81699 2014 世界開発報告 2014 リスクと機会 開発のためのリスク管理 World Development Report 2014 Risk and Opportunity —Managing Risk for Development 世界銀行 編著 田村勝省 訳 一灯舎 This work was originally published by the World Bank in English as World Development Report 2014: Risk and Opportunity—Managing Risk for Development in 2013. This Japanese translation was arranged by Ittosha Incorporated. Ittosha Incorporated is responsible for the quality of the translation. In case of any discrepancies, the original language will govern. This volume is a product of the staff of The International Bank for Reconstruction and Development/The World Bank. The findings, interpretations, and conclusions expressed herein are those of the author(s) and do not necessarily reflect the views of the Executive Directors of The World Bank or the governments they represent. The World Bank does not guarantee the accuracy of the data included in this work. The boundaries, colors, denominations, and other information shown on any map in this work do not imply any judgement on the part of The World Bank concerning the legal status of any territory or the endorsement or acceptance of such boundaries. 本報告書は 2013 年に世界銀行から World Development Report 2014: Risk and Opportunity— Managing Risk for Development として出版された.本書の翻訳は株式会社 一灯舎により まとめられたものであり,翻訳の正確性については,株式会社 一灯舎が責任を負う. 翻訳と原文の間になんらかの矛盾がある場合は原文に従う. 本書は,世界銀行スタッフの制作による.本書の調査結果や解説,結論は,必ずしも 世界銀行の理事会あるいは彼らが代表する国の見解を反映するものではない. 世界銀行は, 本書中にあるデータの正確性を保証しない.地図にある境界線, 色, 名称, その他の情報は,いかなる領土の法的立場,あるいはそのような境界線の容認に関す る世界銀行の判断を意味するものではない. World Development Report 2014: Risk and Opportunity —Managing Risk for Development Copyright © 2013 by The International Bank for Reconstruction and Development/The World Bank 1818 H Street, N.W., Washington, D.C. 20433, U.S.A. 世界開発報告 2014 リスクと機会―開発のためのリスク管理 Copyright © 株式会社 一灯舎 by The International Bank for Reconstruction and Development/The World Bank 1818 H Street, N.W., Washington, D.C. 20433, U.S.A. iii 序文  近年,世界はいくつもの危機に見舞われた.金融・経済の混乱は所得や仕事,安 定性の損失を通じて世界経済を崩壊させた.猛烈な自然災害がハイチから日本に至 るまでの地域社会全体に打撃を与え,その後に死者と経済的損失の長い列を残して いった.地球温暖化の懸念が高まり,致命的な感染症の拡散に関する恐怖について も同様である.  世界中を旅しながら,私は同じ懸念を耳にしている.すなわち,われわれはどう したら,そのようなリスクに対してもっと強靭になれるだろうか? 『世界開発報 告 2014(WDR 2014):リスクと機会――開発のためにリスクを管理する』は, この解決の急がれる疑問に対して答えを出すのに役立つだろう.  もう 1 つの懸念は,必要なリスクをとっておかないと開発機会の逸失という事 態が生じるということである.機会の追求はリスク・テイキングを伴うが,特に貧 困層を中心に大勢の人たちは往々にしてそうしたがらない.これは潜在的に否定的 な結末を恐れているからである.行動を起こさないことによって人々は貧困の罠に 閉じ込められる.そして,環境の悪化に対して脆弱なままに放置され,福祉を改善 する機会の追求がますます困難になるだろう.  リスクの適正な管理ができなければ,それは危機や好機の逸失につながる.こ れは世界銀行グループが次の 2 つの目標を達成することに関して著しい障害をも たらす.すなわち,第 1 に 2030 年までに極貧を撲滅すること,第 2 に途上国の 人口における底辺の 40%層向けに繁栄の共有をもたらすことである.したがって, リスクの有効な管理は世界銀行の使命にとって,まさに中心的な課題なのである. 『世界開発報告 2014』が証明しているのは,効果的なリスク管理は開発にとって 強力な手段になり得る――人命を救い,経済的なショックを回避し,人々がより良 い,より安全な未来を構築するのを助けることができるということだ.  本報告書は個人や諸機関に対して,「危機に対する戦士」から「能動的で体系的 なリスク管理者」になることを要請するものである.リスクを認識して,それに備 えることが十二分な利益をもたらすということに関しては,確固とした証拠があ る.例えば,多くの途上国が最近のグローバルな金融危機に直面したにもかかわら ず強靭性を発揮したのは,マクロ経済や金融,社会にかかわる政策をそれまでに改 革していたからだ.  苦労して獲得した開発成果をリスクに対する強靭性の構築によって保護すること が,繁栄を達成するには必要不可欠である.これは取り組んでいるのが自然災害や 流行病,金融危機,コミュニティ・レベルでの犯罪の波,あるいは一家の大黒柱の 重病のいずれであろうと当てはまる.リスクは完全に払拭することは決してできな い.しかし,人々や諸機関は構造的な政策措置やコミュニティを基盤とした防止 策,保険,教育,訓練,有効な規則などを含むバランスのとれたアプローチを適用 することによって,リスクに対する強靭性を構築することができる.各国はさまざ iv 世界開発報告 2014 まな状況下でリスクを管理する方法を学んできているが,これまでのところ,発展 途上世界におけるリスク管理に関連した研究は,利用が容易で参照しやすい単一の 出所に統合化されていない.  今回の『世界開発報告』はこの間隙を埋めることを目指している.本書は,リス ク管理を開発アジェンダの主流にする,および各国や各地域社会が独自のリスク管 理システムを強化するのを手助けするという2つの目的において,貴重な指南書と して機能するだろう.本報告書は世界銀行自体の運営におけるリスクに対するア プローチの変更に対しても,重要な洞察を提供してくれている.現在,世界銀行グ ループでは転換が進展中であり,それはリスクに関する制度的な文化の変化――極 端なリスク回避から情報に基づいたリスク・テイキングへのシフト――を要請して いる.本年の開発報告は,最大のリスクは,おそらくまったくリスクをとらないこ とであろうと警告している.まさに同感である. 『世界開発報告 2014』が将来的な危機の危険性を最小化し,開発に向けたあら   ゆる機会をつかみとることを可能にするようなリスク管理に導く,ということが 私の願いである.この面での成功は,われわれ誰もが望んでいる世界――貧困がな く,万人が繁栄を共有する世界――を築くのに有益であろう. ジム・ヨン・キム 総裁 世界銀行グループ v 謝辞   本 報 告 書 は Norman Loayza が İnci Ötker-Robe と 共 同 で 率 い る チ ー ム に よって作成された.César Calderón, Stéphane Hallegatte, Rasmus Heltberg, Xubei Luo, Martin Melecky, Ana María, Oviedo, and Kyla Wethli がコア・ チームの他のメンバーであった.調査アナリストとしてチームを完成させたのは 次の方々である:Sebastien Boreux, Kanako Goulding-Hotta, Rui Han, Harry Edmund Moroz, Anca Maria Podpiera, Jun Rentschler, Faiyaz Talukdar, and Tomoko Wada.Gilles Cols, Olga Jonas, Federica Ranghieri, and Anna Reva が報告書のスポットライトを寄稿してくれた.  本報告書は開発経済学副総裁局の後援を受けている.報告書の作成に関する全体 的な指針は上級副総裁兼主任エコノミストである Kaushik Basu と開発経済学調 査局長の Asli Demirgüҫ-Kunt によって提供された.チームは次の方々の継続的 な関与と助言から利益を受けた:Martin Čihák, Quy-Toan Do, Mary Hallward- Driemeier, Aart Kraay, and Sergio Schmukler.  次の方々で構成されるアドバイサーのパネルがフィードバックや助言を提供して くれた:Laura Alfaro, Robert Barro, Thorsten Beck, Stefan Dercon, Ibrahim Elbadawi, Rohini Pande, Klaus Schmidt-Hebbel, Hyun Song Shin, and Jan Švejnar.チームは世界銀行の主任エコノミストである次の方々からの助言も享 受した:Augusto de la Torre, Shantayanan Devarajan, Marianne Fay, Ariel Fiszbein, Caroline Freund, Indermit Gill, Bert Hofman, Jeffrey Lewis, Martín Rama.  チームは本報告書の作成に当たって,カナダ国際開発庁,変化のための知識プ ログラム,日本開発政策・人材育成基金,世界銀行研究支援予算から,惜しみな い補助金をいただいたことに謝意を表したい.2012 年 11 月にベルリンで行った WDR International Policy Workshop を共同で組織・主催してくれたことに対 して,ドイツ連邦経済協力開発省とドイツ国際協力公社にもお礼を申し上げたい.  次のような諸機関と協議を行った:ヨーロッパ委員会,国際通貨基金,経済協力 開発機構,国連の数機関,世界経済フォーラム,デンマーク,フィンランド,フラ ンス,日本,オランダ,ノルウェー,スペイン,スウェーデン,スイス,イギリス などの開発協力を担当する諸機関.さらに,世界銀行研究所,世界銀行のすべての 地域・基地ネットワーク,国際金融公社と多国間投資保証機関を初めとする他の部 署からも貴重な情報を頂戴した.  協議が実施された諸国を列挙すれば次の通りである:オーストリア,ベルギー, ブラジル,チリ,デンマーク,フィンランド,フランス,ドイツ,インドネシア, 日本,オランダ,ノルウェー,ペルー,ルワンダ,シンガポール,スペイン,スイ ス,イギリス,アメリカ.ほとんどが学者,市民社会メンバー,公的機関,政府を 含んでいた.研究者や学者との協議は,オックスフォード大学アフリカ経済研究セ vi 世界開発報告 2014 ンターとコロンビア大学国際公共政策大学院のグローバル統治センターが組織化し た特別会議によって補強された.チームは次の会議で貴重なご意見をいただいた: 2012 年アフリカ経済会議,2013 年アジア開発フォーラム,2012 年ラテンアメ リカ・カリブ経済学会.  本報告書を見事に編集したのは Nancy Morrison と Martha Gottron である. Bruce Ross-Larson と Gerry Quinn が追加的に編集上の助言を提供した.世界銀 行の出版・知識局が報告書のデザイン・植字・印刷・配布を調整してくれた.翻 訳・通訳部の Bouchra Belfqih, Cecile Jannotin, and Michael Lamm に加えて, Mary Fisk, Stephen McGroarty, Stephen Pazdan, Denise Bergeron, Andres Meneses, Shana Wagger, and Paschal Ssemanganda に特にお礼を申し上げ たい.開発データ・グループが Timothy Herzog を調整役として,本報告書の統 計補遺の作成に貢献してくれた.また,チームはコミュニケーション戦略に関し て Merrell Tuck-Primdahl, Vamsee Krishna Kanchi, and Swati P. Mishra に, その調整役に関して Vivian Hon に対して謝意を表明したい.Barbara Cunha, Birgit Hansl, and Manal Quota が「概観」における外国語翻訳の一部をチェッ クしてくれた.  本報告書の制作・ロジスティックスを支援してくれたのは Brónagh Murphy, Mihaela Stangu, and Jason Victor であり,Laverne Cook, Gracia Sorensen, and Tourya Tourougui も 貢 献 し て く れ た. 資 源 の 動 員 を 調 整 し て く れ た の は Ivar Cederholm, Elena Chi-Lin Lee, and Jimmy Olazo で あ り,Irina Sergeeva and Sonia Joseph が 資 源 管 理 を 担 当 し た.Gytis Kanchas, Nacer Megherbi, and Jean-Pierre Djomalieu が IT サポートを提供してくれた.   背 景 論 文 を 提 供 し て く れ た の は 次 の 方 々 で あ る:Joshua Aizenman, Phillip R. D. Anderson, Maximillian Ashwill, Emmanuelle Auriol, Ghassan Baliki, Thorsten Beck, Najy Benhassine, Nicholas Bloom, Julia K. Brown, Martin Brown, Daniel Buncic, Julio Cáceres-Delpiano, Sara Guerschanik Calvo, Olivier De Jonghe, Alejandro de la Fuente, Philippe de Vreyer, Mark A. Dutz, Maya Eden, Penelope D. Fidas, Roberto Foa, Rodrigo Fuentes, Garance Genicot, Gary Gereffi, Ejaz Ghani, Sudarshan Gooptu, Mikael Grinbaum, Federico H. Gutierrez, Ronald Inglehart, Susan T. Jackson, Olga B. Jonas, Jan Kellett, Ilan Kelman, Tariq Khokhar, Auguste T. Kouame, Aart Kraay, Sadaf Lakhani, Sylvie Lambert, Esperanza Lasagabaster, Ethan Ligon, Samuel Maimbo, William F. Maloney, Tom Mitchell, Ahmed Mushfiq Mobarak, Hernan J. Moscoso Boedo, Andrew Norton, Eduardo Ortiz-Juárez, Patti Petesch, Florence Pichon, Patrick Premand, Carlos Rodriguez Castelan, Natalia Salazar, Luis Servén, Francis J. Teal, Maarten van Aalst, Guillermo Vuletin, Koko Warner, Tetyana V. Zelenska, and Nong Zhu. 詳細なリストは本報告書の末尾に掲載されている.  貴重なコメントや助言に関してチームは下記の方々に感謝したい:Pablo Ariel Acosta, Tony Addison, Montek Ahluwalia, Ahmad Ahsan, David Aikman, Harold Alderman, Franklin Allen, Aquiles Almansi, Philippe Ambrosi, Goli Ameri, Walter J. Ammann, Dan Andrews, Paolo Avner, Edmar Bacha, Javier Baez, Hemant Baijal, Christopher Barrett, Scott Barrett, Kathleen Beegle, 謝辞 vii Tim Besley, Gordon Betcherman, Deepak Bhattasali, Indu Bhushan, Jörn Birkmann, Christiane Bögemann-Hagedorn, Uta Böllhoff, Patrick Bolton, Laura Elizabeth Boudreau, François Bourguignon, Carter Brandon, Juan José Bravo, Tilman Brück, Robin Burgess, Guillermo Calvo, Jack Campbell, Jason Cardosi, Michael R. Carter, Miguel Castilla, Michael Chaitkin, Marcos Chamon, Guang Zhe Chen, Maria Teresa Chimienti, Fredrick Christopher, Craig Churchill, Luis Abdón Cifuentes, Massimo Cirasino, Stijn Claessens, Daniel Clarke, Tito Cordella, Sarah E. Cornell, Gerardo Corrochano, Robert Cull, Julie Dana, Anis Dani, Jishnu Das, Joachim De Weerdt, Ximena Del Carpio, Jean-Jacques Dethier, Jacqueline Devine, Pierre Dubois, Patrice Dumas, Peter Ellehoj, Brooks Evans, Jessica Evans, Marcel Fafchamps, Paolo Falco, Shahrokh Fardoust, Thomas Feidieker, Wolfgang Fengler, James Fenske, Ana Margarida Fernandes, Adrián Fernández, Francisco Ferreira, Deon Filmer, Greg Fischer, James Foster, Marcel Fratzscher, Linda Freiner, Roberta Gatti, Francis Ghesquiere, Swati Ghosh, Antonino Giuffrida, David Gleicher, Markus Goldstein, George Graham, Margaret Grosh, Patricia Grossi, Mario Guadamillas, Conor Healy, Frank Heemskerk, Joachim Heidebrecht, Jesko Hentschel, Rafael Hernández, Matt Hobson, John Hoddinott, Niels Holm-Nielsen, Naomi Hossain, Andrew Hughes Hallett, Oh-Seok Hyun, Elena Ianchovichina, Ridzuan Ismail, Takatoshi Ito, Abhas K. Jha, Emmanuel Jimenez, Steen Jørgensen, Nidhi Kalra, Sujit Kapadia, Masayuki Karasawa, Corneille Karekezi, Supreet Kaur, Lauren Kelly, Igor Kheyfets, Beth King, Naohiro Kitano, Leora Klapper, Alzbeta Klein, Kalpana Kochhar, Kiyoshi Kodera, Friederike Koehler-Geib, Diane Koester, Robert Kopech, Anirudh Krishna, Jolanta Kryspin-Watson, Howard Kunreuther, Kiyoshi Kurokawa, Christoph Kurowski, Miguel Laric, Alexia Latortue, Sara Lazzaroni, Nick Lea, Daniel Lederman, Margaret Leighton, Robert Lempert, Sebastian Levine, Yue Li, Irina Likhacheva Sokolowski, Justin Yifu Lin, Kathy Lindert, Gladys Lopez, Augusto López Claros, Leonardo Lucchetti, Maria Ana Lugo, Olivier Mahul, Thomas Markussen, Will Martin, María Soledad Martínez Pería, Eric Maskin, Laura Mazal, J. Allister McGregor, Claire McGuire, Robin Mearns, Carlo Menon, Rekha Menon, Erwann Michel-Kerjan, Tim Midgley, Gary Milante, Suguru Miyazaki, Nuno Mota Pinto, Marialisa Motta, Joy Muller, Akira Murata, Lydia Ndirangu, Ha Nguyen, Giuseppe Nicoletti, Yosuke Nishii, Michel Noel, Alistair Nolan, Sharyn O'Halloran, Philip O'Keefe, Ory Okolloh, Michelle Ooi, Miguel Angel Ostos, Marcus C. Oxley, Robert Palacios, Pepi Patrón, Douglas Pearce, Brian Pinto, Russell Pittman, Jean-Philippe Platteau, Sandra Poncet, David Popp, Antonin Pottier, Prashant, John Primrose, Hnin Hnin Pyne, Ricardo Raineri, Anthony Randle, Martin Ravallion, Robert Reid, Ricardo Reis, Ortwin Renn, Changyong Rhee, Helena Ribe, Michelle Riboud, Jamele Rigolini, Dena Ringold, David Robalino, Jorge Luis Rodriguez Meza, Rafael Rofman, Jonathan Rothschild, Davinder Sandhu, Apurva Sanghi, Hans-Otto Sano, Yasuyuki Sawada, Stefano Scarpetta, Anita Schwarz, Paul viii 世界開発報告 2014 Seabright, Junko Sekine, Amartya Sen, Rodrigo Serrano-Berthet, Shigeo Shimizu, Paul B. Siegel, Joana Silva, Emmanuel Skoufias, Marc Smitz, Irina Solyanik, Joseph Stiglitz, Adrian Stone, Stéphane Straub, Henriette Strothmann, Pablo Suarez, Kalanidhi Subbarao, Mark Sundberg, Olumide Taiwo, Tamanna Talukder, Kazushige Taniguchi, Finn Tarp, Gaiv Tata, Maria Hermínia Tavares de Almeida, Stoyan Tenev, Mehrnaz Teymourian, Erik Thorbecke, Klaus Tilmes, Carlos Tortola, Izabela Toth, Carolina Trivelli Ávila, Yvonne Tsikata, María Cristina Uehara, Tunc Tahsin Uyanik, Renos Vakis, Dominique Van De Walle, Ashutosh Varshney, Adrien Vogt-Schilb, Eiji Wakamatsu, Sophie Walker, Simon Walley, Christine Wallich, David Waskow, Masato Watanabe, Asbjorn H. Wee, Jonathan B. Wiener, Alys Willman, Lixin Colin Xu, Mohamed Mahdi Youssouf, and Asta Zviniene. さらに,チームとしてはコメントをしてくれ た世界銀行の内外の他の人々にお礼を申し上げる. ix 目次 序文 iii 謝辞 v 概観 リスクと機会 1 概観 3 リスクは負担であると同時に機会でもある 4 リスク管理は開発にとって強力な手段になり得る 5 有効なリスク管理は何を必要とするか? 10 理想を越えて:リスク管理の障害 17 前進する方法:リスク管理にかかわる全体論的なアプローチ 20 家計 23 コミュニティ 25 企業部門 27 金融システム 31 マクロ経済 34 国際社会 37 リスク管理を主流化するための制度改革 40 結論:より良いリスク管理のための公的措置にかかわる 5 つの原則 44 結びへの一言 46 注 48 参考文献 51 Part I リスク管理のファンダメンタルズ 57 CHAPTER1 リスク管理は強力な開発手段になり得る 59 リスクと機会 59 リスク管理がなぜ開発に関係するのか? 61 リスク管理は何を必要とするのか? 66 リスク管理は費用効果的――しかし常に実施可能とは限らない 78 注 80 参考文献 82 スポットライト1 予想外の事態に備える:フィリピンとコロンビア における災害リスク管理に対する統合的アプローチ 84 CHAPTER 2 理想の向こうに:リスク管理における障害とそれを 克服する方法 89 適切なリスク管理の機会を失う 89 なぜ人々は自分自身のリスクを上手に管理することができない のだろうか? 91 個人のコントロールを超えた障害がリスク管理を阻害する 95 国家はなぜうまく間隙を埋められないのか? 100 すべてを総合する:政策の順序 107 x 世界開発報告 2014 障害を乗り越える方法:政策の優先順位を選択する 110 注 113 参考文献 114 スポットライト 2 貧困層の食料消費を保護する:エチオピアとエルサルバドル におけるセーフティネットの役割 116 PART II 重要な社会システム 119 CHAPTER 3 家計はリスクに対抗し機会を追求するための 第一線の支援である 121 良い時も悪い時も一緒 121 家計はどのようなリスクに直面し,どのように対処しているか? 122 家計はリスクを管理する準備をどのように行い,どのような 障害に直面するか? 127 政府はどうしたら家計のために保護を強化し,より良い機会を 発展させることができるか? 135 すべてを総合する:政策実施のための指針 144 注 147 参考文献 149 スポットライト 3 トルコとキルギスにおける国民皆健康保険 の適用に向かう動き 152 CHPTER 4 結束力があり,結び付きのあるコミュニティ間では 強靭性が生まれる 157 コミュニティは多くのリスクに直面している 157 リスク管理者としてのコミュニティ 158 保険提供者としてのコミュニティ 162 保護提供者としてのコミュニティ 164 結束力や結び付きの強いコミュニティはより有効である 167 地方リスク管理を改善するための公的政策 172 すべてを総合する:強靭なコミュニティを発展させるための 政策原則と研究の優先課題 180 注 183 参考文献 185 スポットライト 4 刑事司法が十分でない場合:ブラジルと南アフリカの都市部におけ る統合的な犯罪・暴力の防止策 188 CHAPTER 5 活気のある企業部門を通じて強靭性と繁栄を促進する 193 仕事を創出し革新を支援する 193 企業部門として人々がリスクに立ち向かうのを支援する方法 195 企業部門における柔軟性と公式性は人々の強靭性と繁栄を改善する 199 政府は企業部門が柔軟性と公式性を高めるのをどうしたら 支援することができるか? 207 すべてを総合する 213 注 216 参考文献 217 スポットライト 5 労働市場の柔軟性を増大させる動き:インドの 平坦ではない道 220 目次 xi CHAPTER 6 リスク管理に金融システムが果たす役割: 金融ツールが多いほど金融危機は少なくなる 225 金融システムはリスク管理という社会的に有益な役割を 果たすことができる 225 良いリスク管理のためには,人々は広範な金融ツールを必要とする 226 金融危機は人々に損害をもたらす:どのようにしたら防げるか? 237 金融について発展と安定性の間の緊張関係を解決する 245 政策勧告の要約 252 注 254 参考文献 256 スポットライト 6 チェコ,ペルー,ケニアにおけるグローバルな経済的ショックに対 する強靭性の構築 260 CHAPTER7 マクロ経済リスクを管理する:政策でより良い結果を 出すためにより強固な制度を構築する 265 健全なマクロ経済政策を通じて強靭性を高め機会を有効に活用する 265 マクロ経済政策の目標を総合的な安定性に向ける 266 安定化政策や長期的社会プログラムの資金を調達するために 持続可能な財政資源を創出する 277 すべてを総合する:マクロ経済レベルのリスク管理を改善するために, 回避すべきこと,および実施すべきこと 283 注 287 参考文献 288 スポットライト 7 国境なき疾病:流行病のリスクを管理する 290 CHAPTER8 国際社会の役割:リスクが各国の能力を超過する場合 295 グローバルな問題はグローバルなプレイヤーを求めている 295 どのような状況が国際社会の行動を求めるのか,それはなぜか? 296 国際社会はどうやってリスク管理の質を高めるか? 301 グローバル・リスクの解決に国際社会はどの程度有効なのか? 306 政策がもつ意味と各国が実施すべきこと 315 注 321 参考文献 323 政策改革の焦点 リスク管理を開発アジェンダの主流にする: 主要な制度改革 326 補遺 341 略号 343 データ注 344 背景論文 345 主要指標 347 テクニカル・ノート 385 索引 393 xii 世界開発報告 2014 ― ボックス ― 1 リスク管理のプロセスに関する『世界開発報告 円滑化への移行 171 2014』からの 5 つの鍵となる洞察 4 4.3 新しい通信技術はコミュニティが暴力や 2 リスクを伴う世界:地域を越えたリスクのトレンド 10 地方紛争を管理するのに役立つ 174 3 リスクに対する備えが国によってどの程度 4.4 清潔,緑色,そして青色:シンガポールにおける 異なっているか? 16 水と洪水の管理 177 4 リスク管理にかかわる必須事項と障害を 4.5 タンザニア農村部で衛生設備へのアクセスを増やす 政策設計でひとまとめにする 18 ために,ソーシャル・マーケティングを活用 179 5 どのシステムがどのリスクに対応? 22 5.1 労働者,消費者,および環境の保護は儲かる 6 社会保険へのアクセスは就業上の地位と ビジネスにもなり得る 198 結び付けられるべきか? 31 5.2 大恐慌からの教訓 202 7 独立的な財政評議会は財政の正循環的な 5.3 グローバル化と公式性の複雑な関係 205 バイアスを克服するのを後押しできる 37 5.4 コートジボワールで起きた市民暴動期における電力 8 気候変動のような一定のグローバル・リスクに関して, 部門の強靭性は契約保護によ って牽引された 209 国際社会はグローバルな解決策につながり得る漸進的な 5.5 社会的扶助を伴う労働市場の柔軟性:ドイツと アプローチを採用すべきである 41 デンマークの事例 211 9 『世界開発報告 2014』の主要な政策勧告 42 6.1 現金より優れている:電子決済はリスクとコストを 1.1 リスクを伴う世界: リスクは時期と地域によって 削減する 228 異なる 60 6.2 住宅金融は家計の強靭性と機会を改善することが 1.2 貧困は減少したものの,世界中で大勢の人々が できる 229 貧困に陥りやすいままである 65 6.3 モンゴルとメキシコにおける革新的な保険 1.3 リスク回避が損失回避になる時:効用理論 メカニズム 233 からの意見 68 6.4 老齢期の所得損失リ スクに立ち向かうための 1.4 途上国は時とともに強靭性を強化してきている 71 私的年金保険 234 1.5 新しい情報通信技術をリスク管理に利用する 73 6.5 危機シミュレーション演習で銀行危機に備える 244 1.6 保護と保険はリスク管理のために補完的な手段を 6.6 金融救済: 「潰すには大きすぎる」とモラル・ 提供することができる 76 ハザード 246 1.7 リスクの備えは地域・大陸の間でも,そのなかでも 7.1 世界経済の新たな常態:先進国におけるマクロ 差がある 77 経済政策の不確実性の高まり 267 1.8 「人工の」 惨事:日本における福島の 7.2 金融政策の柔軟性を放棄する:究極の犠牲? 271 原子力事故 79 7.3 ほとんどの途上国では反循環的ツールとして,金融 2.1 不合理,不確実,および近視眼:一部の古典的な 政策に代わって所要準備政策が用いられている 273 実験が人間行動に関する驚くべき事実を 7.4 財政刺激策:良い,悪い,醜い 276 明らかにする 94 7.5 チリにおける商品収入の管理:健全な制度構築と 2.2 リスク管理を改善するために専門家と政策を 公共資源の管理の事例 280 つくる当局の相互作用を強化する 99 7.6 コンロンビアにおける財政リスクの開示:リスク管理 2.3 リスク管理を改善するための制度:国家による に関するより大きな透明性と信頼性への道 283 リスク評価 103 S7.1 最上級のグローバルな巨大リ スクへの緊急対応: 2.4 ホーチミン市では洪水のリスクに対処するために H5N1 型鳥インフルエンザがどのように国際社会を 頑健な意思決定方法を適用 108 騒がせたか ? 292 2.5 リスクに直面した際の予防措置:費用便益と 8.1 気候変動と開発が持つ意味 300 予防原則の間で調整を図る 109 8.2 災害リスク管理に向けた国際支援 305 3.1 利他主義,社会規範,および互恵:家族は 8.3 地域的なリスク分担の解決策:災害リスクに対して どのような動機から互いを気遣うのだろうか? 124 金融面での強靭性を促進 307 3.2 民間部門とパートナーを組むことによって 8.4 災害リスクを評価するためにツールやデータベースを サービス提供を改善する 137 提供するグローバルな取り組み 308 3.3 指数型保険:潜在性と挑戦 140 8.5 脆弱紛争被災国では,リスク管理が良ければ 4.1 富の共有が宗教的な義務の場合:イスラムの 開発機会の可能性は広がる 310 コミュニティにおけるザカート(喜捨)の利用 161 8.6 2 つの災害物語 318 4.2 難民と国内避難民:避難の管理から機会の 目次 xiii ― ダイヤグラム ― 1 リスク連鎖:結末の性格と程度はショック, 障害に直面している 92 受ける影響の程度,内部環境,およびリ スク管理に 2.2 不確実性に直面するなかで確固とした行動を促進 依存する 12 するための意思決定にかかわる反復的プロセス 107 2 リスク管理の相互連結した構成要因 14 2.3 リスク管理に対する障害を評価して政策対応を 3 鍵を握る社会経済システムは補完的な形で 策定するための一連のスクリーン 110 リスク管理に貢献できる 21 4.1 主要な 3 種類の暴力とその広がり 167 4 国家リスク理事会の制度設計におけるトレードオフを 6.1 金融ツールを組み合わせると,さまざまな確率と 調整する 43 厳しさの損失に対する備えを改善できる 227 1.1 リスク連鎖:結末の性格と程度はショック, 8.1 国際社会の主体 296 受ける影響の程度,内部環境,およびリ スク管理に 8.2 国際社会の役割 301 依存する 70 1.2 リスク管理の相互連結した構成要因 72 F1.1 国家リスク理事会の制度設計におけるトレードオフを 調整する 328 2.1 個人,企業,および国はリスク管理に関して多くの ― 図― 1 世界中の大勢の人々は非常に貧しいか,貧困に 3.10 社会規範は多く の地域で家庭内暴力を 非常に近い生活を しており,彼らは環境の悪化に 容認している 138 襲われれば,貧困のなかによ り深く落ち込んでいく 3.11 非拠出型年金制度が途上国で,特に最貧層向けを 懸念が大きい 5 中心に,適用範囲を拡大している 142 2 リスク管理の便益はしばしば費用を上回る 9 S3.1 所得の地位別に見た医療ケアの利用と自己負担の 3 途上国における教育と健康の成果は改善しつつ 153 医療費支出(キルギス,2009 年) あるものの差異がみられる 24 4.1 人々やコミュニティは固有のショックとシステ ミックな 4 人々は独自に,また,他人と リスクに協同して ショックの両方から影響を受けている 159 取り組むことによって,ショックに対応している 26 4.2 人々は独自に,あるいは他人と一緒に リスクに対処 5 特にサハラ以南アフリカや南アジアを中心に, することによって,つまり非公式な信用や援助を頼り 途上国では自己雇用がより一般的 28 にしながら,ショックに対応している 163 6 製品・労働市場の柔軟性と公式性は国ごとに 4.3 東ヨーロッパ・中央アジアでは社会資本が高価な 大きな差異がある 30 対処策を削減するのに役立っている 163 7 所得水準がさまざまな途上国における貯蓄,信用, 4.4 危険性は被害者に大きな影響を与える 166 および保険の金融包摂 32 4.5 任意団体の会員数は世界各地で異なっている 169 8 経済,金融,および社会の相互連結性は増加傾向に 4.6 民族性に基づく 社会的排除は世界の多くの地域で ある 39 減少していない 171 1.1 途上国の家計はリ スクに弱いと感じており,それを 4.7 だれを信頼するか? 警察,政府,および宗教 懸念している 62 指導者に対する信頼 175 1.2 リスク管理手段は人々の機会の追求に役立つ 66 4.8 トイレよりも携帯電話をもっている人のほうが多い―― 1.3 リスク管理の便益はしばしばその費用を凌駕する 79 最も基本的な保護の提供にかかわる失敗を例示 178 3.1 家計に対するシ ョックは各国間で大きく S4.1 主要都市の殺人率 188 異なっている 123 5.1 賃金雇用は経済発展の水準に伴って増加する 195 3.2 高齢者は他の家族と同居していることが多い 124 5.2 企業部門の柔軟性は世界中でバラツキがある 200 3.3 幼い時に家庭内暴力を経験した男子は成人して 5.3 規制上の負担が重い国はより深刻な不況を から暴力を振るう可能性が大きい 127 経験している 201 3.4 すべての地域で予防接種率が上昇し幼児死亡率が 5.4 企業部門の公式性は世界各地で異なっている 203 低下している 128 5.5 製品,労働市場の柔軟性,および公式性による 3.5 非伝染性疾病による死亡リスクがすべての発展途上 国別類型 207 地域で増加している 129 6.1 個人が使う公式な金融ツールの範囲は国や所得に 3.6 予防医療製品の需要は価格が上昇すると よって異なる 230 急減する 129 6.2 金融システムは深化に伴って制度的な構造が多様化 3.7 低所得国は教育達成度では依然として後れを取って する 231 おり,中所得国のなかには質の格差に苦しんでいる 6.3 公式および非公式な貯蓄と借入は国の発展に伴って 国もある 130 変化する 235 3.8 特に低所得国を中心に貧困家計の場合,教育 6.4 銀行の全体的な借換リ スクと外貨ミスマッチが,途上国 達成度には依然として男女格差がある 131 ではシステミック・リスクを増大させることがある 239 3.9 女性の労働力参加は一部の地域では依然として 6.5 慎重な金融包摂は金融の安定性を高めることが 限定的である 134 xiv 世界開発報告 2014 できるが,行き過ぎると弱める 248 8.2 2011 年の調査では気候変動に関して国益の S6.1 銀行の不良貸出(対総貸出比率, 相違と近視眼的な見方が明確になっ た 312 262 2007-11 年) 8.3 援助国の災害関連援助は備えや予防よりも対処に 7.1 実体経済活動は,途上国ではよ り変動性が高く, 焦点を当てている 313 より大きく低下する公算が大きい 269 F1.1 非拠出型年金プログラムは,途上国では特に貧困層 7.2 一部の途上国では金融政策が反循環的になって 向けを中心に,適用範囲を拡大してきている 332 きている 270 F1.2 適用範囲の拡大は,人口の高齢化が進展している 8.1 途上国では災害による損害が当該国の 1 年分の 国では支出水準の増加をもたらす 333 GDP を上回ることもある 298 ― 用語集 ― 1.1 リスク管理に関連のある用語 67 2.1 本報告書を通じて使われている経済用語 91 ― 地図 ― 1 33 世界の銀行危機(1970-2011 年) 7.1 政府消費は過去 10 年間に途上国の 3 分の 1 以上で 2 政府消費は過去 10 年間に途上国の 3 分の 1 以上で 反循環的になった 275 反循環的になった 36 8.1 途上国は災害に関して総じて高い死亡率を経験 2.1 有効な防止策がないと,危機が繰り返される 90 している 298 2.2 憂慮すべき将来:アフリカにおける降水量の変化は モデルによって非常に異なる 106 ― プロフィール ― 1 ゴメス一家:リスクと強靭性に関する現代の物語   8 ― 表― 1.1 途上国の家計は多くのショックに直面している 61 6.2 国の金融部門戦略文書において,金融の発展と 3.1 貧困家計はショックにコストの高い方法で対処したと 安定性の間の トレードオフを考慮しているものは 回答する割合が高い 126 ほとんどない 249 3.2 多数の手段を使って多数のリ スクに取り組む政策に 6.3 主要途上国における金融安定委員会の構成 250 かかわるシステミック・アプローチ 135 6.4 リスク管理における金融システムの役割を改善する 3.3 医療保険の適用範囲を拡張するプログラムに ための政策優先課題 252 共通する特徴 141 7.1 財政リスクを防止する,あるいはそれに対処する 3.4 リスク管理を家計レベルで改善する政策の ための政策 278 優先課題 145 7.2 マクロ経済レベルでリスク管理を改善するための 4.1 コミュニティ・レベルでリスク管理を改善するための 政策の優先課題 285 政策の優先課題 181 8.1 グローバルな措置の実例とそれが与えた影響の 5.1 企業部門のリスク管理における役割を改善するための 背後にある要因 303 政策の優先課題 214 8.2 国際社会レベルでリスク管理を改善するための S5.1 インドにおける労働規則の研究 221 政策の優先課題 317 6.1 マクロ・プルーデンス手段の分類 243 F1.1 炭素排出を制限する各国の政策措置 335 概観 リスクと機会 リスク管理は開発にとって 強力な手段になり得る 2 世界開発報告 2014 好機に満ちあふれている生命のために リスクを管理する:ガーナで蚊帳で子 供をマラリアから保護している母親. ©Anne Hoel/World Bank 3 概観 リスクと機会 リスク管理は開発にとって強力な手段になり得る  過去 25 年間に世界中で前例のない にとって重要なのか? それはどのよ 変化が生じている.その多くは良 うに遂行すべきか? どのような い方向へ向かう変化である.大 障害が人々や社会が有効に遂 陸を越えて多くの国々が,国 行するのを妨げているのか? 際統合や経済改革,技術の近  どうしたらこのような障 代化,民主的参加の道に乗り 害を克服できるか? WDR 出している.挑戦課題と不平 2014 の付加価値はリスクを 等は残っているものの,数十 能動的,体系的,および統合 年間にわたって停滞していた経 的に管理することを強調してい 済が成長し,数世代にわたって収 る点にある.このような特性は,不 奪に苦しんできた人々が貧困を脱し,数 確実性という状況下で,能動的な計画と 億人もの人々が生活条件の改善や,国境を越え 備えの重要性を強調している.また,利用可能 て科学的および文化的に共通の利益を享受して なあらゆるツールや制度を使って,関連のある いる.世界の変化に伴って,多くの機会が常に すべてのリスクにまとめて取り組む必要性も強 出現している.しかしそれと同時に,以前から 調している.政策当局の視点からすると,リス 存在するリスクや新たなリスクも発生している. ク管理に対する能動的,体系的,および統合的 それには失職や疾病の可能性から,社会不安や なアプローチというのは,国家の貢献と個人や 環境破壊の懸念に至るまで多種多様なものが含 市民社会,民間部門の貢献の間で,そのような まれている.このようなリスクは無視している 貢献が調整され補完的になることを確保すると と危機に転じてしまうことがあり,苦労して獲 いう目標を念頭に,適切なバランスをとること 得した利益を逆転させ,そのような利益をもた を意味する. らした社会的および経済的な改革を危険にさら  WDR 2014 の主張によれば,リスク管理は開 しかねない.すなわち,解決策はリスクを回避 発にとって強力な手段になり得るのであり,人々 するために変化を拒否するのではなく,変化が の強靭性を構築して悪い事象の影響を削減する もたらす機会とリスクのために備えることにあ だけでなく,改善のための機会を利用するのを る.リスクを責任をもって有効に管理すれば, 許容することによっても強力な手段になり得る. 途上国を初めそれ以外の諸国の人々にとって, WDR 2014 は個別のリスクに対して詳細な分析 安全性と進歩のための手段を供与できる可能性 をしているわけではない.しかしその枠組みは, があろう. 所与の地域や国における特定の該当する一連の  『世界開発報告 2014』(WDR 2014)は次の リスクに対する取り組みに適用することができ ような疑問に取り組みながら,リスク管理のプ る.WDR 2014 はリスク管理のプロセスに焦点 ロセスに焦点を当てる.なぜリスク管理は開発 を当てることによって,開発を推進するという 4 世界開発報告 2014 ボックス 1 リスク管理のプロセスに関する『世界開発報告 2014』からの 5 つの鍵となる洞察 1. 開発に向けて機会を追求するためにはリスクをとるこ の措置を通じて取り組まれなければならない. とが必要である.何もしないことのリスクは,すべて 4. 個人が単独で対処するには資力を超えるようなリスク の意見のなかで最悪のものであろう. の管理に関しては,家計から国際社会に至るまでの社 2. リスクに成功裡に立ち向かうためには,体制を危機が 会のさまざまなレベルで共有されている措置や責任を 発生した時に無計画でその場しのぎの対応から,能動 必要とする. 的,系統的,および統合的なリスク管理に変えておく 5. 政府はシステミック・リスクの管理について決定的に ことが必須である. 重要な役割を担っており,共有する行動や責任に向け 3. リスクの特定だけでは十分ではない.リスク管理のト て有効な環境を提供し,脆弱層向けに直接支援を誘導 レードオフと障害も特定して,優先順位を付け,官民 している. 出所:WDR 2014 チーム. 単一の動機を抱きながら,多種多様な状況下にお  各個人ないし各家計に固有である特異なリス ける様々なリスクの取り組みにおける相乗作用や クも,人々の福祉にとって等しく重要である. トレードオフ,優先課題を考慮することを可能に スキルが不十分なために失職する,または就職 している(ボックス 1). できないことや,病気や犯罪の犠牲になること, 財政的な圧迫や強制的な移住に伴って一家が離 散することなどは,とりわけ脆弱な家庭や個人 リスクは負担であると同時に機会でもある にとっては重大な出来事であろう.例えば,エ  なぜリスクを心配するのか? 近年,多数の危 チオピアでは家族員が深刻な病気を経験した家 機が世界経済を混乱させ,開発に多大な負の効果 計は,消費を 10%も削減することを余儀なくさ をもたらした.2008 – 09 年のグローバル金融危 れ,その後も 3 – 5 年間にわたってマイナスの影 機によって,世界中のほとんどの諸国が成長率の 響を受け続けた 1.ラテンアメリカの諸国では, 急減を経験し,それに伴って所得や雇用の損失, 高水準の犯罪や暴力に由来する医療費は 1 年当 および貧困を削減する努力の挫折を味わった. たり国内総生産(GDP)の 0.3 – 5.0%に達して 2008 年に食料価格が高騰すると,アフリカとア いる.この数字は,犯罪が投資や労働参加の減少 ジアの十数カ国では暴動が起こった.これは人々 という形で生産の損失に及ぼす影響を考慮に入れ の不満と不安を反映したものであったと同時に, ていない 2.アルゼンチンやブルガリア,ガイア 政治的に不穏な状況を幅広く引き起こすことに ナといった多種多様な諸国における雇用損失は, なった.ほんの数例を挙げれば,2004 年のアジ 所得や消費を低下させているだけでなく,新しい アにおける津波,2010 年のハイチ地震,2011 仕事を見付ける人々の能力も削減し,社会的一体 年の東北日本における甚大な自然災害などは,死 感を悪化させ,場合によっては家庭内暴力を増加 亡者と経済的損失の痕跡を残しており,それが させている 3. 自然災害の頻度と強度の増大を例証している.世  悪い結末をもたらすリスクがシステミックなも 界的な気候変動の影響に関する懸念が高まってお のか,それとも特異なものかにかかわらず,それ り,致死的な感染症の国境を越えた広がりに関し は生活や資産,信頼,社会的安定性などを破壊す ても同様である.確かに,最近発生した,あるい る.そして,最大の打撃をこうむるのはしばしば は将来的に発生する公算がある重大な経済危機 貧困層である.過去 30 年間における貧困削減に や自然災害は,特に発展途上世界では,人々やコ かかわる目覚ましい進展にもかかわらず,途上国 ミュニティ,国々がシステミック・リスクに対し では大きな割合の人々が貧しいままで,マイナス て,いかに脆弱であるかを明らかにしている. のショックに見舞われればより深い貧困に落ち 概観 リスクと機会 5 図 1 世界中の大勢の人々は非常に貧しいか,貧困に非常に近い生活をしており,彼らは環境の悪化に襲われれば, 貧困のなかにより深く落ち込んでいく懸念が大きい 途上国人口の 20%以上は 1 日当たり 1.25 ドル,50%以上は同 2.50 ドル,75%以上は 4.00 ドル未満で生活している. a. 全途上国(2010 年) b. 地域別途上国(2010 年) 500 1 日 1.25 ドル 16 1 日 1.25 ドル 14 1 日 2.50 ドル 400 1 日 2.50 ドル 対各地域人口比(%) 総人口(100万人) 12 300 10 8 200 6 4 100 2 0 0 0 2 4 6 8 10 12 14 0 2 4 6 8 10 12 14 ドル ドル サハラ以南アフリカ 中東・北アフリカ 南アジア ラテンアメリカ・カリブ 東アジア・太平洋 ヨーロッパ・中央アジア 出所:World Bank PovcalNet (database) からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成. 注:1 日 1.25 ドルは極貧について最も広く使われている指標.ただし,1 日 2.50 ドルはラテンアメリカ・カリブなど一部の地域におい ては,極貧についてより適切な指標と考えられている.Ferreira 他 2013 を参照. 込んでいく公算が大きい(図 1).60 歳未満の成 さらされる機会も増大している.世界中の企業は 人が病気や傷害によって死亡する率は,低所得 技術を高度化し,収益性を高めるために投資を 国では高所得国と比べて男性は 2.5 倍,女性は 4 行っているが,それに伴う債務の増大を背景に, 倍高い.また,5 歳未満児の死亡率も高く,ほぼ 企業は需要や信用の状況変化に影響されやすく 20 倍である 4.悪いショック,とりわけ健康や なっている.ブラジルから南アフリカに至るまで 天候の悪化,経済危機が,家計を貧困線以下に押 の何百万という世帯が,より良い仕事の機会や保 しやり,そこに押しとどめる重要な要因になって 健・教育サービスを求めて都市に移住している. いるという証拠が蓄積されつつある 5.加えて, しかし,都市では頻繁に犯罪にさらされ,コミュ 状況の悪化によって窮乏,破綻,あるいは危機に ニティからの支援という利益は少ない.このよう 落ち込む可能性があることを認識して,貧困層は な行動の背景にある動機は改善の探求ではあるが 比較的安全にはみえるが,停滞的でもある技術や リスクの増大を伴う.つまり,好ましい結末が保 生計手段に執着しているのかもしれない. 証されているわけではないのである.  確かに,損失の可能性があるのにリスクに立ち 向かうことは負担である.しかし,機会を追求す るためには必要なことでもある.リスクと機会と リスク管理は開発にとって強力な手段になり いうのは,国や企業,家庭が自分の運命を改善し 得る ようとして行うほとんどの決定や措置と連動して  リスクがシステミックか固有か,課されたのか いる.実際,リスク・テイキングは開発のプロセ 自発的にとったのかなどにかかわらず,リスクに スにとって本質的である.いくつかの事例を考え 成功裡に立ち向かい機会を追求することで,初め てみよう.1990 年代以降,ほとんどの途上国は て開発は実現し得る.リスク管理を誤ると,多く 国境を開放して,国際統合や高度経済成長を追求 の危機と開発の損失という結果にいたる.それに してきているが,その過程で国際的なショックに 劣らず重要なのは,多くの機会が見過ごされて 6 世界開発報告 2014 いるのは,リスクに対する備えが不十分で,必要 とした人々はリスク回避癖を克服して,新しい有 なリスク対策がとられていないからだ.つまり, 望な事業の遂行により積極的になることができる 「何もしないことのリスク」があるためである. だろう.例えば,エチオピアの一部の農民は肥料 したがって,危機が発生した際には,無計画な場 を使わないようにしていた.というのは,旱魃や 当たり的な反応から,能動的,体系的,および統 他の災害の可能性を懸念して,貯蓄を中間投入 合的なリスク管理に変えることが必須である.そ 財に投資するよりも緩衝手段として保持してお うすれば,リスク管理は損失を削減し,利益―― くことを選好していたからだ 8.これとは対照的 開発機会を追求しているなかで経験する――を改 に,ガーナやインドの農民は高収量を求めてリ 善する能力を構築することができるだろう(素描 スクをとることにもっと積極的であった.降雨 1 とプロフィール 1). 保険をかけていたために,肥料や種子,殺虫剤,  リスク管理は人命を救うことができる.バング その他の投入財に対する投資を増加させること ラデシュの事例を検討してみよう.そこでは,自 ができた 9.このような利益は集計してみると, 然災害に対する備えが改善されたおかげで,サイ ずっと幅広い効果をもつことができ,国全体の生 クロンによる人命の損失が激減している.過去 産性と成長の改善に貢献した. 40 年間に,同じような規模のサイクロンがバン  危機やリスク管理の誤りに伴う損失はコスト グラデシュを 3 回襲った.1970 年のサイクロン 高であるが,リスクへの備えを改善するのに必 は 30 万を超える人命を奪ったが,91 年には 14 要な措置も同じである.そこで,備えは採算が 万人,2007 年には約 4,000 人にとどまった.死 合うのだろうか? 多数の分野について横断的 亡者数が大幅に削減できたのはシェルターを建設 に費用便益分析を行った結果は,リスクに対す するという全国的なプログラムのおかげである. る備えはコストを回避するのにしばしば有益で 1970 年にはわずか 12 カ所にすぎなかったシェ あり,時として圧倒的にそうであることを示し ルターは 2007 年には 2,500 カ所以上にまで増 ている(図 2).「転ばぬ先の杖」という古い格 加した.それとともに予測能力が改善し,また, 言には多大な真理が含まれているようである. 比較的単純だが有効な警報システムが導入された 例えば,栄養失調とこれに関連した健康リスク ことも死者の削減につながった 6. を削減することを企図したミネラル補助食品を  リスク管理は損害を回避し開発の挫折を防止す 使った養生法は,プログラムのコストの少なく ることができる.チェコやケニア,ペルーなど非 とも 15 倍の利益をもたらす 10.同様に,途上 常に多様な諸国が,マクロ経済的な備えがあれば 国で自然災害について早期警報を発令するため グローバルな金融危機の悪影響から経済を防御 に,気象予測や公衆通信システムを改善したお することができるという最近の適例を示してい かげで,コストの 4 – 36 倍に達すると推定され る.これらの諸国は財政赤字を削減し,金融政策 る利益が生み出された 11. を律し,経常収支赤字を縮小していたおかげで,  リスクへの備えにかかわる費用効果と結末への 2008 年の国際的な危機の後における成長率の鈍 対処に関する費用効果の比較は,評価すべき重要 化幅は,1997 年の東アジア危機の際よりも小さ なトレードオフの 1 つである.このような 2 つ くてすんだ.マクロ経済的な備えに伴う同じよう の措置の間の選択は,リスクに備える(特定の) な有益な効果が他の多くの低・中所得国でも生じ コストがそうすることの(しばしば不確実な)利 たようである 7. 益と比べてどうか,ということに依存する 12.  リスク管理は機会を解放することができる.リ 加えて,リスク管理のためには,多種多様なリス スク管理ツール――改善された情報,作物保険, クとそのそれぞれに備えることの相対的な必要性 雇用の多角化など――は,人々のリスク軽減に向 を検討しなければならない(ボックス 2).資源 けた努力を手助けすることができる.リスクを軽 が限定的であることを考えると,優先順位の設定 減する能力があれば,今度は,特に貧困層を中心 と選択の実施は不可避であるとともに必要でもあ 概観 リスクと機会 7 素描 1 万人のためのリスク管理:鍵を握る概念の視覚的な表示 機会を追求するためには,人々はリスクに …単に 1 つではなく,数多くのリスクが存在する 立ち向かわなければならない 失業 病気 機会 リスク 自然 犯罪 災害 金融 危機 …それを管理するのに 他の人々とリスクを分担すれば 通常は障害が重荷になる このような障害を克服できる 病気 コミュニ 失業 家族 ティ 自然 災害 犯罪 金融 企業 銀行 危機 国際 政府 社会 …集団措置や制度を通じて リスク管理は開発のための強力な 手段になり得る 警察 知識 保護 保険 繁栄 対処 強 靭 銀 行 性 WDR 2014 のために Jason Victor が作成した素描. 8 世界開発報告 2014 プロフィール 1 ゴメス一家:リスクと強靭性に関する現代の物語  ゴメス一家はリマ郊外の貧民街に住んでいる.わずか 何が起ころうとも,それに耐えられるようになった. 2 – 3 年前には,一家は小さな農場を保有しており,ペルー  そして,確かに事件が起こった.長男のマリオが交通事 にあるアンデス山脈の農村に住んでいた.そこは旱魃にな 故で怪我をした.自動車保険に入っていなかったために, りやすく,貧困を脱するだけの十分な所得を稼ぐことがで 一家はマリオの治療費を負担しなければならなかった.単 きなかった.1980 年代には大勢の隣人が,農村地帯にお 独ではそうできなかっただろうし,そうする必要もなかっ ける内戦に押されて都市部に移住していった.ゴメス一家 た.国家が運営と資金援助をしている公立病院を頼りにし は土地を失ったり,都市で何もより良いものが見付からな た.そこでの治療は質に相違があったものの,基本的な かったりすることを恐れて移住を拒否した.リスクが大き サービスは提供してくれた.一家は病院サービスの足りな すぎた.その当時のペルーは今とはまったく違う国であ い部分を補い薬を買うために,限られた貯金の一部を支出 り,インフレと失業が蔓延し,社会不安の脅威が常に存在 しなければならなかった.しかしマリオは回復し,一連の していた. 対応には相応の価値があった.  1990 年代になると,マクロ経済が安定化し内戦が終息  ゴメスは再び資産に手を付けなければならなくなった した.新しい機会が都市部でも農村部でも出現し始めた. が,こんどは全く異なる目的のためであった.ある日,家 最初,このような機会はゴメス一家を避けて行った.村の 族のなかで頭が良いとだれもが認めている次女のエレナ 近くにダムが建設されていたが,その水を利用するには農 が帰宅して,夜間に英語を勉強できるだろうかと両親に尋 場内を流れる運河の修繕が必要であった.商業銀行に融資 ねた.それは良い考えであった.最近,ペルーはいくつか を申請したが拒否された.それは驚くに当たらなかった. ,輸出企 の自由貿易協定を締結し(その 1 つはアメリカ) というのは,初めての融資申請だったからだ.ゴメス夫妻 業が拡大して有能な若者の求人を増やし始めていたから は村では子供たちに未来はないと考え,都市への移住を決 だ.英語は大いに役立つだろう. 意するに至った.しかし,今度は農場の損失を懸念する必  しかし,数カ月前なら,両親は夜間外出は危険だという 要はなかった.権利証が交付されていて,運河を改修する 理由で彼女のやる気を却下しただろう.都市郊外では警察 資本をもっていた隣人に売却することができたからだ.農 の保護は稀で犯罪者がのさばっていた.犯罪の波がやがて 場の売却代金はゴメス家にとって緩和手段になるだろう. ゴメス家の貧民街に押し寄せてきた際,コミュニティは近 というのは,移住する際には重大な挑戦に立ち向かうこと 隣地区パトロールを組織した(有効ではあったが,時とし になるからだ. .エレナが英語のレッスン て不当に厳しいこともあった)  人口 1,000 万人弱を擁する首都リマは巨大で無愛想な場 をねだった時には,安全性に対するリスクが削減されてい 所のように思えた.それが同じ村出身の大勢が転居してき たことから,勉強のために夜間外出が可能になっていた. ていた貧民街に移転することを決めた理由である.そこな 時の経過に伴って,彼女と家族はペルーが経験していた安 ら仲間意識や文化的一体感(村のすべての祭事がそこでも 定性と持続的成長の時期から利益を享受するための準備 きちんと祝われていた)を発見でき,そしてもちろん,こ を整えるだろう. のことは就職の助けになるだろう.ゴメス氏は建設現場の  リスクに立ち向かい,機会を物にすることで,ゴメス一 仕事を見付けたが,非正規職でレイオフが頻繁であった. 家は,おそらく永久に貧困から脱する軌道に乗った可能性 ゴメス夫人の協力が必要であったが,幸運なことに繊維会 があろう.それが可能になったのは彼らの仕事,進取的精 社の裁縫師という職を見付けた.祖母も手助けし,学校か 神,責任のおかげであろう.単独ではできなかったはず ら戻ってきた子供たちの面倒を見た.2 人の働き手(およ だ. び喜んで助けてくれる祖母)がいるおかげで,ゴメス家は 出所:WDR 2014 チーム. 注:この架空物語のビデオは World Development Report 2014 のウェブサイト(http://www.worldbank.org/wdr2014)で,9 つの言語で 入手可能である. 概観 リスクと機会 9 図 2 リスク管理の便益はしばしば費用を上回る 12 10 8 便益費用比率 6 4 2 0 予防接種 改善 早期警告 栄養介入策 次の災害に伴う損害を削減する措置 された水・ システム 地震 洪水 熱帯性 衛生設備 暴風雨 出所:WDR 2014 のために書かれた Wethli 2003. 注:上図は各カテゴリーの諸研究にわたる便益費用比率(推定値が 4 つ以上なければならない)の中位数を示す.点線の上部で は期待便益が期待費用を上回る.各カテゴリーのなかで推定値の範囲は極めて大きいことがあるが,それは介入策の種類や場所 の多様性と,基本的な前提の変動性に対する推定値の感応度を反映しているためである.しかし,ほぼすべての事例において, 範囲の 25%層でさえ損益分岐点を上回っている. る.例えば,暴力が頻発しているコミュニティ があろう 14.このことやその他のリスク対リター に住んでいる家族は安全や健康,財産の面でリス ンのトレードオフが存在していないにもかかわら クに直面しているが,このようなリスクの 1 つ ず,リスク管理では,正当な可能性としてそれら 1 つに対して防御し保険をかけるためには,その に取り組むことになろう. 限られた予算をどのように配分するのかを選択し  リスク管理はトレードオフを検討するだけでな なければならない.同様に,豪雨に見舞われやす く,相乗作用も考慮に入れなければならない.そ く,国際的な金融ショックにもさらされている小 れはリスクの備えとその結末の両方のコストを低 国は,洪水を防止するためのインフラにいくら支 下させる.また,リスクを減らして期待利益を増 出し,金融不安の影響に対抗するためにいくら貯 やすこともできる.このような「ウィン・ウィ 蓄すべきかを決定しなければならない. ン」の状況は広まっており,強調されるべきであ  機会を追求するために自発的にリスクをとっ る.とはいえ,それはコストがかからない,ある ている場合,もう 1 つのトレードオフが生じる. いは実施が常に容易だいうことを意味するもので 期待収益はある一連の行為にかかわる潜在的な損 はない.例えば,栄養や予防衛生への投資は人々 失と比較考量されなければならない.より多くの をより生産的にするとともに,病気に対する脆弱 リスクが許容されて初めて,より高い収益が可能 性を削減する 15.同様に,規則の簡素化や信用 な場合に,このトレードオフは激化する.金融投 へのアクセスの改善などといったビジネス環境の 資においてはそれが通例であり,低利回りはより 改善は,企業部門をよりダイナミックにし,成長 安全なポジションの,高利回りはよりリスキーな をより速めると同時に,状況の悪化に対してより ポジションの特徴である 13.リスク対リターン 強靭にする 16.マクロ経済レベルでは,規律の のトレードオフは,特定の開発行為においても見 ある金融財政政策――控え目なインフレと持続可 過ごされることがあるだろう.例えば,世論や特 能な財政赤字に反映されている――は,経済成長 定の専門家は経済成長率の引き上げの追求を,環 を加速化するとともに,対内外のショックに直面 境保護の低下や不平等の拡大と結び付ける可能性 した際にうける大きな変動を削減する 17. 10 世界開発報告 2014 ボックス 2 リスクを伴う世界:地域を越えたリスクのトレンド  人々が直面するリスクは時とともに著しく変化してき の発生は世界のすべての地域で増加している.また,ラテ ている.ただし,この変化は地域ごとに異なっていること ンアメリカ,中東・北アフリカ,サハラ以南アフリカのす もある.なかにはリスクが軽減している分野もあり,例え べてで,1980 年代からの各 10 年間において不況期間が短 ば妊産婦の健康に関して死亡率はすべての地域で低下し くなっているが,OECD 諸国の不況期間はより長くなって ている.逆に,犯罪率はラテンアメリカとサハラ以南アフ いる. リカでは著しく増加している.驚くべきことに,自然災害 a. 妊産婦死亡率 b. 殺人率 800 25 1990  1981‒1990  700 人口 2000  20 1991‒2000  生産出生 万人 600 2010  当たりの率 500 10 2001‒2010  15 万人当たりの 比率 400 10 300 10 200 5 100 0 0 OECD EAP ECA LAC MENA SAR SSA OECD EAP ECA LAC MENA SAR SSA c. 自然災害発生件数 a d. 大きな不況 b 4.5 0.4 4.0 1981‒1990  1981‒1990  1991‒2000  10 1991‒2000  状態にあった割合 3.5 年間のうち不況の 0.3 2001‒2010  2001‒2010  3.0 年間平均 2.5 0.2 2.0 1.5 1.0 0.1 0.5 0 0 OECD EAP ECA LAC MENA SAR SSA OECD EAP ECA LAC MENA SAR SSA 出所:次からのデータに基づき WDR 2014 チームが作成――World Bank World Development Indicators (database); EM-DAT OFDA/CRED International Disaster Database; United Nations Office on Drugs and Crime Homicide Statistics (database). 注:上図は各地域における国々の横断的な単純平均を示す.上図の OECD 諸国は少なくとも 40 年間にわたり OECD の加盟国であった高 所得国を表す.EAP= 東アジア・太平洋;ECA= ヨーロッパ・中央アジア;LAC= ラテンアメリカ・カリブ;MENA= 中東・北アフリカ; SAR= 南アジア;SSA= サハラ以南アフリカ. a.自然災害には旱魃,地震,洪水,および熱帯性暴風雨が含まれる. b.大不況は Barro and Ursúa 2012 にならって,1 人当たり GDP の成長率がピークから底まで 5%低下したことを下限として特定されて いる.南アジアでは 1991 – 2010 年に大不況はなかった. 有効なリスク管理は何を必要とするか? 寿命に直面しているなかで,退職のためにどの程  古代ギリシャの哲学者ヘラクレイトスは,唯一 度の金額をどうやって貯蓄するかを決定する.農 不変なのは変化であると述べている.そして,変 民は何を耕作し,どのような投入財を使うかを決 化とともに不確実性が生じる.自分の生活を改善 定する.ただし,自分の作物のために十分な雨 するための選択に迫られて,人々は不確実性が存 が降るか否か,作物が市場でどの程度需要される 在する状況下で,事実上あらゆる決定を行う.若 か,どのような価格が付くかを,確実性をもって 者は労働市場に参入した時に,どのような仕事が 知ることはできない.さらに,政府は対外状況や どのような賃金で入手可能なのかを正確に知るこ 国内の生産性の上昇,金融市場の変動が不確実な ともなく,何を勉強あるいは訓練するかを決定す なかで,政策金利の水準と財政赤字の規模を決定 る.大人は不確実な所得や投資収益,健康状態, する. 概観 リスクと機会 11 経済と公的政策が不確実な下で行う選択の分析  違った流派の経済学文献も集団的行動の問題に  したがって,数世紀にわたって不確実性と稀少 注目しており,それを克服するために決定的に重 資源の下での選択の分析が経済学と公的政策の 要な原則を提供している.1960 年代から 70 年 核心にあった.不確実性下での決定に対する基 代にかけての先駆的な研究のなかで,レオニー 本的なアプローチは,1700 年代にダニエル・ベ ド・ハーヴィッツ,ロジャー・マイヤーソン,エ ルヌーイによって導入され,1944 年にジョン・ リック・マスキンは,市場や組織,制度で効率性 フォン・ノイマンとオスカー・モルゲンシュテル を達成するための仕組みの設計に関する問題を研 ンによって正式にモデル化された.このアプロー 究した.この重要な洞察で主張しているのは,イ チは,個人はあり得る結末の期待「効用」(ある ンセンティブ制約は不確実性が存在する下での意 いは主観的な福利認識)を最適化するという概念 思決定を理解する際に,資源制約と同じように に基づいている 18.この期待効用のアプローチ 重要であると考えるべきであるということだ 21. は,個人が自分のリスク選好と潜在的な結末,お 特に情報の非対称性,関心の相違,知識の制約と よびそれぞれの確率に関する知識に基づいて,合 いう状況下で,いかなるグループの集団的行動で 理的な選択をするということに依存している. あれ,それを調整する最善の方法を開発する際に  貴重な洞察にもかかわらず,このアプローチ は,この洞察が極めて重要である.アナリストや は 2 つの重要な論拠で挑戦を受けている.第 1 政策当局は総資源を超越して考え,リスク管理に は,個人は十分に合理的な形で行動しているよ 関連した行動を含めて,人々や組織の行動に何が うにはみえないことである.それはおそらく不 情報を提供し,動機を与えているのかを問わなけ 確実性によって決定プロセスがあまりに複雑に ればならない. なり,人々は時とともに変化するが,必ずしも 常に最適とは限らない単純な行動ルールを好む リスク管理のための分析の枠組み からであろう.1950 年代のモーリス・アレや,  不確実性下での意思決定にかかわる経済学から 1970 年代のダニエル・カーネマンとエイモス・ 導かれた洞察が,リスク管理のための分析の枠組 トベルスキーの業績は,不確実性の下で決定を みを提供してくれる.『世界開発報告 2014』で 迫られた際の人間行動の限界と本質的な傾向に は,この枠組みが以下のようないくつかの相互に 注目したことである 19. 関連した手順で構成されるよう提案する:  基本的な期待効用のアプローチに対する第 2 の挑戦は,個人は孤立してではなくグループで決 • リスク管理の根本的な目標と動機を評価す 定を行うというものである.その主因は潜在的な る:それは悪い事象に直面した時の強靭性 結末は,人々が他の人々と協調してどのように行 と,機会の追求を通じた繁栄である(上記の 動するかによって大きく影響され得ることにあ 最初の 2 つのセクションで検討済み). る.1940 年代のダンカン・ブラックや,1960 • リスクと機会が生起する環境を理解する(下 年代のジェームズ・ブキャナンとマンサー・オル 記でリスク連鎖として言及されている). ソンの業績は,集団行動の欠陥やそれに対する障 • リスク管理が何を必要とするかを考慮する: 害を強調している 20.当初は国家による公共財 それは悪い事象と良い事象の両方に備えるこ の供給を懸念していたが,公共選択のアプローチ とと,対処することである(下記で「リスク は,あらゆる規模の家計からコミュニティに至る 管理の構成要因」という表題の下で提示され までの,あらゆるグループがとる行動にまで適用 ている). される.基本的な洞察は,特に不確実性に直面す • 個人や社会がリスクを管理するに当たって直 る状況下では,集団的行動を調整することが,い 面している主な障害を評価する.それには資 かに貴重であると同時に,いかにつかまえどころ 源や情報,インセンティブにかかわる制約が がないかという点にある. 含まれる(下記で「理想を越えて」と題する 12 世界開発報告 2014 ダイヤグラム 1 リスク連鎖:結末の性格と程度はショック,受ける影響の程度,内部環境,およびリスク管理に依存する 外部環境 Risk ショック リスク管理 結末 ernal 内部状況 出所:WDR 2014 チーム. 注:リスク連鎖ダイヤグラムのフィードバック矢印は,過去の結末が将来のショックの傾向だけでなく,被害の度合いや内部状況に影 響する可能性があることを示す.同様に,人々のリスク管理の有効性は将来のショックの性質や傾向に著しく影響することがある. セクションで検討されている). の変化など)こともある.このようなショックの • リスクを管理する際に人々が遭遇する障害を 結末がプラスかマイナスか,大きいか小さいか, 克服するために,社会のさまざまなレベルに 個別的か広範囲にわたるかは,ショックと社会経 おける諸グループや集団的行動の潜在的な役 済システム(家計やコミュニティ,国など)を特 割を導入する(下記で「前進する方法」とい 徴付けている内外の状況に依存する.重要なのは, う題名のセクションで提示されている). リスクに備えてそれに立ち向かうためにとる人々 の行動によって,ショックが人々の結末に及ぼす リスクと機会が生起する環境を理解する:リスク 影響も変わるということである. 連鎖  このような相互作用はリスク連鎖によって示  世界は常に変化しており,個人や社会に影響を すことができ(ダイヤグラム 1),それは多種多 与えるショックを生み出している.ショックは 様なリスクや状況に適用可能である 22.例えば, プラス(潤沢な降雨や交易条件の予想外の改善な 流行病に罹病するかどうかは次の事情に依存す ど)のこともあれば,マイナス(病気や戦争など) る.すなわち,ウィルスの強さ(初期ショック), のこともある.それは小グループ(家庭や農村コ 当該地域の人口密度や生活条件(外的な環境ない ミュニティなど)に影響するだけのこともあれば, し関わりの程度),人々の個別の感受性(年齢や 大グループ(地域や国など)にまで影響が及ぶこ 免疫システムの強さなどの内的な条件),罹病や ともある.さらに,突然発生する(自然災害や金 他人の汚染を予防するためにとる措置(頻繁な手 融ショックなど)こともあれば,徐々に発生する 洗いやマスクの着用などのリスク管理)などであ (人口動態上の変化,技術的なトレンド,環境上 る.同様に,ある企業が新技術や革新の活用に成 概観 リスクと機会 13 功するか否かは次の事情に左右される.それは, 失を減らすとともに,利益を増やすことの両方に 技術の特性(初期ショック),国内のインフラ ある. (企業の技術アクセスに影響する外部環境),企業 ,企業がどれだけの資本を の革新度(内部条件) リスク管理の構成要因:備えと対処 蓄積しているかや,技術の潜在的な得失に関して  その目標を達成するためには,リスク管理は, どれだけの情報をもっているか(リスク管理)な 先行する備えのコストが確実な利益と比べてどの どである. 程度になるかを考慮に入れながら,リスクに備え  このような状況ではリスクは損失の可能性とし る能力を後で対処する能力と組み合わせる必要が て定義される.しかし,リスクはすべてが悪いわ ある.アイザック・アーリックとゲーリー・ベッ けではない.というのは,機会を追求するために カーの先駆的な業績を基に考えれば,備えは事前 はリスクをとることが必要だからだ.機会は利益 に採用が可能な次の 3 つの措置の組み合わせを の可能性として定義され,リスクの良い面を示し 含むべきである.すなわち,知識の習得や保護の ている.例えば,ある家が沿岸の洪水にさらされ 取得,および保険の入手である 23.一たびリス ているか否かはその立地次第である.脆弱性が生 ク(あるいは機会)が顕在化すると,人々は適切 じるのは,人々の関わりが深いことや弱い内部条 な処理を通して発生したことに対応する(ダイヤ 件,不十分なリスク管理が組み合わさって,災害 グラム 2).強固なリスク管理戦略には4つの構 に伴う損失に特に影響されやすい場合である.例 成要因である,知識,保護,保険,対処のすべて えば,非常にリスキーなポジションを相殺的な が含まれるだろう.それらは相互作用して,互い ヘッジをせずにとっているレバレッジ比率の高い の質を改善する可能性があろう.例えば,優れた 金融機関は,経済や金融のショックに脆弱であ 知識は,保険と保護の間の資源配分に関して,よ る.同様に,資産がほとんどなく所得の変動性が り効率的な決定につながり得る.同様に,保険や 大きい貧しい家計は,食料価格の高騰に特に脆弱 保護が良ければ,対処はさほど困難ではなく,コ であろう. スト高でもなくなる.しかし以下で詳述するよう  リスク管理というのはリスクに立ち向かい,そ に,いくつかの障害のために,このリスク管理戦 れに備え,その影響に対処するプロセスのことで 略を達成することはしばしば困難になっている. ある.強靭性は,人々や社会,国が機能する作用 を保持あるいは改善しながら,マイナスの衝撃か 知識 ら回復する能力によって特徴付けられる.開発と  知識を習得し,リスクに立ち向かい,機会を追 いう文脈におけるリスクに関して出されている文 求する際に人々が直面する不確実性を削減するこ 献の多くは,リスク管理が状況の悪化に対する強 とが,リスク管理の第 1 の構成要因である.知 靭性を高めるという点で果たすことができる重要 識は単に情報を蓄積する以上のことを必要とす な役割を強調している.しかし,繁栄と福祉をも る.つまり,発生しそうな事象とその確率に関す たらすという点で,リスク管理は人や国が,事態 る情報の収集は必要ではあるが,知識というのは が好転した場合の対処に成功するのを手助けする その情報を使って,そのような事象とあり得る結 のに必須の役割も担っている.確かに,事態の好 末から受ける影響を評価し,どう行動するかを決 転を成功裡に管理することは,人々の災害に対す 定することが含まれる.したがって,知識には評 る強靭性を長期的に高める方策の重要な一環を構 価と判断の要素が含まれている.さらに,人々の 成している.例えば,農民が旱魃に耐える能力 リスクに関する知識はアクセス可能な情報だけで は,十分な降雨があった時期の収穫がどう管理さ なく,他の社会経済システムによって提供される れたかによって著しい影響を受ける可能性があろ 情報の質にも依存する.確かに,リスクに対する う.つまり,リスク管理の目標は,リスクに直面 備えに適切な情報,とりわけ国民勘定や労働統 して,そのリスクをとった時に人々が経験する損 計,多様な市場シグナル,天気予報などを含む情 14 世界開発報告 2014 ダイヤグラム 2 リスク管理の相互連結した構成要因 保険 人々の違いと時間の隔たりを超えて, 資源を自然の良い状態から悪い状態に 変えてしまうこと 知識 対処 ショック,内外状況,潜在的な 損失から回復し,便益を最大限に 結末を理解すること,つまり 活用すること 不確実性を削減すること 保護 損失の確率と規模を削減し, 便益の確率と規模を増やすこと 備え 対処 出所:WDR 2014 チーム. 報の入手可能性や透明性,信頼性を改善すること 保護 において,公的政策には果たすべき重要な役割が  保護はマイナスの結末の確率や規模を引き下げ ある.加えて,国家は一貫性のない政策や実施の る,あるいはプラスの結末の確率や規模を引き上 遅れている改革,頻繁な規則変更などによって生 げるすべての措置を含む.途上国はここ 20 – 30 み出される不確実性を削減することで貢献するこ 年間で,リスク保護のいくつかの側面について著 とができる. しい改善を図ってきている.例えば,低・中所得  途上国ではリスクに関する知識は欠如している 国で改良型衛生設備へのアクセスを有する人々 ことが多かったが,知識は疾病や景気循環,自然 の割合は,1990 年の 36%から 2010 年の 56% 災害への対処などいくつかの重要な分野では増加 へ と 上 昇 し て い る. 一 方, 麻 疹 予 防 接 種 率 は しつつある.また,潜在的なショックの知識を改 1985 – 2010 年の間に 41%から 83%に倍増して 善し,それに関する対応策にかかわる情報を提供 いる 25.衛生設備の改善や予防接種の増加は他 することにおいて,新技術は大きな助けになって の予防的保健措置と合わさって,幼児および妊 いる.例えば,ガーナとその他のアフリカ 15 カ 産婦の死亡率の削減を後押ししている.同様に, 国の農民は,自分の携帯電話を通じて具体的な市 1970 年代から 80 年代における反復的な高イン 場情報を受領しており,それが農業市場の価格や フレ循環を経て,多くの途上国は今や健全な財政 需要の変化を受けた対応策を改善するのに役立っ 金融政策の枠組みを確立しており,それが大不況 ている 24.グローバル化と科学進歩を受けて,多 の発生とその規模の削減に役立っている(ボック くの病原体に関する理解も改善している.それに ス 2 参照).早期警告システムの利用が増加した は疾病制御を可能にする迅速な探知や診断方法も おかげで,自然災害にさらされる住民を保護し, 含まれる.技術が改善したおかげで,科学者や政 重大な事象が発生した場合の死亡者数の削減に役 策当局の間の協働が支持されるようになっただけ 立っている. でなく,メディアも世界の僻地にいる人々に対し て情報を提供できるようになっている. 概観 リスクと機会 15 保険 される.市場や公共部門が提供するサービスに  保護がマイナスの結末の可能性を完全に除去す 加えて,家計やコミュニティ,政府の資産はす ることができなくても,保険は悪いショックから べてが,リスクの備えに影響し,したがって, の打撃を緩和するのを手助けすることができる. それが今度は結末に影響を及ぼす.全体として, 保険には,人々をまたいで,あるいは時を超え 人々のリスクに対する備えの度合いと,各国の て,資源を自然の良い状態から悪い状態に移転す 国民所得との間には相関関係があるようだ.し るすべての手段が含まれる.ある場合には,特定 かし,同一地域内でも国ごとに興味深い差異が のリスクに対する保険は金融システムのなかの専 あることを考えると,リスクに対する資源への 門的な市場によって提供されている.しかし,途 アクセスを超える備えの決定には,政策が重要 上国では正式な保険市場が広く利用可能になって な役割を果たしているという点を強調すること いないことが多いため,自己保険に大きな負担が ができる(ボックス 3). かかっている.それはしばしば相対的にコスト 高で非効率な手段を通じて行われている.例え 対処 ば,ショック時には売却可能な耐久資産(宝石な  リスク管理の最後の構成要因は対処であり,そ ど)を保有しておくなどである.大多数の家計は れはひとたびリスク(あるいは機会)が顕在化し 非公式のコミュニティ・ベースのリスク分担にも た場合にとられるすべての措置を包含する.した 参加しており,零細金融や零細保険のプログラム がって,対処は備えの時期に獲得した知識や保 は人々のリスク管理に役立つ新しい手段をより一 護,保険といった資源を活用することで構成され 層提供するようになっている.同じく,伝統的な る.対処と備えの関係は変化するリスクに立ち向 セーフティネットと並んで,条件付き現金給付や かう際には非常に流動的になる.これには出現し その他の社会保険プログラムも,最も脆弱な層が てくるリスクを監視し評価することよって適切な 悪条件に対処するのを助けるために国家が資源を 知識を更新することや,すべての必要で利用可能 移転する手段となっている 26. な対応を適合化して実施することが含まれる.  リスクを管理する戦略には保険と保護の間で,  リスクのためにどれだけ備えるかの選択は,必 相乗作用とトレードオフのいずれかが生じる可能 要とされる対処の種類に影響し,それが今度はリ 性があろう.保険をかけていることが,悪い状態 スク管理の好循環あるいは悪循環をもたらす要因 の発生を防止しようという人々の意志を削減する になる.有効な備えのおかげで,悪いショックに 限りにおいて,保険と保護は相互に代替策として 伴う損害が限定されれば対処は最低限ですむ.そ 機能している.ところが,人々が保護を獲得する してより多くの資源がリスク管理に向けたさらな ためにとる措置のおかげで,悪い結末に対する保 る投資ために利用可能になり,将来のショックに 障が円滑化される,ないしは安価になる場合に 対する脆弱性が削減される,といった具合であ は,保護と保険は相互に補完的である 27.例え る.例えば,家計レベルでは,健康保険に加入し ば,非喫煙者なら医療保険加入が容易で安いとし ていれば,治療と回復が円滑化する一方で,家族 よう.保険と保護が補完的であるためには,保護 員が罹病したり,事故に遭遇したりした時に,自 はしばしば観察可能でなければならない.コミュ 己負担の出費を削減することができる.マクロ経 ニティにおける非公式なリスク分担においてはす 済レベルでは,例えば,自然災害に伴う損失を削 でに十分適切であるものの,技術のおかげで公式 減することによって,リスクの備えは経済成長を な保険にとってはいっそう適切になる公算があろ 維持し,あるいは加速化させることさえできるこ う.例えば,自動車用の新たな装置があれば,保 とが示されている 29. 険業者は人々の運転の質に基づいて課している保  これとは対照的に,備えが限定的,あるいは 険料を調整することができるだろう 28. ショックが予想外に大きい場合,対処は場当たり  備えは,知識や保険,保護が合わさって構成 的となり,高コストの措置を必要とする.そのた 16 世界開発報告 2014 ボックス 3 リスクに対する備えが国によってどの程度異なっているか? 国別リスク準備指数 リスク準備が最低の 20%層 リスク準備が最高の 20%層 データ不明  国レベルでみた人々のリスクに対する備えには,国家を  この指数によると,すべての国において,リスクに対す 含め,すべての社会経済的なグループや制度による措置と る人々の備えの程度と国民所得との間に相関関係のある 寄付が含まれる.上の地図にはリスク準備指数が示されて ことが推測されるが,それはある程度までの話である.平 いる.本報告書のために開発されたこの指数は,リスクに 均的には,備えが最も確実なのは高所得国(特に北アメリ 対する備えに影響する,人的資本,実物・金融資産,社 ,備えが最低なのは低所得国(特にア カと西ヨーロッパ) 会的支援,および国家支援という 4 つの重要なカテゴリー フリカ)の人々である.しかし,同一地域内でも国ごとに における資産やサービスにかかわる指標で構成されてい 大きな差異がある.例えば,チリはリスクに対する備えが る.指数を構成している指標には以下が含まれる:15 歳 かなり良くできているが,その東部にある隣国アルゼンチ 以上の人口にかかわる学校教育の平均総年数と麻疹予防 ンは 1 人当たり所得が同じような水準にあるにもかかわ ;純資産が 1,000 ドル未満の家計の割 接種率(人的資本) らず,リスクに対する備えは平均的でしかない.同様に, ;年金制度に拠 合と金融アクセス指数(実物・金融資産) エチオピアは同一地域内で 1 人当たり所得が同じか,若 「総じて人々は信頼できる」 出している労働者の比率と, 干高い他の諸国と比べて,リスクに対する備えが良くでき ;改善された衛生設 と述べた回答者の割合(社会的支援) ている.このことは,リスクに対する備えの決定に当たっ 備へのアクセスを有する人口の比率と総公債の対歳入比 ては,所得水準や財源へのアクセス以上に政策が重要であ でみた財政的余裕の指標(国家支援)a. ることを示している. 出所:WDR 2014 のために書かれた Foa 2013.地図番号:IBRD 40097. a.各指標は 0 ~ 1 の範囲に縮尺されている.したがって,8 個の指標の平均である指数は,構成指標のランキングの単なる平均ではな く,各指標の重要な属性を維持している.このアプローチは部分的には Worldwide Governance Indicators の構築に使われている手法に .必要に応じて,各指標は増加が改善を示すように変形可能である. ならっている(Kaufmann, Kraay, and Mastruzzi 2010 参照) め,将来的なリスク管理のために利用可能な資源 い影響をもたらす.貧困家計は実質的に貧困の罠 がほとんど残らず,ショックに対する脆弱性が悪 にはまるため,将来的に状況の悪化に対してより 化し,新しい機会に着手する家計の能力も弱体化 脆弱になり,改善に向けて新しい事業を始める能 する.例えば,エチオピアとホンジュラスなどの 力が低下する 30.同様に,2008 – 09 年の危機の ようなまったく異なる国における自然災害による 最中に世界中の政府が実施した,大手金融機関の 資産の損失は,ハリケーンや旱魃,保険の欠如, 救済,財政刺激策,金融緩和期間の延長を含む処 資産の投げ売りなどによる直接的な損害が原因で 策は,短期的に市場を鎮静化する助けになったも あり,長期的な影響だけでなく,短期的にも著し のの,このような対応策は長期にわたってマイナ 概観 リスクと機会 17 スの効果を及ぼすかもしれない.それには公債の なぜ人々は自分自身のリスクをうまく管理できな 著しい増加と金融機関をリスク・テイキングに走 いのか? らせる歪んだインセンティブが含まれる. 資源の欠如.リスク管理が費用に対して効果的な 時でさえ,個人や集団は着手がむずかしいと思う かもしれない.これは先行するコストが大きく, 理想を越えて:リスク管理の障害 信用アクセスが限定的だからだ.貧しい途上国で  仮にリスク管理が人命を救い,経済的損害を回 は資産や資金の欠如が特に深刻であり,このこと 避し,機会を制約から解放できるとすれば,また がリスク管理に本質的なトレードオフへの取り組 さらに,仮にリスク管理が費用効果的で,その みがより困難になっている原因である.政府は予 ファンダメンタルズが良く理解されているとすれ 算の制約を考えて,現在の消費支出は災害リスク ば,なぜ人々や社会はリスクの管理をうまく行う 削減のための投資よりも緊急を要すると判断する ことができないのか? 具体的な答えは事例ごと 公算があろう. に異なるものの,それはいつも個人や社会が直面 している障害や制約に関係している.それには, 情報の欠如と認知の失敗. 関連情報が存在しな 資源や情報の欠如,認知や行動の面での失敗,市 い,あるいは意思決定者にとって入手可能ではな 場や公共財の未整備,社会的・経済的な外部性な い,または彼らにこの情報を理解する能力が欠け どが含まれる.このように理解すると,次のよう ている可能性があろう.認知不足は先進国でさえ な重要なメッセージにつながる.すなわちリスク さまざまな状況下でのリスク管理と関連のある一 管理は,リスクの特定だけでは十分ではなく,そ 般的な障害である.例えば,アメリカでの調査 の管理の障害も特定し,優先順位を付け,官民の では,洪水の影響を受けやすい地域の自家保有者 行動を通じて取り組まなければならない(ボック は,その 31%しか同リスクを認識していなかっ ス 4). たことが示された 31.以下では,情報と知識の  ムンバイの事例を検討してみよう.その排水シ 欠如に関する極端な事例がもたらす反響――いわ ステムは古くて 100 年以上経過しており,毎年 ゆる「深い」不確実性――を探求してみよう. のモンスーンの雨をなんとか処理している.嵐の 際の排水システムの能力を拡張するためには,ポ 行動面での失敗.たとえ情報が存在しているにし ンプ場の設置や瓦礫の撤去などの投資がいかに必 ても,意思決定者はその知識をリスクに備える 要かを,報告書や提案は繰り返し詳述してきてい ための措置や行動に転換できない可能性があろ た.それにもかかわらず,ほとんど例外なしに, う.多くの事例では,意思決定者や政策当局者は 提案は実施に至っていない.例外的に大規模なモ 多種多様な危機の原因に関しては物忘れがひどい ンスーンが 2005 年に都市を襲い,死者 400 人, ようである.例えば,システム上重大な危機とい 建物やインフラに対する広範な損傷,経済金融活 うのは,ほとんど常に信用や成長の異常な増加の 動の中断などにつながった.事後的に,実情調査 後に発生しており,このようなプロセスは十分理 委員会は排水システムの分解検査を勧告したが, 解されているようだ 32.しかし,政策当局はし それは 1990 年代に設置された委員会の提案に悲 ばしば信用ブームの抑制についてほとんど何もし 惨なほど類似していた.しかし,2013 年現在, ない.平常時に人々がリスクに対する備えを管理 実施はまたもや遅れている.その結果,インドの すること(例えば,不測の事態に備えて貯蓄する 金融面での首都はモンスーンの雨に極めて脆弱な ことや,災害対策計画を策定することなど)がで ままとなっている. きない背後には,誤った安心感があるのかもしれ ない.さらに,「保護の逆説」が発生する.すな わち,長期間にわたって損失を抑制するリスク保 護は誤った安心感を生み出して,警戒やリスク認 18 世界開発報告 2014 ボックス 4 リスク管理にかかわる必須事項と障害を政策設計でひとまとめにする  有効な公的政策を設計するためには,単に潜在的なリス ラム a は意思決定を支援する――重大な間隙を発見し,有 クを特定することを超えて,リスク管理にかかわる障害を 効な低コストの介入策を明らかにするのを助けてくれる 分析するところまで行かなければならない.下のダイヤグ ―― 一連の流れを図で示したものである. a. リスク管理を支援する一連の流れ リスク評価 インセンティブ評価 情報評価 行動評価 資源評価 政策評価 直面している 悪いインセンティブは, 意思決定者は 認知・行動面 資源と資源への どのような リスクは リスク・テイキングの 情報に通じて でのバイアスが アクセスは, 政策が どの程度か. 過大 / 過少につながるか. いないのか. リスク管理を あまりに 実施される 市場の 政府の 阻害している 限定的か. べきか 失敗が 失敗が のか. 原因か. 原因か.  この実際的なアプローチはリスク管理政策の設計に関 につながり,新情報が入手可能になるのに伴って修正が容 して,次の 2 つの重要な洞察を提供している: 易な政策である.強力な基盤をもってリスク管理に着手す れば,長期的な視点が必要となるが,適正なインセンティ 現実的であれ.能力が低い場合,単純なリスク管理手段が ブを創出し,意図せざるマイナスの影響を受けるリスクが 選好されるべきである.政策当局は簡単に成果が出て,誰 最小化される.また,新しい情報が入手可能になった時, もが得をする解決策に集中すべきである.出発点としては, 政策が柔軟で調整可能であることを確保するのに役立つ インセンティブを変えるソフトな措置(沿岸地帯向けの区 (この 2 つの洞察の詳細については,この概観の最後に記 画規則改善など)のほうが,建設工事(洪水防止のための 載されている「リスク管理改善のための公的措置にかかわ 堤防)よりも好ましい.現実的な政策オプションは次のこ . る 5 つの原則」を参照) と確保するベきである:リスクは意図せざるマイナスの政 策結末を回避するように管理する,万人の最善の能力に依  このような教訓を念頭に置いてリスク管理にかかわる基 拠した適正なインセンティブを供与する,理想的だが高価 本的要因と障害の両方を考えることは,さまざまな状況の な解決策を実施する能力が最も低い最脆弱層を保護する. なかでどの個別政策が最も適切なのかを特定するのに役立 つ.例えば,資源が限定的な国,あるいは制度能力が弱い リスク管理を長期的に改善するために強固な基盤を構築 国は基本的な政策に焦点を当てるべきであり,一方,リス せよ.災害の後などのように,制度的な取り決めの必要性 ク管理のために強固な基盤を整備している国は,より高度 が明らかな場合なら,しばしばその創設は道理に適ってい な政策を目指すことができる.本報告書ではこの枠組みを るし,それは同事象の記憶が消失したからといって簡単に 使って,リスク管理政策を家計から国際社会に至るまでの は撤回できない.このような制度的な不可逆性は柔軟な実 各社会経済システムのために,リスク管理の 4 つの主要な 施や継続的な学習と組み合わされるべきである.政策当局 構成要因(知識・保護・保険・対処)にわたって組織化・ は次のような頑健な政策を目指すべきである.すなわちそ 優先付けを行う.これらは,各システムにかかわる個別の れは,最もありそうな将来において,最適ではないかもし 章において,下記の表に対応する形で要約されている(ダ れないが,広範な範囲のシナリオのなかで許容可能な結末 . イヤグラム b) b. 公的政策の優先課題のための枠組み リスク管理を支援する政策 基本 高度 知識 保護 保険 協力 対処 出所:WDR 2014 チーム. 概観 リスクと機会 19 識の低下につながり,潜在的に将来的により大き い.例えばタバコやアスベストの強力なロビー な損失に帰結しかねない 33.多くの場合,不合 は,十分に確立した科学的な証拠が存在している 理と考えられる行動というのは,歪んだインセン にもかかわらず,有益な保健規則を阻止すること ティブ,不正確ないし不十分な知識,あるいは特 ができる.政策が歪んでいると,時には善意の措 定の社会規範や文化的信条などの結果である. 置でさえリスク管理に向けた人々のインセンティ ブを歪めることによって,リスク管理を阻害する 個人のコントロールが及ばない障害がリスク管理 ことがある.その例としては設計の悪い災害後の を阻害する 支援策が指摘できる.モラル・ハザードを生み出 市場や公共財の欠如.有効なリスク管理にとって して,個人や企業による独自のリスク管理を阻害 は決定的に重要な分野――信用,保険,仕事など する.同様に,過度に気前のいいセーフティネッ ――にかかわる市場が,多くの途上国では弱いか トや金融部門の救済策は,リスクに対する備えに 欠如している.リスク管理に必須の公共財・サー かかわるインセンティブの足を引っ張る. ビス――経済的・政治的な安定性,法と秩序,基 礎インフラなど――も同様である.実際には,十 社会的・経済的な外部性.ある人々や国々がとる 分に発達した市場が欠如しているのは,それを支 リスク管理措置は他のところに損失を課する公算 援すべき公共財に欠陥があるからだ.仮に,例え がある.例えば,抗生物質の過剰使用は薬剤耐性 ば,司法制度が契約を執行しないのであれば,健 のより強いバクテリアを作り出している.同様 康や自動車,住宅などについて保険を買ってもほ に,海洋や森林,大気などの共有天然資源を過剰 とんど意味がなく,そのような市場は存立しない に使用すると,文献では「コモンズの悲劇」とし だろう 34.公共財が欠如している理由はたくさ て知られている現象が生じ,環境の劣化や気候 んあるが,ここではリスク管理にとって最も関係 変動,経済成長率の将来的な低下につながる 35. のあるものだけを検討する.第 1 は,すでに検 違う領域になるが,大きな先進国で国内経済を刺 討した財源不足である.例えばオランダで建設さ 激するために通貨供給を増加させれば,国内の貯 れたコストのかかる洪水防護施設は,同じような 蓄者や納税者の富を侵食するだけでなく,途上国 脅威にさらされているバングラデシュやベトナム には不安定化要因となる資本流入が生じる.同様 などの多くの途上国にとっては,要するにまった に,経済の下降期に国内生産者を保護するために く実現可能ではない.第 2 の理由はリスク管理 貿易障壁を設置すると,貿易相手国に対してコス の政治経済学に関係している.政府がリスクに対 トの上昇を課すことになる.これは貿易面での する支出に消極的な公算がある.というのは,そ 報復につながり,恐らく景気の鈍化は長期にわ のコストは即時で目に見えるのに,その利益はた たる世界不況に転換するだろう 36.他のリスク とえ相当大きいとしても長期にわたり目立たない 管理措置はそのコストを負担する人々以外にも利 からだ. 益をもたらすことがあり,したがって,「ただ乗 り」のインセンティブを生む.例えば,次のよう 政府の失敗.リスク管理は政府の失敗によっても な事例がそれに当たる.例えば,温室効果ガス排 阻害されることがある.それは利益団体による支 出を削減するためにコストのかかる措置をとった 配,政府高官の腐敗,歪んだ政策などに由来す 国は,その他諸国にも利益をもたらす.プラスか る.政策の支配に関して,特定のリスク管理措置 マイナスかにかかわらず,外部性のためにリスク によってマイナスの影響を受ける企業や人々は, 管理のプロセスは複雑になり,予測可能性が低下 当然ながらそれに反対し強く批判する一方,それ し,インセンティブが歪む.その解決には調整と によって保護される人はそれに気付いていないこ 集団的措置が必要となるが,選好や価値観,影響 とが多い(したがって支持していない),あるい の度合いに関して大きな相違がある場合には確保 は積極的なロビー活動による影響力をもっていな が困難である.例えば,温室効果ガス排出に関し 20 世界開発報告 2014 て拘束力のある国際合意に達することがこれほど 力や意志,責任はリスク管理のためには必要不可 困難な理由は,外部性と集団的措置の失敗にある 欠ではあるが,その成功は外部環境が支援的でな ことが判明しつつある. ければ限定的であろう.個人は独自に多くのリス クに取り組むことが可能かもしれないが,次のよ 深い不確実性と頑健な解決策 うなものに立ち向かう備えは本来的にできていな  「深い不確実性」は注目に値する特別なリスク い:大きなショック(一家の大黒柱が病に倒れる 管理にとって障害になる.経済界では「ナイトの など),システミックなショック(自然災害や国 不確実性」としても知られている深い不確実性 際的金融危機など),同時ないし連続的に生起す というのは 37,潜在的な結末とその発生確率や, る複数のショック(例えば旱魃とそれに引き続く それにどの程度の重要性を付与するかに関して, 食料価格の急変や食料不安など). 理解するための適切なモデルについて専門家でさ  人々は他人とリスク管理を分担することによっ え合意することができない状況を指す.幅広い視 て,自分の資力を超えるリスクに成功裡に立ち向 点をとるなら,深い不確実性と普通の不確実性の かうことができる.多種多様な重複する社会経済 相違は程度問題であり,流動的で変化している. グループ(システム)を通じて,自分のリスクを 知識を構築すれば,不確実度の削減に役立つ.科 集団的に蓄積して共有することができる.まさ 学の歴史は深い不確実性が徐々に普通の不確実性 に,リスクを集団的に管理し機会を追求する必要 になり,管理と制御に適するようになったという 性こそが,しばしばこのようなグループないしシ 事例に溢れている.しかし,そうなるまでの間, ステムがそもそも形成されている重要な理由であ 「未知の未知」が存在する下ではどうすべきであ ろう 40.このようなシステムは規模と複雑さの ろうか? 点で,家計から国際社会にまで広がっている.そ  深い不確実性という状況下では,幅広い範囲の れらは多種多様ではあるが補完的な形で,人々の シナリオのなかで受容可能な結果につながり,新 リスク管理を支援する潜在力を有している(ダイ しい情報が入手可能になったり状況が変化したり ヤグラム 3).それらの範囲は互いに異なり,そ した際には,修正ができるような適応性のある頑 のおかげで自分の規模に見合ったショックや受け 健な政策や措置が好ましい 38.金融システムに る影響に対処することが可能になっている(ボッ かかわる政策にとって有望な慣行は,銀行を初め クス 5). とする金融機関に対して,ストレス・テストを先 見的な危機のシナリオを含む幅広い範囲の状況 • 家計は支援,資源の蓄積と共有化,家族員― を使って実施することである 39.とりわけ,最 ―特に脆弱なメンバー――を保護し,彼らが も確率が高い結末のために設計されていて,確率 将来のために投資することを可能にしてい の低い事象に対しては脆弱性が大きくなるような る,第 1 の頼みの綱である. プランは回避すべきである.例えば,標準的な暴 • コミュニティは保険と保護について非公式な 風雨や潮流のためだけに建設された堤防システム ネットワークを提供して,人々が固有リスク は,誤った安心感を生み出し,洪水が発生した際 に対処するのを助け,共通リスクに立ち向か には被害を激増させることによって,現実にはむ うための資源をプールする. しろ脆弱性を大きくすることがある. • 企業はショックを吸収し,リスクが持つ機会 としての側面を活用するのを助け,雇用の安 定や所得の増加,革新の推進,生産性の上昇 前進する方法:リスク管理にかかわる全体論 に貢献する. 的なアプローチ • 金融システムは貯蓄や保険,信用などの有益  個人は直面しているリスク管理にかかわる障害 なリスク管理ツールの普及を促進すると同時 を独自に克服できるのだろうか? 個人独自の努 に,みずからのリスク管理に責任をもつ. 概観 リスクと機会 21 • 国家は規模と手段をもっており,シス ダイヤグラム 3 鍵を握る社会経済システムは補完的な形でリ テミック・リスクを国家や地域のレベ スク管理に貢献できる ルで管理し,他のシステムが機能でき るような状況に配慮した環境を提供 人々のリスク管理 し,脆弱な人々に対して直接的な支援 を供与することができる.このような 役割は社会的保護(社会的な保険や援 国家 市民社会・ ,公共財(国防・インフラ・法と 助) 民間部門 社会的保護 秩序など),公的政策(健全な規則や ・ 健康や老齢,失業 家計 経済管理など)の提供を通じて,果た にかかわる保険 ・ 援助,救援 ・ 家族の絆 すことができる. コミュニティ 公共財 • 国際社会は専門知識を供給し,国際政 ・ 集団的行動 ・ インフラ 策協調を促進し,リスクが国家能力を ・ 法と秩序 ・ 国防 企業部門 超過する,あるいは国や世代の境界を ・ 仕事と所得 越える場合には,資源を蓄積し共有化 公的政策 ・ マクロ経済管理 金融システム することができる. ・ 規制枠組み ・ 保険と信用  このようなシステムの間には相互作用が あり,しばしば互いのリスク管理機能を補 完したり代替したりしている.例えば,コ 国際社会 ミュニティや企業,金融システム,国家が ・ 資源,専門知識,グローバルなルール,調整 提供している多種多様な保護や保険の仕組 出所:WDR 2014 チーム. みは,家計の自己保護や自己保険を補完・ 改善することができる.企業はダイナミッ クさを維持し,人々に所得と雇用を供与し 続けるためには,マクロ経済の安定性や公共サー 心とした開発が遅れている国々では,非公式な仕 ビス,金融商品を頼りにしている.金融システム 組みがより一般的なものになる傾向にあり,家計 が保険や貯蓄,信用などといったツールを提供で とコミュニティの相対な役割が大きい.このよう きるためには,大勢の家計や企業がこのシステム な諸国については,国際社会は金融支援や能力構 に参加することができ,経済がある程度の安定性 築を通じてより大きな役割を果たすことも可能で と予測可能性といった特徴を示すことができなけ あろう.国々が発展して非公式な仕組みが公式な ればならない.市場というのは一般的に,法の支 仕組みに道を譲るにつれて,企業部門と金融シス 配や健全な規制の枠組みなどの必要な公共サービ テムによる貢献の相対的な重要性が増大する.途 スが整備されていて有効であれば,リスク管理 上国では国家の潜在的な役割はもっと大きいが, ツールや資源を規模を増大させながら提供するこ このような場合,国家は能力と資源に関してより とができる.国際社会はある程度グローバル・リ 厳しい制約に苦しむ傾向にある.このような限界 スクに対する取り組みの協調に積極的な責任ある を考えると,国が発展するのに伴って,国家や市 政府に依存しており,その逆に,国際社会はリス 民社会,民間部門,国際社会の間における互恵的 ク管理のための資源や能力が欠如している政府や な共生関係が要請される(後述). 国々を支援することができる.  このようなシステムの相対的な重要性は開発水 準に応じて変化する.特に脆弱な紛争被災国を中 22 世界開発報告 2014 ボックス 5 どのシステムがどのリスクに対応?  個人は多数のリスクに直面しているが,多種多様な社会 な手段や仕組みを提供することができる.市場がない場合 経済システムは単独の資力を超えるリスクの管理を手助 や一部の人々に利用可能でない場合に,国家がこのような けすることができる.しかし,どのシステムがどのリスク 機能の代替策を供与しなければならないこともある. に最も適切であろうか? システム別にリスク管理の優  システミック・リスクは大きなグループの人々に影響す 先順位を付けるという点において,以下の 2 つの重要な ることから,個人だけではほとんど管理できない.コミュ 原則がその指針を示している. ニティには,小さなシステミック・リスク(地方的な暴力 や洪水など)の管理においては優位性がある.というの 1. 従属性の原則は次のことを示唆している:リスクはそ は,影響を受ける人々のグループに近接しており,地方的 の処理が可能な最低の水準で処理されるべきである. な緊張の監視や解決について潜在的に有利な立場にある そうすれば,リスクに最も直接的に影響される主体へ からだ.国家も小さなシステミック・リスク(総合物価の の近さとより多くの知識に加えて,それら主体と直面 緩やかな変動や地域的な食料不足など)の管理に優位性を するリスクの両方をモニターできる能力を有利に活用 もっている.というのは,国のマクロ経済を制御し,国内 することができる. 各地間で資源を移転させる能力を有しているからだ. 2. 比較優位の原則は次のことを示唆している:リスクは  全国的な銀行危機や自然災害などの大きなシステミッ それを最も有効に処理できるシステムによって管理さ ク・リスクが発生すると,一国内の多くの主体が重大な影 れるべきである. 響を受けるため,互いに供与できる相互支援には限界があ る.換言すれば,民間部門だけでシステミック・リスクの  個人や家計は潜在的な損失が比較的小規模にとどまる ために資源を蓄積して共有化したり,保険をかけたりする 限り,固有リスク(ちょっとした怪我や所得不足など)に のは困難である.そこで,国家には大きなシステミック・ 対処するのに良い立場にある.この種のリスクの管理に優 リスクを管理するという特異な役割がある.というのは, 位性をもっているのは,主な影響が生じるレベルに近いと 国家や地域のレベルでリスクに備えることができる規模 ころにあり,家計内の状況や取り組みを監視する能力を と手段をもっているからだ.大きなシステミック・リス もっているためである. クが国境を越える,あるいは国家の能力を圧倒する場合  潜在的な損失が大きくなるのに伴って,個人が自由に使 には,国際社会からの支援と調整が必要になる.本書のス えるツールはたちまち無くなってしまう.しかし,企業や ポットライトでは,多種多様な支援システムによるリスク 金融システムなら,個人が大規模な固有リスク(世帯主の 管理の事例研究を特集している. 失職や住居の焼失)からの潜在的損失を管理するのに有効 世界開発報告 2014 のスポットライトで特集されている,多種多様なシステムによって管理できるリスクの種類と実例 小さい 大きい 小さい 大きい 固有のリスク 固有のリスク システミックなリスク システミックなリスク リスク管理に 個人・家計 企業部門・ コミュニティ・ 国家・ 最適なシステム 金融システム 国家 国際社会 スポットライト例 健康に関するリスク(トルコ,ポルトガル) 食料不足(エチオピア, 自然災害(フィリピン, 雇用および所得の損失(インド) エルサルバドル) コロンビア) 都市部の暴力(ブラジ 金融危機(チェコ,ペ ル,南アフリカ) ルー,ケニア) 流行病(世界全体) 出所:WDR 2014 チーム. 国家,市民社会,および民間部門:互いのリスク もっている.つまり,国家は家計やコミュニティ, 管理を助ける 企業,金融システムが果たす機能を補完し支援す  上述した社会経済システムのどれ 1 つとして ることによって,重要な潜在的役割を果たすこと 完璧に作用するわけではない.それどころか,場 ができる.この観点からすると,国家の役割は市 合によっては人々のリスク管理を助けるどころか 場の失敗を是正するという狭い目的を越えて,シ 阻害することさえある.しかし,それらは弱点が ステミック・リスクへの取り組み,リスク管理の 解消されれば有効な支援システムになる潜在力を 各構成要因を高める制度の構築,脆弱層向けの直 概観 リスクと機会 23 接支援供与などにまで広がっている. 家族員のための保護とリスクの共有.家計レベル  しかし,国家がしばしば潜在的な役割の遂行 での保護や保険は固有のリスクにとって極めて重 において不十分である,という事実を無視する 要であり,市場性保険や社会保険が欠如している のはナイーブであろう.歴史的に世界中をみて, 場合にはなおさら有意義である.悪いショックに 政府の失敗という事例は残念ながら枚挙に暇が 対する保護は家計内で脆弱な人――若者や高齢 ない 41.これは脆弱な紛争被災国の事例にあま 者,病人――にとっては特に重要である.この目 りにも鮮やかに明白である.それではどうすべ 的のために,家族は社会で入手可能な資源から利 きか? 市民社会や民間部門,国際社会は大い 益を享受することができる――もしこのような資 に必要とされている公共財・サービスを不完全 源が増加し改善しているならなおさらである.例 ではあろうが供給することができる.特に民主 えば,所得が上昇し,保健サービスへのアクセス 的な社会では――それにとどまらないが――, が改善したおかげで,世界のすべての地域で天然 国家を人々のニーズに感応的にし,その措置に 痘の予防接種率は 70%以上にまで上昇している. 関して説明責任を負わせる仕組みを創設するこ ただし,サハラ以南アフリカでは依然として改善 とによって,統治と公共財供給を改善するのを の余地が大きい(図 3a). 後押しすることができる 42.  さらに,悪い時期(および良い時期)を共有す  以下に引き続く議論では,主要な各システム ることは,家計では自然に生じる.それどころ の潜在的な役割を評価して,それらのパフォー か,家族内における,また世代を越えたリスクの マンスを個別に,また他のシステムと組み合わ 共有化は,太古の時代からの基本的な形の保険で せて改善する方法を提案したい.国家の潜在的 ある.拡大家族は特に途上国では積極的な役割を な貢献は各システムとの関係で提示されている. 果たしている.例えば,バングラデシュ,エチオ それは,その論拠やトレードオフの議論に加え ピア,インド,マリ,およびメキシコなどから, て,極めて重要な国家の役割を反映させ,公的 拡大家族のメンバーは親族が病気になると,非常 政策のための具体的な勧告を評価する余地をも にしっかりした形で助けるために介入するという たせるためである. 証拠が得られている 44.同じく,世界中の数カ国 からの証拠は,移住した家族員は出身地で状況が 悪化した時には,送金によって自分の家族を支援 家計 することを示している 45. どうすれば家計は強靭性と繁栄を発展させること ができるか? 若者を中心とする家族員が将来のために投資する  ほとんどの人々にとって,家計――家族の絆に のを許容. 家計の役割はマイナスの事象に対し よって互いに関係している個人のグループとして て,家族員を保護し保険をかけることをはるかに 定義される――というのは,リスクに立ち向かい 超越している.家計は,特に若者を中心とするメ 機会を追求するに当たって,物質的および感情的 ンバーの人的資本や社会的スキルに投資し,将来 な支援の主要な源泉を構成している.『家族の経 世代が直面するリスクや機会を管理できるように 済学』におけるゲーリー・ベッカーの比喩を拡張 備えさせる.学校教育は近年進歩が起こった重要 すれば,家計というのは,社会の他の部分から入 な事例の 1 つである.平均的な教育年数は 1960 手した「中間投入財」と,家族員が提供する共有 年以降すべての地域で増加している――最も伸び 化し蓄積された努力やスキルの両方を使って,知 が著しいのは当初の達成度が最低だった地域であ 識や保護や保険の財とサービスが生産される「小 る(図 3b).しかし,科学や数学,読みのスキル さな工場」である 43.家計はどうすれば貢献で に関する国際的な試験で測定した教育の質は,多 きるか? くの低・中所得国では依然として後れを取ってお り,いまだに収斂する兆候は見えていない 46. 24 世界開発報告 2014 図 3 途上国における教育と健康の成果は改善しつつあるものの差異がみられる a. 麻疹予防接種率 b. 15–24 歳層の教育達成度 100 10 対 12 9 90 – 23 8 カ月児童人口比(%) 80 7 教育年数 6 70 5 4 60 3 50 2 1990 1995 2000 2005 2010 1960 1970 1980 1990 2000 2010 OECD 東アジア・太平洋 ヨーロッパ・中央アジア ラテンアメリカ・カリブ 中東・北アフリカ 南アジア サハラ以南アフリカ 出所:以下に基づく WDR 2014 チーム:パネル a に関して World Bank World Development Indicators (database);パネル b に関し て Barro and Lee 2010. 注:上図の OECD 諸国は少なくとも 40 年間以上にわたって OECD 加盟国であった高所得国.他のすべての国は地理的な地域に 区分け. どのような特性がリスク管理に対する家計の貢献 とって高額医療費支出を著しく削減することを示 を改善するか? している 47.人々が行う他のあらゆることにとっ  家計というのは小さいが複雑な単位である.そ て健康が根本的に重要であることを考えると,確 のメンバーの動機は利他主義から自己利益に至る かに医療保険の必要性は大きく,その改善には大 まで幅が広く,家計内の関係は共通の目標ないし きな余地がある.途上国の成人で医療保険に拠出 相対的な交渉力に基づいており,家計の社会との していると回答した人の割合はわずか 17%であ 結び付きは流動的または疎遠である.このような り,低所得国のなかにはこの割合が 2%と低い国 特徴は家計がリスクと機会に立ち向かうための第 もある 48. 一線の支援として,どの程度うまく機能するかに 大きな影響をもち得る. 家計内の公正性.家計は養育的で結合力のある単 位として考えたいものである.しかし,あまりに アクセスと参加. コミュニティ,労働・金融市 もしばしば,濫用や差別が家族内で発生し,リス 場,公的制度は,家族がリスクを管理するために クに対する解決策どころか,その源泉になってい 依拠できる「中間投入財」を供与している.この る.女性の経済的・社会的なエンパワメントが, ような市場や制度への継続的なアクセスや参加 家計内での資源配分が子供に有利で,男女平等を は,家族がリスク管理者として成功するのに決定 促進するか否かに強く影響するということが,否 的に重要である(本報告書はそういう意見である 定しようのない証拠として得られている 49.例 ため,以下に引き続く 4 つのセクションは,そ えば,南アフリカの現金給付プログラムに関する れがどのように貢献できるかを評価することに当 評価は,女性が受領した年金は少女の健康・栄養 てられている).1 つだけ例をあげてみよう.つ の状況を改善したのに対して,男性が受領した年 まり,59 カ国からの証拠は,社会保険や民間医 金は少年と少女のいずれにも影響がなかったこと 療保険などの保健支出にかかわる自己負担を制限 を見出している 50.女性の経済的なエンパワメ するプログラムへのアクセスは,特に貧困家計に ントにとって重要な構成要因の 1 つは,労働市 概観 リスクと機会 25 場へのアクセスである.これはいくつかの状況で なエンパワメントを通じて可能である.すなわ は,児童ケアのインフラ不足や制限的な社会規範 ち,女性の労働力参加を奨励し,貧困家計のため によって限定的なものにとどまっている. には直接的に購買力を増大させるということであ  改善の余地が大きい国や地域がなかにはある. る.後者の一例としては,女性に直接支払いを行 すなわち,女性の労働参加率は中東や北アフリ う条件付き現金給付プログラムがある.インパク カ,および南アジアではわずか 20 – 30%である ト評価が示すところによると,このようなプログ のに対して,その他の世界のほとんどでは 50% ラムは家族と特に子供の成果――健康と認知発達 をはるかに超えている 51. を含む――を改善している 55.第 2 のルートは 社会的および法的なエンパワメントを通じて行う 国家はどのように貢献できるか? ものである.つまり,虐待および家庭内暴力を禁  国家は社会サービスを供給し,有害な社会規範 止している法的措置を執行する,資産の所有や経 に対抗することにおいて,果たすべき重要な役割 済活動において女性を差別している規則を廃止す を担っている.家計を単位としてエンパワーする る,女性や子供に対する暴力や差別を許容する社 政策と,家計内の個人をエンパワーする政策が必 会規範に対抗すべく教育キャンペーンを展開する 要である. ということである.同キャンペーンでは男女両方 を対象にすべきである.ラテンアメリカ・カリブ 必須の社会サービスを供給.たとえ基礎的なもの を除くすべての地域で,女性の 20%以上は,夫 であっても,教育や医療について良いサービスへ は妻が無断で外出した,あるいは口答えしたとい のアクセスがあれば,人々は重大な健康リスクに う理由で,叩いたり殴ったりしても正当化される 立ち向かい,ライフサイクルの変化に対処し,仕 と信じている 56. 事の機会を活用する備えをしておくことができ る.その意味で,「機会の平等」の推進も家計や 個人のために強靭性をもたらすことができる 52. コミュニティ 良質な医療保険への普遍的なアクセスを供与しよ コミュニティはどうしたら強靭性と繁栄を発展さ うというタイやトルコにおける取り組みは,特に せることができるか? 言及しておく価値があろう.保健ケアへの普遍的  コミュニティというのは頻繁に相互交流した アクセスは,財政的な持続可能性と十分な人的 り,場所やアイデンティティを共有したりしてい 資源の両方を確保するために,官民両部門間の る人々のグループである.近隣グループや宗教団 パートナーシップを必要とする公算が大きいだ 体,親族グループなどがその事例のいくつかであ ろう 53.最も脆弱な層にとって,対象を絞った る.それは信頼や互恵,社会規範など――ジェー セーフティネットは長期にわたるコスト負担―― ムズ・コールマンとロバート・パトナムが「社会 基礎的消費を削減する,児童を退学させる,生産 資本」と呼んでいるもの――に基づく非公式ネッ 的資産を投げ売りする,犯罪に手を染めるなど― トワークを通じて機能している 57.このように ―を余儀なくされる対処策を回避するのに,劇的 して,コミュニティは固有リスクを共有し,共通 な影響をもたらすことができる.エチオピアの生 のリスクや機会に立ち向かうことによって,メン 産的セーフティネット・プログラムは,気候リス バーを助けることができる. クの管理を改善し,生産性を引き上げるために, コミュニティの資産を構築しながら,最脆弱層を 固有リスクを共有. 非公式保険は低所得家計に 食料不安から保護するという点で成功例の1つに とっては特に重要であり,時にはそれが唯一の本 なっている 54. 当のセーフティネットとなっている.例えば,タ ンザニアのニャカトケ村はわずか 120 世帯の人 家計内で女性の力を増大. これは第 1 に経済的 口であるが,約 40 もの相異なる保険制度(埋葬 26 世界開発報告 2014 図 4 人々は独自に,また,他人とリスクに協同して取り組むことによって,ショックに対応している マラウイ ウガンダ タジキスタン ウズベキスタン アフガニスタン イラク モルジブ スーダン ナイジェリア 0 20 40 60 80 100 ショックに直面した際のすべての対処策に占める割合(%) 非公式信用・援助 公式信用・援助 消費削減 貯蓄・資産売却 雇用ないし移住 出所:家計調査(2004–11 年の各年)からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成. 費保険組合,回転型貯蓄信用講,労働・家畜を分 どのような特性がリスク管理に対するコミュニ 担・共有する取り決めなど)がある 58.このよ ティの貢献を改善するか? うな慣行は国レベルでも当てはまる.例えば,イ 結束力. メンバー間の結び付きが強いコミュニ ンドネシアの家計は深刻な健康ショックの経済コ ティ――つまり,強い「絆」という社会資本を与 ストの 38%,軽い病気に伴うコストの 71%につ えられたコミュニティ――は,グループのために いて,非公式な保険をかけている 59.ナイジェ 集団行動を組織化することに優れている 61.実 リアでは,非公式な信用と援助が家計によって負 際に,市場や政府の目が届かない地方の問題に関 担されたすべての対処策の 32%に適用されてい して,結束力のあるコミュニティなら問題の解決 る(図 4). 策を提示することができる.しかし,結束力とい うのは達成が容易ではない.というのは,コミュ 共通のリスクと機会に立ち向かう.コミュニティ ニティの構成員間では,都市部のコミュニティで が集団的行動のために社会資本を注ぎ込む場合, ますますそうなっているように,価値観や文化的 共通の悪い事象(流行病や自然災害,および犯罪 アイデンティティが多種多様だからである.加え や暴力など)に対して保護したり,共通の機会 て,コミュニティの結束力というのは,人々が疎 (新しい市場や技術など)の活用を促進するため 外されたり差別されたりしている場合には重大な に,何らかの公共財(基本的な輸送や灌漑のイン 損傷を受ける. フラなど)を供与することができる 60.このよ うな集団的行動は国家の能力が低い時には特に重 接続性.コミュニティは他のコミュニティや市場 要であり得る.例えば,パキスタンのカラチ市オ への接続も必要とする.このようなつながりがな レンジ町の非公式定住地は,地元の非政府組織の ければ,コミュニティは小さく孤立したままにと 支援を受けて,独自の衛生設備や予防接種,零細 どまり,政治的な影響力を欠き,何事も大規模に 金融,家族計画,暴力防止などに資金援助を行い 達成することはできない.相互のつながりが強い 組織化している. コミュニティ――つまり,「橋渡しする」社会資 概観 リスクと機会 27 本が多いコミュニティ――は,相互に有益なリス でなく,コミュニティの参加も統治プロセスの質 ク管理プロジェクトに関しては互いに協働して, を高め,政府プログラムのパフォーマンスを改善 平和的に共存する可能性が高い.例えば,宗教的 することができる.政府が災害警報を鳴らして あるいは民族的な動機の強い暴力が横行している も,人々は避難勧告にしたがわないかもしれない 都市は,相異なるグループのメンバー間で日常的 が,信頼できるコミュニティの仲間から警告され な相互交流が欠如し,分裂を促す指導者やメディ れば走って逃げるだろう.コミュニティの声やエ ア,犯罪ギャングによって特徴付けられる傾向が ネルギー,集団行動を動員すれば,政府能力が弱 強い. い国や地域でリスク管理の改善に対する障害を克 服するのに役立つだろう.例えば,アフガニスタ 国家はどのように貢献できるか? ンの国家連帯プログラムはコミュニティの参加を  人的な相互作用や非公式な執行手段への依存は 得て農村インフラを建設中であるが,地方統治を コミュニティの強さを強調しているとともに,そ 改善するための基盤を築いてもいる.インドやウ の弱さの源泉ともなっている.コミュニティはリ ガンダでは,健康や教育の権利や成果に関する情 スク管理が複雑で長期にわたる準備を必要として 報をコミュニティが後援した公聴会で配布したこ いるが,システミック・リスクに苦闘して不安定 とで,政府サービスとコミュニティ参加の両方が になっている.政府は必需の公共財を供与し,包 改善し,予防接種の増加や出生前サプリメントの 容性と多様性の尊重を促進することによって援助 増加,過剰な授業料の減少につながった 63. することができる. インフラや法の支配などの必須の公共財を提供. 企業部門 コミュニティの自律的な対処や保険のメカニズム 企業部門はどうすれば強靭性と繁栄を発展させる は,合計しても十分なリスク管理にはならない. ことができるか? 国家や地方の政府がその努力を補完する必要があ  企業部門は労働者と所有者,その関係を規定し る.例えば,近隣の各地区は独自の排水設備を維 ている取り決め,生産要素を財やサービスに転化 持できる潜在力をもっているだろうが,都市部全 する技術で構成されている.企業部門の核である 体の洪水防止となると,都市政府だけが提供でき 企業そのものは,非公式なものから公式なものま る都市全域にわたる排水システムや土地利用計画 で,自己雇用やパートナーシップの形態から巨大 を必要とする.同様に,近隣地区は軽犯罪者を防 な多国籍企業に至るまで,農業から製造業やサー ぐためのパトロールはできるだろうが,組織犯罪 ビス業に至るまでと範囲が広い.ある単一企業の に関しては無力であろう. 所有者は利益の最大化を求めているかもしれない が,企業部門全体としては労働者や所有者,消費 包容性や多様性の尊重を促進.コミュニティは必 者の利害を含んでいる.このような利害の間には ずしも公正とは限らず,信頼できないこともあ 重要なトレードオフが生じる可能性はあるもの る.また,権力と富の著しい不平等が特徴になっ の,以下で説明するように,企業部門は人々がリ ている場合もある 62.脆弱な人たち(慢性的な スクを管理することに関して,いくつかの経路を 病人や寡婦など),新規加入者(移民や難民など), 通じて支援を提供することができる. あるいはたまたま異なっている人たち(少数民族  労働者と所有者にとって,大勢の人々による事 など)を疎外することもある.国家は,差別禁止 業――それが企業というものである――の一部に 法の制定や教育キャンペーンの展開,多様性のな なっているということは,特化や協働,革新に伴 かで結束力を促す相互交流の奨励などによって支 う利益や損失を共有する可能性を提供する.確か 援することができる. に,それが企業形成の背後にある主要な動機の 1  政府がコミュニティを助けることができるだけ つである.フランク・ナイトとロナルド・コース 28 世界開発報告 2014 図 5 特にサハラ以南アフリカや南アジアを中心に,途上国では自己雇用がより一般的 総雇用に占める自己雇用の割合(2004–06 年平均) 100 上限 90 75%層 中位数 80 70 25%層 60 50 % 40 30 20 下限 10 0 OECD 東アジア・ ヨーロッパ・ ラテン 中東・ 南アジア サハラ以南 太平洋 中央アジア アメリカ・ 北アフリカ アフリカ カリブ 出所:World Bank World Development Indicators (database) からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成. 注:上図の OECD 諸国は少なくとも 40 年間以上にわたって OECD 加盟国であった高所得国.他のすべての国は地理的な地域に 区分け. が先駆的な研究のなかで主張したように,不確実 アでは約 70%に達し,サハラ以南アフリカでは 性に取り組み取引コストを克服するために費用に 80%を超え,他の地域の途上国でも一般的である. 対して効果的な方法を提供することにおいて,企 自己雇用比率のこのような高さが示唆しているの 業は制度的に有利な立場にある 64.ほとんどの は,途上国の大多数の労働者にとっては所得が多 個人は単独では当然ながらリスク回避的で,新し 種多様なショックに対して脆弱だということであ い事業に乗り出すことには消極的であるものの, る――子供の病気,機械の故障,気象の変化など グループになるとリスクは大きいが,より高い収 は,1 日分ないしそれ以上の所得の損失を意味す 益率を約束してくれるプロジェクトの追求に積極 る.また,大勢の人々で構成される企業では可能 的になる.したがって,企業はリスクの上振れを になる特化や生産性の上昇から,企業部門が利益 探求する自然な手段として機能するため,個人の を享受していないということも示唆している. 強靭性や繁栄にとって有益な結末をもたらすこと ができる 65. 革新と資源再配分.競争で活気付いている時,企 業部門は新技術を採用し,資源を再配分すること リスクの分担.企業は次のことを通じてリスク分 によって,革新を推進することができる.経済の 担を許容する.すなわち,協働を通じて労働者の なかで企業の退出や参入を必要とする場合もあろ 間で,投資の分散化を通じて企業の所有者の間 う.ヨーゼフ・シュンペーターによって初めて で, (公式ないし非公式な)契約上の取り決めを 「創造的破壊」と命名されたこのプロセスは 66, 通じて労働者と所有者の間でリスク分担を図って 著しい調整コストを必要とするかもしれないが, いる.所与の企業内におけるリスク分担にとって, 常に変化している状況に直面しているなかでは, ある一定規模の達成は強みになる.しかし,多く 経済が強靭に繁栄し続ける唯一の道であろう.こ の途上国の企業部門は自己雇用(個人企業)で占 のダイナミックなプロセスを改善すれば,長引く .自己雇用の割合は南アジ められている(図 5) 不況のリスクを削減することと,全体的な生産性 概観 リスクと機会 29 を高めることの両方に対して顕著な効果をもた をこうむったが,両国の労働にとっての結末は著 らし得るだろう.例えば,ある推計は,中国や しく異なっていた.デンマークでは,離職率は高 インドで資源配分をアメリカにおけるのと同じ かったが失業期間は短かった.それとは対照的に 程度に効率化すれば,全要素生産性は中国では スペインでは,2013 年の初めに 25%に達して 50%,インドでは 60%も上昇することを見出 いた失業率は,危機が発生して以降低下する兆し している 67.しかし,このような大きな利益は, をほとんど示していない.この相違はおそらくス 企業部門で高度のダイナミズムを支援できる制度 ペインの企業部門が,デンマークの状況に配慮し やビジネス環境の整備を必要とする.それは容易 た企業環境と比較して,硬直的なことで説明でき ならざる課題であろう. るだろう.このような状況を背景にスペインでは 真剣な議論が起こり,最近になって改革案が提示 労働者,消費者,および環境の保護.国家によっ された.より一般的には,企業部門の柔軟性が低 て適正に規制された企業部門は,評判に対する い国々はマイナスのショックが発生した際には, 配慮を動機として,職場の安全や消費者保護, より深く長い不況に苦しむ可能性が大きいという 環境保護を提供することによって,人々のリス 証拠が得られている 69. ク管理に貢献することができる.しかし,この ような保護は保証されているわけではなく,企 公式性.企業にとって公式性は法規制の順守と定 業が足を引っ張って社会に損失をもたらす場合 義される.公式性が利益をもたらすかどうかは もあろう.このような有害な慣行は国家やコミュ (企業や経済にとって),国家が規定する規範の質 ニティ,同業他社からの指摘で是正され得るだ とそれが提供する公共サービスの質に依存する. ろう.適正なインセンティブがあれば,このよ このような規範とサービスが健全な場合,企業部 うな社会的保護を優先課題にしている企業は多 門の特徴は,自己雇用ではなく,より大きく,よ 大な利益を享受できる.例えば,最近のメタ分 り安定した,より公式な企業といったものになる 析は,職場のウェルネス・プログラムは医療費 だろう.このような特徴はすべてが互いに関係し と無断欠勤のコストを削減していることを見出 ている.非公式な仕組みは中小企業や単純な取引 している.この利益は労働者と企業の両方にも にとっては有効かもしれないが,大企業および労 たらされているといえる 68. 働者や市場との関係が複雑な場合には不十分であ ろう.公式企業は十分かつ公的な規則やサービス どのような特性がリスク管理に対する企業部門の を背景に,より良い法的保護(契約の執行など) 貢献を改善するか? が受けられ,公共インフラ(国際貿易のための港  柔軟性と長期的な公式性という 2 つの特性が, 湾など)のより自由な利用が許される.それゆえ 人々の強靭性と繁栄に貢献する企業部門の能力を に,さらに企業間ではリスク分担や革新を促進す 高める. ることができる.加えて,労働者の安全および消 費者や環境の福祉に対する影響に関して,企業の 柔軟性.柔軟性というのは,企業部門全体(所有 説明責任を問うのが容易になる 70. 者や労働者,および技術)が,変化する状況に合  柔軟性と公式性の間には相乗作用とトレード わせて調整する能力のことである.労働者の解雇 オフの両方がある.有効な国家制度のある国で という単純で容易な手段と混同すべきではない. は公式性は柔軟性を高める.しかし,国家制度 柔軟な企業部門ほど,企業内や企業を越えた資源 が弱く規制体制が煩雑な国では,公式性に関す の再配分,リスク分担の促進,常に変化している るコストは大半の企業や労働者にとっては過大 世界のなかでの革新などによって,ショックに対 であろう.この場合,非公式性は経済にとって 応する能力に優れている.例えば,最近のグロー はある程度の柔軟性を達成し,労働者にとって バルな金融危機でデンマークとスペインは大打撃 は実際的なセーフティネットにアクセスする手 30 世界開発報告 2014 図 6 製品・労働市場の柔軟性と公式性は国ごとに大きな差異がある 柔軟性大 オーストラリア フランス モーリシャス オーストリア ドイツ オランダ ベルギー 香港 ノルウェー アルメニア カナダ アイルランド ポーランド アルバニア チリ イスラエル シンガポール アゼルバイジャン 中国 コスタリカ 日本 スウェーデン カンボジア カザフスタン チェコ 韓国 スイス ペルー デンマーク ラトビア イギリス エストニア リトアニア アメリカ フィンランド マレーシア 製品・労働市場の柔軟性 ベニン ギニア ボツワナ レバノン ハンガリー ブルキナファソ マダガスカル ブラジル モンゴル イタリア カメルーン モロッコ ブルガリア ナミビア ヨルダン コートジボワール スリランカ インドネシア 南アフリカ ポルトガル エルサルバドル タンザニア ケニア ウクライナ スロバキア ガンビア タイ キルギス ウルグアイ スロベニア グルジア ウガンダ マケドニア ベトナム スペイン グアテマラ ザンビア トルコ バングラデシュ ジャマイカ ボリビア マリ ボスニア・ヘルツェ ネパール アルジェリア メキシコ アルゼンチン ゴビナ ニカラグア ドミニカ共和国 ロシア クロアチア ブルンジ パキスタン エクアドル トリニタード・ト ギリシャ チャド フィリピン エジプト バゴ イラン コロンビア セネガル インド イエメン ルーマニア ガーナ シエラレオネ レソト ハイチ ベネズエラ 柔軟性小 ホンジュラス ジンバブエ 公式性小 公式性大 生産・労働の公式性 出所:以下からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成――World Bank Pensions (database); World Bank World Development Indicators (database); World Economic Forum 2012; Schneider, Buehn, and Montenegro 2010. 注:最上行の国は製品市場と労働市場の両方で柔軟性大(中位数より大) ;中間行ではどちらかの市場で柔軟性大;最下行では両方の指 標で小(中位数より小).同様に,左から第1列の国は生産と労働両方の公式性小;中間列ではどちらかの指標で公式性大;右側の最終 列の国はどちらの指標でも公式性大.4 つすべての指標が入手可能な国だけを検討.中位数はこの標本内で算出. 段となっている 71.図 6 は製品市場と労働市場 スク管理を改善することができる.最も基本的な の柔軟性や公式性に基づいて,国の類型を示した こととして,確実な財産権と規制上の確実性に加 ものである. えて,企業の参入・退出のコストが低いことが必 須である.加えて,孤立した労働市場改革だけで 国家はどのように貢献できるか? は成功の可能性は低いものの,労働課税の負担を  企業部門向けの公的政策は,柔軟性を求める経 削減し規則を簡素化することは,包括的な改革案 済の要請と,法的および規制上の保護を求める社 ――その総合的な効果は各部分の総計よりも大き 会の要請を調節するような改革を必要とする. くなる――のなかで決定的に重要な構成要因にな る 72.そのような補完的な改革と並んで,最近 企業環境の改善.国家が生産性や革新に貢献でき の国際比較の証拠は,ある国を,労働市場の硬 る方法のうちのいくつかは,企業部門の強靭性を 直性が最大の 20%層から同最小の 20%層に移す 高めることもできる.投資環境を改善すれば,道 と,ショックに対する調整の速さが 50%も改善 理に適ったルールや規則の順守を奨励することに し,生産性の伸びが 1.7%ポイントも高まること よって,まった,新しい状況に適応する同部門の を示している 73.さらに,強固で包容的な社会 能力を高めることによって,企業部門におけるリ 保険が必要であり,それがあれば企業部門の柔軟 概観 リスクと機会 31 ボックス 6 社会保険へのアクセスは就業上の地位と結び付けられるべきか?  病気や老齢――特に脆弱層――に関連したリスクに対 には次のような公的措置が盛り込まれる. する基本的保険の提供は,おそらく公的政策の基本的な目 標であろう.しかし,社会保険はどのように資金調達し ・ 人々が就業上の地位とは無関係に,健康・老齢保険に て,だれに利益をもたらしているのであろうか? 伝統的 参加することを許容する.ただし,受給権については には,雇用者と被雇用者に課される義務的な給与に対する 確定までに短い期間が必要である一方,転職しても継 税を通じて賄われて,拠出している労働者に利益を供与し 続可能とする. てきている.このアプローチの問題は適用範囲が限定的な ・ 健康・年金制度への追加的な拠出を任意とし,国家に 点にある.ほとんどの途上国で公式労働者(社会保険に拠 よって認められている基本的な支給を超える予測可能 出しそこから利益を享受している)は労働力の半分以下し な給付に明確に連動させる.社会保険の拠出・給付に か占めていない(サハラ以南アフリカと南アジアではさら かかわる任意部分の管理と供与について民間部門を関 .つまり,伝統的なアプローチは多くの労働者 に少ない) 与させる. ――ほとんどが低所得者,自己雇用者,あるいは農業従事 ・ 国家によってファイナンスされ脆弱層向けに指定され 者――を除外している a. ているが,潜在的には全員に開放される(少なくとも  適用範囲の間隙を埋めるために,健康および老齢年金保 保健ケアについて)基本的な保健ケア・老齢年金を提 険について非拠出型制度を創設している国もある.非拠出 供する c. 型と義務的拠出型の制度を組み合わせるのは良い考えで ・ 基本的給付の特性と限界,および任意拠出にかかわる あろうか? 社会保険への拠出による利益が不確実で,義 追加的な費用便益に関して,世の中と明瞭なコミュニ 務的な拠出の執行が弱いのであれば,このような並行的な ケーションを図る. 制度があることは,雇用者が公式に採用し,被雇用者が公 ・ マクロ・プルーデンス措置と政策の確実性によって, 式雇用を追求するインセンティブの足を引っ張る懸念が 保険機能に関して金融リテラシーを促進し金融システ あろう.となると,次のような悪循環が後に続くだろう. ムに対する信頼を発展させる. すなわち,非公式性は適用範囲を狭め,適用範囲が狭いこ とに対する反応はさらなる非公式性を生み出す b.  あまりに野心的にすぎる,あるいは遠大すぎるだろう  議論に値する 1 つの可能性は,社会保険について,就 か? おそらくそうであろうが,議論の価値はあろう. 業上の地位との連動性を切断することであろう.この分離 出所:WDR 2014 チーム. a.Ribe, Robalino, and Walker 2012. b.チリ・コロンビア・メキシコからの証拠は,拠出型制度と非拠出型制度の相互作用は公式雇用の減少につながっており,小規模な 非公式企業は生産性が低く,賃金が低い傾向にあることを示している.次を参照――Levy and Schady 2013; Pagés-Serra 2010; ILO 2009; La Porta and Shleifer 2008. c.モーリシャスや南アフリカなどといった途上国は,年金については主にすでに非拠出型に依存しており,中国やインド,タイ,ト ルコ,およびベトナムなどを含む他の数カ国も,健康保険に関しては普遍的なアクセスを提供し始めている.Holzmann, Robalino, and Takayama 2009 を参照. 性は,労働者や家計,コミュニティの福祉を犠牲 た――は人々が自分では監視できない規則に関し にすることなく確保できる(ボックス 6). て,国家による監視や執行の重要性を悲しくも思 い出させるものとなっている.このような規則は 労働者や消費者,環境の安全性のためにより強力 重要であり,特に制度能力が弱い諸国では介入策 で執行可能な規則.多くの分野で規則は過剰で市 の優先順位を慎重に設定する必要がある. 場諸力を混乱させ得るものの,職場の安全や消費 者保護・環境保全を確保するためには,より強力 で執行可能な規則が必要である.この分野では外 金融システム 部性や情報の非対称性に由来する市場の失敗が一 金融システムはどうすれば強靭性と繁栄を発展さ 般的であり,国家による直接介入を必要として せることができるか? いる.2003 年のバングラデシュにおける致死的  有用な金融ツールの提供やみずからのリスクの な工場崩壊――1,100 人を超える労働者が死亡し 責任ある管理を通じて,金融システムは事態の悪 32 世界開発報告 2014 図 7 所得水準がさまざまな途上国における貯蓄,信用,および保険の金融包摂 0.7 THA 0.6 金融包摂指数(2011年:0~1の値) MNG 0.5 CHN MYS LKA MUS 0.4 BGD ZAF LAO ALB LTU BOL SWZ 0.3 KEN VNM DOM MNE LBN URY RWA HTI KHM PRY ECU AZEBLR CRI LBR UGA ZWE GHA PHL GTM MKD BWA VEN MOZ ARM PER PAN 0.2 SLE NPL COM NGA IND IDN BIH COL KAZ BRA LVA ZMB MAR KSV RUS CHL TZA SRB ROM MWI GIN TCD MRT CMR NIC HND IRQ SLV BGR MEX KGZ ARG AFG SDN MDA GEO UKR 0.1 BFA MLI BEN LSO TUN GAB TUR BDI TGO TJK SEN COG EGY DZA ZAR NER MDG PAK UZB 0 CAF YEM TKM 5 6 7 8 9 10 1 人当たり GNI(2011 年:自然対数) サハラ以南アフリカ 中東・北アフリカ 南アジア ラテンアメリカ・カリブ 東アジア・太平洋 ヨーロッパ・中央アジア 出所:次からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成――World Bank Global Findex (database); World Bank World Development Indicators (database). 注:金融包摂指数は貯蓄(過去 1 年間に金融機関で貯金した成人の割合) ,信用(過去 1 年間に金融機関から借入をした成人の 割合),保険(医療保険に対して個人的に支払いをした成人の割合,および農業で働いている成人のうち農業保険を購入した人 の割合)の利用に関する Global Findex データに基づいて算定.GNI= 国民総所得. 化がもたらす影響から人々を保護し,人々を機会 サービスを提供することができる 74.確かに, を追求するのに有利な立場に置くことができる. 人々は多種多様な頻度や強度,性格――固有か 人々は貯蓄手段(銀行預金や流動証券など)を使 システミックか――のリスクに直面するが,金 えば,不測の事態のために緩衝手段を用意して 融市場は彼らを支援する商品やサービスを提供 おくことができる.信用手段(教育ローンや住宅 す る こ と が で き る. し か し, 低・ 中 所 得 国 の ローンなど)はファイナンスの制約を緩和して, 人々のうちの約 70%は必需の金融手段をまっ 人々が被害を受けた後でも消費をスムースにする たく使っていない.それに対して高所得国では だけでなく,機会をより柔軟かつ有効に活用する 約 40%の人々が使っている.個人の金融ポー 際に開拓するのに役立つ.最後に,市場性保険 トフォリオに関するデータは,金銭的な貯蓄と (医療保険や住宅保険など)は,被害をもたらす 保 険 を 使 っ て い る の は 低・ 中 所 得 国 で は, と 悪い事象のコストを賄う手段を提供してくれる. もにわずか約 17%(高所得国では貯蓄につい て 45%),信用の利用は約 8%(高所得国では どのような特性があればリスク管理に対する金融 14%)にとどまっていることを示している.た システムの貢献を改善できるか? だし,国ごとの差異が大きい(図 7). 利便性と深さ. マートン・ミラーや大勢の追随 者が説得的に主張しているように,金融市場は 安定性.金融システムの弱点は危機に陥りやすい 競争的で歪みがなく機能している時には,より ことである.ダグラス・ダイヤモンドとフィリッ 多くの人々に対してより多くのより良い商品や プ・ディヴィグの先駆的な業績で指摘されている 概観 リスクと機会 33 –  地図 1 世界の銀行危機(1970  2011 年) 銀行危機なし 危機 1 回 危機 2 回 危機 3 – 4 回 データ不明 出所:Laeven and Valencia 2012 からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成.地図番号:IBRD 40098. ように,銀行の資産(長期)と負債(短期)の間 る.これは特に信用市場に当てはまる.例えば, のミスマッチのために,金融システムは本来的に タイ(1997 年),コロンビア(1982 年),およ 不安定である 75.仮に金融システムがみずから びウクライナ(2008 年)における銀行危機は, が抱えているリスクの管理に失敗するなら,人々 それぞれ年間 25%,40%,および 70%という に被害をもたらし得る.すなわち,人々のファイ 過度な信用拡大に引き続くものであった.適切な ナンスへのアクセスを阻害することによって直接 規模の信用を供給する――多すぎることも少なす 的に,あるいは企業向けの利用可能な信用を阻害 ぎることもない――ことが,すべての国々にとっ し,公的ファイナンスを逼迫させ,したがって仕 て重大な関心事である. 事,所得,および富の損失の要因になることに よって間接的に被害をもたらす.1970 – 2011 年 国家はどのように貢献できるか? の間に 116 カ国を襲った 147 件の銀行危機から 健全な金融インフラを供与. 金融インフラは金 .すなわ の経験が多くを物語っている(地図 1) 融仲介を円滑化する制度によって構成されてお ち,危機の最初の 3 年間における産出損失の累 り,それには支払いシステム,信用興信所,担 計は,平均すると先進国では GDP の 33%,新 保登記所などが含まれる.金融インフラには消 興市場国では 26%に達している 76. 費者保護と金融機関の間の競争の両方を促進す  金融の包摂や深度,安定性の間には相乗作用と る規制枠組みも含まれる.例えば,メキシコと トレードオフの両方が存在する可能性がある.よ 南アフリカは効率的な消費者保護を法制化した り多くのより多様化した国内貯蓄を銀行にとって が,それには消費者ファイナンスにかかわる紛 利用可能にすれば,(そうすることで逆転し得る 争を解決するためのオンブズマンが含まれてい 外国資本への依存度を減らすことによって)金融 る 78.競争はフィリピンにおけるように金融包 の包摂と深さが高まり,それは金融システムの安 摂における革新――携帯ネットワーク業者が多 定性を強化できるだろう 77.しかし,過度な金 くの銀行業務を遂行することが認められた―― 融包摂や急速な深化は安定性を脅かすことがあ につながり得る 79.さらに,金融包摂を促進す 34 世界開発報告 2014 るために,政府は革新的な慣行を通じた手本に の間の具体的なトレードオフに取り組んでいない よってそれを先導することができる.興味深い という証拠が得られている.ただし,3 分の 2 以 事例はインドの国家農村雇用保証法である.銀 上の諸国は国家戦略のなかで両方の目標の達成を 行勘定を使った政府対個人支払いの導入を通じ 公約している 82.各国が金融部門におけるトレー て,この法律は農村部に居住する貧困層に対す ドオフと相乗作用の考慮および政策協調を改善す る支援活動を改善することができた 80. るためには,金融安定委員会がその手段になるか もしれない.考慮に値する興味深い事例はマレー システミック・リスクのためにマクロ・プルーデ シアである.同国では金融部門政策については中 ンス規制を法制化.システミックな金融危機の可 央銀行が指導権をとって,主要な利害関係者―― 能性に対する管理を改善するために,各国は強固 財務省と民間部門の専門家を含む――を関与させ なマクロ・プルーデンス規制の枠組み――金融機 ている.このような関与の目標は,金融にかかわ 関や金融市場の相互連結性を考慮に入れて金融シ る包容性や発展の促進と金融部門におけるシステ ステム全体に取り組む枠組み――を確立すべきで ミック・リスク管理の間のトレードオフを考慮に ある 81.マクロ・プルーデンス規制当局を,お 入れて,マレーシアとして国家的な金融部門戦略 そらくは中央銀行の監督下に置くことによって独 を策定することにある. 立させることが,その方向に向けた第 1 歩であ ろう.2006 年にチェコは中央銀行に金融安定性 の促進に関する明示的な責任を付与したが,それ マクロ経済 が適例である.そうすれば政府は積極的なマク マクロ経済はどうすれば強靭性と繁栄を発展させ ロ・プルーデンス監督を追求し,タイムリーで頑 ることができるか? 健な政策手段をもって介入することができる.例  マクロ経済はすべての経済活動,すなわち家計 えば,韓国は 2011 年の国際金融危機を受けて, における消費から貯蓄に至るまで,企業における 投機的な資本フローを管理するために,銀行の非 投資から生産に至るまで,金融市場における借入 中核的な金融負債に対して課徴金を設定した. から貸出に至るまでの活動が行われるプラット  マクロ・プルーデンス規制が金融危機を防止す フォームである.健全なマクロ経済管理があれ るのが理想であろう.しかし,回避できない危機 ば,家計やコミュニティ,および企業は長期的に がなかにはあるため,危機を処理するためのシス 計画し,みずからリスク管理を行うことができ テムが必要である.損失をどう処理すべきか?  る.さらに,マクロ経済政策は家計やその他の社 危機処理に当たって,各国は銀行の損失を株主や 会経済システムが単独では対処できないような大 マネジャー,および場合によっては非付保債権者 きなシステミック・リスクに取り組むことがで に転嫁することに努力すべきである.これは,納 きる.なかでもロバート・バローが指摘したよ 税者のコスト,財政安定性に対する脅威,将来的 うに,この数十年間,大きな福利コストを伴う なモラル・ハザードを最小化するためである.政 マクロ経済危機が世界経済の特徴となっている. 府や国際社会は危機からの回復を円滑化するため 2007 年以降についてはそれを肌で感じることが に,タイムリーな決定と有効なグローバル調整を できる 83.政策当局はこのような危機を防止す 通じて,規制上の不確実性を削減することによっ る,あるいは少なくともその影響を緩和すること て貢献することができる. について,果たすべき必須の役割を担っている. 包容性,深さ,および安定性の間のトレードオフ マクロ経済の安定性.景気循環は現代経済にとっ と相乗作用を明示的に考慮に入れる.90%の事 て本来的なものであり,全体の価格,産出,およ 例において,国家的な金融部門戦略は金融面での び雇用にある程度の変動性がみられるのは正常で 発展にかかわる目標とシステミック・リスク管理 ある.変動性の有害な影響は若干の上下変動では 概観 リスクと機会 35 なく,高インフレと経済活動の突然の動きに由来 年代末までにその率を記録した国はわずか 1 カ することを示す証拠がある.このような影響は経 国(ジンバブエ)だけとなった.景気循環に対処 済全体を通じて浸透し――雇用を削減し,信用を しながらも,長期的に物価の安定性を目指すとい 中断させ,投資を延期させ――,損失を生み出し う意図をもった金融政策の枠組みを採択すること て,それが長期的な経済成長率の低下につなが が,インフレの防止にとっては決定的に重要で る.確かに,先進国と途上国の過去 40 年間にお あった. ける一連の横断的な分析によると,GDP の変動  2008 – 09 年の国際金融危機とそれに伴う先進 性を正常な程度から危機のレベルにまで増大する 国の不況が,途上国の金融政策において生じてい と,長期的な 1 人当たり GDP 成長率は年約 2% た改善をテストすることになった.全体として, ポイント低下する 84. それは強靭であることが判明した.この危機を 受けて考えておくべき 1 つの重要なこととして, 公共財・サービスの継続的な供与.危機が長期的 金融の安定性が金融政策の直接的な目的に含まれ な成長に影響を及ぼす一因は,必需の公共財や るべきか否かという問題が出てきた.評決はまだ サービス提供の中断ないしをもたらすことがある 出ていないが,次のように主張することができる ためだ.このような中断は特に政府が不況期に大 だろう.すなわち,金融の安定性は金融政策では 胆な支出削減の実施を余儀なくされている場合に なく,マクロ・プルーデンス手段――金融の不均 生じる.例えば,1980 年代から 90 年代にかけ 衡と資本フローの変動性を抑制することを目的に てラテンアメリカの数カ国における状況がそれで する――を通じて達成するのが最善である 88. あり,財政調整の半分以上がインフラ投資向け の支出削減で構成されていた 85.同様に,中東・ 柔軟な為替相場制度.柔軟な為替相場は長らく議 北アフリカのほぼ半数の国々では,地域的な危機 論されているものの,有効な緩衝手段であること を受けて社会保障支出が減少した 86.最近のグ が判明している.これはショックの発生源が国内 ローバルな金融危機の際,東ヨーロッパ諸国の大 経済の内外いずれであろうが当てはまる.為替相 半では教育支出が急減した.その減少幅は例えば 場が弾力的な国のほうが調整がうまくいく傾向に セルビアでは 25%,ハンガリーでは 10%となっ あり,より早くより強く回復している.このこと た 87. は,交易条件の悪化 89,地震や嵐などの自然災 害 90,内外不均衡をもたらしかねないその他の どのような政策がリスク管理に最善の貢献をする ショック 91 など,ショックが多種多様であって か? も当てはまる.  専門家の主張では,マクロ経済政策は信頼で き,予測可能で,透明で,持続可能でなければな 反循環的で持続可能な財政政策.財政政策は世界 らない.これは道理に適った助言である.これは 的に,有効なプロセスや肯定的な結果という観点 リスク管理という面でより具体的に提示できる. で,金融政策ほどの進展を示していない.これは すなわち,マクロ経済政策当局は不況期における 驚くことではない.というのは,財政政策という 高コストの対処策を避けるべく,好況期には慎重 のは本来的により複雑だからだ.多数の目的と手 に行動すべきである. 段があり,政治的なプロセスにどっぷりと浸かっ ている.リスク管理に関していえば,途上国の財 透明で信頼できる金融政策.独立性や透明性と信 政政策は正循環的なバイアスを帯びており,好況 頼性への要求を受けて,金融政策当局は過去 25 を増幅し不況を悪化させる傾向がある 92.しか 年間に世界中でインフレの引き下げに成功して し,過去 20 年間に世界中の発展途上数カ国が財 きた.すなわち,1990 – 94 年には 34 カ国で年 政の透明性と規律を重視して,将来的な不況期を 間のインフレ率が 50%を超過していたが,2000 念頭に好況期には緩衝手段を蓄積している.この 36 世界開発報告 2014 地図 2 政府消費は過去 10 年間に途上国の 3 分の 1 以上で反循環的になった 常に反循環的 反循環的になりつつある 循環的になりつつある 常に循環的 データ不明 出所:Frankel, Végh, and Vuletin 2013 の方法論に基づき WDR 2014 チーム推定.地図番号 IBRD 40099. 注:地図は財政政策の景気循環上のスタンスが 1960 – 99 年と 2000 – 12 年の間でどう変化したかを示す.景気循環上のスタンスは一般政 府消費支出のなかの(Hodrick-Prescott フィルター処理した)循環的な構成要因が,それ自身のラグ付数値に対する回帰と,実質 GDP の 循環的な構成要因で測定.実質 GDP の循環的要因の係数の符号は,政府消費支出が正循環的か(プラス符号) ,反循環的か(マイナス 符号)を示す.実質 GDP の循環的な要因の係数は,1960 – 99 年と 2000 – 12 年について別々に推計した.その上で,各国は常に反循環 的(両時期に反循環的) ,反循環的になっている(反循環的なのは 2000 – 12 年だけ) ,正循環的になっている(正循環的なのは 2000 – 12 年だけ),常に正循環的(両時期に正循環的)のいずれかに分類されている.実質 GDP の循環的要因にかかわる内因性の可能性は,自 国の実質 GDP の循環的要因のラグ付数値に加えて,貿易相手国の実質 GDP の循環的要因(現行数値とラグ付数値の両方)および国際 的な石油価格を指標として使うことによって制御されている. ような制度的な改善を受けて,最近,かなり大き 済の長期的な福祉に大きく貢献している 93.第 な割合の途上国が反循環的な財政政策を運営でき 3 に考えられる理由は経済刺激効果である.しか るようになっている.これは主として投資や消費 し,消費の押し上げに基づく裁量的な財政刺激が の支出を,一般的な経済活動の循環とは逆方向 機能するという証拠はほとんどない.それどこ に振り向けることによって行われている(地図 ろか,ケインズ型財政乗数――政府支出の増加 1 2 は反循環的な消費支出に焦点を当てたもので ドル当たりの GDP の増加――の推定値は,ほと ある).独立的な財政評議会はそのような規律を んどの途上国で 0.4 – 0.6,ほとんどの先進国で いっそう制度化することに関して,重要な手段を 0.6 – 1.2 となっている 94.必要な追加歳入(税 提供することができるだろう(ボックス 7). 金,債務,および行政手続きなど)を調達するコ  反循環的な財政政策はなぜ有用なのか? 第 1 ストを考慮に入れると,ネットの乗数はゼロに近 に,政府はたとえ公共収入が減少しても(景気循 いかマイナスの可能性があろう. 環の下降期では正常であるが),公共財・サービ  最後に,リスク管理の観点からすると,財政 スを継続的に提供し,公共投資プログラムを安定 の持続可能性は偶発負債を認識していることを した形で維持することができる.第 2 に,悪い 必要とする.なかには正当なものもある.例え 循環的なマクロ経済状況で苦しんでいる大勢の困 ば,自然災害後の再建や援助,高齢者向けの社会 窮者向けに,社会的な援助や保険を増やすため 保険や医療を支えるのに必要な支出の増加などで の財源を提供する.このような 2 つの仕組みは ある.それ以外の偶発負債はさらに議論を呼ぶ. 景気循環的に不況の時期だけでなく,人々や経 例えば,金融機関の救済は国家にとって大きな 概観 リスクと機会 37 ボックス 7 独立的な財政評議会は財政の正循環的なバイアスを克服するのを後押しできる 何が問題か? 世界中の財政当局は日常的に持続可能な 立性が必要であり,それには次のことが必要である:評議 「正循環的な」バイアスに苦しんでい 計画から逸脱して, 会の役員に関して競争的指名と長期にわたる在任権,予算 る.好況期に財政赤字に陥って債務を累増させ,不況期に の独立性,強固な説明責任の仕組み(仲間の評議会ないし 産出を安定化させるのに,十分な財源と柔軟性( 「政策的 国際機関による評価)など b. )を欠く傾向にある. な余裕」 この解決策はどこかで実施されたことがあるか? 2012 解決案.独立的な財政評議会を創設すれば,政府が循環的 年現在,22 カ国(さらに増加中)の政府が財政評議会を な下降と長期的な不測事態に対処するための資源を蓄積 設置しているが,特徴や適切性は多種多様である c.オラ するように,適正なインセンティブを供与することができ ンダの中央企画局やスウェーデンの財政政策評議会は本 る.財政評議会は法律によって負託された一連の柔軟な財 格的な財政評議会に最も近い.チリでは,2 つの独立的な 政ルールを執行する.すなわち,長期的な赤字の配分の決 助言機関が「構造的」歳入の予測に関して重要な意見を提 定,反循環的な措置が正当化される状況の告知,公債の持 供しており,それが今度は財政ルールを通じて政府支出を 続可能性の監視を行う.政策立案を独立的な財政評議会に 決定している.モロッコ,ケニア,およびウガンダの財政 完全に委任するのは非現実的である.というのは,財政政 評議会は諮問機関として機能し,議会に対して財政政策の 策には政治や再分配にかかわる性格があるためだ.政府は 事前的および事後的な評価を提示している. その政治的な負託にしたがって,支出の配分と税体系に関 するコントロールを保持する.しかし,財政政策実施の一 評議会が実現可能でない場合,代替策はあるか? 独立的 部の側面を政治的プロセスから隔離して,独立的な評議会 な財政評議会の創設には,自律的な機関と強力な統治の下 に委任すれば,財政の信頼性と説明責任を高めることがで 支えに対する政治的な意欲が必要であり,したがって,す きる a. べての諸国で可能ではないかもしれない.独立的な評議会 が実現可能でない場合,財政の持続可能性のための好まし どうしたらこの解決策を実施できるか?  財政評議会は い基盤としては,透明で包括的な財政枠組み(予算編成に 次のような事態を回避できるような形に設計されるべき かかわるトップダウン式アプローチを含む)の採択を盛り である.すなわち,政治的な支配,評議会の助言を無視し 込むべきであろう.例えば,アルメニアは 2000 年代以降, た政府インセンティブの増加,政府との対立が生じた場合 支出に上限を設定した 3 カ年にわたる継続予算編成の枠 に解体される可能性などを回避しなければならない.財政 組みを確立して,予算法のなかに統合化している d. 評議会が有効であるためには政治的なプロセスからの独 出所:WDR 2014 チーム. a.Debrun, Hauner, and Kumar 2009. b. Calmfors and Wren-Lewis 2011. c.IMF 2013. d.World Bank 2013. 負担になり得る.それは,1997 年東アジア危機 国際市場における大災害債券の発行が許容されな の際,インドネシアとタイでは GDP の約 50%, ければならない.そして第 3 に,国家が負担し 2008 – 09 年危機の際,アイスランドとアイルラ なければならない公算のある残余負債について, ンドでは同 40%以上に達した 95.偶発負債への 引当財源を積んでおくべきである. 対処には諸措置の組み合わせが必要である.第 1 に,政府は独立独行のために適正なインセンティ ブを供与しなければならない.例えば,賦課方式 国際社会 は完全な積立方式の老齢年金制度で置き換え,金 国際社会はいつ強靭性と繁栄を発展させることが 融市場におけるリスク・テイカーに事業の失敗に できるか? 伴う損失を引き受けさせることが必要である.第  管理されていないリスクは国境には関係なく, 2 に,市場型の解決策を奨励すべきである.その 単独で行動しているどんな国あるいは主体といえ ためには,例えば,自然災害に保険をかけるべく ども,国境を越えるリスクには有効に対処するこ 38 世界開発報告 2014 とはできない.ひとたび引き金が引かれると,流 経済的なリスクや災害に不当に影響されるのは低 行病や金融ないし経済の危機は,相互連結度が高 所得国である.例えば,2004 年の巨大な地震と まっている世界を猛スピードで駆け巡ることがで 津波の矢面に立ったのはインドネシアのアチェ州 きる.武力衝突は人々を蹂躙し,近隣諸国へ波及 であり,50 万人以上がホームレスとなり,経済 することがある.自然災害は国ないし地域全体を 損失は推定でアチェ州の GDP の 97%に達した. 破壊し得る.気候変動はこのようなすべてのリス 国際社会は復興を支援し,早期警告システムを設 クを激化させる公算があろう.明らかに,多数の 置するための特別な多国間援助基金を創設した. 国々や世代をまたいで広がり,影響を与えるリス このような努力は悲劇から 10 年間を経てほぼ成 クは国際的な関心を集める. 功であったことが判明している 99.しかし,常  国際社会はかなり多様な主体の融合体であり, に成功がもたらされるわけではない.2010 年に それには主権としての政府や国際機関,グローバ 発生した大地震を受けて実施された国際社会のハ ルな科学界やメディア,市民社会などが含まれ イチ介入が失望する結果に終わったことが,それ る.それは.専門的な技術や知識,グローバルな を証明している 100. ルールや規則を通じた保護,能力構築,国際協力 などを提供することができる.また,リスクに対 国境を越えるリスク.開放性と近代化を受けて, する備えや危機状況の緩和を改善するために,国 経済,社会,および生態のシステムはいよいよ相 家財源を蓄積することもできる. 互の結び付きを強めている(図 8).この相互連 結性は成長と貧困軽減に向けた機会と一緒になっ 国家能力を超過するリスク.国が深刻な能力制約 て,国境を越え,地域機関を含む国際社会からの に直面したり,政府が弱い,または機能不全に 重要なリスク管理を必要とするような一連のリ 陥っていたりする場合には,国際社会の関与が必 スクも生み出している 101.例えば,飛行機旅行 要かもしれない 96.それは特に脆弱な紛争被災 や財・サービス貿易の増加は感染症の原因となる 国の場合がそうであり,人々は最も極端なリスク 病原体の移動を自由なものにし,なかには 36 時 やリスク管理の障害に直面しているのに,機能す 間以内で地球を 1 周できるものもある 102.同様 る市場やコミュニティ,公的な制度へのアクセス に,金融危機は世界中の金融システムを連結して が限定的なためだ.脆弱紛争被災国に住んでいる いるますます複雑なネットワークを通じて,拡散 人々は,2010 年現在,世界人口の 15%を占め し得る.経済の高成長は炭素ベースのエネルギー ており,そのうち 3 分の 1 は極貧の暮らしをし に大きく依存しているが,これは気候変動や環境 ている 97.紛争は国境を越えることがあり,難 破壊などゆっくりと変化しているリスクと関係が 民人口の増加や伝染病の流行,被災者を受け入れ あり,将来世代にとって不可逆的な結末をもたら た近隣諸国での公共財に対する需要圧力の増大な す可能性がある. どに帰結する.脆弱国家と国境を共有している と,国の経済成長率は年 0.4%低下する 98.国際 どのような特性がリスク管理に関する国際社会の 社会による関与は,経済展望と健康や安全,教育 能力を改善するか? にかかわる環境を改善することによって紛争を煽  国際社会の有効性は次のようなことがどれだけ 動し拡散する社会経済的な緊張を削減することが うまくできるかに依存するだろう.すなわち,知 できる. 識や能力の格差を埋める,各国にとってリスク管  自然災害や金融危機など非常に大きなショック 理の指針となるルールや基準を設定する,国境を が,国の資源を小さくみせるような損失をもたら 越えるリスクを管理する集団的行動を促進・調整 した場合にも国際支援が必要である.それはユー する,などである.逆に,集団的措置は国際社会 ロ地域の危機が明白に証明したように,大きな発 のなかの主体が共通の選好や目的で結ばれている 展した先進国でも発生することがある.ただし, 時や,特定の主体が資源を動員し合意を執行でき 概観 リスクと機会 39 図 8 経済,金融,および社会の相互連結性は増加傾向にある 200 500 180 450 160 400 140 350 120 300 指数 100 250 指数 80 200 60 150 40 100 20 50 0 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 9 9 9 9 9 9 9 9 9 9 19 19 19 19 19 19 19 19 19 19 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 国際的銀行の全諸国に対する対外債権の対 GDP 比 1 人当たり外国人観光客数 貿易総額の対 GDP 比 1 人当たりインターネット利用者数(右軸) 出 所: 以 下 か ら の デ ー タ に 基 づ き WDR 2014 チ ー ム 作 成 ――World Bank World Development Indicators (database); Bank for International Settlements Consolidated Banking Statistics (database); World Tourism Organization Yearbook of Tourism Statistics (database). 注:全シリーズが 2000 年を基準年とする 100 に指数化されている. る能力をもっている時には,各国をまたぐ結束力 る場合には,進展は遅くなるだろう. や統一性がたとえ欠如していても,集団的措置は 促進される. 資源を動員し合意を実行させる権限.資源を動員 することを巡って明確な目標がある場合,国際社 共有している選好や目的を通じた結束力. リス 会はリスク管理について大きな効果をもたらすこ クに取り組む必要性に関して相互に認識があれ とができる.例えば,国際社会からの支援を得た ば,国際社会は各国の能力を超過するリスクに 早期警告システムは,多くの種類の災害に伴う死 もっとうまく備えることができる.例えば,急 者数を削減するのに役立った 104.同様に,完全 激な資金不足に直面している国に対して緊急 な国際的コンセンサスが無くても,国際社会は合 貸出を供与する取り決めや,カリブ海諸国向け 意を実行させるための仕組みを工夫できれば,国 の大災害リスク保険機構のような地域的な保険 境をまたぐリスクに関して進展を図ることができ プールに対する支援などがその例である 103.同 る.その能力は,共有している目標を巡るインセ 様に,国境を越えるリスクに関しては,多種多 ンティブを調整し,主要なプレーヤーの参加を引 様な国々の利害が十分に調整され,競合する国 き付ける能力に決定的に依存する.例えば,核拡 内政策の優先課題によって押し切られていない 散防止条約とオゾン層の保護に関するモントリ 場合には,多角的な協力が最善の機能を果たす. オール議定書の両方の成功にとって鍵となった要 各国の利害の調整を手助けすることによって, 素は,それぞれ安全保障と貿易制裁の脅威であっ 天然痘を排除する必要性についてほとんど普遍 た.それが各国の利害を調整し,参加と行動を促 的な合意がその撲滅を促進した.それとは対照 進するのに役立った. 的に,気候変動リスクを解消する,あるいは脆 弱な紛争被災国で暮らしている人々の苦境を軽 国際社会はどうすれば貢献を改善できるか? 減する場合など,各国の利害に大きな乖離があ  制度の仕組みの設計に関するレオニード・ハー 40 世界開発報告 2014 ヴィッツ,ロジャー・マイヤーソン,エリック・ で構成されるだろう.すなわち,乖離した意見を マスキンの洞察は,国際社会のように流動的で, 収斂させるのに役立つ知識を広め唱導する,森林 多様かつ複雑な集団にとってはなおさら重要であ 伐採の防止やより清浄な技術の利用を勧奨する る.プレーヤーの多さや権力構造の複雑さ,目標 措置のために各国に金銭的・技術的なインセン (予算と情報の制 の多様性などにもかかわらず, ティブを供与する,研究開発へ投資を行う,な 約だけでなく)インセンティブの制約を考慮する どである.投資としては,例えば,大気中の温 ことが,国際社会がリスク管理に貢献できる有効 室効果ガス濃度を中和する方法の構築などが挙 な仕組みを工夫することにとって決定的に重要で げられる 105.同じような精神で,「脆弱国家に ある. 関与するためのニュー・ディール」(釜山パート ナーシップ)は,脆弱国が関与しないことのリス インセンティブが調整されている場合:能動的で クは,ほとんどの国が関与する場合のリスクを凌 十分に調整された介入策を追求する. インセン 駕するということを認識している.それは国際社 ティブが調整されていて,一連の措置の手順が明 会がコアな制度や政策を強化して,紛争に逆戻り 確な場合,リスク管理の規模の拡大は,国際社会 するリスクを削減するのを後押しできる枠組みの による能動的で十分調整された介入策を必要とす 概要を示している 106. る.相互接続した世界のなかで流行病や金融危機 に対処するに当たって,そのような措置の有効性 は,各国が所轄している領域のリスクを監視し抑 リスク管理を主流化するための制度改革 止する能力を支援することに決定的に依存して  『世界開発報告 2014』は社会の多種多様で補 いる.例えば,2005 – 10 年に鳥インフルエンザ 完的なレベルでリスク管理を改善するために,十 (H5N1)が流行する可能性に備えるべく,36 の 数個の具体的な政策勧告を提示している(ボック 援助国が 100 を超える途上国に対して支援を供 ス 9 はその要約を示す).しかし,このなかで最 与したが,ウィルス抑止のためには現地での監視 も重要な助言は,このような勧告はその有効性を が必須であった.早期警告,監視,および通信な 最適化するためには,能動的,体系的,および どのシステムに関する能力の構築を支援し,準備 統合的な形で実施されるべきだということであ に報いるリスク・プーリングの解決策を設計する る.そのため,本報告書は国家リスク理事会の創 ことにより多くの財源を振り向けるべきである. 設を提唱している.このことはリスク管理を開発 アジェンダの主流にすることに貢献し得る.これ インセンティブが調整されていない場合:グロー は新たな機関を創設することになるか,あるいは バルな解決に漸進的なアプローチを使う.インセ 既存の組織の改革によって出現することになるか ンティブが調整されておらず,主要な主権国が十 のどちらかであろうが,最も重要なのはアプロー 分に関与していないと,気候変動や生物多様性の チの変更であり,それは総合的なレベルにおいて 損失など他の環境リスクにおけるように,何もし 協調的で体系的なリスク評価に移行するというこ ないことの結末は大惨事になることがあるため, とである.この勧告を実施するためには,国家の 国際社会はグローバルな解決策に向けて牽引力を 政府は一般的な計画を策定して実施する方法を大 高めることができる漸進的なアプローチを採用す 幅に変更することを余儀なくされ,確実性の下で .しかし,最終目標と べきである(ボックス 8) の計画から現代経済の基本的な特性としての変化 して全員参加を維持するためには,インセンティ と不確実性の考慮に移行する必要があろう.国家 ブを共通の目的に向けて調整するのを助けてくれ リスク理事会なら,国家レベルないし国際的レベ る措置に特別な関心を払うべきである.