ほとんど  分析・運用の枠組みによって,都市は自分自身の の政府予算には計上されていない.これらの資産の 持続可能な道筋のチャートを描くことができる.そ 価値は測定できないため,その価値はゼロとして取 れとともに,都市ベースの決定を支援するシステム り扱われ,提供される重要なサービスの価値は評価 を提供し,より良く統合化された開発を実施し,そ されないままとなる. の道筋をより効果的に歩むことができる.  原則4によれば,都市は,政策づくりと投資の決 定のための新しい枠組みを採用すべきである.その 都市ベースの意思決定支援システム 枠組みには,多数の要素が含まれる.全ての関係者 の行動を評価し,それに見合った報酬を与えること  第 2 部で紹介される都市ベースの意思決定支援 ができるようにするには,これまでと違った新しい システムは,Eco2 イニシアティブのいくつかの重 指標や評価基準を採用する必要がある. 要な要素を実現するのに必要な能力を開発する上で  そうした類の指標は,あらゆる分野の意志決定 有効な方法とツールを示すものである.そこにはい ニーズにも対応できなければならない(例えば, くつかの重要な方法が含まれており,都市は,それ 戦略レベルでの評価もあれば,事業レベルの運営 らを一緒に利用することによって,上述した 4 つ の評価もある).より長期的な視点が必要であり, の原則の核心となる施策を実行するのに必要な能力 また,政策や投資選択の影響を完全に理解するた を身につけることができる. め,ライフサイクルでの費用効果分析を適用しな  これらの手法の基本的な目的は,分析,評価及び ければならない. 意思決定の過程を簡略化することである.これらの  4種類の資本(人工資本,自然資本,人間資本, 手法によって,都市は指導力を発揮し,協働し,プ 社会資本)のすべてについて,それらの価値とそれ ロジェクトのための多彩なアイデアを分析・評価す らが提供するサービスの価値を,指標を使って適切 るための具体的な方法を獲得できる.全ての手法 に評価あるいは価格付けするとともに,計測しなけ は,業務を達成するために十分試されたものであ ればならない.費用便益を評価する際に都市生活に る.これらの方法の有効性は長く保持されるものと 係る定性的な側面(文化,歴史や美観)を見落とさ 思われる. ない必要があり,そのためには,指標の組み合わせ  これらの方法は,時機と方法を異にする典型的な は全体で1つのものと見るべきである. 計画プロセスを支援するものである.いくつかの方  同時に,都市の持続性と復元力を向上させるため 法は,繰り返し利用される.例えば,資源フローを の投資には,リスク評価とリスク管理についての まとめたメタダイアグラムは,まず,ある場所の現 我々の視野を広げ,投資のみならず都市全体の存続 状がどうなっているかを評価するためのベースライ 可能性を脅かしかねない多くの間接的で評価困難な ンを確立する方法として使用され,次には,診断, リスクの管理を行えるようにする必要がある. 目標設定,シナリオ開発及び費用分析の方法として  上で述べた原則が,Eco2 アプローチの基盤とし 使用される. て存在する.都市は,この分析と運用の枠組みを利  一例を示すと,「資源フローと都市の形に関する 用することで,核心的施策のセットとしてこの原則 分析方法」は,都市の空間的属性(都市の形)と物 を適用することができる.また,これを利用する 理的な資源の消費量と排出量(資源フロー)の重要 ことによって,Eco2 実現のための段階的かつ漸増 な関係を明らかにするものである.都市は,これら 的な道筋を創ることができる(ダイアグラム参照). の分析方法を組み合わせることによって,現在の状 総括 7 チ プロー ースのア 決 定  都市ベ 思 ーム 意 と ォ 都市を支援し, ン トフ イ た 都市に必要な ザ ッ デ プラ 権限を与える開発計画 視し チ う ー 生態学的な資産を利用し   行 大 で の拡 育成する計画方針 ロ を重 働 プ パートナーシップを基礎とした 協 ため ア 行動志向のネットワーク の ム 元力 都市の技術・管理・財務上の能力を テ 強化する方法とツールを備えた, ス 都市ベースの意思決定支援 投資 能性と復 システム(DSS) シ ン ワ み 枠組 可 都市の協働を推進する3段階のプラットフォーム 持続   −自治体自らをモデルとして市の全部局を動員して推進する   −住民や企業向けサービスの提供者として推進する   −都市域のリーダーやパートナーとして推進する   市当局と鍵となる関係者が政策をまとめ強化  するための長期的な計画枠組みを共有する       資源フローの効率性を高めることを インフラシステムの総合的な設計       重視した, ・管理 都市デザイン・土地利用・人口密集・近接性・その他の  空間的特性を利用して資源フローと都市の空間的な形状を  統合することで,調整のゆきとどいた空間開発を行う 統合的な実施は以下の手段を通じて行う  i)  投資を正しい時間的順序で行う  ii)    統一的アプローチが実行できるような政策環境を整える すべての財務的な意思決定  iii)  あらゆる種類の政策手段を調整する ライフサイクルコストを考慮する  の際に,  iv)  鍵となる政策と長期的目標とを整合させるため,関係者と  すべての資本 自然資本, (人工資本, 社会資本,人間資本)の         協力する  保護と強化に留意する  v)   既存の開発地域に加え,新しい都市開発にも適用できる (財務リスク, すべての種類のリスク システムの急な破壊,急激な         新政策を検討する  社会経済環境の変化)に対処できるよう,積極的な注意を払う. 出典:著者 (Sebastian Moffatt) 編集. 況と将来シナリオを分析するための横断的なプラッ 文献を含み,2つのレベルにおいてさらに深い洞察 トフォームを構築することができる. 力と流暢さを磨くことができる.  都市として最初に実施すべきステップの1つは,  それは,都市別,分野別に都市インフラを眺める 能力形成のための手順を計画することである.その レンズを提供する.このため,世界中の成功事例の 手始めに意思決定支援システムをレビューしてみる ケーススタディを行う.それぞれの都市は,Eco2 のは良いことである.本書は重要な手法を紹介する アプローチのさまざまな要素がどのように適用でき だけであるが,都市の能力形成計画のためにはもっ るのかを示す個別的事例を提供している.この事例 と多くの情報の収集,特定の技術の修得,外部から ガイドは,分野ごとの記録もまとめており,それぞ の技術支援の獲得,試験段階プロジェクトへの手法 れの記録は都市開発に付随する分野固有の問題を明 の適用が必要である. らかにする.それぞれの都市が自らの持続可能な開 発の道筋を切り拓こうとするときには,都市インフ ラ分野ごとに異なるレンズを通して眺めるのが有用 事例ガイド であろう.理想的には,これによって千変万化する  第3部の Eco2 事例ガイドは,基礎となる技術的 都市の現状が見えてきて,1つひとつの問題の展望 知見をまとめることを目的とした技術資料である. が別の問題の展望と比較され,エネルギー,水,交 それは,都市を支援するためにデザインされた参考 通,そして廃棄物といった異なる問題が1つの都市 8 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 資源フローと都市の形の組み合わせによる専門横断的なプラットフォーム 利用者 道路 土地区画 このフロー図は, 香 港( 中 国 ) の 標高 水資源フローの全 体をまとめたもの である.都市メタ 土地利用 ボリズム(資源・ エネルギー代謝) を具 体 的 に示 す 現実世界 最初の事例の1 つである.出典: 出 典: 著 作 権 © Boyden, Millar, and ESRI, 許諾取得済 Newcombe (1981). み,http://www. esri.com/. 資源フロー:物質フロー分析とサンキー・ダイアグラム 都市の形:地図上での情報の重ね合わせ  物質フロー分析とサンキー・ダイアグラムは,都市域全  地図は多くの人に実にうまく語りかけてくれるので, 体の資源フローを計算・図示する方法である.都市域の大 協働作業を行うときには特に役に立つ(1枚の絵は万言 きさは問わない.入力と出力は,自然界からの資源の採掘, .各種情報を重ね合わせて見せることによ に匹敵する) インフラ建設のための資材投入,家庭・企業における消費, り,様々な地形や風景の特徴と質が相互にどう関連し インフラ施設による処理の流れに沿って決定され,最終的 あっているかを即座に示し,場所同士の関係の重要度を には,再利用のために回収されるか,廃棄物として自然界 定量化することができる.層の重ね合わせは古くから存 に再び戻される.カラフルながらも単純なダイアグラムは, 在する技法であるが,コンピューター技術と衛星画像の 全てが1ページに収められている.これによって,資源の 発達によって,ますます強力になっている. フローとその資源利用効率を誰にでもすぐに理解してもら うことができる. 都市の形と資源フローの統合:専門横断的プラット 予測 フォーム  ダイアグラムや地図は理解しやすく,さまざまな専 ノードと 門家や意思決定者の間で共有しあうことができる.こ ネットワーク れによって, 関係者や専門家が集まり, デザインや意 思決定を総合的に行うのに必要な共通理解が得やす くなる. 都市の形と資源フローは, 現在と将来の色々 形状 フロー なシナリオに応じて分析・理解する必要がある.これ らの手法の組み合わせが専門横断的プラットフォーム であり, これによって, 都市の空間的変化のダイナ ミックスと物理的な資源フローという, 互いに強い関 都市景観を表す地図情報の層化 都市の資源代謝フロー図 係があるにもかかわらず分析技法も関係者も異なる2 (生態学的資産と土地利用) (加工,製品,エネルギー,水,原材料,人) つの要素の理解を深めることができる.  都市の形に関するデザイン・コンセプトとそれに対 応する資源フローを統合するためのプラットフォームが 必要である. 出典:Redrawn and adapted from Baccini and Oswald (1998). 総括 9 の共通問題として理解されることになろう. 共に前進する  これらの分野ごとの実情を調査すればするほど, 業務の管轄や権限をめぐるさまざまな境界の問題  発展途上国の都市が前向きに思考し,持続可能な が,より良い結果を実現しようとするイノベーショ 開発に向けた発展経路を定め,これを実施に移すな ンや創造性ゆたかな取り組みへの阻害となっている らば,既に成功をおさめている世界の諸都市から, ことが明らかになる.また,あるセクターで投資を また,開発機関や学会を含めた国際社会から支援が 行うことが,結果として他のセクターにおける投資 得られるであろう.都市は,これらのパートナーが の節約につながり得ることは明らかであり(例え 有する特色ある資源を活用すべく努力しなければな ば,水利用効率改善への投資は,エネルギー費の大 らない. きな節約につながるのが普通である),複数の機能,  このような状況において,世界銀行グループは, 複数の目的を併せ持つ事業に投資するために限りあ 開発に携わる他の機関・人々とともに,Eco2 の る資源をプールして使うことは誰にとっても有益で 推進に向けた強い政治的意思を持ち既にそれを表 ある(例えば,さまざまな地下管路網を1つに一体 明している諸都市に対して,技術援助とともに, 化することによって). 能力開発及び財政的支援を提供する立場にあると  分野別ノートでは,都市の持続可能性に対して大 いってよい. きな影響を持つにもかかわらず,市当局の直接的コ ントロール下にはない,個別分野特有の重要な問題 に注目する.これらの問題は,分野ごとに,鍵とな 参考文献 る関係者,特により上位の政府と協働して対処する Baccini, Peter, and Franz Oswald. 1998. Netzstadt: 必要がある.市当局が直接にコントロールできる範 Transdisziplinäre Methoden zum Umbau urbaner 囲とその限界を明らかにすることも,協働作業の基 Systeme. Zurich: vdf Hochschulverlag. 盤を工夫しながら作り上げる上で重要である. Boyden, Stephen, Sheelagh Millar, and Ken Newcombe. 1981. The Ecology of a City and Its People: The Case of  このガイドはまた,都市の空間的構造を管理する Hong Kong. Canberra: Australian National University ための戦略を提示するとともに,空間計画や土地利 Press. 用規制が人や物の移動の実態やその手段に対してい かに大きな影響を及ぼしうるかについての重要な経 験を提供するものである. 第1部 枠組み 機会と挑戦,原則と道筋 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 13 第1章 環境都市と経済都市  本章では,都市の計画・開発・管理のための新しいアプローチが緊急に必要となっている 切実な事情について,その概要をまとめる.現在起きている変化は何もかも悪い影響をもた らす脅威として受け取られがちであるが,企画・決定・投資に向けた新しいアプローチを早 急かつ広範に採用する好機としてこれを認識することもできる.本章では,環境と経済の両 面にわたって都市の持続性を高めることに成功した費用対効果の高いアプローチが実際に存 在することを示し,それらの事例を分析することによって,その具体的なベネフィットを示 す.また,都市の持続性をめぐって広く流布されている誤った理解の問題点を明らかにし, 都市はこの機会を活かすための投資を実行すべきであることを述べる.この考えに従って正 しく行動すれば,現在起きている変化によって,持続性と復元力を兼ね備えた,将来世代の ための都市域を実現する全く新しい可能性が生まれる. 挑戦と機会 これまでにない都市化の規模と速度  今世紀,世界の人口にはさまざまな変化が起きているが,開発途上国における都市化 はその中でも最も重大な問題である.このために,各国の経済構造は変化し,数十億 人の人々の生活形態も変容しつつある.途上国における市街地面積は,2000 年から 2030 年の期間に,20 万 km2(平方キロメートル)から 60 万 km2 へと 3 倍に増加す .わずか 30 年間で形成 ると予測されている(Angel, Sheppard, and Civco, 2005) されるこの 40 万 km2 の新たな市街地は,2000 年時点における全世界の市街地面積 に等しい(Angel, Sheppard, and Civco, 2005).我々は,さまざまな資源(天然資 源,財政資源,行政資源,技術資源)の制約を抱える国々において,2000 年時点で全 14 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 世界に存在したのと同規模の市街地を新たにもうひ 75%が都市で行われており,途上国でもこの割合 とつ,これまでの 10 倍の速度で,建設しようとし は現在急速に増加している(World Bank 2009). ている.我々がこれを行う過程には,全世界的なさ 多くの途上国において,GDP に占める都市の割合 まざまな問題が関係してくることになるが,それら は,既に 60%を超えている. は次々と新しく登場し,絶えず変化し,相互に関連  都市の競争力は,地理的条件,国の政策,市場の しあった制御困難な変数によって特徴づけられてい 力,資金フローといったさまざまな要因によって決 る. まる.歴史的に見ると,自然と地理的条件(標高・  歴史上初めて,世界の全人口の半分以上の 33 億 地形・気候,海岸・河川・国境あるいは資源生産地 人が都市域に居住している.都市に居住する世界 までの距離的な近さ)が都市の発展を引き起こす要 人口は,2030 年までに 50 億人に増加すると予想 因となることが多かった.国の政策によって,重要 されている(UN Habitat 2008).都市人口の増大 なインフラ投資の場所・量とそれらの結びつきが決 の 90%以上は途上国で起きている.アジアだけで, 定され,それによって民間資本の投資と立地選択が 全世界の都市人口の 63%,33 億人を収容すること 影響を受けることとなり,これは都市の成長に関係 になるだろう(UN Habitat 2008).東アジアの諸 するとともに,都市化を促進する上で重要な役割を 都市には,2005 年には 7 億 3900 万人が居住して 果たしている.これら全体の効果として,経済の多 いたが,2030 年までにさらに 5 億人を収容する必 様化と,農村から都市への人口移動と生産性向上に 要がある(Gill and Kharas 2007). つながるさまざまな経済活動が生み出され,実現し  世界の増大する都市人口は,都市の数と規模の ている.グローバル化が進展しつつある中で,貿易 増大によって収容されている.2000 年には,人口 と海外投資が都市の成長を引き起こすもうひとつの 100 万人以上の都市の数は 120 であった.この数 要因として認識されている.高付加価値,知識集約 字は,2015 年までに 160 に増えると予測されてい 型の産業への迅速な転換が進むにつれ,人材資本を る(UN-Habitat 2008).人口 1000 万人以上のメ 吸引・確保し,育成する面での比較優位性を有する ガシティの数は,全世界で 26 になるであろう.こ ことで,都市には大きなベネフィットがあることが の増大に見られる重要な特徴は,都市人口全体の増 分かってきた(Florida 2002).こういう情況にお 加の 50%が人口 50 万人以下の中小都市で起きて いて,都市の成長を決定づける重要な要因は,以下 いることである.今後 10 年間における東アジアの のようなものである.すなわち,①ビジネス展開を 都市人口増大は,こうした中小都市によって吸収さ 可能とする環境(例えば,優れたインフラ,ビジネ れると予測されている(Gill and Kharas 2007). スの実施コストを低くするための優遇政策,外部市  これらの人口統計は,建物ストックと都市インフ 場との結びつきなど),②生活の質,③強力なソー ラを含む人工資本への巨大な投資が必要であること シャルキャピタル[監訳者註:社会が有する有形・ を意味する.今後数年間における意思決定の枠組み 無形の資産]と,クリーンで入手しやすく,住みや を決め,政策と投資の方向づけを行うためにどのよ すい環境を提供することで,人材を引き付け,定着 うな戦略をとるかが,将来世代に大きな影響を及ぼ させる状況を提供できるかどうか,である. すことは疑いない.  都市化された地域は,有機的なシステムとして, 経済規模と空間的広がりによって生まれる特色ある 都市は経済成長のエンジンである 可能性を有している.都市という場において,物理  上で述べたようなもの凄い都市化のスピードを決 的,社会的に重要なインフラサービスの提供や,経 定しているのは何であろうか.歴史的に見て,ま 済開発及び社会福祉の基盤となっている制度・行政 た,多くの地域において,都市化は国の経済成長を 組織の維持が資金的に可能となり,それによって規 牽引してきた.平均して,全世界の経済生産の約 模の経済効果を発揮することができる.同時に,地 枠組み ≫ 第1章 環境都市と経済都市 15 理的に接近していることの有利さによって,労働, .例えば,タイのバンコクは,国の Bank 2008) 資本及び財が一か所に集中した市場が創出されるた GDP の 40 パーセントを生産しているが,人口は め,交渉費用が低減し,経済的効率を向上させるこ 全国の 12 パーセントでしかない.こうした不均衡 とができる.これによって,さまざまな財・サービ は,ホーチミン(GDP では 29%,人口では 9 パー スの供給の量的拡大,多様性やイノベーションが促 セント),マニラ(GDP では 31%,人口では 13 進され,新しい創造的アイデアのために決定的に重 パーセント),上海(GDP では 11%,人口では 1 要な役割を果たす知識・技能の波及も進む.都市は (World Bank 2003)など,他のア パーセント) また,後背地域で生産される農産物のまとまった市 ジア諸国でも見られる. 場でもある.  都市の魅力を生み出しているのは活動が一か所に 都市とその周辺における貧困の解決が課題 集中していることだけではない.都市の活動は多様  ほとんどの地域では,都市化によってもたらされ 性に富むとともに密度が高く,それが結果的に都市 た機会のおかげで,人口の大きな割合を占めていた の復元力を強化し,競争力と活力を高めているので 貧困層が自力でそこから抜け出すことができた.国 ある.さらに,都市には,空間という次元に加え 連人口基金(United Nations Population Fund) て,時間的な次元もある.成功のために適切な活動 は,都市化がもたらす機会の増大と貧困について を続け,競争力を維持するには,都市は常に進化し の関係を 25 か国で調査した結果,都市化は貧困削 続けなければならない.古い工業都市の臨海部はか 減に大きく貢献したとの結論を得た.例えば,ボ つて工場地帯だった所が多いが,それらの多くは付 リビアでは 1999 年から 2005 年の期間に,貧困率 加価値の高い住宅や金融業等の不動産が集まる地域 は 28.3 パーセントも低下したが,それは都市化の へと変貌している.グローバルな通信技術が大幅に おかげであった(UNFPA 2007).貧しい人々が, 改善されたことにより,サービス産業を構成する多 より良い生活を求めて都市に移住することは別に驚 くの部門では,ボタンを押すだけで,消費者市場や くことではない.しかし,都市化が経済成長を通し 労働市場にアクセスできるようになった(つまり, て貧困削減に寄与したことは事実にしても,それだ それらの部門の財・サービスを瞬時に送り届けるこ けで貧困撲滅が可能になったわけではない.都市に とができるようになった).歴史を見れば,都市に は富が集中してはいるものの,その内部では貧困と 基盤を置く地球的公共財(グローバルコモンズ)は 不平等が存在している. これまでも色々と登場してきたが,世界経済がこれ  スラムは,都市内貧困の最悪の実例を示してい ほど身近になったことはなかった.いかなる都市 る.スラムに住む人々とコミュニティは,住宅,土 も,世界経済の外で機能を維持することはできず, 地,水,安全な調理,電気,暖房,衛生,ごみ収 すべての都市は,都市のネットワークの中の何処か 集,下水道,舗装道路,歩道,街灯といった,人間 で,何らかの位置を占めている. らしい生活をするために必要な最も基本的なサービ  都市に集積した経済には常に変化を生み出す力が スについて,全く不十分な供給しか受けていないと あり,東アジア諸国が現在,経済活動と雇用形態の いう深刻な問題に直面している.貧困層でも支払え 面で,各部門内での多様化をともないながら,農業 るような安い価格でこれらのサービスが提供されて 部門から工業及びサービス部門へとシフトしつつあ いる土地は非常に少なく,しかも,現実に合わない るのはこのためである.経済的生産活動が都市に集 土地規制や行政の慢性的な欠陥のために,貧困世帯 中しているという特徴は,東アジアにおいてとりわ は合法的な窓口を通して土地や住宅にアクセスする け顕著である.ダイナミックに発展しつつある中国 ことができない. の沿海部では,中国の国土面積の5分の1以下の地  このため,貧しい人々は,傾斜地や低地の環境的 域で国の GDP の半分以上を生産している(World に危険な場所に住むことを余儀なくされている.こ 16 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES うした場所は,道路や鉄道の沿線だったり,危険な を果たしたものの,都市内の貧困問題,とりわけ, 工場の傍だったり,あるいは,都市にとって環境的 スラム問題の解決のためにはまだまだ多くのことを に重要な場所の近くである.さらに,スラムでは基 やり遂げなればならない.都市への移住が増えたこ 本的な都市サービスが供給されないため,そこの住 との反対側で起きているのが,農村部や都市後背地 民は最悪の生活条件下で生活し,やむを得ずに周辺 のコミュニティの人口減少である.人々が農村から の土地や水源を汚染している.スラム地区の工場 離れていくのは,都市で約束されている富に引かれ は,汚染を垂れ流している.それと言うのも,住所 るためであるが,見方を変えれば,都市の成長に歯 を特定できないスラムの住民には,法的にも,経済 止めがかからず,農村を発展させるための計画が全 的にも,政治的にもほとんど力が無いからである. く存在しないため,否応なく伝統的社会から押し出 多くの場合,スラムの生活条件は生存が脅かされる されているのだとも言える.実際,スラムと過剰な くらいひどく,他の地区に比べて,洪水,土砂崩 ペースで進む都市化は,農村を発展させるための計 れ,病気,有害廃棄物や室内汚染への暴露,火事, 画があまりに貧弱で,そのための適切な資金投資が その他さまざまな被害に遇いやすい. 行われていないことを示す証拠である.この問題を  スラムは,1990 年代に大幅に拡大したが,こ 解決するには,都市と農村を空間的に融合させるた の時期の発展途上国では,都市が収容できる能力 めのもっと優れたアプローチを採用することによっ の限界を超える速さで人口が増大していた.発展 て,農村と都市の結びつきを強め,都市の成長管理 途 上 国 で は, そ の 都 市 人 口 の 3 分 の 1 に あ た る を行うための長期的取り組みに,農村がもっと積極 8 億1千万人以上の人々が,スラムに住んでいた 的に参画できるようにする必要がある. (UN-Habitat 2008).これらスラム住人の約 64% にあたる 5 億 1600 万人の人々は,アジアに住ん これまでと同じやり方で都市化を続けるのは困難 でいる(UN-Habitat 2008).国連人間居住計画 である (UN-Habitat)は,もし確固たる政策が具体的に  上で述べたような急速で大規模な都市化が続け 実行されなければ,スラム住人の数は,次の 25 年 ば,歴史上例を見ない消費の増大と自然資源の喪失 間のうちに 20 億人にまで増大すると予測している をもたらすことは確実である.いろいろな計算によ (UN-Habitat 2003).スラム地区は,社会的疎外 れば,もし,発展途上国が都市化を続け,先進国と の目に見える象徴であり,人々の共有財産である環 同じ内容と水準で資源を消費することになった場 境を損ない,水を介した感染症の危険を増大させる 合,この成長を可能にするには地球4個分に相当す ことで,都市の人々の生活を脅かしている. る資源が必要になる(Rees 2001).農家は土地を  都市への移住が増えているのは,より良い未来が 休養させ,土壌を再生することも求められており, そこで約束されていると思うからである.都市は, さらには生物多様性の維持も必要である.そうなる 経済の生産性を向上させるという面では大きな役割 と,地球上にはもっと多くの土地が必要になる.し 出典:Source: National Aeronautics and Space Administration. 枠組み ≫ 第1章 環境都市と経済都市 17 かし,当然のことながら,我々にはただ1つの地球 しか存在しないのである.農村から都市への転換を 最近,気候変動を深刻に受け止めている進歩的な都市 がある.例えば,オーストラリアのブリスベン市では, 可能とするための資源基盤を確保するには,途上国 City Smart プログラムを通じ包括的に気候変動問題に取 と先進国のいずれの都市においても,現在よりも り組んでおり,市職員は他の諸都市にブリスベン市の経 もっと効率的に住民のニーズを満足させる方法を見 (第3部「ブリス 験を活用してもらうことを望んでいる. つけ出す以外に道はない. ベン市」参照)  さらに,資源の非効率的な利用だけでなく,現状 のまま都市化と経済成長が続けば,膨大な量の廃棄 物と汚染が発生し,地域ごとで見ても,地球全体で 行した場合に世界全体で発生するコストは甚大であ 見ても,環境,社会,経済のあらゆる面で大きなコ る.都市は,世界のエネルギーの約 67%を消費し ストを払うことになる.これらのコストの多くは, ており,気候変動の重要な原因とされる温室効果ガ 空気,水,土地の汚染による人々の健康や生活の著 スの 70%以上が都市に起因すると見積もられてい しい悪化,生態系資産の破壊,予算負担の増大,長 る 1.住宅と業務用ビルの暖房及び照明のために, 期にわたる経済的競争力の衰退といった形で,都市 世界全体の温室効果ガスの約 25%が排出されてい 自身が支払うことになる.地域の汚染や非健康的な る.これは,農業部門と産業部門からの排出量の合 生活環境から一番大きな被害を受けるのは貧しい 計に匹敵する.交通は,世界の温室効果ガス排出の 人々である.彼らには,安全な住居もなく,近隣に 13.5% を占めるが,その中の 10%は道路交通によ 助けを求める道も開かれていないからである.全市 .温室効果ガスの排出に る(UN-Habitat 2008) 民の生活を改善し,企業活動にとって魅力的な環境 よって気候変動が引き起こされ,それは元には戻ら を提供し,生態系資産を保護・活用し,都市の財政 ない. 力を強化したいと望む都市の指導者たちにとって,  気候変動は,地球の生態系と世界経済に深刻な影 これらは緊急の課題である. 響をもたらすが,とりわけ貧しい国々への影響が重  汚水と廃棄物の管理が適切に行われないために, 大である.「気候変動の経済」に関するスターン・ 多くの発展途上国で,環境と健康に関する重大な危 レ ビ ュ ー(Stern Review) に よ れ ば, 現 状 推 移 険が生じている.さらに,世界保健機構(WHO) (BAU)シナリオにおいて,世界全体の GDP には の推計によれば,10 億人以上のアジアの人々が, 5 – 10% の損失が生じる可能性があるが,貧しい 同機構のガイドラインで定めたレベルを超える大気 国々の損失は GDP の 10% 以上になる恐れがある. 汚染に曝されている.中国政府と世界銀行が共同で 所得と生産性の損失対策(例えば,GDP を増やす 行った最近の調査によれば,中国都市部の大気汚染 対策)に関する分析をもう一歩進めて気候変動のコ のコストは,2003 年において約 630 億米ドルに ストを詳しく調べると,現状推移シナリオで気候変 達した.これは,同じ年の中国の GDP の 3.8%に 動が進行した場合のコスト(健康と環境に対する直 相当する(World Bank 2007). 接的な影響と,これらの影響や波及効果のフィー  先見の明を持ついくつかの都市は,気候変動を深 ドバックによる増幅・増強)は,1 人当たりの消費 刻な問題としてとらえている.例えば,オースト を 5 ~ 20%減少させるのに匹敵する生活水準の低 ラリアのブリスベン市当局は,同市のスマートシ 下をもたらす恐れがある.しかも,どちらかと言え ティ・プログラムを通して,この問題に総合的に取 ば,この数字の上限の方が見積もりとしては正確な り組んでいる.ブリスベン市の担当官は,彼らの経 .スターン・レビューが ようである(Stern 2007) 験が他の都市が同じような取り組みを行う際の踏み 指摘しているもっと重要なことは,気候変動の影響 台となることを希望している(第3部のブリスベン は世界各国で同じではなく,最貧国とその国民が最 市のイニシアティブ参照).現状のまま都市化が進 も大きな影響を受けることである.要約すれば,現 18 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 在進行している都市化がもたらす経済面,社会面及 業には,全体を見渡す計画と部門にまたがる調整が び環境面の外部効果は持続可能ではないと言ってよ 必要である. い.  他方,都市は歴史上例を見ない急速な膨張という 問題に直面しており,非効率的かつ非持続可能な成 既存と新規の問題を対にして 長パターンに陥ったまま容易には抜け出せない恐れ  発展途上国の都市化の波が持つ猛烈なパワーを吸 がある.都市の発展は,その規模の大小によらず, 収しながら,既存施設の維持・管理も継続していく 出発した時の最初の状態が基盤となる.つまり,都 には,パラダイムの変化が必要である.ここで,以 市が成熟するにつれ,何を達成できるかは,その出 下に述べるような基本的な問題について解答を見つ 発点の状態によって決定的な制約を受けるのであ けなければならない.都市化がもたらす悪影響を緩 る.こうした初期条件として重要なのが,空間的な 和しながら,経済成長と貧困削減の好機を効果的に 発展パターンである.すなわち,市街地の形と,そ 利用し続けるにはどうしたらよいであろうか.現在 れと密接に関係する主要なインフラへの投資が,そ 進行している都市化の速度と規模,自分自身で問題 の規模と長期的な影響の面で,将来何が可能かを決 を解決する能力の限界という条件の下で,都市はど 定する重大な制約となる.この状況を端的に表すの うしたらこのゴールを達成できるだろうか.環境へ が経路依存性という言葉である.このような経路依 の配慮と経済への配慮をうまく接合することによっ 存性の制約は,大規模で複雑なインフラシステムを て,都市にとって有利な条件を次々と累積的に生み 維持するために整備されていく制度的枠組みにおい 出していくにはどうしたらよいであろうか.環境都 ても明確に見られる.この制度的枠組みが整備され 市と経済都市を互いに対立しあうものとする見方 ることによって,ある種の成長を強化し,持続する を,環境経済都市(Eco2 cities)へと転換するに ことができるのである.新たな都市化と都市の成長 はどうしたらよいであろうか. をうまくコントロールできる可能性は非常に大きい  一般に,都市は,既成市街地への対応と,急速に のである.そのためには,最初に正しい道を選択す 拡大する新市街地への対応という,2つの課題に直 ることが,後になってから問題に対処するのに比べ 面している.既成市街地の問題を扱うには,既存施 て,はるかに費用対効果において優れている.何 設のストックをもっと有効に活用するためのさまざ を,どのタイミングで,どういう順序で実施するか まな方策が利用できる.施設改善の方策としては, が,よく調整された施策によって長期的な効果を発 エネルギー部門と廃棄物部門における効率改善策が 揮する上で極めて重要であり,それによって,ベネ ある.具体的には,廃棄物の減量化・再利用・再資 フィットを最大化し,長期的な外部効果を低減する 源化(3R),既存の交通インフラ(道路)の効率化 ことができる.正しいタイミングで実施することに (例えば,バス・ラピッド・トランジット(BRT) 失敗すると,多大な機会費用を払うことになる.そ の運行経路や自転車レーンの指定)などがある.同 して,その正しいタイミングとは,まさに今,現時 時に,都市は,費用対効果の優れた方法を見つけ出 点なのである. すことで,建物の床面積や階数を増やし,既成市街  このチャンスをつかむことができるうちに,この 地の空間分布,利用密度及び利用形態を再構築する 価値ある取り組みを開始できるように都市を支援し ことができる.その方法としては,開発権移転の許 たいという切実な思いから,世界銀行はこの Eco2 可,土地利用改革プログラム,ゾーニングのやり直 Cities イニシアティブを開始したのである. しと土地利用パターンの変更,建築基準法の改正と 実施などがある.都市内の近隣区や地区における大 型の再開発事業もまた,既存市街地の持続可能性を 強化することに成功してきた.改修対策や再開発事 枠組み ≫ 第1章 環境都市と経済都市 19  横浜市のごみ排出量は,2001 年度の 160 万ト 都市の持続性におけるイノベーションとそ ンから,2007 年度の 100 万トンへと,38.7%も の利益 削減された.ちなみに,この期間における横浜市  環境面での持続可能性と経済面での持続可能性の の人口は約 16 万 6000 人も増えている(City of 両者が互いにプラスに作用しあって,広範な関係者 Yokohama 2008, 2009a).この大幅なごみ排出 に利益をもたらし得ることは,革新的な取り組みを 量削減のおかげで,横浜市は2カ所のごみ焼却工場 行っている幾つかの都市の実例によって示されてい を閉鎖することができた.この結果,もしこれらの る.Eco2 Cities イニシアティブのひとつの役割は, ごみ焼却工場を存続させた場合に必要となったはず これらの事例を分析することによって,その成功と の施設改善の資本費用 11 億米ドルが節約されたの 失敗の教訓を他の都市に伝える方法を見出すことで である(為替レートは,1米ドル= 100 円とした) ある.この作業を始めるに当たり,3つの事例を簡 (City of Yokohama 2006).このコスト削減は, 単にレビューしてみよう.これらの事例の詳細は, また,正味で年間 600 万ドルもの運転コストの節 第 3 部において紹介されている.第1は,関係者 約につながった(不要となった 2 基の焼却炉の運 との協力によって総合的な廃棄物管理に成功し,環 転維持コスト 3000 万米ドルから,ごみリサイクル 境と経済の両面で大きな成果をあげた事例である. 業務のために必要となったコスト 2400 万米ドルを 第2は,関係者同士の組織的協働によって電力・水 差し引いた数字).横浜市は2つの埋め立て処分場 と資源の総合的な計画・管理を行い,ライフサイク を有している.2004 年に G30 プランが提案され ル的に見てより大きな利得をもたらした事例であ たとき,この2つの埋め立て処分場の残存容量は る.第3は,よく調整された総合的な都市開発と併 10 万 m3 しかなく,2007 年には満杯になると予測 せて,社会面及び環境面のプログラムも実施した事 されていた.しかし,ごみ減量化のおかげで,この 例である.この第3の事例は,環境と経済の調和の 2つの埋め立て処分場は,2007 年時点でまだ 70 とれた都市計画・開発・管理を進める上で,コスト 万 m3 の容量を保持することができた.60 万 m3 は重要な障害ではないことを具体的に示しており, の埋め立て容量を節約できたことの価値は,8300 経路依存性(空間,制度及び文化の面で)の面にお 万米ドルと見積もられている(City of Yokohama ける都市開発の1つの成功例である. . 2006)  さらに,2001 年度から 2007 年度までの期間に 横浜市:関係者の参加による環境と経済の両面で 実現されたごみ排出量の削減は,84 万トンの二酸 の利益 化炭素排出量削減をもたらした.これは,6000 万  日本最大の市である横浜では,2003 年に行動計 本の日本杉が毎年固定する二酸化炭素の量に相当す 画を開始した.この計画は,ヨコハマ G30 プラン る.ちなみに,6000 万本の日本杉を植えるには, と呼ばれた.ちなみに,G はゴミを意味し,30 は 約 600 km2 の土地(横浜市域面積の 1.4 倍)が必 2010 年度までにゴミの発生量を 30%削減すると 要である.同時に,もしこれらの削減量が認証され いう意味である.このヨコハマ G30 プランは,家 て売られていれば,カーボンファイナンスを利用し 庭,企業,市政府のそれぞれが,ごみの減量化,再 た新たな継続的収入源が生まれていたはずである. 利用及び再資源化の 3R によってごみ発生量を減ら すために担うべき責任を明らかにし,この目標達成 ストックホルム市:関係者の組織的協働による総 に向けた総合的アプローチの推進メカニズムを示し 合的な計画・管理 ている.ごみ減量化を推進するため,環境教育な   ス ト ッ ク ホ ル ム 市 議 会 は, 市 南 部 の ハ ン マ ル ど,さまざまな活動が展開され,市民及び事業者の ビー・ショースタッドで進行中の再開発プロジェ 理解と知識の向上が図られた. クトの中で,さまざまな指標,とりわけ,1m2 当 20 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES たりのエネルギー利用について,効率を2倍にす で都市開発を進める新たな道を拓く模範にしたい る取り組みを行っている.これは,スウェーデン と考えている.ここで,ハンマルビ-・ショース の全国的な環境プログラムとして,1995 年に「持 タッドは,ストックホルム市内に指定された3つ 続可能性に関するスウェーデンの優良事例」とし のエコサイクル地区の1つである. て採択されたものである.スウェーデンでは,新  市議会が設定した目的を達成するため,市役所の 規 開 発 事 業 に お け る エ ネ ル ギ ー 使 用 量 は, 普 通 廃棄物,エネルギー,水道・下水道の担当部局は協 な ら 1m2 当 た り 200kWH で あ る が, 先 進 的 な 力しあって,ハンマルビー・モデルと呼ばれるもの 事 例 で は 1m2 当 た り 120kWH が 実 現 さ れ て い をつくった.このモデルは,資源を取り入れて消費 る(Bylund 2003).ストックホルム市のこの し,廃棄物を出力として外に捨てるという一方通行 プロジェクトでは,この値をさらに1m2 当たり の都市代謝を,資源の利用を最適化し,廃棄物の発 100kWH にまで改善することを目標にしている. 生を最小化することによって循環型に変えようとす このプロジェクトでは,これだけなく,水の節約, .このモデルは,都市にお る試みである(図 1.1) ごみの減量化と再利用,建設における有害物質の けるインフラ施設とサービス提供に関するさまざま 使用量削減,再生可能エネルギーの利用,総合的 なシステムを合理的ですっきりしたものに変え,上 な交通対策などにも取り組んでいる.ストックホ で述べたような持続可能性に関する諸目的を達成 ルムは,既に持続可能な都市と言ってよいのだが, するための基礎となる青写真である.開発の最初 市議会は,このプロジェクトを,持続可能な手法 期における予備的検討結果が,図 1.2 に示す Sikla エネルギー 廃 棄 物 水 図 1.1 ストックホルム市のハンマルビー・モデル:計画と管理が一体化した事例 出典:City of Stockholm, Fortum, Stockholm Water Company. 枠組み ≫ 第1章 環境都市と経済都市 21 Ude(UD)であり,Ref は比較のための参照シナ た.チームの編成を見ると,市役所内の計画,道 リオである.指標ごとの削減率は,非再生可能エ 路・不動産,水道・下水道,エネルギーの各部の代 ネルギー(NRE)の使用量 30%,水使用量 41%, 表メンバーで構成されていた.市と民間のさまざま 地球温暖化ポテンシャル(GWP)29%,光化学オ な関係者を指導し,影響力を行使できる権限を持っ ゾン生成量(POCP)41%,酸性化ポテンシャル た1人のプロジェクト・マネージャーと1人の環境 (AP)36%,富栄養化ポテンシャル(EP),放射性 担当者によって,市役所のさまざまな部門が1つの 物質(RW)33%である. 組織として統率されることになったのである 2.  ハンマルビー・ショースタッドのプロジェクトの ようにうまく成功するかどうかは,鍵となる関係者 クリティバ市:コストは重大な障壁ではない の間で十分な調整が行われるかどうかにかかってい  発展途上国においても,相対的に少ない資金しか る.関係する全ての取り組みを同一の方向に揃える 持たないにもかかわらず,前向きに取り組んでい ために,市は,1997 年にプロジェクトチームを任 る都市があり,持続可能な都市開発に成功してい 命した.1998 年に,プロジェクトチームは,市の る.その例として,ブラジルのパラナ州の州都であ 道路不動産部(現在は,開発部と呼ばれている)の るクリティバ市を見てみよう.1960 年代から,都 中に統合された.この措置は,いくつかの好ましい 市計画,都市経営,交通計画などにおける斬新なア 効果をもたらした.まず,市の道路不動産部の所属 プローチによって,クリティバ市は,最初の限ら になったことで,プロジェクトチームは,以前に比 れた予算しか使わずに,36.1 万人(1960 年)か べてより多くの公的資金を得て,自由にこれを使う ら 179.7 万人(2007 年)まで急速に増大した人口 ことができるようになった.さらに,プロジェクト を収容するのに成功した.クリティバ市は,都市に チームは,民間の関心をうまく調整・利用する上 とって極めて重要なさまざまなサービスを,非常に で,以前よりはるかに強い権限を持つことができ 幅広く,しかも環境に及ぼす負荷を小さくするやり 図 1.2 ストックホルム市ハンマルビー・ショースタッドにおける環境負荷ライフサイクルアナリシス(LCA)を用いた最初の 事前調査結果 出典:The tool is described more fully in chapter 10. 22 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 方で供給しており,その取り組みは,もっと大きな はブラジル国内で最大である(45%).これは,ク 予算を持つ多くの都市よりも優れている.さらに, リティバ市の大気汚染が同国内で最も低いレベルに これを達成しながら,クリティバ市は自身の財政力 あることを意味する.交通渋滞のために浪費され と経済基盤の拡大をも実現し,世界的にも,環境と た燃料は,2002 年において 93 万米ドルと評価さ 経済の両面において最も優れた都市という評価を獲 れ,これはリオデジャネイロの 1 億 3400 万米ド 得している. ルという値に比べて大きな差がある(CNT2002,  クリティバ市の最も重要な決定は,市の中心部か .対照的に,2000 年において, VASSOLER2007) ら外側に向かって放射線状に枝分かれさせていく 米国の 73 の都市域の交通渋滞がもたらした燃料と という計画で,これによって,都市が開放的にな 時間の浪費は 675 億米ドルにも上っている(Downs り,都市として必要な密度を保ちながら,緑地が保 2004).米国内のこれらの都市域がもっと効率的に 全されている.このアプローチは,多くの典型的な 計画・開発されていれば,毎年繰り返される無駄な 例に見られる同心円状の,その場しのぎの開発とは コストと有害な汚染排出は大幅に回避できるはずで 大きく異なっている.重要な幹線軸に沿って直線的 ある. に都市を成長させるために,クリティバ市は,次々  1950 年代から 1960 年代にかけて,クリティバ と路線を増加させるやり方で総合的なバスシステム 市は,建設と開発が急速に進む一方で,慢性的な洪 を整備してきた(図 1.3).土地利用とゾーニング 水被害に苦しんでいた.新たに排水路を建設するに によって,それぞれの幹線軸に沿って高密度の商 は,膨大なコストが必要と考えられていた.しか 業・住宅地区の開発が促進され,これによって,経 し,排水路となる土地には手をつけず,低地の一帯 済的に持続可能なシステムとするのに必要な経済活 を開発禁止にすることで,コストのかかる洪水問題 動の集積と利用者の居住が確保された.色で区別さ を解決し,洪水対策と排水に関連する巨額の資本費 れたバスシステムがデザインされ,多様なサービ 用を支出しないで済んだ.市は,これらの地域を公 ス(地区と地区を結ぶ路線,地区内の支線,都市間 園にして,たくさんの樹木を植え,氾濫した水を貯 を結ぶ路線など)が提供されていて,しかも,総合 めるための人工湖を新たにつくった.公園内にバ 的な土地利用計画として全体が統合されている.こ スと自転車の経路を設けることで,公園と市の交 の結果,クリティバ市における公共交通の利用割合 通網が一体化された(Rabinovitch and Leitman 2009 図 1.3 クリティバ市の総合交通システム(1974 ~ 95 年及び 2009 年) 出典:IPPUC (2009). 枠組み ≫ 第1章 環境都市と経済都市 23 1996).これは,生態系資産と緑地インフラを都市 Institute for Energy Conservation) の 賞, オ ラ デザインの中に組み入れる方法として,非常に優れ ンダのクラウス皇太子賞など,多くの賞を受賞して た例である.このやり方に必要なコストは,スラム いる.現在のクリティバ市も,公衆との幅広い協議 住民の移転費用を含めても,コンクリートの運河を を通して,社会,環境,都市計画に関する諸問題に 建設する場合の 5 分の 1 で済んだ.また,その結 焦点を当て続けながら,革新的な新規プロジェクト 果,近隣地域の資産価値が上昇し,税収も増大し を実施し,幅広い成果をあげている.カルロス・リ た. チャ市長は,2004 年に現職に就いて後,大きな人  特別の措置によって,開発事業者は,市が保全し 気を得ている.このことは,2008 年に彼が再選さ たいと考える地域に対して有する開発権を放棄する れた時の支持率が 77%と高かったことからも,明 代わりに,市が開発したいと考える地域の開発権を らかである. 得ることが認められた.また,緑地や歴史的・文化 的な遺産の保全のためのインセンティブと税制優遇 優良事例都市から得られた強力な教訓 措置が提供された.同時に,市は,市街地が成長す る軸に沿って,街の活気を保つのに必要な密集度を  クリティバ市,ストックホルム市,横浜市のほ 維持した.この結果,1970 年から 2007 年までに, か,本書で取り上げる多くの事例は,規模の大小は 人口密度は1平方キロメートル当たり 1,410 人から あるものの,変革は可能であり,都市の持続可能性 4,161 人に増加し,それでいて,住民1人当たりの に関して広く流布している神話(例えば,コストが 緑地面積は 1m2 から 51.5m2 へと大きく増えた. 高いといった話)は必ずしも事実に基づいていない  クリティバ市の成功は,1965 年設立のクリティ という,前向きのメッセージを発している.次に, バ市都市計画研究所(The Institute for Research これらの教訓をもう少し詳しく見てみよう. and Urban Planning of Curitiba)の取り組みに 負うところが大きい.この研究所は,独立した強力 予算に制限があっても,多くの解決策がある な権限を持つ市政府機関であり,同市内における研  間違ったまま広く信じられている誤解の最たるも 究,計画作成,施策の実施や事業への指令を担当し のは,革新的な取り組みなどあり得ないし,それか ている.研究所は,都市開発に含まれる色々な要因 ら大きな利益が生まれるはずはないという考えだ. を調整している.市のさまざまな行政施策を通じて こういう考えが間違っていることは,クリティバ市 実行される計画の継続性と一貫性を保つことができ と横浜市の例が具体的に示すとおりである.創造的 た一番重要な要因はこれである.研究所による想像 でありながら,現実的で,費用対効果にも優れた解 力に富んだ総合的な都市計画・開発・管理施策に 決策がたくさん存在しており,現状のままのシナリ よって,ばらばらな開発がもたらす非効率性は大き オに比べて多くの利益も同時に得ることができるの く改善された. である.  ジャイメ・レルネル氏は,クリティバ市の 1966  この教訓をさらに強める事例がもう1つある.南 年 の マ ス タ ー プ ラ ン 策 定 に 貢 献 し,1969 年 及 アフリカのエムフレニ市は,エネルギーと水の節約 び 1970 年 に 研 究 所 の 所 長 を 務 め た 後, 3 期 に プロジェクトを開始し,年間で 70 億リットルの水 わ た り Curitiba 市 長 に 選 ば れ た(1971 – 75 年, と 1,400 万 kWH のエネルギーの節約を達成した. 1979 – 83 年,1989 – 92 年).彼は,ブラジルの このプロジェクトは,わずか 180 万米ドルのコス 市長たちの中で最も人気があり,創造的で,成功を トで,年間 400 万米ドル以上の経費削減を実現し おさめた人物として広く知られており,世界的に広 たのである.つまり,半年もかからずに,プロジェ い影響を及ぼした.彼は,国連ユニセフの子供平 クトは黒字になったのである.エネルギー節約サー 和賞,国際省エネルギー協会(The International ビス会社との契約に基づき,会社が経費を負担し, 24 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES プロジェクトの実施も会社が行ったので,市は,漏 資源の消費者及び廃棄物の排出者として重要な立場 水と地下水汲み上げのために無駄に使われていたお にあり,これらの消費量や排出量を減らすことは, 金を大幅に節約できただけでなく,先回りの設備投 市の経済や財政に利得をもたらすであろう.1970 資のために資金を使う必要もなくなったのである. 年代半ば以来,カリフォルニア州では,電力・水道 他方,エネルギー節約サービス会社は,節減された 等の公益事業の改善プログラムとエネルギー効率に コストの一部を利益として受け取ることによって, 関する政策が推進されている.その内容は,基準づ 投資費用を迅速に回収することができた. くりと研究開発であり,米国内の他地域における  エムフレニ市の経験に類似したたくさんの事実か 1人当たり電力消費量がほぼ 80%も増大している ら,エネルギーと資源の効率を改善する取り組みに のに,同州におけるその数字は一定に保たれてき よって大きな財政的・経済的な利得が得られること た.この結果,カリフォルニアの消費者,家計及 が証明されている.多くの中規模都市では,市の び企業では大きな経費節減が果たされたのである 総予算の 40 ~ 50%がごみ処理に使われているの (California Air Resources Board 2008).これま で,横浜市で実行されたようなプログラムは,大き での 30 年間にわたり,カリフォルニアの消費者は, な利益をもたらす可能性を示す力強い事例である 機器の効率と建物の効率を改善する政策によって, (Pagiola and others 2002).市当局や水・電力等 500 億米ドル以上の経費節減を実現したのである. の公益サービス供給部門は,より価値ある社会的目 教育プログラムと意識啓発キャンペーンもまた,た 的(水道水の供給サービス拡大,ごみの収集・処 いしたコストをかけずに,消費パターンに影響を及 理,スラム地区の街灯設置など)の追求のために予 ぼすことができる. 算を使う必要があり,予算不足や市役所の経費削減 という課題にどう対処するかに頭を悩ましているわ 成功は,有効性が証明されている既存技術と適切 けだが,新しい財源を見つける最善の方法は,資源 な新技術によって達成可能である 利用効率の改善によってコスト削減を達成すること  多くの優良事例が示すところによれば,成功の鍵 である.効果的で調整が行き届いた都市計画と土地 となるのは,新しい技術ではなく,むしろ適切な技 政策,そして,施設の適切な空間配置によって,強 術である.ほとんどの都市では,交通問題の解決に 力かつ持続可能な長期的開発が可能となり,経済, とって,高価な水素自動車よりは,自転車や歩行者 社会,環境のすべての面にわたる複合的な利益がも に優しい道路のネットワークを拡大する方が有効で たらされるのである.効果的な都市計画と土地政策 ある.住宅の断熱化や節水型の水道蛇口のような簡 によって,都市に住む貧しい人々と,都市を構成す 単な技術によって,多くの新技術に勝る経費節減が る経済的,社会的,物理的な組織とのつながりが深 .他方,新技 もたらされるのである(EIU 2008) まり,それは,都市に対しても,中央政府に対して 術に関する選択肢の多くは,誤った考えによって, も,また都市に住む貧しい人々自身に対しても,経 商業化が難しいとされている.その理由は,ライフ 済的利益をもたらすことになる.良い計画をつくる サイクルの視点からの正確かつ完全な費用対効果分 ために必要な予算はさほど大きくはない.しかし, 析が実施されていないからであり,また,既存技術 クリティバ市の例に見るように,技術面,行政組織 にはさまざまな補助金が組み込まれているので,新 面,制度面での高い能力を維持するという意思を堅 技術はその不利に打ち勝たねばならないからであ 持し,そのために継続的に費用を投じることが必要 る.一例をあげれば,自動車には直接には目に見え である. ない多くの補助金が提供されている.公共用地を利  適切に設計・実施されるならば,政策とさまざま 用した無料あるいは低料金の駐車場や,高速道路整 な規制もまた,環境,財政,経済の各面で利益を生 備のための多額の費用がそれである.最も簡単な解 み出すことができる.家庭と企業は,エネルギー・ 決策として時々行われているのは,市当局とその協 枠組み ≫ 第1章 環境都市と経済都市 25 力者が一定量の一括購入を行うことによって,適切 発展途上国の都市の方が先進国の都市よりもかなり な新技術を受け入れ,規模の経済によって現地の市 良い達成状況なのである.ほとんどのエネルギーを 場価格が低下するまで,段階的な補助金制度や意識 消費し,ほとんどの廃棄物を排出しているのは先進 向上キャンペーンによって新技術の育成を助けると 国だということを思い起こすことが重要である.こ いう方法である.その需要に応えるための生産が当 れらのパターンについては,先進国の間でもさらに 該地域で行われる場合,大きな付加価値生産をもた 違いがある.例えば,欧州の都市は,北米の都市に らし,地域の経済開発に良い効果を及ぼすことがで 比べると,両者の発展レベルは同じであるにもかか きる.技術の製造・設置は,コミュニティの内部で わらず,はるかに少ないエネルギーしか消費してお のお金の循環を助け,水やエネルギーといった商品 らず,はるかに環境に配慮し,より計画的である. の購入のためにお金が外に出て行くのではなく,地 この状況は,1つには,都市,国,欧州連合(EU) 域での雇用を新たに生み出したり,それを維持する 全域の各レベルでの環境に優しい政策により,ク ことにつながる.デンマークやスウェーデンなどの リーンエネルギーと省エネを推進してきた結果であ 国々は,新技術の育成のために投資し,現在その成 る.欧州の人々は,より高いエネルギー価格を支 果から利益を得つつある.今,これらの国々が持つ 払っており,歴史的,文化的に,コンパクトな都市 技術的専門知識に対する国際的需要は増大してい 形態と質の高い公共交通を好んできた.これは,ま る. た,欧州と日本の自動車メーカーに要求された規 制,すなわち,米国で生産される自動車よりもはる 発展途上国は手作りの解決策に誇りをもつべきで かに高い燃費の自動車を生産せよという要求に因る ある. ものでもある.自分自身の能力とニーズに合致した  発展途上国の都市が規模や富の面で成長するにつ 取り組みを選択し,組み合わせることによって,市 れて,市当局は,自分自身の市域内で起きているイ 当局は,これらの経験を取り入れ,手作りの解決策 ノベーションにまず目を向けなければならない.そ をつくることができるだろう. の地域で活動する関心を持っているグループ,大 学,その他の機関が,その都市の具体的な文化状況 多くの解決策は間接的,直接的に貧困者の利益に に合わせて,変革に向けたロビー活動やイノベー なる ションのための先駆的取り組みを既に開始している  市役所の経費と電気・水道代の支払いを減らすこ かもしれない.現地で芽生え成長したイニシアティ とができれば,社会的投資のために必要なお金に余 ブを基盤とすることによって,市行政は,自分たち 裕が生まれ,都市住民の中の最貧困層は間接的な恩 とよく似た状況の中で取り組みを開始した成功都市 恵を受けられるはずである.さらに,貧しい人々の の事例についてのもっと体系的な検討を開始する 生活は土地政策と都市サービスに大きく影響される だろう.発展途上国の多くの都市にとって,クリ ので,計画に基づいて市が行う多くの施策は,それ ティバ市は,自分たちにぴったりの事例かもしれな 以外にも,直接的かつ実質的なさまざまな恩恵をも い.ある都市の失敗から学ぶことも,優良事例から たらすだろう.例えば,規制改革と効果的な都市計 学ぶのと同じくらいに重要である.もっと開発が進 画・土地利用政策は,土地・住宅価格の低下を通し んだ欧米の都市では,スプロール化した空間利用形 て貧しい人々の状況を改善することで,大きな直接 態,建築物の高さとセットバック,駐車場の割り当 的影響をもたらす.また,貧しい人々は,公共交通 て,街路の幅員,道路パターン,インフラシステ 機関・歩道・自転車専用道の拡大,水道の普及・衛 ム,消費のトレンドなど,固定化された開発パター 生の改善・電気の供給,安全な料理用燃料の供給, ンが進行していて,それを変更することは容易では スラムにおける省エネ LED の普及などによっても, ない.多くの場合,持続可能性指標で評価すると, 直接的な恩恵を受けることができる.工場からの汚 26 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 染に対する環境基準の強化は,貧しい人々の生活条 ティブを支援することが重要である.また,国際的 件を大きく改善するであろう.パキスタンのカラチ レベルにおいても,都市への支援と,都市における 市におけるオレンジパイロットのような革新的なプ 環境と経済の持続可能性を実現するための資金提供 ログラムでは,貧しい人々をコミュニティ衛生設備 を約束する動きが広がっている.持続可能な都市開 建設事業に直接参加させ,家族に職を提供し,極め 発を達成するための新たな取り組みを開始したいと て費用対効果の高い方法で,コミュニティ内の排水 考える発展途上国の都市,とりわけ,温室効果ガス ネットワークの支線を市の幹線につなげることがで の排出削減につながるエネルギー・資源の効率改善 きた.このお金とサービスは,職と所得を生み出 対策を推進しようとする都市には,そのための資金 し,環境を改善し,住宅の価値を増大させ,近隣社 を得る新たな機会が生まれている.また,さまざま 会の自覚と責任意識を創り出すことによって,地域 な政策,計画及び投資の選択に関する全ての費用と 経済の発展に貢献している. 便益を見積もるための新しい評価手法も利用されて いる(例えば,ライフサイクルコスト分析).こう した機会の規模をさらに拡大し,都市開発のペース 投資還元の機会 を速めるためにそれを使うことができれば,巨大な  この次の挑戦課題は,急速な変革とイノベーショ 影響がもたらされる可能性がある. ンの成功から創出された多くの機会を最大限に利用  ますます数多くの都市が,自分自身のビジョン, するために何をすべきかである.戦略的で長期的な ニーズ,能力に基づいて,環境と経済の持続可能性 計画づくりや,地域における成長管理に成功した優 をさらに高めるための行動を開始しつつある.予算 良事例が既に存在しており,より総合的,実践的 と能力に限界があったにしても,これらの都市のや で,正確な分析を可能とするシステム分析や地理情 る気は損なわれない.ある都市は,新しいアプロー 報分析に役立つ新しいツールも登場している.都市 チを先駆的に実施しようとする強いリーダーシップ レベルで成功することが,国レベルで成功するため を示している.ある都市は,既に十分確立されたア の基本であるので,国をはじめ,市より上に位置す プローチを採用し,これらのアプローチの具体的な る州や県政府が協力して,都市レベルでのイニシア 実行の面で抜きんでた成果をあげている.また,あ る都市は,国際コミュニティとの共同作業によっ て,優良事例からの教訓を学び,技術面,制度面, 行政面での能力向上のため事業を開始している. バングラデシュのダッカ市における事例研究は,都市に おける貧困層の諸状況を改善する可能性を示している.  Eco2 Cities イニシアティブは,発展途上国の都 NPO Waste Concern は,ダッカ市と協働し,固形廃棄 市が,その機会を利用する可能性が開けているうち 物を焼却せずに堆肥化させ,堆肥固形廃棄物を肥料会社 に,経済的に報われる持続可能な発展の経路を進 に販売することで,ダッカ市のごみ削減を成功させてい み,その恩恵を享受できるようにするために開発さ る.この事業によって,ダッカ市の未回収のままになっ ている一般固形廃棄物の 52 パーセントを減らすことが れたものである.この後の章では,詳しい枠組みを 可能である.市はコミュニティ・ベースのコンポスト事 提示するが,発展途上国の都市は,自分自身の置か 業のために公有地を提供し,Waste Concern は,市と れた状況に合わせてこれを適用することによって, の協働により,まずリキシャで固形廃棄物を個別回収し て加工工場に搬入し,次に有機廃棄物を他のゴミと仕分 体系的な取り組みを行い,より多くの成功を実現で け,廃棄物を濃縮生物肥料にコンポスト化し,さらに肥 きるだろう. 料会社が堆肥系肥料を国内マーケットで購入するよう調 整している.この取り組みは,ダッカ市においては貧困 層 16,000 名分,バングラデシュ全土においては 90,000 名分の新規雇用を創出する可能性を秘めている. 枠組み ≫ 第1章 環境都市と経済都市 27 Resources and Wastes Recycling Bureau, City of 注 Yokohama, Japan. http://www.city.yokohama.jp/me/ 出典や採用した方法によって異なる. 1. データの値は, ここ pcpb/keikaku/jigyo_gaiyou/20gaiyou/ (accessed に示すデータは国際エネルギー機関(IEA)のものであ February 2009). る. ————. 2009a. 横浜市統計書[web版] 月別世帯数及び 2. このパラグラフの情報はストックホルム市から提供され 人口 [Yokohama statistical reports (web version): た. Monthly number of households and population]. Yokohama Statistics Portal, City of Yokohama, Japan. http://www.city.yokohama.jp/me/stat/toukeisho/ new/#02 (accessed February 2009). 参考文献 ————. 2009b. ごみの分別による効果 - 二酸化炭素削 Angel, Shlomo, Stephen C. Sheppard, and Daniel L. Civco. 減効果 [Effect of segregation of garbage— 2005. The Dynamics of Global Urban Expansion. reduction of carbon dioxide]. Resources and Wastes Washington, DC: World Bank. Recycling Bureau, City of Yokohama, Japan. http:// Brick, Karolina. 2008. “Barriers for Implementation www.city.yokohama.jp/me/pcpb/shisetsu/shigenkai/ of the Environmental Load Profile and Other lca/ (accessed February 2009). LCA-Based Tools.” Licentiate thesis, Royal Institute of CNT (Confederação Nacional do Transporte). 2002. Technology, Stockholm. “Pesquisa da Seção de Passageiros CNT, 2002; Bylund, Jonas R. 2003. “What’s the Problem with Relatório Analítico: Avaliação da Operação dos Non-conventional Technology? 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Urban Brazil: Visions, Afflictions, and 29 第2章 Eco2 Cities イニシアティブ: その原理と道筋  第1章では,変革の結果,どのような機会がもたらされるのかを分析した.また,世界 の都市の優良事例を用いて,革新的なアプローチによって,環境と経済にどのようなベネ フィットが生じる可能性があるのかを具体的に示した.このような施策を企画・実行するの に必要な知識と手段が存在するにもかかわらず,しかも,限られた予算しか持たない都市に おいても現実に即した素晴らしい成果をあげていることが具体的に示されているにもかかわ らず,他の都市は何故こうした機会を積極的に利用しようとしないのであろうか.こうした 取組みの例が稀なのは,何故だろうか.  この第2章では,まず,より統合的なアプローチを採用しようとした場合に都市が直面す る多くの困難な課題について概観する.これらの課題は,ほとんどの読者にとっては馴染み の深いものである(残念なことに,これらの問題は何処でも同じである)ので,詳しい説明 は不要である.しかし,これらの課題に注目することには意味がある.何故ならば,戦略 的な対策,すなわち,Eco2 Cities イニシアティブを決定する重要な戦略と原則の枠組みを 決めるにあたって,優良事例都市から得られた現場的教訓とともに,これが参考になるか らである.本章では,課題をレビューした後,Eco2 Cities イニシアティブのすべての内容 の範囲と方向を示す4つの大きな原則について説明する.これらの原則を採用することが, Eco2 アプローチに向けた第一歩である.基本的に,これらの原則は,都市が新しい機会を 掴み,課題を克服し,優良事例の教訓を新しいプロジェクトに活かすためのものであり,そ の有用性は既に証明されている.  本章の最後では,Eco2 アプローチを要約した表を示す.4つの大原則は,プログラムの 核となる多くの要素に分解・再構成される.そして,都市が段階を踏んでプログラムを実施 し,その都市ならではの Eco2 の道筋を創り出すやり方として,1つの例を示す. 30 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES ばらである.部分的には良くても,全体として 都市が直面する多くの課題 は全く役に立たない断片的な解決策しか示され 予算・人員の不足 ない.  発展途上国の都市は,総じて,行政能力,技術, • 過度な専門分化と圧倒される複雑さ: サイロ 予算の面で大きな限界を抱えている.しかも,これ [監訳者註:穀物や飼料の貯蔵庫,たこつぼ] らの都市は急速な都市化という問題に直面してい ごとに分割保管された専門知識.都市における る.こうした理由から,市の職員は,慢性的に抱え 資源利用とそのコストについて見通す能力が不 る問題や,受付窓口に積みあがっていく日々の問題 足している. や個別問題にばかりに目を向けがちである.市の職 • 単一目的ごとの予算の仕組み:都市の問題に直 員に尋ねてみれば,Eco2 イニシアティブのような 接切り込むことができず,都市システムの全体 長期的なプランや分野横断的な施策に取り組む時間 を扱うことができない.また,個々のプログラ は無いという答えが異口同音に返って来るだろう. ムの目的を市にとっての優先課題と結びつける こともできない. 間違った情報 • 時間がかかる複雑な政治的プロセス:大きな予  イニシアティブが実施されないもう1つの理由 算でも,小さな予算でも,常にこれが問題であ は,第1章で述べた経験と教訓が,広く知られ理解 る. されていないためである.逆に,都市の意思決定者 • 短期的で視野の狭い会計方式:間接的なコスト の多くは,一連の間違った神話と思い込みの下で とベネフィットは無視し,建設コストと維持・ 運営に当たっている.Eco2 アプローチのような解 管理コストを別々にし,システムの更新コスト 決策は,宣伝のためのプロジェクトであって,従来 を計上せず,資本財の全体とリスクのことを考 からの都市計画・開発・管理に恒久的に取って代わ 慮せず,投資家と人々に誤解を与えている. るものだとは認識されていない.これらは,コスト がかかり,複雑な先進技術が必要であり,豊かな地 公的機関と民間機関のネットワーク及び既存技術 域や予算が豊富な都市でのみ実施可能だと思われて の間の相互束縛関係 いる.大多数の欧米都市で使用されている(あるい  都市計画は,ある面で,公共と民間のさまざまな は,エコシティという名前で売り出されている数多 組織の間で出来上がった複雑な関係を反映してい くの不動産開発で使用されている)様式や技術を輸 る.あるグループは,現状維持が利益なので,現在 入することこそ,最も先進的な都市建設のアプロー と同じことを熱心に推進し,従来と違うことに対し チだという,あまりに広く流布した思い込みによっ ては妨害しようとする.周知の例は高速道路ロビー て,こういう態度はさらに強化されている.都市が である.これは,道路で利益を得ようとする人々を Eco2 に向けて進むための最初のステップは,こう 代表しており,社会的費用のことや道路以外の技術 した間違った理解を正すことである. のことは無視して,道路建設に巨額の資金を投じさ せることに邁進しているとの批判を浴びている. 制度的な障害  都市は,何らかの技術の束縛を受けている.それ  制度的不備と誤った思い込みが,都市が統合的な は,過去にどのような施設を建設したかの結果であ 解決策を実行しようとする場合に直面する最大の課 り,積もったコストを回収し,収益をあげる必要 題として広く指摘されている.その最も典型的な例 に迫られているからである.もし需要管理(DSM) を以下に示す. に投資しようとか,別の方法でサービス需要を充た そうという提案をすれば,得られる収入が予定より • 責任の分散:予算,スケジュール,目標がばら 減少してしまう.そうすると,既存施設の規模が過 枠組み ≫ 第2章 Eco2 Cities イニシアティブ:その原理と道筋 31 巨大工業技術システム(例えば,発電所,送電網,最終消費で構成されたシステム)は,独立の技術要素の集ま りとして理解することは難しく,政府と民間のさまざまな制度がつくり出している強力な社会的諸条件の中に組 み込まれた技術群から成る複合体として見る必要がある. こうした複合体は相互に創出,波及,利用しあう関係にある技術インフラと組織・制度の間のフィードバックに よって共進化を遂げており,その発展の道筋は確定したものではなく経路依存的である.この複合体は一度完成 して固定化すると,他に置換することは困難となり,確立した複合体に改善をもたらすような代替技術がたとえ 出現したとしても,かなり長期にわたってそれを締め出してしまう恐れがある. 出典:Unruh (2000). 大となり,経済的に運営困難となってしまうかもし 難かもしれず,その場合には経費もかかるし,失敗 れない.この問題は,都市やその共同出資者が,エ のリスクもある. ネルギー施設,浄水施設,下水処理施設,ごみ処理 施設やごみ焼却施設を新たに建設しようとする場合 まだ残る 19 世紀型モデルの影響 にはいつも発生する.このような状況に置かれた場  Eco2 のようなプログラムを採用するときの困難 合,革新的なアプローチは採用しないという政策が は,都市のデザインやプランづくりとして現在多く とられるのが普通である.技術によって都市が制 の都市で実践されている方法が,実は 19 世紀に完 約を受けるもう1つの例は,官民協力(PPP)であ 成されたやり方を引き継いでいるからである.当時 る.PPP は,適切に推進しないと,1つの同じサー は,石炭を大量に使用しており,新しく登場した製 ビスを長期間必ず購入するという契約を結んでしま 造技術のおかげで,歴史上例を見ない富の増大と生 うことになるからである. 活の質の改善がもたらされた時代であった.欧州と 米国の何百万もの家庭が,きれいな水,下水処理, 人間の持つ惰性 集中暖房,照明,清潔な街路,公共交通機関にアク  大勢のプランナーやデザイナーに参加してもらう セスできるようになったのだが,その変化は,20 という新しい計画プロセスを採用すれば,いかなる 世紀が始まるまでの短い間に,突然起きたのであっ 変革にも反対しがちな人々,特に専門家が有する生 た.社会の進歩とモダニズムは,水とか電気とかの 来の性向に対処できるに違いない. 目的ごとに別々のサイロで運転される集中型のシス  変革を成し遂げようという集中的な努力がなけれ テムによって達成されたのだが,それは,規模の経 ば,人間の持つ惰性のために,広く採用されている 済,豊富な資源,大気や水などの公共財を自由に使 標準的なやり方に従って,どの都市でも次々と,同 えるという前提条件で実現したのである.その時代 じような土地利用パターン,全く同じようなインフ においては大成功だった 19 世紀型モデルはもはや ラの整備を繰り返すであろう.この鋳型にはめたよ 最善の解ではなく,事実を言えば,今や大きな問題 うなパターンを変えるのは難しい.保守的な技術者 になっている.世界は.その当時に比べると,はる を雇って,彼らがこれまで設計したことがないよう かに混雑し,複雑化しており,都市域でのサービス なシステムを検討させれば,きっとそのアイデアは 供給には,より効率的で長期的な視野に立った解決 批判されるに違いない.保守的な技術者は,あらゆ 策が必要になっている.それにもかかわらず,現在 る面で,最善の知識を持ち合わせてはいるのだが, の我々の専門教育や制度には,この 19 世紀型モデ 最初の技術的検討や概念設計の段階では,もっと自 ルがまだ組み入れられたままである.権威ある組織 由で革新的な意識で取り組む必要がある.これにつ や専門家グループの間では,昔からの方法を維持し いては,専門の民間会社に参加してもらわないと困 ようとする惰性が強く,変革に対する抵抗が存在す 32 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES るので,より統合的なアプローチを推進するにはこ 定を行うための拡大プラットフォームに重要な関係 の悪弊に勝たねばならない. 者をもれなく招じ入れることは困難である.そし て,この拡大プラットフォームが無ければ,統合的 なシステムの設計・管理のための創造的アプローチ 原則に立脚したアプローチで課題を克服 を新たに開発することも,関連政策の調整によって  Eco2 イニシアティブは,上で述べたような機会 ワンシステムアプローチを推進することも困難であ と課題に取り組むため,新しい原則を採用する必要 る.都市を1つのシステムとして認識し,拡大され があるという考えに基づいて設計されている.これ た協働プラットフォームに信頼を置くことができれ らの原則は,都市開発のデザインと実施,そのため ば,優先順位と時間的順序を適切に決定した上で, の資金調達を進めるときの指針として用いられる. 持続可能性と復元力を高めるための投資を効果的に これらの原則は,変革を成し遂げようとする都市の 行うことができる. ための最高戦略である.ここで,4つの Eco2 原則  原則の間の複合的関係は,本章以外でもっと詳し を以下に記す. く明らかにされる.次に,Eco2 原則を説明する. (1)地 方政府に開発の主導権を持たせることによ 原則1  都市ベースのアプローチ り,生態系などの地域特有の条件を考慮するこ とを可能にするような,都市ベースのアプロー  都市ベースのアプローチが第 1 の原則であり, チ. これには2つの相互補完的な内容が含まれている. (2)協 力しながら設計し,意思決定を行うことに まず,この原則は,変革を推進し,統合的なアプ よって,重要な利害関係者の行動を調整し統一 ローチをリードする前線に立っているのが都市だと することを可能にするような,拡大プラット 認識している.個々の場所に関連した多種多様な情 フォーム. 報を統合し,多くのステークホルダーとの緊密かつ (3)都市システムの全体を統合的に計画・設計・管 迅速な協働によって,統合的な解決のために必要な 理することによって得られる効果を現実に実現 彼らの貢献を引き出すことは,都市レベルにおいて できるような,ワンシステムアプローチ. のみ可能である.さらに,財政と行政の分権化に ライフサイクル分析,すべての資本(人工,自 (4) よって,意思決定と運営管理の重要な責任は地方政 然,人間,社会)の価値評価,及び,広い視野か 府に委譲されている.次に,都市ベースのアプロー らのリスク評価によって持続可能性と復元力を定 チでは,いかなる開発プログラムにおいても,場所 量的に分析し,その結果を意思決定の中に組み込 ごとの特性,特に生態系資産を考慮することが重要 むことができるような,投資戦略の枠組み. だと考えている.都市は,自分が置かれた自然環境 条件にますます大きく依存するようになっている.  これらの戦略の1つ1つには,最上位の戦略ある 自然環境は,食料生産やレクリエーションのために いは原則という高い位置づけが与えられている,何 も,水やエネルギーを得て,それらを蓄えるために 故なら,それぞれの戦略の適用可能性は非常に幅広 も必要であり,廃棄物の吸収,その他多くのニーズ く,成功の鍵として重要である(優良事例の経験に を充たすためにも必要である.生態系資産――自然 基づく)にもかかわらず,無視されがちで,その真 資本――を保護・強化することは,都市の成長を導 価が正しく認識されないことが多いからである.こ く(あるいは,抑制する)にあたっての優先課題の れら4つの原則は,相互につながり,支援しあう関 1つである.都市ベースのアプローチは,このよう 係にある.例えば,都市ベースのアプローチを強力 な場所ごとの特性を考慮し,地域のリーダーシップ に進めないことには,協力しながら設計し,意思決 と地域の環境に焦点を当てたものである. 枠組み ≫ 第2章 Eco2 Cities イニシアティブ:その原理と道筋 33  それでは,これらの諸点について順番に見てみよ う. 生命体としての都市は島ではない.そのメタボリズム(代 謝機構)は周囲の生態系と結びついており,その土地の  規模によって異なるものの,都市は,近代国家の 人々や文化は他の生きた都市細胞とのネットワークを形 内部において最も大きな影響力を持つ組織体であ 成している.そうして創られた組織体は生きており,成 る.都市は,経済の原動力であり,人口の大多数の 長する.それは,他者に寄生するのではなく,自ら生産 ための住み家を提供しているだけでなく,資源・エ する一次生産者なのである. ネルギー消費と有害物資排出の大部分の原因とも 出 典:Goa 2100 Plan, 2003. For information on the Goa 2100 Plan, see Rei and others 2006. なっている.このように,都市は,それを構成す る重要なセクター及びステークホルダーと協力し て Eco2 ソリューションのための取り組みを展開で きるという,好適な位置にいる.都市は,また,重 ので,複数の市にまたがる都市域全体で調整して, 要な政策ツール(ゾーニング,許認可権限,税,料 セクターごと,あるいはセクターをまたいで,最適 金)を有しており,多くの国では,財政及び政策決 の手段を講じる必要がある.このように,都市の 定権限の地方分権化によって,以前より大きな権 リーダーシップは,広域を含めた色々なレベルで必 限を与えられている.したがって,Eco2 ソリュー 要である. ションについてのケーススタディのほとんどが,自  都市ごとのアプローチは,政策的立場だけでなく, らのリーダーシップによって,都市ベースのアプ 環境に関する基本的な立場にも関係している.都市 ローチを実践した都市から得られたものであるの は,資源消費の中心であり,究極的には,資源利用 は,驚くことではない. の効率は,都市の活動を都市内あるいはもっと広域  都市が,施策に優先順位をつけて実行しようと の環境条件とどううまく調和させられるかによって するとき,実行に向けた意思の強さと行動能力と 決定される.都市計画は,他のものでは代替できな い う,2 つ の 重 要 な 要 素 が あ る. 政 策 決 定 者 は, い自然資本,とりわけ,その都市が立地する都市域 Eco2 アプローチの価値を確信する必要があり,ま 全体にわたる自然資産と生態系サービスの保護・再 た,選挙民の政治的支持を得て,それを活用しなけ 生を目指している.いかなる都市も,地域の生きた ればならない.都市の成功は,自分自身で行使でき 生態系と完全に調和する必要がある.都市と地域生 る影響力を如何に効果的かつ創造的に利用し,その 態系の調和は,さまざまなスケールで実施できる. 効果を拡大することができるかによって決まるであ 例えば,食用菜園や近自然造園があり,自然豊富な ろう.これには,その都市の人的能力と技術的能 地域と都市とを分けている境界領域を対象とした計 力,地域の置かれた現実に対する理解,さらには, 画もある.都市全体の中で,水や緑などの生態系要 法律に基づいて持ち合わせている都市計画ツール, 素が,自然が織りなす緑と青の網の目となって,混 市の予算戦略などが関係してくる.都市によって じり,交叉しあい,延びることによって,地域の経 は,効果的に行動するために,技術,行政運営,資 済に多彩なサービスを提供してくれるのが理想であ 金の面で支援を必要とするかもしれず,その内容と る.生態系と開放された緑地空間は,緑のインフラ しては各種の知識,スキルやツールが含まれる. とでも呼ぶべき役目を果たす.こうした生態系のお  都市の行動能力は,自分自身が管轄している範囲 かげで,農産食品システムに必要な作物や果樹の受 を超えて,その外部に対してどれだけ影響力を発揮 粉が行われ,給水システムに必要な帯水層への水の できるかにもかかっている.都市の法律,行政,財 再補給がなされ,地域の風力発電所に必要な開けた 政の権限は,中央政府や州・県政府によって制約さ 丘の上や川の流域への風の道が形成される.緑のイ れるので,彼らとの協力は必須である.同時に,大 ンフラは,もっと大きな生態系の機能をも強化して 都市域は単一の市の行政範囲を越えて拡大している くれる. 34 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES である. 原則2 協働によるデザインと意思決定のため  都市は,拡大プラットフォームの少なくとも3つ の拡大プラットフォーム のステージで,協働の取り組みをリードできるだろ  資源効率が高く,計画が行き届いた都市の特徴の う.第1ステージでは,プロジェクトは完全に都市 1つは,統合的なアプローチが生み出す複合的効果 行政の管轄下にあり,都市は自分の思うように家を をうまく捕らえ,長い期間をかけて,いろいろなス 建てることができる(例えば,市が所有する全ての テークホルダーの行動を調整する能力を有している 建物のエネルギー効率改善,職員の自動車相乗りプ ことである.統合的アプローチと政策の整合は,ひ ログラム,勤務時間調整によるエネルギーや交通の とりでに生まれるものでは決してない.それには, . ピーク負荷管理) 活動の範囲を拡大するのに適したプラットフォーム  第2ステージでは,市は,サービスの供給者とし が必要である. ての立場でプロジェクトに参加し,計画策定・規  都市の活動は,ダイナミックな現象である.それ 制・意思決定について市が持つ権限をプロジェクト は,大勢のステークホルダーの行動が重なりあって のために利用することができる.水の供給,土地利 起きており,それぞれの行動が都市を構成するさま 用計画,交通機関の整備などが,これに該当する. ざまな要素の設計と管理に影響を及ぼしている.こ このレベルでは,プロジェクトの結果に影響を及ぼ れらのステークホルダー・グループのどれをとって すとともに,その影響を受けることにもなるステー 見ても,単独では1つのシステムとしての都市全体 クホルダーがいるので,彼らの協力が得られること のパフォーマンスを向上させ得る立場にはなく,そ は間違いない. の能力を有してもいない.