たとえ調 ルでリスクを管理する際に,政府が直面する政治 整の実現が非常に困難なようにみえてもである. 経済学の障害を克服するのを支援することができ 環境リスクにとって,この努力は次のようなこと る. 概観 リスクと機会 41 ボックス 8 気候変動のような一定のグローバル・リスクに関して,国際社会はグローバルな解決策につながり得る 漸進的なアプローチを採用すべきである 何が問題か? グローバル・リスクの管理は,主権国家に 成功例はあるか? みごとな実例がいくつか存在する.オ よる能動的な協調行動を必要とする.しかし,一部の分野 ゾン層を保護するためのモントリオール議定書に当初調 における進展が限定的なことから,利害や能力の制約,あ 印したのはわずか 24 カ国にすぎなかったが,各国政府や るいはただ乗りのインセンティブが互いに異なっている 国際機関,非政府組織,科学者などの力を合わせた努力の 諸国の間で集団的行動を促進できるかどうかについては, おかげで,1990 年代に普遍的な批准を獲得した a.同様 疑問が投げかけられている.全員参加による合意を確保す に,部分的核実験禁止条約は調印国が 1963 – 92 年の間に るための世界的な交渉は,特に気候変動に関して極めて大 3 カ国から 119 カ国に増加して,より包括的な核拡散禁止 きな規模で行き詰まっている.何もしないという状態が持 条約の基盤を築くことになった. 続すれば,破滅的で不可逆的な結末をもたらしかねない. 潜在的に有益な国際行動のなかには――技術や既存の金 どうしたら実施できるか? 各国政府や国際機関,専門機 「間もな 融手段を開発・共有するための協力を含む――, 関は「有志連合」を結成して,気候変動に関して調整,唱 く調印されるべき」グローバルな合意の一部になるとの期 導,および措置をとることができる b.連合は技術変化を 待から先送りされているものがある. 促進し,参加コストを引き下げる技術(より安価な排出削 減方法,補助金,技術移転)の資金を援助することによっ 解決案.気候変動のような特定のグローバル・リスクに関 て,長期的に他の諸国が参加するインセンティブを作り出 して,グローバルな解決策に向けて牽引力を高めることが すことができる.また,科学者,市民社会,およびメディ できる漸進的なアプローチを国際社会は採用すべきである. アとパートナーを組んで,参加者に順守を,非参加者には インセンティブが調整されておらず,主要な主権国が十分 参加を呼びかけることができる.国際的なリスク理事会を に関与しないため,何もしないことの結末が悲惨なものと 含め,国際機関は政策対話のためのプラットフォームを提 なった場合でも,進展は多国間条約の枠外で依然として可 供し、漸進的な努力が適切な軌道に乗っていることを確保 能である.初期の小グループの参加者による漸進的な取り するための措置を監視し,報告および集計することができ 決めや行動は,グローバルな合意に向かう基本的な土台と る.戦略的には,連合は漸進的取り決めとグローバルな取 して機能することができるだろう.行動からの利益を証明 り決めは接続可能だということを証明するために,その行 することによって,同グループは長期的には徐々により多 動の基盤を既存の枠組みに置くことができるだろう. くの参加国を含むようになることが期待できるだろう. 出所:WDR 2014 チーム. a.UNEP 2007. b.Falkner, Stephan, and Vogler 2010; Goldin 2013; Hale 2011. リスクを能動的,体系的,および統合的な形で管 やイギリス,アメリカはこの作業を完了してお 理するために国家リスク理事会を創設する り,モロッコなど他の国々はそれに向けたプロセ 何が問題か? 大抵の場合,リスク管理の戦略や スに着手している.しかし,この作業は通常は評 実施は効果がない(あるいは他のリスクを生む) 価を実施している期間のみ存在する臨時の特別な ことが判明している.それらが,政策にかかわる グループによって実施されている.リスク管理に すべての利害関係者の間で調整されていないこと 向けて情報の交換と調整を担当する省庁間の機関 が,効果がない要因である.リスクを能動的かつ を数多く創設している国もなかにはあるが,この 統合的に管理することには明確な利点がある.す ような機関は,通常は単一の課題に取り組むだけ なわち,優先順位を定義し,あらゆる偶発事態が である.最も一般的なテーマは,ペルーにおける 考慮されることを確保し,ある 1 つのリスクを ように自然災害,あるいはイスラエルのように国 他のリスクを無視しながら,孤立して管理するこ 家安全保障である.多数のリスクに取り組む統合 とによる過剰支出を回避する助けになる.一部の 的および恒久的なリスク管理機関を実際にもって 諸国はさまざまな省庁から大勢の利害関係者チー いる国はほとんどない. ムを巻き込んで,しばしば民間部門や市民社会を 含めた国家リスク評価を実施している.オランダ 何が解決策か?  国レベルで能動的で統合的な 42 世界開発報告 2014 ボックス 9 『世界開発報告 2014』の主要な政策勧告  国家はすべての社会経済システムによる,人々のリスク 金融システムについて: 管理に対する貢献を支援することにおいて,重要な役割を ・ 金融の包摂と深さを促進するための健全な金融インフ 担っている.以下は『世界開発報告 2014』からの主要な ラ(支払いシステム,信用情報) 政策勧告をシステムごとに,本報告書で議論した順序で要 ・ 消費者保護と金融機関の間における競争の両方を促進 約したものである. する執行可能な規則 ・ 金融危機を軽減し救済を回避するための金融システム 家計について: 全体にかかわるマクロ・プルーデンス規則 ・ 予防ケアと伝染病や傷害の治療を強調した民間部門と ・ 金融の包摂,深さ,および安定性の間のトレードオフ のパートナーシップで運営される公的健康保険 に取り組む国家金融戦略 ・ 変化する労働市場に適応可能な柔軟なスキルに焦点を 当てた民間部門とのパートナーシップで運営される公 マクロ経済について: 的教育 ・ 物価の安定性を指向し,自律的な中央銀行によって遂 ・ 例えば女性に直接支払う条件付き現金移転のような対 行される透明で信頼できる金融政策 象を貧困層に絞ったセーフティネット ・ 大多数の諸国にとって,透明で信頼できる金融政策の ・ 教育キャンペーンを伴う家庭内虐待やジェンダー差別 下での柔軟な為替相場制度 を禁止する執行可能な法律 ・ 独立的な財政評議会に支援された反循環的で持続可能 な財政政策 コミュニティについて: ・ 自然災害,金融危機,および高齢人口の年金などの偶 ・ 周辺コミュニティとの協議によって建設された災害リ 発負債の引当 スク軽減のための公的インフラ ・ 特に孤立したコミュニティを統合・強化するための輸 国際社会について: 送および通信インフラ ・ 国を越えてリスクを分担し,国の能力を高め,共通の ・ 特に脅威にさらされたコミュニティに対象を絞った一 リスクに立ち向かう二国間,地域的,およびグローバ 般的および組織的な犯罪に対する警察の保護 ルな能動的で調整された介入策を優遇する合意への関 ・ 教育キャンペーンを伴う人種的および民族的な差別に 与 対する執行可能な法律 ・ 気候変動などつかまえどころのないグローバルなリス クについては,同じ考えの国々の政府と「有志連合」 企業部門について: を結成し,他の諸国が参加する意志を生み出す. ・ 私的財産権の確実化と尊重 ・ 課税,労働市場,および企業の参入退出について簡素 『世界開発報告 2014』の唱導によれば,このような勧告は 化された予測可能な規則 能動的,系統的,および統合的な形で実施されるべきであ ・ 職場の安全性,消費者保護,および環境保全について る.その目的のために,国際的なリスク理事会の可能性を 執行可能な規則 提案している.これはリスク管理を国の開発プログラムの ・ 社会保険(健康保険および老齢年金)の就業上の地位 主流に含めるのを助けるために,国家リスク理事会の創設 との連動性を切り離す可能性の検討 「有志連合」を支援するものである. を提案し, 出所:WDR 2014 チーム. リスク管理を促進するためには,国家リスク理 害に由来する何もしないことへの対応,合意さ 事会を常設の(恒久的な)委員会として設立す れたリスク管理措置の実施に向けた明確な説明 ればよいだろう.このことは,リスクやリスク 責任の仕組みの導入によって,価値を追加する 管理政策を越えるトレードオフを含めて,リス ことになるだろう 107. クの分析,国のリスク管理慣行に関する評価の 検討と公表,リスク管理の優先課題の明確化, どうしたら実施できるか? 国家リスク理事会は および実施すべき適切な政策に関する勧告を行 幅広い範囲の利害関係者を一堂に会すべきであ うことができる.国家リスク理事会の制度化は, る.それは政府の一部か,自律的な機関のいずれ リスク管理の全部門横断的な統合,政治的な利 かになるだろう.理事会の構成メンバーには政策 概観 リスクと機会 43 当局者(政治的な優先度を反映させるため)と ダイヤグラム 4 国家リスク理事会の制度設計におけるト 独立的な専門家(技術的な知識と民間部門の視 レードオフを調整する 点を取り込むため)の両方が含まれるだろう. 独立的な専門家 それは政策実施を担当する所轄当局に対して, 「説明責任を求める」勧告を行う権限をもつこ 実際性 正当性 小 小 とになる.この時,所轄当局は理事会の勧告に 基づいて行動するか,さもなければ,その拒 否を決めた理由を説明しなければならない.理 バランス 助言の 実施の 事会の適切な制度設計は当該国の政治的およ 役割 がとれた 役割 領域 び制度的な状況に依存することになるだろう が,理事会の構成と権限は専門知識や信頼性, 実際性,正当性などに関して十分なバランス 信頼性 専門性 を達成するように努めるべきである.これは, 小 小 ダイヤグラム 4 のなかで「バランスがとれた」 政策当局 領域と記された部分である. 出所:WDR 2014 チーム.  理事会の政策当局者は行政府が指名し,独 立的な専門家は学界や実業界,市民社会組織 などから選出すればいいだろう.理事会の専門 知識が対象とするするのは,軍事,安全保障・テ  シンガポールの全政府統合リスク管理の枠組み ロリズムのリスク,経済リスク,環境・健康・技 は,政府内部で「サイロ」(縦割り行政[silos]) 術のリスク,社会的リスクなどの分野である.無 を克服したアプローチの適例である 109.枠組み 力な機関になるのを回避するために,理事会は世 を制度的にまとめるのは戦略委員会であり,それ 間の目から見て十分に有名であるべきだろう.ま は政府全体にわたって多種多様な省庁の事務次官 た,分析と政策の優先課題に関する説明を伴う勧 で構成され,人事委員会の長が議長役を務める. 告を定期的に発表し,議会の委員会において年次 加えて,国内戦線危機管理システムには内務大臣 公聴会を開くことによって,説明責任を問われる が議長となり,省庁や政府機関からの上級代表者 べきであろう. で構成される国内戦線危機執行グループによって  自律的な国家リスク理事会には一定の利点があ 補佐されている大臣級委員会が含まれている.こ るものの,理事会は政府の一部として機能するこ の多数のリスクに関する枠組みは国家安全保障調 ともできる.ジャマイカやマリ,メキシコ,モ 整事務局などの特殊リスクに焦点を絞った諸機関 ロッコ,ルワンダのような多種多様な諸国が,政 によって補完されている.シンガポールの統合的 府構造のなかに統合的なリスク管理機能の創設を なリスク管理にかかわる制度的な取り決めは,大 検討している.これはカントリー・リスク・オ 幅に専門化しており,時とともに変化してきた複 フィサーの設置を示唆した世界経済フォーラムの 雑な調整プロセスを組み込んでいる.途上国に 提案を受けたものであり,多くの多国籍企業で創 とっては,制度設計において個別性や専門性がよ 設されている主任リスク・オフィサーの地位に類 り低い(面倒な調整メカニズムの要求も少ない) 似している 108.有効で独立的な官僚制度につい 単純な取り決めがより良い出発点になるだろう. て強固な枠組みのある国々では,この制度設計は  最後に,2 つの重要な問題に取り組んでおくべ 実際的であろう.国家リスク理事会のメンバーは きである.第 1 に,何が政府にとって国家リス 専門的な技術官僚として指名され,その地位を政 ク理事会を設立する動機になり得るだろうか?  治的サイクルを超える期間にわたって保証すれば 相対立するインセンティブを克服して,長期にわ いい. たる制度を確立するためには,指導者にとって引 44 世界開発報告 2014 き金となる衝動が必要である.この衝動は国内か 1.不確実性あるいは不必要なリスクを生むな らは改革に熱心な政治的指導者や技術官僚を通じ  国家の政策や措置はリスクの削減や不確実性の て,海外からは国際社会の鼓舞や支援を通じて出 軽減に努めるべきである.少なくとも,国家はそ てくるだろう.一たび創設されれば,国家リスク れを悪化させるべきではない.政府はどうやっ 理事会はリスク管理にかかわる明確な説明責任の て,また,なぜそうしなければならないのか?  仕組みを導入することによって,何もしないこと 第 1 に,政府は政策を通じて,特定のグループ や悪い慣行に挑戦することができる.自国の有益 を差別する社会規範を永続化し,彼らをより脆弱 な遺産の持続に関心をもっている改革派の政府な にする可能性がある.例えば,ジェンダーの不平 ら,将来の政府がみずからの行動あるいは行動し 等や民族的なえこひいきを助長する国家政策は, なかたことについて説明責任を求めるだろう. 家計やコミュニティの強靭性を助けるどころか傷  第 2 の問題は国境を越えるリスクに取り組む を付ける. のを支援するために,同じような機関――国際的  第 2 に,政府は自らを政治的に支持してくれ なリスク理事会――が,グローバル・レベルで創 るグループを,小さなエリート層か大きな支持層 設可能かどうかということである.国際リスク理 かに関係なく,他の正当な利害に反してえこひい 事会は主要なグローバル・リスクを特定,評価, きにすることがある.例えば,金融資産(貯蓄や および管理するために,利用可能なすべての知識 年金基金など)や民間インフラ(住宅用建物や工 を蓄積して共有化するために,世界中の科学的な 場など)を一部の家計から収用する国家は,短期 専門家の社会を関与させることができる.その重 的な利益を享受するかもしれないが,結局は,金 大な欠点は,国際的なレベルでは統治機関が存在 融システムや企業部門が成長・発展して,すべて しないため,実施という実際性を欠いていること の人々にリスク管理の資源を提供できる能力を阻 だ.しかし,それは是正可能である.例えば,国 害するだろう. 際リスク理事会が「有志国連合」と協働して,緊  第 3 に,内部的に細分化された政府は組織と 急な取り組みを要する問題を優先して,その努力 調整が欠如しているため,結局,矛盾した政策を に信頼性と正当性を付与することが望まれる. 実施したり,あるいは効果的でない実施に陥った りする.これは例えば,欠陥のある分権化プロセ スの結果として生じることがある.地方や地域の 結論:より良いリスク管理のための公的措置 政府には自分たちの責任を果たすのに必要な資源 にかかわる 5 つの原則 や能力がない,国家政府の優先順位や選好を共有  『世界開発報告 2014』に一貫している分析は していない,あるいは他の地方・地域政府にただ 次のことを指摘している.すなわち,人々のリス 乗りしようとしている,などといった場合であ ク管理を支援するのに必須な社会的保護,公共 る. 財,および公的政策の質と供給を改善するために  最後に,困難な現実の問題に直面した際,政府 は,公的措置をいくつかの重要な原則によって手 は適正な証拠と分析をベースとした措置に基づか 引きすることが有益である.以下に示す 5 つの ないで,イデオロギーや希望的観測,あるいは単 原則は世界中の最善慣行からの教訓を反映したも なる絶望によって導かれるかもしれない.一般的 のであり,多種多様なリスクと国々に当てはま な事例としては労働市場規則があり,それは労働 る.しかし,その適用は具体的な状況に合わせて 者の利益を擁護することを目的としていながら, 調整すべきである.このような原則は一見では議 実際にはほんの小数を保護するにとどまり,大き 論の余地がないようにみえるかもしれないが,適 な非公式部門の根源に利益をもたらしている.そ 用してみると,実施を阻むような緊張やトレード れ以外の実例として,財政赤字に対するインフレ オフを孕んでいる. 的な資金提供や,危機に直面した際の変わりやす く首尾一貫性のないマクロ経済政策を挙げること 概観 リスクと機会 45 ができる.それは遅かれ早かれともに不確実性の 重要であろう.すなわち,依存から自立へ,およ 増大やマクロ経済の不安定化,おそらく不況の長 び孤立から協力へという 2 つの変化である.適 期化などにつながるだろう. 正なインセンティブの供与がこれら 2 つの面に 貢献することができる. 2.他の事にリスクや損失を与えることがないよう にしながら,人々や機関が独自の計画策定や準備 3.政治サイクルを超越する制度的な仕組みを構 ができるように適正なインセンティブを提供する 築することによって,リスク管理に関する長期的 な視点を維持する  公的政策にとっての課題は人々がリスクにかか わる独自の計画・準備をして,利益を私的に供す  公的措置として重大な挑戦は,世論や政治的連 る一方,損失を他人に課するような状況を回避す 合の気紛れなシフトよりも長く続く長期的な視点 るようなインセンティブを生み出すことにある. を維持するように,国家を誘導する制度的な仕組  金融機関の救済を考えてみよう.それが有害な みを確立するところにある.例えば,国家による のは大きな財政負担をもたらすだけでなく,過度 教育・保健サービスの提供は家庭やコミュニティ なリスク・テイキングに向けたインセンティブを にとってはリスクに対する備えへの大きな投資で 与えるからでもある.にもかかわらず,金融仲介 あり,これが成功するためには継続的かつ持続可 のシステミックな破綻を防ぐには救済が必要な 能な基盤の上で資金手当が行われなければならな 場合もある.救済は回避すべきである.主とし い.それには長期的な計画が必要である.保健 て,十分に確立した,明確で,透明な,マクロ・ サービスについては,タイとトルコが最近になっ プルーデンス政策を使えばよい.ただし,もし救 て普遍的な健康保険に移行したという成功事例を 済を行うならば,将来を考慮して,間違ったイン 提示している. センティブの供与を回避するよう設計すべきであ  金融安定とマクロ経済にかかわる政策に関して る.金融機関の秩序ある救済の適例は見付けるの も以下の 2 つの事例を検討しておきたい.金融 はむずかしいが,2000 – 01 年の銀行危機を受け システムがリスク管理を支援するためには,包容 たトルコの経験(および特に同国の銀行規制当局 性と安定性の間の調整を適切に行うことが不可欠 と清算機関の揺るぎない姿勢)が,分析と追随に である.この調整はマレーシアで行われたよう 値する適例を示している 110. に,包括的な長期にわたる計画を通じてのみ評価  非常に違った分野の話になるが,社会的保護は が可能である.同国では金融部門戦略は中央銀行 個人の独立独行を奨励しておらず,国家にとって が財務省および民間部門と協調して策定した.反 維持不可能な負担になっている,という点で批判 循環的な金融財政政策は長期的な視点も必要とす することができるだろう.しかし,このような問 るが,そのおかげで当局は長年にわたってさまざ 題は人々のインセンティブを直接考慮に入れた設 まなシナリオの下で蓄積してきた資源を使って, 計によって回避することができるという証拠が得 景気循環を管理することが可能になっている.最 られている.設計の良いセーフティネット――若 も優れた事例が示しているのは,とりわけチリや 干の例をあげれば,バングラデシュ,ブラジル, コロンビア,ノルウェーなどにおけるように,長 インド,およびメキシコなどで実施されているよ 期的な予算均衡目標方式が成果を上げているとい うな条件付き現金給付や勤労福祉プログラム―― うことだ.政治サイクルを超越する制度的な仕組 は,教育や健康,企業家精神などの分野における み――国家リスク理事会や独立的な財政評議会な 家計の慣行を改善すると同時に,財政の持続可能 ど――は,リスク管理に関して長期的な焦点を維 性も保持している 111. 持する助けになる.  すべての事例において,リスクを有効に管理す るためには,個人および社会の責任に関する人々 の考え方に 2 つの変化が生じることが決定的に 46 世界開発報告 2014 4.明確で予測可能な制度的枠組みのなかで柔軟 コストの対処メカニズムに取って代わるセーフ 性を促進する ティネットを供与することができる.支援の対象  新しい状況への適応にかかわる柔軟性は,強靭 を脆弱層に絞り込み,仕事に取り組もうという意 性を促進し,機会を最大限に活用するのに必須で 志が湧くように設計されていれば,セーフティ ある.その典型例には,経済トレンドの変化に反 ネットは低所得国でも可能である.例えば,エチ 応した家庭の移住や変動に対する農村コミュニ オピアの生産的セーフティネット制度は,設計の ティの適応,技術や需要のショックに直面した企 良いセーフティネットがどうやってコミュニティ 業の再生などが含まれる.しかし,柔軟性は恣意 資産に投資するとともに,数百万世帯を食料不安 的な裁量や場当たり的な反応を意味するべきでは から保護できるかを例証している. ない.国家にとっての挑戦は,合理的かつ透明  国際社会も脆弱層に対して資源や専門知識を提 で,予測可能な制度的構造を維持する一方で,柔 供することができる.多くの批判はあったもの 軟性を推進するところにある. の,外国援助は説明責任のある現地機関と調整し 「フレクシキュリティ」  企業の場合, (flexicurity) た上で供与された場合には成功してきている.そ というデンマークのモデルがそのようなバランス の事例として,2004 年の津波を受けたインドネ を提示しており,労働者の安易な採用や解雇を強 シアで,外国支援がインフラを再建し早期警告シ 力なセーフティネットや再雇用政策と組み合わせ ステムを創設したことが挙げられる. ている.その結果として,経済はダイナミックで  つまるところ,脆弱層の保護は持続的な開発― 雇用の回転率は高いものの,失業期間は短くなっ ―リスク管理が提供する持続的な成長を通じて, ている.マクロ経済については,変動為替相場制 極貧を除去し,人々の脆弱性脱却を許容する開発 を伴うインフレ目標方式が,柔軟性のある制度的 ――のために,必要な措置をとることを伴わなけ に健全な金融政策という良好なモデルを示してい ればならない. る.2012 年現在,世界中の 27 カ国がインフレ 目標方式を採用している.ヨーロッパ通貨同盟 の発足に伴って,1990 年代にインフレ目標方式 結びへの一言 を実践していた多数の諸国が同方式を放棄した.  現代生活の中心の核に横たわっているリスクと ユーロ圏における不況の長期化と不確実性を考え 機会に直面した場合への備えをしておけば,個人 ると,金融政策の柔軟性というのがこれらの諸国 や家族の運命は良い方向に変えることができる. がもはや保持していない有益なツールであった可 コミュニティや国の運命も,リスク管理の成功に 能性があろう. 必要とされる継続的な責任を分担していれば改善 が可能である. 5.独立独行を奨励し財政の持続可能性を維持し ながら脆弱層を保護する 「私は戦争の環境下で育った.そして私が学んだ  直面するリスクに立ち向かうのに必要な物質的 のは,もしリスクを評価して,それをどうにかす な資源や情報をもっていない人々が大勢いるとい れば,人は少なくともある程度は自分の運命を計 うのが,世界を通して見られる現実である.生計 画することができるということだ」. をやり繰りするという毎日の戦いで,貧困層に ――クラウス・ジェーコブ,コロンビア大学 とっては将来の計画を立てるということが困難に の災害リスク管理の専門家,第 2 次世界 なっている.国家にとっての挑戦は財政の持続可 大戦で生き残った 112 能性を維持し独立独行を奨励すると同時に,脆弱 層を保護することにある. 「毎日歩いて通勤した時期があった.私が通った  ショックに非常に脆弱な家計にとって,国家は ルートは危険で,多くの人が強盗や暴行の犠牲者 消費や人的資本,生産的資産の足を引っ張る,高 になった.そう,確かに私は機会を追求するため 概観 リスクと機会 47 にそのリスクを克服した」. ――カリウキ・ケビン・マイナ,ケニアの学 生,WDR 2014 ウェブサイトへの寄稿 48 世界開発報告 2014 注 2008; the applications in Gill and Ihahi 2000; Holzmann and Jørgensen 2001; Packard 2002. 1. Dercon, Hoddinott, and Woldehanna 2005. 24. WDR 2014 のために書かれた Khokhar 2013. 2. Buvinić and Morrison 2000. 25. World Bank World Development Indicators 3. World Bank 2012d. (database). 4. WHO 2013. 26. World bank 2012c. 5. Baulch 2011 は有用なサーベイを所載している. 27. 保険と保護の間の潜在的な補完性に関する有意 6. Paul 2009. 義な議論に関して,Erlich and Becker 1972 を 7. Didier, Hevia, and Schmukler 2012. 参照. 8. Dercon and Christiaensen 2011. 28. Economist 2013. 9. 次を参照――ガーナに関して Karlan 他 2012; 29. Hallegatte 2012b. イ ン ド に 関 し て Cole, Giné, and Vickery 30. Carter 他 2007. 2013. 31. FEMA 2010. 10. Hoddinott, Rosegrant, and Torero 2012. 32. Gourinchas and Obstfeld 2012; Schularick 11. Hallegatte 2012a. and Taylor 2012. 12. リスクに対する備えのコストは主に先行的に負 33. Hallegatte 2012b. 担されなければならないが,その利益は時とと 34. La Porta 他 1998. もに発生する傾向があり,したがってより不確 実である.したがって,リスクの顕在化の確率 35. 例えば Tornell and Velasco 1992 を参照. が,潜在的な介入策のいかなる評価にとっても 36. この種の貿易報復が 2008-09 年のグローバル金 重要である.正式な費用便益分析では通常は, 融危機の時期に回避できた一因は――大恐慌を この確率が暗示的か(回避されたコストの計算 悪化させた有名な「近隣窮乏化」貿易政策とは を平均の的な歴史的なデータに基づかせること 対照的に――,国際社会による調整が成功した によって),あるいは明示的か(ショック時に . こ と に あ る(Eichengreen and Irwin 2010) おけるリスク管理介入策の潜在的な利益をその しかし,国際社会は最近の食料価格危機の際に ショック発生の確率で加重することによって) 輸出制限を回避することにはあまり成功しな のいずれかの形で考慮されている.WDR 2014 かった(Martin and Anderson 2012) . のために書かれた Wethli 2013 を参照. 37. Knight 1921. 13. 例えば Bodie, Kane, and Marcus 2011 を参照. 38. Hallegate 他 2012. 14. Kuznets 1955; Dasguputa 他 2002 を参照.本 39. Čhiák 他 2012. 文で言及されているトレードオフは,世論調査 に反映されているように,一部の専門家と世論 40. リスク分担および家族やネットワークの形成に の大きな割合によって存在すると理解されてい 関する文献のレビューに関しては,Fafchamps るが,現実には存在していない可能性もある. 2011 を参照. 例えば,最近の分析が発見したところでは,社 41. Acemoglu and Robinson 2012 は そ の よ う な 会的包容性に加えて,経済成長と環境保護もし 失敗について多くの実例を収集している. ばしば補完的である.World Bank 2012b. 42. Reinikka and Svensson 2005; Speer 2012; 15. Hoddinott, Rosegrant, and Torero 2012. Devarajan, Khemani, and Walton 2011. 16. Dethier, Hirn, and Straub 2011; Kehoe and 43. Becker 1993. Prescott 2007. 44. WDR 2014 の た め に 書 か れ た Oviedo and 17. Bruno and Easterly 1998. Moroz 2013. 18. Bernoulli 1738; Neumann and Morgenstern 45. タンザニアに関して De Weerdt and Hirvonen 1944. 2013; フ ィ リ ピ ン に 関 し て Yang and Choi 19. Allais 1953; Kahneman and Tversky 1979. 2007; タイについて Paulson 2000. 20. Black 1948; Buchanan and Tullock 1962; 46. O E C D P r o g r a m m e f o r I n t e r n a t i o n a l Olson 1965. Assessment (PISA) に基づく WDR 2014 チー ム. 21. Hurwicz 1960; Myerson 1979; Maskin 1999. 47. Xu 他 2003. 22. リ ス ク 連 鎖 の 概 念 は Alwang, Siegel, and Jørgensen 2001 で 議 論・ 例 示 さ れ て い る. 48. Demirgüç-Kunt and Klapper 2012. Barrett 2002; Heltberg, Siegel, and Jørgensen 49. Duflo 2003; Thomas 1990. 2009 も参照. 50. Duflo 2003. 以 下 も 参 照 ――Thomas 1990; 23. Erlich and Becker 1972. 以 下 も 参 照 ――the Lundberg, Pollak, and Wales 1997. extension in Muermann and Kunreuther 51. World Bank World Development Indicators 概観 リスクと機会 49 (database) に基づく WDR 2014 チーム. 76. Laeven and Valencia 2012. 52. World Bank 2005. 77. WDR 2014 の た め に 書 か れ た Han and 53. Thoresen and Fielding 2011 は保健ケアの適 Melecky 2013; Cull, Demirgüç-Kunt, and 用範囲の拡大が,財政資源だけでなく人的資源 Lyman 2012. の持続可能性に対して,いかに大きな圧力をか 78. Brix and McKee 2010. けることができるかを示している. 79. Gupta 2013. 54. WDR 2014 のために書かれた Premand 2013. 80. World Bank 2012a. 55. Paxon and Schady 2007 とそれに収録されて 81. Borio 2003 は伝統的なミクロ・プルーデンス規 い る 参 考 文 献;Macours, Schady, and Vakis 制の枠組みと,マクロ・プルーデンス規制のア 2008.Fiszbein and Schady 2009 に収録され プローチとの相違にかかわる議論を所載してい ている参考文献も参照. る. 56. Demographic and Health Surveys に 基 づ く 82. WDR 2014 の た め に 書 か れ た Maimbo and WDR 2014 チーム. Melecky 2013. 57. Coleman 1988; Putnam 1993. 83. Barro 2009. 58. De Weerdt 2001. 84. Hnatkovska and Loayza 2005. 59. Gertler and Gruber 2002. 85. Easterly and Servén 2003. 60. 例えば,Aldrich 2011 は,社会資本はコミュニ 86. Prasad and Gerecke 2010. ティが自然災害から回復する能力にとって鍵と 87. Education International 2009. なる役割を果たしていることを示している. 88. Svensson 2012; Bruno and Shin 2013. 61. Alesina, Baqir, and Easterly 1999. 89. Edwards and Levy Yeyati 2005. 62. Narayan, Pritchett, and Kapoor 2009; Bowles and Gintis 2002. 90. Ramcharan 2007. 63. Bjorkman and Svensson 2009; Pandey 他 91. Edwards 2004; Lane and Milesi-Ferretti 2007. 2012; Ghosh, Qureshi, and Tsangarides 2013. 64. Knight 1921; Coase 1937. 92. Kaminsky, Reinhart, and Végh 2005. 65. このトピックに関する先駆的な論文については 次を参照――Baily 1974; Azariadis 1975. 93. Parker 2011. 66. Schumpeter 1942. 94. 以下を参照――途上国に関する文献のサーベイ に つ い て は Kraay 2012; Ilzetzki and Végh 67. Hsieh and Klenow 2009. 2008; 先進国に関する文献のサーベイについて 68. Baicker, Cutler, and Song 2010. は Barro and de Rugy 2013; Ramey 2011. 69. Bergoeing, Loayza, and Repetto 2004. 95. Laeven and Valencia 2012. 70. 公式化が環境保護強化と所得増加の両方につな 96. DFID 2005; OECD 2011a, 2012; World がったという興味深い事例が,最近ペルーでみ Bank 2011. られた.近年,ペルーでは金価格の高騰を受け 97. OECD 2012. て非公式な鉱山が勃興した.このような非公式 鉱山は既存の規則を無視して著しい森林伐採を 98. DFID 2005. 行った.採取の過程で使われる水銀が河川や大 99. Sendai Dialogue の ウ ェ ブ サ イ ト で“Resilience 気を汚染し,人間の健康には脅威となった.ラ Stories” を 参 照(http://www.gfdrr.org/node リベルタ地域では,非公式な鉱夫が自社の鉱区 /1308) . に侵入したのを受けて,ポデローサ鉱山会社は 100. Larrimore and Sharkey 2013. 問題に関して革新的なアプローチを採用した. 同社は侵入した鉱夫の公式化に着手し,契約を 101. 国境を越えるすべてのリスクが本当にグローバ 結んで自社の指揮下で採掘を継続するのを許容 ルなわけではない.近隣諸国間の武力衝突や天 したのである.この契約は環境管理にかかわる 然資源を巡る紛争は 2-3 カ国に影響するだけか もしれない.そういったリスクは地域機関が管 国際的な品質基準を満たしており,小規模鉱夫 理したほうがより適切ないし有効であろう. の所得を増やす一方で,森林伐採や水銀汚染に よる害悪を減らした.UNEP 2012. 102. WDR 2014 のために書かれた Jonas 2013. 71. World Bank 2012d: Loayza and Rigolini 103. Mahul and Cummins 2009. 2011. 104. World Bank and United Nations 2010. 72. Calderón and Fuentes 2012. 105. Royal Society 2009. 73. Caballero 他 2013. 106. OECD 2011b. 74. Miller 1986. 107. Graham and Wiener 1995; World Economic 75. Diamond and Dybvig 1983. 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Ⅰ PART リスク管理の ファンダメンタルズ 58 世界開発報告 2014 バングラデシュでのサイクロン警報. 十分な備えがあれば,単純で有効な介 入策で人命を救助し,損害を回避する ことができる. © Amir Jina/UN ISDR 59 CHAPTER 1 リスク管理は強力な開発手段に なり得る リスクと機会 や暴力がもたらす健康への被害は  2008 年に食料価格が高騰し 年 間 の 国 内 総 生 産(GDP) の た際,アフリカやアジアの十 –  0.3  5.0 % に も 達 し て い る. 数カ国では暴動が発生した. これには犯罪が投資や労働力 特にパンの価格を中心とす 参加率の低下に及ぼした影響 る食料価格が上昇を続けるな が含まれていない 5.アルゼ かで,エジプトの工場労働者 ンチンやブルガリア,ガイア であるラシャド・ファティは, ナといった多種多様な諸国をみ 34 ド ル の 月 給 で 妻 と 子 供 4 人 を ても,雇用の喪失というのは所得と 養うために苦闘した 1.遠く離れたイン 消費を低下させただけでなく,新しい仕 ドネシアのモンテイ・バル - バルという村では, 事を発見する人々の能力を削減し,社会的一体 2010 年に発生した地震に伴う大津波に襲われ, 感を弱め,場合によっては家庭内暴力を増やす 住民の 5 分の 1 人以上に相当する 67 人が死亡 こともあった 6.悪い事態はシステミック・リス –  した 2.2008  09 年のグローバルな金融危機を クあるいは固有リスクのいずれから発生するに 受けて,世界全体で 2015 年まで極貧状態にと せよ,それは生活や資産,信頼,社会的安定性 どまる人口が新たに 5,300 万人増加すると推定 を破壊する可能性がある. されている 3.近年発生した主要な経済危機や自  リスクは至るところに存在する.リスクが近 然災害は,特に途上国を中心に,影響の広がり 年減少している分野や地域もあるが,それはマ が大きいシステミック・リスクに対して,人々 クロ経済や金融にかかわる管理の改善や,途上 がいかに脆弱であるかを際立たせている. 国における予防的保健ケアの改善が一因である.  個々の人あるいは家計にとって特異な固有の しかし,途上国か先進国かを問わず,人々は引 リスクが,人々の福祉にとって重要度が劣ると き続き多種多様なリスクに直面している.リス いうことではない.スキルの欠如を理由に失職 クのなかには,自然災害や犯罪,変化する環境 する,あるいは就職できない,病気や犯罪の犠 への対応,食料価格など,最近になってより顕 牲になる,離婚や強制移住により家庭崩壊を余 著になったものもある(ボックス 1.1) 儀なくされる,などといったことすべては,特  リスクの管理を誤ると結末が深刻なものに に脆弱な家計にとっては非常事態であろう.例 なって危機に陥り,悲惨な結果を招くことが多 えば,家族のだれかが重病を患ったエチオピア い.しかし,悲惨な結末は必ずしもリスク管理 の家計は,消費を約 10%削減しなければならず, の誤りを反映したものとは限らない.極度に大 –  その悪影響は 3  5 年後になっても継続していた きい予想外のショックは最善の備えさえ圧倒し 4.ラテンアメリカの諸国では,高水準の犯罪 得るからだ.そのような危機は有害な影響をも 60 世界開発報告 2014 ボックス 1.1 リスクを伴う世界:リスクは時期と地域によって異なる  過去 20 – 30 年を振り返ってみると,人々が直面してき る.先進国は過去 30 年間に大きな不況や感染症をより多 たリスクのパターンはリスクごとに多種多様である.自然 く経験するようになっているが,発生の頻度は途上国で 災害の発生や食料価格の急変,気候変動によるリスクは著 は総じて低い.一方,途上国は 2000 年代に入ってから しく増加しているが,それとは対照的に,他の分野では現 1980 年代や 90 年代との比較で不況を経験することは少 実化したリスクが減少している.これには妊産婦の健康が なくなっているものの,他の分野ではショックが発生する 含まれ,その死亡率はすべての地域で低下している. 頻度の上昇に直面している.特にサハラ以南アフリカの感  進歩に地域別の差異が生じているリスクもなかにはあ 染症やラテンアメリカにおける殺人が顕著である. a. 大不況 a b. 自然災害の発生 b 0.4 4.5 1981–1990 4.0 1981‒1990  10 1991–2000 3.5 1991‒2000  0.3 年間で不況だった 2001–2010 3.0 2001‒2010  期間の割合 年平均 2.5 0.2 2.0 1.5 0.1 1.0 0.5 0 0 OCED EAP ECA LAC MENA SAR SSA OCED EAP ECA LAC MENA SAR SSA c. 流行病 c d. 妊産婦死亡率 0.8 800 1981‒1990  1990  0.7 700 出産母 1991‒2000  2000  0.6 600 2001‒2010  2010  0.5 10 500 年平均 0.4 400 万人当たり 0.3 300 0.2 200 0.1 100 0 0 OCED EAP ECA LAC MENA SAR SSA OCED EAP ECA LAC MENA SAR SSA e. 殺人 f. 食料価格・世界の海面上昇 25 70 20  10 1981‒1990  60 世界の海面上昇(中位数) 月次指数の標準偏差 万人当たり、年平均 20 1991‒2000  食料価格の変動性(右軸) 16  50 ミリメートル 2001‒2010  40 15 12  30 10 20 8  10 5 4  0 0 ‒10 0  OCED EAP ECA LAC MENA SAR SSA 1992  1997  2002  2007  2012  出所:次からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成――World Bank World Development Indicators (database); EM-DAT OFDA/CRED International Disaster Database; Nerem 他 2010; United Nations Office on Drugs and Crime Homicide Statistics (database); Food and Agricultural Organization Food Price Index (database). 注:数字は各地域に属する各国の単純平均.図の OECD 諸国は 40 年間以上にわたり OECD のメンバーであった高所得国.それ以外のす べての諸国は地理的な地域にグループ分け――EAP= 東アジア・太平洋;ECA= ヨーロッパ・中央アジア;LAC =ラテンアメリカ・カリ ブ;MENA= 中東・北アフリカ;SAR= 南アジア;SSA= サハラ以南アフリカ. a.大不況は Barro and Ursüa 2012 にしたがって,1 人当たり GDP の増加が頂点から底まで 5%以上低下したのを下限として特定.南ア ジアでは 1991 – 2000 年に大不況はなかった. b.自然災害には旱魃,地震,洪水,および嵐が含まれる. c.流行病はある伝染病――当該地域ないし関連人口にすでに存在していたもの――の患者の異常な増加,あるいは当該地域には従来な かった流行病の発生のいずれかを指す. CHAPTER1 リスク管理は強力な開発手段に なり得る 61 たらすが,それは人々の現在の生活条件に影響す ような行動の動機は改善の追求であるが,結果が るだけでなく,新しい機会を追求しようとしてい 保証されていることは稀である. る人々の能力や意欲を弱体化させるからでもあ  世の中が変化するにつれて,新しい機会や可能 る.状況の悪化によって窮乏や倒産,危機に陥る 性がリスクや複雑化を伴って,連続的に出現して ことがあるという認識に立つと,人々は安全では くる.その変化を拒否あるいは無視すれば,停滞 あるが停滞気味の技術や暮らしに固執する可能性 や困窮につながりかねない.それとは対照的に, があるということだ. 変化を受け入れて,リスクに積極的に対処すれば,  しかし,リスクは有害とは限らないし,常に重 持続的な進歩につながる道を切り開くことができ 荷になるというわけでもない.多くの場合,自分 る.したがって,リスク管理は社会のあらゆるレ の生活水準を改善したいと思っている人々は自発 ベルにおいて,中心的な関心事でなければならな 的にリスクをとる.それどころか,リスクをとる い.リスク管理には強靭性を改善することによっ ことは機会の追求にとって必要不可欠である.そ て,途上国とそれ以外のところで,人々に安心感 のような機会は独自のリスクを持ち込んでくる公 と進歩を達成する手段をもたらす潜在力がある. 算があろう.国際的な統合や経済成長の引き上げ を促進するために国境を開放した国は,国際的な 変動からうける影響の度合いを高めることになる リスク管理がなぜ開発に関係するのか? だろう.収益性を高めるためにより先進的な技術  リスク管理は途上国にとっては,次のような理 を導入した企業は,債務が増大して,財務的に脆 由から必須のツールである.すなわち,途上国の 弱化する懸念があろう.高収量を期待して新し 人々は多くのリスクにさらされており,そのよう い作物を採用し,より多くの投入物を使うように なリスクを管理できないと,経済成長や貧困削減 なった農民は,万が一降雨が少ないと,かえって などを含め開発目標は窮地に陥りかねない.発展 大きな損失に直面することになる.より良い保健 途上世界の日常生活におけるリスクの蔓延は表 ケアと教育を求めて都市に移住した農村家庭は, 1.1 に明白に示されている.これは家計調査に基 より頻繁な犯罪にさらされる一方で,コミュニ づくデータであり,多種多様なショックから影響 ティからの支援はあまり期待できなくなる.この を受けていると回答した人の数である 7.途上国 表 1.1 途上国の家計は多くのショックに直面している (ショックの種類でみた回答者の割合) アフガニスタン a インド b ラオス マラウイ ペルー ウガンダ ショック 都市 農村 農村 都市 農村 都市 農村 都市 農村 都市 農村 1 回以上 16.4 48.9 61.6 34.4 72.1 40.0 66.8 20.7 34.4 29.7 56.2 2 回以上 8.7 39.2 23.4 11.9 36.1 12.7 40.4 1.4 1.9 5.6 15.6 自然災害(旱魃・洪水) 10.6 42.2 57.3 5.6 36.0 10.4 47.2 2.6 21.5 19.9 52.1 価格 c 0.2 3.0 — 4.4 4.9 21.1 42.0 — — 1.7 3.2 雇用 6.4 4.3 — 9.3 3.1 7.7 3.4 6.4 1.5 1.9 0.7 健康(死亡・病気) 6.9 14.0 30.2 23.2 33.8 10.1 18.0 9.1 8.9 11.8 14.9 人的・窃盗犯罪 1.8 6.6 0.9 5.8 1.9 8.5 8.4 3.2 3.1 6.6 8.7 家族・法的紛争 — — 1.9 0.0 0.9 1.7 4.3 0.7 0.3 — — 出所:家計調査(2005 – 11 年の各年)からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成. 注:-=入手不可. a.2005 Afghanistan National Risk and Vulnerability Survey は国レベルで統計上代表的な値であることを目指している.しかし,リスクに対する不 安から最も深刻な影響を受けている家計のデータを入手するのが困難であったという事情があり,データはその分だけ同家計のショックを過小 評価している可能性があろう.逆に,調査可能であった家計が直面しているリスクは,他の途上国の場合とさほど違わないことを示している. b.インドのデータはカルナタカ,マディア・プラデシュ,オリッサといった各州の農村部における代表的な調査に基づく. c.価格ショックは農業の産出物・投入物の価格,あるいは主食品目の価格における大幅または予想外の変動を指す. 62 世界開発報告 2014 図 1.1 途上国の家計はリスクに弱いと感じており,それを懸念している a.過去 12 カ月間にあなたは次のことを何回経験しましたか: 食料が足りない 犯罪で危険を感じた 薬や医療がない 所得がない 60 「多い」あるいは「時々」という 50 回答の割合(%) 40 30 20 10 0 カ ア ア ブ カ ア ア ブ カ ア ア ブ カ ア ア ブ リ ジ ジ リ リ ジ ジ リ リ ジ ジ リ リ ジ ジ リ フ ア ア カ フ ア ア カ フ ア ア カ フ ア ア カ ア 東 央 ・ ア 東 央 ・ ア 東 央 ・ ア 東 央 ・ ・ 中 カ ・ 中 カ ・ 中 カ ・ 中 カ 南 ・ リ 南 ・ リ 南 ・ リ 南 ・ リ パ メ パ メ パ メ パ メ ッ ア ッ ア ッ ア ッ ア ロ ン ロ ン ロ ン ロ ン ー テ ー テ ー テ ー テ ヨ ラ ヨ ラ ヨ ラ ヨ ラ b.あなたはどの程度心配していますか: 失職あるいは就職できない 子供に良い教育を与えられない 戦争やテロ攻撃,内戦 100 「非常に」ないし「大いに」という 90 75%層 80 回答の割合(%) 70 中位数 60 50 25%層 0 カ ア ア ブ カ ア ア ブ カ ア ア ブ リ ジ ジ リ リ ジ ジ リ リ ジ ジ リ フ ア ア カ フ ア ア カ フ ア ア カ ア 東 央 ・ ア 東 央 ・ ア 東 央 ・ ・ 中 カ ・ 中 カ ・ 中 カ 南 ・ リ 南 ・ リ 南 ・ リ パ メ パ メ パ メ ッ ア ッ ア ッ ア ロ ン ロ ン ロ ン ー テ ー テ ー テ ヨ ラ ヨ ラ ヨ ラ 出所:World Values Survey, 2010 – 12 からのデータに基づき WDR チーム作成. の標本における家計の過半数が,前年に,しかも 農村部では非公式雇用の割合が大きいことを反映 一度ならず複数回にわたってショックにさらされ したものであろう.中所得国(ペルーなど)は低 たと報告している.最も頻繁に指摘されたショッ 所得国との比較で,ショックの影響を受けたと回 クは自然災害(旱魃や洪水など)と健康に対する 答した人の割合は低い. リスクである.農村部は特に旱魃と洪水を中心と  調査が示すところによれば,途上国の人々はリ した災害からより深刻な影響を受ける傾向があ スクに影響されやすく,そのことを心配してい る.1 つの例外は雇用状況の悪化であり,これは る.図 1.1 は最新の世界価値観調査のデータを示 都市部に集中する傾向がある.これはおそらく, したものである.これは実現したリスクまたは懸 CHAPTER1 リスク管理は強力な開発手段に なり得る 63 念事項となっているリスクに関して,人々に相対 1 月,ハイチのポルトープランス近辺でマグニ 的な判断を示すように質問したものである 8.低 チュード 7.0 の地震が発生して 23 万人が死亡し 所得国の地域の多くがやはり最も深刻な影響をこ た.それとは対照的に,それから 1 カ月後,マ .サハラ以南アフリカ うむっている(パネル a) グニチュード 8.8 というずっと大きな地震がチリ では大勢の人が,前年には現金所得や食料,医療 中央部の沿岸地帯を襲った.損害は大きかったも 処置を受けないで過ごしたと申告している.相対 のの,死者数は推定 525 人とずっと少なかった. 的に中所得国の多いラテンアメリカは,犯罪とい 異なる結果になった大きな一因は,チリでは建築 う特殊な問題に直面している.今後のことについ 基準が執行されていたことである.すなわち,建 て質問をした調査は,大半の人々は将来的に出現 物が地面の震動に対してより頑丈だったのであ してくる可能性のあるリスクを心配していること る.そのような事象の後に再建する際,より良い .確かに,場合によっ を示している(パネル b) 備えにどれだけ投資するかは将来的に類似の事象 ては,将来的なリスクを懸念する人々の数は,過 が発生する確率に依存する.しかし,必要不可欠 去にそのリスクに影響された人々の数を超過して なのは,そのような事象の可能性を事前に考慮 いる.例えば,全地域の 50%を超える人々が失 し,どのような備えをするか決めておくことであ 職の懸念を表明したが,前年に所得がなかったと る.その点ではバングラデシュが手本を示してい 回答した人数はそれよりずっと少なかった.この る.自然災害に対する備えを改善したおかげで, 相違はリスクが人々にもたらす非常にリアルで心 サイクロンによる人命損失が劇的に減少してい 理的および感情的な被害を明らかにしている. る.過去 40 年間に同じような規模の大型サイク ロンが 3 回もバングラデシュを襲っている.死 リスク管理は命を救う 亡者数は 1970 年には 30 万人強,91 年には 14  リスクの防止や備えを怠ると悲劇的な結末をも 万人弱,2007 年には 4,000 人と,減少の一途を たらすことがあり,広範な失命につながることが たどった 12.このような人的損害の著しい減少 多い.死亡率は途上国では高いことが多く,不当 は,予測能力の改善や比較的単純だが効果的な警 にも貧困層でその割合が大きい.途上国は自然災 報システムに加えて,シェルターの建設という全 害にさらされることが多く,建築構造が頑健でな 国的なプログラムの成果である 13. く,惨事を防止する能力が低い傾向にある.次の 1 つの厳然たる統計がすべてを物語っている:ア リスク管理は損害を回避し開発の挫折を防止する フリカでは旱魃で亡くなる人の数が他のどんな自  危機は膨大な経済的コストをもたらし,不動産 然災害よりも多いが,先進国では過去 40 年間に やインフラ,財産の大規模な損失につながり得る. 旱魃で亡くなった人は事実上 1 人もいない 9.同 過去 15 年間,ドミニカ共和国,エクアドル,イ 様に,疾病や傷害による死亡率も途上国では先進 ンドネシア,ジャマイカ,タイ,トルコなどを含 国に比べてずっと高い.60 歳未満の成人の死亡 む多くの途上国は,対 GDP 比で 20%相当以上の 率は途上国では先進国と比較すると,男性は 2.5 財政コストを要する銀行危機に直面してきた 14. 倍,女性は 4 倍の高さとなっている.一方,5 歳 自然災害による損害額は,通常は先進国の方が大 未満の子供の死亡率は同じく約 20 倍強となっ きく,不動産やインフラの再建・修復の費用がよ ている 10.貧困層に影響する疾病が最大の死者 り高価につく.しかし,自国経済規模との相対比 を出している.すなわち,肺感染症や下痢症, でみると,普通は経済的な影響は途上国の方が HIV/ エイズやマラリアなどを含む予防可能な感 ずっと大きい 15.途上国では,損害に関する保 染症の死亡率は,低所得国では高所得国の 20 倍 険に入っている家計や企業の割合が小さいことも 以上の高さとなっている 11. 一因となって,影響はより甚大になるだろう 16.  危機に伴う人命の損失は適度な費用で回避あ 固有リスクのコストも高くつくことがある.途上 るいは削減できることが多い.例えば,2010 年 国の家計は,例えば,結核などの病気治療の直接 64 世界開発報告 2014 的な費用として,年収の 20%もの支出を余儀な 薄い低所得国における GDP 成長率は,他の所得 くされる可能性がある 17. グループ諸国および自国の過去における経験との  大きなショックは,特に貧困層にとって,人 両面での対比で,さらに穏やかな鈍化を示すにと 的,社会的,および実物資本について深刻で長期 どまった.以上の両事例では,危機以前の健全な にわたる損傷をもたらすことがある.ショック マクロ経済管理――インフレが抑制されているこ が当該国の経済との相対比で大きい場合,長期 と,財政・経常収支の赤字が小さいこと,外貨準 にわたり有害な影響があるかもしれない.例え 備が潤沢なことなども含む――が余裕を生み出し ば,1998 年にホンジュラスを襲ったハリケーン ており,各国は成長鈍化に対応して反循環的政策 は,GDP の 80%に相当する損害――直接・間 を採用することができ,それが従来のグローバル 接両方の損害総額――をもたらし,公的財政の脆 な金融危機の場合と比べてずっと速やかな回復に 弱化と経常収支赤字の拡大という顕著な後遺症を 貢献した(第 7 章参照)22. 残した 18.危機の影響が恒久化する場合もある. ますます多くの研究論文が,ショック,とりわけ リスク管理は機会を解放する 健康や天候にかかわるショックや経済危機は,家  マイナスのショックに対する人々の懸念に優 計を貧困に陥れて,そこにとどめておく一因に るとも劣らずに重要なのは,生活環境を改善し なっていることを示している 19.エチオピアで たいという欲求である.途上国の人々の 68%が, –  は,1999  2000 年の旱魃を受けて,2 つの最低 高水準の経済成長が自国にとって最優先課題で –  所得 20%層の家計は,資産の 60  80%を失った あると指摘している.途上国の人々の 70%は, ものと推定される.一方,最富裕 20%層はわず 仕事も自分の生活に「非常に重要である」と答 か 6%の損失にとどまった 20.途上国では貧困 えている 23.4 分の 1 は,自国から恒久的に移 が減少したにもかかわらず,仮に災害が発生すれ 住したいと述べている.その最も重要な動機と ば,依然として大きな割合の人々が貧困に陥りや して,生活水準の改善という抱負を引き合いに すい状態にある(ボックス 1.2). 出す人が大半を占めていた 24.  先見的なリスク管理があれば損害を防止,ある  改善への欲求は強いものの,その改善を実現す いは軽減するのに役立つ.例えば,早期警告シス るのに必要な変化は著しいリスクをもたらすこと テムがあれば,最も大きな影響を受ける可能性の がある.リスクに対する懸念――特に貧困層に ある地域から人々を退避させたり,事前に建物や とっては深刻なことがある――から,生産的な機 インフラに防御装置を施したりすることによっ 会の追求をあきらめることさえある.例えば,途 て,自然災害に伴う潜在的損害を抑制することが 上国の低所得家計は低リスク作物を選択している できる.他の自然災害に伴う損害を最小化するに ことが多いが,それは収量も低いため,不当にも は予測能力も有益である.例えば,フィリピンで 貧困の永続化の一因になっている 25.農民が肥 –  導入された季節予報モデルは,2002  03 年のエ 料を使わないのは,降水の減少や需要の減退など ルニーニョに起因する旱魃に先駆けて,農民が農 の環境の悪化を恐れて,中間投入物に投資するよ 業生産計画を調整するのに役立った 21.同様に, りも緩和策として貯蓄の保有を選好することが一 マクロ経済管理が改善すれば,ショックの影響を 因である 26.同様に,大きな利益が得られる潜 軽減するような緩衝的措置を財政・金融面で生み 在性があるにもかかわらず農村世帯は不毛の季節 出すことによって,経済的ショックの厳しさを削 でも一時的に移住してチャンスをつかもうとはし –  減することができる.2008  09 年の金融危機の ない.このことの一因には失敗に対する恐れがあ 際,中所得国は GDP 成長率の急低下を経験した. るのだろう 27. しかし,それは高所得国と同程度のものにとどま  損失に対する恐れからリスクを回避するという り,従来の世界的危機の場合とは違って高所得国 個人的な選択は,機会の逸失ということ以外に, を上回るものではなかった.金融市場との関連が 集計すると国家的な影響をもたらすことにつなが CHAPTER1 リスク管理は強力な開発手段に なり得る 65 ボックス 1.2 貧困は減少したものの,世界中で大勢の人々が貧困に陥りやすいままである  顕著な実績として,途上国では貧困が過去 20 年間にわ 唆している. たり着実に減少してきている.1 日 2.50 ドルで生活して  貧困な状態で生活をしたり,貧困に陥りやすい人の割 いる人の割合は 1990 年の 72%から,2010 年には 50%に 合は全地域で低下したものの,進展は地域ごとに差があ まで低下してきている.しかしながら,相当大きな割合の る.ヨーロッパ・中央アジアでは,貧困は従来から比較 人々が依然として貧困に陥りやすい状態にある.途上国で 的低かったが,貧困に陥りやすい層の削減に関して大幅 は 1 日 10 ドル未満の暮らしをしている人の割合は,1990 な進展がみられる.東アジア・太平洋では,貧困率は 年に 94%にも達していたが,2010 年現在でも 89%と依 1990 – 2010 年に 88%から 40%へと半減したが,人口の 然として高い a.慢性的な貧困は著しく減少したものの, 92%は引き続き貧しい暮らしをしているか,貧困に陥り 途上国では大きな割合の人が貧困に非常に近いところで やすい状態にある.同様に,南アジアやサハラ以南アフリ 生活しているということは,災害に襲われた際には一時的 カでは,2010 年現在,1 日 10 ドル未満の生活をしている な貧困――人々の健康や生計にとって長期的な影響をも 人が人口の 98%に達している. たらし得る――が著しく増加する可能性があることを示 途上国で貧困の状態で生活している,あるいは貧困に陥りやすい人口の割合 1990 2010  100 80 人口に占める割合(%) 60 貧困に 貧困に陥って 陥りや いる人口 すい人口 40 (1 日 10 (1 日 2.50 ドル未満) ドル未満) 20 0 全途上国 東アジア・ ヨーロッ ラテン 中東・北ア 南アジア サハラ以南 太平洋 パ・中央 アメリカ・ フリカ アフリカ アジア カリブ 出所:World Bank PovcalNet (database) からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成. a.1 日 1.25 ドルというのが広く使われている極貧の指標である.しかし,ラテンアメリカ・カリブなど一部の地域では,1 日 2.50 ドル の方が極貧に関してより適切な指標だと考えられている.1 日 10 ドルの指標は全地域にわたって貧困に対する脆弱性を測定するための, 近似的な下限値であり,これは資産保有と関係がある.この指標は次のことを示唆する研究に基づいている.すなわち,一部の地域で は,中流階級の家計を特徴付けるある程度の経済的安定性とショックに対する強靭性を達成するためには,少なくとも 1 日 10 ドルの所 得が必要である.対照的に,1 日 10 ドル未満の暮らしをしている人々は貧困に陥りやすい.それは貧困にとどまる,あるいは貧困に容 易に陥る可能性に直面しているという意味である.例えば次を参照――López-Calva and Ortiz-Juarez 2011; Ferreira 他 2013. り得る.例えば,リスク回避――自給自足水準に ていると,国の経済成長に悪影響を及ぼすことが 近い暮らしをしている人々の多い途上国では特に ある.革新はしばしばプラスの波及効果をもたら その傾向が強い――は,次のようなことを示唆し し,その利益が個人だけでなく社会にも蓄積する ているという証拠がある.すなわち,途上国と先 場合には,特にそういえるだろう. 進国の間で中間投入物(肥料など)の利用度が異  リスク管理手段を使えば,リスクをとることに なるが,その相違の 3 分の 2 はリスク回避度の 伴う潜在的な損失をより適切に管理する――した 相違で説明可能である.その結果として,農業関 がって,機会を活用して最終的には貧困を削減す 連の被害を受けるリスクがない場合のモデルとの る――ことができる.例えば,保険をかければ潜 比較で,農業および経済全体の生産性がそれぞ 在的な損失が軽減されるため,ガーナの農民は生 れ 50%および 80%も低くなっている 28.同様 産を改善するための投資を増やすと同時に,リス に,リスク管理手段が無い状況下で革新に躊躇し クを伴うがより高収量の作物を追求することが可 66 世界開発報告 2014 図 1.2 リスク管理手段は人々の機会の追求に役立つ a. インドの降雨保険 b. バングラデシュの季節的移住 降雨保険の影響 移住割合 移住元家族による消費の変化 60  肥料 50  40  種子 % 30  賃労働 20  10  投入用借入 0  50  30  10  10  30  50  2008  2009  食費 食費 カロリー 投資を減らした 投資を増やした 以外 摂取 家計の割合(%) 家計の割合(%) 奨励金受領グループ 奨励金非受領グループ 出所:Cole, Giné, and Vickery 2013(パネル a); Bryan, Chowdhury, and Mobarak 2012 ( パネル b) からのデータに基づき WDR 2014 チーム 作成. 注:パネル a のグラフはインドの半乾燥地帯で,降雨保険を提供された農民 749 名が,自己申告した投資決定を示す. 能になる 29.同様に,降雨保険に入ったインド 陥る可能性が低いからだ 31.栄養や予防的ケア の農民は耐乾性作物から高収量作物に生産を移し に投資すれば,人々がより生産的になれるだけ て,肥料や賃労働,その他の投入物への投資も増 でなく,地域社会の病気に対する弱さを削減す 加させている(図 1.2a) .バングラデシュの農村 ることができる 32.企業部門では,柔軟性が高 部では,毎年のことながら家計は不毛の季節が い企業ほど生産的であり,経済状況の急変への対 巡ってくるたびに,飢饉と貧困増加の可能性に直 応もより適切である(第 5 章).途上国における 面している.農業の仕事がほとんどなく,穀物価 高インフレを大幅に削減するための政策は,長期 –  格が高いにもかかわらず,そのわずか 2  3 カ月 的な経済成長率を高めるだけでなく,その変動性 間のために職を求めて都市部に出稼ぎに行く人が も削減することから有益である 33.このような 比較的少ないためだ.少額のローンないし補助金 ことのすべてがうまくいっている事例は,リスク という形の支援が供与されたのを受けて,一時的 管理を行うと同時に開発を推進することが可能で な移住者の割合が急増し,それに伴って残留家族 あるということを証明している.つまり,強靭性 の消費も増加した.重要なのは,それ以降の年で と成長の間には必ずトレードオフがあるというわ も,移住に対して奨励措置が供与されなかったに けではないということである. もかかわらず,季節的な移住者が高水準を維持し たことである.これは,リスクを伴う活動に対す る懸念を削減するのに役立つ重要な自己学習の一 リスク管理は何を必要とするのか? 面を示している(図 1.2b).  本節では概観で導入した分析の枠組みのうち,  多くの場合,特に途上国では,リスク管理は 2 つの重要な構成要因を詳細に検討する.最初に, 経済的収益率を高めると同時に,危機に陥りや リスクに関する決定が行われるプロセスと,リス すい傾向を削減する手段を提供してくれる.例 クや機会が出現してくる環境について検討する. えば,教育の改善は生産性と所得を増やすだけ 次に,強力なリスク管理戦略――リスクに備える でなくリスク管理にもつながる.というのは, と同時にそれに対処する措置を含む――がどのよ 高いスキルを持つ労働者は失業や不完全雇用に うなものかを説明する.そのような戦略の実践 CHAPTER1 リスク管理は強力な開発手段に なり得る 67 用語集 1.1 リスク管理に関連のある用語 リスク 損失の可能性.外部から押し付けられる場合と,機会を追求するために自発的に引き受ける場 合がある. 機会 利益の可能性.リスクの明るい面とみなすこともできる. システミック・リスク あるシステム全体のメンバーのほとんどに共通するリスク. 固有リスク あるシステムの一部のメンバーにとって固有なリスク. リスク管理 リスクに直面し, , リスクに備え(事前のリスク管理) その影響に対処する(事後のリスク管理) を含むプロセス. ショック プラスかマイナスになり,漸進的か突然かのずれかで起こる世の中の変化. エクスポージャー あるシステムがさらされているショックを決定する外部環境. 脆弱性 あるシステムのエクスポージャーや内部状況,リスク管理から生じる状況の悪化に伴う損失に 極めて影響されやすいこと. 強靱性 ある個人ないしシステム自身の機能を保持ないし改善しながら,マイナスの影響から回復する 能力. 危機 リスクに伴う悪い結果の状況があまりに深刻かつ広範で,当該システムの機能さえ脅威にされ ていること. 不確実性 結末がどうなるかがわからない状況. 出所:WDR 2014 チーム. をしばしば困難にする障害を第 2 章で探求する. 長を高めるので,人々は直面するリスクを削減 以下に引き続く議論では,開発にかかわる多種 しながらリターンも改善することができる.し 多様な分野の専門知識を横断して,リスクとリ たがって,どういう行動をするのかという選択 スク管理を議論するための統一的な体系と一連 肢は,準備のための先行コストが期待利益と比 の用語を提供することを試みる.ただし,用語 較してどの程度になるか 34 や,情報の欠如や経 や概念の使い方が他の学問とは異なるかもしれ 済的制約を含むリスク管理にかかわる潜在的な ない(用語集 1.1). 障害に依存する.  リスク管理の選択肢のコストが,最終 不確実性下でリスクを管理する リス 的にあまりにも高いと判断されるか  世の中は常に変化しており,そ ク管理は経済的収益 どうかは,部分的には多種多様 の変化に伴って不確実性が生 率を高めるとともに,危 な行為の相対価格と代替策の利 ま れ る. こ の 不 確 実 性 の な か 機に陥りやすい傾向を削減す 用可能性から影響を受けるだろ で,人々は直面するリスクにど ることができる:強靭性と成 う.特に人々が支援について家 う備えるかという多種多様な選 長の間には常にトレードオ 族や国家,その他のネットワー 択肢を検討しなければならない. フがあるわけではな クを頼りにできるか否か,そし リスクをとってそれに備えること い. て必要な時に借金を期待できるかど と,ショックが発生した後で初めて行 うかが重要であろう.リスク管理にか 動することとの間で,適切なバランスを決めな かわる主観的な利益は,今度は,将来起こり得 ければならない.場合によっては,どれだけリ るショックの規模,それが発生する確率,現在 スクをとるのかという選択は,リスクと見返り (コストを負担する時期)との比較で将来(リス のトレードオフの影響を受けるだろう.なぜな ク管理の利益が現実化する時期)のことをどれ ら,ある行動のリスク度を削減することによっ だけ考慮しているか,などにかかわる評価に依 て,潜在的なリターンも減少する公算があるか 存する.個人的な選好(リスクにかかわる許容 らだ.例えば,金融に関する投資ではそれが普 度と欲求度)も決定に影響するだろう.このよ 通である.しかし多くの場合,リスク管理は成 うな選好はさまざまな要因から影響を受けるが, 68 世界開発報告 2014 ボックス 1.3 リスク回避が損失回避になる時:効用理論からの意見  経済モデルでは行為主体のリスク回避は,その効用関数 感じて,リスク負担の増加により積極的であろう. の湾曲度合いで表される.例えば,リスク回避的な主体の  それとは対照的に,非常に貧しく信用制約のある人々 効用関数は凹型になっている.彼らにとっては確実に発生 は特にリスクを恐れるかもしれない.これらの人々にとっ する結末の方が,平均価値が同じでも不確実な結末よりも ては,リスク回避というのは基本的に損失回避になってい 効用が大きい.モデルを構築する際,経済学者はどのタイ る.つまり,彼らにとっては損失の可能性が利益の可能性 プの効用関数を使うのかに関して選択をしなければなら よりもずっと重要である.このような状況下では,所得に ない.相対的リスク回避度一定型の効用関数が一般的に使 対して相対的リスク回避度が一定ではない効用関数を考 われており,作業は比較的容易である.しかし,この種の えた方がいいだろう.例えば,ストーン = ギアリー型効 効用関数にかかわる 1 つの欠点は,この関数が消費の(比 用関数では,効用は消費だけでなく,現在の消費と生存の 例的な)変動に対する主体のリスク回避度が所得に応じ 最低水準との差にも依存する.損失回避は新しい事業や機 て変化しない,という特徴をもっていることである.しか 会を追求しようという人々の積極性に強い意気阻喪効果 し,類似した特性を有していても所得水準が異なればリス を与える.しかし,それは金融市場へのアクセス(保険や クの選好度も異なるであろうと考えるのは合理的かもし 信用という形で)や,特に困窮時におけるセーフティネッ れない.例えば,所得水準の高い人は失うものは少ないと トの利用可能性によって緩和することができる. 出所:WDR 2014 チーム. それには所得や文化的規範が含まれるだろう.例 結果は人々の対応能力――例えば,緊急対応要員 えば,所得水準が非常に低いと,リスク回避は損 はどの程度迅速に現場に到着できるかや,どのよ 失回避と同義語になるだろう(ボックス 1.3). うな装備をもっているかなど――にも依存する. 四川省では次のような疑問が提起された.すなわ リスクと機会が発生する環境を理解する ち,農村部の学校については建築基準の執行が不  変化はマイナスの状況(自然災害や金融危機な 適切だったことが,被害をいっそう大きくしたの ど)とプラスの状況(資源ブームや技術進歩な ではないか? この地域における主要高速道路の ど)の両方を生み出し得る.リスクが課されたの 損傷や地滑りおよび泥流も,地震の影響を受けた か,それとも自発的に引き受けたのかにかかわら 地域へのアクセスを困難にして,救助が困難を極 ず,ショックの影響は人々の外部環境や内部状 める一因となった. 況,リスク管理に応じて,増幅ないし削減される  これとは対照的に,貴重な天然資源の発見はプ ことがある. ラスの変化の適例になる.逆説的ではあるが,こ  2008 年 5 月に発生した大規模な地震で,子供 の予想外の利益は一種の呪いとみられることもあ を含む 6 万 9,000 人が死亡した中国四川省の事 る.ただし,チリの例が示すように,必ずしも呪 例を考えてみよう.このような事象における死 いになるとは限らない.チリは過去 1 世紀にわ 亡者数の要因は何だろうか? 最初に事象の強 たり世界で有数の銅生産国であり,引き続きチリ 度(マグニチュード 7.8 の地震)が重大な影響力 の輸出総額の半分以上を占めている.この資源か をもっているのは明らかだ.さらに,外部的な環 ら利益を享受できるチリの能力は,外部的な条件 境に応じて(例えば,地震が起こりやすく人口密 ――世界の銅価格の水準と変動性を含む――に一 ,人々が地震 度の高い地域に居住しているなど) 部依存している.内部条件も重要である.戦後, から受ける影響の大きさが異なるだろう.人々の 労働者の技術的能力が低く,高いスキルを持った 内部的状況(年齢や健康,教育など)も要因の一 労働者が不足していたことが,国内銅生産者の つだろう.人々の備えそのものも重要である.例 業績が伸び悩む原因になっていたとみられる 35. えば,学校に通っている子供たちは地震への緊急 時とともに,リスク管理の改善も重要な役割を演 対応の訓練をしていたか? 事象が発生した際の じることになった.堅調な銅生産が 20 世紀のほ CHAPTER1 リスク管理は強力な開発手段に なり得る 69 とんどを通じて経済開発に浸透しなかった一因 ムをまたいで十分な相関関係を持っている場合 は,エリート層による不健全な支出があったと にはかなりの影響をもつかもしれない.例えば, みられるが 36,政府は 1980 年代から 90 年代に 著しい債務を負った 1 つの家計は大した問題で かけてチリの銅生産が再び増加したのを受けて, はないかもしれないが,多くの人々が債務過多 銅収入の管理について積極的で前向きな役割を であれば,家計の債務問題は集計値レベルでは 演じ始めた.今では銅価格に連動した財政ルー 不安定性の源泉になり得るだろう.人々のリス ルを使って,政府の経済社会安定化基金と年金 ク管理は将来的にショックをこうむる傾向にも 準備基金(第 7 章参照)に拠出している.今日, 大きく影響する.例えば,殺虫剤処理した蚊帳 チリは国民の利益のために責任をもって,天然 を使うと,その地域の蚊の数を減らすことがで 資源の管理を実施している模範例であるとみら きるので,マラリアのリスクが低下する.土壌 れている. 侵食を管理すれば地滑りのリスクが削減できる.  より一般的には,ショックや外部環境,内部 有効なマクロ健全性規制は将来の金融危機の可 状況,リスク管理のアプローチ・結果などの相 能性を削減することができる(第 6 章参照). 互作用は,リスク連鎖によって示すことができ る(ダイアグラム 1.1)37.どのようなリスクで リスク管理の目標 あれ,その源泉は最初のショックである.ショッ  この文脈では,リスクは損失の可能性と定義 クは良いか悪いかにかかわらず,突然発 される.機会を追求してリスクをとっても 生するか(自然災害など),徐々に発    結果は保証されていない.したがっ 生するか(人口動態の変化や技術 リスク管理の目標 て,リスクは損失の可能性をとい の変化など)のいずれかである. は人々がリスクと機会 う意味を含んでいる.これとは対 ショックにはシステミックなもの に直面した際に経験する 照的に,機会は利益の可能性と定 もあれば,固有な(特定の個人や 損失を軽減し,利益を 義される(リスクの明るい面とみ 家計だけに影響する)ものもある. 改善することにあ なせる).人々のリスクに対するエ 前述の実例で強調したように,ショッ る. クスポージャーはその外部環境で決 クの結末は人々の外部環境と内部状況に, まる.例えば,ある家が沿岸洪水のリス また,かなりの程度で,リスクに対する備えや, クにさらされているか否かはその立地次第であ 実際にリスクが顕在化した際にどう対応するか る.リスクから受ける影響や内部状況,リスク に左右される. 管理の結果として,脆弱な――災害に伴う損失  この議論はリスクが線形的に伝播することを に特に弱い――人々がなかにはいる 38.例えば, 示唆しているが,実際には,リスク連鎖で示さ 相殺的なヘッジをせずに高リスク・ポジション れた関係はいくつかのフィードバック効果を含 をとっている債務比率の高い金融機関は,経済・ んでいる(ダイアグラム 1.1 参照).過去のショッ 金融面でのショックに脆弱な可能性があろう. クの結果が,人々がショックから受ける影響の 同様に,資産がほとんどない貧困家計は食料価 程度に影響する可能性があろう.例えば,深刻 格の急騰に特に脆弱であろう. な旱魃を受けて都市部に移住した家族は,まっ  強靭性は人々が自分の機能を保持ないし改善 たく新しい一連の潜在的なショックにさらされ しながら,災害から回復する能力を特徴として ることになるだろう.過去のショックの結末は いる.強靭性の増大に伴う成果の 1 つをあげれ 将来的にショックが発生する傾向にも影響する ば,家計の消費や所得について,その増加率の だろう.例えば,HIV/ エイズに感染している 変動性が削減される可能性があるということで と,結核のリスクが高まる.家計のような小さ あろう(ボックス 1.4).開発の文脈でリスクを なシステムにおける結末が,それ自体で大きな 取り扱った文献が相当な増加を示しているが, 影響を及ぼす公算は低いものの,それがシステ その多くはマイナスのショックに対する強靭性 70 世界開発報告 2014 ダイヤグラム 1.1 リスク連鎖:結末の性格と程度はショック,受ける影響の程度,内部環境,およびリスク管理に依存する 外部環境 Risk ショック リスク管理 結末 ernal 内部状況 出所:WDR 2014 チーム. 注:リスク連鎖ダイヤグラムのフィードバック矢印は,過去の結末が将来のショックの傾向だけでなく,エクスポージャーや内部状況に 影響する潜在性を示す.同様に,人々のリスク管理の有効性は将来のショックの性質や傾向に著しく影響することがある. がリスク管理の改善を通じて,どのように高めら 力を組み合わせる必要がある.備え(あるいは れるかを強調している.しかし,リスク管理には 事前的なリスク管理)には,事前に行うことが 人々や各国がプラスのショックをうまく管理でき できる次の 3 つの行為が含まれる:知識の習得 るように後押しすることによって,繁栄を高める (情報収集とリスクに関する判断);保護策の入手 という必要不可欠な役割もある.それどころか長 (リスクの可能性と規模に影響を与えるため);保 期的には,プラスのショックをうまく管理する 険の入手(良い時期と悪い時期の間で資源を移転 ことが,マイナスのショックに対する人々の強 するため).しかし,リスクを完全に払拭するこ 靭性を高めることにとって重要になる.この側 とはできず――そうすべきでもない――,例外的 面を無視することは,慢性的な貧困の状況下で なショックは常に発生し得る.したがって,一た はとりわけ問題である.というのは,貧困家計 びリスク(ないしは機会)が現実化したら,人々 がリスク管理を通じて達成できる最善のことは, は起こったことに対処する措置をとる(すなわ 長期的にみて今以上に貧しくならないというこ ち,事後的なリスク管理に従事する)必要がある とだからだ 39.そうではなく,リスク管理の目 (ダイヤグラム 1.2)40.対処措置には知識の更 標は人々がリスクに直面した際に経験する損失を 新と保険や保護策の採用などが含まれる. 削減するだけでなく,利益を増大させることにあ るべきである. 知識  リスクに直面した際には人々は不確実性に直面 リスク管理は準備と対処を必要とする するため,知識の増大はリスク管理にとって必  その目標を達成するために,リスク管理はリス 須の要素である.リスクに関する情報が増えれ クに備える能力とリスクが顕在化した時の対処能 ば,人々が自分の直面しているリスクの性格と可 CHAPTER1 リスク管理は強力な開発手段に なり得る 71 ボックス 1.4 途上国は時とともに強靭性を強化してきている  災害に強い家計の特徴になりそうなものの 1 つは,長期 ることを考えると,重要な特性である.この時期には先進 にわたる変動の少ない消費と所得の増加である.備えが良 諸国が最も強靭であり,家計の消費と所得両方の伸びにか く,多様化した資産を有する家計は,所得の変動性が小さ かわる変動性は途上国よりも低かった.さらに,先進国で く,ショックに直面した際にも安定した消費を維持するこ は消費の伸びは所得の伸びよりも相対的に安定していた. とができるだろう.対照的に,強靭でない家計は消費や所 これとは対照的に,ほとんどの途上国は不安定な消費と所 得の大幅な低下(あるいは増加)を経験する公算が大きい. 得の両方に苦闘している b.  パネル a は世界中の 2000 – 11 年における 1 人当たりの  消費の伸びの安定性は時とともに変化している(パネル 消費と所得の伸びにかかわる変動性を示したものである a. .45 度線の右側に位置している諸国について,1 人当 b) 軸の原点に近い国ほど,所得と消費の伸びが安定してい たり消費の伸びをみると,2000 年代の方が 1990 年代よ る.さらに,45 度線の右側に位置している諸国では,1 りも安定していた.消費の変動性は全体として高水準のま 人当たり消費増加の方が同所得増加よりも安定している. まではあるが,すべての地域で過去 10 年間でより強靭に これは消費が家計の福祉にとって最も有意義なことであ なった途上国が数カ国ある. a. 所得と消費の伸びの変動性は b. 消費の伸びの変動性は時とともに 途上国の方が大きい 安定化してきている 32.0  45 32.0  45 1人当たりHH消費の増加の 1人当たりHH消費の増加の   SD(2000 – 年) SD(2000年代) 16.0  16.0  8.0  8.0  4.0  4.0  11 2.0  2.0  1.0  1.0  0.5  0.5  0.5  1.0 2.0  4.0 8.0  16.0 32.0  0.5  1.0 2.0  4.0 8.0  16.0 32.0  1 人当たり GDP 成長の SD(2000–11 年) 1 人当たり HH 消費の SD(1990 年代) OECD 東アジア・太平洋 ヨーロッパ・中央アジア ラテンアメリカ・カリブ 中東・北アフリカ 南アジア サハラ以南アフリカ 出所:World Bank World Development Indicators (database) からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成. 注:データは対数目盛で表示.図中の経済協力開発機構(OECD)諸国は少なくとも 40 年間は OECD のメンバーであった高所得国.他 のすべての諸国は地理的地域にグループ分け.SD= 標準偏差;HH= 家計;GDP= 国内総生産. a.正確な家計消費や所得データは各国横断的に広く入手可能ではないため,1 人当たり家計最終消費支出や 1 人当たり GDP を不完全な 代理変数として利用.変動性は該当期間にわたる各増加率の標準偏差で測定. b.この発見は景気循環にかかわる文献と整合的である.同文献では産出の変動性は途上国の方が先進国よりも著しく大きい,と指摘さ れている.Agénor, McDermott, and Prasad 2000 を参照. 能性をより良く理解して,不確実性を削減するの 定する際に役立つ.新しい場所への転居を検討し に役立つだろう.リスクに関する知識は単なる情 ている世帯を考えてみよう.そこは,両親により 報の入手を超える.知識にはその情報を使って潜 良い職に就く機会を提供するかもしれないが,マ 在的なリスクを評価した上で,どう対処するかを ラリアに罹りやすい.両親は新しい分野で就職す 決定することも含まれる.さらに,リスクに関す る確率を高めるために,訓練に関して知りたいと る深い知識は,人々がマイナスのショックに備え 思っている.仮にその機会を活用することにした るのに有益なだけでなく,プラスのショックの管 とすると,マラリアのリスクに関しても学ぶこと 理にも有意義である.例えば,より良い知識があ ができる.その上で,身を守るためにどのような れば,スキルと教育――生活水準の向上にとって 措置をとるか決めることができるだろう.このよ しばしば極めて重要である――に対する投資を決 うにして,リスクに立ち向かえば,潜在的な結末 72 世界開発報告 2014 ダイヤグラム 1.2 リスク管理の相互連結した構成要因 保険 人々と時を超えて資源を, 自然の良い状態から悪い状態に 移転すること 知識 対処 ショック,内外状況,潜在的な 損失から回復し,便益を最大限に 結末を理解すること,つまり 活用すること 不確実性を削減すること 保護 損失の確率と規模を削減し, 得られる利益を増やす 備え 対処 出所:WDR 2014 チーム. についてより深く理解し,将来の措置に役立てる の改善に関して――特にリスクにかかわるタイム ことによって,知識を改善することができる. リーで信頼できるデータの提供を通じて――,公  たとえ知識が増加しても,多くの決定は不完全 的な政策は重要な役割を担っている.政府は規則 な情報の下で行わなければならない.したがっ の安定性や政策の予測可能性を提供することを通 て,大抵の場合,人々はあり得る結末がわかり, じて,みずからの政策や規則に関連した不確実性 その確率を評価することができても,実際に起こ を削減することができる.保健ケアは潜在的な健 ることに関しては依然として不確実性がある.し 康リスクに関する情報の提供および質の改善に加 かしこれ以外では,一部の分野(原子力エネル えて,そのリスクの管理方法に関する知識の改善 ギーの安全性や気候変動など)は「深い不確実 から,多大な利益を享受している分野の 1 つで 性」に影響されている.ほとんどわかっていない ある.より一般的には,新しい技術は潜在的な か,あるいは専門家でさえ,基本的なトレンドや ショックに関する知識の改善と,それへの対応 あり得る結末に関して――もちろん,その確率に 策策定にも有益である(ボックス 1.5).しかし, ついても――合意ができていないかのいずれかで 情報の増加はより良いリスク管理のための十分条 ある.不確実性が存在している場合には,広範囲 件ではない.特に情報を解釈したり,それに基づ にわたる多種多様なシナリオの下で,リスクを成 いて行動したりするのが困難な場合には,そうい 功裡に管理することができる戦略を策定する必要 える(第 2 章). がある(第 2 章参照).  知識の入手(およびそれに伴う不確実性の削 保護 減)は,人々が自分でアクセス可能な情報だけで  保護には,マイナスの結末にいたる確率や規模 なく,その他の社会経済システムによって提供さ を小さくしたり,あるいはプラスの結末の確率と れる情報の質とも関係がある.確かに,不確実性 規模を大きくしたりするすべての措置が含まれ は人々のリスク管理にとって著しい障害になり得 る.したがって,保護にはマイナスのショックが るため,リスクに関する情報へのアクセスや表示 発生するのを防止したり,あるいはその影響を緩 CHAPTER1 リスク管理は強力な開発手段に なり得る 73 ボックス 1.5 新しい情報通信技術をリスク管理に利用する  データの把握や評価,伝達をより迅速かつより広範囲に に,ガーナの農民は自分の携帯電話を通じて具体的な 行う際に役立つ新しい技術が,過去 5 年間でより広く利 市場情報を受け取ることができる.情報を受け取って 用可能になってきている.携帯電話や航空・衛星画像,社 いる農民は所得が 10 – 30%増加した. 会的ネットワーク,集合的・分散的な作業向けのオンライ ・ より素早くリスクに反応する.2008 年にルワンダで ン・プラットフォームなどはリスク管理を改善することが 地震が発生した際,回復を支援するために,国内の被 できる.それは,次のようなことが可能になったからであ 災しなかった地域の市民は携帯電話を使って,被災地 る: の人々に「携帯マネー」を送金した. ・ リスク管理の有効性を評価した上で同戦略を調整す ・ リスクに関して深い知識が得られる.2010 年にハイ る.2009 年にメキシコで H1N1 インフルエンザが発 チで発生した地震を受けて,援助を必要としている 生した際,住民が屋内に留まるようにという政府の警 人々を正確に特定するのを後押しするのに,ウシャヒ 告に従ったか否かを評価するために,研究者は携帯電 ディというクラウドソーシング・プラットフォームの 話基地局からのデータを使って人口移動を追跡した. おかげで,人々はテキスト・メッセージ経由でボラン ティアに報告することができ,ボランティアは被災地  新しい技術は新種の情報を利用可能にし,適時性を改善 . を追跡し地図を作製することができた(地図参照) し,情報に関してより柔軟な処理方法を提供し,コストを ・ 変転するリスクをより良く評価できる.2012 年にア 著しく削減することができる.しかし,新技術は新たな挑 メリカでハリケーン・サンディから最大の被害を受け 戦ももたらす.それには次のことも含まれる:プライバ た地域を特定するために,3,000 人を超えるオンライ シーにかかわる懸念,インターネット上の情報の妥当性に ン・ボランティアが,被災地の家屋について最新の かかわる判断が困難,情報が暴力や抑圧の目的に使用され 航空画像を使った応急損害解析を実施することによっ るリスクなど.政策当局にとっての挑戦課題は新技術の利 て,公式救援部隊への情報提供を手助けした. 点を軸にして,プライバシーを尊重し,センシティブな情 ・ 機会を追求するに当たってリスク管理を改善する.農 報を保護することにある. 産物の価格や需要の変動に対する反応を改善するため ハイチの災害地図作製 a 出所:WDR 2014 のために書かれた Khokhar 2013. a.Ushahidi のデータ(http://community.ushahidi.com/index.php/developmnets/)に基づき WDR 2014 チーム作成.地図上の赤丸は緊急 対応部隊からの支援を必要としている現場を示す. 和したりする(特に防止できなかったマイナスの 入,コミュニティや国家による公的は提供によっ ショックについて)措置,ないしはその両方の措 て実施することができる.マラリアの例を続ける 置が含まれる.同様に,それにはプラスのショッ と,家族員は蚊に刺されるのを避けるために,蚊 クが発生する傾向とそれに伴う利益を増加させる 帳や長袖の衣類を身に付けることができる(自己 措置が含まれる.保護は,自給,市場からの購 保護).お金を払って家を虫よけ塗料で処置する 74 世界開発報告 2014 など市場から購入することも考えられる(市場 してリスクに備える(市場を通じて公式に,あ 型保護).地元コミュニティの人々と共同して淀 るいは非公式に),国家が提供する.マラリアの んだ水源を乾燥させる(コミュニティを 例を続けると,家族は病気の場合に家計 .最後に当該家族 基盤とした保護) 備え が受ける影響を緩和するために貯蓄 は地方政府による殺虫剤の散布な が良ければ,速やか しておく(自己保険),あるいは どの活動から利益を享受できる な回復に必要なのは最低限 潜在的な治療費を負担するため (公的保護). の対処だけであり,より多く に医療保険を購入する(市場  リスクの種類に応じて,相 の資源がリスク管理と将来の 性保険).公的保険(コミュニ 対的に有効な保護の形態が異な ショックに対する脆弱性削 ティや国家による)には社会的 るだろう.インパクトが比較的 減向けの投資に利用可能 ネットワークの構築が含まれる 小さい頻繁なリスクに関しては, になるだろう. 可能性があろう.病気の家族員に ほとんどの場合,自己保護が有効であ 対して支援を提供し,仮に世帯のなか る.ただし,潜在的に大きな損失をもたらす の労働者がマラリアにかかれば,補助金付き 懸念のある一部のリスクに対しても,自己保護 の国立病院で医療処置を施し,失業手当を支給 (安全に運転することや,性的感染症を防止する する. ためにコンドームを使用すること)は適切であ  貯蓄という形の自己保険は,インパクトが比 ろう.特に健康と教育を中心とした人的資本へ 較的小さい頻繁なショックに対しては有効な保 の投資は,人々の自己保護の改善を後押しする 険形態であるが,貯蓄は潜在的な損失の規模が 重要な手段である.しかし,特にシステミック・ 拡大するにしたがって,すぐさま枯渇してしま リスクなど,頻度は低い傾向にあるがインパク うだろう.そこで,大きなショックに対しては, トが非常に大きい一部のリスクに対しては,個 市場性保険が有用な保険手段を提供する.しか 人では十分な自己保護はできない可能性がある. し,市場性保険は次のようないくつかの理由か そのようなリスクはしばしばコミュニティや国 ら,全種類のリスクに対して完全に適用できる 家からの援助を必要とする.自然災害や経済危 わけではない.保険業者が懸念しているのは, 機などのシステミック・リスクにかかわる公的 付保で人々が無謀になったり(モラル・ハザー 保護には,実物投資(溝や護岸,道路や衛生設 ドといわれる問題),あるいはリスクを最も抱え 備の改善など)だけでなく,緊急対応を改善す 込みやすい人々によって購入されたりすること るための早期警報指標や不測事態対応計画に対 (逆選択)であろう.加えて,一部の(稀な)災 する投資が含まれる. 害からの回復にかかる費用はあまりに大規模で, その時の保険金支払いは保険料として合理的に 保険 徴収可能な金額を大幅に上回ってしまう可能性  マイナスの結末にいたるリスクにおいて保護 が大きいかもしれない.このような要因を背景 では完全には排除できない部分については,保 に,市場性保険が非現時的な高さになったり, 険が災害からの打撃を和らげるのに役立つ.保 特定のリスクに関する保険が市場から完全に排 険には良い時期と悪い時期の間で資源を移転す 除されたりすることがある. るあらゆる商品(貯蓄や正式な保険契約,ロー  途上国では,近年,新しい技術や販売網が公 ン,信用枠,ヘッジ手段など)に加えて,悪い 式な市場性保険の著しい増加の要因になってい 時期に特に困窮している人々向けに資源を移転 るが,アクセスは全体的には依然としてかなり する手段(社会的セーフティネットやコミュニ 限 定 的 な も の に と ど ま っ て い る. そ の た め 自 ティ支援,その他のリスクプールの仕組みなど) 己保険に大きな負担がかかっているが,それは が含まれる.その提供方法には次のように多種 ショックの際には売却可能な耐久財(宝石類な 多様な形態があり得る:自給する,他人と協力 ど)を保有するなど,比較的コスト高で非効率な CHAPTER1 リスク管理は強力な開発手段に なり得る 75 手段で追求されていることが多い.途上国では多 く,技術のおかげで公式保険についてもますます くの家計が非公式なリスク分担制度にも参加して 適切なものとなっている.例えば,自動車に新し いるが,適用範囲は往々にして不完全である 41. い装置が導入されると,保険業者は人々の運転の 多くの途上国では市場性保険が欠如していること 質にもとづいて保険料を調整することが可能にな を考えると,国家支援が金融リスク管理ツールへ る 43. のアクセスやこのツールの利用をさらに改善する のに有益であろう.また場合によっては,例え 備え ば,信用補助金や保証を供与することによって,  知識や保険,保護は一つにまとまって備え(あ 直接的に介入することも後押しになるだろう(第 るいは事前的リスク管理)を構成する.備えを増 .国家は民間の意志を締め出すことが 6 章参照) やす重要な進展があった分野もなかにはあり,一 ないように注意しながら,特に最も脆弱な層向け 部のリスク発生の防止に役立ち,一部の深刻な損 のセーフティネットを提供するために公的資源を 失を回避することができた.ブラジルやメキシコ 使うことなどによって,何らかの形の保険を直接 で条件付き現金給付を支えるために創設された制 提供すればよいだろう(第 3 章).コミュニティ 度や手段――および他の発展途上数カ国における や国家は市場性保険では対象にならない極端な 社会改革――は,ショックに対する備えと強靭性 ショック(大規模な自然災害や金融危機など)に を改善している 44.途上国では感染症予防接種 対しても,支援を提供することができる. を受ける子供の人数が増加しており,また老齢保  リスクを管理するための戦略として,保険と保 険や健康保険,農業保険を購入する家計も増加し 護は相乗作用を生み出したり,あるいはトレード ている.さらに,国際的ドナーは引き続き主に災 オフを必要としたりする.相当量の経済学文献 害対応に支出しているものの,近年,災害準備 が,保険は自然の状態が悪化するのを防止しよう 向け支出も増加してきている(第 8 章参照)45. という人々の誘因を削減する(換言すれば,保険 リスクに対する人々の準備度と各国の国民所得と はモラル・ハザードにつながる)という見方を前 の間には相関関係があるようにみえる.しかし, 提としている.モラル・ハザードが発生する限 同一地域内でみられる興味深い差異は,資源への り,保険と保護は相互に代替策として機能する. アクセスを超過するような対リスク準備の決定に しかし別の見方では,保護と保険は補完策になる おける,政策の重要な役割を強調している(ボッ 場合がある.そうなるのは,保護を獲得するため クス 1.7). に人々がとる措置が,保険業者にとって観察可能 になっている場合である.その場合,保険業者は 対処 多種多様な個人に賦課している保険料を調整す  対処(事後的なリスク管理)は,一たびリスク る(例えば,タバコを吸わない人には吸う人より (逆に機会)が現実化した時にとられるあらゆる も低い保険料にする)ことができる.そのような 措置を含む.このような措置には,新しい状況を 場合,保護のおかげで悪い結末に対してかける保 評価し,必要で利用可能な対応策を実施すること 険料が安くなる.これはそれが現実化する可能性 によって,該当する知識を更新することも含まれ が削減されるからであり,さらに,保険業者はリ る.マラリアの例を続けると,家族のだれかが病 スクがあまりに巨大すぎて,かつては適用範囲外 気にかかった場合には,治療費支払いのために健 だった一部の大きなショックに保険をかける意欲 康保険を使用したり,貯蓄を引き出したりするこ が出てくる.つまり保護と保険は,共同してリス とによって対処する.同家族はもし利用可能なら クを管理するための補完的手段を提供する(ボッ 公立病院で治療を受けたり,あるいは必要であれ クス 1.6)42.行動の観察可能性というこの側面 ば,社会的ネットワーク内の友人からお金を借り は,コミュニティにおける非公式なリスク分担に たりすることもできるだろう. ついてすでに非常に実際的になっているだけでな 76 世界開発報告 2014 ボックス 1.6 保護と保険はリスク管理のために補完的な手段を提供することができる  リスクの確率と厳しさの関係は右下がりの曲線で特徴  自己保険(貯蓄)は主として小さな損失への対処に有益 付けられる:小さな損失は頻繁に発生するが,大きな損失 である.市場性保険は頻繁ではないが大損失をもたらすリ は稀である.そのような単調に減少する確率密度関数が下 スクに適している.一方,市場性保険が提供されないほど 図に示されている. 大きなリスクに対しては,コミュニティや国家の支援が必  保護は非常に厳しい損失の可能性を減らし,したがっ 要であろう.保護の増大は市場性保険の入手可能性を高め て,異常な損失との相対比で日常的な損失の確率を高める ることを通じて保険を補完できる.それは,悪い結末に保 .潜在的に大損失をもた (パネル a で実線から点線へ変化) 険をかけるコストを削減すると同時に,これまで付保さ らす一部のリスクについては自己保護が重要であるが,公 れていなかった一部のリスク向けに保険の供給を増加さ 的保護(コミュニティか国家のいずれかによる)は厳しい ,したがっ せ(パネル b で点線と市場性保険拡大へ変化) 結末をもたらしかねないシステミック・リスクの確率を削 て,それが今度は自己保険の負担とコミュニティや国家の 減するためには特に重要である(パネル b における点線 支援の必要性を削減するからだ. . への変化) a. 保護は平常時の可能性を高める b. 保護は保険の入手可能性を高めることができる 民間保護 公的保護 官民保護 損失の確率 損失の確率 自己 市場性 公的 保険 保険 保険 日常的 異常 日常的 異常 損失の厳しさ 損失の厳しさ 出所:Ehrlich and Becker1972; Gilland Ilahi 2000 に基づき WDR 2014 チーム作成. 備えと対処の結び付き の,災害救援の展開方法を事前に決めておけば,  リスクに対して十分な備えがなされている場 大規模な洪水後の資源配分を巡る対立を回避し, 合には,対処は最小にとどまり,速やかな回復 対処をより効率的にするのに有益である.しか につながる.ところが,備えが限定的だったり, し,備えが不十分だと,事後的リスク管理におい ショックが予想外に大きかったりする場合には, て,新たな予想外の不確実な状況に対処しなけれ 対処はより徹底したものになる.例えば,屋根が ばならない.そのような環境下では,対処は場当 補強され,窓が保護された家は,ハリケーンが来 たり的になり,往々にして非常に高価な措置が要 ても,相対的に軽い被害で済む公算が大きいだ 求される.例えば,所得ショックに対する備えが –  ろう.同様に,多数の途上国は 2008  09 年のグ ない家計は,食料消費の削減や危険な仕事への従 ローバルな金融危機の際,マクロ経済管理が良好 事などといった措置に訴えなければならないだろ だったおかげで比較的迅速に回復することができ う 46. た.場合によっては,ショックを最小化するのに  最小限の対処と高価な対処との対照は,リスク 有益な備えでも,必要なコストが理由で実施され 管理における悪循環ないし好循環の可能性を強調 ないことがある.しかし,ショックが現実に発生 している.有効な備えのおかげでショックに伴う した場合に,対処が効率的になるような備えもな 損害が限定化されれば,対処の必要性は最小限に かにはある.例えば,都市が高い洪水防止壁を建 とどまり,災害対応に使われる資源は少なくて済 設するのは必ずしも費用効果的とは限らないもの み――リスク管理への投資に利用可能な資源が多 CHAPTER1 リスク管理は強力な開発手段に なり得る 77 ボックス 1.7 リスクの備えは地域・大陸の間でも,そのなかでも差がある 国別リスク準備指数 備えが最もできていない 20%層 備えが最もできている 20%層 データ不明  国レベルでのリスクの備えには,国家を含めてあらゆる 所得や資源へのアクセスに加えて,政策が重要であること 社会経済グループや機関の行為と出資が含まれる.上図に を明示している. は国別のリスク準備指数が描かれている.本報告書向けに  この指数は次の 4 つの重要なカテゴリーにおける措置 開発された同指数は,リスクの備えに影響し,したがって で構成されている:人的資本,実物・金融資産,社会的支 結末を左右する資産やサービスにかかわる措置で構成さ 援,国家支援 a.家計の知識,スキル,および健康という れている. 形での人的資本は,リスクの備えに柔軟性を提供するのに  この指数が示すところによると,リスクの備えと国民所 一役買っている.実物・金融資産――蓄積された預金ない 得との間には相関関係があるが,それはある程度までのこ し信用へのアクセスという形のいずれでも――は,ショッ とにすぎない.平均的に言えば,高所得国(特に北アメリ クに直面した際に緩和手段を提供してくれる.社会的支援 カと西ヨーロッパ)の人々は最も備えができている.対照 も家計が固有のショックに対応することに一役買ってい 的に,低所得国(特にアフリカ)の人々は備えが最もでき る.このような支援には年金制度や健康保険,失業手当な ていない.しかし,同一地域内でも,1人当たり所得が似 どの公式プログラムや,ケアと支援の供与に積極的な家族 通っている諸国間でさえ,著しい差異がある.例えば,チ や友人の存在などの非公式な制度が含まれるだろう.最後 リはリスクの備えが相当良くできているが,その東側の隣 に,国家支援はリスク管理に役立つ公共財(公衆衛生や環 国アルゼンチンでは1人当たり所得がほぼ同水準である 境保護など)の提供とシステミックなショックに対抗する にもかかわらず,平均的なリスク準備しかできていない. ために介入する国家の財政能力の両方を通じて,リスクの 同様に,エチオピアのリスクに対する備えは,地域内で1 備えに関して決定的な支えになるだろう.指数を構成する 人当たり所得水準が類似ないし相対的に高い他の諸国(中 個別指標は,このようなカテゴリーのなかで広範囲にわた 央アフリカ共和国,スーダン,およびウガンダ)よりも優 る指標のなかから,それらと相関度が強く,代表的なもの れている.このような差異はリスク準備の決定において, を選定した b. 出所:WDR 2014 のために書かれた Foa 2013.地図番号:IBRD 40097. a.各指標は 0 –1 に収まるように縮尺.したがって, 8 つの指標の平均であるこの指数は構成する指標の順位の単純な平均というよりも, 各指標の基本的な属性を維持している.このアプローチは Worldwide Governance Indicators (Kaufmann, Kraay, and Mastruzzi 2010) の構築 に使われた手法を一部見習ったものである.必要に応じて,各指標は上昇が改善を意味するように変換が施されている. .実物・金融資産―純資産が 1,000 ドル未満の b.リスク準備指数を構成する指標:人的資本―学校教育平均年数;予防接種率(麻疹) 家計の割合;金融アクセス指数.社会的支援―年金制度拠出者(対労働力比)「総じて他人は信頼できる」と述べた回答者の割合.国 ; ;公債総額(対歳入比) 家支援―改善された衛生設備へのアクセス(対総人口比) . 78 世界開発報告 2014 く残るので,将来的なショックに対する脆弱性が 迅速な対応が可能となる(第 6 章参照).場合に 削減される.証拠が示唆するところによれば,リ よっては,リスク防止に対する投資が広範囲にわ スクへの備えは災害に伴う損失を削減し,危機の たっていても,もし災害対応が調整されておらず 状況で経済的な変動性を減少させることによっ 柔軟性に欠けていれば,それは最適以下にとどま て,経済成長を加速化する可能性がある 47.例 るだろう(ボックス 1.8). えば,一連の先進国・途上国を横並びにした 40 年間にわたる分析は,「危機の変動性」は 1 人 当たり GDP 成長率を年 2.2%ポイントも押し下 リスク管理は費用効果的――しかし常に実施 げ得ることを示している 48.逆に,非常にコス 可能とは限らない ト高な対処を実施すれば,将来のリスク管理の  リスク管理は命を救い,損害を回避し,機会を ために利用可能な資源がほとんど残らないため, 利用できるようにするだけでなく,リスクに対す ショックに対する脆弱性を悪化させ,新しいチャ る備えもしばしば高い見返りをもたらす.例え ンスをつかむ家計の能力を弱体化させる.それは ば,栄養失調とそれに関連した健康リスクを削減 貧困層に特に有害な効果をもたらし,ほとんど保 するために企図されたミネラル・サプリメント摂 護もないまま多数のショックに直面して,貧困の 取という食事療法は,プログラムのコストの 15 罠に陥ってしまうだろう 49.同様に,国家レベ 倍以上の利益をもたらす 50.同様に,途上国で ルでは,災害を受けた公的インフラ(特に健康や –  は早期警報システムの改善はコストの 4  36 倍 衛生,教育にかかわるもの),雇用および社会的 の利益をもたらし得ると推定されている 51.よ 一体感の崩壊は,すでに危うい状況にある諸国を り一般的には,費用便益分析の示唆によると,リ いっそう弱体化しかねない. スクに対する備えはコストの削減に有益であるこ  備えや対処は深い不確実性からも影響を受け とが多く,多数の地域における便益対費用の推定 る.知識が不確実性によって著しく限定化されて 中位数が高いことで例証されているように,圧倒 いると,ショックがどのように展開するか,どの 的に有益であることさえある(図 1.3).そのよ ような結末になるか,したがって,それへの備え うな分析では典型的には,介入策の期待コスト をどのようにするのがベストかなどを予測するの と,ショックが発生した場合における人命の損失 が困難であり,今度はそれが対処に影響する.と や損害の回避という面での期待利益が比較され いうのは,ショックが発生した場合,どのような る.推定値には大きな差異があるが,これは各地 措置が必要かを予期するのがむずかしいからだ. 域の状況や背景を成している研究における前提の 例えば,気候変動が世界の各地域にどのように影 相違を反映したものである 52.このような但し 響するかに関する不確実性を受けて,洪水や旱魃 書きにもかかわらず,このような分析は必要な規 に有効な備えをすることが非常に困難になってお 模に関して有益であると感じさせるものであり, り,それは場当たり的で混沌とした対処につな 事前の備えは多くの場合に費用効果的であるとい がる懸念があろう.このような分野で危機を回避 う主張を支持している. し,リスクを有効に管理するためには,備えは不  しかし,準備に向けた支出は高価である一方, 測事態対応計画を含んでいる必要がある.より一 利益は必ずしもただちに明確になるわけではな 般的に言えば,予期せぬ事態に対する柔軟な対応 く,途上国の人々はリスク管理のための資源も制 を円滑化できるような,プロセスや専門知識,制 約されている.それが次のような問題の原因かも . 度を盛り込んでいるべきである(第 2 章参照) しれない.すなわち,人命を救い被害を回避でき 例えば,規制当局は金融システムのなかで危険な る潜在性があるにもかかわらず,備えに対する支 状況がいつどこに発生するかを常に予測できるわ 出が少なく,災害対応のための支出は備えに対す けではないが,対応手続きや調整メカニズムを整 る支出よりもずっと多額のことが多い.準備向け 備しておくことによって,リスク発生に対して の支出は過小評価されている可能性があるもの CHAPTER1 リスク管理は強力な開発手段に なり得る 79 ボックス 1.8 「人工の」惨事:日本における福島の原子力事故  2011 年は規模と複雑さの両面で前例のない 2 つの大惨 特に問題であることが判明した.地方自治体は自然災害 事に見舞われた.2011 年 3 月 11 日,マグニチュード 9.0 に伴って原子力事故が発生することについて備えができ という史上最大級の地震に見舞われ,東日本の沿岸は巨 ておらず,発電所の技術者は輸送・通信手段の不備によっ 大な津波に襲われた.地震の揺れに津波がもたらした洪 て当初は孤立化した.このような状況は,想定外の事態 水が重なって,福島第 1 原子力発電所の電源が失われた. に対して柔軟に対応する能力を構築しておく必要性を強 原子炉の冷却化に作業員が奮闘するなか,3 月 15 日には 調している.救援者や意思決定者は,それまで想定され 大規模な放射能漏れが発生した. ていなかったような形で展開する可能性のある事態に,  放射能漏れにつながった事件に関して公平な評価を行 迅速かつ柔軟に反応する状態になければならない――確 うために,日本政府は福島原子力発電所事故調査委員会 立した制度的な枠組みのなかではあるが….加えて,中 を設置した.地震と津波が放射能漏れの直接的な原因で 央政府,規制機関,地方自治体,電力会社などの間にお あったものの,同委員会は原子力事故は実は「人工的な」 ける調整問題は,事前に調整の仕組みを確立しておくこ ものであったと結論付けた.規制当局と発電業者はとも との重要性を明らかにしている.このような仕組みには に,津波が発電所を襲った場合には停電が発生する潜在 以下が含まれるべきである:危機発生時に利用できる権 的なリスクと,発電所の構造的な補強の必要性を認識し 限の連鎖と調整の手段を確立しておくこと,および災害 ていたのに,そうしていなかったのである. 調整チームを整備しておくこと.  災害対応の管理に際して,柔軟性の欠如と調整不足が 出所:Fukushima Nuclear Accident Independent Investigation Commission 2012 に基づき WDR 2014 チーム作成. 図 1.3 リスク管理の便益はしばしばその費用を凌駕する 31  29  14  12  損益分岐点 10  便益費用比率 8  6  75%層 4  中位数 2  25%層 0  早期警報 水・衛生 予防接種 栄養療法 以下による損害を削減する措置: システム 設備の改善 地震 洪水 熱帯性 暴風雨 出所出所:WDR 2014 のために書かれた Wethli 2013. 注:各カテゴリーにおける広範な研究について(少なくとも 4 つの推定値があるカテゴリー) ,便益費用比率の 25%層・中位数・ 75%層を示す.点線より上では期待便益が期待費用を上回る.早期警報システムと栄養療法の 75%層の数値はそれぞれ 31 と :Fukushima Nuclear Accident Independent Investigation Commission 2012 に基づき WDR 2014 チーム作成. 29. の,国際援助のデータは,過去 30 年間,国際的 理することが阻害されている.第 2 章ではリス ドナーによる災害管理向けの支出総額の 96%強 ク管理を複雑にしているこのような障害およびそ は緊急対応や復興救援に向かっており,災害の予 の他の障害に加えて,それを軽減するのに資する 防や備え向けの支出は平均するとわずか 3.6%の 国家の潜在的な役割と限界に関して詳しく検討す シェアにすぎないことを示している(第 8 章参 る. 照)53.もっと一般的に言えば,多くの内外の障 害のゆえに,人々は直面するリスクを成功裡に管 80 世界開発報告 2014 注 メリカでは,貧困から脱却する(38%),お金を 儲けて故郷の家族を支援する(29%),個人的な 成長・仕事面での成長を達成する(17%)など. 1. “Egypt Grants Bonuses after Deadly Food Riots,”Associated Press, April 4, 2008. 25. イ ン ド の 証 拠 に 関 し て は Rosenzweig and Binswanger 1993, タ ン ザ ニ ア に 関 し て は 2. “Death Toll from Indonesian Disasters Dercon 1996 を参照. Nears 430,” Jakarta Globe, October 29, 2010. 26. Dercon and Christiaensen 2011. 3. World Bank and IMF 2010. 27. WDR2014 の た め に 書 か れ た Brown, Mobarak, and Zelenska 2013. 4. Dercon, Hoddinott, and Woldehanna 2005. 28. Donovan 2012. 5. Buvinić and Morrison 2000. 29. Karlan 他 2012. 6. World Bank 2012c. 30. Cole, Giné, and Vickery 2013; Mobarak and Rosenzweig 2012. 7. ショックに関する自己申告データは家計による 主 観 的 な 評 価 を 伴 う. 加 え て, 家 計 調 査 で は 31. World Bank 2012c. ショックの規模に関する情報が提供されていな 32. Hoddinott, Rosegrant, and Torero 2012. い.報告されているショックが比較的小さいこ 33. Bruno and Easterly 1998. とも時折ある. 34. リスクに備える費用は主に事前に負担されなけ 8. このような感じ方は,定義が同じで頻繁に発生 ればならないが,利益は時ともに累積してくる しているリスクに関する限り,リスクの実際の 傾向があり,より不確実である.したがって, 発生割合と類似しているようである(ボックス どのような潜在的な介入策の評価にとってもリ 1.1 参照).しかし,特に展開が遅いものを中心 スクが現実化する確率が重要である.正式な費 に,リスクの感じ方が現実とは乖離しているリ 用便益分析では,この確率は通常は暗黙裡に(回 スクもなかにはある. 避された費用の計算を平均的な歴史データに 9. EM-DAT OFDA/CRED International 基づかせることによって) ,あるいは明示的に Disaster Database. (ショックが発生した時のリスク管理介入策の潜 10. WHO 2013. 在的な利益を,そのショックが発生する確率に よって加重して)考慮されている.WDR 2014 11. WHO 2013. のために書かれた Wethli 2013. 12. E M - D A T O F D A / C R E D I n t e r n a t i o n a l 35. Maloney 2007. Disaster Database. 36. Maloney 2007. 13. Paul 2009. 37. リ ス ク 連 鎖 の 概 念 は Alwang, Siegel, and 14. Laeven and Valencia 2012. Jørgensen 2001 で検討・例証されている.次も 15. World Bank and United Nations 2010. 参 照 ――Barrett 2002; Heltberg, Siegel, and 16. 例えば,アメリカにおける自然災害による総損 Jørgensen 2009. 失の付保損失に対する比率は典型的には 2-4 倍 38. この定義はさまざまな分野における脆弱性とい であるが,中国は多くの場合,その値は 50 倍に う言葉の用法と関係はあるものの,はっきりと 近い.Kunreuther and Michel-Kerjan 2012 参 異なっている.例えば,典型的には所得ショッ 照. クに焦点を当てているミクロ経済学では,脆弱 17. Russell 2004. 性をショックに伴ってある人が貧困に陥る確率 18. Mechler 2004. で定義している.脆弱性が多種多様な学問分野 でどのように定義されているかの本格的な議論 19. Baulch 2011 には有用なサーベイが所載されて は,Alwang, Siegel, and Jørgensen 2001 を参 いる. 照. 20. Little 他 2004. 39. 例 え ば 次 を 参 照 ――Christopher Barrett 21. Subbiah, Bildan, and Narasimhan 2008. and Mark Constas, “Resilience to avoid 22. Didier, Hevia, and Schumukler 2012; IMF and escape chronic poverty: Theoretical 2010. foundations and Measurement principles” 23. 2010-2012 World Values Survey; サーベイし (http://www.dyson.cornell.edu/faculty_ た発展途上 24 カ国の中位数. sites/cbb2/presentations.htm). 24. Gallup 2006-08, 2010-12.サーベイした人々 40. こ の 分 野 で 先 駆 的 な 論 文 は Ehrlich and の 27%が他国に永住したいと述べている(サー Becker 1972 で あ る. 次 も 参 照 ――extension ベイした発展途上 72 カ国の中位数) .旧ソ連で in Muermann and Kunreuther 2008; は移住を望む理由としては,生活水準を改善す applications in Gill and Ilahi 2000; Holzman る(52%) ,子供の将来のため(13%) ,良い職 and Jørgensen 2001; Packard 2002. に就く(10%)などであった.同じくラテンア 41. Townsend 1994. CHAPTER1 リスク管理は強力な開発手段に なり得る 81 42. 保険と保護の間の潜在的な補完性に関する詳し 51. Hallegate 2012a. い検討については,Ehrlich and Becker 1972 52. 費用便益分析に使われる一連の前提は研究ごと を参照. に異なる.多くの研究が失われた人命の価値や 43. Economist 2013. 割引率に関する多種多様な前提に基づいて,広 44. World Bank 2012a. 範囲にわたる推定値を提示している.ほとんど の研究は政府のリスク回避度,あるいは政府の 45. World Bank 2012b. 信用制約の度合いに関して,具体的な前提を置 46. Heltberg, Hossain, and Reva 2012. いていない.便益対費用比率は典型的には,対 47. Hallegate 2012b; Hnatkovska and Loayza 象期間が長いほどショック発生の可能性が高 2005. まることを反映して上昇する.詳しくは WDR 48. 危機の変動性(景気循環に典型的な小幅の頻繁 2014 のために描かれた Wethli 2013 を参照. な循環ではなく)は,共通の下限値に届かない 53. AidData か ら の デ ー タ に 基 づ き WDR 2014 下方乖離で定義される.変動性と成長の間の同 チームが作成.災害防止と準備には,早期警報 時 性 を 制 御 す る た め に は, 注 意 深 い 操 作 変 数 システム,およびなかでも極めて重要なインフ 分 析 が 必 要 で あ る.Hnatkovska and Loayza ラ向けのドナーによる資金供与が含まれる.し 2005 を参照. かし,災害の備えを改善する――例えば道路の 49. 自 然 災 害 に よ る 資 産 の 損 失 が ど の よ う に 貧 困 立地を変更する――ためのその他の支出は,往々 の 罠 を 生 み 出 す か に 関 す る 証 拠 に つ い て は, にしてより一般的な開発支出として分類されて Carter 他 2007 を参照. いる.このような数字はその分だけ,ドナーに よる準備向けの支出を過小評価している. 50. Hoddinott, Rosegrant, and Torero 2012. 82 世界開発報告 2014 参考文献 FAO (Food and Agricultural Organization). FAO Food Price Index (database), FAO, Rome, http://www.fao.org/worldfood situation/FoodPricesIndex/en/. Agénor, Pierre-Richard, C. John McDermott, and Eswar S. Prasad. Ferreira, Francisco H. 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Wethli, Kyla. 2013. “Benefit-Cost Analysis for Risk Management: Summary of Selected Examples.” Background paper for the World Development Report 2014. 84 スポットライト1 予想外の事態に備える:フィリピンとコロンビアに おける災害リスク管理に対する統合的アプローチ  自然災害から生じる被害の頻度と激しさが増加傾向にある.災害に伴う損失額は 1980 – 2011 年に 3.5 兆ドルに達しており,その 3 分の 1 が低・中所得国で発生している.自然災害が提起している問題の複雑 さは,単一部門開発計画では取り組むことができない.そこで,各国は多部門アプローチで対応し,自然 災害のリスク管理を開発計画のすべての側面と経済のすべての分野に主流化する方向に速やかに動きつつ ある.自然災害のリスクを完全に排除することはできないと認識しながらも,バランスのとれたアプロー チには構造的な措置に加えて,コミュニティを基盤とした予防や非常事態への備え,保険,教育,訓練, 土地利用規制など他の非構造的な措置が含まれている.災害リスク管理(DRM)にかかわる最も有効な組 織的なアプローチの 2 つが,コロンビアとフィリピンで開発されている. フィリピンにおける包容的かつ革新的で調整され レベルでの資源を補完するために適切なリスク たアプローチ 移転手段を確立しようとしている.それには偶  環太平洋火山帯と太平洋台風ベルト地帯の西側 発信用枠(災害危機繰延引出オプション:CAT の縁に沿って位置するフィリピンは,地震や津 DDO)1 が含まれている. 波,火山爆発,地滑り,洪水,熱帯性サイクロ  フィリピンにおける DRM アプローチは,包容 ン,旱魃などに弱い.過去 30 年間で 268 件の 性,革新性,および調整を特徴としている.全体 –  災害事象が記録され,2000  10 年に 4,000 万人 的な政策と調整は国家災害リスク削減・管理評議 以上が被災しているフィリピンは,世界銀行の自 会を通じてなされているが,これは中央政府諸機 然災害ホットスポット・リストによれば,複数の 関,地方政府,非政府組織,および民間部門から 災害にさらされている国として世界第 8 位にあ の委員 39 名で構成され,地域・地方議会で補完 る. される.この多角的利害関係者による構成は,災  1941 年に早くもフィリピンは市民緊急管理局 害リスク削減評議会が国家評議会と協調しながら を創設して,緊急事態下で国民を保護する政策 運営される州や都市レベルでも維持される.地方 や計画を策定・執行することにした.それ以降, 政府ユニットが災害の準備や防止,緩和,対応な 災害管理システムは緊急対応に焦点を置いてお どを担当し,1970 年代以降は強靭性を有効に促 り,重要な措置を定義し,短期予測,早期警報・ 進するために,コミュニティと協働することを公 退去,災害後救援を実施してきている.より最 約している. 近では DRM システムが政策枠組みの変更を通  リスクの評価とコミュニケーションにかかわる じて強化されている.それは緊急救援・対応を アプローチにとって,革新性と包容性もその指針 超えて,予防と軽減に焦点を当てるという方向 となっている.伝統的には共同作業をしたこと である.2010 年災害リスク削減・管理法は包 がなかった 5 つの技術的な機関が,2006 年に災 括的で統合的なアプローチを採用した.それは 害に最も脆弱な 27 州のマルチハザード地図の作 すべての部門と,特に地方コミュニティを含む 製について協働し始めた.「準備(READY)」と すべてのレベルのあらゆる利害関係者の関与を いうプロジェクトが,災害にマルチハザード方式 促進するものである.リスク・ファイナンスに でアプローチする初めての試みとなった.これは かかわる国家戦略が策定中であり,国や地方の 省レベルにおける能力開発活動を含み,津波や洪 CHAPTER1 リスク管理は強力な開発手段に なり得る 85 水,地滑りに関するコミュニティ・ベースの早期 内の一部地域では建築基準が適切に執行されてい 警報システムを確立した.2012 年に科学技術省 ないことによる. が打ち出した国家災害評価(NOAH)プロジェ  コロンビアにおけるリスク管理措置の組織化 クトは,リスク管理と防災地図の作製を行うこと と設計にかかわる長い歴史は,国家災害防止対 によって地方政府の災害管理能力を改善すること 応システム(1985 年)や国家災害防止対応計 を目的としている.そしてこのプロジェクトで行 画(1998 年)などといった手段とともに始まっ うことは,保護措置と早期避難に向けた行動の引 た.最近コロンビアは新しい国家政策と国家災害 き金になり得る.2014 年までに NOAH はフィ リスク管理システムを承認した.この法 1523 号 リピンの主要河川流域 18 カ所について,高解像 (2012 年)は次のようなパラダイム・シフトを 度の洪水被害地図を配布し,自動雨量計と水位観 反映したものである.すなわち,災害リスク管理 測所を設置する計画である.特定地域の気象状況 を明示的に開発プロセスの一環として認識し,地 や降水量,洪水の可能性などに関する情報だけで 方政府がリスク削減に投資し,技術援助を強化す なく,厳しい気象や地震,洪水などに関する時宜 るよう大きなインセンティブを与える.また,自 にかなった警報を発令して,より多くの人々に届 然災害は国家にとって暗黙裡の偶発債務であると くようにすることを計画している. 認識して(第 7 章参照),財政リスク管理を確立  毎年,国家災害リスク削減・管理基金(旧称・ すべきである.それには CAT DDO などのよう 災害基金)が,災害の援助や救援,復興サービス な洗練されたリスク移転の仕組みが含まれる. 向けに国家予算のなかに計上されている.類似の  同国では分権化と予防の重視が DRM に関する 基金は地方レベルでも創設されている.2010 年 アプローチの指針となっている.1997 年以降, 以前,このような基金のほとんどは災害後の活動 コロンビアでは土地利用計画を都市レベルで作成 に使われていた.災害リスク削減管理法の施行を することが義務化された.この計画は災害防止の 受けて,資金の 70%は災害準備活動に割り当て 目的で,重大な災害の発生が懸念される場所とリ ることができるようになっている.この変更は政 スク地域を考慮しなければならない.コロンビア 府がリスク削減を重視するアジェンダに舵を切り のリスク防止戦略の 1 つは,リスクにさらされ つつあるということを示唆する. ている人口を安全な地域に再定住させることであ る.リスクが他の手段によって軽減できない場合 コロンビアにおける災害管理の開発プロセスへの や,再定住よりも高コストの手段しかない場合の 統合化 対応策であり,建築基準の執行が手緩く,既存の  コロンビアはリスク・災害管理に関する包括的 建物の改装がコスト高で非効率な場合には,再定 ビジョンの策定という点で,ラテンアメリカの 住政策が選好されることになる. リーダーとなっている.コロンビアの先進的な  有効な災害リスク管理計画を策定し,それを適 DRM システムは,緊急対応のための国家と地方 切に実施する能力という点で非常に先進的な都市 の各機関から成る組織に加えて,次のような措置 もなかにはある.1990 年代以降,ボゴタは災害 に土台を置いている:構造的措置に対する投資, を特定し,リスクを評価するために各種の研究を リスク評価,早期警告・緊急対応,制度的支援, 行ってきている.地震危険度地理的分布に加え 国家・都市レベルでの金融・財政措置など.この て,洪水や地滑り,森林火災などの関連した災害 ような措置の結果として,自然災害 1 件当たり の詳細な地図が作製されている.その結果とし の死亡者数は 1970 年代から 2000 年代の間に, て,不安定な地帯が指定され緩衝地帯が設置され 4,025 人から 2,180 人にほぼ半減している.し ている.市計画局が 2005 年に統合的な再生,復 かし,住宅の損害はこの間にほぼ 5 倍に増加し 興,および持続可能な開発計画を策定した.再定 ている.これは無計画の都市化を主因に,人口の 住プロセスを後押しするために 3 段階の方法が 約 80%が都市部に居住していること,および国 開発されており,それにはコミュニティの関与と 86 世界開発報告 2014 認識,移住準備の支援(特別住宅補助金を含む), Risk Management in the Philippines: Enhancing Poverty Alleviation through Disaster Reduction.” および定住後のモニタリングとフォローアップが World Bank, Washington, DC. 含まれている.元の住居が明け渡されて初めて, このような高リスク区画の再生・修復のプロセス が開始される.この成功した手法がコロンビアの 他の都市やラテンアメリカの他の諸国でも踏襲さ れている.   コ ロ ン ビ ア や フ ィ リ ピ ン に お け る 措 置 は, DRM にかかわる全体論的で多様な利害関係者に よるアプローチへの顕著な歩みを示すものである が,さらなる進展が必要である.特に地方レベル を中心にリスク削減を初めとして,関係者の間の 役割や責任,調整にかかわるより明確な定義,住 宅やファイナンス,農業など DRM システムに完 全には統合化されていない特殊部門への追加投資 などをより重視することが必要とされる. 注 1.CAT DDO は 世 界 銀 行 の 金 融 手 段 で あ り, 自然災害が発生した場合,適格な中所得国に対し て,5 億ドルあるいは対 GDP 比で 0.25%まで (どちらか小さい方)の流動性をただちに供与す る.同手段は他の資金調達が動員されるまでの橋 渡し的な資金を被災国に提供するために,世界銀 行によって開発されたものである. 参考文献 Campos Garcia, Ana, Niels Holm-Nielsen, Carolina Díaz Geraldo, Diana M. Rubiano Vargas, Carlos R. Costa Posada, Fernando Ramírez Cortés, and Eric Dickson, eds. 2012. Analysis of Disaster Risk Management in Colombia: A Contribution to the ­ Creation of Public Policies. Bogotá: World Bank and the Global Facility for Disaster Reduction and Recovery (GFDRR). Correa, Elena, ed. 2011. Preventive Resettlement of Populations at Risk of Disaster: Experiences from Latin America. Washington, DC: World Bank and GFDRR. Fernandez, Glenn, Noralene Uy, and Rajib Shaw. 2012. “Community-Based Disaster Risk Management Experience of the Philippines.” In Community-Based Disaster Risk Reduction, edited by Rajib Shaw, 205–31. Bingley, U.K.: Emerald Group Publishing Ltd. World Bank and the National Disaster Coordinating Council of the Philippines. 2004. “Natural Disaster 88 世界開発報告 2014 路上であろうが,経済や自然,健康の リスクに直面していようが,地域の状 況が実際的なリスク管理にとって障害 になることがある. ©Kullez 89 CHAPTER 2 理想の向こうに:リスク管理における障害と それを克服する方法 適切なリスク管理の機会を失う 国の多くの部門におけるさまざまな規  ほぼ毎年,ムンバイは豪雨に見 模の危機――が繰り返し発生して 舞われ,洪水リスクを削減する いるが,それは防止,あるいは ためにすべきことが,長年に 少なくとも緩和できたかもし わたって正確に報告書に詳述 れない(地図 2.1).近年,次 されてきている.20 年前に のような新しいツールのおか は,マスター・プラン(拡大 げで,リスク分析には顕著な ムンバイ報告書)は洪水に対 進歩があった:遠隔感知・衛星 して市を強くする勧告リストを 画像の技術,信頼性の高い警報 提示して,計画を実施するために約 の発表を可能にする気象予報システ 2 億ドルが承認された.しかし,報告書の ム,公衆衛生介入の対象を絞り込むための 発表から 12 年後の 2005 年には,この金額のほ 感染症に関する新知識,暴力やマクロ経済危機 んのわずかしか支出されていなかった.そうこ への対処法に関する経験の増加など.なぜこの うしているうちに,異常なモンスーンが市を襲っ ような知識を利用してもっと多くのことがなさ た.平均的な年間降水量のほぼ半分が 1 日で降 れていないのか? ムンバイの話が例証してい り,400 人以上の死亡者と建物・インフラに対 るように,排水システムの清掃などの初歩的な する広範な損傷が後に残された.この 2005 年の 「たやすい」行為でさえ,実施が挑戦的なものに 荒廃を受けて,政府は実情調査委員会(チッタ なることがある.他の極めて明らかな事例を引 レ委員会)を創設し,災害の原因を探求し解決 き合いに出してみよう.手洗いは間違いなく健 策を提案することにした.驚くことではないだ 康に良い投資であるにもかかわらず,人々はし ろうが,その勧告は拡大ムンバイ報告書と非常 ばしばそれを実行せずにさぼる.早期警告シス によく似ていた.このような措置は 2015 年ま テムは自然災害に伴う損害を軽減する費用効果 でに実施されることになっていた.しかし 2012 的な手段を提供する.世界全体としてその便益 年現在,1993 年の拡大ムンバイ報告書で勧告さ は費用を 4 対 1 で上回っているが,このシステ れた 58 プロジェクトのうち完成しているのは, ムにかかわる投資と運用は限定的なものにとど わずか 4 分の 1 である.また,4 つの主要プロ まっている 2.金融部門における過度なリスク・ ジェクトの入札手続きは始まってさえいなかっ テイキングに起因する損害に関しては,広範で た 1.リスク削減に有益であると明確に認識され 明確なコンセンサスがあるが,強力な規則の実 た解決策があるにもかかわらず,ムンバイはほ 施は困難だということも判明している.他方で とんど毎年発生する大雨に非常に弱いままであ は,次のようにリスク・テイキングがあまりに る(写真 2.1). も少なすぎる場合もある:企業が新しい製品や  ムンバイと同じく,多くの危機――多くの諸 技術にかかわる革新に対するリスク負担を躊躇 90 世界開発報告 2014 うな事例のすべてにおいてリスク管理のために望 ましい措置がとられておらず,それが過度なリス ク・テイキングか,または逆の過度な慎重さにつ ながっている.  このような行動の欠如が示唆しているのは,第 1 章で導入したリスク管理の枠組みは理想では あっても,現実にはその実施は多数の障害によっ て邪魔されているということである.その主要な 項目には,次のようなものがある.資源や情報の 欠如,言動における偏見,社会規範・市場の失 敗・統治の不備などに起因する制約など.幸いな 写真 2.1  既知で低コストの解決策でさえ実施するのは困難. ことに,このような制約は次のような公的措置に 淀んだ排水システムを掃除すれば洪水のリスクは軽減されるだ よって緩和することができるだろう:有効な介入 ろう.しかし,そのような明確で費用効果的な解決策は往々に して実施されないままとなっている.ムンバイの事例は共通の 策や一般的な能力に特に焦点を絞る,政府の各レ 問題を示している(この写真はジャカルタのもの) . ベルを横断し官民両部門相互間における調整を改 ©Farhana Asnap/World Bank 善する,不確実性の大きい分野では頑健で適合的 な政策を目指すなど(用語集 2.1). する,農民がより生産的な種子の作付けに変更し  公的リスク管理戦略には単にリスクの特定・評 ない,成功の可能性はあるのにリスクを伴う経済 価以上のものが含まれる.確かに,リスク――た 活動への資金提供を銀行が拒否するなど.このよ とえ大規模なものでも――の単なる存在は,公 地図 2.1 有効な防止策がないと,危機が繰り返される 洪水は 90 年間以上にわたってニューオーリンズに広範な被害をもたらしてきている. ポンチャートレイン湖 ポンチャートレイン湖 ボーン湖 ボーン湖 ポンチャートレイン湖 ポンチャートレイン湖 ボーン湖 ボーン湖 出所:Grossi and Muir-Wood 2006. 注:赤色の矢印は堤防の決壊を示す.青色の地域はハリケーンで洪水に見舞われた地帯を示す. CHAPTER2 理想の向こうに:リスク管理における障害とそれを克服する方法 91 用語集 2.1 本報告書を通じて使われている経済用語 情報の非対称性 ある取引において一方の当事者が他方の当事者よりも多くの,またはより良い情報をもってい る状況. 逆選択 情報の非対称性を受けて,特権的な情報を有する主体は有利な条件で商品・サービスを選択し ようとし,恐らくは取引を歪めて自分に有利にしている状況. 共有資源問題 アクセスが制限されていない共有資源を,個人が過剰使用することからから発生する問題. 調整の失敗 意思決定者たちが望ましい結末に至るような戦略を共同して選択できないため,あまり良くな い結末に到達しているという状況. 深い不確実性 ある決定を行う当事者たちが将来を形成する重要な潮流,あるいはモデルにおける主要な変数 やパラメーターの確率分布,代替的な結末の価値などについてわかっていない,あるいは合意 できない状況. モラル・ハザード 自分の行動がもたらす結果から自らが保護されていると,人々は責任をもって行動しない傾向 がある. 近視眼的 思考や計画において長期的な視点が欠けている. 本人と代理人の問題 代理人は委託者のために行動することになっているのに,その委託者にとって好ましくない結 末がもたらされる場合でも,代理人が自己目標を追求する時に発生する問題. 政策における時間的不整 意思決定者が民間の意思決定者の期待に影響を与えるべく事前に政策を発表したのに,その期 合性 待が形成され行動に移されてしまった後で,違う政策にしたがわせるインセンティブをもつに 至った状況. 出所:WDR 2014 チーム. 的措置が必要だということを意味するものでな (堤防や排水システムなど)の提供などといった い.仮に個人や企業がこのリスクを,その潜在 コストの高いアプローチを検討する. 的な費用と便益に関する情報に基づいた 評価をベースに引き受けて,その結 繰り 末に対処できるのであれば,それ 返し発生する多く なぜ人々は自分自身のリスクを を阻止する理由は何もない.一 の危機は既存の手段で防 上手に管理することができない 方,仮に個人や企業がリスクな のだろうか? 止可能である.しかし,単 いしその結末を適切に管理でき 純な「たやすい」措置で   理 想 と し て は, 人 々, 企 業, ないとすれば,公的措置が必要と も実施は挑戦的なもの および組織は自分自身の能力が及 なる.例えば,次のような場合が になり得る. ぶ範囲内にあるリスクを管理でき 適例である.すなわち,適切な情報が るだろう.(給与が高く公共サービス 無い状態でリスクをとる,仮にリスクが損失 が良い都市への移住など)どのリスクならと として顕在化したときにその結末を管理するこ る価値があるのか,もし間違った場合にはどの とができない,リスクをとっている人あるいは リスクがあまりにコスト高になるのかを推定す グループが損失によって影響を受ける人々と異 るのに最適な立場にある.しかし,リスクの評 なる,などである. 価とその備えに関しては多くの障害に直面して  したがって,公的リスク管理計画の策定はリ いる. スク管理に対する現実的な障害の特定や優先順 位の決定,是正に基づくべきである.そこで本 人々の情報や資源が不足している可能性がある 章では,ダイヤグラム 2.1 でこのような障害の 金融制約. 所得や資産,資源の欠如は,特に途 類型を示した.それは公的措置を要する障害の 上国の最も脆弱な層のリスク管理を阻害する. 優先順位を決定する方法論を示している.制度 リスク管理の選択肢としては,なかには安価な 的な取り決め,コミュニケーション・情報のキャ ものやほとんどコストがかからないもの(安全 ンペーン,行動面からのアプローチなどに基づ 運転など)もあるが,高価なものもある.耐震 く「ソフトな」選択肢から始めて,次に公共財 住宅に住みたくても建築費用が高すぎるだろう. 92 世界開発報告 2014 ダイヤグラム 2.1 個人,企業,および国はリスク管理に関して多くの障害に直面している リスク管理の障害 個人にとっ 個人のコントロール外の 公的・集団的行動 ての障害 社会的障害 にとっての障害 公共財・サービス 公的資源の欠如・ 金融制約 の欠如 ニーズの競合 市場の欠如・ 情報制約 調整の失敗 モラルハザード 外部性 分配上の影響・ 認知の失敗・行動 政治経済学 上のバイアス 社会規範 深い不確実性 集団的リスク 出所:WDR 2014 チーム. リスクを緩和するための投資が経済的な観点から 邦が後援している洪水保険が利用可能だというこ は費用効果的であっても,人々や企業にとっては とを知っていたのはわずか 33%にとどまってい 先行するコストが高く,信用へのアクセスが限定 た 3.投資家や銀行が革新的なプロジェクトに関 されているため,資金を調達するのが困難である する融資申請を評価する知識をもっていないがゆ ことがわかるだろう.限定的な資源しか保有して えに,儲かるプロジェクトを拒否することになれ おらず,したがって,リスクにより弱く,損失の ば,創造的なリスク・テイキングと革新を制約す 影響がより厳しい家計は,貧困の罠に直面するだ る可能性があろう 4. ろう.このように脆弱性が大きいことから,この  多くの分野で,情報をより広く入手可能にす ような家計は将来的にさらなる損失から自己を保 るという点においては進歩がある.新しい情報 護するために,必要な資源を蓄積することができ 通信技術のおかげで,人々は地球上のほぼどこ ない(第 3 章参照).このような効果はマクロ・ からでも複雑な情報にアクセスできる.しかし, レベルでさえ発生する可能性がある.例えば,自 データの収集とアクセスは非効率なままである. 然災害直後で復興が喫緊の課題であるときには, 情報には公共財という側面があるため,民間行 コミュニティないし地域のレベルでの長期的な開 為者は過小供給に陥っている.そこで,国家は 発投資がクラウド・アウトされる. その作成と普及に関して大きな役割を担ってい る.この方向に向けて十分な努力を払っていな 情報制約.情報は存在しているかもしれないが, い諸国がなかにはある.データが無料で入手可 リスク関連の決定をしなければならい人にとっ 能でない場合や,まったく入手可能でない場合 て,入手可能ではない,あるいは知ることができ には特にそういえる.例えば,水文気象学的サー ない可能性がある.例えば,連邦緊急事態管理庁 ビスは観測ネットワークを強化・維持するため が 2010 年に実施した調査によると,アメリカで には,しばしばデータ販売による収入を頼りに 洪水に見舞われやすい地域に住んでいる人のわず しなければならない.その結果,ヨーロッパに か 31%しか洪水のリスクを認識しておらず,連 おける気象観測 1 件当たりのコストはゼロ(ス CHAPTER2 理想の向こうに:リスク管理における障害とそれを克服する方法 93 ロベニア)から 0.40 ユーロ(ルーマニア)まで 回避よりも 50%高く評価する(150 万ユーロ対 と差がある 5.データがコスト高だと貴重な情報 100 万ユーロ)ように勧告している 11. へのアクセスが制限されて,それから得られる  政策当局者を含む人たちはリスクに直面して数 社会的利益が削減される 6. 多くの決定を行うが,最善の選択肢を特定するた めに熟慮した計算をする代わりに,経験則を使っ 人々は知識を行動に転換するのに苦闘している たり,社会的規範にしたがったりする可能性があ  個人の意思決定は実際には, 「期待効用の最大 る 12.人々は自分が類似していると考えるリス 化」などの経済理論における基本的な理想化され クを決定の指針に使う.類似リスクの「利用可能 た前提からはかなり乖離することがある.この乖 性」が,人々が重視するリスクとそうでないリ 離が個人の選好や価値観に連動している限り,そ スクがあることを説明できる理由になる.例え れは公的な措置の理由とはならない.しかし,こ ば,ヨーロッパ人はみずからの狂牛病危機の経験 の乖離の一部はリスクに関する情報を処理し,ど から,アメリカ人よりも遺伝子組み換え作物を含 のリスク防止措置を実施するかを決めるための時 め,非伝統的な食料生産技術を懸念しているのか 間と能力の限界に起因している.その結果,人々 もしれない 13.したがって,教育・報道キャン はみずからの利益や選好に反する決定を下すこと ペーンや個人が容易に処理できるという形での情 もある.このような場合には公的措置が正当化さ 報提供が,リスク管理戦略の重要な要素になる. れるだろう. それが,運転規則が理論的に設定されるだけでな  多種多様な研究は,人々はリスクの評価という く,義務的な運転指導を通じて,少なくとも部分 ことではひどく不完全で矛盾しているということ 的に自動的なものになる段階まで学習されなけれ を明らかにしている(ボックス 2.1) .人々は現 ばならない理由である 14. 状維持を好む傾向があり,何もしないことを選択  人々は損失回避に関してしばしば自信過剰に する傾向にある.例えば,何もしないという選択 なっている.例えば,アルコールの影響下でも安 が臓器提供者になる(提供者になりたくなければ 全に運転ができると考えたり,洪水を何とか管理 離脱を選択しなければならない)国では,提供者 できるので退避する必要はないと考えたりする. になるために参加を選択しなければならい国より また,人々は大災害のことを忘れやすく,将来の も,提供者の割合が約 60%も高い 7.人々は通 ことを大幅かつ矛盾した形で割り引く.さらに回 常稀な事象には高いウェイトを置くが,非常に稀 避された損失が観察不可能であるということを考 な事象が発生する可能性を無視する 8.個人は非 慮に入れていない.ハリケーン・カトリーナが 常に悪い将来の可能性を無視するが,それは多分 2005 年にニューオーリンズを襲った後,アメリ そのことを考えるとストレスになるからだろう 9. カでは洪水リスク保険に加入する家庭が従来の 3 また,自らが選んだ個別リスク(運転,ハイキン 倍ものペースで増加した.しかしながら,平均解 グ,スカイダイビングなど)と,自分に押し付け 約率は年 33%程度と不変にとどまり,災害が家 られた集団的なリスク(近所に化学工場が建設さ 計の行動に及ぼした影響は一時的なものであった れた場合など)をどの程度重視するかは人によっ ことが示唆されている 15.シミュレーションに て異なる.つまり,たとえ利益は類似していて 基づく研究が示すところによれば,保護に投資す も,リスク水準は普通はリスクが強制された方が る決定の主たる動機は回避された損失ではなく, 高いと受け止められる,あるいは個人としてはこ すでに経験された損失の規模である 16.この傾 のリスクに対してほとんどコントロール力がない 向は「保護の逆説」につながる.すなわち,頻繁 と感じる(写真 2.2)10.この相違を考慮に入れ な事象に対する保護が長期間にわたって損失を抑 てフランス政府は,交通安全への投資に関する費 制していると,警戒とリスク認識が低下する.そ 用便益分析では,公共輸送における死者 1 名の れがリスキーな地域における保護措置の保守が十 回避は個人的な自動車事故における死者 1 名の 分に行われないという状態と高い投資につながっ 94 世界開発報告 2014 ボックス 2.1 不合理,不確実,および近視眼:一部の古典的な実験が人間行動に関する驚くべき事実を明らかにする  期待効用理論として知られている十分確立した経済学の 1 の選択におけるのと同じように,期待利益はどちらのく 概念の主張では,人々は期待利益を最大化しようとしてい じでも同じであり,少額の賞金と関連した確率は多額の賞 る.しかし実際には,リスクや不確実性に直面している時 金の場合の 2 倍の高さになっている.しかし,第 2 の選 には,人々は一部の古典的な実験が示すように違った行 択では参加者の大半は賞金獲得の確率が高いくじではな 動をする.第 1 の実験は人々が不確実性を非常に嫌うと く,賞金が多額のくじを選択している.このような結果は いうことを示している.理論的な予測を超越する不確実な 次のことを示している.すなわち,人々は高確率と低確率 「確実な」利益を高く評価する.この実験で 利益よりも, の取り扱いが異なり,そのことが低確率事象のリスクを多 は,各個人は表 a で示されているように,相異なるくじの 少削減するための投資(地震の際に建物が倒壊するリスク なかから選ばなければならない.第 1 の実験では,ほとん を削減するための投資など)を行ったり,多種多様な低確 どの人(65%)は第 1 のくじを選んだ.期待効用の枠組 率のリスクの間で望ましいトレードオフをしたりする可 みでは,これは 4,000 ドル獲得できる利益(経済用語では 能性が低い一因であろう. )が 3,000 ドル獲得できる利益の 4 分の 5(20%対 「効用」  第 3 の実験は,人々の決定は「デフォルト状況」をどう 25%)よりも大きいということを意味する.しかし,第 2 考えるかに依存していることを示している.やはり,人々 のくじでは,ほとんどの人(80%)は「確実性」を選ん は 2 つのくじからどちらかを選ぶように要請される.ここ だ.期待効用の枠組みでは,これは 4,000 ドル獲得する利 で行うくじでは,勝つ確率と負ける確率は等しいが,損得 益が,3,000 ドル獲得する利益の 4 分の 5(80%対 100%) の金額が異なる.第 1 に,1,000 ドルもらい,その上で,確 よりも小さいということを意味するにもかかわらずに,こ 実に 500 ドル当たるくじか,あるいは 1,000 ドル当たる確 のような選択が行われた.これは第 1 のくじと真っ向から 率が 50%のくじのどちらかを選ばなければならない.回答 矛盾している.このような不確実性に対する嫌悪――期待 者の 84%は結果が確実なほうを選ぶ.第 2 に,2,000 ドル 効用理論が示唆するリスク回避度を超えて――が,他の形 もらって,その上で,確実に 500 ドル損するくじか,ある のもっと確実な所得の場合と比較して,革新的なプロジェ いは 50%の確率で 1,000 ドル損するくじのいずれかを選ぶ. クトや企業家精神に対する過少投資の一因になっているの この場合には,68%が後者のくじを選ぶ.回答者は完全に であろう. 同等な 2 つの選択肢の間で,違った反応を示したのである.  第 2 の実験では次のことが明確になる.すなわち,人々  この実験は参照点が持つ役割を例証している.また,個 は低確率の間では区別することができずに,すべての低確 人は利益に関してはしばしばリスク回避的,損失に関して .第 1 の 率事象を同程度にあり得そうだと考える(表 b) はリスク追求的であることも示している.参照点があり得 選択では参加者は期待利益が同じような 2 つのくじから る最善の結果(唯一の可能性は損失)なのか,それとも 選ぶことができる.圧倒的な大多数(86%)は第 2 のく あり得る最悪の結果(唯一の可能性は利益)なのかによっ じを選んだ.これは次のことを示している.すなわち,一 て,個人は違った選択をするだろう.保険業者は古くから 般的に,人々の決定は期待される結果だけでなく関連した 次のことを承知していた:人々はもし自分の参照点が災害 確率にも左右される.ところが,第 2 の選択が示すとこ の発生であるなら,保険を買う可能性がより高いだろう. ろでは,確率が非常に低い場合にはそうはしていない.第 a. 人々は期待効用理論に矛盾する形で不確実性を嫌う 第 1 の選択 第 2 の選択 くじの属性 くじ1 くじ 2 くじ1 くじ 2 くじの選択肢 4,000 ドル獲得の確率 3,000 ドル獲得の確率 4,000 ドル獲得の確率 3,000 ドル獲得の確率 20%,何も獲得できな 25%,何も獲得できな 80%,何も獲得できな 100% い確率 80% い確率 75% い確率 20% くじを選んだ参加者の 65 35 20 80 割合(%) b. 人々の高確率と低確率の取り扱いは非常に異なる 第 1 の選択 第 2 の選択 くじの属性 くじ1 くじ 2 くじ1 くじ 2 くじの選択肢 6,000 ドル獲得の確率 3,000 ドル獲得の確率 6,000 ドル獲得の確率 3,000 ドル獲得の確率 45%,何も獲得できな 90%,何も獲得できな 0.1%,何も獲得でき 0.2%,何も獲得でき い確率 55% い確率 10% ない確率 99.9% ない確率 99.8% くじを選んだ参加者の 14 86 73 27 割合(%) 出所:Kahneman and Tversky 1979 に基づき WDR 2014 チーム作成. CHAPTER2 理想の向こうに:リスク管理における障害とそれを克服する方法 95 ており,仮に異例な事象によって保護が崩壊した り圧倒されたりすれば,将来的な損失(および損 失規模の逓増)をもたらす 17.意思決定におけ るこのような矛盾は何もリスク管理に固有なもの ではない.それは個々人が己の目的(もっと運動 しようという新年の誓いなど)を達成することに 非常に苦労している理由でもある.それゆえに 人々はしばしば自分の選択に不可逆性を付加する ことを試みる.例えば,目標未達のコストを引き 上げる(ジムに高額の年会費を支払うなど)ので ある 18.多くの途上国では,この不可逆性の探 写真 2.2 外部から強制されると小さなリスクでも嫌うが,自発 的に決められるなら大きなリスクでも選好する.人は趣味のた 求が,人々が「現物で」貯蓄している理由になる .しかし,ずっ めなら大きなリスクを負う(高い山の登山など) だろう.例えば,人々は自分の貯蓄を資源が利用 と小さなリスクでもそれが他人によって押し付けられたもので 可能になるたびに家の建築を徐々に前進させるこ あれば,受け入れがたいと感じる(近隣地区における化学工場 とで,拡大家族だけでなく自分自身による支配か の建設など) ©Gordon Wiltsie/National Geographic ら保護している.ただし,この慣行は貯蓄として は非常に非効率でリスクを伴う方法である.  このような行動のバイアスは有効なリスク管理 個人のコントロールを超えた障害がリスク管 の設計に影響を与える.例えば,将来にかかわる 理を阻害する 過度な割引,近視眼,何もしないことの選択肢に  公共財や市場,さらに社会規範さえも無いよう 固執する傾向などは,退職貯蓄制度への選択的加 な状態では,人々は自分自身のリスク・テイキン 入が許容されている場合に,貯蓄が不十分な理 グにかかわる管理を阻害されるだろう.なかには 由を説明することができる.またこのバイアス 個別リスクを超えるシステミック・リスクもあ は,租税優遇制度から保険ないし年金制度への義 り,したがって集団的措置なしには管理すること 務的な加入に至るまでの個別介入策を正当化でき はできない. る.この文脈下では,条件付き現金給付プログラ ム(例えばメキシコやブラジルのもの)は,個々 個人は市場と政府の失敗に対処しなければならな 人が自分の健康リスクを管理するのを助けるとい い う点で非常に成功している.毎月現金給付を受け 公共財とサービスの欠如. 人々のリスク管理に るために,一定の行動の順守――子供向けに処方 とって必需の基盤を提供する公共財とサービス されている予防接種スケジュールの順守など―― が欠如していることが多い.投資家の観点から を義務化することによって,このプログラムは医 すると,例えば,リスクは契約が履行できて初 療処置や検査などのリスクを削減する社会的・個 めて管理することができ,そのためには法の支 人的に有益な行動をとる直接的な金銭的誘因を生 配と有効な司法制度が必要となる.規制の弱い み出している.こうして,このプログラムは前述 医療ケア提供者が有能でなければ,あるいは適 の制約(資源・情報の制約から行動面でのバイア 切な医薬品が入手可能でなければ,健康保険は スや緊急を要しない医療検査を際限なく延期する ほとんど役に立たない.途上国では高い率で交 傾向などまで)を克服することができ,したがっ 通事故死が観察されており,道路インフラの質 て,脆弱な個人や家計,幅広いコミュニティの健 が劣悪なことがその一因である.ポーランドで 康リスクを削減するのに役立つ. は,事故が頻繁に発生する「危険箇所」に危険 標識を設置したところ,衝突件数は 35%も減少 した 19. 96 世界開発報告 2014  多くのリスク関連の決定は,基礎インフラに 如などを理由に,リスク管理のための公的サー 少なくとも一因がある.2005 年にニューオリ ビスから排除されている公算があるからである. ンズを襲ったハリケーン・カトリーナが引き起 例えばペルーでは,法的手続きはスペイン語で こした地滑りは,道路交通避難計画の成功―― のみ行われるが,多くの農民はケチュア語やア 自動車を保有していた住民にとって避難は従来 イマラ語しか話さないため,司法制度を自分た よりも速くてスムースであった――と,公共輸 ちの権利を保護しリスクを管理するために活用 送に依存した人々の避難の失敗の両方を例証し することが困難である. ている 20.衛生インフラの欠如は,個人が自ら の健康リスクを管理する上で重大な障害である. 市場の欠如とモラル・ハザードの問題. 保険や 例えばインドでは,野外排泄と貧困家庭に ヘッジなどの市場と手段の欠如が,人々が おける衛生設備の欠如が,子供の発 リスクを管理する能力にとって重要 リス 育不全の主因であることが指摘さ クの特定だけでは な障害になる.手段が存在する場 れている 21.発育不全は成人の 合でも,それが市場の失敗によっ 十分ではない:リスク管 健康や生産性,経済展望,した 理にかかわる障害も特定し て無効になっているのかもしれ がって開発機会に大きな影響を 優先順位付けして,官民 ない.保険業者はリスク回避度 及ぼし得る.そのため,衛生イ の措置を通じて対処す が高い顧客を満足させるために, ンフラが供給されない限り,個人 る必要がある. 控除額が低い(保険料が高い)保 の行動の変化や,児童栄養介入策な 険を提供している.しかし,イスラ どの開発プログラムがもたらすプラスの効 エルでは,事故の多い「悪質な」ドライ 果は限定的なものにとどまるだろう.この事例 バーがこのような保険を選択している割合は平 は次のような一般的な状況を示している:より 均的なドライバーよりも高いということが示さ 進んだ個人的および集団的なリスク管理政策が れている.これは逆選択の古典的な事例である. 成功するための基盤として,基礎インフラを供 保険業者にはだれがより脆弱であり,だれがそ 給することが重要である(写真 2.3). うでないかに関する情報が欠けており,したがっ  状況が複雑なのは,一部の人々がジェンダー てリスクの高い顧客により高い保険料を請求で や民族性,所属政党,教育ないし識字能力の欠 きない.そのため,より脆弱な人はそうでない 人よりも多くの保険を買うという事実は,すべ ての人々にとって保険のコストを押し上げ,負 担可能性の問題を生み出し,リスク分担に伴う 利益を制限する 22.国家は,市場や手段の創造 を促進し,それらを個人のリスク管理を支援す るという形で規制するために介入する必要があ ろう.  しかし,すべてのリスクに対処できるわけで はない.健康や心理の面での影響,あるいは洪 水や火災の最中に失われた個人的な物や写真な ど,非金銭的な損失が完全に補償されることは 稀である.例えば,2008 年にインドのビハール 写真 2.3 人々がリスクを管理するためには良いインフラが必 州で発生した洪水の後,年配者は洪水以前より 要である.ベニンの Woukpokpoe 村の人々は国家プロジェクト も頻繁に鬱症状に悩むようになった 23.仮にす のおかげで,安全で清潔な水へのアクセスを得た.これで健康 に対するリスクをより有効に管理することができる. べての影響が補償可能だとすれば,個人や企業 ©Arne Hoel/World Bank が自分でリスクを軽減するという誘因が除去さ CHAPTER2 理想の向こうに:リスク管理における障害とそれを克服する方法 97 れてしまい,逆選択とモラル・ハザード(保険は ある.例えば,病気の際にフェイス・マスクを使 人々がリスクに対して自己を保護する誘因を削減 えば病気の伝染を防げる.他の地域ではそうでは してしまう)を増やし,したがって損失を増幅し ないが,アジアでは,通常マスクの着用は社会規 かねない 24.つまり,損失を完全に保護するの 範にしたがったものである.それとは対照的に, が最適なことは稀であり,それは民間保険業者や 「失敗の汚名」は革新や企業家精神の足を引っ張 公的制度(あるいは官民パートナーシップを通じ る社会規範である.それに対抗するために,一部 た混合形態)が,常に適用可能な額を制限する控 の政府や民間の機関はたとえ失敗しても,革新や 除額を含んでいる理由である. リスク・テイキングを報奨している.賞の導入 (インドのタタ・グループによって毎年行われて 外部性.一部の主体の行動が他人のリスクを増や いる失敗した最良のアイデア賞など)や研究開発 したり,自分のリスクを管理しようという他人の にかかわる租税面での償却がその例である.しっ 誘因を削減したりすることがある.一部の人が抗 かり確立している社会規範に挑戦する際,立法者 生物質を過剰に使用すると,一部の有害なバクテ には特別な政策アプローチが必要であろう.アメ リアの治療に対する抵抗力が強化され,すべての リカでは,補完的措置によって社会規範が変化す 人々の健康を脅かす可能性がある 25.新しい化 る(強姦について「羞恥刑」を科したり,男性の 学製品を投入する企業は他人に対して健康リスク 女性に対する暴力を「卑怯」とか「男らしくない」 をもたらす可能性があるのに,金銭的な利益のほ と描写したりする風潮ができる)まで,警察は最 とんどを享受している.災害は外部性を生み出し 初は強姦や家庭内暴力に関する法律の執行に反対 て間接的な損失を引き起こす 26.例えば,2012 した 28.社会規範の変化には多くの源泉と経路が 年 11 月に日本の自動車メーカーである本田は, あり得る.陳情団体や利益団体は支配的な社会規 アメリカのオハイオ州にある自動車組立工場で労 範に関する受け止め方を変化させるために,情報 働時間を減らした.これはその当時大洪水の影響 キャンペーンを利用する.マーケティング会社は を受けていたタイから部品を入手できなかったた 売上と収入の最大化を目指して,製品やサービス めである.ある 1 つの生産単位における社会的 に関する考え方を形成するために広告キャンペー に最適なリスク管理(タイにおけるような)は, ンを使う.このようなキャンペーンはリスク管理 このような供給チェーン効果や付加価値を生み出 を犠牲にすることが時折ある.例えば,健康に有 す顧客工場の能力に生産の中断が及ぼす影響を考 害な飲食習慣を奨励する場合である.それとは対 慮に入れるべきである.しかし,そのような広範 照的に,公衆衛生政策は衛生設備や手洗いで衛生 囲にわたる配慮は通常は欠けており,リスク管理 を改善し病気を予防することによって,規範の変 の不十分さにつながっている.このような事例は 更に大きな成功を収めてきている.時として,規 個別インセンティブと集団的目的との整合性を確 範の変化には予想外の動因がある.ブラジルの 保できるように,公的措置(規則など)ないし集 「テレビ小説」は出生選択に大きな影響を与えた. 団的措置(供給連鎖の管理など)を設計・実施す 番組で示された多種多様な生活様式や理想が社会 ることの必要性を明確にしている.日本における 規範に影響して,人々の言動に無視できない影響 2011 年の地震と津波への対応は,そのような集 を及ぼしたのである(写真 2.4)29. 団的措置の事例を提示しており,顧客はサプライ ヤーができるだけ早く生産が回復できるように, 本来的に集団的なリスクがなかにはある 無償の支援を提供した 27.  一部のリスクは本来的にシステミック――した がって集団的――である.金融危機や景気の鈍化 社会規範.リスク管理に関する個人の言動は社会 は,国ないし国際的なレベルでのみ管理可能であ 規範に根差しており,それはリスク管理にとって る.ある技術や部門を支援するために産業政策が 障害になることもあれば,促進剤にもなることも 実施されると,その国はマクロ経済や財政の面に 98 世界開発報告 2014 要とし,先行するコストが大きく高価で,通常は 広大な地域を対象にしている.その結果,個人や 企業では集団的レベルで整備されるものから独立 して,自宅や生産施設に強固な保護を供与するこ とはできない.つまり,自然リスクの管理は少な くとも部分的には集団的な問題とならざるを得な い.  集団的措置が要請される場合,リスクの許容 水準の規定は政治的プロセスを通じて社会的レ ベルで策定される必要がある.「災害は許容で きない」と政策当局はしばしば主張するが― ―特に大惨事の後では――,すべてのリスクを 無くすのに必要なコストは非現実的に高いだろ う.したがって,ある程度のリスクは引き受け なければならない 31.許容可能なリスク水準の 定義はむずかしい.複雑な問題があり(ボック ス 2.2),選好や価値観,信条が大幅に異なるか らだ.他の人よりもリスク回避的な人はより警 戒的なアプローチを好むだろう.自分がリスク を伴う状況をどう受け止めて行動するかに影響 写真 2.4 社会規範を変える.ラテンアメリカではテレビ小説 が,人々を多種多様な生活様式にさらすことによって,社会規 する認識および感情の面でのフィルターとして, 範を変化させてきている. また意思決定を簡素化するための方法として, ©Globo Marcus 「世界観」を持ち出す人もなかにはいる.文化論 という分野のある研究では,アメリカの個人を おいて国家レベルで社会化されたリスクをとるこ 次の 3 つの基本的な世界観にしたがって分類し とになる.仮にその技術や部門が失敗すれば,同 た上で,多くの技術・環境面での多くのリスク 損失は全納税者によって分担される.さらに,相 ――原子力エネルギーや遺伝子組み換え作物, 互連関が進展している世界では,流行病や金融危 気候変動など――に関する人々の選好が,これ 機などの多くのリスクが今や世界的な規模になっ でほぼ説明可能なことが示されている 32. ている.このようなすべての事例において,リス  リスクに関する情報を人々がどう処理するかに クは保護インフラや医療ケア制度,金融規制,マ 影響する要因は根本的な信条に根差しているた クロ経済管理などの公共財・サービスを利用しな め,このようなリスクに関する判断は一国内で がら,集団的に管理しなければならない.特にイ も,また,各国間ではなおさら著しく異なるだろ ンフラが地理的に集中していて密度の高い地域を う.国際的なレベルでは,リスクの許容水準を巡 中心に,多くの自然リスクも集団的な管理を要請 る大きな意見不一致は,牛肉ホルモンや狂牛病, している.多種多様な相乗効果のゆえに,経済的 遺伝子組み換え作物などの不確実性の高いリスク な生産やインフラは地理的に沿岸地帯や河川氾濫 を巡る貿易紛争につながっている.アメリカと 原など,しばしば危険な状態にある地帯に集積す ヨーロッパのリスク規制に関する徹底した比較が る傾向がある 30.加えて,保護インフラには「凸 示すところによれば,物事の複雑性に加えて文化 凹がある」,すなわち継続的かつ漸進的に増やす の役割とリスク管理の慣行に関する世界観が重要 ことができない.それはしばしば複雑なシステム であり,ヨーロッパは一部のリスク(牛肉ホルモ (複合環状堤防と揚水所)で構成され,計画を必 ン)に関してアメリカよりもリスク回避的である CHAPTER2 理想の向こうに:リスク管理における障害とそれを克服する方法 99 ボックス 2.2 リスク管理を改善するために専門家と政策をつくる当局の相互作用を強化する  多くのリスク評価は,ある事象の潜在的な影響を横軸 受することができない.例えば,アメリカの制度では,規 で,その可能性(発生の確率)を縦軸で示す古典的なリス 制は被害が発生して初めて実施される傾向がある.被害に ク行列に基づいている.そのリスクはもし可能性と潜在的 関する訴訟はアメリカの産業にとって対 GDP 比でみて毎 ,両要因が十分低け な影響が大きすぎれば「許容不可能」 年 1.9%ものコストになっている.それとは対照的に,よ ,抑圧するのは望ましくないが,それで れば「受容可能」 りコンセンサス型のシステムをとっているイギリスでは, も管理ないし削減する必要があるという意味では「許容可 その賠償コストは GDP の 0.5%以下にとどまっている a. . 能」と考えられる(図参照)  最近の研究が示唆するところによれば,実施可能なリス  科学者やその他の専門家だけではどのようなリスクが ク規制には,政治的および法的な文化によらず,相当な柔 許容可能であるかは定義できない.そうするための正当性 軟性が存在している b.規制手段は各国それぞれの状況に を欠いている.政策当局だけでもどのリスクが許容可能か 適合化できるように行き渡ってハイブリッド化しており, を定義できない.通常は技術的な専門知識が無いからだ. リスク規制を世界的に改善するのに役立っている c.実際 したがって,何が許容可能,忍耐可能,忍耐不可能である に,ほとんどの諸国は自国のリスク管理制度のコストと透 かを共同して定義するためには,科学と政策の間でより密 明性をバランスさせる努力として,リスクの規制手段を自 接でより良好な相互交流が必要なのである. 国の文化的・制度的な環境に適合化させようとしてきてい  各国は多種多様な制度的システムを導入して,自国の政 る. 「対抗主 治文化に沿ってこのような定義に到達している. 義」システムと呼ばれるものを使っている国(アメリカな 確率とインパクトに応じて災害を図示するの にリスク行列が使える ど)がなかにはある.各種の意見に関して,開かれた手続 リスクが利 1 益よりもあ きが基になっている明確な対立意見があり,結果は法的プ 禁止 / 代替 まりに大き ロセスを通じて決定される.他の地域(南ヨーロッパの一 くて負担で 部)は「庇護」システムに依存している.公的機関が内部 きない 結果の確率 の専門家や手続きに依存しながら,リスク評価を担当して リスクに値 おり,大衆による精査や参加がほとんどない.最後に,北 する利益は 削減 あるが,リ ヨーロッパでは「コンセンサス型」ないし「協調型」のア スク削減措 プローチがより一般的である.これは規制当局と利害関係 置が必要 者の間の非公開の交渉に基づいており,世論の関与はほと 正式な介入 受容 策は不必要 んどなく,妥協することを目的としている.  対抗主義システムは不確実性の管理と説明責任の確保 0 結果の程度 に優れている.しかし,このシステムは非常にコスト高 受容可能なリスク 許容可能なリスク で,一部の利害関係者を排除することがあり,規制当局と 許容不可能なリスク 未定義 規制される民間主体の間の協調や情報交換から利益を享 出所:Benn and Graham 2005 からの WDR 2014 チームによる翻案. 出所:Benn and Graham 2005 に基づき WDR 2014 チーム作成. a.Loewenberg 2006. b.De Francesco 2012. c.Wiener 2013. が,他のリスク(狂牛病)についてはむしろアメ 他人より汚染物質にずっと敏感な人もいる.ある リカよりも回避的ではない 33.ある所与の状況 1 種類の大気汚染物質(粒子状物質)の健康への で許容可能なリスク水準を定義するのが困難であ 影響を探求した研究の結論によると,最も敏感 るということは次のことを意味する.すなわち, な人(1,000 人に 1 人)は,中位数の感受性を リスク管理に関する規範的な勧告は非常にセンシ –  もつ人に影響をもたらす水準のわずか 0.2  0.7% ティブであり,慎重に提示する必要がある. の量にさらされただけでも同じ影響を受ける 34.  許容可能なリスクについての社会的水準を定義 そのような異質性が存在するなかで,同質的な規 することも,個人や集団の感受性が異なっている 則を設計するのは挑戦的なことであり,公平性の ことから容易ではない.そのような違いは健康問 配慮に大きく左右される(特に感受性が他の社会 題に関しては特に重要である.例えば,なかには 的要因と相関関係を持っている場合はそうであ 100 世界開発報告 2014 る).厳選した規則ではすべての個人を満足させ 定義は政府の失敗を利益団体による支配に関連付 られないだろう.同じ問題は国際レベルでも存在 けている.ここでは政府の失敗に関して 4 つの する.例えば国際社会は,かなり前の 1992 年に 一般的なカテゴリーを検討する.第 1 は,資源 「危険な気候 国連の気候変動枠組条約を通じて, と能力の不足,および達成可能なことよりも望ま 変動」の回避を公約した.しかし,各国が気候変 しくない政府措置の不本意な実施に関連してい 動から受ける影響や脆弱性には非常に大きな差が る.第 2 は,調整の失敗(政府内や官民主体の あり,したがって,「危険な」変動に関する意見 相互間で)に関連しており,それには次のよう も異なり,温室効果ガス排出削減に関する合意に な政策の支配が含まれる.例えば,政府が利益団 達することもいよいよむずかしくなっている(第 体に操作されて社会レベルで有害な規則を導入す 8 章)35. るような場合である.第 3 のカテゴリーは政治 経済学の問題,および政府の次のような自発的な 決定と関連がある:政府が一部の人々を他の人々 国家はなぜうまく間隙を埋められないのか? を犠牲にして,自己利益のために優遇する(例え  各国――あるいは国際社会――は,人々がリス ば,政府は政治的支持の代わりにある業種に保護 ク管理にまつわる障害を克服するのをさらに手助 を提供する,あるいは規則が規制当局によって支 けすることができる.また,そのような措置は第 配されている).最後のカテゴリーは,ある問題 1 章で検討したように,非常に費用効果的であり, にかかわる明瞭な解決策特定の不確実性と不可能 開発と貧困削減を後押しすることができる.個人 性に関連している.これは,政府の能力や資源, のインセンティブを社会の目標と整合的にするの 善意とは無関係である.この理由としては一連の を邪魔している,市場の失敗やその他の社会的障 適切な措置に関して知識が欠けていることが考え 害を是正することが,政府や地方自治体の重要な られる.この状況は深い不確実性といわれ,本章 役割の 1 つである.このような助けは往々にし の後の方で検討する. て実現していない,あるいは非常に不完全な形で しか実現していないため,リスク管理は逆効果で 資源と技術能力の欠如が公的政策を阻害する あったり,過度にコスト高になったりしている.  リスク管理を追求するための資源と能力の制約 国家は自分自身が大きな障害に直面し,リスクの は,公的措置にとって深刻な障壁になり得る.先 管理や強靭性の発展に焦点を絞ったものではない 進国で実施されてきている高価な災害リスク防止 競合的な優先課題も抱えている.第 1 に,意思 策(オランダにおける洪水保護など)は,同じよ 決定者や政策当局者も個人として,前述した偏見 うな脅威にさらされている途上国(エジプト,バ に影響されやすい.例えば,彼らの記憶は短く偏 ングラデシュ,およびベトナムなど)にとっては 見も一時的なものである傾向が強く,低確率の予 手が届かない.この格差は主として金融制約の結 測を誤り,多くの決定を行う際に厳格なリスク評 果である.それには社会的収益率は高いものの, 価をせずに,経験則や社会規範を用いる傾向があ コスト回収が限定的な長期投資に適切な金融商品 る.しかし,公的措置の障害は個人の意思決定に の欠如が含まれている 38.しかし,それは途上 かかわる障害を超越しており,政府の多くの他の 国では健康や教育からインフラ開発に至るまで 失敗を含んでいる. の,多くの競合するニーズの存在に結び付いてい  しかし,政府の失敗というのは定義がむずかし る.加えて,技術的な能力が途上国には欠けてい い 36.政府の失敗は政府が公益――つまり納税 る.特に公共部門が有能な熟練労働者を保持する 者や公共サービス利用者の利益――のためではな ことに関して明らかな困難に直面している諸国に く,「自己利益のために特権的な地位に乗じるこ ついてはそういえる.リスクを分析して適切な管 とができるごく一部の利益団体」の利益のために 理措置を特定するのに必要な能力は,行動に前向 機能している状況と定義できるだろう 37.この きな政府にとってさえ得がたいかもしれない. CHAPTER2 理想の向こうに:リスク管理における障害とそれを克服する方法 101  資源の欠如は制度を弱めルールの執行を阻害 体を大きくするため,非順守者や脆弱な建物の数 し,それが今度は設計ないし実施が不適切なリ を増やすことになる. スク管理政策につながる懸念があろう.例えば, 政府が財産権や地権を執行できないと,リスク 調整の失敗はリスク管理を阻害する 管理にとって否定的な影響を及ぼす.保有権が  各種の国家機関相互間で調整が失敗していると 不安定な家計は退去のリスクにさらされている リスク管理が阻害される.各省庁の措置が整合性 ため,自宅の耐水化や耐震化に投資する可能性 を保ち相乗作用を発揮することを確保するために が低い.そのような家計は同投資を賄うための は,水平的な調整が必要である.例えば,健康保 融資を受けるべく,自宅を担保に使うこともで 険制度を創設・規制するのは財務省かもしれない きない.制度が弱いと腐敗が盛んになり,公的 が,その有用性は有能な医療ケア提供者の入手可 なリスク管理にとって障害になる.例えば,地 能性に依存し,それは厚生省の責任である.リス 震に影響されやすい都市で,契約業者が公共建 ク管理はさまざまなレベル(近隣地区から国や国 造物について建築基準を尊重しないという場合 際社会に至るまでの)で分担されなければならな である.第 4 章で示されているように,政府や いことから,垂直的な調整も極めて重要である. 地方自治体がリスクを管理できない,あるいは 官民共同の保険制度(国レベルで財務省が規制す それに消極的な場合には,コミュニティが基盤 る)は,地方レベルにおける土地利用計画や建築 となっている解決策が助けになり得る.学校建 基準などのリスク削減措置の実施(通常は地方自 設が建築基準を地方自治体が執行できないため 治体が主導する業務)とは独立的に設計すること に順守していない場合,コミュニティ――およ はできない.規模横断的な規制がなく,仮に地方 び子供をその学校に送り出す両親――が解決策 自治体が災害発生時に国家支援を当てにして,予 になる公算があろう.執行と順守が弱い状況下 防的措置を実施する誘因を削減するようであれ では,既存の建築基準の執行をより有効化すれ ば,「公的モラル・ハザード」が発生することに ば,著しい利益をもたらす可能性がある.例え なるだろう 40. ば,保険専門家の推定によると,1992 年のハリ  官民主体の間でも調整が必要である.洪水の影 ケーン・アンドルーによるアメリカの保険損失 響は民間主体の資源再配分能力と,公益事業や輸 額は,もし建築基準が完全に執行されていたと 送会社の基本的サービス修復能力に大きく依存し すれば,25%は削減できたであろう 39. ている.伝染病の影響は会社や団体が減少した労  資源の欠如は実現可能なことだけでなく,望ま 働力で業務を維持する能力に依存する.国家が民 しい解決策や措置の種類にも影響する.リスク管 間部門の専門知識に依存していることが多い分野 理にとっては,他の生産的な投資と同じく,「最 (サイバー攻撃やファイナンスなど)では,戦略 良の」技術は生産要素の相対的な稀少性に依存す の設計においては官民協調が重要な要素になる. る.資本と熟練労働が稀少で,未熟練労働が過小 そのような協調は次のような問題のため実行がむ 使用となっている途上国では,リスク管理の解決 ずかしいことが多い:文化・労働習慣の相違,プ 策は資本が安くて労働が高い先進国が選択するも ライバシーや業務上の守秘に関連した問題,民間 のとは確実に異なるだろう.特に高所得国のリス 主体による支配やレント・シーキング的な行動の ク管理戦略はハードなインフラ(大規模な堤防シ リスク,官民両サイドにおけるインセンティブ欠 ステムなど)に基づく公算が大きい.適切なリス 如など.最近の金融危機は,最善の措置を決定す ク管理措置は制度や執行の能力にも依存する.執 る際に規制当局が直面した困難を例証している. 行能力が限定的な場合,建築基準の強化はむしろ 主要なアドバイザー自身――金融部門の専門家― 状況を悪化させるだろう.順守のコストを引き上 ―が決定に大きな利害関係を有していたからだ げれば,基準を順守して建物の抵抗力を強くする (第 6 章参照). ことによるリスク削減よりも,総計ではリスク全  調整を促進・改善するためには,大勢の利害関 102 世界開発報告 2014 係者がリスク評価の意思決定プロセスとその実 ――は,その規則が最終的には自分たちを保護し . 施に関与することが必要である(ボックス 2.3) てくれることをしばしば認識しておらず,した 利害関係者の関与は情報を普及させ,リスク管理 がってそれを支持することは稀である.さらに複 政策の受容性を高めるのに有用なだけでなく次の 雑なのは気候変動のような事例であり,リスク管 ことも意味する.すなわち,分析の技術的な質を 理の利益は非常に長期にわたるため,受益者が誕 高め,リスク管理戦略の妥当性と適切な策定を確 生さえしていない(第 8 章参照). 保する 41.集団的なアプローチのおかげで,リ  分散した利益の存在は特に公共財に関する限 スクはその管理に最適な主体への移転が可能にな り,制度構築にとっては古典的な問題であり,多 る――例えば知識や資源へのアクセスがその主因 くの政府の失敗の原因でもある 44.政策のトレー になるだろう.例えば,自然災害に関するリスク ドオフは,例えば多種多様な利害関係者が陳情団 の管理では,調整を改善すべく一連の有望なイニ 体を通じてみずからを組織化する能力によってし シアティブが実施されている.それは情報交換と ばしば決定される.証拠が示すところによれば, 調整を担当する複数の省庁で構成される機関の設 透明性を増やし,分散した利害関係者に発言権を 置に基づいている.リスク管理の責任は 25%の 付与すると,利益団体による支配を回避し,政策 諸国においては最高位の部署(総理府ないし大統 決定を改善するのに役立つ 45.このような政治 領府)に,10%においては中央計画局ないし調 的な問題が,アスベストや含鉛ペイント,タバ 整局に置かれている 42.ペルーでは,災害リス コなどに関連したリスクを管理する多くの有名 ク管理の責任は大統領府内に設置された新機関に な取り組み悩ませてきた.このような事例の示 属し,したがって,各省庁を横断的に調整するこ 唆によると,たとえ健康に悪いということに関し とが可能となっている.しかし,調整行為によっ て十分に確立した科学的証拠が存在しても,強力 て費やされる時間と資源は過小評価されるべきで な陳情団体は健康に関する規則を阻止することが はなく,そのコストは公的資源が希少な諸国では できる.さらに,非政府組織や科学的組織,市民 重大かもしれない.公共部門がスキルに優れ,意 団体がこのような問題を世論に訴えて,このよう 欲の高い労働者を確保するのに苦労している場合 なリスクの規制に向けて広範な支持を生み出すの には特にそういえる. に,重要な役割を果たすということも証明してい る 46.つまり,リスク管理は強力な市民社会組 政治経済学的な問題がリスク管理を阻害する 織が独立的なリスク監査や評価を実施し,その結 政治経済学的な障害. たとえ資源が入手可能で 果を幅広く世論に伝達できる場合に,より効率的 あっても,政治家はそれをリスク管理に充当する になる公算が大きい.しかし,これを可能にする ことを躊躇する公算があろう.というのはリスク ためには,政府は次のようなことを確保すべきで 管理のコストは即座で,集中し,観察可能である ある:データへの自由なアクセス,結末に関する のに対して,利益の方は長期にわたり,より広く メディアやインターネット,社会的ネットワーク 分散され,しばしば目に見えにくいからだ.例え などを通じた自由な広報,告発者に対する何らか ば,新しい化学製品の使用や新しい地域の開発を の法的保護など.政府部局や民間の企業ないし団 規制する場合,公的な意思決定者は 1 つないし 2, 体で発生している不正や違法活動の容疑を通報す 3 社の収入に(化学製品の規制),あるいは人々 る人に対しては,多くの諸国が保護を提供してい の資産価値に(地主),瞬時に大きな影響を及ぼ る(アメリカでは初の通報者保護法は 1863 年に す 43.影響を受ける企業や人は当然ながらどの 制定されている).この方向に向けた進展が多数 ような制約にも反対し,それに関して非常に強硬 の諸国で達成されており,最近ではジャマイカや になる傾向があるだろう.一方,規則で保護され インドがそれに含まれる. る人々――汚染でマイナスの影響を受ける人や新 たに開発される地域のアパートの将来的な購入者 リスクに関して十分受け入れられた指標の欠如. CHAPTER2 理想の向こうに:リスク管理における障害とそれを克服する方法 103 ボックス 2.3 リスク管理を改善するための制度:国家によるリスク評価  危機や非常事態の防止やそのための計画に関連した政 に利害関係者の間で対立が発生するのを回避することに 策を改善するために,イギリスとオランダでは,国家リス 役立つ.オランダでは,洪水の際にはそういう事態になる ク評価(NRA)がそれぞれ 2005 年と 07 年以降実施され のが通例で,いくつかの地域が非常事態の管理に必要な限 ている a.両国では,NRA はリスクの種類や発生源(自然 定的な資源へのアクセスを求めて競合した.第 3 に,新 や技術,テロリスト,その他)とは無関係に,国が直面し たな主体の関与に有益であった.リスクや危機の管理にお ている主要なリスクを評価するために使われている.とも いては民間部門が重要な役割を担っており,NRA はリス に次のような類似したアプローチに基づいている:リスク ク管理戦略の策定に当たっては彼らを関与させてきてい の特定,シナリオの作成,リスクの確率ないし妥当性と影 る.最後に,NRA は多種多様なリスクの管理に充当され 響の評価,国家リスク行列の構築.図の行列は,主要なリ る資源の配分に影響を与える. スクを要約し,それを可能性(x 軸)と影響の大きさ(y  同じようなアプローチにしたがって,モロッコ政府は多 軸)に応じて配置してある. 重リスク・アプローチを検討中である.世界銀行と防災グ  このような評価の実施から重要で有益な教訓が得られ ローバル・ファシリティの支援を得て,モロッコは次の 3 ている.第 1 に,省庁や諸組織相互間の調整と協力に役 つの重要な分野でリスク評価を実施している:自然災害リ 「サイロ」効果(縦割り行政の弊害)を回避するこ 立ち, スク,商品価格の変動性,農業部門のリスク.同国は重要 とができる.ある 1 つのリスクを担当する省庁(例えば なリスクの評価に明示的に統合的なアプローチを採用し 流行病については保健省)は,NRA が各省庁を動員して ようとしており,今や特定したリスクを緩和するのに最善 情報の提供と対応計画を策定する(例えば,教育省は大勢 の方法に関する選択肢を策定し始めている.それには国家 の教員が病気になった場合に対処できるよう対応計画を リスク管理戦略の策定や諸制度の支援を通じることが盛 策定おく必要がある)のを支援したことを見出している. り込まれている. 第 2 に,それはトレードオフを想定していて,危機の際 イギリスは包括的なリスク管理枠組みを採用している 5 世界的流行の インフルエンザ 沿岸洪水 4 相対的インパクト全体の得点 噴出性火山噴火 激しい気象現象 その他感染性 3 重大な産業事故 重大な交通事故 低温・豪雪 内陸洪水 熱波 爆発性火山噴火 人畜共通感染症 2 嵐・突風 旱魃 治安騒動 1 人畜非共通感染症 破壊的争議行為 2 万分の 1 2,000 分の 1 200 分の 1 20 分の 1 2 分の 1 以上 -2,000 分の 1 -200 分の 1 -20 分の 1 -2 分の 1 この先の 5 年間に発生する相対的な可能性 出所:Cabinet Office 2012. 出所:Vastveit 2011 に基づき WDR チーム作成. a.Ministry of the Interior and Kingdom Relations 2009; Cabinet Office 2012. 104 世界開発報告 2014 十分に受け入れられているリスク指標が無いた グを通じて,多種多様な機関や組織(地方自治 め,意思決定者の実績を測定して,そのリスク 体やその土地利用計画も含む)におけるリスク 管理の選択肢について説明責任を問うこ 評価の実施とリスク管理の質の評価を担当 とがむずかしくなっている.公共 深い する(ボックス 2.3 参照;本書末尾 サービスの提供を管理・調整す 不確実性が存在する の「政策改革の焦点」も参照)。リ るのは,擬似的な市場――公共 状況下では,政策は幅広 スク評価を使えば指標を作成す サービス提供者の間で競争させ いあり得るシナリオにおい ることができ,世論がリスクに るために政府が創設・組織化し て頑健であり,将来の状況 敏感な政策策定に報いるのを後 た市場――における競争の潜在 に応じて修正することが 押しするだろう.諸機関や各地 性が限定的な場合や,サービス できなければならな 方相互間でリスク・ベースの競争 の質が容易に観察可能でない場合 い. を引き起こして,良いリスク管理を にはむずかしい 47.医療ケアはこの問 促進するかもしれない.国家リスク理事 題に関する一般的な適例である.すなわち,サー 会は垂直的調整問題の緩和に役立つだろう.影 ビスの質は直接的には観察可能ではなく,成果 響を受ける下位組織に対する国家支援が生み出 は非常に長期にわたって変化する可能性があり, す公的なモラル・ハザードを軽減するからであ 常に非常に不確実である.リスク管理もそれと る. 同じである.つまり,化学会社の逸失利益や失 職は測定可能で公表されているが,一部の発癌 事前にはある政策を選好しても,実際に実行に 性製品の禁止に伴うリスク削減は測定が容易で 移す時が来ると別の政策を選好する(時間的不 はない.一般的に災害救援は即座で適切である 整合性).災害あるいは危機の後,政府は事象前 が,予防は目に見えにくく測定がより困難であ の公約に矛盾するような形の措置に興味を示す るという事実のゆえに,意思決定者の説明責任 ことが時としてある.最近の重要な事例を取り を問うのが困難で,したがって,より費用効果 上げてみよう.金融部門における過度なリスク・ 的でない事後的な措置に偏った支出決定につな テイキングを回避するために,政府は破綻した がるのである. 金融機関を救済しないという約束を示唆してい  リスク管理措置の時間的視野が長く,指標が た.しかし,大手金融機関が実際に破綻すれば, 無いということは,公的リスク管理に競争を導 政府はそれまでの公約にかかわらず,救済に関 入することも困難であることを意味する.理論 心を示すことになるだろう.このようなインセ 的には,地方相互間の競争はリスク管理にとっ ンティブは戦略全体の信頼性を削減して,強力 てはインセンティブになるはずであろう.各地 なモラル・ハザード問題を生み出す.このよう 方は経済活動に対する地方税をしばしば当てに な問題は多くの政治課題が短期間での解決を求 しており,どの地方に投資しようかと考えてい められているのに,リスク管理の成果が観察可 る民間主体にとっては,各地のリスク水準が決 能になるまでには長い期間が必要であるという 定要因になる.しかし,リスク水準は直接的に 時間の隔たりによって増幅されている.災害救 観察可能ではなく,良いリスク管理措置がリス 援は配給を投票日の近くにしたり,与党に投票 ク水準の低下の実現につながるまでに数十年が する地域を対象として絞り込んだりするなど, 経過してしまうだろう.したがって,リスク管 日和見主義的に利用することさえ可能である 49. 理の良し悪しを識別するのに競争はほとんど活 用できない.そのような状況では,規制面での 分配問題. すべてのリスク管理政策は富や権力 アプローチが機能する可能性が高い 48.有望な を再分配する.最悪の場合,貧困層や脆弱層に 選択肢は国家リスク理事会を創設することであ 有害な影響をもたらし,公平性という重要な問 る.この理事会はリスク監査やベンチマーキン 題を提起する.例えば,地震や洪水に対する強 CHAPTER2 理想の向こうに:リスク管理における障害とそれを克服する方法 105 靭性を改善すべく建築コストを引き上げると,非 ような場合,代替的な結末の確率を定義したり, 公式な定住地の居住者は適切な住居を手に入れる 一連の可能な将来(有名な「ブラック・スワン」 のがさらにむずかしくなる公算があろう.ジャカ のように極めて起こりそうもない事象を含む)を ルタでは典型的な住居を耐水化・耐震化する費用 特定したりすることさえ不可能であろう 54.あ は平均で 3,100 ドルであり,これは同国の 1 人 るいは,多種多様な結末の確率に関する共通の推 当たりの年間 GDP を若干下回る程度である 50. 定を通じて,意見の相違を調和することは不可能 タバコに対する物品税――若者の喫煙を開始した であろう.「深い不確実性」という状況は「大き り中毒になったりするのを防ぐのに効率的な手段 な不確実性」という状況とは違う.後者では,知 ――でさえ,貧困層に対するコスト増のため批判 識が限られているため,あり得る結末の範囲が非 を受けている 51.このようなマイナス効果を緩 常に広くても,多種多様な主体がさまざまな結末 和するためには補完的な政策が必要であり,リス の確率や価値について合意できる.深い不確実性 ク管理のポリシー・ミックスには大多数に受け入 という状況下では,多種多様な利害関係者や専門 れられ,最貧層を害さないようにするために,再 家の意見が異なり,彼らは大きな不確実性の存在 分配措置を盛り込む必要があるだろう 52. についてさえ合意できない可能性があろう.この  この文脈で言うと,条件付き現金給付はリスク ような状況は膠着やコンセンサスの欠如,いかな 管理の面におけるプラス効果だけでなく,再分配 る措置に対しても強い政治的な反対,したがって 面における貧困層に対する利益の両方をもたらし 麻痺状態につながる.これは次のような場合に特 得ることが判明している.例えば,ブラジルの家 に管理が困難である.すなわち,大きな不可逆的 族手当プログラムは近年における不平等と極貧の な損害が起こり得る場合,より多くの情報が入手 著しい削減の主要な牽引力になっているだけでな 可能なるまで決定を延期できない場合,政策や技 く,個々人のリスク管理の改善にもつながってい 術の選択肢が「もろい」――つまり,設計の小さ る.このプログラムの基本的な考えは貧しい家計 な誤りに非常にセンシティブである――場合な に毎月現金給付を実施するが,健康診断を受ける ど. など一定のリスク管理行動の順守,子供の発育の  不確実性はリスク自体だけでなく,実施される 監視,妊産婦については十分なケアの追求などを リスク管理措置やその効率性,副作用などを巡っ 行うことが条件である.プログラムはこのような ても存在するため,問題は一層複雑になる.実 健康条件についてはほぼ 100%の順守率を達成 際,リスク管理政策の結末すべてを予想すること し,したがって貧しい 1,100 万世帯の健康リス は不可能であり,受け入れがたい副作用をもた ク管理の改善に成功している. らしたり,他のリスクを生み出したりする政策 もなかにはある.エチオピアのコカ貯水池がこ 不確実性は時として深刻である の問題を例証している.これは農業用に貯水し,  時として,リスク管理の方法に関する情報が存 食料の安全な確保を改善するために建設された 在せず,決定は深い不確実性として知られる状況 が,蚊の集団や健康に与える影響を予想してい 下で行われることがある.このような事例は専門 なかった.その結果,貯水池から 3 キロメート 家が次のようなことに関して合意できない場合 –  ル以内のマラリア罹患率は,この池から 6  9キ に発生する.すなわち,どのモデルを使うべき ロメートル離れた場所に住んでいる人の 2.3 倍 か(例えば,動物の健康への影響の分析結果を人 に達している 55.小規模なダムの周辺ではマラ ,重要な不確実性パラ 間にどう適用するかなど) リアの罹患率がエチオピアの他の地域の 7 倍も メーターの確率分布(経済成長がない期間が長 の高さになっている 56.そのような副作用は必 期化する確率など),および代替的な結末の価値 ずしも常に避けられるものではなく,監視を行っ (著しい気候変動の場合にアマゾンの森林が全損 て管理していくことが必要である 57. することは受容されるかなど)である 53.この  不確実性は「新興リスク」――科学的な不確実 106 世界開発報告 2014 性が最大の分野(遺伝子組み換え作物や水力発電 政策の影響にかかわる評価が含まれる 59.この 用のダム,原子力エネルギー,気候変動など)― ような場合,さまざまな利害関係者は計画が基盤 ―において特に深い.一般的な事例は地方の気候 にすべき「最もありそうな」将来に関して,ある が将来的にどう変化するのかに関する不確実性で いはある措置の「最もありそうな」結末につい ある.多種多様な科学チームが技術的な仕様が異 て,合意できることが稀である.さらに,仮に将 なる気候システムのシミュレーションを行ってい 来のリスクや事象がこの最もありそうな事例から るが,このような気候モデルは広く受け入れられ 乖離するとすれば,合意することは危険であろ ている同じ物理の法則に基づいている.また,こ う. のようなモデルは気候変動の大きなパターンにつ  行動を麻痺させかねない深い不確実性の特殊事 いては合意しているが,地方における規模や一 例は,規制や政策にかかわる不確実性である(第 部のパラメーターについては逆向きになってい 5 章参照).再生可能エネルギー技術を利用して る.例えば,西アフリカの降水は今世紀末までに いる企業は,例えば,環境規制や政策的に決定さ 25%増加するか減少するかはモデルによって異 れる炭素価格から影響を受ける.それらは政策の .そのような不確実性は地域の なる(地図 2.2) 逆転に非常に脆弱であり,この不確実性はリス 洪水や旱魃に対処できる水インフラの設計にとっ ク・テイキングや革新にとって重大な不確実性に ては,明らかに障害である.将来のエネルギー需 なる 60. 要を予測する専門家の能力も失望させるもので  不確実性が深いあるいは大きな状況下では,不 あった 58.医学やエネルギー,情報通信技術に 確実性下での意思決定にかかわる多数の伝統的な 起こった急速な技術発展を予測した人はほとんど 方法は適用が困難である.さらに,自信過剰を支 いなかった. 持したり,あるいは不確実性の推定値の提供に反  分析の中心にある前提に関して専門家が合意で 対したりする多くの明確な偏見は特に危険なもの きず,そのため調整不可能な結果に到達するとい になる 61.代替的なツールの方が,不確実性の う事例(チャールズ・マンスキーという経済学者 存在と程度を伝えることや妥協,より共感が得ら が「決闘に値する確信」とレッテル貼った状況) れる解決策,および選択肢を発見するのに有益で は他にもたくさんある.このような事例には医療 ある.ここでの選択肢は,異なる信条や価値観を ケア制度改革の財政面での結末――医療慣行がど 持つ利害関係者にとって,傷つけることなく,よ のように推移していくかに関する大きな不確実性 り受け入れやすいものでなければならない.その を伴う――や,コカイン消費を削減するため各種 ような場合,幅広い範囲のシナリオのなかで受け 地図 2.2 憂慮すべき将来:アフリカにおける降水量の変化は モデルによって非常に異なる CCSM3 GFDL-CM2.0 出所:Intergovernmental Panel on Climate Change (IPCC) 2007. 注:地図は 2 つの相異なる気候モデルからのシミュレーションを示す. 茶色の地域は年間降水量の減少を示し,緑色の地域はその増加を示す. CHAPTER2 理想の向こうに:リスク管理における障害とそれを克服する方法 107 入れ可能な結末につながり,新しい情報が入手で ダイヤグラム 2.2 不確実性に直面するなかで確 きたら,あるいは状況が変わったら修正可能な, 固とした行動を促進するための意思決定にかかわ 適合的で確固とした政策を実施することが好まし る反復的プロセス い 62. 不確実性とあり得る  そのような政策の設計について多くの方法論が シナリオに関するマルチ ステークホルダー分析 提案されているが,最善のアプローチは状況次第 あり得るシナリオは? である 63.「確固とした意思決定」はそのような 既存プランにかかわる 方法の 1 つである.反復的なプロセスがダイヤ 脆弱性の特定 実施と学習 グラム 2.2 に示されている.それは,多数の利害 自分のプランが失敗する のはどのシナリオか? 関係者は脆弱性とそれを削減する選択肢を特定し て実行するが,新しい知識を使って適切なモニタ プランの調整とモニタリング・ システムの導入 リングと修正を施す,というものである.その利 このようなシナリオのなかで失敗を 点は次の通りである.すなわち,すべての主体が 回避すべくプラン変更が可能か? 自分のプランが失敗の瀬戸際にあることはいつわかるか? 最もあり得そうな将来や,多種多様なあり得る結 コースを変える時にできることは何か? 末の価値について,決定の前に合意する必要はな 出所:WDR 2014 チーム. い.また,一定の決定にとって重要でない不確実 性を特定するのに役立ち,したがって,プロセ スの焦点を最も重要なことに絞ることができる (ボックス 2.4).このアプローチでは次のことが フラで防護可能なはずであっても,早期警報シス 明示的に認識されている.つまり,各主体が抱い テムは有益である. ている価値観や信条はそれぞれ異なり,このよう  シナリオの可能性と,不確実かもしれないが, な価値観が決定にもたらす影響は,他の方法(価 あり得る事象を幅広く想定する必要性の間で調整 値観や選好が複雑な価値評価手法で把握されてい を行う必要がある.この調整は定義がむずかしい る費用便益分析など)よりもより明確になってい (ボックス 2.5 で検討されている予防原則の適用 る.その結果,利害関係者の間に対話を生み出す で例証されていように).意思決定者は起こり得 のに役立ち,より広く受容される解決策に関する ると予想されることの評価において保守的すぎる 合意への到達を円滑化する. 傾向がある.イギリスの国家リスク管理は,この  とりわけ意思決定者は,最もありそうな結果を 問題を「合理的な最悪のシナリオ」の利用を通じ 想定して設計されていて,最もありそうもない事 て対処したが,そのようなシナリオの設計におい 象に対する脆弱性を高めるようなプランは回避す て客観的な方法はなく,主観的な判断が常に必要 べきである.津波や台風による高潮に対して防 になるだろう.この主観性は,シナリオの策定お 護するために建設した巨大な堤防は,沿岸地帯 よび選定は,専門家と密接に協働しながら政策当 では投資を促進するかもしれないが,堤防の設 局が行わなければならないことを意味する(ボッ 計水準を凌駕する例外的な事象に対する脆弱性 クス 2.2). を高める 64.極端な事象を考慮に入れるために は,一連のシナリオ――確率は低くてもインパク トが大きいものを含む――を定義し,このような すべてを総合する:政策の順序 事例におけるプランやプロジェクトの頑健性を評  ダイヤグラム 2.3 はある所与の状況におけるリ 価することが必要になる.このような極端なシナ スク分析を助ける一連のスクリーン(「ふるい」) リオのなかで,脆弱性を削減する低コストないし を示したものであり,リスクそのものの評価から ゼロ・コストの選択肢がしばしば特定・実施され 始まっている.しかし,有効な公的政策の設計は ている.例えば,すべての洪水は堅牢な保護イン リスク評価を超越して,ダイヤグラム 2.1 やそれ 108 世界開発報告 2014 ボックス 2.4 ホーチミン市では洪水のリスクに対処するために頑健な意思決定方法を適用  低地にあり,人口 740 万人を擁して高成長を遂げてい を巡る不確実性は洪水防御システムの設計にとって問題 る首都ホーチミン市は,規模が大きく,しかも増大しつつ ではない.しかし,現行プランは気候変動から受けると ある洪水のリスクに直面している.同市の計画局は統合 予想される影響に対して十分頑健ではないかもしれない. 的な洪水リスク管理戦略の実施を追求している.しかし, 「ベースライン」 現在計画されているインフラ( )にもっぱ 戦略の選択に影響する多くの要因――将来の人口や経済 ら依存することで,リスクが最近の水準を下回るのは次の 成長,気候変動が降雨や海水面に及ぼす影響など――は極 場合だけである:降雨の強度が約 5%以下の増加にとどま めて不確実である.研究者はホーチミン市の洪水管理運営 り,サイゴン川の水面上昇が 45cm 以下にとどまる(図参 センターと協働して,デモンストレーション・プロジェク .さまざまな科学的推定の示唆によれば,この下限は 照) トに着手した.それは Nhieu Loc-Thi Nghe 運河流域を事 ともに今世紀半ばまでに超過される可能性がある.RDM 例研究として使いながら,頑健な意思決定(RDM)がど 分析は降雨の強度が 35%増大し,サイゴン川の水面上昇 のように洪水管理を改善できるかを分析するためであっ が 100cm に増大した場合でも,リスク削減が確保できる た.分析では 12 のさまざまなリスク管理手法――住宅を 追加的措置が検討されている.このような措置は市が適合 高くしたり,低地から後退させたりするなどの選択肢の 化プラン――それは一部の措置を今,そしてさらに必要に 組み合わせでそれぞれ構成される――を探求した.各手法 応じて将来さらに追加する――を実施すれば削減可能で は 1,000 件ものシナリオについてシミュレーションされた あろう.RDM 分析の結果を受けて,政策当局は特定戦略 が,各シナリオは将来における社会経済面での開発状況や の頑健性面での利益を評価し,リスク選好や利用可能な予 気候変動にかかわる 6 つの異なる前提で構成されていた. 算に対して関連のあるトレードオフを検討することがで  RDM 分析の発見によれば,現行のインフラ計画は将来 きる.全体として,分析結果の示唆によれば,このような の状況に関する最良推定値におけるリスクを削減する.さ 追加的な措置はホーチミン市のリスク管理計画の頑健性 らに,この計画は広範なあり得る将来の人口や経済のトレ を著しく改善するだろう. ンドに対して頑健である.したがって,このような側面 各種リスク管理戦略および河川水位と降雨強度の増加に対するその頑健性 110 安全地帯への移転 全選択肢 雨水の取り込み (17%,100cm) (32%,100cm) 100 (10%,100cm) 適応装置で高架・移転 90 地下水・雨水 地下水・雨水 地下水・雨水に (26%,100cm) (14%,85cm) 適応装置で対応 80 高架・移転 高架・移転 (21%,100cm) サイゴン川水位の上昇(㎝ ) (17%,100cm) Lempert, Sriver, and Keller 70 SLR 推定値(75cm) 60 地下水の管理 建物の高架 (7%,55cm) (23%,55cm) 50 ベースライン (6%,45cm) 40 30 MONRE SLR 推定値(30cm) 20 10 IPCC SREX IPCC SREX 中水準値(20%) 高水準値(35%) 0 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 降雨強度の増加(%) 出所:Lempert 他 2013 に基づき WDR 2014 チーム作成. 注:図中では潜在的な降雨と河川水位に関して異なる推定値は青色の矢印線で示されている.MONRE=Ministry of Natural Resources and the Environment (Vietnam):天然資源環境省.SLR = sea level rise:海面上昇.SREX = IPCC special report (IPPC 2012). CHAPTER2 理想の向こうに:リスク管理における障害とそれを克服する方法 109 ボックス 2.5 リスクに直面した際の予防措置:費用便益と予防原則の間で調整を図る 「予防  リスクに直面した際の予防措置は多くの諸国で, 1 バージョンにしたがっているようである.マーストリヒ 原則」という形で公式化されている.この原則に関して ト条約(1992 年)は環境に関する EU の政策は「予防原 は厳しさの水準が少しずつ増加する観点から,3 つのバー (130R 条)と述べてい 則に基づいていなければならない」 ジョンが Wiener and Rogers によって指摘されている: る.2000 年にヨーロッパ委員会が公表した通達は次のよ 「深刻ないし不可逆的な損害の脅威があ うに述べている: ・ (十分な 「不確実性は何もしないことを正当化しない」 る場合,完全な科学的確実性の欠如は環境劣化を阻止す . 科学的確実性なしでも規制できる) るための費用効果的な措置を延期する理由に使ってはな ・ 「不確実性は確かに行動を起こすことを正当化する」 .通達は実施の指針を提供している.それは予防 らない」 . (危険の可能性がある時には規則が必要とされる) 原則が麻痺や自己矛盾につながらないことを確保するた ・ (潜 「不確実性は負担と立証基準の変更を必要とする」 めである.それが勧告する措置には次のような特徴があ 在的にリスクを伴う活動はこの活動の支持者がリスク る:一時的である(より古典的なリスク分析を実施する がない,または許容される範囲内にとどまるというこ ;比例 のに必要な情報を収集するための計画が含まれる) . とを証明できるまで禁止される) 的である(脅威は「深刻」で措置は「費用効果的」でな ;リスクの存在に関する顕著な証拠に基 ければならない)  予防原則の実施は明示的なこともあれば暗示的なこと 「完全な確実性は必要ないが,脅威は信頼できる必 づく( もある.ドイツ法では 1970 年代以降,Vorsorgeprinzip ;費用便益の評価に基づく. 要がある」 (予防原則)への言及があり,フランスでは 2005 年に国  予防原則を実施するのが困難な場合もある.予防は一 「予 家の憲法に予防原則が盛り込まれた.アメリカでは, 部のリスクを阻止することができるが,経済的コストだ 防的措置」の概念が裁判所の決定や法律・規則で頻繁に けでなく新たなリスクを提起することもある.予防原則 引き合いに出されている.例えば,環境保護局は 1970 を巡る議論は時によって白熱化することがある(コスト 年代に有鉛ガソリンを禁止した.ただしその時,禁止の が高い,リスクは低い,あるいは偽装した貿易保護主義 利点はまだ不透明であった.同措置は今では子供の鉛に .しかし,政策策定におけ であると批判者が感じる場合) 関連する学習障害の減少にとって費用効果的な牽引力で る実際の適用の真相はアメリカや EU,あるいはその他諸 あったとされている.しかし,アメリカはすべての規則 国の間でも極めてさまざまであり,コストとリスクに関 に最も重要な予防原則を採用したわけではない.1970 年 する懸念が真の政策選択を規定していることが示唆され 代後半以降,アメリカのどの大統領も代わりに,規則の る.このような問題は次のことも示唆している.すなわ 費用便益に関してインパクト評価を要請するようになっ ち,特に低所得の環境下では予防アプローチをどのよう た.予防原則は国際的なレベルでも認められている.例 に適用して運営していくかに関しては,さらなる学習と えば国連環境開発会議の 1992 年宣言はこれを認めている. 反復的なプロセスが必要である.  ヨーロッパ連合(EU)はいくつかの分野では原則の第 出所:以下に基づき WDR 2014 チーム作成――Charnley and Rogers 2011; European Commission 2000; Wiener and Rogers 2002; Wiener 他 2011. 以前に説明したリスク管理の障害を分析しなけれ 情報の提供が決定の質を改善するのに極めて ばならない.政策当局がリスク管理分析の実施を 重要である. 検討する際の順序は次の通りである: 3. 時としてインセンティブが正しく情報が良く ても,言動の変化を引き起こすことができな 1. 個人や企業はリスク管理に失敗する可能性が い場合がある.認知の失敗と行動のバイアス ある.というのは,(官民の)意思決定者は を是正するためには,個別の措置が必要とさ リスク・テイキングが過多か過少かのいずれ れる. かの方向に歪んだインセンティブに直面して 4. 利害関係者はリスク管理の改善に前向きで いるからだ.このような状況は優先課題とし も,資源が欠如しているためにそうできない て特定し,是正される必要がある.なぜなら 公算があろう.この場合,追加的な資源の供 ば,悪いインセンティブが存在するなかでは 与――直接的でも間接的でもよい――が有益 他の措置は有効ではあり得ないからだ. だろう. 2. 仮にインセンティブが正しいとすれば,良い 110 世界開発報告 2014 ダイヤグラム 2.3 リスク管理に対する障害を評価して政策対応を策定するための一連のスクリーン 情報へのアク リスクの評価 インセンティブの評価 行動の評価 資源の評価 政策設計 セスの評価 どの程度の 悪いインセンティブがリスク・テイ 意思決定者は 行動のバイアス 資源と資源ア どの政策を実施すべ リスクに直 キングの過剰ないし過小につながっ 情報不足か? はリスク管理を クセスはあま きか? 面している ているのか? 阻害している りに限定的に のか? か? すぎるか? 市場の失敗が 政府の失敗が 原因か? 原因か? 規範や規則を導 制度を構築 データの収集・ 教育・情報キャ 公共財・サー マルチステークホル 入(土地利用計 普及を改善 ンペーンを打ち ビスを提供 ダーによる反復的意 画など) 能力を構築 出す (堤防や排水 思決定方式を採用 教育・情報キャ システムな 市場手段の創設 垂直的・水平的 ンペーンを打ち 規範や規則を導 ど) 頑健で柔軟な解決策 (リスク・ベー 調整を改善 出す 入(建築基準な を選択 スの保険など) ど) 市場を構築 悪いインセン 規範や規則を導 最悪のシナリオを ティブを是正 入(土地利用計 低所得・脆弱 考慮 画など) 家計に対する 再分配手段を導 公的支援を供 モニタリング・シス 入(バイアウ 与 テムへの投資 ト・プログラム など) 予防に焦点を 政策を定期的に修正 絞った国際援 i 助を供与 出所:WDR 2014 チーム.  この順序は一例にすぎない.実際には,このよ なマイナスの副作用に対処するには,補完的な措 うな配慮のうち,第 2,第 3,第 4 は最初に,あ 置が必要かもしれない 65.他の措置(堤防建設 るいは他のものと同時に起こることがあろう.し への直接投資など)はより高価であるため,より かし,このようなスクリーンをこの順序で適用す 後の段階で考慮すればよいだろう. ると,最初に取り組む必要がある重要な欠落部分 を特定し,そのプロセスで非常に有効な比較的低 コストの介入策(市場手段や調整の改善を通じた 障害を乗り越える方法:政策の優先順位を選 インセンティブの是正など)を早期に明らかにす 択する るのに役立つだろう.  政策当局はどうしたら,リスク管理改善のため  理論的には,インセンティブを是正するこのよ の強固な基盤を長期的に構築することができるだ うな措置は長期的には採算がとれるはずである. ろうか? 直面する障害を所与とすると,むずか というのは,外部性と市場や政府の失敗を是正す しい選択をしなければならない.その選択は実際 るからだ.しかし,短期的にはコストが高く,長 的でなければならない.その選択は時として次善 期的には解決が困難なトレードオフがあるかもし の策にとどまるに違いない.つまり,理想以下で れない.また,分配面が大きな影響を受け,政治 あり,望ましくないほどに限定的であろう. 的には高いコストを伴う可能性がある(一部の主  このような政策を行う際,政策当局は今実施で .総合的なコストが低 体が措置に反対する場合) きるが,後で改善が許されるような措置を選択す いないしマイナスといっても,同政策の実施が容 べきである.このような実際的なアプローチは第 易だということではない.政治的な障害や短期的 1 章の終わりの方で検討した 5 つの政策原則に基 CHAPTER2 理想の向こうに:リスク管理における障害とそれを克服する方法 111 づくものであり,具体的な優先順位につながる. 改善して,好循環につながる.悪い方向へのイン センティブの排除は極めて効率的で比較的安価な 現実的であれ ことがある.ただし,その実行は容易ではないか 単純にせよ.能力が低い場合,たとえ理論的には もしれない.例えば,エネルギー効率の悪い輸送 効率性が劣っても,単純なリスク管理手段を選好 手段や暖房を促進して,地元の大気汚染に伴う健 すべきである.例えば,単純な規則は市場性商品 康リスクを高める化石燃料補助金を標的にするこ に基づいた複雑な(理論的にはより効率性が高 とができるだろう.さまざまな性格のリスクの管 い)アプローチよりも執行が容易であろう.適例 理において総じて有益な能力の強化は特に費用効 として南アフリカの自動車保険をみてみよう.そ 果的である 68.例えば,大規模な避難を管理す こでは燃料税が自動車の第三者保険の支払いを賄 る能力は,理由が洪水か技術的な事故かに関係な うのに役立っている.そのようなアプローチは制 く同じである.また,ショック後に現金給付の規 度が弱く,強制的な自動車保険の執行がむずかし 模を速やかに拡大する能力も,そのショックが自 いという環境下では,事故の被害者に対する単純 然災害であるか経済危機であるかには関係なく同 で効率的な補償方法を提供している 66.現地の じである. 能力と資源にとって適正な解決策の選定が,不必 要な害や過剰なコストをもたらしたり,リスク管 長期的なリスクの管理の改善に向けて強固な基盤 理が意図せざるマイナスの政策結果や政治経済学 を構築せよ 的な反発を通じて,新たなリスクを生み出したり 大惨事の後など,制度的な取り決めの必要性が全 しないことを確保するには,特に極めて重要であ ての人にとって自明で,事態の記憶が消滅しても る. 容易に逆転できない場合には,それを創設せよ. そうすることは,リスクや災害に関する人々の忘 技術を現地事情に合わせよ.最新の技術を採用す 却がもたらす一部のマイナス効果を阻止するのに れば,途上国のリスク管理に有益であろう.技術 有益であり,政治経済学的な挑戦に関連した実施 移転は役に立つ.例えば,最新の医薬品やワクチ 問題を補償する.政策当局は,偶発事象が発生す ンを世界的に入手可能にすればよい.しかし,必 るまで,そのような制度変更の開始を待つべきで 要なのは単なる技術移転ではなく,現地のニーズ はないが,そのような状況下での市民意識の高ま や社会規範,制約に適合し,したがって採用が最 りは,リスク管理にかかわる最善慣行の制度化に 大になるような技術の適合化である(スポット 向けた弾みと支持を増やすだろう.例えば,オラ ライト 1 参照).途上国のリスク管理で成功して ンダは 1953 年の洪水に対して,地域別に許容可 いる革新はしばしば近代的技術に依存してはいる 能な最大限の洪水リスク水準を設定するという形 が,常に複雑な適合化のプロセスを通じている. の対応をみせた.この限度は法的に固定化され, 例えば,バングラデシュのハリケーン早期警告シ 人々が時の経過に伴って洪水管理を無視すること ステムは,近代的なハリケーン追跡予測技術を技 を困難にした 69.長期的なリスク管理を奨励し, 術水準の低い現地で設計された通信ツールと組み リスク削減措置の調整を後押しする不可逆的な制 合わせている.後者には携帯拡声器や自転車に取 度変更を行うためには,国家リスク理事会の創設 り付けた拡声器,戸別連絡などが含まれる 67. も 1 つの選択肢であろう. 簡単に達成できることと万人に好都合な解決策に インセンティブを変更したり,あるいはそれを 集中せよ.非常に有効な比較的低コストの介入策 より有効にしたりするソフトな措置から始めよ. を優遇すべきである.ムンバイで雨水排水管を掃 ハードな措置(堤防など)や複雑なリスク分担の 除すれば洪水抑制に有益だろう.それだけでな 仕組みは,もしインセンティブそのものがリス く,それは近隣地区の健康や衛生や生活の質さえ ク・テイキングを過剰ないし過小にする方向に歪 112 世界開発報告 2014 んでいたとすれば,効率的で持続可能である公算 はリスク管理アプローチをどう適用するかにつ は非常に低い.インセンティブに関連したリスク いては,さらなる学習,および監視と学習の反 管理を巡る障害は,優先課題として特定し是正す 復的なプロセスが必要である 70.学習を最大化 る必要がある.それは制度的改革,経済的手段 する 1 つの方法は,経験が体系化および国際化 (規則や市場手段),広報・情報キャンペーン,行 されている他の分野から学ぶことである.一例と 動科学的アプローチなどを通じることになろう. しては,国連の専門機関である国際民間航空機関 ソフトな措置で始めれば,リスク管理における (IATA)がある.航空事故捜査の手続きを規定 ハードで資本集約的な解決策の方向に傾いた歪み し,結果を共有し,だれもが他人の過ちから利益 を――より安価で柔軟な制度的解決策が利用可能 を享受できることを保証している.日本政府と世 な場合でさえ――是正することができる. 界銀行が後援した「大規模災害から学ぶ」という プロジェクトは,2011 年 3 月 11 日に発生した 柔軟な解決策を選んで学習のなかに組み込め.不 東日本大地震に関する情報やデータ,評価を収集 確実性や信条,価値観,および感受性の相違に対 し評価している.その目的は災害リスク管理と災 処するために,政策当局としては次のような頑健 害後の復興に関する日本の知識を,災害に脆弱な な政策を指向すべきである.すなわち,それは最 他の諸国と共有することにある.リスク――健康 もありそうな将来においては最適でないかもしれ や交通事故のリスクから大規模災害に至るまで― ないが,幅広いシナリオのなかで許容できる結果 ―に関する情報を共有する国際社会の能力を改善 につながり,適合的で弾力的な政策である.ま することは,より頑健な戦略の策定にとって有用 た,新しい情報が利用可能になるのに応じて容易 な忠告になるだろう(第 8 章参照). に修正できる政策である.特に低所得の環境下で CHAPTER2 理想の向こうに:リスク管理における障害とそれを克服する方法 113 注 35. 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PATI は貧困率が高い都市を対象にしており, 参考文献 若年層と女性世帯主という失業率が平均より高 エチオピア い 2 つのグループを優先している.このプログ Hobson, Matt, and Laura Campbell. 2012. “How Ethiopia’s Productive Safety Net Programme Is Responding to the ラムは 2009 年に 2 つの都市で実験として始め Humanitarian Crisis in the Horn.” Humanitarian Exchange Magazine 53 (March). られたが,10 年には激しい嵐に見舞われた 11 Subbarao, Kalanidhi, Carlo del Ninno, Colin Andrews, and Claudia の都市にすぐに拡張され,12 年までに受益者は Rodriguez-Alas. 2012. Public Works as a Safety Net: Design, Evidence and Implementation. Wash­ ington, DC: World Bank. 36 都市の 4 万人に達した.また,都市部のイン World Bank. 2010. “Designing and Implementing a Rural Safety Net in a Low-Income Setting: Lessons Learned from Ethiopia’s フラの修復や受益者の食料消費の円滑化に有益で Productive Safety Net Program 2005–2009.” World Bank, Washington, DC. あることが証明された.世界銀行の暫定的な評価 ———. 2012. “Before Crisis Hits: Can Public Works Programs は,PATI は就職準備の改善や起業にかかわる積 Increase Food Security?” From Evidence to Policy. 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Soares, Fábio Veras. 2012. “What Is Happening with El Salvador’s CCT Programmes?” One Pager 168, United Nations Develop-  エルサルバドルは小さな比較的貧しい国であり ment Programme, Brasilia. ながら,いくつかの複雑なセーフティネット・プ World Bank. 2010. “Accessing Good Quality Jobs: Priorities for Education, Social ­Protection, Science and Technology.” World ログラムを設計し,その実施に成功している事例 Bank, Washington, DC. ———. 2012. “The Evolution of Poverty and Equity in El Salvador, である.政府は国際的な慣行から学習し,プログ 2000–2010.” ­ Unpublished manuscript, World Bank, Washington, ラムを自国の状況に適合化された上で若干の革新 DC. を追加した.これには次が含まれる:CCT とイ ンフラを改善し所得を創出するための活動と組み 合わせる,受益者の生計手段にかかわる長期的な 改善を円滑化するための訓練を,短期的な所得扶 助供与の条件とするなど.食料不足と貧困の削減 に対する政治的な公約が,エルサルバドルの成功 の重要な要素であった.政権が数回にわたって交 代しても,このプログラムは継続的に策定されて きた.順序を追ったアプローチがもう 1 つの特 徴であった.17 の貧しい農村コミュニティにお ける小規模な農村部セーフティネットから開始さ れ,政府は行政能力が改善するのに伴って徐々に 多くの農村部や年金の部分を追加し,そして今や 都市部にまで拡張しつつある.政府は現在,援助 機関と協働して,ライフ・サイクル全体にわたる Ⅱ PART 重要な社会システム 120 世界開発報告 2014  インドネシアで同居している三世 代.家族はリスクを管理するために, 個々人のエネルギーや資源を共同して 出し合うことによって強靭性を高める ことができるが,内外の障害によって, それを効率的に行う能力が制約されて いる. ©Curt Carnemark/World Bank 121 CHAPTER 3 家計はリスクに対抗し機会を追求するための 第一線の支援である 良い時も悪い時も一緒 得られるということを意味する.店か  シャムスン・ナハールと彼女の ら得られる着実な所得のおかげで, 家族は,貧困から脱するために 彼女は自分と娘のための必需品 苦闘しながら,良い時も悪い は賄うことができる.しかし, 時も互いに助け合ってきた. シャムスンは娘の結婚に十分 シャムスンは 44 歳で,16 歳 家庭 な貯金ができるかどうかを心 の娘と一緒にバングラデシュ 配している.また,資産が限 中部の村に住んでいる.2 人 定的であるため,病気を初め の息子がそれぞれの妻と一緒に とするマイナスのショックに脆 近くで暮らしているが家計は別で 弱であると感じている 1. ある.長男とその家族はダッカで生活し  この物語は脆弱な家族が直面している ている. 一部のリスクと,みんなで力を合わせて強靭性  15 年前,当時 35 歳だったシャムスンの夫モ を構築する方法を示している.大きなショック バラク・モラは初めて結核の症状に気付いた. を受けると,貧困層は高価な対応措置を採用せ 適切な治療を受ける費用を工面できなかった彼 ざるを得なくなって後退を余儀なくされ,貧困 は 40 歳で亡くなった.夫妻は約 1 エーカーの土 を脱出する能力が損なわれることがある.それ 地と牛を所有していた.モバラクが亡くなった とは対照的に,人的資本に投資し,金融・実物 時,シャムスンは葬儀の費用を負担し食料を買 資産を蓄積し,家族の間でリスクを分担するこ うために,牛を売らなければならなかった.3 人 とができる家族は,ショックに対して強靭にな の息子は引き続き畑で働いたが,牛がいなかっ り,機会の追求という点でより良い立場に到達 たために他の農民と畑を共有しなければならな できるだろう. かった.したがって,彼らの収穫は少なかった.  ジャン = ジャック・ルソーは『社会契約論』 シャムスンは何とか徐々に状況を改善していっ のなかで,「すべての社会のなかで最古かつ唯一 た.それは村の貯蓄グループと地元の非政府組 自然なのは家族という社会である」と書いてい 織(NGO)から獲得した 2, 3 回のローンのおか る.確かに,ほとんどの人々にとって,自分の げであった.彼女はこの資金を使って長男のマ 家計を構成している人たちは物心両面で支援の スードをダッカに送り出して,とても小さな店 主要な源泉を構成している.ここでは家計とは を開かせただけでなく――彼女はそこで石鹸や 家族という絆(血縁)によって,互いに関係し ビスケットなどを販売した――,1 年のうちの暫 ている個人のグループとして定義される 2.同じ くの期間は人力車の車夫として働かせた.2 人の 屋根の下で生活しているかもしれないし,両親 息子が近くで暮らしていて,1 人が都市にいると と子供から成る小さな核家族か,あるいは祖父 いうことは,シャムスンは危機の際には助けが 母やその他の近親者を含む大きな拡大家族かも 122 世界開発報告 2014 しれない.いずれにしても,家計は非常に強く, クや,それらのリスクを有効に管理するのに必要 固く結び付いたコミュニティであり,その構成員 なすべての種々の手段を考慮に入れるべきである は消費や投資,そして最も弱い人を介護するため かを検討する.このような体系的なアプローチに に,しばしば資源を共同で提供している. は,特に家計が機会を利用する能力を高めると同  しかし,特に貧困家計を中心として多くの家計 時に,リスクから保護するための政策相互間にお は個々人のショックへの対応を手助けするのに精 ける補完性と相乗作用を強調できるという利点が 一杯で,その機会の追求を支援できないでいる. ある. 家計は単位として,病気や所得損失といった共通 の困難な状況を防止して構成員を保護し,そし て,所得を増やすために十分な資産や人的資本を 家計はどのようなリスクに直面し,どのよう 蓄積するという両方の挑戦に直面している 3.こ に対処しているか? のような挑戦に立ち向かうには,家計は十分な資  日々,世界中で何百万人もの人々が病気にな 源をもち,自分のコミュニティや市場,良質な公 り,職を失い,犯罪の犠牲になり,あるいは自然 共財・サービスに密接に結び付いている必要が 災害に見舞われている.家計の構成員に影響する ある.加えて,家族の力関係や社会規範が時と ショックの発生頻度や性格の両方のバラツキは図 して家族員が有効に協働できる程度を制約して, 3.1 に示されている.これは過去 12 カ月間に家 ショックに直面した際に,典型的には女性や子 計の構成員が遭遇したショックをみるために,6 供,高齢者など家計のなかで特定の個人の脆弱性 カ国の調査データを図示したものである.災害や を高めることがある. 病気,資産の損失が各国で共通に見られる最も一  政府の政策は情報や金融ツール,労働市場への 般的な災難であり,その次には価格の急変がきて アクセスを円滑化することによって,リスク管理 いる.農村部と都市部では家計がさらされている にかかわる家計の能力を強化することができる. リスクは異なる.天候による災害は典型的には農 公的政策は教育へのアクセスも確保し,特に貧困 村家計に影響するが,都市部の家計は価格の急変 層向けに健康や所得のリスクに対する基本的な保 や犯罪,失業にさらされている度合いがより高い 護も提供すべきである.また,政府は家計内の不 (第 1 章参照)4. 平等に取り組むことができる.これは最も脆弱な 構成員をエンパワーし保護するために,規則と介 家計の構成員はリスク管理と機会追求に関して互 入策を合わせたものを介して行われることにな いに助け合うことができる る.  家計の構成員はリスクを分担することによっ  本章では次のような内外の障害に焦点を当て て,自分と家計の強靭性を高めることができる. る.すなわち,家計が十分な備えをしたり,家 経済理論の示すところによれば,個人はライフ・ 計内でリスクを分担したりするのを阻害する障 サイクルにわたって消費を円滑化できる.第 1 害,そのような障害が家計や個人の脆弱性や強靭 章で検討したように,保護や保険のメカニズム― 性にもたらす影響,リスクや機会に直面するなか ―公式か非公式かは問わない――が利用可能で, で備えを改善するために家計が採用できる措置な 所得ショックを吸収して安定した消費を維持する どである.また,家計がリスクに備えたり,対処 のに役立つ場合には,個人はうまく対処すること したりするのを後押しする公的政策にも焦点を当 が可能である.特に完璧な信用や保険の市場が利 てる.最初に途上国の家計に影響する主要な災 用可能でない場合,家族は個々人のエネルギーや 害,家計がリスク管理のために使う多種多様な戦 資源を共同で出資して,保護や保険に投資するこ 略,家計が遭遇する障害を説明する.その上で, とによってショック――とりわけ固有なもの―― リスク管理のための政策にかかわる体系的なアプ に対処すれば,強靭性を高めることができる. ローチは,どうやって家計が直面する多数のリス  全体として,実証研究が示すところによれば, CHAPTER3 家計はリスクに対抗し機会を追求するための第一線の支援である 123 家計は自己の消費をショックから何とか守ってい 養している世帯主は他の家族構成員の消費を維持 る.ただし,完全ではない.バングラデシュやエ するために,相対的に最大の(食料)消費の落ち チオピア,インド,マリ,メキシコ農村部に関す 込みを経験している 7. る研究は,家計は誰かが病気になっても,家計内  最も脆弱なメンバーに対する心配と配慮によっ における労働供給の増加を含め,いくつかの戦 て,家計と他のグループを明確に区別できる.家 略を使って――少なくとも一部は――消費水準 族が互いを思いやる理由には,利他主義や互恵主 を何とか保護していることを見出している 5.ま 義,社会規範などを含めていくつかの要因がある た,インドネシアに関する最近の研究は,家計は (ボックス 3.1).動機がどうであれ,あらゆる社 数種類のショックから著しい所得の急変に直面し 会経済的・文化的な状況において,家族は個人に ているが,このリスクの 60%以上に相当する保 対する支援の重要な柱であることを示す証拠が多 証水準を何とか達成していることを明らかにして く見られる.一例をあげると,発展途上 17 カ国 いる.しかし平均すると,期待消費は期待所得 における生活取り決めに関しては,平均すると の 65%に相当し,家計が消費を保証するために 28%の家計には 60 歳以上の構成員がいるが,こ 大きなコスト負担に前向きなことを示唆してい れはこの年齢層が総人口に占めるシェアを大幅に る 6.家計の構成がショックへの対応にどう影響 上回っていることを示す証拠が得られている(図 するかを詳しく調べるために行われた家計に関す 3.2).多くの場合,子供や孫が高齢の親族の面倒 る研究は,都市部では拡大家族員を含む大きな家 をみている.例えば中国では,家族と一緒に住 計は小規模な家計との比較で,災害に見舞われた んでいる身体障害高齢者の 90%は支援を受けて 後でも基礎消費について経験した落ち込みが小さ いるが,単身生活の高齢者の場合は 73%にとど かったことを示している.同時に,拡大家族を扶 まっている 8.その他の事例では,高齢者が幼い 図 3.1 家計に対するショックは各国間で大きく異なっている 各カテゴリーのショックを申告した家計の割合 8.5  3.5  32.8  5.3  4.9  2.2  25.2  11.5  13.9  13.9  1.5  11.4  1.9  18.5  34.2  11.1  5  0.6  38.8  3.3  4.4  32.4  8.8  23.5  25.2  15.8  6.7  3.1  0.6  2.3  1.4  4.2  マラウイ ラオス アフガニスタン ウガンダ 中国 ペルー 資産 / 作物損失 雇用ショック 災害 病気 価格ショック 犯罪 / 安全 出所:WDR 2014 のために書かれた Heltberg, Oviedo, and Talukdar 2013. 注:家計は複数回答できるため合計は 100%以上になり得る.回想対象期間は 12 カ月. 124 世界開発報告 2014 ボックス 3.1 利他主義,社会規範,および互恵:家族はどのような動機から互いを気遣うのだろうか?  なぜ親は子供の教育に投資するのか? なぜ成人した子 . によって補強することができる(ただしその必要はない) 供たちは高齢の親を世話するのか? なぜ配偶者は資源を つまり,人々が今,援助を供与するのは,将来的に援助を 共有し,兄弟は互いにお金を貸し,拡大家族は他の親族の 必要とすると予測しているからだ d. 様子を確認するのか? 経済学者や社会学者はこのような  実証的な証拠は,このような各理論にはそれぞれ利点が 問題を長い期間にわたって考えて,なぜ家族が互いを気遣 あることを示している e.例えば,親と子供の間における うかについて,以下のような 3 つの一般的な理論を考える 時間とお金の交換などの互恵的な取り決めは,政府支援が に至った. 弱く,市場アクセスが限定的な諸国ではより一般的であり,  利他主義の理論によると,個人の福祉は他人の福祉に依 互恵を行う動機の存在を示している.サハラ以南アフリカ 存する.したがって,効用を最大化するには自分の資源の や中国などの特定の諸国では,親族関係の規範が祖父母が 一部を他人に移転しなければならない a.より最近の研究 しばしば孫の面倒を見る理由かもしれない.利他主義が次 は,この利他主義の背後には,遺伝子や社会文化的な影響 のような行動の動機であろう.つまり,親が必要に基づい 力などの進化論的な力がある可能性があることを示してい て子供に資金を移転する一方,子供が健康の悪化した親向 る b.第 2 の理論は,家族員がどのように互いを助け合う けに多大な時間を割く.しかし,動機は常に利他主義的で べきかは社会規範によって規定されていることを示してい あるとは限らないということを示す証拠もある.というの る c.交換を強調する第 3 の理論の仮定によれば,家族の は,子供に対する親の投資の程度は子供の親に対する支援 支えは互恵的な取り決めに根差しており,それは社会規範 に影響することがわかっているからだ. 出所:WDR 2014 チーム. a.Becker 1974. b.Alger and Weibull 2010. c.Alesina and Giuliano 2013. d.Bernheim, Shleifer, and Summers 1985. e.Silverstein and Girrusso 2010. 図 3.2 高齢者は他の家族と同居していることが多い 60 歳以上の家族が 1 人以上同居している家計の割合と 60 歳以上人口の割合 50  40  30  % 20  10  0  国 ー ブ ン ン ン ス コ ク ア ュ ア ン ダ ル イ ム 中 ル ジ タ タ ダ オ シ ラ リ シ ニ タ ン ジ ウ ナ ペ ル ス ス ー ラ キ イ ェ デ ザ ス ガ ラ ラ ト モ キ キ ス メ ジ ラ ン ニ ウ ブ ア ベ ベ ジ イ グ タ ガ ズ タ ナ ン フ ウ バ ア 家計の割合(%) 60 歳以上人口の割合(%) 出所:家計調査(調査年は 2002 – 11 年の間で国ごとに異なる)と United Nations 2009 からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成. 親族の面倒をみている.サハラ以南アフリカや中 る.第 2 章で詳しく説明したように,金融や情 国では,例えば,孫の面倒をみているのは主とし 報の制約,情報を知識に翻訳し,それを行動に翻 て祖父母である 9. 訳する能力が無いことなどすべてが,個人がリス  しかし,家計にとって内外の障害は,その構成 クを有効に管理する能力を制約する.市場や公共 員がリスクを効率的に管理する能力を制限してい 財の欠如,モラル・ハザード,外部性,社会規範 CHAPTER3 家計はリスクに対抗し機会を追求するための第一線の支援である 125 などの社会的な障害が,家計がリスク管理のた とらなければならない.前述したショックの影 めに自由に使える手段の幅を制約する.このよ 響に関する調査のデータが示すところによると, うな状況下では,特に貧困層は低リスクで低リ アフガニスタン,中国,およびタジキスタンで ターンの活動を選択することによって,ショッ は健康や所得のショックに影響された家計の半 クとの関わりを削減しようとしているが,一た 分強,また,ラオスとウガンダでは約半数は消 びショックに襲われた際には,それに対 費を削減したと回答している 13.データ 処するために高いコストの措置を採 家族 の回帰分析結果は,数カ国の貧困家 用することを余儀なくされている― のなかでリスク 計では高価な仕方で対処する傾向 ―これは将来のショックに対する に協同で対処するの があることを示している.つまり, 脆弱性をいっそう高める戦略だと が,太古の時代から続 家畜などの生産的な資産の売却, 言わざるを得ない. く保険の基本形態 食料消費の削減,低品質の食品の  さらに,家計内の複雑な力関係に である. 消費などで対処されている(表 3.1). よって,なかには脆弱性が高まる構成員 生産的資産の売却が特に有害である.と がいるかもしれない.実証データが示すところ いうのは,それはショック後の長期にわたって, では,家族――その選好はしばしば互いに異な 十分な所得を創出する家計の能力を削減するか る――は,多くの場合に非効率に思える交渉プ らだ.長時間労働やより多くの仕事の引き受け, ロセスにしたがって資源(労働や資本,産出) 移住などのほうが貧困との繋がりは弱いように を配分する 10.例えばブルキナファソでは,農 思われる.しかし,より裕福で,インフラやサー 村部の夫婦の間における分業の伝統にしたがっ ビスへのアクセスが良い家計は,自分の貯蓄を て,夫と妻は別々の区画を耕作している.妻が 使う,あるいは資金を借り入れる――公式か非 運営する区画は生産性が極めて低く,区画をま 公式かは不問――と回答していることが多い. たいで労働の配分を変えれば家計所得が増加す  高価な対処戦略の影響は長期にわたり,特に る可能性が大きいということを示唆している. 子供にとっては恒久的でさえあり得る.大規模 コ ー ト ジ ボ ワ ー ル で は, 夫 婦 は 別 々 の 区 画 で ショックが経済や人間の開発の結末に及ぼす影 「ジェンダー固有の」作物を栽培し,各作物から 響に関する研究は,典型的に次のような実証的 の所得は個人的な消費や食料,教育など,具体 証拠を示している.家計構成員すべてが辛苦を 的な消費項目に厳格に割り振られている.した 経験するが,大人の結末は最終的にはそれまで がって,1 つの作物からの所得が変動するのに の生活形態に戻る傾向があるものの,子供たち 伴って,その所得に連動した消費支出も変動す は特に生後 2 年間の極めて重要な時期にある場 る.共同で管理する所得に基づいて消費決定を 合には,恒久的な影響を受けることがある 14. すれば,夫婦にとっても子供にとっても消費の 貧困家計においてより一般的な傾向であるこの 安定性を高めることができるだろう 11.夫と妻 ような影響は,成人になってからの所得減少や の行動を比較したゲームから,多くの場合,彼 健康の悪化につながる可能性がある.一部の調 らの選択が合算した所得の最大化に失敗してい 査は,より大きな悪い影響が男子よりも女子に ることを示す証拠が得られている 12. みられることを裏付けている.  非常に幼い子供の栄養をおろそかにすると, 貧困家計はショックに対応するために高価な戦略 災害は人的資本に長期にわたる損傷をもたらす に訴えて,家族に一様でない影響を及ぼす ことがある.出生時に体重が重く背の高い子供  災害によって家計資産の大部分が被害を受け, は認知スキルの発達が良い傾向にあり,より高 所得が大幅に削減された場合,貯蓄や保険メカ 度の教育を達成してより良い就職することがで ニズムが限定的な家計は,主に食料などの最低 きる.出生時体重は妊娠中の母親の栄養の質と 限の消費水準を維持するために,困難な措置を 密接な関係がある.したがって,妊娠中に食物 126 世界開発報告 2014 表 3.1 貧困家計はショックにコストの高い方法で対処したと回答する割合が高い 戦略に協力すると答える可能性の高い家計の種類 貯蓄 / 信用 / 援助(政府 / 家族 / 消費の量削減 / 国 資産の使用 労働増加 / 移住 コミュニティ /NGO) 生産的資産の売却 質の低下 アフガニスタン 富裕層 富裕層 富裕層 貧困層 貧困層 中国 - 富裕層 - 富裕層 富裕層 イラク 富裕層 富裕層 - - 貧困層 マラウイ 富裕層 - - - - メキシコ 貧困層(信用 / 資産 - - - 貧困層 売却) ナイジェリア 富裕層 - - - - ペルー 富裕層 - - - - スーダン 富裕層 貧困層 貧困層 貧困層 貧困層 タジキスタン - - - 富裕層 貧困層 ウガンダ 富裕層(貯蓄 / 資産 - 富裕層 - 貧困層 , 売却) 貧困層(信用) ウズベキスタン 貧困層(信用) 貧困層 - 貧困層 - 出所:WDR 2014 のために書かれた Heltberg, Oviedo, and Talukdar 2013. 注:上表は回帰推定の結果を示す――社会経済指標(消費 5 分位層または資産ベースによる富の指標のいずれか)が対処戦略の可能性に著し く影響する(有意水準 5%以上).回帰には以下が含まれる:地域と都市部の固定効果,家計規模,ジェンダー,世帯主の教育・職業,従属人 口比率,消費 5 分位層,水道水利用の主要因,屋根 / 床の質,携帯電話の所有,公共サービス・幹線道路までの距離. - = 社会経済指標が有意ではない.ペルーにおける生産的資産の売却に関してはデータが入手不可能. 摂取を減らすと,子宮内の子供の発育に大きな れたエルサルバドルでは,特に被害の大きかった 不可逆的な損傷をもたらし得る.1919 年のイン 家計の間では就学率が約 7%も低下した.そのよ –  フルエンザ大流行や 1959  61 年の中国の大飢饉 うな家計の子供たちについては,地震後に働いて などの極端な災害は,このような時期に誕生した いる割合が地震前に比べて 2.5 倍に跳ね上がった 世代にとって,身長や認知発達(学校教育年数で (シェアは 6.5%から 16.5%に上昇した).児童 測定),全般的な健康の損失という結果をもたら 労働の一時的な利用が本人の人的資本に恒久的な した.災害は出生後の最初の 2 年間に入手可能 結末をもたらすことがある.北タンザニアでは, な栄養の質――身体と認知力の発達にとってやは 降雨による災害の後,週当たり 5.7 時間長く働か り必須――も傷付けることがある.ジンバブエの なければならなかった子供たちは,長時間労働を –  農村部で 1994  95 年に発生した旱魃では,生後 しなかった子供たちと比較して学校教育年数が 1 –  12  –  24 カ月の子供の身長は 1.5  2.0cm 低くなっ 年分少なくなった 17. –  た.エクアドルでは,1998  2000 年の経済危機  災害によって扇動されたストレスは家庭内虐待 の時期に 3 歳未満であった子供たちは,危機で を増加させることがある.大人のストレス水準は ない時期に同じ年齢であった子供たちとの比較 災害に伴って著しく上昇する.1997 年のアジア で,身長年齢比が著しく低く,語彙テストの得点 金融危機は,インドネシアやタイで,特に教育程 も低かった 15.さらに,2, 3 カ国において,災 度が低く都市部の土地をもたない人々の間で憂鬱 害は女子の早期の栄養や発達の状態にとって不当 や心配を増加させた.ケニアでは降雨があまりに に大きな悪影響を及ぼしていることが見出されて 少ないと,農民のコルチゾール(ストレス時に生 いる 16. 産されるホルモン)の水準が上昇する 18.カン  災害に直面して,家族員の 1 人――通常は学 ボジアやジャマイカ,モンゴルにおけるフォーカ 齢期の子供――を追加的に労働力に参加させるこ ス・グループの参加者は,2008 年の危機が生み ととの引き換えに,教育投資を犠牲にする家計も 出した苦難を背景に,男性の妻や子供に対する暴 なかにはある.2001 年に 2 つの強い地震に襲わ 力が増加したと報告している 19.災害は年配者 CHAPTER3 家計はリスクに対抗し機会を追求するための第一線の支援である 127 図 3.3 幼い時に家庭内暴力を経験した男子は成人してから暴力を振るう可能性が大きい 成人してから親密なパートナーに暴力を振るったことのある男子の割合 50 40 30 % 20 10 0 インド ルワンダ チリ ブラジル クロアチア メキシコ 家庭内暴力(心理的 / 身体的なものの両方 / いずれか)を経験しなかった 家庭内暴力(心理的 / 身体的なものの両方 / いずれか)を経験した 出所:Contreras 他 2012 からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成. に対する虐待の増加につながることもある.タン である.価格や気象リスク,より良い農業技術, ザニアの農村部に関する研究は,降雨が少ない年 求人などといった事項に関するニュースは,リス 月には,年配女性の殺人数――家族員によって魔 クに対する備えをし,それに対応する家計の能力 女呼ばわりされ殺される――がほぼ倍増している をただちに改善することができる.携帯電話は発 ことを見出している 20. 展途上世界の多くの家計にとって,情報を入手・  子供時代に経験した肉体的および心理的な虐待 交換するのにますます欠かすことのできないツー は,アイデンティティや行動に長期にわたる効果 ルになってきている.このような形で利用して を及ぼして,リスク・テイキングや機会の追求に いる人は,世界の 47 億 7,000 万人の利用者の 3 かかわる決定にとって極めて重要な自尊心を傷つ 分の 2 近くを占めている.第 1 に,携帯電話は けるだけでなく,成人期に暴力を振るう可能性を 通信コストを激減させることによって,分散した 高める 21.6 カ国に関する調査は,子供時代に 社会的なグループやネットワークの結束力を改善 虐待の犠牲者だった人はパートナーに対して暴力 し,人々は他の家族メンバーの所得ショックに対 的になる確率がほぼ 2 倍であったことを示して してより迅速に反応できるようになった 22.第 いる(図 3.3). 2 に,気象の最新情報や早期警報などのリスクに 関して容易に入手可能な情報は,家計が災害に対 する備えを助けることができる.第 3 に,携帯 家計はリスクを管理する準備をどのように行 電話は情報の非対称性や価格の不確実性を削減す い,どのような障害に直面するか? ることができ,農民は余剰を増やすことが可能に  リスクに立ち向かい,機会を追求するために, なる.最後に,モバイル・バンキングは家計メン 家族は知識を習得して,保護や保険に投資する. バーにとって安全で費用効果的な方法で,資金を そのリスク管理の質は家計内のリスク分担の水準 相互に振り替えたり,他の金融取引を行う機会を に加えて,情報や市場,公共サービス,インフラ 提供したりしている 23. へのアクセスに依存する. 保護と機会へのアクセスを高めるために人的資本 リスクや機会に関する知識を習得し共有する に投資する  情報の入手はリスク管理にとって決定的に重要  栄養,衛生,および予防的医療ケアの利用など 128 世界開発報告 2014 図 3.4 すべての地域で予防接種率が上昇し幼児死亡率が低下している a. 麻疹予防接種率 b. 幼児死亡率の変化 100 0 90 ‒5 生後 – カ月児に 占める割合(%) ‒10 12 80 変化(%) ‒15 23 70 ‒20 ‒25 60 ‒30 50 ‒35 1990 2000 2010 平 ・ ラ アジ パ・ リ ・ カ CD ア カ 太 ア カ カ リ ジ リ OE ヨ 洋 ン ア ブ ジ 央 ッ リ フ ア フ 低所得国 下位中所得国 ア 中 ロ メ ア 南 ア 東 ー ア 北 南 上位中所得国 高所得国 ・ 以 テ 東 ラ 中 ハ サ 5 年間の変化 10 年間の変化 出所:World Bank World Development Indicators (database) からのデータに基づき WDR2014 チーム作成. 注:5 年間の変化は 2007 – 11 年における幼児死亡率の変化を示す.10 年間の変化は 2002 – 11 年における変化を示す.パネル b の OECD 諸国は,40 年間以上にわたって OECD の加盟国である高所得国を指す. を改善すれば,生産性が上昇し,罹病や死亡のリ とを示している(図 3.6).しかし,価格弾力性 スクが低下する.歴史的にみると,発展途上世界 がこのように高いのは財源制約が唯一の説明要因 における早死の支配的な原因の 1 つは,妊産婦 ではあるまい.第 2 章で検討したように,行動 の死亡と,乳幼児の栄養不良や疾病を経験するリ や認知の面での多くの偏見が保護に対する投資を スクが高かったことにある.しかし近年,予防へ 削減する.にもかかわらず,グアテマラやケニ の投資の増加,医療サービスの改善,所得の増加 ア,インド,ウガンダでこのような行動の背後に などのおかげで,乳幼児,児童,および妊産婦の ある要因の解明を試みた実験の発見によれば,資 死亡率は著しく減少している.例えば,予防接種 金制約でそのほとんどが説明でき,教育や仲間の 率は 1990 年でも南アジアでは 60%,サハラ以 影響は無視できるほどにすぎなかった.選好や交 南アフリカでは 64%と低かったが,今では世界 渉力の相違も一部の家計メンバーが保護への投資 中のすべての地域において 75%以上となってい を増やす能力を阻害することがある.バングラデ る(図 3.4a).2002 年以降,幼児死亡率も大幅 シュの家計に供与された改良型料理用レンジの場 に低下してきている(図 3.4b).一方,食事リス 合,この技術で最大の利益を享受する女性はそれ ク(肥満につながる)と喫煙は引き続き増加して を購入することができなかった.なぜならば,金 おり,そのため非伝染性疾病が第 1 位の死因と 銭に関する決定についてはほとんど発言権をもっ なっている(図 3.5). ていないからだ.  リスクを削減し福祉を改善するのに病気予防の  家計はリスク管理を改善し,機会を有利に活用 利益は明確であるにもかかわらず,病気リスクを するために,教育にも投資している.教育は人々 削減するツールに対する需要は貧困家計の間では が健康の改善を達成するのを後押しする.例え 驚くほど低い 24.例えば,貧困家計にそのよう ば,教育程度の高い若者は薬物乱用や暴力,無 なツール――殺虫剤処理済みの蚊帳や水消毒薬, 防備な性交に従事する可能性が低い 25.台湾で 石鹸,総合ビタミン剤,改良型料理用レンジなど は,1968 年に義務教育を 6 年間から 9 年間に拡 を含む――をいくつか供与した試験的な実験は, 充したおかげで,改革時点で小学生の年齢だった 需要は価格の小幅な上昇に対してさえ急減するこ 女子が成人になった時に体重不足の赤子を生む確 CHAPTER3 家計はリスクに対抗し機会を追求するための第一線の支援である 129 図 3.5 非伝染性疾病による死亡リスクがすべての発展途上地域で増加している 100 80 60 % 40 20 0 2000  2011  2000  2011  2000  2011  2000  2011  2000  2011  2000  2011  2000  2011  平 ・ ジ ・ リ ・ カ CD ア フ 南 太 ア ア パ カ カ リ ジ ア ラ以 OE 洋 ア ブ カ ジ 央 ッ リ フ ア リ ア 中 ロ メ ア 南 ハ 東 ー ア 北 サ ヨ ン ・ テ 東 ラ 中 傷害 伝染性,妊産婦,周産期,栄養状況 非伝染性疾病 出 所:World Health Organization Global Health Estimates Summary Tables: Deaths by Cause, Age and Sex (http://www.who.int/ healthinfo/global_burden_disease/en で入手可能(地域別のデータは特に WDR 2014 のために作図された) . 注:図の OECD 諸国は 40 年間以上にわたって OECD の加盟国である高所得国を指す.他のすべての諸国は地理的な地域にグルー プ分けされている. 図 3.6 予防医療製品の需要は価格が上昇すると急減する 1 0.9 0.8 0.7 0.6 採用率 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 0  0.1  0.2  0.3  0.4  0.5  0.6  0.7  0.8  0.9  1.0  価格(2000 年ドル) 駆虫(ケニア) 診療所の蚊帳(ケニア) 水消毒薬(ザンビア) 石鹸(インド) 水消毒薬(ケニア) 蚊帳引換券(ケニア) 出所:Abdul Latif Jameel Poverty Action Lab (J-PAL) 2011. 率が,改革の影響を受けなかった女子と比べて低 などの「ソフトな」あるいは社会情緒的なスキル 下した 26.教育は生産性や所得も増やす 27.教 も提供する.このようなスキルは学校から職場へ 育制度は子供に重要な一般的スキル(識字能力や の移行において極めて重要であり,このおかげで 数学)だけでなく,有効なコミュニケーションや 人々は急速な変貌を遂げている環境に適応するこ チームで働く能力,新しい概念や方法を学ぶ能力 とができる.一般的に言えば,教育が追加的に 1 130 世界開発報告 2014 図 3.7 低所得国は教育達成度では依然として後れを取っており,中所得国のなかには質の格差に苦しんでい る国もある a. 所得別にみた 15 – 24 歳の教育達成度 b. 数学の達成度 10 500 8 400 PISA数学の平均点 6 300 教育年数 4 200 2 100 0 0 1960 1970 1980 1990 2000 2010 東アジア・ ヨーロッパ・ ラテン OECD 太平洋 中央 アメリカ・ 低所得国 下位中所得国 アジア カリブ 上位中所得国 高所得国 出所:Barro and Lee 2010(パネル a)と OECD Programme for International Student Assesment (database) ( パネル b) に基づき WDR チーム作成. 注:パネル b で赤線は全体の平均点を示す.図の OECD 諸国は 40 年間以上にわたって OECD の加盟国である高所得国を指す. 他のすべての諸国は地理的な地域にグループ分けされている.PISA= Programme for International Student Assesment(国際的生徒 学習到達度調査) . 年延びると所得は 12%増加する.ただし,収益 あるものの,国別にみると質には依然として大き 率は所得水準ごとに大きな差がある 28. な格差がある.それは 15 歳児を対象とする標準  教育達成度は上昇しつつあるが,低所得国は依 化された国際的生徒学習到達度調査(PISA)に 然として後れを取っている.すべての児童が初等 おける数学テストの平均点で示されている(図 学校を修了することを確保する,というミレニア 3.7b).このような質の格差は教育がスキル修得 ム開発目標に向けた動きには大きな進展があった や仕事の機会に及ぼす潜在的な効果を削減してい ものの,より高い達成度に向けた進展は遅れてい る. る(図 3.7a).特に最貧層の間でみられる低達成  さらに,特定諸国の貧困家計の間では教育にお 度は需給問題と考えることができる.供給側で けるジェンダー格差が引き続き存在しており,女 は,インフラが不十分で不適切,教員の訓練が 性が後に労働市場に参加する機会を制限してい 不足,基本的基準(教員の出勤など)の監視と る.就学率や達成度にかかわる格差は発展途上世 執行が弱いといったことなどが教育の質を押し 界では印象的な縮小をみせ,いくつかのグループ 下げている.需要側では,資源の制約や雇用機 では逆転さえしている.達成度で女子が男子を 会の欠如,教育の質が低いことに加えてその収 凌駕した諸国がいくつかある 31.しかし,貧困 益率に関する情報が限定的であることから,教 家計の間では,男子に比べて女子への教育投資を 育の主観的な価値が下がり,退学率を押し上げ 依然として躊躇している親がなかにはいる.例え ている 29.研究が示すところでは,条件付き現 ば,多くの低所得国の最貧 20%層で 6 年間の教 金給付(CCT)プログラムは教育需要の増加に 育を修了した女子は男子よりも少ない(図 3.8). 成功している.しかし,バングラデシュやメキシ 教育達成度が低いことは女性の労働力参加にも影 コに関する研究は,雇用機会の改善も教育投資に 響する.例えばニカラグアでは,高等教育を修了 とって強力なインセンティブとして作用している した女性は初等教育だけの女性と比べて,労働力 ことを示している 30. に参加する確率がほぼ 2 倍となっていた 32.  中所得国は達成度では高所得国に追い付きつつ CHAPTER3 家計はリスクに対抗し機会を追求するための第一線の支援である 131 図 3.8 特に低所得国を中心に貧困家計の場合,教育達成度には依然として男女格差がある 所得別にみた初等教育におけるジェンダー格差 ベラルーシ セルビア カザフスタン モンテネグロ 8,000 マケドニア ドミニカ共和国 コロンビア ボスニア・ヘルツェゴビナ 1人当たりGNI(2005年PPP) タイ ウクライナ 6,000 ナミビア エジプト スイス アゼルバイジャン アルメニア 4,000 ホンジュラス インドネシア モンゴル モルドバ ベトナム パキスタン ガイアナ コンゴ共和国 2,000 キルギス セネガル カンボジア インド バングラデシュ コートジボワール ガンビア タジキスタン タンザニア ハイチ Mali ネパール ベニン ルワンダ ザンビア シエラレオネ ギニア エチオピア ウガンダ リベリア コンゴ民主共和国 0 −20 −10 0 10 20 最貧 20%層で 6 学年に到達した 15 – 19 歳生徒の男女間%ポイント格差 女子優位 男子優位 出所:World Bank EdAttain (database) からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成. 注:プラスの格差は 6 学年に到達した女子の比率が男子と比べて低いことを示す.家計の貧困度は資産と住居特性の指数に基づ く.期間は 2005 – 08 年.GNI= 国民総所得.PPP= 購買力平価. 保険と投資機会を構築するために金融・実物資産 ことは高い評価を受けている.それは一部の人々 を蓄積する が安全な貯蓄ができるなら喜んで支払う,として  安全で柔軟な形で流動性貯蓄を維持し信用を享 いる高額の手数料から明らかである.それには回 受できる能力は,リスクと投資の管理にとって重 転型貯蓄信用講が含まれる.これは利息を支払わ 要である.貧困層の間でさえ,貯蓄率は高く,利 ずに,大きな損失リスクを負担する預金集め機関 用されている金融手段(ほとんどが非公式なも であり,顧客の貯蓄を預かるのに利息を支払うど の)の数は多い 33.しかし,多数の障害のゆえ ころか手数料を徴収する.零細金融提供者の顧客 に,貧困家計は,リスクをより効率的に管理した 数増加――2010 年現在 1 億 3,750 万人――は, り,投資機会に従事したりするために,より多額 貧困層の間にも金融商品を拡大することに大幅な の流動性貯蓄を保持することが阻害されている. 需要と潜在的な利益があるという証左である 35. 第 1 に,非常に貧しい家計にとっては,当座の しかし,家計向けに金融商品の利用を拡大するの 必要を満たすことが所得のほとんどを占めている は,適正な管理がないと,このような家計が合理 ため,貯蓄の機会費用は非常に高価になってい 的に取り扱えるような金額を超過する信用需要を る.第 2 に,非公式なリスク分担の仕組みやそ 増やして,過剰債務につながる懸念がある.それ れに関連した所得の共有という圧力が,どれだけ が今度は金融の安定性全体に影響与えることにな 貯蓄し,どの手段を使うべきかに関する決定に影 り得る. 響する可能性がある 34.このような障害にもか  実物資産――流動性貯蓄よりも効率性に劣るが かわらず,貯蓄や信用という選択肢を利用できる ――も,リスク管理にとってもう 1 つの重要な 132 世界開発報告 2014 資源である.ほとんどの貧困家計は一部の貯蓄 (第 4 章参照). を,家畜や宝石,器具などの実物資産や生産的資  公式保険の供給が少ないということでは,適用 産――すべて流動性が低く収益率が不確実である 範囲が狭いことの一部しか説明できない.人々は ――の蓄積によって行っている.実物・生産的資 病気や災害などのショックで繰り返し被害を受 産は災害や犯罪,収用などにさらされており,土 け,あるいはそれにさらされているにもかかわら 地などの特定の形態の資産は譲渡不可能である公 ず,多くの家計の間では,保険に対する需要が低 算がある.資産価格の変動も家計が保険メカニズ い.この観察されている需要の低さに関してはい ムとして資産を有効に使う能力を減殺することが くつかの説明がなされている.第 1 に,資源制 あろう 36. 約のために人々の保険を買う能力がしばしば制限  さらに,資産を所有および蓄積する能力は多く されている.第 2 に,教育程度が限定的で数的 の家計内において不平等である.世界中のほとん スキルが低い人々は保険の概念が複雑であると考 どで法律は女性の資産所有を認めているが,特 えて,したがって,非公式な相互取り決めを選好 に南アジアとサハラ以南アフリカの数カ国では, する.第 3 に,加入者は災害が発生した際には ジェンダー別に所有権が規定されていて,資産の 保険業者が支払いを行うということを信用しなけ 取得や売却,譲渡,相続する女性のできることが ればならない.制度的な環境が契約を執行させる 制限されている.そのような法律は家計内で女性 方法を提供していない場合,この信用の構築はよ の交渉力を弱め,女性と子供をショックに対して り挑戦的なものになる.最後に,多くの保険制度 脆弱にし,機会の追求をむずかしくしている 37. において対象になっていないリスク(あるいは 例えば南エチオピアでは,離婚は稀であり,離婚 ベーシス・リスク)が大きいことが,期待支払い された妻は共同資産について一切の持ち分がな 額を削減し,保険商品の価値とそれに付随する信 い.貧困家計出身の女性は――夫は無関係――, 用を低下させている 40. 病気になって働けない時には食料消費を削減して いる 38. 家族形成や妊娠,結婚を通じて非公式に保険をか  途上国では,市場の保険商品を頼りにしてい ける る国はほとんどない.第 1 章で指摘したように  社会的保護や金融市場へのアクセスが限られて 人々が一番気にしているリスクは,病気や所得損 いるところでは,家族形成のプロセスがリスクに 失,資産損失などの付保可能な事象に関係してい 非常に深く関係していることがある 41.家族メ る.流行病や自然災害の事例におけるように大勢 ンバー間の相互支援の合意は,他の形の支援―― の人々に影響する場合には付保するのがむずかし 市場性のものか国家のものかは不問――へのアク いが,このような事象にかかわる保険商品は高所 セスが欠如している場合,利用可能な限定的選択 得国では広く利用可能である.健康や財産,失業 肢の 1 つになり得る(ボックス 3.1 参照).例え にかかわる保険は一般的であり,場合によって ば,南インドのアンドラ・プラデシュ州やマハラ は強制的でさえある.ところが途上国をみると, シュトラ州では,さらされている気候に関する災 –  1980  2004 年の間に自然災害による資産損失総 害が異なる家計の間で所得リスクを分散するため 額のうち正式に付保されていたのはわずか約 1% に,娘を遠く離れた村の家族に嫁入りさせようと にとどまっていた.これに対して,高所得国の同 する親が多い.このような場合,娘の結婚は消 比率は約 30%に達していた 39.途上国で市場性 費を保護するための非公式な保険手段になってい (支払請求の審査 保険商品の浸透率が低いのは, る.親が娘に持参金をもたせなければならない諸 などの)取引コストが高く,それが保険料の高 国では,金銭的な圧力を受けて親は娘を幼い時 さに転嫁されているためである.代わりにほとん に,あるいは拡大家族の他のメンバーに嫁がせる どの人々は拡大家族やコミュニティのメンバーと ことがある(親は将来の支払いを公約しているの の非公式なリスク分担取り決めを頼りにしている で,家族の絆は一種の信用として作用する).こ CHAPTER3 家計はリスクに対抗し機会を追求するための第一線の支援である 133 のような慣行は娘の人的資本に投資する潜在力を 相関関係が強まる傾向があることが一因である 44. 制限し,彼女たちを配偶者から虐待を受けるリス 加えて,家計の努力は多くのさまざまな活動に分 クにさらすだけでなく,女子が血縁関係のある親 割されているため,多様化は往々にして平均所得 族と結婚した場合には,将来の子供の健康上のリ の低下につながっている.市場やセーフティネッ スクを高める. トへのアクセスが拡大すれば,バングラデシュに  親は所得損失のリスクに対抗するためにも子供 おける最近の研究が示すように,人々が受ける影 を頼りにしなければならない 42.例えば,リス 響を減らすために所得活動を多様化する必要性は クから受ける影響が大きく,信用の供給源が少な 低下し,所得がより高い活動に参入する可能性も く,コミュニティとの結び付きが弱いバングラデ 開かれるだろう 45. シュの農村家計は,インドの同じような家計と比  他の家計――典型的には公式・非公式を問わ べて出生率が高い.この相違の背後にある要因の ず信用市場へのアクセスがない――は,リスク 1 つは,バングラデシュの農村部の女性はインド から受ける影響は小さいがリターンも低い活動 の農村部の女性とは違って,家の外では仕事の機 を選択する.例えば,耐乾性作物は収量が低い 会がないことだ.労働市場に参加できない女性は 傾向にある.資産がほとんどない家計は,この 大きなショック――寡婦暮らしなど――に有効に ような資産を売却したり,あるいはそれを信用 対応する際により大きな困難に直面し,したがっ 享受のための担保として利用したりすることに て,子供たちからの支援に大きく依存しなければ よって,ショックに対する保険を自らにかける ならない.途上国では出生率が高いと,人的資本 ことができない.同時に,所得源を多様化する の蓄積にとってマイナスの結果をもたらす.とい ためには,多くの場合に最低金額の開始資本(例 うのは,大きな世帯出身の子供は予防接種をあま えば家畜を購入するため)が必要となる.その り受けておらず,学習到達度も低いからだ.この 結果,資産に乏しい多くの家計は,所得に対す 量と質のトレードオフは,このような家計では子 るリスクが最小限の活動を選択せざるを得ない. 供の数の増加に伴って資源配分を調整する余裕が インドやタンザニア,その他の諸国における研 少なくなる,ということを示唆している. 究は,貧しい農村家計はサツマイモなどの低リ スクかつ低リターンの作物を圧倒的に多く栽培 所得源を多様化し労働供給を増加する していることを見出している 46.  所得の急変から受ける影響が大きく,公式保険  労働供給を増加すれば,家計がショックに対処 が入手不可能な途上国では,家計は所得源を多 するのを助けることができる.ただし,この家族 様化していることが多い.発展途上世界を通じ を構成する人が働けて,雇用先が確保できること て,家計の所得はしばしば 1 つ以上の部門(例 が条件となる.そのような場合,労働供給に余裕 えば農業やサービスなど)や場所(都市部か農村 のある家計は必要に応じて容易に労働力を利用で 部か,あるいは国内か海外か),あるいは製品な きるため,消費をより有効に保護することができ どから生じている.例えば,メキシコ,ニカラ る.例えば,回帰分析は,中国,イラク,ペルー, グア,パナマ,および東ティモールでは家計の およびウズベキスタンの大きな家族は,労働時間 –  10  20%,インドネシアでは 50%,コートジボ を増やしたり,より多くの仕事を引き受けたり, ワールでは 72%,グアテマラでは 84%,インド あるいは他の場所に出稼ぎに行ったりすることに のウダイプル市では 94%が,1 種類以上の活動 よって,ショックに対応していることを示してい から所得を得ていると回答している 43.農業活 る 47. 動と非農業活動を含む多様化した所得ポートフォ  家計が労働供給を一時的ないし恒久的に増加で リオをもっていれば,所得変動を削減できるかも きる能力は,女性が労働力に参加できる能力に決 しれないが,常にそうできるわけではない.これ 定的に依存している.女性の参加は近年著しく増 は,さまざまな活動からの所得も,危機の際には 加しているが,女性の大部分は依然として労働力 134 世界開発報告 2014 図 3.9 女性の労働力参加は一部の地域では依然として限定的である 労働力に占める女性の比率 80 70 60 50 40 % 30 20 10 0 東アジア・ OECD サハラ以南 ヨーロッパ・ ラテンアメ 南アジア 中東・ 太平洋 アフリカ 中央アジア リカ・カリブ 北アフリカ 出所:World Bank World Development Indicators (database) からのデータに基づき WDR2014 チーム作成. 注:データは 2011 年現在.図の OECD 諸国は 40 年間以上にわたって OECD の加盟国である高所得国を指す.他のすべての諸国 は地理的な地域にグループ分けされている. の外にとどまっている.2011 年現在,中東・北 大きなプラスの効果を及ぼしていることを認めて アフリカでは女性 5 人のうちわずか 1 人,南ア いる.ただし,後に残される家族に対する効果は ジアでは 3 人のうち 1 人未満が,働いているか, 不透明である.とはいえ,例えばフィリピンで または求職している(図 3.9).労働需要の増加, は,移民の所得が予想外に増加したことが次のよ インフラの改善,教育達成度の引き上げなどを含 うな事態につながっている:教育支出の増加,企 め,経済要因が女性の労働市場参加の増加に重要 業家精神の高まり,および移出国における貧困率 な役割を果たしている.しかし,女性が主に子供 の低下.また,送金は移出国における消費の急変 の面倒を見る傾向にあるため,良質な保育ケアの に対する非公式な保険となっていることを示す文 代替策が無いことは女性の労働力参加と子供の発 献が増えている.例えば,フィリピンやタンザニ 育の間でトレードオフを生み出す.加えて,女性 ア,タイなどでは,移民労働者はショックに襲わ の経済活動への参加を制限する社会規範が,歴史 れた家族に送金している割合が高い 50. 的に参加率が低い地域では女性参加の増加を鈍化  実験データは,貧困家計はショックへの対応 させる懸念があろう 48. に改善をもたらす移住機会を活用していないこ  移住もリスク分散には有効な方法であり,災害 とを示している.また,バングラデシュの飢饉 の際には対処策になり得る.移住は家族内やコ に陥りやすい農村部に関する研究は,人々は不 ミュニティとの社会的な絆を弱めるかもしれない 作の時期に状況が厳しくても,都市部への出稼 が,それでもその結果的な経済効果は家計全体に ぎに前向きではないことを見出している.彼ら とってプラスの可能性が大きいであろう.この事 にとって,移住のコストと都市で就職機会が見 実は世界中における国内的・国際的な人の移動の 付からない可能性を考えると,たとえ期待収益 増加や海外送金額に反映されている.農村部から がプラスであっても,都市への移住はあまりに 都市部への一時的な出稼ぎが支配的な移住形態で も大きな危険を伴う企てなのである.研究の一 ある.世界全体で 7 億 4,000 万人の国内移民が 環として,出稼ぎに行く農民に対しては小額の いるが,これは国際的な移民のほぼ 4 倍に相当 現金インセンティブが付与された.インセンティ する 49.国際的な移住に焦点を当てている移住 ブをもらって移住した人は家族の消費を 30%, に関するほとんどの研究は,移民が所得に対して –  カロリー摂取量を 1 日 1 人当たり 550  700 カ CHAPTER3 家計はリスクに対抗し機会を追求するための第一線の支援である 135 表 3.2 多数の手段を使って多数のリスクに取り組む政策にかかわるシステミック・アプローチ 政策手段の種類 貯蓄の 社会 現金 情報 / 賃金 サービスへの 信用 / 補助金 目標 円滑化 保険 給付 訓練 補助金 アクセス へのアクセス 備え、対処: 病気 X X X X X 障害 X X X X X X X 老齢 X X X X X X 死亡 X X X 失業 X X X X X X 天候ショック / 災害 X X X X X X 人的資本投資 X X X 貧困削減 X X X X X 出所:Robalino, Rawlings, and Walker 2012 に基づき WDR 2014 チーム作成. ロリー増やしただけでなく,インセンティブが な負担のリスクに対して,人々を保護する点でよ なくなったそれ以降の年でも再び出稼ぎを行う り良い結末を実現することができる.現金給付な 確率が高かった 51. どの一部の手段は,人的資本への投資や貧困削減 にも役立つ.  リスク管理に関する政策の策定にシステミック 政府はどうしたら家計のために保護を強化し, なアプローチをとるということは,手段はショッ より良い機会を発展させることができるか? クが発生する前に整備される必要があるというこ  家計は日々多種多様なリスクに直面しており, とや,調整が必要不可欠であることも示唆してい それを管理するために,できるだけ多くの入手可 る.実際には,さまざまなプログラムや政策はそ 能なツールを使っている.しかし,貧困家計は市 れぞれ違う機関の責任である.したがって,目標 場や公共サービスが提供する保護や保険の仕組み を整合的にし,監視や実績の基準を設定し,リス に対して,限定的なアクセスしかもっていない傾 ク管理ツールが切れ目なく機能できる共通のイン 向にある.しかしこのような限定が,特に家計内 フラを確立するためには,このようなプログラム での負担が平等ではないリスクに対する脆弱性を や政策を調整するための制度的な仕組みが必要に 高める.政府の政策はリスク管理についてシステ なる.加えて,ちょうど家計がショックを予想し ミックなアプローチを採用することによって,家 て備える必要があるように,政府もこのような, 計のリスク管理を大幅に改善し,家計のより良い 家計の要求の変化に対する素早い対応が可能にな 機会の利用を増加させることができる.そのよう る特徴を組み込んだシステムを災害が襲来する前 なアプローチは次のようなことを示唆している: に整備しておく必要がある.以下の勧告はさまざ 家計が直面するリスクに関する健全な理解,それ まな政策手段――家計がより良い保護や保険,対 らの間の相互作用,リスク管理の改善にかかわる 処戦略を構築する際の障害に取り組むのに役立つ 一連の障害,機会の利用を増やすと同時に,リス もの――に加えて,家計内のリスク分担を改善す ク管理を強化できる手段の適切な組み合わせな る手段についても,次のことを念頭に置きながら ど.表 3.2 は各種の政策手段がどのように多様な 説明している.すなわち,単一手段による解決策 リスク源に取り組んでいるかを示し,また,シス というのは稀であり,多種多様な手段を組み合わ テミックな視点からそれがどのように使えるかも せた政策が最も成功している. 指摘している.例えば,医療サービスを保険や予 防的な慣行に関する情報などの他の手段と組み合 リスク管理を通して政策を設計する わせて提供すれば,病気やそれがもたらす金銭的  政策はしばしば人々の言動に間接的な影響を及 136 世界開発報告 2014 ぼし,このような影響を理解することは保護に投 ンクしている.同制度はこれまでに 1 人当たり 資しようという家計レベルでのインセンティブの 3 ドル以下のコストで,3 億個以上のアドハーの 改善にとって有益である.財産権は適例である. 割り当てを行っている.アドハーは官民両方の 確実な財産権は所有者にとって資産価値を増加さ サービスの窓口になる.すなわち,政府は公的 せる.というのは,資産は安全に譲渡可能であり, 給付を個人に対して漏れ無く直接提供するため 担保として使うことができ,したがって信用への にアドハーを使い,民間部門――特に金融サー アクセスが増加するためだ.それ以外では,土地 ビス業者――は金融サービスの利用を拡大する 保有権が確実であれば,土地保全やインフラへの ためにアドハーを使うことができる 54.より一 投資の価値が増え,それがリスクとの関連性を削 般的には,公共サービスの提供は健康から社会 減する一方で生産性を引き上げる.確実な土地保 的援助に至るまでの多くの分野において,官民 有権が労働市場参加率を引き上げ,児童労働を削 パートナーシップで利益を享受することができ 減することもわかっている 52.もう 1 つの事例 る(ボックス 3.2). は現金給付である.現金給付は,家計が人的資本 に投資するための金銭的制約を克服するのを手助 家計内の格差に取り組む けする非常に直接的な方法である.しかし,投資  公的政策は家庭内における力のバランスを是 の実行を給付の条件にすれば,投資インセンティ 正し,不平等を削減することもできる.多くの ブはさらに大きくなるだろう.マラウイにおける 場合,規制改革や公的プログラムにおける対象 少女向けの現金給付に関して,最近行われた条件 の絞り込み,家族計画,仕事,および金銭の管 付き給付と無条件給付を比較する実験は,学校出 理にかかわる決定について女性により大きな主 席率や学習成果の改善に関して,条件付きの方が 導権を与える社会規範を組み合わせれば,女性 重要な役割を果たしていることを示した 53. の家計における交渉力を高めると同時に,脆弱 性を削減し,子供のための機会を改善すること 技術を活用して民間部門とパートナーを組む ができる.  多重リスクに取り組むシステミックな政策は,  貧困家計の女性の多くは――特に貧しい農村 さまざまな政府機関相互間の緊密な調 部では――,出産の決定に関してほとん 家族 整だけでなく,社会のその他の主体 ど発言権をもっていない.家族計画 内における虐待 とパートナーを組むことを必要と に関して良質な情報やサービスが や差別は,リスクに する.プログラムを横断してデー 入手可能でないことが一因である. 関する解決策という タを共有し,受益者を追跡する能 このような地域の女性は,医療ケ よりもリスクの源 力がその一例である.これは理論的 ア提供者を通じて,一連の避妊対策 泉になる. には単純であるが,実際には多くの諸 も含めて,家族計画に関する信頼でき 国が実施に苦闘している.生物測定学上の るサービスを利用できるべきである.この データを収集する手頃な技術が入手可能であれ 課題を実現するには効率的な供給網を整備するこ ば,政府としては受益者を特定し,特に貧困層 とが必要になる.加えて,提供者は女性の選好や ――適切な身元保証の欠如から往々にして「目 プライバシーを尊重しつつ,各種の避妊方法の長 に見えない」人口にとどまっている――に対し 所と潜在的な副作用に関して,患者と有効かつ透 てサービスを届ける機会を切り開くことができ 明な情報交換を図ることが必要である 55.しか る.インドの先駆的な身元確認プロジェクトは, し,真に有効であるためには,家族計画サービ 国内の全住民に対して固有の識別番号であるア スは家計における女性の交渉力――特に経済的 ドハー〔訳注:原義は「基礎」〕を交付すること 影響力と法的立場――を高める他の介入策を伴 を目的にしている.これは正式な身元保証とし うことが必要である. て基本的な人口動態上の情報と生物測定学にリ  労働市場へのアクセスは女性にとって特に重要 CHAPTER3 家計はリスクに対抗し機会を追求するための第一線の支援である 137 ボックス 3.2 民間部門とパートナーを組むことによってサービス提供を改善する  効率的で有効なサービス提供において,官民パートナー ラムは費用効果的で生徒の成績も向上した. シップがますます重要な構成要因になってきている.イン  民間部門は政府の移転プログラムでも重要な役割を果 ドでは,政府が後援する健康保険制度は,管理者と医療ケ たすことができる.ブラジルでは,銀行が今や社会保障給 ア提供者の両方に民間部門の企業を関与させている.この 付金を配分する貴重な権利について政府に支払いを行っ 制度は,2015 年までに同国の人口の半分に対して健康保 ている.これは過去との比較では逆転である.かつてはブ 険へのアクセスを拡大することを目標としている.ブラジ ラジル政府が銀行に支払いを行っていた.移管によって, ルのサンパウロでは,民間の非営利業者が実績ベースの 政府はお金を節約でき,受給者は給付が受けられる場所が 契約モデルに基づく新しい病院を運営することが許可さ 増え,銀行は自らの融資商品を販売する顧客の基盤を拡大 れた.実施は挑戦的なものだったが,インパクト評価は, させることができた.エクアドルや南アフリカの条件付き 非営利病院は質を犠牲にすることなく,営利病院と比べて 現金給付(CCT)プログラムも,支払いを実施するために 効率性が高かったことを見出している.人的資源と管理 民間金融機関と協力している.バングラデシュ,チリ,お 慣行の改善がその理由のようである.教育では,官民パー よびコロンビアの CCT では,受給者は自分の教育と健康 トナーシップはコストを削減し,生徒の達成度を改善する 面での公約達成のために,民間の提供業者を利用すること ことができる.コロンビアのバウチャー制度(PACES)が が認められている.CCT によって刺激されたサービス需要 12 万 5,000 人の生徒に対して,私立の中等教育や職業訓 の増加に対応するには,多くの国において民間部門が極め 練の学校に行くための引換券を交付している.このプログ て重要であろう. 出所:以下に基づき WDR 2014 チーム作成――La Forgia and Nagpal 2012; Lewis and Patrinos 2012; Fiszbein and Schady 2009; La Forgia and Harding 2009; Ortiz d’Avila Assumpҫão 2012. である.というのは,家計が所得源を多様化し, が必要である.東アジア・太平洋,中東・北アフ 家計全体のリスク管理を改善できるからだ 56.し リカ,サハラ以南アフリカでは,女性の 20%以 かし,女性の労働市場へのアクセスが極めて限定 上が次のように信じている.すなわち,夫は妻 的なところもなかにはある.公的政策は特に貧困 が何も告げずに外出したり,口答えしたりすると 家計の女子が教育を確実に修了できるように手助 いったありふれた理由で妻を殴っても正当化され けすることができる.育児ケアについて代替策を る(図 3.10).先に検討したように,家庭内暴力 提供し,家族に配慮した職場政策を促進すれば, はリスクによって支配された環境の結末であると 子供をもっていても労働力にとどまるのを奨励す 同時に,リスクを伴う行動の原因でもある.リス ることができる.公的政策(例えばメディアを通 ク管理のツールが改善されれば,リスクに関連し じたキャンペーン)は,女性を家庭にとどめてお たストレス要因を削減することによって,暴力の く社会規範に対抗するのに役立つ(第 2 章参照). 発生を削減することができる.更に,社会規範で  家計の意志決定に関して女性により大きな発言 あるにもかかわらず暴力行為に対して法的制裁を 権を付与すれば,リスク管理や人的資本への投資 課すということは,家庭内暴力は深刻な結末をも にとってプラスの効果がある 57.女性のエンパ たらすという強い警告である. ワメントは労働市場へのアクセスを高めるだけで はなく,女性を現金給付やその他の社会プログラ 労働市場へのアクセスを高める ムの受益者にすることによっても達成できる.さ  スキルへの投資を増やすためには,介入策は需 らに,ヒンドゥー教徒相続法の改革など,女性の 給問題に取り組むべきである.第 1 ステップは 土地保有権や財産権を高める規制改革は,女性の 求人と教育の収益率に関する情報を提供すること 交渉力だけではなく少女の人間開発面での成果も だ.ドミニカ共和国での研究は,教育の収益率に 増加させたことがわかっている 58. 関する情報を受け取ると,生徒が修了せずに退学  女性や子供に対する暴力を許容する社会規範に する確率は大幅に低下することを示している.イ 対抗するためには,家庭内暴力に関する法的措置 ンドでは,就職サービスの提供を受けた女性は, 138 世界開発報告 2014 図 3.10 社会規範は多くの地域で家庭内暴力を容認している 夫が妻を叩いたり殴ったりすることは正当化されると答えた女性の比率 45 40 35 30 25 % 20 15 10 5 0 サハラ以南・ 中東・ 東アジア・ 南アジア ヨーロッパ・ ラテンアメ アフリカ 北アフリカ 太平洋 中央アジア リカ・カリブ 口答え 無断外出 育児怠慢 出所:人口動態・保健調査(2000 – 11 年で入手可能な最新年)からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成. 結婚して子供を産む決定を遅らせ,訓練を受けて は,ダイナミックな企業部門が決定的に重要であ より着実に仕事をすることを希望した 59. る(第 5 章参照).  第 2 に,教育・訓練制度は雇用者が望むスキ ルを開発すべきである.世界中の雇用者調査によ 移住と送金を円滑化する ると,それには読み書きや数的なスキルに加え  国内移住と国際移住の障壁を引き下げること て,コミュニケーション能力が含まれる.ソフ も,家計が所得を多様化し,ショックに対応する ト・スキルを技術的な訓練と組み合わせている退 のに役立つ.すでに検討したように,国内移住は 学者向け訓練プログラムは,受益者の就職機会と 何百万という世帯に農業以外の代替的な収入源を その仕事の質を高めるというプラス効果がみられ 提供する.しかし,貧困家計にとっては,一時的 るという評価を得ている.さらに次のような証拠 な移住でさえ多くが積極的に追求しようとしない が増えている:最もうまく機能する提供モデルに リスクを伴う企てである.多くの場合,例えば, は(認証を受けた)民間提供者とのパートナー形 輸送コストを引き下げるような間接的な政策は一 成が含まれている.最後に,多くの人々は労働市 時的な移住を奨励することができる.国際移住も 場を通過して入手可能な最良の機会を見出すため 人々により良い所得機会を提供するが,正式な許 に,個別支援を必要としている.十分な実施能力 可を取得せずに国境をまたぐ移民の増加は社会的 を有する諸国は,雇用者と被雇用者のマッチン 緊張や暴力を増加させ,人命の犠牲を出すことさ グ・プロセスを円滑化するために,職業斡旋サー えある.このようなリスクを緩和するために,移 ビスを確立できるだろう.このサービスは特に 出国は合法的な移住の円滑化についてより積極的 未熟練労働者を対象としたものを中心に,高所得 な役割を果たして,海外で移民の権利を保護する 国では非常に有効であることが判明している 60. とともに,受入国の移民政策を尊重することがで しかし,このようなスキル向上戦略は,そのよう きる.小数の諸国が規制された移住プログラムを なスキルに対する需要の増加が伴うことによっ 実施している.このようなプログラムは移民の適 て,より良い仕事の機会に結実する.そのために 切な処遇を常に確保できるとは限らないものの, CHAPTER3 家計はリスクに対抗し機会を追求するための第一線の支援である 139 合法的に移住する道を提供する.例えば,モロッ や,金融リテラシーを拡充することによって(第 コやフィリピン,セントルシア,トンガのプログ 6 章参照),政府は社会プログラムを使い,支払 ラムは,農業や建設業,医療ケアなどの個別部門 いシステムを通じて受益者を金融部門に結び付け で労働が需要されている諸国向けに,労働者が一 ることができる.このリンクはブラジル,エクア 時的に移住する機会を提供している.移出国と移 ドル,および南アフリカでは成功裡に実現され 入国が割当,賃金,および滞在期間などに関して た.今や年金や現金給付プログラムの受給者は, 合意する.もし労働者が要件を満たせば,予め規 金融システムを通じて給付を電子的に受領してい 定された期間だけ固定された契約と賃金で合法的 る(ボックス 3.2 参照).加えて,注意深く設計 に移住することができる.労働者は帰国すれば再 された公的補助金は,特定の商業的な金融商品の 申請することができることから,契約が満期で失 供給拡大を後押しすることができる.例えば指数 効しても違法に滞在するインセンティブは低下す 型保険は,貧困層においてリスク管理を著しく改 る 61. 善するが,規模の拡大という課題に直面している  送金にかかわる取引コストの低下は,所得損 (ボックス 3.3). 失を緩和する家計の能力を改善するとともに, より良い所得機会への扉を開くことができる. 最脆弱層を保護する健康および社会保護制度 2011 年に世界全体で,移民は途上国の家族に約  健康や所得に関するショックは特に貧困層に 3,720 億ドルの送金を実行した(第 6 章).多 とって破壊的であるため,そのようなリスクから くの場合,移民は大手業者を通じて,小額の送 彼らを保護することが優先課題である.本節で 金をするのに多額の取引コストを支払っている. は,各国はまずは最脆弱層から始めて,健康およ 競争を奨励し透明性を促進することによって取 び社会保護の適用範囲をどのようにしたら拡張で 引コストを引き下げれば,受取国にとって,送 きるかを検討する.ただし,サービスの提供や結 金の利益は著しく高まる.単に,さまざまな業 果を改善しつつも,やはり財政の持続可能性を維 者の手数料に関する情報を提供するだけでも有 持しなければならない. 益である.世界銀行と米州開発銀行が一部資金  健康保険改革を受けて最も弱い層向けの保護は 援助している「中米送金」プロジェクトは,中 徐々に改善されつつある.多くの途上国では公 央アメリカ 7 カ国に向けた送金について,業者 的医療制度は細分化され,非効率で不公平であ の手数料がどう異なっているかに関する詳細な る.典型的には,健康保険制度は通常は公式部門 情報を提供している.例えば,200 ドルをワシ の労働者を中心に小数の人々に利用可能となって ントン D. C. からグアテマラに送金する手数料 いるが,それ以外のすべての人々は一般歳入で賄 –  は,業者と支払い方法に応じて 1.29  17.42% われている低質の国民医療ケア制度を利用してい の開きがある.多くの移民は携帯電話でも,特 る.このような重複が医療制度に財政的な圧力を にケニアなどの諸国では,安全かつ手頃な値段 かけ,質的に階層別格差のあるサービスを生み出 で送金することができる 62. し,逆進性の可能性をもたらしている 63.その 結果,貧困層は多額の自己負担をしているのに, 金融商品へのアクセスを増やす 低水準の治療しか享受していない.多くの諸国は  金融商品は家計のリスク管理戦略において決定 貧困層向けにより良いサービスを提供すべく,普 的に重要な構成要素であり,政府は正式な金融商 遍的な健康保険制度に移行することによって,医 品へのアクセスをいくつかの方法で促進すること 療ケア制度の改革(と持続可能性の維持)に努力 ができる.既述の通り,貧困家計は正式な金融 している(スポットライト 3 に記載されている サービスの利用に関して,著しい障壁に直面して トルコとキルギスの事例を参照).次の 3 つの基 いる.規制上の適切な枠組み(消費者保護法な 本的な目標に焦点を絞るというコンセンサスが増 ど)を通じて貧困層の金融包摂を促進すること 大しつつある:医療費が家計の貯蓄能力を圧倒し 140 世界開発報告 2014 ボックス 3.3 指数型保険:潜在性と挑戦  指数型保険は農業リスクの管理において有望な手段に 「安全な農業」 る.ケニアとルワンダでは, 〔訳注:スワヒ なり得る.指数型保険ないしパラメトリック保険は損害請 リ語で Kilimo Salama〕という小規模の農民向けの指数型 求ではなく,物理的な引き金(降雨の変化など)に基づき 保険プログラムが顧客ベースを何とか拡大させている.そ 支払いを行う.この種の保険はモラル・ハザードにさら の手法は次の通りである.すなわち,収穫ではなく投入物 されにくく,取引コストが著しく低い.ただし,大きな を保険の対象にする,単独の農民ではなく農民グループに 「ベーシス・リスク」を負う農民がなかにはいる.という 保険をかけるために協同組合などの「アグリゲーター(取 のは,当人のリスクと指数契約によって付保されるリスク 」を使う,農民と農業関連企業の間で保険料 りまとめ役) との間には不完全な相関関係しかないからである.しかし 分担取り決めを締結する,農民が常に出入りする地元企業 いくつかの研究は,指数型保険は投資を増やし,収量を改 を介して販売する,保険金請求に対しては携帯電話を使っ 善していることを示している.例えば,インドのタミル・ て即時に対応するなど. ナードゥ州では,農民に指数型保険を提供したところ,高  政府にも果たすべき役割がある.メキシコの異常気候偶 収量(だが高リスク)のコメ品種の作付けに積極的にな 発保険プログラムは,州政府に対して保険購入資金を提供 る一方,低収量だが耐乾性品種の作付けには消極的になっ するものである.同保険のほとんどは指数型商品であり, た.また,ベーシス・リスクが大きい場合,非公式なネッ 商業ベースの農業保険の下限にも届かない自給自足の生 トワークはベーシス・リスクに対して保険を提供すること 産者を対象にしている.インドの気象ベース作物保険制度 によって支援を行うことができる.したがって,ベーシ は保険料に補助金を供与することによって,指数型保険の ス・リスクが存在する状況下では,非公式なリスク分担の 利用を著しく拡大した.しかし,政府の保険料補助は市場 仕組みの存在は実際には指数型保険に対する需要を増や で解決が困難な緊張状態を作り出している.例えば,土地 す. をもたない農業労働者(技術的には付保利害をもっていな  それでも指数型保険の適用範囲は狭いままにとどまっ い)に補助金付きの指数型保険を販売すると,農産物を ている.特に保険業者は,農民を取り巻く状況,直面する ギャンブルの対象とする他の人々(都市居住者など)にそ リスクの種類,正式な金融商品に関する経験の欠如などを の市場を利用する機会を与えてしまう.というのは,補助 考慮に入れながら,より良い販売方法を考案する必要があ 金付きの保険料によって保険商品は実質的に魅力的なく る.例えば,インドに関する研究は,保険を土地所有者だ じ引き券になってしまうからだ.政府の財源は,保険料価 けでなく,土地をもたない労働者に販売したおかげで,彼 (ベーシス・リスクを削 格に対する補助金の交付よりも, らの所得や投資能力に対して大きな保護を提供すること 減するために)降雨を高密度で監視するのに必要な測候所 ができたことを示している.というのは,彼らは農業に関 の設置の先行コストを賄うことや,その投資の規模を拡大 するリスクの不当に大きな割合を負担していたからであ することに充てたほうがよいかもしれない. 出所:以下に基づき WDR 2014 チーム作成――WDR 2014 のために書かれた Brown, Mobarak, and Zelenska 2013; WDR 2014 のために書か れ た Alejandro de la Fuente; “Fact sheet: Kilimo Salama (“Safe Agriculture”) . ないようリスクへの共同出資を拡充する,貧困層 てを対象にすることを目標にしている.インドで 向を対象に低コストで(あるいは無償で)具体 は,国民健康保険(RSBY)制度は受益者に加入 的な給付パッケージを定義して保険を提供する, のために名目的な登録費の支払いだけを求めてお ファイナンスとサービス提供の繋がりを切断する り,保険料は納税者の負担となっている.インド ことによって効率性を改善する. ネシアの社会健康保障制度(Jamkesmas)も納  表 3.3 は健康保険へのアクセスを拡充しようと 税者の負担で,貧困層と貧困に近い層を対象に含 いう各国における最近の取り組みを要約したもの めている.タイでは,普遍的適用制度が名目的な である.特徴の多くは各国の固有な状況に対応し 手数料で,公務員や公式部門に属していないすべ たものとなっているが,明らかに,いくつかの傾 ての人々に保険を提供している.第 2 に,ほと 向が見られる.第 1 に,このような取り組みは んどの保険プログラムは規定された範囲のサービ 補助金を供与していることから,貧困層や脆弱層 スしか対象に含めておらず,それは国ごとに大幅 でも保険へのアクセスが確保できる.例えば,中 に異なっている.一次医療に焦点を絞っている国 国の農村部健康保険プログラムは保険料コストの もあれば,高額治療費を要する病気しか対象にし 少なくとも 80%を補助しており,農村人口の全 ていない国もあるし,また,それを混合したもの CHAPTER3 家計はリスクに対抗し機会を追求するための第一線の支援である 141 表 3.3 医療保険の適用範囲を拡張するプログラムに共通する特徴 特徴 国 手法 貧困層を含めるために コロンビア 補助金付き健康保険プログラム(Régimen Subsidiado)は最貧層に無料で手厚い補助 一般歳入によるファイ 金付きの医療ケアを提供. ナンス インド 国民健康保険制度(RSBY)は少額の名目的な手数料(登録料と保険料を合わせて 5%) の支払いを要求. インドネシア 公的健康保険制度(Jakesman)は貧困層と貧困に近い層を無料で対象に含めている. メキシコ 国民健康保険制度(Seguro Popular)は非公式部門の家計に対しては補助金を全額支 給. タイ 公式 / 公務員部門以外の人はだれでも名目的な手数料で対象に含めている. トルコ 貧困層の保険料は国家負担. ベトナム 貧困線以下の人々とその他の選ばれたグループは全額補助金.貧困に近い層は部分的 な補助金. 質・効率性の引き上げ インド 国民健康保険制度(RSBY)における許可と患者管理,およびアンドラ・プラデシュ州 の低所得層向け健康保険制度の完全な電子化. 定型サービス・ ブラジル 統一保健医療システム(SUS)は,必須の医薬品と歯のケアを含む包括的なパッケー パッケージ ジを提供. メキシコ パッケージは重病も含む. 南アフリカ 抗レロトウィルス・プログラムは財務的な持続性の調査に基づき,HIV/ エイズについ て試験的なモニタリングと治療を提供. トルコ 包括的な基本給付パッケージは診断サービスや入院治療,救急措置のための入院など を含む. 供給側のインセン ブラジル 地方政府への SUS の移転はパフォーマンス・カバレッジの目標達成に依存. ティブ コロンビア 補助金付き健康保険プログラムでは人頭税と診療ごとの支払いが一般的. インド 民間保険業者は競争入札を通じて選定され,登録者数に基づき支払われる. インドネシア 提供者には一次レベルでは人頭税が,二次レベルでは交渉した手数料が支払われる. 脆弱層向けに誂えた ブラジル 家族健康戦略は支援活動を使って一次ケアの利用を拡大し一般的な病気を診断・治療. サービス エチオピア 健康普及員プログラムは,最善慣行を採用し,コミュニティで手本になるように家計 を訓練. データ主導 インド 登録時に収集された生体認証データが利用と結果を監視するために使われる. キプリス 支払いと利用を分析して利用にかかわる異常値と障壁を特定し,必要性とコストを予 測. 南アフリカ 人員,医薬品と栄養補助食品,臨床検査サービス,および情報システムは積極的に監 視されている. 出所:以下に基づき WDR 2014 チーム作成――ブラジル・コロンビア・エチオピア・インド・キルギス・メキシコ・南アフリカ・トルコ・ベ トナムについては Cotlear, 近刊;インド・インドネシア・タイについては Adam Wagstaff 2011, “Health reform: A Consensus Emerging in Asia?” Let’s Talk Development (blog, http://blogs.worldbank.org/developmenttalk/), April 12. を提供している国もある.最後に,数カ国はサー に陥らないように十分な所得を稼ぐ個人の能力は ビス提供に民間部門を組み込み,効率性を改善す 削減される.さらに,第 2 章で検討した時間的 るための技術を革新的に利用している.このよう に不整合的な行動を考えると,人々が稼げる時期 なトレンドが健康面での成果や家計の医療費はも に将来のために貯蓄しておくことを奨励する政策 ちろん,健康保険制度の持続可能性に対して及ぼ は正当化される.しかし多数の諸国では通常,社 したインパクトに関して,決定的な判断を下すに 会保険制度(特に年金と健康)は,人口の中で貧 は依然として時期尚早である.しかし,より多く 困層ではない小数しか対象にしていない.このよ の諸国が普遍的な健康保険制度に移行しようとし うな疎外が生じるのは,いわゆる拠出型保険制度 ている状況下,このような事例からの学習が極め が給与税や,典型的には公式部門の雇用者や被雇 て重要になるだろう. 用者に課される拠出金で運営されているからだ. そのため,非公式部門で働く自己雇用者や農業労 高齢者向けに所得扶助を提供する 働者の大部分は実質的に利用を拒否されることに  高齢化などのライフ・サイクルの変化で,貧困 なる.急拡大している高齢者層を拠出型年金制度 142 世界開発報告 2014 図 3.11 非拠出型年金制度が途上国で,特に最貧層向けを中心に,適用範囲を拡大している HUN SVK 15,000 HRV LTU POL 1人当たりGNI(2005年PPP) COL TUR ARG 10,000 MUS VEN BGR DOM BRA SRB BLR MNE CRI THA BIH ECU PER ALB SLV UKR 5,000 MDV GTM JOR ARM PRY GEO BOL LKA MAR PHL MNG BTN HND IND PAK VNM MDA LAO TLS NIC KHM NGA TJK KGZ RWA NPL GHA 0 MWI AFG 0 20 40 60 80 100 最貧 40%層のうち高齢者が同居している家計における適用範囲(%) 出所:Evans, 近刊からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成. 注:時期は 2003 – 10 年間で国ごとに異なっている.青色の諸国には非拠出型年金がある.GNI= 国民総所得;PPP= 購買力平価. が支援している諸国では,労働者対退職者比率の 減少する.そうなるのは拠出型制度の設計が悪い 低下と平均余命の長期化を受けて現行モデルは持 か,または拠出型と非拠出型の制度がうまく統合 続不可能になっている. されていないからだ.公式職と非公式職の間を移  その結果,一般歳入で資金を賄う非拠出型年 動したり,労働力を出入りする労働者は,年金受 金を導入することによって,基礎年金の適用範 給権が獲得できるほど十分には拠出できない,ま 囲を拡張する諸国がさらに増加している.例え たは非常に低い所得代替率しか達成できないから ば,ラテンアメリカ・カリブの 13 カ国には今 である 67.高齢化が急速に進展している諸国の や,拠出型制度で対象に含まれていない人々向 労働者はますます不透明になっている受給権に向 けに非拠出型年金がある 64.モーリシャスや南 けて拠出していることになり,これは労働に対す アフリカ,高所得数カ国は歴史的に非拠出型年 る純然たる課税ではないかという受け止め方を生 金を頼りにしてきている.図 3.11 でみるように, み出し,労働者が賃金を過少申告したり,非公式 東ヨーロッパ・中央アジアの旧社会主義諸国を 雇用を選択したりする動きを助長している. 例外として,最貧 40%層の中で高齢者が同居し  公平な,財政的に持続可能で,労働市場の歪 ている家計の半分以上が対象になっている途上 みを最小化する社会保険制度を確保するために 国すべてにおいて,非拠出型制度がある 65.い は,各国は適用範囲の拡張に対する要請と民間貯 くつかの研究は,非拠出型年金は高齢者の間で 蓄奨励に対する要請を調和させるべきである.具 適用範囲を拡大させ,貧困を削減してきている 体的には,基礎水準の給付を供与する非拠出型制 ことを示している 66. 度は,他のすべての基本的な政府機能とちょうど  しかし,拠出型と非拠出型の両制度が併存して 同じく一般歳入によって賄うべきである.しか いる場合,強制的な拠出型制度に参加する誘因は し,すべての諸国が十分な給付を普遍的に,財政 CHAPTER3 家計はリスクに対抗し機会を追求するための第一線の支援である 143 的に持続可能な形で供与できる状況にあるわけで を農業から離れた分野に多様化し,信用へのアク はない.実際には,多くの途上国は最低水準の給 セスを確保している 69. 付を,おそらく対象を絞った人々に対して行うこ  例えば,公共事業プログラムは労働所得を提供 とができるだけあろう.これは特に高齢者の従属 する一方で,地方の経済開発に貢献する.このよ 人口比率が急上昇している諸国に当てはまる.し うなプログラムはサハラ以南アフリカのように農 たがって,各国は適切な水準の適用範囲と給付に 村人口が多い諸国では特に有益である.確かに, ついて決定するに当たっては,自国の長期的な財 同地域には公共事業プログラムが 150 件以上, 政能力を将来に関する公約との関係で考慮する必 現金給付プログラムは 120 件以上もある 70.公 要がある.重要なのは,必要な税収を徴収するた 共事業プログラムは所得損失に直面した家計の所 めに多種多様な選択肢を検討する必要があるとい 得を保護する一方,成長を押し上げる極めて重要 うことである(本書の末尾にある「政策改革の焦 な資産の構築を後押しする.例えば,これには水 点」を参照). インフラの構築や地方レベルでの土地管理改善な  拠出型制度は保険給付金が十分に対処できる能 どが含まれる.さらに,公共事業プログラムには 力を引き上げるのに役立つが,労働市場に歪みを 他のセーフティネットと同じように,地方経済に 生み出さないような設計になっている必要があ 対してプラスの波及効果もある.例えば,南アフ る.状況によっては,拠出を万人に開放して任意 リカの拡大公共事業プログラムは地方経済を押し にすることによってのみ歪みが回避できる場合が 上げた.というのも,受益者の 67%が地元商店 ある.それは仕事の形態に無関係であり,あるい から食料を購入したからだ 71.このようなプロ は義務的な拠出率が削減された場合である.それ グラムのほとんどは地理的に対象が絞り込まれて 以外のすべての場合においては,拠出型制度は拠 いて,受益者の選定は自己ターゲティングを通じ 出との連動が明確な給付を供与すべきである.さ て行われている(同プログラムは低賃金を提示す らに,貯蓄インセンティブ――自動加入,マッチ ることによって,所得を最も必要とする人々を引 ング拠出,手続きの簡素化,金融リテラシーを通 き付けると同時に,他の求職を継続するように彼 じた情報障壁の引き下げなど―――は大きな影響 らを促す).このようなプログラムには特定の家 をもたらし得る.ニュージーランドの「キーウィ 計における固有の悪条件に対応できる柔軟性もあ 貯蓄」(KiwiSaver)という年金制度は,自動的 る.例えば,エチオピアの生産的セーフティネッ な加入プログラム(「選択的非加入」のオプショ ト・プログラムは世帯ターゲティングを使ってい ン付き)という興味深い事例であり,人口の約半 る.したがって,このプログラムでは世帯がプロ 数が退職貯蓄を増加させた 68. グラムから享受できる給付の日数割当を,世帯規 模に合わせて調整することができる. 不況期のためにセーフティネットを提供する  社会的保護についてシステミック・アプローチ  最も脆弱な家計がショックに直面した場合に, を採用すると,政府が各種手段相互間の相乗作用 リスクを管理し消費を保護するのを助けるには を利用し,それを必要としているすべての人々に セーフティネットも極めて重要である.研究の示 より良いサービスを供与するのに役立つ 72.例 すところによれば,公共事業や現金給付などの えば最近,いくつかのプログラムが,保護と機会 セーフティネット・プログラムは,人々が資産を の利用を組み合わせた戦略を実施した 73.この 構築し,生産的な活動のなかでリスクに対する備 ようなプログラムは自己雇用や賃金雇用の機会を えを増やし,人的資本を蓄積するのを後押しす 通じて,より良い所得に至る道を構築することに る.バングラデシュやブラジル,インド,メキシ よって,受益者を持続可能な形で「卒業させる」 コ,ニカラグア,その他諸国におけるプログラム ことを追求している.ほとんどの場合,このよう の受益者は,より多くの資源をハイ・リスクでハ な戦略は単に現金給付を行う以外に,金融のサー イ・リターンの事業(肥料など)に投資し,所得 ビスや訓練とのリンクを提供するといった一連の 144 世界開発報告 2014 手段を必要としている.コートジボワール,ル 調整が必要であり,当該国の制度的な能力に依 ワンダ,およびタンザニアのセーフティネット 存している. 受益者は,銀行勘定やコミュニティ貯蓄グルー  各国の初期条件も,各政策手段の使用と有効 プへのアクセスを獲得することによって,所得 性に影響する.そこで,表 3.4 の政策は国の初 の一部を貯蓄することを奨励されている.エル 期条件にしたがって区分けされ,第 2 章で提示 サルバドルやシエラレオネ,南アフリカの公共 した指針にしたがっている.つまり,第 1 に, 事業プログラムは,基礎的で技術的なスキルの 現実的でなければならず,政策を国の能力に適 訓練を提供している 74.カメルーンでは,新 合化させる.第 2 に,強固な基盤を構築しな しい現金給付プログラムの受益者は金 ければならず,最も重要な障害に最初 家計 融リテラシーやビジネス訓練の活動 に取り組み,それに基づいてより高 を 1 つの単位とし に出席する.エチオピア,ガーナ, 度な政策が時間をかけて設計・実 てエンパワーする政策 およびニカラグアでは,受益者に 施できるかもしれない.したがっ と,家計内の個人をエン 現金と訓練を供与する実験プログ て,資源が限定的で制度能力が低 パワーする政策の両方 ラムの評価は,手段の組み合わせ い諸国は,次のような最も基盤的 が必要である. 次第で,短中期間で高所得活動への な政策に焦点を当てることから始め 参入につながっていることが示されてい ることができる.基礎サービスへのア る. クセスを保証すると同時に,例えば移住や送金 を円滑化することによって,非公式な制度の効 率性を改善する.リスク管理の基盤を築いた諸 すべてを総合する:政策実施のための指針 国は,基本を越えて,家計が機会を利用できる  家計のリスク管理を改善するための政策勧告 能力を発展させるために,サービスの利用の拡 は,大体において次の 2 つの補完的なグループ 大や生産性の引き上げに焦点を当てることがで に区分けすることができる.1 つは,家計をエン きる.これは,正式なリスク管理商品を改善し, パワーする政策であり,もう 1 つは,各自がリ 社会保険の適用範囲を拡張することによって行 スク管理を改善するために家計内の個人をエン うことができるだろう. パワーする政策である.第 1 のグループの政策  ほとんどの諸国では,特に能力が限定的な諸 は情報の欠如や資源の欠如,対労働・金融市場 国では,多数の手段を使う調整済みの政策を実 へのアクセスが限定されていることなど,家計 施するのは極めてむずかしいだろう.第 2 章で 単位で直面する障害に取り組む.第 2 のグルー 検討したように,公的政策に内在する障害は, プは家計内でのリスク分担に対する課題や,特 人々がリスクを管理するのを助ける多くの政府 定の家族員の脆弱性を増やす障害に取り組む. 措置にかかわる有効性の足を引っ張るだろう. この障害には以下が含まれる:人的資本に対す このような障害には能力や資源が限定的なこと, る過少投資,リスク管理のために子供を利用す 政府内および政府とその他主体との調整の失敗, ること,金銭的な意思決定から女性を排除する 政治経済学的な制約,深刻な不確実性などが含 こと,家庭内暴力にさらされる機会を無くすこ まれる.現実的になって強固な基盤を構築する となど.表 3.4 は,本章で検討した政策勧告を という指針にしたがうという 2, 3 の基本原則が, 要約したものであり,各種の手段を組み合わせ 政策当局が政策の設計と実施に当たる際に,そ ることや,それらが相互に補完することの可能 のような障害を克服するのを後押しできる. 性が,どのようにしてリスク管理の強化に役立 つかを明らかにしている.このようなシステミッ 長期的な視点を保つ ク・アプローチには政府諸機関をまたぐ,また,  長期にわたり持続可能性を確保するためには, 政府とその他の経済社会的主体相互間の強力な 政府は次のことを確実にすべきである.すなわ CHAPTER3 家計はリスクに対抗し機会を追求するための第一線の支援である 145 表 3.4 家計レベルでリスク管理を改善する政策の優先課題 家計レベルでリスク管理を改善する政策の優先課題 基本 高度 知識 基礎的な読み書き,訓練 中等教育,訓練 高等教育,訓練 メディア / コミュニティ・キャンペーン 学校で予防的医療を教育 知識に基づく妊娠決定の促進 モバイル技術の利用 保護 衛生インフラ・予防的医療ケア(女性の保健を含む) 移住支援・労働やその他の市場へのアクセス(特に女性向け) 指導者の地位におけるジェンダー 女性に平等な財産権を保証する規則 平等を促進する政策 家庭内の暴力・虐待に関する法律の公布・執行 保険 指数型保険 貧困層の金融包摂 送金コストの引き下げ 年金 健康保険 失業保険 (老齢・障害・死亡) 対処 自己・コミュニティを対象とした 所得扶助 資産調査を伴う所得扶助 女性対象の移転 出所:WDR 2014 チーム. 注:上表は政策の優先順位を決定するために第 2 章で示した次の指針に基づいて,政策の順序を示したものである:政策の設計においては現 実的になって,自国の制度的な能力に合わせる;最も重大な障害に継続的に取り組み,時間とともに改善することができる強固な基盤を構築 する. ち,政策は財政的に持続可能でなければならず, ばならない.そのためには政府は好況期を利用し 制度的な取り決めは政治サイクルを超越しなけれ てセーフティネットを整備すべきである.それは ばならない.政府は政権の座につくと,しばしば 病気や失業,その他の損失に直面する家計が増加 野心的な「旗艦」プログラムの導入に熱心にな する不況期には,より大勢の人々を対象に含め, る.ところが,このプログラムは特に不況期には より多額の給付金を供与するために規模が拡大で 賄えなくなるのが普通である.加えて,このよう きるようにしておかなければならない. なプログラムの多くは他の諸機関による類似の補 完的なプログラムと調整されているわけではな 柔軟性を促進する く,孤立して運営されている.政府はこのような  上で提案した制度的枠組みのなかで,政府の政 短期的なアプローチではなく,諸機関をまたぐ調 策やプログラムは状況の変化に適応できるよう十 整と効率性を改善する安定した制度的取り決め― 分に柔軟であることも必要である.労働市場がそ ―統一的な登記所やデータ共有規約など――を通 の一例である.人口動態や経済面での変化は労働 じることや,官僚の間に強力な技術的能力を築く 市場に深刻な変化を引き起こす.したがって,教 ことによって,後世にとっても有効な仕組みの構 育・訓練政策を含めて,労働政策はそのような変 築に焦点を当てるべきである.さらに,社会扶助 化に適応できるように十分に柔軟であるべきだ. プログラムなどの人々がリスクを管理するのに役 同様に,セーフティネット・プログラムは危機に 立つ重要なプログラムは,最も必要な時――つま 襲われた際に最も脆弱な家計や個人を特定するた り不況期――には適正に積み立てられていなけれ めの有効な手段と,タイムリーにサービスを提供 146 世界開発報告 2014 するためのインフラの両方を必要とする.それは 満の子供は 22%にも達しているのに対して,65 危機が通り過ぎれば適用範囲を縮小することもで 歳以上の同シェアは 9%にとどまっている 76. きなければならない. 同様に,ブラジルでは高齢者の間では貧困が事実 上撲滅されたが,子供についてはそうではない. 適正なインセンティブを供与する 明確に定義された優先課題と目標をもつと同時  家計メンバーが個人的な責任を負うようにイン に,その目標が達成できない,あるいはそれが変 センティブを増やすことは,家計がリスク管理を 化した場合には,公的資金を再配分する柔軟性を 行う能力を強化する上で重要な部分である.多く もつ透明な政策が望ましい. の社会扶助プログラムが今やインセンティブを考 慮に入れつつある.例えば,受益者が働く意欲を 不確実性ないし不必要なリスクを作らない なくすことを回避するために,給付制度を導入し  政策はリスク管理に関して新たな障壁を作るべ ても受給に期限を設定している.公的政策は家計 きではない.本章で検討した政策のほとんどは, 内のインセンティブを変更して,家族全員の利益 家計のリスク管理に対する障害を克服しようとし のために資源の共同出資を決断することを目指す ている.しかし,設計の欠陥から新たな障壁が生 べきである.この目標達成のためには,規制改革 み出される場合がある.例えば,仮に政府が公的 と公的プログラムにおける設計上の特殊な特徴の 貯蓄プログラムの資金を現行支出を賄うことに使 組み合わせ(法的改革と受益者の絞り込みの組 用したとすれば,民間貯蓄のインセンティブは低 み合わせなど)を盛り込むことが必要かもしれな 下するだろう.貧困層が入手可能な価格に維持さ い.例えば,現金給付プログラムの対象を女性に れるように主食に設定される上限価格は,大規模 限定すれば,女性を経済的にエンパワーすること な不足や投機をもたらし,人々はかえって損をす ができるものの,もしその法的保護が保証されて ることが多い.さらに極端な場合,政府は女性の いなければ,否定的な影響(家庭内暴力のリスク 経済的および社会的な参加を制限して,家計のリ 増大など)が生じるかもしれない 75. スク管理を弱める社会規範を合法化するような規 則を立法化する.政策が生み出すリスク管理にか 脆弱層を保護する かわる追加的なリスクや他の意図せざる結末が予  リスク管理を改善する政策にとって第 1 に優 想されるのであれば,政府としては「角を矯めて 先すべきことは,その備えに関して最大の障壁に 牛を殺す」ような政策を回避することができる. 直面している家計を対象にすることであろう.し かし,脆弱性の定義が利益集団によって決定され ることがあまりにも多い.アメリカでは,政府は 高齢者向けには子供向けの 2.2 倍もの支出をして いる.ところが貧困な暮らしをしている 18 歳未 CHAPTER3 家計はリスクに対抗し機会を追求するための第一線の支援である 147 注 31. World Bank 2011. 32. World Bank 2012. 1. この話は Davis 2011 からの翻案. 33. Collins 他 2009. 2. Hoff and Sen 2005 参照. 34. 例 え ば 次 を 参 照 ――Di Falco and Bulte 2011; 3. Dercon 2002. Baland, Guirkinger, and Mali 2011. 4. WDR 2014 の た め に 書 か れ た Heltberg, 35. Ledgerwood 2013. Oviedo, and Talukdar 2013. 36. Dercon 2002. 5. WDR 2014 の た め に 書 か れ た Oviedo and 37. World Bank 2011. Moroz 2013 の参考文献を参照. 38. Dercon and Krishnan 2000. 6. WDR 2014 の た め に 書 か れ た Genicot and 39. Linnerooth-Bayer, Mechler, and Hochrainer- Ligon 2013. Stigler 2011. 7. WDR 2014 の た め に 書 か れ た De Vreyer and 40. WDR 2014 のために書かれた Brown, Mobarak, Lambert 2013. and Zelenska 2013 の参考文献を参照. 8. Giles, Guo and Zhao 2013. 41. WDR 2014 の た め に 書 か れ た Cáceres- 9. Silverstein and Giarrusso 2010. Delpiano 2013 の参考文献を参照. 10. Alderman 他 1995 での文献に関する議論を参照. 42. WDR 2014 の た め に 書 か れ た Cáceres- 11. ブルキナファソに関して Udry 1996; コートジボ Delpiano 2013 の参考文献を参照. ワールに関して Duflo and Udry 2004. 43. WDR 2014 のために書かれた Brown, Mobarak, 12. 例えば Iversen 他 2011 を参照. and Zelenska 2013 の参考文献を参照. 13. WDR 2014 の た め に 書 か れ た Heltberg, 44. Dercon 2002. Oviedo, and Talukdar 2013. 45. Bandyopadhyay and Skoufias, 近刊. 14. WDR 2014 の た め に 書 か れ た Oviedo and 46. Dercon 2002. Moroz 2013. 47. WDR 2014 の た め に 書 か れ た Heltberg, 15. 次 を 参 照 ――Friedman and Sturdy 2011 の 参 Oviedo, and Talukdar 2013. 考文献;WDR 2014 のために書かれた Oviedo 48. World Bank 2011 における徹底した議論を参照 and Moroz 2013. 49. WDR 2014 のために書かれた Brown, Mobarak, 16. Dercon 2002; Friedman and Sturdy 2011. and Zelenska 2013 の参考文献を参照. 17. WDR 2014 の た め に 書 か れ た Oviedo and 50. Paulson 2000; De Weerdt and Hirvonen Moroz 2013 の参考文献を参照. 2013. 18. Haushofer, de Laat, and Chemin 2012; 51. WDR 2014 のために書かれた Brown, Mobarak, Friedman and Sturdy 2011. and Zelenska 2013 の参考文献を参照. 19. Heltberg, Hossain, and Reva 2012. 52. Field 2007; World Bank 2003. 20. Miguel 2005. 53. Baird, McIntosh, and Özler 2011. 21. World Bank 2011. 54. Nilekani 2013. 22. 例えば Kusimba 他 2013 を参照. 55. World Bank 2011. 23. WDR 2014 のために書かれた Brown, Mobarak, 56. 例えば Basu 2006 を参照. and Zelenska 2013 における議論と参考文献を 参照. 57. World Bank 2011. 24. WDR 2014 のために書かれた Brown, Mobarak, 58. Deininger, Goyal, and Nagarajan 2013. and Zelenska 2013 の参考文献を参照. 59. Jensen 2010, 2012. 25. Heckman, Stixrud, and Urzua 2006; Grossman 60. WDR 2014 のために書かれた Brown, Mobarak, 2006. and Zelenska 2013; Almeida, Behrman, and 26. Chou 他 2010. Robalino 2012; Almeida 他 2012. 27. 例えば Card 1999 を参照. 61. Ruiz 2008. 28. Barro and Lee 2010.追加的な 1 年にかかわる 62. Kusimba 他 2013. 収益率はサハラ以南アフリカの 6%から高所得国 63. Ribe, Robalino, and Walker 2012. の 14%近くまでのレンジ内にある. 64. Holzmann, Robalino, and Takayama 2009 参 29. この話題に関する議論については Banerjee and 照. Duflo 2011 を参照. 65. Evans, 近刊;Levy and Schady 2013. 30. WDR 2014 のために書かれた Brown, Mobarak, 66. 例 え ば 以 下 を 参 照 ――Holzmann, Robalino, and Zelenska 2013 の参考文献を参照. and Takayama 2009; Levy and Schady 2013; 148 世界開発報告 2014 Frölich 他 , 近刊. 73. WDR 2014 のために書かれた Premand 2013 の 67. Ribe, Robalino, and Walker 2012. 参考文献を参照. 68. Hinz 他 2012. 74. エルサルバドルの食料の安全な確保の促進に関し てはスポットライト 2 を参照 69. Alderman and Yemtsov 2012. 75. World Bank 2011. 70. WDR 2014 のために書かれた Premand 2013. 76. Isaacs 他 2012. 71. Alderman and Yemtsov 2012. 72. Robalino, Rawlings, and Walker 2012. CHAPTER3 家計はリスクに対抗し機会を追求するための第一線の支援である 149 参考文献 Card, David. 1999. “The Causal Effect of Education on Earnings.” In Handbook of Labor Economics, vol. 3A, 1801–63. Amsterdam: Elsevier. Abdul Latif Jameel Poverty Action Lab (J-PAL). 2011. “The Price Chou, Shin-Yi, Jin-Tan Liu, Michael Grossman, and Ted Joyce. Is Wrong: Charging Small Fees Dramatically Reduces Access 2010. “Parental Education and Child Health: Evidence from a to Important Products for the Poor.” J-PAL Bulletin April Natural Experiment in Taiwan [China].” American Economic 2011. Journal: Applied Economics 2 (1): 33–61. 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World Bank, Washington, DC, http://data.worldbank.org/data-catalog/ world-development-indicators. 152 スポットライト 3 トルコとキルギスにおける 国民皆健康保険の適用に向かう動き  病気の経済的な結末は途上国では破壊的になることが多い.毎年約 1 億人が医療費を支払おうと苦闘し ながら貧困に陥っている.トルコとキルギスの経験は,各国はどのような発展段階にあろうとも,医療サー ビスへのアクセスとその負担可能性を改善することができることを示している.政府の医療支出の効率性 を向上させ,貧困層を公的ファイナンスによる健康保険を通じて保護すればよいのである. トルコで医療ケアへのアクセスに関して公平性を 12 年には 71%へと上昇した. 高める  保険料は家計所得に基づいており,富に応じて  トルコは医療ケアの利用や価格,質に関して 増加する.貧困層の保険料は政府が支払う.貧困 素晴らしい成果を達成した.健康保険は人口の 層とは 1 人当たり所得が最低賃金の 3 分の 1 以 95%に適用され,国民の 76%が医療ケアのサー 下,すなわち 1 カ月当たり約 163 ドルの家計と ビスに満足している.しかし,2003 年以前,医 定義されている.貧困層は国家的な統合社会支援 療サービスの利用は地域ごとに大きな差があり, サービス制度を通じて特定される.同制度は他の 農村部の医療ケアは都市部と比べて確保が困難で 社会支援プログラムの適格性を決定するためにも 割高であった.医療の運営資金は 4 つの相異な 使われている.統合的な制度は情報重複の回避に る保険制度の間で細切れになっていた.貧困層向 役立ち,給付管理の改善につながる.貧困に近い けの独立したグリーン・カード・プログラムは, 層(1 人当たり所得が最低賃金の 3 分の 1 から 入院患者サービスのみを対象にするだけで,広く 同水準の間の人々)も十分な保護を受けており, 使われてはいなかった.ほとんどの公的医療財源 保険料は月 20 ドル程度に設定されている.これ は一次ケアではなく,コスト高な病院ベースの 以外の人々は所得に応じてより高い保険料を支払 サービスに配分されていた. う.   こ の よ う な 問 題 に 取 り 組 む た め に, 政 府 は  政府は家庭医療を促進することによって一次ケ 2003 年に包括的な医療変革プログラムを打ち出 アを強化しようとした.この決定は一次ケア指向 した.すべての健康保険制度は新規に創設された 型のシステムはより低いコストで人々の健康改善 社会保障機関が管理する国民皆健康保険プログラ をもたらしている,という世界的な証拠に沿った ムに統合された.貧困層を含むすべての被保険者 ものであった.政府はインセンティブをいくつか は同じ給付パッケージを享受する.それには入院 導入した.それには以下が含まれる.家庭医の給 患者および外来患者サービス,歯科ケア,診断テ 与引き上げ,パフォーマンス指針の導入,施設訪 スト,救急ケア,医薬品などが含まれる.貧困層 問や患者調査を通じたサービス提供の質の定期的 は公共施設を使えば一部自己負担も免除される. なモニタリングなど.サービス提供者は予防接種 給付の拡大はグリーン・カードに対する需要の著 や産前ケアなどの特定の実践的な目標を達成して –  しい増加につながった.加入者は 2003  11 年に いない場合の罰金として,基本給の最高 20%ま 250 万人から 910 万人へと 3 倍以上に増加した. でを支払うリスクを負う.政府はサービスが行き プログラムの対象を絞り込んだおかげで持続可能 届いていない場所に移転する医者に対して基本給 性も改善した.所得でみて最低 20%層に対する の最高 40%までの月次ボーナス支給も導入した. グリーン・カード給付は,2003 年の 55%から この措置を受けて,農村部と都市部の間における CHAPTER3 家計はリスクに対抗し機会を追求するための第一線の支援である 153 医療ケアの利用における格差は縮小した. 図 S3.1 所得の地位別に見た医療ケアの利用と自己負担の医療  このような改革のおかげで,医療サービ 費支出(キルギス,2009 年) スへのアクセスや医療費に対する保護は 12 国全体として著しく改善した.サービス利 10 用は 2003 年以降 2 倍以上に増え,医療 8 ケアの質に関する満足度も上昇し,重要な 6 % 健康指標――平均余命,幼児や妊産婦の死 4 2 亡率など――も改善している.グリーン・ 0 カード・プログラムに関する世界銀行の評 全家計に 全家計におけ 支出総額に占 おける める自己負担 価は,2008 年の経済危機の際には貧困層 一次ケアの る入院ケア 医療費の割合 の利用率 利用率 にとって有効なセーフティネットを提供 し,加入者が非加入者に比べて治療や予防 最貧 20%層 最富裕 20%層 のためのケアを削減する可能性は低かっ 出所:Gliuffrida, Jakab, and Dale 2013 からのデータに基づき WDR 2014 チー ム作成. たことを示している.医療ケアへのアクセ ス改善は医療費向けの過度な公共支出を することなく達成された.トルコの公共医療費は を改善し,自己負担のコストを削減するために, GDP の 5.1%であり,これは同じような発展段 一連の改革を導入した.アプローチが成功するた 階にある他の諸国の水準に相当する.将来を展望 めには改革の順序が重要であった.第 1 に,義 すると,コストを抑制し,医療費支出の効率性を 務的健康保険基金(MHIF)が創設されたが.こ さらに高めることが重要であろう. れは,雇用者が支払う 2%の給与税によって賄わ れる.退職者と失業者については政府が拠出し, キルギスにおける医療ケアの負担可能性を改善 自営業者は年約 10 ドルで健康保険を買うことが する できる.個別になっている地方と州のレベルにお  1991 年に独立した際,キルギスには標準的な ける公的医療ケアの運営資金の管理を,MHIF が ソビエト型の医療ケア制度があった.この制度の 管理する単一のプールに統合することによって, 特徴は,サービス提供者の大規模なネットワーク 効率性の面で顕著な改善が得られた.この取り であり,予防ケアよりも病院での治療ケアに焦点 決めによって間接費が削減され,事務部門をまた が当てられ,中央計画による投入ベースのファイ いで資源のより公平な配分が実現した.第 2 に, ナンス制度を採用していた.この制度には非効率 医療サービスの購入は MHIF の下に中央集権化 性が蔓延していたものの,キルギスの国民は無料 され,同基金が産出ベースの支払いの仕組みの下 の医療サービスを利用することができた.1990 で,国中の提供者と契約を締結している.この手 年代の初め,若い独立国家は深刻な経済危機を 法で効率性が高まり,施設管理者には資金使途に 経験し,GDP が半分以下となり,政府は規模の 関して若干の柔軟性が付与された.第 3 に,一 大きな医療ケア制度を維持することができなかっ 次ケアが優先課題にされた.規模が特に大きい病 た.医療ケア提供者の低い給与を補填するため 院部門は約 40%削減され,節約分は医療用品や に,非公式な自己負担による彼らへの支払いが一 医療従事者の給与に割り当てられた. 般的に行われるようになった.入院患者はしばし  改革の重要な結末は給付にかかわる明示的な定 ば医薬品やシーツ類,電球などの支払いを手助け 義と権利にかかわる規則であった.国家保証給付 しなければならなかった.多くの貧困層にとっ パッケージは次を盛り込んでいる:すべての国民 て,医療ケアは負担不可能で,したがって利用さ に対する無料の一次ケアと救急ケアおよび脆弱グ れなくなった. ループの自己負担を免除する補助金付きの二次ケ  2001 年以降,政府は医療部門の支出の効率性 ア.脆弱グループには以下が含まれる:5 歳未満 154 世界開発報告 2014 児,70 歳以上の退職者,障害者,妊産婦,医療 ある.医療ケアの資金管理のさらなる合理化に ケアの利用度が高くなると予想される健康状態 は,トルコを初め多数の諸国で行われているよう (糖尿病・ガン・結核・喘息など)を有する人々 に,自己負担の免除について貧困状況による対象 など.このようなグループは補助金付き医薬品の の絞り込みが必ず伴う.追加的な効率性の向上は 利用からも利益を享受する. 入院率や医薬品の過剰使用を減らし,医療施設に  改革の影響は非常に肯定的であった.医療ケア おける光熱費を削減し,医薬品調達に関する資金 の利用は今やすべての所得水準でほぼ同じとなっ 調達を簡素化することによって実現可能である. .家計は病気の結果として貧困 ている(図 S3.1) に陥る可能性が低下している.医療費の自己負担 は改革が始まって以降,すべての所得層で低下し 参考文献 ている.2009 年現在の最貧 20%層でみて,家 トルコ 計の支出総額に占める医療費の自己負担額はわず Aran, Meltem A., and Jesko S. Hentschel. 2012. “Protection in Good and Bad Times? The Turkish Green Card Health Program.” .重 か 4.4%を占めるにすぎない(図 S3.1 参照) Policy Research Working Paper 6178, World Bank, Washington, DC. 病にかかわる医療費(家計の支出総額の 20%以 Menon, Rekha, Salih Mollahaliloglu, and Iryna Postolovska. 2013. “Toward Universal Coverage: Turkey’s Green Card Program for 上を占める)の発生率は,2000 年の 8%から 09 the Poor.” UNICO Studies Series 18. World Bank, Washington, 年の 5%へと低下している.乳幼児や 5 歳未満児 DC. OECD (Organisation for Economic Co-operation and Development) の死亡率などのいくつかの健康指標は改善してお and World Bank. 2008. OECD Reviews of Health Systems: Turkey. Paris: OECD. り,キルギスは平均的な低所得国と比べて健康面 Ministry of Health of Turkey. 2012. Health Statistics Yearbook 2011. で良好な結果を達成している.公的医療費支出は Ankara: Ministry of Health of Turkey. GDP の約 3.5%と低所得国の平均を若干上回っ ているが,政府が医療費支出を優先課題にしてい キルギス age in Health: The Case of the State Guaranteed Benefit Package of ることを反映したものである. the Kyrgyz Republic.” UNICO Studies Series 17. World Bank,  キルギスの経験は,公的資源をより効率的に使 Washington, DC. Ibraimova, Ainura, Baktygul Akkazieva, Aibek Ibraimov, Elina えば,低所得国でも患者の金銭的な負担を軽減す Manzhieva, and Bernd Rechel. 2011. “Kyrgyzstan: Health System Review.” Health Systems in Transition 13 (3): 1–152. ることができることを示している.この経験は財 WHO (World Health Organization). 2010. Health Systems Financing: 政の余裕が限定的で,医療部門が能力過剰にある The Path to U­ niversal Coverage. Geneva: WHO. Yazbeck, Abdo S. 2009. Attacking Inequality in the Health Sector: A 他の体制移行諸国にとっては特に貴重である.前 Synthesis of ­ Evidence and Tools. Washington, DC: World Bank. 向きな結果が達成できたのは,単一の手段に依存 せずに包括的なアプローチを採用したおかげであ る.MHIF を通じた戦略的購買を導入したこと, 提供者に大きな自律性を付与し節約分の一部につ いて自主管理を許容したこと,病院部門の規模を 縮小したこと,一次ケアへの投資を増やしたこと などが,効率性の面で著しい改善をもたらし,そ れが金銭面で人々の保護を強化する方向に配分さ れたのである.キルギスは低所得国としてはむし ろ発達した医療情報システムがあり,そのおかげ で政府は,自己負担からの収入を予測し,年間の 支出計画を策定し,新政策の効果を監視すること ができた.  今後の改革では,医療ケアの資金管理につい て,その持続可能性の改善に焦点を当てるべきで 156 世界開発報告 2014 数の力:インドの農村部マディヤ・プ ラデシュ州で,スキル訓練プログラム に出席している女性の自助グループ. ©McKay Savage 157 CHAPTER 4 結束力があり,結び付きのあるコミュニティ間では 強靭性が生まれる コミュニティは多くのリスクに直面 ている.管理をしないことのリスクは している 生命や健康,財産の損失を引き起  1995 年 に 熱 波 が シ カ ゴ を こし,投資を阻害する 3.生産 襲った際,750 人以上が亡く 性と機会の中心地として都市 なった.多くは犯罪を恐れて の潜在力を解放するために ニ 夜中に窓を開けっ放しにし ミュ ティ は,犯罪や汚染,流行病など コ ていなかった貧しい高齢者で のリスクを管理することが必 あった.このような死亡者数 要である.市民は無防備なわ の分布は所得を考慮に入れても, けではない.ギャングに対抗す 市内で均一ではなかった.シカゴ る運動を展開して犯罪や無秩序を阻 の貧しい高齢者をみると,多数の人が亡 止する措置をとり,リスクにさらされて くなった地域があった一方で,多数の人が生き いる若者を指導し,挑発が民族暴動に発展して 延びた地域もあった.社会的ネットワークが強 いくのを阻止しようとしている.当局に対して 固で結束力のある地域では死亡率が低かったの は衛生や保健サービス,法と秩序を請願し,保 である 1. 険や援助を相互に提供し合っている.  タンザニアの Nyakatoke という農村コミュニ  コミュニティというのは頻繁に相互作用し, ティでは,120 世帯が埋葬保険組合や回転型貯 アイデンティティないし場所を共有している人 蓄信用講,労働家畜共有グループなど 40 以上の 間の集団である.近隣グループや宗教グループ, 多種多様なコミュニティ・グループを形成して 親族グループなどがその事例である.コミュニ いる.このようなグループが村の住民向けに(部 ティ関係は家族関係ほど緊密で長期にわたるわ 分的かもしれないが)有益な保険を提供してお けではない.コミュニティ・グループは家族よ り,ほとんどの住民は複数のグループに所属し りも大きいことがその一因である.人々は通常 ている.各グループには拠出金や個別事象に対 は損益の大部分をコミュニティよりも家族のな する支払いに加えて,非拠出者に対する制裁に かで分担する.同時に,コミュニティは市場性 関する口頭または成文による規則がある.なか の関係よりも個人的な相互作用を多く含んでい には,統一性と相互扶助の重要性を強調する儀 る.その結果として,コミュニティのメンバー 式で規則を補完しているグループもある.ほと はお互いの成功や失敗,幸運や悪運に関して良 んどのグループは何らかの形の保険を提供して く知っている.この知識が公益に対する貢献や おり,村を夜間パトロールしているグループさ 困っている人との分かち合いに関する規範を実 えある 2. 行するのに役立っている.  地方コミュニティは多くの危機や紛争,災害  規範や恥辱,罪悪感,個人的相互作用に依存 の震源地であると同時に,解決策の一翼を担っ することによって,良く機能するコミュニティ 158 世界開発報告 2014 は,市場や政府が苦労して取り組んでいる多く 開発主体は,コミュニティはリスクを鋭敏に認 の問題――犯罪の防止や天然資源の管理,言動 識しており,それに備えるための支援を要請し の変化に影響を与えること,貧困層に ていることを見出している.しかし, 市場 対する信用供与,部外者による監視 リスク管理というのはコミュニティ や統治では解決で が困難なリスクへの保険の提供な という文脈では何を必要としてい きない問題にとっては, ど――を解決することが可能に るのか? 本章では,政府,援 結び付きが強いコミュニ なっている.コミュニティは「ア 助国,および市民社会組織が既 ティが欠けているパズル ラブの春」でみられたように,社 存のものを基盤として,コミュニ のピースかもしれな 会変革と応答的統治を求めて協力 ティの強靭性を発展させるために い. し合って取り組むことができる.コ 使える多種多様なアプローチを探求 ミュニティ主導型プロジェクトは,アフ する.リスク管理者としてのコミュニティ ガニスタンの国家連帯プロジェクトのような, を強化するような種類の政策を提唱する.すな 政府の能力が不足している脆弱な環境下では, わち,状況に配慮した法体制を創設し,地方の 公共財やサービスを提供することができる.し リスクを管理するために独自の能力を発展させ, かし,コミュニティは人々を排除し,近隣コミュ 自分たちの「発言権」と政府の説明責任を問う ニティとの暴力的な紛争にも発展し得る.また, 能力を高め,補完的な公共財・サービスを提供 システミック・リスクに取り組み,より複雑な しなければならない.さらに本章では,コミュ 機会を活用するために,十分に大きい規模の保 ニティを無視し,リスクと不安定性を生むよう 険プールや公共財を創出することには苦労して な政策に対しては警告を発している. いる 4.  本章では,コミュニティとしてメンバーがリ スクに直面し,機会を追求するのをどのように リスク管理者としてのコミュニティ して助けることができるか,また,政府や援助  人々やコミュニティは多種多様なところから 国,非政府組織(NGO)を含む開発主体がその 発生するリスク――特異なものやシステミック 役割においてどのように支援することができる なものの両方――に直面する.多くの諸国でど かに焦点を当てる.本章では,多くのコミュニ のようなショックを最近経験したかを人々に質 ティが地方のリスクに取り組むのを助ける保険 問した調査結果によれば,自然災害,健康状態 や保護,対処の仕組みをどう発展させてきたか, や価格の急変,資産損失などが最も頻繁で深刻 繁栄するコミュニティがある一方でメンバーを であった(第1章と 3 章も参照).多くの国で, 悲惨なリスクにさらしているコミュニティがあ 死亡や病気,事故などの固有の災害はごく一般 るのはなぜか,ただ乗りの問題や非感応的な当 的であり,大きな費用が発生するという証拠が 局,資源制約,その他の障害が,コミュニティ 示されている 5.システミック・リスクも重要で のリスク管理改善をどのように阻害しているの ある.例えばタンザニアでは,最も頻繁に自己 か,他のコミュニティや市場,政府との社会的 申告されている 7 つのショック――食料価格の 連帯や結び付きが,コミュニティの成功できる 高騰,洪水,および水不足などを含む――のう 可能性をどのように形成するのかなどを検討し ちの 6 つはシステミックであり,地方コミュニ たい.さらに,コミュニティは外部の支援があ ティの大勢に影響を与える(図 4.1a).中国の農 れば,リスク管理を著しく改善できることも主 村部では,個人の健康とより広範な農業災害が 張したい. ともに重大な懸念事項となっている.農業関連  リスクへの取り組みは貧困との戦いにおける のショックはより頻繁であるが,健康のほうが 多くの次元で,ますます補完的なものとして認 影響の度合いが深刻なものになる傾向が強い(図 識されてきている.コミュニティの話を聞いた 4.1b).ナイジェリアでは,健康状態の急変が最 CHAPTER4 結束力があり,結び付きのあるコミュニティ間では強靭性が生まれる 159 図 4.1 人々やコミュニティは固有のショックとシステミックなショックの両方から影響を受けている a. タンザニアではシステミックなショック(価格・災害・農業)が 固有の健康に関するショックと同じように頻繁である 食料価格の大幅な上昇 58 拡大家族員の死 39  水不足 35  旱魃ないし洪水 30  作物の病害ないし害虫 27  作物売却価格の大幅な上昇 27  農業投入価格の大幅な上昇 25  家畜の死,あるいは窃盗 22  家族員の死 12  犯罪 11  勤労仲間の病気ないし事故  9  家計の崩壊  8  家内企業の倒産 6  自分の土地の損失  5  給与雇用の損失  3  0  10  20  30  40  50  60  過去 5 年間に各種のショックを経験した家計の割合(%) ほとんどの場合,ショック ショックはほとんどがシステミックであっ は固有であった た(コミュニティのすべて,ないしほとんど の家計が影響を受けた) b. 中国農村部では健康や農業に関するショックが一般的な懸念事項である 100    ショックを理由に主観的に貧困だと 80  失業 報告している家計の割合(%) 勤労メンバーの重病 勤労メンバーの死 扶養家族員の重病 60  不作 窃盗 40  結婚 家畜の死 20  出産 0  0  5  10  15  20  25  ショックを報告している家計の割合(%) 出所:次からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成――パネル a について Tanzania National Panel Survey 2010/11;パネル b に ついて China Rural Social Protection Survey 2004.これは次の地域を対象にしている――3 つの省(福建・甘粛・浙江)の農村部と 1 つの自治区(広西省壮族自治区) . 160 世界開発報告 2014 も一般的で(都市家計が報告した深刻なショック 学校,診療所などを備え,海外移住機会の利点 すべてのうちの 35%,農村家計の場合は 27%), を検討している人々がいる安定した都市集落に その後には都市部の価格と雇用環境の悪化,農村 なった 7.集団的な達成は――結束力と当局との 部の災害,価格の変動,資産損失が続いている. 結び付きを通じて達成されたリスク管理をしばし システミックなショックのなかには局地的なもの ば含んでいる――,この地区と人々を転換させる (旱魃や不作)もあれば,全国的ないし世界的な ための資産や住宅,教育の私的蓄積と同時に進行 もの(食料や投入物の価格変動)もある. している.  リスク管理という文脈における「コミュニティ」  第 2 の補完的な定義では,コミュニティを文 の意味は,2 つの補完的な(時には重複的な)形 化やアイデンティティを基盤としたグループ(親 で定義できる.1 つは場所に注目したものであ 族や民族のグループなど)と考える.友人や同じ り,もう 1 つは文化的なアイデンティティに注 親族や民族のグループのメンバーは,多くの場合 目したものである 6.場所によるコミュニティは にショックに直面した人々を助ける源泉になって 文字通りのものである.すなわち,村や都市の近 いる.アイデンティティ――場所ではなく――を 隣地区などに長く暮らしている住民など,ある場 共有しているおかげで,ネットワークへ参加する 所を共有している人々のことである.場所による ことが是認される.そのようなグループは所得損 コミュニティは,特異なリスクに対して信用や保 失に対して援助や保険を提供することができる 険,援助を供与し,犯罪や災害,感染症などの地 が,その構成は流動的である.つまり,大きな 方的リスクに対する保護を組織化することができ ショックが襲来したり,より複雑な機会(例えば る.例えば,取り締まりや排水,衛生,固形廃棄 移住を含む)が出現したりした時,グループの境 物収集などいった方策を通じて行う.ただし,地 界はさらに広がる.というのは,人々がより疎遠 方の公共財の供給に関してただ乗りする,あるい な社会的連帯を通じた援助を求めるからだ 8.文 はそれの正当なシェアを拠出ないし負担する責任 化――言語や宗教的儀式,象徴や儀式の共有など を尻込みするといった傾向を克服しなければなら ――は,アイデンティティを共有しているという ない.場所によるコミュニティは独自に保護を組 人々の感覚を強める. 織化するか,または必要なサービスやインフラの  宗教や信条が基になっている団体は,文化的な 供給を政府に請願することができる.公園やス コミュニティを結び付けるのに重要な役割を果た ポーツ施設などの共有スペースは,人々と地方コ す.逆境に陥った際,人々は多くの場合に物心両 ミュニティの絆を強める. 面で救援を提供してくれる宗教団体を頼りにする  エクアドルのグアイヤキルにあるインディ (ボックス 4.1).このようなことは世界中で見ら オ・グアヤスという非公式な都市部落は場所が基 –  れる.例えば,インドネシアでは,1997  98 年 になっているコミュニティである.この部落は の金融危機を受けて,主食であるコメの価格が約 1975 年に出現した.貧困層が土地を取得し,簡 3 倍に高騰したため,広範囲にわたる経済的な困 素な竹製の壁の家を建て始めた.その当時,新し 窮,政治的な変化,社会的な動揺が発生した.多 い部落は沼地のなかに位置し,いかなる種類の物 くのインドネシア人はコーラン勉強会などの宗教 理的・社会的インフラもなく,危険な通路でつな 組織に,より積極的に参加するという反応をみせ がっていた.新しい住民たちは結束力のある自治 た.その勉強会は精神的な救いと非公式保険への 委員会を形成し,その運営に際して行動力のあ アクセスの両方を提供したようである.宗教への –  る女性を選出した.その後 20  30 年間にわたっ 参加と施し物や信用に対するニーズの減少との間 て,この委員会は公共サービスやインフラ,地権 には相関関係があり,公式な信用が入手不可能な などに関して,当局や政党に成功裡に嘆願した. 地方では特に顕著であった 9. 2000 年代初めまでには,そこはコンクリート  シカゴやエクアドル,インドネシア,タンザニ 製の家屋や舗装道路,水道水,照明,衛生設備, アからの事例は,人々がリスクに備えたり,対処 CHAPTER4 結束力があり,結び付きのあるコミュニティ間では強靭性が生まれる 161 ボックス 4.1 富の共有が宗教的な義務の場合:イスラムのコミュニティにおけるザカート(喜捨)の利用  多くの宗教的伝統において,貧困層に対する慈善的な施 ある.金額は援助者が計算して,選んだ受益者に直接分配 しは奨励ないし義務化されている.イスラム教の 5 つの柱 するか,または分配のためにモスクないし近隣地区指導者 の 1 つであるザカート(zakat:喜捨)は,イスラム社会 に提供する.首都サヌアに関する調査データが示すところ に深く浸透している制度であり,特別なカテゴリーの人々 によると,貧困層の約 3 分の 1 はザカートを受領してお を助けるために,すべての人に,自分の所得や資産の一定 り,ボトムの 40%層に属する家計の約 60%に届いている 割合を差し出す義務がある.そのカテゴリーに含まれる人 という意味で,かなり適切な対象の絞り込みがなされてい はコーランに規定されており,寡婦や孤児,身体障害者, る.しかし,社会的な絆を欠いている貧困家計が除外され 悲惨な貧困下で暮らしているその他の人々が含まれる.解 ている場合がある.1 年に 1, 2 度施しが行われる一括寄付 釈は国ごとに異なっている.ザカートが政府によって徴収 金として,ザカートはショックに直面した際に消費を円滑 され分配されている国もあれば,援助者が選んだ受益者に 化する手段として有効なものであるとは必ずしも言えな 直接的に分配したり,あるいは,援助者が資金を分配する い.同様の欠陥がパキスタンでもみられる.同国ではザ ためにモスクに届ける,というコミュニティ活動を通じた カート制度は政府によって監視され,コミュニティの委員 私的な問題にとどまっていたりする国もある.通常,施し 会によって各地方で実施されている.実施には次のように は年に 1 – 2 回,ラマダーン(断食)やイード(大祭)の 多くの問題がある.すなわち,対象の絞り込みが不適切, 時期に行われる. 給付金の支給が稀で予測不可能,えこひいきと卑怯な不正  イエメンでは,ザカートは義務的な税金ではなく移転で 行為が広まっているとの風評がある,などである. 出所:Levin, Morgandi, and Silva 2012; World Bank 2007 に基づき WDR 2014 チーム作成. したりするのを助けるのに,なぜコミュニティが 層制や不平等,暴力,疎外などの程度はさまざま しばしば極めて重要なのかを例証している.それ ではあるが,常に考慮に入れておくべき要因であ には都市部と農村部の区別はない.時としてコ る. ミュニティは援助の唯一の源泉となっている.す  コミュニティがリスクに立ち向かおうとする際 なわち,それが大規模な災難や食料不足を乗り切 に直面する障害の多くは,コミュニティが使う傾 るのを助けてくれるライフラインなのである.し 向にある非公式な組織の仕組みに起因している. かし,このような事例は,コミュニティの働きが コミュニティの領域というのは,道徳の規範や公 十分なリスク管理に達していることは稀であるこ 正性,互恵性,公益に対する義務感,時として利 とを示している.