したがって,個々の要素  拡大プラットフォームの第 3 ステージは,都市の が全体の中にうまく組み込まれるならば,どのグルー 全域,あるいはそれを含むもっと広い地域での協働 プにとっても有難いことである.しかし,これらの である.これは,新規の土地開発や都市圏の管理の ステークホルダーを一緒に集め,計画と政策の調整 ような問題に関するもので,市の上級幹部,鍵とな を行うための積極的な努力をしなければ,さまざま る民間企業,そして市民社会の参加がどうしても必 な政策や対策の間に衝突が起き,そうした衝突のコ 要となる.都市全体での協働を推進する場合,大勢 ストは経済と環境に重くのしかかることになるだろ のステークホルダーの活動を調整する権限が必要で う.たとえ,直接的な衝突はなくとも,どのステー あるが,市にはそういう権限が与えられていないか クホルダーも,自分自身の目の前の利益を目的に行 もしれない.市の幹部,水・電気等の公益企業,地 動しがちであり,このことが,プラスの複合効果と 主,民間グループは皆それぞれのプランと予定を持っ 最適の解決策を実現する上での障害になっている. ている.このレベルでは,他のあらゆるステークホ  都市では,インフラ整備に関する責任の細分化, ルダーの立場を考慮できるように,成長管理戦略を 権限の重複,重要な資産の民有化といった傾向がま 含めた,全体にまたがる大きな計画の枠組みを開発 すます顕著になっている.その上,サイクル的に行 することによってうまく行くことが多い.すべての われる選挙が制約となって,長期にわたる政策を実 局面で,さまざまなレベルの協働作業が求められ, 行しようにも,それがやり難い.指導者の交代に さまざまなワーキンググループが必要になるが,市 よって継続性が失われることが多いので,4年とい の主導するプロセスに全員が参加することが重要で う地方政府の典型的な選挙サイクルは,持続可能な ある. 意思決定に対する害となっている.もし,都市が,  Eco2 の航路に船出すると,1年のうちにたくさ とりわけ現在急速に進行する都市化の中で,都市開 んのプロジェクトが開始されることになり,そこに 発のプロセスに主導権を発揮しようとするならば, は,民間,政府,市民,その他のセクターからさま こうした不利な状況を打開するようなプランが重要 ざまな人々が参加するが,それ以外にも,参加した 枠組み ≫ 第2章 Eco2 Cities イニシアティブ:その原理と道筋 35 いと願うセクターや,さまざまな舞台で有用な情報 に繰り返し利用できる. や支援を提供してくれる可能性のあるセクターが  最後に,協働のための拡大プラットフォームは, あるだろう.このため,参加者の間で,長期的な計 長期的な計画づくりの枠組みと組み合わせることで, 画の枠組みを共有するための取り組みを開始するの 長期的政策に取り組む地方自治体の数を増やすこと が重要である,これによって,全てのプロジェクト になるだろう.意思決定に参加するステークホルダー や取り組みに対する指針を示し,さまざまなグルー が外にも大勢いて,彼ら自身が持っている政策手段 プが,共通の長期的目標と戦略を中心に置いて,そ を通して協力が行われているとすれば,新しい議会 の周囲にそれぞれの政策やプログラムを持ち寄る機 や市長が既に決まったことを覆すのは非常に難しい 会が生まれる.この枠組みは,個々の具体的なプロ はずである.クリティバ市の場合を例にとると,独 ジェクトの流れを決めることになるかもしれない. 立した計画研究所 (the Institute for Research and 多くの場合,必要に応じて,最初に設置された共同 Urban Planning of Curitiba) の設置によって,長期 作業グループの下にサブグループをつくることに 的な計画づくりのために既に行われていた協力をさ よって,もっと専門的な立場からの応援,研究,そ らに強化する基盤が提供された.これと同じアプロー の他の助けが得られるであろう.この計画枠組みは, チは,今や,ラテンアメリカの多くの国で採用され デザインと意思決定を協働で行うための強力なプ ている.意思決定のためのプラットフォームは,こ ラットフォームであり,共通の合意が得られている の計画研究所が参加できるように拡張された.あら ビジョンの実現に向けてあらゆるステークホルダー ゆるステークホルダーによる共同歩調が強化された が行う取り組みの舵取りを可能にするものである. ので,選挙や政治的事件,特定の利害グループと方 Eco2 は,統合的なデザインによるソリューション 針のはっきりしない選挙民による政治操作によって, と,統合的な推進政策を重視している.この結果, 回避不能な混乱が生じる不安定性は減少した.この プロジェクトが絶えず拡大していくのは必然の流れ ように,協働のための拡大プラットフォームは,民 であり,さまざまなステークホルダーを取り込み, 主主義的なプロセスについてまわる短期的ビジョン 極めて多彩な経験・知識を集める必要が生じる. の欠陥を補ってくれるものである.  協働のプロセスが正式に動き始めれば,具体的な プロジェクトのデザインと実施に対するステークホ 原則3  ワンシステムアプローチ ルダーの参加はもっと強くなる.例えば,近隣の再 活性化を統合的に推進しようとするとき,デザイン  第1章では,都市内におけるシステム統合の具体 ワークショップを連続的に開催し,さまざまな専門 的な例を示したが,これらの例は全て,長期的に大 家を招いて,創造的なデザイン実習に参加してもら きな利益に結びついている.ストックホルム市での うのが有益であろう.もし,参加してもらう必要の 統合的な計画・管理の取り組みは,大規模な都市再 あるグループが,一番上位の協働プロセスに既に参 開発プロジェクトにおいて,資源効率の大きな改善 加している場合には,こうした創造的なデザイン につながった.横浜市では,ごみの減量化・再利 ワークショップに常時参加してもらうように手配 用・再資源化は年間 10 億米ドルのコスト節減につ し,承認を得るのは簡単なはずである.選ばれたソ ながり,市は環境面で目覚ましい利益を得るのに リューションの実施段階においても,同様である. 成功した.クリティバ市では,都市計画,交通計  重要なのは,さまざまな規模での協働のための拡 画,社会経済活性化に対する統合的かつ全体的なア 大プラットフォームによって,ステークホルダーを プローチによって,市は,あらゆる部門と大勢のス 集合させる仕組みがつくり出されることであり,こ テークホルダーにまたがる驚くべき成果をあげた. れは,Eco2 プロジェクトのデザインと実施のため 本書では,これ以外にも多くの事例を取り上げてい の集中的かつ学際的な取り組みの進行を速めるため る.これらの都市が他の都市と違うのは,視野を広 36 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES (1) 土地利用,空間と交通の計画,調整のよくとれ システム的思考とは,複雑な系を単純化し,相互依存関 た政策 係を整理し,どういう選択があるかを理解する技法であ (2) インフラセクターにまたがるプラスの複合効果 る.我々はいったん何かを理解し,1つのシステムとし てそれを見ることができると,もはやそれを混沌とした (例えば,水道システムの効率改善は,水の汲 複雑なものとしては見なくなる. み上げに必要な電力の消費を減らすので,エネ 広く信じられていることに反するのであるが,人気を博 ルギー効率の改善につながる) している学際的アプローチは,システム的アプローチで (3) 水・電気等の公益事業の運営の統合化(例え はない.別々に発見されたものを秩序立てて1つの全体 として統合化する能力の方が,別々の視点から情報を生 ば,汚泥・有機ごみを再利用したバイオガス み出す能力よりもはるかに重要である. (メタン)や肥料) (4) 技術的ソリューション(例えば,熱と電力の併 給プラント) (5) 政策,投資計画,規制の実施時期の調整 げ,ワンシステムアプローチを採用し,統合化の戦 略を通してそれを実行したことである.  統合化は,都市に対して非常に大きな影響力を持  ワンシステムアプローチによって,都市は,重要 つ概念である.それでは,この概念はどこから生ま なサブシステムを統合し,都市システム全体を管理 れたのであろうか.そして,それは最終的に我々を できるようになった.このアプローチのおかげで, どこに導こうとしているのであろうか.ここでいう より適切で,より大きな複合的効果をもたらす取り 統合化は,システム理論の応用である.すなわち, 組みが可能となり,これによって多くの利益がもた 都市を構成するさまざまな要素の全体像と,これら らされた.ワンシステムアプローチは,施策を統合 の要素が互いにどのように関連しあっているか,1 的に推進することによって得られる利益を最大限に つの要素の変化が他にどのような影響を及ぼすかを 活かすことを狙っている.統合化は,ハードのイン 見ることである.このシステム的な見方は,世界を フラや土地利用計画に適用できる.統合化は,1つ 見る方法として生態系の研究から生まれたものであ のセクターの中での場合もあれば,複数のセクター るが,自然生態系には効率性や順応性が備わってい にまたがる場合もある.統合化は,政策を対象にす るので,それを敷衍すれば,都市を効率的かつ順応 ることもあれば,ステークホルダー,計画,資金メ 性の高いものにするためのデザイン・管理の手助け カニズムの時系列,あるいは,これら全ての組み合 となるのである. わせにも適用される.いずれの場合においても,統  生態系は,要素間の多機能性によって特徴づけら 合化によって,限りある投資の効率と効用を増大さ れる.また,生態系では,網目のように互いに結び せ,環境と経済の両面における効果が改善される. つきあったサブシステムを通しての資源の循環と段 あらゆるプロジェクトにワンシステムアプローチを 階的利用が行われており,それによって,資源の高 適用することによって,都市とその周辺の自然・農 い生産・利用効率が実現されている.生態系には, 村地域が一体となって,1つの機能的なシステムを 変革を推進する上で有効な戦略も秘められている. つくり,新しい全体としてうまく動くことができる. 形質遺伝,進化,自己組織化,順応的適応といった  統合化のベネフィットは,とりわけ魅力的であ 戦略がそれである.統合化されたワンシステムアプ る.それと言うのも,効率性改善の利得はかなり大 ローチと我々が呼ぶものの中には,これらの戦略が きい場合が多く,他の方法ではこうした機会は失わ 全て含まれている.この戦略には2つの目的があ れがちだからである.優良事例都市を見ると,最も る.第 1 は,システムの全体としての効率を改善 大きな成功が生まれる方法としては,以下のような し,資産と情報の質を時間とともに最大限に向上 ものがある. させることであり,第 2 は,変化に対する適応や 枠組み ≫ 第2章 Eco2 Cities イニシアティブ:その原理と道筋 37 ショックからの復元が最小限の費用で行えるように 最近の動きが長期的にどのような影響をもたらすか 支援することである.革新的な都市では,これらの について,具体的な知識を持ち合わせていない.ラ 考えの多くが採用され,システム全体の持続可能性 イフサイクルコストは後年度の負担となる.つま と復元力を高める機会を手に入れている. り,将来世代は,新規建設はできないまま,インフ  ワンシステムアプローチには,多くの切り口があ ラの修理・更新のために巨額のコストを負担しなけ るが,決して複雑ではない.システム的思考が目指 ればならなくなる.発展途上国の多くの都市では, すのは,全体の中で個々の部品がどのような役目を まさにそういう未来が既に到来しており,巨額のイ はたしているのかを理解することによって,複雑さ ンフラ負債が生み出され,補助金か借入れによって を減少させることである.ここでの大きな問題は, しか対処しようがなくなっている 市のリーダー,設計者,利用者,供給者,管理者な  現在は,生態系資産と,それらが提供するサービ どの様々な人々が1つのチームとして仕事するのを ス,それらの減耗・破壊がもたらす経済的影響は, 妨げている組織・制度の構造や昔ながらの取り組み 政府の予算勘定にはほとんど計上されていない.こ 姿勢である. れらの資源の価値は計測できないので,無価値の資 産として扱われ,それらが提供する関連サービスは 勘定に入れられないままである 原則4 持続可能性と復元力を重視した投資枠  例えば,都市内の緑地は,ただ何らかの審美的価 組み 値を提供していると考えられているだけである.し  各地で持続可能性への関心が高まり,都市デザイ かし,実際には,緑地は色々な形で貴重なサービス ンによって問題解決が可能なことは多くの例で示さ と経済的ベネフィットを提供してくれている生態系 れている.今日,それにもかかわらず,都市は,長 資源なのである.緑地がもたらすサービスには,次 期的な視点から環境に配慮したシステムをつくるた のようなものがある. めの投資を行う上で,困難を抱えている.例外も多 くあるものの,投資に関する我々の時間的視野はど (1) 自然の排水路の役目をする(これにより,イン んどん短くなっているように見える.多分,激しく フラの建設・維持費用を節減し,洪水による季 変化し,規制緩和が進行するグローバルな経済のた 節的な損害を減らすことができる). めに,企業や政治家が長期的な視点から投資を行う (2) 都市の平均気温を下げる働きをする(これによ ことは,とりわけ困難になっている り,電力のピーク負荷需要を下げ,発電所の建  説明はどうであれ,持続可能性と復元力のために 設費とそれに関連した運転・維持コストを節減 投資するという簡単な考えを都市が実行に移すのは できる). 極めて困難になっている.政策・計画・事業の評価 (3) 二酸化炭素を吸収し,酸素を排出することで, は,短期的な経済利得や,個々のステークホルダー 自然の空気清浄器の役割を果たし,市民の全般 の視点から見た狭量な費用対効果分析に基づく経済 的な健康を支えている. 評価をベースに行われている.投資の評価は金銭価 (4) 自転車や歩行者用の道のネットワークとして公 値で行われるので,金銭では表せない価値は無視さ 共交通システムの中に組み込むことによって, れるか,分析対象の枠外とされる.決定は,直ちに 利便性を高めることができる. 必要となる資本費用だけを対象に行われる.しか (5) 物理的,精神的に,生活の質を向上させること し,実際には,典型的なインフラの場合,ライフサ が知られており,コミュニティ意識を創り出 イクルコストの 90%以上は,運営・維持・補修の し,犯罪の減少にも貢献している. ために使われているのである.  世界中の都市のほとんどは,財政健全性に関する  もし,これらのサービスの価値が長期的な意味で 38 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 正確に評価・理解されるならば,多くの都市で,ク しかし,意思決定の責任にある人々は,これらの方 リティバ市の例で見られるのと同様の政策が実施さ 法の背後にある原則を明確に理解し,考慮しなけれ 1 れるであろう . ばならない.クリティバ市でも,開発アジェンダを  環境面と経済面での持続可能性を達成するには, 作成・実施する以前においては,詳細な勘定・評価 全体的な視野に立った意思決定が必要である.これ の実施には着手しなかった.しかし,クリティバ市 には,ライフサイクル的視点を採用し,いかなるス は,長期的な広い視野に立つことで,複合的なベネ テークホルダーに対しても公平で,あらゆる資産の フィットを継続的にもたらしてくれる重要な施策に 保全にとって効果的であり,長期的な財政健全性に 力を入れることに何とか成功したのである. とっても良い投資を行うことができるような,新た な会計勘定と評価の枠組みが必要である. 原則から重点施策の実施と独自の Eco2 経  この枠組みには,すべてのステークホルダーの行 路へ 動を評価し,その努力に報いるための,新しい指標 と基準の採用が含まれる.多数のステークホルダー  それぞれの都市がどのような道筋を選択するか, に関係する政策や投資選択の意味を考えるには,現 その範囲を決めるのが4つの原則である.市が選ぶ 実を正しく表し,より包括的で,総合的な理解が得 道筋はあらゆる面で,これらの原則の少なくとも1 られるように,長期的な時間軸とライフサイクル分 つと直接結びついている.これらの原則は,プログ 析が必要となる.すべての資本資産(人工資産,自 ラムの中で最も重要な役目を果たしているので,何 然資産,人間資産,社会資産)とそれらが提供する か複雑な問題が起きたときには,これらの原則に立 サービスは,その価値を適切な方法で評価するか, ち返って考えるのがよいだろう. 価格付けを行い,指標によってモニターする必要が  分析・運用の枠組みも,これらの原則から導かれ ある.指標の組み合わせは,コストとベネフィット る. の分析において都市生活の質的側面(文化,歴史,  最初に,我々は,原則の1つひとつから,重点項 美しさ)が無視されないように,個別ではなく全体 目のセットを導く.これらの重点項目が,原則を実 として見る必要がある.政策決定,規制措置,法律 際に運用する上で重要な役割を果たす.これらは, 制定にあたっては,価値をめぐる幅広い議論と理解 新しい概念と,Eco2 都市及びその共同推進者の役 の現状を考慮しながら,その評価を行う必要がある. 割と責任に関する具体的な情報を提供する.それぞ  同時に,持続可能性と復元力への投資のために れの重点項目は,行動と学習の場である(これは, は,リスクアセスメント及びリスクマネジメントの . 次章以下で詳しく紹介する) 範囲を広げて,投資のみならず都市全体の発展を危  各都市は,これらの重点項目を再構成することに うくしかねない多くの間接的で測定困難なリスクの よって,自分の置かれた地域条件に合わせて,理に 評価も行う必要があるだろう.現実問題として,今 適ったやり方で順番に一歩一歩実施するための行動 日の都市は,金銭勘定には表されない多様な危険に 計画,もしくは手順を作成する.この枠組みでは, 直面している.こうした危険には,伝染病,自然災 それぞれの原則から重点項目及び手順がどのように 害,社会経済的変化などのような,システムの突然 して導かれたのかをまとめる. の崩壊が含まれる.都市は,回復力と適応能力とい  まとめると,ある市のために用意された手順に う理念を積極的に採用することによって,ショック よって,その市ならではの道筋が構成される.道筋 を吸収し,投資を保護する上で,より有利な位置に には,リーダーシップを取って協働し,実験プロ 立つことができる. ジェクトをデザインし,選択されたソリューション  新しい方法を実施し,会計勘定の対象範囲を広げ に投資するために必要なあらゆる行動が盛り込まれ ることは,多くの国において最初は困難であろう. なければならない. 枠組み ≫ 第2章 Eco2 Cities イニシアティブ:その原理と道筋 39  表 1.1 は,重点項目と手順の要約である.それ するための実践的な方法を提供する.また,手法 ぞれの項目は,次章以下でもっと詳しく説明されて は,拡張された勘定プロセスと資金獲得のための戦 いる.しかし,この要約からだけでも,Eco2 の道 略的アプローチなど,プロジェクトの実施に関する 筋を開拓するのは単純な仕事ではなく,短時間に簡 あらゆる側面を扱っている 2.Eco2 イニシアティ 単に進むものでないことは明らかである.この理由 ブが,自分たちが求めていた筋道に合致しているか により,本書は,短い時間で決定を下すのに役立つ どうかを判断するのは,都市の指導者達である.以 ように,多数の手法と道具を紹介している.これら 下の各章では,段階を踏んで進めるプロセスについ の手法と道具は,リーダーシップを取って協働し, て説明する. Eco2 プロジェクトのためのアイデアを分析・評価 表 1.1 Eco2 Cities:原則と道筋 原則 核となる要素 実施課題 都市をベースとした 開発プログラム:都市はプログラムの支援を得 Eco2 Cities イニシアティブの内容をレビュー 取り組み て,良い決定を行い,都市が持つあらゆる影響 し,Eco2 の原則を地域の現状に当てはめてみ 力とコントロールを行使することによって,こ る.特に,地域が現在抱えている課題と地域固 れらの決定を実行に移すことができる. 有の政治的制約を考える. 開発哲学:地域の生態系資産が都市部及びその 成功のために決定的に重要な役割を果たすチャ 周辺農村地域における健康と富のために果たし ,ある ンピオン(1 人または複数の中心人物) ている基本的な役割を認識し,それを考慮した いは特別なグループや人々を見つけ出す. 開発を行うことができる. 市議会及び大きな影響力を持つグループあるい 行動に重点を置いたネットワーク:都市のリー は人々から協力のコミットメントを獲得する. ダーは,これを通して国,国際開発コミュニ 国と緊密に協力しながら作業し,それが可能な ティ及び世界的な優良事例都市から十分な支援 場合には,Eco2 の要素を国の優先課題に接合 を得ることができる. し,両者がうまく適合しあうようにする. 意思決定支援システム:都市が有する知識とス 国際開発機関(世界銀行を含む) ,優良事例都 キルのレベルに合わせて,Eco2 実現の道筋を 市,Eco2 Cities イニシアティブ推進都市との 開発するのに必要な技術,事務管理,資金の各 協力関係を築くべく努力する. 分野の能力を提供する. 能力形成に必要な取り組みの概要をまとめ,地 元在住専門家のスキルと知識を強化する. Eco2 とは何かについて,地域の意思決定者の 間での理解を十二分に深める.そのために,本 書に収録したケーススタディやその他の参考文 献が利用できる. 協働的デザインと意 3階層のプラットフォーム:都市はこれを利用 企業体あるいはサービス供給者として,また, 思決定のための拡大 して,次の3つを実現する.(1) 協力のモデル 広域都市圏のリーダーとして,関係者との協 プラットフォーム として,市役所内の全ての部局の参加を得る, 働による意思決定と統合的な計画を開始し, (2) サービスの供給者として,住民,事業者及 Eco2 の取り組みを発展させる. び業務委託先の参加を得る,(3) 当該都市域の 協働を推進するための委員会の事務局の役割を リーダー及びパートナーとして,政府の上級職 定め,その予算手当を行う.事務局は,分野に 員,電力・ガス等の公益事業者,農村集落,民 またがる問題の背景調査,定期的会合の積極的 間部門の関係者,NGO 及び学術機関の参加を 開催,情報交換のための資料作成,行事の企画 得る. などを通じて委員会をサポートする. 長期的な計画枠組み:これを共有しあうことに 他の人々と協力して長期的な計画枠組みを決 よって,市役所及び重要な利害関係者の政策 め,共通のゴールと達成度評価の指標,全体的 の方向を揃え,強化することができる.また, な成長管理戦略,適応的な管理方法に関する合 Eco2 プロジェクトについて将来必要な作業の 意形成を図る. 方針を示すことができる. 長期的な計画枠組みの中で設定されたゴール及 び戦略に合わせて,Eco2 の原則を説明するの に適した触媒プロジェクトを 1 つ選ぶ. 40 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 原則 核となる要素 実施課題 ワンシステム インフラシステムの統合的な設計と管理:これ ジャストインタイムで訓練と能力形成を行い, アプローチ は,都市域における資源フローの効率向上を目 地元の専門家達がワンシステムアプローチを快 指す. く受け入れられるようにする.また,訓練が真 調整のとれた空間開発:都市の形と資源フロー に効果的で価値あるものとなるよう,技術的サ を統合することにより,土地利用,都市デザイ ポートを最大限に活用する. ン,都市の密度などの都市の空間的特性とイン プランナーやデザイナー,技術者のための統合 フラのシナリオを結合する. 的デザインのワークショップをシリーズで開催 統合的な実施:これには,(1) 投資の時間的順 し,彼らが一緒に集まって新しい方法や情報を 番を正しく行う,(2) 統合的な取り組みを可能 利用できるようにする.短時間のワークショッ にするような政治的条件を創り出す,(3) 政策 プをシリーズで開くことで,ゴールを明確にし, ツールを最大限に調整する,(4) 長期的目標を 目標を決める.そして,長期的な計画枠組みに 持った重要な政策について同じ方向に整列して 基づいて創造的ソリューションの方針を示し, 取り組めるように,さまざまな利害関係者と協 デザインを行い,新たな刺激を生み出す. 働する,(5) 新しい政策を対象として,新しい デザインソリューションを探索し,レビュー用 場所で都市化を進める場合と既存の都市域の改 の概念プランを作成する.統合的デザインの取 善を行う場合の情況の違いを検討する. り組みを利用して, プロジェクトをデザインし, 組み立て,実施する途中段階でのさまざまな代 替案を生み出す.数日にわたる集中的なデザイ ンシャレット(第 2 部参照)によって,統合的 デザインの取り組みが促進される.統合的デザ インの取り組みは,政策分野における何らかの 改革案を含めて,実施に移すべき概念計画が提 案できた時に最高潮に達する. あらゆる政策ツールを揃えることにより,さま ざまな関係者と協力しつつ成功裡に実施できる ようにし,また,ワンシステムアプローチが時 間的に順序立てて実施できるようにして,色々 な分野にまたがる活動を調整する.戦略的行動 計画をつくり,誰がどの仕事について責任を持 ち,さまざまな政策が互いにどう作用しあって いるかを明らかにする. 持続可能性と復元力 ライフサイクルコスティング:資金に関係する ライフサイクルコスト及びキャッシュフローを に価値を置いた投資 あらゆる意思決定に当たって,これを取り入れ 理解するために,ライフサイクルコスト分析の 枠組み る. 手法あるいはツールを利用する. すべての資本の保護と強化:人工資本,自然資 4種類の資本を評価し,目標達成度を数字で示 本,社会資本及び人間資本のいずれに対しても すための指標を開発する. 同等の注意を払う. 予測ワークショップを開催し,気候,市場,資 あらゆる種類のリスクの管理:資金的リスク, 源の入手可能性,人口,技術などについて信憑 突然のシステム崩壊,社会経済と環境の急速な 性の高い変化が地域にもたらす影響を予測する. 変化に対して先見性を持った積極的対応を行 資本を保護・強化し,脆弱性を減少させるやり う. 方で触媒プロジェクトを実施する.新しい勘定 方法を学ぶ最善の方法は,触媒プロジェクトで 実際にやってみることである.さまざまな代替 案を比較するための参照基準として,標準ケー スのシナリオを開発するのもよい. 成績改善のために,結果をフィードバックして, その様子をモニタリングし,学習と適応を続け る. 出典:著者編集. 枠組み ≫ 第2章 Eco2 Cities イニシアティブ:その原理と道筋 41 注 参考文献 これとは対照的に, 1. ムンバイ市では, 天然マングローブの Gharajedaghi, Jamshid. 2006. Systems Thinking; Managing 焼失と北部郊外部における投機目的に踊らされた無計 Chaos and Complexity: A Platform for Designing 画な建設が大きな原因となって, 数百人の人々が殺さ Business Architecture, 2nd ed. Burlington, MA: れ,1億米ドルの損害が発生した. Butterworth-Heinemann. Eco2イニシアテ 2. ィブは, 世界銀行が提供する革新的な投 Revi, Aromar, Sanjay Prakash, Rahul Mehrotra, 資の仕組みを最大限に利用するこ とができる. その1つに G. K. Bhat, Kapil Gupta, and Rahul Gore. 2006. “Goa 気候投資基金 がある. (Climate Investment Fund) こ 2100: The Transition to a Sustainable RUrban Design.” れは, 融資を受けたい者に強い経済的イ ンセンテ ィブを与 Environment and Urbanization 18 (1): 51–65. えることによって, 省エネルギーと汚染防止技術の分野 Unruh, Gregory C. 2000. “Understanding Carbon に効果的な変化をもたらすものである. また, カーボンファ Lock-In.” Energy Policy 28 (12): 817–30. イナンスも効果的に利用できるだろ う. 43 第3章 都市ベースのアプローチ  都市ベースのアプローチの第一歩は,地方議会から中央政府や国際社会までのあらゆるレ ベルにおいて,この考えの素晴らしさを理解し,実践することである.地方政府は,さまざ まなステークホルダーと協力しながら仕事をしている.最も緊急を要する開発課題のいくつ かの第一線で取り組んでいるのは彼らであり,彼らこそが問題解決の鍵を握っている.我々 は,このことを認識しなければならない.これこそが,Eco2 イニシアティブの動機となっ ている考え方である.都市ベースのアプローチと手順は,地方政府がリーダーとなって, ローカルな生態系など,彼ら固有の諸条件を考慮に入れた開発プロセスを推進できるように デザインされている. 都市ベースのアプローチの重点項目 都市を支える開発プログラム  都市は,幅広い力を持っており,彼ら自身がどのような開発の道筋をたどるかは,そ の力をどう使うかによって決まる.加えて,現在,多くの国は,行財政の地方分権化に 向けた取り組みを模索している.都市ベースのアプローチは,地方政府に対して,これ Timothy Beatley(2000: 423)は,ヨーロッパのさまざまな都市で成功した 25 の持続可能 な都市化の事例評価を行った結果として,成功のためには市のリーダーシップが決定的に 重要だと結論付けている. 「これらの市の政府は,自由放任主義で自然の中でのんびりと番人役をやっているわ けではなく,積極的に重要なリーダーシップを発揮している主体であり,他者の後追 」 いばかりやっている傍観者では決してない. 44 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES までになかった重要な意思決定と管理の責任をもた  計画のための Eco2 アプローチは,地域の自然生 らしている.イニシアティブが大きな効果を発揮で 態系が持つ可能性と制約を理解することから始ま きるかどうかは,都市のリーダーが如何に効果的か る.水は重力によって高所から低所に流れるわけだ つ創造的にこれらの力を培い,行使するかによって が,こうした地域の地形に適合した計画にするには 左右されることが多い.都市が行う意思決定を支援 どうしたらよいであろうか.水資源の量と質を維持 する開発計画が必要である.これは,決定を実行す するには,水資源の涵養にとって重要な地域や湿地 る際にもっと重要であり,都市が自分の力を使っ をどのように保護したらよいであろうか.地域の自 て,積極的かつ有意義なリーダーシップをより一層 然エネルギー(強い風が吹く場所,森林,日射の多 効果的に発揮するために必要である. い場所など)によって我々の基本的なニーズを充足 するには,どのような人口配置がよいだろうか.こ 地域環境資産の基本的な役割を認識した計画理念 うした類の質問が出発点となって,都市計画の専門  地域の環境資産は,都市に対してあらゆる種類の 家に刺激を与え,大いにやる気を起こさせる課題が サービスを提供している.これには,コンクリート 生まれている.それは,我々が保有する自然資本を に使う砂利や再生可能エネルギー,飲料水の供給, 尊重し充実させるやり方で,また,現在及び将来の 廃棄物の吸収・同化,菜園・果樹園等の受粉,快適 世代が持続的に生態系サービスを享受することを可 な景観,レクリエーション環境などがある.都市に 能とするやり方で,都市と自然条件の調和を実現す おけるこれらの典型的なサービスのリストはとても るという課題である.理論的には,都市を作り上げ 長いものになる.これらのサービスは,地域経済の ている全ての構成要素は,地域生態系・自然資源の 発展,住民の健康・安全・生活の質にとってますま 健全性と生産性向上に貢献するとともに,それから す重要になっている.こうした資産の本当の量や価 恩恵を受けている. 値は,それら全体を把握するシステム的な考え方と それを総合的に勘定する方法が存在しないため,ほ 行動重視のネットワーク とんど認識されていない.新しい勘定方法を開発  都市ベースのアプローチは,都市,県・州政府, し,このギャップの解消に役立てなければならな 中央政府,あらゆる階層の支援者を1つに編み込む い.このため,新しい計画理念では,これらの資産 行動重視のネットワークを必要としている.支援者 に重点を置いて,都市の形と土地利用を決定しよう の構成は,地域によって異なるだろうが,地域のさ としている. まざまなステークホルダー,学術機関,民間企業,  都市ベースのアプローチは,都市計画者・技術者 国際組織・機関,そして優良事例都市が参加する幅 の古い考えを変えつつある.都市開発の流れは,大 広いものでなければならない.ネットワークに参加 規模な建築物を中心とした工業的技術と環境管理 するそれぞれのプレーヤーは,お互いに補いあうさ (外部効果に対処するためのもの)から,景観のき まざまな強みを持参してくる.ある者は技術的専門 め細かな管理や,社会的価値と環境的価値を総合的 知識に強く,ある者は資金や教育プログラムを持参 に考慮した土地利用計画,インフラの設計・管理へ するといった具合である.さまざまなプレーヤーと と移りつつある. 資源の混合こそが,持続可能性に向けた転換を可能  都市中心の伝統的な考えでは,自然システムの価 にするのである. 値は経済への投入要素あるいはアメニティ資源とし  しかし,ネットワークに参加するプレーヤー同士 てしか評価されず,都市を取り巻く田園地帯や自然 が互いの役割を理解しあわないことには,やること 豊富な土地はほとんど完全に無視されるか,都市が は混乱し,問題ばかりが起きかねない.都市ベース 将来拡大した場合の開発候補地としてしか扱われて のアプローチでは,あらゆるプレーヤーの責務の第 こなかった.しかし,これは変わろうとしている. 一は,ボトムアップからの取り組みに参加して市を 枠組み ≫ 第3章 都市ベースのアプローチ 45 Box 1.1 都市をベースとした取り組みはボトムアップである  Eco2 アプローチにおけるボトムアップの行動とは,最 きな広域,国,国際のスケールへと移動するにつれ,デザ も小さな地域単位から出発する取り組みである.つまり, インや投資方法に工夫をこらす余地はどんどん減ってしま 市,あるいはその中の近隣住区や建物を単位とした取り う.ボトムアップの取り組みは,トップダウンによる支援, 組みである.例えば,遠く離れた場所に発電所をつくると 特に,広域あるいは国レベルの電力等公益事業,州・県等 か,広域水道のために過大な規模のパイプラインを敷設す の広域政府,国際社会の支援があって初めて可能になる. るとかはせず,ボトムアップの解決策をまず探究する方が  トップダウンの支援はさまざまな形で行われる.最も重 よい.そうした例としては,屋根に設置した雨水貯留装置 「能力強化政策」である.すなわち,市に対し 要なのは, や太陽熱温水器がある.一番ローカルな解決策では不十分 て,ローカルな解決策を実施するのに必要な権限と,スキ なことが分かった時に初めて,もう一段上に移って,街区 ル,知識,資金を供給することである.その1つは,国レ とか近隣住区での水の再生利用とか,地域暖房システムを ベルでグループをつくって,成功した都市がその経験や教 検討すればよい.一番ローカルな解決策が実情に合わない 訓――何がうまく行き,何がうまく行かなかったか――を とか,非経済的,あるいは信頼性に欠けると分かった時に 他の都市と共有しあえるようにすることである.あるいは, 初めて,ネットワークは次のレベルに視点を移せばよい. 広域的な公益事業の合意を得て,ローカルな公益事業によ 我々は,地域に備わっている創造性と資源を活用したいの る地域エネルギーの開発や,融資,運営を支援することも であるが,ローカルレベルあるいは市レベルからもっと大 可能である.明確な目標と指針の提示も,トップダウンの 支援として重要である.市は,そうした目標や指針の助け トップダウンの支援 ボトムアップの自立 によって,広域的な経済開発戦略とか気候変動対策に関す 政 る国際的戦略などとの整合性をとりながら,彼らの取り組 柔 策 軟 の みをデザインできる.最後に,トップダウンからの支援の へ な 実 ル ネ 施 バ ット を可 対象にはインフラという物理的なものも含まれる.インフ ー ら 策 ワ 能 ロ か 決 ー に グ ル 解 ク す ラのデザインにおいては,ある場所で水,エネルギー,物 カ な る ー 的 ロ 造 質,その他のサービスに余剰がある場合には,他の場所と 創 家庭 それを分け合えるようにする柔軟性が必要である.行動を 企業 目指すネットワークの中では,トップダウン型の解決策は 近隣住区 色々あるが,それは常に都市をベースとしている.解決策 都市 は,調整がとれていて相互に補完し合う政策,目標,資金 地域 メカニズム,ガイドライン,知識,そして柔軟性を持った 国 インフラシステムを都市に提供することによって,都市が 国際社会 自分自身の問題を解決するのに必要な能力を向上させる. 出典:著者作成 (Sebastian Moffat). 支援することである.では,我々が市の指導的役割 らかにする必要がある.行動を目指したネットワー に期待するのは何故だろうか.それは,地域レベル クが市の支援のために集結すれば,地域の力によっ においてこそ,たくさんのセクターにまたがる横断 て実に多くのことが達成できるのである.それは, 的な投資を行うことで真に創造的なソリューション 驚くばかりである. が生まれ,大きな利益が生まれる可能性が一番大 きいからである(box 1.1 参照).ネットワークは, 都市ベースの意思決定支援システム 1つの決まりきったソリューションを何にでも当て  Eco2 アプローチを実行しようとするなら,都市 はめようとするのではない.ネットワークは,新た は,協働して取り組むためのリーダーシップと統合 な実行力を生み出す政策,情報の流れ,目標と指 的なデザイン・ソリューションの開拓のために,自 針,そして創造と適応の自由度を都市にもたらす. 分自身の技術能力と事務能力を向上させなければな 高次のソリューションの可能性を調査する以前に, らない.能力建設とは,従来通りにやれば複雑な決 地域内に存在する力を使って何ができるかをまず明 定をしてしまうところで,もっと単純な決定を下せ 46 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES るような方法と道具を採用することを意味する.こ のこうした側面は,第 2 部においてもっと詳しく れが,都市をベースとした意思決定支援システム ) 説明する. (DSS : Decision Support System) の 役 割 で あ る.都市ベースの DSS は,開発途上の方法・道具 都市ベースのアプローチのための手順 のセットであり,都市がリーダーシップを発揮し, 最善の選択を行うのを助けるために設計されたもの Eco2 Cities イニシアティブのレビューと適用 である.それぞれの都市は自分の DSS を開発すれ  変革が一番うまく行くのは,これまで慣れ親しん ばよい. できたパターンの中に新しいアイデアがうまく盛り  複雑な問題への対処が,Eco2 における最大の課題 込まれ,そこに地域の関心や実施能力に関する微妙 である.都市とは,人間が創造した人工物の中で一 な問題が反映されている場合である.地域の強みと 番古くから存続し,一番価値があり,そして一番複 弱みをよく調べておくことによって,地域の条件 雑なものの代表である.たとえ一番恵まれた条件下 と経験に合致した Eco2 イニシアティブが出来上が であっても,都市計画は複雑な仕事であり,統合的 る.地域の条件に合致した Eco2 をつくるにはたく なソリューションは複雑さをさらに増すので,それ さんのやり方がある. を実行するのはなお一層困難になる.もちろん,発 展途上国においては,人員・予算に限界があり,都 • 過去から学んで未来を見よう: 最初にすべき 市化の進行はあまりに急速に見えるので,この困難 は,都市がリーダーシップを発揮することで良 の程度はさらに大きい.発展途上国における別の課 い結果が達成できた事例に焦点を当てて,その 題としては,計画の道具としてのコンピューター利 都市・地域の歴史を振り返ることである.この 用の経験が不足している,既存インフラの性能が不 ためには,優れたデザインを生むための総合的 十分であるといった課題がある.これらすべての理 な取り組みや関係者の協働によってさまざまな 由から,都市ベースの DSS は,それぞれの都市の持 ベネフィットが生み出された事例を分析するの 続可能性に向けた取組みにとって不可欠である. が役立つ.これら過去の事例によって Eco2 の  統合的アプローチをインフラシステムに適用しよ 強みを説明するのがよい.都市の内部で幅広い うとする場合に直面する一番大きな問題は,物理的 支持を得るには,今からやろうとしていること な資源フローと空間の形の間の動的な関係である. が,過去に実施された取り組みの成果であり, 資源フローは,モデルと計算によって扱われ,工学 伝統的な価値・慣習をそのまま認めるものだと や技術のバックグラウンドを持った人々がこれに参 いう説明が必要である.どの都市でも,その経 加する.空間の問題は,マッピング技術を使って扱 験を振り返れば,この目的に役立つ話しはいく われるのが普通だが,これに参加するのは,計画と らでもあるはずだ. かデザインのバックグラウンドを持った人々であ • 行動のきっかけとなる問題について話そう:地 る.統合されたソリューションとは,空間と資源の 域社会が現在抱える多くの政治的課題の中のど それぞれのフローと両者の相互関係を一体化したも れが Eco2 アプローチで解決できそうかをはっ のである.都市ベース DSS は,上記の専門家を含 きり見定める.政治家なら誰でも,解決したい めたあらゆる人々が参加できるような,分野横断的 と思っている問題があるし,メディアは,計画 なプラットフォームづくりへの支援となる.資源と や哲学だけではなく,こうした具体的な問題を 空間の両面の効果は,グラフィックの道具,データ 報道したいと望んでいる.こうした問題がきっ 変換を利用し,さまざまな分野の専門家が集まるグ かけとなって,Eco2 アプローチに対する支持 ループの中で皆が容易に理解できる用語やイメージ が形成されるだろう. を用いて話し合われる.(Eco2 の都市ベース DSS • 影響を拡大し,立場を堅持し,ノーと言えるよ 枠組み ≫ 第3章 都市ベースのアプローチ 47 うになろう:もたらされる影響や行使できる権 を得ている長老の政治家や年長者で構成された助言グ 限は,場所によってかなり異なっており,当然 ループが指導力を発揮してくれるかもしれない. ながら,Eco2 アプローチで何ができるかは,  チャンピオンの近くには,やる気のある学識経験 これによって大きく左右される.例えば,ある 者で構成された支援グループが必要である.どんな 国では,都市インフラの予算は中央政府がコン チャンピオンも,人脈と知識ベースをつくり上げ トロールしており,また,別の国では,市が再 るにあたっては,支援グループあるいはチェンジ・ 生可能エネルギーシステムに予算を投じること エージェント(変革の担い手)の助けを必要として は法律で禁止されている.予算の権限が無く, いる.Eco2 都市では,熱心に仕事をしている職員 新しい政策を推進することもできない都市が, の小グループ,特別に設置した専門家グループ,コ 大きな困難に直面するのは分かりきっている. ミュニティの活動家などの支援が生まれるかもしれ しかし,一番大きな困難は,土地利用の線引き, ない.理想的には,支援グループは,チャンピオン 開発許可,インフラ整備の陳情受付など,決定 に対して,事務と技術の両面の支援を行わないとい に影響をもたらすさまざまな手段をどう使うか けない.例えば,国からの支援としては,技術面と をめぐって発生することが多い.地方の力で何 資金面で都市を支援するためのオフィスの設置が期 ができるかの評価,つまり,地方自治体が自 待される. 分の有する影響力や権限を最大限に行使したと き,何ができるかを明らかにしておく必要があ 市議会の同意確保 る.たいていの場合,都市は,彼ら自身が思っ  都市内の土地の多くとインフラの大部分は民間グ ている以上の権限を持っており,現場で一番難 ループや,国や県等の市より上位の政府が所有して しいのは,目先の利益を求める土地開発に対し いるかもしれない.たとえそうであっても,民主的 て「ノー」と言えるようになることである. に選ばれた市議会には,その正当な使命として,土 地利用計画の実行,特に,長期的に見て健全なコ 地域チャンピオンの発掘 ミュニティを維持するために必要な戦略的決定を行  Eco2 原則をうまく導入するには,参加が必要な う責任がある.市議会は,地域をリードする適役と 多くのグループを動かすことができ,決めたことを 見られていることが多く,地域のさまざまなステー 長期間やり続け,信頼と指導力をもたらすことので クホルダーを結集し,協働による意思決定及び統合 きる地域チャンピオン(強いリーダー)が必要であ 的なデザインを推進することができる立場にある. る.地域チャンピオンは,さまざまなステークホル 市議会の仕事が手一杯の場合には,他者の参加が必 ダーに受け入れてもらえるようなやり方で重要なア 要となる.市議会あるいは,開発問題に特別の関心 イデアを提案し,広い支持が得られる調整案をまと を持つ個々の議員の支援が得られることは極めて重 めあげる.チャンピオンは,彼ら自身が名声と影響 要である.市議会は,Eco2 イニシアティブの最初 力を持っているので,それによって他の有力者を引 から参加する必要がある. きつけることができる.  市議会が参画してくれれば,その助けが得られ  チャンピオンは,どこからでも探してくることがで る.そのためには,Eco2 の取組みを,市議会メン きる.誰でもが,リーダーシップを発揮する可能性を バーが一番大きな関心を持っている問題に取り組む 持っているのである.しかし,権限や影響力を有して ための方法として示すのが有効である.通常,この いると皆から思われている人物がチャンピオンになっ やり方が問題になることはない.どんな問題につい た方が,仕事は容易である.例えば,皆から好かれて ても,統合的アプローチは取組みの強化につなが いる元政治家とか,市長,幹部職員,開発委員会の委 る.それによって,さまざまな恩恵がもたらされ, 員長などである.時には,Eco2 に賛成で,広い尊敬 変革に対する積極的な支持基盤も拡大するからであ 48 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES る.例えば,身近な住宅のデザインに,地区の排水 り,62 億スウェーデンクローネ(6.71 億ユーロ) 処理や,小さな売店や商店・事務所用の面積を増や を,161 市における 211 の地域投資プログラムに すプロジェクトを取り入れることができる.触媒プ 配分した.これには,1,814 の事業が含まれてい ロジェクトは同時にさまざまな目的を持っているの た (Swedish Environmental Protection Agency で,経済と環境の全体に及ぼす影響をもっとしっか 2004).国によるこの投資が梃子となって,市政府・ り分析することによって,その売り込みはもっと容 民間企業・その他組織から,273 億スウェーデンク 易になる. ローネ(約 30 億ユーロ)の追加投資が行われた.  十分な説明をして議会の同意を獲得し,長くその このうちの 210 億スウェーデンクローネ(約 23 億 支持を維持するのは簡単ではなく,時間がかかる. ユーロ)は,持続可能性と環境に直接に関係する投 プロジェクトには長い時間がかかり,関係者の協力 資であった.推計によれば,20,000 人の短期ある が重要である.これは特に強調すべきことであり, いは長期の雇用がこの取り組みを通して創出され プロジェクトを特定の政党や利権グループと切り離 (このプログラムの詳細は,第 3 部を参照. た. ) す上でも重要である.  図 1.4 は,地域の情況に対応するための,国に よる Eco2 イニシアティブの1つのありうべきモデ 中央政府と緊密に協力して進める ルを示している.このモデルでは,世界銀行,その  Eco2 Cities イニシアティブにおいて,国は地方 他の国際組織,開発機関,民間セクターと協力して ではできない多くの役割を果たすことができる.国 仕事に取り組む.また,国が,都市に予算を配分 は,都市デザイン・計画に関する専門知識のセン し,資金を管理する.このプログラムへの国の関与 ターとして,また,この分野での優良事例のネット の仕方はさまざまだが,国として重要なことは,国 ワークづくりのセンターとして重要な役割を果たす レベルで現在確立されている優先課題を推進するた ことができる.国は,優良事例に関する情報を都市 めに Eco2 計画を使うことである.つまり,Eco2 と共有し,都市ベースのアプローチを支援する新た と国の政策との共通点を見つけ,Eco2 を説明する な政策を開発することができる.国は,都市と一緒 用語や表現には,国が使用しているのと似たものを に,地域ごとの具体的な計画枠組み(例えば,地域 採用するようにすれば,国は自動的に Eco2 推進の の成長管理戦略)を検討することにして,個々のプ 同盟者,潜在的なパートナーとなる. ロジェクトごとに経験やノウハウの面で貢献するこ とができる. Eco2 Cities イニシアティブへの国際社会,優良  国の関係部局が持っている予算には限りがあるの 事例都市,世界銀行の参画 で,新しいイニシアティブに直接参加するのは難し  Eco2 計画に世界銀行やその他のパートナーに直 いかもしれない.そうであっても,国の部局は,地 接参画してもらうかどうかは,それぞれの市が決め 域的な共同作業グループにある程度参加するように ることである.Eco2 イニシアティブは,市に対し 手立てを講じるべきである. て様々な文献を提供可能であり,Eco2 計画をあら  国の役割は興味深く,その影響力は大きい.その ゆる段階で支援するためのガイドラインやテクニカ 1つが,国家的な Eco2 基金プログラムの設立であ ルレポートがそれに含まれる.世界銀行は,個々の る.これによって,世界に通用する優良事例に対し ケースごとに,国及び国際開発分野のパートナー て予算を付けたり,その情報を普及するためのパ 達と協調しながら,Eco2 の統合的ソリューション イプの役目を果たすことできる.カナダとスウェー を支援する用意がある.世界銀行は,例えば,も デンには,これに似たメカニズムを使って,都市を し Eco2 がその進展段階に応じて異なるタイプの資 支援した実績がある.スウェーデンでは,1998 年 金を必要とするようなら,多種多様な資金メカニズ から 2002 年まで続いた地域投資プログラムがあ ムを組み合わせて利用できるように,市を助けるこ 枠組み ≫ 第3章 都市ベースのアプローチ 49 各国レベルにおける Eco2 基金拡張メカニズム 国家 Eco2 基金 資本市場 民間の ドナー 都市の IFC 投資窓口 投資窓口 世界銀行 ファンドマネージャー 技術支援 評価 申請 2 Eco City 民間の投資プロジェクト (例えば,ESCO 事業) Eco2 City A Eco2 City B Eco2 City C Eco2 City D 図 1.4 中央政府が果たせる役割: 国家 Eco2 基金の運営と参加都市に対する支援 出典:Author elaboration. 注:IFC =国際金融公社; TA =技術支援; ESCO =エスコ事業(energy service company) とができるし,既存のたくさんの資金源への応募を とんどは,こうした道具を開発する専門家によって 後押しすることも可能である.例えば,世界銀行が サポートされており,便利なハンドブックやガイ 有する様々な資金的道具は,第7章(第1部)及び ド,説明書が付属しているはずである. 第3部で詳しく検討されている[監訳者註:本書で  都市が能力形成の取り組みの概要をまとめる場合 は,この部分の翻訳は収録していない]. に重要なのは,Eco2 イニシアティブと,従来から  世界銀行以外の国際開発パートナーもまた,特別 の標準的な都市計画・開発・管理との大きな違いを の専門的経験・知識が必要なとき,コストを賄う財 認識することである.第1章で引用した統合的イン 源が見つかりさえすれば,喜んで都市を支援するだ フラの例は,まだ一般的になってはいない.成長し ろう.例えば,優良事例都市は,喜んで情報提供し ている都市の大多数は,発展途上世界を含め,都市 ているし,直接あるいは世界銀行との共同による能 のスプロール化の封じ込め,土地利用とインフラの 力開発イニシアティブを通して,それ以上の支援を 最適化,ライフサイクルコスティング,優良事例都 行うこともできる. 市で採用された多くの新しいデザイン・政策の採用 に対して,それを行う力が無いか,あるいはそれを 能力形成のための取り組みの概要 行う意欲を持たない状況である.こうした理由か  能力形成には,専門家養成と実証プロジェクトに ら,Eco2 計画は,変化を調整・管理するために注 関する取り組みがよく知られている.本章及び第2 意深く計画された取組みを採用し,リーダーシッ 部で説明されている意思決定支援システム(DSS) プ,構想,共働,分析といったことについての新し は,能力形成計画の重要な要素として位置づけられ いアイデアに注意を払い,それを採用していかねば ねばならない.都市ベースの DSS には方法と道具 ならない. が含まれ,それらが無いと,デザインと政策につい ての統合的アプローチを採用することはほとんど不 Eco2 の習熟度を上げよう 可能である.都市ベースの DSS の方法と道具のほ  決まりきったやり方を変えようとする場合のもう 50 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 1つの課題は,市の指導者グループに Eco2 の重要 参考文献 な考えをもっとよく知ってもらい,新しいアプロー Beatley, Timothy. 2000. Green Urbanism: Learning from チのどこがこれまでと違うのか,何故それが市に European Cities. Washington, DC: Island Press. とって有益なのかを,市職員に理解してもらうこと Swedish Environmental Protection Agency. 2004. “Local Investment Programmes: The Way である.一人ひとりには,新しい考えを吸収するた to a Sustainable Society.” http://www. めの静かな時間が必要である.Eco2 Cities イニシ naturvardsverket.se/Documents/ アティブは,そのために役立ついろいろな材料を提 publikationer/91-620-8174-8.pdf. 供している.本書もその1つであり,Eco2 の重要 な概念と言葉を導入する場合の助けになるだろう. 優良事例都市と話をしたり,他都市の経験豊富な意 思決定者の証言を収録したビデオを見たりすること で,市の指導者は新しいアプローチの採用に対する 自信を深めることができるだろう.  Eco2 の概念についての習熟度を向上させるには, 地方の政治家や幹部職員を対象とした特別の場を用 意して,これらの人々に新たな概念・やり方を深く 勉強してもらい,新たなアプローチを応援してもら う必要がある.Eco2 イニシアティブでは,例えば, 共働という概念には,いくつもの段階における合意 に基づく意思決定が含まれる.また,定期的な会合 に必ず出席しますとか,合意が得られた場合には自 分ができる政策は必ず実行しますといった,さまざ まなステークホルダーの約束が含まれる.Eco2 とこ れまでのアプローチとの間のこうした違いは,優れ たガバナンス(統治)というものに対する伝統的な 見方をさらに発展させたものであるので,その違い を明確にした上で,それを受け入れる必要がある.  習熟は,エコロジカルデザインの概念を実現する ためにも重要である.都市内における資源の循環利 用や多段階利用の流れは,チャートを使ったケース スタディでうまく説明できるだろう.重要な意思決 定者に,数時間,快適な環境の場所に集まっても らって,ケーススタディやこれまでに得られた重要 な教訓について議論してもらうのが有用であろう. さらには,模擬ワークショップやデザイン演習に参 加してもらうのも良いだろう.習熟キャンペーン は,デザインや投資についての新しい言葉を使うこ とに対して,意思決定者が抵抗を感じないようにす るためである. 51 第4章 協働によるデザインと 意思決定のための 拡大プラットフォーム  本章では,拡大プラットフォームの原則について,より統合化され,適応的で永続性のあ るデザイン・意思決定プロセスの採用が重要なことを述べる.統合的で,調整が行き届き, しかも,柔軟で長続きする解決策によって,経済と環境の両面で良い成果を出したいと思う なら,我々は,デザイン・意思決定を行う組織・制度の変革の実現を同時に追求しなければ ならない.多くの面で,我々の周囲に既に構築されている環境は我々自身の思考方法とお互 いの関係を写す鏡である.その解決策は2つから成る. (1) 全てのプロジェクトの一部となっている協働プロセスに,あらゆるスケールのステー クホルダーが参画するようにする. (2) 持続可能性と復元力のための大きな包括的な計画枠組みを開発し,ゴール,目標及び 戦略を定める.  本章では,これらの項目のそれぞれについて議論するが,それらの項目は相互に支援しあ う関係にある.あらゆるスケールでの協働によって,新しいビジネスモデルを採用するとき に必要なスキル,やる気,創造的な交流が生み出される.計画の枠組みを共有することで, 統合的なプロジェクトデザインを推進する条件が整備され,コミュニティとしてゴールを共 有した上で,各自の計画や政策を持ち寄ることができる.  協働は,ガバナンスの新たな形態でもある.あらゆるスケールのステークホルダーが参画 することにより,都市は,インフラシステムの整備・管理に民間セクターが重要な役割を果 たしている混合経済に適した計画のプラットフォームを創ることができる.このプロセス は,長期的なゴールと戦略によって動くので,短期的な政治問題と重要事項にばかり焦点を 置きがちな目まぐるしい選挙サイクルからの悪影響を軽減する効果も期待できる 52 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES  協働の仕組みを採用するときの唯一最大の困難は,このプロセスの先頭に立つリーダー役 を務めるチャンピオンが組織の内部にいないことである.ほぼ当然の決まりとして,いかな る部局・グループも,政府も,こうした広範で横断的なプロセスを運営する責任を有してお らず,そのための予算も独立性も与えられていない.資金提供者あるいは主人役を務める人 物がいなければ,プロセスは決して動き出さない.都市レベルで成功した協働モデルがあま り多くない理由の1つはここにある.また,都市に対して,Eco2 イニシアティブが,協働 を持続させるためのプラットフォーム創りのリーダーシップを取るべきだと提案している大 きな理由はここにある.都市が協働のための拡大プラットフォームを組織する上で役に立 つ手法・ツールは,都市をベースにした意思決定支援システム(第2部)で述べられてい る.都市は,地域成長戦略のような実効性のある計画枠組みを開発するためにこのプラット フォームを利用することもできる. ている.ここでは,市政府は1つの事業体として如 協働プラットフォームの重要要素 何に良く機能するか,1つのチームとして自分の家 3層のプラットフォーム を如何に秩序あるものにするかが課題である.  都市は,少なくとも 3 つのレベルあるいは内,  様々な部局が日常的に協力しあうことで,より良 中,外の3つの層において,協働プロセスをリード く統合され,より効果的な決定を行うことができ することができる.(図 1.5 参照).各層は互いに影 る.分野横断的なゴールと目標が採用され,戦略プ 響を与え合う.理想的に言えば,各都市はそれぞれ ランの中に組み入れられる.報告とモニタリングの の層ごとに協働作業グループをリードしなければな プロセスが実施され,職員・備品・資本・公共建築 らない.実際のプロセスは,単調に進行していく場 物等の様々な資産の面倒を如何に良く見ているかが 合と,周期的に変化する場合がある.しかし,層に 地域に広く知らされる.市の内部プログラムが特に よって異なるやり方をすることがやはり重要であ 注目されることがある.例えば,自動車相乗り,自 る.ここで言う層とは,制御と影響の両面における 転車プール,新しい駐車方針,高効率車の購入,在 様々なレベルの違いを意味している. 宅勤務(テレワーク)などの手段によって,市は職 員の交通費を減らすことができる.こうしたプロ 内層プラットフォーム:秩序ある家 ジェクトは,建物内の施設や,職員に与えられてい (事業体としての運営) る特別待遇に変化をもたらさざるを得ない.それを  第一の最も重要な協働は,内層,つまり,市の部 可能にするには,多数の市部局が参加する協働プロ 局内及び部局間の協働である.一番内側に位置する セスを通さねばならない.この他の内部的イニシア このレベルでは,市は大きなコントロール力を持っ ティブとしては,建物の運用,調達手続き,ごみ管 理システム,エネルギー利用効率改善などがある.  いかなるプログラムやプロジェクトにおいても, この内部レベルでの協働によって,市は取り組みを 将来的に合意形成主導のアプローチへと向かうことは明 らかなように思われる.そこでは,あらゆる事柄が議論 どうリードし,取り組みのベネフィットをどう示し され,開発計画プロセスのあらゆる段階において,全て たらよいかを即座に学ぶことができる.市は,この の利害関係グループが参加する. 協働プロセスを,あらゆる企業的経営の効率的かつ 出典:Lahti (2006). 持続可能なモデルとして利用することができる.世 界中,ほとんどどのセクターでも,持続可能性分野 枠組み ≫ 第4章 協働によるデザインと意思決定のための拡大プラットフォーム 53 のリーダー達は,持続可能な製品・サービスを提供 していることだけでなく,企業として取り組んで成 需要予測に合わせて供給するというモデルの危険 果を挙げていることに誇りを持っている(例えば,  20 世紀の半ばに,交通計画・交通工学の専門分野にお いて,新しい「科学的」でプロフェッショナルな新しい 環境に配慮した本社オフィス).同じ論理は,都市 「都市交通計画」実施の基本哲学は, 取り組みが生まれた. にも当てはまる.都市は自分自身の判断でこの取組 交通量の増加予測に適合するようにインフラを供給すると みを開始できるのだから,内部の協働がうまく行か いう「需要予測に合わせて供給する」アプローチであった. ないという言い訳はできない.協働のベネフィット 交通量の増加,混雑,そして道路建設という自律的充足の スパイラルを予測するのが,このアプローチの特徴となっ は,市役所内部の業務をはるかに越えて広がる.市 た.この交通計画手法は,世界中の都市に悪影響をもたら 役所内部での協働がうまく行けば,市が中心となっ す結果となった.高速道路が近隣住区を突き抜け,都市内 て推進する外部のステークホルダーやパートナーと の建物の多くが取り壊され,コミュニティは分断され,自 然環境と食料生産にとって重要な地域が破壊される結果と の協働もうまく行きやすくなるのが通例である. なってしまった.交通量の増加を収容し,混雑解消・燃料 節約・汚染排出削減を実現するために道路が建設されたが, 中層プラットフォーム:サービス供給者としての市 それが失敗だったことを事実が証明している.自動車のた  協働プラットフォームの中層に位置するのが,市 めの最適化を目指す計画プロセスでは,公共交通と自動車 以外の交通手段は大幅に衰退する一方であった. がその域内の住民・事業者に供給しているさまざま な公共サービスに焦点を置くものである.これらの 出典:Kenworthy (2006: 81). サービスとそれに関連する投資は,大部分あるいは 完全に市のコントロール範囲にあるものの,その他 多くのあらゆるレベルのステークホルダーにも影響 を及ぼす.このレベルでの協働は,多くの分野にわ たって,政策づくりへの支援となる.例えば,交通 システムの選択は市の責任であるが,それによっ て,土地の値段と開発ポテンシャル,地場企業の競 争力,地域雇用の創出,街の安全性・居住性,近隣 住区開発などが長期にわたって重大な影響を受け る.理想的には,地域交通システムは,土地利用計 画,駐車ポリシー,エネルギー供給システム,街並 み,近隣住区計画,地域交通網との接続,その他多 くの問題と一体的に取り組む必要がある.いかなる 都市においても,協働のためのプロセスをうまく組 織しないことには,色々な政策を採用した場合にそ れがどんな意味を持つかを完全に理解することが困 図 1.5 都市における 3 階層の協働ワーキング・グループ:事業 難である.さらに,新規投資による影響は地域や人 単位,市,広域自治体 によって異なるので,政治的な問題をうまく処理す 出典:著者作成 (Sebastian Moffatt). 説明:内層から外層に移るにしたがい,利害関係者の数は増加し,潜在的利 る必要がある.長期的に見て最善の戦略を決めるに 益の複雑性と範囲も増大する. は,ただ議論するだけとか,予測結果がこうだか ら供給をこう決めると言う独裁的なやり方ではな く,意味のある対話が必要である.複雑なシステム のデザインでは,いかなる場合にも,創造的な解決 策を強く支援するのに必要な取り組みの手順が用意 54 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 広域都市の出現と長期計画にとって重要な意味を持つ対象地域の拡大  ピーター・カルソルペとウィリアム・B・フルトン 囲に制限・抑制されるように,複雑な都市の形と地域 (Peter Calthorpe and William B. Fulton, 2001)は, の自然条件を適合させることである.ピーター・カル 都市建設に対する広域的アプローチの復活について述 ソルペとウィリアム・B・フルトン(2001: 10)は, べている.彼らは,都市の経済・社会・環境のパター 「広域都市は,経済的・環境的・社会的に密着しあっ ンの理解と計画には,広域的な規模で見る方がよいと たユニットであり,各ユニットは緊密に結びついた幾 いう議論を展開している.都市が成熟化するにつれ, つかの近隣住区とコミュニティで構成され,全てのユ スプロール化した都市域と衛星都市あるいは周縁部都 ニットが1つの大きな都市域の中で重要な役割を果た 市は,より正確には多極分散型と呼ぶべき構造,すな していると見なければならない」と述べている. わち,中心に芯がある 1 個の果物というよりは,葡萄  国,州・県,市は,相互に調整・協働しあうことに の房のような形に変化する. よって,共通のビジョンと強い政治的意思に基づいて,  多極分散型の形は複雑であり,1つの中心だけでは 調和のとれた地域開発・都市開発を実現できる・・・ なく,何層にも重なったネットワークに目を向けなけ ・・・市の担当部局は,州・県等の広域自治体 (中略) ればならない.それは,多数の中心と結節点が網目の と一緒に,明確なビジョンと戦略をつくり上げ,それ ように結び付いた,経済,オープンスペース,資源, に基づいて,それぞれの市の経済・社会状態を改善す 交通・通信のネットワークである.問題は,地域の生 るための短期及び中期の対策をまとめる必要がある. 態系・資源基盤との調和がとれるとともに,1つひと つの結節点の大きさがヒューマンスケールの歩ける範 出典 : UN-Habitat (2008: xvi) され,重要なステークホルダーの合意に基づく意思 レーヤーの一人に過ぎない.市がリーダーになる理 決定が可能になることによって大きな利益が得られ 由も方法も,ただちに自明とは言い難い.また,地 る. 域の境界を定義するのも難しい(島国の場合を除  内層レベルでの協働に比べ,中層レベルの協働の く).どこを境界にすべきかは,扱う問題によって 方がどうしてもより複雑になる.プロセスに参加す 異なるからである.都市域の概念は常に曖昧であ るグループの数が増え,企業・家庭とそれらの構成 る.しかし,挑戦に立ち上がることで,経済と環境 メンバーとの間で情報を共有しあわなければならな のゴールを設定し,それを達成するのに必要なコ いからである.また,市の全域にまたがるプログラ ミュニティの能力の大幅な強化に成功した都市の例 ムを開始し,施設建設事業を行うには,より大きな が,既に多数存在する.都市の持続可能性は,自分 投資資金が必要であり,そのためには財政金融コ が属する大きな都市域レベルで,リーダーシップを ミュニティとの協働が必要である. 発揮し,協働を実施できるかどうかに大きくかかっ ている.外層のステークホルダーは,公式的な協働 外層プラットフォーム:都市域 プラットフォームをつくるのには抵抗を示すかもし  外層での協働は,都市域の全体を対象とする.大 れない.例えば,電力供給の場合,論理的に言え きな都市域の場合には,多くの市や町で構成された ば,特定の都市域だけではなくサービス供給地域全 広域市を対象とすることを意味する.これは,大体 体を計画単位にすべきである.近隣の市・町にとっ どこでも,市の厳密な境界を越えて,近隣のいくつ ては,地代や税率,あるいは開発資金へのアクセス もの市・町,田園地帯,同じ経済圏・生態圏に属す をめぐっての競争がいつもながらの問題である.共 る自然地域を含めるように,協働の空間的範囲を拡 通の目的を見つけるためには,長期的な視点を重視 大することを意味する.このように規模を広げるの した協働でなければならない.協働のプロセスが無 には困難がともなうが,うまく行った時に得られる ければ,地域のステークホルダーは,それぞれバラ 利益は大きい.この外層レベルでは,市は大勢のプ バラな目的に向かって仕事をすることになってしま 枠組み ≫ 第4章 協働によるデザインと意思決定のための拡大プラットフォーム 55 う.協働は,これらのグループが会合し,個人的な た.また,これによって,職員の積極的な参加も可 関係を築き,長期的な方向について合意し,現在の 能になった.この取組みは平坦なものではなく,結 計画について議論する上で,通常では得られない重 果がどうなるかの予想も立たなかったので,そのや 要な機会を提供してくれる.例えば,電力会社とガ り方の乱雑さも良い結果を出すために仕方ないもの ス会社が同じ会議に出席して,都市内の希少なエネ と見なされた.協働にとって非常に重要だったの ルギー資源の利用に関する長期的方策を話し合うこ は,中央政府と複数の関係地方政府が,共通の所掌 とができるかもしれない.同様に,ビルの所有者と 事務に取り組むために同じテーブルに並んで,「持 市当局の間で,既存ビルの資源効率を改善するため 続可能なオークランド」に関する長期展望の共同作 にどんな投資をするのがよいかが議論できるかもし 成に合意したことである.(第3部には,オークラ れない.これらは,Eco2 都市にとって非常に重要 ンド市の協働プロセスと同市が創った持続可能な枠 な問題であり,うまく準備された継続的な話し合い 組みに関する詳しいケーススタディが記載されてい と協働に基づく意志決定によって解決の可能性は高 る.) まるだろう.  外層プラットフォームの構造は強くなければな ガバナンスに対する新たなアプローチ,多分,新 らない.その中心には,経験豊富なステークホル しい共生方法 ダーを置くのがよいだろう.民間企業,大学・研究  協働とは,部局間にまたがる計画づくりのための 所,公共機関等から選ばれたチームリーダー,さら 1つのワーキンググループが都市域全体の新たなガ には,様々なセクターからの専門家や卓越した人物 バナンスを実現するフォーラム(集まり)へと発展 たちがこの任にあたる.もし,既に何らかの協力関 し,また,協力作業や柔軟なチームワークが当たり 係や委員会が存在し,協働のプロセスとの整合性に 前に受け入れられる新しいカルチャー(文化)へと 問題が無いなら,その上にプラットフォームを築く 進化するプロセスである.その規模がどうであれ, ことができる.協働のためのワーキンググループに 協働の取組みをリードする力を持つことによって, 時限は必要ない.特定の問題について定期的に会合 統合的なデザイン・政策を推進し,持続可能な開発 を持つ特別サブグループを必要に応じてつくるのも を達成する能力は大いに強化される.成功への第一 よいだろう.(協働ワーキンググループの構成や活 歩は,市として,協働の取組みを組織化し,支援 動として何が考えられるかは,第2部で詳しく述べ するにはどうしたらよいかを理解することである. る.) (より詳しくは,第2部の都市ベースの意思決定支  2003 年から 2009 年にかけて,ニュージーラン ) 援システムで記載. ドのオークランド都市域では,長期的な(100 年 間の)共有計画づくりの枠組みも対象に含めて,協  都市域共通の長期的計画枠組み 働の取組みを実施した.この枠組みづくりの取組み  拡大協働プラットフォームを創るための第2ス は非常に包括的なもので,多くの議論が行われ,そ テップは,共通の長期的計画枠組みを採用すること の結果が枠組みに反映され,新しい対策が生み出さ である.この枠組みによって,施設整備への投資を れた.例えば,地域の成長戦略について,地域全体 含むあらゆる公共の決定が論理的かつ透明性の高い にわたる議論が巻き起こり,市議会メンバーから成 根拠に基づいて行われるようになる.Eco2 の枠組 る諮問グループが指示と支援を行った.同様に,地 みにおいては,持続可能性に関するゴール達成と復 方当局と中央政府が1つのワーキンググループをつ 元力を強くするためのリスク管理という,将来に くることによって,それぞれが代表として影響力を 対する2つの視点を結合する必要がある.Box 1.2 持てるようにした上で,「持続可能なオークランド は,この2つの視点が地域の戦略的計画の中にどの に関する枠組み」に対する資金の分担拠出を実現し ように統合されるかをまとめたものである.この枠 56 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES Box 1.2 将来予測とバックキャストの組み合わせによって持続可能性と回復力を強化する 将来予測:外力による影響を予測し,緩和・ 適応を計画する  予測(あるいは,将来についての物語) とは,人口・気候・経済・技術の変化がイ ンフラに及ぼしそうな変化を検討すること である.原因と結果の因果関係に基づいて, どのような影響が生じそうかをビジュアル に示すことが可能なので,これを利用して 複雑なシステムの将来を語ることができる. 予測は,脅威を緩和し,変化に適応するた めにどんな対策を取るのが一番良いかにつ いて,様々なグループでブレインストーミ ング(頭の体操)を行い,事態に備える心 構えをし,何が起きれば何をすべきかの決 定の準備を行うためにも利用できる.グラ フを活用した予測によって,全てのデザイ ンチームと意思決定者は,都市とその構成 システムが遭遇しそうな幾つかの将来の姿 を敏感に感じ取ることができる.世界銀行 が出版した気候変動と都市に関する入門書 は,気候変動が市を構成する様々な部門に どのような影響を及ぼすか,都市コミュニ ティはそれにどう対処すべきかについて, た く さ ん の 例 を 示 し て い る(Prasad and .気候変動以外の外力, others 2009 を参照) 例えば,技術変化や人口変化についても, 同様の検討作業が必要である. 出典:著者作成 (Sebastian Moffatt). 組みは,地域全体に影響力を持つように,協働のプ みであり,色々な要素がどう組み合わさり,どう関 ロセスを通してつくり上げる必要がある.枠組みが 係し合っているのかを理解するセンス(感覚)を 完成すれば,それがあらゆるレベルでの協働の取り 我々に提供する一種のメンタルマップ(心象図), 組みを支援するツールとなる. あるいは方法探索システムである.我々は皆,何か  現在直面する緊急課題に直接関係しないことに対 を決めるときにはそれに役立つ何らかの枠組みを利 して,あらゆるグループの権限を越えた幅広い枠組 用している.枠組みのほとんどは,複雑性を減少 みをつくる意味は,誰にでも直ぐに理解されるとは させるための階層的構造を利用しており,大きな 限らない.その概念を説明するには,枠組みがどう 考えあるいは分類から詳細で具体的な事柄へと移 機能するかを検討する必要がある. るようになっている.アールボルグ憲章(Aalborg  枠組みとは,構想と行動を結び付けるための仕組 Charter)は,欧州の 2,500 のコミュニティが採択 枠組み ≫ 第4章 協働によるデザインと意思決定のための拡大プラットフォーム 57 バックキャスト:最終ゴールに向けて変化の道筋をつくる  バックキャストとは,市が実際に影響力を持ち,コン トロールが可能な分野を選んで,そこで変化を起こすこ とである.また,バックキャストとは,将来のある時点 において達成すべきゴールを設定し,そこを起点として 現在の情況に立ち戻り,ゴール到達に必要な変化を明ら かにし,その変化を実現する道筋を創ることである.中 間目標を設定しておくことによって,都市が描く高い目 標と優先順位に適合するように,変化のペースを決める ことができる.動きが速すぎるのは,動きが遅すぎるの と同じくらい危険だからである.バックキャストの最大 の問題は,現在の大きなトレンドがどう見ても市を悪い 方向へと向かわせている場合に起きる.例えば,ほとん どの市で,自動車通勤は増大一途であるが,これは持続 出典:著者作成 (Sebastian Moffatt). 可能ではない.このようなトレンドを変えるためには, 政策の介入によって,別の望ましい選択肢の採用・実施 を加速・強化しなければならない. 統合:持続可能性と回復力に向けて取り組むための積極 的戦略づくり  コントロールできない外力に対処しつつ,コントロー ルできる問題をうまく管理することによって,より強い 復元力と持続可能性を有する都市に向けた転換をうまく 導くための能力を創り上げることができる.都市は,あ まりに急速な変化とあまりに遅い変化は回避しつつ,ま た,今後数十年の間に起きる不可避のショックや想定外 の事件から回復するために必要な余力を残しつつ,解決 策を決めなければならない.もし,トレンドが悪い方向 に向かっている場合には,その方向を変えるために,重 出典:著者作成 (Sebastian Moffatt). 点をしぼった政策介入あるいは触媒プロジェクトを実施 するのが有効かもしれない.脅威を緩和し,変化に適応 することによって,予期しない出来事の発生や混乱を減 らすことができる.こうして,最終ゴールに向けた転換 の道筋を持続的に管理することができるであろう. したもので,都市が長期的計画を作成するための総 自動車は都市に災厄をもたらしている悪の元凶であるとさ 合的な枠組みの一例である.アールボルグ憲章に書 れ,都市計画に対する失望とその無力さの原因だとみなさ かれた計画ステップの概要は,問題の発見・把握か れている.しかし,自動車の破壊的な影響は問題の原因で ら実施・監視に至るまでの計画プロセスの重要な は決してなく,都市づくりにおける我々の無力さがもたら した病状なのである ステップを示している(図 1.6).枠組みは,また, 計画に用いられる共通用語と計画作成の一連の流れ 出典:Jacobs (1961: 16). をまとめている. 58 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES  都市が,より一層統合化された アプローチによってシステムのデ 地域行動計画のためのオールボー憲章 ザインを行い,拡大協働プラット 1. 既に存在する枠組みや計画,プログラムを認識する. フォームを整備するにつれて,枠組みを 2. 公衆との活発な議論を通して,問題やその原因をシステマ 共有しているおかげで,入り組んだ課題 ティックに同定する. の整理・情報交換がうまく進んでいて問 3. 同定された問題に優先順位をつける. 4. 地域社会のすべてのセクターを巻き込んだ,参加プロセス 題の解決に役立っていることが理解され を通じて,持続可能な地域社会のビジョンを創りあげる. るだろう.枠組みは,まずやるべき課題 5. 代替戦略の検討と評価を行う. を先頭に置き,あらゆる考え・行動の入 6. 持続可能性を目指して,計測可能なターゲットを含んだ, り組んだ関係を整理して,理解し易い議 長期的な地域行動計画を作成する. 7. 実施予定表と関係者の役割分担に関する宣言を含め,計画 論を組み立てる.これによって,具体的 実施プログラムを組む な提案の確立・正当化のための納得の行 8. 計画の実行に関し,モニタリングと報告のシステム及び手 くメンタルマップが形成される.目指す 順を確立する. ゴールと全体ビジョン,詳細な行動とそ 図 1.6 オールボー憲章 の結果という,2つの関係が透明で論理 出典:EU (1994) に基づき著者作成 . 的であれば,計画づくりに参加するすべ ての者が全体をよく理解することができ  枠組みを共有することは,計画・デザインのあら る.これによって,全ての関係機関・ステークホル ゆる面で役に立つ.地方政府は,この枠組みを利用 ダーは,自分の仕事が長期的なビジョンとゴールに して,彼らの戦略的計画・マスタープラン・概念プ どうつながるのかを理解できる.枠組みのおかげ ラン・交通計画・経済開発計画を組み立て直し,体 で,都市が実施する様々なイニシアティブを結集で 系的に再整理することができる.統合デザインチー きれば理想的である. ムは,この枠組みを利用して,各段階におけるデザ  時間とともに,都市全体の共通指針を参照しつ インの方針を定め,コミュニティとしてのゴールと つ,ゴールと実施戦略を取りまく協働の輪が広が 優先課題の全体像をデザイン担当者達に想起させる り,結束が強まり始める.この枠組みが契機となっ ことができる.各段階において,枠組みを共有し て,あらゆるセクターにわたるイノベーションが引 あっているおかげで,よく調整されたやり方でお互 き起こされ,目標達成に向けた取り組みが開始され いに情報交換しながら一緒に作業を進めることがで る.こうした良い効果が水が溢れ出すように生ま きる.全員が枠組みを共有しているので,全体の中 れ,持続性に取り組む力強い地域文化が創り出さ での個々の活動の位置づけが明確になり,プロジェ れるのが理想である.例えば,クリティバ市では, クトの計画・実施に参加するもの凄い数の部局やス 持続可能性に関する総合ビジョンが契機となって, テークホルダーの間の細かい調整はあまり必要でな 150 万本の街路樹を植える市民ボランティア活動 くなる. が実行された(ICLEI 2002).共有の長期計画は, 「多くの場合,都市の衰退,あるいは再生の可能性は,広域的な状況と切り 離しては議論できない.たいていの場合,都市の衰退は,地域全体が衰退 しているところに集中している」 出典:UN-Habitat (2008: 44). 枠組み ≫ 第4章 協働によるデザインと意思決定のための拡大プラットフォーム 59 市の行政区域を越えた都市域全体を対象とするよう 引きが必要である.戦略的地域計画は,その名称や に,非常に効果的にまとめられている.ここで言う 対象が何であれ,都市と周囲の生態系が調和するに 都市域は,既成の都市域を構成している市や市町グ はどうしたらよいか,成長の速度と方向を短期的目 ループだけでなく,都市を取りまく農村地域と自然 標及び長期的なゴールに整合させるにはどうすべき 地域をまとめた全体を意味する.都市計画の多くは かを,人々に理解してもらうのに役立つものでなけ 当該の都市が中心で,自分自身の行政区域の外は他 ればならない.第2部に記す都市ベースの意思決定 の市町村の責任だという単純な取り扱いしかしてい 支援システムには,長期的計画の枠組みと地域成長 ない.しかし,農村も含めた地域計画が無ければ, 戦略づくりに関する情報が含まれている. Eco2 が掲げる長期的ゴールは達成できず,環境と 経済の両面の恩恵を受けることも不可能である.世 拡大協働プラットフォームのためのステップ 界的に,無秩序・無計画な都市膨張が,人口の減少 している地域においてさえも起きており,農村を含 協働意思決定プロセスを開始せよ めた地域全体で考えることが重要な理由の1つはこ  協働のために設置された委員会の最初の作業は, れである.都市の膨張は,都市と国の健全な長期的 重要なステークホルダーを招いて,協働のための 発展・繁栄に対する脅威となっている.都市は,自 プロセスについて議論し,Eco2 への道に参加する 分自身も実はその一部である農村・自然地域にます ことのベネフィットを考察することである.通常, ます大きく依存するようになっている.農村・自然 Eco2 のリーダーとなるチャンピオンは,グループ 地域は,水の捕集・浄化,空気の冷却・減速・浄 の会合に先立って重要なステークホルダーと個別に 化,食料確保と公衆衛生のためにますます必要とな 会い,前向きに取り組む意思と関心を確認し,協力 る生鮮食品の生産,再生可能で安全なエネルギー源 の基盤を確立しておく必要がある.それぞれのス の供給など,さまざまな生態系サービスを提供して テークホルダーは,参加することのベネフィットを いる.共同の地域戦略は,生態系の持つ多くの機能 彼ら自身の立場から見定める必要がある.例えば, を保護・強化するように,都市の成長をどう導くべ 土地開発者にとっては,彼らの業務に対する様々な きかの方向を決める包括的な上位計画の役目を果た 規制に変更を加え,政策に影響を及ぼし,自らの事 す.こうした包括的上位計画は,地域成長戦略とも 業を改善する好機である.電気・ガス・水道事業者 呼ばれる. や土地所有者も,新しいビジネスや顧客獲得につい  農村・自然地域を含めた大きな都市域でものを考 て良い情報を入手できるチャンスである.中層と外 えることは,経済計画にとっても極めて重要であ 層の委員会が市にとって重要なのは,発案者及び事 る.経済の特徴は,ほとんどの場合,こうした大き 務局としての役割であって,決定をコントロール な都市域の規模で形成されているので,経済開発へ する役割ではない.統合的アプローチとは,普段か の介入・コントロールの施策はこの大きな規模で実 ぶっている帽子を脱いで,他のステークホルダーと 施することが極めて重要である. 一緒に総合的なソリューションを模索することであ  都市域の境界を定義するのは簡単でないかもしれ る.市当局はときどきこのことを皆に説明する必要 ない.現実的には,様々なステークホルダーの関心 がある. に合わせて,地域の範囲は慎重かつ柔軟なままにし ておくのがよいだろう.例えば,成長戦略に用いる 事務局の責任を明確化し,予算を準備せよ 地域範囲には,集水域の計画,通勤圏,大気圏,電  事務局には,協働委員会をサポートする役目があ 気・ガス・水道サービス供給地域,市場向け菜園・ る.このため,コスト削減については市役所の各部 果樹園,地域発電,生態系,経済開発計画などが含 局と目標を共有しつつも,他の部局とは異なる立場 まれる必要があるが,それぞれには地域の異なる線 に立つ必要がある.事務局の大きさは,協働プロセ 60 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES スの進行速度と範囲に応じて調節するのがよいだろ から入手できる.一般の人々及びその他のステーク う.