コミュニティは,システミック 他主義などが通用するところである.それに対し なリスクに対する有効な保険や,部門をまたいで て,市場というのは契約と金銭的な報酬によって 公共財を十分な規模で提供することに苦労して取 支配されているところである.その市場では,合 り組んでいる.このような問題の解決に関して 意は最終的に信頼性のある法的制裁の脅威を通じ は,企業や政府のほうが備えがしっかりしてい て執行されている.一方,コミュニティは紛争を る.例えば,タンザニアの Nyakatoke という村 解決し,逆選択やモラルハザード,ただ乗り(第 では,40 のコミュニティ・グループはどれ 1 つ 2 章の用語 2.1 を参照)の問題を解決するのに, として政府や NGO との繋がりを持っていなかっ 恥辱や罪悪感,追放,暴力に依存している.この た.ただし,大きな問題を解決して人々が貧困を ような非公式な作用は規模の大きな密度の低いグ 脱却するのを助けるためには,多くの場合にその ループよりも,規模が小さく結束力の強いグルー ような繋がりが必要であることを認識して,いく プのほうがうまく機能する.したがって,コミュ つかのコミュニティはそういった関係の構築を試 ニティが作り出す保険プールや公共財の規模は, みた.また,コミュニティはリスクに備えたり, グループ内の絆や結束の必要性によって制限され 機会を探求したりするよりも,対処するほうを得 る.したがって,固有のリスクや小規模なシステ 意にしている傾向がある.平等と平和というユー ミック・リスクの緩和においては,コミュニティ トピア的な理想郷のコミュニティなどはない.階 のリスク管理の仕組み,すなわち小さいグループ 162 世界開発報告 2014 向けに調整されたリスク管理の仕組みが最も優れ んでいるが,特別に,必要に基づいて移転を行う た能力を発揮する.それをより大きい複雑な問題 ことがある.事実,被災しやすい地域の家計は移 に適応させるためには,研究と慎重な組織化が必 住者をよそに送り出し,そこからの送金を使って 要になる. ショックに備える確率が高いという証拠もある. 災害が発生すれば送金が著しく増加し,受領者 にとってこのことは助けになる 10.さらに,多 保険提供者としてのコミュニティ くの宗教団体が支援し,慈善の施しを組織する  病気や障害,失職などのショックに直面した人 (ボックス 4.1 参照).移転の形態は現金や食料, が最初に助けを求める先は,通常は家族である. 労働,衣服,農場投入物などさまざまである. しかし,家族の支援が不十分なことがわかった 人々は贈与と融資,利他主義と保険の綿密な区別 際,人々はコミュニティに援助を仰ぐ.家族や友 をしないのが普通である.すべてが現在困窮して 人,隣人からの融資や援助が,途上国ではショッ いる人々と現在助けることができる立場の人々の ク(種類は問わない)に対する最もよく利用され 間で,互恵関係の一環を成している. .例えばナイジェリア る対応策になる(図 4.2)  コミュニティ・ベースの保険は人々にショッ では,非公式な融資や援助が最も一般的な対処策 クの影響に対する部分的な補償を提供するもの であり,対処策の全体の 32%を占めている.非 の,多くのショックは深刻な困難を引き起こす. 公式な信用や援助は低所得家計にとっては特に重 所得の急変に遭遇した家計に関する研究は,そ 要であり,彼らにとって唯一の本当のセーフティ のような家計の消費は所得よりも減少率が小さ ネットになっていることもある.食料を削減する いことを示している.換言すれば,リスクは一 ことも普通に行われており,アフガニスタンやイ 部は付保され,残りは負担されている 11.イン ラク,ウガンダでは家計が申告した対処策全体の ドネシアの家計は,深刻な健康災害による経済 –  20  22%を占めている.東ヨーロッパや中央ア 的コストの 38%,より軽度な病気に伴うコスト ジアでは,全域にわたって信用やネットワークと の 71%を付保している 12.フィリピンでは,送 いう形で強固な社会資本をもった人々は,主食の 金が降雨災害に伴うコストの 65%を補償してい 消費の削減や医療の回避など,コストの高い対処 る 13.しかし,極貧層は補償率が最も低い.例 法に依存する可能性が著しく低い.しかし,これ えば,中国の農村部では,人口の最貧 10%層に はおそらく非公式支援がより充実しているおかげ 関してみると,100 元の所得損失があると人々 .ショックに直面した人々は であろう(図 4.3) は食料を中心に支出を 40 元削減しているのに 貯蓄や資産売却も頼りにしており,仕事を増やそ 対して,人口の最富裕 3 分の 1 の層では,同じ うともしている.それとは対照的に,公式な貸し ショックは,わずか 10 元の消費削減につながる 手からの信用および政府や NGO からの援助は, にとどまっている 14.リスク管理の有効性に関 通常は役割が小さい. するこのような限度のゆえに,世界中の家計の  非公式な保険や対処支援の組織は世界全体では 多くの割合が,食事を抜く,必要な医療を回避 大きく異なっている.コミュニティ保険――非公 する,生産的な資産を売却するなどといったコ 式セーフティネット,リスク・プーリング,相互 ストが高い対処策に依存している(図 4.2 参照). 保険などとも呼ばれる――は,公式な契約よりも 第 3 章で検討したように,このような慣行は若 親族や互恵関係に基づいている傾向が強い.その 年層にとっては厳しく,幼児死亡や慢性栄養失 ような特徴のなかで,コミュニティ保険は多種多 調につながることがある.要約すれば,非公式 様な組織形態をとり得る.会員ベースのグループ な保険は人々が小規模な固有のショックに対処 はルールに基づいて保険を運営している(タンザ する助けにはなるものの,その他のリスクや脆 ニアの村における保険グループがその実例であ 弱層にとっては不十分なことが多い 15. る).親族のネットワークはしばしば移住者も含  非公式な保険グループの規模と有効性は,メン CHAPTER4 結束力があり,結び付きのあるコミュニティ間では強靭性が生まれる 163 図 4.2 人々は独自に,あるいは他人と一緒にリスクに対処することによって,つまり非公式な信用や援助を 頼りにしながら,ショックに対応している マラウイ ウガンダ タジキスタン ウズベキスタン アフガニスタン イラク モルジブ スーダン ナイジェリア 0  20  40  60  80  100 ショックへの対処策全体に占める割合(%) 非公式な信用や援助   公式な信用や援助   消費削減 貯蓄や資産の売却 雇用ないし移住   出所:家計調査(2004 – 11 年のさまざまな年)からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成. 図 4.3 東ヨーロッパ・中央アジアでは社会資本が高価な対処策を削減するのに役立っている 他人に若干の信頼を 7  抱いているとした回 答者のなかで 24  他人に若干の不信を 9  抱いているとした回 答者のなかで 29  他人に完全な不信を 13  抱いているとした回 答者のなかで 42  0  5  10  15  20  25  30  35  40  45  東ヨーロッパ・中央アジアで所得減少や他の経済的困難 に対応して次のことをした人口の割合(%) 通院の延期・回避 主食の消費の削減 出所:Life in Transition Survey II, 2010 からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成. バー間における社会的繋がりの必要性によって制 から影響を受けやすい 16.コミュニティは逆選 限されている.理論的には,保険というのは多種 択やモラル・ハザードの範囲を制御し,保険への 多様な人々を含む大きなグループを対象とする共 共同出資を財務的に存続可能に保つために,相互 同出資を必要とするが,それは非公式な保険グ の直接的な観察と頻繁なコミュニケーションを ループでは通常は起こることではない.それは小 使っている.血縁や結婚が絆を強める.なかに 規模で同質的であり,したがって集合的なリスク は,困窮した親族メンバーとの分かち合いに関し 164 世界開発報告 2014 て強固な規範を発展させている親族グループもあ 以外の消費の削減が,対象 13 カ国すべての り,このことは保険への共同出資を先祖伝来の村 研究場所で報告され,うち 10 カ国では犯罪 を超越する規模に拡張するのに役立っている.グ が増加した.最も重要な援助源は親族(13 ループ内の社会的繋がりは情報の非対称性や共有 カ国),友人や隣人(11 カ国),および相互 規範の執行といった問題を削減する.しかし,欠 的な連帯グループ(7 カ国)であった.しか 点もある.社会的な繋がりに依存する保険取り決 し,そのような非公式な支援はコミュニティ めは,移入者によって容易に異議申立てされ(新 内の裕福なメンバーの拠出能力が低下する しい定住者には共有規範が欠如している),少数 にしたがって,民族・宗教別に入手が困難に 派の民族を排除していることが少なくない 17. なったり,割当が厳しくなったりしていた. 直接的な個人間の結び付きやコミュニケーション 銀行や貸金業者は,少ない金額に対して高い のない人々で構成される大きなグループでは,コ 金利で貸出を行ったが,その資金も枯渇し ミュニティの取り決めの維持はより困難になる. た.人々は追加的な雇用も追求した(12 カ したがって,そのような取り決めが最適に機能す 国).通常は競争が激化するなかで,就職先 るのは,葬式などの証明が容易で小規模な,ある は需要が減少した小売業やサービス業などに いは一度限りの固有の災難であり,コミュニティ おける非公式な職業が中心となった.社会的 全体にわたる災害が大勢に同時に影響する際には 結束が低下した時期もあり,10 カ国では「こ 有効性が最も劣ることになる 18.コミュニティ そ泥」,2 カ国では性的仕事の増加が報告さ を市場を基にしている信用や保険に結び付けれ れている 19. ば,小規模であることの制約を克服するのに役立 • 最も脆弱な層は排除されているか,あるいは ち,それが今度はそのようなプログラムに利益を 非常に悪い条件で所属している.排除という もたらすことができる.例えば,エチオピアのコ のは,ニーズが高いのに拠出する能力が限定 ミュニティ保険グループは作物保険をメンバーに 的な人々を共同出資の保険から締め出すこと 販売し,また,グループ内でリスクを分担するこ である.このことの要因は,部分的には逆選 とによって,ベーシス・リスクを克服するのに役 択に対する防御である.例えば,エチオピア 立てている. の牧畜民に関するある研究は,牛をもってい  コミュニティ独自の支援の仕組みは死活問題に ない貧しい人々は非公式な信用から排除され かかわる.事実,それは困窮時においては人々に ていることを示している.返済に関してリス とって唯一の援助の源泉であることが少なくな クがあることに加えて,彼らが社会的に目に い.しかしそれは十分ではなく,外部援助で補強 見えないことが一因であろう 20.慢性的な する必要がある.リスク管理の一形態と考える 病気を抱えている人も同じ排除を経験するだ と,非公式保険には次のようないくつかの欠陥が ろう.ソマリ族の諺が次のように簡潔に述べ ある: ている:「長い病気と執拗な貧困を抱えてい ると,人に嫌われる」21.奴隷労働や児童労 • 非公式保険はシステミックな災害に直面した 働,早婚などは非公式な取り決めの悪い結果 際には不十分である.小さい非公式なグルー であることが多い.奴隷労働は非公式な信用 プは大きなショックを有効に和らげることが 取り決めの帰結であり,そこでは返済を保証 できない.2008 年に始まった世界的な食料 するために労働が使われている. や燃料,金融の危機に関する定性的研究は, システミックな災害の波が非公式な仕組みに 過大な負担をかけるにしたがって,多くの 保護提供者としてのコミュニティ 人々はコストの高い対処手段に依存してきた  リスクにどの程度さらされているかは場所と密 ことを見出している.食料の質と量や食料品 接に結び付いている.人口の増加と土地の稀少性 CHAPTER4 結束力があり,結び付きのあるコミュニティ間では強靭性が生まれる 165 を受けて,ますます大勢の人が基本的なインフラ 民は森林を伐採して下の肥沃な土壌に作付けをす がなく,犯罪や暴力で荒れ果て,汚染で損なわ るという反応をみせた.その慣行は短期的には所 れ,そして災害リスクに直面している地区に追い 得を押し上げるかもしれないが,土壌の肥沃度を やられつつある.例えばラテンアメリカの 20 大 減らし,中期的には気候変動に対する敏感性を増 都市は,そのすべてが洪水や地震に襲われやす 大させる.そのような行動を変更させるのは困難 い,あるいは急斜面を有する地域に立地してい である.というのは,利益は即座である一方,コ る.犯罪も蔓延している 22. ストは分散し長期にわたるからだ 26.乾燥地帯 の小自作農コミュニティは往々にして,トウモロ 災害と気候変動に立ち向かう コシなど少数の旱魃に敏感な作物への依存度があ  安全性はそれ以外の多くのことと同じく,代償 まりにも高すぎる.旱魃耐性品種,林業,樹木作 を伴う.ドミニカ共和国のサントドミンゴのスラ 物,移住,小企業などのより良い選択肢が存在す ム街では,安全な地区の家賃は川や溝に近い住居 るが,信用や資源の不足,および伝統的な主食作 の家賃の2倍の高さとなっている 23.ニカラグ 物の選好など,同じような障害がしばしば変化を アの人口のほぼ 3 分の 1 は,住民が災害や洪水, 阻害する.貧困家計は通常は旱魃や気候変動の影 汚染にさらされていると言っている地区に住んで 響に対して,資産売却や食事の量と価格の削減, いる.このうち,約 50 万人は地滑りにさらされ 高コストの借入,季節的な移住などで対応してい ている丘の上ないしその麓に居住している.この る.このような慣行のなかには逆効果のものもあ リスクは最貧 20%層では最富裕 20%層より 10 り,人的,物理的,および環境的な資産の損失に 倍高い 24.ジブチ・シティでは,貧しい地区は 帰結し,長期的な繁栄を阻害する懸念があろう. 「水の下」として知られている.というのは,頻 繁に洪水被害を受けているからだ. 犯罪・暴力・紛争を抑止する  国もコミュニティも,異常気象の頻度増加な  アフリカやラテンアメリカの多くの国では, ど,気候変動から受ける影響に対する備えができ 10 人に 1 人以上の割合の人が毎年犯罪の被害者 ていないという証拠が示されている.近年,気候 になっている(図 4.4).約 15 億人が脆弱な国, 変動や人口の圧力,環境劣化,その他の要因の結 紛争被災国,あるいは凶悪犯罪の水準が高い国に 果として,災害に伴う損害が著しく増加してい 住んでいる.若い男性が主な犯罪者である.男性 る.歴史的に熱帯性サイクロンを多く経験してい は強盗や暴行,女性は性的暴行や個人盗難の犠牲 た諸国は,そうではなかった諸国と比べて,この 者になる可能性が高い.バングラデシュやペルー, リスクによりうまく適応していた.しかし,最近 タンザニアの農村部では,全女性の半数以上が定 のサイクロンに関するリスクの増大に対しては備 期的に家庭内暴力を経験している(第 3 章参照). えの増強が追い付いていなかった.ある推定は, ただし,公式な統計では著しい過少計上となって サイクロンに関するリスクの増大が引き起こす追 いる.犯罪や暴力の発生率は,通常は農村部より 加的な損害のすべてに対して,実質的に各国は保 も都市部で高く,都市部のなかでは犯罪や暴力は 護されていないとしている 25. 貧しいコミュニティに集中していることが多い.  災害リスクを管理するための先見的で費用効果 南アフリカのケープタウンでは,全殺人の 44% 的な措置がしばしば利用可能であるにもかかわら が市内の 3 つの貧しい地区で発生している.農 ず,惰性や近視眼,政治経済学的な理由から採用 村部ではしばしば暴力は少ないが,紛争に関して されていない.例えば,早期警告システムや防災 はそうではない.土地や家畜,不貞などを巡る紛 訓練,持続可能な土地利用計画,生態系の修復は 争は流血や殺人を伴う復讐にいたることがある. 優れたリスク管理であることが多いが,悪い政治 多くの農村部では国家の存在感が希薄なため,そ である.多くの諸国で,環境変化と持続不可能な のような争いへの取り組みは地元の非公式な制 農業慣行は農地の生産性を削減してきている.農 度に委ねられている 27.警察部隊が非常に有益 166 世界開発報告 2014 図 4.4 危険性は被害者に大きな影響を与える a. 過去 1 年間に犯罪の被害者 b. 警察や軍隊はどれくらい頻 c. 安全上の理由で夜間外出は になったことがあるか? 繁に私生活に干渉するか? 差し控えているか? 80  80  80  上限 「はい」と答えた割合(%) 「はい」と答えた割合(%) 「はい」と答えた割合(%) 70  70  70  75%層 60  60  60  50  50  50  中位数 40  40  40  30  30  30  25%層 20  20  20  下限 10  10  10  0  0  0  ン ジ ・ サ リブ ・ ン ジ ・ サ リブ ・ ン ジ ・ サ ブ・ ヨ ジ 洋 フ 南 ヨ ジ 洋 フ 南 ヨ ジ 洋 フ 南 テ ア パ カ カ テ ア パ カ カ テ ア パ カ カ 南 平 ア ラ以 南 平 ア ラ以 南 平 ア ラ以 ー ア ア ア カ ー ア ア ア カ ー ア ア ア カ ラ 央 ッ リ ラ 央 ッ リ ラ 央 ッ リ + ・太 + ・太 + ・太 リ リ リ リ 中 ロ メ 中 ロ メ 中 ロ メ ハ ハ ハ ア ア ア ア ア ア ジ ジ ジ ア ア ア 東 東 東 出所:World Values Survey, 2010 – 12 からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成. だということではない.多くの地域では 10 人中 合に,紛争の可能性が高まるとしているように思 1 人以上が,警察ないし軍隊は人々の私的生活に われる.ストレスの要因に関しては次の 4 つの 「頻繁に,あるいは極めて頻繁に」干渉すると苦 一般的な種類が際立っており,暴力の種類にも影 情を申し立てている. 響を及ぼしている.  集団的な形態の暴力は個人的な暴力や軽犯罪 よりも重大な社会的帰結をもたらす.というの • 国家が弱く政治家と犯罪者の間に結び付きが は,それは社会制度の破壊や人々の退去,投資の ある. 地方における暴力の発生は,武装グ 阻害,恐怖の高まり,短期思考などの原因にもな ループや犯罪ネットワークとの結び付きを有 .農民は多年生植 るからだ(ダイヤグラム 4.1) する,エリート層間の権力闘争と連動してい 物の代わりに食用作物を栽培する.ある推定によ ることが多い.国家制度が弱いため,そのよ れば,北部ウガンダにおける紛争に起因する損失 うな闘争は暴力的なものに展開することが許 の半分は,攻撃に直接的にさらされたからではな 容されてしまう.制度が強固で法の支配があ く,リスクに対する警戒的な対応(機会の逸失) る国家はこのような紛争を抑制し,より平和 の結果である.直接攻撃を受けなかった家計でも 裡に解決する.時として,うまく機能してい 顕著なリスク関連の損失が発生した.暴力のリ る国家のなかに,国家制度が機能不全に陥っ スクは影響を受けた地域で 1 人当たり支出を約 ている脆弱性の局部的な孤立地帯が存在する 70%削減したものとみられる 28. こともある.  今日の紛争はほとんどが強い民族的ないし宗教 • 不満.不満――歴史的なものの場合もある― 的な要素を帯びているが,それは民族的な相違が ―を抱いているグループ間における不平等や 必ずしも敵意を生むという意味ではない.民族性 疎外化のパターンが,多くの紛争を扇動する はしばしば政治的および経済的な利益のために利 のに重要な役割を果たす.多くの場合,緊張 用され,民族的な分断や緊張の先鋭化につながっ 関係は歴史的なことが原因であったり,土地 ている 29.文献は,紛争の原因や民族性の役割 や天然資源を巡る対立に起因したりしている に関しては意見が分かれているが,社会的グルー (この場合,環境の変化で事態がいっそう悪 プが意見相違を橋渡しする制度をもっておらず, 化することがある).不平等の大きさ,国家 国家が弱く,強力な外部ストレスの要因がある場 が不正義を犯したという感情,自己都合のた CHAPTER4 結束力があり,結び付きのあるコミュニティ間では強靭性が生まれる 167 ダイヤグラム 4.1 主要な 3 種類の暴力とその広がり 重大な政治的暴力 局地的な集団暴力 個人的暴力 ・国家間戦争 ・組織犯罪 ・襲撃・窃盗・強盗 ・内戦 ・住民間暴力 ・家庭内暴力・児童虐待 ・不定期武力抗争  (暴動,計画的なもの,血讐) ・家族や私的な暴力  (ゲリラ,民兵組織) ・ギャングや散発的攻撃 出所:WDR 2014 のために書かれた Petesch 2013. めに民族的な分断を利用する政治家などが, のに有益である.ほとんどの民族的に多様な地方 民族的な暴力や紛争に拍車をかけることがあ は平和であるのに,同じ多様性を有する地方のな る 30. かには暴力が頻繁に発生する地域もある.ほとん • 紛争の後遺症. 主要な政治的暴力の後には, どの暴力的な都市は,他のグループのメンバー間 犯罪や暴力の発生頻度が高い期間が長く続く との日常的なお互いの交流が行われていない傾向 ことが多い.それは元戦闘員や広範囲にわた にあり,このことは分裂を扇動するリーダーやメ る武器の入手可能性,社会的規範の崩壊に ディア,犯罪的ギャングの特徴である.それとは よって助長されている.過去の暴力,植民地 対照的に,民族グループを橋渡しする強固な市民 化,国家による抑圧(おそらく特定の民族グ ネットワークが存在する都市は,平和を維持して ループの支配下における)の歴史がもたらし いるようである.というのは,そのようなネット たトラウマによって,国家を信頼することは ワークは政治的リーダーが暴力的な手段を用いる 困難になる 31.時間が癒してくれるが,そ ことを抑制し,噂や緊張が暴動にいたる前に鎮静 の治癒効果は 10 年単位でないと測定できな 化するからであろう.映画クラブやスポーツクラ い 32.組織犯罪や政治的暴力などの集団的 ブ,町内会などのようなネットワークは,暴力の 暴力は,個人的な暴力に波及する. 防止を念頭に設計されたわけではない.重要なの • 気候変動.異常な気候現象(高気温や異常少 は,それらは民族グループをまたがっているとい 雨など)は,暴力や不安定性,国家崩壊と うことだ 34.横断的な社会的連帯は紛争や災害 関連がある.最近のメタ分析の発見によれ を受けた後の回復にとって推進力になる 35.し ば,異常気候と個人間の暴力,グループ間の かし,暴力が組織犯罪ネットワークにリンクして 暴力,国家の崩壊――最近のものと歴史的な いると,コミュニティの仕組みはほぼ間違いなく ものの両方を含む――などの広範囲にわたる 完全に圧倒されてしまう. 指標の間には,強い相関関係がある.気候変 動が紛争の確率を高める仕組みはまだ明確に なっていない.しかし,両者に関連があると 結束力や結び付きの強いコミュニティはより いうことは次のことを意味する.すなわち, 有効である 今後数十年間にわたって,降雨と気温につい  自分たちで組織化するか,あるいは地方自治体 て大幅な変化が生じるという予測は,暴力と にリスク保護策を要請すべく運動するかのいずれ 紛争の著しい増加を後押しするだろう 33. かによってコミュニティがリスク保護策を整備す ることができれば,リスクは必ずしも脆弱性を意  横断的な社会的絆は,紛争のストレス要因が存 味しない.高所得国では地方自治体が定期的に排 在している時でさえ,コミュニティを平和に保つ 水溝を清掃し,警察や衛生,清潔な水を供給して 168 世界開発報告 2014 いる.貧困国――特に貧困地区――では,地方 うという気になる.リスク――および管理を誤っ 政府は共通保護策であるこのような基礎的な公 たリスクがもたらした主観的な不正義――は, 共財を供給していないのが普通である.したがっ 強力な動因になり得る.歴史的にみると,リス  市場や政府,他のコミュニティとの社会的 て, クを制御し,汚染を削減し,社会政策を改善す な連帯や結び付きは,コミュニティに る多くの努力は,社会的動員の成功 とって有効なリスク管理の要素と    からもたらされてきた.1787 年 なる.コミュニティが相対的な コミュニティには他 に反奴隷活動家や議員が始め 孤立のなかで運営されている のコミュニティや市場への た運動を受けて,イギリスは 場合,社会的連帯(結束型社 結び付きが必要である.それが 1807 年に奴隷貿易を禁止し 会資本とも言う)は非公式な なければ,コミュニティは狭量 た. こ れ が お そ ら く 社 会 運 信用や保険,援助を円滑化す にとどまり,政治的な影響力を 動による最初の勝利であっ ることによって対処を助ける. 欠き,大規模に何かを成し た.前述したエクアドルのグ しかし,この種の社会的連帯は 遂げることはできない アヤキルのインディオ・グアヤ だろう. コミュニティが活性化し繁栄する スの非公式定住地における自治委 のを後押しするのに十分なことは稀であ 員会は,土地を初めとする諸問題を解決 る.他のコミュニティとの横のつながり(橋渡 し,基本的なインフラや保健,その他のサービ し型社会資本)は,コミュニティがより大きな スを供給するよう当局に請願するために創設さ 問題を解決し,紛争を防止するのに役立つ.市 れた.インドの女性自営業者協会(SEWA)は 場や政府との縦のつながりは,コミュニティが 雇用保証や所得保証,食料保証,社会保障を巡っ 資源や機会にアクセスするのに有益である. て 130 万人のメンバーを動員した 36.  パラグアイのサンタアナという緊密な農村は,  グループは規模と公式性において大きな差が 集団的行動を習得しているコミュニティの模範 ある.埋葬組合や教会グループは,典型的には である.全員が公益に向けて貢献する.例えば, 非常に小さく非公式である.コミュニティ・ベー 修理が必要な時には,道路や橋,水供給,電線 スの組織はこれよりやや大きく,少数のスタッ を保守するのを手助けする.牛泥棒に立ち向か フを雇用していることもある.NGO はさらに大 い,バス路線が村を通過するのを確保するため きく,法的に設立されている.全体として,こ に,その運転手には住居を提供する.成文化さ れらのグループの多くは市民社会と呼ばれてい れたルールというよりも市民としての義務感か る.市民社会は信用や保険,援助,サービスな ら,全員の貢献が確保されている.同質性と信 どを提供している.また,共有資源を管理し, 頼の厚い地元のリーダーたちが例外的に強い結 当局や雇用者からサービスや保護,説明責任を 束力に貢献している.コミュニティはすべてを 要求する発言権を市民に提供する,といった多 独自にやったわけではない.道路や電気,水供 くの大義を追求している 37.推定はむずかし 給は政府機関によって(多くの場合は援助国の いものの,市民社会の規模と重要性は著しく多 支援を受けて)建設され,コミュニティは保守 種多様である.組織のメンバーは南アジアやア だけを担当している.比較統計はないものの, フリカ,ラテンアメリカで最高水準にある(図 世界的にみて,場所が基になっているコミュニ 4.5).バングラデシュとスリランカではそれぞ ティの大半はサンタアナよりも結束力が弱く, れ 80%と 77%の人々が,少なくとも 1 つはそ その達成度もサンタアナと比べればほんのわず ういった組織のメンバーであると報告している. かでしかない.  コミュニティは,有効であるためには,外部  何が人々を動かすのだろうか? 共通の利害 の支援を受けない限り,ただ乗り問題を克服す があり信頼できるリーダーがいれば,人々はコ る必要がある.共同の利益のために集団的行動 ミュニティ・グループや社会運動のなかで働こ をとるのはむずかしいと考えている人たちのグ CHAPTER4 結束力があり,結び付きのあるコミュニティ間では強靭性が生まれる 169 図 4.5 任意団体の会員数は世界各地で異なっている 調査に対して任意団体に所属していると回答した人の割合 100  90  80  70  上限 60  % 50  40  75%層 30  中位数 25%層 20  10  下限 0  東アジア・ ヨーロッパ・ ラテン 中東・ 南アジア サハラ以南 太平洋 中央アジア アメリカ・ 北アフリカ アフリカ カリブ 出所:次からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成――African Barometer Round 5, 2010 – 11; East Asian Barometer, 2005 – 08; Latinobarómetro, 2005; South Asia Barometer, 2005 – 08; Arab Barometer, 2005 – 08; Life in Transition Survey, II 2010.数字はほぼ比較可 能であり,アフリカを除き宗教団体を含む(ただし礼拝の出席率ではない) . ループもある.というのは,そのメンバーのなか 者は,ただ乗りに対するそのような懲罰は実社会 には他人の努力にただ乗りしている人々がいるか で協調を維持するために非常に重要であると信じ らだ.つまり,共有資源について公正な割合より ている 38. も多く消費するか,またはより少ない負担しかし  持続的な協調がなければ,公共財も,天然資源 ない人々のことである.この問題は「公共財ゲー の集団的管理も,社会的運動も,有意義な意味で ム」で実証されている.この実験ゲームでは,各 の社会もない.グループは協調を報奨し,相応の プレーヤーは自分でもっておくか,プレーヤーの 協力をしない人を罰するというルールを執行する グループが共有している壺に入れるか,のいずれ 方策を工夫することによって,ただ乗りの問題を かを選択できる少額のお金が与えられる.まとめ 克服する.多くの社会的な規範や制度も,互恵性 役は壺の中身を1よりは大きいが,プレーヤーの と懲罰に基づく相互協力を強化する方向に作用し 数よりは小さい係数で掛け算し,総額は全プレー ている.例えば,タンザニアの Nyakatoke 村は, ヤーの間で等分に配分する.ただし,お金を壺に 葬式や入院のために,村全体の相互保険制度を運 入れたか,自分でもっていたかは問わない.この 営している.これは村のほぼすべての女性を含ん ゲームでは公益はプレーヤー全員が全額を拠出し でいる.ただ乗りを警戒するために,メンバーで た場合に最大化する.しかし,個人としての合理 ない人に対する支援は完全に拒否され,メンバー 的な選択は,まったく貢献しないことである.こ でない人を助けていることが明らかになった場合 のゲームは多種多様な文化のなかで実験された. には懲罰が科される 39. 否応なく,極めて多数のプレーヤーが拠出した.  ノーベル賞を受賞したエリノア・オストロムを 他人も互恵的だろうと信じたため,相当数のプ 含む研究者は,地方の統治や公共財の供給を促進 レーヤーが貢献した.ゲームは修正されて反復的 ないし阻害する要因に関して多くの規則性を詳し な相互作用と懲罰が認められた.ただ乗り(共有 く裏付けている.コミュニティのリスク管理の観 の壺に資金を入れなかった人)の懲罰がグループ 点からすると,最も重要な発見は次のとおりであ の協調の強化につながり,一部の人々は個人的な る 40: コスト負担があっても懲罰に積極的である.研究 170 世界開発報告 2014 • 地方問題を組織化・統治する権利が法的に認 の諸国が森林管理について一定の側面をコミュニ められているコミュニティは成功する可能性 ティに権限移譲しており,森林資源の持続可能性 が高い.自分たちの労働の果実はみずから所 にとって有望な結果をもたらしつつある 41.し 有しなければならない. かし,コミュニティに分断が蔓延している場合, • ルールは執行される必要がある.地方におい 透明性や包容性,説明責任を育む能力をもった中 て適切な時期に紛争解決の仕組みを利用する 立的な機関を緊急に設立する必要がある. ことは極めて重要である.というのは,コ  グループ内の絆や社会的連帯はコミュニティ ミュニティのメンバー間,あるいは地方政府 のリスク管理を支えているものの,往々にして との紛争は不可避であり,解決をする必要が 部外者を排除し,他の民族や宗教のグループに あるからだ. 対する敵対感情につながっている公算がある. • より大きなシステムでは,多くの場合,統治 社会的排除は,例えば民族やジェンダー,宗教 活動は重層的に組み込み,組織化するのが最 のアイデンティティに基づいて,特定のグルー 適である.例えば,多数のコミュニティが共 プを差別する態度や政策,法律に由来する.意 通で水供給を利用している場合,各コミュニ 識調査は,移民や少数民族などの「外集団」に ティは自らの水配給支流を管理するが,高次 対するメンバーの寛容度は上昇傾向にはないこ の機関はシステム全体を管理する. とを示している(図 4.6).排除されたグループ • 不平等が小さく,民族的分裂がほとんどな はリスクを高め,リスク管理をしづらくさせる く,待遇が平等で,相対的に差別が少ないコ という差別に直面している.多くの場合,彼ら ミュニティは,公共財を創出する可能性が大 はリスクが高く,サービスや市場,リスク管理 きい.個人間の相互交流が濃密で,グループ を助けてくれるはずの制度を利用することがほ 内の互恵性に関する規範を共有していること とんどできない地区に居住している.特に新し がその一因となっている. い機会を探求しようとしている時や,説明責任 や平等な待遇を要求している時には,嫌がらせ  このような発見は次のことを示している.すな に直面する.暴力で退去させられた人々は,新 わち,政府はコミュニティが独自のリスク管理や しい場所で意気消沈させられるような排除にし 紛争解決を行うことに配慮した法制度を創設する ばしば遭遇する(ボックス 4.2).排除は過度な べきである.ただし,これは適度に公正な形で機 麻薬やアルコールの消費,犯罪や暴動,暴力な 能しなければならない.正式な司法制度はコスト どのリスクを伴う行動につながることがある. が高く時間を要するため,コミュニティ生活にお  インドのケララ州は健康や教育,社会開発な いて頻繁に起こる小さな紛争の多くにとっては不 どにおける成果について賞賛を浴びることが多 適切である.地方のリスクや紛争を管理する責任 いが,かつては排除の要塞であった.ケララ州 はしばしば地方の主体に委任することが可能であ は民族的および宗教的な異質性が高いのである. る.例えば,災害リスクの管理は分権化したほう 19 世紀半ばまで,この州はほとんどのカースト が費用効果的である.リスクに関する地方的な知 に機会を拒否していた厳格なカーストの障壁で深 識が人々の生活や資産,事業を安全に保つのに役 く分断されていた.雑多な民族グループの移動が 立つことが一因である.加えて多くの国々は,正 言語や文化,価値観の共有に基づく共通のアイデ 式には十分な司法や資源管理の制度を整備しない ンティティを創出し始めた.時とともに,統治 まま,紛争の処理や森林などの共有財産の管理に への参加に対する要求が増大し,学校や病院と 関するコミュニティの慣習的な取り決めを侵害す いった形の集団的な厚生を求める請願も増加し る法律を施行してしまった.その結果として生じ た.1940 年代までに,ケララ州はインド諸州の た統治の空白が,森林管理を弱体化させ,多くの 間では社会開発の多くの分野で先駆者となってい 場所で森林劣化を引き起こしている.近年,多く た 42. CHAPTER4 結束力があり,結び付きのあるコミュニティ間では強靭性が生まれる 171 図 4.6 民族性に基づく社会的排除は世界の多くの地域で減少していない 35  30  25  20  % 15  10  5  0  1980  1985  1990  1995  2000  2005  2010  東アジア・太平洋 中東・北アフリカ ヨーロッパ・中央アジア OECD 諸国 南アジア サハラ以南アフリカ ラテンアメリカ・カリブ 出所:Word Values Surveys や European Values Study からのデータに基づく Foa 2012. 注:図中の OECD 諸国はすべて OECD 加盟の高所得国.それ以外のすべての国は地理的な地域にグループ分け. ボックス 4.2 難民と国内避難民:避難の管理から機会の円滑化への移行  驚いたことに 4,300 万もの人々が強制的に避難させられ る.難民に対する国際的な人道援助は合計で年間 84 億ド ている.現在,暴力的な紛争のために約 1,520 万人が難民 ル,政府開発援助総額の 6%に達している a.長期的な成 になっており,さらに少なくとも 2,750 万人が 40 カ国以 果に関しては説明責任がほとんど果たされていない. 上で国内避難民となっている.避難者はしばしば驚くほど  より良いアプローチは,避難の長期的な性格を認識した 財産家である.家や資産,親しんだ環境を後に,彼らは動 上で,難民が経済機会を追求するのを支援することであろ 的な対処戦略を使って新たな生計手段を見出し,避難先の う.各国の法制は難民を認め,差別を排除し,移動性の 地域で繁栄さえしている.しかし,政策が彼らを制約して 制限を廃止する必要がある.援助としては,住居や教育, いる. インフラ,生計,残してきた資産へのアクセスなどを重視  避難に取り組む努力は成功していない.難民や国内避難 すべきである.避難先での緊張を緩和するため,援助は受 民が避難状態で生活する時間の平均的な長さは 20 年近い け入れコミュニティにも利益をもたらすべきである.アゼ にもかかわらず,避難は短期的な人道的危機として管理さ ルバイジャンで難民向けに世界銀行が支援したプロジェ れている事例がほとんどである.その結果,次のような多 クトではそれが行われた.人道主義と開発の資金調達の収 くの問題が生じている:難民キャンプ生活の長期化,援助 斂を図ることが,長期的なアプローチの促進に役立つだろ 依存,移動性の制限,新しい場所への溶け込みに失敗する う. など.受け入れコミュニティとの緊張は一般的となってい 出所:WDR 2014 のために書かれた Lakhani 2013 に基づき WDR 2014 チーム作成. a.OECD Development Assistance Committee の推定.  グループ内での協調では徐々に不十分となり, 多数のグループを含む必要がある 43.それらを グループを横断する協調が必要となっている.横 どうしたら激励し支援することができるだろう 断的な社会的紐帯ないし橋渡し型社会資本があれ –  か? 有名なことであるが,1964  85 年にジュ ば,社会的分極化を緩和し,システムに対する信 リウス・ニエレレ大統領下のタンザニアは,民族 頼を促進し,アイデンティティ的な政治や民族暴 的なアイデンティティの役割を重要視せず,国家 動に対して社会の抵抗力を付けさせ,集団行動を としてのタンザニアが共有する国民的なアイデン 円滑化することができる.このような絆は十分に ティティを構築した.それは国語や公平な公共支 172 世界開発報告 2014 出,国史の共通認識などを通じて発展させられ が執行され,犯罪や暴力は抑制され,さまざまな た.この先見性のおかげで,タンザニアでは民族 社会グループのメンバーは平等に尊重され,リス の競合が激化することは無く,非常に多くの近隣 ク管理のための発言権を組織化・行使するコミュ 諸国で起こったような紛争にまで拡大することは ニティの能力は保護される.しかし,多くの人々 なかった.多種多様な国や都市で使われた他のア は国家をそのようにはみていない. プローチには,学校や近隣地区,経済生活の統  そうではなく,多くの人々は国家制度のことを 合,コミュニティの自助グループへの半強制的な 予測不可能で説明責任を負っておらず,何とか通 参加,歴史的な弱者層向けの割当,地方平和員会 り抜けていかなければならない追加的なリスク源 などが含まれる 44.その教訓は次の通りである: であるとみている.アフリカや南アジアの一部で 民族的な相違は,もしグループをまたいで信頼と は,混沌とした土地の統治が腐敗や土地関連の紛 絆があり,国家と非国家主体がそのような絆を発 争につながっている.加えて,事例研究やメディ 展させることができるのであれば,分裂し敵対的 ア報道は次のような実例で溢れている.すなわ な社会に帰結するとは限らない. ち,街頭行商人が商品を没収される,スラム街住 民が事前通告もなく暴力的に追い立てられる,労 働者が職場の安全性に関する要求を示すことがで 地方リスク管理を改善するための公的政策 きる組合の結成を阻害される;サービス提供業者  前述の通り,コミュニティのリスク管理は,連 による品位のない処遇のため,排除されたグルー 帯や活力,生存スキルなどのコアな部分の強みに プは基礎サービスの利用を躊躇しているので保護 基盤があるが,コミュニティは通常は十分に大き が行き届かない;政府が説明責任のない地方の私 な規模では保険や保護を提供しておらず,多くの 兵団に武器を提供している;警察や治安部隊が リスクは保険で保護されないままとなっている. 賄賂を要求したり虐待したりする(図 4.4 参照). 多くの場合,排除や紛争などの弱みもコミュニ このような場合,国家主体の行動は社会不安に帰 ティのリスク管理を制限している.コミュニティ 結する可能性があろう.これにはどう対抗すべき は適切な形の支援があれば,ずっと良いリスク管 か? 理者になり得る.NGO や援助国,地方および中  虐待や差別に対抗する進展は多くの場合,社会 央政府などは,そのどれもが次の 4 つの一般的 や市民,政治の権利をより一層尊重することか なアプローチを使って地方リスク管理の強化を推 ら生じる.これには次が含まれる.結社の権利, 進することができる.第 1 に,コミュニティに 人々や財産が犯罪や暴力から安全である権利,国 配慮した法制度を創造する.第 2 に,リスク管 家や非国家の主体から差別の無い対処を受ける権 理者としてのコミュニティを,地方リスクを管理 利,言論・報道・情報にかかわる自由の権利,影 する自分自身の能力を育てることによって結集す 響を受けるグループが苦情を声に出して是正を求 る.第 3 に,政府が提供するリスク管理に影響 める権利など.これらの権利や他の権利が,集団 を及ぼすために,自分の「発言権」と能力を強化 的行動や社会的動員が活発に行われる環境をもた する.第 4 に,コミュニティの能力を補完する らし,したがって,人々のグループが自分たちの 公共財・サービスを,ユーザーを適宜巻き込みな 集団的リスクを削減する行動を追求できるように がら提供する.このような一般的な手法はすべ なる. て,以下で検討するように,さまざまな方法でコ ミュニティを強化するものである. リスク管理ができるようにコミュニティの権限を 強める 好意的な法的環境を整備する  コミュニティの動員は地方の開発とリスク管理  理想的には,国家は法と秩序に関して中立的な にとって強い力になり得る.例えば,パキスタン 制度を提供する.そこでは執行は偏らず,財産権 のカラチにあるオランギ地区の非公式定住地は, CHAPTER4 結束力があり,結び付きのあるコミュニティ間では強靭性が生まれる 173 地元の NGO の支援を受けて,社会活動家のア 評価では次の点に関して批判もなされている.す クタール・ハミード・カーンが 1980 年に着手し なわち,プロジェクトは短期的な枠組みのなかに た「オランギ・パイロット・プロジェクト」の一 みずからを閉じ込めており,経験から学んで,そ 環として,独自の低コスト衛生設備のための資金 れに応じて調整するというフィードバック・ルー 調達を行った.このプロジェクトはコミュニティ プの創設に失敗している 46. が住居や予防接種,零細金融,家族計画,暴力を  公言された目的にもかかわらず,プロジェクト 防止する措置の組織化を後押しし,コミュニティ ではリスク管理がコミュニティの優先課題リスト が処理するにはあまりに大きな問題に対しては, で上位に位置している,という状況が繰り返しみ 地方政府に対応策を講じさせた.その成功は,国 られる.例えば,農村部では旱魃や災害を,都市 家が必須のサービスや公共財を供給しない場合に 部では暴力や衛生を管理することが重視されてい は,そのためにコミュニティを動員することがで る.控え目であっても,技術・組織の面で持続的 きるという洞察に依拠していた 45.パキスタン な援助があれば,リスクを大幅に削減することが の他の都市や諸外国でも模倣されたこのプロジェ できる.零細金融はコミュニティの企業家精神の クトは,コミュニティ主導型開発について次のよ 潜在力を開花させることができる.市民社会はバ うな多くの必須の要素を特定するのに役立った. ングラデシュが低コストのコミュニティ・ベース すなわち,コミュニティ自身に優先順位を決定さ の災害早期警報システムによって,災害リスク管 せる,長期にわたる参加を維持する,新たな問題 理を推進するのを支援した.多くの犯罪や暴力が や解決策,機会が出現してくれば,時とともにプ 起こる場所を示す地図や電子機器は,人々が問題 ロジェクトの詳細を調整する. の起こりやすい場所を回避するのに役立ち,また  そのような自然発生的な社会的行為を受けて, 地元警察部隊に恥をかかせ,行動を起こすように 援助国や政府は,コミュニティが動いて,自分た 強要している(ボックス 4.3).ラオスのあるプ ち独自の開発を計画する能力を構築するように仕 ロジェクトは,コミュニティが災害リスク管理を 向けるコミュニティ主導型開発プロジェクトを推 村の開発計画に統合するのを後押しした.アフガ 進しようとしている.プロジェクトでは自助グ ニスタンでは,国家連帯プログラムがコミュニ ループがコミュニティ指導者の後援を得ながら, ティの参加を得て農村インフラを建設し,全国に 資源や意思決定を任されている.NGO や政府, わたって包容的な地方統治の基盤を築いてきてい 世界銀行を含む援助者は,多数の諸国の都市部と る.一挙両得のプロジェクトでは,災害に対する 農村部の両方における多くの部門で,そういった 備えの一環として,保護的な実物資産を構築した プロジェクトを推進している.例えば,インドネ り,あるいは生態系を管理ないし修復したりする シアは住民エンパワメント国家プログラム(イン ことで,地元に雇用をもたらすことができる.コ ドネシア語の頭文字で PNPM と呼ばれている) ミュニティ主導型開発プロジェクトは,インドネ を反貧困戦略の柱にしている.経済危機や政治的 シアやパキスタン,フィリピンなどを含む多くの 変化,貧困の急増という時期であった 1998 年に 国々で,迅速さと機敏さをもって災害に対応して 開始されたプログラムは,次のような活動のため いる 47. にコミュニティ主導型の開発アプローチを使って  コミュニティ主導型アプローチのなかには控え いる:地方インフラの構築,最貧地域における健 目な規模のものもあるが,アンドラ・プラデシュ 康・教育の改善,気候変動や環境劣化への対応, 州を初めとするインドの数州は,地方の生計手段 特に排除されたグループの対象化など.コミュニ の多様化について数十万もの自助グループを零細 ティ主導型開発介入策を評価してみると,以下の 金融で援助している.同グループは各村を横断し 点に関しては差異があるが,全体としては良好な て連携し,大きな地域を対象に含む協会を形成す 結果をもたらしている:貧困,インフラのコスト るに当たっても支援を享受し,女性を中心に何 と質,保健・教育・飲料水へのアクセスと利用. 百万人という貧しい人々で構成される運動を展開 174 世界開発報告 2014 ボックス 4.3 新しい通信技術はコミュニティが暴力や地方紛争を管理するのに役立つ  現場では,暴力のパターンは常に様々であり変化してい 挙後に起こった暴動の地図を作製するために開発された. る.混乱や不確実性,誤情報のせいで,人々にとっては一 それは市民が携帯電話ないしウェブを使って送られてき 体何が起こっているのか,また,どうやってトラブルに巻 た通報を集計するものである.ウシャヒディによれば,そ き込まれないようにするか,を知ることがなかなかむずか の当時,4 万 5,000 人のユーザーがいた.それ以降,その しい.暴力の追跡やその報告,警告をするために,世界中 他の危機状況の用途にも拡大・適合化されている.それに の人々は多くの情報通信技術やプラットフォームを開発 は 2010 年の地震後のハイチも含まれている.ハラスマッ している.このような情報システムの多くは,多種多様な プというカイロをベースとした戦略は,携帯電話に基づく 形態の暴力や犯罪を報告し,リアル・タイムで,かつ権 通報システムであり,市内の街路上でセクハラに遭遇した 威があり,広くアクセス可能な形で出現してくるホットス 女性が使う.それは問題の認知度を高め,問題が発生しや 「クラウドソーシング」と地図を ポットを特定するのに, すい場所を女性に警告する.ラテンアメリカの全域にわ 融合したものを頼りにしている.携帯電話の普及はコミュ たって,人々はブログやウェブサイト,インターネットア ニティのメンバーが犯罪や暴力などの事件を通報すると プリを立ち上げ,ツイッターを使って,あらゆる形態の犯 ともに,集計結果にアクセスするのを助けている. 罪や暴力,警察の権力濫用に関する情報を通報し共有して  ウシャヒディ(スワヒリ語で「証拠」の意)というソフ いる.これらは有用ではあるが,故意に誤った情報が送ら トウェアのプラットフォームは,当初,ケニアにおける選 れるなどといった欠点もある. 大衆が通報したセクハラ事件を示すカイロの地図 a 8 13 25 48 97 13 100 3 239 7 2 2 9 5 7 16 32 3 2 3 11 8 3 5 出所:WDR 2014 のために書かれた Petesch 2013. a.Harassmap (http://harassmap.org) に基づき WDR 2014 チーム作成.図中の赤丸は当該地域で通報のあった事件の数を示す. するようになっている.その結果,このような協 NGO は,大規模になったコミュニティ・ベース 会は数の強みを背景に食料を買い,信用を入手し, 開発のもう 1 つの事例である.1972 年にバング 社会プログラムを利用し,有利な条件で保険を組 ラデシュで救援組織として始まった BRAC は, 織化することができる.重要なのは,それが集団 今や 11 カ国で活動しており,推定で 1 億 2,500 的な発言力と影響力を与えることだ.彼らはそれ 万人を支援している. を使って,例えば,社会プログラムへアクセスし たり,村会の選挙に立候補したりした 48.この コミュニティの力を発言権と説明責任で強める アプローチは今やインドの「国家農村部生計ミッ  コミュニティの能力を超える多くのリスクを管 ション」の下では中心的な政策となっている. 理するためには政府の制度が必要不可欠である バングラデシュ農村向上委員会(BRAC)という が,このような制度にはしばしば落胆させられて CHAPTER4 結束力があり,結び付きのあるコミュニティ間では強靭性が生まれる 175 図 4.7 だれを信頼するか? 警察,政府,および宗教指導者に対する信頼 82  サハラ以南 55  アフリカ 57  85  中東・ 63  北アフリカ 70  67  ラテンアメリカ・ 41  カリブ 35  75  ヨーロッパ・ 30  中央アジア 39  66  東アジア・太平洋 64  +南アジア 63  0  10  20  30  40  50  60  70  80  90  下記に対して「多大な」ないし「かなり大きな」信頼を置いているとした 回答者の割合(%) 宗教団体 政府 警察 出所:World Values Survey, 2005 からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成. いる.バングラデシュやインド,インドネシア, る.官吏の手による怠慢や小規模の腐敗,強請な ペルー,ウガンダの公的医療従事者は,勤務時間 どの話は枚挙に暇がない.警察は最も否定的に受 の 4 分の 1 以上を欠勤している 49.前述のオラ け止められ,しばしば不安の源であると考えられ ンギ・パイロット・プロジェクトでは,改良型の ている.全体として国家制度は有効な制度のうち トイレや家畜用飼料用の下水を費用効果的に供給 の 33%,有効でない制度のうちの 83%を占めて することができるが,都市の旧式の基幹下水線を いる.それとは対照的に,市民社会組織に関して 頼りにしなければならなかったため,衛生改善に は,有効な制度は 60%であるのに対して,有効 向けた取り組み全体としては有効性が低下した. ではない制度はわずか 15%となっている.この アフリカの多くの都市で問題化しつつある洪水は ような発見はやや静かな形ではあるが,世界価値 排水の能力不足と無規制の都市開発が原因である 観調査でも同じく認められている.同調査では, が,それを解決できるのは政府だけである.コ 宗教指導者に対する信頼が警察や政府に対する信 ミュニティは洪水の対価を負担しているが,どう 頼をはるかに上回っている(図 4.7). したら政府がこの問題に注意を払ってくれかにつ  地方の民主主義,政府能力,政治経済学が,分 いては妙案をもち合わせていない 50. 権化された政府が低所得層が直面するリスクにど  コミュニティと政府の間で意志疎通が無いこと の程度説明責任を負うかに影響する.多くの国に は,『貧困層の声』という複数国に関する研究で おける地方政府は有効であるために必要な,能力 明瞭になっている.これは世界中の何千人という や資源,意志決定権限を欠いている.地方政府の 貧困層に最も有効な制度と最もそうでない制度 選挙(指名ではなく)は説明責任の要素を追加す を質問したものである 51.多種多様な場所を通 ることから有益である.インドを中心とした研究 じて,回答者は親族や家族,コミュニティベース は次のことを発見している.分権化された選挙制 の宗教団体が最も有効な支援システムであると考 度は市民――あるいは少なくとも「中位投票者」 えている.多くの場合,自治体や警察,省庁は最 ――にとって利益をもたらす傾向が強いが,日和 も有効性がなく,貧困層のニーズに対して説明責 見的な地方政治家によるレント・シーキングを誘 任を負っておらず,非応答的であるとみられてい 発することがある 52.政府の実施能力がしばし 176 世界開発報告 2014 ばボトルネックとなる.例えばペルーでは,多く 法律は,農村部のすべての労働者に対して,望む の地方政府が割り当てられた予算を大幅に過少支 場合には最低賃金での 100 日間の未熟練雇用の 出している.2009 年の平均支出水準は,基金の 権利を創設した.同法は社会監査と苦情の是正も –  種類にもよるが,割当の 63  97%にとどまって 規定している.仕事の需要は貧困層や弱者層によ いた.多数の小さな自治体では建設プロジェクト るものを中心に,また 1 年の内で他の仕事が入 を監視する専門のエンジニアがいない 53. 手可能でない時期には莫大になる.このプログラ  説明責任の仕組みを強化して,市民やサービス ムは有益なセーフティネットを提供するだけでな 利用者,コミュニティが,警察や当局,公益事業 く,権利の認知を広めるのに役立ち,威厳に対す に対してサービスの改善を直接要求すれば,公共 る認識を促進している.実施については州ごとに 支出が地方リスクに感応的になり,成果の向上を 差がある:すべての労働者に対して,権利があり 確実なものにするのに役立つ 54.例えば,イン 要求するすべての雇用を彼らに供給できる州は 1 ドやウガンダにおける実験では公開会議が実施さ つもない.ラージャスターン州などは,透明性と れ,そこで健康や教育にかかわる権利や達成度に 説明責任を促進し,市民運動の長い歴史を有して –  関する情報が配布された.1 年後,4  6 回の会 おり,相対的に優れた実績を示している:ラー 議を経て,インドにおける 1 回の介入策は会議 ジャスターン州では求職者の 84%(国全体では が開かれなかった対照村との比較で次のような 56%)が成功したことを報告しており,平均す 改善をもたらした:破傷風予防接種の 27%増加, ると 71 日分の雇用を享受している(国全体では 産前サプリメント摂取の 24%増加,幼児予防接 37 日).法律が権利として制定されているという 種の 25%増加,過剰授業料の減少 55.このよう 事実を受けて,求職者は割り当てられた資金を流 な結果は次のことを示唆している.すなわち,コ すのではなく雇用の供給に関して,当局の説明責 ミュニティ参加は健康や教育投資の成果の改善, 任を問う集団行動を起こす動機となっている 57. 欠席の削減,入学や医療ケア利用の増加,妊産婦 や幼児死亡率の削減を実現することができる. コミュニティの能力を補完するようなインフラと  市民参加は高次の政府が応答的な場合に最もう サービスを提供する まく機能する 56.局地化された説明責任は有益  基礎インフラがあれば,人々はリスクを管理 ではあるが,それ自体では転換的ではないかもし し,機会をつかむことができる.携帯電話の普及 れない.国家の腐敗や不十分なサービス,権限の が最も遠隔の低所得地域でも急上昇している.一 濫用を制裁する補完的な仕組みを創設して初め 方,今や世界人口の 88%が改善された水源への て,地方の説明責任はより強力になる.このよう アクセスを有している.シンガポールは健康と環 な仕組みは独立的な司法ないし監査の制度を必要 境のリスクをコントール下に置くのに能動的なア とする.さらに,権利や社会的保証はリスク管理 プローチを採用した都市国家の手本であり,その の改善を要求する市民や NGO のために重要な 過程でアジアで最も住みやすい都市を創造した 入口を提供することによって,社会運動を活気付 (ボックス 4.4).しかし,大衆に対するリスクの け,集団行動を促すことができる.近代的な情報 管理にかかわるそのようなアプローチは,多くの 通信技術は個人やコミュニティが動くのを簡素化 低所得国や下位中所得国では手が届かないものに および迅速化している.集会の権利と政治的参加 とどまっている.その結果,27 億人には衛生設 を受けて,市民は経済的および個人的保護やサー 備へのアクセスが無く(図 4.8),10 億人が屋外 ビス改善を要求することができる. で排泄している.そのような環境条件が多くの病  インドのマハトマ・ガンジー国家農村雇用保証 気の原因となっている.サハラ以南アフリカでは 法は,良い統治と社会的結集がどのように協力 8 人中 1 人の子供が,南アジアでは 15 人中 1 人 「食料への権利キャン し合うかを例証している. の子供が,5 歳の誕生日を迎える前に亡くなって ペーン」などからの圧力を受けて制定されたこの いる. CHAPTER4 結束力があり,結び付きのあるコミュニティ間では強靭性が生まれる 177 ボックス 4.4 清潔,緑色,そして青色:シンガポールにおける水と洪水の管理  1960 年代には,シンガポールはほとんどの飲料水を輸 業者,露天商などの汚染産業を閉鎖あるいは移転させ,食 入し,頻繁に洪水に見舞われ,川や大気,土地,道路の汚 品業者を収容するために新しい食品センターや市場を建設 染に悩まされた.40 年間で達成されたシンガポールの転 し,人々に節水,汚染や投げ捨ての停止を呼びかけた.現 換は,発展途上世界では都市人口の急増を受けて,人々は 在,シンガポールは「4 つの国家水源」として知られる多 水が十分ある安全で清潔な住環境を熱望するようになるこ 角的な水供給戦略を整備している.それは地方集水池から とを示している.シンガポールは次のような長期ビジョン の水,輸入された水,良質な再生水,海水の淡水化で構成 を推進した.すなわち,国としては水供給にかかわる管理 される.マリーナ・バラージという大きなダムが淡水貯水 を強化し,経済成長や競争力を犠牲にすることなく住みや 池を作るために建設され,その池は 1 万ヘクタールの集水 すい都市を築くことができる.そのために研究開発や有効 地を擁すると同時に,都市中心街低地帯の洪水防止の機能 な実施,工学,政治的公約およびコミュニティを基盤とし も果たしている. た措置の組み合わせを活用した.  シンガポールの認識では,気候変動の影響で降水の激化  水資源の管理について,シンガポールは,地方における や海水面の上昇がもたらされる可能性がある.大雨に対処 水資源の集積能力の拡充に焦点を当てて取り組んだ.すな するために,排水インフラを強化し,雨水管理を改善する わち,気象にあまり左右されない水源の創出に加えて,大 措置を導入しつつある.そのなかの 1 つに含まれている 雨の捕獲,保存,および利用を増やすということである. のは,現場で表面流出を遅らせ,雨水が公共排水システム 同市は雨水集積地域に誘導するために,都市国家の大部分 に入り込むピーク流水量を削減するよう,開発業者に義務 を覆っている河川や小川,運河,排水溝などから収集した 付けた新たな措置である.シンガポールは海水面の上昇 雨水を保存する貯水池を建設した.排水と雨水向けに初め を予想して,最低限の改良を増強させている.2011 年以 から別個の収集システムを開発したおかげで,シンガポー 降,新しい開拓地は最低 1 メートル高くしなければならな ルは排水システムを統合化して,質に影響を及ぼすことな い.それは,1991 年以前に観測・記録された最高の高波 く雨水を貯水池に流し込むことができた.水供給の清潔さ を 1.25 メートル以上上回る,というそれまでの水準にさ を保つためには,小川や排水路からごみや汚染を排除しな らに追加されたものである. ければならなかった.政府は養豚場や養鴨場,非公式製造 出所:Soon, Jean, and Tan 2009; シンガポールの国家水機関である PUB の貢献に基づき WDR 2014 チーム作成.  多くの健康や衛生,安全性,その他にかかわ 盤とした組織は政府よりもずっとうまく,そう るプログラムの結論は,利用者であるコミュニ いったグループに手を差し伸べることができる. ティが関与し,そこと提携すれば,成果を改善 また,リスクを削減する行動の採用を阻害して . することができることを示している(写真 4.1) いる重要な障害に対して,介入策を適応させる そういったパートナーシップが成功のためには ことができる.例えばケニア西部では,コミュ 必要であるとさえいえる.単にトイレを供給し ニティを基盤とする組織はコンドームに関する ても必ずしも衛生の改善にはつながらない(ボッ 知識を提供し,認識させることによって,その クス 4.5).それは警官を増員しても必ずしも犯 利用を増やした;知識がすでに十分だった他の 罪が減少しないのと同じである(スポッ 地域では,その代わりにコミュニティ    トライト 4).コミュニティは認知, による HIV 介入策は人々が検査を コミュニティによ 知識,規範や言動の変化をもらす 躊躇させる恥辱を標的にして,行 るリスク管理の長所と限 手助けができる.例えばインド 動の変化に向けた動きを強化し, 界を理解すれば,政府が補 は,若い女性がトイレをもって 動機を提供した 58.影響を受け 完的な政策措置を設計する いない男性との結婚を思い止ま ているコミュニティと緊密に協 のを手助けすることが らせるキャンペーンを実施した. 働すれば,このようなプログラム できる. HIV の広がりを抑えるためには,特 がリスク管理対策の採用率が低い障 に性的労働者や男性と性交する男性な 害を発見し,それに応じてアプローチを どのリスクの高いグループの間で,性行動が変 再設計するのに役立つだろう. 更されることが必要である.コミュニティを基  所得扶助プログラムは,特に低所得国や下位・ 178 世界開発報告 2014 図 4.8 トイレよりも携帯電話をもっている人のほうが多い ――最も基本的な保護の提供にかかわる失敗を例示 OECD 諸国 100 東ヨーロッパ・中央アジア 中東・北アフリカ 80 ラテンアメリカ・カリブ 東アジア・太平洋 60 南アジア 40 サハラ以南アフリカ 20 0 100 人当たり 衛生施設 携帯電話契約 アクセス (対人口比%) 出所:World Bank World Development Indicators (database) からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成. 注:図中の OECD 諸国はすべて 40 年以上にわたり OECD 加盟の高所得国.それ以外のすべての国は地理的な地域にグループ分 け.データは 2010 年現在. 中位中所得国では,コミュニティの参加で利益を 特定ではない.対象の絞り込みにコミュニティが 享受することが多い.中央政府が適しているのは 参加すれば,地方の知識を活用し,エリート層に 貧しい地域の特定であって,そのなかの貧困層の よる給付金の支配を阻止するのに役立つ.ただ し,手続きの設計が決定的に重要である 59.イ ンドネシアの実験では,村の全体会議で実施され たコミュニティ毎の対象絞り込みが代理の調査と 比較された.コミュニティ方式は次のような結果 となった:1 日 2 ドルの貧困線では対象の絞り込 みが若干悪かったが,同1ドルでは同等の絞り込 みとなり,総合的に満足と妥当性が大きいものに なった(苦情が少なく,資金配分に関連する困難 が小さく,受益者リストが広く容認された)60. 参加は災害後に救援を提供する場合にも同じく重 要である:被災者に対する人道援助は地方の状況 を考慮に入れ,コミュニティ自身の能力を使った 時のほうが有効である.同様に,コミュニティの 関与が十分でないままに,迅速な復興を強調して も,脆弱性を再生しかねないやり方で回復する可 写真 4.1 清潔な水とコミュニティ主導による衛生設備は衛生 を改善し,下痢を初めとする病気を削減する.北スーダンで水 能性がある 61. 道ポンプから水を汲む子供たち.  一挙両得の投資を優遇すべきである.公共事業 ©Fred Noy/UN Photo は失業している労働者に雇用を提供できるだけで CHAPTER4 結束力があり,結び付きのあるコミュニティ間では強靭性が生まれる 179 ボックス 4.5 タンザニア農村部で衛生設備へのアクセスを増やすために,ソーシャル・マーケティングを活用  世界中で約 10 億人が屋外で排泄しており,このことは 自分たちの状況に非常に不満ではあるが,手頃な選択肢が 多くの場合に,排泄物や廃水が存在する環境で遊んでいる 無く,衛生設備は優先度が高いとはみられておらず,無力 幼児や子供たちに甚大なリスクをもたらしている.推定で 感が行き渡っていた. 170 万人が衛生施設の不備で死亡しており,医療費の増加 (Choo  このプログラムでは「良いトイレは可能!」 をもたらしている.また,子供たちの病気や発育不全に結 Bora Chawezekana!)と呼ばれるインスピレーションに訴 び付いている.それが威厳や男女平等,生活の質を害する える宣伝用のプラットフォームを開発し,農村地区の推定 こともある.単に家庭にトイレを供給するだけではうまく 16 万人に向けて,ラジオのスポット広告やラジオの連続 いかないということを政府機関は学んでいる.そうではな メロドラマ,地元のイベントなどを通じてメッセージを流 く,衛生設備は家庭が直面している障害という状況のなか した.地域や地区の当局,石工,村会が,Choo Bora ブラ で理解される必要がある. ンドを最前線に立って宣伝するために動員された.地元の  タンザニア農村部の衛生プロジェクトでは,ソーシャ 石工はトイレ用に手頃なセメント板を製造した.タンザニ ル・マーケティングが用いられている.そこではほとんど アの家庭がどのように衛生設備を使っているかを学ぶ作 のトイレは最低水準の竪穴式便所であり,子供の間では下 業は継続している.フォーカス・グループよる発見は国家 痢症が一般的である.世界銀行の水・衛生プログラムで 衛生キャンペーンに織り込まれた.同キャンペーンはタン は,タンザニア農村部におけるトイレ利用の経験を理解す ザニアの農民 600 万人を説得して,2005 年までに改良型 るために支援活動を実施した.人々は,トイレや衛生習慣 衛生設備に投資させ,それを使用させることを目標にして の改善は優先度が低く,高価で複雑であると考えている. いる. タンザニア農村部における Choo Bora というメッセージを 新しいトイレ用にセメント板 宣伝するコミュニティ・イベント を購入した 2 人の女性 出所:WDR 2014 のために書かれた Jacqueline Devine and Jason Cardosi の論文. 写真:©Water and Sanitation Program staff. なく,地方的公共財を構築したり雇用スキルを向 くのプログラムは,人々が収入源を多様化するの 上させたりすることによって,危機やショックに に使えるスキルを身に付けられることを目的にし 対する備えを増強することができる.公共事業プ ている.ラトビアは失職したのに失業手当受給の ロジェクトはしばしば災害に対してコミュニティ 資格がない人々向けに,勤労福祉制度を使って一 を保護するダムや防護施設,排水施設,農村道路 時的な労働集約的雇用を創出している.プログラ を建設したり,土壌や水,森林の保全工事をした ムはインフラの建設と保全を行い,社会サービス りする.例えば,ジブチは 2008 年に経済危機に を提供することによって,コミュニティに利益を 襲われた際に,勤労福祉プログラムを開始した. もたらしている 63(一挙両得のさらなる事例に これはコミュニティを基盤とした労働集約的な仕 関してはスポットライト 2 を参照). 事における短期雇用を提供するものである.ま  所得扶助プログラムはコミュニティの仕組みを た,就学前児童と妊娠中ないし授乳中の女性に焦 締め出すのではないか,という従来からの懸念は 点を当てて,栄養習慣の改善も支援する 62.多 少なくとも途上国では誇張のようである.公的な 180 世界開発報告 2014 セーフティネットが非公式な移転をある程度,あ 包容性と説明責任を促進せよ.国家制度は中立性 るいは著しく排除している,とした研究もなかに に向けて取り組み,予測不可能で,不正ないし違 はある 64.信用の場合のように,公式な源泉が 法な差別や慣行を削減する必要がある.特に脆弱 非公式なものに取って代わるということはある程 な環境下では,所得扶助やサービス,公共部門雇 度予想される.しかし,個人による移転を排除す 用の対象絞り込みを行う際,民族的なえこひいき ることは受益者が他の貧困層と利益を共有した やそういう受け止められ方は回避すべきである. り,あるいは労働供給を増やしたりすことができ 地方の民兵は武装されるべきではない.というの る場合には,必ずしも社会的な純損失にはつなが は,彼らはしばしば説明責任を負わず,時ととも らない.このプロセスは南アフリカの比較的気前 に犯罪的にさえなるからだ.市民社会とマスコミ の良い高齢者向け社会的年金に関して徹底的に研 は監視役として機能する能力について制約を受け 究されている.南アフリカでは失業率が高く,失 るべきではない.一方,マスコミは責任をもって 業した家族メンバーの扶助で,特に年金受給者の 行動し,民族的な緊張関係や固定観念の喧伝を差 いない世帯を中心に多くの人々が貧困に陥ってい し控える必要がある. る.高齢者が年金を受給し始めると,生産年齢に ある家族メンバーは仕事を求めて移住する可能性 長期的に考えよ が――低くなるのではなく――高くなる.という 災害や緊急事態に事前に備えておけ. 多くの災 のは,年金で移住コストを賄えるからだ 65.こ 害対応や人道支援は準備の欠如によって妨害さ のようにして,リスク管理にアクセスできると, れている.すなわち次のような事態に陥ってい 移住や雇用,貧困からの脱却が可能になる. る.諸機関は非常事態宣言が出てから,場当た り的に対応策のための資金調達に走っている, 資金を巡る競争から調整が制約を受ける,大見 すべてを総合する:強靭なコミュニティを発 出しになるかどうかで災害の資金調達力が決ま 展させるための政策原則と研究の優先課題 る,リスクに対する保護と備えのために事前に  コミュニティは次のような場合により良いリス 投資しておくインセンティブ(および資金調達) ク管理者になることができる.すなわち,コミュ がほとんどない,所得扶助などを初めとする支 ニティに配慮した法体制によって支援されている 援のための恒常的な制度が無い.さらに,ほと 場合,組織としての能力が強化されている場合, んどの人道的な資金調達は,集中的な災害では 発言権や透明性,説明責任がある場合,補完的な なく――その支援なら本来的に一時的で短期的 公共財・サービス(市場や他のコミュニティに結 なはずであるが――,複雑かつ長期化した非常 び付けるものを含む)が供給されている場合であ 事態に支出されており,多くの場合,長期にわ る.この目的のためには,多くのさまざまな政 たって継続されるという状況に陥っている(ボッ 策を使うことができる.このような政策が表 4.1 クス 4.2 参照).災害と人道援助の備えと対応の にリスク管理手段別に,また,以下で検討する 5 ために,協調的な資金調達の仕組みを整備して つの簡単な政策原則の視点を適用することによっ おけば,適切な時期での対応,備えに対する投 て要約されている. 資,長期的な成果に向けた説明責任を確保する のに有益であろう(第 8 章も参照)66. 不確実性ないし不必要なリスクを生み出すな コミュニティを巻き込む重要な地方的決定に関し 透明で説明責任があり,規模の調整が可能な制度 てはコミュニティと協議せよ.サービスやインフ を構築して,コミュニティの連帯や独自のリスク ラ,土地取得などに関する決定が,影響を受ける 管理を組織化する能力を発展させるには時間と忍 人々との協議なしに下されると,潜在的なリスク 耐が必要であることを認識せよ.特に脆弱な紛争 を特定する機会が見過ごされる. 被災国では,自信と制度能力を回復するには一世 CHAPTER4 結束力があり,結び付きのあるコミュニティ間では強靭性が生まれる 181 表 4.1 コミュニティ・レベルでリスク管理を改善するための政策の優先課題 リスク管理を支える政策 基本 高度 知識 透明性と報道の自由 脆弱な環境下では単純な 暴力・災害のホットスポット地図 競合フィルター 保護 万人向けの法と秩序;反差別的措置 分断されたグループを(特に脆弱 コミュニティを基盤とするの犯罪防止 な環境下で)橋渡しする地方制度 災害管理のためのコミュニティのインフラと能力 保険 信用と貯蓄(グループを基盤にし 信用・貯蓄・保険(銀行ベース) た,あるいは零細金融) 対処 雇用と基礎インフラのための スキル開発のための勤労福祉 勤労福祉 人道的救援の長期的成果について 恒常的な政府制度を通じた 説明責任を問う 支援の供与 コミュニティ対象の所得扶助 資力調査による所得扶助 出所:WDR 2014 チーム. 注:上表は政策の優先順位を確立するための第 2 章の次のような指針に基づいて政策の順序を示している:当該国の制度的能力に適合した政 策設計において現実的であれ;最も重大な障害に持続的に取り組み,時間をかけて改善できる強固な基盤を構築せよ. 代を要する可能性がある.したがって,長期にわ の場合,次のような補完的な国家の措置が必要に たって関与して,その時間を規模拡大方法の実験 なる.すなわち,情報のオープンな流れ,報道の に使うのが最も良い. 自由,当局の説明責任を問う仕組みなどが必要で ある. 柔軟性を促進せよ 地方の解決策を策定するに当たっては,コミュニ 保護に弱者層を含めよ ティに耳を傾け,地方の行為者の裁量を許容し, システミックな災害の際には,人々の基礎消費と 実地学習方式を採用し,フィードバック・ループ 健康,教育へのアクセスを保護する方法に公的措 を構築せよ.このような活動のすべてが介入策の 置の焦点を当てよ(この勧告は第 3 章に依拠し 長期的かつ空間をまたいだ適応とともに有益であ ている).所得扶助は非公式なコミュニティの対 る.というのは,地方のリスクは変化するととも 処と保険――システミックなショックによって圧 に,それを管理する機会を提供するからだ. 倒される可能性が大きい――に対して有益な補完 になり,高価で不可逆的な対処策を回避すること 適切なインセンティブを付与せよ ができる.ショックに直面したコミュニティで適 地方と国家の両レベルで社会的説明責任と透明性 用範囲を拡大し,危機が和らいだ時には規模を縮 を促進せよ.地方に説明責任措置があれば,それ 小できるためには,所得移転プログラムは,規模 はより良く,より一貫した地方サービスの提供と の調整が可能で柔軟でなければならない.受益者 リスク管理に役立つ.というのは,サービス提供 選定プロセスは慢性的な貧困層だけでなく,災害 者の実績を改善し,支出が地方のニーズを満たす で最大の影響をこうむった人々を特定できるもの ことを確保し,腐敗を削減するからである.地方 でなければならない.コミュニティ毎の対象選定 の説明責任措置がうまく機能するためには,多く はこの点で有益であり,影響を受ける地域の地理 182 世界開発報告 2014 的な選定,あるいはコミュニティ自身による選定 善,疎外や差別との戦いなど.にもかかわらず, と連動して運用されている. そのような「より柔軟な」アプローチはより大き な転換的な影響をもっている可能性がある. 最後の注記:研究の優先課題の焦点を診断から解 決に置き換えよ 開発計画のなかでコミュニティを考慮しやすくせ 研究の優先課題の焦点を脆弱性の基本的な要因を よ.地方の介入策が意図せざる有害な結末をもら 捜査し,それにどうやって取り組むか,どうやっ すことを防止するためには,多くの場合,固有の て機会を促進するかに変更せよ.本章で対象にし 状況の詳細な理解が費用である.そして,このよ たすべての話題のうち,最も研究されているのは うな知識を計画者が得るには時間がかかる.した 農村部における非公式保険である.都市部に対す がって,開発計画が地方情勢を確実に考慮に入れ る注目度は低い.おそらく最も遠くまで届く効果 るようにするために,もし社会科学者がもっと単 をもち得るリスクに対する備えについては,研究 純で手早いツール(「競合フィルター」ともいわ が不足しているようである.一般的に,研究は脆 れる)を開発することができれば有益であろう. 弱性に対する特定の政策や機会を促進する方法に より一般的には,コミュニティ単位での解決策の 関するよりも,診断に関するほうがしっかりして 規模を拡大し,大きく複雑な問題をよりうまく処 いる傾向にある.金融的・社会的な保護手段は, 理できるような貧困層の協会などの組織モデルに 次のようなことに関する一般的な政策よりも,特 関する研究は,重要な空白を埋めるのに有益であ に経済学においては研究面でより多くの関心を呼 ろう. んでいる:参加,集団行動の推進,地方イニシア ティブの規模拡大,スラム街の格上げ,統治の改 CHAPTER4 結束力があり,結び付きのあるコミュニティ間では強靭性が生まれる 183 注 Menendez 2002 も参照. 31. Marc 他 2013. 1. Klinenberg 2002. 32. Collier 2009, 89; WDR 2014 のために書かれ 2. De Weerdt 2001. た Petesch 2013; World Bank 2010, ch. 2. 3. Dercon 2008; Jalan and Ravallion 2001. 33. Hsiang, Burke, and Miguel 2013. 4. Bowles and Gintis 2002. 34. Varshney 2002. 5. ケ ニ ア に 関 し て Christiaensen and Subbarao 35. Narayan, Nikitin, and Petesch 2010. 2005; エ チ オ ピ ア に 関 し て は Dercon and 36. World Bank 2012. Krishnan 2000; パ キ ス タ ン に 関 し て は 37. Mansuri and Rao 2012. Heltberg and Lund 2009; インド農村部に関し 38. Bowles and Gintis 2002; Ostrom 2000 は洞察 ては Townsend 1994; 病気を助けるコミュニ ティ・ネットワークに関しては Dercon and De に溢れた文献サーベイを行っている. Weerdt 2006.第 1 および 3 章も参照. 39. この拒否は深刻な事態に帰結している.という 6. community と い う 用 語 の 語 源 は ラ テ ン 語 の のは,葬式は複雑な行事であり,助けが無けれ communis――全員ないし大勢が共有する―― ば手配において必ず大失敗が発生するからだ. De Weerdt 2001. という用語にある.コミュニティは愛情ではな く,関係や繋がりによって定義される(Bowles 40. Ostrom 2000; Bowles and Gintis 2002. and Gintis 2002).コミュニティはグループを Habyarimana 他 2007 とそこに引用されている 指す.社会資本は規範や信頼などグループ内の 出所も参照. 関係の様相を指す. 41. Ostrom 2000; Mansuri and Rao 2012. 7. Moser 2009. 42. Singh 2011. 8. Fafchamps and De Weerdt 2011. 43. Mac 他 2013; Singh 2011. 9. Chen 2010. 44. World Bank 2010. 10. Mohapatra, Joseph, and Ratha 2012. 45. Khan 1996. 11. Fafchamps and De Weerdt 2011; Morduch 46. Mansuri and Rao 2012. 2002; Ravallion and Chaudhuri 1997; 47. World Bank 2006. Townsend 1994. 48. Narayan, Prennushi, and Kapoor 2009. 12. Gertler and Gruber 2002. 49. Chaudhury 他 2006. 13. Mohapatra, Joseph, and Ratha 2012. 50. Douglas 他 2008. 14. Jalan and Ravallion 1999. 51. Narayan 他 2000, 198-202. 15. Dercon 2002. 52. Besley, Pande, and Rao 2012; Mansuri and 16. Fafchamps and Gubert 2007. Rao 2012. 17. Attanasio 他 2012; Coate and Ravallion 53. Loayza, Rigolini, and Calvo-Gonzalez 2011. 1993; De Janvry 他 2002. 54. Mansuri and Rao 2012 と Speer 2012 は最近 18. De Janvry 他 2002; Genicot and Ray 2003. の文献サーベイを所載している.World Bank 19. Heltberg, Hossain, and Reva 2012. 2003 も参照. 20. Santos and Barrett 2011. 55. Pandey 他 2007.Bjorkman and Svensson 21. World Bank 2000, 16. 2009 はウガンダに関してほぼ同様の結果を発 見しているが,Banerjee 他 2010 は情報提供が 22. Fay 2005. サービスに及ぼした影響はほとんど認められな 23. Fay 2005. いとしている.それはおそらく実験が短期間だっ 24. Nicaragua Encuesta Nacional de Hogares たためであろう. sobre Medición de Nivel de Vida 2005 に基 56. Devarajan, Khemani, and Walton 2011; づく WDR 2014 チームの分析. Mansuri and Rao 2012. 25. Hsiang 2012. 57. Dreze and Khera 2011; Liu and Barrett 26. WDR 2014 の た め に 書 か れ た Ashwill and 2013. Heltberg 2013. 58. Rodriguez-Garcia 他 2013. 27. WDR 2014 の た め に 書 か れ た Petesch 2013; 59. Coady, Grosh, and Hoddinott 2004; Mansuri World Bank 2010. and Rao 2012. 28. Rockmore 2011. 60. Alatas 他 2012. 29. Esteban, Mayoral, and Ray 2012. 61. IPCC 2012. 30. Varshney 2002; Lederman, Loayza, and 62. Levin, Morgandi, and Silva 2012. 184 世界開発報告 2014 63. Azam, Ferre, and Ajwad 2012. 64. Cox, Hansen, and Jimenez 2004; Dercon and Krishnan 2003. 65. Ardington, Case, and Hosegood 2009. 66. WDR 2014 の た め に 書 か れ た van Aalst 他 2013. 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Vol. 3 of Moving out of Poverty, edited by Deepa 188 スポットライト 4 刑事司法が十分でない場合:ブラジルと南アフリカ の都市部における統合的な犯罪・暴力の防止策  都市部の犯罪や暴力の水準は国や地域,州や省のなかでも差がある.それは犯罪の動因についても同じ ことであり,歴史や政治,文化,社会経済などの要因から影響を受けている.このような相違にもかかわ らず,犯罪や暴力の削減に成功している戦略には共通する要素があり,これは「都市部犯罪・暴力予防に かかわる統合的アプローチ」といわれている.ブラジルの 3 都市と南アフリカの 1 都市はこのアプローチ を象徴しており,コミュニティを巻き込んで,単なる取り締まりを超越している.  リスク要因を理解し,予防と刑事司法改革を組 である.そのような戦略として次がある:包容的 み合わせ,すべてのレベルの政府を巻き込んで, な市民の安全性,麻薬・アルコール依存症からの 市民社会や民間部門において包容的なアプローチ リハビリなどの公衆衛生プログラム,若者に配慮 を追求することが,都市部の犯罪や暴力との戦 した敷設の建設など. い・予防では決定的に重要である.多くの場合,  犯罪率が非常に高い都市もなかにはあるが(図 まずは刑事司法から距離を置くというアプローチ S4.1),ブラジルのディアデーマ,ベロオリゾン が第 1 歩になる.通常は予防戦略――特に教育 テ,リオデジャネイロ,南アフリカのヨハネスブ や職業訓練,心理的支援,早期児童開発などを通 ルクにおける犯罪および暴力の減少が,伝統的な じて若者に対象を絞っているもの――が後に続 刑事司法アプローチを予防戦略で補完することの く.予防による利益は長期的に実現するため,犯 利益を明らかにしている. 罪や暴力のより速やかな削減を目指す戦略も重要 ブラジルで都市を安全にする  ブラジルは異質的な国であり,それは州によっ 図 S4.1 主要都市の殺人率 て犯罪率が異なることに反映されている.殺人率 ヨハネスブルク 43.0  は北東部などでは過去 25 年間に著しく上昇して サンパウロ 10.8  メキシコ市 8.4  いるが,特に南部を中心に一部の地域では低下を ニューヨーク市 5.6  経験している.例えばサンパウロでは,殺人率 モスクワ 4.6  ナイロビ 4.0  –  は 2000  10 年に 67%減少した.南東部で良好 バンコク 4.0  ソウル 2.4  な結果をもたらした犯罪削減アプローチには,教 アンマン 1.8  ソフィア 1.8  育プログラム,若者向けプログラム,銃器・アル ムンバイ 1.3  コール規制が含まれ,すべての都市レベルでの包 コロンボ 1.2  ローマ 1.1  容的な市民の安全性の要素が盛り込まれている. アルジェリア 0.5  次の 3 つのブラジルの都市における戦略が特に 0 10 20 30 40 50 人口 10 万人当たり 注目に値する. –   ディアデーマ――暴力が 1995  98 年に 49% 出所:United Nations Office on Drugs and Crime Homicide Statistics database からのデータに基づき WDR 2014 チー 増加したサンパウロ州にある都市――は,2000 ム作成. 年に新たな公安政策を施行した.同政策の重要な 注:すべての比率は 2009 年のもの:例外はアルジェリア (2008 年) , アンマン(2006 年) , ヨハネスブルク(2007 – 08 構成要素には,午後 11 時以降の酒類販売制限や 年),ナイロビ(2008 年),ローマ(2008 年). 市内の酒類販売免許の数と合法性の監視が含まれ CHAPTER4 結束力があり,結び付きのあるコミュニティ間では強靭性が生まれる 189 ている.同市は公共照明を改善し,犯罪率の高い 化を後押しした.第 2 段階で,UPP ソーシャル 地域に防犯カメラも設置した.このような公安政 (UPPS)という部隊が,麻薬取引業者が一掃さ 策が犯罪率の低下――住民 10 万人当たりでみて れたファベラの住民を社会援助に結び付けた.住 1999 年の 389 件から 2003 年の 167 件へ―― 民,サービス提供者,政府機関,および民間部門 に貢献した.アルコール政策は特に有効だったよ の間では,コミュニティのニーズの充足を確保す うである.殺人率と女性に対する暴行はアルコー るのを手助けするために,対話が奨励された.ア ル政策がなかった時の水準との比較で,それぞれ プローチの持続可能性を確保するために,この 44%,56%も減少した. 局面では次のような努力もなされた:電気,ガ  ブラジルで 3 番目に大きい都市ベロオリゾン ス,ケーブル TV,およびインターネットなどの テでは,1990 年代後半に殺人率が大幅に上昇し サービスを公式化する;かつて犯罪活動に従事し た.同市の犯罪は通常はスラム街で発生し,しば ていた若者を更生させる;都市部を再活性化する しば若い男性が引き起こしていた.世論の抗議を など.2012 年までに 25 を超える UPPS が設立 受けて,市当局は 2002 年に市内の最も暴力的な された.政府は 2014 年までに,45 カ所に UPP スラム街で「生き延びよう」(Fica Vivo)とい と UPPS を設立することを通じて,165 のコミュ うプログラムを実験した.プログラムには,市議 ニティに奉仕する計画である. 会,地方自治体・連邦・軍部の警察,検察庁,民 間企業,非政府組織,地方コミュニティなども参 南アフリカでは防止策と刑事司法を組み合わせて 加した.教育,職業訓練,青年スポーツ・芸術プ いる ログラムなどに対する支援を含む防止活動は,犯  過去に南アフリカは犯罪に対してより受動的な 罪抑制と社会開発プログラムの組み合わせを通じ アプローチをとり,刑事司法制度に大きく依存し て暴力を削減することを目指した.暴力や麻薬, ていた.このような受動的アプローチは世界で最 性的感染症に関する説明会も開催された.プログ 高の拘禁率につながっていたが,犯罪防止にはほ ラム実施から 30 カ月後,殺人率は 47%,殺人 とんど役立っていなかった.例えば,同国の殺人 未遂は 65%の減少を示した. –  率は 2007  08 年に 10 万人当たり 39 件と,ブ  リオデジャネイロでも殺人率が著しく増加し, ラジルの 26 件よりも高かった.しかし,犯罪削 –  1980  97 年に 10 万人当たり 26 件から 59 件へ 減にかかわる多部門防止アプローチへのシフト と 2 倍以上になった.犯罪は 2000 年代になっ は,若干の進展をみせているようである.アパル て減少し始めた.これは 2003 年の国の銃規制法 トヘイト終焉直後の 1996 年に,南アフリカ政府 と小型銃器買い戻し運動のおかげである.2008 は防止に大きな焦点を置いた国家犯罪防止戦略を 年に州全体とリオ市の殺人率は 10 万人当たり 打ち出した.近年,南アフリカ警察庁はコミュニ 34 件以下にまで減少した. ティ警察フォーラムを使って,この提案を実施に  しかし,リオのファベラ(ブラジルの都市にあ 移した.学校や企業,市民組織,宗教団体などで る非公式な定住地)では麻薬取引が執拗に継続し 構成されるフォーラムは,警察とコミュニティの ていた.2008 年にそれに対応して,刑事司法と 間のパートナーシップ,共同による問題特定,問 防止策を組み合わせた戦略が打ち出された.この 題解決を円滑にする.パートナーシップは多様な 戦略はファベラから麻薬取引業者を一掃するため 利害関係者がいるコミュニティで,公安プランの に,警察の精鋭部隊を活用するものであった.麻 開発につながることを企図したものである. 薬業者が退去すると UPP(警察和平ユニット)  ヨハネスブルグは国内の他の地域で起こりつつ がファベラに進入して,コミュニティと警察の間 あった犯罪防止見直しに沿った戦略を採用した. に信頼を構築することに重点を置くと同時に,警 –  確かにヨハネスブルクの殺人率は 2007  08 年に 備面での継続的なプレゼンスを提供した.UPP 南アフリカ全体よりも高く,10 万人当たり約 43 は殺人や暴力的犯罪にかかわる件数減少の加速 件の殺人に達していた.ヨハネスブルクの開発計 190 世界開発報告 2014 画の一環であるヨハネスブルグ市公安戦略は,同 市の高い犯罪率の低下を企図している.この戦略 は経済開発にとって重要な措置を優先し,犯罪の 削減・防止にかかわる介入策の境界を漸進的に拡 大することを想定している.重要なプログラムと して次が盛り込まれている:対象を絞った監視, パトロール,有線テレビ(CCTV),犯罪者を抑 止し人々の安心感を高めるその他のツール.  改革はこの方針に沿って継続している.2012 年に,南アフリカは刑事司法制度の見直しを実施 したが,その目的は次の通りである:有罪宣告率 の引き上げ,審理の迅速化,刑務所制度の更生能 力改善,釈放囚人の社会復帰促進など.同国は 警察,法廷,および刑務所向けの予算を増額した り,それらの数を増強したりしている.「開かれ た社会財団」や「司法・犯罪防止センター」など の市民社会組織が,貧しいコミュニティにおける 安全性監査の開始を後押しし,地方の状況に関し て調整した犯罪防止プログラムの設計について支 援している.民間部門も深く関与している.例え ば,「犯罪に対抗する企業」という南アフリカ企 業の連合は政府と協力して,犯罪削減のために官 民パートナーシップを策定している. 参考文献 Greenwood, Peter W., Karyn Model, and C. Peter Rydell. 1998. “Diverting Children from a Life of Crime: Measuring Costs and Benefits.” RAND Corporation, Santa Monica, CA. Moser, Caroline. 2006. “Reducing Urban Violence in Developing Countries.” Policy Brief 2006-01, Brookings Institution, Washington, DC. Petesch, Patti. 2013. “How Communities Manage Risks of Crime and Violence.” Background paper for the World Development Report 2014. UNODC (United Nations Office on Drugs and Crime). Homicide Statistics. UNODC, Vienna, http://www.unodc.org/unodc/en/ data-and-analysis/homicide.html. World Bank. 2011. Violence in the City: Understanding and Supporting Community ­ Responses to Urban Violence. 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がそれぞれ主因であった.2013 年初頭までにス ての仕事が同じというわけではない.労働者の ペインでは労働力の 25%以上が失業した.デン 観点からみると,確実かつ増加する所得と安全 マークの失業率も上昇したが,7.4%までであり, な職場環境が提供される仕事のほうが,そのよ ずっと低水準にとどまった.ドイツでは,わず うな利益をもたらさない仕事よりも好ましい. か 5.3%であった 2.この 3 カ国における経験の 加えて,消費者が欲し,頼りにできる財・サー 差はいくつかの要因によって説明できる.第 1 ビスを生産する仕事や,環境を尊重し保全する に,スペインを襲ったショックはデンマークと 仕事は,社会の視点からみてより良い.このよ ドイツを襲ったものよりも大きかった.しかし, うな良い仕事はどこで見付けられるか? 本章 失業率が著しく異なる説明要因としては,労働 は,活気のある企業部門がそのような仕事を提 市場の柔軟性を考慮すべきであろう.ドイツで 供するのに最適であると主張している.失業の は労働市場改革が国際的な危機の前に賃金上昇 リスクを緩和し,機会を創出するために資源を の緩和に役立ち,従業員と企業はレイオフを必 再配分し,労働者や消費者,環境の保護に貢献 要としないワーク・シェアリングを通じて,労 する潜在力をもっているからである.本章では 働時間を調整することができた.デンマークで さらに柔軟性(労働者と企業所有者の潜在的な は離職率は高かったが,失業期間は短く,失業 194 世界開発報告 2014 者向けの頑健なセーフティネットや再訓練プログ 性は,経済がある程度の柔軟性を達成し,労働者 ラムによって緩和された.これとは対照的に,ス が実際的なセーフティネットを利用するための手 ペインでは大打撃を受けた建設部門で雇用されて 段になっている 6.したがって,多種多様な労働 いた労働力の割合が高かったこと,雇用法制が厳 者や企業が非公式にとどまっているが,それは限 格で大幅な解雇手当の支給が必要だったこと,未 定的な利益しかもたらさない公式部門から排除さ 熟練の若年労働のシェアが高いといった他の構造 れているか,またはそれに参加しないことを選択 的な要因があったことなどが,高水準で執拗な失 しているためである 7. 業率をもたらしている 3.  しかし,非公式性はしばしば次善の対応策であ  第 2 の事例は企業が公式化することの利益を る.貧困層の大多数は非公式部門で働いている 示している.ペルーでは近年,金価格の高騰に応 が,これは選択というよりもやむを得ずそうして じて非公式な鉱山が出現している.このような非 いるのである.例えばガーナでは,非公式な給与 公式鉱山は既存の規則を無視して,かなりの森林 労働者と従業員のいない自営業者の 60%以上は, 伐採を引き起こしている.採取の過程で使われる できれば公式な賃金労働を望んでいる 8.非公式 水銀が河川や大気を汚染し,人間の健康にとって な仕組みは小企業や単純取引では有効かもしれな も脅威となっている 4.ラ・リベルタ県では,ポ いが,大企業や,労働者や市場との関係が複雑な デローザ鉱山会社は非公式鉱山業者が採掘区の 1 取引では不十分であろう.それが国の発展に伴っ つに侵入してきたのを受けて,問題への対応に革 て総雇用に占める賃金雇用のシェアが上昇する理 新的な手法を採用した.同社は侵入してきた業者 由かもしれない.地域相互間と地域内の両方で著 を公式化し始め,同社の指揮下で採掘継続を認め しい差はあるものの,途上国では自己雇用――大 る合意書に調印した.国際的な環境管理品質基準 半が自給自足的な性格のもののようである――が を満たす合意のおかげで,小規模鉱山業者の所得 一般的となっている(図 5.1). は増加し,森林伐採や水銀汚染に伴う被害は減少  仮に企業部門が人々のリスク管理を支援すると した 5. いう役割を果たそうとするなら,同部門にかかわ  この 2 つの話は本章の次の主要なメッセージ る公的政策としては,柔軟性を求める経済からの を伝えている.すなわちそれは,柔軟性と公式性 要請と法律および規制面での保護を求める社会か は人々の強靭性と繁栄に貢献できる企業部門の能 らの要請をうまく調整した改革が必要である.本 力を高めるということである.柔軟な企業部門は 章では企業部門が徐々に公式化するにつれて,そ 企業内でも企業をまたいでも資源を再配分するこ れが柔軟になるのを後押しする改革を組み合わせ とによってショックに対応し,常に変化している ることを主張する.このような改革には次が含ま 世界のなかで革新する能力が高い.公式的な企業 れる:企業部門の基本的基盤の改善(財産権強化 部門は法的保護や契約執行を活用し,公的インフ と政府政策の不確実性削減を通じて),健全な規 ラをうまく利用するのにより適している.加え 則の実施と取り締まり,包容的な社会保護の提供 て,労働者の安全や消費者,環境の健全性に与え など.長期的にみると,柔軟性に向けた健全な規 る影響に関して,公式企業なら説明責任を問うの 則が整備されている場合,政府は柔軟性と公式性 が容易である. の両方を奨励する改革を追求することができる.  柔軟性と公式性の間には相乗作用とトレードオ 革新に拍車をかけ,労働力のスキル水準を引き上 フの両方がある.責任のある強固な国家制度と簡 げ,労働者や消費者,環境の保護を強化すること 素な規則を有する諸国では,公式性は柔軟性を高 ができるからだ.このような改革は成長を高める める.しかし,国家制度が弱く規制体制が煩雑な ためだけでなく,人々の強靭性を高め,繁栄を促 国々では,公式性のコストは企業と労働者の大多 進するためにも必要である.企業自身が直面する 数にとって過大になることがある.このような場 リスクとリスク・テイキングの決定は,活気のあ 合,「非公式であることが正常」となり,非公式 る企業部門においては非常に重要な側面ではある CHAPTER5 活気のある企業部門を通じて強靭性と繁栄を促進する 195 図 5.1 賃金雇用は経済発展の水準に伴って増加する a. 地域別の自営業 b. 賃金雇用への移行 総雇用に占める比率(2004 – 06 年の平均) 総雇用に占める比率(1990 年代前半 -2000 年代後半、主要国) 100  100 上限 90  75%層 90 中位水準 80  80 70  70 25%層 60  60 % 50  50 % 40  40 30  30 20  下限 20 10  10 0  0 ヨ 太平 ア・ ン ジ ・ リ ・ リ ・ マ ンド メ ア ブ コ エ ル ト ス ルコ カ パ タイ タ タン キ ニア ソ CD ア フ 南 テ ア パ カ カ フ 東 シ シ ジ プ ン ァ ジ ア ラ以 ー 洋 ア ア ブ 南 カ カ OE ジ ラ 央 ロッ リ ア 中 ラ ー キ ラ ジ ト ラ ス ブ ンザ フ ア リ ア メ ー レ リ キ ナ ハ 東 ポ サ ル 中 北 1991 – 95 年の平均 2006 – 10 年の平均 出所:World Bank Development Indicators (database) からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成. 注:総雇用は賃金雇用と自営業で構成される.パネル a の OECD 諸国は少なくとも 40 年間にわたり OECD 加盟国である高所得国.他の すべての諸国は地理的な地域にグループ分け. が,本章では人々が直面しているリスクという本 能性はあるが――,以下で検討するいくつかの経 報告書の焦点を維持したい.したがって,部門と 路を通じて,彼らがリスクを管理するのを手助け しての企業部門と,リスク管理について人々や社 できる潜在力をもっている.柔軟性と公式性は企 会を支援する機能に対しては,本章では違った形 業部門がこの機能を果たすのを確保するのに重要 で焦点を当てることにする. な方法となる.  事業体には企業――複数の人々が一緒に働いて いる事業体――が含まれる.労働者や所有者に 企業部門として人々がリスクに立ち向かうの とっては,企業の一員であることによって,特 を支援する方法 化・協力・革新に伴う損益を共有する可能性が広  少しの間一歩下がって,企業部門が何であるか がる.まさにこれが企業形成の背後にある主要な を考えてみよう.企業部門は労働者や所有者,個 動機であり,少なくともアダム・スミス以降の経 別企業内におけるその関係を組織化した取り決 済思想においては,そういうものとして重要な特 め,労働や資本を財・サービスに転換する技術で 徴となっている.フランク・ナイトとロナルド・ 構成される.企業部門の特徴的な単位である企業 コースはその先駆的な研究において,不確実性に は,非公式なものから公式なものまで,自営業か 対処し,直接交換に本来的に伴う取引コストを克 らパートナーシップ,さらには巨大な多国籍企業 服するのに費用効果的な方法を提供することにお まで,農業から製造業やサービス業までと広範囲 いて,企業が有する制度的な優位性を証明した 9. にわたる.1 つの企業は利益の最大化を目指して 独立した個人のほとんどは本来的にリスク回避的 いるかもしれないが,企業部門全体としてはこの であり,新しい事業に乗り出すことを躊躇する. 目的に限定されない.企業部門は労働者や所有 しかし,グループで契約が基になっている取り決 者,消費者の利益をも含んでおり――このような めにしたがうなら,リスクが大きくてもより高い 利益相互間には重要なトレードオフが存在する可 収益を約束するプロジェクトの追求により積極的 196 世界開発報告 2014 になる.したがって,企業は機会に乗じるため 得の総合的な伸びを安定化し増大することがで の自然な手段として機能することができ,個人 きる.中小企業はより変動性が大きい傾向があ の強靭性と繁栄に有益な帰結をもたらす 10. る.最近の研究は,次のことを示している.非  より具体的に言えば,企業部門は次の 3 つの 常に多角的に発展した企業部門があるアメリカ 経路を通じて,人々のリスク管理を支援できる では,中小企業の総売上の伸び(中位数)にお 潜在力をもっている.すなわち,それはリスク ける変動性は,大手公開企業おける同じ値の 5 の分担,資源の配分と革新の促進,労働者・消 倍以上にも達している 11. 費者・環境の保護の 3 つである.しかし,この  しかし,多くの途上国の企業部門は自営業者 潜在性は常に認識されているわけではない.現 によって支配されている(図 5.1a 参照).その 実には,各経路は多くの場合に最も脆弱な層が 結果,労働者間のリスク分担は限定的である. 負担することになる大きなコストを伴う. 平均すると,自営業者の比率は南アジア 新聞は毎日のように労働者や消費 リス では約 70%であり,サハラ以南ア 者,環境,そして企業部門自身 クを共有するために フリカでは 80%を超えている. に対してさえ有害な行動をする は,企業は一定規模を達成 このためこれらの地域では,大 企業――特に視野が短期的な することが有利である.自己雇 半の労働者において所得の急 企業――に関するニュースで 用――多くの途上国では極めて 変に対する脆弱性が高くなっ 溢れている.政府は,企業部 一般的――はセーフティネッ ている.子供の病気や機械の 門が人々のリスク管理を支援す トであると同時に,脆弱性 故障,天気の変化などは,1 日 る潜在力を発揮するのを後押し の兆候でもある. 分の所得の損失につながること するということにおいて果たすべき がある.自営業者の割合がそのよう 役割がある.しかし実際には,公的政策 に高いということは,この地域の企業部 のための能力や適切な奨励措置,正しい戦略を 門は複数の人員がいる企業なら可能な専門化や 持たない政府は,このようなリスク管理の経路 生産性の向上に伴う利益を享受していない,と を有効にすることができる企業部門の柔軟性と いうことも示唆している.図 5.1b が示すように, 公式性を弱めている懸念がある. 発展途上数カ国では賃金雇用への移行が進展し ている.それにはトルコも含まれ,そこでは賃 リスクの分担 金雇用のシェアが 1990 年代前半から 2000 年代  企業部門が人々のリスク管理を支援できる第 1 後半にかけて 50%拡大した. の経路は,労働者同士の間で,企業の所有者あ  企業部門は,企業の所有者――およびより一 るいはより一般的には資本の所有者の間で,ま 般的に資本の所有者――が投資リスクを分担す た,労働者と所有者の間で,リスクを分担する る機会を生み出すこともできる.資本の所有者 ことである.企業は一種のリスク・プールとし が多種多様な種類と水準のリスクにさらされて て機能し,労働者が仕事量を分担するのを許容 いる企業に投資する場合,分散化を通じて,正 して,休んだ同僚の代わりをしたり,あるいは 常な収益率という見返りを獲得しながら,投資 馴染みのない,または複雑な課題を助けたりす に関する一定のマイナス・ショックの影響を削 る.例えば,労働者が病気になった場合,他の 減することができる.資本リスクに対処するた 労働者は臨時に代役を果たすことができるため, めの重要な法的リスク分担の仕組みは有限責任 当該労働者が失業するリスクを削減し,病気中 である.これは企業の所有者が責任を負う損失 の所得を保証する手助けができる.より一般的 を制限するものであり,したがって,個人の自 には,労働者のスキルに補完性があれば,企業 然なリスク回避癖を克服するのに有益である. としては個人 1 人の場合よりも容易に,プラス 有限責任であれば企業はより創造的なリスクを およびマイナスの変化に対応して,生産性と所 とることが鼓舞され,それが今度は生産性を押 CHAPTER5 活気のある企業部門を通じて強靭性と繁栄を促進する 197 し上げ,企業部門による所得と雇用の着実な供給 がより高い企業が勃興するのに伴って,企業や産 ないしその増加を円滑化することができる.株式 業をまたいで生じる.これはオーストリア人経済 市場の発展や規模の経済の活用は大部分が有限責 学者のヨーゼフ・シュンペーターによって創造的 任制度のおかげである.企業所有者の間のリスク 破壊として活写されたプロセスである.企業部門 分担は公式な仕組みがなくても起こり得る.ビジ はプラスにもマイナスにもなり得る外部からの大 ネス環境が非友好的な場所では,非公式なネット きなショックに直面することが少なくない.それ ワークやビジネス団体がしばしば設立されて,商 には需要供給の大きな突然の変化,投入価格の上 業や経済,政治面で変転する環境下で,企業所有 下変動,技術の進歩ないし陳腐化,自然災害など 者間の協調を円滑にしている. が含まれる.企業部門ならこのようなショックを  労働取り決めも労働者と企業所有者の間でリ 吸収し,それがもたらす損傷を削減したり,あ スクを分担することを可能にする.労働者は企 るいはチャンスを活用したりすることができる. 業に一種の保険を提供することができる.彼ら 人々のリスク管理を円滑にする所得や雇用,製品 は正常な時期における高賃金と引き換えに,一 を提供しつつ,資源を企業や産業のなかで,ま 時的なショックの時期には賃金引き下げ,ない た,それを横断して,より生産的な分野に効率的 し労働時間や付加給付の削減に同意する.この に再配分することができるためだ.このような資 種のリスク分担は,例えば,カメルーンやガー 源再配分のプロセスがなければ,企業部門は停滞 ナ,ケニア,ジンバブエの製造企業に実例が発 し,より変動が大きくなり,さらに長引く不況を 見されている 12.あるいは,新しい事業で危険 経験し,経済的および社会的に悲惨な帰結がもた を冒すことや,収益の乱高下の受け入れに積極 らさせる. 的な企業所有者は,それでも一般的に自分の所  最近の研究が示唆するところによれば,中国や 得の安定性と予測可能性についてより一層心配 インドで資源配分をアメリカと同程度に効率的に している労働者に対して,着実な賃金を提供す すれば――制度的能力など他の要因が整備されて ることができる.変動性の原因が労働者に固有 いるという条件下で――,全要素生産性は中国 である場合には,同じような力学が当てはまる. では 50%,インドでは 60%も上昇する可能性が 例えば,企業は病気などの特異なリスクのため ある 14.世界で最もダイナミックな経済の 1 つ に,労働者に対して着実な賃金という形で保険 であるアメリカでは,創造的破壊が生産性上昇の を提供している 13.労働契約は責任を明確に定 50%以上を占めている 15.生産性の上昇は雇用 義して執行の可能性を高めることによって,この 保証の増大にもつながり得る.例えばルーマニア ように取り決めを円滑化することができる. –  では,2008  09 年に金融危機に襲われた際,生  要約すれば,企業はリスク分担の手段として機 産性の高い企業は労働者を解雇しない傾向があっ 能することができ,個々の労働者に対するショッ た 16.したがって,仕事の回転(包容的な社会 クや生産プロセスにおける状況の急変に対して保 的保護やその他の措置を通じて取り組む必要があ 険を提供することができ,労働者が専門化するの る)は高い調整コストを伴うが,解雇を禁止して を許容し,資本の所有者がより儲かる投資を行う いる厳格なルールも高いコストを伴う. ことを可能にする.  企業部門は最も生産的な企業に資源を配分し, 常に変化している世界の条件に合うように革新す 資源の再分配と革新 ることによってリスク管理を支援することができ  資源再配分と革新は,企業部門がリスク管理を る.革新には特に発展途上世界の企業による新し 支援できる第 2 の経路である.資源の再配分は い技術やプロセスの採用および適合が含まれる. 企業が資源をシフトし,拡大したり縮小したり, 資源再配分と革新は,生産性を高めると同時に, 市場に参入したり退出したりする場合に生じる. 将来の大きな変化に対応する企業部門の能力を改 再配分は生産性の劣る企業が破綻し,他の生産性 善することができる実験と学習のプロセスの真髄 198 世界開発報告 2014 ボックス 5.1 労働者,消費者,および環境の保護は儲かるビジネスにもなり得る  企業の利害と労働者,消費者,および環境の利害は常に . 着実な支払いのおかげで農民は借入を行うことができた」 一致しているわけではない.しかし,一致している場合, ネスレはブラジルやタイを手初めに,他の諸国でも同じよ 著しい利益がもたらされる. うな作戦に打って出ている.  インドにおけるネスレの牛乳事業への参入は,世界的な  消費者や環境の保護はしばしば公的措置を必要とするも 供給チェーンがどのようにして労働者にとって現地の状況 のの,消費者や環境に利益をもたらすべく,生産を改善す を改善できるかを示す手本となっている.インドのモガ地 るための戦略を打ち出している企業の事例が数多くある. 区で効率的な牛乳事業を確立するために,ネスレは現地農 例えば,マクドナルドは消費者がスマートフォンを使っ 民と密接に協働して,井戸に対して資金,病気の家畜に対 て,栄養に関する情報へアクセスできるように包装のデザ して獣医,牛乳の質に関して指示を提供しなければならな インを変更した.ペプシコやコカ・コーラなどの瓶入り飲 かった.協働はネスレの牛乳事業にとって有益であること 料を製造している企業は,プラスチックの使用料が少ない が判明し,信頼できる供給チェーンが確立された.しかし, デザインのボトルを導入した.消費財会社であるユニリー モガの農民も利益を享受した.マイケル・ポーター = マー 「プロジェ バは,会社の水使用の効率性を高めるために, ク・クレイマーが『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌 クト・メドゥーサ」を打ち出した.これは機械洗浄や冷却 「ネスレは政府が設定したより に掲載した分析によれば, の際に蒸発した水を再利用するものである. も高い価格を農民に支払うことができ,その 2 週間ごとの 出所:Porter and Kramer 2006 に基づき WDR 2014 チーム作成. である.実験が不十分だと,そのような大きな変 ているような品質や環境基準を自発的に採用して 化を吸収する企業部門の能力は萎えてしまう.革 いる企業は,評判を改善したり,生産性を向上さ 新――実物資産や知識ベース資産への投資―― せたりすることによって,保護のコストを内部化 は,新しい発見が提供する機会,特に顕著なリス している.同時に,そういう企業は労働者や消費 クを含む機会を活用する企業部門の能力の核とな 者,環境の保護にも寄与することができる. るものだ 17.個々の所有者や労働者よりも多く  労働の衛生と安全は生産性の鍵を握る構成要因 のリスクを負うことができる組織体としての企業 である.最善のシナリオでは,この関係を認識し は,潜在的に生産的な事業につながり得る大胆な ている企業は利益最大化の戦略の一環として,職 アイデアの実施を促進するという点でより良い立 場環境の改善に努力するだろう.例えば,最近の 場にある.一部の事業は失敗するだろうし,それ メタ分析は,職場の健康増進プログラムはプログ はそうなることが許容されてしかるべきだ.残り ラム向け支出 1 ドルで医療費を 3.27 ドル,欠勤 の成功が,企業がよりうまくショックを吸収する コストを 2.73 ドル削減することができることを 革新的なプロセスと,人々がよりうまくリスクを 見出している.また,この利益は労働者と企業の 管理する革新的な製品の両方を提供することがで 双方に帰属する 18.それは収益に影響を与える きる.リスク分担がある限り,大規模なリスク・ ことができるため,評判に対する懸念が労働衛生 テイキングや失敗の許容度は国全体にとって成長 安全基準をどう整備するかについて企業を動かす や貧困削減のエンジンになり得る. 可能性がある.  生産性や評判に関するそのような配慮を背景 労働者,消費者,および環境の保護 に,企業は消費者製品の品質基準の策定に力を入  企業部門は労働者,消費者,および環境を保護 れている(ボックス 5.1).欠陥を最小化し,製 する雇用規準や生産プロセスの発展と実施を円滑 品の安全性を高めることを企図した基準は,消費 にすることによって,リスク管理を支持する潜在 者の満足度を高め,利益の増加につながり得る. 力をもっている.そのような保護を支えるには健 近年,多くの企業は生産から消費者ニーズの識 全な規則とその強力な執行が決定的に重要であ 別,製品の設計と保証,消費者サービスにまで広 る.国際標準化機構(ISO)によって体系化され がる「品質理念」を採用し始めている 19.評判 CHAPTER5 活気のある企業部門を通じて強靭性と繁栄を促進する 199 効果も企業の環境対応を律することができる.最 クに対応するために操業をひどく混乱させること 善の場合,社会規範は環境の酷使を阻止すること もなく,資源をより生産的な分野に再分配し,長 ができ,市民社会グループは産業における環境に 期的なトレンドに対応するという能力に当てはま 有害な慣行を監視することができ,さらに消費者 る.柔軟性には,労働者同士の間,企業の所有者 は自分が購入する製品の環境への影響に関して知 やより一般的には資本の所有者同士の間,また, 識を得ることができる. 労働者と企業所有者の間におけるリスク分担の取  同時に,特に制度や規制が弱いところでは,企 り決めに関する調整も含まれる.柔軟な企業部門 業部門がこのような保護を阻害したり,人々に対 というのは次のような状態にあるものを指す:労 して新たなリスクを生み出したりする事例も多 働者のスキルが譲渡可能である,資本所有者には い.急速な経済成長が職場基準の策定のペースを 投資の選択肢が数多くある,労働者と企業は賃金 上回っている地域もなかにはある.労働者は有害 や雇用の水準を潜在的に相互利益のために修正す な職場とそのような職場が作り出した劣化した環 る権限が付与されているなど.柔軟な企業部門で 境条件の両方を経験している.例えば,本章の冒 は,企業は拡大あるいは縮小し,市場への参入や 頭で光を当てた非公式鉱業の中心地であるペルー 退出がスムースにでき,新しい機会をつかまえ のマードレ・デ・ディオス県の住民は,他のペ るべく革新することができる.図 5.2 は柔軟性に ルー人を大幅に上回る水準の水銀にさらされてき ついて 2 つの相異なる指標を示している.1 つは ている.それは採掘プロセスにおける水銀の使用 財市場の効率性に対応し(パネル a),もう 1 つ と汚染水域で捕れた魚介類の消費の両方に関係 は労働市場の効率性に対応している(パネル b). しているものとみられる 20.児童労働も多くの 両方とも柔軟性は発展途上世界では低い傾向にあ 諸国では際立った問題として残存している.約 1 ることを示している. 億 1,500 万人に達する児童労働者の半数以上は,  なぜ柔軟性が重要なのか? 柔軟性は企業部門 国際労働機関(ILO)の推計では,有害な条件下 が人々のリスク管理を支援する 3 つの経路をそ で働いている.より開発が進んだ状況下でさえ, れぞれ高めるからだ.柔軟性は集計レベルで堅実 労働者や消費者の衛生安全がないがしろにされて な所得や雇用の機会を提供すると同時に,労働者 いる事例がある.理に適った規則の策定と執行に や企業所有者のショックへの対応を許容するリス ついて,政府には果たすべき重要な役割がある. ク分担を円滑化する.補完的なスキルの所有や専 門化が行われていると,特に大手を中心に企業は 需要の増加や新技術の導入をみずからに有利に活 企業部門における柔軟性と公式性は人々の強 用することができる.それとは対照的に,労働者 靭性と繁栄を改善する と所有者の間の労働取り決めが厳格な場合は,小  柔軟性や公式性の増大には時間がかかり,制度 さい特異なショックでさえ非常にコストが高くな の能力を強化し規則を改善するための補完的な改 り,企業の生き残りに脅威を与える.最後に,企 革を必要とする.国家制度が弱く規則が煩雑な場 業所有者が投資できる機会が幅広いほど,負担す 合,柔軟性と公式性の間にはトレードオフが生じ るリスクはより分散される.資本市場が浅いと, る.国家制度が強く規則が健全な場合,柔軟性と あるいはその取引コストが高いと,それは投資家 公式性は共生可能である. が良い投資機会を回避する原因になる.  経済的に困難な時であっても所得機会を生み出 柔軟性の役割と重要性 す企業部門は,社会的保護制度が弱い諸国では特  柔軟性というのは変化する環境に適応する能力 に重要である.そのような諸国では,仕事のない のことである.企業部門や個人企業の柔軟性は, 人は公的援助に頼ることはできないため,何らか 労働者を簡単に採用および解雇できる狭い能力を の所得源を見付けなければならない.公式性のコ はるかに超える.むしろ,それは短期的なショッ ストが高い地域では,この所得は非常に多くの場 200 世界開発報告 2014 図 5.2 企業部門の柔軟性は世界中でバラツキがある a. 製品市場の柔軟性 a b. 労働市場の柔軟性 b 6.0  6.0  5.5  5.5  5.0  5.0  4.5  4.5  指数 指数 4.0  4.0  3.5  3.5  3.0  3.0  2.5  2.5  CD 洋 ア ブ カ ア カ CD 洋 ア ブ カ ア カ 平 ジ リ リ ジ リ 平 ジ リ リ ジ リ OE OE 太 ア カ フ ア フ 太 ア カ フ ア フ ・ 央 ・ ア 南 ア ・ 央 ・ ア 南 ア ア 中 カ 北 ・ ア 中 カ 北 ・ ジ ・ リ ・ 南 ジ ・ リ ・ 南 ア パ メ 東 以 ア パ メ 東 以 東 ッ ア 中 ラ 東 ッ ア 中 ラ ロ ン ハ ロ ン ハ ー テ サ ー テ サ ヨ ラ ヨ ラ 出所:World Economic Forum (WEF) 2012 からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成. 注:グラフは各地域について下限値,25%層から中位水準までの範囲(濃い影) ,中位水準から 75%層までの範囲(薄い影),上限値を 示す.柔軟度は数値が大きいほど高く,1 は柔軟度が最低,7 は柔軟度が最高であることを示す.OECD 諸国は少なくとも 40 年間にわ たり OECD 加盟国であった高所得国.他のすべての諸国は地理的な地域にグループ分け. a. 製品市場の柔軟性は財市場の効率性に関する WEF の指標に対応しており,以下で構成されている:現地競争の強度,市場支配の度合 い,反独占政策の有効性,課税の範囲と効果,総課税率,起業に要する手続きの数と時間,農業政策のコスト,貿易障壁の広がり, 貿易関税,外国所有の広がり,外国直接投資ルールのビジネスに対する影響,通関手続きの負担,輸入の対 GDP 比,顧客思考の重視 度,買い手の知識 b. 労働市場の柔軟性は労働市場の効率性に関する WEF の指標に対応しており,以下で構成されている:労使関係における協調,賃金決 定の柔軟性,採用・解雇の慣行,解雇費用,給与と生産性,専門的経営への依存,頭脳流出,女性の労働力参加など. 合に非公式な仕事から生まれてくる.最近の研究 極めて重要である.しかし,この再配分プロセス が示すところによると,大多数の諸国では非公式 の期間における調整にかかるコストは,特に新規 性は公式経済の一部になっていない人々にとっ 失業者にとっては重大であり得る.脆弱層を保護 て,セーフティネットとして機能している 21. するために,包容的な社会的保護制度が整備され 非公式部門はしばしば人々が生存のために必要と ている必要がある. する柔軟性を提供している.  マイナスのショックからの回復に関する研究  柔軟な企業部門は企業内,および企業や産業相 は,硬直性がもたらす有害な影響を例証してい 互間の資源の再配分を支援する.柔軟性というの る.76 カ国の実証的な証拠を利用した最近の研 は次のことを意味する:企業部門は状況の急変に 究は,過剰な労働保護や企業参入障壁,煩雑な倒 対応して,おそらく労働者や企業所有者の相互利 産法,産業補助金などの政策が誘発した硬直性が 益のために,労働や資本を効率的により生産的な 存在する経済は,より柔軟な経済よりも深くて長 『世 企業やより生産的な産業に移すことができる. い不況を経験していることを見出している(図 界開発報告 2013:仕事』で指摘したように,仕 5.3).この研究では,この証拠をゆがめられてい 事は開発の牽引力であり,非公式な仕事も含め, ない(柔軟な)経済の回復と,ショック後に政府 あらゆる種類の雇用は,生活水準や生産性,社会 が補助金で介入する経済の回復をモデルを用いて 的一体感の改善にとって転換的であり得る 22.破 実験をすることによって実証している.結果は 綻した企業の解体と新しい企業の創造が容易であ 人目を引くものである.柔軟な経済では GDP が ることが,新しい雇用機会の創出を確保するのに ショック前の水準比で 13%減少する一方――そ CHAPTER5 活気のある企業部門を通じて強靭性と繁栄を促進する 201 図 5.3 規制上の負担が重い国はより深刻な不況を経験している 0.30  0.25  0.20  不況の深刻度 0.15  相関係数 =0.36 0.10  0.05  0  0  0.1  0.2  0.3  0.4  0.5  0.6  0.7  0.8  規制負担指数 先進国 途上国 出所:Bergoeing, Loayza, and Repetto 2004 からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成. 注:規制負担指数は 0 から 1 の間で分散しており,1 は負担が最大であることを示す.規制負担は 1990 年代における以下を含 んでいる:金融規制,貿易障壁,企業参入コスト,非効率的な倒産手続き,官僚的形式主義,税負担,労働規則.不況の深刻度 は 1990 – 2000 年の各国について産出のトレンドからの下方偏差値で測定.図の実線(回帰線)は,切片を考慮しながら,Y 軸と X 軸の間に当てはめた線形関係を示す. の 84%は 1 つの四半期中に発生した――,政府 用として生産性の低い活動に従事する可能性が高 が介入した経済では GDP の減少幅は 5 年間にわ い.もう 1 つの要因は排他的なビジネス関係で たり 36%となった.減少が小さく速やかなほう ある.例えば,サハラ以南アフリカでは,事業活 が素早く回復することを示している. 動を通じて形成された関係は結び付きのないコ  最近の大不況を調べてみると,この証拠が確認 ミュニティを儲けの大きい投資機会から排除し, され(ボックス 5.2),国際比較研究でも同様で 既存の生産パターンを永続化することがある 26. あった.すなわち,より生産的な企業への資源再  革新と柔軟性は密接に関係している.新しい製 配分が阻害されると,それだけ経済回復のペース 品やより良い技術,より効率的なプロセスを提供 が削減される.例えば,銀行を救済し,1990 年 する企業家や企業に向けて資源が容易に流れれ 代後半から 2000 年代前半にかけて倒産したはず ば,それだけ企業部門はより素早く低コストで新 の企業向けの不良貸出を維持するように銀行に要 しい機会を創造することができる.しかし,革新 請することによって,日本は資源がより生産的な は雇用に悪影響をもたらすことがある.例えば, 用途に流れるのを妨害した 23.これとは対照的 プロセスの改善によって,企業は同じ産出を少な に,規則を改善すれば,資源のより生産的な企業 い労働で実現することができるようになり,労働 への再配分を促進できる 24. の削減ないし失業につながる可能性があろう.プ  政府規制以外の要因も柔軟性を阻害し得る. ラス(あるいはゼロ)の雇用創出に帰結する革新 一例は雇用における男女差別であり,それは労 でさえ,未熟練労働に不利な「スキル偏向」があ 働市場の柔軟性をしばしば阻害している.この るかもしれない 27.とは言え,マイナス効果は 問題は『世界開発報告 2012:ジェンダーの平等 革新に伴うコスト削減で価格低下に拍車がかか と開発』25 で詳しく検討した.ほとんどの諸国 り,それが今度は全体として成長を刺激して,長 では女性は男性よりも,非公式部門である家族雇 期的に需要と産出の増加につながれば相殺される 202 世界開発報告 2014 ボックス 5.2 大恐慌からの教訓  公的政策としては産出の異常に大きな落ち込みにどう対 とメキシコはともに恐慌を経験した.しかし,チリでは生 応すべきだろうか? そのような場合における拡張的な 産性の伸びが回復してトレンドを上回りさえしたのに,メ 金融財政政策の利益と限界は広範に検証され,議論され キシコでは約 15 年間にわたりトレンドを 30%下回ったま てきているが,Timothy Kehoe and Edward Prescott (2007), まであった.銀行業と倒産手続きが帰結の相違にとって重 Great Depressions of the Twentieth Century における歴史的 要だったようである.チリでは 1980 年代初めまでに,非 な証拠の包括的な分析は,企業政策が特に重要な役割を果 生産的な企業は倒産が許容され,新規投資が市場金利に たしている可能性があることを示している. よって決定される一方,メキシコでは 1990 年代初めまで,  景気循環において典型的な相対的に浅く短い不況とは対 国家が支配する銀行システムが一部の非生産的な企業向け 「大恐慌」は通常は深く,痛みがあり,そして長 照的に, に融資を継続した.第 2 に,製造業や建設業,鉱業などの 期にわたる a.アメリカの 1929 – 39 年の大恐慌は最も有 競争的な産業に関する研究が示唆するところによると,こ 名な事例であろうが,ヨーロッパ諸国も第 1 次世界大戦と れらの産業は大幅な産出の減少を経験したことで,より創 第 2 次世界大戦の間に類似の経験をしているし,最近では 造的かつ生産的になる傾向を示した.したがって,競争政 いくつかの事例がラテンアメリカやニュージーランド,ス 策が重要であった可能性があると考えられる b.最後に, イスでも発生している. 増税と厳格な賃金政策が,大恐慌時には労働投入を削減し  そのような経験は経済学者によってしばしば例外として たことが示されている.例えば,厳しい実質賃金政策が 扱われ,標準的なマクロ経済モデルは当てはまらないとさ ドイツでは 1928 – 37 年の大恐慌を長引かせた重要な要因 れている.キーホー = プレスコットは代わりに,マクロ だったようだ.これとは対照的に,ドイツは最近の危機で 経済学の近代的なツール(具体的には成長会計と一般均衡 は柔軟な労働規則のおかげで,最悪期を脱却することがで 成長モデル)を使って,十数カ国における恐慌の基本的な . きた(ボックス 5.5 参照) 牽引力を精査している.彼らの発見によると,多くの場合  最近のミクロ経済的な証拠は,個別企業内で使用されて には,生産性水準の伸びが,恐慌の動きの支配的な牽引力 いる技術の種類や生産性に加えて,企業間の資源配分が生 であるが,労働投入の変化が重要だった場合もある. 産性の国別格差にとって重要な決定要因になっていること  恐慌下ではどのような政策が生産性の伸びを抑制したの を見出している c.この分野で輩出されている文献は,恐 だろうか? 第 1 に,非効率な企業を倒産させなかったこ 慌を終わらせるためには資源配分の円滑化が必要不可欠で とが決定的に重要である.例えば,1980 年代初めにチリ あるという意見を支持している. 出所:Kehoe and Prescott 2007 に基づき WDR 2014 チーム作成. a. Kehoe and Prescott 2007 は大恐慌を次のように定義している:1 人当たり産出の落ち込みがトレンドを少なくとも 20%下回り,しか もその落ち込みの少なくとも 15%が恐慌の最初の 10 年間に発生し,かつ恐慌期を通じて毎年の 1 人当たり産出の伸びがトレンド以 下にとどまる. b. Baily and Solow 2001. c. 最近の文献に関する有益なレビューに関しては Restuccia and Rogerson 2013 を参照. だろう.プロセスの革新とは対照的に,生産にお も,それへの企業としての対応が不十分であっ ける革新は国内外両方の需要を刺激する傾向があ た,あるいは企業は無力であったなどと批判され るため,企業の労働需要を増やすことになる. ることが多いが(それは正しいものの),企業は  柔軟性は労働者,消費者,および環境の保護と そのような欠点に適応したり,少なくとも時々 も密接に関係している.例えばブルガリアでは, は是正したりすることができるようだ.1 つの有 企業の変化する能力――指導力,信頼,革新,お 名な事例として,ジョンソン&ジョンソンの鎮痛 よび説明責任などの措置に基づく――は,環境面 剤である液体タイレノールに関係したものがあ での実績との間に強いプラスの相関関係があるこ る.数本に青酸カリが混入されていたことが発見 とがわかっている 28.柔軟性がなければ,企業 されると,その市場シェアは 37%から 7%に急 は消費者や市民社会の不満に対応して製品や生産 落した.会社はすべてのタイレノールを市場から 技術を調整したり,あるいは欠陥のある,環境的 回収して,「三重安全包装」を採用し,宣伝した. に有害あるいは危険な製品の場合,適切な措置を 2 年も経ずして同社は再びかつてとほぼ同じ市場 とったりすることができないだろう. シェアを獲得した 29.この事件を受けてアメリ  製品や労働者の安全性に関する苦情があって カ食品医薬品局は医薬品包装に関する規則を制定 CHAPTER5 活気のある企業部門を通じて強靭性と繁栄を促進する 203 し,業界では安全包装が標準となった.途上国で   公 式 性 は 国 ご と に 大 き く 異 な っ て い る( 図 操業している多くの企業も製品や労働者の安全性 5.4).国および地域別に労働や生産にかかわる公 に関する懸念に対応してはいるが,そのような措 式性に大きな格差があるのは,公式な――した 置の成功度は限定的でしかない 30. がってより生産的である可能性が高い――活動に まだ動員されていない大規模な量の労働力が存在 公式性の役割と重要性 していることを示唆している.生産の公式性が相  その活動が税金,登記,労働・職場の基準,製 対的に高い一方で労働の公式性が低い諸国は特 品の質と安全性基準,環境指針などに関する法規 に,このことが当てはまるようだ.非公式性は低 制を順守している場合――それぞれの実施はすべ 開発の原因ではなく,その症状なのである.一般 て高価になる――,その事業者は公式企業と考え 的に言えば,公式雇用は開発水準に伴って上昇す られる.見返りに,公式企業は法的保護や公的イ る傾向にある.賃金が支給されて契約が履行され ンフラへ有利にアクセスする権利が付与される. る,財産が差し押さえられることがない,金融資 しかし,公式性と非公式性は程度問題である.公 源が入手可能かつ負担可能になる,といったこと 式性の一部は順守しているが,すべての側面では を確保するのを手助けして,公式性は労働者と企 ないという企業もなかにはある.例えば,登記手 業がともに将来の計画を立てられるように後押し 続きを順守している企業のなかには,売上や利益 する.労働者,消費者,および環境の保護の順守 を著しく過少申告したり,労働者に対する付加給 も――コストは高いものの――,本章を通じて検 付や職場の安全性を提供する義務を一部しか充足 討されているように,成長に向けた基盤を築くこ していなかったりする企業もある.さらに,特に とができる. 制度的な能力が弱い諸国では,法律上の公式性と  なぜ公式性が重要なのか? 柔軟性と同じく, 事実上の公式性の間には大きな開きがある. 公式性は企業部門が人々のリスク管理を支援する 図 5.4 企業部門の公式性は世界各地で異なっている a. 公式な生産 b. 公式な雇用 公式部門による生産(対 GDP 比,2007 年)a b 年金制度に拠出している労働力の割合(2000 年代) 100  100  90  90  80  80  70  70  60  60  50  % % 50  40  40  30  30  20  20  10  10  0  0  ヨ 太平 ア・ ン ジ ・ リ ・ リ ・ ヨ 太平 ア・ ン ジ ・ リ ・ リ ・ CD ア フ 南 CD ア フ 南 テ ア パ カ カ フ 東 テ ア パ カ カ フ 東 ジ ア 以 ジ ア ラ以 ー 洋 ア ア ブ 南 カ カ ー 洋 ア ア ブ 南 カ カ OE OE ジ ラ 央 ロッ リ ア 中 ジ ラ 中央 ロッ リ ア 中 ア ラ ア リ リ ア メ ア メ ハ ハ 東 東 サ サ 中 北 北 出所:以下からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成――Schneider, Buehn, and Montenegro 2010 ( パネル a); World Bank Pensions (database); World Bank Development Indicators (database) ( パネル b). 注:グラフは各地域について下限値,25%層から中位水準までの範囲(濃い影) ,上限値を ,中位水準から 75%層までの範囲(薄い影) 示す.OECD 諸国は少なくとも 40 年間にわたり OECD 加盟国であった高所得国.他のすべての諸国は地理的な地域にグループ分け. a.数値は Schneider, Buehn, and Montenegro 2010 によって,100 から闇経済の規模にかかわる推定値を控除したものとして算出. b.図は 2000 年代の入手可能な最新データに基づく. 204 世界開発報告 2014 3 つの経路をそれぞれ強化するからだ.公式企業 企業に向けて効率的に流れるためには,設計が良 は,より大きく,より安定的で,従業員に対して く,一貫して適用される手続きが必需である.生 着実な仕事をよりうまく提供することができる. 産的な資源を非生産的な企業から自由にし,ある 公式企業は成長し,従業員の雇用に関して予測可 企業が倒産しても債権者や他企業の潜在的な投資 能な環境下にあるため,労働者はリスクをよりう 家が保護されるのを確保するためには,倒産法と まく分担することができる.資本の所有者は,契 転売市場の深さが特に重要である.確立した企業 約上の取り決めにおける合法性のおかげで,自ら や企業家の両方の知的財産権を保護する法律は, のリスクを分散化し,一挙に事業の拡大を図るた 革新のための重要なインセンティブとなることが めに,公式企業に投資することができる.最後 多い.最後に公式性は,多くの場合に信用やその に,公式性は,労働者と企業の間で契約を執行す 他の金融資源を利用する際に必要になる法的書類 るのがより容易であり,また,違約の可能性がよ を提供してくれる.そのような利便性は事業の拡 り小さいことを意味する.たとえ契約がない場合 大を支援し,新規企業の発展を促進し,ショック でも,公式性は被雇用者と雇用者の双方に,労働 が発生した場合には企業に対してライフラインを 取り決めが破られたと思われる場合には法的な手 提供することができる.総合すると,各国比較分 段を提供することができることから,両当事者に 析は,非公式性が標準偏差 1 単位分増大すると, とって非順守のリスクを削減する.中小企業な –  それは 1 人当たり GDP 成長率の 0.7  1.0%ポイ ら,契約の執行について非公式な制度に依存する ントの低下につながることを示している 33.さ ことができるかもしれない.しかし,そのような らに,非公式性の高い国々は,グローバル化の利 非公式な仕組みは企業が成長し,所有者と労働者 益を十分に享受することはできない(ボックス の関係がより複雑になるのに伴って有効性が低下 5.3). する.  公式性は労働者,消費者,および環境に保護を  公式性によって促されたリスク分担取り決めが 提供しようという企業のインセンティブを強める 強ければ,人々の所得の水準と安定性を改善する 可能性がある.規則が適切であれば,企業は自社 ことができる.それがリスク管理を改善する最も の活動にかかわる社会的費用を内部化しようとす 大きな要因の 1 つである.例えばザンビアでは, るだろう.汚染費用のすべてまたは一部を企業に 平均月次所得は総じて公式性に伴って上昇してい 強制する環境規則の場合,それが特に明瞭であ る.タンザニアでは,所得の変動性は公式性とと る.労働供給が潤沢な時にあまりに低い賃金を払 もに総じて減少している.フランス語圏の西アフ うことを禁止している職場保護規則も同様であ リカでは,非公式従業員のなかで雇用者と文書 る.つまり政府の規則は,低い賃金の支払い,劣 による契約を交わしているのはわずか 9%にとど 悪な職場環境の提供,環境を犠牲にしたコスト・ まっている 31. カットなどによるのではなく,健康的な環境や環  公式性の欠如は企業の横断的なリスク分担を阻 境管理の提供を通じて労働生産性や消費者満足度 害することもある.例えばジンバブエでは,サプ を引き上げ,それによって企業の競争における平 ライヤーが契約を順守しないリスクを考慮して, 等な条件を作り出すことができる.公式性が提供 製造企業は引き渡しの遅延や不払い,支払いの遅 する法的なアイデンティティは,健康的な職場, 延に備えて,在庫を増やし流動性に対する準備を 良質な製品,環境の保護と整合的な評判を高める 増やしている 32.このような均衡を欠いたよう という企業のインセンティブを強化する. なリスク分担は,ジャスト・イン・タイム方式の  従業員による付加給付や安全な職場の利用は, 引き渡しが標準になりつつある世界では効率的と 公式性に伴って改善する傾向にある.モザンビー は言えない可能性が大きい. クでは,有給の病気休暇や解雇手当などの一連の  公式性に伴う法規制は資源再配分のプロセスを 雇用関連給付を享受している有給従業員の割合 促進することができる.資源が倒産企業から新規 は,一般的に雇用の公式性に伴って上昇してい CHAPTER5 活気のある企業部門を通じて強靭性と繁栄を促進する 205 ボックス 5.3 グローバル化と公式性の複雑な関係  グローバル化は新たな機会とリスクをもたらす.2,000 工区〕や関連産業において大規模なレイオフが発生した. 万人もの人々がグローバルな価値連鎖のために,製造業部  グローバル化の利益は公式経済に帰属する部分が大き 門で直接雇用されている.その多くは貧困国における女性 い.というのは,サプライヤーの視点からすると,非公式 と農村部からの移住者である a. 企業は競争すべき適正な基準や条件を有していないから  コスタリカでは,インテルが投資したおかげで,労働者 だ.したがって,非公式性の比率が高い経済は,グローバ の技術力と英語力が加速度的に向上した.特に労働者と環 ルな価値連鎖のなかでは往々にして下層のほうに位置して 境の保護に関して,アメリカ市場の慣行基準が積極的に現 おり,その労働者は世界的なショックに対してより脆弱で 地経済に移転され,インテルはサプライヤーや下請け業者 あり,機会から利益を享受できる公算が低い.最近の研究 に厳格な労働者安全条件の充足を要求したり,リサイク は,グローバル化は多くの国々の繁栄に寄与しているもの ル・プログラムや環境意識を推進するために本社従業員を の,不平等の拡大という代価を払っている場合もあること 派遣したりしている.インテルの社会経済的な貢献を受け を示している f. て,コスタリカの自律的な保険機関である保険局は,コス  長期的にみると,開放的な経済ほど非公式雇用の割合が タリカで初の労働安全衛生基準を制定した b. 低い傾向にある.アジアの数カ国では,一国の開放度を高  メキシコでは,1985 – 2000 年に輸出向け製造業職の急 めると,非公式雇用の割合が低下する.メキシコでは北米 増を受けて,女性の公式雇用が約 5 倍に増加した.このよ 自由貿易圏の加盟に伴う関税引き下げを受けて,貿易財部 うな仕事では農業を初めとする他の仕事よりも高い賃金が 門では非公式性の可能性が大幅に低下した g.しかし,短 支給された.高所得を背景に家計内では女性の交渉力が高 期ではグローバル化が非公式性に及ぼす影響は,グローバ まったため,子供の健康が目立って改善した.公式の輸出 ル化のプロセスの性格や多種多様な経済のファンダメンタ 向け製造業で働く女性の子供たちは,最初に就いた仕事が ルズに応じて様々であろう.例えば,過度に急速な貿易自 製造業でなかった母親の子供たちよりも,身長が標準偏差 由化を実施すれば,保護されていた公式部門を一掃して, 1 単位相当分だけ高く,この効果は女子のほうが大きかっ 労働者を自営業や非公式部門に押しやりかねない.特に農 た c.インドネシアでは,1990 年代後半の東アジア危機の 業や小売業,その他のサービス業を中心に,多くの途上国 際,女性労働者にとっては雇用に対する総合的な悪影響が では非公式性が高いことを考えると,グローバル化の利益 小さかった.これは彼らが打撃の小さかった大手企業や輸 は人口の多くの部分に届かない一方,そのショックは生活 出企業に集中していたからであった d.他方,比較的低ス にマイナスの影響を与えことがあり得る.全体として,グ キルな職の増加は高校生の退学の誘発ももたらした.メキ ローバル化は企業を世界市場のなかで競争にさらし,生産 シコでは,新規に創出された 20 人分の仕事当たりで 1 人 的な企業には拡大のインセンティブを,非生産的な企業に の生徒が退学した計算になる e.より最近では,世界的危 は退出の圧力を与える. 機による貿易の崩壊を受けて,マキラドーラ〔保税輸出加 出所:WDR 2014 チーム作成. d. Hallward-Driemeier, Rijkers, and Waxman 2011. a. UNCTAD 2013. e. Atkin 2012. b. World Bank 2006. f. Kremer and Maskin 2006. c. Atkin 2009. g. Aleman-Castilla 2006. る.ジンバブエで作業中に保護服を使っている労 働者にとっては雇用の改善をもたらしたが,その 働者の割合についても同様である 34. 他の労働者には非公式性と不安定性をもたらし  同時に,公式性は労働者,消費者,および環境 た.例えば,モロッコの衣服工場に関する事例研 の保護にとって十分条件ではない.このような保 究は,最終製品やバイヤーのための包装や保管, 護は,企業が大きな多国籍企業だったり,グロー 物流の監視を担当している一部の高スキル労働者 バルな価値連鎖につながっていたりする場合で は安定的な契約や保護を享受していたことを見出 も,弱い,あるいは欠如していることがある.事 している.しかし,工場はバイヤーの需要に対応 実,グローバルな価値連鎖の増加には二重の効果 するために非正規労働者も雇用していた.このよ があり,企業により厳格な労働および生産基準の うな労働者は臨時契約に基づいており,多くの場 順守について圧力をかけると同時に,非公式労働 合に差別を受けていた 35.加えて,グローバル に訴えてでも労働コストを削減すべきであるとい な価値連鎖は必ずしも国内の価値連鎖には連動し う意見を強めている.このような状況は一部の労 ておらず,グローバルな消費者が享受している産 206 世界開発報告 2014 業基準に基づく安全品質面での利益は,国内消費 るのを容易にする. 者を迂回している可能性がある 36.  柔軟性は合理的な短期目標である.公式性はよ  さらに,公式性は怠慢な,あるいは犯罪的な り長期の目的である.短期的には,常に変化して 行為に対する保証にはならない.例えば,2012 いる世の中の状況に企業が適応するのを助けるこ 年にパキスタンで発生した衣服工場の火災では とが,たとえ公式性がなくても極めて重要であ 250 人以上が死亡した.この工場は国際的な衛 る.特にサハラ以南アフリカや南アジアを中心と 生安全基準を充足していると認定されていた 37. する多数の低所得国では,たとえ経済成長率が高 インドのボパール市で起きた 1984 年のガス漏 くても,公式部門は近い将来に,大半の労働力を れ,より最近ではメキシコ湾におけるディープ 吸収するのに十分な賃金雇用を創出することはで ウォーター・ホライゾン〔訳注:石油掘削装置〕 きない.GDP と雇用を支えるのは,非公式部門 の石油流失,日本の福島第 1 原発災害などの産 であり続けるだろう.自己雇用と家内企業は最も 業災害が,人々や環境をリスクにさらし続けて 脆弱な層のために重要な生存手段として機能して いる. いる.例えば,アフリカの 8 カ国を対象とした 実証研究は,ほとんどの新しい非農業職の創出は 柔軟性と公式性の間の関係 家内企業のおかげであることを見出している 39.  煩雑な法規制はコストを引き上げる.複雑で長 企業部門がより多くの,より生産的な仕事を創出 い時間を要する企業の申請手続き,煩わしい税 するためには,企業の柔軟性を高めることが,貧 金,厳格な採用解雇ルール,劣悪な警察や法定な 困層がリスクを管理し貧困を削減するのを後押し どの公共サービス,教育のある労働者の欠如など するのに決定的に重要である. は,非公式企業が公式な企業になるのを阻害する  しかしより長期的には,公式性は人々をショッ ことがある.このような場合,柔軟性と公式性の クに対して強靭にするという点で,企業ができる 間にはトレードオフが生じる.すなわち,柔軟性 貢献を確かなものにする.公式性はより一層グ を維持するために企業は非公式にとどまる.個別 ローバルな供給チェーンに参加するための必要条 企業にとっては非公式にとどまることが最適かも 件になりつつある.グローバルな輸出のための品 しれないが,企業部門全体は損害を被る.という 質や実績の要件(基準や認証を含む)は,供給側 のは,公式性の利点が犠牲になるからだ.エルナ の非公式経済が充足するには厳しすぎる.国際的 ンド・デ・ソトの先駆的な研究では,公式性の な競争圧力が高まると,非公式経済は現実にはグ コスト,および過度な規制が非公式な活動の濫 ローバルな価値連鎖から押し出されてしまうだろ 用と広まりにどの程度寄与するかが定量化され う.ラファエル・ラ・ポルタ = アンドレ・シュ ている 38.公式性のコストが低下すると,柔軟 ライファーという 2 人の経済学者は最近,次の 性と公式性のトレードオフも低下する. ように述べている.すなわち,「非公式企業は何  法規制は焦点が絞られていて,設計が良く,一 百万もの人々を生かしているが,経済の発展に 貫して適用されていれば,その順守のコストは利 伴って消滅するだろう」40. 益との相対比で低いものにとどまる.この場合,  柔軟性と公式性への移行は容易ではない.成 公式性と柔軟性は互いに強め合う.経済が高コス 功のための単一のレシピはない.移行は個別国 トの公式性から低コストの公式性に移行するのに の状況に依存し,それは要素賦存状況や歴史, 伴って,トレードオフも低下し,柔軟性と公式性 文化などに依存する.マレーシアでは,ビジネ は共生的になる.公式性は企業が変化する状況に スや労働市場にかかわる規則が改革されて,そ 適応するのを助け,法規制は労働取り決めを再交 れが経済の柔軟化に寄与した 41.コスタリカで 渉し,資源を再分配し,革新を奨励し,競争条件 は,教育水準と財政的インセンティブが比較的 の平準化を容易なものにする.すると柔軟性が, 高かったことが外国直接投資を大量にもたらし, 企業が生産的であり続けながら,法規制を順守す それが先進的な技術と製品基準と相まって,公 CHAPTER5 活気のある企業部門を通じて強靭性と繁栄を促進する 207 図 5.5 製品,労働市場の柔軟性,および公式性による国別類型 柔軟性大 オーストラリア フランス モーリシャス オーストリア ドイツ オランダ ベルギー 香港 ノルウェー アルメニア カナダ アイルランド ポーランド アルバニア チリ イスラエル シンガポール アゼルバイジャン 中国 コスタリカ 日本 スウェーデン カンボジア カザフスタン チェコ 韓国 スイス ペルー デンマーク ラトビア イギリス エストニア リトアニア アメリカ フィンランド マレーシア 製品・労働市場の柔軟性 ベニン ギニア ボツワナ レバノン ブルキナファソ マダガスカル ブラジル モンゴル カメルーン モロッコ ブルガリア ナミビア ハンガリー スロバキア コートジボワール スリランカ インドネシア 南アフリカ イタリア スロベニア エルサルバドル タンザニア ケニア ウクライナ ヨルダン スペイン ガンビア タイ キルギス ウルグアイ ポルトガル トルコ グルジア ウガンダ マケドニア ベトナム グアテマラ ザンビア バングラデシュ ジャマイカ ボリビア マリ ボスニア・ヘルツェ ネパール アルジェリア メキシコ アルゼンチン ゴビナ ニカラグア ドミニカ共和国 ロシア クロアチア ブルンジ パキスタン エクアドル トリニタード・ト ギリシャ チャド フィリピン エジプト バゴ イラン コロンビア セネガル インド イエメン ルーマニア ガーナ シエラレオネ レソト ハイチ ベネズエラ 柔軟性小 ホンジュラス ジンバブエ 公式性小 公式性大 生産・労働の公式性 出所:以下からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成――World Bank Pensions (database); World Bank World Development Indicators (database); World Economic Forum 2012; Schneider, Buehn, and Montenegro 2010. 注:最上行の国は製品市場と労働市場の両方で柔軟性大(中位数より大) ;中間行ではどちらかの市場で柔軟性大;最下行では両方の指 標で小(中位数より小).同様に,左から第1列の国は生産と労働両方の公式性小;中間列ではどちらかの指標で公式性大;右側の最終 列の国はどちらの指標でも公式性大.4 つすべての指標が入手可能な国だけを検討.中位数はこの標本内で算出. 式職の創出の増加とスキル構築の強化を後押し 場合に,非公式企業が提供できるセーフティネッ した.措置やペース,順序が適切であれば,各 トを傷付けるだろう.政府は同時に補完的な分野 国は長期的にみて柔軟になり,公式化を進める の改革にも焦点を当てるべきである.政策改革が ことができる(図 5.5). 望まれる効果をもたらすためには,それが制度的 な能力や政治環境,労働市場の発展段階などに関 して個別国の状況に調整されていなければならな 政府は企業部門が柔軟性と公式性を高めるの い. をどうしたら支援することができるか?  政府は次の 4 つの主要な形で手助けすること  公式性と柔軟性への移行においては,政策と規 ができる.財産権を強化し,政府政策に関する不 制の質,およびそれらの執行が必須である.政府 確実性を削減することによって,企業が操業でき は公式性と柔軟性の費用を削減する一方,利益の る基本的な土台を築くことができる;健全な規則 増加において鍵となる役割を果たすことができ を実行移し,それを強化することができる;特に る.政府の焦点は公式性の魅力を改善することに 脆弱な層を中心に労働者を保護するために,包容 置かれるべきである.非公式性を罰することは, 的な社会的保護制度を整備することができる;最 国家が弱い時や公式性のコストが非現実的に高い 後に,時とともに,柔軟性と公式性の両方を長期 208 世界開発報告 2014 的に改善する政策を強化することができる. 下する一因となった 44.将来が不確実な場合,  本節で検討する政策のいくつかは,生産性や成 投資家は追加的なリスクを補償するためにより 長にかかわる政策と頻繁に関連付けられている. 高い収益率を要求するだろう.また,計画期間 これは偶然ではない.投資環境が良くなれば,企 が短縮化される公算があるため,投資の水準や 業部門のリスク管理が改善される.ルールや規則 形態,技術の選択,労働者を訓練する意欲など の尊重を改善し,柔軟性を増大させれば,企業部 にも影響が及ぶだろう.政策の不確実性は特に 門が災害に対応し,機会を活用するのに役立つ. 大きなサンク・コスト(回収が不可能なコスト) リスク管理にかかわる企業の能力が高まれば,企 が関係するインフラや他の決定を中心に,民間 業はより生産的になれる.法の支配や透明な契約 投資に悲惨な帰結をもたらすことがある.不確 を支援し,国内外の投資家に対して気紛れな行動 実性によって,投資家は待機することの方に価 をしない政府は,活気のある企業部門にとっての 値を見出し,このことは採用や投資,産出の大 礎石になり得る(ボックス 5.4 参照). 幅な低下につながりかねない 45.法の支配の適 用方法に関する予測可能性と改革の信頼性を改 活気のある企業部門のために土台を築く 善することが,民間部門の発展には決定的に重  財産権を確実なものにし,政府の政策におけ 要である.例えばコートジボワールでは,電力 る不確実性を減らすような政策は,企業部門が 部門は脆弱な環境下でも繁栄している.この一 操業するうえで基盤となる土台を築くという意 因は民間の操業者が契約の耐久性を信頼してい 味で,根本的なものである.脆弱な紛争被災国 ることにある(ボックス 5.4). では,国家制度を強化し,国民に安全,正義, および仕事を提供するための統治を改善するこ 健全な規則を実施する とが,暴力の悪循環を打破するために極めて重  企業部門の柔軟性を削減し,公式企業の操業 要な第一歩となる 42. を妨害する煩雑でコストの高い規則を改 より 革することは,優先課題であるべき 確実な財産権. リスク・テイキン 良い事業環境は だ.柔軟性というのは規則がない グは報酬を生むということを投資 生産性の伸びだけでな ということではない.むしろ,事 家に得心させるには,確実な財産 く,悪いショックに直面 業環境を改善し,企業とその所有 権が必須である.民間部門資産の した際の強靭性にとっ 者や労働者のためにリスクを軽減 政府による国有化や収用は,その ても良い. するためには,健全な規則が必要 国に投資しようというインセンティブ とされる. を弱める.健全な投資家保護がある国の成 長率は,保護が貧弱な国よりも高い傾向にある. 企業部門が影響を受ける規則を改善. 言うまで 契約の執行が弱い国は,マクロ経済の変動性も も無く,弱い,あるいは妨害的な規則は,企業 大きいという特徴をもっている.法と秩序が信 部門の発展を阻害したり,競争を妨害したりす 頼できる国では非公式な企業部門は小さい 43. ることがある.例えば,世界全体で登記企業の 約 23%は,税務当局は主要な,ないし非常に厳 政府政策に関する不確実を削減. 規則に関して しい障害であると考えている 46.より一般的に は安定的な政策環境と確実性が,内外投資にとっ 言えば,研究の示唆によれば,ビジネス規則に て鍵を握る決定要因である(第 7 章参照).例え 関して最悪 25%層から最善 25%に移動した国 ばタイでは,2000 年代半ばに政治的な不安定性 は,年間の成長率について 2.3%ポイントの上昇 が事業活動に対する重大な制約とみられ,その を享受することができる 47.ビジネス環境調査 他のいくつかの事業環境面では改善があったに のレポートで指摘された企業設立や納税,破産 もかかわらず,企業心理と民間投資の伸びが低 処理などにかかわる規則のうちいくつかの側面 CHAPTER5 活気のある企業部門を通じて強靭性と繁栄を促進する 209 ボックス 5.4 コートジボワールで起きた市民暴動期における電力部門の強靭性は契約保護によって牽引された  コートジボワールは,サハラ以南アフリカで電力部門に しなければならない.過去 10 年間に発生した 2 回の主要 民間部門参加の道を開いた国の 1 つである.1990 年以降, な内戦を受けて,収入とその徴収が著しい影響をこうむっ 民間業者(コートジボワール電力会社:CIE)が同国の電 た.国家レベルでの政治的な脆弱性もあって,料金調整は 力部門を運営している.2006 年現在,独立発電業者(IPP) ほぼ不可能であった.最近の危機が頂点に達した 2010 年 が発電のほぼ 3 分の 2 を占めている.深刻な旱魃,IPP 設 後半以降,IPP に対する延滞が累増したが,契約に基づく 立直前における大幅な通貨切り下げ,内戦,売電による収 懲罰条項を行使したり,発電を停止したりするのではな 入の大部分の長期間にわたる停止などのすべてが,電力部 く,主要な2つの IPP は契約の基本的な頑健さと同社が経 門の業績に影響を及ぼした.このような事件からの総合的 済のなかで果たしている重要な役割を認識した上で,権利 な圧力に屈することなく,この部門が繁栄を続けた一因と の行使を差し控えた.企業側の理解としては,支払い遅延 しては,参加者の間に柔軟性と公式性の組み合わせがあっ は政府の意図的なデフォルトではなく,一時的な資金不足 たことが指摘できる. が原因である.実際に,政府は支払い能力に応じて固定的  電力生産コートジボワール会社(CIPREL)とアジト・エ な割合で,すべての関係者に支払うという誠意を示した. ネルジー(Azito)という主要な2つの IPP は,市民暴動 最終的には,契約の尊厳は守られるだろう,というのが の期間を通じて電気の供給を継続した.時には従業員が IPP の理解であった.新政権の下で政治力が確立されたの 24 時間体制で発電所の警備に当たった.これは強靭性を に伴い,この信念は正当化され,延滞は支払われることに 示す行為であり,所有者と従業員がともに当然ながら誇り なった. に思い続けている.おそらくより印象的なのは,政府が契  最近の安定化以降,CIPREL と Azito の両社は事業拡大計 約条件を順守できなくなった際でも,電力供給を継続する 画を発表した.それは投資やエネルギー供給を増やし,紛 という会社の決定であった.契約によれば,会社は固定 争後の国家において経済成長と政治的安定性を支援する 価格ないし価格表にしたがって,毎年一定量の電力を供給 ことになるだろう. 出所:WDR 2014 のために書かれた Conor Healy の論文. は,総じて中・高所得国よりも低所得国のほうが 労働市場規則の硬直性を削減.労働市場規則など 煩雑である 48. の単一の政策の改革は,それ自体ではおそらく 大きな影響をもたないだろう.にもかかわらず, 企業登記を簡素化.適切なルールや規則の順守を 労働市場規則があまりに硬直的だと,経済の強 証明している企業は,操業許可の受領に何年も待 靭性を弱めることがある(スポットライト 5 参 たされるべきではない.多くの国はオンライン手 照).約 60 カ国を対象にしたある実証研究の発 続きを確立し,単一のインターフェースで該当機 見によると,労働規制に関する硬直性が 20%層 関につながることによって,登記の効率性を成功 から 80%層になると,ショックに対する調整の 裡に高めてきている.各国比較研究の示唆によ 速さが 3 分の 1 低下し,年間の生産性の伸びが ると,登記手続きのコストをアメリカの水準まで 1.7%も低下する 52.ヨーロッパ 20 カ国からは, 引き下げれば,新設企業の数は 20%以上も増加 解雇費用が高い諸国では,企業は雇用ニーズの増 する 49.インドでは許可に関する改革を受けて, 加に伴って臨時雇いを採用する可能性が高くなる 公式製造業部門における革新が約 5%ポイント増 という証拠が得られている 53.ニカラグアでは, 加した 50.しかし,登記プロセスの費用と時間 –  1998  2006 年における最低賃金の 10%引き上 を削減するだけでは,企業の公式化を促進するの げは,賃金が最低賃金の 20%以内の労働者につ に必ずしも十分ではない.ブラジルでは,事業許 いて 5%の賃金押し上げにつながったが,関連し 可の取得は緩和されたが,依然として複雑なまま た民間部門の雇用も 5%削減した.失職者は総じ である.また,登記に関連した税負担が重く,ほ て新たな職を見付けられずに,公式の労働力から とんどの非公式企業は非公式なままにとどまるこ 退出した 54.法的強制力のある契約によってよ とを選択している 51. り安定的な仕事を提供するという企業のインセン ティブを削減する厳格な労働市場規則は,女性や 210 世界開発報告 2014 若年労働者などの最も脆弱な層に不当な打撃を与 任のシステムを強化することができる.そのために えているのかもしれない.例えばインドネシアで は,すべての企業家について公正で時宜を得た処遇 は,最低賃金は中小企業にとってより拘束力があ を確保するために,規則の透明性を高めることと, り,女性労働者の不当に大きな失職という結果を フィードバックの仕組みを改善することの両方が必 まねいている 55. 要であろう 57. 破産を処理するための措置を改善.長くて高価な 包容的な社会的保護と保険を提供する 倒産手続きのせいで,市場には破産企業が散乱  労働市場の柔軟性を改善し,社会的保護を提供 し,企業が新たに進出する機会が阻害されてい する政策は,並行して追求する必要がある.柔軟 る.予測可能性を高め,破産手続きを改善すれ 性の増加は企業内および企業間で資源を再配分す ば,責任あるリスク・テイキングの円滑化と関連 ることによって効率性を高めるが,失職する人々 するコストの削減に資することができる.倒産手 にとってはコストの高いものになり得る.雇用の 続きが有効であれば多くの歪みを回避するのに役 過渡期にある人々も含めて脆弱層を保護するため 立つ.それには救済という形による納税者の公約 には,政府としては発言権と包容的な社会的保護 が含まれる場合もある 56.政府は倒産の時間と を供与するシステムを整備する必要がある.基本 費用を削減する一方,債権者や投資家のために損 的な健康と教育に対する要請を含め,脆弱層を対 失の回収を増やすために,企業倒産を簡素化し, 象とする包容的なシステムが,今度はよりダイナ 資産の速やかな再利用を奨励することができる. ミックな企業部門を促進することにもなるだろう 財務的に一時的な困難に陥っているが,生存力が (第 3 章参照). 証明されている企業については再編が選択肢かも しれない.国家にとっての挑戦は,倒産企業の権 包容的な社会的保護システムを構築.柔軟な労働 利保護と債権者の権利保護のバランスをとり,企 市場政策は,97 国からのパネル・データを使っ 業家に無分別な行動をとらせるモラル・ハザード たある実証研究が報告しているように,総雇用 を制限することにある. を増加させることができる 58.にもかかわらず, 柔軟性は転職率の上昇につながることがあり,そ 規則の執行を改善.規制面での確実性を改善するた れは過渡期にある労働者にとって失業や所得損失 めには,法律の実装と執行を共に強化する必要があ のリスクの上昇につながり得る.しかし柔軟性の る.例えば,アゼルバイジャンやキルギスといった 促進は,失職した労働者が完全に長期失業の危険 諸国が世界銀行によるビジネス環境のランキング にさらされているということを意味するわけでは で当初上昇していた時でも,現地の民間部門は,改 ない.ドイツとデンマークは,労働市場の柔軟性 革が十分に実施されていないため,ビジネス環境は を社会支援に組み合わせた政策に関して,相異な 大して改善していなかったと報告している.投資家 る興味深い事例を提示している.ドイツ・モデル 動機調査は,規則の適用に当たって許容されている はその固有の状況のなかで,内部的な柔軟性を通 裁量と順守の遅延のバラツキの間には相関関係があ じて――特に労働時間の調整とワーク・シェアリ ることを示している.全体として,規則の適用に ングを通じて――安定雇用を維持する潜在性を強 かかわる裁量が小さい政府ほど投資リスクは小さく 調している.一方,デンマークの「柔軟な保証制 なる.制度的な能力が弱く,腐敗に対する有効な保 度」(flexicurity)モデルは,強力なセーフティ 護措置が整備されていない場合には,特にそれが当 ネットと再雇用政策を伴った寛大な採用・解雇政 てはまる.政府は解釈の裁量を制限するために,可 策を特徴としている(ボックス 5.5). 能な限り明瞭に法規制を起草することによって,問 題への取り組みを開始することができる.差別的な 特に脆弱層向けを中心とした訓練・再訓練に対し 施行の事例を削減するために,政府としては説明責 て支援を提供.企業と労働者自身がスキルに投資 CHAPTER5 活気のある企業部門を通じて強靭性と繁栄を促進する 211 ボックス 5.5 社会的扶助を伴う労働市場の柔軟性:ドイツとデンマークの事例  本章の初めで言及したように,最近のグローバルな不況 用など)によって補償されているのを特徴とする.軽度の 期に,ドイツは労働市場の柔軟性と雇用の安定をどう組み 雇用保護は,企業の雇用に関するコストを削減することに 合わせるかに関して1つのモデルを提示している.2000 よって競争力を促進することを目的としている.一方,寛 年代前半に実施された労働市場改革は,高齢労働者に仕事 大な社会的セーフティネットは適用率が高く置換率が高 に復帰するインセンティブを供与し,求職に向けた取り組 い.低所得層は解雇される前に受領していた所得の 90% みを支援し,失業の適格性に関して厳格な監視を実施す までを受け取ることができる.能動的労働市場政策は人々 るものであった.その結果,フルタイムの常用雇用のシェ が労働市場に再参入するのを後押しするものである. アは低下したものの,柔軟なあるいは非正規の仕事のシェ  グローバル危機を受けて,デンマークの GDP 成長率は アは上昇した. 2009 年にマイナス 5.2%と落ち込んだ.失業率は 2009 年  加えて,柔軟な労働時間を許容した 2 つの手段が雇用 に 3.3%から 6%超に跳ね上がり,それ以降も 7.5%程度に の安定化に重要な役割を果たした.企業は労働時間勘定を 留まっている.しかし,失業者のほとんどはかなり速やか 使えば,需要の短期的な変動に対応して労働者の時間を調 に仕事を見付けている.60%は 13 週間後,80%は 26 週 整することができるようになった.このツールのおかげで 間後となっている.調査対象になったデンマーク人労働者 下降期に労働コストを引き下げることができるため,企業 の 70%は,たとえ解雇されたとしても次の仕事が見付か が労働者を解雇することなく苦難を乗り切るのに役立つ. る,ということに関してかなりまたは非常に自信があると この取り決めの利用を通じて約 32 万人分の仕事が救済さ 述べている.これは EU 加盟国のなかでは最高の比率であ れたものと推定される.別の短縮時間就業の取り決めが政 る b.企業の側も次のような自信を抱いている.すなわち, 府の補助金によって支えられた.企業は従業員に働いた時 経済が回復した際には,適切なスキルを身に付けた労働者 間分だけ賃金を支払ったが,連邦雇用庁は下降期に損失し を,コストや遅延をほとんど経験せずに見付けることがで た時間について一部を補填した.短縮時間就業者数は急増 きる. し,2009 年 5 月には最も多い 150 万人に達した.この短  ドイツやデンマークのモデルが危機にうまく対処する 縮時間就業の利用を通じて推定 40 万人分の仕事が救済さ と同時に,長期的にみて財政負担が引き続き可能なのか否 れた a. かについて述べるのは時期尚早かもしれないが,それらの  デンマークは労働市場の柔軟性に関してもう 1 つのモ 国は,企業部門の柔軟性は国ごとに異なり得るというこ デルを示している.デンマークの「保障を伴う柔軟性」 と,および社会的セーフティネットを補完し得るというこ (flexicurity)は採用および解雇は容易であるが,それが寛 との両方を示している.政策ツールの選択は各国経済に固 大な社会的セーフティネットと能動的労働市場政策(職業 有である制度的,歴史的,および社会経済的な状況の注意 カウンセリングや再認定,職業訓練,賃金補助金による雇 深い分析に基づくべきである. 出所:次に基づき WDR 2014 執筆――Andersen 他 2011; Rinne and Zimmermann 2012. a.Boeri and Bruecker 2011. b.European Commission 2010. する意志をもっている場合には,訓練に対する公 や高齢者向けケアの提供,および柔軟な労働取り 的支援が最もうまく機能する.しかし,資源不足 決めは,女性労働者を労働市場に融合するのに特 が訓練にとって障害である場合,政府は,公的教 に重要である. 育機関を通じて公的資金を提供したり,企業によ るのスキル訓練を開発するために民間部門とパー 社会保険の資金調達に一般歳入を使う. しかし, トナーシップを構築したりすることができる.ま 労働市場があまり公式化されていない途上国で た,政府は次のような対象者を絞った支援を提供 は,公式部門の雇用者と被雇用者からの義務的な することもできる:失業している未熟練労働者, 拠出に基づく社会保険は,通常はインサイダーだ 非公式部門の低賃金職に雇用されている未熟練労 けを保護ししており,非公式労働者や失業者など 働者,学校から仕事に移行中の若者,仕事の間で の最も脆弱な層は保護されないまま放置されてい 労働市場への(再)参入の過渡期にある熟練労働 る.多くの場合,労働税は市場に歪みをもたらし, 者など.特定グループの人々のために特殊な政策 特に女性や若者,その他の脆弱層のために,公式 が必要かもしれない.例えば,手頃で良質な児童 で安定的な契約を提供するという企業の意志を削 212 世界開発報告 2014 減することがある.例えばメキシコでは,雇用と 金融へのアクセスの制約に取り組むことによっ 社会保険提供の密接な結び付きから,企業にとっ て革新を増やす. 革新のための金融へのアクセ て公式雇用は魅力的でなくなっている 59.基本 スが,企業にとっては重大な制約になることが 的な健康保険や老齢年金などの基本的な社会的 ある.潜在的な投資家はプロジェクトの成功の 保護制度の資金調達に一般歳入を使うのか受益 可能性に関して,企業がもっている情報をもっ 者負担金を使うのかは政策論議の問題である(本 ていないであろうから,革新的なプロジェクト 報告書の末尾にある「政策改革に関する焦点」 ――とりわけ不確実である――向けの融資を確 を参照)60.所得税や財産税,付加価値税,資 保するのは,特に新規の中小企業にとっては困 源国では資源税などが潜在的な資金源になる. 難なことがあろう.政府は次のようなビジネス  そのような資金調達方法の変更は公式企業に 環境を創出することによって,このような市場 対する不当な負担を軽減し,労働者保護から市 の失敗に取り組むことができる.すなわちそれ 民保護に移行するのを後押しする可能性がある. は,革新的な企業にとって重要な以下の 3 つの 万人に基礎サービスを提供し,雇用状況によら 段階において,民間部門から資金調達を行える ずに脆弱層を支援する社会的保護制度の導入, ような,適切な資源支援を含む環境である.早 という基本的な機能の充足に向けた政府の努力 期のコンセプト段階(企業家はアイデアを実現 を円滑化できる.多くの場合,財政の持続可能 可能なコンセプトや製品にまで開発する必要が 性やモラル・ハザードを制限するためには,給 ある),始動段階(企業家は企業設立のための着 付を控え目にしておくことが必要である. 手金を必要とする),成長段階(企業家は 必要性が大きく,能力が限定的な途 変転 拡大のためのベンチャー・キャピタ 上 国 で は, 財 政 の 持 続 可 能 性 と 極まりない世界のな ルを必要とする).国家にとって サービス提供の効率性はより挑 かで,資源を効率的に配 の挑戦は次のことにある.すな 戦的である可能性が大きい.労 分し,革新を促進し,労働者 わち,支配的なビジネス上の状 働市場の発展段階,制度的能 や消費者を保護する活発な企 況とニーズに応じて支援を提 力,政治的環境などを所与とし 業部門が,強靭性と繁栄に 供するのに最適な手段を特定す て,社会的保護制度の設計を各 とっては決定的に重要 る,ファイナンスが確実に短期 国の状況に合わせることが成功に である. にとどまるようにする,政府を頼 とっては極めて重要である.制度的な りにする企業の創出を防止する,関連 能力の構築と,徴税や公共支出の配分にかか した財政負担を抑制するなど. わる効率性を高めるために説明責任を強化する ことが,しばしば最初に着手すべき重要な分野 技術の採用とグローバルな協調を促進. 技術フ の 1 つである. ロンティアまたはそれに近いところにある産業 を擁する先進国では,世界初の知識を生み出す 長期的に柔軟性と公式性の両方を改善する政策を 能力とインセンティブを創造することが相対的 追求する により重要になるだろう.技術的能力がさほど  柔軟性のために健全な規則とインセンティブ 洗練されておらず,資源があまり潤沢ではない が整備されていれば,政府は柔軟性と公式性の 途上国では,既存の知識の採用や現地状況への 両方を改善する政策を追求することができる. 適応が相対的により重要であろう 61.まさに, 革新と労働市場における高度なスキルをもった ほとんどの途上国における全要素生産性の伸び 労働者の割合を高めることを目指す政策は,典 のうち,90%以上は海外が源泉の技術が占めて 型的に長期的にしか成果の出ない投資を必要と いる 62.政府は研究や製品の修正に関して研究 する. センターや大学と民間部門の繋がりを改善し, 企業家のための経営スキル訓練を支援し,一般 CHAPTER5 活気のある企業部門を通じて強靭性と繁栄を促進する 213 労働力が新しい技術を吸収する能力を構築するの 上の枠組みが整備されると,政府は競争に拍車を を後押しすることができる.各国の革新能力に応 かけ,労働者,消費者,および環境を保護するた じて,政府は適切な知的財産権政策を採用するこ めに,対象を絞った規制を徐々に追加していくこ とができ,それが広く採用ないし適応可能な革新 とができる.労働者の搾取を防止するためには, に向けてインセンティブを提供し,諸国間におけ 基本的な職場の安全基準は決定的に重要なことが る技術共有を円滑化することになる.最後に,政 ある.2013 年にバングラデシュで工場の建物が 府は貿易や技術ライセンス,外国直接投資,合弁 倒壊して 1,100 人が死亡したが,これはそのよ 事業,海外離散コミュニティとのリンク,研究開 うな規則の必要性を例証している.建物は粗末な 発協力などその他の国際的ネットワークを通じ 資材を使って違法に建設されており,既存の建築 て,国際的な知識源へのアクセスを円滑化するこ 基準を順守していなかったのである.消費財の検 とができる. 査と表示や,製品欠陥の場合のリコールに関する 明確な指針は,消費者が購入する財に対する信頼 労働力のスキル水準を構築. より高いスキルを を高めることができる.環境規則は企業が自分た もった労働力――より高度な課題に取り組むこと ちの活動にかかるコストを社会化するのを防止す ができ,より多くの代替可能なスキルを備えた労 るには特に重要である.規則の一貫した実施も懸 働者――が,柔軟で公式的な企業部門にとっては 念材料である.というのは,利益集団は規則を競 必要である.状況の悪化がもたらす影響を緩和 合他社の参入を制限し,不利な立場に置くための し,技術革新の機会に立ち向かうためには,教育 手段に頻繁に使っているからだ.有効な実施がな と生涯学習が決定的に重要である.例えばインド ければ,規則は労働者,消費者,および環境の保 では,当該地区の労働力の教育水準が高いほど, 護にほとんど役立たない政府による承認スタンプ 公式企業の開業率が高く,これらは強く連動して になってしまう.このような場合,規則は人々の いる 63.スキルの不足とミスマッチが企業にとっ リスク管理を支援するという機能を果たすことが て最大の懸念事項の 1 つとなっている.世界全 できない.規制面での支配を阻止するためには, 体では登記企業の約 27%は,熟練労働者の不足 規則は具体的な問題に取り組み,一貫して適用さ が事業活動にとっての重大な制約の 1 つである れなければならない. と考えている 64.情報面での障壁がこの制約の 主たる要因である.すなわちどのようなスキルが 必要とされているか,そしてどのような訓練が入 すべてを総合する 手可能かを人々は知らないのである.例えば,近 企業部門が徐々に公式化していっても,柔軟さを 代的な経営の手法が企業の間で広まる速さは,遅 失わないよう後押しする くなりつつある.しかし,インドの大手繊維会社  変転極まりない世の中では,強靭性と繁栄へ に関する現地調査は,経営スキルに関する無償コ の鍵は,革新を促進し,資源を効率的に再配分 ンサルティングを通じて必要な経営スキルに関す し,労働者,消費者,および環境を保護する活 る知識を増やすと,質と効率性を改善し在庫を減 発な企業部門にある.法の支配と契約の確実性 少させることによって,平均生産性が 11%も上 を促進することによって,国家は企業部門で柔 昇したことを示している 65.政府は訓練や労働 軟性と公式性の両方を奨励するのに適した環境 市場の結果に関する情報を普及させれば,製品市 を提供することができる.柔軟性および(長期 場や労働市場の機能改善を推進することができ 的には)公式性は労働者や企業所有者,投資家 る. の災害に対する強靭性を高めるだけでなく,機 会を活用する能力を改善するだろう.しかも, 労働者,消費者,および環境の保護を高める規制 このような特性は経済成長を牽引し,貧困を緩 上の枠組みを構築.ひとたび健全で基本的な規制 和するのにも役立つだろう. 214 世界開発報告 2014 表 5.1 企業部門のリスク管理における役割を改善するための政策の優先課題 リスク管理を支援する政策 基本 高度 知識 教育とジョブ・マッチング情報を提供する 基本スキル・職業訓練 革新的スキル訓練 保護 政策の確実性を改善し財産権を確実にする 参入 / 退出に関するものなど 技術採用 / 適合およびフロンティアにおける 基本的な規則を簡素化する ものを含め革新に拍車をかける 保険 可能なら就業上の地位とは切り離して社会保険の適用範囲を拡張する 債券と株式の両方について 信用へのアクセスを円滑化する 資本市場へのアクセスを円滑化する 対処 賃金と労働時間の適合性を円滑化する 破産の仕組みを開発する 適切な再編を促進して救済を回避する 出所:WDR 2014 チーム. 注:この表は政策の優先課題を確立するための第 2 章における次のような指針に基づいて,政策の順序を示したものである:当該国の制度 能力に合わせた政策の策定に際しては現実的であれ.最も重大な障害に持続的に取り組み,時とともに改善可能な強固な基盤を築け.  しかし,そのような好意的な環境を生み出すの 入を円滑化し,非効率的で非生産的な企業の退出 は挑戦である.というのは,途上国では柔軟性と を緩和することに移るべきである. 公式性の間にはトレードオフがあるからだ.