もしも担当者が一人だけなら,その人物はコ ホルダーも,枠組みの内容を検討するのにこのツー ミュニケーション(支援と文書作成),調査,デー ルを利用できる.枠組みを決めるには,地域独自の タ収集に熟練していなければならない.協働委員会 外力のセット(例えば,周辺地域における気候変 は,そのための特別な予算立てが必要とは見なされ 化,各都市の人口動態)を入力する必要がある.枠 ていないのが普通なので,事務局の予算を確保する 組みを完成するには,ビジョンづくりワークショッ のは簡単でないかもしれない.協働のためという項 プや予測ワークショップの支援を受けながら,広範 目を戦略的計画作成費用の下に立てるのが1つのや で深い協働作業が必要である(第 2 部). り方である.財源に関係無く,事務局がその真価を 発揮するには,少なくとも3年間の予算が必要であ 触媒プロジェクトを選定しよう る.  変革を推進する鍵となるのが,触媒役を果たすプ ロジェクトである.このようなプロジェクトは,一 持続可能性と復元力のために長期的な計画枠組み 番大きな影響力を持つステークホルダーに大きなベ を準備せよ ネフィットを提供するものでなければならず,都市  第2部では,枠組みづくりを支援するための詳し にとってのリスクが小さく,比較的迅速に実行でき い手法・ツールが示されている.時間あるいは予算 るものでなければならない.うまく行けば,触媒プ が十分でない場合には,適切な優良事例都市で既に ロジェクトのおかげで,Eco2 への取り組み意欲を 採用されたゴールと戦略を利用することによって迅 高め,それが取り組みに対する満足度も高めるとい 速にプロセスを進めることができる.その場合に う正のスパイラルが実現するだろう.最初の印象が は,ゴールと戦略の例を提供する上で,ケーススタ 重要なので,プロジェクトの選定には注意が必要で ディ報告書が役に立つ.ビジョンとゴールを具体的 ある.参加ステークホルダーと人々の間に前向きの な戦略とプロジェクトに結び付ける枠組みを作成す 期待を生み出すことが,変化を成功に導くために決 るときに助けとなるソフトウェアツールは,ウェブ 定的に重要である. 枠組み ≫ 第4章 協働によるデザインと意思決定のための拡大プラットフォーム 61 参考文献 Calthorpe, Peter, and William B. 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London: Earthscan Publications. 63 第5章 ワンシステムアプローチ  ワンシステムアプローチによって,重要なサブシステムの統合あるいは最適化が行われ, 都市システム全体の計画・デザイン・管理が可能になる.都市は,これを実行することによ り,複合的相乗作用から得られる多くのベネフィットを明確に理解できるようになる.ワン システムアプローチの可能性を追求する場合,最初に目指すのは,インフラシステムの総合 的なデザイン・管理によって都市域内の資源フロー効率を改善することである.このアプ ローチは,交通・エネルギー・廃棄物管理のような都市インフラのほとんどのセクターに適 用できるし,各セクターの内部の問題にも,セクターにまたがる問題にも,適用可能であ る.  次に目指すのは,都市の形と資源フローを統合するためにワンシステムアプローチが利用 可能かどうかを見ることである.ここでは,空間計画,土地利用,密度,接続性,近接度な ど,都市の形を特徴づける諸属性に目を向け,これらの要因を調整し,インフラシステムに 反映させることによって,システム全体の効率をどこまで改善できるかを検討する.都市の インフラシステムと都市の形の間には基本的な関係がある.都市の形と空間開発によって, インフラシステム・ネットワークの設計にとって重要な資源フローの発生地点(demand nodes)の位置・密度・分布が決まる.都市の形によって,インフラシステムの設計,容量 の限界,技術的選択に関する物理的・経済的な制約条件とパラメーターが決定され,それに よって,様々な選択肢の経済的実行可能性が決定される.これらの決定は,資源利用効率に とって極めて重要な意味を持っている.同時に,インフラシステム(交通,水,エネルギー 等)への投資に対する市場の反応を利用して,特定の空間パターンをつくり出したり,その 形成を誘導したりすることも可能である.  本章の最後の節では,プロジェクトの実施において,もっとうまく統合化された実施方法 を採用するにはどうしたらよいかを検討する.これは,統合的なアプローチを可能とするよ うな政治的環境を創り出すことによって,利用可能なあらゆる政策ツールをうまく使いこな 64 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES し,様々なステークホルダーと協働して重要な政策をまとめ上げ,新規都市開発の場合と既 成市街地改善の場合とで条件が異なることを考慮した新しい政策を推進することを意味する.  都市が,環境と経済の両者の持続可能性を強化しようとする場合,システム的展望を持 ち,ワンシステムアプローチを採用することが極めて重要である.本章をレビューすること で,開発のための新たな道筋の機会と可能性についての全体像がより一層明確になるだろ う.さらに,第 2 部で紹介する手法とツールは,計画作成者・技術者・デザイナーがシス テムダイナミックスによる検討結果を視覚的に表現する場合の助けになるだろう.これに よって,様々なデザイン・政策を色々なスケールで実施した場合にシステム全体にどのよう な影響が生じるかをモデル化し,専門教育の伝統や,制度的に決められた枠組み,歴史的な 経緯などによってつくりだされたサイロ(孤立した倉庫)から抜け出してものを考えること ができる.このためには,Box 1.3 の概要が示すように,物質フロー分析と地図上に情報を 重ね合わせる手法が使われ,統合的なデザインのための分野横断的なプラットフォームが形 成される. 境にもたらされる利益が最大になる処に資金が投下 ワンシステムアプローチの柱 されるのが理想的なシナリオである.水・ガス・電 資源フローの統合:インフラシステムの設計・管理 気等の公益事業の場合はたいてい,全費用回収(フ  最初の課題は,インフラシステムの統合的な設 ルコストリカバリー)の原則に基づきながら,総使 計・管理によって都市内の資源フローの効率を改善 用量に応じて累進的に料金を上げ,対象を厳密に することである.このアプローチは,交通・エネル 絞った補助金を組み合わせる(ただし,社会的問題 ギー・水・廃棄物管理などのほとんど全ての都市イ への配慮が必要な場合に限る)という料金体系が, ンフラセクターについて適用でき,各セクター内部 需要削減には効果的である.これは,経済的コスト の問題とセクターにまたがる問題のいずれにも利用 を正しく反映しない料金は,消費者に間違ったシグ できる. ナルを送り,資源の無駄や過剰消費を招くからであ る.これまでの歴史を見ると,供給を増やすことで 需要と供給の統合:供給サイドの投資に先立って 問題を解消しようとして,時間をかけて検討しない 効率と保護に注意を向ける ままに過大な投資が行われることが多かった.これ  供給と需要の統合の問題として最初に直面するの は,資源利用効率基準を設定して,建物の改築と が,需要削減や既存インフラの有効利用のために投 か,電球・照明器具,車両,その他機器の更新を促 資した方が費用が安くベネフィットも大きいのに, すことで需要を削減しようとするのとは反対の流れ 何故,新規インフラの建設に頭を悩ますのかという であった.あらゆるセクターで,需要調整(デマン 疑問である.供給と需要の統合は,投資計画を注意 ドサイドマネジメント:DSM)が大きな効果を上 深く立てた上で検討すべき戦略的な取り組み課題で げている.例えば,廃棄物セクターでは日本の横浜 ある.サービス供給のためのいかなる投資において 市の例(11 億米ドルの施設建設費用が不要となっ も,システム全体の最終利用効率と供給システムへ た)があり,エネルギー・廃棄物セクターではエム の新規投資の間には,最適のバランス点が存在す フレニ市の例があげられる(わずか 180 万米ドル る.供給サイドと需要サイドの両方の投資計画が公 の投資で,毎年 400 万米ドルの節約が実現した). 平な競争が行われる場で検討され,社会・経済・環 DSM を導入した方が,正味の経済的利得が大きい 枠組み ≫ 第5章 ワンシステムアプローチ 65 Box 1.3 資源フローと都市の形の組み合わせによる専門横断的なプラットフォーム 利用者 道路 土地区画 このフロー図は, 香 港( 中 国 ) の 標高 水資源フローの全 体をまとめたもの である.都市メタ 土地利用 ボリズム(資源・ エネルギー代謝) を具 体 的 に示 す 現実世界 最初の事例の1 つである.出典: 出 典: 著 作 権 © Boyden, Millar, and ESRI, 許諾取得済 Newcombe (1981). み,http://www. esri.com/. 資源フロー:物質フロー分析とサンキー・ダイアグラム 都市の形:地図上での情報の重ね合わせ  物質フロー分析とサンキー・ダイアグラムは,都市域全  地図は多くの人に実にうまく語りかけてくれるので, 体の資源フローを計算・図示する方法である.都市域の大 協働作業を行うときには特に役に立つ(1枚の絵は万言 きさは問わない.入力と出力は,自然界からの資源の採掘, .各種情報を重ね合わせて見せることによ に匹敵する) インフラ建設のための資材投入,家庭・企業における消費, り,様々な地形や風景の特徴と質が相互にどう関連し インフラ施設による処理の流れに沿って決定され,最終的 あっているかを即座に示し,場所同士の関係の重要度を には,再利用のために回収されるか,廃棄物として自然界 定量化することができる.層の重ね合わせは古くから存 に再び戻される.カラフルながらも単純なダイアグラムは, 在する技法であるが,コンピューター技術と衛星画像の 全てが1ページに収められている.これによって,資源の 発達によって,ますます強力になっている. フローとその資源利用効率を誰にでもすぐに理解してもら うことができる. 都市の形と資源フローの統合:専門横断的プラット 予測 フォーム  ダイアグラムや地図は理解しやすく,さまざまな専 ノードと 門家や意思決定者の間で共有しあうことができる.こ ネットワーク れによって, 関係者や専門家が集まり, デザインや意 思決定を総合的に行うのに必要な共通理解が得やす くなる. 都市の形と資源フローは, 現在と将来の色々 形状 フロー なシナリオに応じて分析・理解する必要がある.これ らの手法の組み合わせが専門横断的プラットフォーム であり, これによって, 都市の空間的変化のダイナ ミックスと物理的な資源フローという, 互いに強い関 都市の形や景観に関する 都市の資源代謝フロー図 係があるにもかかわらず分析技法も関係者も異なる2 地図の重ね合わせ (加工,製品,エネルギー,水,原材料,人) つの要素の理解を深めることができる. (生態学的資産と土地利用)  都市の形に関するデザイン・コンセプトとそれに対 応する資源フローを統合するためのプラットフォームが 必要である. 出典:Redrawn and adapted from Baccini and Oswald (1998). 66 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES トを手にするには,よく計画された協働の仕組みが 需要側からと供給側からのアプローチ 不可欠である.  都市インフラ事業は元々,供給優先の性格を持ってい  DSM はあらゆるセクターで実施できるが,技術 る.これらの事業はあるサービスの供給を目指すもので 効率を向上させるための投資が必要な場合もある. あって,サービスの需要削減を目指すものではないのであ る.このため,サービスの効率的利用を促すよりは,サー 典型的な例としては,建物の壁の省エネ性能改善, ビスの過剰な消費を導くことになる可能性が高い.これで 省資源・省エネ型の照明・電気器具への変更,節 は,持続可能性に反してしまう.例えば,道路を建設すれ 水型の給排水設備の導入,ごみの減量・再利用・ ばするほど,交通量は増大してしまう.したがって,持続 可能な開発に向けた取り組みには,需要削減のための施策 再生,同一道路で自動車の代わりに BRT(バスラ をまず盛り込んだ上で,その次に,効率的かつ効果的な供 ピッドトランジット)を利用する(そうすること 給のための施策を取り入れる必要がある. で,これ以上の道路建設は必要なくなる)といっ 出典:Lahti (2006). た取り組みがある.これは,少ない資源で多くの ことを行い,消費とごみ発生を自主的に抑制する ことによって地球に迷惑をかけずに生活すると言 だけでなく,生活環境が改善されることや,将来起 う文化を意味する.DSM には,様々なレベルにお きるかもしれない価格変動や資源供給の混乱の危険 ける設計の改善と,定期的な監査,業務委託・業 が小さくなることによって,市にもたらされる様々 務実施方法の改善,システムの設置・運転・管理 な間接的ベネフィットも増大する. の担当者に対する訓練の改善などが必要である.  DSM には,簡単に実施できて直ぐに利益が戻っ エネルギーサービス会社(その最終製品は省エネ てくる場合がある一方で,様々な利害関係者にとっ である)の数が急速に増えていることは,未開拓 てのインセンティブが異なるために実施が容易でな の省エネ市場が大きな成長ポテンシャルを秘めて い場合も多い.住宅と業務用ビルの場合を見てみよ いることの証拠である. う.ほとんどのビルは,これまで,エネルギーとか  あるセクターでの DSM が他のセクターに恩恵を 水の利用効率基準に特に配慮して建設されたわけで もたらすこともある.このため,セクターにまた はないので,比較的小さな投資で速やかに大きな利 がる統合的なアプローチが非常に重要である.例え 得が得られる可能性が大きい.このため,住宅と業 ば,水セクターでの DSM が都市エネルギーの面で 務用ビルは,DSM が効果を発揮できる巨大なポテ 省エネ連盟 大きな利益をもたらすことが, (Alliance ンシャルを有している.その一方で,既存の建物の to Save Energy)のプログラムにつながった.こ 改築・改修には,意思決定権限を持つ多くの関係者 のプログラムは「ウォーターギー (watergy)」と呼 の協働が必要であり,しかも,投資資金を負担する ばれている.省エネ連盟は,発展途上国の都市にお 者に必ず利益が還元されるとは限らないので,投資 いて,エネルギーコストの低下と水道の漏水減少に するインセンティブがうまく機能しないことがあ 成果をあげながら,クリーンな水へのアクセスを改 る.例えば,省エネによる節約の利益がビルの所有 善することによって大きなベネフィットを実現し 者に還元されないとしたら,彼らは施設改修に投資 た.フォルタレザ(ブラジル北部)では,地域の公 しようとはしないだろう.また,ビルを借りている 益企業であるセアラ州上下水道会社(Companhia テナントは,短期的なことにしか関心がないので, de Agua e Esgoto do Ceara)と共同して,運営 改修のインセンティブを感じない.さらに,建築基 費と環境影響を減らしながら,給水サービスと下水 準をはじめとする製品基準を決めるのは国・州等の 道へのアクセス改善事業を実施した.会社は,自動 上位政府であることが多いので,地域のゴールや戦 制御システムの設置等のために約 110 万米ドルを 略とうまく合わないことがある.こうした多くの理 投資することで,4 年間で 250 万米ドルの節約を 由から,供給と需要の統合から得られるベネフィッ 達成した.効率改善の利益は非常に大きく,供給量 枠組み ≫ 第5章 ワンシステムアプローチ 67 を増大させることなく,新規に 88,000 世帯に上下 100 90 水道システムが接続された (Barry 2007). 80  DSM は,空間システムについても実施できる. 70 例えば,規制の見直し(土地区画の最小単位の調 60 50 節,建蔽率・容積率の緩和,ゾーニングの修正,宅 Peakload 40 boiler 地分譲方式の調節など)や,同一の場所に複数の異 30 なる土地利用を重ね合わせることで,土地の必要面 20 Baseload 10 CHP 積を減らすことができる.(都市の空間構造管理に 0 関する分析は,第3部で行う).いずれのケースで Jan Feb Mar Apr May Jun Jly Aug Sep Oct Nob Dec も,需要と供給の関係は,供給量を増やすやり方か 図 1.7 地域暖房システムの負荷曲線 出典:著者作成 (Bernd Kalkum). ら,需要調整を実現・促進するやり方へと変更すべ 説明 : このシステムは,35 ユニットのベース負荷用設備と 100 ユ きである. ニットのピーク負荷用設備で構成されている.ベース負荷向けの設 計に重点を置くことで,大きな省エネルギーが可能になった.CHP = combined heat and power plant 熱電併給設備. ピーク負荷調整:サービス需要管理による最大負 荷容量の最小化  エネルギー・水・交通システムにはすべて,時間 要を低下させ,既存施設の最適な利用を可能にす 変動・季節変動によるピーク負荷があるので,サー る.しかし,システムのステージのどこで対策を取 ビスを供給する公益企業は,特定の時間・季節に発 るのが一番良いかを理解するには,システム的な展 生するピーク需要に対応できるように,容量が過大 望が必要である. なシステムを使わざるを得ない.これは,経済・資  例えば,ヨーロッパでは,暖房期の熱需要は大き 源の観点から見て極めて非効率的である.サービス く変動する.熱と電力の併給プラントによって地域 を供給する公益企業は,ピーク負荷に備えて,バッ の熱需要に対応するには,熱需要の最大値に応じた クアップや外部からの資源輸入によって供給不足を 大きなプラントを設置しなければならず,それには 補う用意が必要であり,このためにとりわけ多くの 大きな投資コストが必要となる.このために利用さ 費用がかかる.また,駐車場・道路・レストラン等 れているのが,ベースロード分は熱電併給プラント のために必要な土地も場所によって大きく異なるの で供給し,ピーク負荷は単純なボイラーで供給する で,空間システムについても同様の問題が生じてい . 方法である(図 1.7) る.  ピーク負荷調整は,公共交通システムや高速道路  システム全体に過大に必要となる容量を,時間変 システムでも,ラッシュアワーの混雑・渋滞の緩和 動・季節変動によるピーク負荷の調整によって減ら に多く利用されている.通勤鉄道システムでは,乗 そうとする試みは,ピーク負荷調整として知られて 客がピーク時間帯を避けて乗車するように,ピーク いる.その目的は,システム全体の需要を平準化 時間帯以外の運賃を安くする方法がある.高速道路 し,需要を時間的に分散させることで,固定施設の 料金について,非混雑時間帯料金を設定する方法も 容量を増やすための新規投資を回避することであ ある.また,混雑を緩和するように交通量をある る.ピーク負荷調整は,基幹システムが最大出力に ルートから別のルートに移すように料金を調整する 達した場合の不足補充のために大きなコストが発生 こともできる. する事態を避けるのにも役立つ.  需要の特性は,市だけではコントロールできない  大きな費用がかかる設備投資やバックアップ対策 多くの要因に左右されるので,互いにもっと協力し を延期あるいは回避できるので,ピーク需要調整は あった方がピーク負荷調整の効果は大きくなる.こ 極めて経済的である.それは,また,資源消費の需 のためには,土地利用,時間帯別料金の設定,メー 68 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES ター技術,制御技術,企業の営業時間・学校の授業 示している.ここでは,飲料・調理・風呂用,ト 時間,サマータイム制,輸送の各ステージにおける イレ用,庭のガーデニング用へと,水のフローは 配送・保管施設の規模と位置などについて,関係者 段階的に多くの目的に利用される.多段的利用の の調整と協力が必要である.他方,企業の勤務時間 大きな利点は,効率向上(一定の供給量で多くの と学校の授業時間によって,交通のピーク負荷は大 用途に利用できる)である.しかし,実はもう1 きな影響を受けている. つの利点として,供給不足で困る時期に,希少な 資源をどうしても必要な用途に振り向ける余裕を 資源のカスケード利用:資源の質とユーザー用途 持てるということがある.資源は,複数の用途に とのマッチング カスケード的に利用された後,処理を経て,最初  資源のカスケード利用(多段的利用)は,資源 の利用ポイントに戻すことができる. フローのさまざまな経路を統合するもう1つのや  水不足状態にある都市,シンガポールでは,統合 り方である.カスケード利用は,資源の質と最終 的な水資源管理戦略を採用しており,水資源のカス ユーザーの用途をマッチングさせることで達成で ケード的利用と循環利用を含めた多くの方法を利用 きる.つまり,資源の質が劣化するのに合わせて, している(図 1.9).シンガポールはこのアプロー 質は低くてもかまわない用途にその資源を振り向 チによって,年間水需要を,2000 年の 4.54 億ト けるのである.こうして,水・エネルギー・物質 ンから,2004 年の 4.40 億トンへと減少させるの は,順番に2つあるいはそれ以上の役目を果たす に成功した (Tortajada 2006).しかも,この間に, ことができる.図 1.8 は,1回利用するだけの水 人口は 3.4%,GDP は 10.3%も増大している.多 供給システムのフローを,水質と複数の異なる用 段的利用と循環的利用は,従来の供給主導型の投資 途をマッチさせた統合的システムに転換する例を アプローチ(現状維持シナリオに基づくことが多 図 1.8 水のカスケード的利用 出典:著者作成 (Sebastian Moffatt). 説明:資源(水)が系内を上から下に落下するにつれて,その質は低下する.しかし,質の低下に応じて,異なる用途に利用することができる. 枠組み ≫ 第5章 ワンシステムアプローチ 69 都市の生命維持システム  環境技術の大きな目的は,都市が自分自身の生物 圏に存在する自然資本を利用することによって,再 生可能なやり方で自己のニーズを最大限に充足可能 なようにすることである.また,自分自身の生み出 した廃棄物をリサイクル・再利用できる閉じた輪を 実現するように,インフラシステムをつくり上げる ことである.これによって,都市域から発生する廃 棄物負荷が自然システムの持つ吸収能力を大幅に上 回ることがないようにするのである. (Kenworthy 2006: 76) 図 1.9 シンガポールにおける水のカスケードと循環の輪 出典:シンガポール公益事業局(Singapore Public Utilities Board) ,http:// www.pub.gov.sg/about/Pages/default.aspx (accessed January 2009). 図 1.10 資源循環の輪 出典:著者作成((Sebastian Moffatt). 説明:左側の例では,工場は資源を消費し,廃棄物を生み出している.右側では,都市生態系が登場し,廃熱と廃棄物は他の施設や土地で再利用さ れ,都市内部での循環の輪によってコストは小さくなり,環境への悪影響は低減する. い)を止めて,効果的な需要調整・管理を含めた新 り,水のサイクル,炭素サイクルや窒素サイクルは しい資源管理アプローチへと移行する,歓迎すべき よく知られている.都市インフラにおいて,循環の 動きである. 輪を閉じることができれば,大成功である.これ は,雨期の間に帯水層に水を貯めるとか,有機ごみ 循環的な資源利用:二次的資源利用価値の再評価 を肥料化して地域の公園・庭・農地で利用すること  循環とは,水・物質を最終的にその出発点に戻す .人家の近くでの循環は,輸 を意味する(図 1.10) 閉じた循環システム(クローズドループシステム) 送コストを安くし,家の近くで雇用が生まれ,地元 のことを言う.飲料水のリターナブル容器はその分 の手による管理が行えるといった多くのベネフィッ かり易い例であるが,それと同じ考え方は,飲料水 トをもたらす可能性を持っているので,特に効果が 容器そのものに含まれる有機物質と容器内の水につ ある. いてのもっと大きなフローにも当てはまる.  複数のインフラにまたがる多段的・循環的利用  自然の生態系では,循環はありふれたことであ の例として,ストックホルム市のハンマルビー・ 70 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES ショースタッド地区の例がある.エネルギー・水・ り,配送ネットワークは,1つの巨大施設から各 廃棄物が,何度も循環利用され,資源から得られる ユーザーに直接向かう単純な一方通行型階層構造に 効用の増大・最適化が実現している(第 3 部のス なっている.これに対して,完全な分散型システム トックホルム市の事例研究参照) では,供給と利用の関係は双方向であり,あらゆる  循環の輪(ループ)を見ることによって,その輪 向きのフローが可能になる.供給システムは,サー の中の一番弱い箇所に戦略的に投資することができ ビス需要が発生する家庭・事務所・店あるいはその る.循環の輪がどのように繋がり合っているのかを 近くから始まる.その場所で供給・貯蔵・処理が行 一度よく理解すれば,各セクターで最も効果的な投 えるようなローカルで再生可能な方法が検討され 資を行うにはどうすればよいかが分かるので,その る.例えば,屋上に設置した設備によって,雨水を 知識に基づいて現在のインフラの改修が可能にな 集め,貯蔵できるし,太陽光を集め電気や熱に変え る.例えば,水道水・下水道・ガス供給のシステム ることもできる.水道・電気等の公益企業は引き続 では,既存の管路からの漏れを少なくすることは, き設備の所有・管理を続けるだろうが,それらの施 水・エネルギーの利用効率改善のための効果的な投 設は特定の場所に位置している.しかし,特定の場 資である. 所に施設を持つのは実際的でなく,不十分かつ非経 済的な場合もある.この場合に検討すべきは,住区 分散型システムで全方向のフローに対応:より高 の集まり,街区あるいは近隣住区を対象とした選択 度の機能を持つノードとネットワーク. 肢である.  ノード(結節点)とは,ネットワークを構成する  経済的に見ると,重要な供給施設・処理施設を, 要素のことであり,ノードとノードが結合してネッ 近隣住区や地区,あるいは様々な用途のビルの小ク トワークになる(監訳者追加).ノードとネット ラスターが散在している地区の中心に設置すること ワークの統合を実現するのが,分散型システムの役 で,施設の継続的な管理・使用を実施し易くするの 割である.従来の供給主導型アプローチでは,ノー は優れたやり方である .ヨーロッパでは, (図 1.11) ドの数は非常に少ない.極端な例では,単一の大き こうした比較的小規模の熱電併給プラントによっ な供給施設があって,それが唯一の供給ノードであ て,市内の各地に分散的に電力と熱を供給している 図 1.11 廃棄物のクラスター・マネジメント 出典:著者作成 (Sebastian Moffatt). 説明:左側のシナリオは,一般的な供給モデルである.そこでは,多くの発生源からの廃棄物が集中的な輸送システムによって収集され,遠くに設置 された大規模な施設で処理される.右側では,双方向のネットワークによって,全ての廃棄物はクラスター内で処理され,外には全く排出されない. 枠組み ≫ 第5章 ワンシステムアプローチ 71 例が多く見られる.もう1つの例は,ビ ルに付設された浄化槽で,地域の公園の 地下に設置された小規模な汚水処理施設 と接続されていたり,汚泥を一番近い収 集場所やコミュニティガーデンに置かれ た高速堆肥化装置に運ぶようになってい る.分散型システムでは,利用のネット ワークが重要である.ローカルなネット ワークで集めた水,発電した電力の余剰 分は,近くの地区同士でお互いに分け 合って利用できるので,双方向の小さ なネットワークがつくられる.ユーザー の集まりで生み出した余剰エネルギーは (例えばだが),後で使うために貯蔵した り,スマートグリッドに販売したりでき る.ローカルなネットワークは,もっと 大きなネットワークの一部として,その 内部に組み込まれる.こうして,元の形 態は変化して,多くのノードを持つ1つ のシステムとなる.これは,多くのユー 図 1.12 分散型システム ザーから成るクラスターの集まりに対し 出典:著者作成 (Sebastian Moffatt). 説明 : 遠隔地に施設を持つ集中型の 1 方向的ネットワークは,分散型に転換することがで てサービスを供給し,さまざまな方向の きる.ここでは,エネルギー・システムに関する 2 つの極端な例を示す.集中型の例では, フローで構成された複雑なネットワーク 遠隔地に設置された 1 つの施設(発電所)が 1 方向型の送電ネットワークを使って,全て の最終ユーザーにサービスを供給している.分散型の場合には,半径 5 キロメートル以内 によって結ばれたシステムである.分散 の全てのビルが 1 つの地域冷暖房プラントに接続されていて,温度の低い水を使って,あ る場所から別の場所へと熱あるいは冷熱を移動させている.地域内の工場,下水や病院等 型システムは市内の広範な面積をカバー の大型ビルで余った熱が集められ,低コストで分配される.地域発電は,ビルの暖房や冷 することができるが,面積が大きくなる 房システムの運転のために廃熱を提供できる小型発電所の誕生によって可能になる.典型 的な例では,このような熱と電気の併給システムによって,全体の効率を 55%から 80% ほど,ノードの数が増えるので,地域の も上昇させることが可能である.施設の余剰電力は,電動車等の地域交通のために1年中 使える.市場価格,地域で利用できる廃棄物,天候,新技術といった条件をうまく利用し 情況に柔軟に適合できるようなネット て,さまざまな電源をミックスして使えるために,システムの柔軟性も向上する.地域発 ワークが必要になる. 電所の余剰電力は,広域の電力グリッドに提供され,負荷調整の効率化とバックアップの ために使うことができる.   ロ ッ キ ー 山 脈 研 究 所(The Rocky Mountain Institute)が行った分散型エ きなロスを減らすことができることなどである.多 ネルギーシステムの実現性・採算性に関する斬新な くの都市では,DSM によって各ノードでのサービ 総合的研究によれば,200 以上のベネフィットが ス需要は減少しているので,生産・供給された水・ あげられている(Lovins and others 2002 参照). 電気等の資源の多くが非生産的に使われているのが 最も重要なベネフィットは,システムをモジュール 現状である.分散型システムによって,これらのコ 化できるかどうかに関係しており,それによって経 ストが回避できるだけでなく,新規施設建設の費用 済・費用面のリスクは数桁も低減できる ( 図 1.12). を納税者負担から事業者負担へと変更し,事業者に ノー ド と ネ ッ ト ワ ー ク の 統 合 か ら 得 ら れ る ベ ネ は近隣住区の利益に対して長期的な関心を持っても フィットは,この他にもある.施設に占有される土 らうことができる.分散型システムのベネフィット 地代が減ること,特に輸送・転換の際に発生する大 はこれだけでなく,需要に対応して投資のペースを 72 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 上げ,供給能力と現在の需要とのマッチングを改善 フィットがある.スマートな土地利用という発想の できるとか,システム全体が壊れる危険性が低下す 裏にあるのも同じ考え方である.様々な機能をコ るといった利点もある.インフラ施設が建物の近 ミュニティ内の歩ける範囲に混在させるようにすれ くへと移動すれば,それに伴って職も移動するの ば,交通,各種サービス,商店,公園等に直ぐにア で,都市全体がもっと効率的になり,歩ける範囲内 クセスでき,わざわざ時間・エネルギー・汚染のコ で用事が足し易くなる.施設が近くなることで,そ ストをかけて,市の中心部やショッピングモールに の他,ありとあらゆるタイプの統合がやり易くなる 出かける必要がなくなる. (例えば,リサイクル,資源循環,多目的利用,文 化的に特徴ある構造物など). 多面的機能:多様な目的に対応するサービスを提  中国山東省日照市についてワールドウォッチ研究 供できる共有の空間と構造物 所(Worldwatch Institute)が行ったケーススタ  インフラシステムの全体を見ると,目的を異にす ディ(Bai2006)によれば,分散型の太陽熱温水 る複数のセクターに共通した要素がある.これらの システムは,都市のエネルギー問題解決策として有 要素は,同時,あるいは時間的なずれをともなっ 効なだけでなく,社会的公平性の問題に対処するの て,幾つかの異なるセクターと関係している.イン にも役立つ. フラ施設の統合は,このような要素に着目すること  分散型システムでは,人々の生活はノードごとに で実現できる.何処にも共通した例が,エネルギー 自立したものになるので,空間計画にとってもベネ と水のシステムである.多くの町・市では,コミュ ニティ全体で一番多くエネルギーを使っているの は,井戸等の水源から水を汲み上げるためのポンプ 場である.下水処理場の消化タンクにも,大きな 中国日照市における太陽エネルギー・システム モーターが必要で,そのためのエネルギー経費は多  日照市は中国北部にある人口約 35 万人の都市であり, 額である.このように,水の使用を減らすことは, 照明と温水供給に太陽エネルギーを利用している.1990 自動的に,上水供給と下水処理に必要なエネルギー 年代の初めに,市政府はその施設更新プログラムにおい て,市内の全ての建物に太陽熱温水器を設置することを の節約につながる.従って,統合的アプローチを選 求めた.15 年間の努力を経て,市中心部では既に 99% 択するのは合理的である. の世帯が太陽熱温水器を入手している.今では,太陽熱  エネルギーと水の統合は,単に効率向上の成果を 温水器の経済的な意味は大きい.市は面積にして 50 万 共有できるという以上のものである.例えば,カナ 平方メートルを超える太陽熱温水器パネルを有しており, それは電気温水器を使った 500 キロワットの発電に相当 ダのバンクーバー市のオリンピック村の水システム する.交通信号機と道路・公園の街灯のほとんどは太陽 は,同市のエネルギー供給システムと緊密に統合さ 光発電を電源としており,市内から発生する二酸化炭素 れている.水は,市の貯水池が存在する山から流下 や汚染を減らすのに貢献している.太陽熱温水器を 15 年 間利用するためのコストは約 1,934 米ドル(15,000 元) するパイプの中でタービンを回す.タービンは電気 と,従来型の電気温水器よりも安い.その節約額は,全 を起こす.村で水が使用された後,下水の廃熱が 国平均よりも低所得の地域で,1世帯当たり年間 120 米 ヒートポンプによって取り出され,その熱はビルの ドルにもなる.この成果は,4 つの大きな要因がまとまっ 室内暖房と給湯に使われる.下水が最終的に処理さ た結果である.すなわち,地方政府による研究の奨励と 資金援助,太陽熱温水器技術の開発と導入促進,これを れる時点で,発生したメタンガスは処理場を動かす チャンスととらえる企業の存在,そして,単にビジョン のに使われる.これは,水システムであろうか?水 を示すだけでなく活動をリードし関心を持つ人々を糾合 力発電システムであろうか?ガス火力発電システム することができた市政府の指導力である. であろうか?地域暖房システムであろうか?下水処 出典 : Bai (2006) 理システムであろうか?答えは,これら全てで「イ エス」である. 枠組み ≫ 第5章 ワンシステムアプローチ 73 図 1.13 歩行者用道路の利用 出典:Rutherford (2007). 説明 : 歩いて用事が足せるコミュニティでは,移動のための快適な歩道(その例は写真に示すとおり)が必要である.それを利用すれば,静かで安全に,し かもクールに周辺を歩き回ることができる.同時に,こうした道路は,他のインフラシステムを構成する要素の1つにもなっている.道路の両側につくられ た帯状の庭は木や花を植えるのに使われ,都市の気温を下げ,冷房に必要なエネルギー消費を減らす効果を持っている.道路の境界にはゆるやかな窪地や陥 没がつくられているが,これは地下に水を浸透させる溝の役を果たしており,大雨の時に水の流れを防いだり,流速を遅くしたりする.生ごみは堆肥にして 溝に散布するので,溝内部の土壌は栄養豊富であり,コミュニティ内の生ごみを外部に運び出す必要もない.有機分を多く含む土壌は水をたくさん吸収する ので,緑を維持するための灌漑はほとんど必要なく,市の水道代を減らすのに貢献している.道路の路盤には,返却されたビンや産業廃棄物を砕いたガラス や砂利が敷かれている.まとめると,歩行者用道路は,交通施設であると同時に,大雨の時に水の流れを管理・処理したり,有機・無機のいろいろな廃棄物 をリサイクルしたりする役目を果たし,都市の温度を下げる効果を持ち,水を効率的に使った庭園の持つアメニティも提供してくれている.  図 1.13 の写真は,西海岸環境法(West Coast 都市の形を資源フローと一体化する:空間計画と Environmental Law)という団体が行った研究で 都市デザイン あるが,小道(トレール)システムとその他のイン  ワンシステムアプローチを採用することで,都市 フラの一体化を説明している.このような多目的施 の形と資源フローがどのように統合できるか,その 設とアメニティの統合については,多くの可能性 可能性を見てみよう.都市の形を決める特性とし がある.(図 1.14 – 1.19 参照).システムの統合が て,土地利用,人口・経済活動の密度,交通網との 何らかの意味で最もうまく行くのは,実は,ある特 接続性,近接性,緑地等の環境インフラなどに着目 定のシステムを他のシステムから切り離すのが困難 し,これらの特性とインフラシステムとをうまく統 な場合である.都市サービスの様々な機能は,一番 合・調整することによって,システム全体の効率を ローカルなスケールでのコミュニティの構造にきっ 大きく改善することが可能かどうかを検討する. ちりと織り込まれているのである. 74 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 図 1.14 分散型排水処理システム 出典:著者作成 (Sebastian Moffatt). 説明:この例の場合,分散型排水処理は,ビル内の節水型設備, 個々のビルごとに設置された浄化槽による一次処理,近隣に存在 するたくさんのビルのために中庭に設置された二次処理システム で構成されている.浄化槽から取り出された水は,再循環槽内で 砂利床の上に噴霧される.再循環槽から出た処理水は安全で,飲 用以外は何にでも利用できる.この水は上水と中水の 2 系統のパ イプシステムにすることで水洗トイレに使えるし,庭園の灌漑や Wastewater 肥沃化にも使える. また,地域の工業用水として使えるし,河川 や防火用水,養魚池等での水不足を補うのにも使える. Materials Management 図 1.15 物質と廃棄物の統合的管理 図 1.16 革新的なエネルギーインフラ 出典:著者作成 (Sebastian Moffatt). 出典:著者作成 (Sebastian Moffatt). 説明:この簡単な事例は,都市の近郊(あるいは中心部)からのゴミ 説明:エネルギー・システムは,他のセクターから生まれた資源フローをう の流れが他の部門に次々と流れていく様子を示している.破砕された まく利用することができる.例えば,高速道路沿いの防音壁に太陽光発電パ ガラスは,道路の路盤材となる.生ごみは堆肥化されて栄養分となる. ネルを設置し,発電した電気は家庭でお湯をわかすのに使える.上水道シス 堆肥は土壌改良材として公園や公共緑地で使われる.精製されていな テムの中にある小さなタービンは,余剰な水圧を集めて発電できる.堆肥化 い有機物は道路脇の排水路の覆土に使われ,道路から流れてくる雨水 施設でつくられたメタンガスは,熱と電気をつくるのに利用できる. や溢流水を捕集し,浄化するのに役立つ.最後に,有機物は施設でバ イオガスに転換され,熱と電気をつくるのに使われる. 都市の形,土地利用,密度,接続性,近接性 同じ会議に出席して,同じ問題について議論するこ  空間計画とインフラシステムの設計を統合するこ とは滅多に無い.インフラの問題が土地利用計画に とは,システム全体の性能を強化する大きな機会で 影響を及ぼすことは滅多になく,その逆も然りであ ある.都市の形,混合的土地利用,接続性,近接性 る.こうした断絶にもかかわらず,インフラのコス は全て,インフラの性能に影響する.だが,こうい の検討は,土地開発プロセスの トを最小化する方法 う視点から土地利用計画を分析した例は非常に少な 早い段階で行うのが最善である. い.計画をつくる人間と技術の専門家が同じ時間に  空間計画は,密度とコンパクト度を高めること 枠組み ≫ 第5章 ワンシステムアプローチ 75 図 1.18 住宅向けの従来型供給システム 出典:著者作成 (Sebastian Moffatt). 説明:この住宅が必要とする大量の電気・ガス・水の供給は,互いに独立し 図 1.17 統合的な雨水管理 たインフラ供給システムによって行われている. 出典:著者作成 (Sebastian Moffatt). 説明:雨水の管理システムは,他の都市システムとの組み合わせに よって複合的な効果を発揮できる.自転車道は,水を地面に浸透さ せるための排水溝の役目も果たす.木陰をつくる樹木と緑の屋根は, や,重要な施設の近くに開発地区を持ってくるこ エネルギー消費を減らすとともに,雨水が排水溝に直ぐに流れ込ま ないようにしたり,雨水の流れをゆるめたりする役目も果たす.屋 とで,インフラコストの削減に貢献できる(Box 根に降った雨水を捕集して貯えるシステムは,庭や芝生に必要な水 を提供する.そして,氾濫した雨水は最後に池に流れ込んで,処理 .1戸に1人しか住んでいない家から成る低密 1.4) された排水として再利用され,下水の処理とアメニティの維持に役 度の地域に水・電気等のインフラを線上に設置した 立てられる. 場合,その量は,密集市街地に多目的の住宅・ビル が集まっている場合の 17 倍にもなる(スプロール 化のコスト).設備建設費用は,大雑把に言って, 提供する単位サービス当たりに必要な管路や道路の 長さを短くした分に比例して縮小できる.単一用途 の低密度開発の場合,地方政府が開発によって得る 開発料金や資産税の収益は,道路・給水管・下水管 等のサービス供給とインフラ整備に使う金額に比べ て少ない場合が多い.ある分析によると,カナダの オンタリオ州南西部の場合,開発料金と資産税を1 米ドル増加させるには,様々なサービス供給のため に 1.4 米ドルが必要である.このため,低密度な開 発に対しては,市のその他の地域が補助金を負担し ていることになる.  都市の形と密度は,物理的・経済的に重要なパラ メーターが供給サイドに立ったインフラ投資向けに 図 1.19 インフラシステムのための共同溝 出典:著者作成 (Sebastian Moffatt). 設定されてしまっているため,自由に変更できなく 説明:この住宅は,デザイン的に見てはるかに資源効率性が高い. なっている.公共交通機関と地域集中冷暖房は優れ このインフラ設計は,共同溝とさまざまな資源フローを組み合わせ ることによって,住宅群の中での資源の共同利用と多段的利用を推 た技術の例であるが,それらが費用的に成立するの 進しようとしている. は,都市の密度があるレベル以上の場合だけである.  都市が不規則に広がり,分散するとともに,人 を輸送するためのエネルギーは極限にまで増大し, 76 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES Box 1.4 ものの生産・加工システムから離れた場所にあるの で,幹線ライン,主要道路,ポンプ場などのために 都市の形と資源フロー 相対的に大きな投資が必要となる.遠くまで接続す  インフラシステム持続可能性は,土地利用がどう進展す るのに新たに必要となる施設建設コストは,全ユー るかの道筋によって決まる.土地利用がもたらす影響を評 価するには,同じレベルの都市であるアトランタ市とバル ザーの負担となり,その分だけ料金は高くなってし セロナ市の空間的レイアウトを比較してみる必要がある. まう.もし,その代わりに,もっと高密度で交通重 両市の人口の空間的分布を比較すると,都市の空間構造の 視の開発が,水源よりも下流の既存幹線インフラに 違いとそれが交通及びその他のインフラの運用に及ぼして 近い場所で実施されるなら,施設建設のための開発 いる影響が明らかになる.ほぼ同じくらいの人口の両市で 市民へのサービスに必要な資本費用のことを想像してみよ 費用はずっと小さくて済む.市は,もしそうしな う.配送用ネットワークの費用が資本費用全体の中で大き かった場合に比べると,新たに建設する住宅・業務 な割合を占めることを思い起こしてみよう.例えば,給水 用ビル用の上水供給・下水収集に必要となる大きな システムの費用の 70%が管路のためである.また,水シス テムの運営・管理(水の汲み上げと排水の収集・処理)及 費用を支出しないで済むことになり,その金額は, び交通システムにおいて,両市がどれくらい大きく違うか エネルギー料金支払い総額の 30%にも達すること を想像してみよう.上下水の汲み上げのためのポンプ場の がある. 費用が,多くの市において支出する電気代の約 30%にも達  都市の形と密度が,資源効率と汚染排出に対して することを思い起こしてみよう. 直接的かつ恒久的な影響を与えるので,頭脳的な空 間計画こそが,インフラの DSM( 需要調整 ) にお ける積極的取り組みの第一歩である(図 1.22).近 隣住区レベルで土地利用を混合化することで,サー ビス需要を平準化し,設計容量とインフラ建設費用 に直接影響するピーク負荷を小さくすることができ れば,システム費用の削減が可能になる.  土地利用計画は,既存インフラと計画中のインフ ラの両者の容量を考慮し,それに基づいて成長戦略 を導くものでなければならない.都市内には,電 力・道路・水の容量に余裕があって,内部遊休地の 開発あるいは新規の開発にぴったり適した場所が見 出典:Bertaud and Poole (2007). つかるかもしれない.しかし,別の場所では,容量 に余裕がなく,土地開発には,少なくとも1つある いはそれ以上の大きな施設の建設が必要かもしれな テキサス州ヒューストン市では,写真が示すよう い.理想的には,インフラの容量を精密に分析して に,歩行者は完全に都市から排除されている(図 地図化し,地図の重ね合わせ分析を参考にしながら .ヒューストン市の人口は 220 万人だが,面 1.20) 土地利用計画を立てる必要がある. 積は 1,600 万 km2 と広大である.  同時に,空間開発(及び,空間開発とそれより大  図 1.21 は,この関係を,様々な規模の都市につ 規模な投資戦略・計画との統合)は,経済的競争力 いて調べたもので,都市の形と密度が,交通のため にとって重要な意味を持っており,土地・不動産市 のエネルギー消費に重大な影響を持つことを明確に 場に影響を及ぼす.空間開発とインフラ設備投資が 示している. 一体となって,経済の大きな動きの輪郭を決定す  主要施設に対する近接性と接続性もまた重要な要 る.また,この経済の動きが,空間開発に影響を及 素である.あちこちバラバラに開発された地区は, ぼす.(空間の形と土地利用規制が,人・ものの移 枠組み ≫ 第5章 ワンシステムアプローチ 77 図 1.20 米国ヒューストン市中心部の航空写真 出典:Houston-Galveston Area Council, Google Earth. 説明:この拡大写真は,市中心部の計算上歩行可能な距離内にある土地の集まりを示している. 動と問題対処能力にどう影響するかについての詳し とは,自動車利用に対して補助金を出しているよう い情報は,第3部参照). なものである.道路への巨額の投資も同じである.  空間計画が拙いと,労働市場がばらばらになり, 都市内においては,駐車料金は市場価格で決められ 都市は,自動車を持てない人々の面倒を見ることが るべきであり,不動産価格との競争があって然るべ できなくなってしまう.この結果,石油価格の変 きである. 動に対して脆弱な都市が生まれてしまう.例えば,  交通システムの採算性・実行可能性は政策によっ 2008 年春,米国では,ガソリン価格の急騰の結果, て影響されるが,同じ政策は交通インフラの費用と 4か月間にわたって,自動車走行キロは 6%も減少 運用成績にも影響を与える.例えば,自動車の代替 した.人々が自動車から公共交通機関に変更した結 となる便利な交通手段を提供するには,1ヘクター 果,道路・駐車場に必要な土地面積は劇的に減少し ル当たり約 50 人の人口密度が必要である.つまり, た.これは,ヒューストンの写真から分かるとおり 交通と人口という2つの問題を別々に考えることは である.駐車料金を安くしたり無料にしたりするこ できない.システム全体の運用成績を改善する鍵と 78 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 図 1.21 都市の人口密度と交通関連エネルギー消費 出典:Kirby (2008). 図 1.22 都市デザインのための別のパラダイム 出典:著者作成 (Sebastian Moffatt). 説明:大規模な道路,長ったらしい管路,大きな電線群,大型のポンプ場といったものは,複数の用途を持つ,コンパクトで歩行者に やさしい設計に置き換えられる.それによって,公園や地域の社会的サービスのために政府の予算をまわすことができる. 枠組み ≫ 第5章 ワンシステムアプローチ 79 なるのは,土地利用,密度,接続性,そして,採算 性がとれ実行可能な公共交通及びその他のインフラ へのアクセスを組織的にうまく運営する戦略である. 緑のインフラ:物質システムと建築物システムの 統合.  自然のシステムとインフラの統合を可能にするの は,緑のインフラと生態工学(エコエンジニアリン グ)によってである.緑のインフラとは,都市内の 自然,すなわち,樹木,低木,生け垣,庭,緑化さ れた屋根,芝生,草地,水路のことである.これら の自然要素は,他のセクターのために各種のサービ スを供給する役目を果たしている(図 1.23 参照). 例えば,カリフォルニア州ロサンゼルス市が電力不 足で厳しい節電が必要な事態に陥った時に,市長が 行った対策は,市の通りに沿って何千本もの植樹を することだった.都市内の森林は,気温を下げ,建 物への日射を遮り,空気を冷却し,太陽光を反射す ることによって,省エネに役立っている.ロサンゼ ルス市の樹木は,同市のエネルギーインフラの一部 図 1.23 コミュニティ内の自然システムから得られる恩恵 なのである. 出典:著者作成 (Sebastian Moffatt). 説明:上の図の集落は,周辺の生態系と融合しておらず,生態系の恩恵を受  緑のインフラとして一番ありふれた例は,河川等 けることもなければ,それを効率的に利用してもいない. の流れに沿った水辺の緑地帯である.これらの緑の これと対照的に,下の図の集落では,風,標高,日照,自然を利用した下水 処理の可能性など,地域の生態学的特性をうまく利用している.この結果, 帯は,細砂や栄養分が流れに入り込むのを防ぐフィ 集落が環境にもたらす負荷は小さくなり,実際に必要な費用も少なくて済む. ルターの役目をしている.大雨が降っても,水は地 下に浸透するか,葉や根に貯えられるので,水環境 に与える被害は小さくてすみ,水処理のための設備 て,生態系は自然な方法で保全されている.公園区 投資の必要性を減らすことができる. 域に流入した氾濫水は,地上から川へと自然に放流  このような自然のシステムには,多かれ少なか される(直線的なコンクリ水路を通って,速いス れ,その都市のニーズに合うように人工の手が加え ピードで排水されるのではない)ので,下流での洪 られる.例えば,ブラジルのクリティバ市は,イグ 水は回避できる.洪水による環境災害や病気に人々 アク川を初めとする河川に囲まれているため,洪水 が曝される危険は減った.公園の建設費は,スラム が昔からの大問題であった.クリティバ市は,コン 住民の移転費用を含めても,コンクリ製の運河を建 クリ構造物を使って水の流れを制御する代わりに, 設する場合の5分の1で済むと見積もられた. 自然の排水システムをつくった.川の堤防を公園に  緑のインフラがサービス需要調整のための政策に 転換し,氾濫した水は公園内の土壌に貯えられるよ 関係する場合には,土地利用計画はそれも含めて扱 うにした.また,いくつもの人工湖をつくり,そこ うことができる.例えば,ドイツのフライブルグ市 でも氾濫水を貯留できるようにした.洪水を起こし では,地表面の透水性によって税率が異なる土地税 ていた河川水と雨水は,人工湖とその周囲の公園の を適用することで,洪水氾濫対策も対象とした土地 中に自然に封じ込められるようになった.こうし 利用計画が実施されている.このため,開発事業者 80 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES アプローチが生まれる.これは,多くの現代都市に 典型的に見られる高度に機能分化した土地利用パ ターンに別離を告げようとする,ゆっくりとした進 化の過程である.こうした利用の多様化が周辺地区 にもたらす悪影響の緩和あるいは除去は,デザイン にもっと目を向けることで実現できる.工場は必ず しも汚いものではなく,従業員の家と分離する必要 もない.実際,処理された廃棄物や排出物は今では 貴重な資源として認識され,新しい工業原料として 提供されている.商店と住宅地域を混在させること によって,居住性と持続性を高め,家庭に近い場所 図 1.24 公立学校の多目的利用 出典:著者作成 (Sebastian Moffatt). に職が創出されている. :有利な場所 コロケーション(施設の連結配置) は,開発区画の地表面をコンクリ等で固めてしまわ を利用した新しい施設の配置と線路敷設権 ないように注意しており,道に砕石を敷いたり,駐  施設のもっと効率的な利用は,関係者が協力し 車場は石で舗装したりといった工夫をしている.こ あって,有利な立地場所を戦略的に選定して設備を の結果,市は洪水の集水・輸送・処理のための設備 配置することと,線路敷設権によって達成できる. 投資を行わなくてもよくなり,納税者の費用負担の よく知られた例だが,太陽光発電や温水器のパネル 軽減につながった. を屋根に設置する場合には,日射が遮られない場所 をうまく利用しなければならない(多分パネルは, 階層化:共有空間を異なる時間に異なる目的のた . 建物に対しては日射を遮る役目を果たすだろう) めに利用する このパネルのような設備・施設を敷設する権利は,  用途の階層化は,時間についても当てはまる.学 多くの異なるサービスについて発生するので,権利 校とその校庭は,一日を通して,子供の教育のため の共有が生じる.湿式コンポスト施設は,コミュニ だけに使われるかもしれない.しかし,午後には放 ティガーデンと一緒に連結して設置することで,資 課後のプログラムのため,夕方には成人学級のため 源循環がやり易くなり,騒音,悪臭,その他の影響 に使うことができるし,さらに,週末にはコーヒー の防止も効果的に行える.関係する施設とか活動の ハウス,劇場,あるいは野外工房や農家の市場とし 計画をつくるのは別々のグループかもしれないが, て使うこともできる ( 図 1.24 参照 ).校庭は,モ 彼らの計画を統合できれば全員が利益を受ける. ンスーンの季節には洪水をコントロールする遊水 池にもなる.賢い都市は,学校を建てない.彼ら 場所づくり:社会的アメニティを根源的価値とし は,多目的の市民施設を建て,時間,曜日,平日と て創り出す 週末,季節によってその用途を変える.用途をコン  物理的構造物であるインフラ施設は,デザインの トロールするのはコミュニティであり(学校ではな 仕方によって,社会的,審美的な面でも社会に貢献 い),建物は,たとえ教室としての必要性が薄れて できる.これまで,排水処理プラントは,地上では も,コミュニティの資産として永く存続することに 見えないように隠すのが一般的だったが,もし,処 なる. 理場所が自然のままの快適な池になり,その周囲に  システムの構成要素に複数の機能を持たせること 静かな小路がめぐらされた美しい景観がつくられる で,各場所を多目的に利用できる階層型デザインの なら,もう隠す必要はない.カリフォルニア州アー 枠組み ≫ 第5章 ワンシステムアプローチ 81 中国上海市における衛生システムとエネルギーシステ 「建物等の構造物とインフラのシステムが環境と社 ムの統合 会のシステム及びそれらの動態と 1 つに融合する とき,土地というものに対する感覚はもっと敏感  世界銀行が資金支援する中国上海市環境プログラムの中 になる….このような融合が起きるとき,構造物 の 1 つとして,上海市下水道公社は,発生汚泥処理のため とインフラのシステムは,人と土地との融合に関 の大規模な焼却施設建設を計画している.公社は,汚泥の する情報交流を通して,真に人間のための資源利 乾燥には,近くの火力発電所から発生する蒸気を使おうと 用を実現する. 」 計画している.発電所で発生する蒸気を利用することは, 汚泥焼却施設の効率と安全性の向上につながると同時に, 出典:Motloch (2001: 58). 温室効果ガス排出をもたらす輸入原油の燃焼を削減するこ とにもなる. ヴィンの水処理システムは,小川や池,散策路と結 ばれ,ユニークで楽しい体験ができるので,住民は 的条件が決められている.また,それによって,都 ここを公園として頻繁に利用している.貯水タンク 市の形・密度,インフラシステム(需要と供給)が は,彫刻作品として道案内のランドマークになり得 影響を受け,人工的な環境として何をつくるべき る.リサイクルのための回収場所は,コミュニティ か,どんな可能性があるかが決まる.都市の存在場 の集会場所にできる.統合をデザインの目的に掲げ 所によって,自然資源(再生可能エネルギーなど) るなら,こうした可能性は無限に広がる. へのアクセスと近接度,地域経済へのアクセス・結 びつきも決定される. 統合的な実施方法の採用  人間と同じように,都市もその背骨,つまり,大  ここでは,プロジェクトを推進するに際して, きな枠組みがしっかりしていて,短期間に次々と移 もっと良く統合化されたアプローチを利用するには り変わる色々な問題に対応する方針を示すことがで どうすればよいかを検討する.これは,時間的に順 きれば,一番効率的に機能する.典型的には,ロー 序よく投資を実施することで,最初に正しい基礎を カルな生態系・自然資産,土地利用パターン(線路 築き,分野にまたがる長期的な問題に取り組むこと 敷設権[監訳者註:公共道路,電力,水道等にアク を意味する.これは,また,統合的なアプローチが セスするために他人の土地や管路を利用してライン 実施できるような政治的状況をつくり,使える政策 を敷設する権利]を含む)や建物ストックのような ツールを最大限に活用し,重要な政策を整理してま ゆっくりと変化する課題から,管理政策や消費者行 とめるために様々な関係者と協働し,新しく都市化 動のようにもっと変化の速い課題へと,都市の問題 する地域と既存都市域との間の条件の違いを反映す は入れ替わりながら進行する. る新しい政策を目指すことを意味する.  長期にわたる課題ほど優先順位が高いのは,そう した課題の変化はゆっくりしていて,大きな費用を 時系列的実施:段階的な投資を利用してシステム ともない,他のセクターの動きを制約するからであ 全体の複合的相乗効果を発揮させる る.このレベルでの統合が実現できる重要なチャン  時系列的実施とは,あるセクターでの決定が別の スを逃してしまうと,問題の再整理と是正に長い時 セクターにおける統合を妨げることがないよう,統 間がかかってしまう. 合の戦略を時間的に順序立てて実施することであ  図 1.25 は,プロジェクトの診断段階で統合を行 る.例えば,都市が何処に位置し,どの方角に向 うための,時間的実施順序に関する指針である.外 かって成長しているかが,都市の空間的な優位性と 側から内側へと移るにつれて,統合のための具体 制約を決める基本的要因である.都市の存在場所に 的な機会が次々と登場することが理解できるだろ よって,都市の高度・地形・気候等の物理的・環境 う.最初のステップとしては,インフラを周囲の生 82 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES インドのゴア市における持続可能な都市デザイン  都市デザインの流れは,生態系と景観のデザイ ンから出発して,ゴア市の自然システム,歴史的 遺産,市街地の建築群をすべて融合しつつ,1 つ の濃縮した構造を形成するに至っている.人間の 居住地が主人となって景観を従属化するのではな く,生物多様性の海に浮かぶコンパクトな島とし て人間の居住地が存在する.  また,人間の居住地自体もこれらと同じ原則に 基づき,斜面と等高線,水が流下するライン,水 と交通のネットワークなどの条件に従うように計 画されている.居住地は周囲の農地,園芸地,森 林の中に織り込まれたように存在し,居住地には 緑地が指のようになって侵入している. 出典:Revi and others (2006: 64). 図 1.25 時間の輪 出典:著者作成 (Sebastian Moffatt). 説明:時間の輪は,最適な利益を得るにはどんな順番で投資を行えばよいか を決めるのに役立つ.戦略的なインフラ計画づくりにおいては,統合化につ いて考えられるあらゆる可能性を検討するが,最もゆっくり変化する要素 (例えば,インフラと自然システム及び土地利用計画との統合)の検討から くさん知っているだろう.カナダで最初の持続可能 出発して,最も変化の速い要素(例えば,管理システムの統合,消費者への インセンティブの付与,モニタリングと適応)へと順次に進む. な混合土地利用開発として知られるヴィクトリア州 ドックサイド市の地下に新設されたオンサイトの下 水処理場の提案を見てみよう.システムは最終的に 態系・資源基盤に調和させるのが望ましい.その次 は建設され,現在稼働中であるが,開発事業者は当 が,都市の形と土地利用との統合である.さらに, 初何か月にもわたる難しい交渉に直面しなければな その次が,需要の削減である.これは,常識であ らなかった.市の未処理下水は全部海洋投棄されて る.もし,類似の投資によって,ローカルな生態系 いたにもかかわらず,市当局は,オンサイトの下水 やスマートな成長,需要削減が実現可能で,それに 処理場の案を好まなかったのである.市の規則で よってもっと持続性の高いソリューションが提供で は,住宅地域に下水処理プラントを設置してはいけ きるとすれば,遠隔地に大規模な供給・処理システ ないことになっていたので,開発事業者の提案は最 ムを建設するために投資する理由は無くなる. 初は拒否された.健康局が定めた別の規則では,処 理水をトイレやガーデニングに利用することは禁じ 実現可能にする:タイプの異なる統合戦略の実施 られていたので,ドックサイド新住区に使われる技 を可能にする政策の推進 術は先進的なものであったにしても,環境的には  やる気は十分でも,持続可能なインフラと土地利 劣ったものだった.こんな状況では,汚水再利用の 用のための施策を実施しようとして失敗することも ベネフィットは生かしようがなかった.しかも,も ある.時代遅れの政策によって,新しいアプローチ う1つ,市の資産税構造に問題があり,ドックサイ が邪魔されたり,利用可能な技術の採用が故意に凍 ドの住民は,自分達はそれを使用しないにもかかわ 結させられたりすることがある.あるゴールのため らず,やがて完成予定だった別の下水道システムの に推進している政策が,思いがけず,予想もしてい 費用の一部を負担しなければならなかった. なかった分野のデザインソリューションに影響を与  どの市にも新しいワンシステムの計画枠組みと矛 えることもある.エコロジカルデザインを実践した 盾する政策がたくさんあって,エコロジカルな設 ことのある開発事業者なら誰でも,こうした話をた 計・管理に基づく新規プロジェクトを実施する時の 枠組み ≫ 第5章 ワンシステムアプローチ 83 障害になっているのが現実である.Eco2 触媒プロ い.まず第1に,資金的道具として,経済的インセ ジェクトの最も重要な成果の1つは,政策のこうし ンティブ,補助金,価格,税制,料金体系,市場改 た矛盾点を明らかにしたことである.触媒プロジェ 革,購買ポリシーなど,たくさんのものがある.第 クトにおいては,こうした問題は,協働の枠組みに 2に,特別な計画づくりによるイニシアティブとし よって早急に解決され,新しい政策の推進につなが て,新しい計画策定,新しい制度づくり,制度面の るだろう. 改革,特別報告書の作成,特別なイベントの実施な  一般に,実施能力の育成を目指した政策は,単に どがある.第3に研究と実証実験の対象として,革 問題点を解消するだけでなく,それ以上の効果を持 新的な技術の採用,先進事例の視察,実態調査,調 つ.理想的には,市内部の政治環境の変化によっ 査とアセスメント,会議開催,政策研究センターの て,ゴール達成を重視した枠組みが強化され,規則 設置,予測などがある.第4は教育・啓発であり, は,やり方を細かく決めるのではなく,達成すべき 専門的訓練,ビジョンづくりの演習,共同研修,コ 成果を示すものになるだろう.市は,コミュニティ ミュニティでの実践活動,教育カリキュラム改訂, 全体にとっての制約条件と目標を明確にする必要が 特別出版,コミュニケーション,ソーシャルネット あるが,最も創造的なデザインソリューションは, ワーク,社会的資本(ソーシャルキャピタル)への 建物とか,土地の区画,近隣住区といった一番ロー 投資などがある.最後の第5は法律・規制であり, カルなスケールにおける施策を通じて生まれる.決 広範な規則,規定・基準,特別の罰金,監視・取り 定を行う第一責任は,地域の関係者・意思決定者に 締まりなどがある. 残しておく必要がある.最初にデザインを検討する  場合によっては,市がいずれかの政策を採用しよ のはこれらの人々であり,革新的なことを決める自 うとしても,国の法律によって制限を受けるかもし 由度を持つのも彼らである.技術的・経済的な理 れない.しかし,上位政府の職員と関係者で構成さ 由,あるいは,その他の具体的な理由のために地域 れた協働ワーキンググループを通して,このような でうまく提供・実現できないサービスや性能要件に 制限に打ち勝つことができるだろう.いかなる場合 限って,より上位のレベルに対応を任せるべきであ でも,時間と資金が許す限り,これらの道具の全部 る.広域レベルでは,インフラ関連の政策・投資の をフルセットで利用するのが,目標達成のための最 必要性は低下する.ただ,例外的に,地域レベルで 善のアプローチである. の統合(広域的な交通システムのように)が必要な  例えば,一番安い費用で水の使用量を減らすこと 場合がある.この理想的見方に従えば,都市におけ を市が望むなら,協働の舞台をベースにした統合的 る政策の推進は,自然生態系の持つ自己組織的かつ アプローチを検討するのがよいだろう.これには, 自律的な能力を模倣することから開始される. 以下の活動が含まれる. 調整:提案する方法には少なくとも5つの特色が (1) 市民の意識啓発・教育を利用して,家庭・企業 必要 に節水の必要性と利益を確信させ,彼らの支持  地方政府は,ワンシステムアプローチの実施に利 を得ながら料金値上げを検討する(ステークホ 用できるたくさんの政策ツールを持っている.しか ルダーの参画). し,法律・規制に焦点を当てたものが,あまりに多 (2) 水に関する税・料金・価格設定の体系を調節す すぎる.統合的なアプローチを実行するには,市及 る(政策・規制と需要調整). び市と協働する関係者は,利用できる手段を最大限 (3) 節水型蛇口・トイレの採用を奨励する(建築設 に活用しなければならない.どんな Eco2 プロジェ 備に関する規制基準と市民の意識啓発) クトでも,その実現に寄与するためには,少なくと (4) 新規に入居する市民・企業向けのガイドライ も5種類の手段を統合的に利用しなければならな ン・基準を工夫して,最良の節水型蛇口・トイ 84 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES レの導入を奨励する.また,民間の供給事業者 まれる.市民全体が,また,特別な能力・関心を持 向けの調達ポリシーを考案して,最善の技術が つ個々人がどんな貢献をできるかは,協働の取り組 供給されるようにする(民間ステークホルダー みを通して明らかになる. の参画). (5) 雨水を集め,処理水を再利用するインセンティ 結集:計画枠組みのゴールと戦略に沿った一貫性 ブを提供する(資源管理と市場改革). のある政策を推進 (6) ピーク負荷需要を小さくするために,利用が特  新しい政策はすべて,長期的な計画枠組みで決め 定の時間帯に集中しないようなインセンティブ られた適切なゴールと戦略に基づかねばならず,ま をつくる.また,容量が一番大きい地区の貯水 た,政策推進の論拠としてそれを利用しなければな システムと給水システムを統合する. らない.時々,政策レビューの結果として自然に起 (7) システムの更新・改善により,漏水を減らす. きるリズムの範囲内で,政策の変更が起きるのは仕 方ないことであり,その結果,遅延が起きることが  これらの対策はどれも,水の消費を減らすことに ある.しかし,変更を提案する場合には,サイクル つながる.同時に,水の汲み上げのためのエネル の早い時点でそれを用意した方がよい.そうすれ ギー消費を減らし,最大負荷時に備えた管路とポン ば,政策レビュープロセスの順番に早く並んで待つ プへの要求(すなわち,設計仕様)を軽くすること ことができる.結集する政策の数を増やすには,制 で,水システムの中で一番大きいコストを減らすの 度改革が必要かもしれない.特に,政府と民間のさ にも貢献する.供給サイドでは,水システムへの投 まざまなグループのネットワークに拘束されて身動 資を計画する場合,管路と給水ネットワークの設計・ きできない開発パターンに陥った場合には,そうで 配置及び処理場の位置は,エネルギーと土地利用 ある ( 第2章参照 ). (例えば, の効率を考慮して決めなければならない.  我々は,都市の空間的形が重要なことを理解し どんな地形か,地形と需要地の関係がどうなってい た.政府の施策(交通への投資,土地所有に対する るかは,上水・下水のネットワークにおいて,重力 規制,税制)と市場メカニズムとの関係は複雑であ による流れを効果的に利用するために頻繁に検討さ り,この相互作用の結果として都市の空間的形がつ . れている) くられる.表 1.2 は,政府の施策と都市の形の複 雑な関係をまとめたものである.もちろん,それぞ 協働:様々なステークホルダーの政策の実施時期 れのケースの具体的な条件に左右されることが多い を合わせる ので,この表はあらゆる場合に当てはまるわけでは  皆が同じ方向に櫂を漕ぐのが最善である.すべて ない.例えば,成長する都市の周縁に位置していて の関係者,プロジェクトの仲間が,各自の権限,技 影響に敏感な地域の保全には,その場所の情況に適 能,資金等に基づく様々な政策手段を持ち寄ること 合したやり方で,容積率の緩和や開発権の委譲等の で,ユニークな組み合わせが生まれる.新規プロ 対策を組み合わせて,地価が急騰しないようにする ジェクトを実施しようとする都市の課題は,すべて ことができる. のステークホルダーに,彼らが行使できる政策・プ  ワンシステムの立場から見たときに一番重要なの ログラムを結集する準備を完了させておき,プロ は,表 1.2 に列挙する政府の施策はほとんど目的が ジェクトのゴールと戦略の支援のために彼らが得意 限定されていて,土地の需要・供給,土地の形の長 とする強みを発揮できる状態にしておくことであ 期的な変化への影響のことは全く考えておらず,経 る.国,州・県等の上位政府や,地域の水道・電気 済・資源に対してどんな付随的意味を持つかも考慮 等の公益企業,民間企業,NGO と協力することに していないことである.例えば,環状道路の建設の よって,広範かつ多様な政策手段の組み合わせが生 場合,混雑緩和のために都市の中心部に交通をバイ 枠組み ≫ 第5章 ワンシステムアプローチ 85 表 1.2 政府の取り組みが土地市場,インフォーマルセクターの規模及び都市の空間構造に及ぼす影響 インフォーマ ルセクターの 規模に及ぼす 市場の反応 影響 空間的影響 政府の施策 分散化 集中化 土地供給 地価 人口 雇用 人口 雇用 セクター 中心部 郊外部 中心部 郊外部 交通インフラ 放射状道路の改善 / 建設 (+) (+) (-) (-) (+) (+) 環状道路の建設 (+ +) (-) (-) (-) (+) (+) 放射状の交通路線建設 (+) (+ +) (-) (-) (+) (+ +) 網状の交通路線建設 (+) (-) (-) (-) (+) (+) 土地利用規制 低層地区の割合 (+ +) (+ +) (+ +) (+) (+) 最小区画の大きさ (-) (+) (+ +) (+) 質の高い土地開発 (-) (+) (+ +) (+) 建築許可取得にかかる時間 (-) (- -) (+ +) (+ +) (+ +) (+) (+) ゾーニングの制約 (-) (- -) (+ +) (+ + +) 都市成長の境界設定(UGB) (- -) (+ +) (+ +) (?) (?) 土地所有 政府所有地の拡大 (- -) (- -) (+ +) (+ +) (+ +) (+) (+) 地代の規制 (-) (+ +) (+ + +) 周辺地域における土地取引規制 (- -) (+ +) (+ +) (+ + +) (+) (+) 土地取引課税 (-) (+ + +) 出典:Bertaud (2009). + =増加,ー = 減少,(?) = 不明 . パスさせることが目的であって,土地の供給と地価 わせを大幅に減らすことができるはずである. に与える影響はほとんど考えられていない.都市開 発に関する規制と投資の目的にワンシステムアプ 政策目標の明確化:既成市街地と新規開発のニー ローチのことが考慮されていない以上は,政府の施 ズの違いを認識する 策の間に多くの矛盾があったとしても,特に驚くこ  投資の順序と施設の建設費に一番大きく影響する とではない.例えば,インドのバンガロール市で 要因の1つは,開発の重点を何に置くかと,新たに は,地方政府は,BRT(バス高速輸送)システム 都市化が進んでいる地域と既に都市化している地域 に予算をつけて市中心部に雇用を集中させようとし のどちらを重視するかである.大概の都市は,両方 た.ところが,都心ビジネス街の容積率を郊外より のタイプの地域を有しているので,それに応じて戦 小さいままに据え置いていたため,都心ビジネス街 略を調整し,目的に適した戦略に狙いを定めること への雇用の集中は妨げられ,バスシステム導入を正 が重要である. 当化する最初の根拠が損なわれてしまった.  地方政府内の2つの部局――この例では交通部局 新規の開発 と土地利用部局――の間で生じたこの種の施策の矛  新たに都市化が進んでいる地域の場合,ワンシス 盾は,むしろ何処にでも見られることである.交通 テムアプローチが適用できる可能性は非常に大き 工学の専門家は,交通ルート沿いを高密度化して, い.ただし,予算と設計チームの能力が大きな制約 できるだけ多くの乗客が設計した交通システムを利 となるかもしれない.新たな都市化が明らかに有利 用するようにしたいと思っている.都心の混雑に直 なのは,土地利用の経験や空間計画の原則などから 面している都市計画専門家は,混雑緩和には密度を 最善の案を選んで採用し,土地利用計画とインフラ 減らすように規制する方が簡単だと考える.ここで システムの設計を統合的に行える可能性を持ってい こそ,計画の枠組みが価値を持つのである.枠組み ることである.投資の時機と順番を最適に調節する が存在することによって,施策のちぐはぐな組み合 ことにより,費用対効果の高いやり方で,徐々に都 86 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 市化を進行させるように舞台を設定できる.道路や 運営・管理するコストは非常に大きいことが多いの 各種サービス供給施設のために線路敷設権を確保し で,住区を完全に改修するか,市民生活と事業活動 ておくことは容易である.これは,重要な政府施設 に混乱をもたらさないなら,場合によっては,再開 や,水・電気等の公益事業施設,オープンスペース 発する方が合理的かもしれない.拙劣に計画された のために土地の配分・用途指定を行うのが容易なの 都市は,資源を浪費し続けるものの代表である.既 と同様である. 成の都市域については,現在の形を保ったままもっ  ドイツのフライブルグ市の例では,交通サービス と効果的に機能させるように,色々な施策を実施す と土地開発計画が共同で推進されている.街区ブ ることができる.その施策は,改修と再開発の2つ ロック内で LRT(ライトレール交通)のサービス のカテゴリーに分類されるのが普通である.既成都 が開始されるまで,新規居住者には駐車場等の施設 市域の改修のためには,地域全体を再開発せずに, 使用権が与えられないので,通勤に自動車を使おう 既存のビル等の構造物ストック及びインフラを利用 とする新来者を減らす効果を持っている.これによ して,それらの機能を強化しなければならない.改 り,開発の中での道路建設の要求は最小に抑えられ 修対策の例としては,エネルギー・水の最終利用効 ている. 率改善,廃棄物の発生抑制・再利用・リサイクル,  しかし,変化が速いか遅いかは複雑な問題であ 既存の交通インフラ(道路)のもっと効率的な利用 り,様々な土地所有者と政府関係部局のそれぞれが (例えば,BRT のルートとして利用するとか,自動 どのような事業計画を持ち,どの程度の資金能力を 車専用レーンをつくる)などがある. 持っているかによって左右される.ほとんどの都市  再開発とは,都市のある区域を取り壊して再建設 において,十分に考え抜かれた空間計画を新しい場 することであり,一般的にはより複雑になる.再開 所で実施しようとする場合に直面する1つの大きな 発は,既成の土地利用と秩序に変化をもたらすた 障害は,現実の土地所有関係と,土地に対する市の め,政治的・社会的・経済的なコストが大きく,そ 影響力・財政力の限界の問題である.ばらばらの土 れだけ難しくなる.新たなゾーニングや,交通機関 地所有者に互いに協力してもらい,新規開発地域に のルート設定は,一方的にはできないし,時間もか おける無計画な土地利用の拡大を防ぐには,特別な かる.また,互いにばらばらに独立した多数の建物 政策が必要かもしれない.こうした政策の1つの例 へのサービスを改善・強化するのも容易ではない. として,都市内での土地プール制と土地区画整理が 多くのステークホルダーが意思決定に参加しなけれ ある.この方法は,土地と資金という2つの問題を ばならない.ここで,コミュニティが必要な調整を 同時に扱っている点でとりわけ興味深い.その簡単 行えるようにすれば,プロジェクトの実施にかかる な説明を Box1.5 に示す. 時間は長くならざるを得ない.少しずつ実施すべき かもしれないが,その場合には,施策の順序を自由 既成都市域の改修と再開発 に決めるのが難しくなる.開発には,スラム地区の  都市問題に立ち向かう際に我々が直面する困難の 改善に必要な複雑な措置や新たな水・電気等の線路 1つは,恒久性というものに対する幻想である.建 敷設権の調整が必要になる. 物や道路であれ,樹木であれ,余程特別なことが起  変化のペースは,既存施設のストックが自然に老 きない限り,それらの物理的実体が劇的に変化する 朽化して更新されるのに合わせて,徐々に進行させ ことはない.しかし,もちろん,現実はほぼその逆 る必要がある.あるいは,サービスの質と運営コス である.住区を現在の形のまま維持し,建物や道路 トから見て,大規模な都市開発を行った方が合理的 の老朽化を遅らせ,すべての住民・企業にサービス だという判断が下されるまで待たねばならない.し を供給するには,日々,膨大な量のエネルギーと時 かし,都市は,既成市街地の分布・密度・用途を再 間が必要である.実際,都市内のたくさんの住区を 構築することによって,創造的で費用対効果も優れ 枠組み ≫ 第5章 ワンシステムアプローチ 87 Box 1.5 都市における土地プール化と土地区画整理  土地のプール化と区画整理は,都市内の土地利用を管 持っていなければならない. 理し,開発資金を得るための革新的な方法である.地方  事業の費用と利益,例えば土地の値上がりによる利 政府と中央政府はこうした方法を適用することによっ 益を地主の間でどう分配するかは,事業に対して拠出 て,市街地の周縁部において特定の区域を選び,まだ市 した土地をベースに決められる.個々の地主への分配額 街地化されていない農地などを,計画的な道路,電気・ は,当人が提供した区画が土地の全面積に対して占める ガス・水道等の公益事業用のライン,公共の空き地,市 割合,あるいは当人が提供した区画の推定市場価値が土 街地として必要なサービスが提供された建築用区画へと 地全体の推定市場価値に対して占める割合によって計算 転換する.一部の区画は費用回収のために販売され,そ される.土地の所有権の面で,土地のプール化と区画整 の他の区画は市街地化されていない農地等と交換する形 理には法律的に大きな違いがある.土地プール化事業で で地主に分配される.この方法がうまく行くためには, は,複数の分離した区画の所有権が法律的に1つに統合 分割後に地主に分配される市街地用地の価値が,事業開 され,土地プール担当機関に譲渡される.その後,一番 始以前の価値よりもはるかに高くなければならない.典 新しい建築用地区画の所有権が地主に返還される.土地 型的なやり方に従えば,土地のプール化と区画整理の権 区画整理事業では,所有権は概念的に統合されるだけで, 限を持つ機関が,市街地周縁部の中から開発予定区域を 土地区画整理担当機関は,全体を見ながら各区画にどの 選択・指定し,対象となる土地区画とその地主を特定す ようなサービスを供給するか,区画をさらにどう細分化 る.その上で,事業をどのように計画・決定し,説明す するかを決定する権限を持っている.そして,事業の最 るか,資金的な採算をどう示すかの手順が用意される. 終段階で,地主達は彼らのこれまでの土地所有権利書を この方法の成功の鍵となるのは,提案された各事業に対 新しい市街地区画の権利書と交換する.こうした事業の して大多数の地主の支持が得られるかどうかであり,こ 成功例は,インドネシア,日本,韓国などにたくさんあ れは事業の場所を選ぶときに考慮すべき重要なポイント る.これによく似た土地のプール化と区画整理の方法は, となる.ここで,各事業に対する地主の合意と支持が重 インドのグジャラート州で行われており,都市計画事業 要なことを強調しなければいけないものの,土地のプー 手続きとして知られている.(図 1.26 及び図 1.27 参照. ル化と区画整理の担当機関は,もしそれが必要となれば, そこでは,グジャラート州での事業開始前と後のシナリ 指定された事業区域内の事業に反対する少数地主に対し オが示されている.) て政府が持つ強制的買収の権限を行使する能力と意思を 出典:Mehta and Dastur (2008). たやり方を開発することができる.具体的には,容 的サービスの必要性を公式に認めたり,実際にサー 積率の緩和,開発権の委譲(第3部のクリティバ市 ビスを導入したりすることは,やはり見返りとして の事例を参照),ゾーニング・土地用途変更がある 意味がある.市内のある地域・区域でかなり大規模 し,建築規則・基準の改定・実施も重要である.こ な再開発プロジェクトを実施することによって,既 れらのステップを踏むことにより,民間の力で再開 存地域の持続可能性の強化に成功してきたことも事 発しようとするインセンティブが生まれるかもしれ 実である.古い工場地帯を再開発してウォーターフ ない.場合によっては,土地利用を再調整するため ロントの住宅地に変えたケースがこれである.古い に土地区画整理事業等を使うことができるが,その 地域は利用されていないことが多いので,プロジェ 場合,都市内の既成コミュニティには多くの利害関 クトの調整や合意形成は比較的容易である.既成の 係者が存在する.彼らが建物・住宅等の構造物を既 近隣住宅区の再開発は,取り壊しが必要な部分が相 に所有している場合,都市再開発目的のために彼ら 当に多くなるので,合意による支持は受けにくくな の所有財産を取り壊すことについての同意を得るの る.こうした場合には,既存施設の改修とか,資源 はとても困難である.しかし,もし容積率が大幅に 効率性を高める新たな建築基準に適合することの見 緩和されれば,経済的な見返りとして大きな意味が 返りとして,容積率緩和のインセンティブを創り出 ある.スラムの場合には,排水・水道・衛生の基本 す方がより現実的であることが多い. 88 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 図 1.26 土地区画整理事業前のシャンティグラム町,インドのグジャラート州 出典:Ballaney (2008). 説明:本図と次図(図 1.27)は,インドのグジャラート州における土地区画整理の実施前と実施後のシナリオを示している.                     も失われてしまいかねない. ワンシステムアプローチのための手順  然るべき関係機関・関係者に十分な情報を提供 訓練・研修・能力開発を必要な時に即時に実施する し,彼らからの支援が受けられるように,また,彼  都市の指導者は,地元の専門家達がワンシステム らが持っている力が十分に発揮できるように,特別 アプローチを快く受け入れることができるよう,さ な努力が払われている.訓練・研修には,触媒プロ まざまな機会を用意しなければいけない.例えば, ジェクトや新しいアプローチに接することで利益を Eco2 触媒プロジェクトは,新しい取り組みの手順・ 受ける地元のコンサルタント・企業にも参加しても 方法について,専門スタッフを訓練する具体的な機 らうのが良いだろう.訓練・研修を受けないと,こ 会である.理想的に言えば,新しいスキルは即座に れらの地元専門家達は,プロジェクトの邪魔をし, 利用される必要があるので,訓練はタイミング良く 支援に参加するのを断るかもしれない.地元におい 実施する必要がある.そうしないと,折角のスキル て専門的知識・技能を培うことは1つの投資であ 枠組み ≫ 第5章 ワンシステムアプローチ 89 図 1.27 シャンティグラム市:供用開始後の土地区画,インドのグジャラート州 出典:Ballaney (2008). り,それによって,1つの都市として,また,国内 市から学ぶのは,特に役に立つ. 諸都市の全体として,何を達成できるかが最終的に  第2部,方法:本章で概説したようなデザイン・ 左右される. 分析・体制・実施方法に従ってワンシステムアプ  ワンシステムアプローチにおける訓練・研修は, ローチを適用するには,鍵となる重要な方法・ツー さまざまな資源を活用することによって効果をあげ ルに習熟し,それらを使いこなす必要がある.そう ることができる. した方法・ツールの幾つかは,都市を舞台とした意  他都市の事例:関心を抱いた都市は,他都市及び 思決定支援システムにおいて紹介されている(第2 都市計画を専門とする研究所・機関における重要な 部を参照).統合のために利用できる可能性を最大 経験を調べることができる.ワンシステムアプロー 限に活用するには,その結果がどうなるかを検討・ チの実施に成功し,こうした取り組みを持続的に推 分析する方法・ツールが必要である.特に,物質フ 進するための制度・組織の枠組みを創り上げた他都 ロー分析と地図のオーバーレイ(重ね合わせ)解析 90 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES については,熟知しておく必要がある. れたツールであり,短時間のうちに創造的かつ効果  第3部,ケーススタディとセクター別留意事項: 的な提案を生み出すのに役立つ.システムデザイン 事例ガイドに記されているセクター別留意事項は, のためのシャレットをうまく計画・実施すること 個々のセクターに関する情報とより詳しい具体的な で,満足度 90%以上の最終コンセプトプランが出 アイデアを提供するものである.調査ガイドで特に 来上がることもある.規制・管理業務の担当者に 取り上げている優良事例のケーススタディは,ス シャレットに参加してもらうことは,革新的進歩を タッフ一同とコンサルタントの人達に,現実に行わ 実現するために,従来からの政策のうちで改正もし れたアプローチとそこで得られた重要な教訓の例を くは廃止が必要なものは何かを明らかにする上で役 示してくれるだろう. に立つだろう.デザインシャレットは,関係者の間 に前向きに協力する気持ちを生み出し,専門家たち 統合的デザイン予備ワークショップの連続開催 に新しい理念・技術に慣れ親しんでもらうためにも  統合的デザインワークショップによって,計画策 役に立つ.最後に,統合的なデザインプロセスは, 定者・設計者・技術者が集まって,新しい手法と 政策の何らかの変革を含むコンセプトプランの提案 情報を使ってみる重要な機会が生まれる.ワーク によって完了する. ショップの開催回数と対象範囲は状況によって異な る.ある場合には,ゴールの明確化と目標設定,関 全ての関係者が有する政策ツールを結集し,実施 係者同士の情報共有のために1,2度だけ,簡潔な を成功させよう ワークショップを開くのが一番良い.大きな方向と  本章で概略をまとめた手続きと手法を利用し,統 優先課題は,関係者で共有しあう枠組みを作成する 合的なやり方でプロジェクトを実施しよう.これに 際に,整理され,より洗練された内容になるだろ よって,必要な投資を順番に正しく行うことがで う.ワークショップでは,この枠組み(既に確立さ き,事業を共同で推進している関係者と住民の貢献 れていればであるが)を利用して,議論の方向を定 を引き出し,ステークホルダー間で戦略を調整し, め,あるいは,創造的な思考を生み出すための刺激 計画の枠組みに合致した政策を結集・推進すること を与え,どのような戦略・行動を採用するのが良い が可能になる.協働作業の実施によって,全ての利 かを検討できる.ワークショップでは,分析手法の 害関係者が,コンセプトプランの実行と企図した成 検討も行い,参照すべき基準を設定する目的で,自 果の達成に向けて,不足を補うのに役立つ様々な政 然体(BAU)シナリオをつくる作業も行う.この 策ツールをどう使えばよいかが検討できる.戦略的 シナリオには,物質フロー分析とメタダイアグラ 行動計画は,様々な仕事の1つひとつについて誰が ム,地図のオーバーレイ,リスクアセスメントなど 責任を持つかを明らかにし,様々な政策がどう作用 の分析方法の結果も含まれる.ワークショップは, しあうかを示すことができる.もしそれが適切な場 次に行うもっと集中的なデザインワークの準備とし 合には,実行可能性に関する計画と詳細なマスター て,検討結果をまとめるのにも活用できる. プランを作成して,個別の課題や作業の進行段階ご とに,達成内容の説明とガイドラインを示すのが良 デザインソリューションの作成,コンセプトプラ いだろう. ンの準備  プロジェクトの設計・構築・管理に関する代替案 の作成には,統合的なデザイン手法を用いなければ ならない.都市システムデザインのための数日の シャレット(第2部で議論するような集中的なワー クショップ)は,統合的デザインを円滑に進める優 枠組み ≫ 第5章 ワンシステムアプローチ 91 Kirby, Alex. 2008. Kick the Habit: A UN Guide to Climate 参考文献 Neutrality. Nairobi: United Nations Environment Baccini, Peter, and Franz Oswald. 1998. Netzstadt: Programme. Transdisziplinäre Methoden zum Umbau urbaner Lahti, Pekka, ed. 2006. Towards Sustainable Urban Systeme. Zurich: vdf Hochschulverlag. Infrastructure: Assessment, Tools and Good Practice. Bai Xuemei. 2006. “Solar-Powered City: Rizhao, China.” In Helsinki: European Science Foundation. State of the World 2007: Our Urban Future, ed. Lovins, Amory B., E. Kyle Datta, Thomas Feiler, Worldwatch Institute, 108–9. Karl R. Rábago, Joel N. Swisher, André Lehmann, and Washington, DC: Worldwatch Institute. Ken Wicker. 2002. Small Is Profitable: Ballaney, Shirley. 2008. “The Town Planning The Hidden Economic Benefits of Making Electrical Mechanism in Gujarat, India.” World Bank, Washing- Resources the Right Size. Snowmass, CO: Rocky ton, DC. Mountain Institute. 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Sustainable City Development.” Environment and Urbanization 18 (1): 67–85. 93 第6章 持続可能性と復元力に 重きを置く投資枠組み  第 6 章では,プロジェクトや政策に関する全てのコストとベネフィットを理解するため に必要な会計勘定の手法・枠組みを紹介する.最初に,都市を対象としたライフサイクル コスティングに関する基礎的事項と,これを可能にする政策や手段について述べる.次に, Eco2 都市では経済勘定の枠組みの拡張が必要なことを説明する.この拡張された枠組みで は,人工資本,自然資本,社会資本,人間資本という異なるカテゴリーの資産を同等に扱 う.本章では,あらゆるセクターに関する長期予測などの将来見通しの方法と,デザインに 関する思想の両者を統合したリスクアセスメントについて,枠組みの拡張を検討する.最後 に,持続可能性と復元力のための投資への理解を深めながら,何を重点課題として取り組 み,どのような手順で進めるべきかの提案を行う. 持続可能性と復元力に投資するに当たっての重要事項 ライフサイクルコスティングの採用  ライフサイクルコスティング (LCC) は,意思決定支援の方法の1つであり,費用対 便益分析によってプロジェクトを改善できるように,また,開発プロジェクトに関連し た予算的・経済的な費用と便益の見積もりをもっと正確に行えるように,都市を支援 するものである.ライフサイクルコストには,プロジェクトのライフサイクル,すなわ ち,建設・運転・維持・改修・廃棄・建て替えに関する全ての費用が含まれる 1.今日, 長期にまたがるキャッシュフローの統合は,都市にとっての大きな問題になっている. これには,建設費用と運営費用をどう最適化するかという問題が含まれる.つまり,長 期にわたって適切なキャッシュフローが確実に生まれるようにした上で,資産の更新に 必要な資金が,プロジェクトのライフサイクルの最後の時点で手元に残るように,投資 資金を資本勘定に繰り入れていく必要がある. 94 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES  LCC は,都市のインフラ整備と土地開発の中で のやり方を,これまでよりも慎重で信頼できるもの 重要な位置を占める長期的投資において特に重要で にできる.計算は複雑であるが,それほど時間はか ある.LCC は,自動車等の車両の新たな購入にあ からない.例えば,新規の近隣住区開発プロジェク たっての車種選定や,水・交通・エネルギーシステ トの場合,施設・人口の密度と配置を色々変えて分 ムに関連したインフラの決定においても重要であ 析する.次に,道路,上水,下水,ゴミ,学校,レ る.また,土地利用計画の決定も,インフラ整備の クリエーション施設,公共交通,自家用車利用,防 コストに関係するので重要である.さらに,公共建 火,警察等を含むユーティリティとサービスに関す 物は,新規及び既存のストックに対する効率改善の る施設建設・運営コストについて,各シナリオを比 ターゲットとして重要である.一般の住宅や商業ビ 較する.こうして,色々な開発計画と資金調達ポリ ルも同様である. シーについて,借入の利息,税率,サービス供給か  LCC を行うには,それぞれの資産のタイプ別に, らの収入が計算される. 寿命と減耗速度を見積もる必要がある.それができ  ライフサイクルコストは,あらゆるユーテリティ ると,維持と修復に必要な費用に関する数字を見積 の運営・維持・更新を考慮できるよう,長期(ハミ もることが可能になる.都市インフラシステム―― ルトン市の近隣地区建設プロジェクトでは 75 年間) 管路,設備,ポンプ,道路等――の維持には非常に にわたるコストの年平均換算値とするのが典型的な コストがかかるので,どのプロジェクトにおいて 方法である.住宅開発の場合,全てのコストは,一 も,それがキャッシュフローと資金面の持続可能性 世帯当たりに割り振るか,オフィスの標準床面積当 に大きな影響を及ぼす.インフラシステムは,都市 たりに標準化される.第2部では,LCC の方法が の財政的健全性にも影響を及ぼす.実際,LCC に Eco2 都市にどのように適用されるかを詳しく説明 基づく政策を採用していない都市の多くが,破産に する.そこでは,スプレッドシートを用いて容易か 近い状況に陥り,資産の管理を行えなくなってい つ迅速に LCC を計算するための簡単なコンピュー る. タツールを紹介する.このツールには,ライフサイ  建物や管路などの寿命の長いものの運転・維持コ クルコストのたくさんのカテゴリーがあらかじめリ ストが,ライフサイクルコストの 90%以上を占め ストとして用意されている.これらのコストは,開 ている.カナダのハミルトン市が行った見積もりに 発プロジェクトにおいて考慮する価値があるにもか よれば,公共建物のコストを 30 – 40 年という長期 かわらず,大抵は無視されているものである.デ 間で見た場合,当初建設費用はわずか 8%に過ぎず, フォルトで用意されている値は,具体的な国とかコ 運転・維持コストが 92%である.都市のインフラ ミュニティにおけるこれまでの実績値に合わせて調 や建物への大きな公共投資を行う場合に初期建設費 整できる. 用を重視し過ぎるのは明らかに危険である.しかる  第 2 部では,カナダのフォート・セント・ジョ に,世界中の多くの都市ではまだ,建設と運営の予 ン市の事例が紹介されている.同市では,持続可 算が別々になっていて,付随する運転・維持のため 能な近隣住区のための概念プランについて,LCC に将来発生するコストの正味現在価値を考慮しない ツールを使って潜在的コストとベネフィットの評価 まま,初期建設費用だけに基づいて投資が決定され を行った.以前に行われたデザイン・ワークショッ ている.しかし,もし,さまざまな開発シナリオに プでは,比較的小さな面積にする案が提案されてい ついてのライフサイクルコストを定量的にうまく見 た.具体的には,ビルをもっと密集させ,ビルの種 積もることができれば,土地利用計画やインフラ整 類に多様性を持たせ,ビルの間の公共スペースを増 備計画をデザインする段階,あるいはそれを実施す やし,オープンスペースをもっと総合的かつ多目的 る段階で,コストの最小化が図られるだろう. に利用できるようにするデザインが提案されていた  LCC によって,投資に必要な長期的な資金調達 (オープンスペースには,緑道,雨水管理のための 枠組み ≫ 第6章 持続可能性と復元力に重きを置く投資枠組み 95 緑のインフラ,コミュニティ庭園,全季節使用可能 良・更新に必要な資金を十分賄えるようにしておく な散歩道,学校とコミュニティセンターの周囲の大 ことである.このような取り組みによって,事業全 きな共用施設が含まれていた).しかし,提案され 体とそれを構成するさまざまな個別事業の実施が容 たデザインは,同市に従来から存在する近隣住区の 易になるだけでなく,将来世代に莫大な負債を放り 実態とはかなり大きく異なるものだった.そこで, 投げたり,財政危機を招いたりする危険を回避でき 討論と意見発表だけでなく,総合的な費用対便益分 る.インフラシステムでは,資本勘定への繰り入れ 析が必要になった. を適切に行っておかないと,システムの生涯の最後  分析における基本ケースシナリオは,計画地区 に維持・更新コストのつけを回すという不公正なこ に隣接する地区をモデルとしたものであったが, とになってしまう. フォート・セント・ジョン市の当局は,新しいアプ  最大の問題は,準備基金を準備のために本当に ローチとこれを比較して見た.施設建設のコストを 取っておくことである.これを他の目的に使おうと 見積もり,それを各世帯に割り振ってみた.また, 機会を狙っている人間がおり,準備基金はその攻撃 水道,道路,下水道,通学バス,レクリエーション を受けやすい.従って,準備基金は使用目的を特定 施設,警察署,消防署を含めて,運営コストを計算 し,法律で守らなければならない. した.最終的な分析においては,LCC アセスメン  準備基金は,非収益事業の場合に特に必要であ トのおかげで,新しいアプローチから得られる潜在 る.投資の全体計画で決めたとおりに,適切な金額 的な利得を明確にすることができた.結果的に,世 を準備基金として保持しておくことが重要である. 帯当たりの建設コストは,基本ケースに比べて,平 均 3.5 万米ドル安くなった.節約されたコストは年 間換算で 6,053 米ドルと見積もられたが,これは, 東京の水道:水道管交換事業の資金をどのように生み出 基本ケースに比べて 25%少なかった.もちろん, したか 持続可能な近隣住区プランは,住みやすさの改善,  水道公社のような収益事業を行う事業体にとっては, 通りの景観,人同士の接触・交流,アメニティなど どの程度の準備基金を確保しておくのが適切かを考える の面で,建設費や運営費とは無関係なベネフィット 上で,料金や賦課金は重要な問題である.東京都下 1,250 万人の人々に水を供給している東京都水道局は,水道料 を有しているかもしれない.しかし,総合的な資金 金収入によって施設の運営費と建設費用を賄ってきた. 分析の結果,コミュニティ側の提案は否定され,市 これらの費用の変動に対処するため,さまざまな準備基 議会での議論では,これまでの標準モデルを変更す 金が用意されている.現在,水道局は,10 年以内に旧い 水道管を取り換えるという気がめいりそうな課題を抱え る提案を支持する意見が強くなった.こうして,政 ている.全費用は約1兆円(100 億米ドル)と見積もら 治家は皆,正しい決定を選んだ方が良いことを理解 れており,それは,水道局の全保有資産 2.5 兆円(250 した.また,納税者のお金を節約し,負債を縮小す 億米ドル)の 40%に相当する.この大変な課題を解決す るため,東京都水道局は,事業を開始する十分に前に施 る方法について簡明かつ透明な論拠が示されるな 設の維持と更新の計画を作成し,綿密な建設計画を立て ら,既得権益とか,制度に由来する惰性に毅然と立 ることで,この 1 兆円を何年間かの妥当な期間に割り振っ ち向かうことも決して難しくないことが分かった. て平準化する方法を見つけようとしている.一方,水道 これが,LCC の重要な役割である. 局は,負債返済のペースを加速する取り組みを既に開始 しているので,水道管更新事業に予算を使っても,大き な負債は現在の 5,000 億円の水準のまま維持できそうで 準備基金の用意 ある.この負債返済ペースの加速は,東京都の水道料金  準備基金の利用は,持続可能な資金調達における が 2005 年 1 月 1 日付で下げられたにもかかわらず,水 道料金収入だけで達成されている.水道局は,水道料金 最も効果的なツールの1つである.準備基金の目的 に妥当な調整を加えることによって,1 兆円の水道管更 は,金額を徐々に増やしながら資金を取っておき, 新事業の資金を賄う計画である. プロジェクトのライフサイクルの最後において,改 96 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES うとする動きである.例えば,「費用対便益分析」 東京都中央区における学校建設向け準備積立基金 は,経済的実行可能性を分析評価する基本的な方法  東京都の 23 区の1つである中央区は,日本の他の多く であるが,多くの間接効果を貨幣価値に換算して取 の自治体と同様に,学校施設の維持管理費用,改築費用, り込むようにその枠組みは拡大している.また,プ 取換工事費用が積立基金化されている.区内 16 小学校及 び 4 中学校の校舎の減価償却額が毎年積み立てられ,基 ロジェクトの経済的実行可能性を分析評価する標準 金は区議会の決定がない限り,決められた目的にしか使 的方法として現在使われている「費用対効果分析」 用できない.2009 年度末現在,積立基金収支は 3 校舎建 においても,間接的なベネフィットを追加検討でき 設には十分な約 100 億円(1 億ドル)ある.中央区では, 長期計画に基づき,今後数年間に3つの学校校舎を建て るよう,枠組みが拡張されている.費用対便益の計 替える計画である. 算をより完全なものにしようとの試みにもかかわら ず,ほとんどのプロジェクトは,人間,生態系及び 社会システムに及ぼす影響の本当の姿を理解するた インフレリスクにさらされている場合には,準備基 めのしっかりした基礎を持たないまま実施されてい 金の額は大きいほど良いとは必ずしも言えない.そ る.コミュニティが間接コストに関心を抱いても, の時には,準備基金の額を減らすため,類似の資産 簡単には計測できず,説明も難しい.また,貨幣価 に資金をプールし,毎年の投資レベルは可能な限り 値への換算において信用できる値を得るのも簡単で 維持しなければならない. はない.影響を貨幣価値に換算する適切な方法は,  準備基金はいくらあれば十分だろうか.東京都中 長年にわたって議論されており,適切な解決策の模 央区の教育施設の準備基金の例では,今後数年間に 索は現在も続いている. 必要となる総投資コストがカバーできるようになっ  より総合的な経済分析を行うには,個別対象ごと ている.しかし,必要な投資コストの全部を完全に の厳密な環境会計の開発にもっと注力しなければな カバーできないにしても,中央区が他の財源から資 らない.すべてのプロジェクトについて,カテゴ 金を回してこられるなら,それで十分だろう.都市 リー別に環境影響を分析評価するための実施要領 にとって重要な外部資金としては,市債発行と銀行 (プロトコル)が必要である.そのベースとなるの 借入がある.これらの外部資金をタイミング良く利 は,産業連関分析,ライフサイクル分析(LCA), 用するには,借入能力の枠内で,負債の条件と金額 マテリアルフロー分析のような確立された方法であ を守らなければならない.また,投資を行う長期間 る.環境影響定量化のための拡大アプローチの一例 にわたり,施設整備のために必要になる年間予算が として,ストックホルム市のハンマルビーショース 最も小さくなるよう,毎年の投資額を平準化しなけ タッド地区で採用された環境負荷プロファイルがあ ればならない.LCC は,こうした長期の投資計画 る.(環境負荷プロファイルの詳細については,第 を立てるときのベースとして有用である. 2部を参照されたい.)別途,経済分析と並行して, カテゴリーごとに影響を表す指標セットを利用する 全資産に平等に目を向ける:拡張された会計枠組み こともできる.いろいろな影響は加算した方がよい  都市開発プロジェクトのコスト計算において以前 こともある.例えば,大気の質は,粒子状物質,有 からずっと問題となっているのが,多くの間接的な 機化合物,窒素酸化物などの複数の要素を束ねた大 コストとベネフィットの計測と評価である.最近数 気環境指標によって評価されることが多い.多くの 年間において,経済分析がかなり進歩した.それ 技法が開発されており,環境・生態系への幅広い は,間接コストについての理解を深める動きであ 影響を評価することで,自然資本の価値を1個また る.また,どんな具体的な選択肢についても,その は数個の指標によって包括的に計測しようとする試 コストとベネフィットをもっと正確に反映したアセ みがなされている.注目すべきは,エコロジカル・ スメントを行い,その結果を意思決定者に提供しよ フットプリントである.これは,エネルギー・物質 枠組み ≫ 第6章 持続可能性と復元力に重きを置く投資枠組み 97 今まであまりに長い期間,財務省や開発計画担当 省は天然資源基盤の劣化や環境汚染の被害に十分 な注意を払ってこなかった.国によっては,環境 省が環境省のために作成したとしか思えない国家 環境行動計画を,経済担当省庁との何の連携もな いままに推進しようとしている. の使用量を,その使用をずっと続けるために必要 となる生産的な土地の総面積に転換するものであ る.市の職員や新規の近隣住区開発の専門家の多く は,この種の単一指標による数字を有用だと感じて おり,自然資本に対する総合的影響の指標としてエ コロジカル・フットプリントを計算している.例 えば,ロンドン市では,市内の住民がそのライフ スタイルを維持するには,一人平均で 6.6 ヘクター ルの緑地が必要である.それは,地球全体の人間 一人当たり緑地面積の3倍以上である ( 図 1.28 参 照 ).ロンドンは,同市のエコロジカル・フットプ 図 1.28 ロンドンの資源フロー(2000 年) リントの総計は市面積の 293 倍になることを発見 出典:Source: Best Foot Forward Ltd. (2002). した.その大部分は,食料・物質の大量消費の結果 説明:ロンドン首都圏のすべてのインプットとアウトプットを示す.これに よればロンドンのエコロジカル・フットプリントはロンドン市の土地面積の である.さまざまな環境影響を加算あるいは集計 約 300 倍である. して1つの数字にする技法は,どれをとっても多 くの問題を抱えている (Mcmanus and Haughton 2006).例えば,エコロジカル・フットプリントで しまうことになる.実際,さまざまな影響を1つに は,水のフローという重要な問題がうまく扱えな 集計する指標はどれを取っても,生態系の質,汚染 い.水の場合,その価値は場所によってあまりに大 物質や廃棄物に対する地域環境の敏感性,場所によ きく変わるからである.また,郊外にたくさんの農 る自然資本の価値の違いといった多くのローカルな 地を持っていれば,その都市の行政区域面積は大き 要素を無視してしまいがちである. くなるので,地球に及ぼす負荷は見かけ上ずっと小  このような方法論的な問題はあるものの,開発シ さくなってしまうが,本当はそうではないのかもし ナリオから発生する影響の程度を簡単にまとめるた れない.Eco2 は同じ土地に複数の機能を持たせる めの方法を探すことは,やはり必要である.その方 多機能土地利用を推奨しているが,エコロジカル・ 法は,比較可能なように標準化された計測実施要領 フットプリント分析では,すべての土地はそれぞれ に基づかなければならない.また,簡単なグラフと 単一のカテゴリーに分類されてしまうので,その効 かチャートを利用することで,デザイナーや意思決 果は無視されてしまう.エコロジカル・フットプリ 定責任者が集まる学際的チームでの基本的情報の 「生態学的土地ヘクタール(hectare of ントでは, 交換を迅速に進めなければならない.欧州科学技 ecological land)」のような単一化した単位を用い 術協力(European Cooperation in Science and るので,生物多様性,種の希少性,生息地の特性な Technology)は,欧州の政府間プログラムである どといった生態系サービスの重要な違いを無視して が,何年にもわたってヨーロッパ諸都市における持 98 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 続可能なインフラプロジェクトの分析・説明に取り ベルでの統合が必要だということを強調しているの 組み,環境影響を評価するという課題に取り組ん は,統合されていない場合に比較して,広範かつバ できた.影響評価のやり方を全てレビューした結 ランスのとれたアセスメントが重要だということで 果,このプログラムの専門家達は,重要な影響をま ある.Eco2 は,誰がベネフィットを受け,誰がど とめるマトリックスを選択した(表 1.3).その最 のコストを支払っているのかということだけでな 終報告書である「持続可能な都市インフラ:評価, く,プロジェクトにおいてすべてのベネフィットの ツールと優良事例(Towards Sustainable Urban 最大化が如何にうまく達成されたかを明らかにでき infrastructure: Assessment, Tools and Good るような枠組みを必要としている.この枠組みは, Practice)」は,持続可能なインフラプロジェクト 何を計量しているのか,何故計量が必要なのか,数 として 44 件を選び,その内容とマトリックスを説 字は互いにどう関係しているのかが,専門家にも住 明している (Lahti 2006 参照 ).報告書の結論は, 民にも理解できるように,透明性の高いものでなけ 持続可能性の評価は多面的で,多くの影響を考慮し ればならない.枠組みは,ベネフィットとコストの なければならないので,関係するあらゆる側面を簡 分類を組み合わせて,その全体がどうなっているの 潔に,できれば,視覚的に効果のあるプレゼンで1 かが追跡でき,また,例えば,環境的健全性の指標 ページにまとめてレビューできるような技法とツー と経済的健全性の指標が同等に考慮できなければな ルが必要であると述べている. らない.幸運なことに,経済学者と地域社会は過去  Eco2 都市は,プロジェクトのコストを評価する 10 年間にわたり,こうした枠組みの検証を行って 枠組みを必要としている.それは,さまざまな評価 きた.その結果,現在では,うまく行った例から学 方法で得られた値を取り入れることができる柔軟な ぶことができ,Eco2 に適した勘定枠組みの採用が ものでなければならず,しかも,越えてはならない 可能になっている. 限界値や目標についてのトレードオフ関係や影響が よく理解できるものでなければならない.多くのレ 表 1.3 デザイン評価マトリックス 環境 経済 社会面 大気や水,土壌への排出物は,地 システムの費用対効果及び費用対 インフラシステムのための計画と 域レベルや国際レベルで決められ 便益は,他のシステムと比較して 意思決定は,民主的な参加方式で た制限内に収まっているか? 合理的か?それらは,都市が抱え 行われているか? 排出物は,減少しているか? る他のニーズと比較して,また, 政治的ゴールから見て,合理的か? 自然資源は,他のシステムと同様 市民には,提供されたサービスに システムの機能とそれがもたらし に合理的に利用されているか?利 対して料金を払う意思があるか? ている結果は,市民にとって透明 用量は減少しているか?(例えば, サービスは,すべての市民に利用 性があり,受容可能か?市民の責 化石燃料,水,リン,カリウム) 可能か? 任ある行動を促進しているか? システムは調査地域の生物多様性 システムに資金を出し,維持・運 システムは,市民が利用するにあ を合理的なレベルに保っている 営している組織は効果的か? た っ て 安 全 か( 危 険, 健 康, 福 か? 生物多様性は増加している 祉)? か? システムは,多かれ少なかれ,従 システムは,多かれ少なかれ,従 システムは,多かれ少なかれ,従 来のシステムよりも環境的に持続 来のシステムより経済的に持続可 来のシステムより社会的に持続可 可能か? 能か? 能か? 出典:Based on Lahti (2006). 説明:本表のマトリックスは,ヨーロッパにおいて多くの持続可能なインフラのケーススタディで利用されてきたものである.これは,提案された デザインが持続可能かどうかについて,政策決定者が瞬時に信頼できる判断を下すための材料を提供することを意図したものである.矢印は,例示 したプロジェクトのパフォーマンスを示している. 枠組み ≫ 第6章 持続可能性と復元力に重きを置く投資枠組み 99 資本資産の保護と強化 などが含まれる.自然資本は,自然を構成する  Eco2 都市に用いるのに適した1つの方法の概要 諸要素のうち,人間生活の質や幸福と直接的あ が,Ekins, Dresbner, and Dahlstom (2008) に るいは間接的に結びついているものである. よって示されている.この方法は,David Pearce (2006) が開発した環境経済学のアプローチと,都 3. 社会資本は,人間生活の質に関係している点で 市開発分野のアセスメントで利用されてきた多くの は人工資本と似ているが,個人レベルではなく ツールを組み合わせたものである.これは,どのよ 社会レベルでとらえるところが異なる.社会資 うなタイプの計測も取り入れられる柔軟性を持ちな 本を構成するのは,色々な社会的ネットワーク がら,バランスもよくとれた方法である.ヨーロッ であり,互いが密接に結びつくことで社会の効 パでは,多数の持続可能な計画プロジェクトがこれ 率性を高め,社会の構成員同士の社会的かつ知 を用いて成功している. 的な相互作用を活発化する.また,社会資本  ほとんどの経済分析では,資本資産のインベント は,社会の信頼関係や規範,共通問題の解決と リーとその評価を取り入れている.しかし,基本的 社会的結束のために利用できるネットワークの に,財・サービスの生産あるいはその提供のための ことを意味する.社会資本の例としては,町内 人工的な財・システムに焦点を当てている.この種 会,市民組織,共同組合などがある.政治体制 の資本は「人工資本」と称され,都市のインフラ構 や法体系も,社会資本の1つであり,それらの 造物がこれに含まれる. おかげで,政治的安定,民主主義,効率的な政  「4種の資本の方法」は,人工資本以外の多くの 府,社会的正義などが実現している(これら 資本からもベネフィットが生み出されていることを は,それ自身,社会が欲する価値であると同時 認識することから始まる.我々は,この他に,労働 に,生産性向上にとっても良い効果をもたら 「人間資本」 の質( ) ,労働力を組織化して経済活動 . す)[監訳者註:ここでの「社会資本」は社会 の場をつくり出すネットワーク(「社会資本」),及 「社 の構成員同士の関係に着目しているので, び,経済プロセスに投入される資源を供給し地球 会関係資本」という語が使われることもある.] 上の生命を維持している自然資源と生態系(「自然 資本」)を考慮に入れる必要がある.これら4種の 4. 人 間 資 本( 文 化 的 資 本 ) と は, 一 般 に, 個 資本のもっと詳しい定義は Ekins and Medhurst 人々々の健康・生活の質・生産能力のことを指 (2003) によって行われている. す.人間資本には,精神的・肉体的健康,教育 レベル,やる気,仕事のスキルなどが含まれ 1. 人工資本(人間がつくった資本)は,従来から る.これらの要素は,幸福で健全な社会をつく の定義に基づく資本である.すなわち,人間に るのに貢献するだけでなく,生産性の高い労働 よって作られた資産であって,他の財・サービ 力を通して経済的発展の可能性を高める. スの生産に使用されるものである.例えば,機 械,建物,インフラがこれである.  これら 4 種類の資本はどれも,それによって供 給されるベネフィットの流れによって定義・同定さ 2. 自然資本 は,これまでも扱ってきた天然資源 れる.持続可能な発展とは,このベネフィットの流 ( 材木,水,エネルギー,地下鉱物資源など ) れが何時までも持続するように,これら 4 種類の に加えて,容易には貨幣価値換算できないさま 資本をどう維持あるいは増強するかをめぐる問題で ざまな自然資産を対象とする.これには,生物 ある.ある種のトレードオフは,許容できるかもし 多様性,絶滅危惧種,健全な生態系から提供さ れない.例えば,生態系の正味面積が減少したとし れる生態系サービス(例えば,空気・水の浄化) ても,優れたデザイン・管理によって生態系の正味 100 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES の生産性を増大させることによって,それを相殺で 4種の資本のすべてをカバーする指標は,持続可能 きるかもしれない.しかし,多くのシステム(例え な開発指標と呼ばれている.これらの指標には,そ ば,生態系)及び資産については,越えてはならな れが利用可能で内容が適切であれば,経済的価値に い限界値があることに注意しなければならない.さ 関する指標を含むが,その他に多くの物理的な指標 もないと,システムは崩壊を始めるだろう.例え も利用される. ば,緑地を縮小することで経済の生産性は増大する  表 1.4 は,持続可能な都市計画に関する欧州のプ かもしれないが,ある生物種にとって必要な生息環 ロジェクトに参加している様々な都市が使っている 境は失われ,生物多様性は減少してしまう. 指標の例を示している.欧州の経験に基づくと,指  これら4種類の資本を用いた方法を選択すること 標の質は資本によって異なる傾向がある.人工資本 が,Eco2 都市にとって良いと言える理由は以下の は,GDP で測った数字だけを使っていて,単純化 とおりである. され過ぎている.一方,社会資本の計測には,あま りに多くの異なる指標が使われている.人間資本 1. 重要な役割を果たしているにもかかわらず,そ は,直接計測するのが難しい.自然資本の指標は, の存在・役割が明確には把握し難いさまざまな 計算困難なことが多い.都市と個々の具体的な事業 資産を,意思決定の枠組みに取り込むことがで にぴったりな指標として何を選ぶかは,状況によっ きる. て異なる.一般に,指標は日常業務の中で継続的に 2. 外部効果(間接的なコストとベネフィット)を 計測していくことができるよう,実施しやすいもの 考慮する上で,現在利用できる他の方法より である必要がある.もしそうでなければ,どんな意 も,総合性の面で優れている. 味があるだろうか.指標は適切でなければならな 3. 異なるカテゴリーのコストとベネフィットが簡 い.このため,指標は,都市がこれから起こそうと 単に比較できるので,都市は,重要な閾値(例 する変化の中で重要度の高いものを計測しなければ えば,超えてはならない限界値)に注意を集中 ならない.指標の適切さは,それを誰が利用しよう することができ,異なるタイプの資産の間でよ としているかによって異なる.市議会とそのパート く発生するトレードオフ関係を認識することも ナーである市役所当局にとっては,長期的な結果あ できる. るいは成果として何をねらっているのかを明らかに 4. この方法は,資本資産の台帳を利用すること, する「達成度指標」が必要である.人工資本につい 都市が普段から集めているデータを使うことな ての達成度として共通に採用されている指標は,1 どによって,多くの都市が既に採用している経 人当たり GDP である.もう1つは,市が所有する 済勘定との相性がよい. インフラの資産価値である.その他の資本の把握は 5. 資産は,最終的に人間の生活の質と幸福度を高 もっと困難になる.自然資本の場合,達成度指標 めるのに貢献する財・サービスの流れを供給す は,少なくとも,さまざまな生態系サービスを扱わ るものである.この方法によって,そうした役 なければならない.吸収(廃棄物を吸収する能力), 割を果たしている資産の保全・強化が必要だと 供給の源(有用な財・サービスを供給する能力), いう重要な考えが支持され,強化される. 生命維持(資源を循環させ環境条件を調節すること によって,生命を維持する能力)などの項目がこれ 指標を利用した目標設定と影響監視 に含まれる.重要な目標やゴールが如何によく達成  都市が有する資本資産を監視し,タイプの異なる されたかを計測するための幅広い達成度指標に加え 資本の間のトレードオフ関係をバランスさせるに て,戦略レベル及び実施運用レベルでの進展を監視 は,それぞれの資産が供給する財・サービスに対応 するための指標セットの開発も役に立つ. した計測方法と指標の標準化が必要である.これら  図 1.29 は,3つのレベルの指標と,市役所職員 枠組み ≫ 第6章 持続可能性と復元力に重きを置く投資枠組み 101 表 1.4 4 つの資本に基づくアプローチにおける指標の例 人工資本 ・一人あたりの GDP ・移動時間と平均速度 ・総固定資本形成 ・インターネットアクセス可能な人口比率 ・雇用(セクターごと) ・農業生産 ・実収入の変化 ・インフレ率 自然資本 ・CO2 削減量 ・廃品回収の質 ・大気の質 ・緑地面積(km2) ・絶滅危惧種の保全 ・一人あたりのエネルギー使用量 ・水一滴の価値 ・資源効率性 社会資本 ・賃金格差と貧困 ・特別な開発ニーズを持った特区 ・所得差異(10 位相別) ・若年層の転出数 ・男女間所得格差 ・協働プロジェクトおよび戦略の数 ・社会保障受益者数 ・犯罪率 人間資本 ・エンパワメントの成長と成長率 ・特許出願数 ・高度技能職の新規創出数 ・新規創業ビジネス数 ・教育や職業訓練のレベル ・健康の改善 ・政府及び民間の研究開発支出 ・教育及び訓練への参加率 出典:GHK (2002). 説明:The sample indicators were used in 19 urban regions in Europe as part of a sustainable development assessment. CO2 = carbon dioxide; km2 = square kilometer ; R&D = research and development. 指標のレベル の視野の範囲と所掌の対応を整理したものである. 視野が狭いほど,指標が扱う範囲も狭くなる.例え 市政府諮問委員会 ば,分散型の新しい電力システムを都市に新たに導 パフォーマンス指標 市の 入する場合には,以下の3つのレベルでの詳細な評 マネジャー 価検討を必要とするだろう. 市の 市の エンジニア プランナー 戦略指標 • 達成度レベル: サービス対象地域の住民のう 水 道路 政策 運輸 ち,新システムから電力を受け取る者の割合. マネジャー マネジャー プランナー プランナー 運営指標 • 戦略レベル:エネルギー効率に関する新基準に 土地利用と 水道局 道路局 交通計画 基づいて改修されたビルの割合 ゾ−ニング • 運用レベル:修理にともなう運転停止期間の平 図 1.29 市職員のレベルに対応した指標の類型 均時間 出典:Lahti (2006).  各プロジェクトは,たくさんの指標群を必要とす トとベネフィットの決定に用いられた重要な項目ご るかもしれない.何故なら,意思決定者の関心の内 とに分析することである.それぞれの項目ごとに, 容は,時間フレームや詳細さなどで大きく異なるか 財政支出を一番低く抑えた場合のボトムラインの結 らである. 果と比較してみると,ある確率で時間的に変化が生 じる.既知の確率を利用して,経済に直接及ぼす影 積極的なリスク管理によってあらゆる脅威に対応 響について生じる変化を分析するリスクアセスメン する トは,感度分析と呼ばれている.これが,都市開発  財政的リスクを管理する標準的なやり方は,何ら プロジェクトで使用されているリスクアセスメント かの投資を行った場合に生じる変化の感度を,コス の一番基本的な方法であり,重要性・必要性の高い 102 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 通信,輸送技術,気候,人口,グローバル市場,環 指標作成のポイント 境規制の分野で,根本的に大きな変化が起きるのを 資金的実現可能性と現実性:データはコストをかけずに 自分の目で見ることになる可能性は非常に高い.大 収集できるか? 分析は簡単で,容易に自動化できるか. きな変化が既に始まっているのかもしれない.都 適切性:指標は,関心の高い重要な問題を本当に計測し 市にとって,30 年という時間は一瞬である.イン ているか.指標は取り組みに応じた進展を十分に反映し ているか. フラ整備計画は,近い将来だけでなく,30 年以上 明確な説明と計測の手順書:実際的に何をどう計測して のもっと長期間を見据えたものでなければならな いるのかを簡潔に定義できるか. い.しかし,本当にそうなるであろうか.それで 比較可能性:実績比較や基準を導く可能性のある標準的 は,Eco2 都市は,開発プロジェクトの全般的な復 測定か? 元力を評価し,改善するためにどうしたらよいだろ 目的との整合性:実施しようとしている計測は,計画フ うか. レームワークの優先課題から見て適切か? リスクアセスメントを拡張して,復元力と適応能 力を取り込む 方法としてこれに取り組むべきである.  レジリエンシー(復元力)という概念は,2つの   新 交 通 シ ス テ ム 建 設 に お い て, も し 乗 客 数 が 特徴を表すために使われてきた.すなわち,システ 15%減少すると採算性がとれなくなくなるとすれ ムの頑健さ(条件変化に抵抗することで,活動を継 ば,市長や市幹部達は,そういう事態が起きる確率 続する能力)と,システムの適応力(条件変化に適 を知りたいと思うだろう.感度分析は,優れた判断 切に対応することで,活動を継続する能力)であ に取って代わるものではないが,投資の採算性を大 る.レジリエンシー(復元力)は,インフラ建設, きく損ないかねない様々な変数のことを意思決定者 文化,ガバナンスなどのあらゆる都市システムのデ に理解してもらうには良い方法である.リスクアセ ザインに適用できるクライテリア(基準)である. スメントとして有名なもう1つの方法は,モンテカ [監訳者註:ここで述べられているように,レジリ ルロ分析である.これは,変数の組み合わせをラン エンシーには「頑健さ」と「適応力」の2つの要素 ダムに色々と変化させ,その結果,変数同士の相関 があるが,本書ではこれを「復元力」という1つの がどう変化するかを分析するものである. 言葉で翻訳している.]  これらの標準的なリスクアセスメント手法では,  これは,外部からの力が都市域に及ぼす影響を予 投資の採算性を脅かしかねない重要な問題であるに 測し,それらが元々有する復元力を高めるようなや もかかわらず,計測困難な多くの間接的リスクの評 り方で土地利用やインフラのデザイン・運用を行う 価が欠落している.さらに,重大な脅威であるにも ことによって,より生産的にリスクを管理できると かかわらず,統計的手法では扱えない不確実性の評 いう考えを基本にしている.これは,いかなるアセ 価も欠落している.したがって,リスクアセスメン スメントにも,ショックや急激な変化からシステム トも,経済分析の場合と同じように,他の方法との が回復し,生き残ることができる相対的な能力を表 組み合わせによって,もっと広範な問題あるいは項 す指標を取り入れ,設計者,管理者,意思決定者が 目を対象に分析あるいは定量化する必要がある.実 これを理解できるようにすることを意味する.気候 際問題として,今日の都市が直面している脅威・危 変動に強い都市についての世界銀行の入門書は,気 険の大部分は,経済的計算では扱えない.それにも 候変動に伴うリスクの評価・管理を効果的に行うた かかわらず,これらの脅威・危険はプロジェクトの めに都市はどうすべきかに関する情報をまとめてい 採算性に大きく影響するかもしれないのである. る(Prasad and others 2009).  例えば,これから 30 年間のうちに,エネルギー,  エコロジカルデザインについては既に数多くの方 枠組み ≫ 第6章 持続可能性と復元力に重きを置く投資枠組み 103 法が開発され,効率性向上のために非常に効果が クスすることを意味する.飲料水の場合には,地域 あった.復元力を強化するデザインの内容とは何か 内各処に配置された水源用貯水池とその他の多様な と言えば,これらの方法をさらに強化することに他 水源のミックスである.地域分散型のインフラシス ならない.遠隔地に建設された発電所・焼却炉・処 テムの持つ柔軟性と対処能力は,脅威が外部からの 理プラント・通信施設は,モジュール化したシステ ものである場合にさらに大きなものになる.システ ムを都市内に分散的に張り巡らせたネットワークに ムの持つ自己組織化能力の範囲内であれば,外部か 比べると,事故による致命的な失敗を犯す危険がは ら色々と調節・指示しなくとも,新しい可能性・限 るかに大きい.このように,都市の安全性のために 界に応じてシステムは機能する.こうしたシステム は,分散型システムを強化した方がよい.これは, は,市場が経済的調整システムに従って動いている 都市の資源効率と環境的な持続可能性を改善する方 のと同様に,自律的に調節される.これは,最初か 法として既に提案されているデザイン戦略に他なら ら最後まで上から機械的にコントロールするアプ ない.安全性と効率性(あるいは,復元力と持続可 ローチとは異なる. 能性)の両方を相乗的に高めることができるところ が,統合的なデザインによるソリューションの重要 適応力と耐久性 な成果である.  適応力は,技術者・デザイナーなら誰でもよく  復元力を表す1つの尺度は,多重性である.これ 知っているはずのいくつかの簡単な戦略に分解する は,エコロジカルデザインの戦略の1つである(第 ことができる. .都市システムの多重性とは,絶対必要な 5章参照) 資源の供給方法を多様化すること,しかも,できる • 柔軟性.その機能が壊れない範囲,あるいは容 だけ広い地域から供給することを意味する.予測で 量が一杯にならない範囲の小さな変化を,シス きない旱魃,洪水,その他の災害がいかなる地域で テムにどこまで加えることができるか. 発生しても,別の供給源が既に用意されていれば, • 転換可能性.土地・建物の利用,インフラシス 少なくても最小限の必要量には対応可能である.地 テムへの投入資源量をどこまで変えることがで 域は,それぞれの重要な資源について,供給の多様 きるか. 化を図ったり,緊急時に備えた計画を立てておくこ • 拡張可能性.特別の利用目的に供される土地・ とによって,多重性を高めることができる.重要な 床面積をどこまで拡大(縮小)できるか. 資源供給システムについては,それぞれのサプライ チェーン全体の多重性を高める必要があり,その源  適応のためのコストを小さく抑えるように設計さ となっている生態系に戻って対処する必要がある. れたインフラは,寿命が長く,ライフタイムを通 そうすることで,サプライチェーンの中の一番弱い しての運用効率も高くなる(図 1.30 及び図 1.31). リンクの多重性を高めることができる.ここで言う 一例は,水道管・ガス管・電線へのアクセスを容易 リンクとは,重要なサービスを供給するプロセスあ にするように穴掘り作業(埋設管路)をまとめて行 るいは結節点を意味し,サプライチェーンの中の色々 うことである. な場所に位置している.非常に重要な結節点であり  耐久性は,適応力の概念を補うもので,材料・技 ながら,システム内のどこにもそれとの重複が見当 術の有効寿命を延ばそうという考えである.実際に たらないとすれば,そこがリンクの弱点である. は,適応力と耐久性は,設計の変更,これまでと異  多重性と自立性には様々なレベルがある.緊急事 なるゾーニングや材料・技術の採用によって達成で 態においては,地域内のリンクであっても効果があ きる.適応型設計による性能改善の第一歩は,投資 る.例えば,エネルギーシステムの場合には,地域 コスト一定の概念を採用することである.その目的 エネルギーと再生可能エネルギーをある割合でミッ は,柔軟性と適応力を高める設計によって耐久性を 104 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 図 1.30 柔軟性のないエネルギー・システム 図 1.31 適応性のあるエネルギー・システム 出典:著者作成 (Sebastian Moffatt). 出典:著者作成 (Sebastian Moffatt). 説明:この石炭火力発電所は,適応することも拡張することも,転換すること 説明:このシステムは,デザインによる適応性に富むので,復元力 もできないため,脆弱である. がある. 最大化すると同時に,エネルギー・清掃・維持・管 なければならない.計測結果は,比較するベースが 理等のランニングコストを最小化することである. あって初めて意味がある.したがって,標準的な 耐久設計の1つの方法は,例えば,基幹部分以外の データ収集・計算方法に基づく十分に確立した指標 部品の寿命は 30 年以上とするといった基準を設定 を利用する方が,大いに有利である.理想的には, することである.換言すれば,部品のメンテナンス 達成目標の設定は,姉妹都市や優良事例都市の経験 とサービスの費用を最小化することがその答であ など,先行事例のレビューとケーススタディを行っ る. た後に設定するのが良い.  プロジェクトの完了後においては,モニタリング 達成度のモニタリング,結果に基づく学習,適応, プログラムを定期的報告・職員評価・経営方針の中 システムの改善 に取り込んで統合することが重要である.継続的な  モニタリング(監視)のための総合的アプローチ 学習・改善の指導のためにモニタリングを利用する には2つの側面がある.第1は,プロジェクトの設 やり方は,適応的管理(順応的管理)と呼ばれてい 計開始時点から達成目標について考え,これらの目 る.適応的管理は,漁業・林業を研究する生物学者 標に基づいて実際の成果と企図した結果とを比較 達の発見から出発したものである.彼らによれば, することである.第2は,モニタリングの結果を 自然生態系は非常に複雑でさまざまな要因が関連し フィードバックし,プロジェクトの評価と説明に反 あっているので,どんな管理戦略もうまく行かない 映させることによって,企図した結果を達成するよ ことが分かった.このため,何を企図してもうまく うに,あるいはそれ以上の結果を得るように,政策 行かないことを想定し,失敗した場合の計画を用意 とシステムを調整することである.どのプロジェク することが必要となったのである.都市環境はます トにおいても,この両側面を考慮する必要がある. ます複雑になり,我々は,環境・社会・経済の持続  設計作業の開始時点で達成目標を設定しておくこ 可能性に関するより一層広範なゴールについて考え とは,設計チームの仕事に光を当て,彼らを奮起さ るようになっている.ここで役に立つのが,生態学 せる良い経験となるだろう.目標の選定には,達成 者達が発見した適応的管理方法の採用なのである. 度を簡単かつ手軽に計測するための方法が求められ  この視点から見ると,あらゆる政策・施策はまだ る.達成度指標の選択は,他の場所でうまく言った 実験段階であり,時間をかけて実証されて初めて永 やり方や,システム設計で利用されている分析手 続的価値を持つことができる.政策には,新しい知 法(物質フロー分析のような手法)に基づいて行わ 識を取り入れるための調節が必要であり,もしそれ 枠組み ≫ 第6章 持続可能性と復元力に重きを置く投資枠組み 105 が容易に行えないとしたら問題である.もし,モニ 限界,人口,技術などについて起きる変化がある. タリングプログラムを適応的管理のプロセスに組み (これらは,第2部で議論する).世界銀行の気候変 込むつもりなら,Eco2 の長期計画枠組みもそこに 動に直面する都市のための入門書は,気候変動に関 含めなければならない.この枠組みのおかげで,透 連したリスクを理解するための良い出発点である 明性の高いやり方で目標の設定・評価が行える.こ (Prasad and others 2009 を参照 ). の枠組みによって,一方で,目標と最終ゴールとの 結びつきが保たれ,他方で,目標とプロジェクトの Eco2 触媒プロジェクトの実施による資本資産の 戦略・行動とが結びつけられる. 保護・強化と脆弱性の低減  実際に使われている会計勘定手法を理解する最善 のやり方は,触媒プロジェクトにおいてそれを使っ 持続可能性と復元力に向けた投資の手順 てみることである.これには,複数の評価基準によ LCC 手法によるコストとキャッシュフローの理解 るプロジェクトのアセスメントが必要であり,それ  Eco2 触媒プロジェクトの実施によって,LCC は に用いる手法・ツールは第2部で説明する.一般 プロジェクト計画の標準要素の1つになろうとして に,現状から自然に変化した場合にどうなるかの自 いる. ( 適切な方法とツールについては,第2部で 然体シナリオを利用して,基準シナリオを設定しな 紹介する.) ければならない.その次に,これを参照基準とし て,プロジェクトの設計作業過程で提案されたあら 指標の開発・適用による 4 種類の資本の評価と達 ゆる代替案の評価を行う必要がある.最後に,この 成度の計測 勘定手法を健全なベースとして,好ましい都市戦略  指標は,さまざまな調査・研究機関と企業が共同 に関する勧告を作成する必要がある. で開発したリストから選択することができる.それ には,まず,経済協力開発機構(OECD)加盟国 結果のモニタリング,フィードバック,適応によ の諸都市や途上国の先進的都市で利用されている持 る成果改善 続可能な開発指標の一覧表から出発するのが良いだ  モニタリングのためには,その都市,そのプロ ろう.指標の選択にあたっては,別記のような選択 ジェクト,その予算に適した指標が必要である.そ 基準を参考にする必要がある.指標は,定期的な計 して,一番重要なのは,指標の定期的報告である. 測・報告が行われなければ,成功しない. データの収集・分析・出版のための予算を確保する 必要がある.時点の異なる計測値を集めることに 起こりそうな変化がもたらす影響の予測 よって,都市開発の取り組みは強化される.重要な  気候・市場・資源利用・人口・技術の面で今後起 指標を眺めることによって,トレンドやパターンを きそうな変化とその影響を予測する必要がある.外 見るのが容易になり,意思決定者達が都市の目標達 部からの力がもたらす影響を予測することによっ 成状況について理解するのを助け,基準を提供し, て,復元力と適応能力をリスク管理に積極的に取り 将来のプロジェクトに関する目標を設定し,職員・ 入れるための取り組みを開始できる.将来見通しに 契約者達に説明するための信頼できる資料を作成す 関するワークショップを開くことで,原因と結果を ることができる.ここで評価と学習の鍵となるの つなぐ様々な鎖が都市インフラシステム及び都市に が,整合性と一貫性である. 対してどのように重大な影響をもたらすかを明らか にすることができる.このようなワークショップで 検討する外部からの力としては気候変動があるが, この他にも,グローバル市場,資源の利用可能性と 106 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES and Results.” Paper presented at the “Fifth European 注 Conference on Evaluation of Structural Funds,” LCCの手法は,アプリケーションによっては,建 1. Budapest, June 26–27. 設資材の使用に付随した内包コストあるいは上流コ GHK. 2002. “Annexes to Volume 1: Synthesis Report.” In ストも取り入れようとしている.これには,資材の The Thematic Evaluation on the Contribution of 原料採掘から,加工,製造,輸送までの全てに起因 Structural Funds to Sustainable Development. Brussels: するコストが含まれる.しかし,ほとんどのプロジ European Commission. http://ec.europa.eu/regional_ ェクトにおいて現在使用されているアプリケーショ policy/sources/docgener/evaluation/doc/sustain- ンでは,こうした情報は検討されていない.その理 able_annexes_rev1.pdf. 由は,データの収集が難しいせいである.また,こ Lahti, Pekka, ed. 2006. Towards Sustainable Urban うした環境影響はデザインコンセプトよりは資材調 Infrastructure: Assessment, Tools and Good Practice. 達政策の方により深く関係するからでもある. Helsinki: European Science Foundation. Mcmanus, Phil, and Graham Haughton. 2006. “Planning with Ecological Footprints: A Sympathetic Critique of 参考文献 Theory and Practice.” Environment and Urbanization 18 (1): 113–27. Best Foot Forward Ltd. 2002. “City Limits: A Pearce, David. 2006. “Is the Construction Sector Sustain- Resource Flow and Ecological Footprint Analysis of able? Definitions and Reflections.” Building Research Greater London.” Chartered Institution of Wastes & Information 34 (3): 201–7. Management (Environmental Body), Northampton, U.K. http://www.citylimitslondon.com/downloads/ Prasad, Neeraj, Federica Ranghieri, Fatima Shah, Zoe Complete%20report.pdf. Trohanis, Earl Kessler, and Ravi Sinha. 2009. Climate Resilient Cities: A Primer on Reducing Vulnerabilities Ekins, Paul, Simon Dresner, and Kristina Dahlström. to Disasters. Washington, DC: World Bank. 2008. “The Four-Capital Method of Sustainable Development Evaluation.” European Environment 18 World Bank. 1997. Expanding the Measures of Wealth: (2): 63–80. Indicators of Environmentally Sustainable Develop- ment. Environmentally Sustainable Development Ekins, Paul, and James Medhurst. 2003. “Evaluating the Studies and Monographs Series 17. Washington, DC: Contribution of the European Structural Funds to World Bank. Sustainable Development: Methodology, Indicators 107 第7章 共に前進しよう  Eco2 Cities イニシアティブは,共同で取り組む活動であり,すべてのステークホルダー 同士の緊密な作業協力関係とともに,新しい概念と方法について一緒に考え,それを利用し ようという意欲が必要とされる.もちろん,運転席に座るのは都市である.本書は,Eco2 の柱となる原則――これらの原則がいかにして重要事項及び手順へと再構成されるか――を 説明するとともに,都市が自身の Eco2 実行計画を作成する際に必要な方法と道具のいくつ かを,都市向けに紹介することを企図したものである.今は好機であり,好ましい変化を達 成できる大きな可能性が開けている.我々は,都市に対して,長く続く成果が達成できる可 能性が眼前に開けている間に,環境と経済の両面における持続可能性を実現するための第一 歩を踏み出すよう勧めている.  Eco2 アプローチを採用したいと考える発展途上国の積極的な都市に対しては,世界中の 優良事例都市からの支援はもちろん,援助機関を含む国際社会や学術界からの支援も期待で きる.都市は,これらのパートナーが保有している情報・技術・資金等の特色ある資源を利 用させてもらうことができる.こういう状況において,世界銀行の役目は,他の開発パート ナーと一緒に,Eco2 イニシアティブを実行したいという強い意欲を示す都市に対して,技 術援助・能力開発支援・資金援助を行うことである. 知識共有・技術援助・能力形成  知識共有・技術支援・能力形成(キャパシティ・ビルディング)を進める最も効果 的なやり方の1つは,同じ仲間同士として優良事例都市との交流関係を構築すること である.もし,そうした関係に対してドナーからの資金支援があれば,その効果は大 きい.同時に,国際社会は,技術援助と能力形成を提供する幅広いプログラムを有し 108 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES ている.大学や研究所等の学術機関も取り組みに 資金源 参画できる.ストックホルム市がその一例である. 同市では,環境負荷算定ツールを利用したが,こ  一般に,都市は,国際社会とドナー機関が提供す れは,ストックホルム市,スウェーデン王立工科 るさまざまな資金源にアクセスできる.これらの資 大学及びグロントミジ AB 社(民間コンサルタン 金源の多くは,技術援助のために使用できる.国際 ト企業)が共同開発したものである.技術援助の 金融機関や多国間開発銀行等の大規模なドナー機 ための他の方法としては,世界銀行グループの技 関(アジア開発銀行,世界銀行など)は,プロジェ 術援助・能力形成支援がある.都市は,プロジェ クトを通じてインフラ整備のための財源を提供する クトの一環として,あるいは単独の融資案件とし 場合もある.Eco2 の立場から見て一番重要なのは, て,これを利用できる 1. 資金調達手段の数と多様性が増加していることと,  技術援助と能力形成は,都市が Eco2 実現計画の プロジェクトの規模や段階に応じた手段の組み合わ ために多くの手順を決め実行するのをサポートす せが可能になっていることである.ここで,世界銀 る.また,Eco2 実施のための重要な方法と道具を 行の例を見てみよう. 詳細に利用する際にも支援を行う.考えられるサ  ほとんどの場合,世界銀行に資金援助を求める都 ポートとしては,以下の例が挙げられる. 市は,各国の政府を通して申請を行わなければなら ない.それは,限りある借款(ローン),信用供与 (1) Eco2 をその都市固有の必要性や優先事項に合 ,あるいは無償資金(グラント)をそ (クレジット) 致するやり方で適用する. の都市に供与することが,各国の優先事項や戦略と (2) Eco2 の方法・道具を用いた診断・分析作業を 合致していることを明確にするためである 2.世界 実施する. 銀行グループは,多様な金融手段を用意しており, (3) Eco2 実現計画とさまざまなプランを作成する それらを組み合わせて Eco2 プロジェクトの支援に (ビジョンと戦略を実現するための投資・資金 使うことができる.以下,他のドナーの金融手段と プランを含む). ともにそれらを記載する.1つひとつのプロジェク (4) 柱となる原則に特に注意しながら,Eco2 プロ トごとに金融手段を決める従来のアプローチとは異 ジェクトの実行に必要な組織・制度面での実施 なり,世界銀行グループは,さまざまな方法をパッ 能力を強化する. ケージ化することによって統合的アプローチを実行 (5) Eco2 の方法・手段を利用するために必要な技 しやすくしている.これは,Eco2 イニシアティブ 術を,その地域に存在する機関の内部に装備す と当該の投資プロジェクトの成功にとって極めて重 る(例えば,GIS(地理情報システム)). 要である. (6) 国の資金メカニズムを通して Eco2 イニシア ティブを制度化するための国家戦略をデザイン 1. 「開発政策融資」は,国レベル及び地方政府レ する. ベルでの政策と制度改革をサポートするため (7) 統合的デザインのためのワークショップ,将来 に,支出可能な資金を迅速に提供する. 予測ワークショップ等を開催する. 2. 「特定投資ローン」は,広範囲なインフラ整備 (8) Eco2 優良事例都市への目的を絞ったスタ に対して資金を提供する(給水,排水管理,発 ディーツアーや職員派遣を実施する. 電や送電,固形廃棄物管理,道路,公共交通機 関など)  結局のところ,知識共有・技術支援・能力形成の 3. もし政策及び制度改革によって,クリーン開発 実行は,各都市の具体的なニーズに基づくことにな メカニズム(CDM)の方法論によって定めら るだろう. れた要素に適合する温室効果ガスの重要な削減 枠組み ≫ 第7章 共に前進しよう 109 につながる場合,あるいは直接投資によって同 は,優遇的条件で融資を行っている.もし,プ 等の削減が達成できる場合(例えば,固形廃棄 ロジェクトが,温室効果ガスの長期的な排出削 物管理を通じて),世界銀行のカーボン・ファ 減につながる大きな可能性を持つ低炭素技術の イナンス・ユニットは排出削減量を購入するこ 実証・配備・移転に貢献するものならば,この とができる.これは,追加的な現金収入を生み 基金を利用することができる. 出すことによって,プロジェクトの採算性を向 7. 政治的リスクに対しては保険をかけることがで 上させ,銀行融資を受けやすくするだろう. きる.世界銀行の多国間投資保証機構は,政治 4. や は り 世 界 銀 行 グ ル ー プ の 一 員 で あ る 国 的リスクのある発展途上国でも民間投資を引き 際 金 融 公 社(The International Finance つけることができるように支援している. Corporation)は,温室効果削減に対応する民 間部門の投資(例えば,エネルギー効率の良い  世界銀行は,これらの金融手段を組み合わせ,順 建物や技術)に融資することができる. 番に利用し,結合させることによって,Eco2 に関 5. 地球環境ファシリティ(GEF)は,地球規模 連した都市の資金ニーズに順次に対応する統合的ア の環境問題に対処するために無償資金(グラン プローチを可能にするだろう.もちろん,これらの ト)を提供する世界的協力の仕組みであり,そ 手段のすべてがいつでも必要なわけではない.図 のプロジェクトには 6 つの重点領域がある(生 1.32 は,資金関連の手段がどのように融合される 物多様性,気候変動,国際的海域,土地劣化, かの例を示している.図の一番右端に示しているよ オゾン層,残留性有機汚染物質).上記の重点 うに,世界銀行グループは,世界銀行以外の資金ド 領域の1つまたは複数に焦点を当てた Eco2 プ ナーからの共同融資も得られるよう,各国政府及び ロジェクトであれば,GEF に申請する要件を Eco2 都市を支援している. (これらの金融手段の 充たすことができるかもしれない. [監訳者註:本 特徴は,第 3 部で説明されている. 6. 気 候 投 資 基 金(Climate Investment Fund) ) 書では,この部分の翻訳は収録していない] ) 政策と規制 資金の手段 ドナー協調融資 政策及び規制の採択 世銀開発政策融資 (DPL)フェーズ1 カーボン削減等の 世銀開発政策融資 (DPL)フェーズ2 目標の実現 カーボンファイナンス 世銀特定投資ローン(SIL) 借款/ インフラへの投資 無償資金 気候投資基金(CTF,SCF) 都市インフラの整備 GEF ファイナンス カーボンファイナンス 国際金融公社(IFC) MIGA 保証 図 1.32 金融商品 出典:著者収集. 説明:世界銀行グループが有する資金的手段と世界銀行が管理するマルチ・ドナー・ファシリティの諸手段は,Eco2 プロジェ クト向け資金調達が統合的にうまく実施されるようにパッケージ化,時系列化されている. CTF =クリーン・テクノロジー基金;DPL =開発政策融資;GEF =地球環境ファシリティ;IFC =国際金融公社; MIGA =多数国間投資保証機関;SCF =戦略気候基金; SIL =特定投資ローン 110 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES  財源は重要である.それによって,本書で論じて いるイニシアティブの多くが可能になる.しかし, 読者は,本書で紹介する最も優れたイノベーション やアプローチが,これらの複雑な外部資金源を使う という贅沢とは無縁に実施されたという事実を記憶 にとどめねばならない.Eco2 Cities イニシアティ ブの本当の試金石は,都市と資金調達を結びづける 能力ではなく,都市自身が秘めている全能力を発揮 できるように,Eco2 の4つの原則を応用・適用す る取り組みを促進することである. 注 1. 世界銀行グループは, 以下の 5 つの組織で構成されてい る:The World Bank Group consists of five insti- tutions: the International Bank for Reconstruc- tion and Development (IBRD), the International Development Association (IDA), the Interna- tional Finance Corporation (IFC), the Multilat- eral Investment Guarantee Agency (MIGA), and the International Centre for Settlement of In- vestment Disputes (ICSID). 2. IBRD(International Bank for Reconstruction and Development) の借款とIDA (International Development Association) の信用供与には主権 国家の保証が必要である. 第2部 都市ベースの意思決定 支援システム Eco2 都市のための方法とツール ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 112 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES  第2部が対象とするのは,都市での意思決定支援 合,最初はある場所の現在の実施状況の参照値を得 システムの中核となる方法について理解を深めたい るために使われ,その後さらに原因究明,ターゲッ と願う人たちである.ここでは,都市の戦略的で長 トの設定,シナリオ開発,コスト評価などに利用す 期的な管理や意思決定の支援のために使用される方 ることもできる. 法について,その役割を説明する.意思決定支援シ  これらの方法はいずれも,その有効性が既に証明 ステムが都市ベースのアプローチの一部として取り されているアプローチを代表しており,長期的に見 入れられているのは,このシステムを通して都市の てもその重要性は変わらないものばかりである.こ 能力を高め,Eco2 イニシアティブの中核となって れらの方法の基本的な目的は,分析やアセスメン いる考え方や手法を実際に運用できるようにするた ト,意思決定のプロセスを単純化することである. めである.これらの方法をそのまま利用するつもり また,これらは,都市がリーダーシップをとり,協 はなくても,何が達成できるのかが分かれば,枠組 働し,Eco2 都市プロジェクトに関するさまざまな みの全体についての理解を深めることができる. アイデアを分析・評価するときに具体的に役立つ方  各章はさまざまな種類の方法やツールを取りあげ 法である. る.第8章のタイトルは「協働によるデザインと意  方法にはそれを使うためのツールが付随している 思決定の方法」であり,都市がリーダーシップを ので,それについても可能な限り紹介する.その中 とって協働事業を行う際に役立つ運営方法やプロセ には,ある方法を効果的に素早く利用するのに役立 スを記載している.第9章は「資源フローと都市の つ使いやすいテンプレートやチェックリスト,図, 形の分析方法」と題し,最も実用的な分析方法につ 地図専門ソフトなどがある.ここで例示するいくつ いて概説する.分析方法を組み合わせることで,都 かのツールは,都市が実際に利用できる実用的な選 市の空間的属性(フォーム)と物理的資源の消費や 択肢である. 排出(フロー)の重要な相関関係が明らかになれ  第 2 部は,都市が持続性を達成するための方法 ば,都市は第1部で述べたような分野横断的なプ やツールを利用して能力形成に取り組もうと計画し ラットフォームの開発を促進することができる.第 ている場合の格好の出発点となるだろう.ここで主 10 章では,「投資計画の立案方法」と題して,会計 に行うのは,都市に深く関係するさまざまな問題の 分析の手法を概説し,ライフサイクルコスティング 紹介である.彼らに適した方法についてもっと詳細 や能動的なリスク緩和・適応策を実際に適用する場 を知りたいと思うなら,多くの都市はさらに多くの 合の方法について詳しく取りあげる. 情報を集め,具体的なツールを入手し,管理能力の  これらの方法は,一般的な計画プロセスをさまざ 幅と深みを拡大し,触媒プロジェクトにおいて新し まな時期にさまざまな形で支援するために使われて い手法を実際に使ってみたいと考えることだろう. いる.方法によっては,繰り返し使用されることも  能力形成(キャパシティ・ビルディング)の計画 ある.例えば資源のフローをまとめたメタ図の場 は,一番簡単なツールやアプリケーションから始め A CI TY- B A S E D D E CI S I O N S U P P O R T S Y S TE M 113 るのが普通である.その効果は極めて大きい.例え で包括的なモデルやツールを採用するのは間違 ば,コンピューターで作った精緻なプリントアウト いである (Lee 1973).具体的な目的を限定し, が,幅広い基本知識を持つ人が透明フィルムに描い 単独で,またはほかのツールと組み合わせて利 て見せる数枚の地図よりも効果があるとは限らな 用できるような柔軟性を持たせなければ,モデ い.コンピューターや手の込んだプレゼンテーショ ルは十分に機能しない.強力な理論的基礎に基 ンが,実際には邪魔になる場合もある. づく一方で,重要な前提条件を変更できるモ  能力形成(キャパシティ・ビルディング)の計画 ジュール式のアプローチなら,現実世界の複雑 は,利用できるデータや習熟度のレベルを考慮して さやユーザーのニーズの変化にも簡単に対応で 最も簡単なツールとアプリケーションにまず焦点を きる. 当て , その後時間とともに能力が高まるように段階 的に進めていくべきである.次のような特徴を持つ  ある特定の方法やツールを通して能力を身につけ ツールが取り組みの進化に役立つだろう. るのは,難しそうに見えるかもしれない.研修セミ ナーや使い勝手の良いソフトウェアを利用すれば, 1. 透明性:分析ツールは,初心者でも理論や情報 このプロセスも取り組みやすくなるだろう.障害は の流れを理解できるような分かりやすく調整し あるものの,途上国のほとんどの都市は新しい方法 やすいものでなければならない.複雑で中身の を採用し,能力形成に投資する必要がある.途上国 わからないコンピューター・モデルはふさわし の都市の問題は,先進国の豊かな都市が直面してい くない. る問題よりも複雑で困難なことが多く,そのため効 2. 拡張性:プロジェクトの取り組みのレベルと, 率的な意思決定支援システムがより一層必要とされ ユーザーの知識やスキルのレベルに簡単に合わ ている.能力形成に投資することで,より大きな利 せられるツールであること.条件が変化したと 益が得られるだろう. きにも,同じツールでより広範囲の情報や正確 な情報に対応できなければならない. 3. ウェブでの使いやすさ:インターネットを最大 限に活用できるようなツールを主として設計す 参考文献 れば,人材育成,ツールの更新,結果の共有, Lee, Douglass B., Jr. 1973. “Requiem for Large-Scale Models.” Journal of the American Institute of Planners データと結果の交換,ツールを利用したステー 39 (3): 163–78. クホルダーと一般市民の参加促進がより簡単に なる. 4. モジュール性:都市計画用のツールを使ったこ れまでの経験によれば,目的があまりに大まか 115 第8章 協働によるデザインと 意思決定の方法 協働ワーキンググループの組織と運営 協働事業に基本的ルールを取り入れる  協働事業はさまざまなグループが共通の目的のために団結する方法であり,自分たち の使命を変更する,権限を放棄する,予算を共有するといったことを必ずしも必要とは しない.力関係はそのまま保たれる.実際,協働事業がうまく行くのは,無理に力を手 放さなくてもいいからである.何か変化があるとしたら,それは情報の流れが大幅に強 .協働事業は市街地の総合設 化され,協調行動の可能性が大きくなることだ(図 2.1) 計では特に有効だが,これは非常に多くの団体が結果に影響をおよぼすからである.い かなるシステムも,土地利用政策や民間の開発プロジェクト,現地の施設,需要管理計 画,効率基準,線路敷設権の使用などによって大きな影響を受ける.協働委員会は,最 初に簡単なルールや原則に合意することから始まる.これは望ましい長期的結果につい てのビジョンを共有するのにも役立つ.  重要なルールの1つは,協働事業のすべての戦略を合意した後は,全員が状況に合わ せて独自の権限や資源基盤を利用し,その戦略に貢献しなければならないことである. メンバー間のバランスをとり,さまざまな権限レベルでの情報を構築する  協働ワーキンググループでの理想は,政府,民間団体,市民社会,学界(知的機関) などの各セクターのバランスがとれていることである.メンバー間のバランスをとるに は協働ワーキンググループの構成を慎重に考慮し,長期的と短期的,民間と公共の幅広 い視点を盛り込む必要がある.簡単な方法は,政府,民間部門,市民社会および学界と いったさまざまなセクターについて,大まかな比例代表制を取ることだ.それぞれのセ クターのさまざまな優先事項や視点を考慮していけば,バランスを取ることができるだ 116 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 諮問 規制 グループ グループ 助言 自由市場 グループ グループ 協働 グループ 限定的 意思決定者 ステークホルダー 情報の流れ 非限定的 図 2.1 協働モデル . 出典:著者作成(Sebastian Moffatt) 説明:階層構造の代わりに協働モデルを取り入れることで交流や協力の可能性は高くなる. ろう.例えば,政府は最も豊富な情報を持っている 関係機関,サービス供給機関も含まれる.機関に ことが多いにもかかわらず,たいていの場合,リス よっては官民の連携に参加することもあるが,それ クを冒すことは全く望んでいない.市民グループの にはネットワークとしての協力が必要だ.近隣の自 代表が大勢参加して積極的に動機やビジョンを提供 治体が関係者になることもある.隣接する都市や地 してくれれば,問題や障害ばかりを気にすることは 域と協働することで,廃棄物再利用の統合的な計 なくなるだろう.学界や知的部門からの情報は,特 画,輸送機関や土地開発の調整,協調的な経済発展 に議論の幅を広げるのに役立ち,後の段階で高度な などの面で強い相乗効果が生じることがある. 研究や専門知識を設計演習や計画提案に取り入れる  民間部門と各世帯は,エネルギーや資源利用だけ のにも役立つ.政治的関係や制度的構造などの特徴 でなく地域の汚染や世界的な温室効果ガス排出にも は都市によって異なるため,各セクターからの参加 大きな影響を及ぼしており,Eco2 のプロセスでも 者の適切な構成割合については慎重に考える必要が このことを考慮する必要がある.ロンドンの持続可 ある.計画の範囲や検討中のプロジェクトに合わせ 能な都市インフラについての最近の報告書には,こ て,その構成も変更すべきである. の見解が強く反映されている.  公共部門では,都市に影響をおよぼすすべての機 関や部署が関係者となり得る.これには国や州,地  本報告書が明らかにしているように,持続可 方自治体,区などが当てはまる.さらに,それぞれ 能性に関する決定にはさまざまな関係者が関 のレベルにおいて土地,水,エネルギー,交通,廃 わっている.成功に必要なのは,どれか1つの 棄物管理に対する責任をもつ規制やインフラ整備の 関係者の指図を受けることではなく,互いに連 都市ベースの意思決定支援システム ≫ 第8章 協働によるデザインと意思決定の方法 117 助言者および第一人者 C A A C C T ステークホルダー T C T T A コアチーム A B B C T T L L C B B リーダー B L L T B T A B C B T T A C T T T T C A A C C A A 図 2.2 協働ワーキンググループ . 出典:著者作成(Sebastian Moffatt) 説明:協働ワーキンググループの構成は,政府からの情報と民間部門,市民部門,知的部門のリーダーシップや専門知識のバランスを等しく 保てるよう考慮すべきである. 携することだ.ある種のことは国家や地方自治 7万台)減少し,ゾーン内のバスと自転車の使用が 体レベルで実施できるが,この中で最も強力な 増えただけでなく,2007 年度には1億 3700 万ポ 主体は消費者[編集者注:家庭や企業を含む] ンドが集まり,その大部分が公共交通機関の改善に であり,購買についての彼らの決定が削減可能 再投資された. な全 CO2 の約 70% を左右するだろう.した  協働委員会がうまく機能するには,優秀なチャン がって排出量削減では,彼らがそうした行動を ピオン(第一人者)と熱心な事務局,メンバーのバ とるのを妨げている障害を取り除くことが不可 ランスがとれた組織があればよい.図 2.2 は,市全 欠である.(EIU 2008: 64–65) 体の協働事業を組織する方法の一例を示している. 協働事業によって,総合政策を有する単一のワーキ  都市部の貧困層は都市のステークホルダーでもあ ンググループという新しい組織構造が作られる.1 る.優れた都市計画によって公共交通と自動車以外 人以上のリーダーが中心となってプロセスを指示す の輸送機関が利用しやすくなり,低コストのサービ ることで,参加者は目的意識と自信を持つことがで スと有害廃棄物の削減・再利用・適切な処理に対す きる.事務局は協働事業を支える小さなグループで る支援が強化される.その結果,貧困層の状況はす あり,重大な問題の調査,会議の円滑化,会議間の ぐに目に見えて改善される.それに加えて,公共施 連絡,イベント企画を引き受けている.有能な事務 設と都市が得た財政的利益は社会のより貧しい地区 局のおかげで,信頼が育まれ,すべてのメンバーが のために利用することもできる.例えば,ロンド 生産的で魅力のある,価値あるプロセスに参加して ンでは渋滞税によって交通量が 21%(1日当たり いると感じることができるようになるだろう.協働 118 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 事業として協定や戦略計画を作成している場合,協 といった面で生じる.共有枠組みを開発すれば,こ 働プロセスのためのコアチームが必要になることも れらの食い違いを克服し,強い自主性を持ったス ある(図 2.3).また,さまざまな関係機関のスタッ テークホルダーから成る雑多な集団が,1つのチー フが行う計画事業に対し,協働事業から指導や指示 ムとしてよりうまく機能するようになる.都市計画 を行うこともある. と設計のための枠組みでは,最初から最後までの全 段階を取り扱う.こうした枠組みの一例を図 2.4 の ピラミッド図に示す.枠組みの頂点となるスコーピ ビジョンと行動を一致させる共有枠組みの ング(対象範囲の絞り込み)では,関係する市街地 開発 の範囲を明確にして考慮すべき都市システムの種類 共有枠組みで情報伝達と連携を大幅に強化できる を特定し,現在運用されているシステムの長所と短  枠組み(フレームワーク)は作業スケジュールを 所を診断する. メンタルマップ 理解するときに利用する 心 象 地 図 である.この  一般的にはスコーピングと診断の後で枠組みを拡 とき一にも二にも重要なのは,各自の貢献を他のメ 大し,共通のビジョン・ステートメントと一連の長 ンバーの作業とどう調和させていくかである.たい 期的目標をつけ加える.次にこうした幅広いステー ていの場合,あるプロジェクトについて考えている トメントを,より具体的な当面のターゲットや戦略 枠組みには人によって大きなずれがある.こうした 計画,行動,進行中の学習プロセスなどに切り分け ずれは,各グループがプロジェクトのゴールをどう ていく.この枠組みにはユーザーが希望する原則や 理解しているか,誰が誰に影響を及ぼすか,あるグ 目標,戦略が含まれており,最新の計画枠組みや方 ループの計画と他の計画がどのように調和しあうか 法,用語に合わせて簡単に変更できる.その意味で は一種の方法論的多元主義であり,すべてが枠組み にぴったり合うようになっている.  おそらく最も重要なのは,枠組みには必ず説明責 任がともなうので,ゴールや目標と食い違う短期的 な政治判断を避けやすくなることだろう.また,具 体的なゴールや目標の達成度を監視し,当初の意図 を見失うことなく,計画を改訂したり変化に合わせ て調整したりする機会もある.ビジョンが時間とと もに変化した場合には,それ以降の枠組みのすべて 助言者と 第一人者 の階層を必要に応じて調整することができる.ま た,実施活動で意外なことが起きたり,ふさわしく ない結果になったりした場合には,戦略の選択まで 問題をさかのぼってその後のすべてのレベルで修正 を行うこともある. 第一段階では境界線の定義と現在の業績の解明が 必要となる 図 2.3 コアチームと各セクターの助言者 出典:著者作成(Sebastian Moffatt) .  長期計画枠組みは協働による意思決定を支援する 説明:各セクターの第一人者は輪となってコアチームを支え,それぞれが専 門家やステークホルダーの大規模なネットワークにワーキンググループを結 ものなので,その対象範囲を協働事業のプラット びつけている.新しい都市インフラではエネルギー,交通,水,環境,資材 フォームと一致させる必要がある.例えば,ある都 管理などのセクターが特に重視されている.しかし,他のセクターがもっと 大きく貢献する可能性もある. 市が3段階の協働プロセスを主導している場合に 都市ベースの意思決定支援システム ≫ 第8章 協働によるデザインと意思決定の方法 119 は,計画枠組みを拡大して,すべての市街地と参加 学習 しているすべてのステークホルダーに適したビジョ ンや行動を盛り込んでいく必要がある. スコー 責任  スコーピングと診断はどんなプラットフォームの ピング 説明 再調 土台作りにおいても有益である.