短期 的には大勢の貧困層や脆弱層にとって,非公式経 基本原則に従う 済が貧困脱出の道になり得る.しかし,長期的に 不確実性や不必要なリスクを作り出さない.財産 は柔軟性の利益を強化し,人口全体がそのような 権を確実にし,政治や政策に関して予測可能な環 利益を確実に享受できるようにするのは公式性で 境を提供することが,企業部門がどんな有益な役 ある.公式化は,それが法規制の厳格な執行に基 割を果たすにしても大前提となる.このためには づくものの場合は解決策にならない.完全に公式 法制度を改善し,官僚の裁量権を削減し,透明性 化していても硬化した経済においては,企業部門 を強化することが必須である. 全体はいっそう悪くなる.柔軟性の利点を維持す る一方で,公式化の利点を強化するために必要な 柔軟性を促進.効率的な労働や資本の再配分は, のは,すべての企業にとって良いビジネス環境, 企業部門が常に変化しているビジネス状況に対し 規制枠組みの改善,公共サービスの提供,労働者 て調整するのに極めて重要である.適合性のある のスキル向上などである.適切な速さと順序で行 労働者スキルと企業破産を処理する明確なメカニ えば,企業部門の柔軟性を強化することに焦点を ズムが必要である. 当てた同じ政策要素は,長期的には柔軟性と公式 性の両方の増強に役立ち得る. 適正なインセンティブを提供.競争や規則の簡素  表 5.1 はリスク管理について企業部門がもつ社 化,公正な執行は,徐々に公式化していく際に柔 会的に有益な役割を改善できる公的政策を示した 軟性を保持しようというインセンティブを企業部 ものである.基本的な政策には,規則の簡素化や 門に提供することができる.病んでいる企業の救 基礎的な公共サービスの強化が含まれる.そのよ 済が賢明な政策措置であることはめったにない. うな基盤がすでに整備されている国には,政策の 優先課題は革新と効率的および生産的な企業の参 脆弱層を保護.基礎的な健康および教育において CHAPTER5 活気のある企業部門を通じて強靭性と繁栄を促進する 215 必要とされていることを含む社会的保護制度は企 業部門の柔軟性を高め,脆弱層を雇用状態にかか わらず保護することができる.社会保険を就業上 の地位(被雇用 / 失業,公式 / 非公式,都市部 / 農村部など)から切り離す可能性はさらなる検討 に値する. 長期的な視点を維持.非公式性は短期的に労働者 にとってはセーフティネットとして機能し,企業 部門に対しては柔軟性を供与できるが,長期的に は公式性に向けた努力が公的政策の目標にとどま るべきである. 216 世界開発報告 2014 注 36. 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The ­ Oxford Handbook of Innovation, edited by Jan 220 スポットライト 5 労働市場の柔軟性を増大させる動き: インドの平坦ではない道  途上国では約 15 億人が,社会保障給付もなく,労働条件が劣悪で生産性の低い非公式部門の仕事に従事 している.より良い仕事をより多く創出するために,政府には何ができるだろうか? インドの経験が示 すところによると,労働規則が柔軟で,順守コストが低い州ほど,労働の移動性が大きく,公式製造業部 門における生産性と雇用が高くなっている.  インドは世界で最も硬直的な労働市場の 1 つ て正当化されるよりも少ない労働しか使っていな である.労働市場問題は中央政府の 45 本の法律 い.このような歪みの結果として,インド人労働 と,多くが重複している 100 本以上の州法によっ 者のうちほぼ 10 人中 1 人は非公式部門に雇用さ て統治されている.最も問題が多いのは,製造業 れており,社会保険や付加給付はほとんど,ない 企業の労働者解雇と廃業を規定する法律である. しまったく受けていない.このような非公式性と 産業争議法(IDA)という 1947 年にまで遡る 生産性が著しく低いこととの間には相関関系があ 法律は労働者 100 人以上を抱える工場に対して, る.インドの非公式製造業部門における労働者 1 従業員を解雇したり廃業したりするには政府許可 人当たりの付加価値は,平均すると公式部門の約 の取得を義務付けている.そのような許可はめっ 8 分の 1 と極めて低い. たに付与されず,雇用者は仮に不法に労働者を解 雇すれば,巨額の罰金と懲役刑にさえ直面する. インド国内における州別にみた規制負担の差異 他の多くの法律は労働条件や最低賃金,付加給付  インドの各州には中央の労働法を修正する権限 などについて規定している.電力を使用する労働 があるため,企業の規制負担は州ごとに大きな差 者 10 人以上の企業は工場法に基づき登記し,残 がある.自州の労働法を中央の規定よりも相対的 業や賃金,出勤,病気休暇,賞罰などの事項に関 に柔軟にしている州もあれば,追加的な制限を課 する記録を保存し,定期報告書を提出することが している州もある.このような相違は労働法の経 義務付けられている.このような義務の順守と数 済的効果を評価するのに理想的な状況を生み出し 多くの検査に必要とされるコストは,特に中小企 ている(「自然実験」).というのは,個々の州は 業にとっては高いものになる. 自州の労働法を変更しているが,その他の法制は  規則は労働者の福祉を高めるためであるにもか 各州相互間で類似したままになっているからだ. かわらず,企業に小規模にとどまって労働法を回 これを受けて多数の研究が報告されており,その 避するよう勧奨することによって,しばしば逆効 いくつかは表 S5.1 に要約してある. 果をもたらしている.順守に関するコストを回避 するために,企業は事業を数個の小規模な別々の インドや他の諸国における労働改革の経験から学ぶ 単位に分割するといわれている.多くの州では企  インド諸州における改革のほとんどは,包括的 業は契約労働者への依存度を高めつつある.彼ら な構造改革の実施ではなく,規制順守にかかわる は正規従業員と同じ手当は享受できない.労働法 手続の改善やこのことにかかるコストの削減を に規定されている過度な保護は採用も阻害してい 目的としたものであった.労働者解雇に関する る.インドの大手企業は,支配的な低賃金からみ IDA の制限を適用する際の最低基準を緩和した CHAPTER5 活気のある企業部門を通じて強靭性と繁栄を促進する 221 のは,わずか 2 州にとどまっている(ウッタル・  マレーシアは,有期契約の継続の制限,夜間お プラデシュ州とウッタランチャル州).より一般 よび週末の勤務の禁止,および余剰労働者の解雇 的な改革には次が含まれる:契約労働者利用に関 に対する政府許可の取得の義務化を行っていな する制度の緩和,報告義務の簡素化,保存義務が い.労働規則は労働者の利益を保護しているが, ある記録数の制限,交替勤務の許可,検査回数を 総じて雇用者にとって過度に複雑にはなっておら 簡素化ないし削減するための労働規則順守に関す ず,したがって,雇用者が公式労働者を採用する る自己証明の導入など.他の 2 つの州(ハリヤ のを阻害することはない.総雇用の約 35%と推 ナ州とパンジャブ州)は全労働法の順守に関して 定される非公式性の水準は他の途上国との比較で 単一の年次検査を導入し,数州は抜き打ち検査に は低い.コロンビアは従業員向けの解雇手当を削 ついて今や政府許可を義務化している.改革を受 減し,公正な解雇について幅広い定義を導入して けてビジネス環境が改善し,取引コストが削減さ いる.大量解雇をより迅速に処理するために,そ れた.しかし,このような努力はほとんどが細切 の定義は解雇の事前通告に関する義務を簡易化し れである.膨大な量の行政義務に体系的に取り組 ている.チェコとスロバキアは有期契約の最高年 んでいる州はほとんどない. 限を増やすとともに解雇に関わるコストを削減し  公式化とそれに伴う利益を促進するような形の た. 柔軟性を生み出すためには,インドは労働法の数  インドは違った道を選ぶかもしれないが,改革 を削減および簡素化し,IDA を近代化して,行 に向けた努力の指針となる総合的な原則は,仕事 政手続きをさらに改善することが必要である.有 の保護ではなくて労働者の保護――社会的扶助, 効な労働市場改革をどのように設計・実施するか スキル構築,および就職支援などを通じて――で については,単一の青写真は存在しないものの, あるべきだ. 労働市場の柔軟性を高める政策の手本を提示して いる途上国が数カ国ある. 表 S5.1 インドにおける労働規則の研究 研究 方法 発見 Besley And Burgess 2004  1949 – 92 年になされた州レベル ・ 労働規則の柔軟性が低い州では,公式製造業の産出・生産性・   の IDA 修正を要約する指数を構 投資・雇用は労働規則がそれほど厳しくない場合より低い. 築. ・ 同じ州の非公式製造業の産出は増加. Sharma 2009 工場の新設・拡張に対する許可 ・ 規制緩和を受けて労働法が柔軟な州では厳しい州との比較 取得の義務を廃止した 1991 年改 で,非公式工場の数が 25%減少. 革のインパクトを推計するのに Besley-Burgess の手法を活用. Ahsan And Pagé 2009 Besley-Burgess 指数を更新し,労 ・ 労働法の厳しさを IDA 規定以上の水準に高めた州は,そのよ 働争議解決の困難と解雇に関する うな変更を実施しなかった州との比較で産出の減少を経験. 制限がもたらす効果を推計. ・ 争議解決にかかる厳しい規則を受けて,解雇に関する IDA 規 定の場合よりも産出が大幅に減少. ・ 西ベンガル州では法律がこの 2 つの面のみ厳しかったため, 62 万人もの製造業職が失われた.アンドラ・プラデシュ州と タミール・ナードゥ州では,争議解決規則が改善されたおか げで,13 万人以上の公式製造業職が創出 a. Dougherty 2008 21 州におけるより幅広い範囲の ・ 最も一般的な改革分野は契約労働,最も一般的でないのは検 労働規則を検討.8 つの主要な法 査にかかわるルールの変更. 的分野を分析.50 テーマについ ・ 全体として,改革の程度は控え目.可能な 50 の改革テーマ て可能な改革に基づいて OECD 労 のうち 28 以上の改革を実施した州はない. 働改革指数を構築.その多くは正 式な法改正ではなく行政手続きに ・ 労働改革指数の高い州では仕事の離職率が高い――技術変化 よって実施可能. と経済成長にとって死活問題. Goldar 2011 Dougherty が開発した労働改革指 ・ 労働改革をほとんどしていない州と比べて,労働改革指数が 数を活用 高い州では製造業における雇用弾力性と組織雇用の伸びが高 くなる傾向がある. a.World Bank 2010a. 222 世界開発報告 2014 参考文献 Ahsan, Ahmad, and Carmen Pagés. 2009. “Are All Labor Regulations Equal? 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Washington, DC: World Bank. 224 世界開発報告 2014 金融は複雑である必要はなく,実際に 助けになり得る:ある年配者が上海証 券取引所で株価の動きを眺めている. ©Qilai Shen/Panos 225 CHAPTER 6 リスク管理に金融システムが果たす役割 金融ツールが多いほど金融危機は少なくなる 金融システムはリスク管理という社 て新しい発泡性飲料を導入したのであ 会的に有益な役割を果たすこと る.それは成功した! 過去の災 ができる 害と将来に起こり得る事態の急  チェコに改革時代を招いた 変を警戒して,ジャンは事業 ビロード革命後の 1990 年に, ステム リスクや機会を分散し,会社 融シ 金 ギリシャ移民の息子であるヤ を公開することによって,自 ン・サルキスは,瓶詰ジュー 分の富を保護することを決意 スを生産する事業に着手する した.地元のワルシャワ証券 ことを決意した.銀行ローンを 取引所での新規公開株は全額消 獲得し,地元コミュニティの助言 化され,彼は他の会社の株式や債券 に基づいて洪水保険に入り,盗難防止の を購入することによって富の分散を図る ために貯蓄を銀行に預け入れた.1997 年に突然, ことができた.彼の賢明な決断とそれを支持す 銀行が危機に陥ると,ヤンのローン返済は急増 る金融システムのおかげで,ヤンは今や裕福で する一方で,貯蓄は 14 カ月間にわたって凍結さ 尊敬を受ける人となり,コミュニティにお返し れた.というのは,その銀行が倒産したからだ. をすることに力を入れている 1. 2002 年に発生した 100 年に 1 度の洪水は彼の  ヤン・サルキスの物語の浮沈が例証している 事業を押し流したが,幸いなことに,保険金支 ように,金融システムは有用な金融ツールを提 払いが損失の大半を賄ってくれた.この 2 つの 供し,悪いショックから保護し,機会を活用す 経験から,ジャンは金融システムに関して複雑 るのに良い立場に置くことによって,人々のリ な気持ちを抱くようになった. スク管理を助けることができる.銀行や保険会  2006 年にチェコ国立銀行という信頼できる公 社,証券会社,証券取引所,その他の金融機関 的機関が金融サービスに関する統合的な監督官 と金融システムを形成する金融インフラ(支払 となると,チェコの金融システムに対する信認 いシステムなど)は,金融サービスを提供し, が急上昇した.企業家としてリスク負担者であ 社会がリスクを管理するのを手助けする,とい るヤンは別の融資枠を確保する一方で,効率性 う社会的に有益な機能を集団的に果たすことが を高めるために貯蓄は 1 つの銀行口座に統合し できる.また,それらは市場性保険(災害保険 た.2 年後,世界的な金融危機が襲ってきた.保 や生命保険など),自己保険(貯蓄預金など), 守的な監督のおかげで,チェコの銀行システム 自己防衛(安全で効率的な支払いサービスなど) は十分な備えができていた.しかし,チェコの を提供するという形で,人々がリスク管理を図 コルナの価値は下がり,そのことは飲料を含め ろうとするのを後押しすることもできる.貧困 て輸入品の価格を押し上げた. 層を含めて,人々はリスクを管理し,機会を有  ヤンは大きなリスクをとった.融資枠を使っ 効かつ責任をもって追求するためには,単に信 226 世界開発報告 2014 用だけでなく,広範な金融ツールを必要とする. 出資の円滑化など.ただし,本章ではリスク管理 しかし,金融システムは自身が抱えているリスク 機能に集中する 3.本報告書は人々に焦点を合わ の管理に失敗すれば,人々にも被害をもたらすこ せていることを考えて,本章では特に金融包摂と とがあろう.それは金融へのアクセスを妨害する 金融安定性の間の緊張関係を検討する.金融の発 ことによって,あるいは間接的に企業の借り換え 展と安定性の間のより幅広いトレードオフについ を阻害し,公的財政に過大な負担をかけ,仕事や ては,もう少し先の方で,金融部門政策の策定を 所得,富の損失といった事態を導くことによっ 改善するための制度改革という文脈のなかで検討 て,人々に直接影響する悪いショックをもたらす したい. ことがある.  公的政策には 2 つの重要な役割がある.それ はともに人々のリスク管理の役に立つ.公的政策 良いリスク管理のためには,人々は広範な金 は,金融システムが金融サービスへのアクセスを 融ツールを必要とする 有する人々のシェアを拡大し(金融包摂),より 多種多様な金融ツールが様々な目的で使われてい 多くの人々により多くのより良い金融リスク管理 る ツールを提供するように促すことができる.ま  金融システムは人々とその支援システム(家計 た,金融システムがシステミックな金融リスクを やコミュニティ,企業,国家,国際社会など)に より適切にコントロールするように仕向けること 対して,多種多様な金融ツールを提供することに もできる.公的政策は選別的であるべきで,金融 よって,リスク管理を支援している 4.このよう 市場のインセンティブを歪めることを回避するた なツールを手にすることで人々は次のようなこと めに,直接的な介入策(補助金や保証など)は控 が可能になる:消費の平準化,自分や子供たちの え目に利用しなければならない.十分な金融イン 教育費の資金調達,健康や所得に関するショック フラ(支払いシステム,信用履歴情報など)の提 への対処,栄養の改善,(その他の社会的に有益 供と,競争の促進に配慮した規則の施行や人々に な活動のなかでは)より良い未来のための計画な よる多様な金融ツールの利用に焦点を絞るべきで ど.このように金融システムは,開発全体を推進 ある.同時に,国家としては金融部門のシステ し,貧困層のための機会が平等で,競争条件が平 ミック・リスクの監督――慎重ながらも同部門の 準化された環境を生み出すこともできる.以下の 発展を促進するような――を実施する必要があ ように,多種多様な金融リスク管理ツールが色々 る.そのような目的を達成するための具体的な勧 な成果を達成するために設計されている: 告が本章全体を通じて議論される 2.  本章では公式な金融システムのリスク管理機能 • 支払い・外国為替のサービスは国内取引や海 に焦点を当てるが,第 3 章と第 4 章,およびあ 外送金の安全性と利便性を高めて,人々が自 る程度は第 5 章でも非公式な金融取り決めを検 己防衛するのを助ける. 討している.公式金融システムはさまざまな形で • 貯蓄商品(銀行預金や流動性証券)は,人々 定義することができるが,ここでは主たる業務が が消費を平準化し,不測の事態のために緩衝 金融活動である企業で構成されていると定義して 手段を蓄積するのを助けることによって自己 おこう.したがってこのシステムは,銀行や保険 保険を提供する.時として,貯蓄は異常に大 会社から零細信用や零細保険を提供する企業まで きな支出(あるいは投資)のための資金を調 と広範囲にわたる.金融システムはいくつかの相 達したり,自己防衛したりするための手段と 互関連のある機能を遂行しており,それには以下 もなり得る. が含まれる:貯蓄者から投資家への資源の再配 • 信用(教育ローンなど)は人々やその支援シ 分,マネジャーを監視して企業をコントロールす ステムが,時を通じたファイナンス制約を軽 る,リスクにかかわる取引やヘッジ,分散,共同 減し,より大きな柔軟性と強靭性をもって機 CHAPTER6 リスク管理に金融システムが果たす役割 227 会を活用し,したがって自己防衛する能力 新する――企業の拡大や革新牽引型の新設 を改善するのを後押しする.悪い時期にお 企業などを通じるものも含む――ことが可 ける信用へのアクセス――ショックの際の 能になっている. 利用に備えて事前に予約しておいた信用(偶 • 資産の公開取引(商品や証券,金融派生商 発債務)を含む――は,人々やその支援シス 品など)は需要と供給を一致させる価格を テムがより良い対処をするのに役立つ. 発見し決定する仕組みを提供する.人々は • 市場性保険 ――ヘッジング商品を含む―― この情報を使って,自分の消費や貯蓄,事 は人々やその支援システムが,死亡,健康障 業機会,ポートフォリオ配分,戦略的リス 害ないし傷害,および所得ないし富の損失な ク管理などに関する決定を行う. どの極度に悪い事象の結末に対して保険を • リスク価格の設定に関する情報が,この分野 かけるのに役立つ.国家も極度の で比較優位にある金融システムによっ 人々 損失に対する市場性保険からは て提供される.それは金利や保険料, は多くのリスクに 利益が得られる. その他の金融価格に埋め込まれて 直面していることから, • 債券や株式への投資 は人々 いるものである.金融部門はリ 金融戦略が有効で信頼でき が自分のリスク選好に応じ スクに「値札を付ける」ことが るためには,幅広いツー た商品の健全なポートフォ できるため,金融ツールの利用 ルを活用しなければな リオに富を分散し,自己防衛 者がリスク管理のための多種多様 らない. を,また,もし流動性が高けれ な戦略の費用便益を理解するのに役 ば,自己保険を円滑化するのに有益 立つ. である. • リスク・テイキング型資本(プライベート・  各金融ツールによって効率的に管理できるリ エクイティやベンチャー・ファンドなど)の スクは,その頻度や強度,影響などに応じて特 おかげで,中小企業から国際的な大企業まで 定のものに限定されている.自己保険や市場性 の企業は知識に基づいたリスクをとって革 保険は損失の対処に役立つ.預金勘定や電子支 ダイヤグラム 6.1 金融ツールを組み合わせると,さまざまな確率と厳しさの損失に対する備えを改善できる a. 自己保険や市場性保険のツールでさまざまな b. 自衛ツールは所与の損失の確率 厳しさの損失への対応が容易になる 引き下げに役立つ 損失の確率 損失の確率 自衛(信用,貯蓄,電子 支払い,投資の分散) 市場性保険 セーフティ 支払い ネット サービス 貯蓄 信用 損失の厳しさ 損失の厳しさ 出所:WDR 2014 チーム. 注:ダイヤグラムは様式化された損失分布を示す.それには多種多様な頻度と強度の損失(リスク)可能性に対して,付保ある いは保護する効率性に応じた金融ツールが適用されている.個人的損失分布関数(パネル a と b の濃赤線)は人々が金融面で自 . 衛ツールを使うことによって(パネル b の淡赤線)改善する(下方の左側にシフトする) 228 世界開発報告 2014 ボックス 6.1 現金より優れている:電子決済はリスクとコストを削減する  現金は依然として時には最も権威があるかもしれない いう人々に対して,送金サービスを拡張することができ が,電子決済と比べると現金決済は非効率であり,大きな 「G キャッシュ」や「スマー る.例えばフィリピンでは, 取扱い費用や輸送費を伴ったり,盗難や紛失,偽造のリス ト・マネー」は携帯マネーのプラットフォームを使うこと クにさらされたりすることがある.現金の使用はビジネス によって,フィリピン人の海外離散者に送金サービスを提 の取引や売上を公式な帳簿に記載しないでおくことによっ 供している d. て,闇の経済を永続化させてもいる.現金ではなく電子決  しかし,電子決済は消費者の信頼を傷付けかねないリス 済の利用が増えたおかげで,ブラジルは 1 年間で国民総生 クを孕んでいる.すなわち,詐欺のリスク,決済手段発行 産(GDP)の 0.7% a,インドは同 1.6%も節約することが 者が倒産するリスク,顧客勘定の記録が発行者の基本シス できた b. テムの問題が原因で変更されたり破壊されたりするリスク  電子決済を利用している個人や中小企業は,便利なオン などがそれである.銀行勘定に接続されている決済手段の ライン許可,容易な記録保存,紛争処理メカニズムの利用 場合,第 2 と第 3 のリスクは預金保険に加えて,銀行の健 可能性などから利益を享受している.電子決済を促進する 全性およびオペレーション面での要件によって緩和されて ことによって,政府の政策は犯罪リスクを激減させること いる.そのような取り決めは非銀行発行者を含んでいない ができ,受益者は金銭的な義務を遅滞なく果たすことが 可能性があるが,このようなリスクを軽減する他の仕組み 可能になった.重要なこととして,電子決済手段は預金受 を執行することができる.つまり,業界は安全性リスクを 入金融機関(銀行)の預金勘定に接続しているか,あるい 積極的に管理しており,対象を絞った消費者保護措置が実 は銀行,他の金融機関,携帯ネットワーク運営業者によっ 施されつつある. て使われる電子マネーという形になっていなければならな  電子決済は政府の支払いプログラムにおける不正や遺漏 い.金融サービスを享受していない,あるいはそれが過少 を管理するのに役立ち,最終的には透明性と説明責任を改 な人々にとっては,電子決済というのが通常は公式金融 善することができる.例えばサウジアラビアでは,2002 サービスとの最初の接触になる.例えばパキスタンでは, 年に SADAD 支払いシステム――電子的な支払い・決済プ 支店をもたない 180 万もの銀行勘定が毎月 1,040 万件以上 ラットフォーム――を実施したおかげで,それまで人為 もの取引を処理している c. 的な間違いや不正,遅延を原因とする年間の歳入損失の  電子的な送金の振替および決済は移民とその家族にとっ 10 – 15%が節約できた.ブラジルでは,法人カード支払い てだけでなく,その受取国にとっても著しい利益をもたら プログラムが,入札手続きによらない少額の調達における す.1 億 9,200 万人の国際的な移民(世界人口の 3%)か 現金や小切手の使用に取って代わった.そのおかげで,政 らの送金は総額 5,010 億ドルにも達しており,そのうち 府機関とカード所有者は経費を追跡できるようになり,政 3,720 億ドルは途上国向けのものである.無店舗バンキン 府のウェブサイトは取引の金額,日付,業者の種類を公然 グや携帯電話運営業者との銀行業パートナーシップは,こ と開示している. れまで遠隔の農村部で暮らす銀行取引がなかった何百万と 出所:WDR 2014 のために書かれた Maria Teresa Chimienti の論文. a. Central Bank of Brazil, “Efficiency and Costs on Retail Payment Instruments Usage” (http://www.forodepagos.org/pdf/Custo_Eficiencia_ English.pdf.) b. Ehrbeck 他 2010. c. Consultative Group to Assist the Poor (CGAP), “An Overview of the G2P Payments Sector in Pakistan” (http://www.cgap.org/publications/ overview-g2p-payments-sector-pakistan.) d. 決済と送金に関する詳細な情報については CGAP のウェブサイト (http://www.cgap.org/topics/paymentsremittances) を参照. 払い手段は,現在の(予定されている)支出に対 低い損失に対して自己保険をかけるために,貯蓄 する支払いをより効率的かつ確実にすることがで を使うのは非効率であろう.理想的には,その種 きる.海外送金も電子的支払いと外国為替のサー の損失は信用を通じて保険をかけることができる ビスを使って,受取人に対して確実かつ効率的 が,人々やその支援システムの状況が悪化した時 .悪い に実行することができる(ボックス 6.1) に信用にアクセスできる,あるいは,悪い時期が ショックを受けて支出が予想外に急増した場合, 到来した際に頼りにできるローンを取り決められ 第一波の損失は自己保険という緩衝手段として機 ることが条件となる(偶発債務).しかし信用で 能する貯蓄預金や流動的な金融投資を引き出すこ さえ,100 年に 1 度の事象に備えるには金融ツー とによって,効率的に対処することができる(ダ ルとしてはあまりに高価である.このような事象 .しかし,より大きく可能性の イヤグラム 6.1a) や損失については市場性保険が最も効率的な金融 CHAPTER6 リスク管理に金融システムが果たす役割 229 ボックス 6.2 住宅金融は家計の強靭性と機会を改善することができる  家は一生涯にわたる投資かもしれない.住宅金融のおか 接続,衛生設備,防水処理された住居,暖房や日陰がある げで個人は若い時に不動産を購入して,所得が増加するな ことなどすべてが,特により脆弱な幼年者や高齢者の間で かで返済を長期間にわたって分散することができる.適切 健康状態を改善することができる.コンクリート床にする な資金調達がなければ,その代替策は,不満足な条件下で というような単純な改善で,蚊の温床を減らし,したがっ 生活しながら長年にわたって行ってきた貯蓄を使う,ある て,マラリア発生の水準を下げることができる.高品質の いは高くなっていくコストで住宅を少しずつ建築すること 手頃な価格の住宅が入手可能であれば,家族は所得の大き であろう.高齢期にあっては,自家保有は所得が下がって な割合を栄養のある食料や医療ケア,健康を増進するその 家賃支払いの負担が容易でなくなった時に,安心感と強靭 他の必需品に支出することが可能になる.住宅の安定性が 性を提供してくれる. 高まることによって,頻繁な,あるいは望まない転居に伴  住宅金融は家計に経済的な機会をもたらすことができ うストレスや混乱も削減でき,慢性病や必要なケアを受け る.住宅によって担保された抵当信用の利用を拡大するこ るべき他の病状をもった個人に,安定した基盤が提供され とによって,住宅金融は家計の富を他の多様な投資に向け る c. て自由にし,いわゆる「寝ている資本」の力を自由に使え  住宅の改善はより安全でより強靭なコミュニティの形成 るようにすることができる a.つまり,適切に機能する土 に役立つ.例えばホンジュラスでは,犯罪的なギャングが 地権利制度と住宅金融商品は経済的機会の創出に一定の役 蔓延しており,低所得コミュニティは犯罪行為によって最 割を果たすことができる. 大の影響を受けている.投資の増加を通じた住宅の改善  住宅金融は人々の強靭性を改善し,人々が貧困の罠を回 は,犯罪行為や反社会的行動の削減を後押ししている.有 避するのを手助けする.住宅抵当融資を得るためには,家 効な住宅プロジェクトには社会経済的な分類を変える力が 計は通常は頭金の支払い用に相当な資金を貯蓄する必要が ある.そのようなプロジェクトのおかげで,ホンジュラス ある.この「強制」貯蓄だけでも家計の強靭性に大きく貢 では,非常に低所得のコミュニティは下位中所得の地位と 献できる b.住宅金融商品を通じて人々は,より良い衛生 良好な教育水準を達成することができる.そうではないそ 条件を備えたより良い住宅を利用でき,したがって病気に れ以外の限界的なコミュニティはより高い安心感を享受し 対する強靭性を改善することができる.公益事業施設への ている d. 出所:WDR 2014 のために書かれた Simon C. Walley の論文. c. Cohen 2007. a. De Soto 2000. d. RTI International 2005. b. Collins 他 2009, 179. ツールである.市場性保険業者でさえ,受ける影 る(ダイヤグラム 6.1b).教育ローンはより良い 響の予測がむずかしい極端で予想外の事象に伴う 教育へのアクセスを提供することによって,失業 損失に対しては,効率的な価格設定,保持,管理 の可能性を減少させるのに有益であろう.住宅 をすることはできない.そのような場合,社会的 ローンは,より良い住宅や水を媒体とした感染症 セーフティネットやその他の連帯制度なら支援を と,世界的流行病を減らせる衛生設備など,これ 提供できる.企業はリスク管理戦略のなかで,偶 らに関連したインフラの利用を提供する(ボック 発債務によって効率的に付保されるよりも大きい ス 6.2).貯蓄預金は,リスクに対する人々の保 が,市場性保険で効率的に付保されるよりも小さ 護を高めるような大きい稀な投資(水を清浄化す い損失については,リスク・テイキング資本を使 るポンプなど)のための資金を蓄積するのに使う うことができる.もう 1 つの種類のハイブリッ ことができる.同様に,非常に多種多様な会社や ド型金融ツールが,宗教ベースの金融(イスラム ファンドが発行した,リスク特性が多種多様な投 金融)によって提供されている.パートナーシッ 資証券(株式や債券)は,人々が自分の資産を分 プ・ローン(ムダラバあるいはムシャラカの契約 散し,所得や富の損失から保護するのを支援でき に基づく)などは,企業家に対して損益リスク分 る.イスラム銀行の投資預金は企業家に対する 担という性質の保険を提供することができる 5. パートナーシップ・ローンの資金調達に使われて  他の金融ツールは,人々の自己防衛を可能に いるが,投資家に有限株式投資に類似した分散化 することによって,損失の確率と規模を削減す の可能性を提供する 6. 230 世界開発報告 2014 図 6.1 個人が使う公式な金融ツールの範囲は国や所得によって異なる a. 国内の平均 b. 国内で所得が底から 40%層 50  50  40  40  30  30  % % 20  20  10  10  0  0  貯蓄 信用 健康保険 a 貯蓄 信用 健康保険 a 低所得国 中所得国 高所得国 世界平均 出所 World Bank Global Findex (database); Demigrüҫ-Kunt and Klapper 2012 からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成. 注:図は公式金融リスク管理ツールを使っている成人の割合を示す. a.自己負担の医療保険に関するデータは高所得国については入手不可.  人々は頻度や強度がさまざまなリスクに直面し よって――一連の適正な金融ツールを利用するこ ているため,広範な金融ツールを使う多角的な金 とも含む――,システミック・リスクに対してよ 融リスク管理戦略のほうが,1つないし少数の りうまく備えたり,対処したりすることができよ ツールしか使わない戦略よりもより有効である. う. 加えて,多角的な金融戦略のほうがより信頼でき るだろう.というのは,どのような金融戦略であ 多様な手段を提供するという点において,金融シ れ,その根底にある金融市場リスクを分散するた ステムには良いものも悪いものもある めに,多種多様な代替策や手段を提供しているか  公式な金融システムが提供している金融ツール らだ.金融ツールの混合は人々が強靭性を強化す の範囲は,一国内でも発展段階や個人所得水準に る助けになる.というのは,実生活では各リスク 応じて大きな差がある.平均すると,高所得国の を孤立して管理するわけではなく,さまざまなリ 人々は中・低所得国の人々よりも銀行預金を通じ . スクを同時に管理するからだ(第 1 章の表 1.1) て多くを貯蓄している(図 6.1a).高所得国では さらに,このようなリスクは大体において性格的 最貧の 40%層でさえ,中・低所得国の人々より に固有か,あるいはシステミックである.大きな も公式な貯蓄預金を使う割合が高い.公式信用は 固有のリスク(長期に及ぶ病気など)に備えるに 高・低所得国では普通に利用されているが,中所 は,市場性保険(医療保険など)が使うべき最も 得国の人々は信用の利用がずっと少ない.民間医 効率的な金融リスク管理ツールであろう.市場性 療保険の利用に関しては,平均および最貧 40% 保険はシステミック・リスク(金融危機など)に 層の値は,そのどちらも中所得国と低所得国で大 対する保護には適さないツールかもしれない.と きく異なっている.貯蓄は世界中で最も頻繁に使 いうのは,多数の保険会社が倒産すれば機能しな われている金融ツールであり,保険と信用がそれ い可能性があるからだ.個人レベルでは,人々は に続いている.しかし,このパターンは需要と供 独立独行(自己保険や自己防衛)を高めることに 給の両側で,より良い金融リスク管理戦略の実施 CHAPTER6 リスク管理に金融システムが果たす役割 231 図 6.2 金融システムは深化に伴って制度的な構造が多様化する 1 人当たり国民総所得(2010 年) 7,355 ドル 12,150 ドル 26,630 ドル 42,280 ドル 9%  6%  7%  6%  14%  5%  28%  34%  12%  29%  29%  3%  6%  8%  12%  14%  55%  49%  44%  31%  株式時価総額 銀行資産 ミューチュアル・ 保険会社資産 年金基金資産 ファンド資産 出所:World Bank Global Financial Development Database からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成. 注:56 カ国(下位中所得 6 カ国,上位中所得 20 カ国,高所得 30 カ国)について,株式時価総額,銀行資産,ミューチュアル・ファン ド資産,保険会社資産,年金基金資産の総計として算定された金融システムの規模. にとってさまざまな障害を反映している可能性が る可能性があろう.すると,このことが金融会社 ある. が人々やその支援システムに対して,幅広いより 良い金融ツールを提供し,効率的により多くのリ アクセスに影響する供給側の要因 スクを吸収する能力を制限することがある.同様  理論的には,金融商品を提供するのが銀行,零 に,民間金融会社は特定のリスク(大規模な自然 細金融業者,保険会社,あるいは資本市場のいず 災害やテロリズム,流行病など)を評価し価格を れであるかは,人々が必要とする一連の金融手段 設定する能力を持ち合わせておらず,そのためよ を利用できる限り問題ではない 7.しかし実際に り良く理解されているリスク向けに限定した金融 は,制度上の形態は確かに問題となる.というの ツールの提供に焦点を絞っている可能性がある. は,各種の金融機関は提供が許可されている金融 金融業者が自分で十分理解していない金融商品を ツールの範囲が限定されているからだ.ただし, リスク管理のために顧客に対して提供している場 1 つの金融グループないし持株会社の下に統合す 合,往々にして価格設定が誤っており,みずから ることが認められている機関がいくつかある.金 の安定性を危険にさらし,そして仮に顧客からの 融の発展が低い段階では,金融システムは銀行業 請求に応じないとすれば,結果として信用に傷が に集中する傾向がある.発展段階が高くなると, 付くことになる.例えばフィリピンでは,民間の 資本市場や保険会社,ミューチュアル・ファンド 退職保険商品の価格が,当初はあまりにも低すぎ .したがっ などへの多様化が進展する(図 6.2) て,保険会社が危うく倒産しそうになったことが て,銀行にひどく集中した金融システムでは保険 ある. の提供が制約されているかもしれない.同様に,  おそらく外資系企業の新規参入によって競争が 資本市場やミューチュアル・ファンド,証券会社 激化した環境下では,金融産業はリスクにかかわ が存在しないことは,富を分散化しようとしてい る説明責任を果たす行為を通じて,金融サービ る人々の選択肢を制約ことがあるだろう. スを利用する人々の割合を引き上げることがで  金融機関自身が必要な金融インフラ(電子支払 きるだろう 8.全体として,金融会社が金融包摂 いシステムや信用情報機関など)やヘッジ手段 の推進を手助けする最善の方法は,単純で容易に (通貨や金利のスワップなど)を利用できないこ アクセス可能で,信頼できる金融ツールを提供す とによって,リスク管理について制約を受けてい ることである.例えば,ケニアでは M-PESA や 232 世界開発報告 2014 M-KESHO のプロジェクトを受けて,電子支払 人以上の女性労働者を付保し,健康保険や生命保 いとモバイル貯蓄が大幅に拡大した.また,南 険,資産保険を含んでいる.先進国では多くの信 アフリカではマンザンジ(Mzansi――訳注:現 用や保険市場が飽和するなかで,多国籍金融機関 地語で「南アフリカ」の意)勘定が今や銀行を (銀行や保険会社)は持続可能な成長機会を探し 利用している国民の 6 人のうち 1 人によって使 ている.これには零細金融も含まれ,新興市場で われている 9.保険や資本市場投資などの他の金 はますます主流の活動になりつつある 11. 融ツールを提供するためには,金融業者と顧客の 間で明確で徹底したコミュニケーションが必要で アクセスに影響する需要側の要因 ある.これは売り手が顧客の期待(リスク管理の  非公式な金融ツール(貯蓄やローン,保険な ニーズ)を理解している一方,顧客が金融ツール ど)しか利用していない,あるいはまったく利用 の特性を認識していることを確実なものにするた していない人々が大きな割合を占めているという めである.例えば,保険の買い手に,保険は付保 ことは,公式金融部門にとって商業的に存続可能 損失すべてを含んでいるわけではないというリス な潜在顧客の大きなプールが存在するということ ク(ベーシス・リスク)があることを明確に説明 を示している.信用に関しては,万人を含めるの しておくことが,加入や更新を増やすのに決定的 はおそらく望ましくない――万人が信用力がある に重要である 10.リスク管理のためのより完璧 わけでも,信用を責任をもって取り扱えるわけで な解決策を提供する金融ツールを供給するには, もない――であろうが,預金と保険に関しては健 金融業者も国家とのパートナーシップを通じて革 全性の制約は存在していない可能性があろう 12. 新すべきである.それには保険の分野も含まれる 国が発展して平均所得が増加するのに伴って,貯 (ボックス 6.3,6.4). 蓄や信用などの公式な金融手段を利用する人々が  世界全体で金融サービスが行き届いていない人 増加する(図 6.3).しかし,公式貯蓄預金の利 口の規模が大きいということは,零細金融(零細 用度が低くても,人々は投資を行うことができ, 信用や零細貯蓄,零細保険など)機関が重要な役 貧困からの脱却を目的とした計画を改善すること 割を演じることができるということを示唆してい ができる.国の発展に伴って,非公式な貯蓄取り る.零細信用,より最近では,零細保険に関し 決めは公式なものと引き続き共存する.明らか て,熱狂と批判の波があった.零細金融は金融包 に,非公式な貯蓄と借り入れの取り決めには,公 摂において,事業の持続可能性を考慮に入れなが 式金融ツールが提供できない一定の特徴がある. ら,より現実的な役割を担う必要がある.この点 非公式な金融ツールを公式な金融ツールに完全に では良い実例が存在しており,今は他がこれに 置き換えることは,実現可能ではなく望ましくも 従う時である.1996 年に創設された「プロクレ ない. ジット」は零細金融の分野では初の多国籍銀行で  人々が公式な金融ツールを使わないのにはい ある.2008 年現在,26 カ国で営業し,従業員 くつかの理由がある.公式の貯蓄勘定を使わな 1 万 7,000 人,資産 60 億ドルを擁している.投 い主な理由として人々が指摘するのは次の点で 資適格の格付けを享受しているおかげで,各地に ある:「使うだけの十分なお金をもっていない」 おける貯蓄預金にかかわる動員とアクセス提供に (66%),「家族のうちだれかがすでに勘定をもっ 加えて,ドイツ債券市場で長期の資金調達を行う ている」――これは間接的な利用者がいること ことが可能となった.途上国では零細保険会社は を示唆する(23%)――,「銀行勘定はあまり 50 セントという低い保険料で,テレビから埋葬 にも高すぎる」(24%),「銀行はあまりにも遠 の費用に至るまでのあらゆるものに対して付保し すぎる」(20%)13.必要な書類が用意できない ている.世界で非公式経済の労働者を対象にして (17%)と銀行に対する不信(13%)も,人々が いる最大の包括的な拠出型社会保障制度はインド 銀行勘定を使用するのを妨害し,銀行の利用を全 の統合社会保障プログラムであり,これは 10 万 面的に阻害している.人々は非公式部門にとどま CHAPTER6 リスク管理に金融システムが果たす役割 233 ボックス 6.3 モンゴルとメキシコにおける革新的な保険メカニズム モンゴルにおける家畜の死亡に対する保険 復と復興にかかるコストは,資金調達や開発を目的とした  モンゴルの労働力の 40%は牧畜を中心に農業に従事し 予算の再配分にかかわる遅延のゆえに急増することがあ ている.厳しい気候条件が定期的に破局的な家畜の死亡に る. (FONDEN) 1996 年にメキシコ政府は国家自然災害基金 つながり,牧畜業者の生計とモンゴル経済に対してシス を創設して,すでに公約されている政府支出を阻害するこ テミック・リスクをもたらす.2006 年にモンゴル政府は, となく,連邦や州の災害後の復興に向けた取り組みに十分 牧畜業者に家畜死亡保険を提供することにした.モンゴル な財政的資源を供与することにした.これは著しく進化し の牧畜業者と経済の財務的な強靭性を高めるために,指数 ており,リスクの評価や削減にかかわる資金調達,および ベースの家畜保険プロジェクト(IBLIP)を導入したので より高い基準に適合させるためのインフラ再建など,より ある.例えば 2010 年の冬にモンゴルの家畜の 22%近くが 広範な災害リスク管理活動を含むようになっている. 死亡するという破壊的な出来事が起きた時,IBLIP は付保  災害に伴う政府の偶発債務にかかわる総合的なリスク・ されていた 5,628 人の牧畜業者のうち 4,706 人に 142 万ド ファイナンス戦略を支援している FONDEN には,以下の ルの補償金を支払った. 3 つの重要な特徴がある.第 1 はリスク評価プロファイル  保険プログラムは支払金を算定するために,モンゴルの である.政府には,定義の明確な損失報告の仕組みがあ 各県における成畜の平均死亡数に基づく指数を使ってい り,これは,過去の事象から支出に関する正確な情報を提 る.IBLIP は牧畜業者や国内民間保険部門,政府,国際再 供する.災害リスク管理に関する証拠に基づく公的な意思 保険市場の間でリスクを分担するのに,有効なツールで 決定を支援するために,政府は受ける影響に関するデータ あることが判明している.各リスク層に最も適切な利害 と内部的な確率論的リスク・モデルに投資してきている. 関係者によって有効に資金が調達されることを確保して 第 2 の重要な特徴は偶発債務の明確化である.FONDEN いる.参加牧畜業者は 6%までの家畜死亡リスクを引き受 のルールや指針は,許可された資源総額が公共インフラの ける.6%から 30%までのリスクについては,商業的保険 迅速な復興,低所得層向けの住宅,適格自然環境資産にど 商品がこのリスクを民間保険会社の国内プールに転嫁す のように配分されるのか,また,債務が連邦と州の政府の る.30%以上については,政府が社会的なセーフティネッ 間でどのように分担されるのかについて明確である.第 3 ト商品に対する資金調達を行う.商業的な保険商品を購入 の特徴はリスクのファイナンスにある.FONDEN の統合 した牧畜業者は,追加的なコストなしに社会的セーフティ 的な災害リスクのファイナンス戦略は,反復的な支出の資 ネット商品に自動的に登録される.政府は極端な家畜損失 金を調達するためのリスク引受手段(自己積立,例外的予 から財政が受ける影響を次のような方法で限定している. 算配分)と,重大な災害後の即時対応(大災害ボンド)や すなわち,政府の債務はセーフティネットが必要とされる 長期的復興のために追加的な資金の調達を供与するため 最も厳しい年にだけ起動するよう確保されている.最後 のリスク移転手段(過剰損失の再保険)の組み合わせに依 に,IBLIP は国際再保険市場を利用することによって,家 存している. 畜死亡リスクの国外移転を円滑化している.  連邦および州の政府は 1999 – 2011 年に災害対応策に年 14 億 6,000 万ドル支出したが,その 3 分の 2 は FONDEN メキシコにおける災害後支出のファイナンス を介して資金調達された.この制度は継続的に進化してお  メキシコは地震やハリケーン,洪水,その他各種の地質 り,経験から学んだ教訓を統合し,予算上の新しいツール 学的・水文気象学的な事象にさらされている.災害後の回 や技術を組み込んで,より効果的で効率的になっている. 出所:WDR 2014 のために書かれた Laura E. Boudreau, Daniel J. Clarke, and Oliver Mahul の論文. る(例えば電子支払いの利用を拒否している)こ  金融ツールの過少利用に関して責めを負うべき とを選好しているのかもしれない.あるいはリス は人々だけにとどまらない.金融会社の企業統治 ク管理のために金融ツールを使う利点を理解して が悪いことが金融包摂が低いことの要因になって いない公算がある.加えて,金融リテラシーが低 いる.短期的な利益の最大化に焦点を当てる歪ん いため,人々はしばしば多くの途上国(アルバニ だ動機は特に問題である.顧客の基盤や金融ツー ア,ナイジェリア,フィリピンなど)で出現し ルの幅を広げるためには,時間や努力,そして先 ては破綻するポンジー・スキーム〔訳注:ねずみ 行投資が必要である.多くの金融会社は金融ツー 講〕に参加してしまう.それが公式なものも含 ルの設計や提供に当たって,リスク・プロファイ め,いかなる貯蓄取り決めであれ,消費者の信頼 ルやリスク管理目標を含め,顧客の要求を十分考 を損なってしまった公算があろう. 慮に入れてこなかった.メキシコでは,低所得の 234 世界開発報告 2014 ボックス 6.4 老齢期の所得損失リスクに立ち向かうための個人年金保険  世界全体で約 7 億人が 60 歳を超えており,この数字は いなかった.後の評価は,2 年間にわたって払い込ん この先の 40 年間以内に 16 億人にまで増加するものと予 だ保険料はわずか 1 カ月分の給付金を賄うにとどまっ 測されている.これらの人々の大多数は途上国に居住し ていたことを示している.それは他の保険商品も販売 ており,そこでは老齢期に所得を支援する政府プログラ していた当該機関全体の自己資本を脅かす事態に陥っ ムはほとんどない.先進国の政府は退職の準備をしなかっ ていたということである.1999 年に退職所得業務は た人々のために,各種の公的所得扶助プログラムを整備し 同機関から分離されて確定拠出型制度に転換されたた ている.しかし,高齢人口の増加と労働人口の減少は,こ め,当初からの加入者は大きな損失をこうむった. れらのプログラムの現行水準での存続可能性を脅かして ・ 2001 年にバングラデシュのグラミン銀行はグラミン年 いる.存続可能性は別として,途上国ではそもそもそのよ 金制度を導入した.この制度にはローン商品に退職貯 うな取り決めがほとんどない.というのは,政府にそれを 蓄商品を強制的に組み合わせており,借り手は月当た ファイナンスし管理する能力が無いからだ. り最低 50 タカの拠出が義務付けられている.借り入  政府の支援がなかった時期,高齢者向けの所得は伝統的 れ予定者は老後のために貯蓄をする必要性があること には家族や社会的ネットワークから出されていたが,これ が指示されている.銀行は拠出金にかかわる所得に寛 は今や崩壊しつつある.出生率の低下は小家族という結果 大な補助金を提供しており,定期的な積み立てをして をもたらし,急速な都市化は高齢者およびその家族と社会 いる個人の拠出額を 2 倍にしている.その代わりに, 的ネットワークの距離を広げつつある.途上国は間隙を埋 銀行は年金基金から利益を享受している.同基金は銀 めるためにますます個人年金システムを頼りにしつつあ 行が零細ローンの供与という主要な業務を遂行するた る. めに,利用可能な資金のプールを増やしてくれるから  高齢者に公式な所得扶助を供与することは,政策当局と だ. 民間提供者の両方にとって数多くの挑戦課題を提起する. ・ ケニアの国家ジュアカリ年金制度は,2011 年にケニ それには以下が含まれる:老後のために貯蓄しておく必要 ア・ジュアカリ協会国家連合と退職給付機構によっ 性を認識させると同時にその実践を動機付けること,支援 て開発された任意の年金貯蓄プログラムである[訳 を供与できる機関に対する信頼を確立すること,費用効果 .運用開始 注:ジュアカリは現地語で「職人」の意] 的な配分システムを開発することなど.このような挑戦課 から最初の 12 カ月間で 2 万 5,000 人の加入者があっ 題は,過去 20 年間に実施されてきている非常に数少ない た.2012 年 6 月までに四半期ごとの拠出金のフロー 民間部門プログラムの一部において,以下の通り有効に取 は 700 万ケニア・シリング(8 万 2,000 ドル)を超過 り組まれている: した.この制度の初期における成功に寄与した重要な 特徴は,監督者や非常に尊敬されている業界団体によ ・ フィリピンの CARD という非政府組織による初期の不 る確固とした承認,低い販売コスト(アクセスは携帯 成功に終わった試みは,退職所得商品については企画 ,ファンド管理コストに補助金を出す 電話経由のみ) と価格設定が重要であることを例証している.1996 用意のある投資マネジャーなどにある. 年に CARD は会員に対して,65 歳の誕生日から死亡 するまで毎月 300 ペソ(5.45 ドル)を支給する商品  どのようなものであれ個人年金イニシアティブが成功 を導入した.代わりに,会員は退職するまで週当たり するためには,法律および規制上の健全な枠組み,強力で 2.50 ペソ(0.05 ドル)の保険料を拠出する.この商品 有能な監督者,良い企業統治,慎重な投資慣行,費用効果 は極めて人気が高かった.しかし,CARD はこの商品 的な管理と販売システムが必要であろう. が当該機関の財務状況に及ぼす影響に十分取り組んで 出所:WDR 2014 のために書かれた Anthony Randle の論文. 消費者は,零細金融機関よりも質屋のほうが価格 「休眠」やその他の料金賦課によって,銀行貯蓄 の透明性が高いことを見出していた.また,自分 勘定の価値は 3 年間で 1 万 5,000 ペソから 9,000 の貯蓄の保有先に関しては,銀行よりもデパート ペソに減少したことを指摘している 14. を信用していた.一部の消費者は,「デパートは 何もくれないが,少なくとも何も奪わない」と述 公的な政策は金融手段の利用拡大を手助けできる べて,銀行が貯蓄勘定に課しているさまざまな  経験が教えるところでは,金融部門に対する直 手数料や隠れた料金を指摘した.ある消費者は, 接的な政策介入は,特にリスク管理にかかわる共 CHAPTER6 リスク管理に金融システムが果たす役割 235 図 6.3 公式および非公式な貯蓄と借入は国の発展に伴って変化する a. 貯蓄 b. 借入 高所得国 45  14  42  高所得国 14  17  69  中所得国 18  13  69  中所得国 8  26  67  低所得国 11  18  70  低所得国 11  33  56  0  20  40  60  80  100  0  20  40  60  80  100  対人口比(%) 対人口比(%) 公式に貯蓄 他の方法で貯蓄 公式信用 非公式信用 貯蓄せず 借入せず 出所 World Bank Global Findex (database); Demigrüҫ-Kunt and Klapper 2012 からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成. 注:図は前年に貯蓄あるいは借入した成人の割合を示す. 同責任に関して,意図せざる結果をもたらし,適 政策介入による意図せざる結果を最小化 正な動機を歪める懸念がある.歪曲させる効果の • 直接的な公的介入は金融業者と顧客のインセ ありそうな介入策には,信用にかかわる補助金 ンティブを歪め,またリスク管理に向けた努 と保証が含まれる 15.政治的な支配やロビーは, 力を台無しにする.これらを回避するために 多くの場合に,経済に信用の誤った配分をもたら は,公的介入は慎重に設計され,控え目に実 す.また多くの場合に,設計が貧弱な金融教育プ 施されるべきである.場合によっては,補助 ログラムは,すぐに陳腐化するため望むような結 金や公的保証は,民間保険への加入を奨励し 果を得られず,消費者の金融スキルの中に経済に て,政府の偶発債務の一部を民間保険業者に 関して誤った信頼を築いてしまう 16.多くの小 シフトするのに有益であろう.このことが可 さな途上国は十分な金融インフラを欠いている 能な業者には農業や健康,年金の保険が含ま が,民間部門が存続可能な形で開発するのは市場 れる(ボックス 6.3). 規模が小さいために困難である.したがって金融 • 国家は介入策の費用効果性を確保し,意図せ インフラは,金融包摂と開発のいっそうの進展を ざる結果を回避するために,設計の良い対象 可能にするためには,おそらくは官民パートナー を絞った金融教育プログラムを実施すべきで シップを通じて,開発を国家の参加を得て行う必 ある.このような問題を克服するために,国 要があるだろう 17.金融サービスへのアクセス 家は正規の公教育教課程に金融事例を盛り込 があるところでさえ,健全な金融包摂はサービス む,あるいは金融教育プログラムについて 提供にかかわる消費者保護が無いことによって窮 適切な設計,実施,および継続を確保するた 地に陥る公算があろう 18. めに,民間部門とパートナーシップを形成す  公的な政策はリスク管理のために,金融手段の る,といったことを考慮すべきである 19. 利用可能性を高め,利用を拡大するために何がで きるか? 本書の概念上の枠組みに加えて経験か 有用で革新的な金融商品の導入にかかわる障害の らの教訓では,以下の諸点が指摘される. 克服を後押しする • 他の直接的介入策も望ましいかもしれない. 国家としては存続可能な革新的金融商品が 236 世界開発報告 2014 規模を達成し,金融包摂を増大させるのを とが許可されている 21. 後押しすることができる.例えば,政府対 • 規制改革は金融オンブズマンなどの適正な執 個人(G2P)支払いを導入する(インドの 行・紛争解決の仕組みを含め(メキシコと南 NREGA G2P プログラムのように)20,自 アフリカはともに消費者金融における紛争 動車や住宅抵当の保険を義務化する,あるい 解決のために金融オンブズマンを設置してい は,大口取引や税控除対象経費について電子 る),有効な消費者保護の枠組みの創設に焦 支払いを義務化することなどが含まれる.金 点を当てるべきである 22.鍵となる目標は 融包摂を推進するための最善の解決策を模索 金融機関に対する信頼を浸透させることにあ するに当たって,国家は民間部門との連携を る.これには小売預金に十分な保険をかける 検討すべきである(ボックス 6.3,6.4 を参 ことや,ミクロ・プルーデンス監督の質を改 照). 善することも含まれる.ミクロ・プルーデン • インフラの改善は,支払いや証券決済のシス スやビジネス慣行の規則は――差別化した監 テム,信用情報インフラ(公的信用登記所や 督体制を使って――貯蓄機関や協同組合,信 信用調査機関),担保枠組み(動産および不 用組合などの非銀行預金取扱金融機関,店頭 動産の担保登記所,担保評価,執行,売却) で信用を供与する非金融業者,零細信用・零 などにとって特に重要である.国家は金融イ 細保険の会社,支払い・送金サービス提供者 ンフラの提供に際して,インフラ提供者の統 なども含めるべきである 23. 治を改善し,技術を適時更新することを確実 に行い,継続的な革新を奨励するために,可 情報収集や改革に関するインパクト評価からの学 能な限り民間部門とパートナーを組むべきで 習を組み込む ある.2013 年のビジネス環境指標の指摘に • 国家は金融包摂における不十分な部分を継続 よると,途上国における担保制度の質と信用 的に評価し,改革を監視・評価するために, 情報の深さは,先進国と比べるとそれぞれ約 データ収集の枠組みを開発すべきである.実 30%,60%低い.さらに,適切に規制され 例はメキシコの金融の利用における,すべて た財務代理人が,国家の郵便ネットワークを の挑戦課題をより良く理解するための包括的 拠点として利用することもできるだろう.こ なデータ収集戦略である.データを政策決定 の代理人は接近するのが困難な近隣地区や農 のベースとし,業者のビジネス・モデルに影 村部も含めて,利用が容易な形で金融手段を 響を与え,進展を監視するというものであ 提供することができる. る.2011 年に金融サービス利用に関する全 国家計調査が打ち出された.これは 3 年ご 適正なインセンティブを付与して金融機関に対す とに繰り返され,金融サービス利用にかかわ る信頼を高める る家計の動機と利用拡大にかかわる障害を理 • 国家は次のようなことを通じて市場の発展 解するためのものである 24. を考慮した環境を提供すべきである:電子 支払いにかかわる法的枠組みを策定,貧困 ニーズに合った金融ツールを提供することによっ 層や若年層などの脆弱な人たちのための単 て,貧困層が貧困から脱却することを可能にする 純で低コストの銀行勘定の導入を義務化す • 貧困層を助けるための金融ツールを開発する る,銀行,非銀行金融機関,および電子支 際に,政策当局者や零細金融業者は信頼性, 払いサービス提供者が類似の市場分野のな 利便性,柔軟性および体系という要素を念頭 かで適切であれば相互に競争するのを許容 に置くべきである.1 日 2 ドルという生活に するなど.例えばフィリピンでは,モバイ おける課題は,その 2 ドルでさえ常に確実 ル通信業者は多くの銀行業務を取り扱うこ に手に入るわけではないことだ 25.したがっ CHAPTER6 リスク管理に金融システムが果たす役割 237 て,信頼できる所得の入手に代わる次善の策 40 年間における銀行危機下における産出の平 は,信頼できる金融パートナーやポートフォ 均損失は,先進国(対 GDP 比 32.9%)と新興 リオをもっていることである.利便性と柔軟 国(同 26%)の両方で大きかった 27.しかし, 性も重要である.というのは,貧困層は家の 低所得国の平均損失はずっと小さかった(実質 近くで,困難なく頻繁に貯蓄を出し入れし, GDP の 1.6%).これは金融サービスの普及率が ローンを返済する必要があるためだ.貧困層 低かったことが原因であろう.ヨーロッパ・中 が長期的に貯蓄を構築するためには柔軟性が 央アジアは,2008 年の銀行危機の波によって 必要であり,短期的な困難が貯蓄勘定の利点 とりわけ大きな影響を受けた.同地域の家計の (例えば資金の預け入れ遅延に伴う金利を免 約 62%は主に賃金の減少(失職や賃金引き下げ, 除するなど)の享受が阻害されないようにし 海外送金の減少など)の結果として,所得の急減 なければならない.同様に,「腹が空いた時 をこうむった.このような所得の急減に対処する 期には」再交渉ないし免除が容易で,余分な ために家計が利用した高価な対処戦略には,基本 流動性を入手した時には前払いをすることが 的な消費,保健ケア,および教育の削減が含まれ できる柔軟なローンは貧困層にとって非常に た 28. 便利である.最後に,何らかの体系を提示す  銀行危機などの金融ショックは 4 つの経路― るほうが,自己規律と公約を維持する助けに ―金融システム,労働市場,製品市場,および なる.例えば,計画的な貯蓄やローン返済予 社会サービス――を通じて人々に被害をもたら 定表を通じて,しかも零細金融職員の訪問で –  す.1970  2011 年の 116 カ国における 147 件 後押しさされるという方式が考えられる.零 の銀行危機からの証拠は,銀行危機の影響は労働 細金融機関や一部の主流金融機関は,貧困層 市場を介して家計に伝わるものが最も大きいこと や極貧層の金融包摂を改善するために,非政 を示している 29.信用市場を介した影響はそれ 府組織によって運営されている成功している ほど重要ではないようである.銀行危機が通貨危 プログラムを検討すべきであろう.そうすれ ば,顧客基盤の拡大や新規の持続可能なビジ ネス機会の探求のために,多くの有益な教訓 が得られるだろう 26.   お会計  金融包摂がうまく機能すれば,それは開発を促 進し,貧困の軽減に役立つ.しかし,金融包摂が 行き過ぎたり,金融システムがリスク管理を誤っ たりすると,金融危機が発生して社会全体に大き .金融危機の な費用負担をもたらす(漫画 6.1) 原因,影響,回避ないし管理する方法を以下で検 討する. 金融危機は人々に損害をもたらす:どのよう にしたら防げるか? お客様のカードは問題ありませんが, お客様の銀行が破綻していないかを 金融危機は人々に直接的にも間接にも損害をもた 確認しています. らす 漫画 6.1 ファイナンスは助けになるが痛みをもたらす  銀行危機は人々の富や人的資本,所得,健康, こともある 身の安全に影響する.ある指標によれば,過去 ©Matt Cartoon, The Daily Telegraph(2009 年 1 月 18 日) 238 世界開発報告 2014 機(自国通貨の大幅な減価)と同時になった場合 産を購入して,巨額の利益を上げることができ にだけ,相対価格の大きな変動が製品市場経路を る. 介して伝達され,それが農村部よりも都市部の家 計に大きな影響を及ぼす.社会サービス経路に システミック・リスクがどのようにして金融危機 関しては,ロシアの証拠が示唆するところでは, に転じるのか? 1998 年に銀行・通貨・公的債務の危機が発生し システミック・リスクは金融循環を通じて蓄積す た際,公共部門はその影響を悪化させずにむしろ る.金融システムは当然ながら正循環的である. 緩衝剤となった. 正循環性は金融仲介者の行動または実体経済の正  マクロ経済政策,金融部門の構造とインフラ, 循環性から生じている 31.金融循環は景気循環 公式セーフティネットの設計などが,緊急危機が と強い関係がある.特に住宅価格の崩壊は長く深 人々に及ぼす影響を増幅ないし軽減するのに重要 い経済不況と同時に起こる一方,信用の急増と住 な役割を果たしている.家計の特性やミクロ経済 宅価格の上昇は力強い景気回復と時期を同じくす システムも決定的な役割を演じている.得られて る.さらに,金融循環は一国内でも(信用と住宅 いる証拠は次のことを示している.労働市場経路 価格の循環),各国間でも(信用と株式の循環) を通じて家計に伝達される所得ショックを緩和す 非常に同時性が強い.金融と実体経済の循環は一 るのに最も重要な役割を果たしているのは,家計 緒に動くだけでなく,銀行危機はマクロ経済(公 所得の多角化,非公式信用へのアクセス,耐久消 的債務や通貨の)危機に波及し得る.1997 年に 費財在庫の蓄積などである.非公式信用へのア マレーシアではそれがみられ,98 年のロシアの クセスは新興国や途上国では 2008 年危機の影響 銀行危機は逆にマクロ経済危機からの波及が引き に対して,重要なミクロ経済的な緩和剤であった 金となった. が,先進国ではそうではなかった.銀行危機に急  コロンビア(1982 年)やタイ(1997 年),ウ 激な通貨の減価が伴った諸国では(ハンガリーと クライナ(2008 年)の銀行危機では,それに先 ウクライナ),一部家計による危機以前の外貨債 立って,それぞれ年 40%,25%,75%もの過剰 務(ユーロやスイス・フランなど)の累積が所得 な信用の増加があった 32.したがって,すべて ショックの影響を大きくした 30. の国にとっての重大な関心事は,多すぎでも少な  公式金融のツールへのアクセスと利用も,人々 すぎでもない適量の「均衡」信用の提供である. が金融危機の影響によりうまく対処するのを手助 国際的な基準設定者は均衡信用を信用の対 GDP けできる.2008 年の銀行危機の際,所得の急変 比率――統計的フィルタリングを通じて得られる で苦しんでいたヨーロッパ・中央アジアの家計の ――のトレンドとして推定するよう提案してい 間では,銀行勘定ないし銀行信用へのアクセスを る.そのようなアプローチは単純で透明にみえる 有していなかった家計は,そのようなツールを有 が,その純粋に統計的な性格は,経済および金融 していた家計よりも高価な対処戦略をより頻繁に の動向によって引き起こされる均衡信用の基本的 –  (14  16%多く)使った. な変化を無視している.金融の発展と安定の間で  銀行危機では,富裕層と貧困層の間の所得再分 より良い均衡を図るために,学術文献は開発が均 配効果が大きくなり得る.例えば,裕福な投資家 衡信用に及ぼす影響を説明する体系的な枠組みを は情報により通じている傾向が強く,素早くポジ 提案している 33. ションを手仕舞いして,損失を限定的なものにす  途上国の銀行システムはシステミック・リスク ることができる.さらに,裕福な個人は有利な取 により一層さらされている.国内貯蓄が短期で, り扱いを受けたり,危機の時期に課された規制を 多くの場合は少ないにもかかわらず,大量の投資 免れたりする傾向がある.加えて,危機の時期に ニーズがあるため,どうしてもシステミック・リ は裁定のための大きな金融移転や好機が出現する スクが倍加する.というのは,実体経済における ことがあり,財力のある投資家は大幅な割引で資 投資関連の資金調達の要求(典型的には据置期 CHAPTER6 リスク管理に金融システムが果たす役割 239 図 6.4 銀行の全体的な借換リスクと外貨ミスマッチが,途上国ではシステミック・リスクを増大させることがある a. ヨーロッパ・中央アジアは外貨貯蓄 b. 世界中の銀行のバランスシート上で への依存度が異常に高い 外貨はミスマッチ 200  80  180  (FX預金 ー FX融資)の 60  160  対総融資比率(%) 140  40  預貸率(%) 120  最大値 20  100  80  0  60  平均値 ‒20  40  ‒40  20  0  ‒60  最小値 ン ジ ・ リ ・ 平 ・ リ ・ リ ・ テ 平 ・ ア フ 南 カ カ S パ CI テ ア パ カ カ 太 ア フ 東 フ 東 ラ 太 ア ジ ア ラ以 リ リ ッ ア ア 東 ブ 洋 サ カ カ カ ン 洋 ラ 央 ッ リ ジ ア 中 ア 中 ジ ア フ メ ロ リ 中 ロ メ ア ア 南 ハ ア ア ー ー ヨ ヨ 興 北 北 新 :Chitu 2012 ( パネル b). 出所:World Bank FinStats (internal database) からのデータに基づく WDR 2014 チーム(パネル a) 注:パネル a のデータは 2008 年末現在.パネル b の地域は Chitu 2012 のグループ分けにより,データは 2006 年末現在.CIS= 独立国家 共同体.FX= 外貨. –  間 2 年間で満期 7  8 年)に対して,銀行は短期 改善するからだ(金融派生商品という革新的な –  (一般には 6  12 カ月間)しか融資できないから 金融手段を通じるものも含む).他方,金融業者 だ.より長期の融資を得るために外国の貯蓄を利 の相互連関したバランス・シートは,共同の金 用すると,銀行部門全体は借り換えリスクにさら 融インフラに参加していることを通じて,全国 され,外貨を借りた銀行あるいは借り手は債権と 的な,さらには国際的な金融システムを通じて 債務のミスマッチに直面する(図 6.4).もう 1 もショックを拡散し,時にはそのショックを増 つの,小さな途上国で軽視されていることが多い 幅し得る 35.悪いショックは,1 つのシステム システミック・リスクは,貸出が小数の借り手あ 上の重要な機関における問題が,あるいは,多く るいは実体経済部門に集中していることから発生 の金融機関が商業不動産などの単一の資産クラス している.開発の初期段階では,途上国は外国貿 と関連性を有していることが引き金になることが 易を開放していく場合に特定の部門に特化するた ある.欧米銀行の相互連関性および影響を受ける め,当然ながら貸出は数少ない経済部門に集中す 要因が共通しているということが,2007 年のア ることになる.経済構造が多角化するのは当該国 メリカのサブプライム住宅抵当危機を最初にヨー の所得がより高い水準に到達して以降のことであ ロッパに伝播させ,その後,ヨーロッパの親銀行 る.貸出の集中は次のような理由からも生じるこ や子会社・支店相互間の結び付きを通じて,新興 とがある:金融インフラの未発達,関連当事者貸 ヨーロッパに波及した.相互連関性の次の 2 つ 出,ピラミッド型の所有制度,金融システムにお の側面が途上国にとっては特に重要である.それ ける競争の全体的な欠如など 34. は銀行の闇の銀行システムとの結び付きと,クロ ス・ボーダー銀行業である. 相互連関性はリスクを 1 つの機関(固有リスク)  途上国では,闇の銀行部門というのは,経済に からシステミック・リスクに転換し得る.一方で 代替的な源泉の資金を供与することに焦点を当て は,金融機関の相互連関性は金融の発展にプラス ている金融業者で構成されている 36.このよう 効果をもち得る.というのは,それは金融市場の な業者にはリースやファクタリングの会社,信用 完全性を促進し,平常時には金融リスクの分布を 組合,協同組合,零細金融会社,質屋なども含ま 240 世界開発報告 2014 れる.タイでは同部門が金融システムの 40%近 クに対応して,貸出を削減したり,受入国から –  くを占め,ブルガリアでは同シェアが 2003  10 完全に撤退したりすることを決断するかもしれ 年に 14%ポイントへと急拡大した.闇の銀行に ない.多くの諸国は外国銀行に対して支店では 関する懸念は,主として銀行と非銀行金融機関 なく,自己資本をもつ現地法人を通じた営業を の間における規制上の裁定(自己資本要件が最 義務化することによって,そのようなリスクを 低の機関を介した融資)に関係している. 何とか管理している.政策によるクロス・ 途上国は,闇の銀行が確実に,許容 マク ボーダー銀行業を管理するための地 できないシステミック・リスクを ロ・プルーデンス 域的な取り組みとしてはウィーン・ 生み出すことなく,代替的で安 規制当局を独立させ,適 イニシアティブがある.これに 全な金融サービスの提供の役に 切な政策ツールを付与する よって,2009 年には地域的な銀 立つようにする必要がある.加 ことが,システミック・リ 行グループが中央・中ヨーロッ えて,一部の諸国では(サウジ スクの管理が成功するた パから流動資金を引き揚げるの アラビア・アラブ首長国連邦・マ めの基本である. を阻止することができた 40. レーシアなど),イスラム金融(銀行 業と保険業)などといった他の様式の金融 伝染の可能性はシステミック・リスクを が,システム上重要であると認められるまでに いっそう増幅することができる. 伝染というの 増加してきている.ただし,2011 年現在でみて, は,典型的にはシステミック・リスクの顕在化 その資産は 0.9 兆ドルにとどまり,世界全体の に伴って信認が崩壊することと関係がある.伝 銀行資産のわずか約 1.5%を占めるにすぎない. 染が発生すると,銀行預金について取り付け騒 イスラム系銀行は通常の銀行と比べて費用効果 ぎが生じたり,金融や資産の市場が膠着化した が劣るかもしれないが,自己資本が充実してお り,あるいは両方が起こりかねない.最近の事 り,資産の質が高く,したがって,危機の時期 例は 2008 年におけるリーマン・ブラザースの でも金融仲介不能に陥る可能性が低い 37. 破綻である.これによって短期金融資産運用型  銀行のクロス・ボーダーな活動を含む金融の ミューチュアル・ファンド(MMMF)に対する グローバル化は,国内経済を国内のショックか 信認が崩壊した.リーマン破綻から 4 日後,ア ら保護すること含め,多くの利益を伴っている. メリカ政府はこの部門全体に対する保証の発表 –  2002  12 年の間に,先進国の銀行が途上国の銀 を余儀なくされた.途上国では,伝染というの 行に供与した資金は,約 0.4 兆ドルから 1.7 兆 は主として預金者の信認と関係がある.という ドルに増加した.これは年平均換算では 1,300 のは,銀行は先着順の預金という形の要求払い 億ドルもの流入に達する 38.2012 年現在,グ 債務で,長期の非流動的な資産を賄っているた ローバルに活動しているシステム上重要な金融 め,預金者はそれを本来的に不安定であると考 機関(G-SIFI)は,発展途上 43 カ国に 71 のシ え得る.預金者が先に引き出して,自分の預金 ステム上重要な子会社ないし支店(現地 SIFI) は一銭も残っていないのではないかと恐れる場 を有している.ブラジル,メキシコ,ペルー, 合,銀行取り付けが発生する.途上国にとって およびウルグアイは G-SIFI との間に最も大き 重要な伝染効果はクロス・ボーダー銀行業とい なシステム上のリンクをもっており,各国には う状況で発生することがある 41. G-SIFI にリンした現地 SIFI がブラジルには 6 つ,残りの3カ国には4つずつある 39.このよ 金融業者と過去の政策はどこで最も失敗したの うな先進国との関わりの増大は,国内経済を外 か? 国のショックにさらすということも含め,金融  最近,企業統治の悪さ,民間のインセンティ の安定性に危険をもたらす懸念もあろう.例え ブの歪み,利益最大化という短期的な視野,調 ば,外国の銀行は母国におけるマイナスのショッ 整の失敗などが,過度なリスク・テイキングを CHAPTER6 リスク管理に金融システムが果たす役割 241 もたらした 42.金融業界では企業統治の実施が 不確実性は,金融システムの運営と実体経済の回 大体においてうまくいっていないため,銀行家 復を阻害した.多くの場合は,政府の規則や監督 (マネジャーから融資担当者に至るまで)は,不 能力に対する期待が過大だったのである.場合に 適切な報酬政策を含め,支配的であった歪んだ誘 よっては,より選別的な政策介入のほうが予期せ 因によって,短期的な利益の最大化に走り,警戒 ぬ結末を最小化して,より適切だったのかもしれ すべきリスクを無視していた.銀行マネジャーは ない. 一般的に過剰な金融リスクをとることに十分な個  加えて,システミック・リスクを規制する公的 人的責任を負っておらず,悪い慣行について法的 政策のなかには,金融業界によって支配されてし な説明責任を問われることはない.さらに,SIFI まったものもある 44.2008 年のグローバルな金 を含む金融業者は,システミック・リスクに対す 融危機の観察は,システミック・リスクの監督, る自分自身の関与(マイナスの外部性)を無視し 危機の解決,将来の規制上の改革は業界のロビー ており,市場の規律はこのような外部性の検討を から大きな影響力を受けたことを示している.永 強制することに失敗している.透明性と情報の明 続的な挑戦課題は金融業界や政治家による「ひっ 確な開示は適切なインセンティブを達成するため たくり」を否定できると同時に,公的機関が社会 に重要であるが,ほとんどの場合,金融システム 福祉を改善する強力なインセンティブを生み出す はそのような仕組みを実施していない.このよう 仕組みを創設することだ 45.規制当局を政治的 な環境下で,投資家(債券保有者や株式保有者) および財政的に独立的にすることがこの方向に向 は金融業者の動機を正しくするためのモニタリン けた第一歩になろう. グや規律順守の機能を遂行することに失敗した.  公的政策のなかには,責任をもってリスクを システミック・リスクと銀行危機を管理する政策 管理するための民間部門のインセンティブを歪 は何が最善か? め,システミック・アプローチを欠き,モラル・ マクロ・プルーデンス政策を追求. マクロ・プ ハザードになる行動を後押ししているものがあ ルーデンス政策はシステミック・リスクを管理 る.規制上の失敗は金融システムの運営における し,それを社会的に許容可能な水準に維持するこ 政府関与の適切な水準に関して,問題を提起して とによって,金融の安定性を高めることを追求す いる.監督者は,銀行のリスクを適切に測定す る.そのような政策が必要なのは,金融機関の財 る,あるいは予想外の損失を信頼できる形で吸収 務的安定性や個別レベルの行動に焦点を当てる政 できるように銀行に十分な資本要件を強制すると 策措置は,全体的なレベルでの金融安定性を高め いうことをしていない.監督者は破綻銀行のタ るには不十分だからである.個別金融業者の行動 イムリーな清算を設計し執行することもしてい はシステミック・リスクの累積を許容する負の外 ない.そうしていれば,問題のある SIFI から納 部性を作り出し得る.加えて金融財政政策は,特 税者が受ける影響を制限できていたであろう 43. に途上国では,金融システムのシステミック・リ SIFI に関する清算の枠組みが有効性を欠いてい スクの管理に効果がない可能性がある. るため,政府による救済の期待につながる.こう  中央銀行は(チェコや南アフリカ,タイのよう して,SIFI は利益を私物化する一方,損失は社 に),マクロ・プルーデンス政策の責任を負うと 会化する傾向にある.加えて,多種多様な公的な いう点で最適な立場にある 46.第 1 に,マクロ 保証や補助金(家計向けの貸出しを含む,暗黙の 経済動向の監視に優位性がある.第 2 に,マク ものと明示的なものの両方)が,銀行と顧客の両 ロ・プルーデンスの監督を中央集権化すれば,特 方のリスク管理をしようという動機を歪めてい に中央銀行が銀行部門の規制官でもある場合に る.最近,発展途上の数カ国では政府による金融 は,危機管理活動の調整を改善することができ 部門改革の速やかな決定と,調整,そして実施が る.第 3 に,中央銀行が遂行している金融政策 失敗に終わった.このことがもたらした規制上の の決定は,金融の債務負荷やリスク・テイキング 242 世界開発報告 2014 に潜在的な影響を及ぼす.マクロ・プルーデンス デンスのツールは,マクロ経済管理の分野でより 政策における最優良の事例は,マクロ・プルーデ 幅広く使うことができる(第 7 章).興味深いこ ンス政策委員会――金融政策委員会に類似してい とに,新興市場国は先進国との比較で,マクロ・ る(例えば,イングランド銀行のマクロ・プルー プルーデンス・ツールを用いる可能性が 3 ~ 4 デンス委員会)――によって遂行されており,こ 倍も高い 52.例えば,2011 年に韓国は外国資本 れは広がりつつある 47. の投機的な流入を規制するために,銀行の非中核 的金融負債に対して 0.2%の課徴金を賦課した 53. システミック・リスクに関して適切な指標を選択. マクロ・プルーデンス手段のなかには,金融循環 システミック・リスクを評価および監視するため の上昇局面で発生する外部性を緩和することを意 に,マクロ・プルーデンス監督官は,ストレス・ 図したものもあれば,何らかの破裂を緩和するた テスト,早期警告モデル,システム上の重要性評 めのバッファーを蓄積しておくために使われてい 価などの分析ツールを用いる.システミック・リ るものもある.例えば,債務対所得比率やローン スクの評価と監視は先見的かつタイムリーで,受 対価値比率に関する上限規制は,ブーム期におい 領した情報に基づいて政策当局が行動を起こせる てリスクとの関わりを削減するのに有効であり, ことを確実なものにするため,ユーザーに配慮し 追加的な資本や準備金の積み増しなどの反循環的 て提示される必要がある.マクロ・プルーデンス なバッファーは,深刻な下降期における過度な債 のストレス・テストは,システム全体の極端では 務減らしの緩和に役立つだろう.いずれにして あるが起こり得るショックに対する強靭性を評価 も,マクロ・プルーデンス手段の使用は当該国の するための, 「もし起こったらどうなるか」とい 特性に合わせて微調節される必要がある 54. うシナリオ演習である 48.早期警戒モデルとシス テム上の重要性評価は途上国ではあまり一般的で 将来の金融危機の有効な管理に向けた危機対応の はなく,依然としてストレス・テストに関する実 備えに焦点を当てる.危機の際,政策当局は市場 際的なアプローチを構築・利用しようとしている 情勢に関して深い不確実性に直面する.決断およ 段階にある.実際性と説明責任の観点からすると, び行動するための専門知識を動員し,法制化され 主要な一連の単純で健全な金融指標の監視のほう ている危機管理ツールを透明な形で活用し,不確 が,複合指標や複雑なモデルからのアウトプット 実性を抑制するためには世論と対話を行い,モ を巻き込んだより複雑なアプローチよりも好まし ラル・ハザードが大きくなるのを回避するため い 49.中央銀行はしばしば金融安定性報告書の一 に,適切な損失分担を確保できなければならない 環として,このようなシステミック・リスク評価 (ボックス 6.5).銀行危機の解決は常に各国で異 を発表している.これは市場参加者に警告を与え, なっているであろう.というのは,法的枠組みが これを一般大衆に知らせ,マクロ・プルーデンス 違うからである,しかし,解決は財政コストを最 監督官の説明責任を高めるためである 50. 小化し,将来のモラル・ハザードを回避するとい う最重要事項について妥協すべきではない.銀行 マクロ・プルーデンス・ツールを各国の特性に合 に対する広範な流動性取り付け騒ぎの懸念がある わせて微調節.システミック・リスクを管理する ということは,通常は包括的な保証が銀行のすべ ために,マクロ・プルーデンス監督官は,レバ ての債権者に供与されるということを意味する. レッジや信用増加,債務所得比率などに対する上 銀行に対する流動性支援は早いうちに供与される 限に加えて,可変資本バッファーや動的引当な 必要があるものの,無制限の流動性支援はかえっ どの政策ツールを使っている(表 6.1)51.マク て危機を長引かせ,将来的にマクロ経済リスクを ロ・プルーデンス政策ツールは特に金融部門にお もらす懸念がある(第 7 章)55.中央銀行によ けるシステミック・リスクの管理手段として利用 る緊急流動性支援の供与は支払い能力のある銀行 が増加している.資本規制などのマクロ・プルー だけに限定すべきである 56.支払い能力の無い CHAPTER6 リスク管理に金融システムが果たす役割 243 表 6.1 マクロ・プルーデンス手段の分類 主要な措置 主な特性 国の実例 借り手対象 借入対価値の上限 高借入比率から生じる脆弱性を削減 ブラジル,ブルガリア,カナダ,チリ,中国,コロンビア,クロ アチア,フランス,香港,ハンガリー,インド,イタリア,韓国, マレーシア,メキシコ,ノルウェー,フィリピン,ポーランド, ルーマニア,シンガポール,スペイン,スウェーデン,タイ,ト ルコ 負債対所得の上限 高借入比率から生じる脆弱性を削減 中国,コロンビア,香港,韓国,ポーランド,ルーマニア,セル ビア 金融機関対象(資産側の取り組み) 信用増加上限 信用の増加を直接削減 中国,コロンビア,マレーシア,ナイジェリア,セルビア,シン ガポール 外貨融資限度 外国為替のリスクを削減,信用の増加 アルゼンチン,オーストリア,ブラジル,ハンガリー,ポーラン を直接削減 ド,ルーマニア,セルビア,トルコ 金融機関対象(負債側の取り組み) 支払準備 資金調達リスクに対する脆弱性を削 ブラジル,ブルガリア,中国,コロンビア,ロシア 減,信用の増加を直接削減 金融機関対象(銀行バッファーの取り組み) 動的貸倒損失引当 強靭性を高め信用増加を間接的に削減 ブラジル,ブルガリア,コロンビア,インド,モンゴル,ペルー, ロシア,スペイン,ウルグアイ 反循環的所要資本 強靭性を高め信用増加を間接的に削減 ブラジル,インド 利益配分制限 悪い時期に資本バッファーの補充に資 アルゼンチン,コロンビア,ポーランド,ルーマニア,スロバキ するべく良い時期の配当支払いを制限 ア,トルコ 出所:Claessens, Ghosh, and Mihet, 近刊に基づき WDR 2014 チーム作成. 注:上表に掲載されている諸国は 2000 –10 年の間のさまざま年に(一部は臨時に) ,該当するマクロ・プルーデンス手段を採用した. 銀行は将来のモラル・ハザードを回避するため 存の法的枠組みの外での場当たり的な介入策を回 に,明確な形で閉鎖されるべきである.迅速な介 避するためである.というのは,それが大きな再 入はコストを削減し,効率性を改善することがで 分配効果をもつことがあるからだ.危機がなくな きる 57. る公算は低いことから,各国は正常な時期にそう いった枠組みを整備するのに,時間と資源をつぎ 民間部門に解決策を求めて,銀行の損失を最初に 込まなければならない. 既存の株主,マネジャー,場合によって付保され ていない債権者に転嫁.システム全体にわたる危 システム上重要な金融機関(SIFI)の破綻を公正 機の場合,国内民間部門で解決策を発見するのは および有効に処理. 破綻 SIFI は迅速に処理され 困難であり,外国による買収や政府支援による合 なければならない.というのは,金融システムの 併が必要かもしれない.銀行危機の財政コスト 他の部分へのマイナスの波及効果を最小化する –  は,1970  2011 年における対 GDP 比の平均で ことと,納税者のお金を保護しながら将来のモ 約 7%(それぞれ先進国 4%,途上国 10%とい ラル・ハザードを最小化することとの間にはト う内訳)であった.コストが最大の銀行危機はイ レードオフがあるからだ(ボックス 6.6).世界 ンドネシア(1997 年)とアルゼンチン(1980 や国内の SIFI の強靭性を改善するために最近は, 年)で発生し,その財政コストはそれぞれ GDP SIFI は損失を吸収し,マイナスの波及効果が金 の 57%,55%に達した 58.全体として,銀行危 融システムの他の部分に及ぶ可能性を事前に軽減 機の管理にかかわる政府の介入や援助は,健全な する能力を速やかに増やせるような自己資本やそ 法的枠組みに基づいている必要がある.それは既 の他の手段をもっているべきであるという提案が 244 世界開発報告 2014 ボックス 6.5 危機シミュレーション演習で銀行危機に備える  危機への備えをテストし,危機管理に関する既存の,あ ・ ほとんどの参加者――国のトップの意思決定者である るいは提案されている取り決めの利用を練習するため,世 ことが多い――はこの演習を非常に真剣に受け止め 界銀行は 2009 年以降,金融システムの政策当局者に金融 て,典型的には 1 日ないしそれ以上の時間を完全に集 危機シミュレーション演習への参加を勧奨している.演習 中してそのことに費やしている.彼らの措置は,演習 の間,参加者は対処しなければならない「シナリオ」を説 「テスト」と考えるか,あ を(おそらく強制された) 明する(総じて悪い)ニュースの流れと,その(現実ない 「練習」と考えるのかに るいは(自由に要請された) し仮定の)法律,規制,および運用の枠組みが提供する よって左右される傾向にある.つまり,演習に参加し ツールを受領する.このニュースは次の 2 つの形で届く. ている一般大衆の代表者の主体性が演習の成功には決 すなわち,1 つは「公的情報」として,すべての参加チー 定的に重要である. ム(金融部門監督当局,中央銀行,財務省,預金保険者な ・ 一般大衆の代表者は親銀行や株主の支援供与にかかわ ど)と市場が同時に入手可能なものとして理解されてい る能力や意欲をしばしば過大評価する.その後,その る.もう 1 つは仮想の人物(アナリスト,銀行検査官,ア 過大評価は典型的には危機の前やその間において公的 ドバイザー,銀行家,ジャーナリスト,外国当局,政治家 機関が行動を起こさないという事態につながり,対処 など)からの「私的情報」である.参加者はシナリオを理 や危機からの回復を長引かせた. 解し,それらの行動を調整するには情報や分析の細部を共 ・ 責任あるすべての当事者があらゆる該当情報を共同分 有しなければならない. 析するよりも,単純な情報の共有のほうがずっと一般  改善を要する分野は,参加者同士の間(典型的には何百 的である. という書かれたメモや電子メールをチェックする)に加え ・ 政府は問題を抱える銀行の解決――事業再編,資本増 て,彼らと仮想人物との間で行われる意見交換の徹底的な 強,合併,閉鎖,および清算などを含む――にかかわ 分析を通じて特定される. る決定を,陰に陽に国有化することによって延期する  サンプル数が少なく,状況が極めて個別である(参加 傾向がある. チームの制度が個別であることと仮想シナリオが提示する ・ 広報の調整はまったくないわけではないが限定的であ 状況の両方に反映されている)ことを考えると,比較や一 る. 般化は困難ではあるが,一部の共通する挑戦課題に関する 参加者の対応策の適切性や,参加者が悪いニュースに対し  演習で観察された判断や言動のなかには,第 2 章で検討 て過小な評価・反応をするのか,それとも過大な評価・反 したように,リスクに直面した際の政策の立案にかかわる 応をするのかに関して,以下のように暫定的な印象を提示 意思決定や措置における認知・言動の失敗を露呈している することは可能である: ものもある. 出所:WDR 2014 のために書かれた Aquiles A. Almansi の論文. 勧告されている 59.危機準備をさらに高めるた 規制上の不確実性を削減.規制上の不確実性は危 めに,SIFI のいわゆる「生前遺言」の作成を義 機からの回復を麻痺させることがある.銀行危機 務化すべきである.これは経営陣や当局が破綻 を管理するための政府介入は,政府の財政ポジ SIFI の迅速な処理を支援するためであり,これ ションや,納税者から債権者や株主に向けた再配 には分割や売却が含まれる.処理には公的資本や 分効果について大きな反響をもたらし得る(例え その他の政府支援の注入が含まれることもある. ば,ユーロ地域における危機解決方法を考えてみ ただし,次のようなことが条件となるだろう.す よ)61.このため,政府は危機の原因を学ぶのに なわち,そのような偶発債務に関しては財政的に 伴って,税政策の見直しや金融規制の改革を余儀 十分な余裕が存在していること,納税者のコスト なくされるだろう.このプロセスは多数の関係者 が最小化されること,大きな再分配効果が回避さ を巻き込み,地域的・国際的なレベルでの調整が れること.もう 1 つの選択肢は SIFI を閉鎖して, 必要かもしれない.その結果,規制改革は長引い システム上重要な部分を臨時の承継銀行に移管す て,その結末は非常に不確実になる.どれだけの ることだ.そうなった銀行は公的当局が所有およ 資本や流動性を保有する必要があるかについて不 び管理した後,適切な時期に売却する 60. 確実な銀行は,貸出を削減するだろう.投資家は プロジェクトを差し控えるだろう.というのは, CHAPTER6 リスク管理に金融システムが果たす役割 245 将来の税金や資金調達のコストに関する不確実性  仮に金融包摂が金融の安定性を高めることがで を考慮に入れると,ほとんどのプロジェクトは財 きるとすれば,公式金融サービスからの排除は不 務的に存続不可能になるからだ.したがって,危 安定性の増大につながり得るだろうか? 金融の 機を受けた税制や規制の改革は,回復を容易にす 排除が高い水準にある諸国の家計(および小企業) るためにはタイムリーで決然としたものである必 は,公式サービスの貧弱な代替物でしかない非公 要がある.そうなるためには,国,地域的,およ 式金融サービスに依存しなければならない 63.極 び国際的なレベルでの調整を改善することが確立 端な場合,非公式サービスは人々のショックに対 され,実践される必要がある. するリスクとの関わりを増大させ,それ自体が不 安定性の源泉になることがある.例えば,非公式 な貯蓄や投資機会として組織化されたネズミ講 金融について発展と安定性の間の緊張関係を は,政治的および社会的な不安と銀行システムに 解決する 対する信頼の欠如という両方の引き金になること  金融包摂の進展と金融安定性の強化の間には, が知られている 64. 重要な補完性とトレードオフが存在する(漫画 6.2).本節ではこのような補完性とトレードオフ 金融包摂が過剰だと安定性は危険にさらされる に加えて,より一般的に金融部門の発展と安定性  各金融サービスすべてに万人を包摂すること に焦点を当てたい. は,社会目的にはなり得ない.アメリカのサブプ ライム危機が示したのは,信用への補助金付きの 金融包摂は安定性をより確実なものにすることが 過剰なアクセスは,甘やかされた略奪的な貸出と できる 合わさった場合には悪い政策だということであ  金融包摂が高まれば,より多くのより多様な国 る.同様に,ロシアでは,消費者信用が 2003 年 内貯蓄が銀行にとって利用可能になるため,金融 の 100 億ドルから 08 年には 1,700 億ドル以上 仲介の効率性と安定性が改善する.その結果,一 にまで急増した.金融リテラシーが低い人々は不 国の銀行システムは逆流しやすい外国資本への依 況期に債務返済負担が増加することを過小評価し 存度を引き下げ,そうすることで安定性を高める ていたため,支出能力の顕著な損傷に直面するこ ことができる.確かに,銀行の貯蓄預金の利用が とになった 65.暫定的な証拠は,過剰な信用増 拡大していたおかげで,中所得国の銀行システム 加は市場情勢が悪化した際には,人々に大きな は 2008 年の危機の時期に,預金引き出しや預金 財政負担をもたらし得ることを示している(図 増加の鈍化に対して強靭になっていたという暫定 6.5b).リスクを付加する「間違った」金融商品 的な証拠が得られている(図 6.5a).同様に,チ を購入した家計は,それが自分の無責任なリス リでは銀行ローン・ポートフォリオの実績は,大 ク・テイキングの結果であろうと,あるいは金融 口ローンにかかわる稀ではあるが予測可能性が低 業者による金融サービスの無責任な売り込みの結 い大きな損失よりも,小口ローンの総損失のほう 果であろうと,みずからの金融の安定性を危うく がシステミック・リスクが小さかったことを示し した.そして集団的に,おそらく金融システムの ている 62.したがって,金融包摂の増大と信用 安定性も危険にさらした.ミクロ・レベルでのそ 割当の分散化は,個別金融業者とシステム全体の のようなリスクとの関わりは,十分なレベルの金 安定性の増大と同時進展したのかもしれない.金 融教育や消費者保護によって緩和することができ 融包摂が高いと,金融の安定性も高めることがで る.顧客のものとマッチするリスク・プロファイ きる.これは,実体経済とそれを下支えしている ルの金融ツールは,金融市場における結果を改善 金融システムの強靭性と安定性を補強できる貯 することができる. 蓄・信用・保険ツールへのアクセスを,家計(お よび企業)に提供することによって可能となる. 246 世界開発報告 2014 ボックス 6.6 金融救済:「潰すには大きすぎる」とモラル・ハザード  国内のシステム上重要な銀行とは,その破綻ないし重大 の解決策は利用不可能かもしれない.それとは対照的に, な問題が国内金融システムの他のところに著しいマイナ 倒産しそうなシステム上重要な銀行に対する公的資金の スの外部性をもたらす銀行のことである.多くの場合,シ 注入は,財務的に持続不可能であり,モラル・ハザードを ステム上の重要性を帯びた銀行は適切な評価方法を用い 増やすことによって逆効果になり,大きな再分配効果をも て事前に特定することができるものの,ストレスを受けた たらし,納税者の犠牲によって倒産銀行の株主や債権者に 市場においては,どの銀行がシステム上重要でないかを事 利益がもたらされる.このことは潜在的に不公正だろう. 前に評価するのは困難である.したがって,仮に銀行が困 一定の市場状況下では好ましい他の解決策の選択肢には 難に陥ったならば,政策当局としては最初にこの銀行が現 承継銀行の創設が含まれる.そうすれば,倒産銀行のシス 行の市場状況下で,利用可能な法的解決策の選択肢や財政 テム上重要な部分は新しい組織に譲渡することができる. の余裕,政治経済学的な要因,金融システムや実体経済に この新しい組織は,公的資本の恒久的な支援がほとんど, 波及効果が及ぶ可能性にかかわる不確実性などを考慮し あるいはまったくなくても,財務省が所有し,銀行監督当 ながら,システム上重要かどうかを決定する必要がある a. 局ないし清算機関が運営する b. このボックスでは,資本バッファー,債権者の損失負担,  システム上重要な銀行の処理に公的資金が使われた場 偶発債務,資産売却などの事前に手配した保険や保護に関 合,政治経済学的な制約が可能性フロンティアを形作るの するあらゆる可能性のある措置を講じた後でも,支払い不 .というのは,公的 により重要な要素となる(パネル a) 能問題を抱えるシステム上重要な銀行に焦点を絞りたい. 資金を供与する議会ないし財務省が意思決定に関与する  利用可能な解決策の選択肢が,システム上重要な銀行の ためだ.処理方法,介入の時期,具体的な執行方法(政府 問題を解決する可能性フロンティアを形作るのに重要な 預金の預け入れ,国有化,承継銀行の活用)などに関する .あらゆる場合に市場性の解決策 要素となる(パネル a) 決定は,政治家や政治的なロビー活動から影響を受けるだ が望ましく,政府からの間接的な支援(監督当局によって ろう c.システム上重要な銀行については,最小コスト解 強制された合併)や直接的な支援(預金保険基金からの信 決策は,問題が実体経済に波及する可能性を考えると,預 用補完を受けながらの購入や引受)も含む.しかし,もし 金保険基金(銀行処理機関)ではなく社会に対するコスト 市場が小さい,あるいは困難な状況にある場合,民間部門 を考慮しなければならない. システム上重要な銀行の処理に関する可能性フロンティア a. 主要な処理選択肢 b. 深刻な不確実性の役割 合併・買収 波及効果のリスク 波及効果のリスク 買取・承継 政策当局の リスク許容度 承継銀行 追加的な オープン・バンク 社会的 アシスタンス リスク モラル・ハザードのリスク モラル・ハザードのリスク 出所:Beck 2011 に基づき WDR 2014 チーム作成.  金融が緊張状態にある時期には,政策当局はシステム上 わけではないということだ.ストレスの時期にあっては, 重要な銀行の閉鎖が引き金となって生じる可能性のあるマ 彼らはこの情報の非対称性を自分が有利になるように活用 イナスの波及効果に関する深刻な不確実性,という追加的 して,適正な値以上の公的支援の増加を陳情することがで な課題に直面する.当局は典型的にはシステミック・リス きる.仮にこの私的な情報が暴露されるとすれば,下側の クや処理可能性に関する事前評価のおかげで,トレードオ 点線で示されるように,波及効果の可能性は実際にはずっ . フについて何らかの考えをもっている(パネル b の実線) と小さいことがわかるだろう.公的資金を使った不必要に しかし,仮にそのような評価が行われていないとすれば, 大規模な救済策はモラル・ハザードを強化し,ずっと大き 政策当局は上側の点線で示されている実際の波及効果の可 な再分配効果を生むため,市場規律と納税者にとって有害 能性を過小評価することになる.事態をさらに複雑にして であろう(パネル b の追加的な社会的リスクを示す影付 いるのは,金融業者はすべての私的な情報を共有している . きの領域) CHAPTER6 リスク管理に金融システムが果たす役割 247 ボックス 6.6 金融救済:「潰すには大きすぎる」とモラル・ハザード(続き)  2001 年のトルコにおけるシステム上重要な銀行の危機 能性があろう.したがって,政府としてはモラル・ハザー は,公的な資本増強プログラムを通じて処理されたが,こ ドや再分配効果を最小化しつつも,困難に陥ったシステム れは「重要すぎて潰せない」と「多すぎて潰せない」とい 上重要な銀行の処理に関して十分な備えをしておくべきで う状況が存在するなかで,最も優れた事例の要素を提示す ある.危機に対する準備の全てにおいて次のような措置が るものであった.トルコの危機は,ある中堅銀行が破綻し 必須となるだろう:システム上重要な銀行の処理にかかわ たことによる銀行システムにおける脆弱性の積み重なり る法的枠組みを策定しておく,システム上重要な銀行につ と,投資家心理の崩壊を契機として発生した.2002 年の いてあらゆる市場条件下で回復・処理を図るプランを作成 公的資本増強プログラムが成功したのは次のような設計に しておく,具体的な市場条件下で銀行のシステム上の重要 なっていたからである.すなわち,厳格な適格基準を通じ 性を決定する,システミック・リスク評価アプローチを整 た公的資金悪用の阻止,資本不足を明確に開示するための 備しておくなど.特に回復プランはシステム上重要な銀行 徹底した監査,銀行所有者の資本増強への義務的な参加 がストレスから回復し,したがって間接的に金融の安定性 など.1997 – 2004 年の間に銀行部門資産の約 20%を占め 全体を高める強靭性とその能力を強化するのに役立つ e. る 21 行が銀行処理機関に移管され,1つを除くすべての 政治経済学な問題に取り組むためには,問題に陥ったシス 銀行が合併,売却,および清算などを通じて 2004 年まで テム上重要な銀行に関する決定は広い基盤をもち,銀行監 に処理された.事業再編プログラムの財政コストと将来の ,および 督当局,処理機関,中央銀行(金融安定監督官) モラル・ハザードを最小化しようというトルコ当局の努力 財務省などが関与すべきである.そのような決定にとって は,トルコの銀行部門側の独立独行と自己規律の増加―― 適正なプラットフォームは,このようなすべての機関が通 銀行のリスク管理改善を含む――に貢献した.その後,こ .加え 常は参加している金融安定委員会であろう(表 6.3) のことがトルコ銀行部門の 2008 年の世界金融危機からの て,アイスランドのカウプシング銀行の場合のように,も 波及効果に対する強靭性を下支えした d. し国内のシステム上重要な銀行の処理が与える影響が国境  特にシステム全体にわたる金融ストレスが発生した時に を越える場合には,処理に当たっては各国相互間の,ある は,システム上重要な銀行は将来的には困難を経験する可 いは地域的な調整が必要になるだろう f. 出所:WDR 2014 チーム. c. Brown and Dinc 2005. a. BIS 2012. d. Josefsson 2006. b. Beck 2011. e. BIS 2012. f. BIS 2010b. 「でも、 われわれが絶対に したくないのは、 彼の創造力を 窒息させることだ.」 漫画 6.2 金融部門政策におけるトレードオフは問題を提起する ©John Cole/The (Scranton)Times-Tribune 248 世界開発報告 2014 図 6.5 慎重な金融包摂は金融の安定性を高めることができるが,行き過ぎると弱める a. 銀行預金アクセスの増大 b. 過剰な消費者信用は過剰債務 は金融の安定性に資する に帰結する 50   = ‒0.4327 ×  45  = 0.2649 ×  y =銀行預金ベースの脆弱性(2007 – SYR  GAB  2  = 0.1312  2  = 0.3544  40  40 y =家計のローン延滞(2010年、%) GRC  30  BGR  LSO  35 PHL  20  BWA  30 ROM  10  SYC  AZE  ISL  PNG GEO  URY  25 VEN  0  AGO  KAZ  UZB  20 LVA  ‒10  YEM  BOL  ALB  IND  HUN  MKD  BGR  ARM  COG  TUR  LKA  15 ‒20  ROM  CPV  ESP  SVK  PAK  ITA  POL  CRI  IDN  AUT  EST  LTU  ‒30  CHN  10 BTN  ARG  EGY  ZAF  MYS  NOR  SVN  CZE  10 THA  PRT  MEX  TUN  年、 ‒40  CHL  5 BEL  RUS  DNK  %) GRD  ‒50  0 0  10  20  30  40  50  60  70  0  20  40  60  80  100  x =銀行預金アクセス(2005 年,%) x =銀行預金アクセス(2005 年,%) 出所:以下からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成――WDR 2014 のために書かれた Han and Melecky 2013(パネル a); European Research Institute Lending to Households in Europe (database); European Union Statistics on Income and Living Conditions (EU-SILC) Survey ( パ ネル b). 注:上図の実線(回帰線)は y 軸と x 軸の変数の間で当てはめられた線形関係を示す.パネル a では,銀行預金ベースの脆弱性は 1 人 当たり所得,銀行のzスコア〔訳注:複数の財務諸表比率に基づく倒産判別法〕 ,銀行危機の発生,実施されている明示的な預金保険な どに依存する.銀行預金アクセスの指標としては,Honohan 2008 による金融サービスへのアクセスに関する複合指数を使った.回帰分 析結果は要求があれば提供可能.データが入手可能なすべての中所得国が含まれている.パネル b では,国は EU27 カ国(アイルラン ドとキプロスを除く)にノルウェーとアイスランドを加えたものである.延滞は消費者ローンの返済にかかわるものである.仮に延滞 を自己申告の財政的負担で置き換えても,あるいは,仮に 2004 – 07 年の消費者信用の年増加を,それ以降の 2008 – 10 年における消費者 信用の破裂の規模を考慮して制御したとしても,分析結果は妥当である. 仮にシステムがその発展が許容する以上のことを るいは供給面での制約(金融インフラの未整備 しようとすれば,やはり安定性が損なわれる や新商品に関する規制上の制限に基づく競争の  一定の発展段階において,金融システムがど 欠如など)のいずれかが原因である.第 3 に, れだけの,どんなサービスを,だれに提供でき 一国の金融システムはそのフロンティアを超越 るかについては,限度があるようだ.この限度 して,監督,企業統治,および市場規律が弱い (金融可能性フロンティア)は供給側(金融シス という環境下で,市場参加者による過度な投資 テム)で金融サービスの供給を牽引し,需要側 やリスク・テイキングを通じて,持続不可能な (個人や企業)で参加を制約している多くの発展 形で拡大することがある.そのような環境のな 要因から影響を受けている 66.第 1 に,ある国 かでは,金融革新――他の違った状況下では金 のフロンティアが経済発展段階との相対比で低 融の深化と包摂を促進し得る――は,特にそれ いことがあるが,その原因としては構造的要因 が利己的で,不必要に複雑になっている場合に (人口密度が低い,経済の非公式性が高いなど) は,金融の安定性に難題をもたらす. と,非構造的要因(契約の執行や財産権の保護,  銀行間の競争はもしそれが金融包摂を改善し, マクロ経済の安定性などが不十分)の両方があ 金融市場を深化させ,許容可能な水準のシステ る.第 2 に,一国の金融システムがそのフロン ミック・リスクに関して有用な革新的サービスを ティアを下回っていることがあるが,それは需 生み出すならば有益である.銀行間の競争が熾烈 要面での制約(金融リテラシーや銀行に対する 化すれば,金融の深さや所得分配,成長,効率性 信頼が低いことからくる自己排除など)か,あ にプラスの影響をもたらす.同時に,銀行シス CHAPTER6 リスク管理に金融システムが果たす役割 249 テムの安定性にとってマイナスの影響を及ぼす らかにしなければならない.国家的な金融部門 こともある.収益に対する圧力が大きくなって, 戦略のサーベイに基づく暫定的な証拠は,ほと 銀行には過度なリスクをとろうというイ んどの戦略文書には意図についての明確 ンセンティブが作用する 67.しか 金融 な声明はあるものの,目標記述に し,競争的な貸出金利は企業家 システムにかかわる 定量可能な指標を盛り込んでい の借入コストを引き下げ,そ 政策は,より多くのより良 るのは半分以下にとどまって の投資の成功率を引き上げ い金融ツールへのアクセスを促 いることを指摘している(表 る.そうすると銀行は自行の 進することと,金融部門における 6.2).ほとんどの文書はシス 貸出ポートフォリオ に関し システミック・リスクを管理する テミック・リスクについて一 てデフォルト率の低下を経験 こととの間の,相乗作用とト 般的に言及しているが,この し,銀行システム全体も安定性 レードオフを考慮しなけ ようなリスクにかかわる具体的 の増大を享受できる.銀行間の競 ればならない. な指標に言及しているものはほと 争と金融安定性の間の緊張関係を形 んどない.若干の例外はあるが,ほ 作ることにおいては,規制枠組みの役割が決 とんどの戦略実施プランは金融開発目標とシ 定的に重大である.システミック・リスクの指 ステミック・リスク管理の間の具体的なトレー 標に注意を払った最近の研究は,銀行間の競争 ドオフを議論していない.ただし,多くの諸国 の増大と金融安定性の増大との間には相関関係 は同じ戦略文書のなかで両目標の達成を公約し があることを確認している 68. ている.戦略はこの部門における最近の動向に 関する定量的な分析で溢れているものの,将来 政策が成功するためには,金融におけるトレード 的な目的を具体化するための定量的なデータの オフと相乗作用を考慮しなければならない 使用が弱い.通常の戦略は(トレードオフの議  国家政府の段階では,国家の金融部門戦略が 論につながる)選択の代わりに,問題に焦点を 金融部門に関する政策を規定する.適切に策定 当てる傾向がある 69.そうではなく,政府とし された戦略は発展目標を設定すべきであり,こ ては政策のトレードオフに明示的に取り組み, の目標はそれの達成と関係のあるシステミック・ 政府は選択を行い,選択ごとに結末が異なって リスクを考慮に入れて,金融分野における国の くるという認識を持って始める,というアプロー システミック・リスクの選好度(許容度)を明 チを採用すべきである. 表 6.2 国の金融部門戦略文書において,金融の発展と安定性の間のトレードオフを考慮しているものはほとんどない 発展目的 明瞭な発展目標を設定 94 発展目標を定量化 42 目標達成のための手段を特定 58 システミック・リスク 目標達成に関連したリスクを特定 94 システミック・リスクを特定 6 システミック・リスクを管理するための手段を特定 53 トレードオフ 発展とシステミック・リスクのトレードオフを広く広報する 11 実施計画 戦略を執行する担当機関を特定 92 発展目標を実施する担当機関を指定 64 システミック・リスクを管理する担当機関を指定 33 出所:WDR 2014 のために書かれた Maimbo and Melecky 2013 に基づき WDR 2014 チーム作成. 注:上表は 36 カ国の標本のなかで,各要件を充足している諸国の割合を要約したものである.なお,この標本は次の 6 地域のそれぞ れ 6 カ国で構成されている:ラテンアメリカ・カリブ,サハラ以南アフリカ,東アジア・太平洋,ヨーロッパ・中央アジア,中東・北 アフリカ,南アジア. 250 世界開発報告 2014 表 6.3 主要途上国における金融安定委員会の構成 国 調整機関 委員長 メンバー インド 金融安定発展評議会 財務相 CB,MOF,証券・保険・年金の規制当局 インドネシア 金融システム安定調査フォーラ 財務相 CB,MOF,預金保険・金融サービスの規制当局 ム メキシコ 金融システミック安定評議会 財務相 CB,MOF,証券・銀行・保険・年金・預金保険の規制 当局 ポーランド 金融安定委員会 財務相 CB,MOF,金融サービスの規制当局 南アフリカ 金融安定監視委員会(暫定) CB 総裁・ CB,国庫局,金融サービスの規制当局 財務大臣 トルコ 金融安定委員会 副首相 CB,国庫局,銀行業・資本市場・預金保険の規制当局 出所:IMF・各国中央銀行・各国財務省からの情報に基づき WDR 2014 チーム作成. 注:CB= 中央銀行.MOF= 財務省.  国家金融部門の戦略は,金融の発展の実践を個 局者をメンバーにしている.このような上級レベ 別の政府機関に,その負託に従って明確に割り当 ルの委員会に対して負託を拡張し,学界や金融業 てるべきである.そして金融の発展は,(確認さ 界から適切な専門家の参加も得て,包括的かつ国 れた)受け入れ可能なシステミック・リスクのレ 家的な金融部門戦略を策定するのが実際的であろ ベルで行われる必要がある.例えば,(モルドバ う.中間的な解決策も存在する.例えばマレーシ のように)財務省(ないし経済省)は金融の発展 アでは,中央銀行が主要関係者――財務省や民間 に責任を負い,中央銀行がシステミック・リスク 部門の専門家を含む――を金融部門政策に関与さ の監督責任を負うようにすればよい.ほとんどの せ,金融(包摂)の発展と金融システムにおける 諸国は金融部門戦略のなかで,一般的に実施に当 システミック・リスクのトレードオフを考慮に入 たる政府機関を総合的な負託に基づいて特定して れた,国家的な金融部門戦略を策定している. .開発目標を達成するため,ある いる(表 6.2)  金融部門戦略の実施に当たって,直接的な政策 いはシステミック・リスクを許容水準に管理する 介入策のなかには有益なもの(金融インフラの提 ための措置の実施について多くの場合,各国はそ 供など)もあれば,議論を呼ぶもの(例えば国有 れを担当する特定の政府機関があまり明瞭に割り 銀行に対する支援など)もある.ほとんどの公的 当てられていない.金融部門戦略は実施プランに 政策は間接的であるべきであり,また,適正な規 そのような割当を含むだけでなく,常任委員会な 則に焦点を絞るべきである.というのは,直接 どのような実施の調整が行われる仕組みも提示す 的な政策介入は意図せざる結果につながること べきである. があるからだ.それには大きな再分配効果や民  金融部門政策について主要な関係者を含め,有 間部門におけるインセンティブの歪曲などが含 効な統治構造を有する金融部門政策委員会は,政 まれる 70.政策実施の調整も,提案されている 策調整を改善し,バランスのとれた政策を生み出 金融部門政策委員会の職務であるべきだろう.こ すことができる.整合性のある持続可能な政策を の委員会は金融の発展や安定性に関する新しい状 策定するために,金融部門におけるリスクと開発 況や,新たに特定された隔たり,および政策ツー のトレードオフを理解する政策当局者と専門家の ルに照らして,戦略を定期的に修正することがで グループを創設すべきである.多くの国は特に きる.規制枠組みを改善し,規則における最良の 2008 年の危機を受けて,システミック・リスク 事例を採用するに当たっては,国の政策当局者は と危機を管理するために,金融安定委員会を設置 国際的な基準制定機関(金融安定理事会,バーゼ .このような委員会は上級官 している(表 6.3) ル銀行監督委員会,保険監督者国際機構,証券監 吏を委員長とし,金融分野における主要な政策当 督者国際機構など)の支援を得ることができるだ CHAPTER6 リスク管理に金融システムが果たす役割 251 ろう.基準制定機関は最優良事例の規則に向けて • 役員会と上級役員は銀行の構造全体とその変 指針を策定することは別として,能力構築につい 遷を理解・指揮し,構造が正当化されること て援助を提供しているため,各国の規制当局者は を確保し,不当な複雑性を回避すべきであ 自国の金融市場をさらに発展させるために,知識 る. やスキルを深めることができる.地域レベルでは • 開示要件は銀行の預金者や債権者,他の顧客 ――規制枠組みの実施に近いところにいるため― や関係者に対する説明責任を高めるべきであ ―,世界各地の最優良事例の指針は地域の基準制 る.例えば,統治構造の重要なポイントやリ 定機関によって,精緻化したり制度化したりする スク選好度は明瞭に開示されるべきである. ことができるだろう.EU のレベルでは,このよ うな基準制定機関には以下が含まれている:欧州  加えて,外部監査人は金融業界が採択している システミック・リスク理事会,欧州銀行機構,欧 あらゆる義務的,あるいは自主的な企業統治の規 州証券市場機構,欧州保険年金機構など. 約の順守を監視し,既存の慣行と採択された規約  実施は金融業者や金融システムが過度なリスク の間にある乖離は報告書のなかで指摘すべきであ をとったり,金融包摂を過多あるいは過少に追求 る. したりするインセンティブを是正し,民間の意思  銀行(金融機関)の専門化と多角化――例えば 決定が長期的な視点と事業の持続可能性に対する 貸出について――が金融の発展と安定性に及ぼす 関心によって支配されることが確保されるよう 影響に関しては,結論はまだ出ていない.一方で に,良い企業統治の執行に焦点を絞るべきであ は,貸出リスクを多くの部門にわたって分散すれ る.企業統治にかかわる優れた基準の執行は,有 ば,相互に関連した損失から保護されるため個別 用で,アクセスしやすく,信頼できる金融サービ 銀行の安定性を高めることができる.しかし,シ スの開発・提供と,システム上の外部性の原因と ステム全体としては,貸出の分散ではなく集中に なる責任あるリスク・テイキングの両方に当ては よる影響が決定的に重大である.同じようにみえ まる.銀行の企業統治を改善すべき重要な分野に る,あるいは意図的に群れる多角化した銀行は, は以下が含まれる 71: 実際にはシステムの安定性を削減する 73.した がって,システムの視点からすると,銀行間で多 • 役員会は銀行の長期的な利益,リスクから受 様性を促進することが政策改革のなかで重要な分 ける影響,リスクを有効に管理する能力を考 野になり得よう.この点でイスラム銀行業を含め 慮しながら,その全体的なビジネス戦略を承 多様なビジネス・モデルの促進は,金融包摂とと 認および監視するバランスのとれた専門知識 もにシステムの多角化を高めることができる.さ を組み込むべきである. らに,銀行部門を超えて多様性を促進することも • 上級役員は銀行の活動が銀行のビジネス戦 等しく重要であり,保険会社や非銀行信用機関を 略,リスク選好度(許容度),および役員会 含めることができる. 承認の指針と整合的であることを確保すべき  要約すれば,公的政策は金融システムの安定性 である. を高めるために,金融仲介を銀行から資本市場に • リスク管理,法令順守,内部監査の機能を創 分散化することを促進すべきである.最近の証拠 設して,それぞれに十分な権限,独立性,資 は,世界的な危機の際,銀行の企業向け貸出は減 源,および役員会へのアクセスを供与すべき 少したものの,一部の諸国では債券による資金調 である. 達が実際に増加して貸出減少分のほとんどを穴埋 • 報酬制度は次のような指向を奨励すべきであ めしたことを示している 74.実際には途上国で る:顧客ニーズ,銀行員による責任ある金融 は銀行に優位性があるかもしれないが,現地通貨 サービスの提供やリスク・テイキング,ビジ 建ての資本市場を構築することが望ましい.政府 ネス活動における長期的な視点など 72. と民間部門の双方を巻き込んで,一定の前提条件 252 世界開発報告 2014 表 6.4 リスク管理における金融システムの役割を改善するための政策優先課題 リスク管理を支援するための政策 基本 高度 知識 金融包摂の格差に関する 金融価格へのアクセスを改善 対象を絞った金融教育 データの収集・分析 するための IT 解決策 システム全体によるマクロ・ 金融安定性報告書 早期警告モデル プルーデンス・データの収集 システミック・リスクに関する懸念と危機を解決する措置にかかわる広報 保護 法的枠組みと金融インフラ 消費者保護 G2P 支払い 資本市場商品アクセス 危機に対する 危機シミュレーション 独立的な金融規制当局 マクロ・プルーデンス規則 備えの枠組み 訓練 企業統治基準(例えば,究極のコントローラー,リスク管理・内部統制,報酬方針の開示) 保険 法的枠組みと 強制保険 財政損失保険 消費者保護 金融インフラ (車・住宅ローンなど) (PPP を含む) マクロ・プルーデンスの システミック・リスク 外国為替準備 財政の偶発負債 資本バッファー 対処 効率的な破綻制度と 契約履行 信用アクセスの保持 消費者保護 不良債権処理 倒産銀行清算 緊急流動性援助 包括的預金保証 貸出保証 出所:WDR 2014 チーム作成. 注:上表は第 2 章の政策優先度を確立するための次のような指針に基づいて,政策の順序を示したものである:各国の制度的な能力に適合さ せた政策の設計に当たっては現実的でなければならない.また,最も重大な障害に持続的に取り組み,長期的に改善が可能な強固な基盤を構 築しなければならない.G2P= 政府対個人.IT= 情報技術.PPP= 官民パートナーシップ. が整備されなければならない.それには以下が含 国際的な構想が増えており,金融仲介の資本市場 まれる:十分な財産権,法的枠組み,インフラ への多様化を後押ししている.その実例には以下 (支払いおよび証券決済のシステム),企業統治, が含まれる:2003 年のアジア債券市場イニシア 財務会計基準,信頼できる監査業界など.一部の ティブとアジア債券ファンド・イニシアティブ, 諸国はこのような前提条件の整備からは程遠く, 2008 年の世界銀行による世界新興国自国通貨建 一部の小国は必要とされる規模を決して生み出せ て債券プログラム,ウィーン・イニシアティブ ないかもしれない.しかしながら,それらの諸国 (現地通貨建て資本市場を発展させるための地域 の企業は地域的ないし世界的な株式取引所に上場 的な官民調整枠組み)など. することはできるだろうし,個人投資家は証券ブ ローカーや投資ファンドを介して外国の資本市場 にアクセスすることが可能であろう.必要な前提 政策勧告の要約 条件が整備されてはいるが規模が小さいという問  本章では金融の包摂と安定性の緊張関係を探 題を抱える小国は,地域的ないし世界的な証券取 求して,金融部門政策を策定および実施する際 引所に統合された地方的な取引プラットフォーム には,この緊張関係に取り組まなければならい の開発を考慮することができよう.それがエスト ことを強調した.一方では,過度の無謀な金融 ニアやラトビア,リトアニアがバルチック証券取 包摂は金融の安定性を危うくする.他方では, 引所に統合されている方式である.地域的ないし 責任ある金融包摂は金融システムの顧客(個人 CHAPTER6 リスク管理に金融システムが果たす役割 253 や 企 業, 国 家 ) の 強 靭 性 を 高 め る こ と を 通 じ の金融ツールの入手可能と利用を広げるために て,直接的および間接的に金融システムの安定 は,公的政策は金融インフラに関係する障害を克 性を高めることができる.実際には,中所得国 服すること,市場規模が小さいこと,革新的な金 は急速な金融包摂の許容と金融安定性の強化の 融商品を採用することなどに焦点を当てるべきで 間で最大の緊張関係に直面している.低所得国 ある.国家は異種金融機関の間の競争を促進し, は家計から多くの貯蓄を引き出すことができな 効率的な消費者保護の枠組みのなかで金融ツール い.というのは,消費さえ制約を受けている状 の提供を支援すべきである.金融システムにおけ 態にあるからだ.また,低所得国は外国の貯蓄 るシステミック・リスクの管理を高めるために, を大量に輸入できるほど,グローバルな金融シ 公的政策は強固なマクロ・プルーデンスの枠組み ステムに十分統合されているわけでもない.こ の創設に焦点を当てるべきである.それには危機 れとは対照的に,高所得国における金融包摂は に対する備えと処理措置が含まれ,それらは適切 –  90  100%に達しており,高所得国は主として なマクロ・プルーデンスの手段を備えていると同 金融の安定性の促進に焦点を当てている. 時に,金融市場インフラの安全性と効率性を促進  表 6.4 はこのような緊張関係を考えて,金融包 するものでなければならない.最も重要なことと 摂を促し金融安定性を高めるための政策勧告を要 して,公的な政策を策定するプロセスは,金融分 約したものである.勧告は有効なリスク管理の主 野における一国の発展目標とリスク選好度の両方 要要素(知識,保護,保険,および対処)にした を尊重するバランスのとれた政策を生み出すため がってグループ分けされ,リスク管理を支援する に,金融のトレードオフと相乗作用を説明できる のに最も必要とされる基本的なアプローチから高 ものでなければならない. 度な措置へと並べられている.リスク管理のため 254 世界開発報告 2014 注 貧困層向けに 4,500 万件もの支払いを実行した. 人々は自分の G2P 支払いを郵便局の貯蓄勘定や 銀行勘定,村の官吏から受領することができる. 1. この話はチェコにおける事件と最近のビジネス 慣行を合成したものである. 21. Gupta 2013. 2. 本章では個別金融機関ではなく金融システムに 22. Brix and McKee 2010. 焦点を当てる.したがって,例えば,ミクロ・ 23. World Bank 2012a. プルーデンス監督や預金保険に関連した問題は 24. World Bank 2012a, box3. 議論しない. 25. Collins 他 2009. 3. Levine 1997. 26. Faz and Breloff 2012; Hashemi and de 4. 金融包摂に関するより広範な議論については Montesquiou 2011. World Bank 2013 を参照. 27. 産出損失は (T, T+3) の期間における実質 GDP 5. Beck, Demirgüҫ-Kunt, and Merrouche 2013. の現実値とトレンド値の差の累計として算出し, 6. Beck, Demirgüҫ-Kunt, and Merrouche 2013. 実質 GDP のトレンド値に対する比率で表示.T 7. Levine 1997. は危機開始の年.詳細は Laeven and Valencia 2012 を参照. 8. 入手可能な研究やデータに基づく金融システム における競争の姿は不完全である.研究はほと 28. この地域外で 2007-11 年に銀行危機を経験し んどが銀行業に焦点を当てていて,次のような たのは,モンゴル,ナイジェリア,アメリカだ 分野における競争に関する研究はずっと少ない: けである(Laeven and Valencia 2012; WDR 保険部門,資本市場(年金基金,ミューチュア 2014 のために書かれた Brown 2013) . ル・ファンド,証券取次業者など) ,非銀行信用 29. WDR 2014 のために書かれた Brown 2013. 機関,支払いサービス提供者など.銀行間の競 30. さ ら な る 詳 細 と 参 考 文 献 に 関 し て は,WDR 争に関する広範な議論と銀行間の競争に配慮し 2014 のために書かれた Brown 2013 を参照. た 公 的 政 策 に つ い て は,World Bank 2012b, chapter 3 を参照.金融システムに対する外国直 31. Claessens, Ghosh, and Mihet, 近 刊 ; 接投資の利益に関しては BIS 2004 を参照. Claessens, Kose, and Terrones 2012. 9. Demombynes and Thegeya 2012; Bankable 32. World Bank FinStats (internal database) に Frontier Associates 2009. 基づき,危機前の 3 年間における名目信用の平 均増加率として算定. 10. Clarke 他 2012; Mobarak and Rosenzweig 2013. 33. Reinhart and Rogoff 2009; BIS 2011a; WDR 2014 の た め に 書 か れ た Buncic and Melecky 11. Green 2008. 2013a. 12. この節は発展に焦点を当てている.したがって, 34. WDR 2014 の た め に 書 か れ た Beck and De 不況や危機の時期に,信用基準の引き締めによっ Jonghe 2013a. て発生した信用需要の未充足などの問題は取り 扱っていない. 35. Allen and Gale 2000; Claessens, Ghosh, and Mihet, 近刊. 13. Allen 他 2012. 36. Ghosh, Gonzalez del Mazo, and Ötker-Robe 14. Collins, Jentzsch, and Mazer 2011. 2012. 15. Dowd 2009; Honohan 2010.同様に,公的預 37. Beck, Demirgüҫ-Kunt, and Merrouche 2013. 金保険は脆弱層保護とモラル・ハザード防止の 間でバランスをとることを図るべきである.例 38. 居住国別にみた銀行の相手先地域別の銀行統計 えば,預金者が銀行リスクを無視して,単に最 (BIS 報告銀行の途上国の銀行に対する債権)に 高金利を求めて資金を預けるように仕向けるこ 関する BIS からのデータに基づき WDR 2014 とによって,市場規律を歪めるべきではない. チームが算定. 16. Braun and Raddatz 2010; Willis 2009. 39. Bankscope の デ ー タ と,Financial Stability Board が最初に発表した 29 の G-SIFI のリスト 17. WDR 2014 のために書かれた Beck 2013. に基づき WDR 2014 チームが算定.現地 SIFI 18. OECD 2011. は国内金融システムのうち資産でみて上位 10 行 19. 金 融 教 育 プ ロ グ ラ ム の 設 計 に 関 す る 情 報 に つ として定義. い て は 次 を 参 照 ――OECD (http://www. 40. 実証研究が確認しているところでは,現地法人 fin a nc i a l - e du c a t i o n . o r g ) ; W o r l d B a n k による貸出は国境をまたぐ直接的な貸出よりも (http://responsiblefinance.worldbank.org); より安定的である ; Vienna Initiative (http:// 世界銀行が管理している Russia Trust Fund on vienna-initiative.com/vienna-initiative- Financial Literacy and Education and Trust part-1). (http://www.finlitedu.org). 41. Laeven and Valencia 2012.伝染は資産価格 20. 2008 年にインドの National Rural Employment の下落(投げ売りの結果)と,情報(ある 1 つ Guarantee Act (NREGA) は,農村部に居住する の機関が破綻すると投資家は当該国の他の銀行 CHAPTER6 リスク管理に金融システムが果たす役割 255 への投資を引き揚げようとする)を通じて発生 56. 原則として,緊急流動性援助の枠組みは,広範 する.同様に,小口預金者の銀行取り付けが発 囲にわたる担保(高格付けの社債や外国の国債 生すると,調整問題が原因で,国境をまたぐ卸 を含む)のプールに対して中央銀行貸出を許容 売預金者や銀行間取引業者が支払い能力のある するものである.中央銀行が過度なカウンター 国内銀行にも殺到する(Allen 他 2011). パーティ(信用)リスクをとって財務省による 42. BIS 2010a; Cole, Kanz, and Klapper 2012; 資本増強が必要となる状況を回避するために, Aebi, Sabato, and Schmid 2012. それは適切な掛け目で割り引かれるべきだ. 43. Calomiris 2011; FSB 2010. 57. Dziobek and Pazarbasioglu 1997. 44. Braun and Raddatz 2010; Hardy 2006. 58. Laeven and Valencia 2012. 45. Senior Supervisors Group 2009; Beck, 59. FSB 2010; BIS 2011a を参照.この手段は以下 Demirgüҫ-Kunt, and Levine 2003. で構成される:システミックな上乗せ資本,偶 発資本債務(CoCO)とベイルイン型債務手段 46. BIS 2011b. の強制発行. 47. BIS 2011b; Bank of England 2013.いくつか 60. 例えば BIS 2012 を参照. の提案の示唆では,マクロ・プルーデンス政策 委員会は 5 人で構成され,全員が政府や国際機 61. De Grauwe 2010. 関以外からの出身者.例えば,マクロ・エコノ 62. Adasme, Majnoni, and Uribe 2006. ミスト,ミクロ・エコノミスト,会計士,金融 63. Collins 他 2009; Cull, Demirgüҫ-Kunt, and 工学者,実務家など.委員会には監督官や規制 Lyman 2012. 官を含めるべきではない.その構成は客観的で 64. CGAP 2011. 独立的な判断を提示すべきである. 65. Klapper, Lusardi, and Panos 2012. 48. IMF 2012b; Melecky and Podpiera 2012.マ クロ・プルーデンス政策のための実際的なスト 66. WDR 2014 のために書かれた Beck 2013. レス・テストのアプローチの適用に関しては, 67. WDR 2014 の た め に 書 か れ た Beck and De Buncic and Melecky 2013b を参照. Jonghe 2013. 49. Arnold 他 2012; Bank of England 2013. 68. Anginer, Demirgüҫ-Kunt, and Zhu 2012. 50. Cihak 他 2012. 69. Lafley 他 2012. 51. マクロ・プルーデンス手段の利用に関する詳し 70. World Bank 2012b. い国別事例については,Lim 他 2011 も参照. 71. BIS 2010a; FSB 2013. 52. Claessens, Ghosh, and Mihet, 近刊. 72. European Commission 2009. 53. Shin2010; IMF 2012a. 73. WDR 2014 の た め に 書 か れ た Beck and De 54. イギリスにおけるマクロ・プルーデンスのバッ Jonghe 2013. ファー実施にかかわるアプローチの概要を詳述 74. Adrian, Colla, and Shin 2012. した政策方針の例としては,Bank of England 2013 を 参 照.Lim 他 2011, figure 1 は, マ ク ロ・プルーデンス手段の使い方に関して有用な 概念上の枠組みを提示している. 55. 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Washington, DC: World Bank. 260 スポットライト 6 チェコ,ペルー,ケニアにおけるグローバルな 経済的ショックに対する強靭性の構築  多くはないが,最近のグローバルな景気鈍化を免れている途上国は,2008 年のグローバル危機に対して は以前の危機の時よりも強靭性をみせている.東アジア諸国はシステミック・リスクを特にうまく管理し たが,中央ヨーロッパ,ラテンアメリカ,サハラ以南アフリカにおける数カ国の実績も立派であった.そ の 3 カ国――チェコ,ペルー,ケニア――の経験は 2 つの重要な教訓を提供している.第 1 に,良い時期 にマクロ・プルーデンス政策を追求して,国内金融システムを継続的に強化しておくことが,深刻な経済 的な下降に対して強靭性を構築する鍵となる.第 2 に,反循環的なマクロ政策を適切な時期に行うことは, 危機襲来後におけるマクロ経済・金融の循環を管理するのに役立つだけでなく,危機に対応するために必 要な資源(財政的余裕)を構築ないし保持することによって,備えを高めることができる. 困難な改革期 機関からのリスクが金融部門のシステミック・リ –   チェコは 1997  98 年の銀行危機から学んだ重 スクに,どのように転化していくのかをよりうま 要な教訓にしたがって,総合的なリスク管理のた く監視することができるようになった.統合的な めに強固な基盤を構築し始めた.1997 年に同国 金融部門監督は将来的な危機の際に,政策対応の は固定為替相場制度を放棄して,インフレ目標方 調整と適時性についても改善をもたらすだろう. 式に基づく金融政策の枠組みに移行した.チェコ  チェコとは違って,2008 年に至るまで,ペ 国立銀行は金融・政治面で独立性を高めたことが ルーはほぼ 20 年間にわたって重大な経済的混乱 一因で,何とか金融政策の信認を高め,より大き に見舞われたことがなかった.しかし,1980 年 な物価の安定性を達成した.このような達成が低 代後半にはペルーはハイパーインフレ,深刻なマ 金利につながり,財政規律の改善と重なって,同 クロ経済的不均衡,大量の資本流出を経験した. 国が健全な対外ポジション――小幅の貿易黒字と 1990 年代後半になると,ペルーは経済を安定化 若干の経常収支赤字――を維持するのに役立っ させるために重要な改革を実施した.おかげで, た. ハイパーインフレはマネタリー・ベースに関する  チェコの銀行システムは政策枠組みを強化した 明示的な目標を通じて制御された.インフレがひ だけでなく,主として国内の貯蓄で貸出活動の資 とたび 1 桁台に低下すると,中央銀行は変動相 金を調達することができ,家計向けには自国通貨 為替相場制を擁するインフレ目標方式を採用し, でローンを提供した.したがって,借り手は外国 それでインフレが抑制された.税制と金融部門も 為替に関して非ヘッジ・エクスポージャーを回避 改革された.このような改革の副産物として,ま し,銀行も関連した間接的な信用リスクを回避す た新興市場における危機の勃発に伴う地域的な伝 ることができた. 染に対する保護措置として,銀行は適正な水準の  2006 年以降,ミクロ・プルーデンス規制官は, 資本と十分な水準の流動性を積み上げた. 全員がチェコ国立銀行の下に統合された.チェコ  ペルーは 1990 年代初めに外国貿易を自由化し 国立銀行は,以前から金融政策当局であった.ミ て,関税率を劇的に引き下げ,非関税障壁を撤廃 クロ・プルーデンスとマクロ・プルーデンスの監 –  した.2002  07 年にはより好意的な経済環境の 督を単一の機関に集約したたことで,チェコはプ おかげで経済成長が高まった.同国の商品(鉱石 ルーデンス監督をより包括的に遂行し,個別金融 と金属)に対する東アジアの大きいダイナミック CHAPTER6 リスク管理に金融システムが果たす役割 261 な新興市場国からの需要増加が,所得の大幅な急 家レベルで統合した監督組織を創設することが有 増をもたらした.ペルーは天然資源からの収入の 効であることを証明した.全体として,チェコ政 一部を貯蓄した.外貨準備は 2007 年には輸入の 府はいかなる重大な措置を実施する必要もなく, 17 カ月相当分以上にまで増加し,財政の基礎的 適切な流動性を確保するためには金融政策の単純 –  黒字も拡大した.2002  08 年における年約 7% な緩和で十分であることが判明した.銀行部門の の持続的な成長は貧困削減を後押しした.このよ 預貸率を適正に保ち,銀行による外国為替リスク うなマクロ経済的な達成度に照らして,国際的な の適切な価格設定を通じてローンのドル化比率を 格付機関はペルーの国債格付けを引き上げて,重 低位に維持したことも,グローバルな経済ショッ 要な外国投資流入のお膳立てをした. クを乗り切るのに重要な要因になった.危機の時  ペルーと同じように,ケニアも金融とマクロ財 期に貸出は減少したものの,チェコの銀行は引き 政にかかわる両システムを強化することによっ 続き黒字を出し,資本バッファーをさらに増強 て,強靭性を構築するのに成功した.ケニアは し,それが不良債権比率の大幅な上昇に対処する 2008 年以前は具体的な経済危機に対処する必要 のに役立った(図 S6.1).ハンガリーとウクライ 性はなかったものの,その経済は 20 年間にわた ナを含め,同じ地域の他の諸国は,ローンのドル る高成長を経験した後,1980 年代から 90 年代 化比率が高かったため,より大きなリスクに直面 –  前半にかけて難局に陥った.1991  93 年にケニ した. アの GDP 成長は停滞し,農業生産は著しく収縮  ペルーが 1990 年代半ば以降作り出した良好な し,ハイパーインフレが起こった.政府は金融部 状況の下で,政府はグローバル危機の時期にあっ 門を安定化させ,持続可能な成長を回復させるた ても国民経済を維持すべく,効率的で反循環的な めに,経済改革の実施を決定した.銀行システム 形で反応することができた.中央銀行は流動性の は特に銀行の大幅な資本増強を通じて強化され, 逼迫や信用収縮を回避するために,自国通貨(ヌ 人々のファイナンスへのアクセスが改善された. エボ・ソル)と米ドルの両方で金融システムに ケニアは何とか公的債務を削減して,巨額の外貨 流動性を供給した.金融政策金利は 1.25%にま 準備を蓄積した(輸入に関して,期間を 4 カ月 で引き下げられ,3 重の刺激計画の第 1 段階―― にまで上昇させた).慎重な財政政策を採用し, GDP の 3.4%に相当する――が財政節約で賄わ 健全な対外ポジションを維持したおかげで,サー れ,2009 年に実施に移された.道路・住宅・病 ビス部門の収支(観光と情報技術が中心)が大幅 院への投資,非伝統的な輸出へのインセンティブ な黒字となり,貿易赤字は外国資本の大量流入に 供与,中小企業・農業に対する支援,社会プログ よって補填された. ラム支出の増加などによって,政府は国内需要を 支持し,企業心理を盛り上げ,企業,輸出業者, 十分な備えの利益 および中小金融機関向けの保証を拡大することを  このような 3 カ国が 2008 年のグローバル危 目標とした.交易条件が良好だったおかげで,ア 機に対して相対的に強靭だったのは,ショック発 ジア(特に中国)向けの輸出が速やかに回復する 生の 10 年ないしそれ以上前に遂行された厳しい という重要な外的要因から,ペルーは利益を得 プロセスの成果であった.政治家は経済が好調な た. 時期に正循環的な措置を採択したいとの誘惑に駆  ケニアのリスク管理に関する証明はおそらくさ られたかもしれないが,これら 3 カ国は深刻な らに立派である.非常に短期間のうちに直面した 経済混乱に備えるために,自国の金融・マクロ財 次の 4 つショックを考えると特にそういえるだ 政システムを強化する必要性を良く理解してい ろう:2008 年初めの選挙後の暴力,石油・食料 た.この認識は世界経済が崩壊した時に価値を証 の価格高騰,破局的な旱魃,グローバル金融危 明した. 機.市場におけるリスク評価の高まりは商業銀行  チェコは強力で独立的な中央銀行のなかに,国 の貸出金利に反映され,特に農業部門に大きな影 262 世界開発報告 2014 参考文献 –  図 S6.1 銀行の不良貸出(対総貸出比率,2007  11 年) Castillo, Paul, and Daniel Barco. 2008. “Facing Up a 12 Sudden Stop of Capital Flows: Policy Lessons from the 90’s Peruvian Experience.” Working Paper 2008-002, 10 Central Reserve Bank of Peru, Lima. 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Low-Income Countries.” IMF, Washington, DC. 注:ケニアでは危機の時期に不良貸出のシェアは低下し,ペルーでは比較的 — — —. 2010. “Peru: Staff Report for the 2010 Article IV 低水準で横ばいにとどまったが,チェコでは大幅に上昇した.しかし,同国 Consultation.” IMF, Washington, DC. も 2010 年末までには何とか上昇に歯止めをかけた.これはハンガリーなど — — —. 2012. “Resilience in Emerging Market and 他の東ヨーロッパ諸国との比較では,良好なパフォーマンスと考えられる. Developing Economies: Will It Last?” In World というのは,ハンガリーではこのシェアは同期間中に 4 倍に上昇し,2011 Economic Outlook, 129–71. Washington, DC: IMF. 年末現在でも依然として上昇中だったからだ. Kirori, Gabriel, and Tabitha Kiriti Nganga. 2009. “Global Economic and Financial Crisis and Trade: Kenya’s Experience.” Paper prepared for the Rethinking African Economic Policy in Light of the Global Economic and Financial Crisis Conference organized 響が及んだものの,中央銀行は反循環的な金融政 by the African Economic Research Consortium. 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Global Financial Development Database. World た. Bank, Washington, DC, http://data.worldbank.org/ data-catalog/global-financial-development.  多くの国々が依然として危機で苦しんでいるな かで,チェコ,ペルー,およびケニアは 3 カ国 とも,マクロ金融リスクの管理に関して優れた能 力をもっていることを証明し,先進国にとっても 有益な教訓を提供した. 264 世界開発報告 2014 マクロ経済が安定していれば不確実性 が減少し,経済主体は高リスクの緩和 に取り組む代わりに,生産的な決定に 焦点を当てることができる.ロシアの 年金生活者は 1998 年の金融危機に何 とか対処している. ©Anthony Suau 265 CHAPTER 7 マクロ経済リスクを管理する 政策でより良い結果を出すためにより強固な制度を構築する 健全なマクロ経済政策を通じて強靭 –  していた(2002  08 年の年平均成長率 性を高め機会を有効に活用する は 6.8%に達していた).健全なマ  ペルーは過去 25 年間に一連 クロ経済管理と良好な国際環境 の危機を乗り切ってきた.第 を受けて,ペルーは十分な流 1 の危機は 1980 年代後半に ロ経済 動性のバッファーと金融財政 マク 財政赤字を伴う拡張政策に 政策の余裕を作り出すことが よ っ て 牽 引 さ れ, 高 イ ン フ できていたため,このことは レとマクロ経済の大きな不均 グローバル・ショックへの対 衡 に つ な が っ た.1986 年 に, 応に役立った.世界の他の多く IMF からの新規融資について不適 –  の諸国とは異なり,2008  09 年に 格を宣告されたペルーは動きようがな おけるペルーの不況は軽いものにとどま かった.新政権はインフレ抑制のためには金融 り(ピークからボトムまでの落ち込みは 2.1%に 財政の厳しい引き締めに訴えざるを得ず,それ とどまり),回復も早く(半年後),力強かった. が深刻な不況につながった.1990 年に GDP は ペルーの GDP は景気が底入れした年に 10%の 急減速し,ピークからボトムまでの落ち込み幅 成長をみせた. は 20%以上に達した.ペルーの実質 GDP は危  ペルーの経験が例証しているように,国家政 機以前の水準を回復するのに 3 年半を要した. 府は,個人が独自には管理する能力のない集合  1997 年までにペルーのインフレ率は1桁台に 的なリスク――国内的なものと国際的なものの 鈍化した.政府は引き続き外貨準備の蓄積と対 双方を含む――を管理するのを助けることにお 外債務の削減を図っていた.とはいえ,ペルー いて,重要な役割を果たすことができる(漫画 は資本フローの逆流に脆弱なままであった.東 7.1).高インフレは所得分配を悪化させ,貧困 アジア危機が引き金を引いた金融的な伝染が資 を増加させ,実質賃金を低下させる.不況下で 本流入の「急停止」につながった際,それがあ は失業が増加し,金融危機に関連した不況下で まりにも明らかになった.再び不況が続いたが, はいっそう増加する 1.このような集合的なリス 以前よりも穏やかであり(GDP のピークから底 クは人々や家計,コミュニティ,企業,金融シ までの落ち込み幅は約 4%にとどまった),回復 ステムなどと,そのような各主体のリスク管理 は弱いが早かった(1 年半後). 能力に甚大な影響を与える. –   2008  09 年にグローバル危機が発生した際に  政府のマクロ経済政策運営は国家レベルでの は,ペルー経済は未曾有の対外ショックに耐え リスク管理において,ユニークで枢要な役割を るための備えが改善していた.信頼性のあるイ 演じている.適切に設計および実施されたマク ンフレ目標方式の下で,インフレは低位で安定 ロ経済政策は,リスク管理にかかわる多くの障 していた.実質 GDP は危機の前には力強く成長 害を克服する助けになる.そのような障害には 266 世界開発報告 2014 教 不確実性を削減し,人々が長期的に計画,貯蓄, 育費 および投資するのを後押しすることができる.要 食 するに,リスクを適切に管理するためには,政策 品 医療介護 価格 当局は危機ファイターであることを卒業して循環 公 ガソ リ 共料 ファイターになる必要がある 2. ン 金  それが目標である.現実には政策当局には経済 住 宅価 保 を管理する専門知識や制度的な能力が無い,ある 険 格 あら いはリスク管理政策を信頼される形で公約するこ まぁ とに困難があるのかもしれない.政府高官は,選 賃金 挙戦の際にはみずからの支持層に資源を提供す る,あるいは好況期には支出増加を求めて競合す るロビー・グループの餌食になりやすい.政策当 漫画 7.1 個人は,自分の力だけではマクロ経済リスクを管理 することはできない. 局相互間の調整の失敗も,多種多様なマクロ経済 ©Jeff Parker/Florida Today 的な目標とそれを達成するための政策手段につい て,最適以下の配分につながる公算がある.この 情報の非対称性,調整の失敗,外部性,公共財の ような問題は政策運営中でも不確実性につなが 提供などが含まれる(第 2 章参照).つまり,健 り,それが今度は不安定性の増大や成長の鈍化に 全なマクロ経済政策は開発を促進するのである. つながることがある.ボックス 7.1 の例証は,世 政府のプログラムや政策の資金を調達するため 界的に経済政策の不確実性が高まりつつあること に,安定したマクロ経済環境や十分な歳入と資源 を示している.マクロ経済リスクにかかわる管理 ――財政的な余裕――があれば,このことは不確 の誤りを削減するためには,より良い情報を入手 実性を削減するため,経済主体は高いリスクの軽 し,分析の質を改善し,政策当局が直面する多数 減に向けた取り組みではなく,生産的な活動に集 の不確実性に対処するのに役立つツールを開発し 中することができる. なければならず,そのためには十分な制度的枠組  本章ではマクロ経済的なリスク管理の運営―― みが必要である.そのような政策のコストに関す 具体的には,マクロ経済の安定性の達成を目指す る公的な説明責任を高めれば,政策立案の質が向 金融財政策――に焦点を当てる.人々のリスク管 上するだろう.本章では次のように主張したい. 理を助けるためには,金融財政政策に信頼性,予 すなわち,信頼できる,透明な,より柔軟で,持 測可能性,透明性,そして持続可能性がなければ 続可能なマクロ経済政策の枠組みは,一国の強靭 ならない.そのためには,良い時期に次のような 性を高める.また,良い金融財政管理の事例に光 ことを実践して評判と政策の余地を築いておく必 を当てることによって,さまざまな制約や機会に 要がある.すなわち,インフレについて低位での 直面していて,制度的な能力が多種多様な段階に 安定を維持する,国際経済からのショックを吸収 ある諸国に合わせた政策勧告を提示したい. する為替取り決めを採用する,適正な黒字を生み 公的債務負担を削減する財政慣行を順守するな ど.したがって,マクロ経済政策当局は景気上昇 マクロ経済政策の目標を総合的な安定性に向 期には慎重に行動すべきである.好況期に資源を ける 蓄積しておくと,反循環的な政策――特に最脆弱 経済的な危機や循環を管理するためにマクロ経済 層を保護するプログラム――と望ましい公共投資 政策を使う プログラムをファイナンスする手助けになる.総 不安定性と不確実性を削減.マクロ経済の変動性 合的な変動性――特に危機の事象に関連したもの は短期的な懸念の源であり,長期的な開発目標の ――を削減することによって,このような政策は 達成の障害になる.通常の景気循環的な動きを CHAPTER7 マクロ経済リスクを管理する 267 ボックス 7.1 世界経済の新たな常態:先進国におけるマクロ経済政策の不確実性の高まり  世界最大の共同経済――アメリカと EU――における最 確実性の増大に伴う株式市場の変動性の高まりはグローバ 近の政策矛盾と財政危機は,著しい不確実性を作り出し, ルな伝染効果をもつ. 企業や消費者が採用や支出の決定を先延ばしにし,景気回  災害の確率も不確実性にかかわる人々の受け止め方に影 復を失速させる事態を招いているのではないかという懸念 響する.人々の意思決定は災害が起こる確率の上昇によっ につながっている.不確実性というのは主観的な概念であ て阻害される.経済的な災害――GDP あるいは消費のピー り,その測定は簡単ではない.3 種類の観察可能な指標を クからボトムまでの累積的な落ち込みが 10%以上になる 使った経済的不確実性指数で近似化できるだろう.第 1 の もので定義される――の落ち込みは,平均で 21 – 22%で 構成要素は政策に関連した経済的不確実性の新聞報道を定 あり,3.5 年間持続する.また,1 年当たりの発生確率は 量化したものである.第 2 は財政金融政策にかかわる予測 3.5%と推定される.災害は資本ストックの一部を破壊し, の変動性(インフレ,政府購入,および州地方政府購入の 生産性を損傷する潜在性をもっている.したがって,それ 1 年先の予測にかかわる四分位数範囲で測定)を示す.第 は投資や企業の債務,産出,雇用などの減少によって特徴 3 は将来的に失効することになっている税法規定の数と規 付けられ,金融市場におけるリスク・プレミアム上昇の 模を反映する.このような要素のウェイトは国や地域に応 一因となる.アメリカ用に調整されたモデルの推定によれ じて異なる. ば,災害確率を倍増させると,投資は 3.5%減少し,失業  歴史的にみると,アメリカにおける政策の不確実性は主 は 0.8%増加する. 要な戦争や選挙,テロ攻撃の周辺で増大していた.最近で  政策の不確実性は高水準にとどまるだろうか? 近い将 は,不確実性は 2008 年に急騰して,以降もその高水準を 来にアメリカの政策の不確実性が低下するという展望は明 .同じような急騰が 2008 年以降 維持している(パネル a) るくない.その主因はアメリカの現在の政治的な課題と政 ヨーロッパでも起こっている.両地域が一緒になって,世 治体制の二極化にある.EU では,国家的および超国家的 . 界的な政策の不確実性を増大させている(パネル b) なレベルでの銀行・財政問題に取り組む協調的な措置が遅  政策の不確実性がもたらすマイナスの影響はどのくらい れ,南ヨーロッパ諸国で市場重視の改革が遂行されないよ 大きいのだろうか? アメリカでは,2006 – 11 年に観察 うだと,政策の不確実性は高いままにとどまるだろう.要 された規模の政策不確実性は,平均すると鉱工業生産を するに,経済政策の不確実性は新しい常態なのである.こ 2.5%,労働者の雇用を 240 万人減らす.加えて,アメリ の点を念頭に置いて,企業や消費者も積極的にリスクを管 カと EU における政策の不確実性は,次の 2 つの経路を通 理すべきである.例えば,最もセンシティブな分野から受 じて世界の他の地域に波及する.第 1 に,この 2 つの経済 ける影響の削減を試みることも必要だろう.そのような措 地域は合わせて世界貿易と対外直接投資の半分以上を占め 置は国際的な政策に関するリスクの影響を最小化するのに ている.第 2 に,両地域は主要な金融センターであり,不 役立つ. アメリカとヨーロッパでは近年,経済政策の不確実性が高まっている a. アメリカ b. ヨーロッパ 300 300 リーマン 250 倒産 債務上限 政策不確実性指数 政策不確実性指数 対立   200 200 LCTM 財政の 危機 崖 150 9/11 100 100 50 0 0 1997  1999  2001  2003  2005  2007  2009  2011  0 2 4 6 8 00 02 04 06 08 10 12 9 9 9 9 9 19 19 19 19 19 20 20 20 20 20 20 20 インプライド・ アメリカの政策の ヨーロッパの政策の ボラティリティ指数 不確実性 不確実性 出所:WDR 2014 のために書かれた Bloom 2013; Barro and Ursúa 2012; Gourio 2012. 注:政策不確実性指数は 2008 年 1 月について 100 に正規化されている.このような不確実性指数のデータと説明は http://www. policyuncertainty.com で入手可能.この指数はマクロ経済と政治の不確実性もとらえている.インプライド・ボラティリティ指数(VIX) は S&P 500 指数のオプションの変動性にかかわる指標.LTCM= ロングターム・キャピタル・マネジメント. 268 世界開発報告 2014 超える変動性は,家計や企業の貯蓄や投資,生 先進国における 1980 年代半ば以降の構造変化 産の決定を混乱させる.また,金融システム を受けて,世界全体の産出にかかわる変動性 が流動的な金融商品を長期的な資本投 は低下している.経済をショックか リス 資に転換する能力を削減する.と ら隔離するより良い金融の枠組み, クを適切に管理す いうのは,経済の主体が長期契 市場の摩擦を削減する金融革新, るためには,政策当局と 約の締結を躊躇するようになる 労働市場の柔軟性,在庫管理に しては危機ファイターであ からだ.産出の変動性が大きく おける技術的な改善などのすべ ることから卒業して循環 なると――特に危機症状を伴う てが,変動性のこのような削減 マネジャーにならなけ 場合――,長期的な成長率は低下 に貢献している 5.外部の環境の ればならない. する.産出の変動性が標準偏差 1 単 安定とマクロ経済枠組みの改善は産 位分大きくなると,1 人当たり成長率が 出の変動性の低下を説明するだけでなく, 1.3%ポイント低下する.この低下は危機の時期 途上国が不況に陥る確率も下げている(図 7.1). にはさらに大きくなる(2.2%ポイント)3.マ 逆に,「大いなる安定期」の崩壊も最近の危機の クロ経済の変動性は所得の不平等や貧困も悪化 時期には新興市場に影響を及ぼした.これらの させる.というのは,人口のうち低所得層は景 諸国のほとんどは急減速を経験した.先進国の 気減速に対してあまり保護されていないからだ. 中央銀行による積極的な金融政策措置が,グロー 変動性が全体として 2 倍になると,最貧 20%層 バルな金融情勢を修復することに成功した.世 の所得シェアは 2.4%削減される.加えて,不況 界経済の回復に伴って(商品価格の高騰や世界 期における所得不平等の平均的な拡大幅(5%) 的なリスク回避性の低下に反映されている),備 は,好況期における縮小幅(0.9%)よりも大き えの良かった新興市場諸国は高成長を取り戻す い傾向にある 4.ケネディ大統領が言ったことで ことができた. 有名だが,上げ潮はすべての船を押し上げ,下 げ潮は船を深く長く押し下げる.マクロ経済政 長期的な計画と開発を支援. マクロ経済の安定 策は総リスクの管理を助け――みずからがリス 性は,家計や企業,政府にとって,長期的な計 ク源になることを回避し――,経済のなかでリ 画のために利用可能な一連の手段を増やす.高 スク分担の仕組みの発達を円滑化する. 水準で乱高下するインフレ率と格闘した諸国に おける物価安定の進展が,金融仲介業の発展に 良い時に循環を管理し,悪い時に対処する. マ つながっている.それには現地通貨建ての債券 クロ経済政策は集合的なショック――海外から, 市場,住宅抵当市場の復活,年金基金やミュー 国内の政策そのものから,あるいはシステム上 チュアル・ファンドの台頭などが含まれる(第 6 重要な国内の主体から発生してくる――を管理 章参照).このような動きは,経済主体が支出や する助けになる.現実には,途上国の政策はブー 投資の決定に関する平均的な計画の視野を広げ, ム・アンド・バストという経済金融の循環を抑 国債の満期を長くすることを可能にしている. 制することはできていない.これらの諸国はよ 例えば,仮にブラジルが長期にわたってデンマー り大きく頻繁に発生する外部のショックにさら クのインフレ実績を達成していたとすれば,そ され,ショックを吸収する能力が低く(経済構 の自国通貨建て市場の深さは今のほぼ 3 倍になっ 造が多様化していないこと,金融市場が発達し ていたであろう 6. ていないこと,バランス・シートがドル化して いること,制度の質が悪いことなどが含まれる), 健全な金融政策を通じて低インフレを実現する マクロ・ファイナンス上の危機に陥りやすい.  高インフレは家計や企業の貯蓄投資の決定を その結果として,途上国における経済活動は変 歪めて,経済成長の鈍化につながる.明確に規 . 動性が大きく,深い不況に陥りやすい(図 7.1) 定された(定量的な)名目の目標があると,中 CHAPTER7 マクロ経済リスクを管理する 269 図 7.1 実体経済活動は,途上国ではより変動性が高く,より大きく低下する公算が大きい a. 実質 GDP の変動性 b. 深刻な不況年数の割合 0.07  0.45  0.40  0.06  0.35  実質GDPの標準偏差 0.05  不況年数の割合 0.30  0.04  0.25  0.03  0.20  0.15  0.02  0.10  0.01  0.05  0  0  高所得国 上位 下位 低所得国 高所得国 上位 下位 低所得国 中所得国 中所得国 中所得国 中所得国 1960‒89  1990‒2010  1960‒89  1990‒2010  出所:World Bank World Development Indicators (database) からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成. 注:実質 GDP の変動性は 1 人当たり GDP 成長率の標準偏差.深刻な不況年数の割合は 1 人当たり GDP が累積ベースで 5%以上 落ち込んだ年数のシェアを示す.両指標とも 1960 – 89 年と 1990 – 2010 年の 2 つの期間について算定. 央銀行としては物価動向に関する期待を固定し レの間の関係が不安定化するのに伴って,徐々に やすくなる.各国は高インフレを阻止するため 期待を固定化する能力を失った 9. に,通貨総量や為替相場を名目のアンカーとして  高インフレがひとたび打破されると,金融枠組 採用している.為替相場のアンカー(厳格な安定 みは期待を調整するためにインフレ率目標を設定 化)を選択するのは,制度が脆弱で,経済がドル した.中央銀行は一定の政策的な視野のなかで 化し,金融市場が未発達で,中央銀行の信頼性が 達成されるべきインフレ目標を設定したのであ 低い国にとっては合理的である.為替相場のアン る.金融政策の発表が将来の金利や将来のインフ カーは実施と監視が容易で,市場参加者にとって レに関する民間部門の期待を形成した.インフレ も検証可能である.この方式はインフレを歴史 目標方式では中央銀行が独立的な金融政策を運営 的に高い水準から下げることに成功してきてい することができるように,柔軟な為替相場制が必 る 7.国際貿易との統合が進展している小国は厳 要とされる.インフレ目標方式は低い値で安定し 格な固定相場制を採用する傾向が強い.というの たインフレの実現に成功している 10.この成功 は,為替相場の安定化は外国貿易や外国投資を押 は金融の伝達メカニズムのより良い理解と,次の し上げるからだ.通貨総量目標方式は為替相場に 3 つの強力な制度的土台に依存していた 11.第 ついては柔軟性を許容するため,中央銀行として 1 に,中央銀行には明確な負託(物価の安定)が は独立的な金融政策を追求することができる.し あり,その目標達成を完全に公約している.第 2 かし,このような制度は長期的な開発とは整合的 に,中央銀行はその意思決定について政治的な干 でないことが判明している.為替相場を目標とし 渉から独立している.中央銀行は手段について独 ている国々は,財政規律の欠如や政策の崩壊とい 立している.すなわち,一義的な目標を達成する う費用のかかる事態に至る財政赤字を借入によっ ための手段を選択および管理することができる. て賄うといった問題に悩まされている 8.通貨増 第 3 に,中央銀行の説明責任が大きいほど,負 加率を目標としていた諸国は,通貨総量とインフ 託を達成しようというインセンティブを生む.金 270 世界開発報告 2014 図 7.2 一部の途上国では金融政策が反循環的になってきている 1.0 反循環的になりつつある 常に反循環的 BWA 2000 – CHL BRB LKA 0.8 ZAF COL ZMB CZE JOR BOL ARG PER KOR 0.6 IND BGD PHL MYS 09 KWT TZA PAK 年の相関関係(金融政策金利、実質GDP) TTO THA 0.4 EGY GHA VEN UGACYP TUN BGR 0.2 TUR NPL PRY MUS ISR KEN 0 BRA DZA NGA ‒0.2 MAR RWA URY GMB ‒0.4 CRI FJI CHN ‒0.6 SWZ ‒0.8 ‒1.0 常に正循環的 正循環的になりつつある ‒0.6 ‒0.4 ‒0.2 0 0.2 0.4 0.6 1960 – 99 年の相関関係(金融政策金利,実質 GDP) 出所:Vegh and Vuletin 2012 からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成. 注:上図は 1960 – 99 年の金融政策金利と実質 GDP の相関関係を 2000 – 09 年と比較したものである.両系列ともホドリック = プレスコット・フィルターを使ってトレンドが除去されている.正(負)の相関係数は反循環的(正循環的)な金融政策を示唆 する.各国は次のように分類されている:(a) 両期間とも正の相関であれば「常に反循環的」 ;(b)1960 – 99 年に負の相関だったも のが 2000 – 10 年に正の相関になっていれば「反循環的になりつつある」 ;(c) 両期間とも負の相関であれば「常に正循環的」 ;(d) 1960 – 99 年に正の相関だったものが 2000 – 10 年に負の相関になっていれば「正循環的になりつつある」 . 融政策の有効性は財政優位の不在,通貨ミスマッ い,好況期には資本流入と通貨の過大評価(資本 チの削減,健全な国内金融市場の存在を必要とす 流入の懸念)を阻止するために利下げを行ってい る 12. る 13.健全なマクロ経済政策(インフレ目標方  透明性の増加に向けた制度面からの後押しを受 式や柔軟な為替相場制),公的債務管理戦略,市 けて,中央銀行の評判が強化され,金融政策の運 場に好意的な改革(貿易・金融の自由化)などの 営における効率性が高まった.長期的にインフレ 採用は,多くの新興市場諸国が通貨急落の懸念を 目標を達成するための制度的な能力と柔軟性が高 著しく削減するのに役立っている(図 7.2).し まったおかげで,政策当局は金融政策手段を反循 たがって,最近のグローバル金融危機の最中で, 環的に使用することができるようになった.歴史 ラテンアメリカや東アジアの多数の新興諸国が政 的にみると,先進国は不況期に拡張的な金融政策 策金利を引き下げることができたのは驚くに当た を実施することができた.実体経済へのショック らない.例えば,金融政策の平均金利は 2008 年 に対処するために政策金利を引き下げて,インフ 9 月 -09 年 9 月の間に,ペルーでは 6.50%から レ目標を危うくすることなく産出を安定化させ 1.25%に,韓国では 5.21%から 1.98%に低下し た.それとは対照的に,多くの途上国では通貨当 た. 局は正循環的に行動した.そのような国は大量の  為替相場制度の選択は,インフレや成長に対し 資本流出や通貨の減価(通貨が急落する懸念)を て,直接的および間接的に影響が及ぶ可能性があ 阻止するために収縮期に政策金利の引き上げを行 るために重要である.1 人当たり所得が高く発達 CHAPTER7 マクロ経済リスクを管理する 271 ボックス 7.2 金融政策の柔軟性を放棄する:究極の犠牲?  通貨同盟――取り決めが片務的か多角的かは問わない 1990 年以降に国内的減価が発生した事例はわずかに次の ――は,クロスボーダー取引のコストを削減し,参加国 3 つにとどまる.すべてが深刻な不況下で失業が増加して 間の貿易を促進する.一般的に,通貨同盟に参加してい いる時期に発生した.すなわち,2000 年代初めの香港, る諸国にとって貿易は 30 – 90%増加し,ユーロ地域諸国 1990 年代後半から 2000 年代初めにかけての日本,最近 の場合は 4 – 16%増加する.しかし,通貨同盟への参加は 危機に見舞われたアイルランドという 3 例である.上位 トレードオフを伴う.すなわち,国は固有の非対称的な 中所得国であるラトビアは国内的減価を遂行したが,最近 ショックを凌ぐためであっても,独立的な金融政策運営の の世界的危機からの回復は今のところ弱い.物価および賃 権限を放棄しなければならない. 金が硬直的であることや名目賃金が低下しにくいこと(下  最近のユーロ地域の危機はマイナスの実体的ショック 方硬直性)に関しては有力な証拠がある.仮に貿易相手国 を受け止めて,対外調整を円滑化するために,独立的な金 のインフレ率が自国のインフレ率を凌駕しないとすれば, 融政策(国家レベルでの変動相場制を含む)をもたないこ 国内的減価というのは実現が緩慢でコスト高になる.例え とのコストを明示している.高いコストを伴う危機への対 ば,3 年間で 5%の競争力向上を達成するには,ギリシャ 処は周辺諸国における備えの欠如によっていっそう悪化 の場合,10 年間にわたる国内的減価を必要とする.最後 した.つまり,それらの諸国には大きな対外不均衡と財 に,国内的減価は名目 GDP の減少につながるため――た 政不均衡があったのである.金融政策の余地がなかったた とえ実体経済活動が増加しても――,債務持続可能性の収 め,調整の負担はこれらの諸国のすでに逼迫していた財政 斂を遅らせる. 政策に振りかかった.  ユーロ圏の政策当局者のなかには財政的減価――例え  国家レベルにおける金融政策の柔軟性がないため,成長 ば付加価値税の増税と給与税の減税を組み合わせる―― を押し上げ,国を不況から引き上げるための政策オプショ の選択肢を検討しているところもある.そのほうが国内的 ンが著しく制約される.代わりの国内的減価(為替相場の 減価よりも速やかな競争力の押し上げが可能であるとみ 切り下げがないなかでの相対価格の低下)は稀にしか起 られる.その可能性が実現できるか否かはまだ実証されて こらず,緩慢で痛みを伴う調整をもたらす.高所得国で いない. 出所:以下に基づき WDR 2014 チーム執筆――Rose and Stanley 2005; Micco, Stein, and Ordoñez 2003; Shambaugh 2012; Farhi, Gopinath, and Itskhoki 2011. した金融市場のある諸国は,より柔軟性のある取 支調整は変動相場制の国のほうが速い.例えば, り決め(変動相場制)から利益――高インフレを 経常収支不均衡の半分を是正するのに要した時 伴わない高成長――を享受してきている 14.変 間をみると,変動相場制を採用している国は 12 動相場制は緩衝手段として機能し,当該国が実質 カ月,固定相場制を採用している国は 21 カ国と ベースでの悪影響を凌ぐのに役立った.物価が硬 なっている 17.全体として,独立的で健全な金 直的な状況下で変動相場制を採用している諸国で 融政策の枠組みの長期的な存続可能性を保証する は,この制度が促進する,より迅速な相対価格調 ためには,変動相場制度が必要である.ボックス 整のおかげで,実質的なショックに対する実質的 7.2 は通貨同盟のなかで独立的な金融政策(国レ な産出の反応はより円滑になるであろう.交易条 ベルでの変動相場制を含む)をもっていないこと 件の 10%の悪化に直面した変動相場制採用国の のコストを示したものである. 場合,1 人当たり GDP の成長率は 38 ベーシス・  グローバル金融危機の前,先進国と一部の途上 ポイントの低下にとどまったのに対して,固定相 国で支配的な金融の枠組みは細切れのアプローチ 場制採用国では 83 ベーシス・ポイントも低下し を特徴としていた.低位で安定したインフレを達 た 15.変動相場制の国々は自然災害からの回復 成し,産出の変動を安定化し,対外調整を円滑化 も速い.変動相場制を採用している国の産出の増 するために,インフレ目標方式と変動相場制が採 加率は自然災害後の 3 年間についてみると平均 用されていた.一方,ミクロ・プルーデンス規制 1.6%ポイントに達したが,固定相場制の国では と銀行監督は,金融部門における過度なリスク・ わずか 0.24%にとどまった 16.最後に,経常収 テイキングを防止しようとするものであった.こ 272 世界開発報告 2014 の取り決めは特に先進国では,マクロ経済と金融 規制が国内の信用拡張を制限し,通貨や満期のミ の循環が密接に連動しているという事実を考慮に スマッチを防止することが,金融の安定を高める 入れていなかった.例えば,先進国の実質産出と ことになるだろう 21.これまでのところ,マク 信用は 8 割方は同一の循環局面(拡大期か不況 ロ・プルーデンス政策は金融部門におけるシステ 期)にあり,これらの諸国の経済活動が信用収縮 ミック・リスクの削減に有効であったが,産出の によって不況に陥る可能性は 40%である 18.全 変動の安定化に与える影響はまったくの未決問題 体論的なアプローチを欠いていたため,中央銀行 である.ボックス 7.3 は実質 GDP の過度な変動 はインフレと産出のトレードオフに取り組むもの を排除するために,途上国で人気のある 1 つの の,金融不均衡の蓄積には取り組まないという政 ツール――法定所要準備――の効力を検討したも 策措置を採用することになった.にもかかわら のである. ず,無制限の流動性を供給し,金利を急低下させ ることによって,バブル破裂の影響を一掃する― 反循環的な財政政策を推進する ―多くの先進国で好んで追求された政策――の  政府による反循環的な支出は 2 つの理由から は,モラル・ハザード問題を生み出しかねない. 必要である.1 つは資源を恵まれていない人に 先進国で最近みられる低金利と過剰流動性という 移転するため,もう 1 つは総需要が不足する場 環境下では,金融機関には過度なリスクをとり, 合には実体経済活動を刺激するためである.経 バランス・シートを拡大させるというインセン 済活動の収縮や危機状況は人々に影響し,特に ティブが作用する.先進国の金融機関における過 低所得層には打撃を与える.グローバルな金融 度なレバレッジは,資本流入の急増とそれに伴う 危機は 1 日 1.25 ドルの貧困線未満で生活して 金融不均衡の累積という形を通じて,新興市場国 いる人々の数を 5,300 万人増やしたが,その人 に波及するだろう 19. 数は 2015 年まで低下し始めることはないと予  このような動きを受けて,中央銀行の負託事項 想されている 22.反循環的な社会支出とタイム のなかに金融の安定を含めることや,政策ツール リーな刺激パッケージは,困難な時期に個人を を拡大してマクロ・プルーデンス手段を含めるこ 保護し,雇用を刺激するのに重要である.歴史 とに関する議論が再燃している.中央銀行として 的にみると,社会保障政策は金融危機の際に導 は,金融情勢や金融部門の状況が,経済活動を混 入ないし強化されている.例えば,メキシコの 乱させるような信用や資産価格の急激な反転につ 教育・栄養・保健計画(PROGRESA)という貧 ながるかどうかを評価する必要がある.もしそう 困層向けのセーフティネットは,1994 年の「テ なら,中央銀行はマクロ・プルーデンスのツール キーラ」危機を受けて導入された.韓国の年金 を活用して,金融システムの正循環性を削減し, 制度が拡張され,普遍的な医療保険が導入され 銀行の過度なリスク・テイキングを回避し,所要 たのは,東アジア危機後のことであった.韓国 自己資本を追加的に引き上げることによってシス –  の失業保険は 1999  2004 年に失業者の 12.3% テム上重要な金融機関の強靭性を高めるべきであ から約 50%にまで拡張された 23. る 20.金融政策金利の調節は金融バブルの取り  先進国における反循環的な財政政策は,特に危 組みに有効ではないかもしれない.というのは, 機の時期を中心に経済が不況に陥った時に,社会 金利の高騰は産出や失業,変動性などに意図せざ 保障・福祉支出が自動的に増加することによって る悪影響を及ぼす懸念があるからだ.要約すれ 引き金が引かれる.歴史的にみると,先進国に ば,マクロ・プルーデンス手段は――政策金利よ おける社会保障支出は金融危機の年には GDP の りもレバレッジに対して直接的な効果をもってい 13.1%に上昇している.これに対して危機以前 るため――,中央銀行に物価と金融の安定という の平均は 11.4%であった 24.これらの諸国では 目標を達成するために,より多くの手段を与える 経済成長率の 1.0%ポイントの削減は,平均する ことができる.新興市場国にとっては,資本流入 と社会的支出の 0.36%ポイントの増加によって CHAPTER7 マクロ経済リスクを管理する 273 ボックス 7.3 ほとんどの途上国では反循環的ツールとして,金融政策に代わって所要準備政策が用いられている  反循環的な金融政策を実施する傾向にある先進国とは き下げている.換言すれば,所要準備政策が反循環的な役 違って,多くの途上国は正循環的な姿勢を追求している. 割において金融政策に取って代わっているのである. 約半数の途上国は法定準備を反循環的金融政策の代替策  法的な所要準備を標準偏差 1 単位相当分増やすと,政 であると同時に,産出を安定化させるための手段としても 策金利を引き上げる場合よりもいくらか産出を削減する 使っている.好況期に途上国の政策当局は,経済を冷やす .原則として,両方の政策手 (0.39%対 0.21%,下図参照) ために所要準備の増加を選択する代わりに,通貨上昇の圧 段が安定化の目的で活用可能である.しかし,途上国で 力を削減するために政策金利を引き下げている.不況期に は,金融政策は典型的には通貨防衛とインフレ圧力の抑制 は通貨下落の圧力を削減するために政策金利を引き上げ に使われ,産出の変動に対しては正循環的に反応してきて る一方,経済の不況脱出を手助けするために所要準備を引 いる. 所要準備政策は実質 GDP 変動の安定化を手助けできる a. 所要準備政策 b. 金融政策 0.4  0.4  実質GDPの変化(%) 実質GDPの変化(%) 0.2  0.2  0  0  ‒0.2  ‒0.2  ‒0.4  ‒0.4  ‒0.6  ‒0.6  0  1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  0  1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  四半期 四半期 出所:WDR 2014 のために書かれた Vuletin 2013. 注:上図は法的所要準備率が標準偏差 1 単位分が上昇した場合(パネル a)と,金融政策金利が同じように上昇した場合(パネル b) の実質 GDP の反応を示す.このようなインパルス応答はパネル a の所要準備・実質 GDP 増加・インフレの外生的な変化の影響を評 価するためのパネル・ベクトル自己回帰から推定した.パネル b では所要準備の代わりに金融政策金利を使った.点線は 95%の信頼 区間を示す. 補填されている.財政政策が産出の安定化に果 化装置はあまりにも小規模で,実体経済に対し たした寄与度全体の 80%以上は社会支出が占め て大きな円滑化効果をもち得ない.税金が逆進 ている.最大の寄与度の1つは,年金や保健向 的,移転プログラムの適用範囲や給付金が低い, けの支出が失業保険と並んで自動的に増加する 失業保険は存在しないに等しい,などがその理 ことである 25.対象を絞った,勤労意欲を殺ぐ 由である 28.保健や教育,インフラ向けの支出 ことのない移転(例えば失業者や貧困層への移 は好況期には正循環的に動き,他の種類の支出 転)の増加は,アメリカでは産出の変動を安定 より増加が速い.社会支出は下降期でも減少せ 化させるのに極めて有効であった.アメリカで ずにかなり一定の値にとどまっている.したがっ 移転(GDP の 0.6%)を削減すると,産出の変 て,不況期に社会支出を活用するには,好況期 動性は 4%,労働時間の分散は 8%,家 に安全マージンを蓄積するだけでよい. 計消費の変動性は 35%増大する 26. 柔軟 すなわち,好況期に公共支出を増や  これとは対照的に,ほとんどの途 な財政ルールが すという循環的なパターンを打破す 上国は不況期でも財政拡張の実施 あれば,政府にとっ るだけでよい 29.