明確な境界線があ よび 整お れば,すべての参加者が計画枠組みに何が含まれ, クお よび 構想 何が含まれていないかを知ることができる.大規模 バッ 適応 なリスト作成や情報収集のプロセスによって,現在 ード 調査および フィ 分かっていることと分かっていないことが明らかに 戦略的計画 なってくる.既存のシステムの成果について基本的 な分析を行えば,同じような都市や成功事例のシス テムと比べて,さまざまなシステムがどれくらいう 実施 まく機能しているのかを検証できる.これは都市プ ロフィールと呼ばれることがある.ある都市のス 監視 コーピングと基礎情報収集(プロファイリング)の 作業量は,枠組みに含まれる他の全てのレベルで必 図 2.4 長期計画の枠組み . 出典:著者作成(Sebastian Moffatt) 要となる作業量を上回ることも多い.しかし,その 説明:枠組みはビジョンを行動に結びつけるものであり,学習と適応のプロ 結果は以降のすべての活動の方向と指針を示すのに セスが含まれている. 役立つため,これに投資する価値はきわめて高い. 最終目標はビジョン・ステートメントを詳しく説 と,その都市のインフラの長期的能力や地域の 明したものとなる 資源基盤とを調和させる.  ビジョンを簡単な言葉やアーティストのスケッチ 2. 樹 木, 庭, 池, 湿 地, 生 け 垣, 小 川, 緑 道, グリーンルーフ などで表現して,感性に訴えたり広めたりしようと 緑 の 屋 根,人工的につくられた生態系は,費 することもある.インフラの設計や土地利用計画だ 用的効率の良い緑のインフラの一部となってい けに範囲が限られている場合には,何よりもまずそ る.これらは雨水の流れを抑えて浄化し,穏や ちらの領域にビジョンを絞るべきである. かで気持ちの良い快適な微気候をもたらし,夏  最終ゴールをまとめたステートメントをつけ加え には建物に当たる日差しをさえぎり,大気の質 れば,ビジョンを詳しく伝えることができる.最終 を改善するだけでなく,近隣住区の居住性や生 ゴールとは,ある都市がそうありたいと望む最終的 物多様性に大きく貢献している. な状態をまとめたものであり,実現まで何年もかか ることがある.たいていの場合,最終目標は1つの  こうしたゴールは長期的な状況について述べたも はっきりしたステートメントとして表現され,その のだが,すべての設計と計画に共通する参考基準や 後に解説がつく.カナダのオタワ市には多数の最終 協働的な意思決定の土台を提供してくれるので,当 目標がある.そのいくつかは持続可能な都市代謝の 座の戦略的目的としての役目も果たしてくれる. 達成や緑のインフラの利用拡大といった,インフラ  Eco2 都市の最終ゴールは,最低でも基本的な都 の成果に直接関係するものだ.その内容は次のとお 市サービス(エネルギーや水など)と都市生態の改 りである. 善に取り組むものでなければならない.都市は独 自の方式や言語を選んだり,Eco2 Cities イニシア 1. それぞれの近隣住区の天然資源に対する需要 ティブの事例を自分たちのフレームワークのゴール 120 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES に合う形で取り入れることができる.いずれにせ 標をどのくらい達成できるかという観点から,それ よ,それぞれの目標は重要なステークホルダーが議 らの価値を相対的に評価するチャンスがある.市政 論して承認し,地元の状況や文化的な価値観を反映 府や各部門にはすでに戦略的計画があるかもしれな したものでなければならない.ゴールが長期にわた いが,枠組みはこうした計画の対象期間を拡大・調 るため,ゴール・ステートメントの合意形成プロセ 整する際や,投資のライフサイクルの長さに対応し スは,ステークホルダーと住民との間に共通の目的 た戦略をまとめる際に役立つだろう.複数の市町村 が生まれる有意義な体験となることも多い. にまたがる都市域のスケールでは戦略的計画が特に 有益だが,現在,途上国の多くの都市域は共通の戦 ゴール到達までの具体的目標を設定する 略的フレームワークを持たずに運営されている.  中間目標を立てて具体的な最終ゴールの達成を支  成長している都市域では,ほかのすべての計画 援することも,ときには有効である.それぞれの目 について設定した上位計画のことを地域成長戦略 標は,1つまたは複数のゴールについて都市に期待 (RGS:regional growth strategy)と呼んでいる されている成果を数字で表した指標に基づいて決め 場合がある.RGS があれば,土地利用・土地需要 られる.都市は特定の期間についての目標を設定す や開発の優先事項に関する前提条件を,交通,水, ることによって,変化の速度と投資の優先事項の管 エネルギーなどのすべてのインフラ計画において確 理を支援することができる.例えば,ストックホル 実に共有できる.また,RGS では地域の人口増加 ム市は 2030 年までに新規の建築工事をすべてカー と雇用予測を考慮し,構成単位(町や郡,市など) ボンニュートラル(CO2 の排出量ゼロ)にすると を含めた地域の長期計画の方向も決定する.RGS いう目標を設定した.ニュージーランドでは市町村 があれば,ばらばらの構成単位を全体として1つの の 70%以上が,埋め立てゴミゼロという目標を採 機能を持つ組織に統合することができる.RGS で 用し,途中の通過点ごとの目標を1つひとつ定めた は都市が環境に適応する方法の全体像だけでなく, 予定表を立てている.カリフォルニア州のサンディ 近隣住区を結びつけて新たな成長と投資を管理する エゴ市とアーバイン市は,商業用不動産での再生水 ためのおおまかな戦略も示される.RGS は,給水 利用を広く普及させるという目標を達成した. 制限,大気の質,交通管理など,都市域の規模で解  最終ゴール(必要ならば目標も含む)を取り入れ 決すべき重大な問題に常に取り組んでいかなくては る際に,成果を評価したり優先事項を設定したりす ならない.また住宅,地域サービス,公園,経済発 ることもある.専門家の判断と地元の知識を利用す 展,気候変動イニシアティブの優先事項が RGS に れば,それぞれのゴールに関する疑問を検討でき よって決定されることもある.地域成長戦略は,周 る.その疑問とは,現在都市はゴールにどこまで近 辺地域や地域内のさまざまな町やステークホルダー づいているか,どんな力が将来の成功に影響しそう の合意(承認)を取りつける合意形成プロセスを通 なのか,現在都市はどのような方向に向かっている して策定されることで,最も効果的なものになる. のか,状況は良くなっているのか悪くなっているの  長期的な効果を保つため,RGS ではインフィル か,変化の速度はどのくらいなのか,などである. 開発や高密度化に適した地域を特定し,具体的な都 この種の速やかな評価は,Eco2 プロジェクトのた 市の保護地域の開発スケジュールを決めるといった めの優先事項を決めるときにも役に立つ. 段階的なアプローチを通して,予想されている人口 と雇用の増加に対応していく必要がある.一般に, 戦略的計画では立案者による代替シナリオの評価 RGS には,都市のさまざまな要素が互いに作用し が必要である 支え合えるようにするため,次のような成功事例が  このように計画枠組みの調査段階には,さまざま 応用されている. な代替シナリオやアプローチを開発し,ゴールや目 都市ベースの意思決定支援システム ≫ 第8章 協働によるデザインと意思決定の方法 121 • 効率的で便利な移動手段を有する輸送回廊で互 される最初のプロジェクトは触媒プロジェクトと呼 いに結ばれるとともに,成長の中心地域とも結 ばれている.触媒プロジェクトの役割は学習を促進 ばれるように階層化された地域成長センター し,Eco2 実現の道筋の受容や理解を進めることで • 都市に買い物やビジネス,芸術のための施設を ある.触媒プロジェクトは特定の地域を対象とする 提供する,1つ以上の集中的に成長する地域 場合と,都市全体におよぶ場合がある.また,触媒 • 輸送回廊沿いとすべての輸送ハブでの中密度ま プロジェクトは,デザインと政策の融合可能性を具 たは高密度の開発 体的に示すように設計すべきである.ほとんどの種 • 複数の方法で土地が利用され,住宅/雇用比率 類のインフラ投資や土地開発はこの目的に合わせて が健全で,明確に定義されたオープン・スペー 調整できるだろう.しかし,最も望ましいのは人々 スを有する,完結型の近隣住区・地域 の協力によって動くか,すでに適切な方向に進みつ • 市街地と農村部,自然地域を分離して保護する つある場所で効果を発揮するような触媒プロジェク 永続的で機能的な境界線を持つ,明確に定義さ トを選ぶことである.また,改革を目指す都市の優 れた封じ込め境界 先事項に基づいて,触媒プロジェクトを選ぶ方法も • すべての居住地域を公園のネットワークや地域 合理的だ.例えば,最終ゴールがすべての人に低家 の代表的な自然生態系と結びつける,緑道や水 賃住宅を提供することなのに,実際の住宅価格が手 路のきめ細かなネットワーク の届かないものになりつつある場合は,何らかの政 策介入が必要なことは明らかである.プロジェクト  RGS は必ずしも複雑な仕事ではない.最も有名 の詳細が前もって決定されていなければ,新しい方 な RGS の中には急いで作られたものや,最初は簡 法やツールが支援する協働と総合設計のプロセスを 単なビジョンや地図として登場したものもある.し 通してより効率の高い多目的システムを設計し,よ かし,多くの場合,このプロセスは開始から終了ま り調整のとれた能力改善政策を策定できる. で2年ほどかかる上に,資金の調達と確保にもさら  触媒プロジェクトは学習と統合を中心としている に時間がかかる.また,能力形成や実地調査,地図 ため,厳密にはパイロットプロジェクトでもなく, の作製と分析,協働,公共のプロセスにも多大な投 実証プロジェクトでもない.学習とその後のすべて 資が必要となる.従って RGS の実施や改訂は,他 のプロジェクトに対する影響を通して,変化を促進 の Eco2 プロジェクトと平行して,またはその後か することが重視されている.触媒プロジェクトは学 ら行われることもある. 習社会へと向かう都市の変化を促進するものである.  長期的で完全かつ最新の RGS がなければ,共有  Eco2 実現の道筋の歩みを始める方法として,ま 計画フレームワークはあまりうまく機能しないかも た地元のプライドや場所づくりに貢献するために, しれない.RGS なしでは,例えば Eco2 プロジェク 都市がすべての近隣住区ごとにそれぞれ1つの活発 トを長期的な土地利用や開発に組み込むのが難しく な触媒プロジェクトを計画することもある.図 2.5 なり,設計と政策を統合するチャンスもいくらか減 には近隣住区での触媒プロジェクトがどんなものか じてしまうだろう.しかし,Eco2 実現の道筋に暫 を思い起こさせるもので,放っておけば間違った方 定的な解決策を組み込むことにすれば,時間や資源 向に進んでしまいそうな地域で何が達成できるかを をそれほどかけずにかなり多くの助言が得られる. 予想して方向を修正する際に,触媒プロジェクトが どのように役立つのかを示している. 重要な戦略は触媒プロジェクトと同時に開始すべ きである それぞれの政策ツールとステークホルダーをまと  プロジェクトの計画と投資を通して戦略を実施で めた総合的な実施政策 きる可能性もある.Eco2 実現の道筋に沿って実行  すべてのステークホルダーが参加してすべての政 122 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 策ツールや手段を検討するには,関係するステーク パラダイムシフトを促進する触媒プロジェクト ホルダーと政策をカテゴリーごとに分類して示すマ トリックスを作るという方法がある.表 2.1 にマト 「システムを分析する人たちは『レバレッジ・ポイント』 リックスの一例を示す.さまざまな政策ツールや手 を大いに信頼している.これは企業,経済,生命体,都 市,生態系などの複雑なシステムの中で,1つの小さな 段は一番上に,ステークホルダーは左側に並べられ 変化が全体に大きな変化を引き起こすポイントのことだ ている.こうしたマトリックスの作成は,共有の計 …」 画枠組みに基づいた協働演習の成果である.このマ 「パラダイムのレベルでシステムを変えることができた者 トリックスは戦略的計画をつくるためのツールだ は,システムを完全に作り変えてしまうようなレバレッ が,協働ワーキンググループにとってはチームワー ジ・ポイントを突いたのだ」 クの可能性を視覚化する方法でもある.たいていの 「…パラダイムシフトのプロセスが物理的なものや費用が 場合,管理したり影響をおよぼしたりする方法はス かかるもの,ゆっくりしたものとは限らない.個人の場 テークホルダーによって異なっているため,実施す 合は 1000 分の 1 秒で起きることもある…社会全体とな るときにはさまざまな,しかし互いに補いあうよう ると別の問題だ.社会はほかの何にもまして,現在のパ な活動が生まれてくる. . ラダイムに疑問を抱くことに対して激しく抵抗する」 出典:Meadows (1999: 1, 18). 地域システム設計シャレットの実施  どのレベルでも,総合設計を促進し支援するため 最終的状態 ゴール ス) 道筋 ルパ 実現の ィカ い Eco2 リテ パフォーマンス指標 (ク 望まし 経路 臨界 触媒 触媒 プロジェクト プロジェクト 触媒 触媒 プロジェクト プロジェクト 時間 図 2.5 触媒プロジェクト . 出典:著者作成(Sebastian Moffatt) 説明:触媒プロジェクトは短期的な取り組みであり,長期的な計画枠組みの目標や最終ゴールを達成するための Eco2 実現の道筋を創出するの に必要な変化を促進するように設計されている. 促進戦略1:河川と緑地帯の保護と接続 存続できそうな河川,緑地,回廊地帯のネットワークを再び接続することによる,自然のシステムと建築されたシステムの回復と保護 中止か開始か継続 投資およびイニシアティブの立案 研究,実証およびリーダーシップ 教育および啓発 法律,規制および施行 市場手段 か? 中止 - 中止すべき施 連邦機関 ・ フレーザー川河口部管理プログラム ・ 連邦政府所有地を利用してグリー ・ 連邦の環境権法の起草と承認 ・ 保全目的で寄付された土地の資産 ・ 管理アウトリーチ活動の継続 策 の継続 ンルーフなどの持続可能性戦略を ・ 河川内の作業, 川岸地帯の転換, 売却益に対する課税の停止 ・ フレイザー渓谷下流の末無川を利 ・ 集水域および河川管理イニシアティ 紹介する 魚類の生息環境への劇物の放出 ・ 生態学的に敏感な土地および地役 用可能にする作業の継続 開始 - 開始すべき施 ブの支援を継続 ・ 連邦政府所有地の開発に対して新 に対する規制の継続 権の贈与に対する税制上の優遇措 ・ 海洋生態系と淡水生態系について 策 しい開発基準の使用を開始する 置の継続 の教育支援を継続 ・ 見本となる持続可能なコミュニティ 継続 - 継続または拡 の設立を支援 大すべき施策 州の機関 ・ 戦略的土地利用計画および土地・ ・ 州の土地や建物を利用したグリーン ・ 州の地下水関連の法律を立案・ ・ 保全契約で保護されている環境的 ・ 持続性と生態系に関する議論を学 資源管理計画の開発を継続 ルーフなどの持続可能性戦略の紹 採用するプロセスの開始 に重要な私有地の免税措置を継続 校の教育課程に取り入れる ・ 集水域回復プログラムの継続 介を開始または継続する ・ 連邦の環境権法の起草と承認 ・ 生態学的な土地の寄付に対する不 ・ 生息環境を管理する作業でリー 統治改革: ・ 大学での研究に出資しうまく機能し 動産取得税の停止 ダーシップを示している組織のため 積極的なイニシア ている緑道の特徴をつきとめる に州の評価プログラムを開発する ティブと予防的対応 を 可 能 に す る た め, 政府内の各レベルの 地域の機関 ・ 地域の河川管理センターの設立 ・ 地方自治体がカスタマイズできる雨 ・ 汚水渠システムと河川への放出に ・ 下水処理サービスに対する比重の ・ 河川や生息環境の価値に関する教 権限を変更する必要 ・ 緑地帯の拡大・維持と連動する河 水条例のようなモデル条例を準備 関する商業的・産業的廃棄物条例 増加を開始 材の準備と普及 がある. 川管理活動の調整 する の強化 ・ 地域の重要な河川での暗渠解消の ・ 学校, 開発業者,コ ミ ュニティ・グ ・ 地域の生息地と集水域のアトラスの ・ 特にこの地域の東側にある帯水層 ための寄付基金を創設 ループ, NGO のために, 印刷物 作成 の保護・回復に関する理解を深め ・ NGO と生息環境を取得するための やオンラインフ ォーマットで利用でき 統治システムの改革 る 資源の有効利用 る生息環境ア トラスを作成する には,集水域ベース の方法に移行し,小 地方自治体 ・ 公式コミュニティ計画に環境に関す ・ 地方自治体の所有地を用いた暗渠 ・ 水辺や影響を受けやすい生息環境 ・ 州の授権法規を利用して, 保全契 ・ 河川管理グループや教育活動への 流域管理グループの の機関 る目標と課題を加え, 開発許可地 解消パイロット・プロジェクトの実施 をあらゆる法的ツールを利用して 約をしている地主の該当部分の土 出資と支援を継続または開始する 設立と支援を可能と 域を特定する ・ 地方自治体の公園の一部を自然化 保護する 地の固定資産税を免除する する仕組みを利用し ・ 暗渠解消戦略の立案 する ・ 樹木保護条例の採用 ・ 「建築密度の割増」 方法の利用に て,計画と実施を行 ・集水域管理計画の立案 ・ 大通りの自然化 ・ 合流式下水道の分離促進による雨 よる生育環境保護の促進 うことが含まれる. 天時越流水の削減 市民の役割: 民間部門 ・ 政府のあらゆるレベルと協力してイ ・ 地主による自発的な保全を開始する 誰でもできること 全員ができること ニシアティブを計画する ・ NGOとの自発的な管理協定の締結 (誰でも実施できる実施方法) (全員が実施できる実施方法) ・ 開発中の環境を監 ・ 緑地の取得と河川の回復への出資 視する ・ 用地の開発中に魚 NGO ・ 政府のあらゆるレベルと協力してイ ・ 生息地を取得し保全契約を維持す ・ アウトリーチ活動の継続と生息環 類への影響が見ら ニシアティブを計画する る土地信託の開始 境と河川管理に関する関心を高 れたら,開発の提 ・ 実施を支援するボランティアの派遣 ・ 政府と民間部門のあらゆるレベルと め,教育を促進するための出版物 案者による違反を ・ 生息地・河川管理グループを組織 研究および実証プロジェクトで協力 の準備 報告する する する ・ 生息環境・河川管理グループの形 ・ 緑地の形成を促進 成 する密度レベルを 唱える 都市ベースの意思決定支援システム ≫ 第8章 協働によるデザインと意思決定の方法 表 2.1 政策マトリックスの一例 .もともとは CitiesPLUS (www.citiesplus.ca) のために作成されたもの. 出典:著者作成(Sebastian Moffatt) 123 説明:政策マトリックスは,協働事業の各参加者が具体的なカタリスト戦略を支援するために利用するさまざまな政策手段を示したもの.NGO= 非政府組織. 124 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES の重要な組織となっているのが協働委員会である. 市システムに対応できるようになっている. 建築家や立案者,技術者,必要に応じて後から参加  シャレットで検討する規模はプロジェクトごとに する専門家などの小さなチームから始まる従来の設 大きく変化する.長期的な地域計画を作るのが課題 計プロセスと違い,総合設計では開始の段階からさ なら,すべての市街地と周辺の農村地域を含んだ規 まざまな専門家,地元のステークホルダー,パート 模になるだろう.その上で,あるチームは境界線 ナーが参加する.その課題は専門家の助けを借り や接続に,ほかのチームは完結型近隣住区の形成 て,それが可能なうちに重要な意思決定を動かすこ に,またほかのチームはインフラシステム(都市シ とと,実用的で予算内に収まるような,相乗効果を ステム)に重点的に取り組んでいく.すべてのチー 持つ革新的な解決策を見つけ出すことである. ムの方向性は最終目的によって決められている.最  上位の立場にいる意志決定者が作った正式な協働 初は小さなチーム同士が話し合って情報とアイデア プロセスが以前から存在していれば,各グループは を共有する.その後,単純な図から完全な計画や地 総合設計プロセスに気軽に参加しやすくなる.協働 図のレイヤリング,スケッチ,メタ図,概略図へと 委員会が設計ワークショップの価値を認め,最も優 プロセスが進んでいく.ワークショップのペースは 秀な設計者に協力するのが理想だ.連携協定があれ どんどん速くなり,驚くべき量の仕事が達成され ば,こうしたワークショップの結果は的確に評価さ る.こうした多くのワークショップを指導してきた れ,プロジェクトの最終案に確実に反映される. カナダ人専門家のパトリック・コンドン(Patrick  Eco2 実現の道筋の促進には,さまざまな設計 (2008)によれば,シャレットは「最も Condon) ワークショップが利用できる.最も重要なワーク 難しい問題に取り組むための最も創造的な提案を, ショップの1つがシステム設計シャレット(図 2.6) 最も優秀な設計者から最も短い時間で引き出すのに だ.シャレットは4~7日ほど続く集中型のワーク 最も適した方法」である. ショップで,たいていの場合は専門家,設計者,住  シャレットは協働的な設計方法であり,都市計画 民などのさまざまなグループが一堂に会する.シャ で普通になっている考えよりもずっと大きな創造力 レットの場では小さな混合チームが互いに隣り合っ と分野横断的な考えがそこから生まれる可能性があ て毎日作業をするが,交流の機会もあり,尊敬され る.シャレットの最初に,各チームは都市や地域 ている有名人の訪問が企画されることもある. の長期的な計画枠組み(図 2.7)を見直して議論す  設計シャレットの運営テクニックはここ数年で進 る.各チームはワークショップの間に行われる多数 化した.当初,シャレットは主に建築形式や内部空 間の利用法といった,創造的なデザイン・ソリュー ションに刺激を与えるために利用するツールだっ た.多くの専門家からの情報を利用してさまざまな 配置を考え,新しい建物や建物群を書き込んでいく 方法だ.最近ではこのテクニックが近隣住区や都 市,地域全体に応用されている.その結果は素晴ら しいものだ.規模や歩きやすさ,街の風景や公共空 間に配慮した 3 次元空間として,より大きな空間 領域を扱うこともできるだろう.特定の場所を事例 研究に利用することもある.また,技術者と設計者 が都市の資源フローに取り組み,代替インフラの概 要や計画にこれを盛り込むことも可能だ.このよう 図 2.6 設計ワークショップ:システム設計シャレット に設計シャレットは拡大し,都市規模のあらゆる都 . 出典:写真提供(Sebastian Moffatt) 都市ベースの意思決定支援システム ≫ 第8章 協働によるデザインと意思決定の方法 125 オリエンテーション 背景の紹介,ツアー, フォーカスグループ 議論 や地元の専門家との 知見の共有と報告 テーマの設計 ミーティング 長所, 短所,ビジョン および新しい方向性 フィードバック 方向性やテーマに ついての意見や住民 との議論 コンセプトの設計 重要なテーマの応用と実例, 設計課題に対する反響 プレゼンテーション 各チームの作業結果. パネリストと市民から の意見 アイデアと知見 ビジョンとテーマの強化 設計による解決策 1日目 2日目 4日目 3, 図 2.7 地域設計シャレット . 出典:Lennertz and Lutzenhiser (2006) より;写真提供(Sebastian Moffatt) 説明:地域設計シャレットは,数々の議論やフィードバック,プレゼンテーションを通じ,数日間でオリエンテーション,テーマの設計,コンセプ トの設計を進める集中的な作業である. の小規模なプレゼンテーション,熱心な議論,描画  地域設計シャレットの締めくくりには利害関係 のセッションなどを通して,招待された市民や専門 者,重要人物,市民が参加する全体プレゼンテー 家と頻繁に触れ合うことになる.こうした幅広くて ションが行われ,RGS への勧告を盛り込んだ詳し 有意義な関わりは,前向きな成果を得るのに役立つ い図解入りの出版物が用意される.(シャレットの 上に,ステークホルダーの心配や抵抗も少ない.こ マニュアルと事例研究については,Condon 2008; うして,成功事例を地域の状況に当てはめる方法な Lennertz and Lutzenhiser 2006; Swanepoel, どの議論の分かれる問題についても,合意が得られ . Campbell, および Moffat 2003 を参照のこと) る可能性がかなり高くなる. 126 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 参考文献 Condon, Patrick M. 2008. Design Charrettes for Sustainable Communities. Washington, DC: Island Press. EIU (Economist Intelligence Unit). 2008. “Sustainable Urban Infrastructure: London Edition; A View to 2025.” Siemens AG, Munich. http://w1.siemens.com/ entry/cc/en/sustainablecities.htm. Lennertz, Bill, and Aarin Lutzenhiser. 2006. The Charrette Handbook: The Essential Guide to Accelerated Collaborative Community Planning. Chicago: APA Planners Press. Meadows, Donnella. 1999. “Leverage Points: Places to Intervene in a System.” Sustainability Institute, Hartland, VT. Swanepoel, Lourette, Elisa Campbell, and Sebastian Moffat. 2003. “Tools for Planning for Long-Term Sustainability: The CitiesPLUS Design Charrettes.” Research report, Canada Mortgage and Housing Corporation, Ottawa. 127 第9章 資源フローと都市の形の 分析方法 メタ図とマテリアルフロー分析  インフラの設計や性能について考えるシステムの中で,最も強力なツールの1つがメ タ図である.メタ図には複雑な情報を標準化された簡単な方法で示す視覚化ツールと, 都市のエネルギーや水,物質のフローを追跡し,計算する方法という2つの側面があ る.本章ではメタ図の両方の側面について述べるとともに,メタ図がどのようにしてシ ステム的思考の発達を促進するのか,また総合的なインフラ設計プロセスにおいてどの ように役立っているのかを検証する.  視覚化ツールはサンキー図の一種であり,すべてのサンキー図と同じように,フロー の方向と量を示す機能を持っている.図 2.8 は,サンキー図の作り方と読み方を示して いる.サンキー図は,フローの量と方向を示すことで,他のどんな図表よりも多くの情 報を1ページに表示できる.しばしば言われるように,1個のサンキー図は 1000 個の 円グラフに匹敵する.  計算方法はマテリアルフロー分析と呼ばれている.この方法では,インプットとアウ トプットに関するバランスのとれた計算値の集合としてフローを追跡する.このときの インプットは自然から直接得られる資源(雨水,局所的日照,バイオマスなど)や,ほ かの地域から搬入された資源を指す.これらのインプットについて,都市のインフラや 建築物でのフローを追跡する.たいていの場合,インプットのフローの出発点では何ら かの処理が行われる.例えば雨水は濾過され,日光は電気に変換され,バイオマスは燃 焼によって熱を作り出す.処理後,各フローは飲料水,照明,料理などのサービス需要 を充たすために利用される.需要を充たした後,これらのフローが再び処理に回される こともある.例えば汚水処理やバイオガスの回収とリサイクルなどだ.最後にフローは 廃棄物や排出物として大気や水,土壌などの自然界に戻るか,貯蔵されたり他の地域に 128 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES ある区画の水のフローを示す.このサンキー ,コンバーター 図では,前もってソース(源) (転換部門),需要部門,リコンバーター(再転 換部門),シンク(吸収部門)という5つの分 割部門が設定されている.コンバーターとリコ ンバーターはフローの貯蔵,転換,調整,分 離,処理,リサイクルを行うオンサイトの都市 インフラについて一般的に使われている用語 だ.コンバーターはオンサイトでのすべての サービス需要の上流に位置し,リコンバーター はオンサイトでの少なくとも1つのサービス需 要の下流に位置する.この例では,区画内を流 図 2.8 サンキー図 れる水の大部分は雨水として流入し,その約 出典:著者作成(Sebastian Moffatt) . 60% はそのままこの場所を通って地面に吸収 説明:サンキー図はパーティションとノード,エッジ,矢印で構成されている. パーティションはフローの転移または段階を表し,その内側で転換が起きる. される.屋根に降った残りの雨水は貯水槽に貯 ノードはパーティション内の区分で,フローの品質を調整したり変化させたりす 蔵され,そこから近隣の地下水系と合わせて多 るプロセスや現象を表す.エッジはノードから出て,次のパーティションのノー ドに直接向かう帯状の経路を指す.エッジの幅はフローの量に比例する.矢印は くの世帯のニーズを充たすのに利用される.淡 フローの向きを示す. 水の使い捨てが最も多いのは冷却システムだ. この図からは高度な循環システムがすぐに見て 搬出されたりする.資源の種類や経路がどうであっ 取れる.台所と浴室からの水は回収されてトイレの ても,インプット量とアウトプット量は常に等し 水を流すのに使われ,浄化槽からの水はパイプ灌漑 い. に再利用されている.  マテリアルフロー分析を利用すると,都市インフ  ここで示したような区画レベルのメタ図を合わせ ラは,天然資源を消費している生きている生物の代 れば,区画の集合や近隣住区,都市のサンキー図を 謝と同じようなものに見える.こうした自然から自 作成できる.都市全体のメタ図の例として,カリ 然へのフローを示すサンキー図をメタ図と呼ぶ.そ フォルニア州のロサンゼルスの南にあるアーバイン れは,個々の工業化地区や都市全体の資源フローを 市という人口 18 万人の地域社会の基本的な水のフ 表すこともある.一般的なフローでは1年の平均値 ローを示す(図 2.10).アーバイン市は乾燥した気 を示しているが,一番関心のある疑問に答えること 候(1年当たりの降水量は 330 ミリメートル)の ができるように時間と空間のスケールを選ぶことも ために,アメリカ合衆国で最も複雑で高度な水道シ できる. ステムを開発した.この図では,重要なすべての情  図 2.9 にはメタ図の一例として,ニューデリーの 報が1ページに示されている. 人工的につくられた環境を「散逸構造」として見ると,それは適応能力を生み出し維持 するために,利用可能なエネルギー,物質及び情報の絶え間ない供給を必要としている. 同時に,劣化したエネルギーや廃棄物(エントロピー)が生態系内に継続的に戻ってく ることがないように,その流れを阻止している. 出典:Rees (2002: 253). 都市ベースの意思決定支援システム ≫ 第9章 資源フローと都市の形の分析方法 129 図 2.9 メタ図の一例 . 出典:著者作成(Sebastian Moffatt) 説明:このメタ図では標準的な5つの部門分割を用い,ニューデリーにある最先端の新築一戸建て住宅の水のフロー(リットル/日)を視覚 化している. メタ図がシステムの分析と設計に使われる5つの 物質やプロセス,期間を説明できるように作ら 理由 れている.メタ図の組み合わせが最も効果的な 1. 全体像の解明.メタ図はさまざまな背景を持つ 場合もある.例えば1年間のエネルギー・フ 人々が,システムの多くの側面を素早く理解で ローを平均すれば,全体の効率を追跡してエコ きるように設計されている.全体像を理解して ロジカル・フットプリントを解明する優れたベ いる人はほとんどいない.それどころか,一次 ンチマークとなる.しかし,季節的なピークや エネルギーのインプットの種類や割合,それぞ 毎日のピークはコストに影響し,システムの設 れのエネルギー需要の相対的重要度,地元の発 計を決める重要な要因となることが多いにもか 電所で利用される化石燃料の量,二次的にカス かわらず,1年間のエネルギー・フローではそ ケード利用されるエネルギーの比率などのエネ れが表に出てこない.このように,ピーク月の ルギーシステムについて詳しく説明できる人 ピーク時のエネルギー・フロー(または最少雨 が,都市全体を見ても1人もいない場合がほと 月の毎日の水のフロー)に基づいたメタ図があ んどである.それでもメタ図を見れば,誰もが れば,全体像を理解するのに役立つし,他のシ 数分で基本を理解できる(図 2.11). ステムの設計を評価する際にも役立つ.  一般的に,メタ図は具体的な決定に関係する 130 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 図 2.10 カリフォルニア州アーバイン市の基本的な水のフロー .おおよそのデータは Mike Hoolihan and the Irvine Ranch Water District (2008) より. 出典:著者作成(Sebastian Moffatt) 説明:この図は,商業地と公有地の灌漑を目的とした再生水の効果的な使用方法を例示している(平均立方フィート/日) .アーバイン市にはアメリ カ最先端の都市水道システムがある.オフサイトで集められて人造湖に貯蔵されている水や,南カリフォルニア水資源公社(MWD)がカリフォルニ ア州北部から購入した大量の水道水など,さまざまな水源があることに注目してほしい.地下の帯水層に貯蔵された淡水はアーバイン・ランチ水道 局(IRWD)が取水し,高価な購入水と合わせて衛生,調理,表面洗浄などに使用されている.市内を流れる水の大部分は雨水であり,人工湿地で処 理されるか小川に放出されている.水の2番目に大きなフローである回収汚水は,最も乾燥する時期に公共財産や商業用不動産の景観用水として利 用される.淡水(購入水と地下水)の最も重要な用途は,民家周辺の芝生の灌漑である.この図から,回収汚水を合法的かつ安全に住宅地の灌漑に 使用する方法を見つけ出すことが重要だと判明したため,現在この給水区域ではこの戦略が採用されている. 2. 分野横断的な集団の共通語を作る.メタ図があ の「伝統的」パターンは,中国とインドの最も ればインフラを全体的なシステムとして理解 古くて貧しい家でよく見られる.総資源使用量 し,システム内において資源利用効率が高い部 は比較的少ないが,さまざまな天然資源が複雑 分と,大幅な効率化や再利用,代替の可能性が に組み合わされている.例えばエネルギー・フ ある部分に気づきやすくなる.また,総合的な ローにおいては,効率最大でコスト最小という 解決案を見つける重要なチャンスを探る際の共 最終用途の条件に合わせてそれぞれの燃料が慎 通語にもなる. 重に選ばれている.そのためココナッツの殻は  さまざまなメタ図を集めて比較すれば,ス 水の加熱に,液化石油(LP)ガスはガスコン ケールに関係なくあらゆる物理的フローに当て ロに,木材は野外調理に,太陽エネルギーは衣 はまる簡単なパターン・ランゲージ[監訳者 類の乾燥に,灯油は照明に,電気は冷蔵庫に, 註:パターンの重要な特徴を簡潔に表す標語] 石油はスクーターのために使われている.伝統 を見つけ出すことができる(図 2.12).1つ目 的な家は貧しくて古いかもしれないが,エネル 都市ベースの意思決定支援システム ≫ 第9章 資源フローと都市の形の分析方法 131 ギーシステムは比較的洗練されている.  2つ目の「現代的」パターンは中国の上 海周辺の郊外の新しい規格型住宅団地(ト ラクト・ハウス)に基づいたものであり, このパターンは世界中の郊外住宅でよく見 られる.一般的に言って,家族の人数は 60%以上減少しているが,総資源使用量 は伝統的な家より1桁近く大きくなってい る.主なエネルギー源の組み合わせ方がシ ンプルであるのは,調理と輸送を除くほと んどすべてのエネルギー需要が,ガスか石 炭による電力供給網に組み込まれているか らだ.  3 つ目の「エコロジカル」パターンは需 図 2.11 全国的なメタ図の一例 要管理と再利用を取り入れた持続可能な統 出典:TERI(1997)からのデータ;デリーの S. J. プラカシュ(Prakash)らによる 分析;Society for Environmental Communications の非商業的なバイオマスデータ 合システムでよく見られる.資源投入量 . (2002) は「伝統的」パターンと「現代的」パター 説明:このメタ図はインドのエネルギー・フローを表したもの.主に製造業で使わ れる石炭と,主に輸送のために使われる石油が優勢であることに注意してほしい. ンの中間になり,「現代的」パターンの便 また,どれくらいの石炭が熱として浪費されているか,非公式なバイオマスが燃料 として2番目に多く使用されていることも注目すべきである.電気使用量は比較的 利さと「伝統的」パターンの複雑さが組み 低く,1人当たりの消費量も低いが,排出量は高い.LNG= 液化天然ガス. 合わさっている.一部のエネルギーのカス ケード利用によってフローから得られる サービスの価値が高くなると,ほかの始点 や終点に比べて需要部門の総フロー量が増 加する.主なエネルギー源の組み合わせは 伝統的パターンよりも複雑になるが,その 理由は高度な情報制御つきのハイブリッド システムを使用していることと,ネット 伝統的 現代的 エコロジカル ワーク化された地元のエネルギーサービス からさまざまなエネルギーが供給されるた 図 2.12 メタ図のパターン:物理的フロー . 出典:著者作成(Sebastian Moffatt) めである.しかし,最も大きな違いはエコ 説明:メタ図のパターン・ランゲージから,区画や地域レベルでの質量フローと ロジカルな家においては,柔軟性と適応性 エネルギーフローに関する技術的進歩の可能性が見て取れる. が増していることだろう. 3. 開発シナリオの代替案の開発とコミュニケー る.図 2.15 の概略図は,金澤の詳しいシナリ ション.将来の開発シナリオをメタ図として表 オと,運河地区によく見られる下町的なシステ 示し,基本的なベースとなる事例やシナリオと ムの構成要素を示す.概略図は,メタ図で触れ 比較することもある.図 2.13 および 2.14 に ている各技術の空間配置に関する情報を示して は,上海の金澤(ジンツォー)という自治体の いる. エネルギー使用に関するシナリオを示す.これ  ベースとなる事例がいったんでき上がれば, を見ると電力ミックスが徹底的に変更されてい メタ図によるシナリオ作成はむしろ簡単になる 132 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 図 2.13 金澤(上海)のメ 図 2.14 金澤(上海)のメタ図:高度なシステム タ図:現在のエネ 出典:著者が同済大学(上海)の李 京生教授から提供された概算データをもとに作製.詳しくは www. ルギーシステム . bridgingtothefuture.org で参照できる[訳注:現在(2013 年 7 月時点)は参照不可] 出典:同済大学(上海)の李 説明:このメタ図は排出とコストを下げて地元の雇用を増やし,エネルギー安全保障を強化する高度なシステム 京生教授が提供した概算データ を示している.この高度なシステムではかなりの変化が見られる.例えば,地元の発電施設は液化天然ガスを動 をもとに著者が作成.詳しくは . 力源とし,電力需要の大半と産業用の温水および冷水を供給している(カスケード利用) www.bridgingtothefuture.org で 参照できる[訳注:現在(2013 年 7 月時点)は参照不可] . だろう.新しいエネルギー源やコンバーターを の区画を組み合わせれば,特定の近隣住区や開 各区画につけ加えて接続することもある.ま 発計画,住宅カテゴリーでの資源利用に関する た,建物の改良計画を反映させるために,それ システム的思考を簡単に組み立てることがで ぞれの種類別区画の数を調整することもある. きる.ある区画の地上部は公園や私有地の家, 例えば,古い住宅 1000 戸の代わりに改良住宅 ショッピングセンター,下水処理プラント,道 を 1000 戸造った場合の水やエネルギー,物質 路など,全く異なったものになる.すべての区 のフローへの影響や,経済的総費用や炭素排出 画はつながっている.それぞれの区画は他の区 量への影響もすぐにわかる.すべての区画が同 画からの資源を必要としており,あるインフラ じ構造のデータベースを利用しているため,メ がその区画に割り当てられていれば,ここから タ図を結合することもできる.例えばいくつか 他の区画に資源を供給する場合もある. 都市ベースの意思決定支援システム ≫ 第9章 資源フローと都市の形の分析方法 133 Design Typologies 1.Town residential 図 2.15 下町の概略図 出典:Li (2006). .集中型の 説明:この概略図は,金澤(上海)の高度なエネルギーシステムの基礎となる設計の類型を詳しく表示している(図 2.14 を参照) 電力供給網(液化天然ガス)と電力網に接続した太陽光発電施設,家庭用太陽熱温水システム,河川水ヒートポンプ,風力換気などの分散型 インフラの組み合わせに注目してほしい. 4. 研究と設計の優先順位の設定.廃棄物の発生地 5. 達成度評価指標を透明で比較可能な形で評価す 点やさまざまな資源と需要の相対的重要度を解 る.メタ図はシステム分析だけでなく具体的な 明することは,研究と設計の優先事項を定める 達成度評価指標の作成にも使われる.実際,メ 上で不可欠である.それぞれのノードは代替, タ図のフローはすべて指標として使えるので, 効率,循環,カスケード利用のチャンスも示し 長期的に監視したり,他の場所や他のシナリオ ている.図 2.16 は,インド南部で提案されて と比較したりすることがある.メタ図の自然界 いる人口5万人の町のエネルギー解析を示す. から投入されて自然界に戻るフローのバランス この場合はメタ図を組み合わせることで,将来 を必要に応じてお金や排出量に変換すれば,す 計画では交通需要の問題に取り組むことが重要 べてのコストに関する平均的なライフ・サイク になることを強調して示すことができる.メタ ル・インベントリーが得られる.物質フロー分 図を組み合わせることによって,特定の問題に 析はライフサイクルの各段階のすべての消費, 焦点を絞ることができる場合が多い.例えば, 排出,費用を追跡する一貫した方法であるた 最少雨月のメタ図があれば自給の可能性を評価 め,内部と外部のコストの評価に適している. することができる.住宅需要のみを正確に詳し メタ図は計算に何を含め,何を除外するのかを く示したメタ図があれば,住宅地での方針を立 明確にするのに役立つ.例えば,用途がどんな てるのに役立つ. ものであっても水の総消費量はオフサイトの飲 134 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 図 2.16 提案されているニュータウンのエネルギーに関するメタ図 . 出典:著者作成(Sebastian Moffatt) 説明:これらのエネルギー・メタ図は,プーナ(インド)の近くに計画されたニュータウンの開発計画の指針として使用された.左の図は従来型の シナリオを示している.そこから,現在インド南部で行われている開発のために,石炭による発電の使用量がどれほど増加しているかがわかる.中 央のメタ図は,電車で輸送したバイオマスを地域の発電所で使用し,エネルギーをカスケード利用する高度なシステムを表している.右のメタ図に は,設計者に無視されてほかのメタ図から消えてしまった輸送エネルギーが含まれている.住民の通勤通学が予想されているため,交通関連のエネ ルギーがほかの全てのエネルギー使用量の合計を上回っていることに注目してほしい.右のメタ図からは,豊かなニュータウンの都市設計では通勤 通学の必要性を減らし,良質な交通システムを開発するためのインセンティブの付与を優先すべきであることがわかる. 料水とオンサイトの水(屋根集水),再生水に ナリオを作成したりする場合だ.こういう場合には はっきりと細分される.こうした区別がなけれ . 2種類の基本的な情報が利用できる(図 2.18) ば水の消費量の指標を理解することはできな い.メタ図のフォーマットを標準化すれば,異 1. トップダウンのデータ: 特定の資源(エネル なる地域や期間の結果を直接比較したり,シス ギー,水,マテリアル)が最近実際にどのくら テムの成績やトレンドラインを比較評価するベ い販売・供給・輸入されたかを確定できる.未 ンチマークを作ったりすることができる.比較 開発の土地(グリーンフィールド)の開発を 可能なベンチマークは,資源利用の長期的ター 扱っている場合には,近隣住区のトップダウン ゲットを確立する重要な作業段階においても有 のデータを自然体(BAU)シナリオの代わり 用である.例えば,リゾート都市ウィスラーは に利用すればよい.インプットがわかれば,人 カナダでの持続可能な計画の代表例だが,当局 口のデータと最終用途のカテゴリーごとの需要 は当時の業績を北米のほかの主なリゾートと比 のデフォルト値を使って残りのデータベース べて評価してからでないと,一連の指標につい を構築できる.例えば,1万人の集団で平均 て設けた長期的な達成目標に同意することはで 的な人が1日 200 リットルの都市水道水を使 きなかった(図 2.17). う状況なら,それをトイレ(40%),シャワー ,表面の洗浄(8%)などに分ければよ (5%) データが不足している場合のメタ図の作成 い.  データベースや表計算ソフトにいったんデータを 2. ボトムアップのデータ:さまざまな種類の区画 きちんと保存すれば,メタ図の作成は簡単である. または,建物が建っていて最終用途の決まって 実際,簡単なソフトウェア・アプリケーションを使 いる土地ごとに詳細なフローを作るところから えば自動的に図を作成できる.問題は,基本データ 始めれば,どんな資源のフローも集約できる. を集めてこれまでの状況を表現したり,従来型のシ このアプローチは精度がきわめて高く,既存の 都市ベースの意思決定支援システム ≫ 第9章 資源フローと都市の形の分析方法 135 スコーミ ッシュ チリ ワ ック キ ャンモア (2005)30.3 (2006)36.1 (2000)45.7 GJ/cap GJ/cap GJ/cap バンフ スコーミ ッシュ ウ ィスラー カナダ (1998)15.3 (2025)27.0 (2000)32.5 (2004)41.1 GJ/cap GJ/cap GJ/cap GJ/cap 0 10 20 30 40 50 E‑3: Annual Energy Use, by Residential Buildingsn pre Capita (GJ/cap) Toggle Groups スコーミッシュ アメリカ 2000 カナダ 2000 ニュージーラ ンド ベクシェ,スウ ェーデン 目標(95%) (4.8%) (16.75%) 2000(31.33%) ~ 2000(80%) アイスラ ン ド 2000 マルメ,スウ ェーデン 日本 2000 OECD 欧州 2000 スコーミッシュ 2006 ~ 2000(90%) (3.24%) (6.66%) (25%) (72.3%) 0 20 40 60 80 80 100 再生可能エネルギーの割合(%) 値が大きいほど良い 図 2.17 スコーミッシュ(カナダ)の指標の1つとしての年間エネルギー使用量 , 出典:著者収集(Sebastian Moffatt) . (Sheltair Group(2007)から構成) 説明:この2つのベンチマーク・スケールなら,現在のスコーミッシュの状況を他の場所の状況と比較できる.上の図では,居住用建物の年 間エネルギー使用量と,他の山岳リゾート・コミュニティの年間エネルギー使用量を比較している.下の図では,全エネルギーの中で再生可 能エネルギー源に由来する分の比率を,世界各国の値と比較した.スコーミッシュが再生可能エネルギーの比率を 2025 年までに 95%にする というターゲットを設定していることに注目してほしい.OECD = 経済協力開発機構. マテリアル, 構成要素 建物 地域 加工 インベントリー, 建設, 組み立て, 異常気象,運営の強化, インフラシステムの構成要素, 蓄積された 物理的・ 材質の適合性, メンテナンス, 建物寿 容量制限, 季節的な負荷量, 情報 化学的特性 熱音響効果など. 命老朽化 微気候, 遮光, 眺望, 騒音, 特性,コス ト, 形状 治安 ボトムアップ・ アプローチ 特性の集約 ライフサイクルを通じての量と トップダウン・ アプローチ ライフサイクル・シミュレーション用のデフォルト値または平均値を用いた外挿 法 図 2.18 メタ図の作成アプローチ 出典:ニクラウス・ケーラー(Niklaus Kohler)の支援により著者が作成. 136 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 建物ストックを扱う際に好んで使われる.各区 集約ツール 画は,土地利用法と需要プロフィール(戦前か  既存のストックの参照データベースを開発すると らの低層集合住宅や最新のショッピングモール きには,個々の区画レベルですべてのデータを収集 商業地など)に基づいてカテゴリーごとに分類 する.フローはサンキー図の構造と一致する所定の される.区画の情報を集めるには,専門家がそ マトリックスにして記録される.その区画の各ノー れぞれのカテゴリーの典型的な区画をいくつか ドのフローを上流や下流のノードとつなげ,すべて 訪問して調査し,これらの区画を参考にするこ の発生点と到達点の関係を説明する.それぞれの とで信頼性の高い参照データベースを作成する パーティションやノードを出入りするフローを相互 必要がある.それから参照区画を利用して,各 参照できるようにすることで,マトリックスはメタ カテゴリーに属するすべての区画にそれぞれの 図と数字的に等しいものとして機能する.それぞれ 標準値をあてはめる.メタ図用の集約フロー の典型的な区画から集めた経験的なフィールドデー は,各カテゴリーの区画の人口を標準的なフ タや,理論的な区画設計から導き出された仮想デー ローに乗じることで簡単に計算できる.こう タから,マトリックスが自動的に作成されることも した近道を使えば,正確な(プラスマイナス ある. 10%の誤差で)基本的なフローをすぐに決定  参照区画のフィールドデータと仮想データは資源 できる.図 2.19 に示したスコーミッシュ(カ フローに変換する必要がある.この変換は熱負荷や ナダ)の例では,さまざまな参照区画を調査し 水の需要量などを予測する標準的モデルを使って行 て地域全体のエネルギー・メタ図の作成に利用 われる.例えば,設備の種類や居住者数のような一 した. 次データを追跡するデータ収集フォームの場合,そ のデータを使って水,エネルギー,マテリアル,人 間に関して推定されるフローを,目的に応じて算出 商用:ホテル 住居用:集合住宅 公共施設:学校 商用:ホテル 商用:小売業 公共施設:学校 商用:銀行 公共施設:病院 公共施設:公共利用 商用:郵便 商用:銀行 図 2.19 参照建築の監査によるメタ図の作成 ,Sheltair Group(2007)より構成. 出典:著者収集(Sebastian Moffatt) 説明:スコーミッシュ(カナダ)では慎重に選ばれた参照建築に訪問して監査を行い,さまざまなカテゴリーの代用近似値として利用した.これら の参照建築を用いて地域の完全なエネルギー・メタ図が作成された.その結果,カスケード利用やオンサイト発電のほとんどない単純なエネルギー・ ミックスが明らかになった.この状態は,エネルギー価格の安いスコーミッシュのような地域でよく見られる.個人の移動にエネルギーの大部分が 使われているのも住宅コミュニティの特色であり,スコーミッシュでは労働人口の3分の2が他の土地で働いている. 都市ベースの意思決定支援システム ≫ 第9章 資源フローと都市の形の分析方法 137 する.データ収集フォームは多種多様なライフスタ せを使うことである.地図を使って人工環境と自然 イルと建築タイプに対応できるものでなければなら 環境の複雑な関係を手短に伝える方法は,『Design ない.表 2.2 には水フロー用に開発されたデータ収 (McHarg, 1969) With Nature』 『デザ [ 邦 訳: 集フォームの一部を示す.同じようなフォームはエ イ ン・ ウ ィ ズ・ ネ ー チ ャ ー』 ] ( 集 文 社,1994) ネルギーや有機物でも使われている.フォームはか で 最 初 に 使 わ れ た. イ ア ン・ マ ク ハ ー グ(Ian なり単純だが,他との接続関係を記録する必要があ McHarg)が考案した透明フィルムを重ねる単純な る.例えば,この表のフォームでは屋根からの排水 方法は今でも優れたツールだが,コンピューター が排出される場所(地面,貯水槽,街路,庭,下水 を 使 っ た 地 理 情 報 シ ス テ ム(GIS:geographic 道,雨水管,これらの行き先の組み合わせなど)が information system)とインターネットのおかげ 正確に記録されている. で選択肢はかなり広まった.今では GIS は地図作  それぞれの区画で収集したデータを使えば,一般 成と空間分析に広く使われている成熟した安価な技 的なフローマトリックスのインプットを自動的に 術であり,近い将来にあらゆる国,あらゆる都市で 作成できる(図 2.20).次に,このマトリックスを 行われる標準的な作業になるだろう.現在はすべ 使ってファイルを作成し,さまざまな図作成ツール ての大都市圏が GIS 部門を持ち,日常的に GIS を を用いてメタ図を作成する. 使って施設の設計や管理を支援している.  ある区画の地上部は公園や私有地の家,ショッピ  Eco2 プロジェクトでの能力形成との関連で,都 ングセンター,下水処理プラント,道路など,全く 市は分野横断的な計画プロセスを支援するために, 異なったものになる.データ構造のフォーマットが GIS とそれに付随した視覚化技術を必要としてい 1つだけなら,それぞれの区画にフローの消費とフ る.そもそも GIS アプリケーションはそれほど要 ローの供給(あるいはサービス)を割り振ることが 求の多いものではないし時間もかからない.必要な できる.このようなデータ構造なら,長い間に変化 のは,(1)空間的な参照情報をまとめた簡単な重 するような区画も統合的インフラ・システムや分散 ね合わせ地図を作成し,設計者が地形の関係とパ 的インフラ・システムの一部として扱える.例え (2)密度, ターンを認識できるようにする能力と, ば,一戸建て住宅は地域のシステムの中では最初は 多様性,近接度などのいくつかの空間指標を計算す 水やエネルギーの需要ノードかもしれないが,雨水 .こうした能力はシャ る能力だけである(図 2.21) や太陽エネルギーを利用できるように屋根を改造し レットや予測ワークショップ,その他の総合設計演 た場合には,その変化をデータベースで簡単に調整 習を支援する上で絶対に必要となる. できる.標準的なデータ構造を使えば,ストック集  多くの GIS アプリケーションと異なり,重ね合 積プロセスの視覚化も促進できる.より大きな区域 わせ地図の作成と空間指標の計算は,ほんの少しの を対象にデータベースを蓄積したり表のセルを追加 時間と人的資源を投入するだけで絶大な価値を発 したりすることで,設計者は区画や建築物のスケー 揮する.さらに,現在は新技術によって,意思決 ルで作ったサンキー図を,もっと大きなスケールの 定に役立つさまざまな形での視覚化が可能だ.例え サンキー図に簡単に転換できる.このようにしてシ ば,単純な等高線図(数値標高モデル)を航空写 ステム全体を常に見渡すことができる. 真(グーグル・アースなど)と組み合わせれば,3 次元画像を作成できる.こうした技術があれば,計 オーバーレイ・マッピング 画者などは提案されている開発案の外観や雰囲気を 効果的な地図の重ね合わせ 示したデジタル映像を俯瞰できる.さらに訓練すれ 1枚の図が 1000 の言葉に匹敵する場合 ば,GIS データベースの特定のオブジェクトに資  複雑な情報を計画者と設計者に伝える一番良い方 源消費に関する属性を加えたり,GIS をシナリオ 法は,地図,写真,概略図またはそれらの組み合わ 開発ツールに進化させたりすることも可能である 138 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 水需要 選択肢の 単位 数値 洗濯 リスト フルサイズ , 横型 コンパク ト フルサイズ , 標準 (<45ℓ ), 衣類の洗浄システム なし なし または短時間サイ (<45 ℓ ) , 節水型 的な縦型 横型 クル 縦型 洗濯回数 1 人 1 週間 0 0 0.5 1 1.5 2 2.5 洗浄装置 ℓ(1回) 0 個人衛生 シャワー使用 1人/週 0 0 1 2 3 4 5 浴槽使用 1人/週 0 0 1 2 3 4 5 シャワーシステムと 標準的 , 長時間 標準的 , 短時間 なし なし 低流量 , 長時間 低流量 , 短時間 バケツ 使用時間 (8 分 ) (5 分 ) 浴槽 なし なし フルタイ プ 標準 バケツ 手洗い , 洗顔 , ひげ剃り, 水道を流し っぱ 水道を流し っぱな 水道を流しっぱな 必要なとき以外は なし なし ブラッシング なし , 長時間 し , 短時間 し 止める シャワーシステム ℓ / シャワー 0 浴槽 ℓ / 浴槽 0 手洗い , 洗顔 , ひげ剃り, ℓ/人 0 ブラッシング 台所 一人一日の 料理の頻度 0 0 1 2 3 4 5 食事 食器洗浄 なし なし たらい, 流し 標準的な洗浄機 節水型の洗浄機 システム 洗浄回数 1 人 1 週間 0 0 0.5 1 1.5 2 2.5 食器洗浄システム 1 回あたりℓ 0 トイレ 1次水(上水)の 簡易洗浄 2 回 標準 なし 標準的な水量 簡易洗浄 簡易洗浄 2 回 コンポストトイレ 水洗システム (拡張型) 1 人 1 日の洗 1次水(上水)の使用 4 0 1 2 3 4 5 浄回数 2次水(中水)の 簡易洗浄 2 回 なし なし 標準的な水量 簡易洗浄 簡易洗浄 2 回 コンポストトイレ 水洗システム (拡張型) 1 人 1 日の洗 2次水(中水)の使用 0 0 1 2 3 4 5 浄回数 1次水(上水)の分類 ℓ(洗浄 1 回)22 2次水(中水)の分類 ℓ(洗浄 1 回)0 飲料水 灌漑 全灌漑用パイ プと散水栓の 累積運用時間(洗浄水の 時間(1 か月) 0 0 0.5 1 1.5 2 2.5 再利用を除く ) 鉢植えと プール 典型的な水使用量 ℓ(1 か月) 0 0 2 4 6 8 10 屋内の表面清掃 屋内表面清掃の頻度 回数(1 週間) 7 0 1 2 3 4 5 水使用量 ( 洗浄水の再利 ℓ(1掃除) 4 0 1 2 3 4 5 用を除く) 屋外の表面清掃 1 か月当たりの日数 日数 0 0 1 2 3 4 5 水の使用時間 分(清掃 1 回)0 0 5 10 15 20 30 乗り物の洗浄 オンサイ トで洗浄する 自動車台数 0 0 1 2 3 4 5 4輪車の数 オンサイ トで洗浄する 自動車台数 0 0 1 2 3 4 5 2輪車の数 毎週 1 台 洗浄の頻度 0 0 1 2 3 4 5 当たり 気化冷却 典型的な使用頻度 時間(1 月か月)0 0 50 100 150 200 250 小型 ( 住宅用 ), マルチユニット ,  マルチユニット, 冷却システムの分類 なし なし 大型 小型 , 抽気あり 抽気なし 抽気なし 抽気あ り クーラーによる水使用量 ℓ(1 時間) 0 加湿 典型的な水使用量 ℓ(1 時間) 0 0 5 10 15 20 25 クライアントの需要 表 2.2 標準化された水の流れに関するデータの例 . 出典:著者作成(Sebastian Moffatt) 説明:上の表は,陸地のある区画における水の需要と流れについて標準化されたデータを集めて計算したもの. 都市ベースの意思決定支援システム ≫ 第9章 資源フローと都市の形の分析方法 139 図 2.20 水フローの一般的なマトリックスのサンプル . 出典:著者作成(Sebastian Moffatt) 説明:この図では区画レベルでのすべての水のフロー量と始点から終点への方向を特定する一般的なマトリックスの例を示した. (例としては後出の CommunityViz がある). ムに対する脅威はどこにあるのか?  総合的設計ワークショップでは,インフラ・シス マッピングから実際の価値を求める方法 テムの成績に影響する多くの要因のことを分野横断   地 図 重 ね 合 わ せ で 重 要 な の は,GIS の た め の 的なグループに伝える際には,もっぱら地図が使わ GIS に陥らないことだ.昔から GIS の作業には意 れる.例えば,都市やその近くにある既存の生態学 思決定とは全く別世界の近寄り難い雰囲気があった 的資産を利用できるかどうかについても,地図があ ために,このツールの単純な性質や計画立案で果た れば統一的理解を得やすくなる.1枚の地図があれ している役割が分かりにくかった.GIS 部門は事 ば,風力,マイクロ水力,バイオマス,地熱,潮 前に内容や方向性を十分に説明しないまま複雑でカ 力,産業プロセスなどの資源を使って再生可能エネ ラフルな地図を作成するが,それでは付加価値はほ ルギーで発電可能な地点を示すことができる.地図 とんど生まれない.地図重ね合わせの大きな可能性 の重ね合わせは既存のインフラ・システムを評価 を実現するには,次のような提案について考えてみ し,ある場所での人口や経済活動の増加によって生 るといいだろう. じる予測需要量に対応する能力を比較するのにも役 に立つ方法である.こうした情報が1枚の地図に集 意思決定者が問うている重要な疑問を明確にする 約されれば,新しいエネルギー・インフラ・システ 例:生態学的資産はどこにあるのか? 都市システ ムや都市集落を計画するときに,地元のエネルギー 140 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES エネルギー資源  + 湿地と水  +  生育環境  + 森林地帯  + 氾濫原 = 統合された資源の   レイヤーマップ 図 2.21 データのレイヤリング 出典:Terra Cognitio GIS Services のレックス・アイビー(Lex Ivy)の支援を受けて著者が作成. 説明:この例では地域の自然資本に関する情報のレイヤーを,1 枚の地図に視覚的に統合する方法を示した.この情報は戦略 的な土地利用方法の決定や,インフラ・システムの設計方法を決める際に役立つ. 資産を比較的簡単に統合化して示せる(図 2.22). て,この土地の地滑り,地震,洪水,不安定な土壌 このオーバーレイ・プロセスはあらゆるセクターで などに関するリスクの分布とその大きさに関する情 使える. 報を提供している.すべてのリスクは,1枚の多重  もっと大きなスケールの例としては,最近インド 的危険リスク分析評価地図(マルチハザード・リス のグジャラート州災害管理局が完成させた災害予測 ク・アセスメント・マップ)の上に重なるレイヤー 地図(ハザードマップ)がある.この複合リスク地 として整理統合されている.この地図から,このコ 図の目的は,自然災害や人災の被害を最も受けやす ミュニティは洪水が起きやすくて地質学的に活発な い地域での防災計画立案に関わるさまざまな部門 地域にあり,土地を開発して住宅や商業に利用でき を支援することだ.GIS コンサルタントチームは, る安全な場所はほとんどないことが明らかになっ インドでこれまでに作成された中では最大かつ詳細 た.さらに,既存の天然ガスと電力のインフラシス な GIS デジタルデータベースを編集し,生命や資 テムや主な鉄道と道路の輸送ルートは,山脈の東側 本に対する地震,サイクロン,高潮,洪水,化学事 傾斜地からの地滑りで崩壊堆積物が扇状に広がると 故,干ばつの相対的リスクの大きさを表す地図を作 予測されている場所に位置しているため,すでにか 成した. なりのリスクにさらされていた.それより以前には  図 2.23 は,リスクに関する地図の重ね合わせの 地図の重ね合わせが行われなかったため,この危険 一例を示している.この例では,スコーミッシュ市 な地域に変電所が誤って設置されていた. のエネルギーと交通に関する地域成長計画に対し  革新的な地図の重ね合わせの別の例を図 2.24 の 都市ベースの意思決定支援システム ≫ 第9章 資源フローと都市の形の分析方法 141 天然ガス 廃水 輸送 固形廃棄物 水 図 2.22 地図の重ね合わせ .メトロバンクーバー GIS 部門の支援による. 出典:著者作成(Sebastian Moffatt) 説明:この地図の重ね合わせでは,複数のインフラ・システムを1枚の地図に重ねることで,人工の固定資産の位置を示し ている.この情報は土地利用計画においても,既存のインフラ・システムの利用を最適化するのにも役立つ. 一連の地図で示している.これは同じスコーミッ し,それをサービスの需要予測量と比較する方法が シュ地域の地図である.それぞれの地図は異なる再 ある.現在は多くの都市域が,この種の地図の重ね 生可能エネルギー資産に注目している.エネルギー 合わせを成長管理に利用している.他のすべての要 資産マップの重ね合わせをツールとして利用すれ 素が同等な場合,新たな開発やインフィル開発に最 ば,地元の再生可能エネルギー資源に基づいた開発 も適しているのはインフラ・システムの能力に余裕 を計画しやすくなる.例えば,新たな宅地造成は太 のある地域である.需要が特に大きな地域では,地 陽熱温水器を1年中使える日照量がある地域で行わ 域分散型のインフラ・システムが適しているかもし れる.このとき新しい建物は,町の北側の尾根から れない.例えばエネルギー需要が高ければ,地域エ 離れた場所に建てられることになり,そこでは風が ネルギーシステムの費用対効果も高くなる.そのよ 強くて風力発電所を十分に維持できるくらいの平均 うな地域の地図が利用できれば,ローカルなネット 風速がある. ワークとの接続に合わせて建物を整備する政策が,  土地利用やインフラ整備の計画が,自然災害や非 もっと実行しやすくなるだろう.将来を見通したこ 常に重要な地域資源資産の状況,地域の生態学的機 の種の政策があれば,多くの場所が資源フローの供 能(雨水の集水,食料生産,風の防止など),地域 給と需要の両方のノードとして機能するような都市 の生物多様性と生態学的健全性に寄与している地域 の生態系が創りやすくなる. 固有の生態学的に敏感な土地のことなどを全く考慮 せずに進められることは珍しくない.これらの情報 質の高い入力データを重視する がタイムリーにわかりやすい形で利用できるように  メタ図の例と同じく,地図の重ね合わせの問題は なって初めて,設計チームや政策専門家たちは,情 信頼性の高いデータが乏しいことである.美しい地 報に合わせて自分たちの方針や設計を変更すること 図でも,それが使えるかどうかは提供されるデータ ができる. の正確さと範囲で決まる.実際,例えば都市の内部  地図の重ね合わせとして一般的で特に便利な方 とその周辺の生態系資源のマッピングは,大学を卒 法としては,既存のインフラの能力をマッピング 業したての人でも行うことができる比較的単純な仕 142 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 洪水 地震 マルチハザード・リスク アセスメント・マップ 緩和策を実施していない 場合の土石流シナリオ 導流堤による緩和シナリオ 図 2.23 リスク・アセスメント用の地図の重ね合わせの一例 出典:地図の重ね合わせはカナダ天然資源省のパスウェイ・グループが完成させ,カナダチームの貢献として『Bridging to the Future Project(Sheltair 』に掲載されたもの. Group 2007) 説明:複数の地形的リスクを重ねて多重的危険リスク分析評価地図(マルチハザード・リスクアセスメント・マップ)を作成すれば,どの地形にど んな用途が適しているのかを簡単に素早く伝えることができる. 事である.しかし,資源目録の作成はそれほど簡単 環として取り組む必要がある.世界銀行が都市と気 ではない.大きな投資を行う場合には,地域全体の 候変動の関係について作成した入門書には,幅広い 資源や文書の状況の調査が必要になることがある. 情報戦略を効果的なマッピング・ツールにつなげる このプロセスには多くの学問分野の専門家が関わっ 優れた方法が掲載されている.この本では特に影響 てくる.どんな場所にも独自の特徴があるので,近 を受けやすいホットスポットを特定し,緩和策を 道はほとんどない.データを素早く収集するテク 探るための段階的なアプローチが紹介されている ニックの1つは,航空写真を全地球測位システム (Prasad and others 2009 を参照 ). (GPS)と組み合わせ,地域の自然や建築物といっ た要素の大きさや面積のデータを迅速に作成するこ 地元の知識を統合する とだ.ここでの建築物には,市街化された地区,重  情報戦略のもう1つの鍵は,豊富な知識を持つ地 要な通りや海岸線の長さ,オープン・スペースの特 元住民がマッピング作業に参加することだ.ワーク 徴などが含まれる.情報の収集・保存計画はこの方 ショップを組織してこうした情報を利用すれば,よ 法の最も重要な要素であり,Eco2 実現の道筋の一 り包括的なプロセスを通してはるかに情報量の多 都市ベースの意思決定支援システム ≫ 第9章 資源フローと都市の形の分析方法 143 卓越風の平均速度 平均風速 スコーミッシュ 現在のマイクロ水力発電所 (ブリティッシュコロンビア州) スコーミッシュ 日当たりの良い地域と悪い地域 (ブリティッシュコロンビア州) スコーミッシュ (ブリティッシュコロンビア州) 平均風速 8 – 9 m/s 7 – 8 m/s 6 – 7 m/s 凡例 凡例 5 – 6 m/s 主要道路 4 – 5 m/s マイクロ水力発電所 高速道路 3 – 4 m/s 河川 2 – 3 m/s 主要道路 日当りの悪い地域 < 2 m/s 高速道路 日当たりの良い地域 主要道路 河川 説明:太陽の角度は 高速道路 12 月 21 日の太陽正 午に一致 河川 (高度 16.75°, 赤緯 180°. ) 林業由来のバイオマス 地熱開発の可能性 凡例 凡例 1型の高~中程度の可能性 森林被覆 (温水または温泉川および発 ? 電 ≧ 200’ 【200°】) 2型の高い可能性 (暖房のみ) 2型の中程度の可能性 図 2.24 再生可能エネルギー源に関する地図の重ね合わせの一例 出典:地図の重ね合わせはカナダ天然資源省のパスウェイ・グループが完成させ,カナダチームの貢献として『Bridging to the Future Project(Sheltair 』に掲載された. Group 2007) 説明:個々のエネルギー資産マップを一緒に見たり重ね合わせたりすれば,再生可能エネルギー資源が利用しやすい区域について,すべてのエリア を掲載した図を作成できる.また,地図を利用して適切な成長管理を行えば,都市はエネルギーの自給とカーボンニュートラル(CO2 排出ゼロ)を 達成する体制を整えることができる. (KM= キロメートル) い地図を作成できる.最近ではこうしたコミュニ 上させる方法について,さまざまな意見を集めるこ ティ・マッピングが多くの場所で上手に利用されて とができる.また,詳しい情報や最新の情報を入手 いる.コミュニティが持っている有益な情報は驚く したり,地図の不十分な点を指摘したりできる力の ほど多く,そのほとんどはほかの方法では手に入ら ある人々に対して広く地図を公開すれば,空間情報 ないものである. 調査として何を追加したらよいかのアイデアを提供 してもらうことができる. 結果を共有する技術を活用する  ウェブ・ベースの GIS アプリケーションの使用 シナリオ・ベースの GIS に向けた作業 は,マッピングの利点を活用する新技術である.カ  都市のキャパシティ・ビルディングが進むにつ ラフルな地図や画像がインターネットで見られれ れて地図の重ね合わせ方法が進化し,シナリオ・ ば,市民やステークホルダーが参加してくれる可能 ベースの強力な GIS まで含むようになることがあ 性が高くなり,意思決定者は計画の質や受容性を向 る.こうしたアプリケーションでは地図を素早く 144 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 動的シナリオ (例 データベースを含む communityViz) ストック集積 資源需要に関するサブモデル (マテリアル (例 建物のための フロー会計を利用) エネルギーシミュレーション) データ 前提条件 地理情報 システム 特性 シナリオ 指標 重要な指標とベンチマーク (4資本アプローチ) 3次元視覚化と 地図の重ね合わせ 図 報告書 3D ライフサイ クル コスティング メタ図 図 2.25 CommunityViz .主要な概略図は Orton Family Foundation(2009)に手を加えたもの. 出典:著者作成(Sebastian Moffatt) 説明:CommunityViz はシナリオと指標に基づく GIS アプリケーションであり,ほかの方法と合わせて利用すれば開発オプションの評価に必要な大部 分の情報を生み出すことができる. 入れ替えることで設計の変化による影響を取り入 を確立するのにかかる時間を大幅に縮小できる(図 れ,空間指標と資源フローの正確な計算を自動的に 2.25).また,データを共有したり,部門や機関全 行うことができる.例えば都市のために開発された 体の結果を統合したりする際に便利な基盤にもな CommunityViz というソフトウェアパッケージは, る.前に述べたスコーミッシュの例では,賢明な都 オートン家族財団という慈善団体を通して非常に低 市開発法(都市の形と交通),実現の道筋(リスク 価格で利用できる.CommunityViz を使えば都市 管理と自然災害),未来への架け橋(持続性への 30 システム設計について説得力のあるシナリオを作成 年の経路)という 3 つの設計チームの共有プラッ し,指標やベンチマークを利用する標準的な仕様書 トフォームとして CommunityViz が利用された. 都市ベースの意思決定支援システム ≫ 第9章 資源フローと都市の形の分析方法 145 参考文献 Li Jingsheng, ed. 2006. “Bridge of Jinze, Bridging to the Web.” and Society 22 (4): 249–268. Bridging to the Future Project. http://www.bridgingtothe- Sheltair Group. 2007. “Bridging to the Future in Squamish, BC: future.org/sites/default/files/China%20Bridging%20 Summary Report—New Directions for Energy System to%20the%20Future% Design.” Prepared for District of Squamish, BC, March 20presentation.pdf. 2007. Available at http:// www.squamish.ca/downloads/ McHarg, Ian L. 1969. Design with Nature. Wiley Series in community- Sustainable Design. Garden City, NY: Natural History energy-action-plan. Press. Society for Environmental Communications. 2002. Down To Orton Family Foundation. 2009. “CommunityViz User’s Earth: Science and Environment Online. December 15, Guide.” Orton Family Foundation, Middlebury, VT. 2002. Center for Science and Environment, New Delhi. Prasad, Neeraj, Federica Ranghieri, Fatima Shah, http://www. Zoe Trohanis, Earl Kessler, and Ravi Sinha. 2009. Climate downtoearth.org.in/default.asp?foldername= Resilient Cities: A Primer on Reducing Vulnerabilities to 20021215. Disasters. Washington, DC: World Bank. TERI (Tata Energy Research Institute). 1997. TERI Energy Rees, William E. 2002. “Globalisation and Sustainability: Data Directory and Yearbook 1997/98. New Delhi: Teri Conflict or Convergence?” Bulletin of Science, Technology Press. 147 第 10 章 投資計画の立案方法  都市開発での賢明な投資には複雑なプロセスが必要となる.多数の専門家(建築家, 設計者,供給者,技術者,経済学者,ファイナンシャル・プランナー)が参加する必要 がある一方で,何が重要か,それをどうやって計測するかについては,意見がそれぞれ 異なるからだ(図 2.26).建設は多くの段階(企画と計画,設計とエンジニアリング, 建設,運営,解体)にわたる長期的な事業になる.最終的にできあがったものは,さま ざまなレベルの副次的生産物(原料,構成要素,技術,建物全体,インフラシステム, オープンスペース)で構成されている.どの段階でも,スケールに関係なく,さまざま な主体が意思決定プロセスに関わってくる.主体同士や多くの構成要素同士の相互関係 の複雑さは,開発の代替案に必要となる実際のコストや利益を評価する際の最も重要な 問題の 1 つとなっている.都市開発への賢明な投資では,こうした複雑さに対処する ことが重要である.  都市が複雑さに対処するには,多数の分析評価方法が利用できる.以下で取り上げる のはその中でも検討してみる価値のある方法である.それぞれの方法は,ユーザーの ニーズや能力に合わせた単純で拡張性のあるツールを使うことによって実際に適用可能 である.  第1に何よりもまず重要なツールが,ライフサイクルコスティング(LCC)である. LCC は,プロジェクトを設計するときに,施設の耐用年数に関する間接的,付随的な 経費の多くを解明するのに利用されている.LCC ツールのあるものは空間的構成要素 やインフラといった都市環境の全体を扱っている.他の LCC ツールは,廃棄物処理場 や発電所などの特殊な基盤施設だけを扱う.本章ではこの両方について検討する.  第2に検討する方法は,プロジェクトによる長期的な環境影響を集計するための環境 会計である.環境会計にはマテリアルフロー分析も含まれるが,その場合は範囲が広く なり,対象のプロジェクトが環境に及ぼす幅広い影響(資源の使用や減少,排出費用な 148 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 計画とプログラミング, 設計とエンジニアリング 建設 運用 解体 改築/ * 廃棄物管理事業者 維持管理 * 官庁 * 建築請負業者 * 購入者/所有者 * 出資者 * マテリアルと装置 * 資産管理者  * 不動産開発業者 の供給業者 * エネルギー供給者 * 建築家 * ロジスティクス * 水道事業者 * 技術者 * 廃棄物管理事業者 * 廃棄物管理事業者 * ユーザー 図 2.26 建物のライフサイクル 出典:Brick (2008). 説明:建物のライフサイクルは長くて複雑で,さまざまな専門家の意見に左右される. ど)が含まれることになる.この方法は全体像を明  第4の方法は,Eco2 実現の道筋や個々の長期的 らかにできるので,実証プロジェクトにも応用でき なプロジェクトに基づいて,都市の成績(パフォー る.また,ライフサイクル環境会計を利用すれば, マンス)を全体的に評価することだ.そのためには 最も問題が大きい地域がどこかを特定できる.例え コストや利益を評価するあらゆる指標を利用する必 ば,急速に工業化が進んでいる国では,環境分野の 要がある.都市にとっては成績評価指標の選択方法 優先事項には,建設で過剰に使われている重い石造 を見直すことが重要である.こうした指標はさまざ 物の削減,原料生産に利用されている非効率的で汚 まなレベルの意思決定者にとって使いやすく,人工 染をもたらすエネルギーシステムからの転換,建物 資本,自然資本,人間資本,社会関係資本から成る やインフラの耐用年数に影響をおよぼすコンクリー 都市のあらゆる資産を含むものでなければならな トなどの材料の耐久性強化などがある.プロジェク い.重要なのは,これらの指標には歴史的,伝統 トの環境会計を実施する際の最も大きな課題は,プ 的,文化的側面のような,お金では測ることのでき ロジェクト用に調達した原料やサービスなどのイン ない特性が含まれていることである.問題は,これ プットとアウトプットを考慮するには,多大な時間 らの資産を測定するためのバランスがとれていて, と労力がかかることである. しかも予算内に収まり,信頼性が高くて比較可能な  第3の方法であるリスク・アセスメントは,急速 方法と,意思決定者が簡単に理解できるような形で な変化が起きているときには特に重要であるにもか 結果を表示する方法を見つけ出すことである. かわらず,都市の専門家達にはほとんど無視されて いる.都市が完全なリスク・アセスメントを行うに ライフサイクルコスティング は,将来のさまざまな可能性を検討し,気候変動や 技術といった多くの分野のトレンドがどのような影  市街地開発に関する意思決定を左右する最も重要 響をもたらすのかを研究する必要がある.シナリオ な要素の1つは,都市財政と住民や企業にかかるコ の立案や調整は難しくてもやりがいのある課題であ ストに対する長期的影響である.残念なことに,新 り,復元力と持続性に対する投資の重要な要素と しい土地利用や新しいインフラが関係する複雑な総 なっている. 合設計では,コストや収益を評価しにくいことが多 都市ベースの意思決定支援システム ≫ 第 10 章 投資計画の立案方法 149 い.Eco2 設計の代替案について良識ある議論が行 ライフサイクルコスティング われることもあるが,財務分析が伴っていなけれ コミュニティの インフラ計画用ツール ば,意思決定者は当然消極的になる.誤解や誤った 情報が広がっているため,この傾向は特に強くなっ ている.お互いにとってプラスになることを簡単に 理解できるとは限らない上に,少なくとも財務分析 が終わるまでは,これまでと違うことをするとコス トが高くつくという思い込みもあるようだ.コスト に関する議論には,長期的に見た場合の実際のコス Life-cycle costing software is available from Canada トとは何かと,コストや利益がどれくらい公平に分 Mortage and Housing Corporation. 配されるのか,という2つの側面がある.LCC 法 www.cmhc-schl.gc.ca は,この2つの質問に答えられる唯一の方法だ.  都市インフラ用の LCC は,建物から道路,歩道, インフラの長期的なコストに関して信頼性の高い評 公用地,駐車場,電線,配管,排水溝,橋,さらに 価を提供することで,空間計画の代替案の評価をし は関連する廃棄物処理場,変電所,オープンスペー やすくするものだ.その利点は,LCC アプリケー ス,施設といったすべての構成要素に当てはめるこ ションの具体例を見れば一番よく理解できる.ここ とができる.これらのインフラ要素のほとんどは耐 で示した例は,カナダ住宅貸し付け協会というカナ 用年数が非常に長く,ライフサイクルで見た資材と ダの公共機関が総合設計演習用に開発したツールに エネルギーフローの大部分を占めている.LCC を 基づくものだ.この『コミュニティインフラ計画用 取り入れれば,設計や購入品の選択方法を調整し ライフサイクルコスティング・ツール』を使えば, て,そのシステムが全ライフサイクルにわたって最 ユーザーは開発シナリオの代替案を比較し,地域開 適になるように調整できる.例えば,システムの耐 発の主要なコスト,特に都市開発の形(線状インフ 久性やその全生涯においてかかる清掃・維持費用, ラなど)によって変化するコストを見積もることが 適応性やリサイクルの可能性を考慮して,下水道管 できる.このツールの対象は,開発の住宅部分に関 の素材をコンクリートから溶接鋼管に変更すること わる計画づくりの費用と収益を評価することだ.イ などだ.トラックがコンクリートの上を走れば効率 ンフラに対する要求内容が正確に記されていれば, が向上し燃料の節約になるという考えから,路面を 商業開発や他の種類の開発による資金的影響を取り アスファルトからコンクリートに変更することもあ 入れることもできる.このツールは家々の集まりや る.地中に線状に張り巡らされたインフラのネット ブロックごとのインフィル開発,1つの分譲地や近 ワークの場合でも,こうした長い寿命をもつシステ 隣住区全体など,さまざまな規模の開発計画の評価 ムの適応性が高まり,運営費が安くなることが示さ に適している.このツールを特定のプロジェクトに れれば,共同溝や簡単にアクセスできる絶縁導管が 適用するには,密度やインフラに対する要求内容が 採用されることがある.第1部で解説したように, 大きく異なる代替案や,緑のインフラに関するさま 空間計画のやり方は LCC によって大きく変化する ざまな選択肢を取り入れた代替案を考案しなければ 可能性がある. ならない.  LCC は一種の表計算ソフト(Microsoft Excel) 統合型の土地利用とコミュニティインフラ計画で であり,ほとんどの土地利用やインフラの代替案の の LCC アプリケーション ライフサイクルコストを素早く簡単に評価できる.  LCC は 税 金 や 財 務 健 全 性, 低 所 得 者 向 け( ア また,原価計算変数のデフォルト値も組み込まれて フォーダブル)住宅,商業地区などに及ぼす影響と いるので,都市の場所をもとに地域や国のコストに 150 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 合わせて調整できる.アウトプットには,次のよう 水道,ゴミ,学校,レクリエーション施設,公共交 なカテゴリーごとの,金銭的価値に関する総合的な 通,マイカー利用,消防,警察といった典型的な公 財務評価が含まれる. 共施設やサービスなどを対象にした.貸付利子,税 率,役務収益も計算された.ライフサイクルコスト • 道路,下水道,洪水時の雨水貯留施設,学校, は 75 年間の年間コストに変換され,すべての公共 レクリエーションセンターなどの構造物から成 施設の運営・維持・更新が考慮された.1世帯当た るインフラ りの全コストも計上された. • 輸送サービス,通学交通手段,消防サービス,  2つのシナリオでは,すべてのコストとサービス 警察サービス,廃棄物処理サービスなどの自治 需要の前提条件は同じとした.唯一の違いは,「持 体サービス 続可能な近隣住区」シナリオでは,道路の幅は狭く • 運転コスト,家庭用暖房コストなどの個人ユー 設定され,緑の雨水貯留インフラが採用され,公共 ザーのコスト 建築の屋根にはグリーンルーフ(雨水貯留インフラ • 大気汚染,気候変動,自動車衝突事故などの外 の規模を小さくしたもの)が設置されており,エネ 部コスト ルギー効率に関する建築基準も導入される,という • 緑のインフラの代替案 ことだ.「持続可能な近隣住区」シナリオでは,住 宅や土地利用の種類が多く,利用密度も高かった. フォート・セントジョン市の2つのシナリオ 表 2.3 に2つのシナリオの比較を示す.  2008 年,フォート・セントジョン市(カナダ) は設計シャレットを開催し,市街地の端にある 37 基本シナリオ:低密度,一戸建て住宅とアパート ヘクタールの未開発用地について,「持続可能な近 で設定 隣住区」の概念計画を作成した.ここで,市の目標  簡単なマスク法を用いて,道路や用地のレイアウ は3つあった. トと,その場所で建てられる一般的な戸数を評価し た.これは目盛りのあるマスクを作成し,これをそ 1. 都市の成長を管理するために,より積極的で魅 の場所に近い既存の近隣住区に重ねる方法だ(図 力的な計画プロセスを取り入れる. 2.27).近隣住区には公園があり,それ以外は一戸 2. コミュニティの長期目標と課題を盛り込んだ新 建て住宅が主である.マスクの中に入る用地のおよ しい実証用近隣住区を作る. その数と通りの長さや種類を計測し,学校とコミュ 3. 将来の地域の複合開発の指針となる新しい実施 ニティ・センターも考慮に入れた.さらに,商業用 方法を実地で検証する. ビルが並ぶ細長い小さな土地,いくつかの二戸一住 宅用地,小さな3階建てアパート数軒という3つの  設計シャレットの一環として,開発費と「持続可 要素を加えた.公共のオープン・スペースは公園, 能な近隣住区」コンセプトプランの価値が,現在の 学校の敷地,公用地に限定した. フォート・セントジョン市に存在する典型的な低密 度近隣住区をもとに作成した基本的なシナリオに対 持続可能な近隣住区シナリオ:中密度,さまざま して比較された.「持続可能な近隣住区」シナリオ な住宅形態,多目的性に基づいた設定 は,シャレットのプロセスから生じた指針や勧告を  2つ目のシナリオでは,2008 年のシャレットで 取り入れた代替案である.コミュニティ・インフラ 作成された「持続可能な近隣住区」シナリオを基本 計画用の LCC ツールを使った分析によって,1つ にした.住宅地区のリストにあるさまざまな住居を の近隣住区全体についてそれぞれのシナリオが検証 利用したワークショップの草案から(表 2.3 及び図 できた.計算は包括的なものであり,道路,水,下 ,三次元モデルを作成した.正確で詳 2.27 を参照) 都市ベースの意思決定支援システム ≫ 第 10 章 投資計画の立案方法 151 要素 基本シナリオ:低密度 持続可能な近隣住区シナリオ:中密度 敷地面積 37 ヘクタール (93 エーカー ) 37 ヘクタール (93 エーカー ) a 住宅地 ( %) 94 90 商用地および公共用地(%) 6 10 公園のサービスエリア 約 2.7 ヘクタール 未推定, 多目的オープンスペース 総住宅数 368 932 一戸建て住宅 188 56 二戸一住宅 (大きい敷地) 72 0 二戸一住宅 (最小限敷地) 0 84 タウンハウス(2階建て) 0 108 タウンハウス(3階建て, 積層型) 0 138 アパート(3,4階建て) 144 516 商業物件の上にあるアパート 0 30 商業物件 8 15 総戸数密度, 戸 / ヘクタール(戸 / エーカー) 11 (4) 28 (12) 総人口 888 1,922 成人人口 682 1,542 子どもの人口 206 380 総人口 888 1,922 総道路延長 (リニア・メーター) 4,120 5,260 近隣住区道路,コンパクト型(メーター) 0 2,410 b 補助幹線道路 (リニアメーター) 3,200 1,930 幹線道路 (リニアメーター) 920 920 表 2.3 フォート・セントジョン市における 2 つのシナリオによる統計値の比較 出典:Fort St. John (2009). a. 居住地域には道路,公園,学校などが含まれる. b. 補助幹線街路には 17 メートルの公道と 15 メートルの公道の2種類がある. 一戸建て住宅 マスク・エリア 商業利用 二戸一住宅 建設用地 図 2.27 マスク法で作られた基本的な低密度シナリオ 出典:Fort St. John (2009). 152 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES しい近隣住区の設計は行わなかったが,建築規制地 • 給水塔に設けた公共の展望台 域,建築形態,通りの種類,公共建築の規模は正確 • エネルギー効率の高い家 に見積もられており,納得のいく結果が得られた. 全体的に,こちらの方が基本シナリオよりもかなり  公共のオープンスペースは緑道,コミュニティ コンパクトな計画になる.建物は密集しており,こ ガーデン,自転車専用道路,クロスカントリース れらの間にはより開放的な公共空間がある.用途や キー用ルート,学校とコミュニティ・センター周辺 建物の種類は基本シナリオより数が多い.カナダ政 の大規模な共有地などに統合され,用途は多目的に 府の「代替的開発戦略」に合わせているため,近隣 なるように設定した. 住区の通りと道路も狭くなっている.  「持続可能な近隣住区計画」には次のような要素 シナリオのコストと価値の分析 が含まれている. 基本シナリオ:コストと価値  道路,下水道,給水,学校といったサービスの代 • 広い敷地を持つ一戸建て住宅が建つ小地域(1 表的なコストを利用すると,基本シナリオでは,1 か所) 戸(住居ユニット)当たりの初期資本コストは約 3 • 最小限の敷地を持つ二戸一住宅が建つ多数の小 万 6,000 ドルになる(図 2.28).洪水調整池の推 地域. 定コストは緑のインフラに含まれる.水ポンプ場の • 2階建てのタウンハウスが建つ小地域(2,3 推定コストはユーザー定義のコストに含まれる.道 か所) 路が資本コストの大半を占めることに注目してほし • 3階建ての積層型タウンハウスが建つ地域(数 い.これらの資本コストを用いると,基本シナリオ か所) における1戸当たりの運用コストは約 6,500 ドル • 112 番街の延長部分の東側に沿って建つ3,4 となった(図 2.29 と 2.30). 階建てのアパート  すべてのインフラ資産は減価償却されるので,実 • 病院の敷地の東側にあって3,4階建てのア 際のコストには建設費用の上昇などの長期的な再 パートが建つ高齢者向け地区 調達原価も含まれるべきである.図 2.31 にはすべ • 病院の敷地の少し北にあって 122 番街の延長 てのインフラの耐用年数を 75 年にまで延長した場 部分沿いに並ぶ,複合型商業ビルの並び 合の,年間の運用コストを示している.1世帯当た • 学校とコミュニティ・センター りの真の年間ライフサイクルコスト(8,432 ドル) 図 2.28 基本シナリオ:初期資本コスト 出典:Fort St. John (2009). 都市ベースの意思決定支援システム ≫ 第 10 章 投資計画の立案方法 153 図 2.29 基本シナリオ:1戸当たりの年間運用コスト 出典:Fort St. John (2009). 図 2.30 基本シナリオ:1戸当たりの初期資本コストと年間運用コストのグラフ 出典:Fort St. John (2009). 図 2.31 基本シナリオ:真のライフサイクルコストの代表例,取替原価を含む 出典:Fort St. John (2009). 154 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 図 2.32 基本シナリオ:真のライフサイクルコストのグラフ 出典:Fort St. John (2009). 図 2.33 基本シナリオ:税金,利用者料金,初期開発コスト負担金 の評価 出典:Fort St. John (2009). は,1戸当たりの初期運用コスト(6,520 ドル)よ くなった)防災調節池と同じく緑のインフラに含 り約 30%高くなった(図 2.32). まれる.水ポンプ場の推定コストはユーザー定義  税金,使用料金(ごみ収集代金など),初期開発 のコストに含まれる.なお,基本シナリオと同じ 費負担金は,基本シナリオ用に大まかに計算した ように,この場合でも道路が資本コストの大半を (図 2.33).フォート・セントジョン市と民間団体 占めている. との間での開発費の分担・回収の方法が決まって  これらの資本コストの推定値を用いると,「持続 いなかったため,これらの結果は仮定によるもの 可能な近隣住区」シナリオでの1戸当たりの運用 である. コストは約 5,200 ドルで,基本シナリオより 25% ほど低くなった(図 2.35 と 2.36).水ポンプ場の 持続可能な近隣住区:コストと価値 推定運用コストはユーザー定義のコストに含まれ  道路,下水道,給水,学校などのサービスの代 ている. 表的なコストを用いると,「持続可能な近隣住区  持続可能な代替案の場合,年間ライフサイクル シナリオ」での1戸当たりの初期資本コストは約 コストは1戸当たり 6,053 ドルと推定され,初期 1万 6,500 ドルで,基本シナリオのコストの半分 運用コスト(5185 ドル)より約 17%高くなった 以下になった(図 2.34).学校とコミュニティ・ (図 2.37 及び 2.38).この差は,基本シナリオの センターのグリーンルーフの推定コストは,(小さ 場合との差の約半分であるが,その主な理由は, 都市ベースの意思決定支援システム ≫ 第 10 章 投資計画の立案方法 155 図 2.34 持続可能な近隣住区シナリオ:1戸当たりの初期資本コスト 出典:Fort St. John (2009). 図 2.35 持続可能な近隣住区シナリオ:1戸当たりの年間運用コスト 出典:Fort St. John (2009). 図 2.36 持続可能な近隣住区シナリオ:1戸当たりの初期資本コストと年間運用コストのグラフ 出典:Fort St. John (2009). 156 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 図 2.37 持続可能な近隣住区シナリオ:真のライフサイクルコストの代表例,取替原価を含む 出典:Fort St. John (2009). 図 2.38 持続可能な近隣地区シナリオ:真のライフサイクルコストの代表例 出典:Fort St. John (2009). 図 2.39 持続可能な近隣地区シナリオ:税金,利用者料金,初期開発コ スト負担金の評価 出典:Fort St. John (2009). より多くの世帯が効率的にインフラを共用してい ,初期開発負担金も基本シナ (主に家が小さいため) るからだ. リオより小さくて済みそうなことがわかった(図  最初に行ったこれらの算定結果から,「持続可能 2.39). な近隣住区」では1戸当たりの税金がわずかに低く 都市ベースの意思決定支援システム ≫ 第 10 章 投資計画の立案方法 157 図 2.40 基本シナリオと持続可能な近隣地区シナリオの比較:初期資本コスト 出典:Fort St. John (2009). 図 2.41 基本シナリオと持続可能な近隣地区シナリオの比較:年間運用コスト 出典:Fort St. John (2009). 図 2.42 基本シナリオと持続可能な近隣地区シナリオの比較:75 年にわたる自治体の年間コストと必要な収入 出典:Fort St. John (2009). コストと価値の比較分析  図 2.41 は,「持続可能な近隣住区」シナリオで  図 2.40 は,「持続可能な近隣住区」シナリオな 1戸当たりの運用コストがわずかに減少する主な ら,基本シナリオと比べて初期資本コストを大幅に 原因が,より多くの世帯でインフラを共有してい 節約できることを示している.意思決定者は,この るためであることを示している.さらに,学校の 取り組みによって多額の費用が節約できる点を強調 コストは子どもの少ない多数の家庭にも広く負担 することで,抵抗を克服して革新的な解決策を追求 されている. することができる.  図 2.42 は,75 年間にわたって市が負担しなけ 158 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 図 2.43 基本シナリオと持続可能な近隣地区シナリオの比較:1 世帯当たりの年間ライフサイクルコスト 出典:Fort St. John (2009). ればならない推定年間コストと,「持続可能な近隣 LCC は価格の受容性と持続可能な選択肢の価値を 住区」のために必要とされる収益がいずれも大幅に 明らかにするのに役立つ 削減されることを示している.  「持続可能な近隣住区」シナリオでは,住宅価格  図 2.43 は,2 つの近隣住区の 75 年間にわたる と運用コストに対する影響は詳しく調査していな 1戸当たり推定年間ライフサイクルコストをまとめ い.コンパクトな開発形態は1世帯当たりの自治体 ている. サービスの節約につながり,住宅購入価格や賃貸料 の低下という形で住民に還元されている.さらに, LCC 事例研究からの考察 「持続可能な近隣住区」シナリオでは家を小さめに 具体的な開発コストに関するインプットは設計の 想定しているため,1世帯あたりの資本コストも減 継続とともに更新する必要がある 少する.例えば約 120 ~ 200m2(1300 ~ 2,200  このモデルにはハードとソフトの両面のコストの 平方フィート)の典型的な一番小さな敷地の二戸一 推定値が数多く組み込まれているが,これらの推定 住宅と,220 ~ 300m2(2400 ~ 3200 平方フィー 値は国のデータベースから得られたものをフォー ト)の典型的な独立一戸建て住宅(床面積は平均で ト・セントジョン市の条件に合うように調整したも 60%小さい)を比較することになる.さらに,持 のなので,信頼性はかなり高い.しかし,こうした 続可能な近隣住区で提案されているエネルギー効率 構想レベルでは開発の細部が十分に固まっていない の高い緑の建築基準では,(これらの家の耐久性が ため,精度の高い結果は得られない.さらに,地主 高いために)結果的に運用と修理・更新のコストが であるフォート・セントジョン市が,土地・施設の 小さくなる. 売却や開発負担金収入を通して回収した開発コスト  一番小さな敷地の二戸一住宅の価格の中央値は, と都市サービスコストをどのように扱うのかも決 一戸建て住宅の価格より次のような点で安くなると まっていなかった.そのため取りあえず都市がサー 推定されている. ビスコストの約 20%を負担し,開発業者が 80%を 負担するものと仮定した.このように自治体のコス 1. 土地価格:土地面積が小さくサービスコストも トと収益は仮のものである.しかし,いったん表計 小さいため,一戸建て住宅より約 25%安くな 算モデルを組み立てれば,モデルを簡単に更新して る. より詳しいシナリオを検証し,それに基づいて最終 2. 住宅価格:二戸一住宅は小さくて建築の経済性 決定を下すことができる. が優れている,一戸建て住宅より約 35%安く なる.また品質とエネルギー効率の高い建築が 主な原因となって,コストがわずかに高くなる. 都市ベースの意思決定支援システム ≫ 第 10 章 投資計画の立案方法 159 3. 運用コスト:一番小さな敷地の二戸一住宅で ティ規模の計画に利用したが,LCC ツールをイン は,エネルギー効率,節水,耐久性の高い建 フラ施設に個別に適用することもできる.総合設計 築,維持する庭面積の縮小などによって,一戸 の課題の1つは,インフラのさまざまな技術的選択 建て住宅より約 50%安くなる. 肢を素早く評価できるようになることだ.高価な予 備調査を外部に委託することなく,さまざまな技術  経済が不透明でエネルギーやサービスのコストが の性能に関する情報を入手するにはどうしたらいい 不安定な今日の世界では,コンパクトでエネルギー のか? 代替案のライフサイクルを公平に比較でき 効率や耐久性の高い家の方が,以前のような大きく るような,十分に経験を積んだ技術者や経済学者は て効率が悪い家より,はるかに高い価値を維持でき どこにいるのだろう? たいていの場合,拡張性の るだろうと断言できる. ある表計算ツールが解決策として活用される.ユー ザーは以前にほかの場所で実施されたプロジェクト LCC は自治体が将来に発生するコストに対処する で確立されたデフォルト値を入力できるし,設計概 のに特に有効である 念が進化したり新しい情報が入手できたときは,前  今日の完成した都市はどこも,インフラの老朽化 提条件をすぐに変更できる. による更新費用という問題に直面している.一部の  インフラ施設用の LCC ツールの一例としては, 都市は衰退する経済下で収入が低迷し,インフラの RETScreen クリーンエネルギー・プロジェクト分 更新をかなり以前から先延ばししてきたため,ほか 析ソフトウェアがある.この意思決定支援ツール の都市より状況は深刻である.同時に世界的な建設 は計画者,意思決定者,産業界が再生可能エネル 資材の需要増加やエネルギー価格上昇などのため ギー,コージェネレーション(熱電併給),エネル に,ここ数年は資本コストが大きく増大している. ギー効率に関するプロジェクトを実施する能力を つまり,現在は,インフラに費用を投じるのは難し .このソフトウェアは無 強化するものだ(図 2.44) いが故に,革新的な解決策を講じるには絶好のタイ 料で提供されており,エネルギー生産や省エネル ミングなのである. ギー,コスト,排出削減,財政的実行可能性,さら  都市の将来に目を向ければ,将来自治体にかかる コストを削減して復元力を高めることのできる開発 手段を取り入れることが,ますます重要になってく プロジェクトの評価・開発用の共有プラットフォーム る.持続可能な近隣住区シナリオの例では,1戸当 たりの資本コストが減少し,自治体や住民の負担も 資金提供者& 低下し,長期的な価値が向上した.このモデルは, 貸手 環境の質と社会のアメニティを高めることのできる 多くの選択肢を幅広い層に提供しており,適応性の 高いモデルでもある.こうした簡単な LCC ツール 計画者, 規制機関& 開発者, ソフトウェア 政策立案者 があれば,都市はこれらの利点を明確にした上で, 所有者 どう進むべきかの決定を下すことができる.同じよ うな機能を持つツールはたくさんあるので,Eco2 コンサルタント& 実現の道筋における能力形成に適したツールを選ぶ 製品供給者 ことが重要である 1. 単独のインフラ施設の場合の LCC 図 2.44 RETScreen ソフトウェア  フォート・セントジョン市では LCC をコミュニ 出典:カナダ天然資源省. 160 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES には,さまざまな種類の再生可能エネルギーや省エ われている. ネ技術に関するリスク評価のために世界中で利用さ  RETScreen クリーンエネルギー・プロジェクト れているようだ.複数の言語で利用でき,製品・プ 分析ソフトウェアの一環として提供されている排出 ロジェクト・水文学・気候に関するデータベース, 分析ワークシートを使えば,ユーザーは提案されて 詳しいユーザーマニュアル,事例研究に基づいた大 いるプロジェクトによって削減(緩和)可能な温 学レベルのトレーニングコース,エンジニアリング 室効果ガス排出量を推定できる.また,コスト分析 のための電子教科書も含まれている.まず,最初に ワークシートを使えば,ユーザーは提案されている このソフトウェアを用いて選択肢を調べることにす 事例に関するコスト(およびクレジット)を推定 れば,都市は予備調査のコストを大幅に削減でき できる.これらのコストは,初期コストと投資コ る.また,このソフトウェア・モデルの厳密な構造 スト,および年間コストと毎年繰り返し必要なコ のおかげで,意思決定者は十分な情報を手に入れる ストが明らかになるように整理されている.また, ことができ,アナリストはあらゆるプロジェクトの RETScreen 製品データベースに供給元の連絡先を 技術的・財政的な実行可能性を評価する方法につい 問い合わせれば,価格などの必要情報も入手できる. て訓練を積むことができる.このソフトウェアの開  財務分析ワークシートは,評価するプロジェクト 発はカナダ政府の支援を受けており,多くの大学が ごとに提供される(図 2.45,2.46).これには,財 協力した.そして,現在はほとんどすべての国で使 務的パラメーター,年間収入,プロジェクトのコス 図 2.45 RETScreen 財務サマリーの一例 . 出典:著者収集(Sebastian Moffatt) 説明:このサマリーはスコーミッシュ(カナダ)の風力エネルギーシステムの財政的実現性に関するもの. 都市ベースの意思決定支援システム ≫ 第 10 章 投資計画の立案方法 161 トと収入と収益の概要,財政的な実行可能性,年間 的・財務的パラメーターに関して,重要な財務的指 の現金フロー,累積的なキャッシュフローのグラフ 標の感度を検証するのに役立つ.標準的な感度とリ という6つのセクションが含まれている.主な利点 スク分析ワークシートには,設定セクションのほか の1つは,RETScreen ソフトウェアによって,意 に感度分析とリスク分析の2つの重要なセクション 思決定者がプロジェクトを評価するスピードが速ま が含まれている.それぞれのセクションには,鍵と るいう事実である.財務分析ワークシートでは財政 なるパラメーターと重要な財政的指標の関係につい 的なパラメーターの入力項目(公定歩合や債務返済 ての情報が提供されており,財政的指標に最も大き 比率など)と財政的な実行可能性を算出した出力項 な影響をおよぼすパラメーターが示されている.感 目(内部収益率,投資回収年数,純現在価値など) 度分析セクションは一般的な使用を目的としている を取り扱っているため,プロジェクトの意思決定者 が,モンテカルロ・シミュレーションを行うリスク はさまざまな財務的パラメーターを比較的簡単に検 分析セクションだけは統計学の知識を持つユーザー 討できる. が対象である.  感度とリスク分析ワークシートは,鍵となる技術 図 2.46 RETScreen 財務サマリー(視覚化) . 出典:著者収集(Sebastian Moffatt) 説明:スコーミッシュ(カナダ)の風力エネルギーシステムに関する財務サマリー. 162 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 電気 建築 建物 不動産 地区 合計 暖房 快適な 運営 個人 世帯 建物 不動産 地区 合計 冷房 水 解体 建物 不動産 地区 合計 汚水 合計 合計 合計 合計 廃棄物 図 2.47 環境負荷プロファイル 出典:Brick (2008). 説明:環境荷重はさまざまなサービスとレベルについて定量化したものであり,結果の合計には懸念材料の組み合わせが反映されている. するすべての活動が考慮されている. ELP の大き 環境会計 な長所は,柔軟で可変的なツールなので計画ツール  ストックホルム市では,市役所が王立工科大学及 にも評価ツールにも応用できることである.変数の び技術コンサルタント会社と提携して,市の南にあ 要因を分解すれば,建設,使用,解体,再開発など るハンマルビー・ショースタッド地区の開発の計画 のプロジェクトの各段階で,さまざまな計画決定に と評価を支援するためのツールを開発した.この よって生じる環境負荷が ELP を使って計算できる ツールは環境負荷プロファイル(ELP)と呼ばれ, (図 2.47).シナリオの検証も可能だ.例えば,さ これを使うことで評価がうまくいくだけでなく,持 まざまな工法の環境パフォーマンスを比較してか 続可能な開発に関するストックホルム市の最先端の ら,どの方法を使用するかを決定できる.そのた 取り組みに対して重要なフィードバックを提供でき め,意思決定者がプロセスの初期に環境への配慮を ることが実証された.ストックホルム市はこのツー 盛り込むことも可能となる. ルを開発し,都市開発の意思決定と戦略が,長期的  ELP は,併用段階での水やエネルギーなどの資 に環境を維持し都市の持続可能性を高める上で非常 源消費に基づいて,既存の市街地や建物の環境パ に有益であることを実証した. フォーマンスを評価するのにも利用される.ELP なら環境パフォーマンスを複数のレベルで分析でき 環境負荷プロファイル る.このツールは個人(例えば料理や洗濯),建物  ELP はライフサイクル・アセスメントに基づく (建築材料,地域暖房,電気など),未建設の住宅地 ツールで,環境的観点から見た関連活動の定義と, (原料,作業機械など),共用の領域(例えば原料, 関連活動から生じる大気,土壌,水への排出や再生 人の輸送,貨物運送)に関する活動を考慮したもの 不能なエネルギー資源の使用といった環境負荷の定 だ.すべての要因を集計すれば都市の全地区の環境 量化をベースとして作られている.このツールでは 負荷を分析できる.各要因を別々に分析すれば,都 原料,輸送(原料や品物,人の輸送),機械,電力, 市活動と都市計画のさまざまな目的に役立つ情報が 暖房,原料のリサイクルなど,プロジェクトに関連 得られるだろう. 都市ベースの意思決定支援システム ≫ 第 10 章 投資計画の立案方法 163 Extraction of non renewable Water use Global Warming energy sources (kWh) (m3) District Operation 25000 (g CO2 eq.) 160 4000000 District Production 140 3500000 20000 -28-42 % 120 -41-46 % -29-37 % Real Estate Operation 3000000 15000 100 Real Estate Production 2500000 80 Building Dismantling 2000000 10000 60 Building Operation 1500000 40 5000 1000000 Building Construction 20 500000 0 0 0 Referens Sickla Sickla Lugnet Proppen Referens Sickla Sickla Lugnet Proppen Udde Kaj Referens Sickla Sickla Lugnet Proppen Udde Kaj Udde Kaj Photochemical Ozone Creation Acidification Eutrophication Radioactive Waste (g C2H4 eq.) (mol H+ eq.) (g O2 eq.) (cm3) 12000 600 200000 280 10000 -33-38 % 500 -23-29 % 240 160000 -49-53 % -27-40 % 8000 400 200 120000 160 6000 300 80000 120 4000 200 80 2000 100 40000 40 0 0 0 0 Referens Sickla Sickla Lugnet Proppen Referens Sickla Sickla Kaj Lugnet Proppen Udde Kaj Referens Sickla Sickla Lugnet Proppen Referens Sickla Sickla Lugnet Proppen Udde Udde Kaj Udde Kaj 図 2.48 ハンマルビー・ショースタッドでの ELP 関連の成果 出典:Grontmij AB. 説明:この図は参照例と比較したときのアパート当たりの 1 年間の環境影響を示している.ELP によって不動産開発業者の手段の影響と,エネルギー 生産と汚水管理方法の改善による影響が明らかになった (Levin and Rönnkvist-Mickelsson 2004).  ELP では設計や建設,インフラの代替案も比較 化ポテンシャルは 49 ~ 53%,放射性廃棄物は 27 できる.また,ELP には次の2種類のライフサイ ~ 40%減少した. クル計算が含まれている.  ハンマルビー・ショースタッドで設定された全体 的な環境目標は,環境負荷を 1990 年代初期の都市 • ライフサイクルの各段階(建設,運用,解体) 開発で発生した負荷の半分に削減することだ.この での影響 目標はいまだに達成できていないものの,この地域 • 建築材料のライフサイクルからの影響と建物及 の環境負荷は大幅に削減された.改善に貢献した主 び地区を出入りする電力からの影響 な要因は,地域暖房,都市交通,廃棄物,汚水管理 の計画のような,地域における効果的な計画づくり ハンマルビー・ショースタッドの追跡調査での だった. ELP  ハンマルビー・ショースタッド環境プログラムの  ストックホルムのハンマルビー・ショースタッ モニタリングによって,地区の継続的な開発に適合 ド・プロジェクトでは,市は建物インフラに関する した社会面・財政面からの環境対策に関する技術 ソリューションと導入技術に厳しい環境対策条件を 的・経済的知識を得ることができた. モニタリン 課した.最初の地域(シックラ・ウッデ)が完了 グの結果は同じようなプロジェクトの計画や実施で した 2002 年以降,ELP のさまざまな指標を使っ も役立つだろう. て環境目標と環境パフォーマンスが監視されてい る.図 2.48 には,4つの地域の結果を示す.参照 計画プロセスでの ELP シナリオと比べると再生不能エネルギー使用量は  環境計画はかつては一般的ではなかったし,都市 28 ~ 42%,水使用量は 41 ~ 46%,地球温暖化 開発のイニシアティブが環境におよぼす影響には, 係数は 29 ~ 37%,光化学的オゾン生成量は 33 ~ 明らかにまだまだ改善の余地が残っている.従っ 38%,酸性化ポテンシャルは 23 ~ 29%,富栄養 て,積極的なアプローチを取ることができて,どう 164 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES したら計画プロセスを強化できるかを分析する力が クすることで,知識を構築したり改善を促進したり あるなら,費用効果の高い方法を容易に取り入れる するのにも役立つ.このように,ELP のような優 余地があり,持続可能性を大幅に向上することが れた意思決定ツールを持つことはますます重要にな (1)上流システム(地域内に流 できる.そこで, りつつある. れ込むマテリアルとサービスの流れ),(2)コアシ ステム(プロジェクト自体),(3)下流のシステム 予測ワークショップと復元力強化の計画 (廃棄物フローの管理と物質の再利用)の3つの分 野で次のような改善が可能になるだろう. 緩和・適応策が必要に  どんな開発計画にとっても,確かな予測が欠かせ 1. 上流システムでは,エネルギー生産(電気や暖 ない.すべての都市が予測能力を必要としている. 房)と原料生産の強化によって改善できる可能 都市の土地利用計画はたいてい人口と経済的需要に 性がある. よって決まり,土地とサービスの需要に関する説得 2. コアシステムでは,建設と維持管理の進歩,太 力のある予測に左右される.このように,確かな予 陽電池または熱回収システムの設置,人々の行 測は公共投資の方針を決める際に必要であり,財政 動の変化,特に省エネの促進によって改善でき 的パートナーとなる可能性を持つ人々やその他のス る可能性がある. テークホルダーの支持を得るためにも不可欠であ 3. 下流システムでは,廃棄物と汚水の管理(リサ る. イクルや再利用を含む)の向上によって改善で  予測はどんな時でも難しいものだ.あらゆる種類 きる可能性がある. のサービス需要は,人口増加,居住者のライフスタ イル,新技術,開発のペースなどに関する前提条件  計画プロセスにおいて ELP を利用すれば,さま 次第で大きく変化するだろう.こうした変化が需要 ざまな選択肢を分析し,さまざまな対策実施を環境 に影響をもたらす.例えば,人口移動,気候変動, の視点から詳しく調査することができる(図 2.49). グローバル化によって地域の土地やサービスに対す 環境に及ぼす影響のコストを代替案の分析に加えれ る需要は大きく変化する.海面上昇によって海岸線 ば,ライフサイクル的な展望を視覚化できる.ELP の位置が変わり,住区とインフラが立ち退くことも があれば,総合的なアセスメントとより正確な達成 ある.暴風雨の頻度が増えれば,防風林,歩行者の 目標の設定が可能になる.また,ELP は結果を追 避難所,地下施設などにあてる空間がさらに必要に 跡調査し,関係者・関係組織に結果をフィードバッ なる.世界的な経済危機,石油価格の上昇,あるい ( ii ) コアシステム ( i ) 上流のシステム (例:建設, 維持管 ( iii ) 下流のシステム 理, 公共の個人輸 (例:エネルギー生産の改 送および人間の行 (例:廃棄物管理と廃水 善と原材料生産の改善) 動の改善) 管理の改善) 図 2.49 環境への影響を削減するチャンス 出典:Brick (2008). 説明:この図は建築部門の上流のシステム,コアシステム,下流のシステムで環境への影響を削減するチャンスを示している. 都市ベースの意思決定支援システム ≫ 第 10 章 投資計画の立案方法 165 は降雨パターンの変化によって食料安全保障の必要 この予測は道路,交通,水,エネルギーに関するイ 性が高まり,都市型菜園と地域農業にあてるための ンフラの容量不足を評価する時の基礎にもなる. 空間と水がさらに必要となる可能性もある.今日の  同様の予測プロセスは商業活動・産業活動の需要 都市を取りまく脅威とそれに対応するための緩和策 と供給についても利用されている.その際は相互依 の範囲は非常に幅広く,またその内容は常に変化す 存性を考慮して,住宅の予測と商業・産業の予測は る可能性がある. 一緒に行うのが望ましい.  実際,予測することは,いかなる都市にとっても その能力の限界を超えた課題である.予測の出発点 予測ワークショップは,外力の影響を理解するの として一番適しているのは,使えるデータや実用的 に役立つ モデルを何であれ利用して,最も優れた需要供給予  長期的な将来見通しと適切な設計戦略の開発には 測を立てることだ.時間とともに,気候や技術,そ いくつもの大規模な専門家集団が参加できるよう, の他の外部要因の変化が,重要な前提条件にどのよ たくさんの技術が特別に開発されてきた.従来の予 うに影響するかについての洞察力を高めることがで 測ツールの中には,応用が非常に難しかったものも き,こうした予測を補強できるようになるだろう. ある.例えば 1950 年代に RAND の研究者が開発 したデルファイ法は,予測方法としてはあまりうま 第一歩は土地利用の需要予測能力を強化すること く行かなかった.しかし,今では将来見通しや提案 である のための技術がたくさん利用されており,そのおか  少なくとも,住居,商業地区,産業用の需要の推 げでさまざまな専門家集団が研究評価グループや, 定には標準化された手法を利用すべきである.需要 将来の都市問題に関するワークショップに一緒に参 は人口増加と経済指標によって決定される.一般的 加して議論できる.こうした技術は創造性ツールと には,このプロセスは 30 年間の不確実性を見込ん 呼ばれ,試行錯誤,ブレインストーミング,形態学 だ上で,合理的な人口増加率を仮定することから始 的分析,対象焦点法,水平思考などの方法がある. まる.これによって高成長と低成長の両方のシナリ 都市の計画と設計で奨励されているコミュニケイ オが作られる. ティブ・プランニング(対話型計画づくり)は,ス  集団を年齢と社会経済的状態に基づく小集団に分 テークホルダーと専門家がよりダイナミックで自由 ければ,人口増加から住宅需要を割り出せる.それ な質疑に参加できる方法として,すでに実地での検 から低層アパート,大きな一戸建て住宅,高層住宅 証が行われている.その一例が,持続可能な都市プ など,住宅の種類別にその属性とそれぞれの小集団 ログラムの『欧州アウェアネス・シナリオ・ワーク を結びつけていく.こうすれば住宅の種類別に需要 ショップ』(Bilderbeek and Andersen 1994 など を予測できる. を参照)だ.このタイプの演習には幅広い参加者が  2つ目の課題は供給の予測である.この予測は不 集まるが,知的にも身体的にも厳しい経験となるこ 確定分析(contingent analysis)ができる簡単な とがある.そのため関係者が興味を失ってしまうリ GIS ツールを使って行うのが望ましい.既存の建築 スクがつきまとう.このような状況では,協働的プ 規制やゾーニングは,地域ごとに潜在的に必要な住 ランニングが成功するかどうかは,システム的な取 宅の種類と数を決める根拠として利用される.こう り組みをもっと簡単な方法で行えるかどうかどうか した前提条件に基づいてそれぞれの地域に建てられ によって決まる.それには,設計シャレットや予測 る住宅の数を決定し,それを基に都市が供給する住 ワークショップのような集中的で時間の限られた演 宅の戸数を制限する.そうすると,需要予測と供給 習の方が,多くの関係者が参加しやすくて優れてい 予測を比較して,どういう種類の住宅にどのような る. 需給ギャップがあるかが簡単に確認できる.また,  予測ワークショップは,復元力を持った土地の利 166 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 用方法とインフラ設計による積極的なリスク・マネ 因と結果がそれぞれ独特のかたちで連なって,地域 ジメントのことを設計者や計画者に紹介するのを目 の経済的・社会的・環境的な特徴に対して潜在的に 的とした,段階的なプレゼンテーションや演習で構 与える影響が示されている.サブチームは専門家の 成されている.一般的には,予測ワークショップは 助けを借りてこうした図を利用し,それぞれの主要 地域内の都市システムや農村システムに対する外力 な力と都市システムに関する原因と結果の連鎖や, の影響について検討するところから始まる.人口, 4つの資本に対する影響を地図化することができ 気候変動,技術変化,国際化,突然の衝撃的な出来 る. 事という5つの大きな力について,地域の状況を題  分野横断的なサブチームが,重要な悪影響を緩和 材にした概要プレゼンテーションを行ったり,書類 するための特殊な対策や代替設計案について,影響 を配布したりする.予測報告書ではそれぞれの力の 図を使って検討することもある.この方法では,影 パターンや傾向を検討し,この力が都市域にどのよ 響と対策の関係を示す図が枠組み(フレームワー うな影響を及ぼすかを分析する. ク)や心象図(マインドマップ)となり,その助け  ワークショップの一環として,交通,住宅,建 を借りて,分野横断的なグループは地域の長期的な 物,土地利用,エネルギー,原料・廃棄物,水,健 脆弱性を調査し緩和戦略を開発することができる. 康,情報・通信,治安,農業食品,経済などのさま 予測ワークショップを利用すれば,設計チームは治 ざまな都市システムに対してこれらの力が及ぼす影 安や復元力といったなじみの薄いテーマを正しく理 響について,サブチームに分かれて検討することも 解できるだろう.こうしたワークショップでは,よ ある.また,それぞれのサブチームはグラフィッ り大規模な復元力計画という分野での能力形成も始 ク・ツールの助けを借りて予測を行うことができ まっている.将来の研究テーマとしては,テクノロ る. ジー・スキャン,S曲線とイノベーション・サイク  初期段階の決定分析を支援するツールにはデシ ル,リスク管理,多くの都市システムでの加速度的 ジョン・ツリー,影響図,信念ネットワークなどが な変化といったものが登場しているが,ほとんどの ある.特に効果的なのは,影響図を使って対話を構 設計者や計画者はこれらをほとんど理解していな 築し促進する技術だ.多くの人々にとって,影響図 い.こうした概念の多くは理解するのも日常生活に は原因と結果の連鎖を最も簡単に理解する方法だ 溶け込ませるのも難しいが,予測ワークショップの が,厳密に言えば,因果関係は直接的なものとは限 演習では,複雑な概念を簡単に理解し参照できるよ らないし,示されている要素だけに限定されている うに視覚化して示すことによって,現実の問題を具 わけでもない.そのため,影響や関連性といった用 体的に議論できる. 語が使われる.これらの図は簡単に作成できる上に  予測ワークショップの場で,復元力を高める最初 直観的に理解できる.また,簡単な数値的評価も可 のデザインソリューションが生み出される可能性も 能だ.最も重要なのは,変数の独立性を視覚化でき ある.ワークショップは適応性を備えた設計につい ることだ.変化する前提条件を視覚的に表示すれ て検討するチャンスだ.何にでも使えて耐久性のあ ば,どのグループも,個別に分割された部分部分で る設計では,単純さが好まれる一方で重複性も考慮 はなく,全体としての内部の依存関係に注目するよ されている.これらの設計はアップグレードが可能 うになる.推論,予測,決定といった側面が単純な で,独立性があり,破壊的な変化は最小限に抑えら ノードと矢印を使って表されているため,専門家で ワークショップは区画化やモジュー れている.また, なくても議論によってシステム思考を強化すること ル化といったエコロジカルなデザインソリューショ ができる.これらの図は,グループ間の複雑なモデ ンの利点を実証するチャンスであり,たとえ障害が リングの基盤にもなる. 起きたとしても,それがシステムの一部に止まるよ  影響図のテンプレートの例を図 2.50 に示す.原 うにすることで,脆弱性を抑えるのに役立つ. 都市ベースの意思決定支援システム ≫ 第 10 章 投資計画の立案方法 167 予測ワークショップ 気候変動と都市域  気候変動の予測は常に難しいものだが,これは気候シス  冬は短くなり積雪量は少なくなる.スケートのシーズンは テムがもと もと複雑だからだけでなく, 経済成長, 新技術, 半分になる. 公害防止効果に関する必要な前提条件を設定するのが難し 2020 年までには,この地域で氷点下以下になる日数は, いからである. 気候変動の予測はたいていう まくいかないの 現在の標準的な数字である 80 ~ 89 日から 62 ~ 70 日にな で, 予期せぬ出来事に備えておいた方がいい.しかし,オ る. ンタ リオ州南部と首都圏の気候変動モデルは十分に研究され  降水量だけでは気温上昇による蒸発量の増加を補えない 予測 ており ,これらの研究と過去の傾向に基づいて, 最も可能 ため, 全体的に乾燥した気候が予想される. そのためこの 性の高い変化に対する計画を立てておく ことが賢明だ. 地域では土壌がよ り乾燥し, 干ばつが増える可能性がある.  モデルでは 21 世紀半ばには夏の気温が2~3℃上昇し,  猛暑がより一般的になり , 激しい暴風雨や暴風の頻度が 2071 年までには4~5℃上昇して夏が4~7週間長く なる 増加する. 気温が 30℃を越える日数は 11 日から 28 日に増 と推定されている. える. 降雨はよ り激しく強くなるが, 散発的になる. 大きな傾向 より長く 異常気象の 雪と氷が少 より暑い夏 乾燥した夏 なく短い冬 増加 影響の 連鎖 水不足 解説文 介入 既存のストックを水効率のいい 備品で改修するプログラム 図表 空の 貯水池 健康危機 工業労働 の停止 影響 製造資本± 自然資本± 社会関係資本± 図 2.50 影響図のテンプレート 出典:著者作成 . 文化的資本± 説明:ここではさまざまな力と都市のサブシステムについて,原因と結果の連鎖を示した視覚的な影響図 を作成する際の代表的なテンプレートを示した. 168 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 注 参考文献 1. InfraCycleは,都市によるすべての自治体インフラ Bilderbeek, Rob H., and Ida-Elisabeth Andersen. 1994. の建設,維持管理,更新,運用のそれぞれに関する “European Awareness Scenario Workshops: Organiza- コストの計算や,将来の収益の評価を支援する市販 tional Manual and Self-Training Manual.” Report の表計算アプリケーションの1つである.http:// STB/94/045, Sustainable Cities Program, Center for www. infracycle.com/を参照のこと. Technology and Policy Studies, Apeldoorn, the Netherlands. Brick, Karolina. 2008. “Barriers for Implementation of the Environmental Load Profile and Other LCA-Based Tools.” Licentiate thesis, Royal Institute of Technology, Stockholm. Fort St. John. 2009. “Sustainable Neighbourhood Concept Plan.” Prepared by Sheltair Group, LCC analysis by David Rosseau. http://www. fortstjohn.ca. Levin, Per, and Therése Rönnkvist-Mickelson. 2004. Rapportsammanfattning—Uppföljning av miljöbelast- ning och ekonomi i Hammarby Sjöstad, Sickla Udde. Stockholm: Carl Bro AB. 第3部 事例調査ガイ ド: 世界の Eco2 Cities ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 170  この事例調査ガイドは基礎レベルの技術的知識を [監訳者註:この第3部においては,原著では6つ 集約したものであり,都市インフラに関する都市別 の都市の事例紹介の後に,エネルギー,水,交通, ガイドとなっている.世界の都市のなかから,優良 及び廃棄物の4分野別の解説が続いている.また, 事例として選定したものについての事例研究であ 都市の土地利用等の空間管理に関する解説と世界銀 る.これを読めば,各都市で Eco2 を実現するため 行グループが有する資金的道具とマルチドナー基 にどのようなアプローチを取っているかが分かる. 金に関する情報も収録されている.本翻訳では都 Eco2 への取組みに際して必要となるさまざまな要 市の事例紹介だけしか収録していない.このため, 素が如何なるかたちで適用されているか,その方法 第3部の原著表題“Field Reference Guide”はそ が記載されている. “事例調査ガイド:世界の Eco2 のまま直訳せず, Cities”とした.] 171 事例1 クリティバ市,ブラジル エコロジカルで経済的な都市計画・開発・ 管理に,コストは障壁にならない  ブラジルのクリティバ市の事例は,エコロジカル で経済的な都市計画・開発・管理を実行するのに, コストが障壁になることはないことを示している. クリティバ市は統合的な都市計画を通じて,持続可 能な都市環境を構築した(図 3.1).無計画なスプ ロール化を避けるために,クリティバ市は戦略的な 図 3.1 クリティバ市の景観 開発軸に沿って,都市が発達するように管理した. 出典:Institute for Research and Urban Planning of Curitiba (IPPUC). その軸に沿って,同市の統合マスタープラン及び土 地利用ゾーニングとリンクした高密度の商業・宅地 開発を進めたのである.クリティバ市は,実行する れるようになった. のに長期間を要する高コストの鉄道ではなく,安価  クリティバ市の持続可能な開発の社会的,経済 でありながら革新的なバス・システムを採用した. 的,環境的な取り組みは,統合的な土地利用・公 クリティバ市の効率的で優れた設計のバス ・ システ 共交通・街路網計画によって促進された(図 3.2). ムは,都市の大部分で運行しており,公共交通機関 成功に大きく貢献したのは,クリティバ都市計画研 1 (バス)利用率は 45 パーセントに達している .交 究所(IPPUC)――研究・計画のみならず,都市 通渋滞は以前よりも緩和されており,それによって 計画の実行・監督にも携わる外郭団体――と言える 燃料消費量は減少し,大気環境は改善した.緑地面 かもしれない.IPPUC は,都市開発の様々な側面 積も増加している.とりわけ洪水防御を高める目 の調整を行い,市の政権が入れ替わっても,立案プ 的で作られた公園内の緑地が増加しており,緑地 ロセスの継続性と一貫性を保証することができた. と文化的遺産地域の保護を目的に開発権の移転を認 これは,都市開発における空間的,組織的,文化的 めた規制も功を奏している.店舗や施設を市の中心 側面での経路依存性の成功例である. 部と高密度開発軸沿いに集中させるための取り組み の一環として,自動車乗り入れ禁止となっているク そのアプローチと生態学的・経済的便益 リティバ市の中心地区(主要道や公園などのレクリ エーション施設を含む)は,歩きやすく,活気があ  クリティバ市は,エコロジカルで経済的な都市計 り,市民にとって魅力的な場所に変えられた.犯罪 画に様々な革新的なアプローチを行った.以下に 7 も減少した.加えて,市民,とりわけ貧困者には, つの主要なアプローチについて記す.  環境活動や教育プログラムに参加する機会が提供さ 172 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES R.B. de GUYANA Fr. Guiana (Fr) IBRD 37443 JANUARY 2010 VENEZUELA SURINAME COLOMBIA ATL ANTI C クリティバ市及びクリティバ首都圏の概要 OC E AN ECUADOR クリティバ市 • ブラジル南部に位置するパラナ州の州都 • 面積:432 平方キロメートル BRAZIL PERU :183 万人 • 人口(2008 年) • 年間人口成長率:1.86% Brasília BOLIVIA • 同市の東側はイグアス河, 西側はパッソーナ公園に隣接 PAC I FI C • 同市はブラジリア, ポルトアレグレ,リオデジャネイロ,サ OC E AN ンパウロなどを擁するブラジル最大の経済回廊の中心部に PARAGUAY 位置.ブエノスアイレス,モンテビデオなど他の南米諸国 Curitiba の大都市にも近い. BRAZIL ARGENTINA ATL ANTI C OC E AN URUGUAY 500 km. クリティバ首都圏 • クリティバ市を含む 26 自治体で構成. 地図 3.1 クリティバ市の位置 • 面積:15,622 平方キロメートル 出典 : Map Design Unit, General Services Department, World Bank :326 万人 • 人口(2008 年) • 人口成長率:2.01% クリティバ市の人口成長 年 1960 1970 1980 1991 2000 2007 2008 人口(千人) 361 609 1,025 1,315 1,587 1,797 1,828 人口密度 (人/1平方キロメートル) 836 1,410 2,373 3,044 3,674 4,161 4,232 緑地面積 (平方キロメートル/人) — <1 — — — — 51.5 出典:IIPPUC, http://ippucnet.ippuc.org.br (2009/1/15 にアクセス ); IPPUC (2009a) の 2008 年に関するデータ. 注:– は入手不可. 1966 年に土地利用と交通計画を統合したマスター プランを策定した.クリティバ市は,市の中心から 放射線状に広がる開発軸を指定することで,都市の 発達を線状に進める決定を下した(図 3.3).主要 な経済活動はこれらの回廊に沿って集中しており, 同市のダウンタウンは線状に形成されている.同時 に,市の中心は高密度開発によって強化された(図 3.4).体系化された回廊は,専用レーンと約 500 メートルおきに設置されている停留所を含むバス高 図 3.2 クリティバ市における政策統合 出典:IPPUC. 速輸送(BRT)システムを柱にして,主要公共交 通のルートになった. 交通計画と一体化した革新的土地利用計画  この計画を実現し,放射線型の都市成長を導くた  急激な人口増加により,クリティバ市のダウンタ めに,クリティバ市はマスタープランの戦略的展 ウン地区では,都市のスプロール化と交通の集中が 望,地理的・地質的な制約,水及び風の方向,市の 発生することが予想されていた.そこで,同市は 産業状況,市の文化的・社会的要因を反映した詳細 事例調査ガイド:世界の Eco2 Cities ≫ 事例1 クリティバ市,ブラジル 173 図 3.3 クリティバ市における都 図 3.4 クリティバ市の人口密度 図 3.5 クリティバ市のゾーニング 市の成長の軸 出典:IPPUC (2009). (2000 年) 出典:IPPUC (2009). 出典:IPPUC (2009). なゾーニング計画を実行した.2000 年には,クリ を参照). ティバ市には 50 の異なるゾーニング ・ カテゴリー  土地利用と成長パターンを線状形態に転換し,交 があった(図 3.5).ゾーニング・カテゴリーごと 通サービスへのアクセスを提供するために,公共交 に,土地利用,建蔽率,容積率,建物の高さ制限に 通機関で連絡可能な地域でのみ新規開発が認められ 関する要件が定められている.例えば,市の中心エ た.クリティバ市は自動車ではなく,人のために設 リアのゾーン ZC カテゴリーでは,特定の基準に従 計されたため,公共交通機関の運行範囲と運行頻度 うことを条件に,居住用アパート及び商業・サービ が重要な意味を持つ.バスの運行範囲は市のエリ ス施設(スーパーマーケットを除く)の開発が認め アのほぼ 90% に達しており,利用者は誰でも徒歩 られている.その特定の基準とは,容積率が最大 500 メートル未満で公共交通サービスにアクセス 500%,1 階の建蔽率が最大 100%,ほとんどの地 できる(図 3.6)(IPPUC 2009a).バスの運行頻 域において建物の高さ制限はしていない(ただし, 度は約 5 分に 1 本である.クリティバ市は当初に 美観を損なわないために,建物は 20 階までである 開発軸沿いの土地を取得し,線路施設権を確保した ことが一般的で,一部の地域については,避難路を ため,これらの地域に社会住宅を建設することがで 確保するために,建物の高さに制限がある).加え きた.その後,主要な経済活動,及び住宅地や学校 て,開発軸に面している多くのゾーン(すなわち, を含む都市機能が,これらの軸に沿って高密度に再 SE ゾーン)では,容積率は最大 400%,1 階の建 編成された. 蔽率は最大 100%,ほとんどの地域で建物の高さ制  BRT のルートを確保し,開発軸沿いの交通需要 限なしの居住用アパート及び商業・サービス施設の を満たすため,クリティバ市はその三重構造の道路 開発を認めている(ゾーン ZC と同様に,建物は美 システムを使って,既存の道路に機能を割り当て 観を損なわないよう,20 階までであることが一般 た.現在,5 つの主要軸には,BRT 専用レーンと 的で,一部の地域については,避難路を確保するた 建物にアクセスするための道路の双方が含まれてい めに,建物の高さ制限が定められている.Hattori る.軸沿いのサービスにアクセスする必要がない自 2004, Prefeitura Municipal de Curitaba 2000 動車は,軸に平行する道路を使って,これらの地域 174 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 2009 図 3.6 クリティバ市における統合バス路線網の発達(1974 年~ 95 年,及び 2009 年) 出典:IPPUC (2009). 高密度 高密度 商業・ビジネス・ 商業・ビジネス・ 居住用 居住用 低密度 低密度 主に居住用 中心軸となる道路 主に居住用 1 階・   1 階・ 2 階部分  2 階部分  店舗・   店舗・ ビジネス用     ビジネス用 一方通行 一方通行 一方通行 一方通行 (交通の流れ:時速 60 キロ) (中心道路上) BRT (中心道路上) (交通の流れ:時速 60 キロ) 専用レーン 三重構造の道路システム 図 3.7 クリティバ市における三重構造の道路システム 出典:IPPUC 資料に基づき著者編集. を迂回することができる(図 3.7).加えて,市の 上の交通は緩和されている.住宅,サービス施設及 中心に交通が集中するのを避けるために,前市長は びビジネス中心街は,軸に沿って漸進的に開発さ 市の中心の選り抜きの道路を,車が通行できない歩 れ,BRT システムと連絡されているため,自宅と 行者専用道路に改装してしまった. 職場,学校の距離は短くなり,多くの人がバスで通  このような方策を通じ,クリティバ市の空間的 勤 ・ 通学している.全通勤 ・ 通学のうちバス利用が 成長と都市的土地利用のパターンは効率的に管理 占める割合は 45% に達し,これらのバス移動のう され,決定されてきた.土地利用計画と工夫を凝 ちの 70% が,ダウンタウン ・ エリアを迂回してい らした公共交通網の相乗効果により,市の中心や軸 る(IPPUC 2009b).その結果,クリティバ市で 事例調査ガイド:世界の Eco2 Cities ≫ 事例1 クリティバ市,ブラジル 175 は自動車の排ガスが減り,交通渋滞が緩和され,そ し,近隣地域を分断する可能性がある)街路スペー れによって時間は節約され,経済活動は活発化し スの拡張などの修復工事をたくさん行う必要がなく た.2002 年のデータに基づく計算によると,クリ なった.インフラを最大限に活用し,それに新しい ティバ市は激しい交通渋滞に起因する時間のロスの 機能と交通規則を付加することで,クリティバ市は ために,年間 255 万レアル(120 万米ドル)の損 建設費用を節約することができた.広範囲にわたる 失を受けていると推定される(表 3.1).他方,激 無計画の都市スプロール現象を回避することでイン しい渋滞による 1 人当たり損失額は,リオデジャ フラ投資を最小限に抑えて,軸沿いに集中してそれ ネイロではクリティバ市の 6.7 倍,サンパウロでは を行ったので,新しい地域に水道管やケーブルを設 11 倍にも上る.交通渋滞に起因する 2002 年のク 置する必要はなかった.歩行者専用道路を歩いて来 リティバ市の年間燃料損失額は,198 万レアル(93 られることから,現在では市の中心に来る人の数が 万米ドル)であった.1 人当たりでは,リオデジャ 増え,自動車交通を主とする道路に比べて,地域の ネイロとサンパウロは,それぞれこの約 4.3 倍, 店舗の経済的機会が増大した. 13 倍である(CNT 2002; Vassoler 2007).ちな みに,2000 年の米国の 75 の大都市圏における渋 統合的な公共交通システム 滞に起因する燃料 ・ 時間の損失額は,675 億米ド  クリティバ市の BRT システムの建設費は 1 キ ルであった(Downs 2004).クリティバ市の燃料 ロ 当 た り 300 万 米 ド ル で, 路 面 電 車 網(1 キ ロ 使用量は,他のブラジルの主要都市の使用量に比べ 当 た り の コ ス ト は 800 万 米 ド ル か ら 1,200 万 米 て 30% 少ない(Friberg 2000).車の排ガス量が ドル)や地下鉄(1 キロ当たり 5,000 万米ドルか 減少したことで,住民の健康にとっての脅威である ら 1 億米ドル)よりも低コストであった(Friberg 大気汚染が緩和された.現在クリティバ市は,ブ 2000).BRT システムは主要軸に沿って走り,あ ラジルの中では環境大気汚染度が最も低い都市の 1 たかも地上の地下鉄網のような機能を果たして つである(Leitmann 1999).加えて,気候変動に いる.加えて,通常のバス ・ システムに比べて, 影響を与える温室効果ガスの排出量も減少した. BRT の所要時間は 3 分の 2 短く,コストは 18%  交通の流れは,道路に合理的で効率的な序列を定 少ない.これは複数の要因によるもので,その中に めることで分散され,それによって(建物を取り壊 は延べ 72 キロメートルの BRT 専用レーン,乗車 表 3.1 渋滞に起因する時間的ロス及び燃料ロス ブラジル・ ブラジル・ ブラジル・ クリティバ市 サンパウロ リオデジャネイロ 米国 日本・東京 損失 2002 年 2002 年 2002 年 2000 年 1994 年 時間ロス 合計(百万米ドル/年) 1.20 79.94 27.48 — — 一人当たり(米ドル/年) 0.67 7.34 4.51 — — 燃料ロス 合計(百万米ドル/年) 0.93 73.23 13.47 — — 一人当たり(米ドル/年) 0.52 6.72 2.21 — — 時間及び燃料ロス 合計(百万米ドル/年) 2.13 153.17 40.94 900a 49,000b 一人当たり(米ドル/年) 1.19 14.07 6.72 — 4,100b 出典:ブラジル:CNT(2002),Vassoler (2007) 米国:Downs (2004),東京 TMG (2000). 注:データは参考値.各都市の計算方法は異なる可能性があり必ずしも比較対象には適さない.  a:75 の都市圏の平均値.全都市圏の合計は 675 億ドル.  b:トラベル速度の減速(時速 30 キロから 18 キロ)に基づき計算. 176 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 前に支払いを求める料金制度,3 両連結式バス(2 より,バス利用が促進されている.住民の全移動の 両ではなく,3 両編成の連結式バス),バスの出入 うち,45% はバス,5% は自転車,27% は徒歩に りを容易にするチューブ状のバス停留所(図 3.8) よるもので,自家用車による移動は 22% である. が含まれる(Hattori 2004). クリティバ市の自動車所有率がブラジルで第 2 位  クリティバ市の BRT システムは,市内のもっと であることを考えると,これは驚くほど低い数字で 多くの地域と連絡できるよう,色分けされ,サービ ある(IPPUC 2009a). スの規模 ・ 水準(地区間,フィーダー線,自治体間  BRT 専用レーンを走るバスは 3 両編成で,全車 など)が表されている(図 3.9).このバス ・ シス 両が比較的新しい状態にある.平均年数は 5 年を テムは,どこでも一律の「社会的」料金を採用して わずかに上回る程度で,10 年以上のバスは 1 台も いる.乗客がどこまで乗ろうと,何度乗り換えよう ない.メンテナンスもよく,低公害である.クリ と,料金は一律である.貧困者は都市周辺に居住し , ティバ市の 3 両編成のバスは定員が多く(270 人) ていることが多く,長距離の通勤が必要とされるの これらのバスを利用することで移動時間が減少した に対し,富者は中心地に居住していることが多く, ために,通常の非連結式バスを運行した場合に比 通勤距離は短い.全住民の約 80% がこの一律料金 べて,エネルギー消費量は 50% 減少した(Hattori 制による恩恵を受けていると推定される(Hattori . 2004, IPPUC 2009c) 2004).高頻度,高水準のサービス,安価な料金に  BRT システムは,独立採算制である.バス料金 によって運営資金を調達し,バス会社の利益を出 し,政府の助成金なしで人件費,バスのメンテナ ンス費及び減価償却費を賄う.1990 年に制定され た法律により,交通収益は BRT システムの費用に もっぱら充てられる(Friberg 2000).一方,ライ トレールがあるドイツの一部の都市では,料金収益 は営業費用の 30% を賄うに過ぎないため,連邦政 府の助成金が必要とされている.米国では,ライト レールへの助成金は,多くの場合,消費税から捻出 される(Hattori 2004).クリティバ市の BRT シ ステムの営業は,市政府の機関であるクリティバ都 図 3.8 クリティバ市の 3 両連結式バスおよびバス停留所 市公社(URBS)によって管理されているものの, 出典:IPPUC. 運行は民間のバス会社が行っている.バス会社には 乗客数ではなく,移動距離をベースに支払いが行わ れるため,乗客が比較的少ない地域でも運行する動 機づけが与えられている.同時に,運行本数が多く 低料金で,便利であることから,住民のバス利用が 促進されている. 緑地の強化と洪水制御  市民の生活の質を向上させるため,クリティバ市 は,市内の緑地,及び公園や自転車専用道路を含 図 3.9 クリティバ市のカラーコード化されたバス むレクリエーション施設の強化を決定した.クリ 出典:IPPUC. ティバ市はイグアス川などの河川に囲まれているた 事例調査ガイド:世界の Eco2 Cities ≫ 事例1 クリティバ市,ブラジル 177 め,洪水は大きな問題であった.しかしながら,コ ンクリート構造体を用いて水の流れを制御する代わ りに,クリティバ市は自然の排水システムを造っ た.河川堤防は,氾濫した水が土壌に吸収される公 園に造り変えられ,氾濫した水を貯める貯水池が建 設された.河川と雨水の氾濫は,これらの貯水池 と貯水池周辺の公園において自然にせき止められ る(図 3.10).生態系は,このようにして自然に保 護されるのである.公園があれば,コンクリートの 排水溝から河川に短時間で排水するのではなく,土 図 3.10 バリグイ公園(クリティバ市) 壌に吸収された氾濫水を徐々に放出できるため,下 出典:IPPUC. 流の洪水が回避できる.加えて,住民が洪水に付随 注 : かつて洪水に頻繁に見舞われスラム化していた地区が,140 ヘクタール の公園と 40 ヘクタールの湖として再生. する環境災害や病気にさらされる危険性が小さくな る.また,排水路,及び病害対策を含む洪水制御策 や洪水被害の修理の必要が少なくなることから,大 規模な支出も回避することができる.公園建設や貧 民街(スラム)住民の移転にかかった費用は,コン クリートの排水路を建設する費用の 5 分の 1 に過 ぎなかったと試算されている(Vaz Del Bello and Vaz 2007).  洪水制御エリアは,普段は公園及びレクリエー シ ョ ン・ エ リ ア と し て 用 い ら れ て い る. 緑 地 は 1970 年代には 1 人当たり 1 平方メートル未満で 図 3.11 洪水の被害を受けていた頃のスラム街の様子 あったのが,現在では 1 人当たり 51.5 平方メート 出典:IPPUC. ルに増加している(ICLEI 2002; IPPUC 2009a). 市 内 に は 34 の 公 園 が あ り, 緑 地 は 市 街 地 の 約 18% を占める(Curitiba S.A. 2007).街路沿い, く見える家は不動産価値が高いため,固定資産税収 及び公園内には自転車専用道路が設けられている. 入が増加した.これらの高級住宅から徴収される固 自転車道の全長は約 120 キロメートルに及ぶ.公 定資産税は,スラムの移転と補償を含む公園建設費 園面積は増加したものの,市には公園の芝生を維持 用と同額と見積もられている. するための予算が不足していた.そこで,芝刈り人  クリティバ市には多くの樹木がある.公道沿いに を雇用する代わりに,公園内で羊を飼い,芝生を食 は 30 万本の樹木があり,日陰を作って,気温上昇 ませ,天然肥料を与えることで,公園の維持費を .樹木は汚染物質 を抑止している(IPPUC 2009b) 80% 削減すると同時に,市のクリーン・イメージ と二酸化炭素を吸収する.クリティバ市の指定森林 を高めた. 地域は,1 ヘクタール当たり推定 140 トンの二酸化  かつて,水害常襲地域はスラム住民に占拠されて 炭素を吸収し,気候変動への悪影響を低減するのに いた(図 3.11).クリティバ市は,その土地を買い .加えて,樹木が作 貢献している(IPPUC 2009b) 取り,スラム住民をもっと条件の良い土地に移住さ る日陰によって,建物と周辺環境は冷却され,エネ せ,補償を支払った.公園建設後,公園に面した ルギー消費が抑えられている 2.市の条例は,土地 ゾーンは,高級住宅地になった.公園と貯水池がよ と森林又は樹木の比率によって,私有地の開発面積 178 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 固形廃棄物管理  クリティバ市には固形廃棄物管理の革新的な プログラムがいくつかある.クリティバ市の埋 め立て地は容量が小さく,市には焼却炉を建設 するのに十分な収入がなかった.廃棄物の増加 を抑制するため,クリティバ市は新しい高コス トの廃棄物処理施設を建設するのではなく,市 民の力に頼る独特な廃棄物管理プログラムを開 始した.これらのプログラムが革新的なのは, 廃棄物の増加を抑制すると同時に,貧困層に機 会を提供した点にある.貧困層に機会を提供す ることも,市の重要目標の 1 つである.  クリティバ市の「ゴミはゴミでない」プログ 図 3.12 クリティバ市における環境保全のための開発権の移転 出典:IPPUC. ラムは,住民に廃棄物をリサイクルできるもの とリサイクルできないものに仕分けすることを を制限している.都市の植樹を奨励するために,市 .このプログラムに 奨励するものである(図 3.13) は容積率の緩和や減税などの形で,植林に対する見 対する認知を高めるために,クリティバ市は廃棄物 返りを土地所有者に提供している.例えば,私有地 の分別と環境保護の重要性を児童に教育している. 所有者は自分の土地にパラママツの木を 1 本植えれ また,キャンペーン・マスコットを作り,学校での ば,市税が 10% 減額される.加えて,森林地域の 活動を定期的に企画している.1 週間に 1 回から 3 開発権は,市の別の地域の開発権と交換可能である 回,トラックが家庭で分類された紙,段ボール,金 .市場原理に基づき,IPPUC は利害関係 (図 3.12) 属,プラスティック,ガラスを回収している.この 者(すなわち,民間開発業者と土地所有者)間の開 リサイクルにより,1 日に樹木 1,200 本分が節約 発権の行使,交渉及び移転を規制,監視している. され,地域の公園の情報掲示板には,節約された これによって,クリティバ市は移転を実行したり, 樹木数が表示される(Rabinovitch and Leitmann 緑地の造成又は歴史的地域の保存のための土地取得 1993).リサイクル品の販売を通じて集められた資 費を負担したりする必要がない. 金によって,社会計画が支援され,市は路上生活者 図 3.13 クリティバ市の廃棄物処理プログラム 出典:IPPUC. 説明:左側写真:The Garbage That Is Not Garbage Program / 右側写真:The Green Exchange Program 事例調査ガイド:世界の Eco2 Cities ≫ 事例1 クリティバ市,ブラジル 179 やアルコール依存症患者のリハビリ・プログラム参 入れ,市の西側にクリティバ工業都市を設立した. 加者をゴミ分別工場で雇用している.リサイクル この工業団地は,4,300 ヘクタールに及ぶ広大な緑 は他の便益にもつながっている.例えば,リサイ 地を擁し,バス網との接続もよい.工業団地の従業 クル繊維を用いて,道路用アスファルトが生産され 員の多くは近隣に居住し,自転車で通勤する.工業 ている.また,リサイクルによって,デング熱ウィ 団地には厳しい環境規制がある.汚染産業は認めら ルスを媒介する蚊の発生源となる廃棄タイヤの山が れない. 除去された.適切なタイヤ回収によって,デング  30 年経過した現在,クリティバ工業都市には, 熱は 99.7% も減少した(Vaz Del Bello and Vaz 情報テクノロジー企業などのグローバル企業や 2007).市の住民の 70% 近くが,クリティバ市の BRT バスを製造する自動車メーカーを含め,700 リサイクル・プログラムに参加している.クリティ 社以上の企業が進出している.直接的に 5 万人の バ市の廃棄物の 13% がリサイクルされており,こ 雇用を,また二次産業を通じて 15 万人の雇用を創 れは,ポルトアレグレの 5%,サンパウロの 1% と 出している.パラナ州の輸出品の約 20% はこの工 いう値をはるかに上回るものである.ちなみに,両 業団地で生産されたもので,パラナ州の産業税収 市ではまだ,廃棄物教育の普及が大きな効果を及ぼ 入(販売・サービスに対する州の付加価値税)の すには至っていない(Hattori 2004). 25% は,この工業団地から得られている(Hattori  廃棄物回収車にアクセスできないスラム地域で, . 2004; Prefeitura Municipal de Curitiba 2009) 「緑の交換」プログラムも開始された(図 3.13). 貧困者及びスラム住人に地域の清掃を促し,公衆衛 社会的考察 生を改善するために,市は近隣センターにゴミを  クリティバ市の経済は,他のブラジルの都市に比 持ってきた人に対し,バスの乗車券と野菜の配布 べて比較的よく発展しているものの,スラムに居住 を開始した.加えて,児童はリサイクル品を学用 している貧困者の数は依然として多い.貧困者に就 品,チョコレート,玩具,ショーのチケットと交換 職を促し,包摂的な共同体を促進するため,クリ することができるようになった.また市は,余剰農 ティバ市は様々な革新的な社会政策を導入した. 作物の販売に苦労している農家から割引価格で野菜  クリティバ市は,市の南部に位置する高圧線の下 を買い取っている.このプログラムを通して,市は の未開発地を,起業を助け,地域経済の成長を促 道路が整備されていないことが多いスラム地域での 進する「ジョブ・ライン」に転換した.2 つのソー 廃棄物回収手配のコストを節約すると同時に,農家 シャル・インキュベーターが地元企業の設立のため が余剰農作物を売りさばくのを手助けしている.こ のトレーニング及び設備を提供し,12 の起業家用 のプログラムはまた,貧困者の栄養状態,交通への .加えて,こ 施設が作られた(Guimarães 2009) アクセシビリティ,娯楽の機会を向上させるのにも れらの施設は起業家向けの能力開発も行う.十分に 役立っている.最も重要なのは,スラムが清潔にな 活用されていない占拠地は整理され,居住者を移転 り,病気の発生が減り,河川などのセンシティブ・ させ,公共交通サービスを開始することで,段階的 エリアに投棄されるゴミが減少したことである. に土地の再生が図られた(Hattori 2004).  クリティバ市の最大の問題の 1 つはスラムであっ クリティバ工業都市 た.自分の土地を所有していない者たちが他人の私  1970 年代のクリティバ市の経済基盤は,主とし 有地を占拠していた.これらの土地は放置されがち てサービス部門であった.投資を呼び,雇用率を上 で,河川汚濁を引き起こし,犯罪の温床となる(図 げ,貧困を減らすため,IPPUC は製造業を誘致す 3.14).不法占拠者を移転させ,占拠されていた地 ることを決めた.この目標に向けて,クリティバ市 域を再生するのに時間と費用をかける代わりに,市 は,市の中心地の汚染を避けるため,風向を考慮に は占拠可能な私有地を低価格で買い上げた.次に市 180 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES は,この土地を非正規に占拠してもよい土地として 慮している.アパートや小さな一戸建て住宅が社会 提供した.その上で,これに正式な土地利用ゾーニ 住宅として提供されている.小さな一戸建て住宅を ング・カテゴリーを設定した.このようにして,こ 購入する余裕のある貧困層には,住宅の建て増しに れらの地域も都市計画に統合され,住民は包摂され よって,不動産価値を高め,総体的な居住環境を向 ていると感じることができるようになった.土地は 上させるインセンティブが与えられる.クリティバ 簡素な方法で割り振られ,水と電気が供給されてい 市では,開発権の購入が可能である.用地の開発権 る.そのようなサービスは,もし供給されないと不 を購入するために開発業者が支払った金銭により, 法に利用される恐れがあり,死亡事故にさえつなが 他の地域で社会住宅を建設する資金が捻出できる る恐れがあるためである.居住者は土地に対してあ (図 3.16). る程度の所有感覚を持つようになるため,道路を整  市のサービスは分散されており,主要なバス交通 理し,高水準の居住環境を作り出すことができる. ターミナルの周辺で多く提供されている.住民は 市の機関の調整のもとで,長期ローンを通じて,占 サービスを利用するために,必ずしも市の中心まで 拠地の価値が回収されることもある.加えて,居住 行く必要がない.市の中心から離れた場所に住む人 者には法定の郵便配達先住所を与えることができ, が近隣でサービスを調達できるようにすることで, そ れ に よ っ て 就 職 が 助 け ら れ る(Hattori 2004; 機会均等が促進される.バスの一律料金制も,住民 Nakamura 2007). が市の事務所があるバス ・ ターミナルにまで出かけ  クリティバ市は,土地の価格が比較的安い郊外と る助けになっている.さらに,教育,保健,文化, 市内――とりわけ市の中心と工業地域の中間地に 社会サービスの施設などの市のサービスは,市全体 おいて,社会住宅を提供している(図 3.15).クリ に等しく分散されている.このシステムが,所得水 ティバ市は包摂的な近隣社会を作り出すという目的 準にかかわらず,すべての市民に平等で高基準で利 のもと,同一の所得層が近隣に定住することを促 用しやすいサービスを提供することを可能にしてい すのではなく,様々な所得層が寄り集まるように配 るのである. 図 3.14 クリティバ市の不法居住の様子 出典:IPPUC. 事例調査ガイド:世界の Eco2 Cities ≫ 事例1 クリティバ市,ブラジル 181 図 3.15 クリティバ市のソーシャルハウジング 出典:IPPUC. 図 3.16 クリティバ市におけるソーシャルハウジングのための 開発権の移転 出典:IPPUC. 文化及び史跡の保存  クリティバ市は,魅力的で活気あふれる景観を維 持している.これは,十分に練られた都市計画と文 化遺産の保存が成功を収めている成果である.市の 中心の自動車道路は,人々が都市の文化的雰囲気 を楽しめるよう,歩行者専用道路に造り替えられ た(図 3.17).クリティバ市の 1977 年大都市圏史 跡計画に基づき,363 の建造物が保存指定された. しかしながら,これらの建造物のほとんどは私有地 にあるため,その保存の管理は困難であった.そこ で市は,開発・建築を行う権利を市の別の地域に移 転できるようにする政策を採択した.1993 年にク リティバ市は,特別保存地区を指定した.これらの 建造物に対する開発権を売却することで得た資金 は,建造物の保存のためだけに使わなければならな い(図 3.18).これらの方策により,保存のために 必要とされる資金は主として市場で調達され,市は 保存の資金を出す必要がなくなった.加えて,クリ ティバ市の「都市の色(Coresda Cidade)」プロ ジェクトによって,市の中心地の 44 の歴史的建造 図 3.17 クリティバ市中心街の歩道 物が再生され,元の色調に塗り替えられた.このプ 出典:IPPUC. ロジェクトの対象となった地域は,かつては荒廃し た犯罪地域であった.しかしながら,再生後,この 地域に人が来るようになって,所有者は建造物の手 入れをするようになり,犯罪率はおよそ 30% 低下 した.さらにクリティバ市は,史跡保存と効果的な 都市設計による市の再生の好例を提供している.ま 182 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 図 3.18 クリティバ市における文化遺産保全のための開発権の移転 出典:IPPUC. た,以前は市に不足していた文化的施設が革新的な 方法で設立された.歴史的な火薬庫は劇場に建て替 えられた.美しい景色に囲まれた採石場跡のくぼ地 には,金属チューブとガラスから成るオペラハウス が建設された.かつては放棄されていた空き地には 植物園が作られ,主要な観光名所の 1 つになった (Hattori 2004). クリティバ市の今後の挑戦  グリーン ・ ライン:かつては市の中心を連邦幹線 道路 116 が貫いており,その危険なまでに激しい 交通量――主として南米の重要な経済ルートを走る グリーンライン 輸送用トラック――が住民に負担をかけていた.こ の状況によって,クリティバ市は非効率的な形で 2 つの地域に分断されていた.これを受けて,市の境 界の外に交通を迂回させるための環状道路が建設さ れ,以前の連邦道路はクリティバ市の第 6 の軸に 転換され,グリーン ・ ラインと呼ばれるようになっ た.グリーン・ラインが設けられたことで,既存の 5 つの軸の交通が緩和されることが期待されてい る.新しい BRT ルートが導入される予定で,地域 の魅力を倍加するため,グリーン ・ ライン沿いに多 .建 目的の高密度開発が計画されている(図 3.19) 図 3.19 クリティバ市のグリーンライン 物が障害となって,風の循環が妨げられることがな 出典:IPPUC. いよう,土地利用が慎重に計画されている.グリー 事例調査ガイド:世界の Eco2 Cities ≫ 事例1 クリティバ市,ブラジル 183 ン ・ ライン沿いには,線形の生物多様性公園が建設 もたらされたものである.50 年以上にわたり,エ され,固有の植物種のみが栽培される予定である. ンジニアと建築家は,主要な都市問題に統合的な方  地域統合:クリティバ大都市圏は成長を続けてい 法で対処できるように,都市計画に取り組んでき るため,クリティバ市は現在,新しい課題に直面し た.IPPUC の役割は,IPPUC が設置された 1966 ている.すなわち,都市と地域計画をどう統合させ 年以降,歴代市長のもとで進められてきた計画プロ るかである.周辺地域からの人口移動により,住宅 セスに継続性と一貫性が保たれることを保証するこ 不足が生じており,スラムの増加につながる恐れが とである.クリティバ市は新規建設に多額の資金を ある.さらに,たとえクリティバ市に高水準の主要 費やすことなく,既存のインフラを最大限に利用 BRT システムがあり,土地の統合利用が行われて し,地域の特徴を活かしてきた.クリティバ市の活 いるにせよ,公共交通機関と接続されていない周辺 動は少ない予算で行われてきたにもかかわらず,多 地域の開発(大規模なショッピングモールなど)に 大な便益を生み出してきた. よって,自動車の利用が促され,交通量が増加する  市民の当事者意識とエコ意識:市民は都市計画プ 恐れがある.このような状況から,クリティバ市は ロセスの中で意見を述べることを促され,そのため 広域での計画能力を強化するための対策を講じ,自 の機会が与えられている.市長との公聴会が頻繁に 治体間の連携を構築しているところである. 開かれ,提案された計画が評価され,地域社会との 議論が行われる.市民は,市長や市職員と直接話を することができる.2005 年以降,250 回以上の公 クリティバ市の事例から得られる教訓 聴会が開かれている.これを通して,市民は計画に  リーダーシップと継続性:クリティバ市の歴代市 積極的に参加している.これは,優れた都市計画は 長は,都市計画に注力してきた.多くの市長が,工 生活の質の向上につながると考えているためであ 学や建築などの技術分野の経歴の持ち主であった. る.市は,他の都市活動――ゴミ収集,近隣の道路 クリティバ・マスタープランが策定された 1960 年 の建設,緑地の維持など――に参加する機会も市民 代から,都市計画の方向性は政権が交替しても概ね に提供している.それによって,市民自身による当 一致していた.クリティバ市は,都市問題に対処す 事者意識が生まれ,都市施設のメンテナンスが強化 るための実行と素早い行動に重点を置いている.す される.児童も都市廃棄物プログラムなどの環境教 なわち,成功の可能性が 70% あれば,計画を素早 育活動に参加している.さらに,環境に優しい行動 く実行に移すのである. は,現在ではクリティバ市民の規範となっている.  組織化された計画と専門知識:クリティバ市のや  地域の特徴:クリティバ市は都市戦略を考案する り方は,同市にいくつかのプラスの影響を与えてい に当たって,予算,能力,社会条件を始めとする地 る.クリティバ市の成功の理由は,市長の強力な 域の状況を考慮に入れている.市の能力を考慮した リーダーシップと市のプログラムへの住民の積極的 上で,市の職員は都市問題を解決するための革新的 な参加である.加えて,IPPUC の功績も大きい. な方策を編み出そうとしている.例えば市は,地下 この統合的計画機関は,都市計画を研究・策定・実 鉄を建設しようとして十分な資金を確保するまで待 行・監督する,自治体から独立した外郭団体とし つのではなく,BRT システムを採用した.これは て,重要な役割を果たしてきた.IPPUC は,統合 低コストで,かつ長い時間のかかる建設工事を行う 的で分野横断的な計画とその実行の管理・モニタリ ことなく,短期間で実現可能であった. ングを行うと同時に,政治指導者の入れ替わりに関 係なく,一貫性が保たれるように保証する.都市計 画に対するこの総体的なアプローチは,立案者の創 造性,想像力,地元文化に対する深い理解によって 184 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 注 Week 2009,” World Bank, Washington, DC, April 1. 1. 輸送機関別分担率は,公共交通(バス)45%,自転 ———. 2009c. “Public Transportation: Evolution of the 車5%,徒歩27%,自家用車22%である.データの Integrated Net of Transport.” http://www.ippuc.org.br/ 出典:IPPUC (2009a). pensando_a_cidade/index_transpcoletivo_ingles.htm. 2. 例えば,テキサス州ヒューストン市では,樹木から Leitmann, Josef. 1999. Sustaining Cities: Environmental の蒸発散は最高気温を1.1~5℃も下げることが分か Planning and Management in Urban Design. New っている.ヒューストン市では, 樹木による日射の遮 York: McGraw-Hill. 蔽は, 毎年2,600万 ドルの省エネルギーをもたらしている Nakamura, Hitoshi. 2007. “Curitiba, Brazil ni okeru hito ni (HARC 2004). yasashii kankyou toshi zukuri no jissen” ク リティバ ( ブラジル) における人に優しい環境都市づく りの実 践 [People-Friendly and Sustainable Urban Planning Practice in Curitiba, Brazil]. Presentation, July 13. 