正循環的で裁量 て裁量的な政策措置 に消極的か,またはそれが不可能 的な財政介入策は産出の変動性を 27.このような行動の の必要性は小さく な状況にある 高め,したがって,長期的な成長を なる. 原因は自動安定化装置の弱さ,世界資 阻害する.裁量性への依存度が高いと 本市場に対する正循環的なアクセス,政治 不確実性も増し,不安定性の増大につなが 経済学的な問題などにある.途上国の自動安定 る懸念があろう.もし組み込まれている強靭性 274 世界開発報告 2014 がもっと強いか,あるいは財政面で大きな自動安 じて短期的に消費を,したがって総需要を刺激す 定化装置があれば,政府の裁量的な政策措置の必 る(いわゆるケインズの乗数効果)という裁量的 要性は小さくなるだろう. 措置は,短期的および長期的に生産能力を増やす  途上国の財政政策に正循環的なバイアスがある ための措置(インフラ向けの公共投資など)とは 一因としては,その総じて正循環的な資本市場へ 区別すべきである.このような総支出乗数(追加 のアクセスがある.不況期に国内外で財源を借り 的な政府支出1ドル当たりの GDP 増加)の推計 入れることができなければ(あるいは非常な高金 は小さな問題ではない.推計は経済状況とは独立 利でしか借り入れることができなければ),政府 的な政府支出の変化を考慮すべきである.その推 は支出の削減か増税を余儀なくされる.好況期に 計は特に,逆因果関係および自然災害のような経 政府は市場にアクセスして,借入をして公共支出 済における他の力の影響からの産出に対する政府 を増やす傾向にある.正循環的な財政政策という 支出の影響を別扱いにしている必要がある.この のは,政治的な歪みや分配面での対立がもたらす 識別戦略と整合する証拠が得られており,それは 帰結でもある.好況期に公共支出を巡って競合し 次のことを示唆している.途上国で需要を刺激す ている強力な利益団体から圧力を受けると,政府 るための裁量的な財政政策の利用は,過去 30 年 は(商品価格の高騰や予想を上回る高成長などに 間にわたってみられるように,あまり成功してき 起因する)思いがけない歳入は支出してしまう傾 たとはいえない.途上国における(短期的な)総 向がある.そのような状況下で,景気上昇期に基 政府支出の乗数は極めて小さい.1 年間の政府支 礎的黒字を蓄積する(不測の事態に備えて貯蓄す 出の乗数は平均すると 0.5 ~ 07 の範囲内で変動 る)のは,政治的にコスト高になるおそれがあ している 34.アメリカに関する最近の調査は,1 る.好況期に生み出された財源は,結局は,政府 年間の政府支出の乗数は 0.5 ~ 1.5 の範囲内のど 機関や国有企業,省ないし州,あるいはレント こかにあることを示している.ただし,外生的な シーカー(不当利益追求者)によって横取りさ 財政政策の変化を識別するのに使われた方法には れる 30.最後に,特に腐敗した民主体制下では, 多様性がある 35.ボックス 7.4 は先進国と途上 有権者も政府を飢えさせ政治的なレントを削減し 国における対照的な経験をいくつかレビューした ようとするだろう 31. ものである.  途上国のなかには制度的な発展のおかげで,財  しかし,総支出乗数の規模は当該国の初期条件 政の正循環性の罠を免れた国もある.財政制度の に依存しており,証拠は主として先進国のもので 改善と健全な財政ルールに反映される制度の質が ある.乗数は好況期よりも不況期に大きくなる傾 改善したおかげで,一部の諸国は財政政策の正循 向がある.政府支出の 1 年間の乗数は不況期で 環性を用いずに済んだ.今や 3 分の 1 以上の途上 も好況期でも約 0.5 であるが,拡大期には反応が 国が反循環的な財政政策スタンスにしたがってい すぐにゼロ以下になるのに対して,不況期には 5 る(地図 7.1)32.新興市場国は財政収支と制度 年後の 2.5 まで着実に上昇する 36.総乗数は中 の改善を受けて,市場において公的債務の金利ス 央銀行がマクロ経済状況に応じて金利を調整でき プレッド縮小という報奨を享受した.例えば,ブ る時には 1.0 よりも小さくなる.しかし,もし名 ラジル国債のスプレッド(対アメリカ財務省証券) 目金利が政府支出の増加に無反応であれば――特 は,2000 年末から 12 年末までの間に 772 ベー に金利がゼロに近い場合――,それはずっと大き シス・ポイントから 145 ベーシス・ポイントに くなる.仮に政府支出が 3 年間にわたって増加 縮小した.途上国が正循環性を用いずに済んだこ する一方,名目金利が変化しなければ,インパク とに貢献した他の要因としては,国内金融市場の ト乗数は 1.6 になる 37. 深化と財政政策に対する信頼性の増大がある 33.  生産能力を構築するのに政府支出がもつ有効  裁量的な財政刺激策の有効性は,学界や政界で 性は,産出インパクト乗数を超越する.特にイ 活発な議論のテーマになっている.政府支出を通 ンフラ・プロジェクトを中心とする公共投資プ CHAPTER7 マクロ経済リスクを管理する 275 地図 7.1 政府消費は過去 10 年間に途上国の 3 分の 1 以上で反循環的になった 常に反循環的 反循環的になりつつある 循環的になりつつある 常に循環的 データ不明 出所:Frankel, Végh, and Vuletin 2013 の方法論に基づき WDR 2014 チーム推定.地図番号 IBRD 40099. 注:地図は財政政策の景気循環上のスタンスが 1960 – 99 年と 2000 – 12 年の間でどう変化したかを示す.景気循環上のスタンスは,一 般政府消費支出のなかの(Hodrick-Prescott フィルター処理した)循環的な構成要因が,それ自身のラグ付数値に対する回帰と,実質 GDP の循環的な構成要因で測定.実質 GDP の循環的要因の係数の符号は,政府消費支出が正循環的か(プラス符号) ,反循環的か(マ イナス符号)を示す.実質 GDP の循環的な要因の係数は,1960 – 99 年と 2000 – 12 年について別々に推計した.その上で,各国は常に 反循環的(両時期に反循環的) ,反循環的になっている(反循環的なのは 2000 – 12 年だけ) ,正循環的になっている(正循環的なのは 2000 – 12 年だけ),常に正循環的(両時期に正循環的)のいずれかに分類されている.実質 GDP の循環的要因に関する内因性の可能性 は,自国の実質 GDP の循環的要因のラグ付数値に加えて,貿易相手国の実質 GDP の循環的要因(現行数値とラグ付数値の両方)およ び国際的な石油価格を指標として使うことによって制御されている. ロジェクトは,GDP,投資,および生産性に対 健全な財政拡張政策の要素 して永続的なプラス効果をもたらす.当該国の  財政拡張は信頼性と持続性がある形で資金調達 インフラ資本の蓄積が比較的低い場合には特に される必要がある.財政拡張の資金を調達する余 そういえる 38.次のような証拠が示されている. 力があるのは,強固な財政ポジションと巨額の外 政府投資の産出に対する短期的な影響は途上国 貨準備残高をもっている途上国(チリ,中国,マ では 0.6 であるが,その累積的な影響は長期的 レーシア,トルコなど)だけである.このポイン に 1.6 という値にまで上昇する 39.公共インフ トは好況期に財政のバッファーを構築して,不況 ラ・プロジェクトはさまざまなレベルの政府相 期に利用できるようにしておくことの重要性を強 互間の調整を必要とするため,企画や入札,契 調している. 約,建設,評価など広範囲にわたるプロセスを通  財政拡張は急ぐのではなくタイムリーであるべ 過する.公共インフラ投資による刺激策は,イン きだ.途上国にとって,タイムリーな措置は難し フラ・サービスの比例的な増加に自動的につなが い課題である.というのは,データの質と財政制 らない可能性がある.というのは,進行中のプロ 度がしばしば脆弱だからである.適切な監視制度 ジェクトの質が限定的ないし劣悪だったり,プロ や新規プロジェクトを評価する能力を整備せずに ジェクトの選定や実施が非効率だったりするから 公共支出の拡大を急ぐと,深刻なリスクが発生す だ.支出と資産蓄積のこのような連動性の欠如 ることがある.政策当局は「無用の長物」になっ は,多くの途上国でみられるように,統治や財政 てしまうリスクのある未検証の公共支出プロジェ 制度が弱い場合に特に顕著になっている. クトに乗り出す前に,まずは機能の良い実証済み のプロジェクトを拡張し,評価済みで「すぐに着 276 世界開発報告 2014 ボックス 7.4 財政刺激策:良い,悪い,醜い 中国.1997 – 98 年の東アジア金融危機に対する中国の対 て,政府購入は 2010 年第 3 四半期に GDP の 0.2%,イン 応は,外的なショックに直面した途上国による反循環的介 フラ支出は 0.05%であり,最も高くなった.最後に,イ 入策の成功事例とみられている.刺激策は成長の鈍化と同 ンフラ・プロジェクトに着手し,財・サービスを購入する じ時期に行われたタイムリーなもので,主にインフラ支出 州・地方政府に対して供与された補助金は,州・地方の純 の増加を通じて作用し,好況期には逆転された.この成功 借入を削減するために使われた.要するに,連邦政府の刺 にはいくつかの要因があった.第 1 に,中国の公的債務 激策は崩壊しつつあった州の支出を補填した.つまり,政 は危機以前には非常に低水準であったため,赤字財政の余 府部門全体の純支出の増加は無視できる程度にとどまっ 地には大きなものがあった.第 2 に,持続的な成長と下 たのである. 位政府の借入禁止を背景に,信用制約のある地方政府には インフラ・プロジェクト向けの融資の要請が多数,確実に アルゼンチン.時宜を失した拡張的な財政政策への変更が 存在した.第 3 に,刺激策は GDP の 1%と控え目であっ もたらすリスクは,1990 年代にアルゼンチンで例証され たものの,より大規模な投資支出の要因になった.中央政 た.テキーラ・ブーム(1996 – 98 年)後の時期に,アル 府のインフラ・プロジェクトへの参加は協調融資という形 ゼンチンは拡張的な財政政策を実施して,ブームをいっそ に限られた.すなわち,中央政府が融資保証をして民間銀 う煽った.この拡張の動機は年金改革も一因となった歳入 行がローンを供与した.最後に,財政拡張は高成長が依然 不足であった.同改革の歳入に対する短期的な悪影響が, として続いている時期に実施された. 他の増税や支出削減で相殺されなかったのである.その結 果,公的債務の対 GDP 比は経済ブームにもかかわらず上 アメリカ. アメリカ再生・再投資法(2009 年 2 月制定) 昇を続けた.1998 年にロシア金融危機が勃発して,新興 は 2009 – 11 年に,アメリカ経済の刺激に失敗した.個人 市場諸国の間で資本流入について突然の停止という引き の可処分所得を引き上げる一時的な移転は消費の増加に 金が引かれた際,アルゼンチンの財政当局には不況緩和に つながらなかった.というのは,受益者はこの財源を債務 動く余地がなかった.代わりに,厳しい財政収縮措置を余 返済と貯蓄に使ったからだ.連邦政府の財・サービス購入 儀なくされ,それが不況を深め,最終的には金融政策体制 に割り当てられた財源額は極めて少額であった.全体とし の崩壊につながった. 出所:WDR 2014 のために書かれた Kraay and Servén 2013; Taylor 2011. 手できる」新規プロジェクトの資金を調達するこ 況期に使えるようにそれに類似したプログラムを とを考慮すべきである. 設計する――ことが,反循環的な政策運営のため  財政拡張は成長を高める支出プログラムや,支 の持続可能な方法である. 出が可逆的な分野に焦点を当てるべきである.そ  途上国における歴史的な経験では,拡張的な財 のような財政拡張なら,財政や債務の長期的な持 政政策は有効であるという概念に疑問符が投げか 続可能性を危うくすることはないだろう.政策当 けられている.しかし,それは拡張的な政策が危 局は自動安定化装置として機能するプロジェクト 機の影響を緩和するのに一定の役割を演じられな に集中すべきである.実例としては資産調査を伴 い,ということを意味するものではない.反循環 う社会給付プログラムがある.これは不況期に最 的な財政措置の勧告には,過去の経験に基づいて 低の適格基準を下回る人々の増加に伴って拡大 酔いが醒めるような教訓を盛り込むべきだという し,好況期に縮小するものである.同様に,明確 ことを意味する.すなわち,拡張的な財政政策の に市場水準を下回る賃金を支給する勤労福祉プロ 採用に当たっては次の 2 つの優先課題を考慮す グラムは不況期に参加者を引き付けるだろうが, べきである.第 1 に,社会的セーフティネット 景気の回復期には魅力に欠けるだろう.公的債務 を強化して,最も脆弱な層や危機によって最大の が持続不可能に累積するリスクも削減される.と 影響を受ける層を支援すべきである.短期的な対 いうのは,支出の増加はインフラなどといった分 処メカニズムが子供の食料消費や教育の削減な 野で生じるため,そのコストは将来の受益者負担 ど,深刻な長期にわたる影響をもたらす分野に関 金を通じて回収できる可能性があるからだ.要す しては特にそういえる(第 3 章参照).第 2 に, るに,自動安定化装置を強化する――あるいは不 政府支出はインフラなどの長期的な成長に貢献し CHAPTER7 マクロ経済リスクを管理する 277 そうな分野に焦点を当てるべきである. いなかった事態が起こるのを阻止する,あるいは そのような事態に対処するための公的政策措置を 要約したものである(本章の後のほうに記載され 安定化政策や長期的社会プログラムの資金 ている偶発債務に関する議論を参照). を調達するために持続可能な財政資源を創 出する 景気後退に対処し強靭性を構築するために余裕を ショックや予想外の責務に対処するために財政面 創出する で機動性の余地を創出する 財政ルールを適切に利用.放漫財政に対応して,  安定化政策や長期にわたる社会プログラムのた また,歪んだインセンティブを是正し,好況期に めの資金調達は,政府の貯蓄や借入の能力によっ 過剰支出させる圧力を抑制するために,財政ルー て制約を受けている.このような状況下で,政策 ルというものが出現してきている.それは典型的 措置のために余裕を生み出すことは,公的債務の には,債務や支出,歳入,財政収支に関して,毎 持続可能性,望ましい支出の性格と時期,公共収 年数値的な上限を設定する.しかし,最近の金融 入の経済活動に対する感応度,財政リスクから受 危機の際,このような年ごとの数値目標は悪い ける影響,政府の債務返済能力などの評価を必要 ショックに対する調整の円滑化に役立たなかっ とする.最後の点に関して,債務不履行やそれに たどころか,支出の構成を社会支出や投資支出 伴う信用格付けの引き下げは,当該国の信用力を から変更し,不均衡が大きな諸国では粉飾決算 低下させ,経済活動の下降を深化させる. によって透明性を侵食するインセンティブを生 み出した 40.ルールでは次のことが認識される マクロ経済の大失敗に対処する備え.深刻なマク べきである.すなわち,財政の持続可能性という ロ経済の収縮は典型的には公共収入の落ち込みと のは異時点間の概念であり,暫定的な赤字とその 社会支出増加の要請を伴う.過去 50 年間,中所 後の相殺的な黒字を伴うことを許容しなければな –  得国は 14  16%の期間,低所得国は驚くべきこ らない.景気循環にそって財政均衡を目指す財政 とに 27%の期間も不況状態にあった.一方,先 ルールは,ショックに対応し,持続可能性の基準 進国が深刻な不況(1 人当たり実質 GDP の累積 を充足する柔軟性を提供する.しかし,このよう 的な低下が 5%以上と定義される)下で過ごした なルールは万能薬からは程遠い.その信頼性と有 時間は全体の 7%にとどまっている.総需要の崩 効性はその設計,適切な制度的能力,明確な運営 壊に対するタイムリーで適切な対応策は,政府財 手続き,有効なコミュニケーション戦略に依存し 政の健康状態によって制約を受けるだろう. ている(本報告書の末尾にある「政策改革に焦点 を当てる」を参照). 予算上の予期していなかった事態に対処する備  中期支出枠組み(MTEF)は,先見的な多年度 え. 政府は暗黙の責務(社会保障プログラムな にわたる予算編成を実施するために,もう1つの ど),あるいは明示的ないし暗示的な偶発債務か 選択肢となっている.このような枠組みの下で ら発生する責務を管理するために,財政的余裕を は,支出は期待収入を超過すべきではなく,中 保護しておく必要がある.明示的な偶発債務は政 期的な部門戦略を通じて配分される.MTEF は, 府の契約条件や規則を充足する必要性から生じ 全資源を支出機関に配分するのにトップ・ダウン る.その実例には信用保証やインフラにおける管 型アプローチ,支出機関の資源ニーズについてボ 理パートナーシップが含まれる.暗黙の偶発債務 トム・アップ型の決定,そして資金調達と結果の を政府が引き受けるのは,例えば,政治的な公約 結び付きに関する評価を組み合わせている.現 (金融機関の救済) , ,人道的な論拠(災害救援) 在,全世界で 3 分の 2 以上の諸国が MTEF を採 あるいは公共財の提供(環境の浄化)などの理由 用している 41. がある場合だ.表 7.1 は不況や予算上の予期して 278 世界開発報告 2014 表 7.1 財政リスクを防止する,あるいはそれに対処するための政策 資産管理に関する政策 負債管理に関する政策 不況 / マクロ経済上の大失敗に取り組む 構造的な予算ルールと好況期に貯蓄を保護するための国富 財政再建:債務・赤字の削減;健全な債務管理戦略(金利・ ファンド ;通貨・金利にかかわるヘッジ 通貨や借換のリスク削減) 有効な租税行政 支出の優先順位設定 ドナー援助の一部を貯蓄(特に低所得国向けのもの) リスクの分析と軽減(特に自然災害について)を公共投資の 商品価格のヘッジング(資源国にとって) 枠組みに統合;公共投資の将来コスト / 損害について市場性 保険付保 収入の変動の緩和を目的とした国有企業の健全な統治 社会保障のファイナンス:私的に管理され,積立が十分な拠 出型ファンドを創設することを通じて,個人の責任を奨励 予算支出の透明性と開示を長期的に法的拘束力がある形で増 大;特定用途指定を削減 予算上の不測の事態に取り組む 租税競争に伴う財政収入の変動性を緩和するために租税枠組 偶発債務を管理すべく財務省内に財政リスク管理ユニットを みを透明化 創設 グローバルな市場心理の変化を織り込んだ資産の国際的な分 保証:リスク分担・価値評価・引当金積み増しを通じて適正 散 なインセンティブを構築 積立が十分な預金保険基金 政府に対する法的請求権を回避するために透明性を増大し, 信頼性を築く 財務的な救済の必要性を緩和するために,適切なミクロ・プ ルーデンスとマクロ・プルーデンスの監督 未振込資本金に備えた適正な外貨準備 救済のリスクを削減するための下位政府の借入操作に関する ルール 公的災害リスク・ファイナンス戦略の準備と実施:保持手段 (準備金や偶発予算)やリスク移転メカニズム(パラメトリッ ク保険や大災害ボンドなど) 自然災害のための十分なインフラと早期警告システム 汚染に関連した残留損傷を防止するための環境規範 出所:WDR 2014 チーム. 資産を慎重に管理.悪いショックを乗り切るため 高になることがある.というのは,その収益率は に,外貨準備を蓄積した国もあれば,商品価格 国債の金利よりも低いからだ.中規模の新興市場 ブーム(石油輸出国など)や大規模な輸出主導型 –  国にとって,外貨準備保有のコストは,2001  09 の経済ブーム(中国)を受けて,国富ファンドを 年の平均で GDP の約 0.5%に達した 43.上位中 創設した国もある.外貨準備の蓄積は為替相場の 所得国の過去 10 年間における外貨準備高の対 変動性を制限したり,経常収支が逆転した時に国 GDP 比率をみると,2000 年の 10.9%から 10 内総支出の落ち込みを和らげたりするのに使うこ 年の 30.8%とほぼ 3 倍になった.対外資産の中 とができる 42.しかし,外貨準備の保有はコスト 身をみると,新興市場諸国ではより安全な資産 CHAPTER7 マクロ経済リスクを管理する 279 (外貨準備や債券)が増加を牽引しているが,こ 頼性と有効性の増大につながる.これらは政府宛 れとは対照的に先進国ではより大きなリスクを伴 てに定期的にレポートを提出している.例えば, う資産(株式や外国直接投資)が増えている.世 クウェート投資庁には独立的な理事会があり,そ 界の他の諸国との比較では,新興市場諸国は今や れは閣僚会議の管轄下にある. 安全資産については純債権ポジション,危険資産 については純債務ポジションにある 44.外国資 より健全な公的債務管理戦略を採用.新興市場国 産の純蓄積と持続的な経常収支黒字が,国富ファ の公的債務管理担当者は,大幅な債務削減ととも ンド(SWF)の台頭と拡大につながっている. に,政府債務ポートフォリオのリスクと満期のプ それらは収入源に応じて,一次産品輸出の収入に ロフィールについて大がかりな変更を立案した. よる商品 SWF(ノルウェーの政府年金基金,サ 第 1 に,現地通貨建て債券市場が発展したおか ウジアラビア通貨当局の外国資産保有など)と, げで,政府は自国通貨建て債券を発行して,対外 外貨準備,政府予算黒字,および民営化収入など 資金調達への依存度と為替相場リスクから受ける の移転による非商品 SWF(中国の華安投資有限 影響を削減することができるようになった.第 2 公司,シンガポールのテマセク・ホールディング に,公債発行は短期の変動利付債から固定利付債 ズなど)に大別できる. に徐々に移行して,金利変動からうける影響が削  SWF には多様な目標があり,それには政府収 減された.第 3 に,政府は長期の固定利付債を 入の安定化,世代間の貯蓄・年金債務の管理,長 発行することによって,ポートフォリオの平均満 期投資の実施などが含まれる.SWF は政府ない 期を引き延ばした.ブラジルやコロンビア,ジャ し現代世代による枯渇化から資本を保護する,と マイカ,メキシコ,ペルー,トルコ,ウルグアイ いう正当性と信頼性を必要とする 45.世界全体 などの確立した発行国は,2006 年以降満期 30 で SWF の運用資産は 5 兆ドル強に達している 年の債券を発行している.このような満期の長期 (石油ガス関連 SWF が全体の約 60%を占めてい 化のおかげで,国債管理者は借り換えリスクを削 る).これに対して 2012 年現在の世界の外貨準 減することができた.最後に,安定した国内マク 備は 11 兆ドル,世界 GDP は 71 兆ドルであっ ロ経済環境と金融市場改革を背景に,政府は資金 た 46.関係諸国は SWF について運用理念や投 調達源を多様化することができた.国内の機関投 資方針を策定するために,法律を制定したり担当 資家がより大きな役割を果たしつつあり,年金基 機関を設立したりしている.資本の調達や引き出 金や保険会社が国債に対する需要を増やしてい し,支出に関する手続きは,個別ファンドの目標 る.特に投資適格の地位を有している(ないし最 に適合しているべきである.安定化や貯蓄を目的 近それを獲得した)諸国を中心に,外国投資家も とするファンドは,典型的には(商品や政府関連 役割を高めている 49. の)余剰収入で構成されている.ファンドからの 引き出しは時に柔軟なこともあるが,それには政 市場性保険で公的債務管理の余地を高める.金利 府からの予期せざる財源要求を最小化する,とい や為替相場,商品価格,資本流入の逆転など,大 う運用委託が必要である 47.SWF の支出計画は きなマイナスの変動の後遺症への対処に必要な資 首尾一貫した政策枠組みでなければならず,柔軟 金を確保する際,市場性金融手段は政府にとって で――もし必要なら――,予期せざる大きな悪い 役に立った.このようなリスクの一部をヘッジす ショックに対処するのに利用できる必要がある. るために,明示的な状態依存型債務――例えば, 例えば,東ティモールの石油基金は自国の送電線 GDP,輸出,および輸出商品価格(銅価格など) 網や輸送網に投資している.チリは 2011 年の地 に連動した国債――を発行している政府もなかに 震で被害を受けた地域の再建を支援するために はある.しかし,このような手段によるヘッジン SWF から資金を引き出した(ボックス 7.5)48. グの潜在力はまだ十分には実現していない.すで 説明責任を強化すれば,このようなファンドの信 に国際的な市場で取引されている状態依存型証券 280 世界開発報告 2014 ボックス 7.5 チリにおける商品収入の管理:健全な制度構築と公共資源の管理の事例  チリは世界最大の銅生産国であり,2010 年でみて世界 ルールと政府貯蓄との連動を強化した制度的枠組みを提 の銅貿易の 43%を占めている.銅は政府にとって重要な 示した.同法によって 2 つの国富ファンド(SWF)も創設 収入源である.銅からの所得の約半分は税収やチリ銅公社 された.同法では財政政策の運営に関して,より大きな開 ――チリの銅生産の約 3 分の 1 を支配している国有企業 示と透明性が考えられている.政府は新たに 4 年間の任 ――の利益という形の公的なものである.チリは天然資源 期にわたり財政政策の枠組みを発表し,CAB の推定値に をどのように管理しているのか? その答えは,より良い 加えて,政府の財務状況,財政持続可能性,およびそれが リスク管理を目指した,慎重な財政政策のより一層の制度 マクロ金融において持つ意味に関する年次報告書を公表 化にある. することが義務化される.次には,CAB 目標を算定する  2001 年,チリはノルウェーを除くと,主要第一次産品 ためには,政府の偶発債務に関する年次推定値が必要にな の景気循環と輸出価格の循環的な影響を是正できる唯一 る. の国となった.政府が景気循環を調整した財政収支(CAB)  政府の将来的な年金債務の資金を調達するために,年金 について目標水準を公約する財政ルールは,高収入期には 準備基金が創設された.好況期には,構造的目標(ただし 節約を目指し,不況期には財源を使うというものである 年金基金への拠出を控除後)を超過する財政黒字は新しい (それは CAB に反映されている節約ないしマイナスの節約 経済社会安定化基金に預け入れられる.不況期には,財政 .財政ルールは財政政 と同じか,それ以上のものとなる) 赤字(年金基金への支払いを含む)の資金を調達するため 策に関して予測可能な軌道を示すものであり,銅価格に関 に,財源が安定化基金から引き出される. 連した財政収入に関する不確実性を削減した.ルールは非  2 つの SWF に保有されている財源の国際投資は財務省 常に健全な措置ではあるが,その機能は完璧というには程 が直接遂行するか,または,チリ中央銀行,あるいは中央 遠い.チリは依然として,事前にルールからの免責条項 銀行が採用した民間のファンド・マネジャーに外部委託す ,ないしルー (あらかじめ特定された条件下で適用される) ることができる.法律は財政責任基金のための金融諮問委 ル違反と是正の確保にかかわる事後的な制裁を制定しな 員会という新しい独立的な委員会を設立した.これは基金 ければならない. の投資方針に関して財務省に対して拘束力のない勧告を  チリは財政政策を資源収入管理の里程標にもした. 提供し,SWF の財務実績に関して年次報告書を発表する. 2006 年に制定された財政責任法(法 20128 号)は,財政 SWF の財務諸表は独立的な国際機関によって監査される. 出所:WDR 2014 のために書かれた Fuentes 2013. は追加的な保険を提供して,政府が反循環的な収 ない.特に外部からの資金調達にかかわるショッ 益率をもつポートフォリオを構築するのを手助け クは債権者の貸出能力にかかわるショックに由来 することができる.例えば,資本フローが逆転す することが多いからである 51. る(突然停止する)リスク――国際的な質への逃 避に関する逸話に牽引されて――と,シカゴ・オ 公的資産負債管理枠組みを実施.政府が健全なリ プション取引所の市場変動性指数(VIX)の急騰 スク管理をするためには,公的資産負債管理枠組 との間には強い相関関係がある.これはスタン みの有効な実施が必要とされる.この枠組みが機 ダード&プアーズ 500 指数の予想変動性を測定 能するためには,個別の公的金融資産負債を統 したものである.VIX 連動契約を「空売り」す 制・管理している多種多様な政府機関による調整 る戦略は,突然の停止に対して良いヘッジになる を高めることが必要である.例えば,中央銀行が かもしれない.同様に,商品価格の変動に対して 債券を発行したり,偶然の収入を保有したりして ヘッジする市場性手段も利用可能であり,それに いる(一次産品輸出国)場合には,国庫局と中央 伴う厚生上の利益も潜在的に大きい 50.このよ 銀行の間で調整が必要である.実際には,資産負 うな措置は外部からの資金調達の変動に対して, 債の管理はめったに調整されてない.一部の(全 ある程度の潜在的な保険になるかもしれないが, てではない)バランス・シートの項目の管理を統 その有効性は新興市場のリスクを喜んで引き受け 合する,という部分的な調整に向けた努力は行わ てくれる,懐が深くて情報に通じた債権者が存在 れている.例えば,フィンランドやギリシャ,ト しているか否かに依存する.それが問題かもしれ ルコは中央政府の債務と現金準備の純ポジション CHAPTER7 マクロ経済リスクを管理する 281 の管理を統合化している.ハンガリーでは,外貨 る労働者の範囲,男女平等,年金の妥当性,管理 準備の増加を受けて,債券を外貨建てで発行する 手数料など)に取り組んだ包括的な年金改革法を 必要性が出てきた時には,中央銀行が連結貸借対 制定して,個人勘定システムの補助として基礎的 照表を作成する.統合度が最大の国であるカナダ な皆年金を創設した.新しい法律に基づいて,連 では,資産と負債の両方の管理は 1 つの機関な 帯年金制度が適用範囲を広げるために既存の義務 いし省庁に割り当てられており,それが日々の管 的な個人勘定に追加された.また,非拠出型の基 理の責任を委任し(例えば中央銀行に),借入と 礎的な連帯年金も導入された 55. 投資のプログラムを調整している 52. 明示的な偶発債務のために健全な枠組みを開発. マクロ経済的な偶発債務を管理する 偶発契約が最適に設計されていれば,受益者ある  公的債務の管理は現行の責務に取り組むだけで いは被保証者のいずれかによるモラル・ハザード なく,偶発債務にも焦点を当てる必要がある.そ を削減できる.被保証者ないし受益者が一部の れはこれらの債務が財政の持続可能性を低める可 リスクを負担するような,官民でリスクを分担 能性があるということについての認識が高まった する仕組みを開発することが必要である.例え ことを反映したものである.例えば,政府保証の ば,信用保証の適用率は,貸し手に,借り手を適 要請は予算上の責務について引き金を引くことに 切に評価および監視するようなインセンティブを なるだろう. 提供すべきである.ほとんどの実務家は,貸し手 –  はリスクのうちの 30  40%と大きな部分を負担 社会保障支出を抑制.多くの国では,社会保障給 すべきであると主張している.実際には,平均的 付(提供が公的か私的かは問わず)は暗黙の公的 な保証はローンの 80%を対象にするが,貸し手 保証である.それが政治的に拘束力をもっている に 100%までの保証を供与する制度もなかにはあ (時には不可避である)限り,このような給付は る 56.政府は他のリスク分担の仕組みを検討す 最終的には政府の責務になる.社会保障と人口動 べきである.例えば,終了条項(不必要になった 態上のトレンドに関連した長期的な予算への圧力 ら取り決めを停止できる),担保を供託したり持 を開示したほうが,各国は関連のあるリスクをよ ち分を所有したりする要件,下振れリスクと並ん りうまく管理することができる.例えば,オース で潜在的な上振れリスクを分担する措置などであ トラリアやニュージーランド,イギリス,アメリ る.場当たり的な仕組みを実施するのではなく, カは,独立した長期的な財政の持続可能性に関す 政府としては契約上の義務に関連したリスクを, る報告書を公表している.EU 諸国やブラジル, より良く評価して軽減するための財政枠組みを開 日本は年金・社会保障支出に関する長期的な財政 発する必要がある.コストを予測し,そのような 展望を報告している 53.社会保障の財政コスト 債務を負うメリットを評価し,このような義務に は,このような暗示的で制限のない保証を明示的 政府が応じる条件を宣言する方法を開発すべきで な限度のある保証に転換することによって,軽減 ある.例えば,オーストラリアとカナダは,政府 することができる 54.例えばチリでは,1981 年 がローン業務――リスクの認識,価格設定,適 の年金改革で,私的管理による個人退職勘定が導 用範囲の決定・評価を含む――に保証人として –  入された.類似の改革が 1981  2004 年の間に, 参加するのを規制するための原則を策定してい ラテンアメリカと東ヨーロッパの数カ国で実施さ る.インフラの官民パートナーシップについて れた.それにもかかわらず,2008 年の危機では, は,コロンビアと南アフリカの政府は適切なリ このモデルの有効性に関する欠点が表面化した. スク・テイキングとリスク配分を確保するため それには個人勘定にかかわる高い手数料,分配効 の枠組みを確立している.このような制度の下 果,政治的な干渉などが含まれる.2008 年 3 月, では,リスク配分は各国の法律あるいは国際法 チリは決定的に重要な政策分野(適用の対象にな に反映されている 57. 282 世界開発報告 2014 透明性と開示を通じて財政政策の意思決定を高 供する危機処理について,適切な枠組みを考案す める. 財政リスクに関する情報の質を高めるこ る必要がある. とによって,透明性は慎重な財政政策に対する 支持を形成し,より良い政策措置を促し,より 自然災害に関連した負債を管理するために包括的 良いリスク軽減につながる.開示は公共部門の な戦略を設計.災害後の対処から先見的な予算編 勘定や財政政策の持続可能性に対する信認と信 成に動くことが,国の自然災害に対する金融・財 頼を高める.信頼がやがて借入コストを削減し 政的な強靭性を高めるのに役立つ 60.災害リス て,政府の国際資本市場へのアクセスを改善す ク・ファイナンス保険(DRFI)プログラムは, る.財政の透明性の増大と当該国の信用格付け リスクを重層化するボトムアップのアプローチを の改善との間にはプラスの相関関係がある.政 土台に,各国向けに築かれた災害リスク・ファイ 府が透明性の推進を選択すると,信用スプレッ ナンスの枠組みを提案するものである.これは自 ド は 平 均 的 に 11 % 縮 小 す る 58. 一 部 の 政 府 然災害が発生する前に国が予算案を策定し,それ (オーストラリア,ブラジル,チリ,コロンビア, に関連した偶発債務によって財政が受ける変動 インドネシア,ニュージーランド,パキスタン) 的で無制限の影響を削減するのを支援する.政 は最も優れた事例として,自らのバランス・シー 府は年次予算配分や国内準備などのリスク自己 ト,したがって政策スタンスに対する財政リス 負担ツールを通じて,発生する確率が高いもの クの説明書を発表している.しかし時折,政府 の,影響が小さい事象(局地的な洪水や嵐,地滑 責務を完全に開示するとモラル・ハザードにつ りなど)を有効に管理できる.メキシコには毎年 ながることがある.例えば,一部の暗黙の偶発 8 億ドルの予算配分を実施している国家災害基金 債務を公表すると,政府が損失補填のために介 がある.リスクの中間層には,偶発的信用枠ない 入するという印象を与えることによって,過度 し予算再配分で取り組むことができる.例えば, なリスクを負担する主体が出現する可能性があ それには災害リスク繰延引出オプション(CAT- る.加えて,訴訟になった場合に政府を窮地に DDO)の付いた世界銀行の開発政策ローンがあ 陥れる公算のある情報は漏らすべきではない. る.コスタリカ,グアテマラ,コロンビア,およ ボックス 7.6 は財政リスク開示におけるコロン びフィリピンは,自然災害後に CAT-DDO から ビアの経験に光を当てたものである. 資金を引き出している.金融市場商品――伝統的 な保険やパラメトリック保険,代替的リスク移転 金融救済を回避するために適切な規制および危機 メカニズム,特に大災害債券(CAT 債)――は, 処理の枠組みを維持.政府による金融部門の救済 低頻度で大きな影響をおよぼす事象に関連した負 はコストが高く,さらに財政状況の持続可能性を 債を管理するのにより適している.例えば,メキ –  損なうことがある.1970  2011 年の間に 87 件 シコは 2006 年に初の CAT 債を発行した.他の の金融システム危機を救済する財政コスト(中 リスク・プーリング型の仕組みとしては,カリブ 位数)は,GDP の約 7%(先進国 4%,途上国 海や太平洋の諸島で創設された地域的な災害保険 10%)であった.最近の銀行危機は政府の責務 ファシリティがある(第 8 章参照).政府は自ら という点でコスト的に最大であった.アイスラン の管理下にある国有地について,予算財源を凌駕 ドとアイルランドにおける救済のための財政コス する環境浄化コストを支えるために,商業的な保 トは,現在までのところ GDP の 40%を超過し 険を購入することもできる.国際社会――より具 ている 59.金融救済に関連するリスクを回避す 体的には国際機関――も,災害リスクに対処する るためには,金融仲介業者の行動を規制する適切 ための資金を調達するために,偶発的な手段や緊 な制度的枠組みと,その財務状況を監視する健全 急融資を提供している(第 8 章参照). な組織体の両方が必要である.加えて,政府とし ては事後的なリスク分担に関して明瞭な期待を提 CHAPTER7 マクロ経済リスクを管理する 283 ボックス 7.6 コンロンビアにおける財政リスクの開示:リスク管理に関するより大きな透明性と信頼性への道  コロンビアがグローバルな経済的混乱に対して強靭で 待される財務成果に影響するリスクを特定,管理,および ある一因はその健全な財政制度にある.過去 15 年間にわ 監視する.統計モデルを使って発生の確率とリスクの財務 たる財政枠組みの漸進的な整理統合は,2003 年の責任・ への影響を推計している.例えば,PPP 契約から発生する 透明性法(法 819 号)の制定によって強化された.同法 偶発負債は 2012 年で GDP の 0.27%と推定された.国家 は中期財政枠組み(MTFF)を創設している.これは財政 インフラ庁の創設と PPP を統治する新しい法律も投資プ 政策の透明性とリスク管理に関して,高い基準を設定する ロジェクトの技術的および財務的な構造を改善し,契約再 マクロ財政政策を立案するためのツールである. 交渉のインセンティブを弱めた.  MTFF は 10 年間にわたる財政枠組み,主要な財政リス クの評価,前年に採用された経済的決定が財政に与える影 国家に対する訴訟に関連した偶発負債を評価.このよう 響を盛り込んでいなければならない.このような評価は予 な負債は数が多く,財政に与える影響も増加している. 算法案が議論される前に,議会に提出される公的文書のな 2011 – 21 年について GDP の 71.1%に達していると推定さ かで毎年取りまとめられなければならない.この法律に れている.それらを評価するのに確率ツリーを使ってあら よって,中央政府は国のマクロ経済・財政のパフォーマン ゆる段階の訴訟が説明されている.それは類似の管轄区に スとマクロ経済の枠組みを,10 年間にわたる視野で分析 おける類似の措置に関する歴史的な情報と定性的な分析 することが義務付けられている.さらに,次の点も分析が に基づいている.このような負債の財政に与える影響の増 義務化されている:非金融公共部門の基礎的財政収支の数 大の一因は,公的弁護制度の質が低いことにある.最近設 値目標とその将来の金融プラン,前年に制定された法律の 立された「国家法的弁護庁」は,このようなコストを抑制 財政コスト,準財政活動(中央銀行や預金保険機関などに するために,正しい方向に向けた第一歩である. よる)の財政への影響. 公的信用保証事業に伴う偶発負債の決定.このような偶発 非明示的債務と偶発的負債.1998 年の法 448 号は予算上 事象の評価は支払い能力の確率曲線の推定に基づいてい の偶発性を管理するために,初めての規則を発表し,財 る.推計値の示唆によれば,それは 2011 – 21 年について 務省(MOF)にその評価を承認し監視する責任を付与し, GDP の 0.22%である. 国家機関偶発基金というヘッジングの仕組みを創設した. 1999 年には,初めて国家企画庁が年金債務の現在価値を 災害関連の偶発負債に対処.コロンビアでは地震と洪水が 推計して,公共部門に関して非明示的債務と偶発的負債の 財政に大きな影響を与える a.政府は自然災害により効率 評価を含む「拡張バランス・シート」を作成した.2003 的に対処するために,次のように制度的・財務的な能力を 年,法律 819 号により MTFF は年金と解雇の負債に関連 強化している:1985 年に国家防災警鐘制度という調整機 ・ した非明示的公的債務と,官民パートナーシップ(PPP) 関を創設,国家の潜在的コストと財務能力に関するインパ プロジェクトにおける国家保証,ローン保証,および国 クト評価を実施,最近洪水の影響を受けたインフラを修 家に対する訴訟などに関連した偶発負債の年次評価を盛 復・適合化するための財務基金を創設など.現在,MOF り込まなければならなくなった.例えば,ETFF の推計に は災害リスクのファイナンス戦略を設計中であり,これに よれば,2012 年現在,年金債務の正味現在価値は GDP の は次のような手段を通じて,災害が与える懸念のある予算 114%に達している. への影響の管理を強化することが含まれている:偶発的信 用やパラメトリック再保険,リスク・プーリングを通じた インフラの官民パートナーシップ向けの保証に伴う偶発 公的資産の保険改善,利権契約にかかわる標準的な付保義 負債を特定.MOF はインフラ・プロジェクトについて期 務など. 出所:WDR 2014 のために書かれた Salazar 2013. a.例えば,コーヒー地帯における 1999 年の地震による損害は 16 億ドルに達した.2010 – 12 年の洪水が輸送インフラと農業部門に与 えた損害は約 45 億ドルになった. すべてを総合する:マクロ経済レベルのリス いと,政策措置は後で逆効果をもたらす正循環的 ク管理を改善するために,回避すべきこと, な反応につながる悪循環を生み出しかねない.政 および実施すべきこと 策が誘発した変動性は全体の不安定性を押し上げ 不確実性やより大きなリスクを生み出さない て,成長を削減する.例えば,財政政策の変動性 経済政策の予測可能性を維持し,持続可能性に焦 が標準偏差 1 単位分大きくなると,長期的な経 点を絞る.政府は時間整合的な,予測可能で,持 済成長率は年 0.74%低下する 61. 続可能な政策の実施に努めるべきである.さもな 284 世界開発報告 2014 適正なインセンティブを供与する 政策の信頼性を高める.独立的な金融政策委員会 政策対応の予測可能性と信頼性を改善するため は金融政策策定を大幅に改善した.同様に,独立 に,金融政策当局の自律性と説明責任を高める. 的な財政諮問会議を創設することができるだろ 金融政策における主要な制度的功績の 1 つは, う.これは財政規律を監視し,政策当局が好況期 中央銀行の政策決定を政治的な干渉から保護し, に散財しないように抑制する.また,そうするこ 金融当局に目標達成のために政策手段を創出する とは,エージェンシーや共有資源の問題を克服 独立性を付与したことにある.しかし,大きな自 するのを助けることになる(第 2 章参照).金融 律性は大きな責任を伴う.先進国と一部の新興市 政策とは違って,財政政策の目標(持続可能な債 場国は金融政策策定に関して大きな透明性を達成 務にかかわる適切な水準など)に関してはあまり する点で,長足の進歩を遂げている.現在,中央 コンセンサスがなく,財政当局は自らの道具箱の 銀行は政策の枠組みを説明し,目標達成のために 中により広範囲にわたる一連の道具をもってい 意図している方法を解説し,経済政策分析を遂行 る.財政政策には再配分機能があることを考える するために構築されているモデルに関する情報を と,政策決定の全面的な委任は考えにくい.しか 提供しなければならない.この情報の開示を受け し,政府高官は諮問会議の権限を強化して,ある て,経済主体が金融政策決定を予測し,中央銀行 程度の予算手続きを実施させ,また監視させるこ の意思決定プロセスを理解する能力は改善され とができる 62.例えば,諮問会議は独立的な(法 る.金融政策決定は中央銀行からのコミュニケー 的に拘束力のある)予測を提供することによって ションがタイムリーかつ明瞭で,親しみやすく, (チリやイギリス),あるいは,公式予測を監査す 聞き手向けに調整されている場合に,予測可能性 ることによって(スウェーデン),予算や GDP が高まる. の伸びに関して過度に楽観的な公式予測を修正す ることができる.政府はルールに対する免責条項 柔軟性を促進する の引き金を引く偶発事象を事前に定義しておくこ  適切な制度的枠組みの中で,柔軟なルールに向 とによって(スイス),ルールの柔軟性を大きく けて移行することによって,より良い財政政策の し,政策について肯定的な分析と規範的評価を提 ために適正なインセンティブを生み出す.多くの 供し(ベルギーとオランダ),悪い政策に関連し 諸国の政治当局は金融当局に独立性,金融政策の たルールの逸脱を特定することができる.説明責 指針とすべき非常に厳密な負託,そしてより透明 任が高まれば,このような諮問会議の評判も強化 で大きな説明責任を負うためのインセンティブを される 63.しかし,財政諮問会議は万能薬では 付与している.このような変化は財政政策取り決 ない.同会議は時間的非整合性,支配,正当性の めにとっても有益であろう.ただし,その程度は 欠如などいった問題を孕んでいる(その最適な設 異なる.財政政策の目標は長期的な予算規律を達 計に関する詳細については,本報告書の最後にあ 成すると同時に,短期的な反循環的な措置を追求 る「政策改革の焦点」を参照).制度と能力が弱 する柔軟性を許容することにある.成功するため い諸国では,良い基盤はより包括的な財政枠組み には短期的な柔軟性を制約しないルールが必要で で始まる.それには拘束力のある予算制約を課 ある.このような柔軟なルールが,今度は,支援 し,財政政策の透明性にプレミアムを付ける予算 制度の発展を要求する.この状況では,独立的な 編成と協調的な交渉にかかわるトップ・ダウン式 財政機関はルールを基にした財政政策に情報を提 のアプローチが含まれる 64. 供し,評価・実施するのを後押しすることができ る. マクロ経済政策を遂行し,実施問題に取り組むの に適切な制度的能力を確保.マクロ経済管理の複 長期的なリスク管理のための基盤を築く 雑さが高まっているため,制度的な能力の継続的  独立的な財政機関を創設することによって財政 な強化が必要になっているが,それは適格なス CHAPTER7 マクロ経済リスクを管理する 285 表 7.2 マクロ経済レベルでリスク管理を改善するための政策の優先課題 リスク管理を支援するための政策 基本 高度 知識 データの収集と普及 データの質の改善 金融政策の透明性 財政リスクの開示 保護 インフレ目標方式 中央銀行の独立性 変動相場制 強固な財政枠組み / 制度の構築 債務 / 赤字の削減 保険 反循環的な金融政策 ; ヘッジング・メカニズム ; 準備の蓄積 偶発債券 より良い自動安定化装置の設計 自動安定化装置と裁量的な 社会支出の強化 反循環的な社会支出 対処 国際金融機関による支援 偶発的信用枠 出所:WDR 2014 チーム. 出所:上表は第 2 章における政策の優先順位を設定するための次のような指針に基づいて,政策の優先課題を示したものである.すなわち, 国の制度的な能力に適合した政策の設計に当たっては現実的でなければならず,最も重要な障害に持続的に取り組み,時とともに改善可能な 強固な基盤を構築すべきである. タッフによって支援されるべきである.例えば, –  26  35 歳の層(借入比率が最も高い層)に特 金融政策の体制や財政ルール,それに偶発債務 に大きな影響を及ぼす.金融市場が発達してい の管理が高度化すると,制度的な取り決めの再 るほどショックが増幅される傾向がみられ,し 考と強化が求められる.有効な政策の実施は高 たがって,マクロ・プルーデンス規制を厳格化 水準の制度的な調整を必要とする.偶 するという主張が正当化される.製品 マク 発債務に関連した財政リスクの監視 市場における規制の強化は,社会の ロ経済管理の複 や管理には,多種多様なリスク管 なかで若年層と貧困層に悪い影響 雑さが高まるにつれ 理ユニットや担当省庁,最高位の を及ぼしやすい.マクロ経済的な て,制度的な能力の継 監査機関相互間の調整が要請され ショックや政策が社会的弱者に及 続的な強化が必要に るかもしれない.加えて,公的資 ぼすマイナスの効果は,リスク分 なっている. 産負債管理枠組みの設計と適用には, 担を円滑化する制度や政策によって 財源を統制し責務を生み出している機関 軽減することができる.プラスの措置に の間における調整が伴う 65. は社会的保護(失業給付など)や資源再配分を 円滑化する政策(企業のより柔軟な参入・退出, 脆弱層を保護する 企業規制の柔軟化,貿易開放,慎重な財政政策 ショックや政策そのものがもたらす分配上の帰 など)が含まれる 66. 結から脆弱層を保護. マクロ経済政策は分配上 の帰結をもたらす.低所得層ほど対外ショック 長期的な焦点を維持する やマクロ経済上の不均衡から影響を受けやすい.  政策当局は先見的でなければならず,長期に 高所得国は金融危機から大きな影響を受ける傾 わたって開発を見守るべきである.マクロ経済 向がある.マクロ経済管理の誤りが失業率を押 管理は景気循環の慎重な管理と,系統的で,信 し上げる度合いは,低所得層と若年層で特に高 頼のおける,持続可能な政策対応の開発に集中 くなる.株価の暴落に関連した資産ショックは すべきである.先見的な政策当局は危機の時期 286 世界開発報告 2014 に性急な決定を回避し,個人や家計,コミュニ ティ,企業部門,金融システム,経済全体の強靭 性の構築に焦点を当てるべきである.投資をして 長期的な開発を進めるインセンティブを生み出す ことができる適切な経済制度を構築する必要があ る.表 7.2 はリスク管理のための政府政策を要約 したものであり,制度的な発展と能力が多種多様 な国々にとって優先課題の順に配列してある.要 するに,世界経済のなかで貿易と金融の統合化を 活用するために,マクロ経済の安定性を確保し, 望ましい公的プログラム(特に人的資本とインフ ラへの投資)をファイナンスする準備基金を創設 し,政策を策定すれば,総合的な変動性の管理を 損なうことなく,持続的な成長を実現するための 適正なインセンティブが生まれるだろう. CHAPTER7 マクロ経済リスクを管理する 287 注 36. Auernach and Gorodnichenko 2012. 37. Christiano, Eichenbaum, and Rebelo 2011. 1. 危機以前の水準と比較すると,失業率は通常の 38. Calderón, Moral-Benito, and Servén 2013 不況期におけるよりも 2-4.5%高くなる傾向にあ 39. Ilzetzeki, Mendoza, and Végh 2013. る.Calvo, Coricelli, and Ottonello 2012 参 40. Fatás and Mihov 2010; Schaechter 他 2012. 照. 2.  貿易と金融の開放性を含め,他のマクロ経済政 41. World Bank 2013. 策も,国家政府がリスクを国際的に分担するこ 42. Aizenman, Edwards, and Riera-Crichton とによって,経済の安定化を図るのを後押しす 2011. る.ただし,政策手段のなかでは重要ではある 43. IMF 2011. が,その検討は本章で扱う範囲を超える. 44. Didier, Hevia, and Schumukler 2012. 3. Hnatkovska and Loayza 2005. 45. Aizerman and Glick 2009 は,SWF を有する 4. Calderón and Levy Yeyati 2009. 諸国は他の途上国と比べて統治に優れているこ 5. Galí and Gambetti 2009. とを詳述している.それには政府の有効性,規 6. Burger and Warnock 2006. 制の質,腐敗の抑制などに優れていることが含 まれる.SWF の透明性と信頼性は当該国の統治 7. Levy Yeyati and Sturzenegger 2003. に関する水準を反映する傾向にある. 8. Tornell and Velasco 2000. 46. Sovereign Wealth Fund Institute, SWF 9. Mishkin and Savastano 2001. 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Keum 他 2006. 財務省による資産購入や直接的な流動性支援を 除いている. 24. Prasad and Gerecke 2010. 60. このパラグラフは多くを GFDRR 2012 に依拠 25. Darby and Melitz 2008. している. 26. McKay and Reis 2013. 61. Fatás and Mihov 2013. 27. Frankel, Végh and Vuletin 2013. 62. Calmfors and Wren-Lewis 2011. 28. Suescún 2007. 63. Wyplosz 2013. 29. Arze del Granado, Gupta, and Hajdenberg 64. Dabla-Norris 他 2010. 2010. 65. Das 他 2012. 30. Tornell and Lane 1999. 66. Ahrend, Arnold, and Moeser 2011. 31. Alesina, Campante, and Tabellini 2008. 32. Frankel, Végh and Vuletin 2013. 33. Calderón and Schmidt-Hebbel 2008. 34. Kraay 2012; Barro and Redlick 2011. 35. 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WHO・OIE・FAO の 3 機関が運営する――に合意した. ・ 2008 年に金融危機が発生しメディアの注目が低下し ・ 国連とパートナーは「より安全な世界に向けたイニシ たため,流行病の防止は脇にどけられ,人畜公衆衛生 アティブ」という備えのためのネットワークを創設し 制度の脆弱性は取り組みがないまま放置され,実施さ たが,持続可能な資金調達と他の支援は不確実なまま れた投資の持続可能性を低下させた. である. 出所:WDR 2014 チーム. 受するだろう.目標の設定は,国際機関の権限を The SARS Commission. 2006. “The Story of SARS.” In The SARS Report: Spring of Fear, vol. 2, 38–429. Ontario: Commission Final ­ 強化して,リスクの意識を高め,予防と備えを促 Commission to Investigate the Introduction and Spread of SARS in Ontario. 進する.また,途上国に対して適切な知識と能力 UNSIC (United Nations System Influenza Coordination) and World 構築,技術援助を提供し,各国の動物と人間の公 Bank. 2010. Animal and Pandemic Influenza: A Framework for Sustaining 衆衛生制度とその協調を評価することになる.さ Momentum. Fifth Global Progress Report. Bangkok: UNSIC. World Bank. 2012. “People, Pathogens, and Our Planet: The らに,このような制度を強化するための資源を結 Economics of One 集することになるだろう. Health.” World Bank, Washington, DC. 参考文献 Barrett, Scott. 2007. Why Cooperate? The Incentive to Supply Global Public Goods. 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M. van ’t Klooster. 2012. “Rinderpest Eradication: Appropriate Technology and Social Innovations.” Science 337 (6100): 1309–12. 294 世界開発報告 2014 温暖化が進んでいる北極海:グローバ ルなインパクトをもたらすリスクがあ る.リスク管理の規模を拡大するため には,集団的に動き,資源を動員でき る能力をもち,合意を執行する仕組み を確立する結束力のある国際社会が必 要である. ©Ira Meyer/National Geographic 295 CHAPTER 8 国際社会の役割 リスクが各国の能力を超過する場合 グローバルな問題はグローバルなプ 利益を実現するという課題に取り組もう レイヤーを求めている とする国際社会の集団行動にとっ  管理されていないリスクは国 て重要な論拠を提供する 2.グ 境を順守していない.一たび ローバルな公共財はすべての 引き金が引かれると,流行病 社会 諸国と人々に利益をもたらす 国際 や金融危機は相互接続がます が,インフラが弱く,対処手 ます高まってきている地球を 段の利用が制限され,この種 猛スピードで周回することが のリスクの悪影響に取り組む できる.紛争はたちまち近隣諸 備えがあまりに出来ていない諸 国に波及する.旱魃や洪水,暴風 国にとって,とりわけ最大の利益も 雨は 1 つの地区や国,あるいは地域全体 もたらす公算が大きいだろう. を壊滅させる.気候変動は緩和されずに放置さ  本章では,国際社会が人々やその政府がリス れており,このようなリスクを激化させる一方 クを管理し,開発機会を追求するのを助けるの である.加えて,これらのリスクは開発の利益 に,一定の役割を果たすことができる状況を検 を逆転させ,幾世代にもわたる福利を窮地に陥 討したい(ダイヤグラム 8.1).なお,国際社会 れる.貿易や通信,旅行,情報,金融などを通 はここでは次の集合体として定義する.すなわ じた世界の相互接続性の増大は,急速な経済成 ち,グローバルな協力を行っている団体,開発 長を可能にし,それが発展途上世界にとって貧 の金融と専門知識の提供者,グローバル基準の 困を削減し,機会を利用可能なものにするのを 制定者,政策当局者,グローバルな慈善団体, 助けてきている 1.しかし,その同じ相互接続性 その他の非政府組織,グローバルなメディア, は,このようなグローバル・リスクの影響を増 科学界などである.本章では,国際社会は他の 幅し,その管理を複雑にもする. 経済社会的システムができないことのうち何を  どの国あるいは主体であろうと,単独の行動 することができるのか,また,リスクを管理す では,国境を越えるリスクに有効に対処するこ る集団的な取り組みの規模を拡大するために何 とはできない.多数の国や世代を越えて広がり をすべきか(あるいはすべきでないか)を探求 影響を及ぼすリスクは,明らかに世界全体が関 する.本章では考えられ得るすべてのリスクに 心を持つに値する.しかし,単にある一国にとっ グローバルな規模で取り組むつもりはなく,国 て固有のショックがにあまりに大きすぎる場合 際社会による措置の有効性を高めたり,あるい でも,国際的な行動が正当化される.その影響 は低めたりする共通の要因を例示することを目 が国境を越えることがなくても正当化される. 標にしている.そのために次の 5 つのリスク分  この種のリスクの管理はグローバルな公共財と 野に焦点を当てたい:災害,グローバル金融危 なっており,その利益も国境を越えるため,その 機,環境リスク,流行病,脆弱紛争被災国(FCS) 296 世界開発報告 2014 たことはない.しかし,よりうまく行う ダイヤグラム 8.1 国際社会の主体 ことはできる.知識が有効な行動に帰結 しないことがあまりにも多い.事実の後 にそれに反応するのではなく,リスクに グローバルな 協力機関 対する備えを強調することが少ない.開 発機会を活かすためにリスクを管理する グローバルな のではなく,その回避にあまりに大きな 基準設定者,規制官, 国際金融機関 国際法廷 ウェイトが置かれる時もある.各国の利 益やリスク管理能力に差があることが, グローバルな協調や有効性の足を引っ張 る.リスク管理の規模を拡大するために は,主体が情報の共有を円滑化し,能力 グローバルな グローバルな市民社会 メディア (NGO) 構築により多くの資源を振り向け,最も 脆弱な層を保護することによって,協働 グローバルな することを可能とする結束力のある国際 科学界 社会が必要である.国際社会は,たとえ 一部の諸国が協力に前向きでなくても, 基本的な共通目標を巡るインセンティブ 出所:WDR 2014 チーム. 注:NGO= 非政府組織. を調整するために多種多様なツールを使 うことによって資源を結集し,合意を執 行する仕組みを創設する能力をもたなけ に関連したリスク. ればならない.  その際,本章では本報告書の次のような重要な メッセージを強調する.すなわち,リスク管理の ためには,家計から国際社会に至るまでの多種多 どのような状況が国際社会の行動を求めるの 様な経済社会的システムが責任と行動を分担する か,それはなぜか? ことが必要である.リスク管理が各国の経済社会  各国は自国の能力を凌駕する多くのリスクに直 的システムの能力を超える努力と公共財を必要と 面している.各国固有のものもあれば共通のもの する場合には,国際社会の支援が求められる.そ もある,単純なものもあれば複雑なものもある, れはリスク――国境や世代をまたいだり,あるい 自然が原因の場合もあれば他の主体の行為が原因 は一国が単独で管理する能力を超過する結末を生 の場合もある.種類や原因にかかわらず,各国が み出したりするリスク――にかかわる国家の管理 単独で対処するにはあまりに大きなリスクもなか に向けた取り組みを強化することができる.その にはある.国際社会は国のレベルを越えて,この 介入はリスクを認知し,リスクを評価および管理 ようなリスクをよりうまく管理するために,援助 する能力を改善するグローバルな知識と専門的技 や専門知識,協力を提供することができる. 術を創出して普及させることを目指している.さ らに,否定的な結果が生じる可能性を小さくする 深刻な経済的・人道的危機 かコスト高にするルールや基準を制定し,グロー  危機や災害は人々とそれを支持するシステム バルな資源の迅速な結集を通じて対処能力を強化 に深刻な重荷をもたらす.通常は第一線の支援 することを目的としている. である各国当局が災害によって圧倒される場合,  それは高遠な目標である.現実には,国際社会 国際社会は人々を支援することができる.国家 は国境を越えるリスクの管理に非常に有効だっ はそういったショックによって国際的な資源へ CHAPTER8 国際社会の役割 297 のアクセスから切断されるだけでなく,そうなっ 争を煽る社会経済的な緊張を削減し,代わりに, た国の経済は著しい変動性にさらされ,市場へ 開発機会を発展させる環境を作り出すことができ のアクセスが混乱して,開発の進展が遅れるこ る. とがある 3.国際社会のリスク分担ツールは低所 得国にとってはとりわけ有用であろう.という リスクには国境はない のは,次のような事情から経済的なリスクや災  リスクのなかには地理的な国境を――あるいは 害に不当に大きい(経済規模との相対比でみて 世代さえ――越えて影響するものがある.今日引 死亡者数や損害が大きい)影響を受けるためだ. き受けたリスクの結末は長年にわたって目には見 すなわち,そのようなショックから受ける影響 えないかもしれない.その複雑性を考えると,個 がそもそも大きい,制度的能力が弱い,保険や 人的なリスク管理行動は不十分な公算があり,他 信用市場,影響を軽減できるその他の手段の利 人の行動によって無効になるかもしれない.リス 用が限定的である(地図 8.1,図 8.1).先進国 クの集団的な管理が個人的な行動を越える補完性 でさえ,危機に引き続いて不確実性と経済活動 を促し,その影響を高める場合には,国際社会は が軟調な期間が長引くと,何年間にもわたる経 国や世代を越えるリスク分担を円滑化することが 済や開発の進展が逆転し,人々の生活が劇的に できる. 変化することがある 4.ユーロ圏における国債や  グローバルな金融経済危機はリスクが国境を越 金融の危機とアメリカにおけるサブプライム住 える,という明確な事例といえる.結び付きが強 宅抵当危機は,危機から大きな打撃を受けた数 まるなかで,ある一国で発生した問題は他の国で カ国では 7 – 12 年間に及ぶ経済進歩を台無しに 混乱をもたらし,開発を遅らせることがある.し したように思われる.そして,未曾有の失業水 たがって,国際的な統合はリスク管理にとっては 準と経済社会的な福祉の損失をもたらした 5. 次のように両刃の剣になる.すなわち,国際的な  脆弱紛争被災国で生活する人々は,継続的にこ リスク分担に向けたより多くの機会を作り出すと のようなリスクに直面している.15 億人以上の ともに,各国が固有のショックを分散化するのを 人々がこのような状況下,すなわち,典型的には 手助けする一方,経済金融面での伝染を通じて新 腐敗や統治と制度的能力における弱さによって特 種のリスクを生み出すことがある.先進国を起源 徴付けられる環境下で生活している.そのような とする進行中のグローバル金融危機は,例えば, 環境は,機能している市場メカニズムや,そこに 各国間の密接な経済金融の連関を通じて成長を冷 住む人たちのリスク管理を支援し得る政府へのア え込ませ,ミレニアム開発目標(MDG)の達成 クセスは最低限なものにとどまっている.すなわ に向けた進展の鈍化につながっている.2009 年 ち,追加的なリスクからの保護は,更にずっと弱 には極貧層に落ち込む人々が 5,000 万人増加し, いものになっている.このような人々は世界人口 2010 年までには 6,400 万人が追加的に貧困層に の 15%を占めるにすぎないものの,極貧層につ 陥った. いてはほぼ 3 分の 1,貧困国の HIV 関連死亡者  健康に関するリスクも国境を越えることがあ の 3 分の 1,清潔な水へのアクセスがない人々の る.飛行機による旅行や財・サービスの貿易の増 3 分の 1,初等教育を完了しない子供たちの 3 分 加は病原体に自由な移動を提供しており,そのな の 1,子供の死者総数の半分も占めている 6.国 かには世界中を 36 時間以内に駆け巡ることがで 家の脆弱性や暴力的な紛争は市民だけでなく,相 きる感染症も含まれる 7.実際に近年,人や物の 互につながった世界のなかではグローバルな安全 移動性が高まったため,このことが,動物に由来 性や地域的安全性にとっても著しいリスクをもた するが人間にも伝染する人畜共通感染症の拡散 らす.所得や経済的見通し,および健康・安全 の要因になっている.H5N1 型(鳥)インフル 性・教育の環境を改善することによって,国際社 エンザは,2003 – 13 年にアジアと中東で確認さ 会による持続的で対象を適切に絞った関与は,紛 れた感染者の 59%に死亡をもたらした.H1N1 298 世界開発報告 2014 地図 8.1 途上国は災害に関して総じて高い死亡率を経験している 最大の被害 最小の被害 データ不明 出所:EM-DAT OFDA/CRED International Disaster Database と World Bank World Development Indicators (database) からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成. 地図番号:IBRD 40100. 注:地図は各国が災害に伴って経験した死者の程度を示したものである.1990 – 2011 年の期間にわたる平均死者数を人口比で示してい る.各国は最大の被害から最小の被害まで同じ大きさの 5 つのグループに区分けされている. 図 8.1 途上国では災害による損害が当該国の 1 年分の GDP を上回ることもある 25  GDP の 11% 損害(1988 – 2011年の平均、 20  GDP の 10 15  14% 億ドル) 10  5  GDP の 127% GDP の 365% 0  高所得国 上位中所得国 下位中所得国・ 小さい 低所得国 島嶼国 出所:EM-DAT OFDA/CRED International Disaster Database と World Bank World Development Indicators (database) からのデータに 基づき WDR 2014 チーム作成. 注:GDP= 国内総生産. CHAPTER8 国際社会の役割 299 (豚)インフルエンザはウィルスが広まった初年 大させ,他の国や将来の世代を傷付ける資源の 度の 2009 年に,15 万 1,700 – 57 万 5,400 人の 劣化(いわゆる「コモンズの悲劇」)をもたらす 死亡をもたらしたと推定されている 8.やはり動 かもしれない.水位を制御して水を保持するダ 物が発生源であったエイズは世界中で人命を破壊 ムは,近隣諸国の何百万という下流の利用者に し続けている.ただし,2004 年以降は死者数は とって水の安全保障に影響し得る.このような 鈍化している.とはいえ,2011 年だけでもエイ 事例の1つ1つにおいて,自己利益のために行 ズによる死亡者は推定 170 万人,新規感染者は 動する諸国はその措置からただちに利益を享受 250 万人に達している.同時に,グローバル化 するが,悪影響から生じる損失はすぐには感じ と科学が進展したおかげで,多くの病原体に関す られない.仮にすべての諸国が自己利益を保護 る理解が改善している.それには疾病コントロー しようとすれば,個別の措置は全体としてすべ ルを可能にするための,迅速に探知・診断する方 ての関係者に大きな被害を,場合によっては不 法が含まれる.グローバル化のおかげで科学者や 可逆的な結果をもたらすだろう. 公衆衛生担当者の間の協調が促進され,メディア  同様の近隣窮乏化政策と集団行動の失敗が,国 はリスクの小さい遠隔地の人々にさえ知識を提供 際的な金融と貿易においてもみられる.国境を越 することが可能になっている(流行病の管理に関 えてやってくる外国銀行の子会社に対して資金使 するスポットライト 7 を参照). 途を限定して国内金融制度を保護するという措置  ただちに目に見える影響もなく,リスクが緩慢 は,影響を受けるリスクや破綻外国銀行に関連す な変異を遂げる場合にも,グローバルな取り組み る財政コストを削減するかもしれない.しかし, が必須である.HIV/ エイズが発見されたのは, それでは国内の金融制度も弱体化し,自国と相手 世界中の人々の間で定着してかなりの時間が経過 国双方の資本や流動性のコストが上昇し,銀行の してからのことであった.気候変動も,ゆっくり 資金調達にかかわるリスク管理能力が制約を受 と蓄積し,数世代にわたってほとんど目に見え ける.資金使途が制限される懸念を受けて,グ . なかったもう 1 つの事例である(ボックス 8.1) ローバルな銀行はその進出先国から撤退するか 熱波や豪雨などの異常気象は過去 50 年間にわ もしれず,そうなると金融市場が未発達の国々 たって増加しており,さらに悪化するものと予想 は打撃を受ける.同様に,大恐慌の際,多くの される.というのは,温暖化ガスの排出による大 諸国が近隣窮乏化貿易政策を導入するなかで, 気中濃度が未曾有の水準に達し,破局的で不可逆 国際貿易がどのように崩壊していったかを歴史 的な帰結をもたらす可能性があるからだ 9.気候 は示している 11.より最近では,輸出国による 変動の影響に対してはすべての国々が脆弱である 輸出障壁の強化と輸入国による輸入関税の削減が ものの,途上国が受ける影響は特に特に大きくな 2008 年の食料価格危機の時期に行われたため, るだろう.というのは,準備・対処する能力が 世界の穀物価格が高騰して,他の諸国も同様の措 最も低いためだ.過去 20 年間に災害で死亡した 置を採用せざるを得なくなった.このような調整 人々の 4 分の 3 は,低所得国と小さな島嶼国の されていない措置は,結局,食料ショックに対し 居住者であった 10.国際社会は世界で最も脆弱 て貧困層を保護することに完全に失敗した.コメ な層を支援し,このようなリスクとの戦いに幅広 の世界価格の高騰の半分近くは,自国をコメ価格 い長期的な視点を提供する責任がある. の高騰から隔離しようとした諸国の措置に起因し  一国(あるいは一世代)によるリスク管理措 たものであると推定されている 12. 置は,追加的なリスクを生み出し,他人の安定  しかし,国境を越えるすべてのリスクが真にグ 性や開発に向けた取り組みの土台を壊す可能性 ローバルなわけではない.近隣諸国間の武力紛争 もある.例えば,成長を促進し,貧困のリスク などの一部のリスクは,それが水路の管理から生 から脱することを目指す政策は,共有資源(海 じる対立のように天然資源を巡る紛争である場合 洋や水路,漁獲,大気など)に対する圧力を増 には,小数の諸国に影響が及ぶだけかもしれな 300 世界開発報告 2014 ボックス 8.1 気候変動と開発が持つ意味  気候変動というのは,二酸化炭素(CO2)などの温室効 する損害の累計は気候シナリオに応じて,2030 年までに 果ガスの大気中濃度の上昇に関連した地球の温暖化のこ 2 – 4 兆ドルの範囲に達するものと推定されている. とである.産業革命から始まった着実な気温上昇は,化  気候変動の緩和は集団的な行動を要するグローバルな 石燃料の燃焼と森林伐採を含む人間の活動に主な要因が 公共財の適例である.集団行動が必要なのは次のような事 ある.気候変動に関する新たな研究は,温室効果ガス濃 情による.すなわち,各国は他国が財を供給してくれるこ 度が上昇を続けているため,地球は過去 1 万 1,100 年間で ,仮に,他国による財の とを望んではいるが(ただ乗り) 現在最も温暖になっていることを示している.最大の温 供給を万国が当てにしていると,結果は万国にとって悪い 室効果ガスである CO2 の濃度は日次平均で,産業革命以 ものであるため,集団的な供給のほうが有利であることも 前の 278 ppm から 2013 年 5 月現在の 400 ppm に上昇し, 認識しているからだ.しかし,気候変動の緩和策はいくつ 地球の温度が 2℃以上上昇する可能性に対応する 450 ppm かの重要な障害に直面している.第 1 に,気候モデルに の上限に接近している.これは国際社会が回避を公約して 対する信頼は改善したものの,極めて重大な温暖化の限界 いる温暖化水準である.というのは,破局的で不可逆的な (いわゆる転換点)や,気候変動の影響度に関しては科学 . 結果がもたらされる懸念があるからだ(パネル a 参照) 的に著しい不確実性が残っている.第 2 に,気候変動の  気候変動の影響はすでに目に見えてきており,北極海の 影響が各国間で一律ではないため,行動に向けて相異なる 氷河の広範囲にわたる溶解,海水面の上昇,異常気象・自 インセンティブが発生する.各国の協力を執行するグロー 然災害の頻度・深刻度の増加などが生じている(パネル b バルな権威が欠如していることが,ただ乗り問題も組み合 .仮に温室効果ガス濃度の上昇が減速することなく 参照) わさって,集団的な取り組みを台無しにする.というの 継続すると,4℃以上の温暖化が早くも 2060 年代には生 は,各国は他国が気候変動緩和策のコストを負担してくれ じて,人間や生態系に大規模な影響を及ぼす懸念がある. ることを期待しているからだ.第 3 に,短期指向と生態 それには以下が考えられる:沿岸地帯の浸水リスクの増 系,生物多様性,および生命損失などにかかわる価値判断 大,感染症の拡散,水・食料の安全保障の低下,多数の種 の多様性が何もしないという事態を生み,リスクを将来世 における生態系の破壊,大勢の避難民が社会経済的に悪い 代に先送りしている.脅威だという一般的なコンセンサス 結末を経験するなど.したがって,気候変動は現行および や数十年間にわたる議論・交渉にもかかわらず,気候変動 将来の世代の両方にとって,開発に対する深刻な脅威であ のリスクはこのような挑戦が有効に取り組まれるまでは るといえる.健康や食料の安定的な確保,物理的環境に対 増大する公算が大きい. a. 気温と CO2 濃度の上昇 b. 自然災害のパターンの変化 0.7  420  100 4.1   2.6   その他 a 偏差の基準期間:1951 – 80 年 8.9   地震 0.6  90 27.8   11.6   流行病 0.5  390  80 70 0.4  3.2   pp m % 60 その他の ℃ 0.3  360  24.9   48.2   気候関連 % 50 0.2  事象 b 40 0.1  330  30 0.0  20 40.0   ‒0.1  300  28.8   嵐 1959  1969  1979  1989  1999  2009  10 気温の偏差(5 年移動平均) 0 CO2 排出濃度(右軸) 1903‒62 1963‒2012 出所:下記に基づき WDR 2014 チーム作成――Aldy, Orszag, and Stiglitz 2001; Barrett 2003, 2007, 2008; Cole 2007; DARA International 2012; IPCC 2007; Jacoby, Rabassa, and Skoufias 2011 ( 損失の推定について );Lenton 他 2008; Marcott 他 2013; Mercer 2011; Stern 2007;World Bank 2009, 2012c; EM-DAT OFDA/CRED International Disaster Database; NASA Goddard Institute for Space Studies Surface Temperature Analysis (database); Scripps Institution of Oceanography, Atmospheric CO2 Concentration at Mauna Loa Observatory, Hawaii (database). 注:CO2  = 二酸化炭素. 「その他」は火山,昆虫の侵入,その他の複雑な災害を指す. a. b.「その他の天候関連事象」は洪水,旱魃,異常気温,野火などを指す. CHAPTER8 国際社会の役割 301 ダイヤグラム 8.2 国際社会の役割 各国固有のリスクに関わる 状況 国と世代を越えるリスクに 深刻な人道的 / 経済的危機 取り組む に対応する 認識および 市場や資源 障害 知識の格差 外部性 へのアクセス 言動の格差 リスク管理の 知識 保護 保険 対処 要素 ・ グローバルな知識, ・ ルール,規則 ・ グローバルな資源 ・ グローバル資源の 専門技術 ・ 政策対話のプラッ の事前の貯蔵共有 迅速な動員 国際社会の ・ 能力構築 トフォーム ・ 地域的な資源プー ・他の国際的なリス 手段 ・ 情報キャンペーン ・ 不測事態への対応 ルの促進 ク分散ツール ・ 科学的研究 計画 出所:WDR 2014 チーム作成. い.そのようなリスクは二国間ないし地域的な制 国際社会はどうやってリスク管理の質を高め 度によって,より適切かつ効率的に管理できるか るか? もしれない.そのようなリスクに取り組むのに適  各国の能力を超越するリスクもなかにはある 切なフォーラム,枠組み,あるいはインセンティ が,その有効な管理にとって次のような一部の重 ブを提供できるからだ.従属性の原則は,リスク 大な障害に取り組むことによって,国際社会は各 は地域的ないしグローバルな問題になる前に,そ 国を支援することができる:情報の乖離,市場や れに効率的に取り組むことができる最低レベルの 資源へのアクセスが限定的なこと,他の主体の措 当局によって処置されるべきであることを示して 置によって課された外部性,認知・行動面でのバ いる.アフリカやアジア,カリブなどでは,地域 イアスなど.国際社会の構成員は,第 1 章で定 的な経済共同体が支援の重要な層であり,貿易や 義したリスク管理の重要な柱――知識,保護,保 エネルギー,産業,安全保障,環境などの分野に 険,および対処――の強化に貢献することができ おける協力と開発の措置を通じて,リスクに対処 る(ダイヤグラム 8.2). し,機会を生み出している.リスクが個別国ない し地域機関によって有効に解決できない場合に グローバルな知識と専門技術を創出・普及する は,国際社会が介入することができる.例えば,  適切な知識が無いことが有効なリスク管理に 地域的あるいは国際的な裁判所は,相互に排他的 とって重要な障害となっている.リスクの強度と な要求のゆえに解決できない国境をまたぐ紛争を 複雑さが増し,その源泉や動因,潜在的な影響に 処理できるかもしれない.このような問題の取り 関する不確実性が深まるにつれて,知識の不足は 扱いは本報告書の範囲を超えており,より広範囲 より一層無視できないものになっている.知識が にわたる議論や分析に値する. 欠けていると,国や個人は環境リスクの一因とな り,あるいはそれを見逃してしまうかもしれな い.また,伝染病に関しては,それを広げ,ある 302 世界開発報告 2014 いは防御する事に失敗するかもかもしれない.さ 生み出す警報の普及に,重要な役割を果たすこと らに,高利回りを求めて過剰なリスクをとる可能 ができる. 性がある.この文脈では,知識は開発に貢献した り,開発への損害を制限したりするグローバルな グローバルなルール,能力構築,および調整を通 公共財になっているのである.国際社会はそれを じて保護を改善する 供給するのに重要な役目を演じている.  リスクの動因や潜在的な効果に関する知識を蓄  国際金融機関(IFI)――国際通貨基金(IMF), 積することは必要であるが,適切なリスク管理を 世界銀行,国際決済銀行(BIS),経済協力開発 奨励するには十分ではない.集団的措置にかか 機構(OECD)など――や,広範な国別の情報 わるルールや規則,基準,枠組みの設計と実施 や経験を蓄積しているその他の調整機関は,一連 が,多くの諸国と世代に影響する一連のリスクを の問題に関してグローバルな目標と各国の政策の より良く管理するためのインセンティブと指針を 乖離を橋渡しするのに,国や個人が依拠すること 提供することができる.次のような事例がある: ができる幅広い公平な知識基盤を提供することが 2008 年の金融危機を受けて金融インフラを強化 できる.グローバルな知識や専門技術は意識を高 し,より強靭な金融システムを創出するというグ めるための指針およびツールとして機能すること ローバルな金融部門改革 14,貧困を削減し開発 ができる.各国の主体が自らの行動が自分自身や に影響する一連のリスクに取り組むミレニアム開 他人に対して及ぼす,幅広い長期にわたる影響を 発目標 15,流行病に対する備えを奨励し流行病 認識していない場合には,特にそういうことがで 対応計画を災害リスク管理に組み込む国連の取 きる.行動に影響を及ぼすことに成功するために り組み(「より安全な世界に向けたイニシアティ は,知識の明確かつ迅速な交換が決定的に重要で ブ」)16,脆弱国への関与に向けたニュー・ディー ある. ル 17 など.環境リスクの管理にかかわるものも  国際社会は知識の乖離を埋めるための一連の 含め,いくつかの概要が表 8.1 により詳細に述べ ツールを提供している.IFI や調整機関から科学 られている. 界,シンクタンク,メディア,市民社会などに至  そのような取り組みが成功するためには,ルー るまでの国際的な組織は,開発や安定性に影響を ル,規則,および基準を実施する技術的な能力が 与える経済や金融,健康,環境,安全性などにか 必要である.例えば,途上国では動物および人間 かわるリスクについて,情報や研究成果の収集や の両方に関わりのある公衆衛生制度が十分でない 検討,分析,統合,普及を行っている.さらに, ため,感染病原体の監視や制御,報告に関する国 相互の結び付きがより一層強まっている世界で, 際保健規則(2005 年)の実施が不十分な状態に リスク評価の助けになる各国横断的な情報や研 とどまっている.国際社会は各国が実施能力を構 究,政策分析も公表している.国際社会は知識交 築するのを手助けすることができる.また,各国 換のためのプラットフォームを提供し,多種多様 の政策や慣行が国境を越えて波及効果をもたらす なリスクに関してグローバルなレベルでの定期的 可能性が高いか否かに関して,定期的な評価をす なリスク評価ないし情報を公表している.このよ ることもできる.このような議論は,実施能力が うな知識プラットフォームは,各国の利害を接近 無いことから,世界的な合意を順守し,リスク管 させて共通目標を確立するために重要な役割を果 理を有効に行う当該国の能力が阻害されている分 たすことができる.IFI が提供する能力構築のた 野に焦点を絞ることもできるだろう. めの技術援助を受けて,各国当局はモニタリング  国際社会はさまざまなリスクを防ぐことを企図 や早期警告のシステムと不測事態計画枠組みを設 したイニシアティブを支援するために,技術援助 計して,問題のタイムリーな探知とそれに取り組 を提供することができる.統治の強化,感染症や む有効な対応策を策定することができる 13.グ 危機,災害にかかわる早期警告・監視システムの ローバル・メディアはこのような探知システムが 構築,事後的なコストの高い対処措置の必要性を CHAPTER8 国際社会の役割 303 表 8.1 グローバルな措置の実例とそれが与えた影響の背後にある要因 目標と結果 成功および失敗の基本的な理由 京都議定書(1997 年) 目標: 広範な支持を取り付け,順守を確保し(有効な執行の仕組みが欠如しているなかで), 先進 38 カ国の温室効果ガス排出を削減 当事国にしっかりした措置をとらせることに失敗.一部の大手排出国が参加しなかっ して,それを気候への危険な干渉を防 ,排出削減が義務化されなかったりした(中国 たり(アメリカやカナダなどの先進国) 止する水準にまで下げ,温室効果ガス . やインドなどの中所得国) 濃度を安定化させる. 費用効果性を達成するために数種類の温室効果ガスについて 1 つに束ねた目標を設定 これは国連気候変動枠組み条約の目標 した.しかしこのことは,排出削減目標を低下させるという犠牲を伴っていた. を達成するために,信頼を構築する措 置. : インセンティブや利害が多種多様(明確な自己拘束的な目標がない) 先進諸国は平均すると,2008 –12 年の ・ 個別国は違いをもたらすには小さすぎるという受け止め方. 間に排出を 1990 年水準比で 5.2%減ら ・ 気候変動はすべての諸国に同じように影響するわけではない.気候変動から短期的 すことを要請された. に利益を享受する国もあれば,だれよりも大きな被害を受ける国もある.このよう な相違が気候変動を緩和する措置の費用便益に関する意見相違を生む. 結果: ・ 国内政策上の史上命題と競合する.それには政治的な要因,短期の経済的配慮,成 2 つの批准条件(55 カ国による批准か 長に有害なことを回避するために参加しない(特に途上国)などが含まれる. つ排出の 55%を占める諸国による批 ・ 気候変動を緩和するためのコストの高い措置にはただ乗りの問題が生じる. 准)が満たされて 2005 年 2 月に発効. 2006 年 4 月までに 141 カ国が批准.し かし,多くの諸国が目標を達成できず, 実際には排出を増やしたため,世界全 体として 1990 年水準比で増加. モントリオール議定書(1987 年) 目標: 広範な参加:全加盟国(国連加盟 197 カ国)の参加に到達した初めての条約.24 の調 オゾン層破壊物質(ODC)禁止による 印国とヨーロッパ経済共同体(EEC)で 1987 年に開始,最終的には途上国も含めて多 オゾン層保護 数の国が調印. 問題への取り組みは物質(源泉)別であって,期限(目標)別ではない. 結果: DOC の費用効果的な代替物資がすでに存在. ほとんどのオゾン層破壊物質は制御下 に置かれた.オゾン層は今後 100 年間 交渉には情報の障壁を克服するために市民社会や科学者が含まれた. で回復するという兆候がある.先進国 高水準の科学的なコンセンサスや証拠を盛り込んだことが信頼性を与えた. は議定書で管理対象とされた物質の生 産,消費,および排出を 99%,途上国 適正なインセンティブ(および共通利害) : は 72%削減し,これらの削減は継続中. ・ オゾン層破壊は深刻ですぐに目に見える結果が生じるという幅広い認識(ガンなど . の健康問題) ・ 参加・順守に向けて強いインセンティブを生み出した:条約は実施について合理的 な計画を設定し,順守を促すために貿易規制――オゾン層破壊物質や同物質を含む 製品にかかわる当事国と非当事国の貿易禁止――を伴う適切な支援を供与. ・ オゾン層を破壊しない代替物質を使う新技術の開発と途上国向けにそれへのアクセ スを供与することの重要性を認識. ・ 有害物質の段階的な廃止に移行するために途上国向けに漸進的な資金供与を行う多 角的基金を創設.制度的支援の供与(途上国が議定書への参加を決めた重要な動 . 機) 天然痘撲滅キャンペーン(1967 – 79 年) 目標: 広範な協力と達成. 3 ~ 5 億人の死者をもたらした流行病 世界保健機関(WHO)からの強力な指導力とそれを支えた各国政府からの政治的公約. の撲滅 単独で撲滅できる資源と能力を欠く途上国向けに先進国からの金銭的および技術的な 援助. 結果: : WHO は 1980 年 5 月に世界は天然痘か 自己拘束的な適正なインセンティブ(WHO による正式な執行は不要) ら解放されたと宣言. ・ コスト(世界全体で約 3 億ドル)は利益との比較で無視可能なほど小さい.アメリ 人間の努力によって撲滅された初めて カは拠出額全体を 26 日間で取り戻した(保健コスト節約分)―便益費用比 400 対 の病気. 1. ・ ,直接的な結果をもたら 病気はすべての国に影響し(貿易や人の移動で拡散が容易) 国際協力の歴史上ユニークな業績とみ した.撲滅が可能だったのは,天然痘がすべての国で除去されたから. られている. アメリカの強力な支援(金銭的および技術的)とアメリカ疾病予防管理センターから のその他の支援. 撲滅の実現可能性を示す科学研究:技術の飛躍的な発展(新種の針を使う)で予防接 種のコストが低下. サーベイランスと抑止の戦略:新患者の発見と監視によって病気の拡散防止に特に重 点を置いた. 304 世界開発報告 2014 表 8.1 グローバルな措置の実例とそのインパクトの背後にある要因(続き) 目標と結果 成否の基本的な理由 HIV/ エイズのコントロール 目標: グローバルな協力が以下のように若干の成功を生んでいる: 疾病の撲滅. ・ 2010 年に低・中所得国における抗レトロウィルス治療を受けている人の数は貧困層 において 39%から 47%に上昇. 結果: ・ これらの諸国の保健施設数が著しく増加. 治療研究が進歩したおかげで HIV/ エイ ・ これらの諸国で HIV 保菌者の妊娠女性でケアを受けている割合は 2005 年の 7%から ズによる死亡者数減少. 約 35%に上昇. :簡素化したより手頃な診 HIV/ エイズ新患者数は 1990 年代後半の 2010 年に打ち出された効率性の引き上げを狙う「治療 2.0」 ピーク以降減少傾向. 断・治療と統合的で分権化した HIV サービスの提供. しかし,HIV 保菌者数は依然として増加 中. (2005 –15 年) 兵庫行動枠組み(HFA) 目標: 政府に対して一連の共通する条件,アプローチ,およびプラットフォームを提供して, 国連国際防災戦略の調整下で予防をあ 国際的レベルで協力を円滑化. らゆるレベルで優先課題にすることに HFA の構造(期待される結果,戦略的目標,行動の優先課題)と実施に関する指針.地 よって,自然災害の影響を削減. 域・国家のレベルにおける類似の枠組みの策定による支持. ・ 良いコミュニケーションと世の中の認識向上(各種団体がグローバルなキャンペーン 結果: . を展開) 報告している国の数が増加中. ・ 科学的および技術的な委員会創設. あらゆるレベルにおける災害の削減 ・ . 実施の進展(HFA 実施のための国連事務総長特別代表創設) 回復の活動が増加.備えにはさらなる ・ 枠組みへの幅広い参加と受容. 進展が必要. 自然災害がもたらした大きく,かつ増大傾向にある損害が,リスク削減に向けた強力な インセンティブを供与.帰結は具体的で即時的. 出所:以下に基づき WDR 2014 チーム作成――United Nations Framework Convention on Climate Change 1998; Barrett 2006, 2008; UNEP 2007; Stern 2007;Rae 2012; Center for Global Development, “Case1: Eradicating Smallpox (http://www.cgdev.org/doc/millions/MS_case_1.pdf); World Health Organization (http://www.who.int); UNISDR 2006, 2007; OECD and G20 2012. 削減する先見的な危機・災害管理戦略の策定,な 円滑化することにある.主権国家(国際社会で重 どの能力の構築を助けることができる.債務・準 要な基礎単位)の間における政策の対話や調整の 備の管理や金融リスクを管理するヘッジ手段に関 プラットフォームを提供することによって,国際 して,市場の発展を支援することもできる.この 社会は開発成果を改善する協力に加えて,グロー ことは,特に市場が小さく分断されていて,民間 バルなリスクを削減するための合意されたルール 部門による効率的なリスク管理が阻害されている や規則の実施を促進することができる.そのよう 場合や,市場を横断してリスクを共同で管理して な協力は次のようなことにつながる.すなわち, おくことが妨害されている場合に有効である.具 国際貿易や資本フローのさらなる自由化の後押 体的なリスク管理戦略には,大災害債券などの代 し,堅調な持続可能で包容的な成長の支援,FCS 替的なリスク・ファイナンス手段の開発がある. への持続可能な方式での関与,リスクと機会に対 この債券は,仮に大災害が発生した際,発行者に してバランスのとれたアプローチの採用など.ま 債券元金の償還を免除することによって,災害リ た,協力は緊密に統合され相互接続された世界に スクを市場に転嫁する 18.気象ヘッジも,リス おいて,結末を危うくしかねない潜在的な外部性 クを金融市場に転嫁する商品の一例である.この や実施における矛盾を制限してくれる.主権国家 ようなヘッジは基本的な気象指標に基づいてお 間で有効な協力を確保することに関連した挑戦の り,規定された悪天候事象によって支払いが発生 一部は本章で後述する. する.  国際社会の重要な役割は,グローバルな公共財 を供給するのに必要となる集団的な行動や措置を CHAPTER8 国際社会の役割 305 ボックス 8.2 災害リスク管理に向けた国際支援  災害・気候リスク管理は開発のための重要な優先課題と プローチを通じて支援している: してより一層認められるようになっており,大勢の主体が ・ リスク特定.リスクを定量化し,自然災害が社会およ 事後的な対応から,政府のあらゆるレベルにおける備えと び経済に対して及ぼす潜在的なマイナスの影響を予想 予防に,焦点を移そうとしている.国際的なレベルでは, することよって,災害や気候に関するリスクの評価は, 国際防災戦略事務局が国連システムを横断した取り組み 政府やコミュニティ,個人が,リスク管理について情 を調整し,自然災害の予防を優先課題にするために兵庫行 報に基づいた決定をするのを助けることができる. 動枠組み(HFA)の実施に向けた進展を追跡している.科 ・ リスク削減.先制的な行動は既存のリスクを削減し, 学界や市民社会,国際金融機関に加えて,災害リスク削減 新たなリスクの創出を防止することができる. の協力を推進する地域的な政府間組織が,HFA の実施に ・ 備え.気候サービスに関する技術援助や融資は,異常 向けた取り組みを支持している. 事象について早期警告体制を確立する助けになる.有  2006 年に世界銀行に防災グローバル・ファシリティ 効な適応政策を設計するための気候モデルを作成する (GFDRR)が創設された.これは災害リスク管理を国家開 能力も高める. 発計画の主流にするための支援を強化すべく,グローバ ・ 金融面での保護.災害リスクに関連する資金の調達や ルなパートナーシップを形成するためであった.世界銀 保険に関する助言サービスは,政府や企業,家計が災 行のなかにある GFDRR は世界銀行が受動的なアプローチ 害による経済的な負担を防御し,非常事態に対応する から,リスク削減に焦点を当てたより戦略的で長期的な 国家の金融能力を高め,国家および地域のレベルでよ アプローチに動くのを後押ししてきた.世界銀行の災害関 り深い保険市場を発展させ,貧困層向けの社会的保護 連の融資は 1984 – 2006 年から 2007 – 11 年の間に倍増し 戦略を支援するのを後押しできる. た.国際開発協会(IDA)の資金提供のうち,気候への適 ・ 強靭な回復と再建.世界銀行は国家主導の災害後復興 応に向けたもののシェアは 2011 年度の 9%から 12 年度 ニーズの評価を支援する.これは開発の必要性を含め, の 16%に,気候変動の緩和に向けたもののシェアは同 5% 人々に対する影響と災害後の経済的損失を推定するも から 16%に拡大した a. のである.この推定値が回復および再建に向けた努力  世界銀行は途上国の災害強靭性対策を次の 5 本柱のア を計画するための基盤を提供する. 出所:WDR 2014 のために書かれた Robert Reid の論文. a.IDA 2012. 準備,緩和,対処,および回復のためにグローバ る.直接的な国際介入は次のような場合に正当化 ルな資源を結集する されるだろう.脆弱層を保護するための資源が,  リスクへの備えに向けた各国の取り組みにもか 資本市場,自己保険,機能しているコミュニティ かわらず,危機や災害はどうしても発生する.そ や政府などから入手不可能な場合,あるいは災難 うなると,その影響と回復に対処するために多大 や伝染が他の諸国に広がっていく懸念が高い場合 な資源が支出される.国際社会は災害などの極端 である.実例には以下がある:ユーロ地域数カ国 なシナリオ(テール・リスク)に対処しようとし のために調整された金融安定化パッケージ,世界 ている国を助けるために――事象発生の前と後の 金融危機の最中に国際金融市場の障害を取り除く 両方で――,リスクを分担する幅広い手段をもっ ための流動性供給,H5N1 型鳥インフルエンザ ている(ボックス 8.2). を制御し 2005 – 10 年にあり得る流行病に備える ために 36 カ国が 100 以上の途上国に提供した 対処のために支援を提供.最も典型的な形では, 支援,脆弱紛争被災国(FCS)の人々に対する直 リスク分担の解決策は二国間や多国間の債権者あ 接的な人道的支援など. るいは民間組織からの,直接的で事後的な支援と  国際社会のなかには,対処において一定の役割 なる.この支援の重要な動因としては,深刻な危 を果たせる主体がいくつかある.IMF や世界銀 機や災害を受けた資源(金銭的なものと人的なも 行,その他の IFI は自らの負託の一環として,国 のの両方)の突然の不足を緩和するには,適切な を越えてリスクに対して協同して備え,現実に, 時期における行動が必要だということが指摘でき あるいは潜在的に対外資金調達の圧力を経験して 306 世界開発報告 2014 いる諸国に貸出を行っている.それは,危機を受 の間にあるトレードオフを考えると,グローバ けて,安定性の回復や開発支援の継続,基本的な ルなセーフティネットの効率的な設計を見出す 問題の解決を行っている国である.海外の肉親や ことも課題である.その代わりに,新興市場諸 拡大家族員からの送金は家族レベルでリスクに対 国の間では強い結び付きを背景に,保険として する共同出資を提供し,国内で悪いショックが存 機能する地域的な準備の共有化やスワップ枠に 在するなかで,より直接的でタイムリーな救援を 対する関心が高まっている.しかし,このよう 可能にしている.脆弱紛争被災国にとっては,特 な制度は共変する流動性ショックに対処するに に有効な政府支援が入手可能でない場合,送金や は,融資能力や有効性が限定的である 21. 家族支援が伝統的な対処の仕方であった.グロー バルな非政府組織を含めて,市民社会は,現地の 地域的保険を推進.国際社会はより直接的な関与 ボトルネックに対処するために,現物移転を外国 と並んで,ある特定の地域の国が緊急時に使える による現地管理サービスに組み合わせている.国 資源に共同出資するのを手助けすることによって 際的な投資家も証券投資や直接投資のフローを通 も,より間接的な触媒的・技術的な役割を演じる じて国内の能力を押し上げている. ことができる.そのような仕組みはリスク管理に おける責任分担の原則にとって良い前兆であり, 保険メカニズムを供与.国際的なリスク分担の仕 各国が個別に入手できるよりも低いプレミアム 組みには,緊急支援以外では,リスクに対して共 で,国際市場に共同でアクセスできる能力を引き 同で出資して,資源を好況期から不況期に移転す 上げる.このようなファシリティは小国にとって る保険の仕組みが含まれる.多数国間投資保証 は特に有益である.というのは,小国には民間市 機関(MIGA)は事前的なリスク管理の一環とし 場が存在していない,あるいは,小規模で分断さ て,外国投資家を安心させ,諸外国向けの投資フ れ,機能が不十分であった,あるいは最脆弱層に ローを促進するために,政治リスク保険を提供し とってはそこまで手が届かなかったからだ.さら ている.IFI は大きな柔軟性とスピードをもって に,信用や保険,再保険などの市場へのアクセス 各国がアクセスできる一連の金融商品を創出する も限定的であった.ボックス 8.3 は国際社会から ことによって,緊急災害対応策も提供している. 支援を受けて設計された地域的な機関について, それには世界銀行の災害危機繰延引出オプション 3 つの実例の概要を示したものである. (CAT DDO)が含まれる 19. 加えて,ファン ダメンタルズが比較的強固であるにもかかわらず 変動性と不安定性を経験している国々に対して, グローバル・リスクの解決に国際社会はどの 進行中の金融危機が保険ツールの創設を後押しし 程度有効なのか? ている.それには IMF の弾力的信用枠や世界銀  国際社会は,知識という手段を通じて,リスク 行の DDO 付き開発政策借款が含まれる 20. への取り組みに顕著な進展を遂げてきている.リ  このようなツールは過剰な外貨準備の蓄積を スクの評価を改善するためにデータ収集とリスク 通じた自己保険に対する需要を削減することも 分析に大きな努力を払い,自然災害からのリスク 企図している.この要因がグローバルな不均衡 を分析するために革新的なツールとデータベース に寄与したのである.というのは,準備通貨に を開発してきている(ボックス 8.4).国際社会 対する需要増加を受けて,システム上重要な諸 は,データや情報に関する乖離の削減に努めて 国の経常収支赤字が拡大したからだ.しかし, いるのである.例えば,最近の共同の取り組み 各国は金融支援を求めることの汚名効果を一因 において,国際決済銀行(BIS),金融安定理事 に,このようなツールの利用を躊躇している. 会(FSB),および国際通貨基金(IMF)は共通 モラル・ハザードを制限することと,流動性危 のデータ枠組みを開発した.これは市場がグロー 機が支払い不能に転換するのを防止することと バルでシステム上重要な銀行の過度なリスク・テ CHAPTER8 国際社会の役割 307 ボックス 8.3 地域的なリスク分担の解決策:災害リスクに対して金融面での強靭性を促進  革新的な災害リスク・ファイナンス保険(DRFI)の解 をかけるための初の多国間リスク・プール制度である.カ 決策が,援助国や国際社会の他のメンバーとのパートナー リブ 16 カ国がこの機構の加盟国であり,重大なハリケー シップで国際金融機関によって開発されている.このよ ンや地震が発生した場合に即時に流動性を供給する.加盟 うなツールは自然災害から受ける影響が大きい途上国に 国はリスクから受ける影響の程度に応じて年間保険料を とって特に重要であるが,それは資源や金融能力,安価な 支払う.CCRIF は(共同準備と再保険率の引き下げを通じ 信用,保険市場へのアクセスが限定的なためである.以下 る)リスク・プーリングを使って,各国が個別に行動し で検討する地域的なリスク・プーリングの仕組みは,DRFI ている際に支払うよりもずっと低いコストで保険を提供 解決策の推進において国際社会が果たすことができる次 するために運用コストの分担を提供している.この機構 の 4 つの重要な役割を例証している:招集力,リスク市 は世界銀行から技術援助を得て,独立的で持続可能なファ 場インフラの開発を許容する公共財の促進,技術援助と専 シリティの設計と実施に関し,技術や保険計理,法律,信 門知識,当初の着手資本・偶発ローン・信用拡張の提供. 託,金融工学の側面に取り組んでいる.参加国と援助国が 資金を拠出している CCRIF は,2007 年に創設されて以来, 南東ヨーロッパで大災害保険の利用を増やす 8 回にわたって政府に対する即時流動性供与を実施してき  南東ヨーロッパ・コーカサス大災害リスク保険ファシリ ている. ティ(SEEC-CRIF)が 2009 年に,この地域における大災 害・天候リスク保険市場の発展を支援するために打ち出さ 太平洋での能動的なアプローチへの融資 れた.このイニシアティブは市場の発展を阻害しているリ  人道援助やその他の事後的な資源への依存からより効 スク市場インフラ,規制枠組み,政府政策,という 3 つ 率的な事前の DRFI に移行するためには,解決策実施(保 の障害に取り組んでいる.これが要となる公共財を提供し 険料の支払いなど)に対する資金提供に加えて,災害リス ており,それには各国固有の大災害リスク・モデルと,信 ク評価と金融ツールに対する投資が必要である.太平洋大 頼できる費用効果的な大災害保険商品の販売を促進する 災害リスク評価ファイナンス・イニシアティブは,国際的 ためのウェブ・ベースの保険引受プラットフォームが含ま な再保険市場にとって受け入れ可能な確率的大災害リス れる.CRIF は参加国が気候変動や災害に関連したリスク ク・モデルの開発に投資してきている.このファシリティ の意識や知識,スキルを,開発政策のなかに組み込むこと は実施に関する技術援助を提供し,加盟国に対して災害と も後押ししている.世界銀行はこのファシリティと参加国 の関連を削減し,金融・経済の計画を改善するための金融 政府に対する技術援助や融資によって,CRIF を支援して 的な解決策(保険や寄付,準備金,偶発事情など)に関し いる. て助言を付与している.2013 年にこのイニシアティブの 一環として打ち出された主権国大災害リスク保険実験に カリブで最先端のリスク・プーリングを打ち出すために技 対して,日本政府は参加 5 カ国の保険料について,1 年目 術援助を提供する は全額,2 年目は一部に対して資金供与を行った.  カリブ大災害リスク保険機構(CCRIF)は,災害に保険 出所:WDR 2014 のために書かれた Laura Boudreau, Hannah Yi, and Olivier Mahul の論文. イキングを監視するのに使われ,また,政策当局 IFI は各国の政策に対する情報提供に役立つ,経 がシステミック・リスクの評価に使えるようにす 済や金融,環境,開発に関するデータや傾向を監 るためである 22.国際獣疫事務局(フランス語 視し,分析している. 略記で OIE)は疫病を探知・制御し,伝染のリ  このような知識の応用においても著しい努力が スクを削減する能力について,100 カ国以上の 払われてきている.国際社会は責任あるリスク管 獣医公衆衛生制度を評価している.気候変動に関 理行動を奨励するためにルールや基準を整備して する政府間パネルは科学者を定期的に一堂に会し きている.グローバルな問題を解決する際には, て,世界中の研究をレビューして,気候変動の動 世界中の専門家,各国およびグローバルな政策当 因と帰結に関する評価を更新し,微調整してい 局者,基準制定者を会議に招集している.自然災 る.気候変動に関する国連枠組み条約は温室効果 害の予測や警告を作成し発表するために,リスク ガス排出の傾向を監視して,各国や国際的なレベ 評価を活用することにおいて進歩を示している. ルでの政策の分析や議論に情報を提供している. グローバル・メディアやインターネットへのアク 308 世界開発報告 2014 ボックス 8.4 災害リスクを評価するためにツールやデータベースを提供するグローバルな取り組み  自然災害による潜在的な損害を予測・定量化することに  自然現象を含め複雑なシステムに固有な不確実性を評 よって,災害や気候に関するリスクの評価は,コミュニ 価するのに,今や確率論的リスク・モデル化手法がますま ティや会社,政府に,安全な学校の建設や農民の干魃に対 す使われるようになっている.確率論的リスク・モデル化 する保険のかけかた,沿岸都市の海水からの保護などにど は気候変動モデルと組み合わされて,都市計画などの意思 のように対処すべきかに関して,より情報に基づいた決定 決定のために必要な対象期間にわたって,将来的な災害 を下すのを助けることができる. の可能性と厳しさを評価するのにも使われている a.中央  リスクを削減する戦略や,有効な緊急対応,危機管理策 アメリカ確率論的リスク評価(CAPRA)という無償プラッ 一般を策定するためには,実物資産や人口のリスクとの潜 トフォームが,確率論的手法を使って開発され,中央アメ 在的な関わりの推定値が必要である.受ける影響に関する リカの広範囲にわたる災害から帰結するリスク源を視覚 詳細なデータは主として高所得国では入手可能ではある 化,定量化,および追跡しており,他の地域についても作 が,国際的な主体は途上国と協働して受ける影響に関する 成中である. 独自の目録を作成しつつある.例えば,太平洋大災害リス  データ共有と開放型システムが透明性と説明責任を促 ク評価ファイナンス・イニシアティブは,太平洋島嶼国の 進し,強靭性を構築するという挑戦に広範な参加者の協力 災害リスクに関する地理空間的情報について利用可能な 「強靭性のための開放型デー を引き付けている.例えば, 最大の収集を行った.それには地震や津波,熱帯性低気圧 タ・イニシアティブ」は 8 つの主導的な国際機関やデー による潜在的な災害損失の定量化が盛り込まれている.結 タ提供者からの無償のオープンソース・ソフトウェアを 果としての災害から受ける影響や障害,リスクに関する地 使って,人々や各種機関がサヘル地帯において旱魃に対す 図は政策当局や一般大衆と共有されている. る耐性の構築に関して協働することを可能にしている.同  世界地震モデルは世界中のどこであろうと地震リスク 「インドネシア緊急時シナリオ」 様に, (InaSAFE)は自然 を評価するために,知識を共同で提供し,人々に手段と資 災害インパクト・シナリオを作成する無償のオープンソー 源を提供することを試みるグローバルで協調的な取り組 ス・ソフトウェアであり,将来的な災害事象がもたらす可 みである.その目標は 2013 年末までに,人口と住宅用建 能性のある影響を評価するために,科学者や地方政府,コ 物に関する総合的な情報を包含した,災害から受ける影響 ミュニティからのデータを組み合わせるのに,単純ではあ に関する世界規模のデータベースを提供することにある. るが厳密な手法を提供している.このツールはジャカルタ 建物ごとのデータが主要地区について利用可能になり,時 市によって,2012 年の洪水シーズン期間中の緊急計画向 間とともにその地区の数が増えていく予定である. けに試験的に使用された. 出所:WDR 2014 のために書かれた Robert Reid の論文. a.Ranger 他 2011. セスが改善したおかげで,疾病情報や,なかでも に国際社会全体として,国境をまたぐ一部の重要 疾病制御,環境リスク,金融リスク等に関する科 なリスクへの取り組みはより強力であっても良 学的な研究の速やかな共有が可能となっている. かった.世界的な金融危機が発生してから 5 年 早期警告システムが多種多様な災害向けに開発さ も経過しているにもかかわらず,先進国と途上国 れて,災害に伴う死者数の削減に役立っている. のどちらの経済も,一部の基本的な経済的および 経済や金融,社会,地政学,環境,技術などのリ 構造的な弱さが未解決であるため,緊張が再燃す スクについては拡充されたモニタリングが実施さ るリスクに対して脆弱なままにとどまっている. れて,低確率ではあるが世界システムに対する影 銀行,国家,および実体経済のリスクを巡る負の 響が大きいリスクを評価して,リスク軽減政策を フィードバック・ループと,競合するマクロ経済 推進している.それには国際協力を必要とする政 上の優先課題を背景に,政策対応が複雑になって 策も含まれる 23.当該国が,他の諸国に波及す いる.何もしないということの危険性に関しては るリスクがある累増する困難に直面している時に 膨大な知識と強い支持が入手可能であるにもかか は,グローバルな資源も活用されるようになって わらず,気候変動の阻止に関する進展は限定的な いる. ものにとどまっている.コストの高い人畜共通感  しかし,総合的な有効性は限定的であった.特 染症が引き続き発生しているにもかかわらず(最 CHAPTER8 国際社会の役割 309 近の H7N9 とコロナウィルスの発生を含む),流 いと,有用性は限定的なものにとどまる 25.同 行病の予防と備えの進展は限られている.ミレニ 様に,感染症のコントロールはしばしば公衆衛生 アム開発目標の多くは,脆弱国では 2015 年の目 当局と一般大衆の間のコミュニケーションが不十 標期限までに達成するのは不可能であるとみられ 分なことや,情報ギャップを原因とする探知・診 る(ボックス 8.5).その時までに,これらの諸 断の遅延を受けて,コントロール措置が遅くコス 国は世界の貧困層の半分を占めるようになってい ト高となっている.現地の実務家が科学的知識を ると予想される 24.このようなリスクに対処す 実地に適用していないことも,さまざまなリスク るためにより積極的に行動するということをしな の評価とそれへの対応を限定している.環境リス い場合のコストは高く,そうでなくても稀少な資 クに関しては広範なデータが入手可能であるにも 源を開発に向けた努力から奪っており,一部の事 かかわらず,分散し遅れているため,国家的ない 例では苦労して手に入れた開発成果を鈍化ないし し世界的な行動を奮起させる重要なメッセージの 逆転させ,将来世代に膨大なコストを課してい 体系的な普及が限定されている. る.  情報の非対称性は脆弱紛争被災国への有効な関  このような不十分な実績にはいくつかの共通 与における国際社会の能力にも影響し,したがっ する要素が作用している.入手可能な知識や資 て,人々のリスク管理を支援する国際社会の能力 源,能力へのアクセスが不十分であることを受 を低下させている.典型的には,このような諸国 けて,適切なリスク管理措置をとるための知識 の特徴である腐敗と政治に関連するリスクは,そ の蓄積と利用が妨げられている.一部の事例で れらの諸国の競争力と投資関連の魅力を減らして は,情報に基づいたリスク・テイキングとその いる 26.腐敗の度合い,政治関連のリスク,地 管理(国際社会の脆弱国への関与の場合など) 方自治体の実施の意欲と能力に関する情報の不十 よりも,リスク回避に重点が置かれている.政 分さが,援助国のリスク回避度を大きくし,関与 治経済学上の制約や,適切なインセンティブ・ の意欲を削減している.また,安全ではあるが, 説明責任・有効な執行の仕組みが無いことが, これらの諸国が国家制度を強化し,必要とされて 国際協調を遅らせている. いる平和の構築に取り組む助けにならないような 結果の達成に,自分たちの関心を向けるかもしれ 知識の行動への変換,およびその定式化における ない 27.(市場へのアクセスあるいは開発援助を 問題 通じた)関与の機会を失うことは,やがて次のよ  情報の乖離が継続していることが,一部の分野 うなリスクを高める.すなわち,政治体制の変化 について知識と行動の制約となっている.情報の が繁栄や社会的一体感を脅かし,このことは,脆 非対称性が,金融部門のリスクを有効に管理しよ 弱性や貧困,絶望,腐敗の継続,紛争といった悪 うとしているグローバルな取り組みを引き続き妨 循環を生み出し,中東・アフリカでみられたよう 害している.グローバル社会の取り組みにもかか に,より広範な国境を越えた影響をもたらしかね わらず,システミックな金融リスクの蓄積の発見 ないコストを伴う.そのような状況下では行動を に必要とされる一部の重要な情報が,市場や政策 起こさないことのリスクは非常に高く付く. 当局には依然として入手可不可能なままである.  複雑なリスクを管理するために国際社会が設計 金融システムが地域的に,あるいはグローバルに した多くのツールは,それを理解・実施するのに 相互接続している国々では,金融機関相互間が受 限られた資源と能力しかもっていない諸国を無視 ける影響に関するデータの欠如は,出現してくる している.資源と能力が不十分なため,それらの リスクの発見を阻害し,適正な措置をさせるため 諸国は入手可能な情報や知識にアクセスして応用 の早期警告制度の有用性を損ねている.自然災害 する,保険をかける,再保険に出す,あるいは予 のための早期警告制度も一部の途上国で経験した 防的な措置をとることがむずかしくなっている. ように,情報が不正確で伝達が迅速かつ明瞭でな 例えば,過去 25 年間,途上国では災害損失総額 310 世界開発報告 2014 ボックス 8.5 脆弱紛争被災国では,リスク管理が良ければ開発機会の可能性は広がる  脆弱紛争被災国(FCS)への国際的関与は,援助国や実 だろう.相互に結び付いた世界では,そのような紛争は著 施パートナーにとって著しいリスクをもたらす.というの しい経済的および社会的コストをもたらし,それは国境を は,そのような諸国の典型的な特徴である,高度の不確実 越えて波及する. 性や政治的不安定性,制度の脆弱性,基本的な国家機能の 失敗などと戦わなければならないからだ.このような特徴 高度のリスク回避性 が国際社会が支援を提供する社会経済的な支援システム  しかし,援助をする側や実施パートナーの間では,援助 (国家と地方のコミュニティや制度を含む)の力を弱めて 国がどこでどうやって関与するかに関して,また,援助国 いる.このような複雑で変化の速い環境下では,結末の予 の組織上の文化として,リスク回避のほうが重視される傾 測と制御がむずかしく,暴力的な紛争に舞い戻る可能性が 向にある.貧困・脆弱国向けの援助フローは乱高下し,予 常に存在している.人々のリスク管理能力は深刻な制約下 測不可能である.高度の不確実性と情報の格差を受けて, にあり,顕在化してくるリスクの結末はしばしば死活問題 リスクに関して過度に悲観的な見方や,逆に援助が短期間 となる. で達成できることに関して非現実的な期待につながるこ  同時に,このようなリスクの高い環境への国際的関与 とがある.腐敗に関する懸念は援助国や投資家の関与に対 は,開発にとってとりわけ重要な貢献になり得る.出発点 する意欲を阻害する.報告と説明責任に関する要件を厳格 が低いため,このような過渡的な状況での有効な国際援助 化する一方で,現地のイニシアティブを頼りにしないとい は,他のほとんどの状況下におけるよりも多くのことを達 うやり方は,このような変化の速い状況下で短命な機会を 成できる a.国家と社会の関係が見直され,国家制度が再 つかみ取る鍵となるスピードや柔軟性,革新を削減してし 構築された地域では,援助を含め,国際的な関与は重要な まう.このような欠点は多くの FCS や紛争が再発した多 触媒的および転換的な支援を供与できる潜在性をもって 数の諸国において,ミレニアム開発目標(MDG)の達成 いる.加えて,関与しないことのリスクは大きいかもしれ にかかわる進展が滞っていることで明らかにされている ない.国際援助の欠如が紛争の継続ないし再開を許すとす .開発への長期にわたる積極的な関与と支援がな (図参照) れば,それは当事国と国際社会の両方にとってそういえる いことが,国家能力の構築を阻害している. 100  脆弱紛争被災国の MDG に向けた進展は遅々としている 目標に向けた進展度(%) 80  60  40  20  0  極貧の削減 初等教育 ジェンダー ジェンダー ジェンダー 5 歳児未満 安全な水 衛生設備 修了率 平等(初等・ 平等(初等 平等 死亡率削減 へのアク へのアク 中等教育) 教育) (中等教育) セス改善 セス改善 中所得国 低所得国 脆弱国 出所:World Bank and IMF 2010 に基づき WDR 2014 チーム作成. アプローチにおいて若干の変化が進展中 る措置になるかをみるべきである.WDR 2011 は次のよう  FCS と開発パートナーは次のような結論を出しつつあ な措置を勧告している.すなわち,政府が執行するプログ る.すなわち,結末を改善するためには適切なリスク・テ ラムに対する監視の強化,資金の共同出資を通じたリスク イキングが必須であり,リスクと機会の間でよりうまく 分担,リスク対機会の評価に基づくリスク偶発性の先見的 調整しなければならない.紛争に関する『世界開発報告 な計画など.2011 年に韓国の釜山で合意された「脆弱国 (WDR)2011』は次のことを示している.援助国の対応は, への関与に向けたニュー・ディール」は,関与しないこと 設計が悪く先を急ぐと FCS への関与に関する著しいリス のリスクが関与のほとんどのリスクを上回り得ることを クを悪化させかねないため,リスク対機会の評価をより頻 認識している.それは固有のリスクや,状況に固有で,援 繁に行うことによって,援助国自体が現地のシステムや能 助国が共同で行うリスク緩和戦略について,共同で評価を 力に対する影響を通じてどのようにしてリスクを緩和す 行うことが必要であることを強調している.G7 プラス諸 CHAPTER8 国際社会の役割 311 国(紛争被災国で今や次の開発段階に移行中の諸国)と開 として理解し,促進.援助国は実施パートナーに,リ 発パートナーは途上国の次のような取り組みを支援する スクをとり柔軟に対応するのに必要な守備範囲と手段 ことを公約している:リスクを回避するのではなく,それ を供与する必要がある.援助国と資金を提供する国と を管理することを目的にし,援助国と脆弱国の共同の取り の間では,現地の能力構築と関連するリスクを集団的 組みを通じて,紛争に舞い戻るリスクを最小化する. に管理するという明示的な焦点を当てながら,あらゆ  リスクと機会のバランスをとるには,状況やプログラ るリスクとの関わりに関して誠実性と透明性を強化す ム,制度面でのリスクと集団的なアプローチに対して, ることが必要である b. 並列的に焦点を当てることが必要である.最近の研究が OECD に提示している政策勧告によると,援助国は抱負を  より広範な国際社会は FCS への関与に伴うリスクを管 行動で裏付けし,リスク回避からリスクと機会の均衡化に 理する援助国の取り組みを,次のような形で支援すること 方針を変更する必要がある. ができる: ・ FCS で適切なリスク・テイキングを奨励する制度的な ・ 特に頻繁に監視するための一連の指標を開発するこ 文化を確立.これにはスタッフや実施パートナー向け とによって,援助国が FCS に固有なリスクを特定し, に次のようなインセンティブを設定することが含まれ より良く理解し,監視するのを助けることができる. る.すなわち,具体的なリスク管理枠組みを策定する ニュー・ディール脆弱性評価は,各国の状況や現地で とともに,リスクを機会との相対関係で考慮し,なぜ 必要とされていることを考慮に入れて,柔軟に適用可 FCS に対する一部のリスクはとる価値があるかを率直 能な一連の共通指標を使う可能性が大きいだろう.そ に伝える. のような知識の利用が改善すれば,意思決定や優先順 ・ 結果の測定に関しては現実的な目的と枠組みにおいて 位付けに有益で,援助グループのリスク回避性を軽減 合意.援助国とパートナーは FCS 固有の状況に合わ し,強化を必要とする現地の能力や制度を特定できる せて,複雑な環境下での結果を測定するための枠組み だろう. を確立すべきである. ・ 不測事態対応計画,早期警告,および危機災害管理な ・ 援助供与の手続きを簡素化.この措置によって事象の どのシステムは,FCS が直面している異常リスクを緩 成り行きに影響する機会の狭い窓を有効活用するのに 和するために,多国間機関とのパートナーシップで開 必要な,迅速かつ柔軟な対応と資金の移転が円滑化さ 発することができるだろう.対象を絞った能力構築に れる. 対する援助は実施不足を強化し,制度的能力を改善 ・ リスクを理解し評価するための共通の枠組みを確立 し,腐敗リスクを削減できる.開発機関や市民社会, し,確実に人々や特定の状況と結び付いているリス メディアの取り組みはパートナーとなって,不正をコ クに注目する.脆弱性評価を実施することによって, スト高にすることができる.再建に向けた取り組みに ニュー・ディールの実験を行う数カ国は,対話や共同 援助国が調整された形で関与したことが,2004 年に リスク管理戦略のベースとなる脆弱性の原因や特徴, アチェで発生した津波の事後対応では有益であった. 動因および強靭性の源泉に関して,開発パートナーや ・ 国際社会の支援(二国間および多国間パートナーを 市民社会と共通理解の策定を求めている. 巻き込む)があれば,援助国と FCS はともにリスク・ ・ 努力と資金調達に共同で出資することによって,リス プールを行うことができる.地域的なリスク・プーリ クを分担し集団的な影響を最大化するための選択肢を ング・ファシリティにおける肯定的な経験は,有用な 特定.共同で行う取り組みは政治や評判上のリスクか 指針を提供してくれるだろう.国際社会は援助国の多 ら個別主体が受ける影響を削減し,プログラムの失敗 角的な資金調達を動員し,調和のとれた能動的なリス のリスクを薄めることができる.リスク分担の選択肢 ク管理枠組みを設計し,多国間プラットフォームで政 には共同で出資した資金や共同指針,相互説明責任の 治リスク保険を提供するのを後押しすることができる 枠組みなどが含まれる. だろう. ・ 多角的機関の役割を「リスク・プーリングの仕組み」 出所:下記に基づいて WDR 2014 チーム執筆――WDR 2014 のために書かれた Laura Mazal, Diane Koester, and Sophie Walker; WDR 2014 の ために書かれた Asbjorn Wee; OECD 2011a, 2011c; OECD Development Assistance Committee 2012; Fengler and Kharas 2011; World Bank 2011; World Bank and IMF 2010. a.過渡的状況は紛争から平和,あるいは暴力から安全への移行を含む. b.OECD とイギリスの国際開発局による継続中の事例研究は,多くの興味深い援助国のアプローチやリスク管理に関する革新的な慣行 が,FCS ではすでに使用されていることを強調している.ネパールでは,紛争に敏感に対応する計画の作成がリスク管理慣行において 行われており,それが援助国の運営全体において主流となっている.専門的リスク管理ユニットが,安全や信託,運営業務で遭遇する その他のリスクに取り組むための資源に共同で出資するのを助けている.ソマリアでは,信託リスクを管理し,実施パートナーを監視 するために,国連リスク管理ユニットが創設されたが,アクセスと移動の自由が制限されているため,現場での直接的な監視を実施す る能力が阻害されている. 312 世界開発報告 2014 図 8.2 2011 年の調査では気候変動に関して国益の相違と近視眼的な見方が明確になった a. 気候変動が心配 b. 心配していない理由 温暖化は自分に 北アフリカ 50  12  好都合 まだ問題化 ヨーロッパ 68  14  していない 自分が生きている 世界平均 69  18  うちに影響はない 技術進歩で アジア・太平洋 72  23  対応できる 人間が原因 中東・アフリカ 80  37  ではない 他に深刻・緊急な ラテンアメリカ 90  48  問題がある 0 20 40 60 80 100 0 10 20 30 40 50 60 回答者の割合(%) 回答者の割合(%)a 出所:Nielsen Company 2011 所載の 51 カ国における調査回答からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成. a.当てはまるものすべてを選ぶ複数回答方式なので合計は 100%より大きくなっている. のうち保険の適用率は,スイス再保険会社による 資という結果につながる.例えば,気候変動に関 と,平均で 20%未満にとどまっているのに対し する最近の世界的調査は,気候変動のリスクに対 て,北アメリカでは約 60%となっている.気候 する近視眼的な態度を明らかに示しており,世界 変動の緩和および適合に要するコストに対する資 が直面している切迫した緊急事項とみられるもの 金調達の不足は,途上国にとって温室効果ガス排 に対してより大きな関心が払われていることを示 出の削減や,世界的な交渉で合意に達することの している(図 8.2).このような回答が示唆して 障害になっている 28.気候変動のリスクと生物 いるのは,世界人口の無視できない部分が,将来 多様性や資源の損失はグローバルな問題かもしれ を大幅に割り引いて,生物多様性の損失や災害の ないが,このような気候変動のリスクにかかわる 頻度とコストの増大など,気候変動の悪影響に低 脆弱性や気候変動の軽減・適合に向けた取り組み い価値しか置いていないということである. は地方的であり,必要な是正措置を実施する国家  深い不確実性は言動や認知のバイアスを倍加す や地方自治体の能力は制約を受けている. る.例えば,気候変動のリスクの緩和を推進しよ  認知や言動,政治経済学などの要因も,入手可 うとしても,そのような措置の費用便益に関する 能な情報をすぐに実施できる知識に翻訳するのを 不確実性や,超えると地球の気温のわずかな変化 邪魔する.気候変動や他の環境リスク,災害の動 が破局的な帰結をもたらす温暖化ガス濃度の臨界 因や,流行病が再発する可能性に関する証拠につ 点(転換点)に関して,コンセンサスが無いこと いては,幅広い情報が入手可能である.それにも によって,気候変動のリスクの緩和は台無しに かかわらず,個人やコミュニティ,政府は引き続 なるだろう.このような限界に関する科学的な き,自らが稀,あるいは遠隔の事象と考えるもの コンセンサスの欠如は,国際協調に向けたイン に対する潜在的な影響を見過ごし,発生する可能 センティブを弱める.最近の実験的研究は次の 性のあるコストを過小評価している.また,保険 ことを示している.仮にこのような限度が確実 をかけておらず,あるいは他の方法でも自己(お に特定できるならば,また,仮にそれを回避す よび他人)を防御していない.同様に,確率は低 る相対コストが低ければ,それを超過する恐怖 いが影響の大きいリスクは,短期的な他の課題に が各国のただ乗り行動を削減し,破局を回避す 直面するとしばしば無視され,予防措置の過少投 るために必要とされる集団行動への参加を誘発 CHAPTER8 国際社会の役割 313 図 8.3 援助国の災害関連援助は備えや予防よりも対処に焦点を当てている 30 25 20 10 億ドル 15 10 5 0 1980‒84  1985‒89  1990‒94  1995‒99  2000‒04  2005‒09  緊急対応 復興援助 予防・備え 出所:AidData Aid Activity (database) からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成. するだろう 29.深い不確実性は複雑なマクロ金 コストの高い障害防止策にかかわる政治的な報 融リスクを評価する能力にとっても有害である. 奨は,効率的な事後的な対応策との比較では小 金融,国家,および実物部門におけるリスク相 さくみえるかもしれない 31.同様に,流行病が 互間の複雑なフィードバック・ループを予測す 発達するのを阻止するための公衆衛生制度―― ることのむずかしさが,進行中の世界金融危機 医薬品の在庫など――に対する継続的な投資は の厳しさと,それを解決することを挑戦的なも 締め出される公算があるだろう.金融では,倒 のにする要因となっている. 産しかけているシステム上重要な銀行と,それ を救済しようとする国家政府の傾向が 国益 有効なリスク管理を阻害しているイ モラル・ハザードを生み出し,重要 ンセンティブを逆転させる が十分調整されて すぎて潰せない金融機関による過 いる場合や,国内政策  事後的なリスク管理を強調する 度なリスク・テイキングを促し, 面で至上命題が最優先で ことはモラル・ハザードを生み出 負担したリスクに沿って資本や流 ない場合に,国際協力 す.災害や危機からの回復を後押 動性を保有することによって,自 は最善の機能を果 しする支援が容易に入手可能であれ 己保険をかけるインセンティブを削 たす. ば,官民の主体はリスクをとること, 減する(第 6 章参照). ないしそれに対して保護策をとったり保険を  備えが良いほうが便益費用比率が高くなる かけたりすることに,あまり慎重ではなくなる にもかかわらず(第 1 章参照),事後的なリスク だろう.十分な予防措置をとっていない人々に 管理のほうが重視されていることを示す証拠が 対する支援を拒否することには消極的である(サ ある.このような事後的なリスク管理の重視は, マリア人のジレンマ)ことを考えると,災害援 災害に対する援助国への融資において明白であ 助が事後に入手可能であることは,被害を受け る.1980 – 2009 年に災害関連の活動に配分さ やすい地域では,警報システムへの投資,ある れた開発援助総額のうち,防止や備えに充当さ いは厳格なゾーニングや建築の規則の執行に向 れたのはわずか 3.6%(33 億ドル)にとどまっ けた政府の意思を弱めるだろう.または,他の た(図 8.3)32.それとは対照的に,過去 30 年 選択肢が利用可能な場合,個人はそのような地 間における災害に伴う経済的損失は,3.5 兆ドル 域に定住することに保険をかける,あるいは居 ――2012 年には記録的な 3,800 億ドル――に 住することを回避するだろう 30.政府(あるい 達している.金融危機も,資源を成長と開発か は援助国)にとって,資金が十分にあり,かつ ら逸らせている.1990 年危機の際に各国政府が 314 世界開発報告 2014 金融機関に注ぎ込んだ直接支援のコストは,ス 天然資源の開発制止,生物多様性の損失抑制,グ ウェーデンの対 GDP 比 5%未満からインドネシ ローバル金融の安定性回復,流行病の制御など) アの同 55%の範囲内にある.2008 年以降,金 は,主権国家によるグローバルな集団的措置を必 融システムに対する政府の直接支援と保証のコス 要とする.集団的な措置は,まずもって共通利害 トは,アメリカの対 GDP 比約 10%からアイル の認識に依存する.仮に利害に関して主観的な共 ランドの 50%以上の範囲にある 33.このような 通性がないとすれば協力は起こりそうもない.ま 偶発負債が顕在化すると,社会支出に利用可能な た,仮にグローバルなリスクを評価して,合意さ 財政的余裕が減るため,将来に問題が発生した場 れた措置を実施しない主権国家に強制的な制裁を 合に各国の政府が国際的な支援を要請する可能性 課すことができる「グローバルな当局」がないと が大きい.健康分野では,重大な人畜共通の感染 すれば,その場合にも協力は機能しない 37.明 症が発生する場合の総コストは,2007 – 09 年で 示的な執行の仕組みがなければ,グローバルな公 推定 800 億ドルに達している.これは,このよ 共財を提供するという国際合意は自発的な参加を うな疾病の防止と制御を行うために,ワン・ヘル 頼りにしなければならないが,それが機能するの スというアプローチを構築・運用するのに必要な はインセンティブが「正しい」,あるいは「共通 コストが年間で 19 – 34 億ドルと推定されている 目標」が認知されている場合だけとなる 38.つ ことと比較されるべきである 34. まり,多角的な協力がうまく機能するのは,国益  リスクに関する近視眼は,行動に向けた主観的 が十分調整されている場合,ないし,既得権や他 な切迫感を削減する一方,リスクや現時点で行動 の国内政策の優先課題から生じる障害が最優先で を起こさないことに関するコストを他人に転嫁す はない場合である. る傾向を生み出す.現行世代が負担しない気候変  気候変動を緩和し,その破局的な結末を阻止す 動を緩和するためのコストは将来世代に転嫁され るために温室効果ガスを削減するのは,集団措置 ることになるが,その際には緩和策はコストが高 が直面している挑戦課題の完璧な例示となってい くなっており,おそらく意図した効果を発揮する る.気候変動の国や地域――所与の国のなかの には遅すぎる公算が大きいだろう.スターン報告 人々――への影響は不均質であり,他と比べて利 による 2007 年の推計では,緩和されていない気 益を享受する地域もあれば,打撃をこうむる地域 候変動のコストは恒久的な年間損失というベース もある.気候変動の限界水準,気候変動の国別影 で,2050 年までに世界産出の 5 – 20%に達する 響の不均質性,競合する国内政策上の至上命題な だろう.これと比較されるべきは炭素排出が安定 どに関する不確実性が続いているなかで,緩和措 化した場合の 1%相当のコストである 35.諸外 置をとるインセンティブがまちまちとなってい 国が貿易や旅行に制限を課すのではないかという る.その結果,各国はすべての国々が批准する永 懸念も,疾病の発生に関する情報を共有する意欲 続的な合意を形成できておらす,それを執行する を低下させることで,その拡散を制止する最終的 仕組みについては言うまでもない 39.それとは なコストを増加させている 36.軽率な政府支出 対照的に,国際協力が成功した 2 つの事例―― は将来世代の債務負担を押し上げる.国内政治へ 天然痘撲滅とオゾン層の保護――では,共通の利 の近視眼な配慮を重視すると,危機解決のための 害が集団措置の障害を除去するのに役立った.極 強固な政策措置を遅らせる誘因が生まれて,すべ めて有害で,ただちに目に見える健康への影響 ての関係諸国にとって最終的な解決のコストを倍 に対して,だれもが弱かったのである(表 8.1 参 加させかねない. 照).世界に破壊的な被害をもたらす核戦争の脅  最後に,国益が多様であることが国際協力の進 威が大きくなってきたことを受けて,189 カ国 展を遅らせ,執行可能な合意された共通の目標や には拍車がかかり,1968 年に核拡散防止条約に 基準がないなかで,何もしないことへの誘因を生 調印した.それは核兵器の拡散を(10 カ国未満 み出す.グローバルな公共財(気候変動の制御, に)抑止するのに貢献したが,条約の長期的な存 CHAPTER8 国際社会の役割 315 続性は脆弱である.というのは,核兵器を開発す 的なコストをかえって押し上げる.国家が紛争に る能力をもつ国が数カ国存在しているからだ 40. 陥るのを防止するほうが,一たび失敗してから対  多種多様なインセンティブや集団的措置の罠 応するよりもずっと費用効果的である.諸研究 は,進行中のグローバルな経済・金融危機の解決 の推計によれば,紛争防止に支出された援助は 1 が手間取っている一因でもある 41.例えば,進 ドル当たりでみて,平均すると,国際社会にとっ 行中の金融危機を受けて,グローバルな金融シス て 4 ドルもの節約になる 42.最近のソマリアの テムの健全性を強化することを企図したバーゼル 例で見られるように,対応が遅れると人命という Ⅲの枠組みは,その策定と実施において挑戦に直 面でも,コストは非常に高くなる.11 カ月間に 面している.自国の銀行システムを保護したいと もわたる反復的な早期警告にもかかわらず,主観 いう各国の要望は,新しい基準の厳しさとその実 的な政治的リスクのゆえに早期介入の機会が見逃 施のペースに関して,先進国同士の間および先進 されて,2010 – 11 年の飢饉で多くの命が失われ 国対途上国の間の両方で多種多様な意見につな た 43.ますます相互連結が強まっている世界で がっている.その結果,一部の諸国はより厳しい は,そのような何もしないことのコストは国境を 規制を一方的に導入して,実質的に規制面で格差 越えており,影響を受けた人々を吸収する近隣諸 を生み出している.同様に,G20 の取り組みは, 国で,難民人口の増加や感染症,犯罪,紛争,経 金融危機の初期にはうまく機能し,各国首脳は金 済的損失の拡散や,公共財(水や衛生,教育,住 融の安定性を回復し経済の下降に対抗するため 宅,保健サービスなど)に対する圧力の増大をも に,拡張的な政策を支持した.ところが,協調の たらしている 44.ある研究は,脆弱国と国境を 継続はより挑戦的なものになってきている.とい 共有していると,経済成長率が年率 0.4%低下し うのは,先進国の拡張政策が新興市場国への大規 得ると推計している 45. 模な資本流入を誘発して,そのマクロ経済政策管 理を複雑にしたからだ.  国益の乖離は,脆弱紛争被災国(FCS)が直面 政策がもつ意味と各国が実施すべきこと している問題の解決が遅々としていることの一因  国際社会は有効なリスク管理のために広範な にもなっている.FCS に充当される資源が有効 手段を提供することについて,素晴らしい進歩 に使われているか否かに関する懸念は,関与しよ を遂げてきているが,国と世代の境界を越える うという援助国の意欲を低下させ,多くの脆弱国 リスクに関してコンセンサスを形成するために で援助の有効性が削減されている.一方では,援 は,より多くのことをする必要がある.相互接 助は平和構築と国家建設という目的達成を後押し 続性によって緊密なネットワークが形成されて できる,という期待が高まっている.他方では, いる世界にあっては,「グローバルな問題はグ より安定的な環境下における報告と説明責任に関 ローバルな解決を必要としている」が,主権国 する要件を適用したり,迅速かつ目に見える結果 家に対して適切な説明責任と執行権限を有する を要求したりすることが,多くの場合に柔軟性と 国際機関を伴う,有効でグローバルなリスク統 革新のために許容される余地を限定的にし,関与 治の仕組みが存在しないため,グローバルな公 の有効性を弱めている.脆弱国と成功裡に関わる 共財を提供し,グローバルなリスクに取り組む のを確実なものにすることは共通の利益となる. のに必要な国際的なシステムは,世界を統合す 援助国はこのことを 2011 年以降,強調している る接続性やそのような接続性が産み出す複雑性 が,このような挑戦に有効に立ち向かうために, に足並みが追い付いていない 46. 自国での実装と制御のシステムを適合化するのに  グローバル・リスク管理についての進展が限 苦闘している. 定的であることから,利害や能力の制約,他人  国際的な援助が無ければ,人々が放置されたま の措置にただ乗りするインセンティブが多種多 まになるという深刻なリスクが生じ,関与の最終 様な数多くの諸国の間で,国際社会が集団的な 316 世界開発報告 2014 措置を推進できる可能性に対して疑念が湧いて 工夫できる限りにおいて,リスク管理の規模を拡 きている.この集団で何もしないという事態は, 大することができる(表 8.2). 国際社会が保護を狙っている目標にとって著し い挑戦を提起している.それには世界中で貧困 インセンティブが十分に調整されている場合:先 の撲滅から平和の回復,強靭性と繁栄の構築, 見的な十分に調整された介入策を追求 より公平な所得分配の達成に至るまでの目標が  国際協力はインセンティブが十分調整されてい 含まれている. て明確な行動方針がある場合に,最もうまく機能  これは,世界はグローバルな解決を達成すると する.この場合,リスク管理の規模の拡大に必要 いう目標をあきらめて,グローバル化に背を向け なのは,国際社会による積極的で十分に調整され て,代わりに,集団的に生み出された複雑なリス た介入策だけである.金融危機や流行病などのグ クに取り組むのに,個別の各国の措置に依存すべ ローバル・リスクに関しては,緊密に相互接続し きである,ということを意味するのだろうか?  た世界における急速な拡散のリスクが,各国の国 もちろん,どのような国際的な措置がとられる 益の調整を助けることになるだろう.それぞれの にしても,個別の各国の措置が必須ではあるが, 国は国益のために,リスクを源泉で抑え込むこと コースを変えて,全体が個別部分の合計よりも大 を目指して各国が十分に調整された行動をとるこ きくなることを確実なものにするためには,より とを求めている.このような措置の有効性は,情 野心的で調整された取り組みが必要である.グ 報や資源の迅速な共有,措置の有効な調整,問題 ローバルで協調的な解決策から離れるのは,開発 の発生と国境を越える波及を監視,特定,および にとってコストの高いものになるだろう.特に途 防止するための適正な能力とインフラに決定的に 上国や貧困層にとってはそうであろう.と言うの 依存する. は,グローバル化によって促進された信用へのア  問題が出現した際に,視野を広げ,その問題に クセスや外国投資フローの改善から,最大の利益 取り組むことにとって,知識は根本的なものであ を享受してきたのはまさに途上国や貧困層だった る.したがって,知識へのアクセスがリスク管理 からだ.したがって,国際社会としては,地方や 能力の拡充にとっての第一歩となる.以下を行う 国家,および個人のレベルにおける前向きな措置 にはより多くの努力が特に必要とされる: を利用し,国際協力の成功事例から学んだ教訓に 基づいて,グローバル化から享受した利益を保持 • 既存の情報格差を縮小し,認知や言動におけ し,国際協力を達成するために適正な手段やイン るバイアスに取り組む.国際社会は,特に情 センティブ,制度を発見する努力を継続して行う 報へのアクセスが限定的な諸国に対するも べきである. のを中心に,データや分析に関する普及やコ  国際協力が成功するためには,国益が十分調整 ミュニケーションの活動を強化し,情報や最 され,結束力のある国際社会が必要とされる.そ も優れた事例の共有を促進することができ のためには,たとえすべての諸国が協力に積極的 る.知識プラットフォームや情報キャンペー でないとしても,資源を結集し,合意を執行でき ンを通じたより体系的で,頻繁な,対象を る仕組みを創設できる能力のある国際社会が必要 絞った普及を図ることは,稀だが影響の大き である.その能力は,次の段階において共有され い,あるいは遠い将来のリスクに関する長期 ている目標を中心としてインセンティブを調整 的な視点を形成するのに役立ち,何もしない し,進展を達成できる能力をもった主要なプレイ ことの危険性に関する意識が高まる. ヤーの参加を引き付けることができる国際社会の • グローバル・システムが直面している具体的 能力に依存している.国際社会は知識や保護,保 なリスクに関する不確実性を削減.知識を拡 険,対処の手段を適切に組み合わせて,協力を確 充し不確実性を削減できる科学的研究の整理 実なものにする可能性が高まる革新的な仕組みを と普及に,より多くの資源を充当すべきであ CHAPTER8 国際社会の役割 317 表 8.2 国際社会レベルでリスク管理を改善するための政策の優先課題 リスク管理を支援するための政策 基本 高度 知識 金融機関とリスクとの関わりに関する データの質・入手可能性を改善 情報格差を除去 備えの重要性に関してリスクの認識を高めるために,科学研究を強化し,グローバル・リスクを改善し, 情報 / 教育キャンペーンを展開 基本的 RM ツール,EWS,不測事態対応計画,市場 EWS,不測事態対応計画,債務 / 準備管理, および制度の開発,コミュニケーション, ヘッジ手段に関する助言 統治に関する TA を提供 保護 対象を絞ったグローバルなルール,規則,および基準を設計し, 政策対話のプラットフォームを通じた協力を確保 災害の予防と備え,緩和と適応,不測事態対応計画 緩和 / 適応,不測事態対応計画の仕組み, の仕組み,EWS 向けのファイナンス EWS の実施を円滑化 予防接種,基礎栄養,教育プログラム, R&D 向けの補助金 / ファイナンス 技術移転,平和維持に向けた努力 保険 贈与エレメントを含む偶発的信用枠 グローバル・セーフティーネットを含む偶発的信用枠 地域的な準備への共同出資と大災害保険の仕組みを促進 対処 人道的緊急対応と再建援助 緊急対応・再建向けの技術支援 (食料,シェルター,および保健など) 安定化 ・ 対象を絞った開発への融資 緊急流動性 / スワップ枠 出所:WDR 2014 チーム. 注:上表は政策の優先課題を確立するために,第 2 章の次のような指針に基づく政策順序を示す:国の制度的能力に見合った政策設計につ いて現実的でなければならない.また,最も重大な障害に持続的に取り組み,時とともに改善可能な強固な基盤を構築しなければならない. EWS= 早期警告システム,R&D= 研究開発,RM= リスク管理,TA= 技術援助. る.複雑なリスクの確率と性格に関する知識 ている諸国を援助するために,国際社会は は,リスクを評価する能力と集団的 努力をいっそう強化することができる. 措置の必要性を高めることがで 国際 このような努力は不測の事態への対 きる.天然痘の撲滅とオゾン 社会は,国際化から 応計画や,早期警告,モニタリン 層保護のグローバルなキャ 得られる利益を確保する グ,コミュニケーション,およ ンペーンが成功したよう ように努めると同時に,国際 び疾病の制御などのシステムを に,科学界と市民社会との 的な協力の確立に適した手段 設計する能力,さらに,民間部 パートナーシップは有効な や奨励制度,機関を見出し 門リスクの解決策を円滑化する 行動を促進することができ ていかなければならな ために,大災害リスク・ファイ る 47. い. ナンス向けの金融市場の開発に焦 点を当てればよいだろう.  国際社会の取り組みは能力の構築やリスク管 • 資源制約を緩和. 国際社会からの金融支援 理措置に向けて,より多くの資源を供与するこ は地域的な共同出資というの解決策を促進 とに焦点を当てるべきである: および支援することによって,各国の資源 を高めることができる.資金の調達は,最 • リスク管理のための能力構築を支援.能力の も重要な分野と,ショックに最も脆弱な人 制約が有効なリスク管理を引き続き阻害し たちに焦点を当てるべきであろう。2004 年 318 世界開発報告 2014 ボックス 8.6 2 つの災害物語  国が大規模な災害に襲われた時,典型的には国際社会が  アチェから数千マイルも離れたところで,同様な災害が 貴重な資源を供与する.この資源が国の努力を支援する際 やはりもう 1 つの非常に貧しい脆弱な島嶼国家であるハ にどのように使われるかが,達成される結果に対して重要 イチを襲った.2010 年に発生した大地震は約 23 万人の人 な意味をもつ. 命を奪い,150 万人がホームレスとなった.建設が不適切  当時,紛争で苦闘していたインドネシアの遠隔地であっ であった住宅やインフラが倒壊したためである.国際社会 たアチェ州は,2008 年 12 月に発生した大地震とインド洋 は現場に急行し,物資や膨大な額の資金を持ち込んだ.世 を洗い流した大規模な津波の矢面に立った.アチェ州では 界的な動員の最中に,第 2 波の災害がハイチを見舞った. 10 万人以上が死亡し,50 万人以上が家を失った.金銭的 制御措置やインフラが不十分であったため,大規模なコレ な影響がアチェの GDP の 97%にも達すると推定されるな ラが発生して約 8,000 人の死者を出した.コレラは南アジ か,多国間特別援助基金が創設された.これは 15 カ国と アのコレラ感染地帯出身の平和維持部隊が駐屯していた 諸機関からの拠出金を貯めて,国家的な取り組みと政府の 基地が発生源となった.そこの衛生設備に欠陥があったの 再建戦略を支援するための資源を調整するためであった. である.巨額の海外援助のなかで政府に届いたのはわずか 資金はコミュニティの次のような活動を手助けした:家・ な部分でしかなかった.というのは,脆弱な制度と腐敗に 地方のインフラ・港湾・失われた事業を再建する,貧しい よって資金が誤って管理されることを援助国が懸念した 子供たちに奨学金を供与する,災害に見舞われやすい地帯 ためである.2013 年半ば現在,約 35 万人が仮設住宅にと に災害警告・対応システムを設置するなど.グローバルな どまっており,衛生設備,水道水あるいは処理水,ゴミ管 取り組みは,地方のコミュニティや政府が耐震住宅を建設 理,医療ケア,そして教育などをわずかしか利用できない し,災害に対する脆弱性を減らすプロジェクトを実施する 状況にある. のを後押しすることを中心に行われた. 出 所: 以 下 に 基 づ き WDR 2014 チ ー ム 執 筆 ――Larrimore and Sharkey 2013: Global Facility for Disaster Reduction and Recovery, “Sendai dialogue: Resilience stories” (https://www.gfdrr.org/node/1308). の津波被害を受けたインドネシアでインフラ 長と再建に必要な資本の用途が広がるだろ を再建し,早期警報システムを創設するため う. の,地方や国家の当局との協力による国際援 助は,将来的な災害に対する脆弱性の削減に インセンティブが十分調整されていない場合:グ 焦点を当てた.それに対して,2010 年のハ ローバルな解決に漸進的なアプローチを使う イチ地震におけるインフラの修復や,衛生・  主要な主権国家が十分に関与していない場合― 水処理・保健ケアの利用に関する進展は遅々 ―すなわち,集団的な措置を促進することに関す としており,それが脆弱性を倍加している. る進展が限定的な場合――,国際協調については それにはコレラのような致死的な疾病の流行 新たな思考方法が必要である.何もしないことの が含まれる(ボックス 8.6). 結末が破局的で不可逆的な事態に至る可能性があ • 備えに適切なインセンティブを提供するとと る場合,気候変動や生物多様性の損失,稀少な天 もにモラル・ハザードを制限.自己保険や保 然資源の枯渇の場合と同じく,危険な限界ないし 護の程度を考慮に入れて,適切なリスク管 転換点に関する十分な科学的確実性が存在しない 理を融資の条件にすれば,モラル・ハザード ことが,措置を先送りする理由に使われてはなら の制限に役立つ.低所得国や FCS 向けの援 ない(漫画 8.1).それどころか,不確実性に直 助国支援は,対象を絞った技術援助を組み合 面した際には,予防的な措置がとられるべきであ わせることができる.そうすれば,将来の る 48.このようなリスクに関しては,多国間条 ショックに対する脆弱性を削減し,制度や 約の枠外で全員の参加を伴うことで,進展が依然 統治の能力,プロセスを強化することができ として可能であろう 49. る.各国と国際的なプラットフォームを強化  国際社会は全員参加によるグローバルな集団的 すれば,投資家を安心させることができ,成 措置を最終的な目標として維持しながら,最初は CHAPTER8 国際社会の役割 319 「温室効果ガス をコントロール するために,拘 束力のある国際 合 意 がようやく できたぞ !」 「良い だ !」 ニュース 気候変動サミ ット 2040 於エベレスト山 漫画 8.1 気候変動について行動が遅れると不可逆的な結果をもたらす ©Kevin Kallaugher/The Economist 参加国の少ない小さなグループによる漸進的な取 学者や専門家の社会と協働する国際的なリスク理 引や措置を許容することができるだろう.仮にそ 事会を創設することである.IPCC の場合と同じ の行動が利益をもたらすことを証明できるとすれ ように,それは世界中の科学者・専門家の社会と ば,漸進的なアプローチはグローバルな取り決め 協働するとともに,適切で国際的な金融機関や研 の基礎単位として機能し得る.国や国際機関,専 究機関として,国家や世代の境界を短期的にも長 門組織は,リスクの取り組みに関して調整,唱 期的にも越える,重要なリスクの発見や評価,管 導,および迅速な措置を採用するために,「有志 理に利用可能なあらゆる知識を蓄積する 51.理 連合」を形成することができる.同時に,他の人 事会は緊急の注意を必要とする具体的な問題に関 が参加するインセンティブを創出し,時とともに して有志連合に貴重な情報を提供し,連合の取り 全員が参加するグローバルな取り決めに収斂する 組みに対して信頼性と正当性を与える.漸進的ア ことができる.この連合には,問題に最も貢献し プローチに関するさらなる詳細と背景は,本報告 ている主体とそれに最も影響を受ける人々が含ま 書の末尾にある「政策改革に対する焦点」に示さ れるべきであり,科学界や市民社会,メディアを れている. 関与させるべきである.グローバルな気候変動の  この漸進的なアプローチのなかで決定的に重要 交渉が 2009 年と 10 年に限定的な進展しか達成 な措置は,意見を同じくする参加者が複雑な問題 しなかったのを受けて,そのような連合による要 を検証して具体的な措置をとるために,それを軸 請が特にヨーロッパで高まっている 50. に国益やインセンティブを調整することができる  国際社会はこのような状況下で,次のような行 共通の目標を発見することである.多くのグロー 為によって重要な役割を持ち続けることができ バルな,あるいは地域的な合意は,そのような る:集団的に問題に取り組むアプローチを開発す 漸進的なアプローチを通じて達成されたものであ る,政策議論のプラットフォームを提供する,措 る.それらは共通の関心事である切迫した問題に 置の監視,報告,および集計を行う,措置を既存 取り組むために,より小規模なイニシアティブと のグローバルな枠組みに結び付けて,漸進的な措 して始まった(モントリオール議定書,核拡散防 置とグローバルな取り決めは結び付いていて,正 止条約,ヨーロッパ連合,世界貿易機関など). しい方向に向かっているということを証明するな ひとたび目標が発見されれば,それを達成する方 ど.これを実現する 1 つの方法は,世界中の科 法は,全員参加のグローバルな取り決めに到達す 320 世界開発報告 2014 るのに必須な要素と何も違わない: ブ.このようなインセンティブは個別の措置 (炭素税,キャップ・アンド・トレード方式, • 知識へのアクセスの改善と唱導. 国際社会 より環境に優しいエネルギー選択を奨励する は,情報の共有を円滑化し,焦点を絞った情 ための燃料補助金削減 54,合意への参加と 報キャンペーンと,開かれた透明な知識プ その順守を奨励するための貿易規制など)に ラットフォームを通じて,長期的な視点を提 よって生み出される外部性のコストを内部化 供するという点でさらに多くのことができ するのにも役立つ.補助金はグリーンな技術 る.この知識のプラットフォームにおいて を開発する研究を遂行している会社を報奨す は,個別の行為,あるいは何もしないという ることができる.排出を制限するための炭素 ことが重大な外部性を他人に課する.そのよ に関する税や市場,その他のインセンティブ うなプラットフォームや科学界からの説得力 が,中国やアメリカの数州を含め,至るとこ のある証拠(国際的なリスク理事会からのも ろで近年導入されつつある(本報告書の末尾 のも含む)は乖離している意見を近くに引き にある「政策改革の焦点」を参照),しかし, 寄せるのに役立ち,集団的な措置に向けて緊 大きな相違をもたらし,経済的な歪みを回避 迫感を高めることができる.モントリオール するためには,より大きな調整された努力が 議定書や天然痘撲滅の成功にはそのような知 必要であろう. 識が決定的に重要であった. • 金融と技術の面でのインセンティブ.これら  ここで検討している漸進的アプローチにはリス のインセンティブは参加のコストを引き下げ クがないわけではなく,全面的な協力によるグ るのを助け,他の諸国が連合に参加するのを ローバルな解決との比較では明らかに次善の策で 奨励することができる.これに特に該当する あり,事実上,連合の外にとどまる人たちによる のは途上国である.途上国は最も影響を受け ただ乗りを公認するものである.漸進的な措置が るにもかかわらず,対処する能力が最も低 努力の規模拡大と本格的なグローバルな措置への い.例えば,気候変動や生物多様性の損失に 参加に成功するという保証もない.しかし,仮に 関しては,先進国からの技術移転は環境によ 重要なグローバルなリスクに関して何もしないこ り優しい産業を刺激し,気候変動の緩和と適 との帰結が不可逆的になることを回避しようとす 応や,稀少な天然資源の保護を支援する方法 るならば,受け入れ可能な取り決めが合意でき, の研究開発において,よりクリーンな技術や あらゆる不確実性が解消されるまで待つという代 投資の利用を誘発することができるだろう 52. 替策は,存立不可能である.したがって,国際社 例えば,先進国は 2009 年と 10 年の気候交 会は世界の脆弱層と将来世代を,現在の何もしな 渉において,気候への適応と緩和のために いことによるコスト高で不可逆的な結末から保護 新たな追加的資源の提供を集団的に公約した するために必要な措置をとり,支持しなければな が,資金調達の規模を拡大するためには,既 らず,このことに対して決定的に重要な責任を 存と新規両方のファイナンス源を結集する多 負っている. 大な努力が必要とされる 53.国際協力は天 然痘の撲滅とオゾン層の保護について,その ような移転から多大な利益を享受した. • 金銭的にプラスとマイナスのインセンティ CHAPTER8 国際社会の役割 321 注 れはリスクを民間投資家に転嫁し,分散化の利 益を利用するために多数のリスクのプーリング を可能にする――;マラウイが深刻な旱魃のリ 1. Ghemawat and Altman 2012; IMF 2011. スクに備えるのを手助けする仲介サービス;ト 2. Kaul 2003; Stigliz 1999; World Bank 2007. ルコが地震のために国家的な大災害保険プール 3. リスク管理の余地が大きい後者の場合,反復的 を創設するのを手助けする助言サービスなど. な紛争の極端な人的・金銭的なコストに個人や 次を参照:Mahul and Cummins 2009; Mahul コミュニティが対処するのを,直接支援するた and Ghesquiere 2010. めに人道的な手段が使われることもある (OECD 19. 例えば,2011 年 12 月以降,世界銀行の即時対 Development Assistance Committee 2012). 応メカニズム(IRM)は低所得国が自然災害や 4. 危機は産出の著しい減少,債務の増加,巨額の 経済的ショックが脆弱層に及ぼす影響を緩和し, 財政コスト,2-3 年を要する平均的な回復時間な 極めて重要な開発支出を保護するために,未支 どに帰結し得る ; Laeven and Valencia 2012 出の投資プロジェクト残額の一部に素早くアク 参照. セスするのを許容してきている.同様に,世界 5. Economist 2012; WDR 2014 のために書かれ 銀 行 の CT DDO 付 き の 開 発 政 策 融 資(DPL) た Calvo 2013; WDR 2014 のために書かれた には偶発的信用枠があり,自然災害があった場 Ötker-Robe and Podpiera 2013. 合には,世界銀行加盟国に対して即時流動性を 供 給 し て い る(http://www.gfdrr.org/sites/ 6. OECD 2013; World Bank 2013. gfdrr.org/files/documents/DRFL_CatDDO_ 7. WDR 2014 のために書かれた Jonas 2013 も参 ProductNote_Jan11.pdf.). 照. 20. 実例としては IMF の弾力的信用枠と,世界銀 8. Centers for Disease Control and Prevention, 行 の DDO 付 き の DPL が あ る. 前 者 で は 資 格 “First Global Estimates of 2009 H1N1 を有する国は指定された期限内でいつでも信用 Pandemic Mortality”(http://www.cdc.gov/ 枠から引き出すことができる.後者は偶発的信 flu); World Health Organization Facts Sheet 用枠であり,経済状況の悪化によって資源不足 (http://www.who.int); U. S. Department of に陥った借入国は,資金調達のニーズを速やか Health and Human Services, Pandemic Flu に満たすことができる(インドネシアの経験を History (http://www.flu.gov). 流 行 病 は 著 し 参照.すなわち,2008-09 年の金融危機の最中 い直接および間接の経済的コストをもたらし得 に DPL DDO を 使 っ て, 有 利 な 条 件 に よ る 国 る. 際資本市場への持続的なアクセスを支えた.そ 9. IPCC 2012.1903 年以降の災害総数の約 4 分 れが国内外の市場に対して経済の堅調さに関し の 3 は,地球の温度の上昇が速まり始めて以降 て強い前向きなシグナルを送った) .DDO 手 の 30 年間に発生している. 段の経験に関する詳細な議論は次に提示されて 10. Ghesquiere 他 2012. い る ――http://www.managingclimaterisk/ document/CC_WB.pdf; http://treasury. 11. Kindleberger 1973. worldbank.org/web/documents/DDO_ 12. Anderson, Ivanic, and Martin 2013. MajorTremsConditions_july2013.pdf. 13. 早期警告システムはリスクに備えるのに有効な 21. Kawai and Lombardi 2012. ツールである.例えば,2004 年の津波を受け 22. Ötker-Robe 他 2011; IMF and FSB 2011. て,インド洋沿岸諸国は津波警告システムに投 資している.同様のシステムがバングラデシュ 23. International Monetary Fund and Financial とキューバでは嵐について創設され,公共シェ Stability Board, IMF-FSB Early Warning ル タ ー の ウ ェ ブ に 接 続 さ れ て い る.Subbiah, Exercises 2012 (http://www.imf.org); World Bildan, and Narasimhan (2008) の計算によれ Economic Forum (http://www3.weforum. ば,バングラデシュの嵐関連の洪水を警告する org/docs/WEF_GlobalRisks_Report_2013. システムの便益費用比は非常に高くなっている. pdf); OECD 2011b. World Bank and UN 2010 も参照. 24. Ötker-Robe 2013; ORCD 2013; World Bank 14. BCBS 2009, 2011; FSB 2010; IMF and FSB 2013. 2011. 25. UNISDR 2006. 15. UN General Assembly 2000. 26. 次を参照――World Bank, World Governance 16. United Nations 2011, Towards a Safer Indicators database for corruption rankings World initiative. (http://info.worldbank.og/govenance/ wgi/indez.asp); World Economic Forum 17. OECD 2011a. Global Competitiveness Index (http:// 18. 世界銀行からの事例には以下が含まれる:マル www.weforum.org/issues/global- チカントリー・マルチペリル大災害ボンド(メ competitiveness). キシコとの協調によるマルチキャット・プログ 27. 証拠が示唆するところでは,腐敗は当該国の経 ラム)のためのプラットフォームの開発――こ 済成長率を年 0.5-1.0%も低下させ,保険や教育 322 世界開発報告 2014 システムへの投資を減らし,幼児死亡率,貧困, washingtonpost.com/opiions/make-climate- および不平等の増加につながり得る.スタンダー change-a-priority/2013/01/24/6c5c2b66- ド&プアーズの推計では,腐敗している国では, 65b1-11e2-9e1b-07db1d2ccd5b_story. 援助国も含めて投資家が 5 年間以内に投資を失 html.). う確率は 50-100%に達している(アフリカ向 50. Falkner, Stephan, and Vogler 2010; Goldin けの 300 億ドルに達する援助は外国の銀行勘定 2013; Hale 2011.次も参照――http://www. に収まっている;Transparency International, euractive.com/climate-environment/europe- http//www.transparency.org/ 参照). looks-coalition-willing-d-news-508909. 28. 例 え ば 次 を 参 照 ――World Bank 2009; Aldy, 51. 次 に よ る 関 連 し た 提 案 も 参 照 ――German Orszag, and Stiglitz 2001; Barrett 2003. Institute for Development 2009. 29. Barrett and Dannenberg 2012. 52. 例えば下記を参照――Barrett 2003; The Royal 30. 例えば,ニカラグアは天候指数プログラムの継 Society 2009; World Bank 2009. 続を停止した.その理由として,次のことを指 53. 合 意 に よ れ ば, 短 期 資 金 支 援(Fast Start 摘した.特にそれが世界の再保険市場で価格設 Finance) に は 2010-12 年 に 300 億 ド ル, そ 定されると,1998 年のハリケーン・ミッチに対 れ 以 降 2020 年 ま で 年 間 1,000 億 ド ル の 供 与 する国際援助のほうが頼りになる代替策である が必要である.300 億ドルの目標は達成が近い (World Bank and UN 2010). も の の, 第 2 の 目 標 は ニ ー ズ を 達 成 し て い な 31. WDR 2014 のために書かれた Aizenman and い. 先 進 国 の 財 政 困 難 が 一 因 で あ る.World Ötker-Robe 2013; Noy 2012. Bank 2009, 2012b, 2012c; Caravani 他 2012; 32. Ghesquiere 他 2012. Schalatek 他 2012a, 2012b. 33. IMF 2012. 54. 世 界 全 体 で 燃 料 補 助 金 を 止 め れ ば,2020 年 ま で に 排 出 の 5 % 削 減 に つ な が り 得 る. 次 34. World Bank 2012a. を 参 照 ――Jim Yong Kim,“Make Climate 35. World Bank 2009. C h an g e a P r i o ri ty , ” W as h i n g to n P o s t 36. Brahmbhatt and Dutta 2008 の主張によれば, Opinions, January 24, 2013 (http://www. 旅行と貿易の削減を通じた感染の回避に向けた washingtonpost.com/opiions/make-climate- 努力が,疾病が流行している期間中の経済コス change-a-priority/2013/01/24/6c5c2b66- トの 60%を占めている. 65b1-11e2-9e1b-07db1d2ccd5b_story. 37. Aldy, Orszag, and Stiglitz 2001; Banerjee html.). 2012; Barrett 2007, 2008; Dellink and Finus 2012; Kaul 2003; Stern 2007. 38. Stern 2007; Kaul 2003. 39. このような挑戦を詳論している Warner 2013 を参照. 40. C a m p b e l l , E i n h o r n , a n d R e i s s 2 0 0 4 ; Fitzpatrick 2009. 41. Sheng 2013. 42. Collier and Hoeffler 2004; Chalmers 2004. 43. Bailey 2013. 44. 次 を 参 照 ――Jim Yong Kim,“Spillover from Syria: Helping a Neighbor Cope,” The Guardian Online―Global development, July 29, 2013. 45. DFID 2005. 46. Goldin 2013; Hale 2011; Lagarde 2012. 47. 特に以下を参照――Barrett 2003, 2007, 2008; Barrett and Danneberg 2012; Stern 2007. 48. 例 え ば 次 を 参 照 ――United Nations Rio Declaration from the 1992 United Nations Earth Summit (http://www.unesco.org/ education/nfsunesco/pdf/RIO_E.PDF.). 49. 次 も 参 照 ――Jim Yong Kim,“Make Climate C ha ng e a P r i or i t y , ” W a s h i n g t o n P o s t Opinions, January 24, 2013 (http://www. CHAPTER8 国際社会の役割 323 参考文献 DARA International. 2012. Climate Vulner- ability Monitor: A Guide to the Cold Calculus of a Hot Planet. Madrid: DARA International. AidData. AidData by Activity (database). AidData, Washing- Dellink, Rob, and Michael Finus. 2012. “Uncertainty ton, DC, http://aiddata.org/content/index/data-search. and Climate Treaties: Does Ignorance Pay?” Re- . Aizenman, Joshua, and Inci Ötker-Robe. 2013. “Managing sources and Energy Economics 34 (4): 565–84. 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Washington, DC: World Bank.  326 政策改革の焦点 リスク管理を開発アジェンダの主流にする: 主要な制度改革  以下では,リスク管理を改善するために根本的な制度改革が必要な 4 つの主要な分野について詳細に議 論を行う.その 4 つの分野が対象にしているのは,統合リスク管理,財政金融リスク管理,社会保険と就 業上の地位,グローバル・リスクに取り組むための多国間アプローチである.なぜこの 4 つの分野なのか?  決して網羅的ではないが,本報告書で提示した多数の具体的な勧告は,確かに実施可能な枠組みを示し ている.途上国における積年の問題について革新的な解決策を議論している.リスク管理に対する全体論 的なアプローチを使って,多種多様なリスクや社会システムを超越している.本報告書の他の勧告と並んで, それはリスク管理を開発アジェンダの主流にすることに貢献し得る.4 つの改革は国家政府が一般計画を 策定・実施する際に,その方法について著しい変更を要請する可能性があろう. 改革 1. 統合的にリスクを評価・管理するため るのに有益であろう. に国家リスク理事会を創設する.  個別リスクの管理はトレードオフと相乗作用の 何が問題か? 政府や公的機関はしばしば個別リ 両方を伴う.国家リスク管理にかかわる多様な利 スクを隔離した形で管理しており,それはリスク 害関係者によるアプローチは,リスクを横断して 管理戦略の有効性に欠ける策定と実施につながり 相乗作用を特定および把握するのに役立つ.例え かねない.例えば,財務省は健康リスクの管理を ば,利用可能な危機管理インフラの制約を考慮に 改善するために,健康保険制度を創設・規制する 入れながら,住民を避難させる能力を開発する場 ことができる.この制度の有用性は有能な保健ケ 合である.オランダやイギリスで行われている国 ア提供者の利用可能性に依存するが,それは保健 家リスク評価は,多数のリスクを予想および管理 省の管轄である.1 つのエネルギー源から別のも する能力を高める投資――オランダとイギリスの の(石炭からガスや原子力)への移行は,ある 1 当局はリスク管理の「手腕」と呼んでいる――を 種類の汚染を削減しても他の汚染物質や安全リス 特定することが目的であると明示している. クを増やすかもしれない.  重要なトレードオフや相乗作用も,リスクある  そのような「リスク対リスクのトレードオフ」 いは規模をまたいで存在する.例えば,公的退職 や調整の問題は,管轄が限定的なリスク管理者に 制度の提供は個人のリスクは削減するが,総合的 よる狭量な決定からしばしば発生する 1.理想的 な財政リスクを増大させる公算があろう.また, には,幅広い分析があれば,それはリスク管理者 多数の自治体を含む流域は,協調があって初めて が同時に複数のリスクを削減する「多重リスク解 有効に管理することができる.統合的で多数の利 決策」を開発するのに役立つ 2.リスクを統合的 害関係者によるアプローチをとることは,このよ に考えることは,政策の優先順位を定義するのに うなトレードオフの対処に有益であり,ある種の 役立ち,他のリスクを軽視しながら 1 つのリス リスクが別の種類のリスクに(固有リスクからシ ク管理に過剰支出するのを回避して,確率は低い ステミック・リスクに転換するように),または が影響の大きな事象(地震など)と,より一般的 ある主体から別の主体に転換される可能性を削減 で,社会にとっても高いコストを課しているそれ する. ほど大規模ではないリスク(トラックの事故な  国家リスク管理戦略を設計するプロセスに大勢 ど)に対する備えの間で,良いバランスを達成す の利害関係者(政策当局や産業に従事する人,学 リスク管理を開発アジェンダの主流にする: 主要な制度改革 327 者など)を関与させることも,プロセスを透明化 家リスク評価を実施している.オランダやシンガ して,政治的に支配されにくくし,自然な説明責 ポール,イギリス,アメリカはそのような評価を 任の仕組みの導入につながる.リスクが長い期間 実施しており,モロッコなどの他の諸国は国家評 にわたって変化したり,リスク管理の成功にかか 価プロセスを策定するために動いている.しかし わる明瞭な指標が無い場合には,リスク管理の選 このプロセスは,通常は評価が進行している間だ 択にかかわる意思決定者の説明責任が制約を受け け存在する一時的な臨時のグループによって遂行 ることがあまりにも多い.この問題は部分的には されている.加えて,そのような臨時のグループ 次のような形で取り組むことができる.すなわ にかかわる政治的な適切性や説明責任は総じて弱 ち,多数の利害関係者で構成される独立機関が, い. 国内におけるリスク管理のやり方の評価を分析・  リスク評価以上のことをしている国もなかには 公表し,専門的な政策関連の勧告を行う. ある.リスク管理のために,情報交換と調整を目 的として多数の省庁が関わる組織を創設した国も 何が解決策か? 国家レベルで統合リスク管理を あるが,これらの機関は,通常はペルーのよう 提供するためには国家リスク理事会を創設すべき に,極めて多くの場合に自然災害を中心に個別リ である.この勧告は類似の諸提案に依拠してい スクにも対処している.多数のリスクに取り組む る.それには Graham and Wiener3 が提案し 総合リスク管理機関を実際に有している国はほと た国家的なリスク・アナリスト評議会と,世界経 んど存在しない. 済フォーラムが提案したカントリー・リスク・オ  それを有している国の 1 つがシンガポールで フィサー 4――特に金融機関を中心に多くの多国 あり,政府全体の統合リスク管理アプローチとい 籍企業で設置された主任リスク・オフィサーの地 う枠組みをもっている.それは政府内でサイロ効 位と同じ――の設置がある.理事会は専門的な知 果を回避し,リスクを統合的な形で管理すること 識として軍事・安全保障・テロリズムのリスク, に専念するためである 5.枠組みを制度的にまと 経済的リスク,環境・健康・技術のリスク,社会 めているのは戦略委員会であり,そこが枠組みを 的リスクといった分野を含むべきである.諸外 実施する際の手引きと見直しを担当している.四 国,多国籍企業,および国際社会がとる行動も考 半期ごとに開催される委員会は政府全体の各種省 慮すべきである. 庁からの事務次官で構成され,人事院総裁が議長  国家リスク理事会は常任(常設)委員会とし 役を果たしている.加えて,国内戦線危機管理シ て設置することができるが,政策の実施に責任 ステムには内務大臣が議長を務める大臣委員会が をもつ関係当局に宛てた「説明責任が課される」 組み込まれており,そこが危機管理の責任を負っ (act-or-explain)勧告を交付する権限を有する ている.それは国内戦線危機執行グループによっ べきである.つまり,政府機関や地方自治体は理 て支援されているが,このグループ自体は各省庁 事会の勧告に基づいて行動しなければならず,そ や政府機関からの上級代表者で構成されている. うしない場合には,なぜそれを拒否するのかを説 この多重リスク・アプローチは,国家安全保障問 明しなければならない. 題に焦点を置いている国家安全保障調整事務局な  理事会はリスクやリスク管理の政策と慣行を, どの,より多くの部門別機関によって補完されて リスクや組織体をまたぐ相乗作用やトレードオフ いる.シンガポールの統合リスク管理のための制 も含めて分析すべきである.さらに,リスク管理 度的な取り決めには,非常に多くの専門分野と, における優先課題を定義し,追求すべき適切な政 時とともに変遷してきた複雑な調整プロセスが組 策に対して勧告を行うべきである.