参考文献 http://www.sumai-machi-net.com//files/file/ hitoshi(1).pdf. CNT (Confederação Nacional do Transporte). 2002. Prefeitura Municipal de Curitiba. 2000. “Lei No 9.800 de “Pesquisa da Seção de Passageiros CNT, 2002; 03 de janeiro de 2000, Annexos.” Prefeitura Municipal Relatório Analítico: Avaliação da Operação dos de Curitiba, Curitiba, Brazil. Corredores de Transporte Urbano por Ônibus no Brasil.” Report, CNT, Brasília. ———. 2007. “Socioeconomic Information Bulletin 2007.” Prefeitura Municipal de Curitiba, Curitiba, Brazil. Curitiba S. A. 2007. Bulletin 2007 of Socioeconomic Information. Curitiba, Brazil: Curitiba S. A. ———. 2009. “Curitiba: Economic Changes.” Prefeitura Municipal de Curitiba, Curitiba, Brazil. Downs, Anthony. 2004. Still Stuck in Traffic: Coping with http://www.curitiba.pr.gov.br/siteidioma/mudan- Peak-Hour Traffic Congestion, rev. ed. Washington, caeconomica.aspx?idiomacultura=2. DC: Brookings Institution Press. Rabinovitch, Jonas, and Josef Leitmann. 1993. “Environ- Friberg, Lars. 2000. “Innovative Solutions for Public mental Innovation and Management Transport: Curitiba, Brazil.” Sustainable Development in Curitiba, Brazil.” Working Paper 1, Urban International, 4th ed., ed. Anna Pink, 153–56. Management Programme, United Nations Human Brighton, U.K.: ICG Publishing. http://www.brtchina. Settlements Programme, Nairobi. org/old/ReportE/Sustainable%20Development.pdf. 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Directed by Giovanni Vaz Del Bello. koutsuu, fukushi, tochiriyou wo tougou shita Felton, CA: Maria Vaz Photography, in association machizukuri” 人間都市ク リティバ―環境 ・ 交通 ・福 with Del Bello Pictures. 祉 ・ 土地利用を統合したまちづく り [Human City Curitiba: urban planning integrating environment, transportation, social aspects, and land use]. Gakugei Shuppan Sha, Kyoto. ICLEI (ICLEI–Local Governments for Sustainability). 2002. “Curitiba: Orienting Urban Planning to Sustainability.” Case Study 77, ICLEI, Toronto. 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Stockholm ESTONIA North LATVIA Sea DENMARK LITHUANIA 500 km. RUSSIAN FED. GERMANY POLAND 地図 3.2 ストックホルム市の位置 出典 : Map Design Unit, General Services Department, World Bank 発の強化に向けて進むための道筋を示した戦略的 計画は,公共団体,民間団体,及び市内に居住・勤 「ビジョン 2030」を採択した(ス プロジェクト, 務する個人からの幅広い協力を募るものである.こ トックホルム市,2007).このプロジェクトによる れまでにも様々な方策が講じられており,その中に と,2030 年までにストックホルム市の人口は 100 はバイオ燃料の採用,地区全体にわたる冷暖房管理 万人の大台を突破し,大ストックホルム地域の人口 の拡大,環境により優しい自動車運転行動の促進 は 350 万人近くにまで増加する.市はグローバル が含まれる(ストックホルム市 2003).その結果, 化,産業転換,人口移動,高齢者数の増加,環境保 1990 年から 2005 年の間に,1 人当たりの二酸化 護への挑戦によって生じる新しい要求に直面すると 炭素相当量(CO2e)は,5.3 トンから 4.0 トンに 予想される.「ビジョン 2030」プロジェクトとそ 減少した(ストックホルム市 2009).市は排出量 の他の戦略に基づき,ストックホルム市は戦略的な を削減し,気候変動に対応する上でエネルギー効率 レベルと地域のレベルを考慮に入れた,都市開発に が重要であることを認識しているが,それだけにと 対するアプローチを採用した(ストックホルム市 どまらず,資源保護がもたらす費用対効果も重視し 2007). ている.環境的,経済的に持続可能な行動にステー  「ビジョン 2030」に合わせて,ストックホルム クホルダーを従事させるための方法を考案すること 環境プログラムは,2008 ~ 11 年の 6 つの環境目 が,今後の課題として残されている.ストックホル 標・原則を設定した.すなわち,(1) 環境的に効率 ム市の長期的な目標は,2050 年までに化石燃料の 的な交通,(2) 危険物質を含んでいない安全な商 使用をゼロにすることである(ストックホルム市 品・建築,(3) 持続可能なエネルギー利用,(4) 持 . 2009) 続可能な土地・水利用,(5) 環境への影響を最小限 に抑えた廃棄物処理,(6) 健全な屋内環境,である 持続可能な都市開発へのアプローチ (ストックホルム市 2008).  加えて,ストックホルム市は温室効果ガスの排出  持続可能な都市開発は,明らかに大きな目標であ と気候変動に関する行動計画を実行している.この る.ストックホルム市は,統合的で持続可能な土地 事例調査ガイド:世界の Eco2 Cities ≫ 事例2 ストックホルム市,スウェーデン 187 利用・交通計画を比較的容易に実行できる.という Box 3.1 のも,同市は伝統的に,土地の利用計画とその所有 ストックホルム市の開発戦略 に対して,大きな権限を行使してきたからである. • 開発済み地区の再利用(ブラウンフィールド) 1904 年にストックホルム市は,将来の開発用の土 • 公共交通へのアクセスが良好な地域での新規開発 地の購入を開始した.結果として,全市街地のうち • 市の特色を尊重した開発(例:景観,環境,緑化,等) • 準中心市区の再開発,工業地帯を多様な用途を持った都市 の約 70% が市の所有地である(Cervero 1998). 部に変換 市が所有する土地の割合が高いことによって,開 • 郊外に複数のフォーカルポイントを置く 発業者や投資家による投機的な土地投資が防止で • 地元の要請に応えること き,開発を計画・実行する権限を市が握ることがで • 公共スペースの開発 きた.したがって,ストックホルム市は開発のため 出典:ストックホルム市. の確固たる基盤を有する.開発業者は,市の計画に 従って,公有地にビルや住宅を建設する.線路敷設 権は簡単に確保できるため,交通機関の開発は容易 で,交通機関の駅の周辺に他の開発が促進された.  当初から開発が続けられている地域の 1 つであ 開発の利益は現在,ニュータウン ・ エリアの計画を るハンマルビー・ショースタッドは,大規模なデモ 通じて,市民に還元されている.さらに,公園と ンストレーション用地である.これは,システム的 緑地がストックホルム市の土地の 40% を占め,市 解決策,革新的技術,環境意識,分野横断的な積極 民は生態学的に豊かな環境を享受している(USK 的な協力を代表する統合的な都市開発アプローチの 2008). 一例である.  ストックホルム市の計画戦略は,郊外の未使用の グリーンフィールド(環境的に優れた土地)を開発 ハンマルビー・ショースタッド する前に市内のブラウンフィールド(すでに使用さ れている土地)の開発を行うことで高密度化を目指  現在も継続しているハンマルビー・ショースタッ すもので,それによって持続可能な開発を促進する ド(スウェーデン語で「ハンマルビー湖岸の都市」 (Box3.1,地図 3.3).これが 1999 年に市議会が を意味する)再開発プロジェクトは,ハンマルビー 採択した包括的な土地利用計画の全体目標である. 湖の南に面し,都心部の南方に位置するかつての工  都心部に隣接した古い,半分放棄された工業・港 業・港湾ブラウンフィールド・エリアで展開されて 湾地域(ブラウンフィールド)が,市の開発戦略 いる.プロジェクトの目的は,都市中心部を魅力的 の一環として,再利用,再開発されている.これ なウォーターフロント環境へと拡張すると同時に, らの戦略的開発地域のいくつかは,新しい高速路面 荒廃した工業地域を現代的で持続可能な多目的地域 電車網に直接的に接続されており,同時に地下鉄路 に変えることである.土壌は数トンもの油,グリー 線などの他の公共交通機関への直接的なアクセスも ス,重金属を除去することで,除染される予定であ ある.これらの地域は水辺や自然地域のそばに位置 .生態系は再生され,樹木や公 る(Fryxell 2008) する場合が多いため,独特な特徴を持つ.一部の地 園などのエコ資産は保護される.この再開発は,ブ 域は,数年前に建設が始まっており,市の住宅計画 ラウンフィールドを再生することで,土地・不動産 の一環として住宅を供給する予定である.他の地域 価値を高める.さらに,かつては荒廃していた地域 は計画段階にある.これらの地域には,魅力的な居 が再活性化され,11,000 の新しい住宅ユニットと 住・商業施設が存在しており,多目的開発の対象地 20 万 km2 の新しいオフィス及びサービス用地が生 域である.これらの高密度の建築は,かつての郊外 み出される予定である. 地区にありながら,都会的な雰囲気も醸成している.   こ の 新 し い 地 区 の 都 市 構 想 と コ ン セ プ ト は, 188 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES ハンマルビー・ショースタッドの概要 ハンマルビー・ショースタッド • ストックホルムの南部に位置する市街区域 • ストックホルムの 3 つのエコサイクル地区のうちの1 • 総面積:200 ヘクタール(うち 50 ヘクタールは水域) つ:3 地区とは,ハンマルビー・ショースタッド,オ • 計画人口:25,000 人 ストベルガ,スカーホルメン • 11,000 棟のアパートメント建設予定 • 予想される居住・労働人口は約 3 万 5 千人 • 20 万平方キロメートルのリテール及びオフィス地区建 • 現在,開発計画の半分以上が完了.2017 年までにすべ 設予定 ての開発計画の完了を予想. ハンマルビー・ショースタッドの居住用地区 ハンマルビー・ショースタッドの景観 出典:Lennart Johansson (Stockholm City Planning Administration). 出典:Lennart Johansson (Stockholm City Planning Administration). 1990 年代の前半に誕生した.この地域がストック ホルムの中心部とウォーターフロントを接続する役 割を果たすことから,それに合わせたインフラ計画 とビル設計が行われた.ハンマルビー・ショース タッドは,ストックホルムの開発に新たな層を付加 している.すなわち,伝統的な都心の平面的区画と 開放的な現代のアーバン・ゾーンが入り混じった, モダンなセミオープン・ゾーンである.都心部の街 路の広さ,区画の長さ,建造物の高さ,密度はよく 調和され,開放感,太陽光,公園,水のある景色を 地図 3.3 ストックホルムのインナーシティと周辺の開発地域 提供している(地図 3.4). 出典 : Stockholm City Planning Administration  この地域は公共の路面電車の路線とも接続がよ い.2005 年の調査によると,住民の全移動のう ちの 3 分の 2 が公共交通機関,自転車,徒歩によ るもので,3 分の 1 が自動車によるものであった . 公 共 交 通 機 関 の 利 用, 自 転 車, (CABE 2009) 徒歩による移動によって,自動車の排ガス及び関連 する温室効果ガスの削減に効果があった.多目的の 土地利用が促進されており,土地政策によって,主 要道路沿いの1階は商業目的の利用が義務づけられ 事例調査ガイド:世界の Eco2 Cities ≫ 事例2 ストックホルム市,スウェーデン 189 ている.これにより,住民は活気にあふれた店舗が 並ぶ道に徒歩か自転車で出かけるようになった.新 規開発地域に店舗やサービスを呼び込むため,市は 助成金を提供してきた.さらに,この地域の経済活 動は,開発の初期段階で確立された.都市及び建築 設計は,ウォーターフロントを最大限に活用してい る.様々な建築家によって多彩な設計が生み出さ れ,多様性に富み,活気にあふれる高水準の都市環 境が誕生した.  ストックホルム市は,一連の指標に基づく 1995 年のスウェーデンの最善の事例に比べて 2 倍の持 地図 3.4 ストックホルム市ハンマルビーショースタッド地区の マスタープラン 続可能性をハンマルビー・ショースタッドで実現す 出典 : Stockholm City Planning Administration ることを目指した(環境プログラムは 1995 年に採 説 明: マ ス タ ー プ ラ ン の 詳 細 は, 以 下 の URL を 参 照.http://www. hammarbysjostad.se. 択された).その一連の指標の中でもとりわけ重要 なのは,建物の床面積 1 平方メートル当たりのエ ネルギー効率である.スウェーデンでは,通常の新 道を扱っている.この地域のための中心的な環境及 規開発における年間エネルギー使用率の平均は,1 びインフラ計画は,市の 3 つの機関,すなわちス 平方メートル当たり 200kWH(キロワット時)で トックホルム水道会社,エネルギー会社のフォータ ある.スウェーデンの最先端の開発成果は,1 平方 ム,ストックホルム廃棄物管理局によって共同で メートル当たり 120kWH の効率を実現している. 策定された.プロジェクト管理の指揮をとったの ハンマルビー・ショースタッド・プロジェクトは, は,立案,道路・不動産,上下水道,廃棄物・エネ 1 平方メートル当たり 100kWH を目指している. ルギーを監督する市の各部署の代表者から成るプロ プロジェクトはまた,別の目標も設定している.水 ジェクト ・ チームであった.プロジェクト ・ チーム の保全,廃棄物の削減と再利用,排出量削減,有害 は,道路 ・ 不動産省(現在は開発局と呼ばれてい 建設資材の使用削減,再生可能エネルギー源の利 る)に本部を置いている. 用,統合的な交通解決策の実現である.ストックホ  このモデルは,流入する資源を消費し,流出する ルム市はすでに持続可能な都市であるが,市議会は 廃棄物を投棄する一方通行の都市代謝を,資源の利 このプロジェクトによって,持続可能な都市開発に 用を最適化し,廃棄を最小限に抑える循環システム おけるさらなるイノベーションを実証したいと考え に転換する試みである.このモデルは,インフラと ている. 都市サービス・システムを簡素化し,持続可能性の 目標を達成するための青写真を提供してくれる.例 ハンマルビー・モデル えば,下水処理とエネルギー供給の相互作用,廃棄  もともと 2004 年の夏のオリンピックにストック 物の処理方法,現代的な下水・廃棄物処理システム ホルム市が立候補した際に,オリンピック村にする が社会にもたらす付加価値がどんなものかを示して 予定であったハンマルビー・ショースタッドの環境 いる.ここでの重要点は以下の通りである. 目標は,大胆である.当の地域の統合的な環境問題 の解決策は,ハンマルビー・モデルと呼ばれるエコ • 建築資材:環境的配慮は,目に見える場所で使 サイクルとして捉えることができるかもしれない われるか,地下や内部で使われるかの別を問わ (図 3.21).このエコサイクルは,住宅,オフィス, ず,すべての資材に適用される.この中には骨 その他の商業用ビルのエネルギー,廃棄物,上下水 組みや固定的施設も含まれる.持続可能で検証 190 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES エネルギー 廃 棄 物 水 図 3.21 ハンマルビー・モデル 出典 : Fortum, Stockholm Water Company, City of Stockholm 済みの環境に優しい製品のみが使用される.銅 ンに使用するのに十分なバイオガスが生産でき や亜鉛など,潜在的に有害な資材は,好ましく る.バイオガスのほとんどは,環境に優しい自 ない物質を環境に漏出させないために,使用し 動車やバスの燃料として使用される. ない. • 緑地:マンネングサやセダムなどの植物で覆わ • 上下水道:廃水やスラッジの質を高めるため, れた屋根は魅力的である.加えて,これらの植 降雨流水は下水道システムに接続しない.街路 物は,通常であれば下水道システムに排出さ の雨水又は家庭外の降雨流水は回収し,砂ろ過 れ,廃水処理場の負担を増大させる雨水を吸収 器で浄化し,湖に流す.これによって,廃水処 する.さらに,慎重に保存されている当該地域 理場にかかる負担を軽減する.周辺の住宅や庭 のオークの森,緑地,その他の樹木は,雨水を からの雨水は,蓋のない下水溝から水路に流れ 回収する助けをし,雨水が下水道システムに排 込む.この水は流量調整槽と呼ばれる一連のた 出されるのを防ぐ.これらの草木はまた,大気 め池を通って,湖に流れ込む.ハンマルビー・ を清浄化し,高密度都市の景観的バランスを ショースタッドは独自の廃水処理場を建設し, とっている. 新技術の試験を行っている.現在,4 つの異な • 廃 棄 物: 可 燃 性 廃 棄 物, 食 品 廃 棄 物, 新 聞, る新しい水の浄化プロセスを試験中である. 紙,その他の廃棄物が分類され,建物内又は建 • バイオガス:バイオガスは,廃水処理場で有機 物に隣接するゴミ・シュートに別々に集められ 廃棄物とスラッジを分解することで生産され る.ゴミ・シュートは地下の減圧配管に接続さ る.1 世帯分の廃水で,その家庭のガスオーブ れており,中央収集所へとつながる.最新式の 事例調査ガイド:世界の Eco2 Cities ≫ 事例2 ストックホルム市,スウェーデン 191 制御システムが廃棄物を大型の容器――廃棄物 アセスメント手法である.これは,資材の取得,投 の種類ごとに別の容器――に送る.これによっ 入及び人の輸送,建設方法,電気,暖房,資材のリ て,ゴミ回収車はこの地域に乗り入れることな サイクルを含むプロジェクトの開発・実施に関係し く容器を回収し,ゴミ回収作業員は重労働をし た全ての活動を対象とする. なくてもよい.  ELP の大きな長所は,柔軟性があってダイナミッ • 地域冷暖房:処理された廃水及び家庭ゴミは, クなところであり,計画,シミュレーション,評 冷暖房や電力の源となる.熱電併給施設は家庭 価のいかなる条件下での適用にも適している.ELP ゴミを燃料として用い,地域暖房と電力を供給 は,変数を構造的に因子分解することでうまく変数 する.処理場からの廃水は,ハンマルビー熱プ を織り込むことで,プロジェクトの建設,運営,解 ラントで地域暖房のための燃料源になる.ヒー 体あるいは再開発の過程での様々な計画決定による トポンプで冷却すれば,処理された冷たい廃水 環境負荷を算出することができる.このように,こ は,地域冷房網に利用することも可能である. の手法はライフサイクル・アプローチを支援してく • 電力(太陽エネルギー): 太陽エネルギーは, れる.さまざまなシナリオをテストしてみるのが容 太陽電池の中で電気エネルギーに転換される. 易になり,例えば決定を行う前に,色々な建設方法 1 平方メートルの大きさの太陽電池モジュール の比較が可能になる.したがって,政策決定者は, から得られるエネルギーは,年間約 100kWH プロジェクトの計画の初期段階で環境問題について である.これは 3 平方メートルの住居スペー 理解することができる.ELP は,水やエネルギー スが使用するエネルギーに相当する.多くの屋 などの資源の消費に基づいて,既存の街区やビルの 根には,水を熱するのに用いるソーラーパネル 環境パフォーマンスを評価するのにも使用できる. が設置されている.住宅用ビルのソーラーパネ ELP によって複数レベルでの環境パフォーマンス ルは,そのビルが 1 年間に必要とする温水の の分析を行える.個人(例えば調理や洗濯),ビル 半分を作り出すのに十分なエネルギーを供給で (建築資材,地域暖房,電気など),未建設の地域 きることが多い. (資材や工作機械など),共用地域(資材,人や商品 の輸送など)といった因子ごとに,それぞれの活動  ハンマルビー・ショースタッドには,独自の環境 の影響が計算できる.これらの因子を集計すること 情報センター(GlashusEtt)がある.このセンター で,市全体の環境負荷を分析することができる.ま は,地域の住民への環境情報の伝達を促進し,海外 た,各因子を別々に分析すれば,都市計画に有益な からの訪問者に対してハンマルビーを紹介する役割 情報を都市活動の種類別に得ることもできる. を果たす.  ハンマルビー・ショースタッドの中で最初に開 発された地区の評価結果を,比較のための参照シ 環境負荷プロファイル ナリオと共に図 3.22 に示している.評価結果は肯  環境アセスメント方法である ELP は,ストック 定的である.非再生可能エネルギーの使用は 28 ~ ホルム市,王立技術研究所,コンサルタント企業 42% 減少,水の使用は 41 ~ 46%減少,地球温暖 Grontmij 社による共同作業を通じて生み出された. 化係数は 29 ~ 37%低下,光化学オゾン生成能は ELP は環境パフォーマンスを評価し,プロジェク 33 ~ 38%低下,酸性雨係数は 23 ~ 29% 低下, トの環境プログラムの中で設定された目標の追跡を 富栄養化係数は 49 ~ 53% 低下,放射性廃棄物は 行う.これは,環境の視野から関連活動を定義し, 27 ~ 40%減少している.ハンマルビー・ショー これらの活動から生じる,例えば排出物,土壌汚染 スタッドの環境負荷をモニタリングすることで, 物質,廃棄物,水及び非再生可能エネルギー資源の 地区の開発を継続するために適切と考えられる社 使用などの環境負荷を数量化するライフサイクル ・ 会面,財政面からの環境対策が計画できると同時 192 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES に,類似プロジェクトに対する参考データを得る がこの地域に立地していたことから,これらの会社 ことができる. も既得権を持っていた.  関連する部署の幹部から構成される運営グループ プロジェクト管理 及びセクター横断的な公式の管理グループが,プロ  プロジェクトの計画及び管理を担当する 2 つの ジェクトの開発に積極的に参加している 2.市は土 機関として,市には都市計画局と開発局がある.こ 地所有者として,合意を主導し,開発業者と契約を れらの機関は,それぞれの委員会と市議会の管轄下 締結することができる.市は各段階で何が重要な問 に置かれている. 題であるかによって,様々な要求事項を決めること  1990 年代の半ばに,ストックホルム市とその外 ができる.開発業者は,計画プロセス(詳細な開発 部のステークホルダーが,地域の計画目標に関して 計画),質・設計基準の決定・実行プロセス,環境 協力することで合意した.これらのステークホル プログラムの関連側面の実行に参加する契約上の義 ダーには,近隣の自治体ナッカ,ストックホルム地 務を負う. 方交通局,道路庁が含まれている.交渉の末,これ らのステークホルダーは,計画の共通的特徴となる 国家レベル 一連の事項及びインフラ ・ プロジェクト(1994 ~  ハンマルビー・ショースタッドのプロジェクト 95 年)に合意した.その当時は,政策運営グルー は,自治体に生態学的に持続可能な社会の一員にな プと主なステークホルダーの代表で構成された公式 るように促すと同時に,自治体内にプロジェクト関 の運営グループが存在していた.プロジェクトの管 連の職を創出することを目的とした国家助成プログ 理のために,1つの組織が設置された.地域の計 ラムから 部分的に支援を受けた(Bylund 2003). 画,開発,実行,及び保全を担当するすべての部署 この国家助成プログラムは 1998 年から 2002 年ま 1 が,当初からプロジェクトに参加した .市の廃棄 で継続し,161 の自治体の 1,814 のプロジェクト 物回収局及び市の関連会社――電気事業者と水道会 に関連する 211 の地方投資プログラムに,62 億ス 社――が,プロジェクトについての環境プログラム ウェーデン ・ クローネ(6 億 7,100 万ユーロ)の の作成に参加した.さらには,発電所と廃水処理場 資金を支出した(図 3.23).この国家投資は,自治 非再生可能エネルギーの 地球温暖化係数 抽出量 (kWh) 水の使用量 ( m3 ) (CO2 換算グラム ) 光化学オゾン生成能 富栄養化係数 (C2H4 換算グラム) 酸性雨係数 (H+ 換算モル) (O2 換算グラム) 放射性廃棄物 (cm3) 図 3.22 環境負荷低減の主要項目モニタリング(ストックホルム市ハンマルビー・ショースタッド地区) 出典:Grontmij AB. 事例調査ガイド:世界の Eco2 Cities ≫ 事例2 ストックホルム市,スウェーデン 193 助成対象事業のタイプ別内訳 図 3.23 スウェーデンの地方投資助成プログラム(事業タイプ別) 出典:Swedish EPA and IEH (2004). 体,企業,その他組織から 273 億スウェーデン・ 定する特に重要な変数となる. クローネ(約 30 億ユーロ)の投資を呼び込んだ.  例えば,ストックホルム・ローヤル・シーポート この額のうち,210 億スウェーデン・クローネ(約 は,独特な環境プロファイルを持つ新しい都市開発 23 億ユーロ)が持続可能性及び環境の問題に直接 .生態学的に持続可能な地区の新 である(図 3.24) 的に関連する投資であった.創出されたフルタイム 規開発には,住宅の建設,効率的な資材の使用,エ の短期あるいは永続的な雇用は,2 万人であったと ネルギーの処理方法に関わる技術が新たに必要にな 推定されている(Swedish EPA and IEH 2004). る.この都市開発には,1 万の新しい住宅及び 3 万  国際連合の報告書(2004: 4)には,市当局の の新しい職場のための計画が含まれる.第 1 段階 試算が次のように記載されている.「1998 年から が 2009 年に開始され,次の 10 年間で約 5,000 の 2002 年の期間に地方投資プログラムに与えられた ユニットが開発される予定である.最初の住民は 助成金により,エネルギーの使用が年間 2.1TWh 2011 年に入居予定である. (テラワット時)削減されるのと同時に,二酸化炭  この地域の構想は,次の包括的な目標に要約され 素排出量は年間 157 万トン削減され(スウェーデ る. ンの排出量の 2.8% に相当),埋め立て地のゴミ埋 立量は年間約 50 万トン削減される見込みである. 1. 2030 年までに,当該地域は化石燃料使用量が 水への排出については,窒素が年間 2,460 トン, ゼロの地区となる. リンが年間 180 トン削減される.これは現在の海 2. 2020 年までに,CO2 の排出量は 1 人当たり への全排出量に対して,それぞれ 2% と 4% に相当 . 年間 1.5 トンに削減される(CO2 換算) する量である」. 3. 当該地域は,予想される気候変動の影響に適応 する. 次の段階  ハンマルビー・ショースタッドの教訓及び経験  プロジェクトの重点領域は,エネルギー消費・効 は,ストックホルム市の新しいエコ地区を計画・実 率,持続可能な交通,気候変動への適応,エコサイ 行する際に考慮に入れられることになる.これらの クルのモデル化,質の高いライフスタイルの維持で 新しい地区は,持続可能な都市の概念モデルとして ある.その他の重要な目標には,総体的・統合的な 機能するよう,最新の環境技術を採用する予定であ プロセスの実行,定期的な評価とフォローアップ, る.エネルギー,交通,ライフスタイル,行動の問 民間・公共・大学等学術機関同士でのアセスメント 題は,プロジェクトの目的が達成されるか否かを決 と協力が含まれる. 194 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 図 3.24 ストックホルム・ローヤル・シーポート:新市区の概観 出典:Lennart Johansson (Stockholm City Planning Administration). 国において ELP を適用するためには,以下のこと ストックホルム市の事例から得られる教訓 が推奨される.  ストックホルム市が持続可能な開発に注力してい ることは,持続可能な都市開発戦略の立案及び実行 1. ELP を拡大し,その他の入力変数のアセスメ 段階において強力なリーダーシップを発揮している ントも行えるようにする.これには,例えば効 ことからも明らかである.ハンマルビー・ショース 率的な空間計画,統合的な土地利用,固形廃棄 タッドなどのプロジェクトの成否を左右するのは, 物の管理の改善などが出力指標にどのような影 主なステークホルダーの間の調整がうまくいくか否 響を与えるかの検討がある. かである.ハンマルビー・ショースタッドのプロ 2. 入力の不備を埋め,入力をスムーズにすること ジェクトに関しては,ストックホルム市の様々な部 で,既存のプロジェクトを改善・微調整する. 局が一体となって単一の組織を作り,その組織をプ さらには,モデルの全体を広域的な使用法に合 ロジェクト・マネージャーと環境職員が主導してい わせて変更し,開発途上国の状況に合致するよ る.その役割の中には,民間,公共の別を問わず, うに調整する. すべてのステークホルダーを指導し,彼らに影響を 3. 現在の ELP 分野における出力は,炭素排出量 与え,プロジェクトの環境目標を実現するという任 などの環境指標に関連するものである.政策立 務が含まれる(Johansson and Svane 2002).ス 案者がより良い決定を下せるようにするために テークホルダーの体系的な協力を通じて計画・管理 は,これらの指標を環境の指標から経済・財政 を統合することで,ライフサイクル全体の便益を大 の指標へと変換することが必要である. 幅に増大することができる.  多少の修正を加えれば,開発途上国の都市での政 策決定においても,ELP をスウェーデンにおける のと類似のやり方で用いることが可能である.ELP は,開発の諸段階の費用と便益を定量化する体系的 で標準化された方法論を提供してくれる.開発途上 事例調査ガイド:世界の Eco2 Cities ≫ 事例2 ストックホルム市,スウェーデン 195 注 Swedish EPA (Swedish Environmental Protection Agency) and IEH (Swedish Institute for Ecological Sustainabil- 1. これらの部局には,都市計画局,不動産・道路・交 ity). 2004. “Local Investment Programmes: The Way 通局(現在は,開発局と交通局に分割),市区域 to a Sustainable Society.” Investment Programmes 局,環境保健保護局が含まれる. Section, Swedish EPA, Stockholm. http://www. 2. これに関係した市役所内の部局と企業には,都市計 naturvardsverket.se/Documents/publikation- 画局,開発局,交通局,市区域局,環境保健保護 er/91-620-8174-8.pdf. 局,水会社,住宅サービス会社が含まれる United Nations. 2004. “Human Settlement Country Profile: Sweden.” Division for Sustainable Development, 参考文献 Department of Economic and Social Affairs, United Nations, New York. http://www.un.org/esa/agenda21/ Bylund, Jonas R. 2003. “What’s the Problem with natlinfo/countr/sweden/Sweden_HS.pdf. Non-conventional Technology? The Stockholm Local USK (Stockholm Office of Research and Statistics). 2008. Investment Programme and the Eco- “Data Guide Stockholm 2008.” USK, Stockholm. cycling Districts.” In ECEEE 2003 Summer Study Proceedings: Time to Turn Down Energy Demand, ed. Sophie Attali, Eliane Métreau, Mélisande Prône, and Kenya Tillerson, 853–62. Stockholm: European Coun- cil for an Energy Efficient Economy. http://www. eceee.org/conference_ proceedings/eceee/2003c/Panel_4/4214bylund/. 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SINGAPORE • 人口(2008 年) :484 万人(居住者・非居住者含む) Strait of Singapore Malacca • 面積:700 平方キロメートル :6,814 人/平方キロ • 人口密度(2008 年) • GDP 名目値 (2008 年 ): 1,819 億米ドル • 上水道・下水道普及率:100 % INDONESIA • 東南アジアの商工業の中心 50 km. • 世界的な金融センター.世界有数の交通量を誇る海港 を備えた貿易の中心地. 地図 3.5 シンガポールの位置 出典 : Map Design Unit, General Services Department, World Bank 能な開発の主たる原動力となったのは,首相による を推し進めている.例えば,シンガポールの中心 強力なリーダーシップであり,それを補完したのが ビジネス地区では,容積率が最大で 1,300% であ 統合化されたワンシステムアプローチと関係者全員 る.この中心ビジネス地区の隣のマリーナ湾近辺で による積極的な協力である. 現在行われている開発は,容積率が最大で 2,000% の 高 密 度, 多 目 的 開 発 を 目 指 し て い る(URA 2009).マリーナ湾は商業中心地になるにとどまら アプローチと生態学的・経済的便益 ない.住宅・店舗・ホテル・レクリエーション施  シンガポールは,持続可能な開発の促進に注力し 設,緑地やオープンスペースなどのコミュニティ ・ ている.2008 年に設置された持続可能な開発に向 ゾーンも提供する予定である. けた省庁横断委員会が,省庁の垣根を越えて,持続  シンガポールの高密度の建物密集地域は,オープ 可能な成長のための戦略策定における統合的なアプ ンスペース,自然公園,緑樹の保全を可能にした. ローチの推進を可能としている. 全国土の約 10% が自然保護区を含む緑地として指 定されている(図 3.26).道路沿いの緑樹を含むシ 統合的な土地利用と交通計画 ンガポールの緑地面積の割合は,1986 年には 36%  土地資源が限られていることから,土地利用計画 であったが,2007 年には 47% まで増加した.人 はシンガポールの環境の質を維持し,経済成長を支 口増加が 68% と大きかったにもかかわらず,緑地 援する上で重要であった.1959 年の独立以来,シ の増加を実現したのである. ンガポールは積極的に土地を収用して,公共施設用  シンガポールの交通計画は,土地利用計画に合 の公有地を取得し,市の再開発を促し,新規開発を わせて調整され,土地利用計画と一体化している 刺激してきた.現在では,国土の約 90% が国有化 (Leitmann 1999).ニュータウン,工業団地,商 されている(Bertaud 2009).この結果,シンガ 業地区などの最近の高密度開発は,市の大量高速交 ポール政府は都市開発計画とその実行に対して大き 通システムとうまく接続されている.この大量高速 な権限を有している. 交通網は,市の中心地では地下を走り,中心地の外  シンガポールの国家開発省内の都市再開発庁が都 及びその他の主要エリアでは地上を走る.この交通 市計画を担当し,シンガポールの高密度開発政策 網はシンガポールの公共交通システムの基幹であ 事例調査ガイド:世界の Eco2 Cities ≫ 事例3 シンガポール 199 新規登録される車の台数を 3 ~ 6%に制限するため に,車両割当制度を導入した.新車の購入を希望す る消費者は,陸上交通庁に申請をし,公開入札に 参加しなければならない.車の所有者は,登録時 から 10 年間有効な登録証書を取得する必要がある (Leitmann 1999, CLAIR 2005).  シンガポールは増大する交通量と渋滞に対処する ため,1975 年に地域免許制を導入し,ピーク時に 中心ビジネス地区に乗り入れる車を管理するように なった.1998 年には効果を高めるため,地域免許 図 3.26 シンガポールの緑地 制に替わって,現在の電子料金システムが導入され 出典:Hinako Maruyama. た.この新システムは,ピーク交通の特定時間帯に 市の中心の指定地域に乗り入れる車の運転者から, る.バスやライトレールなどの他の輸送手段は,乗 車に搭載された機器を通じて,電子的に料金を徴収 換駅で大量高速交通網に接続しており,ローカルエ するものである.このシステムには,道路の種類 リアを運行する.乗換えを容易にするため,シンガ (基幹道路及び幹線道路)と期間に応じて,複数の ポールは距離に基づいた通し運賃制度を導入した. 価格選択肢がある.最も混雑が激しい時間帯には,  大量高速交通,ライトレール,バス網を統合した 高料金が適用される.さらに,シンガポールは,金 ことで,(タクシーを含む)全交通手段に公共交通 銭的インセンティブを通じてオフピークの運転や 機関が占める割合が 2004 年には 63% に上昇した. パーク ・ アンド ・ ライドを奨励するなど,他の需要 ただし,これは 1997 年の 67% よりは低い数値で, 抑制策も実行している(Leitmann 1999, CLAIR その原因は自家用車の利用の増加にあった.ここ 2005). で,先進国の主要都市の中で,公共交通の営業費用  これらの道路交通,公共交通,モビリティの各 を運賃で回収できているのは,香港とシンガポール 政策の相乗効果により,シンガポールでは移動の のみである(LTA 2008).交通システムが人口の . 71% が 1 時間以内に完了できる(IMCSD 2009) 多い高密度開発地域に組み込まれているため,財政 交通渋滞は緩和され,平均的な走行速度が維持され 的実行可能性と質の高い交通サービスを維持するこ ている.これによって,不必要な自動車排ガスも とが可能なのである.市民は公共交通に十分満足し 抑制され,結果として,気候変動につながる温室 1 ている (LTA 2008). 効果ガスが削減される.しかしながら,旅行回数 (トリップ数)は 2008 年の 890 万回から 2020 年 交通政策 には 1,430 万回に増加すると予想される.シンガ  1995 年に関連する政策を包括的に計画,管理, ポールでは,国土の 12% が道路に,15% が住宅に 監督するために,別々だった 4 つの陸上交通局を 充てられている.輸送需要を満たすために,道路に 統合して設置されたのが,シンガポール陸上交通庁 充てる土地をこれ以上に増やすことは非常に難しい である.陸上交通庁は質の高い交通システムを提供 .このため,シンガポールは,自動車 (LTA 2008) し,市民の生活の質を向上させ,シンガポールの経 ではなく,公共交通機関を通じて増大する輸送需要 済成長と国際競争力を維持することを目標にしてい を満たさなければならない. る.  シンガポールは自家用車の台数を抑制するインセ 水資源管理      ンティブを提供している.1990 年に政府は,毎年  シンガポールは年間降水量が 2,400 ミリメート 200 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES ルと多いにもかかわらず,水が不足している国と考 えられている 2 (Tortajada 2006a).シンガポー ルは隣国のマレーシアから水を輸入している.国外 の水源への依存度を減らすため,シンガポールは水 安全保障を改善し,自国内で独自の給水システムを 確立するための手段を講じている.この目標を達成 するためにシンガポールが策定し,実行しているア プローチは,同国の組織が能率的に運営されてお り,水の需給も非常に効率的に管理されている事実 から,成功していると見なされている.シンガポー ルは,人口が 3.4%,GDP が 18.3% 成長する中で, 年間の水の需要量を 2000 年の 4 億 5,400 万トン 図 3.27 シンガポールの閉じられた水の回路 から 2004 年の 4 億 4,000 万トンにまで減らすこ 出典:PUB(2008a). とに成功した(Tortajada 20006a).シンガポー ルは,新しいアプローチを採用することで包括的な 水資源管理が実現可能で,またこれらのアプローチ 活動などのコミュニティ主導型プログラムを始めと が財政的に実行可能であることを実証した. する様々な問題や活動に効率的に取り組むことがで きる.PUB は研究開発施設も運営しており,その 統合アプローチを可能にした組織的枠組み 中で専門家が水技術を研究している.  環境・水資源省の管轄下にある公的機関,公益事  PUB が民間セクターを効果的に参加させている 業庁(PUB)が集水,生産,配水,再生を含む水 ことは,特徴的な側面である.コストを下げるため 循環全体を管理している.PUB は,シンガポール に,PUB は能力や競争力の面で優位性がない分野 の国家水機関である.1963 年の設置当時は,水, では,民間セクターを活用している.例えば,水の 電気,ガスを含む複数の公益事業を管理していた. 脱塩及び廃水の再生においては,官民のパートナー その後,PUB は 2001 年に,コストを削減し,サー シップ(PPP)が用いられている. ビスを改善するために,組織再編を行った.電気と ガス事業は民営化され,下水と排水の業務が PUB 供給管理 に移された.2001 年以降,PUB は水機能のそれ  水が不足しているため,シンガポールは慎重に給 ぞれ(給水,下水,排水など)を別個に管理するの 水を管理している.この都市国家では,下水道の普 ではなく,水のシステムに対する包括的,総体的な 及率は 100% で,廃水はすべて回収される.シン アプローチを策定・実行してきた.このようにし ガポールは,廃水と雨水が混じらないように,個別 て,水の回路は閉じられ,PUB は「国の 4 つの蛇 の排水システムを敷いている.廃水と排水はリサイ 口」――持続可能な給水を保証するためのシンガ クルされ,国の給水システムに用いられる. ポールの長期戦略――を実現できるようになった  「国の 4 つの蛇口」戦略では,以下を水源と考え (図 3.27).「国の 4 つの蛇口」とは,(1) 地域内で ている(PUB 2008b). 集水した水,(2) 輸入水,(3) 脱塩水,(4) ニュー ウォーター(廃水から再生した水)である.水のシ 1. 地域内で集水した水(集水管理):雨水は河川, ステムに全体的にアプローチすることで,PUB は 小川,運河,排水溝から回収され,14 の貯水 水資源保護,降雨流水の管理,脱塩,需要管理,集 池に蓄えられる.雨水管は下水道システムと分 水管理,民間セクターの参加,市民向け教育・啓発 離されているため,雨水は河川又は貯水池に直 事例調査ガイド:世界の Eco2 Cities ≫ 事例3 シンガポール 201 接送られ,のちに処理され,水道水になる.貯 は最大の海水逆浸透工場の 1 つである.当の 水池はパイプラインで接続されている.余剰の 工場は,2007 年にはシンガポールの水需要の 水はポンプで別の貯水池に送ることができるた 約 10% に相当する量の水を供給した(Tigno め,貯水能力が最適化され,豪雨時の氾濫を防 . 2008) 止することができる.集水地域は保護され,こ れらの地域での汚染行為は厳しい規制によって 4. ニューウォーター:使用済みの水(廃水)もま 禁止されている.2009 年までに,集水地域は た,重要な水資源である.廃水は大規模な下水 シンガポールの陸地の半分から 3 分の 2 に拡 道システムを通じて集められ,水再生工場で処 大される予定である.汚染を生み出す行為は, 理される.廃水は最先端の膜技術を用いて浄化 シンガポールの陸地面積の 5% で許されている され,ニューウォーター(NEWater)と呼ば に過ぎない.その他の陸地はすべて保護されて れる,飲んでも安全な高水準の再生水になる. いる.集水でシンガポールの水の需要の約半分 そのような水は水道水よりも純度が高いため, を満たしている(Tigno 2008). 精密機器の製造や情報技術など,高品質の水が  環境及び資源管理を改善するために,政府は 必要とされる産業用途に適している.PUB は, 集水地域と工業地域の位置に細心の注意を払っ 1 日に 600 万ガロン(28,000 立方メートル) ている.同時にシンガポールは,統合的都市計 のニューウォーターを未浄化の貯水と混合して 画を推し進めている.例えば,国家開発省の管 処理し,水道水としている.2011 年までに, 轄下にある住宅開発庁と PUB は,シンガポー 混合する量を 1 日に 1,000 万ガロン(46,000 ルの集水地域を強化するために協力している. 立方メートル)にまで増やす予定である.シン PUB は雨水を重要な資源と捉えており,住宅 ガポールでは 4 箇所でニューウォーター工場 開発庁が開発した住宅建造物の屋根には,雨水 が稼働しており,現在,官民提携合意に基づい 集排水システムが設置されている.新規に開発 て,5 つ目の工場が建設中である.2008 年の された不動産には,雨水集排水システムが備え 段階で,ニューウォーターはシンガポールの 1 られている.集められた水は近隣の集水池に蓄 日の水の必要量の 15% 以上を充たしており, えられ,貯水池に送られる.この戦略により, 2010 年までにその割合は 30% に上昇すると 建物密集地域が集水に参加できる.シンガポー 予想されている(PUB 2008c, 2008d). ルの陸地面積の 3 分の 2 が集水に参加すると 予想されている.  水の供給は,「収益の無い水」,つまり漏水によっ て失われる量を減らすことで最適化される.シンガ 2. 輸入水:シンガポールは,それぞれ 2011 年と ポールの水の供給に占める漏水の割合は,2007 年 2061 年に失効する 2 つの 2 国間協定に基づ ,非合法の水 においては 4.4% と低く(Lau 2008) き,マレーシアからの水の輸入を継続する予定 道はない 3 . (Tortajada 2006a) である.輸入水は,シンガポールの水の需要の  PUB は水の循環に必要不可欠なものとして,大 約 3 分の 1 を充たす(Tigno 2008). 深度トンネル下水道システムを建設した.下水道の 普及率は 100% であるものの,下水網の老朽化が 3. 脱 塩 水:2005 年 9 月 に, シ ン ガ ポ ー ル は 2 問題を引き起こしたのである.新しい下水道システ 億米ドルの脱塩工場を設立した.これは PUB ムは,既存の下水道管,ポンプ場,及び連結下水道 初の官民提携プロジェクトであった.この工 管による下水の流れを遮断する大深度下水道トンネ 場 は,1 日 に 3,000 万 ガ ロ ン(136,000 立 方 ルから成る.このシステムの設計寿命は 100 年で メートル)の水の生産能力を持つ.この地域で ある.廃水は重力によってこのシステム内を流れ, 202 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 中央水再生工場(チャンギ工場)に送られるため, シンガポールの水の年間使用量は,1995 年には 4 中間のポンプ場は廃止することができる.これに 億 300 万立方メートルであったのが,2000 年に よって中間のポンプ場の故障によって地表水汚染が は 4 億 5,400 万立方メートルに増加したものの, 発生するリスクと,ポンプ本管が破損するリスクが これらの需要抑制政策により,2004 年の需要量は 回避される.水再生工場とポンプ場は,約 300 ヘ 4 億 4,000 万立方メートルに減少した(Tortajada クタールの土地を必要とする.大深度トンネル・シ . 2006b) ステムの新しい水再生工場は 100 ヘクタールを占 めるに過ぎないので,200 ヘクタールの土地が他 社会的配慮と意識改革 の用途に開放できることになる.このシステムの建  公平性を確保するため,シンガポール政府は低所 設は,既存インフラの拡大・整備よりも費用効果的 得世帯を直接的に補助している.最低(ライフライ であることが判明した(20 億シンガポールドル以 ン)料金は,高い料金を支払う余裕のない者だけで 上,すなわち約 13 億 5,000 万米ドルの節約)(Tan はなく,水の全消費者を補助するものである.この .加えて,新システムは廃水を効果的に集め 2008) ため,シンガポールは対象の的を絞った貧困家庭に て,ニューウォーターの生産を行うことで,水の閉 のみ補助を与える.的を絞った補助は,経済状態に 回路化を促進する. 関係なく,全世帯が消費する水の初期量に基づいて 行う補助よりも,社会経済的な側面から見て効率的 需要管理 であると広く考えられている.この料金制度は,水  PUB は,水の需要量管理のための十分に練られ をより多く消費する者には,商業用や工場用よりも た総合的な政策を持っている.料金は定額制ではな さらに重い罰則が(基本料金及び税金を通じて)科 く,消費水準に応じて複数のレートが適用される せられることを明確にしている. (表 3.2).家庭での使用量が月に 40 立方メートル を超えた場合,単位料金は非家庭料金よりも高くな その他の環境的アプローチ る.1997 年以降,毎年水の基本料金は上昇してい  シンガポールは,狭い島国で集中的な経済活動 る.水の保全を強化するために,節水税が徴収され を推進している.したがって,環境の質の維持は, ている.加えて,廃水処理と公共下水道システムの 重大な問題である.環境・水資源省は,2002 年に 維持・拡張の費用を賄うため,下水道施設手数料も シンガポール環境計画 2012 を発表し,2006 年に 徴収されている.このような課金は,家庭での水消 これを更新した.当の環境計画は,大気と気候変 費を抑制するための動機づけとなる.結果として, 動,水,廃棄物管理,自然,公衆衛生,国際環境 水道料金(すべての税金を含めて)が上がるにつ 関係という 6 つの主要分野を扱っている(MEWR れ,水の消費量は減少している(表 3.3).料金制 2006).これは 1992 シンガポール環境計画をたた 度が水の使用に大きな影響を与えているのである. き台とするものである.1992 年以降,地方自治体 表 3.2 シンガポールの水道料金 料金 節水税 下水料 水道施設使用量 使用量区分 (GST 税引前) (GST 税引前) (GST 税引後) (GST 税引後) 用途 (m3 / 月) (S$ / m3) (料金の%) (S$ / m3) (S$ / 蛇口数 / 月) 家庭用 0 to 40 1.17 (US$0.81) 30 0.30 (US$0.21) 3.00 (US$2.07) above 40 1.40 (US$0.97) 45 0.30 (US$0.21) 3.00 (US$2.07) 非家庭用 all units 1.17 (US$0.81) 30 0.60 (US$ 0.41) 3.00 (US$ 2.07)   http://www.pub.gov.sg/mpublications/FactsandFigures/Pages/WaterTariff.aspx. 出典:PUB ウェブサイト(2009 年 5 月現在) 注:表中の括弧内の米ドルは,2009 年 6 月 4 日現在の為替レート(1.00 シンガポール・ドル = 0.69 米ドル)に基づく.GST (goods and services tax) の 税引前および税引後の数値は,2009 年 5 月現在の税率 7%を反映している. 事例調査ガイド:世界の Eco2 Cities ≫ 事例3 シンガポール 203 表 3.3 シンガポールにおける家庭単位の水消費量と水道料金(1995 年,2000 年,2004 年) 指標 1995 2000 2004 人口(千人) 3,524.5 4,028 4,167 GDP ( 百万米ドル ) 84,288.1 92,720.2 109,663.7 (百万立方メートル) 水消費量(国全体) 403 454 440 一月当たり平均水消費量(立方メートル) 21.7 20.5 19.3 一月当たり平均水道料金 (税金含む)(S$) 14.50 31.00 29.40 出典 : Tortajada (2006b) は,市民や公共,民間セクターの団体を含む幅広 り,統合的な公共輸送システムが公共輸送機関の利 いステークホルダーが関与する様々な活動を実行 用を促している.浮遊粉塵や温室効果ガスなどの することで,環境問題に積極的に取り組んできた. 自動車からのさらなる排ガスの増大が回避されて 2009 年には,環境計画で設定した目標を達成する いる.大気汚染標準指標によると,2008 年には大 だけでなく,これをさらに超えて統合的な形で経済 気の質が良好であった日数は年間の 96% に及んだ 成長と優れた居住環境が実現できるよう,持続可能 (IMCSD 2009). なシンガポール青写真――「活気あふれる住みやす  廃棄物管理:急速な経済・人口成長により,廃棄 いシンガポール:持続可能な成長のための戦略」― 物が増加した.埋め立て地用の土地は限られている ―が持続可能な開発に向けた省庁横断委員会によっ ため,シンガポールはリサイクル又は再利用できな て開始された(IMCSD 2009). い廃棄物は焼却している.焼却によって廃棄物の重   エネルギー: 過剰消費を回避するため,シンガ 量は 10%,容積は 20% にまで小さくなるため,こ ポールはエネルギーに対する補助を行わない.電力 れは効率的な廃棄物処理プロセスであることが証明 供給は市場の需要と競争原理によって確立され,事 .焼却によって生み出 されている(CLAIR 2005) 業者にはよりよい解決策を見つけ,エネルギー効率 される電力は,市の電力需要の 2 ~ 3%を充たして を高めることが奨励されている.最近では,費用対 いる(IMCSD 2009).シンガポールの埋め立て処 効果を高めるため,天然ガスをベースとする発電 分地は残り 1 つで,それは本土の南 8 キロメート が石油ベースの発電を上回るようになった.天然 ルに位置しており,シンガポールが初めて建設した ガスを用いた発電の割合は,2000 年には 19% で 沖合埋め立て地である.埋め立て又は焼却残渣の処 あったが,2007 年には 79% に上昇した.加えて, 分に使用できる土地は,もはや残されていない.市 GDP 単位当たりのエネルギー消費量は減少し,発 民のリサイクル活動の成果により,この沖合埋め立 電効率は高まった(IMCSD 2009).エネルギー問 て地の寿命は,予定の 2040 年よりも後になると考 題に対する国民意識を高めるため,政府は国家エネ えられる(SG Press Centre 2009).しかしなが ルギー効率計画である「E2 シンガポール」を導入 ら,経済成長,人口増加,生活水準の上昇により, した.政府はまた,エネルギー関連の研究と技術に 1970 年から 2000 年の間に 1 日の廃棄量は 7,600 投資を行っている.例えば,政府はクリーン・エネ トンと6倍にまで増えたため,シンガポールは廃棄 ルギー部門を強化する目的で,シンガポールの熱帯 .リ 物管理の問題に直面している(CLAIR 2005) 地区を活用した太陽エネルギー研究を推進してい サイクルと廃棄物減量化を促進するため,シンガ る. ポールの国家リサイクル・プログラムによって様々  大気汚染対策:大気汚染を最小限に抑えるため, な活動が奨励されており,経済は成長したにもか 土地利用計画によって工業施設は都市部の外に配置 かわらず,1 人当たりの家庭廃棄物量は減少した. される.車の排ガスも大気汚染源である.車両割当 2008 年にはリサイクル率は 56% に達した.加え 制度と電子料金システムが渋滞緩和に役立ってお て,政府と産業界の協力によって,包装廃棄物の削 204 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 減が推進されている(IMCSD 2009). 住宅  河川浄化:シンガポールは,かつては汚染されて  政府は,市民に低価格の住宅を提供することを目 いた河川の浄化に成功し,悪化していた環境状態 指している.住宅開発庁は,ニュータウンにおいて を回復させた.1977 年にシンガポール政府と首相 公営住宅や公営施設を設計・開発している.土地に は,シンガポール川とシンガポールの陸地面積の は限りがあるため,商業,事業,住居の各用途に高 約 5 分の 1 を占めるカラン盆地を清浄するための 密度開発及び建物の高層化が推進されている.都市 主要プロジェクトを支援した.農園,下水道システ の再生,及びニュータウンや衛星都市の開発が奨励 ムに接続されていない家屋や無断で建てられた違法 され,これまでにそのような 20 の町(タウン)が 住宅から捨てられた廃棄物や廃水が直接,制御され 建設された.ニュータウンは,公共交通機関に接続 ないまま河川に流されていたのである.そこで,家 され,シンガポールの中心地に通じている.2003 屋その他の汚染行為は別の場所に移され,河川の物 年には,シンガポール人の 84% が政府が建設した 理的条件を改善させるための作業が実施された.川 住宅に住み,自宅所有率は 92.8% であった(CLAIR 床の泥がさらわれ,ウォーターフロント施設は整 .1989 年 以 降, 住 宅 開 発 庁 は, 公 営 住 宅 2005) 備され,川岸には緑の草木が加えられた.政府機 の民族グループ別割合がバランスのとれたものと 関,草の根の地域共同体,及び非政府組織が清掃と なるように,民族同化政策を実施している(HDB 浄化に貢献した.河川は 10 年をかけて,2 億シン 2009).シンガポールの民族グループは多様で,中 ガポールドルの費用で再生された(環境優良事例の 国人,インド人,マレー人が含まれる.この同化政 公開データベース).現在では,河川のウォーター 策により,民族別居留地が設置されることは避けら フロントは,運河及び貯水池を含め,保全・保守が れ,多様な共同体と社会的融合が促進されている. 行き届いている.これらの河川域は,集水及び洪水 防御地域として機能すると同時に,地域共同体のレ シンガポールの事例から得られる教訓 クリエーション・スペースとなっている(例えば, PUB 2008e を参照).  シンガポールは,経済,人口が大きく成長する  河川や貯水池を含むシンガポールの水路は,人 中で,国土と天然資源不足に起因する課題に直面 に優しい設計になっている.この設計が,田園及 している.シンガポールは,土地及びその他の資 び水の都市としてのシンガポールの構想を補完し 源の革新的かつ包括的な管理が可能であること ている.水路や堤防の多くはレクリエーション用地 を実証している.シンガポールは地域の状況を把 になっており,さらに人は,いずれ自分が口にする 握した上で,緑地とオープンスペースを保全する ことになる資源を汚染しようとはしない.PUB は, 高 密 度 都 市 を 開 発 し て い る. 公 共 交 通 機 関 は 効 ビジネスセンターや学習講座を通じて,教育機会を 率的に機能しており,財政的実行可能性があり, 提供している.PUB はまた,家庭で水を節約する 土 地 利 用 と 一 体 化 し て い る. 資 源 を 包 括 的, 統 ためのコツや装置を提供して,水の保全を奨励して 合 的 に 管 理 す る こ と で, シ ン ガ ポ ー ル は 生 態 学 いる. 的,経済的,社会的な問題に効果的に取り組むと  緑化:1970 年代以降,道路沿い,空き地,造成 同時に,持続可能性及び生産性を維持している. 地,及び新規開発地に植樹することで国の緑化を 進めるために,シンガポールのガーデン・シティ・ キャンペーンが推し進められてきた.花も植えられ ている.1959 年に独立してから,シンガポールで は 100 万本以上の樹木が植えられ,高水準の緑化 が実現された(Leitmann 1999). 事例調査ガイド:世界の Eco2 Cities ≫ 事例3 シンガポール 205 注 MEWR (Ministry of the Environment and Water Resources). 2006. The Singapore Green Plan 2012. 1. 土地交通局 によれば, (LTA 2008) 住民の86.5%がバ Singapore: MEWR. ス及び鉄道のサービスに満足している. 約80%が,バス 及び鉄道での移動時間に概ね満足している. 約85%が, PUB (Public Utilities Board). 2008a. “About Us.” PUB, バス停と大量公共機関の駅へのアクセスのし易さとそれ Singapore. http://www.pub.gov.sg/about/Pages/ らの位置に満足している. default.aspx. 2. 世界の主な都市における雨量を比較すると以下のとお り ———. 2008b. “Four National Taps Provide Water for All.” である. バンコク1,530ミ リ メー ト ル,北京575ミ リ メートル, PUB, Singapore. http://www.pub.gov.sg/water/Pages/ ジャカルタ1,903ミ リメー ト ル, クアラルンプル2390ミ リメ default.aspx. ート ル,ロン ドン751ミリメー ト ル,マニラ1,715ミ リ メートル, ———. 2008c. “NEWater Wins Its Second International ニューヨーク1,123ミ リ, 上海1155ミ リメートル, 東京 Award at Global Water Awards 2008.” Press release, 1,467 ミリメートル(Statistics Bureau 2008). April 22, PUB, Singapore. http://www.pub.gov.sg/ 3. アジアのほとんどの都市の中心部では,供給した水の40 mpublications/Pages/PressReleases.aspx?ItemId=176. ~60%が漏水で無駄になっている. ———. 2008d. “Plans for NEWater.” PUB, Singapore. http:// www.pub.gov.sg/newater/plansfornewater/Pages/ default.aspx. 参考文献 ———. 2008e. “Explore Bedok Reservoir.” Brochure, PUB, Singapore. http://www.pub.gov.sg/ Bertaud, Alain. 2009. “Urban Spatial Structures, Mobility, abcwaters/Documents/Bedok_reservoir_nov25.pdf. and the Environment.” Presentation at “World Bank SG Press Centre. 2009. “National Environment Agency Urban Week 2009,” World Bank, Washington, DC, Launches a Commemorative Book to Celebrate March 11. Semakau Landfill’s 10th Anniversary.” Press release, Best Policy Practices Database. Asia-Pacific Forum for Singapore Government, Singapore. 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Tigno, Cezar. 2008. “Country Water Action, Singapore; Lau, Yew Hoong. 2008. “Sustainable Water Resource NEWater: From Sewage to Safe.” Asian Development Management in Singapore.” Presentation at the United Bank, Manila. http://www.adb.org/Water/Actions/sin/ Nations Economic and Social Commission for Asia NEWater-Sewage-Safe.asp. and the Pacific, “1st Regional Workshop Tortajada, Cecilia. 2006a. “Water Management in on the Development of Eco-Efficient Water Infra- Singapore.” International Journal of Water Resources structure in Asia Pacific,” Seoul, November 10–12. Development 22 (2): 227–40. http://www.unescap.org/esd/water/projects/eewi/ workshop/1st/asp. ———. 2006b. “Singapore: An Exemplary Case for Urban Water Management.” Additional Paper, Human Leitmann, Josef. 1999. Sustaining Cities: Environmental Development Report, United Nations Development Planning and Management in Urban Design. Programme, New York. New York: McGraw-Hill. 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Singapore. http://www.lta.gov.sg/ltmp/LTMP.html. 207 事例4 横浜市,日本 年度予算のうちの約 5%(2,350 万米ドル)は,リ 民間セクター及び市民社会のステークホル サイクル品の売り上げから得たものである.加え ダーの参加による廃棄物削減 て,横浜市は焼却プロセスで発生した電力を売却す  Eco2 Cities の1つとしての横浜市の事例からは, ることで,年間 2,460 万米ドルを獲得している(横 民間セクターと市民社会のステークホルダーを参加 浜市 2008a). させることで,多大な環境・経済的便益を実現する  横浜市の成功例は,廃棄物削減は市内のステーク 方法について学ぶことができる.横浜市は,日本の ホルダー,とりわけ市民の協力によって実現可能で 1 最大都市の 1 つである(図 3.28) .2001 年度か あることを示している.廃棄物削減はまた,温室効 2 ら 2007 年度の間 に,同市の人口は 165,875 人 果ガスの大幅な削減にもつながる.加えて,市は廃 増加したのに対し,廃棄物の量は 38.7% 減少した. 棄物を削減することで歳出を削ると同時に,リサイ 廃棄物削減の成功の要因は,環境問題についての クル品や廃棄物処理で発生した副産物から収益を得 啓発活動,及び横浜市 3R プログラム(リデュース ることができる.このような成果の実績に基づき, (発生抑制),リユース(再利用),リサイクル)へ 横浜市は現在,温室効果ガスを削減して,国の削減 3 の市民や企業の積極的な参加である . 目標の達成を助け,エコモデル都市の 1 つとして  廃棄物の大幅な削減に成功したことから,横浜市 の存在感を示そうとしている 5 . は焼却炉 2 施設を閉鎖することができた.この焼 却炉の閉鎖により,年間 600 万米ドルの運用費用 廃棄物削減の背景とアプローチ と,焼却炉の修理に必要であった 11 億米ドルを節 約することができた(表 3.4)(横浜市 2006)4.  横浜市の人口は,年間 0.5 ~ 1% の緩やかなペー 横浜市の廃棄物管理組織である資源循環局の 2008 スで増加してきた.人口増加とそれに付随する経 図 3.28 横浜市のウォーターフロント . 出典:公益財団法人横浜観光コンベンション・ビューロー(左写真)横浜市(右写真) 208 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES IBRD 37446 JANUARY 2010 CHINA RUSSIAN 横浜市の概要 FED. 横浜市 • 日本で,東京に次ぐ大都市 • 人口 (2009 年 ):365 万人 DEM. PEOPLE’S Sea of • 面積:435 平方キロメートル REP. OF KOREA • 人口密度 (2009 年 ): 8,409 人/平方キロメートル Japan • 1859 年に国際貿易港として開港.この年は,日本が PACIFIC 従来の鎖国政策を放棄し外国文化に対して開放政策を REP. OF KOREA OCEAN 取って近代化を開始した年でもある.2009 年には開港 JAPAN Tokyo 150 周年を祝う. Yokohama • 2005 年現在,人口の約 21 パーセントは仕事や学校に 通うため市外へ通勤・通学. • 住民の多くが参加型市民活動に従事. JAPAN • 2008 年,日本政府より「環境モデル都市」の1つに選 定された. 地図 3.6 横浜市の位置 出典 : Map Design Unit, General Services Department, World Bank 表3.4 横浜市におけるステークホルダー関与による環境面での成果 る全ステークホルダー――家庭,企業,及び市政 (2001 ~ 2007 会計年度) 府――の責任を明らかにしている(横浜市 2003). 廃棄物削減量合計 62 万 3 千トン( – 38.7 %) G30 プランは,詳細な行動計画に支援された,廃 経済便益 焼却炉 2 施設の閉鎖により, 11 億米ドル 分の資本コス トを削減. 棄物削減のための統合的アプローチを提供してい 焼却炉 2 施設の閉鎖により,6 百万米ド る.例えば,横浜市民は廃棄物を 15 種類に分類し, ル分の運転費用を削減. 埋め立てごみ処理場の耐用年数の延伸 それぞれの廃棄物を指定された場所と時間におい 二酸化炭素削減 84 万トン て,適切に処分しなければならない.企業は廃棄量 出典:著者(Hinako Maruyama)による編集. 減量化に資する製品及びサービスを提供し,3R を 積極的に実践することが求められている.廃棄物を 生み出す最大の組織体の 1 つである横浜市は,モ 済活動によって,廃棄物量が増加し,容量の限られ デルプレーヤーとして廃棄物の削減に注力し,市民 ている市の埋め立て処分地の負担が大きくなった. や企業と協力している. 2000 年の段階で横浜市が所有していた焼却炉の数  G30 のアプローチを普及させるため,横浜市は は 7(そのうち稼働していたのは 6)で,埋め立て G30 の目標達成に向けて市民の意識を高め,協調 (内陸の処分地と海上の埋め立て地) 処分地の数は 2 的な行動を促すための環境教育や広報活動を行って であった.焼却と埋め立て処分の環境への影響を低 いる.適切な廃棄物の分別を促進するため,市は自 減し,日本を循環型社会に向かわせるために,横浜 治会単位で 11,000 回以上のセミナーを行うなど― 市は 2003 年に G30 アクションプランを開始した. ―横浜市の市民の 80% は自治会に参加している― G30 プランは,2001 年度の廃棄物量をベースライ ―,廃棄物の分別などの廃棄物削減の方法を説明す ンとし,2010 年度までに廃棄物を 30% 削減する る市民向け活動を行ってきた(横浜市 2008b; 図 ことを目指したものである. .加えて,約 470 のキャンペーンが 3.29 を参照)  G30 プランは,汚染者負担と幅広い生産者責任 鉄道駅で行われたり,約 2,200 回の啓蒙活動が朝 の原則に基づいた 3R によって,廃棄物削減に対す の時間帯に地域のごみ処分場で行われたりしている 事例調査ガイド:世界の Eco2 Cities ≫ 事例4 横浜市,日本 209 (横浜市 2006).キャンペーン活動は地域の商店街, スーパーマーケット,様々なイベント会場でも行わ れてきた(図 3.29).G30 のロゴは,市の全刊行 物,市が所有する車両,及び市のイベントで用いら れている.  結果として,30% という廃棄物の削減目標は, 予定(2010 年度)よりも 5 年早い 2005 年度に達 成された.同期間に人口は 165,875 人増加したに もかかわらず,廃棄物は 2007 年度までに 2001 年 比で 38.7% 減少した(表 3.5,図 3.30). 廃棄物削減の環境的便益  横浜市では,非リサイクル廃棄物のほぼ 99% が 焼却炉に運ばれ,処理される(図 3.31).廃棄物処 理は,事務作業,廃棄物処理,水供給,下水処理, 公共交通を含む同市の公共事業活動の中で最大の二 酸化炭素(CO2)排出源である.例えば,2000 年 度において,廃棄物処理に関連する CO2 は,市の 公共事業活動による全 CO2 排出量のうちの 54.8% を占めた.  横浜市のライフサイクル・アセスメントによる と,2001 年度から 2007 年度の間の廃棄物削減は, 84 万トンの CO2 の排出を回避したのに相当する. これには,廃棄物の回収・焼却・埋め立て処分に よって発生していたはずの 76 万トンの CO2 の排 出の回避,廃棄物のリサイクルによる 11 万トンの CO2 の排出の回避が含まれる.焼却炉は,廃棄物 の焼却によって生み出される熱と蒸気を用いて発電 図 3.29 横浜市における廃棄物削減・分別のための市民向けキャ ンペーン活動 出典:横浜市. –  表 3.5 横浜市の廃棄物,2001  2007 年度 指標 FY2001 FY2002 FY2003 FY2004 FY2005 FY2006 FY2007 人口(百万人) 3.46 3.50 3.53 3.56 3.58 3.60 3.63 一般ゴミ (千トン) (リサイクル廃棄物を除く) 1,609 1,586 1,532 1,316 1,063 1,032 987 家庭ごみ(千トン) 935 928 919 855 651 652 628 事業ごみ(千トン) 674 658 613 461 412 380 359 回収されたリサイクル廃棄物 (堆肥ごみを含む)(千トン) 50 50 53 72 166 162 160 出典:横浜市 (2008a),及び横浜市統計ポータル http://www.city.yokohama.jp/me/stat/. 注:FY = Fiscal Year ( 会計年度 ) 210 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 図 3.30 横浜市における廃棄物削減 出典:横浜市 (2008a) に基づき著者 (Hinako Maruyama) 編集,および横浜市統計ポータル http://www.city.yokohama.jp/me/stat/. 廃棄物の総量 1,114 リサイクル 廃棄物(リサイクル廃棄物除く) 廃棄物 987 (100%) 160 (収入 家庭ごみ 事業ごみ US$ 23.5mil) 628 359 焼却 975 (98.7%) 埋め立て処分 12 (1.2%) 焼却残余分 発電 137 200mil.kWh (収入 US$ 24.6mil) 埋め立て処分合計 残余分のリサイクル 130 (13.2%) (収入 US$ 0.2mil) 19  図 3.31 横浜市における廃棄物のフロー(2007 会計年度) 出典:横浜市 (2008a,2008c) に基づき著者 (Hinako Maruyama) 編集. 注:太字数字の単位は千トン.kWh = キロワット時.mil.= 百万. し,この電力を炉の運転のために再利用したり,電 分の電力供給は 3 万トンの CO2 排出に相当した. 力会社やその他の施設に売却したりする.もし,廃 よって,回避された CO2 の差し引きは 84 万トン 棄物が減ったことで焼却量及び発電量が減ると,焼 であり(表 3.6),これは杉の木 6,000 万本が 1 年 却炉から電力を購入していた電力会社は,追加で電 間に吸収する CO2 の量に相当する.それだけの数 力を生産しなければならない.横浜市では,この余 の杉の木を植えるのに必要な面積は約 600 平方キ 事例調査ガイド:世界の Eco2 Cities ≫ 事例4 横浜市,日本 211 表 3.6 廃棄物の減量による二酸化炭素の削減(2001 ~ 2007 会計年度) 単位: トン 削減の指標 二酸化炭素量 廃棄物の回収量・焼却量・埋め立て処分量が減ったことによる二酸化炭素削減 760,000 リサイクルによる二酸化炭素削減 110,000 電力会社からの追加の電力供給による二酸化炭素増加 ( – 30,000) 二酸化炭素の総削減量 840,000 . 出典:横浜市(2009) ロメートルで,これは横浜市の面積よりも 27% 広 温水発生を含む焼却施設の稼働に用いられるのと同 い(横浜市 2009). 時に,室内プールや高齢者福祉施設を含む近隣の公 共施設の電力源にもなっている.焼却炉のタービ ンが蒸気から電気を生産する.2007 年度には,こ 廃棄物削減の経済的便益 れらの焼却炉による発電量は,3 億 5,500 万 kWH  2000 年の時点で横浜市が所有する焼却炉の数は であった.これらの電力のうち,42.2% は焼却炉 7 であったが,廃棄物の大幅な減少によって,この によって再利用され,55.4% は競争入札に基づい うちの 2 施設が閉鎖された.この閉鎖により,こ て電力会社に売却され,2.4% は下水処理工場,ス れら 2 施設の改修・修理に必要であった 11 億米ド ラッジ ・ リサイクル施設,シーサイドライン[監訳 ルの資本支出が節約できた.同時に,年間の運転費 者註:横浜市内のモノレール鉄道]などの近隣の公 用の 600 万米ドル(すなわち,年間運転費用が発 共施設が利用した.2007 年度には,2 億 kWH の 生しなかったことによる 3,000 万米ドルの節約か 電力を売却することで,2,460 万米ドルの利益をあ ら中間廃棄物処理と分別の費用,リサイクル,下請 げた.この電力は 57,000 世帯の 1 年間の電力消費 けなどによる年間予想支出 2,400 万米ドルを差し . 量に相当する(横浜市 2008a) 引いた額)も節約された(横浜市 2006).  横浜市は缶,ビン,紙,家具,電子機器などのリ  横浜市には埋め立て地が 2 箇所ある.2003 年に サイクル品,さらには再利用可能な金属及び焼却灰 G30 が計画された際には,これらの埋め立て地は から生じた資材を販売することで,利益をあげ始め 2007 年には残存容量が 10 万立方メートルになり, た.回収されたリサイクル品は民間企業に販売さ 2008 年には満杯になると予測されていた.しかし れ,追加の処理が行われ,再利用される.焼却灰は ながら,廃棄物の削減が成功したことにより,これ 建設資材としてリサイクルされる.リサイクル品を らの埋め立て地の 2007 年時点における残存容量は 処理会社に売却することで,約 2,350 万米ドルの 70 万立方メートルであった.60 万立方メートルの . 収益が確保できる(横浜市 2008a) 追加残存容量の価値は 8,300 万米ドルに相当する  これらの対策の結果,資源循環局の 2008 年度の (横浜市 2006).加えて,新しい埋め立て処分地あ 4 億 8,000 万米ドルの予算のうちの約 10% が,リ るいは海上埋め立て地の開発は延期された. サイクル品の売却(2,350 万米ドル)と焼却による 発電(2,460 万米ドル)によって獲得された(横浜 市 2008a, 2008c). 資源の効率的な利用による経済的便益  また効率的な廃棄物管理を促進するため,横浜市  市の 5 つの焼却炉は,廃棄物を焼却する際に熱 は(廃棄物の回収や輸送などの)主要な活動を民間 と蒸気を発生する.この熱と蒸気は,暖房,冷房, セクターへ委託し始めた.民間セクターの方がより 212 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 安い費用でより高水準のサービスを提供できる場合 示することを目指している.横浜市の 2008 脱温暖 が多いからである.2003 年から 2005 年の間に, 化行動方針,CO-DO 30 の中で,同市は(2004 市はこれらのサービスを民間セクターへ委託するこ 年度の水準と比較して)2025 年度までに温室効 とで,2,640 万米ドルの業務費用を節約した(横浜 果ガス排出量を 30% 以上,2050 年度までに 60% 市 2006). 以上削減するという目標を設定している(横浜市 .この計画の目標を達成するための 7 つの 2008d) アプローチに基づき,行動計画が策定されている最 横浜市の事例から得られる教訓  中である[監訳者註:「横浜市地球温暖化対策実行 6  横浜市の事例は,市の目標を達成する上でステー 計画」が 2011 年に策定されている] .加えて横 クホルダー,とりわけ市民の協力が重要であること 浜市は,再生可能エネルギーの使用量を 2004 年の を示している.当然ながら,市民や企業の意識を高 水準の 10 倍に増加させるという目標を設定してい め,行動の変化を促すためには,草の根レベルでの る.市民は新しい風力発電機を購入する資金を調達 一貫した多大な努力が必要である.しかしながら, するための市債を購入するなどして,これらの活動 横浜市の取り組みには,新しい技術や巨額の投資は に積極的に参加している.最後に,廃棄物の削減に 必要とされていない.加えて,ひとたび市民が問題 成功したこと,及び老朽化した焼却炉の改修に多額 を理解し,行動を変え,計画の積極的な実行者とな の費用がかかることから,横浜市は 2010 年度まで れば,市は市民の力を活用することで前進できるの にもう1箇所の焼却炉を閉鎖し,その後は 4 箇所 である. の焼却炉のみを稼働させることを計画している[監  G30 の成果に勇気づけられ,横浜市は引き続き, 訳者註:1箇所の焼却炉は 2010 年に既に計画通り 温室効果ガスの排出量を削減して,日本をリード 休止している].こうして,CO2 排出量のさらなる し,国の環境モデル都市の 1 つとしての存在を誇 削減と運転費用の節約が期待されている. 事例調査ガイド:世界の Eco2 Cities ≫ 事例4 横浜市,日本 213 注 参考文献 1. 日本の行政区域は, 市, 県, 区, 郡, 村という階層で区 町, City of Yokohama. 2003. “Yokohama shi ippan haikibutsu 市と 分されている. して区分されて地域の中では,横浜 shori kihon keikaku, Yokohama G30 plan” 横浜市一 市の人口が最大である. 般廃棄物処理基本計画, 横浜G30プラン [City of 2. 横浜市の財政年度は4月から翌年3月までである. Yokohama, Master Plan for Management of General 3. この横浜市の事例研究における 「廃棄物」 とは, 家庭ま Waste: Yokohama G30 Plan]. たは事業者 (商業及びサービス業) が発生させた廃棄物 City of Yokohama, Yokohama, Japan. http://www.city. を意 味する. 産 業 廃 棄 物は含まれていない. 横浜市 yokohama.jp/me/pcpb/keikaku/kei1.html. (2008a) 及び横浜市の統計サイ ト, http://www. ———. 2006. “Yokohama G30 Plan­ —Kenshou to kongo no city.yokohama.jp/me/stat/ 及び http://www. tenkai ni tsuite” 横浜G30プラン 「検証と今後の展 city.yokohama.jp/me/stat/index-e.html. を参照 開」 について [Yokohama G30 Plan: Verification and のこと. next steps]. Resources and Wastes Recycling Bureau, 1米 4. ここでは, ドル=100円で計算している. City of Yokohama, Yokohama, Japan. http://www.city. 5. 