多くの諸国 み込まれている. は,さまざまな省庁を関与させ,民間部門や市民  途上国にとっては,制度的な設計には特異性や 社会の代表者をしばしば含む,多数の利害関係者 専門性が少なく,より明示的で健全な調整メカニ で構成されるチームによって,すでに定期的に国 ズムを含む,より単純で統合的な取り決めが望ま 328 世界開発報告 2014 的な乗っ取りに対して脆弱であろう.無力な ダイヤグラム F1.1 国家リスク理事会の制度設計におけるト レードオフを調整する 機関になるのを避けるためには,理事会は十 分な可視性をもつべきである.その議長は非 独立的な専門家 常に目につきやすい政策当局者でなければな 実際性 正当性 らず,その年次総会は政府の首脳が議長役を 小 小 務めるべきである.理事会は勧告を公表し, 政策の優先課題と分析的な実証を伴う年次報 バランス 告書を発行し,議会委員会の前で年次公聴会 助言の 実施の 役割 がとれた 役割 を開くことによって,説明責任を果たすべき 領域 である.  適切な制度設計は当該国の政治的および制 度的な状況に依存することになるだろう.例 信頼性 専門性 小 小 えば,ジャマイカやメキシコ,モロッコは独 立した政府機関を創設するのではなく,統合 政策当局 リスク管理機能を政府機構のなかに設置しよ 出所:WDR 2014 チーム. うとしている.有効で独立的な官僚制度が確 立した国では,そのような制度設計は国家リ スク理事会のメンバーを専門的な技術官僚と しいであろう.国家リスク理事会の提案はそのよ して指名するのが実際的かもしれない.ただし, うな配慮を織り込んでいる. その保証された地位は政治的なサイクルを超越し て維持されなければならない.しかし,どのよう どうしたら実施できるか? 理事会には必要とさ な制度設計であれ,正当性や適切性,信頼性,専 れる専門知識,信頼性と適切性,十分な正当性が 門知識のバランスをとることを追求すべきである なければならない.諮問機関,あるいは勧告を実 (ダイヤグラム F1.1 のなかでバランスのとれた 施する権限を有する機関になるか,あるいは両方 領域として描かれている). を組み合わせた機関になってもよいだろう.そ の構成は,専門家だけ,あるいは政策当局者だ 改革 2.持続可能な政策を促進するために独立的 け,それとも両者の組み合わせでもよい.このよ な財政金融機関を創設する うな設計の選択の間にはトレードオフがあり,そ 財政的持続可能性を促進するために財政評議会を れはダイヤグラム F1.1 で例示されている.例え 創設する ば,政策実施の権限をもつ専門家の理事会は,特 何が問題か?  反循環的な財政政策が遂行でき に著しい再配分効果をもつ政策(災害保険の保険 ている途上国はほとんどない 7.政策当局は好況 料を賄うための増税など)を実施しようとすれ 期に節約せずに,典型的には政府支出を増やし ば,正当性を欠く懸念があろう 6.それとは対照 て財政を赤字にし,債務を累積している.過去 的に,拘束力のない勧告だけを発する専門家の理 50 年間にわたり政府支出は 90%以上の途上国に 事会では,政策策定に対する適切性を欠く,ある おいて正循環的に動いてきている.それとは好対 いは実際の決定に影響を与えることができないか 照に,80%の先進国では反循環的であった 8.正 もしれない.仮に理事会が政策当局者だけで構成 循環的な財政政策は発展途上世界を通じて,産 され,拘束力のない勧告を出すだけでは,信頼性 出の変動性を高め長期的な成長を阻害してきて に欠けるだろう.最後に,もし理事会に実施権限 いる 9. はあるものの,それが政策当局者だけで構成され  途上国におけるこの正循環的な政策への偏り ているとすれば,専門的知識に欠けていて,政治 は,主に次の 2 つの要因によって説明できる. リスク管理を開発アジェンダの主流にする: 主要な制度改革 329 第 1 に,不況期には世界の資本市場へのアクセ 施して,政策当局が有効な反循環的な措置を実現 スが限定的であるがゆえに,政府は増税と支出削 するのを促進するためには,幅広いコンセンサス 減を余儀なくされている.第 2 に,政治経済学 を形成する必要がある.深刻な危機がその機会を 的な配慮――分配面での紛争や情報の非対称性を 提供してくれる可能性があろう.ヨーロッパ連合 含む――のゆえに,政府は好況期に慎重に行動す (EU)では,新しい財政協定条約と「ツー・パッ ることが妨げられている.予想外の歳入の増加を ク」と呼ばれる 2 つの規則案がその事例となっ 巡る多数の勢力圏の競合が,過剰支出と一部公共 ている 12.しかし,このような評議会を創設す 財の過剰供給につながっている 10.有権者は自 るには強力な制度的土台が必要である.統治と能 国の政府はレント・シーキングをしていると受け 力が弱い諸国では,透明で包括的な財政枠組み 止めており,それが好況期でも減税と支出増加を (トップ・ダウン方式の予算編成を含む)が,将 求める大衆の圧力の増大につながっている 11. 来におけるさらなる制度構築にとって良い基盤を  これとは対照的に,発展途上の数カ国の金融当 提供してくれるだろう. 局はインフレ目標方式という形で,信頼でき,予 測可能で,持続可能な体制を採用することに成功 どうしたら実施できるか? 財政当局は放漫財政 している.先進数カ国と発展途上数カ国は低い安 を抑止するために,赤字・支出・債務に,あるい 定したインフレを維持している.これは明確な負 はそれらの何らかの組み合わせに対して,定量的 託,政治的干渉からの独立性,政策当局の措置に な限度を設定している.しかし,このような数値 関する説明責任から利益を享受している金融枠組 限度は下降期に反循環的な対応を制限し,EU の みのおかげである.透明な金融枠組みに向けた制 安定成長協定ルールなどのように,政治家が粉飾 度的に大きな後押しが,中央銀行にインフレの目 決算を通じて限度を迂回するのを助長した 13.財 標を危険に陥れることなく,反循環的な政策を遂 政当局は厳格な数値限度を設定する代わりに,構 行する柔軟性を与えている.財政政策にも同じよ 造的財政収支を目標にし,長期的にこの目標を達 うな信頼性のある,予測可能で,持続可能な枠組 成するための青写真を提示する柔軟な手続きの みが必要性である. ルールを活用することに焦点を置くべきである. 目標を定めた構造的財政収支は――チリやノル 何が解決策か? 自律的な財政評議会の運営と一 ウェーで行われているように――,財政規律を実 体化して,柔軟な財政ルールを法律として成文化 現し,政策当局に反循環的政策を実施する柔軟性 すれば,政策当局が平常な時期に分別無く支出す を与える.2007 年の危機以前,経済パフォーマ るのを抑制し,危機の時期に追加的な(支出の) ンスの堅調さと石油や銅の価格急騰を受けて,チ 刺激を行う余地を生み出すことができる可能性が リとノルウェーは――自らのルールのおかげで あろう.財政政策の再分配的な性格を考えると, ――,巨額の公共貯蓄を蓄積することができた. 政策策定を全面的にこのような評議会に委任する その年の一般政府の基礎的黒字は,チリでは国 のは非現実的である.それにもかかわらず,財政 内総生産(GDP)の 11.8%,ノルウェーでは同 評議会は予算という集計値に関する数字的な限度 15.7%に達し,危機後の反循環的政策のための に単に機械的にしたがうプロセスに比べれば,有 十分な緩衝手段を提供した. 効にインセンティブを形成することができる.評  現状では,先進国の 40%以上と新興市場国の 議会は明確な負託,予算手続を運用する自律性, 約 20%が,構造的財政収支を目標とする国家財 財政ループの順守を監視する権限をもつべきであ 政ルールをもっている 14.しかし,このような る.財政評議会は政策当局の措置について彼らの ルールの有効性はその信頼性と柔軟性に依存して 説明責任を問い,みずからの助言や勧告に関して いる.もし予算の透明性や明確な運営上の指針を は説明責任を負うべきである.財政評議会を設置 伴っていなければ,あるいは,もし過度に野心的 してその権限を支持し,このような制度改革を実 ないし非現実的であれば,それは信頼性に欠ける 330 世界開発報告 2014 だろう.構造的財政収支ルールを規定すると,監 性も必要とする.これまでのところ,各国は財政 視やコミュニケーションの問題を生み出すことが 評議会に政治的な自律性を与えていない.評議会 ある.加えて,財政ルールはすべての起こり得る は,時とともに評判を構築することを通じて獲得 偶発性を予期することはできない.その柔軟性は した,非公式な独立性を頼りにしなければならな むしろ,極端な事象(危機や大災害など)を考慮 かった.最大の非公式な独立性をもっている評議 した免責条項の設計と組み込みを通じて高めるこ 会は最古のものであり,それにはデンマークの経 とができる 15.財政評議会は免責条項の引き金 済評議会,オランダの CPB,アメリカの議会予 を引く事象を発見し,累積的な乖離の処置に関し 算局が含まれる 21.資源が限定的で,予算的に て決定するのを助けることができる 16. 政府部局に依存していると,カナダやスウェーデ  財政評議会は一部の予算手続を政治圧力から遮 ンで起こったように,評議会の仕事の質が低下し 断することができ,それゆえ政府に過剰支出をも かねない 22. たらす要因を抑止することができる.過剰支出と  評議会の役員は競争的に採用されるべきであ 財政規律の欠如は,部分的には政府の過度に楽観 る.実績が悪いという評判のコストが懲戒を判断 的な予測に見出すことができる 17.財政評議会 する仕組みとして機能することになるだろう.そ は GDP 成長率や政府予算項目について公式な予 れにもかかわらず,メンバーの特異性やひどい実 測を作成することができる.例えばイギリス財務 績は評議会全体の仕事に影響を及ぼす.評議会メ 省は,そのような予測を予算責任局(OBR)に ンバーの説明責任を問うために定期的に評価を行 委託している.予測にはそれ自体のリスクが含ま うことが正当化されるだろう.それには議会にお れる.不確実な環境下での予測の誤りは評議会の ける定期的な証言や,同等なレベルの国で構成さ 信頼性を損ないかねない 18.評議会の実質 GDP れる評議会や専門家グループによる継続的な評価 成長率や予算に関する予測値の正確性は,経済の が含まれる 23. 不確実性の高まりに伴う変動性の増大によって低 下する.評議会は不正確な予想に対して説明責任 金融安定性のために独立的なマクロ・プルーデン を問われることになるだろう. ス監督官を設置する  財政計画や執行された政策に関して独立的な分 何が問題か? 金融システムにとって主要な困難 析を提供することによって,評議会は政策措置の はシステミック・リスクを管理し,政治家や金融 結果について有権者の意識を高めることができ 業界による規制面での支配を回避することにある る.例えば,オランダの経済政策分析局(CPB) (第 6 章). は,政府政策が財政の持続可能性を脅かすか否 かを評価している.財政評議会は選挙が終わる 何が解決策か?  解決策は,金融安定性の監視 と,選挙公約の計画や連立合意のコストを評価 を,おそらく中央銀行の下で,独立的なマクロ・ する 19.最後に,財政評議会は財政ルールの運 プルーデンス委員会に委任することであろう. 用に関してとられた選択について,景気循環の観 チェコや南アフリカ,タイなどを含む多くの新 点から政策当局の説明責任を問い,非順守の事実 興市場国では,金融安定性を監視する責任はす を前にして明確な法的制裁を定義する 20. でに中央銀行に与えられているが,中央銀行が  政府には財政評議会の助言を却下させる誘因が この責任を暗黙裡に負っている国もなかにはあ ある.仮に政府批判が厳しすぎれば,あるいは る.中央銀行はマクロ・プルーデンス政策に関 ハンガリーの事例にみられたように,十分な政 して法的責任を負うのに最適な立場にあるよう 治的コンセンサスが無い状態で批判が行われれ に思われる 24. ば,評議会は解体されてしまうだろう.有効に機  マクロ・プルーデンス委員会は,金融政策委員 能し,政治的な支配を回避するためには,財政評 会の成功事例にならって,主要な政策利害関係者 議会は,予算や政治の面での独立性に加えて正当 と独立的な専門家を含むべきである.金融部門や リスク管理を開発アジェンダの主流にする: 主要な制度改革 331 実体経済における債務の過度で加速度的な増加や 的に破壊的なショックに直面した際に,人々の所 集中を探知するために,システミック・リスクに 得や消費を保護してくれる 28.これは人口のう かかわる主要指標を利用すべきである.何らかの ち最も脆弱な層にとりわけ当てはまる.というの 過剰が生じるのを管理するために,委員会はマク は,貯金をしたり,民間の保険商品を購入した ロ・プルーデンス・ツールを直接備えているか, りする資源や金融市場アクセスを欠いているから あるいは説明責任を問うということを基礎にして だ.良い社会保険制度というのは,包容的,すな 他の規制当局に措置を勧告する権限を有している わち人々を公平に保護し,また長期にわたって財 べきである.同委員会は立法府に説明責任を負っ 政的に持続可能なものである.さらに,よい社会 ているべきである. 保険制度は,公式な経済において,労働や貯蓄, そしてそのような経済への参加意欲に対する阻害 どうしたら実施できるか? 途上国を含め他の諸 要因を最小化するようなものでもある. 国の手本になり得るのは,イギリスの金融安定政 策委員会(FPC)というマクロ・プルーデンス 何が問題か? 多くの国は雇用者に課された強制 委員会であろう.FPC の長は中央銀行総裁であ 的な給与税と被雇用者が支払う拠出金によって資 り,メンバーには以下が含まれる:金融安定性, 金調達されたいわゆる拠出型社会保険を創設して 金融政策,および健全性規制などをそれぞれ担当 いる.公式性が高い水準にある経済では,この制 している中央銀行の各副総裁;金融安定性担当理 度はほとんどの人々に保険を提供することに成功 事;金融行動監視機構(企業行動の規制当局)の してきている.これとは対照的に,自営業者や農 長官;独立的な専門家 4 名;イギリス財務省代 業労働者の割合が大きい国では,拠出型制度は人 表者(投票権なし). 口のほんのわずかにしか適用されていない.した  イギリス金融システムの強靭性を保護して高め がって伝統的なアプローチでは,結局のところ大 るという観点から,FPC はシステミック・リス 勢の労働者――主として低所得層,自営業者,農 クを除去ないし削減するための措置の特定,監 業部門労働者――を除外することになる. 視,および実施を行う法的責任をもっている.一  適用範囲の隙間を埋めるために,給付が一般歳 連のシステミック・リスク指標を使って,シス 入で賄われる非拠出型保険を導入する国が増えて テミック・リスクの発見と監視を行っている 25. いる(図 F1.1a).例えば,ラテンアメリカ・カ 2011 年半ば以降,FPC はシステミック・リスク リブの 13 カ国には非拠出型と拠出型両方の制度 を軽減するために,銀行が保有すべき自己資本要 がある.非拠出型制度の導入は適用範囲を拡大す 件(マクロ・プルーデンス上のバッファー)を調 る助けになり,高額医療支出を削減し,高齢者層 整する直接的な権限を与えられている.また,金 の貧困を抑制する.事実,東ヨーロッパ・中央ア 融部門の他の政策当局に対して説明責任を問う勧 ジアの旧社会主義諸国を除くと,高齢者が同居し 告を発布することもできる.その当局には,金融 ている家計の半分以上が最貧 40%層に属してい 安定性を高めるための措置を実施するために,と るのは,大きな非拠出型制度を有する途上国だけ りわけミクロ・プルーデンス規制当局と企業行動 である(図 F1.1b)29. 規制当局が含まれる 26.FPC は法的責任を遂行  しかし,拠出型と非拠出型の両制度を組み合わ するために,直接的なツールをさらに享受する見 せることはとりわけ挑戦的である.公式部門の端 込みである 27. にいる被雇用者や雇用者にとって,義務的な拠出 型制度への参加には価値がない.一方,義務的な 改革 3.議論のために:社会保険へのアクセスは 拠出型制度のために給与税によって課される追加 就業の地位に結び付けるべきか? 的な労働コストは,他の要因(最低賃金など)と  社会保険(年金と健康保険を含む)は,病気や 組み合わさって,特に低スキル職に関しては公式 老齢などのライフサイクル上の変化といった潜在 に採用しようという雇用者の意欲を低下させる. 332 世界開発報告 2014 図 F1.1 非拠出型年金プログラムは,途上国では特に貧困層向けを中心に,適用範囲を拡大してきている a. 地域別の適用範囲 b. 国レベルの適用範囲 100 HUN SVK 15,000 HRV LTU 80 (PPP、2005年) POL 60 年金加入割合(%) 1人当たりGNI 歳以上人口のうち COL TUR ARG 60 10,000 VEN MUS BGR DOM SRB BRA BLR MNE CRI 40 ECU THA BIH PER ALB SLV UKR 5,000 MDV GTM JOR ARM BTN LKA PRY MAR GEO BOL MNG HNDNIC PHL 20 PAK IND VNM MDA LAO TLS NGA TJK KGZ AFG KHM NPL GHA 0 MWIRWA 0 0 20 40 60 80 100 ジ ・ ン 平 ・ 南 リブ ・ サ リカ ・ CD カ フ 南 ア パ テ 太 ジア カ カ フ 東 リ ア ラ以 ア ア 洋 カ OE 央 ッ リ ア 中 高齢者を擁する家計で最貧 40%層の加入割合(%) フ リ 中 ロ ア メ ア ハ ー 東 ヨ 北 ラ 拠出型 非拠出型 出所:以下からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成――( パネル a について )World Bank Pension (database); United Nations 2009; ( パネ ル b について )Evans, 近刊. 注:パネル a について,適用率は各地域の総人口に対するもの;年は 2001 – 12 年の間で国によって異なる;上図の OECD は最低 40 年間 は OECD の加盟国であった高所得国.他のすべての諸国は地理的なグループに区分け.パネル b について,年は 2003 – 10 年の間で国に よって異なる.青字の国には非拠出型プログラムがある.GNI= 国民総所得.PPP= 購買力平価. したがって,社会保険に拠出することの利益が不 確実で,義務的な支払いの執行が弱い場合,この どうしたらよいか? 1 つの潜在的な解決策は労 ような並行的な制度は,公式に採用しようという 働課税の代わりに一般歳入を使って,基本的給付 雇用者と,公式雇用を追求しようという被雇用者 を供与することであろう.保健ケアに関しては受 両方の動機を阻害する.チリ,コロンビア,およ 益者負担金を課すこともできるだろう.基本的給 びメキシコから,拠出型制度と非拠出型制度の相 付の供与によって,社会保険は他の基本的な公共 互作用が公式雇用の減少につながっていることを サービスに類似したものとなり,その優先度は公 示す証拠が得られている.また,小規模な非公式 共支出のなかで認識されることになるだろう.一 企業は生産性が低く賃金も低い傾向にあるという 般歳入によって基本的な社会保険の資金調達を行 証拠が広い範囲で得られている 30.公式職と非公 うことは,就業の地位に連動した伝統的な資格条 式職の間を行き来する,あるいは労働力を出入り 件を打破することによって,この保険をより包容 する労働者にとって,置換率は低い傾向にあり, 的なものにする.加えて,労働市場の歪みを制限 まったく受給資格がないという場合もある 31.さ することができ,一般歳入は歪みの少ない形で徴 らに,高齢化が急速に進んでいる諸国の労働者は, 収されることになる 33. ますます不確実になる給付のために拠出すること  オーストラリアやニュージーランド,イギリス なる.このようなことすべてを受けて,特に非拠 などの先進国は,ほとんどが普遍的な基礎年金と 出型制度が併存する場合,拠出は純粋な税金であ 保健ケアの供与に依存しているが,モーリシャス るという受け止め方が増加している.最後に,多 や南アフリカなどの途上国は,年金に関しては くの諸国で生じている急速な高齢化は拠出型制度 ほとんどが非拠出型制度に依存している 34.低・ の財政的な持続可能性を脅かしており,政府は追 中所得の数カ国は,貧困層向けのものを手始めと 加的な財源の移転を余儀なくされている 32. して,健康保険への普遍的なアクセスにも着手し リスク管理を開発アジェンダの主流にする: 主要な制度改革 333 図 F1.2 適用範囲の拡大は,人口の高齢化が進展している国では支出水準の増加をもたらす a. 年金支出 b. 老齢従属人口比率 200 200 60 150 60 150 歳以上の適用率 歳以上の適用率 100 100 50 50 0 0 0 5 10 15 20 0 10 20 30 年金支出(対 GDP 比%) 老齢(64 歳以上)従属人口比率 東アジア・太平洋 ラテンアメリカ・カリブ 南アジア ヨーロッパ・中央アジア 中東・北アフリカ サハラ以南アフリカ 出 所: 以 下 に 基 づ き WDR 2014 チ ー ム 作 成 ――World Bank Pensions (database); United Nations 2009; World Bank World Development Indicators (database). 注:年は 2001 – 12 年の間でさまざま.60 歳以上人口の適用率が 100%を超過する国がなかにはあるかもしれない.というのは,60 歳 未満の人でも年金受給権のある人がおり,適用範囲には障害給付や遺族給付も含まれているからだ.パネル b で,老齢従属人口比率は 64 歳以上人口の生産年齢人口に対する比率として計算.GDP =国内総生産. ている.中国やインド,タイ,トルコ,ベトナム  非拠出型制度は貧困層にとって極めて重要な保 などがその例である.事例の全てにおいて,給付 護を提供する.しかし,非拠出型制度が持続可能 は労働課税に依存しておらず,したがって,非公 な形で提供できる給付があまりに基本的であれ 式部門の人々にとっても利用しやすい. ば,健康保険や年金の制度に対して追加的な拠出 が必要かもしれない.仮に拠出型と非拠出型の制 どのように機能するか? 普遍的な給付の提供が 度が本当に共存するのであれば,政策当局は両制 望ましいものの,すべての国が財政的に維持可能 度を労働市場に歪みを生み出すのを回避するよう な形で,十分な水準で供与できる立場にあるわけ な形で設計すべきである.状況によっては,それ ではない.老齢従属人口が急増しつつある国につ は拠出型制度を改革して,拠出を任意にしたり, いては特にそうである(図 F1.2).実際,多くの あるいは義務的な拠出率を削減したりすることを 途上国は対象を絞った人々に限定して,最低水準 意味する可能性があろう.すべての事例におい の給付を提供できるだけであろう.したがって, て,拠出型制度は拠出と明確に連動した給付を供 各国はどのような水準の適用範囲と給付が適正か 与すべきである.貯蓄を奨励する措置も大きな影 を決定するに当たって,将来的な公約との関係で 響をもたらし得る.その例としては,自動加入, 長期的な財政能力を考慮する必要があるだろう. マッチング拠出,手続き簡素化,金融に関する 各国は必要な歳入を調達するために,多種多様な 知識の普及を通じた情報障壁の低減などがある. 方法を選択するだろう.新しい税金を導入した ニュージーランドのキーウィ貯蓄という制度は り,既存の税金を引き上げたりしなければならな (「選択的非加入」の選択肢がある),自動加入プ い国もあれば,エネルギー補助金のような支出項 ログラムの興味深い実例であり,人口の約半数に 目を改革する,あるいは可能な場合には,資源が 対してその退職貯蓄を増加させている 35. 基になっている収入を使うことができる国もある だろう. 334 世界開発報告 2014 改革 4.国際社会はグローバルな解決策に向けて, 民間主体や市民社会グループ,都市などの下位国 牽引力を高めることができる漸進的なアプローチ 家政府(中国やアメリカのいくつかの省や州を含 を採用する む)によって推進されている.国レベルの措置を 何が問題か? グローバル化は世界中で高成長と 導入したところも数カ国ある.それには炭素排出 貧困削減に寄与してきている.しかし,経済や社 を制限することを可能にするインセンティブも含 会,生態のシステムの相互依存度を高めたことに まれている(表 F1.1).このような一方的な措置 よる協働からの利益を増やす一方,気候変動や生 は歓迎されるが,実質的な意義をもたらし,努力 物多様性の損失,天然資源の過剰使用,グローバ 全体が個別の努力の総計よりも大きくなることを ルな金融危機,流行病など,国境を越えるリスク 確実なものにするためには,さらに野心的で,調 の拡散も大規模になっている.グローバルな危機 整された国家的および国際的な取り組みが必要で を抑止するためには,タイムリーで,能動的な, ある.それにもかかわらず,有益な国際的措置の 協調した行動が必要とされる.というのは,どの なかには――技術の開発と共有に向けた協力や既 国も単独で行動したのでは有効な管理をすること 存の金融手段の改善を含む――,遠からず調印さ はできず,また包括的に取り組むのに必要な規模 れるグローバルな合意の一部になるだろうという を達成できないからだ.残念ながら,適正な説明 期待から延期されたものもある.それは,だれに 責任と主権国家に対する執行権限を有する国際機 責任があるかや,他人による潜在的な措置にただ 関によって主導される,有効なグローバル・リス 乗りしたり,新しい公平な資金調達手段を待ち望 ク統治の仕組みが存在しない.その状態で,グ んだりするインセンティブについてのさまざまな ローバル・リスクに取り組むのに必要な国際体制 意見の対立を反映している. は,世界的な接続性の増大から生じる複雑性に追 い付いていない. 何が解決策か? 気候変動や生物多様性の損失な  いくつかの分野でグローバルな協定にいたる進 どの特定のグローバル・リスクにとっての究極の 展が限定的であることが,今度は,利害や能力の 目的は,全員参加による集団的措置の維持であ 制約,ただ乗りのインセンティブが様々な多数の る.しかしそれまでの間に,国際社会はグローバ 諸国の間で,集団的な措置を発展させる能力に大 ルな解決策に向けて牽引力を高めることができる きな疑問を投げかけている.全員参加による合意 漸進的なアプローチの採用を増やしつつある.イ を確保するための世界的な交渉は立ち往生してい ンセンティブが調整されておらず,主要国が十分 る.それが特に甚だしいのは気候変動の分野であ に関与せず,何もしないことの結末が悲惨な場合 る.というのは,温室効果ガスの大気中濃度が上 でも,全員参加による多国間条約の枠外で進展を 昇を続けており,破滅的で不可逆的な結末をもた 図ることは可能である.少数の参加国による漸進 らす懸念があるからだ.主要な温室効果ガスであ 的な取り決めや行動は,初期段階ではそのような る二酸化炭素(CO2)の濃度は,産業革命以前 状態であっても,行動による利益を例証すること の 278 ppm か ら 2013 年 5 月 現 在,390 ppm によって,グローバルな取り決めに向けた基礎単 以上に上昇している(ハワイでは 399.91 ppm 位として機能することができる.目標は複雑な問 に達しており,これは 2 – 4 百万年前以来みられ 題を検討し具体的な行動をとることができる,同 ていなかった水準である).このことは,2℃以 じ考えを持つグループのなかにおける共通目標を 上の気温の上昇が起こる可能性――国際社会が回 巡ってインセンティブを調整することにある.時 避を公約している温暖化の水準――に対応する, とともに,より多くの官民の主体が漸進的なアプ 450 ppm という下限水準に接近していることを ローチへの参加に引き寄せられて,グルーバル取 意味する 36. り決めに向けて収束を図ることができるだろう.  グローバルな取り決めがないなかで,近年,温  漸進的なアプローチには先例がある.オゾン層 室効果ガスを制限する多くの一方的な気候措置が を保護するためのモントリオール議定書に 1987 リスク管理を開発アジェンダの主流にする: 主要な制度改革 335 表 F1.1 炭素排出を制限する各国の政策措置 CO2 排出の推移とシェア KPMG グリーン税指標 1 人当たり CO2 排出 CO2 排出の 再生可能 原材料資 (メートル・ CO2 排出の 変化(%, グリーン・ エネル グリーン 源効率・ 汚染制御・ トン, シェア(%, 1990 年 エネル 炭素・気 イノベー ギー・燃 な車・ 廃棄物 生態系保 国 2009 年) 2009 年) 以降) ギー効率 候変動 ション 料 建物 水効率 管理 護 オーストラリア 18.38 1.33 39.28 X X X X X X X アメリカ 17.28 17.62 8.61 X X X X X X X X カナダ 15.24 1.71 14.19 X X X X X ロシア 11.09 5.24 –26.23* X X 韓国 10.36 1.69 106.27 X X X X X X オランダ 10.26 0.56 3.36 X X X X X X 南アフリカ 10.12 1.66 49.62 X X X X X X X X フィンランド 10.03 0.18 3.52 X X X X X X ベルギー 9.60 0.34 –4.50 X X X X X X X アイルランド 9.34 0.14 32.59 X X X X X X ドイツ *** 8.97 2.44 –21.08** X X X X X 日本 8.63 3.66 0.59 X X X X X X イギリス 7.68 1.58 –16.77 X X X X X X X X シンガポール 6.39 0.11 –32.05 X X X X X X X スペイン 6.28 0.96 31.69 X X X X X X 中国 5.77 25.56 212.39 X X X X X X X フランス 5.61 1.21 –8.94 X X X X X X アルゼンチン *** 4.36 0.58 55.15 X X メキシコ 3.98 1.48 41.93 X X X X X ブラジル 1.90 1.22 75.76 X X X X インド 1.64 6.58 186.63 X X X X X 出所:以下からのデータに基づき WDR 2014 チーム作成――世界の 21 大国を分析した KPMG Green Tax Index (database)(炭素排出を制限する 国家ないし下位国家の政策措置について) ;World Bank World Development Indicators (database)(CO2 排出データは次に報告されている通り: . Carbon Dioxide Information Analysis Center, Environmental Science Division, Oak Ridge National Laboratory, Tennessee) 注:×印は国家ないし下位国家のレベルで,税関連あるいは非税関連の措置が存在していることを示す.エネルギー効率はエネルギー効率の 良い機器の購入を奨励する措置(グリーンな車や建物に固有な措置を除く)を指す.炭素・気候変動は,高排出に対する罰則(炭素税,排出 量取引システム,キャップ・アンド・トレード方式,炭素固定化のインセンティブや罰金など)を指す.グリーン・イノベーションにはグ リーン技術の研究開発向けのインセンティブが含まれる.再生可能エネルギー・燃料は再生可能ないし代替的な燃料の生産や利用を奨励す る,あるいは化石燃料の使用を罰する,ないしその両方を行うために税制を活用することを指す.グリーンな車・建物は,建物のネルギー消 費を削減し,水効率や建築資材の持続可能性と,よりグリーンな(燃費の良い,ハイブリッドや電気の)車の購入・リース・使用を高めるた めの租税インセンティブを指す(再生可能エネルギー・燃料の項目に含まれている,燃料に関連した租税上のペナルティやインセンティブを 除く).水効率は企業が水供給を節約・リサイクルするのを奨励するために税関連の措置を使うことを指す.原材料資源効率・廃棄物管理に は原材料資源の節約,廃棄物の削減,廃棄原材料のリサイクルを促進するための税金の使用が含まれる.汚染制御・生態系保護には,会社に よって生み出される汚染を削減する,あるいは企業が汚染した土地を回復させるために,機器を購入するインセンティブが含まれる. *1991 年価格;**1992 年価格;***KPMG が記録した措置には最近のイニシアティブが一部含まれていない可能性がある.例えばドイツでは, 最近の情報が示すところによれば,廃物管理・汚染制御・生物多様性保護などの分野で追加的な措置がとられている.次を参照――German Federal Ministry for the Environment, Nature Conservation and Nuclear Safety BMU, “The Energy Concept and Its Accelerated Implementation” (http:// www.bmu.de/en/topics/climate-enerugy/transformation-of-the-energy-system/resolutions-and-measures/).アルゼンチンでは,やはり最近の情 報が示唆するところでは,炭素排出を制限するプログラムが,エネルギー効率・グリーンな建物・廃棄物管理・汚染制御・生態系保護を含め, 導入されている.CO2= 二酸化炭素. 年に調印したのは 24 カ国にすぎなかったが,緊 に 3 カ国から 119 カ国に拡大して,将来的な武 急行動の必要性に関して説得力のある証拠の提示 器交渉に向けて先例を示すという形で,前身の部 と普及を行った各国政府や国際機関,非政府組織, 分的核実験禁止条約から後押しを受けた.いくつ 科学者などの統合的な努力を通じて,1990 年代に かの下位国家政府(カリフォルニア州など)と は普遍的な批准を達成することになった 37.1968 国々(オーストラリアや中国,日本,ニュージー 年の核拡散防止条約は調印国が 1963 – 92 年の間 ランド)は,排出公約を費用効果的に達成するた 336 世界開発報告 2014 めに導入されたヨーロッパの排出量取引システム て小さくないというものだ.漸進的な取り決めは からの教訓を利用している.30 以上の先進国と 十分な規模拡大に失敗するかもしれない,あるい 途上国を含んで拡大中している連合としては,炭 はさらに悪いことに,グローバルな協力の緊急性 素価格の設定に向けて解決策を模索している「市 を削減するかもしれない.さらに,特定のリスク 場準備と気候のパートナーシップ」38 や,短期 に関しては,グローバルな集団的措置がやはり唯 寿命気候汚染物質削減を訴えている国連環境計画 一の有効な措置であろう.というのは,緊密に相 の大気浄化連合がある 39. 互接続した世界では急速に波及するというリスク があるからだ.例えば,一たび流行病が広がり始 どうしたら実施できるか? 国際社会の国や国際 めると,グローバルな協力なしに自らを一方的に 機関,民間部門組織は「有志連合」(より望まし 保護できる個別の国や地域は存在しない.国際協 いのは「行動者連合」)を形成すれば,それが気 調があれば,情報を共有し,伝染を探知・抑止 候変動や生物多様性損失など,捉えにくいグロー する能力のない国々を支援することができる 41. バル・リスクを含む要素に関して,調整や唱導 天然痘の撲滅を 1979 年に宣言することができた を行い,また措置をとることができるだろう 40. のは,グローバル協力を通じてすべての国々で撲 そのような連合は科学界や市民社会,メディアを 滅されたからだ.仮にこの疾病がどこかの国で存 関与させ,前向きな行動や指導力を示すように情 続していたとすれば,他のすべての諸国も脆弱な 報と仲間同士の圧力を頼りにする一方,参加者に ままにとどまるだろう 42.高度に結び付いた世 順守を,非参加者には「トップへの競争」の参加 界でグローバルな金融危機を解決するためにも, を呼びかけるべきである.国際機関は,問題に集 調整の行き届いた政策対応と情報の共有化を伴う 団的に取り組むアプローチを開発する方法の提 世界的な協力がやはり必要である.行動が調整さ 示,政策議論のためのプラットフォームの提供, れていないと,伝染を防止し,金融活動がシステ そして漸進的な措置が正しい方向に向かっている ミック・リスクを抱え込んだ規制の弱く保護的な ことを確実なものにするための諸措置の監視,報 地域に移動するのを阻止することはできないだろ 告,および集計を行うことによって,引き続き貢 う. 献することができる.  このような限界にもかかわらず,仮に何もしな  正当性と公平性のために,このような連合は問 いことによる不可逆的な結末を回避すべきだとす 題に最も影響を受けている主体に加えて,問題に れば,普遍的に受け入れられる取り決めが合意で 最も寄与している主体を含むべきである.それは きるまで待つという代替策は,気候変動,生物多 それ以降の歩みに弾みが付けられるような,個別 様性の損失,天然資源の過剰な使用などグローバ の具体的な措置で開始すべきである.連合は時と ル・リスクに関しては存続可能ではない.これは ともに連合をグローバルな規模に押し上げるため 問題を引き起こすことに関しては最小のことしか に,他の人々の参加を促すような動機を生み出す していないのに,最悪の結果の一部から困難を強 べきである.そのような措置には,必要に応じ いられる人たちに特に当てはまる.したがって国 て,参加コストを引き下げる技術変化の促進が含 際社会は,現在および将来の脆弱な人々のため まれるべきである(グリーン技術に対して補助金 に,行動を起こし支援する道徳的責任を負ってい を提供する,あるいは資金提供を行うことによっ る.漸進的なアプローチを,最初にどの具体的な て,排出を削減するのにより安価な方法を支援し 問題に緊急に取り組むべきかに関する戦略的な思 たり,または途上国向けの技術移転を後押しした 考で補強すべきである.同時にその措置は,漸進 りする). 的な取り決めとグローバルな取り決めは相互に結  確かに,このアプローチにはリスクがある.そ び付いているということを証明するために,既存 の理由は,連合の外にいる人々によるただ乗りを のグローバルな枠組みをベースにしていなければ 実質的に許す「次善の」解決策であることが決し ならない 43. リスク管理を開発アジェンダの主流にする: 主要な制度改革 337  これを達成するための 1 つの方法は,協働に よる取り組みを国連管轄下で現在推進されている グローバルなイニシアティブの目的に連動させ ることであろう.あるいは,改革 1 で提案した 国家リスク理事会のような国際的リスク理事会 を,グローバルなシステミック・リスクに関する 国際的パネルという形で創設することができるか もしれない 44.このパネルは世界中の科学界や 専門家集団を招いて,短期的および長期的に国や 世代の境界を越える主要なグローバル・リスクを 発見および評価するために,すべての利用可能な 知識を共同で出し合う.その長期的な指向,学際 的な性格,およびグローバルな専門家の参加を通 じて,国際的リスク理事会は,開発の脅威となっ ている重大なシステミック・リスクの原因やその 動き,結末に関して,確かで信頼できる,偏りの ない評価の提供に焦点を当てることができるだろ う.また,各種のリスクをまたぐ相互作用を分析 し,優先順位を付け,政策当局や国際社会にその 分析に体系的に関心をもってもらうこともでき る.そうすることで,緊急の注視を必要とし,連 合の取り組みに信頼性と正当性をもたらす具体的 な問題に関して,有志連合にとって貴重な情報を 提供することができるだろう. 338 世界開発報告 2014 注 28. 社会保険という用語は典型的には年金,健康保 険,失業保険を含む.社会保険を有するほとん どの途上国は,年金と健康保険の給付しか行っ 1. Graham and Wiener 1995, chapter 1. ていないため,本セクションの議論はこの 2 つ 2. Graham and Wiener 1995, chapter 11. の分野に焦点を当てる. 3. Graham and Wiener 1995, chapter 11, 257- 29. Evans, 近刊 ; Levy and Schady 2013. 60. 30. Levy and Schady 2013; Pagés-Serra 2010; 4. WEF 2007. ILO 2009; La Porta and Shleifer 2008. 5. OECD 2009. 31. Ribe, Robalino, and Walker 2012. 6. しかし,そのよう政府機関が金融政策などの間接 32. 現在の労働力が現在の受益者に与えられる給付 的な政策ツールをもって機能しているというよ を賄うという「賦課方式」の場合,これは特に うな他の場合,このような線に沿った制度設計 当てはまる. が好ましいであろう. 33. Frölich 他 , 近刊. 7. Kaminsky, Reinhart, and Végh 2005. 34. Holzman, Robalino, and Takayama 2009. 8. Frankel, Végh, and Vuletin 2013. 35. Hinz 他 2013. 9. Aghion and Marinescu 2008; Woo 2009. 36. World Bank 2012. 10. Tornel and Lane 1999. 37. UNEP 2007. 11. Alesina, Campante, and Tabellini 2008. 38. 炭素価格を設定する継続的な取り組みに関して 12. Barnes, Davidsson, and Rawdanowicz は 次 を 参 照:http://www.worldbank.org/en/ 2012. news/opinion/2013/05/16/tackling-climate- 13. Kumar 他 2009. change-robust-carbon-price. 14. Schaechter 他 2011. 39. 詳細は次を参照:www.unep.org/ccac/). 15. Wyplosz 2013. 40.  次 に お け る 議 論 を 参 照:Falkner, Stephan, 16. Debrun, Huner, and Kumar 2009. and Vogler 2010; Hale 2011; Goldin 2013. Copenhagen (2009) と Cancun (2010) に 17. Frankel 2011 の示すところによると,当局は好 おけるグローバル交渉では進展が限定的だっ 況の持続性を過大推計し,不況のそれを過小推 た こ と を 受 け て, ヨ ー ロ ッ パ で は そ の よ う な 計する. 要 請 が 強 ま っ た が, こ の こ と に 関 し て は 次 を 18. Wren-Lewis 2010. 参 照:http://www.euractive.com/climate- 19. Bos and Teulings 2010. environment/europe-looks-coalition-wilinng- 20. Debrun 2011. d-news-508909. 21. Debrun, Huner, and Kumar 2009. 41. Goldin 2013; Jonas 2013. 22. Calmfors and Wren-Lewis 2011; Page 42. Barrett 2006. 2010. 43. Falkner, Stephan, and Vogler 2010. 23. Lane 2010. 44. この種の機関は個別リスクに関してはすでに存 24. BIS 2011; Bank of England 2013; IMF 2011; 在しているが(気候変動に関する政府間パネル, Nier 他 2011. 生物多様性・生態系サービスに関する政府間プ ラットフォームなど) ,多数のグローバル・リス 25. Bank of England 2013. クを体系的に検討しているものはない.German 26. Financial Services Act 2012. Institute for Development 2009 による関連提 27. Bank of England 2013. 案を参照. リスク管理を開発アジェンダの主流にする: 主要な制度改革 339 参考文献 ILO (International Labour Organization). 2009. The Informal Economy in Promoting Transition to Formality: Challenges and Strategies. Africa: ­ Geneva: ILO. Aghion, Philippe, and Ioana Marinescu. 2008. “Cyclical Budgetary Policy IMF (International Monetary Fund). 2011. “Macroprudential Policy: An and Economic Growth: What Do We Learn from OECD Panel Data?” Organizing Framework.” IMF, Washington, DC. In NBER Macroeconomics Annual 2007, vol. 22, edited by Daron Jonas, Olga. 2013. “Pandemic Risk.” Background paper for the World Acemoglu, Kenneth Rogoff, and Michael Woodford, 251–78. Chicago: Development ­ Report 2014. University of Chicago Press. Kaminsky, Graciela L., Carmen M. Reinhart, and Carlos A. Végh. 2005. Alesina, Alberto, Filipe R. 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Chicago: University of Chicago Press. 補遺 343 略号およびデータ注 略号 AIDS エイズ(後天性免疫不全症候群) OECD 経済協力開発機構 BIS 国際決済銀行 OIE 国際獣疫局 CAB 景気循環調整済み(財政)収支 ppm パーツ・パー・ミリオン(100 万分の 1) CAT DDO 大災害繰延引出オプション PPP 官民パートナーシップ CCRIF カリブ海諸国災害リスク保険機構 SARS 重症急性呼吸器症候群 CCT 条件付き現金給付 SEEC-CRIF 南東ヨーロ ッパ・コーカサス大災害リスク保険 CGAP 貧困層支援諮問機関 ファシリティ CRIF 大災害リスク保険ファシリティ SIFI システム上重要な金融機関 DRFI 災害リスクのファイナンス・保険 S&P スタンダード&プアーズ DRM 災害リスク管理 SWF 国富ファンド / 政府系ファンド EU ヨーロッパ連合 UN 国連(国際連合) FAO 食糧農業機関 UNEP 国連環境計画 FCS 脆弱紛争被災国 VIX 変動性指数 / ボラティリティ指数 / 恐怖指数 FDI 外国直接投資 WDI 世界開発指標 FONDEN 国家災害基金 WDR 世界開発報告 FX 外国為替 / 通貨 WEF 世界経済フォーラム G2P 政府対個人 WHO 世界保健機関 GDP 国内総生産 GEF 地球環境ファシリティ GFDRR 世界災害削減・回復ファシリティ GFSN 世界金融セーフティ・ネット G-SIFI 国際金融システム上重要な金融機関 GNI 国民総所得 HFA 兵庫行動枠組み HIV ヒト免疫不全ウィルス IBRD 国際復興開発銀行(世界銀行) IFI 国際金融機関 IMF 国際通貨基金 IPP 独立系発電事業者 ISO 国際標準化機構 MDG ミレニアム開発目標 MTEF 中期財政枠組み MTEF 中気財政計画 NGO 非政府組織 NRA 国家リスク評価 ODC オゾン層破壊物質 344 世界開発報告 2014 データ注  経済圏について国という用語を使用しているが, アメリカ).他のすべての諸国は地理的な地域にグ これは世界銀行がその領域の法的ないしその他の地 ループ分けされている.2010 年で人口が 50 万人 位について,何らかの判断をしているということを 未満の諸国は分析目的用の標本には含まれていな 意味するものではない.途上国という用語は低所得 い. 国と中所得国を含み,したがって,便宜上,中央計 画経済からの体制移行国を含むこともある.ドルの  所得別グループは世界銀行の 2012 年 7 月 1 日 数字は特記がない限り,名目の米ドル表示である. 現在の所得別分類に基づいている.それは主要指標 ビリオン(10 億)はミリオン(100 万)の 1,000 の表(2013 年 7 月 1 日現在の所得別分類に基づき 倍,トリリオン(兆)はビリオン(10 億)の 1,000 作成されている)を除き 2011 年の 1 人当たり国 倍を意味する. 民総所得に基づく.詳細は主要指標の箇所を参照.  地域別比較のためには,本報告書の図では次の 地図 国 グ ル ー プ が 使 わ れ て い る: 経 済 協 力 開 発 機 構  IBRD 40097, 40098, 40099, 40100 と い う 番 (OECD), 東 ア ジ ア・ 太 平 洋(EAP),ヨーロッ 号が付いた地図は世界銀行の地図デザイン・ユニッ パ・中央アジア(ECA),ラテンアメリカ・カリ トが作成した. ブ(LAC),中東・北アフリカ(MENA),南アジ ア(SAR),サハラ以南アフリカ(SSA).OECD  その地図上に示されている境界・色彩・名称・そ グループは少なくとも 40 年間にわたって OECD の他情報は,世界銀行グループの側で,いかなる領 加盟国であった高所得国を指す(オーストラリア・ 域の法的地位に関する何らかの判断を下している, オーストリア・ベルギー・カナダ・デンマーク・ あるいはそのような境界に関する何らかの承認ない フィンランド・フランス・ドイツ・ギリシャ・アイ し受容を示している,ということを示唆するもので ルランド・イタリア・日本・ルクセンブルク・オラ はない.台湾(中国)は中国と同じランクにしてい ンダ・ニュージーランド・ノルウェー・ポルトガ る. ル・スペイン・スウェーデン・スイス・イギリス・ 345 背景論文 . Aizenman, Joshua, and Inci Ötker-Robe. 2013. “Manag- Fidas, Penelope D., and Najy Benhassine. 2013. “Trans- ing Risk for Development: International Risk Sharing parency and Access to Information in Business Tools.” Regulations.” Anderson, Phillip R. 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Open Data カタログに含まれており,ダウンロー このような公式の分析用の分類は世界銀行の(6 月 ド用のものが入手可能である.その使用条件による 30 日に終わる)財政年度期間中は固定される.つ と,ユーザーは限定的な条件を順守すれば自由に使 まり,各国は 1 人当たり所得のデータに修正があっ 用することができる.読者にデータへのアクセス たとしても,分類が決まったカテゴリーにとどま (http://datacatalog.worldbank.org)と使用条件 ることになる.2012 年の 1 人当たり国民総所得 (http://data.worldbank.org/summary-terms-of- (GNI)に基づいて,1,035 ドル以下が低所得国, use) の概観をお奨めしたい.データ・カタログで 1,036 ドル -12,615 ドルが中所得国,12,616 ドル 入手可能ないくつかの指標は,著者の許可を得て研 以上が高所得国という分類がなされている.1 人当 究論文から取得した.このような特定の指標は特定 たり GNI が 4,085 ドルの水準で,さらに低位中所 の研究目的用に開発されたものであり,他の目的に 得国と上位中所得国の区別がなされている.分類の は適さない可能性がある.著者や著者が所属する機 変更があった場合には,新しい所得分類に基づく集 関のいずれもデータの保証をしておらず,いかなる 計値は過去に遡って再計算してあるため,時系列 状況下であろうとデータの使用に関して責任を負う データの一貫性は確保されている. ものではない.  総括値は各グループごとの合計値(データがない 場合や報告されていない諸国に関する推定値が含ま 対象となっている国 れていれば t,入手データの単純合計ならば s で区  表 1 と 3-8 には 133 の国が含まれている.表 2 別),加重平均値(w),あるいは中央値(m)のい には一部のデータが得られていない,あるいは人口 ずれかである.表から除外されている諸国のデータ が 300 万人未満の 81 カ国について主要な開発指 も,入手可能であればそのデータが,あるいは入手 標が含まれている.経済圏と互換的に使われている 可能な諸国と同じ傾向をたどるとの前提に立った推 国という言葉は政治的な独立性を示唆するものでは 定値が含まれている.ただし,欠けている情報が なく,当局が別の社会的および経済的な統計を報告 集計値全体の 3 分の 1 以上を占めている場合には, 348 世界開発報告 2014 グループの総括値は入手不能と表示されている. 記号 … データが入手不可能であること,あるいは当該 年のデータが欠けているため合計が算出できな いことを意味する. 0 または 0.0 は,ゼロまたは表示単位の半分未満 であることを意味する. - 2003-124 年におけるように複数年にわたる期 間を指す.見出し欄に特記なき限り,このよう な指標は指定された期間についての年次数値の 合計である. $ 特記なき限り現行の米ドルを意味する.  イタリック体のデータは見出し欄に指定された年 ないし期間以外のものである. 主要指標 349 地域・所得による経済圏の分類(2014 年度) 低所得国 グアテマラ カザフスタン スロバキア アフガニスタン ホンジュラス レバノン スペイン バングラデシュ インド リビア スウェーデン ベニン インドネシア マレーシア スイス ブルキナファソ ラオス メキシコ アラブ首長国連邦 ブルンジ モーリタニア パナマ イギリス カンボジア モルドバ ペルー アメリカ 中央アフリカ共和国 モロッコ ルーマニア ウルグアイ チャド ニカラグア セルビア コンゴ民主共和国 ナイジェリア 南アフリカ 主要島嶼国 エリトリア パキスタン タイ (表 2 と 8 のみ) エチオピア パプアニューギニア チュニジア アンティグア・バーブーダ ギニア パラグアイ トルコ バハマ ハイチ フィリピン トルクメニスタン バルバドス ケニア セネガル ベネズエラ バミューダ キルギス スリランカ コモロ リベリア スーダン 高所得国 ドミニカ マダガスカル シリア オーストラリア ドミニカ共和国 マラウイ ウクライナ オーストリア フィジー マリ ウズベキスタン ベルギー グレナダ モザンビーク ベトナム カナダ ハイチ ミャンマー ヨルダン川西岸・ガザ チリ ジャマイカ ネパール イエメン 香港 モルディブ ニジェール ザンビア クロアチア マーシャル諸島 ルワンダ チェコ ミクロネシア連邦 シエラレオーネ 上位中所得国 デンマーク フィリピン ソマリア アルバニア フィンランド サモア 南スーダン アルジェリア フランス セーシェル タジキスタン アンゴラ ドイツ ソロモン諸島 タンザニア アルゼンチン ギリシャ セントクリストファー・ネイビ トーゴ アゼルバイジャン アイルランド ス ウガンダ ベラルーシ イスラエル セントルシア ジンバブエ ボスニア・ヘルツェゴビナ イタリア セントビンセント・グレナ ブラジル 日本 ディーン諸島 下位中所得国 ブルガリア 韓国 トリニダード・トバゴ アルメリア 中国 リトアニア ボリビア コロンビア オランダ カメルーン コスタリカ ニュージーランド コンゴ共和国 ドミニカ共和国 ノルウェー コートジボワール エクアドル ポーランド エジプト ハンガリー ポルトガル エルサルバドル イラン ロシア グルジア イラク サウジアラビア ガーナ ヨルダン シンガポール 350 世界開発報告 2014 表 1 主要開発指標 一人当たり 人口の PPP 表示の国民総所 国内総生産 成人識 人口 年齢別構成 国民総所得 (GNI)a 得 (GNI)b (GDP) 出生時余命 字率 対 15 歳 年平均増 人口密度 0-14 歳 10 億 一人当 10 億 一人当 以上 100 万人 加率 (%) (km2) の割合 (%) ドル ($) たり ($) ドル ($) たり ($) 増加率 (%) 男(年数) 女(年数) 人口比 (%) (2012) (2000-12) (2012) (2012) (2012) (2012) (2012) (2012) (2012) (2011) (2011) (2005-11c) アフガニスタン 30 3.1 46 47 16.6 570 40.7d 1,400d 4.4 49 49 .. アルバニア 3  –0.4 115 21 12.9 4,090 29.7 9,390 0.5 74 80 96 アルジェ リア 38 1.6 16 27 155.1 4,110 285.0d 7,550d 0.6 72 75 73 アンゴラ 21 3.4 17 48 95.4 4,580 114.3 5,490 3.5 50 53 70 アルゼンチン 41 0.9 15 24 .. ..e .. .. .. 72 80 98 アルメニア 3 –0.3 104 20 11.1 3,720 20.8 6,990 7.0 71 77 100 オース トラリア 23 1.4 3 19 1,351.2 59,570 982.2 43,300 1.8 80 84 .. オース トリア 8 0.5 103 15 407.6 48,160 373.2 44,100 0.4 78 84 .. アゼルバイジャン 9 1.2 112 22 56.3 6,050 87.5 9,410 3.1 68 74 100 バングラデシュ 155 1.3 1,188 31 129.2 840 319.9 2,070 5.1 68 70 57 ベラルーシ 9 –0.5 47 15 61.8 6,530 143.9 15,210 1.6 65 77 100 ベルギー 11 0.7 368 17 501.3 44,990 447.6 40,170 –1.1 78 83 .. ベナン 10 3.1 89 43 7.5 750 15.8 1,570 2.6 54 58 42 ボリビア 10 1.8 10 35 23.3 2,220 52.1 4,960 3.5 64 69 91 ボスニア · ヘルツェゴビナ 4 0.0 75 16 17.8 4,650 36.0 9,380 –0.6 73 78 98 ブラジル 199 1.1 23 25 2,311.1 11,630 2,328.8 11,720 0.0 70 77 90 ブルガリア 7 –0.9 67 14 50.2 6,870 112.4 15,390 1.4 71 78 98 ブルキナファソ 16 2.9 60 46 10.9 670 24.9 1,510 6.9 54 56 29 ブルンジ 10 3.2 384 44 2.4 240 5.5 560 0.7 49 52 67 カンボジア 15 1.6 84 31 13.0 880 35.1 2,360 5.4 62 64 74 カメルーン 22 2.6 46 43 25.4 1,170 50.3 2,320 2.1 51 53 71 カナダ 35 1.0 4 16 1,777.9 50,970 1,483.6 42,530 0.6 79 83 .. 中央アフリカ共和国 5 1.8 7 40 2.2 490 3.9 860 2.1 47 50 56 チャド 12 3.4 10 49 9.3 740 16.4 1,320 1.9 48 51 34 チリ 17 1.0 23 21 249.5 14,280 372.1 21,310 4.6 76 82 99 中国 1,351 0.6 145 18 7,748.9 5,740 12,435.4 9,210 7.3 72 75 94 香港 7 0.6 6,866 12 261.6 36,560 379.6 53,050 0.3 80 87 .. コロンビア 48 1.5 43 28 333.6 6,990 482.2 10,110 2.6 70 77 93 コンゴ民主共和国 66 2.8 29 45 14.8 220 24.5 370 4.3 47 50 67 コンゴ共和国 4 2.7 13 42 11.1 2,550 15.2 3,510 1.1 56 59 .. コスタリカ 5 1.7 94 24 42.0 8,740 60.5d 12,590d 3.6 77 82 96 トジボワール コー​​ 20 1.7 62 41 24.2 1,220 38.8 1,960 7.0 54 57 56 クロアチア 4 –0.3 76 15 56.7 13,290 84.3 19,760 –1.7 74 80 99 チェコ共和国 11 0.2 136 15 190.6 18,130 259.8 24,710 –1.5 75 81 .. デンマーク 6 0.4 132 18 334.1 59,770 242.3 43,340 –0.8 78 82 .. ドミニカ共和国 10 1.4 213 31 56.2 5,470 101.0d 9,820d 2.6 71 76 90 エクア ドル 15 1.8 62 30 80.5 5,190 148.5 9,590 3.3 73 79 92 エジプト 81 1.7 81 31 241.8 3,000 536.3 6,640 0.5 71 75 72 エルサルバドル 6 0.5 304 31 22.5 3,580 42.8d 6,790d 1.0 67 77 84 エリト リア 6 3.7 61 43 2.8 450 3.4d 560d 3.6 59 64 68 エチオピア 92 2.7 92 43 37.4 410 104.2 1,140 5.7 58 61 39 フィンラン ド 5 0.4 18 16 254.1 46,940 209.2 38,630 –0.7 77 84 .. フランス 66 0.6 120 18 2,742.9 41,750 2,412.6 36,720 –0.5 78 85 .. グルジア 5f 0.2f 65f 18 14.8f 3,280f 26.4f 5,860f 5.3f 70 77 100 ドイツ 82 0.0 235 13 3,603.9 44,010 3,430.1 41,890 0.6 78 83 .. ガーナ 25 2.5 111 39 39.3 1,550 49.2 1,940 5.6 63 65 67 ギリシャ 11 0.3 88 15 262.4 23,260 287.2 25,460 –6.2 79 83 97 グアテマラ 15 2.5 141 41 47.0 3,120 74.8d 4,960d 0.4 68 75 75 ギニア 11 2.2 47 42 5.3 460 11.3 980 1.3 53 56 41 ハイチ 10 1.4 369 35 7.7 760 12.6d 1,240d 1.4 61 63 49 ホンジュラス 8 2.0 71 36 16.4 2,070 30.9d 3,890d 1.4 71 75 85 ハンガリー 10 –0.2 110 15 123.2 12,390 205.9 20,710 –1.4 71 79 99 インド 1,237 1.4 416 29 1,890.4 1,530 4,749.2 3,840 1.9 64 67 63 インドネシア 247 1.4 136 29 844.0 3,420 1,188.0 4,810 4.9 68 71 93 イランイスラム共和国 76 1.2 47 24 .. ..e .. .. .. 71 75 85 主要指標 351 表 1 主要開発指標(続き) 一人当たり 人口の PPP 表示の国民総所 国内総生産 成人識 人口 年齢別構成 国民総所得 (GNI)a 得 (GNI)b (GDP) 出生時余命 字率 対 15 歳 年平均増 人口密度 0-14 歳 10 億 一人当 10 億 一人当 以上 100 万人 加率 (%) (km2) の割合 (%) ドル ($) たり ($) ドル ($) たり ($) 増加率 (%) 男(年数) 女(年数) 人口比 (%) (2012) (2000-12) (2012) (2012) (2012) (2012) (2012) (2012) (2012) (2011) (2011) (2005-11c) イラク 33 2.6 75 41 191.2 5,870 140.2 4,300 5.7 66 72 78 アイルラン ド 5 1.6 67 22 178.8 38,970 164.6 35,870 0.7 78 83 .. イスラエル 8 1.9 365 28 224.7 28,930 218.0 28,070 2.8 80 84 .. イタリア 61 0.6 207 14 2,061.3 33,840 2,002.3 32,870 –2.7 80 85 99 日本 128 0.0 350 13 6,105.8 47,870 4,629.7 36,290 2.1 79 86 .. ヨルダン 6 2.3 71 34 29.9 4,720 38.8 6,130 0.6 72 75 93 カザフスタン 17 1.0 6 25 163.5 9,730 200.7 11,950 3.5 64 74 100 ケニア 43 2.7 76 42 36.2 840 76.1 1,760 1.5 56 58 87 韓国 50 0.5 515 15 1,133.8 22,670 1,548.7 30,970 1.6 78 84 .. キルギス 6 1.1 29 30 5.5 990 12.6 2,260 –2.1 66 74 99 ラオス 7 1.7 29 36 8.4 1,260 18.1 2,730 6.1 66 69 73 レバノン 4 2.6 433 22 40.7 9,190 63.7 14,400 0.4 70 75 90 リベリア 4 3.1 44 43 1.6 370 2.5 600 7.9 56 58 61 リビア 6 1.4 3 29 .. ..e .. .. .. 72 78 89 リトアニア 3 –1.3 48 15 41.3 13,850 67.9 22,760 5.3 68 79 100 マダガスカル 22 2.9 38 43 9.7 430 21.2 950 0.3 65 68 64 マラウイ 16 2.8 169 45 5.0 320 13.9 880 –1.0 54 54 75 マレーシア 29 1.8 89 27 286.4 9,800 483.2 16,530 3.9 72 77 93 マリ 15 3.1 12 47 9.8 660 17.2 1,160 –4.1 50 52 31 モーリタニア 4 2.8 4 40 4.2 1,110 9.6 2,520 4.9 57 60 58 メキシコ 121 1.3 62 29 1,176.9 9,740 2,015.8 16,680 2.6 75 79 93 モルドバ 4g –0.2g 108g 17 7.4g 2,070g 13.1g 3,690g –0.8g 66 73 99 モロッコ 33 1.0 73 28 97.1h 2,940h 166.6h 5,040h 1.2h 70 74 56 モザンビーク 25 2.7 32 45 12.8 510 25.7 1,020 4.7 49 51 56 ミャンマー 53 0.7 81 25 .. ..i .. .. .. 63 67 92 ネパール 27 1.4 192 36 19.2 700 41.1 1,500 3.4 68 70 60 オランダ 17 0.4 497 17 809.1 48,250 731.5 43,620 –1.4 79 83 .. ニュージーラン ド 4 1.2 17 20 134.9 30,620 132.0 29,960 2.3 79 83 .. ニカラグア 6 1.3 50 33 9.9 1,650 23.7d 3,960d 3.7 71 77 78 ニジェール 17 3.7 14 50 6.4 370 11.2 650 7.0 54 55 29 ナイジェ リア 169 2.6 185 44 241.1 1,430 409.1 2,420 3.6 51 53 61 ノルウェー 5 0.9 16 19 496.2 98,860 336.1 66,960 1.7 79 84 .. パキスタン 179 1.8 232 34 225.4 1,260 543.6 3,030 2.4 65 66 55 パナマ 4 1.8 51 29 37.7 9,910 67.8d 17,830d 8.9 74 79 94 パプアニューギニア 7 2.4 16 38 12.8 1,790 19.9d 2,780d 5.7 61 65 61 パラグアイ 7 1.9 17 33 22.0 3,290 37.5 5,610 –2.9 70 75 94 ペルー 30 1.2 23 29 176.5 5,880 306.9 10,240 5.0 71 77 90 フィリピン 97 1.8 324 35 238.7 2,470 425.2 4,400 4.8 66 72 95 ポーラン ド 39 0.0 127 15 488.3 12,670 816.0 21,170 1.9 73 81 100 ポルトガル 11 0.2 115 15 216.6 20,580 260.7 24,770 –3.0 78 84 95 ルーマニア 21 –0.4 93 15 179.6 8,420 347.8 16,310 4.0 71 78 98 ロシア 144 –0.2 9 15 1,822.7 12,700 3,260.6 22,720 3.0 63 75 100 ルワンダ 11 2.6 464 44 6.2 560 13.9 1,250 5.0 54 57 71 サウジアラビア 28 2.8 13 30 500.5 18,030 694.4 25,010 4.8 73 75 87 セネガル 14 2.8 71 44 14.2 1,040 26.3 1,920 0.7 58 60 50 セルビア 7 –0.3 83 16 38.1 5,280 80.8 11,180 –1.2 72 77 98 シエラレオネ 6 3.1 83 42 3.5 580 8.1 1,360 13.0 47 48 42 シンガポール 5 2.3 7,589 16 250.8 47,210 324.6 61,100 –1.1 80 84 96 スロバキア 5 0.0 113 15 92.9 17,170 134.0 24,770 1.8 72 80 .. ソマリア 10 2.7 16 47 .. ..i .. .. .. 50 53 .. 南アフリカ 51 1.3 42 30 389.8 7,610 572.6 11,190 1.3 52 53 89 南スーダン 11 4.1 .. 42 7.0 650 .. .. –57.7 .. .. .. スペイン 46 1.1 93 15 1,391.4 30,110 1,493.8 32,320 –1.5 79 85 98 スリ· ランカ 20 0.5 324 25 59.3 2,920 124.5 6,120 9.2 72 78 91 スーダン 37j 2.4j 16 41j 53.8j 1,450j 75.3j 2,030j 0.6j 60 63 71 352 世界開発報告 2014 表 1 主要開発指標(続き) 一人当たり 人口の PPP 表示の国民総所 国内総生産 成人識 人口 年齢別構成 国民総所得 (GNI)a 得 (GNI)b (GDP) 出生時余命 字率 対 15 歳 年平均増 人口密度 0-14 歳 10 億 一人当 10 億 一人当 以上 100 万人 加率 (%) (km2) の割合 (%) ドル ($) たり ($) ドル ($) たり ($) 増加率 (%) 男(年数) 女(年数) 人口比 (%) (2012) (2000-12) (2012) (2012) (2012) (2012) (2012) (2012) (2012) (2011) (2011) (2005-11c) スウェーデン 10 0.6 23 17 535.0 56,210 420.1 44,150 0.0 80 84 .. スイス 8 0.9 200 15 661.6 82,730 449.8 56,240 –0.1 81 85 .. シリアアラブ共和国 22 2.6 122 35 56.3 2,610 116.5 5,200 0.8 74 77 83 タジキスタン 8 2.2 57 36 6.9 860 17.8 2,220 5.4 64 71 100 タンザニア 48 2.8 54 45 26.7 570k 73.6k 1,590k 3.7k 57 59 73 タイ 67 0.6 131 18 347.9 5,210 630.0 9,430 6.1 71 78 94 トーゴ 7 2.6 122 42 3.3 500 6.1 920 2.9 56 59 57 チュニジア 11 1.0 69 23 44.8 4,150 100.9 9,360 2.6 73 77 78 トルコ 74 1.3 96 26 801.1 10,830 1,345.7 18,190 0.9 72 76 91 トルクメニスタン 5 1.2 11 29 28.7 5,550 49.9d 9,640d 9.7 61 69 100 ウガンダ 36 3.4 182 49 16.0 440 41.4 1,140 0.0 53 55 73 ウクライナ 46 –0.6 79 14 159.6 3,500 332.5 7,290 0.4 66 76 100 アラブ首長国連邦 9 9.3 110 14 321.7 36,040 378.3 42,380 –0.8 76 78 90 イギリス 63 0.6 261 18 2,418.5 38,250 2,331.9 36,880 –0.5 79 83 .. アメリカ 314 0.9 34 20 15,734.6 50,120 15,887.6 50,610 1.5 76 81 .. ウルグアイ 3 0.2 19 22 45.9 13,510 52.9 15,570 3.6 73 80 98 ウズベキスタン 30 1.6 70 29 51.3 1,720 111.6d 3,750d 6.6 65 71 99 ベネズエラ 30 1.7 34 29 373.5 12,470 393.0 13,120 3.9 71 77 96 ベトナム 89 1.1 286 23 124.1 1,400 305.6 3,440 3.9 73 77 93 ヨルダン川西岸 / ガザ 4 2.7 672 41 .. ..l .. .. .. 71 75 95 イエメン 24 2.6 45 41 26.0 1,110 53.7 2,310 –2.2 64 67 64 ザンビア 14 2.8 19 47 19.1 1,350 22.8 1,620 4.0 49 49 71 ジンバブエ 14 0.8 35 40 9.3 680 .. .. 2.2 52 50 92 世界全体 7,046s 1.2w 54w 26w 70,571.6t 10,015w 85,463.2t 12,129w 1.0w 68w 72w 84w 低所得国 846 2.2 56 39 494.1 584 1,173.7 1,387 3.6 58 61 61 中所得国 4,898 1.2 77 27 21,396.9 4,369 35,469.4 7,242 3.8 67 71 83 低中所得国 2,507 1.6 122 31 4,706.2 1,877 9,808.1 3,912 2.5 64 68 71 上中所得国 2,391 0.8 56 22 16,704.9 6,987 25,679.4 10,741 4.5 71 75 94 低 / 中所得国 5,744 1.3 73 29 21,902.7 3,813 36,624.4 6,376 3.6 66 70 80 高額所得 1,302 0.6 25 17 48,952.3 37,595 49,167.5 37,760 0.7 76 82 .. a.世界銀行アトラス方式を用いて算出.  b.PPP は購買力平価.テクニカル・ノートを参照.  c.データは入手可能な最新年. d.回帰分析による推定値.その他の推定値は 2005 年の「国際比較プログラム」に基づくベンチマーク推定値からの外挿による.  e.上位中所得国(4,086-12,615 ドル)と推定される. f.アブハーズと南オセティアを除く. g.トランスニストリアを除く. h.旧スペイン領サハラを含む. i.低所得国(1,035 ドル以下)と推定される. j.南スーダンを除く. k.タンザニア本土だけのデータ.  l.低位中所得国(1,036-4,085 ドル)と推定される. 主要指標 353 354 世界開発報告 2014 表 2 その他諸国の主要開発指標 国民総所得 a 人口 人口の年齢別構成 (GNI) 1000 人 年平均増加率 (%) 人口密度 (/km2) 0-14 歳 (%) 100 万ドル 1 人当たり (2012) (2000-12) (2012) (2012) (2012) (2012) 米サモア 55 –0.4 276 .. .. ..d アンドラ 78 1.5 167 .. .. ..e アンチグアバーブーダ 89 1.1 202 25 1,126 12,640 アルバ 102 1.0 569 20 .. ..e バハマ 372 1.9 37 22 7,795 21,280 バーレーン 1,318 5.7 1,734 20 20,084 16,050 バルバドス 283 0.5 659 19 .. ..e ベリーズ 324 2.6 14 34 1,322 4,180 バミューダ 65 0.4 1,296 .. 6,903 106,920 ブータン 742 2.3 19 29 1,797 2,420 ボツワナ 2,004 1.1 4 34 15,477 7,720 ブルネイ · ダルサラーム 412 1.8 78 26 .. ..e カーボベルデ 494 0.9 123 30 1,882 3,810 ケイマン諸島 58 2.7 240 .. .. ..e チャネル諸島 161 0.7 849 15 .. ..e コモロ 718 2.6 386 42 605 840 キューバ 11,271 0.1 106 17 .. ..d キュラソー 152 1.1 342 20 .. ..e キプロス 1,129 1.5 122 17 22,708g 26,000g ジブチ 860 1.4 37 34 .. ..h ドミニカ 72 0.2 96 .. 463 6,460 赤道ギニア 736 2.9 26 39 9,983 13,560 エストニア 1,339 –0.2 32 16 21,200 15,830 フェロー諸島 50 0.5 35 .. .. ..e フィジー 875 0.6 48 29 3,675 4,200 フランス領ポリネシア 274 1.2 75 23 .. ..e ガボン 1,633 2.4 6 38 16,438 10,070 ガンビア 1,791 3.1 177 46 912 510 グリーンラン ド 57 0.1 0i .. .. ..e グレナダ 105 0.3 310 27 750 7,110 グアム 163 0.4 302 27 .. ..e ギニアビサウ 1,664 2.2 59 42 916 550 ガイアナ 795 0.6 4 37 2,710 3,410 アイスラン ド 320 1.1 3 21 12,393 38,710 マン島 85 0.9 150 .. .. ..e ジャマイカ 2,712 0.4 250 28 13,929 5,140 キリバス 101 1.6 124 32 228 2,260 韓国 24,763 0.7 206 22 .. ..j コソボ 1,806 0.5 166 27 6,576 3,640 クウェート 3,250 4.4 182 25 133,824 44,730 ラトビア 2,025 –1.3 33 15 28,725 14,180 レソト 2,052 0.8 68 37 2,823 1,380 リヒテンシュタイン 37 0.9 229 .. .. ..e ルクセンブルク 531 1.6 205 17 40,898 76,960 マカオ 557 2.1 19,885 12 30,440 55,720 マケドニア 2,106 0.2 83 17 9,877 4,690 モルディ ブ 338 1.8 1,128 29 1,947 5,750 マルタ 418 0.8 1,307 15 8,268 19,760 マーシャル諸島 53 0.1 292 .. 217 4,140 モーリシャス 1,291 0.7 636 20 11,063 8,570 ミクロネシア連邦 103 –0.3 148 36 342 3,310 モナコ 38 1.3 18,790 .. .. ..e モンゴル 2,796 1.3 2 27 8,844 3,160 モンテネグロ 621 0.1 46 19 4,309 6,940 ナミビア 2,259 1.5 3 37 12,813 5,670 主要指標 355 1 人当たり国内総生産 PPP 表示国民総所得 (GNI) b (GDP) 出生時余命 成人識字率 100 万ドル 1 人当たりドル 増加率 (%) 男(年数) 女(年数) 対 15 歳以上人口比 (%) (2012) (2012) 2012 2011 2011 2005-11c 米サモア .. .. .. .. .. .. アンドラ .. .. .. .. .. .. アンチグアバーブーダ 1,715f 19,260f 1.3 .. .. 99 アルバ .. .. .. 73 78 97 バハマ 10,895f 29,740f 0.3 72 79 .. バーレーン 26,802 21,420 –0.5 75 76 92 バルバドス .. .. .. 74 80 .. ベリーズ 2,175f 6,880f –0.5 75 78 .. バミューダ .. .. –2.0 77 82 .. ブータン 4,678 6,310 7.6 65 69 53 ボツワナ 33,114 16,520 5.2 54 52 84 ブルネイ · ダルサラーム .. .. 0.7 76 80 95 カーボベルデ 2,144 4,340 3.5 70 78 84 ケイマン諸島 .. .. .. .. .. 99 チャネル諸島 .. .. .. 78 82 .. コモロ 882 1,230 0.5 60 62 75 キューバ .. .. 2.1 77 81 100 キュラソー .. .. .. 72 80 .. キプロス 25,671g 29,400g –4.9g 77 82 98 ジブチ .. .. 3.2 56 59 .. ドミニカ 874f 12,190f –1.8 .. .. .. 赤道ギニア 13,901 18,880 –0.3 50 52 94 エストニア 29,511 22,030 3.3 71 81 100 フェロー諸島 .. .. .. 79 85 .. フィジー 4,265 4,880 1.4 67 72 .. フランス領ポリネシア .. .. .. 73 78 .. ガボン 23,328 14,290 3.6 62 64 88 ガンビア 3,327 1,860 2.7 57 60 50 グリーンラン ド .. .. .. 68 73 .. グレナダ 1,087­f 10,300f –1.2 74 77 .. グアム .. .. .. 74 79 .. ギニアビサウ 1,981 1,190 –3.8 47 50 54 ガイアナ 2,703f 3,400f 4.2 67 73 .. アイスラン ド 10,832 33,840 1.3 81 84 .. マン島 .. .. .. .. .. .. ジャマイカ .. .. –0.5 71 76 87 キリバス 341f 3,380f 0.9 .. .. .. 韓国 .. .. .. 66 72 100 コソボ .. .. 2.9 68 72 .. クウェート 147,287 49,230 3.6 74 76 94 ラトビア 42,567 21,020 7.3 69 79 100 レソト 4,528 2,210 2.8 49 47 90 リヒテンシュタイン .. .. .. .. .. .. ルクセンブルク 34,646 65,190 –2.2 79 84 .. マカオ 37,533 68,710 7.9 79 83 93 マケドニア 24,354 11,570 –0.3 73 77 97 モルディ ブ 2,602 7,690 1.4 76 78 98 マルタ 11,291 26,990 0.6 80 84 92 マーシャル諸島 .. .. 1.8 .. .. .. モーリシャス 20,425 15,820 2.7 70 77 89 ミクロネシア連邦 423f 4,090f 1.4 68 70 .. モナコ .. .. .. .. .. .. モンゴル 14,265 5,100 10.6 65 73 97 モンテネグロ 8,654 13,930 0.4 72 77 98 ナミビア 16,880 7,470 3.0 62 63 89 356 世界開発報告 2014 表 2 その他諸国の主要開発指標(続き) 国民総所得 a 人口 人口の年齢別構成 (GNI) 1000 人 年平均増加率 (%) 人口密度 (/km2) 0-14 歳 (%) 100 万ドル 1 人当たり (2012) (2000-12) (2012) (2012) (2012) (2012) ニューカレドニア 258 1.6 14 23 .. ..e 北マリアナ諸島 53 –2.1 116 .. .. ..e オマーン 3,314 3.4 11 24 53,598 19,120 パラオ 21 0.7 45 .. 205 9,860 プエルト リコ 3,667 –0.3 413 20 66,002 18,000 カタール 2,051 10.3 177 13 150,427 78,720 サモア 189 0.7 67 38 608 3,220 サン · マリノ 31 1.2 521 .. .. ..e サントメプリンシペ 188 2.5 196 42 249 1,320 セイシェル 88 0.7 191 22 1,022 11,640 シントマールテン(オラン ダ圏) 39 2.1 1,150 .. .. ..e スロベニア 2,058 0.3 102 14 46,737 22,710 ソロモン諸島 550 2.4 20 40 620 1,130 セントク リストファー · ネイ ビス 54 1.4 206 .. 714 13,330 セントルシア 181 1.2 297 24 1,181 6,530 聖マルティ ン(フランス圏) 31 0.7 569 .. .. ..e セントビンセント · グレナ ディーン 109 0.1 280 26 698 6,380 スリナム 535 1.1 3 28 4,534 8,480 スワジラン ド 1,231 1.2 72 38 3,518 2,860 東ティモール 1,210 2.9 81 46 4,447 3,670 トンガ 105 0.6 146 37 445 4,240 トリニダード ·トバゴ 1,337 0.4 261 21 19,258 14,400 タークスカイコス諸島 32 4.5 34 .. .. ..e ツバル 10 0.4 329 .. 60 6,070 バヌアツ 247 2.4 20 37 762 3,080 バージン諸島 105 –0.3 301 21 .. ..e a.世界銀行アトラス方式を用いて算出.  b.PPP は購買力平価.テクニカル・ノートを参照.  c.データは入手可能な最新年のもの. d.上位中所得国(4,086-12,615 ドル)と推定される.  e.高所得国(12,616 ドル以上)と推定される. f.回帰分析による推定値.その他の推定値は 2005 年の国際比較プログラムに基づくベンチマーク推定値からの外挿による.  g.キプロス政府がコントロールしている地域だけのデータ.  h.下位中所得国(1,036-4085 ドル)と推定される. i.0.5 未満.  j.低所得国(1,035 ドル以下)と推定される. 主要指標 357 1 人当たり国内総生産 PPP 表示国民総所得 (GNI) b (GDP) 出生時余命 成人識字率 100 万ドル 1 人当たりドル 増加率 (%) 男(年数) 女(年数) 対 15 歳以上人口比 (%) (2012) (2012) 2012 2011 2011 2005-11c ニューカレドニア .. .. .. 73 80 96 北マリアナ諸島 .. .. .. .. .. .. オマーン 71,696 25,580 –2.2 71 76 87 パラオ 356f 17,150f 4.5 .. .. .. プエルトリコ .. .. 1.3 75 83 90 カタール 161,789 84,670 8.8 79 78 96 サモア 807f 4,270f 0.4 70 76 99 サン · マリノ .. .. .. 80 86 .. サントメプリンシペ 349 1,850 1.3 63 66 89 セイシェル 2,262f 25,760f 2.5 70 77 92 シントマールテン(オランダ圏) .. .. .. 73 78 .. スロベニア 56,072 27,240 –2.6 77 83 100 ソロモン諸島 1,192f 2,170f 1.7 66 69 .. セントクリストファー · ネイビス 926f 17,280f –2.2 .. .. .. セントルシア 1,993f 11,020f –3.9 72 77 .. 聖マルティン(フランス圏) .. .. .. .. .. .. セントビンセント · グレナディーン 1,182f 10,810f 1.5 70 74 .. スリナム 4,541f 8,500f 3.5 67 74 95 スワジランド 5,958 4,840 –3.0 49 48 87 東ティモール 7,761f 6,410f 5.5 62 63 58 トンガ 540f 5,140f 0.4 69 75 99 トリニダード ·トバゴ 29,957f 22,400f 0.9 67 74 99 タークスカイコス諸島 .. .. .. .. .. .. ツバル .. .. 1.0 .. .. .. バヌアツ 1,112f 4,500f 0.0 69 73 83 バージン諸島 .. .. .. 76 82 .. 358 世界開発報告 2014 表 3 主要リスク指標 自然災害 大不況 (干魃、地震、洪水、嵐) 流行病 成人死亡率 殺人率 不況の状態に 男(1000 人 女(1000 人 人口 10 万人 あった年数 発生件数 発生件数 当たり) 当たり) 当たり 1991-2000 2001-10 1993-2002 2003-12 1993-2002 2003-12 2007-11a 2007-11a 2010 アフガニスタン 0 0 26 62 18 3 407 374 2.4 アルバニア 3 0 6 6 2 0 93 45 4.0 アルジェリア 4 0 17 29 1 0 123 99 1.5 アンゴラ 3 0 9 22 7 9 382 333 19.0 アルゼンチン 2 2 25 20 0 1 158 72 3.4 アルメニア 0 1 4 1 0 0 160 78 1.4 オーストラリア 0 0 47 46 0 1 81 47 1.0 オーストリア 0 0 11 8 0 0 100 48 0.6 アゼルバイジャン 0 0 8 5 0 0 178 68 2.2 バングラデシュ 0 0 80 55 10 4 161 134 2.7 ベラルーシ 0 0 4 1 2 0 334 112 4.9 ベルギー 0 0 13 9 0 0 107 61 1.7 ベナン 0 0 6 8 11 8 327 271 15.1 ボリビア 0 0 12 15 4 4 221 164 8.9 ボスニア · ヘルツェゴビナ 0 0 3 9 1 0 132 68 1.5 ブラジル 2 0 30 47 7 3 214 112 21.0 ブルガリア 5 1 6 15 0 0 197 88 2.0 ブルキナファソ 0 0 5 11 7 9 296 246 18.0 ブルンジ 6 0 5 27 10 2 410 373 21.7 カンボジア 0 0 11 11 4 3 258 217 .. カメルーン 4 0 6 7 10 6 404 372 19.7 カナダ 2 0 16 33 2 1 92 55 1.6 中央アフリカ共和国 4 4 6 13 6 2 456 422 29.3 チャド 3 4 7 13 5 13 368 313 15.8 チリ 0 0 17 15 0 0 121 56 3.2 中国 0 0 188 234 3 3 135 86 1.0 香港 1 0 10 8 0 1 72 36 0.5 コロンビア 2 0 31 39 1 1 191 88 33.4 コンゴ民主共和国 10 1 8 19 31 34 405 351 21.7 コンゴ共和国 5 0 4 7 5 11 330 295 30.8 コスタリカ 0 0 16 21 1 0 109 57 11.3 コートジボワール 6 3 1 4 6 6 366 337 56.9 クロアチア 0 2 3 7 0 0 136 55 1.4 チェコ共和国 0 1 7 11 0 0 138 63 1.7 デンマーク 0 2 2 3 0 0 107 65 0.9 ドミニカ共和国 1 0 9 30 2 4 197 129 24.9 エクアドル 1 0 16 13 6 2 159 83 18.2 エジプト 0 0 9 4 0 2 138 83 1.2 エルサルバドル 0 0 15 17 4 2 278 118 64.7 エリトリア 3 7 3 4 0 0 338 255 17.8 エチオピア 3 2 24 28 9 7 298 252 25.5 フィンランド 3 2 .. .. .. .. 123 56 2.2 フランス 0 0 37 21 0 1 116 54 1.1 グルジア 4 0 7 8 0 0 175 66 4.3 ドイツ 0 1 20 22 1 1 101 54 0.8 ガーナ 0 0 5 8 8 5 250 220 15.7 ギリシャ 0 0 21 13 0 0 99 45 1.5 グアテマラ 0 0 18 23 3 0 223 120 41.4 ギニア 4 0 4 7 5 7 347 298 22.5 ハイチ 1 5 15 48 0 4 260 231 6.9 ホンジュラス 0 0 20 24 4 2 162 113 82.1 ハンガリー 3 1 9 9 0 0 229 99 1.3 インド 0 0 85 133 28 8 251 164 3.4 インドネシア 2 0 68 119 11 7 199 163 8.1 イランイスラム共和国 0 0 59 41 1 0 162 75 3.0 主要指標 359 1 人当たり GDP 成長率の 1 人当たり家計消費 リスク準 貧困比率 変動性 増加率の変動性 備指数 1日 2.50 ドル ,PPP 1日10ドル ,PPP 対人口比 (%) 対人口比 (%) 標準偏差 標準偏差 1-100 の尺度 1990b 2010c 1990b 2010c 1990s 2000s 1990s 2000s 2013 アフガニスタン .. .. .. .. .. 5.40 .. .. 11 アルバニア ..  11.0 ..  91.7 15.75 1.67 13.53 10.11 60 アルジェリア 36.6 .. 95.7 .. 2.73 1.50 3.89 8.83 59 アンゴラ .. 77.1 .. 98.9 11.65 6.90 .. .. .. アルゼンチン 5.1d 2.6d 56.7d 29.2d 5.56 6.75 .. 7.84 60 アルメニア .. 36.1 .. 97.5 19.68 8.07 12.85 4.31 59 オーストラリア .. .. .. .. 1.79 1.06 1.27 1.47 94 オーストリア .. .. .. .. 1.19 2.02 1.26 0.63 80 アゼルバイジャン 54.0 7.3 98.4 86.4 14.85 8.32 .. 15.36 49 バングラデシュ 95.0 86.2 99.9 99.6 0.72 0.85 2.28 1.14 34 ベラルーシ 0.3 0.2 57.1 19.8 8.89 2.94 10.39 5.21 78 ベルギー .. .. .. .. 1.41 1.76 1.02 0.86 86 ベナン .. 84.4 .. 99.3 1.02 0.92 5.71 .. 24 ボリビア 27.8 31.0 88.1 82.5 1.55 1.40 0.94 1.43 39 ボスニア · ヘルツェゴビナ .. 0.5 .. 36.7 .. 2.66 .. .. 60 ブラジル 37.6 15.1 81.0 65.4 2.97 2.28 3.12 2.34 58 ブルガリア 0.1 2.5 14.1 68.3 5.36 3.63 10.57 4.94 76 ブルキナファソ 90.3 82.2 99.3 99.1 3.69 2.05 11.82 .. 38 ブルンジ 97.4 96.1 100.0 100.0 4.88 2.06 .. .. 22 カンボジア 84.4 64.5 99.3 98.3 .. 3.04 .. 3.95 30 カメルーン .. 42.9 .. 95.2 4.70 0.78 5.39 3.53 37 カナダ .. .. .. .. 2.50 1.97 1.86 1.15 84 中央アフリカ共和国 93.5 86.2 99.6 99.3 4.57 3.13 .. 3.18 9 チャド .. 89.5 .. 99.8 7.99 9.06 11.74 .. 13 チリ 21.2 4.3 78.4 52.9 3.40 1.98 3.78 3.28 70 中国 91.7 36.5 99.9 91.1 2.99 1.62 3.46 1.42 69 香港 .. .. .. .. 3.64 3.23 4.56 3.26 73 コロンビア 21.1 22.0 79.5 75.5 3.00 1.72 4.29 2.06 53 コンゴ民主共和国 .. 97.0 .. 100.0 5.26 4.26 .. 4.70 8 コンゴ共和国 .. 81.8 .. 98.7 3.21 2.93 32.03 14.30 27 コスタリカ 20.7 8.1 80.1 59.4 2.64 2.81 2.69 1.98 58 コートジボワール 48.5 58.7 97.2 97.4 3.50 2.67 4.60 .. 19 クロアチア .. 0.1 .. 8.1 .. 3.78 .. 4.05 72 チェコ共和国 .. .. .. .. 5.20 3.05 .. .. 88 デンマーク .. .. .. .. 1.39 2.52 1.92 2.37 87 ドミニカ共和国 36.0 16.1 88.8 75.9 4.57 3.22 5.98 4.80 45 エクアドル 29.8 15.9 85.4 75.5 3.16 2.35 3.27 1.47 61 エジプト 44.1 32.0 97.8 97.7 1.45 1.71 0.93 2.95 63 エルサルバドル 37.1 23.1 87.9 83.0 1.60 1.87 6.41 4.34 53 エリトリア .. .. .. .. .. 8.36 .. .. .. エチオピア 90.9 79.9 99.9 99.4 7.28 4.39 9.36 5.28 30 フィンランド .. .. .. .. 4.08 3.80 3.71 1.94 94 フランス .. .. .. .. 1.20 1.67 1.33 0.92 82 グルジア .. 46.6 .. 95.7 23.68 4.31 .. .. 61 ドイツ .. .. .. .. 1.71 2.51 1.18 0.80 87 ガーナ 86.5 63.9 99.7 97.8 0.68 2.73 .. .. 30 ギリシャ .. .. .. .. 1.81 4.29 1.27 4.40 78 グアテマラ 63.5 33.9 94.7 85.2 0.69 1.41 0.95 0.91 43 ギニア 99.9 79.5 100.0 99.3 2.09 1.57 5.05 .. 5 ハイチ .. 83.0 .. 97.8 .. 3.04 .. .. 16 ホンジュラス 64.1 36.5 95.8 81.8 2.76 2.36 2.13 2.79 47 ハンガリー .. 0.6 .. 42.4 5.03 3.29 4.82 4.25 81 インド 90.8 81.1 99.7 99.2 2.11 2.25 1.83 2.00 31 インドネシア 91.4 60.4 99.9 98.4 6.85 0.91 5.94 1.10 42 イランイスラム共和国 20.3 14.8 83.8 85.1 4.47 1.98 2.69 .. 73 360 世界開発報告 2014 表 3 主要リスク指標(続き) 自然災害 大不況 (干魃、地震、洪水、嵐) 流行病 成人死亡率 殺人率 不況の状態に 男(1000 人 女(1000 人 人口 10 万人 あった年数 発生件数 発生件数 当たり) 当たり) 当たり 1991-2000 2001-10 1993-2002 2003-12 1993-2002 2003-12 2007-11a 2007-11a 2010 イラク 1 3 1 7 1 4 296 127 2.0 アイルランド 0 0 7 4 1 1 97 57 1.2 イスラエル 0 3 4 1 1 0 79 45 2.1 イタリア 0 2 24 19 1 1 78 41 0.9 日本 0 2 47 55 1 0 85 42 0.4 ヨルダン 1 0 5 0 0 0 141 98 .. カザフスタン 0 0 4 7 3 0 361 145 8.8 ケニア 4 0 11 34 18 12 370 348 20.1 韓国 1 0 25 21 2 1 84 39 2.6 キルギス 5 0 2 9 2 1 305 130 20.1 ラオス 0 0 11 5 4 1 203 162 4.6 レバノン 0 0 1 1 0 0 148 100 2.2 リベリア 5 2 2 5 7 3 340 305 10.1 リビア 0 2 1 0 0 0 135 83 2.9 リトアニア 0 1 2 4 0 0 271 93 6.6 マダガスカル 6 1 14 29 3 2 213 166 8.1 マラウイ 3 2 12 23 8 3 396 400 36.0 マレーシア 1 0 14 22 8 2 144 73 .. マリ 2 0 7 15 4 6 356 293 8.0 モーリタニア 5 2 9 11 2 1 286 217 14.7 メキシコ 1 2 68 55 1 1 130 72 22.7 モルドバ 8 1 7 5 1 0 300 145 7.5 モロッコ 3 0 11 12 0 0 141 89 1.4 モザンビーク 1 0 17 28 9 11 477 443 .. ミャンマー 0 0 7 14 0 1 231 181 10.2 ネパール 0 0 10 18 11 3 182 155 2.8 オランダ 0 0 7 4 1 0 75 56 1.1 ニュージーランド 1 0 11 11 0 1 87 58 1.1 ニカラグア 3 0 21 17 6 2 194 109 13.6 ニジェール 5 0 9 13 15 14 309 267 3.8 ナイジェリア 0 0 18 24 23 16 387 359 12.2 ノルウェー 0 0 4 3 0 0 82 50 0.6 パキスタン 0 0 31 46 6 3 188 157 7.6 パナマ 0 0 8 21 2 0 131 69 21.6 パプアニューギニア 5 3 15 13 4 3 310 233 13.0 パラグアイ 3 3 8 10 1 7 166 119 11.5 ペルー 0 0 23 21 4 3 156 96 10.3 フィリピン 3 0 100 163 5 7 257 142 5.4 ポーランド 0 0 7 13 0 0 198 76 1.1 ポルトガル 0 0 7 6 0 0 122 53 1.2 ルーマニア 5 1 18 29 2 1 179 73 2.0 ロシア 1 1 49 37 9 1 367 137 10.2 ルワンダ 2 0 6 8 7 2 345 312 17.1 サウジアラビア 3 2 1 10 3 0 122 94 .. セネガル 4 0 8 11 4 3 287 235 8.7 セルビア 1 0 6 4 2 0 147 81 1.2 シエラレオネ 6 0 2 6 10 4 459 438 14.9 シンガポール 1 2 0 0 2 1 75 44 0.4 スロバキア 3 1 5 7 0 0 184 74 1.5 ソマリア 0 0 12 25 14 9 365 309 1.5 南アフリカ 3 0 28 20 4 3 572 574 31.8 南スーダン 0 0 .. .. .. .. .. .. .. スペイン 0 3 16 12 2 1 94 43 0.8 スリ · ランカ 0 0 17 24 3 3 182 78 3.6 スーダン 0 0 17 17 11 17 262 208 24.2 主要指標 361 1 人当たり GDP 成長率の 1 人当たり家計消費 リスク準 貧困比率 変動性 増加率の変動性 備指数 1日 2.50 ドル ,PPP 1日10ドル ,PPP 対人口比 (%) 対人口比 (%) 標準偏差 標準偏差 1-100 の尺度 1990b 2010c 1990b 2010c 1990s 2000s 1990s 2000s 2013 イラク .. 36.4 .. 97.4 .. 20.52 .. .. 38 アイルランド .. .. .. .. 3.02 4.12 2.43 3.98 85 イスラエル .. .. .. .. 1.19 2.79 .. 2.36 76 イタリア .. .. .. .. 0.99 2.43 1.85 1.15 72 日本 .. .. .. .. 2.02 2.49 1.45 0.98 80 ヨルダン 24.6 5.4 89.3 81.9 5.25 2.10 11.89 5.08 64 カザフスタン .. 4.2 .. 87.4 6.41 3.78 11.39 4.34 78 ケニア 68.6 76.6 97.3 98.4 1.88 2.15 4.32 3.02 29 韓国 .. .. .. .. 4.77 2.09 7.16 3.25 78 キルギス 37.2 34.4 86.5 96.5 10.66 3.19 13.36 9.74 55 ラオス .. 78.1 .. 99.1 1.34 1.09 .. 5.05 38 レバノン .. .. .. .. 10.77 3.16 .. 3.84 40 リベリア .. 97.0 .. 99.9 38.04 16.65 .. 16.98 10 リビア .. .. .. .. .. 4.74 .. .. .. リトアニア .. 0.9 .. 41.7 11.52 6.88 .. 9.36 79 マダガスカル 92.7 95.4 99.6 99.8 3.11 6.20 3.15 3.80 12 マラウイ .. 88.5 .. 99.4 7.62 3.82 .. .. 39 マレーシア 18.3 6.2 80.8 55.1 5.18 2.71 6.28 3.21 67 マリ 95.9 87.2 99.7 100.0 3.52 2.45 4.31 .. 18 モーリタニア 74.9 60.9 99.0 97.8 4.57 4.97 .. 8.88 19 メキシコ 21.8 8.8 77.9 67.5 3.61 3.32 7.08 3.74 56 モルドバ .. 10.7 .. 87.8 14.13 3.92 .. 8.19 57 モロッコ 26.3 24.5 90.6 91.6 6.22 1.84 7.05 2.14 51 モザンビーク .. 88.4 .. 99.5 4.72 2.37 7.08 6.86 12 ミャンマー .. .. .. .. 3.17 .. .. .. 30 ネパール .. 71.8 .. 99.3 1.44 1.58 .. .. 23 オランダ .. .. .. .. 1.15 2.12 1.67 1.44 93 ニュージーランド .. .. .. .. 3.31 1.90 3.07 1.77 89 ニカラグア 46.0 43.8 93.1 95.1 3.02 1.93 13.59 1.94 39 ニジェール 94.8 85.0 99.8 99.5 4.18 3.26 6.22 .. 18 ナイジェリア 86.9 86.3 100.0 99.8 2.13 2.41 .. .. 27 ノルウェー .. .. .. .. 1.24 1.72 1.52 1.72 94 パキスタン 93.3 76.4 99.9 99.3 1.82 1.95 3.79 4.90 33 パナマ 34.0 18.8 79.7 72.1 2.53 3.55 8.77 5.82 56 パプアニューギニア .. .. .. .. 7.62 3.60 12.39 .. 22 パラグアイ 7.7 18.4 68.5 73.2 1.91 5.36 3.82 6.12 50 ペルー .. 18.3 .. 73.2 5.04 3.08 5.22 2.24 52 フィリピン 66.4 53.3 97.4 95.5 2.35 1.73 0.92 1.02 45 ポーランド 0.6 0.5 68.1 48.7 4.43 1.71 1.91 1.29 76 ポルトガル .. .. .. .. 2.20 1.77 2.06 2.10 77 ルーマニア .. 4.3 .. 85.3 6.42 4.97 8.12 7.56 65 ロシア 12.9 0.3 70.7 45.4 6.54 4.58 3.31 4.92 71 ルワンダ 93.6 88.3 100.0 99.8 24.31 2.70 8.77 5.47 26 サウジアラビア .. .. .. .. 2.89 2.50 .. .. 83 セネガル 86.9 67.5 99.0 98.3 2.54 1.68 3.31 4.49 26 セルビア .. 1.3 .. 61.3 17.42 2.98 .. 4.75 61 シエラレオネ 80.8 87.6 99.1 99.6 9.09 5.54 .. .. 14 シンガポール .. .. .. .. 3.73 4.99 4.31 3.57 72 スロバキア .. 0.2 .. 44.1 7.16 3.71 .. 2.63 79 ソマリア .. .. .. .. .. .. .. .. .. 南アフリカ 48.9 39.5 85.5 79.5 2.01 1.91 2.16 2.58 45 南スーダン .. .. .. .. .. .. .. .. .. スペイン .. .. .. .. 1.69 2.19 1.96 2.41 82 スリ · ランカ 66.4 38.2 98.9 96.1 1.00 1.98 4.32 2.91 51 スーダン .. 58.5 .. 98.8 4.19 1.90 1.76 5.71 22 362 世界開発報告 2014 表 3 主要リスク指標(続き) 自然災害 大不況 (干魃、地震、洪水、嵐) 流行病 成人死亡率 殺人率 不況の状態に 男(1000 人 女(1000 人 人口 10 万人 あった年数 発生件数 発生件数 当たり) 当たり) 当たり 1991-2000 2001-10 1993-2002 2003-12 1993-2002 2003-12 2007-11a 2007-11a 2010 スウェーデン 3 2 2 1 1 1 71 44 1.0 スイス 0 0 9 10 0 1 76 42 0.7 シリアアラブ共和国 1 0 2 3 0 0 108 70 2.3 タジキスタン 6 1 16 18 3 2 221 125 2.1 タンザニア 4 0 17 21 12 8 351 331 24.5 タイ 2 0 44 38 1 5 201 99 5.3 トーゴ 6 2 5 6 6 3 335 292 10.9 チュニジア 0 0 .. .. .. .. 121 68 1.1 トルコ 1 3 29 32 0 2 133 74 3.3 トルクメニスタン 7 0 2 0 0 0 302 158 .. ウガンダ 0 0 13 15 11 17 393 377 36.3 ウクライナ 8 1 11 9 3 0 334 128 5.2 アラブ首長国連邦 5 0 .. .. .. .. 89 67 .. イギリス 0 2 27 19 1 1 95 58 1.2 アメリカ 0 2 211 184 3 1 135 79 4.8 ウルグアイ 2 2 10 5 0 0 130 58 6.1 ウズベキスタン 6 0 1 2 1 0 242 138 3.1 ベネズエラ 4 4 12 17 1 1 169 87 45.1 ベトナム 0 0 48 67 3 5 129 87 1.6 ヨルダン川西岸とガザ 0 0 .. .. .. .. 140 103 .. イエメン 0 0 13 12 1 1 226 182 4.2 ザンビア 6 0 4 12 7 7 486 489 38.0 ジンバブエ 4 7 6 10 10 10 517 571 14.3 世界 全体 1u 1u 2,561s 3,132s 560s 425s 207w 147w 5.7w 低所得国 3 1 387 640 275 214 291 254 14.5 中所得国 1 0 1,431 1,809 251 191 199 134 6.2 低中所得国 2 0 659 888 179 133 240 171 4.8 高中所得国 1 0 772 921 72 58 160 100 7.2 低・中所得国 2 1 1,818 2,449 526 405 210 150 5.8 高額所得国 0 1 743 683 34 20 147 72 4.0 a.2007-11 年の間で入手可能な最新年のデータ. b.国データは 1985-95 年の間で 1990 年に最も近い年のもの. c.国データは 2001-11 年の間で最新のもの. d.都市部のみ. e.1990 年の所得分類に基づく. 主要指標 363 1 人当たり GDP 成長率の 1 人当たり家計消費 リスク準 貧困比率 変動性 増加率の変動性 備指数 1日 2.50 ドル ,PPP 1日10ドル ,PPP 対人口比 (%) 対人口比 (%) 標準偏差 標準偏差 1-100 の尺度 1990b 2010c 1990b 2010c 1990s 2000s 1990s 2000s 2013 スウェーデン .. .. .. .. 2.65 3.03 2.64 1.73 96 スイス .. .. .. .. 1.58 1.85 1.03 0.70 87 シリアアラブ共和国 .. 29.0 .. 94.2 4.07 1.90 6.97 .. 46 タジキスタン .. 42.2 .. 98.3 13.22 9.17 30.57 3.96 46 タンザニア 95.2 92.8 100.0 99.8 2.09 0.72 4.47 34.86 32 タイ 50.1 9.6 93.9 81.2 6.62 2.79 6.88 2.02 62 トーゴ .. 64.9 .. 98.6 8.93 2.47 12.54 6.51 28 チュニジア 28.5 8.3 92.0 78.8 2.03 2.28 2.03 2.41 59 トルコ 14.7 8.3 84.9 67.9 4.87 5.12 5.17 5.09 70 トルクメニスタン 67.5 .. 100.0 .. 15.40 4.36 .. .. .. ウガンダ 90.9 76.0 99.7 98.7 2.27 1.80 3.35 3.91 25 ウクライナ 14.2 0.2 84.3 56.3 7.73 7.07 9.87 9.00 71 アラブ首長国連邦 .. .. .. .. 4.79 6.08 .. 8.11 88 イギリス .. .. .. .. 1.77 2.41 2.11 2.61 82 アメリカ .. .. .. .. 1.55 2.03 1.55 1.77 91 ウルグアイ 3.8 2.8 48.6 48.5 3.66 5.03 5.64 8.20 73 ウズベキスタン .. .. .. .. 5.41 1.82 .. .. 54 ベネズエラ 20.2 18.8 83.2 80.2 4.66 7.67 4.42 8.17 52 ベトナム 91.3 58.2 99.8 98.2 1.72 0.91 .. 2.39 56 ヨルダン川西岸とガザ .. 1.3 .. 65.1 .. .. .. .. 46 イエメン .. 61.7 .. 98.4 1.19 4.64 .. .. 30 ザンビア 82.0 90.6 99.0 99.3 4.68 1.27 17.90 15.81 25 ジンバブエ .. .. .. .. 5.58 8.99 .. .. 25 世界 全体 w w w w 3.23 w 2.42 w 3.45 w 2.70 w 55 u 低所得国 90.0 83.2 99.4 99.3 3.83 2.88 .. .. 23 中所得国 73.6 48.1 95.1 89.8 3.32 2.32 3.61 2.47 52 低中所得国 82.1 68.5 98.4 97.2 2.98 2.14 3.11 2.56 43 高中所得国 65.8 26.8 92.0 82.0 3.64 2.50 4.03 2.38 61 低・中所得国 71.7e 50.0e 94.2e 88.8e 3.37 2.38 3.79 2.83 44 高額所得国 .. .. .. .. 2.72 2.58 2.22 2.21 81 364 世界開発報告 2014 表 4 家計レベルにおけるリスク管理に関連した主要指標 5 歳未満児 妊産婦 教育達成度 教育の質 死亡率 死亡率 社会保証へのアクセス 貯蓄 25 歳以上成人に占める PISA 平均点, PISA 平均点, 修了者の割合 (%) 数学 読み 生産児 1000 生産児 10 万 60 歳以上成 前年に貯蓄し 初等教育 中等教育 高等教育 (中位数) (中位数) 人当たり 人当たり 調査年 人への適用率 た人の割合 2010 2010 2010 2009 2009 2011 2010 2011 アフガニスタン 8.2 5.2 5.3 .. .. 101 460 2006 8.5 14.6 アルバニア 9.6 30.6 5.0 377 385 14 27 2009 103.7 22.7 アルジェリア 1.4 34.5 5.6 .. .. 30 97 2002 42.9 20.9 アンゴラ .. .. .. .. .. 158 450 .. .. 36.6 アルゼンチン 32.0 30.8 3.3 388 398 14 77 2010 103.8 24.4 アルメニア 4.8 64.6 12.7 .. .. 18 30 2008 74.2 10.5 オーストラリア 2.1 39.0 22.4 514 515 5 7 .. .. 68.3 オーストリア 17.2 45.3 9.5 496 470 4 4 2006 85.1 78.3 アゼルバイジャン .. .. .. 431 362 45 43 2007 104.6 10.8 バングラデシュ 21.5 18.4 3.0 .. .. 46 240 2011 73.6 26.8 ベラルーシ .. .. .. .. .. 6 4 2008 116.0 26.4 ベルギー 11.1 33.3 20.4 515 506 4 8 2006 61.1 57.8 ベナン 10.1 12.4 2.0 .. .. 106 350 2004 2.9 32.4 ボリビア 11.8 35.5 9.5 .. .. 51 190 2007 70.0 44.2 ボスニア · ヘルツェゴビナ .. .. .. .. .. 8 8 2009 22.2 13.5 ブラジル 26.2 25.1 5.2 386 412 16 56 2010 68.7 21.1 ブルガリア 24.4 27.1 12.1 428 429 12 11 2008 92.4 10.9 ブルキナファソ .. .. .. .. .. 146 300 2005 2.6 38.0 ブルンジ 20.7 3.4 0.6 .. .. 139 800 2004 6.3 25.2 カンボジア 33.3 5.3 0.5 .. .. 43 250 2005 2.9 31.0 カメルーン 31.0 13.5 1.6 .. .. 127 690 2002 4.4 51.9 カナダ 2.6 37.5 28.0 527 524 6 12 2007 54.5 65.5 中央アフリカ共和国 16.5 8.5 1.2 .. .. 164 890 2003 4.4 25.4 チャド .. .. .. .. .. 169 1,100 2001 0.6 28.7 チリ 13.6 29.7 11.7 421 449 9 25 2010 60.9 27.1 中国 17.7 40.3 3.9 .. .. 15 37 2010 59.2 38.4 香港 14.3 35.4 7.3 555 533 .. .. 2005 38.5 59.0 コロンビア 28.9 31.8 8.5 381 413 18 92 2010 17.8 32.9 コンゴ民主共和国 8.4 7.9 1.1 .. .. 168 540 .. .. 24.1 コンゴ共和国 8.0 8.9 1.3 .. .. 99 560 2001 5.6 30.4 コスタリカ 29.7 19.4 13.2 .. .. 10 40 2009 42.9 41.0 トジボワール コー​​ 17.8 6.4 3.9 .. .. 115 400 2004 6.6 .. クロアチア 17.1 29.2 5.3 460 476 5 17 2010 60.6 21.9 チェコ共和国 10.0 65.2 5.6 493 478 4 5 2007 91.6 49.0 デンマーク 28.3 26.8 12.5 503 495 4 12 2006 82.7 72.6 ドミニカ共和国 7.8 8.1 4.5 .. .. 25 150 2008 5.7 37.3 エクアドル 29.1 16.1 10.5 .. .. 23 110 2009 38.4 30.2 エジプト 6.4 22.3 5.7 .. .. 21 66 2004 31.1 8.1 エルサルバドル 15.9 16.9 8.5 .. .. 15 81 2010 14.6 25.9 エリトリア .. .. .. .. .. 68 240 .. .. .. エチオピア .. .. .. .. .. 77 350 .. .. .. フィンランド 22.1 26.4 13.1 541 536 3 5 2006 81.2 68.7 フランス 6.5 40.1 10.6 497 496 4 8 2006 103.1 61.8 グルジア .. .. .. .. .. 21 67 .. .. 7.0 ドイツ 2.8 55.4 12.8 513 497 4 7 2006 86.1 67.3 ガーナ 8.0 17.5 2.1 .. .. 78 350 2010 8.1 36.6 ギリシャ 28.2 32.3 22.4 466 483 4 3 2006 75.1 27.8 グアテマラ 16.4 9.7 2.2 .. .. 30 120 2008 6.9 24.8 ギニア .. .. .. .. .. 126 610 2001 2.9 27.1 ハイチ 4.6 22.4 0.8 .. .. 70 350 .. .. 31.6 ホンジュラス 35.3 13.3 4.0 .. .. 21 100 2009 2.7 21.8 ハンガリー 3.9 52.2 12.6 490 494 6 21 2008 95.3 26.7 インド 16.6 0.8 4.1 .. .. 61 200 2010 23.7 22.4 インドネシア 32.0 11.1 1.7 371 402 32 220 2010 5.6 40.5 イランイスラム共和国 12.5 24.4 12.9 .. .. 25 21 2001 16.3 32.3 主要指標 365 表 4 家計レベルにおけるリスク管理に関連した主要指標(続き) 5 歳未満児 妊産婦 教育達成度 教育の質 死亡率 死亡率 社会保証へのアクセス 貯蓄 25 歳以上成人に占める PISA 平均点, PISA 平均点, 修了者の割合 (%) 数学 読み 生産児 1000 生産児 10 万 60 歳以上成 前年に貯蓄し 初等教育 中等教育 高等教育 (中位数) (中位数) 人当たり 人当たり 調査年 人への適用率 た人の割合 2010 2010 2010 2009 2009 2011 2010 2011 イラク 20.4 11.8 6.5 .. .. 38 63 2009 3.9 26.2 アイルランド 10.9 32.4 20.2 487 496 4 6 2006 56.7 64.6 イスラエル 17.0 26.1 24.3 447 474 4 7 .. .. 44.9 イタリア 19.0 32.5 6.6 483 486 4 4 2006 84.6 26.4 日本 14.0 30.3 24.0 529 520 3 5 2003 83.5 63.3 ヨルダン 8.0 38.0 6.4 387 405 21 63 2006 19.2 18.2 カザフスタン 3.2 39.5 11.8 405 390 28 51 2009 106.8 21.9 ケニア 40.7 0.6 2.0 .. .. 73 360 2006 6.9 40.1 韓国 10.2 36.8 17.9 546 539 5 16 2005 28.1 64.5 キルギス 10.1 35.9 8.4 331 314 31 71 2008 103.9 36.4 ラオス 20.8 5.7 3.2 .. .. 42 470 2005 5.7 54.5 レバノン .. .. .. .. .. 9 25 2003 9.1 30.8 リベリア 6.2 5.8 5.3 .. .. 78 770 .. .. 34.9 リビア 21.4 19.4 10.3 .. .. 16 58 .. .. .. リトアニア 4.0 55.5 16.4 477 468 6 8 2010 102.3 32.7 マダガスカル .. .. .. .. .. 62 240 .. .. 19.7 マラウイ 12.6 8.1 0.3 .. .. 83 460 .. .. 33.0 マレーシア 12.9 33.8 5.0 .. .. 7 29 2007 54.7 51.0 マリ 6.3 2.5 1.2 .. .. 176 540 2010 20.0 37.4 モーリタニア 23.7 6.3 1.5 .. .. 112 510 2002 6.8 22.9 メキシコ 18.9 17.7 13.9 419 425 16 50 2010 18.6 27.1 モルドバ 4.5 39.2 9.0 .. .. 16 41 2009 83.3 22.2 モロッコ 17.5 9.9 5.9 .. .. 33 100 2007 13.2 30.5 モザンビーク 12.5 1.6 0.3 .. .. 103 490 2004 8.8 42.6 ミャンマー 24.3 9.0 4.0 .. .. 62 200 .. .. .. ネパール 9.8 6.3 2.0 .. .. 48 170 2006 39.2 18.4 オランダ 7.6 40.5 16.5 526 508 4 6 2007 77.5 73.1 ニュージーランド 20.7 15.9 24.4 519 521 6 15 2007 68.5 72.6 ニカラグア 8.1 11.5 10.0 .. .. 26 95 2008 13.8 26.1 ニジェール 9.8 2.1 0.7 .. .. 125 590 2006 4.8 25.1 ナイジェリア .. .. .. .. .. 124 630 .. .. 64.4 ノルウェー 0.5 45.7 14.6 498 503 3 7 2006 70.3 .. パキスタン 14.3 19.0 5.2 .. .. 72 260 2012 4.1 7.5 パナマ 21.3 24.6 16.4 360 371 20 92 2009 32.0 34.9 パプアニューギニア 40.8 4.7 0.8 .. .. 58 230 2005 0.8 .. パラグアイ 25.4 30.4 3.1 .. .. 22 99 2004 2.9 18.1 ペルー 7.2 27.5 16.6 365 370 18 67 2008 20.0 29.1 フィリピン 18.0 19.9 22.4 .. .. 25 99 2007 13.0 45.5 ポーランド 15.9 11.4 9.1 495 500 6 5 2009 71.7 30.8 ポルトガル 42.4 13.6 3.8 487 489 3 8 2006 86.7 33.7 ルーマニア 1.4 40.2 6.5 427 424 13 27 2009 76.7 18.2 ロシア 2.4 30.2 23.3 468 459 12 34 2007 120.5 22.7 ルワンダ 27.0 3.4 0.7 .. .. 54 340 2004 7.0 30.5 サウジアラビア 15.3 24.0 8.7 .. .. 9 24 .. .. 33.4 セネガル 31.1 6.0 2.3 .. .. 65 370 2010 34.5 15.4 セルビア 25.5 28.4 7.6 442 442 7 12 2007 32.7 14.9 シエラレオネ 8.7 1.2 0.9 .. .. 185 890 .. .. 32.6 シンガポール 16.6 15.8 12.2 562 526 3 3 2009 30.1 60.9 スロバキア 10.6 36.7 6.5 497 477 8 6 2008 115.1 49.3 ソマリア .. .. .. .. .. 180 1,000 .. .. 21.8 南アフリカ 6.2 22.0 0.6 .. .. 47 300 2010 81.7 31.5 南スーダン .. .. .. .. .. 121 .. .. .. .. スペイン 18.9 21.9 16.6 483 481 4 6 2006 67.9 46.3 スリ · ランカ 8.4 47.1 10.5 .. .. 12 35 2010 20.9 36.3 スーダン 25.7 4.1 1.7 .. .. 86a 730 2003 4.0 22.7 366 世界開発報告 2014 表 4 家計レベルにおけるリスク管理に関連した主要指標(続き) 5 歳未満児 妊産婦 教育達成度 教育の質 死亡率 死亡率 社会保証へのアクセス 貯蓄 25 歳以上成人に占める PISA 平均点, PISA 平均点, 修了者の割合 (%) 数学 読み 生産児 1000 生産児 10 万 60 歳以上成 前年に貯蓄し 初等教育 中等教育 高等教育 (中位数) (中位数) 人当たり 人当たり 調査年 人への適用率 た人の割合 2010 2010 2010 2009 2009 2011 2010 2011 スウェーデン 8.2 52.3 16.7 494 497 3 4 2006 81.4 82.8 スイス 15.6 41.4 12.4 534 501 4 8 .. .. .. シリアアラブ共和国 14.5 5.2 2.3 .. .. 15 70 .. .. 48.3 タジキスタン 4.9 43.7 4.6 .. .. 63 65 2004 98.5 13.8 タンザニア 49.0 1.2 0.6 .. .. 68 460 2005 0.1 40.1 タイ 27.4 10.1 8.8 419 421 12 48 2010 73.5 60.0 トーゴ 21.4 12.2 1.8 .. .. 110 300 2003 3.7 19.6 チュニジア 18.0 15.1 6.2 371 404 16 56 2005 34.6 25.1 トルコ 45.8 17.7 5.9 445 464 15 20 2008 92.2 9.6 トルクメニスタン .. .. .. .. .. 53 67 .. .. 44.5 ウガンダ 24.5 3.1 2.6 .. .. 90 310 2003 0.5 44.4 ウクライナ 4.2 41.3 25.3 .. .. 10 32 2010 111.3 25.0 アラブ首長国連邦 11.7 32.1 10.1 .. .. 7 12 .. .. 30.1 イギリス 24.2 1.3 13.6 492 494 5 12 .. .. 56.7 アメリカ 1.9 36.2 31.6 487 500 8 21 2008 58.1 66.8 ウルグアイ 35.3 18.6 6.4 427 426 10 29 2010 65.3 16.9 ウズベキスタン .. .. .. .. .. 49 28 2005 136.1 31.4 ベネズエラ 27.9 4.6 4.1 .. .. 15 92 2006 18.6 28.4 ベトナム 38.5 11.4 3.0 .. .. 22 59 2008 30.7 35.3 ヨルダン川西岸 / ガザ .. .. .. .. .. 22 64 2009 5.5 16.2 イエメン 8.6 6.1 1.9 .. .. 77 200 2006 8.5 11.9 ザンビア 29.8 10.0 1.0 .. .. 83 440 2003 4.2 32.2 ジンバブエ 21.8 9.4 0.7 .. .. 67 570 2005 3.7 39.9 世界全体 16.7 w 24.1 w 8.7w     51w 210w   46.0w 35.9w 低所得国 21.0 10.2 2.3     95 410   .. 29.9 中所得国 18.9 22.4 5.3     46 190   40.0 31.0 低中所得国 18.7 8.1 5.2     62 260   22.3 27.5 上中所得国 19.1 33.8 5.4     20 64   56.8 34.5 低 / 中所得国 19.1 21.3 5.1     56 240   39.1 30.9 高額所得 9.3 32.9 20.0     6 16   77.0 53.9 a.南スーダンを除く. 主要指標 367 表 5 企業部門レベルにおけるリスク管理に関連した主要指標 賃金雇用 財市場の効率性 労働市場の効率性 年金拠出 公式生産 賃金・給与労働者が総雇 用に占める割合 経済に占める割合 (%、年平均) 1-7 の尺度 1-7 の尺度 (%,年平均) 労働力に占め 1991-2000 2001-10 2006-07 2012-13 2006-07 2012-13 調査年 る割合 (%) 1999-2003 2004-07 アフガニスタン .. .. .. .. .. .. 2006 3.7 .. .. アルバニア .. .. 3.46 4.33 4.05 4.40 2008 37.9 65.0 66.6 アルジェリア .. 46 3.66 2.99 3.52 2.79 2007 74.6 66.4 68.8 アンゴラ .. .. .. .. .. .. .. .. 51.9 55.5 アルゼンチン 71 75 3.66 3.18 3.44 3.29 2010 47.0 73.9 75.8 アルメニア 55 52 3.74 4.22 4.59 4.72 2008 32.1 54.7 57.6 オーストラリア 85 87 5.39 4.87 4.84 4.60 2005 90.7 85.8 86.4 オーストリア 86 87 5.33 4.91 4.47 4.69 2005 93.7 90.2 90.3 アゼルバイジャン .. 37 3.81 4.31 4.47 4.80 2007 35.4 39.8 44.7 バングラデシュ 13 14 3.88 4.10 4.12 3.91 2004 2.5 64.3 65.2 ベラルーシ .. .. .. .. .. .. 2008 93.5 52.2 55.3 ベルギー 83 85 5.18 5.12 4.02 4.54 2005 91.4 77.8 78.4 ベナン .. 10 3.60 3.66 3.76 4.40 2005 5.5 50.0 50.5 ボリビア 48 35 3.16 3.40 3.73 3.58 2009 12.2 32.6 35.6 ボスニア · ヘルツェゴビナ .. 73 3.52 3.92 4.21 4.08 2009 24.5 66.0 66.9 ブラジル 62 64 3.82 3.94 3.91 4.39 2010 59.3 60.0 62.2 ブルガリア 83 86 3.75 4.17 4.12 4.54 2008 78.7 63.5 66.2 ブルキナファソ 4 6 3.70 3.80 4.18 4.42 2009 .. 58.9 60.2 ブルンジ 6 5 2.94 3.28 4.21 3.97 2006 3.5 60.6 60.4 カンボジア 15 21 3.97 4.42 4.76 4.78 2010 0.5 50.1 52.7 カメルーン 14 19 3.55 4.15 3.82 4.48 2006 16.2 67.5 68.5 カナダ 84 86 5.34 5.12 5.21 5.45 2009 87.4 84.1 84.6 中央アフリカ共和国 .. .. .. .. .. .. 2003 1.5 56.1 53.7 チャド 5 .. 2.67 3.08 3.73 4.12 2005 2.7 54.6 58.4 チリ 70 71 4.94 4.74 4.87 4.68 2010 57.7 80.3 81.2 中国 .. .. 4.17 4.31 4.27 4.60 2010 33.5 87.0 87.7 香港 89 88 5.80 5.44 5.59 5.65 2009 78.9 83.4 84.7 コロンビア 65 49 3.94 3.98 4.20 4.17 2010 27.8 61.2 64.6 コンゴ民主共和国 .. .. .. .. .. .. 2009 .. 52.3 53.2 コンゴ共和国 .. 22 .. .. .. .. 2008 9.7 52.3 55.3 コスタリカ 71 71 4.27 4.30 4.72 4.51 2010 58.6 73.8 74.9 トジボワール コー​​ .. 20 .. 3.78 .. 4.38 2004 12.8 55.9 53.5 クロアチア 74 77 3.99 3.85 4.25 4.00 2010 76.0 67.0 69.0 チェコ共和国 86 83 4.69 4.53 4.62 4.32 2007 95.4 81.0 82.4 デンマーク 90 91 5.45 5.03 5.45 5.22 2007 92.9 81.9 82.7 ドミニカ共和国 56 52 3.67 3.97 3.99 4.00 2010 26.9 67.8 68.6 エクアドル 54 53 3.27 3.70 3.61 3.49 2007 26.4 66.3 69.2 エジプト 59 60 3.96 3.76 3.22 3.06 2009 55.1 64.6 65.8 エルサルバドル 55 55 4.39 4.21 4.53 3.86 2010 22.9 54.0 56.0 エリトリア .. .. .. .. .. .. .. .. 60.5 59.1 エチオピア 7 8 3.44 3.79 4.13 4.18 .. .. 60.0 63.1 フィンランド 85 87 5.40 5.05 4.70 5.00 2005 89.7 82.0 82.7 フランス 87 89 5.10 4.47 4.06 4.41 2005 87.3 84.8 85.2 グルジア 41 35 3.75 4.18 4.25 4.67 .. .. 32.8 35.9 ドイツ 89 88 5.31 4.92 4.35 4.51 2005 86.9 83.9 84.3 ガーナ .. 20 .. 4.20 .. 4.08 2012 8.7 58.3 60.7 ギリシャ 55 63 4.28 3.92 3.63 3.56 2005 86.0 71.8 73.3 グアテマラ 51 43 3.72 4.29 3.68 4.16 2008 20.3 48.7 50.6 ギニア .. .. .. 3.71 .. 4.49 2005 12.1 60.8 61.3 ハイチ .. .. .. 3.03 .. 4.24 2010 8.1 44.2 42.9 ホンジュラス 48 47 3.45 4.10 3.96 3.52 2009 17.3 50.4 53.3 ハンガリー 85 87 4.42 4.28 4.50 4.27 2008 92.0 75.2 76.1 インド 15 17 4.60 4.21 3.90 4.24 2006 10.3 77.2 78.6 インドネシア 34 33 4.69 4.29 4.34 3.87 2010 11.0 80.6 81.6 イランイスラム共和国 52 52 .. 4.00 .. 3.18 2010 40.5 81.2 82.3 368 世界開発報告 2014 表 5 企業部門レベルにおけるリスク管理に関連した主要指標 ( 続き ) 賃金雇用 財市場の効率性 労働市場の効率性 年金拠出 公式生産 賃金・給与労働者が総雇 用に占める割合 経済に占める割合 (%、年平均) 1-7 の尺度 1-7 の尺度 (%,年平均) 労働力に占め 1991-2000 2001-10 2006-07 2012-13 2006-07 2012-13 調査年 る割合 (%) 1999-2003 2004-07 イラク .. .. .. .. .. .. 2009 43.1 .. .. アイルランド 78 83 5.48 5.24 4.85 5.00 2005 88.9 84.0 84.4 イスラエル 85 87 5.08 4.51 4.93 4.61 2008 89.1 77.5 78.6 イタリア 71 73 4.30 4.29 3.55 3.72 2005 90.1 72.9 73.1 日本 81 85 5.21 4.98 5.20 4.89 2005 95.4 88.7 89.4 ヨルダン .. 83 4.42 4.50 4.04 4.02 2010 52.9 80.9 82.3 カザフスタン .. 63 4.28 4.24 4.93 4.98 2009 62.5 57.5 60.6 ケニア 33 .. 4.00 4.10 4.19 4.62 2009 .. 65.7 68.3 韓国 62 67 4.83 4.75 4.40 4.35 2011 79.9 72.6 73.9 キルギス .. 48 3.50 3.78 4.26 4.36 2008 40.4 58.9 60.4 ラオス 10 12 .. .. .. .. 2008 1.4 69.7 71.3 レバノン .. 62 .. 4.57 .. 4.00 2003 34.5 66.3 67.6 リベリア .. 17 .. 4.54 .. 4.45 .. .. 56.3 55.3 リビア .. .. .. 3.45 .. 3.46 2003 68.5 65.4 67.5 リトアニア 80 84 4.38 4.36 4.43 4.41 2009 82.9 66.9 69.3 マダガスカル 13 14 3.49 3.84 4.33 4.50 2009 5.3 58.7 59.8 マラウイ .. .. .. 3.86 .. 4.58 .. .. 57.9 58.6 マレーシア 73 75 5.26 5.16 4.90 4.82 2010 53.5 68.5 69.8 マリ .. 11 3.58 3.87 4.00 3.89 2010 7.9 58.9 59.9 モーリタニア .. .. 3.32 3.58 4.06 3.60 2000 13.1 64.2 66.3 メキシコ 59 65 4.12 4.20 3.89 4.01 2010 27.8 69.6 70.5 モルドバ 65 65 .. 3.98 .. 4.26 2011 71.0 55.2 56.1 モロッコ 43 41 3.89 4.27 3.37 3.84 2011 29.1 64.2 66.2 モザンビーク .. 9 3.31 3.77 3.98 3.72 2006 1.9 59.7 60.9 ミャンマー .. .. .. .. .. .. .. .. 48.9 51.6 ネパール .. 25 3.75 3.78 3.64 3.75 2011 .. 63.1 63.6 オランダ 88 87 5.34 5.29 4.63 4.99 2005 90.7 86.8 86.9 ニュージーランド 79 82 5.56 5.35 5.19 5.19 .. .. 87.4 88.0 ニカラグア 58 49 3.46 3.79 3.86 3.98 2008 21.7 54.7 56.4 ニジェール .. 5 .. .. .. .. 2006 1.9 59.1 60.3 ナイジェリア .. .. 4.13 4.16 4.11 4.50 2010 .. 42.5 46.0 ノルウェー 91 92 5.04 4.79 4.97 4.98 2005 93.2 80.9 81.7 パキスタン 35 38 4.20 4.02 3.70 3.65 2009 .. 63.2 65.6 パナマ 66 66 4.22 4.59 4.01 4.17 .. .. 35.4 38.3 パプアニューギニア .. .. .. .. .. .. 2009 4.4 63.5 63.1 パラグアイ 58 47 3.33 4.19 3.47 3.92 2004 12.4 60.7 62.0 ペルー 52 58 3.98 4.37 4.03 4.56 2009 21.7 40.4 43.9 フィリピン 50 51 4.24 4.17 3.85 4.01 2011 26.3 57.1 60.1 ポーランド 71 75 4.26 4.39 4.44 4.48 2008 81.4 72.4 73.4 ポルトガル 72 75 4.49 4.31 4.12 3.80 2005 92.0 77.2 76.9 ルーマニア 62 64 4.04 3.86 4.01 4.01 2008 67.9 66.3 68.9 ロシア 93 92 3.84 3.62 4.44 4.23 2011 65.1 54.7 58.1 ルワンダ 6 .. .. 4.54 .. 5.10 2004 4.6 59.6 60.5 サウジアラビア .. .. .. 5.12 .. 4.47 2010 .. 81.3 82.7 セネガル 11 22 .. 4.20 .. 4.27 2008 .. 55.2 57.6 セルビア .. 70 .. 3.57 .. 4.04 2007 45.0 .. .. シエラレオネ .. 8 .. 3.84 .. 3.92 2004 5.5 53.0 56.2 シンガポール 85 85 5.79 5.60 5.65 5.80 2009 62.1 86.8 87.5 スロバキア 93 88 4.59 4.37 4.73 4.20 2003 78.9 81.3 82.6 ソマリア .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. 南アフリカ .. 83 4.74 4.68 4.04 3.94 2010 6.7 71.8 73.8 南スーダン .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. スペイン 76 82 4.67 4.37 4.01 3.98 2005 69.4 77.4 77.6 スリ · ランカ 59 57 4.13 4.33 3.28 3.66 2006 24.1 55.5 56.9 スーダン .. .. .. .. .. .. 2005 5.2 65.9 .. 主要指標 369 表 5 企業部門レベルにおけるリスク管理に関連した主要指標 ( 続き ) 賃金雇用 財市場の効率性 労働市場の効率性 年金拠出 公式生産 賃金・給与労働者が総雇 用に占める割合 経済に占める割合 (%、年平均) 1-7 の尺度 1-7 の尺度 (%,年平均) 労働力に占め 1991-2000 2001-10 2006-07 2012-13 2006-07 2012-13 調査年 る割合 (%) 1999-2003 2004-07 スウェーデン 89 89 5.22 5.14 4.47 4.81 2005 88.8 80.9 81.7 スイス 83 84 5.24 5.26 5.58 5.90 2005 95.4 91.3 91.6 シリアアラブ共和国 .. 58 .. .. .. .. 2008 26.8 80.8 81.2 タジキスタン .. 53 3.50 4.04 4.12 4.55 .. .. 57.1 58.7 タンザニア 9 9 3.92 3.89 4.33 4.55 2007 .. 42.4 45.1 タイ 36 43 4.72 4.56 5.02 4.32 2009 22.5 48.0 51.2 トーゴ .. 11 .. .. .. .. 2009 .. 65.1 65.1 チュニジア 69 67 .. .. .. .. 2011 .. 62.0 63.8 トルコ 43 55 4.47 4.55 3.53 3.79 2008 58.6 67.6 70.1 トルクメニスタン .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. ウガンダ .. 18 3.67 3.95 4.72 4.83 2004 10.3 57.0 58.5 ウクライナ 88 84 3.75 3.82 4.21 4.44 2010 62.1 48.6 52.3 アラブ首長国連邦 .. 96 4.85 5.31 4.74 5.24 .. .. 73.3 75.4 イギリス 87 87 5.48 5.09 5.41 5.42 2005 93.2 87.4 87.7 アメリカ 92 93 5.55 4.88 5.80 5.37 2005 92.2 91.2 91.5 ウルグアイ 73 71 3.94 4.38 4.10 3.49 2009 78.5 47.8 51.3 ウズベキスタン .. .. .. .. .. .. 2005 .. .. .. ベネズエラ 61 62 3.42 2.78 3.52 2.88 2009 33.9 65.3 67.2 ベトナム 19 22 3.95 4.13 4.43 4.51 2010 20.7 84.5 85.3 ヨルダン川西岸 / ガザ 63 61 .. .. .. .. 2009 14.0 .. .. イエメン 42 .. .. 3.68 .. 3.44 2006 10.4 72.7 73.2 ザンビア 20 18 3.23 4.53 4.02 3.97 2010 .. 51.6 54.5 ジンバブエ 38 38 3.29 3.63 3.50 3.40 2011 20.3 38.6 37.7 世界全体 ..w ..w 4.24u 4.25u 4.28u 4.29u 37.9w 83.8w 83.1w 低所得国 .. .. 3.54 3.84 4.11 4.29 .. 58.3 59.9 中所得国 .. .. 3.95 4.08 4.03 4.04 27.4 72.0 73.7 低中所得国 26 26 3.84 4.06 3.92 4.03 15.3 69.6 71.1 上中所得国 .. .. 4.05 4.09 4.12 4.05 37.9 72.8 74.5 低 / 中所得国 .. .. 3.84 4.00 4.05 4.12 25.5 71.7 73.4 高額所得 85 86 4.98 4.78 4.70 4.68 85.7 86.4 85.7 370 世界開発報告 2014 表 6 金融部門レベルにおけるリスク管理に関連した主要指標 非公式貯蓄 非公式信用 電子支払 金融システム構造 公式金融リスク管理ツールの利用 利用 利用 利用 (対 GDP 比、2005-10 年平均) 金融機関 金融機関 医療保険 農業保険 貯蓄 融資 個人加入 購入 15 歳以上 ミュー 15 歳以上 15 歳以上 15 歳以上 農業労働者 15 歳以上 15 歳以上 チュア 人口に占め 人口に占め 人口に占め に占める割 人口に占め 人口に占め 取引件数、 株式時価 銀行 ル・ファ 保険 年金 る割合 (%) る割合 (%) る割合 (%) 合 (%) る割合 (%) る割合 (%) 100 万件 総額 資産 ンド資産 資産 資産 2011 2011 2011 2011 2011 2011 2009 アフガニスタン 2.8 7.4 0.1 10.8 11.7 36.8 .. .. 7.5 .. .. .. アルバニア 8.6 7.5 11.2 73.3 14.2 12.9 7 .. 50.8 0.0 1.4 0.0 アルジェリア 4.3 1.5 3.5 0.0 16.5 27.9 .. .. 33.4 .. 0.9 .. アンゴラ 15.9 7.9 3.1 .. 20.7 24.9 44 .. 17.9 .. 1.2 .. アルゼンチン 3.8 6.6 9.1 0.0 20.6 9.0 47 24.2 23.4 2.0 2.4 12.7 アルメニア 0.8 18.9 0.6 5.9 9.7 37.6 7 1.1 16.4 0.4 0.4 .. オーストラリア 61.9 17.0 .. .. 6.3 27.6 5,761 120.0 117.1 22.4 33.9 83.2 オーストリア 51.6 8.3 .. .. 26.8 9.3 2,129 35.3 129.5 48.6 34.0 4.8 アゼルバイジャン 1.6 17.7 1.1 19.5 9.2 37.1 52 .. 15.4 .. 0.7 .. バングラデシュ 16.6 23.3 2.1 0.0 10.2 14.0 .. 7.5 53.3 .. 2.1 .. ベラルーシ 6.8 16.1 3.1 4.7 19.6 36.6 .. .. 33.9 .. 0.8 .. ベルギー 42.6 10.5 .. .. 15.2 7.4 2,211 68.1 109.7 30.2 65.4 3.5 ベナン 7.0 4.2 0.7 1.4 25.3 32.4 .. .. 21.4 .. 1.9 .. ボリビア 17.1 16.6 3.7 4.3 27.2 9.1 4 17.6 36.0 3.0 4.0 23.1 ボスニア · ヘルツェゴビナ 6.1 13.0 3.8 3.7 7.5 15.8 .. .. 54.6 .. .. .. ブラジル 10.3 6.3 7.6 11.2 10.8 17.5 16,509 61.4 75.8 40.8 7.5 14.9 ブルガリア 4.8 7.8 3.9 2.0 6.1 24.0 66 23.0 50.2 0.7 3.6 3.8 ブルキナファソ 7.9 3.1 0.8 0.5 30.1 32.9 .. .. 18.0 .. 0.7 .. ブルンジ 3.3 1.7 3.5 7.6 21.9 50.6 .. .. 23.1 .. .. .. カンボジア 0.8 19.5 2.6 14.3 30.2 40.1 .. .. 17.1 .. 0.5 .. カメルーン 9.9 4.5 1.2 3.4 42.0 45.6 .. .. 11.9 .. 1.7 .. カナダ 53.2 20.3 .. .. 12.3 21.6 8,441 120.9 138.3 45.3 34.6 60.3 中央アフリカ共和国 2.5 0.9 0.4 1.5 22.9 24.1 .. .. 9.0 .. 1.0 .. チャド 6.8 6.2 1.3 17.0 21.9 34.9 .. .. 5.3 .. 0.1 .. チリ 12.4 7.8 5.7 0.0 14.6 13.9 224 108.4 70.8 10.2 19.3 61.4 中国 32.1 7.3 47.2 7.2 6.3 22.1 43,094 81.7 118.0 8.1 9.7 0.7 香港 42.8 7.9 .. .. 16.3 19.8 4,184 474.0 167.4 421.9 32.6 29.8 コロンビア 9.2 11.9 5.6 8.3 23.7 22.0 287 40.9 36.4 2.6 4.9 15.1 コンゴ民主共和国 1.5 1.5 0.7 1.2 22.6 32.2 0 .. 3.4 .. 0.5 .. コンゴ共和国 5.5 2.8 0.1 2.8 25.0 29.2 .. .. 3.1 .. .. .. コスタリカ 19.9 10.0 4.1 0.0 21.1 11.4 115 6.4 45.2 4.3 1.8 5.7 トジボワール コー​​ .. .. .. .. .. .. .. 26.1 18.8 .. 3.3 .. クロアチア 12.2 14.4 .. .. 9.7 23.7 269 50.6 73.6 5.6 7.6 7.4 チェコ共和国 35.5 9.5 .. .. 13.5 19.9 175 28.9 59.5 3.6 10.0 5.1 デンマーク 56.5 18.8 .. .. 16.1 12.0 1,461 67.3 204.2 56.5 75.4 57.9 ドミニカ共和国 16.0 13.9 8.4 0.9 21.3 23.5 188 .. 22.3 .. 1.4 2.9 エクアドル 14.5 10.6 3.1 8.4 15.7 16.7 2 8.4 24.2 1.1 0.7 .. エジプト 0.7 3.7 0.5 6.6 7.4 26.9 1,292 66.7 71.3 4.1 3.6 2.5 エルサルバドル 12.9 3.9 1.0 5.4 13.0 7.4 7 23.8 44.0 .. 2.3 20.8 エリトリア .. .. .. .. .. .. 0 .. .. .. .. .. エチオピア .. .. .. .. .. .. .. .. 26.6 .. 0.8 .. フィンランド 56.1 23.9 .. .. 12.5 23.8 1,976 90.9 86.2 27.4 26.0 72.0 フランス 49.5 18.6 .. .. 12.3 5.9 12,970 82.4 119.6 67.9 89.3 1.0 グルジア 1.0 11.0 3.2 0.4 5.9 18.0 32 6.8 24.4 .. 1.6 .. ドイツ 55.9 12.5 .. .. 11.4 12.7 .. 45.7 131.4 43.6 59.5 12.0 ガーナ 16.1 5.8 11.8 4.0 20.5 28.8 .. 12.4 21.7 .. 0.9 .. ギリシャ 19.9 7.9 .. .. 7.9 22.2 129 50.3 107.9 7.2 5.7 .. グアテマラ 10.2 13.7 1.7 1.7 14.6 10.5 0 .. 35.2 .. 1.4 .. ギニア 2.0 2.4 0.3 49.5 25.1 42.1 .. .. 7.7 .. .. .. ハイチ 18.0 8.3 4.0 17.2 13.6 37.4 .. .. 14.8 .. .. .. ホンジュラス 8.5 7.1 1.3 2.8 13.3 12.9 .. .. 47.3 .. 3.0 .. ハンガリー 17.3 9.4 .. .. 9.4 9.3 355 26.4 74.0 10.4 8.6 11.0 インド 11.6 7.7 6.8 6.6 10.8 22.9 4,102 80.0 59.1 6.8 15.3 5.3 インドネシア 15.3 8.5 0.9 0.0 25.2 40.6 1,787 31.9 31.6 .. 1.8 2.2 イランイスラム共和国 19.7 30.7 19.3 24.3 12.6 40.4 1,658 16.9 33.1 .. 1.0 .. 主要指標 371 保険料 銀行貯蓄 信用 ( 生保+非生保) 銀行バランスシート上の外貨ミスマッチ 預貸率 (対 GDP 比,%) (対 GDP 比,%) (対 GDP 比,%) 融資ドル化(%) 貯金ドル化(%) (%) 2000 2011 2000 2011 2000 2011 2000 2010 2000 2010 2000 2011 アフガニスタン .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. アルバニア 43.8 66.7 4.7 39.0 0.4 0.6 53.2 72.6 29.1 43.1 10.7 58.4 アルジェリア 26.1 45.7 5.9 14.5 0.5 0.6 .. .. .. .. 22.8 31.8 アンゴラ 25.6 52.7 2.0 21.6 0.9 1.0 74.8 50.2 83.0 61.0 7.7 41.0 アルゼンチン 27.4 20.6 23.2 16.0 2.4 2.4 66.1 12.5 44.1 .. 84.5 77.9 アルメニア 8.9 20.4 9.9 34.3 0.1 0.5 .. 65.2 .. 67.6 111.3 168.1 オーストラリア 61.3 99.2 84.6 124.1 8.8 5.3 .. .. .. .. 138.0 125.1 オーストリア 80.4 95.0 102.2 118.9 4.7 4.6 .. .. .. .. 127.1 125.2 アゼルバイジャン 10.6 13.4 5.9 17.9 0.3 0.3 .. .. .. .. 55.9 133.9 バングラデシュ 29.8 54.2 24.3 48.6 0.5 1.1 .. .. .. .. 81.7 89.6 ベラルーシ 14.9 35.9 8.8 41.7 0.6 0.8 54.9 30.7 72.2 53.8 58.8 116.2 ベルギー 82.3 106.1 77.8 92.6 7.4 7.6 .. .. .. .. 94.6 87.2 ベナン 15.6 29.7 11.6 25.3 0.6 0.8 .. .. .. .. 74.3 85.3 ボリビア 46.1 44.7 58.7 36.8 0.8 1.0 96.3 69.2 92.6 52.0 127.2 82.3 ボスニア · ヘルツェゴビナ 16.6 41.6 40.8 48.2 1.9 1.9 .. 73.7 53.7 50.2 73.2 115.7 ブラジル 44.3 66.5 31.7 58.0 1.4 2.4 18.0 .. 6.1 .. 71.5 87.2 ブルガリア 22.7 63.9 12.3 72.0 1.3 2.0 35.9 58.3 59.2 53.6 54.0 112.7 ブルキナファソ 13.1 26.8 11.7 20.8 0.6 0.4 .. .. .. .. 89.4 77.6 ブルンジ 14.5 19.0 20.8 19.2 0.4 0.2 .. .. .. .. 143.9 100.7 カンボジア 18.7 32.3 6.4 28.8 .. 0.1 97.0 98.1 93.2 96.6 34.2 89.2 カメルーン 11.1 18.2 8.2 12.7 0.7 0.9 .. .. .. .. 73.8 70.1 カナダ 70.1 .. 76.1 .. 5.4 1.8 .. .. .. .. 108.5 .. 中央アフリカ共和国 3.4 9.3 4.7 9.4 0.3 0.3 .. .. .. .. 138.6 101.7 チャド 3.9 7.2 3.4 6.0 0.3 0.2 .. .. .. .. 86.7 82.5 チリ 50.9 43.4 63.8 70.5 3.7 3.6 15.7 10.8 10.4 13.8 125.4 162.2 中国 110.4 164.4 112.2 127.4 1.5 3.0 .. .. .. .. 101.7 77.5 香港 220.8 321.8 152.6 206.2 4.3 11.4 .. .. .. .. 69.1 64.1 コロンビア 22.4 20.9 20.8 35.1 1.6 2.1 .. 4.2 .. .. 92.7 168.0 コンゴ民主共和国 9.2 12.4 3.2 6.3 0.1 0.4 .. .. 43.5 .. 35.2 50.8 コンゴ共和国 8.6 21.5 4.8 7.3 0.1 0.4 .. .. .. .. 55.8 33.8 コスタリカ 14.1 23.2 24.0 47.4 2.0 1.8 41.6 .. 41.3 .. 170.9 198.6 トジボワール コー​​ 13.3 .. 14.9 .. 1.2 1.4 .. .. .. .. .. 68.0 クロアチア 37.0 67.4 31.9 73.8 2.2 2.5 84.6 73.0 71.1 65.5 86.1 109.5 チェコ共和国 58.1 64.1 47.0 55.8 3.0 3.7 21.6 13.4 15.3 8.9 80.9 87.0 デンマーク 46.8 52.1 135.2 .. 6.6 9.5 .. 25.4 .. .. 66.3 .. ドミニカ共和国 25.5 20.8 29.0 22.3 1.4 1.2 .. 21.8 .. .. 113.7 107.0 エクアドル 21.1 32.9 29.3 30.9 1.2 2.2 .. .. .. .. 138.9 93.8 エジプト 64.7 63.1 52.0 31.3 0.6 0.7 23.1 31.2 .. .. 80.3 49.5 エルサルバドル 42.5 38.6 45.1 39.0 1.4 1.8 .. .. .. .. 106.2 101.0 エリトリア 131.0 89.7 29.9 13.6 1.2 0.4 .. .. .. .. 22.8 15.2 エチオピア 27.0 .. 17.8 .. 0.6 0.5 .. .. .. .. 65.7 .. フィンランド 46.0 63.6 53.0 96.4 4.9 3.2 .. .. .. .. 115.2 151.5 フランス 62.6 88.3 85.0 116.2 8.4 8.6 .. .. .. .. 135.9 131.6 グルジア 5.2 23.4 7.4 32.8 0.2 0.5 81.4 74.3 77.9 71.0 143.1 140.5 ドイツ 91.5 117.2 119.4 105.5 5.1 5.3 .. .. .. .. 130.5 90.0 ガーナ 16.4 24.2 13.8 14.5 0.9 0.6 .. .. .. 30.7 84.3 60.0 ギリシャ 50.5 83.1 46.9 118.0 0.0 2.1 .. .. .. .. 92.9 142.0 グアテマラ 18.2 38.5 19.8 23.4 0.9 1.0 18.4 28.5 .. 24.1 108.5 60.8 ギニア 4.8 23.7 3.4 9.1 0.1 0.0 .. .. .. .. 70.3 38.5 ハイチ 29.9 39.2 15.1 14.2 .. 0.4 .. .. .. .. 50.4 36.2 ホンジュラス 35.2 46.4 34.1 48.0 1.5 1.6 23.2 26.1 29.0 30.1 96.8 103.6 ハンガリー 38.8 45.7 32.5 65.2 2.9 2.8 33.1 65.5 20.4 18.4 83.5 142.4 インド 45.8 66.7 28.8 50.6 1.8 3.5 .. .. .. .. 63.0 75.8 インドネシア 48.2 34.4 19.4 28.3 1.0 1.5 41.4 12.9 26.6 14.6 40.3 82.4 イランイスラム共和国 31.6 14.5 19.5 13.7 0.6 1.1 2.6 14.9 1.1 8.3 61.7 94.9 372 世界開発報告 2014 表 6 金融部門レベルにおけるリスク管理に関連した主要指標(続き) 非公式貯蓄 非公式信用 電子支払 金融システム構造 公式金融リスク管理ツールの利用 利用 利用 利用 (対 GDP 比、2005-10 年平均) 金融機関 金融機関 医療保険 農業保険 貯蓄 融資 個人加入 購入 15 歳以上 ミュー 15 歳以上 15 歳以上 15 歳以上 農業労働者 15 歳以上 15 歳以上 チュア 人口に占め 人口に占め 人口に占め に占める割 人口に占め 人口に占め 取引件数、 株式時価 銀行 ル・ファ 保険 年金 る割合 (%) る割合 (%) る割合 (%) 合 (%) る割合 (%) る割合 (%) 100 万件 総額 資産 ンド資産 資産 資産 2011 2011 2011 2011 2011 2011 2009 イラク 5.4 8.0 0.2 7.8 20.8 46.7 16 .. 10.1 .. .. .. アイルランド 51.3 15.7 .. .. 13.3 13.6 .. 42.0 200.6 363.4 83.4 45.5 イスラエル 24.8 16.7 .. .. 20.1 23.3 940 97.0 99.3 .. .. 38.7 イタリア 15.5 4.6 .. .. 10.9 6.6 3,252 36.0 121.6 15.9 33.8 2.2 日本 51.3 6.1 .. .. 12.0 11.6 1,428 87.7 164.1 13.2 74.4 19.9 ヨルダン 8.3 4.5 1.1 .. 9.9 26.8 385 181.6 98.5 0.1 4.8 42.8 カザフスタン 6.7 13.1 1.9 1.5 15.2 28.8 164 31.8 43.6 .. 1.3 9.6 ケニア 23.3 9.7 5.4 3.3 16.9 57.7 .. 38.4 38.6 .. 7.6 12.9 韓国 46.9 16.6 .. .. 17.6 16.0 9,696 84.2 101.2 27.2 40.5 3.9 キルギス 0.9 11.3 0.0 2.7 35.5 24.2 6 2.0 10.1 .. 0.4 .. ラオス 19.4 18.1 4.5 4.6 35.1 14.4 .. .. 10.3 .. .. .. レバノン 17.1 11.3 7.9 0.0 13.7 15.9 10 32.1 142.3 1.0 7.1 .. リベリア 13.9 6.5 5.9 18.8 20.9 44.7 .. .. 11.2 .. .. .. リビア .. .. .. .. .. .. 0 .. 10.7 .. .. .. リトアニア 20.5 5.6 14.6 31.1 12.2 30.2 217 21.1 58.0 0.7 3.2 2.3 マダガスカル 1.4 2.3 0.3 1.2 18.3 61.4 3 .. 12.2 .. 1.8 .. マラウイ 8.2 9.2 0.5 1.2 24.8 42.1 .. 19.6 12.7 .. 5.7 .. マレーシア 35.4 11.2 16.4 7.2 15.6 21.3 332 133.5 114.6 23.6 18.5 49.3 マリ 4.5 3.7 1.0 9.2 32.9 25.4 .. .. 18.9 .. 0.5 .. モーリタニア 6.4 7.9 2.0 17.0 16.4 35.8 .. .. 27.1 .. .. .. メキシコ 6.7 7.6 8.5 4.9 20.4 22.1 1,640 31.5 29.8 7.3 3.2 8.1 モルドバ 3.5 6.4 1.6 2.6 18.7 41.5 27 .. 33.4 .. 2.2 .. モロッコ 12.2 4.3 4.5 18.7 18.2 41.6 28 68.6 75.7 22.0 17.1 20.0 モザンビーク 17.5 5.9 3.7 5.3 25.2 35.4 4 .. 23.8 .. 2.7 .. ミャンマー .. .. .. .. .. .. .. .. 3.5 .. .. .. ネパール 9.9 10.8 1.8 2.2 8.5 43.4 0 29.2 45.6 .. 0.6 .. オランダ 57.8 12.6 .. .. 15.2 7.2 4,807 87.4 194.7 12.9 61.5 119.9 ニュージーランド 60.4 26.6 .. .. 12.2 23.7 .. 36.8 138.2 10.9 .. 11.6 ニカラグア 6.5 7.6 0.8 5.9 19.5 6.7 .. .. 37.5 .. 0.5 .. ニジェール 1.2 1.3 0.2 5.8 24.0 46.8 .. .. 10.0 .. 0.8 .. ナイジェリア 23.6 2.1 0.4 2.3 40.8 46.2 .. 24.7 30.2 .. 1.7 2.9 ノルウェー .. .. .. .. .. .. 1,835 61.3 79.8 16.2 36.6 7.2 パキスタン 1.4 1.6 0.5 2.6 6.0 27.3 .. 29.3 37.6 1.8 .. .. パナマ 12.5 9.8 4.9 0.0 22.5 17.4 .. 30.5 81.0 .. 5.2 2.7 パプアニューギニア .. .. .. .. .. .. .. 117.6 32.3 .. .. .. パラグアイ 9.7 12.9 5.9 1.7 8.4 16.6 .. 3.5 23.2 .. 1.2 .. ペルー 8.6 12.7 3.5 11.1 20.6 16.4 103 56.5 22.1 3.2 3.5 15.5 フィリピン 14.7 10.5 5.5 0.0 30.8 47.6 .. 47.5 40.1 1.1 6.5 3.5 ポーランド 18.0 9.6 .. .. 12.8 16.7 2,027 33.2 43.6 7.6 10.3 11.9 ポルトガル 25.6 8.3 .. .. 8.2 6.9 1,457 41.2 169.1 13.9 33.0 12.4 ルーマニア 8.7 8.4 5.9 6.5 9.5 18.3 278 18.8 33.9 0.4 2.8 0.4 ロシア 10.9 7.7 6.7 3.7 11.8 24.2 2,833 68.7 37.6 0.3 2.2 1.3 ルワンダ 17.8 8.4 5.3 4.3 12.6 30.1 1 .. 11.7 .. .. .. サウジアラビア 17.2 2.1 .. .. 16.1 34.8 159 104.6 52.5 6.9 1.7 .. セネガル 3.7 3.5 0.9 3.4 11.6 27.5 .. .. 25.8 .. 2.2 .. セルビア 3.2 12.3 3.7 2.2 11.7 31.4 398 30.6 37.4 .. 3.2 0.2 シエラレオネ 14.5 6.1 0.5 17.3 18.1 43.0 0 .. 11.4 .. .. .. シンガポール 58.4 10.0 .. .. 2.5 22.7 289 186.0 114.6 48.8 48.2 57.2 スロバキア 36.8 11.4 .. .. 12.4 23.7 415 6.5 55.3 4.8 5.3 3.5 ソマリア 13.6 1.6 0.5 20.1 8.2 34.7 .. .. .. .. .. .. 南アフリカ 22.1 8.9 7.4 43.3 9.4 35.3 970 233.8 80.4 31.9 36.8 104.6 南スーダン .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. スペイン 35.0 11.4 .. .. 11.2 15.3 3,564 90.0 192.0 24.1 23.8 8.0 スリ · ランカ 28.1 17.7 7.5 8.1 8.2 16.4 29 20.6 36.5 0.2 3.9 0.6 スーダン 3.4 1.8 9.5 20.7 19.3 63.3 10 .. 13.3 .. 0.5 .. 主要指標 373 保険料 銀行貯蓄 信用 ( 生保+非生保) 銀行バランスシート上の外貨ミスマッチ 預貸率 (対 GDP 比,%) (対 GDP 比,%) (対 GDP 比,%) 融資ドル化(%) 貯金ドル化(%) (%) 2000 2011 2000 2011 2000 2011 2000 2010 2000 2010 2000 2011 イラク .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. アイルランド 77.6 103.1 104.6 204.3 9.7 8.0 .. .. .. .. 134.8 198.2 イスラエル 79.0 94.9 77.2 94.8 4.5 4.3 34.9 14.8 31.6 27.2 97.7 99.9 イタリア 49.9 86.2 74.8 122.1 5.3 6.6 .. .. .. .. 149.9 141.7 日本 228.4 222.1 190.8 105.0 6.9 1.6 .. .. .. .. 83.5 47.3 ヨルダン 90.5 100.3 71.9 73.4 1.5 1.6 .. .. 95.5 70.5 79.5 73.3 カザフスタン 11.1 29.1 11.2 37.0 0.3 0.6 68.5 45.0 50.9 43.7 100.9 127.0 ケニア 29.8 45.9 25.8 38.0 2.0 2.6 .. .. .. .. 86.5 82.6 韓国 65.5 74.7 75.8 99.8 10.8 11.9 1.2 2.7 .. .. 115.7 133.6 キルギス 5.0 .. 4.1 .. 0.1 0.2 68.6 55.8 57.9 52.2 81.3 .. ラオス 16.0 32.7 7.9 23.3 0.2 0.4 72.3 .. 75.4 61.5 49.2 71.1 レバノン 182.9 223.9 85.5 81.1 2.2 1.8 87.0 81.3 62.3 60.0 46.7 36.2 リベリア 1.6 11.1 0.8 5.7 .. .. .. .. .. .. 51.4 51.7 リビア 36.9 83.1 22.7 17.6 0.5 0.3 .. .. .. .. 61.4 21.2 リトアニア 16.9 38.0 13.1 53.7 0.8 1.5 67.7 72.4 45.3 32.4 77.3 141.2 マダガスカル 14.0 17.4 8.8 10.9 0.6 0.6 .. .. .. .. 62.8 62.7 マラウイ 13.8 28.6 5.6 18.4 1.7 1.0 .. .. .. .. 40.5 64.1 マレーシア 112.9 128.9 126.7 112.1 4.0 4.3 .. .. 2.0 4.7 112.3 87.0 マリ 13.7 21.9 15.0 21.4 0.5 0.5 .. .. .. .. 109.2 98.1 モーリタニア .. 23.9 .. 25.6 .. 0.4 .. .. .. .. .. 107.4 メキシコ 23.5 26.7 17.2 19.8 1.8 1.6 ..  9.7 6.4 8.6 72.9 74.4 モルドバ 13.1 36.6 12.6 33.6 0.5 1.1 40.8 46.3 42.4 48.0 96.4 91.7 モロッコ 59.2 89.5 50.7 71.6 2.3 2.6 1.0 .. .. .. 85.7 80.0 モザンビーク 23.3 33.7 16.7 23.6 0.5 1.1 40.2 32.4 46.7 35.8 71.7 70.2 ミャンマー 18.0 17.9 9.5 7.9 0.1 .. .. .. .. .. 53.0 44.0 ネパール 38.8 63.9 30.3 52.4 0.5 1.5 .. .. .. .. 78.1 82.0 オランダ 92.3 131.9 134.1 197.9 7.2 4.9 .. .. .. .. 145.3 150.1 ニュージーランド 78.7 94.3 110.0 147.7 3.8 2.7 .. .. .. .. 139.8 156.7 ニカラグア 34.4 38.1 30.5 32.1 1.2 1.5 83.0 88.7 70.3 .. 88.6 84.1 ニジェール 5.9 11.8 5.2 14.0 0.5 0.6 .. .. .. .. 87.2 119.4 ナイジェリア 14.9 30.6 11.7 21.3 0.5 0.7 .. .. 5.4 .. 78.1 69.5 ノルウェー 45.9 .. 65.5 .. 4.3 4.8 12.1 12.6 16.2 25.4 142.6 .. パキスタン 27.7 29.1 22.3 18.2 0.5 0.6 .. .. .. .. 80.7 62.6 パナマ 76.7 82.7 95.5 84.6 2.7 2.9 .. .. .. .. 124.4 102.3 パプアニューギニア 29.0 41.8 17.1 22.4 1.5 0.1 .. .. .. .. 59.1 53.5 パラグアイ 22.2 27.3 27.1 41.0 1.1 1.1 49.0 42.0 59.7 39.6 122.4 150.4 ペルー 25.8 29.5 25.7 26.3 0.9 1.3 81.4 52.3 77.2 52.6 99.4 89.1 フィリピン 50.7 52.2 36.8 31.8 1.2 1.4 27.1 18.4 .. 22.6 72.5 60.9 ポーランド 36.0 50.5 26.6 54.9 2.5 3.3 21.9 30.2 15.7 8.8 73.8 108.7 ポルトガル 89.3 133.5 126.1 192.1 4.7 5.9 .. .. .. .. 141.2 143.9 ルーマニア 19.7 31.4 7.1 38.0 0.8 1.3 59.5 60.1 47.0 34.8 36.2 121.1 ロシア 15.5 40.8 13.3 45.0 1.7 0.9 37.8 24.1 46.2 29.8 85.6 110.2 ルワンダ 13.0 .. 10.2 .. 0.4 0.5 .. .. .. .. 78.6 .. サウジアラビア 37.4 51.7 24.4 39.7 0.2 0.5 25.4 13.6 18.6 11.9 65.2 76.8 セネガル 18.4 32.0 18.6 29.5 1.0 1.2 .. .. .. .. 101.1 92.3 セルビア 14.1 43.2 49.1 51.0 2.1 1.5 .. 84.1 76.7 73.1 .. 118.1 シエラレオネ 9.1 18.9 2.0 8.9 .. 0.5 .. .. .. .. 22.3 47.0 シンガポール 98.2 128.1 97.8 112.6 6.2 6.1 .. 42.9 .. .. 99.7 87.9 スロバキア 66.9 54.8 51.1 49.7 2.8 3.0 19.0 18.1 17.2 17.1 76.3 90.7 ソマリア .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. 南アフリカ 51.5 62.6 69.1 68.9 17.5 11.2 49.8 .. 4.2 .. 134.2 110.1 南スーダン .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. スペイン 78.9 150.9 97.8 205.4 6.0 4.9 .. .. .. .. 123.9 136.1 スリ · ランカ 33.5 34.4 28.8 30.6 1.2 1.2 .. .. .. .. 86.1 89.2 スーダン 5.7 15.9 2.1 11.2 0.3 0.4 .. .. .. .. 37.5 70.6 374 世界開発報告 2014 表 6 金融部門レベルにおけるリスク管理に関連した主要指標 非公式貯蓄 非公式信用 電子支払 金融システム構造 公式金融リスク管理ツールの利用 利用 利用 利用 (対 GDP 比、2005-10 年平均) 金融機関 金融機関 医療保険 農業保険 貯蓄 融資 個人加入 購入 15 歳以上 ミュー 15 歳以上 15 歳以上 15 歳以上 農業労働者 15 歳以上 15 歳以上 チュア 人口に占め 人口に占め 人口に占め に占める割 人口に占め 人口に占め 取引件数、 株式時価 銀行 ル・ファ 保険 年金 る割合 (%) る割合 (%) る割合 (%) 合 (%) る割合 (%) る割合 (%) 100 万件 総額 資産 ンド資産 資産 資産 2011 2011 2011 2011 2011 2011 2009 スウェーデン 63.6 23.4 .. .. 19.3 18.9 2,846 107.4 127.0 38.2 82.7 3.4 スイス .. .. .. .. .. .. 1,268 241.3 178.6 37.3 86.1 99.7 シリアアラブ共和国 5.1 13.1 9.5 2.6 43.2 49.3 .. .. 36.1 .. .. .. タジキスタン 0.3 4.8 0.8 9.0 13.5 26.9 .. .. 15.0 .. .. .. タンザニア 11.9 6.6 2.6 7.4 28.2 45.1 4 4.0 19.3 .. 1.2 .. タイ 42.8 19.4 24.1 7.4 17.2 7.8 558 62.8 106.1 17.9 11.4 5.3 トーゴ 3.6 3.8 0.7 2.2 16.0 20.4 .. .. 23.4 .. 1.9 .. チュニジア 5.0 3.2 6.1 0.0 20.1 23.2 .. 14.0 59.7 7.0 0.8 .. トルコ 4.2 4.6 4.4 0.0 5.4 61.3 1,910 30.7 50.4 3.2 1.8 0.6 トルクメニスタン 0.1 0.8 0.0 2.1 44.4 38.5 .. .. .. .. .. .. ウガンダ 16.3 8.9 0.7 9.1 28.1 43.9 29 9.6 16.4 .. 1.1 .. ウクライナ 5.4 8.1 1.7 0.0 19.6 36.3 .. 29.8 55.0 .. 2.8 0.1 アラブ首長国連邦 19.2 10.8 .. .. 11.0 24.6 94 .. .. 0.3 4.2 .. イギリス 43.8 11.8 .. .. 12.9 17.0 13,486 123.9 183.3 36.3 95.9 76.2 アメリカ 50.4 20.1 .. .. 16.4 24.5 79,011 122.7 65.3 76.6 44.2 70.6 ウルグアイ 5.7 14.8 9.3 22.1 11.2 9.5 51 0.5 28.2 0.0 3.8 13.3 ウズベキスタン 0.8 1.5 0.8 4.3 30.6 12.3 .. .. .. .. 0.5 .. ベネズエラ 13.6 1.7 6.0 41.2 14.8 11.7 27 2.9 19.5 .. .. .. ベトナム 7.7 16.2 17.5 3.1 27.5 27.8 .. 13.2 90.1 0.2 4.2 .. ヨルダン川西岸 / ガザ 5.5 4.1 5.1 9.8 10.7 49.6 2 68.4 9.5 .. .. .. イエメン 1.1 0.9 0.0 0.0 10.8 56.2 8 .. 13.1 .. .. .. ザンビア 11.8 6.1 1.2 11.8 20.4 41.8 2 13.5 16.0 .. 1.4 3.8 ジンバブエ 17.3 4.9 14.6 6.2 22.6 57.7 1 .. .. .. .. .. 世界全体 22.4w 9.1w 17.1w 6.5w 13.5w 24.7w 249,527s 40.8m 42.1m 10.7m 4.3m 7.8m 低所得国 11.5 11.4 2.2 5.1 18.5 32.7 49 17.6 15.2 .. 1.1 12.9 中所得国 18.1 7.6 19.1 6.7 12.9 25.9 77,239 28.6 35.5 3.6 3.1 5.2 低中所得国 11.1 7.3 5.2 5.1 16.4 29.3 7,349 22.5 29.2 2.6 2.8 3.5 上中所得国 24.9 7.9 32.6 8.3 9.6 22.7 69,890 32.5 47.6 3.9 3.4 6.4 低 / 中所得国 17.5 8.0 17.4 6.6 13.5 26.6 77,288 27.9 29.8 3.6 2.8 5.5 高額所得 40.4 13.0 .. .. 13.5 18.1 172,239 69.9 99.1 17.9 25.7 11.6 主要指標 375 保険料 銀行貯蓄 信用 ( 生保+非生保) 銀行バランスシート上の外貨ミスマッチ 預貸率 (対 GDP 比,%) (対 GDP 比,%) (対 GDP 比,%) 融資ドル化(%) 貯金ドル化(%) (%) 2000 2011 2000 2011 2000 2011 2000 2010 2000 2010 2000 2011 スウェーデン 36.2 59.8 42.3 .. 6.9 7.5 14.1 23.0 26.7 26.1 116.8 .. スイス 113.8 151.6 154.7 168.4 9.7 7.7 15.7 15.1 17.1 33.4 135.9 111.1 シリアアラブ共和国 38.3 55.0 8.5 23.2 0.4 0.6 .. .. .. .. 22.1 42.1 タジキスタン 3.2 .. 13.6 .. 0.1 0.4 48.4 29.8 .. 72.2 .. .. タンザニア 13.8 28.8 4.6 17.7 0.6 0.7 .. .. .. .. 33.2 61.5 タイ 106.6 103.8 108.3 108.6 2.5 4.2 9.2 .. .. 0.9 101.6 104.5 トーゴ 16.0 38.3 16.0 31.1 1.0 1.5 .. .. .. .. 99.9 81.0 チュニジア 46.8 55.1 60.5 72.2 1.4 1.6 .. .. .. .. 129.3 131.1 トルコ 32.5 50.3 17.8 50.1 0.9 1.1 62.3 31.7 48.2 33.5 54.6 99.6 トルクメニスタン .. .. .. .. .. 0.3 90.3 .. 30.1 .. 21.9 .. ウガンダ 12.1 18.1 5.6 15.2 0.4 0.6 .. .. .. .. 46.3 83.8 ウクライナ 11.0 37.1 11.1 55.8 1.1 2.0 46.0 60.3 38.4 .. 100.4 150.7 アラブ首長国連邦 45.1 59.3 46.2 61.9 1.2 1.4 .. .. .. 18.9 102.5 104.5 イギリス 103.9 162.6 128.6 186.7 17.0 11.7 36.5 40.1 55.9 52.9 123.7 114.9 アメリカ 65.1 79.2 50.4 55.1 7.1 6.9 .. .. .. .. 77.5 69.6 ウルグアイ 40.6 40.3 44.9 23.7 1.7 1.5 86.3 75.8 90.7 .. 110.6 58.7 ウズベキスタン .. .. .. .. 0.2 0.3 .. .. 8.1 .. .. .. ベネズエラ 15.2 32.1 10.5 20.4 1.2 2.0 .. .. 0.2 .. 69.0 63.6 ベトナム 32.8 94.8 35.3 111.6 0.6 1.3 20.7 17.8 .. .. 107.6 117.8 ヨルダン川西岸 / ガザ .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. イエメン 13.9 15.3 4.3 4.1 0.2 0.2 41.9 45.0 52.7 39.3 30.9 27.0 ザンビア 21.0 20.4 8.2 12.3 1.4 1.1 48.3 34.7 53.7 .. 38.9 60.1 ジンバブエ .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. .. 世界全体 34.5m 46.2m 28.8m 39.0m 1.3m 1.9m 80.7m 87.2m 低所得国 13.8 26.3 9.5 15.2 0.5 0.6 71.0 70.2 中所得国 31.6 41.2 22.7 34.7 1.0 1.3 77.4 85.6 低中所得国 28.3 36.8 17.9 30.8 0.7 0.9 75.3 81.2 上中所得国 32.5 51.5 25.7 47.8 1.5 1.6 78.7 89.4 低 / 中所得国 24.5 37.2 17.5 30.8 0.8 1.2 74.4 82.4 高額所得 62.6 79.2 63.8 90.0 4.3 3.9 97.7 106.6 376 世界開発報告 2014 表 7 マクロ経済レベルにおけるリスク管理に関連した主要指標 CIP イン フレ率 政府の基礎的黒字 公債総額 国際準備 柔軟な為替相場制度 世界統治指標 (年平均 (対 GDP 比、%, (対 GDP 比、%, (対 GDP 比、%, (平均,-2.5 上昇率, %) 年平均) 年平均) 年平均) (大分類,1-6 の尺度) ~ 2,5の尺度) 2010-12 2005-07 2010-12 2005-07 2010-12 2005-07 2010-12 1996-2000 2001-05 2006-10 2011 アフガニスタン 6.2 –1.3 0.0 .. .. .. 33.8 .. 6 3 –1.75 アルバニア 2.7 –0.5 –0.4 56.0 59.0 19.1 19.9 4 3 3 –0.20 アルジェリア 6.7 11.1 –2.0 22.5 10.7 70.7 97.9 2 2 2 –0.93 アンゴラ 11.9 .. .. 29.3 32.8 16.8 27.0 .. 1 2 –1.06 アルゼンチン 9.8 3.7 0.1 77.0 46.3 16.0 11.0 1 3 2 –0.22 アルメニア 5.1 –1.8 –2.2 17.0 36.3 16.2 19.1 2 2 3 –0.28 オーストラリア 2.6 1.6 –3.6 10.2 23.9 5.6 3.4 4 4 4 1.63 オーストリア 2.9 0.7 –1.1 62.2 72.7 4.2 5.0 1 1 1 1.49 アゼルバイジャン 4.4 .. .. 10.7 11.0 11.3 15.0 1 1 1 –0.84 バングラデシュ 9.7 –1.2 –1.4 .. .. 6.2 9.9 2 2 1 –0.87 ベラルーシ 56.2 0.8 1.6 12.6 40.8 5.8 10.2 5 1 3 –1.01 ベルギー 3.2 3.1 –0.6 88.0 97.6 3.4 5.1 1 1 1 1.37 ベナン 4.7 0.0 –0.4 24.8 31.3 18.8 13.3 1 1 1 –0.29 ボリビア 7.2 .. .. 58.7 35.4 29.1 47.6 2 2 1 –0.54 ボスニア · ヘルツェゴビナ 2.9 .. .. 21.8 41.3 28.6 24.9 1 1 1 –0.43 ブラジル 6.0 3.5 2.6 67.0 66.2 9.1 14.7 3 3 3 0.13 ブルガリア 3.6 3.9 –1.8 23.8 16.3 35.7 34.8 1 1 1 0.18 ブルキナファソ 3.3 1.9 –2.9 29.6 28.0 10.9 10.2 1 1 1 –0.38 ブルンジ 13.8 –0.2 –2.3 131.9 35.9 10.8 13.8 3 2 2 –1.19 カンボジア 4.2 –0.2 –3.1 33.1 28.7 20.9 32.0 .. 2 2 –0.78 カメルーン 2.9 .. .. 26.5 13.6 9.9 14.1 1 1 1 –0.89 カナダ 2.2 2.4 –3.6 69.5 84.0 2.9 3.7 2 3 3 1.62 中央アフリカ共和国 1.3 3.0 –0.5 94.2 31.8 8.4 7.9 1 1 1 –1.30 チャド 2.4 2.3 –0.5 29.1 34.5 9.5 9.0 1 1 1 –1.30 チリ 3.2 6.8 0.7 5.3 10.3 12.0 15.0 3 3 3 1.21 中国 4.0 .. .. 17.8 27.3 40.3 44.7 1 1 1 –0.58 香港 4.7 4.3 2.7 32.5 33.1 69.8 117.6 1 1 1 1.40 コロンビア 3.3 1.8 0.0 36.0 35.0 9.9 9.7 3 3 3 –0.23 コンゴ民主共和国 .. 1.4 2.7 141.0 35.8 1.8 9.1 4 4 .. –1.64 コンゴ共和国 2.6 17.5 13.2 101.7 22.5 20.7 38.9 1 1 1 –1.01 コスタリカ 4.7 2.8 –2.4 32.8 31.6 13.7 13.2 2 2 1 0.58 トジボワール コー​​ 3.1 0.4 –1.8 82.1 70.1 10.5 16.6 .. .. .. –1.16 クロアチア 2.8 –0.7 –2.6 35.5 48.7 21.9 24.6 2 2 2 0.38 チェコ共和国 2.6 –1.4 –3.1 28.2 40.6 21.1 20.9 1 3 3 0.95 デンマーク 2.6 5.7 –2.5 32.5 46.4 11.9 25.8 1 1 1 1.86 ドミニカ共和国 6.1 0.8 –1.9 21.0 30.9 6.5 7.0 2 3 2 –0.36 エクアドル 4.8 .. .. 30.3 19.8 5.5 3.0 1 1 1 –0.76 エジプト 8.6 –3.7 –4.6 91.3 76.7 24.4 9.8 1 2 2 –0.74 エルサルバドル 3.4 .. .. 38.6 50.6 11.0 12.1 1 1 1 –0.07 エリトリア .. .. .. 154.8 134.2 2.4 4.9 .. 1 1 –1.40 エチオピア 28.2 .. .. 50.6 25.0 6.9 .. 2 2 .. –0.96 フィンランド 3.1 3.6 –2.0 38.8 50.3 4.3 3.8 1 1 1 1.85 フランス 2.0 –0.2 –3.2 65.0 86.2 4.1 4.9 1 1 1 1.21 グルジア 3.7 .. .. 27.6 35.2 11.0 19.0 3 2 2 0.01 ドイツ 2.0 0.9 0.5 67.3 81.7 3.9 5.0 1 1 1 1.42 ガーナ 8.9 .. .. 35.1 48.7 12.6 14.8 5 2 2 0.14 ギリシャ 2.4 –1.4 –2.8 105.3 159.0 1.1 1.7 1 1 1 0.36 グアテマラ 5.0 –0.3 –1.3 21.7 24.6 13.3 13.3 2 2 2 –0.57 ギニア 18.2 1.5 –4.3 126.6 78.2 1.4 2.5 3 2 2 –1.19 ハイチ 7.3 .. .. 40.3 15.1 5.3 17.6 4 3 3 –1.16 ホンジュラス 6.0 –2.2 –3.5 40.6 32.2 23.0 15.8 2 1 1 –0.55 ハンガリー 4.8 –3.6 3.0 64.9 80.7 17.9 35.2 2 3 3 0.74 インド 9.1 –1.4 –4.2 78.4 67.2 19.2 16.1 2 2 2 –0.30 インドネシア 4.8 .. .. 40.1 25.1 12.3 13.0 3 3 3 –0.46 イランイスラム共和国 23.9 4.2 1.7 18.7 13.7 .. .. 3 1 1 –1.16 主要指標 377 表 7 マクロ経済レベルにおけるリスク管理に関連した主要指標(続き) CIP イン フレ率 政府の基礎的黒字 公債総額 国際準備 柔軟な為替相場制度 世界統治指標 (年平均 (対 GDP 比、%, (対 GDP 比、%, (対 GDP 比、%, (平均,-2.5 上昇率, %) 年平均) 年平均) 年平均) (大分類,1-6 の尺度) ~ 2,5の尺度) 2010-12 2005-07 2010-12 2005-07 2010-12 2005-07 2010-12 1996-2000 2001-05 2006-10 2011 イラク .. 7.3 2.0 162.8 42.0 33.1 34.6 .. 1 2 –1.34 アイルランド 2.1 2.3 –14.5 25.6 105.3 0.4 0.8 1 1 1 1.45 イスラエル 2.6 2.9 –0.8 85.8 74.9 19.4 31.7 2 3 3 0.59 イタリア 2.9 2.1 1.1 105.1 122.4 4.1 6.0 1 1 1 0.52 日本 –0.2 –3.5 –9.0 185.1 228.1 20.5 20.8 4 4 4 1.17 ヨルダン 4.6 –1.9 –4.6 78.1 72.5 45.4 39.8 1 1 1 –0.12 カザフスタン 6.7 5.6 3.9 6.9 11.2 17.6 15.2 2 2 2 –0.59 ケニア 11.7 –0.2 –3.0 47.9 48.9 10.9 13.8 2 2 3 –0.69 韓国 3.1 1.5 1.0 30.1 33.8 25.0 28.3 3 3 3 0.76 キルギス 9.4 .. .. 71.7 53.1 28.2 31.6 2 2 2 –0.83 ラオス 5.9 –2.3 –2.9 73.7 56.2 13.8 14.9 6 .. .. –0.91 レバノン 5.8 .. .. 176.6 139.6 81.3 108.6 1 1 1 –0.64 リベリア 7.7 2.9 –3.6 634.6 29.3 10.9 32.5 4 4 4 –0.74 リビア 10.7 29.5 4.9 0.4 0.0 107.1 .. 6 6 6 –1.34 リトアニア 3.6 –0.1 –3.4 17.7 38.7 17.9 18.9 1 2 2 0.69 マダガスカル 7.9 .. .. 50.9 37.3 10.6 12.7 3 3 3 –0.71 マラウイ 14.2 .. .. 71.0 44.8 5.6 5.0 3 2 2 –0.33 マレーシア 2.4 –1.7 –2.8 41.8 54.5 50.9 45.0 1 1 3 0.32 マリ 4.1 8.8 –1.9 31.5 31.2 15.7 13.4 1 1 1 –0.49 モーリタニア 5.3 0.2 1.3 121.9 89.9 5.3 14.1 2 2 3 –0.88 メキシコ 3.8 .. .. 38.7 43.4 8.4 12.7 3 3 3 –0.13 モルドバ 6.2 .. .. 30.0 24.5 24.4 30.7 2 2 2 –0.30 モロッコ 1.1 0.4 –3.9 59.5 55.1 30.8 21.2 2 1 1 –0.33 モザンビーク 10.4 .. .. 58.8 47.0 17.6 21.3 1 3 3 –0.30 ミャンマー 5.0 –3.1 –4.4 84.3 51.0 .. .. 6 6 6 –1.65 ネパール 9.5 0.6 0.0 48.1 34.0 20.1 18.7 2 1 1 –0.89 オランダ 2.4 1.8 –3.3 48.2 66.8 3.4 5.0 1 1 1 1.71 ニュージーランド 2.6 3.8 –4.2 19.4 35.8 11.2 12.0 3 3 3 1.83 ニカラグア 7.6 1.5 0.9 85.9 57.0 13.3 19.5 2 2 2 –0.61 ニジェール 1.7 .. .. 39.6 27.6 10.5 13.6 1 1 1 –0.58 ナイジェリア 11.5 9.5 –0.3 17.7 16.8 28.7 16.1 3 2 2 –1.15 ノルウェー 1.0 14.5 10.6 54.3 39.2 15.9 11.0 3 3 3 1.70 パキスタン 10.8 –0.5 –2.9 59.4 61.4 10.4 7.5 2 2 2 –1.14 パナマ 5.8 4.0 –0.1 54.2 39.4 8.5 8.1 1 1 1 0.08 パプアニューギニア 8.4 8.1 2.4 .. .. 24.8 31.1 2 2 2 –0.69 パラグアイ 5.9 .. .. 25.3 12.3 16.2 19.3 3 3 1 –0.60 ペルー 3.5 3.3 2.2 33.7 22.1 20.9 29.4 2 2 2 –0.18 フィリピン 3.9 3.9 1.4 51.8 42.4 19.8 31.3 2 2 3 –0.49 ポーランド 4.0 –0.6 –2.7 46.6 55.5 14.6 20.0 3 3 3 0.83 ポルトガル 3.2 –2.0 –2.8 64.8 108.1 5.1 6.3 1 1 1 0.93 ルーマニア 4.6 –1.0 –2.9 14.3 34.1 23.4 26.3 5 3 3 0.15 ロシア 6.7 8.2 –0.2 10.6 11.2 30.5 27.3 2 2 3 –0.74 ルワンダ 6.0 –1.2 –0.7 41.4 25.0 14.9 15.5 .. 2 2 –0.21 サウジアラビア 4.7 20.9 10.4 26.8 5.8 64.8 99.2 1 1 1 –0.47 セネガル 2.4 –3.2 –4.4 30.3 40.2 14.2 14.7 1 1 1 –0.39 セルビア 9.2 .. .. 44.4 53.4 33.4 36.1 .. 3 3 –0.12 シエラレオネ 14.5 8.2 –2.4 93.4 49.2 10.1 14.5 .. 4 2 –0.64 シンガポール 4.9 7.6 5.2 88.5 105.2 97.9 100.1 3 3 3 1.47 スロバキア 3.8 –1.3 –4.5 31.3 45.5 22.4 2.0 2 2 1 0.79 ソマリア .. .. .. .. .. .. .. .. 6 6 –2.30 南アフリカ 5.4 3.8 –1.8 31.9 39.2 9.9 11.9 4 4 4 0.25 南スーダン 47.3 .. .. .. .. .. .. .. .. .. –1.48 スペイン 2.8 3.1 –7.9 39.7 71.5 1.5 2.7 1 1 1 0.94 スリ · ランカ 6.8 –1.9 –1.5 .. .. 10.7 12.2 2 2 2 –0.29 スーダン .. .. .. 80.2 80.6 4.9 0.7 2 2 2 –1.60 378 世界開発報告 2014 表 7 マクロ経済レベルにおけるリスク管理に関連した主要指標(続き) CIP イン フレ率 政府の基礎的黒字 公債総額 国際準備 柔軟な為替相場制度 世界統治指標 (年平均 (対 GDP 比、%, (対 GDP 比、%, (対 GDP 比、%, (平均,-2.5 上昇率, %) 年平均) 年平均) 年平均) (大分類,1-6 の尺度) ~ 2,5の尺度) 2010-12 2005-07 2010-12 2005-07 2010-12 2005-07 2010-12 1996-2000 2001-05 2006-10 2011 スウェーデン 1.9 2.2 –1.0 45.3 38.6 6.8 9.5 3 3 3 1.80 スイス –0.2 1.5 0.8 62.7 49.0 15.9 58.1 3 3 3 1.71 シリアアラブ共和国 19.7 .. .. 46.8 29.4 52.1 34.9 3 .. .. –1.10 タジキスタン 9.1 .. .. 37.2 34.8 5.9 6.5 5 2 2 –1.10 タンザニア 14.3 .. .. 42.4 39.7 15.8 15.7 2 2 2 –0.36 タイ 3.4 2.4 –0.2 42.6 42.9 32.4 50.7 3 3 3 –0.29 トーゴ 3.1 –1.0 –2.9 93.8 47.5 14.5 18.4 1 1 1 –0.89 チュニジア 4.6 0.0 –1.3 49.1 43.0 18.3 19.0 2 2 2 –0.18 トルコ 7.7 4.5 1.7 46.4 39.3 11.5 11.9 3 4 3 –0.01 トルクメニスタン .. .. .. 3.7 11.2 .. .. 6 6 6 –1.41 ウガンダ 16.3 .. –3.3 57.8 31.2 18.2 15.7 3 2 2 –0.59 ウクライナ 4.2 –1.2 –2.6 14.9 38.2 22.0 19.2 1 1 1 –0.58 アラブ首長国連邦 0.9 16.5 8.5 7.1 19.2 18.0 10.7 .. 1 1 0.48 イギリス 3.7 –1.5 –6.2 42.8 85.1 2.0 3.7 3 3 3 1.34 アメリカ 2.6 –0.7 –7.9 66.6 102.4 1.7 2.6 4 4 4 1.23 ウルグアイ 8.1 3.8 1.3 71.1 56.5 17.0 23.2 2 3 3 0.84 ウズベキスタン .. 4.1 6.2 21.8 9.2 .. .. .. 3 3 –1.29 ベネズエラ 23.6 2.0 –17.2 36.4 40.8 18.4 6.3 2 1 1 –1.28 ベトナム 13.8 –0.2 –2.4 42.5 52.3 24.1 11.3 .. 2 2 –0.54 ヨルダン川西岸 / ガザ .. .. .. .. .. .. .. 1 1 1 –0.76 イエメン 16.8 –0.4 –0.6 41.7 43.6 37.5 16.6 .. 2 2 –1.33 ザンビア 6.4 .. .. 25.3 25.9 8.0 13.3 5 3 4 –0.30 ジンバブエ .. .. .. 58.0 67.8 2.4 7.3 1 5 1 –1.47 世界全体 1.5m –1.8m 42.6m 41.3m 低所得国 0.3 –1.9 58.0 35.9 中所得国 0.8 –1.7 41.8 40.8 低中所得国 –0.3 –2.1 42.5 38.9 上中所得国 2.6 –0.9 38.7 41.3 低 / 中所得国 0.8 –1.8 46.4 39.7 高額所得 2.1 –1.6 34.8 48.6 主要指標 379 表 8 自然災害と気候変動の指標 自然災害(旱魃,地震,洪水,嵐)の結果 1 人当たり 人口 100 万人当たり 損害総額 年平均損害額 CO2 排出 死亡者総数 年平均死亡者数 (100 万ドル) (対 GDP 非,%) (メートル・トン) 1993-2002 2003-2012 1993-2002 2003-12 1993-2002 2003-12 1993-2002 2003-2012 2009 アフガニスタン 8,787 1,908 45.1 7.1 20 167 .. 0.16 0.2 アルバニア 11 5 0.3 0.2 18 0 0.06 0.00 1.0 アルジェリア 1,292 2,694 4.2 7.5 362 6,179 0.08 0.36 3.3 アンゴラ 169 372 1.3 2.0 10 0 0.02 0.00 1.4 アルゼンチン 86 109 0.2 0.3 3,307 1,198 0.11 0.04 4.4 アルメニア 4 1 0.1 0.0 141 0 0.75 0.00 1.5 オーストラリア 82 80 0.4 0.4 7,974 18,907 0.20 0.18 18.4 オーストリア 20 9 0.3 0.1 2,640 2,300 0.12 0.06 7.4 アゼルバイジャン 49 3 0.6 0.0 156 55 0.35 0.01 5.5 バングラデシュ 5,891 7,772 4.6 5.3 6,342 5,384 1.44 0.68 0.3 ベラルーシ 7 0 0.1 0.0 137 10 0.09 0.00 6.3 ベルギー 16 11 0.2 0.1 183 947 0.01 0.02 9.6 ベナン 34 85 0.5 0.9 3 0 0.01 0.00 0.5 ボリビア 323 305 4.0 3.1 291 746 0.34 0.45 1.4 ボスニア · ヘルツェゴビナ 0 7 0.0 0.2 158 227 0.38 0.12 7.8 ブラジル 401 2,142 0.2 1.1 262 7,619 0.00 0.05 1.9 ブルガリア 3 56 0.0 0.7 1 461 0.00 0.09 5.6 ブルキナファソ 28 101 0.3 0.7 0 150 0.00 0.18 0.1 ブルンジ 6 180 0.1 2.1 0 0 0.00 0.00 0.0 カンボジア 1,029 311 8.8 2.2 315 592 1.01 0.57 0.3 カメルーン 63 57 0.4 0.3 0 0 0.00 0.00 0.3 カナダ 77 26 0.3 0.1 2,549 3,186 0.04 0.02 15.2 中央アフリカ共和国 10 13 0.3 0.3 0 0 0.00 0.00 0.1 チャド 102 131 1.3 1.2 1 10 0.01 0.01 0.0 チリ 221 666 1.5 4.0 505 30,231 0.06 1.68 3.9 中国 22,136 100,853 1.8 7.6 120,564 205,511 1.18 0.45 5.8 香港 91 7 1.4 0.1 249 0 0.01 0.00 5.3 コロンビア 1,935 1,635 5.0 3.6 1,863 3,442 0.19 0.14 1.6 コンゴ民主共和国 331 110 0.7 0.2 9 0 0.01 0.00 0.0 コンゴ共和国 2 32 0.1 0.8 0 0 0.00 0.00 0.5 コスタリカ 101 119 2.7 2.6 577 370 0.41 0.12 1.8 トジボワール コー​​ 28 24 0.2 0.1 0 0 0.00 0.00 0.4 クロアチア 0 2 0.0 0.0 0 410 0.00 0.06 4.9 チェコ共和国 56 39 0.5 0.4 4,438 698 0.69 0.03 10.3 デンマーク 8 4 0.2 0.1 2,605 1,400 0.15 0.04 8.3 ドミニカ共和国 421 954 5.0 9.8 1,982 587 0.94 0.13 2.1 エクアドル 401 108 3.3 0.7 305 1,155 0.11 0.19 2.0 エジプト 669 71 1.0 0.1 142 0 0.02 0.00 2.8 エルサルバドル 1,669 479 28.3 7.8 2,432 2,342 2.02 1.09 1.0 エリトリア 3 0 0.1 0.0 5 0 0.07 0.00 0.1 エチオピア 543 1,367 0.9 1.7 22 9 0.03 0.00 0.1 フィンランド .. .. .. .. .. .. .. .. 10.0 フランス 247 137 0.4 0.2 15,939 10,760 0.11 0.04 5.6 グルジア 14 13 0.3 0.3 582 96 1.61 0.08 1.3 ドイツ 112 70 0.1 0.1 19,619 10,202 0.09 0.03 9.0 ガーナ 213 179 1.2 0.8 34 0 0.04 0.00 0.3 ギリシャ 236 10 2.2 0.1 5,670 946 0.42 0.03 8.4 グアテマラ 532 1,856 5.0 13.6 774 1,910 0.40 0.49 1.1 ギニア 25 10 0.3 0.1 0 0 0.00 0.00 0.1 ハイチ 1,499 229,306 18.1 2,379.1 231 8,356 0.62 13.04 0.2 ホンジュラス 15,270 333 255.3 4.5 4,061 340 7.81 0.24 1.0 ハンガリー 49 17 0.5 0.2 393 598 0.08 0.04 4.9 インド 60,760 30,870 6.0 2.6 20,325 22,273 0.47 0.18 1.7 インドネシア 3,048 178,093 1.5 76.0 1,674 11,981 0.18 0.23 1.9 イランイスラム共和国 4,786 28,093 7.5 38.7 5,726 1,183 0.56 0.03 8.2 380 世界開発報告 2014 表 8 自然災害と気候変動の指標(続き) 自然災害(旱魃,地震,洪水,嵐)の結果 1 人当たり 人口 100 万人当たり 損害総額 年平均損害額 CO2 排出 死亡者総数 年平均死亡者数 (100 万ドル) (対 GDP 非,%) (メートル・トン) 1993-2002 2003-2012 1993-2002 2003-12 1993-2002 2003-12 1993-2002 2003-2012 2009 イラク 0 36 0.0 0.1 0 1 0.00 0.00 3.6 アイルランド 16 2 0.4 0.0 239 325 0.03 0.01 9.3 イスラエル 18 2 0.3 0.0 118 0 0.01 0.00 9.0 イタリア 214 395 0.4 0.7 25,552 22,586 0.21 0.10 6.7 日本 5,885 20,781 4.7 16.3 123,726 280,055 0.32 0.58 8.6 ヨルダン 16 0 0.3 0.0 1 0 0.00 0.00 3.8 カザフスタン 122 50 0.8 0.3 41 239 0.02 0.02 14.0 ケニア 300 874 1.0 2.3 12 201 0.01 0.07 0.3 韓国 1,163 358 2.5 0.7 7,614 6,414 0.22 0.07 10.4 キルギス 1 81 0.0 1.5 4 3 0.03 0.01 1.2 ラオス 81 80 1.6 1.3 304 100 2.38 0.18 0.3 レバノン 0 0 0.0 0.0 0 0 0.00 0.00 4.9 リベリア 10 4 0.4 0.1 0 0 0.00 0.00 0.1 リビア 0 0 0.0 0.0 42 0 0.02 0.00 10.5 リトアニア 8 4 0.2 0.1 5 256 0.00 0.05 3.8 マダガスカル 571 1,101 3.9 5.5 69 805 0.19 0.86 0.1 マラウイ 573 46 5.4 0.3 8 0 0.04 0.00 0.1 マレーシア 328 172 1.5 0.6 54 1,500 0.01 0.06 7.1 マリ 24 45 0.2 0.3 0 0 0.00 0.00 0.0 モーリタニア 26 20 1.0 0.6 0 0 0.00 0.00 0.6 メキシコ 2,261 542 2.2 0.5 8,960 20,186 0.21 0.18 3.8 モルドバ 62 4 1.7 0.1 386 414 2.36 0.68 1.3 モロッコ 991 791 3.5 2.6 1,166 429 0.29 0.05 1.6 モザンビーク 1,232 237 7.1 1.0 483 194 1.12 0.20 0.1 ミャンマー 230 139,047 0.5 271.7 10 4,564 .. .. 0.2 ネパール 2,620 1,254 11.8 4.8 237 63 0.49 0.05 0.1 オランダ 8 7 0.1 0.0 2,065 578 0.05 0.01 10.3 ニュージーランド 4 191 0.1 4.5 177 24,842 0.03 1.91 7.4 ニカラグア 3,489 332 70.7 5.9 1,020 0 2.20 0.00 0.8 ニジェール 84 140 0.8 0.9 0 3 0.00 0.01 0.1 ナイジェリア 438 935 0.4 0.6 76 538 0.02 0.03 0.5 ノルウェー 1 4 0.0 0.1 303 130 0.02 0.00 9.7 パキスタン 4,173 79,205 3.0 47.4 596 22,117 0.10 1.35 0.9 パナマ 11 83 0.4 2.3 9 17 0.01 0.01 2.2 パプアニューギニア 2,359 180 46.2 2.7 162 27 0.43 0.03 0.5 パラグアイ 100 9 1.9 0.1 7 7 0.01 0.00 0.7 ペルー 1,055 958 4.2 3.3 362 600 0.06 0.05 1.6 フィリピン 5,142 10,834 6.9 12.0 2,089 4,847 0.29 0.28 0.7 ポーランド 104 52 0.3 0.1 4,211 3,336 0.24 0.06 7.8 ポルトガル 50 48 0.5 0.5 48 2,958 0.00 0.12 5.4 ルーマニア 143 212 0.6 1.0 1,062 1,313 0.25 0.06 3.7 ロシア 2,706 270 1.8 0.2 2,503 3,977 0.09 0.02 11.1 ルワンダ 126 85 1.8 0.8 0 0 0.00 0.00 0.1 サウジアラビア 19 295 0.1 1.1 0 1,200 0.00 0.03 16.2 セネガル 215 46 2.3 0.4 41 10 0.08 0.01 0.4 セルビア 12 2 0.2 0.0 0 0 0.00 0.00 6.3 シエラレオネ 25 154 0.6 2.8 0 0 0.00 0.00 0.3 シンガポール 0 0 0.0 0.0 0 0 0.00 0.00 6.4 スロバキア 57 9 1.1 0.2 227 408 0.08 0.04 6.3 ソマリア 2,485 482 36.0 5.3 0 100 .. .. 0.1 南アフリカ 500 163 1.2 0.3 401 673 0.03 0.02 10.1 南スーダン .. .. .. .. .. .. .. .. 0.0 スペイン 109 46 0.3 0.1 8,661 3,249 0.14 0.02 6.3 スリ · ランカ 42 35,931 0.2 177.7 4 2,012 0.00 0.49 0.6 スーダン 369 330 1.4 1.0 42 484 0.04 0.09 0.3 主要指標 381 表 8 自然災害と気候変動の指標(続き) 自然災害(旱魃,地震,洪水,嵐)の結果 1 人当たり 人口 100 万人当たり 損害総額 年平均損害額 CO2 排出 死亡者総数 年平均死亡者数 (100 万ドル) (対 GDP 非,%) (メートル・トン) 1993-2002 2003-2012 1993-2002 2003-12 1993-2002 2003-12 1993-2002 2003-2012 2009 スウェーデン 4 7 0.0 0.1 160 2,800 0.01 0.06 4.7 スイス 18 8 0.3 0.1 2,348 3,569 0.08 0.07 5.4 シリアアラブ共和国 27 11 0.2 0.1 0 0 0.00 0.00 3.1 タジキスタン 113 148 1.9 2.0 132 311 1.00 0.60 0.4 タンザニア 289 171 0.9 0.4 4 0 0.00 0.00 0.2 タイ 1,244 10,008 2.0 15.1 2,929 42,573 0.26 1.56 4.1 トーゴ 3 69 0.1 1.2 0 0 0.00 0.00 0.2 チュニジア .. .. .. .. .. .. .. .. 2.4 トルコ 18,515 1,111 30.2 1.6 23,019 2,746 0.85 0.04 3.9 トルクメニスタン 11 0 0.3 0.0 100 0 0.38 0.00 9.7 ウガンダ 319 160 1.4 0.5 73 0 0.11 0.00 0.1 ウクライナ 57 46 0.1 0.1 426 2,816 0.10 0.16 5.9 アラブ首長国連邦 .. .. .. .. .. .. .. .. 20.3 イギリス 108 58 0.2 0.1 11,439 13,938 0.08 0.05 7.7 アメリカ 2,317 4,242 0.8 1.4 128,109 474,999 0.15 0.33 17.3 ウルグアイ 5 21 0.2 0.6 280 45 0.11 0.01 2.3 ウズベキスタン 0 13 0.0 0.0 50 0 0.03 0.00 4.2 ベネズエラ 30,233 212 128.7 0.8 3,249 330 0.36 0.01 6.5 ベトナム 7,852 2,692 10.4 3.2 3,250 5,605 1.19 0.62 1.7 ヨルダン川西岸 / ガザ .. .. .. .. .. .. .. .. 0.6 イエメン 562 278 3.4 1.3 1,212 0 1.92 0.00 1.1 ザンビア 5 55 0.1 0.4 21 0 0.06 0.00 0.2 ジンバブエ 119 37 1.0 0.3 127 0 0.20 0.00 0.7 世界全体 240,551s 911,500s 4.1w 13.7w 656,227s 1,340,427s 0.21w 0.22w 4.7wa 低所得国 27,921 386,806 4.6 50.5 31,429 21,249 0.56 0.51 0.3 中所得国 195,846 495,936 4.8 10.6 222,706 389,427 0.44 0.26 3.3 低中所得国 109,266 344,583 5.5 14.6 41,440 80,026 0.39 0.24 1.6 上中所得国 86,580 151,353 4.1 6.6 181,266 309,401 0.46 0.26 5.1 低 / 中所得国 223,767 882,742 4.7 16.3 254,135 410,675 0.45 0.26 2.9 高額所得 16,784 28,758 1.4 2.3 402,093 929,752 0.16 0.21 11.2 主要島嶼国 7,237 241,643 7.4 205.9 5,859 17,287 0.48 0.61 1.3 a.個別国に割り当てられていない排出を含む. 382 世界開発報告 2014 表 9 地球気温偏差:1951-80 年の平均に対する偏差 平均気温(℃) 12 月 -2 月 3 月 -5 月 6 月 -8 月 9 月 -11 月 1 月 -12 月 5 年平均 1951 –0.32 –0.09 0.01 0.04 –0.06 –0.05 1952 0.12 –0.01 0.03 –0.04 0.02 –0.05 1953 0.10 0.14 0.05 0.03 0.09 –0.04 1954 –0.08 –0.16 –0.15 0.00 –0.12 –0.06 1955 –0.05 –0.23 –0.03 –0.13 –0.12 –0.06 1956 –0.23 –0.23 –0.17 –0.17 –0.18 –0.07 1957 –0.09 –0.01 0.12 0.06 0.04 –0.04 1958 0.25 0.05 –0.07 –0.01 0.04 –0.02 1959 0.04 0.11 0.02 –0.08 0.03 0.02 1960 0.03 –0.21 –0.03 –0.00 –0.04 0.02 1961 0.13 0.11 0.04 0.02 0.05 0.03 1962 0.02 0.04 0.01 0.02 0.04 –0.02 1963 0.06 –0.09 0.14 0.18 0.07 –0.03 1964 –0.06 –0.26 –0.12 –0.25 –0.20 –0.05 1965 –0.17 –0.13 –0.10 –0.09 –0.10 –0.06 1966 –0.07 –0.05 –0.00 –0.04 –0.04 –0.08 1967 –0.09 0.06 –0.02 –0.01 –0.01 –0.03 1968 –0.11 0.05 –0.07 –0.03 –0.05 0.00 1969 –0.13 0.10 0.02 0.12 0.06 –0.00 1970 0.22 0.05 –0.02 0.06 0.04 0.00 1971 –0.10 –0.09 –0.08 –0.01 –0.07 0.04 1972 –0.15 0.01 0.10 0.05 0.02 0.02 1973 0.26 0.26 0.11 0.09 0.16 0.01 1974 –0.15 –0.05 0.01 –0.08 –0.07 –0.00 1975 0.03 0.11 –0.06 –0.10 –0.01 0.02 1976 –0.10 –0.18 –0.14 –0.15 –0.12 –0.00 1977 0.10 0.24 0.21 0.05 0.15 0.04 1978 0.07 0.11 –0.05 0.07 0.05 0.09 1979 0.02 0.08 0.05 0.21 0.12 0.17 1980 0.35 0.28 0.20 0.18 0.23 0.16 1981 0.35 0.31 0.29 0.13 0.29 0.20 1982 0.18 0.03 0.06 0.09 0.09 0.20 1983 0.41 0.33 0.19 0.25 0.27 0.17 1984 0.17 0.21 0.09 0.09 0.12 0.14 1985 0.02 0.10 0.07 0.08 0.08 0.18 1986 0.23 0.23 0.09 0.04 0.15 0.20 1987 0.27 0.18 0.32 0.27 0.29 0.22 1988 0.44 0.41 0.36 0.26 0.36 0.29 1989 0.23 0.24 0.24 0.25 0.24 0.33 1990 0.34 0.54 0.33 0.34 0.40 0.31 1991 0.41 0.38 0.45 0.32 0.38 0.28 1992 0.37 0.31 0.13 0.01 0.19 0.29 1993 0.29 0.26 0.18 0.10 0.21 0.30 1994 0.14 0.30 0.28 0.38 0.29 0.29 1995 0.54 0.38 0.45 0.39 0.43 0.34 1996 0.33 0.31 0.36 0.28 0.33 0.43 1997 0.36 0.42 0.41 0.59 0.46 0.45 1998 0.68 0.64 0.70 0.45 0.61 0.44 1999 0.56 0.32 0.37 0.39 0.40 0.48 2000 0.41 0.51 0.42 0.34 0.41 0.51 2001 0.38 0.55 0.53 0.56 0.53 0.51 2002 0.66 0.70 0.56 0.59 0.62 0.54 2003 0.57 0.56 0.55 0.63 0.60 0.59 2004 0.65 0.54 0.36 0.60 0.52 0.60 2005 0.58 0.65 0.62 0.74 0.66 0.60 2006 0.62 0.49 0.59 0.65 0.59 0.58 2007 0.78 0.68 0.57 0.58 0.63 0.59 2008 0.34 0.55 0.46 0.61 0.49 0.59 2009 0.52 0.55 0.63 0.64 0.59 0.59 2010 0.66 0.80 0.59 0.65 0.67 0.57 2011 0.45 0.56 0.64 0.54 0.55 2012 0.42 0.60 0.56 0.70 0.57 主要指標 383 平均気温(℃) 12 月 -2 月 3 月 -5 月 6 月 -8 月 9 月 -11 月 10 年平均 1951–1960 –0.02 –0.06 –0.02 –0.03 –0.03 1961–1970 –0.02 –0.01 –0.01 –0.00 –0.01 1971–1980 0.03 0.08 0.03 0.03 0.05 1981–1990 0.26 0.26 0.20 0.18 0.23 1991–2000 0.41 0.38 0.37 0.33 0.37 2001–2010 0.58 0.61 0.55 0.63 0.59 384 世界開発報告 2014 表 10 援助コミットメント 緊急対応 復興援助 防止・準備 総額 100 万ドル 対総額比(%) 100 万ドル 対総額比(%) 100 万ドル 対総額比(%) 100 万ドル 1981 417.3 80.3 101.3 19.5 1.1 0.2 519.6 1982 698.4 71.3 242.0 24.7 39.1 4.0 979.5 1983 615.0 54.4 466.2 41.2 49.9 4.4 1,131.1 1984 1,226.2 65.3 596.6 31.8 53.6 2.9 1,876.4 1985 813.7 44.0 863.3 46.7 172.8 9.3 1,849.9 1986 838.1 62.7 497.5 37.3 0.0 0.0 1,335.6 1987 1,134.7 66.6 562.0 33.0 7.0 0.4 1,703.7 1988 535.2 52.4 461.2 45.1 25.9 2.5 1,022.3 1989 638.0 43.6 817.4 55.9 6.8 0.5 1,462.2 1990 930.0 58.1 579.5 36.2 91.6 5.7 1,601.1 1991 1,316.0 89.6 142.6 9.7 9.4 0.6 1,468.0 1992 1,252.4 76.5 377.1 23.0 8.3 0.5 1,637.7 1993 1,031.3 68.7 456.8 30.4 12.5 0.8 1,500.7 1994 1,253.9 71.0 511.3 29.0 0.5 0.0 1,765.7 1995 1,804.5 83.6 339.5 15.7 13.4 0.6 2,157.4 1996 2,818.5 93.7 186.5 6.2 3.5 0.1 3,008.6 1997 2,329.6 83.9 220.4 7.9 227.8 8.2 2,777.7 1998 3,107.5 72.4 1,143.5 26.7 38.1 0.9 4,289.2 1999 5,254.9 78.4 1,393.0 20.8 52.1 0.8 6,699.9 2000 2,403.7 70.0 975.4 28.4 56.5 1.6 3,435.6 2001 2,819.9 52.8 2,473.8 46.3 44.1 0.8 5,337.8 2002 3,871.9 69.6 1,609.1 28.9 84.5 1.5 5,565.5 2003 3,244.5 74.6 878.3 20.2 228.4 5.2 4,351.2 2004 4,097.1 83.1 789.7 16.0 43.0 0.9 4,929.8 2005 4,489.6 55.9 2,964.2 36.9 579.0 7.2 8,032.7 2006 3,039.4 65.5 1,374.0 29.6 227.8 4.9 4,641.3 2007 3,472.9 58.5 2,173.4 36.6 290.8 4.9 5,937.1 2008 3,227.9 74.9 573.7 13.3 509.5 11.8 4,311.1 2009 3,698.7 81.2 484.3 10.6 374.4 8.2 4,557.5 2010 225.9 37.2 276.4 45.5 105.6 17.4 607.9 合計 62,606.6 69.2 24,530.0 27.1 3,357.0 3.7 90,493.6 1981–1990 7,846.5 58.2 5,187.1 38.5 447.7 3.3 13,481.3 1991–2000 22,572.2 78.5 5,746.1 20.0 422.1 1.5 28,740.4 2001–2010 32,187.8 66.7 13,596.9 28.2 2,487.2 5.2 48,271.9 主要指標 385 テクニカル・ノート Division, Populations and Vital Statistics Report ( 各年 ); 各国統計局からの国勢調査報告 や そ の 他 統 計 刊 行 物;Eurostat, Demographic データの一貫性と信頼性 Statistics; Secretariat of the Pacific Community,  データの標準化には多大な努力を払っているが, Statics and Demography Programme; U. S. 完璧な比較可能性は確保できていない.そのため指 Census Bureau, International Database. 標の解釈については注意を要する.データの入手可 能性,比較可能性,および信頼性には,多くの要因 人 口 密 度: 人 口 密 度 は 年 央 の 総 人 口( 上 記 で 定 が影響を与える.途上国では統計システムがまだ不 義)を国土面積(平方キロメートル)で除したも 備であるため,統計手法,対象範囲,慣行,および のである.国土面積は当該国の総面積から内陸水 定義などに大きな差がある.各国間および異時点間 域・大陸棚と排他的経済水域を除いたものである. の比較については,確定的には解決できない複雑な ほとんどの場合,内陸水域には主要河川や湖が含 技術的ないし概念的な問題が含まれていることもあ ま れ る. デ ー タ の 出 所:Food and Agriculture る.データの対象範囲が狭くなっていることもある Organization (http://faostat.fao.org); World が,それは特殊事情があったり,紛争などに起因す Development Indicators か ら の 人 口 デ ー タ る問題に直面している国の場合は,データの収集と (http://data.worldbank.org/indicator/SP.POP. 報告が影響を受けたりするためである.このような TOTL). 理由から,データは最も権威がある情報源に依拠し ているとはいえ,各国間の相違を正確に数値化した 人 口 の 年 齢 構 成(0-14 歳 ):人口の年齢構成は というよりも,傾向を示唆し,おもな相違の特徴を 0-14 歳 の 人 口 が 総 人 口( 上 記 で 定 義 ) に 占 め 示したものにすぎないと解釈すべきである. る 割 合 を 示 す. デ ー タ の 出 所:United Nations Population Division, World Population Prospects (http://esa.un.org/wpp). 表 1. 主要開発指標 人口: 総人口は事実上の定義に基づいており,法 国 民 総 所 得: 国 民 総 所 得(GNI; 以 前 は 国 民 総 的地位や市民権にはかかわりなく,すべての住民 生産ないし GNP)は,すべての居住している生 を 含 む. た だ し, 一 般 に は 出 身 国 の 人 口 に 含 ま 産 者 に よ り 生 み 出 さ れ た 付 加 価 値 の 総 計 に, 産 れ, 保 護 を 受 け て い る 国 に 永 住 し て い る わ け で 出 の 価 値 評 価 に 含 ま れ て い な い 物 品 税( 補 助 金 は な い 難 民 は 除 く. 数 値 は 年 央 推 定 値. デ ー タ は 控 除 ) と, 海 外 か ら の 一 次 所 得( 被 雇 用 者 報 の 出 所:United Nations Population Division, 酬 と 財 産 所 得 ) の 純 受 取 を 加 え た も の で あ る. World Population Prospects; United Statistical デ ー タ の 出 所:World Bank national accounts Division, Populations and Vital Statistics data(http://data.worldbank.org); Organisation Report ( 各年 ); 各国統計局からの国勢調査報告 for Economic Co-operation and Development や そ の 他 統 計 刊 行 物;Eurostat, Demographic (OECD) National Accounts data (http://stats. Statistics; Secretariat of the Pacific Community, oecd.org). Statics and Demography Programme; U. S. Census Bureau, International Database. 1 人 当 た り GNI:1 人 当 た り GNI は,GNI( 上 記 で 定 義 ) を 総 人 口 で 除 し た も の で あ る. デ ー 年平均人口増加率:t 年の年間人口増加率は t-1 年 タ の 出 所:World Bank, World Development から t 年までの総人口(上記で定義)の指数関数 Indicators (http://data.worldbank.org/data- 的な増加率であり,%で表示されている. データ catalogu/world-developmnet-indocators). の 出 所:United Nations Population Division, World Population Prospects; United Statistical PPP 表 示 の 国 民 総 所 得:PPP GNI( 以 前 は PPP 386 世界開発報告 2014 GNP) は GNI( 上 記 で 定 義 ) を, 購 買 力 平 価 成人識字率:成人識字率は,日常生活に関する短い (PPP)を用いて現行の国際的なドルに換算したも 表現を理解しながら,読み書きできる 15 歳以上人 のである.国際的な 1 ドルは自国の GNI に対し 口の割合である. データの出所:United Nations て,米ドルがアメリカの GNI に対してもつのと同 Education, Scientific, and Cultural Organization 等の購買力をもつ. データの出所:World Bank Institute for Statistics (http://www.uis.unesco. national accounts data(http://data.worldbank. rog). org); OECD National Accounts data (http:// stats.oecd.org). 表 2 その他諸国の主要開発指標 PPP 表 示 の 1 人 当 た り GNI:1 人 当 た り PPP  表 1 の指標に関する説明を参照. GNI は,PPP に 基 づ く 1 人 当 た り GNI( 上 記 で 定 義 ) で あ る. デ ー タ の 出 所:World Bank, International Comparison Program database 表 3 主要リスク指標 (http://www.worldbank.org/data/icp). 大不況,不況年:World Development Indicators か ら の 1 人 当 た り 実 質 GDP を 使 っ て,Barro 1 人当たり国内総生産増加率:1 人当たり国内総生 and Ursúa 2012 に な ら い,1 人 当 た り GDP 成 産(GDP)の増加率は,現地通貨に基づく不変価 長率がピークからボトムまでで 5%以上の低下を 格の 1 人当たり GDP の年間増加率である(総括 示した場合を限界値として使うことによって大不 値は 2005 年の不変価格のドルに基づく).1 人当 況を特定した.構築された変数はダミー変数であ たり GDP は GDP を総人口で除したものである. . デー る(大不況にあれば1,そうでなければ 0) GDP(購入者価格による)は,すべての居住して タ の 出 所:Barro, Robert J., and José F. Ursúa, いる生産者により生み出された付加価値の総計に, 2012,“Rare Macroeconomic Disasters,”Annual 産出の価値評価に含まれていない物品税を加えて, Review of Economics 4 (1): 83-109, このデータ 補助金を控除したものである.組立資産の減価償 は 入 手 可 能(http://scholar.harvard.edu/barro/ 却や天然資源の枯渇化・劣化について控除を行わ publications/barro-ursua-macroeconomic- ずに計算されている.データの出所:World Bank data); World Bank national accounts national accounts data(http://data.worldbank. data(http://data.worldbank.org); OECD org); OECD National Accounts data (http:// National Accounts data (http://stats.oecd.org). stats.oecd.org). 自 然 災 害( 旱 魃・ 地 震・ 洪 水・ 嵐 ):自然災害 出生時余命: 出生時余命は,出生時における死亡 は,指定された期間内に発生した旱魃,地震,洪 率パターンが生涯を通じて不変であるとした場合 水, お よ び 嵐 の 発 生 件 数(EM-DAT デ ー タ ベ ー に, 新 生 児 が 何 歳 ま で 生 き る か を 示 す 数 値 で あ スの定義による).多数の諸国に影響が及ぶ災害 る. デ ー タ の 出 所:United Nations Population は総括グループの計算目的上は別の事象として扱 Division, World Population Prospects; United う.データの出所:EM-DAT: The OFDA/CRED Statistical Division, Populations and Vital International Disaster Database (http://www. Statistics Report ( 各 年 ); 各 国 統 計 局 か ら の emdat.be). 国 勢 調 査 報 告 や そ の 他 統 計 刊 行 物;Eurostat, Demographic Statistics; Secretariat of the 流行病:流行病は,指定された期間内に発生した流 Pacific Community, Statics and Demography 行病の件数.流行病というのは当該地域ないし人口 Programme; U. S. Census Bureau, International のなかにすでに存在していた感染症にかかわる患者 Database. 数の異常な増加,あるいは当該地域にはそれまで存 在していなかった感染症の発生のいずれかである. 主要指標 387 多数の諸国に影響が及ぶ疾病は総括グループの計算 化の標準偏差(観察された変動性)は,少なくと 目的上は別の事象として扱う.データの出所:EM- も 9 つの観察値を有する数十年間について計算さ DAT: The OFDA/CRED International Disaster れている. データの出所:World Bank national Database (http://www.emdat.be). accounts data(http://data.worldbank.org); OECD National Accounts data (http://stats. : 成人死亡率は,仮 成人死亡率(1,000 人当たり) oecd.org). に 15-60 歳の間に,各年齢に固有な死亡率に従う とした場合に,その間に死亡する確率を示す.デー 1 人当たり GDP 成長率の変動性: 歴史的な変動 タ の 出 所:United Nations Population Division, 性は過去における 1 人当たり GDP の変化をみる World Population Prospects (http://esa.un.org/ こ と に よ っ て 計 算 さ れ て い る.1 人 当 た り GDP wpp); University of California, Berkeley; Max 成長率は自然対数の差分を使うことで近似されて Planck Institute for Demographic Research, いる.1 人当たり GDP における%変化の標準偏 Human Mortality Database (http://www. 差(観察された変動性)は,少なくとも 9 つの観 mortality.org). 察値を有する数十年間について計算されている. デ ー タ の 出 所:World Bank national accounts 殺人率(10 万人当たり):意図的な殺人は,家庭内 data(http://data.worldbank.org); OECD 口論や個人間暴力,土地資源を巡る暴力的紛争,縄 National Accounts data (http://stats.oecd. 張りないし統制を巡るギャング間暴力,武装グルー org). プによる略奪的な暴力や殺人などの結果として,意 図的になされる不法な殺人の推定値である.意図的 リスク準備指数:リスク準備指数は,各国のリスク な殺人はすべての意図的な殺害を含むわけではな に対する備えを推定する複合指数である.指数の構 い.差異は通常は殺害の組織にある.個人ないし小 成要素は次の通りである:学校教育の平均年数;予 集団は,通常は殺人を犯すが,武力紛争における殺 防接種率(麻疹);純資産 1,000 ドル未満家計の割 害は通常は数百人から成る相当に結束力のある集団 合;金融アクセス指数;年金制度拠出者(対労働力 によって犯されるため,通常の殺人からは除外さ 比%);「総じて人々は信頼できる」と述べた回答 れている.データの出所:United Nations Office 者の割合;改善された衛生設備へのアクセス(対 on Drugs and Crime’s International Homicide 人口比%);総公債(対歳入比%).この指数は次 Statistics (http://www.unodc.org/unodc/en/ の論文で提案された方法にしたがっている.Foa, data-and-analysis/homicide.html). R, 2013,“Household Risk Preparation Indices: Construction and Diagnostics,”Background 貧 困 者 比 率(1 日 2.50 ド ル,1 日 10 ド ル,PPP, Paper for the World Development Report 対人口比%): 貧困者比率,は 2005 年の国際的価 2014.データの出所:WDR スタッフによる計算. 格でみて,1 日 2.50 ドルと 1 日 10 ドル未満でそ れぞれ生活している人口の比率を示す. データの 出所: 貧困測定のためのオンライン・ツールであ 表 4 家計レベルにおけるリスク管理関連の主要 る World Bank, PovcalNet(http://iresearch. 指標 worldban.org/PovcalNet/index.htm). 教育達成度(初等・中等・高等教育): 教育達成 度は,各教育水準(初等・中等・高等)を修了し 1 人当たり家計消費増加率の変動性: 歴史的な変 た 25 歳以上人口の割合である.観察値は国勢調査 動性は過去における 1 人当たり家計消費の変化 に基づく推定値. データの出所:Robert J. Barro をみることによって計算されている.1 人当たり and Jong-Wha Lee, Barr-Lee Educational 家計消費増加率は自然対数の差分を使うことで近 Attainment Dataset (http://www.barrolee. 似されている.1 人当たり家計消費における%変 com). 388 世界開発報告 2014 教育の質,PISA 平均得点(数学と読み):OECD financial_inclusion). が 調 整 役 を し て い る「 生 徒 の 学 習 到 達 度 調 査 」 (PISA)は国際的に比較可能な生徒評価である.同 調査は 15 歳児の知識とスキルを,読み・数学・理 表 5 企業部門レベルにおけるリスク管理関連の 科のリテラシーをテストすることによって,1997 主要指標 年以降 3 年ごとに評価を行っている.教科別の平 賃金雇用: 賃金・給与労働者(被雇用者)は,「有 均成績は当該国の全生徒平均得点を指す.データの 給職」と定義される種類の仕事をもっている労働者 出所:OECD (http://www.oecd.org/pisa). のことであり,在職者は明示的(文書あるいは口頭 による)ないしは暗示的な雇用契約を有しており, 5 歳未満児死亡率(生産 1,000 人当たり):5 歳未 勤務先の売上に直接的に依存していない基本的な報 満児死亡率は,仮に当該年の年齢固有の死亡率に 酬を享受している. データの出所:International したがうとすれば,新生児が 5 歳に到達する前に Labour Organization, Key Indicators of the 死亡する確率である. データの出所:Level and Labour Market (database, http://www.ilo.org/ Trends in Child Mortality, UN Inter-agency kilm). Group for Child Mortality Estimation (United Nation Children’s Fund , World 財市場の効率性: 財市場の効率性は,特定の需給 Health Organization , World Bank, 条件を所与として,適正なミックスの財・サービ and United Nations Population Division at スを生産できることに加えて,その財が最も有効 http://www.childmortality.org). に取引されることを確保できる経済の能力を示す 複合指標である.指標は 1-7 の尺度を使っており, 妊 産 婦 死 亡 率( 生 産 1,000 人 当 た り ):妊産婦 1 は最低の効率性,7 は最高の効率性を意味する. 死 亡 率 は, 妊 娠 中 な い し 妊 娠 中 絶 後 42 日 以 データの出所:World Economic Forum, Global 内 に, 妊 娠 関 連 の 原 因 で 死 亡 す る 女 性 の 人 数 Competitiveness Report, 2006-07 and 2-12- で あ る. デ ー タ の 出 所:Trends in Maternal 13 editions (http://www.weforum.org/issues/ Mortality: 1990-2010, WHO, UNICEF, United competitivesss-0/gci2012-data-platform). Nations Population Fund, and the World Bank (http://www.who.int/reproductivehealth/ 労働市場の効率性:労働市場の効率性は,労働者を publications/monitoring/9789241503631/en). 最も有効な用途に割り当て,職務で最善の努力を払 うインセンティブを供与する経済の効率性を示す 社 会 保 険 へ の ア ク セ ス: 社 会 保 険 へ の ア ク セ 複合指標である.指標は 1-7 の尺度を使っており, ス は,60 歳 以 上 の 人 口 の う ち, 社 会 保 険 の 受 1 は最低の効率性,7 は最高の効率性を意味する. 益 者 で あ る 人 の 割 合 で あ る. デ ー タ の 出 所: データの出所:World Economic Forum, Global World Bank, Pensions (database, http:// Competitiveness Report, 2006-07 and 2-12- go.worldbank.org/8KO0DUVDS0); United 13 editions (http://www.weforum.org/issues/ Nations Population Division, World Population competitivesss-0/gci2012-data-platform). Prospects (http://esa.un.org/wpp). 年金拠出者: 年金拠出者はある年に年金制度に積 貯蓄(前年に貯蓄した人の割合%): 前年に貯蓄し 極的に拠出している人の総数を,対労働力比で示 た人の割合は,過去 12 カ月間にいくらかのお金 し た も の で あ る. デ ー タ の 出 所:World Bank, を貯蓄した,あるいはとっておいたと述べた回答 Pensions (database, http://go.worldbank. 者(15 歳 以 上 ) の 割 合. デ ー タ の 出 所:World org/8KO0DUVDS0); Pallares-Miralles, Bank, Global Financial Inclusion Database Montserrat, Carolina Romero, and Edward (http://data.worldbank.org/data-catalogu/ Whitehouse, 2012,“International Patterns of 主要指標 389 Pension Provision II: A Worldwide Overview 上)の割合である. データの出所:World Bank, of Facts and Figures,”Social Protection and Global Financial Inclusion Database (http:// Labor Discussion Paper SP 1211, World Bank, data.worldbank.org/data-catalog/finacial_ Washington D. C. inclusion). 公 式 生 産: 公 式 生 産 は, 公 式 部 門 に よ る 生 産 の 農 業 保 険 の 購 入: 農 業 保 険 を 購 入 し た 人 の 割 合 こ と で,100 か ら 闇 の 経 済 の 値 を 引 い た 値 を 推 は,農業・漁業・林業の労働者で,過去 12 カ月間 定規 模 と し て 計 算 さ れ た 対 経 済 シ ェ ア で 示 さ れ に作物,降雨,および家畜の保険を個人的に購入 る.データの出所:Schneider, Friedrich, Andreas したと述べた回答者(15 歳以上)の割合である. Buehn, and Claudio E. Montenegro, 2010, デ ー タ の 出 所:World Bank, Global Financial “Shadow Economies All over the World: Inclusion Database (http://data.worldbank. New Estimates for 162 Countries from 1999 org/data-catalog/finacial_inclusion). to 2007”(http://documents.worldbank.org/ curated/en/2010/06/12864844/shadow- 非公式貯蓄を利用している人口:非公式貯蓄を利用 economies-all-over-world-new-estimates-162- している人口は,「過去 1 年間に何らかのお金を貯 countries-1999-2007). 「過 蓄した」と回答した人(15 歳以上)の割合と, 去 1 年間に金融機関で貯蓄した」と回答した人の 割合の差として計算した. データの出所:World 表 6 金融部門レベルにおけるリスク管理関連の Bank, Global Financial Inclusion Database 主要指標 (http://data.worldbank.org/data-catalog/ 金融機関での貯蓄: 金融機関で貯蓄した人の割合 finacial_inclusion). は,銀行や信用組合,零細金融機関,協同組合な どの公式金融機関における口座を使うことによっ 非公式信用を利用している人口: 非公式信用を利 て,過去 12 カ月間に何らかのお金を貯蓄あるい 用している人口は,「過去 1 年間に融資を受けた」 はそこに保管していた,と述べた回答者(15 歳以 と回答した人(15 歳以上)の割合と,「過去 1 年 上)の割合である. データの出所:World Bank, 間に金融機関から融資を受けた」と回答した人の Global Financial Inclusion Database (http:// 割合の差として計算した.過去 1 年間に融資を受 data.worldbank.org/data-catalog/finacial_ けたと回答した人の割合は,過去 12 カ月間に公 inclusion). 式金融機関,商店(割賦信用利用による),家族な いし友人,雇用者,およびその他民間の貸し手か 金融機関からの融資:金融機関から融資を得た人の ら借りた,と回答した人の割合である. データの 割合は,過去 12 カ月間に銀行,信用組合,零細金 出 所:World Bank, Global Financial Inclusion 融機関,および協同組合などその他の金融機関から Database (http://data.worldbank.org/data- 何らかのお金を借りた,と述べた回答者(15 歳以 catalog/finacial_inclusion). 上)の割合である. データの出所:World Bank, Global Financial Inclusion Database (http:// 電子支払利用: 電子支払いの利用は,口座振込・ data.worldbank.org/data-catalog/finacial_ 振替,デビット・カードによる支払い,クレジッ inclusion). ト・ カ ー ド に よ る 支 払 い の 総 取 引 件 数 で あ る. デ ー タ の 出 所:World Bank, Global Payment 医療保険への個人的支払い: 医療保険に個人的に Systems Survey (http://go.worldbank. 支払った人々の割合は,健康保険ないし医療保険 org/5MYOUCYBR0). (国から供給されている医療保険に対して追加的に) を個人的に購入していると述べた回答者(15 歳以 株 式 時 価 総 額: 株 式 時 価 総 額 は, 株 式 市 場 に 390 世界開発報告 2014 上 場 さ れ て い る 全 株 式 の 総 額 を 対 GDP 比 で catalog/global-financial-development). み た も の で あ る. デ ー タ の 出 所:Standard & Poor’s, Global Stock Markets Factbook and : 銀行貯蓄対 GDP は,預 銀行貯蓄(対 GDP 比%) supplemental S&P data; World Bank, Global 金銀行における要求払預金,期預金,貯蓄預金の総 Financial Development Database (http://data. 額を対 GDP 比でみたものである.データの出所: worldbank.org/data-catalog/global-financial- World Bank, Global Financial Development development). Database (http://data.worldbank.org/data- catalog/global-financial-development). 銀 行 資 産( 対 GDP 比 %): 銀 行 資 産 対 GDP は, 預金銀行が保有する総資産の GDP に対する比率 信用(対 GDP 比%): 信用対 GDP は,預金銀行 である.資産には国内実物非金融部門(中央・州・ による実物部門に対する国内民間信用の対 GDP 地方の政府を含む),非金融公共企業,民間部門に 比 で あ る. デ ー タ の 出 所:World Bank, Global 対する請求権が含まれる.預金銀行は商業銀行と Financial Development Database (http://data. 要求払預金などの譲渡可能預金を受け入れるその worldbank.org/data-catalog/global-financial- 他金融機関で構成される. データの出所:World development). Bank, Global Financial Development Database (http://data.worldbank.org/data-catalog/ : 保 険 料 対 GDP は, 保 保 険 料( 対 GDP 比 %) global-financial-development). 険 料( 生 保 と 非 生 保 の 両 方 ) の 対 GDP 比 で あ る. デ ー タ の 出 所:World Bank, Global :ミュー ミューチュアル・ファンド(対 GDP 比%) Financial Development Database (http://data. チ ュ ア ル・ フ ァ ン ド 対 GDP は, ミ ュ ー チ ュ ア worldbank.org/data-catalog/global-financial- ル・ファンドが保有する総資産の GDP に対する development). 比 率 で あ る. ミ ュ ー チ ュ ア ル・ フ ァ ン ド は 証 券 購入のために多数の投資家から集めた資金を共 融資ドル化:融資ドル化は,外貨建て融資が総融資 同 で 保 管 す る, 一 種 の 管 理 さ れ た 集 合 的 投 資 制 に占める割合である.データの出所:Chitu, Livia, 度 で あ る. デ ー タ の 出 所:World Bank, Global 2013,“Was Unofficial Dollarisation/Euroisation Financial Development Database (http://data. an Amplifier of the‘Great Recession’of 2007- worldbank.org/data-catalog/global-financial- 09 in Emerging Economies,” Comparative development). Economic Studies 55: 233-65 (http://www. palgrave-journals.com/ces/journal/v55/n2/full/ 保 険 資 産( 対 GDP 比 %): 保 険 資 産 対 GDP は, ces20131a.html). 保 険 会 社 が 保 有 す る 総 資 産 の GDP に 対 す る 比 率 で あ る. デ ー タ の 出 所:World Bank, Global 預金ドル化:預金ドル化は,外貨建て預金が総預金 Financial Development Database (http://data. に占める割合である.データの出所:Chitu, Livia, worldbank.org/data-catalog/global-financial- 2013,“Was Unofficial Dollarisation/ Euroisation development). an Amplifier of the‘Great Recession’of 2007- 09 in Emerging Economies,” Comparative 年 金 資 産( 対 GDP 比 %): 年 金 資 産 対 GDP は, Economic Studies 55: 233-65 (http://www. 年金基金が保有する総資産の GDP に対する比率 palgrave-journals.com/ces/journal/v55/n2/full/ である.年金基金は退職所得を供与する何らかの ces20131a.html). プラン,基金,ないし制度である.データの出所: World Bank, Global Financial Development 預貸比率: 預貸比率は,預金銀行による民間信用 Database (http://data.worldbank.org/data- の,預金銀行における要求払預金,定期預金,およ 主要指標 391 び貯蓄預金の総額に対する比率である.データの出 タの出所:IMF International Financial Statistics 所:World Bank, FinStats (internal database). (http://elibrary-data.imf.org/FindDataReports. aspx?d=33061&e=169393). 表 7 マクロ経済レベルにおけるリスク管理関連 柔軟な為替相場制度: 各国について,観察された の主要指標 為替相場の柔軟性にかかわる 5 年間の平均を事実 CPI インフレ率:消費者物価指数(CPI)インフレ 上の為替取り決めの分類に基づき計算した.為替 率は,財・サービスのバスケット(固定されている 相場制度の大分類は柔軟性が最小の 1 から最大の か,または一定期間を置いて変更されている)を取 6 までの範囲の値をとる.データの出所:Ilzetzki, 得する平均的な消費者にとって,そのコストの年次 Ethan, Carmen M. Reinhart, and Kenneth S. 変化率(%)である.一般的にはラスパイレス方 Rogoff, 2010,“Exchange Rate Arrangements 式が使われている. データの出所:International Entering the 21st Century: Which Anchor Monetary Fund (IMF) International Financial Will Hold?” (http://personal.lse.ac.uk/ Statistics (http://elibrary-data.imf.org/ ilzetzki/IRRBack.htm) に あ る“Annual Coarse FindDataReports.aspx?d=33061&e=169393). Classification 1946-2010”データに基づく計算. 政 府 の 基 礎 的 財 政 黒 字: 政 府 の 基 礎 的 財 政 黒 字 世界統治指標平均: 世界統治指標平均は,世界統 は,総財政収支に純利払い費を加えたものである. 治指標プロジェクトで定義されている,統治の一 デ ー タ の 出 所:IMF World Economic Outlook 般 的 な 次 元 を 反 映 し た 6 つ の 指 標( 発 言 権・ 説 Database April 2013 (http://www.imf.org/ 明 責 任; 政 治 的 安 定 性・ 暴 力 不 在; 政 府 の 有 効 external/ns/cs.aspx?id=28). 性;規制の質;法の支配;腐敗の制御)の平均で あ る. デ ー タ の 出 所:World Bank, Worldwide 総 公 債: 総 公 債 は, 将 来 の 期 日 な い し 複 数 の 期 Governance Indicators (http://info.worldbank. 日 に, 債 務 者 に よ る 債 権 者 へ の 支 払 い, あ る い org/governance/wgi/index.asp). は利 息 と 元 金 の 両 方 ま た は い ず れ か の 支 払 い を 必 要 と す る す べ て の 負 債 で あ る. 総 公 債 に は 特 表 8 自然災害・気候変動の指標 別 引 出 権, 現 預 金, 債 務 証 券, 融 資, 保 険, 年 :自 自然災害による死亡(総数,100 万人当たり) 金, 標 準 化 さ れ た 保 証 制 度, そ の 他 の 買 掛 金 な 然災害による死亡は,指定期間中に旱魃,地震,洪 どといった形の債務が含まれる. データの出所: 水,あるいは嵐(EM-DAT データベースの定義) Abbas, S. Ali, Nazim Belhocine, Asmaa El の結果として,死亡ないし行方不明,あるいは死亡 Ganainy and Mark Horton, 2010,“A Historical の想定が報告されている人数である.人口 100 万 Public Debt Database”, IMF Working Paper 人当たりの死亡は死亡者総数を同期間中の人口で WP/10/245 (http://www.imf.org/external/ 除したもの.データの出所:Guha-Sapir, D., and pubs/cat/longres.cfm?sk=243320.0; IMF P. Heudtlass, 近 刊 ,“Standardized Indicators World Economic Outlook Database April of Human and Economic Loss from Natural 2013 (http://www.imf.org/external/ns/ Disasters,”CRED working paper, Université cs.aspx?id=28). catholique de Louvain, Brussels; EM-DAT: The OFDA/CRED International Disaster Database 国際準備: 国際準備は,貨幣用金,特別引出権, (http://www.emdat.be). IMF が保有する加盟国の準備・通貨当局の管理下 にある外貨準備保有である.同準備のうち金の部分 : 損害 自然災害による損害(総額,対 GDP 比%) は年末(12 月 31 日)のロンドン価格で評価され は,指定期間中に旱魃,地震,洪水,あるいは嵐 ている.データは現行の米ドル建てである. デー (EM-DAT データベースの定義)の結果として報 392 世界開発報告 2014 告されている,経済への影響である.経済への影響 む多数の出所から収集したものである. データの は通常は現地経済に対する直接的(インフラ,作 出所:Disaster Aid Tracking Global Facility for 物,住居に対する損害など)および間接的(収入の Disaster Reduction and Recovery (http://gfdrr. 損失,失業,市場の不安定化など)な結末で構成 aiddata.org/dashboard); AidData Center for される.損害の対 GDP 比率は報告された損害総額 Development Policy (http://www.aiddata.org/ の同一期間の年央 GDP に対する比率である.デー content/index/Research/research-datasets). タの出所:Guha-Sapir, D., and P. Heudtlass, 近刊 , “Standardized Indicators of Human and Economic Loss from Natural Disasters,”CRED working paper, Université catholique de Louvain, Brussels; EM-DAT: The OFDA/CRED International Disaster Database (http://www.emdat.be). 1 人 当 た り の CO2 排 出:1 人 当 た り の CO2( 二 酸化炭素)排出は,化石燃料の燃焼とセメント製 造からの排出――固形,液体,気体のガス燃料の 消費とガス・フレアリングの際に生み出される二 酸化炭素を含む――を年央人口で除したものであ る.データの出所:Carbon Dioxide Information Analysis Center, Oak Ridge National Laboratory (http://cdiac.ornl.gov); 人 口 デ ー タ は World Development Indicators (http://data. worldbank.org/indicator/SP.POP.TOTL) から. 表 9 地球気温偏差:1951-80 年の平均に対する 偏差 気 温 偏 差 は, 地 球 の 平 均 気 温 を 1951-80 年を基 準期間とする同じ季節との相対比でみたものであ る.気温偏差は℃で示されている.データの出所: Combined Land-Surface Air and Sea-Surface Water Temperature Anomalies dataset (Land- Ocean Temperature Index, LOTI), NASA (http://data.giss.nasa.gov/gistemp). 表 10 援助コミットメント 援助コミットメント は,緊急対応,復興救援,防 止・準備に向けたコミットメントである.コミッ ト メ ン ト 金 額 は 2009 年 の 不 変 米 ド ル 建 て に よ る 5 年 間 の 移 動 平 均 で あ る. こ の よ う な 金 額 は AidData プロジェクト・レベルの結果から集計さ れ,OECD の Creditor Reporting System を 含 393 索引 ■欧文先頭 アドハー 136 包括的なリ スク管理枠組み 103 CAT DDO(災害危機繰延引出オプシ ョ アフガニスタン マクロ・プルーデンスのバッ ファー実施 ン) 84, 86, 282, 306 国家連帯プログラム 27, 173 255 CPI インフレ率 391 国家連帯プロジェ クト 158 マクロ・プルーデンス委員会 331 アフリ カ 予算責任局(OBR) 330 旱魃で亡く なる人の数 63 イギリ ス財務省 330 DDO 付き開発政策借款 306 将来における降水量の変化 106 意思決定 西部の雇用契約 204 ――における矛盾 95 EU(→ 「ヨーロッパ連合」も参照) 犯罪の被害者 165 頑健な―― 108 基準制定機関 251 非農業職の創出 206 個人 93 財政協定条約 329 財政政策 282 アメリ カ 政策の不確実性 267 支援 18 1929-39 年の大恐慌 202 予防原則 109 中央銀行 269 議会予算局 330 財政政策 276 支援するダイヤグラム 18 GDP 成長率 サブプライム住宅抵当危機 239, 297 反復的プロセス 107 2008-09 年金融危機 64 シカゴの熱波 157 不確実性下 11 財政評議会による予測 330 政策の不確実性 267 民間 251 非公式性の影響 204 政府支出の乗数 274 意思決定者 17, 107 変動性の影響 35, 78 創造的破壊 197 説明責任 104, 327 G キャッ シュ 228 中小企業の総売上の伸び(中位数) 異質性 99 における変動性 196 移住 H1N1 型(豚)イ ンフルエンザ 297 通報者保護法 102 規制されたプログラム 138 H5N1 型(鳥)イ ンフルエンザ 297, 291 ハリケーン・アン ドルー 101 国際的な 134 ハリケーン・カ トリーナ 93 農村部から都市部への一時的な出稼 H7N9 309 ハリケーン・サンディ 73 ぎ 134 HIV/ エイズ 69, 299 補完的措置 97 コミ ュニティによる介入策 177 障壁を引き下げる 138 予防的措置 109 貧困家計 138 コン トロール 304 利益集団 146 リスク分散 134 アメリ カ再生・再投資法 276 異常気候偶発保険プログラム 140 Kilimo Salama(安全な農業) 140 アメリ カ食品医薬品局 202 異常気象 165, 299 アラブの春 158 イスラム教 161 NREGA G2P プログラム 236 アルゼンチン イスラム銀行 251 拡張的な財政政策 276 イスラム金融 229, 240 PISA(生徒の学習到達度調査)平均得 銀行危機のコス ト 243 点 130, 388 公的債務の対 GDP 比 276 イスラム系銀行 240 PPP 表示の国民総所得 385 財政政策 276 イスラムのコ ミュニティ 161 PPP 表示の 1 人当た りGNI 386 リ スクに対する備え 16, 77 自然災害イ ンパク ト・シナリオ 308 ロシア金融危機 276 移民 170 アルメニア 37 ――労働者 134 RDM(頑健な意思決定)分析 108 継続予算編成の枠組みを確立 37 国際的―― 134 アレ,モーリ ス 11 国内―― 134 SADAD 支払いシステム 228 増加 138 安定化政策や長期にわたる社会プログラム のための資金調達 277 送金 228 途上国の家族への送金 139 安定性 ■あ行 金融システム 32, 245, 248, 249, 医療ケア 95, 104 アーリ ック,アイザッ ク 13 330 キルギス 153 消費の伸び 71 ソビエ ト型の制度 153 アイスラン ド マクロ経済 34, 266 資金管理 154 カウプシング銀行 247 ト ルコ 金融機関の救済 37 安定成長協定ルール 329 医療保険 24, 230 アイルラン ド 271 暗黙の責務 277 個人的支払い 389 金融機関の救済 37, 314 適用範囲を拡大するプログラムに共通 アジア金融危機(1997 年) 126 イエメン する特徴 141 東―― 276 ザカート 161 インセンティ ブ制約 11 アジア債券市場イニシアティ ブ 252 「生き延びよう」(Fica Vivo) 189 インド アジア債券フ ァンド・イニシアティ ブ 252 イギリス 2009 年にビハール州で発生した洪水 アゼルバイジャ ン 210 金融安定政策委員会(FPC) 331 96 難民向けに世界銀行が支援したプロ 金融システム 331 NREGA G2P プログラム 236 ジェクト 171 国家リスク評価(NRA) 103, 107 アドハー 136 アジト・エネルジー(Azito) 208 奴隷貿易の廃止 168 医療保険の適用範囲を拡張するプロ 394 世界開発報告 2014 グラム 141 低い値を実現 268 大人のス トレス水準は災害に伴って著し く 大手企業 220 インフレ目標方式 46, 269, 329 上昇 126 大手繊維会社 213 インフレ率 35 オランギ・パイ ロット・プロジェクト 173, 気象ベース作物保険制度 140 ペルー 265 175 拠出型社会保障制度 232 オランダ 284 金融安定委員会 250 経済政策分析局(CPB) 330 ケララ州 170 ウィーン・イニシアティ ブ 240, 252 洪水リ スク水準 111 降雨保険 66 ウガンダ 27, 37, 77, 126, 183, 175 国家リ スク評価(NRA) 103 公式化の利益 221 北部における紛争 166 オルソン,マンサー 11 公式製造業部門における革新 209 ウシャヒディ 174 硬直的な労働市場 220 温室効果ガス 国民健康保険制度(RSBY) 140, 削減 314 エイズ 290, 299 抑制する気候措置 334 141 衛生インフラの欠如 96 国家農村部生計ミ ッ ション 174 濃度 300 栄養や予防衛生への投資 9, 66 排出削減に関する合意 100 コミュニティ 主導型アプローチ 173 コミュニティ の会議への参加 176 エクアドル 産業争議法(IDA) 220 1998-2000 年の経済危機 126 ■か行 州別にみた規制負担の差異 220 条件付き現金給付(CCT)プログラ ガーナ 女性自営業者協会(SEWA) 168 ム 137 公式な賃金労働を望む非公式な給与 女性に就職サービスを提供 137 場所が基になっているコ ミュニティ 労働者,自営業者 194 統合社会保障プログラム 232 160 農民の携帯電話利用 14, 73 土地をもたない労働者に保険を提供 非公式定住地における自治委員会 農民の保険 65 140 168 リスクをとる農民 6 ネス レの牛乳事業への参入 198 エクスポージャー 67 カーネマン,ダニエル 11 農民に指数型保険を提供 140 エチオピア 4 カーン,アクタール・ハ ミ ー ド 173 ボパール市で起きたガス漏れ 206 1999-2000 年の旱魃 64 海外送金 134, 228 マハ ト マ・ガンジー国家農村雇用保証 一時的な貧困層への対応 116 法 176 医療保険の適用範囲を拡張するプロ 外貨準備 64, 275 身元確認プロジェ クト 136 グラム 141 2012 年世界全体 279 ラージャスターン州 176 家計資産構築プログラム(HABP) 過剰な蓄積 306 リスクをとる農民 6 116 ハンガリー 281 労働力の教育水準 213 家族の病気 4, 59 ペルー 261 若い女性が トイレをも っていない男性 健康普及員プログラム 141 保有のコス ト 278 との結婚を思い止ま らせるキャ ン コカ貯水池 105 対 GDP 比率 278 ペーン 177 コミュニティ 保険グループ 164 蓄積 278 インドネシア 26 生産的セーフティ ネ ット・プログラム 解雇 29 アチェ州 38 25, 116, 143 インド 220 アチェ州の大地震 318 生産的セーフティ ネ ット制度 46 生産性の高い企業 197 医療保険の適用範囲を拡張するプロ 農民のリ スク回避 6 費用が高い諸国 209 グラム 141 牧畜民 164 介入策 家計 123 離婚 132 HIN 177 銀行危機のコス ト 243 リスクに対する備え 16, 77 栄養 96 金融安定委員会 250 エルサルバ ドル 金融における直接的な―― 226, 金融危機(1997-98) 160 2001 年における 2回の地震 126 235, 250 公的健康保険制度(Jakesman) 暫定的所得扶助(PATI)プログラム スキル投資 137 141 117 低コス ト 110 コミュニティ 毎の対象絞り込み 178 セーフティ ネッ ト 117 能動的で十分に調整された 40 最低賃金 210 「農村部コ ミュニティ の連帯」 反循環的 176 社会健康保障制度(Jamkesmas) (Comunidades Solidarias 回避行動 290 140 Rurales:CSR, 旧称「連帯ネ ッ ト」 外部性 97 住民エンパワメ ント国家プログラム(イ Red Solidaria) 117 コス ト を内部化 320 ンドネシア語の頭文字で PNPM) 援助依存 171 開放的な経済 205 173 援助国 海面上昇のパターン 60 女性労働者の不当な失職 210 ――への融資 313 津波に対する国際支援 46 改良型衛生設備 意欲の低下 315 タンザニア 179 東アジア危機(1990 年代後半) 205 寄付金 116 保険適用率 162 低・中所得国におけるアクセス 14 災害関連援助 313 インドネシア緊急時シナリ オ(InaSAFE) 科学界と市民社会とのパー ト ナーシ ップ 脆弱国との共同の取り組み 311 308 317 リスク回避 309 インパク ト乗数 274 価格弾力性 128 援助コミット メ ント 392 病気リ スクを削減するツールに対する インフラの官民パー トナーシ ップ 281 需要 128 インフルエンザ 290 屋外で排泄 179 核拡散防止条約 335 1919 年の大流行 126 オストロム,エリ ノア 169 流行の経済への影響 290 革新 28, 65, 194, 197, 198, 213 オゾン層 金融 248 インフ レ 266 破壊 303 金融包摂 33 食料価格 117 保護 314 金融へのアクセス 212 ハイパー―― 260 モントリオール議定書 303 雇用に悪影響 201 引き下げ 35 索引 395 柔軟性との関係 201 労働取り決め 197 柔軟性 66, 193, 194 途上国のリ スク管理 111 カリブ 柔軟性と公式性 199 革新的な企業 212 最先端のリ スク・プーリ ング 307 柔軟性と公式性を高めるための政府 革新的なプロジェ ク ト向けの融資を確保 地域的な災害保険フ ァシリティ 282 による支援  207 212 カリブ(海諸国)大災害リ スク保険機構 全体の目的 195 (CCRIF) 39, 307 投資リ スクを分担する機会を生み出す 核戦争の脅威 314 196 拡大ムンバイ報告書 89 為替相場制度(→「変動(為替)相場制」 リスク管理 42 拡張的な金融財政政策 202 「固定(為替)相場制」も参照) 35 リスク管理を支援 27, 194-197 柔軟な―― 391 拡張的な財政政策 リスクの分担 28 選択 270 タイ ミングの悪い―― 276 リスク・プール 196 チェ コ 260 有効性に対する疑問 276 労働者,消費者,および環境の保護 優先課題 276 為替相場のアンカー 269 29 拡張バランス・シー ト 283 環境規則 213 気候交渉 320 企業に強制する―― 204 確率論的リ スク・モデル化手法 308 気候システムのシ ミュレーシ ョン 106 韓国 家計 20, 23, 122 気候変動 40, 299, 320, 334, 336 金融負債に対する課徴金 34 60 際以上の構成員 123 受ける影響に対する備え 165 失業保険 272 意志決定に関して女性によ り大きな発 影響 300 年金制度の拡張 272 言権を付与 137 開発が持つ意味 300 マクロ・プルーデンス政策 242 受ける災害 123 緩和策の障害 300 教育にも投資 128 緩衝的措置を財政・金融面で生み出す 緩和するためのコス ト 314 構成員が受けた災害 122 64 緩和措置をとるイ ンセンティ ブがまちま 構成がシ ョ ッ クへの対応に及ぼす影響 感染症 38, 60, 63 ち 314 123 国境を越えた広がり 4, 290 グローバルな解決策 41 債務問題 69 コン トロール 309 国益の相違と近視眼 312 資産を所有および管理する能力 132 人畜共通 290, 297, 308, 314 シンガポールの影響 177 所得の多角化 238 予防措置 75 全員参加による合意を確保するための 内外の障害 124 感染病原体の監視や制御,報告に関する 世界的な交渉 334 内部格差 136 国際保健規則 302 漸進的なアプローチ 41 内部の公正性 24 乾燥地帯の小自作農コ ミュニティ 165 阻止に関する進展 308 貧困家計のシ ョックへの対応 125 カントリー・リ スク・オフ ィ サー 43, 327 途上国への影響 299 複雑な力関係 125 不均質な影響 314 官民協調 101 保護を強化 135 紛争の原因 167 役割 23 官民共同の保険制度 101 リスク 312 リスク管理 24, 42 官民パー ト ナーシ ップ 137 リスクに対する近視眼的な態度 312 リスク管理を大幅に改善 135 インフラ 281 リスクの緩和 300, 312 リスク管理を行う能力を強化する 金融イ ンフラ 235 気候変動に関する国連枠組み条約 100, 146 コロンビア 283 307 リスク管理を改善するための政策勧告 南アフ リカ 190 気候変動に関する政府間パネル 307 144 管理を しないことのリ スク 157 技術移転 111, 320, 336 リスクを管理する準備 127 基準制定機関 250 過剰流動性 272 キーウィ貯蓄(KiwiSaver) 143, 333 気象ベース作物保険制度 140 家族員のための保護と リスクの共有 23 キーホー = プレスコ ッ ト 202 気象ヘッ ジ 304 家族 気温偏差 392 高齢者の同居 124 規制 機会 67, 69 互いを気遣う動機 123, 124 確実性を改善 210 機会の追求 iii, 5, 11, 61, 66 金融システムにおける失敗 241 家族形成 132 自発的に リスクをとる 9 不確実性 244 『家族の経済学』 23 リスク管理を改善 73 労働者,消費者,および環境の保護 家畜死亡保険 233 機会の平等 25 を高める 213 家畜数の急増 290 議会予算局 330 規制改革 学校教育 23 旗艦プログラムの導入 145 金融オンブズマン 236 家庭医療の促進 152 危機(「金融危機」も参照) 67 女性の土地保有権や財産権を高める 家庭内虐待(→ 「虐待」も参照) 126 変動性 81 137 家庭内暴力 4, 138, 165 危機シミュ レーシ ョン演習 244 季節予報モデル 64 大人になってからの影響 127 企業環境の改善 30 基礎インフラ 社会規範が容認 138 企業再編 210 リスク管理 176 増加 59 リスク関連の決定 96 企業登記の簡素化 209 法的措置 137 規則の一貫した実施 213 企業倒産の簡素化 210 リスクに関連したス トレス要因を削減す 規則の簡素化 9, 214 ることによ って削減 137 企業(部門) 20, 27, 195 ――向けの公的政策 30 基礎年金の適用範囲を拡張 142 カナダ 期待効用 革新と資源再配分 28 サーズの伝染 291 ――アプローチ 11 公式化することの利益 194 資産と負債の両方の管理 281 最大化 93 公式性 29, 193, 194, 203 株式時価総額 389 硬直性がもたらす有害な影響 200 期待効用理論 94 カメルーン 再配分プロセス 200 喫煙 128 現金給付プログラム 144 資源の再配分 197 396 世界開発報告 2014 キプリ ス 闇の―― 239 独立的な 284 医療保険の適用範囲を拡張するプロ 流動性支援 242 金融財政政策の利益と限界 202 グラム 141 銀行間で多様性を促進 251 金融市場商品 282 基本的給付 31 銀行監督 246, 247, 271 金融システム 20, 31 一般歳入 332 銀行間の競争 248 ――における競争 254 義務的健康保険基金(MHIF) 153 銀行危機 63 ――の危機を救済する財政コス ト 逆選択 74, 91 2008 年  237 282 虐待 解決方法 242 安定性 32 子供時代に経験 127 産出の平均損失 237 改善に対する国家の貢献 33 災害によるス トレス 126 管理する政策 241 強靭性と繁栄を発展させる 31 家庭内 136 管理するための政府介入 244 銀行に集中した―― 231 対抗への進展 172 信用の増加 238 公式 230 牛疫(牛ペス ト)の撲滅 291 財政コス ト 243 公的政策の直接的な介入 226 銀行資産(対 GDP 比%) 390 正循環性 238 教育キャ ンペーン 42 政府の直接支援と保証のコス ト 314 社会規範に対抗 25 銀行システム 245, 247, 249 相互関連のある機能 226 教育・訓練制度 138 自国を保護 315 リスク管理 42 教育達成度 130, 387 途上国 238 リスク管理支援 225, 226 15-24 歳 24 銀行貯蓄(対 GDP 比%) 390 金融手段の利用 32 男女格差 131 均衡信用 238 金融循環 238 教育年数 23 近視眼(的) 91, 94, 95, 314 金融ショッ ク 9 教育の改善 66, 173 気候変動のリ スク 312 被害をもたらす 4 つの経路 237 教育の質 388 金融安定委員会 34, 247 金融商品の価格設定の誤り 231 教育の収益率に関する情報を提供 137 主要途上国における構成 250 金融政策 教育ローン 226, 229 金融安定化パッケージ 305 柔軟性を放棄 271 許容可能なリ スク水準の定義 98 金融安定政策委員会(FPC) 331 透明で信頼できる 35 狂牛病 98 金融安定とマクロ経済にかかわる政策 45 柔軟性 46 恐慌 金融イ ンフラ 225, 248, 302 反循環的 270, 273 教訓 202 改善 236 金融政策金利の調節 272 国際貿易 299 官民パー ト ナーシ ッ プ 235 金融政策当局 284 生産性の伸びを抑制した政策 202 健全な―― 33 金融制約 91 基本的な牽引力 202 金融安定理事会(FSB) 306 金融ツール 競合フ ィ ルター 182 金融のグローバル化 240 開発によ って貧困層を助ける 236 強靭性 67, 69 金融オンブズマン 236 過少利用 233 ――のための開放型データ・イニシア 金融可能性フロンティ ア 248 国による範囲の違い 230 ティ ブ 308 金融機関からの融資 389 組み合わせ 227 「協調型」アプローチ 99 金融機関 混合 230 共通利害の認識 314 ――からの融資 389 金融当局の独立性 284 京都議定書 303 相互連関性 239 金融の排除の水準が高い 245 業務継続計画 291 貯蓄 389 金融部門 救済 36, 45, 277 ――への直接的な公的介入 234, 235 共有資源問題 91 リスク管理について制約を受ける 基準制定機関 250 許容可能なリ スクについての社会的水準の 231 定義 99 構造改革に関連した財政総支出 金融危機 6, 29, 334 287 極端なシナリ オ 305 2008-09 4, 35, 59, 265 システ ミッ ク・リ スクの監督 226 拠出型社会保険 141, 331 2008 年 241 情報の非対称性 309 包括的な―― 232 5 年後 308 政府による救済 282 拠出型制度 143 スペイ ン 29 金融部門政策委員会 250 非拠出型制度との相互作用 332 長期的な成長に影響を及ぼす一因 金融部門戦略文書 249 非拠出型の両制度が併存 142 35 非拠出型と組み合わせる 331 金融包摂 32, 226, 232, 237 直接支援のコス ト 314 過剰 33, 245 ギリシャ 271, 280 伝染 240 金融仲介の効率性と安定性改善 規律のある金融財政政策 9 東アジア 270 245 キルギス 貧困層の増加 272 金融の安定性を高める 248 医療部門における包括的なアプローチ 防止 237 高所得国 253 154 マクロ経済管理 76 推進 231 義務的健康保険基金(MHIF) 153 ミクロ経済的な緩和剤 238 推進するための解決策 236 国家保証給付パッケージ 153 ラテン・アメ リカ 270 促進 139 最貧 20%層でみた家計の支出総額に 金融救済 246 促進して金融安定性を高めるための 占める医療費の自己負担額 154 関連する リスクを回避 282 政策勧告 253 標準的なソビエ ト型の医療ケア制度 金融教育プログラム 235 高いと,金融の安定性も高まる 245 153 金融経済危機 297 低い 233 緊急流動性援助の枠組み 255 金融サービス利用に関する全国家計調査 金融リスク管理 326 銀行 236 多角的な戦略 230 企業統治 251 金融政策委員会 242, 330 金融リスク管理ツール 226 専門化と多角化 251 索引 397 債券や株式への投資 227 経済政策 情報 92 債券や株式への投資 227 先進国における不確実性 267 ただ乗り 160 資産の公開取引 227 不確実性 266 分散した利益の存在 102 市場性保険 227 マクロ 34, 35, 238, 265, 266, 270, リスク管理に役立つ 77 支払い・外国為替 226 284 流行病のリ スク管理 290 信用 226 予測可能性 283 公共財ゲーム 169 貯蓄商品 226 経済政策分析局(CPB) 330 公共事業 178 リスク価格の設定に関する情報 227 経済的シ ョックの削減 64 エチオピア 116 リスク・テイキング型資本 227 サハラ以南アフ リカ 143 経済的な災害 267 金利の高騰 272 南アフ リカ 144 経済的不確実性指数 267 近隣窮乏化政策 299 公共選択のアプローチ 11 経常収支調整 271 近隣諸国間の武力紛争 299 公共投資プロジェ ク ト 274 携帯電話 127, 174 勤労福祉プログラム 276 市場情報を受領 14 公式化 49, 189, 209, 214 発展途上国 127 企業の利益 194 クウェー ト投資庁 279 普及 176 インドが得た利益 221 偶発債務 携帯マネー 228 予防原則 109 暗黙の 277 ケインズ型財政乗数 36 公式企業 29, 194 官民でリ スクを分担する仕組み 281 開業率 213 ケインズの乗数効果 274 管理 281 負担を軽減 212 決闘に値する確信 106 妨害する規則を改革 209 明示的 277, 281 ケニア 労働者のリ スク分担 204 偶発信用枠 84 金融システムとマクロ財政システムの 公式金融 230 偶発負債 314 強化 261 ――システム 226 国レベルでのリ スクの備え 77 国家ジュアカ リ 234 アクセス 238 グラミ ン銀行 234 国家ジュアカ リ年金制度 234 使わない理由 232 グリーン・カー ド・プログラム 152 選挙後に起こ った暴動の地図を作製 排除 245 世界銀行の評価 153 174 公式経済 200 クレイマー,マーク 198 西部におけるコン ドーム利用の増加 グローバル化の利益 205 177 グローバル化 334 公式雇用 31, 203, 332 電子支払いとモバイル貯蓄 232 金融 240, 316 メキシコ 205, 212 公式性との複雑な関係 205 現金 228 公式信用 230 最大の利益を享受 316 現金給付 136 電子的に受領 139 公式性 29, 213 知識の提供 299 ――に伴う法規制 204 非公式性の高い国が受ける利益 現金給付プログラム ――への移行 206 204 南アフリ カ 24 企業部門 29, 193 不平等の拡大 205 条件付き―― 25 企業部門による人々のリ スク管理を強 利益は公式経済に帰属 205 対象を女性に限定 146 化 203 グローバルな価値連鎖 健康に関する リスク 297 国別類型 207 国内の価値連鎖には連動しない 205 健康保険改革 139 グローバル化との関係 205 増加における二重の効果 205 健康保険制度 326 グローバルな供給チェーンに参加する グローバル 政府が後援 137 ための必要条件 206 ――な危機を抑止 334 健康保険へのアクセスを拡充 140 欠如 204 ――な公共財 290, 295, 314 雇用関連給付を受ける人の割合の増 健康リ スクの管理 326 ――なシステ ミック・リスクに関する国 加 204 障害 96 際的パネル 337 柔軟性との関係 206 ――な集団的措置 336 原子力事故 福島 79 重要な理由 203 ――な当局 314 製品・労働市場 30 ――に活動しているシステム上重要な 現地通貨建て債券市場 279 政府による企業部門への支援 207 金融機関(G-SIFI) 240 長期的な目標 206 グローバル・リ スク 高インフレ 268 低下の低下 206 ――統治の仕組み 334 ――を伴わない高成長 271 法的書類の提供 204 解決における国際社会の有効性 306 大幅に削減するための政策 66 法的なアイデンティ ティ 204 管理 41 阻止 269 法的な手段を提供 204 対策の究極の目的 334 ペルー 265 保護を提供しよ うという企業のイ ンセン クロス・ボーダー銀行業の政策による管理 降雨保険 6 ティブを強める 204 240 インド 66 役割と重要性 203 訓練に対する公的支援 211 公共インフラ投資による刺激策 275 リスク管理を改善 204 訓練プログラム 138, 194 公共インフラ・プロジェ クト 275 公式生産 389 公共サービス 21, 29, 136, 214, 332 公式保険 75 景気循環 34, 238, 330 提供の管理・調整 104 適用範囲が狭い 132 管理 45 公共財 21, 169, 315 公衆衛生サービス提供の失敗 290 財政政策のスタンス 36, 275 気候変動の緩和 300 公衆衛生政策 97 財政均衡を目指す財政ルール 277 グローバルな 295, 302, 314 公衆衛生措置 290 チリの対応 280 欠如 19, 95 高所得国のリ スク管理戦略 101 景気上昇期に基礎的黒字を蓄積 274 国家(政府)による供給 11, 27, 35 構造的財政収支 329 経済協力開発機構(OECD) 10, 302 国際社会の役割 304 ルール 330 398 世界開発報告 2014 硬直性 非常に大きな災害 38 非商品―― 279 企業部門 200 災害リ スク管理 305 目標 279 有害な影響 200 国際社会 21, 37, 295 国民所得のリ スクに対する備えとの関係 労働市場 30, 209 関与 38 16, 75, 77 公的医療制度の細分化 139 共有している選好や目的を通じた結束 国民総所得 385 公的債務管理 270 力 39 穀物価格の高騰 299 新興市場国 279 グローバルリ スクの解決における有効 国連環境開発会議の 1992 年宣言 109 公的資産負債管理枠組み 280 性 306 結束力 39 国連環境計画 336 公的政策 226 国連気候変動枠組み条約 303 行動を求める状況 296 家計の能力を強化 122 国境を越える リスクの管理 296 5 歳未満児死亡率(生産 1,000 人当た り) 課題 45 資源を動員 39 388 金融システムの安定性を高める 251 持続的で対象を適切に絞った関与 5 歳未満の子供の死亡率 63 金融手段の利用可能性の向上 235 297 個人年金保険 234 予期していなかった事態 277 重要な役割 304 個人のコン ト ロールを超えた障害 19, 95 地方リ スク管理 172 主体 296 役割 226 コスタ リ カ 全員参加 40 公的措置 イ ンテルが投資 205 漸進的なアプローチ 40, 319, 334 障害 100 公式職の創出の増加 206 相互連結性 38 正当化される場合 93 知識交換のためのプラ ットフォームを コス トの高い対処法 162 必要な場合 91 提供 302 国家 21 より良いリ スク管理 44 知識の乖離を埋めるためのツールを提 家計内で女性の力を増大 25 公的退職制度 326 供 302 家計のリ スク管理への貢献 25 公的補助金 139 能動的で十分に調整された介入策 企業部門で柔軟性と公式性の両方を 公的リ スク管理戦略 90 40 奨励するのに適した環境を提供 公的リ スク管理計画の策定 91 ハイチ介入 38 213 複雑なリ スクを管理するツール 309 企業部門による リスク管理支援への貢 公的保険 74 リスク管理 42 献 30 行動者連合 336 企業環境の改善 30 リスク管理支援 21 行動の観察可能性 75 リスク管理の質を高める 301 コ ミ ュニティ によるリスク管理への貢献 行動を起こさないことのリ スク 309 リスク管理への貢献の改善 39 27 効用 94 リスク分担ツール 297 コ ミ ュニティ の包容性や多様性の尊重 効用理論 94 ルールや基準を整備 307 を促進 27 リ スク回避 68 国際獣疫事務局(フランス語略記で OIE) コ ミ ュニティ へ公共財を提供 27 307 セーフティ ネットの供与 46 合理的な最悪のシナリ オ 107 脆弱性 297 高齢化 141, 332, 333 国際準備 391 必須の社会サービスを供給 25 高齢者 国際通貨基金(IMF) 302, 306 最も脆弱な層向けのセーフティ ネットを 公式な所得扶助を提供 234 弾力的信用枠 306 提供 75 従属人口比率が急上昇している諸国 国際的生徒学習到達度調査(PISA) リ スク管理における役割 22 143 130, 388 国家安全保障調整事務局 327 コース, ロナル ド 195 国際的 ドナーによる災害管理向けの支出 国家機関偶発基金 283 コートジボワール 79 国家金融部門の戦略 250 アジト ・エネルジー(Azito) 208 国際的な移民 228 国家災害基金 282 契約保護 208 国際的な行動が正当化される 295 「ジェ ンダー固有の」 作物を栽培 国家財政ルール 329 国際的な再保険市場 307 125 国家自然災害基金(FONDEN) 233 国際的な統合 61 電力生産コー ト ジボワール会社 国家ジュアカ リ年金制度 234 リスク管理にと って諸刃の剣 297 (CIPREL) 208 国家主権によるグローバルな集団的措置 電力部門 208 国際的なリ スク分担の仕組み 306 314 コートジボワール電力会社:CIE 208 国際的なリ スク理事会 319 国家主体の行動 172 コカ・コーラ 198 国際標準化機構(ISO) 198 社会不安に帰結 172 国益の乖離 315 国際防災戦略事務局 305 国家制度 国益の多様性 314 国際民間航空機関(IATA) 112 追加的なリ スク源 172 国際移住(→ 「移住」も参照) 国内移住は収入源を提供 138 有効な制度の割合 175 合法的に移住する道を提供 139 国内金融制度を外国銀行の子会社から保 国家政府の役割 265 正式な許可を得ない―― 138 護 299 国家的なリ スク・アナリ スト評議会 327 国際介入の直接的な手法が正当化 305 国内戦線危機管理システム 327 国家による リ スク評価 103 国際開発協会(IDA) 305 国内戦線危機執行グループ 327 国家農村部生計ミ ッション 174 国際協調において主権国家が十分に機能 国内避難民 171 国家能力を超過する リスク 38 していない場合 318 国富ファ ン ド(SWF) 国家評価プロセス 327 国際協力 316 運用資産 279 国家防災警鐘制度 283 国際金融機関(IFI) 302 支出計画 279 国家法的弁護庁 283 緊急災害対応策を提供 306 商品―― 279 台頭と拡大 279 国家保証給付パッケージ 153 能力構築のための技術援助 302 チリ 280 国家リ スク理事会 326 国際決済銀行(BIS) 302, 306 透明性と信頼性 287 国家リ スク管理 326 国際支援 索引 399 国家リ スク管理戦略 326 リスク管理者と しての 158 サイクロン 国家リ スク評価(NRA) 103, 326 リスク管理の仕組 161 人命損失 63 国家リ スク理事会 41, 42, 104, 327, 337 リスク管理のために権限を強める リ スクの増大 165 構成メ ンバー 42 172 債券市場における現地通貨建 279 制度設計における トレー ドオフ 43 リスク管理を制限 172 財源不足 19 制度設計における トレー ドオフの調整 リスク管理 42 財産権 136, 208, 214 328 リスクに立ち向かおう とする際に直面 強化 207 メンバー 328 する障害 161 リスク保護策を整備 167 採算 国家レベルで統合リ スク管理を提供 327 長期的 110 領域 161 国家連帯プロジェ クト 158 リ スクに対する備え 6 コミュニティ 関係 157 国境を越える リスク 37, 38, 39, 44, 295 財市場の効率性 388 コミュニティ 警察フ ォーラム 189 拡散 334 財政 グローバルでない場合 49 コミュニティ 主導型プロジェ クト 158 持続可能性 36, 212, 277 固定(為替)相場制 260, 269, 271 コミュニティ 主導型アプローチ 173 透明性 282 実質的なシ ョックに対する実質的な産 コミュニティ 保険 162 財政収支目標 280 出の反応 271 コモンズの悲劇 19, 299 財政拡張 子供時代に経験する虐待 127 固有リ スク 67 健全な―― 275 個別リ スクの管理 326 固有リ スクの共有 25 資金調達 275 コミュニティ 20, 25, 157, 163 固有リ スクのコス ト 63 自動安定化装置と して機能するプロ ――という文脈でのリ スク管理 158 雇用 200 ジェ クト 276 ――の能力を超える リ スクの管理 途上国 275 雇用者が望むスキルを開発 138 174 要素 275 雇用における男女差別 201 ――の能力を補完するようなイ ンフラ 再生可能エネルギー技術 106 とサービスを提供 176 雇用の喪失 59 不確実性 106 ――のリ スク管理 169, 172 雇用保護 211 財政協定条約 329 HIV 介入策 177 コレラ 318 財政刺激策 16, 276 乾燥地帯の小自作農 165 コロナウ ィルス 309 裁量的な場合の有効性 274 議会への参加 176 コロンビア 財政諮問会議 284 基盤と した大規模な開発 174 医療保険の適用範囲を拡張するプロ 基盤と した保険 162 財政刺激策 276 グラム 141 裁量的 274 基盤となっている解決策 101 健全な財政制度 283 強靭性と繁栄を発展させる 25 財政政策 国家機関偶発基金 283 結束力 26 拡張的 276 国家防災警鐘制度 283 結束力や結び付きの強い 167 柔軟性 284 国家法的弁護庁 283 固有リ スクを共有 25 正循環的 274, 328 災害リ スクのフ ァ イナンス戦略 283 市場や政府との縦のつながり 168 正循環的なバイアス 37, 274 財政リ スクの開示 283 システ ミッ クなリ スクに対して有効 正循環的な要因 328 中期財政枠組み(MTFF) 283 161 チリ 280 バウチャー制度(PACES) 137 接続性 26 変動性 283 法 1523 号 85 宗教や信条が基になっている 160 目標 284 補助金付き健康保険プログラム 141 集団的行動を習得している 168 反循環的 272, 328 労働規則 221 政府の間で意志疎通が無い 175 反循環的で持続可能 35 災害リ スク管理システム 85 政府プログラムへの参加 27 財政制度 274, 275 「コンセンサス型」アプローチ 99 対象選定 181 健全な―― 283 ただ乗り問題を克服 168 財政責任法(法 20128 号) 280 通信技術による暴力や紛争の管理 ■さ行 財政的持続可能性を促進 328 174 サーズ(重症急性呼吸器症候群) 290 財政評議会 328, 330 独自のリ スク管理を行う法制度 170 2003 年 291 自律的運営 329 独自の支援の仕組み 164 伝染 291 独立的な―― 37 取り決めの維持 164 災害 役員 330 認知,知識,規範や言動の変化をも ら 年配者に対する虐待の増加 126 予算手続を政治圧力から遮断 330 す手助け 177 援助国への融資 313 財政リ スク 場所が基になっている 160 災害援助が事後に入手可能 313 開示 282 場所による 160 災害関連への世界銀行による融資 305 関連する情報の質を高める 282 発展させるための政策原則と研究の 災害危機繰延引出オプシ ョン(CAT 防止する政策 278 優先課題 180 DDO) 84, 306 財政ルール 277 非公式な組織の仕組み 161 世界銀行の開発政策ローン 282 景気循環にそって財政均衡を目指す 非公式なリ スク分担 75 部外者を排除 170 災害救援 104 277 文化的な 160 災害リスク管理(DRM) 84 チリ 280 文化やアイデンティ ティ を基盤と したグ 管理するための先見的で費用効果的 財政枠組み 281 ループ 160 な措置 165 コロンビア 283 保険提供者と して 162 金融面での強靱性を促進 307 包括的 37, 284, 329 保護提供者 164 国際支援 305 再配分効果をもつ政策 328 有効なリ スク管理の要素 168 分権化したほうが効率的 173 裁量的措置 274 良いリ スク管理者になる 180 災害リスク・フ ァイナンス保険(DRFI) 裁量的な財政刺激策の有効性 274 良く 機能する 157 282, 307 サイロ効果 103, 327 400 世界開発報告 2014 サウジアラビア 240, 279 公式性による促進 204 早期警告制度 309 SADAD 支払いシステム 228 企業部門 197 損害(総額,対 GDP 比%) 391 ザカート(zakat:喜捨) 161 阻害される 201 損害額 63 殺人のパターン 60 資源の欠如 101 損失額 84 自己防衛 225 パターンの変化 300 殺人率(10 万人当た り) 387 発生の頻度 10 サハラ以南アフ リカ 23, 63 自己資本要件 331 発生パターン 60 公共事業プログラム 143 事後的なリ スク管理 67, 70, 75, 313 バングラデシュにおける備え 63 排他的なビジネス関係 201 重視されている 313 被害の頻度と激しさ 84 貧困 65 仕事 200 事前的なリ スク管理 67, 70 予防接種率 128 回転 197 持続可能性 サブプライム住宅抵当危機 297 良い―― 193 財政の―― 277 サマリア人のジ レンマ 313 リスク管理の目的 193 長期にわたって確保する 144 産業争議法(IDA) 220 労働者の観点 193 財政資源を創出 277 サンク・コスト 209 自己防衛 225 政策の促進 328 産出の変動性 268 自己保険 15, 74, 227, 76 反循環的な政策運営 276 暫定的所得扶助(PATI)プログラム 資産管理に関する政策 278 持続不可能 117 資産損失 158 拠出型年金制度 142 ザンビア 自然災害による 132 システム上重要な銀行に対する支援 企業の公式性 204 資産の公開取引 227 246 支出と資産蓄積の連動性の欠如 275 農業慣行 165 自営業者の比率 196 市場 161 失業 欠如 96 金融危機 29 支援システム 22, 310 失敗 212 減少させる 229 金融 226 市場準備と気候のパー ト ナーシ ッ プ 336 公共事業 178 最も有効な―― 175 スペイ ン 194 ジェンダー格差 42, 44, 125, 132 市場性金融手段 279 世界価値観調査 193 貧困家計 130 市場性保険 74, 225, 227-279 失業保険 273 ミ レニアム開発目標 310 市場変動性指数(VIX) 280 韓国 272 支援 16, 158 連動契約を「空売り」する戦略 280 失業率 意思決定 18 市場や公共財の欠如 19 危機以前と比較 287 大きなシ ョック 38 地震 デンマーク 211 金融システムによる―― 45, 226 中国四川省 68 マクロ経済管理の誤り 285 金融への―― 250 チリ中央部 63 南アフ リ カ 180 家計 20, 23, 121 ハイチ 63, 73 企業部門 27, 195, 197 実施可能なリ スク規制 99 東日本 79, 112 国際社会 296, 301, 305 実体経済活動の変動性 269 指数型保険 139, 140 国家による―― 21, 75 失敗した最良のアイデア賞 97 需要を増やす 140 コミュニティ 独自 164, 180 疾病報告 291 小規模農業向け 140 事後的 305 実物資産 173 補助金付き 140 社会的 77 リスク管理 131 補助金付きを土地をもたない農業労働 宗教団体 175 私的年金保険 234 者に提供 140 情報の非対称性 309 指数ベースの家畜保険プロジェ ク ト 自動安定化装置と して機能するプロジェ クト 脆弱層の訓練 210, 212 世界銀行 171 (IBLIP) 233 276 政府による―― 207, 246 システミ ック・アプローチ 144 児童労働 126, 199 チリ 279 社会的保護 143 支払い・外国為替のサービス 226 長期的 268 システミ ックな災害 181 ジブチ 165 能力開発 317 コス トの高い対処手段 164 2008 年の経済危機 179 非公式 162 システミ ック・リ スク 4, 67, 158, 22 勤労福祉プログラム 179 非公式な制度による―― 77 本来的 97 司法制度 19, 95 必要性を削減 76 小さな―― 22 活用が困難 96 モラル・ハザー ド 104 管理する政策 241 コミュニティ には不適切 170 リスク管理 193, 196 小さな途上国 239 市民参加 176 流動性 242 蓄積 238 市民社会 168, 306 老齢期の所得 234 マクロ・プルーデンス規制を法制化 有効な制度の割合 175 シカゴ・オプシ ョン取引所 280 34 社会規範 97, 124 時間的不整合性 104 システム上重要な銀行 (金融機関) [SIFI] 家庭内暴力を容認 138 事業体 195 246, 241 女性を差別 134, 137 資金管理 公的資金の注入 246 有害 25 医療ケア 154 強靭性を高める 272 社会契約論 121 生前遺言 244 資金調達 社会資本 25 破綻 243 安定化政策や長期にわたる社会プロ 東ヨーロ ッパ・中央アジア 163 グラム 277 自然災害 62, 386 関連した負債の管理 282 社会的絆はコ ミュニティ を平和に保つ 167 人道的 180 資産損失総額 132 社会的・経済的な外部性 19 変動に対する保険 280 死亡(総数,100 万人当た り) 391 社会的セーフティ ネット 211 資源再配分 28, 197 潜在的な損害を予測・定量化 308 索引 401 社会的な繋がり に依存する保険取り決め ブルガリア 202 高騰 4, 13, 59, 69, 117, 158, 299 164 役割と重要性 199 変動 60 社会的排除 171 労働市場 193 食料シ ョッ ク 299 社会的保護 210, 215 労働市場における改善 210 食料への権利キャ ンペーン 176 資金調達 212 労働者,消費者,および環境の保護 女性 システ ミッ ク・アプローチ 143 との関係 202 エンパワメ ン ト 137 弱い諸国 199 柔軟な為替相場制度 391 公式雇用 205 社会保険 331 柔軟な企業部門 199, 200 資産の所有権 132 アクセス 31, 388 柔軟な経済におけるシ ョッ クの GDP への 労働市場へのアクセス 136 資金調達 31, 332 影響 200 労働力に参加できる能力 133 資金調達に一般歳入を用いる 211 柔軟な財政ルール 273 ショック 67 社会保険制度 終了条項 281 コス トの高い対処法 162 公平な,財政的に持続可能で,労働 受益者選定プロセス 181 非公式な信用や援助による対応 163 市場の歪みを最小化する 142 所得移転プログラム 181 受益者負担金 332 財政的に持続可能で,労働市場の歪 所得損失リ スク 234 みを最小化する 142 熟練労働者の不足 213 主権国大災害リ スク保険実験 307 所得扶助 良い 331 コミ ュニティ の参加で利益を享受 178 最脆弱層を保護 139 主権国家 304 非公式なコ ミ ュニティ の対処と保険 社会保障給付 281 集合的なリ スク 265 181 社会保障支出 出生時余命 386 対象の絞り込みにコ ミュニティ が参加 GDP に占める割合 272 出生率の低下 234 178 抑制 281 需要を刺激するための裁量的な財政政策 所得扶助プログラムはコ ミュニティ の仕組み 社会保障の財政コス トの軽減 281 の利用 274 を締め出す 179 ジャカルタ 90, 308 シュライ フ ァー,アン ド レ 206 所得不平等 268 住居の改善費用 105 準備(備え)の欠如 所要準備政策 273 獣医公衆衛生制度 307 災害対策や人道支援を阻害 180 ジョンソン&ジ ョ ンソン 202 柔軟な解決策 112 ユーロ地域の危機 271 シンガポール 宗教ベースの金融 229 シュンペーター, ヨーゼフ 28, 197 気候変動の影響 177 従属性の原則 , 22 上位中所得国 347 健康と環境のリ スクをコン ト ール下に置 住宅価格の変動 238 外貨準備高の対 GDP 比率 278 く のに能動的なアプローチを採用 住宅金融 229 障害 176 個人のコン ト ロールを超えている 95 全政府統合リ スク管理の枠組み 43 住宅抵当融資 229 リスク管理 92 統合リ スク管理アプローチ 327 住宅の改善 229 水資源の管理 177 リスクの評価とその備え 91 住宅ローン 229 水と洪水の管理 177 障害防止策にかかわる政治的な報奨 313 集団行動 4 つの国家水源 177 条件付き現金給付(CCT)プログラム 欠陥やそれに対する障害 11 40 年間で達成された改革 177 25, 45, 75, 95, 105, 137 失敗 299 人口 385 教育需要の増加 130 問題 11 新興市場国(中規模) 調整の失敗 91 集団的措置 19, 38, 102 外貨準備のコス ト 278 限定的 318 状態依存型債務 279 公的債務管理 279 主権国家によるグローバルな―― 314 状態依存型証券 279 対外資産 278 事例 97 消費者物価指数(CPI)イ ンフ レ率 391 人口の年齢構成(0-14 歳) 385 直面している挑戦課題 314 商品国富フ ァ ン ド 279 人口密度 385 要請される場合 98 情報制約 92 親族のネ ットワーク 162 集団的な形態の暴力 166 情報通信技術 176 人畜共通病原菌による感染症 290 集団的なリ スク 97 リスク管理への利用 73 人畜共通感染症 308 集団で何も しないという事態 316 情報の乖離 309 拡散の要因 297 柔軟性 200, 206, 209, 212, 213 情報の欠如 17 総コス ト 314 ――に向けた健全な規則が整備 194 情報の非対称性 11, 91, 266, 309 人的資本 16, 23, 77 ――への移行 206 金融 246 ――への投資 74, 117, , 121, 127, 新しい状況への適応 46 削減 127, 164 135-137, 144 改革との関係 201 脆弱紛争被災国への有効な関与 企業部門 66, 193 人道的な資金調達 180 309 企業部門による リ スク管理 29 労働市場 31 ジンバブエ 金融政策 46 公式性の欠如 204 情報面での障壁 213 国別類型 207 農村部で 1994-95 年に発生した旱魃 情報や資源の不足 91 126 公式生との関係 206 重要性 199 職業斡旋サービスの確立 138 保護服を使っている労働者の割合 製品・労働市場 30 食事リ スク 128 205 政府規制以外の要因による阻害 食事療法 78 信用 226 201 職場の安全基準 213 信用(対 GDP 比%) 390 政府による企業部門への支援 207 職場の健康増進プログラム 198 信用へのアクセスの改善 9 促進 181, 214, 284 職場保護規則 204 信用保証の適用率 281 短期的な目標 206 2 つの相異なる指標 199 食料価格 信用を通じて保険をかける 228 402 世界開発報告 2014 信頼の対象 175 成長を促進し,貧困のリ スクから脱すること 深刻な不況で過ご した時間 277 森林管理をコミュニティに権限移譲 170 を目指す政策 299 対外資産 279 製品・労働市場の柔軟性と公式性 30 反循環的な財政政策 272 スイス 284 損失 336 漸進的なアプローチ 40, 320, 336 政府 先例 334 水文気象学的サービス 92 家計の保護を強化 135 国際社会 319, 334 スキル向上戦略 138 企業の競争における平等な条件を作り 全政府統合リ スク管理の枠組み 43 スキルの不足と ミスマッチ 213 出す規則 204 全体論的なアプローチ 20 スキルへの投資を増やすために,求人と教 健全なリ スク管理 280 全要素生産性 育の収益率に関する情報を提供 137 コミュニティ の能力を超える リ スクの管 資源配分をアメ リ カと同程度に効率的 スターン報告 314 理 174 した場合の上昇 197 スタンダー ド & プアーズ 500 指数 280 市場の失敗に取り組む 212 途上国における伸び 212 ストーン = ギアリー型効用関数 68 電子決済による支払いプログラム ストレス・テス ト 20 228 ローン業務に保証人と して参加 281 早期警告システム 14, 64, 308 マクロプルーデンス 242 費用便益 78, 89 スペイ ン 政府開発援助総額 171 送金 23, 134, 162, 306 金融危機 193 政府支出の 1 年間の乗数 274 移民による途上国の家族への―― 139 建設部門雇用 194 政府消費 36 エルサルバ ドル 117 雇用法制 194 反循環的 275 円滑化 138, 144 スマー ト・マネー 228 政府政策 海外 228 家計のリ スク管理を大幅に改善 135 携帯マネー 政策介入 柔軟性を促進 145 取引コス トの低下 139 金融部門への直接的な―― 234 設計の欠陥から新たな障壁が生じる 総公債 391 正循環的で裁量的 273 146 総合リ スク管理機関 327 不確実性を削減 208 政策 相互連結性 コミュニティ を発展させる原則 180 政府責務を完全に開示 282 経済,金融,および社会 39 財政リ スクを防止 278 生物多様性 40, 312 国際社会 38 再配分効果をもつ―― 328 損失 312, 320, 334 総支出乗数 274 時間的不整合性 91 政府投資の産出に対する短期的な影響 規模 274 クロス・ボーダー銀行業を管理 240 275 推計 274 リスク管理を通して設計 135 政府による金融部門の救済 282 相乗作用(効果) 政策の不確実性 209 政府の基礎的財政黒字 391 柔軟性と公式性 29, 194 マイナスの影響 267 政府の失敗 19, 23, 100 包容性,深さ,および安定性 34 波及 267 原因 102 保険と保護 15 南ヨーロ ッパ諸国 267 セーフティ ネッ ト 143 リ スク管理 9 政策の優先順位の選択 110 低所得国 46 総政府支出の乗数 274 生産性の国別格差 202 セーフティ ネッ ト・プログラム 145 創造的破壊 28, 197 生産的セーフティ ネット・プログラム 25 『世界開発報告 2014』 ソーシャル・マーケティ ングによって農村 生産的な企業への資源再配分の阻害 一貫している分析 44 部で衛生設備へのアクセスを増やす 201 主張 3 179 生産能力の構築に政府支出がもつ有効性 主要な政策勧告 42 ソト,エルナン ド・デ 206 274 付加価値 3 備え 70, 75 脆弱国(→ 「脆弱紛争被災国」も参照) 世界価値観調査 175, 193 国レベル 77 国境を共有している国の経済成長 失業 193 国民所得との関係 77 315 世界銀行 302, 305 対処との結びつき 76 関与に向けたニュー・ディ ール 310 DDO 付き開発政策借款 306 費用 80 脆弱性 67, 80 災害関連の融資 305 不十分 76 利益集団によ って決定 146 災害危機繰延引出オプシ ョン(CAT ソビエ ト型の医療ケア制度 153 脆弱層の保護 46, 214 DDO) 306 ソフト なスキル 129 脆弱紛争被災国(FCS) 297, 306, 315 途上国の災害強靭性対策 305 損失回避 93 援助国のリ スク回避 310 世界銀行の開発政策ローン 282 損失に対する恐れから リスクを回避 64 開発機会 310 世界経済フ ォーラム 43 関与しないことのリ スク 310 世界地震モデル 308 ■た行 国際的関与 310 世界新興国自国通貨建て債券プログラム 国際的な援助が無い 315 タイ 141 252 典型的な特徴 310 医療保険の適用範囲を拡張するプロ 世界統治指標平均 391 グラム 141 ミレニアム開発目標に向けた進展 世界保健機関(WHO) 303 政治的な不安定性 208 310 説明責任 普遍的適用制度 140 正循環性の罠を免れた国 274 仕組みを強化 176 闇の銀行部門 240 正循環的で裁量的な財政介入策 273 システムの強化 210 対外資産 278 正循環的な金融政策 273 地方と国家で促進 181 退学者向け訓練プログラム 138 正循環的な財政政策 274, 328 「説明責任が課される」 (act-or-explain) 耐乾性作物 133 要因 328 勧告 327 大気浄化連合 336 成人識字率 386 先進国 大規模災害から学ぶ 112 成人死亡率 387 索引 403 大恐慌からの教訓 202 増大がリ スク管理において必須 70 財政政策 280 「対抗主義」システム 99 入手 72 財政責任法(法 20128 号) 280 大災害債券(CAT 債) 282, 304 不足 301 財政ルール 280 リ スク管理の構成要因 13 商品収入の管理 280 大災害保険商品 307 知識プラ ットフ ォーム 302 中央部で発生した地震 63 大地震 銅生産 68, 280 アチェ州 318 知的財産権 213 年金債務の資金 280 ハイチ 318 地方コ ミ ュニティ 157 包括的な年金改革 281 対処 75 地方政府の選挙 175 リスクに対する備え 16 備えとの結びつき 76 地方リ スク管理を改善するための公的施策 賃金雇用 143, 388 リスク管理の構成要因 15 172 移行が進展 196 大不況 60, 386 中央銀行 経済発展の水準に伴って増加 195 パターン 60 ――が連結貸借対照表を作成 281 シェアの上昇 194, 195 太平洋の諸島の地域的な災害保険フ ァシ リ ――の金融安定性を促進 34 ティ 282 意思決定プロセスを理解する能力 通貨同盟 271 太平洋大災害リ スク評価フ ァ イナンス・イ 284 透明性の増加 270 通信技術によるコ ミ ュニティの暴力や紛争 ニシアティ ブ 307, 308 の管理 174 金融安定を監督 330 台湾 344 ツー・パック 329 システ ミッ ク・リ スク評価 242 義務教育の延長 128 情報の開示 284 通報者保護法 102 多国間援助基金 38 負託事項 272 多国間特別援助基金 318 マクロプルーデンスのツールを活用 低所得国 多国間リ スク・プール制度 307 272 教育達成度 130, 131 多重リスク・アプローチ 103, 327 マクロプルーデンス政策 241 金融危機による損失 237 多重リスク解決策 326 中間投入財 24 金融市場との関連が薄い 64, 253 多重リスクに取り組むシステ ミッ クな政策 中期財政枠組み(MTFF) 277, 283 国際社会のリ スク分担ツール 297 136 中国 ショッ クの影響 38, 62, 63 多数国間投資保証機関(MIGA) 306 1959 年 -61 年の大飢饉 126 ビジネス環境 209 ただ乗り 19, 160, 300, 320, 336 公的債務 276 不況 277 問題の克服 168, 169 財政政策 276 60 歳未満の病気や傷害による死亡率 資源配分を効率的にすることによる全 5 縦割り行政 43 要素生産性の上昇 197 リスクへの備え 16, 77 弊害 103 四川省の地震 68 低・中所得国 タバコに対する物品税 105 中央政府のイ ンフラ・プロジェ クトへの 改良型衛生設備へのアクセス 14 タンザニア 25 参加 276 教育の質 23 降雨が少ない年月の農村部 127 農村部における災害に対する懸念 金融手段の利用 32 国民的なアイデンティ ティ 171 158 自然災害 84 システ ミッ ク・シ ョ ック 159 農村部健康保険プログラム 140 マクロ経済的な備え 6 児童労働 126 農村部における健康や農業に関する 低頻度で大きな影響をおよぼす事象に関連 所得の変動性 204 ショッ ク 159 した負債 282 相互保険制度 169 東アジア金融危機への対応 276 農村コ ミ ュニティ 157 テール・リ スク 305 中東・北アフ リ カ 「テキーラ」 危機 272 農村部で衛生設備へのアクセスを増 家庭内暴力 137 やすために, ソーシャル ・マーケティ テキーラ・ブーム(1996-98 年) 276 社会保障支出の減少 35 ングを活用 179 適切な知識の欠如 301 女性の労働参加 134 農村部の衛生プロジェ クト 179 電子決済 227, 228 不況期間 10 最も頻繁に自己申告されているシ ョック 政府の支払いプログラム 228 158 中米送金プロジェ クト 139 リスク 228 「良い トイ レは可能 !」 179 中央アメ リ カ確率論的リ スク評価 利用 389 短縮時間就業 211 (CAPRA) 308 利用の増加 228 炭素排出 長期的な財政の持続可能性に関する報告 電子的な送金 228 安定した場合のコス ト 314 書 281 伝染病に関する知識の不足 301 制限に関する各国の政策措置 335 調整の失敗 100, 101 天然資源 制限を可能にするイ ンセンティ ブ 334 貯蓄 230, 74, 76 ――を巡る紛争 299 弾力的信用枠 306 現物で行う理由 95 過剰使用 334 不十分な理由を説明 95 発見 68 地域的な機関 306 貯蓄(前年に貯蓄した人の割合%) 388 保護 320 地域的な災害保険フ ァシ リティ 282 貯蓄商品 226 天然痘 290 地域的なリ スク分担 307 貯蓄預金 229 撲滅 291, 303, 314, 336 公式なものを使う割合 230 デンマーク 193 地域的保険 306 チリ 金融危機 193 チェコ 恐慌からの回復 202 グローバル金融危機 211 銀行システム 260 巨額の公共貯蓄 329 経済評議会 330 中央銀行の金融安定性の促進 34 銀行ローン・ポー トフォリオの実績 再就職 211 総合的なリスク管理 260 245 柔軟な保証制度 210 知識 70 健全な制度構築と公共資源 280 セーフティ ネットや再訓練プログラム グローバルな公共財 302 国富フ ァ ンド 280 194 行動への変換 93, 309 財政収支目標 280 404 世界開発報告 2014 フレクシキュリティ 46 政府投資の産出に対する短期的な影 ■な行 労働市場の柔軟性 211 響 275 ナイジェ リア 26 電力生産コートジボワール会社(CIPREL) 全要素生産性の伸び 212 都市家計が報告した深刻なシ ョック 208 総政府支出の乗数 274 160 反循環的ツールと して所要準備政策を 一般的な災害への対処策 162 用いている 273 ナイトの不確実性 20 ドイツ 反循環的な金融政策 270 安定雇用を維持 210 ナイト,フランク 195 非拠出型年金プログラム 332 金融危機 193 何もしないことのコス ト 315 非伝染性疾病による死亡リ スク 129 ドイツ法における予防原則への言及 何もしないことのリ スク 6 法定準備 273 109 保険に対する需要が低い理由  132 南東ヨーロ ッパ・コーカサス大災害リ スク保 労働市場改革 193, 211 マクロ経済政策 268 険ファ シリティ(SEEC-CRIF) 307 ワーク・シェアリ ング 193, 210 リスク管理 66 南東ヨーロ ッパ大災害保険 307 ドイツ・モデル 210 トベルスキー,エイモス 11 難民 171 登記 ドミニカ共和国 経済機会を追求するのを支援 171 効率性の向上 209 教育の収益率に関する情報を提供 キャンプ生活の長期化 171 手続きのコス トの削減 209 137 避難状態で生活する時間 171 統合社会保障プログラム 232 スラム街の家賃 165 統合リ スク管理アプローチ 327 鳥イ ンフルエンザ(H5N1) 40, 291 ニカラグア 165 統合リ スク管理機能を政府機構のなかに 国際社会の反応 292 高等教育を修了した女性の割合 130 設置 328 トルコ 280 最低賃金の引き上げ 209 投資家動機調査 210 医療ケアの利用や価格,質 152 二酸化炭素(CO2) 300 投資家保護 208 家庭医療を促進 152 濃度 334 投資証券 229 金融安定委員会 250 1 人当た り排出 392 都市の潜在力を解放 157 グリーン・カー ド給付 152 日本 都市部の犯罪や暴力 グリーン・カー ド・プログラム 152 1990 年代後半から 2000 年代前半 水準 188 グリーン・カー ド・プログラムに関する にかけて倒産したはずの企業向け 包容的なアプローチ 188 世界銀行の評価 153 の不良貸出を維持するように銀行 健康保険適用率 152 に要請 201 都市部犯罪・暴力予防にかかわる統合的 国民皆健康保険プログラム 152 1990 年代後半から 2000 年代初め アプローチ 188 システム上重要な銀行の危機 247 271 土地保有権 136 賃金雇用のシェア 196 2011 年の地震と津波 97 途上国 貧困層の保険料 141 主権国大災害リ スク保険実験 307 拡張的な財政政策の有効性に対する 保険料 152 東日本大地震に関するデータ 112 疑問 276 トレードオフ 福島第 1 原発災害 206 家計が直面しているシ ョッ ク 61 インフレと産出 272 ニュージーラン ド 家計調査に基づく リスクに対する認識 機会を追求するために自発的に リ スク 「キーウ ィ貯蓄」(KiwiSaver) 143, 61 をとる 9 333 災害強靭性対策 305 金融における リスク対リ ターン 9 景気鈍化を免れている 260 妊産婦死亡率(生産 1,000 人当た り) 金融開発目標とシステ ミック・リ スク管 10, 60, 388 経済活動の変動性 268 理 249 高インフ レを大幅に削減するための政 認知の失敗 17 金融の発展と安定性 249 策 66 金融部門における リ スクと開発 250 認知不足 17 公的医療制度 139 金融包摂の進展と金融安定性の強化 災害損失額における保険適用率 309 245 ねずみ講 233 災害による損害 298 国家リ スク理事会の制度設計 43, ネットワーク型産業 291 災害の死亡率 298 328 財政拡張 275 年金 31, 180, 279, 332, 333 個別リ スクの管理 326 エルサルバ ドル 117 財政政策に正循環的なバイアスがあ 柔軟性と公式性 29, 194, 199, 206 る一因 274 韓国 272 出生の量と質 133 個人―― 234 自己雇用 194 女性の労働力参加と子供の発育 市場性保険の欠如 75 コロンビア 283 134 女性が受領 24 市場性保険商品の浸透率が低い 政策 102 132 チリ 280, 281 通貨同盟への参加 271 ニュージーラン ド 143 市場の保険商品 132 途上国における柔軟性と公式性 214 自然災害による資産損失総額のうち 非拠出型 142, 332 包容性,深さ,および安定性の間 南アフ リカ 332 正式に付保されていた割合 132 34 自動安定化装置 273 モーリ シャス 332 保険と保護 15 出生率が高い 133 年金改革 281 モラル・ハザー ドの制限と流動性危 出生率が高いと人的資本蓄積にと って 機の支払不能への転換の防止 年金拠出者 388 マイナス 133 306 年金債務の資金調達 280 需要を刺激するための裁量的な財政 リスク対リ スク 326 年金資産(対 GDP 比%) 390 政策の利用 274 リスクと見返り 67 年金・社会保障支出に関する長期的な財 所得源を多様化 133 リスクへの備えにかかわる費用効果と 政展望 281 人畜共通病原菌による感染症 290 結末への対処に関する費用効果 年配者に対する虐待の増加 126 正循環性の罠を免れた国 274 6 正循環的 270 年平均人口増加率 385 正循環的な金融政策 273 索引 405 ノイマン,ジ ョン・フ ォン 11 グラ ミ ン年金制度 234 非公式性 215 農業慣行 工場の建物が倒壊 213 ――を罰する 207 持続不可能 165 コミュニティ との結びつきが低い農村 次善の対応策 194 農業保険の購入 389 家計の出生率 133 柔軟性を提供 200 コミュニティ ・ベースの災害早期警報 セーフティ ネ ットとして機能 200 農村部から都市部への一時的な出稼ぎ システム 173 増大の GDP への影響 204 134 サイ クロンによる人命損失が劇的に減 高い国 204 「農村部コ ミ ュニティ の連帯」 少 63 低開発の原因ではなく ,その症状 (Comunidades Solidarias 自然災害に対する備え 63 203 Rurales: CSR,旧称 「連帯ネ ット」 少額のローンないし補助金という形の 非公式貯蓄を利用している人口 389 Red Solidaria) 117 支援 66 非公式な制度 農村部における非公式保険 182 バングラデシュ農村向上委員会(BRAC) ――による支援 77 能動的労働市場政策 211 174 効率性を改善 144 ノルウェー 45, 279 ハリケーン早期警告システム 111 非公式部門 44, 333 巨額の公共貯蓄 329 犯罪に対してよ り受動的なアプローチ 189 GDP と雇用を支える 206 犯罪に対抗する企業 190 インド 220 ■は行 犯罪率 10 柔軟性を提供 200 ハーヴィッ ツ, レオニー ド 11 反循環的な金融政策 273 とどまることを選好 232 バーゼルⅢ 315 貧困層 194 反循環的な財政政策 36, 272, 276, 328 パートナーシ ップ 177 労働者 141 持続可能 35 科学界と市民社会 317 先進国 272 非公式保険 家計と民間部門 42 有用な理由 36 システ ミッ クな災害 164 官民 25, 136, 137, 235, 281, 283 農村部 182 反循環的な支出 272 金融と国家 232 「庇護」システム 99 反循環的な収益率をもつポー トフォリ オを構 グローバルな―― 305 築 280 ビジネス環境指標 236 警察とコ ミュニティ 189 ビジネス環境調査 209 反循環的な政策 266 携帯電話会社と銀行 228 ビジネス規則 209 災害リ スク・フ ァイナンス保険 307 反循環的な政策運営のための持続可能な 方法 276 非商品国富フ ァンド 279 スキル訓練 211 多国間機関 311 反復的プロセス 107 非伝染性疾病 128 死亡リ スクの増加 129 パートナーシ ップ・ローン 229 比較優位の原則 22 1 人当た りGDP 成長率の変動性 387 排出量取引システム 336 東アジア 1 人当た りGNI 385 排除 164 1990 年金融危機 205 1 人当た り家計消費増加率の変動性 387 排他的なビジネス関係 201 1997-1998 年金融危機 6, 37, 276 1 人当た り国内総生産増加率 386 ハイチ 2008 年金融危機 260, 270 1 人当た りの CO2 排出 392 巨額の海外援助 318 貧困率 65 病気の経済的な結末 152 地震 63 大地震 318 東アジア・太平洋 兵庫行動枠組み(HFA) 304, 305 貧困率 65 ハイチ介入 38 費用便益分析 48 東ティモール 133, 347 一連の前提 81 ハイブリッ ド型金融ツール 229 石油基金 279 リスクに対する備え 78 バウチャー制度(PACES) 137 東日本大地震 112 病気リ スクを削減するツールに対する需要 パキスタン 26 東ヨーロッパ・中央アジア 128 衣服工場の火災 206 社会資本 163 開かれた社会財団 190 オランギ・パイ ロット ・プロジェ ク ト 173 非拠出型制度 142 貧困家計 131 コミュニティ 主導型開発 173 導入 331 ショッ クにコス トの高い方法で対処 ザカー ト 161 貧困層 333 126 支店をもたない銀行勘定 228 非拠出型年金 142 移住 138 破産手続きの改善 210 基礎年金の適用範囲を拡張 142 移住機会を利用していない 134 途上国 332 幼い子供の栄養をおろそかにする 場所によるコ ミュニティ 160 途上国で貧困層向けに拡大 142 125 発育不全 96 非拠出型保険 331 教育達成度における男女格差 131 パラグアイ 拠出型と組み合わせる 331 コス トの高い方法でシ ョックに対処 集団的行動を習得しているコ ミュニティ 126 非公式 168 ジェ ンダー格差 130 ――であることが正常 194 パラメトリッ ク保険 140 ――な支援 164 女性 136 ハリケーン・カ トリーナ 93, 96 ――な保険グループの規模と有効性 ショッ クへの対応 125 バルチッ ク証券取引所 252 162 高価な対処戦略の影響 125 バロー, ロバー ト 34 ――なリ スク分担の仕組みは指数型 信用市場へのアクセスがない 133 ハンガリー 330 保険の需要を増やす 140 貯蓄形態 132 中央銀行が連結貸借対照表を作成 非公式企業 31, 205-207, 209, 332 貧困者比率 387 281 経済の発展に伴って消滅 206 貧困層 バングラデシュ 非公式金融サービスに依存 245 金融商品拡大 131 サイ クロンの事例 6 非公式信用 金融包摂を促進 139 改良型料理用レンジ 128 アクセス 238 助けるための金融ツールの開発 236 グラ ミン銀行 234 利用している人口 389 貧困に陥りやすい人口の割合 65 406 世界開発報告 2014 貧困層の声 175 グラム 141 実質的なシ ョックに対する実質的な産 貧困の罠 iii 国債のスプレ ッド 274 出の反応 271 貧困率 65, 118, 134 殺人率 188 変動性 サンパウロ 188 財政政策 283 品質理念 198 サンパウロの非営利病院 137 産出 268 ヒンドゥー教徒相続法の改革 137 事業許可 209 実体経済活動 269 脆弱性の定義 146 途上国における経済 268 フィー ドバッ ク効果 69 銀行が政府に支払い 137 マクロ経済 266 フィリピン ディアデーマ 188 2010 年災害リ スク削減・管理法 84 「テ レビ小説」 の社会規範への影響 法規制 CARD 234 97 公式性に伴う 204 移民の所得の増加 134 電子決済の利用増加 228 順守のコス トが低い 206 季節予報モデル 64 統一保健医療システム(SUS) 141 煩雑な―― 206 携帯マネー 228 犯罪削減アプローチ 188 ベロオ リ ゾンテ 189 防災グローバル・フ ァシリティ (GFDRR) 降雨災害に伴うコス ト 162 法人カー ド支払いプログラム 228 305 国家災害評価(NOAH)プロジェ ク ト 85 リ オデジャネイ ロ 189 法人カー ド支払いプログラム 228 災害管理システム 84 ブラッ ク・スワン 105 法定所要準備 272 災害危機管理 84 ブラッ ク,ダンカン 11 暴力(→ 「家庭内暴力」も参照) 59, 災害事象 84 フランス 97, 166 災害リ スク管理のアプローチ 84 憲法における予防原則 109 家庭内 127 市民緊急管理局 84 交通安全への投資に関する費用便益 許容する社会規範 25, 137 民間の退職保険商品 231 分析 93 頻繁に発生する地域 167 モバイル通信業者による金融業務 集団的な形態 166 ブルガリア 236 通信技術による管理 174 企業の柔軟性 202 フィンラン ド 280 妻や子供に対する 126 闇の銀行部門 240 深い不確実性 17, 20, 72, 78, 91, 105, 頻発しているコ ミ ュニティ 9 ブルキナフ ァ ソ 防止策 188 312 農村部の夫婦の間における分業の伝 大きな不確実性との違い 105 要因 166 統 125 ラテンアメ リ カ 4 特殊事例 106 フレクシキュ リティ 46 リスクに関連するス トレスを削減するこ マクロ金融リ スク 313 プロク レジッ ト 232 とによ って,発生を減らす 137 不可逆性の探求 95 文化的なコ ミ ュニティ 160 ポーター,マイケル 198 不確実性 67, 267 ――下での意思決定 11 文化論 98 ポーラン ド 250 ――下での決定 11 紛争 38, 166, 297 危険標識の設置 95 ――下でのリ スク管理 67 可能性を高めるス トレスの要因 166 保険 74, 163 アメ リ カの政策 267 気候変動によるス トレス 167 コミ ュニティ ・ベース 162 確固と した行動を促進するための意 後遺症 167 社会的な繋がり に依存する取り決め 思決定における反復的プロセス 要因となる不満 166 164 107 分配問題 104 リスク管理の構成要因 15 規制において削減 244 保険資産(対 GDP 比%) 390 グローバルシステム 316 ベーシス・リ スク 140, 232 保険提供者と してのコ ミュニティ 162 経済政策 266 保険プール 39 ペスト 290 再生可能エネルギー技術 106 ベッカー,ゲーリー 13, 23 保険料(対 GDP 比%) 390 新興リ スク 105 ベトナム トルコ 152 政府政策 209 政府政策について削減 208 医療保険の適用範囲を拡張するプロ 保護提供者と してのコ ミュニティ 164 先進国におけるマクロ経済政策 267 グラム 141 保護と機会の利用を組み合わせた戦略 深い―― 17 ホーチ ミン市における洪水対策 108 143 対処 195 ペプシコ 198 保護と保険は補完策になる 75 ブキャナン,ジェームズ 11 ヘラク レイトス 10 保護 不況期間 10 ペルー 逆説 17, 93 不況年 386 インフレ率 265 形態 74 金融危機 2008-09 265 投資しよう という家計レベルでのイ ンセ 福島の原子力事故 79, 206 経済を安定化させる改革  260 ンティ ブの改善 136 負債管理に関する政策 278 リスク管理の構成要因 14 公式化が環境保護強化と所得増加の 不測事態対応計画を策定・試験している 両方につながった事例 49 「保障を伴う柔軟性」 (flexicurity) 211 政府やコ ミュニティ 291 地方政府の予算の過少支出 176 ポデローザ鉱山会社 194 不平等 非公式鉱業 199 ポルタ,ラフ ァエル・ラ 206 家計内 122, 132 非公式鉱山 194 グローバル化によるの拡大 205 ポンジー・スキーム 233 災害リ スク管理の責任 102 経済成長の追求 9 司法制度の利用が困難 96 ホンジュラス コミュニティ 27, 170 1998 年のハリケーン 64 ベルギー 284 ジェ ンダー 44 住宅の改善 229 ベルヌーイ,ダニエル 11 マクロ経済の変動性 268 本田 97 変動(為替)相場制 271 ブラジル 本人と代理人の問題 91 経常収支調整 271 家族手当プログラム 105 本来的にシステ ミックなリ スク 97 自然災害からの回復 271 医療保険の適用範囲を拡張するプロ 索引 407 ■ま行 南アジア 貧困層向けのセーフティネット 272 マース トリ ヒト条約 109 女性の労働市場参加 134 零細金融機関 234 マート ン・ ミラー,マー ト ン 32 貧困 65 目に見えない人口 136 予防接種率 128 マイヤーソン, ロジャー 11 南アフ リ カ 141, 165 モーリ シャス 31, 142 マキラ ドーラ〔保税輸出加工区〕 205 医療保険の適用範囲を拡張するプロ 年金 332 マクドナル ド 198 グラム 141 マクロ経済 34 モザンビーク 拡大公共事業プログラム 143 安定性 34, 268 雇用関連給付 204 企業連合 190 深刻な収縮 277 金融安定委員会 250 最も脆弱な層を非公式保険から排除 164 変動性 266 金融オンブズマン 236 モバイル・バンキング 127 変動性の有害な影響 34 現金給付プログラム 24, 137 モラル・ハザー ド 74, 75, 91, 96, 212, リ スク管理 42, 266 抗レロ トウ ィルス・プログラム 141 246, 272, 281, 282, 313 マクロ経済管理 285 コ ミュニティ 警察フ ォーラム 189 制限 318 ――の誤りが失業率を押し上げる度合 殺人が起こる場所 165 モルゲンシュテルン,オスカー 11 い 285 自動車保険 111 モロッ コ 金融危機 76 司法・犯罪防止センター 190 衣服工場 205 健全な―― 64 社会的年金 180 多重リ スク・アプローチ 103 マクロ経済政策 条件付き現金給付(CCT)プログラ モンゴル 為替相場制度 35 ム 25, 45, 75, 95, 105, 137 家畜死亡保険 233 健全 270 消費者保護 33 指数ベースの家畜保険プロジェ クト 集合的なシ ョッ クの管理 268 年金 332 (IBLIP) 233 先進国における不確実性 267 年金を受給 180 労働力 233 途上国 268 犯罪に対してよ り受動的なアプローチ モントリ オール議定書 303, 334 運営 265 189 分配上の帰結 285 犯罪率 10, 188 目標 266 開かれた社会財団 190 ■や行 リ スク管理に最善の貢献 35 マンザンジ 232 闇の経済 228 マクロ経済的な偶発債務を管理 281 ヨハネスブルグ 189 マクロ経済レベルのリ スク管理を改善 ヨハネスブルグ市公安戦略 190 有限責任による リ スク分担 196 283 リ スク・テイキングと リ スク配分を確保 有効な制度の割合 175 する枠組み 281 マクロ・プルーデンスの枠組み 253 融資ドル化 390 南ヨーロ ッパ 99 マクロ・プルーデンス委員会 330 有志連合 319, 336 政策の不確実性 267 イギリ ス 331 ユーロ地域(圏) 38 身元確認プロジェ クト 136 マクロ・プルーデンス監督官 242, 330 危機 271 ミューチュアル・フ ァ ン ド(対 GDP 比%) マクロ・プルーデンス規制 34 金融安定化パッケージ 305 390 ――による金融危機の防止 34 国債や金融の危機 297 システ ミック・リ スク 34 ミレニアム開発目標 130, 297, 302, 309, 輸出障壁の強化 299 厳格化 285 310 輸入関税の削減 299 マクロ・プルーデンス手段 35, 272 民間医療保険 230 ユニリーバ 198 マクロ・プルーデンス上のバッ ファー 331 民間部門資産の政府による国有化や収用 208 マクロ・プルーデンス政策 241, 272 「良いトイレは可能 !」 179 最優良の事例 242 幼児死亡率 128 中央銀行 241 娘の結婚を非公式な保険手段にする 132 ムンバイ 17, 89, 111 養生法 6 マクロ・プルーデンス政策ツール 242 ヨーロッパ マクロ・プルーデンスのス トレス・テス ト 排出量取引システム 336 242 メキシコ 不確実性の急上昇 267 麻疹予防接種率 14 H1N1 イ ンフルエンザ 73 異常気候偶発保険プログラム 140 ヨーロッパ委員会が 2000 年に公表した通 マスキン,エリ ッ ク 11 達 109 医療保険の適用範囲を拡張するプロ マラウイ 321 ヨーロッパ・中央アジア グラム 141 少女向けの現金給付 136 銀行危機の影響 237 教育 ・栄養 ・保健計画(PROGRESA) マレーシア 45 272 東―― 142, 163 国家的な金融部門戦略 250 恐慌からの回復 202 貧困 65 ビジネスや労働市場にかかわる規則の 金融安定委員会 250 ヨーロッパ通貨同盟 46 改革 206 金融サービス利用に関する全国家計 ヨーロッパ連合(EU) 包括的な長期にわたる計画 45 調査 236 安定成長協定 329 労働規則 221 公式雇用 212 財政協定条約 329 マンザンジ(Mzansi) 232 国民健康保険制度(Seguro ツー・パッ ク 329 マンスキー,チャールズ 106 Popular) 141 予防原則 109 国家災害基金 282 預金勘定 227 ミクロ・プルーデンス監督の質の改善 国家自然災害基金(FONDEN) 預金ドル化 390 236 233 予算責任局(OBR) 330 女性の公式雇用 205 ミクロ・プルーデンス規制 271 預貸比率 390 大災害債券(CAT 債) 282 水資源の管理 低スキル職の増加が退学を誘発 205 ヨハネスブルグ市公安戦略 190 シンガポール 177 「テキーラ」 危機 272 予防医療製品の需要 129 408 世界開発報告 2014 予防原則 109 リスクが近年減少している分野や地域 59 (ふるい) 110 国際的な レベル 109 リスクが国境を越える事例 297 政治経済学 19 困難な場合 109 リスク管理 6, 13, 61, 67 政治経済学的な問題 102 予防接種率 128 ――通して政策を設計 135 政府による健全な―― 280 上昇 128 ――に対する家計の貢献を改善 24 政府の失敗という阻害要因 19 より安全な世界に向けたイニシアティブ ――の障害を克服するのを支援 100 政府の政策にシステ ミックなアプローチ 302 誤り 59 を採用する 135 意思決定者の説明責任 327 制約を公的措置によ って緩和 90 命を救う 63 責任分担の原則 306 ■ら行 全体論的なアプローチ 20, 326 多くの障害 265 ラオス 125 選択肢に対する説明責 104 改善する政策 146 コミュニティ による災害リ スク管理 選択肢のコス ト 67 改善するために根本的な制度改革が 173 戦略 75 必要な 4 つの主要な分野 326 ラテン・アメ リカ 4, 63 改善するための公的措置にかかわる 5 相互連結した構成要因 , 14 金融危機 270 つの原則 44 相乗作用 9 犯罪 4 開発アジェ ンダの主流にする 40 阻害する社会的・経済的な外部性 犯罪の被害者 165 開発援助総額のうち防止や備えに使 19 犯罪や暴力がもたらす健康への被害 われた割合 313 阻害する要因 19 59 開発との関係 61 措置の時間的視野 104 ラトビア 252, 271 開発にと って重要 3 ソフト な措置 111 勤労福祉制度 179 家計が行う準備 127 大衆に対する 176 家計の能力を強化 122 長期的な 284 リーマン・ブラザースの破綻 240 機会を解放 64 調整の失敗による阻害 101 機会を追求するための改善 73 追求するための資源と能力の制約 リスク 67 企業部門の支援 27 100 ――に関する近視眼 314 企業部門の柔軟性 29 透明性と信頼性 283 ――に関する情報の処理方法に影響 企業部門の貢献 29 途上国 66, 111 を与える要因 98 基礎イ ンフラ 176 途上国にと って必須 61 ――に対する懸念 64 規模の拡大に必要 316 途上国の財政政策 35 ――に対する備えの国による違い 16 強化 144 能動的,体系的, および統合的なアプ ――に対する備えの国民所得との関 競争による良し悪しの判断 104 ローチ 3 係 16 金融システムによる支援 225 能力構築 317 ――に対する備えのコス ト 48 金融商品の役割 139 万人のための―― 7 ――に対する備えの採算 6 国レベルで能動的で統合的な 42 反復的なプロセス 112 ――に対する備えの費用便益分析 グループ,システム 20 必須事項 18 78 公的政策による金融手段の利用可能 必須の要素 70 ――を伴う活動に対する懸念を削減 性の向上 235 必要とされるもの 66 するのに役立つ重要な自己学習 公的措置と して重大な挑戦 45 費用効果的 78 66 行動面での失敗 17 不確実性下 67 ――をとることは機会の追求にと って 国際支援 305 プロセスに関する『世界開発報告 必要不可欠 61 国際社会の貢献の改善 39 2014』からの 5 つの鍵となる洞 移住による分散 134 国際社会の支援 21 察 4 うまく 管理できない要因 17 国際社会の能力を改善 38 分析の枠組み 11 各個人ないし各家計に固有である特 コスト 102 便益 79 異な―― 4 コスト が高い対処策に依存 162 補完的な手段 76 隔離した形で管理 326 国家レベル 265 マクロ経済的な 266 確率と厳しさの関係 76 コミュニティ という文脈 158 目標 69 管理を しないこと 157 コミュニティ の観点 169 諸刃の剣 297 共有 23 コミュニティ の権限を強める 172 有効 10, 45 国と世代の境界を越える 315 コミュニティ の貢献 26 優先順位 22 国家能力を超過する 38 災害 305 より効率的 102 集合的 265 財源不足 19 利益 102 集団的な管理 297 財政の持続可能性 36 流行病 290 統合的に考える 326 何も しないことの―― 6 最善の貢献をするマクロ経済政策 リスク管理政策 パターン 60 35 成功するための基盤 96 評価 99 資源の欠如 17 設計 18 評価とその備えにおける障害 91 事後的 313 富や権力の再分配 104 評価の人による違い 93 自然災害に関する 102 リスク管理の構成要因 分担 28, 196 実際的なアプローチ 18 対処 15 有効に管理する 78 集団的 297 知識 13 予防措置における費用便益と予防原 主流化するための制度改革 40 保険 15 則 109 「手腕」 326 保護 14 リスク回避 65 障害 17, 90, 92, 301 リスク関連の決定 96 効用理論 68 情報通信技術の利用 73 リスク規制 損失回避になる 68 情報の欠如と認知の失敗 17 アメリ カと ヨーロッパの比較 98 情報の入手 127 実施可能な 99 リスク価格の設定に関する情報 227 新技術がもたらす挑戦 73 リスクが緩慢な変異を遂げる場合 299 リスク行列 99 政策対応を策定するためのスク リーン リスク指標の欠如 104 索引 409 リスク準備指数 16, 387 リスクの管理 290 効率性 388 リスク水準の定義 98 リスクの主因 290 社会的扶助を伴う柔軟性 211 リスク・テイキング 流動性貯蓄 柔軟性 193 開発のプロセスとの関係 5 維持 131 柔軟性の増加 210 過少 89 保持を阻害 131 柔軟性を改善 210 過度な―― 89, 240 スキルの不足と ミスマッチ 213 ドイツ・モデル 210 リスク・テイキング型資本 227 類似リスクの利用可能性 93 労働市場改革 30, 221 リスク分析 ルーマニア 93 ドイツ 193, 211 ――を助ける一連のスク リーン(ふる 2008-09 年の金融危機 197 い) 107 労働市場政策 ルソー,ジャ ン = ジャック・ 121 進歩 89 柔軟 210 ルワンダ 43, 144 能動的 211 リスク分担 携帯マネー 73 国際的なの仕組み 306 労働税 211 指数型保険プログラム 140 有限責任 196 労働取り決め 197 労働取り決め 197 労働の衛生と安全 198 零細金融 232 リスクへの備え 多国籍銀行 232 老齢期の所得損失リ スク 234 コミュニティ が極めて重要 160 ローン業務 281 零細信用 232 費用効果と結末への対処に関する費 60 歳未満の成人が病気や傷害によ って死 用効果の比較 6 零細保険 232 亡する率 5 リスク連鎖 12, 69, 70 レバレッジ 272 過度な―― 272 60 歳未満の成人の死亡率 63 フィードバッ ク効果 69 ロシア 238 利他主義の理論 124 1998 金融危機 276 流行病 290, 291, 386 労働規則 221 消費者信用の急上昇 245 影響を軽減 291 硬直性 209 起源 290 労働契約 197 ■わ行 業務継続計画 291 労働時間勘定 211 経済的コス ト 290 ワーク・シェアリング 193, 210 労働市場 事後措置 291 規則の硬直性を削減 209 若い女性がトイレをも っていない男性との結 阻止 290 婚を思い止ま らせるキャ ンペーン 177 労働市場 パターン 60 ――への女性のアクセス 136 ワン・ヘルス 314 予防や備え 291 ■編著者 世界銀行 ■訳者 田村 勝省(たむら かつよし) 1949 年生まれ.東京外国語大学および東京都立大学卒業.旧東京銀行で調査部, ロンドン支店,ニューヨーク支店などを経て,現在は関東学園大学教授,翻訳家. 訳書 『アメリカ大恐慌(上下) (NTT 出版,2008 年) 』 『シュンペーター伝 革新による経済発展の預言者の生涯』 (一灯舎,2010 年) 『世界給与・賃金レポート 2012/2013 給与・賃金と公平な成長 』 (一灯舎,2013 年) 『世界労働レポート 2013  経済・社会の構造を修復する』 (一灯舎,2014 年) (一灯舎,2014 年) 『世界開発報告 2013 仕事 』 『世界雇用情勢 2014 雇用なき回復のリスク?』 (一灯舎,2014 年) 『ヨーロッパの行き詰まり ユーロ危機は今後どうなるのか』 (一灯舎,2014 年) 『悪い奴ほど合理的 腐敗・暴力・貧困の経済学』 (NTT 出版,2014 年) 世界開発報告 2014 リスクと機会 開発のためのリスク管理 発 行 2014 年 9 月 15 日 編著者 世界銀行 訳 者 田村 勝省 発行者 平野 智政 発行所 株式会社 一灯舎 〒 170-0003 東京都豊島区駒込 3-25-1 Tel : 03-6686-7456 / Fax : 03-6693-1830 印刷所 シナノ書籍印刷株式会社 <検印省略>許可なしに転載,複製することを禁じます. 乱丁本,落丁本はお取り替えします. ISBN978-4-907600-09-9 C3033 http://www.ittosha.co.jp/ © 株式会社一灯舎 Printed in Japan 9784907600099 1923033045000