日本政府は, 2008年に「環境モデル都市」 イニシアティ yokohama.jp/me/pcpb/keikaku/G30rolling/. ブを開始した. 13都市がモデル都市に選ばれた. その選 ———. 2008a. “Heisei 20 nendo jigyou gaiyou” 平成20年 定基準は以下のとおりである. (a)温室効果ガスの大幅 度事業概要 [Operation Outline for Fiscal Year 2008]. な削減を目標とすること, (b)先導性 ・モデル性に優れて Resources and Wastes Recycling Bureau, City of ( c) いること, 地域に適応した取組であること, ( d)取組 Yokohama, Japan, Yokohama. http://www.city. の円滑かつ確実な実施が見込まれ, 実現可能性が高い yokohama.jp/me/pcpb/keikaku/jigyo_ (e) こと, 都市・ 地域の新たな活力の創出等に支えられ, gaiyou/20gaiyou/. 取組が持続的に展開されること. 横浜市以外のモデル ———. 2008b. “Kankyou model toshi teian sho” 環境モデ 都市は,飯田市, 北九州市, 京都市, 水俣市, 宮古島市, ル都市提案書 [Proposal for Eco-Model Cities]. 帯広市,堺市, 富山市, 豊田市, 橿原町, 下川町, 千代田 Climate Change Policy Headquarters, City of 区である. Yokohama, Yokohama, Japan. http://www.city. 6. 7つのアプローチは, 以下のとおり (a) である. 生活 CO- yokohama.jp/me/kankyou/ondan/model/. DO 一人ひと りの脱温暖化行動から社会を変える, (b) ———. 2008c. “Heisei 20 nendo yosan gaiyou” 平成20年度 ビジネス CO-DO 脱温暖化ビジネススタイル (商品作 予算概要 [Budget Outline for Fiscal Year 2008]. り・サービス)から社会を変える, (c)建物 CO-DO エネ Resources and Wastes Recycling Bureau, City of ルギー性能のよい建物 (省エネ ・新エネ装備) による都 Yokohama, Yokohama, Japan. http://www.city. 市づく (d) り, 交通 CO-DO 徒歩・自転車・ 公共交通によ yokohama.jp/me/pcpb/keikaku/yosan/20yosan.pdf. って移動できる魅力的まちづく りと自動車の脱温暖化の ———. 2008d. “CO-DO 30: Yokohama Climate Change 促進,(e)エネルギーCO-DO 再生可能エネルギーを Action Policy.” Leaflet, Climate Change Policy 10 倍に拡大(飛躍的な拡大) , 都市と緑 CO-DO (f) Headquarters, City of Yokohama, Yokohama, Japan. ヒート アイランド対策などを通じたみどりあふれるまちづく http://www.city.yokohama.jp/me/kankyou/ondan/ (g)市役所 CO-DO 脱温暖化型の市役所づく り, り. plan/codo30/leaf_english.pdf. ———. 2009. ごみの分別による効果 - 二酸化炭素削減 効果 [Effect of segregation of garbage—reduction of carbon dioxide]. Resources and Wastes Recycling Bureau, City of Yokohama, Japan. http://www.city. yokohama.jp/me/pcpb/shisetsu/shigenkai/lca/ (accessed March 2009). 215 事例5 ブリスベン市,オーストラリア 油の高ピーク需要,温室効果ガスの排出量である 亜熱帯地域の急成長都市における気候変動 (ブリスベン市議会 2007c を参照).ブリスベン市 への取り組み がこれらの課題に賢明な対処をすれば,持続可能な  クイーンズランド州の州都であり,2006 ~ 7 年 産業を開発すると同時に,資源を節約することで, の人口増加率が 2% であったブリスベン市は,オー 多大の経済的便益を得る可能性があることを分析は ストラリアで最も急速に成長する州都の 1 つであ 示唆している.ブリスベン市は,持続可能な開発に る(ABS 2008).2007 年のブリスベン市の人口 対する様々なアプローチを積極的に導入している. は約 101 万人で,100 万人の大台を突破したオー 加えて,同市の「我々の共有ビジョン:ブリスベン ストラリア初の市域となった(ABS 2008).ブリ に居住する 2026」という政策文書の中で,市当局 スベン市は,経済協力開発機構加盟国の中で最も急 は 2026 年までに温室効果ガスの排出量を半減し, 速に成長している上位 10 位に入る都市の 1 つであ すべての廃水を再利用し,自然の生息地の 40% を り,西欧諸国の中では第 2 位の急成長都市である 回復させることを約束している(ブリスベン市議会 (ブリスベン市議会 2006).ブリスベン市の人口は, . 2006) 今後 20 年間においても増加し続けると予想されて 1 いる(ブリスベン市議会 2006). シティスマート・プログラムの生態学的・  2000 年以降,ブリスベン市では電力消費量が増 経済的便益 加しており,ピーク時の電力負荷が年々増大してい 2 る(ブリスベン市議会 2007a) .電力需要が増加  ブリスベン気候変動・エネルギー対策計画を実行 しているのは,不適切な住宅設計,エネルギー集約 するために,市当局はグリーン・ハート・シティス 的経済,人口及び可処分所得の増加のほかにも,亜 マート・プログラムを開始した(ブリスベン市議会 熱帯気候であるために家庭用エアコンが増加して 2009a).このプログラムは,気候変動行動計画の いることに大きな原因がある(ブリスベン市議会 中で示されている行動を実行するための現実的で手 .電力需要は,2030 年まで一貫して増加 2007a) ごろな方法を住民や企業に紹介するものである.こ すると予想されている.ブリスベン市では飲料水も のような実用的な情報によって,住民や企業はエネ 不足している.成長と気候変動によって,水資源へ ルギー効率及び資源効率の向上を実現でき,その結 の負担が増大しており,新しい形態の水管理に移行 果として環境は改善され,費用が節約できる(Box する必要性が明らかになっている. . 3.2)  2007 年にブリスベン市議会は,ブリスベン気候  例えば,住民には温水の使い方,冷暖房,廃棄物 変動・エネルギー対策計画を発表した.これは,短 の処分,照明 ・ 電子機器,浴室・洗濯設備,自宅の 期的(約 1 年半)に実現すべき厳選行動と長期的 改修,都市のガーデニング,用水桶の設置などにつ (5 年以上)に実現すべき行動を明確にしたもので いての情報が提供される.加えてブリスベン市は, ある(ブリスベン市議会 2007b を参照).ブリス 2026 年までに平均的な世帯の年間カーボン ・ フッ ベン市には 3 つの主要課題がある.気候変動,石 トプリントを 2006 年の二酸化炭素(CO2)16 ト 216 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES INDONESIA PAPUA NEW GUINEA 1000 km. ブリスベン市の概要 PA C I F I C OCEAN ブリスベン市 • オーストラリア・クイーンズランド州の州都 • 人口 (2007 年 ):101 万人 AUSTRALIA • 人口増加率 (2006 ~ 2007 年 ): 2% Brisbane • オーストラリアで最も人口の多い地方自治体地区 • クイーンズランド州南東部沿岸の平地に位置.市の東 部に当たる郊外地区はモートン湾の海岸に接し,市の Canberra 中心部の商業地区は湾口からわずか 27 キロの距離にあ る. AUSTRALIA Tasman INDIAN Sea • 亜熱帯圏にある河川都市でもある.夏は気温や湿度が OCEAN 高く,冬は乾燥し寒さは厳しくない. IBRD 37447 JANUARY 2010 地図 3.7 ブリスベン市の位置 出典 : Map Design Unit, General Services Department, World Bank 地図 3.7 ブリスベン市の位置 出典 : Map Design Unit, General Services Department, World Bank ンから 4.5 トンにまで低減することを目指してい 家庭が温室効果ガスの排出量を削減することを奨励 る.家庭の参加を促すため,市は環境的に持続可能 している. なプロジェクトを支援する割戻しや補助を提供して  ブリスベン市の樹木は,都市環境を保護・改善す いる(Box 3.3).市は,具体的にはソーラー給湯 る上で非常に重要である.樹木は日陰を作り,水分 システムを設置して(割戻しが適用),最大で 3 ト を蒸発させて,気温及び地表温度を低下させる.亜 ンの CO2 を削減する,エネルギー監査 ・ 監視を実 熱帯都市においては,エネルギーの使用量と炭酸ガ 施して(割戻しが適用),最大で 3 トンの CO2 を ス排出量を低減するために,エアコンへの依存度を 削減する,さらには,グリーンパワー(政府が認証 減らす方法を特定することが重要である.日陰があ した電源からの再生可能エネルギー)に接続して, れば,より多くの人がアウトドア活動を楽しむこと 最大で 9 トンの CO2 を削減するといった方法で, ができる.樹木は CO2 等の温室効果ガスを吸収し, Box 3.2 Box 3.3 ブリスベン市のシティスマート・プログラム内容 ブリスベン市が支援する補助・割戻し制度の事例 (環境的に持続可能な家庭での取組みに対する支援) • エネルギー効率の良い軽量の機器への転換 • 家庭用の雨水貯蔵タンクの普及 • 家庭向けエネルギーモニター機器設置に対する 50 豪 • 効率の良いエアコン設備の使用 ドルの割戻し金 • リサイクルの継続,節水 • ソーラー給湯システム設置に対する 400 豪ドルの割 • ソーラーパネル,ソーラー給湯システムの設置 戻し金 • グリーンエネルギー契約の促進 • トイレや冷水洗濯機と接続した雨水貯蔵タンクの設 • 公共交通の利用による問題解決の検討 置に対する割戻し金 • 乗り物の排出削減 • エネルギー及び水の節約を目的とした設備を導入し • 200 万本植樹プロジェクトの実施 た地元の非営利コミュニティグループに対する資金 援助(上限 50,000 豪ドル) 事例調査ガイド:世界の Eco2 Cities ≫ 事例5 ブリスベン市,オーストラリア 217 大気中の汚染物質を除去する.さらに樹木は,降雨 密度の郊外に建てられた一戸建てに居住している 流水の流出と蒸発を防止する.これは水資源の保護 .オーストラリアの郊外のライフス (Dingle 1999) が必要な都市では重要な意味を持つ.ブリスベン市 タイルは,自家用車に大きく依存するものである. 当局は,133,000 本の苗木を住民に無料で提供し, というのも,これまでの 50 年間は,ほとんどの人 同市の独特な亜熱帯の風景を維持してきた.加え が公共交通サービスを必要としないという前提の て,ブリスベン市は 2008 年から 2012 年の間に, 下で郊外が建設されてきたからである(Newman 200 万本の植樹を行うことを公約している.この 1999).ブリスベン市の形状が自家用車への依存を 活動に参加する人々は,低木林地の大規模な回復を 表している.石油のピーク価格は,ブリスベン市の 行い,道路沿いに新たに樹木を植え,埋め立て地や 経済と社会に様々な影響を及ぼし,低燃費車や公共 基幹施設用地の緑化を支援する予定である(ブリス 交通のオプションの必要性を増大させている.長年 ベン市議会 2009d). にわたって,都市のスプロール化が問題とされてき  ブリスベン市議会は,その事務所及び施設におい たが,それは石油価格が上昇したからではない.地 て持続可能性の原則を忠実に守ることで,2026 年 域計画は交通指向型開発の原則を組み入れてきてい までに日々の業務をカーボン ・ ニュートラルにする る.これは住宅地と事業地区の混合開発を推進し, ことを目指している.その結果,公共セクターの電 公共交通機関への高水準のアクセスを通じて土地利 力使用量と温室効果ガス排出量はすでに減少し始め 用の効率を最大限に高めることを目指すものであ ている(表 3.7).市議会はまた,住民や企業の積 る(ブリスベン市議会 2009f).しかしながら,そ 極的な参加を促し,環境への悪影響を低減する行動 の結果は依然として種々雑多である.経済構造と伝 を奨励している. 統的な住宅選好がこれらの計画イニシアティブと必 ずしも一致していないのである(ブリスベン市議会 2009b). ブリスベン市における都市開発 「ブリスベン都市再生(Urban Renewal Brisbane)   」  オーストラリアのその他の多くの都市と同様に, は,インナー・シティの特定地域を再生するための ブリスベン市でも住民の大多数が市の境界外の低 40 億米ドルのプログラムである(ブリスベン市議 表 3.7 ブリスベン市議会による温室効果ガス排出量および電力使用量の一覧(2005 ~ 2008 会計年度) 指標 2005 2006 2007 2008 温室効果ガス 純排出量(二酸化炭素換算トン) — 441,850 376,471 — 直接的排出量 — 199,284 180,255 — 電力消費・熱・蒸気による間接的排出量 — 218,988 205,669 — その他の間接的排出量 — 30,148 40,864 — グリーンパワー — (6,570) (53,317) — オフセット — — (95,000) — 電力使用量(メガワット時) 224,603 209,357 200,719 — 購入されたグリーンパワー(パーセント) 6 6 25 50 出典:ブリスベン市議会 2009e. ,製造(例:アスファルト) a. 直接的排出とは,輸送(トラック,バス,フェリー) ,オンサイトでのエネルギー,熱,蒸気,電力の発生,そして, 埋め立て処分や廃水処理から生じる漏えい排出. b. グリーンパワーとは,太陽光,風力,廃棄物からの再生可能エネルギー.グリーンパワーは,温室効果ガスを生まない.そのエネルギーは政府が 認定したソースから供給されなければならない. 218 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES .このプログラムには,ブリスベン・シ 会 2009g) 多様性に恵まれている.同市は雑草を除去し,地域 ティ ・ センター(中心ビジネス地区)を含む複数の 共同体に固有種の苗木を植えるように促し,地域共 都市部で行われてきた.質の高い都市設計,近代工 同体のキャンペーンを後援することで不法投棄を削 法,多目的土地利用,高密度開発,多様な交通オプ 減するなどの様々な方法で,水路やクリークの健全 ション,アクセシビリティの強化など,革新的な原 性を回復させることに注力している(例えば,ブリ 則や慣習が組み込まれている. スベン市議会 2007d を参照).  ブリスベン市議会は開発産業と協働し,持続可能 な居住・労働環境を推進している.市議会は,建築 公共交通機関:バス高速輸送システム 家,エンジニア,設計者,開発業者,建設業者が開 発の持続可能性を促進する原則を取り入れることを  ブリスベン市には2つのバス高速輸送システムが 助けるための指針を策定した.原則は持続可能な開 ある.2001 年に営業を開始したブリスベン・サウ 発の大まかな目安となる一方で,指針はそのような ス・イースト・バスウェイと,2004 年に営業を開 原則を実際に適用する方法を説明するものである. 始したブリスベン・インナー・ノーザン・バスウェ 例えば,かつてブリスベン市のビルには,そよ風が イである.これらのシステムを管轄するのはクイー 入り,天井型扇風機が取り付けられ,日陰のエリア ンズランド州政府と,公共交通機関を提供し,グ があり,空気がよく循環する設計になっていた.と レーター・ブリスベン市の成長と接続性を支援する ころが,最近の設計はエネルギーを消費するエアコ ことに力を入れているクイーンズランド陸運局であ ンに頼っている.今日では,ブリスベン市は,この る.これらのシステムは,既存の鉄道(クイーンズ 亜熱帯都市において魅力的な居住環境と歩きやすい ランド鉄道)が通っていない地域に公共輸送サービ エリアを作り出す都市建設及び空間設計に対する新 スを提供することを目的としている.ブリスベン・ しいアプローチを推進している. サウス・イースト・バスウェイは,ブリスベン市の 中心ビジネス地区と,同市の無秩序に広がった南東 部の郊外を接続している.バス専用道路(バスウェ 水循環及び集水管理 イ)は,バスと緊急車両のみが使用する 2 車線の  人口増加によって,ブリスベン市の飲料水供給の 双方向道路である.これによってバスは,渋滞を迂 負担は増大している.クイーンズランド州南東部の 回することができる.このシステムのバス停は,質 年間平均降水量は約 1,200 ミリメートルである(シ が高く,優れた設計で,歩行者が容易にアクセスで ンガポールは 2,400 ミリメートル).他のオースト . きるものである(クイーンズランド陸運局 2008) ラリアの都市よりは多いものの,ブリスベン市の降  バス専用道路は,一般道路の交通量を減らすが, 雨は予測が難しく,注意深い水資源管理が要求され それはバス専用道路の収容能力が大きいからであ る.近年では,干ばつがオーストラリアの深刻な問 る.自動車道路の 1 車線が 1 時間に収容できる乗 題となっている.水管理の権限を持つ州は,水の使 客数は 2,000 人であると考えられるが,バス専用 用制限を実施する(過剰使用に対してペナルティを 道路の 1 車線は 1 時間に 15,000 人の乗客を収容 科す),用水桶に補助金を支払うなどの方法で,水 することができる.加えて,バス専用道路は移動時 を保全するための措置をとることができる.ブリス 間を大幅に削減する.例えば,ブリスベン市の自動 ベン市はさらに,水供給,廃水処理,降雨流水の管 車道路で 60 分を要する典型的ルートの場合,サウ 理,戦略的な土地管理を含む統合的な水循環管理も ス・イースト・バスウェイのバスを利用すると所要 進めてきた.集水域における不適切な土地管理は, 時間は 18 分に縮まる.車が減り,移動時間が減る 水質の低下や水処理費用の上昇につながる.亜熱帯 ことで,自動車排ガスも減り,それによって気候変 都市であるブリスベン市は,クリーク,水路,生物 動が緩和され,大気環境が改善される.一般に,通 事例調査ガイド:世界の Eco2 Cities ≫ 事例5 ブリスベン市,オーストラリア 219 勤時間が短くなれば,都市の生産性と経済活動が増 注 大する.バス高速輸送システムは,土地開発にも 1. クイーンズランド州は,今後の20年間で100万人の 新規住民を受け入れなければならない.その25%が 影響を与える.サウス・イースト・バスウェイ沿 ブリスベン市にやって来る. いでは,バス停から 6 マイル以内の不動産の価値 2. クイーンズランド州では,1997~2007年の10年間 が 20% も上昇した.さらには,これらの地域の不 で,電力消費は53%も増加した.電力のピーク時負 荷は毎年8%ずつ増大している. 動産価値の上昇率は,バス停から遠い地域の 2 ~ 3 倍である(Currie 2006). 参考文献 ブリスベン市の事例から得られる教訓 ABS (Australian Bureau of Statistics). 2008. “Regional Population Growth, Australia, 2006–07.” Catalogue  ブリスベン市は,成長圧力にさらされた亜熱帯都 3218.0, ABS, Canberra, March 31. Brisbane City Council. 2006. “Our Shared Vision: Living in 市としてのその特殊な現地事情に対処してきた.気 Brisbane 2026.” Brisbane City Council, Brisbane, 候変動がすでにブリスベン市に影響を及ぼし始めて Australia. http://www.brisbane.qld.gov.au/bccwr/ いる.水が不足しており,気温も上昇している.そ about_council/documents/vision2026_final_full- document.pdf. の自然条件に対応して,ブリスベン市は水資源を保 ———. 2007a. “Brisbane Long Term Infrastructure Plan.” 護し,植樹を行って市の都市生態学を改善し,持続 Brisbane City Council, Brisbane, Australia. http:// 可能な建築環境を推進している.これらの行動は, www.brisbane.qld.gov.au/bccwr/plans_and_strate- gies/documents/brisbane_long_term_infrastructure_ 市及び市民にとってコストの削減になる.開発途上 plan.pdf. 国の多くの都市は,高温の熱帯気候にあり,気候変 ———. 2007b. “Brisbane’s Plan for Action on Climate 動の影響にさらされやすいと考えられる.一部の都 Change and Energy.” Brisbane City Council, Brisbane, Australia. http://www.brisbane.qld.gov.au/bccwr/envi- 市はエアコンに大きく依存しており,これは他の実 ronment/documents/brisbane_ 行可能な戦略に比べてエネルギー消費量が多い.こ climate_change_and_energy_action_plan.pdf. ———. 2007c. “Climate Change and Energy Taskforce のような状況から,ブリスベン市の方策と行動は, Report; Final Report: A Call for Action.” Maunsell 都市がこうした課題に対応しつつ,生態学的,経済 Australia Pty Ltd, Milton, Queensland, Australia, 的な活気を維持する方法についての良い例を提供す March 12. ———. 2007d. “Know Your Creek; Moggill Creek: るものと考えられる. Improving Our Waterways from Backyard to Bay.” Brisbane City Council Information, Brisbane City Council, Brisbane, Australia. http://www.brisbane.qld. gov.au/bccwr/environment/documents/know_your_ creek_moggill_2008.pdf. ———. 2009a. “Green Heart CitySmart Home.” Brisbane City Council, Brisbane, Australia. http://www. brisbane.qld.gov.au/BCC:CITY_SMART::pc= PC_2796. ———. 2009b. “Message from the Lord Mayor.” Brisbane City Council, Brisbane, Australia. http://www. brisbane.qld.gov.au/BCC:CITY_SMART::pc= PC_2803. ———. 2009c. “Grants and Rebates.” Brisbane City Council, Brisbane, Australia. http://www.brisbane.qld. gov.au/BCC:CITY_SMART::pc=PC_5014. ———. 2009d. “2 Million Trees Project.” Brisbane City Council, Brisbane, Australia. http://www.brisbane.qld. gov.au/BCC:CITY_SMART::pc=PC_2645. 220 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES ———. 2009e. “What Council Is Aiming For.” Brisbane City Council, Brisbane, Australia. http://www.brisbane.qld. gov.au/BCC:CITY_SMART::pc= PC_5475. ———. 2009f. “Urban Renewal Glossary.” Brisbane City Council, Brisbane, Australia. http://www. brisbane.qld.gov.au/BCC:BASE::pc=PC_1745. ———. 2009g. “Urban Renewal Brisbane.” Brisbane City Council, Brisbane, Australia. http://www.brisbane.qld. gov.au/BCC:BASE::pc=PC_1727. Currie, Graham. 2006. “Bus Rapid Transit in Australasia: Performance, Lessons Learned, and Futures.” Journal of Public Transportation 9 (3): 1–22. Dingle, Tony. 1999. “‘Gloria Soame’: The Spread of Suburbia in Post-War Australia.” In Changing Suburbs: Foundation, Form and Function, ed. Richard Harris and Peter J. Larkheim, 189–201. London: Routledge. Newman, Peter. 1999. “Transport: Reducing Automobile Dependence.” In The Earthscan Reader in Sustainable Cities, ed. David Satterthwaite, 173–98. London: Earthscan Publications. Queensland Transport. 2008. “South East Busway: Planning to Springwood; Project Guide.” Queens- land Transport, Queensland Government, Brisbane, Australia. http://www.transport.qld.gov.au/resources/ file/eb6b7c0e3065e66/Pdf_seb_ project_guide.pdf. 221 事例6 オークランド地方,ニュージーランド すべての水準の政府が協調的な地域プロセスの必 計画枠組みを含めた地域の協力 要性を認識している  オークランド大都市圏は,ニュージーランドで最  国及び地域にとってのオークランドの問題(住居 大で,最も人口の多い都市域である(図 3.32,地 や教育など)と,成長・革新及び必要とされる巨額 図 3.8).オークランド地方には,ニュージーラン 投資(とりわけ陸上交通に対する投資)は相互に関 ドの全人口の約 3 分の 1 に当たる 130 万人以上の 連しているため,複数の関係当局の間で複雑で難し 人が住む.当該地方の人口は,2001 年と 2006 年 い問題が生じている.ニュージーランド経済にとっ のセンサスの間に 12.4% 増加した.オークラン てオークランドは重要で,かつ交通やエネルギー供 ドは民族多様性を特徴とする.当該地方の住民の 給などの共通利益の分野があるにもかかわらず,中 37.0% が海外生まれである.この地方には 4 つの 央政府は当初,地方及び市・地区政府の計画の指揮 市と 3 つの地区があり,それぞれが独自の議会を に積極的に取り組まなかった.そこで,包括的な地 持つ.地方議会は1つである[監訳者註:ここでは 方戦略や枠組みがなければ,各ステークホルダーが “region”を地方と訳している]. 地方全体を見ずに狭い視座から自分の言い分を通そ  現在のところ,それぞれの議会が独自の計画,戦 うとした場合に,オークランド地方の政策決定はそ 略を策定している.これによって,重複分野が生 の場しのぎで,敵対的なものになる可能性があると じ,優先事項が競合する.成長,都市形態,経済発 の懸念が生じた.その結果,オークランドが今日の 展,交通計画のための共同地方戦略も策定されてい グローバル化した世界で競争力を維持できるように る.しかしながら,一致協力を保証する共通目標や 原則がない.  オークランド地方に典型的なライフスタイルと当 の地方での雇用機会のおかげで,新住民が増加して いるものの,問題も明らかになっている.すなわ ち,現在起きている交通問題や,都市の成長パター ンとその性質に関する不安に対して効果的に取り組 むためのまとまったアプローチが不足しているとい う問題である.そこで,1996 年にオークランド地 方議会と市・地区の議会の政治代表が一堂に会して 「オークランド地方成長フォー 協力を行う場として, ラム」が設置された.このフォーラムの目的は,成 長の影響を管理するための戦略を策定し,実行する ことである. 図 3.32 東方から眺めたオークランド港 出典:Sebastian Moffatt. 222 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES それぞれの取り組みを連携させ,オークランド地方 IBRD 37448 の長期にわたる繁栄を確実にするための戦略的方向 JANUARY 2010 500 km. PA C IF IC を打ち出せるかを評価しようとしたものである(図 OC E A N Auckland 3.33)1.START の原動力としては,(1) 明らか な代替的解決策がないままに短期的及び長期的展望 に絶えずかかる圧力,(2) 一見したところ相容れな NEW ZEALAND い要求を持つ多くの既得権益に対抗できる弾力的で Wellington 適応力のあるシステムを開発することの必要性,が Ta s m a n Sea あった. START の開始:情報収集 NEW ZEALAND  START 作業グループは,ビジョン,ゴール,最 初の基盤,進め方の原則,最初のテーマ,いくつか の取り組み課題(触媒プロジェクト,長期的な持続 可能性に関するゴール,進捗を測定するための指標 地図 3.8 オークランドの位置 出典 : Map Design Unit, General Services Department, World Bank の開発を含む)などに関して一連の出版物を発表す るとともに,枠組みのプロトタイプを検討した.検 討を進める上で重要になったのは,今後 100 年間 のオークランドを形づくるさまざまな力をどう考え するために,オークランド地方全体で一元化された るかであった.枠組みの検討にあたってもう 1 つ 戦略的計画が必要であることが明らかになった.そ 重要だったのは,学識経験者や,実業界及び地元コ のための対応の一環として,オークランド地方の ミュニティからの専門家に参加してもらうことで 50 年後についての展望を打ち出すことを目指した あった.これらの専門家グループは,ファシリテイ 地方成長戦略を策定するためのプロセスが 2001 年 テッド・ワークショップを通じて,枠組みのプロト に開始された.これを支援するために,空間的成長 タイプの中で特定された重要問題――建築環境,都 計画が採択され,及び大都市圏の拡大に対して法的 市の形とインフラ,エネルギー,経済の転換,社会 拘束力付のある制限も採択された.  地方成長戦略の作業と並行して,2003 年に 3 年 間のオークランド持続可能都市計画が開始された. 2006 年には,この計画の結果,8 つの地方自治体 (オークランド市,オークランド地方,フランクリ ン地区,マヌカウ市,ノースショア市,パパクラ地 区,ロドニー地区,ワイタケレ市)は,地域の最高 行政官のフォーラムの後押しを受け,中央政府と協 力して,長期的な持続可能性枠組みを策定した.当 初に START(オークランド地方を共に維持する) と呼ばれたこの取り組みは,変化の力(気候変動, グローバル資源の枯渇,人口動態の変化など)が オークランド地方にどのような影響を与えるのか, 図 3.33 オークランド地方の START のロゴ また地域・地方議会と中央政府はどのようにすれば 出典:ARC(2006). 事例調査ガイド:世界の Eco2 Cities ≫ 事例6 オークランド地方,ニュージーランド 223 図 3.34 多数のステークホルダーによる戦略策定(3 日間のシャレットワーク ショップの様子) 出典:ARC(2006). の発展,文化的多様性とコミュニティの連帯及び環 門知識や意見を出し合った.この手法は,バンクー 境の質――についてのテーマ別文書を作成した.各 バーの CitiesPlus モデルに大きな影響を受けたも グループは,持続可能性の 4 原則――復元力,繁 のである.このモデルでは,まずハイレベルの構 栄,住みやすさ,エコロジー――についてじっくり 想から出発して,取り組み課題や指標へと検討が と考えを巡らせ,未来を形づくる力によってどのよ 進められる.その進め方は,適応的管理アプロー うに影響を受けるかを考察した. チによって,将来の課題に対処できる復元力に富  これと関連しながら並行して進められた検討作 んだ都市計画の枠組みをつくり上げるものである 業 に お い て は, オ ー ク ラ ン ド 地 方 の 全 マ オ リ 族 (CitiesPlus 2002).ワークショップはシャレット (ニュージーランドの先住民)を代表する作業グ 方式で行われた.これは新しい設計アイデアを出し ループが独自の長期的共同枠組みとして,マナ・ 合って,短時間のうちに次々と進行するやり方であ フェヌア枠組みを作成した.この検討に参加したい る(図 3.34).参加者同士が対話しあい,幅広い関 くつかの作業グループでは,2 つの枠組みを連結さ 係者の能力を活用することによって設計課題を解決 せる作業が行われ,共通の基本構造,地域の将来を する方法である.シャレット方式は,とりわけ,地 決める力に関する文書とテーマ別文書を通じた共通 方自治体当局がコミュニティを計画に参加させるの 事項,全体枠組みの中でのマオリ族としてのゴール に効果的である.その成果は,たいていの場合,即 が分析・検討された.また,先住民の視点に立った 時に実行可能な具体的な計画として現れる. 持続可能性の理念が検討され,これは全体枠組みの 中での持続可能性の定義に組み込まれた 2.一方, ステークホルダーの協議と省庁間の調整 全体枠組みでは,マナ・フェヌアこそがこの地方に  START ワークショップ終了後のフィードバック 最初にいた民族であり,この地方の生態学的・文化 とより幅広い戦略的議論の結果,枠組みには以下を 的構造の不可分の要素であることが認められた. 盛り込むことが決定された.  2006 年 8 月 に 3 日 間 の START 設 計 ワ ー ク ショップが開かれ,関係自治体,中央政府,研究機 • 成り行き任せからの脱却を枠組みの重点項目と 関,コミュニティ,実業界から 120 名の代表が参 すること 加し,100 年間の枠組みの原案作成のために,専 • 統合的な目標,重要な方向性,先導役を果たす 224 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES ゴール,及びマオリ族の目標を追加すること クランド地方に与える影響を検証するためのツール • 青年代表団が策定したオークランド地方のビ を提供することが期待されていた.しかし,そのた ジョンの改訂版を採択すること めには,目標を達成するための手段と進捗を評価す • 指標セット原案を作成すること るための適切な指標についての詳しい理解が必要で • 枠組みを適用するためのプロセスとツールを開 あることも明らかであった. 発すること  ASF は,また,いくつもの地方戦略(例えば, 地方成長戦略,地方陸上交通戦略,オークランド地  議会職員から成る運営委員会にプロジェクトの監 方経済開発戦略など)をガイドし,調整する役目を 督を任せる管理・報告体制が定められた.この運営 果たすことになっている.したがって,枠組みの検 委員会のスポンサーは,枠組みを最終承認する権限 討プロセスは非常に包括的で,枠組み及び新しい取 を持つ最高責任者フォーラムであった.ステークホ り組みには多くの対話が組み入れられた.例えば, ルダーや一般市民との協議は,2007 年 2 月から 5 オークランド地方成長フォーラムは,地方全体にま 月にわたって行われた.19 回のワークショップが たがる議論を巻き起こし,共同の政治的意思決定を 開催され,約 200 人が参加した.また,数名の個 促し,指示と支援を行うための地方議会議員のレ 人と 4 団体,2 地方議会から意見書が提出された. ファレンス ・ グループを設置した.同様に,関係自 修 正 さ れ た「 オ ー ク ラ ン ド 持 続 可 能 性 枠 組 み 」 治体と中央政府は,幹部クラスの運営委員会と担当 (ASF)は,すべての参加自治体及び政府機関に 職員レベルの作業グループを結成した.協働のため よって承認された後,2007 年 9 月にオークランド の重要な課題は,中央政府と地方自治体の間の関係 地方成長フォーラムの承認を受けた.さらに 強化とガバナンスに関する内容の共通化であった. は,中央政府内でもハイレベルの支持を受けた. これは,政府の都市経済開発事務所が参加したため ASF の目標や構想は,今後求められる大きな方向 であり,持続可能なオークランドについての共通の 転換について,中央政府の優先順位とも合致してい 長期構想を両者共同で作成するという約束のせいで た(Box3.4).一方で ASF には,国の政策がオー もあった.  採択された最終枠組みは以下で構成されている . (図 3.35) Box 3.4 オークランド持続可能性枠組み(ASF)を方向づ • 持続可能性のためにオークランド地方が取り組 ける8つの目標 むべき重点課題  ASF は,8 つの相互に関連し合う長期目標により成 • 100 年間の構想 立している.これらの目標設定により,オークランド • 8 つの長期的目標 地方が持続可能な開発アプローチをとることができる. • 目標達成のために必要な 8 つの転換 目標1 公正で相互の結びつきのある社会 • 戦略的行動案 目標2 自分達に誇りを持つこと • 測定枠組み及びモニタリング ・ プロセス 目標3 他に類を見ない卓越した環境 • さまざまな戦略,重大な決定,計画に対して枠 目標4 イノベーションを通じた繁栄 目標5 Te puawaitanga o te tangata 組みを適用し,地域計画を統合するためのツー (自立したマオリ族コミュニティ) ルキット 目標6 良質でコンパクトな都市の形態 目標7 強靭なインフラストラクチャー  枠組みの役割は以下のとおりである. 目標8 効率的で協調性のある指導者層 出典:RGF(2007). • 地方成長戦略,地方陸上交通戦略,オークラン 事例調査ガイド:世界の Eco2 Cities ≫ 事例6 オークランド地方,ニュージーランド 225 100 年間のビジョン 目標 戦略的な対策 持続性の課題 転換 実施 図 3.35 オークランド持続可能性枠組み ド地方経済開発戦略などの既存の地方戦略及び 成功の鍵 プロジェクトを調整する • 将来の地域戦略及びプロジェクトを調整する 仲間の拡大 • 単一の地方計画(ワン・プラン(次の節を参照  プロセスは全体として,政治及び行政レベルにお のこと))の策定をガイドする いて大勢の参加を生み出し,生み出された枠組みは • 例えば地方議会のコミュニティ投資 10 年計画 全関係者によって共有されている.しかしながら, などの自然体シナリオに対応するための方法を ASF が採択された後,地方及び国の政治的代表の 提供する 構成は大きく入れ替わっている.多くの新議員は枠 • 持続可能性の目標を達成するために実施し 4 組みの作成には関与しておらず,中央政府は持続可 なければならない戦略的取り組みを明らかにす 能性の概念を再定義し,天然資源管理というより狭 る い概念に作り変えてしまった.    しかし,その一方で,ASF はワン・プランと呼  ASF は「我々の地方自治体と中央政府機関が共 ばれる共同投資計画や,マヌカウ市議会の「戦略枠 通の目的を持って協働し,真に持続可能な地域をつ 組み 2060」やワイタケレ市議会の社会戦略などの くるための取り組みに関係するチャンスを積極的に 一連の地域議会の計画作成に利用された. 利用しつつ,課題に取り組めるよう,必要な指示を 与えてくれるであろう」(ARC 2008). 思考の拡大   枠組み,とりわけ参加プロセスは,以下のト 226 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES ピックに関連して,多くの参加者の思考を広げる役 である.これらのグループを参加させるためには, 目を果たした. 特別なプロセスが必要かもしれない.というのも, 彼らは公開の会議への出席には積極的でないことが • 世界及びオークランドは今後 50 年間において 多いからであり,とりわけ効率的なプロセスを要求 急激な変化を経験することになるが,この変化 しているからである. に備える時間は限られていることを認識する  ASF の採択後,オークランド地方は新しく決め • 多くの旧態依然のやり方は変更又は廃止しなけ られた優先事項に素早く焦点を当てることになっ ればならないことを認識する た.その結果,枠組みのうちの 1 つの構成要素― • 特にマオリ族の視点を取り入れることで,持続 ― 心 を つ か む ―― は 進 歩 し て い な い( 図 3.35). 可能な開発の意味を理解する 「心をつかむ」は,議員,主要スタッフ及びステー • マナ・フェヌア枠組みを策定する クホルダーが ASF の作成を通じて経験した社会的 学習の重要性を認識するものである.これらの主要  関係を保ちながらも,マオリ族の枠組みを別に作 な意思決定者や一般市民の間で,持続可能性の実現 成することで,マオリ族のための長期的計画がマオ に伴う課題及び解決策についての継続的な対話や教 リ族によって実行されることが保証された.世代と 育が求められる. いうものについての先住民の理解の深さや,環境と  ASF が基本的枠組みとして採択されたものの, 人の関係を総体的かつ精神的に理解する仕方は,マ 計画や戦略策定のために達成に努力を要する困難な ナ・フェヌア枠組みの中で完全に実現されており, ターゲットが登場する事態にはまだなっていない. ASF に基づく思考に挑戦し,その歪を正すのに役 同様に,公共部門の意思決定のための最終基準ライ 立った.  ンも設けられていない.このような要素が欠けてい れば,ASF は一部の関係者には有益なツールであっ ても,それ以外の者には無視されかねない.中央の オークランドの事例から得られる教訓 新政府はオークランド地方の 8 つの地方自治体を  ASF の作成プロセスにおいて,十分にその意見 再編し,単一の議会にまとめようとしている.この が代表されなかったと考えられるグループが 2 つ 新しい議会が ASF を基本的な地域枠組みとして採 ある.ビジネス界の代表と,最終的には ASF に基 用するか否かは現時点では明らかでない. づいて戦略や活動を実行することになる開発事業者 事例調査ガイド:世界の Eco2 Cities ≫ 事例6 オークランド地方,ニュージーランド 227 注 1. ニュージーラン オークラン ド政府は, ド地方政府の再編を 行っているところである.既存の7つの市・地区議会と1つ の地方議会を1つのスーパー議会に統合するととも 20~30のローカルな運営委員会をつく に, る計画である. 2. 地域計画のプロセスとその結果についての批判も含め た分析についてはFrame (2008)を参照のこと. 参考文献 RC (Auckland Regional Council). 2006. “A Workshop to Design the Auckland Region’s Future: Summary of Proceedings.” Auckland Regional Council, Auckland, New Zealand. http://www.arc.govt. nz/albany/fms/main/Documents/Auckland/ Sustainability/START%20workshop% 20report.pdf . ———. 2008. “Auckland Sustainability Framework.” Auckland Regional Council, Auckland, New Zealand. http://www.arc.govt.nz/auckland/sustainability/ auckland-sustainability- framework.cfm. CitiesPlus. 2002. “Canada’s 100-Year Plan for a Sustainable Region.” CitiesPlus, Vancouver, Canada. http://www. citiesplus.ca/index.html. Frame, Bob. 2008. “‘Wicked,’ ‘Messy,’ and ‘Clumsy’: Long-Term Frameworks for Sustainability.” Environ- ment and Planning C: Government and Policy 26 (6): 1113–28. RGF (Regional Growth Forum). 2007. “Auckland Sustainability Framework. An Agenda for the Future.” Auckland, New Zealand. http:// www.aucklandoneplan.org.nz/auckland- sustainability-framework/sustainability- concepts-and-challenges/sustainability- concepts-and-challenges_home.cfm. 228 索引 ■数字・欧文先頭 19 世紀型モデル 31 Timothy Beatley 43 BRT(バス・ラピッド・トランジット)システム 174, 175 Waste Concern 26 CitiesPlus モデル 223 ■あ行 CommunityViz 144 アトランタ市 76 アーバイン市(カリフォルニア州) 120 DSM(Demand-Side Management)→「需要管理」 「 ,需 水のフロー 130 要調整」も参照 メタ図とサンキー図 128 住宅と業務用ビルの場合 66 雨水管理 94 空間システム 67 統合的な―― 75 アメリカ Eco2 v, xii アーバイン市 (カリフォルニア州) → 「アーバイン市」 ――に適した勘定枠組み 98 を参照 触媒プロジェクト 88, 105 サンディエゴ市(カリフォルニア州) 120 分析・運用枠組み 2 ヒューストン市(テキサス州)→「ヒューストン市」 4つの原則 32 を参照 ロサンゼルス市(カリフォルニア州) 79 Eco2 Cities xii アールボルグ憲章(Aalborg Charter) 56 Eco2 Cities イ二シアティブ x, iii, xi, 107 現実の世界に適用する xii 試金石 110 イギリス 定義する重要な原則 3 ロンドン→「ロンドン」を参照 目的 ix 意思決定支援システム(DSS : Decision Support 4原則 x System) vii, 39, 89, 112 Eco2 アプローチ 意思決定支援の方法 93 基盤 6 一方通行型階層構造 70 ボトムアップの行動 45 イニシアティブが実施されない理由 30 Eco2 イニシアティブ 32 インド 1つのありうべきモデル 48 グジャラート州 87, 89 動機となっている考え方 43 グジャラート州の災害予測地図 140 Eco2 都市 x ゴア市における持続可能な都市デザイン 82 最終ゴール 119 バンガロール市 85 プーナの近くに計画されたニュータウンの開発計画 G30 アクションプラン(横浜市) 208 の指針 134 GDP に占める都市の割合 14 インフラシステム GIS(Geographic Information System)→「地理情報 ――のための共同溝 75 システム」を参照 持続可能性 76 地域分散型 141 GIS アプリケーション 137 設計・管理 64 インフラ施設 80 ICLEI(持続可能性をめざす自治体協議会) xi ライフサイクルコスト 5 老朽化による更新費用 159 LCC →「ライフサイクルコスティング」を参照 ウォーターギー (watergy) 66 RETScreen クリーンエネルギー・プロジェクト分析ソフ 運賃制度 67 トウェア 159 距離に基づいた 199 感度とリスク分析ワークシート 161 運転・維持コスト 37, 94 財務サマリーの一例 160 ライフサイクルコスティング 93, 94 財務分析ワークシート 160 横浜市のごみ焼却工場における削減 19, 211 排出分析ワークシート 160 RGS(regional growth strategy)→「地域成長戦略」を エコシティ xi 参照 エコロジカルデザイン 102 戦略 103 START(オークランド地方を共に維持する) 222 エコロジカル・フットプリント 96, 129 ワークショップ 223 索引 229 水のフロー 97 事例 2 エネルギーインフラ 97 拡大協働プラットフォーム 55, 58, 59 革新的な―― 74 拡大プラットフォーム 3, 32 エネルギー資産マップ 141, 143 協働のための―― 35 エネルギー・システムに関する 2 つの極端な例 71 協働で行うデザインと意思決定のための―― 4 エネルギー使用に関するシナリオ(中国の上海市金澤) 131 共働によるデザインと意思決定のための―― 34 原則 51 エネルギー使用量 3つのステージ 34 34 スコーミッシュ(カナダ) 135 スウェーデンにおける新規開発事業 20 拡張可能性 103 ハンマルビー・シュースタッド 163 拡張された会計枠組 96 エネルギー政策(シンガポール) 203 拡張性 113 エネルギーと水の統合 72 河川浄化(シンガポール) 204 エムフレニ市(南アフリカ) 23, 64 カナダ ヴィクトリア州ドックサイド市 82 ウィスラー 134 『欧州アウェアネス・シナリオ・ワークショップ』 165 オタワ市 119 欧州科学技術協力(European Cooperation in Science and オンタリオ州南西部 75 Technology) 97 スコーミッシュのエネルギー使用 135 オークランド地方 221 スコーミッシュの風力エネルギーシステム 160 START(オークランド地方を共に維持する) 222 ハミルトン市 94 「心をつかむ」 226 バンクーバー市 72 成功の鍵 225 フォート・セント・ジョン市 94, 95, 150 マナ・フェヌア枠組み 223 フォート・セント・ジョン市のライフサイクルコスティ オークランド持続可能都市計画 222 ング 159 オークランド持続可能性枠組み(ASF) 224, 225 カーボンニュートラル 120 8つの目標 224 カーボン・ファイナンス・ユニット 109 オークランド地方成長フォーラム 221 カリフォルニア州ロサンゼルス市 79 オークランド都市域 55 下流システム 164 オーストラリア カルソルペ,ピーター(Peter Calthorpe) 54 ブリスベン市(→「ブリスベン市」を参照) 215 環境影響定量化のための拡大アプローチ 96 オートン家族財団 144 環境会計 147, 162 オーバーレイマッピング(→「地図の重ね合わせ」も参照) プロジェクトの―― 148 137 ライフサイクル 148 オレンジパイロット 26 環境経済都市 x 温室効果ガス 2, 17, 26, 81, 116 環境資産 ix 気候投資基金 109 都市に提供するサービス 44 クリーン開発メカニズム(CDM : Clean Development 環境的便益 Mechanism) 108 廃棄物削減による―― 209 クリティバ市 175 環境都市 ix ストックホルム市 185 排出量の推定 160 環境負荷プロファイル(ELP) 96, 162 ブリスベン市 215 計画プロセス 163 横浜市 207, 212 ストックホルム市 185, 191 ハンマルビー・ショースタッド 163 環境負荷ライフサイクルアナリシス(LCA) 21 ■か行 環境面と経済面での持続可能性 38 階層化 80 時間 80 感度分析 101, 161 地域成長センター 121 官民協力(PPP : Public-Private Partnership) 31 階層型デザイン 80 外層プラットフォーム 54 規格型住宅団地(トラクト・ハウス) 131 開発指標 気候投資基金(Climate Investment Fund) 41, 109 持続可能な―― 100, 105 気候変動 iii, 17, 45, 105, 175 開発政策 ――イニシアティブ 120 シンガポールにおける高密度―― 198 ――の影響 17 包括的な持続可能―― 185 ストックホルム市の行動計画 186 開発政策融資 108, 109 ブリスベン市(オーストラリア)の取り組み 215, 219 予測ワークショップ 167 開発哲学 39 技術援助 107, 108 開発途上国 194, 219 都市化 13 既成市街地の問題 18 開発プログラム 32, 39 基礎情報収集 119 都市を支える―― 43 キャパシティ・ビルディング→「能力形成」を参照 外部効果 44, 100 キャンペーン活動 24, 25, 50 都市化がもたらす―― 18 クリティバ市 178 外部資金 96 横浜市 209 革新的都市 x, 37 供給主導型アプローチ 68, 70 230 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 供給の予測 165 グローバルコモンズ 15 行財政の地方分権化 3 協働 55 計画プロセス 6, 53 ステークホルダーの政策 84 環境負荷プロファイル 163 中層レベルの―― 54 支援 112 デザインと意思決定のための拡大プラットフォーム 4, 分野横断的 137 34 3つのシステム 163 協働委員会 117, 124 計画枠組みの調査段階 120 協働意思決定プロセス 59 経済的便益 協働事業 115 クリティバ市のアプローチ 171 協働のための拡大プラットフォーム 35 シンガポールのアプローチ 198 ブリスベン市のシティスマート・プログラム 215 協働プラットフォーム(→「拡大協働プラットフォーム」も 横浜市の廃棄物削減 211 参照) 32 公式的な―― 54 経済都市 ix 重要事項 52 経路依存性 18, 171 中層における―― 53 下水道システム 67, 82 協働プロセス 52 シンガポール 200 オークランド市 55 大深度トンネル 201 コアチーム 118 ハンマルビー・モデル 190 3段階 118 ゲッズ,パトリック(Patrick Geddes) xi 協働モデル 116 現状維持シナリオ 68 協働ワーキンググループ 115, 117 建設 147 巨大工業技術システム 31 建築資材 189 距離に基づいた通し運賃制度 199 近自然造園 33 コアシステム 164 金銭勘定には表されない多様な危険 38 公共交通 25, 37, 75, 117 近隣住区での触媒プロジェクト 121 クリティバ市 22, 171-175, 183 シンガポール 197, 199 ストックホルム市 187 空間開発 76 ブリスベン市 217, 218 空間計画 73, 149 公共建物のコスト 94 空間システム 67 公共投資 94, 164 国の 4 つの蛇口 200 公共部門 116 国の役割 48 洪水制御エリア 177 クリーン開発メカニズム(CDM : Clean Development 洪水氾濫対策も対象とした土地利用計画 79 Mechanism) 108 高速道路ロビー 30 グリーン・ハート・シティスマート・プログラム 215 交通関連のエネルギー消費 78 グリーンフィールド 187 交通計画 53 グリーン ・ ライン 182 ――と一体化した革新的土地利用計画 172 クリティバ市 vii, 21, 35, 178 シンガポール 198 BRT システム 175 交通システムの採算性・実行可能性 77 温室効果ガスの排出量 175 革新的なバス・システム 171 交通政策 199 公共交通の利用割合 22 交通問題 24 固形廃棄物管理 178 行動重視のネットワーク 44 「ゴミはゴミでない」プログラム 178 高密度開発政策 172, 182, 198 三重構造の道路システム 173, 174 公共サービス 53 自然の排水システム 79, 177 恒久性に対する幻想 86 市民ボランティア 58 成功の理由 183 国際金融公社(The International Finance Corporation) 大都市圏史跡計画 181 49, 109 ダウンタウン地区 172 国連人口基金 15 統合的な都市計画 171 国連人間居住計画(UN-Habitat) 16 「都市の色(Coresda Cidade) 」プロジェクト 181 固形廃棄物管理 109, 178 7 つの主要なアプローチ 171 「心をつかむ」 226 バスの運行範囲 173 コストに関する議論 149 「緑の交換」プログラム 179 最も重要な決定 22 国家助成プログラム リサイクル・プログラム 179 スウェーデン 192 緑地の強化と洪水制御 176 国家的な Eco2 基金プログラムの設立 48 クリティバ市都市計画研究所(IPPUC : The Institute for 「ゴミはゴミでない」プログラム 178 Research and Urban Planning of Curitiba) 23, 171 コミュニティインフラ計画用ライフサイクルコスティング・ クリティバ・マスタープラン 183 ツール 149 グループの権限を越えた幅広い枠組み 56 コミュニケイティブ・プランニング(対話型計画づくり) 165 クローズドループシステム 69 コミュニティインフラ計画におけるライフサイクルコスティ ング 149 索引 231 コロケーション(施設の連結配置) 80 持続可能性と復元力への投資 93 コンドン,パトリック(Patrick Condon) 124 持続可能性と復元力を重視した投資枠組み 5, 37 コンバーター 128 持続可能性指標 25 コンピューターを使った地理情報システム(GIS: 持続可能な都市インフラ 116 Geographic Information System) 137 評価,ツールと優良事例(Towards Sustainable Urban infrastructure: Assessment, Tools and ■さ行 Good Practice) 98 再開発 86 持続可能なオークランド 55 災害予測地図(ハザードマップ) 140 持続可能な開発指標 100 財源を見つける最善の方法 24 持続可能な開発に向けた取り組み 66 最終ゴール 119, 120 持続可能な開発に向けた省庁横断委員会 198 再生可能エネルギー 135 持続可能な近隣住区 概念計画 150 再生可能エネルギー源に関する地図の重ね合わせ 143 コストと価値 154 財政的リスクの管理 101 シナリオ 150 サプライチェーン 103 シナリオの比較分析 157 散逸構造 128 プラン 95 3階層のプラットフォーム 39 持続可能なシンガポール青写真 203 サンキー図 127, 128 持続可能な都市開発へのアプローチ 186 カリフォルニア州アーバイン市の基本的な水のフロー 持続可能な都市デザイン 130 インド / ゴア市 82 転換 137 持続可能な都市プログラム 165 サンキー・ダイアグラム 8, 65 持続可能な発展 99 三重構造の道路システム 173, 174 湿式コンポスト施設 80 参照建築の監査によるメタ図の作成 136 実施要領(プロトコル) 96, 97 3層のプラットフォーム 52 シティスマート・プログラム 215 自動車 57 視覚化ツール 127 ――のための最適化を目指す計画プロセス 53 時間的実施順序に関する指針 81 空間計画 77 時間による階層化 80 クリティバ市の三重構造道路システム 174 時間の輪 82 車両割当制度 199 渋滞税 117 市議会 47, 100 代替となる交通手段 66, 77, 86, 176, 199, 218 ストックホルム 20, 189 乗り入れ禁止地区 171 ブリスベン 215, 217 補助金 24 資金援助 指導者の交代 34 世界銀行からの―― 108 シナリオのコストと価値の分析 152 資金源 49, 108 指標 100 時系列的実施 81 作成のポイント 102 資源のカスケード利用 68 選択 105 資源の効率的な利用による経済的便益 211 指標を利用した目標設定 100 資源フロー 65 資本 x, 2 ――の統合 64 人材―― 14 ロンドン 97 4種類の―― 6 資源フローと都市の形に関する分析方法 6 資本勘定 95 施策の矛盾 85 資本コスト 154 システム シナリオによる違い 157 頑健さ 102 増加 159 適応力 102 横浜市における削減 208 システム設計シャレット 124 資本資産 38 システム的思考 36 Eco2 触媒プロジェクトの実施による資本資産の保護・ システム的な見方 36 強化と脆弱性の低減 105 施設の連結配置 80 都市における監視 100 保護と強化 99 自然システムの価値 44 自然資本 2, 32, 33, 44, 69, 96, 99 資本費用 達成度指標 100 クリティバ市における洪水対策 22 市民へのサービス 76 自然(の)生態系 36, 69, 83, 104 直ちに必要となる 37 ――が持つ可能性と制約 44 横浜市における節約 19 自然の排水システム 79, 177 市民の協力 212 持続可能性 37 社会関係資本 99, 148, 167 ――をめざす自治体協議会(ICLEI) xi 社会資本 99, 101 環境面と経済面での―― 38 スウェーデンの優良事例 20 車両割当制度 199 持続可能性と復元力のための長期的な計画枠組み 60 シャレット vii, 90 232 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES オークランド地方 223 事例から得られる教訓 204 システム設計 124 水道料金 202 設計シャレット 150, 165 大気汚染対策 203 地域システム設計における実施 122 統合的都市計画 201 地域設計 125 統合的な水資源管理戦略 68 シャレット方式 223 土地利用計画 198 上海(→「中国」の項目も参照) 15 廃棄物管理 203 水資源管理 199 収益の無い水 201 水資源の包括的な管理 197 19 世紀型モデル 31 緑化 204 集水管理 200 シンガポール環境計画 2012 202 ブリスベン市 218 シンク 128 渋滞 人口減少 16 ――に起因する燃料 ・ 時間の損失額 175 ――1 人当たり損失額 175 人工資本 14, 99-101 地域免許制による緩和 199 人口統計 14 バスシステムによる緩和 171, 218 信念ネットワーク 166 浪費される燃料 22 渋滞税 117 水道管交換事業 95 集中型システム 71 スウェーデン 48 柔軟性 103 国家助成プログラム 192 集約ツール 136 ストックホルム市(→「ストックホルム市」も参照) 需要管理 30, 131 120, 185 サービス 67 ストックホルム市ハンマルビー・ショースタッド 187 水資源 202 地域投資プログラム 48 地方投資助成プログラム 193 需要調整 64 ストックホルム市 108 インフラ 76 サービス 79 スコーピング 118 ピーク―― 67 スターン・レビュー(Stern Review) 17 需要と供給の統合 64 ストックホルム市 19, 35 需要予測 141 環境負荷プロファイル 185, 191 ――に合わせて供給するアプローチ 53 国家レベル 192 地理利用に関する能力を強化 165 持続可能な都市開発へのアプローチ 186 事例から得られる教訓 194 循環 69 成功の要因 185 ――的な資源利用 69 開発戦略 187 ハンマルビー・モデルによる資源管理 185 ハンマルビ-・ショースタッド 20, 69 循環の輪 70 ビジョン 2030 186 循環的利用 包括的な土地利用計画 187 シンガポールにおける水資源管理 68 ハンマルビー・ショースタッド・プロジェクト 163 複数のインフラにまたがる 69 ストックホルム・ローヤル・シーポート 193 準備基金 95 スプロール化のコスト 75 消費者 117 スペイン 将来予測 56 バルセロナ市の空間的レイアウト 76 上流システム 164 スマートシティ・プログラム 17 触媒プロジェクト xi, 40, 48, 60, 83, 105, 121, 122 スマートな土地利用 72 Eco2 88 スラム 15 近隣住区での―― 121 改善 86 食用菜園 33 クリティバ市 177 事例から得られる教訓 クリティバ市における「緑の交換」プログラム 179 オークランド 226 工場 16 シンガポール 204 発展途上国 16 ストックホルム市 194 ブリスベン市 219 成功事例 2 横浜市 212 地域成長戦略 120 シンガポール 197 成功の理由 エネルギー政策 203 クリティバ市 183 河川浄化 204 ストックホルム市 185 環境的アプローチ 202 政策の推進 環境の質の維持 202 タイプの異なる統合戦略の実施を可能にする 82 交通計画 198 交通政策 199 政策をカテゴリーごとに分類して示すマトリックス 122 高密度開発 197 成績(パフォーマンス)の評価 148 高密度開発政策 198 成績評価指標 148 持続可能なシンガポール青写真 203 生態系 ix, 4, 33, 36, 59, 69, 79, 99, 104, 122 車両割当制度 199 ――資源のマッピング 141 住宅 204 人工的に作られた―― 119 索引 233 生態系サービス 59, 97, 99, 100 地域暖房システムの負荷曲線 67 生態系資産 32, 37 地域チャンピオンの発掘 47 生態系資産と緑地インフラを都市デザインの中に組み入れる 地域の自然生態系が持つ可能性と制約 44 方法 23 地域分散型のインフラ・システム 141 生態工学(エコエンジニアリング) 79 地域免許制 199 制度的な障害 30 地域冷暖房 191 生命体としての都市 33 地球環境ファシリティ(GEF : Global Environment 世界銀行 iii Facility) 109 カーボン・ファイナンス・ユニット 109 地球的公共財 15 国際金融公社(The International Finance 知識共有 107 Corporation) 109 地図 8 資金援助 108 災害予測 140 世界銀行グループ 108, 109 情報の重ね合わせ 65 世界保健機構(WHO) 17 複合リスク 140 責任の分散 30 地図情報システム(GIS : Geographic Information System) セクターにまたがる統合的なアプローチ 66 vii 設計シャレット 165 地図の重ね合わせ 137, 141 設計ワークショップ 124 再生可能エネルギー源に関する―― 143 選挙による制約 34 実際の価値を求める 139 分析 76 全費用回収(フルコストリカバリー)の原則 64 問題 141 専門横断的プラットフォーム 8, 65 リスク・アセスメント用 142 戦略的地域計画 59 チャンピオン 39 線路敷設権 80, 81 中間目標 120 中国 総合設計 124 沿海部 15 総合的設計ワークショップ 139 山東省日照市 72 総合的な費用対便益分析 95 上海周辺の郊外の新しい規格型住宅団地(トラクト・ハ 創造性ツール 165 ウス) 131 上海市における衛生システムとエネルギーシステムの ゾーニング・カテゴリー 173 統合 81 上海の金澤(ジンツォー)の自治体におけるエネルギー ■た行 使用に関するシナリオ 131 大気汚染 17 金澤(上海)のメタ図 132 クリティバ市 22, 175 都市部の大気汚染 17 シンガポールにおける対策 203 日照市 72 耐久性 103 中層プラットフォーム 53 大深度トンネル下水道システム 201 中層レベルの協働 54 タイ / バンコク 15 長期的な計画枠組み 39, 55, 118 太陽エネルギー 長期的な地域計画 124 中国日照市 72 地理情報システム 108, 144 ハンマルビー・モデル 191 コンピューターを使った 137 太陽エネルギー・システム 72 多機能土地利用 97 低密度近隣住区 150 多極分散型 54 適応的管理(順応的管理) 104 多重性 103 ――アプローチ 223 都市システム 103 適応力 103 多重的危険リスク分析評価地図(マルチハザード・リスク・ 『デザイン・ウィズ・ネーチャー』 137 アセスメント・マップ) 140, 142 デザインと意思決定を協働で行うための強力なプラット 脱塩水 201 フォーム 35 ダッカ市(バングラディシュ) 26 デザイン評価マトリックス 98 達成度指標 100 データが不足している場合のメタ図の作成 134 自然資本 100 データ収集フォーム 136 選択 104 データのレイヤリング 140 達成度評価指標 133 田園都市 xi 建物のライフサイクル 148 転換可能性 103 多面的機能 72 典型的なインフラのイフサイクルコスト 37 電子料金システム 199 地域システム設計シャレット 122 電力消費量 地域成長センター 121 アメリカの1人当たり 24 地域成長戦略(RGS:Regional Growth Strategy) 59, 120 ブリスベン市 215 成功事例 120 地域設計シャレット 125 ドイツ / フライブルグ市 79, 86 234 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 東京 発展途上国 25 中央区における学校建設向け準備積立基金 96 発展を引き起こす要因 14 水道 95 複雑さに対処 147 統合化 36 2つの課題 18 オーバーレイ・プロセス 140 都市域 59 公益事業の運営 36 長期的計画枠組み 55 ワンシステムアプローチ 36, 198 都市化 iii, 1, 5, 14 統合型の土地利用に関するライフサイクルコスティング 新たに進行している地域 85 149 開発途上国 13 統合化のベネフィット 36 現状のまま進行 17 統合的 持続可能な―― 43 アプローチ 32, 34, 66, 83 発展途上国 1, 18 雨水管理 75 貧困削減 15 解決策 30 都市開発 環境問題の解決策 189 経路依存性 171 クリティバ市の都市計画 171 ブリスベン市 217 公共交通システム 175 土地区画整理事業 87 実施方法 81 都市部の貧困層 117 シンガポールの都市計画 197 都市計画 30 ストックホルム市における都市計画 185 都市建設に対する広域的アプローチ 54 デザイン・ソリューション 45 デザイン手法 90 都市交通計画 53 都市計画(クリティバ市) 171 都市後背地の人口減少 16 水資源管理戦略 68 都市生態系 69 統合的管理 都市内の緑地 37 物質と廃棄物 74 都市内貧困 15 統合的都市計画 都市の安全性 クリティバ市 171 分散型システム 103 シンガポール 201 「都市の色(Coresda Cidade) 」プロジェクト 181 投資 9, 14, 49, 64 都市の形(Form) vii 供給主導型のアプローチ 68 都市の形と資源フロー 計画の立案方法 147 一体化 73 持続可能性と復元力 5, 93 統合 65 世界銀行による―― 109 セクターをまたぐ横断的な―― 45 都市プロフィール 119 段階的 81 都市ベースのアプローチ xii, 3, 32, 43 能力形成 113 ボトムアップ 45 投資還元の機会 26 都市ベースの意思決定支援システム 6, 45, 49 投資戦略の枠組み 3, 32 土地区画整理 87 投資枠組み 土地プール化 87 持続可能性と復元力を重視した―― 5, 37, 93 土地利用計画 目的を実現するのに適した―― vii クリティバ市 22, 36, 44, 74, 76 透明性 113 洪水氾濫対策も対象とした―― 79 特定投資ローン 108 交通計画と一体化 172 シンガポール 198 独立した計画研究所 (the Institute for Research and Urban 地図の重ね合わせ 141 Planning of Curitiba) 35 都市 164 都市 33 包括的な―― 187 ――キャパシティ・ビルディング 143 土地利用における需要予測能力 165 ――中心の伝統的な考え 44 ――の活動 34 トップダウンによる支援 45 GDP に占める割合 14 トップダウンのデータ 134 インフラシステムの維持 94 ドナー機関 108 インフラの老朽化による更新費用 159 トラクト・ハウス(規格型住宅団地) 131 インフラ用のライフサイクルコスティング 149 居住する世界人口 14 ■な行 経済生産に占める割合 1 時間的な次元 15 内層プラットフォーム 52 資源フロー(Flow) vii システムの多重性 103 西海岸環境法(West Coast Environmental Law) 73 持続可能性 54 二次的資源利用価値 69 成績(パフォーマンス)を全体的な評価 148 日照市(中国) 72 成長を決定づける要因 14 日本 生命維持システム 69 東京→「東京」の項目参照 生命体としての 33 横浜市→「横浜市」の項目参照 土地区画整理 87 土地プール化 87 ニューウォーター 201 ニュージーランド 120 索引 235 オークランド地方(→「オークランド地方」の項目参照) 221 ピーク負荷調整 67, 84 オークランド都市域 55 比較分析 人間資本 99, 100 コストと価値 157 人間の持つ惰性 31 持続可能の近隣住区シナリオ 157 (横浜市) 186 「ビジョン 2030」 ネットワーク 45 ビジョン・ステートメント 119 ヒューストン市(テキサス州) 76 農村・自然地域 59 市中心部の航空写真 77 農村部人口減少 16 費用対効果分析 24, 37, 96 能力強化政策 45 費用対便益分析 96 能力形成(キャパシティ・ビルディング) 7, 49, 107, 108 貧困層 計画 112 クリティバ市 178 ツール 113 都市化 15 能力建設 45 都市部の 117 都市 143 バングラデシュのダッカ市 26 ノード(結節点) 70 ノードとネットワークの統合から得られるベネフィット 71 風力エネルギーシステムの財務サマリー 160 フォルタレザ(ブラジル北部) 66 ■は行 負荷曲線 地域暖房システム 67 廃棄物 クラスター・マネジメント 70 不確定分析(contingent analysis) 165 ハンマルビー・モデル 190 復元力強化の計画 164 フロー 210 復元力を強化するデザイン 103 廃棄物管理 19 複合リスク地図 140 クリティバ市 178 副次的生産物 147 シンガポール 203 複数のインフラにまたがる多段的・循環的利用 69 横浜市 207 2つの「エコ」 vi 廃棄物削減 融合・統合 vi 環境的便益 209 物質と廃棄物の統合的管理 74 経済的便益 211 物質フロー分析 8, 65 排出分析ワークシート 160 ブラウンフィールド 187 パイロットプロジェクト 121 ブラジルのクリティバ市(→「クリティバ市」の項目参照) パキスタン 79, 171 カラチ市におけるオレンジパイロット 26 プラットフォーム バス・システム 外層 54 革新的な―― 171 3層の 52 高速輸送 218 中層 53 パターン・ランゲージ 130 デザインと意思決定を協働で行うための強力な 35 「エコロジカル」パターン 131 内層 52 「現代的」パターン 131 ブリスベン気候変動・エネルギー対策計画 215 「伝統的」パターン 130 メタ図 131 ブリスベン市 グリーン・ハート・シティスマート・プログラム 215 バックキャスト 57 公共交通機関 218 発展途上国 シティスマート・プログラム 17, 215 スラム 16 集水管理 218 都市 vi, 25, 30 電力消費量 215 都市化 1 都市開発 217 パラダイムシフト 122 3 つの主要課題 215 バルセロナ市の空間的レイアウト 76 ブリスベン都市再生(Urban Renewal Brisbane) 217 ハワード,エベネザー(Ebenezer Howard) xi フルトン,ウィリアム・B(William B. Fulton) 54 バングラデシュ / ダッカ市 26 プロジェクト ハンマルビー・ショースタッド(ストックホルム) 69, 187 環境会計 148 エネルギー効率 189 コストを評価する枠組み 98 プロジェクト・チーム 21 プロジェクト管理 ハンマルビー・ショースタッド環境プログラム 163 ストックホルム市 192 ハンマルビー・モデル 20, 185, 189, 190 プロトコル 96 建築資材 189 プロファイリング 119 上下水道 190 文化的資本 99 電力(太陽エネルギー) 191 分散型エネルギーシステム 71 地域冷暖房 191 バイオガス 190 分散型システム 70, 71 廃棄物 190 都市の安全性 103 緑地 190 分散型排水処理システム 74 236 ECO2 CITIES: ECOLOGICAL CITIES AS ECONOMIC CITIES 分析と運用の枠組み x, 6 データが不足している場合に作成する 134 Eco2 の 2 トップダウンのデータ 134 ニューデリーの水のフロー 128 ベネフィット viii パターン・ランゲージ 131 Eco2 への道へ参加 59 プーナ(インド)の近くに計画されたニュータウンの開 供給と需要の統合 66 発計画の指針 134 協働 53 ボトムアップのデータ 134 クリーンな水へのアクセス 66 循環的な資源利用 69 目標設定 ステークホルダーへの―― 60 オークランド持続可能性枠組み 224 統合化 36 指標を利用した 100 都市が持つ―― 14 モジュール性 113 ノードとネットワークの統合から得られる 71 モニタリング 52, 105 分散型エネルギーシステム 71 ――のための総合的アプローチ 104 ハンマルビー・ショースタッド環境プログラム 163 放射線型の都市成長 172 モンテカルロ分析 102 方法論的多元主義 118 歩行者用道路 73 ■や行 ホーチミン 15 輸入水 201 ボトムアップアプローチ 135 ボトムアップからの取り組み 44 横浜市 19, 35, 64, 207 ボトムアップの解決策 45 2008 脱温暖化行動方針 212 ボトムアップのデータ 134 CO-DO30 212 G30 アクションプラン 208 キャンペーン活動 209 ■ま行 ごみ排出量削減 19 マオリ族の枠組み 226 資源の効率的な利用による経済的便益 211 マクハーグ,イアン(Ian McHarg) 137 ステークホルダー関与による環境面での成果 208 マスク法 150 廃棄物削減の成功の要因 207 基本的な低密度シナリオ 151 廃棄物削減の便益 209 マテリアルフロー分析 127, 147 廃棄物のフロー 210 マトリックス 98, 136 ヨコハマ G30 プラン 19 政策をカテゴリーごとに分類して示す 122 横浜市 3R プログラム 207 デザイン評価 98 予測ワークショップ 164, 165, 166 水フローに関するサンプル 139 4つの Eco2 原則 32 マナ・フェヌア枠組み 223 4種の資本の方法 99 マニラ 15 マルチ・ドナー・ファシリティ 109 ■ら行 マルチハザード・リスク・アセスメント・マップ(多重的危 ライフサイクルコスト 40, 93, 94 険リスク分析評価地図) 140 1世帯当たり年間 152-158 典型的なインフラ施設の 5, 37 水資源管理 ライフサイクルアセスメント(LCA) vii 集水管理 200 ライフサイクル環境会計 148 需要管理 202 シンガポール 68, 197, 199 ライフサイクルコスティング(LCC) 40, 93, 147, 148 アウトプット 150 水循環 218 コストと価値の比較分析 157 水の流れ(フロー) コストとキャッシュフローの理解 105 一般的なマトリックス 139 コミュニティインフラ計画 149 標準化されたデータ 138 事例研究からの考察 158 緑のインフラ 33, 79, 119 単独のインフラ施設の場合 159 「緑の交換」プログラム 179 統合型の土地利用 149 南アフリカのエムフレニ市 23 都市インフラ用 149 民間部門 116 ライフサイクルコスト分析システム vii メガシティ 14 リコンバーター 128 メタ図 127, 128 リスク・アセスメント 101, 148 エネルギー 134 ――用の地図の重ね合わせ 142 カリフォルニア州アーバイン市 128 リスク管理 6, 101 組み合わせ 133 財政的 101 作成アプローチ 135 積極的な―― 101 参照建築の監査による作成 136 利用の多様化 80 システムの分析と設計に使われる理由 129 利用のネットワーク 71 シナリオ作成 131 緑化 金澤(上海)のエネルギーシステム 132 ――がもたらすサービス 37 達成度評価指標の作成 133 シンガポール 204 索引 237 協働 83 レジリエンシー(復元力) 102 計画の―― 85 レバレッジ・ポイント 122 持続可能性と復元力を重視した投資 5, 37, 60, 93 制度的―― 18 レルネル,ジャイメ(Jaime Lerner) 23 長期的計画 35, 39, 55, 105, 118, 119 長期的な計画を作成するための総合的な―― 57 ロッキー山脈研究所(The Rocky Mountain Institute) 71 統合アプローチを可能にする組織的―― 200 ロンドン ビジョンと行動を一致させる―― 118 資源フロー 97 プロジェクトのコストを評価する―― 98 渋滞税 117 マナ・フェヌア―― 226 持続可能な都市インフラ 116 「我々の共有ビジョン:ブリスベンに居住する 2026」 215 ワンシステムアプローチ vii, 3, 4, 32, 35, 36, 63 ■わ行 新たに都市化が進んでいる地域 85 ワールドウォッチ研究所(Worldwatch Institute) 72 シンガポール 197 枠組み ストックホルム市 185 Eco2 の分析・運用 2 適用 89 オークランド持続可能性―― 225 手順 88 オークランドの START 222 統合化された 36 会計勘定と評価 38 柱 64 共有 58, 90, 118, 122 ■著者 Hiroaki Suzuki Arish Dastur Sebastian Moffatt Nanae Yabuki Hinako Maruyama ■監訳者 井村 秀文(いむら ひでふみ) 横浜市立大学特任教授、名古屋大学名誉教授. 1969 年東京大学工学部卒業,1974 年同大学院工学系研究科博士課程修了(工学博士) .環境庁,外務省, 横浜市等を経て,1988 年九州大学工学部助教授,1991 年同教授,2001 年名古屋大学大学院環境学研究 . 科教授(2011 年退職) 著書に, 『中国の環境問題』 (化学同人,2008) ;『環境問題をシステム的に考える』 (化学同人,2009) ; “Environmental Systems Studies: A Macroscope for Understanding and Operating Spaceship Earth” (Springer 2013) ;“Environmental Issues in China Today: A View from Japan”(Springer 2013) など. ■訳者 横浜市立大学グローバル都市協力研究センター 横浜市立大学は,アジアを中心とした世界の諸都市や世界銀行等の国際機関と協力しながら,都市が 抱える問題の解決を目指す大学間ネットワーク(アカデミックコンソーシアム)を推進している.そ の活動を推進するため,2011 年 4 月にグローバル都市協力研究センターが設立された. 千葉 啓恵(ちば ひろえ) 東北大学大学院農学研究科修士課程修了.化学会社研究所勤務を経て, 現在は生物科学・自然科学関連の翻訳者. 主な訳書 『グローバル・フィーバー ――地球温暖化の症状と対応策』 (一灯舎 , 2010 年) 『天災と人災 ――惨事を防ぐ効果的な予防策の経済学』(同 , 2011 年) 『ユダヤ人の成功と悲劇 ――資本主義と民族主義への対応』 (同 , 2012 年) 『あなたの仕事も人生も一瞬で変える評判の科学』(中経出版 , 2013 年) 『ジェネンテック 遺伝子工学企業の先駆者』(一灯舍 , 2013 年) Eco2 Cities 2つのエコが融合する環境経済都市 発 行 2014 年 3 月 28 日 著 者 Hiroaki Suzuki / Arish Dastur / Sebastian Moffatt / Nanae Yabuki / Hinako Maruyama 監訳者 井村 秀文 訳 者 横浜市立大学グローバル都市協力研究センター / 千葉 啓恵 発行者 平野 智政 発行所 株式会社 一灯舎 〒 170-0003 東京都豊島区駒込 3-25-1 Tel : 03-6686-7456 / Fax : 03-6693-1830 印刷所 シナノ書籍印刷株式会社 <検印省略>許可なしに転載,複製することを禁じます. 乱丁本,落丁本はお取り替えします. ISBN978-4-907600-07-5 C3033 http://www.ittosha.co.jp/ © 株式会社一灯舎 Printed in Japan